サシャ「怖い話でもしませんか?」(66)
エレン「……は?何言い出すんだよ急に」
サシャ「いやー、だって今日は年に一回あるかないかの野営実習じゃないですか」
コニー「せっかく男女が一緒の空間で夜を過ごせる貴重な機会なのに、何もしないで寝るとか勿体ないだろ!って話をしてたんだよ」
ライナー「おお、いいんじゃないか?面白そうで」
ベルトルト「確かに、めったにない機会ではあるしね」
クリスタ「わぁ、楽しそうだね!賛成!」
エレン「……。俺はパスで。明日早いし」
ジャン「何だよエレン、ノリ悪いな。まさか怖いとかじゃないだろうな?」
エレン「…………」
エレン「んな訳ねーだろ!馬鹿にすんなよ!!」
ライナー「間は正直だな」
ジャン「えwwwwまさかwwww怪談が怖いのか?wwwww十五にもなってwwwwww」
ジャン「巨人を駆逐するとか言っといてwwwwwwwこの体たらくwwwwwwwだせぇwwwwww」
エレン「なっ……!そ、そんなもん怖い訳無いだろ!!」
ジャン「じゃあwwwwじゃあ普通に参加出来るよなwwwwwwwwww」
エレン「おう、望むところだ!!」
ミカサ「…………」
アルミン(明日の朝には謎の変死体があがるなこれは……)
アルミン「ま、まぁ。面白そうだし、僕も参加するよ」
ミカサ「エレンが参加するなら、当然私も」
サシャ「ふむう、それなりに人数は集まりましたね」
クリスタ「で、誰から話すの?」
コニー「言いだしっぺみたいなもんだし、俺が一番目に行くぜ」
コニー「これは一カ月くらい前の話なんだけどな……
コニーのはなし
その日の夜、俺はエレンと一緒に走らされてたんだよ。
ひどい話だよな。ちょっと掃除中にハタキチャンバラしてたくらいで朝まで走れ、なんてさぁ。
まぁ、最初は二人とも無言の無表情で走ってたんだけどさ。
俺がちょっと疲れ出したころに、エレンが俺を数歩分追い越して、ドヤ顔でこっち見てくる訳よ。
そんなことされたら男としてやられっぱなしって訳にはいかないだろ?だから同じく数歩分追い抜かしてドヤ顔してやったんだ。
そしたら、あっちも負けじと数歩分追い抜かして、こっちも更に……。なんてやってる内に、いつの間にか二人とも全力疾走になっててさ。
いや、我ながらアホな事したと思ってるよ。マジで人類に捧げたはずの心臓が口から出てくるかと思ったからな。
まぁ。そんなこんなしてる内に体力が尽きてきて、俺たちほぼ同時にギブアップしたんだ。
もう二人揃ってゼェゼェハァハァ、このまま死ぬんじゃねえの?ってくらい息を荒げてさ。
それでも、時間がたてば息も落ち着いてきて、まぁ周りの音が聞こえる程度には回復したんだ。
で、エレンの方を伺おうとしたんだけどさ、まだハァハァ聞こえる訳よコレが。
まだ回復してないのかよお前うっわだっせ的なニュアンスを込めてドヤ顔したらさ、
あっちも同じような顔してこっち見てんだよ。
息切らしながらドヤ顔なんて、なかなか器用な事するなぁ。
って思ってエレンを見たんだけどさ、どうも息を切らしてる様子は無い。
不思議に思ったんだけど、それはエレンも同じだったらしくてさ。あっちも不思議そうな顔してたよ。
お互い、しばらく顔に『?』を浮かべてたんだけどな、突然エレンの顔が真っ青に染まってさ。
……それで俺も気付いちゃったんだよ。
そのハァハァって声が、後ろから聞こえてくるってことに
あんだけ走った後だったけど、全力で走ってその場から逃げたよ俺ら。
情けない話だけど、夜が明けるまでガタガタ震えながらエレンとやべぇやべぇ連呼してたな、あの夜は。
その後、無断で部屋に戻った事で教官にこってり絞られたけど、あのまま走ってたら……
――――――
コニー「……てな話」
ベルトルト「そ、それは怖いね……」
クリスタ「うう、聞かなきゃ良かったかも……」
コニー「だろ?今となっては笑い話だけどさ。あの時は本気で怖かったんだぜ」
ミカサ「確かに。荒ぶる鼻息が止められない程度に息を切らしたエレンが可愛かった事を鑑みても恐ろしい出来事……」
エレン「あん時の話か……。思い出したくなかったぜ……」
サシャ「ま、まぁまぁ。良いじゃないですか!今こうして元気でいられてるんですから!」
エレン「……それもそうだな。で、次は誰が話すんだ?」
ライナー「……じゃあ、次は俺が話そうか」
ジャン「ライナーが?意外だな。怖いものなんて無いかと思ってたぜ」
ライナー「買いかぶり過ぎだ。俺にだって怖い物の一つや二つはあるさ」
ライナー「……まぁ、怖いと言うよりは気味が悪いと言った方が正しいか……」
ライナーの話
これはそんなに昔の話じゃないんだけどな。
……俺らが寝泊まりする部屋に出たんだ。
え、何がって?まぁ、アレだ。ゴキブr
待て、待て!騒ぐな!!いや確かにこれも恐ろしいが!怖いのはここからなんだ!
とにかく一旦落ち着いてくれ!
……皆、落ち着いたか?じゃあ、続きを話すぞ。
その瞬間、もう大狂乱でな。野郎どもが揃いも揃って。
一足先に冷静になったベルトルトが「徹底的に掃除をしよう」って言ったんだ。
……ああ、エレンはその時ちょうど居なかったから知らんだろうな。
まぁ。その日、そんな事があったんだよ。
それから、かなり徹底して掃除が行われた。
奴ら、人の髪の毛一本で一週間は生き延びる事が出来るらしいからな。
まぁ、当然っちゃ当然だ。
一斉清掃からそれなりに日が経っていたのもあって、結構な量のゴミが出た。
あ、ジャン。お前のベッドの下の雑誌、教官に献上しといたからな。
で、さっきも言った通り、エレンはたまたまその時居なかったんだけどな、
エレンの寝床だけ放置する訳にもいかないから、そこも俺らで掃除したんだ。
……エレンのベッドの上は、特に散らかってる様子もなかった。
けど、ふと枕元に目をやると、ベッドの木枠とマットレスの間に何か挟まってるんだよ。
見ただけじゃ何か分からなかったからマットレスをどかしてみたんだが……
……エレン。お前の髪の毛、長くてせいぜい十センチくらいだよな?
いや、何でもない。……確認しただけだ。
……そこにあったのは、三十センチくらいの髪の毛の塊だった。
上質の鬘が作れようって程の量のな。
エレン「……え!?俺の枕元にそんなのあったのかよ!ウソだろ!?」
ライナー「安心しろ。もう処分した」
ジャン「……誰かがそこで散髪したまま放置したって線は無いのか?」
ライナー「いや、それは無い」
コニー「? どうしてそう言い切れるんだ?」
ライナー「その髪の毛を観察してみたんだけどな。全ての毛先に毛根がついていたんだ」
クリスタ「つ、つまり、一本一本抜かれたものって事……?」
ライナー「ああ、そうなるな」
コニー「こ、怖ぇええええ!」
ミカサ「全く……。たとえその髪の毛がエレンが悪夢にうなされない様にという祈りを込めて毎夜抜かれているものという点を差し引いてもおぞましい出来事……」
エレン「畜生、だから怖い話とか嫌だったんだ!」
ジャン「……だから?まるで前にもこんな事あったって口ぶりじゃねえか」
エレン「あったんだよ!というか、怖い話するとほぼ毎回俺の周りで怪奇現象が起きるんだ!!」
ジャン「そうだったのか。呪われてんじゃねえのお前。お祓いしてもらえお祓い」
エレン「んなこと言われたって、塩も貴重品だしなぁ……」
ミカサ「心配はいらない。私がいる限り、貴方は大丈夫」
エレン「ミカサ……。ありがとな。頼もしいぜ」
ミカサ「当然……。家族を守るためだから」
サシャ「さて!良い話にまとまった所で、次は私が話しますね!」
ライナー「サシャがか?」
ジャン「お前に怖いって概念があったことがまず怖ぇよ」
サシャ「失礼ですね!こんなにもか弱く儚い美少女になんてこと言うんですか!」
コニー「か弱く儚い美少女は鬼教官の前で堂々と芋食ったりしねぇよ」
サシャ「……最近のか弱く儚い美少女は、たくましさすら備えているんです!」
サシャ「……そうそう。この話、さっき話に上っていたライナー達の寝室での話なんです」
ライナー「!? そ、そうなのか?」
コニー「つーか、なんでお前が男子の寝室事情知ってんだよ」
サシャ「……。それは、今からお話します」
サシャのはなし
その日は蒸し暑い、けど満月の綺麗な夜でした。
大体夜中の三時頃だったでしょうか。ちょっと野暮用で上官の食糧庫付近を散策してたんです。
……?戦利品はどうだったか、ですか?
それが、食糧が補給される直前だったらしく、目ぼしい物は無かったんです。チッ
で、手ぶらで帰ろうとしていたんですが、運悪く、散策中だった上官が向こう側から歩いて来たんです。
戦利品も無いのに走ってたまるか、と一番近かった建物に身を隠しました。
あちらも、まさかこんな時間に誰かがいるなんて思いもしなかったのでしょう。
特に気に留める様子もなく、そのまま歩み去って行きました。
上官が行ってから気付いたのですが、そこは男子寮棟だったんです。
他の人に見つかる前に戻ろうと思ったんですが、奥から何やら物音が聞こえてくるわけですよ。
気になって入ってみたんですが、私が近付くと物音はぱったりと止んでしまいました。
そして私は直感したんです。これはまさしく『本当は起きてるけど、先生の足音が聞こえた瞬間寝たふりをする修学旅行男子』の図だと!
面白そうな事をしていたら混ぜてもらおうと思って、ドアについているのぞき穴から覗いて見たんですが……
何も、見えなかったんです。
……? 何で皆さんずっこけてらっしゃるんですか?
え、寝てるんだから当たり前?全く。分かって無いですねぇ。
……最初に言いましたが、その日は満月だったんです。
ドアから窓まで、仮に五メートル離れていたとしても、ベッドの輪郭くらいは見える筈です。
カーテンを閉めていた?それもあり得ません。
これも最初に言いましたが、その日、蒸し暑かったんです。とても。
そんな日にカーテンを閉めたまま寝るなんて、考えづらい事ですよね?
……本当に、何も見えなかったんです。
それこそ『黒』なんて言葉じゃ足りないくらいに。……目を瞑ったって、あんなに真っ暗にはなりませんよ。
不審には思ったんですが、あまりうかうかしていては誰かに見つかってしまいます。
気になりつつも扉を後にしようと思いました。
……けど、その瞬間、また物音がしたんです。
何というか……。こう、衣擦れのような音が。
やっぱり何かしてるんじゃないか!と戻って、また覗き穴を覗いて見たんですが……、
そこで見えたのは、月明かりに照らされたベッドと眠っているライナー達でした。
覗き穴は一つしかありませんから、穴を間違えたという事もありません。
けれど、そこにあったのはさっきまで見えていたものとは明らかに違う光景でした。
……その瞬間、野生の勘とでも言いましょうか。根拠はありませんでしたが、こう思ったんです。
『今すぐ身を引かなければ!!』……って。
その勘を信じて一歩後ずさったんですけど、すぐにそれが正解だったと知りました。
さっきまで私が目をつけていた穴から、アイスピックのようなものが飛び出て来たんですから。
サシャ「っていうのが私の怖い話なんですが……」
ジャン「いやそれ普通に侵入者じゃねぇか!!怖ぇよ!!」
ベルトルト「さ、サシャ、教官に相談とかは……?」
サシャ「いやー、一瞬しようとも思ったんですけど、仲間の安全と保身を秤にかけたら後者が勝っちゃってですね」
ライナー「お前ってやつは……」
ミカサ「サシャ」
サシャ「? 何ですか?」
ミカサ「貴方が深淵を覗くとき、深淵もまた、貴方を覗いている。……覚えておいて」
サシャ「何ですかそれ?新たな誘い文句ですか?」
ミカサ「……まあ」
ギャーギャーワーワー
アルミン(……ここまで空気のように沈黙を守り続けてきたけど……)
アルミン(何で誰もミカサの仕業って気付かないんだよ!!!)ドーン!
アルミン(さっきからちょこちょこ自白してるじゃないか!!!)
アルミン(……。ライナーやベルトルトといった常識人達も気付いた様子はない……)
アルミン(何なんだ?逆に僕がおかしいのか?)
アルミン(あからさまにバレバレなのに誰も気付かない……)
アルミン(……。ロケット団の変装を見ている気分だ……)
エレン「……よし、次は俺が話すぜ」
アルミン(!?)
ジャン「何だお前、怖い話とか出来るのか?」
エレン「……いや、今から話すのは、ただの俺の勘違いだ」
コニー「なんだそりゃ?」
クリスタ「……、その割には顔色悪いよ。大丈夫?」
エレン「……ああ、大丈夫だ。何せ、ただの勘違いだからな……」
アルミン「……エレン、まさかとは思うけど……」
アルミン「……見えたの?」
エレン「……だから、今話す」
アルミン「え、エレン?否定しないの!?ねぇちょっと!!」
ミカサ「…………」
エレン「お前ら、怖いの平気なんだろ?」
ベルトルト「ぼ、僕眠くなってきたなぁ……」
ライナー「逃がすか!死なば諸共だ!!」
ベルトルト「放してくれぇぇえぇえ!!」
エレン「じゃあ、大丈夫だよな」
コニー「おいやめろよそういう前フリ!!」
サシャ「ヒーアワワワワ………」
エレン「気のせいだって笑い飛ばしてくれ。……頼むから」
エレンのはなし
怖い話をすると、それっぽいものが寄ってくる……。
……怖がってると、だったか?まぁ、どっちでもいい。
取り敢えず、『それは、怖い怖いと思ってるから、脳が幻覚を見せるんだ』って、父さんが昔言ってた。
だから、これも幻覚なんだ……。と、思いたい。
つーか怖くて確認出来ねぇ。
……?何だ、コニー。確認してくれるのか?
え、場所?
……俺たち、今、円になって座ってるよな?
見えたのは、俺の真向かい。要するに、コニー。お前の真後ろだな。
そこで、見えたんだ。
半分しか顔のない……
………………
エレン「!!!!!!」
コニー「な、何だよ?何で急に話をやめr」
エレン「……の……ろ」ボソッ
コニー「!? 何だよ!はっきり言えよ!!」
アルミン「お、落ち着いて……!」
エレン「お前の、うしろ
コニー「…………、え?」
コニー「ま、まさか!?」バッ!
物陰l-ス「…………」
コニー「」
物陰l-ス「…………」
物陰lキース「…………」ヒョコッ
キース「貴様ら……、今何時だと思っている……?」
サシャ「よ、夜中の十二時ですっ!!」
キース「ああ、そうだ。では、こんな時間まで何をしていた……?」
コニー「は、ハッ!寝る間も惜しみ見張りをしていた所存であります!!」
キース「そうか……」
キース「……そんなに眠りたくないのなら、夜が明けるまで走ってこいッ!!!!!!」
数時間後
ジャン「畜生……、怨むぞサシャ……、コニー……」ゼェゼェ
コニー「お前だって……、ノリノリだったじゃねえか……」ゼェゼェ
サシャ「あ……、空にパンが、パァンが……うふふふふふ……」ヒューヒュー
クリスタ「さ、サシャ……、気を確かに……」ゼェゼェ
ミカサ(汗で前髪が額にへばりついてるエレンが見れるなんて……。役得)ハァハァ
ライナー「さ、さすがに疲れた……」
ベルトルト「僕はどっちかっていうと神経が疲れたけどね……」
エレン「…………、おかしいな・・・・・・・」ゼェゼェ
アルミン「な、何が……?」
エレン「いや、俺が見たのは、確かに教官じゃ無かった」
アルミン「……え?」
エレン「当たり前だろ?教官見えてたらとっくに寝たフリしてるっつーの」
アルミン「じゃ、じゃあ……まさか……」
ジャン(……?気のせいか?)
ジャン(何か今、懐かしい声が聞こえたような……)
マルコ「…………」
マルコ「結局、一番怖いのは生きている人間だ」
マルコ「……なんてね」
「」フッ
完
終わりです。
今回の件で、いかに書き溜めが大事かと知りました。
こんな中途半端ですが、読んで下さりありがとうございました。
さっき見返して初めて一レス丸々抜けていることに気づいたので、
おまけで補完を試みる
入れ忘れていた文をおまけで補完しようという
アルミン「ねぇミカサ。あんまり聞きたくはないけど、サシャの話の時、何してたの?」
ミカサ「……日課の髪を置きに行っただけ。後はただエレンの寝顔を見つめていた。……悶えながら」
ミカサ「……けれど、サシャが部屋を覗こうとしていたから、こちらも覗き返して邪魔をした」
アルミン「……それと、なんでアイスピック突き刺すなんて危ない真似したんだ!下手すれば死んじゃうぞ!」
ミカサ「……サシャならよけられると分かっていた。それに、眠っているエレンを起こすなんて、命を奪われても文句は言えない程の愚行」
アルミン(……やっぱり、生きている人間が一番怖いよ……)
今度こそ完
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