9/1 朝
佐天「ゆうーぐーれの ほうーかーごー いつーもーの まちーなーみー ふとみーあげたそーらー おもいーだーすー やさーしーさをー」
春上「」
佐天「きーみーのー まなざーしーがー きーづーかーせてくーれーたー よーわーさ みとめーるゆーうきのつーよーさをー」
アケミ「」
マコちん「」
むーちゃん「」
佐天「あたたーかーな きーみーの そーのーてがー わたーしをー みーちびーいーてくー なーにーよりも まもりーたいー きぼうが やみを つらぬーくーからー」
春上「」
アケミ「」
マコちん「」
むーちゃん「」
佐天「だーきーしめーた あついーおもいー こーのせかいを てらすーからー はしりーつづーけ さがしーつづーけていたー きみのーゆーめーがー うーごーきだすー」
佐天「それでも戦いたくない」
佐天「それでも戦いたくない」 - SSまとめ速報
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佐天「打ち止め?」
佐天「打ち止め?」 - SSまとめ速報
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の続きです。
禁書目録6巻の再構成です。
原作既読前提で話を進めます。
地の文有りです。
>>1は禁書目録は既読、超電磁砲は未読です。
と、自分を見る複数の視線に気が付いた。
首をまわしてそちらを見ると、私のよく知っている4人が呆然としてこっちを見ていた。
佐天「…ん?どうしたのみんな?」
率直に思った事を聞いてみる。
すると、黒髪のツインテールの少女が、表情はそのままに口を開いた。
マコちん「……、いや、涙子こそどうしたの?」
佐天「?」
思わず、何が?と聞き返し、自分の状態を確認する。髪型も制服も問題は無い。この4人は一体何を見てそこまで呆然としていたのか。もしかして自分の背後に何かあるのか、と思い後ろを向いたが何も無い。
むーちゃん「ねえ、本当に大丈夫?目の下に隈が出来てるし、物凄くハイテンションみたいだし、何か挙動がおかしいし」
佐天(…)
そういう事か。
…まあ、それはそうだろう。目の下に隈がある人間が朝からハイテンションで歌ってたら、ましてそれが知ってる顔だったら、…。
佐天「あー、うん、昨日色々あって疲れた上に寝てないからね。何か変なスイッチ入っちゃってるかも」
急いで弁解する。弁解、といっても事実を述べただけだが。
春上「宿題をたくさん残していたの?」
佐天「ううん、そうじゃない。むしろ宿題は早めに終わらせておいたんだけど」
アケミ「涙子はそういう所マジメだもんねー。でも夏休み最終日に夜更かしはどうよ?…それよりもさ、遂に能力が使えるようになったんだって?ちょっとここで使ってみてよ」
佐天「あ、えーとねー、その事なんだけど…」
どう説明しようか。
取り敢えず、美里ちゃんと一方通行さんの事は伏せておこう。
佐天「まず、昨日私の能力が風力使いじゃ無い事に気づいたんだよ」
むーちゃん「…、どういう事?だって涙子は幻想御手の時に風操ってたし、ちょっと前にも風力だけはレベル2並だって言ってたじゃん」
まあ、その疑問は当然か。
能力は一人一つで、例外は無い。そして、一度発現した能力は二度と変わる事は無い。なので、いきなり『能力が実は今までと違うものだった』と言われても訳が分からないだろう。
佐天「……、何て言うかな。『風』は私の能力の副作用に過ぎなくて、本質は別にあると言うか。まあ、私もその本質には今まで気付かなかったんだけど」
自身の説明力の無さに即効で辟易する。
マコちん「んー、まず、じゃあ涙子の能力は何なの?」
佐天「…、『熱操作』とでも言えばいいのかな。今までは能力で温度差を作ったところに風が吹いていただけだったんだよ」
アケミ「ふうん…って、ちょっと待って。今までその事に気づいてなかったんだよね?その状態でレベル2級の風って事は、大元の能力は相当凄いんじゃないの?」
佐天「多分、レベル4相当だと思う」
何気なく言ったが、かえってその言葉が嘘で無い事を証明したのか、四人が唖然としたような表情を浮かべた。
春上「…、本当に?」
アケミ「マジで?この数日の間に何があったの!?」
マコちん「凄いじゃん!いきなりレベル4とか!」
むーちゃん「まあ、涙子は能力への憧れは私達の中で群を抜いてたからね。本当に良かったね!」
春上「おめでとうなの!」パチパチ
佐天「…、うん。ありがとね」
四人とも自分の事のように喜んでくれていた。
正直、どんな反応をされるのか不安だったので、安心した。
アケミ「今すぐ涙子を胴上げしない?」
佐天「やめて。心の底から」
みんなの反応が予想以上で少し照れる。嬉しい事は嬉しいが。
佐天「…まあ、暴走が怖いからそんな全力は出せないけどね」
話題を戻した。
佐天「それで、昨日一晩中能力で何が出来るのか検証し続けながら狂喜乱舞してて、気づいたら朝になってた」
マコちん「あー、涙子らしいね。その時の光景が目に浮かぶようだわ」
私はどんな人間として周りに思われているか、ちょっと気になった。
春上「…それで、熱操作?どんな能力なの?」
佐天「んー、…『周囲の空間の温度を観測し、熱量を自在に操る能力』…だね」
春上「…?」
アケミ「…?」
マコちん「…?」
むーちゃん「…?」
同時に首を傾げられた。そりゃいきなりこんな事言われても分かり難いか。
佐天「…えーと、まず温度の観測っていうのは、御坂さんが周囲の電磁波や磁力線を観測出来るのと同じ感じだね。うまく説明出来ないけど、視覚情報以外でサーモグラフィーみたいに、周囲の熱量を把握してる」
春上「…なるほどなの」
アケミ「んー、…涙子、もしかして超電磁砲の御坂美琴さんと知り合いなの?」
唐突に聞かれたので、素直に答えた。
佐天「知り合いと言うか、友達だよ」
アケミ「マジで!?」
むーちゃん「涙子、この夏休みの間に何か凄い人になってない?」
佐天「いや、そんな事ないって。それに、初春や春上さんも御坂さんと友達だし」
まあ、確かに過去の私からすれば、レベル5の人と友達で自身も高位能力者、なんていうのは考えられないが。
マコちん「えー、いつの間に仲良くなったのさ。3人だけで。私達も呼んでよ」
佐天「ごめんごめん。今度紹介するよ。約束する」
春上「御坂さんは、レベル5で常盤台中学に通っている凄い人なのに、私達を見下してるとかそういう感じは全然ないの。良い人なの」
佐天「まあ、お嬢様って感じは全然しないね」
世間一般的に、自動販売機に蹴りを入れる人をお嬢様とは言わないだろう。
むーちゃん「もしかして、その御坂美琴さんから能力の手ほどきを受けた、とか?」
佐天「いや、違うよ」
アケミ「じゃあ自力で?」
佐天「…うん、まあ」
曖昧に頷いた。手ほどき、というよりも助言って感じだったし、嘘ではない、はず。
マコちん「それで、涙子、能力の説明の続き」
佐天「あ、うん。それで、熱量の自在な操作なんだけど…これは実際にやってみるね」
目の前の空間に意識を集中し、仮想の第三の手をイメージして、それを振った。
マコちん「…氷?」
佐天「今のはそこの空間から熱を『どかした』イメージだね。それで空気中の水蒸気を凍らせたって訳。発火能力みたいに直接熱エネルギーを発生させる事は出来ないけど、熱限定の遠隔ベクトル操作って感じかなぁ」
春上「初春さんの能力の発展版みたいなの」
佐天「…」
アケミ「…」
マコちん「…」
むーちゃん「…」
顔を見合わせる。
佐天(悪意…無しで言ってるんだよね?)
アケミ(だと思うけど…、)
それとも私の受け取り方が歪んでるのだろうか。ともかく、ここに初春が居なくて良かったと思った。
アケミ「そういえば衿衣、飾利は今日どうしたの?また熱でも出した?」
春上「学園都市に外部からの侵入者がいたらしくて、今日は風紀委員全員公欠で捜索にあたっているらしいの」
むーちゃん「そっか。珍しいね、学園都市に侵入者なんて」
マコちん「風紀委員も大変だねー」
佐天(という事は白井さんもか…。新学期初日から大変だなぁ。それを強制でなく自ら進んでやってるんだよね。…二人とも凄いなあ、私と同じ中学生なのに)
始業式終了
アケミ「ねえみんな、今日これから暇ならどこか遊びに行かない?涙子の能力覚醒祝いも兼ねて」
佐天「覚醒って何、覚醒って」
朝と比べて若干テンションが下がって、平常運転になってきた。
アケミ「細かい事は気にするな!」
むーちゃん「私は行けるよ」
春上「わたしも大丈夫なの。行こうなの」
マコちん「私も行くー」
アケミ「涙子は?と言っても涙子の覚醒祝い兼ねてるから拒否権はあんまり無いけど」
佐天「あんまりって何、あんまりって。まあ、特に用事も無いし、いいけど」
アケミ「じゃあ、どこに行く?」
むーちゃん「地下街にしない?最近みんなで行ってないよね」
マコちん「あー、いいね。取り敢えず暇にはならないだろうし」
アケミ「飾利はまだ風紀委員かなー。後で連絡してみるか」
春上「暑いし、頭のお花が枯れてないか心配なの」
佐天「…」
そういう意図の分かり難い発言はやめて欲しい。
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黄泉川「おいおいちょっとー、そこの少年。不用心じゃんよー」
上条「はい?」
黄泉川「atmの近くで財布を見せながら無防備に歩くんじゃないの。奪ってくださいと言っているようなものじゃん」
上条「え、あ?はぁ、すみません」
黄泉川「うんうん。次からは気をつけるんだぞ少年」タチサル
上条(…この近くをうろついてるって事は、案外ウチの先生なのか?……やべえな、思い切り初対面のノリで接しちまったぞ。いや、向こうも知り合いに話しかけるようなトーンじゃなかったし……)
姫神「」チョイチョイ
上条「ありゃ?何やってんだ姫神。お前まだ帰ってなかったのか?」
姫神「……。人が転校してきたというのに。その淡白な反応は何?」
上条「あー……」
姫神「そうか。私はやっぱり。影が薄い女なのね」ズーン
上条「いや、あの、そんなに落ち込むなって。なんだかお前の周りだけ太陽の恵みが希薄だぞ……。元気だせよ、多分どこかの中学校でも転校生である事を忘れられてるやつはいるだろうからさ」
姫神「……、そんな事より」
上条(そんな事って……やっぱこいつも�拙み所がねーよな……)
姫神「小萌が呼んでる」
上条「……、はい?」
姫神「宿題を忘れた生徒は。居残ってやっていきなさい、だって。あなたは何を呑気に帰ろうとしているの?」
上条「……」
姫神「早く」
上条「え?…いやちょっとマジで?……、あ、すまんインデックスに風斬、金は預けるから適当にメシ食って遊んでてくれ」
姫神「」グイグイ
上条「あー、…不幸だ」
インデックス「……」
風斬「……」
インデックス「……行こ、ひょうか」
風斬「……うん」
インデックス「…どこ行く?」
風斬「え?…うーん、…今日は暑いし、地下街なんて…どう?」
姫神「ところで、ちょっと話が耳に入ったのだけれど。あのメガネの女の名前って。風斬氷華でいいの?」
上条「ん?どうした唐突に?」
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白井(いましたわね……)
シェリー「」スタスタ
白井(…通常対応ならば応援を呼んで、人払いも済ませてから被疑者確保といきたい所ですけど、下手に時間をかければ機を逃しますわね)
白井(私に与えられた命令は犯人の捕捉までであり、後の仕事は警備員のもの…ですが、警備員の方には任せておけませんわね。実際、すでに門の所で何名か被害が出ている訳ですし。力のない方は素直に避難していてくださいませ)
シェリー「」スタスタ
白井(これを使うと……始末書を書かされるから嫌なんですのよ、ね!)
ザワザワ
ヒナンメイレイダ
ワー キャー ニゲロー ハヤクー
ザワザワ
白井(…あの女、一切動こうとしなかった?…どういうつもりか知りませんが)
白井「動かないでいただきたいですわね。わたくし、この街の治安維持を務めております白井黒子と申します。自身が拘束される理由は、わざわざ述べるまでもないでしょう?」
シェリー「…探索中止。……世話かけさせやがって」
白井「…」
ブンッ ガシッ ブンッ ドサッ
白井「ですから────」
ガガガガッ
白井「────動くな、と申し上げております。日本語、正しく伝わっていませんの?」
白井「……、?」
シェリー「」ニヤリ
白井「な……」
シェリー「」カキカキ
白井「……ん、です……ッ!?」
シェリー「」カキカキ
白井(う…、腕?……、まずい、早く…)
ガシッ
白井(……あ、ぐっ……。まさか、外部の人間のくせに……能力者、なん……!?)
ギリギリ
白井(ま、ずい……ですわ。とにかく、体勢を、整え……ッ!)
ギチギチ
白井(ぁ、ぎっ……が……!?)
ベキベキゴキゴキ!
白井(な……、え……?)
ブゥゥン……
白井(砂、鉄?磁力で、振動して、いるチェーンソーのような……、お待ち、なさい……。磁力で、操る?まさ、か……!!)
美琴「何の騒ぎが知らないんだけどさ────」キィン
美琴「────私の知り合いに手ぇ出してんじゃないわよ、クソ豚が!!」ゴガッ
白井(す、すごい……)
白井(余波が生み出した烈風だけで、すでに並の風力使いを凌駕していますわ。一体どこまで底なしになれば気が済むんですの、お姉様ってば!)
美琴「あー、黒子。もう硬くならなくても良いわよ。あのでっかい手は囮だったみたいだから。超電磁砲の威力じゃなくて、自分から爆発したのよ。ほら、煙幕の陰に隠れてあの馬鹿女がどっかに消えてんじゃない」
美琴「で、あれって誰なの?アンタが追ってるって事は、やっぱ風紀委員がらみ?」
白井「え、ええ。どうやら不法侵入者みたいでしたのですけれど……お姉様ぁ……」
美琴「ちょっと、こら、アンタ!こんな時まで変な妄想膨らませて────」
白井「」プルプル
美琴「ったく」
美琴「黒子。アンタは何でも一人で解決しようとしすぎんのよ。あんなの相手にアンタが一人本気になったって馬鹿みたいでしょ。別に一対一で戦わなきゃいけないなんてルールもないんだし」
美琴「もっと私を頼れ。ヤバイ事が起きてからだけじゃなくて、少しでもヤバそうならそれだけで連絡を入れなさい。私に迷惑かけたくないなんて思わないの。状況が絶望的であればあるほど、そういう場面で頼られればそれだけ私を信頼してくれてるって証になるんだから。私がそれを拒絶するはずがないでしょ」ポンポン
白井「……うっふっふ。これぞまさしく千載一遇のチャンスですわ。こうして近づけばお姉様の胸の谷間へと思う存分……うっふっふ。うっふっふっふっふっふ!!」
美琴「なっ、え、あれ?……ちょっと!ひ、人がマジメに慰めてたっていうのに!黒子、アンタこの震えは武者震いなの!?」
佐天さんの能力について一応解説
モデルは「マクスウェルの悪魔」です。
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/マクスウェルの悪魔
能力の特性を一言で言うなら、「熱を移動させる能力」です。
モデルのマクスウェルの悪魔と違い、熱を移動させる際に分子の移動は起こりません。分子から分子へエネルギーを動かしています。温度差による気流の変化はあくまで二次作用です。そのため、液体や固体を介して熱を操る事も可能です。
応用で、初春の定温保存のように熱の移動を制限する事も出来ます。
あと、一方通行と違い皮膚表面上以外でも能力を使えます。
能力名は未定です。
むーちゃん「はー、何でゲーセンってこう財布の口を緩めるんだろうね?」
結局ゲーセンを適当に回っただけだった。
アケミ「そういうものだから」
『────下街にテロリストが紛れこんでおり、特別警戒宣言が発令されています。1107秒後に地下街は閉鎖されるので、早く、かつ可能な限り自然に逃げて下さい』
唐突に、頭の中から声が聞こえた。
マコちん「聞こえた?」
佐天「うん。多分、風紀委員の念話能力だよね」
アケミ「テロリストって、今朝の侵入者かな。まだ捕まってなかったんだ」
春上「とにかく、早く逃げようなの」
むーちゃん「そうだね」
特別警戒宣言の発令下では、一般人は即座に現場を離れなければならない。警備員による銃撃戦が起こる事もあるためだ。
出口を目指そうと歩き出して、ふと奇妙なものを見つけた。
佐天「ねえ…あれ、何だと思う?」
アケミ「ん?どーしたの涙子?」
真横の壁を指差す。ちょうど目線の高さに、掌サイズの茶色い泥がへばりついていた。
その泥の中央に、人間の眼球が沈んでいる。
ギョロギョロと、眼球はカメラのレンズのようにせわしなく動く。
「「「「「」」」」」
その光景のあまりの異常さに、呆気にとられて立ちつくしていた。
数秒後、眼球の動きが止まり、泥が蠕動しながら横へ移動していった。
佐天「…」
泥の動きを目で追う。すると、人の疎らになった道の数メートル先の反対側の壁にも、同様の泥がある事に気付いた。さらにその先の道端にも。
むーちゃん「……、何なの、あれ」
マコちん「分からない、けど……。今ここで私達が考えてもどうにもならない。今は早く逃げ」
ガゴン!!と地下全体が大きく揺れた。
佐天「!?」
春上「きゃあっ!」
足元が震動し、思わずよろめく。
重心を落としバランスをとると、さらにもう一度大きな揺れが地下街を襲った。
パラパラと、天井(てんじょう)から粉塵のようなものが落ちてくる。
蛍光灯が二、三度ちらついたと思った途端、いきなり全ての照明が同時に消えた。数秒遅れて、非常灯の赤い光が薄暗く周囲を照らし始める。
それまでのんびりと、避難訓練のように出口へ向かっていた人の波が一気にパニックを引き起こす。
アケミ「な、何が、?」
今度は、低く、重たい音が響き始めた。
予定よりも早く、警備員が障壁を下ろし始めたのだ。洪水の際に地下の浸水を防ぐためか、あるいはシェルターとして使うつもりだったのか、やたらと分厚い鋼鉄の城門が出口を遮るように天井から落ちてくる。人混みの最後尾を噛み千切るように、障壁は地面に叩きつけられた。あわや押し潰されそうになった、そして逃げ損ねた学生達は混乱したまま分厚い鋼鉄の壁をドンドンと叩いている。出口で検問を敷いていた警備員に詰め寄ろうとする者まで現れる。
閉じ込められた。
むーちゃん「ど、どうしよう」
佐天「……、落ち着いて。外に出るのはもう無理そうだけど、取り敢えず警備員のいる障壁の近くまで行こう」
出口のある方を見た。狭い出口に人が殺到したため、彼らの混雑が壁となっている。近づく事は出来そうに無い。警備員も彼らの対応に四苦八苦しているようだ。
それでも、他に出口がある訳でも無い。私達は群集に混じろうと足を一歩進めて、
インデックス「だから、敵は魔術師なんだよ!これは私の仕事なの!」
風斬「え、でも……、だめ、避難しない、と……。うう」
後ろから誰かの会話が聞こえた。
思わず振り返ると、向こうの方に猫を抱えた白い修道服のシスターと、制服を着ている気弱そうな女の人が居た。
女の人はうろたえながらも、奥へ進もうとするシスターの手を握って行かせまいとしている。
佐天「…みんな、ちょっと先に行ってて。あの人達を連れて来るから」
そう言い残して、反対方向に走り出す。
足音に気付いたのか、二人が同時にこちらを向いた。
佐天「…早く逃げよう、ここは危険だから、ね?」
諭すように白シスターに話しかけた。
彼女はものすごく何かを言いたそうな顔をしていたが、
インデックス「……、分かった」
と不服そうに返事した。
女の人が安心したように手を離した。
次の瞬間、
インデックス「ひょうか、スフィンクスの事は任せたんだよ!」
白シスターは抱えていた猫を放り投げ、奥へ走って行ってしまった。
風斬「え?……、あ、ちょっと……!」
女の人は猫をキャッチし、一瞬硬直したが、地面に降ろして白シスターを追いかけて行った。
佐天「……」
一人立ちつくす。しばらくそうしていたが、
佐天「……、追いかけよう」
猫を放置し走り出した。
私が何もしなくても、二人は警備員に止められるだろう。なので、別に追いかける必要はない、のだが。
佐天(……あの、目玉は…)
先程見た、泥の中に浮かぶ眼球の事が頭から離れなかった。状況から考えて、テロリストと無縁とは思えない。
壁には、茶色い泥がへばりついている。だがあの眼球は存在しなかった。普通の泥に『戻って』いる。
佐天(これは、やっぱり能力で造られた?って事は、学生の中にテロリストの協力者がいるのか、それとも外部の人間が能力者?…いや、それにしては何かおかしい…)
昨日図書館で読んだ、能力開発に関する本の内容を思い出しながら考える。
シュレディンガー理論、というのがある。これは、『観測する事自体が事象に影響を及ぼす』事を説明したものだ。
例えば、『宝くじが当たる確率50%』と『宇宙人が存在する確率50%』には明確な違いがある。前者は仮定によって成立しているのに対し、後者は認識、言い換えれば『主観』によって成立している。後者の状況は、量子論的には「宇宙人が存在している状態と存在していない状態が重なりあっている」状況となる。要は存在しているとも存在していないとも言える状況という事だが、それを私達は観測する事が出来ない。観測した段階で、その状況は塗り替えられ、50%という可能性は崩壊してしまう。
しかし、逆に言えば、観測する事で世界を改変する事が可能なのだ。
ならば、その『観測』────言うなれば『現実を見る力』が通常とズレていれば、普通に考えればあり得ない可能性を現実から引き出せるのではないか、というのが能力の正体である。
佐天(…あの時の様子から推測するに、あの目玉は、一つ一つが自律して動いていた)
つまり、パソコンのプログラムのように何らかの命令を土にインプットした、という事だ。
だが、そんな事が能力で出来るはずがない。
やっている事は、精神系能力による洗脳に似ているかもしれない。しかし、その対象が生物か非生物かで話は大きく変わる。能力はその原理上、作用は刹那的で、本人が意識を向けている間しか発動しない。精神的能力の洗脳の効果が持続し得るのは、例えば発火能力の火の玉が砕いたコンクリの破片は、火の玉が消えてもそのまま直らないのと同じだ。
つまり、アレは能力とよく似た、何か別の力────……
佐天(…この事は、警備員に伝えないと。敵を只の能力者だと思っていたら、足元をすくわれる)
ーーーーーーーーーーーーーーー
ブンッ
白井「風紀委員ですの。これより、あなたがたを順番に地上へ避難させます」
春上「!白井さん。御坂さんに、初春さんも」
美琴「あ、春上さん。そっちの人達は友達?」
初春「みんな一緒だったんですね。……、佐天さんは?」
マコちん「あ、飾利!…それが、さっき避難してなかった人の所へ行って、戻って来てないんだよ!」
初春「え!?」
白井「な……っ!」
美琴「…黒子。私が行く。アンタはこの人達の避難を」
白井「……、ですが」
美琴「アンタの空間移動しか、この人達を地上へ運ぶ事は出来ないでしょ。いいからこっちは私に任せなさい」
白井「……、分かりましたわ。くれぐれもご無理なさらぬよう。初春、あなたはこの混乱を抑えておいて下さいな」
初春「分かりました」
ブンッ
美琴「さて、私も行きますか」
ーーーーーーーーーーーーーーー
黄泉川「おい、そこの……って佐天か!一体ここで何をしてんじゃん!?」
怒号に、その場にいた十数名もの警備員が一斉に振り返った。
ここは戦場の第一線ではなく、野戦病院のような所だった。
黄泉川「くそ、さっきのガキどもに引き続いて…。佐天、逃げるなら方向が逆!a03ゲートまで行けば後続の風紀委員が詰めてるから、出られないまでもまずはそこへ退避!メットも持っていけ、無いよりはマシじゃん!」
黄泉川さんは、自分の装備品を外して私に放り投げた。慌ててバスケットボールのように受け取る。
佐天「……」
彼らの傷は尋常では無い。既に動けない者もいる。しかし、それでも彼らの戦意は喪失していない。
彼らはあくまで『教員』に過ぎないのに。
命を賭けてまで戦う理由など無いのに。
佐天(……)
警備員や風紀委員は推薦や徴兵ではなく立候補によって成立する。
それはつまり、ここにいる人達は、誰に頼まれるまでもなく、子供達をを守りたいから志願してここに集まってきた、という事だ。
恐らくこの先にも、こんな絶望的な状況が続いている。
佐天(……、気が変わった)
ヘルメットを抱え、奥へと進む。
黄泉川「────────!」
背後からの制止の叫びを振り払い、私は駆け出した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
最前線まで辿り着いた。
ここの警備員も、先程と同様に尋常では無い傷を負っていた。白シスターを追いかけた女の人はすぐそこに立っている。彼らの目は、ただ一点に釘付けになっていた。
佐天(……?)
彼らの視線の先へと目を向ける。そこには、鉄パイプ、椅子、タイル、土、蛍光灯、その他あらゆる物をを寄せ集めて造った巨大な人型の石像があった。
その正面には、白シスターが立っている。
石像が右腕を持ち上げ、白シスターめがけて振り下ろした。危ない、と叫んだが、白シスターは顔色一つ変えずに何かを呟いた。
インデックス「────」
突如、石像の右腕の軌道が横に大きく逸れ、何も無い地面を叩いた。震動から逃れるためか、白シスターはタイミングを合わせてジャンプする。
石像は追撃をかけようと、左腕を振り上げる。が、
インデックス「───、────!」
石像の両足が交差し、思い切り前のめりになった。バランスを失い地面に倒れる。
白シスターは修道服から安全ピンを幾つか抜き取り、石像へ投げつけた。その一部が肘に突き刺さり、起き上がるための支柱にしていた右腕が不自然に動きを停止する。
佐天(凄い……)
警備員が呆然としている理由が分かった。自分達を壊滅させた石像に、何の力も無い少女が互角に戦っている事が驚異的なのだ。
シェリー「ふん。流石は禁書目録、と言ったところか。まさかこっちの命令に割り込んでくるとはね」
石像の後ろから声が聞こえた。そこで初めて、他に人がいた事に気付く。
荒れた金色の髪に、褐色の肌が特徴的な女性だった。擦り切れたゴシックロリータの服を着ており、手にはオイルパステルが握られている。周囲の地面や壁には、オカルトじみた魔法の文字のような記号がびっしりと描かれている。
女はオイルパステルを十字架を描くように振った。その動きに連動するように、石像が左腕を支えに立ち上がる。
シェリー「だったら、自動制御に変更したらどうするのか、な!」
オイルパステルが思い切り横に振られた。石像が左腕をゆっくりと持ち上げる。
インデックス「────────」
石像は先程までと違い、白シスターの声に何の反応も示さなかった。彼女の顔が青ざめる。
佐天「ッ!」
思わず走り出した。大き過ぎる拳が振り下ろされる。白シスターを思い切り突き飛ばし、自身は速度を殺さないように地面を転がった。
私のすぐ隣の地面に、巨大な腕が突き刺さった。
恐怖に震えている暇は無い。白シスターの手を掴み、急いでその場を離れる。
ゆっくりと持ち上がる左腕の肘と肩に熱を集中させて融かし、冷やして固めた。
佐天(このまま、関節を全部溶接してやる)
昨日の夜能力を使っていて分かった事がある。操れる熱の総量には上限があるが、その操作に制限は無い。つまり、この石像をまるごと融かしたり凍りつかせたりする事は出来ないが、範囲を狭めれば温度変化の幅が広くなる。
あの石像は、かなり忠実に人間を模している。全ての関節を固めてしまえば動きを止められるはずだ。次は脚を封じようと、仮想の手を伸ばして、
ガゴン!!と、地下街全体が震動した。
佐天「く────!?」
石像が大きく地を踏みしめた。耐え切れずに地面へ倒れ込んでしまい、仮想の手のイメージが消滅する。
何らかのトリックでもあるのか、女だけは平然と立っていた。まるで風景から切り離されたように、彼女だけは揺れのダメージから完全に逃れている。
石像が両腕を真横に振るった。壁に直撃した腕が千切れ飛ぶ。
石像の壊れた腕は、周囲のガラスや建材を巻き込んで再生してしまった。
佐天(…直された、か)
白シスターの安全ピンによる固定も私の溶接も元通りになってしまっている。
佐天(溶接は無意味。固めて、直されて、って繰り返すだけじゃジリ貧か。でも…)
どうすればあの石像を止められる、あるいは倒せるか。あの女を気絶でもさせればいいのか、いや、あの目玉の例から考えるに、それで石像が止まる保証は無い。逆に石像を止める手段を自ら潰してしまう可能性すらある。
鉄装「離れて!」
不意に、横合いから叫び声が上がった。
傷ついた警備員の一人が、倒れたままライフルを�拙んでいた。
小さな銃口が勢いよく火を噴いた。銃声と閃光が薄暗い地下街の通路を塗り潰す。空を引き裂く弾丸は、石像を転倒させるために、次々と石像の脚部へ激突する。
佐天「うわっ!?」
頬のすぐ横を突き抜けた烈風に、思わず声を上げた。
通路を遮る石像の体は鉄やコンクリートの寄せ集めだ。そんなトン単位の重量を持つ壁に向かって弾を放てば、ピンボールのように跳ね返るに決まっている。
警備員は私達を守ろうとし、実際に石像の歩はそこで止まっている。脚部を集中的に狙われているためか、地を踏み鳴らす事もない。迂闊に足を動かせば、その後ろにいる女に弾が当たりかねないからだ。
しかし、同時に石像の体から反射する弾丸は四方八方へ無秩序にばら撒かれる。結果として、私達は地に伏したまま一歩も動けなくなった。
佐天(取り敢えずこのままやり過ごして、弾丸を装填する瞬間を狙ってここから離れ────)
インデックス「……、ねえ」
唐突に、白シスターから声をかけられた。
佐天「…何?」
インデックス「さっきの熱くして溶かすやつ、ゴーレムの左胸辺りに出来る?」
ゴーレム、という言い方が気になったが、些細な事なので意識の外へ追いやった。
佐天「…出来るけど、どうして?」
インデックス「アレは、人間をベースにしたゴーレムに天使の要素を混ぜたものだから。左胸…ちょうど人間でいう心臓の位置に、シェム、いわゆる『核』があるはずなんだよ。シェム自体はルーン文字の刻まれたガラクタに過ぎないからね。うまくいけばゴーレムそのものを破壊出来るかも」
佐天「……、は?」
インデックス「あ、えっと……、とにかく!言うとおりにして欲しいかも」
佐天「…」
他に策がある訳でも無い。彼女の指示に従い、石像の胸の中央、少し左寄りの位置に熱を集中させた。
石像はピタリ、と一瞬静止し、ガラガラと音を立てて崩壊した。
同時に銃声が止んだ。
佐天(……、どういう…一体)
疑問が湧き出し心を満たす。
彼女の言う通り、左胸に『核』の役割を果たす物があったようだ。
そして、それはあの石像が目玉同様、ある程度の自律性を持っていた事を示す。つまり、『能力ではない』。
では、あの石像や目玉は何なのか。
佐天(魔、法……?)
そんな突拍子もない言葉が頭に浮かんだ。
自分の隣にいるシスターを見る。明らかに宗教関係者の様だが、何か関係があるのか。だとすれば彼女は何者だ。
シェリー「チッ、何をしたのか知らないが────」
思考は途中で打ち切られた。
女がオイルパステルを振るう。地面が不自然に隆起し、細長い柱のようになった。その柱を中心として、磁力で吸い寄せられるように周囲のあらゆる物が集まり、巨大な人型を形作る。
インデックス「さっきと同じように、お願い」
佐天「……、オーケー」
再び左胸へと熱を集中させた。ゴーレム(?)がただのガラクタへと逆戻りする。
シェリー「…成る程ね。核をピンポイントで破壊されてた訳か。でもそれは、核が何処にあるか分かんなけりゃ意味ねーよなあ!」
女の左右の壁が隆起し、二本の腕ののうになる。
佐天「……?」
確かに人型をしていないため、核とやらの位置は分からない。だが腕は壁に固定されていて、どう考えても私達に届く程のリーチは無い。
相手の狙いが分からない。
思わず身構えたが、直後にその狙いに気付き愕然とした。
二つの巨大な手が、地面に散らばる数十個の瓦礫を握り持ち上げた。
佐天(投擲!?)
あれだけの数の瓦礫を同時に投げられれば、避ける事も止める事も出来ない。ならばその前に動きを止めるしかない。
咄嗟にゴーレムの二本の腕全体を凍らせる。しかし、バキバキ!と氷の砕ける凶暴な音を立てて、腕は大きく肘を伸ばした。
佐天(…だったら、まずは片方!)
インデックス「────!」
私が向かって左側の腕の肘を融かすのと同時に、白シスターが何か叫んだ。腕は無理矢理上へ動こうとし、肘が千切れて落ちる。
腕だけとはいえ相当の質量があったようで、地面が揺れた。
佐天「っ!この……」
先程の震動ほど大きく揺れてはいないが、それでも足を取られた。集中力が途切れる。
佐天(あ、ま、ずい…右側は、もう間に合わな────)
少しでも足掻こうと、地面に体を伏せようとして、
チカッと視界の隅が一瞬光り、私の横を何かが物凄い速度で通過して、ゴーレムの腕が肩から吹き飛んだ。
美琴「…全く、一人で突っ走ってんじゃないわよ、佐天さん」
御坂さんが歩み寄って来て、励ますように私の肩を軽く叩いた。そしてポケットからコインを取り出し、腕を伸ばす。
美琴「さてと、アンタ、覚悟は出来てんでしょうね。何が狙いが知らないけど、私の友達と後輩に手を出したのは許されないわよ」
シェリー「…くく、狙い?そうだなあ、狙いなんて誰でもいいんだよ。超電磁砲に、禁書目録に、虚数学区の鍵。よりどりみどりで困っちゃうわぁ。ふふ、くくく」
女は追い詰められているにも関わらず笑っている。その不気味さに背筋が凍る。
女がオイルパステルを持ち替えた。
まるで水面のように、足元が波打った。
佐天「危ない!」
咄嗟の判断で御坂さんと白シスターを突き飛ばす。一瞬遅れて、地面が泥のように崩壊した。
地面の崩壊は広範囲に及び、崩壊を起こしたはずの女すら巻き込んでいる。
佐天(…?逃げるのが目的?)
穴の底へと落ちていく。空中で首を回して下を見ると、ぼんやりと照らされた金属質の床が見えた。
美琴「…全く、一人で突っ走ってんじゃないわよ、佐天さん」
佐天さんのすぐそばまで歩き、優しく肩を叩いた。そして、ポケットから本日三枚目のコインを取り出し、奥にいる女に向けた。
美琴「さてと、アンタ、覚悟は出来てんでしょうね。何が狙いが知らないけど、私の友達と後輩に手を出したのは許されないわよ」
磁力線を構築し、何時でも超電磁砲を撃てるようにしておく。
シェリー「…くく、狙い?そうだなあ、狙いなんて誰でもいいんだよ。超電磁砲に、禁書目録に、虚数学区の鍵。よりどりみどりで困っちゃうわぁ。ふふ、くくく」
女がオイルパステルを持ち替えた。その瞬間、僅かに地面が波打ったような気がした。
佐天「危ない!」
佐天さんに突き飛ばされる。直後に目の前の地面が崩れて、佐天さんが落ちていった。
美琴「────!佐天さん!」
手を伸ばす。だが、届かない。
佐天さんの体が暗闇に呑まれて見えなくなる。
美琴「……この……!」
目の前の女を睨み────、居ない。
先程女が立っていた場所も崩壊しており、大きな穴になっていた。
美琴(逃げられた?)
とにかく、今は佐天さんの安否が気になる。穴の底へと飛び降りようとした。
バキバキ!と壁が隆起し、周囲の鉄やコンクリの破片、壁のタイルや蛍光灯が吸い寄せられるように集まって、四メートルを越える人型の石像が生まれた。
美琴「ああもう!最悪の置き土産ね!」
背後の警備員は戦うどころか立ち上がる事すら困難な状況だ。戦えるのは私しかいない。
だが、先程のように超電磁砲で吹き飛ばすという選択が取りづらい。さっきの腕とは体積がまるで違う。地上での腕のように爆散でもされたら、瓦礫が全方位に飛散してしまう。その場合、自分は大丈夫だろうが、警備員やそこの銀髪シスター、気弱そうな女子高生はどうなるか。
美琴(面倒くさいわね….)
天井、壁、床の割れた隙間から砂鉄を引き寄せ、高速振動する剣を作り出す。
思い切り横に振って、石像を上半身と下半身に斬り分ける。しかし、周囲の瓦礫が集まり切断面を修復してしまう。
美琴(だったら!)
石像を構成する鉄塊を操り内部から崩壊させられないかと試みた。が、うまくいかない。何故か鉄塊が磁界に反応しなかった。
インデックス「左胸を狙って斬るんだよ、くーるびゅーてぃー!」
美琴「はぁ!?くーるびゅーてぃーって私の事?左胸って、言われても、ね!!」
動き回る石像の一部分をピンポイントで斬るのは難しい。うまく入りそうになると、地面を揺らされ逸らされる。
美琴(…コレ、能力じゃ、ない…?)
心の中に生じた違和感の正体を突き止めようとして、僅かだが隙を作ってしまった。
石像が地面に散らばる無数の瓦礫を蹴り上げた。瓦礫は砲弾となって襲いかかる。
美琴「ッ!」
咄嗟に砂鉄で防ごうとした。だが、数が多すぎる。しかも突然の事だったので、全てを防ぐ事は出来なかった。
美琴(マズ……!)
思わず後ろを振り向く。瓦礫の幾つかが後ろへと飛んで行き、
その一つが、すぐそこに立っていた気弱そうな女子高生の脇腹に直撃し、華奢な体がノーバウンドで三メートル近く宙を舞った。そのままの勢いで支柱へと激突して、頭の半分が卵のように潰れた。
美琴「え?」
警備員は衝撃吸収率の高い装備で全身を固めているため、致命傷を負う事は無かったようだった。
だが、彼女は違った。頭の右半分が抉られたかのように破壊されている。髪の毛のついた頭の体表面らしきものが辺りに飛び散っていた。
と、飛び散った肌色の皮膚の中に、一つだけ大きなパーツがあるのに気付いた。それは瓦礫が当たった時に千切れたのか、根元から乱雑に切断された右脚だった。
その無惨な光景が、殺された一人の妹達と重なった。
美琴「う……ああああああああああ!」
再び石像の方を向き、ありったけの砂鉄を引き寄せる。その全てを台風のように渦巻かせ、石像へとぶつけた。
二本の足が地面を離れ、四メートルもの巨体が吹き飛ぶ。
インデックス「……ひょうか!!」
銀髪シスターが我に返ったかのように走りだした。私も急いで駆け寄る。
周囲が薄暗いためよく見えなかったその惨状が目に入り、足が止まった。
ブンッ
白井「では、次の────」
初春「白井さん、こっちはもう問題ないんで、御坂さんを追いかけて下さい」
白井「?何を……」
辺りを見回す。避難を待っていた人が一人もいない。
初春「私がシャッターを開けたので、既に避難は完了しました」
初春が常に持ち歩いている折り畳みの小型端末が、黒いコードで壁のパネルに繋がれていた。
白井「…全く、後で始末書を書かされますわよ?」
初春「望む所ですよ!」
青ピ「…なあ、何でこんな事になっとるんやろうなあ、上やん?」
上条「…何がだよ」
青ピ「僕は子萌先生との特別レッスンを楽しみにしとったのに、何で各自で黙々と終わってない宿題をこなしとんの?」
上条「知るかよ!!つーか自業自得だろ!?宿題を忘れるだけに留まらず全部やってない事にしたのはテメェ自身じゃねえか!あと字を間違えてるぞ」
青ピ「あー、せめて自習の見回り的な感じでもええから小萌先生が教室におったらええのになあ」
上条「仕方ねーだろ、この変態が。何か調べ物みたいだけど、小萌先生は小萌先生で色々と忙しいんだろうさ」
青ピ「…上やん、サラッと罵倒すんのやめてくれへん?結構傷つくんやけど」
ガラガラ
小萌「上条ちゃーん」
青ピ「あれ、先生?もう調べ物は終わったんですか?」
小萌「とっくに終わってしまったので、みんなの宿題をチェックしていたのですよ。ところで上条ちゃん」
上条「…何か嫌な予感がするのですけれど、何でしょうか?」
小萌「古文の宿題が全問正解だったので、やり直しなのです♪」
上条「…いや、その理屈はおかしい!!というか古典的すぎる!別に上手い事を言ったつもりはないけれども!一応自力で解きましたよ!?そんな狼少年のごとく古典的な展開に需要は無いんですから────」
小萌「本当に、自力で解きましたか?誰かから言われた答えをそのまま書いていただけではないですか?」
上条「…」
小萌「はい問答無用なのですー」
上条「あ、しまった!ちくしょう!不幸だあああああ!」
佐天(…ん?私、は…)
目が覚めた。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
そこは薄暗い地下鉄の構内だった。金属の床だと思ったものはレールで、真っ平らな金属の塊に一直線に二本の溝が刻まれている。
私はぼろぼろと泥のように崩れたコンクリートの上にいた。落ちた時に緩衝材の役割を果たしたのか、特に外傷は無い。
佐天(御坂さんに、白シスターは)
周囲に誰もいない事を確認し、上を見上げる。天井に穴が空いているが、残念ながらよく見えない。ただ、かすかに聞こえる音から判断するに、
佐天(御坂さんが、戦ってるのか)
振動音は途切れず、たまに地響きが聞こえる。詳しい状況は分からないが、どうやら苦戦しているようだ。
佐天(!そうだ、あのテロリストの女は)
周囲には誰もいない。一緒に落ちてきたはずなので、既に逃げられたという事だ。
もう一度上を見る。
佐天(…今からでも追いかけて、ゴーレムを止めさせる)
どれだけの間気を失っていたかわので、もう追いつけないほど遠くへ逃げられた可能性もある。だが、現状では私に出来る事は他にない。
足を踏み出して、痺れたような感覚が生じた。
佐天(あー、そういえば昨日からずっと走ってばっかりだな…)
だが、立ち止まらない。
佐天(私だって…!)
後で振り返ると、この時の私は若干能力に溺れていたような気もする。
地下鉄の構内の中央には等間隔で四角いコンクリートの柱があり、上り線と下り線を隔てている。どこまで行っても変わらない風景の中を走り続けて、
不意に、すぐ側の柱が崩れた。
まるで見えない巨大な手で積み木を崩すような、明らかに不自然な現象だった。
佐天「っ……!?」
柱が私に向かって倒れてくる。慌てて横合いへと跳んで避けると、ズン、という恐ろしい音と共に、コンクリートの粉塵が舞い上がる。
シェリー「なんだ、落ちてきたのはあなただけなのね。だったらこんな所で待ち伏せしてた私が馬鹿みてえじゃねえか」
闇の先から声がかかる。咳き込みながら視線を向けると、薄汚れたドレスを引きずるようにして、金髪の女が立っていた。思ったよりも逃げていない。
彼我の距離はおよそ10メートル強。
あのゴーレムの姿はどこにもない。そういえば、御坂さんが上で相手をしていた。となると、2体同時には作れないのだろうか。
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