先輩「さ、わがん配属されてから三ヶ月経つばってんこっちには慣れたね？」

後輩「はい！一人暮らしは寂しいですけどだいぶ慣れました！」

先輩「そうね、そいは良かった。
なんか困ったことのあったぎんたがいつでん頼ってよかけんな」

後輩「はい！ありがとうございます！」

先輩「方言もだいぶなくなったし、こっちに慣れてきよっばいね。よかこつたい」

後輩「その節はどうもご迷惑をおかけしました…」

後輩(そう、私がこの工場に就職してからの三ヶ月、方言がらみで本当に色々なことがあった)

三ヶ月前

後輩「初めまして、今日からこの工場で働くことになりました、女と申します！よろしくお願いします！」

上司「うん、よろしく
そいぎ、細かかこつは…おーいちょっと男君来てくれんね！」

先輩「なんでしょうか」

上司「こちら今日からうちで働くことになった女さん」

後輩「初めまして、女と申します！よろしくお願いします！」

先輩「あぁ、よろしく
で、用件とは？」

上司「今日から女さんの教育係を頼みたかとよ」

先輩「…は？俺事務職はわからんですよ？」

上司「大丈夫大丈夫！彼女は技術職希望やけん！」

先輩「…はっ！？」

後輩「？」

先輩「で、これがここでこれがここ、あれはあれだから」

後輩「あ、アバウトですね」

先輩「細かいことは説明すると面倒になるからね。
まずは簡単な仕事から覚えてね」

後輩「はい！頑張ります！」

先輩「うん、早速なんだけど、この刃具をなおしてくれるかな？」

後輩「なおす！？私そんな難しいこと習ってませんよ！？」

先輩「大丈夫、さっき教えた場所にあるからさ」

後輩「いや、まだ修理の仕方とか習ってないですよ！？」

先輩「…？あー、すまん。片付けてくれ」



なおす 【動詞】 意味:片付ける

先輩「あー、今日も疲れたな」ﾄﾞｻｯ

後輩「お疲れ様ですー」ｶﾞﾁｬ

先輩「お疲れ様ー」

後輩「先輩ー、そんな椅子がのけぞるまで深々座って…そんなにえらいんですか？」

先輩「…後輩、お前俺に喧嘩売ってるのか？」

後輩「え？あっ、すいませんすいません！疲れてるんですかって意味です！！」



えらい 【形容詞】 意味:疲れている

先輩「そういえば女さんは通勤手段どうしてる？まだ道わからないんじゃない？」

後輩「心配無用ですよ！最初は迷いましたけど、毎日出勤するんで覚えました！」

先輩「それは良かった。土日に遊んだりするときは娯楽とかどうしてる？」

後輩「けった買ったんで、けったで出かけてます！」ﾆｺﾆｺ

先輩「そ、そうか。よくわからないけど楽しそうでなによりだよ…」

先輩(けった…？)


けった 【名詞】 意味:自転車

先輩「そういえばなんでこんな工場、しかも技術職に就いたんだ？事務でも良かったんじゃないか？」

後輩「あー、あれですよ。事務だと夜勤とか手当てとかないじゃないですか」

先輩「だなぁ」

後輩「やっぱちょっときつい思いしてでも給料高い方が良いんで！」

先輩「…そうか」

後輩「あー！ちょっと引いてません？」

先輩「いや、別に引いてなんかはないよ。感心しただけ
その年でよくそこまで考えられる」

後輩(学力不足で工業に入学してそのまま事務とか考えずに進路希望出したとか言えない)

後輩「先輩はなんで方言使わないんですか？」

先輩「え？いや、なんでって」

後輩「上司さんと話すときはたまに方言出るじゃないですかー！」

先輩「…じゃないか」

後輩「はい？」

先輩「恥ずかしいじゃないか！！！」

後輩「！？」ﾋﾞｸｯ

先輩「こちとら工業高校出身やっけんが、おんなんこと話したこともあんまいなかとよ！？そいとけ、おんなんこん教育係て、いきない言われて、なおかつ分かりやすく教えんばてなったぎんたが方言も出すに出せんくしゃ！！」

後輩「せ、先輩！？」

先輩「大体さっきも言ったばってんが、おいはおんなんこん苦手ったい！そいに加えてわが出身は愛知やろうもん！都会やなかか！そがんおんなんこ相手に方言とか使えんばい！」

後輩「先輩！現在進行形で方言がでら出てます！」

先輩「はっ！おいは一体なんばいいよっか？！」

現在

後輩「あれ？迷惑かけてたのは主に先輩な気が…」

先輩「…正直すまんかったて思いよる」

後輩(あのあと顔を真っ赤にしながら謝る先輩、申し訳ないけど可愛かったなぁ…)

後輩「あ、そうだ！悪いって思うなら態度で示してくださいよ！」

先輩「態度？」

後輩「丁度思い出せたし、良い機会です！女の子への苦手意識克服しましょ！」

先輩「は」

後輩「お詫びに今週末に食事つれていってください！デートです！」

先輩「」

土日

後輩「お待たせしましたー！」

先輩「」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

後輩「ちゃんと来てくれてありがとうございます！待たせちゃいました？」

先輩「」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

後輩「先輩？大丈夫ですかー？」

先輩「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

後輩「」

なんとか食事に行けました

後輩「ごちそうさまですー」

先輩「俺、女の子を連れていく店とか知らないからこんなとこになっちゃったけど、大丈夫だった？」

後輩「特に問題はないですよー私ラーメン好きですし」

先輩「それなら良かった」

後輩「九州のラーメンってやっぱり濃いんですね」

先輩「濃かった？」

後輩「ですね。あと、麺がこわかったです」

先輩「」

後輩「あの麺こわすぎですよ！なんなんですかあれ！」

先輩「女さん、店員さん睨んでるからそれ以上はやめて！」



こわい 【形容詞】 意味:固い

後輩「今日はごちそうさまでしたー」

先輩「満足してくれた？」

後輩「はい、まぁぼちぼちですね！」

先輩「手厳しいね」

後輩「不満なとこがあるんですよ」

先輩「えっ」

先輩「俺、なんかした？」

後輩「方言」

先輩「は？」

後輩「先輩なんで方言じゃないんですか？やっぱり緊張ですか？」

先輩「え？あー、ごめん」

後輩「謝ることないですよ！」

先輩「ごめんね、やっぱり女の子は苦手だよ」

後輩「こちらこそごめんなさい」

先輩「しばらくは仕事が恋人でいいや…」

後輩「そうですか…でも、私諦めませんからね！」

先輩「ははは…お手柔らかにお願いします…」



終わり