保険屋「あーあ、今日死んだら損なのになぁ」 (8)

プルルルル…!
サンバンセンニマイリマスデンシャハ…

毎朝毎朝同じ電車に乗って、仕事に行く。

時々、線路に飛び込みたくなる時がある。

そういう時はいつも、あの声が聞こえてくる。


保険屋「死にたいのおじさん? えーとちょっと待ってね、計算するから」


俺にしか見えないらしい女は、カタカタと計算機を叩く。

保険屋「えーと、今のプランだと、生命保険が一千万。受取人は奥さんだったよね」

保険屋「でもね、大事なこと忘れてる」

保険屋「自殺じゃ、保険金はおりないから。飛び込みなんてやめときなよ、折角毎月払ってるのに、一円も返ってこないよ?」

電車がホームに突進してくる。俺は最期の一歩を、踏み出さなかった。


男「ああ、今日もやめておくよ」

今日も同じ電車に乗って、仕事に行く。

保険屋「いってらっしゃい」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406121995

営業先から直帰する途中、スマートフォンに着信があった。


聞いたことも無い名前の病院からだった。


「   」さんの旦那さんでいらっしゃいますか、という事務的な質問。


男「交通事故…?」


タクシーに乗り込み、聞いたばかりの病院の名前を運転手に言う。


保険屋「じゃあプランの確認をしまーす」


いつの間にか、後部座席の隣に女はいた。



保険屋「被扶養者に怪我や病気があった場合、入院一日あたり最大3万円を保証。手術は100万円まで」


保険屋「おっと残念、おじさんの選んだプランだと、被扶養者が死亡した時の保証はないね」


保険屋「死んでないといいね。葬式にもお金がかかるし」


男「少し、黙っててくれないか?」


保険屋「ご機嫌斜めだね。もしかして、お腹にいる赤ちゃんの方が心配?」


男「何だと」


保険屋「睨まないでよ。気付いてないかもしれないけど、おじさんの目って怖いよ」


保険屋「まるで、死にかけの犬みたい」

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