ちっちゃな魔女が、勇者を倒しに行くお話 (132)

オリジナルSS。
書き溜めや設定は無し。
気分とノリで書いていきます。

コメントは自由にしてください。返事は心で返します。
なので、前持って「ありがとう」と、言っておきます。

暇潰しにでも見て下さったら、とても嬉しいです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408542642

ー魔王城

魔女「お母様!」とてとて

魔王「ふふふ」なでなで

魔女「御用件は何でしょうか?」

魔王「愛する我が娘に、この様な頼み事をするのは、少し気が引けるのじゃが……」

魔女「何でもお申し付け下さい!お母様!」

魔王「そうか……。いやな。翌年、勇者が派遣されると言う情報を耳にしてな」

魔女「なんと!我らが魔族の宿敵、勇者がですか!」

魔王「うむ。実に、百六年ぶりじゃ」

魔女「むむぅ……」

魔王「それで、その勇者をじゃな。お前さんに、始末して欲しいのじゃ」

魔女「えぇ!?」

魔王「まだ幼きお前さんにとっては、それは酷なことやも知れぬ。じゃがしかし、我は魔族の王。ここを動く訳にはいかぬ」

魔女「側近のお姉さんに頼めばよろしいのでは?」

魔王「側近のお姉さんも忙しくてな。頼めるのは、愛する我が娘しかおらんのじゃ」

魔女「むぅ…………わかりました!」

魔王「頼まれてくれるか?」

魔女「任せて下さい!」

魔王「すまぬな。愛する我が娘よ」なでなで

魔女「んふふ!お母様の為なら、私、何でもしますよ!」

魔王「ありがとう!」にこっ!

…………。

魔王「気をつけてな!」テヲフリフリ

側近「……魔王は、我が子を地獄に落とし、魔王に育て上げるとは耳にしていましたが」スッ

魔王「勘違いするな」

側近「は?」

魔王「小娘には、とっとと死んでもらいたくてな」

側近「魔王様、何を仰るのです」

魔王「この世は我が物じゃ。永久に……」

側近「魔王様?」

側近は血の塊となる。

魔王「ふふっ。我の終りはこの世の終り」

不適な笑みを浮かべ、月を紅く染める。

魔王「それまでは、この世は我の物じゃ」

ー城下町

おばさん「あら姫様」

魔女「ごきげんよう!」

おばあさん「お散歩ですか?」

魔女「今から、勇者を倒しに行くのです!」

おばあさん「それは誠にございますか?」

魔女「はい!」

おばあさま「しかし、外の世界は……」

魔女「私は魔王の娘にございます!必ずや勇者を倒し、ここへと戻って参ります!」

ざわざわ……。

おばあさん「では、お気をつけて」

魔女「ありがとうございます!では、失礼して、行って参ります!」とてとて

おばあさん「お気をつけて」

ー町一番の門

門番「姫様」

魔女「ご苦労様です!話は、お母様から伺っていますね?」

門番「はい」

魔女「では、行って参ります!」とてとて

門番「姫様」

魔女「はい?」

門番「お気をつけて」

魔女「はい!」

門番「お気をつけて」

ー薄暗い森

魔女「さてと。この羅針盤の、赤い丸印を目指して進めばよいのでしたね」

…………。

魔女「魔物もいないし、怖いことなんて……ない!」

…………。

男「姫様」

魔女「?」クルリ

男三人が、魔女の前に立ちはだかる。

魔女「あなた方は、城下町の方ですか?」

男「いや、ただのならずものさ」

魔女「ならずもの?」

男「そうだな……。お金も何もなくて、苦しんでいる人達ってとこか」

魔女「なんと!では、少し金貨を」

男の一人が、魔女を捕らえる。

魔女「何をするのです!無礼ですよ!」

男「魔王様は、本当に素晴らしい方だ」

魔女「え?」

男性「玩具に加えて、金をたんまりくれるってんだからな」

そこへ。

青年「ぐあぁ!!」

マントを羽織った者が、音もなく、青年を切り捨てた。

男「何者だ!」

旅人の顔は、仮面に隠されている。

旅人「ただの旅人だ」

男性「間もなく、城下町の人々がやって来るぞ、そうな」

残る二人も、容赦なく切り捨てられた。

魔女「何と言うことを……!」

旅人は刃についた血をマントで拭うと、魔法で死体を燃やした。

旅人「急いでここを離れるぞ」

魔女「敵とあらば、戦うのみです!」

旅人は、瞬時に刃の切っ先を、魔女の首につきつける。

旅人「来い」

ー森を抜けた先、丘の上

魔女「…………」とてとて

旅人「…………」サッサッ

魔女「あの!」

旅人「なんだ」

魔女「あなたは、何者ですか?」

旅人「さっき名乗っただろ。それ以上はない」

魔女「…………」

旅人「日が暮れる。結界を張って休むぞ」

魔女「敵と一夜は過ごせません!」

魔女は、杖に魔力を込める。

旅人「確かに。俺は敵だ」

魔女「やっぱり!」

杖より放ったはずの魔法が、夕焼けに霞んだ。

旅人「だが、命を奪う理由はない」

魔女「今、何をしたのですか?」

旅人「これを食え」スッ

魔女「何です?これは」

旅人「干し肉だ。生憎、それしかなくてな」

魔女「私には、お母様より頂いた、この!美味しいパンがあります!あと、お水も!」ててーん!

男はその二つを取り上げると、容赦なく、魔法で処理した。

魔女「なんことを……!」グスッ

旅人「いいから、それを食え」

魔女「いりません!」ペチン!

旅人「…………」

走りだそうとする魔女の腕を、旅人はしっかりと掴んだ。

魔女「離して下さい!」ポロポロ

旅人「また、複数の相手に囲まれたらどうする」

魔女「何とかできます!」ポロポロ

旅人「死ぬぞ」

魔女「大丈夫です!」ポロポロ

旅人「勇者を倒すんだろ?」

魔女「どうしてそれを……」グスッ

旅人「勇者を相手にすると言うことは、人間達を相手にするということ。正直に突っ込めば、それは、国をも堕とすことに等しい事となる」

魔女「…………」

旅人「俺が協力してやる。一人では、無駄死にするだけだ」

魔女「どうして」

旅人「理由はない」

魔女「そうですか。まぁ、どちらにせよ、お断りします!あなたは酷い人ですから!」

旅人は再び、刃の切っ先を魔女の首につきつけた。

魔女「無礼者!我は魔王の娘であるぞ!」

旅人「ここでは、ただの小娘だ」

魔女「ぐぬぅ……」

旅人「生きるか。死ぬか。今、自分で選べ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「わかりました」

旅人「それでいい」

旅人は手に持っていた干し肉を、小さな手に握らせた。

旅人「生きるか。死ぬか。選べ」

魔女「……有り難く頂きます。しかし、先程の事は、永久に許しませんからね!」

旅人は干し肉を拾い、砂を払うと、それを食べ始めた。

魔女「ふんっ!……あむ!」

旅人「…………」モムモム

魔女「まずっ!」ぺっぺっ!

旅人「貴重な食料を無駄にするな」

魔女「元々、あなたのせいじゃないですか……うぇ」

ー夜

魔女(仕返しに、素顔を拝見致します!)

旅人「寝ろ」

魔女「馬鹿者!」ぺちこん!

旅人「っ!」

魔女「ふん!」プイッ

ー翌日

魔女「何だか、寂しいですね」とてとて

旅人「…………」ザッザッ

魔女「草木が少ないです」

旅人「仕方のないことだ」

魔女「絵本では、たくさんのお花が咲いていたというのに」

旅人「…………」

魔女「あ!お花だ!」とてとて!

旅人は、煙草に火を着けた。

旅人「休憩にする」

魔女「それ、煙草ですか?」

旅人「ふー……」

魔女「煙草は嫌いです」

旅人「…………」

魔女「どうして、煙草を吸うのですか?」

旅人「酒、煙草、女。それで男だ」

魔女「?」

旅人は煙草を踏み消すと、魔女に近づく。

魔女「何ですか……?」ジトー

そして花を摘み、魔法で一工夫。

魔女「すごーい!」ぱちぱち!

出来上がった小さな髪飾りを、魔女の杖に飾り付けた。

旅人「一月は持つだろう」

魔女「ありが……こんなことで、許しはしませんからね!」プイ!

旅人「行くぞ」

魔女「…………」ジトー

旅人「…………」ザッザッ

魔女「許しませんからね!」とてとて

旅人「…………」

魔女「……」ぷくー

ー草原

魔女「あ!またお花が!」とて

旅人「動くな」

魔女「どうしました?」

旅人「魔物だ」

突如、大きな獣の魔物が現れた。

魔物「なんと!ついに魔物が!」びっくり!

刹那。

魔女「おぉ!」ぱちぱち!

魔物は倒れた。

魔女「あなた、強いですね!」

旅人「…………」ザクッザクッ

魔女「きゃー!どどど、どうして!うぇ……」

旅人は、無言で魔物を捌く。

魔女「おぇー!」

旅人「嫌なら見るな」

ー夜

魔女「意外と……美味しそうですね」じゅるり

旅人「ふー……」

魔女「また煙草ですか……。あむ」

旅人「…………」

魔女「あら、美味しい!」

旅人「ふー……」

魔女「はぁ……。喉が渇きました」

旅人「これが最後だ」ポイ

魔女「あなたはどうするのですか?」

旅人は、水筒に口を付ける。

魔女「気になんてしてませんから。嘘ですから」ゴクゴク

旅人「…………」

魔女「口から、血が出てますよ」

旅人はその言葉を聞くと、水筒を逆さまにした。

魔女「え……」

水筒から流れ出るは、赤黒い液体。

魔女「まさか……!」ガクブル

旅人「魔物の血だ」

魔女「おえー!」

旅人「…………」ゴクゴク

魔女「よく、平気で飲めますね」

旅人「…………」ゴクゴク

魔女「うぇ……」

ー砂の町

魔女「喉が……」とてとて

旅人「…………」サッサッ

魔女「乾いたりなんてしていません」きりっ

旅人「ここは、水が貴重な町の一つだ」

魔女「お詳しいですね」

旅人「風の噂だ」

魔女「風の噂?」

旅人「鍛練すれば、風の声を聞く事ができる様になる」

魔女「すごーい!」きらきら

ー換金屋

店長「おや。血生臭い旅人と、乳臭い餓鬼が、何の用かな?」

魔女「無礼な!我は」

旅人が、魔女の口を塞ぐ。

旅人「…………」

台の上に、宝石類を並べた。

店長「ほぅ!これはこれは!」

旅人「高くつけろ」

店長「へいへい!もちろんです!」

ー古びた宿

魔女「先程の行い、無礼であるぞ!」ぷんぷん

旅人は、魔女の耳元で囁く。

旅人「いいか?お前が姫だと知られれば、森での事と同じ事になるぞ」ヒソ

魔女「どうして?」

旅人「いつか解る日が来る」

魔女「我を子供扱いするか!」

旅人「そうじゃない。とにかく、余計な事は口にするな」

魔女「……」ぷくー

旅人「一人前の女は、余計な事は口にしないものだ」

魔女「それは本当ですか?」

旅人「ああ」

魔女「…………」ジトー

旅人「一人前の女になれば、勇者にも勝てるだろう」

魔女「本当に?」

旅人「約束する」

魔女「わかりました。その提案、のってあげましょう!」

ー町中

魔女「なぜ、私を抱っこするのですか?」むすっ

旅人「さっき話しただろ。この世界は絵本と違って、悪意で出来ている。子供にとっては地獄みたいなものだ。ほとんどの子供達が、道具、もしくは金扱いされる」

魔女「厳しい世の中なんですね」

旅人「これから先も、よく世界を見ろ」

魔女「なぜです?」

旅人「一人前の女は、世界を語れる」

魔女「なるほど、わかりました!」

旅人「…………」

魔女「あれ!あれなんですか!」

魔女が指差す先には、人だかりが出来ている。

魔女「行ってみましょう!」

旅人「……いいだろう」

やれー!殺せー!

魔女「ひっ……!」ぎゅ

魔女はその光景に、思わず目を背けた。

旅人「…………」

なぜなら。

牛人「うおおおおお!!」

二人の魔族が、殺し合いをしていたからだ。

旅人「これは、どの町でもよくあることだ」

魔女「…………」ガクブル

魔法使い「ぎゃあああああ!!」

旅人「敗者は」

死者に群がる人々。

旅人「身ぐるみ剥がされ、魔物の餌となる」

魔女「ひどい……!」ぐすっ

旅人「…………」

オトコ「おい!女の子がいるぞ!」

旅人「厄介な事になったぞ」

人々が、二人を囲む。

魔女「え?え?」

旅人「目を閉じ、耳を塞ぎ、楽しいことだけを考えろ」

旅人はゆっくりと魔女を下ろし。

魔女「楽しいこと?」

旅人「何でもいい。ただ、一歩も動くな」

刃を抜く。

魔女「小さな小さな小鳥さん」

斬る。

魔女「今日はどこに行くの?」

斬る。

魔女「にじいろのお花畑?」

斬る。

魔女「ぽかぽかの森?」

斬る。

魔女「きらきらの海?」

斬る。

魔女「やっぱり、大好きなお空?」

斬る。

魔女「私もいつか、いってみたいな」

斬る。

魔女「あなたのように、はばたいて」

斬る。

魔女「自由に夢を、わたりたい」

斬る。

魔女「私は小さな小さなうさぎさん」

ー古びた宿

魔女「もう、目を開けていいですか?」

旅人「ああ」

魔女「マントが……真っ赤」

旅人「新しいマントは購入した」

旅人は、新しいマントに古いマントを擦り付ける。

魔女「どうして、マントを血に染めるのですか?」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「これからは、その長い髪をローブに隠せ。そして、帽子を深く被るんだ。いいな」

魔女「長ければ、切ります」

旅人「それはよせ」

魔女「なぜです?」

旅人「一人前の女の髪は、長く美しいものだ」

魔女「わかりました……」

旅人「さ、シャワーを浴びてこい。その間に、俺が飯を作る」

魔女「…………」とてとて

旅人は、煙草に火をつけた。

旅人「ふー……」

ー連なる砂丘

旅人「面白いことを教えてやる」

魔女「面白いこと?」

旅人「昨日買ったこの魔物の革、何に使うと思う?」

魔女「現に荷物を乗せて、引いています」

旅人「実は、もう一つ使い道がある」

魔女「?」くびかしげ

旅人は荷物を抱え、魔物の革に、魔女を誘導した。

旅人「ふぅ……」

そして続けて、魔女の後ろに座った。

旅人「いくぞ」

片腕で魔女を抱き、魔法を使い、砂を勢いよく滑る。

魔女「きゃー!」

旅人「この砂丘は、下りが急で、砂の流れも速い。勢いさえつければ、後は勝手に滑る」

魔女「いやー!」

旅人「…………」

魔女「お……おー!楽しいー!」

旅人「…………」

魔女「うふふっ!すごーーーい!」

ーオアシス

魔女「楽しかったー!」のびー

旅人「…………」

魔女「でも、目が……」ごしごし

旅人「その湖で、洗うといい」

魔女「わかりました!」とてとて

旅人「…………」サッサッ

魔女「んー!冷たい!」

旅人「ふー」チャポ

魔女「私も!」

魔女は旅人を真似て、湖に足を入れた。

魔女「ひゃー!」ぱちゃぱちゃ!

旅人「この湖に魔物はいない。泳いでいいぞ」

魔女「泳いだことないので……」

旅人は魔女を抱き、湖に投げ入れた。

魔女「きゃー!殺されるー!裏切られたー!死んじゃうー!」ぱちゃぱちゃ!

しかし沈まない。

魔女「あれ?」

旅人「安心しろ。その湖は、浅く広い」

魔女「知ってます!」ぷい!

旅人「ん?今日の飯がやってきたぞ」

魔女「あれ、食べるんですか?」

旅人「とても美味だぞ」

魔女「うねうね気持ち悪いです……」

ー夜

魔女「うねうねは、とても美味しかったです」かきかき

旅人「なぜ、日誌を書く」

魔女「これは、絵日記と言うものです。旅が終わり、魔王城に帰った時、お母様に見せるのです」

旅人「そうか」

魔女「きっとお母様もお喜びになり、私を褒めてくれることでしょう!」えへん

旅人「魔王様は好きか?」

魔女「当たり前の質問をしないで下さい!優しくて、素敵なお母様です!」

旅人「…………ふー」

魔女「煙草は止めて下さい」ぷくー

旅人「いつかな」

魔女「あなたと言う人は」ぷんぷん!

旅人「……」ゴクゴク

魔女「お酒まで飲んで!ズルいです!」

旅人「飲むか?」チャポ

魔女「い……りません!」ふい

旅人「なら、あれはどうだ?」

魔女「サボテン?」

旅人「あの、砂に埋まっている、妙なサボテンがあるだろう?」

魔女「はい」

旅人はサボテンに近づき、刃を刺すと、一気に引き抜いた。

魔女「なんと!根っこに変なものが!」

旅人「これには、果汁の様に、甘い汁が入っているんだ」

魔女「本当ですか?」ジトー

旅人「サボテンと切り離して、湖の水で土を落とし」チャポチャポ

魔女「しっかりね」

旅人「固い皮を、一部切り取る」ズバッ

魔女「中に、何か入っているのは確かですが……」

くんくん……。

魔女「いいにおい!」

旅人「さ、飲んでみろ」

んくんく……。んくんく……。

魔女「んー!んふふ!」

旅人「…………」

魔女「サボテンジュース。とても美味しゅうございました」かきかき

今回はここまで。
ありがとうございました。

なんでいきなり正体バレた……。
俺は有名人じゃないぞ!

ー雨

旅人「…………」

魔女「寒……」ぷるぷる

旅人「町に着いたぞ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「ボロボロッ!!」ががーん!

旅人「これも仕方ないことだ」

魔女「なぜ、仕方ないんですか?」

旅人「そういう世の中だからだ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「っくちゅん!」

旅人「あの廃屋なら、屋根が残っている」

魔女「本当だ!」

旅人「…………」

魔女「どうしました?」

旅人「誰かいるかも知れない」

魔女「悪い人ですか?」

旅人「…………」

魔女「安心なさい!我は魔王の……」

魔女は、ハッとして、口を塞いだ。

旅人「それでいい」

魔女「ふふん!」

旅人「行くぞ。離れるな」

魔女は、こくりと頷く。

ー廃屋

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「大丈夫だ」

魔女「どうしてわかるんですか?」

旅人「鍛練のたわものだ」

魔女「たわもの?それは、美味しいんですか?」ぐ~

旅人「…………」スタスタ

魔女「……空いたな」ぼそっ

旅人が、暖炉に火を灯す。

魔女「おぉ!」たたた!

旅人「半日は燃え続けるだろう」

魔女「さすがです!」

旅人「…………」

魔女「今のは、お腹の音です……」

ぽいっと、干し肉を投げ渡す。

魔女「うぇ……。またこれですか」

旅人「水もない。あるのはそれだけだ」

魔女「…………」

旅人「辛いか?」

魔女「そんなこと……ありません!あむ!」

旅人「…………」

魔女「うぇ……」

旅人「…………」

魔女「あぁ……美味しいお肉やお魚達が恋しいです」もむもむ

旅人「…………」

魔女「あ!」

旅人「どうした」

魔女「あなたのご飯は!?」

旅人「必要ない」

魔女「半分こしましょう」ぱきっ

旅人「必要ない」

魔女「倒れたりしたら、私が困りますので」

旅人「倒れたりしない」

魔女「あーわかりました。不味いから食べたくないんですね!」

旅人「言っただろ」

魔女「不味いからって、私に押し付けるなんてひどいです!」ぷんぷん!

旅人「貴重な食料だと、教えたはずだ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「だったらなおさら」

旅人「お前の考え、行動は、一人前の女として必要なものだ。お前は正しい」

魔女「……」

旅人「だが、俺には必要ない」

魔女「もういいです。わけわかめです!もぅ、知りませんからね!!」ぷいっ!

ー深夜

魔女「…………」すー…すー…

旅人「…………」

とっ……。

旅人「…………」

旅人の投げた刃が、盗賊の腹を貫き、煉瓦の壁へと突き刺さる。

盗賊「っ!」

旅人「悪く思うな」

ー翌朝

魔女「はぁ……」ぐ~

ぽいっと、小さなパンと、水の入った魔物の皮を投げ渡す。

魔女「これは」

旅人「…………」

魔女「血の臭いが増しています。昨晩、何かあったんですね」

旅人「食え」

魔女「いりません。誰かから盗んだものなど、私は口に出来ません!」

旅人「奪ったものだ」

魔女「同じです!」

旅人「いいから食え」

魔女「いりません!」

旅人「食え」

魔女「嫌です!!」

旅人「食えっ!!」

魔女「ひっ!」びくっ!

旅人「…………」

魔女「…………」びくびく

旅人「……強く、生きるんだ」

魔女「え?」

旅人「罪なら、俺が地獄まで背負う」

魔女「…………」ぐ~

旅人「さ、食べるんだ」

魔女「……い、いただきます」あむ

旅人「…………」

魔女「…………」ぐすっ

旅人「…………」

魔女「殺し合わないと、ご飯も食べられないなんて……」ぽろぽろ

旅人「皆が、そうという訳じゃない」

魔女「でも……でもぉ……!」ぽろぽろ

旅人は、優しく魔女を抱きしめた。

魔女「外の世界が、こんな……ぐすっ。私……お城に居たときは……っす」ぽろぽろ

優しく、頭を撫でる。

魔女「うわあああああん!!」ぽろぽろ

…………。

魔女「さ、行きましょう」すくっ

旅人「…………」

魔女「はやく勇者を倒して、平和な世界を築くのです!」

旅人「そうだな」スクッ

魔女「どうしたんですか?私は、もう平気ですよ!さっきのはうそ泣きです!」えへん

旅人「…………」

魔女「私は必ずや、姫としての勤めを果たし、民に、永久の平穏を約束します!」

旅人「…………」

魔女「だからあなたも、あなたの勤めをしっかりと果たし、私に貢献してくださいね!」

旅人「…………」スタスタ

魔女「ちょっと無視ですか!何とか言ったらどうです!」とてとて!

旅人「姫は、護られるものだ」ピタッ

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「確かにっ!!」びっくり!

旅人「…………」スタスタ

魔女「では、しっかりと私を護って下さいね!」とてとて

旅人「ああ」

魔女「……あ!」

旅人「…………」

魔女「そうなれば、誰が勇者を……。むぅ」

旅人「…………」

魔女「そう言えば、どこに向かっているんですか?」

旅人「山」

魔女「山?私の羅針盤とは、ずいぶんと方角が違いますよ」

旅人「勇者を倒すには、三つの宝石があった方がいい」

魔女「三つの宝石?」

旅人「その三つの宝石とは、勇者の力を抑える、特別なものだ」

魔女「なんと!」

旅人「…………」

魔女「どんな宝石なんだろう……」わくどき

旅人「その羅針盤は、お前のものか?」

魔女「いえ。お母様より預かった、先祖代々伝わる、大切な家宝です」

旅人「無くさないよう、大切にしまっておけ」

魔女「言われなくとも、わかってます!」ガサゴソ

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「前を歩」

魔女「煙草は許しません!」

旅人「…………」

魔女「…………」

すたすた……とてとて……。

ー町

魔女「この町は、活気がありますね!」

旅人「声をだすな」

魔女「しっー」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「この町は、石炭や鉱石といった鉱物資源だけでなく、宝石が多く取れることで有名な町だ」

魔女「へー」

旅人「安く宝石が買えるとあって、多くの人が訪れる」

魔女「ということは、悪い人たちも……」ひそ

旅人「察しがいいな」

旅人は、魔女を抱き抱える。

旅人「帽子を深く被れ」

魔女「わかってます」ひそ

旅人「この町には自警団がいるが、金次第で何とでもなる」

魔女「お金次第で……」

旅人「だから」

魔女「あれ美味しそう……」ぼそっ

旅人「あれは、この町一番の焼き菓子だ」

魔女「ふーん」

旅人「サクサクの芳ばしい皮に、とても甘い豆の餡が入っている」

魔女「そうなんですか」

旅人「…………」スタスタ

魔女「食わせろ!」ぺちこん!

旅人「っ!」

まいどあり!

旅人「二度と仮面を叩くな」

魔女「んー!んふふ!」

旅人「…………」

魔女「ありがとう!」

旅人「……」

魔女「お、えまめさんにいったのでそ!」

旅人「…………」

魔女「…………ふふ」もむもむ

ー鍛冶屋

旅人「頼んだぞ」

魔女「ちゃんと、刃の手入れはするんですね」ぺろぺろ

旅人「指を舐めるな。一人前の女は、そんなことはしない」

魔女「一人前の女、一人前の女って。一人前の女になったら、本当に勇者を倒せるのですか?」

旅人「ああ」

魔女「あれ綺麗!」きらきら

旅人「…………」

魔女「こほん。さて、はやく宿に行きましょう」

ー宿

魔女「綺麗……!」うっとり

旅人「…………」

魔女「しかし、これは一体何ですか?」

旅人「知らずにねだったのか」

魔女「……」ぷくー

旅人「それは、オカリナという楽器だ」

魔女「何と!楽器でしたか!」

旅人「使い方は、俺にもわからない」

魔女「そうですか……」

旅人「好きなように、吹いてみるといい」

ぷふー……。

魔女「?」

旅人「穴をひとつ、開いてみろ」

ぽぺー♪

魔女「あらま!」

旅人「どうやら、塞ぐ穴によって、音が変わる様だな」

ぽぺー♪ぷぽー♪ぴぴゃー♪

旅人「…………」

ぴびー♪ぷぴゃーぽーーー♪

旅人「もう勘弁してくれ」

ー夜

魔女「今日はオカリナを買い、素敵な演奏を披露しました」かきかき

旅人「ふー……」

魔女「使いの者は、大変喜んでいました」かきかき

旅人「ふー……」

魔女「…………」ことっ

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「どうした?」

魔女「別に……」

旅人は、慌てて煙草の火を消した。

旅人「すまない」

魔女「煙草ではありません」

旅人「…………寂しいのか?」

魔女「子供ではありませんので」

旅人「…………」

魔女「干し肉の味を思い出して、少し、気分が優れないだけです」ころん

旅人「…………」

魔女「おやすみなさい」

旅人「おやすみ」

魔女「ふふ……」

ー翌朝

魔女「刃、綺麗になりましたね」

旅人「ああ」チャキン

魔女「いつか、二度と血で染まらない日が来るといいですね」

旅人「そうだな……」

ー休火山

魔女「この山に、伝説の宝石が?」

旅人「ここではない」

魔女「伝説の宝石、魔女の瞳は、ここにはないのですか……」

旅人「瞳は二つ。宝石は三つ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「馬鹿者!」ぷい!

旅人「…………」

魔女「して、この火山。本当に噴火しないのですか?」

旅人「安心しろ」

魔女「…………」じとー

旅人「真相は、この先にある」

魔女「この洞窟の奥にですか?」

旅人「ああ。自分の目で確かめるといい」

魔女「一体何が……」

旅人「奥に、巨大な氷の湖がある」

魔女「言っちゃったっ!!」びっくり!

旅人「…………」

魔女「…………」くすくす

ー洞窟

魔女「っくちゅん!」ぷるぷる

旅人「…………」

魔女「どうしても、ここを通らねばならないのですか?」ぷるぷる

旅人「ああ」

魔女「…………」ぷるぷる

旅人「どうして魔法を使わないんだ?」

魔女「そうでした!私、魔女でした!」

魔女の杖に、温かな光が灯る。

魔女「ふー……」ぬくぬく

旅人「…………」

魔女「あ!宝石発見!」とてとて!

旅人「待て!触れるな!」

魔女「何ですか?あげませんよ」じとー

旅人「宝石に擬態した、毒虫かも知れん」

魔女「…………」さささ…

旅人「…………」ジッ

魔女「…………」

旅人「宝石だ」

魔女「やった!」ててーん!

旅人「銅貨一枚の価値もないが」

魔女「もぅ!」ぽいっ!

旅人「っ!」かつんっ!

魔女「がっかりです……」ためいき

旅人は、地に落ちた宝石を拾い、小さな手に握らせた。

魔女「いりません」ぷくー

旅人「確かに、売ろうとすれば、銅貨一枚の価値もない」

魔女「……」

さらに、ぎゅっと握らせる。

旅人「だが。お前が初めて見付けた宝石だ。俺達二人にとっては、かけがえのない価値がある」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「かも、しれませんね……」

魔女は、宝石をローブのポケットにしまった。

旅人「今度、指輪にしてやろう」

魔女「こここ婚約ですか!?」びっくり!

旅人「違う」

魔女「良かった」ほっ

旅人「…………」

魔女「得体の知れない正体不明の、自称一人前の男仮面さんと婚約なんて、絶対嫌ですから!」

旅人「…………」

魔女「ふふん!泣いてますね!」

旅人「いくぞ」スタスタ

魔女「仮面を外したら!婚約を考えてもいいですよー!」

旅人「…………」スタスタ

魔女「つまらないおっさん」ぼそっ

旅人「……」ピタッ

ー氷の湖

魔女「すごーい……!」

旅人「…………」

魔女「あれ!どうして氷の湖に、木があるのですか?」

旅人「あれは、首のないドラゴンだ」

魔女「えーーー!!」びっくり!

旅人「確かに。氷の大樹に見えなくもないな」

魔女「どうして、そのままにしているのですか?」

旅人「さあな」

魔女「不思議ですね」

旅人「これから先も、不思議な事はたくさんある」

魔女「そうなんですか?」

旅人「楽しみにするといい」

ー洞窟を抜けて

旅人「着いたぞ」

魔女「!」

旅人「温泉だ」

魔女「なんと!」

旅人「入るか?」

魔女「もちろんです!」ぬぎぬぎ

旅人「では、見張りをしていよう」

…………。

旅人「ふー……」

ぴぽーぷぺー♪

旅人「…………」

ぴぴぱぽー♪ぽぽー♪

旅人「ふー……」

ぴっぴーぱーぷー♪

旅人「やってくれたな」

ガサッ……。

旅人「…………」

旅人は、煙草を足で踏み消すと、刃を構えた。

今回はここまで。
ありがとうございました。

ー枯れ木の森

魔女「かっさかさ」とてとて

旅人「…………」

魔女「どうしてこの森は、かさかさなのですか?」

旅人「さあな」

魔女「……あのドラゴンが昔、この森を焼き尽くしたのでしょうか?」むむー

旅人「かもしれんな」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「どうしてあなたは、そんなに無愛想なんですか?」

旅人「仮面を被っているからだ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「…………」ピタッ

魔女「あらま」

旅人「…………」

魔女「大きな崖ですね」じー

旅人「…………」

魔女「どこか、渡れる場所を探しましょう」

旅人「そうだな」

…………。

魔女「はぁ……」

旅人「休むか?」

魔女「うん……はい」ぺたん

旅人「…………」

魔女「どうしました?」

旅人「空を見ろ」

魔女「?」

旅人「太陽が見えない」

魔女「そうですね」

旅人「俺としたことが……」

魔女「ふぁ……」ねむねむ

旅人「大変な事になったぞ」

魔女「どうしました?」

旅人「どうやら。この森の悪霊に、見いられてしまったようだ」

魔女「え……」

オオオオオ……!

魔女「ひゃあ!」

旅人「どうしたものかな」

…………。

魔女「…………」ぎゅう

旅人「怖いのか?」

魔女「あなたの為です!」ぎゅ!

オオオオオ……!

魔女「きゃー!」ぎゅう!

旅人「暗くなってきたな……」

魔女「あの……」

旅人「どうした」

魔女「森の悪霊に捕まったら、どうなるのですか?」びくびく

旅人「魂を喰われ、体は乗っとられる」

魔女「へ、へー」ぎゅ

旅人「怖いのか?」

魔女「私は魔王の娘です!悪霊ごとき」

オオオオオ……!!

魔女「…………」ぷるぷる

旅人「お。あそこに小屋があるぞ」

魔女「急ぎましょう!」とてとて!

ー小屋

魔女「ここなら安心安心」

旅人「囲まれたな」

魔女「しまったー!!」ががーん!

オオオオオ……!ガタガタガタガタ!!

魔女「小屋を揺すってますよ!入ってきたらどうするんですか!!」

旅人「うーん……」

魔女「この役たたず!」ぺちこん!

旅人「っ!」

魔女「馬鹿者が!全力で姫を護らんか!!」ぐすっ

旅人「…………」

魔女「うぅ……」ぽろぽろ

旅人「全部嘘だ」

魔女「え……?」ぐすっ

旅人「悪霊なんていない」

オオオオオ……!ガタガタガタガタ!!

魔女「で、では!これは一体何なのですか!」びくびく

旅人「ただの風だ。木に掠れて、唸り声の様に聞こえるだけだ」

魔女「私、全部知ってましたよ!ひっかかりましたね!」ふふん

オオオオオ……!ガタガタガタ!!

魔女「ひゃあ!」ぎゅ!

旅人「…………」

魔女「…………」ぎゅう

旅人「安心しろ」なでなで

魔女「…………」

旅人「俺が側にいる」なでなで

魔女「…………」

旅人「だから、明日に備えて、もう休むんだ」なでなで

魔女「…………」

旅人「…………」なでなで

魔女「…………」うとうと

オオオオオ……!ガタガタガタガタ!!

魔女「…………」うと……

旅人「…………」なでなで

魔女「…………」すや…

ー翌朝

魔女「あれ?おじさん……?」ねむねむ

ガチャ。

旅人「起きたか。ちょうどいい。朝飯にしよう」

魔女「!」とてとて!

とんっ!

魔女「…………」ぴた

旅人「どうした」

魔女「何ですか!あれ!!」きらきら

旅人「しっ!」

魔女は、とっさに口を塞ぐ。

旅人「あれは、食料を求め、群をなして旅をする魔物だ」

魔女「耳長っ!」

旅人「しっ!」

また口を塞ぐ。

魔女「美味しいの?」ひそ

旅人「珍味だ」

魔女「ちんちん?」

旅人「…………」

魔女は、はっとして、口を塞いだ。

旅人「ここで待っていろ」

魔女「逃がしたら、許しませんからね!」

旅人が駆ける。

魔女「はやっ!」

旅人は、一番大きな魔物に狙いを定めた。

旅人「……」

一閃。

魔女「さすがです!」ぱちぱち!

倒れる魔物と、散り散りに逃げてゆく魔物達。

魔女「よくできました!」ぱちぱち!

…………パチパチ。

旅人「焼けたぞ」

魔女「いただきます!ふーふー……あむ!」

旅人「…………」

魔女「…………」もむもむ

旅人は、煙草に火を移す。

魔女「すっぱい!」

旅人「ふー……」

魔女「からい!」

旅人「…………」

魔女「あまい!」

旅人「ふー……」

魔女「しょっぱい!」

旅人「…………」

魔女「苦い!」

旅人「黙って食べろ。一人前の女は、食事中に余計な」

魔女「味がころころ!とても美味しいですよ!!」

旅人「ふー……」

魔女「あなたはどうして、いつも最後に食べるのですか?」

旅人「煙草と酒が、一番うまいからだ」

そう言って、煙草の火を消す。

魔女「…………」じとー

旅人「あむ」

魔女「あむ」

旅人「すっぱい」

魔女「からい!」

旅人「甘い」

魔女「しょっぱい!」

旅人「苦い」

魔女「んふふ!」にこっ!

旅人「…………」モグモグ

ー町

魔女「誰もいない?」きょろきょろ

旅人「いや」

魔女「!」

二人は身を潜める。

魔族「人間のスパイを捕えたぞ!」

広場の中心には、木製の十字架に張り付けにされた、一人の惨たらしい人間を囲むように、魔族達が集まっていた。

魔女「あれが、人間……」

旅人「いくぞ」

魔女「え、どうしてですか?」

旅人は魔女を抱き抱え、広場を後にする。

魔女「?」

その時。背後より、恐ろしい悲鳴が襲いかかってきた。

魔女「まさか……!」びくっ

旅人「気にするな」

しかし悲鳴は、耳を塞いだ魔女を、容赦なく襲い続ける。

魔女「嫌な声……」びくびく

旅人「…………」

魔女「…………」びくびく

ー宿

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「……本当に、正しいことなのでしょうか?」

旅人「何?」

魔女「勇者を倒す。いえ。勇者の命を奪うということです」

旅人「正しい」

魔女「…………」

旅人「それでいいんだ」

魔女「…………」

旅人「心配するな」

小さな頭に、ぽんっと、手を乗せる。

旅人「俺がいる」

魔女「…………」

旅人「さ、美味しいものでも買いに行こう」

魔女「…………」ぐすっ

旅人「…………」なでなで

ー夜

魔女「…………」ころころ

旅人「さ、もう寝るんだ」

魔女「眠れません」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人は、魔女の隣に寝転ぶと、優しく抱き寄せた。

魔女「くちゃ……」

旅人「そうか」サッ

魔女「あまりにも可哀想だから、今日だけ許してあげます。感謝なさい」ぎゅ

旅人「…………」

とん、とん、と。魔女の体を、優しく叩く。

魔女「…………」ねむ…

ー翌朝

魔女「なんと!」

旅人「どうした……?」ネム

魔女「絵本が枕元に!」ててーん!

旅人「なんと」

魔女「置いたのは、あなたですか?」

旅人「違う」

魔女「…………」じとー

旅人「…………」

魔女「へっ」

旅人「なんだ」

魔女「別にっ!何でもありません!」ふい

旅人「そうか。では、顔を洗って、朝飯にしよう」

魔女「はい!」

旅人「…………」スタスタ

魔女「ありがとう」ぼそっ

旅人は、右手を少し上げた。

魔女「…………」ぷくー

ー原っぱ

魔女「久しぶり、葉っぱさん」おすわり

旅人「ふー……」

魔女「たーばーこ。ほんと好きですね」じとー

旅人「面白い話、聞きたいか?」

魔女「言ってごらんなさい!」

旅人「ハートの四つ葉を見つけると、幸せになれるらしいぞ」

魔女「ふーん」

旅人「ふー……」

かさかさ……。

魔女「これは?」

煙草の火を消す。

魔女「どう?」

旅人「残念」

魔女「知ってます」とてとて

かさかさ……。

旅人「…………」ネコロビ

魔女「ふふん!」とてとて

旅人「…………」

魔女「じゃじゃじゃーん!」

旅人「お。よく見つけたな」

魔女「つちのこほいほいです!」えへん!

旅人「?」

魔女「それで、これをどうしたらいいのですか?」

旅人「魔法で一工夫」

魔女「で?」

旅人「栞にでもするといい」

魔女「小さすぎます」

旅人「そうか。まぁ、なくさないように、大切にしまっておけ」

魔女「はーい」ないない

旅人「そろそろ行くか」

魔女「はい!」

…………。

魔女「うー……」

旅人「段々、草の背が高くなってきたな」

魔女「痛っ!」

旅人「大丈夫か?」

魔女は左腕に、擦り傷を負っていた。

魔女「平気です!」

魔女は、杖に魔力を込めると、杖の先を傷口に当てた。

旅人「治癒魔法も使えるのか」

すっかり傷が癒えた。

魔女「我を誰と心得ておる。ん?」

旅人「…………」スタスタ

魔女「もー!」とてとて

旅人「ここから先は、草を切り進むしかない。はぐれぬよう、しっかりとついてこい」

魔女「はーい」むすっ

…………。

旅人「誰かいるな」

魔女「え?」

風を切る音。

旅人「!」

旅人は、とっさに魔女を庇った。

魔女「!」

旅人の腕には、一本の矢が刺さっていた。

魔女「大丈夫ですか!?」

旅人「平気だ」

立て続けに、旅人の体に矢が刺さる。

魔女「あぁ……!」

旅人は、魔女を片手で抱き抱えると、草を乱暴に切り裂きながら、走り続けた。

ー小川

一本の木の裏に、魔女を隠す。

旅人「…………」

魔女「矢は全部抜いたけど、無茶しないで下さい」

旅人「!」

矢を切り落とす。

旅人「…………」

熊男「あれだけの毒矢を受けて、動けるとはな」

大きな斧を持った熊男に続けて、弓を構えた数人の魔族達が姿を表す。

熊男「撃ち殺せ!!」

旅人「……」

旅人は放たれた矢を、全て燃やし尽くした。

熊男「ほぅ……」

魔族達は弓を置き、片手を旅人に向けた。

魔女「助けなきゃ……!」

魔女の脳裏に、旅人と初めて会った時、旅人に切り倒された人達の姿がよぎる。

魔女「生きる為には……」

とある町での、敗者の姿が蘇る。

魔女「…………」びくびく

人間の悲鳴が、体中を駆け巡る。

魔女「…………」がたがた

旅人は放たれた魔法を、全て術者に跳ね返した。

熊男「なに!?」

旅人「目をつぶって、耳を塞いでいろ!」

盗賊達は、また魔法を放とうとするが、それは、旅人に隙を与える結果となった。

旅人「悪く思うな」

一瞬で接近し、切り倒していく。

熊男「ぬんっ!」

降りおろされた斧を紙一重でかわし、斧を持つ腕を切り落とす。

熊男「ぐあああ!!」

魔族「ひぃ!」

ぷぴー!ぽぽー!

熊男「俺達が悪かった!金はやる!」

ぺぴぽー!ぴぽぱー!

魔族「あああ!!」

ぽぴぱー!ぷぺー!

旅人「…………」

ぴっぴー!ぽー!

旅人「…………」スタスタ

ぱぷー!ぺぺー!

旅人「もう大丈夫だ」

ゆっくりと目を開けた魔女は、旅人の姿を見て、小さく悲鳴を上げた。

旅人「…………」

見馴れたはずの、姿なのに。

旅人「すまない」

魔女「…………」びくびく

旅人「すまない」

魔女の涙が落ちるのと同時に、空から滴が落ちた。

ー夕刻

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「このままでは、風邪をひく」

魔女「…………」

旅人「頼む。俺のマントを羽織ってくれ」

魔女は、首を左右に振る。

旅人「…………」

旅人は、魔女を足の間に座らせた。

魔女「嫌!」

しかし、魔女は駆け出した。

旅人「待て!」

とっさに駆け寄り、抱き寄せる。

魔女「離して!血の臭いがする!」じたばた

旅人「落ち着け」

魔女「離れて!いや!いやー!!」じたばた!

旅人は、さらに強く抱き締めた。

旅人「…………」

魔女「…………」ぽろぽろ

旅人「すまない」

魔女「…………」ぽろぽろ

旅人「…………」なでなで

ー翌朝

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「平気か?」

小さく頷く。

旅人「歩けるか?」

小さく頷く。

旅人「…………」

魔女「……ごめんなさい」

旅人「何がだ?」

魔女「あなたは、私を護ってくれたのに……」

旅人「謝らなくていい。お前は何も悪くない」

魔女「生きるか……死ぬか……仕方ないこと……」ぶつぶつ

旅人「…………」

魔女「…………」とてとて

ー町

旅人「このお菓子は、甘くて美味しいぞ」

魔女「ありがとうございます」

旅人「この町は、水がとても綺麗なことで有名でな。美味しい川魚も食べられるぞ」

魔女「やった」

旅人「果汁水をひとつくれ」チャリン

おばさん「あんた、随分と血生臭いね……」

旅人「…………」

おばさん「犯罪者というより……訳ありみたいね。はい、どうぞ」

旅人「ほら」

魔女「ありがとうございます」

おばさん「こんな物騒な世の中だから、気をつけてね」

旅人「どうも」

おばさん「あなたもね」

魔女「はい」

ー宿

旅人「どうだ?」

魔女「おいしいです」

旅人「そうだろ?」

魔女「…………」もむもむ

旅人「よし決めた。数日、この町で休もう」

魔女「気を使って頂かなくて、結構です」

旅人「俺が、少し疲れたんだ」

魔女「そうなんですか」

旅人「この町は、治安も悪くない。いつもよりは、安心して休めるだろう」

魔女「ごちそうさまでした」

旅人「もういいのか?」

魔女「お腹いっぱいです」

旅人「そうか……」

魔女「…………」ころん

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「すまない」

魔女「もういいですって。あなたのせいではありませんから」

旅人「…………」

ー翌日

旅人「この建物は、川から水を引いて、川魚を養殖しているんだ」

魔女「そう」

旅人「そしてなんと。その魚を釣って、食べることができる」

魔女「すごーい」

旅人「珍しい、川魚の刺身も食えるぞ」

魔女「わーい」

旅人「…………」

ー屋内

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「お。引いているぞ」

ちゃぽ。

旅人「大きいのが釣れたな」なでなで

魔女「はい」

旅人「俺も、負けないように頑張ろう」

…………。

魔女「…………」

旅人「お前、才能があるな。こんなに釣るなんて」

魔女「ありがとうございます」

旅人「よし。そろそろ終わるか」

ー食事処

旅人「ほら。お前が釣った魚だぞ」

魔女「知っています」

旅人「きっと、何よりも美味しいぞ」

魔女「お母様の手料理が一番です」

旅人「そうだな。それが一番だ。すまない」

魔女「…………」

旅人「お母さんは、よく手料理を作ってくれたのか?」

魔女「たまにです」

旅人「そうか……」

魔女「あむ……」

旅人「どうだ?自分で釣った魚の刺身は」

魔女「おいしいです」

旅人「良かったな」

魔女「はい」

旅人「…………」


↑おばさんの台詞。犯罪者ではなく、盗賊

ー翌日

ぷぴぽーぱぴぱぱー♪

旅人「どうだ?町一番の風車からの景色は」

ぴぴぺーぽぴー♪

旅人「きっとお前の音楽は、風にのって、町全体に届いてるぞ」

ぴぽぷーぴぴー♪

旅人「みんな、喜んでいることだろう」

魔女「それはありえません」

旅人「どうしてだ」

魔女「下手だからです」

旅人「…………」

ぴぴ……ぽ。

旅人「よし」

ー本屋

旅人「本屋を見つけられて、良かった」

魔女「そうですか」

旅人「本屋なんて、そうあるものじゃないからな」

魔女「そうなんですか」

旅人「すまない。オカリナの楽譜は、置いてあるか?」

老人「がーっといって、ちょっとして、とんじゃ」

旅人「…………」

魔女「ここにありますよ」

旅人「おお。見つけたか」

魔女「でも……」

旅人「ふむ……」

魔女「読めません」

旅人「油断した。すまない」

魔女「構いません」

旅人「一応、購入しよう」

魔女「いりません」

旅人「…………」

魔女「楽譜も…………オカリナも」ぼそっ

旅人「……」

魔女「あ、ごめんなさい」

旅人「…………」なでなで

ー噴水の側、木のベンチ

旅人「…………」

魔女「…………」ぐすっ

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「泣いていいぞ」

魔女「泣きません」

旅人「そうか……」

魔女「…………」

旅人「…………」

ぴぴっぱー♪ぷぴぽー♪

旅人「…………」

ぽぺぽぱー♪ぷぷー♪

旅人「…………」

旅人に、そっと寄りかかる魔女。

旅人「…………」なでなで

ぱっぱー♪ぱぴぷぴー♪

ー翌日、原っぱ

魔女「あの山ですか?」

旅人「ああ」

魔女「…………」

旅人「あの高さに驚いているだろ」

魔女「いーえ」

旅人「安心しろ」

魔女を抱き抱える。

旅人「このまま連れて行く」

魔女「すごーく、遠いですよ」

旅人「平気だ」

魔女「そう」

旅人「…………」

魔女「ふぁ……」

旅人「…………」

魔女「…………」すや…


※なでなでは、後頭部、もしくはほっぺです。

ー山

魔女「綺麗な森」

旅人「…………」

魔女「下ろしてください」

旅人「大丈夫だ」

魔女は、ぴょんと飛び下りた。

魔女「休憩にしましょう」

旅人「俺なら大丈夫だ」

魔女「私が疲れたんです」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「わかった」

魔女「よろしい」

…………。

魔女「あれが、てふてふなるものですか」

旅人「ちょうだ」

魔女「超てふてふ」

旅人「違う。ちょうちょ」

魔女「超超てふてふ?」

旅人「ちょ、う、ちょ」

魔女「ちょ、う、ちょ」

旅人「それでいい」

魔女「ちょうちょ」とてとて

旅人「…………」

魔女「ふにゅ!」とてん

旅人「気を付けろ。毒虫もいるからな」

魔女「どうしてそれを先に言わないんですか!」とてとて!

旅人「すまない」

魔女「もぅ……」

旅人は、魔女の頬を優しく撫でる。

魔女「無礼であるぞ!」ぺちこん!

旅人「泥がついていた」

魔女「それは失礼……あれ!」

旅人「あれは…………そうだ。超ちょうちょだ」

魔女「超ちょうちょ!」きらきら

旅人「…………」

魔女「大きくて綺麗……!」

旅人「食うか?」

魔女「えぇ!?」びっくり!

旅人「冗談だ」

魔女「馬鹿者!」ぺちこん!

賜物……。
これだ!
漢字がでないと思ったら……。

いやはや、ありがとうございます。

旅人「仮面を叩くな!」

魔女「ふんっ」ぷい!

…………。

魔女「さむ……」

旅人「ずいぶんと、高い所まで来たからな」

魔女「ふー……」

魔女を抱き抱える。

旅人「もうじき日が暮れる。一気に行くぞ」

魔女「一気に?」

旅人の足に、魔力が集まる。

旅人「しっかり掴まれ」

魔女「はい」ぎゅ!

駆け上がる。

魔女「わわわ!」

跳ねる様にではなく、飛ぶ様に駆け上がる。

魔女「ひゃーーー!」

旅人「もう少しだ」

魔女「あ!雲にぶつかるーーー!!」

旅人「平気だ」

魔女「ぎゃーーー!!」

旅人「…………」

雲の中へ突入する。

魔女「つめたーーー!!」

そして、雲をつき抜けたその先は。

ー山頂

魔女「うわー!!」きらきら!

旅人「はぁ……はぁ……」

魔女「雲が下にあるー!!夕日きれー!!」とてとて!

旅人「あまり端に行くな。落ちるぞ」

旅人は鞄から、小さく平べったい魔法石を取り出した。

魔女「それは何ですか?」

旅人「魔力を込めると、熱を帯びるんだ」

魔女「へー。今日の夜ご飯は何ですか?」

旅人「干し肉だ」

魔女「やだーーー!!」

旅人「一番安いからな」

魔女「…………」ぷくー

旅人「…………」スッ

魔女「ん?また嘘をつきましたね!」

旅人「お前が釣った魚を、干したものだ」

魔女「なんと!」

旅人「湯に入れると、美味しいらしい」

魔女「ふーん」

ー夜

魔女「美味しい!とてもとてもとっても!」

旅人「良かったな」

魔女「はい!」

旅人「ふー……」

魔女「おかわり!」

旅人「自分で入れてくれ」

魔女「はーい」

旅人「ふー……」

魔女「あ!」

旅人「どうした」

魔女「あなたの分しか、残っていません」

旅人「食べていいぞ」

魔女「いけません!」

旅人「じゃあ……」

煙草の火を消し、魔女のお椀を手に取る。

旅人「半分こしよう」

魔女「結局、あなたの分は減りましたよ!」

旅人「これでいいんだ」

魔女「よくないです!」

旅人「これでいいんだ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「一人前の女になるには、今の時期、たくさん食べないといけないぞ」

魔女「?」

旅人「大きくなれないからな」

頭をぽんぽん。

魔女「大きく……なれますか?」

旅人「いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい動いたら」

魔女「…………」

旅人「ごちそうさまでした」

魔女「はやっ!」

旅人「冷めてしまうぞ。もったいない」

魔女「……ふーふー」

旅人「……」

魔女「はい!」あーん

旅人「なんだ」

魔女「あと一口だけでも、食べて下さい!」

旅人「……あむ」

魔女「いひひ!」

旅人「優しい、良い子だ」なでなで

魔女「子供扱いしないで下さい!」

旅人「上を見てみろ」

魔女「うわーーー!きれーーー!」きらきら!

ー就寝

魔女「届けー!届かなーい!届けー!」

旅人「寝袋とやら、中々良さそうだぞ」

魔女「くぬー!」

魔女の杖先に、魔力が集まる。

旅人「よせ。魔法を使っても、星は落とせないぞ」

魔女「やってみないと、わかりません!えい!」

大きな火球が、夜空へと飛んでいく。

魔女「届けー!」

ひゅ~…………ぽふ。

魔女「…………」

旅人「気を落とすな。いつかきっと、届く日がくるだろう」カタポン

魔女「…………」

旅人「さ、寝るぞ」

その時。

魔女「あ!」

流れ星がひとつ。

魔女「落ちた!今落ちましたよ!」

旅人「本当か?」

魔女「本当ですよ!見逃して、残念でしたね!」ふふん

旅人「さすがだ」

魔女「当然です!」

旅人「お」

もうひとつ。ふたつ。

魔女「今見ましたよね!私すごーい!」

旅人「あの流れ星が消えるまでに、願い事を三回唱えると、願い事が叶うらしいぞ」

魔女「では!もっと落としましょう!」

旅人「もうよせ。寝るぞ」

魔女「えい!」

ひゅ~…………ぽふ。

旅人「…………」

と、たくさん降り注ぐ流れ星。

旅人「なんだと……」

魔女「皆が仲良く平穏に暮らせる世界皆が仲良く平穏に暮らせる世界皆が仲良く平穏に暮らせる世界!!」

旅人「本当に星を操る力が……あるわけないか」

魔女「言えましたよ!」ふふん!

旅人「そうか。叶うといいな」

魔女「はい!」


今回はここまで。
ありがとうございました。

応援してくれる人がいるって嬉しいな。
個性を覚えてくれてた人もいるし、幸せ者だ。

ー翌朝

魔女「本当に、ここに伝説の宝石が落ちているのですか?」

旅人「ああ」

魔女「どうして、あなたは探さないのですか?」

旅人「ふー……」

魔女「…………」じとー

旅人「子供にしか、見つけられないんだ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「魔女にしか、見つけられないんだ」

魔女「嘘臭いです」

旅人「ふー……」

魔女「…………」とてとて

旅人「端には行くなよ」

魔女「わかっています!」

…………。

魔女「あ!」

旅人「…………」

魔女「これはー!」とてとて!

旅人「ふむ……。これは……」

魔女「…………」ごくり

旅人「よく見つけたぞ」なでなで

魔女「ふふん!」えへん

旅人「よし。次に目指すは海だ」

魔女「海!?」きらきら

旅人「ああ」

魔女「海かー!」きらきら

旅人は、小さな手に宝石を握らせる。

魔女「どうして私に渡すんですか?」

旅人「この宝石は、魔女にしか使えない」

魔女「そうなんですか」

旅人「大切にしまっておけ」

魔女「はい!」

旅人「では、行こう」

旅人はそう言って、魔女を抱き抱えた。

魔女「あったかい……」ぎゅ

旅人「ん?」

魔女「何でもありません!」ふいっ

ー湿原

魔女「反対側とは、全然違いますね」ぴちょぴちゃ

旅人「自然とは、そういうものだ」

魔女「へー」

旅人「…………」

魔女「休む時とか寝る時は、どうするのですか?」

旅人「抱き抱える」

魔女「あなたは?」

旅人「…………」

魔女「へっ」

旅人「なんだ」

魔女「かっこつけ!」

旅人「…………」

魔女「怒りました?」

旅人「かっこいいだろ」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「…………」

…………。

魔女「あれ、何ですか?」

旅人「蟹だ」

魔女「蟹?私、知ってますよ!蟹は海の生き物です!」くすくす

旅人「よく見ろ。普通の蟹ではない」

魔女「魔物の上に乗ってる!」

旅人「他の魔物に寄生して生きる、恐ろしい魔物だ。人にも寄生するぞ」

魔女「怖っ!ゾンビ?」

旅人「ゾンビは、もっと恐ろしい魔物だ。人の死体が突然凶暴性を持ち、闇雲に生き物を喰らうからな」

魔女「へ、へー」

旅人「という話を、何かの書物で見たな」

魔女「あなたと言う人は!!」ぷんぷん

旅人「大きい声を出すな。気づかれたぞ」

魔女「蟹がこっちに!」

旅人「走るぞ」

魔女「どうしてですか?やっつけて、ご飯にしてください」

旅人「毒があるぞ」

魔女「退散です!」とてとて!

ー洞窟

旅人「あの魔物は、俺達には聴こえない音を出して、仲間を呼ぶ習性がある」

魔女「そ、そーゆーことでしたか……」はぁ…はぁ…

旅人「あそこの岩で、休憩するか?」

魔女「そうしましょう」

…………。

魔女「とても小さな滝がありますよ」ぴちゃちゃ

旅人「その水は綺麗だ。飲んでいいぞ」

魔女「やった!」

旅人は、魔物の皮で出来た容器に、水を汲む。

魔女「冷たくて美味しい!」

旅人「良かったな」

魔女「んー!」

旅人「…………」ゴクゴク

魔女「ぷはー!」

旅人「…………」

魔女「ねぇ」

旅人「なんだ」

魔女「その仮面、いつ脱ぐのですか?」

旅人「予定はない」

魔女「何度叩いても取れないし、寝ている隙に引っ張っても取れない。まさか……」

旅人「気付いたか」

魔女「呪い……!」

旅人「…………」

魔女「て、いつも食事の時に、ずらしてるじゃないですか!」ぷんぷん

旅人「…………」

魔女「そうか。変態なんですね、あなた……」じとー

旅人「違う」

魔女「…………」

旅人「理由があるから、仮面をしているんだ」

魔女「ふーん」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「……いつか教えよう」

魔女「いいんですか?」

旅人「いつかな」

魔女「いつになるやら……」ぴちゃちゃ

…………。

魔女「長い洞窟ですね」

旅人「この洞窟を抜けたら、海は目の前だ」

魔女「本当ですか?」

旅人「ああ」

魔女「…………」

旅人「待て」

魔女「どうしました?」

旅人「冷たい風を感じないか?」

魔女「…………確かに」

旅人「良いものが食べられるぞ」

魔女「良いもの?」

ー小部屋

魔女「なんと!」

大きな花が、二人の目の前に現れた。

旅人「この空間は地形の関係上、ずっと寒くてな」

魔女「これは何ですか!」

旅人「それが良いものだ」

旅人は、適当に一本のツルをたぐり寄せ、水の中にある、大きな果実を水から引き上げた。

旅人「氷菓子とも言われる、美味しい果実がある」

魔女「氷菓子!?何ですそれは!」きらきら

旅人はおもむろに、魔女の目をタオルで隠した。

魔女「?」

旅人「元気でな」スタスタ

魔女「えーーー!!」おろおろ

旅人「冗談だ」

魔女「大馬鹿者!!」ぷんぷん

刃を抜き、小さな手に鞘を握らせる。

旅人「真っ直ぐ、四歩歩くんだ」

魔女「無理ですよ!」

旅人「大丈夫」

魔女「…………」とて…とて…

旅人は果実をひとつ、そっと、魔女の前に置いた。

旅人「今だ。思いっきり鞘を降り下ろせ」

ぱきーん!

魔女「な!何か割れたー!」

タオルをほどく。

魔女「あらま!」きらきら

旅人「さ、食べよう」

魔女「今の儀式は何だったのですか?」

旅人「スイカ割り」

魔女「スイカ割り?」

旅人「そうだ」

魔女「必要でした?」じとー

旅人「とても大切なことだ」

魔女「へー」

…………しゃりしゃり。

魔女「あみゃーーーい!」きらきら

旅人「…………」

魔女「んふふ!」しゃりしゃり

旅人「一気に食べると」

魔女「頭が……!毒!毒がありますよ!」きーん

旅人「毒はない」

魔女「じゃあ、何ですかこれは……うぅ」

旅人「あたまきーん。だ」

魔女「もういいです」しゃりしゃり

旅人「…………」

魔女「まただー……!」きーん

旅人「…………」

魔女「でも、美味しい!」しゃりしゃり

ー草原

魔女「あれが……!」

旅人「海だ」

魔女「素敵……!」

旅人「…………」

魔女「でも、遠いじゃないですか!」

旅人「洞窟を出て、目の前にあるだろ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「この草原を下りきれば、海にたどり着く」

魔女「さっさと行きましょう!」

旅人「もうじき日が暮れる。今日はここまでだ」

魔女「まだまだ歩けます!」

旅人「駄目だ。この草原には、群れで獲物を狩る、狂暴な魔物がいる」

魔女「…………」じとー

旅人「…………」

魔女「約束してください。明日には、海に連れていくと」

旅人「明日は、途中にある町で休む」

魔女「えー!」

旅人「…………」

魔女「…………」ぷくー

旅人「わかってくれ。お前が大切なんだ」

魔女「え?」

優しく、魔女の頬を撫でる。

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「もぅ……」

旅人「…………」

魔女「しょうがないなー!」ぎゅう!

ー翌日

旅人「…………」

魔女「うぇ……!」

魔女は、反射的に目を背けた。

旅人「旅の途中、魔物に襲われたんだろうな」

旅人は、金になるものを物色する。

魔女「泥棒はよしてください。こんな、可哀想な人にまで……」

旅人「泥棒じゃない。この人から、明日をもらうんだ」

魔女「明日をもらう?」

旅人「そうだ」

魔女「それはあなたの勝手では……」ぼそっ

旅人「よし。いくぞ」

魔女「あの。せめて、埋葬してあげませんか?」

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「……そうだな。御礼をしないとな」

魔女「はい!」

…………。

魔女「…………」とてとて

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「どうした?」

魔女「別に」

旅人「…………」

魔女は立ち止まり、空を見上げる。

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「はやく……。はやく旅を終わらせて、お城に帰りましょう」

旅人「そうだな……」

魔女「でも……」

旅人「何だ?」

魔女「いえ、何でもないです。さ!急ぎましょう!」とてとて!

旅人「…………」

ー村

旅人「ここも子供が少ない。帽子を深く被れ」

魔女「わかってますよ」ぐい

旅人「じゃあ、行くぞ」

魔女「どこへ?」

ー藁の酒場

魔女「…………」じとー

爺「ぱーどぅん?」

旅人「あなたは元、有名な音楽家ですよね」

爺「まるぼーろさっくさく」

旅人「酒場の看板に描かれている紋章が、その証です」

爺「たまらんち」

魔女「ボケてる」ぼそっ

爺「ボケとらんわ小娘!」ドンッ!

魔女「普通に喋った!」

爺「このご時世に小娘を連れて旅とは、命知らずな奴じゃな」

旅人「今日は、あなたにご教授頂きたいことがあり、ここに参りました」

爺「ぷーどるもっふもっふ」

魔女「こけこっこー」

爺「せがさたーん」

魔女「にゃんにゃんにゃー」

旅人「お金ならあります」

爺「金はいらん」

旅人「では」

爺「あーはん?」

魔女「めんどくさ」

爺「ろりばばあ」

魔女「しわしわじじい」じとー

爺「なんじゃと小娘!」ドンッ!

旅人「はぁ…………」

魔女「もういいよ。行きましょう」

旅人「そうだな」

爺「待て」

魔女「何?」

爺「お前さん、何者じゃ」

魔女「えーと……」

爺「仮面の男よ」

旅人「その質問に、答えるつもりはない」

爺「興味深い……」ジー

旅人「…………」

爺「よし。わしの頼み事を聞いてくれれば、何でも教えてやろう」

旅人「条件は何だ」

爺「草原のどこかにいる魔物の主。そやつを狩り、皮と牙を持って来い」

旅人「危険すぎる」

爺「この子は家で預かろう」

魔女「お断りします!」

旅人「わかった」

魔女「は!?この馬鹿者!」げしっ!

旅人「蹴るな」

魔女「私、売られちゃいますよ!」

旅人「この人なら大丈夫だ」

爺「おーらい」

魔女「嫌々嫌々嫌々嫌々!!」

旅人「いいか。きちんと言うことを聞くんだぞ」

魔女「大馬鹿者!」ぺちこん!

旅人「明日には帰る」

魔女「やだー!」ぎゅ!

旅人「あ!あいつらは……!」

魔女「え?」くるり

旅人は、一瞬の隙に出ていった。

魔女「あーーー!!」ががーん!

追いかけようと走る魔女。

爺「待て!」

魔女「なんですか!」

爺「走っても追いつけんぞ」

魔女「くぬー……!」

爺「さ、ここに座れ。オカリナの吹き方、教えてやろう」

魔女「え?」

爺「さ」

魔女「どうしてオカリナのことを……」とてとて

爺「てんてんどんどんどんてんどん」

魔女「もういいです」よいしょ

…………。

ぱぱぱぴぷぴぱぽ~♪

爺「ふふっ、上達がはやいな。才能があるぞ!」

魔女「えへへ」てれてれ

爺「楽譜も、少しは読める様になったな」

魔女「じじいのおかげです!」

爺「わしの名は、フォルトマエストロディスティニーコンダクターパーフェクトメロ」

魔女「はいはい」

ぷぴぱ~ぽぽ、ぷぴぱぽぺぺ~♪

爺「これで、麺屋にもなれるな」

魔女「えー。麺屋は嫌です」

爺「ふふっ」

魔女「お!この、大好きお父さんという曲を演奏して、あの人を泣かしてやろう」

爺「はい。わし特製、スイカジュースをどうぞ」コトッ

魔女「…………」

爺「どうした?」

魔女「え?」

爺「お父さんが、恋しいか」

魔女「……私に、お父さんはいません」

爺「それはすまなかった」

魔女「顔も覚えていないんです。だから、気にしないで下さい」

爺「…………」

魔女「んふふ!これ美味しい!」

爺「おかわりは、いくらでもしてよいからな!」

魔女「ありがとうございます!」

ー夜

爺「これから客がたくさん来る。奥の部屋で、休みなさい」

魔女「はーい」とてとて

藁の扉を抜け、短い木の廊下を進むと、煉瓦の部屋に辿り着きました。

魔女「変な家」

ー夜中

旅人「これでいいですね」

石のテーブルの上に、ドン、と麻袋を置いた。

爺「仕事がはやいな」

旅人「それで」

爺「教えることは教えたよ」

旅人「仕事が早いですね」

爺「ふっ」

旅人「ありがとうございました」

爺「うむ」

旅人「……」

爺「あの子は眠っている。今日は泊まってゆけ」

旅人「では、お言葉に甘えて、お世話になります」

爺「うむ」

旅人「…………」スタスタ

爺「…………」

ー翌朝

魔女「うわー……牙でかっ」

爺「最近、魔物によく村が襲われるようになっての。主であり長であるそやつを、狩ってもらったという訳じゃ」

魔女「ふーん」

爺「さ、スープをお食べ」コトッ

魔女「美味しそう!」

爺「虫スープじゃ」

魔女「ぎゃあああ!!」がたっ!

爺「ほほほっほっ!冗談じゃよ。野菜と、ウサギの肉が入っておる」

魔女「うぇー……」

旅人「美味いぞ」

魔女「うさぎさん、可哀想です」

爺「この魔物は、可哀想じゃと思わんのか?」

魔女「思う……けど」

爺「優しい心があるなら、感謝して食べなさい」

魔女「感謝して?」

爺「うむ。虫さんも、野菜さんも、ウサギさんも、魔物さんも、みんな。お前さんに、命をくれる生き物達じゃ」

魔女「…………」

爺「わかるかな?」

魔女は、こくりと頷いた。

魔女「ありがとうございます!いただきます!」

爺「偉いぞ!」

魔女「ふふん!」

爺「お前さん!きちんと頭を撫でて、誉めてやらんか!」

旅人「偉い偉い」なでなで

魔女「いひひ!」

旅人「…………」

爺「ふふっ」

…………。

魔女「じじい!ありがとうございました!」ぺこり

爺「じじいはやめい!」

旅人「色々と、お世話になりました」

爺「気を付けてな。また、いつでも遊びに来ていいからの」

旅人「はい」

爺「二人で」

旅人「…………」

爺「じゃ」

魔女「ばいびー!」ぴーす!

爺「ばいびー!」ぴーす!

旅人「何だその挨拶は」

魔女「内緒!」

爺「ほほほっほっ!」

旅人「まぁいい。行くぞ」スタスタ

爺「ぼろねーぜー!」テヲフリフリ

魔女「わんわわーん!」てをふりふり

旅人「真似しなくていい」

魔女「みゃみゃ?」くびかしげ

旅人「…………」スタスタ

魔女「ちょっと!歩くの早いですよ!」とてとて!

旅人は、魔女を抱き抱える。

爺「変わらないですね、ずっと……。いや、変わったのかな」


くっー!今回はここまで!
ありがとうございました!

ー浜辺

魔女「海ーーー!!」きらきら!

旅人「休憩にしよう」

旅人は、木陰に腰を落とした。

魔女「ここ、暑いですね!」

旅人「この砂浜の砂には、太陽の熱を吸収する、とても小さな魔法石が混ざっている。その影響だ」

魔女「へー」

旅人は、煙草に火を着けた。

魔女「んふふ!」とてとて

旅人「ふー……」

魔女「つめたー!」ぱちゃぱちゃ

旅人「…………」

魔女「海に、入っていいですか?」とてとて!

旅人「泳げないんじゃなかったのか?」

魔女「ちょっとだけです!」

旅人「段々深くなっていくから、お腹の辺りまでにしておけ」

魔女「はーい!」ぬぎぬぎ

旅人「ふー……」

魔女「ふふふ!」とてとて

旅人「…………」

魔女「うひひ!」ちゃぽちゃぽ

旅人「ふー……」

魔女「ぺぺっ!しょっぱー!」

旅人は、煙草の火を消す。

魔女「うぇー……」

旅人「…………」スタスタ

魔女「ひひっ!」ちゃぽちゃぽ

旅人は、高い木になった大きな木の実を、切り落とした。

魔女「おーい!あなたも入ったらどうですかー!」

旅人「…………」スタスタ

魔女「何ですか?それ」

旅人「美味しいジュースだ」

魔女「なんと!」

ナイフを使い、木の実に穴を開ける。

旅人「さ、飲んでみろ」

魔女「んく……んくっんくっ……!」

旅人「一気に飲むと」

魔女「けほっ!こほっ!」

旅人「…………」

魔女「とっても甘くて美味しい!!」にこっ!

旅人「良かったな」なでなで

…………。

魔女「これは!」

旅人「ただの魔法石だ」

魔女「ちぇ」

旅人「確か、色は黄色いと聞いたな」

魔女「黄色ですか……。あ!また綺麗な貝殻みっけ!」

旅人「それはヤドカリだ」

魔女「ヤドカリ?」

ヤドカリ「こんちっす」にょき

魔女「きゃー!」ぽいっ!

旅人「気を付けないと、指をはさまれるぞ」

魔女「はーい」

旅人「…………」

魔女「んー……」とてとて

旅人「えぃっくしょい!」

魔女「!?」くるり

旅人「…………」

魔女「大丈夫ですか?」

旅人「お前が海水をかけなければな」

魔女「えへへ」てれ

旅人「…………」

魔女「あ!」

旅人「見つけたか」

魔女「はい!」とてとて!

旅人「どれ……」

魔女「ほら!」ててーん!

旅人「大きいな」

魔女「すごいでしょ!」えへん

旅人「ああ。正解だ」

魔女「やった!では、あと一つですね!」

旅人「ああ」

魔女「…………」

旅人「どうした?」

魔女「いえ……ふぁ……っくちゅん!」

旅人「水浴びは終わりにしよう。よく拭いて、はやく服を着るんだ」

魔女「はーい」ずず…

…………。

魔女「うさぎさん……」

旅人「普通の干し肉よりは美味だぞ」

魔女「いただきます。あむ」もむもむ

旅人「…………」

魔女「次の町に着いたら、調味料を買いましょう」

旅人「料理をする気か?」

魔女「今さらですが」

旅人「そうだな……」

ー町

魔女「また廃墟……」

旅人「ここは、子供の多い町だったんだがな」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「あそこ!煙が上がっていますよ!」

旅人「俺から離れるな」

魔女「はい!」

…………。

魔女「美味しそうな匂い!」とてとて

旅人「…………」

幼女「いらっしゃいませ!」

魔女「こんにちは!」

旅人「…………」

幼女「きゃー!盗賊ー!!」

魔女「違います!このおじさんは」

大男「手を上げて降伏しろ!!」

大きな銃器を持った、ガタイのいい大男が現れる。

旅人「それは、人間達の作った武器だな」

大男「ああ、そうだ。この町を壊滅においやった、糞野郎共の武器だ!」

旅人「…………」

大男「気にくわねえが。便利なものは便利でな。お前の様な盗賊を、ぶっ殺せる」

数人の大人達が、小さな銃器を持って現れた。

旅人「俺は盗賊じゃない。信じてくれ」

大男「血生臭い野郎が、嘘ほざきやがって!」

旅人「これには、訳がある」

気がつけば、子供達の姿がない。

魔女「きゃ!離して!」

男が一人、魔女を抱え、後退した。

大男「その子は、俺達が責任持って、幸せにする。ここに住む、子供達と同じ様にな」

大男は、引き金に指をかけた。

大男「だから、地獄で安心して苦しみな!!」

けたたましい音をたて、放たれる無数の鉛。

魔女「んんーーー!」じたばた

魔女は、目も口も塞がれ、ただ、そのけたたましい音だけを聞かされた。

大男「ん?男がいねぇ!!」

と、大男は気づいた。

大男「何をしやがった……。並の魔法じゃあ、こんな芸当はできねえぞ」

自分の背後にいる存在を。

旅人「話を聞いてくれ。争うつもりはない」

大男「信用できるか!」

旅人「信用してもらわなくていい。俺達はこのまま、この町を出てていく」

大男「なに?」

旅人「だから見逃してほしい。そう頼んでいる」

大男の背中に、ちくりと痛みが走った。

大男「…………わかった」

大男はそう言って、銃器を下ろす。

大男「皆も武器を下げてくれ!」

ざわめく大人達。

大男「そしてその子も、解放してやってくれ」

男の手を抜け、旅人の元へと走る魔女。

魔女「良かったー!」ぎゅう!

旅人「感謝する」

大男「礼はいい。とっとと消えろ」

旅人は魔女を抱き抱え、歩き出す。

旅人「…………」

魔女「…………」ぎゅ

二人を町の人々は、不穏な目で見つめる。

魔女「あのおじさん、人形を抱いてますよ」ひそ

旅人「目を閉じていろ」

魔女「どうして?」

旅人「…………」ぎゅ

魔女「…………」

二人は、静かに町を後にした。


と、一旦ここまで。

ー野原

魔女「…………」

旅人「この世の中、辛いことばかりじゃない」

魔女「うん……」

旅人「楽しいことだって、たくさんある」

そう言って、魔女を下ろしてやる。

旅人「さ!俺を捕まえてみろ!」

魔女「え?」

突然、旅人は走りだす。

魔女「ちょっと!」とてとて

旅人「ほら、もっと速く」

魔女「待てーーー!」とてとて!

旅人「そうだ。本気で走れ!」

魔女「んやーーー!」とてとて!

旅人「あ」

魔女「ふにゅ!」とてん

旅人「大丈夫か!」

慌てて魔女の元へ駆け寄る。

魔女「痛い……」うるうる

旅人「すまない。怪我をさせてしまったな」

魔女は、膝をすりむいていた。

魔女「平気です。自分で治せます」

魔女より先に、旅人が魔女の膝に向けて、手をかざす。

旅人「痛いの痛いのとんでけ」

すると。あっという間に傷が癒えた。

魔女「子供扱いしないで下さい」ぷくー

旅人「それは悪かった、な!」

旅人は、魔女を一気に抱え上げた。

魔女「わわっ!」

そして、くるくると回り出す。

魔女「きゃーーー!」くるくる

旅人「どうだ!楽しいだろ!」くるくる

魔女「びみょーーー」くるくる

旅人「そ、そうか……」ぴたっ

魔女「えいっ!」

魔女は勢いをつけて、旅人に飛び付いた。

旅人「うおっ」

勢いに押され、旅人は野原に倒れる。

魔女「大丈夫ですか?」

旅人「ああ。お前は平気か?」

魔女「はい!あなたのおかげで!」

旅人「そうか……」なでなで

魔女「んふふ!」すりすり

旅人「それは止せ。血の臭いが移る」

その言葉に、魔女は旅人から離れた。

旅人「…………」

続けて、旅人も、ゆっくりと立ち上がった。

魔女「……ねえ!」くるくる

旅人「なんだ?」

魔女「私を捕まえてごらんなさい!」

そう言い放ち、魔女は駆け出す。

旅人「よーし」

旅人も走る。

魔女「ちょっと!はやすぎますよ!」とてとて!

旅人「俺は大人だからな」

魔女は、直ぐに捕まってしまった。

魔女「もー!大人気ないですよ!」ぷんぷん

旅人「すまない……」

魔女「では、またまた私が鬼ですね!」

旅人「お、やる気か」

魔女「ふっふっふっ!」

二人は同時に走り出す。

魔女「待てー!」とてとて!

旅人「ほら、もう少しだ」

魔女「んやーーー!」とてとて!

旅人「頑張れ!」

魔女は何とか、旅人のマントを掴んだ。

旅人「おー。さすがだな」なでなで

魔女「ふふん!当然です!」えへん

旅人「でも、大丈夫か?」

魔女「はぁ……はぁ……」

旅人「ふっ」

魔女「何ですか……?」じとー

旅人「なんでもない」

魔女「あっそ!」ふいっ

二人は並んで横になり、空を見上げる。

魔女「んー!風が気持ちいい……」

旅人「…………」

魔女「おいかけっこ。楽しかったですよ」

旅人「そうか。それは良かった」

魔女「ふふっ」

小さな手が、大きな頭を優しく撫でた。

ー湖

旅人「できたぞ」ぱぱーん!

魔女「おー!」ぱちぱち!

旅人「さて。釣竿は、これ一本限りだ」

魔女「はい」

旅人「今日の夜ご飯は、お前に託す」

魔女「お断りします」

旅人「お前の方が上手い」

魔女「しょうがないですねー」やれやれ

…………。

魔女「全然釣れませんけど」

旅人「魚が」

ぱちょん。

魔女「いますね」

旅人「…………」

魔女「飽きた」ぽいっ

ちゃぽん!

魔女「あー!」ががーん!

旅人「竿を持っていかれたぞ……」

魔女「もー!」ぷんぷん

旅人「…………」

魔女「…………」ふいっ

旅人「…………」

魔女「……ごめんなさい」

…………。

旅人「どうだ」ドスン!

魔女「でっかーーー!」びっくり!

旅人「この湖の主だろう」

魔女「最初から、潜って捕まえたらよかったのでは?」

旅人「…………」

魔女「…………」ふいっ

旅人「…………」

魔女「……お疲れ様で」ぐ~

旅人「さっそく焼こう」

魔女「はーい!」

…………。

旅人「頼んだぞ」

魔女「丸焼きー……!」

魔女の杖に、魔力が集約される。

魔女「ふぁいあーーー!!」

虹色の焔が、魚主を包み込む。

旅人「虹色の焔なんて、初めて見たぞ」

魔女「こ!れ!が!私の本気です!!」えへん!

旅人は、虹色の焔を煙草に移す。

魔女「こらー!いい加減、禁煙なさい!」

旅人「もう食えるだろう」

魚主「上手に焼けましたー!」

魔女「…………」ぷくー

旅人「お前が一人前の女になったら、禁煙すると約束しよう」

魔女「本当ですね?」

旅人「ふー……」

魔女「もぅ!」

旅人「さ、丸かじりしていいぞ」

魔女「…………」ぐ~

旅人「どうした」

魔女「いただきます!あむ!」

旅人「ふー……」

魔女「おいっしい!!」きらきら!

旅人「良かったな」

魔女「あなたも、はやく食べなさい!」

旅人「わかった」

…………。

魔女「私と同じくらい大きいお魚を、丸かじりして、お腹いっぱい食べました。とっても美味しかったです」かきかき

旅人「毎日欠かさず書いているな」

魔女「もちろんです!オカリナの練習も、おこりませんよ!」がさごそ

旅人「怠る。だ」

魔女「怠るりません!」

旅人「…………」

ぴぷぺ~ぱぴぽぷ~♪

旅人「本当に、上手になったな」

魔女「いつか、あなたを泣かせますからね」

旅人「?」

ぽぺぷぴぱぷ~♪

ー町

魔女「人が少ないですね」

旅人「魔族と人間の国境に近いからだ」

魔女「そっか……」

旅人「あそこなら、調味料が売ってそうだな」

魔女「行ってみましょう」

ー店

幼婆「いらっしゃいませなのじゃ」

旅人「調味料はあるか?」

幼婆「うむ。たくさんあるぞ」

魔女「これ、全部調味料ですよ!」

幼婆「そう。この店は、調味料専門店なのじゃ」

魔女「へー」

旅人「これだけ多いと、逆に困るな」

幼婆「どれ。わしが見繕ってやろう。何を作りたいか申してみよ」

魔女「不味い干し肉を、美味しい干し肉にしたいのです!」

幼婆「肉は人肉か?」

魔女「違います!!」

幼婆「ほっほっほっ!婆さんの冗談じゃ。て、誰が婆さんじゃあああ!!」

魔女「あのじじいみたいに、めんどくさい人」ぼそっ

旅人「やめなさい」

幼婆「金はいくら払える」

旅人「これで頼む」チャリリン

幼婆「ふむ。中々苦しいみたいじゃのう」

その時、外から爆発音が響いてきた。

魔女「何々!?」ぎゅ

幼婆「人間が現れたのじゃろう」

魔女「どうして人間が?」

幼婆「お前さんは知らなくてよい」

魔女「私は今まで、たくさん人が死ぬところを見てきました!」

幼婆「ほうか。ならば、余計知らなくてよい」

魔女「どうして?」

幼婆「それを知ると言うことは、死を受け入れることに等しい。それでも聞くか?」

魔女「…………」

幼婆「さてと」

幼婆は、ほいほいと、いくつか調味料を見繕った。

幼婆「持ってゆけ」

旅人「…………」

幼婆「サービスじゃ!」うぃんく!

旅人「ありがとうございます」

幼婆「おっと」

幼婆は、紙に何かを書き始めた。

魔女「?」

幼婆「はい」

一枚の紙を、魔女に手渡す。

幼婆「美味しい干し肉料理のレシピを、いくつか書いておいた」

魔女「ありがとうございます!」ぺこり

魔女「パパに、美味しい手料理を食べさせてあげるとよい」

魔女「へっ」

幼婆「?」

魔女「パパだって!」にやにや

旅人「…………」

魔女「おや、親子ではなかったか。これは失礼した」

魔女「いえいえ。この人は、私のパパですよ!」

旅人「…………」

幼婆「そうかそうか……」ふふっ

魔女「ね!パパ!」ぎゅ

旅人「…………」

幼婆「うんうん。婆さん、ほっこりしたぞ!て、誰が婆さんじゃあああ!!」

魔女「行こう」くるり

旅人「ああ」

かららん。

幼婆「いらっしゃいませなのじゃ」

旅人は、とっさに魔女を抱き抱えた。

幼婆「ほう……。お前さん、鼻がきくな」

旅人「…………」

幼婆「そう、身構えんでよい。人間が来ることなど、珍しいことではないからな。誰にバレず、金を落としてくれれば、それでよい」

旅人「…………」

魔女「どうしたの?」ひそ

旅人「何でもない」

旅人は歩き出す。そのすれ違い様。

フード男「またいつか」

男は、そう一言呟いた。

ー店の外

魔女「おーい」こんこん

旅人「仮面を叩くな」

魔女「本当にどうしたんですか?」

旅人「いつかわかる」

魔女「?」くびかしげ

がおっしゅ!
訂正。 御馳走するとよい。

ー宿

魔女「うぃっちくっきんぐー!」

旅人「調理には、充分気を付けろ」

魔女「はいはい」

旅人「…………」

魔女「えーと。まずは干し肉を、小さく刻みます」

旅人「手を切らないよう」

魔女「わかってます!」

とんとんとんとん…。

魔女「できた!」

旅人「…………」

魔女「次は、お湯に入れて」

旅人「そっと入れ」

魔女「おだまり!!」

ちゃぽぽ!

魔女「あちっ!」

旅人「!」

魔女「大丈夫ですっ!」

旅人「…………」

魔女「えーと、これとこれを…………適当に入れて」

旅人「おま」

ちょぽぽぽ。

旅人「…………」

魔女「ササッと塩コショウをふります!」

サササササ!

魔女「入れすぎかしら?」

旅人「…………」ガタッ

魔女「どこへ行くんですか?」にこっ

旅人「部屋の外で煙草を」

魔女「…………」じとー

旅人「そうだな。一人での調理は危険だ」スワリ

魔女「よろしい」

…………。

魔女「さ、食べましょう!」

旅人「…………」

魔女「ふーふー……。はい!」あーん

あむ…。

魔女「どうですか?」

旅人「ぐあああああ!!」ごろごろ

魔女「きゃーーー!」

…………。

魔女「料理の練習、これからも頑張ろうと誓いました」かきかき

旅人「一人前の女は、料理だけでなく、家事全般が出来て当然だ」

魔女「へー」

旅人「…………」ぺら

魔女「あ!勝手に楽譜を見ないでください!」

旅人「たくさん、書き込んであるな」ぺら

魔女「もぅ!」ぱしっ!

旅人「偉いぞ」なでなで

魔女「これくらい、当然です!」

旅人「そうか」

魔女「これからは、勝手に見ないで下さいね!」

旅人「すまなかった」

ー翌朝

魔女「ふぁ……」ねむねむ

旅人「…………」

魔女「ん……?また絵本が」

旅人「…………」

魔女「起きなさい!朝ですよ!」こんこんこんこん!

旅人「その起こし方はよせ……」

魔女「これ!」

旅人「昨日のお詫びだ」

魔女「…………」じとー

旅人「なんだ」

魔女「いつもいつもいつの間に」

旅人「…………」

魔女「まぁいいです。ありがとうございます!」

旅人「…………」なでなで

魔女「あれ?よく見たら、今までの全部、繋がっているじゃないですか!」

旅人「今気づいたのか」

魔女「うさぎさんシリーズ?」

旅人「そうだ」

魔女「ふーん」

旅人「このシリーズは、昔から人気でな。特に今回の、うさぎさんとにわとりさんとかにさんは、陸空海による戦いで……どうした」

魔女「私、女の子ですよ」じとー

旅人「戦いと言っても、料理の話だ」

魔女「あらま!」びっくり!

旅人「料理の勉強にもなるかも知れない」

魔女「なるほど」ぺら

旅人「…………」

魔女「うさぎさん、かわいい!」

旅人「…………」

ぺらぺら…。

魔女「にわとりさんが!にわとりさんが卵料理を!」

旅人「絵本だからな」

ぺらぺら…。

魔女「かにさんが!かにさんがえびさんを裏切りました!」

旅人「そこがミソだ」

魔女「えびの味噌汁なだけに?」

ぺらぺら…。

魔女「うさぎさんが鍋に落ちたーーー!」ががーん!

旅人「ドキドキするだろ」

魔女「心が、ぴょん!てしました!」

旅人「うさぎなだけにか」

魔女「えへへ」てれ

ぺらぺら…。

魔女「とんでもない最後でした……」ぱたむ

旅人「面白かったか?」

魔女「はい!」

旅人「それは良かった」

魔女「料理に大切なのは、愛情なんですね!」

旅人「そうだ。一人前の女には、愛がある」

魔女「はいはい」

旅人「…………」

魔女「次は必ず!美味しい手料理をご馳走しますから、期待してて下さいね」

旅人「わかった」

魔女「ではさっそく!朝ご飯を作りたいと思います!」

旅人「卵を焼くだけでいいぞ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「……俺も手伝っていいか?」

魔女「許可します!」

旅人「では、まずは顔を洗おう」

魔女「はーい!」

旅人「ん?」

魔女「どうしました?」

旅人「少し、背が伸びたか」ぽんぽん

魔女「ふふん!あなたなんて、すぐ追い越しちゃいますよ!」

旅人「それは楽しみだ」

魔女「いひひ!」にこっ


ということで、今回はここまでです。
ありがとうございました。

では。ロリババア大好きです。続きをご覧ください。


ー墓場の境界線

魔女「ずっーと先まで、お墓ですね……」

旅人「ここは昔、大きな戦があってな。今では、人間と魔族との、境界線となっている」

魔女「それ、お勉強しました。お互い、認めた訳ではないけれど、境界線の役割を果たしていると」

旅人「よく勉強した。えらいぞ」なでなで

魔女「んふふ」

旅人「では、行こうか」

魔女「はい!」

二人は歩き出す。

魔女「いよいよ、人間の国に足を踏み入れるのですね」

旅人「いや。回り道をする」

魔女「どうしてですか?」

旅人「真っ直ぐ突っ込めば、国を相手どることになる」

魔女「なるほど。奇襲作戦ですね!」

旅人「本当に賢いな」

魔女「戦については、特に勉強しましたので」

旅人「なぜ?」

魔女「なぜと言われても、私にもわかりません」

旅人「…………」

魔女「あ!人間がいますよ!」ぎゅ

旅人「平気だ」

魔女「あれ?魔族もいる」

旅人「ここは、そういう場所なんだ」

魔女「へー」

旅人「もしかしたら。世界で一番、平和な場所かも知れないな……」

ー森

魔女「涼しいですね」

旅人「悪霊の仕業だ。気を付けろ」

魔女「それ!前と同じじゃないですか!もぅ、ひっかかりませんよ!」

旅人「いいんだな」

魔女「え?」

旅人「いいんだな?」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「…………」ぎゅ

旅人「冗談だ」

魔女「馬鹿者!」げしっ!

旅人「!」

魔女「ふん!」ぷいっ

旅人「前、気を付けろ」

魔女「へー」

ぺた。

魔女「きゃーーー!」

旅人「ただの蜘蛛の巣だ。すぐとってやる」

魔女「きゃー!きゃー!」じたばた!

旅人「暴れるな」

魔女「はぁ……はぁ……」

旅人「大丈夫か?」

魔女「あなたのせいですよ!」ぷんぷん!

旅人「…………」

魔女「…………」

旅人「…………」

魔女「どうしました?」

旅人「何でもない」

魔女「?」

…………。

旅人「今日はここで休む」

魔女「はぁ……ふぁーあ」ねむねむ

旅人「寝るか?」

魔女「お腹空きました」く~

旅人「では、美味しい夜ごはんを、一緒に作ろう」

魔女「はい!」

ー夜

魔女「はふっはふはふ」

旅人「芋がよく煮えていて、美味しいぞ」

魔女「はふはふっはふ」

旅人は、魔女に水を渡してやる。

旅人「平気か?」

魔女「なんとか……」

旅人「大きな塊を、一口で食べようとするからだ」

そう言って、魔女の芋をほぐしてやる。

魔女「ありがとう!」

旅人「…………」なでなで

魔女「あむ!はふはふ……んー!」

ー翌朝

魔女「私のお菓子!」ごつん!

旅人「はぁ……」

魔女「よこし……さ……」むにゃむにゃ

旅人「…………」なでなで

魔女「んん……」

旅人「ふっ」ぎゅ

…………。

魔女「ふぁ~……」ねむねむ

旅人「ふー……」

魔女「んん?……ブランコ!」とてとて

旅人「寝起きで走ると」

魔女「にゃふ!」とてん

旅人は煙草の火を消し、魔女の元へと歩みよった。

旅人「平気か?」

魔女「うん!」

魔女を抱き抱え、ブランコに座らせる。

魔女「押して!」

言われた通り、背中を押してやる。

魔女「ふふふ!これ、あなたが作ったの?」

旅人「ああ」

魔女「すごいすごい!」

旅人「大きく揺らすぞ」

魔女「きゃー!あははっ!」

旅人「もう一回いくぞ」

魔女「楽しいー!」

旅人「それは良かった」

魔女「もっと押して!」

旅人「よし」

魔女「うわー!たかーい!」

旅人「しっかり捕まれ」

魔女「わかってます!」

旅人「そらっ」

魔女「あははは!」あしぱたぱた

旅人「と、そろそろ危険だな」

魔女「えー……」

旅人「ブランコは、好きか?」

魔女「はい!よく一人で遊びました!」

旅人「そうか」

魔女「…………」

旅人「また、大きく揺らすぞ」

魔女「お母様は、私のことが嫌いなのでしょうか?」

旅人「自分の子供が嫌いな親なんて、絶対にいない」

魔女「本当?」

旅人「ああ。これは冗談なんかじゃない」

魔女「ふふっ。そっか……」

旅人「そらっ!」

ぷち。

旅人「あ」

ー森の中

魔女「死ぬかと思いましたよ!」ぷんぷん

旅人「すまなかった。そろそろ許してくれ」

魔女「…………」ぷくー

旅人「…………」

魔女「おじさんとは絶交です!」

旅人「…………」

魔女「い……今のは嘘です」

旅人は、優しく魔女の手を握る。

旅人「さ、もうすぐだぞ。お姫様」

魔女「?」

二人の前に、花のトンネルが現れた。

魔女「うわぁ!素敵!」

旅人「トゲがある。近づくな」

魔女「はーい!」

そのトンネルを抜けると。

ここまででした。
一読頂き、ありがとうございました!

魔女「うわぁ!」きらきら!

大きな花畑が、二人を迎えた。

旅人「…………」

魔女は、色とりどりの花の中、無邪気にかけまわる。

魔女「いいにおーい」

旅人「この花畑のどこかに、最期の宝石がある」

魔女「なんと!」

旅人「さ、探してみよう」

魔女「はーい!」

…………。

旅人は、そっと、魔女の帽子を取った。

魔女「ん?」

旅人「お姫様に、花の冠だ」

魔女「ふふっ。ありがとうございます!」

旅人「どういたしまして」

魔女「…………」かさかさ

旅人「見つからないな」

魔女「…………」かさかさ

旅人「勇者と、戦いたくないか」

魔女「そんなこと……」

旅人「怖いというより、傷つけたくないんだろ」

魔女は、うなずく。

旅人「お前は、本当に優しい子だ」なでなで

魔女「んふふ」

旅人「安心しろ。勇者は俺が倒す」

魔女「だめ!」

旅人は、魔女の両頬に手を添える。

旅人「俺は、護らなければならない」

魔女「……」

旅人「必ず護る」

強く、小さな体を抱きしめる。

魔女「…………」ぎゅ

…………。

魔女「これは?」

旅人「……間違いないだろう」

魔女「これで、全部揃いましたね」

旅人「ああ」

魔女「では、行きましょうか」

旅人「今日は、ここで休んでもいいんだぞ」

魔女「先を、急ぎましょう」
旅人「そうか……」

―渓谷

魔女「滝がいっぱい!」

旅人「素敵な場所だろ」

魔女「はい!」

旅人「この滝のどれか一つ。財宝のある部屋に、繋がっているものがあるらしいぞ」

魔女「へー」

旅人「探してみるか?」

魔女「…………」じとー

旅人「嘘じゃない」

魔女「別にいいです!」

旅人「なぜだ?」

魔女「財宝より、素敵なものがあるからです!」

旅人「ふっ」

魔女「どうして笑うのですか!」ぷんぷん

旅人「その、素敵なものとは何だ?」

魔女「内緒です!」

旅人「そうか」

魔女「いつか、教えてあげますよ」

旅人「その日が楽しみだ」

魔女「んふふ!」

…………。

魔女「お酒、きれちゃいましたね」

旅人「別に構わない」

魔女「あ!煙草は駄目ですよ!」

旅人「なぜだ?」

魔女「体に毒だからです」

旅人「……わかった。では、禁煙しよう」

魔女「あらま!ついにですか!」

旅人「ついにだ」

魔女「いい子いい子です」なでなで

旅人「よせ」

魔女「へっ」

旅人「何だ」

魔女「照れていますね!」

旅人「ない」

魔女「ふ~ん」にやにや

旅人「ただ」

魔女「ただ?」

旅人「嬉しい」なでなで

魔女「少しは、素直になりなさい!」

―夜

魔女「今夜は満月ですね」

旅人「ああ」

魔女「蒼くて綺麗……」

旅人「…………」

魔女「さて、今日の夜ご飯は?」

旅人「焼き魚と」

魔女「私の作った、美味しい美味しいスープですね!」

旅人「今夜も頼んだぞ」

魔女「任せなさい!」

…………。

魔女「ふーふー……。はい!」あーん

あむ。

旅人「…………」モグモグ

魔女「どうですか?」

旅人「なんて美味しいんだ!」

魔女「ほんと!?」

旅人「ふーふー……。ほら」あーん

あむ!

魔女「……んー!さすが私!」

旅人「一人前の女になる日は、そう、遠くないかもしれないな」

魔女「ふふん!」えへん

旅人「…………」モグモグ

魔女「ねえ!」

旅人「ん?」

魔女「私が一人前の女になったら、結婚、してくれますか?」

旅人「大人をからかうな」

魔女「つまらない人」ぷくー

旅人「…………」モグモグ

魔女「…………」もむもむ

旅人「悪くはない」

魔女「え?」

旅人「こんなに可愛いお姫様が、もし、自分の奥さんだと考えたらな」

魔女「でしょ!?」

旅人「ああ」

魔女「そっかー」

旅人「…………」

魔女「ふふっ」くすくす

旅人「ふっ」なでなで

…………。

ぱぱぴぷ~♪ぱぱぱぴぷぽ~♪

旅人「…………」

ぷぴぱぽ~♪ぷっぷぷ~♪

旅人「いい音色だ」

魔女「もうすぐだから、楽しみにしていてくださいね!」

旅人「何がだ?」

魔女「あなたを泣かす日です!」

旅人「?」

ぴ~♪ぱぽぱぷ~♪

旅人「…………」ゴロン

ぱぱぱぴぷぴ~♪

旅人「…………」

…………。

魔女「…………」すやすや

旅人「…………」

魔女「パパ……」ぎゅ

旅人「パパ……か」

魔女「…………」すやすや

旅人「俺にそんな資格はない」

魔女「…………」すやすや

旅人「だが」ぎゅ

魔女「んふふ……」

旅人「…………」なでなで

魔女「…………」すやすや

旅人「ありがとう」


―丘

魔女「あと、どれくらいですか?」

旅人「王都までは、歩いて、あと一月はかかるだろう」

魔女「うへー……」

旅人「しかし、王都まで行く必要はない」

魔女「どうしてですか?」

旅人が振り向く。

魔女「?」

魔女も続けて振り向くと、そこには、四人の男女がいた。

フード男「久しぶり、お嬢さん。覚えているかな?」

魔女「えーと……。あ!あの時の人間さん!」

フード男「正解」

男は、フードを脱いだ。

勇者「改めまして。俺は勇者だ」

さて。明日がラストとなります。

ハッピィエンドか、バットエンドか、迷います…。

ー大きなお家

魔女「パパ!バトルしよ!」とびつき!

旅人「またか……」

魔女「だって、宿題なんだもん!」ぎゅ

旅人「先生には、親のことを考えてほしいものだ」ヤレヤレ

ー庭

旅人「撃ってこい。全て無に帰してやる」

魔女「またかっこつけちゃって……。どうなっても知らないよ!」

旅人「パパは強い。構うな」

魔女は一度、深呼吸する。そして。

魔女「紅き月よ!!」

魔女が杖をかがけると、雲が太陽を覆い、代わりに、紅き月が現れた。

魔女「悠久の闇を照らし、未来に星を散らせ!!」

その言葉に、紅き月が鼓動する。

旅人「ふー……」

煙を燻らせ、仮面の奥に、冷徹な笑みを浮かべる旅人。

魔女「月紅焔殲無!!」

魔女が旅人に向けて、杖を降り下ろしたその瞬間。

旅人「!」

紅き月より、希望も絶望も焼き尽くす、終焉の焔が放たれた。

旅人「ファザービーーーム!!」

対して、旅人の仮面の瞳から、熱くたぎる、娘への愛情が放たれる。

魔女「はぁぁぁぁぁ……!!」

旅人「うおおおおお……!!」

せめぎあう宿命。

魔女「私は必ず、宿題という悲しみを終わらせてみせる!」

旅人「その為に、俺と言う、大きな壁を乗り越えてみせろ!!」

魔女「んー……!やあああ!!」

紅き月が、紫焔に包まれた。

旅人「ふっ。また一つ、成長したな……」

紫焔が、パパの愛を焼き尽くしてゆく。

魔女「パパのおかげだよ」

否。

魔女「だって、私はパパの娘だもん!」

愛は混じり合い、消滅した。

旅人「ありがとう」

ひび割れる仮面。

旅人「そして、おめでとう」

仮面は砕け、陽の光が、二人を優しく照らした。

魔女「うわっ!ぶっさいく!」がばっ!

旅人「?」

魔女「なんだ、夢ですか……」ほっ


番外編。に。

もしも……。

ー魔王城

魔王「と言う訳で」

魔女「お断りします」

魔王「え?」

魔女「私、まだ子供ですので、それはとても危険です。それと、この世界について、まだ学んでいないことが、たっくさんあります。これは、命にかかわる問題です」

魔王「世界を旅すれば、自然と学べるわよ」

魔女「何を仰います。仮にですよ、魔物が私の前に現れたとします。さて、どうなるでしょうか」

魔王「魔法で一撃!」

魔女「ぶー!正解は、魔物は群れを為す魔物だったので、多勢に不勢。私は死にました」

魔王「…………」

魔女「目的は勇者を倒すことです。私が死んでしまっては、話になりません」

魔王「そうね」

魔女「さてと。もう一つ。大事なことを、忘れていませんか?」ちっちっ

魔王「それは何かしら」

魔女「もぅ!お母様ったら!」ぷんぷん

魔王「ごめんなさい……」

魔女「命をかけて戦う相手は、あの、勇者ですよ!何の情報もなく、対策を怠り、勇者と対峙すれば!さて、どうなるでしょうか!」

魔王「ばたんきゅー」

魔女「その通りです」

魔王「…………」

魔女「もう、よろしいでしょうか?お母様」

魔王「え、ええ」

魔女「では、おやつの時間ですので」

魔王「あら、もうそんな時間?」

魔女「ほら」く~

魔王「うふふ!本当だ!じゃあ、一緒に、おいっしいおやつを食べよっか!」

魔女「うん!お母さん!」にこっ!

二人は手を繋ぎ、リビングへと向かいました。
一方。

旅人「え?」

…………。

旅人「あー、撮影中止ですか。あの、給料の方は……」

…………。

旅人「やっぱり、そういう感じになりますか。あ、いえ。はい!お疲れ様でした!では、失礼します!」

…………。

旅人「明日から、また不味い干し肉生活か……とほほ」トボトボ

がおっしゅ!は、ド・マイナーですからね(笑)

さて、番外編終わり!

魔女「本物!?」

勇者「もちろん」

旅人「…………」

勇者「あんたは信じるか?」

旅人「その左胸の紋章は、勇者のみに与えられる、特別な魔法で刻まれた紋章。つまり、本物の証だ」

勇者「へぇ。よくご存知で」

旅人「さ、あの岩陰に隠れていろ」

魔女「でも」

勇者「言うことを聞いたほうが利口だぞ、お嬢さん。俺達は、君の命を頂きに来たんだ」

魔女「……そうだ!これを!」

魔女は、三つの石を取り出した。

勇者「何だ?それは?」

魔女「これは、勇者の力を抑える、伝説の宝石です!」

勇者「…………」

魔女「あれ?そう言えばこれ、どうやって使うんですか?」

勇者「ぐあー!」

魔女「や、やった!効いてる!」

勇者「なんてね」

魔女「え?」

旅人「…………」

魔女「どういうことですか?ねえ」

旅人「はやく隠れろ」

魔女「ねえ!」

旅人「下がれ!!」

魔女「!」びくっ

旅人「頼む……」

魔女「はい……」

魔女は、急いで岩陰に身を隠した。

勇者「俺達は、あんたの優しさに敬意を表し、あんたが死ぬまで、お嬢さんには手を出さないことを約束しよう」

勇者は、剣を抜く。

勇者「いいか皆!こいつは知っての通り、他の魔族とはどこか違う!油断すれば、命はないと思え!」

戦士の剣の刃が、唸りを上げ、回転する。

戦士「油断だと?笑わせるな」

銃口が、旅人に照準を向ける。

銃士「殺し合いにおいて油断など、一度もない」

魔法使いは、杖を握り締めた。

魔法使い「私も同じです。援護は任せて下さい」

勇者「ふっ。では……いくぞ」

旅人は刃を抜き、身構えた。

旅人「悪く思うな」

そして、駆ける。

銃士「……」

激鉄。同時に放たれる鉛弾。

旅人「……」

それは旅人の刃をかすめ、彼方に消えた。

戦士「いい反応だ!!」

続けて、振り下ろされる刃を、背後に跳躍し、回避。

勇者「……!」

さらに、その隙を狙った勇者の一薙ぎを、旅人は刃で、背中越しに受け止めた。

勇者「あんた、本当に何者だ?」

旅人は刃を、円を描くように振るい、また、迫る鉛弾もかわしてみせた。

旅人「答えるつもりはない」

仮面の奥の瞳が、銃士を睨む。

魔術師「させません!」

それを察知した魔法使いが、呪文の詠唱を開始する。

戦士「うおおお!!」

戦士の刃をかわし、腹部に蹴りを浴びせ、迫る鉛弾を斬り捨てる旅人。

勇者「たたみかけろ!!」

勇者の鋭い斬撃も、ことごくかわす。

旅人「……」タッ

ここで、旅人が反撃にでる。

勇者「!」

旅人の刃は、勇者の体をかすめ、戦士の体を斬り裂いた。

戦士「まだまだぁ!!」

魔術師「二人とも!」

その言葉に、勇者と戦士が、旅人から距離をとった。

魔術師「血塗られた箱を葬り去り、穢れた宿命に粛清を!」

旅人は、展開された術式に捕らえられる。

魔術師「ソムニア・フォリス!!」

聖なる光が、天を貫き、旅人に裁きを下す。

勇者「……!」

と、勇者が駆ける。

戦士「おおお!」

同時に戦士も、旅人の背後に回り、駆ける。

銃士「っ!」

刹那。銃士の胸に、旅人の刃が刺さる。

魔術師「銃士さん!」

旅人「……!」

魔法を散らし、旅人が姿を現す。

戦士「読めてんだよっ!糞野郎があああ!!」

旅人の姿が消える。

魔術師「きゃあ!」

次の瞬間。魔術師は、血に伏していた。

勇者「魔術師!!」

旅人「この程度で、俺の動きを先見したつもりか」

戦士「き……さまああああ!!」

旅人の姿が消え、戦士の体が裂かれる。

戦士「がぁ!みん……な」ドサッ

これで、残るは勇者一人となった。

勇者「戦士!」

旅人は、勇者に刃を突きつける。

勇者「……俺達は必ず」

旅人「……」

勇者「あの子の首を、王の下へと持ち帰る」

旅人「……」

勇者「俺達は、王より、人間の未来を託された。決して、負けるわけにはいかない」

旅人は、刃を持つ手に力を込める。

旅人「それは、こちらも同じだ」

勇者は一突きいなし、旅人に剣を突きつけた。

勇者「例え仲間を失おうと、俺は……俺は!!」

勇者の魔力が爆発的に上がり、剣に魔力が集約され、光を帯びる。

勇者「はあああああ!!」

今までとは違い、目視できぬ斬撃。

旅人「!」

その一撃一撃には、言い表せない重さがある。

旅人「くっ……!」

旅人の体から、何度も血が噴出す。

旅人「……!」

勇者「はあああああ!!」

お互い、一歩も引かぬ、容赦のない攻防。

旅人「……」

旅人は一歩身を引くと、縦横無尽な攻撃を始めた。

勇者「こざかしい!!」

一撃を防ぎ、剣を地に突き立てる。

勇者「勇者奥義!裂壊斬!!」

すると、大地が叫びを上げ、亀裂が広がった。

魔女「きゃあ!」

旅人「!」

一度の瞬きも許さぬ隙。

勇者「勇者奥義!」

それを勇者は逃さなかった。

勇者「正義一閃!!」

勇者の剣より放たれたのは、閃光であり斬撃。

旅人「!」

接触と同時に、大きな爆発が起こった。

勇者「……」

爆煙を払い、旅人が姿を現す。

旅人「……」

旅人は、一度、魔女の安否を確認した。

魔女「……」

魔女は、不安気に旅人を見つめている。

旅人「……」

無事を確認した旅人は、再度、勇者に向けて駆け出した。

勇者「……」

続けて、勇者も駆ける。

勇者「勇者終極奥義!!」

旅人「……!!」

激しく砂煙をたて、交わる二つの刃。

旅人「!」

激しい攻めぎ合いに、ついに、旅人の刃が砕けた。

勇者「無極終天連斬!!」

常軌を逸脱した速度、永続的な斬撃。

旅人「!!」

砂煙は砂嵐となり、光をも飲み込んだ。

魔女「きゃあ!」

そして、砂嵐が裂かれ。

勇者「これが!英雄の証だあああ!!」

最後の一撃が放たれる。

旅一「…………」

旅人は、魔女の隠れている岩に叩きつけられ、宙を舞い、地を跳ねた。

魔女「……!」

魔女はただ、その光景に震えた。

勇者「ぐあああ!」

突然。勇者の体から、大量の血が噴出す。

勇者「はぁ……はぁ……。勝ったぞ!」

それでも、ゆっくりと、旅人に近づいていく。

魔女「!」

魔女は、ハッと我に返り、旅人の元へと駆け寄った。

勇者「安心しろ。今すぐ、そいつに会わせてやる」

勇者は剣を構え、ゆっくりと二人に迫る。

魔女「私は……魔王の娘です!」

魔女は、悠然と立ち上がり、杖を構えた。

魔女「だから、私はあなたを討ちます!」

勇者「ふっ。やってみろ!」

魔女の杖に、魔力が集約される。

勇者「こいっ!!」

魔女「やあああ!!」

放たれる焔。

勇者「何!?」

それを受けたのは、なんと、旅人だった。

魔女「どうして……!」

旅人「……」

勇者「あああああ!!」

すかさず、勇者の剣が、旅人の顔面を貫いた。

魔女「きゃあああ!!」

だが、同時に。

勇者「うぐっ……!」

勇者も、紋章を貫かれていた。

勇者「……」

勇者は崩れ落ち、一方で旅人は、突き刺さった剣を抜く。

魔女「大丈夫……なの?」

旅人が、魔女に向かって振り向く。

旅人「……」

その時。仮面が、中央から縦に割れた。

魔女「!」

その素顔に、傷はない。

旅人「怪我はないか?」

そう言って、優しく微笑み、頬を撫でる。

魔女「うん」

旅人「そうか」

魔女を抱え、一度、強く抱きしめた。

旅人「さ、行こう」

魔女「魔王城に、帰るのですね」

旅人「そうだな」

魔女「?」

旅人は歩き出す。

魔女「ま。とにもかくにも、あなたが無事で、何よりです!」ぎゅう!

旅人「俺もだ」なでなで

魔女が幸せになれる場所を探して。



はい。
というわけで、続けて、バットエンドを書きます。

―BAD END―

勇者「安心しろ。今すぐ、そいつに会わせてやる」

勇者は剣を構え、ゆっくりと二人に迫る。

魔女「させません!」

魔女が、勇者の前に立ちはだかる。

勇者「どうした、足が震えているぞ」

勇者は、二人の目前に迫った。

勇者「お前に、人の命が奪えるか?」

魔女「……」ぷるぷる

勇者「最期にひとつ、教えてやろう」

旅人が、魔女の背後で、なんとか立ち上がろうとする。

勇者「一人前の女は、命を奪うもんじゃない」

勇者の剣は、冷酷に、二人を貫いた。

魔女「あああ!!」

勇者「命を産むもんだ」

旅人「き……さまあ!!」

勇者「心痛むが、はっきりと言わせてもらう」

魔女「…………」

勇者「いくら父親振ろうと、あんたは父親には」

勇者の首が飛ぶ。

旅人「貴様に言われるまでもない……!」

そう言い、剣を引き抜いていく。

旅人「少し、我慢しろ」

魔女「うう……!あああ!!」

血塗れた剣を投げ捨て、魔女を寝かす。

旅人「すぐに、治してやるからな!」

魔女「パパ……」

旅人「くそっ!」

魔女「パパ……」

旅人「ほら、傷は癒えたぞ!もう平気だ!」

しかし、魔女は虚ろな目で、空を見上げている。

魔女「パパどこ……?」

旅人は、小さな手を、強く握った。

旅人「どうした!傷は癒えたぞ!」

魔女の瞳から、涙が溢れる。

魔女「ふふっ。ずっと、大好きだよ」

その言葉を最期に、魔女は動かなくなった。

旅人「しっかりしろ!おい!くそ、なぜだ……!傷は癒えた!なぜなんだ……!!」

魔女の頬に落ちる涙。

旅人「あああああ!!」

というわけで、おしまいです。
(バットエンドなんて、書くんじゃなかったな……)


みなさん。最後まで二人の旅にお付き合い頂き、ありがとうございました!


一応。このスレは、明日落す予定です。


では、最後にもう一度、心に感謝をめいいっぱい込めて、本当にありがとうございました!

EDは、ロールちゃんのテーマ曲、風よ伝えて、でお別れです。

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