夕張「艦を懐胎して欲しいそうです」提督「そうか」 (35)

提督「しかし忍びないな……任務とはいえ解体なんて……」

提督(うちもそれだけ規模が大きくなってきたということなんだろうか……)

夕張「提督には無理ですよねー」

提督「……褒め言葉として受け取ろう」

夕張「いや褒めてませんよ。生物学的にですよ」

提督「生物学的にってなんだよ! お、俺だって男だ! 任務とあらば覚悟を決めて……」

夕張「いや男だからですよ」

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夕張「私ならできますよ、提督」

提督「いや……お前にやらせるのもなぁ……」

夕張「何言ってるんですか」

夕張「ふ、2人でやるんですよ……」モジモジ

夕張「って何言わせるんですか!」バシバシ

提督「痛い痛い」

夕張「まあ、懐胎するのは私で、させるのは提督なんですけど……」

夕張「って何言わせるんですか、もう!」バシバシ

提督「痛いって。何言ってるんだよ」

提督「……結局誰かがやらなきゃいけないんだろ? 別に恐ろしいことをするわけじゃないとはいえ、お前に辛い思いをさせるわけにはいかない」

夕張「提督……」

夕張「まあ、ちょっと辛いのかもしれませんけど……わ、私は提督のためならがんばれますよ」

提督「むむむ……」

提督「……なあ、その任務は絶対なのか?」

夕張「一応、鎮守府側の任意だとは書いてありますが……」

提督「なんだ! なら、解体を望む子がうちにいなければ別に……」

夕張「いっぱいいるに決まってるじゃないですか……」

提督「いっぱいいるの!? 提督としてすごい悲しいんだけど!?」

提督(み、みんなここにいたくないのかな……)

夕張「男として喜ばしいことですよー、良かったですねー」イジイジ

提督「いや全く!? お前はなんでいじけてるの!?」

提督(な、なんてことだ……みんな笑顔で接してくれるアットホームな職場だと思っていたのに……)

提督(その実、みんな早くここから出て普通の女の子になりたがっていたのか……)

夕張「提督?」

提督「そ、そうか……」

提督「なあ夕張……お前もやっぱり解体を……」

夕張「……の、望んでるに決まってるじゃないですか……」

夕張「ってもう! 何回言わせるんですか!」バシバシ

提督(マジかよ……)ズーン

夕張「提督?」

提督「…………」

提督「なあ……参考までに……誰が解体希望なのか訊きたいんだが……」

夕張「懐胎希望って何かすごい字面ですけど……」

夕張「まず、金剛さんは言わずもがなじゃないですか」

提督「言わずもがなってなんだよ! 意外すぎるよ!」

夕張「いや、普段の金剛さんを見れば明らかですよ!」

提督「普段の金剛をよーく思い返した結果、"意外"以外の何物でもないよ!」

夕張「そうなんですか!?」

夕張「後は……ビスマルクさんも来たときから興味津々って感じだったんで意外と……」

夕張「空母だと大鳳さん、重巡だと古鷹さん、軽巡だと能代さんとかけっこう……」

提督(み、みんな俺に対して穏やかな感じの子が挙げられていく……女心ってホントわからない……)

夕張「駆逐艦の子たちは……どうなんでしょう。まだそこまで考えてないみたいですけど」

提督「まだ、ってことはゆくゆくは……」

夕張「まあ……ゆくゆくはそうなるんでしょうね。仮にも女の子ですもん」

提督「……」ズーン

提督(やっぱり普通の生活に興味や憧れがあるんだろうな……)

夕張「落ち込むところじゃないですよ」

提督「ここで落ち込まずにいつ落ち込むんだよ……」

夕張「雷ちゃんとかはもしかしたら即OKの可能性も……」

提督「俺がOKじゃないよ!」

夕張「まあ……社会的にアレですもんね」

提督「社会がどうとかじゃないから! 俺の気持ちの問題だよ!」

夕張「わ、私はギリギリセーフですよ提督!」

提督「ギリギリってなんだよ! セーフってなんだよ!」

夕張「ま、まあ……確かに提督の気持ち次第なんですけど……」

提督「この際だから言うけど……お前が一番イヤだよ!」

夕張「…………………」

夕張「そう……ですか……」

提督「あ、当たり前だろ……」

夕張「当たり前……なんですか……」

提督「なんだかんだ、長いつきあいじゃないか。それに、お前には開発やら工廠のメンテナンスやらで世話になってるし……俺には考えられない」

夕張「それは……部下としては大切に思ってくれてるってことですよね……」

提督「そ、そうだ」

提督「いや、女性としても……」

夕張「?」

提督「な、なんでもない」

提督「ともかく、その任務は無しだ。大本営にもそう伝える」

夕張「はい……」

提督(しかし参ったな……金剛たちに一度話を聞いてみなければ……)

ガチャ

大淀「失礼します」

提督「?」

大淀「すみません。先ほど渡した書類に不備がありまして。単なる誤字なんですが……」

……………………………

提督「なるほど、道理でおかしいと思ったんだ……」

夕張「なるほど、道理でおかしいと思ったんです……」

提督「いや、お前は文面で気づけよ!」

提督「どう考えても懐胎はおかしいだろ! 本部がそんな任務送ってくる訳ないだろ!」

夕張「大本営から普段良い子にしてる私へのプレゼントかと思って……」

提督「サンタかよ!」

夕張「でもケッコンカッコカリって指令があったわけじゃないですか。そしたら必然的に次のステップもあるべきじゃないですか」

夕張「カイタイカッコカリ」

提督「べきではない」

提督「それ以前に、俺は夕張とケッコンカッコカリとやらをしてないじゃないか……」

夕張「既成事実、って知ってますか提督」

提督「知ってるよ! 知ってるけどカイタイカッコカリしたところでお前の練度はどうにもならないから!」

夕張「…………」

提督「泣かんといて」

提督「こんなことを訊くのも何だが……お前、子どもが欲しいのか……?」

夕張「いえ、そういうわけではなくて……その……提督と……」

夕張「その……」

提督「わかった。すまん。変なことを訊いてしまった……」

夕張「ヒントは川内さんです」

提督「わかったから!」

提督「まあ……なんだ……夕張が俺のことを憎からず思ってくれてるのはとても嬉しいし……」

提督「別にお前と……そういうことをしたくないわけではないし……」

夕張「……て、提督」

提督「?」

夕張「私、夜遅くまで工廠にいますから」

夕張「深夜アニメとか見て夜更かししてますから」

夕張「いつでも来てくれて構いません」

夕張「…………なんて」

提督「…………」

夕張「……ヒントは川内さんです」

提督「わかったから」

その後、建造任務が深夜に行われるようになったのはまた別のお話。

…………………………

………………

………

夕張「デキましたよ、提督!」


おわり

何これ

またどこかで会おうね

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