7日目の蝉 【モバマスSS】 (29)
8月。加蓮が死んだ。
三カ月前、昔かかっていた病気の再発がわかった。
それは突然だった。あまりにも突然すぎた。
神様が本当にいるのなら、そいつを殴りつけただろう。
悔しかった。
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トライアドプリムスの三人も信じられなかった。
涙が枯れるまで泣き続けた。
でも、三人は強かった。残りの月日を精いっぱい生きると決めた。
そして、仕事の最中に倒れた加蓮は病院に運ばれ、死んだ。
最期の最期まで加蓮は笑っていた。
そして、加蓮が居なくなって7日たった。
「なあ」
「何? プロデューサー?」
凛の力のない返事が返ってくる。
「この7日間は長かったか?」
「…………」
すぐに返事は返ってこなかった。
「もうそんなにたったんだ……」
「それは短かったってことか?」
口を閉じていた奈緒がそう言う。
「いや……ごめん……わからないや」
「そうだよな。私もわからないよ」
「7日……」
この7日は長かったか短かったか。自分でも考えてみた。
しかし、答えは出なかった。
「7日……じゃあさ」
「世界を創った神様の7日間と、地震から逃げるイルカの群れの7日間。あと、駅で週末にいつも泣いている子の7日とならどの7日間が一番長いと思う?」
「何だよ、それ」
奈緒が小さく笑う。
「いや、なんとなく7日で思いついたものだけど」
「……私は……神様の7日間かな」
「何でだ?」
奈緒が凛に訊く。
「世界を創るのって大変だから長いかなって」
「凛らしいな」
奈緒が微笑みながら言う。
「そうだな……私は……いつも泣いてる子の7日かな……」
「なんで?」
さっきとは逆に凛が奈緒に訊く。
「週末に泣いてるんだろ? なら、そこまでに悲しいことがたくさんあるってことだから一番長いかなって」
「プロデューサーは?」
「俺は……」
少し考える。そして、選択肢にはない、しかし、自分の中で一番長い7日があった。
「この7日間かな。加蓮が居なくなってからのこの7日間」
「…………」
二人とも俯いてしまった。
「ごめん……ちょっと外に行ってくるわ」
そう言って俺は席を立った。
外へ出ると夏の湿った生暖かい空気が俺に押し寄せてきた。
いつもはそれを気持ち悪く感じていたが、今は悲しみで冷たくなった俺に温かみを与えてくれるように感じ気持ち良かった。
一歩踏み出すと次は夏の日差しが俺に降り注ぐ。
この日差しも嫌いだった。でも、今は好きになれた。
そんなことを感じながら足を進める。特に目的地は決めてない。
こんなに人がいるのに何で俺はこんなに寂しいのだろう。
汗が頬から垂れる。
胸が苦しくなる。息が荒くなる。
さっきまで気持ちよかった夏の空気が人の波と一緒に俺に押し寄せてくる。
夏の空気が気持ち悪くなった。人を見ていたからだろう。
人のいない場所へ行こう。
訂正>>12
東京は何一つ変わっていなかった。いつも通りどこも人であふれている。
こんなに人がいるのに何で俺はこんなに寂しいのだろう。
汗が頬から垂れる。
胸が苦しくなる。息が荒くなる。
さっきまで気持ちよかった夏の空気が人の波と一緒に俺に押し寄せてくる。
夏の空気が気持ち悪くなった。人を見ていたからだろう。
人のいない場所へ行こう。
少し歩くと、人のいない公園を見つけた。
公園というにはそこは遊具がなかった。だからだろうが、子供さえいなかった。
俺は木陰に隠れてるベンチに座る。
夏風が俺の髪を揺らす。夏の空気がまた気持ちよくなった。
夏は嫌いだった。
暑いし、空気もジメジメしていて気持ち悪いからだ。
でも、今はその暑さも湿った空気も好きになれる。
全ては俺次第。
俺が温かさを求めているから夏を好きになれている。
だから俺次第。
人生とはそういうものなのだろう。
俺がまだ小さかった頃に祖父にあることを訊いたことがある。
死ぬよりも悲しことはこの世にあるか、と。
祖父には左手がなかった。戦争でなくしたらしい。
そんな祖父はこう答えた。
あると言うならあるな。ないと言えば無いな。それは自分次第だ。
その頃は意味が理解できなかったが、今はわかる。
例えば、ある人がいる。
その人は甘えられる家庭にいた。
さらに、その人には友達が100人いて、恋人は何十人もいた。
何一つ不自由がなかった。
誰もがその人をうらやましく思った。
でも、その人がそれを良く思っていなかったとしたら。
それは不幸でしかない。
そして、その人は自分から不幸に向かっていくだろう。
俺はどうだろうか。
甘えることのできない家庭で。
友達は作れないし、恋人なんか一人もいない。
それでもあいつらをトップアイドルにするという夢を全力で追っている俺は幸せを感じている。
幸か不幸かは全てその人次第だ。
なら、
死ぬよりも悲しいことなんてないと思ったら。
生きている限り怖いことなんてない。誰が不幸だ惨めだと言おうが関係ない。
夢をあきらめる必要もない。
人は必ず死ぬ。
シンデレラガールになって嬉し泣きする凛にだって。
加蓮が居なくなって悲しいのに頑張って笑う奈緒にも。
人生をゆっくり、ゆっくりと生きる誰かにだって。
自分の幸せに気づいてない誰かにも。
いつか死は訪れる。俺だって死ぬ。
俺は神様じゃないから死ぬ意味なんてわからない。
蝉が精いっぱい鳴いている。
蝉は冬まで生きることができない。夏に冬を夢見て死んでいく。
なあ、加蓮。
お前は冬を夢見ている蝉みたいだな。
もしその願いが叶うってわかって今日も生きていたのか?
人は悲しみだけを忘れることなんて器用なことはできない。
なら、一度全部忘れてしまおう。
トライアドプリムスの事も加蓮の事も全部忘れてしまおう。
あとで大切なことだけ思い出せばいい。
そして、夢を見よう。
その時、俺達は強くなれる。
涙がどうしようもなくこぼれる。でも、これでいいんだ。
今は泣いてもいい。
泣き終わってから強く生きればいい。
Fin.
以上になります。
これは自分がUVERworld『7日目の決意 vol.01』を見て感じたことを書きました。
と言ってもほぼ歌詞の言い回しを変えただけなのですが……
初めて7日目の決意を聴いた時から加蓮の話は浮かんだいたのですが書くまでに至りませんでした。
しかし、vol.01を見て涙が止まらなかったので書かせていただきました。
モバマス要素があまりなくてすみません。
それでは
UVERworld 『7日目の決意 vol.01』
http://www.youtube.com/watch?v=quQ0USQgl2k
UVERworld 『7日目の決意 vol.02』
http://www.youtube.com/watch?v=baJhnSJMZ98&list=PLOG2yybyQ9rOgbh5F340HNaVS44ltvBEo
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