雪歩「溶かされる……」(20)

はじめに……

・SS投稿はおろか、スレ立ても初めてです。至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

・本SSは、お師匠さまから添削いただいた完成品を連投させていただきます。そのため途中のコメントに反応できない可能性があります。

・CERO D ~ Z だと個人的に思っています。

それではよろしくお願いいたします。


ここは、都内のとあるスタジオ。


“すこーしも 寒くないわー♪”

「――ハイOK、雪歩ちゃんお疲れ様ネ!」

「はい、ありがとうございますー」

今年冬に公開になるアニメーション映画、その劇中歌をレコーディングしています。

お仕事のお話を貰った時はとても驚いて、私なんかにそんな大役、務まるわけないと思ったのですが……。

「菊地さん、その歌い方じゃ雪が溶けちゃうヨー。もう少し軽快にネ?」

「す、すみません。もう一度お願いします!」

同じプロダクションの真ちゃんも一緒だって聞いて、それならやってみようかな、って。

「はーい、OK! お疲れさま~! 今日はここまでネ、それじゃ明日もヨロシク!」

「「ありがとうございました!」」


―――
「それじゃ雪歩、帰ろっか」

「うん、真ちゃん!」

こんなこと言ったらスタッフさんに申し訳ないかもですけど、こうしてお仕事が終わった後、真ちゃんと一緒に帰るこの時間が、何よりの楽しみです。

「雪が溶ける、ってこの前も言われたよ。あのディレクー絶対このフレーズ気に入ってるよね」

「私は、そう言いたくなるのも、ちょっと分かるかも」

「ええっ?! そんなぁ……」

「ふふふ」

「ハハハ」


スタジオから事務所までの道のり、真ちゃん一人なら、きっとランニングして帰るような距離だけど、一緒の時はいつも私に歩幅を合わせてくれます。

「そういえばこの映画、今海外じゃすごい人気なんだってさ」

「私もこの間ニュースで見た、そんな映画の日本語版の歌を、私たちが歌っているんだよね」

「そうそう。……自分で言うのもなんだけど、ボクの歌声じゃ雰囲気が合わないんじゃ――」

「そんなことないよ!」

私は、言葉を続けます。

「私、真ちゃんの歌は元気で、真っ直ぐで、可愛いって思ってるよ? お仕事に行くときはいつも聞いてて、勇気をもらっているの。このお仕事も、一人じゃ大変だなって思ったけど、真ちゃんと一緒だから――」

「ストーップ!」

今度は真ちゃんが言葉を遮ります。

「雪歩、ありがとう……でもここでは、ね?」

「え?――あ」

真ちゃんに促されて辺りを見回すと、私たちは注目の的になっていました。


この日、商店街の通りに、6mほどの縦穴ができました。


―――
翌日。

今日も同じスタジオで、真ちゃんとレコーディング、しっかり準備をして……。

「うんっ、これでいいかな」

鍵をしっかりとかけ、今日の楽しみへと向かいます。

瞬間、目の前が真っ暗になりました。

『えっ、な……』

それと同時に、叫ぼうとした私の口に、強い圧力を感じて、そこからは意識が薄れていく感覚だけ覚えています。


次の記憶は、背中の冷たさと、鼻をつく鉄サビのような臭い。

『んっ……ん』

目を開けると、暗く冷たい色の、見たことのない天井がありました。私は仰向けに寝ているようです。

ここはどこなのか、辺りを確認しようと身体を起こします。

『え、あれ……?』

手足が動きません、なにかに自由を遮られています。仕方ないので首だけを動かして、自分の手を確かめます。

『何これ……、どうして……』

私の手首は顔の横にありました。バンザイをしているような状態で、私の横になっている場所――冷たい質感の台の上で、固定されています。

足にも同じ感覚がありますから、恐らく同様に固定されているのでしょう。そしてこちらは左右に広げられています。足を閉じられません。



抜け出そうともがいてみますが、叶いませんでした。

『……だれか、いますか……?』

周囲の様子を伺います。可能な限り張り上げた私の声に返ってくるのは、反響した私自身の声でした。

コンクリート壁に囲まれた部屋、壁の燭台から与えられた光に、灰色の棚には大小様々な瓶が並んでいるのが見えました、なにかの研究所でしょうか。

『!?』

大変なことに気付きました。無機質な景色の中に1つ……いえ、2つ。ひんそーでちんちくりんな物が見えます。

私は今、なにも服を着ていませんでした。



ギイィ ガタン

自分の姿に気付いて間もなく、頭上の方向から物音を聞きました。誰かがこの部屋に入ってきたようです。

気配が近づいてきます。私は気配の主を確認するため、できるだけ顎を上にあげます。

『っ!!』

誰なのかはすぐに分かりました、ですが脳がそれを否定します。

『いい格好だね、雪歩』

その者の声を聞いて、ようやく私の視覚が正常であると認められました。

『まこと……ちゃん?』


スタジオで会うはずだった私の友達が、そこにはいました、そして彼女は、私と同じ姿で私を見下ろしていました。


『そんなに怯えないで?』

優しくて、でも冷たい声をかけ、私の左側に移ります。

『ひっ……んん……』

真ちゃんが私の腹部に手を伸ばします。

『可愛い……』

耳に彼女の息が当たりました、手の冷たさと相まって、ゾクゾクっと身体が震えます。

『真ちゃん……どうして……?』

私の意識を奪ったのも、こうして手足を拘束したのも、私の服を奪ったのも……真ちゃんなの?

『……ボクは、ずっと雪歩に憧れていたんだ』

『えっ……?』

思いがけない言葉に、思考が追い付きません。真ちゃんはもう片方の手も私に触れて、言葉を続けます。


『ボクがプロダクションに入った時、雪歩は真っ先に話しかけてくれたよね。その時からずっと思ってたんだ、可愛い女の子だなって』

突然の告白と、継続する彼女の愛撫に、身体が熱を帯びてくるのが分かりました。

『容姿も、仕草も、声も、心も、全部がボクの理想。そんな雪歩と一緒に仕事できるようになって、同じ時間を過ごすうちに、分かったんだ……』

真ちゃんの手が、お腹から徐々に上下に離れていきます。


『ボクは、雪歩が欲しい!』

そういうと同時に、彼女の右手は私の胸を捉えました。

『っああ、んんぅ……』

思わず声が漏れてしまいました、と同時にまた身体がフルフルと震えます。

『フフ、本当に可愛いね、雪歩』

真ちゃんの顔が私に触れそうになりました、私は思わず顔を背けます。

『ダメっ……私……』

そう言うと、真ちゃんの動きはピタリと止まり、そして私から離れていきました。



『そうか……それなら仕方ないね』

彼女はそう言って再び近づくと、今度は先程より更に冷たい、板のようなものを胸に押し付けてきました。

『雪歩、知ってる? 両手両足を切断した状態のことを、だるまっていうんだ』

ほとんど見えませんでしたが、本能的にそれが殺傷能力のある凶器なんだ、恐らくは刃の大きな肉切り包丁なんだと、感じました。


『ちゃんと処理はしてあげるから、安心して?』

『イヤ……』

『一緒にできた最後の仕事が、世に出なくなっちゃうのは残念だな』

『……やめて……お願い』

『たくさんレッスンしたんだけど、仕方ないか』

『やめて……やめてよ……っ』

彼女は息を整えつつ右手を上げ、昨日聞いた映画曲を歌い出しました。と同時に鈍色の物体を振り下ろします。

『雪だるまつくーろー!!』

『やめてーっ!』

私の必死の叫びは、ギリギリで真ちゃんの歌と手を止めることに成功しました。


『分かった……私……全部あげる……真ちゃんに……私の全部を……あげるから……だから……』

すでに身体のあちこちから、色んなものが噴き出しているのが分かりましたが、赤い液体を流すことだけは防げたようです。

『嬉しいよ、雪歩……ありがとう』

真ちゃんは手にしていた物を投げ捨ててくれました。イヤな音が少し離れたところから響きました。

『それじゃ、お礼をしないとね』

そう言うと、私の拘束されている台に飛び乗り、そして私の上に四つん這いになりました。

『……雪歩、ボクのテクニックで、溶かし尽くしてあげるよ……』

真ちゃんの腕で保たれていた私たちの距離は、ゆっくりと縮まり、そして――



「あっんんんっ!」

私の秘部が激しく振動を始めました、続いてコリコリに硬くなった胸の突起に刺激を受けます。

「んんんっんん! あっあ~っ」

手首の拘束を解き、私はすぐに下腹部に手を這わせました。

「真ちゃぁん、ああっんっぅ……」

大きな恐怖から解放された安堵感と、大好きな真ちゃんと重なる達成感、この想像が私を幸せへと誘います。

さっきまで拘束台だった自分のベッドが軋みます。



四度目の絶頂に達することができた瞬間、けたたましくベルが鳴り響きました。

「んはぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

そのベルは、仕事の準備を促す音、真ちゃんとの夢から醒める目覚まし時計です。

「はぁ……はぁ……そろそろ準備しないと……」

時計を止め、続けて時限式バイブレーションを止め、足のロープを外しました。

バスタオルを巻いて、部屋の鍵をあけます。

「真ちゃん、今日もありがとう。明日もよろしくね?」

壁に貼った、宣材のために凛々しく写った彼女に、そう語りかけました。

私を溶かした誘拐犯は、今日もスタジオで待っています。

終わり

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