しんのすけ「ひまわり!早く起きなさい!」ひまわり「ええ……まだ眠いよ……」 (1000)

――ひまわりは眠い目を擦り、ゆっくりと上体を起こした。

「まだ眠いよ……」

「文句言わない。ほら、仕事に遅れるぞ?」

「うぅ……分かったよ……」

不満そうにふてくされ、着替えはじめる。
彼女は去年から会社勤めを始めている。と言っても、朝は弱いし夜更かしも止めない。ちゃんと教育してきたつもりなんだけどな。

がさつで大雑把……ひまわりは、間違いなく母ちゃんの娘だな。

「――お兄ちゃん!行ってきます!」

「こらひまわり!ちゃんと父ちゃん達に挨拶したのか!?」

「えええ!?時間ないよ!」

「時間がないのはお前のせいだろ!ほら!さっさと挨拶する!」

「……分かったよもう!お兄ちゃんは変なとこだけ真面目なんだから!」

ひまわりはスーツ姿のまま、仏壇の前に手を合わせる。

「――お父さん!お母さん!遅刻しそうだけど行ってきます!」

そう叫ぶやいなや、ひまわりは忙しく玄関を飛び出していった。

「……ほんと、騒々しい奴だな……」

窓から走っていくひまわりを見送った後、今度はオラが仏壇の前に座る。

「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」

窓の外から、家の中に暖かい日射しが射し込んでいた。

「――野原くん、この企画の件だが……」

「はい。これはですね……」

会社の中で、オラと係長は、次の企画について話をしていた。
この会社に勤めてもう9年……仕事にもすっかり慣れた。高校卒業と同時に入社したこの会社は、会社の規模は小さいが給料がいい。
おまけに上司も温かみのある人が多く、色々とオラを助けてくれている。

「――あ、もうこんな時間!帰らないと……」

「ああ野原くん!この後、一杯どうかね!」

「あ……すみません係長、これから家でご飯を作らないといけないので……」

「少しくらいいいじゃないか」

「はあ……でも、妹がお腹を空かせて帰りますし……」

「……そうか。キミは、妹さんと二人暮らしだったな……分かった。早く帰ってあげなさい」

「本当にすみません。それでは……」

足早に会社を出て、そのまま家に向かう。その帰りにスーパーに寄り、食材を購入する。
ひまわりは料理が苦手だ。たまに教えるんだが、母ちゃんに似たのか、飽きっぽくてすぐに止めてしまう。
ホント、似なくていいところばかり似るもんだ……

「――ただいまー!」

大きな声を出して、ひまわりが帰って来た。そしてスーツのまま、台所へ駈け込んで来た。

「お兄ちゃんお腹空いた!今日のごはん何!?」

「クリームシチュー。好きだろ?」

「うん!大好き!」

ひまわりは目を輝かせながら、鍋の中を覗きこむ。そして大きく匂いを嗅ぎ、満足そうに息を吐いた。

「こらこら。先に手を洗ってきな。ごはんは、その後だ」

「ええ!?いいじゃんべつに……」

「だ~め!」

「ぶー……」

渋々、手を洗いに行った。これも何度目の光景だろうか。行動が全く進歩しない妹に、少しばかり不安を感じる。
これじゃ、嫁の貰い手もないだろうな。

「いっただっきま~す!」

「いただきます」

今のテーブルを二人で囲み、晩御飯を食べ始める。
普段着に着替えたひまわりは、一心不乱にシチューを食べていた。

「――うん!さすがお兄ちゃん!すっごくおいしい!」

「ありがと。……それより、会社はどうだ?」

「会社?……う~ん、あんまり面白くないかも……」

「そりゃそうだ。会社ってのは、面白くもないところだ。面白くないことをするから、お金を貰ってる。基本だぞ?」

「そうなんだけどね……なんていうか、つまんないの。会社の業績はまあまあなんだけど、先輩に面倒なオバハンがいてね。やたらと、目の敵にしてくるんだぁ……」

「ああ、いるいる、そういうの。……まさかとは思うけど、気にしてんのか?」

「私が気にすると思う?」

「いや全然」

ひまわりは神経が図太いからなぁ……これも、母ちゃんによく似ている。

「ただ、面倒なんだよね、そういうの。嫉妬するのは分かるんだけど、それなら私以上に実績積めばいいだけだし。それをしないで、ただ因縁だけ付けてくるってのが気に入らないんだ」

「……そうか……お前も、大変だな」

「うん。まあね」

あっけらかんと、ひまわりは答える。まったく大変そうには見えないが……

食事を終わったひまわりは、風呂に入る。

「着替え、ここに置いとくぞ」

「は~い」

風呂の中から、籠った声を出すひまわり。ひまわりは、とにかく風呂が長い。
何でも、少しでもカロリーを消費するためとか。無駄な抵抗だと思うんだが……

「……お兄ちゃん?今何か、失礼なこと思わなかった?」

お前はエスパーか……

「……あんまり長風呂するなよ?この前みたいに、のぼせて倒れちまうぞ?」

「ああ!話を誤魔化した!!やっぱり思ってたんだ!!」

……こういう感が鋭いところも、母ちゃんに似てる……。

脱衣所を出ようとした時に、ふと、ひまわりが言ってきた。

「……ところでお兄ちゃん」

「うん――?どうした?」

「お兄ちゃんさ、今年で27だよね?」

「……まあな」

「――結婚とか、考えてないの?」

「………相手がいれば、いつでもしてやるけどな。そういうお前はどうなんだよ」

「私?私は、まだ早いよぉ。だって、まだ22歳だし」

「結婚まではしなくても、付き合ってる男もいないのか?」

「う~ん……言い寄って来る人はいるんだけどね……どれもいまいちというか、パッとしないというか……」

「………」

誰に似たのか、ひまわりは、凄まじくモテるようだ。まあ確かに、顔は兄のオラから見ても、かなり美人の分類に入ると思う。何気にスタイルもいい。
男にモテるのも、仕方ないのかもしれない。

もっとも、純情ピュアってわけではなく、何というか、ザァーッとして、竹を割ったような性格だから、下手に言い寄られてもまるで相手にはしないようだ。
変な男に捕まらない分、安心はしている。

「……まあ、そろそろお前も結婚考えろよ?母ちゃんは、お前くらいの時に結婚してるんだからな」

「それはお兄ちゃんも一緒でしょ?さっさと結婚しないと、一生独身の寂しい人生しか残ってないよ?」

「やかましい。ホラ、早く上がれよ」

オラは、居間に戻った。

風呂に入った後、居間でテレビを見ながら、ぼんやりと昔のことを思い出していた。

――父ちゃんと母ちゃんは、オラが中学の時に事故で他界した。夫婦水入らずで旅行に行く途中のことだ。
それから、秋田と熊本のじいちゃんばあちゃんが、オラとひまわりをそれぞれ引き取る方向で話が進んでいた。

……でも、ひまわりが、オラと離れて暮らすことを激しく抵抗した。
ひまわりにとって、親しい家族は、オラだけだった。
オラまでいなくなってしまう――小学生だったひまわりは、そう思ったのかもしれない。
結局オラとひまわりは、この家で過ごすことになった。

オラはそれまで、色々バカをやっていた。
でも、もう父ちゃん達はいない。ひまわりを育てるのは、オラの役目になる。
それ以降、オラは徹底して父ちゃん、母ちゃんになった。
最初の方、ひまわりが動揺していたのは、今はいい思い出だ。

じいちゃんたちの支えもあって、オラは高校を卒業することが出来た。

それからすぐに就職して、今に至る。
爺ちゃんたちは、大学へ行くように勧めて来た。
でも、それも断った。
いつまでもじいちゃんたちに負担をかけるわけにはいかなかったし、ひまわりの学費も工面しないといけなかった。

その決断に、悔いはない。もっとも、ひまわりも大学に行かずにアルバイトをし始めてしまったから、結局無用な心配だったが。

「……結婚、か……」

ふと、ひまわりに言われたことを思い出した。
結婚と言えば、忘れもしない出来事がある。

……ななこさんの、結婚だ。

オラが小学校の時のことだった。
ななこさんは就職し、同じ職場の男性と結婚した。
とても、いい人だった。その人を見た時、オラは全てを諦めた。この人なら、ななこさんを幸せに出来る――小学生ながら、生意気にも、そんなことを考えていた。

しかしまあ、ひたすら泣きまくったものだ。
そんなオラに、父ちゃんは言った。

『想いが成就することは、人生の中では少ない。人は誰かと出会い、想い、こうして、いつか想いを断ち切らなければならない時が来る。人生ってのは、そうやって繰り返されていくものだ。
――でもな、しんのすけ。大切なのは、その時に、どういう気持ちでいられるかってことだ。
ななこさんは、きっと幸せになる。本当にななこさんの幸せを思うなら、彼女の門出を祝ってやれ。
泣きたいときは、父ちゃんが一緒に泣いてやる。だから、祝ってやれ。それが、お前に出来る、最大の愛情表現だ―――』

そしてななこさんは、結婚した。
今では、二児の母となっている。時々家にも遊びに来る。幸せそうな彼女の笑顔を見ると、こっちまで幸せになる。

憧れは思い出に変わり、思い出はいつまでも心を温めてくれる。
そうやって、人は大きくなる―――

これも、父ちゃんの受け売りだ。

(ひまわりも、いつか結婚するんだろうな……想像も出来ないけど)

ひまわりのことを思うと、思わず笑みが零れた。
どうもオラはひまわりに甘いところがある。たった一人の妹で、大切な家族。オラの、大切な。

今はただ、彼女の幸せを祈りたい。
父ちゃん達が他界した時、ひまわりは塞ぎ込んでしまった。
学校にも行かず、ずっと仏壇の前で泣いていた。

今では、それも嘘のように元気だ。

でもひまわりは、家族がいなくなることにトラウマが残っている。
一度、オラが事故で病院に運ばれた時、泣きながら病院に駈け込んで来た。
病室で眠るオラに、大声で泣きながら『置いてかないで』と叫んでいた。
オラは寝てるだけだったのにな。

今はどうかは分からない。
ただ、彼女を心配させないためにも、オラは元気でいないといけない。

今のところ生活も安定している。
このまま、平穏に暮らせていけば、それ以上に嬉しいことはない。

「……そろそろ寝るかな」

寝室に戻ったオラは、布団に潜った。そして、静かに目を閉じた。

それから数日後、オラはとある居酒屋にいた。

「――かんぱーい!」

そこにいる全員が、高らかにジョッキを掲げる。

「風間くん、海外出張お疲れ様!」

「みんな、ありがとう!」

その日は、風間くんの帰国祝いが催された。
風間くんは、外資系の会社に勤めている。
数年前から海外出張をしていて、先日帰国したばかりだ。

「ホント、風間くんもすっかり一流サラリーマンね」

ねねちゃんが、感慨深そうにそう話す。
彼女は、保育士をしている。そして、オラたちの通っていた、フタバ幼稚園で勤務をしている。
園長先生が、相変わらず強面過ぎると、愚痴を言っていた。ただ、仕事自体は楽しそうだった。

「僕も、いつか風間くんみたいに、夢が叶うといいな……」

少し哀愁を漂わせながら、まさおくんは言う。
彼は今、とある漫画家のアシスタントをしている。かなり厳しい人らしいが、その分画力は上がってるとか。
今はアシスタントをしながら、漫画家デビューを目指し、日々ネームを作っているとか。

「風間くん、凄い」

ぼーちゃんは、チャームポイントの鼻水を垂らしながら、朗らかに笑う。
彼は、何かの研究者のようだ。その詳細は、企業秘密らしい。
ただ、先日研究チームの主任に抜擢されたとか。相変わらず、なんだかんだで、一番しっかりしてる。

「……それにしても、しんのすけもずいぶん真面目になったな」

「そ、そうかな……」

「そうそう。小学校までのしんちゃんからじゃ、到底信じられないくらいだわ」

「そんなに変だったかな……」

「うん。変だった。でも、面白かったけどね」

オラたちは笑い合い、昔話に花を咲かせた。
こうして今でも変わらず昔を語り合える友達がいることは、本当に素晴らしいことだと思った。

面白いな…(´・ω・`)

読んでて胸が痛くなるけど

おつおつ(´・ω・`)

happyendが望ましいが>>1の好きなように書いてくれ
続き楽しみにしてる

起床
再開

それから十数分後……

「――戻りました、お嬢様……」

今度は床下から這い出てきた黒磯さん。何でもありのようだ……

(ていうか、早すぎるだろ……)

そして黒磯さんは、一枚の紙をあいちゃんに渡す。
それを見たあいちゃんは、目を伏せた。

「……なるほど……こんなことが……しんのすけさんの心中、お察しします」

「察する程でもないって。特に何も考えてなかったからね」

「それでも、人のために行動するその御気持ち……あいは、感動しました!」

あいちゃんは紙を抱き締めながら、天を仰いだ。

「そんな、大袈裟だなぁ……」

するとあいちゃんは、視線をオラに戻す。そして、優しい笑みを浮かべて、切り出した。

「――しんのすけさん、あなたは、今の職場で働いていくおつもりですか?」

「う~ん……まあ、僕がいないと困るだろうし……。それより、なんで?」

「……実は、酢乙女グループの本社ビルで、新しく1名の雇用を募集しているのです」

「酢乙女グループの?」

「そうです。――しんのすけさん。そこに、応募してみませんか?」

「……え?」

「給料は今よりはいいはずです。少々体力を使いますけど……」

「いやいや、それはダメだよ」

「どうしてですか?」

「だって、なんかそれって、卑怯じゃないか。あいちゃんのコネで入るみたいな感じで……」

そう言うと、あいちゃんはフッと笑みを浮かべた。

「しんのすけさんなら、そう言うと思いました。……ですが、その心配には及びませんわ。
その募集自体は、一般に正規に知らせていること。それに、私がするのは、あくまでもそれを紹介しただけにすぎません。結局採用されるかどうかは、しんのすけさん次第なんですよ」

「あ、そういうこと……」

そしてあいちゃんは、表情を落とした。

「……ごめんなさい、しんのすけさん。本当はすぐにでも採用したいのですが……」

「分かってるって。あいちゃんは、そこの重役だしね。知り合いだからって、重要な仕事を無条件に任せるなんてしちゃいけないよ。
――そうだな。でも、せっかくあいちゃんが勧めてくれたから、ダメ元で受けてみるよ」

「……はい!頑張ってください!あいは、信じております!」

そしてオラは、応募した。
――だがその時、オラは知らなかった。オラが応募したそれが、どういう仕事であったのかを……

それから1週間後、オラは酢乙女グループ本社ビルの前にいた。

「ここが……」

摩天楼の真ん中にそびえ立つ、超巨大高層ビル……。見上げると、目眩を起こしそうになる。

「……やっぱ、超巨大企業だよな……」

しかしまあ、見上げてばかりでは前に進めない。
とりあえず、中に入ることにした。

入り口を入ると、エントランスホールが広がる。
しかしまあ、無茶苦茶広い。たぶん、あの工場くらいの広さがある。
何だか場違いなところに来てしまった気がする。

(……いかんいかん。今の内から呑まれてどうする。落ち着くんだ……)

一度大きく深呼吸したオラは、受付に話しかける。

「――あ、あの……」

「はい。いかがされましたか?」

「ええと……今日予定されている、採用試験を受けに来たんですが……」

「……あなたが……ですか?」

受付の女性は、どこか不審がるような目をしていた。受けるのが、そんなに珍しいのだろうか。はたまた、オラが何かマズイ格好でもしてるのだろうか。……まあ、確かに安物のスーツだが……

「……試験会場は、15階の会議室です」

しばらくオラを見つめた女性は、淡々とオラにそう説明した。
なんだか腑に落ちないけど、とりあえず、オラは10階に向かった。

「ここか……」

看板の立てられた会議室を見つけたオラは、一度深呼吸してドアを開けた。
ここに、ライバル達が……

「…………」

――目の前の光景に絶句する。

会場にいたのは、オラが想像していた人ではなかった。
皆、屈強な体をしている。顔に傷があったり、筋肉隆々だったり……。オラがドアを開けるや、全員が鋭い目つきでオラを睨み付けてきた。
その部屋だけ、海兵隊か何かの部屋のように異様な雰囲気だった。

「……間違えました」

オラは静かに、ドアを閉める。
そして入り口に立て掛けられた看板を、もう一度じっくりと眺めてみた。

そこに書かれていた文字は、何度見ても採用試験会場……間違いはないようだが……

何はともあれ、とりあえず中に入ることにした。

しんちゃん15階だよ…

>>113
スマン
普通にミスった

酉も消えてたし

ちょっと中断

それから少ししたら、試験管がやって来た。
年配の、とても小さい人だった。プルプル体が小刻みに震えている。
オラも浮いているが、オラよりもっと浮いていた。

「……えぇ、それでは、試験の説明に入らせていただきます。
試験は3日に分けて行われます。それぞれ、面接、体力、実技を行う予定です」

(実技って……何の?)

「それでは、さっそく始めますね。――ではまず、グルチェンコフさん」

「俺ノ出番カ!!採用ハ俺ガモラウカラナ!!HAHAHAHA…!!」

ゴリマッチョのドデカイ外国人さんが、片言で出ていった。ロシア人だろうか。
……てか、あんな人も受けてるんだ……

そこに来て、もしかしたら、すんごく変なものに応募してしまったのではと思い始めた。
だって、どう見てもパソコンとか使えそうにないし。
重火器使わせたらランボーより強そうだし。

全員が、まるで戦闘前のように瞑想にふけってる。
よく見れば、思い切りミリタリーチックな服装をしている人もいた。
スーツは、オラだけだった。

(……あいちゃん。オラに、何をさせようとしてるの……)

周囲を横目で見渡した後、溜め息を吐きながら、項垂れるしかなかった。

それから、続々と歴戦の猛者共が呼ばれていった。
全員が一様に、気合を入れて出ていく。
この人達は、戦地にでも赴くのだろうか……まあ、ある意味戦場ではあるけど。

どう考えても、会社員より兵隊さんが合ってると思うけど。

「――次の方……しんのすけさん!」

「あ―――はい!」

ついに、オラの名前が呼ばれた。

「……オイオイ見ロヨ」ヒソヒソ

「ナンダアイツハ。マルデモヤシジャナイカ」ヒソヒソ

「ダガ、俺達カラスルト、ライバルガ減ッテ助カルナ」ヒソヒソ

「マッタクダ。HAHAHA…」ヒソヒソ

メチャメチャ笑われてる。ていうか、片言なのにやけに達者だな。
確かに、ここにいる奴から見れば、俺は笑いの対象だろうけど。

なんだか居心地が悪くなったオラは、足早に面接会場へ向かった。

「――野原、しんのすけさんですね?」

「は、はい……」

面接室は、無駄に広い別の会議室だった。
そこに、試験官が2人いた。どう見ても、普通のおじさんだが。

「それでは、さっそく面接を開始します」

「は、はい!」

「……これから、あなたにいくつか質問します。その質問に対し、嘘偽りなく答えてください。なお、あなたの座る椅子には、ポリグラフ装置が組み込まれています。きちんと、答えてください」

「ポリグラフ……」

(つまりは、嘘発見器か……)

変わった面接だと思う。
通常、面接では大多数の人が本音を隠して受け答えをするし、企業側もそれを百も承知するはず。
なんだろうか。正直に言う人間に信用を置くのだろうか……

そして面接官は、重い口を開いた。

「――では、始めます……」

「………」ゴクリ

「……今まで、重火器等を用いて、人を撃ったことはありますか?」

「…………………はい?」

「また、それにより、人を殺害したことはありますか?」

「いやいやいやいやいやいや……ちょっとちょっと……」

「むぅ……ポリグラフが乱れていますね。一度、落ち着いてください」

(落ち着けるかあああああああ!!)

なんだこの質問は!?ポリグラフなんて使う必要もないだろ!!なんだこれは!!ふざけてるのか!?

……そこで、オラは察した。
きっとオラは、見かけだけで落とされたのだと。だからこそ、適当な質問をされているのだと……
おそらくは、これからも無茶苦茶な質問が来るだろう。

なんだか、凄く頭にきた。それに伴い、やけに頭が冷静になっていく。

(……いいさ。どんな無茶苦茶な質問でも、何でも答えるさ。オラの経歴に驚くがいい……!!)

そして、オラの戦いが始まる。

Q 今まで、人を殺したことは?
A 殺したことはありませんが、目の前で人が死ぬのは見ました

Q これまで行ったことがある場所で、変わったところはありますか?
A 過去と未来に行きました。あと、別の星とか。

Q これまでで、悪の組織等と戦闘したことはありますか?
A たくさんの悪の組織と対決しました

Q それは、例えば?
A 別の世界のオカマとか、世界征服を企む悪の組織とか。悪の組織はいろいろいました。世界を昭和時代に戻そうとしてたり、時間犯罪者だったり。ああ、サンバ躍らせたり人を動物に変えようとした奴もいましたね。

Q それらの組織は、どのようにして勝利したのですか?
A 色々です。正義の味方と一緒に戦ったり、象になったり、温泉入ったり。

Q それでは、これまでで一番の功績は?
A もちろん、幾度となく世界の危機を救ってきたことです。みなさんは知らないかもしれませんが、今の世界があるのは、全部オラ達のおかげなんです。

Q オラ達?他に、誰と一緒に?
A 両親等の家族や友達です。家族で世界を救ったことの方が多いでしょうね。

Q 分かりました。最後に、何か武道の心得はありますか?
A 小さい頃に、剣道をしてました。

Q 最終成績は?
A ちびっ子剣道大会で決勝まで行きました。辞退しましたけど。

Q その理由は?
A 当時テレビであってた、アクション仮面が見たかったからです。それに、当時のライバルに勝てたから満足しましたし。

Q 分かりました。ありがとうございました。
A いえいえ。どういたしまして。


……こうして、色々捻じ曲がった面接は終わった。

しかしながら、今考えても、小さい頃のオラって色々凄いな……

ちょっと中断

おはよう
寝てた

初日が終わったオラは、返りながら項垂れていた。
あんだけ無茶苦茶な質問が繰り返されたんだし、たぶん無理だろ……

とはいえ、試験は全て受けないといけないらしい。
本音を言えばもう行きたくないんだけど……それだと、せっかく紹介してくれたあいちゃんに申し訳ない。

しかたなく、二日目以降も行くことにした。

「――お兄ちゃん、なんか疲れてるね……」

家で、オラにお茶を出しながらひまわりが呟いてきた。

「ああ、ありがとう。……まあ、ちょっと慣れないことやったしな……」

(あんな面接、慣れてる人の方が珍しいだろうけど……)

するとひまわりは、困ったように微笑みかけてきた。

「……お兄ちゃん、無理しないでよね。お兄ちゃんさ、ときどき、色んな事を全部一人で背負っちゃうし」

「……」

「私もいるんだからね?家族なんだし……。だから、その……うまく言えないけど……」

あまり慣れないことを言ったからか、ひまわりは言葉に詰まってしまった。
……でも、それでも、彼女の気持ちは、思いは、十二分に伝わってきた。

「……ありがとう、ひまわり。少し楽になったよ……」

「……うん。頑張ってね!お兄ちゃん!」

ひまわりは、太陽のような笑顔をオラに向けた。

ひまわりは、漢字で向日葵と書く。別名、日輪草。
……父ちゃん、母ちゃん、ひまわりは、名前に負けないくらい、太陽のような女性に育ってるよ。

――明日も、頑張ろう。

――試験二日目。

この日は体力試験。酢乙女グループが所持する、ドームで開催。
とりあえずジャージで出場。
他の軍人(?)様は、皆が白いタンクトップ。
際立つ筋肉。漂う漢達の匂い。
……暑苦しい。

――第1種目「100m走」――

オラの記録、16秒。
他の皆様、平均11秒。
いや早すぎでしょ。

――第2種目「懸垂」――

オラの記録、4回。既に腕がパンパン。
他の方々……平均100回オーバー……
どういう体の構造してんの……

――第3種目「ソフトボール投げ」――

オラの記録、55m。
他の方々……100m越え連発……
野球選手でも目指しているのだろうか……


こうして、体力検査は進んでいった。
結果から言えば、オラが圧倒的最下位をひた走る形となる。
頑張ろうかと思ったけど、流石にもう無理だろうな。
他の方々が逞しすぎるし。

……そもそも、いったいなんの採用になんだろうか……

そして試験は、最終日を迎える。

100m16秒とか遅すぎぃぃぃwwww
やっぱり27だからか?
いや、タメの俺より遅い

>>153
あんまり調べずに書いた
ごめん

「――今日の試験最終日は、実技です。みなさん、頑張ってください」

「イエッサー!!!!!」

年配の人は、そう話す。
他の方々は、元気いっぱいに答える。

実技の場所は、とある建設現場……なぜこんなところだろうか。
ていうか、実技ってなんだろう……

オラの不安を他所に、試験管はよぼよぼと話す。

「……今日は、試験責任者である、酢乙女あい様が見学に訪れています……お嬢様、どうぞ……」

すると、試験管の後ろからあいちゃんが出て来た。

「皆様、今日の試験、頑張ってください」

「ウオオオオオオオオオオ!!!!」

興奮する男共。

(あいちゃん、来てたんだ……)

あいちゃんはオラの方を一度だけ見て、小さく笑みを零した。

(あいちゃん……オラ、もう無理っぽい……)

そして、試験官は口を開いた。

「――さて……そろそろ試験を開始―――」

――その時……

「――全員動くな!!」

「………へ?」

突然、その場所に男の怒鳴り声が響き渡った。

その声の方向を見ると、そこには、銃を構えた数人の覆面姿の男が立っていた。

「ええと……これは……」

よく状況が呑み込めない。全員が、動きを止めていた。
すると覆面達は、銃を向けてさらに叫んで来た。

「大人しく、酢乙女あいを渡してもらおうか!!」

(これって……)

相手は、銃を持っている。酢乙女あいを連れて行こうとしている。
それが意味するのは………誘拐?

(えええええええ!!??)

いくらなんでも、えええええ!?

あいちゃんは老人の陰に隠れて震えている。
超大企業の御令嬢だからだろうか。誘拐して身代金って流れだろう。

不思議と、頭は冷静だった。
あまりに現実味が無さ過ぎて、第三者的立場にいる感覚なのかもしれない。

「――チョット待チナ!!」

「―――ッ!!」

突如、逞しい方々が覆面達の前に立ちはだかった。

「オ嬢様ニハ……手ヲ出サセナイゼ!!」

そして男達は、一斉に覆面達に向かって行った。

ここぞとばかりに、自らの武勇を示すかの如く、逞しい方々は飛び掛かる。
勇ましい。実に勇ましい。
覆面達は銃を使う暇もなかったようだ。肉体と肉体による、激しい乱闘が始まる。
まるで映画のワンシーンのようだ。
オラは見物客だけど。しかし、アピールするには確かに最適かもしれない。

何も出来ないにしても、オラも何かすべきだろうか―――

――その時、オラの目が捕えたのは、恐怖のあまり涙するあいちゃんの姿だった。

その姿を見たオラは、無意識にあいちゃんの方に走り出していた。
そして震える彼女の体を掴み、声をかけた。

「あいちゃん!!大丈夫!?」

「し、しんのすけさん……」

とりあえずは大丈夫のようだ。とにかく、彼女をどこかへ避難させないと……

「あいちゃん!!まずここを逃げ―――!!」

「――試験!!終了~!!」

突然、試験官のおじいさんが声を張る。その声に、全員が動きを止めた。

「………へ?」

全員が動きを止める中、さっきまで泣いていたあいちゃんがすくりと立ち上がった。

「ええと……あい、ちゃん?」

「……しんのすけさん、騙してごめんなさい」

「……どういうこと?」

すると、あいちゃんはクスリと笑った。

「――これが、試験なんですよ。私の身が危なくなった時、真っ先に私に駆け寄って来るかどうかを確かめるための……」

「え?え?で、でも、あいちゃん震えてたし……それに、泣いてたし……」

オラの言葉に、あいちゃんは更に微笑む。

「……私の演技も、なかなかでしょ?」

(あ、あいちゃん……そりゃないよ……)

あいちゃんの説明に、筋肉隆々の男達はぶーぶー文句を言い始める。

「ナンダヨソレ!!」

「聞イテナイヨ!!」

……とまあ、好き勝手叫びまわっていた。
だがここで、試験官の爺さんが口を開く。

「――お黙りなさい!!」

それまでの彼とは全く違う、覇気のある言葉だった。
試験官の言葉に、男達は固まる。

「……お嬢様の身が危ないというのに、自分の評価のために、お嬢様を差し置いて犯人に飛びかかるとは何事ですか!!
あなた方は、これが何の試験か分かってるのですか!?
あなた方の行動は言語道断!!プロとしての意識が欠如し過ぎている!!――失格で、然るべきです!!」

「……」

男達は、黙り込んだ。
暑苦しい男達は、今にも泣きそうな顔をしていた。
鬼の目にも涙、か……

「……今回の試験の結果は、言うまでもありません。――合格者は、しんのすけさんです!!」

「……オラが?」

「しんのすけさん!!やりましたね!!さすが、私が見込んだだけありますわ!!」

「……う、うん!よくわからないけど、やったよあいちゃん!」

あいちゃんは本当に嬉しそうにしていた。それを見ていたら、オラもようやく試験を合格した実感がわいてきた。
もうダメかと思ったけど、諦めないで良かった!!
本当に!!

そして試験官は、締めの言葉を告げる。

「――これにて、“あいお嬢様ボディーガード選抜試験”を、終了します!!」

………何か、言った。

「…………え?今なんて?」

すると、あいちゃんはさも当然のように言う。

「ですから、私のボディーガードを募集する試験ですよ。
――しんのすけさん、今日からあなたは、私のボディーガードですわ」

あいちゃんは、嬉しそうに微笑みかけてきた。
……でも、それどころじゃない……

「聞いてないよおおおおおおおおおおお……!!!」

オラの叫びは、建物の壁に反響し、大きく響き渡っていた……

ちょっと中断

展開さむっ、お前らこんなん好きなんか?

>>172
すまんね
何も考えずにノリだけで書いてるんだよ

おつおつおー(´・ω・`)

あらやだ(´・ω・`)

ごくりんちょ(・c_・`;)

ほぅ……(о´∀`о)

>>594
ごめん。こんな感じ
すげえ印象に残ってるんだよね、このイラスト

あいちゃんのブラとパンテーが透ける!

>>595みたいな白ワンピなら透けるって健全な男子なら思っちゃうだろ

まだかな~

結婚式に四郎を呼んで「ちくしょうちくしょう」と妬いてる可愛い四郎が見たい

来たら結婚してた(´・ω・`)

>>691
まだ婚約やで

>>692
なるほどだお(´・ω・`)
流れ的に結婚不可避な流れだね(´・ω・`)
あいちゃんとしんちゃん、良いと思うお(´・ω・`)

いっち「さて、続き書くかな」

いっち「あれ?そういえば、昨日どこまで書いたっけか?」

いっち「えっと……は?婚約?」


自分の考えた展開に驚くいっち可愛い

四郎キター*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

なんかワロタwww

なんということなんだお(´・ω・`)!?

四郎さん…(´・ω・`)

刑務所に行くっていうオチかな?

あいちゃんとの婚約がご破算になる系統は勘弁願いたい
四朗くんがあいちゃんを~~とか

>>756
れいぷ!

人質にされても尚、人の事を心配を出来る子…(´;ω;`)
しんちゃん…(´・ω・`)

これレス数1000いくんじゃね?

「……僕はね、必死に勉強して、大学に入った。大学でも一生懸命単位を取って、卒業も出来たんだよ」

「……」

「……でも、就職先が見つからなくてね。当然だよね。年もそこそこ上で、四流大学出身、何の取り柄もない僕なんて、どの会社も欲しくはないだろうね。
――結局僕は、浪人生活に逆戻りさ。
皮肉だよね。大学浪人を抜け出した先にあったのは、就職浪人なんだよ……」

「……」

確かに、四郎さんが大学を出た頃は、ちょうど就職氷河期と呼ばれていた時代……
就職は、そうとう困難だっただろう。

「……それでも、仕事をしないと生活は出来ない。仕方なく僕は、アルバイトをしたんだ。
……でもそこは、地獄だったよ……」

「地獄……」

「僕ね、色々鈍いんだ。だから、仕事を覚えるのが遅くてね。
年下のバイトの先輩にはバカにされ、罵倒され……客にはクレーム入れられ、店長には怒鳴られ……そしてまた、後ろ指を指されて笑われる毎日だった……」

「……」

「それでも頑張ったんだ。今は耐える時だ。いつか就職出来れば、この生活も終わりだ。
……そう、毎日自分に言い聞かせてたよ。
そしてついに、僕は就職出来たんだ。小さな会社だったけど、それでも、僕は嬉しかった。これで普通の、落ち着いた生活が出来るって思ったんだ。
……でも、現実は違ってた」

「……それじゃ……」

「そうだよ。そこに待っていたものも、結局地獄だったよ。
怒鳴られ、笑われ、蔑まれ……何も変わらない、苦しいだけの生活だったんだ……」

「……四郎さん……」

「しばらく勤めたけど、最後には鬱になってね。
それを上司に言ったら、あっさりとクビを迫られたよ。
……そしてまた、僕は何もない生活さ……」

>>773
現実にこんな人よく見るからなんかリアルだお…(´・ω・`)

ひまわりは先に家に帰っていた。
一人だと怖いだろうからと、眠るまでは一緒にいた。
やはり相当疲れていたのだろうか、彼女はすぐに寝息を立てていた。

一人、帰り道を歩く。
そして家に辿り着いた時、玄関先にその人がいることに気付いた。

「……やあ」

オラは、少し笑みを浮かべながら声をかける。

「……おかえりなさい、しんのすけさん……」

その人――あいちゃんもまた、オラに返事を返す。

「オラを待ってたの?どうせなら、家で待ってればよかったのに……」

「いいえ。帰りを待つのも、妻としての役目ですので……」

「だから、まだ妻じゃないって。……それより、さっきはありがとう」

一瞬、あいちゃんは面をくらったように驚く。

「さっき、オラ達が捕まってた時、外にいたんでしょ?」

「……いつ、気付かれましたか?」

「別に、気付いてはいないよ。……ただ、あいちゃんのことだ。車椅子に、何か仕込んでたんでしょ?」

「……お察しの通りです。ひまわりちゃんの車椅子には、ひまわりちゃんの心拍数を計測して、もし異常値が出た後に席を離れて時、背に向けて発信機を飛ばす仕組みがありました」

「だろうね。天下の酢乙女グループの最新型だし、そんくらいの凄い機能はあると思ってたよ」

「………」

すると急に、あいちゃんは表情を暗くする。視線を下に向け、口を噛み締めていた。
そしてしばらく沈黙した後、静かに、口を開いた。

「……しんのすけさん、ごめんなさい。今回の件は、私のせいです」

ありゃ
間違って途中送信しちゃった
すまん

「いや、別にあいちゃんのせいじゃ……」

「いいえ。こうなったのも、私が余計なことを広げたからです。
私自身の警護は、常に万全です。しかし、こんなに早く、しんのすけさん達に危害が及ぶとは……」

あいちゃんの表情は、沈みきっていた。
今彼女は、自分自身を激しく責めているのだろう。

「……あいちゃん、それは違うよ。そもそも、四郎さんは、金目当てにオラ達を連れ出したわけじゃないし」

「……そうなんですか?」

「うん。四郎さんは、ただ、助けてほしかったんだと思う。
今の状態が辛くて苦しくて、どうすればいいのか分からなくて……それでも、毎日を過ごさなきゃいけない。彼は、疲れたんだよ。
だからこそ、オラの家に来たんだと思う。金目的ってのは、たぶん後付だろうね。
きっと、誰かに手を差し出して欲しかったんだと思う。自分の境遇を聞いて欲しかったんだと思う。
……最後に見た四郎さんの顔が、そう言ってた気がしたんだ。
もちろん、それは四郎さん本人じゃないと分からないだろうけど」

「……四郎さんは、しんのすけさんに救われたんですね」

「違うよあいちゃん。オラは、何もしてないんだ。ただ、少しだけ背中を押しただけ。
最後に足を踏み出したのは、四郎さん自身なんだよ」

「……そう、ですね……そういうことにしておきます」

あいちゃんは、ようやく笑みを浮かべた。

最後にあいちゃんは、深々と頭を下げる。

「――とにかく、本当にごめんなさい。これからは、気をつけるようにします」

「だから、それはいいって」

「……でも私、ますます気持ちが強くなりました。やっぱり私は、あなたと共にいようと思います」

「それは……どうなんだろ……」

「フフフ……言ったはずですよ?私、しつこいんです。――では、おやすみなさい……」

そしてあいちゃんは、微笑みを残して帰って行った。
何だかますます明日からの生活が不安になったが、今日は休むことにした。

家に入り、眠るひまわりの部屋を覗く。

「……お兄ちゃん……」

ひまわりは、目を閉じたままオラを呼んでいた。
……どうやら、寝言のようだ。

「……おやすみ、ひまわり……」

起こさないように呟いたオラは、ドアを閉める。
そして自分の寝室に行き、泥のように眠った。

……その日の夢は、久々に父ちゃんと母ちゃんが出て来た。
二人は、オラを見て笑っていた。とても、暖かい笑顔……とても、安らげる笑顔だった。

それから数日後、オラは仕事に翻弄されていた。

「――しんのすけさん!これとこれ!すぐにデータにまとめてください!」

「ふぁぁあいぃ……」

目の前には、次々と分厚い資料が山積みとなっていく。

酢乙女グループでは、新事業を進める。
その指揮を執るのが、あいちゃんとなっていた。

おかげで連日この有様。残業に次ぐ残業の毎日。家にはとりあえず帰って数時間程度寝るだけの毎日だった。
しかし今日が山場であり、明日以降は落ち着くとのこと。

オラは袖を捲り上げ、栄養剤を一気飲みする。
そしてパソコンに正対し、キーボードに覇気を込め―――!!

「しんのすけさん!これも追加!!」

……とにかく、頑張ってみる。
オフィスからは、今日もキーボードの音が鳴り響いていた。

>>895
やば
数日後じゃなくて数週間後だった

細かいことは気にしないでください

みちーよしりんはまだか!

>>897
それ、悩み中
てか、このスレ中に終わらせたい気持ちも微レ存
まあ無理だろうけど

あと100レスで終わるってのに。
このスレ中で終わるってのはペース的に厳しいと思います

>>901
いや、長くなりすぎたから、そろそろ締めようかと思ってたりしてます

>>902
そうなのかぁ・・・
最近の楽しみであるから続くなら続いてほしいって気持ちあるんだけど

>>903
まあ次もありますから

次の題材は何?

>>905
考えてない(´・ω・`)
いつも思いついたら書いてるからね
どうしましょ

そういや、前に題材募集してたな。
ドラ・クレしんときたわけだし
あえて、プロ野球選手とか戦隊ものとかどっかの企業の社長とかみたい。

>>907
ああ、戦隊ものいいかも
書いたことないし、書いてみようかな

>>910これ思い出した
http://woman.mynavi.jp/article/140604-54/

クタクタに疲れ果て、家に帰る。
今日は連日の残業を考慮され、日中に退社させてくれた。

玄関を開けるも、もはや『ただいま』を言う元気すらもない。靴を脱ぐなり、這いつくばるように家の中に入って行った。

「―――そうだね。それは分かってる……」

――ふと、台所から、ひまわりの声が響く。

(ん?)

「……そう……うん……ごめんね……」

どうやら、電話中のようだった。相手はおそらく、風間くんだろう。

盗み聞きをするのもアレだったから、とりあえず二階へと避難することに。

「……でも、やっぱり……そう……ごめんね……」

……何やら、重苦しい口調だった。
なんだろうか。何か、トラブルでもあったのだろうか……。

どうするか悩んだが、あえて声を出してみた。

「……ただいま」

「え――ッ!ご、ごめん!お兄ちゃんが帰ってきた!またあとでね!」

台所の奥から、慌てて電話を切るような会話が聞こえる。
そしてその後、きこきこと音を鳴らしながら、ひまわりは車椅子で出迎えた。

「お、おかえり!今日は早かったね!」

「ああ。ちょっと早く終わってな」

「そうなんだ!ほら、早く着替えてきなよ!」

「……そうするよ」

オラは、家の奥へと向かう。

……やはり、何かあったようだ。
ひまわりの話し方が、無駄に明るい。こういう時は、何かをオラに隠しているパターンだ。
伊達に彼女と長く過ごしているわけではない。彼女の癖など、オラにはお見通しだった。

……問題は、何を隠しているのか、ということ。
話しの感じから、おそらくは風間くんとの何かだろう。

……しかしまあ、男女の仲に親族が首を突っ込むのもアレだったので、オラは気にせず、食事の用意を始めた。
今日のご飯は、焼き魚にしよう。

>>911
う~ん、こういう切り口もいいけどね
さっき思いついたのは、それとは違う方向かな

次回作
こち亀とかおじゃる丸とかもいいと思うの

>>915
ごめん
もう決めたわ

あまり無駄なレスはやめといたほうが良いな

>>918
別にいいよ
足りなくなったらまた立てるし

「――しんのすけさん、昨日はお疲れ様でした」

次の日、出勤するなり、あいちゃんはコーヒーを持って歩み寄ってきた。

「ああ……ありがとう、あいちゃん」

「すみませんでした。本来、あの仕事はしんのすけさんがすべきことではなかったのですが、人手が足りず……」

「いやいや、全然大丈夫だよ。むしろ、久しぶりに思いっきり働いたって感じだったし」

少しオーバーに、手足を伸ばしてみる。
それを見たあいちゃんは、クスクスと笑っていた。

「そう言ってくれると、こちらも気が楽です。……それはそうと……」

ふと、あいちゃんが話題を変えて来た。

「あの、しんのすけさん。……風間さんから、何か話はありませんでしたか?」

「え?風間くんから?……いやぁ、何もないけど……」

「そうですか……。それが先日、噂で聞いたのですが……〇△企業が、海外に新たな支社を作るらしいのですが……」

「〇△企業?風間くんの会社……」

「はい。そしてその支社の経営を、若い者が任されたらしいのです。――その人の名前が……」

「………まさか……」

何か、嫌な予感がした。
オラの顔色が、瞬時に変わったのかもしれない。あいちゃんは、少し躊躇するように、口を開いた。

「……はい。風間……という人らしいのです……」

「………」

……考えるまでもないだろう。それはおそらく、風間くんに違いない。
海外の支社を任される若い社員でその苗字なら、彼しかいないはず。

……でも、もしそれが本当なら……

「………ひまわり……」

思わず、その名前を口にしていた。
あいちゃんは、ただ険しい顔をして、オラを見つめていた。

今日はもう寝ます

おつおつだお(´・ω・`)

再開

仕事終わり、家に向かう。
あいちゃんが言っていたことが本当なら、風間くんは海外の支社に向かう。そしてそこに、永住する。
……それなら、ひまわりは……

(……付いて、行くんだろうな……)

そう考えると、心の中に穴が空いた気分になる。
……でも、鳥はいつか巣立ちをして、家族から離れていく。それが、今かもしれない。
それはとても寂しいことだと思う。だけど、それが一番ひまわりが幸せになることだと思う。
それなら、オラは……

「……ただいま」

重い体を引きずるように、家に帰り着いた。

「お帰り!お兄ちゃん!」

ひまわりは、いつもと変わらない笑顔を向けていた。でもこれも、そのうち消えてしまうのかもしれない。
……それに、それは話しにくいことでもあるだろう。オラは、背中を押すことにした。

「……ひまわり」

「うん?どうしたのお兄ちゃん?」

髪を揺らしながら、ひまわりは首を傾げた。

「……風間くんから、何かなかったか?」

「………え?」

ひまわりは、固まった。やはり、話を聞いていたようだ。

「今日さ、聞いたんだよ。風間くんが、海外に行くことを……もちろん、聞いてるんだろ?」

「………」

ひまわりは、表情を落としていた。

それから、オラ達の間に沈黙が流れる。居間の方から、テレビの音が小さく聞こえるだけだった。
玄関に立つオラ。廊下で動かないひまわり。
――とても、長い時間が流れたように感じた。

「……ひまわり……あのさ―――」

「――別れたよ」

ひまわりは、オラの言葉を遮るように、早口でそう言った。

「……え?」

「私達、もう別れたの。言ってなくてごめん」

「い、いや……別れたって……」

「――ほらお兄ちゃん!晩御飯出来てるから、ご飯にしよ!私、お腹空いちゃった!」

そう言うと、ひまわりは再び笑顔をオラに見せ、奥へと向かう。

「お、おい!ひまわり!」

彼女は、オラの呼び掛けには答えなかった。

(……別れた……別れたのか?)

その時、オラの中では二つの想いが入り混じる。
二人が別れたことの動揺。残念さ。……そして、少しの安堵感。

その安堵感を感じたオラは、無性に自分が許せなく思った。
だけど、どうすればいいのかも分からず、唇を噛み締めたまま立ち尽くしていた。

支援。
新しいスレ立ててもいいと思う、無理矢理終わらせるよりはずっといい。

>>930
無理矢理じゃないです
ただ、色々別の話ぶっこんだら、どんどん話が膨らんで凄まじい量になるんで自重します

むしろぶっこんで欲しいとみんなが思っているのでは?

>>933
そう言ってくれると嬉しいです
とりあえず、続き書きます

次の日も、また次の日も、ひまわりは変わらない日々を過ごしていた。
あれ以降、その話題に触れることはない。
ひまわりが、一切その話題に触れることはなかった。何も話さず、ただ日常の光景が繰り広げられるだけだった。

……いや、それは卑怯な言い方だろうな。
ひまわりが話さないんじゃない。オラが、聞かないだけだった。
たぶん、心の中では、このまま風間くんと別れて、ひまわりがずっといてくれることを望んでいるのかもしれない。
でも、胸の中にあるモヤモヤは、全く取れない。

行って欲しくないという気持ちと、曇りがかった憂い……その両方がオラの中に混在し、頭の中をグチャグチャにさせる。
……これじゃあ、どっちが保護者なのか分かったもんじゃない。
こんなにオラは、頼りない奴だったのだろうか。何だか自分が自分じゃない気持ちだった。

……そして、オラはまた、実体の掴めない気持ちに揺らされる毎日を過ごしていた。

「――そうですか……ひまわりちゃんが……」

「はい……」

仕事の休憩中、オラは黒磯さんに、自分の胸の内を打ち明けた。
黒磯さんは、嫌な顔一つせず、オラの愚痴のような話に付き合ってくれた。

「……私自身、そういう恋愛沙汰は疎くて……何とも言えないところはありますね。
ただ、それは本当に、ひまわりちゃんが望んだことなのか――それが気になります」

「……どういうことですか?」

「………」

黒磯さんは、何かを考える。目はどこかを向き、まるで言葉を防ぐかのように、手を口に添えていた。

「……それは、今はまだ分かりません。
それよりも、私としては、別のことが気になりますね」

「別のこと?」

「……あなたのことですよ、しんのすけくん」

「お、オラ?」

「……人は、何か複数の選択肢で悩む時、答えは、既に決まってるものなんですよ。悩むのは、その確認作業なんです。
これで本当にいいのか分からない。そうしたいが、それが正しいのか分からない。
だからこそ、人は誰かに救いを求め、教えを乞うのです。そして、自分の判断の正しさを検証するのです」

「………」

「……さて、しんのすけくんは、どちらに決まっているのですか?もちろん、その答えは、しんのすけくんにしか分かりません。
ただ、私の知るあなたなら、きっと後は足を踏み出すだけなんです。何しろあなたは、お嬢様が認めた人物なのですから」

「……黒磯さん……」

話し終えた黒磯さんは、微笑みだけを残して立ち去って行った。
彼の話は、オラの体深くに響いていた。

……本当は決まっているはずの、オラの気持ち……
でも今のオラには、いくら考えても分からなかった。

戻った
財布落としたー\(^o^)/

>>948
え?マジで?

>>949
うん
色々手続きしてたら遅くなった
泣きそうだったりする(´;ω;`)ブワッ

今北産業

>>951
俺氏
財布落とし
泣きそうだし

この悲しみをこの話にぶつける
……鬱展開、いっちまうか……?(☆ω☆)グフフ…

仕事を終え、帰宅する。
しかし家とは別の方向に歩いていた。このまま素直に家に帰るのは、少し複雑だった。
フラフラと商店街を歩く。
一体どうすればいいのか、改めて自分に聞いてみる。……返事は、出来なかった。

「――しんちゃん」

ふと、後ろから話しかけられた。

「……ん?」

後ろを振り返ると、そこにはぼーちゃんがいた。

「ああ、ぼーちゃんか……仕事帰り?」

「うん。……ねえ、しんちゃん」

「うん?なに?」

「……ちょっと、いい?」

ぼーちゃんは、何かを訴えるかのような目をしながら言ってきた。
何か、話があるのだろうか……

ぼーちゃんに誘われるまま、オラ達は近くのファミレスに移動した。

ボーちゃんの声が想像出来ない

>>963
そのままで再生してる(´・ω・`)

ファミレスの中は、客が疎らだった。
ぼーちゃんはコーヒーを飲みながら、小難しい顔をしていた。

「それで……ぼーちゃん、話があるんでしょ?」

「……うん」

ぼーちゃんはコーヒーカップを置き、オラを見た。

「……僕、この前、風間くん達を見た」

「……え?」

「公園で、話してた。……ひまわりちゃん、泣いてた」

ぼーちゃんは、沈んだ表情でそう話す。

「……ひまわりが……どんな話かは、聞いたの?」

「詳しくは、聞けなかった。……でも、二人とも、とても悲しそうだった……」

「……そう……」

おそらくは、ひまわりとぼーちゃんが言うことが本当なら、たぶん別れ話をしていたんだろう。
そして、ひまわりは泣いていた―――それが意味することは、おそらく一つしかないだろう。

思案に耽っていたオラに、ぼーちゃんは声をかける。

「……僕、二人のことは、よく分からない。何があったかも、分からない。
でも、二人に、あんな顔、してほしくない。それは、しんちゃんも同じだと思う」

「ぼーちゃん……」

そしてぼーちゃんは、もう一度コーヒーを飲む。

「しんちゃん……キミは、僕の大切な友達。キミのことを、信じてる……」

ぼーちゃんは、それ以上何も言わない。
……いいや、きっとそれだけで十分だと思ってるんだ。オラを、信じてるんだ……。

「……分かったよ、ぼーちゃん。オラ、やってみるよ」

少し大きく、返事を返す。ぼーちゃんは、ニコリと笑っていた。

数日後、オラはとある公園にいた。
空はあいにくの雨。視界に斜線を入れるかのように、雨が降り続いている。
当然、公園に他の人はいない。
掻き消されているのか、降りしきる雨の音以外、何も聞こえなかった。

その中で、傘をさしてベンチに座る。
実のところ、オラは雨の日が嫌いではない。
雨粒を受けた木々、花々は天の恵みを受け生き生きと存在感を示す。濡れたアスファルトからは、普段とは違う、そう、雨の匂いがしていた。
この風景を見ていると、どこか落ち着いて来る。
天の恵み……なるほど、その言葉も納得できる。

「……しんのすけ」

ふと、雨音に紛れるように、オラの名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声の主は、誰だか分かっていた。なぜなら、オラが呼んだからだ。

オラはその人物の方を向く。

「……やあ、待ってたよ、風間くん……」

「………」

風間くんは、何も言わずに立っていた。
スーツ姿にビジネスバッグ、黒いコウモリ傘をさしている。
その表情は、薄暗く空のかかる、雨雲のようだった。

「……とにかく、座りなよ」

「……ああ」

ベンチに座るよう促すと、濡れたベンチを気にすることもなく、風間くんは座った。
そしてオラ達は、しばらくの間、会話を忘れて水に潤う情景を眺めていた。

少し時間が経った頃、風間くんの方を見る。
どこか落ち着かない様子で、表情を伏せていた。
……それも、無理もないのかもしれない。

「……いきなり呼び出したりして、ごめん」

「……別にいいよ。それよりしんのすけ。用件、なんだよ」

風間くんは、目の前の景色を見つめたまま、急かすように訊ねる。だがその口調から、おそらくは、用件など分かっているようだった。

「ああ……。風間くん、この公園に、見覚えあるよね?」

「……」

「こんなところに呼び出したのは、“あの日”のことを聞こうと思ったんだ……」

「……まあ、そうだろうって思ったよ。まったく、誰に聞いたんだか。よりによってここに呼び出すなんてな。
――しんのすけ、ちょっと冗談が過ぎるぞ」

風間くんは、ようやくオラの方を向いた。
一つは、オラの用件が予想通りだったことから、開き直ったのかもしれない。

……ここは、ぼーちゃんが、ひまわりと風間くんを見た公園だった。

「……聞くも何も、普通の話だよ。付き合っていた彼女から、僕がフラれた。
――ただ、それだけのことさ。聞いても、つまらない話だよ」

風間くんは、淡々と話す。
それは間違いない。だが、それだけじゃない。風間くんは、話を早く終わらせようとしている。
つまりは、オラに話しにくい何かがあるということ。

「……風間くん、友人としてお願いするよ。あの日、何があったの?」

「……」

「凄く言い辛いことかもしれない。だけど、話して欲しい。
それはきっと、オラが知らなきゃいけない、とても重要なことだと思うから……頼む……」

「………」

風間くんは、オラの目を見ていた。何かを探るように、確かめるように。
そんな彼を、オラは見続けた。視線を逸らさず、ぶつけた。

「……はあ。そう言えば、お前も強情だったな、しんのすけ……」

大きく息を吐いた風間くんは、諦めたように呟く。そして視線を前に戻し、目を細めて話し出した。

「……もう、聞いてるかもしれないけど。僕な、海外の支社を任せられることになったんだよ」

「……ああ、聞いたよ」

「だろうな。――ホント、大出世だよ。言わば、僕は支社長になれるんだ。
これまで頑張ってきた苦労が実ったんだ。こんなに嬉しいことはない。僕は、意気揚々と彼女――ひまわりちゃんに報告したんだ」

「………」

「そしたらね、彼女言ったんだ。“私は、どうなるの?”って。僕は、すぐに彼女が言わんとすることが分かったよ。
……彼女は、本気だったんだ。本気で僕と、一生添い遂げるつもりだったんだ。だから僕が海外に行くことに対して、自分はどうなるのかって聞いてきたんだよ。
本当に、嬉しかったな。海外の支社を任され、好きな女性に本気で想われて……人生で、最高の瞬間だった」

風間くんは、少し照れるように話していた。……でも、その顔は長くは続かなかった。すぐに視線を落とし、呟くように話した。

「――しんのすけ、これから先は、怒らずに聞いてほしい」

「……分かった」

オラの返事を待って、風間くんは切り出す。力強く。はっきりと。

「……彼女の想いに触れて、僕は決めたんだよ。一生、彼女を大切にしよう。添い遂げようって。
――だから僕は、彼女にプロポーズしたんだ。――結婚を、申し込んだんだよ」

「………」

雨は、更に激しさを増していた。

「そしたらさ、見事にフラれたよ。僕の思い違いだったみたいだ。……まったく。カッコ悪い話だよな、ホント……」

彼はそう話しながら、苦笑いを浮かべていた。

だけど、オラは気になっていた。
ひまわりは、なぜ風間くんとの別れを選んだのだろうか……。
彼女の想いは、オラが見ても分かるくらい本気だった。にも関わらず、彼女は別れを選んだ。

……その理由は、容易に想像出来た。
だからこそオラは、両手を握り締めた。握る拳は震える。我慢するのに、必死だった。

「……風間くん。ひまわりは、なんて言ってた?」

「……」

「……教えてくれ。風間くん……」

風間くんは、少し躊躇していたようだ。それでも、話してくれた。

「……彼女が言ったのは……」

「………」

「―――――、―――――」

「………」

風間くんの言葉は、囁くように、静かにオラの耳に届いた。
雨音は激しく響く。だけど彼の声は、それを潜り抜け、やけにはっきりと聞こえた。

(………クソ……)

思わず、そう思った。
それは、オラ自信に対する言葉だった。

風間くんと別れ、オラは家路につく。
雨は一段と強く降り注いでいたが、オラには傘をさす気力すらなかった。

(……ひまわり……)

ずぶ濡れになりながら、雨の中に彼女の姿を思い浮かべる。
大切な家族。大切な妹。
いつも明るく、笑顔を向ける彼女。
……オラの、たった一人の、家族……

「………」

無言で、玄関の扉を開ける。

「――おかえりー」

ドアの音を聞いたのか、ひまわりは奥から出て来た。

「うわっ!ずぶ濡れじゃない!お兄ちゃん、傘持っていかなかったの!?」

雨に濡れたオラに、ひまわりは驚いていた。
しかしオラの耳は、彼女の言葉を素通りさせる。

ひまわりの顔を見た瞬間、風間くんの言葉が脳裏に甦っていた。


―――彼女、泣きながら言ってたよ。“お兄ちゃんを一人には出来ない”って―――


「……ひまわり……」

無意識に、口が動いた。

「うん?なぁに?」

一度目を閉じ、頭の中の想いを整理する。
ひまわりの言葉、顔……そして………

「――この家を、出ていけ………」

あんらー
これ絶対間に合わないわな


  バン   はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/

バンバンバンバンバンバンバン
バン     バンバンバン
バン (∩`・ω・) バンバン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
   \/___/ ̄ ̄

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