幼馴染「もうすっかり春ですね」 男「そうだなぁ」(164)

幼「何だか、高校生活ってあっという間ですね」

男「そうだなぁ」

幼「色々ありましたけど、もう3年生ですね」

男「3年生だなぁ」

幼「男、解ってますか?3年生なんですよ?」

男「解ってるよ」

幼「約束は?ちゃんと覚えてますか?」

男「もちろん覚えてるよ」

男「俺が幼の事をないがしろにする訳が無いでしょ」

幼「それなら良いんですけども!」

幼「それでですね」

男「ん?」

幼「デートがしてみたいです!」

男「何?突然…デート?」

幼「高校生になってから…」

幼「遊びに行くのはいつも友君と幼友ちゃんと、女さんが一緒でした」

男「俺達、仲良し5人組だもんな」

幼「…」

幼「と、とにかく!私たち、2人きりでデートした事がありません!」

幼「友君と幼友ちゃんは2人でデートしてるのに!」

男「何で急にそんな…」

幼「夏休みに入ったら、お互い勉強忙しくなっちゃうし」

幼「今、思いついたので、今、言いました!」

幼「今週末、丁度連休じゃないですか?」

男「3連休だな」

幼「だからデートしましょう!」

男「ん…んー?」

幼「ちゃんと待ち合わせしてお出かけですよ?」

男「すぐ隣りなんだから別に待ち合わせ無くても…」

幼「駄目です!待ち合わせは必須です!」

幼「私、30分前から待ってますからね!」

男「じゃあ俺は40分前から待つよ」

幼「駄目ですよ、そんなの」

男「じゃあ幼も時間通りに、な?」

幼「良いじゃないですか。私、待ってみたいんです」

男「解ったよ、じゃあ俺は時間通りに行くから」

幼「どこに行くのか、楽しみにしてますからね?」

男「あ、俺が計画するのか?」

幼「当然です。エスコートして下さいね?」

男「とは言え、なぁ」

幼「ちゃんと考えてくれれば、それで良いですから」

幼「身の丈に合った、男らしいデートプラン、期待してますよ」

男「ん…んー?」

幼「…解ってますか?」

男「解った。ちゃんと考える」

幼「ちゃんとおめかしもして下さいよ?」

男「俺がどんな服持ってるかなんて、知ってるだろ?」

幼「デートに合ったコーディネートを考えて下さい」

男「解ったよ」

幼「っと、アパート着きましたね」

男「おう、それじゃまた後でな」

幼「はい、また後で」




男「デートかぁ…そう言えば、した事なかったか」

男「いつも一緒に居るんだけどなぁ」

男「…これはかなり難しい問題だな」

男「友はどんなデートしてるんだろう…」

男「ちょっと電話してみるか」



男『って訳なんだけどさ』

友『お前らさ』

男『ん?』

友『俺らと遊んでない時の休日ってどうしてんの?』

友『アパートの部屋が隣り同士で、付き合ってるんだろ?』

友『はっ!?まさか、高校生の分際で、爛れた関係を…?』

男『まさか。普通に勉強したり、料理したり』

男『一緒にdvd観たり、そんな感じだよ』

友『宅デート?外には出ねーの?』

男『2人でスーパーに買い物に行く事はあるけどなー』

友『それはデートじゃねーな。日常生活だろ』

男『友と幼友って、2人でどんな所に行ってるのか聞きたいなーって』

友『んー…ありきたりだけどさ』

友『映画行ったり、ゲーセン行ったり』

友『カラオケ、ボーリング、ビリヤード』

友『高校生の小遣いじゃ、そんな所かな』

男『それは普段、仲良し5人組で行くのと変わらんな』

友『本当はドライブとか行きたいけどな』

男『ドライブかー』

友『お前、免許取ったんだろ?』

男『うん、3月から教習所に通って』

男『誕生日に取った』

友『ならレンタカーでドライブとかどうだ?』

男『うーん…レンタカーとか、怖いなぁ』

男『コスったりしたら、大変だし』

友『それもそうか』

友『それじゃ、無難に映画とか行けば?』

友『それで、昼飯は洒落たカフェで…とかさ』

友『その後、2人でカラオケとか』

友『それかショッピングとか…かなぁ』

男『うーん…やっぱその辺りが無難かなぁ』

友『背伸びし過ぎたら、逆に幼ちゃんは怒っちゃうんじゃなか?』

男『はは、そうかもな』

友『まぁ、頑張れよ』

男『おう。頑張って見る』

友『んじゃ、また明日な』

男『ありがとな、友』



幼「男!デートプランは考えましたか?」

男「ん、今考え中」

幼「私、すっごく楽しみです!」

男「まぁ、俺なりに頑張ってみるよ」

幼「はい!」

男「それより今日の2者面談、大丈夫か?」

幼「全然問題ありません!」



a組担任「やっぱりあそこの専門学校、受けるのか」

男「はい。やっぱり作業療法士になりたいので」

a組担任「それだったら、こっちの学校の方がハードル低いぞ?」

a組担任「こっちは試験無しの面接だけだからな」

男「でも、金銭的な問題と、質の問題で…」

a組担任「…確かに学費が倍ほど違うからな」

男「はい」

a組担任「本気なんだな?」

a組担任「正直、大学行くより難しいぞ?」

男「真剣に頑張ります」

a組担任「それなら、精一杯頑張れ」

a組担任「困った事があったら言えよ?」

a組担任「俺はお前の担任なんだからな」

男「はい!」



b組担任「幼さんは大学受験ね」

幼「はい」

b組担任「幼さんの成績なら問題ないでしょう」

幼「ありがとうございます」

b組担任「けど、なぜ心理学科なの?」

幼「はい。心理学を勉強してやりたい仕事があるんです」

b組担任「やりたい仕事?」

幼「臨床心理士になりたいと思ってます」

b組担任「それは…素晴らしいけど、大変な道のりよ?」

幼「覚悟は出来てます!」

b組担任「決意は固いみたいね」

幼「はい!」

b組担任「それじゃ、一緒に頑張って行きましょう!」

b組担任「なんでも相談してね?」

b組担任「私は幼さんの担任なんだから!」

幼「はい、よろしくお願いいします!」



幼「二者面談どうでした?」

男「ん?んー…俺は専門学校だなぁ」

幼「やっぱりそうですか…」

男「幼は大学に進学するんだよな?」

幼「実は少しだけ迷ってます」

男「何で?」

幼「両親に金銭的負担をかけるのはどうかと思って…」

男「でも、やりたい事があるんだろ?」

幼「はい。私は…子供の頃の事を活かして」

幼「カウンセラーになりたいんです」

男「カウンセラー?」

幼「小さい頃の事を思い出すと、今でも嫌な気分になります」

幼「たまに嫌な夢も見ますし」

男「…」

幼「でも、私の話しを聞いてくれたカウンセラーさんの事を思い出すと」

幼「凄くほっとします」

幼「私みたいな目に遭ってしまった子の力になりたいんです」

男「うん、凄く良いな」

男「両親も絶対賛成してくれるよ」

幼「そう…でしょうか?」

男「絶対、間違いない」

幼「まぁ、実際に私が立ち直れた一番の理由は…」

幼「優しくて格好良い男の子が」

幼「ずーっと傍に居てくれたからなんですけどね?」

男「それは…まぁ、別の話しでしょ」

幼「ともかくですね!」

男「うん」

幼「卒業するまでの約1年、よろしくお願いしますね、男」

男「こちらこそ、幼」

男「後はお互い合格に向けて、頑張るだけだな」

幼「…道、別れちゃいますね」

男「それは仕方ないだろ」

幼「こうして、同じ道を帰る事も、あと数ヶ月で終わっちゃうんですよ?」

幼「寂しくないんですか?」

男「そりゃ、少しは寂しいさ」

幼「少しなんですか?」

男「だって…」

女「おーい、お二人さん」

幼「!?」

女「今帰り?一緒に帰ろうよ」

女「…って幼さん、そんなに身構えないでよ」

幼「また、待ち伏せですか?」

女「違うよー。何でそんな敵みたいに言うの?」

幼「女さんは私の敵です!」

女「そんなに目の敵にしないでよー」

女「ね?男君!」

男「…まぁ、幼にとっては敵じゃないんじゃないか?」

男「俺にとっては敵かもだけど…」

幼「男にとって敵なら、私にとっても敵です!」

女「もう、二人とも、考え過ぎだってー」

幼「そう言って、この2年の間に」

幼「何回騙された事か!」

女「大丈夫、私ね、今好きな人が居るんだよ」

幼「ま、まさか…また…」

女「違う違う。全然違う」

女「後輩なんだけどね、ちょっと良いかなって思う人が居てね」

幼「へ、へー」

男「部活の後輩?」

女「良く解ったね!吹奏楽部の1年生なんだー」

幼「1年生ですか…」

女「ん?何?」

幼「もしその人とお付き合いする事になったとして…」

幼「私たち、あと数ヶ月で卒業じゃないですか」

幼「卒業したら、もうその1年生の方とは」

幼「その…会えなくなるじゃないですか?」

女「え?そう?」

幼「違いますか?」

女「別に外国に行く訳でもないし」

女「地面は続いてるんだから、いつでも会えるでしょ」

幼「…」

女「ま、私は好きな人が海外に行っちゃったとしても」

女「絶対会いに行くけどね!」

幼「そ、そうでしょうね」

男「まぁ、女さんは情熱的だもんね」

幼「情熱的ってずいぶん良い言い方ですね!」

女「えへへ、そんな褒められても嬉しくなーいぞっと」

男・幼(褒めてはいない…)

女「あ、そう言えば男君ってさぁ」

男「ん?俺?」

女「専門学校に行くんでしょ?」

男「うん。作業療法士になりたくてね」

女「じゃあ、受験勉強とか無いの?」

男「いや、普通に筆記試験と小論文あるよ」

女「じゃあさ!また勉強会しようよ、みんなで!」

幼「…私は反対です」

女「えー?何でー?幼ちゃんも進学でしょ?」

幼「そうですけど」

女「私も女子大に進学するつもりなんだけどさぁ」

女「今の成績だとちょっときつくて…」

女「だから学年トップクラスのお2人に教えてもらいたいなーって」

幼「百歩譲って、図書館でなら良いですよ」

女「えー?幼ちゃんの部屋でやろうよー」

幼「それは絶対に嫌です!」

幼「女さんを家に入れるなんて、絶対嫌です」

女「そこまで言われると傷つくなぁ」

幼「以前の勉強会でされた事を考えたら…」

女「もう、あんな事はしないからさー」

幼「絶対嫌です!」

女「じゃあ男君は?男君の部屋で勉強会やろうよ!」

男「俺もちょっと…」

女「えー?」

男「勉強なら図書館で出来るでしょ?」

女「むー。友達の家で勉強会って言うのが良いのにー」

女「あ!じゃあ私の部屋でやる?」

幼「図書館でお願いします」

女「ちぇーっ」

男「教えるのはやぶさかじゃないからさ」

男「いつでも言ってよ」

男「図書館でね」

女「…あいー」

女「っと、私はここまでだね」

女「じゃあね、二人とも、また明日ね」

男・幼「また明日」



幼「…はぁ」

男「どうした」

幼「未だに女さんを見るとハラハラします」

男「まぁ、それもこれも全部ひっくるめてさ」

男「青春の1ページに刻む思い出って事で」

幼「男は実害を被って無いからそんな事を…」

男「…中3の時、幼が俺の進路を変えてくれたおかげで」

男「俺は色んな物を見れたし、色んな人にも会えた」

男「色んな事を考えられたし、将来の夢も持てた」

男「感謝なんて言葉で言い表せないくらい感謝してる」

幼「ど、どうしたんですか、突然」

男「女さんや友、幼友達との出会いも、大切な良い思い出になるって事」

幼「?」

男「この前、幼が言ってただろ」

幼「私、何か言いました?」

男「もうすっかり春だって」

幼「あ、始業式の日に言いましたね」

男「桜並木を見ながら並んで通学するのも、今年が最後」

幼「…そうですね」

男「来年からは別々の道に進むけどさ」

男「だからこそ、今この一瞬が大事だなって思えるんだ」

幼「…はい」

男「おっと、暗い顔は無しだぜ、幼?」

幼「は、はい、そうですね!」

幼「あと約1年は一緒に通学出来ますもんね!」

男「おう!それに気付かせてくれた幼に感謝してるって話しだよ」

幼「ふふっ…中3の時の私、グッジョブ!ですね?」

男「その通り、良くやった!中3の時の幼!」

男「だからって訳じゃないけどさ」

幼「はい?」

男「デート、期待しててくれよ」

男「俺、頑張って考えるからさ」

男「絶対に幼が喜んで、2人の思い出に残るようなデートをさ」

幼「は、はい!」

男「それじゃまた後でな」

幼「はい、また後で」



男「…」

男父「…よう、お帰り。久しぶりだな」

男「父ちゃん?俺の部屋で何してんの?」

男父「取り敢えず家捜しだな」

男父「しかしお前の部屋はつまらんなー」

男父「エッチな物が何も無いってのは年頃の男子として…」

男「何かあった?何で急に…」

男父「一人暮らしの息子の様子を見に来たに決まってんだろ」

男「来るなら来るで連絡くらい…」

男父「サプラーイズ!」

男「まぁ、びっくりはしたけどさ」

男「マジで様子見に来ただけ?」

男父「フフフ、驚けよ?」

男「もう驚いてるよ」

男父「もっとだもっと!」

男「もっと?」

男父「取り敢えず、表に出な」

男「何で?」

男父「お前に見せたい物があるんだよ」

男「はぁ」



男「父ちゃん、どこまで行くんだよ」

男父「すぐそこの駐車場までだ」

男「駐車場?」

男父「ここだ」

男「何?」

男父「なぁ、こいつをどう思う?」

男「え?これ?まさか…」

男父「羨ましいだろ!俺の愛車だ!」

男「でかっ!てか買ったの?」

男父「昔から憧れてたんだよ」

男「…こんなデカい車、必要あんの?」

男父「必要か不必要かで言えば、不必要かもしれねぇ…」

男父「でもなぁ」

男父「欲しいか、欲しくないかで言ったら…」

男「まぁ、欲しかった訳ね」

男父「漢のロマンってやつだ」

男「で?これを見せるためにわざわざ来たのか?」

男父「まぁ、これの自慢はついでだ」

男「ついで?」

男父「その隣りにあるワゴンrな」

男「ん?」

男父「俺のお古だが、お前にやる」

男「はぁ?」

男父「俺がちゃんと整備したんだ、あと10年は走るさ」

男「はぁ…」

男父「免許取ったんだろ?」

男「あぁ、先々週取ったけど…」

男父「ちょっと遅目の誕生日プレゼントだ」

男「えぇ?マジ?」

男父「実はもうお前の名義に変えてある」

男父「駐車場も契約済みだ」

男父「いらんと言われても、俺が困るぞ?」

男「あ、あぁ、ありがとう。嬉しいよ」

男父「これで幼ちゃんとドライブでもしろよ」

男「あぁ、それは…」

男父「約束、破って無いだろうな?」

男「ちゃんと守ってるよ」

男父「世間は見えたか?」

男「お陰様で少しは見えたと思うよ」

男父「進路はどうだ?」

男「専門学校に進学したいと思ってる」

男父「島から出て良かっただろ?」

男「うん、感謝してるよ、父ちゃん」

男父「んじゃ、頑張れよ」

男父「ほら、これが鍵だ」
ポイッ

男「お、おう」
パシッ

男「て言うか、どうやってここまで運んで来たんだ?」

男父「フフフ。俺の車の助手席を見ろよ」

男「ん?」
そーっ

男「…寝てるの?」

男父「起こすなよ?長距離運転で疲れてんだよ」

男父「そんじゃな」

男「え?帰るのか?」

男父「おう、今日中に帰りたいからな」

男父「もう出ないと、フェリーの時間に間に合わん」

男「幼には会って行かないのかよ」

男父「まぁ、サプライズって事で」

男「それで良いのかよ、母ちゃん…」

男父「その車で、たまには家に顔出せよ」

男父「フェリー代くらい出してやっから」

男「あぁ、そうするよ」

男父「あとな」

男「何だよ」

男父「キスくらいならセーフだぞ?」

男「…」

男父「じゃあな!」


男「はぁ…」

男「それにしても…車かよ」

男「今後必要になるかなと思ってはいたけど」

男「…父ちゃんありがとう」



その日の夜

コンコン

幼「男、ちょっと良いですか?」

幼「…」

コンコン
幼「男?」

幼「…」

幼「もう寝てるんでしょうか?」

幼「まだ9時なのに…」



幼「男、昨夜は随分と寝るのが早かったんですね」

男「あ、あぁ…ちょっと疲れてたからさ」

幼「ん?男、今ちょっと嘘つきましたか?」

男「んー?ついてないよ」

幼「…」
ジーッ

男「本当だって!」

男「それより明日の事なんだけどな」

幼「はい、いよいよデートの日ですね!」

男「待ち合わせなんだけど、朝の8時で良いかな?」

幼「はい…え?8時ですか?早くないですか?」

男「ん、なるべく早くに出発したいんだ」

幼「解りました。どこで待ち合わせですか?」

男「ちょっと雰囲気無いかもしれないけど」

男「近くのローソンの駐車場で良いかな?」

幼「はい、解りました」

男「楽しみにしててくれよ」

幼「はいっ!すっごく楽しみです!」



その日の夜

コンコン
幼「男、起きてますか?」

幼「…」

幼「本当に寝てるんでしょうか…」

幼「デートは明日なのに…」

幼「…」

幼「いいえ!男は楽しみにしてろって言ってくれました!」

幼「私が男を疑ってどうするんですか!」

幼「…お休みなさい、男」

幼「明日、楽しみにしてますから…」



次の日

幼「よし!準備完了っ!」

幼「お弁当も準備万端!」

幼「幼友ちゃんに習ったメイクもばっちりだし」

幼「洋服も、男には内緒で買った勝負服だし」

幼「下着も…」

幼「…ま、まぁこれはあくまで念の為に、ですけど」

幼「7時15分…そろそろ出ましょう」

幼「楽しみです!」



ローソンの駐車場

幼「…」

幼(…好きな人を待つって、こんなにソワソワする物なんですね)

幼(でも全然嫌じゃない、凄く楽しいソワソワですね)

幼(今日はきっと最高の1日になりますね!)

幼(8時になったら、きっとあの角から男が歩いて来ます)

幼(どんな格好で来るんでしょうか)

幼(男も私みたいに、こっそり服を買っているかもしれませんね)

幼(もうすぐ8時ですね)

幼(そろそろあの角から、男が…)

ブロロロロロ

幼(あ、車が入って来た…)

キッ

幼(8時…男はまだ来ませんね)

ウィーン
男「お待たせ、幼」

幼「えっ?男?…その車は…?」

男「へっへー。どうしたと思う?」

幼「まさかわざわざレンタカーを?」

男「ハズレ。これは正真正銘俺の車なのだ!貰い物だけど」

幼「へ?」

幼「車貰ったって…意味が解りません!」

男「実は父ちゃんから貰ったんだ」

幼「あぁ…お父さん…さてはサプライズですね?」

男「うん。貰った本人もびっくりだよ」

男「さ、幼、乗って。行き先は決まってるから」

幼「は、はい…」
ガチャ
バタン

男「大丈夫、安全運転で行くからさ」

幼「そこは別に不安じゃありません」

幼「男が私を乗せて危険運転する訳がありませんから」

男「うん」

幼「あ!さては、昨日、一昨日の夜…」

幼「運転の練習をしてたんですね?」

男「バレたか。その通り」

幼「心配して損しました」

男「せっかく父ちゃんからのサプライズだったから」

男「幼にもサプライズを!と思って」

幼「その辺り、さすが親子ですね」

男「自分でもそう思うよ」

幼「いつ来てたんですか?」

男「一昨日、帰ったら部屋に居た」

幼「ひょとしてお母さんも?」

男「うん」

幼「全く…サプライズの為とは言え、私に一言も無いなんて」

男「母ちゃん、寝てたんだ」

男「父ちゃんが買った新車の助手席でね」

幼「お母さんは普段あまり運転しませんからね」

男「うん、長距離運転で疲れてるから起こすなって言われた」

幼「まぁそれは…仕方無いですね」

幼「それで、男、この車はどこに向かって走ってるんですか?」

男「着けば解るよ。今は内緒」

幼「むぅ…では到着するまで、面白い話しして下さい」

男「難しいなぁ…取り敢えず、普通の会話でお願いします」

男「…幼、今日の服超可愛いな。似合ってるぜ」

幼「気付いて貰えて嬉しいです!今日の為に買ったとっておきで…」



幼「ここは…」

男「初めてだろ?」

幼「私、一度来てみたかったんです!」

男「知ってたよ。だから来たんだ」

幼「すっごく嬉しいです!」

男「喜んでくれて嬉しいよ」

幼「お、男!早く中に入りましょう!」

男「落ち着いて、幼。水族館は逃げないから」



幼「…言葉が見つかりません」

男「うん、そうだなぁ」

幼「こんなに大きな水槽で…魚が…」

男「ジンベエザメってデカいなぁ」

幼「色んな魚がぐるぐる回って…とっても…」

幼「…」

幼「綺麗ですね…」

男「…あぁ、綺麗だな」

幼「…はい」

男「…本当に、綺麗だな」

幼「…」

男「来て良かったよ」

幼「本当にそうですね…」



幼「はぁ…言葉も無く1時間も大水槽の前で立ち尽くしてしまいましたね」

男「それだけの価値はあったなぁ」

幼「男、本当にありがとうございます」

男「俺だけの力じゃ無理だったけどね」

幼「後でお礼の電話をしなければ」

男「2人共、喜ぶと思うよ」

幼「さて!次はあれです!男っ!」

男「イルカショー?」

幼「見たかったんですっ」

男「ん、丁度時間も良い感じだし、行こうか」

幼「はいっ!」



幼「とっても凄かったですけども」

幼「最前列はやめておいた方が良かったですね…」

男「結構水かかっちまったな」

男「でもまぁ、この天気だし、すぐ乾くだろう」

幼「男、私の服、透けてません?」

男「ん…んー?」

幼「…どうですか?」

男「大丈夫、どこも透けてないよ」

幼「ふぅ…まぁ、透けてても良いんですけど」

男「それは俺が嫌だから」

幼「ふふっ、男ならそう言ってくれると思ってましたよ」

男「あそこのベンチでちょっと休むか」

幼「…あそこのベンチ、どうして誰も座ってないんでしょうね?」

幼「他のベンチは人で一杯なのに…」

男「今日暑いからなー」

男「あそこのベンチだけ、屋根が無いからじゃないか?」

幼「なるほど。でも、服を乾かしたい私たちにはピッタリですね」

幼「それじゃそこでお弁当にしましょう!」

男「じゃあ、俺、飲み物買って来るよ」

幼「お願いします」

男「幼はお茶で良い?」

幼「はい!緑茶でお願いします」

男「じゃ、ちょっと行って来る」



幼「はぁ…私、こんなに幸せで良いんでしょうか」

幼「大好きな人と、楽しく過ごす時間…」

幼「大切な時間ですね」

幼「…」
ソワソワ

幼「…男、遅いですね」

幼「ふふっ…やっぱり私、男の事が大好きです」

幼「こんなわずかな時間も、離れてるとソワソワしてしまうなんて」

幼「…これからもずっと一緒に居たいです」

?「…なぁ、そこの姉ちゃん」

幼「…」

?「あんただよ、聞こえてるんだろ?」

幼「ひょっとして私に話しかけてるんですか?」

?「そうだよ、あんただよ」

幼「どちら様ですか?」

幼「ナンパなら他を当たって下さい、連れが居ますので」

?「よっこいしょっと」
ドサ

幼「ちょ、隣りに座らないで下さいっ」

幼「連れが居るって言ってるじゃないですか!」

幼「それに、お酒臭いです。寄らないで下さい!」

?「…お前、幼だろ?」

幼「な、なんですか?誰ですか?何故私の名前を知ってるんですか?」

?「母ちゃんに似て、美人になったなぁ」

幼「母を知ってるんですか?」

?「まだ思い出さねえのか?俺だよ俺」

幼「わ、私はあなたみたいな人は、し、知りません」

?「あぁん?実の父親の顔、忘れる位、馬鹿に育ったのか?」

幼「あ…あ…」
ガタガタ

?「離婚したとは言えよう」

?「俺はお前の親父だぜ?」

元幼父「ちゃんと挨拶くらいしたらどうだ?あぁ?」

幼「わ、私は…」
ガタガタ

元幼父「何だよ、何震えてんだ」

元幼父「また俺がお前の事、殴ると思ってんのか?」

元幼父「安心しろよ、殴ったりしねぇよ」

幼「な…何で…こんな所に…」
ガタガタ

元幼父「あぁ?俺が水族館に居たらおかしいか?」
ダンッ

幼「ひっ!」
ガタガタ

元幼父「お前は相変わらず、憎たらしい目ぇしてやがるな」

元幼父「俺が今日、ここに居るのは偶然だからな?」

元幼父「狙って来た訳じゃねーからな」

幼「ぁ…」
ガタガタ

元幼父「んだよ、いい加減震えるの止めろっ!」

幼「ひっ…」
ガタガタ

元幼父「俺がお前を虐待してるみたいだろ?なぁ!おい!」
ダンッ

幼「い、嫌っ…嫌っ…」
ガタガタ

元幼父「あぁ、その態度…変わってねぇなあ」

元幼父「あの女、相変わらず馬鹿なんだなぁ」

元幼父「教育がなってねーからこんな馬鹿な人間が育つんだ」

元幼父「お前今、高校生くらいだろ?」

元幼父「なのに、実の親に挨拶も出来ねー」

元幼父「馬鹿は殴らなきゃ治らねーっての」

元幼父「なぁ、おい。お前もそう思うだろ?幼っ!」
ズイッ

幼(ま、また殴られる…嫌だ!痛いの嫌だ!)
ガタガタ


男「あの」

元幼父「あぁ?何だ?」

男「今、その娘の事、殴ろうとしました?」

元幼父「あぁ、自分の娘を教育中だ、他人が口出す事じゃねーよ!」

男「他人じゃないので、そう言う訳には行かないです」
スッ

元幼父「あぁ?お前誰だ?」

男「…他人じゃないって言ってるでしょ」

元幼父「あん?ひょっとしてこいつの彼氏か?」

男「そうです」

元幼父「けっ…ガキが色気付きやがって」

男「幼、大丈夫だから」

幼「…ぁ…」
ガタガタ

男「遅くなってごめんな」

幼「男ぉ…」
ガタガタ

元幼父「あー、彼氏君さぁ」

男「何ですか?」

元幼父「そいつ馬鹿だから、言う事聞かせるには殴らないと駄目なんだよ」

元幼父「まぁ、教育って奴だ」

元幼父「だからそこどけ。ぶっ飛ばされんうちにな」

男「そうは行かないです」

男「彼女は俺の大切な人なので、ここは引けません」

男「愛する人を傷付けられて、黙ってる人間なんて居ないでしょ」

元幼父「…あぁ、お前も馬鹿なんだな?」


元幼父「やっぱガキは殴られないと解らねぇんだ…」

男「殴られても、一歩も引きませんよ」

元幼父「ぷっ…あはははは」

元幼父「そうかそうか…彼女の前では格好つけたいもんなぁ」

男「…」

元幼父「でもなぁ…やっぱりガキの躾は大人の義務だからなぁ!」
バチィン

男「っく…」

元幼父「さすが男の子、小さなガキとは違うなぁ…」
ドカッ

男「ぅ…」

幼「ゃ…」
ガタガタ

元幼父「オラ!ちゃんと目上の人間に敬意って奴を…」
ガスッ

男「…」

元幼父「…何だ、その目」

男「…あんたが昔、幼にした事は許せない、許されない事だ」

元幼父「あん?」

男「会社の金横領して、クビになって、酒に溺れて」

男「自分の家族に暴力を振るう様な…」

男「クソ野郎に、敬意を持って接する事なんて出来ないね!」

元幼父「この野郎…殴られ足りないんだな?やっぱ馬鹿なんだな?」
バチッドスッ

男「っ…」

幼「ぃゃ…」
ガタガタ

元幼父「オラ!さっきみたいに威勢のいい事言ってみろ、クソガキが!」
ドスッ

男「ぅ…」
フラフラ

幼(怖い…怖いよ…)
ガタガタ

幼(でも…このままじゃ男が…男っ!)
ガタガタ

幼(男っ!!)

幼(…そうだ)

幼(こいつに殴られて、人間不信になってた私を)

幼(優しく見守ってくれて、仲良くしてくれて)

幼(いつだって、私の事を大切にしてくれて…)

幼(…私は…私はっ!)

幼「止めて下さいっ!」

元幼父「あぁん?馬鹿はちょっと黙ってろよ」

幼「男は私の大切な人ですっ!」

幼「これ以上は…やらせませんっ!」

元幼父「はぁ?、生意気な口きく様になったなぁ」

元幼父「今度は右耳も聞こえなくしてやろうか?あぁ?」

幼「やれるもんならやってみやがれです!」

幼(大丈夫、もう怖くない…)

幼(男の為なら…何も怖くないっ!)

元幼父「このガキがっ!」
バチンッ

幼「っ…」

男「お、幼っ!」

幼「…もう、あの頃の私とは違いますっ!」

幼「あなたの様な人に、屈したりしない!」

元幼父「このクソガキがっ!」

ガシッ
警備員「ちょっと待った!」

元幼父「何だ?今、ガキを教育中だ。引っ込んでろよ」

警備員「今のそれは教育とは関係無く見えました」

元幼父「何だよ…俺ぁ客だぜ?おい」

元幼父「それに俺はこいつらの保護者だ」

元幼父「教育の邪魔だからどっか行け」

警備員「…君たちはこの人の子なのかな?」

幼「いいえ、違います」

幼「この人が一方的に暴力を振るって来たんです」

元幼父「おい…あんまり俺を怒らせるなよ、馬鹿娘がっ!」

警備員「ちょっと3人とも、事務所まで来てもらえますかね?」

元幼父「おい…そんなガキの言う事を信じるのかよっ!」

警備員「少なくとも酔って公衆の面前で」

警備員「暴力を振るう人の言葉よりは信じられますね、元幼父さん」

元幼父「チッ…」

幼「男!」

男「幼…大丈夫??」
フラフラ

幼「私は何ともありません!それより男の方こそ大丈夫ですか?」

男「ほっぺとお腹とスネが痛い…」

男「でも死ぬ程じゃないし、大丈夫だよ、幼」

男「こんな時、ドラマとかだと気を失ったりするのになぁ」

男「人間って、結構頑丈に出来てるもんだな」

幼「何言ってるんですか!もう!男は無茶し過ぎですよ!」

幼「何で…殴り返さなかったんですか?」

男「ここで手出しちゃ、負けでしょ」

幼「負け…ですか」

男「そこのクソ野郎と同じになっちゃうだろ」

幼「もう…格好付け過ぎですよ…」
グスッ

男「泣くなよ、幼。もう大丈夫だから」
ナデナデ

幼「はい…」

間違ってたらすんません
幼馴染「さ、学校に行きましょう!」 男「おう」
の続編ですかね?



男「いえ、警察に連絡とかはしなくていいです」

警備員「でも暴行されたんだし、通報した方が良いんじゃないかな?」

男「別に大したことないです」

幼「男、良いんですか?」

男「うん」

元幼父「…色男だなぁ、オイ」

男「勘違いしないで下さいよ?」

元幼父「あ?」

男「俺はあなたと金輪際、係わり合いたくないんです」

男「幼にも幼母にも、もう二度とあんたの顔を見せたくない」

男「今日、ここで会っちゃったのはまぁ、事故だとして」

男「警察沙汰なんかにしたら、またあなたの顔を見る事になる」

男「それが嫌なんで」

元幼父「はっ!それが色男だって言ってるんだよっ!馬鹿か?」

警備員「大人げない…声の大きさ調整も出来ないんですか?」

元幼父「なんだとっ?」

警備員「そっちの彼の方がよっぽど大人ですよ」

元幼父「このっ…」

警備責任者「元幼父さん、酔って入館して、他のお客様に絡んで騒動を起こすのは」

警備責任者「迷惑だと言ったはずです、そして次は通報すると」

警備責任者「彼らには関係無く、業務妨害で通報しても良いんですよ?」

元幼父「…」

警備責任者「取り敢えず、もう二度と来ないで下さい。出禁です」

>>95 そうです。



警備責任者「今日は災難だったね」

男「はは、まぁ少し」

幼「少しじゃありません!」

幼「…もし次、こんな事があったら」

幼「もっとこう…ガードするとか、して下さい!」

男「機会があったらそうするよ」

警備責任者「あの…これ、良ければ受け取ってくれるかな?」
スッ

男「これは?」

警備責任者「この水族館の入場券が2枚入ってるよ」

男「良いんですか?」

警備責任者「このままだと、嫌な思い出しか残らなくて…」

警備責任者「もう2度と来なくなってしまうだろ?」

警備責任者「そうなったら悲しいからな」

幼「ありがとうございますっ」
ペコッ

男「ありがとうございます、警備責任者さん」

警備責任者「ははは、是非また来てくれよ?」

男「はい、絶対また来ますよ」

警備責任者「車で来たんだよね?」

男「そうです」

警備責任者「帰り道、気をつけて」



男「…」

幼「男、大丈夫ですか?」

男「大丈夫!って言いたいけど…」

男「ちょっと痛いかも」

幼「運転、変わってあげられれば良かったんですけど…」

幼「て言うか男、道が違うと思うんですけど」

幼「さっきの交差点、直進じゃなかったですか?」

男「家に帰るなら直進なんだけどさ…」

男「ん…ごめん、幼」

男「ちょっと休みたい…」

幼「はい…でもどこで?」

男「そこに見える、ホテルで」

男「部屋取れたら…」

幼「ホ、ホテル…」

男「着いたら、ちょっとフロントで、部屋取れるか聞いて来てくれる?」

幼「は、はい」



幼「部屋取れて良かったですね、男」

男「ん?んー…そだね…」

幼「い、勢いで、ホテルに入ってしまいましたね!」

幼「よくここにホテルがあるって解りましたね!」

男「ん、途中、看板が見えたから…」

幼「シーズン前とは言え、よくこんなリゾートホテルの部屋が空いてましたね!」

幼「ある意味、ラッキーですねっ」

幼「それにしても、綺麗な部屋ですね」

幼「あ!こっちの窓から海も見えますよ!男!」

男「うん…そっか…それは良かった…」

幼「男、大丈夫ですか?」

男「ごめん…幼、ちょっと…休ませて…」

幼「は、はい!どうぞ!」

男「だはー」
ばふっ

男「…」

幼「男、寝る前にちゃんと靴は脱いで、お布団に入って下さい」

男「ぉぅ…」
ゴソゴソ

男「ノリの効いたシーツ、ふかふかの布団、気持ちいいなぁ…」

幼「…そ、そうですか」

男「あぁ…幼も、入ってみ…」

幼「は、はいっ!そのっ!それは、あの!」

幼「私もやぶさかでは無いんですけどっ!」

幼「でもお父さんとの約束もありますし!」

幼「でもでも、男がどうしてもと言うなら!」

幼「こ、これは決してやましい事を考えている訳ではなくて!」

幼「か、看病!そう!私をかばって、怪我をした男の事を!」

幼「看病すると言う事で…」

男「…」スースー

幼「…男?」

男「…」スースー

幼「寝ちゃったんですか…はぁ…」

幼「…」

幼「もう!私だけ舞い上がって、馬鹿みたいじゃないですか!」

男「…」スースー

幼「ふふっ」

幼「男、今日はありがとうございます」

幼「私を助けてくれて」

幼「男が傍に居てくれたから、私も勇気出せました」

幼「…初めて、あの人に反抗出来ました」

幼「ほっぺは痛かったけど、清清しました」

幼「きっともう嫌な夢も見ないと思います」

幼「本当にありがとうございます、男…」

幼「大好きです…」


ちゅっ



男「…ん」

幼「…」スースー

男「…あれ?なんで幼が俺のベッドに?」

男「ん…んー?」

男「…」スースー

男「あ、そうか、ここホテルだ」

男「俺、寝ちゃったんだな」

幼「…」スースー

男「ははっ、こっちに入って来ちゃったか」

男「これじゃベッド2つある意味無いし」

男「…」

男「しっかし今日は緊張したなぁ…」

男「話しには聞いてたけど、幼の実の親とは思えないなぁ」

男「全くクソ野郎って言葉がピッタリだったな」

男「昔は優しくて格好良かったって言ってたけど」

男「…母ちゃんに似て良かったな、幼」

幼「…」スースー

男「ちょっと笑ってる…良い夢見てるのかな?」

男「今日の俺は、ちゃんと幼の事を守れたのかな」

男「一発庇いきれなくて、ほっぺが赤くなってるな…」

男「ごめんな、次はちゃんと守るから」
ナデナデ


幼「…」
ニコッ

男「!!」

男「…あれ?何だこれヤバい」

男「動悸が激しいし、顔が熱いし」

男「よく考えたら、同じ布団で寝るなんて、何年ぶりだろ」

男「…」

男「…あー、駄目だ駄目だ」

男「俺は不埒な事は考えてないぞ!断じて!」

男「断じて…」

幼「…」

男「幼、起きて無いよな?」

幼「…」

男「…ぅー」



ちゅっ

男「やっちまった…」

男「…あぁ…もう!」

幼「…それはこちらの台詞ですよ、男」

男「う…やっぱ起きてたか…」

幼「なんでおでこなんですか!」

幼「キスしやすいように、顔を向けていたのに!」

男「駄目だから!約束だから!」

幼「なら何でおでこにキスしたんですか?」

男「幼が可愛かったからだ」

幼「ふふっ、そこは正直なんですね」

男「だって本当にすげー可愛かったし」

幼「でも嬉しいですよ」

男「何が?」

幼「初めて、男の方からキスしてくれました!」

男「おう…そうか…」

男「て言うか、どこから起きてた?」

男「ひょっとしてずっと起きてたか?」

幼「いえ、最初は本当に寝てましたよ」

幼「男が頭を撫でてくれたので起きました」

男「頭ナデナデは駄目かー」

幼「いえ、とっても嬉しかったですよ」

幼「小さい頃はよく撫でてくれたのに」

幼「最近は全然ですからね!」

男「子供扱いっぽいかなと思って、やらない様にしてたんだけどな」

幼「思いませんよ。むしろ嬉しいのでどんどん撫でて下さい」

男「お、おぅ」

幼「今、撫でてくれても良いんですよ?」

男「う…」

幼「と言うか、頭を撫でるのは約束に反してませんよ!」

幼「普通のスキンシップじゃないですか!」

幼「だから、今撫でて下さい!」

男「解ったよ…」
ナデナデ

幼「ふふっ…くすぐったいですね」

男「止めるか?」

幼「そのまましばらく撫でてもらえますか?」

男「おう」

幼「小一時間くらい?」

男「いや、一時間は長いだろ!」

幼「今までの時間からしたら、短いくらいです!」

男「…そっか」
ナデナデ

男「本当はさ」

幼「はい?」

男「キスくらいならセーフなんだって」

幼「!?」

男「この前、父ちゃんに言われたんだ」

男「だからまだ…」

幼「じゃあ、今すぐキスしましょう!」

男「ここじゃ駄目だ!絶対駄目!」

幼「どうしてですか!キス、セーフなんですよね?」

幼「私、キスしたいです!」

男「あー、ここでキスしたらさ」

幼「はい」

男「理性が、その…持たないって言うか」

幼「理性?…あっ!」

男「だから駄目!」

幼「もう良いじゃないですか」

男「駄目です」

幼「わ、私は、覚悟とか出来てますよ?」

幼「高校に入学したら、他の人の事好きになるかもなんて言われましたけど」

幼「やっぱり男以外の事を好きになるなんてありえません!」

幼「一生、男の傍に居ます!」

幼「だから…」

男「…」

幼「…」



ぐぅ…

男・幼「…」

男「ぷっ…そう言えばお腹空いたな?」

幼「お、お恥ずかしい限りです…」

幼「お昼沢山食べるつもりで、朝も軽くしか食べてないので…」

幼「私の腹の虫は空気読めないですね…」

男「幼、お弁当は?」

幼「一応、備え付けの冷蔵庫に入れてあります」

幼「サンドイッチなので、食べられると思います」

男「それじゃ、もう夕食の時間だけど、食べようか」

幼「はいっ」

男「…そう言うのはさ、幼」

幼「はい?」

男「ゆっくりで良いよ、ゆっくりで」

男「長い人生だ、まだまだ時間は沢山ある」

男「な?」

幼「…はい、男」




幼「もうすっかり夏ですね」

男「そうだなぁ、もう7月だもんなぁ」

男「セミの鳴き声も五月蝿いなぁ」

幼「ふふっ、そこは風情じゃないですか?」

幼「聞きたくても、冬には聞けない物ですよ?」

男「それはそうだけどさ」

幼「あ、そう言えば、男に聞きたい事が」

男「何?」

幼「なんで作業療法士になりたいんですか?」

男「また突然だな」

幼「理由聞いた事無いなと思って」

男「あー…高校進学決める時にさ」

男「家族で会議したじゃん」

幼「しましたね」

男「自動車整備士になろうとしてた俺を」

男「父ちゃんが止めたじゃん」

幼「断固拒否って言ってましたね」

男「父ちゃんの跡継いで、島の皆の役に立ちたかったんだよ」

幼「俺の跡継ぎになるとか考えるな!って言ってましたね」

男「それでもやっぱり島の人の為になる仕事がしたいと思ってさ」

男「色々考えたんだけど、地域医療に興味があるって言うか」

幼「地域医療ですか」

男「島のじいちゃん、ばあちゃん達さ」

男「脚が痛いとか、腰が痛いとか言ってたじゃん」

幼「言ってましたね」

男「そう言う人達の役に立ちたいんだよ」

幼「なるほど…」

男「作業療法士として、経験を積んだら」

男「大学院で整形の勉強して、もっとみんなの役に立てる様にしたい…なぁ、と思ってるんだ」

幼「やっぱり男は凄いですね」

男「…だからさ、幼」

幼「ふふふ、言わなくても解ってますよ、男」

幼「私の気持ちは揺るぎません!」

幼「男が求婚してくれるまで、ずっと待ってます!」

幼「あ、待ってるって言っても、もちろん」

幼「男の傍で…ですけどね!」

男「高校卒業したら、すぐ結婚!って言うかと思ったけど」

男「お互い、成長したよな」

幼「本当はそれが一番良いんですけどね!」

幼「…でも、恋人とか夫婦とか、そんな肩書きじゃなくて」

幼「大好きな人と一緒に居られれば、それで…」

幼「それで満足です」

男「…俺、幼の事好きで良かった」

幼「へっ?な、なんですか突然」

男「幼の気持ちに、必ず応えるから」

幼「そ、そんな事、不意に言わないで下さいっ」

幼「嬉しくって、舞い上がってしまいますっ」
タタッ

男「おい、走ると危ないぞ?」

幼「子供じゃありませんから、大丈夫で…きゃあっ!」
ドタッ

男「幼っ、大丈夫か?」

幼「いたた…、だ、大丈夫です」
スッ

男「あー、カバンの中身ぶちまけちゃって…」
ヒョイヒョイ

幼「すみません、調子に乗りすぎました…」

男「ん?何だこの写真」
ピラッ

幼「あっ!それは!駄目です!」
バシッ!

幼「…見ました?」

男「うん、まぁ、見た」

男「あれか、俺達が初めて会った日の…」

幼「そ、そうです…これ、私のお守りなので…」

男「そっか、そんな写真持ってたのか」

幼「いつもカバンに入れて歩いてるんですよ?」

幼「辛い事があった時、そっと見て、勇気を分けてもらうんです」

男「俺も…」

幼「え?」

男「俺も欲しい!幼の写真!」

幼「ふふふっ…良いですよ、男にならどんな写真を撮られても…」

男「ち、違う!…あ、それはそれで欲しいけど!」

幼「?」

男「お人形さんみたな幼の小1の頃の写真、俺も欲しい!」

男「父ちゃんに言って、一枚焼いてもらおう」

幼「は、恥ずかしいからやめて下さいっ!」

男「良いだろ?幼は持ってるんだから!」

幼「駄目です!」

男「えー…」

幼「それじゃ…今の2人の写真を撮りましょう」

幼「ツーショットです。そっちの方が良いですよね?」

男「ん…んー?そうか?」

幼「良く考えたら、2人っきりで写真を撮った事も無いじゃないですか」

男「そう言えばそうだな」

幼「…携帯で今すぐ撮りましょう!」

幼「そして、速やかに待受画面に設定して下さい」

男「?」

幼「魔除けみたいな物です!」

男「魔除け?」

幼「他の女子と浮気しないように!」

男「余計な心配だけど、待受に設定するのは良いな」

男「それじゃ撮るか!」

幼「ちょっと待って下さい、今、身だしなみを…」

男「良いから良いから!」
ギュッ

幼「わわっ」

男「撮るぞー」

幼「…えいっ!」

ちゅっ
カシャッ

男「なっ!?今のは駄目だろ!」

幼「急に撮っちゃった仕返しです!」

男「えー?普段の幼の顔が良いよ、ありのままの幼の顔が」

幼「…もう!もうっ!」
バシッ

男「ちょ!痛いし!何だよ?」

幼「あんまり恥ずかしい事言わないで下さい!」

幼「…男、携帯貸して下さい」

男「ん?どうぞ」

ピッピッピ
幼「っと、これで待受設定完了です!」

男「ありがと、幼」

男「良く撮れてるな、ちょっと恥ずかしいけど」

幼「…この待受を変える時は」

男「へ?」

幼「私のウェディングドレス姿の写真にして下さいねっ!男!」



友「…なぁ、あれどう思う?」

幼友「往来でよくやるなぁって思う」

友「だよなぁ…」

女「幼ちゃん、記念撮影って言ったら、私ともキスしてくれるかな?」

友・幼友「や、それは無理でしょ!」



おわり
ちょっとおまけあり

『初めて会った日』

男「えっ?今日?今日くるの?」

男父「そうだ、今日来るぞ」

男「なんじにくるの?」

男父「3時のフェリーだから…そろそろ迎えに行ってくるかな」

男「もう!そんなことはさきにいってよ!」
バシッ

男父「ははは、驚かそうと思ってな!」

男「…メッチャおどろいたよ」

男父「ドッキリ大成功、イェーイ!」

男「はぁ…」

男父「それじゃ、行くかな」

男父「お前も一緒に迎えに行くか?」

男「ぼくはいいよ、ウチでまってるから…」

男父「何だ?照れてんのか?」

男「あたりまえでしょ!」
バシッ

男父「ははは、そんじゃ、大人しく待ってろよ」

男「うん…」

男(どんなひとたちなんだろう)

男(幼母さんと幼ちゃん…)

男(あたらしいお母さんと、妹かぁ…)

男(なかよくできたらいいなぁ)



幼母「ほら、幼ちゃん、もうすぐ港に着くわよ」

幼「…うん」

幼母「…まだ怖い?」

幼「あたらしいおとうさんとおにいちゃん…」

幼「幼のこと、ぶったりしない?」

幼母「大丈夫、2人とも優しいから」

幼母「絶対に幼ちゃんをぶったりしないから」

幼「…」

幼(どんなひとたちなんだろう)

幼(やっぱりちょっとこわい…)

幼(…)



男父「おーい!こっちだこっちー!」
ブンブン

幼母「はーい!ほら、幼ちゃん」

幼「…うん」

男父「ようこそ!待ってたよ、2人とも!」

幼母「あー、本当に良い景色ね!」

男父「そうだろ。ま、それしか無いんだけどな!はははっ」

幼「…」

男父「ん?幼ちゃん!船酔いかな?」

幼「…んん」

男父「そっか、おっさんが怖いのかな?」

幼「ちょっとだけ、おかおがこわい…」

男父「大丈夫大丈夫。おっさんは怖くないぞー?」

男父「今日から幼ちゃんの父ちゃんになるんだぞ?」

幼「…は、はい」

男父「大丈夫!おっさんは声はデカいし、顔もちょっとだけ怖いけど」

男父「本当はとってもこわがりなんだぜ?」

幼「…そうなの?」

男父「幼ちゃんに嫌われたら、おっさんだけど泣くかもよ?」

幼母「ほら、幼ちゃん。お父さん泣かしちゃったら大変よ?」

幼「うん…おじさ…お、おとうさん…なかないで?」

男父「幼ちゃんに言われたら、お父さんもう泣けないなぁ」

男父「今日から宜しくね、幼ちゃん」

幼「…うん!」

男父「それじゃ、2人とも、車に乗って乗って」

男父「家でお兄ちゃんが待ってるぞ?」

幼「…おにいちゃんもこわくない?」

男父「あぁ、全然怖くないぞー」

男父「優しいから大丈夫だー」

男父「あ!もしいじめられたら、お父さんに言いな?」

男父「でも、男は絶対いじめなんかしないと思うけどなー」

幼「なんで?」

男父「だってこんなに可愛い妹が出来たんだからな!はははっ」

幼「…」



ピンポーン

男「!」

男父「男ー、帰ったぞー!」

男「い、今いくー!」

男(ついにきた!)

男(きんちょうする!)
ドタドタ

男「あのっ」

男父「ほら、男、ちゃんと挨拶しろよ」

男「男です。こんにちは」
ペコッ

幼母「よろしくね、男ちゃん」

男「は、はい」

男(この人が、ぼくのお母さんになるひと…)

男(そして…)

幼母「ほら、幼ちゃんも、ちゃんと挨拶しなさい」

幼母「男君があなたのお兄ちゃんになるのよ?」

男(このこが、ぼくの妹になる…)

男(幼ちゃん…)

男(すっげーかわいい!)

幼「…」

幼(このひとが、わたしのおにいちゃん…)

幼(おとうさんはこわいかおしてるけど…)

幼(おにいちゃんは…)

幼(やさしそう…)

幼母「ほら、幼ちゃん?」

幼「…」
プイッ

男「!」

幼母「もう、この子ったら…照れちゃって」

幼「てれてないし!」

幼母「ほら、2人共、握手握手!」

幼「あ、あくしゅ?」

幼母「仲良くしましょうっていう握手、出来るでしょ?」

幼「幼と、なかよく…してくれる?」

男「もちろんっ!」

男父「お、シャッターチャンスな?」

男父「デジカメ、デジカメ…」
ピッ

男父「はい、2人とも!良い笑顔でー、握手っ!」

男「よろしくね、幼ちゃん」
ぎゅっ

幼「うん…よろしく…おねがいします」
ぎゅっ



幼「…おにいちゃん」
ボソッ



パシャッ



おわり

これでおわりです
このssは
義妹「私は幼馴染と言う事に?」 男「何言ってんの?」
義妹「私は幼馴染と言う事に?」 男「何言ってんの?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/internet/14562/storage/1353323656.html)

幼馴染「さ、学校に行きましょう!」 男「おう」
幼馴染「さ、学校に行きましょう!」 男「おう」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/internet/14562/storage/1355745656.html)
の続きでした

途中レスくれた方、ありがとうございました!
最後まで読んでくれたら嬉しいです

次スレは
幼馴染「ミッション・ポッシブル!」 幼友「ちょっと違くない?」
ってタイトルで立てると思います
では。


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