律子「だまし続けて」 (23)
P「お疲れ様、律子。最高のステージだったよ」
律子「……どこがですか」
P「可愛かった。お客さんを魅了してたな」
律子「プロデューサー殿には、そう見えたんですか?」
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P「俺だけじゃない、あの場にいた全員がそう思ったよ」
律子「……ダメダメでしたよ、今日の私は」
P「ダメダメ?」
律子「『livE』は2回踊りを間違えたし、『魔法をかけて』なんて歌詞を間違えてます」
P「ああ、そうだった」
律子「あれ、気づいてたんですか」
P「そりゃあ、律子の練習はずっと見てきたし」
律子「それで良く『最高のステージ』なんてお世辞、吐けますよね」
P「お世辞なんか言わないよ、俺は本当にそう思ったんだ」
律子「それじゃあ。教えてください、プロデューサー殿」
P「え?」
律子「あんなに失敗を重ねた今日のライブが、
どうして貴方にとって『最高のステージ』なのか」
P「律子なら分かると思うけどな」
律子「私なら?」
P「だって自己分析、得意だろ」
律子「得意というか、自己分析は趣味なんです。
どんな人達が私のファンになってくれているのか」
P「分析データを元に、パフォーマンスも変えてる。努力してるよ」
律子「無理ですよ、『なぜ私は私なんだろう』って歌うぐらいですから」
P「えらいネガティブだな」
律子「教えてください、プロデューサー」
P「仕方ないな。そんじゃ、隣、座るぞ」
律子「……そういえば、ステージに座ってて、邪魔じゃないですかね?」
P「鍵はもらったから気にすんな」
律子「分かりました。じゃあ、聞いていいですか」
P「おう。1曲目、『livE』はかなり盛り上がったろ」
律子「踊りは散々でしたけどね」
P「律子のミスに気づいたのは、律子自身だけじゃなかったんだよ」
律子「私自身だけじゃない、って?」
P「ファンは熱心に、ステージに立つ律子を見ていた」
律子「……ごまかせたと思ったのに」
P「律子は『ごまかした方が良い』って、そう思ったのか」
律子「当たり前ですよ。ファンに見せなきゃいけないのは完璧なステージなんですから」
P「それは、自己分析をした結果か?」
律子「ええ、そうです。私のファンはアングラなモノを好む、完成品を見たい人達だ、って思ってます」
P「うーん、そっか。そういう考え方もありだと思う」
律子「違いました……?」
P「ファンってさ、もちろん完璧なモノを見たいって気持ちがあるけど、
基本的にはそのアイドルやアーティストが好きで、応援したいから見に来るんだよな」
律子「応援」
P「そう。普段滅多に失敗しない律子がダンスを間違えたら、ファンは異変に気づくだろ?」
律子「そう、ですね」
P「律子を支えてやりたい、応援したい、って思って、精一杯の歓声を送る」
律子「……確かに、どの曲も、失敗した後に声が大きくなったような、そんな気がします」
P「声援だよ。みんな律子が好きだから、頑張ってやり切って欲しいんだ」
律子「歌詞を間違えたあとは、歌ってくれてました」
P「『魔法をかけて』の大合唱、楽しそうだったよな」
律子「お客さんも、後私も……楽しかったです」
P「なあ、律子」
律子「はい」
P「お前は本当に、今日のステージが失敗だって思ってたのか?」
律子「……え?」
P「なんだか無理に『ダメダメだった』って言ったような、そんな気がしたんだよ」
律子「……褒められたものじゃないのは、事実ですよ」
P「そうかな」
律子「プロデューサー殿に求められたクオリティの7割ぐらいしか、出しきれていませんでした」
P「確かにクオリティで言えば、それぐらいかな」
律子「正直に言うと」
P「ああ」
律子「楽しかったですけど、失敗続きのステージを『楽しかった』なんて言ったら、
プロデューサー殿を不快にさせてしまうかな、って思ったんです」
P「不快になんかなるわけないだろ」
律子「そうですか?」
P「完成度、確かに大事だよ。
でもそれ以上に大切なのは、お客さんも自分も楽しめるようなステージを創りあげること」
律子「……ですね」
P「だから俺は言ったんだ、『最高のステージ』だって」
律子「……ありがとうございます、プロデューサー殿」
P「律子は自分に自信をもっと持ったほうが良いな」
律子「自信ですか?」
P「うん、いまの律子に加えるエッセンスとして」
律子「エッセンス……」
P「自分はこのホールに集まったお客さんを魅了できる、それだけの力がある、って」
律子「そういえば私、あんまり自分のこと、信頼してないです」
P「だろ。勿体無いと思うよ、俺は」
律子「……あなたが私を褒めてくれるから」
P「ん?」
律子「プロデューサー殿が私を褒めてくれるから、
私は自分に自信が無いことを、忘れられるのかもしれません」
P「……」
律子「これからも、私に魔法をかけてください」
P「俺、律子に魔法をかけられるかな、ずっと」
律子「信頼してます。だから」
「これからも私のことを、だまし続けてくださいね!」
http://i.imgur.com/O1chBXn.png
律子、お誕生日おめでとう。ありがとうございました。
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