神峰翔太が幻想入り (799)
『SOUL CATCHER(S)』の主人公、神峰翔太が幻想郷へinする話。
のリメイクです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406660638
学園祭で賑わう校舎の廊下を、独りで歩く少年、神峰翔太。
彼は普通の人間とは違い"心が見える"能力を持ち、その事にコンプレックスを抱いていた。
そんな神峰はいつからか、他者と関わる事を拒絶してしまっていた
神峰(誰か……俺の目を潰してくれ!)
両手で顔を覆い、まるで助けを乞うように己の"眼"を否定する
神峰(逃げなきゃ……心なんて無い場所へ……。屋上なら……いねェかな……)
わずかな希望すら見えないという表情で、屋上への階段を昇るための一歩を出した瞬間───
神峰が踏む筈であった階段に亀裂──その両端はリボンが着けられていた──が生まれ、その亀裂が広がり、神峰を飲み込んだ。
神峰「!?」
神峰「なっ!?」
ガクンとバランスを崩し、慌てて足元を確認しようとして異変に気付く
神峰(お……落ちてる!?地面は……真横!?)
神峰(っていうか俺の周り何も無……!!?)
神峰「こっ……これは穴!?なのか!?」
神峰は両足が地面に着いていない事と、自由落下によるふわりとした感覚、何より景色が明らかに違っている事により、今正に地面に空いた大穴のど真ん中へと突入しようとしている事を、かろうじて理解出来た。
──私の名前は水橋パルスィ。嫉妬の妖怪であり、橋姫である。
パルスィ「来る……」
そんな私だが、今上空から向かって来ている人間には心底、同情をしている
何せ、空を飛ぶ術を持たず、幻想郷に現れた場所が地底へ繋がる穴の上なのだから
だから、助けてあげようなんて気まぐれを起こしてしまった───
ヤマメ「やあお兄さん!そんなに急いで、地底の観光なら気をつけなよ?この先のヤツらは物騒なのが多いからねぇ!」
落下している神峰の上方から、神峰に追いつき、明るい声で少女が話しかけてきた
神峰「観光じゃねェス!!っていうかどこから出て来たんスか!?なんで飛んでるんスか!?とにかく助けて下さい!!」
ヤマメ「いやいや残念ながら、自力で助かる方法を持たない人間はこのまま死んで、妖怪の餌になるか、炉の中に放り込まれるかしか無いんだよ」
神峰「!?」
他にも質問したい気持ちを抑えて必死に助けを求める神峰だが、しかし少女は顔色一つ変えずに、明るい声であっけらかんと拒否する言葉を言い放った
神峰(この人……マジで言ってるのか……!? 妖怪ってなんだよ!? でも冗談で言ってるワケじゃねェ!!)
神峰「そこを何とか! 助けて下さいお願いします!!」
訳の分からない状況で、さらに訳の分からない単語が出てきて、もはや神峰の頭の中も訳が分からない。それでも必死に助けを乞う。
しかしそんな努力も報われずに終末の時が近づいていた
神峰(マズイ!!底が見えて来た──!!)
ヤマメ「これが自然の厳しさって事で、受け入れてくれない?」
神峰「そんな事出来るワケ無───!」
パルスィ「キャッチ」
神峰「はっ……!?」
いきなり速度を殺され、慣性によりガクンと身体に下方への力が加わる。
新たな少女による思いがけない所からの助けにより、神峰は思考停止寸前まで混乱する。
パルスィ「このまま底まで運んであげるわ」
神峰「……?あ、あざス……」
神峰(何なんだ?この人も飛んでる──)
ヤマメ「あらら、まさかアンタが人間を助けるなんてねぇ!」
パルスィ「気まぐれよ。この人間には……何の嫉妬も湧かない。ただひたすら同情してしまったわ……だから」
神峰(助けてもらったのはありがたいけど……この人の心! マジでヤバイ!!)
神峰(こんなにジメジメした心なのに! あちこちで火が燃えてる! 正直、降ろしてもらったらすぐにでも逃げてェ……)
碌に働かない頭脳と、神峰が視た少女──神峰を助けた金髪緑眼の少女──の心のインパクトで、されるがままであったが、彼は後に思う
どうして地上へ運んでくれなかったのだろう、と。
ヤマメ「良かったわねお兄さん! ひとまずは助かったね!」
神峰「……はぁ」
会った時と同じ様に明るい声で少女が話しかけて来る。恐らく彼女は何時もこの調子なのだろう。
穴の底へ着いて、命が助かった安心感を感じる事で、神峰の思考能力も回復して来た。
神峰「あの……さっき言ってた事で気になったんスけど……妖怪なんているんスか?」
ヤマメ「何言ってるのさ!目の前に二人居るじゃないか」
神峰「は?」
神峰の質問に対してまたも意味不明なセリフが返ってくる。ひょっとして変な電波を受信しているのか?
などと思っていたら、自己紹介をしてくれた。
ヤマメ「アタシは土蜘蛛のヤマメっていうんだ、よろしくね!こっちは橋姫の水橋パルスィ!」
神峰(マジで言ってるのか……?とてもそうには見えない……でも蜘蛛だっていうなら、糸を伝って落下してる俺に話しかける事は出来るよな……問題は……)
未だまともな思考は出来ていない。今はとりあえず彼女達が妖怪であるという体で話を聞き、パルスィと紹介された金髪緑眼の少女の方を向き、疑問を投げ掛ける
神峰「あの……アンタ、さっき飛んでなかったか……?」
パルスィ「幻想郷に居る妖怪ならみんな飛ぶくらいは出来るわよ?」
神峰「!?」
あっさり返された。
ここにきて、自分の持つ常識は全て通用しないのかもしれないという考えが生まれる。と、同時に意味が分からずまたも混乱しそうになる。
そんな神峰に追い打ちが迫る。
パルスィ「それよりアナタも可哀想ね。皆に忘れられて幻想郷に来たのにまさか穴の上に出るなんて」
神峰「忘れられた……!? 幻想郷!? もっと解りやすく教えてくれないか!?」
追い打ちと同時に、まず何を訊くべきなのかを、思考能力を取り戻す。
正直いっぱいいっぱいだったが、ヤマメとパルスィにゆっくりと疑問を解消してもらった。ここはどこなのか、自分が置かれている状況、自分の事(常識が通用しないならばと、思い切って自分の能力についても話してみた)など
ヤマメ「これはこれは、面白い人間が地底まで落ちてきたモンだよ!」
神峰「ワスレラレタ」ズーン...
パルスィ「どうするのよコイツ……」
ヤマメ「アンタが助けたんだ、アンタが責任持ちなよ」
パルスィ「……同類に預ければ大丈夫かしら?」
ヤマメ「おっ、まさか同じ事を考えるなんてね」
パルスィ「そりゃ考えるわよ。……ペットも多いし、一匹くらい面倒みてくれるでしょ」
パルスィ「ほら、行くわよ」
神峰「……?」
パルスィ「アンタの面倒をみてくれそうな人が居る所よ。本当は近寄りたくもないんだけど……」
神峰がショックを受けている間に話が纏まり、その場でヤマメと別れて言われるがまま移動を始めた──
【地霊殿】
神峰(道中……スゲェ怖かった……この人がいなかったら無事にここまで来れる自信ねェ……)ガタガタ
パル「ほら、着いたわよ。一緒に挨拶してあげるから後は頑張りなさい」
もはや言うまでもあるまい。魑魅魍魎の跋扈する、嫌われ者達の町を歩いて来たのだ。
そんな神峰にお構い無しに、目的地である地霊殿の門を開くパルスィ
神峰「あ……どうも……。いろいろ助けて貰って、ありがとうございます……」
建物に入ってまず目に飛び込んできたのが、ステンドグラス。外からの光が床に模様を映しているのではなく、床に直接ステンドグラスが設置されている光景は、神峰が今まで生きてきた中でも目にした事は無かった。
次に目に入って来たのが、猫車を押す、猫耳を生やした少女だ(よく見ると普通の耳もある)
猫耳の少女は神峰達に気付くと、気さくに話しかけてきた
お燐「おや、いらっしゃい! アンタがここに来るなんて珍しい事もあったもんだ! ……そこのお兄さんは人間かい? 生きた人間を持って来られてもアタイは嬉しくないよ?」
パル「貴女のために連れて来たんじゃないわよ。貴女の主人に面倒をみてもらいたいのよ。面白いわよ? コイツ、心が見えるんですって」
お燐「!? それはまた、こいし様が喜びそうなペットになりそうだね!」
パルスィの話を聞いて少女は目を見開き、またすぐに笑顔に戻って会話を続ける。しかし神峰も、二人の話を聞いて黙っていられないようだ
神峰「ちょ……ちょっと待ってくれ!? ペット!?」
パル「ええ。だから言ってるじゃない、"あなたの面倒をみてくれそうな人"って。あなた、落ち込んでた時まるで仔犬みたいだったわよ?」
パル「それにあなたはもうココしか頼る場所は無いわよ? ……上手くやれば、地上に出して貰えるかもね……。頑張って」
神峰の反論など聞く耳持たずといった感じに、無責任な捨て台詞を吐いてそそくさと地霊殿を後にするパルスィ。
まるで私の仕事はもう終わったと言わんばかりの清々しさすら感じるその後ろ姿を、バタンと扉が閉まるまで猫耳の少女と二人で見送る。
その間、神峰はあまりの出来事に何も喋る事が出来なかった
神峰「……!?」
お燐「おやおや、一方的に言われて置いて行かれちゃったねお兄さん。どうするんだい?」
お燐「ウチはこいし様が色んなコを拾ってきて、ペットがペットの世話をしてる状態だから、全く問題無いよ!」
扉が閉まった直後、天使が通り過ぎる間を与えず猫耳少女が話しかけて来た。どうやら歓迎ムードではあるらしい。
──と、ほぼ同じタイミングで、神峰よりも年下に見える少女がロビーの中央階段から降りて来た
さとり「お燐、お客さんが来てたの?」
神峰「?」
お燐「あ!さとり様!」
神峰(さとり様……?)
見た目だけならお燐と呼ばれた猫耳少女よりも幼いかもしれない。しかしお燐からさとり様と呼ばれるということは……
そのような神峰の疑問にまるで答えるかのように、さとりは神峰を一瞥した後、自己紹介を始める
さとり「初めまして。ここ地霊殿の主をしてます古明地さとりです」
神峰「あ……初めまして……。あの──」
さとり「ペットの件ですか?構いませんよ。ああ、すみませんね。何せ人間がここに来るのは稀なので、どう対応して良いのか……」
さとり「しかしここに滞在するのなら、どうしてもペットという扱いになってしまいますし……客人扱いですか?」
さとり「今の貴方は私にとって客人たり得るのでしょうか?」
神峰(!? この人……!この心……、俺への感心なんて殆ど向けてないのに……全て見透かしているような……しかも実際見透かされた!!)
さとり(……!)
動揺する神峰からさらに心を読み取る事で、さとりも神峰の能力に気付き──
神峰(もしかしてこの人も俺と同じ──!)
さとり「いえ、似てはいますが私の能力は心を読むことです。貴方の見る能力よりも正確に人の心が分かります」
神峰「!?」
さとり「貴方も随分とその能力で苦労してきたのですね……。──わかりました。貴方を客として、ここ地霊殿に滞在する事を許可します」
神峰「? あ、ありがとうございます……?」
神峰(なんだ……? ついさっき客として扱えないって言ったばかりなのに……?)
さとり(まさかこの人に同情してしまうなんて……。でもそれ以上に、この人にこいしを重ねてしまった……!)
さとり(この人もいずれは心を閉ざすか壊れるか……、自ら目を潰したいと思うほどの苦しみを体験している……この人を助けることで、私にこいしの心を開かせる何かを得られるなら!)
──神峰を、地霊殿の客人として招き入れた。
お燐「良かったねお兄さん! ウチに宿泊客だなんて初めてなんじゃないかな!?」
さとり「ついて来て下さい。貴方の部屋を用意します。それと……今はどこかへ行っていますが、貴方には私の妹に会って欲しいのですが……」
神峰「? それくらいなら……」
その後、部屋をあてがわれた神峰は、そのままさとりに広間へと案内され、地霊殿の住人(ペット)達に挨拶をする事となった
神峰「神峰翔太です……しばらくここでお世話になります……。よろしくお願いします」
動物ばかりとはいえ、大勢の前に出て緊張気味の神峰
さとり「彼は私の客人なので失礼のないように。間違っても殺してはいけませんよ」
神峰(本当に動物ばっかりだ……)
ペット達を見渡しながら、お燐の言っていた事を思い出し実感していると、いきなり一羽のペットが飛んできた(比喩的な意味で。実際に飛んではいない)
お空「あなたさとり様のお客さんなの!?」
神峰「!?」ビクッ
神峰(羽が生えてる!)
突然目の前にズイッと現れ、おまけに至近距離に来たせいで、視界のほとんどを占める広さの黒い翼とマント──背面からは白だが、神峰の側からは宇宙の模様が見える──により、神峰の視線は嫌でも目の前の羽の生えた少女に釘付けになる。
傍目にはまるでエリマキトカゲに威嚇された小動物のように見える。
お空「ココにお客さんなんて稀なの! ねぇ、あなたのこと教えてよ!」
そんな事など露知らず、無邪気に話しかける少女。
神峰(このコの心スゲェな……初対面だってのに全く警戒してない……何て言うか、フワフワして地に着いてないし裏表も無ェ。……太陽みてェな心だ)
さとり「彼は先ほど幻想郷に来て大変な目に遭っているので、程々にして下さいね。……それと、翔太さん。貴方は心が胸の中に見えるのですね」
質問攻めに遭う事を見越したさとりがフォローに入る……が、話題を逸らすために質問したさとりの表情は、神峰を非難するようにジトッとしたものだった。
神峰「? はい、そうスけど」
さとり「女性の心を見る時は気を付けて下さいね」
神峰「……? わかりました……?」
さとり(解っていませんね)
心の中で溜息を吐くさとり
その後、簡単に自己紹介をしたあと解散となった
【神峰の部屋】
神峰「疲れた……」
ぐったりとベッドに仰向けに倒れ、頭の中の整理を始める
神峰「今日一日で色々あり過ぎ……理解が追いつかねェ」
未だに信じられない事が多く、この先に不安を覚える。
しかしその思考は、コンコンと、ノックの音で中断される
神峰「! はい!」
さとり「私です。妹が帰って来たので、すみませんが会ってもらえますか」
神峰「ウス」
ドアを開けてさとりが入って来て、妹が帰って来たと伝えられる。
神峰は促されるまま、さとりの妹に会いに行く事となった。
───
─
神峰「初めまして……神峰翔太です……」
こいし「あなたがお姉ちゃんのお客さんね?」
目の前に居たのはさとりとよく似た少女(姉妹なのだから当たり前だが)
違う所は帽子を被っている事、髪の色、そしてさとりから聞いた、曰く"第三の目"が閉じている所だ。
──とまあ、それが外見の違いだ。しかし神峰にはもっと異様なモノが見えていた。恐らく今までの人生でも目にした事が無いであろう……
神峰(!? この人の心! 真っ白だ! 何も描かれてねェキャンバスみてェだ!!)
真っ白な心を"視"て心臓が跳ねる。
さとり「私の妹のこいしは、私と同じ心を読む能力を持っていました。しかし心を読むことで嫌われる事に耐えられなくなったこいしは、自らの心を能力と共に閉ざしてしまったのです」
神峰「!?」
さとりの説明で、さらに大きく跳ねる。
神峰(それって──)
さとり「はい。こいしは貴方の末路と言ってもいい」
神峰「……!」
鼓動が速くなり、汗が噴き出す。
そして再びこいしの心に目を向けて、気付く。
神峰(! よく見たらこの子の心……キャンバスなんかじゃねェ……!! 閉ざした扉の上から……コンクリートで固められてる!! こんな心が開くなんて出来るのか!?)
さとり(……)
今日はここまで
乙
面白い期待
ソルキャはまだ幻想入りしないから(震え声)
乙。
地の文の挿入に苦労してるようなら、とりあえず前スレのラストまでをコピペしていってそこから再開しても良いんですよ?
>>19
あざす!
ソルキャ需要がもっと増えたらいいな……
>>20
幻想入りしたのは神峰だから……
神峰が消えた後の鳴苑高校を想像すると胸が痛くなる
>>21
もう半分以上加筆したから後には引けん!
そして続きは構想だけ出来てまだ文章打ってないっていう
さとり「翔太さんは私には読めないこいしの心を、見ることが出来るのですね」
確認せずとも、神峰の心を読んでいるので何を視たかは理解できる。
しかし、自分に読めないモノを神峰には見る事が出来るという事に、少しだけ切なさを感じるさとり
神峰「ああ、心が無いヤツ以外の心なら……。そんな人には会ったことねェけど……」
神峰は、こいしの心に釘付けになり、そんなさとりのわずかな心境の変化に気付かない。
そこへ、目の前の少女が話しかけて来た。
こいし「あなた心が見えるんだ!? お姉ちゃんとお揃いね!」
神峰「あ、ああ……そうだな……」
神峰(! どうして心を閉ざしているのにそんなにグイグイ来れるんだ!? 普通心が閉じてたら、誰とも関わろうとしねェのに……。分からねェ……正直、気持ち悪い……)
こいしの変わらない心とコロコロ変わる表情のギャップに、分からない(理解出来ない)というストレスが神峰に溜まり、気持ち悪さを感じさせる。
そんな神峰の様子を読み、すかさずさとりが、こいしについての詳しい説明を始める。
さとり「こいしは心を閉ざし、能力を閉ざした事で、代わりに無意識を操る能力を得ました。今のこいしは無意識の中で動いています」
さとり「気をつけて下さいね? こいしがこの場から居なくなると、こいしを見つける事は大変困難ですから。もっとも、ここから居なくなったら、こいしを覚えていられるのか分かりませんけれど」
神峰「……」
無意識──。恐らく神峰も見落としかねない心の動きである。しかし神峰には、心の癖として無意識の心の動きを視てきた前例があった。
さとりの話を聞きながら、自分ならば、他人よりもこいしを見つけやすいかも知れない……そんな事を考えていた。
こいしとの顔合わせも終わり、神峰に用意された部屋へと戻る廊下をさとりと二人で歩く。
そして部屋の前に到着し、別れようとしたタイミングでさとりが話を切り出した。
さとり「翔太さん。貴方がここに居る間は、せめてこいしの心と逃げずに向き合って欲しい……。きっと貴方には……こいしにも、心と向き合う強さが必要なのだと思います」
神峰「!」
さとり「心が読めない相手の行動の不一致に気持ち悪さを感じるでしょうが、それが私達以外の人には普通なんです。……本当の所私達は、自分の嫌う能力に依存しているのでしょうね」
神峰「──!言われてみれば確かにそうだ……!あの気持ち悪さも、心が見えるせいで本心が分かっちまうから……心が見えない相手の行動に対して感じたんだよな……」
言われて、ハッと気付く。
当たり前だが、『自分』は『あなた』ではないのだ。自分でも自覚していたはずだ、自分は他人とは違う景色を見ている、と。
そのため誰からも理解を得られなかった。信じてもらえなかった。上手くいかなかった。……誰も目を合わせてくれなくなった。
向き合う事を、放棄した。
……だから、でも、せめて自分と似ている、しかし違う相手(こいし)とは向き合ってみようと──
さとり「……ありがとうございます。ちゃんとこいしと向き合ってあげて下さいね」
その思考を読んで、即座に返事をするさとり。
神峰「あの……心読んで先に話進めるの、控えてもらっていいッスか……?」
さとり「こういう性分なので。では約束ですよ? お休みなさい」
神峰「お休みッス」
さとりと別れ部屋に入りドアを閉めると、ベッドに腰掛けた。
神峰「はぁー……、今度こそまとめよ」
深く息を吐いて、今日起こった事を思い返す。
神峰「本当に色々あった……。幻想郷、妖怪、地底、……忘れ去られたモノが行き着く楽園なんて謳ってるのに、ここには嫌われ者しかいないんだな……」
神峰「空飛んだり出来るのが珍しくない場所なのに……、いろんな超能力や魔法があるってのに、心を読む能力はここでも嫌われるってことか……」
神峰(やっぱ怖ェよ……。ここでも俺は受け入れられないってことなのか?うまくやって行けるのか?)
神峰「……疲れたし、寝よ」
先の事を考えると不安しか出て来なかったが、それでも今日一日で溜まった疲れが、神峰を眠りに誘う。
神峰「ふー」
バサリと毛布を捲り、布団に寝転がり毛布を被る。そしてゆっくりと一息ついて眠りに──
こいし「ねぇ翔太、もっとお話ししましょう!」
神峰「!?」ドッキーン!!
就けなかった。
自分の布団……というか隣には既にこいしが居て、寝そべった姿勢のまま話しかけられてようやく、こいしの存在に気付いて心臓が跳ねる。
神峰「なんで布団の中に居るんスか!!? 何時の間に入ったんスか!?」ガバァ
慌てて飛び起きる神峰。こいしの方はしてやったりといった感じで、どこか満足気だった
こいし「驚いた?お姉ちゃんから聞いてたでしょ、私のこと」ウフフ
こいし「私は誰にも気付かれることはないの。道に落ちてる小石と同じ、誰も気に留めない。本当はあなたが落下してる所からずっと見てたのよ?」
こいし「あなたが死んだら私の部屋に飾ろうと思って!」
神峰「!?」
こいしの口から衝撃的な告白が飛び出る。心が視えていても、こいしが相手では本心が分からず、緊張し思わず身構える。
そんな神峰の様子を見て、こいしは言葉を続ける。
こいし「別にあなたの命を狙ってはいないわ、お客さんだしね。でも死んじゃったらお部屋に飾らせてね?」
神峰(本心が分からねェのもあるけど……スゲェリアクションに困る! ……これが……、妖怪と人間の倫理観のギャップ……!!)ヒー
地底に落ちて初めて妖怪がどのような存在なのかを実感した。
思えば、地霊殿までは神峰は守られて来たため、実際に妖怪に襲われる人間を見ていない──そもそも地底には人間が居ない上、幻想郷に来てから人間に会った事すら無いのだが───
襲われたら攫われるか食べられるかされるのだろうと漠然と思っていたが、まさか死体となって部屋に飾られるとは想像もしてなかった。
こいし「聞いてる?半分は冗談よ。翔太ったらさっきはお姉ちゃんとばっかり話してたから!」
神峰「ああ……悪い。さっきのはさすがにリアクションに困って……」
神峰(やっぱりあの心を見ながらこの子と会話するのは辛ェ……正直、早く寝たい……けど! さとりと約束しちまった! だから、この子が満足するまでは俺は逃げずに付き合ってやらねェと……!)
妖怪の恐ろしさの片鱗を味わった上、どこまで本気なのか分からないこいしを前にして、逃げ出そうとする心を抑え込んで、ついさっきしたばかりのさとりとの約束を思い出し踏ん張った。
こいし「あなたも私と同じなのよね?」
神峰「?」
こいし「人の心を見るの、嫌なんでしょ?」
神峰「! ……ああ、スゲェ辛ェよ……。今朝までこの目を潰して欲しいって思ってた」
こいし「やっぱり同じなんだ!……私はもう閉じちゃったから分からなくなったけど」
こいし「翔太もその目と心を閉ざすと、無意識に何か出来るようになるのかな!?」
無邪気に目を輝かせて期待を膨らますこいし。
神峰「いや……俺は人間だし、そんなふうにホイホイ能力なんて付かないんじゃないか?……それに、ここに居る間は心と向き合うってさとりと約束したから……」
心を閉ざすつもりはない、閉ざしたくない。
そんな想いを知ってか知らずか、こいしはつまらなそうに返事をする。
こいし「……ふーん、そうなんだ。頑張ってね」
こいしとの会話で、神峰の幻想郷初日の夜が更けていく───
~翌朝~
神峰「おざス……」
フラフラとした足取りで、出会ったさとりに挨拶をする。その顔は明らかに昨日見た時よりも元気が無い。
さとり「おはようございます」
さとり「……徹夜したんですね。こいしが迷惑をかけてしまって、すみません」
神峰「いえ……」フラフラ
さとり「律儀なんですね。私との約束を守ってくれるなんて。……眠って構いませんよ?お昼にペットに起こさせますので」
神峰の疎らな思考を拾い、昨晩何があったのかを理解すると、少し呆れたように、そして少し嬉しそうに睡眠を勧める。
神峰「すんません……そうさせて貰うわ……」フラフラ
さとり「お休みなさい」
こうして、これから地霊殿での神峰の生活が幕を開けるのであった───
寝息が聞こえる神峰の部屋に、一匹の猫が侵入する。
その猫はベッドへジャンプし、眠っている神峰の腹部へボスンと飛び乗る。
神峰「うぐっ…」
神峰「何だ……? ……猫?」
身体に何かが乗っかる圧迫感に小さく呻き、自分に何が乗っかったのかを身体を起こして確認すると、そこには尻尾が二又に分かれた黒猫がいた。
その黒猫は神峰が目を覚ましたのを確認してからベッドから降りた。
神峰「あ……、もう昼か……。日が刺さないからあんまり実感ねェな……。これにも慣れなきゃな」フア~...
お燐「おはようお兄さん!よく眠れた?」
神峰「!? 猫が人になった!?」ドキッ!
黒猫が突如ヒトに化けて挨拶をする。その正体はお燐であったが、神峰はその事よりも猫がヒトに化けるという、物語の中の妖怪変化を実際に目の当たりにした事に驚いた。
そして驚く神峰に更なるショックが襲う。
こいし「おはよー」
神峰「何で同じ布団に寝てるんスか!!?」ドッキーン!!
モソモソと起き上がり、眠そうに神峰に挨拶をするこいしを見て、お燐を見た以上に心臓が跳ねる。神峰が鼓動を落ち着けようとしていると、こいしが神峰のツッコミのような質問に答えた。
こいし「私が寝てる所に入ってきたのは翔太の方よ?今日は眠くてこの布団で寝ちゃったの」
お燐「どうやら目は覚めたようだね!もうすぐお昼ご飯の用意が出来るよ」
神峰(すっげえ目ェ覚めた……心臓に悪ィ……)ドックンドックン
このあと、お燐に案内されてこいしと2人で昼食を摂った後、気付くとこいしは何時の間にかどこかへ行ってしまっていた。
さとり「先ほどはお楽しみでしたね」
神峰「カンベンしてくれ……」
丁度食器を片付けた直後に、さとりが冗談混じりに神峰に話しかけてきた。
そして神峰のこれからの話が始まる。
さとり「……さて、早速ですが翔太さん。貴方にはここで生活するにあたって、何かしらの仕事をして頂きたいのですが──さすがに何もせずにここに居られるワケにもいきませんので」
神峰「ああ、世話になる以上、出来ることなら何でもやるよ」
さとり「とは言っても、さすがに怨霊の管理や核融合炉の管理なんて任せられませんから……ペット達の世話でもしてもらいましょうか」
神峰「核融合───!?」
そういえば仕事らしい仕事はほとんどペットがやってましたね、と適当な仕事を神峰に割り当てたさとりの言葉に、思わず反応する。
そんな神峰の心を読み、すかさず簡単な説明をする。
さとり「何故忘れられたモノの行き着くこの地に、確立されていない技術が存在しているのかというと、簡単に言えばそういう能力を持った神様の力を手に入れたからです」
神峰「……説明どうも……」
さとり「いえ。では、お願いします。暇が出来たら自由にしても構いませんよ。地底の住人なら、私の客だと言えば手は出して来ないでしょう。え?旧都に行くのはまだ怖いですか……」
神峰「……」
心を読んで会話を先回りされる遣る瀬無さと、さとりのどこか試すような物言い、そして何かしらの期待をされていることを「視」た神峰は、黙って頷くしかなかった。
───
─
神峰「ペットの世話とは言っても……ほとんど放し飼いだな。俺のやる事なんてあるのか?」
神峰「散歩も適当にやるだろうし、餌をやるくらいしかなさそうだ……。そう言えば他のペットもペットの世話してんだよな……。仕事少なくないか?」
己の仕事を全うしようと、地霊殿を歩き周ってペットを探す神峰。しかし、どの動物も神峰が思った以上に自立的であった。
神峰「もしかして……引きこもらずに旧都って所に繰り出せって事か……? さとりのあの、俺を試しているような心ってそういう事なのか?」
神峰「……でも一人であの連中が居る所に行くのは怖ェし……、しばらくはここのペットと向き合って練習しよう……!」
ちょっと格好悪ィけど……、と思いながらも前へ進む覚悟を決める。
そんな神峰を自室の窓から眺める人影があった。
さとり(彼に人と、その心に関わる勇気を与える……。こいしが心を閉ざす以前にしてあげられなかった事を彼に実行することで……!あの時をやり直すことで!私も何かを得られるはず……!)
さとり(すみませんね、翔太さん。私の為にも、貴方の為にも、まだまだ課題を乗り越えてもらいますよ?)
───
─
~一ヶ月後~
神峰(こいつらも大分俺に懐いてきたな……。なんか、こういうのっていいな……、癒される……。こいつらの世話してると何かカタルシス感じて……、何て言うか、動物っていいな)
そこには、動物達と触れ合う神峰の姿が!
ちなみに、未だ神峰は地霊殿から外へ出ていない。
にへら、と笑顔を作り和んでいる神峰のもとへ、さとりが歩み寄ってきた。
さとり「人に嫌われるからといって、動物に手を出してはいけませんよ?」
神峰「? いや、懐いてる相手に暴力は振るわねェけど……」
さとり(この鈍感さは治せないのでしょうか?ボケ殺しもいい所ですね)
この一ヶ月で、さとりも神峰という人間を理解していた。
この男は心が視えるというのに鈍感なのだ。気付いたのはお燐がそういった話を神峰に持ち掛けた時だ。
お燐達はわざとはぐらかしているのだろうと言っていたが、心を読めるさとりだけは、こいつはマジだ、と神峰の鈍感さに絶句した。恐らく自己評価の低さから来ているのだろう。
そのせいで、さとりの希少な冗談も何処へと流れて行ってしまう。
さとり「お茶にしましょう。来てください」
神峰「あざす!」
……………
さとり「翔太さんがここに来てから一ヶ月ほど経ちましたが」
カチャリとティーカップを置いて話を切り出すさとり。
神峰「?」
さとり「元の世界に帰りたいなんて全く考えませんでしたね」
神峰「!? 帰る方法があるのか!?」
ここに来ていきなり元の世界へ帰るという──帰る方法の可能性が浮上してきた。
そもそも帰れると思っていなかったし、何よりそんな事なんて考えていなかった神峰は驚き立ち上がった。
しかし……
さとり「地上に住んでる巫女を頼れば、元の世界へ帰る事が出来ます。しかし、私はまだ貴方を地上へ向かわせる気がありません。貴方はまだ旧都にすら踏み出していませんから。なのでしばらくはここで暮らしていて下さいね?」
神峰「なっ……」
ハッキリと帰さないと言い放つさとりに神峰は言葉を失う。
そして更にさとりは続ける。
さとり「それに……帰りたいと思わないということは、未だ人との関わり合いを恐怖しているということ……。そんな貴方を帰した所で、貴方はここへ来る以前と変わらないまま。放ってはおけません」
神峰「……そう……だな……」
図星を当てられ、反論出来ずにシュンと力無く椅子に座る神峰。
激昂するだろうと思っていたさとりも意外に思い、その心理を推理する。
さとり(自分の本音を突き付けられたというのに、怒らずに受け止めた……)
さとり(彼が心の状態をバラして他人を怒らせた経験から、自分の心を暴かれても嫌悪感は抱かないようにしようという気遣いですね……)
さとり「翔太さんは良い人ですね……」
神峰「えっ……?」
勝手に心を暴いた謝罪よりも先に、賞賛に近い言葉がさとりの口から出て来た。
前後の文脈から理解できないその言葉に、神峰が聞き返そうとした時、ドンドンと屋敷の門が叩かれる音が聞こえ、誰かの声が聞こえて来る
??「誰か居るかい?」
さとり「お客さんですね。ちょっと出て来ます」
??「さとり!アンタなら居るだろ!?」
地底の住人はさとりが地霊殿からほとんど出て来ないのを知っている。その確信があって声の主は館の主を急かす。
さとり「お待たせしました。……何の用ですか?」
扉を開け、訪問者を確認し、その目的を「読んだ」後にさとりが目の前の訪問者に質問する。
勇儀「何しらばくれてるんだい?アンタなら分かってんだろ?」
勇儀「ヤマメとパルスィから聞いたよ。ココに客人が居るそうじゃないか! しばらく待っても私の所に挨拶にも来やしないないもんだから、こうやって出向いてやったんだよ」
その訪問者──額に一本の角を有し、手には盃を持っている──は、地霊殿の客人、つまり神峰が挨拶に来ないので自ら出向いたと言う。
さとり「すみませんね。彼は今リハビリ中ですので。どうぞ、案内しますのでついて来てください」
神峰を会わせなかった事に謝罪をし、害意が無いのを確認して訪問者を館の中へ案内する。
勇儀「リハビリだ?穴に落ちて足でも折ったのかい?パルスィが助けたと聞いたよ?」
さとり「いえ、社会進出のためのリハビリです」
勇儀「アッハハハハ!心が読めるヤツらってのは難義なヤツが多いねぇ!」
軽口を言いながら神峰のもとへ向かう二人。程無くして目的の人物が見えてくる。
そして来客の対応で待たせた神峰にか、ここまで案内した訪問者にか、あるいは両方に向かって
さとり「お待たせしました」
神峰「!」
神峰(この人……あの角……まさか……)
戻って来たさとりの隣に居た人物の特徴的な角を見て、小さな頃に読んだ物語で、何度も出てきた妖怪の名前が口から出てくる。
神峰「アンタ……、鬼……なのか?」
勇儀「ん? そうさ。まさか我々鬼の存在を覚えているヤツがいるなんてね」
自分の事を鬼だと当てられて少し声に喜色が混じる。
さとり「神峰さん、彼女に挨拶をお願いします。わざわざお越し頂いていますので」
神峰「あ、どうもすみません。俺、神峰翔太です。ここでしばらくお世話になってます……」
勇儀「あたしは星熊勇儀。見ての通り鬼だよ。挨拶に来なかった事は……人間だから大目に見てやるか、今回だけね」
神峰(この人……スゲェ真っ直ぐな心してるな。自信に溢れてる)
勇儀「さて、目的も果たしたし、帰るとするか。まさかさとりが男を匿うとはね!面白いモン見れたよ!」
勇儀「アンタも、旧都に来たなら歓迎してやるよ! じゃあね!」
そう言って勇儀は踵を返し、来た道を辿って行く。
間髪入れずにその背中に向かってさとりが叫ぶ。
さとり「彼はそういうのではありません! 分かって言ってますね!?」
神峰「え? は???」
もちろん勇儀は分かって言っていたが、この男は理解していないようだ。さとりの言葉の意味が分からずクエスチョンが頭の上を飛んでいる。
さとり「……行ってしまいましたか。彼女ら鬼という種族は、約束を違える事を嫌いますので注意して下さいね」
神峰「ああ……」
さとり(しかし、きっと彼女らと関わる事で、翔太さんの精神は成長出来るはずです。……ぶつけるタイミングが重要ですね)
神峰に注意を促しながらも、さとりは思惑を組み立てて行く。
計画通りに事が進むかは分からないが、今よりも良くなる事を信じて───
ういーここまで
『面白いの一言に尽きるね』
『最後まで付き合うよ』
神峰っちゃんはヘタレだけど常に真摯なのが見ていて気持ちいいんだよな
>>45
せめて括弧付けず恰好つけずに言って欲しかったぜ
>>46
ラキスケが起きない辺り紳士でもある
真っ直ぐなキャラって気持ちよく見れるから好き
浴衣久住ちゃん可愛かった。楓さんはああやってパンチを鍛えたのか
星合ちゃんが来るのを期待
外へと通じる扉の前に、いよいよ腹を括った顔の神峰が立つ。その後ろには神峰を見届けるために、見送るために集まったさとりとペット達がいた。
神峰「……よし、行くか」ドキドキ
外出の目的は神峰の衣類の調達である。
さとり「行ってらっしゃい」
扉に手を掛けてしばらく硬直した神峰は、凄くバツの悪そうな顔をして振り向き
神峰「……あの、やっぱ誰か付いて来てくれね? あの連中怖え……」ビクビク
何と情けないと思いながら助けを乞う。しかし助けを求めるのも勇気である。
今まで引きこもりに近い状態だったのに、一人で妖怪の街へと繰り出すのはさすがに無理があったのだろうと見越していたさとりは、ペットを一匹お供に付ける事にした。
さとり「……とは言っても……。仕方ありませんね。お燐」
お燐「はい」
さとり「翔太さんのお供として付いて行ってあげて」
お燐「分かりました! お兄さんもペットの世話をして助かってるから、お安い御用だよ!」
笑顔で二つ返事をするお燐。
きっとさとりに言われなくても、神峰から頼まれたら快諾していたであろうと思えるくらいに淀み無い返事だった。
神峰「悪りィな……助かる」
神峰(お燐……この子は地霊殿に来た時からフレンドリーに接してくれるな。というかここのペットは、さとりで慣れてるせいか、心が見える事を知っても俺を嫌わない)
さとり「この子達は言葉が話せませんから、言いたい事が分かる私に懐くのですよ。恐らく翔太さんにも、同じような理由で懐いたのでしょう」
神峰「へぇー」
神峰(そしてさとりとの、この独特の会話にも慣れてしまった……)
さとり「それは翔太さんが、自分の本心を認め、受け入れる強さを手に入れたという事です」
さとり(というか、この人意外とストレートな性格なんですよね。思った事を口にしちゃうから、本心も表層意識に表れ易い)
神峰「とにかく、初外出だな。言葉にするとスゲェ情けねェ……」ドキドキ
さとり「人間は貴方しかいませんけど、私の関係者だとは伝わっているでしょうから危険な目には遭わないと思います。が……気をつけて」
緊張する神峰に気休め程度の言葉を投げかけるさとり。
しかしその心にはどこか懸念があるようで、そんなさとりの心を視た神峰は疑問に思いながらも外へ歩み始めた。
神峰(? 何をそんなに心配してんだ……?確かに怖えけど……)
お燐「行ってきまーす!」
………………
………
【旧都】
神峰「こんなに人が多い所に来るのも久しぶりだな」
街の喧騒を懐かしむように歩く神峰と燐。神峰はテレビでしか見たことのない街並みに新鮮味を覚えてキョロキョロと周りを見渡しながら歩いている。
神峰「見渡す限り妖怪ばっかりだ……。なんか、漫画の世界に来たみてェだ……」
お燐「お兄さんは外の世界から来たから、あながち間違ってはいないと思うけどねぇ」
お燐「しかし───」
ザワザワヒソヒソ...
お燐「見事に伝わってるね!さすがに二ヶ月近く居れば噂になるか!」
噂になるのは仕方ないとは思う。正直、周りの視線は浴びたくなかったが、神峰はその視線に違和感を感じる。
これは好奇心からくる視線とは違う、何かを忌避するような……
神峰「……。なぁ、お燐。珍しいモン見て噂されるのは分かるけどさ、……どうして皆、俺に関わろうとして来ないんだ?」
神峰「地底の連中は物騒なのが多いって聞いた気がするんだけど」
お燐「忘れたのかい?心を読む能力は嫌われてるんだよ。地底の連中でさえもさとり様と関わろうとはしないんだ。だからさとり様は地霊殿に引き籠ったんだよ」
神峰「!」
お燐「それにこの辺なら、さとり様の関係者だと言えばみんな大人しくなるからね」
神峰「だから……皆の心は俺達から目を逸らしてんのか」
心を読む能力は嫌われる。その言葉を聞いた瞬間、自分の能力も知れ渡っていて避けられているのかと神峰は思ったが、どうやら違うらしい。
根本的にさとりの関係者である事が、さとりという存在が、この地底では忌避されるモノであると燐は言っているのだ。
神峰(さとりの心配ってコレの事か! 皆から避けられるって事が分かってたんだ!確かに関わる気の無い人に関わって行くのは……辛い)
神峰「……とりあえず今日は、用事を済ませたら帰るか。服屋は……もうすぐだな」カサ
今の自分では出来る事は何も無い。気持ちだけじゃ何も救えない。神峰自身が今までに経験して辿り着いた答えである。
遣る瀬無い気持ちを抑えながら、さとりから貰った地図を確認し服屋を目指す。
───
─
神峰「こんなモンかな?どうだ?似合ってる?」ヒラヒラ
帰り道、和服に身を包んだ神峰が両手を広げて感想を求める。
お燐「似合ってるよ!やっぱり場に馴染むならこっちの服も持っておかないとねぇ。というかアレ(制服)でよく今までもったね……」
神峰「一応地霊殿にも何着かあったから借りてたんだけどな」
と、ここで何かを思い出したかのように燐に尋ねる。
神峰「───あ。そうだ。お燐」
お燐「なんだい?」
神峰「星熊勇儀って人の所に行きてェんだけど、いいか?」
お燐「あの鬼に用があるのかい?お兄さんも物好きだねぇ」
神峰「いや、あの人、挨拶が無いからってこないだ地霊殿まで来たんだよ……。だから今日、外出してるのみんなに見られてるし、それが分かったら何か思われるんじゃねぇかと思って……」
神峰(それに次は無ェって言われた気がするし……)ブルブル
今回だけ、という言葉が何故か心に刺さって抜けなかった。本能的に危機を感じ取っていたのだろう。
お燐「ふーん、分かったよ。勇儀の家はこっちだよ!案内してあげる!」
神峰「助かる!」
………………
……
神峰達は今、座っている勇儀に立ったまま向かい合っている。
勇儀の家を訪ねたはいいが、留守だったために勇儀の行きそうな場合へ行ったり、(主に燐が)聞き込みをして探した結果、勇儀は居酒屋に居た。
神峰(まさか居酒屋に居るなんて思わなかった……しかも今昼間だぞ!?)
勇儀「アンタ確か、古明地のトコの……翔太っつったね?こんな時間にこんな所で何の用だい?」
神峰「それはこっちのセリフッスよ! 何で昼から酒飲んでんスか!?」
思わず突っ込む神峰。自分の常識が通用しないという事は幻想入り初日に体感したはずだが、突っ込まずにはいられなかったようだ。
そんな神峰を見て勇儀はニィと笑う。
勇儀「元気イイね、アンタ。さとりのリハビリは効果があったってワケだ!」
勇儀「それで、私に何の用だい?」
神峰「リハビリ……?」
勇儀の言葉を拾い、復唱する神峰の横で、燐が質問に答える。
お燐「お兄さんは初めての旧都進出だからって、わざわざあんたに挨拶に来たんだよ!」
勇儀「へえ。ちゃんと筋は通せる人間ってワケだ……。気に入った!約束通り歓迎してやるよ!」
勇儀「さぁ座りな!おごってやるから好きなの頼みなよ!お燐もいいよ!」
神峰「あ……あざす!」
お燐「やったね!ラッキー!」
神峰(この人……他の人とは違ってグイグイ俺達に絡んでくる!言動が一貫してて、ここじゃかなりありがてェな……。絶対敵にしちゃいけねェ)
潔く豪快。第一印象ではどこか怖そうな人というイメージだったが、勇儀のこの第二印象でそのイメージも薄れて来た。
勇儀「んじゃ、料理が来るまで……はい、はい」コト、コト
神峰が勇儀への印象を改めていると、二人の前に透明の液体が入った透明のコップが置かれた。
神峰「……え? コレ……」
お燐「どうしたの? せっかくのおごりなんだから、遠慮したら損だよ?」
勇儀「そうだよ翔太。ほら、乾杯するからコップ持ちな」
神峰「いやでも、コレ……お酒ッスよね?」
勇儀「居酒屋なんだから酒飲むのは当たり前だろ? それとも私の出した酒が飲めないってのかい?」
神峰「それパワハラッスよ!?っていうか俺未成年ッス!」ヒーー
勇儀「あん? そんな事気にしてんのかい? 大丈夫だよ、幻想郷の住人はアンタくらいの年なら皆酒飲んでるから」
お燐「そうだよ! お兄さんより年下っぽい娘もお酒飲んでるんだから大丈夫だって! 万が一の時はあたいが送ってあげるから!」
万が一というのが、未成年飲酒がバレた時の心配ではない。
神峰(……断るのは無理っぽいな……しかも本当の事っぽい……。でも確かに、好意を無駄にするのも悪いし……腹括るか……)
二人の言ってる事に偽りが無いという事を、心を視て理解する。そして観念したように差し出されたコップに手を伸ばし
神峰「……わかりました。では」スッ
三人「乾杯!」カキーン
三度目のカルチャーギャップを目の当たりにして、神峰は思う。
───この幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね───
それは、まるで天啓のように頭の中に谺した。
───
─
勇儀の歓迎が終わり、帰り道を歩く神峰。その足取りはフラフラで、いかにも酔っ払いのようだ。おまけに燐を背負っている。
神峰「……う、……頭痛ェ……気持ち悪りィ……」
お燐「」
神峰(お燐が勇儀さんとの飲み比べを代わってくれたからこれくらいで済んだけど……鬼ってスゲェ……)ゲンナリ
鬼があんなにウワバミだとは聞いてない。そもそもあんなに飲む者に出会った事が無いのだ。神峰は、自分が如何に狭い世界に閉じ籠っていたのかを知る。
神峰(お燐には今度お礼しなきゃな……)
神峰「ほら、大丈夫か?もうすぐ地霊殿に着くぞ」ユサユサ
お燐「揺らさないで……」
神峰「あ、悪い……」
【地霊殿】
神峰「ただいまー……」フラフラ
神峰(ただいまだなんて、久しぶりに言ったな……。俺、本格的に引きこもりだったんだな……)
さとり「おかえりなさい。お昼は済ませたみたいですね。勇儀さんに捕まるとは……災難でしたね。ああ、お燐を運んで下さってありがとうございます。適当な部屋に寝かせておいて結構ですよ」
さとり「翔太さんも、今日は早めに休んだ方が良いと思います」
神峰「ああ、悪いけどそうするよ……」
今回ほどさとりの読心能力を有難いと思った事は無いだろう。
こういう時に説明をする必要が無いので話が早い。
神峰はさとりの言葉に甘える事にして、自分の部屋へと向かった。
………………
神峰(───とは言ったけど、せめてお燐の介抱くらいしてやらねェと。俺の身代わりになってくれたし……)
神峰(とりあえず俺のベッドに寝かせて、お燐が起きれるまで回復したら俺も寝よう……)
燐をベッドに寝かせて、自分も椅子をベッドの側に置いて腰掛けた時、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
神峰「はい」
さとり「お水を持って来ました……」ガチャ
さとり「って……お燐の介抱をしていたんですか……。わかりました、もっと多めにお水を持って来ます」
さとりが水を持って部屋に入り、状況を一目で理解する。
そして燐と神峰のメンタルから要求を的確に見抜き(読んだだけだが)、再び部屋を後にした。
………………
……
さとり「どうぞ」コト
神峰「サンキュー……」
お燐「すみませんさとり様……ありがとうございます……」
さとりが氷と水をそれぞれ別の容器に入れてお盆に乗せて持ってくると、二人は弱々しく礼を言う。
そして神峰はコップに水を注ぎ始める。
さとり「いえ。では私は戻ります。翔太さんも早く休んで下さいね?」
神峰「ああ……助かるよ」ゴクゴク
水を飲みながらさとりを見送っていると、さとりは何かを思い出したかのように立ち止まった。
さとり「そういえば」
さとり「言い忘れていましたね」
そして振り返り、
神峰「?」
さとり「服、似合っていますよ。では」
一言だけ言って、踵を返した。
神峰の隣ではそれを聞いた燐が目を見開き、口をニヤけさせる
お燐「<●><●>」パカーーン!
神峰「ああ、ありがとう──ってお燐!?」
さとり「何をしてるんですか……。やらなきゃいけない気がした? 意味が分かりませんよ……」バタン
呆れた顔をして部屋から出て行くさとり。
空元気を出したせいで顔を真っ青にして口元を抑える燐。
そんな燐を見て慌てふためく神峰。
神峰「せっ、洗面器だ!! 頼む!! 洗面器を!! 持って来てくれ!!」ウワアアアア
なんとか用意された洗面器には、毛玉は出てこなかった。
───
─
神峰「よし」ドキドキ
神峰「今日こそは、一人で行ってくる!」ドキドキ
お燐「頑張ってね!」フリフリ
さとり「行ってらっしゃい」
神峰「ただのお使いなのにこの有様……スゲェ情けねェ……」
さとり「さすがに状況が特殊ですからね」
結局、神峰が一人で旧都へ行くのには一週間ほどの時間を要し、今日こそ一人で行く決心がついた。
それまではお燐と共に、旧都の雰囲気に馴染むために、散歩や日用品を調達するための外出を繰り返していた。
旧都の住人はさとりの言った通り、神峰に対して積極的に接して来る事は無いが、勇儀のお陰か、会話程度なら関わってくる連中らも出てきた。
神峰(勇儀さんに会うと必ず酒の席に連れ込まれて顔を覚えられるからだよな……多分)
さとり(間違いなくそのせいでしょうね)
さとり(しかし……初日に言った「こいしの心とちゃんと向き合って欲しい」という約束が、翔太さんの中で「人の心とちゃんと向き合う」に変化したのは僥倖ですね)
さとり(翔太さんは約束はきちんと守る方なので、これから旧都でさらに鍛えられる事になるでしょう。せめて嫌な事から逃げずに踏ん張るくらいの強さを手に入れたら、地上に送ってあげてもいいかもしれませんね……)
さとりの腹の中では、計画が進んでゆく。
………………
【旧都】
この一週間で神峰も街の風景に大分馴染んできただろうか。しかし一人で歩いている姿はまだまだぎこちなさが見える。
神峰「一人で来るだけでこんなに緊張するモンなのか……? 元の世界なら人混みの中に居ても無視すりゃ余裕があったってのに……」
神峰「やっぱ相手が人間じゃねェって大きいな……」
ヤマメ「というか、ココに人間なんて翔太だけだよ?」
神峰「!?」ビクッ
独り言を言っているといきなり背後から声がかかり身体が跳ねる。振り返るとそこにはヤマメがいた。
ヤマメ「今日はお燐と一緒じゃないんだね」
神峰「あ、ああ……今日こそは一人でお使いだ」
ヤマメ「あっはっはっは!ようやく一人前って訳かい!? あの時から随分時間がかかったね!」
ヤマメ「まぁ仕方ないか!ココじゃあ人間はさとりに守られていなけりゃ今頃は誰かの腹の中だしね!」
神峰「!!!」ゾクッ
神峰(そうだ……すっかり忘れてたけど、ここは妖怪の巣窟じゃねェか!いつまでもさとりに甘えて、守られてるワケにはいかねェよな……。地底に人間なんて場違い過ぎだ。いつかは地上に出なきゃならねェんだ……)
今まで何事もなかったためすっかり平和ボケして失念していたが、ヤマメに物騒な事を言われて思い出す。と同時に身体に悪寒が走り、人間である自分が地底の住人には不相応であると考える。
そんな事など気にせずにヤマメは続ける。
ヤマメ「でも、翔太もうまくやって行けてるようだね!」
ヤマメ「まさか地霊殿の客人になるなんて!ペットにされるかと思ってたのに」
神峰「それは俺にも良くわかんねェんだけど、なんか突然客でいいって言われたんだ」
ヤマメ「ふーん……。シンパシーでも感じたのかね?まぁいっか、お使い頑張りな!」バイバイ
神峰「ああ。またな」
手を振って別れを告げるヤマメに挨拶をして、神峰も自分のお使いをこなし、地霊殿へと戻る。その姿は、パルスィに案内された初日以来の慎重なものだった。
───
─
【地霊殿】
神峰「ただいまー」
お空「あ、翔太だー!おかえりなさい!」
扉を開けると、空の特徴的な大きな羽に大きなマント、そして緑のリボンが目に入る。
そんな空も、扉を開けて入って来た神峰が目に入って来たらしい。
神峰「おっ、お空! 珍しいなこんな時間にこんな所で」
お空「ちょっと休憩よ!」
神峰(お空とのコミニュケーションってかなりレアなんだよな……初日に話して以来、あんまり会わないし、人間が入れない所で仕事してて、もう一つ別の施設で仕事してんだよな……。核融合出来るってスゲェよ)
お空「お燐から聞いたよ! 買い物行って来たんでしょ? 何かおみやげある!?」
期待する眼差しでパタパタと神峰に近づいてくる。
神峰「お使いだから残念ながら無駄金は使えねェんだ……悪ィ」
お空「ちぇー。でもさとり様がそう言うなら仕方ないね」
空が残念そうにしていると、そこに階段を降りてさとりが現れる。
さとり「別に買い食いくらいなら構いませんよ? 翔太さんは本当に律儀ですね」
神峰「!」
お空「さとり様!」
さとり「おかえりなさい。どうやら一人でも大丈夫だったみたいですね」
神峰「ただいま。スゲェ怖かったけどな……。ヤマメと会ってここが妖怪の住む場所だって再認識したせいで……」
さとり「地上へ行くのはまだまだ許せませんので、しばらくは我慢してください」
神峰「分かってるよ……人って簡単には変われねェな……」
この一ヶ月で、神峰もさとりが何かを企んでいる事に勘付いている。そのせいか、まだ帰せないという言葉もすんなり受け入れる。
そもそも神峰自身、未だに帰ろうという気になれていないのだが……
そんな二人の会話など気にもせず、空は神峰の袖を引っ張る。
お空「ねぇ翔太!さとり様が良いって言ってくれたから、今度行った時はおみやげ買って来てよ!」グイグイ
神峰「分かった、分かったよ」
さとり(少なくとも初日よりは変わりましたよ、翔太さん。あのやさぐれた上に全て諦めていたあの頃よりは、前向きで活力がありますから)
さとり(まぁ、それはペット達との触れ合いのお陰でしょう。まるでアニマルセラピーですね。……人と関わる強さを身に付けたら、帰してあげますね)
───
─
次の日。
神峰「……」
諦観。
そんな言葉がぴったり当てはまる表情、つまり死んだ目をした神峰がそこにいた。
周りはワイワイガヤガヤと賑わっている。
神峰(捕まってしまった)
そう。神峰は今、勇儀に何時も連れ込まれる居酒屋にいて、姿勢良く椅子に座っている。
勇儀「ほら翔太、飲みな!独り立ち記念だ!」
神峰「いただきます!!」ゴクッ
ややヤケクソ気味に差し出された酒を飲む。
旧都を一人で歩いていると勇儀と遭遇してしまったのだ。これで何度目になるだろうか。
勇儀「これでアンタを庇うヤツは居なくなったってワケだ……」
神峰「あの、もしかして……」
勇儀「分かってるなら話は早い。物分り良いじゃないか」
神峰「助けて!!!」
神峰が騒いでいると、カウンター席に座る神峰の隣の勇儀のさらに隣に座る少女が顔を向けずに話しかけてきた。
パルスィ「諦めなさい。鬼と人間は古来より戦うさだめなのよ……」
勇儀「その通りさ!良い事言うじゃないか!」
神峰「!アンタ……俺を助けてくれた……」
その声を聞いて、勇儀越しにその姿を見て、直ぐに神峰も気付く。命の恩人である彼女の事を忘れた事は無い。
パルスィ「久しぶりね。どうやらペットは免れたみたいね……妬ましいわ」
ここでようやく神峰と顔を合わせるパルスィ。
しかし出てくる言葉は助けなければ良かった、と思わせるニュアンスを含んでいる。
神峰「あの時は本当にありがとうございました。何て言ったらいいかわかんないッスけど……人間の俺を助けてくれて、本当に感謝してるッス!」
パルスィ「いえ、礼は要らないわ。あの時の貴方は嫉妬する余地なんて無かったもの。ただの同情よ?」
パルスィ「だけど今は……、地霊殿で上手くやれてる様ね……妬ましい。聞けばペットにも懐かれたみたいね……妬ましいわ」フツフツ
神峰の目に、口を開く度に心に着いた火の勢いが強くなっていくのが視える。
神峰「!?」
神峰(なんだ……!?心が……沸騰してんのか!?火の勢いがどんどん増して行ってる!!)
パルスィ「まさかあんなに不幸に見えた貴方がここまでなるなんて、まるで悲劇のヒーローね……、助けた甲斐があったわ……妬ましい。こんなに私を嫉妬させるなんて、思っても見なかったわ。たまには気まぐれも起こしてみるものね」グツグツ
火力が上がると同時に心が沸騰し煮詰められ、ドロドロに変化していく。おまけに蒸気で湿度が高くなりジメジメしている様子を目の当たりにした。
神峰(この人……一体!?)
勇儀「ほら、お喋りはここまでにしてグラスを持ちな!地霊殿まで運んでやるから安心して飲んでイイよ!」
勇儀に酒を勧められても、神峰にはパルスィの心がずっと気になっていた。
───
─
【地霊殿】
勇儀「お邪魔するよ」
神峰を担いだ勇儀がさとりを訪ねる。
さとり「こんな所に来るなんて珍しいですね……って……、翔太さんを潰さないで下さい。まだお酒を飲んで一週間しか経っていないんですよ?」
勇儀「これも一種の歓迎だよ。洗礼って言った方がいいかな?」
勇儀「アンタがいつまでこいつを匿うのか分からないからね、出来るだけ人間と戦いたいのさ。それとも一生側に置いとくのかい?」
それなら有難いんだけどね、とカラカラ笑う勇儀に、呆れたように答えるさとり。
さとり「……貴女の考えてる関係ではありませんし、そんな感情はありませんよ。……残念がらないで下さい」
面白い話が聞けずにつまらなそうにする勇儀だが、すぐに切り替えて神峰の部屋を尋ねた。
勇儀「……寝かしといてやるからこいつの部屋教えてくれない?」
神峰「」グッタリ
………………
……
神峰「ん……」
神峰「……今何時だ……?頭痛ェな……」
ボンヤリと目を覚まし、酔いから来ているであろう頭痛を覚えながらも起きる事にする。
地底は日が刺さないため時間を予想する事が困難だ。
神峰「とりあえず起きるか……」ムク
神峰「時計時計……お、まだ5時か。確か昼に勇儀さんに捕まって、一時間くらいで潰れたと思うから……寝てたのは3、4時間か」
壁掛けの時計を確認し、そして部屋の机の上に目が止まる。
神峰「買い物袋も置いてある……勇儀さんが送ってくれたんだな。……仕舞いに行こう」ガチャ
荷物を仕舞うために部屋を出て台所へ向かう途中に、空と遭遇した。
お空「あ、翔太!おはよー!」
神峰「お空! 二日連続で会うなんて珍しいな。……そうだ! 約束通りちゃんとお土産買ってきたから、やるよ!」ガサガサ
お空「約束? 何だっけそれ? でもありがとう! あ……でもご飯の前に食べたら入らなくなるかも……」
約束通りお土産を渡すも、空との会話にどこかズレを感じる神峰。
神峰「? 昨日お土産が欲しいって言ってたろ?」
お空「うにゅ? そうだっけ? 忘れちゃった♪ まぁいいか、冷めちゃってるけど」モグモグ
神峰(マジで心の底から忘れてるのかよ……何かショックだ……俺ってやっぱその程度の認識なのかな……?)ズーン
どうやら会話のズレは空が約束を忘れたかららしい。まぁいいか、とお土産を頬張る空の隣でその事にショックを受けていると、後ろから燐が現れた。
お燐「おはようお兄さん!時間は早いけど起きるのは随分遅かったね!」
お燐「あと、お空は相当な鳥頭だから、まともに憶えてるのはあたい達の顔と名前と、さとり様の命令くらいだから、そんなに落ち込むことないよ」
神峰「そ、そうなのか!知らなかった……」
燐のフォローに安堵するも、またもや違和感を覚える。
お燐「最初に言っておけば良かったかな。会話も大変だと思うけど頑張ってね」
お空「お燐、翔太!早く朝ごはん食べに行こ!」
そして「朝ご飯」という単語を聞いて、違和感の正体に気付く。
神峰「……ん?」
お燐「どうしたのさ?」
神峰「そういえばさっき、起きるのは随分遅かったって言われたな……」
お燐「そうだね。なかなか起きないから心配したよ!」
神峰「って事は今は朝の5時って事か!?……イテテ……!」ズキン
お空「当たり前じゃない。変なのー!」
神峰「ヤベェ、15時間も寝てたのかよ……!」
お燐「そりゃあんだけ飲んでたら昏睡もするよ」
神峰「俺、先に行ってこの荷物仕舞ってくるわ!ついでに朝食も準備してくるから!」
二日酔いの頭痛を我慢して台所へダッシュする神峰。ペット達が何でも食べるという事で、自分の分と一緒に同じメニューを作っていたので、食事の準備もこの一ヶ月で大分覚えていた。
お燐「え?そう?じゃあよろしく!」
お空「行ってらっしゃーい」フリフリ
……………
神峰「あー疲れた……。二日酔いなのにダッシュしてメシ用意して……」
神峰「地底は日が入らねェから時間の感覚狂うよな……。なのに何故か雪は降るんだよな」
神峰「よく考えたら酔い潰れて3、4時間で目を醒ますなんて無ェよな」
食事の準備が終わり、片付けも終了して一段落ついた所で、昨日の少女の心の事を考える。
神峰(しかし……あの時のあの人の心……。最初に会った時も思ったけど、ヤベェよ……)
神峰(アレは完全に俺の手に負えるモンじゃねェ……。あの火を消して湿気も吹き飛ばせる、強い風でも心に吹かねェと無理だよな)
さとり「それは不可能でしょうね」
神峰「!」
その思考も、突然割り込んで来たさとりによって中断される。
珍しく早起きな上に、自ら食堂に出向く事も珍しいが、それよりも不可能だと言われた事に反応してしまう。
さとり「彼女は嫉妬の妖怪……。嫉妬と共に生きて嫉妬をするために生まれた、嫉妬無しでは生きられない……彼女自身が、嫉妬で出来ているような存在ですから」
さとり「彼女の嫉妬心を消すということは、彼女の存在を消すのと同義です。もちろん、彼女以外にも、妖怪というのはそれぞれ"在り方"……つまり存在の理由があります」
さとり「その在り方に関わるような事をするというのは、妖怪にとっては死を意味するのです」
神峰「!?」
死を意味する──。いきなりそんな事を言われ、神峰は困惑する。
オレはただ、あんな苦しそうな心を何とか出来ないか考えただけなのに……。
───オレが相手のためにと動いても、碌な事が起きない!
───人のために動く事が間違いだっていうのか!?
───全てオレの独り善がりだったのか!?
まさか自分がやろうとしている事でパルスィが消えてしまう事になるなど、常識外れにも程がある。
しかし、それが妖怪の理なのだ。妖怪にとっては常識なのだ。妖怪は、その精神性に強く依存して存在している。
だがこのことを、神峰はまだ知らない。
さとり「心苦しいとは思いますが、明らかに間違っていても、それがその妖怪の存在理由ならば……存在を消したくないのなら、正す事は出来ません……」
さとり「……トラウマを刺激するような事を言ってすみません……。ですが、翔太さんは以前よりも強くはなっています。あの頃よりも無力ではありませんよ」
申し訳なさそうに話すさとりに、今にも心が折れそうな神峰は縋る。
神峰「な……んで……」
神峰「じゃあ……、俺がココで出来る事ってなんなんだ!?」
神峰「さとりの存在に守られて!俺は雑用しかやれてねェ!!俺は!……俺は!心と向き合うって決めたのに!なんとかしたいって、心を変えてやりたいって……まだ諦めてないのに……それも出来ないのかよ!?」
神峰「一体なんの為にさとりに守られてるんだよ……地底に居る意味あんのかよ……」
何の因果か分からないが外の世界から幻想郷へ来て、しかし生きる意味を失った神峰には、もはやさとりに縋るしか道が無かった。
さとりが神峰を利用して何かを企んでいるのは知っている。
しかしそれを言及しなかったのは、嫌な予感がしなかったからだ。
初日に会った時は、見向きもしようとしてなかった。地霊殿の客として迎えられた時は、どこか試しているようだった。最近になって外出する時は、本気で心配してくれていた。
しかし最初に会った日以外どの時も、見守るような、暖かさを感じる心をしていた。
そこに偽りは無いと確信出来る能力が神峰にはあったから。神峰の前では、心を偽る事は不可能だから。
だから、自分を利用しようとしているさとりに縋るしか、もはや自分の生きる意味を見出せなかった。
妖怪に利用されてどうなってしまうのか分からないが、それでも、行く先が闇でも、光を求めた。ただ、悪いようにはならないという確信だけはあった。
さとり「……少なくとも、私のためには、まだ翔太さんを側に置いておく必要があります」
さとり「私は……貴方に勇気をもらうために……貴方が必要なんです」
そして、さとりから初めて語られるその目的は、神峰が全く予想していない事だった。
神峰「俺から……勇気を……?……やれるワケ無ェ……。このザマだぜ?」
さとり「いえ、少なくとも、翔太さんは私よりも一歩前を進んでいます」
神峰「?」
さとり「私"も"、こいしと……心と、向き合う覚悟を持ちたいのです」
───地底の妖怪でさえさとり様とは関わろうとはしないんだ。だからさとり様は地霊殿に引き篭もったんだよ───
神峰(!!)
さとりの言葉で、いつか燐に聞いた事を思い出す。
さとり「ですので、私に道を示して欲しい……!」
さとり「翔太さんが、私の影響で避けられていても他人に関わり続ける事で、それが私には希望になります!」
さとり「お願いですので、私の心を箱から出して下さい!」
神峰(……そんな事言われたら……、そんなに助けを求められたら……)
神峰「お前のために……頑張るしかないだろ……」
神峰は己の生きる意味を、さとりに見出そうと、依存しようとした。しかしさとりは、己のために神峰に自立して欲しいと願う。
神峰「はは……、出来過ぎた話だよな……。オレはさとりを頼ったのに、さとりはオレを頼っていたなんて。絶対共倒れしないようにしなくちゃな……」
神峰「だから……もう顔は伏せねェ……! 覚悟はもう出来たから……あとは突き進むだけだ! もう……躓かなねェ!」
さとり「私の我儘に付き合わせてしまって……すみません。これからよろしくお願いします」
そんな二人を覗く影が二つ、出入り口の影から伺っていた。
一つは燐。燐はニヤニヤと目と口を開き口角を上げ、もう一方、空は純粋な瞳で、じぃとこちらを見ていた。
さとり「何を見ているのですか?」
神峰「いつの間に!?」ドキッ
二匹に気付いたさとりは、ジト目で訴えるように問う。
お燐「いやぁ、悪いなーとは思ったんですけど、どうしても気になって!」
さとり「全くこの子は……。お燐の考えているような感情はありませんよ……」
神峰「?」
お燐「とにかく! お兄さん、さとり様を(末永く)よろしくね!」
二人の会話について行けない神峰に話を振る燐に呆れ、話を切り上げる事にしたさとりは別の話題を持ち出す。
さとり「はぁ……。もういいですそれで。さて、久しぶりに早起きしましたから……翔太さん」
神峰「え?」
さとり「朝ご飯をよろしくお願いします。作ってくれたんですよね?」
神峰「ああ!わかった!」
二日酔いもすっかり引いた神峰は快く二つ返事をする。
お燐「<●><●>」パカーーン!!
お空「あはは!お燐何その変なカオー!」
そのやり取りでまたニヤけた顔をする燐。もはや何を言っても無駄かも知れない。ただ愉しんでいるだけなのだろう。
さとり(いつの間にこんなに俗になってしまったのかしら……)イラッ
神峰「だから一体何なんスかソレ!?」
お燐「いやいや気にしないで!まさかさとり様が……」
神峰「その顔戻してくれねェか!?なんでそんなにウキウキしてんだ!?」
さとり(地上に行くの控えさせた方がいいのかしら───)クルッ
燐と神峰と空が賑わっているのを他所に、さとりは適当な席へ移動するために三人に背を向けた───
こいし「<●><●>」パカーン
さとり「」ドキーーン!
───ら、振り向いた目の前に、燐と同じようなニヤけ顔をしたこいしがいた。
さとり「こいしまでそんな表情しないで!!」ドックンドックン
こんなに驚いたのは久しぶりだ。冷や汗が出て、物凄い速さで鼓動が鳴る。
まさか妖怪である自分が驚かされるなど──おまけに引き篭もりであるため───ここ数百年は考えてもなかっただろう。
さとり「というか何時帰って来たの!?」
こいし「今朝よ。お燐達がここを覗いてたから気になっちゃって」
神峰「! こいしがいる! スゲェ久しぶりに会ったけど……多分一ヶ月は会ってねェかも」
さとりの声を聞いて振り返った神峰も、こいしに気付く。
こいし「私も翔太の料理食べたい! 早く行きましょ!」
今日も地底での一日が始まる。
───
─
~オマケ~
神峰「そういやなんでこんな時間に起きてんだ?」
さとり「お燐に起こされて……。翔太さんが料理作ったからって」
神峰「あ、そうなんだ……」
今日はここまで
「<●><●>乙」ニヤニヤニヤニヤ
本スレでは早速【神】が出たようだ。
次はメガミンだ
>>82-83
何スかその一体感!?
投下します
神峰「よし!行ってくる!」
お燐「行ってらっしゃーい」フリフリ
さとり「行ってらっしゃい」
決意を胸に、真っ直ぐ進む神峰を見送るさとりと燐。
神峰にはもう、以前のような躊躇いは見られなかった。
さとり「今朝あんな事になったというのに、決意してすぐに行動ですか……」
お燐「いやー、行動力もあってお兄さん熱いですねー! 惚れました?」
さとり「まだ引きずるのね、それ……」
───
─
【旧都】
神峰「勢いで飛び出しちまったけど……やる事は人と関わる事なんだよな……どうするか」
神峰「知らないヤツに話しかけるか、知り合いから人脈を広げるか……」
こいし「迷った時はいっそ大胆な行動をするのも解決の秘訣よ?」
神峰が一人悩んでいると、隣からこいしが話しかけて来た。何時の間にか着いて来たようだ。
神峰「わっ!? ビビった……ついて来たのか」
こいし「翔太が生き方を変える瞬間に立ち会ったんだもの。面白そうだから見学させてね?」
神峰「……まぁ構わねェけど」
こいし「ありがとう。なんだかデートみたいね! 翔太はデート初めて?」
神峰「デート!?」
からかう様に言うこいしに、神峰は顔を紅くさせ、すぐに自分の人間関係を思い出し凹む。
神峰(そういや……女の子とデートなんてしたことねェ……っていうか多感な時期に人と関わらねェように生きてきたから……、人と関係すんの諦めてたな……。あれ?)
そしてふと思い至る。最近こうして一緒に街へ出掛ける相手がいたではないか、と。
神峰「そういやお燐とは一週間くらい、一緒に旧都に来てたな」
こいし「なーんだ、つまんない。もっと狼狽える所を見たかったのに」
神峰「デートと言うよりは付き添いだったけどな。……さて、どうしようか」
こいし「他人と関わるなら、それこそ地底の住民よりも地上の住民の方が適してると思うんだけど」
こいしの口から至極真っ当な意見が出てくる。
神峰「いや、ダメだ。避けられても関わっていかなきゃ意味が無ェ! ……地上に行く手段も無ェし……」
そう、勇気を与えるために、どんな状況でも他者と関われる強さを身に付ける必要があるのだ。
神峰とさとりとこいしはよく似ている。どうにもならない現実に喘いで、全然上手くいかなくて、他人に疎まれ避けられ……そして逃げた。
似ているからこそ、現状さとりに勇気を与えられるのは神峰だけなのだ。
こいし「ふーん……だったら、翔太が(多分)まだ会ってない子の所に行きましょ」
神峰「?」
そんな神峰の心中など興味が無いと言わんばかりに、こいしはマイペースに神峰を誘う。
………………
神峰「会ったこと無いヤツなんてこの辺なら沢山いると思うんだけど、なんで穴の方に向かってんだ?」
こいし「翔太が落下してる時に会ってないんだもん。会えるのに会ってないのは勿体無いわ。それに最初は軽く済ませて次に繋げたいでしょ?」
どこか適当にもっともらしい事を言われてはぐらかしているように感じるが、こいしの心は相変わらず、真っ白に硬く閉ざされている。そこにあるのに何も伺えない。
神峰(心が変わんねェと何考えてるのか本心が分からねェな……)
二人が橋へと差し掛かる。この橋は神峰が地底に来た初日にも渡った記憶がある。
パルスィの後ろを着いて行ったっけ、と神峰が思い出していると、まさに今考えている少女から声をかけられる。
パルスィ「待ちなさい」
神峰「!!」
パルスィ「あなた達……二人仲良く地上に行く気……?そんな駆け落ちみたいな事許さないわよ?」フツフツ
神峰(この人……何でもこじつけて嫉妬してるのか……。正直、見てて辛え……)
パルスィ「沈黙したって事は図星かしら? 貴方はさとりに気に入られてると思ったのだけど……まさか妹とくっつくなんてね」グツグツ
パルスィの瞳が緑色に光った気がした。
パルスィ「ああ、だからこれから地上へ逃避行という訳ね? 急がなきゃ嫉妬に狂った姉が追いかけて来るのかしら? そんな昼ドラみたいな展開が目の前にあるなんて───」ウフフフ
気のせいでは無いようだ。眼を緑色に光らせながらウフフと笑っている。もっとも、お嬢様の笑い方のような優雅な笑いではないが。
そしてパルスィの様子を伺っていた神峰もようやく反応する。
神峰「アンタ何言ってんだ!?スゲェ誤解されてる!!」
こいし「命懸けの逃避行も面白そうね! 翔太、私の物になる?」
神峰「お前も乗っかるな!!」
とんでもないこいしの発言に汗を流し突っ込む。そんな神峰を見て満足したのか、本題へ切り替えるこいし。
こいし「冗談よ。……私達はこの先に居るキスメに会いに行くだけよ。地上には行かないわ」
パルスィ「なんだ、つまらないわ。……もう行っていいわよ」
神峰「あ、ああ……。あざす」
まるで二人にいじられただけのような気分になり、無駄に疲れて力無く返事をし、橋を渡った。
………………
神峰「着いたな……」
こいし「ここで待ってたら向こうから来ると思うわ」
神峰「……なぁ、そのキスメってどういう人なんだ? っていうか向こうから来るって何だ?」
.....ゥゥゥゥゥ
どこからか風を切るような音が鳴る。しかし神峰の耳ではまだ拾う事が出来ない。
こいし「キスメっていう釣瓶落としの妖怪がいるの」
...ゥゥゥゥゥウ
こいしの説明の間にもその音は大きく、近くなっていく。
こいし「その子がこの穴に居てね、翔太が初日に会わなかったのが珍しくて、どうしても会わせたいなって!」
...ウウウウウ
ようやく人間の耳にも聞こえる大きさになる。
風の通る音だろうと思い、質問を続ける神峰。
神峰「釣瓶落とし……?どんな妖怪なんだ?」
ヒュゥウウウ
ハッキリ何かの落下音だと気付いた時にはもう遅かった。
こいし「……それはね?」
キスメ スカーーーン!!
神峰「」ドゴァ!
こいし「こんな妖怪よ♪」
神峰の頭に桶が落ちて来た。こいしと桶のコンビネーションを見る限り、こいしがタイミングを計ったのだろう。
神峰は頭から流血しながら前に倒れた。
こいし「驚いた? びっくりした!? さ、次に行きましょ?」キャッキャッ♪
神峰「待て!!っていうかこの子スルーすんのかよ!?俺にイタズラしたかっただけか!!」ドクドク
無邪気に笑うこいしに、顔だけ上げて抗議する。
その様子をキスメは、桶から顔の上半分だけだして見ている。
キスメ「……」ジーー
こいし「だってその子、人間にとっては危険よ? 不用意に近付いて桶の中を覗こうものなら、首刈られちゃうかも」
神峰「!?」
こいし「良かったね、地霊殿で暮らしてて! さすがに噂は届いてたね!」
神峰(さすがに分かってたから会わせたんだよな……?じゃなきゃ命がいくつあっても足りねェぞ……)ゾッ
神峰はこいしの無計画さに戦慄しつつ、気を取り直し本来の目的を果たそうと起き上がる。頭のダメージのせいかフラフラである。
神峰「……でも、せっかく会いに来たんだから挨拶くらいしとかねェと!」
こいし「真面目だね」
神峰「……なぁ、ちゃんと顔を見せてくれねェか?」
神峰「俺、神峰翔太っていうんだ。多分知っての通り地霊殿で暮らしてんだけど、良かったら憶えておいてくれねェか?」
キスメ「……」
キスメ「……」ヒョイ
キスメ「私……キスメよ。釣瓶落としの妖怪……」
神峰の挨拶に今度は顔全体を出して応えるキスメ。
神峰「! ああ!よろしくな、キスメ」サッ
キスメ「───!」パシィィン!
その反応に嬉しさを覚えながら、次は握手を求めると、なんと伸ばした手を叩かれた。
神峰「!? 痛ェ!? ……握手拒否られるなんて……初めてだ……」ズーン
ヒリヒリ痛む手よりも心が痛んだ。拒まれた事で軽くトラウマが想起されたようだ。
神峰(でも……この子、俺が嫌いっていうよりも、恥ずかしいから咄嗟に弾いたって感じだな。悪意は無ェし)
神峰「も、もう一回チャレンジだ……。よろしくな……?」
心を見て悪意がある訳ではないと覚ると、気を取り直してリベンジせんと手を伸ばす───
キスメ ドゴッ
神峰「グーパン!」ブハッ
───と、キスメの拳が顔面に突き刺さった。
こいし「大丈夫?鼻血出てるよ?頭も流血止まってないし」
神峰「これがこの子なりのコミュニケーションなのか……?くじけそうだ……体力が、無くなる……」
心配するこいしに、足を震わせながら尋ねる。既に立つのもやっとのようだ。
こいし「いや、ちゃんと喋ってコミュニケーションするよ」
神峰「……もう……帰ろう……。手当てもしてェし……」
こいし「えー?もう帰るのー?いろいろ回りたかったのにー」
などと、神峰を歩けなくした張本人は供述しており……
神峰「正直、上手く歩ける自信ねェんだよ」フラフラ
言いながら、立つのがやっとという足取りで進み始める。
神峰「とりあえず挨拶はしたし、この子は俺に嫌悪感持ってねェみてェだしな……(自己紹介はしてくれたし)」
こいし「はいはい、わかったわよ。朝の勢いからこの様で帰ってきたら何て思われるかしらね?」
仕方ない、といった様子で神峰の側により、よいしょ、と神峰を脇から支える。
助かる、と礼を言いながらもこいしの言葉でダメージを受ける神峰。
神峰「うぐっ……! あんまり考えたくねェけど……恰好悪過ぎるよな……」ハァ
こいし「明日から頑張ってよね?」
神峰「ああ、明日からは身の安全も考えて行動するわ……」
勢いだけで出て行ってはいけない、それが今日の出来事で教訓となった。
【地霊殿】
こいし「───はい、手当て終わったよ」
神峰「サンキューこいし」
神峰「しかしどうするか……。今日はもう出歩けねェな。……頭のダメージのせいで」
手当てを終え、持て余した時間の使い方を考える。外出出来ないため地霊殿内しか動けないという制限が加わるので、選択肢は限られる。
こいし「ウチのコ達と交流を深めるって考えもあるよ? あんまり関われてないペットとか、お姉ちゃんとか!」
神峰「どちらかと言えばこいしとの方が交流が少ないんだけどな」
こいしの提案しかないか、と考えるが、ペット達とは世話をするために毎日会うし、さとりともほぼ毎日会っている。特に、外出した時は、神峰が何を体験したのかを読むために、帰りを出迎える程だ。
灼熱地獄と間欠泉地下センターの二つを行き来する空にも、週に数回は会う事ができる。
つまり、現在最も接する機会がないのは、知らない内に何処かへと消えてしまうこいしとなる。
こいし「私とお話しするの? せっかくお空の仕事場に案内しようと思ったのに」
神峰「さっきから俺を危険な目に遭わせようとするのやめてくれねェか!?」
さとり「こいし、あんまり翔太さんに無茶な事をしないでね」ツカツカ
コントを繰り広げる二人にさとりが近付き、こいしに注意をした。
神峰「さとり! 」
さとり「おかえりなさい、二人とも」
こいし「だって翔太ったら反応が面白いんだもん、からかい甲斐があるわ! 」
さとりの注意など聞く耳持たずという風に、面白そうに話すこいし。
さとり「だからと言っても限度は考えて欲しいわ。客人を死なせてしまったともなれば、誰も地霊殿に寄り付かなくなってしまうじゃない」
神峰「ちょ……」
こいし「もともと誰も寄り付こうとしないじゃない?」
さとり「皮肉よ」
こいし「それに限度ならちゃんと弁えてるわよ? 翔太を殺す気は無いし、私はただ翔太を見ていたいだけよ」
するといつの間にか神峰を挟んで姉妹の言い争いに発展し、しかも自分の扱いが雑でやたらと物騒な単語が聞こえてくる。
神峰「あの……」
さとり「翔太さんの反応を、でしょう?」ハァ
こいし「それに人間を驚かせるのが妖怪の本分でしょ?殺す気は無いし、怪我はさせちゃったけどケアはしたから問題無いでしょ?」
さとり「怪我をさせたのは問題でしょうに……。とにかく無茶はさせないように気を付けて」
こいし「はーい」
割り込むタイミングを失っていた神峰が、二人の言い争いが一段落した所で話に加わる。
神峰「あのさ……本人の前でそんな物騒な話すんの控えてもらえねェスか?」
さとり「あ、すみません」
こいし「あと、翔太の反応だけを見てるワケでもないよ? 他人と関わり続けて、翔太は翔太のままでいられるか、私になってしまうのか、それも楽しみだもん」
神峰「……!」
さとり「……」
どうやらこいしも思惑があって神峰を見ていたらしい。しかも自分と同じ道を辿るのか、違う道へ進むのかという……。
以前の神峰の末路であるこいしは、果たしてどちらを期待しているのだろう……
こいし「翔太も妖怪になれば、ずっとここに居られるのにね!」
さらにまたこいしの口から出る言葉に驚かされる。
神峰「俺が妖怪!? なる気は無ェけど……なれるのか!?」
こいし「ウチのペットだって元はただの動物よ? 力を付ければ妖怪化出来るんじゃないの?」
神峰の質問に対してこいしも質問で返す。「できないの?」と訊かれても、妖怪になった事の無い神峰にはそんな事を言われても分かるワケが無い。
そこに見兼ねたさとりが答える。
さとり「前列が無い訳ではありませんけど……結論を言えばなれます。鬼なんかは有名な例ですね」
さとり「あとは……仙人や亡霊なんかも幻想郷には存在していますね。後者になるのはお勧めしませんけど」
神峰「さすがにまだ死にたくねェし、人間を辞める気も無ェから……」
さとり「ちなみにお空はウチでは例外ですね。元は灼熱地獄跡で働く、ただの地獄鴉だったものが、山の神に手懐けられた上に八咫烏を喰わされて急激に変化したので」
最近知ったのですけどね、と加えて空の例を説明する。
放し飼いのせいか、さとりも全てのペットを把握していないらしい。
神峰「ヘェー……」
こいし「みんな妖怪になればイイんだよ」
───
─
~夕飯時~
お空「翔太怪我しちゃったんだ!? 頭大丈夫!?」
ペット達と食事をしていると、手当ての跡を見た空が心配そうに訊いて来た。
お燐「お空にだけは言われたくない一言だね……」
神峰「ああ、もう問題無ェよ。明日にはまた出歩けると思う」
お空「なんだ、良かったー!」
問題無い、と聞いた空は笑顔を作り腰を降ろす。
そんな空を見て、先ほどのこいしとの会話を思い出した神峰はふと気になって話を切り出す。
神峰「ところでさ、ここに居るみんなは力を付けて妖怪になったって聞いたんだけど……どんな感じだったんだ?」
お燐「質問が漠然としてて何を訊いてるのかはっきりしないね。……でもまぁ、狐や狸が妖怪になるのと同じかな?アタイは猫だから、猫又になるって言った方がいいかな? 実際には火車だけどね!」
神峰「ああ、悪ィ……。その、妖怪になった瞬間って言うか……妖怪になったって実感した時に……どう感じたのか気になって……」
自分でも上手く言えてなかったと思っていたので言い直した。
お燐「そういう事なら、アタイは念願叶ったって感じかな? もっとさとり様のお役に立てる!って思ったよ。ここのペットはみんなそんなモンだと思うね!」
お燐「そうでなくても、動物が妖怪化するって事は本人の中では喜ばしい事がほとんどだと思うよ。何せ力が全ての世界で生きているからね」
神峰「そういうモンなのか……」
お空「私はねー、なんかこの核融合の力を手に入れてから、この姿になってからー、……何だっけ?その後の事はもう忘れちゃった!」
神峰「ああ……そう……?」
そんな二人のやり取りを見て、空も話に参加するが、どうやら覚えいないらしい。神峰は鳥頭は本当だったのか、と少しだけ安堵する。
お燐「お空は力を手に入れてすぐに、暴走して地上を火の海に変えようとしてたんだけどね」ボソ
神峰「」
燐の耳打ちに絶句し、神峰の安堵はどこかへ吹き飛んだ。
空の能力は直接見た事が無く、さとりや本人から聞いただけであったのでどのくらいの力があるのかは知らなかったが、どうやら地上を火の海にする程度の力があるらしい。
お燐「いきなりそんな事聞いて……もしかして……お兄さん妖怪になりたいの? さとり様と添い遂げる為に!?」
いきなり変な事を訊いてきた神峰に疑問を持った燐は、目を輝かせながら神峰に聞き返す。
神峰「そんなんじゃねェよ!? ……ただ、人間が妖怪になれるって聞いて……、実際に妖怪になった人はどう思ったんだろう……って思ってさ……」
神峰「人間って集団で生きるじゃねェか? いや、人間に限った話じゃねェ。集団の中で逸脱したヤツってのは大体、周りのヤツらに疎まれて、否定されて孤立する。力が異常に強いヤツですら、弱者が集団になって否定すれば何も出来ずに弾かれる」
神峰「どっちの立場に居てもさ、人とは違っていたら……、妖怪になるなんて、人間を辞めちまったら間違い無く集団には居られなくなるじゃねェか。それってスゲェ……悲しかったと思うんだ」
自身が他者とは違うからこそ、他人と逸脱するという事が気になる神峰。
お燐「人間の思考回路は複雑だからね。アタイら動物なら、力で服従させれば問題無いんだろうけど、人間って敵を作りたがっているみたいに他のコミュニティを攻撃するよね」
お燐「……まぁ、過去に妖怪化した人間ってのは、妖怪になったから居場所を亡くした連中よりも、居場所を失ってから妖怪化したヤツの方が圧倒的に多いと思うよ」
お燐「妖怪化する人間のほとんどが強い負の感情を持ってるからね。それこそ集団から弾かれて憎いだとか、鬼なんてまさに怒りの化身じゃない?」
神峰が気にしていた事と順序が逆の事例の方が多いだろうと推測する燐。さらに、言ってからとある可能性が浮かんだ。
お燐「そう考えると、お兄さんもあのまま深い絶望を持ち続けると、自分でも気付かずに妖怪になってたのかもね!」
お燐「"心を見る程度の能力"を持つ人間が妖怪になるんだから、これは覚り妖怪待った無しなんじゃないかな!?」
何故か嬉しそうに言う燐。その話を聞いて、神峰は自分の事について考える。
神峰(…………)
神峰(俺も……妖怪に、なりかけていた……のか……?)
神峰(だから……幻想郷に来た……?)
さとり「それは無いと思いますよ」
しかしその考えも、さとりによって直ぐに打ち切られた。
神峰「!!」
さとりに気付いた神峰を気にせず、さらに話を続けるさとり。
さとり「翔太さんと初めてお会いした時、そのような兆候は見られませんでしたので」
さとり「幻想郷に来たのは恐らく、偶然出来た結界の歪みに飲み込まれたのか、またはスキマ妖怪が"食糧"として神隠しにしたか……もしかしたら翔太さんの観察をするために、娯楽として幻想郷……いえ、地霊殿に放り込んだか……」
さとり「スキマ妖怪が関わっているのなら考えるだけ無駄ですけどね」
溜息を吐き話を終えるさとり。しかしここに来て、スキマ妖怪という聴き覚えのない単語が出てきた。
神峰「スキマ妖怪……ってのは?」
さとり「この幻想郷の創造に関わっている妖怪の賢者の事です。この幻想郷では彼女の名を知らない者が居ない程の有名人物で、それだけ永く生きている妖怪です」
さとり「彼女には深く関わってはいけませんよ? もし胡散臭い女性が話しかけて来たら適当に受け流して逃げて下さい。何も無い空間から誰かが現れたら確定です」
地底で一ヶ月過ごしてきて初めて知る存在。有名な妖怪だというのに、今まで一度もそんな話を聞いた事がなかった。
そもそも外出したのがここ最近であった事を思い出す神峰に、念を押すような一言が飛んでくる。
「というか女性に話しかけられたら、無視して私のもとまですぐに帰っ来て下さい」
神峰「あ、ああ……。気を付ける」
さとり「……お燐。私の声を真似して何を言っているのかしら?」
お燐「え?いやー、あはは……」
ジトリと睨むさとりに、笑って誤魔化そうとする燐。心が読めるさとりには全く意味が無い行為である。
神峰「最後のセリフお燐かよ!?声真似スゲェな!?」
さとり「ペットの躾けくらいやっておいた方が良かったのかしら……? 今からでも遅くはないわよね?」ガシッ
お燐「助けてー!! トラウマ抉られるー!!!」
燐の声真似に驚く神峰、ペットとの関わり方を考え直すさとり、さとりに首根っこを掴まれ引き摺られる燐。
そんな三人を見て、今日も楽しかったと思う空だった。
───
─
ここまで。
飯島先輩が一瞬神峰に見えたなんて言えない
今日はお前か、黒条
投下します
地霊殿の自室にて、一人考える。
神峰「明日からどう関わって行こうかな……」
神峰「せめて旧都の住人と仲良くなれたらイイんだけどな……。けど、嫌がっているヤツにグイグイ押していっても余計に嫌われるだけだし」
神峰「つーか、下手に関わって絡まれると怖ェし……」ブルブル
紫「だったら、人と関わる仕事を見つけたら良いんじゃないかしら?」
発想がネガティブになった所で、知らぬ女性の声がかかる。
ネガティブになっていた神峰には良いアイデアだったため、思わず相槌を打つ。
神峰「仕事か! 確か、掲示板に求人があったな!」
神峰「───ん?」
紫「初めまして」ニュッ
相槌を打ってから違和感に気付き、声の聞こえた方へ見やると、机の上に女性の生首が置いてあった(かの様に見えた)
神峰「」
神峰「ギャアアアアアア!!! 生首が喋ってるゥーーーー!!!?」ビクーーッ
お燐「どうしたのお兄さん!?生首ドコ!?」バタバタ
さとり「翔太さんどうかしましたか!?大きな声が聞こえたのですが……」バン!
燐は生首に反応し、さとりは神峰の叫び声に反応して神峰の部屋へと飛んできた。
すると、さとりは神峰の部屋にいた者を確認し、目を細める。
さとり「───って、どうして貴女がここに居るのですか? 地上と地底は相互不干渉の取り決めがあった筈ですが?」ジト
紫「あら非道いわ……。私は、貴女達が私の噂をしていたから出てきただけだというのに」
さとりに邪見にされた女性はわざとらしく反応し、首だけを出したまま話をする。
神峰「噂……?」ドキドキ
紫「ええ。私がスキマを操る妖怪の賢者、八雲紫ですわ」
神峰「アンタが……! みんながスキマ妖怪って……呼んでる人か……!」
さとり「貴女が出てきたという事は、翔太さんが幻想郷に来たのは貴女の仕業と考えて良い……という事でしょうか?」
紫「そんな事、私の心を読めばすぐに分かるでしょう? でもまぁ、概ね正解ね」
神峰「!」
あっさり自白された。自然に結界を越えて来たと思っていたものが、人為的に幻想入りしたのだと知って神峰の中で疑問が生まれる。
紫「別に観察するだけだったら、私が本人の目の前に出てくる必要は無いのだけど……、私の存在に辿り着いたからサービスよ」
さとり「貴女の存在なんて、幻想郷に居れば嫌でも知ることが出来るでしょう?」
サービスなど嘘で、いずれ機会を見て神峰の前に現れるつもりだったのだろうと確信するさとり。
紫「まさか地底でまで、私の噂をされるとは思わなかったんですもの」
お燐「相変わらずの地獄耳だね……」
紫「……でも、まさか貴女まで来るとは思わなかったわ。余計な事を知られる前に、私は退散させてもらいますわ」
言いながら首をスキマの中へと引っ込める紫。
スキマが閉じ始めたのを見て、神峰は思わず叫んだ。
神峰「待ってくれ!どうして俺をここに───! 行っちまった……」
しかし再び彼女が出て来る事は無く、ピッタリと閉じられたその場所には何も残っていなかった。
さとり「彼女の思惑については深く考えない方が良いですよ。考えるだけ無駄ですから……。貴方も彼女の心を見たのなら、どれだけ底が知れないか分かったでしょう?」
神峰「ああ……確かにな……」
さとり「では、私達は戻ります。食糧として連れて来られた訳ではなくて良かったですね。お休みなさい」
お燐「おやすみー」
部屋を出て行くさとりに続いて、燐も部屋を出てドアを閉めた。
神峰「……」
二人を見送った後も呆然と立ち尽くしていた神峰は、ようやく先ほどのやり取りを思い返す。
神峰「スッゲェ疲れた……。つーか観察するためって……俺下手したら初日に死んでるぞ……?」
紫「その時は私が手を貸す予定でしたわ」
神峰「!?」ビクッ
独り言にまたも返事が返って来た事に驚き振り返ると、そこには先ほどの八雲紫という女性が、今度は全身を出して神峰のベッドに腰掛けていた。
神峰と目が合うと、紫はニッコリと笑い、質問を投げかける。
紫「どうかしら、幻想郷は? 気に入ってもらえたかしら?」
神峰「……なぁ、なんでアンタは……俺をここに連れて来たんだ?」
しかし神峰には紫の質問に答える余裕は無く、先ほど生まれた疑問を口に出す。
今訊ける事を訊いておかなければ、もう訊く事が出来ないと思ったから……
そんな神峰の態度に何を思うでもなく、紫はにこやかに答える。
紫「心を見る能力を持つ面白い人間だから、外の世界で腐らせてしまいたくなかったのよ」
紫「貴方が外の世界でもその能力に苦しめられる事が無かったのなら、幻想郷に招待することは無かったでしょうけど……」
紫「ここの住人は不思議な力を持つ子が多いでしょう? それが貴方に良い刺激となってくれたら、と思ったの。特にさとりね」
神峰「……確かに、以前よりは辛くはねェけど……。やっぱりさ、何も出来ねェのは悔しいよ」
思い出すのは、パルスィの心。そして、今まで関わって来た人達の心───
紫「その辺の成長に期待をして観察させて貰っているわ。頑張りなさい?」
神峰「!」
紫の言葉を聞いて、激を飛ばされたように感じ、神峰の表情が少し明るくなる。
そんな神峰の反応を見て、さて、と間を取ってから再び同じ質問を投げかける。
紫「もう質問はいいかしら? いいなら改めてこっちから質問するわよ」
紫「ようこそ幻想郷へ。貴方は幻想郷を気に入ってくれたかしら?」
神峰「いや、ここの妖怪(住人)怖ェし、命の危険があるから未だに慣れねェよ……」
しかし神峰の応えは何とも情けないもので、紫は思わず苦笑する。
紫「うふふ……。それもそうねぇ」
そもそも人間には地底は住み辛いわよね、と思う紫に、神峰はさらに続ける。
神峰「でも……、この環境の変化で、俺も変わろうって思えたから、……そこはありがてェって思ってるッス!」
それを聞いて、紫の顔に喜色が出る。
紫「……! そう。気に入ってくれて嬉しいわ。歓迎するわよ、神峰翔太さん」
紫「一応教えておくけど、もしも貴方の世界に帰りたくなったなら、地上にある博麗神社を訪れなさい。……貴方には必要無い情報かもしれないけれどね」
スキマを広げて帰って行く間際に、とても重要な情報を吐いて去って行った。
しかし神峰は大した反応をせずに見送る。
神峰「言うだけ言って帰っちまった……」
神峰「元の世界か……。今まで帰りたいなんて、考えもしなかったな……」
神峰「さとりに言われるまで、帰れるなんて思いもしなかったし……何より……」
神峰(人との関わりが限定的になって……希薄になって……)
ホッとしている……自分がいたんだ───
部屋の外に居て、紫と神峰のやり取りを聞いていたさとりが、ここで初めて、神峰が意識化していなかった本音に触れた。
さとり(……)
さとり(これが、今まで翔太さんが気付かせないように隠してきた本音……。その本音と向き合うということは……翔太さんが人生の岐路にぶつかったということ)
さとり(元の居場所へ帰るか、幻想郷に骨を埋めるか……。私のやる事は成長した翔太さんを地上へ送ることなので、この件には関わる必要はありませんね)
神峰がどのような答えを出そうと、それは自分のやるべき事の外の問題であると結論付けたさとりは、壁に預けていた体重を戻して自室へ歩いて行く。
───
─
~翌日~
神峰「おざス」
さとり「おはようございます」
さとり「ずいぶんスッキリした顔をしていますね。……幻想郷で生きる事を決めたんですね」
挨拶を交わして早々、神峰の心境を読み取る。
神峰「ああ……。元の世界に戻って失敗していた人間関係をやり直さないなんて逃げだと思われるかもしれねェ」
神峰「だけど、俺がやりてェ事は人の心と向き合う事なんだ。人との関係を円滑にしてやりてェ。元の世界に戻っても……やり直すような人間関係はもうねェし……つーか人と関わらずに生きて来たし……」
神峰「だからこの幻想郷でやり直すんだ。俺が出来なかった事を、俺の人生を幻想郷でやり直す! 俺はいつかは地上に行くんだろ?そしたら新しい人間関係が生まれるだろ」
さとり「はい。貴方は必ず、責任を持って人里までお送りします。……ですが、その後の事は翔太さんの自由です。私は何も口出ししませんよ?」
さとりは必ず地上へと送ると約束した。初めてハッキリ約束してくれたかもしれない。
さらに片目を閉じて続ける。
さとり「要は貴方がやるかやらないか、です。……まぁ、元の世界に帰らない理由としては弱いと思いますけれど……」
神峰「ぐっ!痛ェ所突いてくるな……。まぁ……これはケジメって言うか……」
さとりの指摘にたじろぎながらも、頬を掻いて幻想郷に留まる理由を言う。
さとり「?」
神峰「俺が変わるきっかけをくれた幻想郷で生きて行きたくなったんだ。そんで恩返しをしてェ。心と向き合うって決めたんだ。与えられたらちゃんとお返しをしてェんだ! 」
神峰「……だからまずは、さとり! アンタの期待に必ず答えて見せる!」
さとり「! ええ。楽しみにしていますよ?」
指を指し宣言する神峰に、笑顔を作り返事をするさとり。
すでに一ヶ月と一週間も幻想郷にいる。もう12月である。
神峰は知る由もない……神峰が消えたあの日から、最後の目撃情報である屋上へと続く階段が、鳴苑高校の学校の怪談になっている事を───
……………
……
【旧都】
さとりと別れて、今日も旧都を一人歩く。
神峰「───と言ったは良いけど……、勢いよく何か言った日って碌な事出来てないよな俺……」ズーン
神峰「昨日も結局一人と挨拶しただけで体力的にキツくなったし……」
イマイチ格好がつかない事に気を落としながらも、目当てのモノを発見する。
神峰「おっ、あったあった!えーと……求人は……」
神峰「しかし日雇いが多いな。とりあえず人間の俺でも出来そうなのから当たってみるか!」
そう、昨晩紫に助言された通り、仕事をする事にしたのだ。
~三時間後~
そこには、掲示板に両手をつき地面を見る神峰の姿があった。
神峰「全滅……」ズーン
神峰(やっぱり皆が断る理由は……さとりか……)
神峰(俺が居るだけで客が来なくなるとか、隠してたみたいだけど間接的にもさとりと関わる事はしたくないみたいだな……)
人と関わるために仕事をすればいい。しかし仕事をするにも採用されなければいけない。
ここにきて新たな壁にぶつかり、どうしたものかと悩んでいると、足音が一つ近付いて来た。
勇儀「翔太じゃないか。こんな所で何頭抱えてんだい?」
顔を上げると、そこには見慣れた顔を見付けた。そしてこの後の展開も経験的に分かっていた。
神峰「あ」
見つかった、と思ったがもう遅い。
勇儀「立ち話も何だし、いつもの所行こうか」ニッ
───
─
神峰が捕まり連れて来られる居酒屋は毎回ここだ。初めて旧都に出て勇儀を見付けたのもこの居酒屋だった。行きつけなのだろうか。
二人でカウンターに座り、すっかり慣れた店の中で神峰は勇儀に事情を話す。
勇儀「へぇ、仕事をねェ」
神峰「あの……日雇いばっかりって事は、やっぱりどこも人が足りてるって事ッスよね?」
勇儀「いんや。ココの連中ってのはその日暮しをしてる輩ばかりだからね、今日生きるだけの金を得られれば十分なのさ。あたしもその中の一人さね」
神峰(スゲェ適当な理由だった……)
予想外の理由で脱力する神峰を見ながら、しみじみと勇儀は言葉を洩らす。
勇儀「しかしあの引きこもりだった翔太が仕事を探すまでに成長するなんてね……。案外さとりは更生させるの上手いじゃないか!」
神峰「地霊殿からは出ませんでしたけど引きこもっていたわけじゃないッスよ!?」
とは言うが、神峰が地霊殿でやっていたのは一般的には家事手伝いと呼ばれているものである。
もう一度ツッコまれたらフォローのしようがない。
勇儀「知ってるよ、リハビリしてたんだろ?」
神峰「あながち間違いじゃねェスけど、前も言ってましたよね、リハビリって」
神峰はツマミを頬張りながら訊くと、勇儀はコップを口元へ運びながら答えた。
勇儀「ああ、アンタと初めて会った日にさとりからそう聞いたからね」
神峰「あの人そんな冗談も言うんスね!? もっと真面目かと思ったわ!!」
勇儀「地霊殿を社会復帰施設にするなんてどうだい? もっとも、地底の連中は癖が強いのばっかりだからそんなの必要無いけどね!」
そんな勇儀の何の気なしに言った一言に、神峰はふむ、と考える。
神峰「……確かに、求人が全滅した以上、自営するって手段も考えなくちゃな……こいしも、悩んだ時こそ大胆な行動をするのも解決の近道って言ってたし」
勇儀「いや、こいしの言う事をそんなに真面目に受け止めてもね……」
こいしの言う事を真剣に考えるとは、こりゃ切羽詰まってるね、と苦笑する勇儀。
二人の会話が止まったその時、神峰に思わぬ方向から助け舟が出た。
店主「……だったら兄ちゃん、ウチで働くか?」
神峰「えっ!!?」
勇儀「どうしたんだよオヤジ。地霊殿の住人を雇ったら客が来なくなるかも知れないんだよ?」
ごもっともな勇儀の意見に対し、店主は完全に神峰を雇う気でいる。
店主「ウチの常連は勇儀のおかげで、神峰とは仲良くしてるし、神峰と顔見知りの客も多いから問題ねェよ」
神峰「マジで良いんスか……?」
店主「お燐から料理も出来ると聞いてるからな、問題ねェよ」
神峰「あざス!」
店主「じゃあ明日から来てくれ。時間は……昼でいいか」
神峰「はい!」
神峰(良かった……!旧都の数少ない人脈を……勇儀さんとの付き合いを大切にしてたおかげじゃねェかこれ!?)
仕事が見つかり安堵する神峰。同時に、自分が地底でやってきた事が思わぬ方向で実を結び、嬉しさがこみ上げる。
神峰(今度何かお礼しよう……。あ、そういえばお燐に身代わりのお礼してねェや。給料貰ったら何か買おう、地霊殿の皆にも!)
───
─
~翌日~
常連s「オ? 神峰ェ、勇儀がいねぇのにここに居るなんて珍しいじゃねェか。一人酒か?」
神峰が店を訪れると、顔馴染みの常連客に話しかけられた。
そして神峰はノーと返す。
神峰「いえ、今日からココで働く事になったんス!」
常連s「は?……オイオイマジか!? 大丈夫かよオヤジィ、こいつあの古明寺ン所の人間だぜ!?客が減るぞ!!」ギャハハハ
勇儀と同じ様な反応に、店主は鬱陶しそうに応える。
店主「ウッセーな!!大丈夫だよイイんだよ!俺が誘ったんだよ!!」
常連s「間違えて神峰を料理にして客に出さねェように気をつけないとな!!ギャハハハ!!」
神峰(笑えねェ……)ヒキッ
若干顔を青くしながら、神峰の初仕事が始まった。
………………
……
あの後も客は入って来たが、やはり噂になったのか、どうやら以前と比べると来た数は少ないらしい。中には神峰を見てUターンする者も少なくなかった……
神峰「見事に閑古鳥が鳴いてるッスね」
店主「この時間は基本的にどこも暇だ。晩飯時までな」
神峰「飲食業界はどこも変わらねェんだな……」
店主「だから晩飯までに仕込みをする。ところでよ、オメー外の世界から来たんだろ?何か向こうのツマミとか料理とか教えてくれよ」
期待の心を向けて神峰に頼む店主を見て、もしやと思い質問する。
神峰「もしかしてそれが目的で俺を雇ったんスか……?」
店主「それもある。つーかお前を雇うなんてデメリットの方が大きいんだからそれくらいイイだろ? 客が来ねぇなら新しい料理で釣るしかねェ!それでプラマイゼロだ」
この店主、適当な性格だけど打算的だった。
雇って貰った借りがあるのでノーと言えず、とりあえず自分の知る範囲で教える事にする。
神峰「うっ……分かりましたよ……。つっても、俺だって居酒屋に入るのココが初めてなんスから、どんな料理があるのか知らねェんだけど……」
店主「お前もう何回ココに来てんだよ。ココに無い料理でお前が酒に合いそうな料理教えてくれりゃイイんだよ。あと、味が濃いヤツとかな!」
神峰「……それじゃあ───」
神峰が言うのと同時に、店主がメモの準備をした。
……………
………
神峰「───くらいスね」
この場で思いつく料理は全て出したと思う。自分も作れるものがいくつかあるし、試行錯誤しながら、とはならないだろう。
店主「よし。んじゃ、明日は店休みにしてこの料理作ってみるか。お前も朝から来いよ?」
神峰「ウス!」
店主「……そろそろ客が混む時間になる。準備しとけ」
……………
……
勇儀「よう、やってるね」
ヤマメ「へぇ、本当に働いてた!」
少々暇になった店内に、様子を見に来たであろう勇儀と、話を聞いて勇儀に付いて来たのであろうヤマメが来店する。
神峰「勇儀さん! ヤマメも! いらっしゃい」
ヤマメ「しかし……いつもより広く感じるね! 店員は一人増えたってのに!」
神峰「うぐ!」グサ
店内を見渡して放ったヤマメの一言が、神峰の胸に無慈悲に突き刺さる。
店主「うるせーな!いいから何か注文しろ!」
ヤマメ「はいはい。……お?メニュー増えた? 見覚え無い名前が載ってる」
席に着き、お品書きを見て直ぐに変化に気付く。
店主「神峰に教えて貰ったんだよ。んで、すぐに出せそうなのだけ先に載せといた。明後日からまた増える予定だ」
勇儀「ずいぶん翔太に甘いと思ったら……そういう事か。ちゃっかりしてるねぇ」
勇儀「どうだい翔太? ちゃんとやれてるか?」
神峰「ええ、まぁ……。店主さん客にタメ口だし喧嘩するし、接客は厳しくねェスけど、それ以外だと怒られる事は多いスね」
ヤマメ「接客業がそれでいいのかい……?」
店主「俺のやりたいようにやる。地底の住人なんてそんなんばっかじゃねェか」
二人の料理を出し終えてしばらくした頃に、店内の様子を見てから閉店の準備を切り出される。
店主「───もう誰も来そうにねぇか。こいつら帰ったら仕込みして店閉めるぞ。お前先に仕込みやってろ!詳しい事は明日聞くから」
神峰「はい!」
勇儀「客を目の前でこいつら呼ばわりとはね」
店主「常連だろ、んな事気にするなよ。あと、明日は休みだからな」
この店主の感覚だと、常連客は粗末に扱って良いらしい。
ヤマメ「そういう事は外に貼り出しといてくれないかい? あたしらに言われても全員に伝わらないよ?」
勇儀「んで、明日は料理の勉強?真面目だねぇ」
店主「ちゃんと貼り出しとくわ!……人に出すなら食えるモン出さなきゃ文句言うだろ。そういう事だよ」
神峰の仕事初日は、なんとか平和に終わっていった。
───
─
ここまで。
オリキャラ出して済まぬ
乙
巡回スレ増えたわ
正邪辺りと絡むかもな
神峰が帰らないとか・・・吹奏楽部廃部確定ですやん
こころとのやり取りとか面白そうだな
>>132
嬉しい事を言ってくれる
>>133
絡ませたい
>>134
言うな……考えないようにしてたのに……
すでに刻阪と暴君が退部、もうすぐ雅も辞める状況という。カスミンはどうなってるかな? 春には黒条入部
でもこの神峰はその事情を知らないからね
こころは絶対絡ませたいなぁ
地霊殿に帰り着いた神峰は、今日一日の仕事を振り返る。
神峰「初めての仕事……緊張したけど、上手くやれたよな。っていうか結構適当だったな……」
さとり「おかえりなさい。お仕事お疲れ様でしたね」
神峰「ようやくありつけた仕事だから、精一杯頑張ってみるよ」
さとり「……すみません。私の存在が翔太さんの障害になるなんて……」
神峰「いや、さとりにはスゲェ護って貰ってるから気にしないでくれ!……それに、疎まれても関わっていかなきゃ意味無ェしな」
神峰(つーか仕事を見つけるのが目標じゃなくて、他人に関わっていくのが目標だしな)
さとり「そうでした。人と関わるために仕事に就いたんでしたね。何だか、脱引きこもりをした息子を見ている気分になったので……」
どちらかといえば、困窮する中支え合う夫婦の会話である。
神峰「本当にそんな冗談言えたんだな!? っていうかさとりの容姿で息子は無理あるだろ! 倒錯しすぎ!!」
さとり「これでも翔太さんよりずっと年上ですけどね。そういう問題じゃない?ふふ、分かってますよ」
神峰(スゲェ意外な一面が見れた……ココに来てベスト10に入る驚きだな)
さとり本人から初めて冗談を聞いて、神峰はさとりも変化しているという事を実感する。
閉じ籠った心に神峰という窓が付けられた事で、心に光が射すようになったからだろう。
さとり「ちなみに一位は何ですか?」
神峰「気が付くと地面が無くて急降下してた事」
さとり「飛べない人間にとっては恐怖以外の何でもないですね」
そして、心を読めば分かる事も、本人の口から直接聞くようになってきたのも変化の一つだろう。
神峰「さてと、明日は朝からだからもう寝るよ。お休み」
さとり「お休みなさい」
───
─
~翌朝~
店主「来たな。……んじゃ作るか!細かいところは教えてくれ」
神峰「俺もレシピ知ってるだけなんで自信無ェスけど……」
店主「その辺はセンスでどんどん変えていく。自分らしさを全開にすりゃいい。その中で食える物、酒に合う物はお品書きに追加だ!」
神峰「了解付ッス!」
下味を付けて焼き……
ここで調味料……
スープを足して煮込むか……
さぁ……召し上がれ
……………
……
数時間後、テーブル席に並べられた多数の料理と、椅子の背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ二人の男の姿があった。
店主「やっと終わった……」
神峰「もう食えねェッスよ……」
店主「誰かに試食に来て貰えば良かったな……。まだ余ってるぞ」
神峰「今からでも遅くないんで店開けて試食会でもしますか?」
店主「いや、メンドイからいい……。お前持って帰るか? いや、持って帰れ。地霊殿の連中の評価もらってこい。そして皿は洗って返せ」
神峰「マジスか? この量を……まぁ、ありがたくいただきますけど……」
店主「おう、気ィ付けて帰れよ」
神峰「お疲れッス」
地霊殿の食卓には、神峰が持ち帰って来た料理が並べられていた。
見慣れぬ料理に興味と関心を寄せる住人達。
お燐「これ全部お兄さんが作ったのかい?」
神峰「俺と店長が分担しながらな」
お燐「一度にこれだけメニュー増やすなんて冒険するなぁ……」
店をリニューアルした方がいいんじゃない? と呟く燐。
神峰「全部がメニューになるワケじゃねェけどな。それでもかなり増えるけど」
さとり「何にせよ、外の世界の最新の料理なんてここではなかなか食べられませんから、ご厚意に甘えて頂きましょう」
さとりの言葉を聞いて、待ってましたと空が身を乗り出す。
お空「もう食べていいの!?とっても美味しそう!」
神峰「ああ、皆食べてくれ。そんで感想を聞かせてくれ!」
───
─
~翌日~
店主「で、どうだった?」
神峰「はい、"全部とても美味しかったです"だそうです」
店主「そんなん参考になるかー!! チクショー!!!」
もっと参考になる意見が出てくることを期待していた店主は、思わず地団駄を踏む。
神峰「そんで"居酒屋で出すなら十分な味です"って言ってました」
店主「なんでそんなに上から目線なんだよ……さとりか」
神峰「とりあえず客に出しても問題なさそうッスね!」
神峰自身、味は文句無かったと思っているので前向きに考えているようだ。
店主「ああ……客が来ればな」
……………
……
ワイワイ
神峰「杞憂でしたね」
変わらない店内を見て神峰が言うと、店主が溜息を吐いた。
店主「アホか、よく見ろ。殆ど常連ばっかだろ! 大方、勇儀達から話を聞いて来たんだろうな」
店主「しばらくは新メニュー目当てで常連達が賑わうだろうが、お前の影響はまだ拭えねェぞ?」
神峰「そう……スね……」
自分の影響。たとえ避けられても関わって行こうと決めても、迷惑をかける相手から言われると申し訳なく感じる神峰に、とんでもない提案がなされる。
店主「だからお前、夕方から客引きやれ!」
神峰「はぁ!? 俺がッスか!? 客が来なくなるかも知れないんスよ!?」
店主「そんなモン店内に居ても同じだろ。いや、むしろ蓋を開けたらお前が居る分、店内に居る方がタチ悪ィよ」
神峰「そこまで言うスか……」ズーン
店主「だからあえて! 先にお前が居る事を知らせるためにお前が客引きをやるんだ!」
悩んだ時こそ大胆に行動する。店主の行動を見て、どこかで聞いたアドバイスを思い出す。
神峰(そうだな……どの道、避けられていても関わる事に変わりはねェんだ。これから始まるんだ。これから始めるんだ!)
神峰「わかりました……。やらせて、いただきます!!」
~夕方~
店の前に神峰が立つ。その表情には緊張が見え、汗を流している。
「おい、アイツ」
「ああ、地霊殿の……」
「古明寺ン所の人間だな」
「あの店で働き始めたらしいぞ」
神峰の姿を確認すると、街行く妖怪達はざわつき、ヒソヒソとこちらを伺っていた。
神峰(くっ……久しぶりに感じる……。皆が俺を避けて、遠目から見てる……。この人達に今から! 話しかけていくのか)ギリッ
神峰(けど!もう決めた事だ!!俺が選んだんだ!!だから……やる!!!)グッ
滝のように流れる汗を拭う事もせず、周りの視線を堪え、決意を固める。思わず拳にも力がこもった。
神峰「今日から新メニュー追加しました!! 良かったらウチで食って行きませんか!? 外の世界の料理ッス!!」
始めは我武者羅だった。目を閉じて大きく叫ぶ。
神峰の叫びを聞いて、妖怪達も神峰が客引きをやっているのだと気付く。
「外の世界の料理?」
「アイツが教えたんだろう」
「あいつ料理人だったの?ハズレは引きたくねぇんだけど」
神峰(やっぱり届かねェな……心、閉まったままだ……あんまりしつこいとこの店の評判も落としそうだ……)
心が視える神峰は、今の叫びがどれだけ届いたのかを確認する。
しかし成果は芳しくないようで、どうしたものかと悩む。
すると一人、悩んでいる神峰に近付く者が現れる。
勇儀「よお、翔太。なんで客引きなんてしてるのさ? ミスして追い出されたのか?」
神峰「勇儀さん! 違うッス! メニュー増えたから多くのお客の意見を聞きたいんスよ。あと、俺が客引きやれって店長に言われました。店内に居る方がタチ悪いとか言われて」
勇儀「ほお~…それで難しい顔しながら客引きに悪戦苦闘って訳か。ま、頑張りなよ。私は新しい料理に舌鼓だ」
神峰の事なぞどこ吹く風で、ケラケラ笑いながら勇儀は店内へと入って行った。
神峰「……」
呆然と勇儀の去った後を眺めていると、再び神峰に声がかかる。
ヤマメ「翔太も大変だね。でもここの店主はテキトーなヤツだし、気楽に自分勝手にやってりゃいいんじゃない?」
神峰「ヤマメ! パルスィ! キスメも!?」
パルスィ「勇儀に誘われて来たのよ。なのに、さっさとあんたに話しかけに行った上に一人で店に入って行って……鬼って本当に人を振り回すのが好きよね……」
神峰「あの人はなんつーか、他人を自分のペースに巻き込むからなぁ……迷惑とか考えてね───」
言いかけて、土地で何かに気付いたようにハッとする神峰。
そんな神峰を見て、ヤマメは眉を顰める
ヤマメ「どうしたの?」
神峰「いや……。勇儀さん、多分席とってるだろうからもう店に入ってくれねェか? 俺は客引きやんなきゃいけねェからさ」
何故か口元が笑っている神峰を怪しく思いながらも、三人は神峰と別れる。
パルスィ「言われなくてももう行くわよ。じゃあね」
神峰(そうだよ……俺が居る事がデメリットだって店長言ってたじゃねェか!)
──ここの店主はテキトーなヤツだし、自分勝手にやってりゃいいんじゃない?──
神峰(これ以上迷惑かかるとか、どの道客が来ねェなら店にはマイナスしかならないんだ!)
神峰(俺は勇儀さんみたいに、強引に自分のペースに他人を巻き込むなんて出来ねェ……けど!俺にだって出来る事はある!そう決めた事が、ある!!)
人の心と向き合うこと───
神峰(だから、俺は俺のやり方で!客を集めるんだ!)
光明が指すとはこのことだろう。思いついてしまった以上、この手段を採るしかないと思い、大きく息を吸って……
神峰「当店では本日より!! 地底では唯一の!! 他には無いメニューを出させていただいてます!! 幻想郷全体で探してもこのメニューを食える所はほとんど無いって断言出来るッス!!」
神峰「今まで食べて来た物が飽きたという方には良い刺激になると思いますので! 是非!! 寄って下さい!!」
神峰(まずは掴みだ!! 地上との関係を捨てた地底民に外の世界なんて言っても興味は引かねェんじゃねェか!? だから言い方を変える!!)
言い方を変え、二度目の叫びで興味を持った者を探す。
神峰(!! ドアの隙間からこっちを覗いてる心があるな! 興味を持ったか? ……よし、まずはあの人だ!!)
ターゲットを決めて、心が僅かに開いた相手に接近する。
神峰「あの、今晩ウチで飲んで行きませんか?今まで食べた事無い珍しい料理出しますよ?」
「えっ!?いや、どうしようか……」
神峰「あ、大丈夫ッスよ! 味もちゃんと保証するんで!! 地霊殿の皆にも食べて貰ったけど、みんな美味しいって言ってくれました!!」
「はぁ……あのさとりもか?」
どうやらあの地霊殿の主も褒めた、という事実にさらに興味を持ったようだ。
神峰(もう人押しだ!)
神峰「はいッス! さとりもちゃんと食べて、店に出せる味だって言ってたッス!! 絶対変なモノは食わせませんので是非!! お願いします!!」
「分かった分かった!じゃあ寄ってやるよ!」
神峰「あざス!! いらっしゃいませー!!」
思わず礼をする神峰。顔を上げると、その表情は明るい笑顔に変わっていた。
神峰(は……初めて客引きに成功した……! スゲェ……う、嬉しい……!!)パアァ
神峰(これだ! まずは相手の興味を引いて、心を開かせるんだ! その後どうする? さっきは強引に行って成功したけど……)
神峰(回り道しながら誘導するか!ストレートに突破するか! ……俺はただひたすらに!! 全力を出すだけだ!!)
それからの成長は早かった。自分のコンプレックスだった『目』を活用する術を手に入れて、まさに型にハマったと言える能力を発揮した。
……………
……
「おい、アイツ急に客引き上手くなってねェ?」
「皆珍しい物好きなんじゃねぇの?」
「客引きなんて下っ端のやる事だろ?……なのにあいつ」
「すごく楽しそうに客引きやってんな……」
神峰(ハハッ! スゲェ! 面白ェ! 今までの俺に足りなかったのは……これだ!! 心の問題の向き合い方も同じなんだ!!)
神峰(真っ直ぐありのままを伝えたんじゃ意味がねェんだ! それじゃあ車が正面衝突するのと同じだったんだ!!)
神峰(最初に動かすのは自分じゃねェ!! 相手からだったんだ! まずは相手に本音を気付かせる事が大事なんだ!! 本音を気付かせて認めさせて受け入れさせる!!)
神峰(それだけで……後は本人達が勝手に解決に向かっていくんだ……!! 俺が1から10まで解決する必要は無かった!!)
神峰(こんなに身近に解決があったなんて……気付けなかったなんて……、スゲェ、悔しい……)
気付いて、人生を振り返って、思わず目頭が熱くなる。
しかし涙は流さなかった。笑いながら、その顔に迷いはもう、無かった。
神峰(だけど!もう後悔しねェ!!これからはもう!!何も出来ねェなんて事はねェ!!)
神峰(ようやく手に入れた……! 絶対に離さなねェ! 忘れねェ!)
神峰(この目を持って生まれて……ようやく辿りついた……俺の、理想に)
自分の言葉が相手の心に届くのを『視た』時、異変に気付く。
神峰「!?」
神峰(なんだ!? この感覚……。なんか……俺の声が……言葉が……)
まるで、手みたいに相手の心を掴んでいる───!?
神峰(俺から手が出てるみたいだ……!)
この瞬間、神峰の視る世界が変わった気がした───
店主「オイ神峰ェ!!! テメェ呼び過ぎだ!!! 席の数くらい考えやがれ!!!」
神峰「スンマセンッ!!!」ビクッ
───と思っていたが、外に出て来た店主の怒鳴り声で、現実に引き戻される。
店主「もういいから中手伝え!!!殺す気かァ!!?」
神峰「はいッス!!」
───
─
店主「フーーー……ようやく終わった……。まさかお前にあんな才能があるとはな……。立派な詐欺師になれるぞ」
後片付けを終えて一息つくと、神峰の働きを褒める店主。
神峰「この力はそんな事には使わないッスよ」
店主「今まで見た中で一番良い顔してるじゃないか。まぁ、今までは勇儀に連れられて諦めた表情ばっかだったけどな! そんなに忙しいのが好きか?」
神峰「いえ、嬉しいのは……俺の能力の活かし方を手に入れたからッス」
自分の事を喋るのに慣れていない神峰は、嬉しそうに、はにかみながら言った。
店主「そうか。……明日は休むぞ。こんなに客が来るなんて想像出来なかったから買い出しだ。仕込みも要る。お前も手伝えよ、仕込みが終わったら帰っていい」
神峰「了解ッス」
店主「んじゃお疲れさん。気ィ付けて帰れ」
神峰「お疲れッス!」
───
─
~翌日~
店主「うし、仕込み完了! もう帰っていいぞ。お疲れっしたー」
仕込みが終わった途端に帰る準備を始めて、神峰に背を向けながら手をヒラヒラ振る。
神峰「何スかそのノリ……」
店主「珍しく昼に終わったからな、ゆっくりしたいんだよ。やっぱり二人居ると早ぇな」
神峰「昼つってももう3時回ってますけどね。……じゃあ、帰ります」
この適当さに清々しいものを感じるながら、神峰も帰り支度を始めた。
店主「おう、また明日なー」
……………
……
【地霊殿】
さとり「おかえりなさい」
神峰「ただいま」
さとり「とても良い顔になりましたね。求めていたモノが手に入りましたか」
心を読むまでもなく覚るさとり。
神峰「! ああ。ようやく手に入れたんだ。もう、無力じゃねェ!」
さとり「おめでとうございます……良かったですね。正直……翔太さんが羨ましいです」
望み通りの成果を出した神峰に寂しそうに笑う。
神峰「何言ってんだよ、羨む必要はねェさ。俺はもう手に入れたんだ、だったら次はあんたの番だ! 」
神峰「約束通り道は示したぞ! 俺に出来たならさとりにも出来るハズだ。俺達は似ているから……さとりも俺になれるんだ」
似ているからこそ同じではない。ただ似ている、それだけなのだ。
しかし神峰は同じ様になれると言う。
何より、神峰がこうなるのを望んだのはさとり自身である。
今の神峰を見て勇気が出せなければ、神峰の気持ちを、努力を踏みにじる事になってしまう。
さとり「───!」
さとり「私にも……出来るでしょうか……?」
しかし、長い間留まっていたさとりの足は、踏み出す事を恐れてしまう。
神峰「この二ヶ月……ずっと心と向き合う事を目標にしてきた……。その中で気付いた事がある」
さとり「?」
神峰「心と向き合う強さってのは、向き合うって"決意"しただけじゃ手に入らねェんだ。気持ちだけじゃ何も変わらねェ! 決意だけで満足してたんじゃ前に進む事が出来ねェから……」
神峰「だから気持ちだけじゃなく、向き合うために行動するって"覚悟"を持って動いていかなきゃならねェんだと思う……」
今まで自分を変えようと努力して来た神峰だからこそ、その成長をずっと見て来たさとりに、説得力を持たせて言う事が出来る。
きっと、勇気を与えるというのは、この瞬間にさとりを一歩前進させる事なのだろうと神峰は思った。今までの努力はこの瞬間のためにあるのだと……
神峰「さとりは俺に自分の心をハコから出して欲しいって言った。変わりたいと決意した。……だったら後は、ハコから出るために、どんなに辛い思いをしてもいいって覚悟を持つだけじゃねェか!」
神峰「覚悟を持てばそこで尻込みする必要はねェんだ。やるかやらないかだ! ……覚悟した時点で、あんたは一歩進めるんだ。自分のハコから一歩だけ出る事が出来るんだ」
神峰「だからさ、さとり……。そろそろ自分から動く番なんじゃねェか?」
さとり「………」
神峰(鍵は外してやった……その扉を開けるのは、あんた自身だ。楽勝だろ……? 道はすでに示されてんだ。俺にだって出来たんだ)
さとりは箱と言ったが、神峰から視れば、さとりの心は小さな屋敷だ。
外からの情報を遮って、ひたすら屋敷の中で何かを探し回っている。
それはきっと、こいしの心……
固く閉ざされたその部屋だけを探し続けているのだろう。
当然の事だが、こいしの心はさとりの中には無い。外へ探しに行かなければいけない。
その窓はすでに開けた。今度は、外へと続く扉の前に立つさとりのために、神峰の言葉(手)が扉の鍵だけを開ける。
さとり「……確かに、その通りでした。私は、勇気を貰うために貴方を見ていましたから……。もう十分に頂いてましたね」
さとりの口元が笑う。心に見えるさとりも、取っ手に手をかける。
さとり「これからは私の問題……。やるかやらないか、あんまり悩んでいると翔太さんにも申し訳ありませんからね」
さとり「貴方に出来たという事実だけで、迷う必要なんてありませんでしたね」
さとり「私も! 翔太さんのように、心と向き合う強さを持ちたい! そしてこいしをいつか……!」
その覚悟と同時に、扉を開け放った。
その心を視て、神峰は笑う。
神峰「だったら後は、行動するだけだ」ニィ
さとり「翔太さん……ありがとうございました。ここまで来れば、私は大丈夫です。そして貴方ももう……大丈夫」
さとり「なのでそろそろ、地上へ送る段取りを決めないといけませんね」
晴れやかに微笑み、神峰の地霊殿での生活の終わりを告げる。
神峰「!!!」
さとり「私も同行します。地霊殿から出るのが私達の第一歩のようですね」クスクス
口元に手を当てて笑うさとりに対して、突然地上へ送ると言われ動揺する神峰。
神峰「な……いいのか……?」
さとり「良いも何も、元々そういう約束でしたので。"翔太さんが心と向き合う強さを手に入れたら地上へ送る"と。私も得る物がありましたから、十二分な成果です」
神峰「その話……少し待ってくれねェか?」
しかし神峰には今日明日で直ぐに地上へ向かうワケにはいかない。
まだやるべき事があるのだ。
さとりはそんな提案をする神峰の心を読む。
さとり「どうしたんですか? せめて今月いっぱいは仕事をやる、ですか? いいですけど」
神峰「悪ィな……でも、ちゃんとやるべき事はやっとかねェといけないって思うんだ……」
さとり「では、地上へは新年に。三ヶ日は人里も大変でしょうから……1月5日に地上へ行きましょう」
具体的な日取りが決まった所で、二人の会話に乱入者が現れる。
こいし「えーーー!? 翔太、地上に行っちゃうの!?」
突然の大声にビクリと身体が跳ねる神峰とさとり。
神峰さとり「こいし!? 何時の間に!?」
こいし「翔太、地上に行っちゃうのね……。でもいっか! 私もしょっちゅう地上に行ってるから、また遊びましょ?」
残念そうにしながらも、ケロっと表情を変えて話す。どうやら地霊殿で見ない時は地上へ行っているらしい。
神峰「危険なのは勘弁して欲しいんだけど……」
さとり「間違えても翔太さんを拉致して来ないでね」
神峰「!?」
突然ぶっこまれるさとりの冗談は、冗談なのか本気なのか区別がつかない。この辺は姉妹でそっくりだなと、驚きながらも思う。
……………
……
その後、地上へ行く話は地霊殿のみんなに伝わった。
お燐「アタイもこいし様と同じように、地上へは何度も行くからね、向こうで会ったらみんなの様子を教えてあげるよ! 特にさとり様の!」
神峰「おお、それはありがてェ!よろしくな!」
さとり「なんで私を強調するのよ……いえ、分かっていますが」
お空「翔太行っちゃうんだね、寂しくなるね」
悲しそうな顔をして話す空を前にして、何故か罪悪感が生まれる。何故なのか。
神峰「元々地底に人間が居るのが場違いなんだよ。生きてる内にまた会えるといいな!忘れられたらスゲェショックだからな……」
お空「みんなの事は覚えてるからきっと大丈夫だよ!」
忘れないよ! と明るく言い切る空に、燐が茶々を入れる。
お燐「いつまで覚えていられるかねえ?」
神峰「そういう怖ェ事言うの止めろ!」
一通りツッコミが終わった後、ペット達の方を向く。みんなすっかり神峰に懐いた動物達だ。
神峰「……みんなも世話になったな。お前達のおかげで前に進む事が出来た……。あと二週間しかねェけど、それまでよろしくな!」
───
─
~翌日~
店主「あ″?」
ドスを効かせて神峰を睨む店主がそこにいた。
退職を申し出た直後にコレである。
神峰「あの……だから……、今月いっぱいで辞めさせていただきたいと……」ダラダラ
汗をダラダラと流し、店主の迫力に圧倒され、しどろもどろに言葉を吐く神峰。
店主「雇われて四日目で辞める話か!! お前スゲェよ!!」
神峰「スミマセンッ!」ヒーーー!
店主「いや、日雇いばっかだし、新しい料理も覚えたからもうお前に用はねェんだけどよ」
神峰「スゲェ酷いなこの人!?いや俺も相当スけど!!」
怒鳴った直後にコロっと態度が変わる。そういえば地底では日雇いが基本なのだ。
適当な割に、楽するために非常に効率が良かったりと、この店主も相当意味が分からない。さっきの態度も外の世界の常識ではないか。この幻想郷では、常識に囚われてはいけないのです。
店主「んー……、んじゃ、宴会でもやるか? こういう時って宴会するモンだろ? 営業最終日にお前達のスペース取っといてやるよ。お前は仕事しながら混ざれ。人も適当に集めろ」
神峰「相変わらず投げやりだ……。つか、宴会なんてしたことねェス……どういう時にするモンなんでしょうね……?」ドヨーン
店主「……悪かった」
俯いていく神峰を見て何かを察した店主が思わず謝る。
神峰「いえ、でもありがとうございます!」
店主「気にすんな。俺からの餞別だ。……おし、仕事に集中するぞ!客連れて来い!」
神峰「はい!」
神峰の地上行きが決まっても、変わらず仕事が始まった。
今日はここまで。
乙。あと2.3回で前スレに追い付きそうだな。そこからの新展開に超期待!
金井淵乙
幻想郷のSOUL CATCHER(s)というパクリssがあってだな……
それはそうと6巻が発売したね。雅だったね。地方だから2日後にしか手に入らないボクには関係無い話だよね……(ボンボンクシャッ
>>162
今回入れてあと5回です。まだ続編書けてないという体たらく
──────
──
~そして宴会当日~
営業日今年最後という事で店の中は忘年会で賑わっている。その奥の座敷にて、神峰の送別会が行われていた。
勇儀「さとりはずっとアンタを置いとくつもりだったら面白かったんだけど、やっぱり地上に行っちまうんだね」
神峰「ええ、そういう約束だったんで……。勇儀さんにはかなりお世話になったんで、これ、受け取って下さい!」
エプロンを着けて、未だ仕事中という格好の神峰。店主に言われた通り、本当に仕事をしながら宴会を開催したのだ。
この日のためにと、神峰は準備していた包みを取り出し、勇儀に渡した。
勇儀「おっ? まさか祝う相手から贈り物を貰うなんてね、アンタ面白いね!」
パルスィ「本当に地上へ行けるようになったのね……。半分冗談で言ったのに、まさか実現させるなんて妬ましいわ……」
緑眼を光らせて親指の爪を噛むパルスィ。これが平常運転だと聞いた神峰は、せっかく忘年会も兼ねたこの宴で野暮なツッコミもするまいと、新たな包みを取り出してパルスィに差し出す。
神峰「理由はどうあれ、命を助けて貰った事は本当に感謝してるんス! パルスィもこれ、受け取ってくれねェか?」
パルスィ「あら? 私にもくれるのね? ふふ、命を助けてあげたんだものね……貰ってあげるわ」
意外そうに目を一瞬見開くと、ダークな笑顔を見せてお礼を受け取った。
この時パルスィ、意外にも素直。しかしこの人は明るい笑顔が作れないのだろうか。
ヤマメ「二人ともいいねぇ。で、次は私の番? 何くれるの?」
対照的にこちらは表情からすでに明るい。この流れから自分も何か貰えるのだろうという期待を持った心を見て、神峰は「あっ」という表情を作った。
神峰「あ……悪ィ……。世話になった人全員にやってたら給料足りなくなるから、恩がある人にしか渡してねェんだ……」
金銭的な問題もあり、そこまで気が回らずに申し訳なさそうにする神峰。
パルスィ「クスクス……貴女、こいつを見殺しにしようとしてたわよね。私みたいに気まぐれでも起こせば良かったのに……」
ヤマメ「」ガシャアアア ガクッ
パルスィの言葉が駄目押しとなり、ヤマメの心は銃弾に撃ち抜かれたような穴を空けて砕けた。そして呆然と膝を着く。
神峰「心が砕けるほどショックな事か!?それ!?」
突然の出来事に驚きを隠せない神峰。そんなメンタルでよくも妖怪をやってられたものだ。
……演出にしても凝りすぎじゃなかろうか。
そして最後に、正直あまり良い思い出がない少女を視遣る。
神峰「……キスメも、来てくれたんだな。サンキュ」
キスメ「皆に誘われたから……」
勇儀「神峰!地上には萃香って飲んだくれの鬼が居るからね、今の内に鍛えておくよ!」
神峰が全員との挨拶を終えるのを待っていたのだろう、勇儀が即座に声を上げる。
ジャンプ読んでるか?
神峰「俺仕事しながらッスよ!? せめてもう少し待ってくれないスか!?」
勇儀「何言ってんのさ! そんなのオヤジに任せとけよ! 最後にアンタと飲み比べしたいんだよ!」
店主「聞こえてんぞコラァ!!」
さっぱりしている勇儀もやはり名残り惜しいのだろうか、そんな勇儀の声を聞いて店主が野次を飛ばす。
こいし「翔太頑張れー!」
神峰「こいし!? 何で居るんだ!?」
気付くとこいしも座敷に座り、宴会に混ざっていた。
神峰の疑問にも、当然でしょ? という態度で答える。
こいし「なんでって、決まってるじゃない!」
言うのと同時に、店の戸がガラッと開き、来客が訪れる。
店主「らっしゃーい」
店主の掛け声の後にざわめきが起こるが、こいしは気にせず続ける。
こいし「翔太の送別会やってるから来たのよ?」
すでに店内はシンと静まり、こいしの声だけがよく響いた。
神峰「? なんだ? 急に静かに……?」
突然店内が静かになった事を不思議に思う神峰の背後から、聞き慣れた声が届けられた。
さとり「宴会の席はここですね?」
神峰「さとり!?」
驚く神峰に遅れて、沈黙を破ったのはパルスィだった。
パルスィ「ちょっと、なんでコイツが居るのよ……?」
勇儀「これはこれは……珍しい事もあったモンだね」
パルスィを皮切りに勇儀も続き、店内の客も我に返りどよめきが起こる。
さとり「なんでって……翔太さんの送別会をやるのなら、私達が来ても何もおかしくないでしょう?」
パルスィ「もっと周りの事考えなさい。みんな貴女とは同じ空間に居たくないのよ?」
神峰「な───!?」
何て事を! 明らかに邪見するパルスィにそう言おうとしたが、さとりに制される。
さとり「翔太さん、分かりましたか?……これが私なんです。誰も私と目を合わせようとしていないでしょう?」
よく視ると、さとりの心も精一杯立ってる状態だ。自ら奮い立たせて地霊殿から出てきたのだろう。
さとり「ですが、翔太さんは気にする必要はありません。もう"覚悟"はありますから。どんなに辛くても、向き合って行こうと思います。どれだけ永い道のりになっても構いません」
その言葉を聞いて、面倒くさそうに溜息を吐く勇儀。
勇儀「はぁ~……、翔太の影響って訳か……分かったよ。翔太が呼んだんなら文句言無いよ。席につきな、宴会の続きだ!」
勇儀のこういう所は本当に有難いと思う。2秒で切り返し、仕切り直しがかかる。しかし店内を見渡すと、ほとんどの客が無言出て行こうとしていた。
そんな人波に逆らい、二匹の妖怪が来店する。
お空「わーい! 宴会だ宴会だ!」
お燐「あちゃー……やっぱりお客さん離れて行ってるね……」
神峰「お燐! お空!」
お燐「地霊殿でも送別会やろうとしてたんだけどね、どうもさとり様がお兄さんの心を読んで、こっちも行くって……」
神峰(さとりも前に進み始めたって事か……!)
恐らく、さとりが神峰の心を読む→さとり「私も行く」→四人で出かける→こいしが先駆け→さとり追い付く→お燐とお空追い付くという経緯だろう。
店主「おい神峰!……さとりが来たなら仕方ねェ……、けど! 客は連れ戻せよ! 全員じゃなくてもいいから説得してみせろ!!……それが終わったらさとりの相手してろ、同じ席の奴らが可哀想だ」
さとりの変化を感じて喜びを感じる神峰に、店主が、客を連れ戻してきたら自由にして良いと言う。
神峰「───!! 了解ッス!!」
神峰は店主が気を効かせてくれたのだと思っているが、実際には、さとりには神峰をあてがえば周りに被害が出ないだろうという打算があった。
何故なら、神峰はさとりの男である、という噂がすでに地底に伝播していたから───
神峰が妖怪達に絡まれなかったのも、実はこの理由が大きい。
……………
……
店主「そう上手くはいかねぇか」
数分後、神峰が戻って来てから店内を見渡すが、年末だというのに昼間を思わせる程の客しか取り戻せていない。
神峰「さとりの相手は俺がするって事で三割くらいは戻って来てくれたッスけど……」
さとり「いえ、こんなに助けて貰えれば十分です。これは私の問題ですから、私自身がなんとかして行かなくてはいけません」
さとり「……今は、これで十分です。さぁ、宴会しましょうか」
店主「お前も行け。こんだけ客が減りゃ一人で十分だ」
言われて、さとりと共に座敷へ移動する。
勇儀「来たね。この白けた空気、どうしてくれるんだい?」
さとり「貴女のご所望通り、翔太さんと飲み比べをしたら良いのではありませんか?」
鬼の機嫌をとるために、何をするのだろうと思っていると、神峰に白羽の矢が立った。
否、有り体に言えば、神峰はさとりに売られたのだ。
神峰「!?」
勇儀「それでイイんだね?遠慮しないよ?」
さとり「最後ですからね。貴女達も悔いの無いように翔太さんと付き合って下さい」
さとりのセリフにニィと笑う勇儀。神峰を独占する気は無いと言っているのを察したのだ。お互い悔いの無い別れをしようと。
そんな心中など知りもしない神峰が叫ぶ。
神峰「裏切り者ー!!マジで考えてるな!?」
勇儀「往生際が悪いね! こっち来な! アンタがくれた酒を開けてやるよ!!」
さとり「介抱してあげますので」
少し申し訳なく思いながら、神峰を死地へと送ろうとするさとりに、勇儀から声がかかる。
勇儀「何言ってんだい? アンタも飲むんだよ」
さとり「えっ?」
勇儀「だいたい、アンタは付き合い悪過ぎなんだよ。地霊殿の主のクセに酒の席にも現れないから、なかなかアンタと飲む機会も無いじゃないか」
三人分の酒を注ぎながら、勇儀が愚痴る。そして神峰とさとりの前に酒を差し出し、さとりの目を真っ直ぐ視ながら
勇儀「覚悟は決まってるんだろ?だったら、飲んでくれるよな?」
さとり「……言葉尻捕まえて都合好く解釈しないで下さい!!」
思わずイエスと応えてしまいそうになる程の真摯さに当てられるも、なんとか自分のペースを維持するさとり。
そんなさとりに、それじゃダメだ、と言わんばかりにキリッとした神峰が説得を試みる。
神峰「いや……さとり、勇儀さんの言う通りだ! 心と向き合うって事は辛い事に向き合って行く事なんだ。乗り越えなくちゃいけないんだ!」
さとり「道連れになって欲しい、ですか……恰好いい建前なのに本音が恰好悪過ぎですよ……」
即座に心を読み、ジト目で斬り捨てる。
しかし、確かに一理ある、と思い直す。
さとり(でも……これから向き合って行くのなら、こういう事も大切ですよね)
さとり「分かりました……。では、頂きましょう」
勇儀「そう来なくちゃね!!」
お空「さとり様! 翔太! ガンバレー!」
お燐「アタイ達が介抱しなくちゃいけないんだよね……」
さとりが飲み比べを承けた事に喜びを表す勇儀。
そして応援する空とこの後の事を心配する燐。
宴会が再開した。
……………
……
何時間経っただろうか。宴会はまだまだ終わる気配がうかがえない。
そして神峰の送別会をしている一角には、異様な光景が広がっていた。
さとり「分かっているのお燐!?あまりおいたが過ぎるなら、トラウマ想起れしゅよ!?」ヒック
お燐「はい……はい……。すみません……」
ベロンベロンに酔っ払ったさとりと、正座をして首を垂れる燐。
こいしと空は料理を頬張り、ヤマメは何時の間にか復活しており、勇儀とパルスィとキスメと共にこの光景を眺めている。
神峰は───机に突っ伏していた。
さとり「こいしも!ちょっとは私に心開いてもいいんじゃないの!?」ヒック
こいし「えー……でも私はもう閉じちゃったもん」
さとり「そう言ってられるのも今のうちれすよ……貴女の心は必ず開いてみせるんだから……!私としょーたさんが組めば、暴けない心なんて無いのよ?」ヒック
さとり「ねー?しょーたさーん?」ヒック
神峰「」
しかし神峰からの返事は無い。彼は既に……勇儀に潰されたのだから。
さとり「心が暗転してまふよー?もう潰れたんれすかー!?」ヒック
そんな事などお構い無しに、神峰の首に腕を回して絡みだす。
自主的に引き篭もっていたが、やはり他者と関わりたいという願望が抑圧されていたのだろうか?
勇儀「これは予想外……なんて言うか……さとりって酔っても面倒くさいね」
パルスィ「本当よ。なんとかしなさいよ……このままじゃさとりの暴露大会(ソロライブ)が始まりそうだわ……」
この惨状をなんとかしてくれと懇願するパルスィ。確かに今のさとりならやりかねないと思い、実力行使に出る。
勇儀「しょうがないね……。おいさとり! まだ勝負が付いてないなら続きと行こうか!」
さとり「! ……私を酔い潰す気でふね? いいでしょう、受けてたちましゅ!」ヒック
構って欲しくて仕方ない。売られた喧嘩は買うのが絡み酒の特徴である。
ヤマメ「お願いだから早く潰れて……っていうか潰してちょうだい……」
お空「外の世界って料理美味しいんだね!わたしも行ってみたいなー!」
幻想郷は年末も平和だ───。
そんなさとり達の宴会を、遠目に眺める常連達。
「さとりってあんな酔い方するんだな……」
「あんま乗り気じゃなかったけど、神峰の説得に応じて良かった。珍しいモン見れたわ」
この宴会が、地底の住人のさとりへの印象が少しだけ変わる出来事となった。
…………
……
勇儀「ふぅー……やっと潰れてくれたか」
さとり「」
勇儀「なかなか楽しかったよ。また飲もうじゃないか」
机に倒れて寝息をたてるさとりに、聞こえていないと知りながらも、ニィと笑う勇儀。
お燐「二人とも潰れちゃったね……じゃあアタイ達はこの辺でお暇させて貰おうかな?」
さとりが潰れたのを見届けてから、いそいそと仕度を始める燐に、勇儀が話しかけた。
勇儀「おい、お燐。地霊殿でも宴会やるんだろ? 私も行くよ!」
お燐「そう? だったらお正月に来なよ! 新年会と一緒にやるんだ!」
勇儀の申し出に二つ返事でOKする。
地霊殿は意外に来る者を拒まない。世話をする気など無くこいしが拾ってくるペットも、元の場所に戻される事無く地霊殿で世話をされて、さとりに懐く。
全くもって変なサイクルが出来上がっている。
勇儀「ああ、次はちゃんと翔太に挨拶してやらないとね……。じゃあね!」
お燐「ほら、お空帰るよ!どっちか運んで!」
お空「はーい。またねー!」フリフリ
こいし「それじゃあ私も帰るね。バイバイ」
手を振り、神峰を担ぐ空。
二匹が帰るのをみて、こいしもその後に続いた。
勇儀「一気に減ったね……なかなか楽しかったよ。さて、飲み直しだ!」
パルスィ「よくそんなに飲めるわね……」
鬼のザルっぷりにほとほと呆れるパルスィ。
勇儀「珍しい相手と飲めたからね、最高に調子がいい。誰か飲み比べしようか?」
ヤマメ「鬼って本当ザルだよね……このまま私達も酔い潰す気じゃないよね?」
ヤレヤレと溜息を吐きながらヤマメが冗談半分で口に出す。
しかし返ってきた応えは、非情なものだった。
勇儀「愚問を、吐くなよ」
ヤマパルキスメ「えっ」
勇儀「ちゃんと送ってやるから心配するな。もう年末だ、今年の事は飲んで忘れるよ!」
この日、四人は店内で夜を明かした。
───
─
今日はここまで。
そして書き貯め尽きた。明日投稿できるか分からんス
>>177
相撲面白いです
ネクスト読んだよ
パジャマ良いよ
裏は嫌だけと
地の文だ! 地の文を! 入れてくれ!
↓
日付が…… 途中で変わった……
↓
間に……合わなかった……
そもそも言い方が悪かったよね。書き貯め尽きたなら明日だけじゃなくて明日以降不定期になるのにね。
6巻買いました。今月のネクスト買わなくてよかった。来月のは買う。星合ちゃん可愛い。智香ちゃん推しがスゴい。可愛い。
じゃあ投下
【地霊殿】
さとり「ん……?」パチ
さとり「私の部屋……?」
目を醒ますと、見慣れた天井が目に映る。
どうして自分の部屋で寝てるのだろうと考え、昨晩の事を思い出そうとする。
さとり「ああ、そういえば居酒屋の宴会に参加したんでしたっけ……」モゾ
自ら宴会に参加した事を思い出すと、もう少しだけ微睡みの中に居ようと思い、横に寝返りをうつ───
神峰「」
さとり「~~~ッ!?!?!?」
寝返りをうつと、隣には神峰が横たわっていた。もとい、眠っていた。
混乱しながらも、悲鳴をあげるのをグッと堪え───むしろ声が出せなかったと言った方が正しいが───、昨晩の宴会で何があったかを最初から順に思い出そうとする。
さとり(え!? 何!? どうして!? 何で翔太さんが一緒に寝てるの!!?)
さとり(確か昨日は勇儀さんと飲み比べをして……まさかそれから酔った勢いで……!? いや、服は着てますね。じゃあ───)
さとり「あ」
モゾモゾと布団の中で着衣の乱れが無いかを確認し安堵するも、とある記憶に行き当たり、記憶想起が途中で止まる。
そしてみるみる顔を紅く染めて、頭まで布団の中に隠れてしまった。
さとり「あああ……っ!私はっ……なんという醜態を……!」
さとり「お酒に酔って……皆さんに迷惑をかけてしまいました……」
酔っ払いには二つのタイプがある。
酔った時の記憶が残らない者と、残る者だ。
さとりは昨晩の記憶がバッチリ残っていたらしく、今後の人付き合いを憂う。
さとり「ああ……恥ずかしい……。人前に出るのが億劫になりました……」カアァァ
さとり「うう……とりあえず起きましょう……。こんな事をするのは……お燐ね」
さとり「翔太さんはどうしましょうか……? ……ペットに運ばせましょう」
恥ずかしさのあまり涙目になりながらも、一先ずベッドから降りる。
そして神峰をどうするかを決めた所でついつい愚痴がこぼれる。
さとり「お燐にはお仕置きしておきましょう。最近のあの子ときたら、地上で変な影響を受けて来て困るわ……」
それがいけなかった。愚痴る暇があれば早急に行動するべきだったのだ。恥ずかしがる暇があったなら、もっと慎重になるべきだったのだ。
神峰「ぅ……」
神峰「頭痛ェ……」
さとり「えっ」
神峰が目覚めた。
さとりよりも早くに潰れていたのだ、このタイミングで目覚めるのは何ら不自然ではない。
むしろさとりよりも遅く目覚めたのは偶然で、さとりはそのチャンスをモノに出来なかったのだ。
神峰「今何時だろ……? ……さとり? 何でここに居るんだ?」
神峰はまだ頭が覚めきっていない様子で、さとりが居る事に気付き、疑問を口にする。
さとり「い、いえ……、翔太さんの様子を見に来ただけですよ……?」
さとりはしどろもどろになりながらも咄嗟に誤魔化す。
何も後ろめたい事など無いのに。この状況を気付かれたくないがために。
神峰「そっか……悪いな。……何でそんなに動揺してんだ?」
しかし神峰には隠し事を隠し通せない。「何かを隠している」という事が分かるから。
心が見えるため動揺もばれてしまう。
さとり(そうでしたぁぁぁ!! 心が見えるから咄嗟の嘘なんて意味無いじゃないですか!! 変な誤解が生まれる前に正直に言うべきでした! いえ、今からでも遅くはありません!!)
神峰「あれ? そういやココ、俺の部屋じゃねェな……?」
さとり(\(^o^)/)
正直に言えばまだ傷も浅く済むと考えるさとりの退路を無意識に塞ぐ神峰。だがさとりはまだ諦めない。
諦めかけたが諦めない。
さとり(いえ!まだ挽回出来るはず!!)
さとり「どうやらお燐達の仕業みたいで……、私もついさっき起きたので動揺して……」
神峰「そっか。……ん?"ついさっき起きた"?って事は……」
さとりに言われてようやく自分の状況を確認する。
自分はベッドに寝ていたが、その位置は中央よりも外側に位置している。むしろ半分のスペースしか使っていない。
そしてもう片方、不自然に空いたスペース(何故か温もりが残っている)
先ほどのさとりのセリフとこれが意味するモノは……
神峰(……まさか)
さとり「……」
これだけ揃えば神峰も気付く。さとりも気まずそうに目を伏せた。
神峰「またこのパターンかよ!?寝起きドッキリか!?」
さとり「そういえばこいしとも一緒に寝ていましたね」
神峰「う……もう忘れてくれねェか……?」
思わずツッコミを入れる神峰に、さとりも思い出したようにコメントする。
恥かしいのか、あまり触れて欲しくない話題らしい。
神峰「……なぁ、本当に俺は地上に行っていいのか?」
二人が落ち着いて一息してから、神峰が確認するように尋ねた。
神峰「こいしの心開きてェなら、俺も手伝った方がいいんじゃねェか?」
さとり「……翔太さんの気持ちは嬉しいですが……。確かに、翔太さんが協力してくれたなら、こいしの心を開かせるのも楽になるでしょうけど」
けど、と言いながら、さとりは己の決意を言語化するように言葉を紡ぐ。
さとり「ですがこれは私のわがまま……私の問題なんです。翔太さんの手を借りずに、私一人でやるべきだと思うんです」
さとり「こいしの心を私一人で開かせる事が出来たら、次はちゃんとこいしを守ってあげられるような気がするんです。……だから、良いんです。言ったでしょう?私は大丈夫です、と」
それを聞いた神峰の顔には、もう不安も心配も戸惑いの色も無かった。
神峰「そっか!分かったよ」ニッ
神峰「じゃあそろそろ行くか。みんな心配してるかも知れねェ!」
さとり「すっかり忘れてました……お燐達が余計な事をしたせいで」
……………
……
お燐「あ!おはようございますさとり様!お兄さん!……昨晩はお楽しみでしたか?」
神峰とさとりが一緒に食堂に現れた事に気付いた燐が、二人に近寄り笑顔で迎える。
さとり「お燐。貴女ちょっと俗に染まり過ぎじゃないかしら……?あんまりおイタが過ぎるなら、私にも考えがあるわよ?」ガシッ
神峰(怒ってる……。初めて見たかも……)
燐が近寄って来るや否や、即座に燐の首根っこを捕まえ脅しをかけるさとり。否、脅しではなく本気でヤル気だ。
その迫力に気圧された燐は、何とか逃れようと弁明を試みる。
お燐「あの……お兄さんを寝かせたのはお空なんですけど……」
さとり「面白がってそのままにしたのは貴女でしょう?」ニコ
しかし こころを よまれて しまった !
さとり「心と向き合う覚悟をしてから……私、ペットともちゃんと向き合っていくべきだと思ったの。飼い主が放し飼いなんて無責任でしょう?」
お燐「えーと……それは素晴らしいお考えで……」
優しく温かく語りかけるさとり。だが、燐にとってはそれが嵐の前の静けさに感じられた。
さとり「ふふ、ありがとう。……だから、まずは貴女を躾けてあげる。この前は手加減してあげたけど、今回はLunaticでいきましょう」
お燐「」サーーー...
どこまでも優しくにこやかに話すさとりだが、セリフが終わりに近づくにつれて無表情に変化して行く様を目の前で見せられ、言い知れぬ恐怖で燐の血の気が引く。
さとり「では、私は飼い猫の躾がありますので後ほど」ズルズル
最後には無表情に機械的に言葉を発し、首根っこを掴んだまま燐を引きずって部屋を後にした。
神峰(静かに怒る人って超コエー!!!)ビクビク
バタンと扉が閉まる。
さとりが出て行ったその扉を見ながら、神峰も密かに恐怖した。
……………
……
しばらく待っていると食堂にこいしが現れた。さとりと燐はまだ戻って来ない。
こいしは神峰を見つけると神峰隣の席に着いて、顔を向ける。
こいし「結局、翔太は私にならなかったのね。私は翔太みたいに前向きにはなれないや」
神峰「そんな事はねェよ。こいしだって、心と向き合うための術を手に入れたら変われるさ」
神峰「……俺とお前は一緒なんだろ? 心に関わるのがスゲェ辛かったんだろ? ……だけど、変わろうと望めば変われるんだ。こいしが心を閉ざしたのだって、お前が望んだ結果だ」
神峰「俺は心と向き合おうって戦い続ける道を望んで、こいしは関わりたくねェって……逃げ続ける道を選んだんだよ……」
神峰だって幻想郷に来るまでは心から逃げていた。きっとさとりと関わらなかったら、今も逃げ続けていただろう。
それでも神峰は向き合う決意をした。
だからこそ、こいしも変われると言う。
こいし「翔太のクセに生意気ね。心が読めるのと心が見えるのじゃ、全然違うじゃない。……私はもうどうやったら開くのかも分からないけど、無意識の中を泳ぐのも楽しいよ?」
神峰(こいし本人はそうかも知れねェ……けど、周りから見たら……それは楽な事に逃げ続けて、無感動に生きてるようにしか見えねェ……。俺やさとりから見たら、本当に"楽しい"って感じているのかすら分からねェ……)
さとりの決意を聞いた以上、神峰がこいしに対してしてやれる事は何も無い。それでもさとりは大丈夫だと言った。だから……
神峰「……今度はさとりが守ってくれるから、大丈夫さ」
こいし「心が開いたらの話でしょ?」
神峰「さとりがやるって決めたんだから……必ず開くよ」
こいし「ふーん……」
───
─
お燐「光陰矢の如しだね!もう正月だよ!」
幻想郷にて迎える新年。
この日は地霊殿の全員が早起きして外の世界と同じように新年の訪れを祝っていた。
初日の出という事で、空が地底の天蓋から旧都を照らしたりもした。神峰はその太陽の様な輝きに懐かしさを覚えると同時に、空の能力を初めて目の当たりにしたのであった。
さとり「明けましておめでとうございます」ペコ
お燐「明けましておめでとうございます!」
お空「明けましておめでとうございまーす!」
神峰「あけおめッス!」
こいし「明けましておめでとう」
一通り新年の挨拶を終えると、空がしゅんとした顔で顔に話しかけてきた。
お空「翔太も、もうここに居るのも一週間も無いんだね……」
神峰「新年早々、そんなに悲しい顔しないでくれよ……。そうだ!お年玉とかじゃねェけど、皆には世話になったから渡してェ物があるんだ!」ゴソゴソ
空を元気付けるために、そして沈みかけている空気をなんとかしようと、置いてあった袋をあさり、後で渡すつもりだった包みを取り出す。
神峰「まずはお燐!」
神峰「お燐にはかなり世話になったからな。特に飲み比べの身代わりになってもらって……その時のお礼と一緒にしちまって悪ィけど……」ハイ
お燐「おお!ありがとう!でもこのタイミングで渡されるといよいよって感じだね!」
神峰「うっ……もしかして俺って空気読めてねェ……?」
お燐「……。まぁとにかくありがとうね!」
燐は笑顔のまま少しの間固まり、さっきと同じ調子で礼を言う。
これにはさすがの神峰も理解したようだ。
神峰「心が目ェ逸らしてるぞ!?空気読めてなくて悪かったな!!」
いつもの調子でツッコミを入れた後、気持ちを切り替えて空を向く。
神峰「お空にも!あんまり接する機会はなかったけど、ありがとな!」
お空「だったら今度、私の仕事場に遊びに来てよ!」
冗談じゃない。
こいし「それなら私が連れてってあげるー!」
洒落にならない。
神峰「いや……さすがに生きて帰れねェ気がするんだけど……」
神峰と空とこいしで盛り上がっていると、さとりが宥めるように言葉を洩らす。
さとり「五体満足で地上に送ってあげたいのでほどほどに」
神峰「怖ェこと言わないでくれね!?」
再びツッコミで締めると、次はこいしの方を見る。
神峰「───次はこいしだ。さすがに俺の死体なんて無理だから……これで我慢してくれ」
こいし「ありがとう。翔太の死体は翔太が死んだ時に持って帰るわ。それまで元気でね!」
神峰「はは……冗談で言ったのに、その返しはリアクションに困るぞ……」
冗談のつもりだったのに死後の予約をされてしまい、苦笑する。
自分が死んだ後の死体の扱いが分かった事は幸運なのだろうか。妖怪に持って行かれるのは不運かもしれない。
神峰「最後はさとりだな」
言いながら、さとりと向き合う。
さとり「ペットの皆にも渡してもらって……ありがとうございます」
受け取りながら改めて礼を言うさとり。
神峰「さとりには地霊殿に住ませてもらったり、成長させてくれて……スゲェ感謝してる。大恩人だ」
さとり「私も、翔太さんのおかげで大切なモノを手に入れましたから、お相子ですよ。……それに、もし駄目だった時は、恐らく妖怪の賢者が動いたでしょうから」
神峰「それでも、これは俺の恩返しだ。実際、さとりが動いてくれたじゃねェか……ありがとう」
さとり「ふふ……まるでお別れ間際のような雰囲気ですね。今夜は送別会もしますからね」
神峰「新年早々しんみりさせてスマン」
結局お別れムードになってしまい、神峰が改めて謝ると、空が口を尖らせた。
お空「翔太も人の事言えないじゃない」
神峰「悪かったよ……」
……………
……
夜になり地霊殿にて新年会が行われると、何やら荷物を持って勇儀が訪れた。
勇儀「よォ。来たよ」
神峰「勇儀さん!?何でココに!?」
勇儀が来た事に驚く神峰を見て、伝わってなかったかい? と事情を話す。
勇儀「今日の宴会にも参加するってお燐に伝えてたんだけどねぇ」
神峰「そうだったんスか……。あ、あけおめッス!」
勇儀「明けましておめでとさん。ホラこれ、オヤジに作らせて持って来たよ。餞別だ、卓に並べといておくれよ」
新年の挨拶も軽く済ませて、持って来たモノを神峰に渡す。どうやら料理を持って来たらしく、作ってくれた店主に感動を───
神峰「あざす!店長……俺のために……」
勇儀「いんや、作らせたんだって。本人は結構渋ってたね」
神峰「………」
───しなかった。そういう性格なの、知ってた。と神峰の顔に書いてある。
二人が話していると、来客に気付いたさとりが寄って来る。
さとり「お客ですか?こんな日に……あ」
勇儀「明けましておめでとさん、さとり」
客が勇儀だと気付いたさとりは見る見る顔を紅く染めて、モジモジしながらも挨拶をする。
さとり「ゆ、勇儀さん……えっと……、明けまして……おめでとう……ございます………」カアァ
神峰「何で赤くなるんだ!?何で恥ずかしがってんの!?」
勇儀「こいつこの前酔っ払ってね。その様子だと、どうやら覚えてるみたいだね」クスクス
さとり「お願いですので忘れてください……」プシュー
ついに俯いて頭から蒸気を上げてしまった。
神峰「酔っ払ったさとりか……俺はすぐに潰れちまったから……ちょっと興味あるかも……」
さとり「今日はそんなに飲みませんからね!」
神峰のデリカシーの無い発言に思わず顔を上げて反論すると、珍しく勇儀も反対派に回る。
勇儀「あたしも遠慮しときたいね。やめといた方が良いよ、翔太。こいつ絡み酒でさ、面倒いったらないから」
さとり「もうこの話は終わりです! お料理ありがとうございます! こちらへどうぞ!」
勇儀「はいはい」
反対してくれるのはありがたいが、その流れで余計な事を喋られないようにヤケクソ気味に話しを打ち切って、さとりは勇儀を案内する。
勇儀も察したのか、ヒトのトラウマほじくるヤツが何言ってんだ、と思いながらも先行するさとりに着いて行く。
神峰「最近はさとりの新しい一面をよく見るな……」
そんな二人を見送りながら神峰が独り言をこぼすと、何時の間にか聞いていた燐が拾う。
お燐「それもさとり様の心を解してくれたお兄さんのおかげだね!」
神峰「解した?俺が見て来た限りじゃそういう影響は与えてねェはずだけど……。あ、ハコから出たからか!」
お燐「そういうこと!さとり様ったらこの前まで引きこもりっきりだったからね」
神峰「心のエネルギーが外に向かうと感情も豊かになるんだな……」ヘェー
……………
……
勇儀の参加と、持って来た料理が並べ終わったのを確認して、さとりが場を仕切る。
さとり「───では、改めまして、新年明けましておめでとうございます。皆さん、今年もよろしくお願いします」
「「「明けましておめでとうございます」」」
さとり「翔太さんもいよいよ地上へ行きますので、お互い悔いの無いように。乾杯」
「「「乾杯!」」」カキーン
乾杯が終われば後は各々自由である。とは言え、地霊殿だけで行われる宴会のため、それほど人数が居るワケではない。どちらかと言えば立食パーティを思わせる雰囲気だ。
しかし地霊殿では宴会というイベントが殆ど無かったらしく、住人達も新鮮さを感じていた。
お空「地霊殿で宴会だなんていつぶりだろ?」
神峰「そんなにやってねェのか?」
お燐「さとり様が引きこもりだったし、誰も地霊殿には来ないからね。来客の準備があるのかすら怪しいくらいだよ」
神峰(そういや俺も部屋用意されただけで、特に何もなかったな……まぁ、俺の場合は突然だったし気にしねェけど)
そこへ三人の会話を聞いたさとりが話に加わる。
さとり「さすがにお客をもてなす準備くらいはしていますよ。……棚の中に眠っていますけど……」
さとり「翔太さんのおもてなしについては……すぐに準備出来なかっただけです。すみませんでした」
神峰「あ!いや!気にしてねェよ!ここに住まわせて貰っただけでもスゲェ有り難かったし!」
いきなり頭を下げるさとりに神峰があたふたしながらもフォローをすると、勇儀が思い出したかのように疑問を口にする。
勇儀「そういや、翔太が客人として地霊殿に住むようになった詳しい経緯を聞いてなかったね。あのさとりが人間を招くなんて……一体何があったんだい?」
さとり「それについては私のわがままが理由なんですけど───」
さとり説明中……
さとり「───という理由です」
神峰「あの時いきなり言ってる事が変わったのはそんな思惑があったからなんだな」ヘェ
さとり「翔太さんには以前話した理由ですね」
改めて当時の理由を聞き、納得する神峰。
勇儀「つまり使うだけ使って要らなくなったらポイって訳だ」
一方、勇儀は茶化すように要約した。
それを聞いたさとりも思わず声を大きくする。
さとり「人聞きの悪い事を言わないでください!! 確かに利用させてもらいましたけれど……」
お空「うわ……さとり様非道い……」
純粋に神峰に気遣う視線を送る空。
お燐「あんなに一生懸命尽くしたお兄さんの気持ちを袖にするんですね……?」
こっちは故意犯である。
さとり「そこも乗っからない!!」ビシッ
神峰(あのさとりがすっかりツッコミキャラだ……)
指を指しながら突っ込むさとりを眺めながらさとりの変化を感じていると、勇儀が来てからいつの間にか消えていたこいしから声がかかった。
こいし「ねえ翔太。私もあなたに餞別をあげる!」
神峰「! こいし! 見ねェと思ったら……何くれるんだ?」
こいし「さっき地上で貰ってきたの。はい、あげる」
笑顔で差し出すこいしの手には一冊の書があった。
神峰は書を受け取ると、タイトルを確認したあと表紙を開き内容を読み始める。
神峰「本……?『幻想郷縁起』……?」
こいし「地上の妖怪のことは知ってた方が良いと思ったの」
神峰「へぇー……妖怪図鑑みたいなモンか……。お! さとりも載ってる!」パラパラ
妖怪図鑑という物に珍しさを感じながらパラパラとページをめくっていく神峰。
こいし「地上に行く前にそれで勉強しておけば、危ないコに会った時にすぐ逃げられるでしょ?」
神峰「サンキュー!助かるよ!」
こいしがまともに自分を気遣うとは珍しいと思いながら、本を閉じて礼を言う。
一方のさとりは、こいしの行動の別の部分に疑問を持つ。
さとり「今日は正月なので店は空いてないと思うのですが……まさか……?」
……………
……
宴会も終わり、出口まで勇儀を見送る神峰とさとり。
いつもの勇儀なら日が昇るまで居そうだが、あまり酒を飲んで悪ノリしてさとりに飲ませないようにしたのだろう。それでも結構な量を飲んでいたが。
勇儀「楽しい時間ってのはすぐに過ぎて行くね。翔太!もうちょっと地底に居るんだろ?それまでよろしくね!」
神峰「はい!よろしくッス!」
さとり「必要無い心配でしょうけど、気をつけて帰ってください」
勇儀「またね、さとり、翔太」
勇儀の背中を見送りながら、彼女との思い出を振り返る。地上に行く事が決定してから、他人との関わりを振り返る事が多くなった気がする。
嬉しさの反面、名残惜しく感じているのかもしれない。
神峰「……勇儀さんにはスゲェ助けて貰ったな……」
さとり「私も、今になって分かります。彼女のありがたさが……。私も、彼女を絶対に味方にしておかなければいけませんね」
神峰「……今のさとりなら大丈夫だろ」
さとり「ありがとうございます。……さて、片付けましょう。人任せではなく、自分からも動かないといけませんからね」
自分に言い聞かせるように、己の行動を言葉に出すさとり。
それは、これからのさとりの生き方を暗示しているように思えた。
神峰「……ああ!」
こうして、俺の激動の二ヶ月半が終わっていった───
これで少しは他人に受け入れて貰えるハズだ。地上でも上手くやっていけるハズだ───!
─────
──
ここまで。
明日以降は不定期になりやす。前スレ分が終わったらもっと遅くなる、絶対。遅筆だし
>>194
ソルキャファンは遠慮無く壁に貼れますって公式が言ってた
>>209
最後の行
×しゅんとした顔で顔に
○しゅんとした顔で神峰に
予測変換の馬鹿野郎
今回分が完了したんで投下
~一月五日・神峰が地上へ行く日~
地霊殿のロビーに、風呂敷を一つ持って神峰が現れた。
すでにさとりと空が待機しており、神峰に気付くと最終確認をする。
さとり「準備はよろしいですか?」
神峰「ああ。元々、荷物なんてほとんど無いからな。……着替えくらいしかねェよ」
風呂敷一つに納まる程度、それが神峰の全財産である。そのため、支度もすぐに終わった。
さとり「では、行きましょう」
お空「私が地上まで運んであげるからね!」
神峰「よろしくな!」
お燐「アタイが運んであげてもよかったのに」
さとりが出発を促すと、燐が口を尖らせてつぶやく。段取りは全てさとりが決めているようで、燐は留守番だ。
さとり「あなたの猫車は死体を運ぶ物でしょう……さすがに良い気分はしないわよ……」
神峰「悪ィけどさとりの言う通りだ……」
お燐「ちぇ」
お空「行ってきまーす!」
地霊殿に、空の元気な声が響いた。
……………
……
歩いて移動し旧都を抜け、穴の手前にある橋に差し掛かると、一人の少女が待ち構える。
待ち構えると言っても、この橋は彼女のテリトリーなのだが。
パルスィ「来たわね」
さとり「こんにちは。話は聞いているのでしょう? ここを通してもらえますよね?」
パルスィ「ええ、通してあげるわ。さすがの私も……前々から言われていた事だし、承諾しちゃったから、今になって反対なんて意地悪い真似はしないわよ」
さとり「ありがとうございます。それでは───」
パルスィ「待ちなさい」
挨拶もそこそこに先を急ぐさとり達を、パルスィが呼び止める。
さとり「なんですか……」
パルスィ「一つ、答えて欲しいんだけど……貴女達、交際しているの? してないの?」
神峰「交際ィ!?」
さとり「この期に及んでどうしてその話題が出るんですか!?」
二人のやり取りを聞いていた神峰も思わず声を出す。
パルスィ「さとりが人間の男を匿ったって話が拡がってから、旧都じゃ皆、ずっとその事が気になっているの」
そう、神峰はさとりの男であるという噂を忘れてはいけない。
地底の住人は皆、その噂がどこまで本当なのか気になっているのだ。
さとりは呆れてため息を吐く。
さとり「はぁ……。お燐や貴女ならまだしも、皆さんも物好きですね……」
パルスィ「だってずっと引きこもりだった地底の元締の貴女がよ? 皆隠してるけど、これ以上の話題は無いわ」
さとり「…………付き合っていませんよ……興味があるなら詳しくは勇儀さんから聞いてください。……もう行きますからね」
心労からだろうか、不貞腐れ気味にぼやくように返事をしてパルスィを通り越す。神峰と空もそんなさとりに続く。
パルスィ「面白い話ありがとう。お互いが無自覚の恋愛漫画みたいで妬ましいわ」
パルスィはそんなさとりの背中に向かってにっこりと礼と妬みを飛ばした。
さとり「皆さん他人の恋愛話になると本当に興味津々ですね……いくら暇人が多いとはいえ、まさか私達なんかに火の手が来るなんて……」
神峰「恋愛なんてした事ねェ……つーか、恋バナだってしたことねェや……」ドヨーン
ぼやくさとりと凹む神峰。
しかしこの男は目の前であんな事を言われたのに、側にいるさとりを全く意識しないのだろうか。
もしそうなら、いくら妖怪と言えど女性としてのプライドが傷つく……いや、言わずとも分かっている。心を読めるさとりが誰よりも分かっている。神峰は女所帯に居ながらも、誰にも全く恋愛感情を持たなかった事を。
これはもう言っても仕方ない事なのだ。
さとり「これからきっと出来るようになりますよ。頑張って下さい」
神峰「そういう慰めが一番辛ェ……」
お空「着いた!!」
神峰「───!」
空が大声を発した事で、ハッと我に帰る神峰。
気付けば上へと向かう大きな洞穴の中だった。
さとり「あとは、上へ上がるだけで地上ですね」
お空「じゃあ翔太、背中に乗って!」
さとり「お荷物は私がお持ちしますね」
神峰「ああ!頼んだ、お空!」
神峰はさとりに荷物を預けると、背負うために腰を低くしている空の背中に密着して、空の首へ腕を回す。
さとり「準備はよろしいですか?飛びますよ?」スッ
二人の準備が完了したのを確認したさとりは、人差し指を立てた手をスイと泳がせる。
お空「天にも届くように、飛べって事ですね?」コクッ
するとさとりの意図を察したのか、空が頷いた。
神峰「何今の!?」
さとり「指の動きで指示を出しただけですよ」
驚く神峰に、基本です、といった感じて答えるさとり。
そしてさとりの足がふわりと地面から離れる。
さとり「離陸しますので舌を噛まないように気をつけて下さい。慣性が働きますのでお喋りはその後で」フワ...
神峰「飛行機───!?」グンッ
さとりが飛んだ直後に空も羽ばたき離陸する。そしてすぐにさとりを追い抜き先行する。
神峰(い……以外と早い!? マジで舌噛みそうだ!!)
さとり「この穴はかなり深いですから、それなりに速度を出さなければ日が暮れてしまいます。慣れるまで我慢して下さい」
神峰「…………スゲェ、地面がもうあんな所に……」
お空「丁寧に飛ぶけど、振り落とされないように気をつけてね。ちゃんと掴まってて」
神峰「落ちたら洒落にならねェもんな……気を付けるよ」
さとり「万が一落ちた場合はフォローします。心が読めるおかげで助けるのも早いですからね」
神峰が落ちた時の事を考えて、さとりが神峰と空の後を追うように飛ぶ。
ここまで周到にされると、なんだか本当に落ちそうな気がして落ち込んでしまう。
神峰「……頼んだ……」
しばらく飛んでいると、またも見知った顔に出会した。
ヤマメ「おっ? 翔太に……さとりも一緒だ!? やっぱり二人って───」
さとり「もうその話は結構です!! 天丼ですか!?」
心が読めるからツッコミも早い。
ヤマメの言葉を乱暴にぶった斬って息を荒げるさとりを見て、若干たじろぎながらも意味が分からないと言うヤマメ。
ヤマメ「何の話だよ……?」
さとり「橋姫にも同じ話をしてきたところです。詳しくは勇儀さんから聞いてください」
ヤマメ「パルスィに話したのに勇儀に聞けとはこれいかに」
さとり「……聞けば分かります」
もういい加減辟易ているという事がさとりの声からも表情からも見て取れる。態度がすでにどっか行けと言っている。
そんなさとりの態度を察したのか、好奇心が勝ったのか、ヤマメはコロっと態度を変えて地底へ向かい始めた。
ヤマメ「あっそ。じゃあ聞いて来るよ! 翔太! また地底に来たくなったら、次は底まで案内してあげるよ! その時は何か買ってね!じゃあね!」
神峰「意外と気にしてるのな!?……その時は頼んだ!じゃあな!」
ヤマメとも別れを済ませられた事に満足感を得る神峰と、もう地上まで誰にも会う事はないだろうと安堵するさとり。
三人はまだまだ上昇する。
……………
……
神峰「! 光が見えてきた! もうすぐ地上か」
視界が明るくなって空の姿が良く見える事に気付いた神峰が上空を見上げると、上から小さく光が差していた。
地上が近くなった事で何かを思い出したのか、空が神峰に疑問を投げかける。
お空「そういえば! 翔太は人里行ってどうやって生活するの? お家持ってないよね?」
神峰「……0からのスタートになるな。なんとかやっていくさ。まずは部屋を借りて、仕事を探して、里の皆に認められていこうって思う」
住居も無い、仕事も無い、おまけに外来人のため見寄りも身分も無い。持っているのは風呂敷一つに納まる程度の着替えとわずかなお金のみ。
それでも地上で生きて行く覚悟はあった。0から始めてやるという意気込みがあった。
神峰が空に答えると、下からさとりが、やることが見つからなかったなら、と前置きして会話に入る。
さとり「翔太さんの目標が幻想郷への恩返しなら……お勧めしませんけど、手っ取り早いのは八雲紫の役に立つ事ですね」
神峰「?どういう意味だ?」
さとり「彼女は幻想郷の創造に関わっていると言いましたよね?……つまりそれ程この幻想郷に愛着を持っています。幻想郷を守る為にならどんな働きもしますので、彼女の役に立つ事は幻想郷のためになる確率が高い、という事です」
神峰「なるほど……」
さとり「しかし、ここ最近は平和ですし、異変が起きても博麗の巫女が解決してしまいますから……八雲紫と関わっても、無理難題を押し付けられて彼女がほくそ笑むだけかもしれませんね」
博麗の巫女と聞いて神峰がピンと来る。こいしに貰った本で読んだ覚えがあった。
神峰「博麗霊夢! 幻想郷縁起にも載ってたな!」
紫「まさかこんなに早く地上に来る事になるなんて思わなかったわ」
神峰「!?」ビクッ
自然に、しかし唐突に輪の中に入って来た紫に気付いて、空の背中でビクリと跳ねる神峰。乗車中はなるべく体を安定させてもらいたいものだ。
さとり「……出ましたね」
ジトリと睨むさとりに対して、紫はスキマから胸まで体を出してスキマの縁に肘を置き頬杖をついて喋りだした。
紫「貴女が私の話をしてくれたからね」
さとり「冬眠しているのではなかったのですか?」
紫「私の名前が聞こえたから起きてきてあげたのよ。……ところで神峰翔太さん? 私の役に立ちたいというなら、ちょうどこの前、親友に大合奏が聴きたいって───」
さとり「いきなり勧誘しないで下さい!!」
突然話す相手を変える紫に苛立ちを覚えながらも、一行は地上を目指す。
─────
──
穴を抜けて地上へ出ると、全身に太陽の光を感じ、思わず目を細める。
先日見た空が発した輝きとはまた違ったその光に感動を覚えると、次に地上特有の空気や草の匂いが鼻を刺激する。
ついに地上へ出たのだ。
地上へ出ても空はそのまま上昇を続け、地上を見下ろしながら人里へ向かった。
【人里】
こいし「ようこそ人里へ!」
神峰「」ズルッ
お空「こいし様だー!」
さとり「先回りしていたのね……」
人里に到着すると、こいしが見覚えのある謎の──両手と片足を上げた──ポーズで出迎えた。
ついさっき別れを告げてここまで来たというのに(そういえばこいしには会っていない)、平然と目の前に現れたこいしを見てずっこける神峰。
こいし「うふふ……村人Aの私がいい情報をあげるね!」
神峰「いい情報……?」
こいし「もしもここで住む場所が見つからなかったら、お寺に行くと良いよ! とりあえずは面倒見てくれると思うから」
神峰「寺か……まぁ、身寄りもねェし、出家には都合が良いのかも知れねぇけど……。ありがとな!困った時は頼ることにするよ」
神峰が村人Aの情報を選択肢の一つとして検討しながら礼を言うと、背後から紫の声がかかる。
紫「人里へ入る前に、霊夢と顔合わせしておいてくれるかしら?」
神峰「紫さん!? 着いて来てたんスか!?」
さとり「何故博麗の巫女と会う必要があるのですか?」
再び紫の姿を見て恨めしそうに言うさとり。あまり神峰を紫と関わらせたくないようだ。
紫「幻想郷の役に立ちたいなら、覚えておいて貰った方が良いでしょう? それに今このタイミングじゃないと、彼、神社に行けないでしょう?」
こいし「人里から神社までに妖怪が出るもんね」
さとり「……そういう事なら……腑に落ちませんが……」
さとりは渋々了承して、一行は博麗神社へ向かった。
【博麗神社】
何故か妙に新しい神社に着くと、紫が本殿の縁側でお茶を飲む少女に話しかける。
紫「霊夢、居るかしら?」
霊夢「なによ……? アンタ眠ってんじゃなかったの?」
紫「貴女に会わせたい人がいたから連れて来たのよ」
紫と霊夢が話していると、隣にいた白黒の少女が口を挟んできた。
魔理沙「紫が冬眠から起きてまで会わせたいヤツなんて、面倒事の予感しかしないぜ」
紫「大丈夫よ。きっと貴女達の助けになるわ」ニコッ
霊夢魔理沙(怪しすぎる……)
ニコリと笑顔を作り大丈夫と言う紫を心底怪訝に思う二人を他所に、紫は振り向いて神峰達に合図をした。
紫「来て良いわよ」
紫の合図で神峰とさとりと空が姿を表し、神社へと歩いて来る。
霊夢「!……誰かと思えば、地底の覚り妖怪ね」
魔理沙「……と、人間がいるな」
二人の少女のもとまで近づくと、神峰は緊張しながら自己紹介をする。
神峰「……初めまして。神峰翔太です」
自己紹介を聞いた後、しばらく間が空いてから霊夢が半目を開けて口を開く。
霊夢「……で、この人が何の役に立つっていうの? 普通の人間じゃない。悪いけど、私の役に立ちそうには無いわ」
紫「酷い言われ様ね……でも、貴女が困窮した時の経済的支援ならしてくれると思うわ」
神峰「!?」
その言葉を聞いて思わず紫の方へ振り返る神峰。
紫は気にも留めずに続ける。
紫「それに……ただの人間でもないわ。彼は心を見る程度の能力を持っているから」
魔理沙「それでさとりと一緒という訳か。何だ、さとりの男自慢か」
魔理沙の一言にさとりも黙ってはいられない。
神峰「ちょっと待ってくれ! 俺にはまだ住む家も無ェんだけど!?」
さとり「どうして皆さんそういう解釈をするんですか!? 翔太さんは今日から人里で暮らしますから!」
霊夢「───なんて言ってるけど?」
紫「大丈夫よ。彼が働けばすぐに儲かるわ」
魔理沙「なるほど、心を見る能力で儲け放題ってことか」
その一言にすかさず反論する神峰。
神峰「悪ィスけど、この目をそういう使い方する気はねェッス」
魔理沙「うん?じゃあどうやって儲けるんだ?」
さとり「翔太さんは地底で成長しましたから、その時の技術を使えば接客に役立ちます。能力は自己申告なので、誤解されたくないのなら"心を掴む程度の能力"と言っておけば良いでしょう」
魔理沙「何だそりゃ? 深窓の令嬢を助けに来た大泥棒か?」
神峰「それは心を盗む能力……」
そんな周りのやり取りを眺めていた霊夢が、会話を遮って口を開く。
霊夢「───まぁいいわ。わざわざ挨拶に来てくれたんだし、世話になる事は無いでしょうけど、よろしくね。博麗霊夢よ」
魔理沙「お前が儲けたら世話になるぜ、よろしくな。私は霧雨魔理沙だ」
神峰「よろしくお願いします!」
さとり「結局挨拶だけでしたね……もう行きましょう。翔太さんの家を探す時間が減ってしまいます」
話が終わる気配を察して、茶菓子を頬張っていた空が確認をとる。
お空「もういいー?」
───
─
【人里】
お空「到着!」
再び人里の入り口へ降りる。ここから先は妖怪が入るのはあまり好ましくないため、ここでお別れである。
さとり「……グダついてしまいましたけど、私達の助けはここまでです。頑張って下さい」
神峰「ああ。さとりも、頑張れよ!」
さとり「はい。貴方が生きている間に必ず! こいしの心を開いて会いに行きますね」
神峰「楽しみにしてるよ。俺も、ここから再スタートだ!上手くやっていけるさ」
───と思っていたが、違った
ザワザワ
「おい、あいつさっきもいたよな?」
「妖怪に連れられて来たぞ?」
「また外来人か……」
人里の住人達がこちらを窺い警戒の色を見せている。
さとり「……どうやら、歓迎ムードではありませんね」
神峰「みたいだな……。でも、やってやるよ!地底でも出来たんだ」
さとり「人間の村社会というのは、結び付きが強い分、地底の方達のようにはいかないかも知れません」
神峰「それでも、真摯に心と向き合っていけば……受け入れてくれるさ」
お空「頑張ってね!」
さとり「お達者で」
神峰「お前達もな! こいしの心が開いた時にまた会おうぜ!」
そう言って、お互いに背を向けて行くべき場所へと歩き出した。
今回はここまで。
神峰の地底編はこれにて終了でございます
これ見てソウルキャッチャーズに興味湧いたわ。
今度読んでみる
次回から新章突入か、人里に馴染めるのか出家する羽目になるのかどうなるやら
>>244
あざす!
これ読んでソルキチ読者が増えるとスレ立てた甲斐がある
>>245
地上編は本来オマケとして書いたから一つのネタをやるためにしか構成してないんだ……
その続編を思いついたから再び立てたワケだけど
さとり「あ」
神峰「?」
何かを思い出したかのようにさとりの口から声が洩れる。
その声が聞こえた神峰も気になり立ち止まって、後ろにいるさとりを振り向いた。
さとりも同じく振り返り、神峰のもとへ寄って来た。
さとり「忘れてました。地底でも行われるのですけど、翔太さんは見た事ありませんでしたね」
神峰「何をだ?」
さとり「幻想郷ではスペルカードルールという決闘が存在します」
さとり説明中...
神峰「つまり花火が見えたら近寄らないように気を付けろって事だな?」
さとりの説明を要約して復唱すると、さとりはコクリと頷いた。
さとり「人里上空なら弾幕ごっこもしないとは思いますけど……念のため。地上では盛んに行われると思います」
神峰「わかった! ありがとな!」
さとり「それでは」
今度こそ本当に別れて神峰は人里へと踏み出して行った。
……………
……
神峰「しかし……完全にアウェーだ……皆余所者を見る目じゃねェか」
少々怯えた様子で人里を歩く。
周りからの視線に萎縮してしまい、キョロキョロと人々の心を窺ってしまう。例え成長出来ても、人はそう簡単には変われないのだ。
そんな神峰の背後から、何者かから呼び止められる。
慧音「おい、お前。妖怪に連れらて来たな? 人間か? 何者だ? どういう関係だ? 何を企んでいる?」
振り返ると、頭に奇妙な帽子を乗せた長い白髪(前髪には青のメッシュが入っている)の女性が立っていた。
神峰「え?えっ?」
神峰(スゲェ警戒されてる……!当然と言えば当然か)
露骨に警戒され、おまけに質問攻めを喰らう神峰に、目の前の女性は返答を急かす。
慧音「質問に答えろ!」
神峰「いっぺんに言われても答えきれねェス!」
半分泣きながら訴えると、先程聞かれた質問を思い出しながら、自信無さ気に両手の人差し指を合わせて自分の事を説明する。
神峰「とりあえず自己紹介しとくなら……神峰翔太です。外の世界から来た人間ス。二ヶ月ほど地霊殿で暮らしてました……能力は……"心を掴む程度の能力"……ス!」
慧音「地霊殿……旧地獄か! 人間、しかも外来人がよく地底で生きていけたな!?」
地底から出て来たと知って驚愕すると、神峰が補足するように説明する。
神峰「さとりに匿って貰ってたんで」
慧音「心を読む妖怪か……。よく地上まで出て来れたものだ。さとりがけしかけたのか?」
地底で妖怪と知り合って生き延びたと分かっても、彼女の疑念は尽きずに神峰に問い詰める。
しかし神峰は心外だといった態度で強く否定した。
神峰「違います!! さとりの願いを叶えたから……今日から人里で生きる事になったんス。そういう約束をしてたんで……」
その神峰の態度を見て、女性の肩から力が抜けると、表情が柔らかくなった。
警戒を解いてくれたようだ。
慧音「そうか……嘘ではなさそうだな。警戒して悪かった。今まで大変だっただろう? 行くアテはあるのか? さとりが手配してるのか?」
神峰「いえ……その……今から探す事に……0からのスタートなんス。困ったら寺に行けって言われたから、いざという時は……」
心配してくれるのは有難いが、神峰は言い辛そうに答える。
その返答を聞いて、質問した本人も申し訳なくなった。
慧音「そっ、そうか……。だけど、外来人がいきなり住居をくれと言っても、貸してはもらえないだろう……」
神峰「そうッスよね……保証人もいねぇし」
しゅんとする神峰に見兼ねたのか、つい助け舟を出してしまう。
慧音「……もし万が一の事があったら、私を頼ってもいい。寺子屋をやっている。場所を教えておこう」
神峰「!! イイんスか!?」
慧音「人里で余所者が生活するのは大変だろうからな……馴染むまでは頼るといい」
神峰「あざす!」
……言ってしまった。弱々しい神峰の態度を見ていると、何かが良心を刺激する。母性だろうか。
言ってしまったものは仕方ない。口から出た言葉は取り返せない──彼女にはその限りではないが──
困った時は助けてやるとしようと、彼女は密かに心に決めた。
神峰を自分の勤める寺子屋へ案内して、ついでに自己紹介もしたところで慧音と名乗った女性が訊ねる。
慧音「これからどうするんだ?」
神峰「まずは寺の確認をして、その後駄目元で部屋借りれねェか聞いてみます」
慧音「その意味もあるけど、どうやって生活していくんだ、と聞いているんだよ」
神峰「どっか求人募集してないスかね……?掲示板とかに貼り出してないスか?」
慧音「そりゃ人出が欲しい時は貼り出されるが……」
慧音が答えながら記憶を探るように目を泳がせると、何かに気付いたようにハッとして
慧音「いや、無いな」
神峰「!?」
無いと答えた。
慧音「今、貼り出されているのはほとんど妖怪からの依頼だ。そんな仕事を外の人間が出来るか?」
神峰「内容によっては……」
慧音「……まぁ、寝る場所を確保してから仕事を考えるんだな。時間をとって悪かった」
一通り聞きたい事を聞いた慧音は、そのまま寺子屋へと戻って神峰と別れた。
なんとか何事も無く疑いを晴らせた事に安堵して一息吐いた所で、やるべき事を達成するために行動を起こす。
神峰「……よし、寺を探すか」
こいし「案内してあげるね」
神峰「おお、悪ィな───!?」
聞き慣れた声にいつもの調子で返事をしかけて違和感に気付く。
神峰「まだ居たのか!?」
こいし「私は翔太を見送りに来たんじゃないもん。地上に遊びに来たのよ?」
神峰「せっかくジョジョ三部の最終回みたいに別れたのに……余韻も台無しだ」
それも既にさとりが振り返ったおかげで台無しになっているが。
こいし「何言ってんの? こっちだよ」
神峰がよく分からない事を言ってるが、こいしは気にせず案内をする。
【命蓮寺】
こいし「ここだよ」
神峰「命蓮寺……」
こいしの案内で目的地へ到着すると、神峰は目の前の大きな門に掛かっている看板を見上げて読み上げる。
そんな神峰に、門の前を掃いていた垂れ耳の少女が大声で挨拶をする。
響子「こんにちはー!」
神峰「!!」
響子「お客さんですか!?」
神峰(ぐわっ…うるせェ……!)
近くにいるにも関わらず大声で話す少女を前にして、耳の奥に痛みを感じる。
しかし話しかけられているのに耳を塞ぐのも失礼だと思い、我慢して垂れ耳の少女と会話する事にする。
神峰「ああ……ここの人に話があるんだけど、会わせて貰えねェスか?」
響子「どうぞどうぞー! いらっしゃいませー!」
神峰「お邪魔しまス」
神峰の話を聞くと、垂れ耳の少女は笑顔で快く門の中まで案内してくれた。
星「おや、お客さんですか? こんにちは」
神峰「こ、こんにチワ!」
本堂まで近づくと、神峰に気付いたのか寺の者と思しき女性が迎えてくれて、神峰は緊張気味に挨拶を返した。
星「私は虎丸星といいます。本日はどのような用件でいらしたのですか?」
神峰「神峰翔太ッス。……あの、俺、今日から人里で暮らす事になったんスけど……まだ住む所が無くて……」
星と名乗った女性に優しく質問され、まずは自分も名を名乗り事情を話す。が、情け無さからか申し訳無さからか、神峰の声がどんどん小さくなっていく。
神峰「それで、もし今日住む場所が決まらなかったら……厚かましいと思うんスけど……泊めて欲しくて……」
自信無さ気に星と目を合わせて言い切ると、星はふむ、といった態度で再び質問する。
星「人間が今日から人里で暮らすという事は……あなたは外来人なんですね?」
神峰「そうッス! こいしに寺を頼るといいって言われて……」
こいしの名を聞くと、今日来たばかりの外来人がなぜ命蓮寺を頼って来たのか(理由が無ければ来てはいけない訳ではないが)得心が行ったようで、なるほど、と手を叩いた。
星「こいしさん……最近寺に出入りするようになったあの子ですね! ……分かりました。上に掛け合ってみますので、少々お待ち下さい」
神峰「お願いします!」
神峰(そういや……いつの間にかこいしがいねェ)
星が奥へと引っ込んだ後周りを見渡すと、こいしの姿が消えていた。
……………
……
しばらくすると星が、この寺の住職であろう女性と共に戻って来た。
聖「お待たせしました」
神峰「!」
聖「私がここ命蓮寺の住職、聖白蓮と申します」
聖を見た瞬間、聖の心を見た瞬間、その心に思わず見入ってしまう。
神峰(スゲェ……!なんて穏やかな心なんだ……。何でも受け入れくれそうな包容力を感じる……俺ももっと早くにこの人に会えていたら、なんて考えちまうくらいだ)
その神峰の様子を、聖は何も思う事無く話し始め、神峰も我に返り聖と目を合わせる。
聖「外来人なのだそうですね。我々も最近人里に来たので、苦労する事が多いであろう事は想像できます。里に馴染むまでは我々を頼るといいでしょう」
神峰「あ……あざす!」
あっさり了解を得られた事に安堵して、思わず声が大きくなる。
そんな神峰を見て、星も嬉しそうに話しかける。
星「良かったですね。これから住居を探しに?」
神峰「はい。家が見つからなくても明日には仕事も探していこうって考えてます」
星「そうですか。頑張って下さいね」
聖「困った時はいつでもいらしてください」
神峰「よろしくお願いします! ありがとうございました!」
二人に深く頭を下げてから命蓮寺を後にする。
門を出ると垂れ耳の少女がいたので、彼女にも礼をすると、元気良く手を振って見送ってくれた。
響子「さよーならー!」
神峰「……よく考えたらあの子、妖怪だよな……? 今まで地底に居て違和感感じなかったけど、人里にも妖怪がいるのか……? 幻想郷縁起最後まで読んでみるか」
歩きながら垂れ耳の少女の事を考える。
彼女の頭にあるのは所謂犬耳ではないか。地底で妖怪としか接点がなかったので全く不思議に思わなかったが、ここは人間の住む場所だ。
そんな事を考えるが、答えは幻想郷縁起に載っているだろうと思考を切り替える。
神峰「その前に家だな!」
……………
……
何とか見つけた大家を前にして、神峰は背筋をピンと伸ばして汗を滴らせて緊張した面持ちで椅子に座っていた。
「───お兄さん外来人だろ? ここのお金持ってんの? 仕事は? 誰が保証人になってくれるのさ?」
神峰「お金なら少しだけ持ってます……仕事はこれから探して……保証人は……いねェス…………何とかなりませんスか……?」
見るからに警戒し疑っている心を向けられても駄目元で交渉すると、大家はギロリと神峰を睨んで捲し立てる。
「アンタ舐めてんの? そんな人、ドコも住まわせてくれないよ? せめてまとまったお金くらいは持ってきてもらわないと!」
神峰「うっ……!やっぱ無理スか……」
「当たり前でしょ! アンタも駄目元かい!! ここは外来人には厳しいからね、仕事に就くのも簡単じゃないよ? 外の世界ほど便利じゃないけど、アンタちゃんとやっていけるの!?」
神峰「接客なら……客引きは得意ッス! ここの設備で料理もした事あります」
「あっそう。ウチは仕事は斡旋してないから、そういうのは他所で言いな」
訊かれたことに答える事は出来たが、部屋を借りるには全く意味を持たなかった。
大家はもう話をする気が無いようで、シッシッと神峰を追い出す仕草をする。
神峰「……」
………
…
神峰「早速行き詰まっちまった……。仕方ねェ、仕事から見つけるしかねェか!」
住居を得る事ができずに落ち込みを見せる神峰だが、すぐに切り返して仕事を探す事にする。
伊達に地底で求人全滅を体験してはいない。
神峰「向こうに掲示板があるな。妖怪からの依頼がほとんどだって言われたけど……それはそれで興味あったり……」
怖いもの見たさだろう。妖怪の街で生活していたために、地上ではどんな依頼があるのか気になるのだ。
掲示板を見つけると足早に接近してチラシを見る。
神峰「結構あるもんだな……。"治験の被験者募集……永遠亭まで"……確か薬師が居る所だよな。俺でも出来そうだし、他に無かったらここしかねェかも……」
神峰「献血の募集もしてるな……紅魔館? 霧の異変を起こした所だったハズだから……食用じゃねェか!!」
神峰「"盗っ人の情報提供お願いします。正月早々、本を一冊盗まれたので、心当たりのある方は稗田まで"……これには協力出来ねェや」
神峰「"新製品のモニター及び販売してくれる盟友いませんか?"おっ、これはイイかもな! 河童からの依頼か! 人間に交友的だったよな。よし、サインしとくか」カキカキ
目ぼしい依頼を見つけたので自分の名前をサインする。
販売ならば地底でやった事の応用で出来るだろうと考えての事だ。上手くいけば定職を得られるかも知れない。
そんな期待を膨らませ、他のチラシにも目を向ける。
神峰「あとは……"バンドメンバー募集"? 紫さんか……そういや地上に行く時に勧誘されたな……さとりの言ってた事も気になるし……前向きに検討しとこうかな……」
他には妙に可愛い命蓮寺の門徒募集のチラシが貼ってあったり、守矢神社が信者を募っていたり、宗派争いの片鱗が見え隠れしていた。
神峰「明日の昼に河童と待ち合わせだな。どんな人が来るんだろう……?」ドキドキ
神峰「出来ることはやったハズだ……! もう日が暮れてる……スゲェ久しぶりに夕日見たな……。今日は命蓮寺に世話になるか」
久しぶりに見る夕日に目を奪われながら、ほんの少しの不安と僅かな期待を胸に、命蓮寺へと足を運ぶ。
…………
……
【命蓮寺】
神峰「今晩は~……」
ナズーリン「うん? 君は……こんな時間に何か御用かな?」
命蓮寺の門をくぐると、妖怪であろう丸い耳を持った少女と出会った。
口ぶりから考えると寺の者なのだろう。
神峰「いえ……こちらにお世話になりたくて……星さんと住職さんには話していたんスけど……」
ナズーリン「ああ、君が……。分かった、来るといい」
神峰が事情を話すと、どうやら話は伝わっていたらしく、神峰を本堂の中へと案内する。
神峰「お邪魔します」
………
…
聖「結局、住む場所は見つかりませんでしたか……」
聖のもとへ通されると、聖は神峰を確認して察したのだろう、口を開いた。
神峰「はい……保証人はともかく、やっぱまとまったお金は必要みたいなんで……みっともねェスけど、お世話になります」
聖「そうですか。分かりました、住む家が見つかるまではここで暮らすといいでしょう」
神峰「イイんスか!? そんな迷惑かけちまって……!」
神峰は思わぬ申し出に困惑する。
聖「困った時は……、ですよ」
そんな神峰に、聖は人差し指を自分の口の前に立ててウィンクしながら言う。
神峰「ありがとうございます!」
聖「もうすぐ夕飯の時間なので、その時皆さんに紹介しますね」
~夕飯時~
住み込みで暮らしているため、夕飯は母屋の食卓で行われる。
命蓮寺のメンバーが揃った所で、聖が神峰を皆に紹介する。
聖「こちらは神峰翔太さんです。今日から人里で暮らす事になった外の方なのですが、住む場所が見つかるまでは命蓮寺で生活するようになりました」
神峰「よろしくお願いします」ペコ
神峰が頭を下げると、歓迎するような元気な声が飛んできた。
響子「よろしくお願いしまーす!」
星「よろしくお願いしますね」
一輪「よろしくお願いします」
「「「よろしく」」」
神峰「……見た感じ、妖怪が多いスね」
食卓に座る面子をパッと見ると、羽や耳や尻尾を持つ者が多い。そんな神峰の言葉に星が補足するように応える。
星「ここ命蓮寺は人妖平等を謳ってますからね。戒律で人を襲う事を禁じているので安心して下さい」
神峰「ここでも守られるのか……」
妖怪に囲まれた空間で生活し、さらに上の存在によって守られているこの状況を知り、地霊殿に居た記憶が脳裏に浮かぶ。
聖「……では、軽く自己紹介してから頂きましょう」
………
…
星「そうだ! 折角なので神峰さんの事を教えていただけますか?」
一通り紹介が終わり、いただきますの合図がかかった後に、星が思い付いたように提案した。
神峰「俺スか? どんなことを聞きたいんス?」
星「幻想郷に来る前の事など、身近な事をお願いします」
外来人という事で色々と興味があるのだろうと思い、何から話そうかと思案する神峰。
自分の事を話すにしても、暗い過去しか持たない上に、その理由を他者に言うのも憚られる。……さとりの事が脳裏に浮かぶが、思い切って言ってみる事にする。
嫌われるかも知れないが、そんな事は考えずに。
幻想郷では、常識に囚われてはいけない。地底に追われる事になっても、いい!(約束した手間カッコ悪いけど)
神峰「……俺の目、人の心を見る事が出来るんスよ」
「!!」
神峰「その目のおかげで、人間関係が上手くいかなくて……絶望してたんス。そんな時に、紫さんが俺を幻想郷に招いた……らしいッス」
ナズーリン「まさか八雲紫の名前がでるとは……」
八雲紫の名を聞いてどよめきが起こる。しかし、神峰の次の一言でそんなものは吹き飛ぶ事になる。
神峰「それが約二ヶ月前の話ッスね」
村紗「はあ!? じゃあ二ヶ月前から幻想郷に居たっていうの!? 今までどうやって生きて来たの?」
神峰の口から出た衝撃の一言に思わず声をあげる村紗に、神峰は虚空を見上げながら思い出すように話し始める。
神峰「幻想郷に来た瞬間、大きな穴に落ちてました」
ぬえ「それ死ぬじゃん」モグモグ
神峰「何とか助けてもらって、二ヶ月ほど地霊殿って所にお世話になってました」
村紗ぬえ一輪「」ピタッ
地霊殿、と聞いて、三人の箸を伸ばした手が止まる。
星「なるほど、地底に居たのですね。よく生きて出られましたね?」
ごもっともな疑問だ。
そんな疑問にも、懐かしむようにはにかみながら神峰は答える。
神峰「いろいろ助けてくれて、さとりには感謝してるッス。……で、今日晴れて地上に送って貰ったんス」
ぬえ「ふーん……あのさとりに匿って貰ってたのね? あのさとりがまさかねェ……」ニヤニヤ
ニヤニヤしながら復唱するぬえ。
さとりは地霊殿に引きこもり、排他的な生活をしていたから無理もないだろうと結論付ける神峰
神峰「知り合いなんスか!?」
村紗「私達も地底に封印されてた妖怪だからね」ニヤニヤ
一輪「と言っても私達三人ですがね」
神峰「そうだったんスね!」
何故かニヤついてる三人を、その理由など気にもしない神峰の横から、聖が声をかける。
聖「神峰翔太さん……よろしければ我々命蓮寺の一員になりませんか?」
神峰「いきなりどうしたんスか!?」
明らかに他の命蓮寺メンバーとは温度差が感じられ、彼女の心に目を向ける。
神峰(あれ……? なんか……もしかして同情されてる!?)
聖「いつの世も力を持つ者は迫害されるものです……今まで辛かったでしょう……。我々は人妖平等に、力を持ち、迫害される者を受け入れています。神峰さんさえよろしければ、命蓮寺は歓迎しますよ」
優しく語りかける聖から後光が見えた気がした。いや、その心からは後光が差している。
神峰(優しさが眩しい……!なんか……スゲェ申し訳ねェ……でも……!)
思わずはいよろしくお願いしますと言いそうになるが、踏み留まる。
神峰「ありがてェスけど、お断りさせてもらいます……。確かにスゲェ辛かったスけど……さとりのおかげでもう平気ッス!」
村紗ぬえ一輪「何ソレ!? もっと詳しく!<●><●>」パカーーーン!
神峰「何なんスか!?」
地霊殿にて燐がしていたのと同じ表情をして詳細を求める三人の押しに負けて、神峰は説明を始めた。
神峰の説明が終わると、村紗は期待外れといった態度に一変する。
村紗「なーんだ、思ってたのと違うじゃない」
ぬえ「いや、さとりの方はまだわかんないよ?」
マミゾウ「……それで、仕事の方はどうなんじゃ? 何かアテはあるのかの?」
神峰の話が終わり、村紗、ぬえ、一輪が盛り上がるのを他所に、マミゾウが神峰に訊ねる。
神峰「一応、地底で接客を鍛えたんで、それを活かして行きてェスけど……今日掲示板で河童の依頼を受けて来ました!」
やれる事はやったので、あとは結果を出すのみだと意気込む神峰。
星「明日から探すと言っていたのに、行動が早いですね」
神峰「やれる事はやっとこうって思って」
マミゾウ「河童か……あやつらは確かに技術はあるが、妙な物ばかり作っておるぞ? 正直、あまり金にはならんと思うのじゃが」
どうやら河童がどのような物を作っているのか知っているらしい。
マミゾウが助言するも、神峰はすぐに稼ごうとは考えていないらしい。
神峰「まずは里の人達の信用を得る所から始めようって考えてるんスけど……」
聖「地道にコツコツと積み上げて行く。素晴らしいと思いますよ。我々もそうやって理解を得て来ましたから」
神峰「経験者がいると心強いッス! さとりもこんな気持ちだったのか……」
旧都へと繰り出したさとりの心境を自分の立場で考えて想像すると、現在の自分と同じ気持ちだったのかも知れない。
そんなことを考えながら夕飯の時間が終わっていった。
─────
──
今回はここまで
次で前スレ分ラストです
応援してます
もっといろんなキャラの心の形描写してほしいな
ゆかりんとか伊調のじーさんみたいなかんじだろうか
お、おバb(ピチューン)
>>271
あざす!
>>273
なん……だと……?
具体的に描写したキャラ
こいし、さとり、お空
想像にお任せしたキャラ
勇儀、聖、紫、その他
具体的に描写したけどどんな形なのか全くイメージ出来ないキャラ
パルスィ
紫はアレじゃないかな、スキマ空間みたいに遠近感狂う感じの心!(即興)
>>274
幻想入りおめでとう
~翌昼~
神峰「そろそろ時間だよな……。どんな人が来るんだろう……」ドキドキ
神峰が緊張して掲示板の前で依頼主を待っていると、何者かの足音が近付いて来るのに気付き、足音がする方向へ顔を向けた。
にとり「やあ、君が神峰翔太?」
そう言って歩いて来たのは髪をツーサイドアップに結って帽子を被り、大きなリュックを背負った少女だった。
神峰「そういうアンタは河城にとり」
なんとか挨拶をしようとするが、緊張で全く違う事を口走る神峰。そんな神峰の第一声を聞いたにとりはキョトンとした表情になる。
にとり「は?」
神峰「あ!? いえ! ちょっと緊張しちまって!」
にとり「……まぁ、ついて来なよ。道中説明するからさ」
慌てて取り繕う神峰をさほど気にする素振りも無く、にとりは仕事の話をするために神峰を連れて掲示板から移動を始めた。
河童説明中...
移動しながら話をしていると、気付けば人里からかなり離れて大きな山の麓まで来てしまった。
さらに歩を進めると沢へと辿り着く。
神峰「つまり自分の作った物を人間にも使って欲しいから、試運転と販売をやって欲しいんスね?」
にとり「そういう事だね。さぁ着いたよ、ようこそ、河童の住処へ」
……………
……
【河城家】
にとりの家に入ると、沢の雰囲気には似つかわしくないラボがあった。
にとり「これは私が使うために作った物なんだけど、飛べない人間も使ってくれないかと思って量産したんだけどね、なかなか評判が良くなくて……」ガシャ
そう言って棚から荷物を取り出し神峰に手渡す。
神峰「重た……! 何スか? リュック?」
にとり「よくぞ聞いてくれた!これは中にプロペラが入っていてね、スイッチ操作で自由に空を飛ぶ事が出来る装置なんだ!」
神峰「おお! それは便利そうスね!」
自由に空を飛ぶ。それは外の世界でも憧れる夢である。
幻想郷には飛べる者もいるが、それでも普通の人間は飛ぶ事が出来ないのだ。それをこんなリュックで可能にするのは大した発明ではないだろうか。
神峰の反応に気を良くしたにとりは、自慢するように詳しい説明を始める。
にとり「そうだろうそうだろう。その上、オプションとしてマジックハンドとミサイルを搭載して、妖怪に襲われても撃退出来る優れ物なんだ!」
神峰「ちょっと待ってくれ」
にとり「どうしたんだ盟友?」
何か物騒な名詞が聞こえた気がして話を止めると、にとりは何か分からない事があったか? という感じの表情で聞き返す。
神峰「盟友って……。いや、ミサイルって何スか? マジックハンド? そんなの付けたから重いんスね。つーかそんなの物騒で持ちたくねェスよ……」
にとり「知らないのか、ミサイル? 私が持ってる物を量産しただけだからね、だから小型ジェットエンジンで高速飛行出来る装置もサービスだ!」
決してそんな事はない。ミサイルが分からないのではない。何故ミサイルが搭載されているのかが分からないのだ。ついでにマジックハンドも。
神峰「無駄にハイスペックだな!? 悪ィスけど……もっとシンプルで便利なヤツの方が人間にはウケると思うんスよ」
それを聞いて、にとりは困った表情をしながら次の製品を取り出した。
にとり「うーん……じゃあこれはどうかな?」
神峰「笛?」
にとりが手に持っていたのは、掌に収まる位の円筒状の笛だった。
にとり「虫が嫌がる音波を出す笛だよ。夏や畑仕事で役立つだろう?」
神峰「おお! これは売れそうス!」
先ほどの製品とは違って実用的な物が出て来て、売れそうだと気分が高揚する神峰。
にとり「どうせならと思って鳥除け、獣除け機能も付けておいたんだ」
神峰「畑仕事には有難いスね!」
にとりの説明でさらにテンションが上がる。
にとり「幻想郷だからさらに強化して妖怪除けも足したんだけど……人間が音波に耐えられなくて、現在吹ける者が居ないんだ」
神峰「なんでそんなに無駄な機能ばっか付けてんスか!? だから売れないんスよ!!」
その上がったテンションそのままで、勢い良くにとりにツッコミを入れる。
にとり「無駄だと!? 失礼な!!」
すると神峰の言った事がカンに障ったのか、にとりも激昂し、ぎゃあぎゃあと取っ組み合いの言い合いに発展した。
……………
……
神峰「うう……強え……」バタ
数分後、そこには仰向けに倒されて息も絶え絶えの神峰を見下ろすにとりがいた。
にとり「ふん!人間が私に相撲を挑むなんて100年早いね!」
にとりがキレ気味に他の製品を説明していると、いつの間にか相撲へと発展していたようだ。
神峰は倒れたまま視線をとある製品へと向ける。
神峰「結局……なんとか売れそうなのはこの包丁だけか……」
にとり「なんとかとはなんだ。この素晴らしさが分からないのか?」
再び、まるで自分が作った物が売れないかの様な神峰の物言いに、ムッとしながら説明を始めるにとり。
にとり「動体センサー(妖術)を搭載して確実に狙った所へ刃を通す精密性、応用すれば飛んでるハエも捉え、投擲も出来る優れ物だ! トリガーを引けば超振動して、鍋やフライパン程度なら紙のように切断出来るんだぞ!?」
神峰「そんな恐ろしい包丁で何をさせる気なんスか!?」
にとり「料理に決まってるだろ!!」
絶対に料理だけでは済まない。
でなければ金属まで切断する必要は無い。投擲だってする必要は無い。
にとり「とにかく、ちゃんと売って来てくれないか? それ、かなり良い鉄使ってるんだよ。売り上げの二割あげるからさ」
神峰「売れる気しねェスけど……そういう契約スもんね……」
自分で売れそうだと言ってしまったので渋々承諾すると、にとりの表情がパッと笑顔に変わって在庫を押し付けてきた。
にとり「ありがとう! じゃあ、はい!」ドチャドチャ
神峰「こんなに量産してたんスね……」
にとり「あと、これは前金!」
前金! と元気よく差し出されたのは、どこをどう見てもキュウリだった。
バトンタッチをするように持たれたそれをまじまじと見ながら、神峰は口を開く。
神峰「……河童の通貨はキュウリだったんスね」
にとり「現金は開発費で溶かしちゃって、今は手元に無いんだ……これで我慢してくれないか?」
神峰「包丁売れたらちゃんとくれるッスよね?」
にとり「もちろん! さぁ人里へ行こう!」
───
─
【人里】
神峰「あの! 包丁要らないスか? これスゲェ便利なんスけど!」
「悪いね、間に合ってるよ。そんなに買い替える物でもないしね」
昼間なだけあって人通りも多い路上で、包丁を持って(もちろん危なくないように箱にしまってある)村人に声をかけるが、成果は芳しくない。
そもそも、包丁で、さらに外来人の神峰が、どうやって他人の興味を惹く事が出来るのかを考えていなかった。
神峰「やっぱ売れねェな……」
にとり「売り方が悪いんじゃないの?」
神峰「うーん……確かにもっと工夫しなきゃいけねぇんだけど、やっぱ昨日来たばっかの外来人には、皆心開いてくれねェな」
神峰「地底での客引きの時はもっと上手くいったのに……説明だけじゃ足りねェ……!」
にとり「えっ!? 君外来人だったの!?」
神峰「そうだ!! ちょっと待っててくれ!!」ダッ
にとりが反応するのと同時に、神峰はアイディアを思い付いたようで、どこかへ走って行ってしまった。
【寺子屋】
神峰「先生! 居ますか!?」ドタドタドタドタ
慌しく足音を立てながら勢い良く寺子屋の戸を開ける神峰に、講義中だった慧音は驚いて振り向いた。同時に、生徒達の視線も集まる。
慧音「神峰!? 今授業中だぞ!!」
生徒s「誰ー?」
船を漕ぎかけていた生徒まで、何事かと神峰に注目する。
神峰「スンマセン! あの、机とまな板貸して貰えねェスか!?」
慧音「ああ……別に構わないけど……」
神峰「あざす!」バタバタバタバタ
礼を言うと、再びバタバタと駆けて行く。遠ざかる足音を聞きながら、神峰の勢いに呆気に取られた一同はしばらくポカンとしていたが直ぐに我に帰る。
慧音「なんだったんだ……」
「先生ー今の人誰ー?」
「知り合い?」
「恋人ですかー?」
慧音「ええい! 授業を再開するぞ!!」
子供の好奇心とは強いもので、神峰について知っているであろう慧音を質問攻めにする。が、慧音はそんな質問なぞ無視をして、授業を再開すると怒鳴りつけた。
……………
……
神峰「待たせた!」ズリズリ
神峰がどこかへ行って数分、神峰はまな板を乗せた学習机を持って戻って来た。
にとり「なんだい机なんて持って来て。実演販売でもするのか?」
神峰「ああそうだ! 言葉で説明して伝わらねェなら、実際にスゴさを見て貰ったほうが早いだろ?……悪ィけど、これで魚や野菜買って来てくれ。それまではこのキュウリで凌ぐ!!」
にとりの言葉を肯定すると、懐から財布を取り出してにとりに突き出した。
にとりはなるほど、と納得した顔をして財布を受け取ると、直ぐに買い物をするために飛んで行った。
神峰「おし!」
にとりが飛んで行ったのを確認すると、気合いを入れてから
大きな音で二拍、手を叩く。
「!」ピリッ
拍手の音が聞こえた村人達は、音の方向、即ち神峰に目を向けた。
神峰(う……このプレッシャー……注目を引いたは良いけど、アウェーだからな……あの時と同じだ……。……やるか!)
注目を集めるために手を叩いたのだが、一斉に視線が集まり気圧される。そんなプレッシャーを浴びながらも意を決して声を出す。
神峰「皆さんよろしければ見ていって下さい! 今からこの包丁の実演販売します! 欲しくなったら何時でも声かけて下さい!!」
「あいつ……まだやってたんだ」
「次は実演販売ねぇ……」
「面白そうだから見て行こうよ」
これだけ目立つ事をしているのに反応が薄い……。予想以上に余所者に厳しいようだ。
しかし神峰は構わず実演販売を始める。
神峰「この包丁、なんと河童が作った便利包丁で、このように転がってズレてしまうキュウリだって精確に捉えて斬ってくれるッス!」トントン
「それってお前の腕が良いからじゃねぇの?」
野次が飛んで来たが、片手で足りる程度でも見ている人がいる事に密かに安堵して、ギャラリーの対応も行う。
神峰「確かに料理経験はあるスけど、俺、まだ16の男ッスよ?……さすがにこんな事は、出来ねェスよ……ね!?」ポイッ
言い終わるのとほぼ同じタイミングで、神峰はキュウリを宙へと放る。
「おい、何食べ物投げてんだよ!」
神峰「ほっ」スパパパン
そして落ちて来たキュウリが目の前を通り過ぎて、胸の高さまで来たところで包丁を持った手を動かしてカットしていく。
「おお! 曲芸みたいに着地する前にキュウリを斬っていく!」
「しかも大きさも均等だ!! すげえ!!」
その芸当を目にしたギャラリーから、歓声と拍手が巻き起こった。
神峰「どうすスか?この包丁のおかげで煮物も大きさを揃えて作れるんスよ? かなり危険スけど、子供に料理教える時はこれで動きを覚えさせるなんてどうでしょう?」
自動アシスト(妖術)だけに関して言えば、我ながら上手い事を言ったと思う。この包丁にはもっと恐ろしい機能が備わっているというのに……
しかしもう後には引けないのだ。
「おお……確かにすごいな」
神峰「さらにこの包丁……こんなに雑に扱っても!!」ガンガンゴリゴリ
そう言いながら、包丁を、机を出来るだけ傷付けないように叩き付けたり、刃を削る様に擦り付け、再びキュウリを斬り始める。
神峰「良い鉄使ってるんで、刃こぼれ一つしねェでこんなに良く切れます」スパスパ
粗方キュウリを切ってしまったところで、にとりが食材を買って戻って来た。
にとり「ほら、買って来たよ!」
神峰「おお、サンキュー!」
神峰「良いタイミングで食材が増えたッスね。魚の面倒な鱗取りだって、この包丁の精密動作(妖術)で無駄無く素早く出来るッス!」ガリガリ
神峰「で、三枚下ろしもお手のもの」スパスパ
「おお! それはいいな! いくらだ!?」
神峰「おっと、肝心の値段を言い忘れてた!……いくらなんだ?」
魚を楽に捌けるのが気に入ったようで、ギャラリーの一人が値段を訊ねてきた。
神峰も反射的に答えようとするが、そういえばいくらで売るのか聞いていなかったため、隣のにとりを見て値段を訊く。
にとり「そうだね……一万五千(現代の貨幣価値)の所を……これなら皆買ってくれそうだからね……一万(現代の貨幣価値)にしとこうか!!」
「よし、俺は買うぞ!」
「私も!」
にとりが景気良く値下げをしたのを聞いて、あちこちから購入希望者が表れる。
そんなギャラリーを前に、神峰はどうしても気になっている事をにとりに確認する。
神峰「……で、これは何だ?」
にとり「見て分からない? ギターだよ。ちょっと遠くに行って買って来た」
一体何処に行ったらこんな物が売っているのだろうか。
見てみると全く手入れがされておらず、弦は錆びきっている。まるで投機物を拾って表面を拭いただけみたいな状態だ。……もう修理も出来ないだろう。
神峰「いや、見れば分かるけど……しかもエレキ……。何で買って来たんだよ……俺の財産が……」
にとり「まだアレを使ってないだろ?」
神峰「おいおい、お客さん引くぞ?」
にとり「いいから!やってよ!」
そんなに見せたいとは、余程自慢の機能なのだろう。売り上げよりも自分が造った物を他人に見せたいのだ。開発者気質も困ったものである。
神峰「どうなっても知らねェぞ……」ドンッ
頬に一筋の汗を垂らしながら、ギターを机の上に横たえた。
「何だ?楽器なんて出して……」
神峰「えーと……実はもう一つ、この包丁に機能がありまして……」
物凄く言い辛そうな態度をしながら、それでも何とか言葉を選んでもう一つの機能の説明に入る。
神峰「この包丁、ギターも斬れます」
「「「は?」」」
ギャラリーの殆どがポカンと口を開ける。無理も無い。誰もが耳を疑っただろう。
しかし神峰は、ギャラリーが自分の言った事を飲み込むのを待たずにギターのネックに包丁をあてがいトリガーを引いて……
ズ バ ン ッ !
「「「!!?」」」
ギターを切断した。
神峰「おい……やっぱりお客さん引いてんじゃ……みんなポカンとしてるぞ───」
どうするんだよと、にとりに言おうとすると、絶句していた客からわっと歓声が挙がった。
「マジで!?」
「スゲェ!!」
「何だソレ!!?」
「ヤベェ!! 何だソレ!? スゲェ欲しいな!!」
「つまり何かを加工する時にも使えるって事だな!?」コクッ
「俺も叩っ斬りてェ!!!」
神峰「アレ……? 以外とウケた……あ」
今度は逆に神峰が呆気に取られるが、 ギャラリーの心を見て理解した。
神峰(皆、心掴まれてる……。マジかよ……あのパフォーマンスで……。もしかしてとんでもねェの売っちまったんじゃ……)
にとり「ありがとう盟友!! おかげで大盛況だ!! このままやれば完売出来るよ!!」
神峰「あ、ああ……」
喜ぶにとりとは対照的に、神峰は戸惑いながら生返事しか返せなかった。
一方寺子屋では、授業中に神峰が現れた後に外が騒がしくなるものだから、窓からその様子を窺っていた慧音がクスリと笑う。
慧音「心を掴む程度の能力か。確かに、みんなの心を掴んでいるな」
「何それー? 先生あの人に惚れたって言いたいのー?」
慧音「このマセガキども!」ガー
キャーキャー!
……………
……
神峰とにとりが揉みくちゃになりながら包丁を売っていると、一人の客から声がかかる。
「ねえアンタ! 確か仕事探してんだったよね!? ウチの新商品売ってくれない!? 包丁買うからさ!」
神峰「!」
それを皮切りに、期を窺っていた者達も続々と神峰に殺到する。
「ちょっと待った! そいつは俺が目を付けたんだ! 俺、道具屋やってんだけどよ、どうだ? 給料弾むぜ!?」
「おいおい、お前達何勝手に話進めてんだ! ウチだってこいつが必要だ!!」
にとり「盟友!! 私と契約して、専属売り手になってよ!!!」
「んなコト許せるか!!」
心を掴んだ客から受け入れてもらえて、思わず顔が綻ぶ神峰。能力を示した途端にこれだから現金なものである。
神峰「あ、ありがとうございます! あの……! 俺、神峰翔太っていいます! 仕事の依頼なら受けますんで、今後ともどうかよろしくお願いします!!」
「「「「よろしく!」」」」
神峰の言葉に、全員ニッと笑って応えた
───
─
一時間ほどしてようやく開放され、その場にポツンと残った神峰。にとりは売り上げを計算すると上機嫌で帰っていった。
神峰「にとりから給料貰ったし、机返さねェと」
呟いてから、机を持って寺子屋へ移動する。
【寺子屋】
神峰「お邪魔します……机、ありがとうございました!」
教室に入ると、慧音一人だけだった。生徒はもう帰ったのだろうか。
入って来たのが神峰だと分かるると、慧音が口を開く。
慧音「見てたよ、神峰。お前はすごい奴だよ。初対面なのに皆の心を掴んで……。自分の存在まで認めさせてしまった!」
神峰「以前の俺だったら、とてもこんな事はできねェ……。地底でやってきた事が、今に……次へと繋がってんだ! ……全部さとりのおかげだよ……!」
謙遜した言い方だがその顔は晴れやかで、そんな神峰の顔を見て慧音はフッと笑う。
慧音「そうか。……教師として、そのさとりに嫉妬を禁じ得ないな! 私も精進しないとな!」
慧音が言い終わると、神峰がおずおずと別の話題に切り替える。
神峰「……あの、……スゲェ申し訳ねェんスけど……」
慧音「どうした?」
神峰「もうすぐまとまったお金が手に入る目処がついたんで……その時は……俺の保証人とか、頼めねェ……スか……?」
どんどん声に自信が無くなっていく。本来、会って一日の相手に保証人を頼むものではないが、神峰には頼れる人間がいない。
命蓮寺の誰かには、世話になっている以上、さらに頼むのは心苦しい。となれば、保証人を頼めるのは目の前にいる慧音しかいないのだ。その慧音も、さすがに少し難しい顔をする。
慧音「保証人か……少し考えさせてくれないか? お前がまとまった金を手に入れるまでには答えを出すから、それまで待っててくれ。答えが出たらお前を訪ねよう」
神峰「いきなりスミマセン」
慧音「気にするな。頼っていいと言ったのは私だからな。前向きに検討するよ」
神峰「あざす!」
───
─
【命蓮寺】
マミゾウ「見ておったぞ、神峰。見事な手際じゃったな! 今度はワシと路上販売でもするか?」
寺へ帰って来ると、何故かマミゾウに絶賛されて、軽口で一緒に商売をやろうとまで言われた。
星「話は聞きましたが、神峰さんにはそういう才能があったんですね!」
ナズーリン「寺の面子もあるから、あまり怪しい物は売らないでくれるかい?」
神峰「そりゃもちろん売らないようにしてるけど……」
アレを売ると決めるのにも相当揉めたのだ。しばらくは河童の依頼は請けないだろう。
聖「この調子ならば、住居もいずれ見つかるでしょうね」
神峰「はい!」
神峰(さとり……ありがとう……!! お前のおかげで、人里でも上手くやっていけそうだ! 成長を実感出来るよ。あとは住む家を手に入れれば、胸張って自立出来たって言える……)
神峰(俺も……お前の心配する必要は無いよな。俺が大丈夫だったんだから、お前だって大丈夫だよな!)
神峰(お前がこいしの心を開いて、俺に会いに来てくれるの、ずっと待ってるからな!!)
人里に来て二日で村人に受け入れてもらい、働き口まで確保出来たのだ。素晴らしい成果だろう。
神峰はどうにか村人に認めてもらえた事に安堵すると、まるでさとりに報告するように独白する。
そしてまた会える事を信じて、顔を上げて前へ前へと進もうと決めた。
~オマケ・うっかりさとり~
【地霊殿】
さとり(あ……翔太さんにはいずれ恋愛出来るなんて言いましたけど……、あの鈍感さの矯正はしていませんでした……)
さとり「これじゃ相手の女性は苦労するでしょうね……申し訳ありません……」
お燐「いや、いますね!実力十分の最大の理解者が!」
お燐「さとり様……見送って尚お兄さんの心配をするなんて、いったいどこまでいってしまうんですか!?お兄さんを想う気持ちの底が見えません……!!」
さとり「……」ガシッ
今回はここまで。というかこれで前スレ分終了ス
ようやく新展開……書き貯めゼロ!
なので次回以降は今よりもペースダウンしやす。
にとりの人見知り? 話の都合で犠牲になりました
応援してますぜ
ソウルキャッチャーからハートキャッチャーにクラスチェンジか
続き待っとーよ
神峰の前向きさが原作っぽいな
乙でした
追いついたぜ
ネクスト買った。
久住ちゃん大健闘でワロタ。俺も二位で投票してたな。一位は星合ちゃんで。星合ちゃん、ブーストが効いてベスト10入りおめでとう!
>>301
あざす!
>>302
ネタが伝わると嬉しいな。店主とかいうオリキャラはこのネタやるために出しました
>>303
出来るだけキャラを再現しようとしてるけど、たまに神峰ってどんな性格だっけ?ってなる。あと過程が違うから本編とは違う成長をしてるって事を書き分けたい。
東方キャラは二次のイメージに引っ張られて地獄
>>304
追い付かれた……遅筆だからこれからは待たせる事になるが許せ
にとりの依頼から一週間程経った。
この一週間は村人達から依頼された仕事に忙殺されたおかげで、資金も無駄遣いする事なく順調に貯まってきている。
神峰「なんか、人里に来てからあっという間に一週間経ったな……」
一週間してようやく依頼を消化しきって一段落ついた現在、神峰は久しぶりに得た自由を堪能するように、外へと足を運んでいた。
神峰「なんつーか……怯えずに街を歩くなんて久しぶりだな……地底だって馴れたのは最後の一週間くらいだったしな」
そうつぶやきながらも、足は自然と掲示板へと向かう。依頼が来ていないかの確認をするためだ。
人里の地理の無い神峰は、どこで仕事をするのか口で言われてても分からないため、にとりの模倣と掲示板の確認も兼ねて、掲示板の前にて待ち合わせをする事にしていた。
神峰(昨日までスゲェ忙しかったけど、ようやく落ち着いたな。まさか朝昼晩に分けて依頼されるなんて考慮してねェよ……)
神峰「さすがに一日何もしねェのはアレだから……何か依頼請けとくか。つってもチラシ増えてねェけど……」
神峰「すぐに終わりそうな献血でもやるか……? でも明らかに食用なんだよな……」
慧音「神峰! いい所に! 今、空いてるか?」
掲示板を確認していると慧音から声がかかる。どうやら神峰を探していたらしい。
神峰「ええ、今日は特に予定はねェスけど……、なんスか?」
慧音「おお! それは好都合だ! 」
慧音「お前、先週かなり目立っただろ? 突然現れた外来人が、たった一日で里の皆の心を掴んだというのが話題になっていてな……」
慧音「阿求にお前を知り合いだと話したら、是非一度会ってみたいと頼まれてしまって……頼まれててくれるか?」
どうやら騒ぎの本人と知り合いだという事で好奇心が煽られたらしく、慧音は会わせて欲しいと頼まれたようだ。
神峰「阿求? どっかで聞いた事あるような……? 会うのは別に構わないスよ? 今からスか?」
慧音「すまないな、助かるよ。じゃあついて来てくれ」
いきなりすまない、と言いながら、二人は掲示板を後にして稗田邸へと移動を始めた。
神峰「お? なんだアレ?」
稗田邸へと移動している最中、神峰は小さな人集りを見つけて興味を持つと、それに気付いた慧音が口を開く。
慧音「アリスが人形劇をしているな。定期的に人里に来て人形劇を見せてくれるんだよ」
神峰「へぇー……」
確か人形を使う魔法使いだったよなと、頭の中のアリスの知識を検索しながら神峰は、どんな人なのかとアリスの顔に目を遣る。
神峰「───!」
慧音「どうかしたか?」
アリスを見たあとの神峰の様子を怪訝に思い、慧音が訊ねる。
神峰「……いえ……なんて言ったらいいか分かんねェスけど……。あの人を見たら───」
言い様のない宿命のようなモノを感じた───、そう言葉にしようとした所で、慧音が何か勘違いした様子でニヤニヤと笑った。
慧音「そうかそうか! アリスが気になるのか! まあアリスは可愛いからな! 」
神峰「えっ? あの──」
慧音「そうだ! せっかくだから人形劇を見て行こうか! こちらが一方的にお前を誘ってしまったからな、劇が終わったらアリスに紹介してやろう!」
神峰「スゲェ勘違いされてる気がするんスけど!!」
にやけながら慧音は話を進め、神峰の言うことは聞こえていないようだ。
結局慧音に押されるまま、二人で人形劇を鑑賞した。
………
…
神峰(フツーにスゴかった……。人形ってあんな動き出来たんだな……)
さすが魔法使いというべきか、操り人形のような劇を想像していた神峰は目から鱗が落ちた気分だった。
何と言うか……スタイリッシュというか、ヌルヌル動くのだ、人形が。その滑らかな動きに見惚れて、気付けば劇が終了していた。
慧音「どうだった? アリスの劇は」
神峰「スゲェ良かったス!! あんな動きが出来る人形なんてあるんスね! しかも一度に複数も動かせるなんて!」
慧音「アリスは七色の人形遣いと言われるほどの術者だからな、器用さも幻想郷随一だ」
はしゃぐ神峰を微笑ましく見ながらアリスの事を教えた後、慧音は目が合ったアリスに声をかけた。
慧音「おーい! アリス!」
アリス「あら、貴女が私の劇を見てくれるなんて珍しいわね」
慧音に呼ばれてこちらへ向かいながらアリスは会話をする。
慧音「道中にお前が劇をしていたから寄り道だよ。神峰にお前を紹介してやろうと思ってな」
アリス「神峰……? ああ、例の外来人ね。……というか彼に私を? 逆でしょう? 私に彼を紹介するんじゃないの?」
アリスの疑問に、慧音はニヤニヤしながら間違っていないと答える。
慧音「いや、何も違わないさ。ほら神峰、名前くらいは覚えてもらっておけ」ニヤニヤ
神峰「……神峰翔太ッス。なんか慧音先生が誤解してるみたいなんスけど……」
アリス「誤解? よく分からないけど、よろしくね。私はアリス・マーガトロイドよ」
慧音にニヤニヤと見守られながら自己紹介を済ます二人には、慧音の意図がよく分からなかった。
慧音「うん、二人とも仲良くするんだぞ?」
満足気に頷く慧音の表情には、良い事をすると気持ちが良いと書かれていた。
アリス「……もういいかしら? 劇も終わったし帰りたいんだけど」
神峰(あ、この人俺と似たカンジがする)
慧音「ああ。わざわざ付き合ってくれてありがとう」
いそいそと帰り支度をするアリスに親近感を覚える神峰と、どこか達成感を感じさせる顔をした慧音は、アリスと別れて稗田邸へと向かった。
【稗田邸】
稗田家に着くと、慧音は阿求に会いに来たと使用人に伝え、阿求の下まで案内してもらった。
阿求「ようこそいらっしゃいませ。貴方が神峰翔太さんですね」
襖を開けて慧音と共に入ってきた神峰の姿を確認した阿求は、笑顔を作って神峰に挨拶した。
阿求「初めまして。私は稗田阿求と申します。本日は私の我儘をきいて頂いてありがとうございます」
神峰「いえ! こちらこそこんな大きな屋敷に呼んでもらって……! 」
阿求の畏まった態度に釣られて神峰も思わず畏まり、慧音と一緒に阿求の対面に座る。
その様子をクスクスと笑いながらも阿求は続ける。
阿求「私は普段は妖怪に関する書を纏めているので、人間を相手に取材をするという事は少ないのですが、一日で里の皆さんの心を掴んだ貴方に興味が湧きまして……」
神峰「はあ……」
阿求「何でも、心を掴む程度の能力をお持ちだと聞きました」
阿求の口ぶりから察するに、慧音が話したのだろう。
阿求「その能力で、初対面の慧音さんの心をガッチリ掴んだとか!」
慧音「!?」
悪戯っぽく笑いながら話す阿求の言葉に、黙って二人のやり取りを見ていた慧音が反応する。
慧音「おい! 話に尾ひれが付いてるぞ!」
神峰「慧音先生の心は掴んでねェスよ? 心を掴まれたのは包丁を買ってくれたお客さんくらいスから」
顔を赤くして阿求に詰め寄る慧音の隣で、そのままの意味で受け取った神峰がさらりと訂正すると、それを聞いた阿求が不思議そうに訊ねる。
慧音「……」
阿求「心を掴まれた? 自分の意思で心を掴めるような能力ではないのですか? まるで結果的に掴まれるような物言いですね」
慧音「能力は自己申告だから、そういう能力としておきたい事情でもあるんだろう」
阿求「しかし折角来て頂いたのですから、どういう能力なのか詳しく聞かせて頂きたいですね。そもそも心を掴む、というのも漠然としていて実体が見えませんし」
神峰「……正直、この目の事はあんまり話したくねェスけど……」
阿求「心を掴むのに、目……?」
神峰の言葉を耳聡く拾って反応する阿求に割り込んで、慧音がフォローを入れる。
慧音「言いたくないなら無理に言う必要は無いぞ? 幻想郷の妖怪達だって自分の能力を全て明かしていないヤツもいる。さっきも言ったが、能力は自己申告性だからな」
それを聞いた神峰もハッと何か思い出したように……
神峰「そういえば、幻想郷縁起にもそういう事書いてあったっけ」
その呟きで、一瞬の沈黙が生まれる。
慧音「神峰……お前、幻想郷縁起、持ってたのか?」
意外そうな顔をして慧音が訊いてくる。
慧音「いつ買ったんだ? すぐに忙しくなっていた気がするが……とても読む時間なんて無かっただろう?」
神峰「ああ、オレが手に入れたのは正月だったんで。それから人里に来た初日までに読みました」
慧音「なるほど、予め知識を付けてから人里に来たんだな」
予習をして行動するとは感心だ、と納得する慧音だが、その正面にいる阿求は顔を伏せて体を震わせていた。
神峰「あの……どうしたんスか……?」
阿求の心がチリチリと音を立てるのを聞いて、ただならぬ気配を感じ取った神峰が、ビクつきながら訊ねる。
阿求「ふふふふふ……、そうですか……。盗っ人は貴方でしたか……」
神峰「盗っ人!? ───あ! 掲示板のチラシ! 阿求さんって幻想郷縁起の著者だったんスね!」
神峰の中でバラバラだったピースが物凄い速さで組み立てられてゆく。
阿求「なるほど……本来存在し得ない時間に盗みを働いて、時間が経った後に現れて里の者の心を掴んでアリバイを作り、潔白を証明する……」
阿求「見事な手口です」
神峰「え? えっ?」
パチパチと拍手を鳴らす阿求。しかし次の瞬間、鋭い眼光で神峰を捉える。
阿求「しかし残念でしたね……飛んで火に入る夏の虫と言いましょうか、棚からぼた餅でしょうか?」
慧音「お、おい……阿求……?」
阿求「こんな所でボロを出すとは、貴方も間が悪いですね! さあ、神妙にお縄につきなさい!」
立ち上がってビシッと神峰を指差して、行儀悪く片足を机に乗せて言い放つ阿求に呆気に取られる二人。
慧音「お……おい、どうしたんだ?」
阿求「私の家から書が一冊盗まれたのが正月です。慧音さんもご存知ですね?」
慧音「ああ……」
阿求「そして神峰さんが書を手に入れたのも正月。……偶然だと思いますか?」
ここで濡れ衣を着せられそうになっている神峰が必死に弁明を試みる。
神峰「誤解ス! オレは五日まで地底に居たから、人里で物を盗むのは不可能なんだよ!」
阿求「おや、それを証明出来る方はいるのでしょうか?」
神峰「お燐かこいしが地上に来てたら───」
───さっき地上で貰って来たの。はい、あげる!───
言いかけて、フラッシュバックするこいしの言葉。
神峰「こいしィーーーーー!!!!!」
謎は全て解けた。
慧音阿求「「!?」」ビクッ
突然大声を上げた神峰にビクリと体が跳ねる二人。
神峰「……阿求さん……スミマセン……。オレじゃねェスけどオレも同罪でした……」
阿求「え? ……ああ、ハイ」
元気良く声を上げたと思えば、今度は力無く喋る神峰に困惑する阿求。
神峰「オレが持ってるのは正月に、地上に行く餞別でこいしって妖怪に貰った物なんスけど、まさか盗んできた物だったなんて知らなくて……」
神峰「代金払ったら許してくれるスか……?」
涙目で訴える神峰に、阿求はふむ、と考える。
阿求「こいしさん……古明地こいしさん? 確か無意識を操る妖怪でしたね。なるほど……無意識ならば仕方ありませんね」
神峰「じゃあ───!」
無意識なら仕方がないとはどういう理屈なのかよく解らないが、許して貰えそうな雰囲気に神峰の表情が晴れる……が、
阿求「 な ん て 言 う と で も 思 い ま し た か ? 」
神峰「ゴメンなさい!!」
ニッコリ笑って凄まれた。
そんな阿求に気圧されて再度頭を下げる神峰。
阿求「素直に謝ったのはよろしいですが、盗まれたのは事実です。貼り紙まで出してしまいましたから、何のお咎めも無しという訳にはいきません」
慧音「ほどほどにしてやってくれないか……? 神峰も今まで地底に居て大変だったんだよ」
阿求「そのつもりよ。神峰さんを呼んだのは単なる興味本位ですので……私の好奇心を満たして下さい。それで許しましょう。あ、代金は払って下さいね?」
神峰「それで許してもらえるなら……」
神峰が阿求の提案を飲むと、阿求はありがとうございますと言って質問する。
阿求「とりあえず神峰さんから聞きたい事は二つ、神峰さんの能力と、地底での生活です。能力については言いたがっていないようでしたから他言はしませんので、安心して下さい」
しばらく口を閉ざして汗を浮かべる神峰。
今度は正真正銘、人間を相手に自分の目について話すのだ。その緊張は命蓮寺で喋った時の比ではない。というか、命蓮寺て話した時はどこか浮ついていた。とにかく前へ前へと生き急ぐあまり、他者と関わる事に積極的になり過ぎていたのだろう。
そして意を決したようにゆっくりと口が開いた。
神峰「……オレの本当の能力は……"心を見る"能力です」
阿求慧音「?」
阿求「心を見る? 悟り妖怪と同じ能力ですか」
神峰「いや、さとりの"読む"能力の方がオレの"見る"能力よりも正確に心を知る事が出来るって言ってました」
慧音「つまり劣化悟り能力か」
慧音がそう要約したが、神峰は首を振る。
神峰「いえ、そういうワケでもないみたいス。さとりじゃ読めない心を、オレの目なら視る事が出来ましたから」
ふむふむと筆を走らせる阿求。筆が止まると再び質問をする。
阿求「そもそも心を読むのと視る事の違いはなんですか?」
神峰「うーん……さとりにはその違いは聞かなかったけど、多分考えてる事が分かるのが読む能力で、心模様を視る事が出来るのが視る能力なんじゃねェかな……?」
神峰「ほら、心が疲れるとか心が踊るとか心が潰れるとかさ」
阿求「なるほど。では神峰さんには心がどういう風に視えてるのでしょうか? 私の心はどう視えてます?」
神峰「基本的にはハートに顔が付いてて、その表情から心模様が分かるカンジッスね。たまに個性的な心もありますけど」
神峰「……阿求さんの心は……本みてェな心だ。まるで自分の一生を本にしてるみてェに、今も文字が追加されてる……。にも関わらず、オレの話は別のメモを持って記録してる……」
神峰「……でも何でだ? 人生を記録してる割にはまだ9枚くらいしかページが進んでねェ……? 今のページも膨大な量の文字が書いてあるのに半分も使ってねェし……」
阿求慧音「!!!」
神峰が阿求の心を説明すると、二人が目を見開いて驚く。
阿求「まさかそこまで見抜けるなんて……心を視る能力、侮れませんね……。その能力で心を掴まれた人を見分けていたという事ですか」
神峰「え? あの……?」
阿求「人生を記録している、9頁目……恐らく一代に一枚なのでしょう。その通りです」
慧音「そんな事まで分かるのか……視るだけで」
神峰「……」
二人とも冷や汗を垂らして開いた口が塞がらない。
その二人の様子を見て、過去の出来事が想起され神峰の表情が暗くなる。
幻想郷だから信じてもらえる土壌があったが、それでも心を視る能力というのは───
阿求「そんな顔をしないで下さい、少々驚いただけですよ」
神峰「え……?」
阿求「私の一度見た物を忘れない程度の能力と、転生の事を当てられたものですから」
阿求「まさか心を視るだけで解ってしまうなんて思いもしませんでした。しかし転生すると前世の記憶も大半を忘れてしまうのに、前の頁はどうなっているのでしょうね?」
まるでうっかりドジっちゃった☆というような表情で話す阿求。それに次いで慧音も口を開く。
慧音「お前が能力を言いたがらない理由が、お前の様子を見ていて分かったよ……。悟り妖怪が地底に居る理由……お前も辛い思いをしたのだろうな」
神峰「ええ……さとりに人と向き合える強さは貰ったけど、やっぱりこの目の事を人間に対しておおっぴらに言うのは……」
阿求「それでは約束通りこの件は他言無用という事で、慧音先生もよろしいですね?」
慧音「ああ、もとよりそのつもりだよ」
阿求「では次の質問に答えてくれますか? 地底から来たそうですが、その経緯と一緒に、どのような生活をしていたのか教えて下さい」
ピシャリと話を打ち切って次の話題に移行する阿求に、神峰は気を遣わせてしまったと思いながらも、気味悪がられたりしていなかった事に安心した。
これで二人に避けられていたら本当に出家していたかもしれない。
この日、阿求から解放されたのは夕方だった。
どうやったら人間が地底で暮らせるのかが余程知りたかったのだろう。質問攻めにされて最終的には不可能という結論が出たが。それだけでは申し訳なかったので、神峰の働いた居酒屋を紹介しておいた。
【命蓮寺】
命蓮寺に帰り着くと、一輪と鉢合わせた。
一輪「あら、おかえりなさい。遅かったわね」
神峰「阿求さんの所に居たら予想以上に時間食っちまって……」
一輪「稗田? 取材でもされてたの? 妖怪にしかしないと思ってたわ」
神峰「好奇心で色々聞かれました」
ぬえ「ま、どんな理由だろうとあまり遅くならない方がいいよ? これからは私達の時間だからね」
神峰「ハーーホゥ!?」ビクーーーッ
神峰の頭上真上から話しかけられて、奇声をあげて身体が跳ねる。
頭上を仰ぐと、宙に浮いたぬえが後頭部に手を回してケラケラ笑っていた。
ぬえ「神峰ってビクビクしてるから驚かせ甲斐があるよね! この程度で驚いてくれるんだから、こっちは楽な商売だ」
神峰「やめてもらえねェスか……」
ぬえ「そんなの出来るワケ無いでしょ。とちとら人間を驚かすのが仕事なんだから。神峰なら小傘だって驚かせるよ!」
一輪「あんまり悪戯して姐さんを困らせないでよ? ……でも確かに、あの子でも神峰さんなら驚かせそうね……」
ぬえと一輪の会話に聞き慣れない名前が出てくる。
そういえば小傘という名前の付喪神が命蓮寺に居ると幻想郷縁起で読んだが、この一週間で一度も会った事が無い。挨拶をしようと探した事もあったが、結局見つけられなかった。
神峰「あの、その小傘さんってヒト、何処に居るんスか? 知り合いてェんスけど」
一輪「小傘は人里をうろついてる事の方が多いから……というか命蓮寺の一員に数えられて不満そうだったし、正確にはウチの一員じゃないのかも……」
ぬえ「墓地に居る事が多いから仕方ないじゃん。もしかしたら今も墓地に居るかもね? どうする? ちょっと早いけど、肝試しがてら墓地まで行ったら小傘に会えるかもよ?」
時間は夕暮れ、黄昏時である。幻想郷的には逢魔が時と言った方が相応しいだろう。
夕飯の時間まで後一時間程あるから、墓地に行って小傘を探してみるのも良いかもしれない。なるほど、この時間に墓地へ行くなら肝試しと言えなくもない。
神峰「うーん……ちょっと怖ェけど、時間はあるし行ってみるか……」
それを聞いたぬえが、神峰の背後でニヤっと笑った───
【墓地】
墓地は命蓮寺の敷地内にあり、きちんと管理が行き届いているためホラー映画のような不気味さはほとんど無い。
とはいえ、この時間の墓場というのは怖く感じてしまうものだ。
神峰「妖怪に囲まれてるとはいえ、この雰囲気はちょっと怖い………ん?」
墓地に入りしばらく歩くと、墓石の裏から何かが飛び出しているのを発見する。
卒塔婆ではない。紫色だ。
神峰(何だアレ? 忘れ物か?)
不思議に思って近寄っていく途中、紫色の物体を辿って視線を下げる事で、墓石の裏に居た何者かと目が合った。どうやら通路を見張っていたらしい。
神峰「ひっ……!」ビクッ
神峰(誰だ……? 不審者か……? それとも妖怪……? あのヒトが小傘か……?)
相手が何者なのかを確認するために、意を決して墓の前まで近付く事にする。
神峰「……」
??「……」
神峰「……」
??「……」
目が合ってからお互いどちらも目を離せない。神峰が立ち止まってからは、しばらく睨めっこ状態が続いた。
しかし目が合ったままでの沈黙に、何もせずに耐えられるほど神峰の心は強くない。汗を浮かべながら、話しかけようと決意した。
神峰「あ、あのさ……そんな所で何してんだ……? お墓で遊ぶのは良くねェと思うんだ。ほら、罰が当たるかも知れねェし……!」アセアセ
愛想笑いになりながらコミュニケーションを試みると、相手も口を開けて何かを発音した。
??「……ぉ、」
神峰「ん? なんだって───?」
??「驚けーーーーーっ!!!」
神峰「うおお!!?」ビクーーーッ
聞き取れなかったので聞き返そうとした直後、少女が墓石の裏から飛び出て手に持っていた傘を開いて大声をあげた。
それに驚いた神峰は飛び上がりながら後退り尻餅をついた。
神峰「なに何!? 何が起こったの!?」
小傘「ふふん! 見つかった時はどうしようかと思ったけど、わちきやれば出来るじゃない!」
満足気な表情で自画自賛する少女を見て、彼女が小傘だと確信する。紫色の唐傘を持つ者なんて居ないためすぐに分かった。
神峰「びびった……あんたが小傘だろ? やっと会えた……」
小傘「私の名前知ってんの? 何か用?」
神峰「オレ、神峰翔太っていうんだ。先週から命蓮寺で世話になってるから挨拶しとこうと思って……よろしくな」
小傘「……私、ここにはよく来るけど寺の僧じゃないんだけど……」
神峰「アレ? そうなのか?」
小傘「僧じゃないってば!」
神峰「ダジャレじゃねェよ!?」
和やかなムードになったところで一息つくと、日も沈んで暗くなった空を見て、神峰は用も済ませたしと帰る事にする。
神峰「命蓮寺に居るって、命蓮寺に出没するって意味だったのかよ……。やる事やったし、もう帰るよ」
小傘「お兄さん驚いてくれて良い人だから、また来てね!」
神峰「オレを驚かすのやめてくれねェか!? ぬえにもやられて困ってんだ!」
マミゾウ「ワシを忘れて貰っちゃ困るぞ?」どんどろどろどろ
神峰小傘「」
マミゾウの声がした方向を向くと、そこにはおどろおどろしい化け物がいた。無論、マミゾウが化けているのだ。
神峰小傘「ぎゃああああああああ!!!?」
それを見た神峰と小傘は悲鳴をあげて逃走する。
妖怪である小傘まで逃げ出すとはどういう事なのか。
マミゾウ「……なんじゃ、二人とも逃げおって。確かに化かし甲斐はあるがの」
ぬえ「小傘まで逃げ出すなんて傑作! 本当に妖怪なの!? 私がやればよかったわ!」
二人が去った跡にはマミゾウが残り、夕飯の支度が出来上がるまでぬえと談笑していた。
今回はここまで。
また書き貯めする作業が始まるお……
続き待ってるよ。
乙!
結果発表みて確信しました
忍くんは女の子これ絶対
乙ー
神峰っちゃんマジビビリ
>>1は読者の心を掴む程度の能力だな
乙
カリン先輩22位ってどういうこと…
弦野「みんなァー、ツルノのおんがくきょうしつ、始まんぞー!」
※キャラ崩壊注意
>>333
来たぞ
>>334
御器谷先輩が女の子……ホントかなぁ……?
>>335
神峰の対人恐怖のレベルが分からないからさじ加減が難しいス
>>336
精々ソルキチ好きをホイホイする程度の能力だと思うな
>>337
川和先輩に負けるどころかパーリー最下位……
今日日ツンデレは流行らないというのか……?
さとり「お待たせしました……五年かかってしまいましたが……、ようやくこいしの心を開いて、再会しに来ました!」
神峰「さとり!!」
さとり「貴方はどうですか? やるか、やらないか……いつも言って聞かせたはずですよ」
さとり「要は……限界見えた時でも───」
神峰「"俺がやる"って決められるか決められないかだ……!」
神峰(そうだ……そうだよ……!!俺がやるんだ!! 俺が……証明するんだ!!)
アリス「神峰……翔太……、何よ……それ……」
ドドドドドドドド
アリス「何なの! それは!!!」
ドドドドドドドド ※多分虹的な何か
神峰「立てアリス……演奏始まったばっかりだろ」
アリス「神峰……あなたまさか、世界最強になる気……!?」
神峰「先の話をする気はねェ」
"ハートキャッチャー"神峰 翔太
神峰「今! ここで! 俺たちは幻想郷一になる……」
神峰「アンタを倒して最強を証明する!! それだけだ!!!」
"ソウルキャッチャー"神峰 翔太
~~~~~
~~
神峰「!?」ガバァッ
神峰(……? …………あ、夢か……)
変な夢を見て布団から勢い良く上体を起こす。
寝ぼけ顔でぼんやりと周りを見渡して、神峰が借してもらっている部屋に居る事に気付く。地霊殿では洋室だったが、命蓮寺では和室だ。
神峰(アリスって昨日会ったヒトだよな……、まさか夢に出て来るなんて)
神峰「つーか何だよさっきの夢……。演奏で最強ってどういう事だよ……」
神峰「そういえば紫さんが楽団作ってんだっけ? ……まさかさとりが五年後に会いに来たり……いや、正夢になるなんて事はねェよな……?」
先程見た夢についてブツブツとツッコミをいれながら、布団から出て半纏を羽織る。
そしてすぐに布団を畳んで押入れへと仕舞った。
神峰「さ、寒ィー……っ! 一月でこの寒さかよ……来月はどんだけ寒ィんだ……?」
寒さに震えながら着替えを完了させると、部屋から出て挨拶へ向かう。
寺の朝は早い。
……………
……
神峰「昨日は勢いでサインしちまったけど、救命用じゃなくて食用として血を採られるんだよな……なんか変な気分だ……」
神峰「つーかここって輸血するくらいの医学あんのか? 一番腕が良いのが薬師なら、外科手術は発達してねェかも」
掲示板の前で依頼主を待つ神峰。昨日慧音に呼ばれたために、急いで献血の依頼にサインをして(しまって)いたのだ。
咲夜「お待たせさせてしまったかしら?」
しばらく待つと神峰の前に、和装がメインの人里では見慣れない、メイド服を着た女性が現れた。浮きそうな格好をしているというのに、彼女の立ち居振る舞いを見ていると、その格好をしていて当然だと思えてしまう。
神峰「いや、そんなに待ってねェスけど……」
神峰(スゲェ……メイドって浮きそうな格好しててもピシッと振る舞えるのか。全然周りを気にしてねェ、完全にニュートラルな心だ)
咲夜「あの、何か?」
ジッと見つめる神峰を嗜めるように咲夜が言うと、神峰はあたふたと咄嗟に取り繕う。
神峰「いや! メイドなんて初めて見たから珍しくて……! 周りを気にする素振りもなかったからスゲェなって思って」
咲夜「……お嬢様のメイドとして当然の振る舞いですわ。それでは本日はよろしくお願いします、神峰さん」
神峰「はい……」
神峰(スゲェ……何て言うんだろ……なんかスゲェ瀟酒だ!)
咲夜の後ろに着いて行きながら、一流の所作に感動を覚える。
歩き方からしてそこらの人とは違うのだ。気品が漂ってくる。
清潔感のある適当な場所へ案内されると、咲夜は早速準備にとりかかった。神峰も見覚えのあるゴム管や注射器をカバンから取り出している。
咲夜「そういえば、先程メイドを見るのは初めてと仰ってましたけど、私、人里にはよく来るのでもう皆様には知られていると思っていましたわ」
神峰「ここの人達はどうか知らねェけど、俺は最近人里で暮らすようになった外来人スから」
神峰に針を刺しながら愛想良く話しかける咲夜に、ヘラヘラと神峰も軽く返す。
咲夜「あら、そうだったのね。食べてもいい人間だったなら、血液だけじゃなくて身体も丸ごと持って帰れば良かったかしら?」
神峰「怖ェこと言わないで下さいよ!?」ビクッ
外来人と聞いて、咲夜が変わらぬ調子でさらりと言うと、座っている神峰が驚いて飛び上がる。が、針の刺さっている右腕を咲夜に肩から抑えられて未遂となる。
咲夜「驚かせてしまってごめんなさい。でも危ないから、終わるまではじっとしていて下さいませ」
神峰「だったら物騒な事言わないでくれますか!?」
咲夜「半分は冗談ですわ」
神峰「半分は本気なんスね!?」
咲夜「初めて会うのが人里の中で良かったですね」
クスクスと笑いながら受け答えする咲夜に、鼓動が速まるのが分かる。呼吸も荒くなっているし冷や汗も出る。吊り橋効果でも勘違いしないシチュエーションだ。
神峰(地上も十分危険じゃねェか……。というか冷静に考えたら……)
神峰「なあ……アンタ、人……殺してんのか……?」
おずおずと発せられた神峰の質問に、咲夜は顔も心もポカンとした表情になる。
咲夜「そんな人間らしい質問をされるのも久しぶりだわ。私と付き合いのある人間は価値観が偏ってて、人間性を疑う人が多いもの」
咲夜「そうね、そう思って頂いて構いませんわ」
顔色一つ変えずに、心に変化を見せずに、あっさりと言い放った。
地底では妖怪だらけだったため、摂理ならば仕方ないと割り切って妖怪達と付き合っていたが、人間が、となると話が変わってくる。
神峰「なんで……そんな当然の事みたいに言いきれるんスか……?」
咲夜「だって私は悪魔のメイドですもの。主の望みを叶えるのが使用人の務めよ」
神峰「そんな……」
咲夜「貴方は、自分が立っている土台が何で出来ているかを考えた事はあるかしら? 妖怪にとって人間は餌も同然。私達だって他の生き物を殺してその上に生きているわ。ヒエラルキーが違うだけでやってる事は同じなのよ?」
神峰(……咲夜さんの言ってる事は分かる……。だけど……)
神峰「だけどアンタは人間だろ……? そんなんで割り切れんのか……?」
主のために同族を殺す事に抵抗は無いのか、そう訊ねても咲夜はいつもの調子で答える。
咲夜「神峰さんは誰かのために何かを決意した事はあるかしら? その事でプラスとマイナスの二つの結果に板挟みにされた事は?」
思い浮かぶのは、地底での出来事、さとりの事。
さとりのためになるならば、苦手な事にもぶつかって行こうと決意した。
咲夜「私も最初は抵抗はあったわ。だけど私はお嬢様に忠誠を誓ったの。だからお嬢様の望みを叶えるというプラスの結果を得るためには、人を殺すというマイナスの結果を飲み込まなければいけない」
咲夜「そこにはお嬢様のためにという想い以外の他意は無いの。根底にあるのは同じ"誰かのために"という気持ちだけよ」
神峰「他人のために、自分にかかるデメリットを受け入れる……か。確かに同じ事なのかもしれねェけど……」
咲夜「当然、受け入れられないでしょうね。住む世界が違いますもの。貴方はそのままでいて下さい、ただの人間がそれを理解すると、愛が歪んでしまいますわ」
冗談っぽくおどける咲夜。
こんな話を顔色一つ変えずに出来る時点で、本当に住む世界が違うのだろう。
神峰「……今はもう、何とも思わないんスか……?」
咲夜「もう慣れてしまったわね。それに毎日という訳ではないし、人里の人間を妖怪は襲ってはいけないから、偶然幻想入りした人間にしか手を出したらいけないもの」
その言い分には、さすがに顔見知りを手に掛ける事には抵抗があるように窺える。
咲夜「私の事をどう思ってくれても構わないわ。悪魔の犬なんて呼ばれる事もあったし、吸血鬼に遣えてる以上、後ろ指を刺されるのも裏切り者扱いも覚悟の上よ」
何時の間にか針が抜かれており、咲夜は片付けをしながら神峰に言う。
神峰(あんな背徳的な話をしておいて、それでもスゲェ堂々とした心……俺とは大違いだ……。この人の心、忠誠心の塊みてェだ)
神峰「咲夜さんの言う通り……俺はあんたを理解できねェ……、けど、理解出来ねェからってあんたを避けてたんじゃ、俺のやって来た事を無駄にしちまう」
神峰「だから理解出来なくても、俺はあんたと向き合っていかなきゃいけねェ気がするんだ……!」
咲夜「あら、これからも血を提供して下さるのかしら?」
神峰の言葉を聞いて、片付けが終了した咲夜は少し嬉しそうにクスクスと笑いながら冗談で返すと、神峰はギョッとして
神峰「いや! 今回の依頼はちょっとドタバタしててサインしちまったから……!」
咲夜「ふふっ、冗談よ。それでは、本日はありがとうございました。また出会った時はよろしくお願いしますね。……ありがとう」
にこやかに別れの挨拶をする咲夜。よろしくというのは献血ではなくて、これからの付き合いの事だ。
しかし咲夜は挨拶を済ませたのになかなか帰ろうとしない。しばらく迷った表情を作り、ようやく口を開いた。
咲夜「あの……他人と向き合っていくという心掛けは素晴らしいと思うのですが……、その……、初対面の女性の胸をジロジロ見るのは失礼だと思いますよ?」
・ ・ ・
神峰「?」
点が三つ打たれるくらいの間を置いて、神峰がキョトンと首を傾げた。
神峰「胸? 胸なんて───」
咲夜「 私 の 胸 は 小 さ い と 仰 り た い の で す か ? 」
神峰「言ってません……」
咲夜「胸が小さすぎてどこにあるのか分からないと言いましたか!?」
神峰「言ってねェス! 言ってねェス!」
胸なんて見てねェスよ? と言いかけて咲夜のインターセプトが入ると、一気に咲夜の怒りの炎が燃え上がった。何故こんなに理不尽な怒りを向けられているのだろうか。
咲夜「こほん……! とにかく、このようにトラブルの原因になってしまいますので、女性の胸元はあまり見てはいけませんよ?」
神峰「はい……」
しゅんと項垂れる神峰。
咲夜が怒ったお陰で、自分が心を見ている目線が胸元へ行っている事に気付き、これからは気をつけねばならないと思うのであった。
───
─
その後は販売の依頼をこなして帰路に着く。
神峰「はぁ……スゲェ世界を見た気分だ……。でも、凹んでちゃいけねェよな! ここでは何があるかわかんねェんだ。幻想郷では常識に囚われてちゃいけねェ……!」
「ややっ!? もしかしてあなたが噂の外来人さんですね!?」
神峰の独り言に反応して、緑髪の巫女装束を着た少女が駆け寄ってきた。
突然声をかけられて神峰の身体がビクリと震える。
神峰「えっ?」
早苗「あ、初めまして。私は東風谷早苗と申します! 神峰翔太さんですよね? 人里ではすっかり名前が広まってますよ」
神峰「は、はひ……。私が神峰ですが……」
神峰(アレ……? なんだ? この声、どこかで聴いた事があるような……、多分、幻想郷に来てからだ)
早苗「なんだか私と同じ事言ってるのを聞いて、シンパシー感じちゃいまして!」
神峰「はあ、同じ事、スか」
早苗「そうです。この幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね、って」
神峰「───!」
瞬間、神峰に電流が走る。
思い出した。同じセリフが同じ声で頭の中で響いた事があった。それも地底に居た頃に。
早苗「実は私たちも外から幻想郷に来たんですよ。それから幻想郷の事を学んだ時に言った言葉でして……。あ、ちなみに今は妖怪の山にある守矢神社に住んでいます。機会があれば参拝して行って下さいね」
神峰(ズイズイ来るな……俺が今までに対応した事の無いタイプだ……)
楽しそうに話す早苗を前に、押し負け気味になる神峰。
そもそも早苗のような人懐こい人間以前に、まともに他人と関われた事の方が少ないので仕方がない。
早苗「そうだ! 売り子さんやってるんですよね? 心を掴むのが得意だと聞きましたので、良かったら守矢神社の信者の募集に協力してくれませんか?」
神峰「宗教の勧誘スか……? それはやった事ねェしな……出来そうだけど……」
一輪「その必要は無いわ」
神峰早苗「「!!」」
一輪「神峰さんは居候とはいえ、命蓮寺の一員よ。寺から出るまでは命蓮寺以外の宗教の勧誘は遠慮してくれないかしら?」
突然二人の会話に割り込んで来た一輪は、身内が他の宗教の勧誘をしてると不和の原因になりかねないしね、と付け加えて早苗の提案を却下した。
神峰「一輪さん!? いつの間に!?」
一輪「偶然通りかかったら話が聞こえちゃってね」
早苗「そうなんですか? では神峰さんが守矢神社に住めば問題無いですね! 神峰さんは住居が決まって、私たちは信者集めが捗ってWinWinです!」
神峰「そんな拾った仔犬を引き取るようなノリで……」
一輪「何を言ってるのかしら? 神峰さんの身柄はこちらにあるのよ? 大人しくこちらの言う事を聞いて引き下がりなさい」
早苗「くっ! なんと卑怯な! 何が望みなんですか!?」
神峰「なんか始まった! 茶番スか!?」
一輪「いや、だから神峰さんが住居を手に入れるまでは勧誘の依頼はしないでねって」
早苗「……ノリが悪いですねー。もっと悪役みたいな事を言ってくれたら、神峰さんを助けた時にウチの評判も上がるのに……」
一輪「……何の話をしてるの? っていうか助けるってなによ? 神峰さんはウチを頼って来たから命蓮寺にいるの。全てこちらの善意よ」
幻想郷にはテレビが無いため、一輪は早苗の言っている事がよく分っていない。
一方神峰は、早苗の現代っ子のようなノリに親近感を感じていた。
神峰(アレ……そういや、最近宗教戦争が起こったって言ってなかったっけ……? もしかして依頼を受けて信者を増やすと、他の組織からも依頼されて信者の……っていうか俺の取り合いになって、また戦争が起こるんじゃ……)
早苗「仕方ありませんね……。それでは神峰さん、あなたの住居が決まりましたら、その時に依頼させて頂きますね!」
神峰がその事に考えが至った直後、早苗が笑顔で言った言葉は、まるで笑顔で核弾頭の発射スイッチを押そうとしてるように感じられた。
神峰「わーーーー!? ちょっとタンマ!!」
神峰と別れて帰ろうとする早苗を慌てて引き留める。
早苗「どうしました?」
神峰「あの……、スゲェ……申し訳ねェスけど……、宗教の勧誘はお断りさせてもらいます……!」
早苗「神峰さん!? 何を……!?」
神峰「無差別に依頼を受けてるから、思想に関わる依頼に協力するのは良くねェと思うんス……。つーか、そんな事したらまた戦争が起きそうっていうか……」
一輪早苗「「ああ~……」」
神峰が申し訳なさそうにモジモジと理由を語ると、聞いていた一輪と早苗は大いに納得した。
早苗「あれはあれでお祭り騒ぎで楽しかったですが、神峰さんが遠慮したいというなら……」
一輪「どうせ戦争になっても博麗の巫女が鎮圧するでしょうけど……でもそうなったら、元凶になった神峰さんも退治されかねないわね」
早苗「ああ、その可能性がありましたね」
神峰「オレも!? ヤダよ絶対やらねェ!! 今度から宗教勧誘お断りって書いて依頼出すわ!!」
ここに、新たな方針が決定された。
もしかしたら、もっと考えて依頼を受けないと大変なトラブルを引き起こすかもしれないと思い、慎重に依頼を選ぶようになった。
今回はここまで
咲夜さんはギャグパートにするつもりが何故かシリアスに……
PAD長なんて二次のネタ使ったから罰が当たったんだね……
咲夜=サンは巨乳長、イイネ?
テンプレ乙
>>356
スゲェ……申し訳ないスけど……
咲夜さんは、胸がナイス
寺の朝は早い。
村紗「おはようございます」
神峰「おざす」
村紗「いつも手伝ってもらって、ありがとうございます」
神峰「いえ、ここを出た時に備えての修行も兼ねてるんで、気にしないで下さい!」
村紗「花嫁修行でもしてるの?」
命蓮寺での神峰の生活は、起床し、本堂へ向かい挨拶を済ませると、炊事の手伝いや、掃除洗濯や薪割り等の雑務をこなしてから人里へ繰り出すという流れとなっている。
地霊殿での生活の名残りか、少しでも手伝える事は自ら進んで行うようになっていた。もちろん、一人暮らしの時に困らないための修行という打算もあるが。
神峰「それじゃあ、響子の所に行って来ます」
村紗「神峰が手伝ってくれる分、仕事が片付くのが早くて助かります。ありがとうございました」
……………
……
響子「おはよーございまーす!」
神峰「っ……、おざす!」
門へ近づく神峰を見るや、元気良く挨拶をする響子に、神峰は耳の奥に痛みを感じつつも挨拶を返して掃き掃除を始めた。
神峰「なぁ、普通のボリュームでも話せるならもう少し声小さくしてくれねェ? 近くで聞くと耳が痛くなるんだよ……」
響子「挨拶は心のオアシス! 命蓮寺の戒律にもあるじゃない。それに山彦としては大声を出さないと!」
神峰「それが妖怪としての在り方なら仕方ねェってヤツだな……分かったよ」
響子「神峰はテンション低いからうるさく聞こえるのよ。大声きな声で挨拶すれば気にならなくなるよ!」
神峰「そういうレベルの音量じゃねェと思うんだけど!?」
まだ薄暗い冬の早朝から二人がコントを繰り広げていると、突如、突風が吹いて集めていたゴミが飛ばされる。
響子「あー! せっかく集めたのにー!」
神峰「寒っ! 日も昇ってねェのにカンベンしてくれよ」
「おや、それは失礼しました。しかし高速で動いているので、風が起こるのは仕方のない事ですよ?」
風に吹かれて身体を縮こませる神峰に声がかかる。不思議に思い視線を上げると、少女が黒い羽を羽ばたかせて宙に浮いていた。
神峰「おく──誰だアンタ!?」
射命丸「おはようございます! 私は清く正しい射命丸です! 初めまして神峰翔太さん!」
その真っ黒な羽を目にして、一瞬空と間違えそうになるが、よく見ると全く違う人物がそこにいた。似ているのは羽だけだった。
神峰(この人、妙に自己紹介言い慣れてるな……きっと何回も言ってきたんだ。あの心……よく会社員がやる、取り繕った仮面の心だし)
神峰「射命丸……? 天狗の記者スね」
射命丸「私の事をご存知で?」
神峰「幻想郷縁起で読んだんで」
射命丸「おお、それなら話は早いです! 今人里で話題の外来人さん、あなたの事を取材させて頂きますよ?」
神峰「また取材スか……」
神峰が射命丸へ返事をする前に、寺へ訪れた者が二人の話に割って入り二人に注意を呼びかけた。
ナズーリン「取材するのは構わないけど、やるなら寺の外でやってくれないかい? 寺の中でそんな事をやられると、信者が不快に思うかも知れないからね」
響子「おはよーございます!」
射命丸「あやっ!?」
寺に来たナズーリンにいち早く挨拶をする響子の大声に、射命丸の身体がビクリと跳ねる。
遅れて神峰もナズーリンへ挨拶をする。
神峰「おはようございます」
ナズーリン「二人ともおはよう。いつも手伝ってくれて悪いね、神峰」
神峰「自分のためでもあるんで!」
ナズーリン「そうかい? じゃあ私は御主人の所へ行くよ。また後で」
三人でナズーリンを見送ると、再び射命丸の口が開かれる。
射命丸「……では、許可は取れたという事で、早速自己紹介でもしてもらいましょう!」
神峰「オレはオッケー出してねェスよね!?」
射命丸「そう言えば先ほど、また取材と仰ってましたよね!? という事は稗田阿求さんの所へ行ったという事ですよね!? 先を越されてしまいましたか! では私は貴方の心を掴むという仕事ぶりを密着取材させて頂こうかしら───!」
射命丸が神峰の言う事を無視して捲し立てていると、いきなり何かに気付いたように目を見開き口を止める。
直後、射命丸が来た時よりも強い風が吹いて三人を襲った。
響子「きゃーーー!? せっかくまた集めたのにーーー!?」
神峰「うおお!? 寒ィ!!!」
射命丸「あやややや!?」
三者三様の反応を見せる。響子は吹き飛ばされたゴミを追いかけて行き、神峰は先程と同じように身体を抱きかかえ、射命丸は……
……強風に煽られて飛ばされてしまった。
神峰「何だったんだ……? って、誰もいねェし……」
「射命丸のヤツ、逃げたね? まぁいいさ、あたしが用があるのはアンタだけだし」
神峰「!?」
強風が去った後に取り残されて一人になったハズの神峰に、何者かの声が聞こえた。
驚いて振り返るとそこには……、鬼がいた。
萃香「神峰といったね? 神社に来た時から見てたよ。地底から這い上がって来るとは大したヤツじゃないか」
神峰「お……鬼……?」
萃香「幻想郷縁起を読んだのなら私の事は知ってるだろ?」
神峰「伊吹萃香……さん。地上にいる鬼……確か、勇儀さんの言ってたヒトか……」
萃香「お? 勇儀と知り合いかい? 古明地んトコでさとりに護られていただけかと思いきや、なかなか活動的じゃないか! 大した度胸だよ!」
神峰「ところで、オレにどんな用でしょうか……?」
勇儀と知り合いと聞いて少し機嫌が良くなった萃香に、神峰は本題を聞き出そうと質問した。
萃香「うん? ああ、あんたが人里で生活して10日経つだろ? だからそろそろ私に挨拶に来てもいいんじゃないかと思ってたんだけど……」
萃香「ずっと霧になってあんたを見てた事を思い出してね、だからこうしてあんたのトコまで来て(萃まって)やったのさ!」
酔っ払っているせいだろうか、自分のボケに自分で笑いながら萃香は神峰に説明した。
神峰(この流れ知ってる……次はもうねェってヤツだ。勇儀さんが来た時に経験してるからな。ここで返事を間違えたら多分アウトだ……!)
神峰「あの、わざわざ来てもらって……スゲェすみません。これからどうかよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる神峰を、萃香は瓢箪に口をつけながら舐めるように見てから口角を吊り上げた。
萃香「よろしくってのは、私が暇な時に相手をしてくれるって事で良いんだよね?」
神峰「え!?」
萃香「心配しなくても昔みたいに横暴な事はしないよ。ただ、宴会をしたい時にはあんたも参加して、あとは私の気まぐれの遊び相手になってくれればね」
神峰「その遊び相手ってのが怖ェんスけど!」
萃香「別に遊び相手があんたしかいないって訳じゃないから、そんなに身構えなくてもいいよ。人間が相手だとやれる事も限られるしね」
神峰「何やらせる気スか!?」
萃香「そいつは私の気分次第だね、楽しみにしてなよ? じゃ、またね!」
言うだけ言って帰って行く後ろ姿を見て勇儀を想起する神峰は、鬼というのはこのようなジャイアニズムを持つ種族なのかと諦観する。
そこへ、タイミングを見計らったかのように射命丸が戻って来た。
射命丸「おやおや、鬼の遊び相手になるなんて、変わった人間もいたものですね」
神峰「……同意した覚えはねェス。あんたの取材にも」
射命丸「そんな固い事言わずに! ちょーっとあなたの事を教えてもらって、写真を一枚撮らせて頂ければ結構ですから! ねっ!? ちょっとだけ! ちょっとだけ!」
神峰(絶対ェ嘘だ……このヒトの心……一つでも許すと、要求をエスカレートさせて骨までしゃぶる気満々だ……!)
神峰(でも、引き下がる気なんて見えねェし……仕方ねェ……)
神峰「……じゃあ、周りの人に迷惑かけねェなら……」
射命丸「そうですか! 引き受けて下さいますか! ありがとうございます! では早速お仕事の確認に行きましょう! 今日はどのような依頼が来ているでしょうかね!?」
渋々承諾する神峰に射命丸はパッと顔を明るくして、まだ薄暗い人里へと神峰の手を引いて歩き出した。
……………
……
30分後、命蓮寺へと戻って来る二人組がいた。
一人は肩を落とし、一人はホッとした顔をしている。
神峰「今日は何も依頼されてなかったスね」
射命丸「何故ですか!? あなた人気の売り子じゃなかったの!?」
神峰「繁忙期は一昨日終わったんで、今は安定期に入ってるんスよ」
射命丸「くっ……もっと早くにあなたに気付いていれば……!」
響子「おかえりなさーい! 朝食の用意が終わってるよ!」
神峰「ああ! 今行くよ!」
射命丸「とりあえず取材許可は頂いたので、神峰さんが仕事をしてるのを見つけたら取材をするという形でよろしいですか? もしくは私の新聞を皆さんに売って頂けたら───」
神峰「前者でお願いします」
射命丸「ありがとうございます! それでは後日!」
好奇心の強い射命丸相手にうっかりボロを出して、自分の目の事を知られるのはマズイと思い取材を遠慮していたが、ここまでこぎ着けられるとは思ってもいなかった。
ゴシップ記事が多いと聞く射命丸の新聞も、変な物は売りつけないという理由で当然売らないので、言質を取られてこの二択を出されると前者を選ばざるを得ない。
射命丸はそんな事を知る由も無く、本人にしてみればまさに渡りに船といった感じで、内心では自分の交渉術も捨てたモノではないと褒め称え、そしてちょろいものだとほくそ笑むのであった。
神峰(『見え』てんだけどな……)
────
──
【命蓮寺】
響子と共に食卓へ向かうと、既に全員揃っており、その中に見慣れぬ人物が混じっていた。
あまりに自然に馴染んでいたために見逃しそうになる。
神峰「あれ……? この人誰だ?」
こころ「キミこそだぁれ?」
目が合って同じ質問をする二人。片や戸惑いが混じり、片や無表情に問う。
その二人の様子を見て、星がフォローに入った。
星「こころさん、こちらは先週から命蓮寺に居候する事になった神峰翔太さんですよ」
星「そして神峰さん、こちらは外部から命蓮寺に来て修行をしている秦こころさんです。お二人とも仲良くして下さいね?」
神峰「はあ……どうも」
こころ「よろしくね」
星に紹介されてとりあえず握手をする二人。
こころはどうやら神峰に好意的なようだが、無表情のために何か違和感を覚える。
神峰(なんだろう、このヒト……。これに似た違和感は前にも感じた事ねェか?)
神峰(このヒトの心か? ……今まで心に仮面を着けて接する人は沢山見て来た……。でもこんなのは初めて見る……!)
神峰(心そのものが仮面だ! 被ってる心がねェって事は仮面そのものが心って事だよな……?)
こころ「……」
こころ「いやん」
神峰「!?」
一同「「「!?」」」
こころは握手をした後に黙ってしまった神峰をじっと見て、神峰の視線を辿ると、サッと胸元を手で隠した。
その仕草を見て訳が分からない命蓮寺の面々と、やってしまったと思う神峰。先日咲夜に注意されたばかりではないか。
神峰(やっちまった! 咲夜さんに注意されたばかりだってのに……ん? 心の形が変わってって……、あ、頭の面も心と同じ面に変わってる……)
こころ「初対面のコの胸を見るなんて、キミも男の子なんだね」
神峰「ちょ!? 誤解ス!!!」
ぬえ「あー、確かに神峰ってそういうトコあるよね」
マミゾウ「妖怪とはいえ、女所帯におれば仕方なかろうて」
神峰「あんた達知ってるスよね!? 変な誤解を生まないで!!!」
一輪「ゴメンね、フォロー出来ないや」
こころ「これが初対面でセクハラされた時の表情ー」
神峰「やめてくれ!」
聖「心が見えるので仕方ないとはいえ、確かにいきなり女人の胸元を見るのは不躾ですね。神峰さん、後で一緒に修行をしましょう」
神峰「ひぃ!?」
神峰(つーか、無表情は変わらねェのに心の形はころころ変わってんだな……。変な言い方だけど、スゲェ表情豊か!)
神峰「あ、分かった! こいしと逆なんだ!」
こころ「むっ?」
神峰の違和感の正体が分かってつい口に出すと、それを聞いたこころが反応し、意味が分からなかった村紗も神峰に訪ねる。
村紗「こいしと逆とはどういう意味です?」
神峰「こころさんを見て、同じようなものを見た気がする既視感というか、違和感があったんスよ」
神峰「それが、表情と心のギャップなんス。こいしは心が全く動かねェけど表情はころころ変わって、こころさんはずっと無表情だけど心はスゲェ変化してるんス!」
こころ「そうか、キミは私を見る事が出来る上に我がライバルと知り合いなのね?」
神峰「紛らわしいな!? あんたの事じゃなくて心の事……面倒くせェ!」
神峰「いや、それよりも! こいしの事知ってんのか!?」
聖「こいしさんも命蓮寺の仲間なんですよ」
神峰「マジで!?」
こころ「何を隠そう、私と我が宿敵は拳で語り合った仲なんだ」
神峰「マジで!?」
星「また近い内に、再びこいしさんも命蓮寺に来るでしょう」
神峰「全然知らなかった……」
聖「あと、ペットの猫さんに会った時は、墓を荒らすのは辞めてもらえるように言ってくれないでしょうか?」
神峰「何やってんだお燐……」
多忙な一週間を過ごしたせいか、人里に来てたった十日だというのに、地底の知り合いの話を聞けて懐かしさが込み上げて来た。
さとりは何をしているだろうか、お空とはまた会えるのだろうか、そういえば勇儀さんの知り合いの萃香という鬼にも出会ったな。など、まだ朝だというのに沢山の感想が出てくる。
ちなみにこのあと、神峰が一日フリーだと知った聖とエクストリームな修行をした。
今回はここまで
今月はもう更新出来ないかも。出来て月末
一応里の依頼ルートだけ考えてるので、あと一つやったらネタが無くなります
絡ませたいキャラいる?天子と神子さんは絡ませたいけど
閻魔翌様のところ行こうぜ
咲夜さんは、胸が無いすって書いてたらしんで(ピチューン!
/j
/__/ ‘,
// ヽ ‘, 、
// ‘ ! ヽ …わかった この話はやめよう
/イ ‘, l ’
iヘヘ, l | ’
| nヘヘ _ | | l ハイ!! やめやめ
| l_| | | ゝ ̄`ヽ | |〈 ̄ノ
ゝソノノ `ー‐’ l ! ¨/
n/7./7 ∧ j/ / iヽiヽn
|! |///7/:::ゝ r===オ | ! | |/~7
i~| | | ,’ ’/:::::::::::ゝ、 l_こ./ヾ.. nl l .||/
| | | | l {‘:j`i::::::::::::::::`ーr ‘ ||ー―{
| ‘” ̄ ̄iノ .l::::::::::::::::::::::∧ | ゝ ‘,
, 一 r‐‐l γ /、::::::::::::::::::::::::〉ー= ___ ヘ ヽ }
/ o |!:::::} / o` ー 、::::::::::::i o ,':::::::{`ヽ ヘ ノ
/ o ノ:::::∧ /ヽ o ヽ::::::::| o i::::::::ヽ、 / /
/ ノ::::::/ /::::::::ヽ o ヽ:::| o {::::::::::::::Υ /
無いス→nice boat
ナイス→nice bust
だろうね
>>382
映姫のところに行くって言ったのか!?
神峰が逝ったら最終回になるから閻魔が来い
もう秋だし秋姉妹がメイン張ってくれると嬉しいかな
東方よく知らんから出てほしキャラは答えられないけど別に今まで出会ったキャラとまた絡めてもいいのよ?
原作みたく音楽の指揮もやるなら、みすちーとかプリズムリバー姉妹もいいんじゃない
刻阪「神峰……幻想郷に永住するのか」
神峰「……ああ、ダメ……か?」
刻阪「いや……お前が決めたならそれでいい……。だけど」
刻阪「飲まれる なよ……」
久しぶり。導入が長くなってメインがまだ出来てないけど導入部だけ投下
神峰らしさって何だっけ?
───さとりへ
あれから一ヶ月経って、冬の寒さも厳しくなって来た。
人里で別れた後、奇跡的に二日で里の人達に受け入れられて、何とか仕事をこなしながら今まで生活出来ている。これは初対面のオレを助けてくれた命蓮寺の皆のおかげだと思う。
お燐やこいしから聞いてるかも知れねェけど、オレ、人里では売り子やってんだ。地底で身に付けた事の延長だ。こうやって上手くやって行けてるのはさとりのおかげだ。
そんな順調な一ヶ月間だったんだけどな、実はオレは今───
~~~~~
~~
神峰「……」
縁側に腰掛けて、陽気を浴びながらボーッと空を見上げる神峰。その隣には、神峰と同じように日向ぼっこをする二本の尾を持つ黒猫が居る。
神峰「どうすりゃいいんだ……」
こいし「もっと喜ぼうよ! 夢のマイホームよ!」
神峰「オレの今の稼ぎじゃ生活費がギリギリ赤字なんだよ!! 返済のおかげで!」
現実逃避のようにさとりへの手紙を空想する神峰の後ろから、こたつに入ったこいしに声をかけられ、今ではすっかり慣れたツッコミ(悲痛な叫び)を返す。
神峰は現在、
家を購入し、
借金を背負っていた。
~昨日~
【命蓮寺】
神峰「お世話になりました」
神峰が聖達と向かい合い、頭を下げる。その隣には慧音が付き添いで立っている。
一月が終わろうというタイミングで、人里に受け入れられた神峰を見て、慧音が保証人になる件の返事をしに命蓮寺を訪れた。
それから二月に入って、一月分の稼ぎを貯めた神峰が慧音を訪ね、長屋の下見に行き、めぼしい物件を見繕って来たのである。
そしてこの日、本契約を結んで引っ越すために命蓮寺の皆に挨拶をしているのだ。
聖「我々も、人間である神峰さんが来た事が良い刺激になりました。特にぬえなんかは、あなたが来たおかげで私達と馴染めたように思います」
ぬえ「別に浮いてなんてなかったし! いつも通りだし!」
星「約ひと月ですが、神峰さんの助けになれたでしょうか? また何かあった時はいらしてください」
神峰「皆さんオレの事を受け入れてくれて……本当に助かったッス! おかげで人里にも馴染めました。オレの方こそ、今度何かお礼しに来ます!」
慧音「神峰、そろそろ行こうか」
神峰「はい!」
一輪「大きな荷物を運びたい時は手伝うわよ? ウチは力持ちが多いから」
神峰「あざす! その時は頼みます!」
神峰達は挨拶を済ませて命蓮寺を後にし、大家の下へ向かった。
……………
……
大家「ホントに良いの、先生? 何も外来人の面倒まで見る必要は無いと思うんだけどねェ」
慧音「神峰は信用出来るヤツだって何度も言っているだろう? ……それに、こいつの事情を知ってしまうとな……」
大家「同情しちゃったワケだ。まぁ、この一月で神峰がどんな人間かは大体分かったけどさ」
色んな意味で最終確認をする二人(と神峰)
大家(というより命蓮寺の者と阿求と慧音以外)は神峰の事情を知らないが、本人が納得して行動しているのならば何を言っても結果は変わらないだろうと思い、契約書を取りに席を立った。
神峰「いよいよ幻想郷で自立して生きて行くんだな……借家だけど」
慧音「お前の稼ぎに合わせた物件から選んだんだ。家事の経験もあるようだし心配する事は無いだろう。困った時は人を頼れば助けてくれるさ」
神峰「里の規模から考えると、選べるくらい借家があるのが驚きなんスけど……」
慧音「まぁ、神峰みたいに稀に外来人が人里に永住するケースがあるからな。大体は住み込みで働く事になるが、自立したがる連中もいるんだよ。妖怪に襲われて空き家になる場合もあるしな……」
神峰「……」
二人の会話が途切れたところで、大家が契約書を持って戻って来て机の上に並べた。
大家「お待たせ。んじゃ、これをよく読んでからサインしておくれ。あと押印もね」
神峰「分かりました」
言ってから契約書を読む神峰。念のため慧音も内容を読んだ後に問題が無い事を確認してサインを書き、印鑑を持っていないため指紋印を押した。
その直後、神峰はふと顔を上げて周りを見渡した。
神峰「……?」
大家「どうかした?」
神峰「いえ……誰か居たような……」
慧音「ここには私達以外は誰もいないが……? 勘違いじゃないか?」
神峰「うーん……この違和感はどっかで感じた事がある気がするんスけど……」
書類にサインを終えた後に感じる違和感に胸騒ぎを覚える神峰だが、しかし気にしないようにして大家から地図と鍵を受け取って新居へと移動を始めた。
……………
……
「あれ? 二人で何してんの? そういや今日は休みにしてたよね。デート?」
慧音「断じて違う!! 」
地図を見ながら新居へ向かっていると、通りかかりに甘味処の中から声をかけられた。ニヤケ顔で訊いてくる相手に慧音が即座に否定する。
神峰「オレが家を借りたんで、その保証人になってもらったんスよ。これから新居に行くんス」
「ヘェ、ついに家を! 神峰もそこまで稼いでたんだね。 そうだ、お祝いしてあげるよ! お古だけど家財道具あげようか?」
神峰「イイんスか!? 助かります!」
ちなみに、今話している相手はこの甘味処の店主で、神峰のお得意様である。
神峰がこの店で仕事をしていると、お菓子を賄ってくれるのだ。神峰が甘党なのも手伝って、ここの依頼を受ける頻度は高く、また、神峰が甘党だと知ってからはよく新商品を作って神峰に依頼するようになっているという事情がある。
「いいよいいよ! こりゃ皆で祝わないとね! 」
神峰「あざす!」
慧音「立ち話もこの辺で、そろそろ行こう」
「またよろしくね!」
甘味処の店主と別れ、目的地へ急ぐ。
しばらく歩いた所で、二人の表情が難しいものへと変化し、お互い示し合わせたように目を合わせた。
神峰「……先生」
慧音「……ああ」
神峰「こんな道通りませんでしたよね……?」
慧音「……少なくとも下見に来た時はこの道は通ってないな」
神峰「……とりあえず、地図に従って最後まで行ってみましょう」
慧音(どうなっているんだ……? 地図が間違っているのか、私達が間違えたのか……間違えるほど複雑な道のりではなかったハズだが……)
……………
……
不安を抱きながらも辿り着いた先は、神峰が決めた長屋よりは立派な、小さな一軒家だった。
おそらく住む者が居なくなった空き家だろうその家は、人の気配を感じられないが、きちんと手入れがされている事が分かる小綺麗さがあった。
慧音「どうやら地図が間違っていたみたいだな」
神峰「引き返した方が良かったスね」
一輪「いたいた! おーい!」
頷いて引き返そうとした二人の頭上から一輪の声がかかる。見上げると、雲山に乗った一輪とマミゾウがこちらへ向かっていた。
神峰「三人(?)ともどうしたんスか? 何か用がありました?」
一輪「マミゾウが、神峰さんが一人暮らしするからって気を効かせてね」
マミゾウ「儂からのぷれぜんとというヤツじゃ。よう考えればお主は風呂敷一つで幻想郷に来とったからな、ちょっと奮発してやったぞい」
神峰「?」
一輪「雲山!」
一輪が名前を呼ぶと、雲山が箪笥を持った手を伸ばしてきた。
神峰「こんなの貰っていいんスか!? 嬉しいスけどスゲェ申し訳ねェ!」
マミゾウ「カッカッカ。気にせず貰っておけ」
マミゾウ「それにしてもなかなか良い家じゃな。一人暮らしには十分すぎる大きさじゃし。鍵はそれか? 失礼するぞ」
慧音「あっ! 待ってくれ! その鍵じゃ多分──」
マミゾウが神峰の手から鍵を取って戸を開けようとすると、慌てて慧音が止めようとする……が、慧音の予想に反して鍵はカチャっと気持ちの良い音を立てて解かれた。
慧音神峰「「!?」」
マミゾウ「よし、じゃあ運び込もう。神峰、どこに置きたいか教えてくれんか?」
一輪「雲山、よろしく」
神峰「あの! この家、実はオレが契約───」
萃香「一軒家かぁ。いいね、これアンタが買ったのかい? それとも借りたの?」
神峰「萃香さん!? いつの間に居たんスか!?」
萃香「ここの鍵が開いた時だよ」
萃香が疑問に答えた直後、外からワイワイと賑やかな声が近づいて来た。
「ここが神峰の家かァ!? ついに独立とはめでてェな!!」
「いろいろ持ってきてやったぞ! 役立ててくれよ!」
こいし「ねー翔太ー? 私ペット飼っていいー?」
慧音「次々来るぞ!? どうなっているんだ!?」
萃香「引っ越し祝いに宴会しようと思ったから、萃めちゃった」
神峰「集めたって───!」
マミゾウ「おーい神峰ー! どこに置くんじゃー?」
神峰「ちょっと待ってください!」
ぞろぞろと人が集まり対応に追われる神峰。このままでは収集がつかなくなると思った所に、申し訳なさそうに大家が現れた。
大家「うわぁ……こんなに集まっちゃって……」
神峰「大家さん!」
慧音「どういう事ですか!? 地図が違う上に、鍵まで開いてしまいましたよ!?」
大家「いやぁ、ちゃんと確認したし、完全にあの家の地図と鍵のつもりで渡したんだよ。だけどあんた達が出て行った後に契約書を確認したらさ、全く違う書類でやんの!」
大家「もちろんあたしも確認して渡したし、あんた達二人も確認してサインしたはずなのにさ」
説明しながら頭を捻って唸る大家の話を聞いて、急いで契約書を再確認する神峰と慧音。
そこには今居る一軒家の買い取りについての項目が書かれていた。
慧音「何……!?」
大家「本当に申し訳ない! 今度こそ確認して契約書を持って来たからさ、それは破棄して書き直しちゃおう」
こいし「えー!? せっかく私が選んであげたのにー!」
神峰「こいし!? お前の仕業か!」
こいし「いい家でしょう? 翔太の収入でも返済出来そうな額をお姉ちゃんに計算して貰ってから選んだの!」
もちろん何の計算かはさとりは知らないのだが(しかも生活費を考慮されていない)
慧音「どうする神峰……? このまま人が増えたら収集が……」
神峰「う……」
大家「さっさと正直に事情を話して解散した方が良いねこれは」
それが最善だろうと判断する二人に、しかし神峰は予想外の返答をする。
神峰「……ぐ……、いや……いいス……! この家を……買います……!」
慧音大家「「!?」」
こいし「やったー!」
苦虫を噛み潰した表情で神峰の口から出て来た言葉に二人は驚愕し、さらに慧音は神峰に詰め寄った。
慧音「ちょっと来い! どうしたんだ神峰!? 明らかに表情と行動が一致してないぞ……!?」
神峰「オレも不本意なんスけど……、集まってくれた人達の、あの祝福してくれてる心を見ると……言うに言い出せねェス……」
慧音「そういう事だったら、何なら私が能力を使ってもいいが……」
神峰「ありがたいスけど、一人で出来る所までやってみようと思います……ここまで来て助けられるのもスゲェ申し訳ねェんで……」
二人の話が落ち着いた気配を察して、大家が二人に話しかける。
大家「話は終わったかい? ホントにいいの? まだ間に合うけど」
神峰「イイんです……」
慧音(泣いてる……)
大家「泣いてるよ?」
シクシクと涙を流しながら返事をした神峰は、その後宴会の喧騒に飲み込まれていった。
~~~~~
~~
現実逃避から帰って来てこたつに入り、机の上に計算が書かれた紙を広げてうんうんと唸る。
神峰「契約で有り金全部払っちまったから、賄いが出る仕事で食いつなげねェと……何か良い依頼出てねェかな?」
こいし「えー? 私のごはんはー?」
神峰「お前は地霊殿に帰れるだろ!」
お燐「逆に考えるんだよ、お兄さん。自分がさとり様の下へ帰れば良いんだって!」
神峰「約束した手前、そう簡単に会いに行けねェよ……」
神峰「っていうか何で二人とも居るんだ!? お燐は昨日居なかったし!」
こいし「泊まりました」
お燐「遊びに来たよ」
神峰「……ああ、そう?」
神峰はガクリと肩を落として力無く返事を返すと、おもむろに立ち上がって外出の準備を始めた。
神峰「二人とも来てくれたのに相手出来なくて悪ィけど、オレちょっと仕事探してくる!」
お燐「行ってらっしゃーい。留守番は任せな!」
見送る燐の声を背に、神峰は町へ繰り出して行く。
神峰を見送った燐は、再び猫に化けてこたつで丸くなった。
……………
……
【人里】
神峰「一ヶ月の収入を維持しつつ、さらに生活費を上乗せした稼ぎが必要なのか……キツ過ぎる……」
そんなに稼げる自信が無いため、先の事に不安を抱きつつチラシを眺めると、ある依頼が目にとまった。
神峰「治験か……初めて来た時にもあったな。いざという時はこれにしようとか考えてたっけ……」
神峰「───って、一週間でオレの一月分以上もらえるのかよ!? そんなに治験って高かったのか!?」
神峰の目にもう迷いは無かった。
というより、もう選んでいる場合ではなかった。反射的とも言っていいスピードでサインして、自分の仕事は一週間の休業の知らせを貼り出した。
神峰「もうこれしかねェ! 今月さえ乗り切れば軌道に乗れるハズだ……!」
今回はここまで。ようやく永遠亭……導入が一回の投下と同じくらいレス使ってるわ……
>>384
作中時間は二月だから秋姉妹はしばしお待ちを。
これって暗にレティを出せって事なのか?
>>385
今まで出会ったキャラは今回みたいに必要に応じて神峰を動かすためにちょくちょく出て来ます。
でもお燐は寂しい時とか人手が欲しい時に出すよ
>>386-387
プリズムリバー……さとり……
うっ頭が……
虹川三姉妹了解。いつか絡ませます。ただし神峰を指揮させる予定は無し
乙
神峰君優しすぎ...>>401でこいしの事も気遣ってあげたのかなと糞妄想補正かかって余計に優しく見える。
神峰……誕生日迎えたのね……
とりあえず……おめでとう。
ソルキチ読んでて初めてだよ……あんなに表情豊かな金井淵を見るのは……
僕は淵に、正直何も感じない!
投稿はまだまだ出来ぬえっス。今書き溜めてる
小説版でエチュードスレみたいな話あってビビった
お前ら永琳を何だと思っているんだ……
如何わしい薬を作ってるのは別の世界の永琳だぜ?
リアル多忙のため暇を見つけてはチマチマ書きためてるんだけど、全然書けないから今出来てる分だけ明日投稿しやす。サボってるワケじゃないんス
>>409
そんな解釈僕じゃ思いつかない! 自見広
>>423
俺もビビった。ミヅキンデレラという発想が出る辺り本スレミンの匂いがした
あとスゲェ……申し訳ねェんスけど……この板に保守は必要無いス
必要あるぞ。
作者のレスが二ヶ月ない、もしくはレスが一ヶ月ないでHTMl化対象だからな。
>>426
なぬ?一ヶ月もルールあったのか
最低でも月一回はやろうと思ってるから多分大丈夫
~翌日~
神峰「迷いの竹林か……。妖怪が出る上に、その名の通り確実に迷うなんてファンタジーの中だけだと思ってたな。あ、でも富士の樹海も迷いの森なんだっけ?」
「そう。そしてあんたがこれから向かう先は、その竹林の中にある。つまり、どんな薬を投与されそうになっても逃げる事は不可能ってワケ。まあ、それは依頼を請けた時点で同意したとみなされるから心配はしてないけれど」
まあ師匠から逃げるなんて無理でしょうけど、とウサギの耳を生やしたブレザーの少女、鈴仙・優曇華院・イナバが確認するように補足して頷く。
二人は現在、迷いの竹林の入り口を目の前に立っている。
神峰「そんなマッドサイエンティストみたいな人なんスか……? 幻想郷縁起には良心的って……」
鈴仙「あんな主観だらけの情報を信じるのね……。そうね、あんたらは私達が永遠亭で何やってるのか知らないものね……。ま、被験者になれば師匠がどんな人か分かるわ。さ、行きましょ?」
神峰(……え? もしかしてオレ、ヤバい薬の実験台にされるのか!?)
虚空を見つめて話す鈴仙を見て早速不安が募る神峰。しかしもう後には引けない。
一方の鈴仙は、竹林の中へ先導するように歩き出しており、神峰もはぐれないように気を付けて後に続いた。
……………
……
竹林を移動している間、神峰は前を歩く鈴仙を見つめていた。
神峰(オレの高校もブレザーだったな。……なんか、懐かしい)
神峰(幻想郷に来て、また制服を見る事になるなんて思わなかった……耳のせいでコスプレっぽく見えるけど)
神峰(……そういやオレの制服全然着てねェ。売っちまおうか?)
鈴仙「……なに見てんの……?」
制服を見て若干感傷に浸っていると、先ほどから背後から神峰の視線を感じていた鈴仙が振り返った。
神峰「あ。いや、あんたの格好見てると懐かしくなって……」
鈴仙「この服が? あんたもしかして月から……?」
神峰「!?」
神峰の言葉に反応して一気に警戒心を強め、剣呑な雰囲気になる鈴仙。その心を見た神峰は訳も分からず、あたふたと弁明を試みる。
神峰「いえ! オレはただの外来人ス! 学校でブレザー着てたから懐かしくなっただけで……っていうか月からって何スか!?」
鈴仙「……そう、嘘ではなさそうね。だけどあんまりジロジロ見られるのも良い気分はしないから、並んで歩きましょ?」
神峰「あ、ああ……」
神峰(びびった……なんかやらかしたかと思った……。確かこのヒト達って月から来たんだよな? 何かあったのか……?)
神峰(つーか会った時からそうだけど、このヒトの心……周りの人達を見下してる……ちょっと会話し辛ェ)
一先ず鈴仙の心から疑念が消えたのを見てホッとする。しかし心が見えるため、何故か見下されている事が分かって妙に会話をしにくい雰囲気になっていた。
鈴仙「そうだ」
神峰「はいっ!?」
しばらく無言で歩き神峰が居心地悪そうにしていると、鈴仙の方から神峰へ顔を向けて話しかけてきた。
鈴仙「……なに驚いてるのよ……。まあいいわ。もうすぐ永遠亭に着くんだけどね、悪戯好きな兎のせいでここから先は罠が増えるから、気を付けて」
鈴仙「気をつけると言っても、私の通った所を通ればいいんだけどね」
神峰「罠があるのかよ……マジでダンジョンみてェ……。そういや迷いの竹林なのに全然迷わずに来れたスね。やっぱ地理があれば大丈夫なモンなんスか?」
鈴仙「そうね、永遠亭から人里までのルートなら頭にあるから真っ直ぐ行けるわ。仮に迷っても、私の能力をもってすれば何の問題も無いわ」
神峰(おお、何か自慢気だ……)
エヘンと胸を張り、鈴仙は心なしか上機嫌となる。
その後の道中では少しずつ会話が増えていき、外の世界と月の科学を比較しては鼻を高くする姿が多々見受けられた。
─────
──
【永遠亭】
鈴仙「ただいま戻りました───」
永遠亭に着くと、鈴仙は神峰を診療室へ案内し、診療室に居た人物へと帰って来た事を知らせる。すると鈴仙に声をかけられた人物は書類から顔を上げてこちらを振り向いた。
永琳「お帰りなさい。ちゃんと被験者を連れて来てくれたわね」
神峰「!」
神峰(この人……の、心──)
永琳「あら? 汗をかいてるわね。疲れたかしら? 少し休みましょうか。そんなに手間がかかる依頼でもないし、ゆっくり──」
永琳と対面して汗を滲ませる神峰。そんな神峰を気遣う永琳だが、永琳の話は彼女の心に圧倒された神峰には届いていなかった。
神峰(スゲェ……地球の生物の進化の歴史をいっぺんに見せられてるみてェだ……! どんな生き方しからこんな心になるんだ? 医者ってだけじゃこうはならねェ……)
永琳「──聞いてるかしら? やっぱり疲れてるみたいね。少し休んでから詳しい話をしましょうか」
神峰「あっ、すみません! 大丈夫! です!」
永琳「……そう? じゃあお茶でも飲んで休憩したら健康診断を始めましょうか。その椅子に座って待っててちょうだい。ウドンゲ、悪いけどお茶を用意してくれるかしら?」
鈴仙「はい」
返事をして部屋を出て行く鈴仙を見送ってから神峰は椅子に着く。その顔には少しの緊張と怯えが見えた。
永琳「どうしたの? 緊張してる?」
神峰「あの……もしかしてオレ、ヤバい薬の実験台にされるんでしょうか……?」
産まれたての仔鹿のようにカタカタと震えながら、恐る恐る訊ねられた神峰の質問を受けた永琳は、一瞬キョトンとした後クスクスと笑う。
永琳「ウドンゲに何か聞いたのかしら? 大丈夫よ。今回の薬はちゃんと動物(ウドンゲ)実験をクリアしての人体実験だから」
永琳「それに、もしあなたに何かが起こってもこちらで対処出来る準備もしてあるし」
神峰「あんまり不安を煽るようなコト言わねェでくれます!?」
永琳「あなたが訊いてきたんじゃない……」
この後すぐに鈴仙がお茶を持って戻って来ると、永琳が神峰に問診をしてから健康診断が始まった。
……………
……
ここまで
ただでさえ長くなりそうな永遠亭編をこんなにスローペースでやる事になるとは……
超短いけど保守がてら、永遠亭編前半終らせるよー
永琳「外来人と言ってたけど、環境の変化に体調を崩すような事も無く健康ね」
健康診断の結果を見ながら、永琳は診断結果を神峰にも伝える。
永琳「でもせっかく健康な所悪いのだけど、薬のデータを取るためには臨床の実験が必要……。つまりあなたには病気になって貰わないといけないのよねぇ……」
神峰「医者の言うセリフじゃないスよそれ!?」
永琳「医者じゃなくて薬師よ?」
神峰「医療関係者!」
神峰のツッコミを受けつつ、永琳は机の上に置いてあるフラスコと、二本の小瓶を手元に寄せて神峰へと見せる。
永琳「冗談はさておき、ここに土蜘蛛から貰って私が培養したとある病原菌と、その治療薬、そして今回の試薬があります」
永琳「あなたはこの菌に感染して、発症した時から私の試薬を飲んで下さい。この治療薬は試薬が効かなかった時の保険ね」
神峰「……? もう治療薬があるのに新しい薬を作るんスか?」
永琳「今回の実験は病気の治療よりも、薬の有効範囲を拡げるためのものなの。人間の薬は妖怪にとっては毒になり、妖怪の薬は人間にとって毒となる」
永琳「それを覆すための、簡単に言えば毒を薬にする実験ね」
神峰「え……それ大丈夫なんスか……? オレ、その薬で死ぬなんて事になりませんよね……?」
永琳「……。それを確かめるための実験よ。大丈夫、動物実験では問題出なかったし自分でも試したから」
神峰「最初の間はなんスか!? 」
永琳の心を見ても、神峰では解釈が出来ないために余計に不安が募る。
そんな冷や汗をかく神峰の肩に、ポン、と手が置かれた。
肩に置かれた手を辿って見上げると、鈴仙が憐れみの目で神峰を見ている。
神峰「鈴仙さん……?」
神峰(スゲェ同情されてる……! 同情するならせめてこの人を止めて欲しいんだけど……)
そんな神峰の心の声が届いたのか、
鈴仙は目を閉じ、
首を横に振り、
「諦めろ」
というジェスチャーをした。
心が見えるせいで十二分に理解した。
神峰「……」
永琳「ちなみにウドンゲは無事完治したわ」
神峰鈴仙「「!?」」
その言葉で二人は永琳へと顔を向けた。
鈴仙「あの時のアレ、師匠が盛ったんですか!? 妙に優しく看病したかと思ったら!!」
神峰「それオレの成功率メチャクチャ下がりませんか!? アンタよく無事だったスね!?」
永琳「まあ、私はちょっと他の人間とは違うから、データの信頼性が低いのよ」
神峰「人と違う……?」
永琳「知ってるでしょうけど、私達は月から来たの。私は地上の人間ではなく月人というわけ。……少し、体の造りが違うのよ」
永琳は自分が蓬莱の薬を飲んだ蓬莱人である、という事を伏せて神峰に説明を続ける。
永琳「もう一度言っておくけど、動物での実験がクリア出来たからウドンゲにも服用したのよ。段階的には人間に使ってもいいと思ったから被験者を募集したの」
永琳「ハイリスクなのは解っている故のハイリターン、期間も短く設けているわ。こちらも細心の注意を払って準備してるわ」
永琳「やってくれるわよね?」
少なくとも選択の余地をくれるらしい。竹林で鈴仙に言われた事に怯えつつ、覚悟も出来ないまま実験台にするようなマッドサイエンティストはいなかったようだ。
身内に密かに病気を盛って実験台にしたのは十分マッドだが。
しかし神峰にも生活がかかっている。家の負債を払うと決め、やれるところまでやってみようと決意したのだ。
神峰(どうする……? 治療薬があるから少なくとも病気は治る。でも実験に失敗したらあの薬が毒としてオレを蝕むのか)
神峰(さすがに即死はしねェだろう……。動物実験では大丈夫だったって事は人間にも毒にはならねェかも知れねェ……。それなら引き受けるのもいいかも……つーか最初から引き受ける覚悟を決めて来たんだっけ)
新たに提示されたデメリットにその覚悟も揺らいでいるのだが、しばらく黙って考えていた神峰は心を決めた。
神峰「……わかりました……」
神峰「やらせて、いただきます!」
その返事を聞いて、鈴仙は目を見開いて驚き、永琳は柔らかく笑った。
今回はここまで
展開は考えてあるから文章がノってきたらスラスラいけるはずなのに、文章にならないんです。
どうでもいいけど>>1(作者)になるとなんで敬語になるんだろうな?
パルスィ「本編の途中ですが、水橋パルスィがお送りします」
パルスィ「メリークリスマス! 世の浮かれたカップル達が妬ましい、独り身達の嫉妬が心地良い」
パルスィ「今日が何の日か知ってる? ジャンプNEXTの発売2日前よ。それ以外の行事なんて無いわ」
アリス「貴女何言ってんの……? 本編って何? ジャンプって何よ?」
パルスィ「何って、このカンペに言えって書いてあるから……」
ぬえ「そもそも『くりすます』って何さ? というかこの面子が何なワケ? なにそのトンガリ帽子?」
パルスィ「質問が多いわよ。クリスマスがどういう日かは追い追い分かるわ。この面子は何かしら悪意を感じなくもないわね。……帽子は貴女達も被りなさい」
アリスぬえ「……」カポッ
パルスィ「……似合ってるのが妬ましいわ……」
アリス「どうすればいいのよ……」
パルスィ「さっさと進めるわ。ぬえ、手元のカンペを読んで頂戴」
ぬえ「この紙? ……えー、こんばんは。一度の更新に一月近く待たせてしまって申し訳ない? ただでさえ遅いのにクリスマスネタ? を、やる事を許して下さい? ちょっとした息抜きのつもりだから? ほんのちょっとだけだけど付き合って下さい? ……なにこれ?」
パルスィ「この日のこの時間にここにいるという時点でお察しの寂しい人間の手紙ね」
ぬえ「まだあった。 ……追伸、ソウルキャッチャーズ? と東方? の両方を知ってる人なんて殆どいないと思うけど、東方を知ってる人ならこの面子の理由もお察し出来ると思う。キャラdisのつもりはねェス」
アリス「あっ……私達がここに居るのってそういう括りって事? ……ちょっと心当たりはあるけど、心外だわ」
ぬえ「???」
パルスィ「今回やるのはクリスマスネタと没にした小ネタよ。早速いきましょう」ピッ
ぬえ「何この箱? あっ、神峰じゃん。この箱の中に神峰が入ってn(ry」
想起「独りぼっちのクリスマス」
~神峰がクリスマスを嫌いだとしたら~
2013年 12月24日 地霊殿
さとり「あの……クリスマスとは何ですか?」
神峰「へ?」
さとり「先ほどから明日はクリスマスか、と考えていらしたので気になって。……すみませんね、クリスマスを知らなくて」
神峰「あ、いや、さとりならもう知ってると思ってさ……」
さとり「ふむ……聖人の誕生を祝う日ですか。成る程、そのように家族で祝うモノなんですね。え? 子どもはプレゼントを貰えるんですか? サンタという方はその聖人とどういう関係があるのでしょうか?……不思議なお祭りですね……」
さとり「……え? サンタの正体は……親なの!?」ガーン
さとり「……あ」
神峰「……」
さとり「あの……仕方ないと思いますよ……? そういう『目』を持って生まれた以上、心が未熟な内は、物事を見た通りに口に出してしまうものですから」
神峰「親父達からすればスゲェ可愛くねェ子どもだったと思うんだ……分からないフリも出来ねェ、夢も見てねェのかって」
神峰「毎年クリスマスになると、両親をあの困った顔にさせるんだ……」
神峰「碌な親孝行も出来ずに今まで来ちまった……。せめて友達くらい、家に呼んで紹介したかったな……」
神峰「だからオレさ、クリスマス、苦手なんだ……」
神峰「あ、困らせて悪ィ」
さとり(家族が絡む不幸ネタは重い……)
アリス「なんで初っ端からこんな空気にならなきゃいけないのよ……? しかも大して知らない人だし……」ゲンナリ
ぬえ「おい、誰だよあいつ」
パルスィ「チッ、クリスマスなんだからもっとイチャイチャしなさいよね、妬ましいわね……」
ぬえ「誰だよアレ!?」
パルスィ「誰がよ? うるさいわね……」
ぬえ「あいつ本当にさとり!? あんな優しいヤツじゃないでしょ!?」
ぬえ「むしろトラウマ見つけたらグリグリ抉り出して来るのが地底に居る覚妖怪じゃん! 励ます姿なんて初めて見た!」
パルスィ「この頃にはさとりは翔太に心を掴まれてるから、大分柔らかくなってるわ。その上最近では旧都にも繰り出すようになってるから、皆迷惑しているわ」
ぬえ「え? 神峰とさとりってやっぱそういう関係なの?<●><●>」ニヤニヤ
パルスィ「そういう関係だったらとっても妬ましいのに、本人達は否定したわ……妬ましい事にね……」
アリス「どちらにしろ妬ましいのね……」
パルスィ「次行くわよ、次」
~神峰がクリスマスを好きだとしたら~
2013,12/24 地霊殿
神峰「明日はクリスマスかー……」
さとり「嬉しそうですね。好きなんですか、そのクリスマスというお祭り?」
空「クリスマスってなに? どういうお祭りなの!?」
神峰「今の日本じゃ宗教的な意味合いはねェけど、キリストって人の誕生を祝う日だ」
空「お誕生会ね!」
神峰「そんなモンだな! その日はみんなウキウキしてるから、外を歩いててもそれほど嫌な心も見えねェし、街も綺麗に飾り付けられるんだよ。……たまにパルスィみてェな心があってビビるけどな……」
さとり(なんでそんな心が『見』えるのか、分かってます?)
燐「へぇー、それでそれで?」
神峰「それでな、その日はケーキが食えるんだよ!!!」グッ
燐「……ケー、キ……?」
神峰「西洋のお菓子だ。しかも1ホール買って来てくれるんだ!」
神峰「さらに夜になると、寝てる内に枕元にプレゼントがもらえるんだよ」
空「すごい! よくわかんないけど私も食べたい!」
神峰「じゃあ地霊殿でもクリスマスパーティやるか!」
さとり「あの……物凄く申し訳ないのですが……幻想郷でそんなに沢山の砂糖を使った料理は……というか設備的にそのケーキを作るのは無理なのでは……? お砂糖も高価ですし……」
神峰空「……え?」シュン...
さとり「……すみません」シュン...
燐「さとり様は何も悪くありませんよ」
~オマケ・バレないサンタクロース~
神峰「……zzZ」
コソ……
神峰「……zzZ」
───メリークリスマス、翔太。
神峰「……ふあ?」パチ
こいし「あ、起きちゃった」
表象『枕元にご先祖様総立ち』バァーン
神峰「うえええああああおおおおお!!?」
アリス「そのスペル、枕元しか合ってないじゃない……時期もお盆だし」クスクス
ぬえ「え? 何? 同じ日付なのに内容が正反対なの? どういうこと?」
パルスィ「もしものお話しというモノよ。というか、もしかしてアイツ鈍感だったの? クリスマスが好きでもイチャイチャしないじゃない、燃料が足りないわよ」
ぬえ「それは神峰だけの責任じゃないでしょ。それよりも私はさとりの変わりようが気になって仕方ない。違和感がヤバイ」
アリス「隣で嫉妬されるとか迷惑なんだけど……。彼が鈍感で良かったわ」
パルスィ「翔太が鈍感でも誰かがやきもきしてれば妬ましいのに……あいつの鈍感さが妬ましいわ……」
アリス「その下り、毎回入れるつもり?」
ぬえ「こいつと会話すると毎回入るよ」
~没ネタ①~
ぬえ「おい、神峰!」
神峰「なんスか?」
ぬえ「ふふん、どうよ?」
神峰(え……? 心にモザイクがかかってる!?)
神峰「どうなってんスかそれ!?」
ぬえ「お前がさとりの真似事やって、見透かされるのがちょっと悔しいから正体不明にしてやった!」
ぬえ「心なんて意味分からん物にやるのは骨が折れたけどね、このぬえ様にかかればこんなモンよ!」
神峰「スゲェ!? どうやって心に能力がかかったって分かったんスか?」
ぬえ「自分の気持ちの正体がなんだか分からなくなったから、試しにお前に会いに来たのよ」
一輪「恋か」
ぬえ「違うわァ!!」
ぬえ「没ネタもなにも、実際に命蓮寺でやったやり取りじゃん。……ん?」
カンペ[流れに組み込めないシーンだったので本編では省いた]
ぬえ「意味分からん!」
パルスィ「そう……、それが……恋 か 」
アリス「心に術をね……興味深いわ。詳しく教えてくれないかしら?」
ぬえ「二人とも違う意味で面倒くさいし……」
パルスィ「甘酸っぱくてとっても妬ましいわよ」ニッ
ぬえ「黙れ!」イラッ
パルスィ「次のネタは本編にも影響しない本当の没ネタですって」
~没ネタ②~
【紅魔館】
レミリア「吸血鬼が血を集めるのだから、みんな怖がると思ったけど……依頼も出してみるものね」クイッ
咲夜「死なない程度に血を抜くだけで報酬を貰えて、尚且つ短時間で済みますからね。少人数ですが、期待以上の人数かと」
レミリア「ふーん……ん?」コクッ
咲夜「どうかされましたか、お嬢様?」
レミリア「随分と面白い人間の血を貰って来たじゃない、咲夜」
咲夜「はぁ……? どのような人間ですか? 特に変わった方はいなかったと思いますが……」
レミリア「外見だけじゃ分からないわ。そいつはあんたの胸を見ていたんじゃない、その奥……心を見ていたのよ」
咲夜「ッ!?」カァーーッ
レミリア「咲夜にも可愛い所があったのね。あんなにムキになって」クスクス
咲夜「あの……どうしてその事をご存知で……?」
レミリア「この血を飲んで少しだけその時の光景が見えた、それだけよ」
レミリア「それにしても面白い人間が居たものね。私の心はどう見えるのか、興味深いわ」
レミリア「咲夜、そいつを連れて来て。紅魔館へ招待してあげましょう」
咲夜「は、はぁ……かしこまりました」
パルスィ「運命を操る程度の能力って何よ意味わかんないわよどう解釈すれば良いのよ上の展開は都合良すぎでしょう」ブツブツブツブツ
アリス「その他、もしも紅魔館に行ってフランに出くわしたら、神峰が本当に閻魔の所に行って白玉楼に行って終了になりかねないので没になりました、ですって」カサッ
ぬえ「何の話してんの?」
アリス「没ネタの話ですって」
パルスィ「解釈次第で能力の範囲が変わるなんて妬ましいわ……むしろ恨めしい……」
アリス「解釈の自由度が高いからって、自分の都合の良いようにしか見ないのはダメよねぇ……」
ぬえ「あの吸血鬼って血を飲むだけでそいつの運命も分かるの?」
パルスィ「だからそれが分からないから没なのよ。フフフ、ざまぁ無いわね」
どんどんメタい事喋らせてるような気がするので寝る
寝る前に本スレ確認してたらキムさん呟いてたのかwwww
乙ッス
これ見てるとオレもソルキャ宣伝の為にクロスさせたいって気持ちがスゲェ出てくるから困る
艦これだのアイマスだのラブライブだの今の流行のヤツとのクロスssを書けば少しはソルキチファンの奴も増えるんじゃねェ……のか?
~小ネタ(ラスト)・もしも神峰が八雲紫の楽団に入ったら~
藍「お前が入団希望者だな?」
神峰「えっ……!? あ、そうです!」ギョッ
神峰(スゲェ尻尾! 何つー存在感!)
藍「歓迎しよう。ついて来い、これからお前を楽団のメンバーに会わせるわ」
神峰「……分かりました」
……………
……
神峰「てっきり紫さんが来ると思ってたんスけど……」
藍「紫様は現在冬眠なさっておられるからな。その間は暫定的に私が代理を務める事になった」
藍「私も紫様が冬眠に入られる時期は仕事が増えるから、早く楽団を纏められる人材を見つけなければいけないのだけど……と、言ってる間に見えて来たな、あそこで皆練習している」
神峰「随分雰囲気のある館スね……」
藍「持ち主はとうの昔に死んでいて、今は騒霊が住んでいるだけだからな」ギィィーー
藍「新しい団員を連れて来たわよ」
メルラン「おおっ! ついに念願の新人が! これでプリズムリバーオーケストラにまた一歩近付いたわ!!」
リリカ「広告ってのも馬鹿に出来ないわね。このままチラシ貼ってたら集まるんじゃない?」
ルナサ「何年待つつもりなの……? こっちからも勧誘しないと……。最近紅魔館に断られたばかりじゃない」
妖夢「霊夢にも断られましたしね……」
神峰(この人達が団員か……良かった、歓迎してくれてるみてェだ。……それにしても……)
神峰「他の団員は何処に居るんスか? 各自で練習?」
神峰以外「「「…………」」」シン...
神峰「えっ? どうしたんスか……?」
藍「そうだ、メンバーを紹介しよう。まずはこちらに居ないが指揮者の八雲紫様。そして私はトロンボーン担当の八雲藍」
妖夢「えっと、バスクラリネット担当の魂魄妖夢です。ただいま練習中です!」
神峰「よろしくお願いします」
メルラン「次女、メルラン・プリズムリバー! 担当は管楽器全部よ!!」
神峰「はっ!?」
リリカ「三女、リリカ・プリズムリバー! メインはピアノ! サブはパーカッション! その他諸々!」
神峰「え!?」
ルナサ「長女、ルナサ・プリズムリバー。担当は弦楽器全般。よろしくね」
神峰「あの……」
藍「そしてこの人間が新人の神峰翔太だ。……以上がプリズムリバー楽団(仮)員だ」
神峰「えええええ!? オレ入れて六人スか!? 後半の紹介もツッコミ所多過ぎる!!」
妖夢「済みません……ついこの間結成したばかりでして……。結成というか決起というか……、とにかく今は人数集めの段階なんです」
メルラン「手を使わずに演奏出来ると多くの楽器が演奏出来て便利よね~」
ルナサ「まさに私達三姉妹でプリズムリバーオーケストラね」
リリカ「私はやる事が多過ぎるから早く担当を割り振って欲しいんだけど」
ルナサ「だったら団員集めに努力しなさい」
藍「では早速、神峰の担当楽器を決めよう」
リリカ「金管と木管はもう一人づついるから、パーカッションが良いと思うなー!」
メルラン「高音は私がやるから低音とかやって欲しいわ! チューバとかどう?」
ルナサ「低音やらせるならコンバスでもいいんじゃない?」
わいのわいの
神峰(オレの意見が全く聞かれねェ……素人だしわかんねェからいいけど)
────
──
~春~
紫「神峰翔太さんには指揮者をやって音を導いてもらいますわ」
一同「ええええええ!? あんだけ揉めたのに!?」
終わり
アリス「楽団の募集なんてしてたのね。掲示板なんて見ないから分からなかったわ」
パルスィ「勧誘されなかった事実に目を向けるべきじゃないかしら? 各いう私にもそんなお誘い来てないわ……そもそもあいつら地底に来てないけど」パルパル
アリス「なんですって……?」
ぬえ「あ……もしかしてこの面子って……独りぼっちって事!? ふざけんじゃないわよ!!」
パルスィ「今頃気付いたのね。私は別に独りじゃないし、独りでも嫉妬が出来るから構わないけど」
ぬえ「私だって命蓮寺に住んでらァ! 独りじゃないわよ!」
パルスィ「正確にはこういう社会不適合者の集まりでしょうね」サラサラ
アリス→他者と積極的に関わらない
ぬえ→所属集団に馴染めない
私→言わずもがな
ぬえ「んなっ……!?」
パルスィ「そもそも妖怪なんて社会不適合が姿を持ってるようなものなんだから、その個性を爆発させて周りから怖れられてナンボでしょうに」
ぬえ「……あ、それもそうか」
パルスィ「あ、でも魔法使いはどうなのかしらね? 」
アリス「わ、私だって魔法使いのコミュニケーションくらいあるから……魔理沙とかパチュリーとか……白蓮とだって……」
ぬえ「その三人ってそれぞれ別の集団にも所属してぬぇ?」
アリス「ゔ……」
パルスィ「今の貴女の心、とっても心地良いわ」ククク
アリス「……もう帰る!」ガタッ
ぬえ「あらら、行っちゃった」
パルスィ「嫉妬を煽るのが私の個性だから、止められないのよ」
ぬえ「もうお開きかな?」
パルスィ「そうね、一人抜けてキリも良いし、いつまでやるのか分からなかったしね。私達ももう帰りましょ」
パルスィ「お疲れ様」
ぬえ「じゃあね」
<ビャクレェェェン! マカイニツレテッテヨォ‼
ぬえパルスィ「……」
終わり。なんかキャラdisっぽくなってしまって申し訳ないッス……
本編は近い内に、出来てる分をキリの良い所まで投下しようかな。少ないけど
>>465
ソルキチのss書こう! 一緒に草の根活動しよう!
>>466
問題は片方だけ知ってても楽しめるかなんだよな……
だから前スレは東方キャラ一色になったワケで……焼き直しになった黒歴史だが
このssは俺の趣味に走ってるからちょっと……よく分かんねェ
新年明けましておめでとうございます
まさか亀更新のせいで永遠亭編が年を跨ぐ事になるとは……
あと2,3回の投下で終わらせたいけど、このままだと5回は行っちゃいそうだな
以上、新年の挨拶だけっした
今年もよろしくお願いします。
あと、一度送信を押したらエラーが出ても大体書き込めてるから、焦らず更新してみよう
~翌朝~
神峰「……う……、気持ち悪ィ……」
永琳「あら、目が醒めたのね。おはよう。体調は悪いみたいね」
神峰が目を醒まし体調が崩れている事を自覚した直後、神峰の隣から声をかけられる。見上げればマスクと手袋を装備した永琳が、正座をして神峰を見下ろしていた。
昨日依頼を受けた後、早速病原菌に感染したのだから体調が悪いのは当然とは言え、体調は悪いと断言する挨拶はなかなか斬新である。
神峰「あ……おはようございます」
永琳の姿を確認した神峰は、挨拶をするとモソモソと力無く起き上がろうとするが、それを永琳が制する。
永琳「もう少し寝てて良いわ。そろそろ朝食を持って来るから、その後に薬を飲んで頂戴」
神峰「あ……はい。……ところで、いつからそこに居たんスか……?」
尤もな疑問である。何せ目が覚めたら既に感染予防をした永琳が控えていたのだから。
永琳「あなたが発症する頃合いにかしら。もしも病状が深刻だった場合に、すぐに対処出来るようにね」
神峰「なんか……わざわざすみません」
永琳「試薬が効いて、尚且つ状態が安定していると判断出来るまでは、私とウドンゲでしっかり看病させてもらうわね」
神峰「よろしくお願いします……」
首を振り、気にしなくて良い、という仕草をしながら話しを続ける永琳に、神峰は弱々しく返事をする。
その後しばらくすると、部屋の外から足音が近付いてきて神峰達の部屋の前で止まり、襖が開かれた。
鈴仙「入りますよー? 起きてますか?」
神峰「おざす……」
鈴仙「案の定元気無いわね。これ食べれる? 一人で体起こせる?」
部屋へと入って来たのは鈴仙だった。永琳と同じようにマスクと手袋をして、膝まであった長い髪も纏めた格好で、両手で持ったお盆にお粥を乗せている。
そして永琳から聞いていたからか、自身の体験からか、神峰の側に寄って腰を下ろし、お粥を隣に置きながら神峰の身を案じた。
言われた神峰はようやく気怠い体を起こそうと試みるが、なかなか体に力が入らない。
神峰「あー……申し訳ねェスけど……支えてもらっていいスか……?」
永琳「……じゃあウドンゲ、彼の食事を手伝ってあげて。私は薬の用意をして来るから」
鈴仙「分かりました師匠」
神峰(いよいよ実験が始まるのか……)
……………
……
食器がぶつかるカチンという音と、お粥を冷ますための息を吹く音が鳴るゆっくりとした食事の時間も、やがて器の底に弱々しく当たるレンゲの音を最後に終わりを迎えた。
神峰「……ご馳走様です……」
鈴仙「少なめに作ったけど余っちゃったか……」
神峰「あんまり食欲が無くて……すみません」
鈴仙「気にしないでいいわよ。食欲が無くなる事は体験済みだから……」
申し訳なさそうにする神峰に、自分の体験を思い出して苦笑しながらフォローを入れる鈴仙。
神峰「……」
鈴仙「!?」
そしてしばらくして神峰へと視線を戻した鈴仙は、はにかみながらも目が潤んでいる神峰の顔を見てギョッとする。
鈴仙「ど……どうしたの……?」
神峰「なんか……あったかくて……」
鈴仙「は?」
神峰「病気のせいで気が弱ってるせいかも知れねェけど……こんな風に誰かに優しくして貰ったのが、なんか……スゲェ、嬉しくて……」
鈴仙「そ……そうなんだ……?」
永琳(彼、一体どんな環境で育ったの? 初対面での緊張も凄かったし、なんか人に慣れてない印象を受けるのよねぇ……? ちょっとウドンゲと似てるわね)
朝食が終わったので、直ぐに永琳の持って来た薬を飲み、実験が始まった。
幸いな事にその日は異常が観られず、薬も効いた様で、神峰がなんとか立てるようになったのは三日後であった。
短いけどここまで。
笑ってはいけないスレ落ちてたのか……
ソルキチSSなんてあったのか
嬉しい
────
──
「ただいまー」
夜も深い永遠亭に、何者かの帰宅を知らせる声が響いた。
「永琳ー? イナバー? 着替えの用意をして頂戴ー?」
その声の主は虚空にそう呼びかけながら、パタパタと屋敷の奥へと続く廊下を歩いて行く。
……………
……
永琳による治験の実験も四日目、正確にはもう五日目へと突入した深夜。
ようやく立ち上がり歩けるまでに回復して、永琳達の看病も1時間に一度の回診で大丈夫だろうと判断された神峰に、新たな出会いが訪れる……
神峰「寒っ! 縁側寒っ! 竹林の中に建ってるから尚更寒ィ……!」
自立歩行が可能となった神峰は現在、厠で用を足して自室(病室?)へと戻っている最中である。
(ちなみに実験初日からマスクの着用を義務付けられている)
竹林の中に在り、日光も良く入らないために昼間も薄暗い永遠亭は、和風の屋敷の中庭を有する造りと相待って部屋を出ると寒く、神峰は震えながら身を縮こまらせてその廊下を歩いていた。
神峰「……ん?」
そんな神峰の耳に自分のものではない足音が届き、何事かと足音の聞こえる方へ顔を上げると、夜遅い時間だというのに見慣れない少女がこちらへ歩いて来ていた。
神峰「……!? ちっ……!?」
少女は既に神峰に気付いていたらしく、興味深そうにまじまじと神峰を見ながら尚も近付き、神峰もはっきりと少女の全貌を確認出来る距離まで来ると目を見開いてギョッとその場に硬直した。
「血? ああ、そうだわ。着替えなきゃいけな───」
神峰(血まみれ!? この人───!)
神峰「大丈夫スか!? 八意先生を呼んだ方が……!」
少女のひとり言に被せるように永琳を呼ぼうと慌てる神峰。何故なら、目の前に居る少女は全身血まみれで、服や顔をベットリと赤く染めており、その服装もボロボロだったからだ。
「ふふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ。永琳は呼んであるし、怪我ももう無いから」
神峰「怪我ももう無いって、明らかにそんなレベルの出血じゃなくないスか!?」
神峰「……『もう無い』?」
慌てる神峰だが、目の前の少女の余裕を持った態度を見て落ち着きを取り戻し、完了系で話された言葉に疑問を抱く。
「あ、いっけない。汚れを落として着替えようとしてたんだったわ」
「こんな格好でごめんなさいね? また会いましょう」
一瞬「しまった」という表情をして、自分の放った言葉に言及されそうな気配を感じた少女は直ぐに誤魔化し、そのボロボロな袖で口元を隠してそそくさとその場を去って行った。
神峰「なんだったんだろう、あの人……。なんかマズイ事を隠してるみてェだったけど……いや、明らかにヤバい格好だけど……」
もちろんそのような誤魔化しも、神峰の『目』の前では通用しないのだが。
────
──
「おはよう♪」
永琳「……」
翌朝、即ち五日目の朝は慌しかった。何故なら、朝食を持って来た永琳に続き、昨夜の少女もやって来たからだ。もちろん最低限の感染対策はしている。
少女の前にいる永琳はげんなりした様子で、どうやら永琳の反対を押し切って着いて来た事が伺える。
神峰「お……おはようございます」
神峰はまさかこんなに直ぐに再会する事になるとは思わず、ポカンと呆気に取られながら挨拶をした。
「昨夜はあんな格好で自己紹介も出来ずにごめんなさい。改めて初めまして、私はこの永遠亭の主、蓬莱山輝夜。よろしくね?」
神峰「初めまして……。オレは神峰翔太っていいます。ここには治験の被験者としてお世話になってます……」
神峰(昨日は月明かりしかなかったし血まみれだったからよく分からなかったけど……スゲェ綺麗な人だな)
永琳「いきなりごめんなさい。姫様がどうしても来るって聞かなくて……」
輝夜「永琳ったら酷いのよ? 病気が感染るからってこの部屋には入るなって言うの! お客人に挨拶もしちゃいけないんですって」
永琳「病人や怪我人は私の管轄なので姫様の客人ではありません」
輝夜「ね? ヒドイと思わない? こんな竹林の中に来る人なんて永琳を頼って来る人ばかりで、私に用のある人なんて実質居ないのよ? むしろ私が出向く事になるのよ? 私お姫様なのによ?」
神峰「えっ? いや……あの……」
溜息混じりの永琳に輝夜と名乗った少女が突っかかる。神峰(客人)の前でやる辺り、永琳と神峰の両方を困らせたいように感じられる。
輝夜「それはさておき、貴方、変わった髪型してるのね。外の世界ではそんなのが流行っているのかしら?」
神峰「っ! オレも気にしてるんであんまり触れねェでくれます!? 体質なんで!」
言葉の端でチクチクと永琳に口撃する事に満足した輝夜は、興味(矛先)を神峰へ向けた。
輝夜「あらそうなの? ふぅん……髪の手入れが大変そうね」
神峰「もう諦めました……」
項垂れて精神的疲労を感じた所で、自分が輝夜のペースに振り回されている事に気が付く。
神峰は気を落ち着かせると、今一番気になっている事を輝夜に尋ねた。
神峰「あの……昨日の格好の理由とか……、訊いちゃダメ……スかね?」
輝夜永琳「「……」」
輝夜「うーん……どうしようかしらねえ~?」
神峰(アレ……? 意外と触れて欲しくない話題じゃないっぽい……?)
迷う素振りをしながらも心を閉ざす様子の無い輝夜と、話すかどうかを輝夜に任せている永琳の心を見て、拍子抜けする神峰。
あんな格好で夜中に帰って来たのだから、まず秘密にしたいだろう思っていたために困惑する。
神峰(それほど知られたくない事ってワケじゃないのか? 分からねェ)
輝夜「うん、やっぱ言~わない♪ 心配するほど危険な事はやってないから、気にしないで頂戴」
神峰「いや、血まみれになってるのに危険じゃねェってのは……」
輝夜「……それもそうね、あまり説得力が無かったわね。しょうがない、教えてあげるわ」
神峰の言葉に納得してポンと手を叩くと、輝夜はあっさりと前言を撤回する。
輝夜「ケンカしてたのよ、ケンカ。ね? 大した事無いでしょ? さて、貴方の心配も無くなった事だし、そろそろお暇するわ」
輝夜「ご飯のお邪魔をしちゃったわね。またお話ししましょう? 楽しかったわ」
言うだけ言ってパタパタと部屋を出て行く輝夜を見送って、置いてけぼりを食らった神峰も我に帰る。
神峰「ケンカでああなるのってメチャクチャ危ねェんじゃねェか……?」
神峰(嘘を言ってる心じゃねェとは思う……けど、まだ何か隠してる?)
神峰(はぐらかしたと思ったらあっさりバラしたり、バラしたと思ったらまだ何かあるような態度……。掴みどころがねェな……)
永琳「姫様に付き合わせてしまってごめんなさい。ケンカとは言っても、見た目以上に酷くはないから心配しないでね?」
永琳「──というより、療養中のあなたにはあまり心労をかけたくないのよね……。だから、神峰さんは気にする事柄じゃないってことを理解してくれないかしら?」
神峰「八意先生は……アンタの姫様が怪我をするような事をしてて、心配じゃねェんスか……?」
永琳「もちろん心配ではあるし、姫様に怪我をするような事はして欲しくないんだけどね……」
永琳「……仕方のない事なのよ」
神峰の問いに、永琳は苦笑しながら答えた。
今回はここまで。あと3~4回で永遠亭編終われたらいいな……
>>495
そう言ってくれると俺も嬉しい
続きまってるぞ!
メインヒロインのさとりにもラキスケしてないのに神峰にとLOVEれと申すか
って言おうとしたけど既に古明地姉妹とは添い寝してたね。
こいしはお姉ちゃんを差し置いてたね
まぁさせる予定は無いんだけどな
神峰「八意先生も輝夜さんもわからねェ……。隠し事をしてるみてェだけど、オレに教えようともしてる気もする。いや、知られても構わないって思ってんのか?」
神峰「八意先生は輝夜さんが教えるなら止める気はねェみたいだけど、きっと自発的には何も話してくれねェよな」
神峰(近付いては離れて……、なんだか蝶々を捕まえてるみてェだな)
神峰「言われた通り、気にしねェ方がいいのか……?」
今朝の事を思い返して、モヤモヤとした気分でその日を過ごす神峰。
ここ永遠亭の主が血まみれになるような喧嘩をしているというのに、薬師(医者)である永琳が輝夜を諌めない事がどうしても気になるのだ。
その上、神峰に対して輝夜と同様に気にするなと言ってきた。これは身内の問題なのであなたが関わる必要は無い、と受け取る事が出来るのだが、そういうニュアンスで言われたのではない気がするのでさらに神峰を悩ませる。
「姫様の事が気になるかい?」
そうして悩んでいると、聞き慣れぬ声が神峰にかけられた。
神峰「え? ……えっと、誰スか?」
声のした方を見やると、衛生帽子にマスク、手袋を着け白い割烹着を着て、おまけにゴーグルまでした完全装備の小さな女の子(?)がいた。怪しさ全開である。
「あたしはここの住人さ。名前は因幡てゐ。あんたの事は知ってるよ、神峰翔太。人里に居たのをよく見かけたからね」
神峰「あの、初めまして……」
神峰「もしかして輝夜さんの事、教えてくれるんスか……?」
少女の奇妙な格好に戸惑いながら、先ほど聞いた言葉の意味を訊ねる。
てゐ「誰にも言わないなら教えてあげてもいいよ。──というか、あんたには別に教えても良いって姫様に言われてるんだけどね」
神峰「!」
神峰「……じゃあ、お願いします……!」
離れたと思ったら急に近づいてきた。
まるで自分が輝夜の掌の上で遊ばれているような気になるが、折角のアプローチを逃す手はない。少しでも何かを得ようと、神峰はてゐを促した。
てゐ「あいよ。……さて、あんたは今朝、姫様と会っただろう? どうだい、美しかっただろ?」
神峰「……? まあ、キレーな人だと思いましたけど……」
てゐ「そうだろう、そうだろう。ウチの姫様は昔ね、そりゃあ何人もの男に求婚される程だったんだ。まるでお伽話みたいでしょ?」
神峰「確かにお伽話みたいスけど、一体それにどんな関係があるんスか?」
てゐ「だったら、"かぐや"という名前の登場人物が出て来るお伽話は知ってる?」
神峰「!!!」
てゐの話にイマイチ関連性を見出せなかった神峰だが、てゐのこの一言で一気に核心へと近付いた。
永琳やてゐ、恐らく鈴仙からも姫と呼ばれる永遠亭の主、輝夜。即ちかぐや姫と言えば、外の世界では国語の教科書にも載っている物語──
神峰「竹取物語……! じゃあ、まさか……輝夜さんは……」
てゐ「そう。ウチの姫様は、竹取物語の輝夜姫、その人だよ」
拍子抜けするくらい唐突に明かされる輝夜の秘密。輝夜と出会ってからまだ半日も経っていないというのに、かなり深い所まで踏み込んでしまった事に不安を覚えるが、それでも神峰は疑問を抑えられなかった。
神峰「あの……、一コ、いいスか?」
てゐ「なんだい?」
神峰「竹取物語って確か平安時代の話っスよね……? 鳴くよウグイス平安京だから……千二百年前!?」
てゐ「物語中の時代は奈良時代らしいから、もうちょっとだけ古いね。ま、そういう風に女性の年齢を逆算するのは感心しないけど」
てゐのゴーグル越しのジト目が神峰に刺さるが、神峰は別の事で頭が一杯で気付かない。
神峰「輝夜さんって人間じゃねェのか……!? 妖怪じゃねェのに千二百年も生きてるなんて……!」
てゐ「確かに人間じゃないよ。姫様は月人……いや、正確には蓬莱人か」
神峰「蓬莱人?」
てゐ「竹取物語と言えば、その最後にもう一つ、重要なモノが出て来るでしょ?」
さて、何かあっただろうかと、自分の覚えている竹取物語を思い出すために、しばらく考え込む神峰。
神峰「……。えっと、すみません……。最後はかぐや姫が月に帰ったくらいしか覚えてねェス……」
てゐ「ありゃ? そこまでは伝わってないのかな? 千年前だから全文は残ってないのかもね」
てゐ「蓬莱人ってのは、不死の薬を飲んで不老不死になった人間の事だよ。竹取物語では、姫様は去り際に、世話になったお爺さんに不死の薬を遺したって話があるんだ」
てゐ「だからあんたは何も心配する必要は無いのさ。いくら喧嘩しようが、どんな怪我をして帰って来ようが、なんたって姫様は死なないんだからね!」
きっと輝夜は、この事を神峰に伝えるためにてゐを寄越したのだろうと神峰は思った。どうやらてゐも、心を見る限り嘘は言っていない。
神峰「不老不死……って事は、妹紅さんと同じか……」
てゐ「! ……へぇ──」
納得しながらぼそりと呟かれた神峰の言葉を聴き、マスクで隠されたてゐの表情が僅かに笑いに歪んだその時、襖が開かれて鈴仙が表れた。
鈴仙「神峰さーん、お昼持って来ましたよ──って、なんでてゐがここに居るのよ? もし神峰さんに悪戯したら、師匠が黙ってないわよ?」
てゐ「おお怖い怖い。ただお客さんとお話しをしてただけの善良なウサギさんを悪者扱いするなんて。お客さんも言っておくれよ、私達はただ会話してただけだよねぇ?」
鈴仙「どの口が善良とか言ってんのよ……」
てゐのわざとらしい演技に苛立ちつつも、鈴仙は呆れた様に溜息と共に吐き捨てる。
神峰「あの、本当にこのヒトと話してただけっスよ?」
てゐ「それみたことか! いくら私でもお師匠様の実験台にはちょっかい出さないって! あんたも早とちりだねェ~?」
神峰がてゐに同意した事で、てゐは水を得た魚の様に鈴仙を煽る。
鈴仙「んなっ……!? 元はと言えば、あんたの日頃の行いが悪いから疑われるんでしょうが!」
てゐ「狼少年になった覚えはないねぇ! あたしは幸福を呼ぶ可愛いウサギだよー?」
などと言って、笑いながら部屋を飛び出して行ったてゐ。しかも去り際に割烹着やマスクや帽子などの装備を脱ぎ捨てて鈴仙の顔にぶつけて行くというオマケ付きである。
鈴仙「……」
神峰(怒ってる……)
その鈴仙はというと、体をワナワナと震わせながら神峰の昼食を床に置いて、頭に引っ掛かったてゐの装備品を剥がした。
装備の下から表れた顔は真っ赤であったが、神峰の存在を思い出すと、「はっ」と間の抜けた声を出してみるみるその赤を羞恥のものへと変化させていく。
鈴仙「ゴホン! ……えーと、本当にてゐに何もされなかった? もし何かされたら遠慮無く言って良いから!」
神峰「……あ、ハイ」
照れ隠しに咳払いをして取り繕う鈴仙に、神峰も上手くフォローする事が出来ずに気まずい雰囲気の中、昼食を摂った。
……………
……
てゐ「教えちゃって本当に良かったの? 姫様」
輝夜「私の素性よりも先にあの姿を見られちゃ仕方が無いわ。変に気にされて私の事を調べられてもイヤだし、それなら敢えて教えちゃう方が良いでしょう?」
輝夜「……それに、これだけ教えておけば、それ以上深くは探って来ないでしょうし。彼、誰にも言わないと思う?」
てゐ「私が観察して来た限りじゃあ、約束は守る人間だと思うよ。外来人にしては珍しいというか、外来人だからこそというか……」
てゐ「でも……」
輝夜「どうしたの?」
輝夜が神峰に不老不死を教えた理由は、まず自分の周りを嗅ぎ回って欲しくなかった事が一つ。これは単に自分の周りをうろちょろされて行動を制限されたくなかったからだ。
そのため、てゐから聞いた神峰の外来人という境遇を利用して、お伽話に絡めて説明する事で注意を逸らしたのだ。
では何から注意を逸らしたのか、それが二つ目、「血まみれになる程の喧嘩」である。
これも輝夜としては知られても構わないのだが、ようやく永琳も小言を言わなくなって来た所なので、また誰かにとやかく言われるのは御免被りたいのだ。
……………
……
果たして輝夜の狙いは──
神峰「でも……不老不死だからって、どうしてあんな事やってんだ……?」
上手くはいかなかった。
お姫様であるため謀は苦手なのだ。
……………
……
てゐ「あいつ、妹紅の事を知ってるみたいですよ?」
輝夜「……ふぅん。──ま、人里で暮らしていれば会う事もあるでしょう。それよりもあいつ(妹紅)、知り合いが出来る程の社交力があったのね」
輝夜「──ふふ。それなら別に、『喧嘩』の真実がバレても面白くなりそうよね?」
てゐ「じゃあ、それも教えちゃうの?」
輝夜「そうね。今度、永琳にバレないように彼を連れ出すのも面白いかもしれないわね」
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、まるで蝶々の様にヒラヒラと、輝夜の目的は変わる。
今回はここまで。
永遠亭完結させてないのに次のパートのネタが頭に浮かんでしまって集中力がががが
期待されててちょっと嬉しいけど、やめてくれ>>514。その催促はオレに効く
誕生日おめでとう伊調
かく言う私も誕生日でね、だからちょっとだけ更新しようと思う
~~~~~
~~
神峰翔太と藤原妹紅の出会いは、上白沢慧音を介する事によって実現した。
もしも彼女が居なかったら、神峰と妹紅はお互いに村人AとBという程度の認識しかなかったのかも知れない。
里の中で見かけはするが、関わる事は殆ど無い。そうなるくらい、お互い初対面に対して積極的になれない性格だった。
慧音「お? 妹紅じゃないか」
神峰「確かあの白髪の人っスよね?」
慧音の呟きに、神峰は慧音の目線を追って辿り着いた人物を視界に捉え、自分の知識から妹紅という人物の情報を引っ張り出して慧音に確認をする。
慧音「人里で白い長髪は私か妹紅くらいだから、里に来るとやはり目立つな。妹紅はブラウスと赤いモンペの組み合わせだからとても分かり易い」
慧音は神峰の確認に頷いて肯定し、さらに妹紅の外見の特徴を説明する。
妹紅も神峰達の話が聴こえたのか、こちらに気付き、近寄って慧音に軽口を吐く。
妹紅「慧音のそのヘンテコな帽子も、目立って分かり易いでしょ。っていうか前から思ってたけど、それ帽子なの?」
妹紅「──あ~……っと、そちらさんは確か、話題の外来人だったかしら? 私の事は知ってるみたいね」
妹紅は神峰へと視線を向けて苦笑しながら、神峰と同様に自分の認識が間違っていないか確認する。
慧音「変とは何だ、どう見ても帽子だろう。こいつは神峰翔太という。あなたの言った通り、現在里で一番目立つ外来人だよ」
神峰「えっと、藤原さん……初めまして」
妹紅「妹紅でいいわ。よろしくね」
神峰(この人の心……傷だらけだ……。しかもオレや、慧音先生に対してまで線引きして距離を取ってる)
神峰(あんなに傷だらけになってんだ、それだけ慎重にもなるよな……)
神峰の見た妹紅の心は傷だらけで、その手に持つ棒で神峰に向かって互いを隔てるように足元に線を描いていた。
神峰(多分、あのラインまでがオレの踏み込める限界だ……! それ以上近付くと心を閉ざされるかもしれねェ)
慧音「それとな、妹紅。神峰は幻想郷縁起を読んでるから……あなたが不老不死という事も……知ってる」
神峰「!」
慧音が言った事を聞いた途端、妹紅の心に描かれた線は掻き消され、その心は必死に線の修正を行う。
妹紅「……へぇ、幻想郷縁起? そんなのがあるんだ? ……うん、知ってるなら別に構わないけど、あんまり言いふらさないでね?」
妹紅はそのまま「じゃあね」と言って歩き出して二人を通り過ぎ、慧音はその背中を苦笑しながら見送っていた。
慧音「ちょっと無愛想と思うかも知れないけど、以外と内気な人なんだよ。里に出てくるようになってからは里の人達と交流しようと努力しているんだ──って、神峰なら見れば分かるか」
神峰(あの人、オレが不老不死を知ってるって言われた途端、怯えながら越えられた線の修正をしてた……)
神峰(きっとその事で何かトラウマがあるんだ……、あんなに傷だらけになるほどの……。オレにもよく分かる。他人と逸脱してるって事がどれ程辛ェのか……)
慧音「どうしたんだ神峰? 何か妹紅に『見』えたのか?」
神峰「あの、慧音先生……、もしかしてだけど……妹紅さんと話す時……、距離……感じてねェスか……?」
慧音「……まあ、な……。だけど彼女の境遇を考えると、そう簡単に心は開けないだろう……」
神峰「……」
~~
~~~~~
これだけ。
慧音→妹紅は敬語にした方がよかったのかわからんかったのでここではタメ口で
プレゼントは彼女が欲しいです
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/乂 ミ\_
ノ彡ハj从爻<_
フハ{岦^岦 }爻 続き! 続きって言ったのか!?
/从 l_ 从\
/ -=ヽ`ニ´イニ \
二\ニト ┴イニ/二
|⌒l -=\\%/=-l⌒ヽ
入\ Yニニニ/ニニニフ/ |
辷_)|ニニニ|Οニニ7_彡
|匚[ヨ]〉ニニニ|ニニニニ|[E]コ|
厂丁(ニ;\ニ|Ο∠;ニ厂丁ノ
| 八 [二二二「E |二| / /|
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/ ∠二ニ二二/ ニニ/ニ=|ニ∧ニニ┘\ニニ \二\
~実験6日目~
永琳「概ね治りましたね」
本日の定期回診にて、神峰が完治したと永琳は判断した。それを聞いた神峰は、初日の不安もあってかホッと胸を撫で下ろす。
神峰「って事は実験は成功って事スか?」
永琳「そう判断するにはまだ事例が少な過ぎるわね。本来ならもっと人を集めてからいっぺんに診るつもりだったんだけれど、今回は神峰さんしか来てくれなかったし」
永琳「これからも被験者を募って観察していくしかないわね。……そうそう、一日余ったけど、この実験は薬の効果を観る実験だから明日まで観察させてもらうわよ?」
神峰「ええ、構わないスよ」
永琳「あと、治療の予後を診たいから、ひと月はウドンゲをあなたの家に向かわせる事になるわ。明日帰る時にウドンゲに場所を教えておいてくれないかしら?」
神峰「分かりました。つーかそんなにしてもらって……イイんスか?」
永琳「むしろ薬を服用した後に、何時何が起こるかはしっかり確認しないと。本当なら一ヶ月は観察したいのよねえ」
神峰「さすがにそんなに時間は割けねェス……」
永琳「そうよねえ……。だからアフターケアという形で、ウドンゲに観察を頼む事にしたの」
神峰「なるほど……」
……………
……
病気が治った事で一日フリーとなった神峰は、少しの制限はあるものの、自由に動ける許可を永琳から貰った。
制限とは言っても、輝夜や永琳の部屋及び、神峰が初日に通された診療室に近付いてはいけないといった事であるため、ほぼ自由に永遠亭内を移動出来る。が──
神峰「スゲェ暇だ」
竹林に囲まれた永遠亭には大した娯楽が無い。そもそも住人も輝夜に永琳に兎達と少なく、そのくせ屋敷は異様に広いのだ。
長い廊下や、襖で仕切られた多くの部屋。初めはその広さに好奇心を刺激されたが、屋敷を一周すると、満足したのか飽きたのか、自分には特にやる事が無い事を思い出して途方に暮れるのであった。
神峰「これじゃどうやって一日潰せばイイのか分かんねェな……。ここの人達はどうやって過ごしてんだ?」
神峰「八意先生は薬師だから言わずもがな……、鈴仙さんはその助手だし、てゐはほぼ竹林で活動……、ん? 輝夜さんは何やってんだ……?」
一人一人、自分の指を折りながら各人の生活を確認するが、輝夜だけは何をしているのかわからず、自分の持つ情報から意味不明な予想をする。
神峰「もしかしてやる事ねェから夜な夜な喧嘩しに出掛けてんじゃ……って、そんなヤンキー漫画みてェな展開あるわけねェか」
てゐ「アンタ、ウチの姫様の事何だと思ってんの?」
神峰「ヒッ!!?」
ビクッと飛び上がり振り返ると、てゐが溜息混じりに呆れた顔をしていた。
そんなてゐを前にして、神峰は慌てて弁解を試みる。
神峰「本気でそう思ってるワケじゃねェスよ!? ただ……輝夜さんはどんな生活してんのかなーって思って……! それと、何でお姫様なのに喧嘩なんてしてんのか理由考えてたらそうなっただけっつーか……!」
てゐ「うん、まぁ、本気じゃないってのは分かってるけどさ? それでもやんごとなき理由があるかもしれないのに、その答えはおかしくない? やっぱりアンタ、姫様の事、何だと思ってんの?」
神峰「すみませんでした!!」
てゐに「それはないわ」とばっさり切て頭を下げる神峰。
謝罪をした後に、何故てゐが自分の前に現れたのか、ふと気になって本人に訊いてみた。
神峰「……ところで、こんな所でどうしたんスか?」
てゐ「アンタが暇そうにしてるのを見かけたからね、暇つぶしにちょっとイイモノでも見せてあげようかなと思ってね。……興味があるなら案内したげるよ?」
神峰「……?」
……………
………
神峰「おおお!? スゲェ! 外の世界じゃ、こんなの絶対見れねェ! これ、オレなんかに見せても大丈夫なんスか!?」
少し怪しいと思ったものの、てゐに神峰を騙す気が無いことと、何より暇であったため、誘われるままに着いて来たそこは、物置のような部屋だった。
てゐはさらにその部屋の一角に神峰を案内すると、そこにある資料や物品を自由に見ても良いと言ったのだった。
てゐ「あー、大丈夫大丈夫。それ、ウチが毎年やってる月都万象展の展示品だから。見せるだけなら何も問題無いでしょ」
月都万象展とは、永遠亭で開かれた、月の都に関する物品や資料を展示したイベントである(東方求聞史紀、幻想郷縁起より抜粋)
要するに月の都博覧会である。
神峰「なんか先取りしてるみたいでちょっと申し訳ねェけど、でもこんな資料を見れるなんて役得な気分……」
神峰「残念なのは、この言葉が何て書いてあるのか読めねェ事か。小鈴ちゃんなら読めるかもしれねェけど」
てゐ「それは昔の月の言葉らしいからねぇ。お師匠様なら読めるだろうけど」
神峰「それにしても……外の世界じゃ、ようやく有人ロケットを月に打ち上げたってのに、その遥か昔に月ではこんなに文明が発展してたなんて、スゲェ……」
鈴仙「──どう!? すごいでしょ!?」
神峰「!?」
興味津々に資料を見ていた神峰の呟きに合わせて、突如部屋の襖をバンッと勢い良く開いて現れた、誇らしげに胸を張った鈴仙の大声に、神峰は思わず飛び上がった。
神峰「鈴仙さん!?」
鈴仙「やっと月の凄さが解ったようね。最初の時は生返事が多かったけど、資料のおかげで月がどれ程進んでいるのかイメージ出来るようになったかしら?」
神峰(もしかして……なんかスイッチ入ったっぽい……?)
神峰達の方へとドヤ顔で歩み寄りながら言葉を続ける鈴仙。
神峰がはしゃいでいたのは月の文明もあるが、何よりも外の世界では一生知る事の出来なかったであろう情報を見せて貰えた事が大きい。つまりロマンである。
そんな事を知る由も無い鈴仙は、神峰の見ていた資料を手に取ると、多少の補足をしながら説明を始めている。
てゐ(まあ……博覧会の時はあんなに出しゃばれないしね)
二人の心のすれ違いによる温度差を理解したてゐには、意気揚々と説明している鈴仙はさぞ滑稽に見えただろう。
神峰にとっても、いきなり鈴仙が自慢するように説明を始めた事には戸惑いを覚えたが、神峰が読めなかった資料について鈴仙の知る範囲ではあるが教えてもらえ、夜までの良い暇つぶしとなった──
~その夜~
永琳「それじゃあ、明日は昼の検査が終わったら人里まで送りますね」
神峰「はい。分かりました」
永琳「では私はこれで。おやすみなさい」
神峰「お休みス」
夜の検査が終わり、襖がパタンと閉じられて永琳が退室したのを見送った神峰は、すぐに明かりを消して布団の中へ入った。
前述した通り、神峰の把握している限り、永遠亭には娯楽が少ない。そのため、夜になると寝る事以外に特にやる事が無いのだ。
神峰「ふー……明日で最後か……。最初はどんなヤバい実験をやらされるんだろって不安になったけど、全然そんな事なかったな」
瞳を閉じて、この一週間を振り返りながら眠りに落ちていく。
そして完全に意識を手放し、日付けが変わったところで、不意に部屋の前を通る足音が聴こえて来た事で目を覚ました。
「姫様、今夜もお出かけ? こんなに短い期間に、また竹林に出るなんて珍しいね」
「そういう日もあるわ。……それに、あいつにちょっかいを出すのが私の仕事みたいなものでしょう?」
「いや、同意を求められても、私ゃ姫様の心中なんてお察し出来ませんけど……」
「そういう訳だから、行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
トントンと、再び足音が鳴り遠ざかる。
声と会話から察するに、輝夜とてゐだろう。
神峰(もしかして……またケンカに行くのか?)
両者のやり取りを聴いてそう判断すると、次に、どうしてお姫様がこんな夜遅くにケンカをしているのか、という疑問がどうしても気になってくる。
「さて、と……」
そこへ、輝夜を見送って、先ほどから神峰の部屋の前を動かなかったてゐが動きをみせた。
「起きているんでしょ? 神峰翔太」
神峰「!?」
突然の思いがけない呼びかけに、神峰はビクリと心臓が跳ね、そしておずおずと襖を開く。
神峰「分かってたんスか……?」
てゐ「兎の聴力を舐めちゃいけないよ? というか、あんたに気付かせるために、わざわざ姫様をこの部屋の前で捕まえたんだ」
神峰「なんでそんな事を……したんスか?」
てゐ「先日、姫様が面白くなりそうだと言ってたからね、本当にそうしてやろうかなって。ま、これから先は物見遊山なんて半端な気持ちでは見せられないし、赤の他人のあんたが軽々しく首を突っ込める事ではないんだけどね」
てゐ「それでも姫様の事を知りたいなら、連れてってあげるよ? 覚悟できる?」
神峰「……どうしてそんなに、オレを関わらせたいんスか?」
不自然なてゐの誘いに、その心を見て自分を関わらせたいと読み取った神峰は、その真意を問う。
てゐ「幸福を呼ぶ兎の妖怪の本分を、そろそろ全うしたいから……と言っても、姫様は別に不幸ではないし、あんたの病気も無事に治った。本当は心を掴むあんたの力を、真近で見てみたいんだよ。その相手に姫様達はうってつけなのさ」
神峰「そ、それだけの理由で?」
てゐ「それだけじゃないだろう? でなきゃあの覚に取り行って、地底から這い上がるなんて不可能でしょ。いやぁ、地獄烏に背負われて、覚と一緒に人里に降りて来た時は度肝を抜かれたよ!」
てゐ「だから、姫様の秘密とあんたの真髄の物々交換をしようかなって」
神峰「それあんた、何も支払う物無いスよね!?」
つい先ほど良い話っぽく語っていたのに、続く言葉で色々と台無しになった事で、神峰は緊張が緩んで声が大きくなった。
てゐ「ちょっと、声、もっと抑えて」
神峰「す、すみません……」
てゐ「それで、来てくれるかな?」
まるで悪巧みをするような、ニヤリとした笑顔で訊ねるてゐに対し、少し考えてから神峰は答えを出す。
神峰(理由はともかく、てゐはさっき、オレの真髄を見るために姫様達がうってつけって言ってたな……。つまり、輝夜さんか、そのケンカ相手のどちらか、もしくは両方の心に関わる必要があるって事……だよな?)
神峰(だとしたら、オレが関わる事で、それを改善出来るって事か? つまり、やっぱり輝夜さんのケンカは、何か問題が起きてるから引き起こされている……? 仲裁でもすりゃイイのか?)
神峰(──いや、オレが関わってなんとか出来るなら……! オレのトラウマを克服するためにも……!)
神峰は幻想郷に来てから、自分の目(能力)と向き合い、他者の心と向き合う術を手に入れた。
しかし未だに、他者の問題と直面したのはさとりの心以外には無い。人の心を良い方へ変える事が最終目標の神峰には、てゐの誘いを断るという選択肢は無かった。
神峰「オレを……連れてってください!」
てゐ「グット! あんたのお手並み拝見と行こうか」
ここまで。
ようやく「ああ、僕ソルキャっぽい話書いてるな」って実感しません?
そろそろ自分の限界を知って心折れますよ!
>>551
×ばっさり切て
○ばっさり切られて
乙
心に関わってこそのソルキャだもんな
俺もこういう展開のほうがハラハラもするけどわくわくするよ
金井淵を攻略する片手間に谺先生を攻略するとか神峰パネェな!
あと不覚にも歌林先輩が可愛いかった
あ、感想だけです
輝夜「助けてえーりん!」
永琳「バカ! 遅い!」
→月の使者皆殺し
始めます
……………
……
てゐ「そんなに警戒しなくとも、私から離れずに着いて来れば、襲われる心配は無いよ」
神峰とてゐは、夜の竹林を進んでいた。
昼間でさえ、どこを見渡しても同じような景色で方向感覚を奪う竹林が、夜になると、まるで獲物を竹林の奥へ、闇の中へと誘う様な不気味さに表情を変えている。
笹のざわめきすら、昼間とは違い、人の心に不穏な陰を落とすため、神峰は緊張した面持ちで辺りを見回してした。
てゐ「長生きしてるとはいえ、私も弱い妖怪だからね。こんな夜中でも、他の妖怪と遭遇しないように道を選んで歩いているから安心して良いよ」
神峰「そう言われても、メチャクチャ出そうなんだけど……」
てゐ「そりゃあ出るよ。幻想郷だもの。いつぞやは半生半死も出たからね」
神峰「それってもしかしてゾンビッスか!?」
半生半死という言葉に、神峰は腐りかけの身体を持つゾンビを連想して顔を青くする。こんな雰囲気のある場所で、そんないかにもな話を聞いたため、その状況が鮮明に想像出来てしまったのだ。
てゐ「いや、半人半霊だったかな? ゾンビの方は寺の墓地にでも行けば会えるんじゃない? まあ、どっちも変わらないね」
神峰「ソレ同じなのか……?」
両者の名誉のために説明すると、状態としては似ているが、見比べると似ても似つかない。
とりあえず神峰の警戒を解した事で、二人はさくさく目的地へ進んで行った。
……………
……
てゐ「そろそろだよ」
神峰「!」
目的地へ近付いた事を告げられ、神峰の身体は来る時とは違った緊張で強張る。
神峰(これからケンカの仲裁か……。どういう事情があるのか分からねェから、どう切り込めば良いのかさっぱりだ……)
神峰(さとりなら、すぐに事情を理解して収められるんだろうけど……ってのは無い物ねだりか。──声が聴こえる! いよいよか!)
おおよそ女同士が喧嘩する時のようなものではない怒声が神峰達に届く。
血塗れになる程だと知っていたため、キャットファイトとかいうレベルでは収まらないと予想していた神峰だが、足を進めて目に入って来たその光景は、その予想を遥かに超えていた。
そして、輝夜の喧嘩相手にも驚かされる事になる。
神峰(な!? あの人確か……妹紅さん!?)
神峰が捉えた人物は、その長い白髪をたなびかせ、輝夜に向けて爆炎を放っていた。その光景はもはや喧嘩というよりも──
てゐ「おーい、こっちこっち!」
神峰が釘付けになっていたところに、てゐが小声で草陰へと手招きする。
気付いた神峰も慌てて身を潜め、再び目の前の喧嘩を見ながら小声でてゐに話を訊く。
神峰「なあ、アレってもうケンカとかそういうのじゃなくて……殺し合い……じゃねェ……か?」
てゐ「そうだね。私達の次元から見たら全員がそう思うだろうね。だけど、二人にとってはソレさえもケンカの内らしい。なんせ死なないからね」
神峰「は!? 不死身だからってケンカであそこまでやるか普通!?」
てゐ「あの二人の間にはいろいろあったみたいだからね。ま、その辺はアンタのチカラに期待するよ」
輝夜も妹紅も、すでにボロボロだ。服も肌も、破れ、血に塗れ、煤けている。
しかしその傷はすぐに再生して、不毛とも言える闘いは続く。
妹紅「らあああああああああ!!」
妹紅が輝夜に組み付き、その手から火を放つ。おまけにヘッドバットをかまして、仰け反った輝夜の顔面を、火を纏ったままの右手で殴りつけた。
輝夜「っ痛~~~……。熱んだから……離れなさいよ!」
妹紅「ゴフッ!?」
鼻血をボタボタと流して文句を言いながら、未だ自分を掴む妹紅の左手首を掴み、握り潰してから引っ張り、カウンター気味に妹紅の胸部正中を拳で撃ち抜いた。
輝夜の攻撃で折れた肋骨が内臓に刺さり、妹紅は血を吐きながら前のめりに倒れる。
輝夜も握り潰した妹紅の手を離し、服に引火した火を消すために地面を転がる。
妹紅「はぁ……はぁ……、苦しいんだから……肺を潰すとか……止めてくれない……?」
輝夜「あんたこそ……肌を焼くなんてやらしい攻撃、いいかげんにしてよね?」
両者とも回復しながら起き上がり、再び対峙して臨戦体制に入る。
神峰「……こんなの意味が無ェ……。早く止めさせた方が良い……」
てゐ「おっと、まさか割って入ってケンカを止める気? 今行っても……確かに二人とも止まるだろうね、今回だけは。でも、あれに巻き込まれたらアンタ、ほぼ確実に死ぬと思うよ?」
てゐ「まさかこの場を収めるためだけに死ぬ気かい?」
どんなに傷を負っても再生し、一向に決着しない争いに耐えかねた神峰が、今にも身を乗り出しそうに身体に力を入れた。
しかしてゐはそんな神峰を諌める。
神峰「だってそのためにオレを連れて来たんだろ!?」
てゐ「勘違いしてもらっちゃ困るんだよね。二人の喧嘩を止めるってのは、あくまで手段だ。私の目的はあんたの真髄だ。考え無しに出て行かれて、死なれたら困るんだよ」
てゐ「ウチの依頼中に死なれるのも、永遠亭の評判を落とす事になるしね」
神峰「~~っ!」
てゐ「どうせ何百年もやってるケンカだ。収まるのを待ってから出て行けばいい。それまで頭を冷やしながら見てなって」
てゐの言う事にも一理ある。それに、あまり無謀な事をして永遠亭へ迷惑をかける訳にもいかないと思った神峰は、渋々言う事に従い二人の様子を窺った。
神峰(そういえば……あんなに他人との関わりに線引きしてた妹紅さんの心……、自分が描いてきた線を踏み越えてまで、輝夜さんに詰め寄ってる)
神峰(傷だらけのはずなのに、傷つかないために取った距離なんじゃねェのか……? そこまで輝夜さんの事が嫌いなのか……?)
神峰(対する輝夜さんの心は──少し楽しそう……か? その反面、妹紅さんを哀れんでる気がする。妹紅さんに対して、笑顔と哀れみの表情が向けられてるな)
神峰(この二人、一体何があって今の関係なんだ……?)
神峰が二人の関係に頭を悩ませていると、いよいよ終わりの瞬間が訪れる──
妹紅「はっ!」
妹紅が輝夜を焼き殺さんと目の前に炎を広げる。
輝夜「くっ!」
妹紅「ゥガッ!?」
しかし輝夜はお構い無しに炎の中を突き進み、炎から抜け出した腕が、妹紅の首を掴んで一気に力を加える。
妹紅も苦悶の表情を浮かべて抵抗しようとするが──
妹紅「ッあ──」
神峰「うっ……!」
そのまま、先ほどの左手と同じように妹紅の首を握り潰した。
ボギッと嫌な音が聴こえて、支えとなる骨が折れた事で、妹紅の首が有り得ない方向へ垂れ下がるのを見た神峰は、顔を真っ青にしながら小さく呻き、目を逸らすように俯いた。
その直後、妹紅の身体が爆発し、その爆炎が人型を型取りながら集まっていく。
余った炎はまるで火の鳥のように人型の背後へ纏わり、その人型を宙へ浮かべる。
輝夜「今回は私の勝ちで良いかしら?」
妹紅の爆発によって吹き飛び、仰向けに倒れたまま、肘から先が無い自身の右腕を再生させながら、輝夜は人型へ向かって言葉を放つ。
輝夜から言葉をかけられた人型は、直ぐに傷一つ無い妹紅の姿となる。その表情は不機嫌そうである。
妹紅「……チッ、今日はもう帰るわ」
そう言って妹紅が輝夜に背を向けた瞬間、てゐの耳が一瞬ピクリと反応して、即座に行動を起こす。
てゐ「ここだ! 行け!」
神峰「え?」
てゐに背中をドンと突き飛ばされた神峰は前方へとバランスを崩して、草陰から抜けた後もバタバタと数歩、止まらずに前進して両者の前へ表れた。
神峰「あ」
輝夜「あら、見てたの?」
妹紅「……は……?」
乱入に気が付いた妹紅も、振り返り、神峰を視界に捉えると、呆けて目の前の事態の理解に努める。
そして表情に浮かぶ、動揺と不安。
妹紅「あ……あんた……、み、見たの!?」
神峰(!?)
神峰の『目』にはさらに、身体を震わせてうずくまり、妹紅に付いていた傷が開き、血が流れ出す光景が『見え』た。
神峰「ぐあっ……! あんなの……『見』られねェよ……!」
今にも張り裂けそうな妹紅の辛そうな心を見て、汗を滝の様に流しながら両手で目を覆う神峰。苦しむ妹紅の心を『見』たというのもあるが、自分が彼女のトラウマを刺激したという事がショックであった。
妹紅は酷く動揺し、その間に逃げる様に飛び去って行った。
輝夜「大丈夫?」
妹紅が去った後、未だ仰向けのままの輝夜が神峰に声をかける。
輝夜が口を開いた事で、呆然としていたてゐも我に帰る。
神峰「ええ……はい」
神峰「……あの、輝夜さんと妹紅さんの間には……何があったんスか……? 教えてもらう事って、出来ない……スよね?」
輝夜「……」
息を乱しながらも落ち着いた神峰は、教えてもらう事は出来ないだろうと思いながらも事情を訊ねる。
訊ねられた輝夜はというと、目の前の笹の拓けた部分から見える星空を見つめ、やがて口を開いた。
輝夜「疲れたから、おんぶして」
……………
……
輝夜「私達の事を知りたいなら、それなりの覚悟を持ちなさい」
神峰「!」
輝夜「少なくとも、あいつに心を許される程度にはなって貰わないと困るわ。……そして中途半端に関わって逃げる事は許さないわ」
輝夜を背負って帰路についていると、おもむろに輝夜が切り出した。
輝夜「……あれを見られた以上、もう逃がさないけどね?」
神峰「お願いします……!」
輝夜「……他言無用よ。妹紅はね、竹取物語の登場人物でいう、車持の皇子の娘なの」
言いながら、輝夜は左腕の袖から「蓬莱の玉の枝」を取り出した。
輝夜「私が彼の求婚の際に出した難題が、蓬莱の玉の枝。あの人はそれを、偽物を用意する事で果たそうとしたわ。結局、鍛冶屋に取り立てられる事でバレたけどね」
神峰「もしかして……それがその時持って来た……?」
輝夜「え? 違うわよ? これは本物。当時、私が唯一持っていた宝物ね。あの時は鍛冶屋が来てくれなかったら、何で本物を持っているのか言い訳をしなくちゃいけなかっただろうから助かったわ~」
神峰「……そうスか」
輝夜「ま、今も昔も、本当に持っているのはこの枝だけなんだけど」
それから輝夜は、車持の皇子が落ち目になった事、翁に渡した不死の薬が妹紅に盗まれた事、幻想郷で妹紅と出会った事を話した。
輝夜「──要するに、私はあいつの復讐に付き合ってあげてるの。と言っても、やられっぱなしじゃ癪だから、私の方から刺客を送ったり殺しに行ったりしてるのだけど」
神峰(自由過ぎだろ……)
輝夜「でもね、ふと思ったのよ……。死なないという性質上、きっとあいつはとり残されて、ずっと独りなんだろうって。私の側には永琳が居たし、あいつの事なんて全然気にしてなかったんだけど……、死なないってどうしても暇でね」
輝夜「妹紅は地上人から蓬莱人になってるから、不老不死を"死ねない"と捉えていると思うわ。この辺は月人との違いよね。……妹紅は多分、死ねない事の逆恨みを私にぶつける事で孤独を紛らわせているんじゃないかしら?」
輝夜「だから私はね、そんな生き方をして、心は地上人のままの妹紅を、損な生き方をしてるあいつを、蓬莱人(わたし)にしてあげたいって思ってるの」
輝夜「そうすれば、きっと良い遊び相手になってくれるわ。あいつも孤独感から開放される。……手伝ってくれるかしら?」
神峰「……」
輝夜の話を聞いて、神峰は小さな違和感を覚える。輝夜の推測と、自分が『見』たモノに食い違いを感じたからだ。
神峰(そうなのか……? 確かに、他人と距離を取ってるし、輝夜さんに対しては、線引きを無視して詰め寄る程の何かを心の中に持ってるけど……、あの心を見ると、とても恨みをぶつけているようには思えねェ……)
神峰(むしろ、わざと因縁をつけて嫌われに行ってるような……って、どう違うんだ? )
神峰(……ああ、そうか。恨みが解消されてる様子が無ェからか)
神峰「……オレも、妹紅さんの事はどうにかしてやりてェって思ってるんスけど……輝夜さんの手伝いをするかは、もう少し待ってもらえないスか?」
輝夜「……どうしてかしら?」
神峰「妹紅さんは、あんたに恨みをぶつけてるって……そんなに思えませんでした。それがどうしてかは分からねェスけど……、でも、きっと妹紅さんにも何か目的があるんじゃねェかって思うんです」
神峰「その鍵になるのは、多分輝夜さんだ。妹紅さんのために、むしろオレに協力してはくれないスか……?」
輝夜「……妹紅に逃げられたあなたに出来るのかしら? あいつの生きて来た千年、きっと重いわよ?」
輝夜「それでも、やるの?」
神峰「はい……!」
神峰の返事を聞いて、輝夜はふうと息を吐いた。そして一層力を抜いて、神峰にもたれかかって体重をかける。
輝夜「そういうの、嫌いじゃないわ。良いわよ、あなたを試してあげるわ。……あなたが失敗しても、私には沢山時間があるしね」
神峰「ありがとうございます!」
輝夜の協力を取り付け、三人は永遠亭へと戻った。
戻って永琳と鉢合わせた神峰とてゐは、その後永琳から厳重注意を受けた。
─────
──
【最終日】
永琳「これで最後ね。帰る準備が出来たらウドンゲに声をかけて下さい」
昼食後の診断が終わり、実験の暫定的な終了が告げられる。後は神峰の準備が終わり次第、帰るのみだ。
神峰「あの……」
永琳「何ですか?」
神峰「オレ達みたいな人間と蓬莱人って、どう違うんスか……? 妹紅さんの蘇り方を見てたんスけど、明らかに人とは違うっつーか……」
神峰の脳裏に、炎の中から蘇る妹紅が浮かぶ。
永琳「……私の知る範囲で教えますが、人間はその存在を、自らの肉体に重きを置いて存在しているの。だから致命傷を負うと生命を脅かされます」
永琳の話を聞きながら、神峰は頷いて先を促す。
永琳「因みに、妖怪は精神に存在を依存しています。基本的に自分の在り方さえハッキリしていれば、その姿も性別も自由らしいわ。致命的な外傷を負っても、心が無事なら生き延びる事が出来るみたい。精神に攻撃出来るサトリ妖怪が恐れられるのは、その辺も関わっているみたいね」
神峰「!」
最後の言葉を、意味深な眼差しと共に神峰に向ける。
神峰「知ってたんスか……?」
永琳「外の情報はイナバを頼っていますから。……それで、命を肉体に依存するのが人間で、精神に依存するのが妖怪なら、蓬莱人は一体何に依存してるんでしょうね?」
神峰「へっ?」
突然の永琳の質問に、素っ頓狂な声を出す神峰を見て、永琳は微笑んでから話を続ける。
永琳「どんな傷を負っても、身体が欠損しても再生し、でも妖怪ではない。蓬莱人という存在は、自分の魂が無事なら、その身を焼かれても、どんなに身体を失っても、心を壊されても生き返る事が出来る、魂に依存した存在なの」
永琳「あなたは彼女の心を開いて、千年を飛び越えて、その魂を掴む事が出来ますか? 心を掴む、神峰翔太さん?」
神峰は永琳の口から出て来た言葉に驚き、目を見開いた。
神峰「そこまで知ってるんスね……」
永琳「耳だけは良いですから。外来人は注目されるものですよ。とても興味深い能力だわ」
永琳「……それで、簡単に説明したけど、満足出来ました?」
神峰「はい。ありがとうございました」
……………
……
鈴仙「へぇー、立派な家に住んでるのね。一人暮らし?」
神峰「ちょっとした手違いで……」
人里に帰り着き、自宅へ案内して鈴仙から零れた感想に、神峰は引きつった顔で返す。
「あーーー! お兄さんが女の子連れ帰ってる!」
神峰鈴仙「「はぁ!?」」
そこへ、玄関が開かれ、神峰を確認した燐の大声が響き、神峰と鈴仙がハモった。
鈴仙「っていうかアンタ、神社の飼い猫じゃない!」
神峰「なんでウチに居んの!?」
燐「いや、留守番任されたし」
神峰「そこまで頼んでねェよ!?」
燐「お兄さんのペットとして、しっかり留守は守ったからね!」
神峰「飼った覚えもねェし!」
鈴仙「あのぅ……用も済んだし、もう帰っていい?」
神峰と燐がコントを繰り広げている所に、おずおずと鈴仙が割り込む。
神峰「あっ、スミマセン……。あざした!」
手を振ってから踵を返し、通路を歩いて行く鈴仙の姿はやがて見えなくなった。
……………
……
燐も地底へ帰ったところで、神峰は久しぶりに町へと繰り出した。買い出しが主な目的であるが、妹紅の事ばかり考えていたので、その気分転換も兼ねている。
しかし神峰の頭は妹紅の事ばかり浮かんでしまい、近くのベンチと思しき椅子に腰掛ける。
そのため、昼間だというのに、異常に人通りが少ないという違和感に気がつけなかった。
神峰「はぁ……」
神峰(あんな心を見ちまったら、メチャクチャ妹紅さんに会い辛ェ……。またトラウマに触れて傷付けるのか? そもそも何があの人の傷を開いたんだ……? 殺し合いを見られたからか──?)
神峰が首を垂れて考え事をしていると、その視界に何者かの足か入り込んで来た。
その足は、神峰に向かい合うように位置し、更に神峰の頭上から少女の声がかけられた。
「ずいぶんと難しい顔をしていますね、神峰翔太さん?」
神峰「え……?」
顔を上げると、そこには見知らぬ少女が立っていた。
妙にゴツイ帽子を被り、緑の頭髪、前髪は片方だけ長く、殆ど記憶に無いが、こんな髪型の人が、通っていた高校に居たかもしれないと思った。
更に視線を下げて行くと、その胸元には鏡が。
神峰(……鏡?)
鏡の中の自分のと目が合った瞬間、鏡に映る景色が変化して、神峰に、自身の今まで歩んで来た人生を突き付けた。
神峰「ぐあああ!? や、止めてくれ……!」
その殆どがトラウマと言える神峰の人生を再生されて、汗と涙を流して両目を覆い、止めてくれと懇願する。
これが、閻魔の持つ浄玻璃の鏡の力である。
「そう簡単に、閻魔たる私の心を見ようなどと思わない事ね」
目の前の少女が、胸元に鏡を掲げたまま言葉を発する。
神峰「……え、閻魔……?」
映姫「初めまして、神峰翔太。私がこの幻想郷の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥと申します。……貴方には言いたい事が山ほどあるわ」
神峰が再び映姫に顔を合わせると、映姫はキリッと顔を強張らせて神峰を指差す。
神峰「な、何を……」
映姫「貴方はその能力で人の心を良くしたいと思っているみたいだけど、その殆どが空回っているみたいね。そもそも、貴方は人の心との関わり方が下手過ぎます。何の背景も説明も無く、ぽっと出の貴方が見たままを伝えたところで、誰が話を信じるというの? ──そう、貴方は人の心に対して鈍感すぎる。心が見えるせいで、目に見える事ばかりに意識を取られ、見えない所を慮る事が出来ていない。貴方はもっと、心に対して思慮深くならなければならない。でなければ、いつまでも人の心をいたずらに掻き回してしまうわ。小さな親切、大きなお世話です! 本当に何とかしたいのならば、貴方の行いに最後まで責任を持ちなさい! それが、貴方が出来る善行よ。……今の貴方は、地獄行きが確定しています。少しでも減刑したいのならば、これからの人生、善行にその命を賭しなさい」
浄玻璃の鏡でショックを受けてシュンとした神峰は、突如始まった説教を、ただ聞き入れるのみだった。
映姫の言う事は正しく、神峰はどんどん小さくなっていく。そんな神峰の姿を、建物や物陰に隠れた人々は、遠目から見守る事しか出来なかった。
……………
……
神峰「えらい目に遭った……」
説教から開放されてすっかり気が沈んだ神峰は、家に帰ると座布団の上に倒れ込んだ。
そのまま眠って明日を迎えようかと思ったが、真冬にそれはさすがに病気になるだろうと思って身を起こす。そもそも、まだ日も高いのだ。
起き上がって荷物を整理していた神峰のもとへ、ノックの音が届く。正直誰かと会う気になれなかった神峰だが、そんな気持ちを押し込んで玄関へと向かった。
神峰「はーい、誰スか?」
てゐ「やっ。災難だったね」
神峰「てゐ? なんでここに?」
どうやら映姫に捕まって説教されていたのを見ていたらしく、苦笑しながら話すてゐ。
てゐ「姫様からの伝言役を仰せつかったからね」
神峰「!」
てゐ「次の殺し合いにあんたを呼ぶから、それまでに策を練るなり準備しとけってさ」
神峰「……分かった」
伝言を聞いた神峰は、決意を込めて返事をした。
今回はここまで。
閻 魔 が 来 た
隙あらばリクエストを消化して行くスタイル
前回の投下で映姫まで出したかったんだけど、こんなに長くなっちゃったな……
>>564
本当はブチ切れた勇儀と和解したり、ラスボスにパルスィを攻略してから地上に出て最終回
とか考えてたんだけど結局出来ず終いよ(実力的問題で)
そういうソルキャっぽい話にしたかった。ソルキャライズってムズイ
乙
小さな親切、大きなお世話ってまさに閻魔翌様の事じゃ…
難航してるんで保守
オレ初心者なんで、戦闘描写とかよく分かんねェスわ
神峰(御器谷先輩……もうすぐ永遠亭編、終わりますよ……?)
神峰(最後はテンション高く、行きましょう!)
映姫「誰が御器谷忍ですか!」カッ
神峰「スミマセッ……!!」
なんとかGW中に出来上がりました
てゐに連れられて再び夜中の竹林を進み、永遠亭を目指す神峰。
辿り着くと、既に輝夜と永琳が外に出て待ち構えていた。
輝夜「───来たわね。あいつを何とかする策は、用意出来たかしら?」
神峰「……オレの一方的な意見で悪ィスけど、今夜の勝負……スペルカードルールでやってくれませんか?」
神峰の返事を聞いた輝夜は、頭上にハテナを浮かべて聞き返す。
輝夜「別にいいけど……どうして?」
神峰「この前の勝負を見て……傷が治るのに、蘇るのに殺し合いをしてるのが……不毛に思えて……」
不毛という言葉に怒りを抱かれないかと危惧して、神峰は冷や汗を流しながら、チラリと輝夜の心を窺うが、平然と話を聞いている様子に安堵して話を続ける。
神峰「死んで生き返って、どちらかが諦めるまで続く勝負よりも、ハッキリ勝ち負けの出る勝負の方がイイんじゃねェかって……思いまして」
神峰「それに……あんたも、妹紅さんにも、自分の命を軽く見て欲しくねェんス」
神峰が理由を話すと、輝夜よりも先に、輝夜の後ろに控えていた永琳が口を開いた。
永琳「同感です」
輝夜「えっ?」
永琳「彼女に刺客を送るだけならまだしも、姫自身が彼女と対峙する事には、やはり私は賛成出来ません」
永琳「姫が彼女の事を考えての行動だったので渋々納得していましたが、御自身を危険に曝す様な真似はやはり控えて頂かないと……。という訳だから神峰さん、藤原妹紅の事、期待してますよ?」
神峰「……はい!」
微笑んで神峰に今夜の勝負を託す永琳。噂通りに神峰が心を掴む事が出来るというのならばと、神峰に対して協力的な姿勢を示す。
そんな二人を永琳に小言を言われた事でジトリと見る輝夜が、拗ねたように口を開いた。
輝夜「まあ……、今回は貴方に協力している立場だから、貴方がどういうつもりかは知らないけど言う通りにしてあげるわよ」
神峰「よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げる神峰を他所に、輝夜は持っていた瓢箪をてゐに預けて竹林に向かって歩き出した。
神峰とてゐも輝夜に続いて歩き出す。
神峰「……その瓢箪は何スか?」
輝夜「うふふ。ナイショ♪」
─────
──
妹紅「……一体、どういうつもりかしら? 神峰……、輝夜ァ!!」
神峰「……妹紅さん……」
竹林の何処か。示し合わせた訳ではないが、自然と二人が出会い、戦うその場所で、神峰を視界に入れた妹紅はビクリと体を強張らせた後、輝夜を睨み付けた。
輝夜「どうもこうも、見ての通り見物客が居る訳だから、今夜は弾幕ごっこしましょう? 五本勝負でね」
妹紅「ハッ! 弾幕ごっこをしたいがためだけにそいつを連れて来たっての? どんな理屈よ!?」
輝夜「だって、一般人に殺し合いを見せるのって刺激が強いじゃない」
妹紅「……っ!」
輝夜に言われて言葉が詰まった妹紅は、気まずそうに神峰に視線を向けた。
妹紅「……神峰、この前の……見てたんでしょ……? どうしてまた来たのよ……?」
神峰(妹紅さんの心……あんなに遠くに見える……。さっきまで輝夜さんに食いついていたのに……。それが今のオレと妹紅さんの距離ってワケか?)
神峰(だとしたら何かおかしい。憎んでる相手との距離が誰よりも近ェのは何でだ? いや、むしろ妹紅さんの方から近づいて行ってさえいる)
神峰「妹紅さんに……これ以上、殺し合いをして欲しくないから……です」
妹紅「止めに来たっていうの? あんたには関係無いじゃない……。どうせ私は死なないんだし、何やってもいいでしょ……」
自嘲気味に言って神峰から目を逸らしながらも、妹紅の心はチリチリと燻っていた。
その二人のやりとりに輝夜が割って入ってくる。
輝夜「そういう事だから、今夜は弾幕ごっこをやるわよ。……それに、あんたと殺し合うのも飽きてきたし」
ドシュッ。
神峰(!?)
何かが突き刺さる音を聴いた神峰は、目の前で起こった事に驚いた。
神峰(傷付いた!? まさか……輝夜さんの言葉が妹紅さんの心を抉ったのか!?)
それは、輝夜の言葉によって傷付き、妹紅の心が痛みにうずくまる光景だった。
妹紅「飽きた、ですって……? あんたが勝手な事言ってんじゃないわよ……。そうやって何時でも誰もが、お前のワガママを聞いてくれると思うなッ!!」
激昂した妹紅は飛びかかり、輝夜に向かって手を伸ばす。
しかしその手は輝夜に届く事はなく、妹紅は突然目の前に現れた光の玉により吹き飛ばされて遠くへ倒れる。
輝夜「勝手な事とは言ってくれるじゃない、妹紅。だったらあんたの復讐心は、なんだっていうのかしら? あ、それと一回被弾ね」
妹紅「煩い!! お前は復讐されて当然の事をして来たじゃない!! これはその制裁だ!」
輝夜「……随分とまあ、逆恨みされたものね。私はただ相手の要求を断っただけで、何もしてないのに。というかどうしたの? ここ百年くらいはそんな事は言わなかったじゃないの」
輝夜が妹紅の態度に怪訝にしていると、神峰がゆらりと前に出て、妹紅を指差して口を開いた。
神峰「……あの、妹紅さん。本当に今も、輝夜さんの事……恨んでるんスか……?」
妹紅「───!?」
輝夜「……どういうこと?」
明らかに動揺した妹紅を見て神峰は続ける。
神峰「この前の戦いを見て思ったんスけど……妹紅さん、あんたからは輝夜さんに恨みをぶつけたいだとか、恨みを晴らしたいって気持ちを感じられませんでした……」
妹紅(な……!? なんであんたがそんな事……)
神峰「むしろ……わざと輝夜さんに嫌われるように突っかかってるように見えました……今みたいに」
妹紅(やめてよ……!)
妹紅の心に火が着き始めるが、その事が想像の裏付けとなり、神峰は口を止めない。
神峰「あんた、わざと輝夜さんに嫌われてまで、何が望みなんスか?」
妹紅「言うなッ!!! 煩い!!! その口を閉じろォ!!!」
妹紅は叫ぶと同時に燃え上がり、炎の羽を背負って上空へ飛んだ。そして何時の間にやら一枚の札を掲げている。
妹紅が飛び上がると、輝夜も追いかける様に飛んで妹紅と対峙する。
妹紅「あんた達のお望み通り、弾幕ごっこしてあげるからもう何も言わないでよ、神峰!」
輝夜「千年も生きた貴女が、たった十数年生きただけの人間にそこまで動揺させられるなんてね。そんなに人間離れした姿を見られた事がショックだった?」
神峰(違う! 確かにその事での動揺もあったけど、最も妹紅さんの心を揺さぶったのは輝夜さんの言葉だ……! やっぱり、妹紅さんは輝夜さんに何かを求めているのか? ……なら───)
神峰「悪ィスけど……、閻魔様に、お節介焼くなら中途半端に関わるなって言われてるんで、あんたの心を助けるまでずっと喋り続けますよ……!」
妹紅「~~ッ!! 意味わかんない! だったら、この勝負で私が勝ったらもう私に構わないで!!!」
ゴゥッと燃え上がった妹紅の心の炎は、多くの線が刻まれた地面を焼いて拡がり、寺の僧が修行で歩く様な燃え盛る大地を作り出した。
神峰(ぐあっちィ……! ……そんなに関わって欲しくねェなら、心を閉ざせばイイのに……、妹紅さんは近付かせないようにしただけ……?)
輝夜「随分と入れ込まれたものね。何があいつをそこまで執心させるのかしら? ……それはそれとして、楽しい楽しい弾幕ごっこを始めましょうか、もこたァァン」
輝夜に聞き慣れないあだ名で呼ばれた事でイラっと来た妹紅。
そのあだ名が引き金となったかのように、妹紅がスペルカードを宣言する。
妹紅「蓬莱『凱風快晴 ーフジヤマヴォルケイノー』!」
宣言した妹紅は、輝夜に向かってバスケットボール大の弾幕を放った。
輝夜はそれを躱し、大きく距離を取ると、先程放たれた弾が途中で停止し、破裂して赤い弾幕を拡散させた。
同様の弾幕を輝夜に向かって放つ妹紅はさらに、小さな弾の連なった三条の弾幕を、輝夜を狙って放出する。
輝夜「いきなりそれ? 本気で負かしに来てるってわけね……。でもまあ、種が割れてればこれくらい……っ!」
徐々に激しくなる妹紅の弾幕を、言葉を切って躱し続ける輝夜。
この勝負が、神峰にとって初めて見るスペルカードルールとなった。
神峰(辺り一面鮮やかな赤に染まって……スゲェ、マジで花火みたいだ……って、見惚れてる場合じゃねェ! 妹紅さんの心に近付かねェと!)
神峰「も───」
てゐ「あっぶなーーーい!」
神峰「痛ーーー!?」
気を取り直して声を出そうとしたが、てゐの体当たりをくらって地面を転がる神峰。さらにてゐに引き摺られ、弾幕の薄くなる場所まで避難させられた。
てゐ「あんたさ、流れ弾には気をつけなよ? 弾幕ごっこやってる所には近付くなって覚も言ってたでしょ!」
神峰「あ、ああ……サンキュ……」
てゐ「───さあ、あんたの能力を見せておくれよ?」
神峰「ああ!」
てゐにバシッと背中を叩かれて改めて気を取り直した神峰は、上空を見上げて妹紅を見据えた。
神峰「妹紅さん! あんた本当は寂しいんじゃねェのか!?」
妹紅「んなっ───!?」
輝夜「あらぁ~?」
地上から投げかけられた言葉に、妹紅は顔を紅潮させ、輝夜は意地悪くニタリと笑った。
神峰「だからあんたは、傷だらけなのに心を閉ざさずに! 関係に線引きしてまで人と関わってんだろ!?」
神峰(慧音先生が言ってたな……妹紅さんは───)
~~~~~
~~
慧音「妹紅の過去は、およそ300年区切りで変遷している」
慧音「蓬莱の薬を飲んで最初の300年は人間に嫌われて、身を隠さないと周りに迷惑をかけるという哀しい日々だったそうだ」
神峰「……」
治験から帰って来てから神峰は、慧音に頼み込んで妹紅について教えてもらった。
その内容は、他人事とは思えずに初っ端から神峰に重く伸し掛かった。
慧音「その表情を見るに……お前も似たような体験をしていそうだな」
慧音「まあ、不老不死というのは全人類の憧れのようなものだし、妹紅に対する嫉妬や、異物を見るような嫌悪も相当なモノだったのだろう……」
神峰「うっ……!」
神峰(想像しちまった……! 妹紅さんはそんなのから、ずっと逃げ続けなきゃいけなかったのか!)
慧音「大丈夫か、神峰? 汗びっしょりだぞ?」
神峰「大丈夫です……。それより、続きをお願いします……!」
慧音「……次の300年、この世の恨みを晴らすように妖怪退治に明け暮れたらしい。八つ当たりで自己を保たなければ、きっと潰れてしまったんだろう……」
慧音「そしてその次の300年、無差別に妖怪退治する事に物足りなさを感じて、無気力に生きていたそうだ」
神峰「……オレと、同じじゃねェか……」
傷付いて、やさぐれて、諦めて。
妹紅も自分と同じ道を辿っていた事に、神峰の口から小さく声が漏れた。
慧音はその呟きを聞こえなかったフリをして、僅かに悔しそうな顔をして話を続ける。
慧音「そして幻想郷に辿り着き、今に至る。……これが、私が知る妹紅の歴史だ」
神峰「ありがとうございます……」
慧音「神峰……、妹紅をどうにかするつもりなら、私からもどうか頼む……。恥ずかしながら、私には出来なかったんだ……」
神峰「……何言ってんスか……。幻想郷に来てからの妹紅さんを守って来たのは、あんたじゃないスか」
慧音「!」
神峰「オレも、慧音先生にはスゲェ助けられました。……先生はもっと堂々としてた方が、らしいと思いますよ!」
慧音「はは……、そうか。───だったら、妹紅の事、任せるぞ!」
~~
~~~~~
神峰(妹紅さんの傷は、疎外感と孤独感だ……! 最初の300年間で心に根付いたその恐怖が、ずっと他人から距離を取らせていたんだ!)
神峰(だからこの前の殺し合いで、オレに生き返る所を見られた時に、当時の怖れが押し寄せた……)
輝夜「あらあら? まさか独りぼっちが寂しいから、私に構って欲しくてちょっかいかけてたの? 以外と可愛いトコあるじゃない、もこたァァァァン!」
妹紅「う、うるさいっ! 適当な事言わないでよ神峰! あと、変な呼び方するな輝夜!!」
顔を真っ赤にした妹紅は、眼前で煽る輝夜に向けて弾幕を放つ。
輝夜はそれを上手に躱すが、その流れ弾が神峰へ向けて飛来する。
輝夜「あ」
神峰「へ?」
てゐ「馬鹿! 逃げるか伏せるかしろ!」
てゐの叫びでようやく体を動かし始めた神峰だが、流れ弾は破裂し、広範囲に弾幕をばら撒いた。
輝夜「くっ! 神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』!」
輝夜は慌ててスペルカードを宣言すると、五色の弾幕と全方位に飛んで行く光の槍が、妹紅の紅い弾幕をかき消す。
神峰「……!? た、助かった……?」
輝夜「ふー……危ない危ない。ちょっと妹紅、一般人を巻き込んでどういうつもりよ?」
妹紅「……これからはそいつを守って戦いなさい。出来なければ今すぐ撃墜されて……、もう私に関わるな! 神峰!!」
神峰「!」
輝夜「あんた……そこまで……。──ふん、やってやるわよ!」
神峰(オレの行く手を阻む拒絶の炎……! だけど引き下がれねェよ……! 慧音先生から任されたんだ……! 閻魔様から命賭けろって言われてんだよ!!)
上空では再び弾幕が張られ、神峰の『目』の前には燃え広がる大地。神峰は妹紅の心に近付くために、拳を握り締め、焼け焦げる事もお構いなしに一歩を踏み出した。
神峰「なんであんたは……!」
神峰「そんなに拒絶されるのが怖ェんスか!? だったら何で距離を取ってまで人と関わる!?」
神峰「それが寂しさだろ!? 自分でも分かってんだろ!? その心に沢山刻まれてるじゃねェか! だったら手を伸ばせよ!! あんたを心配してる人達に!」
妹紅「うるさい……! 私の心(なか)に入って来ないでよ……っ! 何も分からないクセに、私の心に踏み込むな!」
神峰「分かります!」
妹紅「はぁ!?」
神峰「幻想郷の住人は、以外とオレや妹紅さんみたいな人……多いんスよ? 辛い現実に苦しんで、全て諦めて、逃げ出した人達が」
神峰「でもあんたは! そこからまた誰かと繋がりを求めて、自力で歩き出したじゃねェか! スゲェよ尊敬するよ……。オレはさとりに助けられなきゃ無理だった……」
妹紅「普通の人間が、老いる事も死ぬ事も出来ない私と同レベルだとでも思ってんの……? 私の苦しみを理解出来ると思ってんの!?」
輝夜「このっ……!」
明らかに神峰を狙った弾幕を、輝夜は庇いきれずに被弾する。
神峰「……分かりますよ。普通の人間じゃねェし、……この目のせいで、人の苦しみは誰よりも分かります」
神峰「あんたの心がそんなに痛々しいから、ほっとけねェんだ!」
妹紅「まさか……、さっきから意味の分からない事言ってると思ったけど……心が、見えているの……!?」
そのタイミングで一枚目のスペルカードの時間が切れて、辺りの弾幕が消滅する。
妹紅の口から出た言葉に半信半疑だった輝夜とてゐが神峰に目を向けると、神峰は黙って頷いた。
輝夜「!!」
てゐ「!?」
妹紅「……そう、嫌われ妖怪と同じ能力なら、さぞ嫌われたんでしょうね。───『パゼストバイフェニックス』」
神峰に妹紅の苦しみが分かるのと同じように、妹紅もその体験から、神峰がどれほど拒絶されたのかを想像して、怒りが消沈しながらも二枚目のスペルカードを宣言した。
すると妹紅の身体が焼失して、纏っていた火の鳥が輝夜に取り憑いた。
神峰は突然消えた妹紅を探すために辺りをキョロキョロと見渡す。
神峰(妹紅さんは!? 地面の炎が消えた途端に見えなくなった!?)
輝夜「このスペルは魂の状態でも移動出来るという蓬莱人の特性を利用した、嫌らしいスペルよ。こちらの攻撃が効かないから、ひたすら避け続けるしかないわ」
輝夜の説明が終わると同時に、取り憑いた両翼から光の玉が設置される。
輝夜は神峰に弾幕が届かないように移動しながら、光の玉が破裂して出てくる弾幕を避け始める。
神峰(あれ程オレに向いていた炎が鎮火した……? オレが踏み込んだこの領域は……きっと妹紅さんの無気力と遣る瀬無さだ)
重苦しく薄暗い風景と、鎮火した跡から立ち昇る煙。そんな殺風景な場所から、妹紅の心の中心を目指して神峰はさらに歩を進める。
神峰(恐らく、オレの能力を聞いてから思い出しちまったんだ……。人に疎まれて生きる意味を見失った時の気持ちを……)
神峰「オレにも分かりますよ……。周りに怖がられたり気持ち悪く思われて孤立する気持ちが……。どうしてオレだけこんな目にって思いましたよ……。あんたもそうでしょ?」
妹紅(……そうよ。どれだけ妖怪に当たり散らしても、気を紛らわせても、その思いが消える事は無かったわ───)
神峰「───でも、一人じゃなかったろ」
妹紅(……?)
神峰「"自分だけ"じゃ、なかったでしょ?」
妹紅(!!!)
神峰(自分だけじゃないんだ。オレは幻想郷に来て、似た能力を持つさとりと会えたから、立ち直る事が出来た。苦しみを共感出来る相手が居たから頑張れた。妹紅さんが心から近寄る事が出来るのは……輝夜さんも不老不死だったからだろ……?)
神峰「オレは幻想郷に来てさとりと会えたから、今ここに立ってんだ。耐えられなくて自分から潰しちまったヤツもいるけど……あんたにはそれさえ出来ない……」
神峰「だけど自分と同じ人……目の前に居るじゃねェスか……!」
神峰「だからあんたは輝夜さんと殺し合いをしてまで、輝夜さんに"何か"を求めてたんだろ……?」
妹紅(その通りよ……。でも仕方ないじゃない……あんたはああ言ったけど、輝夜に対する憎しみは、まだ消えてない)
神峰「オレも、慧音先生も、あんたの事を心配してるんだ……。それでも手を取れねェなら、輝夜さんに手を伸ばせよ! 自分を理解出来る人が復讐の相手で葛藤してる事なんてお見通しなんだよ!」
神峰「それでも独りが嫌なら、勇気を出せよ! 確固たる意志を持てよ!」
神峰(妹紅さんには輝夜さんが必要だから、輝夜さんが協力してくれている今この時になんとかしなくちゃいけない。輝夜さんが気まぐれで中途半端に関わっている間に、───徹底的に関わって貰います!!)
神峰「───輝夜さん!」
現在の輝夜の状況は、連射される鱗の様な弾幕に狙われながらも、神峰のもとへ流れ弾が飛ばない様にコントロールしながら躱している所だった。
輝夜(人一人庇いながら戦うだけでこんなに難易度が跳ね上がるのね……。なんか呼ばれた気がしたけど、よく分からないからボム撃っとこ)
輝夜「神宝『ブディストダイアモンド』!」
輝夜の前方180°に光の玉が展開され、そこから何条ものレーザーが乱射される。さらに星型の弾幕が降り注ぎ、妹紅の弾幕を薙ぎ払う。
妹紅(神峰も輝夜もなんなのよ……! そんな意志が持てたなら、こんなに苦労しないわよ! 不老不死になった1300年間で、とっくに削れてしまったわ……)
神峰「輝夜さんだって、あんたの事心配してんだよ!」
妹紅(なん───!?)
輝夜「ちょっとちょっと! 何言ってくれてるの!?」
神峰「言ってたじゃねェスか、損な生き方をしてる妹紅さんをどうにかしたいって」
輝夜「確かに言ったけど、それは蓬莱人としての生き方云々の意味───!」
慌てふためき取り繕う輝夜は、その言葉を最後まで発する事が出来ずに、妹紅の弾幕に被弾した。
その直後、スペルカードが時間切れとなりリザレクションして妹紅が姿を現す。
妹紅「輝夜……本当なの……?」
輝夜「けほっ……! ……あー、はいはい! 心配してあげてるわよ! これで満足!? 神峰! というか貴方どっちの味方なのよ!?」
信じられないモノを見るような妹紅に対して、神峰の協力者として、その通りだとヤケクソ気味に答える輝夜は、神峰に訴えるような目を向ける。
神峰「決まってるじゃないスか……。オレは輝夜さんと敵対した覚えはねェし、ずっと妹紅さんの味方スよ!」
妹紅「え───?」
神峰「輝夜さんもオレに協力してくれてるなら、妹紅さんの味方って事でイイんスよね?」
輝夜「あ、あんた……呆れて物も言えないわ……」
ニカっと笑いながら出てきた予想だにしない神峰の返答に、二人は愕然とした。
神峰「ほら、輝夜さんからも手は差し出されてるんスよ? 後はあんたの勇気次第です。理解者としてその手を取るのか、復讐の相手として弾くのか……」
神峰「もし、ここで復讐を選ぶなら……この勝負に勝って全て清算して、その手を取りましょうよ」
俯いて神峰の話を聞いていた妹紅は、ギリッと歯軋りして三枚目を宣言する。
妹紅「……っ! 『蓬莱人形』!」
妹紅と輝夜を囲うように走る赤と青の弾幕が、その軌跡に弾を残しながら輝夜の方へ、内側へと折れ曲がっていく。
その囲いはだんだんと狭まりながら、壁の様に残った弾が、輝夜の行動範囲を狭めていく。
神峰(鎮火した地面からまた炎が!! 火の鳥になって行く!? 妹紅さんの葛藤と困惑、やり場の無かった恨みが全部、輝夜さんへと向かってんのか!?)
煙を上げる地面から再び火が燃え上がったかと思えば、その火は集まり、火の鳥を象って輝夜へと飛んで行く光景を『見』た。
ふと気付くと、神峰に今まで飛んで来ていた流れ弾が無くなり、妹紅が輝夜にだけ狙いを定めた事を理解する。
妹紅「なんで今さら……そんな希望をチラつかせるのよ!?」
神峰「今さらじゃねェでしょ? 慧音先生から教えて貰いました。あんたの人生、300年毎に変化してんだって」
神峰「幻想郷に来てからとっくに300年経ちましたよね……? だったらいい加減、次の300年を始めませんか……?」
妹紅「そう簡単に変わる訳ないでしょ……。無責任な事を言わないで……!」
輝夜「あら、1300歳超えのお婆さんのクセに、いつまで子供みたいな駄々捏ねてるのよ? 歳をとっても心は若いままとでも言いたいの?」
妹紅「おば……!? あんたも人の事言えないでしょ! いい歳していつまでお姫様なワケ!?」
輝夜「わ、私は穢れを知らぬ月の民だったから、元から老いる事は無いもの!」
輝夜(というか地上に堕とされた時点で、千年とか誤差みたいなものだったし……)
神峰(なんか普通に喧嘩してる……)
ぎゃあぎゃあと喧嘩しながら弾幕ごっこをする二人に呆気に取られる神峰。
妹紅の目にはもう殆ど輝夜しか見えておらず、輝夜を撃墜するべく全力を注いでいるようだった。
そしていよいよ輝夜の行動範囲が小さくなって妹紅のスペルカードの残り時間が少なくなって来た時、輝夜もスペルカードを宣言した。
輝夜「まったく、少しは落ち着いて熱を冷ましなさいよ! 神宝『サラマンダーシールド』!」
輝夜を中心に、一つの軌道を鏡映しに廻る二つの赤い弾幕が防壁となって、妹紅の弾幕を阻む。
そのままタイムオーバーとなって何度目かの静寂が訪れる。
神峰(やっと……辿り着きましたよ、妹紅さん。あんたの傷だらけの心に……)
輝夜「冷静になって考えてみなさい、妹紅。こんなに周到に用意された転機、この期を逃すと二度と訪れないわよ? あんたの事だからこれまでの人生、流れに身を任せて生きて来たのでしょう?」
輝夜「ここは乗っておいた方が得だと思うのだけど?」
妹紅「そんなの分かってる……! だけど怖いんだから仕方ないじゃない!!」
妹紅「私を理解してくれた慧音と死に別れるのが怖い! 助けてくれる神峰と死に別れるのが辛い! 仲良くなれた人達と死に別れるのが嫌! また誰かに裏切られたくない! もう嫌われたくない! 誰の記憶からも忘れられたくない! 人と仲良くなってあんな思いをするくらいなら、今のままの方がずっといい!!!」
妹紅の心に辿り着いた途端に溢れる大量の涙と本音。
『見』えている哀しみの洪水に呑まれて沈み、神峰の息が詰まる。
神峰(これが……! 嫌われて拒まれ続けた妹紅さん300年もの間溜め込んだ、人と関わる事への恐怖と孤独の哀しみ!! オレが感じていたモノの比じゃねェ……!)
妹紅「『インペリシャブルシューティング』!」
四枚目を宣言した直後、楕円の粒で作られた輪状の弾幕が妹紅と輝夜の間の距離まで広がり一旦停止すると、まるで花が開くようにギザギザに広がる。
広がりきった弾幕の隙間から輝夜は輪の中へ入ると、再び弾幕が収縮して輪の形に戻り拡散する。
続けて第二波、三波と、輪の数を増やしていく弾幕を同様のやり方で躱していく輝夜。
神峰「……やっと、掴みましたよ……妹紅さん、あんたが輝夜さんに何を求めていたのか……」
妹紅「っ!」
第五波辺りで、輝夜は難しい顔をしながらスペルカードを宣言した。
輝夜「相変わらず……面倒な弾幕ね! 神宝『ライフスプリングインフィニティ』!」
輝夜の目の前に放たれたのは、真っ直ぐなレーザーがそれぞれ角度を変えて幾重にも重なり作られた輪。
そのレーザーによって妹紅の弾幕を消し、一先ず窮地を脱する。
神峰「あんたが本音を叫んでくれたおかげで分かった……。あんたは裏切られたくない、忘れられたくないから……、輝夜さんに自分の事を覚えていて欲しくて、裏切られても傷が少なくなるように、わざと嫌われるような態度をとってたんですよね……!?」
神峰「同じ不老不死である輝夜さんに、最初から裏切られないためにも、嫌われる事でその記憶に残ろうとしたんでしょう!? 輝夜さんに忘れられたら、本当に独りになっちまうから!!」
妹紅「……そうよ。仕方ないじゃない!? 輝夜の事なんて大嫌いで! だけど輝夜しか本当に理解出来る人が居なくて! 輝夜の側には永琳が居て! いつこいつの気まぐれで私への興味が失せてしまうのか怖くて……!」
妹紅「殺し合いに飽きたって言われた時は本当に辛かった……」
涙を流しながら叫び、神峰に当てられた胸中を吐露する妹紅。
憶えていてくれたらいいという儚い願いを叶えるために、嫌われ続けるという茨の道を選んだいびつな心理。千年に渡る歳月が、妹紅からそれ以上を望む心を削いだのだった。
輝夜「ぐっ……! だから、さっきから言ってるじゃない! あんたが手を伸ばせば、望みに手が届くの!」
着実に難易度の上がる弾幕に被弾しながら、妹紅の叫びを聞いた輝夜が口を出す。
輝夜「あんたの事くらい憶えていてあげるから! ここまでしてあげてるんだから、さっさと掴み取りなさい! 焦れったいわね!!」
妹紅「───!」
最高潮に難易度の高まった弾幕を目の前にして、力の限り大声を出したせいで目を力一杯閉じた輝夜は、呆気なく被弾する。
妹紅「輝夜……神峰……。うぅ……うぇっ、ありがとう……っ!」
ようやく伸ばされた手を掴んだ妹紅は、涙で震える声で感謝を口にした。
神峰(良かった……哀しみが引いて行く……。あれだけ引かれていた線も、全部波にさらわれてまっさらになっちまった……)
妹紅の心からも、哀しみの波が引いて、地面に描かれた線までさらわれていく光景を『目』にした。
───と、そのタイミングでスペルカードの効果が切れ、輝夜は泣き晴らす妹紅の目の前に立つ。
妹紅「輝夜……」
輝夜「───さあ、あんたのスペルカードはあと一枚、私の残機もこれでラスト。最後の勝負、私とあんたで……思いっきり喧嘩するわよ」
妹紅「!」
輝夜「あんたが過去の清算を出来るように、その元凶で相手してあげるわ……! ここできっちりケジメをつけなさい」
挑発するように笑いながら、輝夜は蓬莱の玉の枝を取り出した。
それを見た妹紅も、涙を拭って心を燃え上がらせる。
妹紅「望むところよ! 『フェニックス再誕』!」
拡散する弾幕と、纏っている火の鳥よりも小さな、火の鳥を模した弾幕が乱射される。
輝夜はそれを掻い潜り、妹紅の攻撃に小休止ができたタイミングでスペルカードを宣言する。
輝夜「神宝『蓬莱の玉の枝ー夢色の郷ー』」
輝夜の前方に、蓬莱の玉の枝から出て来た七つの光の玉が現れ、それぞれ赤橙黄緑青藍紫の七色の弾幕が放たれた。
輝夜自身も七色の弾幕を全方位に飛ばし、妹紅の弾幕とぶつかって相殺する。
神峰(スゲェ……まるで火の鳥が虹の中を飛んでるみてェだ……! )
目の前で煌びやかな光景が繰り広げられている中で神峰はもう一つの光景を『目』撃した。
神峰(妹紅さんの炎が傷だらけの心を包んでいく……!)
それは神峰の経験で言うなら、怒りや闘志といった状態に該当するが、妹紅の心は直ぐに炎を散らし……
───傷一つ無い、真っ黒な髪の妹紅が現れた。
神峰(あれは……昔の妹紅さん!? まさか不死鳥のように、炎の中から蘇った……?)
神峰が目を見張ると、意識が引っ張られる感覚に襲われる。
気がつくと、桜の散る知らぬ土地に立っていて、目の前に楽器を吹く妹紅の姿を捉えた。
神峰(!?)
そこで現実に引き戻され、妹紅の弾幕が輝夜に直撃する場面が視界に入った。
神峰(何だ今の!? 幻覚か……?)
輝夜「あーあ、負けちゃったわね……。あんたが神峰を狙うなんて卑怯な事しなきゃ、勝てたのに」
妹紅「う、うるさいわね……! っていうか、最後のアレ、あんたワザと当たってなかった?」
輝夜「はぁ? 気のせいでしょ」
勝負が終わり、口論しながら二人が神峰に近付くと、神峰に言葉をかける。
妹紅「はぁー……明日から人付き合いが変化すると思うとなんか恥ずかしいんだけど……どうしよう……?」
神峰「何か新しい事を始めてみる……とかどうスかね……? 楽器……とか」
妹紅「はあ? 何で楽器?」
神峰「いえ、人里にそういうチラシが貼ってあったんで……」
先ほどの幻覚からアドバイスをしたとは言えず、逃げるように輝夜へ視線を逸らした。
輝夜「───終わったわよ。って、どうかした?」
神峰「い、いえ! 何でも無いス! ……輝夜さん、オレに協力してくれてありがとうございました!」
輝夜「あら、お礼なんていいのよ? 私も貴方を、試すつもりだったから」
神峰「え?」
妹紅「は?」
輝夜の言葉に異様な雰囲気を感じ取った二人は、突然の事に呆けた声が出る。
輝夜「ねぇ神峰? 貴方言ったわよね、ずっと妹紅の味方だって。それっていつまで? 貴方が死ぬまで?」
輝夜「貴方が死んだら妹紅の味方はどうなるのかしらね? 私は妹紅の事を憶えておくけど、ずっと味方でいる保証は無いわよ?」
妹紅「な……何を言ってるの、輝夜……?」
輝夜「随分と大層な事を言ってたけど、それって果たして本気なのかしらねぇ? ……私に貴方のその覚悟を見せて頂戴」
神峰妹紅「!?」
冷たく言い放つ輝夜の側にてゐが寄り、預かっていた瓢箪を手渡した。
てゐ「悪いね、神峰。これは最初から決まってたんだよ」
妹紅「輝夜! その中身は……何なの!?」
輝夜は盃に瓢箪の中身を注ぎながら、妹紅の質問に答えた。
輝夜「───蓬莱の薬よ。本気でずっと妹紅の味方でいる覚悟があるなら、飲めるでしょ?」
それは、誰もが予想だにしない答えだった。
妹紅「なっ……あんた冗談はよしなさい! それはその程度の覚悟で飲んで良いモノじゃない!! いや、ヒトが飲むべきモノじゃない!!」
妹紅「神峰! 絶対に飲んじゃ駄目よ!!!」
神峰「……!」
神峰(輝夜さんの心……オレを真っ直ぐ見据えて……本気でオレを試している……!)
妹紅が必死に神峰に呼びかける中、輝夜が飲まざるを得ない状況を作るべく動いた。
輝夜「貴方がこれを飲まなければ、私は貴方が死んだ後に必ず妹紅を裏切るでしょう。……でも、貴方がこれを飲めば、ずっと妹紅の味方でいるわ。三人で永遠に楽しく生きましょう?」
妹紅「やめろ!! 神峰は心が見えるのよ!? 私が感じてきたものを、よりハッキリと見てしまう! そんな苦しみを永遠と与える気───!?」
妹紅が輝夜を説得するのを制して、神峰は輝夜の持つ盃に手を伸ばした。
神峰「妹紅さん……オレの事、マジで心配してくれてありがとうございます。スゲェ嬉しいス! ……でも、オレ覚悟出来てるんで。覚悟って、何があっても気持ちが揺らがないためにするモンだと思ってます……」
神峰「オレ、何があっても妹紅さんの味方だって決めましたから───」
妹紅「うそ……」
妹紅が止める間もなく、神峰は盃の中身をグイッと飲み干した。
それを見て呆然としていた妹紅の内側へ、フツフツと怒りと自責がこみ上げて、爆発した。
妹紅「輝夜ァァァアアア!!! あんたはまた! 人の人生を弄んで……! 一体何が楽しいの!?」
輝夜「神峰翔太。貴方の覚悟、しかと見届けたわ」
一気に飲み干した直後に、青い顔で意識を手放した神峰を慌てて受け止めながらそう呟いて、妹紅へ向き直る輝夜。
輝夜「安心なさい。蓬莱の薬じゃないから」
妹紅「───は?」
輝夜に掴みかかる妹紅の目の前に瓢箪を掲げてそう言うと、激情に飲まれていた妹紅は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
輝夜「ただのお酒よ。鬼と弾幕勝負して貰ったの」
妹紅「───あ?」
妹紅の脳が輝夜の言っている事を徐々に処理していく。
そしてついに理解出来たところで、妹紅のこめかみに青筋が浮かび、体を震わせ始める。
そして神峰を担いで帰路に着く輝夜の背後から神峰を奪い、
妹紅「輝夜ァ……一回殺す!!!」
……………
……
永琳「急性アルコール中毒です。処置は出来たけど、もう少し早く運んで来て欲しかったわ」
永遠亭に戻り、神峰を永琳に預けて待っていた妹紅のもとに、処置を終えた永琳が出て来る。
早く来て欲しかった、と言われた妹紅はギクリと反応して目を逸らした。
永琳「酒盛りでもしてたのかしら? 随分仲良くなったみたいね。……それで、姫は?」
妹紅「さ、さあ? 酔っ払ってそこらで寝てるんじゃないかしら……?」
目を泳がせながら答える妹紅に、永琳はため息を吐いて苦笑するのだった。
本当は酒盛りなんてしていないし、輝夜は竹林で伸びたまま放置して来たし、輝夜と争ったせいで神峰を運ぶのが遅れたのだが……
永琳「まぁいいわ。朝には目覚めるでしょうから、貴女もここに泊まって、神峰さんを里まで送ってあげなさい」
妹紅「ええ、分かったわ」
……………
……
朝になり神峰が目を覚ますと、そのままアフターケアの問診を永琳が行った。
その時に神峰は自分の目の事と、幻覚を見た事を永琳に話す。
神峰「八意先生……、オレの目……ちょっと特殊っつーか……普通の人には見えないモノが見えるっつーか……」
永琳「幽霊でも見えるのかしら? 幻想郷では当たり前の様に存在しているけど……」
永琳(まぁ、能力から考えて、人の心というのが妥当な線かしら? いつか協力して貰いたいわね)
神峰「いえ、そうじゃなくて……。昨晩、そのオレが普段『見』えてるもの以外のものが……幻覚が、見えたんです」
永琳「幻覚?」
幻覚、という言葉にピクリと反応した永琳が、詳しく話すようにと視線で神峰を促す。
神峰「妹紅さんが、桜が散る場所で楽器を吹いていました」
永琳「……そう。実はウドンゲも、試薬を服用した時に同じように幻覚を見たって言っていたのよね……。幻覚作用でもあるのかしら? そんな調合をした憶えはないのですけど……」
永琳「とにかく、これから身体に変わった事があったら、何でも言って下さい。特に神峰さんは強いお酒を飲んだから、身体が子供になったり大人になったりするかもしれないし」
神峰「そんな高校生探偵じゃねェんスから……」
こうして、藤原妹紅と蓬莱山輝夜に纏わる争いの幕は降りた。
問診を終えた神峰は、妹紅と共に人里へと帰って行く。
神峰(妹紅さんの心は、どんなに傷付いても、いつか必ず勇気の炎を燃え上がらせて、不死鳥のように蘇る再起の心だ。真っ白に燃え尽きる事なく、永遠を生きる覚悟を宿した───)
妹紅「神峰」
妹紅「なんか、ありがとね」
頬をかきながら照れ臭そうにはにかむ妹紅。お礼を言われた神峰も嬉しそうな顔をする。
人里へ戻った神峰は、無事元の生活へと戻───
バサッ。
神峰妹紅「?」
二人の背後で物が落ちる音がした。
慧音「二人で朝帰りとはどういうことだ神峰……? まさか妹紅と……?」
───れるのだろうか?
振り返ると、そこには頑固親子の心をした慧音の姿が。
神峰「ひっ……!」
妹紅「違っ! 面倒くさいわね慧音!」
二人は朝から必死に慧音を説得して、事なきを得るのだった。
これにて永遠亭編終了。
長かった疲れた。もう次回で最終回で良いかな……?
>>599
今に始まった事じゃないから……
攻略最中にもネタを提供する淵先輩はズルいわ
なんでユーミンで殴り合いが発生するんスか……?
あ、妹紅とうどんげは自機おめでとう
乙
本家並に熱くて今までで一番面白かった
まさに最神話
乙
最終回なんてはははまたまた御冗談を
本家で言えば天籟WFが終わったぐらいじゃないですかやだー
乙!
天狗に撮られてないだけマシだろ
乙
最終回なんてバカなこと言ってないで早く続きを書く作業に戻るんだ!
乙
戦闘能力皆無のくせに自然に「こいつならなんとかしてくれる」って
思わせてくれる神峰は正しくジャンプヒーローだなって改めて思わせられたよ
ソルキチクロスなだけあってこういう話の方がやっぱりイイのかなぁ?
今回の反省点はてゐの刻阪化(存在感的な意味で)だな
>>652
今までは東方キャラと絡んではい終わりって感じだったけど、今回のはガッツリ絡んでソルキチ色を思いきり出したからなぁ
あと、幻想入り二大主人公を活躍させ易い問題がスカーレット姉妹問題と輝夜妹紅問題だからね。
毎回こんな熱を込めて描ける神海っちゃんスゲェわ
>>653
個人的に天籟フェスをイメージして書いたの地底の客引きのシーンなんだけど……
ちなみにさとり攻略は御器谷邑楽編を意識したし、今回のは雅編と金管攻略編は意識してる。
いや、言いたい事は分かる。でも今回ので全部出し切った感があって、ネタが出てこなくて書ききらん。許せ
>>654
バサッ。頭上で羽ばたく音が聞こえた。見上げると、カラスの羽を持つ見覚えのある少女が飛んで行くのが見えた。
こうですね、分かります
>>655
続きを書く作業(次で暫定的に最終回)=最終回を書く作業
ネタが出て来ねェんス……もうゴールしても良いよね……?
>>656,657
主人公補正(ボソッ
でも実際、多少の怪我はしても良いけど、安全さえ確保出来た状況でなら書く方としても何とか出来そうではある。
【あの人】に勝てるビジョンは見えねェけど
うん、まぁ……なんで全レスしてんのかっていうと、次で最終回にする言い訳のためなんだ
アイェェェェ?!最終回?!ナンデ?!
最終回か…またネタたまったらなんか書いて欲しいな
新スレ立てて移籍するんすね!
ついに8巻が出たな。こっちの続きも待ち遠しい
連載再開の発表が嬉しいので、最終回前半(しか出来てない)行きやす。
遅筆で済まん
四月某日。神峰が幻想郷に来て、もうすぐ半年経とうとしている。
外を歩けば何処からともなく菜の花の匂いが香って来て、季節はもうすっかり春だ。
神峰「春……だな……」
どこかアンニュイな表情で春が来た事を実感する神峰は、しかしその思考を紛らわせるように、無理矢理別の事に切り替える。
神峰「そうだ! 夏物買わねェとな! あったかくなって来たし、それまでは制服のワイシャツ着とくか」
萃香「誰に喋ってんだい?」
神峰「ま!!!」
気持ちを切り返していた所に突如背後から声をかけられ、神峰はびっくりして飛び上がった。
神峰「す、萃香さん!? 何か御用でしょうか!?」
萃香「何慌ててんの? ま、いいや」
萃香「迎えに来たんだ、行くよ」
神峰「?」
どこへ? そう問おうとしたが、それは萃香の姿が薄く透けていき、霧散した事で叶うことはなかった。
そしてその直後、神峰は空を飛んだ───
……………
……
神峰「し……死ぬかと思ったーーーーー!!!!」
物凄いスピードで全身で風を感じながら、霧散した萃香に運ばれた神峰は、着地した先で毎度の如く汗と涙を流しながら、四つん這いで──腰が抜けたため──地面を踏み締めている。
萃香「ほら、さっさと立ちなよ。今日は花見で酒が呑めるぞ~!」
神峰「あんたは年中飲んでますよね!?」
萃香「細かい事は気にすんなよ。こういう行事で飲む酒ってのはさ、また違う味がするモンなのさ」
神峰「そういうモンなんスか……?」
神峰は自身の飲酒歴を振り返るも、記憶にあるのは雰囲気に流されたり、勇儀に無理矢理飲まされたり、勇儀と飲み比べしたり、一気飲みさせられたりと、まともに味わって飲んだ記憶が全く無かった。
しかも目の前に鬼である伊吹萃香が居る辺り、今回も酒を味わいながら飲む事は出来ないかもしれない、と神峰は思う。
飲酒する事が前提で考えが進むところに、神峰も相当幻想郷に染まっていることが伺える。
気を取り直して立ち上がり、萃香と一緒に目の前の階段──運ばれている最中に進む方角と、実際に目的地を見たのでここが博麗神社であることは知っている──を上がると、
そこは人外魔境と化していた。
神峰「神社なのに妖怪だらけだァァァア!!?」
萃香「あ? よく見なよ。霊夢が居るじゃん。魔理沙も居るし、緑の方の巫女にメイドだって居るじゃないか」
神峰「たったの四人……。顔見知りなだけマシか……」
萃香「知り合いならいいじゃん。ほら、さっさと行こう。ゴゥゴーウ」
萃香に腕を引かれて騒ぎの中へ溶けていく。
桜も散り始める時期なだけあって、何処を見渡しても桜の花弁が視界に入り、そんな景色が神峰の顔に微妙な表情を作らせるのだった。
萃香「さあて、まずは酒だ酒! あとメシ!」
霊夢「あら、神峰さんも来……攫われたのね。久しぶり」
神峰「あ、久しぶりです……」
まっすぐ霊夢のもとへ向かう萃香と、それに続く神峰。二人の接近に気付いた霊夢は、神峰の表情を見てから言いかけた言葉を言い直した。
霊夢「どうしたの、そんなに浮かない顔して? ここにいるヤツらなら、私の目の前で襲いかかるような馬鹿な真似はしないでしょうから安心して良いわよ」
神峰「いや、なんつーか……オレが参加しても良かったのかって思って……女のヒトばっかだし」
神峰(正直、居心地悪ィ……)
霊夢「そんな事なら気にしてないわ。ここの連中勝手に増えるし、わざわざ一人一人相手してられないし。だから神峰さんも、私に迷惑かけない程度に楽しんでいってね」
萃香「そうだよ! わたしが呼んだんだから、文句言うヤツなんている訳がない!」
霊夢「あんたはヒトが集まればそれで良いんでしょーが」
霊夢に同調した萃香は、霊夢のツッコミを聞き流しながら弁当の蓋を開けると、その目に飛び込んで来た光景に大声を上げる。
萃香「誰だコラァアアアア!?」
霊夢「うっさいわね」
神峰「どうしたんスか!?」
萃香「目玉焼きにケチャップがかかってる!!!」
神峰(幻想郷にケチャップあったんだ……)
咲夜「あら、スクランブルエッグにもオムレツにもケチャップをかけるじゃない? 一体何がおかしいのでしょうか?」
神峰「確かに!」
咲夜「こんにちは、神峰さん。その節はどうもありがとうございました」
神峰「あ……いえいえそんな……」
萃香の怒声に応じるかのように、ケチャップをかけた犯人(?)と思しき咲夜が姿を表して反論する。
その直後に神峰に振り向いて挨拶をするものだから、神峰も恐縮して咲夜にペコペコと頭を下げる。
萃香「馬鹿ヤロー! 目玉焼きにはな、めんつゆって決まってんだよ!!」
神峰「どっちもマイナーだァァァ!!!」
萃香「ああ!? じゃあアンタらは何かけるのさ!?」
神峰のツッコミによって矛先が自分達へと向いて、萃香の迫力に気圧される。それだけに留まらず、目玉焼きにかける物議論はあちこちへと伝播して行くのだった。
霊夢「塩でしょ」
神峰「ソ、ソースです……」
萃香「霊夢の塩は分かるけど、ソースって何さ?」
神峰「それは知らないんスね……」
萃香「んなモン幻想郷にあるワケないでしょ」
神峰「無いんスか!?」
ソースが幻想郷に無い事に少なくないショックを隠せない神峰。しかしそんな神峰に救いの手が差し出される。
咲夜「ありますが」
神峰「え!?」
咲夜「ソースなら御座います。ソースだけでなく、マスタードもバジルもマヨネーズもバルサミコ酢も、紅魔館では揃えております」
神峰「品揃え良過ぎません!?」
咲夜「ちなみにお嬢様はバルサミコ酢派ですわ」
神峰「吸血鬼なのにそういうのも食べるんスね……」
霊夢「そりゃ普通の食事もするでしょ。バルサ巫女酢ってのはわからないけど」
神峰もようやく場に慣れて来た頃、そんな神峰達の議論を離れた位置で伺っている者がいた。
妹紅「神峰……そーす? をかけるんだ……。そーすって何だろ? 今度慧音に教えてもらお」
ぼーっと神峰を見つめながら、そんな独り言をこぼす妹紅。
ちなみに妹紅は何もかけない。食事に生を見出せなかった彼女にとって、食べ物の味付けは意味が無い物だったからだ。
付け加えると、生まれが貴族であったために、料理も作れない。
「おーい妹紅、準備してよー」
妹紅「あ、ああ!」
そんな惚ける妹紅を呼ぶ声にハッと我に帰ると、側に置いてあった荷物を担いで、呼ばれた声の方向へ歩き出すのであった。
……………
……
♪天空の花の都
http://youtu.be/Qa6l1oOgfsc
弁当も食べ終わった頃、境内に琴の音が鳴り響いた。その演奏はすぐにもう一つの演奏(琵琶)と合わさり、二重奏となる。
神峰「ん? 音楽が聞こえる……?」
霊夢「こんな宴会場で楽器を鳴らす奴といったら騒霊達……と言いたい所だけど、今回は付喪神の方みたいね」
「あら? あの子達、消えなかったのね。小槌に魔力を回収されたと思うんだけど……」
神峰「え?」
周りの喧騒や演奏のせいか小さくてよく聞こえなかったが、聞き慣れない声が神峰の耳に届いた。
近くに居るのは霊夢、萃香、咲夜だが、その三人の誰のものでもない声色だったために神峰はキョロキョロと周囲を見渡してみる。が、そんな人物は声の届きそうな距離には居なかった。
「くっ……! バカにして! そんなに私を居ない者として扱いたいワケ!?」
神峰「え? えっ? ドコだ?」
霊夢「ここよ、ここ」
何処を見渡してもそれらしき人物は発見出来ず、すわ透明人間か! と勘ぐり始めた頃、霊夢がチョンチョンと下を指差して苦笑しながら助け船を出してくれた。
差された指の先を辿ると、お椀を被った着物の小女……もとい、少女が腹を立ててこちらを睨んでいた。
神峰「こ……小人?」
「いかにも! 私こそが一寸法師の末裔、小人族の少名針妙丸よ!」
胸を張って自己紹介をして見せる針妙丸。しかし小さな身体から出るその声は聞き取り辛く、喧騒に妨害されて、うまく神峰に届かずに誤解を生んだ。
神峰「え……? 昼夜逆転丸……? 実在してたのか!?」
針妙丸「す・く・な! 針・妙・丸!! 誰よその巫山戯た名前!? 正邪!?」
神峰の聞き間違いに針妙丸は地団駄を踏み、そのやり取りを聞いていた霊夢と咲夜はクスクスと笑った。
霊夢「いいんじゃない? 逆転丸。天邪鬼と組んでたあんたにはピッタリの名前じゃない」
咲夜「逆転丸さん。その後、幻想郷の転覆などは考えておられないのでしょうか?」
針妙丸「もう浸透してるし!? って言うか私は唆されただけで、そんな考え、もう無いんだけど!」
咲夜「ほんのお戯れに御座いますわ、逆転丸様」
針妙丸「その口調ムカつく!」
二人に食いつく針妙丸を咲夜が仕事モードで瀟洒に躱していると、やがて琴と琵琶の二重奏も終わり、しばらく間があった後に何処からともなくピアノの音色が鳴り始めた。
♪春の湊に
http://youtu.be/EWadsL-fT28
神峰「!!!」
霊夢「どうかしたの?」
その音を聴いた途端、神峰は自分の心に直接音が響いたような感覚に襲われる。
そのメロディは、ピアノとは違う方向から聞こえて来る演奏と合流して、次々と音楽を完成させて行く。
神峰(何だ……この感じ? 音が直接心に入って来たような……? つーかこの演出……)
神峰「フラッシュモブ!」
萃香「何それ?」
神峰「こんな感じに雑踏に紛れた大勢の仕掛け人が、突然何か同じ事を始めるっていうドッキリの事ス。音楽を演奏したりダンスを踊ったり、ミュージカルや劇を始めたり、一斉に動きを止めたり」
萃香「へぇ~、そりゃ面白そうだね。……でも私の見た感じ、楽器が一人で勝手に鳴ってるように見えるんだけど?」
神峰「え?」
萃香に言われて音が鳴る方へ目を向けると、確かに楽器が浮き上がって誰にも演奏される事無く音を奏でていた。
神峰「何コレ!? 超能力スか!?」
咲夜「恐らくポルターガイストかと思いますけど?」
神峰「ポルターガイスト!? 怖っ!」
咲夜「そこでピアノを弾いているのと、向こうでトランペットを吹いているのと、あっちでヴァイオリンを弾いている三体の騒霊の仕業ね」
咲夜がそれぞれ件の騒霊の居場所を指差すと、確かにそこには楽器を演奏している者がいた。
幻想郷縁起の知識から、ヴァイオリンを弾いているのがルナサ、トランペットを吹いているのがメルラン、キーボードを弾いているのがリリカだろうと当たりをつける。
それ以外にも演奏者がちらほら見えるが、神峰の『目』は騒霊達に釘付けとなった。
神峰(ウソだろ……? 信じられねェ……。ヴァイオリンを弾いてるヒトの周りは、音に抑え付けられるみてェに心が沈んでる……!)
神峰(ラッパを吹いてるヒトの周りでは対照的にテンションが上がってる! 生演奏だからか……? あり得ねェだろ……音楽でヒトの心を変えちまうなんて!)
神峰(極めつけは……あのキーボードのヒト。二人の音をうまくバランスを取るように調和させて……オーロラみてェな幻想的な音を創ってる!)
神峰(オレがずっと出来ねェと思ってた事を、あんなにあっさりやっちまうなんて……)
神峰が心が変わる光景を目にしたのは、妹紅と輝夜の問題に関わった時が初めてだ。輝夜の協力を得たとは言え、自分の力を尽くして妹紅の心を良い方へと変化させる事が出来た時の感動は今も忘れない。
しかし目の前では、音楽によって多くの者の心へ影響を与えるという、神峰にとって信じ難い光景が広がっているのだ。
神峰がリリカの奏でる幻想の音から目を離せないでいると、神峰の近くにある桜の木の下から楽器が鳴って、ハッと意識が現実に戻って来る。
神峰(まだ仕掛け人……出揃ってなかったのか───?)
ポルターガイストかも知れないが、近くで楽器が鳴ったので反射的にそこへ視線を向けると、
神峰「妹紅さん!?」
妹紅「……!」
神峰(あれ……? なんかこれ、デジャヴじゃねェか……?)
神峰と目が合うと、顔を赤らめてふいっと目を逸らして演奏を続ける妹紅。
時期が四月であるため桜の花弁は散り始め、桜舞う中で演奏をする妹紅の姿に、神峰は既視感を覚える。
そんな神峰の背後から、二つの足音が近付いて来た。
永琳「神峰さんが見た幻覚というのは、もしかしてこの光景じゃないかしら?」
神峰「あ、それだ! ……って、八意先生と輝夜さん?」
輝夜「見て見て永琳。あの妹紅が必死になって楽器を演奏してるわよ」
永琳「姫、笑ってはいけませんよ。……こんにちは。どうやら神峰さんにも、ウドンゲと同じ効果が出たと見て間違い無いみたいね」
袖で口元を隠して、ぷっと吹き出しながら妹紅を嘲笑する輝夜を、苦笑しながら諌める永琳。
そんな輝夜を睨みつける妹紅(演奏中のため手出しが出来ない)
余談だが、実際に、妹紅は楽器を始めて二ヶ月しか経っておらず、本来なら合奏に混ざれるレベルには達してない。
しかし彼女は、不老不死の性質による裏技、即ち飲まず食わず眠らずに指導を受ける事で、実力の底上げを行なったのだ。
その成果あって、妹紅は三姉妹達の演奏に───輝夜の言った通り───必死にやればついて行く事を可能にしたのだ。
神峰「え……? 何の話スか……? 何かしたんスか!? 何か怖ェんスけど!?」
永琳「ふふっ、心配しないで。あの時の治験の話よ。あなたとウドンゲが見た幻覚が、未来の出来事だったって事」
神峰「未来視……? もうなんでもアリっスね……」
「いいや、いくら幻想の力があるとはいえ、まだまだ出来ない事は多いわ。……核融合には成功したけどね」
またも声をかけられる。
人外の知り合いは少ない筈だと思いながらも振り向くと、注連縄を背負う女性が。
神峰(○レンチクルーラー……?)
その注連縄の存在感と迫力に度肝を抜かれ、出てきた感想がこれである。
「今、凄く失礼な事考えてないかい? その顔はアレね。早苗が『神奈子様の注連縄ってドーナツみたいですよね』って言った時と似た表情だ」
ずばりその通りでギクッと表情が引き攣る神峰。後ろでクスクス笑う咲夜と霊夢。
神峰「す、すみません……」
「まあいい。どうも現代人……いや、外来人はこの注連縄を見てドーナツを連想するらしいからね。守矢の祭神だからあまり人前には出ないのだけど……」
神峰「神様……?」
神奈子「如何にも。我こそが守矢神社の祭神、山の神。八坂神奈子である」
神峰「!」
先ほどとは打って変わって威厳たっぷりに名乗る神奈子の迫力に、神峰は気圧されて一歩後ずさる。
神峰(ぐっ……、これが神様! なんつー存在感! そしてあれが……、多くの人の心を土台にして、支えられて……その上に立つアレが、神様の心か!)
神奈子「そんなに緊張しなくとも良い。私はそこにいる博麗の巫女の顔を見に来ただけだからね」
神奈子「貴方も知り合いに挨拶くらいしに行くといい。早苗から少し聞いているよ、命蓮寺で世話になっていたのでしょう?」
神峰に向けて言った神奈子のその言葉は、しかし別方向から届いた言葉によって返事を返された。
白蓮「その必要は御座いません。私の方から来ちゃいましたので」
神峰「聖さん!」
また人が集まる。そこで飲んだくれている萃香の仕業だろうか? それとも神奈子のように、霊夢に会うためなのだろうか? 聖のように神峰に挨拶をするためというのは少ないはずだ。
聖「その後、どうですか? 神峰さんの活躍は時々耳にしてるので、それ程心配はしていませんが……」
神峰「はい。ちょっといろいろあって家を買ってしまったんで、借金返しながら頑張ってます……」
聖「それならマミゾウに聞きましたよ。借家に住むと言って出て行ったのに一軒家を買ったと聞いてビックリしたわ!」
神峰「それは……妖怪のせいス……」
輝夜「……随分フットワークもノリも軽いのね。さすがは噂の"ガンガン行く僧侶"ね」
そんな聖に好奇の視線を向ける輝夜。
聖「お花見だからちょっとはしゃいじゃって。お祭りになると楽しくなるでしょ?」
輝夜「え? ……ええ、そうね。そう言えば、貴女は宗教戦争の時もはしゃいでいたわね」
聖「あら、見てたの? これはお恥ずかしい所を見られてしまいましたね……」
聞き流されると思っていたら、言葉のキャッチボールが成立してしまい戸惑いがちに会話を続ける輝夜に、聖は照れながら答えた。
それから雑談に発展し、曲も終わったところで、妹紅は楽器から口を離してふぅと一息吐いて、目の前の集団にジト目で文句をつける。
妹紅「あのさ、人が演奏してる前で井戸端会議を始めな「みなさーん! 先ほど演奏させてもらった私達、プリズムリバー楽団はぁ、現在団員を募集してまーす!」
妹紅「……メルラ~ン……」
しかし妹紅に被せるように聞こえて来た声によってその訴えは掻き消され、妹紅は恨めしそうにその声の主の名を呟く。
神峰「あ、妹紅さん。演奏上手かったス! 二ヶ月しか経ってねェのにあんなに上手くなれるんスね!」
妹紅「そっ、そう!? ちょっと頑張ったからね! っていうか神峰も来てたのね! ビックリしたわ!」
神峰「見慣れないスけど、それ何て楽器なんスか?」
妹紅「ユーフォニウムって名前。今まで人と距離取って来たから、もっと側に寄れるようなのがいいって言ったらこれを勧められて……」
神峰に褒められて顔を紅潮させ、慌てるように語気が強くなる妹紅。
そんな妹紅にニヤニヤ笑いながら近付いてくる影が二つ。
紫「初舞台、初披露、どうだったかしら? 最善を尽くせた? 彼の前では、失敗は見せられないものねぇ?」
妹紅「ゆ、紫!? 何を言ってるのかしら!?」
神峰「紫さん! お久しぶりです。えと、そちらは……」
紫の言葉に、さらに顔を赤くさせてすっとぼける妹紅を気にする事なく、紫の隣に居る者について尋ねる神峰。神峰の知識が正しければ、彼女は確か───
紫「折角だから紹介しますわ。あ、紹介と言っても貴方と幽々子をくっ付ける意味では無いから注意してね?」
神峰「何の話スか!?」
紫「この子は私の親友の西行寺幽々子。冥界の管理人だから、神峰さんも死んだらお世話になると思うわ」
幽々子「初めまして。あなたが紫の今の観察対象(オモチャ)ね? 」
神峰(オモチャ……)
神峰「あ、初めまして……神峰翔太です。……なんか死んだ後の予定が固まって行って怖ェんスけど……」
幽々子「そんな事はしてないわよ? 死んで私の所に来る頃には記憶なんて亡くなってる筈だし、白玉楼は閻魔様の所までの中継点みたいなものだし」
神峰「今の時点で、オレの死体はこいしに持って行かれて、魂は幽々子さんの所を経由して、閻魔様に地獄行きって言われました……」
紫「あらあら、閻魔様に遭ったのね。ご愁傷様。でもあの方が現世で説教をする時は、多少の誇張が入るので確定してるとは言えませんわよ?」
ずーんと沈んで行く神峰とは対照的に、紫はクスクスと笑う。
周りで聞いていた者達は同情的な眼差しを神峰に向けている。
輝夜「大丈夫? 蓬莱の薬飲む?」
神峰「胃薬渡すみたいなノリでそんな薬勧めないでください!!」
妹紅「飲ませるワケないでしょ!?」
輝夜のフォロー(?)の甲斐あって元気を取り戻した神峰は気を取り直して紫と向き合う。
神峰「あの、紫さん! さっきの演奏してた楽団って紫さんがやってるんスよね!?」
紫「ええ、そうよ。今回はメンバーを募集するためにああいうパフォーマンスをしたけど、いつかちゃんと演奏したいですわね」
幽々子「早めにお願いね~」
神峰「あの、演奏してた騒霊の三姉妹……紹介してくれませんか!? 知り合いたいス! 」
紫「あら?」
妹紅「え……?」
神峰の突然の申し出に、紫は面白そうに妹紅へ視線をずらし、妹紅はバキッと殴られたような痛みを心に感じた。
だがその直後、神峰が申し出の理由を話し始める。
神峰「ずっと出来ねェと思ってた心を変えるって事を、あの三人は簡単にやってのけました……。それに、周りの演奏を纏めるリリカさんの演奏……スゲェ幻想的で……感動したんス!」
神峰「だから、何か少しでも得る物があればと思って……!」
紫「ふぅん……。だったら、神峰さんも楽団に入ってくらたら良いのではないかしら?」
神峰「え?」
チラリと妹紅に目配せする紫。それに気付いた妹紅も紫に同調して神峰に詰め寄った。
妹紅「そうよ! 神峰も入ったら? 私もまだ初心者だけど、いろいろ教えられると思うし……!」
そんな妹紅の様子をニヤニヤと破顔して見守る一同と、全く気付かない神峰。
そんな中、先程の演奏に便乗するように、ゲリラ的に次のライブが始まる───
ここまで。
いろいろとさくら祭りのパクリ回。
正直、逆転丸の下りが出来たから満足している
>>660
慈悲は無い
>>662
書くにしても今年いっぱいはもう無理。実は忙しいというのも理由の一つ
>>663
続きはss速報next!で!
本当かなぁ……?
>>666
単行本読んで気付いたけど、金井淵先輩の仮面って、モンスターマシンの顔の一部と同じなんだね
乙
さとりVS妹紅による神峰を巡っての妖怪大戦争編マダー
待たせたな……
オレもようやく 終われる!
響子「Yahooooo!! みんなー! 盛り上がってるかーーー!? 前の二組が場を温めてくれたけど、トリを持ってくのは私達、鳥獣伎楽だーーー!!」
外の世界でお馴染みの───神峰の好きなジャンルである───バンドサウンドが始まると同時に、聞き覚えのある声でMCが始まる。
神峰「幻想郷にもバンドがあんの!? って言うか響子!?」
見てみると、鳥の妖怪であろう翼の生えた少女と共に、ステージ衣装の黒い服を着てサングラスをかけた幽谷響子がステージに立っていた。
聖「全く……あの子ったら。まあ、今は宴会だから良しとしましょう」
それを見た聖が呆れた顔をして一人ゴチているが内心はあまり穏やかではなく、ライブが終わった後詰問して、返答によっては直ちに一発しばく気満々である。
そんな聖の心を見て、神峰は聖から一歩距離を取るのであった。
永琳「神峰さん達、外の世界ではこんな音楽が主流なの……? 正直、叫んでるだけに聞こえるのだけど……。時代って変わるものねえ……」
神峰「いや、流石に音程に合った歌の方がメジャーっスけど───」
鈴仙「きゃーーーーー!!!」
永琳「……」
永琳も鳥獣伎楽に対して呆れ気味にコメントをしている最中、神峰には聞き覚えのある、永琳にとっては聞き慣れた声の声援が聞こえて永琳の顔が引き攣った。
輝夜「……イナバね。こんなシャウトを好むなんて……、ストレスでも溜まっているんじゃないかしら?」
永琳「あの子……何時の間にこんな音楽にハマったのよ……」
妹紅(ホント、時代って変わったわよね。私の産まれた時代では、最初に演った付喪神の姉妹みたいな音楽が主流だったのに……)
妹紅(今じゃこんなになってる。私達が演奏した音楽だってそう。異国の楽器で音を合わせて……スゴく派手になってる)
妹紅は手に持つユーフォニウムを見つめて時代の流れを改めて確認する。最初に楽団に入った時は、金管楽器の見た目の派手さだけでも大いに驚き、そして演奏を聴いてさらに驚いたものだ。
妹紅は楽団に入って、カルチャーギャップとジェネレーションギャップを同時に経験したのである。
妹紅(でも、何事にも限度ってのはあるわ。これから先の時代で、さらに派手さを追求するのなら、正直、私は付いて行けな───)
神峰「鈴仙さん、バンドが好きなんスね! オレも好きなんで、響子達の演奏も割と気に入ってたり……」
妹紅「わ、私もちょっとイイかなーって思うわ!」
照れながら言う神峰に、つい先ほどの考えを刹那で放棄する妹紅。恋の力とは人の好みさえ一瞬で変えてしまうものなのか。
そんな妹紅の表情の変化を、輝夜達は白い目で見ているのだった。
「全く、五月蝿くてかなわんな。アレは貴女達の寺の者だろう?」
鳥獣伎楽の演奏とシャウトが響く中、聖の心へさらに一石を投じる人物が神峰達のもとへと現れた。
その人物の特徴を挙げるならば、耳。……動物の耳の様な髪型に、ヘッドホン(耳当て)だろう。
耳に被さるヘッドホンの上から手で覆い、騒音に耐える様にしてこちらに歩いて来る。
聖「あら、わざわざそんな悪態をつくためにこちらへ足を運んだのかしら?」
神峰「……!」
和やかに対応する聖だが、二人からただならぬムードが漂っている事を察して、神峰はドキドキしながら事の成り行きを見守る。
「まさか。私がこんな騒音の中、わざわざ貴女に会いに来るワケが無いでしょう」
聖「それでは、一体どの様な用件で私の前に現れたのかしら?」
「自惚れるなよ坊主。私が用があるのは貴女ではなく───」
スッと聖から視線をずらして、近くに居た神峰を見据える。
神峰「……え? オレ?」
「そう。君だ」
神峰「あの……、一体どのようなご用でしょうか……?」
永琳(相変わらず初対面時の緊張はすごいわね)
「怖がらなくていいわよ。ちょっと噂に聞いていたからね、人の心を掴む……人心掌握の能力を持つ外来人が人里に現れた、と」
聖に対する態度とは打って変わって、角が取れた口調で話し始めた。
神峰「話に尾ひれ付いてません!?」
「確かに少し誇張したけど、君なら出来る。なぜなら君の本当の能力は……心の状態を把握するもの、でしょう?」
神峰「!?」
突然核心を突かれた事に驚きを隠せない神峰。慌てて周囲を見渡すが、紫、霊夢、聖、輝夜、妹紅(あとは恐らく永琳と幽々子も聞いているだろうと予想)と、神峰の『目』の事を知っている者が殆どだったので一先ず安堵する。
「ついさっき、まるで私の耳のような能力だと知ってね、興味が湧いたの」
神峰「あんたの耳……!? それより、どうやってオレの目の事を……!?」
「ああ、そう言えば申し遅れたわね。私は豊聡耳神子。十の欲を聞きその者の本質を捉え、過去から未来まで推し測る事が出来る。君に分かりやすく言うなら、かの聖徳王とは私の事よ」
神峰「聖徳王……? って何スか? 聖徳太子?」
神子「その通り」
神峰「マジで!? 女の人だったんスか!?」
神子「その辺は説明が面倒だから省くけど……そういう訳で、君の欲の声を聞いて、君の持つ望みと君の能力が分かったの」
神子「"この『目』を使って、人の心を良い方へと変えたい"なんて聞こえたから、直ぐに判ったわ」
神峰(この人……、この感じ、さとりと話してる時と似たカンジがする……! ただ、さとりと違うのは……、さとりの場合は見通されてるって感じだったけど、この人の場合、見透かされてるような───)
神峰(あの人のアンテナみてェな心が、受け取った情報を分析して、こっちは全て見透かされたように感じるんだ……! 本当にスゲェのは、耳の能力じゃなくて……分析力!!)
神子「───だから君を勧誘しに来ました」
神峰「……勧誘?」
神峰にとっては望む所ではない宗教家からの勧誘に、少しばかり身構える神峰などお構い無しに話を続ける神子。
神子「君はこの人里に住んで、里の代表者が誰か疑問に思った事はないですか? 」
神峰「え? 慧音先生……とか、阿求さんのトコじゃないんスか……?」
神子「上白沢女史は守護者ではあるが、この里の政には直接関わってはいない。稗田家はそもそも、幻想郷縁起を作るための家系だ。……この幻想郷には、人間の為政者が存在してないのよ」
神峰「そうなんスか……?」
どのような勧誘かと思ったが、神子が話す事に疑問を感じながらも相槌を打つ。
神子「ええ。だから君、私の弟子になって政治を勉強して、為政者にならない?」
神峰「!?」
神子の突然の提案。政治家になるなど考えもしていなかった神峰にはまさに青天の霹靂である。
そんな神峰が落ち着く暇も無く、神子は続ける。
神子「君の、心を良い方へと変えたいという欲は、まさに民衆を導くのに適した願いだ。きっとその『目』が、君の政治の役に立ち、君の今までの行いが求心力となる」
神子「そして……君は望まないだろうが、その欲がいずれ、君を聖人足らしめるでしょう」
神子「どう? 君の培って来た経験を活かし君の願いを叶えるのなら、私の弟子になる事が一番の近道だと思うのですが?」
神峰「あの、その……。いきなりそんな事言われても、すぐには決められないっつーか……」
紫「───ねえ。ちょっと良いかしら?」
神子が神峰の返事を求めた所で、先ほどまで二人のやり取りを静かに見守っていた紫が口を挟んだ。
神子「なんでしょうか? まさか里の人々を統率する真似はするなと?」
紫「そうではなくて。神峰さんにはこちらの勧誘の返事を、まだ頂いてないので先に答えてもらおうかと」
神子「音楽なんて勉強の片手間にでも出来るでしょうに。……まあ、そこまで言うなら、どうぞ」
神峰「へ?」
返事を、と神峰を促す神子。
紫「片手間でやってもらっては面白くな……いえ、困るのよねぇ? 幽々子との約束もあるし」
妹紅をチラリと見ながら言いかけた言葉を訂正して、再び神峰へ顔を向けて無言でにっこりと返事を待つ紫。
逃げるように周りに目を泳がせると妹紅に期待の心を向けられており、神峰は突然迫られた決断にあたふたしながら言葉を発しようとする───
神峰「あの、ちょっ───」
「御機嫌よう。幻想郷の有力者達が揃いも揃って、これは一体何の集まりなのかしら?」
が、もはや何度目かも分からない来訪者によって遮られた。
何時の間にか居なくなっていた咲夜に日傘を持たせ、優雅に歩いて来る少女(少女というには些か幼く見えるが)の姿に、神峰は内心助かったと密かに胸を撫で下ろす。
神峰(あ、この人知ってる。レミリア・スカーレット……吸血鬼の!)
幻想郷縁起に載っていたし実際に彼女へ血液の提供(食用)もしたので、これが初対面にも関わらず、神峰はレミリアの事を知っている。
レミリア「ん? 人間……? あなた達がそこに居る霊夢ではなく、この人間の周りに集まるなんて、本当に何なの?」
神奈子「私はただ博麗の巫女の顔を見に来ただけだよ。そしたらその子がここに居た。それだけよ」
聖「私は神峰さんが見えたから挨拶にと」
永琳「私も、神峰さんにちょっと確認したい事があっただけね」
輝夜「永琳の付き添い。あと妹紅をからかうため」
幽々子「同じく紫の付き添いね」
紫「同じくからかうためね。誰を……とは言いませんが」
神子「私は彼を弟子にしたくてね」
霊夢「萃香が連れてきた」
レミリア「……ふむ」
各々の主張を聞くに、偶然ここに居ただけのようだと結論付けるレミリア。
しかし弟子にしたいという言い分に、レミリアは少なからず興味を抱き、観察するように神峰を見つめる。
神峰「あの……?」
レミリア「……なるほど。お前はそこの賢者に、運命を狂わされた人間というワケね」
神峰「え!?」
紫「あら」
レミリア「だってそうでしょう? 忘れ去られたワケでもないのにこの幻想郷に居るって事は、スキマ妖怪の力で外の世界との繋がりを断ち切られたも同然じゃない」
レミリア「つまりお前は、本来外の世界で辿る筈だった運命から脱線したのよ。そこの賢者サマの目に留まったせいでね」
紫「……」
レミリアはそう言って紫へ視線を向けるが、言われた本人は扇子を広げて口元を隠してどこ吹く風といった体だ。
神峰の「目」でも何を考えているのか分からない。
何時ぞ見たスキマ空間のようにギョロギョロとした目が付いたハートなのか、ハート型に空いたスキマ空間へ繋がる穴なのか、図と地の区別がつかず、遠くを見ているのか近くを見ているのか、遠近感さえ狂いそうな心をしているのである。
───しかし紫が何を考えていようと、神峰は気にしていなかった。
神峰「例え紫さんにどんな思惑があろうと、オレは出来る限りココで生きて行くつもりです……!」
神峰「幻想郷は……ここのヒト達には、世の中には絶望ばかりじゃねェって、希望もあるんだって教えて貰いました」
神峰「オレはそんな幻想郷(世界)を、もっと見ていきたいス……!」
神峰「だから紫さん! オレで良ければ、あんたの楽団に……入れてはくれませんか?」
紫「……ええ。歓迎するわ。きっと皆も喜ぶわ」
妹紅「こっち見んなよ!」
この時神峰は頭を下げていたので見えていなかったのだが、神峰の話を聞いて扇子の下で綻んでいた紫の笑顔が、神峰の返事を聞いた途端にパカンと効果音が出そうな笑顔となり、扇子では隠しきれなくなっていた。無論、その視線は妹紅へと向いている。
そんな神峰を見て、レミリアは興が殺がれたといった態度でこぼす。
レミリア「……そう。ならもういいわ。どうせ元の世界に戻っても、元の生活に戻れる事はないしね。私はレミリア・スカーレットよ。血液の提供、また頼むわ、神峰翔太」
神峰「あ、はい……よろしくお願いします……って!? 元の生活に戻れないって何スか!? つか、また献血するんスか!?」
レミリア「いきなり大声を出さないで頂戴。私の運命を操る程度の能力は、人間が私と出会った時点で効果があるの」
レミリア「私と出会った者は数奇な運命を辿る。そういう能力、そういうルール……。だから安心して外の世界の未練を捨てるといいわ」
神峰「もう十分数奇な運命なんスけど……」
レミリア「良かったじゃない。きっと貴方の人生、波乱万丈よ。退屈しないわ」
神峰「嬉しくねェ!!」
紫「彼女の言う事も間違いでは無いかもね」
紫「今、この場に、幻想郷の各勢力の有力者達が揃い貴方の事を知ったわ。それまで見向きもしなかった連中が貴方に注目するかも知れない……」
紫「神峰翔太さん。幻想郷が、貴方に気付いたわよ」
レミリア「……幻想郷に来なくても、貴方の運命は激変してたみたいだけどね……今や何もかも手遅れか」
神峰「え?」
神峰とのやり取りの最後にポツリと呟かれたレミリアの言葉は、鳥獣伎楽のフィナーレを飾る音に掻き消されてしまう。
鈴仙など一部のファンを除き、過剰なパフォーマンスをされた観衆はシンと静まり、あまりウケが良くなかった事を理解した響子とミスティアは静かに口を開く。
響子「ど……どうやら時代を先取りしすぎたみたいね……」
ミスティア「ま、まぁ……今はただの騒音に聞こえるかも知れないけど……、あんた達のひ孫にはウケる」
そしてそんな捨て台詞を吐いてその場を去るのだった。
神子「……それで、私への返事は如何に?」
ライブも一段落ついて宴もたけなわとなる。
神峰の周りに集まった人妖達は未だ解散する気配を見せず、神子とのやり取りを見て、むしろ神峰に対して興味を抱き始めていた。
神峰「あの……それにつきましては考える時間を頂きたく……」
神峰(なんでこの人達の視線がオレに集まるんだよ……。スゲェ居辛ェ……。逃げたい……早く解放してくれ……)
神子「ふむ……。確かに急かし過ぎたかな? それでは返事は今度聞くとしましょう」
自身に向けられる好奇心や視線を受け、生まれたての仔鹿のようにカタカタと震える神峰は、なんとか声を振り絞り、内心では天に祈る気持ちで神子に対応する。
果たしてその祈りが通じたのか、神子は一先ず引き下がる様子を見せる。
「吸血鬼、亡霊の令嬢、月の民、鬼、山の神、封印された魔法使い、聖徳王、小人族の姫君、オマケに妖怪の賢者まで……異変の首謀者達が勢揃いで一人の人間に詰め寄る事態、見過ごす訳にはいきませんね」
レミリア「あ、それ私がもう言ったわ」
───しかし天まで届いた祈りは、オマケ(余計なモノ)まで連れて来たようだ。
レミリアのツッコミは聞かなかった事にして、何故かドヤ顔で続ける。
「さあ、この場は私が引き受けてあげるから、少年は私に感謝しながら避難していなさい」
紫「ついさっき収まった話を混ぜっ返すなんて……。そしてまるで私達が悪人のような言い草ね。……博麗大結果の崩壊を引き起こそうとした不良天人さん?」
「あら、謝ったのだから許してくれたのではなかったのですか? 貴女の方こそ過去の話を掘り返してるじゃないの」
紫「……人間の前で格好つけているのか知らないけど……敬語、崩れてるわよ?」
「……いくら地上の人間の前とはいえ、貴女に敬語を使うのは癪だったんだもの」
天人の少女と紫の間の空気にピシッと亀裂が入った───気がした。
先ほどドヤ顔で任せろと言っておきながら、むしろ事態は悪化しているように思われ、神峰は笑顔で睨み合う二人を交互に見てオロオロハラハラする。
こういう時こそ巫女の出番ではないかと思いながら霊夢を振り返るが、本人は萃香に絡まれながらボケッと桜を眺めて酒を口にしている。
神峰(あわわわわ……! どうしたらイイんだこの空気……!?)
天に祈っても助けはいなかった。
───が、別の場所にはいたようだ。
「まったく……貴女達は何をやっているんですか……。というか翔太さん、貴方は一体どうしたらそんな人脈を築けるんですか?」
神峰「……え?」
神峰「なんで……あんたがここにいるんだ……?」
とても聞き覚えのある懐かしい声。その声に馴染みのある呼ばれ方をされて思わず反応する神峰。
さとり「それはこっちのセリフでもありますけど……とりあえず、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
神峰「さとり!!!」
妹紅「さとり!? こいつが!?」
神峰の声に反応して妹紅もガバッと振り返る。その目には僅かな戦慄があった。
さとり「……私は伊吹萃香さんに招かれたので今しがた参加したのですが、翔太さんは?」
妹紅(『翔太』さん!?)
神峰「オレは萃香さんに連れて来られて……」
さとり「……ああ、分かりました。災難でしたね」
神峰が思い浮かべた拉致現場を読み取り、同情気味に返すさとりは、近くで動揺する妹紅の様子と心を読んで、頭痛がするかのように頭を抱えこんだ。
さとり(ああ……なんということ……。まさか危惧していた事がこんなに早く訪れるなんて……。どうしてそんなタイミングで翔太さんの前に出て来ちゃったのよ私……!)
そんなさとりの心を「見」て少し心配そうに声をかける神峰。
神峰「何を悩んでんだ……?」
さとり(私を悩ませているのは貴方でしょう……!)
神峰「ひっ……!? なんかスマン……」
妹紅(なにこれ……。まるで通じ合ってるみたいじゃない……)
その神峰の態度にムッと来て内心で睨み付けるさとり。
心が見えるために睨み付けられたことが分かり、謝る神峰。
そして、そんな二人の会話が少ないのに分かり合っているような独特のコミュニケーション───心を読む能力と心を見る能力のため、こういう事はままある───を目の当たりにしてショックを受ける妹紅。
三者三様のリアクションを見せる中、さとりが申し訳なさそうに口を開いた───妹紅に対して。
さとり「えと……貴女は……モコウさん。そう、妹紅さんというのね」
妹紅「わ、私!?」
さとり「貴女には謝っておかなければいけない事があります」
神峰「え?」
妹紅(な、なに!? もしかして神峰はさとりの恋人だから私の気持ちは報われないとか……!? そう言えばさとりと会った神峰の顔、スゴく嬉しそうだったし───)
さとり「いえ、そういうのではなくてですね……。私が責任を感じて一方的に謝るだけなので貴女は戸惑うだけかも知れませんが……」
「私と翔太さんは将来を誓い合った仲なの。申し訳無いけど彼の事は諦めて下さい」
神峰「!?」
妹紅「」
聞いた瞬間、妹紅の頭に石どころか金閣寺の一枚天井が落ちてきたようなショックが襲った。
それを聞き付けた有力者達も、すわ三角関係か! とニヤニヤしながら三人の様子を窺う。
さとり「お燐……貴女、面倒な事をしてくれたわね……」
神峰「またお燐の声真似かよ!? 今のはマジでビビったぞ!?」
燐「お兄さんに着く悪い虫はちゃんと払っておかないとダメだと思いまして……」
さとり「……そう。愉快犯というワケね。まだまだ躾が足りなかったみたいね」
燐「さとり様の幸せのためなら甘んじて受けます!」
さとり「貴女、逞しくなったわね……。では皆さん、この子でご自由に遊んで構いませんので」
「あら、本当に良いの?」
燐「あっ、待って下さい。それは本当に洒落になりませんからごめんなさい許して───」
揺るぎの無い燐に呆れながら、幻想郷の有力者達に燐を引き渡すさとり。
燐を受け取ったのは先ほどまで紫と睨み合っていた天人で、さとりが最も燐で遊んでくれそうだと判断した人物であった。───今更ながら、名を比那名居天子という───
さとり「安心なさい、お燐。今日ここで作られるトラウマは、今後も貴女の役に立ててあげるから」
燐の悲鳴を背中で受け止めながら、さとりは再び妹紅に向き直る。
さとり「話が逸れてしまいましたね。翔太さんは自己評価の低さから自身に向けられる好意に疎いため、これから苦労すると思います。申し訳ありません。私が彼を地上へ上げる前になんとかするのを忘れていたせいで……」
さとり「……って、あら?」
妹紅「」
野次馬達の心に埋れていたので気にしてなかったのだが、妹紅の心を読めていない事に気付いたさとりは、彼女をしげしげと見つめ……
さとり「……立ったまま気絶してる……」
輝夜の吹き出す声が聞こえた。
さとり「……やはり、心に関わっても碌な事になりませんね」
神峰「以前のオレみたいな事言ってるぞ!?」
ため息を吐きながらしれっと神峰の努力を否定するようなセリフをこぼす。
紫「まあまあ、二人共久しぶりに会って積もる話でもあるんじゃないかしら? 彼女達(妹紅と燐)は私達に任せて、折角だしお祭りを回ってきたらどう?」
さとり「今の状況を楽しんでる貴女に言う通りにするのは癪ですが、いい加減鬱陶しいのでそうさせてもらいます。では」
神峰「えっ? あっ、えっと……妹紅さんの事、よろしくお願いします!」
言うや否や踵を返してずんずんと歩いて行くさとりを慌てて追う神峰。
紫達は、後ろで待たせていた空と合流して姿が見えなくなるまで神峰達を見送った。
紫「───もちろん、監視させてもらうのだけどね<●><●>」
……………
……
さとり「まさか翔太さんまでここに来てるなんて思いませんでしたよ」
神峰「オレだってまさかこんなに早くさとりと会うなんて思わんかった」
さとり「あんな約束をした手前、正直に言うとちょっと気まずいんですが……」
神峰「同じく……」
お互いに格好悪さと恥ずかしさで顔を赤くさせていると、横から空が明るくストレートな意見を言うのであった。
空「えー? 私は久しぶりに翔太に会えて嬉しいですよ? さとり様も喜びましょうよー!」
さとり「あのね、お空。私だって嬉しいのは嬉しいのよ? だけどあんな別れ方をしておいて、こんなにあっさり会ってしまうと気恥ずかしさが……」
空「約束なんてしてましたっけ? あれ? そういえばどうして翔太は地霊殿から出て行ったんだっけ?」
さとり「この……鳥頭……」
神峰(オレの事は忘れてねェみてェで良かった……)
空のペースで会話をしていると要らぬ傷まで負ってしまいそうだったので、神峰は気恥ずかしさを紛らわせようと、話題の変更を試みる。
神峰「そ、そういえば! こいしはどうなってんだ? こっちでもたまに会うけど、何か掴めてるか?」
さとり「こいしですか……。しばらく地霊殿には帰って来てませんね。たまに帰って来たと思ったら訳の分からない計算をさせられたり、あの子の行動は掴みどころも一貫性もありませんから」
さとり「───って、あの計算のせいで翔太さん困窮してるんですか!? あああ、すみませんすみません! 今度何かお詫びを……!」
神峰「まさかのやぶ蛇かよ!!!」
空「ねーねー、さとり様、翔太! これ何ー!?」
神峰「自由か!」
何時の間にやら空が神峰達を手招きしているそこは、金魚掬いの出店のようで、ご丁寧に暖簾に「金魚すくい」と書いてあった。
にとり「お? やってくかい、盟友?」
神峰「金魚掬いかァ……どうする?」
さとり「金魚掬い……。確かこいしが十年くらい前に持って来た金魚がまだ健在なんですよね、ウチ」
神峰「あの金魚デケェと思ったらそんなに生きてんの!? っていうかそんなに生きるの!?」
さとり「まあ、何も不正がなければやっても良いでしょう。不正が無ければ……ね」
にとり「うげ……! さとりがなんで……?」
さとり「お祭りですからね。……どうやらこれには細工は無いみたいですね。いいでしょう、一回お願いします」
にとり「……毎度あり」
空「さとり様ガンバレー!」
ちょこんと水槽の前に座り、泳ぐ金魚をジッと見つめるさとり。その様子に緊張感は無く、まるで子供が無邪気に金魚を眺めているようだった。
しかしその様子を見て侮ってはいけない。何故なら相手はあのさとりなのだ。そう言いたげに、にとりの顔に緊張が走り、冷や汗まで流している。
そして、にとりから流れた汗が地面に落ちると同時に、さとりが動いた。
さとり「えい」
空「おお!?」
すいっと、水の抵抗を受ける事無く、無駄に水に濡らす事無く、お手本の様に一匹の金魚を掬い上げて空が歓声をもらす。
さとり「このように、この紙を破らないように金魚を掬い上げるのが金魚掬いというゲームよ。お空もやってみる?」
空「いいんですか!? 面白そう!」
さとり「それではにとりさん、もう一人追加で」
にとり「ぐ……毎度あり……」
───それからは凄まじかった───
神峰「上手っ! さとり金魚掬い上手っ!!」
さとり「そう、もっと浮かんで。ジッとしてて……。良い子ね」
空「さとり様みたいに出来ないんですけど~……もう一回!」
にとり「もういい加減にしてくれ! 商売上がったりだ!」
泣きそうな顔で懇願するにとり。
素早く掬おうとして水の抵抗を受け、すぐに紙を破る空。
そして、金魚と会話しながら次々と器へ掬っていくさとり。
金 魚 と 会 話 し な が ら 。
そう、金魚の心を読んでこのゲームに挑んでいるのだ(そもそもオンオフの切り替えが出来る能力ではないが)
イカサマ? バレなきゃイカサマではありません。私は直ぐに分かりますけど。とはさとり談である。
やがて、にとりにとって悪夢のような時間も終わりを迎えた。
さとり「あら、破れちゃったわね。……まあ、お空が失敗した分の元は取れているでしょう」
さとり「私一人だったら大損失なんですからそんなに落ち込まないで下さいよ。まるで私が悪者みたいじゃないですか」
にとり「十分悪いだろ!? 能力なんて使って非道過ぎる!!」
さとり「相手が私でなければ、イカサマしてボロ儲けしようと考えていた貴女に言われたくありませんね」
にとり「ぎくっ……」
さとり「まあ、金魚はまだ残っているので……もう一回───」
その言葉を聞いて、にとりの顔がサーっと蒼くなる。
さとり「───なんて、嘘ですよ。頑張って黒字を出して下さいね。さ、行きましょう」
にとり「うう……あんまりだァ……」
大漁に獲れた金魚を何とか手に持ちその場を離れようとするさとり達だが、あまりにもにとりが可哀想に感じた神峰が助け舟を出そうとする。
神峰「なあ、本当にこんなに沢山飼うのか? こんなに獲ったら持って帰るのも大変だし、少しくらい返してやってもイイんじゃねェか?」
にとり「盟友……っ!」
その提案に、にとりも項垂れていた顔を上げて瞳に希望を宿す……が───
さとり「返すわけ、ないでしょう」
にとり「……え?」
神峰(あれ!?)
さとり「この子達は地霊殿で世話をしますよ。そういう話も通ってますし……」
手に提げている金魚を目の高さまで持ち上げて微笑み、続ける。
さとり「それに、偶然とはいえ久しぶりに翔太さんと会えて、しかもお祭りも回れた思い出になりますからね」
神峰「う……」
そういう言い方をされると、にとりには申し訳ないが神峰も引き下がらざるおえず、渋々了解するのであった。
さとり「……ん?」
さとり(アレ……、今のセリフ……聞く人によっては凄く誤解を招きそうな……。そう、特に妹紅さんとか、紫さん達に聞かれたら非常に面倒な事になりそうな……)
神峰「どうかしたか?」
さとり「い、いえ……。それより、翔太さんは何かやりたい事はないのですか?」
神峰「オレ? そうだな……」
言ってから気付く。紫がどこかで盗み見ている可能性も考慮していたはずなのに、自分の迂闊さを悔やむさとり。
問題はあの連中の何人が見ているか、だ。
燐は兎も角、妹紅にはまだ気絶していてもらわなくては困る。
さとりは一人、密かに祈る気持ちでその場を後にした───。
……………
……
さとり「翔太さんって射的が得意なんですね」
神峰「ああ。前まではオレの唯一の取り柄ってカンジだったな」
空「じゃあじゃあ、射的が得意ならアレやってみようよ!」
神峰「アレ……?」
祭りの出店で何が上手いかという話で神峰が答えていると、空が爛々と目を輝かせてとあるコーナーを指差した。
そこへ目を向けると、"弾幕ごっこ 10人抜きで豪華景品"と書かれた看板があった。
神峰「イヤイヤイヤイヤ!! オレ飛べないから! 弾幕撃てないから!」
空「じゃあ私が飛ぶし弾幕撃つから、背中に乗って指示出してよ!」
さとり「翔太さん蒸発しないかしら?」
神峰「怖ッ!! っていうか動く的と動かない的じゃ全然違ェからな!?」
さとり「何も一発の弾をピンポイントで当てる訳ではありませんよ? 過去に間近で見てるなら知っていますよね?」
神峰「まあ……そりゃ……」
さとり「要はやり方次第です。弾幕をばら撒いて動きを制限し、追い詰める。どうです? 貴方なら今戦っている彼女達に、どうやって弾幕を当てますか?」
神峰「……」
さとりに誘導されるように弾幕勝負に釘付けとなり押し黙る神峰。
結局、決着するまで観続ける事となった。
チルノ「くっそ~~~……!」
射命丸「強ーーーーーい!! 9人抜き!! 弾幕ごっこで彼女に勝てる者はいるのでしょうか!? いや、いない!!」
さとり「では、行きましょうか」
神峰「は?」
さとり「私が翔太さんの心を読んで動きます。貴方のイメージする軌道、弾幕で。どの道、この子達を持つのに二人も抜けたら持ちきれませんからね」
手に提げていた金魚達を神峰と空に預けながら、やる気十分なさとり。
神峰「マジでやるの!?」
さとり「ただのお祭りですから、記念にやるのも良いでしょう? 気軽にやればいいんですよ」
神峰が決めあぐねていると、その様子が目に入った勝者の方から声をかけて来た。
魔理沙「なんだ、お前が地上にいるなんて珍しいな。次の相手はさとりか? 次で10人目なんだから呆気なく終わられたら困るぜ?」
さとり「ご心配無く。既に対策は立てておりますので」
魔理沙「引きこもってるヤツが、大した自信じゃないか」
さとり「戦いが苦手なのは変わりませんが、今回はとっておきですからね」
魔理沙「そいつは楽しみだ」
神峰(メチャクチャハードル上がってんだけど……)
射命丸「おおーーーっと!? どうやら10人目の挑戦者が現れたようです! 相手はなんと覚!! 痛くもない腹を探られるので私は苦手です! 」
射命丸「それでは、始め!」
戦いが始まると同時に仕掛けたのは、さとりだった。
さとり「それではいきますよ……」
複写『神峰翔太の弾幕』
─────
──
射命丸「勝ったァーーー!? 新チャンピオンの誕生です!! 一体誰の弾幕だったのでしょうか!? 見た事がありません! オリジナルのスペルですか!?」
さとりの勝利に一番困惑しているのは神峰である。まさか勝てるとは思わず、茫然とし、隣では空がはしゃいでいる。
魔理沙「まさか全て初見のスペルで来るとはな……参った参った!」
さとり「今日限りのとっておきでしたからね。それでは」
魔理沙「おいおい待てよ。どこ行くんだ?」
さとり「どこって……人を待たせていますから……」
魔理沙「何言ってんだ、新チャンピオン。どっか行くなら次の挑戦者に負けるか、あと9人倒して行けよ」
さとり「……え?」
……………
……
さとり「えらい目に遭いました……まさか勝つとは……」
神峰「オレも勝てるとは思わんかった……」
空「すごかったよ翔太! 私楽しかった!」
神峰「お空の弾幕はスケールデカ過ぎてビビった……」
さとり「あれは初見だと面食らいますからね。まず反応が遅れて硬直します」
神峰「でも、楽しかった。満喫した!」
どこかスッキリした笑顔で二カッと笑った。
そしてまた、桜舞う中で口を開く。
神峰「あのさ、俺……桜、嫌いだったんだ」
さとり「……」
もちろんそれは、さとりもこの日神峰に会った時に分かっていた事で、これから言おうとしている事も分かるのだが、さとりはそれでも神峰の次の言葉を黙って待つ。
神峰「桜が咲く春は新しい出発、新しい出会いの季節だろ? オレはそれを無理強いされてるとしか思えなかった」
神峰「オレにとって新しい出会いなんて、見たくもねェ嫌なモンが増えるだけだったからな」
神峰「幻想郷での新しい出会いも不安だらけだけど……、今はさとりのおかげで道も見えて来たし、オレの事をよくしてくれる人達も出来た」
神峰「今年の桜は……」
神峰「スゲェいい」
fin.
これにて本編は終了ッス
でもオマケがあるからもう少しだけ続くんじゃ
>>700
予想はよそう……(震え声)
神峰「オレ……桜、嫌いだったんだ」
幽香「あら? 聞き捨てならない事が聞こえたわね……? 桜が嫌いとかどうとか……」
幽香「貴方それ、真摯に言っているのよねぇ……?」
本来はこうして御器谷先輩を嗾ける奏馬先輩の如く弾幕ごっこの流れに行く予定だったけど、綺麗に締められないのでカット。
ではオマケをどうぞ
萃香「おーい、さとりィ~!」
神峰「お?」
さとり「え?」
空「う?」
萃香「勇儀の言った通りだ! 本当に来たんだね」
勇儀「私が嘘を吐くワケないだろ? 」
萃香「そりゃ分かってるけど、さとりが地霊殿から出たなんて話は疑っちまうよ、普通」
神峰「勇儀さんも来てたんスか!」
勇儀「久しぶりだね、翔太」
勇儀「むしろさとりにまで誘いが来るって事は、地底の連中の殆どに声がかかってる事が多いね」
さとり「その誘いすら、以前までは全く来てませんでしたけどね」
萃香「そんな事はどうでも良いよ。とにかく今はアンタと酒が呑める! それだけで十分だ!」
さとり「あ……その、人も多いですし、お酒は遠慮しておきたいのですけど……」タジ...
萃香「酒癖が悪い事は勇儀から聞いた! だがそれも見てみたい!」
神峰(オレもちょっと見てみてェ)
さとり「翔太さんまで何を言うんですか!?」ジロッ
神峰「言ってねェけど!?」
勇儀「非力なお前さんが萃香に抵抗するだけ無駄だよ。諦めて醜態晒してきな」
さとり「止めるという選択は無いんですか……? こんな大勢の前で酔っ払ったら私、また引き篭もりますよ!?」
勇儀「なんで酔う前から面倒くさい事言ってんだよ。萃香が飲みたいって言ってんだから、止めるのは野暮ってモンだろ? よっこらせ」
さとり「待って下さい。何処に行くつもりですか? いえ、みなまで言う必要はありません。面倒事を萃香さんと翔太さんに全て押し付ける気ですね!?」ビシッ
勇儀「チッ、本当に厄介な能力だよ。……たまには翔太みたいに、自分だけの力で乗り切ってみたらどうだい?」
勇儀「翔太は初めて私とサシで飲んだ時、そんなにゴネなかったしすぐに心を決めたよ?」
さとり「そ、それは知っていますが……」
さとり(勇儀さんの言う事も一理ある……。地底では私の醜態もすぐに拡まって、お酒の席では面倒だからと、皆さん私に飲酒を控えさせてましたし……)
さとり(何より、私だけ一方的に知られるというのが、他者との溝を大きくしているのかも……。そう考えると、私の醜態を見せてようやくイーブン……?)
神峰(これはもしかして駄目な方に考えてんじゃねェか……?)
さとり(黙ってて下さい)
さとり「いいでしょう……」
萃香「おっ!」
さとり「そんなに言うのなら、飲んであげましょう……。ただし、後悔しても知りませんよ?」
萃香「良くぞ言った! 本当に別人の様に変わったね! これも勇儀の言った通りだ!」
勇儀「だから嘘は吐かないって。私は懐かしいヤツらの所に行くから、後の事(面倒事)はよろしく」
萃香「おう、行ってら~」
さとり(勇儀さんが居なくなると途端に不安になるんですけど……)
神峰「大丈夫だよな……これ?」
─────
──
♪死霊の夜桜
http://youtu.be/DUKO-wj7QUQ
パルスィ「皆さんお久しぶり。翔太が鬼達と呑んでいる間は、私達の出番よ」
ぬえ「また集まったよこの面子……。というかアンタもよく来たね、前回あんな事になったのに」
アリス「……べ、別にいいでしょ? 人が多過ぎるから落ち着きたかっただけだし……」
パルスィ「早速ぼっち力全開かしら? それはそうと今回は、前回裏方だった念写協力の姫海棠はたてさんが出て来てくれたわよ」パチパチ
はたて「え? なんで私ここに座ってんの? 裏方でいいんじゃなかったの!? ヤメテよこいつらと同類みたいじゃない!」
アリス「まごうことなき引き篭もりが何言ってるの?」
ぬえ「アンタレベルの同類なんてさとりくらいしかいないって」
パルスィ「歓迎されてるみたいで何よりね。それじゃ早速、私が個人的に気になっている小ネタ、藤原妹紅の変化を見てみましょう」
はたて「どう見ても歓迎されてる様には見えないわよね? もうヤダ……お家帰りたい」
~~~~~
~~
慧音「───なんだ、そうだったのか……。こちらの早とちりで、す……すまなかったな」
神峰「いえ、誤解が解けたみてェで良かったス。それじゃ、失礼します!」
慧音「気を付けて帰れよ!」
妹紅「……慧音ってば妄想逞し過ぎじゃない? ちょっとビックリしたわ……」
慧音「う……すまん……忘れてくれ……」カァァ
妹紅(それにしても、思い返してみれば、神峰……ずっと味方でいてくれるって約束してくれたのよね……)
妹紅(その上、偽物だったけど蓬莱の薬も迷う事なく飲んで……。アレ? これって私の為に永遠に生きても良いって事……!?)ハッ
慧音「?」
妹紅(いやいやいや! その解釈はおかしいわよね!? だったら自分の目に苦しんできたのに、不老不死になっても良いってどういう事!? え!? そういう事!?)カアァ
慧音「おい、妹紅……?」
妹紅(ヤバい、なんか顔が熱くなってきた! 落ち着くのよ私! そう、神峰には覚が居るじゃない! 覚のおかげで頑張れたって言ってたし、きっと特別な感情だって持ってるはず……!)
妹紅(あ、思い出したらちょっと凹んで来た……。───って何で!? 何で私が凹むの!? もしかして私が神峰の事好きなの!? わかんない! これは慧音に聞こう!)チラッ
慧音「どうした……?」
妹紅「ねえ慧音……。神峰だってずっと若い人の方が嬉しいわよね!!?」
慧音「本当にどうした!!?」
妹紅(あああああああ違う違う!! そういう事を訊きたいんじゃなくて!!)
妹紅「ゴメンゴメン……ちょっと混乱してたみたい。訊きたいのはそういう事じゃなかったわ」
慧音「そ……そうだよな? なんだ、驚かさないでくれ───」ホッ
妹紅「私って神峰の事好きなのかな!?」
慧音「」ビシッ
慧音「妹紅……私が変な勘違いをしてしまったのは謝る……。だから、混乱してるのなら早く目を覚ましてくれ」
妹紅「あ? ……そ、そうね。ごめん。慧音が分かる事じゃなかったわね」
妹紅「ふぅ~~……、うん、落ち着いた」
慧音「ホッ」
妹紅「私、神峰の事を好きになったみたい」
慧音「神峰ェェエエエエエエエ!!!」ドドドドドド
妹紅「何処行くの!? 待ってよ慧音!!」
……………
……
【妹紅の家】
慧音「まさか妹紅が神峰を……」
妹紅「やっぱり1300歳も歳上だとキツいと思う?」
慧音「改めて聞くと凄い年の差だな……」
慧音「しかしそれ以前に、神峰には気になる相手(アリス)がいるから厳しいんじゃないだろうか?」
妹紅「う……それ(さとりの事)は覚悟の上よ……!」
慧音「妹紅には申し訳ないんだが、実は良かれと思って彼女(アリス)を紹介したんだ……」
妹紅「え!? じゃあ慧音が神峰を地底に送ったの!? 正気の沙汰じゃないわよ!?」
慧音「んん……? 私がそんな事するはず無いだろ? というか神峰と会ったのはあいつが地底から出てきた時だし」
妹紅「は? じゃあその後に(さとりを)紹介したの……? 慧音ってもしかして鈍感なの?」
慧音「心外だな。これでも私が初対面の二人を引き合わせてやったんだぞ? ……って今になっては妹紅の首を締めているんだが……」
妹紅「え!? あの二人って地底に居た時に知り合ったんじゃないの!? 神峰は知ってる風だったわよ!? あいつ(さとり)のおかげで立ち直れたとか言ってたわよ!?」
慧音「それは初耳だ。……まあ、慣れない人里で独り身だったし、彼女(アリス)が仕事をするのに必要な癒しになったのかもな」
妹紅「いや、仕事の癒しとかじゃなくて、もっと自分の生き方に関わるレベルで支えになってると思うんだけど!?」
慧音「そんなにか!? お前そんな強敵に勝てるのか!?」
妹紅「う……何か自信無くなってきた……」
妹紅「そうよね……。神峰が私にしてくれた事を、相手(さとり)は神峰にしてるのよね……」
妹紅「いやいや! でもこれからは私にチャンスがある! 相手(さとり)は神峰の前にはしばらく出てこないっぽいし!」
慧音「そうか? (アリスは)割と頻繁に人里に来てるぞ?」
妹紅「ええええ!?」
……………
……
【人里】
妹紅「良く考えたら、一番の問題は神峰が心を見る事が出来る事じゃない……」
妹紅「どう見えてるか知らないけど、隠しても意味が無いなら、ストレートに行くしか───」
神峰「あ、妹紅さん! こんにちはス!」
妹紅(出たァァァアアア!?)
神峰「ヒッ!? なんスか!? オレ何かしちゃいましたか!?」ビクッ
妹紅(あああああダメだダメだ!早く落ち着け! 隠しても意味が無いんだ! 真っ直ぐ伝えるのよ!)
妹紅「あ、あのね神峰……!」
神峰「だ、大丈夫スか……? なんかスゲェ慌ててるみてェスけど、 急ぎの用事でもありましたか?」
神峰「あ……だったらオレに構ってる暇なんて無ェスよね!? すみません!」
妹紅「……え?」
妹紅(ナニコレ……? なんか、そう、私のやる気が空回ってるような手応え……)
妹紅(もしかして神峰って……、鈍感……!?)
おわり
~~~~~
~~
パルスィ「そうそう、これよ! こういう妬ましくて幸せそうなのを見たかったのよ!」ギリギリ
はたて「全く待ち望んでいたように見えないわよ?」
アリス「あー……あの時の慧音ってそういう事企んでいたのね……」
ぬえ「で? あんた自身は神峰の事、どう思ってんの?」
アリス「どうって……初めて会った時以来全く会ってないし、その他大勢の村人と同じよ?」
パルスィ「何でメインヒロインのさとりとの絡みがある地底編でラブコメ展開が無くてこんな終盤であるのかしら? おかしいんじゃないの?」
はたて「それについては補足が来てるわね」カチカチ
はたて「何々? 地底編では神峰とラブコメるのは邑楽先輩のみという、謎の原理主義が発動して誰とも恋愛させる気が無かった……ですって。邑楽先輩って誰!?」
ぬえ「あっち側の人かー……」
パルスィ「次行きましょう、次」
ここまで。
次からは短いのがいくつか続いて終わりの予定
乙ス
お前今小ネタで1000まで埋めるっつったか オ!?
神峰「阿求さんて歳上だったんスか!?」←'97年生まれ
阿求「知りませんでしたっけ?」←'94年生まれ
神峰「見えねェ!」
最終回に入れようとしたけどカットしたネタからいきやす
リアルタイムで書いてくので遅筆
~演奏が終わって・鳥獣伎楽~
聖「捕まえたわよ、響子」
響子「うう……」
ミスティア「どうして私まで……」
聖「別に今回の事で何かを咎めるつもりは無いわ。ただ、以前注意して以来、人の迷惑になる場所、時間にライブはやっていないか確認したくて」
響子「そ、そんなのもちろん……!」
神峰(あ、心が目ェ逸らした……)
聖「本当に?」
響子「もも……もちろん……」
聖「神峰さん?」
神峰「ハイィ!?」ドッキーーー!!
聖「響子は本当の事を言ってるのかしら?」
響子「神峰……!!」
神峰(オレが正直にノーって答えたら響子はどうなるんだ……? でも聖さん相手だと嘘なんて吐けねェよ……)
神峰「……いえ、本当の事じゃ……ねェ、みたいス……」
響子「うわあああ!!」
聖「……そう。あれだけ注意したのに、守れなかったのね」
聖「南無三!!」
/l 「  ̄ | /l 「 | ‐l
/l l | | |_, | | / | | | | | |ヽ
/ | | | | レ | | | | | レ V | \
| | | |/| l/ | | | | \ \
| レ| | |/ | / | | \ \
| | // レ |/ \ | /ヽ
| /レ ヾ/ /
| | _, ,_ / /
| | ( ‘д‘) 〈 /
| | ⊂彡☆))Д´) V
| |
| /
神峰ミスティア「「響子ーーー!?」」
~~~~~
~~
早苗「わぁ……かわいそう……」
ぬえ「聖って基本的にこんな感じだよね。身内には割と厳しい」
パルスィ「ガンガン行く僧侶は伊達ではなかったというワケね……」
ぬえ「居候だった神峰にもヤバい修行をつけさせた事あるから、こんなの序の口だよ」
はたて「いや、まずはそこの巫女にツッコミなさいよ!?」ビシッ
アリス「何でここにいるの!?」
早苗「何でって……、本編最終回の始めで存在を仄めかされたのに、全く出番が無かったからですよ!!」
早苗「霊夢さんや魔翌理沙さんは兎も角、自機が決定した声の出演の鈴仙さん、あまつさえ神奈子様まで出たのに!!!」
はたて「あなたの出番は文に取られたのよ……。『実況なら早苗より射命丸だろう』って事で」
早苗「わああああああああん!!」
パルスィ「今、凄く心地よい空気が流れているわ」
アリス「あんただけよ……」
~演奏が終わって・プリズムリバーズ~
紫「初めて人前で演ったにしては、上手くいったんじゃないかしら?」
藍「ありがとうございます」
妖夢「とは言っても、殆ど騒霊三姉妹の力ですけどね……」
メルラン「そう簡単には追い付かれてあげないわよ~?」
ルナサ「貴女達にはまだまだ教える事が沢山あるわ。……というか、メンバーが足りなさ過ぎて教えるに教えられないけど」
リリカ「ヘルプありがとう! 凄く助かった! ねぇ、ウチの楽団には入ってくれないの? 入ってくれた方が私としては担当が分担出来て楽になるんだけど」
雷鼓「悪いけど、次のコ達の演奏にも助っ人として出るからね」
雷鼓「それに……一つのバンドに留まるより多くのバンドを渡る方が、演奏の機会が増えるから、私(楽器)としては嬉しいね」
リリカ「えー……残念」
リリー「さっきの演奏はあなた達?」
藍「リリーホワイト! こんな時期に見るとは珍しい!」
リリー「さっきの演奏、凄く良かった! 春の匂いがした!」
メルラン「……は?」
ルナサ「音が匂うワケ無いでしょ……」
妖夢「いやいや! きっと褒めてくれてるんですよ! 良かったって言ってたし!」
リリー「もっと春の曲を聴かせてよ!」
こうして、春になると楽団にリリーホワイトの姿が度々見受けられるようになる。
~~~~~
~~
パルスィ「そして事故ってもう居なくなるんですね。分かるわよ」
はたて「それ以上はいけない」
アリス「春の始まりに春告精を見つけると吉兆が訪れるって言うけど、この場合どうなるのかしら?」
ぬえ「まだそこらに居るなら、捕まえて確かめてみる?」
早苗「それでもう居なくなったらあなたのせいですよ!?」
はたて「もう居なくなったとか言うな! そのネタはいろいろ危ない気がするから!」
パルスィ「散々本家ネタ使ってるし、どころか前作のネタも使ってるんだから大丈夫よ」
アリス「いや、居なくなったは際どくない……? 『もう居ない』なら使っても大丈夫でしょうけど」
ぬえ「お前ら何の話をしてんの?」
~超短編・雷鼓さん~
・プリズムリバー演奏時
雷鼓「さあ、外の世界の使役者(ドラマー)よ! 幻想郷に虹のビートを響かせよ!」
・鳥獣伎楽演奏時
雷鼓「ウシャアアアアアアアアア!! メロディ着いて来いコラァアアア!!!」
~~~~~
~~
早苗「これはひどい……ドラマーズハイとでも言いましょうか……?」
アリス「すごい豹変するのね」
パルスィ「誰の魔翌力の影響を受けたのか、モロバレね」
ぬえ「え? ずっと地底に居たのに外の世界の人間に心当たりあんの?」
パルスィ「いえ、こっちの話よ」
はたて「そういうメタなネタ、控えなさいよ……」
パルスィ「だって、仕方ないじゃない……?」
はたて「何がよ!?」
早苗「さあ、次々いきましょう!」
メタネタになるのは(眠気のせいなので)仕方ない
次で終われるな
>>767
言ってねェス! 言ってねェス!
200レス以上もネタ出てこねェよ……
まぁ確実に青娥が神峰に興味持つよね長くなりそうだし書かないけど
乙
あとジャンプ+で8月2日から連載再開だね
終わるなんて考え、2秒で切り替えしてくださいよ(迫真)
影狼「私達弱小妖怪は、助け合わなきゃダメだと思うの!」グッ
影狼「他人の強さを僻む前に、力を合わせよう!」
わかさぎ姫「そうだ!」
影狼「草の根妖怪ネットワークのメンバーを増やそう!」
わかさぎ姫「増えろ!」
赤蛮奇「……」
一周年する前に終わらせようとしたのに……
本編は終わってるからいいか
~二月某日~
神峰「……っ!」ガタガタ
慧音「どうした神峰? 嫌な心でも『見」えたのか?」
神峰「イヤ、今日寒くねェスか!?」
慧音「なんだ……そんな事か」
慧音「幻想郷では今日みたいな大寒波が来る日は、雪女が関わっている事が多い。確か……レティと言ったかな?」
神峰「そのヒト知ってるス! 幻想郷縁起に乗ってた!」
慧音「冬の風物詩……というには些か迷惑な妖怪だ。まあ、寒いからと言って何でも彼女のせいにしないようにな。あと、間違っても冬にレティに近づくなよ?」
神峰「一人で人里を出る勇気なんてねェス……」
~三月三日~
神峰「アレは何をやってんスか? 灯籠流し?」
慧音「雛流しだな。流し雛とも言う。桃の節句に、穢れや厄を祓う意味を込めて、ああやって流し雛を流すんだ」
神峰「幻想郷ってそんな習わしがあるんスね」
慧音「何を言っているんだ? 幻想郷にある風習なんて、元は外の世界の風習だぞ? きっと結界の外でも流し雛をやってる地域がある筈だ」
慧音「……まあ、幻想郷の流し雛は、外とは違って本当に厄神に流した厄が届くんだけどな」
神峰「厄神……? そういえば幻想郷縁起に載ってたような……」
慧音「異変の関係者や、博麗の巫女や魔理沙が出会った妖怪なら殆ど載っているからな。阿求の仕事は優秀だ」
慧音「そして厄神の事だが、会った事のある者の話では、気さくで話しやすく、友好的な神様らしい。……ただ、溜め込んだ厄が彼女の周りに漂っているため、十中八九不幸に見舞われる事になるだろう」
慧音「だから、厄神に会う事は避けるようにな」
神様「そもそも一人で人里を出る勇気がねェス……」
~~~~~
~~
パルスィ「こんな感じで、翔太に単独で会わせられないキャラって以外と居るのよね」
はたて「その最たる例がメディスン・メランコリーと吸血鬼の妹、フランドール・スカーレットね。門番の安心感とは裏腹に、紅魔館に入っての危機感がハンパじゃなくて紅魔館編を断念したくらいだしね」
早苗「そのくせ風見幽香さんには人里で会わせようとかいう考えが
───、いえ、基本的に妖怪に会おうというのがそもそもおかしいんですけどね」
ぬえ「お前ら何の話してんの?」
アリス「いつもの事でしょ? もう慣れたわ」
パルスィ「いい加減この流れも飽食気味ねぇ」
アリス「いや、あんたの嫉妬ネタに比べれば……」
パルスィ「ネタでやってんじゃないわよ!」
・鈴仙の愚痴
鈴仙「聞いて下さいよ! 神峰さん!」
神峰「ひっ!?」ビクッ
神峰(やっぱりきた! ウチに来てから問診の間、ずっとイライラしてたみてェだし、爆発するんじゃねェかとは思ってたけど……)
神峰「えっと……何スか……?」
鈴仙「最近、てゐの手口が巧妙になったというか、真に迫るっていうか……」
鈴仙「騙しをする時に暑苦しいっていうか……、こっちを真っ直ぐ見据えて熱弁するのよ! 私の心に直接響かせるみたいに!」
鈴仙「今までは言葉巧みに誘導してただけなのに、何処かで新たな手口を身に付けたみたいで……!」ワナワナ
鈴仙「何であんな言葉信じちゃったの!? 私のバカっ!! 悔しィ~~~ッ!!!」
神峰「そんな事をオレに言われても……」
鈴仙「他に言える人が居ないんだもん! 師匠や姫様になんて言えないし!」
鈴仙「っていうか師匠も師匠で、今回の治験で新たな仮説を立てたみたいで、私その実験台にされてるのよ!? おかげで何度デジャヴを視た事か……」
鈴仙「ね、ねえ……私、ここに居るわよね……? 今見て話してる私は実は未来の私で、本当の私は実験室で虚空を見つめているなんて事無いわよね……? 私は現実……? それとも空想なの……?」カタカタ
神峰「こっ、怖ッ……!? 落ち着いて下さい!! 現実なんで!! 居ます! ここに居ますから!!」
鈴仙「そうね……あんたにとっては現実だったわね……。でも、私にとってはまた経験するかも知れない出来事かもしれない……。もしも私が過去から来たって言ったら……笑う?」ヒシッ
神峰(駄目だ、混乱してる上に疑心暗鬼になってる! 誰か助けを呼ばねェと……オレ一人じゃどうにも出来ねェ! でも肩を掴まれて身動きがとれねェし……なら!)
神峰「だ、誰か!!! 助けてはくれませんか!!?」
妹紅「ど、どうしたの神峰!? 何があった!?」バンッ
神峰「妹紅さん! 良いところに! 鈴仙さんが混乱してるみてェで……!」
妹紅「良くわからないけど、引き剥がせばいいのね!?」ダッ
妹紅「この……っ、うらやま──じゃなくて、離れろ……っ! 神峰が困ってるでしょ!」グイィィッ
鈴仙「そうよ……これは幻なんだわ……。目が覚めると私は布団の中で、見慣れた天井を見てこう言うんだわ……『またか……』って──」ブツブツ
神峰妹紅「「怖い!!!」」
妹紅「こうなったら手荒な方法でいくしかないわね……」
神峰「あの、お手柔らかに……」
妹紅「当て身」ドス
鈴仙「ぐッ」
神峰(スゲェ綺麗に決まった……。あんなの漫画の中だけじゃねェんだな)
妹紅「それじゃ、こいつは永遠亭に運んでおくから」
神峰「あ、ありがとうございます」
妹紅「礼なんていいわよ。じゃあね」
妹紅(は……初めて神峰の家に入っちゃった……!)ドキドキ
神峰「はー……、オレ一人だったら手こずってただろうから、偶然とはいえ、妹紅さんが近くにいて助かったな」
神峰「……鈴仙さん、大変なんだな」
~~~~~
~~
早苗「自機化の裏でそんな苦労があったかと思うと……」
ぬえ「そりゃあライブでハジけたくもなるってモンよね」
パルスィ「私としては彼女が翔太の家の近くにいた事が本当に偶然なのか気になる所だけど。きっとストーカーみたいに張っていたに違いないわ」
はたて「文の話では、人里のとある地区を悶々としながらうろつく不審者がいるって聞いたけど……」
パルスィ「それよ!」
早苗「きゃーっ! 青春ですね!」
アリス「この食いつきの良さ……巫女は兎も角、流石は記者と嫉妬妖怪って所かしら」
ぬえ「私としては片方の事を知らないから、神峰とさとりの間でアレコレあった方が面白いんだけど」
パルスィ「むしろ三角関係になって修羅場ってくれたら百点満点ね」
はたて「記者的にもその方がおいしいわ」
早苗「素直に応援する気は無いんですか!?」
アリス(あんまり興味無い……)
はたて「さて、もう全部終わったみたいね。それじゃ、解散解散。あんた達も宴会に混ざってきたら? 私はもう家に帰るわ、バイバイ」
アリス「筋金入りの引き篭もり体質なのね……」
はたて「いや、だって鬼がいるし……」
ぬえ「上下関係なんてしがらみがあると大変だねェ。もっと自由に生きなきゃ!」
パルスィ「それを寺暮らしの貴女が言うの?」
ぬえ「それは成り行きとか、聖に恩があるからだ」
パルスィ「そう。つまり貴女は寺で暮らしてるけど、戒律も守らずに自由に生きてるワケ?」
ぬえ「聖の顔を立てるために人間は襲ってないけど、全部は守らないわよ」
パルスィ「成る程ね、分かったわ」ニコッ
ぬえ「?」
アリス(あ、これは解散直後に白蓮に捕まる流れだわ)
パルスィ「なら、いい加減お開きムードみたいだし、解散ね。適当に嫉妬を肴にお酒でも飲もうかしら?」
はたて「お先!」バサッ
早苗「私も諏訪子様の所へ戻りますね」
アリス「そんなに仲良く無いけど知らない仲でもないから……頑張ってね」ポン
ぬえ「え? どういう意味?」
アリス「すぐに解るわ。さようなら」
ぬえ「???」
???「……」テー→テー↑テー↓
これにて小ネタも終了ス
途中で気付いてずっと訂正するの忘れてたけど、>>372の渡りに船の使い方は正しくねェス
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ソルキャ読者増えろ!
以上、宣伝でした
依頼出してくる
さとりと妹紅の修羅場は、酔っ払ったさとりが妹紅を煽るシチュ(祭りをやってるこのタイミング)でしか実現しないだろうけど、各自妄想に任せるとしよう。
誰かの妄想によっては200レスはイケるハズ。俺には無理
このSSまとめへのコメント
続きが楽しみです。頑張ってください。
ぜははははははははははははははははははははははははははh
ソウルキャッチャーズのssだと!?