犬娘「魔王になるっ!」 (363)

オリジナルファンタジー
地の文多め、長め、更新遅め
グロ、微レズ有り


関連
犬「オリハルコンの牙」
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女剣士「目指せ!城塞都市!」魔法使い「はじまりのはじまり」 - SSまとめ速報
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前作(非関連)
料理人と薬学士
料理人と薬学士 - SSまとめ速報
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久しぶりに書いてみようと思います

よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407257058

第一章「犬娘、出会う」

かつて魔物により滅びたはじまりの国と呼ばれた国は、長き時間を経て蘇り、今はサイセイの国と呼ばれている

そのサイセイの国から南西の沖合に、三つの国が支配する菱形のとても大きな島、カイオウ島がある

今、その島の北に、新しい国を作ろうとして鍬を振るう少女の姿があった

その少女は茶色のサラサラショートに子供と見紛うほどの小柄で、どこかの国のお姫様と言ってもいいくらいの可愛らしさだ

ただ少し、その少女の普通と違う点を上げるならば、頭から小さな三角の犬の耳が、お尻からふわふわな犬の尻尾が生えている所だろうか


犬娘「よいしょおっ!」

魔物兎「きゅっ、きゅ~!」

犬娘「よいっしょ!」

犬娘「ふい~」


魔物兎「きゅい~」

一仕事終えた犬娘にメイドの娘から声がかかる

そのメイドの娘も犬娘とほぼ変わらないくらいの身長でほわほわ金の髪が柔らかに太陽を反射している

少し目つきが悪い以外にその娘が普通と違う点を上げるならば、自分の背丈ほどもあろうかと言う仕込み杖を携えている所だ


メイド剣士「魔王様、少しお休みください」

もしそこに事情を知らない者がいれば、慄然としたかも知れない

メイドの娘は確かにその犬の娘を、魔王様、と呼んだのだ


犬娘「冷たいお茶飲みたい~」

メイド剣士「……用意してます」

犬娘の不意の要求にも、メイドの娘は完璧に応える

そうでなくてはいけないと考えている


ふと、メイドの娘は犬娘の腕に目をやる

主人の体に傷があるのを見つける度にメイド娘の小さな胸が痛む

自分は彼女を守ることをヤマナミ王直々に任命されたのだ

それなのに彼女は私を庇い、生傷を増やす



…………



――ヤマナミの国――

ヤマナミ王家は二百年前の先祖からの同盟関係である魔王軍との関係を更に深め、今やその国には多くの亜人や魔人が住み着いている

犬の娘がその国に現れたのは、勇者の国オリファンの、春の月の勇者祭りが終わった頃であろうか

国王は誰にでも平等に接するため、週に一度、町民や冒険者の接見を許していた

犬娘もその接見を求める群集の中の、一人であった

汚らしい貧民の男や暗殺者のような男、屈強なオーガや竜人に紛れ、一際小さな犬娘は列の先頭を覗き込むように眺めていた

果たして今日中に接見出来るのであろうか?

漸く城に着くと、幾つかの部屋に分かれて事前の審査が行われていた

犬娘は自分と同じくらい小さなメイドの娘にその一室へと案内された

メイド剣士「こちらの部屋へどうぞ」



…………


メイド剣士「では、面接をお願い致します」

犬娘の面接を担当するのは幸運にも、代々王家の親族が担当しているメイドの長であった

メイド長「はいは~い、おお、可愛い!」

ジュルリと涎を啜るメイドの長

メイドたちの容姿を見た時にだいたい想像はついていたが、そういう趣味の人のようだ

メイド長「んで、王様に会って何を聞きたいのかな?」

急にきりっとしたメイド長の質問に、犬娘は緊張でドキドキしながら答える

犬娘「は、はい」


犬娘「代々ヤマナミに保管されているという、闇の衣が欲しいのです」

メイド長「……」


メイド長「はあっ?」

メイド剣士「……何を……バカな!」


犬娘は突然叫んだメイド剣士の声に、ビクッと竦み上がる


闇の衣は伝説では、最後の破壊神を封印したアイテムであり、真の魔王とも呼ばれるコトー王から八代ほど前のヤマナミ王が譲り受けた品でもある

言わば魔族と人類の恒久的な同盟証とも言える品なのだ

メイド長「なんであんなもん欲しいの?」

メイド剣士「あんなもんって何ですか!」

メイド長「だってつまんない石っころだよ、あれ」

犬娘「だ、駄目でしょうか?」

メイド剣士「駄目に決まっています……お帰りください」


メイド長「……なんで剣士ちゃんが仕切ってんのかな~、いいよ、王様に会わせてあげる」

犬娘「えっ!」

メイド剣士「はあっ?」

メイド長「暇だから面白いの連れてこいって言われてるしね~」

メイド剣士「暇だから……暇だから……」

何やらメイド剣士はショックを受けている

メイド長「じゃ、行こうか、抱っこしてあげる」

メイド剣士「あなたがしたいだけでしょう」

メイド長「当然!」

犬娘「はわっ」

メイド長は犬娘を抱きかかえると、王の間まで走り出した


衛兵「城内で走らないでくださ~い」

メイド長「すみません」

明らかに格下の衛兵に叱られて、メイド長はしょんぼりした


長身のメイド長に抱えられると犬娘は少し大きなぬいぐるみのように見える

謁見の間に入ってきたメイド長が抱える者に、ヤマナミ当代君主、ヤマナミ十六世は一瞬気付かなかった

ヤマナミ王「おはよーメイド長のお姉ちゃん」


ヤマナミ十六世は若くして王位を継いだため、未だ十代である

父の十五世は息子が天才であることを知ると、遊ぶためにあっさり引退したらしい

メイド剣士「もう嫌だこんな王家」

メイド剣士が悪い目つきを一層つり上がらせて震えている

犬娘(可愛いなあこのメイドの娘)

犬娘がちらりとメイド剣士を見た所で、ヤマナミ王は気付いた

ヤマナミ王「わあ、獣人の女の子なんだ、お人形かと思った!」

メイド長「お待ちかねの面白い子だよ~」

メイド長は極めて適当に犬娘を紹介する

ヤマナミ王「なんのご用?」

改めてヤマナミ王に見据えられ、犬娘は緊張した


犬娘「あの……闇の衣が欲しいです」

ヤマナミ王「うん、駄目だね」


メイド長の対応で断られるとは思っていたが、推測していたよりずっとあっさりすっきりさっぱりずっぱり断られた

犬娘「あうぅ……」

ヤマナミ王「なんであんな石っころ欲しいの?」

メイド剣士(伝説のアイテムを石っころ石っころって……)

メイド剣士が隣で血管をぴくぴくさせている

犬娘は一層怖くなってきた


犬娘「ま……魔王になりたいんです」

メイド長「犬娘……面白い娘!」

メイド剣士「面白くありません……!」

メイド長の軽さにメイド剣士はほとほと愛想が尽きたかのように呟く


ヤマナミ王「まあ、うちは魔物には寛容なんだけどさあ」

ヤマナミ王「流石に魔王になりたいから支援よろしくって言われると、ねえ」

犬娘「悪い魔王は目指しません!」

ヤマナミ王「うん、悪い子には見えないよ」

ヤマナミ王「でも知ってると思うけど、闇の衣って最強クラスの結界の一つだからさあ」

ヤマナミ王「コトーの魔王と同盟してる国がハイそうですか、って渡せないよね?」

犬娘「コトーの魔王様に了承を取ればいいですか?」

ヤマナミ王「て、言うかさ、魔王になるだけならあんなのいらないでしょ、今日から魔王ですって宣言したらいい」

ヤマナミ王「お手軽になんでももらっちゃおうとかさ、最近の若い子は……」

メイド長「王ちゃんもお子様だけどねえ」

ヤマナミ王「うっさい」

見た目完全にお子様なヤマナミ王にも王としてプライドがあるようだ


ヤマナミ王「で、なんで魔王になりたいのかなあ?」


犬娘「はい」

それから犬娘は語り始めた

…………



犬娘が生まれたのはかつて魔王に滅ぼされた国、サイセイの国の、南の外れの森である

サイセイの国はその国が一度魔物に滅ぼされた経緯があるために、魔物に対していい感情を持ち合わせていない

そのためサイセイでは、平和な時代である現代にあっても魔物たちと人間の小競り合いが続いていた

そんな国で魔物たちは森の中に小さくいくつかの村を作り暮らしている


ある日、犬娘は傷付いた小さなうさぎの魔物を見つけ、村に連れ帰った

犬娘の両親は人間に痛めつけられたであろう小さなうさぎを哀れに思い、共に暮らすことを許してくれた

犬娘「……良かった」

魔物兎「きゅー、きゅー!」


犬娘の父親は獣人、母親は人間である

犬娘はもちろん人間が嫌いでは無かった

しかし、魔物嫌いの人間が度々魔物の土地を脅かしてくることに不安は抱いていた


そんなある日、犬娘の村に勇者を名乗る人間が現れた


勇者「薄ぎたねえ魔物ども……覚悟しやがれ!」

魔物の村は騒然となった

自ら勇者を名乗るだけあってその悪漢は素早く、強く、大人の獣人や巨人が取り押さえようとするも、捕らえる事ができない

あっと言う間に斬り伏せられる大人たちを、犬娘は呆然と見ていた

…………


メイド剣士「……酷い……」

メイド長「勇者か、サイセイの奴だね」

ヤマナミ王「サイセイでは未だに時代錯誤の勇者選びをやってるんだよね~」

ヤマナミ王「まあコトーの魔王様はじめ魔王を名乗る人はたいてい滅茶苦茶強いから返り討ちだけどね?」

メイド長「ヤマナミでも何代か前に軍隊派遣して勇者の軍隊を潰したことあったっけ」

ヤマナミ王「魔物との不戦協定は継続してるのに魔物にちょっかいだして殺されて……挙げ句の逆恨み勇者なんか人間は望んでないからねえ」

犬娘「皆がそうなら良いのですが……」


…………


勇者を名乗る人間は村の大男たちをほとんど斬り伏せてしまった

犬娘は

勇者に向かって走った

油断していた勇者の顔に、犬娘の強靭な脚から繰り出される蹴りが直撃した

勇者「ぐああっ!」


犬娘「なぜ!」

犬娘「なぜみんなを殺したの?!」

犬娘は大きな目に一杯の涙を溜めて勇者を睨みつけた

勇者「くそっ、クソ魔物があっ!」

犬娘「あなたの方がクソ魔物です!」

犬娘「みんな……みんな平和に暮らしていたのに!」

話を聞かず、勇者は犬娘に斬りかかる

が、犬娘の反射神経は勇者を上回った

犬娘は子供の頃に聞いたお話を思い出していた

最後の魔王を倒した犬の勇者のお話だ


そのお話を聞く度に犬娘は自分の耳と尻尾を誇らしく思ったものだ

だから野山を駆け回り、生まれ持った獣人の肉体を鍛えに鍛えた

結果、その体は大人の魔物と変わらないほど強くなっていた


それが良くなかった

勇者は怒りに燃え、犬娘の話に耳を傾けようとしない


勇者「死ねっ!」

犬娘は善戦するも、剣との戦いに慣れていない事もあり、どんどん押されていく

犬娘「ひっ!」

体力が限界に近付くが、ずっと戦い続けている勇者も疲れ切っている

犬娘「なぜ話を聞いてくれないの!」

勇者「魔物が救いを求める人間を助けたことがあるのか!」

犬娘「あるよ!」

犬娘「私のお母さん人間だもん!」

勇者「!」


一瞬勇者の動きが止まった

剣を奪おう

犬娘は勇者の腕に噛み付いた

勇者「くそっがあっ!」

振り切られた


地面に叩き付けられる犬娘

勇者は犬娘にとどめを刺すために剣を振り上げた

そこに覆い被さる影

目の前に飛び散る鮮血……

母親「犬娘ちゃん……逃げ……て……」

勇者「!!」

勇者「うわああああああっ!」

人間を斬った

その事実に勇者は激しく動揺した

父親「逃げろ、娘よ!」

犬娘「お父さん!」

犬娘は父親の獣人の背に隠れた

父親「外道があ、同族をも手にかけるかあっ!」

犬娘「お父さん!」

父親「早く逃げろ!」

父親「お母さんの死を無駄にするな!」

犬娘「!!」


父親の言葉に、犬娘は母親の哀れな姿を見てしまう

犬娘「う、うわあっ!」


勇者「……違う……違うっ、違う!」

勇者「俺は……!」

犬娘の父親は勇者をその豪腕で殴りつけた

父親「俺の妻を……返せ!」

勇者「……くっ……魔物が、魔物が、魔物が……貴様等がいなけりゃ……」


勇者「死ねえっ!」

父親「貴様だあっ!」

父と勇者が激しく戦う中、犬娘は恐れをなし、逃げることしか出来なかった


その後……数日森をさまよったのち村に帰った娘の前には、哀れな姿になった両親の亡骸があった


魔物兎「きゅーっ」

犬娘「うさちゃん!」


打ち拉がれ、泣きつつも、犬娘は両親や村の大人たちの亡骸を数日かけて一人で埋葬すると、魔物兎を近くの村に預けて旅に出た

…………


ヤマナミ王「なるほど、よくわかったよ」

ヤマナミ王「……それで、犬娘ちゃんは勇者に復讐したいのかい?」

犬娘は首を横にふる

犬娘「私は復讐なんか望みません、クソ魔物じゃないですから」

メイド長「あははっ」

犬娘「でも……、故郷の魔物たちを守りたいんです」


ヤマナミ王「だから魔王、かあ…… でも流石に闇の衣はあげられないなあ」


ヤマナミ王「……ふむ…… お姉ちゃん、メイド剣士ちゃんは腕が立つんだよね?」

メイド長「うちのメイド隊じゃウチを抜かしたら一番腕が立つよ」

ヤマナミ王「では、彼女を護衛につけよう、コトーに行きなさい」

犬娘「えっ、コトーの……魔王様のところですか?」

メイド剣士「私がですか?」

ヤマナミ王「うん、守ったげて」

メイド剣士「それは私もこの娘を哀れと思いますし王様やメイド長様をクソ王族と蔑んだ目で見ておりますが」

メイド長「おおいっ」


メイド剣士「……王の厳命とあらば」

ヤマナミ王「うん、クソ王の厳命」

メイド剣士「仕方ないですね、クソでも我が王だし」

ヤマナミ王「今日から犬娘ちゃんが君の王様だよ」


メイド剣士「はあ…… 分かりました」

メイド長「王様ちゃん腹据わってんな、ショタのくせに」

ヤマナミ王「うちの王家は代々こんな見た目なんだよ!」


メイド剣士「何やら喧嘩していますが、ほっといて行きましょう」

メイド長「がーん!」


メイド剣士「私の魔王様、今後ともよろしくお願い致します」

犬娘「はっ、はうっ!」

犬娘はぼんやり見ていたら急に振られたので焦ってしまう

犬娘「わうっ、よろしくお願いしますっ」

ぴしっと敬礼して尻尾を振った


それがメイド剣士と犬魔王の、出会い


…………



メイド剣士はまずコトーへの航路があるオリファン東の港町を目指すことにした

その前に狼主の住む西の森に立ち寄り、オリファンで一泊することにした


――西の森――


西の森は何百年も女神の聖獣、狼主が住み着く森である

聖獣は太古より中立であり、魔王を目指す犬娘にも何かしらアドバイスをくれる可能性がある

ある程度の力のある者で無ければ出会えないとされているが、メイド剣士は腕に多少の覚えがあった


西の森には小さな舞台があり、そこでは麓の村やオリファンから集まった観衆が騒いでいた


村人「やっちまえー!」

獣人「殺されろーっ!」

犬娘「とっても賑やかだね!」

メイド剣士「そのようですね……しかし柄が悪い」


売り子「麓名物いかやきいらんかねー」

メイド剣士「そのような下品な物いりません」

売り子「ひどっ」


犬娘「私ひとつ!」

メイド剣士「……無駄遣いを……」

犬娘「でも王様から二千Gももらっちゃったし」

メイド剣士「ヤマナミは景気良いですからね」

売り子「はい、8Gね」

メイド剣士「ちょっとぼったくりではないですか?」

売り子「屋台価格だよ!」

犬娘「美味しい」

名前を登録し、イカ焼きを食べながら待っていると、大きな獣人の戦士が現れた

対するのは狼主の命を受けて門番を務める、魔導師のような風体の少女である

大きな獣人「おう、お嬢ちゃんが相手なのか? さっきのゴリラみたいな魔物でも良いんだぜ?」

術師「問題ないわ、かかってきなさい」

獣人は挑発する少女の隙を突いて殴りかかったが、次の瞬間には少女は居なくなっている


術師「知恵がないなら、消えるのね」

一瞬の後、上空から少女の声がする

術師「鉄線」

少女はどこからか出した鉄線を雨のように獣人に降らせた


大きな獣人「うっ、うわああっ!」

次の瞬間舞台全体にその太い鉄線が突き刺さり、獣人も串刺しになった

瞬間、鉄線が消え去る

大きな獣人は慌てふためいて舞台から逃げ出し、勝負は決した


術師「弱いのね」


戦いを見ていた犬娘は、その術師にすっかり惚れ込んでしまった

犬娘「仲間になってもらおうよっ!」

メイド剣士「は、はあ?」

犬娘「参謀になってもらおうよ~!」

メイド剣士「い、良いですけど、まず勝たないと話も聞いて頂けないと思いますよ?」

犬娘「うん、じゃあ勝とう!」

メイド剣士「既に知ってますけど、脳筋ですね」

犬娘たちは登録係の人間に交渉して、対戦相手に術士を指名した


術師「お二人? いいわよ?」

術師は自信満々で二人を舞台に上げた


犬娘はメイド剣士に耳うちする


犬娘「……ごしょごしょ」

メイド剣士「脳筋らしい策ですね、構いませんよ」

いちいち非道いメイド剣士だが当たっているので反論は出来ない

術師「では、おいでなさい」

犬娘「待ってください!」

術師「はい?」

犬娘「私たちが勝ったら仲間になってください!」

術師「……」

術師「私は狼主様に仕えているのよ、狼主様に会って許可を取りなさいな」

犬娘「綺麗なお姉さん、ゲット!」

メイド剣士「気が早いですよ、魔王様」

メイド剣士が犬娘を魔王と呼ぶと、術師の顔色が変わった


術師「ま、魔王ですって?」

犬娘は突然の術師の気迫に圧されて涙目になった

犬娘「見習いですぅ……」

術師「……まあ魔王と名乗る人も増えましたからね、今更一人二人増えても気にしませんが」

術師「実力が無いならば、その名は取り下げなさい」


言うやいなや、術師は手を上げると、鉄線を作り出す

犬娘「危ない!」


鉄線の槍がメイド剣士を襲う

犬娘は鉄線を下から蹴り上げたが、何本かは落としきれずに犬娘の身体に突き刺さった

犬娘「ぎゃふっ!」

術師「!」

メイド剣士「きっ、貴様ぁ!」


メイド剣士は倒れる犬娘を飛び越え、仕込み杖を抜き放つ

術師(速い!)

しかし、次の瞬間に術師の姿が消える


メイド剣士「!」


メイド剣士が空を見上げると術師は


その後ろに先に跳んでいた犬娘に蹴り落とされていた


メイド剣士「うそっ!」

術師「な……なん……」

術師はそのまま舞台の外に落ちた


犬娘「作戦どおーりっ!」

メイド剣士「無理しすぎです、この脳筋魔王!」

犬娘の作戦はこうだ


メイド剣士ちゃん踏み込む

術師さん飛ぶ

私跳ぶ


メイド剣士に脳筋と呼ばれた犬娘らしい単純な策だが、まず犬娘が怪我を負ったために完全に術師の裏をかくことに成功

メイド剣士「運を持ち合わせていると言うべきか」

術師「圧倒的に無謀と言うか」

術師「……しかし、約束は約束、狼主様に会わせましょう」

犬娘「やった」

犬娘は可愛くガッツポーズした


…………


狼主「ふーん、魔王になりたいのか」

狼主「まあコトー王が元締めだからアイツが許すなら儂が文句言うことではない」

狼主「それで術師が欲しい、と」

術師「私はこの娘、気に入りましたわ」

術師「簡単に死んでしまいそうだから守りたくもあります」

狼主「面白い、お主が惚れるとはな」

術師「ふかふか主様のようなふかふか尻尾も可愛いですわ」

狼主「二百年ぶりだがふかふか主ではない」

狼主「じゃがそう言う事ならば良かろう、主の役に立てよ」

犬娘「本当ですか?!」

狼主「同じ獣の身として、犬魔王とは悪い気はせんわ」


狼主「オマケじゃ、かつて犬勇者にも力を貸したように、主にも魔法を授けよう」

犬娘「えっ!」

メイド剣士「ふかふか獣のくせに太っ腹!」

狼主「お主口が悪いな!」

術師「なんだかワクワクしますわね」

ニコニコ微笑む術師


憧れの犬勇者と同じ師匠

犬娘もワクワクせずにはいられなかった

…………


術師が美しい銀の長髪をかきあげ冷たい瞳を輝かせると、的となる鉄球を放つ

犬娘「わん!」

犬娘が口から閃光を放つと、鉄球は溶け砕けた


術師「お見事ですわ、魔王様」

メイド剣士「凄いですね」

術師「あなたも肉体強化などは得意なようですが、攻撃魔法は今一つですわね」

メイド剣士「脳の量と魔力って関係ないんですね」

術師「私が脳少ないみたいに言わないで下さる?」


術師「では、狼主様に報告してオリファンに向かいましょう」

犬娘「やったー!」

メイド剣士「可愛い、魔王様」

術師「ふかふかしたいわ」


…………


狼主「よし、基礎は出来たか、では行くが良い」

狼主「コトー王によろしくな」

犬娘「はい!」


術師「では改めて、新しい我が主、犬娘様」

術師「今後ともよろしくお願い致します」

犬娘「わうっ、よろしくですっ」

犬娘は術師に対しても敬礼し、尻尾を振った

それが術師と犬魔王の、出会い

術師「この門を抜け山上まで上がればオリファンです」

術師「魔王様、足元にお気をつけて」

術師は門兵に狼主の紋章を見せると、門の奥に犬娘とメイド剣士を案内する


術師が眠そうな目をしている

犬娘「術師さん眠いの?」

術師「私はもともとこんな顔ですわ」

メイド剣士「目つきが悪いんですね」

術師「それをあなたが言いますか?」

犬娘「……判定」

犬娘「メイド剣士ちゃんの方が目つき悪い!」

メイド剣士「そんな判定いりません」

術師「勝ちましたわ」


そんなくだらない話をしているうちに、三人は山上に辿り着いた


――勇者の国、オリファン――


オリファンの国はかつて勇者や犬勇者が生まれた、祝福の地である

何度か戦場になったその地も、沢山の住民が住み着き、今やヤマナミに並ぶ大国となっている

犬娘は憧れの勇者の地と言うことで、勇者犬の墓や女剣士の像、魔法使いの研究室跡地などを巡って、はしゃいでいた

横を向いて走っていたため、見知らぬ男とぶつかってしまう

その男は一見魔導師のような鋭い顔つきをしていたが、

犬娘「じ、獣人!」

犬娘と同じ、犬の耳がぴこぴこしている

犬戦士「いってえ~!」

犬戦士「なんだ、お前も獣人じゃないか!」

犬戦士「やっほー、どうぞく、どうぞく!」

見た目と裏腹に頭が足りないようである

犬娘「ヤッホー!」

犬獣人は頭が弱いのだろうか


メイド剣士「もお、魔王様!」

そこにようやく追いついたメイド剣士が獣人に気付く

メイド剣士「な、何か?」

犬戦士「おう、可愛いー!」

メイド剣士「は? 犬は一匹で十分です」

犬娘「一匹とか、ひどいっ」

犬戦士「それにしてもそっちも魔王様か、俺も魔王様に仕えてるんだ!」

犬娘「え、コトー王様?」

犬戦士「バカ言え、そんな上等な魔王様に俺みたいなバカが仕えられるか!」

犬戦士「確かサイセイの南西沖に、カイオウ島って島があるんだが、そこのチュウザン国の魔王だ」

メイド剣士「確か、ってそこから来たんですよね?」

犬戦士「うん、飛んできたからわかんない」

メイド剣士「地理の問題ですよね? 移動手段関係ないですよね?」

犬戦士「なんで俺怒られてるの……?」

犬娘「わかんない……」

メイド剣士「犬獣人はアホばっかりか!」

術師「そこまでですわ」

術師「置いていかないでくださる?」


空から不意に声がかかる

見上げるとパンツ丸出しで術師が浮かんでいた

メイド剣士「見えてますっ!」

術師「空を飛ぶのに見せパンはいてないと思って?」

くそ、バカの前でバカにされた


メイド剣士「とにかく目立つので降りて下さい」

術師「分かってますわ」

術師はふよふよと眠い目のまま降りてくる

本当に眠いのではなかろうか


犬娘「そうだ、私とチューザンの魔王様ライバルだねっ!」

犬戦士「おおっ、そうだな!」

犬戦士「よし、俺、おまえら、力試しする!」

犬戦士は興奮し、街中であることも気にせずに構えた

メイド剣士「街中で……しかも三対一ですよ? 脳筋が……!」

メイド剣士は何か脳筋に恨みでもあるのだろうか

しかし、戦いの雰囲気を察した周りの住民たちはたちまち舞台を用意

オリファンでは闘技祭りと言うお祭りがあるので、住民は皆こういった腕試しバトルが大好物なのだ


犬戦士「よっしゃー! 盛り上がりまくりっ!」

実に楽しそうな犬


犬戦士「俺の得物は斧だと思ったろ、ハンマーだ!」

どうでもいいし同じようなものである

犬戦士「いっくぜーっ!」

思いがけず犬戦士とバトルすることになった

術師は飛び込んでくる犬戦士の直前に鉄の壁を展開

物理攻撃はそのまま犬戦士に跳ね返った

犬戦士「ぐほうっ」

メイド剣士「バカはやりやすいですね」

術師「私は苦手」

メイド剣士「わかる気がします、魔王様とか苦手ですよね」

犬娘「私も戦うよっ!」

立ち上がった犬戦士にすかさず連打を浴びせかける犬娘


術師「あの娘見掛けによらず強いわよね」

メイド剣士「魔王を目指すと言うのも頷けます」

犬戦士「くそっ、おめえらつええなっ!」

犬戦士は攻撃を受けながら無理矢理犬娘を捕まえると、舞台に叩きつける

犬娘「ぎゃふっ!」

術師「余所見は頂けませんわ」

術師は犬戦士を追うように鉄球を浴びせかける


犬戦士「食らうか!」

避ける犬戦士

そこに

メイド剣士「お待ちしておりました」

待機していたメイド剣士の剣閃

犬戦士「ぎゃはっ!?」


術師「初歩的なコンビネーションですわ」

メイド剣士「まずまずですね」


犬戦士「くそっ、ずりいぞおまえら、三人とか!」

いやいやいや


付近で見ている住人まで総突っ込みである

術師「そんなこと最初に言いなさいな」

メイド剣士「開戦前に確かに、おまえ『ら』って言いました」

犬戦士「卑怯な~!」

話を聞いているんだろうか

犬娘「じゃあこれからは私だけ戦うよ!」

おいおい

犬戦士「おお、お前戦士!」

ふざけんな


しかし話を聞かない犬たち

結局、犬戦士と犬娘との一騎打ちになった

しかし

術師「期待できますわ」

メイド剣士「そうなんですか?」

術師「パワーでは負けるでしょうが、スピードでは圧倒しています、私たちの魔王様は獣人の中でもトップクラスのスピードファイターですわ」

スピードで負けては生きていけぬ獣人の中でトップクラスと言うことは、つまり世界で最も速いクラスと言うことだ

日頃からバトルを観戦するのが大好きな住人たちの目ですら捉えられぬスピードで

犬娘が走る!


犬娘「わん!」

犬戦士の不意をつく犬娘の閃光魔法

直撃!


犬戦士「くそっ、魔法使えるのか!」

犬戦士は確実に閃光魔法の直撃を受けたのだが恐ろしいタフさでまるで堪えていない

しかし犬娘も怯まない

犬娘「がううっ!」

犬娘は犬戦士の首に躊躇せずに噛み付いた

犬戦士「がはっ!」

犬戦士「負けるかあっ!」

犬戦士は噛みつかれながら犬娘の頭を掴み、地面に叩きつける

犬娘「ぎゃっ……」


脳を揺さぶられては獣は弱い

犬娘はその一撃でほとんどダウン寸前だ

犬戦士「く……」

しかし先の噛み付きを強引に振り解いたため、犬戦士は喉を裂いていた


犬戦士は追撃の構えを取ったまま、ゆっくりとその場で崩れ落ちた


審判「そこまで!」

メイド剣士「どっからでましたか!?」

術師「勝負はついたわね、回復しますわ!」

術師は袂から杖を取り出すと、二人に回復魔法をかけた


…………


犬戦士「があっはっはっは!!」

犬戦士「おまえつえーわ、流石に魔王だわ!」

犬戦士は馬鹿だがとても大らかなようだ

最初に犬娘がぶつかった時も気にも止めていなかった

犬娘「楽しかった~!」

術師「なかなか良い勝負でしたわよ」

メイド剣士「術師さんって戦闘大好きなんですね」

術師「私の職業ご存じなくて?」

メイド剣士「仕事が趣味でしたか」


オリファンの国も大らかなもので、誰にも咎められることもなくファイトマネーまでもらって、三人は東町の港から華々しく送り出されたのだった

――船上――


犬娘「ふんふ~ん」

術師「機嫌がよろしいわね」

メイド剣士「私もなんだかスカッとしましたよ」

術師「頭空っぽにして戦うのは面白いですわね」

メイド剣士「確かに、そうかも知れませんね」

犬娘「ねーねー、世界最強の真の魔王様ってどんな人かな~?」

メイド剣士「そう言えばコトーは世界一強い魔物が集う土地でもありましたね」

術師「うふふ、オリファン以上に血に飢えた獣が蔓延っている国、そこに君臨する真の魔王様!」

メイド剣士「……術師さん明るい……」

犬娘「術師さんはバトル大好きなんだね~!」


やがて三人を乗せた船はオリファンの北、魔王の国コトーに辿り着いた


――コトーの国――


街は意外と人間も多く、非常に賑やかである

平和な現在に真の魔王と呼ばれる者が、かつて拠点として選んだコトーは大きな島であり、工業や水産業が盛んになったこともあって世界有数の豊かな国になっていた

コトーでは建国の主の魔王がそのまま生きているため、住民の結束が非常に固く、揉め事もほとんど起こらない平和な島になっている

この島の魔王こそが真の魔王であり、それがコトーの民の誇りでもあった

犬娘「さて、どうやって魔王様に会おう?」

術師「腕の立ちそうな方にバトルを挑みましょう」

メイド剣士「いつもなら脳筋とバカにしますが、この土地なら一度バトルする価値がありますね」

術師「あら、私脳筋と思われてるのかしら?」

犬娘「のーきん、のーきん!」

楽しそうな犬魔王様

そこにちょうど屈強そうな竜人の娘を見つける

術師「すみません、竜人様、私たち腕試しをしたいのですが」

メイド剣士は腕試しと言う言葉に若干ウキウキしてしまう自分を感じた


竜女「お、面白い娘だな」

竜女「魔王様に会うために魔物たちが戦う、蠱毒の壺と言う闘技場がある。 行ってみるがよい」

丁度コトー王に会うという目的にも叶うシステムである

しかし、西の森、オリファン、コトーと、なぜみんなバトル好きなのか

だが術師はこの状況にすごく興奮しているようだ

術師「よろしいわ……アドレナリンは私の主食……」

メイド剣士「以降何も食べないで下さると食費が助かります」

術師「あなたはパンしか食べないのかしら?」

メイド剣士は術師に言葉で勝てないのが少し腑に落ちない

戦闘バカのくせに

…………


そんなわけで、三人は蠱毒の壺の舞台に立つことになった

最大で五人まで参加できるが、一人で参加する者も多い

正に腕試しのためだけの闘技場のようだ

術師「メイド剣士さん、ワクワクしますわね?」

メイド剣士「同意求めないで下さいますか」

術師「ふん、熱い気持ちは隠せてなくてよ」

メイド剣士「はっ、こう見えても剣士ですので」


目の前では細身だが長身の女性が、五匹の屈強そうな魔物を一人で蹴散らしている

メイド剣士「うわ、うちの魔王様より強いんじゃないですか?」

術師「実に面白いファイターですわ……、時に、その魔王様は何処へ?」

メイド剣士「あ」


周囲を見渡すと犬娘はまた屋台で何やら買い食いをしている

メイド剣士「あの娘は食欲魔王なの?」

術師「いつか美味しいご飯をご馳走したいわ」

メイド剣士「まあ私も嫌いではないですが」

術師「では是非ご馳走させて下さいね」


メイド剣士は術師がいけ好かないと思うこともあるが、この人は悪人ではない、そこは確信を持てる

犬娘「もぐもご」

術師「あらあら、はしたないですわよ」

犬娘「んぐ」

犬娘「あの人仲間に誘おうよ!」

メイド剣士「またですかっ!?」

術師「面白いですわね、何か得る物がある方が戦いも燃えますわ」

メイド剣士「くう……、致し方ありません」

術師「しかしあの方ここでも上位の方のようですから、いきなりはやらせていただけないと思いますわよ」

メイド剣士「面倒です……」

犬娘「私、楽しみ~」

術師「ついてますわよ」

術師は犬娘の口についたソースを拭うと、係の者を見つけ、闘技場の詳細を聞く


参加人数は最大五人まで

審判は蘇生魔法が使えるので、死ぬ気、殺す気でやること

倒れてしばらく起きあがらないと強制退場

戦闘終了まで蘇生は可能

勝った方は相手が持つものならなんでももらえる、つまり全てを失う覚悟で臨むこと

ランクは五段階、ランクAからEまで

ランクBで魔王と謁見できる

ランクCからは負けてもファイトマネーが支払われる

この権利や幾つかの権利、生命は奪えない

メイド剣士「想像していましたが脳筋ここに極まれりですね」

術師「初めはランクEからですわ、まあ雑魚は私に任せて下さいな」

会場の盛り上がりで、あの女性が勝ち上がったことがわかる

術師は闘技場に登録を済ませると腹拵えに屋台で何やら買ってきた

ソースの匂いが漂う麺のようだ

メイド剣士「美味しそうですね」

術師「奢りですわ」

メイド剣士「パーティーのお金、術師さんが管理しますか?」

術師「そう言うのはあなたがやりなさいな、はい、これ」

メイド剣士「では、そうします、いただきます」

犬娘「美味しいよ!」

メイド剣士「ああ、さっき食べてた奴ですか」

術師「私のお金も預けておきますわ」

そう言うと術師はメイド剣士に分厚い札束を渡す

メイド剣士「わわっ」

術師「だいたい二万Gくらいです」

犬娘「すごー!」

メイド剣士「大金ですね」

術師「長い旅ですからね、なるべく、と思いまして」

メイド剣士「全財産ではない、と言うことですか」

術師「そんなに持ち歩けませんわ」

どうやらすごいお金持ちのようだ

術師「お金だけあってもつまりませんからね」

メイド剣士「それで森の門番ですか」

術師「楽しい仕事でしたわ」

雑談していると、自分たちの対戦相手が決まったようだ

D、Eランクのバトルはこことは違う野戦場で行われるらしい

係員に案内される

対戦相手は粗野な山賊だ

しかし五人いる

山賊A「おお、上玉だ!」

山賊B「負けたら奴隷だぞ!」

山賊C「あっちの元気そうなちびっ子は俺のだ!」

山賊D「じゃあ気の強そうなちびっ子」

山賊E「眠そうな姉ちゃんも美人だぜ!」


やれやれ、と術師はスカートを払う

術師「捕らぬ狸の皮算用と言う言葉、御存知かしら?」

門番として戦い続けていた術師には、相手を見ればだいたいの強さが把握できる

こいつらはEランクそのままの実力でしかあるまい

術師「係員さん、私たちは三人で参加しますが、今回は私一人で戦っても宜しいですか?」

係員「構いませんよ、その場合も三人全員の持ち物を賭けていただきますが」

係員「あと、山賊たちはあんな事を言ってますが人道に反する取引は認めませんので」

術師は係員をまじまじと見つめた

ランクA……

この潜在魔力なら余裕でそのレベルの強さがありそうだ

しかし見た目はひょろひょろした役人風情、恐らく蘇生魔法も使える魔導師なのだろう

術師「安心しましたわ」

術師は山賊たちを冷たい視線で睨み付けると挑発するように手をひらひらさせる


術師「では、来なさい」

山賊たちは挑発的なポーズとたった一人で挑む無謀さにいきり立って攻めてくる

しかしそこまで術師の思惑通り

最初に飛び出した三人は鉄板に顔をぶつけ、そのまま押し潰される

術師「たわいないですわ」


メイド剣士「挑発しまくりですね」

犬娘「やっぱり強いよ~!」

鉄板を辛うじてかわした二人も、次の瞬間鉄線で貫かれ、あっさりと戦いは終わった

術師「弱すぎでなくて?」

犬娘「術師さんが強過ぎ!」

メイド剣士「しばらくは暇そうですね」


係員「それまで、しかしEランクでここまでやったのはあなたが初めてです」

術師「御手数お掛けしますわ」

係員は五人に蘇生魔法をかけると、身包みを剥いで放逐した

係員「もう少し面白い戦いが出来るようになってから来なさい」

そう言うと、犬娘たちに振り返る

係員「必要な装備やアイテムが無いならこちらで換金致しますよ」

メイド剣士「助かります」

メイド剣士は山賊たちの持ち物を調べたが、やはりろくな物が無いので全て換金してもらうことにした

メイド剣士「上位に食い込めば結構儲かりそうですね」

術師「ランクを上げるには各ランク五勝ですか、数日かかりそうですわね」

犬娘「次は私が戦うね!」

術師「相手次第ですわね」


……しかし、結局Cランクまで全く面白い戦いは無かった


術師「明日からBランク……もうコトー王様と謁見できますが」

犬娘「みんなたいしたこと無いのかな~」

術師「魔王様は御自身が思われているより強くてよ」

メイド剣士「そうですよ、少なくとも私はヤマナミで偵察任務も行うメイド隊でメイド長様に認められていましたが」

術師「御自慢?」

メイド剣士「事実です、……その私から見ても魔王様はお強い」

犬娘「そうなのかな~」

術師「しかしそうなると魔王様が戦った勇者と言う男、半端な実力では有りませんわね」

メイド剣士「出会せば死の覚悟が必要でしょうか……」

術師「ぞくぞくしますわ」

犬娘「ええっ、恐いなあ」

術師「流石に私達も腕を磨かなくてはなりませんわね」

メイド剣士「分かっています」

犬娘「ここでAランクで鍛えまくったらいいよ!」

術師「しばらくは滞在しますか」

翌日、Bランク第一試合も術師は一人で戦う

対戦相手はそこそこの猛者であろうが、Cランクの手応えからすると大した相手では無さそうだ

少なくとも術師からすれば

メイド剣士「そう言えば術師さんの移動手段はなんなんでしょう?」

犬娘「ぱっ、と目の前から消えちゃうよね~!」

メイド剣士「魔王様でも捉えられないなら魔法で移動している可能性が高いですね」

敵の戦士の攻撃をその移動手段でかわす術師

たちまち上空に現れ、見せパンをちらつかせながら鉄球の雨を降らせる

メイド剣士「強過ぎて面白みがありませんね」

やはり狼主の門番をやっていただけはある

犬娘「また儲かっちゃったね!」

メイド剣士「次は少しは手応えがあると良いんですが」


二回戦、敵方には獣人や竜人のパーティーが現れた

術師「やっと骨がありそうな相手が来ましたわ」

メイド剣士「では三人で?」

術師「コンビネーションの練習をしておきましょう」

術師「オリファンの獣さんと戦ったように、魔王様が仕掛け、私が誘い、あなたが倒し、残れば三人がかり、ですわ」

メイド剣士「細やかな戦術はその度組み換えるんですね」

術師「そうです、奇策は必要ありませんわ」

竜人A「さっきまでの戦い、見させて戴いた」

竜人B「Aランクに勝ち上がる最後の戦いに相応しい」

なるほど、つまりほぼAランクの実力者なのだ

術師「私が全力を見せたことなど無くてよ」

メイド剣士「確かに」

犬娘「行くよ~?」

獣人A「元気だな、同族!」

獣人B「嫁に欲しい!」

獣人C「可愛い~!」

敵を散開させる犬娘の突撃

左に逃げる者に術師の鉄線、右に逃げる者にメイド剣士の一閃

更に犬娘が右に追撃、竜人Bを倒す

術師「見事ですわ」

術師は巨大な鉄球を発生させ、三人の獣人を押し潰す

メイド剣士「やっぱりハッタリじゃありませんね、半端ないです!」

竜人A「はっはっは、こいつはここに来て化け物に当たったわ!」


メイド剣士「余裕が有りますか?」

メイド剣士の剣閃、しかし竜人Aは片手でそれをさばく

術師「お引きなさい、メイドさん!」

メイド剣士「はっ!」

竜人Aはゆっくりと、その正体を現した


術師「……ドラゴンですか、やりがいがありますわ!」

犬娘「てええ~い!」

犬娘の先制アッパーが竜の顎を捉える


ドラゴン「がはあっ!」

竜はそのまま首を振り、犬娘を弾き飛ばす

術師は巨大鉄球をいくつか浴びせかけるが、流石にタフだ

本物のドラゴンには物理攻撃が通りづらいようだ

術師「ふむ、少し苦手な魔法を使いますわよ」

しかし、竜が術師を牽制するように炎を吐く


メイド剣士「くっ、刃が通らない……っ!」

メイド剣士は必死に剣を浴びせかけるが、技術が不足しているのか竜の鱗を裂けない

しかし、竜の攻撃もかわす

術師「ワクワクしてきましたわ……!」

術師に強い力が集まる

術師「御砕け散り下さいな!」

振り上げた手の先に、真っ赤に燃える鉄球が現れる


術師「はあっ!」


落ちてくる火球

竜は咄嗟に身をかわす


ドラゴン「くそっ!」

術師「デカいのにお速いですわ!」

メイド剣士「通れ、通れえっ!」

メイド剣士は竜の鱗を削ぐように剣を打ち込む

しかし通らない

メイド剣士「手強い……!」

術師「少し知恵をお使いなさいな、らしくないですわよ」

メイド剣士「はっ!」

竜の炎がメイド剣士を焼く

直前、犬娘がメイド剣士を抱き上げ、跳ぶ!


メイド剣士「も、申し訳ありません、魔王様……!」

犬娘「ドンマイ!」

術師「仕方有りません、最強の技を使いますわよ」

術師「巻き込まれてお亡くなりになっても恨まないで下さいね!」

係員「いかん、闘技場に結界を!」

軍人「はい!」


犬娘「攻撃が来る!」

術師「神の杖……味わいなさいな!」

術師は巨大な燃え盛る銀の槍を召喚する!

犬娘「逃げられるのは……あそこだ!」

術師の最強魔法、神の杖が竜に突き刺さると、フィールド全体が爆炎に包まれた


メイド剣士「すご……無茶苦茶ですっ!」

犬娘「熱い熱い熱い!!」

犬娘はメイド剣士を抱えたまま、術師の隣までジャンプした

しかし重力に負ける頃になっても炎は収まってない

術師「力仕事は苦手でしてよ!」

術師は二人を捕まえ、なんとか滞空している

係員「よし、冷却開始!」

軍人「はい!」

ドロドロに溶けた舞台から竜を浮遊魔法で拾い上げ、蘇生をかける

恐ろしいほどの魔法技術だ

犬娘「あの人も欲しいな~!」

術師「流石にあの人は引き抜けませんわ、どう見てもコトー王様の側近クラスでしょう」

犬娘「残念!」

係員「えー、今後今の魔法は禁止します」

術師「仕方有りませんわね、本来は戦略魔法ですもの」

係員「超級魔法を使える魔導師なんて久しぶりに見ました」

係員「ただ力を奪うのは不本意です、あなたたちは特別にAランクの参戦を認めましょう」

犬娘「ラッキー!」

メイド剣士「ラッキーには思えません……」

術師「確かに、ハンデ有りでドラゴンクラスと戦うのは無理ゲー臭いですわ」

犬娘「もっと頑張るよ!」

術師「私もコントロール可能で小魔力、高威力の魔法を考えないと、神の杖は一日一発が限界だし味方は巻き込むし、デメリットが多すぎますわね……」

メイド剣士「そうだ、魔王様が居なかったら私死んでましたよね!」

術師「ギリギリで助ける算段はありましたわ、ステージ外に飛ばすとか」

メイド剣士「疑わしいです……」

犬娘「私も神の杖に耐えるくらい強くなりたいな!」

メイド剣士「魔王様……ハンパない……ハンパない脳筋……」


メイド剣士も術師も疲れ切ってしまったため、その日は戦いを終え、宿に泊まる事になった

B級の賞金と敵の財産がかなり多く、三人はしっかりリッチに休めた

次の日、係員に呼ばれた三人は、町外れの大きな屋敷を訪れていた

係員「こちらでお待ちを」

術師「いったいなんのご用でしょうか?」

メイド剣士「もしかして、コトー王様に目を付けられたのでは」

術師「十分有り得ますわね」

犬娘「魔王様に会えるの? どきどき」

術師「落ち着きたいので尻尾をお借りします、もふもふ」

メイド剣士「ずるいです、じゃあ私は耳をなでなで」

犬娘「くすぐったいよぉ~!」

三人娘がきゃっきゃうふふしていると、係員が現れた

その後ろから少年が現れる

真っ赤な髪と真っ赤な瞳

正しく魔王である


魔王「おっすー!」

犬娘「おっすー、おっすー!」

魔王「おお、元気だな!」

魔王は跳ね回る犬娘をハグして捕まえる

係員「こちらの方が昨日超級魔法を使われた術師様です」

魔王「うむ」

魔王「ほう、若いな?」

術師「初めまして、コトー王様、で宜しいかしら?」

犬娘「ごろごろ」

メイド剣士「はしたないですよ、魔王様」

係員「魔王、と言う呼び方は若干不快ですね、魔王は私達のコトー王様だけなのに」

魔王「いや、別に構わんよ、もはやオレの独裁の時代は終わった」

魔王「そうかそうか、犬娘よ、お前も魔王か」

犬娘「は、はい、魔王になりたいです!」

魔王「別に構わんよ、だが何故なりたいかは聞かせてもらおうか」

犬娘は魔王に問われるまま、これまでのことを語った


魔王「勇者……それに闇の衣か、何やら懐かしいな」

魔王「更に狼主の使いか、面白い」


係員「勇者の件、側近様にお話を通しておきましょう」

魔王「ああ、また戦争になるかも知れんな」

戦争、と言う言葉に、犬娘はどきん、となる

戦争……あれは戦争だったのではないか

たくさんの人が死んだ……

巨人のお兄さんも竜人のおじさんも獣人のお父さんも、人間のお母さんも

犬娘「戦争しないですむ方法は有りませんか……?」

魔王「もちろん最善を尽くすさ、オレたちがヤマナミと同盟したように、な」


魔王「よし、犬娘よ、お前にはカイオウ島北の開拓を許そう」

魔王「そこに城を建て、お前の故郷の者達を守ってやるがいい」

犬娘「ありがとうございます!」

魔王「ああ、だが支援はしないぞ」


魔王「後は自分たちの知恵と力でなんとかするがいい」

術師「いえ、コトーの、真の魔王様にお墨付きを頂けただけでも十分ですわ」

術師「我らの魔王様、後は私達が強くなるだけですわよ」

犬娘「うん、強くなる!」

メイド剣士「そう言えば闘技場のあの方も仲間にするんでしたね」

犬娘「うん、楽しみだ~!」

メイド剣士(可愛い、魔王様)

メイド剣士「私も魔王様を守るために、強くなります!」

術師「少し土地を借りて訓練しましょうか 私も蘇生魔法の勉強をしたいですし」

メイド剣士「私も回復魔法なら使えるんじゃ無いでしょうか?」

術師「そうですね……師匠を探してみては如何でしょう?」

メイド剣士「術師さんは教えて下さらないんですか?」

術師「私は回復は苦手ですから無理ですわ」

術師「でも回復に詳しい方なら私も目的は同じですし、一緒に行きましょうか」

メイド剣士「はい!」

術師「ではこれから当面やるべきことは、人員探索、訓練場の確保、訓練でいいですか?」

犬娘「りょーかい!」ピョンピョン


術師「それにしてもメイドさん、あなたの刀、丈夫ですわね」

メイド剣士「オリハルコン製で鞘には再生能力もあるんです」

術師「あら、神器ですか?」

メイド剣士「家宝なんです」

術師「いつかあなたのお話も聞きたいですわ」

犬娘「私もっ!」

メイド剣士「そ、そんなに面白くないですよ?」

犬娘「でも聞きたいな、術師さんのお話も!」

術師「藪蛇ですわ」

メイド剣士「私も術師さんのお話は聞きたいです、主に弱点!」

術師「あなたに知られたら永久にからかわれそうですわ!」

三人娘は魔王の館を去るととりあえず情報を集めるために酒場に向かった


…………


酒場に辿り着いた犬娘たちには予め確認しておくことがあった

術師「メイドさんはおいくつ?」

メイド剣士「私は十四才です」

術師「若っ!私は十八ですわ」

犬娘「私は十五」

メイド剣士「としうえ!?」

術師「ヤマナミ法なら飲めるんですがコトー法は違う可能性がありますわね」

通りすがりの竜人「ん、コトーに法律なんかねえぞ?」

術師「はあ?」

通りすがりの竜人「もちろん無闇に争うべからず、盗むべからずって基本法はあるんだが、後は魔王様がOKならOK、それがコトー法」

メイド剣士「不死無敵のコトー王様あってこその法律ですね……」

術師「アグレッシブで燃えまくりですわ!」

メイド剣士「なんでそんなに元気なんですか!」

犬娘「焼き鳥くださ~い」

メイド剣士「魔王様は買い食いしてるし……」

術師「情報を集めますわ」

メイド剣士「魔王様が財布を食いつぶすまでにお願いします」

術師「何を大袈裟な……」

犬娘「ステーキ1キロください!」


術師「おい」

メイド剣士「あの、魔王様食べ方にアクセルかかってませんか」

犬娘「ん、お肉はあんまり食べないよ?」

犬娘「サラダくださ~い、あ、ガーリックパン美味しそう!」

犬娘「大盛カルボナーラください!」

術師「黙々と情報を集めますわ、メイドさんはあの魔王を止めて下さい」

メイド剣士「無理目なミッションですね」

犬娘「お寿司美味しそう~、あ、子豚丸焼きだって~!」


メイド剣士「なぜそんなに食べるのですか?」

犬娘「おなか減ったから?」

メイド剣士「シンプル!」

どうやらコトーの料理は犬娘の胃袋にストライクだったようだ

更に目標への意気込みが食欲にすり替わっているのかも知れない

犬娘「このスープ美味しい、味噌スープ?」

犬娘「とんかつ、じゅーしー!」

犬娘「コトーは海の国だから海鮮も豊富だね!」

犬娘「アワビとお味噌あうね、壺焼きシンプルで美味しい!」

犬娘「えび、車海老、ロブスター!」

メイド剣士「底なしか!」

ついにクールなメイド剣士がブチ切れた

犬娘「チーズ……ええ!?」

犬娘「あ、ごめん、メイド剣士さんも食べて良いよ?」

メイド剣士「……頂きますが」

メイド剣士「今までどうやって食料確保してたんですか?」
犬娘「……?」

犬娘「……、食べ過ぎてる?」

メイド剣士「ふとりますよ」

メイド剣士の一撃は、犬魔王の魂をへし折った


犬娘「……ふとる……ふとる……」

メイド剣士「止めた!」

術師(グッジョブですわ、メイドさん!)


犬娘「あと一口」

メイド剣士「負けた……」

術師「とりあえず聞きたいことは聞けましたわ!」

メイド剣士「離脱します!」


…………


酒場から帰るとすぐに三人は宿の自室にこもる

術師「これから美味しそうなものが有る場所は鬼門とします」

メイド剣士「すこし可哀想な気もしますが、私達の稼ぎではこれが限界ですね」

術師「うう、魔王様、稼ぎが悪くて申し訳有りませんわ……」

犬娘「えと……食べ過ぎてすみません」

術師「私としてはふかふかに太った魔王様も素敵ですが」

メイド剣士「私は今くらいが好きだなあ」

犬娘「うう……今度からセーブします……」

術師「まあ今日は魔王就任祝いってことで、良いでしょう」

メイド剣士「私ももう少し食べたかったな」

術師「こっそり食べてたんですね……」

犬娘「海鮮美味しかったから海際に住もうね!」

術師「魔王城は海際……」

どこからか出したメモに書き込む

メイド剣士「術師さんって意外と甘やかすタイプですね」

術師「修行は厳しく休暇はゆっくりがモットーですわ」

犬娘「修行も頑張るよ~!」

術師「では明日は回復魔法の師匠を探しに行きますわ」

犬娘「係員さん教えてくれないかな?」

メイド剣士「あの人くらいの実力者だと凄く多忙だと思いますよ」

犬娘「そっかあ」

術師「コトー王様と縁の深いヒーラーの方がいらっしゃるらしいので、その方にご指導頂きます」

メイド剣士「私も回復が出来れば、魔王様と戦えるのはコトー王様だけってくらいになれるかも……」

術師「夢を見過ぎですわ」

メイド剣士「あう……」

犬娘「私も回復魔法出来るかなあ?」

術師「あっさりやってのけそうで怖いですわ」

メイド剣士「脳の容量と魔法技術は比例しませんからね……」

術師「まあそうなったら私達の魔王様が優秀と言うことで」



…………


翌日、係員に紹介状をもらい、術師の案内によりコトーの奥地、ヒーラーの家に向かう

酒場で聞いた話では目的地までは半日程度で着くはずだ


幸いにもその家はすぐに見つかった

ヒーラーの家は真っピンクに塗られていた


術師「ハデですわ……」

メイド剣士「術師さんが好きそうですね」

犬娘「わあっ、お花いっぱい!」


術師「……魔王様が行ってしまわれましたわ」

メイド剣士「少し叱ってきます」

術師「……仕方有りませんわね、私だけでも挨拶を……」


呟くと、術師はピンクの家のドアをノックする……


術師「留守ですわね」


…………


犬娘「お花っお花っ!」

犬娘がチョウチョを追いかける姿は実に様になっている

一枚の絵のようだ

メイド剣士「……まあいっか……魔王様~!」

花畑は島の半分を覆っているのではないか、と思うほど広大だ

その花畑の真ん中ほどに、ぽつりと人影があるのが見えた

メイド剣士(あ、もしかして……)


犬娘は花を巻き上げ大はしゃぎしている

ヒーラーらしき人物が犬娘に声をかける

ヒーラー「どちらさま?」

その人物は長身の美しいエルフだった

犬娘「魔王見習いの犬娘です!」

元気に返事をする

メイド剣士「警戒心とか無いんですか魔王様!」


ヒーラー「可愛い」

何やら花畑に更に花が舞ったように見えた

メイド剣士「失礼、あなたはあのケバケバしいピンクの家にお住みの趣味の悪いヒーラー様でしょうか?」

ヒーラー「はい、……口悪いですねあなた」


二人が挨拶をかわした所で術師が駆けつけた

術師「こんにちは、ヒーラー様ですわね?」

ヒーラー「はい、留守にしていて申し訳有りません」

あの派手にピンクな家に住んでるとは思えないくらい落ち着いた人物だ

術師「私達、ヒーラー様にその技を教わりたいと思い参った次第です」

ヒーラー「まあ、私のような者で宜しければお力になりますよ」

ヒーラー「ぶっちゃけすげー暇だったんよ」

術師「は?」

ヒーラー「いえ、何でも有りません」


早速ヒーラーの元、三人は回復魔法の修行を行うことになった

ヒーラーの物腰は柔らかいのだが、修行の内容はハードだ

ヒーラー「怪我をしないで治癒魔法の効果は実感できませんので」

と言っては、三人を戦わせる

術師「蘇生魔法は実践無しでお願いしたいですわ……」

ヒーラー「致死魔法が」

術師「止めて下さる?!」

ヒーラー「冗談です」

チッと、舌打ち

術師「邪悪なオーラは隠せてませんわよ!」

メイド剣士「うう、魔王様手加減して下さい!」

犬娘「でも怪我しないと回復出来ないよ?」

メイド剣士「純真さが怖い!」

術師「うっかり死んだら実験台にしますわよ?」

術師「これも良い修行ではないですか」

メイド剣士「うう……」

犬娘「いっくよー!」

犬娘「わんわんわんわん!」

犬娘は連続で閃光を放つ

術師「ああ、魔王様容赦ないけど可愛いわ」

ヒーラー「そのあたりで良いでしょう、回復を」

メイド剣士「ひ~!」

術師「少しはかわすなりしても良いんですわよ?」

メイド剣士「閃光魔法は発動の瞬間にかわさないと光速ですからね……」

術師「結界も学んだ方が良いのかしら?」

ヒーラー「教えますよ?」

術師「薄ら寒い欲望が垣間見える気がしますが、お願い致しますわ」


ヒーラーの暴力的な修行の結果、メイド剣士と犬娘は基本的な回復を、術師は蘇生の基礎を身に着けることが出来た

術師「ありがとうございました」

ヒーラー「また来てね」

メイド剣士「お断りします」

三人は修行を終えると、一度A級にチャレンジすることにした

メイド剣士「すごく不安です……」

術師「まあ攻撃面はそれほどレベルアップしたわけでは有りませんからね」

犬娘「頑張るよ!」

術師「魔王様は気合いで強くなりそうで頼もしいわ」

メイド剣士「底が知れませんよね……食欲も」

ちょっと目を離すと屋台で魚フライを買って食べている

術師「勝って美味しいもの食べましょう」

メイド剣士「はい、賛成です」


…………


係員「皆さん、お待ちしていましたよ」

係員「一週間ぶりでしょうか?」

術師「それくらいになりますわね」

係員「今回は対戦相手を指名されるのですね」

メイド剣士「えっ?」

犬娘「女拳士さんでお願いしますっ」

メイド剣士「ええっ?」

術師「抜かりなく調べておきましたわ、先日のファイターの方」

メイド剣士「なるほど」

係員「いきなり闘技場で初対面となりますが、この闘技場は力がルール」

係員「仲間になれ、なら人道に反することもありません」

術師「つまり……全力でブッ倒しますわよ!」

メイド剣士「!」

犬娘「ブッ倒す~!」

シンプルで分かりやすい

だが負けたらファイトマネーが少し残るだけだ

メイド剣士はプレッシャーに震える自分を感じている

術師「お気楽に、いつも通り行きますわよ」

メイド剣士「はい!」

術師「私の策を使わずに済むことを祈りますわ」

メイド剣士「?」

犬娘「頑張るぞ~!」

…………


女拳士「やあやあ、アタシをご指名ありがとう!」

術師「よろしくお願いしますわ」

メイド剣士「あの、人に剣を向けるの、少し気が引けるのですが……」

術師「これから人間と戦うこともありえます」

術師「私達はそのために回復魔法を学んだのですわよ?」

メイド剣士「そんな思惑が……」

術師「あと、あなたを巻き込んで魔法ぶっ放したりできますしね」

メイド剣士「鬼か」

術師「まあここには係員さんもいます、それに手を抜ける相手でもありませんわよ?」

メイド剣士「……わかりました!」


犬娘「私と勝負してください!」

女拳士「おお、お嬢ちゃんすばしっこかったな、この前の戦い見たよ!」


術師(見た目は細いですが魔力は凄まじい……これは魔法に気をつけないといけませんね)

女拳士「じゃあやろっか!」

犬娘「私達が勝ったら仲間になって下さい!」

女拳士「いいね、じゃあアタシが勝ったらアタシの仲間になってよ!」

術師(あまり頭は良くなさそうですわね)


周囲から歓声が上がる

メイド剣士はその空気に少し竦み上がる


女拳士「行くよ!」

女拳士はまず魔法使いである術師から倒しにかかってくる

犬娘「てええーい!」

しかし、犬娘が横から蹴りを入れる

女拳士「あいたっ」

術師(?!)


術師(あのタフさ……相当な魔法防御力ですわね)

術師(超厄介ですわ!)

メイド剣士「はああっ」

メイド剣士は思い切り良く女拳士に斬りかかる

女拳士「おおっ!」

メイド剣士「!」

刃が立たない……

悪夢が蘇る……ドラゴンの鱗を思わせる感触だ

しかし

メイド剣士「負けてたまるかあっ!」

メイド剣士は相手の急所に目掛け、十数発の突きを一瞬で叩き込む

女拳士「いてててててっ速いなあんた!」

術師「余所見が流行りなのかしら?」


メイド剣士の攻撃を凌ぎきる為に動きの止まった女拳士に鉄球を撃ち込む

女拳士「がはっ」


一方的……だが、この相手がこの程度のはずがない

メイド剣士「はあっ!」

犬娘「やあああっ!」

二人が撃ち込み、その合間に術師は気取られないように地面に鉄球を埋め、空に飛ぶ


更に巨大な鉄柱を作り出す

術師「コンパクトに行きますわ!」

女拳士は左右の二人を掴み、頭を打ち付けて一瞬気絶させる

引き寄せ、盾にする

魔法が打てない


女拳士「おらあっ!」

躊躇していると、犬娘が術師に飛んできた

術師「魔王様!」

犬娘は咄嗟に体勢を変えると、術師と足を合わせ、下に跳ぶ

女拳士「もういっちょ!」

メイド剣士が飛んでくる

しかし、メイド剣士は身を固める犬娘を蹴り、跳ぶ

女拳士「息が合ってるな!」

メイド剣士「うおおおっ」

空中にいる術師を敵が狙ってくることは分かりきっている

そこで考えていた策ではあったが、思いの外上手く行った

メイド剣士「覚悟!」

女拳士「いいねえっ!」

女拳士は剣をギリギリでかわす

皮膚が切り裂かれるも、構わずカウンターを入れる

女拳士「らあっ」

メイド剣士「がはっ!」

メイド剣士はたまらず吹き飛び、倒れた


女拳士「あと二人!」

犬娘「たああああっ!」

女拳士が油断している所に、犬娘が強烈な蹴りを浴びせる!

中途半端ですが、今日はここまでです

久々に書いたら疲れました

おやすみなさい

続きが楽しみ

レズはまだかな?

>>53
ありがとうございます

>>54
あくまで微レズなのであんまり期待しないでくださいね


では、更新します

女拳士「うおおおっ」

犬娘の一撃で女拳士は壁際まで吹き飛んだ

術師(ずいぶん魔王様の攻撃が強くなってるような……)

術師(それに拳士さん……この程度ならこの間のドラゴンの方が戦い辛かった)

術師(まだ大きな魔力の消耗は見られない……何か隠し玉を持ってるはず)


女拳士「くっそ、つえぇ」

女拳士「このまんまじゃ駄目か……」

術師「!」

術師の予見したとおり、女拳士はゆっくり全身に魔力を纏っていく

術師「強力な身体強化魔法……あの能力で強化魔法なしだったんですの……?」

術師「魔王様!」

術師が犬娘に注意喚起した次の瞬間、犬娘は反対側の壁に叩きつけられた

犬娘「きゃん!」

術師「速い!」

術師(スピード強化魔法にしても魔王様より速いなんて……)


術師「追い詰められて術を使うのは三流ですわ」

女拳士「次はあんただ!」

術師「私のターンですわ!」

術師は巨大な鉄柱を高速で落とした

女拳士「それヤバい!」

狙いをつけさせないように圧倒的なスピードで走る女拳士

術師「仕掛けはしてますわ!」

女拳士の足元から鉄球がせり出し、進路を阻む

女拳士「くっそ!」

一瞬動きを止めたその瞬間に、鉄の柱が女拳士を直撃した

女拳士「痛てえっ!」

術師「タフ過ぎでしょ……」

術師「火槍!」

女拳士がふらついているうちに追加攻撃を加える

女拳士「ぐおっ!」

女拳士にはそれでも大ダメージになっていないようだ

術師「まだ私のターンですわ!」

女拳士「欲張りすぎだろ!」

しかしその足に先の鉄球から鎖が繋がれている

女拳士「いつの間に!?」

術師「いい加減倒れて頂けますか!」

術師は女拳士に巨大な鉄球を幾つも叩きつける

女拳士「うおおっ!」

女拳士はチェーンを素手で引きちぎると、鉄球を術師に投げ返した

術師「これ私の魔力で作ってましてよ」

術師の眼前で鉄球は消える

女拳士「じゃあこれだ!」

女拳士は足元の石を数個掴んだ


メイド剣士「うおおっ!」

女拳士「なにっ!」

術師に気を取られている間に、メイド剣士は目を覚まし回復魔法をかけていた

しかし、メイド剣士の剣では女拳士に傷を与えられない

メイド剣士「……くっ!」

女拳士「いいタイミングだったのに残念だったね!」


メイド剣士「肉体強化」


女拳士「えっ」

メイド剣士はやはり奥の手を持っていた


術師「出し惜しみする癖は良くありませんわよ!」

メイド剣士「これで駄目なら本当に駄目じゃないですか」

メイド剣士の強化魔法は術師も認める所である

女拳士が受け切れぬ速度で剣を叩き込む

女拳士「ちょっ、痛いっ、それ反則!」

しかし、まともなダメージが通っているようには見えない


メイド剣士「駄目なのっ?」


術師「メイドさん、少し距離を取りなさい!」

メイド剣士「はいっ」

メイド剣士が後ろに飛ぶともう一つ仕込んでいた鉄球が檻を形成し、女拳士を閉じ込めた

女拳士「いくつ技持ってるんだあの魔術師さん!」

メイド剣士「分かりませんけど二十は下らないんじゃないですか?」

メイド剣士は十分に助走距離を取り、一気に女拳士に突きを入れる

女拳士「これやばいっ!」

女拳士「一所集中!」

女拳士は肘と膝に魔力を込め、メイド剣士の剣を挟み止めた

魔力の摩擦により激しく電撃が迸る

メイド剣士「な、なんて力!」


メイド剣士はちらりと術師を見る

術師は青ざめて首を横に振る

流石の術師もどうやら魔力が限界のようだ

メイド剣士「まだ方法はある」

女拳士が檻を破壊するまでの時間に、メイド剣士は犬娘に近寄った

メイド剣士「お願いします、魔王様」

メイド剣士は犬娘に回復魔法をかけると、続けて肉体強化をかけた


術師「あら、そんなことも出来るんですね、意外と器用ですわ」

メイド剣士「術師さんも何か隠し玉無いんですか?」

術師「あと鉄球と同じ魔法を一回か二回使えたら良いくらいですわ、強力な魔法を撃つ魔力はありません」

メイド剣士「魔力ない魔術師ほど役に立たないキャラはいませんね!」

術師「本当に口が悪いですわ!」

二人が余裕で会話できているのは


犬娘「ええいっ」

女拳士「くそっ、見えない!」


強化魔法により、ただでさえ高速の犬娘はもはや戦っている相手にも位置をつかませないスピードだからだ

その上にドラゴンにダメージを与える突きや蹴りが強化されて襲ってくる

女拳士「不味い、流石にこれは不味い!」

言ったか否か、犬娘の肘が女拳士の鳩尾に入る

女拳士「ぐはあっ!」

犬娘「うわん!」

追いかけて閃光魔法

更に追撃の飛び蹴り!


術師「何あの無敵キャラ」

メイド剣士「凄まじすぎて手が出せません!」

女拳士「うおおおおっ!」

メイド剣士「本当に、本当にタフですね!」

犬娘「うわああっ!」

起き上がった女拳士と犬娘は激しく打ち合いを始める


女拳士「ぐおっ!」

女拳士「まだまだあっ!」

犬娘「ぎゃん!」

犬娘「まだっ!」

犬娘「わんわんわん!」

犬娘は閃光魔法連撃を加えながら距離を取る

メイド剣士「はああっ!」

隙を見てメイド剣士の全力の突き!


女拳士「うがっ!」

メイド剣士の剣はようやく女拳士の右腕を貫いた

女拳士がその剣を抜き取り犬娘の方に振り返ると

眼前一杯に犬娘の足の裏が見えた


…………


係員「そこまで!」

犬娘「はあっ、はあっ、はあっ」

メイド剣士「ふうっ、限界です……」

術師「私史上、最強にヤバかったですわ……」


女拳士「……うっ」

女拳士「あれ、終わっちゃった?」

起き上がった女拳士があたりを見渡すと、歓声が湧き起こった

たった一人でここまで戦った選手への賞賛と、凄まじい技の数々を見せた三人への賛美だ



犬娘「……えへへっ、勝っちゃったね!」

メイド剣士「最初に倒された時には終わったかと思いましたよ」

術師「ドラゴンより強い人間っているんですね」

女拳士「えっ、いやいや」


女拳士「あんたら強かったよ」

女拳士はそう言うと、術師の手を握った

メイド剣士「今度鍛錬してください」

女拳士「ああ、アタシもお願いするよ」

女拳士はメイド剣士の手を握る


犬娘「わうっ、よろしくお願いします!」

ぴしっと敬礼して尻尾を振る

女拳士「ああ、よろしくな、魔王様!」


これが女拳士と犬魔王の、出会い

第一章「犬娘、出会う」 完


次回――

ドラゴンより強い女拳士との出会いで、もはや最強パーティーとなった四人はコトー王の要請によりカイオウ島へ向かう

新しい世界、自然に溢れる土地を、開拓のために走り回る犬娘

最強パーティーとなった四人に訪れる新たな驚異とは――


第二章「犬娘、開拓する」

新しい大地、新しい力――

第二章「犬娘、開拓する」


夜――

四人は宿に帰ると、食事を取ることにした

女拳士「腹減った~!」

犬娘「腹減った~!」

メイド剣士「女拳士さん、魔王様が真似するからやめてください」

女拳士「ええっ、お堅いなあ」

術師「負けたんですからこちらに従って頂きますわよ」

メイド剣士「術師さんは魔力つきてから何もしてませんが」

術師「めちゃくちゃ魔法打ちまくって拳士さんの魔力を削りましたわ!」

メイド剣士「はいはい」

ニヤニヤと悪い目つきで術師をせせら笑うメイド剣士

術師「性格だけは世界一悪いですわね!」


女拳士「そんなことよりさっさと飯屋行こうよ!」

犬娘「行こう!」


Aランクの賞金はBランクより一桁も多かった

この二人の食欲を満たすにも十分である

四人は以前情報を集めた酒場に入ることにした


犬娘「前菜は網焼きステーキ!」

女拳士「アタシは刺身盛りと酒!」


術師「ああ、そう言えば女拳士さんはおいくつ?」

女拳士「ぴちぴちのハタチ!」

メイド剣士「ぴちぴちの雌ゴリラですね」

女拳士「おおいっ」

術師「これがこの娘のデフォルトなので突っ込んでたらキリがありませんわよ」

メイド剣士「今日は私も食べますよ~!」

術師「お財布の心配いりませんものね、まさか十万Gももらえるとは」

女拳士「あ、アタシの稼ぎも渡しとくね」

メイド剣士「そう言えば女拳士さんってAランクで勝ちまくってたんですよね」

女拳士「うん、だからカードで悪いけど、はい」

メイド剣士「これはっ、巷で噂の黒いカード……」

術師「たしか百万Gはないと収得できないのでは」

女拳士「うん、二百(万)くらい入ってる」

メイド剣士「」

術師「まあまあ大金ですわね」

メイド剣士「ちょっとまて」

そう言えば術師も大金持ちである

メイド剣士「お金に苦労しないのはそれはそれで問題がありますよ」

女拳士「そお?」

メイド剣士「あ、この人馬鹿だっけ」

術師「聞こえてますわよ!」


術師「まあ、これから新しい国を作るんだからお金はいくらあっても足りませんわよ」

術師「一応建国のモデルケースと言われてるオリファン開発記録を買っておきました」

さっきから分厚い本を持っていると思ったら、用意が良いものだ


メイド剣士「あ、来ましたよ」

四人の前に料理が運ばれてくる

犬娘「いっただっきまぁーっす!」

犬娘と女拳士は大食いの中の大食いだ

テーブルに並べられた料理は数人前あったが最初から白いお皿を置かれたように一瞬で蒸発した

術師「すみません、追加をお願いしますわ」

メイド剣士「……私人参しか食べてない……」

しばらくして、さっきの倍の量の料理が運ばれてきた

まわりの人間が目を見開いてこちらを見ている

一瞬で消えていく肉や魚の山

メイド剣士「この店を食いつぶすつもりですか」

メイド剣士はまたも人参をかじっている

術師「まだ私何も食べてませんわ」

メイド剣士「私もウサギ並みに人参ばかり食べてる気がします」

二人が望むだけ注文をさせてみるが、またもすぐに食べ尽くす

術師「建国できるんだろうか、もはや国家をも食い尽くす勢いである」

メイド剣士「術師さんが壊れた!?」


犬娘「術師さん、あーん」

術師「あーん」

犬娘が気を使ってくれるだけでご褒美をもらった犬のように従順な術師


メイド剣士はまた人参を食べていた

メイド剣士「人参好きですけど」

女拳士「そういやキミたち、なんでパーティー作ったの?」

メイド剣士「私は王命を受けて」

術師「私は彼女に興味があったので」

女拳士「ふーん」

犬娘「みんないいこだむふぉっ」

術師「口に物を入れながら喋らない」

メイド剣士「先に突っ込まれましたね」

女拳士「つまりこの娘の光の力に導かれたわけだ」

メイド剣士「光の力?」

術師「狼主様もそう言っておられました」

女拳士「おお、ふかふかちゃん元気?」

術師「あれ死ぬんですか?」

メイド剣士「それでその光の力とは……」

女拳士「平たく言うと、勇者の力だね」

術師「驚異的な成長力、人や魔物まで惹きつける魅力、闇を破壊する力、強者にも怯まない勇気」

女拳士「光の力を計る魔法もあるらしいよ」

女拳士「聞くところによると狼主やコトー王様、ヤマナミ王家の人はそれで人の力を計っているらしい」

メイド剣士「では私を彼女につけられたのも術師さんの同行を狼主様が許したのも」

女拳士「多分魔王様の力が分かっていたんだろ」

女拳士「アタシより強いなんて勇者としか思えないからね」

犬娘「私魔王だよ?」

術師「そうですわね」

そう言うと口の中一杯に食べ物を含んでもごもご言っている犬娘の耳をなでた

メイド剣士「今度は尻尾をもふります!」

女拳士「アタシのは?」

犬娘「くすぐったいよぉ~!」

術師「そう言えば拳士さんの出自はどこですか?」

女拳士「アタシはニシハテの生まれだよ」

術師「あら、私はタイガンですよ」

女拳士「へえ、近所だね」

術師「それだけの力を持っているのに噂も聞いたことがないとは変ですね?」

女拳士「アタシは旅烏だったからね~」

女拳士「本格的な修行したのは東大陸とかかつての魔王領とか、魔物が多い土地だったよ」

術師「なるほど」


メイド剣士「術師さんはタイガンでは有名だったんですか?」

術師「一応公爵家のお姫様として知られてはいましたけどねえ」

術師「まあ親の肩書きで私には関係ありませんわ、跡継ぎも兄様がいましたし」

メイド剣士「ふ~ん……、って、えええっ!」

犬娘「だからお金持ちなんだね!」

術師「ヤマナミ王家とも縁深いので私が狼主様に仕えるまでは何度か行ってますわ」

メイド剣士「私が王家に仕え始めたのは二年前ですので……」

術師「私が狼主様に仕えたのもそれくらいですわ」

術師「って十二歳で働き始めたんですの?」

メイド剣士「はあ、メイド長様が変態だったのもありますが」


――ヤマナミ――


メイド長「……くしゅん!」

ヤマナミ王「お姉ちゃん風邪?」

メイド長「大丈夫大丈夫、……くしゅん!」

ヤマナミ王「変態で性格悪いのにくしゃみは可愛いね」

メイド長「おうっ」


――コトー、酒場――


術師「するとかつて勇者と共に戦った剣士の家系なのですね」

メイド剣士「そう言うことになります、と言ってもずいぶん昔の勇者様らしく、お金も権力も残ってませんでしたが」

メイド剣士「両親が流行病で亡くなった時にメイド長様がどこからか聞きつけて、拾ってくださいました」

女拳士「その剣や剣技は血筋かあ」

犬娘「もぐもご」

メイド剣士「口に物を入れて喋らない!」

犬娘「ごめんなさい」

犬娘「メイド剣士ちゃんの剣すごく速いよぉ~」

メイド剣士「竜にダメージ与えられませんがね……」

術師「竜のウロコより硬いものはあまりないと思いますが、そのうち出来ますわよ」


女拳士「若いのに竜退治とか気が早いよ」

女拳士「アタシが初めてドラゴンにガチで勝ったの十七の時だしねえ」

術師「私も十四の年に一人でドラゴンには勝てませんでしたわ」

女拳士「それが普通だわ、むしろメイドちゃんは強すぎるくらいだと思うけど」

メイド剣士「そ、そうでしょうか……」

どうやらメイド剣士はほめられるのに弱いようだ

女拳士(可愛いね)

術師(可愛いですわね)


犬娘「ジュースくださ~い」

メイド剣士「そ、そろそろ帰りましょうか」

術師「そうですわね」

女拳士「ここはアタシの負け分の賞金で払うよ」

術師「別に構いませんわよ」

女拳士「いや、これからお世話になるし」

メイド剣士「ああ、食費大変そう……」


――コトー、宿――


術師「少し聞いておきたいことがあったのですが……」


宿では二組に別れ、術師と女拳士、メイド剣士と犬娘で部屋を取っていた


女拳士「うん、なんでも聞いて」

術師「話しにくい事かも分かりませんが」

術師「蠱毒の壷で敗れた経験はありますか?」


女拳士「三度ある」

術師「さ、三度……あの強さで……」

女拳士「しかもだいたい1対1で負けてる」

女拳士「蠱毒の壷では年に一度、Sランク戦って言うのが有るんだが」

術師「Sランク……あれより上が有るんですか」

女拳士「魔王様が会場に結界を張ってくれて、優勝者と戦ってくれるって大会なんだけど」

術師「あら、俄然興味が湧いてきましたわ」

女拳士「いつか四人で参加しようぜ」

術師「もちろん!」


女拳士「そこで二回」

術師「どんな相手だったんですか?」

女拳士「あんたも知ってる係員さんと、魔王を倒しにきたって言う勇者を名乗る奴に負けた」

術師「……勇者!」

女拳士「知ってるの?」

術師「ええ……」


術師は犬娘の村が勇者に滅ぼされた経緯を話した

女拳士「……あいつそんな悪い奴に見えなかったけど……酷いな」

術師「何か理由があるのかも分かりませんが、魔王様にとっては親の仇、いつか戦うことになるかも分かりませんわ」

女拳士「仮にも勇者を名乗ってる奴だ、そう簡単には勝てないぞ」

術師「こちらにも勇者はいましてよ」

女拳士「確かにな」


術師「三度目は私達ですか?」

女拳士「いや」


女拳士「あんたらは四回目」


翌朝――


四人はコトー王に呼ばれ、正式なカイオウ北開拓の命を受けた

魔王「ま、面倒で時間のかかることだし、今日からでも行ってくれたら助かるんだけど」

メイド剣士「どうしますか、術師さん」

術師「女拳士さんを手に入れられた今、無理にここで戦い続ける意味は有りませんわ」

メイド剣士「いよいよカイオウ島に向かうわけですね」

係員「カイオウ島に渡る船はカイオウ島で一番大きな国ハマミナトの国に繋がっています」

係員「ハマミナト王は善良な人間の王です、紹介状を書いておきましょう」

魔王「うむ、最初のうちは主力の貿易相手になるだろうからな」

犬娘「じゃあまずは王様に会います!」

魔王「そうだな、その後北上した所に砂浜があるから、そこに拠点を設けるといい」


魔王「最終的には港を作りカイオウ、コトー間航路をもう一つ開拓してもらいたい」

魔王「カイオウ島への航路が一つだとチュウザン国やカイオウ国からの輸送が滞ることも有り得るからな」

術師「良い資源があるんですか?」


係員「カイオウ島は全体的に農業が盛んで、小麦や肉類などを多く輸入しています」

係員「チュウザンはその中でもとても広大な農場を持つ農業国です」

係員「その上にチュウザンは山岳地帯ですので、鉱物資源も豊富です」

魔王「かなりの資源量を誇るミスリル銀鉱山がある、これは抑えておきたいわけだな」


犬娘「……ぐう」

メイド剣士「これはかなり勉強しないと駄目ですね……」

術師「そこでこれ、オリファン開発記録ですわ!」

魔王「おっ、懐かしいな」

術師「ここに生の開発協力者がいましたわ」

女拳士「なま!?」

魔王「まあほんとに困ったら助言も協力もしてやる、こちらとしてもメリットがあるから頼んでいるわけだからな」

術師「そうですね、できる限りは自分達でやらないと一国を作るなんてできませんわね」

メイド剣士「頑張ります!」


犬娘「むにゃ……」

魔王は覚醒の魔法を使った

犬娘「はうっ」

よだれを垂らしていた犬娘は飛び起きた

魔王「では勇者犬娘よ、行くが良い」

犬娘「勇者?」

魔王「いっぺん言ってみたかったんだよな」

メイド剣士「コトー王様ってお子様みたいですね」

術師「……子供ばっかりな気がしてきましたわ」


女拳士「じゃあ、いこうぜ!」

犬娘「おーっ!」

メイド剣士「そこは魔王様がリーダーなのでは……」



――船上――


術師「船旅は二回目ですわね」

メイド剣士「これから新天地へ向かうんですね……」

犬娘「カイオウ西ハマミナトにつくのは明日の夜だって」

術師「船の食料足りますかね?」

メイド剣士「ひと月分は乗せてるらしいから流石に……足りるかなあ?」

術師「いや、それだけあれば足りるでしょ」

犬娘「みんなー、あっちで魚釣りできるよーっ!」

女拳士「おっ、面白そうだな」


術師「食料対策しておかないと北浜ではしばらく食料は自己調達ですわよ」

メイド剣士「ほかにも色々準備がいりますよね」

術師「オリファン開発記録では食料は輸入が多いんですよね」

メイド剣士「チュウザンからの輸入路は必要ですから、拠点を設けたらチュウザンへ行きましょう」

術師「あら、賢いですわ」

メイド剣士「魔王様を支えるためには勉強しなければ」

術師「魔王様に勝てるの勉強だけですものね」

メイド剣士「うるさいです」

犬娘「はやくおいでよーっ!」

メイド剣士「はあい!」

術師「素直になれば可愛いのに」


ニシハテを経由し、やがて翌日には船からカイオウ島が見え始める

メイド剣士「あれが私達が開拓する予定の北浜ですね」

術師「海側から見られるのは貴重ですわ、よく見ておきましょう」

メイド剣士「南はなだらかな山岳地帯、西は磯、東は森ですね」

術師「地図によれば南東に山に囲まれた湖、その南がチュウザン、さらに南に下るとカイオウ国」

メイド剣士「歴史資料も読んでますがもともとはカイオウ国だけだったんですね」

術師「そこに人間の王がコトー王様の依頼を受けて入植したのは120年前」


メイド剣士「国作りって時間かかりますよね」

術師「五年以内に港を作るまでこぎつけたいですわ」


犬娘「綺麗だね~!」

女拳士「ああ、あの山の上から夕日とか見たら最高だろうな!」

術師「観光資源ゲット」

メイド剣士「抜かりないですね」

そして日が傾きかけた頃、船はハマミナトに辿り着いた


――ハマミナト――


ハマミナトはカイオウ島の輸出を一手に担う貿易大国である

主要産業は工業、漁業、農業、人材派遣であり、教育も盛んである

商人も多く、巨大になったハマミナトは今やカイオウ島最大の都市国家だ


そこに四人は降り立つ

術師「まずは宿を取りますわ」

犬娘「王様と会うのは明日だね」

術師「私とメイド剣士さんは街をまわってから宿に帰りますので、お二人は何か食べてて良いですよ」

女拳士「やったね!」

犬娘「やったね!」

メイド剣士「旅立ちの準備や拠点作りにお金がかかりますので控え目にお願いします」

女拳士「はあい」

犬娘「はあい」

術師「姉妹みたいですわね」


…………


術師「さて、荷物も置きましたし、行きましょうか」

メイド剣士「はい、地形の把握をしておくんですね」

術師「街づくりのヒントも得られるかも分かりませんからね」

メイド剣士はコトーで手に入れたカイオウ島の地図を開く

メイド剣士「大きな街道が東に数本、南に二本伸びていますね」

術師「南はハマミナト穀倉地帯、カイオウ国で、東はチュウザンです」

メイド剣士「チュウザンとの貿易がかなり重要であることは見て取れますね」

術師「交差点となっているこのあたりは人も多いし、かなりの都会のようですね」

メイド剣士「王城は北の山の麓で、一応北に伸びる山道が一本有るようです」


術師「まずは街道の整備ですかね……」

メイド剣士「農地が少し北にあるようですね、街道通しても怒られないかな?」

術師「交渉もしないと駄目ですわね……」

メイド剣士「そこはお姫様にお願いします」

術師「何かトゲがありますわね」


術師「中央通りには商店が立ち並んでますね」

メイド剣士「買い出しするにしても相当な量になりますよね」

術師「最低でも現地で一週間暮らせる量は必要でしょう」


術師「まず牛を買って牛車を作りましょう」

術師「あと食料を確保するためにいくつか道具を買い込みます」

メイド剣士「とりあえず準備するのはそれくらいですか?」

術師「あと工具、それと、石があれば買いたいですわ」

メイド剣士「石?」

術師「錬金術生成物の一つで、魔法を自動発動してくれる大変便利な道具なんですよ」

メイド剣士「あ、王室にありました、空気を冷やしたり食べ物を凍らしたりできるんですよね」

術師「非常に高価な物だし術師の腕で値打ちが変わるものなので……、研究室があれば私が作るんですが」

メイド剣士「術師さんって錬金術もできるんですか?」

術師「私の職業は最初から錬金『術師』ですわよ」

メイド剣士「魔術師だと思ってました」

メイド剣士「それで金属を操る魔法が主軸なんですか」

術師「そう言うことですわ」

メイド剣士「じゃあまず拠点と畑作り、研究室作りあたりから始めてみましょうか」

術師「ふふっ、ワクワクしてきましたわ!」

メイド剣士「戦闘以外でも盛り上がるんですね、いいですね単純で」

術師(トゲのある言い方になれてきましたわ)


術師「では、そろそろ二人の食欲を止めに帰りますか」

メイド剣士「そうですね、宿が潰れないうちに」

二人は犬娘たちと合流すると翌日の予定を決め、ゆっくりと旅の疲れを癒すことにした


…………


犬娘「じゃあ、お城行こう!」

術師「はい、その後商店街をまわり、午後には出発しますわ」

女拳士「ずいぶん急ぐんだな」

メイド剣士「やることは多いので、少しでも早く目的地に着きたいですからね」


――ハマミナト王城――


ハマミナト王「魔王様の使いの皆さん、ようこそ~!」

女拳士「陽気な爺さんだな」

メイド剣士「まあまあ、お人好しそうで良いじゃないですか」

術師「聞こえますわよ」

ハマミナト王「まあ事実じゃし」

ハマミナト王は涙目である


銀騎士「無礼であろう」

横で聞いていた銀の鎧の騎士は厳格な人物のようだ

銀騎士「やはり魔王などといつまでも付き合うべきではないな」

術師「申し訳有りませんわ」


術師「書状に有るとおり、我々は北の土地の開拓を委任されております」

術師「よろしくご理解とご協力をお願いしますわ」

ハマミナト王「おっけー、いっぱい協力しちゃう!」

術師「有り難く存じます、まずは街道整備が必要と考えていますので、お力をお貸しいただければ有り難いですわ」

ハマミナト王「はいはい、魔女娘ちゃ~ん」

魔女娘「はいよ、なんか今日は賑やかだね」


ハマミナト王「この子魔女娘ちゃん、転送魔法使えるから外交とか色々やってくれてるの、よろしくね!」

メイド剣士「貧乳ですね」

魔女娘「貧乳はどうでもいいだろ! あんたもぺちゃんこじゃないか!!」

ハマミナト王「まあまあまだ魔女娘ちゃん十八だし成長するよ~!」

銀騎士「……全く、頭が痛い」

銀騎士「失礼する」

銀騎士はイライラとした雰囲気を隠そうとせずに席を蹴った


術師「転送魔法は便利ですわね、ご教授頂けませんか?」

魔女娘「ああ、あんたらの拠点に転送魔法陣を引いてもらいたい」

魔女娘「大規模輸送には使えないけど馬車一つくらいは運べるからね」

術師「では少し時間をいただいて魔法陣の敷き方だけでも教わって行きたいと思います」

ハマミナト王「キミらの国が発展すれば島全体の経済が活性化するから、ぜひ頑張ってね!」

術師「有り難う御座います」


術師「魔女娘さん、このあたりにいい錬金術のお店は有りませんか?」

魔女娘「あるけど、露店だし今日店出てるか分かんないよ」

魔女娘「ほとんど誰も知らないと思うけどはっきり言って一流の石使いさ」

術師「石使いなら知り合いがいますわ」

魔女娘「確か出身はタイガンだったかな」

術師「あら」


…………


石使い「せんぱい」

術師「石使いちゃん、お久しぶり」

犬娘「私と同じくらい?」

メイド剣士「見た目的には」

術師「一応彼女は一個下なのでお二人より年上ですわよ」

犬娘「ええ~っ小さい!」

石使い「…………」

メイド剣士「声も小さいですね」

術師「引っ込み思案だけど腕は良いんですよ」

石使い「ありがとう、せんぱい」

石使いの少女は術師にほめられると顔を真っ赤に染めた

メイド剣士「そういう関係でしたか、お下品」

術師「そういう関係ではないですわね、お下品言いたかっただけでしょ」

メイド剣士「術師さんをからかいたかっただけです」


女拳士「んね、この石ころって何に使うの?」

石使い「赤い石は焜炉用に火力調整してある……」

石使い「これはやすい、三万」

メイド剣士「たかっ!」

術師「石は高いものですわ、彼女の石は品質も高いし、すごくお買い得な値段ですわよ」

メイド剣士「王家に入るまで石なんか見たことありませんでしたよ」

術師「まあ昔ながらの生活をする分には簡単な魔法が使えたら十分ですからね」

石使い「せんぱい、白石あるよ」

術師「あら、それは助かりますわ」

石使い「これちょっと高い……、20万」

女拳士「たっけー!」

術師「いただきますわ」

女拳士「うそーっ!」

術師「あと、青石を一つ、赤石も、黄石はいくらですか?」

石使い「一万でいい、せんぱい価格」

術師「有り難いですわ」

メイド剣士「そんなに良いものなんですか?」

術師「本来自動魔法発動アイテムなんて値段をつけられないくらいレアなんですよ?」

術師「あ、あと錬金器具基本セットはありますか?」

石使い「置いてる、十五万でいい」

術師「破格ですわね!」

石使い「せんぱいの石を卸してくれるなら、安い」

術師「ちゃっかりしてますわ」


女拳士「あのさ、アタシ金銭感覚おかしくなってきた」

メイド剣士「同感です」

犬娘「……ぐう……」

メイド剣士「魔王様寝ちゃった」


魔女娘「買い物終わったかい?」

術師「だいたい終わりましたわ」

魔女娘「じゃあ牛車見てこよう、あとこれ、転送魔法魔導書とあんたたちの国用の転送パス」

術師「仕事ができますわね、魔女娘さん」

女拳士「アタシらなんか食べてきていい?」

術師「まだ少しかかりそうですから構いませんわよ」

犬娘「やった」

メイド剣士「ちゃんとセーブしてくださいよ、食べ過ぎ禁止です」

犬娘「はあい」


その後三人は街道整備の基本方針を決め、食料や必要機材を買い揃えた

術師「思ったより時間かかりましたわね」

メイド剣士「今日の出発は難しいでしょうか?」

魔女娘「まあゆっくりしていきなよ、良い国だよ」


術師「そうしますわ」

結局四人はハマミナトにもう一泊することにした


翌朝――


犬娘「さあ、私達の国に行くよ~っ!」

術師「そうですわね」

メイド剣士「なんだか術師さん具合悪そうですね、そろそろ死にますか?」

術師「ちょっとスケジュール詰めすぎたかも……」

女拳士「無理すんなよ、おぶってもいいからさ」

メイド剣士(姉御肌……)

術師「大丈夫ですわ、牛車ですし」

女拳士「おお、この牛、うちのかあ」

術師「べこちゃんですわ」

べこ「ンモオ~」

犬娘「可愛い!」

メイド剣士「大きくて怖いです」

術師「後々、乳牛や羊なんかも飼わないといけませんし、動物には慣れてくださいね」

メイド剣士「はい、あ、鶏だ」

術師「新鮮な卵を食べられますわよ」

女拳士「おっほ、そりゃいいや!」

犬娘「私餌やりしたい!」

術師「まあまあ、向こうに着いたら沢山仕事してもらいますわ」

犬娘「じゃあ、新天地にしゅっぱあ~っつ!」

女拳士「お~っ!」

メイド剣士「お~っ!」

術師「お~っですわ」


未整備の山道はもちろん輸送向けではなく、牛車は揺れに揺れた

術師「…………うぐっ」

メイド剣士「これはキツいですね……」

女拳士「べこの誘導はアタシがやるから景色でも見て休んでなよ」


犬娘「やっほー!」

犬娘は牛車を降りて走り回っている


メイド剣士「なんというタフネス……」

術師「私も少し歩きますわ」

メイド剣士「まあ、無理はしないでくださいね」

術師「はい」

そう言うと術師は空中をふよふよと歩きだした

メイド剣士「……器用だな~」

女拳士「この丘の上に着いたら一泊しよう、まだいくつか越えないと駄目みたいだからね」

術師「見てきますわ」

術師は一瞬で高度を上げた

メイド剣士「術師さんの移動は基礎的な転送魔法ですよね」

メイド剣士「あれ、私も使えないかなぁ」


やがて、丘の上に着くと、牧草地帯が見えた

術師「放牧し放題ですわ」

メイド剣士「家畜を沢山飼えますね」

犬娘「楽しみ!」


犬娘はべこちゃんに乗って遊びだした

べこ「ンモオォ~」

犬娘「あははっ!」


術師「……」

術師「そう言えば魔王様は魔物の集落で暮らしてたんですわね」

メイド剣士「そっか、動物の相手の方が落ち着くのかな」

術師「今まで都会ばかりまわってましたし、向こうに着いたらしばらくは落ち着いた生活をさせてあげたいですわね」

メイド剣士「そのためにも私はしっかり働かないと」

術師「期待してますわ」

女拳士「アタシは何ができるかなあ」

術師「開拓ですわ」

メイド剣士「開拓ですね」

女拳士「しばらくは斧を振るか」

術師「トレーニングもしたいですわね」

メイド剣士「打倒、コトー王様、ですね!」

女拳士「ハードルたっけーぞ、アタシの知ってる限りダメージを与えた奴もいないから」

術師「えっ、係員さんも?」

女拳士「全く歯が立ってなかったよ、アレだ、闇の衣って奴」

メイド剣士「闇の衣って、ヤマナミに封印してあるはずじゃ……」

女拳士「新しく自分で作ったらしいよ、コトー王様以外には誰も作れないだろうけどね」

術師「それじゃ伝説の勇者しか勝てませんね」

メイド剣士「魔王様なら勝てるかな?」

女拳士「ああ、魔王様ならいけるかも」

術師「でも結界も使えるんですよね、無理では」

メイド剣士「うわ、無理だ」

女拳士「ハンパないなコトー王様」

術師「結界を破りつつ闇の衣を破壊ってどんな芸当なんでしょうか」

メイド剣士「ちょっと考えも浮かびませんね」


女拳士「さて、そろそろ寝ようぜ、魔王様も寝ちゃったし」

術師「ほんと、ふわぁ、……疲れましたわ」

メイド剣士「見張りしてます」

女拳士「ああ、じゃあ月が真上に来たら起こしてくれ」

メイド剣士「はい」


…………


二日目

術師「だいぶ丘を越えましたね」

メイド剣士「これ整地するの大変じゃないですか?」

女拳士「う~ん、アタシが山を砕いて谷間を埋めていっても何年かかかるかな」

術師「できると思えるのが凄まじいですわ」

メイド剣士「ハサミと脳筋は使いようですね」

女拳士「ま、パワーファイターなんかそんなもんだよね」

自嘲する女拳士

術師「まあ一人でやらせるようなことはしませんわ」

メイド剣士「私にパワーを求めないでくださいね」

術師「非力ですものね」

メイド剣士「非力ではないです!」

女拳士(可愛いな)

術師(可愛いですわね)


その日も暴走する魔物にも出会うことなく、夜には北浜手前の山麓に辿り着いた

術師「かなり広い盆地ですわね」

メイド剣士「すぐそこまで牧草地帯が広がってましたよ」

術師「牧草地帯を抜けてチュウザンに行くルートがあるかも知れませんわね」

メイド剣士「あっちの方がなだらかだし相当に楽そうですね」

術師「良い立地を頂けましたわ」

女拳士「街をでかくできるかはアタシら次第かな」

犬娘「頑張るっ!」

メイド剣士「まずは難しい話で眠らないようにしてください」

犬娘「あうぅ……」


術師「とにかくここにテントを張りましょう」

女拳士「じゃあ適当に食いもん作っててよ、アタシと魔王様でやっとくから」

メイド剣士「じゃあお願いします」

術師「べこちゃんの簡易小屋と、錬金用にもう一つテントをお願いします」

女拳士「あいよ」


すぐに犬娘たち二人はテントの骨を組み、天幕を張り、杭を打ち付けていく

術師たちは持ってきたハムなどを炒めたり干魚を炙ったりして夕食を作っていく

術師「うん、野菜作りしないと駄目ですわね」

メイド剣士「ちょうど夏野菜が美味しいシーズンが近づいてますよ」

術師「あの二人にこの盆地を耕してもらうとして、定住場所がずっとテントってわけには行きませんからね」

術師「城を建てる土地を取って、まずは小屋を建てましょう」

メイド剣士「まず住居と食料の確保ですね」

術師「ここは海の物も山の物も畑の物も取れる理想的な立地ですわ」

メイド剣士「でもあの二人の食欲を賄うためには何か特産品を用意するとかしないと駄目かも知れませんね」

術師「二点ほど考えています」

術師「私達が取引するのは最終的にはチュウザンになります」

メイド剣士「そうなんですか?」

術師「チュウザンやカイオウとの貿易経路の確保がこの開拓の目的だと聞いたはずですわ」

メイド剣士「確かに」

術師「そこでチュウザンで不足するだろう塩を作ります」

メイド剣士「なるほど」

術師「もう一つは海産物です」

術師「貝を干したり魚を干したりまたは転送魔法で生のまま輸送することも出来るでしょう」

メイド剣士「転送となるとどうしても量が限られてきますね」

術師「そこで、中心に塩と干物を作ります」

メイド剣士「漁師さんも雇わないとなあ」

術師「まずはこの『オリファン開発記録』を参考に、人が住める宿舎を作ります」

メイド剣士「国を作り動かすのは人ですからね」

術師「今日はゆっくり休みましょう」

メイド剣士「じゃあ、ご飯にしましょうか」

犬娘「テントできたよ~!」

メイド剣士「お疲れ様です魔王様」

メイド剣士は犬娘の尻尾にハグする

女拳士「いまだ、犬耳ゲット!」

術師「あ、あぶれましたわ」

犬娘「くすぐったい~!」

女拳士「なんだか癒し効果が……」

メイド剣士「もふもふ依存症に注意ですもふもふ」

術師「依存症患者が……」


…………


朝、犬娘と女拳士は食料確保のために釣りに出かけた

女拳士「アタシも旅の途中で色々釣りはやったけど、現地調達の餌で釣るのが一番だよ」

犬娘「餌はどこにあるかな~?」

女拳士「岩にへばりついてる貝類もいいんだけど、汽水域に住むゴカイの類を使うのが簡単かな」

犬娘「竿や糸は術師さんが買ってくれてるよ!」

女拳士「あの人準備いいなあ、良いとこのお嬢さんなのにしっかりしてる」

犬娘「すっごく助かるよ!」

女拳士「準備と言えばこの箱、青い石のお陰で魚が腐りにくいらしい」

犬娘「すごいね~、錬金術って」

女拳士「錬金術用のテントも用意したし、こういうのもっと作ってくれるかもね」

犬娘「輸出したら儲かるね!」

女拳士「うん、一つ何万もするなんてほとんど貴金属だよ、錬金術とはよく言ったもんだ」


犬娘「あ、あそこ川あるよ!」

女拳士「そう、川の河口は汽水域になってて、潮が引けば餌がたくさん取れる」

女拳士「とりあえずこの袋に一杯で良いよ」

女拳士は小さな皮袋を取り出すと、水の中に入っていく

女拳士「冷たい、気持ちいい」

犬娘「日差しがキツいから涼しい~」

女拳士「この木ベラを使って掘るといいよ、はい」

犬娘「ありがとー」

女拳士「あ、魔王様って虫大丈夫?」

犬娘「うん!」

女拳士「こんなんだけど」

女拳士は足元を掘ると、足が沢山あるムカデを溶かしたような生き物を掘り出した

黒い牙がうにうに飛び出す様が実にグロテスクだ

犬娘「昔お父さんと釣りに行った時使ったよ!」

女拳士「流石野生児だね、メイド剣士ちゃんとか泣き出しそうだけど」

犬娘「あはは」

女拳士「さあ、一杯取ったら釣りにも行かないとね」

犬娘「うん!」


…………


メイド剣士「む、ムカデ~!」

術師「落ち着きなさいな、ムカデなんて森には沢山いますよ?」

メイド剣士「お姫様の癖に~!」

なんとも動じない術師、メイド剣士はますます暴れる

メイド剣士「死ね、ムカデは死ね!」

今まで使ったことのない真空魔法まで放ち始めた

術師「あなた追い詰めたら強くなるタイプですわね」

メイド剣士「笑ってないでムカデ撃破してください!」

術師「もうすぐ木枠を作れるので我慢してくださいな」

メイド剣士「もうっ、ムカデ死ね!」


術師は木枠を作るとそれを海に運び出した


…………


術師「落ち着きましたか?」

メイド剣士「潮風で」

メイド剣士「気持ちいい……」

術師「塩作りを始めますわ」

メイド剣士「海水を汲んでこの木枠に貯めるんですね」

術師「いい塩が取れるようなら塩田を作ります」

メイド剣士は木の骨に皮を張ったバケツで海水を汲み上げた

術師「まあなかなか出来るものでは無いです」

術師「火でさっさと気化させても良いんですけどね」

メイド剣士「とりあえず色々作り方を試してみるんですね」

術師「そうですわ、薪を使うのもコストがかかりますからね」

メイド剣士「なるほど」

術師「まあのんびり……、あら、魔王様」

メイド剣士「魔王様~」

犬娘「メイド剣士ちゃん、ゴカイ取ったよ~!」

メイド剣士「ゴカイってなんです、きゃ~~~~~~っっ!!」

犬娘「釣り餌だよ、風で切り刻んじゃだめだよ!」

女拳士「メイドちゃんが進化してる」

術師「森の中でムカデが出まして、はずみで覚えたようですわ」

女拳士「人間どこで成長するか分からないねえ」


犬娘「つ、釣りにいこ、ゴカイ無くなっちゃう!」

術師「誤解が無くなると困るとは」

メイド剣士「別に上手くないです!」

女拳士「じゃあデッカいの釣ってくるわ」

メイド剣士「私今日お魚食べない!」

術師「じゃあ、塩もすぐには出来ませんから貝を拾いましょう」

メイド剣士「あ、貝食べたいです」

術師「網とか使えたら良いんですけど、そのうち編みますか」

メイド剣士「術師さん万能」

術師「ありがとうございます」

メイド剣士「魔力が無いと戦闘の役には立ちませんが」

術師「まだそれひっぱりますか!」


…………


女拳士「さて、何が釣れるかな?」

犬娘「竿~道糸~浮き~錘~ハリス~針~餌~♪」

女拳士「なんだいその歌、楽しそうだね」

犬娘「釣りセットの歌?」

女拳士「魔王様は愉快だね」

犬娘「釣っれるっかな?」

女拳士「釣れなかったら素潜りしてくるよ」

犬娘「タフ~!」

女拳士「魔王様は塩がつくとベトベトになりそうだね」

犬娘「泳ぐの得意だよ~、犬掻きは専門家だよ~」

女拳士「確かに!」


犬娘「あ、なんか来た!」

女拳士「あ、無理に引っ張っちゃ駄目だよ」

犬娘「おっきい~強い~」

女拳士「アイナメかカサゴかメバルか、そのあたりかな」

犬娘「釣れたっ」

女拳士「これはメバルだね、この仕掛けで釣れるのは珍しいかも」

犬娘「そうなの?」

女拳士「こいつは美味いよ」

犬娘「やった」


女拳士「お、こっちも……、ハゼだね」

犬娘「美味しい?」

女拳士「天ぷらにすると美味しいよ」

犬娘「やったね」


女拳士「ここ、いっぱい魚いるみたいだね、人があまり来ないからか……」

犬娘「貿易できる?」

女拳士「網を使って漁ができたら貿易も出来そうだよ」

女拳士「こんな魚だけだと一日で二千匹は取れないと厳しいかもね」

犬娘「厳しいね~」

犬娘「でも私、難しいことできない分頑張る!」

女拳士「いくらでも頼ってね、魔王様!」

犬娘「ありがとう!」


犬娘「あ、また来た~!」

術師「ずいぶん遅くまで釣ってたんですね」

女拳士「いや~、塩でベトベトになったから川の上流まで水浴びに行ってた」

メイド剣士「お魚これですか、うわっ」

術師「まあ、ずいぶん色々釣れましたね」

女拳士「浅めで釣ってたら小物がたくさん釣れた」

術師「これならもう少し太い糸を使って大物も狙いたいですわね」

女拳士「釣り詳しいの?」

術師「西の森は海も近いので狼主様と何度か……」

女拳士「ふかふかちゃん魚食べるんだ」

術師「好物みたいですわ」


女拳士「海老でも取ってイカや石鯛を狙うのもいいかなあ」

術師「面白そうですわ、ハマミナトに行ったら仕入れておきます」

女拳士「そのうち造船や漁業も視野に入れるかね」

術師「参考にしておきます」

女拳士「とりあえずこれで一日は食えるし、明日は森から湖まで見てきたいけど」

術師「頼りになりますわね、ではそうしましょう、牧草地やチュウザンへの道もできれば調べておきたいです」

メイド剣士「ううっ、ムカデさえいなければ……」

術師「みんなで行きますわよ」

メイド剣士「うえぇ……」

犬娘「ムカデいたら踏むよ!」

メイド剣士「あ、ありがとうございます」

術師「配下のためにムカデを踏む魔王様……」

女拳士「なんかかっこいいぞ」


メイド剣士「まずはお魚と貝、料理しましょうか」

術師「手伝いますわ」

犬娘「私もっ」

その後、貝のパエリアや魚のソテーを大量に作った

ほとんど現地の獲物で一食作ることができた事で大きなスタートの一歩を踏み出せたと言えよう


…………


術師「さて、今日は探索ですわね」

メイド剣士「一応内政の仕事かと思い食料残量でおおよその宿泊可能日数を計算しましたが、まだ十日は大丈夫です」

女拳士「内政?」

術師「彼女はヤマナミで内政に従事していたので、その関係の仕事をお願いすることにしました」

女拳士「へえ、誰にでも特技が有るもんだねえ」

メイド剣士「喧嘩売ってますか?」

術師「あなたは毎日売ってるでしょ」

メイド剣士「それもそうです」


女拳士「湖かあ、どんなとこかなあ」

犬娘「故郷に池や沼はあったよ」

女拳士「東大陸に渡った最初にデッカい湖あったけど、塩湖だったから海みたいな環境だったな~」

女拳士「淡水の湖は泥臭いとこで水も濁ってるとこが多くてさ、あ、すげー綺麗なとこもあったな」

術師「旅慣れてますわね」

女拳士「まあ武者修行の旅だし、たいした知識は無いけどね~」


犬娘「私も……今まで旅してきたよ」

メイド剣士「……魔王様……」


術師「その旅もここで終わりですわ」

術師「これからはここがあなたの故郷ですからね」

犬娘「……うん!」


メイド剣士「湖、見えてきましたよ!」


――チュウザンの滝、チュウザン湖――


やがて四人がたどり着いたのは、青く澄んだクリアウォーターの湖だった

透き通った水の中を泳ぐ魚はあっと言う間に逃げていく

ここからチュウザンに行くのも、北浜に帰るのも、自由だ


術師「ふむ」

メイド剣士「綺麗な水ですね……、泳いでる魚が見える」

犬娘「釣りしたら気持ちよさそう」

女拳士「おお、ここならナマズや鯉が釣れそうだね」

犬娘「虹鱒もいるかも!」

女拳士「ここまで三時間ほどしかかからなかったね、いつでも釣りにこれる距離だよ」

術師「ふむ」

メイド剣士「途中の森でも何か取れませんかね?」

女拳士「キノコはいくつかあったね」

犬娘「野草もたくさんあったよ!」

術師「ふむ」

メイド剣士「さっきからなんですかふむふむと!」

術師「生計を立ててました」

メイド剣士「生計?」


術師「意外と私たちが生きられるために必要な土地は、広大ですわ」

術師「例えば油を取る菜種、小麦、香辛料を取る畑、たった四人が生きるためには、それはそれは広大な土地が必要です」

術師「それらをこれから耕し、収穫に至るまで、私達はとても生きていけませんわ」

メイド剣士「うっ、確かに」


術師「でもこのオリファン開発記録においては、ほとんど食糧危機に見舞われていません」

メイド剣士「何故ですか?」

術師「貿易で成功を収めたからです」


術師「なにより大きかったのは大魔法使い様の作った『竜の秘薬』」

メイド剣士「あれは、ヤマナミ内務官の間でも禁忌です」

メイド剣士「あんな超知識、超物質、超研究の産物、実際現在は完全に技術が失われた秘薬、経済的に見ても再現が難しいです、絶対頼っちゃ駄目な物なんです」

術師「私も研究していましたから知ってますわ」

術師「それに変わるもの、私作れるんです」

メイド剣士「はあっ!?」

術師「『石』ですわ」

女拳士「!!」

メイド剣士「な、なるほど確かに」

女拳士「あれも超レアアイテムだよな?」

術師「もちろんですわ、材料はこのあたりにあるか、ないかも分かりません」

メイド剣士「そんなあやふやな」


術師「私達の拠点近くにある山は火山ですよね?」

メイド剣士「地図上はそうなってます」

術師「火山には必要な鉱石があります」

女拳士「おおっ、じゃあまずあの山に登るべきか」

術師「そしてこの湖に、水神の石があれば白石が作れます」

メイド剣士「一個二十万のあれですか!?」

犬娘「どんな石か分かったら私探すよ!」

術師「それは……」


魚娘「ざっぱーん!!」

貝殻姫「ちょっ、魚娘ちゃん、見つかっちゃうよ!」


突然湖から、魚人が二人飛び出してきた

術師「はうあっ」

犬娘「わあっ」

メイド剣士「なんですか?!」

女拳士「ぎょぎょぎょぎょぎょ、魚人だあああああ」

魚娘「人魚ですわ」

どう見ても魚人である

術師「人魚って美しい肌の女性ですわよね、鱗だらけの鎧みたいな顔ではないですわよね」

魚娘「人魚だもん!」

貝殻姫「あなたは魚人です」

魚娘「がーん!」

一人は完全な魚人である

顔まで鱗に覆われている

しかしもう一人はとても美しい、絵本の中から出てきたような人魚だ


犬娘「お姉ちゃん綺麗だね!」

貝殻姫「ナンパですかっ!」

魚娘「ぶぶぶぶぶぶ無礼なあっ、こちらにおわすお方をどなたと心得る!」

メイド剣士「知りません」

術師「知りませんね」

女拳士「知らない」

犬娘「人魚さん?」

魚娘「正解、あなた正解!」

犬娘「やった」

犬娘は可愛くガッツポーズした


貝殻姫「あなたが私を好きだと言うなら貝殻姫は泡となる覚悟ですわ!」

魚娘「ちょっ、姫様、あれよく見たらメスです!」

貝殻姫「ええ~っ!!」

貝殻姫「神様ヒドい」

魚娘「ああっ、姫様が過呼吸にっ!」


術師「いったいなんなんですか、この魚たちは」

メイド剣士「さあ?」


魚娘「失礼、我らはカイオウ国の者です」

術師「カイオウ国、この大陸最古の国ですわね」

魚娘「最古にして最高、最古にして最高!!」

女拳士「はいはい、最古にして最高な」


女拳士はこの手の輩が面倒くさいことを知っているようだ

貝殻姫「あの、申し訳ないと思いつつあなた方のお話を聞いておりました」

術師「え、まさか」

魚娘「はい、水神の石ですね、どうぞ」

貝殻姫「きゃあ、魚娘ちゃんそれレアアイテム!」

魚娘「そうでしたああああ!」


なんだろうこのハイテンションな魚たちは


術師「……間違いなくこれは水神の石ですわね」

犬娘「もっと頂戴!」

貝殻姫「愛しいあなたのお申し付けとあれば」

貝殻姫は水神の石を数十個も投げてきた

魚娘「ひめさまあああっ、それレアアイテムうううううぅ!」

貝殻姫「そうでしたあああああ!」


魚娘「あの、すみません、それお返しください」

術師「えと、構いませんわよ」

メイド剣士「どうしよう、最高に面倒くさい」

術師「声に出てますわよ」

魚娘「すみません、美しい人魚の私に免じてお許しを」

術師「醜い魚人ですがお気になさらず」

魚娘「がーん!」


貝殻姫「あの、そちらのお方のお名前は」

犬娘「私犬娘!」

メイド剣士「メイド剣士」

術師「術師」

女拳士「アタシは……」

魚娘「分かりました」

女拳士「いっぺん釣り上げるぞ」

貝殻姫「犬娘様はなぜこのような辺境に……」

完全に恋する乙女の眼差しで貝殻姫と名乗る人魚が聞いてくる

犬娘「私北浜に国を作るんだ!」

貝殻姫「あ、そう言えばコトー王様から通達がありましたわ!」

魚娘「あなたが勇者犬娘様!」

貝殻姫「しーっ、しーっ、それ極秘事項ですわっ!」

魚娘「あうちっ聞かなかったことに!」

術師「正直どうでもいいですわ(知ってるし)」

貝殻姫「私貝殻姫と申します、箱入りなもので物を知らないのですが、あなたのこと尊敬していますわ!」

犬娘「ありがとお~っ!」

術師「ちょうどいいですのでカイオウ島の地理とかカイオウ国の現状とか、分かる範囲で教えて頂けますか?」

貝殻姫「は、はい」

貝殻姫「まずは私達の国、カイオウ国は我らが魚人の先祖、カイオウ様が建国した由緒正しい魔物の国です」

貝殻姫「主力産業は漁業ですわ」

魚娘「漁業と言っても真珠や珊瑚の養殖販売が主です」

貝殻姫「それらの加工業と、あとチュウザンから輸入した原石を加工した貴金属の輸出も行っています」


術師「すごく分かりやすいですわ」

術師「彫金の際はお世話になるかも分かりませんわね」

メイド剣士「いずれ正式に国王様にご挨拶に行きたいのですが」

貝殻姫「父は王とは言ってもほぼ水の中で、あまり人に会いたがりません、政治も母がしていたりします」

術師「引き籠もりですわね」


術師「あと、この水神の石の採取方法を教えてくださいますか?」

貝殻姫「水神の石はこの滝により、水の精霊力が圧縮されたものですから、滝壺の底に潜るか、そこから剥がれ、流れ出した物を拾うしか有りませんわ」

貝殻姫「普通の人には採取が難しいものですから、私共がお売りしております、一つ三万くらいが相場です」

術師「意外と博識ですわね」

魚娘「それはそうです、姫様は部屋に籠もって勉強ばかりしてますから」

女拳士「似なくていいとこ親に似たな」


犬娘「貝殻姫ちゃんはどうやってこの湖に来たの?」

貝殻姫「水拠点テレポートと言う技がありまして、水量がある程度有る場所には人間の転送魔法のように大ジャンプできるんです」

犬娘「へえ~」

メイド剣士(あ、興味なさそう)

術師「こちらには水神の石の採取にいらしたんですか?」

貝殻姫「はい、たまには気分転換にとこの子に誘われまして」

魚娘「魚娘ですが人魚さんと呼んでください」

メイド剣士「分かりました魚人さん」

魚娘「魚人ではありません人魚です、美しい人魚です」

メイド剣士「刺身にしますよ」


術師「いずれカイオウ国にお邪魔することもあるかも知れません、その際はご案内いただけますか?」

魚娘「水路沿いで良ければ!」

貝殻姫「カイオウは水の都なのでそれでもほとんどの場所に案内できますわ」


貝殻姫「そうだ、パス代わりにこれを」

術師「貝殻ですか」

貝殻姫「王家や外交関係にある国の方にだけ渡しているレアな貝殻です」

犬娘「助かります!」

貝殻姫「い、犬娘様のお役に立てて嬉しいですわ、結婚してください!」

犬娘「お友達で」

貝殻姫「がーん!」

術師(魔王様って時々容赦有りませんね)

メイド剣士(戦闘だと頼もしいんですがね)


女拳士「ここからチュウザンに行くルートとか分からない?」

貝殻姫「陸のことは少し分かりかねますわ」

女拳士「だよね」

術師「うん、今からチュウザンに行くのも良いですわね」

女拳士「まあお金だけはあるからね」


術師「そうだ、その水神の石をここで買い取らせて頂くわけには行きませんか?」

貝殻姫「いいですよ、こちらとしても手間が省けます」

魚娘「お幾つほど必要ですか?」

術師「一つ三万なら20個」

女拳士「ずいぶん一度に買うんだね」

術師「行商に行こうと思ったらそれぐらいの数は必用かと」

メイド剣士「結構痛い出費ですね」


貝殻姫「こちらで採取したばかりのものですから、一つ一万でお譲りしますわ」

犬娘「やった」

術師「助かります」

貝殻姫「いえいえ、二十万も持って帰ったらみんな喜んでくれます!」

メイド剣士「とりあえず手持ちの現金は六十万は残りますね」

女拳士「アタシのお金って百万くらい下ろした?」

術師「買い出しの際に、カードを使えない所も多いですので」


術師「あ、お札って水につけられませんわね」

貝殻姫「あ、大丈夫です、海神のがま口と言うアイテムが」

術師「謎アイテムですわ、少し見せていただけますか?」

貝殻姫「はい」

術師「ふむふむ、水抵抗の魔法がかかってますわね」

貝殻姫「これを作れるなら買い取ります」

術師「え、カイオウ国で作られたものでは無いんですか?」

魚娘「耐水魔法は私達とは反対の属性ですからね」

術師「なるほど」

術師「作れたらお持ちしましょう」

貝殻姫「助かりますわ」

術師「こちらも貿易のアイデアを頂きましたわ」

犬娘「有り難う貝殻ちゃん」

貝殻姫「お役に立てて嬉しいですわ」

魚娘「頬を染めてくねくねしてますが犬娘様はメスですからね!」

貝殻姫「分かってますわ!」


貝殻姫「あ、チュウザンに行かれるのでしたら私からも何かチュウザン王様に贈り物を」

魚娘「それでは水神の石でいいですかね、少し取ってきます」

魚娘はハイヤッと言う気合いと共に一瞬で水の中に消えた


術師「カイオウ国も面白そうですわね、チュウザンの後に少し立ち寄りましょうか」

犬娘「賛成!」

貝殻姫「お待ちしていますわ」


しばらくすると魚娘が五つほど水神の石を取ってきた

術師「うちにも魚人さんがいればただで取れますね」

魚娘「派遣してもいいですよ」

術師「お願いに伺いますわ」


犬娘「じゃあチュウザンに行こうか」

貝殻姫「お気をつけて!」

また中途半端ですが今日はここまでです

お休みなさい

更新します

四人は湖の周囲の山の中で比較的低い、牧草地へと上がる道を探す

少し引き返した所で上に続く坂道を見つけた

牧草地を更に南に進むと、少しずつ荒れ地に変わっていく

荒れ地を登って行くと、大きな山が東に見えてきた

やがて、チュウザンの北端の町に辿り着いた

――チュウザン――

チュウザンは大きな山に囲まれた国であり、幾つもの鉱山、広大な農地、牧草地、果樹園、絹糸や繊維製品など、様々な生産物により潤う、非常に豊かな国である

また、カイオウ島最大の面積を誇る国であり、北端から南端までの移動には馬でも数日を要する

チュウザン王の城は北にあるため、ここからチュウザン王の城までは数時間の距離である

チュウザンの王は人間の王であるが、自ら魔王を名乗っており、チュウザンの民からは魔人王と呼ばれている


術師「さて、着いた所で私は一旦帰ります」

犬娘「ええっ!」

術師「転送魔法のテストも有るんですが、べこちゃんたちの餌も用意しないと駄目ですし」

犬娘「そっかあ」

術師「まずは宿を取りましょう、それから帰りますわ」

メイド剣士「私も一緒に帰りましょうか?」

術師「構いませんよ、一人でできますから」

女拳士「じゃあ、宿についたら飯にしようぜ」

犬娘「ご飯食べてから帰る?」

術師「いえ、まだ冷凍した魚とか残っているので、節約しますわ」

メイド剣士「少し寂しいですけど、しばらくは我慢ですね」

術師「すぐに帰ってきますわよ」


宿についてすぐに術師は転送魔法により、帰還した

メイド剣士「元々基礎的な転送魔法は使えていたからすんなり成功したみたいですね」

女拳士「着地失敗してたりして」

メイド剣士「不安にさせないでくださいよ!」

女拳士(仲間思いだな)

犬娘「ごはん! ごはん!」

メイド剣士「お金も少ないですし大食い禁止ですよ」

三人が食事を終えて宿に帰ると、しばらくして術師が帰ってきた

術師「ただいまです」

犬娘「おかえりー!」

メイド剣士「良かった、頭打ってないですか?」

術師「打ってませんわ!」

女拳士「すげー心配してたぜ」

術師「あらあら」

メイド剣士「してません!」

術師「まあまあ」

メイド剣士「なんですかそれ!」

術師「まあそれはそれとして」

メイド剣士「どうでもいいんですか!」

術師「実は転送魔法でついでに実家まで帰って、カードを作ってきました」

メイド剣士「カード? あ、黒い」

犬娘「いくら入ってるのかな?」

女拳士「公爵家って言ってもお小遣い程度じゃないの?」

術師「まあ……うちの親の親バカぶりを知ってたらそうは思わないでしょうね……」

術師は遠い目をしている

女拳士「んで、いくらなの?」


術師「二千……万……」

女拳士「……」

メイド剣士「……」

犬娘「えええっっ!」


女拳士「アタシ今妙に落ち込んだ」

メイド剣士「お金って有るところには有るんですね……」

術師「ずっとお小遣いを使わないで取っておいたので仕方ないですわ」

女拳士「アタシのお小遣いなら今まで貯めても二千がいいとこだよ」

メイド剣士「一万倍ですね」

術師「うちの親は私が家を出てから送金しまくってたみたいですわ」

犬娘「使うのももったいない気がするね」

術師「これは国庫にしてしまって、何か大規模な開発をする際に使いましょう」

メイド剣士「塩田とかですかね?」

術師「築城しても良いですわね」

女拳士「明日は王様に会わないと駄目だし、寝ようか」

メイド剣士「賛成です」

犬娘「お休みー!」

術師「なんだか一日ですごく疲れましたわ……」



夜――


雷が遠くで鳴っている

犬娘「すごい音だねー」

メイド剣士「落ちてきたら一溜まりも有りませんよね」

犬娘「雷を魔法にできたら凄い威力かもー」

メイド剣士「良いですね、出来ればですが」

犬娘「やってみようかな」

メイド剣士「……あまりいい予感がしないので明日にしてください」

犬娘「うん」


メイド剣士(あっさり成功して宿が倒壊ってオチになりそうだし……)

幸いにも犬娘はすぐに寝てしまった

メイド剣士(しかし、これから建国のために、どれくらい稼がないと駄目なんだろう……)

メイド剣士「ふあぁ……むにゃ」

メイド剣士はそのまま眠りに落ちた


朝――


どうやら雨が降っているようだ

城までは少し遠いと言うことで、一日動けない

犬娘「ちょっと出てくる」

術師「雨で濡れちゃいますわよ?」

メイド剣士「あれをやってみるんですか?」

術師「?」

女拳士「なになに?」

犬娘「内緒~!」

メイド剣士「まあお楽しみに」

女拳士「なんだろ?」

術師「では、私はまたべこちゃんの世話をしてきますわ」

犬娘「そうだ、その転送魔法で私の村に帰れないかな?」

術師「座標が解れば出来ますわ」

犬娘「じゃあ北浜に帰ったらお願いね!」

術師「分かりました」

メイド剣士「私も転送魔法の勉強始めようかな」

女拳士「ん~、アタシもあの魔法完成させようかな?」

術師「皆さん新技の研究してるんですね、私も幾つか考えないと」

女拳士「まだ技を増やす気か、凄いな」

メイド剣士「みんなを巻き込まない方向でお願いします」

術師「え、あ、うーん?」

メイド剣士「巻き込む気満々か」


その日は雨の中、全員が修行して過ごした


翌日――


術師「すっきり晴れましたわね」

女拳士「昨日はあんなに雷鳴ってたのにな」

メイド剣士(あれ、多分魔王様だろうな……)

犬娘「じゃあ、王様に会いに行こう!」

メイド剣士「魔人王様ですか……それに前に会った犬の人……」

術師「そう言えばそんな人いましたね」

女拳士「知り合いがいるなら会いやすそうだな」

四人は準備をすませ城の位置を宿屋の主人に聞くと、すぐに宿を出た

メイド剣士「このあたりは城下町になるんでしょうか、賑やかですね?」

術師「塩を作ったとしてどこに卸せば良いでしょうかね?」

女拳士「まあそのあたりも城で聞いてみようよ」

術師「そうします」

やがて、巨大な城壁が見えてくる

正門につくと、貝殻姫の貝殻を示し、コトーからの使いである事を告げた

しばらくして――

犬戦士「よおおっ、おまえら、久しぶり!」

犬娘「よおおっ!」

犬戦士「相変わらず元気だな、あ、一人増えてるな」

女拳士「女拳士だ、よろしくな」

犬戦士「また強そうな奴、面白い!」

術師「喧嘩はまた今度で、チュウザン王様に会えますか?」

そこに白い衣を身に纏い、白い杖を携えた術師と同じくらいの、若い女性の導師が現れた

白導師「何をしてるの、バカ犬」

美しい女性だが口は悪いようだ

メイド剣士「気が合いそうです」

術師「失礼、私共コトー王様から北浜の開拓を任された者です、チュウザン王様との御面会をお願いしたいのですが」

白導師「聞いてるわ、あんたたち強い?」

術師「え?」

犬戦士「こいつらつえーって、俺タイマンで負けたもん」

白導師「うちの王はやんちゃな奴だからね、強いと喧嘩することになる」

術師「それは燃えますね」

白導師「似たような脳内だったか」

そこに奥から鈴の音を響かせながらエルフの少女が現れた

銀鈴「私を一人にするの、嫌い、死ね」

銀の鈴のエルフは、白導師に更に輪をかけて口が悪いようだ

銀鈴「お客様?」

犬戦士「おう、俺のダチコーだ!」

メイド剣士「いつバカ犬と友達になりましたっけ?」

銀鈴「また嘘ついた、バカ犬、死ね、魔人王様に頭叩かれて死ね」

女拳士「具体的だな」

犬娘「私もバカだから怒られるかな?」

銀鈴「お客様には気を使う、死ななくていい」

メイド剣士「死ななくていいようですよ、魔王様」

犬娘「良かった~」

銀鈴「犬獣人ってみんなバカっぽい、死滅した方がいい」

白導師「お客様だろ、銀鈴」


白導師「ああ、私は白導師だ、よろしく」

術師「私は術師です」

犬娘「犬娘だよっ!」

女拳士「女拳士だ」

メイド剣士「メイド剣士です」

白導師「では、魔人王の所に案内する、戦闘の準備を忘れるな」

術師「戦闘すること前提なんですわね」

犬娘「楽しみ!」

メイド剣士「楽しみでは無いですね」

女拳士「力試しはいつでも歓迎だけどなあ」


――中庭――


術師「中庭……って言うか蠱毒の壺みたいな」

白導師「だからやる気満々なんだよ、あのバカ」

銀鈴「魔人王様は戦闘バカなだけ、賢い王様、死ななくていい」

術師はこっそりと白導師や銀鈴の魔力を計ったが、どちらからも自分に匹敵する物を感じ取れる

彼女たちの王とは、どれほど強いのだろうか?


白導師「おい、バカ王、客を連れてきたよ」


魔人王「おう、……よく来たな」


中庭で待っていたのは、筋骨隆々の若い大男だった

犬戦士「気をつけろよ、あいつはあの見た目で――」

犬娘「ええっ、ほんと?!」

術師「?」

魔人王「さて、聞いてると思うが、俺と戦ってもらいたい」

術師「構いませんわ」

白導師「さて、見物と行くか」

銀鈴「みんなきっと死ぬ、白導師は蘇生の腕を上げることになる」

白導師「どうかな?」

犬戦士「どっちも頑張れよ!」

術師「四人で戦うのはこれが初めてになりますね」

女拳士「コンビネーションの取り方はだいたい把握してるよ」

女拳士はゆっくりと魔力を纏った

女拳士「最初から行かせてもらうよ!」

術師は例によって鉄球を二つ地に埋めると、後ろに下がった

術師「魔力……なんなのこの莫大な魔力は……」

魔人王「行くぞっ!」

女拳士と魔人王の激しい打ち合いが始まった

犬娘「てええいっ!」

犬娘の跳び蹴り!

魔人王「ふふっ」

メイド剣士「なっ」

魔人王はさらっと犬娘の蹴りをかわす


魔人王「お前たち、強いじゃないか」

メイド剣士「はあっ!」

メイド剣士の連撃をするするとかわしてみせる魔人王

魔人王「速いな、少しもらったか」

メイド剣士にしてみればここまでかわされたのは初めてだ

術師(これは余裕がありませんわ……こんな化け物がいるなんて……)

女拳士「はは、これは五回目の敗戦になりそうだな」

女拳士「このままなら、だが」

女拳士はそう言うと、更に肉体強化を上書きした

術師(隠し技……まだ持ってましたか!)

魔人王「来い!」

それでも超強化女拳士は魔人王と対等に打ち合うのがやっとだ

女拳士「とんでもねー化け物だな!」


白導師「あいつと打ち合える人間がいるもんだね」

銀鈴「あの女強い、死ななそう」

メイド剣士「魔王様!」

メイド剣士は犬娘に肉体強化をかけた

犬娘「行くよ!」

強化した犬娘のスピードはかわしきれる物ではない

魔人王「ほう、うちの犬より速そうだ」

魔人王は犬娘の蹴りを片腕で受け流した

犬娘「つ、強い~」

白導師「凄い奴らだな、惚れた」


銀鈴「レズ、死ね」

犬戦士「気をつけろよ!」


魔人王「砕け散れ!」


魔人王は、空を覆うような爆裂魔法を発動した


犬戦士「あいつは、ああ見えて魔導師なんだよな」

白導師「打ち合いで対等でも、あれは厳しいだろうね」

銀鈴「みんな死ぬ、可哀想」


術師「反則ですわっ!」

四人に爆裂の雨が降り注ぐ!

メイド剣士「きゃああああ!」

犬娘「うわあああっ」

術師「くっ、これはっ」

術師は結界を展開した

直撃していれば即死を免れなかっただろう威力だ

術師「メイドさん!」

術師はすぐにメイド剣士に蘇生をかけた

メイド剣士「うっ、かはっ」


魔人王「仲間を癒やす余裕があるのか?」

女拳士「有るんだよ」


術師に襲いかかった魔人王を女拳士が殴り倒す

魔人王「た、耐えたか!」

女拳士「アタシは魔法が苦手でね」


女拳士「徹底的に魔法を食らいまくる修行をした結果魔法に異常に強くなったんだよ」

魔人王「面白い、お前とは正面を切って殴りあえると言うことだな!」

術師「道理で私の魔力限界まで魔法を防げた訳ですわね」


女拳士「あんたのはかなり効いたよ!」

犬娘は自力で起き上がり自分に回復魔法をかけた

術師(魔王様、タフな子!)


――ハマミナト――

魔女娘「あ、そういや、チュウザンの白導師に注意しろって言うの忘れてたな」


――チュウザン王城――


白導師「ふふ、今倒れた子は好みだな」

銀鈴「死ね、死なないなら死ね」

犬戦士「こえーよ」

メイド剣士は自身に肉体強化をかけて、再び女拳士と打ち合う魔人王の隙をうかがう

犬娘は何かを考えているようだ

術師(各人トレーニングした技があるはず、何かやるつもりですわね)


術師「サポートしますわ!」

術師は地面の鉄球を檻に変えた

魔人王「むっ!」

たぶん一瞬で破壊されるだろう

しかし犬娘が一撃を入れるには十分だ



犬娘「雷をこの手に、雷牙拳!」

犬娘の右手が青白い稲妻を帯びる

犬娘「はああああっ!」

魔人王「ぐおっ!」

案の定すぐに破壊された檻だが、剥き出しになった魔人王に犬娘の雷牙拳が炸裂した

術師「雷撃魔法、しかも拳に帯びさせるなんて!」

メイド剣士「やりましたね、魔王様!」

魔人王「いい一撃だった!」

魔人王はバックブローで犬娘を弾き飛ばした

魔人王の体にはきっちり焦げた拳の跡が残っている

魔人王「流石に効いたぞ」

女拳士「ギブアップかい?」

魔人王「まさか」

女拳士「楽しいもんな!」

三度二人は打ち合う

術師は温存している魔力を使うチャンスを伺っている

たぶんメイド剣士が肉体強化を伴う一撃を浴びせ、倒される

魔法防御の高い女拳士なら耐えるかも知れない

とりあえず倒れている犬娘を射程圏外に運ぶ

今は回復する魔力も使えない


女拳士「食らえ!」

女拳士は回し蹴りを繰り出した

魔人王「ぐおっ」


魔人王は中段に足刀蹴りを放つ

魔人王「お返しだ!」

女拳士「がはっ!」

女拳士は激しく吹き飛んだ

メイド剣士「はああっ!」

メイド剣士の強化突きは魔人王の左手に突き刺さった!

魔人王「うおおっ!」

カウンターで蹴りを入れる


術師は


術師「予定通りですわ!」

燃え、揺らめく銀の槍を放った!


魔人王「!」

魔人王は巨大な氷の剣を呼び出し、神の杖に撃ち当てた

術師「!」

術師「あのタイミングであの規模の魔法を放てるんですの?!」

魔人王「ぐ……おおおっ!」

出力が十分に乗っていない氷剣に、神の杖が上回った

爆炎の槍は魔人王を呑み込む!


魔人王「くっ、結界を……うおおっ!」


術師「な、なんとかなりましたか?」

焼け溶けた地面

しかしその跡に魔人王の姿はない

術師「!」

魔人王「やってくれたな!」

いつの間にか術師の後ろにいた魔人王は術師を地面に叩きつけた


術師「きゃああっ!」

派手に焼けた地面に叩きつけられ、術師は起きあがることが出来ない

女拳士「くそっ!」

女拳士は術師を助け起こし、火のない所まで運んだ


魔人王「隙有り!」

女拳士「ぐおあっ!」

魔人王の一撃が女拳士の背中に突き刺さる


魔人王が勝利を確信した時、後ろに立つ激しい殺気を感じた

魔人王「!」

犬娘「みんな……」

犬娘「私、負けない!」

犬娘の両腕に魔力が集まっていく


犬娘「右手に雷……」

犬娘「左手に閃光……」


魔人王「……こい!」

犬娘「雷牙光刃拳……」

犬娘の全能力を注ぎ込んだ魔法拳を、肉体強化による超スピードで、魔人王に叩き込む!

魔人王「ぐおおおっ!」

犬娘「うああああっ!!」


魔人王「かはっ!」

一息に魔人王を壁に叩きつける


魔人王は、ゆっくりと、膝をついた


魔人王「……見事だ」

魔人王「ふふっ……、ここまでのダメージを受けたのはいつ以来かな」

魔人王「コトーの魔王とボコボコにやりあった時以来か」

犬娘「もう一回……」

犬娘はそのまま倒れ込んだ


魔人王「お前の勝ちだ」

魔人王もそのまま、前のめりに倒れた


白導師「ははっ、あの男が倒れるの初めて見たな」

銀鈴「こっちも四人なら、あっちが死んでた」

犬戦士「あいつら滅茶苦茶強くなってやがったな……、俺も修行しよ」


白導師「さて、愛しのあの子を回収して全員回復してやるか」

銀鈴「戦士を侮辱したら、死ぬまで死ぬ目に合わせる」

犬戦士「こえーって」


――数時間後、病室――


術師「うっ……」

女拳士「おっ、目を覚ましたな」

術師「……どうなりましたの?」

女拳士「ダブルノックアウトだよ、魔王様がやってくれた」

術師「引き分けですか……、恐ろしい敵……、いや、味方ですよね?」

魔人王「そうだな、今後とも宜しく頼む」

術師「きゃああっ」


女拳士「女と男を同じ部屋に寝かすとかなに考えてるんだ?」

魔人王「す、すまんな」

魔人王がうろたえる様が何か面白いと思った女拳士は更に追い討ちをかけた

女拳士「術師ちゃんも包帯を巻いて胸晒してるし、しかも回復魔法なんだから包帯意味ないし、変態じゃないの?」

魔人王「うぐっ……」

術師もこの遊びを理解した

術師「まだ誰にも見られた事がないのに胸を見られるなんて……、最低ですわ」

魔人王「す、すまん」

女拳士「しかもあんたも上半身裸だし」

術師「きゃああっ」


最後のはマジ叫びである

魔人王は慌てて服を羽織り、病室を飛び出した


女拳士「ぎゃははははっ!」

術師「もう、大事な取引相手なのに何をやってるんですの?」

女拳士「術師ちゃんも乗ってきた」

術師「乗りましたけど」

女拳士「ところで、メイドちゃんと魔王様は?」

術師「どこでしょう?」


――白導師の部屋――


二人は可愛らしいピンクのリボンの服と青いリボンの服を着せられていた

白導師「これは良いものだ」

銀鈴「むぐーっ!」

銀鈴の服も黄色いリボンの服になっている


白導師「裸を眺めるのも良いんだが、やっぱりこういう服を着せた方が美味しそうだろう?」

誰に同意を求めたかは分からない

やがて犬娘が目を覚ました

犬娘「ん……、ここは」

白導師「おはよう、わん子ちゃん」

犬娘「あ、可愛い服」

犬娘「戦いはどうなったの?」

白導師「見事な相打ちだったよ」


白導師は犬娘に覆い被さり、顔を近付けた

犬娘「なんかいい匂いするね、お姉さん」

白導師「そ、そうか?」

不意に誉められて白導師はすこしうろたえた

メイド剣士「ん、……ううん」

メイド剣士が目を覚ます

メイド剣士「なんですかこの服」

白導師「可愛いだろ?」

白導師「裸も可愛いかったけど」

メイド剣士「……!」


メイド剣士「何やってますか!」

メイド剣士は犬娘に覆い被さる白導師に跳び蹴りした

白導師「あうふっ」

メイド剣士は口を塞がれ縛られている銀鈴を見つけて、拘束を剥がしてやった

銀鈴「殺す、死ねじゃなく殺す」

銀鈴は何やら魔法を発動した


白導師「あれ、えへへ、美少女がいっぱい……」

どうやら魅了幻覚のようだ

銀鈴はもう一度魅了幻覚を重ねがけした


銀鈴「幸せな幻覚を死ぬまで見て死ね、死ね」

白導師「あはは、あははは」

メイド剣士「も、もうそれくらいで良いのでは」

銀鈴「優しい、裸見られた上に結構恥ずかしい口で言えないことされてたのに」


メイド剣士はもう一度跳び蹴りした

犬娘「は、はやく逃げよう!」

メイド剣士「一応仕事があるんですが」

とりあえず銀鈴に任せて部屋を後にした


――待合室――


四人は漸く再会すると口々に話し始めた

術師「全く、あの白導師さんは仕事出来そうだったのに」

メイド剣士「出来るのは変態行為だけでした」

女拳士「魔人王様にも悪いことしちゃってさ……」

犬娘「お腹空いた」

メイド剣士「私の剣どこかな?」

術師「兎に角見つけたら一回は神の杖を味わわせてやりますわ」

女拳士「腹減ったな」

メイド剣士「困ったな」


しばらくすると犬戦士が入ってきた

犬戦士「おうっ、お前ら、良い戦いだったな!」

犬娘「こんにちは」

犬戦士「おうっ、同族、最後の技凄かったな、雷牙光刃拳!だっけ?」


犬戦士「両手がびきーんって光ってドゴーって、そんであの魔人王様倒しちゃうんだもんな」

術師「ちゃんと起きて見てみたかったですわ」

女拳士「アタシはちょろっと見たけど、また気絶しちゃった」

メイド剣士「しかし、個人であそこまで強いって恐ろしいですね」

術師「本当に、力で女拳士さんと張り合うのに超級魔法連発してくるし」

犬戦士「化け物だろ、あいつ、まあだから魔人王なんだけどな」

術師「あなた達も加わったらまず勝てませんね」

犬戦士「最強の国じゃなきゃこんな広大な国土守れねーもん、まだつえー兵士とかいっぱいいるぜ、まともに仕事してるから出てこないけど」


術師「では、改めて魔人王様と接見したいんですが」

犬戦士「お、そうだ、お前ら、飯だ!」

犬娘「やった」

女拳士「めちゃ食うけど大丈夫かな?」

メイド剣士「そこは控えましょうよ」

術師「行きましょう」


――王城、広間――


魔人王「みな、良く戦った、この国はお前たちを歓迎する」

術師「先程は失礼致しました」

魔人王「うむ」

魔人の王が顔を赤くして顔を逸らす

メイド剣士(可愛いですね)

女拳士(もういじめないであげて)


魔人王「今日はよい戦いが出来た記念だ、存分に食い、飲むがいい」

女拳士「やったね!」

犬娘「やったね!」

術師「えと、魔人王様……」

魔人王「仕事の話は後にしよう、今は楽しんでくれ」

術師「分かりました」

メイド剣士「なんだかぎこちないですね、それで交渉出来るんですか?」

術師「仕事は別ですわ」

メイド剣士「そういう所、可愛くないと思います」

術師「久しぶりにゆっくり食事しましょう」

メイド剣士「はーい」


犬戦士「お、この肉うめえ」

犬娘「ほんとだー」

メイド剣士「ああ、お肉美味しいなあ」

女拳士「うん、魚もイケる、白ワインも美味い」

魔人王「久しぶりに楽しい気分だ、白導師と銀鈴も呼んでこい」

執事「はい」

犬娘「あの二人どうなったの?」

メイド剣士「この世には知らない方が良いことがあるんですよ」

やがて二人が入ってきた

白導師は口を開けてぼんやりしていて、銀鈴が手を引いて連れてくる有り様だ

術師「何があったか察するに余りある有り様である」

メイド剣士「そうですね」


犬戦士「覚醒してやれよ」

銀鈴「もうしばらくは」

魔人王「今日の楽しい気分を壊すな」

銀鈴「魔人王様のご意志のままに」


銀鈴は白導師の魔法を解いて、覚醒の魔法をかけた


白導師「はっ、幼女の白いパンツは……」

魔人王「仕事はしっかりやれ、馬鹿者め」

白導師「はっ、これは失礼」

魔人王「後で罰は与える……俺を辱めた分もな」

白導師「ひいっ」

術師「バレて怯えるならやらなきゃいいのに」

メイド剣士「それは私の悪口や魔王様の食事を止めさせるような事なんですよ、たぶん」

術師「被害者なのに寛容ですわね」

メイド剣士「二回蹴っておきました」

女拳士「ナイス」

犬娘「ナイス」

犬戦士「ナイス」

銀鈴「死ぬまで蹴れば良かった」


術師「まあ今日はゆっくりしますわよ、疲れましたし」

メイド剣士「ですね」

犬娘「このイカ美味しい」

メイド剣士「海鮮あるんですね」

銀鈴「輸入物、死ぬほど高価、肉は死ぬほど安い」

術師「うちと貿易できますわね、海鮮もそうですが」

術師「また明日にでも塩をお持ちしますわ」

銀鈴「塩、死ぬほど高騰してる」

術師「チャンスですわね」

犬娘「ご飯美味しいね」

メイド剣士「農業国なんですよね、基本は」

術師「果物も美味しいですわ」

犬戦士「もっと肉食おうぜ」

犬娘「食う~!」

女拳士「肉が食い放題とか、通いたくなっちゃうなー」


メイド剣士「やっぱりお肉たくさん食べたら魔人王様みたいに強くなるんですか?」

魔人王「全ては大地の恵みだ」

術師「こういった自然の物は独自の方法で魔力を蓄えていたりしますからね」


メイド剣士「たくさん食べよう」

白導師「うん、いける」

銀鈴「最後の晩餐、死ぬと良い」

白導師「いや、生きる!」

犬戦士「食え食え~」


結局その日は一日中宴会となった


術師「さて、べこちゃんを見てこようかな」

犬娘「私もー!」

術師「そうですわね、たまには一緒に帰りましょうか」

犬娘と術師は一緒に帰還した


べこ「ンモオォ~」

術師「べこちゃん喜んでますわ」

犬娘「いっぱい食べてねー!」

犬娘は予め干した牧草をべこの前に置いた

術師「牧草濡れてませんか?」

犬娘「あ、そう言えば雨降ったっけ」

術師「一応錬金用のテントに入れておいたんですが、専用のサイロを作った方が良いですかね?」

犬娘「うーん」


術師「……」


術師「魔王様、強くなりましたね」

犬娘「一人じゃ勝てないけどねー」

術師「いえ、たぶん今なら女拳士さんには勝てます」

犬娘「ええーっ、女拳士さん強いよ?」

術師「魔王様には凄い成長力があります」

術師「いつか私もいらなくなるかも知れませんわね」

犬娘「そんなことないよ!」


犬娘「……絶対遠くに行ったら、嫌だ」

犬娘は術師にしがみつくように抱きついた



…………


魔人王「それでは商売の話をしようか」

術師「その前にこちらを」


術師は五つの水神の石を差し出した

術師「こちらはカイオウ国の貝殻姫様からお預かりしたものです」

魔人王「ほう、彼女は健勝だったろ」

普通は健勝かどうか聞くところだがあの貝殻姫が元気じゃない状態は想像しがたいのだろう

魔人王「有り難く頂いておこう」


術師「そして此方が今回お持ちした商品です」

術師は小さな袋に入った塩を差し出した

魔人王「ほう、塩か」

魔人王は早速塩を取り出し、舐めた

魔人王「多少苦いが、いい塩だ」

術師「今作り方を工夫している所ですので、生産はまだ先になるんですが」

魔人王「うむ、出来ればぜひ輸入したい」

銀鈴「取引所に話は通しておく」

術師「それで塩を運ぶ街道の整備のご協力をお願いしたいのですが……」

魔人王「良いだろう」


魔人王「そう言えば北の荒れ地にどうやって住んでるんだ?」

犬娘「テント暮らしです」

メイド剣士「魔王様」

魔人王「ハマミナトで大工を雇えば良いだろうに」

術師「そのあたりはもう少し先になります」


魔人王「ふむ、国作りとは面白そうだな」

銀鈴「魔人王様、子供みたいな目をしてる、面白いこと、死ぬほど好き」

魔人王「たまに見物に行かせてもらおう」

白導師「ふふ、仕方ないね」

メイド剣士「あれ、生きてたんですか」

銀鈴「白導師、死ぬほどしぶとい」


術師「まあ構いませんわ」

犬娘「楽しくなるといいね!」

術師「そうですわね」

犬娘はどこか空元気で、術師の笑顔にも寂しさが見える

メイド剣士「?」

女拳士「何かあったの?」

犬娘「なんにも!」

魔人王「これからどうする?」

術師「カイオウ国に行くつもりですが」

魔人王「遠いぞ、白」

白導師「はい、送っていきます」

術師「え、転送出来るんですか?」

メイド剣士「変態のくせに」

犬娘「変態のくせに」

白導師「ふふ、賛美の声が聞こえるわ」

メイド剣士「性根の上に耳まで腐りましたか」

銀鈴「腐れ落ちて死ねばいい」

白導師「ふふ、我々の業界ではむしろご褒美です」

術師「後で一発(神の杖)食らわせますわよ」

白導師「すみません」

魔人王「何発か殴っておいたから勘弁してやってほしい」

女拳士「あの鬼畜なパンチ力で!?」


白導師「ふふ、二回くらい死にかけた」

白導師「では行きましょうか、皆さん」

術師「はい、では魔人王様、お世話になりました」

魔人王「いや、こちらも迷惑をかけた」

白導師「全く、誰彼構わず喧嘩売って相手は良い迷惑だよ」

メイド剣士「お前が言うなって言えば良いですか?」

犬娘「変なことしたら雷牙光刃拳……」

白導師「たった今心を入れ替えた、心配するな」

魔人王を沈めた一撃を食らってはいくら変人でもただでは済むまい


術師「では今後のことも有りますし、先を急ぎますか」



――カイオウ国――


貝殻姫の紹介通り、海産物や貴金属が特産品の海洋資源と技術の国である

更に美しい水路が町中に走っている、観光の国でもある

この国の水は魚人たちが泳ぐために、非常に清潔に保たれているため、水が美味しい国でもある

陸に住む者は技術者が多いため、職人気質の国民性だ

その町に五人は訪れた

白導師「さて、少し観光して行こうかな?」

メイド剣士「別行動で?」

白導師「つれないこと言わない、あ、あんたの剣預かってた」

メイド剣士「ああ、良かった、どこに置き忘れたかと」


術師「ではお城に行きますか」

白導師「この国とうちは良好な関係でね、ただここでは海岸線を守るために塩作りがあまり盛んじゃない」

術師「おかげでうちは助かりますけど」

白導師「ただ同じ海際だしあんたらと取引するものは無いんじゃないかな?」

術師「一応あてはありますわ」

白導師「へえ、たいしたもんだね、私にはそんなアイデアは湧かないな」


白導師「後、ここの王様には会えないと思う」

術師「聞いてます」


女拳士「二人とも静かだね……ってスッゴい後ろ歩いてるな」

術師「変態が怖いんでしょう」

白導師「心を入れ替えたってば~」

言いつつ怪しい手の動きをしている

術師「入れ替えたように見えませんわ」


犬娘「綺麗だね~水路」

メイド剣士「あまり離れると迷子になりますよ?」

犬娘「うんー」

メイド剣士は犬娘の顔を覗き込んだ

犬娘「どうしたの?」

にっこりと笑う犬娘の顔は少し大人びて見えた

メイド剣士「魔王様はどんどん強くなりますね、それこそ毎日強くなってる」

犬娘「そうかな?」

メイド剣士「私ももっと強くならなくちゃ……」

犬娘「みんな強いのになあ……」

――カイオウ国王城――

カイオウ国の王と女王は人魚であり、体が半分水に浸かっていないと生活できないために、城内は水面積が陸面積を遥かに上回る

平屋であるため、とても広く、複雑で、迷子になるものもいると言われている

多数の魚人が働く、水棲生物のパラダイスである


貝殻姫「犬娘さまあ~~~!」

何か突っ込んできた

メイド剣士は慌てて犬娘を隠す

貝殻姫「危害は加えませんわ」

メイド剣士「いや、最近怖い目にあいまして」

白導師「まあ、誰がそんなヒドい……」

犬娘が笑顔で拳に雷を纏った

白導師「ひいっ」

白導師は逃げ出した

術師「通路狭いんだから走り回らないで下さいな!」

貝殻姫「落ちたら助けます!」

女拳士「落ちないようにしてくれよ」


貝殻姫「陸の人は良く落ちるんで対策はしようと思ってるんですが」

貝殻姫は困ったように首を傾げる

犬娘「私は泳げるよ!」

貝殻姫「助けさせてください、人工呼吸させてください」

白導師「同族かしら」

術師「いい子なのでヨゴレと一緒にしないでくださいな」

白導師「ひどっ」

魚娘「姫様あ~~~!!」

水の中を恐ろしいスピードで何かが突進してきた

激しい水柱が上がる

みんなびしょ濡れである


術師「最低ですわ」

魚娘「挨拶それですか」

犬娘は水の中に飛び込んだ

犬娘「きゃはははは!」

女拳士「濡れちまったから同じか……」

メイド剣士「やんちゃ過ぎでしょ」

白導師「服が透け透けに……うっ」

変態が喋った


メイド剣士「……少し元気になったみたい……、良かった」


貝殻姫「犬娘様、お母様の所に御案内します」

犬娘「うん」

犬娘は犬掻きで貝殻姫に着いていった

術師「風邪引きますわよ魔王様」

女拳士「最近暑くなってきたけど、まだ夜は寒いしなあ」

メイド剣士「とりあえず何か体を拭くものないかな……」

白導師「舐めとろう」

メイド剣士「斬りますよ」

メイド剣士は仕込み杖をちらりと抜いて見せた


――カイオウ国王城、女王の間――


人魚女王「は~~い、いらっしゃ~い!」

魚たちのハイテンションの理由はこの人が一つの原因であろう

女王専用のプールでバシャバシャと水柱を上げて歓迎の踊りをしている


犬娘「くしょんっ」

術師「ほら風邪引いた」

メイド剣士「くしゅっ」

女拳士「あら、こっちもかい」


メイド剣士「魚人め、いつか刺身にしてやる……」

魚娘「勘弁してください」


貝殻姫「お母様、こちらがコトー王様の使い、犬娘様です」

人魚女王「よろしくね~っ!」

犬娘「よろしく~っ!」

人魚女王「まあ、素敵な方ね!」

貝殻姫「でしょ!」

人魚女王「尻尾が毛針みたいで美味しそう」

犬娘「美味しくないよっ!」

犬娘は慌てて尻尾を隠した


人魚女王「北浜ですとチュウザン経由ですからなかなか取引とかは出来ませんね」

術師「海上輸送なんかすれば大量に取引出来ますわ」

人魚女王「ふむ、港を作りさえすれば船はこちらで用意します、魚人以外がカイオウ国近海を使うのは好ましく有りませんので」

術師「カイオウ国の海上ルールは厳しいでしょうし、それでお願いしますわ」

術師「港が出来た際は耐水装備などを輸出しようと考えています」

人魚女王「こちらからは何を送りますか?」

術師「彫金をお願いしたいのですが」

人魚女王「ネックレスや指輪の台を送れば良いですね、よく考えてるなあ」

人魚女王「あと、このあたりは漁獲量が少ないので海産物も輸入したいなあ」

貝殻姫「海際に住んでる人が際限なく食べちゃうんですよね」

術師「意外ですわね、魚は食べないから一般的な漁業が無いのかと」

人魚女王「みんな自分で捕って食べちゃうから商売が成立しづらい歴史があるんですよ」

メイド剣士「それで取りすぎて輸入ですか」


術師「うーん、養殖を考えないと駄目ですかね?」

メイド剣士「チュウザンへの輸送分も有りますしね……、チュウザンで魚が高騰してても不思議じゃないですね」


犬娘「う……」

犬娘は必死に眠気を堪えている


女拳士「立派だね、魔王様」

犬娘「う、うん」

貝殻姫「犬娘様、疲れてらっしゃるならご無理はなさらず私の部屋にいらっしゃいませんか?」

犬娘「うん……」

女拳士「アタシも行っていい?」

貝殻姫「ご招待します、魚娘ちゃん、陸のお客様用の接客準備を」

魚娘「はいなっ」

魚娘はまた水柱を立てて泳いでいった


犬娘「くしゅっ」

女拳士「もうちょっと大人しく泳いでくれよ……」

貝殻姫「言っておきます、すみませんお客様に……」



――貝殻姫の部屋――


部屋はほぼ水の中だが、来客用にわずかに水上に道がある

その奥には比較的広い場所があり、テーブルとソファーが置いてある


犬娘「ふう」

貝殻姫「今お紅茶をお持ちします、南チュウザン産の一級品ですよ」

女拳士「チュウザン産の物は本当に幅広いね」

犬娘「楽しみ~」


…………


魚娘「お待たせしました~っ!」

人魚メイド「こちらデザートになります」

犬娘「わあ、良い香りだよ!」

女拳士「ほんとだ、なんか得しちゃったな」

貝殻姫「どうぞお召し上がりください」

犬娘「いっただきまーす!」

女拳士(魔王様、すっかり元気になったね……)

女拳士「ん、美味い」

犬娘「ん~っ、幸せ!」

貝殻姫「我が国は職人気質の国なもので、料理人も一流です」

貝殻姫はえっへん、と胸を反らす

女拳士「やっぱり女の子はスイーツだね」

犬娘「だね~っ!」


三人で楽しんでいると白導師が頭の上半分を出して覗き込んで来た

女拳士「ギョッとするからやめてくれ」

白導師「スイーツ……」

犬娘「こわいこわい」

貝殻姫「えと、もう一つ用意するのでどうぞ?」

白導師「お構いなく、実は魔人王様からお返しの品を持ってきてまして」

まだ壁から頭の上半分だけ出して喋っている

女拳士「その体勢キツくない?」

白導師「キツいな」

そう言うと白導師は普通に部屋に入ってきた


女拳士「いったいなんなんだ」

白導師「犬娘ちゃんが可愛かったから」

女拳士「は?」

白導師「犬娘ちゃんが可愛かったから」

女拳士「言い直さんでいい」

犬娘「この人怖い」


白導師「だーっ、そうじゃなくて!」

白導師「これ、転移の魔法が一回だけ使える魔法石、転移石だよ」

白導師「これを八つ持ってきた」

白導師「知り合いにでも渡すといい」

貝殻姫「どこにでも行けるんですか?」

白導師「残念ながらチュウザン王都限定、レアアイテムではあるんだけど」

貝殻姫「緊急回避に使えるかも知れませんから有り難く頂きますわ」

白導師「それだけじゃなんなので銀細工も持ってきてる」

そう言うと白導師は袋から無造作に銀細工を取り出す

女拳士「綺麗なもんだね、指輪とかネックレスとか」

白導師「チュウザンにもいくらか職人はいるからね」

白導師「まだあと幾つか……」

貝殻姫「これ以上は貰い過ぎですわ」

魚娘「紅茶お持ちしました~」

魚娘「犬娘様もおかわり如何?」

犬娘「いただきます!」


…………


術師「魔王様、終わりましたわよ」

メイド剣士「あ、三人で良いもの食べてる!」

貝殻姫「お疲れ様でした、お二人もどうぞ」

術師「頂きますわ!」

メイド剣士「やった」


白導師「お茶終わったら帰るかい?」

術師「ええ、また暫くはテント暮らしですわ」

犬娘「明日はサイセイに帰って、明後日は山に登って」

術師「いよいよ町作りですね」

メイド剣士「塩田を作って普通の畑も作らなきゃ」

女拳士「この街みたいに綺麗な水路や下水の整備もしたいね」

貝殻姫「楽しそうですわ!」


魚娘「お待たせしました~」

メイド剣士「美味しそう!」

術師「いただきます」


…………


貝殻姫「お名残惜しいですわ」

犬娘「また来るよ!」

魚娘「ううっ、うわーん!」

女拳士「大袈裟だな」

術師「今日は御馳走様でした」


メイド剣士「さて、帰りましょうか」

白導師「うふふ、北浜はどんな所かしら」

メイド剣士「来ないで良いです」



――北浜――


べこ「もおおぉ~」

白導師「おお、これは良い牛だ」

術師「なんにもおもてなし出来ませんわよ」

白導師「そんなもの、美少女の生着替えが見れるだけで……」

メイド剣士「見せません」

女拳士「でも水浸しだし、着替えはしておくか」

白導師「うふふふふふ」

犬娘「こわい」


女拳士「肉体強化」

白導師「!?」

女拳士「せーのっ!」

女拳士は白導師を全力で森に投げた


術師「鬼ですね」

メイド剣士「どうせすぐ戻ってくるから早く着替えましょう」

犬娘「さんせい!」


その頃、白導師は木に引っかかっていた

白導師「これが使者の扱いか、つか取れないなこれどうしよう」

白導師「誰か助けに来てくれないかなー」

すぐに暗くなってきた

白導師「むなしい……」


白導師は自分で浮遊魔法と転送魔法を使って帰ってきた


女拳士「帰ったんじゃ無かったの?」

白導師「木に引っかかってました」

術師「魚しか無いですけど食べていきますか」

白導師「うちは魚は高級品だって」

メイド剣士「じゃあお土産で持って帰りますか?」

白導師「メイド剣士ちゃんを? いただきます」

メイド剣士「えい」

白導師「真空魔法止めて、冗談だからやめて」

犬娘「雷牙拳」

白導師「死んじゃう」


術師「冷凍してますから数時間は持つと思いますが、早めにお食べくださいね」

白導師「お、有り難う」

メイド剣士「溶ける前に帰ってくださいね」

白導師「ゆっくりさせて」

術師「白石セットしておきますから帰るまでは溶けませんわ」

白導師「人の情けが身に染みる」


白導師は晩御飯を食べた後もしばらくゴネたが、なんとか送り返した


術師「疲れましたわね」

犬娘「明日はゆっくりしよう」

メイド剣士「賛成です」

女拳士「アタシは塩田でも作ろうかな」

術師「お願いしますわね」

その後術師たちはしばらく塩田の作り方を説明していたが、犬娘とメイド剣士はテントに入って眠りについた


翌朝、犬娘とメイド剣士は術師が起きてくる前に朝食の準備をした


犬娘「住民増えるかなー」

メイド剣士「しばらくテント暮らししてもらうのは難しくないですかね?」

犬娘「転送魔法で送り迎え」

メイド剣士「それは良いかも、私も早く転送魔法覚えなきゃ」


術師「おはようございます」

犬娘「おはよー!」

メイド剣士「無理しないでくださいね」

術師「しませんわ」

犬娘「まだゆっくりしてていいよ」

術師「今日は魔王様の里帰りなんですから、お気になさらず」

犬娘「でも今日はゆっくりする日なの!」

メイド剣士「私が転送魔法を覚えたらもっとゆっくりしてもらいますよ」

術師「ふふっ、有り難う御座います」


朝の時間をゆっくりと過ごすと、犬娘と術師はサイセイに飛んだ


――サイセイ南の外れの森――


サイセイ南の外れの森は北浜と距離が近いため、比較的早く着くことができた

迫害を受けた魔物たちが隠れ住む森である

犬娘はまず、故郷の村人たちの墓参りをする事にした

術師「お花持ってきたら良かったですね」

犬娘「うん、どこかで摘んでこようかな」

しかし、墓には誰かが手入れをした跡がある

術師「お花を置いてありますね」

犬娘「近所の村の人かな?」


術師と犬娘はしばらく祈りを捧げると、近隣の村へと向かった

虎の獣人が出迎えてくれる


虎獣人「おお、久しぶりだな、犬娘ちゃん」

犬娘「おじさん、うさちゃんを迎えに来ました」

虎獣人「おお、どこかに定住する事にしたのかね?」

虎獣人と話していると犬娘と同じ年頃の半獣人の娘が兎を抱いてやってきた


虎娘「犬娘ちゃん、お帰り!」

魔物兎「きゅっ、きゅっきゅっきゅ~っ!」

犬娘「ただいま!」


術師「虎獣人様、少しよろしいでしょうか」

虎獣人「……人間か」

村を一つ滅ぼされたのだ

やはり獣人たちは人間を拒絶しているのだろう


虎獣人「大歓迎だ!」

術師「ほあっ?」

思わず変な声が出てしまった


虎獣人「この村にも随分前から何人も人間が住み着いている」

術師「そうでしたか」

術師「実は今私たちは犬娘様を魔王として、新しい国を作ろうとしているのです」

術師は犬娘が魔王になった経緯と、彼女が魔物たちの安住の地を作ろうとしていることを知らせた


術師「無理に故郷を捨てろとは申しません、しかし魔物たち皆さんに知らせて欲しいのです」

虎獣人「乗った」

術師「えっ?」


虎獣人「あの子が親を亡くして、どれほど辛い思いで旅をしてきたかは簡単に想像出来る」

術師(大部分食べてばかりでしたけどね)

虎獣人「俺たち一家だけでも手伝おう」

術師「有り難う御座います、でも……」

虎獣人「家のことは気にするな、俺たち獣人は丈夫だからな」

虎獣人「しかし、そうするとあの人間も連れて行かねばなるまい」


虎獣人は、術師に少し待つように告げると、どこかの家に入っていった


犬娘「今魔王やってるんだ~」

虎娘「じゃあ、夢が叶ったね~、魔王様って呼ばないとね!」

犬娘「まだまだこれからだよ~」


犬娘たちが話をしていると、遠くから知った顔の人間が歩いてきた

犬娘「!!」

その人間は犬娘を見つけると、膝を地につけ、深々と頭を下げた


勇者「……すまなかった!」

犬娘「勇者……!」

術師「!!」

術師「どういう事ですの!」


勇者は自分が犬娘の父親と相討ちになった事、その後この村で倒れ、この村の人に拾われたこと、虎娘の介護で助かったこと、自分がある事情で誤解していたことを知ったことなどを一気に話した


勇者「俺が許されるとは思っていない、お前には俺を殺す権利がある」

術師「身勝手ですわね」

勇者「……すまない」

術師「私たちは今、建国の準備をしています、あなたには」

犬娘「……」


術師「私たちの為に奴隷のように働いてもらいます」

勇者「そんなことで……、良いのか?」


犬娘「いいよ」


勇者「……!」



術師(超戦力ゲットですわーっ!)


術師は頭の中で小躍りした


犬娘「詳しい話は帰ってから聞かせて」

勇者「分かっている」

虎獣人「じゃあ、俺も家族を連れてこよう」


虎獣人は人間のシスターと犬娘や虎娘と同じ半獣人の少年を連れてきた

虎少年「久しぶり、犬娘のお姉ちゃん」

犬娘「久しぶり!」

シスター「お久しぶり、犬娘ちゃん」

虎獣人「これからは魔王様だ」

シスター「あら、そうですね」


犬娘の父親と虎獣人は共に人間と結ばれたことで古くから親交があったようだ


虎獣人「生活に必要な物資をまとめてこよう、しばらく待って欲しい」

術師「構いませんわ、少し村を見てみたいので」

犬娘「街づくりの参考になるかも!」

虎獣人「そうか、それではしっかりと準備してこよう」

術師(この虎の人もすごく強そうですわね)


その後術師たちは下水や上水、生活環境の整備状態を確認してまわった

その間、獣人から出た魔王を称えたくさんの獣人たちが犬娘を取り囲んでいた


鼠獣人「俺たちもいつか魔王様の土地に住めるんだね!」

犬娘「うん、待ってるよ!」

術師「ある程度生活環境を整える必要があるので、暫くは待ってください」

虎獣人たちと合流した犬娘たちは村人たちに惜しまれながら帰還した


――北浜――


北浜は変わらず人がいない

虎獣人と勇者はそれぞれテントを立て始めた

術師「わくわくしちゃ駄目ですかね?」

犬娘「いいよ!」


術師「一人で戦わなくていいんですね……」

犬娘「術師ちゃん……」


犬娘にはなんとなく術師が自分の無力さで悩んでいるのは分かる

とてつもなく強い彼女だからこそ、自分の無力さに敏感なのだろう

でも同時に彼女がけして無力でないことを、犬娘は知っている

この国作りに彼女が居ない状態など考えられないのだ


夕方になり、塩田を掘っていた女拳士とメイド剣士が帰ってきた

メイド剣士「女拳士さんの新魔法ができたんですよ!」

メイド剣士がぴょんぴょん跳ねている


女拳士「メイドちゃんも初歩の転送に成功したよ」


術師「ぐっと近付いてきた……未来が!」

犬娘「じゃあこっちは、新しい仲間を紹介するよ!」

犬娘はまず虎獣人一家を紹介した


犬娘「そして最後の一人は……」

女拳士「人間だよね、誰だろ?」

メイド剣士「獣人と暮らす人間は少なからずいるらしいですよ?」

女拳士「ん、なんか知った顔なんだが」

メイド剣士たちがあれこれ推測しているのを見て、術師はにやけそうになる自分を抑えるのに必死だ

犬娘も少し嬉しそうに見える

きっとずっと心の底に残っていた、恐怖や、人間に対する不信感など、あらゆる感情が晴れたのだ


犬娘「勇者ちゃんです!」

女拳士「はあっ!? あ、そうだ!!」

メイド剣士「ええっ!?」

二人は、いや、この魔王パーティーは勇者と戦うために強くなってきたのだ

最強の敵が味方になったなど、有り得ないことだった


メイド剣士「まさか世界の半分を渡そうって言ったとか」

女拳士「世界なんて取れないよ」

犬娘「改心したらしいよ」


術師「とりあえず今ある食料を全部振る舞いましょう」

その日は、小さなお祭りのような空気になった

勇者「これからよろしく頼む」

女拳士「ああ、あんたが味方なら頼もしいよ」

メイド剣士「よろしくお願いします、たぶんあなたを加えて五人でコトー王様に挑むことになりますからね」

勇者「コトー王か……、あれに勝つのは無理じゃないかな?」

女拳士「そうだ、そういやあんたコトー王と戦ってたな」

勇者「そもそも女拳士さんに苦戦して、係員さんにギリギリ勝てるレベルだったからな」

女拳士「今なら負けないよ、またやろうよ!」

メイド剣士「塩田開拓ついでに戦ってみるのもいいかも」

勇者「俺はあんたたちの言うこと全てに逆らう権限はない、なんでも言いつけてくれ」


メイド剣士「……そうですね、あなたの罪は重い」

メイド剣士「知っていますか、あなたに敗れて家族を失った後の魔王様がどれほど苦労されたか!」

女拳士(ひたすら食ってた気もする)


勇者「俺も魔物と思しきものに家族を奪われた……、少しは解るつもりだ」

術師「それです、どういうことだったんですか?」

勇者は一つ一つ話していった


まず、勇者の妹が魔物と思しきものにさらわれたこと

サイセイではその手の事件が多発したこと

ある日、子供たちが魔物に襲われたこと

その後、また誘拐事件が多発し、遂に国王から勇者に魔物討伐令が下ったこと


勇者「しかし、全ては誤解だった」

勇者「子供たちは……偏った教育により、魔物を見つける度にいじめ殺していた」

勇者「襲われた、と言うのも、返り討ちにあったと言うだけだった」


犬娘(うさちゃんもかな……)


勇者「だが、偏った教育に騙されていたのは、俺も同じだな……」


勇者「そして、子供をさらっていたのは、人間だ」

術師「!?」

メイド剣士「どういうことですか?」


勇者「目撃証言を集めたが、全て黒衣の女が関わっていることが分かった」


勇者「しかしサイセイの国は魔物と敵対する国だ」

勇者「子供をさらう魔物たち、と言うのは、プロパガンダの具としてこれ以上無かったんだ」

勇者「俺は国王にまで訴えたが、結果反逆者にされ、なんとか逃げ出した俺はあの村で暮らすことになったんだ」

術師「……なんてこと……」

メイド剣士「結局勇者さんも翻弄されていたと言うことですか……」

犬娘「……許せない」

術師「!」

勇者「!」


犬娘「その黒衣の女、絶対許さない!」

第二章「犬娘開拓する」 完


次回――

新たな敵と、頼もしい仲間たち

犬娘たちは開拓を進め、街を作るために動き始める――


第三章「犬娘、街を作る」

たくさんの仲間、そして、それを引き裂く闇――

今回はここまでです

やっときりの良いとこで終わった

更新します

第三章「犬娘、街を作る」

北浜の盆地には、四つのテントと一つの牛のための雨除け、鶏の住む木箱、牛車、そして10個ほどの樽が並んでいる

樽の中身は水と小麦粉などの食料だ

幾つか空になった樽は白石や青石で冷蔵庫になっているか、雨水を貯める受け皿となっている


ここから、街作りが始まる

虎獣人「水、これだけじゃ足りんだろ」

術師「そうですわね、人も増えたし でも今必要な量は転送で簡単に取って来れますわ」

虎獣人「将来のこともあるし井戸を掘ろう モグラを連れてくる」

術師「それでは送りますわ」

予定を変更し、術師は残る七人にそれぞれ指示を出す

女拳士と犬娘、勇者には食料調達、メイド剣士には子供二人のトレーニング、シスターには昼食の準備を任せて、村に飛ぶ

術師「子供さんたちはあれで良かったんですか?」

虎獣人「ああ、必ずあの子らも力になれる 上の女の子は犬娘……魔王様と同い年だし……」

虎獣人「ただ下の子、男の子の方は魔法の方が向いてるかも知れん」

術師「では、帰ったら私がお預かりしてよろしいですか?」

虎獣人「あんたが忙しくないなら、頼もう」

術師「少し楽しみですわ」

術師はにっこりと笑った

――サイセイ、虎獣人の村――

村に着くと虎獣人は何やら作業小屋のような場所に立ち寄る

その作業小屋の前の穴に顔を突っ込んで、地を割るような声を出す

虎獣人「もぐらのおおおおおお!」

すると術師の後ろの穴からモグラが二匹飛び出してきた

モグラ親方「てやんでいバーロー、虎の!」

モグラ子分「朝から大声は勘弁してくだせえ」

虎獣人「がっはっは!」

虎獣人は見た目通り豪快だ

術師「失礼、私はカイオウ島北浜の魔王様の使いの者です 実はモグラ様に井戸を……」

そこまで言うとモグラ親方はスコップを突きつけてきた

モグラ親方「みなまで言うな、もちろん協力させてもらうぜ!」

モグラ子分「犬娘ちゃんが苦労して魔物の国を作ってくれた話はもう村中みんなが知ってますぜ!」

モグラ親方「近隣の村まで掛け合ってもうみんなが協力する事で一致した」

モグラ親方「いつでも誰でも呼びやがれってなもんでい!」

術師「有り難いですわ、モグラ様はお二人だけですか?」

モグラ親方「おうよ、なんせ小さな村だからよ」

虎獣人「みな仕事を始めてるだろう、すぐに帰って俺達も手伝おう」

術師「そうですわね」

北浜の人口は二日で四人から十一人となった


――北浜――


犬娘「勇者さんはゴカイ大丈夫?」

勇者「ああ、修業時代に数年サバイバルをした経験がある」

女拳士「今日はデカいの釣りたいから仕掛けを変えてみた」

犬娘「糸巻き?」

女拳士「うん、これで釣った魚をエサにしてヒラメかスズキを釣ろうかと、ね」

勇者「いいな」

犬娘たちはゴカイを集めると、磯に向かった


…………


メイド剣士「虎娘さんは年上なんですね」

虎娘はぜえぜえと息を弾ませている

近くには少年も倒れている

虎娘「あ、あんた獣人のあたしより速いとか有り得ないだろ!」

メイド剣士「これでもうちでは遅い方ですよ?」

虎娘「犬娘ちゃんどんだけ強くなってるのよおっ!」

メイド剣士「私が足元に及ばないくらいには」

虎娘「……信じらんない……」

メイド剣士「虎娘さんの戦闘スタイルだと女拳士さんに弟子入りした方が良いかも分かりませんね、まあ走り込みなんかはさせてあげられますが」

虎娘「あんまり……させて欲しく……ないかな……」

虎娘はそのまま潰れた

メイド剣士「水を冷やして持ってきますね」

メイド剣士はビンに水を入れると、白石をかざし一瞬魔力を込めた

メイド剣士「白石は確かに便利ですね……」

水が十分に冷えると白石を冷凍樽に戻した

メイド剣士「ただ、もっと欲しいなあ」

術師はそこに帰ってきた

術師「明日は山に登ってみますわ あと、石使いちゃんに協力を要請してみます」

メイド剣士「虎少年さんの方もお願いします、あ、水を持って行かないと」

虎獣人とモグラは先に二人の所に行った

虎獣人「なんだ、二人ともへばってるのか」

虎娘「……あの子強過ぎ……」

虎少年「……」

虎獣人「情けないな」

メイド剣士が帰ってくると二人は水に飛びついた

メイド剣士「ちょ、コップ有りますから、直接飲まないで」

虎娘「ぷはーっ!」

虎少年「た、助かった……」


虎獣人「メイドさん、少し手合わせをお願いしたい」

メイド剣士「?」

メイド剣士「分かりました」


虎獣人の戦いは術師も興味が湧いた

五人が見守る中、メイド剣士が先に一閃を加える

しかし、虎獣人の毛皮は予想したよりも硬い手応えだ


メイド剣士「私も何度か獣人と戦ってますが、お父さんお強いですね」

虎獣人「昔は少し鍛えたからな」

術師「メイドさん、あなたの剣ってもっと斬れると思うんですが」

メイド剣士「どういうことです?」

術師「振りをコンパクトにし過ぎてスピードと言うか、腰が十分に乗っていない気がするんです」

メイド剣士「……そうかも」

メイド剣士は眼前でぴゅんぴゅんと剣を振り回すと、深く腰を落として構えた

身体の柔らかいメイド剣士が深く構えると剣はほとんど体の後ろに回る

虎獣人「面白い、今度はこちらから行くぞ!」

虎獣人は初めて会った頃の犬娘並みのスピードでメイド剣士の後ろに回る

いや、回ろうとした

虎獣人「ぐはっ!」

メイド剣士「……通った!」

虎獣人「み、見事!」

それでも深手にはならなかったようでそのまま虎獣人は向かってきた

メイド剣士「深く……斬る!」

虎獣人に一撃をもらえばこちらもただでは済むまい

メイド剣士は素早く剣を振り、間合いを作る

虎獣人「おおっ!」

虎獣人は軽く振り回している間は大丈夫だろう、と突っ込んでくる

メイド剣士が後ろに跳ね飛ぶと、足元は深く抉れた

メイド剣士「素晴らしい攻撃力!」

術師「メイド剣士さんも本当に強くなりましたね」

虎獣人がもう一度突っ込むと鼻先に真空魔法を当てられ、怯む

虎獣人「ぐおっ」

メイド剣士はそのまま追撃をかける

メイド剣士(速く、より強く!)

メイド剣士の一閃は深く虎獣人の体を斬り、裂いた

術師「それまで!」

術師は試合を止めると、たちまち虎獣人の傷を塞いだ

虎娘「……そりゃ、あたしが勝てるわけないわ」

虎少年「強過ぎ」


虎獣人「参った!」

虎獣人「いやあ、これが我が魔王軍の強さ、俺も一兵卒として誇らしいわ!」

虎獣人は負けても豪快に笑った


モグラ親方「すげえな、あの姐さん」

モグラ子分「感動するほどつえぇや」


…………


女拳士「よっしゃ、デカいの来た!」

勇者「おお、タモを」

女拳士「へっへー、青物みたいだな」

犬娘「ごちそうだー!」

犬娘たちもどんどん小魚を釣り上げ、昼前には箱いっぱいになった

勇者「本当に魚が豊富だな」

犬娘「帰ろう!」

女拳士「そうだねぇ、アタシも沢山釣ったし」

網袋には大型の鯵のような魚やスズキなどが入っている

犬娘「売る前に全部食べちゃいそうだね」

盆地に帰ると術師たちは井戸を掘っていた

術師「あら、沢山釣りましたね」

犬娘「うん、魚いなくなっちゃうかも」

術師「磯を開拓するとそうなってしまうかも知れませんが、これくらいなら全く心配ありませんわ」

術師「でもそろそろ他の食料を探さないと駄目ですね」

虎獣人「俺が森を開拓して木材を確保するから、みなで畑を作ってくれ」

女拳士「手伝うよ」

虎娘「あたしも、トレーニングになるし」

虎獣人「下の森の、一時間くらい行った辺りで良いか?」

術師「そうですわね」

虎獣人「まず皆が眠れる小屋とベッドを作って、それから下にも小屋を作ろう」

術師「虎獣人さんは大工仕事得意なんですね」

虎獣人「あの村の家はだいたい俺が建てた」

犬娘「私の家も建ててもらったよ!」

術師「本当に、良い人材ですわね」

モグラ親方「俺っちたちもどんどん作業させてもらうぜ!」

術師「まず、井戸、次に下水道、三つ目に上水道をお願いします」

術師「その後は……そうですね、下の森にも同じ物を揃えてもらいましょうか」

モグラ親方「モグラ使い荒いなこの姐さん……」

モグラ子分「親分……頑張りやしょう」

シスター「魚が焼けましたよ~」

虎獣人「おう、飯にしよう」

術師「そうですわね」

モグラ親方「魚に酒か、分かってるじゃねーか」

女拳士「まだそれしか無いんだけどね」

犬娘「美味しいよ~」

虎娘「あたし魚大好き!」

術師「あ、お昼からも井戸掘りですから、お酒は控え目に」

モグラ親方「おうよ、わかってらあ!」


…………


モグラたちは意外と作業速度が速く、夕方には水が出るところまで掘った

モグラ親方「木枠がねえ」

術師「木材の切り出しと加工は虎獣人さんたちがやってくれてますわ」

モグラ親方「おう、ありがてえな」

モグラ親方「ついでにセメントなんか有れば下水作りに便利なんだが」

術師「それは山で探してきますわ、多分石灰は出ると思いますから」

モグラ親方「鉱石採取は俺っちたちよりドワーフにでも頼んでくれよ」

術師「では、チュウザンにお願いに行きますわ」

モグラ親方「姐さん博識だな」

術師「色々知恵が足りなくて困ってますわ」

すみません、ちょっと休憩します

すみません、ゆっくり更新します

次の日、術師は勇者と犬娘、モグラ子分を連れて山に

女拳士たちは木材の伐採、加工、運搬を行うことにした

モグラ親方は井戸に木枠を組む


――北浜火山――


北浜にある火山は長い間活動していない火山である

記録では千年の間全く活動していないが、温泉や火山生成物が大量に眠っている

チュウザンの山々と比較すると低い山であるが、海底から隆起してきたと思われる

そのため化石や、石灰なども豊富だ


犬娘「綺麗な森があるよ」

術師「色々採取出来そうですわね、近いし便利そうですわ」

犬娘「下の森の方は全部開拓するの?」

術師「まさか、自然は残していきますわ」

モグラ子分「姐さ~ん、ここいらを適当に掘れば良いんですか?」

術師「はい、土を調べますので少しで良いですよ」

勇者「俺はピンクの石を探せばいいんだな?」

術師「はい、多分山裾の辺りに多いと思われます、我が家の台所を支える貴重品ですので良く探してください」

勇者「分かった」

犬娘「私も行くよ!」


術師「魔王様、無理はいけませんよ?」

犬娘「?」

犬娘「分かった!」

術師はモグラ子分に数十カ所も土を掘らせた

モグラ子分「あ、姐さん、ちょっと休憩を……」

術師「構いませんよ、冷やした水も沢山有りますから」


術師「休憩が終わったらそろそろ二人と合流しましょう、治療が必要かも分かりませんから」

モグラ子分「はいな……?」


…………


勇者「ここらで良いか?」

犬娘「うん、ちょっと私と打ち合って欲しいの」

勇者「お互いの力試しか」

勇者「じゃあ、手抜きは出来ないな」

犬娘「うん」

二人は見通しのいい場所を見つけ、打ち合いを始めた

通常の戦闘と違い、勇者は抜き身でなく、犬娘も魔法を使わない状態ではあるが、全力の戦いだ

勇者「相変わらず速い……、いや、以前より更に、か」

犬娘「はあっ」

犬娘の下段払い蹴り

勇者は軽いステップでかわし、犬娘に打ち込むが、既に対象はそこにいない

勇者「うん、強くなってる」

勇者「だが俺も!」

後ろに回る犬娘の動きを読んで剣を打ち込む

犬娘はギリギリでかわしたが、少しかすった

犬娘「強いね」

犬娘「でも!」


勇者「俺は……、もっと強くなる!」

勇者の剣速が一段階速くなる

メイド剣士にも近付く速さだ

剣の質量、鞘に納めたままで有ることを考えれば、信じられない筋力

メイド剣士の剣をかわせるのは魔人王か犬娘くらいだ

犬娘「速い速い!」

少し楽しそうな犬娘

勇者と犬魔王は一歩も譲らないまま、時間が過ぎていく

お互いに計り知れない体力、いつ終わるとも分からない

術師たちが二人を見つけても一刻打ち合っていたので、術師は二人を止めることにした

術師「そこまで、時間切れ引き分けですわ」


犬娘「あ、術師ちゃん」

勇者「す、すまない、気づかなかった」

術師「石はありましたの?」

勇者「一応は見つけてからやりあった」

術師「まあ予想できてましたけど」


四人は術師の見立てで魔法原石を数十個採取し、お昼を食べると山を降りることにした


モグラ親方「虎の旦那相変わらずいい仕事するぜ これで井戸も完成だ!」

虎獣人「まあこれだけ手が有ればな、材木は殆ど女拳士さんが運んでくれたし」

気付けば知らない獣人が何人か手伝いに来ていた


メイド剣士「では皆さん、今から送りますので集まってください」

獣人大工「はいよ!」

メイド剣士は術師を見つけるとニッコリ親指を立てて見せ、そのまま大工たちを転送して行った

術師「成功したんですわ……」

犬娘「メイド剣士ちゃん、すごい」


勇者「転送か」

勇者「俺も初めて出来た時は嬉しかったな」

術師「出来るんですか?」

勇者「ああ、一応」

術師「先に言ってくれればもう少し計画が変わったんですが……」


術師「でもまあ良かった、メイドさん嬉しそうだったし」

手で胸元を押さえ、術師もなんだか嬉しそうだ

犬娘「良かったね!」


そこに、旅人らしき風体の男がやってきた

術師「あれ、あなたは!」

旅人「どうも、旅人です」

どうやら術師の顔見知りのようだ

旅人「いやあ、街づくりなんて面白そうだなあって思って、お手伝いに来ました」

術師「え、あの、大丈夫なんですか?」

犬娘「だれ?」

術師「この方は……」

旅人「旅人です」

術師「旅人さん……です」

旅人と名乗る男は身形は確かに旅人風情なのだが、姿勢が何か一般人臭くない

犬娘はすんすんと臭いを嗅いだが、確かに旅人のような臭いだ


術師「でも、とても助かりますわ」

術師「外交を頼まれていただければ私は開発に専念できますわ」

いったい何者だろう

見た目は無精髭の若い小柄なおじさんで、犬娘の鼻でもそれは変わらない

外交なんて出来るんだろうか?

術師「今までに決まった取引の内容を説明しておきますわ」

そう言うと術師は旅人を遠くに引っ張っていった


術師「道楽でよくここまで来られましたわね」

術師「先代ヤマナミ王様」

旅人「内緒な、内緒」

術師「あなたの顔を知ってる人は大勢いますわよ 隠しきれると思えませんが」

旅人「こんな身形だしばれないんじゃないかな~?」

術師「退任されたのはいつでしたっけ?」

旅人「二年前」

術師「ギリギリメイドさんも知ってるかも……」

旅人「僕が任命したメイドさんはオリハルコンの剣を持った剣士の子が最期だったかな?」

術師「その子ですわ」

旅人「あちゃー」

術師「勇者さんと顔を合わせたりは……」

旅人「大丈夫、サイセイには嫌われてるから」

術師「あと女拳士さんは狼主様を知ってましたから……」

旅人「女拳士と言えば十七で一人で悪ドラゴン退治して僕が表彰した子がいるね」

術師「そんな化け物一人しか居ませんわね」

術師「やっぱりバレバレじゃないですか だいたいなんですかその無精髭!」

旅人「ガチで旅してるし、髭が無いと子供と間違えられるんだよ~」

術師「まあ流石に王様です、とか紹介できませんけど……」

旅人「もう民間人だからそのように扱ってよ」

術師「もちろん、奴隷のように働いてもらいますわ」

旅人「きつい」

術師「タダでご飯は食べられませんわよ」

旅人「いや分かってるよ~」


――ヤマナミ――


ヤマナミ王「そう言えばオヤジどうしてるかな~?」

メイド長「さあ、旅の空で野垂れ死んでるんじゃないかね?」

ヤマナミ王「お姉ちゃん親父には厳しいね」

メイド長「あの怠け者には苦労したからね~」

ヤマナミ王「どっかで誰かに迷惑かけてなきゃ良いけど」


――北浜――


女拳士「あんたは確か……」

旅人「旅人です」

メイド剣士「何やってるんですか先代……」

旅人「旅人です」

勇者「俺も記録で見たことあるんだけど……」

旅人「旅人です」

術師「魔王様以外全員にバレバレじゃないですか!」

旅人「旅人の方がみんなも都合いいでしょ!」

女拳士「そりゃまあ」

メイド剣士「確かに」

勇者「そうだな」

犬娘「私だけ分からないのか……、う~ん、ヤマナミの王様に似てるけど」

メイド剣士(親子だしなあ)

術師(隠してもダメでしょ、これ)

旅人(まあ普通の人には分からないはず……はず……)

術師(民間人との週に一度の接見は)

旅人(やってた…… ダメな気がしてきた)
術師(こうなったらシラを切り通して下さい 皆さんも)

女拳士(そうだね、多分無駄だけど)

メイド剣士(奴隷みたいに働かせていればバレないのでは)

旅人(だるい)

勇者(そんなのでよく旅が出来たな)

術師「と、とりあえず今日は旅人さん歓迎会しましょうか」


虎獣人「あれ、あんた」

旅人「旅人です」

術師「隠れ住んでた獣人にまでバレてるじゃないですか!」

虎獣人「隠すんだな、分かった」

虎獣人「昔出稼ぎに行ってた時に土地管理の件で国と問題になってな……」

旅人「あ~、あの時の」

術師「じゃあ夕ご飯の準備をしましょうか 明日からの予定も有りますし」

術師はグダグダな旅人にため息をついた

しかし、街づくりにはこれ以上無い戦力だろう


働きさえすれば

次の日、畑作りの件や人口増加の件、鉱石採掘や旅人の顔見せのために術師はチュウザンへと飛んだ

メイド剣士は大工たちを連れてくるためにまた村に飛んだ

犬娘と勇者、女拳士は塩田の管理や森の中の食料探しなどを含めた探索を行う

虎獣人たちはそれぞれ与えられた仕事に着いた


犬娘が変な臭いに気付いて森の奥に入る

勇者「お、これは」

女拳士「温泉だな」

勇者「あっつい!」

女拳士「あ~、これは埋めないと入れないな」

犬娘「川が近くにあるよ!」

勇者「モグラさんに頼んで女風呂と男風呂を作ってもらおう」

女拳士「これ観光に使えるんじゃない?」

犬娘「小屋を建てて温泉を引いて宿にしよう!」

女拳士「よっしゃ、モグラさん呼んできて」

勇者「よし、えっと、ここの座標を記憶 盆地に転送」


女拳士「勇者さん風呂好きなのかな?」

犬娘「ノリノリだね」

勇者は下水掘りに取り掛かっていたモグラたちをすぐに捕まえて転送してきた

勇者「この所ずっとお風呂に浸かれなくてすごく気持ち悪いんだ、頼むよ」

犬娘「頼むよ~!」

モグラ親方「ち、仕方ねえ、ちゃっちゃとやるか あ、水と砂、大きめの石、玉砂利を集めてくれ」

女拳士「了解!」

犬娘「了解!」

勇者「よし、やるぞ!」


勇者は今までに無いくらい楽しそうに仕事に打ち込んだ

仕舞いには大工衆まで引っ張ってきて、1日で温泉を二つ作り上げてしまった

勇者「道標を立てておこう 左が男湯、右が女湯で」

女拳士「凄いな、めちゃアグレッシブだな」

勇者「だって温泉に入れるんだから!」


そう言うと勇者は着替えやタオルを用意して右に走って行った


女拳士「!?」

犬娘「お……、女の子だったの……?」

犬娘と女拳士も勇者についていった

確かに女性だった

女拳士「おお、ちょうど良い湯加減になってるな」

勇者「ん~!」

犬娘「気持ち良いね~」


やがて帰ってきた術師やメイド剣士も入ってきた

術師「温泉なんて素晴らしい資源じゃないですか!」

メイド剣士「そんなことより早く入りましょう、最近暑かったから気持ち悪くて」

勇者「だよね!」

術師「ん、そちらの女性はどなたですか?」

女拳士と犬娘は顔を見合わせた

そのあと歯を見せてニヤリと笑う

勇者「え、髪をおろしてるから分からないのか……?」


メイド剣士と術師はかけ湯して体を洗って湯船に浸かるまで首を傾げている

女拳士「くく…… まあ分からないよな」

犬娘「普通は分からないよね」

勇者「ええ、そうなのかな?」


メイド剣士が湯船に入って近付いてきた

じっと勇者の顔を見て、気付いたのか後ろにザザッとお湯を割って下がった

犬娘と女拳士はニヤニヤが止まらない


術師も同じ動作を繰り返した


術師「勇者さんって男じゃ……、無かったんですね」

メイド剣士「魔王様の話でも性別は出てきてませんよね 術師さんが勝手に勇者という男、って言ったことあるけど」

女拳士「まあこんなバカ強い女いると思わないしな」

勇者「いや、俺は持ってる剣がいい剣だから……」

術師「今まで気付かないとか、不覚ですわ」

メイド剣士「謎が解けた所でゆっくり浸かりましょう」


犬娘「ちょっとのぼせてきた」

女拳士「アタシも」

勇者「じゃあ、お二人はごゆっくり……」

お湯から出ると勇者はサラシを巻いた

術師「せっかく大きいのに勿体ないですわね」

メイド剣士「術師さんは巨乳好きですか」

術師「まず白導師さんみたいな性癖は有りませんわ」

メイド剣士「あったら何回か刺してます」

術師「ですね」

術師は帰ってくると次の日からの予定を立てていった

まず種を用意したので畑を用意すること、チュウザンからドワーフを連れてきて火山へ案内し、鉱石や石灰の採掘を頼むこと、石灰からセメントを作り、モルタルやコンクリートを作り、下水整備すること、
そしてカイオウ国に人魚の派遣を要請し、漁場開拓に生け簀作り、採取を頼み、術師は石使いや虎少年と錬金術研究に入ることなどを決めた


術師「これからが正念場ですわ 頑張りましょう」

犬娘「おーっ!」

皆「おーっ!」


やがて暑い夏になった


Sランク戦やオリファンの闘技祭りなどの大きなお祭りが有ったが、犬娘たちは開拓にかかりきりで、今回は参加を見送った

その間、犬娘の誕生祝いなど色々な行事を行ったが、ほとんどの日は全員が仕事、仕事で走り回った

やがて小屋も幾つか建ち、下水、上水の整備を終え、本格的に街を大きくする段階に入った


術師「報告を」

メイド剣士「先の大雨で塩田はダメになりました、それと川の氾濫で橋が流され、作業場まで水浸しになったようです」

メイド剣士「塩は雨期を見越し、高地に蓄えておいたのでチュウザン輸出分は問題有りません」

勇者「ハマミナトから街道整備に伴い、砦建設とそのための石材の輸出を要請されている」

勇者「こちらはドワーフさんたちが当たってくれてる」

女拳士「雨期の間には漁場もあまり良くないから、人魚たちには採取を優先してもらってる」


旅人「チュウザンやカイオウ国への人材派遣への返礼として魚の干物とか貝の干物送っといたよ~」

石使い「石の輸出は堅調……、開発速度も問題ない、専用の長屋もできたよ……」


術師「だいたいこれくらいでしょうか、魔王様?」

犬娘「うん、じゃあ今日もみんなお仕事頑張ろう!」

皆「おーっ!」


…………


術師「やっぱり魚が穫れない上に輸出してるから、私たちが食べる分のキープが難しいですね」

メイド剣士「とりあえず湖の魚を穫ってみんな補ってるみたいです」

術師「冬から春の間は湖は禁漁期間を設けて、養殖と放流をした方が良いですかね」

術師「それと牧草地開拓に着手しましょう、人口も五十人ほどになってますし、食料の開拓は急がなくては」

メイド剣士「でも、下の畑は雨期以降全滅ですが、盆地の畑は無事ですし、雨期の前にスイカやトマトが収穫出来ましたよ!」

術師「野菜は助かりますね」




…………


そんな風に忙しく過ごしていると、また旅人が訪れた

その旅人を見つけた者たちが慌てて駆け込んできた


狼獣人「大変だっ、黒衣の女が来た!」

術師「!」

メイド剣士「!」

犬娘「!」

勇者「……ここに……、ついに来たか!」

女拳士「よし、行こう!」

犬娘「絶対捕まえる……!」


犬娘たちが小屋から出て行くと、黒衣の女と、その後ろの臓物を縫い合わせたような、ブクブクと膨らんだ真っ黒な泡のような生き物が街を襲っていた

黒衣「……はじめまし……て……」

勇者「何の用だ!」

犬娘「うーっ!」


黒衣「あら……あら……、そんなに緊張……しなくても……いい……わよ……」

黒衣「ただの……、実験」

そう言うと黒衣の女の持つ石から黒い閃光が迸り、犬娘を、メイド剣士を、女拳士を貫いた

犬娘「ぎゃん!」

メイド剣士「きゃあああっ!」

女拳士「ぐはっ!」


勇者はその攻撃を軌道を読んでかわし、黒衣の女に突っ込んだ

しかし、その剣は黒衣に弾かれた

黒衣「……闇の衣……プロトタイ……プ…… でも……あなたでは……、無理……」

そのうち後ろのグロテスクな物体からの攻撃が来る

術師は三人を回復させる

術師「私は防御に専念します 皆さん頼みます!」


黒衣「いっぱい……、……引く」

犬娘「待て!」

勇者「待て、サイセイからさらった子供たちはどこだ!」


黒衣の女は首を傾げた


黒衣「めのまえにいる」


黒衣の女の黒い石から放たれた闇の閃光に犬娘と勇者は足を貫かれる

黒衣の女は宙に浮き、ハマミナトの方へと飛んでいった

その後に残った黒い魔物は、縛りを解かれたように暴れ出す


黒い泡「イタイ……、イタイ……」

黒い泡「クルシイ……、タスケテ……」

黒い泡「ハカイシンニナンテ……、ナリ……タクナイ……」


術師「……!」

術師は背中に戦慄が走るのを感じた

勇者「どういうことだ……」

勇者は先ほどの言葉を、めのまえにいる、と言う何の感情もこもっていない黒衣の言葉を繰り返し再生していた


術師「破壊神再生実験に子供を使った……、子供の苦しみもがく感情を使った……、そう言うことですわ……」


勇者「な……っ!!」

勇者「ゆ、ゆるさ、ん……!」


勇者「許さんぞぉっ!!」

勇者は自身の誇る剣、アダマントの剣に雷撃をまとわせた

勇者「食らえ!」

勇者「雷神剣!!」

黒い泡は、簡単に溶け、貫かれた


術師「焼き払います」

術師は火の槍を数本召還し、何度も旋回させ黒い泡を焼き払った

犬娘と女拳士、メイド剣士は、その流れを呆然と眺めていることしか出来なかった

虎獣人たちが駆けつけた時は、黒い泡も全て燃え尽きた後だった


…………


その場にいた全員に言葉がなかった

とりあえず再開しなくてはならない町の開発にも、一向に気が向かない


勇者「なんてことだ……」

勇者「俺の妹も……、街の子供たちも……」

犬娘「ひどい……ひどいよ……!」


術師「あいつは石を使ってた…… 同じ錬金術師として、絶対に許せないことをやってる……」

女拳士「手も足も出なかったよ……、アタシが……」

虎娘「師匠……」

メイド剣士「うう、う……」

メイド剣士はただ、泣いている


旅人「だらしがないな」

皆「!」

旅人「あいつを倒すのがお前たちの目的だ、それが変わったのか?」

旅人「やるべき事が決まっているなら、突き進め!」

旅人「今日までお前たち全員がそうしてきたハズだ!」


犬娘「そう……、そうだよ……!」

犬娘「やるしか、無いんだ!」

犬娘「勇者さん」

勇者「ああ」

犬娘「私たちの無念を晴らせるのは、あいつを倒した時だけ!」

勇者「ああ!」

犬娘「あんな奴、次に会ったら一発で踏みにじってやるから!!」

勇者「おおっ!!」


女拳士「ははっ、だよな」

術師「絶対倒します」

メイド剣士「もう、負けません」


虎獣人「よし、肉を食おう」

そう言うと虎獣人はチュウザンから取り寄せたらしい大きな肉の塊を三つテーブルに、ドスン、と置いた


…………


肉が焼ける良い匂いがする

女拳士「久しぶりだあ……」

犬娘「お腹の虫が暴れてるよう」

虎獣人「良い肉の匂いだな」

虎娘「うう、よだれが……」

術師「チュウザンのお肉に、北浜の天日塩をふりかける」

勇者「うわっ、味が想像できてヤバい」

術師「黒胡椒、大蒜」


術師「焼く、以上」


メイド剣士「よだれで溺れそうです」


美味しい香りを嗅いだ時には、もう全員が気力を取り戻していた

虎少年が配膳する

虎少年「お姉ちゃんも手伝ってよ」

虎娘「あたし食べるだけ」

全員が席について犬娘の顔を覗き込む


犬娘「いただきます!」

皆「いただきます!」

全員一斉に肉に食らいつく

メイド剣士「うう、なんで美味しいんだろう」

術師「落ち込んでてもお腹空きますからね」

女拳士「アレを見た後で肉はどうなのか、と思ったけど」

メイド剣士「思い出させないでください」


犬娘「おーいしーいっ!」

虎娘「さいこーっ!」

虎少年「うん、すごく美味しい」

石使い「……美味しい」

勇者「いやあ、たまんない肉だね」

虎獣人「チュウザン王様の厳選だからな」

モグラ親方「それめっちゃ高そうだな!」

モグラ子分「もう一生食えないかも」


旅人(こいつら、強いじゃないか)


小さな村のほぼ全員が一つの小屋で大騒ぎとなった


そして夜になった


術師は犬娘と勇者を連れ、コトーに飛んだ

術師「子供の喧嘩を親に言いつけるみたいな気はしなくも無いですが」

勇者「事態が事態なんだ、仕方無いだろう」

犬娘「女拳士ちゃんとメイド剣士ちゃんは?」

術師「メイド剣士ちゃんは後片付けで、女拳士さんは……」

術師「同じ相手に二度負けたのが許せない、とか言って修行に行ってしまいました」

勇者「彼女はハングリーだな、強いはずだ」

術師「……あなたも強いですわ」


夜の訪問だったが、すぐにコトー王は現れた

魔王「聞いたぞ、闇の衣……、更に破壊神か」

術師「ご助言を頂きたく思い参りました」

魔王「助言なあ……、とりあえず人を送ってもいいが、まずお前等が修行しないとな」

魔王「今日明日でどうこうできる問題でもあるまい」


犬娘「魔王様でも勝てない?」

勇者「……そんな訳ない、ですよね?」

魔王「蠱毒の壺の外で戦ったら大虐殺になっちゃうからなあ……」

術師は黒衣とは別の意味で戦慄した


魔王「まあ、俺って曲がりなりにも王様じゃん?」

係員「勇者殿が勝てないとなると私が出て行っても返り討ちでしょうし」

魔王「と、なると、アイツを出すしか無いよな」

係員「側近様ですね、前の側近様が亡くなってから百余年魔王様に仕えている方です」

術師「頼もしいですわ、お願いします」

魔王「まあ実際戦うのはお前たちになるだろうがな」

犬娘「私も、その方が良いです」

勇者「俺もです」


魔王「まあ今日はもう遅いからな、帰るか泊まっていけ」

術師「帰ります」

魔王「あ、そう?」

魔王はなぜかしょんぼりした



そして、夜が明けた――


犬娘「こっちは勇者と魔王がいるんだから、奇襲されなきゃ負けないよね!」

勇者「ああ、もちろん」

術師「防御か回復を鍛えないと……、とにかく魔力を高めないと……」

術師「あれをやってみようかな?」

メイド剣士「あの、女拳士さんが帰ってきません」

術師「うーん、街づくりも止めたくないんですけど」

勇者「だよな、探してくる」

虎娘「あたしも探してくる!」

犬娘「気をつけてね!」


術師「じゃあ今日は街づくりを進めつつ、修行方法を考えましょう」

虎獣人「悪いな、あんたたちだけ戦わせて……」

術師「良いんですよ、好きでやってますから」


とりあえず術師は塩田の様子を見に向かった

犬娘は火山の採掘現場や、森の伐採現場、温泉の街道整備を見て回った

力を貸せる所があれば積極的に貸していった

メイド剣士「女拳士さんのあの新技……、この間は出せなかったけど、あれを使っていたら……」

メイド剣士「あの魔法をもし……、いや、そもそも私には無理だし……」

メイド剣士は悩みながら海から河川沿いを見て回り、増水対策も考えていた

メイド剣士「水を東に流すと塩田が全部ダメに、西に流すと木材加工場や温泉、下水処理施設にダメージがある……、つまり」

メイド剣士「要所に水が流れないように斜めに堤防を何ヶ所かに分けて建てればいいのかな……」

メイド剣士「しかし、お城を作るくらい大変そう」

メイド剣士「すぐには無理かな」

メイド剣士「と、すると、後始末を簡単にする方法を考えた方が良いかな?」


術師「ふむふむ」

メイド剣士「わあっ!」

メイド剣士「急に後ろに立たないで下さい!」

術師「一つ考えてるのが有るんです」

メイド剣士「なんですか?」

術師「いずれ港を作らないと駄目なんですが、それにはかなり東に行った所の山を削って行き」

術師「そこまでの街道も通さなくてはなりません」

術師「しかも塩田をよけて」

メイド剣士「ふむふむ」

術師「つまり橋を作って護岸工事もしてしまおうかと」

メイド剣士「またとんでもない大事業ですね」

術師「まあまずお城建てないと駄目ですよね」

メイド剣士「水害は今は警戒するしか無いですね……」


石使い「石を使ってみよう」

メイド剣士「わあっ!」

術師「石使いちゃん、どの石を使うの?」

石使い「緑、風圧で流れを反らす」

術師「出力不足では」

石使い「嵐の力にカウンターをかけるように改造するの……」

術師「……なるほど」

メイド剣士「できるんですか!」

術師「できません」

メイド剣士「出来ないんですか」

術師「それこそ何年か研究すれば……」

メイド剣士「できるんですね!」

術師「確実ではないので他の解決策も模索するべきですわ」

メイド剣士「確実ではないんですね」

術師「可愛い」

メイド剣士「なんなんですか!」


石使い「わたしのほうが……せんぱい」

メイド剣士「やっぱりそう言う関係なんですね、お下品」


術師「帰りますか」

メイド剣士「構ってくださいよ」

石使い「いけず」

術師「いけずってなんですか」


――コトー――


係員「行っていただけないと困ります」

ヒーラー「監視員だけ送り込んでおけばいいのではないでしょうか」

ヒーラー「ぶっちゃけめんどい」

係員「は?」

ヒーラー「なんでも有りません」

ヒーラー「そもそも彼女達からの報告を聞く限り、封印魔法などが必要な状況です」

ヒーラー「今から研究するとして、一、二年」

係員「緊急性のある話だと思うのですが」

ヒーラー「他に黒衣の魔女の襲撃から逃げる手立ても、そもそも彼女ら自身が対抗する手段もあるはずです」

ヒーラー「頭堅いな」

係員「は?」

ヒーラー「何でも有りません」

ヒーラー「兎に角、私は二年ほど研究に入りますので、魔王様にもよろしくお願いします」

係員「ですが……」

ヒーラー「しつけぇ」

係員「は?」

ヒーラー「何でも以下略」

係員「投げやりにならないでください」


――チュウザン――


術師「そう言う訳ですから、魔人王様もお気をつけ下さい」

魔人王「うむ、助かる」

魔人王「お前たちの味方で良かった」

術師「ありがとうございます」

魔人王「それでハマミナトには行ったのか?」

術師「……」

魔人王「?」

術師「黒衣はハマミナトに飛びました」


魔人王「……、なるほど」

魔人王「白」

白導師「はいな」

魔人王「彼女らをサポートしろ もし混乱をきたすような行動を取ったら俺の最終奥義を食らわせる」

白導師「私がそんなことするわけないだろ!!」

白導師はあきらかに挙動不審でガタガタ振動している


魔人王「犬、お前も行け」

犬戦士「二人じゃ国の守りがやばくね?」

魔人王「心配するな、奴を呼んでおく」

犬戦士「果樹園のデブか、鉱山のガリか、畑の男か、牧草地の女か、どれよ」

魔人王「牧草地だ」

犬戦士「本気だな……、そんなヤバいのか」

魔人王「念には念を入れると言うことだ」


白導師「あの小娘はないわ ピラニアやマキビシを体内に隠すようなもんだろ」

銀鈴「いまいちよく分からない例え、死ね」

白導師「いや、生きる!」

銀鈴「今回は本気でヤバい……、生きろ」

白導師「デレたーっ! 銀鈴がデレたーっ!」


銀鈴「デレてない、死ね」

白導師「おうよ、玉砕してくるわ!」

銀鈴「砕け散れ」

犬戦士「早く行くぜ」

銀鈴「バカ犬、頑張って死ね」

犬戦士「不吉だっつの!」

術師「行きましょうか」

白導師「あら、まだいたの」


…………


術師「今帰りました」

白導師「パンツは?」

犬戦士「最終奥義」

白導師「皆、お久しぶり」

犬戦士「おせーよ変態、一点マイナスな」

白導師「へるぷ!」

犬戦士「良いことしろよ」

メイド剣士「白導師さん久しぶり さよなら」

白導師「ひどい」

犬娘「こわい」

虎娘「誰?」

白導師「可愛いお嬢さん、パンツ見せてください」

犬戦士「減点二」

白導師「お助け」

虎娘「変態だ」

犬娘「近寄っちゃ駄目だよ!」

メイド剣士「隔離施設を作りましょう」

犬戦士「それが一番だろ」


犬戦士「命の木霊持ってるだろ?」

白導師「あんなもん流石の私も使い難いわ」

犬戦士「いいから使っとけ」

術師「命の木霊……聞いたことがあるような」

石使い「……何だったかな?」

犬戦士「気にすんな」


…………


やがて季節は秋に移る

雨期からの復興、大規模な事業の足踏みなど、様々な問題を抱える中、城壁構築を始めることになった

術師「本来なら異例の速さなんですがね」

メイド剣士「基礎が何もない状態からの開発ですからね」

犬娘「いよいよだね」

女拳士「じゃ、悪いけどまた修行してくるわ」

術師「あなたが何か技を身につけようとしているのは分かります」

術師「頑張ってください!」

女拳士「悪いね、本当に」

犬娘「私も強くなってるから、今度は負けないよね!」

女拳士「もちろんだ!」

術師「兎に角開発の方は城壁建設が済まないと他の何もできません」

術師「モグラさんたちの大活躍で十分な上水設備をチュウザン滝の上流から引くことが出来ましたし」

術師「町を広げるのも住民増加に合わせて虎獣人さんがやってくれてます」

メイド剣士「人が増えれば仕事も増え、仕事が増えれば人も増える好循環が生まれてます」

犬娘「好景気!」

術師「まあまだ今は村の規模しか無いんですが」


そこにハマミナトから魔女娘がやってきた


術師「魔女娘さん、来てくれるのを待ってたんです」

魔女娘「悪いね、色々ゴタゴタしてて」

メイド剣士「何かあったんですか?」

旅人「例の事件のせいかね~」

魔女娘「ん、新顔だね、そうだよ」

術師「いったい何が?」


魔女娘「ハマミナト王暗殺未遂」

メイド剣士「そんな……、あんないい王様なのに」

旅人「古来から、良い人なんてのは金儲けしたい奴には邪魔でしかないからな~」

術師「だから良い魔王が世界を支配してるんですよね……」

魔女娘「力をひたすら求める魔王が世界を救う……、皮肉な話だよ」

魔女娘「まあ今日は情報交換に来たんだ、てきとーに知ってること教えて」

術師「この町については、ようやく村と名乗れる規模になりました」

魔女娘「そうみたいだね、城建設も始めたみたいじゃないか」

魔女娘「街道の方も半分は完成したし、うちんとこの国との間に両国の砦も作ってる」

術師「本当は城建設にハマミナトの大工さんの力を借りたいんですが」

魔女娘「借りれば良いじゃないか」

術師は魔女娘がこちらの事情を察しているような気がした

術師「もちろんハマミナトを攻めたいとか、ハマミナトの妨害をしたいなんてつもりはありません」

魔女娘「ハマミナトの民がそう思わないのは分かるだろ?」

やはり、分かった上でのことだ

術師「港を作るのはハマミナトのシェアを奪うことに他なりませんからね」

魔女娘「だからって魔王……、コトー王の言い付けや計画に背いたことなんか無いんだよ、うちは」

術師「築城を急ぐのは国の起点を築くため、敵対行為では有りません」

魔女娘「分かってるっつの」

こちらも分かっている

魔女娘「じゃあなんでうちに頼らない」

術師「お話しましょう」

魔女娘「やっとかい」

術師は黒衣の魔女について掻い摘まんで話をした

魔女娘「ふん、腹の中に虫がいるのは分かっていたんだ」

魔女娘「しかしそんなデカい虫がいるのかよ……」

魔女娘が震えている

彼女は気丈な人物だ

しかし本気で怯えているように見える

白導師「可愛い、ペロペロしたい」

魔女娘「おらあ!」

魔女娘はとても強力な火球魔法を放った

白導師「ぐはあっ」

魔女娘「ゴミは隔離されとけ!」

術師「失礼しました」


魔女娘「しかし、チュウザン王があいつを派遣するほどヤバいってことだな……」

メイド剣士「うちへの使者焦げてますがありがとうございます」


術師「魔女娘さんには出来る限りの協力をします だからプロパガンダに惑わされないように国民を誘導してください」

魔女娘「やってるんだけどね……、チッ」

白導師「スルーするな」

魔女娘「なんで平気なんだこいつ」

魔女娘は骨まで焦がす閃光を放った

メイド剣士「毎日のように魔人王様に殴られてるからでしょうね」

白導師「カサカサ」

ゴキブリか


…………


女拳士「じゃあ、魔王様、打ち合いに協力してよ」

犬娘「うん、負けないよ!」

虎娘「どっちも頑張って!」

女拳士は肉体強化を二段階かけると、そこから更に魔力を纏っていく

女拳士「これが以前に完成させた魔法、魔力外骨格、名付けて『竜人鱗』」

犬娘「私も新魔法で行くよ~!」

犬娘「右手に雷、より強く」

犬娘「左手に光、より速く」

犬娘「我は獣人、雷虎光狼拳!」

犬娘「行くよ!」

女拳士「止める!」

犬娘「うわああああ!!」

女拳士「おおおおお!!」

魔力が嵐のように渦巻く

火山には町中から見えるような竜巻と雷が巻き起こる

規模は既に超級魔法をぶつけ合ったレベルだ

虎娘「こんな力どっから出てるの~!」

虎娘は必死で岩にしがみついている

全てが晴れた時、二人は全く最初の状態に戻っていた

犬娘「負けた!」

女拳士「まだまだ!」

犬娘「ううう!」

女拳士「おおお!」

そこから二人は数十回打ち合った

殴り、蹴り、膝を入れ、肘を食わせ、頭突きではじき、肩を叩き込んだ

虎娘「人間ってこんなにタフになれるんだ……」

犬娘が投げをうち、女拳士が掴んで押さえつけ、犬娘が噛みつき、女拳士が叩きつける

術師「それまで」

術師「何隠れて楽しいことしてるんですか!」

術師は何やら楽しげに怒った

女拳士「疲れたわ」

犬娘「ご飯、お肉、お魚、海老、烏賊、お野菜」

術師「はいはい」


…………


季節は、やがて冬を迎える

術師「開発は遅々として進まず、ですね」

メイド剣士「城壁作りはなかなか難しいですね、デザイン無視で作ってるんですけど」

術師「まあまだ一年も経ってないんだから急かすのもおかしいんですが」

犬娘「牧草地に小屋が立って牛は少し増えてきたね~」

虎娘「ミルク飲めるのは良いよね」

女拳士「肉も多少自分のとこで取れるようになってきたよ、鶏肉だけど」

術師「チキンも美味しいですわ」

メイド剣士「お魚も穫れてますし」

女拳士「ハマミナトはどうなってるのさ」

旅人「まあ膠着状態だね~ 魔女娘ちゃんの計らいで旅行者や大工さんも来てくれてるし、不信感も少しは拭われてるみたいだね」


勇者「争いが無くなるなら、良いことだな」


――カイオウ国――


魚娘「犬娘様たち来ませんねー」

貝殻姫「なんだか忙しいみたいですよ」

そこに人魚が飛び込んできた

人魚メイド「た、大変です!」

貝殻姫「どうしたんです?」

人魚メイド「沖から緑の船が来て……皆が殺されて……、うっうっ……」

貝殻姫「そ、そんな!」

その船は突如カイオウ国沖に現れた

カイオウ国海上法にことごとく従わず、魚人たちの産卵場所や漁場、住処を荒らし、港に無理矢理に乗り上げた

緑色の鎧を纏った男は、叫ぶ

緑鎧「俺は勇者、裏切りの勇者のせいで勇者にされちまった可哀想な男だ!」

緑鎧「勇者になっちまったからには魔物を倒すのが俺の使命、可哀想だがみんな死んでもらうぜ!」

街は大騒ぎになった

蜂の巣をつついたように、走り回る人々、水の深くに身を潜めようとする人々、城に逃げ込む人々

緑鎧の勇者は手当たり次第に魔法剣を放ち、全てをなぎはらって行く

後からついて来る青い魔女は全てを凍らせていく

水中深くに逃げた魚人たちも氷漬けになり、死んでいく

大虐殺は城の中に及ぼうとしていた


貝殻姫は自分の従者たち二人に転送石を持たせ、チュウザンへと送る

次に貝殻姫は母に石を渡そうとする

人魚女王「私はいらないわ~ 子供たちを逃がしてあげなさい」

貝殻姫「そんな、お母様!」

人魚女王「早く逃げなさい、犬娘ちゃんに助けてもらいなさい」

貝殻姫「いや、お母様となら逃げる!」

人魚女王「死なれたら困るんだけどな~」

人魚女王「貝殻ちゃん、よく聞きなさい、どうせ旦那も出てこない、私だけ逃げてどうするの?」

人魚女王「私は生き残って若いあなたが死ぬなんて本末転倒じゃないの」

貝殻姫「でも……」

人魚女王「分かった、石はもらうわ」

貝殻姫「お母様!」

人魚女王「ただし、あなたが使わない限り私も使わない、良いわね~?」

貝殻姫「それで構いません、ではお父様の所に行ってきます!」

人魚女王「……貝殻ちゃん……、どうか無事に犬娘様の所へ行けますように」


…………


引きこもりの王、人魚王の間は、この事態でも硬く閉ざされている

毎日置いている食事が無くなるので生きているはずだが、もはや娘ですら声を覚えていない

こんな引きこもりは死んでも良さそうだが、それでも貝殻姫の父親だ

貝殻姫「お父様、敵が来ました……、お父様!」

貝殻姫「お願いします、扉を開いて出てきて!」

貝殻姫「早く逃げなければお母様が死んでしまう!」

貝殻姫が血が滲むほどドアを叩くと、開かずの扉がゆっくりと、開いた

そしてその奥から、すさまじく太った体、髭だらけの顔、瓶底眼鏡、もはや誰かも分からない魚人が現れた


人魚王「貝殻ちゃん萌え~」

今時こんな古典的なニートがいるか、と突っ込みたくなるような容姿と言動である

人魚王「ふひっ、貝殻ちゃん早く逃げてーっ」

貝殻姫「お父様、この石をお持ちください!」

人魚王「そんな石無くても僕は無敵です!」

人魚王「君が逃げないと愛しの女王たんも逃げられないでしょーっ!」

人魚王は貝殻姫を押し退けると、もはや陸を歩いているやら水に浸かっているやら分からない体勢で歩いていく

魚のボディは太りすぎて着ぐるみのようですらある

人魚王が何やら唱えると、何故か貝殻姫の持つ石が効力を発揮した

人魚王「僕は魚人の王でありながら技術者の王でもあるなんだよ」

喋り方はおかしいが、確かな力を持っているようだ

緑鎧「おや、王様?」

緑鎧「可哀想だけど死んでくれ」

人魚王「やだ、まだ萌え萌え人魚たんのフィギュアが出来てないもん」

技術者の王では有るのかも知れない

緑鎧「じゃあ刺身となれ、魚の餌になって生きろ」

人魚王「やだもんねーっ!」

人魚王はあたりを全て凍らせる吹雪を吐いた

青魔女「同じ属性ね、戦いづらいわ」

緑鎧「俺に任せとけや おら、極大雷撃剣!」

緑鎧の剣から放たれた雷は、氷面を滑る



――チュウザン――


貝殻姫「なんで、お父様、お母様、なんで来てくれないの!」

魔人王「白、は、いないか……、牧場の」

牧場娘「魔人ちゃん、昼寝しようよ、めんどいよ」

魔人王はあたりを凪払う

牧場娘「ふぁ~あ」

牧場娘は呑気にあくびした

魔人王「お前でなければならん」

牧場娘「自分で転送出来るだろ」

銀鈴「王の言うことを聞かない、悪い子は死ね」

銀鈴が杖を構えると不思議と牧場娘は言うことを聞いた

牧場娘「あんたは苦手なんだよ……、ったく」

貝殻姫は牧場娘にすがろうとするが、するりと手が突き抜けて転ぶ

貝殻姫「お願いします……牧場娘様……」

貝殻姫は地面に額をしたたかにぶつけ、その体勢で泣きながら懇願した

牧場娘「分かった分かった たく、めんどいな」

牧場娘は転送魔法を唱えた


――カイオウ国――


魔人王たちは直に王城に辿り着いた

中からは激しく轟音が響く

魔人王「行くぞ」

言うより速く魔人王は駆け込む

緑鎧の勇者が正に人魚王にトドメを刺さんとする場面であった

魔人王「何者だ?」

緑鎧「こっちのセリフだっつの」

緑鎧は魔人の隙をついて、真っ二つに叩き斬る

緑鎧「頭がお可哀想なのかあ?」

魔人王の姿は揺れている

先の牧場娘の時と同じだ

牧場娘「牧場に陽炎、牧場娘けんざんー、昼寝すっか?」

魔人王は緑鎧を殴りつける

もちろん疲弊した緑鎧などは魔人王の敵たりえない

緑鎧「な……、なんつー力」

青魔女は氷剣をいくつか作り出し、魔人王たちを凪払う

しかし、魔人王はおろか、銀鈴にも攻撃は当たらない

銀鈴「頭がお可哀想なのはあなたたち、死ぬしかない」

銀鈴はゆっくり、致死の魔法を唱えた

緑鎧はその場で力尽きた

青魔女は一瞬苦しんだが、凌いだようだ

しかし

魔人王「食らえ」

魔人王は王城を埋め尽くすような火の玉を放った


――チュウザン――

貝殻姫「大丈夫でしょうか、皆さん」

執事「それは愚問ですな お城の心配をされた方が」

貝殻姫「えっ」


――カイオウ国王城――

燃え尽きた青いものが落ちている

魔人王は銀鈴に命じ、緑鎧を蘇生させる

銀鈴「殺す方が得意、蘇生は白の仕事」

魔人王「すまんな、この三人だとお前に負担をかける」

銀鈴「全ては魔人王様の思し召しのままに」

蘇った緑鎧はひたすら震えている


魔人王「お前の罪は死罪に値する、言え、他に仲間はいるのか?」

緑鎧「い、いるよお、俺たち新星勇者は……、七人 こいつと俺、後五人」

魔人王「勇者?」

魔人王「お前のような雑魚が何人居ても変わらんが、俺の島を汚すのは許せん、全て話せ」

緑鎧「ひいぃ……」


――北浜――


犬娘たちが浜辺で釣りをしていると、海に何か醜い物が降ってきた

魚娘「犬娘様あっ!」

女拳士「魚人か」

犬戦士「魚人だな」

犬娘「魚人ちゃ~ん!」

魚娘「魚娘です、美しい魚娘です」

犬娘「うん、美しい?魚娘ちゃん」

魚娘「首を傾げないで!」

女拳士「なんの用だよ、魚逃げるんだよ」

魚娘「こ、これは失礼しました」

魚娘は嫌がらせのようにバタバタ泳いで近付いてきた

女拳士「釣るぞ、むしろ吊るぞ」

魚娘「実はカイオウ国が襲われまして……、たくさんの人が殺されて……」

女拳士「マジか!」

犬娘たちは大きなたらいに水を貯め、そこに魚娘を入れて三人で建設中の城の前の小屋に帰ってきた

術師「勇者が襲ってきた?」

勇者「ここでずっと石作りを手伝っていたが」

魚娘「あなたではないんです 人魚メイドちゃんが言うにはなんか緑色の趣味の悪い男と、青い衣の魔女らしく」

勇者「サイセイの新星勇者だ…… 訓練を終えていたのか」

魚娘「カイオウ国は魔人王様が行かれたのでもう完璧に安全なんですが、他の国にも来るかも知れず、姫様が直ちに犬娘様に知らせるように、と」

犬娘「ありがとう、貝殻ちゃんに言っておいて」

魚娘「分かりました 私もお礼が欲しかったけど分かりました」

術師「白石をプレゼント」

魚娘「やめて凍る」

結局魚娘には白石と赤石を一個づつ持たせてチュウザンに送り返した

術師「それより勇者対策をしなくてはならなくなりました」

勇者「身内の不始末だ、俺が何とかしよう」

犬娘「手伝うよ」

メイド剣士「私も警備は慎重にします」

勇者「すまないな」

術師「しかしサイセイが私たちを明確に敵視し始めたなら、それは危険かも分かりませんね」

犬娘「……戦争、……嫌だなあ……」

虎獣人「国が大きくなっていけば敵は増える、歪なプロパガンダに外交だけで勝てるはずもない」

旅人「王様みたいだね~」

メイド剣士(あんたが言うな)

二日ほどして、チュウザンから牧場娘がやってきた

牧場娘「つまり勇者はあと五人いるんだけど、どヘボ弱いから昼寝してても勝てると」

牧場娘「でも一般人殺されたく無かったら来年の夏頃の進軍に気をつけろと」

牧場娘「まあ、雨期の後がヤバいだろうね」

牧場娘「敵を拷問にかけて出した情報だからフェイクの可能性もあるけどね~」

術師「ありがとうございます」

牧場娘「あと、貝殻ちゃんの両親は無事だけど安全のため、あの子はうちで預かる事になった」


白導師「幼女かと思ったら妖女だった時のがっかり感」

牧場娘「うわ、ウザイのいる 寝てろよ」

術師「牧場娘様の魔法は幻覚系ですか?」

牧場娘「教えるわけないだろ ……あんた眠そうだね、仲間だね」

術師「眠いわけではありませんわ」

牧場娘「一緒に昼寝するなら教える」

白導師「国家機密やろ牧場ちゃん」

牧場娘「うるさいな変態は」

白導師「あ、銀鈴」

牧場娘は誰が見ても分かるくらい取り乱した

白導師「いるわけないだろ、ばーかばーか」

子供か


牧場娘が何やら魔法を放つと白導師は吹き飛んだ

牧場娘「見えない魔法見せちゃったよ しくじったかな」

どうやら熱系統の魔法を何らかの方法で見えなくしているようだ

術師(厄介な人物ですわ…… 魔力も底が見えない)

牧場娘「じゃ、これ以上ボロが出ないうちに帰って寝るわ」

術師「ありがとうございました 魔人王様にもよろしくお願いします」

牧場娘「忙しいだろうけどたまには遊びに来いよ、昼寝しようぜ」

術師「疲れやすいのでそうします」

術師はにっこり笑った

牧場娘「ちょーし狂うなあ」


…………


犬娘「お肉食べたいね」

虎娘「魚を釣ってチュウザンの行商人さんに交換してもらうといいよ」

犬娘「行商人さん来てるの?」

女拳士「アタシら給料もらってないから物々交換が基本みたいだけどね」

犬娘「お金かあ」

メイド剣士「うちは人口が少なく綺麗に分業が出来てるので、誰でも豊かに暮らせてますからね」

メイド剣士「でも流通が活発になるならお金はあった方が良いし、術師さんに相談してみようかな?」

女拳士「税収とか難しくないか?」

メイド剣士「はっきり言って住民の九割が無賃労働状態ですからね…… 税金を取るとすれば行商人さんからですか」



…………


術師「お金、ですか」

メイド剣士「なんかそんな話になっちゃいまして」

術師「いや、経済を考えるのは国の発展に必要なことです」

術師「とりあえず貿易で得たお金は国庫に入れてますが」

術師「善意で働いてくれている今の住民から税金を取るのは無理ですね そもそもお給料払ってないし」

虎少年「今はお父さんたちが開拓した土地や魔王様たちが買った食料をみんなに振り分けてコントロールしてる感じですしね」

旅人「そもそも人が増えて物流も増えてるのに金銭的な経済は全く回ってないんだよな」

術師「解消するアイデアは有るんですか?」

旅人「二つある」

旅人「新通貨の発行か、君たちの持ってる共通通貨を全員に配分するか、だ」

旅人「でもこれをするとそれからは、お金を貰えなければ働かないって考えが生まれてくるかもな」

旅人「新通貨の場合はそれを増刷すればいいが、そうするとインフレになってしまう」

旅人「既存通貨の場合は君たちが稼いでバラまく分には経済的な問題は少ない」

術師「それだと後者が全面的に良いようですが」

旅人「いや、前者も為替とかのメリットがあるんだが、これは複雑になるから割愛する」

旅人「そもそも力有る王の元、自給自足や物々交換で物流が成立している今の状態は好ましい状態ではあるんだ」

旅人「ただこれは土地や物が余りある状態で、皆が犬娘ちゃんを信頼し、支えたいと考えているからこそ成立していると言える」

術師「複雑ですね」

虎少年「僕にはまだよく分かりません……」

メイド剣士「経済って難しい……」

旅人「物々交換の弱点は今年の雨期のように生産性が自然のような不確定な要因で変わって、価値が変わる所」

術師「不足したら取引できる商品の代替が必要になりますね」

旅人「そこで貨幣により損失を賄う必要が出てくるね」

術師「でも国内だと貨幣だけでやりとり出来る物が限られて来ますね」

旅人「そこで今は貿易が必要なんだよね」

旅人「僕の結論として、今この国を動かすのに通貨を入れるのは間違ってる むしろ魔王様やこの町の海外での名声を高めるのがいい手じゃないだろうか」

旅人「外の人がお金を持ち込んで初めて貨幣経済が生まれると言うので良いと思う」

術師「今いる村人は全員公務員になる感じでしょうか」

旅人「そのうちにお給料を払う必要も出て来るし、土地や家でお金を取る必要も出てくるだろうね」

虎少年「でも貨幣経済に移れば物流は加速しますよね?」

メイド剣士「物流が加速したら資源は減りますけど」

術師「色々面倒な犯罪も起こるでしょうね 法整備は早めに考えないと」

虎少年「法律とか難しそう」

術師「とりあえず経済をどうするか」

術師「それはまだ未来の話ですわ」

旅人「そうだな、コトー王みたいに長生きな人がいると感覚が狂うが、結局十年二十年と言うのは途轍もない長い時間なんだ」

術師「そう言えば旅人さんが人材派遣費用を物で補っていたのを思い出しました」

術師「あの頃からそういう発想で回してたんですね」

旅人「そのせいで魚が枯渇した面もあるから、誉められた事じゃないよ」

術師「干物みたいな長時間置いておける物で物々交換が安定してできるなら貿易も物々交換でも良いですよね」

旅人「商品経済だね、干物が通貨になるわけだ」


メイド剣士「お茶にしましょうか」

虎少年「やった」

術師「虎くんは魔王様に似てますね 頭脳労働版魔王様」

虎少年「え、そ、そうですか?」

メイド剣士「術師さんって天然のタラシなとこ有りますね」

術師「そんなこと言われたの生まれて初めてですわ」


…………

犬娘「このあたり、家がたくさん立ってきたね」

モグラ親方「このへんはサイセイ南からいっぱい移住してきたからなあ」

犬娘「こんなにたくさんの人を、守れるかなあ?」

モグラ親方「あんたらに全部押しつけてるんだ 絶対恨み言なんざ言わせねえよ!」

モグラ子分「魔王様は思いっきり戦ってくだせえ!」

どうやら秋頃の女拳士との打ち合いは、町中の噂になっているようだ

犬娘「あはは」

虎獣人「犬娘ちゃんたちの強さは俺たちはよく知ってる」

虎獣人「負けたなら負けたでしょうがない、思いっきり行け!」

犬娘「うん!」


犬娘「まあ戦争にならないのが一番だけどね……」

虎獣人「そりゃそうだ」

モグラ親方「だな!」


虎娘「犬娘ちゃん」

犬娘「ん?」

虎娘「あたしもっと強くなる、待ってて!」

犬娘「うん!」


――コトー――


係員「すみません魔王様、未だ側近様は動かれません」

魔王「あいつにゃあいつの考えがある」

魔王「まああんまり気にするな」

係員「しかし」

魔王「お前あいつにしつけぇ、って言われなかった?」

係員「うぐっ」


魔王「まあ見てろ、世は全て事も無し、だ」

今回はここまでです


すみません、めっちゃ泥酔してるのでレスが飛んでるかも知れません

済みません

読み返した所レスは飛んでいないようです

何か展開に疑問点があったら言って下さい

次回は一週間以内に更新できれば、と思います

いつも読んで下さりありがとうございます

過去作読んでる

Saga
女拳士が同じ相手に二度負けたと言ってますが
黒衣の女と過去に戦った事があるのかな?

前作まで読んできた、質問したいところもあったけど
その後どうなったかなどは後日談や誰かの回想として話の中で読みたいぜ

>>208
長いのに有り難う御座います

>>209
次回更新で語ります

>>210
過去作関連のエピソードも考えています

また、もっと真相に迫るお話も考えていますが、このお話では少し触れるレベルの予定です


…………

明日の夜更新出来るように次回更新分考証してます、お楽しみに!

更新します

開拓の最終目的は港を作り、チュウザン―北浜―コトーの貿易経路を確立することである

術師たちの計画は塩田向こうへの街道整備、東の港構築、チュウザンから直接の輸送用街道の整備、これらに伴い街を広げるという方向である

まず術師たちは塩田の東にある山を開拓することにした

術師「ここまでは遠いのでまず拠点を作っていただけますか?」

虎獣人「了解した」

術師は虎獣人一家とモグラたちに作業指示を出すと、犬娘、女拳士、勇者、メイド剣士を連れて山へと向かう


術師「山砕いちゃってください」

メイド剣士「いきなりなにを言い出すんですか!」

術師「街道整備にはどの道この山を砕き、更に東にある森を開拓し、港を作らないといけません」

術師「ならこのチャンスに皆さんの能力強化も計っちゃおうかと」

犬娘「さすが術師ちゃん、賢い」

メイド剣士「人力で山を砕かせる人は賢くありません」


術師「まあまあ、やってみて下さいな」

メイド剣士「まず山面を覆ってる木はどうしますか?」

術師「メイド剣士さん、全部斬っちゃってください」

メイド剣士「また鬼みたいな事を」

メイド剣士がしぶしぶ目の前の大木に向き直る

足場は悪いが、出来るだけ木の下の方を斬らないと大きな切り株を残すことになる

精神を統一し、深く構えると、一閃

木の半ば辺りまで斬ってしまう

しかし

メイド剣士「この調子だと数日かかりそうです」


術師「あなたはこの開拓の目的が分かってますか?」

術師「木を切り森を開くだけなら獣人の樵さんを連れてきます」

メイド剣士「スキルアップのため、ですよね」


勇者「俺もやってみたいが、どうだろう」

術師「いいですよ、メイドさんの特訓用の木は残しておいて下さいね」

術師の口振りは、端から勇者が成功する、と言わんばかりだ

勇者は剣を構えると、激しい魔力を帯びさせる


勇者「雷神剣!」


勇者が魔法剣を放つと、森の一角が斬れて崩れた

メイド剣士「簡単に……」

術師「一度は見ましたが、恐ろしい技です、伝説の女剣士さんの編み出した技ですからね」

勇者「魔王や破壊神にとどめを刺した女剣士さんは、サイセイの民の憧れだからね」

勇者「まあ今までで俺しか使えなかったんだが」


犬娘「犬勇者様も好き?」

勇者「いや、犬勇者のことは殆ど記録がない」

犬娘「がーん……」

犬の勇者はもちろん今も犬娘の憧れである

しかしサイセイでは、女剣士や魔法使い、僧侶など人間の活躍は記録に残っているが、犬勇者や魔王、ヤマナミの戦いなどは殆ど削除されている

僅かに国立図書館の奥深くに誰も読まないような分厚い数冊の歴史書が残る程度だ

犬娘もショックだが、メイド剣士もショックを受けている


メイド剣士「斬るだけなら誰にも負けないと思ってたのに……」

勇者「いや、確かに破壊力はあるけど魔力を物凄く消耗するから、君みたいに魔力の損失が全く無しでこれだけの斬撃をするのは俺には無理だ」

メイド剣士「魔力……」

メイド剣士「攻撃面は皆さんに任せようかな」

術師「メイドさんの思惑は分かります、私の回復面の負担を減らすために回復を鍛えようと思ってるんですね?」

メイド剣士「はい……」

術師「両方やりなさいな」

メイド剣士「やっぱり鬼だった」


メイド剣士「でも、そうですね……、やらないと」


メイド剣士は剣に魔力を帯びさせる

一般にはオリハルコンは最も魔力伝導性が高い金属である

オリハルコンの仕込み杖はメイド剣士の言いなりになるように、風を纏っていく


メイド剣士「名付けて、真空斬!」

メイド剣士の剣速は既に目にも止まらない程の速さだ

メイド剣士が叫び、後ろにいる術師たちに向き直る

術師たちがきょとんとしていると、森が騒ぎ出す


術師「ま、まさか一発目でここまでやるとは……」

メイド剣士が剣を納めると目の前の森はゆっくり崩れていった


勇者「剣の性質の違いも有るだろうが、斬撃に関しては本当にセンスが有るんだな」

メイド剣士「あ、ありがとうございます!」

女拳士「すげーよ……」

犬娘「メイド剣士ちゃんかっこいい!」

術師「まあ勇者さんの斬撃ほど破壊力は有りませんが、斬撃としては理想的なんではないでしょうか」

勇者「確かに、一点に力を集約することにかけては天才的だね、まだ十五だっけ? 嫉妬してしまうくらいだ」

メイド剣士「え、えへへ……」

あまりに一度に誉められたので、メイド剣士は茹で上がったように真っ赤になった

犬娘「可愛い」

術師「可愛いですね」

女拳士「アタシもやってみっか」

女拳士がまだ切り開かれていない森に向かう

術師は嫌な予感がして、止めた

術師「木を砕いたら材木として使えないので、女拳士さんは森の開拓はいいです」


女拳士「え~……」

勇者「俺もメイドさんに負けてられない、練習したい」

術師「そのための開拓ですわ」

勇者「よし」


勇者「そもそも雷神剣は、魔力を込めれば込めただけ力を発揮する必殺剣だ」

勇者「その原理から仕方が無いが魔力消費が高すぎる」

術師「魔力消費を抑えることは私の研究課題でもあります」

術師「敵を誉めるようで嫌ですが、黒衣の魔女の黒石は魔力消費殆ど無しであれほど凶悪な魔法を放てた」

勇者「アイテムの力を借りるのも有りなのか」

術師「その上で、自身の魔力コントロール力を上げることも必要ですわ」

勇者「分かってる、結局自分次第だよな」


勇者は剣に魔力を込め、撃つ

魔力を込め、撃つ

魔力を込め、撃つ


メイド剣士「すごい魔力ですね……」

術師「伊達に勇者を名乗ってませんね」


あれから強くなった、としても犬娘は、自分と初めて戦った時の勇者に迷いがあったことを理解した


山肌が見えてきた所で術師は勇者を止める

術師「じゃあこのあたりで倒木を皆で片付けましょうか」

勇者「分かった」

女拳士「やっと出番だな」

メイド剣士「私も頑張って運んでみます!」

術師「じゃあ私もやってみようかな?」

メイド剣士「無理でしょ」

女拳士「腰折るぞ」

勇者「そもそもジャンルが違うような」

犬娘「魔法で運ぶ?」

術師「魔王様正解、誰が怪力ゴリラ衆の真似をしますか」

女拳士「ひでえっ」

勇者「怪力ゴリラ……」

メイド剣士「非力で良かった」

犬娘「わたし、いぬむすめ!」

犬娘はなぜか嬉しそうに飛び跳ねた

術師「みんな獣人って意味ではないですよ」

犬娘「違うんだ」

犬娘はなぜか残念そうな顔をした


術師「そもそもこれは先の牧場娘さんが使えると言う魔法回避の技術を真似してみようかと思いまして」

メイド剣士「分かったんですか?」

術師「いえ、全く」

術師「しかし、相手の魔法を曲げてしまえるなら有効な防御手段になり得ますから」

メイド剣士「私にも防御の練習をさせて下さい」

術師「前衛で一番防御力無いですものね……」

術師「白導師さんみたいに殴られてみますか?」

メイド剣士「ええ~」

白導師「私を呼ぶ声がする」


メイド剣士「出たーっ!」

犬娘「ゴキブリだー!?」

白導師「こんな美人のゴキブリがいるか!」

術師「自分で美人とか言わないで下さい」

ゴキブリ、いや、白導師は女拳士に向かって言った


女拳士「ん?」

白導師「一発殴ってみてください」

女拳士「おう」

女拳士は躊躇せず殴りつけた


術師「余りに酷いような」

女拳士「いや、殴れって言ったから……」

白導師はむっくり起き上がる


勇者「化け物か……、いや、なんか変だな」

術師「確かに、攻撃力をなんらかの手段で軽減させている……」

白導師「国家機密です」

術師「!」

術師「ありがとうございます、白導師様」

白導師「うむ、幼女のパンツで手を打とう」

メイド剣士「死んで下さい」

メイド剣士は試しに刺してみた

白導師「痛い」

メイド剣士「確かに攻撃は通ってるのにダメージが少ない……」

女拳士「いったいどんな仕組みなんだ?」

勇者「完全にダメージをゼロに出来るわけではないんだな、そこがポイントか」

犬娘「ゾンビ?」

犬娘は白導師を殴った

白導師「ありがとう」

犬娘「変態だーっ!」


白導師は犬娘に抱きついて匂いを嗅いだ

白導師「うーん、お日様の香り」

犬娘は何故か動かない

術師「魔王様って抱っこされるの好きですよね」


メイド剣士「これは私のです!」

メイド剣士は犬娘を奪い取った

メイド剣士は犬娘に抱きつくとしばらく放そうとしなかった

術師「私にももふもふふかふかさせて下さい」

術師は犬娘の後ろから抱きついた

女拳士「じゃあアタシはメイドちゃんで」

女拳士はメイド剣士に後ろから抱きついた

白導師「美女が四人でくんずほぐれつ……、眼福や……」

勇者「俺はじゃあ術師さん抱っこ」

術師「ちょっ、くすぐったいですわ!」

勇者「仲間外れはやだなー」

術師「仕方有りませんわね……」

白導師「男に抱きつかせるとはビッチか」

術師「勇者さんは女性です」

白導師「マジか、確かに白いけど完全に男だと思ってた」

勇者「まあ男に思われた方が野宿で都合良かったもんで」


術師「さて、ふかふか成分が補充できた所で作業再開ですわ」


…………


術師「木を運び出したところで切り株はどうしますか?」

女拳士「やっとアタシの出番だな」

犬娘「私もやるよ!」

女拳士「砕いちゃう?」

術師「一応は資源だから抜けるなら抜きたいですが、大きいのは砕いて下さい」

女拳士「よし、今まで鍛えてきた新魔法を見せる時が来たな」

術師「あれだけ長い期間修行した新魔法」

メイド剣士「すごく楽しみです」


女拳士「じゃあやってみっか」

女拳士は竜人鱗を身に纏った


メイド剣士「これが塩田開発の時に女拳士さんが作り上げた竜人鱗です」

術師「能力強化を三段もかけると効果が薄くなる、それを鎧に変換して効力を上げた……」

メイド剣士「私あれを魔王様にかけてみたいんです」

術師「!」

術師「いいアイデアがありますわ」

術師はメイド剣士になにやら耳打ちした


白導師「これ以上はスパイになるから帰るわ」

術師「あなたも手の内を明かしたじゃ無いですか、構いませんよ」

白導師「いや、あの竜人鱗だけでも十分だ」

白導師「想像してみろ、魔人王竜人鱗モード」

術師「背筋が凍り付きましたわ」

白導師「そういうわけで私も秘密特訓だ」

そう言うと白導師は帰還した

術師「変態に誤魔化されてましたが本当は仕事出来るんですね……」


女拳士「ここから新魔法だ」

女拳士「名前を付けるなら、竜鱗装爆裂乱舞!」

女拳士は位置を瞬間的に変えて、分身していく

女拳士「はああ……」

勇者「あの動きだけでも半端じゃないな」

犬娘「分身の術だ~」

メイド剣士「速すぎ」

そして女拳士の前の切り株が一つずつ爆発していく

犬娘「魔法拳だ!」

術師「素晴らしい」

しかし、事態はそれで収まらなかった

爆裂の威力がどんどんと高まっていき、やがて中央で激しく、大規模の爆発を起こした


術師「~!」

メイド剣士「うわわわっ」

犬娘「凄すぎだよ~!」

勇者「はは、あれだけの破壊力が出せるのか、確かに今度は負けそう」


女拳士は動きを止めると、その場で倒れた

術師「魔力を使いすぎましたね 威力は凄いけど全魔力使うのでは使いづらそうですね」

勇者「しかし面白い発想の魔法だった 今のは自分の消費した魔力を再利用して爆裂の威力を上げていったんだな」

メイド剣士「凄まじい魔力消費は伴うものの効率は高いってことですね」

術師「魔力の相乗か……」

術師はなにやら独り言を言うと犬娘とメイド剣士を見た

術師「やってみますか」

メイド剣士「さっき言ってた魔王様に竜人鱗をかける方法って奴ですか」


術師「山肌もすっかり出てますから、魔王様に山を砕いてもらいましょう」

犬娘「私も新魔法を試すよ!」

メイド剣士「まだあるんですか!?」

術師「戦闘に関しては本当にすごいですわね」


女拳士がやっと起きてきた

女拳士「アタシもこの技をコンパクトにしたり魔力消費抑えたりしないとなあ……」

勇者「俺もなんかやってみようかな」


術師「とりあえず魔王様と私、メイドさんで」

術師「良いですか?」

術師「私が魔力を注ぎますからメイドさんがコントロールしてください」

メイド剣士「分かりました」

しかし、いきなりは成功しなかった


女拳士「アタシもコントロールに加わったら出来るかな?」

勇者「俺も魔力を足そう」

四人がかりで魔法をコントロールすると、どうにか犬娘に二段階は能力強化をかけることができた


術師「今はここまでですわね」

勇者「じゃあ魔王様のお手並み拝見」

女拳士「あの子の成長力が怖いんだけど」

メイド剣士「確かに」


犬娘は右手に雷撃を纏うと、更にそのまま重ねて右手に光を纏った

女拳士「魔王様は合成魔法か!」


犬娘「獣王拳!」

犬娘「ええ~い!」


凄まじい轟音が響く

能力強化二段階での合成魔法拳は、正に山を砕かんと言う威力を発揮した

山は四分の一ほど砕けた

術師「山を砕いてしまいましたが如何ですか」

メイド剣士「はいはい、私が間違ってました~」

勇者「五人がかりだけどな」

術師「考えてみれば五人合体魔法とか凄いですよね」

女拳士「でも一人一人の魔力消費は少なくて済む、タイミングが難しそうだけど使えるよ」

術師「じゃあもっと山を削って、街道を作ってしまいましょうか」

勇者「しばらく今の魔法の研究をしながら街道整備しよう」


犬娘「ごはん~」

鶴の一声ならぬ犬娘の一声でお昼を取ることにした


やがて季節は春、犬娘が旅をはじめた日を過ぎ、ヤマナミでメイド剣士に出会った日を過ぎ、時々暑い日がある季節になった

その頃から北浜に移民が訪れるようになった


術師「ハマミナトから獣人たちが多く訪れていますね」

メイド剣士「どうしましょうか」

術師「信頼の置ける数人の獣人さんに自警団を作ってもらうことにします、それから移民手続きはメイドさんが直接やって下さい」

メイド剣士「分かりました」

虎獣人「自警団か、非常勤で活動できるならやるが」

術師「そうですね、お願いします」

メイド剣士「住民登録をして管理しましょうか」

術師「そうですね、開拓してくれた人たちの待遇はやっぱり良くしたいですから」

旅人「そろそろ組織を大掛かりにまとめる必要が出てきたな」

旅人「どうだろう、これを機に建国を宣言してみては」

術師「そうですね、それで貢献してくれた人たちに報奨を払いましょう」

旅人「まあ大きな額を持っても実質使い道がないし、何度かに分けるべきか」

虎獣人「金より肉が良いな」

術師「誰かに行商をしてもらいますわ」

旅人「じゃあ暇な時に僕がやろう」


術師「色々アドバイスが欲しい所ですが……」

旅人「メイドちゃんに色々やってもらえば?」

メイド剣士「一応少しは仕事を教わってますが不安です」

術師「あら、そうでしたの」

犬娘「建国パーティーするなら城壁が出来てからだねー」

術師「チュウザンから来た大工さんとうちの大工さんで全力でやってますが、街の増築も同時進行なのでとても手間がかかります」


メイド剣士「でももう九分までできましたから、築城に全員であたりますか」



…………


その後雨期を前にして、城の内壁が完成し、村人、いや、町民が全員集まった


一段高い所に犬娘が立つ

犬娘「我は犬魔王、今この時を以て、キタハマの国を建国する事を宣言する!」

町民たち「わーっ!!」

メイド剣士「上手に言えた……、良かった」

女拳士「めちゃ緊張してたからな」


魔王「うん、建国おめでとう」

術師「良くいらして下さいました、コトー王様」

魔人王「おめでとう」

勇者「ありがとうございます、魔人王様」

魔人王「お前は?」

勇者「勇者です」

魔人王「お前が……、そうか」


白導師「おめでと~う」

白導師はどさくさに紛れてメイド剣士に痴漢している

メイド剣士「死ね」

銀鈴「死ねレズ」

牧場娘「死ねロリコン」


術師「ハマミナト王様は?」

魔女娘「すまない、暗殺未遂事件以降体調を完全に崩されてね」

術師「なんとか持ち直していただければ……」

魔女娘「そうだね……」


人魚王「可愛い娘がいっぱい、むふふ!」

貝殻姫「この度はこのような立派な席にお招きいただき、有り難う御座います」

術師「こちらこそ、狭いプールしか用意出来ませんで申し訳ありません」

貝殻姫「いえ、犬娘様の宣言もよく見えましたし、広くて良かったですわ」

人魚女王「人魚が二十人も入るようなプール作るの大変だったよね~、魚でごめんね」

術師「そのようなことはありませんわ」


…………


魔王「さて、祝いに一つ花火を上げてやろう」

魔王は瞬間的に上空遥高くに飛ぶと、手をかざし、とても巨大な花火を何百発も打った

術師「凄すぎ」

魔人王「あいつは底が見えん 俺の最終奥義を食らって立ち上がってきたからな」

術師「私たちと戦った時は相当手加減されてたんですね」

魔人王「俺か?」

魔人王「まあ一応客だしな」

術師「客を嬉々として殴らないで下さい」

魔人王「すまん」

魔人王は赤くなった


術師「戦闘バカなのは分からなくはないですがね」

術師はにこっと、悪戯な顔で笑った


白導師「あれ、いい雰囲気?」

術師「そんな話ではないです」


斯くして、キタハマ建国式典は盛大に行われた

第三章「犬娘、街を作る」 完


――次回

新しい街、新しい技、全てが順調に進んでいるキタハマに、戦争の気配が忍び寄る

激しい嵐に呑まれたキタハマ復興のため走り回る犬娘たちの運命は――

第四章「犬娘、戦争をする」

争いの火種が、黒い嘘によって燃え上がる……

しばらく休憩します

寝ちゃったらすみません

ゆっくり更新します

第四章「犬娘、戦争をする」

建国した犬娘達は早速雨期に耐えるための準備をはじめた


獣人や巨人が出て、護岸工事を始める

と、言っても大きな岩を並べて隙間を土で埋める程度のものだ


術師「本格的な工事は間に合いませんからね、砕いた山の岩も有りますし、丁度良かった」

モグラ親方「まあ全然足りねーけどよー」

術師「そう思って魔王様に街道予定地を平らにしてもらってます」

モグラ親方「おっかねーな、魔王様」

術師「すごく優しくてふかふか温かいんですよ」

モグラ親方「知ってらあ」

術師「いつ抱きついたんです?!」

モグラ親方「ちょ、言葉のアヤでぇ!」


術師「問題は海ですわね」

術師「増水対策に高い堤防を作って、水門を作ろうかな、とは思ってるんですが、今回はどうやっても間に合いませんからね」

メイド剣士「まずは居住区と畑だけは守ります」

虎娘「収穫もどんどんとやってるよ」

術師「蓄えは十分あるし、城壁の中に避難所を設けますから、予め避難して下さいね」

虎娘「うん、分かった」

城壁内には臨時的に雨除けの頑丈な木の屋根が取り付けられていく

やがて、嵐が来る


キタハマは春先は冷たい北西からの風を受けているが、この時期は南からの風を受け、一気に蒸し暑くなってくる


犬娘「プールで泳いでいい?」

メイド剣士「来客用ですから、汚さないで下さいね」

術師「あとで水を抜いておいて下さい」

メイド剣士「雨水が溢れるかも知れないからですね」

術師「嵐の対策はこれで十分ですかね?」

旅人「不十分だが手が足りない」

術師「二百人の町民が全力で働いてくれてます、これ以上は無理は言えませんね」

旅人「余所から人を集めるにしても資源が足りないからなあ」

術師「食糧資源でのやりとりも限界ですかね?」

旅人「備蓄してて採取量も少ないから故の限界だけどね」

旅人「まあ増水対策が出来てしまえば人を一気に増やせるし、仕事も進むよ」


白導師「幼女が泳いでる……、うっ」

メイド剣士「変態がでた!」

術師「魔王様今年で十七ですよ?」

白導師「ロリババアとかご馳走です」

術師「私も今年で二十歳か……」

白導師「あなたはロリでは無いですね」

術師「死んでみます?」

白導師「ヤンデレ?」


その後白導師は火山で術師の最強魔法を味わった

備蓄も出来ている

護岸工事もした

その後での嵐だ

術師たちは有る意味、嵐に勝てると思っていた

しかし――


術師「風雨が強くなってきました、皆さん避難を!」

メイド剣士「避難して下さい!」

犬娘「みんな、早く逃げて!」

強烈な嵐が迫っている

犬娘達は住民を避難させていた

鼠獣人「水だ!」

上流から急激に水が押し寄せてくる

その水はあっと言う間に護岸のための岩を乗り越えてしまう

川岸に立っていた数件の家が水に浸かった


虎獣人「早く逃げろ!」

虎獣人は作業員に指示する

その時

突然土砂が崩れ、虎獣人は避けたものの体がほとんど土砂に埋まってしまった

そして水が増えてくる

虎獣人は気絶していた

作業員達がメイド剣士に伝える

メイド剣士「虎さんが!?」

メイド剣士は術師と女拳士に連絡すると、その場所へ走った

現場では既に犬娘と勇者、作業員達がスコップを持って土砂を掻いていた

犬娘「みんな手伝って!」

術師は手早く土砂除けの鉄枠を作ると、土砂に突き刺した

そして凄まじいばかりの魔力でその内側の土砂を持ち上げる

女拳士「アタシの魔力も使ってくれ!」

術師「頼みます!」

女拳士は術師の背中に手を当てると、犬娘強化魔法の応用で魔力を注いでいく

メイド剣士、勇者、犬娘は水を避けるため土嚢を積み上げていく

なんとか土砂を除け、虎獣人に回復魔法をかける

しかし目を覚まさない

術師「回復が遅いと意識が戻りづらいことがあります、しかし大きな外傷も無いし大丈夫でしょう」

女拳士「頑丈な人だ、運ぶよ!」

犬娘「なんか水がどんどん増えてくるよ!」

メイド剣士「逃げましょう!」


ようやくできた街は、再び水に呑まれていった


術師「水害対策がまだ甘かったと言うことですわね……」

メイド剣士「東には水が流れ込まなかったみたいです」

メイド剣士「しかし高波が押し寄せて、やっぱり塩田は台無し」

女拳士「虎さんは目を覚ましたよ 子供らの心配してた」

犬娘「良かった……」

術師「今回は人口が少なく、歩けない人も居なかったこともあり何とかなりましたが」

女拳士「この先を考えるなら避難する方法とか対策を考えないと駄目か」

犬戦士「チュウザンなら民間で避難体制作ってるぜ」

犬娘「土砂崩れも起こらないようにしないとね」

術師「まだ開拓二年目ではありますが、人命がかかっている以上は甘えは許されませんね」

メイド剣士「避難民の皆さんに食糧を出してきます」

旅人「よし、僕も協力しよう」


やがて雨期が終わり、復興作業が始まった


術師「思った以上に酷い水害でしたね」

虎娘「このあたりはあまり雨が降らないけど、雨期に一気に一年分降る感じですね」

虎少年「錬金術で何とかなりませんかね?」

術師「一つ考えが」

虎少年「流石お師匠様」

術師「と、言っても石を使って鉄壁で防壁を作るくらいのことですが」

虎少年「いったいいくつ必要になるんでしょう?」

術師「できるだけは堤を作らないと駄目ですわね」

虎少年「やっぱり地道に作業しないと駄目なんですね」

術師「一応研究しておこうかと」

虎少年「緊急的な時に使えるし、戦闘にも使えるかも分かりませんからね」


犬娘と勇者と女拳士は、住民に混じって家から泥を掻きだしている

術師も例の魔法を使いそれを手伝った

メイド剣士たちは食糧を配って回っている


術師「蓄えを使って一気に護岸工事してしまいましょうか」

作業を続けて数日たった頃、住民が慌てて走ってきた

猫獣人「大変だ、沖に軍船が二隻……!」

術師「来ましたか」

術師「魔王様たちに集まってもらって下さい」

猫獣人「わ、分かった!」


勇者「待たせた」

術師「どうします?」

勇者「まさか話し合い出来ると思ってる?」

術師「無理ですか……、これからも何度も襲撃されるんですかね……」

勇者「俺一人で片を付けてもいい」

術師「許しません」

術師が存外に強い口調で返してきたので、勇者は驚いた

勇者「そ、そうか」

術師「あなたは仲間なんですよ」

術師「一人で重い荷物は背負わせたくない……」

術師「あなたも女拳士さんも一人で色々背負い込むから困ります」

勇者「ごめん」



犬娘「そうだよ」

犬娘たちは既に集まっており、後ろで話を聞いていた

犬娘「私は戦争が嫌い……」

犬娘「だから、みんなで、一回で終わらせるよ!」

術師「今後千年攻めてこようと思わなくなるくらい、こてんぱんにしましょう」

女拳士「おっしゃ、やるぞ!」

勇者「おおっ!」

メイド剣士「おーっ!」



戦争が始まる――


犬戦士と白導師も参戦をしようとしたが、危機的状況になれば助けてもらう、と言うことで断った

サイセイの軍艦は真っ直ぐに突っ込んでくるようだ

術師「一発で沈めても良いんですが、怯えて逃げ帰ってもらわないといけませんからね」

勇者「乗り込んで全員ふんじばって船ごと鼻歌でも歌いながら送り返してやろう」

女拳士「いいねそれ」

女拳士が豪快に笑う


虎獣人「あんたらの後ろには俺達がいる、後ろは気にしないでいいぞ!」

虎娘「私も行ってくる」

犬娘「大丈夫だよ」

虎娘「違うの、戦いたい」

術師「……女拳士さん次第ですわね」

虎娘「師匠!」

女拳士「足を引っ張ったら帰らせるよ?」

虎娘「はい!」

こうして六人は勇者、犬娘、虎娘のAチームと術師、女拳士、メイド剣士のBチームの二つのチームに分かれた

赤い船が突っ込んでくるので、Aチームがすかさず飛び込む

虎娘「見せたげる、あたしの技! 火爪拳!」

敵の剣を交わし、虎娘は燃え上がる拳を叩きつけた

敵はそのまま帆柱に吹き飛んだ


勇者「良い出だしだ」

勇者「雷神剣……」

勇者「貫!」

勇者は雷神剣を細く絞って撃ち抜く

船上で固まっていた数人が倒される

完全に怯んだ敵に追い討ちをかける


勇者「雷神剣」

勇者「斬!」


次に平たい雷神剣で凪払う

船上にいたほとんどの敵が避けきれずに倒れた

船中からわらわらと敵が出てくる

勇者「塊!」

勇者は雷神剣を巨大な雷球に変え、船室を半分潰す

犬娘「私の仕事無くなっちゃう!」

勇者「魔王様たちは倒れた敵をふんじばって回復してやってくれ」

犬娘「ええ~!」

虎娘「とりあえず縛って行こう」

犬娘「仕方ないなあ」

二人は百人以上いる敵を倒れていれば縛って、倒れていなければ倒して、縛っては回復していく


やがて潰れた船室から赤い鎧の、髭を生やした四十代くらいの男が這い出してきた

赤鎧「反逆の勇者め、ワシは怒っておるぞ!」

勇者「お前らごときが勇者とはな、サイセイも落ちぶれたものだ!」

赤鎧「抜かせ!」

勇者は赤鎧の男と数回打ち合うと

勇者「全く成長していない……」

一撃で鎧ごと貫いて倒した


勇者「これであと四人か……、しかし今回で全部出てくるのかな?」

勇者はとりあえず赤鎧を縛り付け、回復し、叩き起こした

赤鎧「がはっ」

勇者「残りの雑魚はどうした?」

赤鎧「言うはずがなかろ……、ぎゃっ!」

勇者は赤鎧の足を貫いた


回復し、もう一回貫いた

回復し、もう一回貫いた

回復し、もう

赤鎧「もうやめて~、話す、話すから~!」

勇者「自分の立場を知れよ」


赤鎧の話によると船内にもう一人、もう一つの船に三人が乗っているらしい

勇者「良かった、全員来たか」

潰れた船室からもう一人、灰色の服の娘が手を上げて出てきた

灰娘「抵抗しないから、虐めないで」

勇者「灰娘……、言ったろ、サイセイに正義は無いって」

灰娘「でも、逆らえないよ……」

勇者「亡命しておいで、今すぐにでも」

灰娘「家族がいるし……」

勇者「丸ごと面倒見るよ」

犬娘「勇者ちゃん、終わったよ~!」

犬娘たちは小一時間で敵を全部縛り付けた

勇者「とりあえず、思いっきり戦って負けたことにしよう、痛いけど我慢してね」

灰娘「うん」

勇者は灰色の服の娘を縛り付けた


一方、術師たちは


術師「女拳士さん、一人で全員倒しましたね……」

メイド剣士「縛って縛ってひたすら回復しました……」

術師「でも回復のレベル上がったじゃないですか」

メイド剣士「全体回復覚えちゃいました」

三人勇者もどきがいるはずだが、あまりに弱くてどれが勇者もどきかわからない始末だった

とりあえず本物の勇者に三人を教えてもらった


勇者「余りに弱い」

黄色「すみません」

勇者「余りに情けない」

茶色「ごめんなさい」

勇者「余りに呆気ない」

橙色「許して下さい」


勇者「とりあえずまた王に会おう……」

術師「サイセイが近くて良かった、こんなに捕虜を扱えませんからね」

犬娘「不完全燃焼だよ~」

女拳士「誰も怪我しないで良かったじゃないか」

メイド剣士「そうなんですけどね……」

キタハマは勝利を知り、大きく湧いた

六人の他に捕虜を管理するためと船を動かすため数十人が乗り込んで、すぐにサイセイに向かった

一繋ぎになった勇者もどきを五人、勇者、術師、犬娘で引き連れて城に乗り込んだ

多少抵抗があったが、やはりとても弱い


勇者「我が国ながら呆れた……」

犬娘「勇者ちゃん強いからね~、一人で一軍だね~」

術師「魔王様や女拳士さんもいるうちの国は大軍隊ですわね」

勇者「う~ん、しかし弱過ぎるよ、この国」


赤鎧「閉鎖的な国だからな……、お前がいなければボロボロだ」

勇者「この国の運命だ、あきらめろ」

赤鎧「くそっ、ワシの怒りはどこに向けたらいいんだ!」

勇者「国王にぶつけたら?」


そして国王のいる謁見の間についた


サイセイ国王「な、なんと言う事か」

勇者はいきなり国王を張り倒した

勇者「俺の忠告を聞かなかった、あんたの罪だ」

サイセイ国王「ぐっ、貴様……」

勇者「女に張られて泣き言言い出すんじゃ無いだろうな?」

勇者はもう一度手を上げる

サイセイ国王「許して、ごめん、もうしません」


その後、術師が思い切り不平等な条約を突きつけたり、犬娘がうっかり城の壁を壊して更に国王を怯えさせたりした後、キタハマに帰る事にした

空にした軍船は全部破壊し、転送魔法する事三人で数回、町民全員帰還した


勇者「カイオウ国の民には可哀想な事をした……」

術師「賠償金は百億は払わせますが、亡くなった方は戻ってきませんものね……」

勇者「百億って、あんな何にもない国潰れちゃう……」

術師「潰れたら国民は我が国で受け入れますわ」


術師「とりあえず厄介な問題が一つ片付きましたが……」

勇者「黒衣とハマミナトか……」

犬娘「どこに隠れてるのかな……」

勇者「いずれは片を付けなくてはならない」

メイド剣士「私たちの本当の敵は、未だに尻尾も掴めない……」


犬娘「女拳士ちゃん、何か知らない?」

術師「そういえば蠱毒の壷で女拳士さんが三人に負けた、その三人目なんですよね?」

女拳士「……負けた話はしたくないんだけど、事情が事情だしな」


鼻の頭を掻きつつ、女拳士はゆっくり語り出した


黒衣の魔女と戦ったのは、蠱毒の壷に入ったばかりの頃、Dランク戦での事だった

黒衣の魔女は当時、黒い石も、闇の衣も持っていなかった

しかし、いくつか強力な魔法を放ってきた

魔法が効かなければ諦めるか、と、女拳士は自分からは攻撃せずに、耐えて見せた

しかし、黒衣の魔女は言った

竜で試すつもりだったが、女拳士は竜に匹敵する魔法防御を持っている、実験する、と

そして黒い閃光を見た後、女拳士の記憶は途絶え黒衣の魔女も姿を消した――


女拳士「それ以来、誰もアイツを見ていない」

女拳士「Dランク戦は一般公開も無いし、当時は知名度も全くない二人の戦いだったからな」


女拳士「それが三年前」

女拳士「あの後もめちゃ鍛えて、奴にも負けないつもりだったんだが……」

術師「魔法防御が一切通じない闇の魔法……、なんとか対策を練らないと……」

すみません、熱が出てるので今日はここまでにします

明日か明後日、残りの更新をします

お休みなさい

熱のある中、更新ありがとうございます。
お大事になさって下さい。

お疲れ様です。
しかし『実験』と言う言葉で
耳と心がざわついてしまう。

転送魔法が便利すぎて資源交易ではあまり儲けられなそう

>>244
有り難う御座います
最近微熱が続いてるので、少しずつ更新することにします

>>245
有り難う御座います

>>246
今回貿易の話も少し出てきます


…………


ゆっくり更新します

キタハマの城に帰ると、術師たちは事の顛末を旅人に話した

旅人「ずいぶん分捕ってきたんだね」

術師「大部分カイオウ国に渡しますわ」

旅人「うちもいくらかもらうんだよね?」

術師「三十億ほど……」

旅人「良いんだけど、インフレになりそうだ」

術師「海外との貿易に使うべきですよね?」

旅人「それでも良いんだけど、やっぱり国内でゆっくり使わないと駄目だよ」

メイド剣士「大金って厄介なんですね」

旅人「特にお金が回ってないこの国だとね、ただでさえお金の価値が低いのに更に価値が低くなる」

術師「物が余ると物の価値が下がるんですね」

旅人「うちはどんどん人が増え、物も増え、仕事もあり、普通に好景気なんでこの上に何かするのは難しい」

術師「虎獣人さんにいくらか預けてみるとか」

虎獣人「俺?」

虎獣人「俺は金の使い方分からんぞ」

術師「皆さんが困ったら使ってくれたら良いんです、そんなに大金は渡しませんから」

虎獣人「妻か息子に管理させても……」

術師「構いませんよ」

メイド剣士「色々問題が多いですね……」

旅人「だって国家を運営するんだからな」

旅人「そうだ、皆それぞれ部下を持つといい」

メイド剣士「私みたいな若造が……、部下……?」

旅人「国家を運営するって事はたった十人かそこらでは出来ないよ」

旅人「今居る元サイセイ南住人全員が働かないと駄目だね」

旅人「正式な役所、正式な警察、正式な裁判所、正式な軍隊、そして正式な法律」

旅人「面倒な細かい法律は裁判しながら少しずつ作るとして、まずそれを成立させる法律を作ろう」

術師「色々な国の法律を勉強しなくてはいけませんわね……」

メイド剣士「倒れたら嫌ですよ、面倒臭いから」

術師「久々に辛口ですね」

メイド剣士「なんか精神的に疲れたので」

犬娘「ご飯食べよう!」

術師「そうですわね」

術師は犬娘を見つけると抱きしめた

どうやら術師も疲れているようだ

女拳士「海老とか二枚貝とかアワビとか穫ってきたよ」

術師「良いですね」

旅人「さあ、明日からも難しい仕事がいっぱいだし、ご飯くらいゆっくり食べようか」

犬娘「さんせ~い!」

術師「そうだ、戦勝記念でみんなでお祭りしましょう」

犬娘「いいね!」

勇者「俺もなんかしないとね、海に行ってくる」

犬娘たちが町中に呼びかけて、お祭りが始まった

しばらく雨期で魚を採れなかった事や、復興作業の疲れもあり、非常に盛り上がった

中には喧嘩もあったが、数分後には肩を組んで酒を飲んでいた

様々な問題の後、町の結束が少し固くなったようだ


術師「国づくりはきっと大丈夫ですわ」

犬娘「そうだね!」

勇者「海鮮美味いよ~、魔王様~!」

犬娘「今行く~!」

メイド剣士「私も行きます~」


…………


翌日から、五人は一緒に働いてくれそうな人物を集めていく

術師は開発、研究、女拳士は建設、工事、犬娘は外交、政策全般、メイド剣士は内政、財政、勇者は軍事、警察

とりあえずと言うことで仕事を振り分け、それぞれが数人程度を部下につけた


勇者「と、言うことで君たちは騎士団員として、砦を守ったり街を回ったり自警団と協力して街を守ってもらうよ」

虎娘「は~い!」

熊娘「だ、大丈夫かなあ……」


…………


女拳士「で、私が虎さんの上司ってことになるけど気にしないで良いからね」

虎獣人「いや、その方が気楽になる」

モグラ親方「お堅いトップが来なくて良かったぜ」

モグラ子分「仕事がやりやすいですねぇ」



…………


メイド剣士「仕事は内政なんですが、ヤマナミ出身なのでメイド隊にします」

猫娘「お城で働けるんなら良いよね~」

狐娘「まだお城は内壁だけですけど」

メイド剣士「勉強も沢山してもらいますよ」

狐娘「頑張ります」

猫娘「勉強はやだなあ」


…………


術師「うちは変わりませんわ」

石使い「……頑張ろう、せんぱい」

虎少年「僕もいますよ」


…………


犬娘「旅人さんが部下になるんだね」

旅人「まあ今まで通り術師さんにも色々やってもらうし、僕はのんびりやるよ~」

犬娘「誰か他にも人が居ないかな?」

旅人「楽したいよね~」

犬娘「楽したい~」

邪な動機で人捜ししている二人の前からは、その空気を感じてか人が逃げていった

そこに何も知らない旅人が来る


灰娘「こ、こんにちは、あの、勇者さんは……」

犬娘「あ、この前の子だ」

犬娘「勇者ちゃんは今お城の前かな?」

旅人「移民かい?」

灰娘「は、はい」

犬娘「私の部下できた」

灰娘「えっ」


可哀想な灰娘は移民直後に最もハードな部署に着かされることになった

犬娘「メイド剣士ちゃ~ん」

メイド剣士「はい、魔王様……、あら」

犬娘「家族で移民だって!」

メイド剣士「分かりました、狐ちゃん、猫ちゃん、手続きのやり方を説明しますので……」

狐娘「はい!」

猫娘「初めてのお仕事だあ……」


勇者「灰娘、来たんだね」

灰娘「うん……、早速魔王様にお仕事をいただけるみたい……」

勇者「魔王様の仕事……」

勇者「あの子引きこもりなのに外交やらせる気ですか?」

旅人「ショック療法?」

犬娘「修行?」

勇者「鬼だ……」


旅人「まあ今の所どことも関係は良好だし、大して仕事もないから貿易したり行商したりするだけだよ」

勇者「あまり虐めないであげて下さいね」

犬娘「虐めないよ~!」

勇者(魔王様って素で容赦ないんだよなあ……)


メイド剣士「あ、魔王様、こっちに来て下さい」

メイド剣士「これ、装飾品の剣持って下さい」

犬娘「うん……?」

メイド剣士「では、魔王様に忠誠を誓って下さい」

灰娘「はい……、あの、魔王様に忠誠を誓います」

犬娘「よろしくね!」

メイド剣士「これであなたも晴れてキタハマ国民です、よろしくお願いします」

メイド剣士「あとこの国の生活形態の説明をしますのでこちらに……」

灰娘はメイド剣士に連れられて行った


…………


旅人「さて、じゃあ君に出来ることを聞いておこうか」

灰娘「はい、あの、魔法が少し、使えます」

灰娘「えっと、極大級一通り、と、転送魔法は……、大丈夫です」

旅人「逸材じゃないの、移民しちゃって大丈夫なの?!」

犬娘「あの時戦ってたら苦戦したかも~」

灰娘「いつも勇者さんと修行していたので、一応」

旅人「まあ転送は有り難いね、早速チュウザンに仕入れに行こう」

灰娘「はい、あの、頑張ります!」

犬娘「私も行商は初めて~」


旅人は何故か海に来た

旅人「聞いてると思うけど基本は物々交換だから」

旅人「相場は今は有り難い事に魚一対肉五でしてもらえてる」

灰娘「は、はい、覚えました」

旅人(頭の良い子なのかな?)

旅人「で、国で雇ってる魚人さんに魚を受け取って……、魚は大丈夫かな?」

灰娘「はい、えっと、人間以外は」

旅人「へえ」

犬娘「私は?」

灰娘「魔王様はとても可愛らしいので大丈夫です」

旅人(初対面じゃない魔物は大丈夫なのか……、すらすら喋っちゃって)

旅人(カイオウ国との取引は任せられるぞ、これは)

旅人「じゃあ、まずカイオウ国の北を目指そう」

旅人「カイオウ国北は海から遠く、漁獲量が少ないため、チュウザンと同じく魚介類を高価で買い取ってくれる」

旅人「カイオウ国の場合魚とお金で取引してるけど、二百グラムで1から5G、まあ魚種によるんで相場は知っておいて欲しい」

灰娘「は、はい」

旅人「嘘の相場で取引しようとする奴はぶっ飛ばして良いよ」

灰娘「ぶ、ぶっ飛ばすなんて、そんな……」


旅人「魚漁師さん、この箱いっぱいに何種類か魚介類入れてくれる?」

旅人「この魚人さんはカイオウ国の人だから、相場はこの人が良く知ってるよ」

魚漁師「どうも~!」

旅人(あ、魚人ってハイテンションなんだっけ)

灰娘「よろしくお願いします」

旅人(魚人は大丈夫なのか……)


犬娘「美味しそう~」

魚漁師「貝とかは良い奴だけど、だいたい三百G分かな~」


旅人「持てるかい?」

灰娘「あ、その、魔法で……」

旅人「疲れない?」

灰娘「こ、こうやって修行、しましたので」


旅人(疲れる……)

灰娘は箱を魔力で持ち上げて城までの登りの道を歩ききった

犬娘「力持ちだね~」

灰娘「力じゃないですけどね」

犬娘「魔力持ち?」

旅人「じゃあ転送するから座標を覚えてね~」

灰娘「は、わ、分かりました」

旅人「じゃあ転送、と」


――カイオウ国、北――


カイオウ国の北はチュウザンと近く、生態系も山寄りではあるものの、水路は存在し、魚人も住んでいる

職人が多く住む地方でもある

旅人「つまり魚好きな人も多い」

犬娘「私も好き~!」

灰娘「魔王様は出身はどちらですか?」

犬娘「サイセイ南の森だよ~」

灰娘「そうなんですか、ご近所さんだったんですね」

旅人(僕ともスラスラ喋ってくれないかなあ……)

灰娘「偏見で人間が酷いことをしてすみません」

犬娘「もう大丈夫だよ!」

灰娘「そうですね、魔王様のご活躍のお陰です」

犬娘「あんまり活躍してないけど」

旅人(仲良くて羨ましいな~)


旅人「あ、ここだよ、おやっさん」

旅人が紹介したのは魚人の商人だ

魚商人「おう、キタハマさん」

旅人「今度から働いてもらう灰娘ちゃん」

灰娘「よろしくお願いします」

魚商人「お、可愛い娘さんだな」

灰娘「こちらが今回の商品になります」

灰娘は魚介一杯の箱を差し出した

魚商人「おう、ちょっと待ってくれよ」

魚商人「十五キロで二百六十ってとこかな」

灰娘「今回は高級な魚を中心に持ってきました、五百はするはずです」

旅人(おおお、交渉始めやがった!)

旅人(しかもふっかけたな~)

魚商人「ちょ、それは流石にねえよ、行っても三百……」

灰娘「良く見て下さい、高級な貝類がこれだけ入ってるんですよ?」

灰娘「五百でも酒場に卸せば千にはなるはず」

灰娘「分かりました、直接酒場に卸してきます」

魚商人「わ、分かった、三百五十で!」

灰娘「五百で」

魚商人「三百八十……」

灰娘「分かりました、魚の鮮度が落ちるので他で……」

魚商人「四百、四百だ!」

灰娘「仕方有りませんね、お得意様なので大サービスです」

魚商人「さすが姐さん、ありがてえ!」

旅人(三百の魚を四百で売りやがった……)

犬娘「なんか格好良かったね!」


灰娘「ではチュウザンでお肉買いましょう」

犬娘「やったね!」

旅人「誰だよこの子引きこもりって言ったの」

灰娘「ひ、引きこもってて、すみません」

旅人「引きこもりだね」

灰娘「そ、相場で言えば、お肉一キロで四G、くらいですね」

旅人「チュウザンではそれくらい」

灰娘「と、とても安い、ですね」

犬娘「昔ヤマナミで食べたイカ焼き八Gもした」

灰娘「チュウザンのお肉なら二キロも食べられましたねえ」

旅人「まあヤマナミはちょっとインフレ気味なんだよね~」

灰娘「ち、チュウザンのお肉が、安すぎますね」

旅人「百キロも買ったらみんなで食べないと無くならないな」

犬娘「お城の皆でバーベキューしよう」

旅人「いいねえ」

灰娘「楽しみです」

灰娘の初仕事は大成功に終わった


勇者「灰娘にそんな特技があったなんて……」

勇者「しかもなんだか肉の質が良いんですけど」

旅人「いつもの肉よりワンランク上だからね~、暑いから痛んでる、とか言って」

犬娘「美味しいね~」

灰娘「はい、とっても」

白導師「あ、可愛い子が増えてる」

灰娘「ひいっ」

白導師「ま、まだ何もしてない!」


狐娘「美味しいですね~」

猫娘「肉、大好き」

白導師「幼女大好き」

狐娘「へ、変態だ」

猫娘「変態か」

術師「自己紹介得意ですわね、変態さん」

白導師「変態でなく白導師です」

熊娘「よ、よろしく」

白導師「熊……、熊かあ……、熊でも幼女と思えば……、ぐおお、妄想力全開ならいける!」

勇者「いけんでいい、変態め」

虎娘「火爪拳」

白導師「痛い」


…………


復興が終了し、サイセイからの移民が増えてきた

そのためお金も入ってきたが、漁獲量も増え、魚の価格は下がって行く

旅人「まあただでさえぼったくり気味だったし良いんだけどね」

灰娘「そうですね……、かえって良かったです」

犬娘「お肉は相変わらず安いしね~」

灰娘「白石や青石の普及で肉も高品質なまま保存が効くようになってますから、実質肉は高騰してるんですよね」

旅人「まあ人口が増えてるから仕方がないね」

術師「最近女拳士さんたちを通して土地の取引も始まってるようです」

旅人「好景気だから仕方ないけどインフレが起こりそう」

術師「適度にお金を引き上げてインフレを抑えないと駄目ですかね?」

旅人「まあまだまだそこまで過激には変わらないと思うけど、物余りの状況が変わるほどではないし」

術師「開拓の速度を上げるべきですね……」

旅人「それも自然の成り行きで、増えた人々が開拓に加わって速くなる」

術師「魚の価格は下がってるのにインフレ気味になるのが不思議ですね」

旅人「漁獲量が増えてるから魚介はデフレになってるんだけど、流通量、通貨量が増えてるから売り出し始めた物全て売上が上がってインフレ傾向になってる……、まあ結果バランスが取れたまま好景気になってるなら良いんだけど」

術師「物の値段が乱高下するのは好ましくないですね」

旅人「生産調整や出荷調整、お金の出入の調整でバランスを取っていこう」

灰娘「し、出入の調整は内政の仕事ですが……」

旅人「うちは魔王様直属だから統括して全部考えないとね~」

灰娘「そ、そうですね……」

犬娘「最近修行してないな~」

術師「忙しいから仕方がないですわね」


術師「今度は築城も始めますし、護岸工事も、そして港作りも始めないといけないですから」

犬娘「すっごく忙しくなりそう!」

旅人「暑くなるなあ」


…………


メイド剣士「さて、狐さん、現在の人口は?」

狐娘「四百人程度になりました」

狐娘「人口増加のため、小競り合いのようなことも起こっているようです」

猫娘「虎さん中心に裁判みたいなこともやったことあるよ」

メイド剣士「忙しいですよね、全部を三人でやるのは」

狐娘「知り合いの女の子に入隊を打診してます」

猫娘「助かる~」


白導師「ここすごく居心地がいい」

メイド剣士「変態だ」

狐娘「居着かないで下さい」

猫娘「引っかくよ?」

白導師「是非」

猫娘「変態だった」

メイド剣士「ところで変態さんはチュウザンに帰らないんですか?」

白導師「まだ何にも片付いて無いからね」

メイド剣士「そうですね」

メイド剣士「何か沈黙が不気味です」

白導師「サイセイに行ってみたが、子供の誘拐も止まってるらしい」

メイド剣士「何か悪いことが起こらないと良いんですけど」


…………


勇者「兎に角今はトレーニングが仕事だよ」

虎娘「きっつい」

熊娘「大変です」

勇者「他の皆はトレーニングもできず仕事で走り回ってるんだ」

勇者「何かあったら俺たちが何とかしないと」

虎娘「最近喧嘩も多いからあたしたちも巡回を増やさないと」

勇者「それもそうなんだけどね」

熊娘「巡回中も若干駆け足でやってます」

虎娘「走るのが楽しくなってきたよね」

勇者「良いことだね」

女拳士「やってるね」

勇者「ああ、女拳士さんの方は大変そうだね」

女拳士「そうなんだよ、土地取引とか全くわからない仕事もしなくちゃいけなくなってきて」

女拳士「最近の仕事は術師ちゃんか旅人さんの居場所を探すことさ」

勇者「あはは」


女拳士「珍しく時間ができたから他の人の顔が見たくなった」

勇者「それで俺ですか?」

女拳士「まあ順番に見に行くけど」

虎娘「師匠、これから巡回に行きますから一緒に行きませんか?」

女拳士「ああ、良いよ」


…………


術師「それでこちらですか」

女拳士「魔王様の顔を見とかないとね」

犬娘「朝と夜には見られるよ!」

女拳士「仕事してる顔が見たい」

術師「最近夜遅くまで仕事してる人も居ますしね」

女拳士「みんな話が一段落したなら、メイドちゃんの顔を見に行かない?」

術師「行きますわ」

犬娘「行こう!」


…………


メイド剣士「皆して暇人ですか!」

術師「メイドさんが最近夜遅くまで仕事してるからみんな心配してるんですわ」

メイド剣士「書類仕事がなかなか片付かなくて」

メイド剣士「黄石があるから夜でも明るいしやらないと」

女拳士「なんでそんなに忙しいの?」

メイド剣士「住民が結構な勢いで増えてますから」

犬娘「最近魔物の間でこの国が有名になってるらしいよ」

術師「サイセイをこてんぱんにした件でですね」


メイド剣士「出身国にヤマナミやオリファンが混ざり始めたし、急速な貨幣経済への移行、漁獲量の増加、資源管理、地価の決定、住民の就職斡旋、変態の襲撃……」

白導師「ふはははは」


術師「泣いても良いですよ」

メイド剣士「泣いてる暇も無いです」

メイド剣士「剣の振り方も忘れそう」


術師「仕方有りませんわね、私しばらく手伝いますわ」

メイド剣士「良いんですか?」

術師「石使いちゃんがすごく優秀なので大丈夫です」

術師「最近虎くんもいい仕事しますし」

メイド剣士「みんな成長してるんだなあ」


犬娘「メイド剣士ちゃん、おやつ食べに行こう?」

メイド剣士「どこに行くんですか?」

犬娘「チュウザンで果物いっぱいのデザート食べたい」

メイド剣士「遠出ですね、まあたまには良いのかな」


白導師「里帰りするか」

犬戦士「そうだな、たまには」

術師「じゃあ、久しぶりにみんなでお出掛けしましょうか」

女拳士「虎さんに色々任せてくる」

勇者「じゃあ俺が送るから、みんなは先に行ってて」

術師「ではチュウザンのお城の前で待ってますわ」


――チュウザン――


勇者達を待って、これからの行動を考える

久しぶりの休暇だ

犬戦士「どうする、うちくる?」

術師「魔人王様にご挨拶を」

犬娘「貝殻ちゃんにも会えるね!」

メイド剣士「ああ、なんか懐かしい……」

術師「建国記念日以来ですね」

女拳士「魚人さんも元気かな?」


…………


魚娘「お久しぶりです皆さんお久しぶり!」

女拳士「久しぶりだな、魚人さん」

魚娘「魚娘です、超絶美人魚様でもいいです」

貝殻姫「ようこそおいで下さいました、って私の家ではないですが」

術師「ご無沙汰しておりますわ」

牧場娘「ほんとご無沙汰だね、たまには昼寝しようぜ」

メイド剣士「ほんと昼寝したいです」

牧場娘「よし、寝るか」

魔人王「ふふっ、相変わらず元気そうだな」

犬娘「修行できないからあんまり元気じゃないかな~」

魔人王「王をやるコツはいかに時間を作るか、だぞ」

犬娘「仕事してくれる人増やそうかな~」

勇者「皆楽しそうだ」

銀鈴「誰も死んでなくて良かった」

勇者「皆忙しくて倒れそうだけどね」

銀鈴「ノウハウが出来れば死ぬほど忙しい仕事も楽になる」

勇者「俺も色々手伝わないとな」


魔人王「お前ら、茶でも飲んでいけ」

術師「有り難いですわ、白石を一つお土産にお持ちしました」

魔人王「高価な物を……、すまないな」


その後、全員で久々にのんびりした後、また仕事に走り回るために帰還した

夏も盛りになって、暑い日々が続く中、護岸工事と築城も続けられる

そんなある日――


小屋で仕事をする術師の元に魔女娘が訪れた


魔女娘「すまない、ここに置いてくれ」

術師「な、何があったんです?」

魔女娘「……」

魔女娘「ハマミナト王がご逝去……」

魔女娘「ハマミナトは銀騎士が実権を握ることになった」

術師「そ、そんな……」

魔女娘「すまん、力が足りなかった……」

魔女娘「国葬は一週間後……、うっ、ううっ……」

術師「魔女娘さん……」

術師は魔女娘の涙に胸を打たれ、彼女を抱きしめた

そこに犬娘が来た

犬娘「ど、どうしたの?」

魔女娘「だ、大丈夫」

魔女娘「もう大丈夫だ……、すまない」

魔女娘「銀騎士は反魔王派ではあるけれど、コトーとの取引を失えば国を失う事になる」

魔女娘「いくらあいつでもそんな無茶はできない」


魔女娘「だが、何かと理屈をつけてこの国を攻めてくる可能性は高い」

魔女娘「コトーだってハマミナトとの貿易経路を失うのは痛手だ、黙ってる可能性もある」

術師「民の生活がかかってくれば当然そうなる可能性は高いでしょうね」


魔女娘「開港を急げよ」

魔女娘「貿易経路をもう一本確保すればコトー王もハマミナトを切れる」

術師「元々経路を失う危険を回避する為の開発ですからね」

犬娘「頑張ろうね!」

術師「みんなを集めましょう」


…………


女拳士「護岸工事より港開発と街道整備を急がなくちゃならなくなったか」

メイド剣士「そうですね」

メイド剣士「インフレが怖いですけどもっとチュウザンから人を雇用します」

旅人「漁獲量や生産物資を増やして行こう」

勇者「砦の警備が必要だな」

犬戦士「俺も手伝うぜ」

勇者「それは助かる」

虎獣人「俺は明日から港開発の拠点を作る」

犬娘「手伝うよ!」

白導師「変態さんもそっち行くか」

犬娘「来なくていいよ!」

術師「とうとう変態を公言してはばからなくなりましたか」

メイド剣士「メイド隊は国内警備に当たります」

灰娘「わ、私、干し肉なんかの保存食を備蓄して、いきます」

勇者「サイセイなんかとは規模も実力も違うだろう、それに……」

術師「黒衣の魔女が何かを仕掛けてくるかも分かりませんね……」

女拳士「出来るだけ戦力がばらけないようにしないとな」

術師「相当に難しい話ですわ」

勇者「兎に角誰か一人は転送できる人間の近く、拠点付近で作業することを徹底しよう」

旅人「コトーにも人材派遣要請をかけるか」

術師「嫌でしょうけどヤマナミにも」

旅人「うぐっ、背に腹は変えられないか」

犬娘「じゃあ、急ごう!」


――ヤマナミ――


ヤマナミ王「クソ親父」

旅人「旅人です」

メイド長「ダメ人間」

旅人「旅人です」

メイド剣士「この浮浪者は今の所ちゃんと仕事してますので、話を聞いて下さい」

旅人「旅人です」


旅人「だーっ!」

旅人「緊急事態なんだよ!」

ヤマナミ王「仕事ほっぽりだして逃げ出した先王に権力があると思うなよ?」

旅人「悪かった!」

旅人は飛び上がって土下座した

ヤマナミ王はニヤニヤしている

ヤマナミ王「クソ親父はどうでも良いが、サイセイを独力で撃破したキタハマ王直々の要請、当然受けさせてもらうよ」

犬娘「ほんと!?」

旅人「なあんでだよおおお!」

旅人は土下座態勢のまま転がって行った

メイド長「ぶはははっ!」


ヤマナミ王「近いうちに千人程度力のある者を送ろう」

ヤマナミ王「食料はこちらから輸送するし、治安維持も任せて」

術師「万全ですわね、諸費用はこちらで持ちます」


ヤマナミ王「術師ちゃん、久しぶり」

術師「お久しぶりですわ」

ヤマナミ王「お金のことは気にしないでね」

ヤマナミ王「ヤマナミからキタハマは遠いけどサイセイも最早妨害はしてこないでしょ、あっちから送れば数日中になんとか」

術師「船を壊したのは失敗だったですかね?」

転がって行った旅人が戻ってきた

旅人「カイオウ国に船を頼めばいいんだよ」

術師「ああ、その手がありました」

ヤマナミ王「余所で仕事するならうちでやれよ!」


メイド長「メイドちゃんお茶しない?」

メイド剣士「皆、仕事を始めてますから……」

メイド長「無理しちゃ駄目だよ?」

メイド剣士「有り難う御座います」

ヤマナミ王「故郷はいいもんでしょ、何時でも遊びにおいで」

メイド剣士「有り難う御座います、全部終わったら、是非」

ヤマナミ王「クソ親父は来んな」

旅人「もう二度と来ねえよ! うわああああん!」

旅人は泣きながら転がるように逃げ出した

術師「では、先を急ぎます、細やかな打ち合わせは後程」

メイド長「ああ、キタハマを見たいからこっちから行くよ」

術師「何から何まで有り難う御座います、失礼します」


ヤマナミ王「術師ちゃん、タイガンのお父さん心配してたよ」

術師「今は猛烈に忙しいので帰れませんわ」

ヤマナミ王「だよねー」

メイド長「二人は年が近いのか 昔なんか面白いことあったっけ?」

術師「逃げ回るヤマナミ王様を毛虫を持って追い掛けたり?」

メイド長「ぶはっ、やってたやってた、やんちゃだったよね~」

ヤマナミ王「ううっ、トラウマが……」

術師「その節はご無礼致しましたわ」

ヤマナミ王「良いんだよ、友達じゃん」


術師「積もる話も有りますが、また後日」

ヤマナミ王「悪かったね、引き留めちゃって」

術師はにっこり笑って手を振った

今回はここまでです

次の更新は二週間くらいかかるかも知れません

犬戦士忘れててちょっと?になった

そろそろかなー

少し更新します
明日も更新します

>>270
今回はちょっとだけ活躍します

>>271
すみません、お待たせしました

犬娘たちは、ヤマナミを去るとそのままコトーに飛んだ


コトーの事情を考えるならば、すぐに協力と言うことは難しいかも知れない

しかし

魔王「すぐに魔物中心に千人、送ろう」

魔王「おい、早急に人材をまとめろ」

軍人「はい!」


魔王「おい、竜女、お前行け」

竜女「はっ!」

術師「あ、あなたはいつぞやの……」

竜女「お久しぶり!」


魔王「ヤマナミが港を作ってくれるなら築城を中心にやろう、後カイオウとチュウザンにはこちらから要請をかけておく」

術師「そ、そこまで手を回していただけるとは……」

魔王「困ったら頼れ、と、言ったはずだぞ」

魔王「側近が研究に手こずってる罪滅ぼし……、ってのは建て前で、二百年前の建国を思い出して燃えてきた」

どうやら魔王本人が乗り気である


旅人「コトーさんはハマミナト切る気かい?」

魔王「お、あんた……」

旅人「旅人です」

術師「そのやりとりはもうやり尽くしました……」

魔王「うちは今や世界中と交易をしてるんだ、一時的にカイオウ島経由に切り替えれば良いだけだし、いつでも切れるぞ」

犬娘「大丈夫なの?」

魔王「正直な、お前らには悪いがハマミナトを早めに押さえて欲しい」

術師「そ、それは……」

メイド剣士「私たちに戦争をしろ、と?」

魔王「ハマミナトはもう一つ問題を抱えてるはずだ」


旅人「……黒衣の魔女」

術師「……!」

魔王「奴を早めに炙り出さなければ、万が一、破壊神復活などやられては面倒臭い」

魔王「魔人の奴もいるから倒せなくはないかも知れないが、カイオウ島全土に及ぶ破壊は、もっと大きな経済損失が有り得る」

魔王「魔人の奴にも指令を出しておこう、連携して機会を見て攻め込め」

術師「こ、こちらからですか?」

魔王「いや、もちろんあちらから攻めさせるさ」

魔王「その為に築城を進め、戦闘態勢を整える」

魔王「焦って攻めてくればそれで良いし、攻めてこなければそれもいい」

魔王「軍備を整えさせるだけでもこちらから内偵を送り込む口実ができる」

魔王「それでハマミナトの外交官、魔女娘、あいつはお前たちの国でしっかり保護しろ」

魔王「機会を見てハマミナトに噂を流す」

術師「なんと……?」

魔王「そりゃ、キタハマが外交官を監禁してるらしい、とさ」

術師「~~~!」

メイド剣士「情報操作……」


魔王「もちろんそれに対する別の噂も用意する」


魔王「銀騎士が破壊神信徒と手を結び、それに反対した魔女娘様は追放されたらしい、と」

メイド剣士「は、腹黒い」

魔王「魔王だしな」


術師「あの、コトー王様、随分ノリノリですわね」

魔王「俺に喧嘩を売る奴なんか年に一回の祭りで出てくるくらいだし」

魔王「国ごと喧嘩売ってくるなんて燃えるじゃないか」

術師「戦争をする方の身にもなって下さい……」

魔王「それはそうなんだが、どっちにしてもハマミナトは押さえねば」

魔王「その為にも万全の準備はしておくべきだろ?」

メイド剣士「その上で、嘘で戦意を燃え上がらせる……」

術師「そして、黒衣の魔女を炙り出す……」

魔王「もちろん実際に戦うのはお前たちだ」

魔王「無理だと言うなら他の策を考えるが……」


術師は犬娘に向き直った

術師「どうしますか?」

犬娘「う~ん……」

犬娘「よく分からなかった」

術師「そ、そうですね、難しい話です」

犬娘「でも黒衣の魔女は放って置けないよ」

犬娘「あいつを見つけるためにそうしなきゃいけないなら、やる!」

術師「魔王様……」

メイド剣士は初めて出会った時の、犬娘が過去の話をしていた時の顔を思い出していた

メイド剣士「魔王様……、辛いですよね……」

しかし、犬娘の覚悟は決まっている

犬娘「やるしかないよ」


犬娘「出来るだけ早く、黒衣の魔女を見つけて、やっつける」

犬娘「絶対に、止めるんだ!」


魔王「はははっ」

魔王「お前はもう立派な魔王だな」

犬娘「まだまだ、真の魔王様を倒さないと?」

魔王「はっはっは、こりゃ恐ろしい敵が育ってるな!」

術師「そうですね、コトー王様をぶっ倒しますわ!」

メイド剣士「久しぶりに脳筋ですね!」

旅人「細かい事はコトーさんに任せよう、僕らは彼らを迎え入れる準備だ」

犬娘「帰ろう!」

術師「おーっ!」

メイド剣士「おーっ!」


旅人「ふふ、頼もしいな」

魔王「全くだ、遊び歩いてるどこかの王とは大違いだな」

旅人「あいたたた……」


…………


キタハマに帰った犬娘たちは緊急会議を立ち上げる

虎獣人や虎娘、狐娘や猫娘など、主要人物たちが集まってくる

城壁の中にテーブルが運び込まれ、会議が始まる

術師「では、魔王様」

犬娘「今からキタハマ開発会議を始める!」

犬娘の開会宣言、参加者全員が拍手をする

犬娘「状況説明を!」

メイド剣士「はい、現在キタハマにコトー、ヤマナミから合計二千の援軍が向かってきています」

メイド剣士「目的は東港開港、街道整備、護岸工事、築城など我々の国が現在抱えている開発事業に協力する為です」

メイド剣士「急に人口が増えることになるため、緊急事態に備え食糧備蓄を行うこと」

メイド剣士「また、混乱を招かないよう住民に注意喚起する必要があります」

メイド剣士「現在も移民は増えていますが、その中にスパイなどもいる可能性が出てきます」

メイド剣士「開拓初期から住む住民たちには不審人物の報告をお願いします」

メイド剣士「緊急事態に備え連絡体制を緊密にして下さい」

メイド剣士「魔王様の直接の配下である皆さんは緊急時には早急に集合して下さい」

メイド剣士「また、城の業務が更に増えると思われますので、追加で公務に当たる人を募ります」

メイド剣士「各位はそれぞれの部下をしっかりと取りまとめられますよう、お願いします」

メイド剣士「私からは以上です」

術師「今後も雨期などの大規模の危機に見舞われる可能性があります」

術師「住民の皆さんは危機的な事態に置ける避難態勢を作り、訓練をしておいて下さい」

勇者「直接の指揮は俺が取ろう」

女拳士「じゃあアタシは応援の人たちをまとめよう」

虎獣人「じゃあ俺はそれを手伝う」

灰娘「私は魔王様から各拠点への連絡要員をしますのでよろしくお願いします」

白導師「私も連絡に使ってもらう」

術師「私は築城指揮と防壁用鉄石の設置作業等を行います」

石使い「わたしが……どんどん石を作る」

虎娘「前線警護に当たります」

犬戦士「手伝うわ」

熊娘「国内を巡回します」

猫娘「私も」

狐娘「移民の手続きは引き受けます」

旅人「じゃあ僕は魔王様と指揮をやろう」

メイド剣士「私は情報を統括します、皆さん報告をお願いします」


術師「では、忙しくなりますが皆さん」

犬娘「頑張ろう!」

皆「おーっ!」


…………


戦争の可能性などは敢えて伏せ、大規模な開発に乗り出した体での説明を終え、各人が作業を再開する

二日後にはコトー軍が揚陸艦により直接キタハマに乗り込んできた

メイド剣士「速いですね」

旅人「まあコトーさんノリノリだったからね~」

犬娘「出迎えよう」


…………


竜女「我々は本日よりキタハマ王様の指揮下に入ります」

竜女「よろしくお願いします!」

犬娘「うん、よろしく!」

竜女「キタハマ王様、ご無礼ではありますが配下たちに魔王様の強さを見せていただけないでしょうか」

犬娘「えー、そんなに強くなかったらごめん」

竜女「緑竜!」


竜女に呼ばれ、竜女の倍も体格がある、傷だらけの竜人が前に出た

緑竜「こんな小さい娘さん、大丈夫なのか?」

竜女「油断はするな、かの魔人を打ち倒した人物だぞ?」

緑竜「どうせ手を抜いていたのだろう……」

緑竜「あの化け物がこんな娘に……」

竜女「それ以上失礼な発言はするな、私が許さんぞ」


犬娘「この人やっつけたらいいの?」

竜女「はい」

竜女が言い終えるや否や、ガツンと言う音と、ぼちゃん、と言う音がした

犬娘「あ、ごめん」

犬娘はいきなり獣王拳で緑竜を海まで殴り飛ばした

竜女は一瞬何が起こったか分からず、犬娘を見ている

犬娘の視線を追って海を見ると、緑竜が溺れていた


竜女「……予想より、強過ぎる……!」

竜人や魔神中心の屈強な戦士たちは激しく動揺した

小さくも強いキタハマ王を認めるに値すると感じた者も少なくなかっただろう


海竜がくわえて連れて帰った緑竜の胸は焦げてへこんでいた

慌てて竜女が蘇生をかけると、緑竜は犬娘の前で土下座した

緑竜「ご無礼を致しました、我はキタハマ王様に服従を誓います」

犬娘「うん、よろしくね!」

メイド剣士「魔王様、屈強な竜人を一撃……」

旅人「こんな強かったのか……」

メイド剣士「ストレス溜まってたんだろうなあ……」


竜人たちは張り切って築城作業に乗り出した

余程パフォーマンスが効いたようだ

揚陸艦はそのままサイセイに送られ、サイセイ王を怯えさせた後、二日後にはヤマナミ軍を運んできた


女騎士長「初めましてキタハマ王様、私はヤマナミ騎士団第三部隊隊長、女騎士長であります」

犬娘「よろしくね!」

女騎士長「第一兵長、第二兵長、キタハマ王様にご挨拶を」

第一兵長「は、キタハマ王様、作業指揮に当たります、第一兵長と申します」

第二兵長「わたしはぁ、治安維持に当たるぅ、第二兵長なのぉ」

女騎士長「まともに喋れ腐れ女」

第二兵長「はっ、失礼ぃ、致しましたぁ」

犬娘「よ、よろしくね!」

こうして二千人の大軍隊を迎え入れたキタハマは、一層賑やかに開発を進めて行くことになった


メイド剣士「元々漁業用に桟橋はあったんですが、それを使って港を作っているようです」

術師「二千人もいるとびっくりするくらい作業が速いですわね」

メイド剣士「今まで五百人にも満たない人口でやってましたからねえ」

勇者「みんなぴしっとしてて、宿営地でも問題を起こすことがない」

術師「うわさのキタハマ王の一撃がヤマナミ軍にまで伝わったようですわ」

犬娘「やりすぎちゃった?」

メイド剣士「グッジョブです」


…………


やがてハマミナト王の国葬の日


ハマミナト兵に案内され、国賓席に座る犬娘たちの所に牧場娘が魔人を連れてやってきた

魔人王「久しぶりだな、話は聞いたぞ」

術師「大変なことになってしまいました」

魔人王「うちも色々な訓練を始めてな、民に少し不安を与えているようだ」

術師「魔人王様が出向かれたら一人で片付きそうですが」

魔人王「王が直接出向くのは好まない者も多いからな」

術師「うちにも十分な人材が有れば良いんですが」

牧場娘「昼寝もできないね」

術師は小さな声で語りかけた

術師「牧場娘さんのその揺らめく魔法なら黒衣の魔女の黒い閃光をかわせますか?」

牧場娘「かわさない、当たらないから」

術師「どういう仕組みなんです?」

魔人王「さあな」

牧場娘「まあ魔人王が本気を出せばやられるけどね」

術師「なるほど」

牧場娘「あ、またボロ出しちゃったよ」

魔人王「わざとだろう」

牧場娘「まあね、眠い」


メイド剣士「銀鈴ちゃんはお留守番ですか?」

魔人王「あいつは強いからな」

牧場娘「私は嫌いだね、魔法がいやらしい」

牧場娘「相手がイメージできたら呪える奴だからね」

魔人王「全部喋る気か」

牧場娘「おっと、寝ぼけて寝言言ってるだけさ」

犬娘「魔人王さんこんにちは!」

魔人王「元気だな」

術師「なんかストレス解消したみたいですわ」

魔人王はよく分からない、と言った顔をした

メイド剣士「今度お昼食べに来て下さい」

魔人王「時間が出来れば、ご馳走になろう」

メイド剣士「お待ちしています」

犬娘「開拓が終わったらお祭りしよう!」

魔人王「交流祭か、良いだろう」


犬娘たちが騒いでいると銀騎士が訪れる

銀騎士「この度は我らがハマミナト王の葬儀にご参列いただき……」

銀騎士は一通り形通りの挨拶をすませると、雑談もせずに行ってしまった

術師たちは会場に注意を払っていたが、黒衣の魔女らしき人物は居なかった

国葬は大きな騒ぎもなく終わった


魔人王「またな」

犬娘「また~!」

術師「お待ちしてますわ」

牧場娘「また昼寝に行くわ」

メイド剣士「良いですね」

犬娘たちは帰還すると作業をひたすら進めていき、やがて秋になった頃、空気が動き始めた

港が完成し、ヤマナミ軍は街道整備を始めていた

旅人「ハマミナトで徴兵と軍事訓練が始まったようだ」

術師「思っていたより大胆に動いてきましたね」

旅人「こちらの動きは向こうに伝わっているだろうしね」

メイド剣士「大軍隊が急に出てきたらびっくりしますよね」

旅人「予定ではコトーさんが探査を入れている頃だね」

女拳士「どんな人が探査するんだろう?」

竜女「吸血鬼の旦那かな?」

犬娘「吸血鬼って居るんだ?」

竜女「菜食主義者だけどね」

犬娘「吸菜鬼?」

メイド剣士「あははっ」

勇者「まあ吸血鬼なら蝙蝠とか使って調査できるのかもな」

メイド剣士「それは速そうです」

術師「黒衣の魔女を見つけてもすぐに乗り込めるわけでは無いですが……」

女拳士「狭い室内であれを食らったら堪らないよな……」

勇者「回復しながら戦うとか……」

術師「……」

メイド剣士「無理かなあ」

犬娘「回復追いつかないよね、魔力も限界あるし」

術師「コトー王様の側近様次第ですかね……?」

旅人「今は待つしかないか……」


…………


銀騎士「さて……、どうしたものか」

銀騎士「十分に軍備を整えた所で、コトーからの要請を無下にすることはできん」

銀騎士「いずれ攻める国に協力せねばならんか……」

悩む銀騎士の前の空間が黒く歪む

銀騎士「貴様か」

黒衣「お上手に……、国王……、暗殺」

銀騎士「黙れ魔物め!」

黒衣「私の……、言うまま……、あなたは……、モルモット」

銀騎士「ふざけるな!」

黒衣「まだ……、時ではない……」

黒衣「それだけ」

銀騎士は剣を抜き放ち、黒衣を斬り払う

しかしより深い闇を纏う黒衣の魔女には、微風よりも影響がない

黒衣「この国の民……、全員……、くびりころす」

銀騎士「くっ……」

黒衣「ちょっとした……、冗談……、ユーモアは……、大事……」

銀騎士「くそっ、消えろ!」

黒衣「あはははは……」

黒衣の魔女はゆっくりと姿を消した


吸血鬼(見ちまった)


…………


魔王「わざわざ来てもらってすまないな」

術師「一体何事でしょうか?」

術師は魔王にただ一人呼び出されていた

魔王「実はな、密偵の報告でハマミナトの事情が見えてきた」

術師「!」

術師「あの、それなら皆で聞きに来た方が……」

魔王「あいつ等には伝えておく、まあ聞け」


…………


術師「つまり、ハマミナトの民は人質に取られている、と」

魔王「そう言う事だ」

術師「事は緊急を要する、と」

魔王「ああ」

術師「つまり側近様の研究に力を貸せって事ですか?」

魔王「察しが良いな」

魔王「他の誰にやらせるよりお前ができるのが一番だろう」

術師「今研究している物が有るんですけどね……」

魔王「大したものだな」

魔王「しばらくは研究に着かなければならない」

術師「……分かりました」

術師「早速研究に入りますので、キタハマの皆によろしくお願いします」

魔王「ああ、ちゃんと報告しておく」

術師「では側近様の研究所の場所を」

魔王「ん、知ってるだろ?」

術師「え?」


…………


術師「できることならもう会いたくありませんでした」

ヒーラー「まあ、ツンデレですね」

術師「純粋な感想ですわ」

ヒーラー「まあお望み通り地獄のトレーニングが待ってますよ」

術師「ですよね」

ヒーラー「あなたの研究ももちろん手伝いますわ」

術師「有り難う御座います」


…………


軍人「……と、言う訳です」

犬娘「術師ちゃん帰ってこないんだ……」

メイド剣士「仕方ないですね」

女拳士「はっきり言って国作りずっと中心になってやってくれてたから、厳しいかも」

旅人「忙しくなるのやだな~」

石使い「開発は引き継ぎすんでる……」

メイド剣士「いつの間に……」

虎少年「いずれ倒れる覚悟で仕事してたみたいです」

犬娘「……」

勇者「魔王様?」

犬娘「うん」

犬娘「頑張ろう」

勇者「あ、ああ」



…………


ヒーラー「ん、あなた珍しい物を持ってますね」

術師「これですか?」

術師は虹色の石を手に持って眺めていた

ヒーラー「命の木霊……、誰を登録してるんですか?」

術師「魔王様を……」

術師「無理をするから守ってあげないと」

ヒーラー「立派な忠誠心ですね」

術師「だってとっても可愛いんですもの」

術師は犬娘の話をするのが嬉しそうだ

ヒーラー「早く魔法を完成させましょう」

術師「はい」

術師「こちらの方はもうすぐ完成です」

ヒーラー「そもそもこれは私が弟子と研究した技術ですからね」

術師「あの人はあなたの弟子だったんですね、納得ですわ」

ヒーラー「どういう意味かな~?」


…………


白導師「くしゅっ」

女拳士「風邪かい?」

犬娘「変態のくせにくしゃみは可愛いね」

旅人「でも白導師さんが色々皆に口添えしてくれて助かるよ」

メイド剣士「変態のくせに」

白導師「それ以上誉められたら死んじゃう」

メイド剣士「誉めてませんが死んで下さい」

白導師「げへへへへ」


犬娘「……」

犬娘「術師ちゃん、元気かな……」


やがて秋の収穫が終わり、キタハマは冬を迎える

魔女娘「なんだか居候みたいで申し訳ない」

犬戦士「気にすんなって、俺も居候だし」

白導師「居候って言うか居たの?って感じだけどね」

犬戦士「俺いつも前線にいるし」

犬娘「いつも有り難う!」

勇者「まあ俺達がこうやって後ろに下がってお茶を飲んでる暇なんてそうそう無かったからな」

犬戦士「竜人のつえー人達が交代で前線にいてくれるようになってずいぶん楽になっちゃったな」

白導師「そっちはいいね、地域管理とかは国防に関わるから人には任せられないわ……、私も余所の人間だけど」

メイド剣士「そうですね」

旅人「まあ僕達は術師ちゃんが帰ってくるまでは忙しいさ」

犬娘「術師ちゃんがいないと何をしていいか分からない……」

メイド剣士「そろそろコトー王様のプロパガンダがまかれるので、軍備に意識を向けないと駄目ですね」

石使い「鉄石……、緊急に二十個作った、防壁用」

メイド剣士「砦と城の外門に取り付けましょう」

メイド剣士「魔王様、みんなで作ったみんなの国を守りましょう」

犬娘「……うん!」

…………


メイド剣士「狐ちゃん猫ちゃん、頑張ってもらうからね」

猫娘「はいな」

狐娘「全力を尽くします」

メイド剣士「食料備蓄もそうですが、水源を守らないといけません」

猫娘「チュウザンの方で警備してくれてますけどね~」

メイド剣士「チュウザン上流から徒歩で四時間も距離があるんで、牧場もそうですが監視しないと駄目ですね」

メイド剣士「あと、港からチュウザンまでの経路はどうしてもチュウザン湖西を回らないと駄目です」

メイド剣士「東には高い山があって、こちらはコースを取れません」

メイド剣士「結果として術師さんが計画していた通り、南に石橋を作り、出水管理します」

メイド剣士「それに伴って西岸には複数の水路を設けます」

メイド剣士「水路を掘るのはモグラさんたちが温泉を掘った時のノウハウがあるので、モグラさんたちに委託します」

メイド剣士「大きい事業をヤマナミ軍とコトー軍が担ってくれているので元々の住民は家屋建設を中心にしてもらいます」

メイド剣士「区画管理には気を使って下さいね」

狐娘「分かりました」

メイド剣士「今回のことでまた知名度が上がって移民も増えていきますから、先手を打って行かないと」

猫娘「虎娘ちゃんと警備要項固めてきます」

メイド剣士「猫ちゃん仕事するようになりましたね」

猫娘「私もここの住民だもの」

狐娘「みんなもうこの国が大好きなんですよ」

メイド剣士「そうですね、みんなで守りましょう」


…………


メイド剣士「術師さんには負けていられない……」

メイド剣士「私が魔王様一の側近だもの!」


…………


女拳士「メイドちゃんヤバくない? 仕事しまくってるみたいなんだけど」

旅人「毎日魔力空っぽになるまで転送魔法を使って歩いて帰ってきて半分徹夜で書類仕事」

犬娘「仕事の鬼だ……」

旅人「倒れなきゃ良いけど、あの子まだ十六だろ?」

勇者「俺も内政手伝うか」

犬戦士「俺には無理だな~」

勇者「犬さんは虎さんを手伝ってあげてよ、滅茶苦茶忙しいらしいよ?」

女拳士「建設関係だけは仕事無くならないね、人口増加に先回りして家を建てて行かないとダメだから、今一番うちの部署が人が多いと思うし」

旅人「人が増えたら管理も大変だよね~」

勇者「警備を俺が引き受けたらメイドさんたちも楽になるかな?」

犬娘「私もそれなら手伝える」

勇者「じゃあ一緒に行こっか、魔王様」

犬戦士「俺も警備が良いな」

犬娘「三人で行こう!」

勇者はメイド剣士から巡回コースの指示を受けると、まずは三人でコースの確認をする

建ったばかりの家々の間を歩くと、住民が肉を並べて売っていたりする


勇者「経済も少し安定してきたのかな?」

犬娘「最近はチュウザンでもお金での取引に変わってきて、お金はどんどん入ってきてるみたい」

犬戦士「みんな頭使って生きてるよな~」

犬娘「考えないと駄目なこといっぱいだよ~」

勇者「魔王様もどんどん成長してるよね、精神面が」

犬娘「そうかな?」

勇者「術師さんがいないと凄い寂しいだろうに、一所懸命仕事してるしさ」

犬娘「家族だから、いないと寂しくて、でもそれでいいんだって思って」

犬娘「それは自分が家族を大切にしてる証拠なんだ」

犬娘「って」

勇者「そう言う所が成長したよね」

白導師「胸が成長しない所が良い」

犬娘「変態出現、緊急逮捕!」

勇者「ラジャ」

白導師「いと痛し」

犬戦士「何やってんのお前」

白導師「うるさいよバカ犬」

犬戦士「犯罪者のくせに!」

勇者「きりきり歩け~」

犬娘「邪魔だから捨てていこう」

勇者「ラジャ」

白導師は川に突き落とされた


白導師「水も滴る良い女……」

その後、喧嘩をしてる住人を見つけては木を砕き折って見せたり

はまっている馬車を見つけては押し出したり

護岸工事の現場や街道整備を見て回ったりした後、勇者の転送で帰還し、夜までメイド剣士を手伝う事にした

メイド剣士「お疲れ様でした、魔王様」

犬娘「楽しかったよ~」

メイド剣士「紅茶を用意しましょう」

勇者「俺がやるよ」

犬戦士「書類……」

犬戦士「やべっ、寝てた」

白導師「バカ犬は外回りしてこいって」

白導師「ふんふん、漁業採取制限解除願い? 制限緩和は継続してる上に人口増えてるんだから下手に解除したら資源無くなるっつの、ボツ」

白導師「あ、下水道開発に関する地質調査願い、モグラにやらせとけ、はい狐ちゃん」

狐娘「やっておきます」

白導師「ふむふむ……」

犬戦士「すげえ……」

メイド剣士「変態なのに仕事できますね」

勇者「どんどん書類が片付いていく……」

白導師「こんな出願系は適当にやっていかないと溜まるばっかりだって……、えーと、森林管理関係の上奏文……、こんなポエム誰が書くのかね? ボツ」

メイド剣士「楽だ」

犬娘「初めて見直した」

まるで紙屑を暖炉にくべるようなスピードで書類を処理していく白導師

メイド剣士がやっと休めるほど、仕事が減った

メイド剣士「紅茶美味しい……」

犬娘「甘いもの食べた~い」

勇者「太るよ……、……牛の出産時期と労働力不足に関する基本方針と労働力派遣要請……、難解だな」

白導師「牛がいつ生むか分かんないんだから待機戦力なんか他に回した方がマシだって、ただ協力要請があったら動ける要員は居た方がいいね」

メイド剣士「くっ……」

犬娘「なんか悔しいね」

猫娘「どんどんこなしちゃいましょう」

狐娘「目安箱作った方がいいかな?」

勇者「今の所みんな積極的に書類申請してくれてるから大丈夫」

白導師「開拓最初期の問題が多発する時期だから仕方ないね」

白導師「ただ、こういう書類になって上がってこない文句に注意しないとね」

メイド剣士「為になるなあ」

白導師「報酬はパンツ一枚で!」

メイド剣士「一枚ならいいかな?」

犬娘「術師ちゃんが言ってたけど魂とパンツは売っちゃ駄目だよ!」

勇者「魂とパンツは等価なのか……」

白導師「まあ術師ちゃん帰ってくるまでに仕事減らしておこう……、鶏の飼育頭数管理の報告、はい、メイドちゃん」

メイド剣士「はい」

勇者「ヤマナミ軍とコトー軍、先住民間の結婚に関する諸法整備要求……」

白導師「やっときな、はい、メイドちゃん」

犬戦士「場を支配してる……」

犬娘「楽だ~」

メイド剣士「覚えないと駄目ですよ」

白導師「こう言うのは勉強はしても考えちゃ駄目なんだよ、実は犬娘ちゃんも向いてるかもよ」

犬娘「やってみる、鳥獣人、魚人の産卵所確保要請、メイド剣士ちゃんお願い、飼料輸入関連の人員要請、はい、おっけー」

メイド剣士「おおっ」

白導師「マジこなせてて笑える」

犬戦士「犬って本当は賢いもんな」

白導師「バカ犬もいるが?」

勇者「犬飼いたいな」

…………


ハマミナトでは戦争の準備が進んでいる

銀騎士はこの戦いに負ければ後がないことは分かっていた

銀騎士(出来るだけ兵を鍛えるしかあるまい……)

銀騎士は一人の兵に手紙を託す

既に死ぬ覚悟をしていた

町の民たちの間では噂が流れている

キタハマに敵対する意志と自分に対する猜疑心が高まっている

この状況では外交官監禁の説を採用し、戦争を仕掛けるしか民をまとめる手段がない

黒衣により、追い詰められているのかも知れない

銀騎士の胸には、既に焦りしか無かった

そこに黒衣の魔女は現れた


黒衣「……心配……、しなくていい……、力を貸す……」

銀騎士「貴様の手は借りん!」

黒衣「無理……、あなたでは……、かてない」

銀騎士「消えろ!」

黒衣「……、まあ、……手を……、貸すけどね……」


黒衣の魔女は何事かを呟くと、消えた

黒衣の魔女の考えている事は分からない

しかし、何かされる前に、攻めるしかない

銀騎士は自分が育てた騎士たちを見ていた

自分が魔人王に勝てるとは思っていない

恐らくは敗北するために

銀騎士は兵達に宣言した


銀騎士「進軍する!」


…………


犬娘たちは仕事に一段落がついたので、村を散策しながら春の気配を探していた

犬娘「もう暖かくなってきたね~」

メイド剣士「一応カイオウ島は南方の島ですからね」

白導師「まあ雨期前まではまだまだ寒いんだけどね」

メイド剣士「雨期かあ、今回は大丈夫かな?」

犬娘「女拳士ちゃんと勇者ちゃんは?」

メイド剣士「二人とも街道整備を手伝ってますよ」

犬娘「街も平和だね~」

メイド剣士「そりゃこの街は屈強な竜人に勝ち、大木も山も砕く大魔王様が支配してますから」

犬娘「へえ~」

犬娘「って私だ!」

白導師「いひひ、可愛いね~」

犬娘「こわいこわい」


白導師は犬娘に襲い掛かろうとした所で気付いた

命の木霊が、激しく震えている事に


…………


少し前――


虎娘「敵襲、敵襲~!」

犬戦士「お前ら、早く門を閉めろ!」

衛兵たちは急いで砦に入り、門を閉めた

火矢が飛んでくるが、獣人たちは容易にそれをかわし、弾き返す

犬戦士は門の前に飛び降り、ハンマーを振り回した

魔人王程では無いが、犬戦士もチュウザンの戦士である

並みの兵は全く相手にならない

一万はいると思える兵が、たった一人の獣人に苦戦する

犬戦士「流石に体力持たないからな、この辺で逃げるか!」

犬戦士が砦に跳び帰ろうとした時

黒い閃光が犬戦士を貫いた――


…………


白導師「駄目だ、みんな拠点にいやしねえ」

メイド剣士「転送魔法も大きい魔力を消耗します、メッセージは伝えましたから早く犬さんの所に……!」


メイド剣士「飛びます!」

犬戦士は倒れたもののまだ息をしていた

虎娘は必死に犬戦士を砦の中に引き入れた

暫くして、白導師たちは駆けつけた


白導師「バカ犬、私の蘇生魔法があるのに簡単に死ねると思うなよ?」

白導師はさっと手をかざすと、術師のそれよりも強力な蘇生魔法を使った

メイド剣士「すごい……」

もはや虫の息だった犬戦士はすぐに起きあがるまで回復した

犬戦士「あれ?」

白導師「ふっふ~ん」

犬娘「すごいね!」

外では砦を砕こうとする兵達の怒号が響いている

犬娘「私がやっつける!」

白導師「流石にあの数は厳しいと思うけど」

メイド剣士「私も行きます、何かあったら白導師さんと虎ちゃんに任せます」

白導師「おう、死んだらいつかみたいに可愛くラッピングするよ?」

メイド剣士はニヤリと笑う

メイド剣士「お断りです!」


…………


犬娘達が砦の上に立つとそこには異様な光景が広がっていた

兵達は黒い炎を纏い、白目まで燃えるように赤い

敵兵A「うあああ……」

敵兵B「じにだぐ……なああああい……」

敵兵C「がらだが、がらだが……」


メイド剣士「……真空斬!」

かつて戦った黒い泡を思い起こす有り様だった

メイド剣士はもはやこの世の物とは思えない敵兵達を見ると、躊躇せず最強の斬撃を放った

敵兵達は鎧ごと真っ二つになって飛んだが、まだ動いていた


そこから更に異変が起こる

敵兵の半身は土や木を取り込み、再び襲いかかってきた!

犬娘「なに、なにこれ~!」

犬娘「雷牙拳!」

犬娘は力を温存しつつ、敵を殴り飛ばす

犬戦士「気をつけろ、奴が、黒衣の女がいるぞ!」

白導師「ちっ、ちょっと敵を攪乱して帰っといで!」


白導師の号令で、犬娘達は敵を何人か薙ぎ倒してから砦に帰還する

白導師「……」

メイド剣士「ど、どうしましょう?」

白導師「あれも魔法で動いてる以上限界はある」

白導師「だけど大規模すぎる……、恐らくは何らかの魔力補助を使っているはずだ」

白導師「持久戦になると、はっきり分が悪い」

メイド剣士「でもいつまでもここに籠もっているわけには……」

白導師「いや、勇者ちゃんたちを待とう、あと犬娘ちゃんは魔力消費高すぎる」

メイド剣士「ですよね、能力強化をかけて魔法なしで戦った方が良いですよ」

犬娘「そうする」


犬戦士「おい、白、あれあるか?」

白導師「こいつらにはネタもバレてるし、いいか」

白導師「みんなこっちおいで、採寸するから」

メイド剣士「?」

犬娘「くすぐったい」

メイド剣士「ちょっ、どこ触ってるんですか!」

白導師「うおお、幼女触り放題……」

メイド剣士「真空斬」

白導師「無駄な魔力使うな!」

足下の石畳が裂け、白導師はガクガク震えながら作業を進める


何やら太い糸で三人の体を包んで行く

そして取り出した光る石をかざした

白導師「これが私の必殺魔法防具、光の衣!」

強い光が三人を包むと、数瞬後三人は白い衣をまとっていた

犬娘「これ、すごい!」

メイド剣士「こんな簡単にマジックアイテム作れるんですか?!」

犬戦士「即席白衣は半日しか保たないからな!」

犬娘「十分だよ!」

メイド剣士「何か一万の敵にも勝てる気がしてきました」

虎娘「危なくなればあたしが助けます!」

白導師「いっといで!」


…………


三人は白衣をまとうと再び敵を蹴散らしていく

更にメイド剣士が全員に能力強化をかける離れ技を使う

押し寄せるハマミナトの邪兵たちをどんどん蹴散らしていく

しかし、邪兵たちはお互いを取り込み、力を増していく

犬娘「だんだん強くなるよ!」

メイド剣士「これ、流石に全員が一体になったりしたら……」

犬戦士「ぞっとした!」

三人は少しずつ疲れてもくる

犬戦士「しんどいな、これ!」

メイド剣士「味方に半端な兵を入れても駄目だし……」

そんな中、空から声が響く

緑竜「魔王様、今ご助力致します!」

突如空に巨大な緑の竜が現れた

犬娘「緑竜ちゃんなの?」

緑竜「これが我の真の姿です!」

緑竜は激しく燃えるブレスや、全てが凍てつくようなブレスで敵を薙払っていく

竜女「私も加勢致しましょう!」

竜女もまた、真の姿で現れ、神の杖に匹敵するような閃光のブレスを放った

メイド剣士「流石はドラゴン、大規模破壊の権化ですね!」

犬娘「私も大規模破壊したい~!」

メイド剣士「魔王様は手加減出来ないんだからやめてください!」

犬戦士「これはかなり楽々だな!」


しかし、一万と言う数はそう生易しくは無かった

やがて結合する敵は、闇を吐き出しはじめる

緑竜「くっ、厄介な!」

緑竜の羽にはいくらか傷が開き、血が雨のように降ってくる

犬娘「緑竜ちゃん、白導師ちゃんに治してもらって!」

緑竜「分かりました!」

ファンタジーでいつも疑問に思っちゃうけど、どんどん石を作ったりしたら星の質量も増えていくんだろうか

あ、犬戦士の活躍見たよ、うんうん、かっこ良かったって町娘が言ってた

竜女は目にも止まらない速度で左右に飛び、敵に狙いをつけさせない

犬娘「竜女ちゃん強いよ!」

犬娘の横に、三人の兵が現れる

女騎士長「お待たせいたしました!」

第一兵長「お力添えを!」

第二兵長「ドラゴンよりは弱いけどぉ~」

犬娘「ありがとう!」

女騎士長は二人に号令をかける

女騎士長「合体魔法、トライアングルレイソード!」

第一兵長「おおっ!」

第二兵長「はあ~い!」

三人が閃光を放つと三角の光の枠が生まれ、それらの中心に魔力が溜まっていく

女騎士長「はああっ!」

女騎士長の咆哮とともに、強烈な閃光が敵陣を襲う

敵の三分の一はその一撃で吹き飛んだ

犬戦士「世界は広いな、こんな技なかなかないぞ!」

メイド剣士「これぞ超級魔法!」

犬娘「これなら勝てる!」

女騎士長「すみません、今の技一度が限界です!」

メイド剣士「ですよね」

犬娘「後は任せて!」

白導師「深追いは禁物だ、戻れ!」

虎娘「皆、撤退ーっ!」

八人は砦の中に戻り、一旦体を休める事にした

女騎士長「敵はだいぶ怯んでるみたいですね」

犬娘「攻撃来ないね」

第一兵長「女拳士さんたちももうすぐ着くはずです」

メイド剣士「押してるのに勝てそうな気がしない……」

第二兵長「異常にタフだよねぇ~」

メイド剣士「あんな風に人間を弄んで……、黒衣の魔女……」

犬娘「許せないね」

竜女「あのような魔法は百年生きてますが初めて見ました」

緑竜「破壊神の記録には、闇の力の結合についての記述はありますが」

白導師「それは光の力もおんなじだよ、伝説の大僧侶様の記録ではね」

白導師「当時の破壊神戦争では全員の力が共鳴して、それは大規模な魔法力を発現したらしいよ」

勇者「二百年前の記述は世界中に残ってるね」

メイド剣士「勇者さん!」

ようやく戦場に勇者と女拳士が現れた

女拳士「お待たせ!」

戦力は十分に整った


…………


勇者「とりあえず、敵の砦を奪うこと、黒衣の魔女を発見することが最初の目的だな」

女拳士「しかし、厄介な敵だぞ」

白導師「さっきも言ったようにどんどん土も木も取り入れてるから、魔力を奪うか魔力供給の元を絶つ必要がある」

メイド剣士「倒したら少しは敵が引いたことを考えると、最後の一体まで倒しきれば良いのかも」

勇者「その間どんどん強くなるんだろ?」

女拳士「やっかいだ」

竜女「私が雑魚全て蹴散らすことはできますが」

犬娘「一対一なら負けないんだけどね~」

メイド剣士「そもそも最後の一体を倒したら勝ちって保証も無いですし」

勇者「まずは全部やっつけてみようか」

女拳士「やるしかないかね」

白導師「私の回復にも限度があるからね、あと二人も光の衣まとってね」

勇者「有り難い」

女拳士「ただの変態じゃないな」


…………


やがて石使いも訪れ、作戦を練り終わる頃には、再び砦への攻撃が始まっていた

石使い「壁を鉄壁で固める……、みんな頑張って」

女拳士「助かる」

メイド剣士「石使いさんってハマミナトに居ましたよね、黒衣の魔女について何か知りませんか?」

石使い「ハマミナト出身の錬金術師なら……、もう一人のせんぱいの可能性がある……」

メイド剣士「それ、後で詳しく聞かせて下さい」

石使い「うん、これ持って行って」

メイド剣士「白石?」

石使い「戦いにも、使える」

メイド剣士「有り難うございます!」

犬娘「いくよ!」

女拳士「おおっ!」

勇者「分かった!」

勇者「雷神剣、伸!」

勇者は長大な雷神剣で遠方の敵まで貫き、倒す

女拳士「うおおおっ!」

女拳士「爆裂拳ーっ!」

女拳士は固まる敵をどんどん砕いていく

メイド剣士「!」

メイド剣士「ある程度砕いた敵からはあの黒い炎が消えて倒せるようです!」

犬娘「勝てるかも!」

勇者「よし、飛ばしていくぞ!」

竜女「私が薙払いましょう!」

竜女は閃光のブレスを放つ!

次々に大規模の爆発が起こる

やがて敵の砦が視界に入る

メイド剣士「白石……、氷剣斬!」

殆ど魔力の消費も無く、多くの敵が凍りつき砕け散る

メイド剣士「これ便利!」

再び白石を剣に当て、魔力を僅かに込める

メイド剣士「氷剣斬!」

メイド剣士「氷剣斬ーんっ!」


女拳士「うはっ、すげえっ!」

犬娘「私もやりたいーっ!」

犬娘は涙目で一体一体敵を打ち砕いていく

勇者「魔王様、ファイト!」

女拳士「逆にあの強さで攻撃を一点に絞れるのがすごい」


犬娘「やってみるしかない!」

犬娘は脚に雷をまとった


犬娘「雷神脚~っ!」

犬娘「うわあああっ!」

犬娘は一気に跳び、直線上の敵を全て薙払った


メイド剣士「ぶっつけで……、本当天才!」

砕いた敵はどんどん固まっていく

倒しても無駄かと思えるほどのしつこさだ

しかし、竜女の閃光や犬娘の雷神脚、大技の連打で敵はどんどんと朽ちていく

やがて、敵の中に巨大な物が出てくる

その巨大な魔物は大量の闇を放ち、ついに竜女を捉える

竜女「くっ、一旦引きます!」

次々に放たれる闇、メイド剣士たちも引くしか無くなる

しかし、なんとか一体を撃破しようと、犬娘が走る!

犬娘「獣王拳!」

巨大な魔物は、一撃で崩れ去る

犬娘「脆いよ、こいつ!」

しかし


次の瞬間、犬娘は闇に貫かれた――

第四章「犬娘、戦争をする」 完


次回――

邪悪な閃光に、ついに捉えられる犬娘

そして、ハマミナトの街は闇に飲み込まれる

黒衣の魔女とは何者なのか――


最終章「犬娘、魔王になる」

闇との戦いは、最後の時へと向かう――

今日はここまでで明日更新します

最終章すごく長くなりそう

>>301
一応魔力物質はすぐに消えるのと、石自体レアなんでなかなかそういう事態にはならない、と言う設定です

世界は滅ぼせたりしますが

町娘さんにありがとう

乙、続きが楽しみだ

ちょっとだけですが更新します

>>309
ありがとう御座います

楽しみにしてくれる人がいるのは力になります

最終章「犬娘、魔王になる」

闇の力はあらゆる魔法防御を貫き、命を奪う悪魔の光である

犬娘はそれを受け無惨にも地面に転がった

しかし

犬娘「あいたたたっ!」

白導師の作り上げた光の衣は闇の閃光に打ち勝った

もちろん全てを遮ったわけではないが

犬娘「痛い痛い痛い!」

メイド剣士「大丈夫ですか、魔王様!」

犬娘「痛かったけどなんかちょっと回復した」

メイド剣士「これは……」

メイド剣士「そうか、光の衣はダメージを回復力に転化するアイテムなんだ!」

白導師「あちゃー、バレちゃった」

メイド剣士「あいつは脆い、ごり押しで倒しましょう!」

犬娘「分かった!」

白衣に守られた五人が前線に立つ

勇者「雷神剣、爆!」

勇者の爆発する雷神剣が巨大に固まった闇を打ち砕く

メイド剣士「氷剣斬、乱れ吹雪!」

メイド剣士は氷剣を何十と打ち出す

女拳士「爆裂脚!」

女拳士は強力な爆裂魔法で敵を薙ぎ倒す

犬娘「雷神脚ーっ!」

犬戦士「みんなすげーな、俺も負けてらんねー!」

犬戦士「秘技、雷神の鎚!」

巨大な魔物たちは次々と砕けていく

しかし、更に魔物たちは結合し、巨大に、邪悪になって行く

巨人を見下ろすような魔物たちは、自らの重さで砕けながら、徐々に進化を始めた

脆さが無くなり、ダメージを与え辛くなって行く

メイド剣士は何となく嫌な感覚を感じていた

もしこの魔物が知性を持って進化したら太刀打ち出来ないのではないだろうか?

メイド剣士「氷剣斬!」

攻撃の通じる内に倒す

そのために剣を振るう

勇者「これは……、何かおかしい」

勇者「倒す度に闇の力が集まっていってる……」

確かにここまで進軍してきた間、敵の闇の力は削っているはず

しかし、目の前の闇は明らかにそれを取り込んで膨らんでいる

女拳士「無駄なわけ……、無いよな?」

勇者「減っているはずだ!」

勇者「雷神剣、塊、射!」

勇者は目の前の巨大な闇を数体、一度に破壊する

闇は


やがて一つに固まっていった……


犬娘「は、破壊神?」

確かにそれは、伝承に残る破壊神そのものだった


その魔物が形を成した時、その傍らに黒衣の魔女が姿を現した


黒衣「……実験」

黒衣「第一段階は、成功……」

勇者「貴様!」

犬娘「今度は……」

犬娘「今度は逃がさない!」

黒衣「そだってる」

黒衣「今、倒されては、計画は無に帰す……」

黒衣「こいつと……、遊んで……、満足して……」


黒衣の魔女はそれだけ告げると姿を消した

犬娘「~~~っ!!」

無念である

犬娘は激しく咆哮し、今、初めて、己の力を知った


犬娘「うおおおおおおーーーーっ!」

闇が集い破壊神となるなら

光が集えばなんとなるか

犬娘は今、その身を持ってそれを現した

犬娘「うわあああああああああっ!!」

犬娘は自身が閃光になったように、破壊神を貫き、破砕した

メイド剣士「な、……なに……、あれは……」

勇者「これは……光の力の正体……?!」

女拳士「くっ、これだけのエネルギー、あんな小さな魔王様が持ってるのか!?」

勇者「いや、相当に負担がかかってるはずだ」

勇者「止めなければ、魔王様が死んでしまうかも知れない……!」

メイド剣士「……!」

メイド剣士「いやあ!」

メイド剣士「魔王様ぁーっ!」


犬娘はたった一人で破壊神を砕ききると、そのまま倒れた

そしてもはや目覚めないのではないかと思うほど、深い眠りについた




女神「光の力ってのはやっかいなもんでね」


女神「ん~、分かってる」


女神「結局それは生物の生存欲求なんだよ」


女神「光の力は私達の希望、でも、そりゃ奇麗事なわけないんだわ」


女神「そう思わない?」

魔王「お前は突然百年ぶりに現れて何を言ってるんだ」

女神「分かってるって、悪い、やっぱり女神になる前の性格が抜けてないんだわ」

女神「でも女神って奴は不便なもので、世界全部見てるんだよね」

魔王「俺にしても鬼畜だと思うぞ、それは」

女神「女神なんだからしゃーない。」

魔王「なんとなく、今の喋り方は昔のお前っぽかったな」

魔王「大魔法使いとか笑えると思わね?」

女神「確かに」

女神「私はただの魔法使い……」

女神「でも女神になるなら先代のクソより私の方がよくね?」

魔王「ああ、それは間違いないわ」

魔王「先代女神ってどうなるんだ?」

女神「旅立つだけさ、それだけだよ」

女神「それより、けっこうな面倒事抱えてるじゃないの」

魔王「まあな」

魔王「だが、大丈夫だ」

魔王「あいつ等は、光にも闇にも、負けやしねーよ」

魔王「俺に勝つ気で挑んできた奴なんて、何年ぶりやら」

女神「そりゃ、逸材だね~」

魔王「おう、任せておける」

魔王「久し振りに見たよ、勇者って奴を」

女神「それは、勇者が必要な危機が迫っているって事だけどね~」

魔王「ん~」


魔王「そうだ、俺も体が鈍ってるから、ちょっと俺と打ち合いしてみないか?」

女神「世界を七度滅ぼしそうだから、やめとく」

魔王「だよな~」

女神「君が封印されたらまた会いに行くよ」

魔王「縁起でもないな!」


…………


破壊神は犬娘一人に打ち倒された

しかし、その代償として、犬娘は目を覚ますことが出来なかった

メイド剣士は犬娘にすがりひたすら涙し

勇者や女拳士も茫然としていた

外では再び雑兵が押し寄せ、犬戦士はそれを打ち倒し

そのまま悪戯に時間が過ぎるのかと思われた


その時、彼女が帰ってきた

術師「……魔王様……」

メイド剣士「術師さん!」

メイド剣士は術師を認めると、すがりついた


メイド剣士「魔王様を、魔王様を助けて!」

術師が予め登録しておいた、命の木霊

それはこの危機を敏感に察知していた

術師は作りたての白衣を纏い、帰ってきた


術師「何をしてますの?」

術師はメイド剣士を離した

術師「あなたが魔王様を守ってくれると思ったから私はキタハマを離れたのに……」

メイド剣士「うう……」


メイド剣士は泣いた


勇者「どうしようも無かった、彼女に罪はない」

女拳士「もしメイドちゃんが罪を犯したなら、アタシも同罪だな」

術師には分かっていた

結局は自分も、無力であり、同罪なのだ

術師「……ごめんなさい、メイドさん」

術師「私らしくもない……」

術師「ごめんなさい、ごめんなさいね」

術師は、メイド剣士を、強く抱きしめた

犬娘は深い眠りに落ちて、目を覚まさない


勇者「記述が残ってる、これは大魔法使い様が落ちた魔法の眠りに似ている」

女拳士「あの、絵本で良くある奴だね」

白導師「騎士様のキスで目を覚ます奴ね、よし、キスしまくってみるか」

メイド剣士「氷剣斬」

白導師「ぐはあっ」

術師「ごめんなさい、メイドさん」

メイド剣士「……いえ」

メイド剣士「私が無力だったのは、その通りだもの……」

メイド剣士「魔王様……」

メイド剣士「いったいどうなってしまったって言うの……」

術師「魔法の眠りには違いないでしょう……、しかし」

術師「私はこの状態を癒す方法を知りません……」

勇者「魔力過多症で障害を残したケースも聞いたことがある……」

勇者「予断は許さないはずだ」

女拳士「だからって、どうするんだよ」


メイド剣士「表で犬戦士さんたちが戦ってくれてる……」

メイド剣士「私も助力してきます」

女拳士「私も行くよ」

術師「必要ありません」


術師「私、怒っています……」


…………


その戦いは記録に残るどんな戦よりも鮮やかであったと記されるべきだろう


術師は懐から、銀の石を取り出した


術師「銀弾の雨」

術師は低魔力で数百発の銀の弾丸を生み出した

砦に取り付こうとしていた邪なる物たちは蹴散らされた


しかし、砕いたそれらはいくつかの塊を築いた

術師「追跡火槍!」

術師は赤銅色の石を取り出し、燃え盛る火の槍を十数本生み出した

それらは敵の匂いを追い、固まりだした数百の闇を焼き尽くした


術師「全て、焼き尽くす!」

術師は燃え盛る銀の槍を、数本呼び出した

術師の怒りは、街道であったものを溶岩の沼に変えた……

たった一人で闇を払うと、術師は帰ってきた

女拳士「半端ないね……!」


メイド剣士は犬娘にすがるような体制で眠ったように動かない

術師は、それを遠目にながめた

メイド剣士は悲しかった

ただ彼女を守れなかったことが

術師はただ悔しかった

自分が何も出来ないことが

女拳士も勇者も、ただ自分の無力を感じている

そんな折


白導師「……ショック療法とかどうだろう」

あからさまに怪しい人物が怪しい提案をした

しかし、全員若干正気を失っていたことは否めまい

止めなかった

白導師「はい、犬娘ちゃん、いつまでも寝てたら裸に剥いちゃうよ~?」

メイド剣士「真空斬」

白導師「ちょっ、治療、治療!」

白導師「体中ペロペロしちゃうよ~?」

術師「神の杖」

白導師「ちょっ、こんな狭い部屋溶岩地帯にする気か?!」

白導師「魔力を集めて私をぶっ倒さないと、誰も助けてくれないよ~?」


勇者「そうか、魔王様の意識に任せなければ駄目なんだ」

勇者「過剰な魔力を取り込んだ状態から回復するには、それを自分で制御するしかない」

勇者の考えは当たっていた


白導師「ほうら、早く起きなかったら×××して、○○○して、止めに△△△△!!」

犬娘は、ゆっくり魔力の渦をその身に取り込んだ

犬娘「雷神脚」

白導師「やめて、必殺スキルはやめて」

犬娘は


目を覚ました!


メイド剣士「魔王様っ!」

メイド剣士は一番に犬娘に取り付き、もふもふし倒した

術師「ちょ、ずるいですわ!」

術師も負けずともふもふした

女拳士「アタシもまぜろー!」

女拳士ももふもふした

勇者「俺だけ仲間外れはいやっ」

勇者ももふもふした


五人はお互いに、お互いの温もりを、味わった


…………


犬娘「でも、結局あいつ逃がしちゃったね」

メイド剣士「魔王様が無事だったんだから良かったですよ」

術師「私もそう思いますわ」

術師「でも、力が足りないとしても、今しか黒衣の魔女を倒すチャンスは無い気がします」

勇者「ハマミナトに攻め入るのか」

女拳士「賛成だね」

女拳士「いい加減、終わらせてやろうぜ!」

勇者「奴は正体不明だが」

勇者「きっと勝てるのは、今しかないと言うのは、感じる」

術師「奴の研究が形をなす前に、止める」

犬娘たちはハマミナトに攻め入ることを決めた


まず、ハマミナト側の砦で一晩休憩を取る

術師と白導師は、犬娘の体を綿密に調べた

白導師「私は蘇生系や回復系の知識には一応自信があるんだけど」

白導師「回復魔法無しでこれだけ傷が回復してるのは異常な魔力のせいだとは思う」

術師「魔力過多の状態が変わってないと言うことですわね」

白導師「うん、でもコントロールが少し及んでないだけだから」

術師「とりあえず身体的な問題は無さそうですね」

犬娘「ごめんね……」

犬娘「私、みんなに、迷惑かけてるよね……」

術師は犬娘の頬にキスした

犬娘「はうあ!?」


術師「魔王様……、まだ分かりませんの?」

術師「私達は魔王様のために働いてるんですよ?」

術師「魔王様が生き残るなら、苦労などあるものですか」

白導師「ええのう、レズはええのう」

術師「銀弾、銀弾」

白導師「痛い、痛い」

術師「そんな邪な物じゃありませんからね!」

犬娘「えへへ」

頬を染めてにっこり笑う犬娘は、実に可愛い

白導師「おお……、生きてて良かった」

術師「えい、えい」

白導師「やめて、銀弾やめて」

メイド剣士「変態、死ねばいい」

白導師「銀鈴の真似やめて」

勇者「敵がいつ来るか分からないんだから……」

女拳士「でも賑やかなのは良いな」

勇者「それはそうだけどね」

白導師「とりあえずバカ犬や竜さんや騎士さんたちが見張りしてくれるから、ゆっくり休むんだね」

術師「ハマミナトの街……、とても大きな街です」

勇者「分かるよ、人の生きている空間を焼け野原にしたくないよね」

犬娘「出来るだけ早く、みんなが逃げられるようにしないと」

メイド剣士「派手に攻めましょうか」

白導師「住民の回復は任せといて」

勇者「流石に魔力保たなそうだけど」

白導師「魔力補助の石がある」

術師「あ、それ研究してる所でした」

白導師「あげないよ」

術師「欲しいですわ」

白導師「パンツ」

術師「は?」

白導師「メイドちゃんのパンツ欲しい」

術師「燃え尽きろ」

メイド剣士「斬りますよ?」

白導師「すみません」

白導師「まあレア中のレアだから、流石にあげられないな」

術師「ころしてでもうばいとる」

白導師「こわい」

術師「冗談ですわ」

翌朝

山を降り、ハマミナトにつくのは昼過ぎ、戦闘があれば夜になるだろうか

途中で野営することも考えねばならない

後ろからコトー軍が食料を送ってくれる

キタハマの小さな大軍勢は十分な食事を取ると、いよいよハマミナトに攻め入る事にした

外には不気味なほど敵兵の気配がない


半日進み街が見える所まで来ると、敵の陣営が見えてきた

女拳士「こっちの戦線が伸びるのを狙った感じだな」

竜女「飛竜が輸送しますからそんなに長距離では無いですがね」

白導師「敵陣の向こうに転送で飛んでびっくりさせてやりたい」

術師「戦力をばらけさせるのも味方同士の打ち合いになってしまうのも避けたいですわ」

術師「それより、ここに砦を築きましょう」

メイド剣士「今からですか?」

竜女「考えは分かった、緑竜、木を刈って骨だけの砦を作れ」

石使い「そしてここに鉄石がある、せんぱいの一夜城の出来上がり」

女拳士「便利すぎるだろ、石」

石使い「もう昔とは戦争のスタイルも変わっていると言うこと……」

術師「そろそろ我々の開戦を聞きつけ、もう一つの軍隊が動きますわ」

女拳士「へ?」

女拳士「うちに援軍なんて来るの?」

勇者「いるだろう、とっておきの援軍が」

女拳士「あ」


…………


魔人王「敵の性質が厄介だな」

銀鈴「一般兵に戦わせると、取り込まれる可能性がある……、死ぬよりヤバい」

牧場娘「まあようするに、私らが昼寝の間も惜しんで戦うしかないね」

魔人王「兵たちには後方支援を任せるか」

魔人王「白衣を持て、行くぞ」

牧場娘「久しぶりに魔人王・本気モードが見れるのかい?」

魔人王「ああ、ハマミナトは無くなるかも知れないな……、移民を受け入れる準備は出来ているか?」

銀鈴「みんな抜かりないよう、死ぬほど頑張ってる」

牧場娘「昼寝どころか夜も眠れなかったよ」

牧場娘は大きなあくびをした

これから戦場に向かうとは思えない暢気さだ

牧場娘「ハマミナトの大型船をいくつか買い上げて、キタハマ経由でもカイオウ国経由でも避難民を運べるよ」

牧場娘「昼寝してる間に移民完了さ」

銀鈴「移民に例の闇が使われたら死ぬほどマズい、黒衣が来るかも知れないからうちから鉱山のおじさんも果樹園のおばさんも畑のにいさんもそちらに行ってもらう」

魔人王「総力戦だな」

牧場娘「カイオウ島史上かつてない大戦争だよ」

魔人王「勝つのは人間の軍だ、あいつらもいる」

牧場娘「負けるはずがないね」


銀鈴「伝令をお願い、牧場ちゃん、昼寝無しで」

牧場娘「はいはい、死ぬほど迅速にね」


…………


牧場娘は飛行魔法で砦が完成する前に駆けつけた

牧場娘「うちも全力全軍投入だよ」

術師「ありがとう御座います」

牧場娘「別にあんたらの戦争じゃないだろ」

牧場娘「昼寝を愛する全人類の戦いさ」

術師「勝ったら砂浜にビーチパラソルを出して存分に昼寝しましょう」

牧場娘「話が分かるねえ」

牧場娘「それでだ、例の闇の特性について知ってることがあれば全部教えてくれ」

術師「耳が早いですね、こちらも知らせておきたかった所です」


…………


牧場娘「ふむふむ、周りの物を取り込んで進化する」

牧場娘「倒してもまとまっていく」

牧場娘「こちらに感染はしない、光の衣でダメージを軽減できる」

メイド剣士「そんな所です」

牧場娘「やっぱり持つべき物は心強い同盟国だね!」


牧場娘「しかし、なんか破壊神が弱いのと、その後も闇の軍隊が現れてるのが気持ち悪い」

術師「気持ち悪い?」

牧場娘「技術の進歩があると言ってもねえ……」

牧場娘「伝説に残る大破壊をした破壊神が、そんなに弱いかねえ」

メイド剣士「確かに……」

牧場娘「何体か出た、そいつらは蹴散らした、じゃあ闇はどこに消えた?」

メイド剣士「ちょっと待って下さい、破壊神もどきは砕けば消えていきました」

牧場娘「全部綺麗に消えたとでも?」

術師「本質的な部分は黒衣の魔女の元に逃れているのかも……」

牧場娘「危険だね」

牧場娘「うちの魔人なら勝てると信じてるけど、やっぱり街は無くなるかもね」

術師「……口惜しい」

術師「黒衣の魔女を追い詰めているつもりが、手のひらで遊ばれているような……」

犬娘「でも、引くことは出来ない」

犬娘「必ず、ハマミナトの闇を晴らす!」

牧場娘「キタハマ王さんは立派に王さんやってるね」

牧場娘「未来の昼寝たっぷりできる平和のために、戦うべ!」


…………


黒衣「私の……可愛いペット……たち……」

黒衣「明日は……たっぷりご飯を食べられる……よ……」

黒衣「憧れの……大魔法使い様……の……ように……」


黒衣「最後の……実験を……開……始……する」

今回はここまでです
次回更新も暫く時間をいただきます

長いからやたら伏線かましたりキャラを増やしたりしたので、まとめるのが大変なのでご了承下さい

日本語のミスはいつでもご指摘ください

ではまた来週か再来週

二日考えたけど気の効いたレスが浮かばなかったので、乙

>>327
ありがとうございます

意外と短くまとまったので一気に更新します

かなりあっさり終わったので、各キャラのショートストーリー集を予定しています

もし気になるキャラがいたら言って下さいね

銀騎士は自陣に広がる不安感を押さえきれなくなっていた

先に送った一万を超える大軍隊がことごとく消え失せたのだ

原因は誰にも分からなかったが、銀騎士だけは知っていた


銀騎士「……やりやがったな……」

銀騎士「悪魔め!!」

しかし、もはや後に引けるはずもない

銀騎士は最後の戦いの時に望んでいた


そこに、黒衣の魔女が現れた

銀騎士「……なんのつもりだ……!」


黒衣「くっくっくっ……、くふっ」

黒衣「あまりに実験が上手く行きすぎて……、笑いが……、止まらない」

黒衣「おっと、勘違い、しない」

銀騎士「……?」

黒衣「兵を殺したのは……、キタハマの魔王たち……」

黒衣「……あなたが恨むべきは……、キタハマの魔王……」

銀騎士にはもう全て分かっていた

初めから自分は利用されていたのだ、この魔女に

キタハマは悪くない事も分かっていた

自分は利用されるしかなかったのだ

弱かったからだ


銀騎士はハマミナトを守るための策は既に打っていた

心に残るは、この魔女に一矢を報いれぬ事……


銀騎士「貴様の実験とは、なんだ?」

黒衣「ん」


黒衣「あはは……、興味……、あるの?」

銀騎士「貴様は何故人の命をなんとも思わんのだ!」

黒衣「人の命?」

黒衣「かみさまのおもちゃ」

黒衣「かみさまのひまつぶし?」

黒衣「私は……、女神になるの……、だから……、それは……、その程度の価値しか……、……私には無い……」

銀騎士「何故お前はそこまで狂った!」

黒衣「……? ……狂ってない……、よ……?」

黒衣「狂って、ない」

黒衣「私は、……女神に……、なるの」

黒衣「……決まって……いる……、ことなのよ」


銀騎士は、なぜこの黒衣の魔女に服従していたのか、悟った

この魔女はあまりに純粋なのだ

純粋故に、およそ小さな事に、激しい苦痛を感じ、純粋故に、容易に負の感情に染まった


そのまま、突き進んでしまったのだ

誰も止める者もなく

途端に銀騎士は、この黒衣の魔女が哀れになってしまった

銀騎士「全てはお前の思う通りなのだろう」

銀騎士「だが、俺は言わせてもらう」


銀騎士「お前は……、間違っている」

黒衣「実験に……、失敗はつきもの」


銀騎士「そう言う事ではない」

黒衣「……割と、興味ある」

銀騎士「取り返しのつかない事が、この世にはあるのだ!」

銀騎士の言葉に、黒衣の魔女は堰を切ったように笑い出した


黒衣「あはっ、あははははは!!」


黒衣「それを知らないのは、お前たちだろう!!」


黒衣「無知で、馬鹿で、配慮もなく、思慮もなく、それが不幸を招く予感も感じない!」

黒衣「全ての者が愚かなのだ! それが真理としても!」

黒衣「誰もそれに抗おうとしない! 神に抵抗しない!」

黒衣「お前たちは馬鹿だ!」


銀騎士は悲しくなった

結局、自分には黒衣の魔女に上回る知恵もないのだ

そして、悲しい間違いをしている彼女を止めることが出来ない

銀騎士「世界は理不尽なものだ……、だから努力するんだろう……」

黒衣「違うね、それは力の無い者の発想」

黒衣「私は……、神になる……!」

銀騎士「無理だ……」

銀騎士は力なく呟くしか、出来なかった

犬娘たちは砦の上に立ち、銀騎士の本隊を眺めていた

これから人間の軍隊を粉砕し、敵国を力で支配する

逡巡はずっとある

闇に犯され、闇に取り込まれたとは言え、犬娘たちは人の軍隊を薙払ってきたのだ

今向かい合うは人の群、少しの間ではあったが、敵も味方も硬直した

殺し合いが、始まる

そこに一手を投げかけた者があった


魔人王「超級爆裂魔法」

銀騎士はただ光る空を見ていた

犬娘たちは唖然とするしかなかった


魔人王には一つの計算があった

闇の力とは人間の負の感情である

ならば、その負の感情を抱かせないことが最善の策


すなわち


魔人王「一撃で蹂躙する!」


魔人王は空の全てを覆うような激しい力の奔流を、そのまま一万の銀騎士本陣に叩きつけた!


銀騎士「これで……、終わりか……?」

銀騎士「……黒衣の魔女よ……、お前の心に巣くう闇を……、晴らせていれば……!」


そんな中、術師が思ったのは自分達に負担を負わせまいとする魔人王の優しさと

あ、あの時魔人王は自分の城を壊したくないから本気を出さなかったんだな、と言うことだった

戦争は終わってしまった


かに、思えた


魔人王「さっさと民を避難させろ!」

牧場娘「みんなやってるわ!」

そう、このタイミングで黒衣の魔女が仕掛けてこない事など、有り得ない


まず、闇は銀騎士に命をもたらした


人として清くあろうとした、人並みに生きた銀騎士の命などではない

銀騎士は、まさに闇の騎士となった

銀騎士「ぎごおおおあああ!」

破壊神に比べれば小さな体躯である

しかし、それが破壊神を上回る力を持って、放電を始めた

銀騎士「ぐがが!」

銀騎士「流れ込んでくる……、黒衣の魔女の悲しみが……」

銀騎士「小さな命を、人はいびり殺したのだ」

銀騎士「生命とは、邪悪である……!」

銀騎士「粛正せねばならない!」


銀騎士は空を暗黒に染め、襲いかかってくる!

犬娘「あんなのどうやって戦うの~~!?」

術師「恐れるに足りませんわ」

銀騎士が放った恐るべき闇の雲を、


術師の封印結界が防ぐ!


勇者「完成していたのかっ!」


先の魔人王の力に並ぶ闇の力を術師は防ぎきる!

術師「何回もは使えません、さっさと攻めてくださいな!」

女拳士「おう、分かった!」

女拳士は坂道を一気に走り下る


女拳士「能力強化二段、爆裂拳!」

女拳士と銀騎士は激しく打ち合うが、武器を持つ銀騎士に対し明らかに女拳士は不利である

そこに突っ込んできた魔人王は明らかに現状最強であった


魔人王「潰れろ!」

魔人王は空を覆うような爆裂の雲を

拳ほどに圧縮し、叩きつけた!


牧場娘「出たね、反則魔法!」

銀騎士の頭が無くなった


しかし、闇の固まりがその程度で力を失うはずもない

銀騎士は建物の上に退き、瞬く間に頭を再生させた

魔人王「ちっ、芯を外したか!」

牧場娘「なまったのも仕方ないだろ、何年本気出してないんだよ!」

なまった上で現状最強だった

犬娘たちは一瞬呆然としてしまった

しかし、すぐに敵に向かった


ただ、敵は一人であり、明らかに犬娘たちは人数が多すぎた

女拳士と勇者、犬娘、犬戦士と魔人王が前衛として、残る後衛は

術師、白導師、銀鈴、彼女達を守るメイド剣士、更に牧場娘である

そして場を支配したのは、牧場娘であった

牧場娘「私がいるのに戦いになると思うなよ?」

銀騎士が放つ技はだんだんと大きくなっていく

その全ては闇の光を纏うものだ

しかし牧場娘の空間を断絶する魔法により、犬娘たちにも魔人王たちにも、その攻撃は届かない

闇の閃光が空を覆っていく

銀騎士「ぐぎゃああああああ!!」

銀騎士は一回り大きくなった

銀騎士「ばぼどだどー!」

銀騎士「ずべぎべを゛を゛を゛」

最早銀騎士に人格は無かった


犬娘「悲しい……、すごく悲しい……」

犬娘「でも、私は、あなたを倒さなければならない……」

犬娘「倒さなければならないんだ!」

閃光と雷撃を纏う犬娘の拳は、闇の銀騎士を貫いた

しかし

それで終わったとは誰も思っていなかった

今まで砕いた闇が集い、より強大な破壊神が姿を表した

破壊神「ぎごおおおおっ」

魔人王「ふん、破壊神より魔王の方が強いとは……」

魔人王の言葉は全てを物語っている


魔人王は再び、爆裂の雲を放った

破壊神「ぎぐろろろおおおおおっ」

悲しき銀騎士の成りの果てである破壊神をどんどんと打ち砕いていく

だが、この破壊神は人の意志が入ったもの

それはあらゆる攻撃に対応し、更に変貌を遂げていく

元あった銀騎士のような面影の竜のような形に変化した

術師はなんとなく悟った

これはまだ黒衣の魔女の実験の範疇なのだ

術師「一片も残してはいけません、打ち砕いて下さい!」

メイド剣士「全員に能力強化をかけます、あいつを倒しましょう!」

勇者「任せろ!」

勇者「雷神剣、螺旋!」

勇者は正に勇者として、破壊神に強烈な打撃を浴びせる

女拳士「爆裂拳、連打!」

犬娘「雷神脚~!」

どんどんと追撃をかける

犬戦士「唸れ、雷神の鎚、おおおおおっ!」

犬戦士の雷撃を纏うハンマーによる一撃は、闇の竜を傾かせるほどの威力を発揮する

魔人王「なかなかにタフなようだな」

魔人王は雷雲を呼び出し、集める

巨大なプラズマの玉が圧縮され、拳大になる

白導師「やっぱあいつは半端ないわ」

魔人王は竜の体をえぐり取る一撃を放った

銀鈴「防御力を下げる……、死ね」


牧場娘「これだけの面子が揃ったら、破壊神も的でしか無いね、昼寝してても終わりそうだ!」

しかし、闇の竜は更に変化していく

途轍もない耐久力、いや、再生力こそがこの破壊神の脅威であろう

闇の竜「ぐろろろろ!」

闇の竜は全身についた砲身から、強力な闇の閃光を放つ

術師「封印結界……!」

術師「きゃああああっ!」

術師の封印結界より若干早く敵の攻撃が着弾する

牧場娘「ちっ、やるじゃないか!」

牧場娘も常に魔法を放てるわけではない

ほんの一瞬の隙を突かれた

牧場娘「お返しだよ!」

牧場娘が手をかざすと、闇の竜の体が朽ちていく

恐らく見えない魔法を何発も放っているのだろう

恐るべき威力である

銀鈴「牧場のお姉ちゃん、魔力凄いね」

銀鈴は更に闇の竜の防御力を下げ、更に幻覚を仕掛ける

銀鈴「今なら殺せるはず……、止めを!」


メイド剣士「魔王様!」

犬娘「うん!」

勇者「行くぞ、合体魔法!」

女拳士「獣魔王!」

術師「竜人鱗!」

犬娘「行くぞお~~~!」


犬娘「獣魔王竜鱗装、雷雲のダウンバースト!」

巨大な雷雲を呼び出した犬娘は、雷雲をまとめ雷撃と、城をも潰す圧縮された風とを纏い、闇の竜に突き刺さる!


犬娘「砕けろおおおおっ!」

闇の竜「ぐろろろろおおおおおあっ!」

激しい閃光と爆音の末に、闇の竜は遂に潰えて行く――


女拳士「ふうっ」

勇者「終わったか?」

術師「今回は終わったようですわね」

メイド剣士「流石魔王様です」

魔人王「今の技はかなりのものだったな」

牧場娘「あれは流石に私もヤバい」

白導師「そりゃすごいね」

銀鈴「キタハマはみんな死ぬほど強いね」

犬戦士「また何にも出来なかったわ」


術師「油断しては駄目ですわ」

メイド剣士「黒衣の魔女はどこに……」

魔人王「民は逃がせたか?」

牧場娘「畑の兄さんたちにドラゴンさんたちが合流してやってるはず、抜かりないだろ」


そこにゆったりと


闇が歩いてくる


黒衣「お上手ね……、皆さん……、戦いが……」

黒衣の魔女は何事かを呟く


黒衣「うさちゃん……、死んじゃった」

黒衣「いじめられて……、病気になって……」

黒衣「死んじゃった……」


黒衣「惨い……」

黒衣「人はなんて惨い……」


術師「あなたにそのような感情があるとは意外ですわ」

魔人王「貴様を倒せば終わりか」

犬娘「もう逃がさないよ!」


黒衣「実験は……」

黒衣「なんと言うか……」

黒衣「実験は、成功した」


白導師「まさか!」

牧場娘「これらの実験は……、そうか!」

術師「自らが神となるために……」

魔人王「破壊神だろうがな」


黒衣「違う……」

黒衣「多くの人々の悲しみや苦しみを受け、それをもたらさぬために全てを破壊する」

黒衣「私こそが、真の女神……!」


黒衣の魔女の足が整備された街道と癒着している

術師「これは……、まずい!」

牧場娘「総力攻撃を!」

犬娘たちが走る

しかし対象が一人の人間であるため、銀騎士に対した時のように射線が重なり、碌に攻撃出来ない

更に闇の衣はまるで攻撃を通さない


勇者「くそっ!」

黒衣「うはははははっ……!」

黒衣の魔女の足元が盛り上がると、街を巻き込み巨大な固まりとなっていく

未だかつて見たことがない規模の大魔法により、街を飲み込んだ異形の破壊神が、更に大規模に街を飲み込んで巨大化していく


黒衣「さあ……、あなた達……、は……、私のペットと……、遊んでなさい……!」

黒衣の魔女が化した破壊神は二体の破壊神を呼び出した

素早く動く竜や狼を合わせたような破壊神達は闇を纏い体当たりしてくる

女拳士「ぐおおっ」

弾かれただけでも相当なダメージが有るようだ

白衣を纏っていなければかなり危険な事になっていただろう

メイド剣士「風と雪、雹嵐剣!」

メイド剣士は即席の新技で敵を撃つ

勇者「一体ずつ倒すぞ!」

勇者「雷神剣、速射!」

勇者は細かく雷神剣を連打する

術師は追跡火槍を作り上げ、破壊神を貫き、打ち砕いていく

犬娘「まず一体倒すよ、雷神脚ーっ!」

走る破壊神も犬娘のスピードを避けられない

一体の破壊神が砕け散る

魔人王「もう一体は任せろ、はああっ!」

魔人王は巨大な爆裂の雲に雷を纏わせ、圧縮し、人の頭ほどの大きさにする

更に左手に特大の火球を纏う

魔人王「砕け散れ!」

術師「なんて魔力コントロール……!」

牧場娘「あれでも魔導師だからね!」

牧場娘も見えない魔法で敵を足止めする

一体は超級魔法三つの合わせ技で消し飛んだ

メイド剣士「あの人一人で勝ってしまいそう……」

犬娘「私たちも行くよ!」

黒衣「うふふ……、ご苦労様」

黒衣の破壊神は既に街全てに触手を伸ばし、根を張る巨大な木のようだ

空を覆うような闇が、犬娘たちに降ってくる

術師「封印結界!」

防御するも結界の脇をすり抜けた闇が、激しい爆風と熱をもたらす

女拳士「ちっ、たらたらやってたら戦場が火口の中みたいになっちまう!」

女拳士「竜人鱗!」

女拳士は竜人鱗を身に纏い黒衣の足元の脆そうな部分を蹴りつける

しかし

女拳士「うおおおっ!」

逆に女拳士がダメージを受けた

術師「全身が闇の衣のようになってる……!」

メイド剣士「遠距離から狙撃してみます!」

メイド剣士は雹嵐剣を二回、三回と撃つ

少しダメージは通るが、回復してしまう

牧場娘「やっかいだね、銀鈴、なんとかならない?」

銀鈴「やってみる」

銀鈴は敵の防御力を下げつつ、闇の部分に光をまとわらせてみる

銀鈴「中和できるか分からない……、攻撃して」

犬戦士「おっしゃ、雷神の鎚!」

魔人王「強化してやろう」

魔人王は犬戦士の鎚に更に魔法を帯びさせ、巨大な雷撃の鎚を作らせる

犬戦士「よっしゃ、雷神メガトンハンマー!!」

犬戦士の強烈な一撃で黒衣の破壊神から出ている根のような足を一本潰す

黒衣「痛い……、痛い……」

黒衣の破壊神は足を復元させると、その先の建物を巻き込み、取り込んだ

魔人王「きりがないな、先に街を潰すか」


術師「……悔しいですわ」

術師「これだけの街を作ることがどれほど大変か、私たちは学んできました」

犬娘「悔しいね」

犬娘「私はあの魔女を、許さない!」


魔人王は巨大な爆裂の雲を圧縮

巨大な爆裂の雲を圧縮

巨大な爆裂の雲を圧縮

時間をかけ、数十もそれを作り上げていく

術師「……あはは」

もう笑うしかない大魔力である

勇者「半端じゃないな、俺も雷神剣で根を一掃していく!」

勇者の魔力も凄まじい

いや、消費を上手く抑えているのだろう

女拳士「アタシらは本体を叩いて行こう!」

銀鈴「だいぶ中和出来てるはず……」

犬娘「行くよ~!」

女拳士「爆裂」

犬娘「閃光」

メイド剣士「氷撃」

術師「銀槍」

犬娘「四重奏!」

女拳士「おおおっ!」

メイド剣士「はああっ!」

術師「はいっ!」

犬娘「う~、わおおおおおんっ!」

四人の魔法がそれぞれ閃光となり、渦を巻いて破壊神本体を貫く!

黒衣「うぎゃあああっ!」

黒衣の破壊神は全方位に闇を放ち攻撃しつつ、打ち砕かれた部分を修復していく

魔人王「くっ、回復を間に合わせるな!」

牧場娘「分かった!」

牧場娘の見えない魔法は激しい風を巻き込んで軌道を見せてしまう程の威力を発揮した

牧場娘「あはは、見えない意味ないね!」

牧場娘は見えない魔法を解除し、巨大な火炎の渦を放つ

傷を焼き付けて更に溶かしていく

銀鈴「魔力の流れを遮ってみる……」

白導師「お、銀鈴も必殺技かね」

魔人王「お前は何をやっていた」


白導師「仕事だよ、ほれ」

街のあちこちに張り巡らせられていた闇の根が、根元で断たれている

術師「あ、壊した根の全部を結界石で遮断してたんですの?」

メイド剣士「いつの間にそんな準備を……」

白導師「パンツ漁ってる時に」

メイド剣士は味方を刺した

白導師「痛い」


白導師「兎に角、さっさとあいつをあの高台から引きずりおろすよ!」

銀鈴「中和の効果が切れたら結界石も多分貫かれる……、早めにやっつけたい」


術師「分かりました、勇者さん、あれをやってみましょう!」

勇者「ああ、全員こっちへ!」

勇者はより魔力を集めるためにメイド剣士の剣に持ち替える

勇者「すまないね」

メイド剣士「構いません」

術師「全員の魔力を集めますわよ!」

魔人王「俺も貸そう」

牧場娘「私もね」

銀鈴「私も」

白導師「やっと活躍できる」

犬戦士「しとめるぞ」

犬娘「行くよ!」

メイド剣士「行きましょう」

女拳士「よっしゃ」

勇者「全員の魔力をまとめあげ、今必殺の!」

勇者「破壊神殺、虹色の雷神剣!!」

二度とはないだろう全員の合成魔法剣は、黒衣の破壊神を根元から順番に破砕していく


犬娘「ううううう……っ!」


犬娘「届けーーー!」


犬娘から吹き出す光の力が、雷神剣を強化する!


あらゆる抵抗と変化を試みる闇

しかし、光はそれを凌駕した


悲しみにも似た咆哮の末、黒衣の破壊神は、


ゆっくりと砕けていった……


…………


やがて全てが焼き尽くされると、次第に視界も開けてきた


空には見知らぬ女性が浮かんでいた


女神「お疲れー」

術師「新手……ですの?」

女神「女神です、攻撃しないでね」

犬娘「女神様!?」


女神「みんなを労っておこうと思ってね」

女神「それと、可哀想な子の最後を看取りに」

女神「ひどい有様だね~」

女神「まあ本当は誰かに味方することはしないんだけど、破壊神とは因縁があってね」

女神「闇をはらし、あなた達に祝福を」


女神が優しい光を放つと、犬娘たちの怪我が癒え、魔力も満ちてくる


街を燃やしていた闇の炎も消えていく


女神「よっしゃ、帰るか」


術師「ありがとうございます、大魔法使い様」

女神「その呼び名やめて、こっ恥ずかしい」

犬娘「女神様に会えるなんて、勇者みたいだね~!」

勇者「あはは……、俺もやっと本物の勇者になれたのかな?」

女神「みんなが勇者だよ、強く生きるもの、その心の光こそ光の力、勇者の証」

女神「私はいつも皆を見ているよ、またね」


女神はそれだけ告げると消えていった


女拳士「……腹減ったな」

勇者「俺も」

犬娘「帰ろう!」

術師「ええ」

メイド剣士「美味しいものいっぱい食べるぞ~!」

魔人王「よし、肉と酒を持って行く、祭りの準備をしていてくれ」

犬娘「やった」

白導師「キタハマで最後の一仕事してくるか」

犬戦士「あー、もうお別れか」

メイド剣士「またいつでも会えますよ」

牧場娘「飯食って昼寝だー!」

犬娘「食べるよ~!」

銀鈴「私も死ぬほど食べたい気分」



…………


犬娘たちは帰還後すぐ、石使いの話を聞いていた


石使い「……ウサギの話は知ってる」


石使い「彼女は飛び級して、十歳の頃には天才の名を欲しいままにしていた」

石使い「それを年上の同級生たちが妬んだ」

石使い「彼女が大切に飼っていたウサギを、生かすでも殺すでもなくいたぶり、足を焼き切ったりしたらしい」

石使い「ウサギは病気になり、彼女も必死に、長く看病したけれど、死んだ」

石使い「元々明るかった彼女が暗く落ち込んで行ったのは、その時から」

石使い「彼女は十二歳で卒業した」

石使い「私もその時留学したからその後は知らない……」


勇者「……」

勇者「それじゃサイセイの子ども達をさらったのは……」

犬娘「うさちゃん……、サイセイは魔物兎が多いから……」

勇者「……くそっ! やっぱり悪いのはサイセイじゃないか!」

勇者「自業自得だったんだ……っ!」

術師「そんな事はありませんわ、彼女のやった事はあまりに酷い」


女拳士「祭りの準備、出来たよ~!」

女拳士「……ん? どうしたの?」


勇者「……いや、何でもない」

女拳士「あんた泣いてるじゃないか」

メイド剣士「勇者さん……」

勇者「今日はめでたいお祭りなんだ、明るく行こう!」


犬娘「……強いね、勇者ちゃん」


勇者「俺だって、さ、本当に魔王様には謝っても謝りきれない……」


犬娘「もう終わったよ」

犬娘「黒衣の魔女を倒したから、きっとお父さんもお母さんも、亡くなった人皆、満足してる」


犬娘「それよりおなか減ったよ~!」

勇者「行こう!」

女拳士「今日は肉も魚介も食べ放題だ!」

犬娘「やった!」


…………


お祭りは魔人王率いるチュウザンの民、カイオウ国の民やコトーの竜女たち、ヤマナミの騎士たち、ハマミナトの難民たちを迎え、非常に盛大に行われた


キタハマのたくさんの新鮮な魚介類と、チュウザンからは肉や酒や果物が、カイオウ国からは一流の料理人が来て、皆たっぷり食べ、飲んで、歌い踊った


そんななか、魔女娘のところにハマミナト兵らしき男が近づいた

何か危険を感じたメイド剣士と犬娘、術師は彼女の元へ行く

ハマミナト兵「私は危害を加えるものでは有りません、これを」

ハマミナト兵は魔女娘に手紙を差し出した

ハマミナト兵「我々はあなたを王として迎える用意があります」

ハマミナト兵「では」

魔女娘は手紙を開いた

『この手紙を魔女娘、君が開く頃、私はこの世に居るまい』

『言い訳になるかも知れないが、私はずっと黒衣の魔女に脅されてきた』

『だが抵抗出来なかった、国民には破壊神信徒に騙された哀れな男としてくれ』


『……君には申し訳なく思っている』

『是非自分亡き後のハマミナトを守って欲しい』

『銀騎士』


魔女娘はそれを読み終わると、口に手を当てて、泣いた


術師「やっぱり戦争に正義なんてありませんわね……」

犬娘「でも、もう当分は戦争も無いよね」

メイド剣士「ハマミナト再建は大変ですよ~、たくさん食べてください!」

魔女娘「ああ、ああ!」

犬娘「よおっし、私ももっと食べてこよっ!」

犬娘は女拳士たちが囲っているテーブルへ走っていく

その後を、魔女娘はゆっくりと追っていった

術師「私達も全力でサポートしましょうね」

メイド剣士「もちろん!」


…………


やがてまた春が訪れ、城もでき始める

犬娘は自分の部屋とお姫様のような天蓋付きベッドができて、とても喜んだ

早速その日から日替わりでメイド剣士を誘ったり術師を誘ったりして、二人で大きなベッドを楽しんだ

ある日勇者を誘った


勇者「ええ、俺?」

勇者は髪を下ろし、ふわふわなネグリジェを着てきた

実に可愛かった

犬娘「誰かと思ったよ~」

勇者「どうせ似合わないよね……」

犬娘「すっごく可愛いよ!」

二人で寝ていると、誰かが忍び込んできた

白導師「ふひひひひ……」

ゴキブリだ

白導師「おろ、この可愛い子誰?」


白導師「ふひひ、んー、胸がおっきいのが残念だ」

白導師「ん?」

白導師「割と筋肉質……」

勇者「貴様、何してる」

白導師「はわっ?!」

白導師「すげー可愛いから誰かと思ったら、勇者ちゃんか」

勇者「んなっ!」


勇者は可愛いと言われて照れてしまう

しかし懲罰は与えておいた

白導師「ですよね」

…………


仕事が一段落して、いよいよまた雨期が来る

今回は戦争に使った石を使って海側にも即席の堤防を用意した

犬娘「今度こそ嵐に勝つよ!」

メイド剣士「残された最大の敵ですね」

その年の雨期は幸いにも大きな被害を出さずに済んだ

術師「塩田はやっぱり水浸し、こればっかりは仕方ないですわね」

メイド剣士「二千人を超える人たちに人的被害が無かったんだから良かったですよ」

旅人「やっぱり人間が国の柱だからね」

復興作業も手短に終わると、火山の麓に闘技場の建設を始めたり、娯楽施設の建設も進んでいく

移民はどんどん増えている

数年もすれば一万人に届くだろう


そして今年の夏こそはSランク戦に挑むことになった


コトーに行ってみると驚いた

牧場娘「あれ、あんたらも来たのかい!」

魔人王「ふふ、今年は面白くなりそうだ」

待ち受けていたのは魔人王たちだった

術師「魔人王様はSランク戦何年ぶりですか?」

魔人王「八年くらいか?」

牧場娘「覚えてないね、あの時はあんた一人で楽勝だったし」

魔人王「コトー王には敗れたがな」

白導師「あんな化け物勝てないよね~」

術師「闇の衣は破れたんです?」

銀鈴「あの時は魔人王様は独力で叩き破った」

術師「凄まじい……」

メイド剣士「脳筋度が」

犬娘「闇の衣破っても駄目なのか~」


談笑していると、対戦表が配られる

チームは八つ、三回勝てば優勝、その一週間後に真・魔王戦だ

犬娘達と魔人王達は決勝で当たることになる

しかし今回は魔人王も犬戦士、白導師、銀鈴、牧場娘と五人チームを作っている

勇者「はは、勝てるのかあのチームに」

犬娘「本当に強いよ~」

術師「まあまずは一回戦ですわ」

メイド剣士「Sランクですもんね」

女拳士「とりあえず一回戦の敵は魔人とか竜だね、流石に楽な相手じゃないよ」

術師「んー、燃えまくりですわ!」

メイド剣士「燃えますね!」


開会式が始まった


係員「Sランク戦は今回よりヒーラー様の封印結界により、超級魔法の使用が許可されます」

係員「各人死力を尽くし、最高の戦いを魔王様に献上するように!」

術師「勝機が見えてきましたわね」

メイド剣士「魔人王様にもですか?」

術師「無理な気がしてきましたわ」

メイド剣士「ですよね」

一回戦が始まる

魔法に強い魔人たちは犬娘と女拳士、勇者が当たり、術師とメイド剣士はサポートに徹する

メイド剣士「全体能力強化!」

犬娘「雷神脚!」

女拳士「竜鱗装爆裂脚!」

勇者「三色雷神剣!」

流石に能力強化超級魔法三連撃では魔法に強いとかは関係なかったようである

相手に申し訳ないくらいの快勝だった


次の戦いで勝ち残った係員の顔が少し青い

魔人王達は神竜クラスの敵と戦ったが、魔人王にとっては雑魚でしかなかった

あれは果たして人間なのだろうか

観客はすでに決勝戦を楽しみにしているようだ


係員「少しは面白い戦いにしたいので、私も真の姿を現しますね」

そう宣言すると、痩せた係員は蒼く筋肉質な魔神の姿になった

術師「ただ者でないのは分かってましたが」

メイド剣士「強そうですね」

勇者「破壊神に比べて?」

犬娘「そう考えたら勝てそうだね!」

係員「ははっ、お手柔らかに!」

係員は先制で超級魔法を撃ってきた

術師「封印結界!」

係員「ははは、勝負を投げたくなりました」

係員は更に奥の手を出してくる

追跡してくる強力な閃光を放つ

が、犬娘と女拳士は自分からその魔法に当たりに行く

後衛を狙わせない策だ

更に白衣を纏っているために二人ともピンピンしている


係員「んー、リタイアします」

勝負は係員のリタイアで終わった

彼もこの後に仕事が有るのだろう


犬娘「不完全燃焼だよーっ!」

女拳士「強すぎるのも問題ありか?」

術師「何を言ってるやら、次の相手が分かってますの?」

犬娘「あ~」

メイド剣士「次は私達が青くなる番ですね」

勇者「でも、勝てるよきっと」

女拳士「みんなが力を合わせたらね!」

魔人王たちの準決勝戦は、もはや語るまでも無かろう

相手方は竜女と緑竜たちだったが、まったく歯が立たなかった

あらゆる攻撃は牧場娘に逸らされるか白導師に回復され、反撃は魔人王の合成魔法となれば、もはや哀れな次元である


予定通りと言うべき決勝戦


魔人王たちは今回ずっと白衣を纏っている

最早生きて帰れるのか心配になるレベルの超強敵


だが、犬娘は怯まない

犬娘「魔人王さんを倒すよ!」

魔人王「楽しい戦いになりそうだな」

白導師「負けたらパンツ一枚!」

犬戦士「そんなもんもらうわけ無いだろ」

銀鈴「Sランク戦は相手の物をもらえないルール、国が動くことになると死ぬほどしんどい」

牧場娘「まあ当然っちゃ当然か」

メイド剣士「面白い戦いにするために逆にリスクを下げてるんですね」

術師「やっつけたら同じですわ」

女拳士「そうだ、やっちまおう」

勇者「俺達は最強だ!」

犬娘「行くよ!」

犬娘「私は魔人王さんも真の魔王様も倒し、本物の……」


犬娘「魔王になる!」


最終章「犬娘、魔王になる」 完



――エピローグ――


牧場娘「はあ~、真夏のビーチでお昼寝なんて最高~!」

術師「本当ですわね」

白導師「犬娘ちゃん、サンオイル塗ったげる~」

犬娘「雷神脚」

白導師「海で雷放ったら海水浴客全滅しちゃう!」


メイド剣士「先日里帰りして来た折にヤマナミ王様からいくらか聞いたのですが」

術師「な、何をですか?」

メイド剣士「術師さんって錬金術以外の座学はだいたい逃げ出して野山を駆け回っていたそうですね」

術師「くっ、あなたにだけは知られたくありませんでしたわ!」

メイド剣士「道理で敬語に違和感があると思いました!」

術師「ぐぬぬ……」

術師「あ、貝殻姫さんとか敬語上手ですわよね、教わろうかしら?」

メイド剣士「話をそらさない~」


沖では魔人王がサメを取ってきたり、女拳士が魚娘とガチレースしたり、犬娘と貝殻姫が優雅に泳いだり、勇者と犬戦士が銛で魚を突いてきたりしている


牧場娘「こんな平和な日にそんな話はヤボヤボ!」

メイド剣士「のんびりしましょうか」

メイド剣士「そう言えば結局魔人王様にはかないませんでしたね~」

牧場娘「まだまだ早かったね」

勇者「魚だいぶ取ったよ~」

犬戦士「今日もバーベキューだな!」

牧場娘「しかしコトーの魔王……、あれは何者だろう?」

術師「思い出さないようにしていますわ」

メイド剣士「一人でチュウザンに勝てるとか、頭がおかしいのかと」

銀鈴「ちょっとくやしかった、いつか死なせたい」

白導師「まあ二百年光の力を持って成長し続けた化け物だからね、犬娘ちゃんがあと何十年か修行したら勝てるんじゃない?」

術師「長生きしないと駄目ですわね」

勇者「できるかな~」

白導師「大魔法使い様みたいに長生きしちゃう人いるから、多分できると思うんだけどね」


…………


犬娘「貝殻ちゃん待って~!」

犬娘は凄まじい速さで犬掻きしている

貝殻姫「犬娘様こそ速いですわ!」

女拳士「うおりゃああああ!」

魚娘「魚人の本気泳ぎに着いてこないで!」

女拳士「やっぱり魚人だったのか」

魚娘「人魚です、ギガンテック美しい人魚です!」

メイド剣士「平和ですね~」

白導師「私らで勝ち取った平和だよ~」

牧場娘「昼寝できる幸せ……、全部皆のお陰だね」

術師「全くですわ」

皆がのんびりしている浜に、犬娘達が上がってくる

犬娘は開口一番こう言った


犬娘「おなか減った!」


――終わり――

終わっちゃいました

この後犬娘は魔王として、たくさんの冒険者たちを支えていく事になります

狐娘や猫娘、虎さんやシスター、虎兄弟にモグラ師弟、この物語を影で支えてきた人たちにも物語があります

出来れば皆さんに彼らの物語に興味を持って頂ければと思います

見てみたいお話があればリクエスト下されば幸せです

前作に比べリアリティの薄いお話なので楽な分難しかったです

率直な感想を頂ければ次回作から生かしたいと思います


では、また

おつかれさん
バトル方向と開拓方向、魔法の便利さと不便さからくる苦労のバランスが難しいね

>>357
そうですね、シミュレーション好きなんで開拓中心に書きたかったんですけど、普通の人には退屈かな、と思ったのでバトル中心にして、開拓の話の合間に訓練でバトルさせたりしました

転送魔法は便利ですが術師でも覚えてなかったことでレアで難しく魔力消費の高い術、としています

経済のレベルでは生産調整など流通量を調整する政策があるので、そんなに気にすることはないと思っています

このお話が形になったのは黒衣の魔女のお陰で、彼女が出てこなかったらこのお話は書かなかったと思います

とりあえずまとまって良かったです

有り難う御座います

次回作の準備ができたのでHTML化依頼を出しました

タイトルの予定は

旅男「ルビーイーターか……」

です、お楽しみに!

だいたい週末には上げようと思います

ではまた、自作で!

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