魔王「迷宮を作り勇者達をしとめるか…。」(92)

  ー魔王城跡地

側近「……お目覚めですか。魔王様。」

魔王「…お前か。」

魔王「私はまた人間に敗北してしまったのか…。」

側近「いえ、決してそんな事は…」

魔王「いや、よいのだ。これも全て私の力がなかったせでしかない。」

魔王「…万全を尽くしたはずだったのだが……まだ私には足りぬのか。」

魔王「こうも幾度となく敗北し続けると、私が本当に魔王なのか自信がなくなってきてしまうな。」

側近「貴方が魔王でなくて一体誰が魔王だというのですか。」

側近「貴方が敗れて100年ほどたち、世界には沢山の魔王が現れましたが

   未だに貴方の力を超える魔王は現れてはいません。」

魔王「…そうか。弱音を吐いてすまなかった。」

魔王「しかし今までと同じ方法で人間世界を襲たとしても、また同じ敗北が待っていることは

   歴史が証明している。」

魔王「…一体私はどうすべきなのだろうか。」

魔王(人間に正面から勝てるだけの軍を作るか?…いや、そんな事をしてもまたすぐに見つかり

   勇者の軍勢が送られてくるだけだ。)

魔王(ならば人間の世界に侵入し、内部から支配するか?)

魔王(しかし人間の世界は基本的に血統がなければ、国を支配するだけの地位はつかめない。)

魔王(それに魔族の王を一度は名乗ったこの私が、人間とともに暮らすことを他の魔族が許すわけがない。)

魔王(やはり他の方法を考えねば。…そうそれこそ人間達を根こそぎこの世界から消し去るような……。)

魔王(根こそぎ……そうだ。危険な芽を早めに摘めばよいのだ。)

魔王(人間の全てが戦士や魔道士、勇者になれるわけではないのだから。)

魔王(人間を滅ぼすのではなく、勇者になれるような素質や志を持ったものだけをしとめればいい!)

側近「…良い案が思いついたようですね、魔王様。」

魔王「ふふふ…。ああ、今度という今度こそ成功させて見せよう…!」

魔王「私は大きな勘違いをしていた。」

側近「勘違いですか?」

魔王「ああそうだ。人間は数がとても多く、その全てを滅ぼすのはやはり不可能に等しい。」

側近「そっそれはそうですが、そうでもしなければ…。」

魔王「わかっている。勇者が誕生するといいたいのであろう?」

魔王「それが間違いなのだ。一つの種を滅ぼすなど不可能なのだ。」

魔王「私が敗れ、魔族のほとんどが人間達に殺されたというのに、魔族という種は滅んではいない。」

魔王「人間に比べて圧倒的に数の少ないはずの魔族ですら、だ。」

魔王「だが人間の全てが戦いに参加するわけではない。」

魔王「それに魔道士のような生まれつきの才能がなければなれぬものになると

   数は相当減る。」

魔王「そいつらだけを滅ぼせばよいのだ。そうすれば後はどうとでもなる。」

側近「確かにそうですが…そう上手くゆくものなのでしょうか?」

魔王「上手く行くかどうかはわからぬが、考えはある。」

魔王「よく考えてみろ。勇者や大魔道師、剣聖と呼ばれるような者たちが

   突然生まれてくるわけではない。」

魔王「恵まれた血統に血のにじむ努力、そして本人の才能あって初めて生まれてくるわけだ。」

魔王「それこそ魔王などと同じように。」

魔王「ならばその努力を積む過程で始末すればよい。」

魔王「いかに才能があろうが血統があろうが、実践抜きでは一流にはなれぬ。」

側近「なるほど。確かにそれならばリスクも少なく済みますし、効率よく危険分子を排除できますね。」

魔王「そういうことだ。そしてそのための策も考えてある。」

側近「一体どうするおつもりなのですか?」

魔王「迷宮を作るのだ。」

側近「迷宮ですか?魔王城ではなくてですか?」

魔王「ああそうだ。かつての部下が言っていたのだが、人間は自然に出来た洞窟や

   深い森、魔物の巣といった魔物が沢山いるところにいき、魔物を狩り力をつけていたらしい。」

魔王「そして実力をつけてから我々魔王のような強力な魔物に挑んでいたらしいのだ。」

魔王「そこに駆け出しの冒険者を集め、才能のありそうな奴を修行中の不運、という事で始末すればよい。」

魔王「私のような魔王がいると知られなければ、国は軍を送ったりする事はないだろうし

   勇者が攻めてくることもないだろう。」

魔王「そしてそのような迷宮を世界中に作れば、いずれ優秀な血統も絶えるはずだ。」

側近「地道ではありますが確かに効果はありそうですね。」

魔王「さぁそうと決まれば早速取り掛かるぞ。」

側近「はっ!」

側近「しかし魔王様。どのような迷宮をどこに作るおつもりなのですか?」

魔王「そうだな。人間の街からの距離しだいで迷宮にくる戦士達の強さも変わるだろうし、

   それにあわせて魔物の強さも変えねばな。」

魔王「私のこのやり方にプライドの高い上級魔族たちが賛成するとも思えないし、

   やはり初めは街の近くにでも迷宮を作るとしよう。」

魔王「今私の魔力はほぼゼロに近いが、それくらいならば出来るだろう。」

側近「なるほど。では早速迷宮を作れそうな地域を調べてきます。」

魔王「ああ、頼んだ。」

 -翌日

側近「ただいま戻りました。」

魔王「ご苦労だった。それでよい場所は見つかったか?」

側近「はい。まず一つ目は、水の国の近くにある青の山脈の麓です。

   ここは年中霧が出ており、野生の魔物も多いため水の国の魔道士たちは

   青の山脈で修行を積んでいるとのことです。」

魔王「ふむ、なるほど。他にはあるか?」

側近「はい。次は火の国の紅の街の近くにある、朱の渓谷などはいかがでしょうか?」

側近「ここにもやはり下級の魔物が多く住んでおり、駆け出しの冒険者がよく修行に訪れている

   ようです。」

側近「また火の国は隣国の土の国と戦争を行っているようで、中級や上級の魔物が現れても放置しているとのことで

   迷宮を作るにはうってつけかと。」

魔王「ふむ、どちらも魅力的な立地だな。ダンジョンっぽさを出すにには前者のような

   所の方が良いのだが、今の私の力で軍を相手できるとは思えないし、安全性を考えたら

   やはり後者が妥当か。」

側近「では後者の朱の渓谷にしますか?」

魔王「そうだな。でもまぁとりあえずそこに行って見るとしよう。」

   ー朱の渓谷

魔王「ここが朱の渓谷か。」

魔王「なるほど、確かに魔物も多いな。だが魔法を使うような知能を持った魔物は少ないようだし、

   修行にはうってつけか。」

側近「赤の国の戦士のギルドなどは、この渓谷を越えた先にある、紅の砂漠に住む

   デザートワームを狩ることで一流と認められるようです。」

魔王「そうなのか。駆け出しの冒険者から一流まで修行する地か。」

魔王「迷宮のつくりがいがありそうだ。」

魔王「…ここら辺でいいだろう。」

魔王「ここならば遠くからは岩の陰になって見えないし、自然に出来た空洞も少しあるようだしな。」

側近「どのようにして迷宮を作るのですか?」

魔王「そうだな…上級の悪魔が召喚出来れば苦労はないのだが……。」

魔王「魔力が無いのでは諦めるしかあるまい。とりあえず魔力をほとんど必要としない

   ゴーレムでも作って掘らせるとしよう。」

側近「わかりました。では私も召喚できるだけゴーレムを作ります。」

魔王「ああ、助かる。今はお前しか頼れるものがいないのだよ。」


魔王 ゴーレム×3体召喚
側近 ゴーレム×5体召喚

魔王軍 総員9名

 ー翌日

魔王「…あまり掘れていないな。一日たってこの程度か。先は長そうだな。」

側近「魔力がほとんど無い状態で作ったゴーレムですからね…。それにどうやら下に硬い岩があるようで、

   そのせいで時間がかかっているようです。」

魔王「地の巨人であるゴーレムが岩を砕けないとは…。己の弱体化っぷりが嫌というほどわかるな。」

魔王「しかたない。とりあえずこれ以上ゴーレムは作らず、魔力をもう少し多めに与えて一体一体の能力を上げるとしよう。」

魔王「今の私ではせいぜい二三体強化するのが限界だがな・・・。」

魔王「だがこれで少しは効率があがるだろう。」

魔王「これでよし…。ふぅ、やっと終わったぞ。」

側近「お疲れ様です。魔王様。」

魔王「攻撃力と素早さを少しあげたから、これで少しは作業効率もあがるだろう。」

側近「流石は魔王様です。早速効果が出ています。」

側近「昨日苦戦していた岩を難なく取り除けたようです。」

魔王「…そうか。魔力の大半をつぎ込んだだけはあるな。」

魔王「とりあえず分岐や魔物を沢山配置できるような大部屋を作らせて、今日の作業は終えるとしよう。」

魔王軍の状態
・強化ゴーレム×3 素早さ 攻撃力up
・ゴーレム×5

迷宮の状態
部屋数 1

側近「おはようございます。魔王様。」

魔王「ああ、おはよう。ゴーレムに任せている迷宮の拡張はどうなっている?」

側近「迷宮の壁や天井が崩れないようにするための補強作業を夜は行っていましたので、

   そこまで拡張は進んではいませんが、入り口からの分岐先に新たにもう一つ部屋を作ることが出きました。」

魔王「そうか。ご苦労だった。今日はゆっくり休んでくれ。」

側近「いえ、最近は戦闘がなくゆっくり休めていたので問題ありません。」

魔王「わかった。あまり無理はするな。」

側近「それで今日の予定などは?」

魔王「そうだな…とりあえず迷宮の拡張はゴーレム達に任せるとして、迷宮に配置するモンスターを

   まだ決めていなかったので、今日はそれを決めて早速作成したいと思う。」

側近「先日人間の街に行ったときに、魔物図鑑というものを購入したのですが、

    よければお使いください。」

魔王「おお、流石だ。これは助かる。これで調べる手間が少し省けたな。」

側近「はい。しかしその図鑑に載っているのは下級の魔物のみですので、

   あまり役に立たないかもしれません。」

魔王「なるほど。しかし少し読んではみたが…随分と魔物の種類も変わったな。」

魔王「昔はゴブリンやケルベロスのようなのもいたはずなのだが…。100年のうちに大分変わったようだな。」

側近「そのようですね。現在の火の国は昆虫系の魔物や植物系がメインで、魔獣系の魔物はほぼ全て狩られてしまったようです。」

側近「危険度が高いことと、皮や牙に高い値がつくという事で狩られてしまったようです。」

魔王「そうだったのか…。だが悲しんでいる時間はない。早速魔物の材料となるものを探すとしよう。」

  -朱の渓谷

魔王「・・・ふむ。大体ここの渓谷の様子がわかってきた。」

魔王「とりあえずこの渓谷に住む魔物と同種族の魔物を作成するか。」

魔王「そうすれば怪しまれることもあまりあるまい。」

側近「では魔物の材料となりそうな物を探してきます。」

魔王「ああ、頼む。出来れば昆虫を頼む。」

側近「はっ!」

魔王(さて、私も勧誘できそうな魔物でも探すとするか。まぁ会話の通じるような

   知能の高い魔物がいるとは思えないから、魔力を使っての支配になるだろうが…。)

魔王「・・・おお、おおさそりがいるようだな。」

魔王「敵意がむき出しだが……まぁ知能が高い種族ではないから当然か。」

 大蠍は魔王に飛び掛った。それを難なく魔王はかわし、魔力を抑えた氷結魔法を使用し大蠍の動きを封じる

魔王「力は申し分ないし、その強烈な毒は危険極まりないのだが、やはりその単調な攻撃が問題だな。」

魔王「とりあえず魔力で知能を底上げして、私の命令を聞き集団で行動を取れるようにするか。」

大蠍×1 知能up

魔王「さて、他にも捕獲できそうな魔物がいないか探してみるか。」

魔王「・・・とりあえずこんなものか。」

魔王「大蠍が3体に上位種のスコルピオが1、食人植物が5体か。」

魔王「まぁまぁだな。」

魔王「とりあえず知能を魔力で底上げしたから、こちらを襲うようなことは無いが、

   これだけでは少々物足りないな。」

側近「ただいま戻りました。」

魔王「おお、遅かったな。して収穫はどうだ?」

側近「なかなか強力な魔物を生み出せそうな材料はありませんでしたが、

   少し珍しい物を発見したのでもって来ました。」

側近「この蛇は人間の世界でタイパンと呼ばれている毒蛇で、とても強い毒をもっているそうなのです。」

側近「どれほどかはわかりませんが、魔物化させればそれなりの戦力になるかと。」

魔王「おお、それはありがたいな。」

側近「後は蠍や蜘蛛、それと植物をいくつか手に入れました。」

魔王「結構な収穫だな。早速魔物かするとしよう。」

魔王「よし、では早速はじめるか。」

 魔王が側近の集めてきた植物に触れると、紫色の淡い光をおび突然巨大化をはじめた。

 人差し指と同じくらいの太さだった植物の茎は、魔王の魔力により人間の首と同じくらいの太さにまで成長をした。

 茎からは棘が伸び、花のようなものの中心には鋭い牙のようなものが見えていた。

側近「なかなか立派な食人植物ですね。こちらを襲ってきませんが、知力をあげたのですか?」

魔王「ああ。魔物化と同時にある程度の知能をつけたので、冒険者と我々の区別はつくようになっている。」

魔王「後、簡単な命令くらいなら聞くはずだ。」

側近「なるほど。それはいいですね。これで知能の低い魔物にありがちな、共食いや仲間割れといったものは

    防げそうですね。」

魔王「そうだな。・・・では続けて他の素材も魔物化させるとしよう。」

  ー魔王軍の状態

・ゴーレム×7 上位種ストーンゴーレム×1
・食人植物×6 上位種マンドレイク×2
・大蠍×9 上位種スコルピオ×1
・大蛇×1                合計 27体

迷宮の状態
部屋数 6

すまないが少しの間続きを書けないかもしれない。気長に待ってくれるとたすかる。

魔王「…ふむ。迷宮というには少々狭いが、これだけの魔物がいれば実戦経験のない冒険者をしとめるくらいは

   できそうだな。」

側近「そうですね。知能も大分上がっていますし、ゴーレム達は掘削作業で僅かですが戦闘能力も上がり

   上位種のストーンゴーレムもいるので問題なく倒せるでしょうね。」

魔王「だが問題はどうやって冒険者や修行者をおびきよせるかだな。」

魔王「少し強い魔物がいるから気をつけろ、というだけでも好奇心の強いやつは引き寄せられるだろうが、

   それで来る冒険者は少ないだろうし・・・。」

   ー火の国領 紅の街 酒場

剣士「この国で魔導士とは珍しいな。それもなかなかの手練と見える。」

女魔導士「いえ、まだまだ未熟者ですよ。」

剣士「…そうか。まぁいい。話は変わるが俺は土の国の巨石の洞穴という迷宮に挑むメンバーを探しているのだ。」

剣士「今剣士が三人に神官が一人、後武道家二人の合計六人のパーティーなのだが、攻撃魔法の使い手がいなくって困っているのだ。」

剣士「お主のような魔導士がパーティーに加わってくれると助かるのだが…。」

女魔導士「すみません。つい先程迷宮から戻ったばかりでして。」

剣士「ふむ。そうだったのか。それはすまなかった。」

女魔導士「いえ。また機会があったら誘ってくださいね。」

剣士「ああ。それでどこの迷宮に挑んだのだ?」

女魔導士「真紅の砂漠に魔法の修行に行こうと朱の渓谷を越えようとしたのですが、

     その途中で見かけない洞窟があったので挑んでみたのです。」

剣士「朱の渓谷に迷宮があったのか。それは知らなかったぞ。もしかしたら新発見の迷宮かもしれぬな。」

女魔導士「あまり人のいかない渓谷の奥の方なうえに、丁度大きな岩の陰に隠れていたので見つかりにくかったのだと思います。」

剣士「なるほど。確かに朱の渓谷も奥の方は未開拓な部分もあるし、いまだに三つ首の魔犬やスコルピオのような

   真紅の砂漠に住む魔物と同じくらい危険な魔物もすんでいるからな。」

剣士「それで未発見だったのかもしれぬ。」

剣士「いい話を聞かせてもらった。巨石の洞穴を攻略したら今度はその迷宮に挑むとしよう。」

女魔導士「そうですか。私もまだ少ししか洞窟には入っていないので、次行くときに誘ってもらえると嬉しいです。」

剣士「ああ。その話を聞かせてもらったお礼といってはなんだが、これをやろう。」

女魔導士「…綺麗な杖ですね。魔法の威力を増幅させるマジックアイテムのようですが。」

剣士「この前挑んだ迷宮で拾ったものだ。俺の仲間で攻撃魔法を使える者がいないので

   どうしようかまよっていたのだが、お主なら使いこなせそうなのでな。」

女魔導士「いいんですか?なかなか貴重な物のようですが。」

剣士「どうせ拾い物だしな。使いこなせる者が持った方がその杖の持ち主を喜ぶはずだと。」

女魔導士「そうですか。有り難う御座います。」

剣士「いや礼を言うのはこちらの方だ。今の迷宮を攻略したらその迷宮に挑むので、もし都合があったら誘ってくれ。」

剣士「冒険者ギルドでガヌロと言う奴を探している、といえばこの街にいるかどうか教えてもらえるはずだ。」

女魔導士「ガヌロさんですね。わかりました。」

ガヌロ「ああ、それじゃあな。」

女魔導士「……。」

女魔道士(・・・とりあえずこれで7人目ですね。)

女魔道士(とりあえずこれで少しはあの迷宮の噂も広まった事でしょう。)

女魔道士(さて、一旦迷宮に帰り魔王様に報告する事にしますか。)

   -朱の渓谷

側近「ただいま戻りました、魔王様。」

魔王「おお、ご苦労だった。それで、冒険者の反応はどうだった?」

側近「新たに発見された迷宮、という内容で宣伝したのが良かったのか、

   大体の冒険者が準備を整え次第この迷宮に向かうと言っていました。」

魔王「そうか。それは楽しみだな。このままこの迷宮に関する噂が広まってくれれば

   とても楽なんだが、そう上手くいくかどうか・・・。」

側近「7人ほどにこの迷宮の存在を伝えたため、噂は少しは広まっていると思います。」

側近「ですが、やはり有名な迷宮とまで言われるほどになるためには、ある程度の実績が必要なようです。」

魔王「実績?なんだそれは。」

側近「魔物の王や大悪魔、そして魔王様のような強力な魔物や魔族を倒した者を勇者や英雄と呼び、

    神格化したりするように、迷宮もそのような形で有名になっているものがあるようなのです。」

側近「例えば11年ほど前に英雄ミハエルが死んだという極北の岩穴などは現在では、一流の戦士達が

    腕試しに向かう事がとても多いそうです。」

魔王「なるほど。確かに有名な冒険者が死んだとなると、行ってみたくなる気持ちもわかるな。」

魔王「それに踏破できれば、自分は英雄を超えたと言う事も出来るわけだ。」

魔王「ふむ…英雄と勇者か。強いのだろうが、倒せれば一流の迷宮か。」

魔王「リスクは高いがやる価値はありそうだな。」」

魔王「…いやしかし、勇者や英雄がそんなにすぐに来るとは思えないし、

   そもそも呼ぶのがとても難しいのか?」

側近「その点に関しては問題ありません。」

魔王「む?どういうことだ?」

側近「先ほど冒険者ギルドで2番目に強い、ガヌロという冒険者をこの迷宮に呼ぶことに成功しました。」

魔王「二番目に強い冒険者だと…?大丈夫なのかそれは。」

側近「多分問題ないかと。ガヌロは剣聖と呼ばれているらしく、有名な冒険者なのですが

    ガヌロのパーティーは戦士が多く魔法を使える冒険者がほとんどいないという偏ったパーティーなのです。」

側近「そこを上手くつけば、こちらにも十分勝機はあるかと。」

側近「それにガヌロは巨石の洞穴という別の迷宮の攻略に向かっているそうなので、

    彼らが来るまでには相当な時間があります。」

魔王「そうだったか。・・・流石にお前は優秀だな。」

側近「有り難うございます。」

魔王「・・・では、まずは弱い冒険者達を倒しこの迷宮の魔物たちの強さを上げるとしよう。」

魔王「今は弱い魔物でも、実戦をつめば一流の冒険者にも引けをとらない魔物となるはずだ。」

魔王「・・・む?どうやらそんな話しをしている間に、この迷宮に冒険者が訪れたようだ。」

側近「そのようですね。どうやら私が呼んだ修行中の魔道士のようです。」

魔王「ほう、そうなのか。魔法の力で気配を消しているとはいえ、これほど傍によっても気づかない

    ところをみると、どうやら実力はそれほどでも無い様だな。」

魔王「この程度なら今の魔物の力を持ってすれば、問題にならない強さだが・・・・・・。」

側近「そうですね・・・今回は逃がしましょう。」

魔王「やはりそうすべきか?」

側近「ええ、それに丁度この魔道士に持たせるのにぴったりなアイテムを街で手に入れました。」

魔王「おお・・・!では早速そのアイテムを迷宮の適当なところにおいておくとしよう。」

   -謎の迷宮

見習い魔道士(以下魔道士)「・・・ここがあの女魔道士の言っていた迷宮かい。」

魔道士「確かに岩陰でわかりにくいところにあるな。修行の場として有名な朱の渓谷にまだこんなところがあるとはねぇ。」

魔道士「魔物の気配は迷宮というだけあって、やっぱり結構多いな。」

魔道士「でもま、魔道士の俺ににゃあ丁度いいレベルよ。」

魔道士「あの女は結構危険だから気をつけろとか言ってたが・・・けっなめやがって。」

魔道士「朱の渓谷なんぞでくたばるわけねぇだろうが。」

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魔王「とんでもない自惚れ屋だな…昔は私も力に自信があったが、これほどではなかったぞ・・・。」

側近「この地域は火の国の領地なのですが、火の国は血統的な問題で魔法を行使できる人間がほとんどいのです。」

側近「ですので魔道士や神官は火の国の冒険者達の間ではとても大切にされているのですが、そのせいで彼のように自分の力を過信する

   魔道士も多いのですよ。」

魔王「なるほど。そういう理由があったのか。」

魔道士「・・・中は随分と広いんだな。これは結構深いかもしれねぇな。」

魔道士「奥の方から何か強い魔力を感じるが、ひょっとしてなにかレアなアイテムでもあるのか?」

魔道士「ははは、今日の俺は最高についてるなぁ!」

魔道士「・・・おい、せっかく今俺は気分がいいってのにそれを邪魔するなよ・・・・・・この虫けらがァッ!」

魔道士「喰らえ・・・火炎魔法Ⅰ!」

 見習い魔道士が放った下級火炎魔法をスコルピオは火の粉一つ被らず回避した

魔道士「・・・!魔法をかわしただと?」

魔道士「大蠍は昆虫魔族のなかでも下級の魔物のはず・・・魔法をかわす知能を持っている奴などいるはずが・・・。」

魔道士「・・・まぁどうせまぐれだろうがな・・・今度こそ喰らえ・・・火炎ま・・・・・・に、逃げるのか!?」

 魔法が外れたことに驚いている魔道士に見向きもせず、スコルピオはダンジョンの奥の方へと消えていった

魔道士「なんだこの魔物は・・・もしかして俺の強さにビビッて逃げたのか?ははっありうるなぁ。」

魔道士「この俺から逃げられると思うなよ!ついでにレアなアイテムも手に入れてやらぁ。」

 見習い魔道士が迷宮の奥へと進んでいるとき、魔王と側近は気配を消す魔法を使い魔道士のすぐ後ろをつけていた。

 なぜそんな事をしているかというと、迷宮の魔物の強さと知能について調べるためであった。

魔王「・・・・・・まさかこれほど上手く冒険者が誘導できるとはな。」

魔王「しかし大蠍と上位種のスコルピオを見間違えるなんて事があるのか・・・?」

側近「普通ありえないでしょうね。」

魔王「・・・魔物の強さが心配でつけてきた訳だが、逆にこいつがあの部屋から無事戻れるか心配になってきたぞ。」

魔王「魔王たるこの私が冒険者の心配をするというのも変な話だがな。」

側近「そうですね・・・一応魔物には怪我をしないように適当に戦えと伝えておきましたが・・・。」

魔王「まぁ駄目でも不死族の魔物にでもすれば使い道もあるか・・・。」

魔道士「・・・魔物は逃げてばっかだし、宝は見つからねぇし何の面白みもない迷宮だな。」

魔道士「帰ったらあの女に文句言をいうか・・・・・・ん?なんだ、この地響きは?」

魔道士「何か近づいてきて・・・うおおおおっ!?ご、ゴーレム!」

魔道士「いや落ち着け、ゴーレム系は攻撃と守備に関しては相当だが

     動きが遅いという決定的な弱点があるはず。」

魔道士「戦うのは少しきついが別に逃げれば追いつかれることも無いし、問題ないはず!」

魔道士「とりあえず迷宮の奥に隠れやりすごすとしよう。」

 ー謎の迷宮 第二層

魔道士「・・・ここまで来れば流石に問題ないはず。」

魔道士「運よく逃げている間に魔物に襲われることも無かったし、どうやら宝にも近づけたみたいだな。」

魔道士「この大部屋の奥にあるみたいだが・・・・・・」

魔道士「・・・な、なんだよこの部屋は・・・!?あるのは宝だけじゃあなかったのか?」

 魔道士の入った大部屋には大蠍や食人植物の大群、そして通路とほぼ同じ太さの巨大な蛇がいた

魔道士「まずい・・・いくらなんでもこの数は。それに後ろからゴーレムが追いかけてくるし、どうすれば・・・。」

魔道士「くそっ、宝がもう目の前があるってのに・・・!」

魔道士「だがここでビビッて帰って来たなんてとてもあいつらには言えねぇ。宝の一つでも持って帰らなければ馬鹿にされるのは

     目に見えている。」

魔道士「絶対にここを切り抜け宝を持ち帰ってみせる・・・!]

魔道士「一か八か・・・いくぞ雑魚共!俺の全ての魔力を使った火炎魔法だ!」

魔道士「燃え尽きろおおおおオオオオオッ!火炎魔法Ⅱ!」

 魔道士の全ての魔力をつぎ込んだ火炎魔法が食人植物達のいる部屋に流れ込む。

 魔物達は蜘蛛の子を散らすように、大部屋から逃げていった。

魔道士「はぁはぁ・・・どうだ、俺の火炎魔法は。流石にあれだけでは倒せなかったようだが、見るからにやばそうな蛇もいないし、

     これで宝は俺のもんだ。」

魔道士「ふぅ・・・仕方ない、今日はこれで戻るか。踏破できなかったのは心残りだがな・・・。」

魔王「ふむ・・・ただの自惚れ屋かと思っていたが、あの魔物の部屋から逃れるとはな。」

側近「なかなかの決断力ですね。魔物と戦うのではなく脅して逃がすという方法で切り抜けるとは思いませんでした。」

魔王「魔物の知能の高さを利用されたという事か。だがまぁ初めての戦いにしては上出来だろう。」

魔王「冒険者には適度なスリルを与えることが出来たし、宝も無事にもたせれたからな。」

側近「ええ。魔物の方の被害はほぼありませんし、知能・戦闘力ともに問題はなさそうですね。」

魔王「そうだな。このまま部屋数と魔物の数を増やし、いずれ現れるであろう剣聖との戦いに備えるとしよう。」

   一週間後

魔王「いまだあれ以降冒険者の襲来はなしか。」

側近「そうですね。あの見習い魔道士は宝を持ち帰ったことを仲間に報告するかと

    思ったのですが・・・。」

魔王「まぁこちらにとっては時間があるという事はありがたいことなので、別に問題は無いのだが。」

側近「この一週間で随分迷宮も広く出来ましたし、魔物の数も増やせましたしね。」

魔王「ああ。・・・これが嵐の前の静けさ、というやつでなければよいのだが・・・。」



 魔王軍
・ゴーレム×7 上位種ストーンゴーレム×1
・食人植物×4 上位種マンドレイク×3
・大蠍×7 上位種スコルピオ×2
・上位種 蟒蛇 ×1

迷宮
部屋数18 フロア3

  ― 翌日

側近「魔王様、冒険者の集団がこの迷宮に向かっているようです。」

魔王「やはり来たか・・・・・・それでどの位の強さの冒険者が何人ほど来るんだ?」

側近「今回現れると予想される冒険者の数は7人で、メンバーは紅の街冒険者ギルド所属の

   トレジャージハンター達のようです。」

魔王「なっ・・・7人だと?随分と多いんだな・・・。それで実力はどの程度なんだ?」

側近「実力はそれほどでもないようです。パーティーリーダのアゼム以外はまだ修行途中のようなので、

   この迷宮に現在いる魔物でも十分対応できるかと。」

魔王「なるほど。とりあえずそのアゼムとかいう冒険者に注意すればよいという事だな。」

側近「それと今回沢山の冒険者が迷宮に来ている理由ですが、前回この迷宮に来た見習い魔道士の

    仲間のようなので、彼からこの迷宮について聞いたと見て間違いないかと。」

魔王「なるほど。あの宝も一応効果はあったという事か・・・。」

魔王「それで冒険者が来るまで後どれくらいの時間があるんだ?」

側近「冒険者達が紅の街を出発したのが今日の朝らしいので、この迷宮に着くのは早くとも今日の夜か明日の朝かと。」

魔王「なるほど……それにしても、凄い情報収集能力だな。」

側近「以前魔王様に頂いた部下がまだ少し生き残っておりまして、彼らに偵察などを任せております。」

側近「下級の魔物しか残っていないので戦力にはなりませんが、熱心に働いてくれていますよ。」

魔王「そうだったのか。まだ魔王軍に所属していた魔物が生きていたか。」

魔王「ふむ・・・さて残った時間を使って魔物の強化でもするとしようか。」

   - 数時間後

魔王「・・・そろそろか。」

側近「そうですね。今回の冒険者のパーティーにはそれなりの力を持った冒険者もいるので、

    魔王様や私が迷宮の中にいると存在に気づく可能性があると思うのですが、いかがなさいますか?」

魔王「そうだな。確かに不可視化の魔法を使っていたとしても、発見される可能性は十分ある。」

魔王「とりあえずある程度迷宮から距離をとり、そこから使い魔などを用いて中の様子を知るとしよう。」

魔王「・・・どうやら冒険者達が迷宮に到着したようだな。」

魔王「7人という人数はかなり多いが最善は尽くした。後は魔物達の無事を祈るのみだな。」

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黒騎士アゼム「・・・よし。ほぼ予定通り迷宮につくことが出来たようだな。」

武道家「どうならここが彼の言っていた迷宮のようですな。」

聖戦士「朱の渓谷とは思えぬほどの邪悪な魔力・・・油断するなよ。」

僧侶「そうですね。危ないと思ったら早めに脱出しましょう。」

アゼム「よし。では行くぞ・・・!」

   -謎の迷宮

アゼム「・・・気をつけろ。早速嫌な魔物の気配がプンプンするぞ。」

戦士「ああそうだな。それにどうやらもう既に相手に発見されているらしい。」

騎士「だが、攻撃してくる様子はない。こちらのこちらの動きを見ているのか・・・?」

剣士「はん、んなわけないだろう。そんな事をいちいちするのは高位の魔族かとんでもなく戦闘の経験をつんだ

    正真正銘の化け物くらいだ。虫けら如きにそんな知能があるわきゃないだろ。」

アゼム「普通に考えればそうだが、お前も魔道士の話を聞いたはずだ。ここで奴を追うのは得策じゃあない。」

武道家「しかしここでにらみ合いをしているわけにもいかんじゃろう。」

アゼム「わかっている。一昨日買った投げナイフがあるだろう。」

アゼム「あれは僧侶の神聖魔法の力が付与してある。あれを使ってあの大蠍を攻撃するぞ。」

アゼム「神聖魔法の力があれば、下位の魔物である大蠍なら奴の皮膚が硬くとも一撃でしとめられるはず。」

アゼム「逃しはせん。喰らえ・・・!」

 アゼムの投げたナイフは大蠍がとっさに回避しようと動いたせいか、動に当たることは無かったが

 尻尾を射抜きナイフは大蠍を磔にしたまま壁に突き刺さった。

武道家「おお・・・流石ですな。これで大蠍の息の根はとまったは・・・・・・

騎士「いやまて・・・大蠍の動きがおかしいぞ・・・!?」

 大蠍は両腕の巨大なハサミで自らの尻尾を切り離し、迷宮の奥へと姿を消した。

剣士「ばっ、ばかな・・・神聖魔法の効果を受けないために尻尾を切り離したというのか・・・・・・?」

アゼム「・・・やはりこの迷宮の魔物は他の魔物と比べて明らかに知能が高い。」

アゼム「なぜだかはわからないが、何かとても良くないことが起こっている気がするぞ。」

騎士「この迷宮についてはやはり王国に報告したほうがいいのかもしれないな。」

剣士「ああ・・・?まさかここで引き下がるつもりなのか?入り口で雑魚の魔物に一匹であっただけで

    帰るってのかよ?」

剣士「あいつは一人でここまできて宝まで持って帰ったってのに・・・これじゃあ笑い話にもなんねぇぞ。」

戦士「だがお前だって奴の異常な動きは見たはずだ。あれは知能の低いはずの虫族の魔物がする行動ではないのは

   お前だって知っているだろう。」

剣士「ちっ・・・どいつもこいつも腰抜けばかりじゃあないか。確かにあの動きはおかしかった。

    だがそれがなんだ?尻尾を切ったらあたいらが死ぬってのか?違うだろう?」

剣士「用心して戦えば問題はねぇだろうが。元々あの魔道士は生意気だから気に入らなかったんだよ。

    あいつに負けるなんてのはあたいのプライドが許さねぇ。誰がなんと言おうとあたいは進むよ。」

僧侶「まっ待ってください!戦士さん、危険すぎます!私もついていきますよ!」

武道家「・・・全く厄介なことになってしまったのぉ。」

アゼム「ふぅ・・・引き返すつもりだったが予定が変更されてしまったな。」

騎士「追いかけなくていいんですか?」

アゼム「そうだな。早く追いかけなければな・・・。」

   ー 朱の渓谷 奥地

魔王「どうやらパーティーメンバーの意見が分かれ、別々に行動をし始めたようだな。」

側近「そのようですね。」

魔王「このチャンス、逃すわけにはいかぬな。」

魔王「迷宮の奥にいるゴーレム達でアゼム達の足止めをしろ。その間に食人植物と大蠍達で僧侶をしとめる。」

魔王「あのパーティーの中で回復魔法を使う事が出来るのは、僧侶と精霊の力を持った聖戦士のみだ。」

魔王「その二人を最初にしとめることが出来れば、あのパーティーを倒すのもだいぶ楽になるはずだ。」

側近「はっ!」


   ― 謎の迷宮

アゼム「二人を見失う前に追うぞ。」

聖戦士「・・・いや待て、何か魔物が近づいてきているぞ。」

武道家「どうやらそのようじゃな。やれやれ、本当に厄介な事になってしまったな・・・。」

戦士「くっ・・・早く二人を追わねばならないというのに・・・!」

騎士「気をつけろ、敵の数が相当多い。我々が迷宮に侵入してきたことに気づいたようだ。」

   ― 謎の迷宮 第二層

僧侶「剣士さんー、待ってくださいよー・・・。」

剣士「別について来てくれなんて言っていないが。」

僧侶「そんな事言わないでくださいよ・・・みんな心配しているんですから、早く戻りましょう。」

僧侶「この迷宮は危険すぎます。我々の手に負えるものではありません。さぁ早く。」

剣士「・・・・・・・・・。」

剣士「・・・あぁ、それもいいかもしれないな。・・・・・・だが、もう手遅れのようだ・・・。」

僧侶「えっ・・・なっ・・・、なんですかこの異様な数の魔物は・・・!」

剣士「驚いている暇はねぇ・・・いくぞォォォオオオオオッッ!」

   ー 謎の迷宮 

聖戦士「大地の精霊よ、我らに力を!」

アゼム「よし、これで武器と防具の強度があがった。この力ならばゴーレムも切れるはず・・・!」

騎士「でやあああああああッ!」

 大地の精霊の力で強化された鋼の剣の一撃が、一体のゴーレムの頭に直撃・・・するはずだった。

戦士「なっ・・・他のゴーレムが変わりに攻撃を受けただと・・・!?」

聖戦士「神聖魔法を受けて動けなくなっていたゴーレムが、まさか他のまだ無事なゴーレムをかばうとは。」

聖戦士「戦うことはもう出来ないだろうと油断していたのが不味かったか・・・!」

武道家「ゴーレムの攻撃がが来るぞ!身をかわすのじゃあああああっ!」

 神聖魔法の力で動けなくなっていたゴーレムは、騎士の攻撃によってバラバラに砕け散った。

 しかし、無事だったゴーレムが騎士の一瞬の隙を逃さず巨大の拳を騎士の頭に振り落とした。

   ― 謎の迷宮 第二層

 その頃迷宮の第二層では、剣士達と魔王の命令で待ち伏せていた魔物との戦いが起こっていた。

 食人植物の棘の生えたツルと、刺されば大人でも数時間で死に至る猛毒を持つ大蠍の大群の前に

 剣士達はゆっくりと、しかし確実に追い詰められていた。

剣士「くそっ・・・数が多すぎる。」

僧侶「諦めてはいけません。アゼムさんたちは必ず助けに来てくれます。

    それまでの辛抱です!」

剣士「わかってるよ・・・だがこの数はつらすぎるぜ。」

僧侶「そうですね。これ以上後ろへは下がれませんし・・・・・・」

剣士「くっ・・・大蠍の攻撃がくるぞ!」

 ゆっくりと剣士達との距離をつめていた大蠍達が、ついに攻撃をはじめた。

 一匹の大蠍の動きが止まったかと思うと、剣士の後ろにいた僧侶へと飛び掛った。

剣士「狙いはそっちか・・・!」

 剣士の巨大な剣が僧侶に飛び掛った大蠍の体を真っ二つに裂いた。

 大蠍の体から青緑色の体液が噴出し、剣士の顔にかかった。

剣士「くそっ・・・前がみえないじゃねぇか・・・。」

僧侶「あっ、危ないっ!」

 剣士の視界が悪くなった一瞬を魔物たちは見逃さなかった。

 食人植物達は剣士達ではなく大蠍をツルで弾き飛ばし、剣士へと飛び掛らせた。

 先ほどの大蠍の攻撃とは比べものにならない速さで大蠍は剣士にしがみ付き、

 剣士の腕へと毒針を突き刺した。

剣士「ぐはっ・・・く、くそっ・・・。」

僧侶「だ、大丈夫ですかっ!?」

 剣士は腕を大蠍ごと壁に叩きつけ、衝撃で地面に落ちたところを剣で突き刺した。

剣士「大丈夫だ、といいたいところだが腕を刺されちまったようだ。」

僧侶「毒ですか・・・でも大丈夫です。私はこれでも僧侶ですから、解毒魔法くらいならば使えます。」

剣士「おお、それは助かる。お前がいなければここで死んでいたかもしれねぇな。」

僧侶「水の精霊様・・・その力でこの者の傷を癒して下さい・・・。」

僧侶「これでもう毒は大丈夫だと思います。でもまだ傷は完全には治っていませんから、気をつけてください。」

剣士「ああ、わかったよ・・・さて、そろそろ戦いの続きをはじめようか・・・!」

   -謎の迷宮 第一層

騎士「ぐ・・・ぐおっ・・・!」

アゼム「大丈夫か!?」

騎士「うぐっ・・・ぐぐぐっ・・・。」

 岩をも砕くゴーレムの一撃を喰らった騎士は鎧が砕け、全身からは血がが溢れており、まさに瀕死の状態だった。

 ゴーレムは振り下ろした拳にそのまま体重をかけ、騎士の息の根を完全に止めようとしていた。

 騎士を助け回復魔法をかけようと駆け寄るアゼムと聖戦士。しかし・・・

戦士「アゼム!気をつけろ!ゴーレム一体がそっちへ行ったぞ!」

武道家「二人とも身をかわすのじゃ!」

アゼム「な・・・なんだと!?」

 騎士に駆け寄ろうとするアゼム達を、武道家達と繰り広げていた3体のゴーレムのうちの1体が

 突然武道家との戦いを中断し、ゴーレムとは思えない跳躍力で飛び上がりそのままアゼム達の目の前へと拳を振り下ろした。

聖戦士「・・・くっ、回復魔法をかけさせないつもりか・・・!そんな事までしてくるとはっ・・・。」

アゼム「早くしなければ手遅れになってしまうというのに・・・!」

騎士「・・・ゴ、ゴーレムなどに、まさか・・・まさか負けるとは・・・っ・・・・・・どうやら俺は・・・

    この迷宮を甘く・・・見すぎていた・・・ようだ、な・・・・・・」

アゼム「くっ・・・くそっ。これはリーダーたる俺の責任だ。」

聖戦士「・・・っ。アゼム、だがまだだ、まだ戦いは終わっていない・・・!奥へと進んだ二人を助けなければ!」

アゼム「わかっている。わかっているさ。・・・決して、決して許さんぞ魔物共!」

聖戦士「大地の精霊よ、再び我らに力を!」

 アゼムは黒魔法の力を持った剣で、立ちふさがるゴーレムの首を狙って剣で切りつけた。しかしゴーレムは素早い動きで

 アゼムの剣を腕で受け止めようとする。だがアゼムの持つ剣は、聖戦士の補助魔法の効果もあってか、

 ゴーレムの腕を砕きその巨大な岩のような首を跳ね飛ばした。

武道家「流石はリーダーじゃな・・・・・・こうもたやすくあれを倒すとは。」

アゼム「聖戦士。」

聖戦士「ああ、わかっている。大丈夫だ。」

 聖戦士は騎士とアゼムによって倒された二体のゴーレムに神聖魔法をかけ、

 ゴーレムの体の再生をとめた。

アゼム「これでやっと二体か・・・。」

戦士「そうだな。だが考え方を変えれば、残りは三体しかいないという事だ。

    あいつらの知能と勇気は恐ろしいものがあるが、油断さえしなければ勝てるはずだ。」

戦士「だが、先に行ったあいつらが無事かどうかはわからん。この迷宮にいる魔物がこのゴーレムだけとは

    とても思えないしな。」

戦士「だから先に行け、アゼム。」

アゼム「なっ・・・!?お前、正気か?」

武道家「大丈夫じゃよ。ここには神聖魔法の使い手である聖戦士もいるからな。

     こちらは回復できても、奴らは疲れる一方じゃからな。」

聖戦士「ああ、私もまだ魔力には余裕がある。」

アゼム「・・・・・・。わかった・・・だが無理はするなよ。」

   -謎の迷宮 第二層

 第二層では剣士達の大蠍達との戦いが続いていた。僧侶の神聖魔法の効果のおかげで

 剣士は毒を受けることがなく、戦うことが出来ており魔物の数も既に3分の2以下になっていた。

 しかし僧侶の魔力も無限ではないため、圧倒的に不利な状況は続いていた。

剣士「はぁはぁ・・・流石にきつくなってきたぜ。」

僧侶「申し訳ありません・・・私の実力が足りないせいで・・・。」

剣士「何言ってんだ、お前がいなきゃとっくにくたばってたよ。」

僧侶「・・・有り難うございます。」

剣士「それで後何回くらいつかえるんだ?」

僧侶「後三回くらいです。」

剣士「わかった、くそっアゼムたちはまだこないのか・・・!?」

   -謎の迷宮 第二層

アゼム「くそっ・・・想像以上に広いなこの迷宮は・・・。」

アゼム「魔物の魔力がだんだんと近づいてきているが、この近くにあの二人はいるのか・・・?」

アゼム「無事だと良いのだが・・・。」

   -朱の渓谷 奥地

魔王「・・・不味いな。あの僧侶達をアゼムが助けたら、上にいる冒険者達も間違いなくすぐに

    街へと帰るだろう。」

魔王「それだけはなんとしても阻止せねば・・・!」

側近「冒険者達は大分疲労しています。僧侶の魔力はほぼ尽きていますし、

    しとめるのならば今がチャンスかと。」

魔王「ああ、そうだな。上位種族の魔物たちを全て出せ。アゼムが僧侶達と合流する前にしとめるのだ・・・!」

   -謎の迷宮 第二層

剣士「おい、何か変な音が聞こえるんんだが・・・気のせいか?」

僧侶「いいえ、気をつけてください・・・何かとても邪悪な力が近づいてきています・・・!」

 剣士達のいる部屋に現れたのは、剣士の身長とほぼ同じ太さの体を持った巨大な蛇だった。

 全身の鱗は黒く光り、その巨大な口からは血のような色をした深紅の舌を覗かせていた。

剣士「なっ・・・なんだこいつは。こんな魔物見た事無いぞ・・・!?」

僧侶「それだけではありません!蛇の背中をよく見てください。」

剣士「まだ魔物がいたのかよ・・・!それにあれは大蠍じゃない、上位種のスコルピオだ!」

僧侶「そ・・・そんな。なんでこんなところに・・・。」

   -謎の迷宮 第二層

アゼム「なんだこれは・・・?魔物の血か?」

アゼム「この独特な色と臭い。昆虫系の魔物のものか。血が乾ききっていないところを見ると、

     つい先ほどまで戦いがあったようだが・・・。」

アゼム「二人は一体どこにいるんだ・・・?」

アゼム「ん・・・?よく見ると魔物の血ではない赤い血もついているな。」

アゼム「あれは間違いなく人間の血。ここで戦った後さらに奥へと進んだのか・・・?」

アゼム「・・・とにかく二人が無事であることを祈ろう。」

 アゼムは床についている人間の血を追い、迷宮のさらに奥へと歩みを進めた。

 しかし迷宮の最下層についた途端、人間の血は完全に途絶えており、

 部屋の床には剣士の使っていた剣が一本落ちていた。

   ー謎の迷宮 第三層

アゼム「なっ・・・どういうことだ・・・?」

アゼム「なぜこんなところにこの剣が落ちているんだ・・・?」

アゼム「剣士であるあいつが剣を手放す訳が無いし、魔物にやられたのなら死体が残っているはず・・・。」

アゼム「一体どういう事なんだ・・・頼むから無事でいてくれ・・・・・・。」

アゼム「・・・・・・それにしても魔物の気配は感じるのに、姿が見えないというのはどういう事なんだ?」

アゼム「迷宮の奥からはさらに強い魔力を感じるし・・・。」

アゼム「しかし、剣が落ちている以上ここにあの二人は間違いなく来ている。」

アゼム「・・・やはり先に進むか。」

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   ー朱の渓谷 奥地

魔王「・・・想像以上に上手く進むな。」

魔王「ゴーレムと大蠍が少々予想より多く倒されてしまったのは痛かったが、
 
    それ以外全て上手くいっている・・・。」

側近「そうですね。第一層で戦闘を行っているゴーレムが大分疲労しているようなのですが、

    一旦下げますか?」

魔王「ああ、そうしよう。そして迷宮の一番奥へと誘い込むのだ・・・。」

   -謎の迷宮 第一層

武道家「む?なんじゃ・・・?」

戦士「ゴーレムの動きが止まった・・・。」

聖戦士「気をつけろ。また何か仕掛けてくるかもしれん。」

武道家「・・・いや、どうやら本当に戦う意思がないようじゃぞ。」

武道家「迷宮の奥へと帰えるつもりらしい。」

聖戦士「どういう事なんだ・・・?こちらと戦うのば分が悪いと判断し、

     逃げたという事か?」

戦士「さぁな。・・・だがどう考えてもやつらの方が有利だったはず。」

戦士「・・・まぁ奴らの理由が何であれ、ゴーレム達がいなくなったのは

    俺達にとって悪い出来事じゃあない。」

戦士「先を急ぐとしよう。」

武道家「ああ、そうじゃな。」

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