千早「きょ、巨人?」(20)
「じゃあね、春香。また明日」
「うん!千早ちゃん。じゃあね�・」
いつもの様に私は親友と話し、再会の約束を交わした。
何もない殺風景な自室で私は一人、一日の疲れを癒すために深い眠りに落ちた。
眠るまで、私は明日の仕事のこと、事務所のみんなのことを考えながら自分の体から疲れが取れていくのを感じた。
この時までは次の日、あんな事態になってしまうとは思いもしなかった…
「…ったなトーマス。数をちょろまかすなよ!」
……? 聞き慣れない声に私は戸惑いながらも、寝ぼけた脳を動かす。
辺りを見渡してみるが、見覚えのない建物ばかり。
ここは一体どこなのか?
一瞬、脳裏に「誘拐」の二文字がよぎる。
だが、上を見ると空がある。誘拐されたのならば、私を外にほったらかしにするはずはないだろう、という結論に至った。
少しずつ頭が回ってきた私は辺りの建物が昨日まで見ていた物のような建物とは違うことを理解した。
「お、おいエレン。あそこに逃げ遅れた市民が居るぞ!」
近くの建物の屋根に立っている数人の人間のうちの一人がこちらに指を差しながら、そう言った。
「おい、アンタ大丈夫か?」
会話の内容から察するに"エレン"と思わしき男性が私に語りかけてきた。
私は現状の理解をしようとするけれども、情報が何一つ無いこの状況ではそれは困難だと察し、考えるのを放棄した。
彼の言葉に応える前に、辺りをよく見渡すと建物が崩れているのだろうか。
あまり好ましい状況で無いことは彼らの、そして周りの様子を見れば、一目瞭然だった。
「あなたはエレンというの?」
「? なんで俺の名前を知ってるんだ?」
彼は「そうだ」とは明言こそしないが、そう認め、怪訝そうな顔をして私に質問をしてきた。
「そこの金髪の彼が『エレン』と言ってたから」
「ああ、そういうことか。それより、はやく避難しないのか?巨人の餌になっちまうぞ。」
「というか、何で餌になってないのかが不思議だなくらいだ。アルミン、こいつの避難を手伝ってやってくれ」
「うん、分かったよエレン」
中性的な顔立ちをしたーーさっき見受けられた金髪の彼とは違う金髪の人が現れた。
名は「アルミン」というらしい。
気にしていなかったが、どう考えても日本人的な名前には思えない…
なぜ?一晩の間に私の身に何が?
疑問は募るばかりだった。
「ちょっとごめんね。抱えるよ」
そういうとアルミンは私をお姫様抱っこした。
(小さい体つきだけど力はあるのね…)
そう思ったところでアルミンは「え!?軽っ!!」などと一人で驚嘆していた。
「それじゃあ彼女を避難させてくるよ。エレンまた後で」
「ああ、また後でなアルミン」
彼らはそう言葉を交わし、アルミンは私を抱えながら、颯爽と空を翔け……?
彼が腰に付けているこれはなんだろう。
私は、とにかくどんなものでも情報が欲しかったのでアルミンに聞いてみた。
「ねぇ、アルミン。その腰の……なんて言うのかしら?」
「ええっ!?お姉さん立体機動装置も知らないの!?」
アルミンの口からは聞いたこともない単語が出てきて、さらに私は混乱をしてしまった。
そういった後に、彼は"立体機動装置"とやらについて話を始めた。
それは巨人と戦うために人類が作り出した武器らしい。
巨人とは? 私がまた問うとさっきよりさらにびっくりした顔をして、説明を始めた。
どうやら巨人は人間を食らう全人類共通の敵らしい。
文字通り大きな人間のような姿をした生物らしい。
「ああっ……そんな……ここにはまだ到達してないはずなのに……」
アルミンの体は震えていた。
目の前には大きな人間・・・さっきの話の巨人かしら?
だとしたら、これはかなりまずい状況だと思うわ……
目の前に居る巨人は私たちを見定めて………殴りかかってきた
私の胸部・・・このまま当たれば二人とも木っ端微塵になってしまうだろう。
アルミンの表情を見るかぎり逃げれるほどの心の余裕は無いだろうと容易に察することが出来た。
もう巨人の拳は目の前に来ていた。
私は自らの死を悟った。
キィィィィィン
巨人の拳が私の胸部を射抜いたと思った。
………が、そこにあったのは私たちの欠片ではなく、思わず目をつぶってしまうほどの眩しい光と耳をつんざくような轟音だった。
「ウオオオオアアアアア!!」
巨人は声とは呼べぬほどの叫びをあげた。
ふと「それ」の拳を見ると……無い。
さっきまで私たちを殺さんとしていた拳が無いのだ。
そして、巨人は倒れた。恐らく絶命したのであろう。
私はもちろん、アルミンも驚きのあまり口が開きっぱなしだった。
しばらくしてエレン達が私たちの元へやってきた。
「大きな音がしたから来てみたが……何があったんだ?」
エレンは私たちに聞いた。しかし答えは出るはずもなかった。
私たちもその問いの答えを知らないのだから。
その後はトーマスと名乗る私が最初に見た男性が私を、安全だという場所まで運んでくれた。
アルミンは私がトーマスと安全な場所に行くまで、ずっと呆気にとられたような顔をしていた。
トーマスが私の運搬を終えたようで、私は地面に降ろされた。
そこで、疲れていたのだろう。私の意識は一気に無くなった。
「………? あら?」
目が覚めたとき、私はいつもの、見慣れた、殺風景な私の部屋に居た。
「あれはやはり夢だったのかしら」
そう自問自答をする。 しかし耳が痛い。
まるでさっきまで見ていた夢の中で感じたようにーーーー
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