魔王「全部、勇者のせいだっ」(105)


*魔ノ国*

魔王「・・・・・で?」

部下「魔王様! 南の領地にて王国軍が侵攻を開始してきました!至急の指示を!」

魔物男「魔王さまっ、助けてください! 人間たちが村を…っ! 子供が!妻が怪我を!」

臣下「魔王殿、そろそろ王国軍に一度目に物を見せておかねば! いつまでも調子に乗らせてしまいますぞ!」


魔王「・・・・・はぁ」

部下「魔王様!」

魔物男「魔王さまっ!」

臣下「魔王殿!!」

魔王「~~~ええい、うるさい! そんなに名を呼ばずともわかるわ!」イラッ


ここは魔ノ国、魔王城
魔王の支配下である魔物たちの国である
今日も朝から、慌しい喧騒と、涙ながらの陳情が聞こえてくる

その城の最上階、魔王の玉座
片側の肘掛に身を寄せ、両腕を使って絡ませるようにして組み、それに頬杖をついて座る者…

魔王(ご機嫌ななめ)である


魔王「まず南の領地だな!? 援軍が必要な状態なのか?!」

部下「は、いえ… その。南は田舎ばかりゆえ、兵らしき兵に不足しておりまして」

魔王「ほう? それで?」

部下「正直、そういったことすら自分たちでは判断できかねるような状況です」

魔王「なんという防御の薄さ。仕方ないな…」

魔王「おい! 側近はいるか!」パンパンッ

「――――……!」

魔王「ん? なにやら随分遠くから声が聞こえたな。 まったく、あいつはどこに居るのか…仕方のないやつだ」


魔王「まあいい、先に襲撃被害にあった村から片付けようではないか。して、そこの男。どのような状況なのだ」

魔物男「はい! 王国軍の軍兵が6人で攻め入ってまいりまして… 家々を焼かれました。が、今は大樹の木のあなぐらに隠れておりますゆえ、住民はみな生きてはおります」

魔王「ふむ、つまりは 住民の救出が最重要、至急要件なわけだな?」

魔物男「ま、魔王様…そのとおりです! ぜひ、ぜひ何かお力添えを!」

魔王「もちろんだ」キリッ

魔王「おーい! 側近! 側近はいるか!?」パンパン

  「―――す! --……ろ!」

魔王「お、すこし声が近づいてきたような気がする。いや、単に声を張り上げているだけか?」


魔王「それで、次は…」

臣下「魔王殿、ワシの話をちゃんと聞かないと、あとで手痛い目にあいますぞ!」

魔王「ああ、わかっている…。王国軍に痛い目にあってもらう・・・って話だったな、臣下よ」

臣下「その通りですじゃ! ああ思い出しても腹ただしい! 魔王殿の生誕から2年の後、祝いの熱も覚めやらぬ時期…そう、今より18年前、王国軍は勇者の生誕を宣言しおった! あれが元凶ですじゃ!」

魔王「2年も生誕祝いしてくれなくていいぞ…覚えていないしな、さすがに」

臣下「あの時の、どこぞの馬の骨とも知れぬ赤子が、どうやらそれなりには成長したようで…ここ数年、どうも王国軍は強気に出てきておりますぞ! ええい堪忍ならぬことですじゃ!」

魔王「勇者、か。 まったく、なんで私のときに限って…第一、数百年ぶりに生まれたらしいじゃないか。確かにあいつは、私にとっても目の上のたんこぶだな」

臣下「た、たんこぶですと!? 魔王殿ともあろうお方が、たかだか勇者ごときに…米粒以下の評価で十分ですぞ! まったくなんという、ていたらく!」

魔王「だって実際、あいつさえ生まれてこなけりゃ、私は平和な魔ノ国で堂々と皇女でいられたんだよ!」


臣下「な、なんと! 魔王殿!? 魔王ともあろう者が、平和な国を望むと!?」

魔王「自国の平和を望んで何が悪い!?」

臣下「今のように、国中の者達よりその任を期待されている状況は、魔王殿の権威を示す好機と思いなされ! いまこそ世界を掌中に収めるべきなのですぞ!」

魔王「毎日毎日政務に追われるような日々なら、逆に手放したいわ! ええい、こいつ面倒くさい! 側近、こいつをどっかに連れていけ!」

  「――・・・よ! そ……――ろ!」

魔王「……まだ来ないのか? 側近 早くこーい!」パンパンッ

  「い……よ!  この――っ!」

魔王「なんだ?  …コラーーー! 仕事しろ、側近! さっさとこーーい クビにするぞー!!」


臣下「むむ、さすが魔王殿。あの側近殿までをも容易にクビになさるとは・・・さすが先代様の一人娘。さすが最愛の忘れ形見。さすが溺愛のあまり箱入りに育てられただけのお方であられますなぁ」

魔王「その言い方は、いますぐやめろ。おまえの場合、本気でいってるだけで嫌味じゃないのがタチ悪いぞ」ムッ

臣下「む、これは失礼を。娘御の扱いなど、魔王殿にするべきではありませんでしたな」フムフム

魔王「ああもう、そうではない。 ただ威厳が薄れるのでそのようにはっきり言うなと・・・」

臣下「しかし…いや、どうにもワシのような年寄りには 魔王殿のような若く愛らしい御顔立ちを前にすると、これが“魔王”であるとは なかなか信じ難いのは…もはやどうやっても治らぬこと」

魔王「あ・・・愛らしい顔だとっ!? 貴様、もう一度いってみろ!!」

臣下「は… ははぁっ! ご容赦ください魔王殿!! どうかその怒りをお解きくださいますよう願いもうしあげる! その容姿に似つかぬ程の、才あるお方と信じているからこその臣下でございますゆえに・・・!」ドゲザー

魔王「・・・・・・もういい・・・」


そう、魔王は 女であった

そして勇者不在の数百年の間で、魔ノ国は “魔ノ国”として退廃を極めていた
歴史的な勇者と魔王の伝説は、後世に ある間違った伝承を授けてしまったからだ

『勇者でなくば、魔王は倒せない』

そんな伝承が 大々的に、そして真実として世の中には広まっている
だが 事実は違う

単純に、当時の魔王は武力と魔力に秀でていた為に特別に強かっただけだ
そして他の者では太刀打ちできなかった中、唯一特別な訓練を積んだ勇者だけがそれを打倒した

それゆえの誤解こそが 魔ノ国衰退の原因である


*******
<王国側>
当時国王「勇者が産まれないんじゃ、魔王に勝てない! こうなったら休戦じゃ! 魔物共を刺激するでないぞ!」

<魔ノ国側>
当時魔王「ラッキー♪ 人間が超おとなしいじゃん、俺らは俺らでうまくやろーぜー! 酒場つくろう、酒場!」

********

こうして 人間の住む王国と 魔物の住む魔ノ国は いたって平和に相互不干渉に至って・・・
お互いに、それぞれ好きなように発展しまくったのである

『高度経済成長期』

現在の魔王の両親は まさにそのバブリーな世で育ち
この魔王を産み、甘やかすだけ甘やかして育てた

ゆえに この魔王は・・・


部下「・・・・あ、あの。魔王様・・・それで・・・」

魔王「あ。ああ、ええと」アセアセ

魔物男「魔王さま できるだけ早く妻たちを・・・」

魔王「う、うん そうだな・・・・」オロオロ

臣下「魔王殿、して 如何様に王国軍に一泡ふかせましょうぞ・・・」

魔王「そ、それはその・・・・」タジタジ


3人「魔王様」「魔王さまっ」「魔王殿!!」


魔王「・・・・・・・・・そ、側近!! 側近はまだ来ないのかぁッ!!!」パンパン!


……はっきり言って 駄目な、魔王である

///
というわけで 駄目魔王スレ(R18)はじめました
10レス前後毎のゆったり更新で 完結目標200レス以内
気楽にマターリと おねがいします
///

かわいい


カッカッカッ… カッカッカッ… カツカツカツッ… 
バターーーーーン!!

魔王「」ビクッ

3人「「「あっ! 側近様!!!」」」

側近「…ンデスカ」ボソ

魔王「そ、側近。ずいぶん遅かったではないか! 一体何をしていt…  側近「ハイ!?」」

魔王「え、ちょ、何をいきなり怒…」ビクビク

側近「なンですかって聞いてんのはコッチ!! ワタシは忙しいからヒトリでやってみろって申し上げただろ!?」カッカツカツ!

魔王「ひゃっ! ひ、ひとりではなかなか出来ないこともあったのだ・・・!」タジタジ


側近「で!? テメー様、なんでお呼びつけくださりやがりましたかねぇっ!?」グイッ

魔王「いやいやいやいや、敬語使う気ないなお前! あと胸倉掴むなっ! 態度の悪さが、魔王よりよほどひどいぞ!?」

側近「あ?! ・・・・そうですかねぇ!?」…ストン

魔王「・・・・コホ」

魔王「あー…、あのだな。いつもの慇懃無礼なだけの側近に戻ってくれ、恫喝されたら怖くてたまらん」

側近「怖いって・・・・ぁんでそんな…」ジー

魔王「・・・・・・な、なんか文句あるのか貴様っ」ウルウル

側近「・・・・・・はぁ」ガックリ


側近「…失礼しましたね、魔王。つい本性と本音が出ました。人前だったのを忘れてましたよ」

魔王「ひ、人前じゃなかったらあのまま恫喝してた気か!」

側近「して、どのようなご用命でございましょう」シレッ

魔王「あー・・・、あのな。南の領地で、開戦することになる。陣頭指揮を任せたい」

側近「・・・・・またですか?」

魔王「また、とはなんだ。 また、とは」

側近「たまにはご自分で、指揮くらい執られてはいかがかと」

魔王「む。私はおまえに命じているのだ。それとも私の命が聞けぬというのか、側近」

側近「聞かないことは容易に出来ますが、この魔ノ国をみすみす敵に渡すことは出来ません」

側近「…ということは結局、やらざるをえないのか。ああ面倒くさい。たまにはお前でやれよ…」ブツブツ


魔王「・・・・・す、素直じゃないな、側近は。たまには2つ返事でいいじゃないか」

側近「これほどまでに素直な輩は他にいないですよ、魔王。それともなんです、もっと素直なほうがいいですか?」

魔王「どういう意味だ?」

側近「面倒だから魔王を戦地のど真ん中に置き去りにすることのほうが余程容易に・・・」

魔王「・・・・・」

側近「いかがです」シレッ

魔王「…ごめんなさい。南の領地の戦果をあげる自信がないので、側近にお任せしたいと思います。どうかお願いですから陣頭指揮をとってください・・・・・・」ボソ

側近「ふん。最初からそういえばいいんですよ、魔王。 …力ない女子供なんて、そうやってへりくだる事でようやく社会を生きていけるんだからな」チッ

魔王「なっ・・・・!」プルプル


側近「おや? 文句があるのなら、このワタシに一太刀入れてくださってもよろしいんですよ、魔王なのですし」

魔王「う、うぐぅ・・・ 側近、めちゃめちゃ強いじゃないか! 勝てるわけないだろ!?」

側近「けっ。ならせめて、剣技のひとつも使えるようになってから文句言いやがれ、このポンコツ魔王」

魔王「」


側近「さて」クルリ

側近「では、参りましょうか皆様。移動しながら話は聞きますよ、どうせワタシが全件処理を任されるところだったのでしょうし」ニッコリ


部下「お、おお 側近様!」

魔物男「ありがたい! 側近様がいてくださるなら千人力、いや 万人力だ!」

臣下「痛い目どころか、再起不能にでもできそうじゃのう・・・フォッフォッフォ」

ガヤガヤ…  ギィー… バタン

ぽつーん・・・


魔王「・・・・・・・なんだよ」

魔王「・・・・・・・もう 側近が魔王やれよ・・・」グスッ

//////////////


*魔王の部屋*

魔王「くそ、忌々しき王国軍め! 何が聖王国だ、何が勇者だ!」

ボフッ

いらただしげに枕を投げる
ベッドのまわりに張られた天蓋に包み込まれ、枕はそのままズルリとベッドにおちるのみだ
怒りまかせに投げたその行為の結果が、まさに暖簾に腕押し
魔王は悔しげに一睨みして、そのままベッドに倒れこむ

魔王「ああもう・・・なんで 私がこんな屈辱的な日々を過ごさねばならんのだ…。 私は魔王だぞ…」

黒猫「仕方ないにゃー」

スルリ、とどこからか 黒猫が現れる

魔王「黒猫。居たのか・・・」


黒猫「これでも、魔王の使い魔をやってるにゃ。いつでも現れるのが僕にゃ」

魔王「助けてほしいときは、出てきてくれないくせに」

黒猫「ふふ。猫はきまぐれな生き物だにゃー」

ゴロゴロとのどを鳴らし、俊敏な動きでベッドに登る黒猫
魔王の腹の辺りに身をすり寄せ、わざとらしく甘えてくる様子は 故意だと知っていても愛らしい
それを片手で力なく撫でながら 魔王はボソボソと愚痴りだす
魔王のイメージとは程遠いが、戴冠より4年、これが魔王の日常となっている


魔王「ああもう、どうしてこう政務というのは忙しいのだ」

黒猫「今までの魔王が、だらけにだらけた貴族的な生活をしすぎなんだにゃ。本来、王というのは忙しいものだにゃー」


魔王「それにしたって、部下たちのクレームがひどい」

黒猫「まあ 勇者を得た王国軍が、年々力をつけて一方的に侵略を目指しているにゃー。攻めることもせず防衛を押し付けられているんだから それくらい我慢するにゃ」

魔王「・・・・戦争なんて 馬鹿らしいじゃないか。せっかくみんな、幸せに暮らしているのに・・・どうして争わねばならないのだ」

黒猫「魔王として腐ってるにゃ」

ニンマリと口元をゆがませ、金色の目を見開いて魔王を見つめる黒猫
その姿は、確かに『魔王の使い魔』としてふさわしい、なんとも不吉なものだった


魔王「・・・・おまえはいいな。何をしているわけでもないのに、その職務を忠実に全うできて」

黒猫「心外にゃ。僕の本分は偵察。何の仕事もさせてもらえないようじゃ宝の持ち腐れにゃ」

魔王「・・・すまん。だが、私が魔王としてあまりに不甲斐ないのをおまえまで責めてくれるな」

黒猫「責めたり、してないにゃ・・・ 大丈夫。魔王もきっと、この魔ノ国を立派に統治できる」

魔王「それは、お前の予言能力によるものか? それとも単なる慰めか?」

黒猫「・・・・・・クスクス・・・ ただの 皮肉、にゃ」

魔王「は? 皮肉? どういう意味だ?」

黒猫「そのうちに わかるにゃー」


魔王「・・・・もういやだ。どこか、遊びに出たい」

黒猫「このあたりは、瘴気の影がひどいにゃ。外にでたってなにが面白いのさ」

魔王「そうなんだよな・・・」

魔王「魔ノ国が平和で居られるための条件。それは『勇者以外では敵わないと思わせること』」

魔王「だから わざわざ人間どもを脅かすためにこのように陰鬱なイメージだkはいつまでも払拭できない」

黒猫「僕はこの空気が好きだにゃ。いっそ、すべてが闇に包まれていれば 僕は姿を隠して自由に動き回れるにゃ」

魔王「私は 明るいのが好きだ。のんびりと日の光の中で、本でも読みながら昼寝がしたい」

黒猫「だから そういう貴族的な生活そのものがそもそもの災いの元凶だにゃ」

魔王「む」


黒猫「勇者のいない間に、ちょっとづつでも王国に侵攻をして力をそいでおけばよかったにゃー」

魔王「仕方ないだろ、父王も母君も、そういう相手の弱みを逆手に取るようなやり方は嫌いだったのだ」

黒猫「先代だけじゃなくて 祖父王の時代もそんなこといってたにゃ。性根からして魔王として腐りきってるにゃ」

魔王「腐る腐るといってくれるな! 実際にいまはふて腐れているのだ!」

黒猫「側近のヤツの帰りが 怖いにゃ?」

魔王「・・・・・・・・・」

黒猫「ま、あの側近は本気で強いからにゃー。見た目も中身もヤのつく職業みたいなものにゃー」

魔王「見た目は、わりとインテリなかんじするけどな?」

黒猫「最近の『ヤ』は、割と堅実に実業してるから TOPは一見するとサラリーマンとかわらないにゃ」

魔王「そうなの? 魔ノ国には『ヤ』がいないからわからんのだが」

黒猫「人間の国にいくと わりといるにゃー」


魔王「ああああああああ 人間とかいま考えたくないかも・・・」

黒猫「人間、好きだったはずじゃないにゃ?」

魔王「好きだよ。人間は優しいし、おもしろい文化を持ってるし、食事も整ってるし、街も明るくて綺麗だし」

黒猫「それなのに 考えるのは嫌にゃ?」

魔王「…だってさ こんなの負けゲーじゃないか」

黒猫「・・・・・・また、そういう魔王らしからぬ発言。いい加減に攻めればいいにゃ」

魔王「どうやってだ?」

黒猫「・・・・・・・・・・」


魔王「私は自分でも言うのは嫌だが、正直 魔法は初級、武力なんてほぼ皆無」

魔王「臣下にもいわれたが 見た目は箱入り娘、そして中身だってそう冴えているわけじゃない」

魔王「・・・・・・勇者じゃなくても 私単独だったら 兵士にだって勝てやしないだろう」

黒猫「こういうとき…」

魔王「なんだ?」

黒猫「よく、こういうとき 『無駄に乳ばかりデカイ』とか『見た目はすごく妖艶』とかあるけど」

魔王「」グサ

黒猫「どうみても 普通にゃ。 まあちょっとチヤホヤされるアイドルくらいにはなれるかもしれないけど、とても一世を風靡できる女優やモデルのような美女には程遠いにゃ」

魔王「あ、アイドルくらいにはなれそう?」ドキドキ

黒猫「おまえそれでいいのと思ってるにゃ?」ジトー


魔王「いいじゃないか!! 私にとっては充分に褒め言葉だ!! 最近ぜんぜん褒められてないんだ!」

黒猫「臣下みたいな老兵に、かわいいって言われて内心喜んでたにゃー」

魔王「何故知っている!?」ガーン

黒猫「それに今時、アイドルだってCカップくらいは必要条件にゃ」

魔王「うっさい! C-だって CはCだろ!?」

黒猫「せめてウエストが58cmくらいの細さがあるとかでもいいにゃ」

魔王「61cmだって大差ないじゃないか!」

黒猫「魅惑的で弾力のある、尻があればなおいいにゃ」

魔王「小ぶりでひきしまってるのだって悪くないだろ!? これでもちゃんと気を使ってるんだ!」

黒猫「・・・・・・・・・・」ジー


魔王「・・・・・・・・・ふん。この変態猫め」

黒猫「何とでも言うにゃ。どうせ、そうやって落ち込んで いっそ男だったらよかったとか思ってるにゃ?」

魔王「だから、どうしてわかる!?」

黒猫「何百年 魔王の使い魔をしてると思ってるにゃ」ヒゲ ピーン

魔王「だって・・・せめて男だったらさ。あんまりそういう期待されないんじゃないかと思って」

黒猫「『そういう期待』?」

魔王「男の魔王だったら 肉の塊の怪物みたいなヤツでもなんか雰囲気出るし、インテリ草食系でもそれはそれでアリだし ともかくなんていうか・・・」

黒猫「『女魔王といえば、絶世の美女に相場が決まってる!』と思われくて済む、にゃ?」

魔王「・・・・・・・・そう。しかも 知略に富んでいるとかあり得ない強さをもってるとか思われたくない。プレッシャーだ」

黒猫(それは性別を抜きにして 魔王として産まれた時点で期待されることだと思うにゃー)

///
今日は ここまでにしておきます 遅進行スマヌ

>>12  
魔王「かわいいだと…!? そ、それはもしや私のことを言っているのか貴様ッ!?」
///

良いぞ

おいおいおいwwこれは超期待だ!!
一気に引き込まれたぞ。ゆっくりでいいから、しっかり書いておくれ
続き楽しみにしてます。

虚弱女魔王とは…かわいぃ


ベッドにごろりと横になり どこか放心したように手足を伸ばす魔王
その横で 身づくろいをはじめて身体を舐めている黒猫
しばらく そのような暢気で平和な時間が経過した後・・・


魔王「ああああああああもう!!!」

黒猫「にゃ?」

魔王「魔王の政務がいそがしいのも、部下からのクレームがひどいのも、
領地が薄暗いのも、イメージが悪いのも、側近にしかられるのに怯えなきゃいけないのも、
こんな負けゲーを続けなきゃいけないのも、強いとおもわれたり美女を求められたりするのも」

黒猫「するのも、なんだにゃ?」

魔王「全部、勇者のせいだっ! 勇者が生まれたりするからだっ!!」

黒猫(…またはじまった…いいがかりにゃー)


魔王はベッドから飛び起きて、おおきなバッグにクローゼットから手当たりしだいの衣類を投げ入れる
その様子をあきれたように眺めている黒猫

魔王がバッグのファスナーを閉じたところで、ようやく黒猫が声をかける
どこか、期待しているような・・・いたずらな声音で、金色の目を細めて こう聞いた

黒猫「・・・・・それで、何をはじめる気にゃ?」

魔王「家出する」

黒猫「・・・・・・・・」

魔王「家出、する」

しばしの、沈黙
黒猫は相変わらずの微笑んだような口元のままだ
魔王は ほんのすこし居心地の悪さを感じていた

沈黙を破ったのは 黒猫だった


黒猫「っ、にゃはははははは!!!!!!」

魔王「む?! 何がおかしい!!」

黒猫「にゃはは。止めないにゃー。 どうぞ、お好きにするにゃ・・・魔王様?」

魔王「お前…使い魔としてそれでいいのか?」

黒猫「これでいいのにゃー。ああ、そうそう…」

魔王「なんだ。餞別でもくれるのか?」

黒猫「日帰り家出みたいな、みっともない真似だけはしないでほしいにゃ♪」

魔王「~~~~っ! ば、ば、ばかにするなああああああ!!!」

その咆哮を気にも留めず、ゴロゴロと のどを鳴らして丸まる黒猫
魔王は怒りに震える拳を空中に振り下ろすその勢いのまま、自室を飛び出していった


黒猫「……行ってらっしゃいにゃ。苦難の道へ」

黒猫「運命の歯車も、最初の一押しをしない以上は廻ってくれないのにゃー」ゴロゴロ…

/////////


*王国*

魔王「わ、わぁー…!」


魔王らしからぬ驚嘆の声

本や聞き伝えで多くのことを知っていたが、実際に人間の街に来たことはなかった
そして人間の街は魔王にとって憧れであり、好奇心をいくらでも揺さぶるものでもあった


魔王「す、すごいな。これが王国・・・! む、なにやらいい匂いが・・・」フラフラ

パン売り「おや、いらっしゃい、おじょうちゃん。焼きたてのクロワッサンはどうかね?」

魔王「い、いや いまはいい!」アセアセッ

パン売り「また来ておくれよ」ニコニコ

魔王「・・・・・・・・ああ!」


魔王は街の中を歩き回った
魚屋で生きている魚の泳ぐのを見ては、面白がり
待ちゆく人が犬を散歩しているのを見かけては、撫でさせてもらった

ここでは魔王は魔王ではなく
ただの若い女の子と思われているのが、なんとも心地よかった


魔王「ああ・・・ しかし、さすがにつかれたな・・・」

魔王「すこし、どこかで休みたいが・・・っと、ととと」フララ…

ドシン!

?「っ ごめん 大丈夫だった?」


魔王「ああ これは済まない・・・! すこし疲労していたもので、ふらついてしまったのだ。許せ」

?「疲れてるの? 大丈夫?」

魔王「ああ 大丈夫だ。ええと 貴様・・・じゃなくて お前は?」

青年「俺は・・・ ああ、青年とでも呼んで。 君、ひとりなの?」

魔王「ああ。はじめてこの街に来てな。歩き回っているうちに休息をとりそびれてしまった」

青年「どうりで。街角でおんなのこにぶつかって知り合うなんて、こんなことってあるんだね」ニコニコ

魔王「む?」

青年「いや、ベタだけどまあいいよね。それより、疲れてるならどこか休める場所に案内しようか?」

魔王「ああ それはありがたい! 是非頼もう」

青年「・・・・・・・・・わぉ。簡単」ボソ

魔王「なにか言ったか?」キョトン


青年「はは。いや、いいよ。さすがになんかその気が削がれた。喫茶店でいいよね?」

魔王「茶か! いいな! そうしてくれ!」ワクワク

青年「じゃあ、こっちだよ。いこう、えーと・・・ ああ、名前は?」

魔王「ああ、そうだったな。 私は まお・・・」ハッ

青年「まお?」

魔王「え、えっと」

青年「…ああ。まおって名前なのかな?」

魔王「! そ、そうだ! まおと言う! そう呼んでくれ!」


青年「あはは、変わった子だね。面白いや、じゃあ行こうか!」

ギュッ

魔王「う、うわっ?!」

青年「え? …あ ごめんね。 手をつなぐのは嫌だった?」

魔王「びびび、びっくりしただけだ! (手を繋がれたことなどないからな!)」

青年「よかった。この街ははじめてなんでしょ? 意外と人通り多いから、はぐれないように繋いでいこう?」

魔王「わか、わかったっ よきにはからい、案内してくれ!//」

青年「・・・・・・・・・・はい。かしこまりました、まお様?」クス

魔王はあっさりと青年に手を引かれて歩いていった。駄目魔王である
だが、魔王にとって『ナンパ』など想定外なのであり、仕方の無いことでもあった

魔王城では、当然魔王は敬われる(ハズ)の存在であり、魔王に不埒を働くものなどはいない
居ようものなら、魔王の目にとまる前に側近によって排除をくらっているからだ
魔王にとって、部下以外で同年代と話をするなど はじめてだったのである…
///////


*喫茶店*

青年「それでね、そのときに 仲間の一人が派手に転んでさぁ・・・」

魔王「なんと間抜けな!」ハハハ

青年は豊富な話題で魔王を楽しませていた
魔王にとって、青年のありきたりの日常話ですらも新鮮で、愉快なものであった
そして、時々青年が見せる…

青年「あ、日差しつよくなってきたね。奥と席かわろうか」ガタ

魔王「む?」

青年「日に当たる部分だけ暑いでしょ。それに、意外と室内でも日焼けするからね。店内もすいて来てるし、通路側と交代しよう」 スッ・・・ 

魔王(なんと! このような扱いをされるとは… これが『女の子扱い』ってやつだな!?)ドキドキ

青年「どうしたの? ほら、代わって代わって」ニコニコ

魔王「あ ああ。 気を遣わせたな。椅子までひかせてしまって悪い」ドキドキ

青年「なんだ、そんなこと。どういたしまして、まおちゃん」ニッコリ 

こういう振る舞いに、魔王はすっかりのぼせていた
『嬉しい』。己が魔王であることを強く自覚しているが故、魔王として扱われない喜びの反動は大きかった


魔王「・・・・・(こ、こいつ。目の前にいるのが魔王と知らぬとはいえ、私をちゃんづけするとは!)」

青年「ん? どうかした?」ニコニコ

魔王「な、なんでもないぞ! (そうだ! 今は家出中、魔王の身分など捨ててやるわ!)」トスンッ!

青年「じゃあ 話の続きをしよっか?」ガタン・・・

魔王「ああ、そうだな! うむ、そうしてくれ♪」


魔王はその後、しばらくこの青年との会話を楽しんだ
そしてたっぷりと日が暮れるころまで ともに過ごしてから、店をでた

会計は青年が済ませてくれて、魔王はそこでも女の子扱いを内心で喜んだ
青年は用事があるといって帰ることを告げてきたが、魔王との別れを惜しんでくれたのも嬉しかった

このようにこの魔王は どこをとっても不備遜色のないほど、「駄目魔王」であった

///////


*夜 街の一角*

テクテク・・・

魔王「んー」ノビー

魔王(たのしかったなー あの青年とかいう男。ああいうのが部下に居れば、癒されるなぁ)

魔王(しゃべりすぎて口が疲れたし、笑いすぎて腹が痛い)ニヤニヤ

魔王(やはり人間というのはいいものだな。王国と勇者なんぞ、なければ和平を結べるのに)

魔王(それにしても、青年かぁ・・・ また会えるかな//)

魔王(はっ 私は何を・・・ まさか、これが恋か!?)


魔王(…馬鹿な。私は魔王。恋など…そんな、普通の女のようなことはありえてはならんのだ)

魔王(国を治めるため…私みたいな駄目な魔王を補佐する、優秀な人材を夫にせねば、ならない)

魔王(…今のままだと、やっぱり…側近、なんだろうな。 …でも、あいつ怖いし、夫とか…やだ、な)

魔王(……やだって私が言ったところで、きっと避けられない…みんなの視線がそれを望んでるのがわかる)

魔王(・・・・・・青年みたいな側近だったら 幸せだったのかな・・・)ポー


テクテク・・・ 

魔王「む・・・ あれは…?」

暗闇に近い街中で、通りの向こうに人影を見つけた
わずかに漏れ聞こえた声に反応して、思わず民家の脇に隠れてしまう

コソコソッ


青年「―――」

?「――――!」


魔王(やはり 間違いない。昼間の青年じゃないか! 今日のうちにまた会えるとは!)

魔王(・・・・・って 何故、私は盗み聞きを・・・)

そう思いつつ、宵闇に身を隠しながらこっそり近づく魔王
…いい加減に魔王らしいところを見せたらどうだ


青年「・・・・・・あはは 少女ちゃん、そういうところ本当にかわいいよね」

少女「やだぁー もー、ドジばっかりしててほんっとに参ってるんだからねー?」クスクス

青年「大丈夫だって、次にそういうことあったら俺のこと呼んでよ、すぐ手伝ってあげる」ニコニコ

少女「えー でもー 呼ぶとすぐに・・・」

青年「大丈夫だって、信用ないなあ。それとも送りオオカミになっちゃっていいのー?」

少女「やだぁ、えっちー!」

青年「あはは」


魔王(・・・・・・・・・・)


魔王(あー…なるほど。あれが『彼女』とかいうものだな…)

魔王(…そうか。彼女がいたのか…)

魔王(まあ当たり前だな、あんだけ親切で格好いいんだから)

魔王(か、格好いいとか! 何を言ってるんだ私は!! 私は魔王! 本来ならば求婚者の中からよりどりみどりなんだぞ! ……ま、まあ求婚者など、このかた一度も見たこと無いけどな…)


青年「ねえ、この後どうする?」

少女「えー…? どうしたい?」クスクス


魔王(・・・・・・・・・)ズキ

魔王(・・・・なにやってるんだ、魔王だというのに)

締め付けるような胸の痛み
そして、魔王としての自分に対する、激しい劣等感
ネガティブ思考のそのままの雰囲気をまとって、魔王はそっとその場を後にした

///////


*王国の宿屋*

店主「一晩、2800Gでございます」

魔王「高いぞ!?」

店主「すみませんね、これが当店の価格でして。この街では安いほうですよ」

魔王「そうなのか!? それでは私は今夜どうすればいい! 手持ちは760Gしかないんだ!」

店主「・・・いや おうちに帰りなさい、おじょうちゃん」

魔王「」


魔王は、その後 宿泊できる場所を捜し求めて歩き回った
だが結局どこも似たような対応を取られた
宿泊場所を求め、何件かあたりながら だんだんと街を外れていく

街外れの最後の一軒、そのボロ宿では、店主は魔王の顔を見るなり
口も開かず、軽くてのひらを振って、「しっしっ」と追い返した

こうして魔王は、結果的に街を追い出されてしまったのである

////////


*王国を抜けた先、森*

魔王「♪あるーひー 森のなかー くまさんにー であったー」

  ガサガサッ

魔王「うわぁっ!? すみませんすみません! フラグ立ててすみません!!」ビビクゥッ!

  シーン

魔王「……び、びっくりした。なんだ?」ドキドキ

魔王「うさぎ…とかかな…? 食料になるかも… 一応確かめるか」ソロソロ… 

ガサ。

ヌーン 

魔王「…かぶとむしだった」ガックリ


魔王「はぁ… かぶとむしごときに驚かされるなんて…さすがに魔王としてイタい。少し強気でいなくては」

魔王「…だが。お腹がすいたのは我慢も出来るが、さすがに一人だと心細い…」シュン…

魔王「……はっ!」

魔王「こ、心細くなんてないぞ! 私は魔王! 魔物の頂点に立つ、いわば将来の世界の覇者!」

魔王「・・・・・・・・夜の森で、ひとりぼっちの覇者…かぁ」

  ポンッ

魔王「うわわわわわわわっ!?」ビクッ

かぶとむし ヌーン

魔王「~~~っ! ま た お ま え か っ!」イラッ

かぶとむし ゴソゴソ…

魔王「ええい! 気安く私に触れるな、この虫ケラめ!」
 
かぶとむし ブブブ ブーン…!

魔王「…虫にむかって 『虫ケラめ!』とか言ってしまった… なんかすごく虚しいぞ。それにビビっているのが馬鹿らしくなってきた」


魔王「・・・仕方ない、か。さすがに身体も気持ちも疲れている。夜歩きできるような体力もないな」

魔王「今夜は 野宿だな…。家出すら私には難易度が高いぞ…」ガックリ

魔王「…さて。そうと決まれば、薪でもあつめよう。夏とはいえ夜は冷えるし、獣だっているかもしれんしな」

 セッセ、セッセ… 
 ヒョイ、…ヒョイ、パキ …ヒョイ


魔王「…こんなものか。さて、ええと…」

魔王「ブツブツ… ブツブツ… っ、 『小火炎魔法』!」

プシュ…

魔王「うう… こんな初級魔法で失敗するとか、本当に私は魔王なのだろうか…」

魔王「いや、挫けるわけにはいかない。何事も最初の一歩が肝心! これが魔王としての尊厳を保つための最初の試練だと思え!!」


魔王「ブツブツ… ブツブツ… はぁぁ…っ 『小火炎魔法』!」

 ポゥッ… シュボッ!

魔王「やった! さすがにこれくらいの初級魔法、私にかかれば容易で…」

シュワワ・・・ ポシュ

魔王「消えた!? 何故だ!?」ガーン

 ソッ… ヒンヤリー

魔王「む? なるほど、薪が湿っているのか。 むぅ…これではなかなか火がつかんではないか」

魔王「こうなったら…水分を蒸発させるだけの火力を与えてやる! ふはは、燃え尽きるほどヒート!」

魔王「ブツブツ… 『小火炎魔法』!  ブツブツ… 『小火炎魔法』! ブツブツ…『小火炎魔法』!」

ポポポッ… ブスブス…

魔王「~~~っ 火ィつけよ! 一回あたりの最大火力が地味すぎて落ち込むじゃないか!!」


魔王「ブツブツ… 『小火炎魔法』!  ブツブツ… 『小火炎魔法』! おねがい点いて! ブツブツ… 『小火炎魔法』!」

ポポッ… ジジジ・・・ シュゥ・・・

魔王「う… うっ、なんでだよー… つけよぉー… 魔力が減って、寒くなってきたじゃないかー…」ペタン


まったくもって、なんとこの駄目魔王
暖もとれず、暗闇に座り込んで泣き出しそうになっていた


魔王「うう… 暗いよ… 寒いよ…。 黒猫ぉ… 側近―…」グスッ

魔王「・・・・・居るわけないよな・・・。はは、どうせこんなときに私のところに現れてくれるやつなんて…」

  ガサガサッ

魔王「ああそうさ! どうせ、かぶとむしくらいだ!! わかってる! わかってるから、おまえもういいよ!!」

魔王「なんだもうこの最低で惨めな感じ! ありえない! うわああああんっ」

泣き出しそう、ではなく。ついに、泣き出してしまった
背後に立っている、明らかにカブトムシよりも大きすぎる気配に気づくことも出来ないほど
この魔王は、惨めな気持ちに支配されていた…

今日はここまでにしますー 支度してくる

>>30 黒猫「良いかにゃ? ふふ、まあ僕の出番だったからにゃー♪ 」
>>31 側近「ちっ。魔王狙いの輩の始末も、意外に面倒なんですよねー…あの駄目魔王、ほんとポンコツだしな」チャキッ

応援ありがとうー! 駄目魔王スレ(R18)、がんばります

駄目な魔王?まおゆうのアレか!

めっちゃしえんだ!

>>53
まおゆうの魔王は巨乳だからww


 ポンっ

魔王「こンの虫ケラめ! 懲りずにまた私に触れるか! 甲虫とはいえ負ける気はないぞ!?」クルッ!

「は? 甲虫?」

魔王「ふぇ!? 誰ッ!?」ビビクゥッ!

 「誰、って… いや こっちのセリフだけど。 …って、君…」

魔王「はっ! さては森の主か!? あるいはかぶとむしの親玉か!?」

 「・・・・・ぷ、あはははははは!」

魔王「え、え、え? 誰だ…? 月と、逆光で顔が見えないのだが・・・」オドオド

 「俺だよ。こんばんは、まおちゃん」

魔王「え…・・・ もしかして…青年、か?」


青年「うん、そうだよ。 まあ、虫と間違われるとさすがにショックだけどね。あはは」ニコニコ

魔王「す、すまん! …じゃなくて! なんで青年がこんな場所にいるんだ!?」

青年「森の中から、火炎魔法を連投する気配がしたからね。様子を見にきたんだけど…」チラ・・・

魔王「あ…」

青年「この、薪を集めた跡を見るに、魔法の気配はまおちゃんのした事だね?」

魔王「…迷惑をかけたようですまない。暖をとろうと思ったのだがうまくいかず、魔法を連発したんだ」

青年「あはは。びっくりしたよ、放火じゃなくてよかった」

魔王「ああ。森どころか、この枯れ枝すらも火がつけられない始末だ」

青年「これに? …ああ、薪が湿気てたんだね?」

魔王「うむ。どうやらそうらしい」


青年「そっか。 なら、少し手伝ってあげるよ。 ちょっと待ってて」

魔王「手伝うといったって… もしや、お前も魔法の心得があるのか?」

青年「まあね。 少し離れててね」

魔王「ああ。 …しかし、何をする気だ? 私も先ほど、小火炎魔法ならば…」

青年「『凍結魔法・強』」

シュパンッ! カキンッ!!

魔王「!!」

青年「『状態異常解除・最大急速』」 

シュワァァァ・・・ カサ…ボロ、

魔王「……なっ… 上級呪文を、無詠唱で…!?」

青年「水分を飛ばしたんだよ。これなら、火がつくはず。小火炎呪文、やってごらん?」


魔王「あ、ああ……。 ブツブツ… ブツブツ… 『小火炎魔法』っ!」

ポッ… ポゥ… ボボボ…

魔王「……ついた」ホッ

青年「よかったね」ニッコリ


魔王「青年・・・おまえ、魔法使いだったのか。もしやとおもうが、その若さで賢者クラスだったりするのか?」

青年「賢者だなんて。 魔法は得意だけど、そんな大層なものじゃないよ?」

魔王(魔王なのに、得意ってだけのやつに魔法で完敗してしまった)ガーン!

魔王(あ…いや、謙遜に決まってるよな。しかしこれだけの術者ですら謙遜するのに、私は堂々と魔王を名乗ってるとか…)

魔王(……ああ、なにやらものすごく自分が小さい器に思えてくる…)


青年「それより…こんなところで火をおこしてどうするの? 狩猟?」

魔王「あ、いや… その。実は……」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  

青年「なるほど。家族の人や、おうちの仕事に嫌気が差して家出した、と」

魔王(誤魔化すためとはいえ、なにやらすごく情けない事に…。 まあ規模のイメージの違いだけで、あとは事実なのだが)

青年「それで、森の中で寝泊りをする気で、火を?」

魔王「……そうなのだ。笑ってくれてもよいぞ」

青年「んー… いや…笑うに笑えないけど…」

魔王「いっそ笑ってくれ。大真面目になればなるほど、情けないと思っていたところだ」

青年「この森… 王国から、南の砂漠に抜ける近道なんだ」

魔王「? それが、どうかしたのか?」

青年「夜間でも、商人とかの人通りがたまにはあってね。獣とかはあまり出ないんだよね」

魔王「ああ、それを聞いて安心した。 これで少しは安心して寝れそうだぞ、ありがたい」


青年「……獣がでなくて、夜は商人以外はほとんど通らなくて、暗くて視界の悪い森だよ?」

魔王「うむ。 して、それがどうした?」

青年「あー…」

魔王「む。 どうしたのだ、歯切れが悪いぞ。言いたいことがあるのならば言ってみよ」

青年「夜盗や強盗の、高頻度遭遇スポットなんだ、ココ」

魔王「ひっ」ゾクッ

青年「まあ、それで俺も、魔法の気配を普段から気にしているんだけど……」

魔王「そ、そうだな。攻撃に魔法など使われたら、射程的にかないっこ無さそうだ!」

青年「そうそう。そういう場所なんだけど、まおちゃんは何か、護衛術の心得がある?」

魔王「からっきしだ! 魔法は初級、武力は皆無! 剣技はおろか料理包丁も危うい!」

青年「お、襲われたら最後って感じだね?」

魔王「~~~っ ど、どうしよう。 だがしかしここを出ても行く場所が…!」


青年「…………」ニヤ


魔王「こ、こまった… まだ、帰るわけには行かないんだ! あいつの言うとおり日帰り家出になるのだけは…!」オロオロ

青年「んー…♪ ね、まおちゃん…」

魔王「なんだ!? いま、ちょっと焦っている。急用でなければあとに…」


青年「俺の家に、泊まりにこない?」ニッコリ

魔王「ぜひとも、おじゃまさせていただきます!」キパッ

青年(よしっ、最速記録!)グッ


不名誉なレコードを残していることなど魔王は知る術もなく
意気揚々と荷物をまとめはじめる

信じられないことだが、これは『魔物の頂点を治めるべき魔王』の話である


*青年の家*

ガチャガチャ… ギィ
青年「はい、どうぞ。 はいって? ああ、少し散らかってるかな」

魔王「お邪魔する。…なんだ、よく片付いている家じゃないか」キョロキョロ

青年「ありがと」ニコッ

魔王「…というか。物がほとんど無いのだな。一人で暮らしているのか?」

青年「うん。 …やっぱり、やめておく?」

魔王「いや。家族の者が居るならば挨拶くらいとは思っていた程度だ、こちらも気楽で助かる」

青年「…あー、うん。 あれ? そういうことじゃないよね…?」ボソ

魔王「ところで、私はどこに居ればいい?」

青年「あ、ああ。家具が無さすぎて居場所がないね。サイドテーブルをずらすから、ベッドをソファ代わりに使って」


魔王「床でも構わないが・・・ まあ、好意はありがたく受け取ろう。…それも王としての礼儀だ」ボソ

青年「ん? どうかした?」

魔王「いや。ありがたく座らせてもらうぞ」

青年「どうぞ。 ああ、何か飲物を入れるよ。お茶でいい? …それとも、お酒にしちゃう?」

魔王「すまないな、寝床だけでなくそのようなことまで。私の分はなんでもいいぞ」

青年「…お酒でもいいのか。これはつまりイイってこと…だよな?」ボソ

魔王「む? 何か言ったか?」

青年「んー… いやでも、なんか気になるから、お茶にしとこうかな」

魔王「青年は独り言が多いのだな? 面白いヤツだ」アハハ

青年(チョロすぎて、逆に裏があるんじゃないかー、とか警戒しちゃって。…とか言えない)


…コトン

青年「はい。暖かい、ジンジャーミルクティにしてみたよ」

魔王「わぁっ…! いい匂いだ!」

青年「喜んでもらえてよかった。それにしても家出なんて、見た目に反して無謀なことするんだね?」

魔王「う… わ、私はそんなに頼りない見た目をしているか?」

青年「え? あー、まあ 女の子らしいよね。っていうか、頼りがいのある見た目になりたいの?」

魔王「うむ! 割とこの容姿はコンプレックスでな。 一目で圧倒されるような強靭な肉体がほしいものだ!」

青年「あはは! なにそれ、そんな女の子いたらヤダよ、俺」アハハハ

魔王「む、本気だぞ!? ちゃんと筋トレとかも、少しはしているんだ!」

青年「そうなの? どれどれ、腕みせてみて」

魔王「むんっ! ほら、ちからこぶ!」 モニュ


青年「おー。ほんとだ、少しはちゃんと膨らむね」アハハ

魔王「ば、馬鹿にしてるか?」

青年「いや。すごく可愛いなあと思って」ニッコリ

魔王「かわっ…//」

青年「え? 言われない?」

魔王「…ああ、まあ。このあいだ 身内のじぃさんには言われたけれど…80歳くらいかな」

青年「あはは、それはなんだかあまり喜びきれないね。大丈夫、まおちゃんはすごく可愛いよ!」

魔王「……う、あー、そ、そうか。うむ…」

青年「俺に言われても、嬉しくないか」アハハ

魔王「そ、そんなことはない! すごく嬉しくて言葉にならぬだけだ!」

青年「え」

魔王「あ、ちが、いや・・・ その、今のはっ 言われ慣れていないので反応に困っているだけでっ」アタフタ


青年「………あのさ、まおちゃん?」

魔王「な、なんだっ!?」

青年「気になってたんだけど… 少し、無警戒すぎるよね?」

魔王「…そうか? 夜盗を警戒したからこそ、こうして青年の家に…」

青年「そうじゃなくて」

 ギシ

魔王「どうした、こちらへ寄って…何か内密な話でもあるのか?」

青年「だから、そうじゃなくって。…俺のことは、警戒しなくていいの?」

魔王「む?」

青年「こんな風に着いてきて… 俺に、襲われるかもしれないよね?」

魔王「あ」


青年「……考えてなかった?」

魔王「そ、その。 …正直、男性とこういう風に話す事など今までに無かったので、考えもしなかった…」

青年「俺に限らず… こんな風についてきて、お酒とか薦められたら……、飲んだらどうなる?」

魔王「う。 もしかしてその、青年は……そういうつもりで…?」オドオド

青年「…あはは。ごめん、驚かせた? あまりに無警戒だから、ちょっと勧告しただけ」アハハ

 スッ  …ドサッ

魔王「う… (す、少し下がってもらえたが、でも隣に座られた! まだ近いっ! これはやはり…?!)」

青年「それに、ほら。そんなことしたくないからお酒を出さなかったんだよ。安心して」クスクス

魔王「あ、ああ。……そういえば、そうだな。なんだ…」ホッ

青年「俺のこと、怖くなっちゃった?」

魔王「…すまない。今 言われた時は、すこし疑ってしまった」

青年「もっと、気をつけなくっちゃダメだよ?」ニッコリ


魔王「うむ。今後は気をつけようと思う。忠告、ありがたく受け取るぞ」

青年「うんうん♪ (そうでなくっちゃ、駆け引きの面白味ってものもないしね)」

魔王「はぁ… なにやら変な緊張をしてしまった。のどが渇いた、早速、茶をいただくぞ」

ゴクゴク…

青年「……そのお茶にさ」

魔王「うん? 美味いな、これ。ジンジャーの香りもさわやかだ」

青年「眠り薬とかはいってたら、どうするの?」

魔王「」

青年「あはははは。 すっごい固まってるよ、まおちゃん。冗談だってば!」

魔王「~~~っ 言われたそばから警戒が甘いんだな、私は!」

青年「信用されてるみたいで、嬉しいよ」ニッコリ


魔王「むう… まあ、言われてみると今日が初対面だからな。確かに私は無用心すぎた。だが、そうからかわないでくれ。こういうのは初めてで、勝手がわからんのだ…」

青年「そうなの?」

魔王「うむ。それに、青年のことは非常に気に入ったのも事実。だから信用したくなったのだろう。そういう事にしておいてくれ」

青年「へぇ… 気に入ってくれたんだ?」

魔王「ああ! 話も面白いし、親切だしな! 優しいし格好もいい、気に入らないわけが無いだろう!」

青年「あはは… べた褒めされちゃった」

魔王「あ。 わ、わわ、私は何を… 今のは気にしないでくれっ!」アタフタ

青年「んー…遅いかな。 ちょっとだけ、気が変わっちゃった」

魔王「な、なにがだ?」ドキドキ

青年「襲ったりしないけど。そんな風に思ってくれてるなら… 少し、期待してもいい?」

ギシ…

魔王「えっ ちょ」


青年「俺も、まおちゃんの事、気に入ってるよ」

魔王「な//」

青年「可愛いし、反応だって素直だし」 ギシ…

魔王「ま、まて、あまりそう近づいてくるな。それに素直なんかじゃないぞ!」

青年「素直だよ。顔に全部でてる。今は、少し困ってるね」

魔王「そ、そりゃあ困るだろう! どうしていいかわからん!」

青年「昼に街であったときも、夜に森であったときも、困った顔をしてたね」

魔王「う… な、情けない。まるで何をやっても駄目みたいじゃないか」

青年「その顔を見てると、思わず手を出したくなるんだ」

魔王「い、今の状況は…ちょっと『手を出す』の意味が違うだろう!? 手助けしたいって意味じゃなかったのか!?」

青年「今も、可愛くて放っておけないって意味では、同じだよ」 ギシ・・・ 

ギュ

魔王「わ、わわわっ」


青年「……嫌?」ギュー・・・

魔王「あwせdrftgyふじこlp;@」パニック

青年(これはイケる)ニヤリ

魔王(わわわわっ だ、抱きしめられているのか私は! どうしよう、思ったより力が強い!)フリーズ


青年「……まおちゃん」ギュー

魔王「ひゃああっ! ま、ちょ、まってくれ! 本当にこういうのは初めてで、断り方すら…!!」

青年「大丈夫! 任せて!」ニッコリ

魔王「話はちゃんと最後まで聞いてくれ! 私は断りかt…」

チュ。

魔王「!? ~~んぅ、む、むぅ…! んちゅ、む、~~っ まっ… ――――ふ、」

青年「……」

チュパ… 

魔王「ふ、ぁ…」ポー


青年「……何を、聞いてって?」

魔王「……い、今の… もしや、キスというもの…だよな?」ボー…

青年「うん。ごめん、ちょっと 無理やりだったかな・・・」

魔王「…はじめて、した」ボソ

青年「」

魔王「そ、想像してたのと違った…。いまはそれに一番驚いている…」

青年「えーっと…。 下手だったってことかな。 いや、肯定されてもショックだけど…」

魔王「もっと、こう、キスというのは ほんわかして微笑みあうような、やわらかいものだと思ってた…」

青年「…そういうのじゃないと、嫌だった?」

魔王「な、なんだか妙だ。あまりに驚きすぎて、急な発熱でもしたらしい。ぼーっとする」

青年「へえ?」ニヤ


魔王「あ、ああ。すまない。何を言っているのだろうな私は。自分でも頭の中がグチャグチャで…!」

青年「きっと、キスが気に入ったんだよ。そういうもので、合ってる」

魔王「そ、そうなのか? むむ、キスというのは恐ろしいな! ちょっとした状態異常魔法だ!」

青年「もっとする?」

魔王「え」

青年「大丈夫! 俺、状態異常解除もできるから 安心して身を任せてみて!」ゴソゴソ

魔王「ちょちょちょ、まっ、何を言い出す!? 第一そういうのをするわけにはいかないのだ! 私は本当は、まおう…」

青年「え?」ピタ

魔王(本当は 魔王だからそういうことをしてはならないとか言えるかああッ! 第一に、現状が魔王が追い詰められるような危機じゃなさすぎて 2重の意味で恥ずかしいぞ!!)

青年「本当は、まおう…って言った? え? 魔王?」


魔王「ま、魔王じゃない! 断じて私は魔王などではないぞ! 魔王のわけがないだろう!ハハハ!」

青年「だよねー。こんな魔王とか、可愛すぎて居るわけないよね。あはは、いたら見に行っちゃうよ!」

魔王「oh」ズーン

青年「えっと、じゃあ何を言おうとしたの? まおう・・・?」

魔王「ま、まお… まおう・・・ えっと・・・魔、魔お…」

青年「魔?」

魔王「まほう!」

青年「魔法?」

魔王「そう、魔法! 私は本当は、魔法がひっじょーーーに、効きにくい体質なんだ!」

青年「え、そうなの?」

魔王「そうだ! だから状態異常の、解除魔法も効かないと困るから、出来ないのだ!」ハハハ!


青年「……たまに、魔力抵抗の強い人が居て、回復魔法が施せないなんて話は聞くけど…」

魔王「そ、そう! それ!」

青年「…へぇ。 本当に居るんだね。ぜんぜん魔法にかからないの?」

魔王「そう! もうまったくなにもかからない! どんな魔法でも怖いものなしってくらい効かない!」

青年「………」

魔王「だから、な! 残念だがキスは諦めることにしよう! ハハハ!」テンパリッ

魔王(よしっ! 完璧な口上! あ、あんなもの何度もできるか!!//)

青年「………すごいなー、ちょっときになるなー よーし、じゃあ すこしためしてもいいかなー」

魔王「む? なんだ、なんかちょっと棒読み的な…」

青年「効かないんだよね? ……魔法」

魔王「あ、ああ! 効かない! 効かないけど…ためすって一体な…」

青年「 『状態異常・魅了(チャーム) 強』」

魔王「なっ!」

中断しますー しえんありがとー!
ってか…魔王こんなんだけど、本当にいいのか?www

>>53 >>54
魔王「お、おまえらっ、わざとやってるだろう!!!」プルプル
黒猫(見事に『ただの駄目魔王』で『知略に富んだ巨乳美女ではない』のを指摘してるにゃー)ゴロゴロ
魔王「前フリとかッ! コンビプレーとかッ! くそくらえだああああ!!!!」ウワァァァンッ

おつー
続きまってるー

壁ドン

そんな魔王で……大丈夫だ問題ない!!


 キーーーーーーン!! バチンッ!

魔王「…ぁああああッ!」

シュワワ… 

青年「………どう?」クス

魔王『…………?』ボー…

青年「…嘘が下手だね。そんなので、言い逃れできると思ったのかな」

魔王『…ぇ…?』

青年「魔法が効かないなら、森で 夜盗の魔法攻撃に警戒することもなかったハズだよね?」

魔王『……?』ボー

青年「あまりに間抜けで、本当に可愛いと思えちゃったよ。たまらないな、本当に」クス

魔王『…かゎぃぃ・・・?』

青年「うん、すごく可愛い。ああ、一応確認しておくよ? この状況さ… 『効かないはずの魔法が効いてしまった』のだから… この魔法攻撃は、事故だね?」

魔王『…じこ…だ…』

青年「ん。それから… 君は、俺の事がお気に入りだったね? 自分からうちに来るといったね?」

魔王『ああ・・・』ボー


青年「はい。 じゃぁ、このあとの行為は… 同意の上、だよね?」クスクス

魔王『ん… どうい…』

青年「よし、言質とれた。まったく本当に、法律だのなんだの面倒くさい…。王国は本当にうるさくて参るよ。好きにさせてくれたらいいのに」

魔王『…すきに、させてあげたら いい…』ポー

青年「…はは。魔法、効きすぎ。誰が魔法が効かないって? オウムより少し上くらいの知能になってるよ?」

魔王『……?』

青年「…好きにさせてくれるの?」

魔王『…すきに させて… あげるの…』フラフラ… 

グラ

青年「っと」 ガシ

青年「……これはこれで。なかなか普段とは違った趣向で楽しめそう。強でかけた魅了なんて、どうせまともに記憶も残りはしないしね」


青年「起きたら… 適当に、魔法で錯乱した君に襲われたとでも言わせて貰うのもいいかな?」

魔王『………』クテン…


青年「……それにしても…本当は 何を言おうとしたんだろうね、君は」クス


青年は、焦点の定まらない魔王を そのままベッドに運んだ
発言と行動の横暴さからは似つかわしくないような優しい扱いで、横たえる

魔王は頭が朦朧として、目の前の青年以外のものが見えていない状態だった
言葉は右から左へ筒抜けていき、意味をなさない
確認作業を試みるかのように、反芻してみるのが関の山
ただ、空を浮くような感覚に支配されているのみだった

魔王『あ・・・ せー・・・ねん・・・』

青年「ごめんね。俺も本当は、こんな…魔法で強引に、なんて好きじゃないんだけどね」クス

青年「でも、なんていうのかな。君を見ていると、妙な嗜虐心が沸いてね…」

魔王『し・・・ぎゃ、く?』


青年「あは。やっぱり無理やりでもよかったかも。まあでも、はじめてみたいだし、さすがに可哀相かな」クス

魔王『…せーねん…が 笑うの…は。 すき、だ』 ニコー・・・

青年「んー…? はは。素直な君も、それはそれで可愛いね。大丈夫、ちゃんと可愛がってあげるよ。それで、一番最高のシーンで状態異常を解除してあげる…」


青年「散々おもちゃにされた後で、さんざんな痴態を『晒した状態』で目を覚ます君の反応…すごく、楽しみだ」ニヤ

魔王『……?』


青年は、自分の魔法の効果に自信を持っていた
だが、駄目魔王といわれていても、魔王は『魔王』

青年はひとつ 大きな計算間違いをしてしまっているが、今それに気づくことは不可能だった


…そう。青年はひとつ、勘違いをしているのだ

魔王が、こんなに駄目でありながらも魔王で居るのは伊達ではない
魔王が魔王である理由、それはその『血』が流れているからだ

魔物を支配し、魔力を統べ、自らの身体の一部として…
魔の力を、使役するのではなく
魔の力によって、当然のように生かされる

それが、魔王が魔王でありつづけられる理由だ

つまり『魔法が効かない体質』というのは、まったくの嘘ではないのだ

『魔法が掛けられたことにより、それが身体に有用ならば魔法は効果を発揮するが、
それによって危機に陥るようならば 受けた魔法の効果・ダメージの一切を忌避・排除する』

それが、魔王の血を持つ者の潜在的な能力である
つまり、直接的な攻撃魔法であれば、事実 その一切は通用しないのだ

第一、この駄目魔王がまるっきりの作り話で、機転の効いた嘘などつけるわけが無い
森で魔法攻撃にビビっていたのは、単に
これまで攻撃魔法を掛けられた事が無いから 自分のその能力すら忘れていただけだった


青年「……ほら。俺を見て。魅了の魔法の効果で、何も考えられなくなるだろう?」

魔王『……せーねん・・・』ジー・・・

青年「そう。俺のことだけ考えて…今はただ、夢中になってくれたらそれでいい。最初は、リラックスできないとつらいからね」クスクス

魔王『………ん』


青年の顔が近づいてきたときに、思わず、手を伸ばして引き寄せてしまう
だが魔王は、その直後に、『そうしてしまった』という事くらいは、把握できるようになっていた

そして今、青年が衣服を脱がしながら、身体を撫で回しているのも、
魔王は理解し、知覚することができている… 

そう、魔王の身体は魔法効果を警戒した状態へと移行していた
身体に与える効果はそのままに、その効用を判断するべく、思考の一部のみが開放されている状態だった

魔王(…ああ…青年が優しく振舞うから、なかなか魔法が、完全解除されないじゃないか…)


身動きが自由にとれるまでに至らない
本来であれば、自由意志によって魔法の効果を得ることも崩すことも出来るはずなのだが
なにしろ魔法技術が初級のこの魔王には、自らのその血すらもコントロールできないのだ

脳や血が、魔王の意思とは関係なしに作用するのを待つしかない
つまり『自動防御』に任せるのみである

魔王(いっそのこと一発でも殴ってくれれば、拘束の類と判断されて、魔法も一瞬で解けるだろうに)

意識と同調することをやめた身体は、好き勝手に青年に手を伸ばす
自動防御による、一種のバーサーカー化である

魔王(…くそ。意識だけが断絶されて、肉体感覚が無い、か…)

魔王(状態異常による、精神汚染回避、といったところか? まあ、精神状態がイカれると、この肉体は危機判断すら出来ないからな…)

魔王(それにしても・・・ 一体、これはなんなのだ?)


青年「ん…まおちゃん…」

ペロ

魔王(…青年… 何してるんだ? そのように首を舐めてなんの効果があるというのだ?)

魔王身体『んっ、せーねん…』

魔王(って! わ、私の身体! 何、勝手に青年の頭をそのように抱き寄せて…ッ!)

青年「はは。 …これ、好きなの? 弱いんだ?」


魔王(…? 私の身体は、一体どのようなダメージをうけているのだ? まだ魔法が忌避されないぞ。…これは回復系の効果なのだろうか?)

魔王は、性交というものを知らないわけではない
もちろん、危機とおもっているのは、まさにその行為なのだから…だが、致命的なことがあった
魔物の頂点である魔王は 性教育として『動物の交尾』を習っていたのだった

前戯、という概念が 魔王にはない
小説などにでてくる甘い恋愛ストーリー程度の男女関係しか知らないのだった


青年「んー…じゃあ…。 あむ… 」ペロ、ぱくっ

魔王身体『ぁあっ! んぅ、耳はっ…』

魔王(ちょっ 何、なんなんだ今の声!? 私!? いやあんなの私じゃないぞ!?)

魔王(もしや魅了って、肉体を乗っ取り支配する魔法だったのか!? ではあれは誰だ、誰に支配されている!?)


青年「はは。なんか、他にも弱点ありそう… 今のうちに、全部探しておこうね?」ニッコリ

魔王(弱点ってなんだ!? 弱点なのになんで魔法が解除されない!? 私はついに魔王の血すらもダメになってしまったのか!?)

青年「首と、耳。 王道でいえば、鎖骨も弱そう。でも… やっぱり、胸かな」

サワ・・・ モミ。

魔王肉体『……?』


青年「胸は平気? ああ、初めてだもんね、刺激を知らないだけかな」


青年はそういって、やわらかく胸を揉みほぐす
それほど大きくも無い魔王の胸は、青年の手にすっぽりとおさまってしまった

突起部分を指でこねまわす。つまんで、はじく
次第に膨らみあがったそれを、人差し指と中指の股に挟み、軽くこすりあげながら全体を揺する


魔王肉体『うー… へん、な・・・ かんじ・・・』

青年「変? どう、変?」

魔王肉体『…そっちだけ… すごく、あったかくて…』

青年「ああ、ごめん。 ちゃんと、両方しなくちゃね?」クス

魔王(まてまてまてまて! ちょ、なんだこれ!?)

魔王(潰れそうで怖い! さらに小さくなったらどうしてくれる! 将来、子供に乳を与えられなかったらどうするんだ!)

魔王にとって、胸とは、女性らしさの象徴(=母親的な意味で)という意味しか持っていなかった…


そうこうしている間に、青年は、もんでいるのとは反対の乳房に口をつけていた
舌で揺するように押し上げたり、大きく口を開けて全体を含んだり、舌で先端を舐めあげたり

魔王肉体『んぅ、あ… それ・・・』

青年「どれ?」

魔王肉体『いまの… 舌で、舐めるやつ… なんか、きもちいい』

魔王(? きもちいい? …赤子に飲ませるとき、痛かったら困るからか?)


青年「ん。 じゃあ、こんなのは?」

舌を先端に絡ませるようにしながら、軽く吸い上げる
パッと離して、それから舌先で猫のように細かく舐める

魔王肉体『んんっ…、あ、はぁ・・・』

青年「初めてで、これだけ感じられるなら… ちゃんと慣らせば、結構ビンカンかもね?」クス

魔王(!? なんだ!? なんか明らかに私の思っているのと違う気がするぞ、私の身体!!)


青年はそうして、魔王の身体がすっかり熱を帯びるまで優しく愛撫をつづけた
全身の性感帯を探すように、局所には触れないように、優しくいたわりながら…

青年(尻、小さいし。なんか、普通につっこんだら狭すぎて痛そう)

……どうやら優しさからではないようだった


魔王肉体『んぅ…っ、はぁ… なん、か。 暑い…』

魔王(暑い? この部屋は確か、夏の割りに涼しげな風が通っていたと思ったがな…気候が変わったか? いや、夜だぞ?)

青年「んー… じゃぁ… そろそろ?」

チュ

魔王肉体『んんっ… むぐ、チュパ… ―――ん』

青年「ん… は。―――っ、好きだね、キス… ん―――」


濃厚な、キス
魔王の肉体は、あきらかにそれを求めて舌を伸ばす
それを絡みとって、呼吸に合わせながら食むように味わう青年
交互にお互いの口内を蹂躙しあう

その一方で、青年の手は徐々に魔王の局部へと這っていった
下着の上から、絶対的な局所を責める

魔王肉体『んんっ――! ん、はぁ、むぐ―――っ、んんっ』

青年「………」クス

魔王(う、うわああああああああ! ちょ!!! そこはダメだ! っていうか何故、魔法が解けない! 明らかに危機だろ!? 解けろって! 早く!!)

魔王肉体『んんっ… ん… ――――っ』

青年「……おとなしくなってきたね。きもちいい?」

魔王肉体『ん… よく わからない、けど… あ…っ』

魔王(え。 き、きもちいい? ちょっとまて、それじゃあいつまでたっても魔法が解除されないんじゃ…)


青年「はじめてだし。やっぱり、あんまり濡れてこないね。すこし、誘引したほうがよさそう」クスクス

魔王肉体『……せーねん… なにを、する…?』

魔王(うむ。それは是非、私も知りたいところだ。さすが私の肉体だな、思考能力を手放しても同じ事を言うのか)


青年は妖しく微笑んで、のしかかるような体勢から立ち上がった
ベッドのふちに魔王を寄せ、自分はベッドから降りて、腰元近くの床にすわる

魔王(…? 青年は、本当に一体なにをするつもりなのだ?)

身を乗り出すようにしながら、魔王の片足を持ち上げる
くぐるように、その足を自分の肩にのせ、顔を足の付け根まで近づけ…

ペロ

魔王肉体『ひゃぅっ!』

魔王(舐めたーーーーーーーーーーーー!?!?)


青年「♪」ペロ・・・

魔王肉体『ひゃっ、あぅっ、やっ』

魔王(汚いって! 違うって! え!? 人間って口で性交する生き物なの!?)

違います

青年「~~♪」

魔王肉体『んんっ… あ、ああ、んんんっ』

魔王(えええええええええ! 排泄器官があるんだぞ、そこには!!)


唾液をたっぷりとぬりつけながら、舌先で局所を刺激する青年
魔王の肉体は徐々にその滴りを含ませていく
それにあわせるように、わずかに舌先をねじ込み、馴染ませていく青年

魔王肉体『やっ、くぅ… あ。 ぁっ!』

青年「んー…。指くらいならイケルかな」


ツプ

魔王肉体『!』ビクン

青年「あ。いけそうかな。じゃあ、すこしづつ広げておこうか」

魔王(ひ、ひろげる?)

青年は指先を、魔王の中にゆっくりと沈めていく
唾液と愛液を混ぜ合わせるように、ゆっくりとゆっくりと…

魔王肉体『――――っ、ふ、ぅ』

中指がすっかり入りきると、魔王の身体は小さな呼吸を漏らす
それを見て、青年は指を抜くことなく、器用に足の間から身体を伸ばし、また魔王の上に覆うような体勢をとった

魔王肉体『ん、んんっ… は…』

体勢をずらすと、指が内部で自然にねじれる
順手から逆手に、ちょうど指を反転させることになるからだ
指を抜くことはせず、内部だけで指を軽く動かしながら、親指をつかって局所を責める

魔王肉体『んんんんっ!!!』ビクン!


魔王(な、何故 魔法が解けない!? そんなところに指なんかはいったら絶対痛いだけだろう!?)

青年は、ゆっくりと だが確実に 指の動きを大きくしていく
そうしながらも 逆の手と口を使って、あらかじめ調べておいた魔王の性感帯を同時に刺激する

肋骨のあたりを、なで上げる。胸を撫で、首の下を舐めあげ…

魔王肉体『―――っ!!!』

ジュポ

青年は、魔王の快感にあわせながら、指を前後させる
唾液よりもわずかに粘性のある液体が指に絡む

確実に、魔王の肉体はほぐされていく
充分に成熟したその身体は、行為に及んだ事が無いとは思えないほど
充分に潤されて、やわらかく、あたたかくなっていた

青年「……は。もう、いいかな… 俺も、はやくやりたくなってきたし」

魔王(よ、よくないいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!)


グイッ

青年「大丈夫! ゆっくり、挿れるから!」ニッコリ

魔王(おまえ! すっげーノリノリな顔してるじゃないか! 言葉に信憑性がないぞ!!)

魔王がいくら心の中でツッコミをいれても、身体は動かない
動かないどころか、魅了の呪文の影響のせいか いとおしげに青年を待ち構えているのだ
青年は自らの衣服を脱ぐのもおさなりに、局部をズボンから引き出して魔王にあてがう

魔王(ああああああ・・・! やめろやめろやめろ、や、やめ・・・・っ)

グッ・・・

魔王肉体『っ』ビク

青年「―――っ、やっぱり、キツイ・・・けどっ」

ググ、 グチュ、 ズ・・・

青年が、魔王に沈んでいく。ゆっくりと、ちいさな軋みを鳴らせながら
・・・その時だった

魔王肉体『・・・・・・っ、あ・・・。 “苦しい”・・・。 “痛い”』

肉体が、その危機を感知した

今日はここまでですー
R18シーンにはいりました 未成年は引き返せよー(既にOUT)

>>77 魔王「う、うわあああ 待つなあああ!見るなああああ!!」アタフタ
>>78 臣下「手を傷めますぞ! 壁殴り代行を呼ぶから待つのじゃ!」
>>79 側近「お前は何言ってやがりますかね。 さてはお前も魔王狙いの排斥対象者…?」チャキ

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お詫びと御礼
支援やレスなどいただいて大変ありがとうございました

諸事情があり、このスレを続ける事が出来なくなりました
続きの投下を待っていただいている方々には申しわけありませんが
このスレはこのまま落とさせてくださいますようお願い申し上げます

機会があれば 駄目魔王をまた書くことになるかもしれませんが
その時はまた違うスレとして、内容も改変してお届けすると思います
ですので当スレの乗っ取り行為などはご遠慮いただきますよう
どうぞよろしくお願い申し上げます

側近「これ以上、魔王を晒させると思ってやがりましたかねぇ」チャキ

>>1より
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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