女「おとこー。おはよー、起きて―」
男「起きてーって今何時?」
女「6時30分」
男「太陽も起きたばかりじゃん」
女「太陽が顔を出したのは1時間前です」
男「なんでこんな早くに来たのさ」
女「暇だったから?」
男「俺も暇に巻き込まれたんだけど」
女「私も暇」
男「暇潰しをしよう」
女「ばっちこい」
男「何をする?」
女「何があるの?」
男「なにもないよ」
女「なにもないなら何もできないじゃない」
男「それは思考を停止させてるからだよ。頑張って捻り出すんだ」
女「えっと、しりとり」
男「却下。無難すぎる案だから不採用」
女「トランプ」
男「そんなものなどここには無い」
女「家近いし持ってきてあげる。七並べ滅茶苦茶強いんだからね、って袖掴んでどうしたの?」
男「持ち込みは禁止。フェアじゃない」
女「意味が分からない」
男「道具を使わない暇潰しをしたいんだ。ほら、頭を使って」
女「記憶力ゲームは?」
男「なにそれ」
女「単語を交互に言い合うだけ。だけど、今までに出てきた単語の順番を頭から間違えることなく正確に言わないと駄目」
男「難易度高いな」
女「妹とやって30分続いたのが最長かな? 結局引き分けたけど」
男「没」
女「なんで?」
男「女が既に遊び尽くしていそうだから」
女「本音は?」
男「勝てる気がしなかったから。以上」
女「幼稚園児並の傲慢さね」
男「他のを出して。俺が有利で負けても悔しくならなさそうな遊びをさ」
女「勝ち負けに拘らなければ幅が広がりそうかも」
男「ほう、言ってごらんなさい」
女「お絵かき」
男「現代を生きるピカソの異名を持つ俺に筆を取れと?」
女「落書きと芸術を一緒にしないで!!」
男「ご、ごめんなさい。まさか出来心の受け狙いで怒鳴られるとは思わなかったです。二度と言いません」
女「お絵かきにする?」
男「また女の変なスイッチが入ると怖いからやめておく」
女「選択肢がどんどん消えていくんだけど」
男「まだまだ沢山ある。搾り出せ」
女「物書きは楽しそうじゃない?」
男「自分で文章を作るなんて小学生でやった読書感想文以来なんだけど」
女「1文ずつ交互に書いてみると物語りの軸もぶれないで長続きしそうだけど」
男「現代を生きるごめんなさいそんな冷たい目で見ないでくださいちょっと魔が差しただけなんですお許しください」
女「金輪際私の目の前で生きるって単語を使わないで。派生類型もね」
男「遠回しに首を括れと言われてる気がしてならない」
女「腹をくくってもいいわよ」
男「俺はなにされちゃうの? 何に対して覚悟を決めさせられてるの?」
女「どんな遊びなら納得するのよばかちんがあ」
男「今の可愛い」
女「ばかちんがあ」
男「その部分だけを録音して目覚ましにしたい」
女「ばかちんがあ」
男「シチュエーションごっこをしよう」
女「おままごと?」
男「簡単に言えばドラマのワンシーンみたいな」
女「欲望渦巻くドロドロの恋愛劇」
男「昼ドラよりも夜中の青春ドラマが好みです」
女「あれ? 意外」
男「一途な俺には刺激が強すぎて」
女「好きな人いるの?」
男「……秘密」
女「なんだと……誰だれダレ?」
男「言わない。絶対に言わない」
女「白状しなさいよ。うりうり」
男「何されても口を割らないぞ」
女「とは言うが、こんだけ証拠が揃ってんだ。素直に喋った方が楽になれるってのに随分と意地を張りますね?」
男「知るか。俺は関係ない。俺はたまたまあそこに居合わせただけなんだ」
女「忘れ物を取りに戻ったと証言されているようですが、……しかしですね、あの現場は犯行当時、施設に出入りできないように施錠されているんですよ」
男「そんな馬鹿な。しっかり鍵は開いていた」
女「いえ、閉まっていました。だって鍵をかけたのはあなた自身なんですから」
男「何を根拠にそんなことを」
女「鍵の管理を任されていたあなたは、犯行があった前日の昼に『外食をしてくる』と、言って会社から外部に鍵を持ち出して複製した」
男「ちょっと待ってくれ」
女「ええ、なんでしょうか?」
男「違います。今の待っては役作りの待ってじゃなくて変な寸劇その物を中断させる為の待ってです」
女「解決手前まで来てるのにやめちゃうの?」
男「俺の希望は青春ドラマ。二時間の推理サスペンスものを嗜んでた時期もあったけど今は需要ないです」
女「ノリノリだったのに」
男「好きな子を聞き出される修学旅行深夜の恋バナノリかと思ったらいきなり何かの犯人にされたのには心底驚いた」
女「清掃作業員さんが凶弾に倒れたという設定でした」
男「その地位の人が襲われた理由を知りたい」
女「えっとね」
男「ごめん。やっぱ言わなくていいです。実はそんなに惹かれませんでした」
女「夫が留守の間に妻を寝取られて」
男「ここで昼ドラ成分?! 違う。そんなのがしたいわけじゃないんだ」
女「一向に進展が見えないんだけど」
男「ドラマごっこは決定しました」
女「あ、そこは決まったんだね」
男「小幅な前進。次に考えるのは俺と女の関係です」
女「刑事とデカ」
男「それはさっきや……どっちも同じ意味じゃない?」
女「取調室で犯人を詰問しているシーン」
男「その舞台は犯人役が不在してると成り立たないから。別の案で。というかジャンルを変えて」
女「不良生徒を熱血な教師が更生させるドラマ」
男「微妙。俺が求めてるのに近付いたけどまだ足りない」
女「不良生徒を殺めた熱血先生が警察に尋問され」
男「遠のいた。逆ベクトルに向かって全力ダッシュする勢いでかけ離れたよ」
女「不良生徒を殺めた警察が――」
男「アウト。方向性が完全に見えなくなった」
女「――その不良の幽霊に末代まで呪われるという」
男「とうとうホラーに踏み込んだ?!」
女「だめ?」
男「1人2役でも足りない領域に入ったから却下。もっと平和な日常的なドラマを再現したい」
女「雀がさえずる春の朝に私が男の部屋を訪れるなんてのはいかが?」
男「途端に穏やかになったね。血生臭さが抜けて大変うれしいです。じゃ、さっそくベッドに行ってくる」
女「うん。部屋の外で待ってるから、準備できたら呼んで」
男「よいしょ。……いいよ」
女「がちゃ」
男「それ口でも言うんだ」
女「おっとこー! あーさだにゃん。早く起きにゃいと学校に遅刻しちゃうにゃーん!」
男「……」
女「嘘……死んでる」
男「反応が無かったからって勝手に殺さないで。恥ずかしくなるならそんな無茶しなくていいから」
男「アウト。方向性が完全に見えなくなった」
女「――その不良の幽霊に末代まで呪われるという」
男「とうとうホラーに踏み込んだ?!」
女「だめ?」
男「1人2役でも足りない領域に入ったから却下。もっと平和な日常的なドラマを再現したい」
女「雀がさえずる春の朝に私が男の部屋を訪れるなんてのはいかが?」
男「途端に穏やかになったね。血生臭さが抜けて大変うれしいです。じゃ、さっそくベッドに行ってくる」
女「うん。部屋の外で待ってるから、準備できたら呼んで」
男「よいしょ。……いいよ」
女「がちゃ」
男「それ口でも言うんだ」
女「おっとこー! あーさだにゃん。早く起きにゃいと学校に遅刻しちゃうにゃーん!」
男「……」
女「嘘……死んでる」
男「反応が無かったからって勝手に殺さないで。恥ずかしくなるならそんな無茶しなくていいから」
女「今のは私には無理だったと思う。ナシで」
男「とても可愛かったのに残念です」
女「テイク2!テイク2!」
男「やり直しね。外で待ってて」
女「うん」
男「よいしょっと。……いいよ」
女「がちゃ。おとこー! いつまで寝てるの! 学校遅れるわよ!」
男「うーん、あと五分」
女「もう遅刻寸前なのよ! ほら、起きなさいって! 掛布団没収!」
男「なにすんだよ。布団返せよ」
女「さっさと服を着替える!」
男「布団を返せって! おわっ?!」
女「ちょっとどこ掴んできゃっ?!」
男「……ごめん」
女「……押し倒したのも演技?」
男「これは……事故です」
女「事故?」
男「ごめんなさい。最初からこうしたかったです」
女「遠回りすぎ。ばかちんがあ」
男「ここまで上手くいくとは思わなかった」
女「私の協力があってこそでした」
男「あ、そうなんだ」
女「……ここからどうするの?」
男「どうするって……やめとく」
女「なんで?」
男「こういうのは時間と場所を選んでやりたいからさ」
女「……ばかちんがあ」
男「それに女の無遅刻無欠席がかかってるし」
女「へ?」
男「後10分でこの家を出ないと遅刻確定です」
女「いつの間に……」
男「準備するから部屋の外で待って、おわっ?! 何故に俺を押し倒しましたか?」
女「うえへへへ、今日は臨時休校になりました」
男「……学校創立記念日?」
女「恋人成立記念日」
男「じゃ、じゃあさ」
女「うん」
男「暇潰しをしよう」
女「ばっちこい」
終わり
極単に短いのに重複させちゃって恥ずかしい
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