アニ「太陽がまた・・・」(36)
掲載誌の最新話までネタバレがあるのでアニメ派やコミックス派の方はご注意ください。
お父さんと交わした帰ってくるという約束。
そんなつまらない約束のためにも、どうしても生きたかった。
いや、ただ逃げているだけなのかもしれない。
これまでしてきた事を考えれば殺されるのも当然に思える。
往生際が悪いと罵られても仕方がない。
それでも生きたかった。
もうあの約束にすがるしかなくなったから。
この壁の中には私の居場所などどこにもない。
あいつらの輪の中には戻れない。
私は強くなかった。
もちろん格闘術には自身があったし、その辺りの男共には負ける気なんかしない。
でも強い人間ではなかった。
本当に強い人間というのはあいつのような奴のことを言うのだろう。
あいつは最後まで私を信じようとしてくれていた。
でも私はそんなあいつを裏切った。
最後に見たあいつの顔を思い出すだけで心が張り裂けそうだった。
結局私はいつも逃げてばかりだった。
そして今もまた自分のカラに閉じこもるように逃げている。
これ以上逃げても絶望しか無いというのに。
そんな自分を嘆きつつ、次第に意識は遠のいていった・・・。
「アニは・・・どう・・・なった・・・?」
隣で体を支えてくれているアルミンに問いかけてみたがアルミンも分からないようだった。
ふと目をやると水晶のようなものに包まれたアニが見える。
周りの兵士が罵声を浴びせているようだ。
少し心がざわつく。
あいつはそれだけのことをやったじゃないか。
同じ班の先輩方を殺し、母さんが死ぬきっかけを作った奴。
憎いはずだ、憎いはずなのに・・・
黄昏がせまる頃、人目につかないようにシートを掛けられた彼女を載せた荷車はここを去っていった。
それをただ見つめることしか出来なかった。
気がつくと私は一人部屋の中に居た。
見慣れた自分の部屋だ。
ザーザーと雨音が聞こえる。
外はどうやら雨が降っているようだ。
部屋も薄暗い。
帰ってきたのか?
いや、違う。
お父さんはいない、というより人の気配がしない。
ベッドに腰を掛け少し考える。
夢だろうか?
夢ならばもう少しいい夢を見せてくれてもいいのに。
ふとあいつの顔が浮かんだ。
ついこの前の事なのに懐かしくさえ思える訓練兵だった頃の記憶。
できるだけ他人と接触しないようにしていた。
自分の事に精一杯で他人に構っている余裕などなかったし情が移っても困る。
それにこの世界の事を何も知らずのうのうと生きている奴らと関わる気もなかった。
でもあいつは違った。
あいつはこの世界でただ強くあろうとした。弱いなりに。
あんな状況に遭遇しながらも心が折れることもなく夢を諦めていなかった。
ただただ真っ直ぐだった。愚直なほどに。
自分にはそれがとても眩しく見えた。
太陽のように。
気まぐれで掛けてやった技だったが時々教えたりもした。
お父さんの技を褒めてくれただけで少し気を許してしまった。
私も随分と頭の軽い女だと呆れてしまう。
それに少し負い目もあったのかもしれない。
ただライナーやベルトルトみたいに優しく振る舞うことができるほど私は強くなかったし、そんな資格も無いと思った。
でも次第にあいつと居ることを楽しんでいる自分が居た。
なぜか不意にあいつの事を考えてしまうことが増えた。
あまり使わない絞め技なんかも掛けて抱きついてやったか。
あれは女の子との口の聞き方を知らないあいつが悪いんだ。
ちょっとした気の迷いだ。
そうしてあいつと関わっていくうちに他の奴らとも関わりが深くなってしまった。
あいつは良くも悪くもみんなを惹きつける奴だったから。
せっかく人と関わらないようにしていたのに情が移ってしまい結果があのざまだ。
どうしてあいつと関わってしまったのだろう。
関わらなければこんなに苦しまなくてすんだのに・・・
私のことなどいっそ忘れてくれたらいい。
きっともうあいつは私にあの頃のような輝いた眼差しを向けることは無いだろう。
そう考えるととても怖くなった。
分かっていたことなのに、覚悟していたはずなのに。
これ以上考えるのはよそうとふと目を横にやるとベッドの脇にある低い棚の上に小さな箱を見つけた。
その箱を手に取り開けてみると懐かしいメロディーが流れてきた。
昔よく聴いていたオルゴールだ。
優しい音色がする。
この音色に耳を傾けていると、なぜか周りのシルエットは滲んでいった。
ポタリ、ポタリと床に落ちる雨音とは異なる滴の音が聞こえる。
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