男「……なにあれ」トカゲ娘「……」(115)
トカゲ娘「……」じぃっ
男「……」
男(めっちゃ見られてる)
男(参ったな。この森、亜人が住んでたのか)
男(見た感じ子供みたいだし、親も近くにいるだろう)
男(……集落もあるのかな。その辺も考えると敵対はしたくない)
トカゲ娘「……」ふしゅー
男(生態とか勉強しとくべきだったなあ。威嚇かこれ?)
男(ずっと睨み合っているわけにもいかないからな……)ごそごそ
トカゲ娘「!」ぴくっ
男(すっげえ警戒されてる)
男「……」すすっ
男(一応、大きい葉っぱの上に持ち込んだ干し肉を置いて)
男(トカゲ娘のほうに差し出してはみたけど)
トカゲ娘「……」じぃっ
男「……」
男(……あれ、雑食、だよな?)
トカゲ娘「……」そわそわ そわそわ
男(あ、でも興味はあるみたいだ)
男(じゃあ俺も、ゆっくり、離れて)すっ
トカゲ娘「……」にじり にじり
男(四つん這い……というか、この亜人にとっての警戒姿勢かな。さっき中腰だったし)
トカゲ娘「っ」ばしっ ばばっ
男(おお、肉とって、逃げた)
男「……身のこなし、すごいな」
男(もう木々の向こうに消えて見えなくなってるし。さすが亜人)
男「……とりあえず、しばらくは敵意が無いことを示すとして」
男「今日はいったん帰るか。仕方ない」
――翌日――
男「……っと」
トカゲ娘「……」じぃっ
男(干し肉、干し肉)ごそごそ
男(今日は自分の分と、あの子の分、加えて他の亜人に遭遇したときのための予備もあるからな)ひょい
男(これをあげても、散策を続けられる――って)
トカゲ娘「……」そわそわ
男(既にちょっと近づいてきている。昨日よりは警戒されていないってことか)
男(それじゃ、昨日と同様に葉っぱにおいて、と)すすっ
トカゲ娘「……」がさがさ ひょいっ
男(今日はこっちを見ながら、歩いてきた)
男(……よし、問題ないだろう)
男(それじゃあ、先に進ませてもらおうか)ざっ ざっ
男「……」ざっ ざっ
がさがさ
男「……」くるっ
トカゲ娘「……」じぃっ
男(ずっとついて来てる)
男(肉がほしいのかとも思ったけど、まださっきあげた干し肉は残ってるようだし)
男(……単に、よそ者に興味があるのかな) ざっ ざっ
トカゲ娘「……」がさがさ
男(まあそれはともかくとして、この森はやっぱりいい)
男(食料になりそうなものも、薬になりそうなものもある)
男(さっき遠くに鹿も見えたから、狩猟もできそうだ)
男(亜人とも仲良くやれそうだし、ここに来てよかった)
……
トカゲ娘「っ!」がささっ!
男「うぉっ!」
男(いきなり前に飛び出てきた!)
トカゲ娘「……」ふしゅぅぅぅぅ
男「……ええと」
男(この子の、向こう側。……大木、いや、その洞か?)
男「……ここには近づいてほしくないんだね?」
トカゲ娘「……」こくり
男(おお、言葉が通じている)
男(……もしかして、ここに住んでいるのだろうか)
男(だとしたら、集落はこの辺には無いのか?)
トカゲ娘「……」しゅぅぅぅ
男「あー、と。悪かった。離れるから」
男(相手の顔を見ながら、ゆっくり、あとずさり)
男(野生動物に対するものだけど、まあ大丈夫だろ)じり じり
トカゲ娘「……」
男(小柄だけど身体能力は高いみたいだからな)
男(なるだけ刺激はしたくない)
トカゲ娘「……」すっ
男(立ち上がった。ってことは、警戒は解いてくれたのかな)
男(とりあえずここは覚えておいて、近寄らないようにしよう)ざっざっ
――数日後、廃屋――
男「んー……」ごそごそ
男(持ってきた食料が底をつきそうだ)
男(ちょくちょく採取したものも食べてるけど、野草だけじゃ味気ない)
男(……いや、恋しく無いぞ。実家が恋しいなんてことは断じて無い)
男(……イモ類。適当に植えたら育ったりしないかな)ごそごそ
男(仮に育ったとしても、肉はどうしようもない)
男(自分で食べる用にも、あの子用にも必要)
男「……仕方ない。いよいよ狩りだな」はぁ
……
男(……さて)
男(原始的ではあるが、投石で狩りをすることにしたが)
男(……当たるのかこれ。そして当たったとしても威力は足りてるのか?)
男(くそ、もう少し計画を練ってからこの生活を始めるべきだった)がさがさ
トカゲ娘「……」がさっ
男(……あ)
男「ごめん。まだ干し肉はあげられないよ」
トカゲ娘「……?」
男「肉を切らしてね。これから狩るところだからもう何日か待ってて」
トカゲ娘「……」
男(……あ、香辛料も限りがあるからそれも考えなきゃいけないな)むむむ
……
男(……ああ、これ無理だ)
男(スリングつかっても無理だ)
男(気づかれれば逃げられるし、気づかれなかったとしても)
男(石が大きければ届かないし、小さければ威力が足りなくてしとめられない)
男(……どうしたものか)
ガサッ バキバキバキ ドサァッ
男「っ!」ばっ
男(とっさに身をかがめたけど)
男(……あれ、あの子だ)
トカゲ娘「……」
ガサッ ガササッ
男(……で、あの子の、下)
男(首を変な方向に曲げて痙攣してる、鹿)
男(……うわぁ、流石亜人。一瞬だよ)
トカゲ娘「……」ずるっ ずるっ
トカゲ娘「……」ぽーん どさぁっ
男「うぉわっ!」
男(目の前に持ってこられると結構でかいなこの鹿!)
トカゲ娘「……もってけ」ぼそっ
男「……へ?」
トカゲ娘「……」ばばっ
男(あ、また消えていった)
ずるっ ずるっ
男(とりあえず持ってた縄で縛って引きずってるけど)
男(なんでくれたんだろ、あの子)
男(いつもの干し肉のお礼か、あるいはこれを調理してよこせってことか)
男(……まさかとは思うが、狩りができない俺を哀れに思って恵んだとかか)
トカゲ娘「……」じぃっ
男(まだ遠くで見てるし。そんなに心配か。君たぶん僕より若いだろう)
男(くそ、なんかそう考えると情けない気がしてきた)はぁ
……
がさがさ
トカゲ娘「……」ひょこっ
男「来たか……」
男(鹿を引きずって帰った先日、目を皿のようにしてハーブ類を探し)
男(それに残っていた香辛料を加えて調理したこの一皿)
男「……」すっ コトッ
男(これで、鹿肉の借りを返す!)
トカゲ娘「……?」
男(いつもと違うことを感じ取ったようだな。……さあ、思い知れ)
ふわぁっ
トカゲ娘「……っ!」ぴくっ
男(香りが届いたようだな)
男(香辛料が口に合うか、なんて、干し肉を喜んで食べていた時点で明白だ)
トカゲ娘「……」ざっ ざっ
男(ふらふらとこちらに寄ってきているな。口をきっちりと閉じているが、唇の向こうはどうなっていることやら)
トカゲ娘「……」ざっ
男(さて、料理の目の前まで来て……)
トカゲ娘「っ」がぱぁ がぶっ
男(口いっぱいに溜まった唾液を! こぼしながら! かぶりついた!)
トカゲ娘「……!!」がつがつがつがつ
男(ふふふ、夢中で食いついているな)
男(……そういえば、なんか、妙に近くにいるように見えるような)
男(……って、あ。皿を置いてから距離とってないや、今回)
トカゲ娘「♪」がつがつ
男(道理でこんなうっとりした表情がよく見える)
男「……、ん?」
男(今まで遠かったり、茂みに隠れていたりで分からなかったけど、足首に――)
トカゲ娘「……?」ぴくっ
男「あ」
トカゲ娘「……!?」ばばっ
トカゲ娘「……」ふしゅるるるる
男「……いや。威嚇してるけど近づいて来たの君だからな」
トカゲ娘「……」
トカゲ娘「っ」ぷいっ
男(恥ずかしがっている、のか?)
男(……さておき、この子の、足首にあったやつ)
男(くすんで、傷だらけで、輝きを失った金属)
男(足枷、だよな)
――数日後、廃屋
男(野草はその日使う分だけその都度とれば十分かな)
男(すぐそこに植えておいたイモも、土がいいからかすくすく育っている)
男(案外暮らせるものだなあ。これ)
コンコンコン
男「……っ」
男(来客。通りかかった商人か。あるいは――)ぎりっ
男(……大丈夫。俺が出ようが、そうでなかろうが、あいつらなら押し入ってくる)
男(なら、出てもいい)ぎぃっ
細身の女「おや、人がいたのですか」
細身の女「突然申し訳ございません。私、行商を行っておりまして」
男「……、へぇ」
男(この女、よりも、後ろで荷物を引いているやつ)
トロール「……」ゴフーッ ゴフーッ
男(荷物持ち、兼用心棒ってところか)
男「……何の用で?」
細身の女「そこの森で商品に使えそうなものを採取させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
男「いいも何も、俺の土地ってわけじゃあありませんからね」
細身の女「ああ、つまり所有者がいるわけではない、ということで」
男「まあ、そうだと思います」
細身の女「それと、何か注意すべきような、危険なことはございますでしょうか」
男(……)
男「と、いいますと?」
細身の女「例えば、そう」
細身の女「亜人が住んでいる、とか」
男(! ……いや、ここは)
男「特に危険なことはありませんよ。精々足元に注意するくらいで」
細身の女「そうですか。ありがとうございます」ぺこり
細身の女「いきましょう、トロール」
トロール「……」こくり
男「……」
……
細身の女「……」
トロール「……」ゴフッ
男「……」
男(結局、尾行しているが)
男(流石に心配しすぎだろうか。本当に、ただ商品になるものを採りにきただけかもしれない)
男(けれど、亜人の奴隷は、結構高い)
男(そして、あの子には足枷がついていた)
男(鎖は切れていたけど、重そうな鉄の輪が、両足に)
男(……警戒する必要はある)
細身の女「……、居ましたね」ぼそっ
男「……!」
男(探し物を見つけたのか)
男(俺には気づいていないようだし、『居た』ということは――)じぃっ
トカゲ娘「……?」きょろきょろ
男(やっぱり)
男(辺りをうかがっているが……ああ、普段俺が来るころだから?)
細身の女「……」スッ
男(……筒を、口元に。吹き矢か?)
男(しかしあの子はトカゲの人外だし、鱗で覆われた身体に刺さるわけが――)
細身の女「……」フッ
トカゲ娘「っ!?」ぐらっ どさぁっ
男(……な、ぁ!?)
細身の女「全く。狙うの面倒だから鱗つきとかやめてほしいんですよね」
細身の女「トロール、回収を」
トロール「……」のっしのっし
男(何をやったかはわからない。けれど、このままでは、あの子は連れ去られる)
男(たぶん、以前の所有者があの子を連れ戻すために、あいつらを雇ったとかだろう)
男(……俺の、手元には)
男(スリングと、手ごろなサイズの石)
男(目の前の女は、細身で、野生の鹿よりずっと華奢)
男(いや、何を考えている。もっと適した方法があるはずだ)
男(例えば、――この場から、逃げるとか)
男(今、あの女はこちらに気づいていない。逃げるのは簡単だろう)
男(……でも)
ギュンッ ガッ
細身の女「っ、がぇ」どさっ
男「……はは、は」
男(初の獲物が、人間かよ)
男(どうせ表に戻ることはないから、とは思ったけど)
男(思った以上に、クるな)
トロール「……?」くるっ
男「……ぃっ!?」
トロール「! ヴォォォォォォォォォ!」ズンッ!
男(気づかれた!)
男(アレには敵わない。石投げたところで筋肉に弾かれる)
男(……でも)
男(仮に逃げて、逃げ切れたとして)
男(あれの怒りの矛先は、どこに向かう?)ぎりっ
男「あ、ああああああっ!」
男(顔面! 怯め!)
トロール「ヴァァァァァァァォァァァ!!」
男(駄目だ、まるで効いてない)
トロール「ヴォォォッ」がしっ
男「がぁっ!」ぎっ
トロール「グゥゥゥゥ……」ぎりぎりぎりぎり
男「ぁ、ぐ……」
男(首が、息が)
男(折られる、いや、潰される)
トロール「グゥゥゥゥゥ……」ぎち ぎちぃっ
男(っ、はは。だめだなぁ、これは)
男(片手で締められてこれだ。どう暴れて、仮に拘束が緩んだとしても、両手で締められて)
男「……ぉぁ」だらん
ヒュンッ
トロール「ゴオォッ!?」
男(……トロールの、首に)
男(太くて、長くて、鱗で覆われた、尻尾が)
トカゲ娘「……」ふーっ ふーっ
男(でも、駄目だ)
男(この子も身体を動かすだけで精一杯なのに、こんなに太い首を絞め落とせるはずが無い)
男「……い、が」
男(いや、二人、なら!)ぐぐっ
トロール「オオ、ガァッ!?」
男(こいつも混乱している。トカゲ娘の不意打ちに対処し切れてない!)
ぐぐっ ばっ
男(手を、離した!)どさぁっ
男(けど、止まってはいけない)
トロール「オゴォォォォ! グガァァァ!」
トカゲ娘「……ぎ、ぃぃっ」
男「……さっきの、女の、荷物」がさ がさ
男(あるはずだ。毒の吹き矢を使っていたなら――!)
男「――口を、開けさせろ!」
トカゲ娘「!」ぐいっ
トロール「アガァッ!」がぱぁ
男(液体が入った、小瓶を! スリングで!)ぎりっ
男「当たれ、ぇぇぇぇぇ!」びゅっ
トロール「ゴ、ォァ」がしゃぁん
男(口の中で、瓶が割れて)
男(口内を裂き、そこに毒が、流れる!)
トロール「……ァ」どさぁっ
男「……はは、は」
男「――ああ」
男(疲れた。こんなに緊張したのは久しぶりだ)
男(首絞められてたせいもあって、身体も重いししばらく動きたくない、けど)
トカゲ娘「……」ぐたっ
男(そういうわけにも、いかないもんなぁ)ぐぐっ
男(……とりあえず背負ったけど、どうしたものか)
男(ひんやりとした鱗が、首筋に当たる)
――廃屋
トカゲ娘「……」ぱちっ
トカゲ娘「……、?」きょろきょろ
男「……」
トカゲ娘「………」ぴたっ
トカゲ娘「!?」がたたっ
男「ん……む。気づいたか」むくり
トカゲ娘「あ、ぐ」わなわな
男「まだ吹き矢の睡眠薬が残ってるのかな。動きづらそうだけど」
男(……にしても、鱗の無いまぶたに当てるとか、相当な腕前だったんだな)
トカゲ娘「……?」
男「あれ、状況を飲み込めてない?」
……
男「――で、君だけ放っておくわけにも行かないから、俺の家に連れてきたんだ」
トカゲ娘「……あの」
トカゲ娘「襲ってきた、やつらは」
男「……ああ」
男「女のほうは打ち所が悪かったみたいで」
男「トロールのほうは、薬の過剰投与で」
男「……様子を見に行ったときには、死んでいたよ」
男(けれど、あの状況ではああしなければやられていた)
男(少なくとも、俺にはほかに考えは浮かばなかった)
男(……だから、しかたないことだったんだ)
トカゲ娘「……大丈夫、か」
男「え、ああ」
男「少し疲れたかもしれない。けど怪我は無いよ」
トカゲ娘「そう、か」ふぅ
トカゲ娘「……なにも、してないよな?」
男「……何の話」
トカゲ娘「い、いや、なんでもない」もじもじ
男(……?)
男(って、ああ、そういう)
男(目を覚ましたらすぐそばに異性がいた、って状態なら)
男(まあ、そういう可能性も考えられるよな)
トカゲ娘「……」そわそわ
男(……この子は、おそらく奴隷)
男(商人か、それとも貴族か。労働力か慰み者か)
男(何にせよ、誰かに買われて、飼われたけど、逃げ出した)
トカゲ娘「……」
男「……」
男(俺は)
男(俺は、この子に近いのか、それとも遠いのか)
男(逃げたのは、同じだけれど)
男「……いや」
男(違う。遠い)
男(この子はきっと、自分の境遇と戦って、勝ってここに居る)
男(俺は、ただ、恵まれた境遇にも関わらず)
男(敷かれたレールの上がいやになって、わがままを言って逃げた)
男(こんなにも、違う)ぎりっ
トカゲ娘「……?」
トカゲ娘「痛む、のか?」すっ さすさす
男「……!」
トカゲ娘「絞められていた首? それとも、どこかを打った?」さすさす
男(……違う)
男(痛みはたいしたこと無い)
男(ただ、種族が違うとはいえ、自分より小さな子が立派に戦って自由を勝ち取ったというのに)
男(もう大人である俺が、駄々をこねて逃げたということが)
トカゲ娘「……!? な、なんだ、いきなりどうした」おろおろ
男(ただ、なさけなくて)ぼろぼろ
男(涙が、とまらない)
男「ごめん、なんでもない。なんでもないんだ」
男「……ふーっ」
男「今日はもう遅いから、泊まっていくといいよ」
トカゲ娘「!?」ぴくっ
男「俺は適当なところで寝るから、そこのベッドを使ってくれ」
男「あんまりいいものじゃないけど、床よりは寝心地がいいと思うから」
トカゲ娘「……い、いや、その」もじもじ
男「……?」
トカゲ娘「……変な意味じゃない。暗い森は足元とか危険だから、朝までここに居させてくれるってだけで」
トカゲ娘「決して、そう、アレとか、そういう意味じゃない」ぼそぼそ
男(……ああ。そういうお年頃なのか)
男(赤面しているところを見ると、慰み者にされていたわけではないのか)
男(……いや、そういう風に躾けられたってこともありえるから、一概には言えないか)
……
男「ん……いてて」むくっ
男(やっぱり床は固い。すごく背中いたい)ごきごき
男(さて、あの子は……)
トカゲ娘「……」すー すー
男「……ふむ」
男「先に朝食の用意をするかな。出来上がったら起こそう」
男(……とりあえず肉は食えるとして、野菜とかどうなのだろう)
男(……まあ、別の皿に盛っておくか)ごそごそ
……
男「……よし」
男(朝食はできた。朝だし、あんなことがあった後だから食べやすく軽めにしてみたが)
トカゲ娘「……」すー すー
男「……流石に起こすか。おーい」ゆさゆさ
トカゲ娘「……?」むにゃ
男「朝食ができたよ。はやく起きて――」
トカゲ娘「……」ぐいっ
男「のわっ!?」ぼすっ
トカゲ娘「……あたたかい」ぎゅう
男(……ええと、ベッドに引きずり込まれて、抱きしめられた)
男(結構、肌、冷たいんだな。鱗だけど)
……
トカゲ娘「……、ん」ぱちり
トカゲ娘「……」
男「……やあ」
トカゲ娘「!?」わたっ
男「身体は温まったようだね。たぶん朝食は冷めたけど」あはは
トカゲ娘「ぅあ、えっと、ごめ、ねぼけて」あたふた
男「大丈夫大丈夫。さあ、ちょっと遅めだけどご飯にしようか」
トカゲ娘「……あう」かぁっ
男(しかしまあ、うん)
男(なかなか仲良くなれたみたいだな、この子とは)
――数日後、森の中
ガサッ ガサササッ
男「っし、トカゲ娘! そっちに行ったぞ!」
トカゲ娘「……!」ギュンッ ゴキィッ
ドサァッ
男(あれからしばらくして、結構仲良くなれて)
男(一緒に野生動物を狩るようになった)
男(俺はまあ、トカゲ娘の居るところに追い込んで、とどめは彼女に任せているけど)
トカゲ娘「こいつはどう料理する?」わくわくずりずり
男「んー、半分は保存用として、もう半分はどうするかな」
男(その後の加工は、俺が担当しているから持ちつ持たれつだ)
ガサッ ガサッ
男「……ん? また鹿か?」
トカゲ娘「どうする。狩るのか」
男「いやあんまり沢山狩っても後で困りそうだし今日は――」くるっ
ひゅんっ ひゅんっ ざんっ
男「……、ぁ」
男(木の枝を伝って、飛ぶように向かってきて)
男(一瞬で俺の目の前に現れた、こいつは)
メイド「……」ふわっ
メイド「お久しぶりでございます、坊ちゃま」にこっ
男「……よう、久しいな」
男(こいつが、来るってことは)
男(強引に連れ戻しに来た以外にない)
男(お父様もとうとう痺れを切らしたか)
トカゲ娘「……」ふしゅぅぅぅ
メイド「まあ、久しぶりといっても」
メイド「ここしばらく監視させていただいたのですけれど」
男「へえ。いつからだ」
メイド「初日から」
男「……おい。トロールに絞められてたときも見てただけか」
メイド「見てただけではございませんよ。手に汗を握っておりました」
男「……ああそう」
男「それで、いまさら目の前に出てきた理由は?」
メイド「……本来、私は旦那様の命で坊ちゃまを監視していたのですが――」
メイド「この度、敗戦しまして」
男「……、は? 敗戦、って、その」
メイド「はい。私達が住んでいた、旦那様の領地があった鉄の国が負けました」
メイド「戦火に巻き込まれて、旦那様はお亡くなりになりました」
男「……いやいや」
男(ずいぶんさらっと言ったが、あの親父がか)
男(……ってぇ、ことは)
男(俺の、縁談というか、政略結婚も)
メイド「ええ。滅んだ家の息子と結婚したところで何の得もありませんからね」
メイド「……っていうか、婿入り先も結構よくない状況みたいですし」
メイド「お話はなかったことになりましたー」
男「……ええー」
男(トカゲ娘を見て、俺もいずれ戦う日が来るんだろうと思っていたのに)
男(オチがこれかよ)
メイド「で、旦那様が最後に、自分に何かあったら坊ちゃまの世話を頼むとのことでしたので」
メイド「現在私の雇用主は男様となっているのですが」
男「……いや、いいよ」
男「この子とうまくやっていけてるし、必要ない」
トカゲ娘「……」
メイド「あ、じゃあ契約破棄ってことでいいスか」
男「……いや、いいけど何だよその口調」
メイド「いやこんな糞へんぴなとこで世間の目を気にしてもどうにもなんねーし」
メイド「雇用主でもないやつに敬語つかっても意味ねーし」
男「……」
メイド「で、そのトカゲ亜人とはヤったの?」
男「……何言ってんだお前」
メイド「繁殖行為に勤しんだことはありますか、と質問したのですが」
トカゲ娘「!?」ぼっ
男「無いから。そういうんじゃないから」
メイド「……つまんねー」けっ
メイド「……あ、それはそーと」
メイド「ほい、これ」ぱさっ
男「何これ、赤い、マフラー? ……!」
メイド「そそ。奥様が編んでたやつ」
メイド「完成まであとちょっとだったからあたしがやっといた」
男「……ああ、うん」
男「ありがとう」
メイド「……まあ、冬まで待たずにつけちゃってもいいんじゃね」にまぁ
男「……?」
トカゲ娘「……?」
――数日後
男(……まあ、折角だし)がさがさ
男(絞められたときにできた首の傷を隠すためにも、マフラー巻いてみてるけど)
男「流石に暑いな」ふーっ
トカゲ娘「……」ひょこっ
男「……おお、トカゲ娘」ひらひら
トカゲ娘「……」じーっ
トカゲ娘「……」かぁっ ぷいっ
男「……あれ?」
男(いつもなら、ぱぱっと近づいてきて)
男(狩の予定とか、採取するものとか、いろいろお話するんだけど)
男「……うーむ、よくわからん」
トカゲ娘「……」がささっ
男(お、近づいてきた……って)
トカゲ娘「……っ」ぎゅっ
男(袖、掴んで、近っ!)
トカゲ娘「……」ぐいぐい
男「え、何、ついていけばいいのか」
トカゲ娘「……」こくん
男(どこかに、案内したいのだろうか)
……
トカゲ娘「……」がさがさ
男(無言でひっぱられつづけて、しばらくした後)
トカゲ娘「……」ぴたっ
男(連れて行かれた先、なんとなく見覚えがあると思ったら)
トカゲ娘「……」じぃっ
男「君の家、だったっけ」
トカゲ娘「……そう」こくん
男(招待してくれたのだろうか。……あの件で俺の家に泊めてあげたお礼のつもりか?)
トカゲ娘「その、えと」そわそわ
トカゲ娘「……っ」たたっ ぽすっ
男(駆け出して、木の洞に入って、敷いてある獣の皮の上に寝転んで)
トカゲ娘「っど、どうぞ」ふいっ
男(……え、何て?)
トカゲ娘「……」
男(まあ整理しよう。今居るのは彼女の家で、彼女は寝床っぽいとこで仰向けになってこっちを見てる)
男(……よく見れば、ちょっと頬が赤いような、いや鱗びっしりだからそんなわけ無いけど)
男(ああ、でも少し目が潤んでいる気はする)
男(……で、今の俺。赤いマフラーがちょっと暑くて、顔も少し赤くなっているだろう)
男(メイド、そういえば何ていっていたかな。マフラーは冬まで待たずにつけていいって言ったな)
男(……トカゲ娘とやったか、聞いた後に)
男「あー……」
男(何か仕組みやがったな、あのくそあま)
トカゲ娘「……」じぃっ
男(……ただ)すっ
男(はめられたとしても、実際この子とは今後も長く付き合うことになる)
男(身体能力の高さや性格などを考えてもパートナーとして非常に有力だし)
男(――そういう、理屈なしに考えるにしても)
男「いい、んだな?」
トカゲ娘「……っ」こくん
男(長くすごしていたせいかな。この子がとても、いとおしい)
男(しなやかな肢体、艶のある鱗が美しくて、照れた表情が、たまに見せる満足げな顔がいとおしい)
男(だから、メイドの思う壺でも、悪い気はしない)
男「……」すっ ちゅっ
トカゲ娘「……ん、ふ」
男(唇を重ねる。やわらかくは無いが、それでも心満たされるものがある)
トカゲ娘「……んあ、う」しゅるっ
男(少し細長い彼女の舌が、俺の唇の間をくぐり、口内に進入する)
男(同時に、背中に重みを感じた。彼女の尻尾が、俺を抱きしめている)
トカゲ娘「は、は、―――はぁっ」
男(発情、しているようだ。……なぜだろうか。すこし、俺まで興奮してくる)
セックス書くと死ぬ病に侵されてるんで終わり。
オスのトカゲは繁殖期になると首のところが赤くなったりするらしい。
質問あったら答えられる範囲で答えます
なんとなく書きはじめてオチが見当たらなくなりました。ブランクってこわい。
ぜひとも誰かに乗っ取ってほしいところでございます
――翌朝
男「ん……」
男(何だここ。……ああ、トカゲ娘の)
トカゲ娘「……」すー すー
男(……ううん、始めたときは、昼前だったと思うんだけど)
男(帰してくれなかったからなあ。今も抱きつかれているし)
トカゲ娘「……んふ」すー すー
男「まあ、いいか」ぷにっ
トカゲ娘「ん、んん」もぞもぞ
男(頬。外側はちょっと硬いけど、軽く押し込むとその内側のやわらかさが分かる)
男(胸もそんな感じだったな。……あれ、この子卵生? それとも胎生?)
トカゲ娘「んー……」ぎゅっ
男(そういえば、亜人と人間のハーフってたまに聞くな。……生まれんのかなぁ)
男「胸があるってことは母乳も出るんだよな。ということは赤ちゃんの食事も母乳か」ぶつぶつ
トカゲ娘「んー……んー」むくり
男「おや、おはよう」
トカゲ娘「……おは、よう」だきっ
男(……ずっとくっついてたから体温が下がってるってこともないと思うんだけど)
男(ずいぶん変わったものだ。最初は会話もできず干し肉渡してるだけだったし)
トカゲ娘「……んふふ」きゅっ
男「まあ、これもいいか」ぎゅっ
男(たぶんこれから、俺はこの子と二人で生きていくのだろう)なでなで
トカゲ娘「んー」すりすり
男(狩りをして、採集をして、料理をして、暮らしていく)
男(また細身の女のようなやつらがこの子を連れ戻しにくるかもしれないし)
男(一応敗戦国の元貴族だった俺に害をなすやつも現れるかもしれないけど)
男(たぶん、この子となら、なんとかなるだろう)
男「というわけで、ひとつ提案があるんだけど」
トカゲ娘「なに?」
男「……とりあえず、住むのは俺の家のほうにしないか」
終われ。
このSSまとめへのコメント
なかなかいいSSを読んだ。
なんか次回作読みたいです。次のヤツってありますか?