P「十三少女漂流記」 (177)


P「765プロのアイドル十三人は、夏休みをつかって楽しい一週間の船旅にでるはずだった」

P「しかし、出航の前夜、アイドルたちだけを乗せた船は、なぜか港を離れ」

P「あてどもなく海を漂うことになる」

P「目が覚めた時、彼女たちはなんと150年前の太平洋にいた」

P「見わたす限り広がる海、海、海」

P「GPSも電波も届かない世界で、彼女たちはどう生き抜いたのか」

P「それでは765プロ劇場のはじまりはじまり」



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――――エピソード1 765号の漂流――――



ボクは菊地真。日本生まれの日本育ちです。

これから紹介するボクの日記は、

ふつうの少女では、けっして体験できない冒険の記録です。



そのときアイドル達の乗った765号は嵐の海に漂っていました。

船上ではみんなが必死に船の操縦をしようと奮闘していて…


ザーン…ザザーン…!!


伊織「また大波よ!!」

ザブーンッ…!!

律子「舵輪を離さないで!」

ザザーン…!

真「まわして、右へまわすんだ!」

伊織「ぐっ……ひどく重いわ…!」グググ…

ザザザ……

律子「気をつけて…!波が来たわ!!」

ザッパーーン!!!


伊織「ふぅ…一体いつまで続くのよ…もうくたくたよ」ハァ…

真「元気をだそう、伊織。船内には亜美たちもいるんだ」

伊織「わかってるわよ。あんたに言われるまでもないわ」


真「響、ケガはなかった?」

響「大丈夫!…それより、横波に気をつけて!」

律子「腰を落としてっ!また大きいのが来るわ!」


一艘のスクーナー船が、荒れ狂う海に弄ばれていた。

吹きすさぶ風。

横殴りの雨。

真っ暗な空には、ときおり稲妻が走り、

泡立つ海面を照らしだす。

船尾では、4人の少女が舵輪にとりついて、

船が転覆するのを必死に防いでいた。

船のメインマストはすでに折れ、

帆の中で残っているのはフォースル(※前の帆)だけだった。


船内では、揺れるランプの下でおびえた顔のアイドル達がお互いを励ましあっていた。

亜美「亜美たち、どうなっちゃうのかな…」

真美「はるるん、船は大丈夫なの?」

やよい「私たちじゃ、どうしようもないですよね…」

春香「上で律子さんたちが頑張ってくれてるから、きっと大丈夫!」

千早「すぐにこの嵐も収まるわ。心配しないで」

貴音「さぁ、毛布をかぶっていなさい。体を冷やしてしまいますよ」


―――
――



20××年7月22日。

ボクは17歳で、765プロのアイドルだった。

それは765プロの夏休みが始まる日のこと。

ボクたちアイドルの仲間は13人で一週間の船旅に出かけることになっていた。

船は765号という2本マストのスクーナーだ。

安直な呼び名を付けたのは船を手配してくれた高木社長だった。

出帆はつぎの朝だったが、とても待ちきれないボク達は、

社長にお願いして前の晩から船に乗りこんだ。

船長や水夫たちは出かけていて、

船に残ったのはアイドルだけだった。

ボク達は思い切りはしゃいだあと、船室のベッドにもぐりこんだ。


やよい「みなさん起きてください!船が動いてますーっ!」


ボク達はデッキに飛び出した。なんということだ。

船は港を離れ、暗い海を沖へと流されている。


一同「  」ボーゼン


あずさ「とにかく連絡をとるしかないわね…」

美希「それが…変なの。電波が入ってないの」

あずさ「えっ…?まだ沖からそんなに流されていないはずじゃ…」

律子「こういうときは備え付けの無線ね。任せて」


・・・ツーツー

律子「おかしいわ…無線も繋がらないなんて」

伊織「この船、構造はヴィンテージだけど、機器まで古いわけじゃないのに」

律子「どういうことなのかしら」


貴音「みんなで帆を張りましょう。港へ戻れるかもしれません」

春香「とにかく今やれることをやった方がいいですよね…!」アタフタ

雪歩「あっ、あの光はなんでしょう?」

律子「あれは……汽船よ!」

千早「こっちに近づいてくるわ!」


やよい「たすけてくださーい!!」

美希「助けてなのー!!」

真美「おおーい!こっちだよー!!」

「「「おーい!助けて――!!」」」



だがボク達の叫びは届かなかった。

汽船は765号の横腹をかすめると、そのまま深い闇へと消えていった。


それから2日後、激しい嵐が襲ってきた。

そして1週間もの間、命がけの闘いが続いたのだ。


7月30日。

嵐は峠をこえたが、海はまだ、白い牙を剥いている。

ボク達は、ものを言う気力もないほど疲れていた。

夜明けが近づいていた。


やよい「陸ですっ!陸が見えますよ!」

真「陸だって!?」

律子「どこ、どこに見える?」

伊織「やよいが言うなら間違いないわね」


やよい「霧の切れ目をよく見てください。あそこです!」

律子「ホントだ、見えるわ!」

真「確かに陸だ!」


夜明け前からしのびよった灰色の霧が、765号のゆくてに広がっている。

そのわずかな切れ目に、黒い影がはっきりと見えた。


響「このぶんなら、あと一時間くらいで、あの陸地にたどりつけるな」

春香「…でも海岸の手前には暗礁がたくさんあるよ?」

千早「そんなのにぶつかったら船なんてバラバラね…」


そのときだった。

後ろから轟音とともに巨大なうねりが迫ってきていた。


ザザーン…!

あずさ「みんな、後ろから大波が来てるわ!」

貴音「早く何かにつかまるのですっ!!」

「「わーっ!!」」

ザーー…

ザッパァァァン!!!…


伊織「はぁ…船が止まって良かったわね」

真美「流されて岩にはまっちゃったんだ」キョロキョロ

真「みんな、なんともない?」

雪歩「うん、だいじょうぶ…」

春香「よかった、誰も怪我してないね」ホッ

響「だけど、どうしたらいいんだろ。岸まであと500メートルはあるぞ」

響「この波じゃ危なくて向こうまで泳げないよね…」


やよい「そうだ、ボートがあるんじゃないかな?」

伊織「それよ!ボートで海岸まで向かえばいいじゃない」

真「だめだ、そんな危険なことはしないほうがいい」

伊織「真、アンタに命令されたくないわ。どいてちょうだい」

真「波を見て。岸までたどり着けっこないよ!」

伊織「うるさいわね!出来るって言ってるのよ!」

雪歩「二人とも落ち着いて~!!」アワアワ


「「雪歩は黙ってて!」」

雪歩「えぇ~!?」ウゥ…


律子「伊織、今は言い争いをしているときじゃないわ」

律子「あんたの気持ちも分かるけど、もう少し海がおさまるのを待ちなさい」

伊織「…しかたないわね。私は真にあれこれ言われるのは好きじゃないのよ」ツン


海は鎮まる気配を見せない。

再び後方から轟音と共に押し寄せる波。



春香「あっ!!また大波がきてるよ!」

ザザーーーン!!

律子「もう、休む暇がないわね!しっかりつかまって!」


ザァァァン!!ドーン……


美希「うーん……一体どうなったの?」


やよい「もしかして、陸に乗りあげたんじゃないですか!?」


千早「そうだわ…今の大波が砂浜まで運んで…」

響「自分たち、陸についたぞ!!」ワーイ!!

春香「大地ですよ大地!!」ワッホイ



大地を足の下に感じることは、なんて素敵なんだろう。

ボク達は手をとりあい、とびはね、喜びあった。

響の愛犬、いぬ美も嬉しそうに走り回っている。


真「まずは、雨や風をしのげる所を見つけよう」

伊織「ところで、ここは一体どこなのかしら。島なのか大陸なのか」

伊織「相変わらず電波も入ってないし、人もいないみたいだけど…」

響「軽く辺りを探検してみるぞ!貴音、一緒に行こう!」

貴音「わかりました。律子、あずさ、しばらくみんなを頼みます」


響と貴音は、いぬ美を連れて出発した。


せまい湾を囲むように林がつづき、


その奥には崖がそそり立っている。


人が住んでいる気配はなく、生活できそうな洞穴も見つからなかった。


響「しばらくはこのまま765号で暮らすしかないだろうなー」

響「キールが砂浜に深くめり込んでるから、少なくとも流される心配はないぞ」

美希「住む場所はゆっくり探すとして、ミキ的には食べ物が気がかりなの」

千早「缶詰やレトルトが船の倉庫には残っているわ」

律子「貴音、出来るだけ節約してね?」チラッ

貴音「…承知しました」クスッ


律子「とりあえず、みんなで協力して数日は乗り越えないといけないわね」


やよい「食事のしたくなら任せてください!」ウッウー!

春香「それなら、私も手伝うよ!」

雪歩「私も手伝うね、やよいちゃん」

あずさ「あらあら、13人分は大変よね。私も協力するわ♪」


美希「ミキはお昼寝~♪」

伊織「アンタは私と船の修理よ。手伝いなさい」


響「それじゃ、自分たちは魚や貝を採ってくるぞ!」

真美「りょーかいひびきん!」

千早「私に上手くできるかしら…」

響「大丈夫、自分がちゃーんと教えるからね!」


亜美「………」

真「亜美、行かないの?」

亜美「えっ?…あ、行くよ、真美待ってー!」トタトタ…



どうしたわけか765号が流されたときから、亜美は元気がない。

船に乗った頃は一番賑やかだったのに。いまはすっかり無口になっていた。


ボクは伊織と美希の手伝いをしようとしていた時、思案顔の貴音に声をかけられた。

貴音はこの漂流について、ある持論を話してくれた。


貴音「律子、真、少しいいですか。今回の件について話があります」

律子「ええ、丁度、貴音の意見が聞きたいと思っていた所よ」

貴音「はじめに、『ハシブトゴイ』、という鳥をご存知でしょうか」

律子「聞いたことないわね」

貴音「そうでしょう。絶滅してしまった種です」

真「?」

貴音「先ほど島を回った時…」

貴音「その種と見受けられるものが生息していました。間違いなく本物です」

真「絶滅したのに…?どうしてさ」


律子「貴音も考えてることはおおかた同じみたいね」

律子「私も船が嵐に遭う前にすれちがった汽船が気になっていたわ」

律子「あれはどう考えても現代のモデルじゃないわ。ヴィンテージでもないし、時代錯誤すぎるのよ」


真「さっきから二人の言ってること、ボク全然分かんないんだけど…」


貴音「よく聞きなさい、真」

貴音「ここ数日間、通信が途絶えているのも、救助が来ないのも、大きな原因があるということです」

貴音「そしておそらくこれは、“たいむすりっぷ”と呼ばれる現象」

真「タイムスリップ…?そんなの…」

律子「ありえない。そう言いたいのも分かるけど」

律子「でも、そうとでもしなきゃ説明がつかないわ」


次の朝、響はみんながまだ寝ているうちに、ひとりで765号を出発した。


北のはずれに見える岬にのぼり、


ここが島かどうかをたしかめるつもりだった。


海岸に沿って歩いていくと、


岩礁のうえではアザラシがのんびりとたわむれている。


岬のふもとにたどりつくと、ペンギンの群れと出会った。


もうかなり日は高い。


響は岬の頂上まで登ると、


すぐに、望遠鏡で、北・西・南と見わたしたが、


ただ、はてしのない海が広がるばかりだった。


そして東のほうは、


平地がつづき、その先には大きな森も見えた。


響「ここは大陸なのかな…近くに人が住んでそうな場所は…」


そのとき、森の遥か向こうで何かが光ったような気がした。

響はもう一度望遠鏡をのぞき、目を凝らした。

それは、青く細く、横にのびているひとすじの線だった。


響「あれは間違いなく海だぞ!」

響「残念だけど、ここは島だ。大陸じゃない」

伊織「あんたの見間違いじゃないの?」

真美「雲だったんじゃないのー?」

響「それなら自分も嬉しいよ。でも、はっきりと海の青い色を見たんだ」


伊織「ふーん?なら、一度確認に行ってみるのもいいかもね」

響「じゃあ自分がその海まで連れてくよ!伊織も一緒に来て」

伊織「いいわ。のぞむところよ」


律子「よし、んじゃ、響と伊織と…真、美希、一緒に行ってあげて」

美希「えーミキも!?」

律子「あんたはここにいてもあんま役に立たないでしょ」

美希「…しょうがないの。よろしくね真クン!」


律子「無理な行動や、間違っても仲間割れなんてするんじゃないわよ」

律子「それから、私たちが住めそうな場所を探すのもお願いね」

「「「「はーい」」」」



探検に出発する前の晩、

ボク達は765号の真上にまたたく夏の大三角に探検の無事を祈った。

本日分は終わりです。読んで下さった方々ありがとうございました。
完結まであと3日ほどで仕上げます。

元のお話の量は膨大ですが、765プロ用に内容はかなり削ってます。

レス下さった方々ありがとうございます。
完結まで日を跨ぐので、便宜上トリップをつけさせていただいてます。

小鳥さんは…正直かなり悩みましたが…少女からは除きました。
でも大人になっても少女らしさを忘れない小鳥さん大好きです。

ジュール・ヴェルヌ、いいですよね。私は地底旅行や二万マイルも好きです。

こんなにお言葉くださってありがとうございます。
読んでくださってる方々もありがとうございます。
本日分を投稿します。



――――エピソード2 765島の開拓――――



8月1日。

朝早く、響、伊織、真、美希の4人は、765号を後にした。

いぬ美が先頭を走っている。

ここは島なのか、大陸なのか、

響が見た青い線は本当に海なのか…。

森の中を一時間ほど歩くと、岩山のふもとに出た。


真「ここは、がけ崩れがあったんだね」

美希「でも、おかげで足場ができてるの」

伊織「よし。登ってみましょう。響、ついてきなさい」

響「まって、ここは自分が登った所じゃないぞ」


伊織は振り向きもしないで登っていく。

三人もあとに続いた。


伊織「美希、望遠鏡をかしてちょうだい」

美希「どう?デコちゃん、海が見える?」

伊織「見えないわ。やっぱり響の間違いなんじゃないかしら」

美希「ほんとだ、響も見てごらんなの」

響「見る必要ないよ。ここは自分が登った所よりずっと低いもん」

伊織「あんたもひねくれてるわね」

響「そんなこというなら、あの森を東へ横切ってみようよ!」

響「きっと海にでるはずだから!」プンスカ

伊織「行くのは構わないわ。無駄足になると思うけどね」


森に入ると、背の高い草がしげり、大きな木があちこちに倒れていて、行く手を阻んだ。


4人は、草を斧で切り倒しながら進んでいった。


どこまでいっても人間が足を踏み入れたあとはない。


その夜は、大きく枝をはった木の根もとで野宿をした。


夜が明けると、4人はさらに東を目指した。


そして、およそ5時間、苦労して進むと、


ようやく森の外に出た。


明るい草地が、4人の目の前に広がり、


その先には、波がひたひたとうちよせる砂浜があった。


海だ。


伊織「なんてことよ…」

真「やっぱり東側も海だったんだね…」

美希「響が正しかったの」

響「そんなことよりも…ここはやっぱり島なんだ…」


…ワン!ワン!


響「おい、いぬ美どうした」

美希「あれ、水を飲んでるよ」

伊織「えぇ?海水を飲むはずないでしょう」

真「いや、飲んでる!いぬ美が水を飲んでるぞ!」

響「ということは…塩水じゃないんだ!」

真「よし、ボク達も飲んでみようよ!」


ゴクゴク…


伊織「真水よ!これは海じゃないんだわ!」


それは、遥か水平線まで広がる湖だった。


ボク達は、この湖のまわりで人が住めそうな所を探すことにした。

岸に沿って南へ進んでいくと、

日暮れ近く、湖から流れ出ている川に行く手をさえぎられた。

そこで、4人は岸辺で夜をすごした。


次の日、みごとな朝焼けのなかで少年たちは目をさました。


…ワゥン!!ワォォン!!


響「いぬ美がなにか見つけたみたいだぞ」

美希「いぬ美はどこー?」

真「あのブナの木の下にいるよ。いこう」


次の日、みごとな朝焼けのなかでボク達は目をさました。


…ワゥン!!ワォォン!!


響「いぬ美がなにか見つけたみたいだぞ」

美希「いぬ美はどこー?」

真「あのブナの木の下にいるよ。いこう」


美希「見て、なにか彫ってあるの」

伊織「えーっと、“高木 文化四年”。これどういう意味かしら?」

真「とりあえず分かったのは…人間がいたんだ、この島に!」


…ワォォン!!ワンワン!



響「いぬ美、今度はなんだ?」

真「行こう、崖の下だ」

響「気をつけて、何かいるかもしれないぞ」


伊織「なんだ、茂みがあるだけじゃない」

真「いや、この絡み合った枝の向こうにきっと何かあるんだよ」


ガサガサ…

美希「あっ、洞穴なの!」

響「よし、入ってみよう!」

伊織「ちょっと待って、灯りが必要だわ…」


美希「わぁー!中は広いのー!!」

響「これ、テーブルだぞ。ここに人が住んでたんだ」

真「こっちにはベッドもあるよ!」


伊織「こんなものもあるわね」

響「それは…ノートか?」

真「黄ばんでいて、とても読みにくいけど、日記みたいだね」

伊織「名前は…ええっと…高木……かすれてて読めないわ」


真「そうか、さっきの“高木”はこの人だったんだ」

美希「この人はきっと日本人だよね?」

伊織「そうね、日記も日本語で書かれているわ」

響「…おかしいぞ、日記は変な年号から始まってる」

美希「木に彫ってあった数字と一緒だね」


真(文化四年…1807年…200年以上も前のノートがこんな綺麗に残ってるわけがない)

真(これを見る限り、貴音が言っていたことは…)


伊織「あら、なにかはさまってるわ」

響「地図だぞ!」

美希「この人が自分で描いたのかな」

響「この湖のむこうに大きな森、その先はまた海になっているんだね」

伊織「はぁ…やっぱりここは島だったのね」


…ワァン!ワォォン!!


ボク達は洞穴から出た。


いぬ美は枯れかかった大きな木の根元で吠えていた。

ボク達はその場に言葉を失ったまま立ちすくんだ。

そこには、明らかに人間のものだとわかる白い骨が散らばっていたのだ。

その骨は日記の持ち主のものに違いなかった。

彼はこの島に流れつき、この洞穴で暮らし、救いのないまま命を落としたのだ。

少年たち?


ボク達は、高木と名前の刻まれた木の根元に骨を埋めると、


ブナの木の枝を組み合わせて墓標をたてた。


そして祈りをささげた後、


仲間が待つ765号目指して帰りを急いだ。


律子「高木氏の不幸には、言葉もないわ」

律子「でも、住めそうな場所が見つかったのはいいことよ」

貴音「日差しが強くなる前に、早めに移った方がいいかと思います」

真美「さんせ→い!765号、あっついもんね」

春香「だけど、どうやってそこまで荷物を運ぶの?」

真「洞穴のそばで流れている川が、この近くで海にそそいでいるんだ」

響「765号をちょっと解体していかだをつくれば大丈夫だぞ!」


ボクは貴音と律子に話すことがあった。


1807年から始まっている日記。


高木という名字。


一体何が起こっているのか、答えが出そうな所まで来ている。


貴音「書体、文体からして江戸時代の人物です。間違いありません」

真「社長と同じ名字なんて、偶然にしてはちょっとひっかからないかな?」

律子「そうねぇ…」

律子「今ある手掛かりだけじゃ、全てを繋げるのは難しいわ…」


貴音「この日記が始まってから50年後にこの日記は終わっています」

貴音「少なくとも、今現在は1857年以降…」

貴音「そしてハシブトゴイの採集が、最後に記録されたのが、1889年」

律子「ざっと150年前にいるってことかしらね」

真「ひゃ、ひゃくごじゅう…?」

貴音「何故このような現象が起きたのか…わたくしは調査を進めて参りたいと思います」

律子「頼むわ、貴音。真もなにか気になるものがあったら教えてね」


二週間かかって、長さ9.1メートル、幅4.5メートルの頑丈ないかだが完成した。

いかだには、765号にあった食料や道具がすべて積みこまれた。

8月21日朝8時

潮があがってきたのを見定めて、響が「ともづなを解いて!」と叫んだ。


出発だ。

千早たちが長いオールで力いっぱい川底をおすと、

いかだは上流へとゆっくりさかのぼりはじめた。


真「三日もかかったけど、ようやく着いたね!」

あずさ「ここが私たちの新しいおうちね♪」

やよい「広いですねー!」

律子「ふーん…でも、13人が住むには少し窮屈ね」

春香「そうだ、洞穴を広げられるかな?」


貴音「地質は石灰岩。これなら簡単に掘れるはずです」

真美「そういうことなら、ゆきぴょーん」

雪歩「はいっ!精一杯勤めさせて頂きますぅっ!」キラキラ

美希「入口にはドアがあった方がいいの」

伊織「寝室も整えなきゃね」

やよい「お台所がないので私が作ってもいいですか?」


ボク達は力をあわせて、洞穴をどんどん住まいらしくしていった。

雪歩の活躍により洞穴がもうひとつ掘られ、ホールと名付けられた。

古い洞穴は食堂となり、

台所と物置もつくられた。


やよい「あのー、私、提案があるんです!」

律子「あら、やよいなにかしら」

やよい「この島のいろいろな場所に名前をつけてみませんか?」

伊織「素敵じゃない。いいわね」

真「たしかに場所には名前があった方が便利だ」

雪歩「私も、賛成だよ」


あずさ「それじゃあまずこの場所はなんて呼ぼうかしら?」

春香「…765洞、なんて」

律子「考えてることはみんな同じね」

真「765洞しかないよね」

真美「じゃあ湖の名前は『なむ湖』でいいね!」

千早「くくっ…なむこ…ふふっ」プルプル


ボク達はこんな風につぎつぎと名前を付けていった。


湖から海へとつづく川は、小鳥さんからとって『音無川』。


高木氏の墓標がある森は、『高木森』。


最後に残ったのは島の名前だ。


雪歩「やっぱり、島の名前となると…」

美希「これはひとつしかないの」

春香「私たちの絆を忘れないためにもね♪」

伊織「もう765号が安直だなんて笑えないわね」


島の名前は全員一致で『765島』に決定した。


漂流してからもうすぐ一カ月が経とうとしていた。

ボク達は時に故郷に想いを馳せながらも、

この765島でたくましく生き抜いている。

律子がみんなの生活が規則正しく送れるように日課表を作ったり、

響が食料にできそうな森の動物を捕えたり、

ここから脱出できるまで、なんとかして支えあっていこうとしている。

気になるのは生活必需品だが、

765号の備品も大量にあるため、しばらくは欠乏という言葉は考えなくてよさそうだ。


ときどき、ダンスレッスンをしたり、みんなで歌を歌ったりしている。

外で遊んだり、探検や遠征にでたりすることもある。

そういうときに気になるのが亜美の様子だ。

賑やかに遊んでいても、ときどき思いつめた表情をすることが多い。

近いうちに話を聞こうと思う。


やよい「今日は一日外で遊んだので、みなさんはらぺこですよね!」

やよい「今日は特別なごちそうですよ!765島の料理をいっぱい味わってくださいね!」


律子「諸君!私たちは今やただの遭難者ではないわ!」

律子「この島の開拓者でもあるの」

律子「日本に一日も早く帰れることを祈って、みんなで力を合わせていきましょう!」

律子「みんなの健康と、遠く離れた家族の無事を祈って、乾杯!」

「「「かんぱーい!!」」」

本日分は終わりです。レスくれた方々、読んで下さった方々ありがとうございます。
小さな訂正ですが、>>63の名前は気にしないでください。ミスです

>>69で指摘いただいたのは>>61のことで大丈夫ですか…?

今日もたくさんのレスありがとうございます。神秘の島もいつか読んでみたいと思ってます。
蝿の王を読んでらっしゃる方が以外と多いんですね…私は未読なのであらすじだけしか知らないですが…
本日分を投稿させていただきます。



――――エピソード3 亜美の秘密――――



秋を迎えた。


ボク達が765洞に住み始めてから3週間になる。


水平線には、ナイフで底を切ったような雲が連なり、


海は眩しい陽射をはねかえしていた。


765島は少しづつ穏やかな気候に変わっている。


真「律子、今のうちに東の海に遠征したいんだ」

真「海の向こうに陸地があるか、望遠鏡で見ようと思う」

律子「わかったわ。真は誰を連れていくの?」

真「ひとりは貴音かな。あの件の調査の役に立つものが見つかるかもしれないし」

律子「貴音なら体力もあるから心配ないわね。ほかには?」


真「亜美はどうだろう。様子がずっと気になってるんだ」

真「元気がないし、ひとりになりたがることが多い」

真「遠征中によく話そうと思うんだ」

律子「…そうね。よろしく頼むわ。私も気になっていたから」


9月21日の朝、ボク達3人は音無川の船着き場をあとにした。

なむ湖を一日かけて横切り、

さらに、湖から東の海まで流れている川をくだった。

3人が海に出たのは、翌日の昼近くだった。

東の海岸は、765号が漂着した湾とちがって岩が多く、

崖には洞穴もたくさんあった。


貴音「陸らしいものはなにも見えませんね」

真「望遠鏡をのぞいても、見えるのは海だけだよ」

亜美「やっぱりここは離れた無人島なのかなぁ」


真「もう少し高い所から見てみよう」


3人は、近くにあった高さ30メートルほどの岩によじ登った。


真「…なんど覗いても、海だけしか見えない」

亜美「ちょっとまって、なんか見えるよ!」

真「あっ、水平線に白い点がある」

貴音「真、それは一体なんですか?」

真「動く様子がないから雲じゃないと思う」

真「雪をかぶった山かも……あっ、消えちゃった」

貴音「雲か、海にはね返った日の光では…?」

亜美「亜美もそんな気がする」


気がかりな謎がボクの胸に残った。


夕食は18時にすませたが、辺りはまだ明るい。



真「亜美と海岸を探索してくるよ」

貴音「では、わたくしは高木氏の痕跡がないか調べて参ります」


貴音がボートに戻ったとき、あたりはもう暗くなりかけていた。

真と亜美はまだ帰ってきていない。

貴音が探しに行こうとしたとき、

海の方からすすり泣く声がきこえてきた。

貴音は泣き声のほうに走ったが、

岩陰で立ち止まった。

そこで耳にしたのは、亜美の信じられない秘密だった。


真「そっか、亜美。そういうことなんだね」

亜美「ごめん…ずっと黙ってて…」

亜美「亜美のせいでみんなが…うぅ…」グスッ

真「だからいつもみんなから離れていたんだ」


うなだれて戻ってきた真に、貴音は声をかけた。


貴音「真、わたくし、聞いてしまいました」

真「えっ、ボク達の話を?」

貴音「はい。でも、亜美を許してあげなければなりません」

真「…そうだね。いまのままじゃみんなと離れていくばかりだ」


貴音「このことはまだ秘密にしておいたほうがいいかと」

貴音「わたくしは誰にも喋りませんから」

真「貴音、ありがとう。だけど律子には話しておこう」


亜美は、岩の陰にうずくまったまま、泣き続けていた。


10月、765洞に巣をつくっていたツバメたちが旅じたくを始めた。


ボク達は、その首に手紙をいれた小さな布の袋を結んだ。


北の空に消えていくツバメたちに、


ボク達はいつまでも手を振った。


春香「ねぇ千早ちゃん。この頃亜美の様子がおかしくない?」

千早「実は私もそう感じているわ。前よりみんなと一緒にいる時間は増えたけど…」

春香「なにか思いつめたように働いてるよね…」

雪歩「真ちゃんが亜美ちゃんと一緒に仕事をしてるのも、私よく見るよ」

千早「なにか真との約束があるのかしら」

雪歩「真ちゃんは私にはなんでも話すけど…亜美ちゃんのことには触れたがらないんだ…」

春香「うー、もどかしいなぁ…」


秋も次第に色を濃くし、765島の山や森には果実がなり、

あずささんとやよいを中心に島の幸を収穫する計画が組まれた。

一方で響が伝授した魚の捕獲技術により、美味しい秋の川魚もたくさん得ることができた。


そんな中、貴音は亜美と伊織を連れて、765号の内部であるものを探していた。


ガタッ…

亜美「ここだよ、お姫ちん。この場所に入れるんだ」

律子「船尾の床の下に隠れてる小部屋なんて、よく見つけたわね」

貴音「なるほど…この空間に例のものが」


船の最下層に、四畳はありそうなスペースがあった。


床の隠し板を外して、下へ飛び降りる3人。


そこには巨大な羅針盤のような風貌の見たことの無いオブジェがあった。


律子「ちょっと…なんなのよ、コレ」

貴音「これはおそらく…時間渡航機と呼ばれる代物です」

貴音「わたくし達がこの時代にたどりついたのは…この渡航機によるものでしょう」


律子「この玉は…なにかしら」

亜美「律っちゃん、その玉に触ってみて」


スッ……キラキラ…!!


律子「うわっ!光った!?」

亜美「そう、不思議な玉でしょ」

亜美「…あの夜、亜美はこの玉から声を聞いたんだ」


―――
――


ガサガサ

亜美「おっ、こんな所に秘密の部屋はっけ→ん!」

亜美「んふふ、なんだろこの機械…綺麗な玉だね」


タスケテ…タスケテ…

亜美「うわぁっ!?誰の声…!?」

キラキラ…ピカーーン!!

亜美「うおっ眩しっ!」


―――
――



貴音「その時に時間渡航機が作動したのでしょう。船ごと150年前に遡ってしまったと…」

律子「そりゃー港も消えるわね。それで海に流されちゃったのか」

亜美「本当にごめんね、ふたりとも」

律子「亜美、あんたが悪いわけじゃないわ。偶然よ偶然」

貴音「皆は無事なのです。なにも気に病む必要はありませんよ」


律子「…ってことは、この渡航機を使えば現代に戻れるんじゃないかしら」

貴音「ものは試しです。手を触れてみましょう」スッ

キラキラ……!!


…ミンナハブジナノカ……マダミツカラナイノカネ……


「「「!?」」」


亜美「こ…これって…」

律子「社長の声、よね?」

貴音「聞こえますか、高木殿!」


………


亜美「ありゃ」

律子「こちらからは呼びかけられないみたいね…」


3人は渡航機の回収作業を終えた後、それをいかだに積みこみ、

上流を目指し765洞の帰路についた。

いよいよ、現代に戻れる希望が見えてきた。


律子「さっぱり分からないわ。どうして社長の声が…」

貴音「これから高木氏は、高木殿の祖先と考えるのが筋でしょう」

真「あの日記に玉のことの記述があるよ」

貴音「……『もう一艘に設けた時を渡る玉さえあれば』……」

貴音「漂流した時のことでしょう。そしてこの方は、渡航機の存在を知っていた」


貴音「このもう“一艘”が指しているのが765号だとすれば…」

真「…社長は高木家が持っていた船を借りたってこと?」

律子「そういうことね。そして長い間、社長も含め誰も渡航機の存在には気づかなかった、と」


渡航機の研究は保留とし、貴音と律子は日記の解読を始める。


その頃、響、真美、やよいが北の海岸の探検に向けて出発していた。


北側の海岸はまだ誰も探索していないからだ。


北の海に出るには深い森を通り抜けねばならない。


3人は、茂みや枝に足をとられ、森をぬける頃にはもう日暮れがせまっていた。


響「やったー!海が見えるぞ。北海岸も征服だ」

真美「ひびきん…あれなんだろ?」

やよい「う?……近くまで行ってみましょう!」


巨大な黒い塊が遠い砂浜に見える。

3人はかけよった。


響「ボートじゃない?9メートルはあるぞ」

やよい「それなら、人が一緒にいたってことですか?」

真美「うーん、打ち上げられちゃったのかな」

響「中を見てみようよ」


3人はおそるおそる船内を見回った。

人がいる気配はない。

それは確かに大型汽船のランチ(連絡用の小型船)だった。

かなり傷んでいたが、船尾の文字は読めた。


“Severn-San Francisco”
セバーン号 サン・フランシスコ

本日分は終わりです。読んで下さった方々ありがとうございます。
明日完結します。どうぞ最後までお付き合いくださいませ。


秋も次第に色を濃くし、765島の山や森には果実がなり、

あずささんとやよいを中心に島の幸を収穫する計画が組まれた。

一方で響が伝授した魚の捕獲技術により、美味しい秋の川魚もたくさん得ることができた。


そんな中、貴音は亜美と律子を連れて、765号の内部であるものを探していた。



――――エピソード4 さらば、ボク達の島――――



北の海岸から響たちが帰ってきた。

セバーン号の話を共有する。

響がランチから持ち帰ったセバーン号の航海日誌と地図から、

アメリカからやってきたこの商船がオーストラリアへ向かっていたこと、

ボク達が1860年の時代にいることが分かった。


千早「航海日誌と地図が積まれていたことから、そのランチにはもともと人が乗っていたのは分かるわね」

春香「それじゃあ、今はこの島に私たち以外の人が…?」

律子「英語が分かれば接触を試みるのも悪くないんだけどね」

真「接触は少し危険なんじゃないかな。もし向こうが極限状態だったら、765洞を襲われるかも」

やよい「えぇっ…!?」

雪歩「良い人とは限らないよね…怖い人たちだったら…」


13人の豊富とは言い難い英語の知識で、

日誌の最後のページを解読した。

そこには信じられない内容が記されていた。


“出航して10日目、水夫たちが反乱を起こした”

“船長や客は殺され、船が火事に包まれた”

“ならず者たちはランチをつかって脱出するつもりだろう…”


日誌はそこで終わっていた。

重い空気が漂う765洞。招かれざる客はこの島に放たれたのだ。


律子「ランチからコレを持ち帰っている以上、向こうが私たちの存在に気付いている可能性が高いわ」

響「で、でもこの場所までは分からないよね?」

律子「そうね。でも気付かれるのも時間の問題よ」

貴音「…こちらも向こうの居場所を把握していないと、危険ですね」

律子「かと言って、探りに行った誰かが捕まっちゃったりでもしたら…」


あずさ「あの、火を探して見ればいいんじゃないかしら?」

真美「火…?」

あずさ「夜中なら、火は目立つから向こうの人達の居場所も分かるんじゃないかしら」

響「おおっ、いいアイデアだなあずさ!」

やよい「でも、この辺に高い所はないですよね…」

美希「空が飛べればいいの」

千早「……こういうのは出来ないかしら。ここから凧を上げるの」


千早が紙に作戦をまとめていく。

それは人が乗れる凧を上げるという壮大な計画だった。


律子「なるほど…素晴らしいじゃない」

春香「ここは島の中心だから全体が見渡せますね!」

美希「夜中なら向こうに見つかる心配もないの」

伊織「それじゃあ、みんなで凧を作るのね」

やよい「はりきっちゃいますよー!」


まる二日かけてつくりあげた大凧は、横幅8メートルの8角形。

その名も空の765号だ。

柳のかごをつるし、このかごに人間が乗る。

10月9日の夜、ボク達は広場で「空の765号」の実験をした。

かごには砂袋をのせ、凧には長いロープをつないだ。

これをウィンチで繰り出し、空高く上げるのだ。


春香「実験は大成功だね!」

亜美「すごーい!」

真美「たかーい!」

伊織「…200メートルは上がったわ!」


律子「今日はこれで十分でしょう、千早」

千早「こんな丁度いい風の夜はめったに無いんじゃないかしら」

千早「今夜のうちに、人が乗って偵察した方がいいと思うわ」

響「たしかにそうだぞ……でも、誰が乗る?」

千早「私は体が軽いから私でよければ…」

亜美「亜美が乗る!」

真「いや、危険なことだ。ここはボクが乗る」


亜美「まこちん、お願い。亜美にやらせて!」

亜美「亜美が乗らなくちゃいけないの!」

千早「亜美、どうしてあなたでなければならないの?」

亜美「亜美が悪かったんだよ。みんながこの島にいるのは亜美のせいだったの」

亜美「765号が流されたのは亜美が勝手にあの部屋に入ったから…」

亜美「許してもらえないかもだけど……だから亜美が…」

伊織「……何言ってんのよ。誰もアンタのことなんて責めないわ」

雪歩「亜美ちゃんは、今までたくさんみんなのためにお仕事頑張ってたから…それで十分だよ?」

あずさ「ふたりの言う通りよ、亜美ちゃん」ニコニコ

春香「元気出して、亜美!」


真「みんな聞いて。凧にはボクが乗る……サポートを、頼むよ」

千早「…気をつけて、真」

雪歩「無理はしないようにね…」


真を乗せた「空の765号」は、再び星空に浮かび、


ぐんぐんあがって……見えなくなった。


どれくらいたっただろうか、乾いた音をたてて鉄の輪がロープを滑り降りてきた。


凧を降ろす合図だ。


千早「よし、降ろしましょう!」

春香「ゆっくり、ゆっくりだよ!」グイッ

響「降ろす時のほうが難しいからな!」グググ…


ウィンチが軋み、凧は揺れながら降りはじめた。

地上まで10メートルほどに近づいたとき、

突然強い風が吹いた。


やよい「あっ!ロープが切れました!!」

律子「落ちていくわ…なむ湖のほうよ!」


一同は真の名前を叫びながら暗い岸辺に向かって走った。

だがそこで見たのは、笑顔でシャツのすそを絞っている王子様だった。



春香「真、ケガはない?」

真「ボクは大丈夫。それより、セバーン号の船員は島にいるよ!」

真「なむ湖の東に、焚火の灯りがはっきりと見えたんだ」


それからボク達は現代に戻るための作戦を練り始めた。


これ以上この島にいるのは危険だ。


貴音は渡航機の謎を日記から読みとき、それを実用する理論を話した。


貴音「結論から言います。今すぐにでも20××年には帰れます」

真「えっ、本当に!?」

貴音「はい。この渡航機を使えば、私たちが元いた時代に戻るのは容易だと分かりました」

貴音「亜美が最初の晩に聞いた声は、亡くなった高木氏の残留思念でしょう。その声に呼ばれ私たちはこの時代にやってきたと仮定します」

貴音「真たちは高木氏の遺骨を発見し、供養を済ませました。このとき高木氏の思念は消えたと思われます」

貴音「そして先日、高木殿の声を聞きました。その声に呼ばれるままに渡航機を作動させれば、わたくし達は現代に帰れるはずです」


真「う、貴音の話はよく分かんないけど……みんなを集めてすぐにでも帰ろうよ!」

律子「それは出来ないわ真」

真「どうしてさ?」

律子「時間は戻れても、私たちがいる場所は変わらない」

律子「現代に戻ったとして、ここがまだ無人島だったら?」

律子「150年後なら765洞も消えちゃうし、私たちが救助を待てる可能性は低いわ」

貴音「一度現代に戻ってしまえば再びこちらには戻れないでしょう」


真「うーん…それなら765号ごと現代に戻ればいいんじゃないかな?無線を積んでるんでしょ?」

律子「発電機の燃料はもうないの。無線は動かないわ」

真「そんな、それじゃあどうしろっていうのさ!?」

律子「…セバーン号のランチを奪って、沖にでる」

律子「日誌にある限り、ランチは30海里つまり55キロは余裕で進めるの」

律子「自力で他の陸を目指すのよ」

貴音「ですが…近くに陸地があるかはまったく分かりませんよ…?」

貴音「あてどもなく海をさまようことになるかもしれません」

真「……」

真「前に東の海岸で気になるものを見たんだ…それが陸地かは分からなかったけど…」

律子「…それに賭けてみるしかないわね」


数日後、釣りから帰ってきた真美とやよいが、東側で焚火の後を見たと話した。

それが本当なら、セバーン号のならず者たちはすぐ近くまで来ている。

決断の時だ。


真「みんな、いよいよここから脱出することになったよ」

真「ボクと響で今日の夜はこの辺りの見張りをする」

響「みんなは亜美と真美を中心に、なむ湖の周りに罠をはってほしいぞ」

亜美「りょーかい!」

真美「任せてYO!」


夜も更け、糸のように細い月がいちばん高い木の上にきた。

なむ湖の東側に灯りが見える。

響と真は、灯りの傍に潜んでいた



響「…いたぞ。いち、に……5人はいる」

真「全員武器を持ってるね…」

真「きっと凧の残骸を見つけてここまできたんだ」

響「明日は765洞の方にあいつらを誘いこんで、入れ替わりに北の海岸に向かうんだよね」

真「うん。あいつらに気づかれるまでに、できるだけ時間をかせがないと…」


翌日、できるだけの装備をして、ボク達は765洞を後にした。

765洞を出るときには、

あえて洞穴がならず者たちに見つかるように、近くに狼煙をあげた。

洞穴の内部にも亜美真美特性トラップがしかけられている。


ランチのある北の海岸までは3日はかかるだろう。

765島脱出作戦が始まった。


春香「ふう、結構歩いたね」

真美「もうちょっと先に森があるはず」

響「いぬ美、まわりに他の人間はいないな?」

真「さあ急ごう。今頃はやつらが765洞に着いたころだ」


セバーン号の悪党たちは狼煙を目指し、

765洞へとたどりついていた。



悪党1「ここに人間が住んでるだろう。間違いねえ」

悪党2「ドアがこしらえてあるぞ、入ってみよう」

ギィィ…

悪党3「おい、もぬけの殻じゃねえか…?」

悪党4「人がいた形跡はある。探せ!」


日が沈み、また日が昇った。

秋の森を一定のペースで進んでいく。

十三人は休憩をはさみつつ、目標地点へと近づいている。

そして765洞を出て三つ目の日が昇ったとき、一同は北の海岸にたどり着いた。

海から季節の冷たい空気が吹き抜けている。


雪歩「はぁ…やっと着いたね」

真「お疲れ様、雪歩。もう少しだよ」

伊織「向こうに見える黒いのがランチね?」

響「そうだぞ、急ごう!」


ランチまで近づいたその時だった。

突如現れた一人の男が、亜美をさらって森へと逃げようとした。

セバーン号の船員がここに残っていたのだ。



真美「亜美っ!!」

伊織「ちょっとアンタなにするのよ!!」

悪党「いいか!この娘の命が惜しければ黙って俺の言うことを聞きやがれ!」(※英語)

美希「なに言ってるか分かんないけど、亜美を離せなの!」


瞬間、アイドルの中から飛び出す二つの影があった。

貴音と真だ。2人は悪党をその場に組みふせ、亜美を解放した。


悪党「なんだお前ら…!クソっ離せ!」(※英語)


真「はやくランチを海にっ!」

春香「わかった!!」


「「「せーのっ!」」」


悪党から離れ、真と貴音は沖に出ようとしているランチに飛び乗った。

砂浜に男を置き去りにして、広い海へと進み、島の東側へと進路をとる。

真の見た可能性にかけて。


東の海岸から沖に出ると、北の方角を見ていたやよいが声を上げた。


やよい「あっ!あれを見てください!」

雪歩「どうしたのやよいちゃん?」

美希「なにが見えたの?」

やよい「あの白いのです!」

真美「もしかして、山…?」


船がその方向に進むにつれ、その正体がはっきりとしてきた。


やよい「富士山ですっ!あれはきっと富士山ですよ!」

春香「本当だ…!」

真「あの時ボクが見たのは…冠雪した富士山だったのか…!」


1860年10月19日。


3枚の帆に爽やかな夕風をうけて、


ランチは765島をしだいに遠ざかっていった。


やがて島は小さな点になり、


夕映えの水平線に消えた。


金色に輝く黄昏の海を、ボク達はただ黙って、いつまでも見つめていた。


律子「みんな用意はいい?」

亜美「うん!」

千早「いよいよ戻るんですね…」



150年前の静岡県に立ったボク達は、十三人で渡航機を囲んだ

貴音が渡航機を作動させる。



貴音「さあ、帰りましょう。未来へ…」



ボク達は光に包まれた―――


~20××年 765プロ~


小鳥「いや~素敵なドラマでしたね~!!」

P「そうですね。それに四夜連続ドラマにウチが起用されるなんて、名誉なことです」

小鳥「私、社長の名前まで出てくるなんて思いませんでしたよ!」

P「音無さんも川の名前になってましたね」

小鳥「これからもこんな素敵なお仕事をとってきてくださいね、プロデューサーさん!」



小鳥「このドラマ……ブルーレイにきっちり保存しとかなきゃ~!」



P「十三少女漂流記」 完

完結です。読んで下さった方々ありがとうございました。

>>135の名前はミスなので気にしないでください

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