P「それでも俺はやってない」 (138)
“アイドルマスター”のSSです
ちょっとテーマが重いですし、不愉快に感じる方がいるかもしれないので自己責任でお願いします
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402749173
―12/10/2009―
P「もうちょっとで23時か……」
P「昔はみんな認知度が低かったから俺や律子や小鳥さんだけでも回せてたけど今はキツいなぁ」
事務所での雑務を終えて都内環状線の車内で思わず苦言を漏らしてしまった。
竜宮小町や千早を筆頭に765プロの所属アイドルたちは着実に成果を上げている。
一年前、プロデューサーに着任したころは地方の農村でライブしてみんなで喜んでいた。
だけど今ではバラエティーのゲストや深夜枠のレギュラーなど色々な仕事を出来てみんなも活気に満ちている。
有名になったのはもちろんみんなの努力の賜物だが、そこに欠片ほど俺の努力も混じっている思うのは俺の自信過剰だろうか。
疲労から来る気だるさと春の日のような充実感が入り混じって眠気が襲ってくる。
目蓋の重みが俺を苛み、ぼやけた視界に学生らしき人影がわずかにあることを確認してその誘惑に身を委ねた。
痴漢の冤罪か?
P「ふぁ……。今どこら辺だ?」
車内アナウンスに起こされた俺は目蓋を擦りながら看板を見ればそこは俺の最寄り駅だった。
P「ヤバかったな。あとちょっとで乗り過ごすところだった」
急いでカバンを抱えてホームに降りる。
後ろが姦しく、目をやれば車内にいた学生たちが同じホームに降りたらしい。
P(そう言えば俺も三年前まではああやって友達と飲み会をやっていたな)
少しノスタルジックな気分になりながら階段に歩を進める。
P(今度の休みにでも友達を誘ってみるかな)
そんなことを考えつつ3段4段と階段を登っているそのとき
>>3
そうです
男子1「ちょっと待てよ、この痴漢野郎!」
突然の声と引力に引き付けられ、身体を浮翌遊感が襲った。
P「は?」
自分でも情けなるほどの呆けた声が出て、背中から来る鈍痛に骨が軋む。
男子1「おまえだろ!おまえだろ!」
背中の鈍痛と顔に襲い掛かる衝撃に思考が混濁する。
P「な、なんだお前ら!」
女子「あんた今お尻触ったでしょ」
男子2「この痴漢野郎が!」
もがいているうちに自分が理不尽な暴行を受けていることを理解した。
P「た、助けてくれ!駅員さん!誰か来てくれ!だれかぁ!」
男子1「黙れ痴漢野郎!この野郎が!」
叫んでも誰も助けてくれない。
いつ終わるかも分からない暴行から逃げるために馬乗りになった男の腹に拳を打ち込む。
男子1「ぐえっ」
男が怯んだ隙に膝蹴りの要領で押しのけ、カバンを掴んで階段を駆け上がる。
視界がぼやけるのは殴られた後遺症ではなく、殴られた際にメガネがどこかに行ったらしい。
ガクガクと震える足腰に喝を入れてケータイで110番通報し、罵声を向ける学生から警察が来るまで逃げ回った。
―警察署―
俺の掴んだ蜘蛛の糸は切られたらしい。
学生たちと共に交番に連れて行かれ、椅子に座ったとき助かったと思った。
警官に1時間半を要して顛末を告げたと言うのに警官の対応はおざなりだった。
警官はどうやら俺を痴漢と断じたらしい。
せめて未成年後見監督人だった高木社長に連絡を取りたいと言ったが唾を吐かれた。
警官が本書に行けば電話も貸してあなたの言い分を聞く、と言われ新宿警察署に任意同行された。
そしてそれは嘘だった。
警察署に連れて行かれた後も俺の言い分は全く聞かず、数時間の取調べが終わり留置所に入る前に見た最後の時計は午前5時45分だった。
―警察署―
俺の掴んだ蜘蛛の糸は切られたらしい。
学生たちと共に交番に連れて行かれ、椅子に座ったとき助かったと思った。
警官に1時間半を要して顛末を告げたと言うのに警官の対応はおざなりだった。
警官はどうやら俺を痴漢と断じたらしい。
せめて未成年後見監督人だった高木社長に連絡を取りたいと言ったが唾を吐かれた。
警官が本書に行けば電話も貸してあなたの言い分を聞く、と言われ新宿警察署に任意同行された。
そしてそれは嘘だった。
警察署に連れて行かれた後も俺の言い分は全く聞かず、数時間の取調べが終わり留置所に入る前に見た最後の時計は午前5時45分だった。
―翌日―
6時前に入れられたというのに6時半には叩き起こされた。
三十分しか寝れなかったが昨日に比べれば幾分か頭はクリアになっている。
空いた時間に考えるのは職場やみんなのことだった。
そして自分が仕事人間だということを認識して一人笑った。
掃除・朝食・運動とまるで臨海学校に来たような日程を過ごし、9時半になったとき刑務官に呼ばれて面会室に向かう。
ドラマで見るような穴の開いたガラス板を隔てた先には高木社長がいた。
社長の顔を認識した瞬間、犬のように紐で繋がれているのに嬰児のごとく泣く俺だった。
社長は延々と泣く俺も見ても笑わずにただただ大丈夫だ、そう慰めの言葉を掛けてくれる。
一頻り涙を流した俺は口を開く。
結構批判があるみたいですね
アイマスで書く理由は好きだし題材に条件が合っていて
書きやすいからなんですけど書いたらダメですかね?
一応注意書きはしたつもりなのですが
考えましたが途中で投げ出すのは見ている方に失礼なので完結させようと思います
その上でお叱りを受けようと思います
グダグダ悩んで申し訳ない
あとやよいぱいたっちを軽く読みましたが、あれは“無意識の中の意識”“意識の中の無意識”についてあまり関係ないと思います
長さもそこまでありませんしこれは痴漢冤罪の話なので
P「この度は大変申し訳ありませんでした」
高木「いや、迷惑を掛けたとかそんなことはどうでもいいんだ。ただ私は君に聞かなくてはならないことがある」
P「はい……」コクリ
高木「君は本当に痴漢をしたのかね?」
その言葉は絶望だった。身寄りの無い俺を育ててくれた社長も俺のことを信じてくれないのだろうか。
その絶望が俺の心を蝕む。
P「高木さんも俺がやったと思っているんですか……?」
乾いた雑巾から水を搾り出すように掠れた声が面会室に響く。
高木「それは違う。いいか、P君。私は他の誰かの言葉は信じない」
高木「君がやったと言うなら私も一緒になって君の罪を償おう」
高木「だが、君がやっていないと言うなら私は君の言葉を信じ、それを証明するために脚を棒にして君の無実を一緒に勝ち取ろう」
P「はい……」
枯れたと思った涙がまた溢れ出す。
高木「ほらほら。今の君は泣く暇なんて無いぞ。なんせすることが山のようにあるからな」
P「はい……はい……」
高木「君が次に泣くのは無実を勝ち取って、私や他のみんなと勝ちを喜ぶときだ。それまで決して泣くんじゃないぞ」
P「はい!」
高木「君は何も心配しなくていい。私の知人の中でも最も安心できる弁護士を明日来るように言ってある」
P「あ、したですか……?」
高木「君が言いたいことはわかる。だが規則で一日の面会は一度と決まっているらしい」
P「そんな規則がある打なんて知りませんでした」
高木「君が留置所でのイロハを知っていたら君をプロデューサーから外してしまうよ」
P「はははっ。それもそうですね」
高木「さて、法律のことは私よりもアイツのほうが詳しいから特に無いが仕事についてだ」
P「はい」
縁側で茶を飲むような空気から一転、そのことが俺の肩に重たく圧し掛かる。
高木「ま、君は何も心配するな!」
P「は?」
高木「いや、君が戦力外というのではない。もちろん君がいないのは痛手だが最長でも23日だ。私のコネでそれくらいなら維持できる」
P「よろしくお願いします」
高木「うむ。だがこれは有給休暇と病欠扱いだから今年度の有給は無いと思い給え」
P「大丈夫ですよ。どうせすぐに出られますから病欠でお願いします」
高木「まぁそれだけ減らず口を叩けるならすぐに終わるだろ」
P「一段落したら落ち着きました」
高木「痴漢の濡れ衣を着せられたのだからまぁ仕方あるまい。いいか、君は毅然とした態度を取るんだよ」
P「大丈夫です。これでもプロデューサーですから。ノーアポで売り込むより簡単ですよ」
刑務官「あと5分で面会は終了だ」
高木「時間が経つのは早いな。しかしこうして君と仕事以外の話をするもの久しぶりだな」
P「そうですね。高木さんの家にいた頃を思い出しますね」
高木「中学生だった君が今は社会人だからな。……最後に聞いておきたいことがある」
P「はい?」
高木「今回のことは事務所のみんなにはどうする?」
P「言うか否かってことですよね?律子や小鳥さんは当然言うとして、できればみんなにも真実を話してほしいです」
高木「しかし……」
P「もちろん高木さんの言いたいことはわかります。ただ俺の我侭なんですけど、あいつらには事実を言いたいんです。決定は高木さんに委ねますが」
高木「分かった……。彼女たちがどう受け止めるかは分からないが君の言うとおりにしよう」
この時のプロデューサーさんは確かに希望を胸に痴漢冤罪と戦う覚悟を持っていました。
―翌日―
P「は?」
高木さんとの面会と留置所生活一日目を終えた二日目、高木さんの言うとおり弁護士は現れた。
だが俺は高木さんの言う信頼できる弁護士先生の言葉を理解できなかった。
弁護士「君が言いたいことは分かる。だが君の言うそれは茨の道なのだ」
弁護士は示談にすべき、と俺に言った。
そして俺はそれが日本語で知っている言葉なのに咀嚼することが出来ずにいた。
P「示談って言うことは在りもしない罪を認めて償えって言うことですか?」
弁護士は黙って首を振った。
P「俺は痴漢なんてやってませんっ!」
弁護士「分かっている。だが示談にすることが最良なんだ」
P「やっていない罪を認めるなんて俺はできません!」
これが国試最難関といわれる司法試験を受けて、それを仕事にしている人間の言う言葉なのだろうか
弁護士「もちろん君の言っていることはわかるし、状況からして君が冤罪の可能性が高いことはわかる」
P「分かっていて俺にそんなくだらない言葉を言っているんですか!?」
弁護士「P君落ち着きなさい」
P「これが落ち着いていられるか!あなたは俺の味方じゃないんですか!?」
弁護士「私はP君の味方だ」
P「だったらあなたはなんで俺にありもしない罪を認めろだなんて言うんだ!」
弁護士「少し私の話を聞いてくれ。いいかい、私は弁護士として20年以上働いている経験で言っているんだ」
P「………………」
弁護士「君は痴漢冤罪の証明の難しさを分かっていない」
P「………………」
弁護士「例えば、だ。私が痴漢だと間違われたとするだろう。ならどうすると思う?」
P「………………」
弁護士「私は脇目も振らず、何が何でも駅から逃げるだろう」
P「は?」
弁護士「冗談じゃなくて本当だよ。それほど冤罪証明は難しいんだ」
P「あなたは法律のプロフェッショナルですよね?」
弁護士「だからこそ逃げる。痴漢冤罪の証明は“悪魔の証明”や魔女狩りのようなものと考えてもらいたい」
P「“Q.悪魔の証明って悪魔の存在を証明できるか?A.出来ない”っていうやつですよね」
弁護士「そうだよ。と言っても悪魔の証明じゃ実感が沸かないだろうから一つ実際にあった判例を挙げよう」
P「判例?」
弁護士「これは本当にあった話だが、68歳の男性が痴漢として起訴された」
P「………………」
弁護士「だがその男性は膠原病(こうげんびょう)を患っていたんだ」
P「……膠原病?」
弁護士「簡単に言うと全身に起こりうる炎症だね。程度は様々だが最悪ショック死する可能性もあるもので国の難病指定も受けている」
P「………………」
弁護士「提出された事件前のカルテには激痛により指を動かすのは不可能だと判断している」
弁護士「だが結果は有罪だ。控訴したが高裁でも有罪、上告して今も裁判中だ」
弁護士「そして高裁の裁判官は“最高裁がありますよ”などとほざいて定年を迎えて安穏と暮らしているよ」
P「………………」
弁護士「そんな中世にも劣る法制度があるから私は君に示談しよう、と言っているんだ」
P「けど……」
弁護士「君がどんな人物かは高木から聞いている。有望な若人の未来が潰されるほうが私は辛い」
P「………………」
弁護士「正義を行うのは素晴らしいことだ。だが不公平な冤罪裁判で戦って負けたときの代償が余りにも大きすぎる」
P「俺は……」
弁護士「もちろん君が戦うと言うのであれば私は力になりますが、止めたほうが良いというのが私の本音です」
弁護士「まぁ事が事ですから良く考えてください。また後日来ますから」
P「あの……高木さんは何て言っていたんですか?やっぱり示談のほうがいいと?」
弁護士「高木?君の意思を尊重してくれ、って言われていますよ。ただ仕事のことも考えるとやはり早い解決を心の奥では望んでいるでしょう」
弁護士「芸能事務所の裁判となれば風評被害や長期に渡る裁判で仕事に差し支えるのは本位ではないでしょう」
P「分かりました。俺のためにありがとうございました」
―数日後、平日―
あれから数日が経った。
嫌なことだが留置所での生活にもある程度慣れてしまった。
ただ皮肉なことに留置所というのは生活を送るにはすばらしい環境だ。
朝6時半に起き、食事をして運動し、夜9時には消灯し眠りに付く。
そして苛まれていく心を騙すために読書に励む日々。
どうやら社長は俺が痴漢容疑で留置されていることを成人組やアイドルたちに告げるという唯一の約束を守ったようだ。
一日を挟んで送られてくる本は彼女たちが選んで送ってくれたものらしい。
ただ留置所というのは存外厳しいらしく、本に落書きがされていると許可が下りないとのこと。
それを知ったらしい彼女たちは『元気の無いあなたに贈る100の言葉』のような分かりやすい本を送ってくる。
ただ問題があるとすれば765プロの悪戯娘の亜美と真美たちだった。
彼女たちは俺を励ます言葉よりも落書きした本をどうやって俺に届けようか、そればかりに力を注いでいるようだ。
書籍を届けに来る弁護士先生はいつもお小言を刑務官から頂戴しているらしい。
実に彼女たちらしくて笑ってしまう。
そしてそんな彼女たちの努力は俺に読ませたい言葉の隣に針か何かで穴を開けるという方法を編み出した。
最初は気付かず、気付いてからは伝えたい文字の反対の文字まで読んでしまい彼女たちの文章力を疑ってしまった。
刑務官「7番面会だ」
本を読んでいると刑務官に呼ばれる。
弁護士先生は午前中に来るのだが、今は午後で火急の用件を疑ったが面会室に居たのは春香だった。
春香「プロデューサーさん、留置所ですよ、留置所!」
開口一番春香はそう叫んだ。
P「春香。口癖だから言うな、とは言わないがTPOは弁えてくれ」
ハーネスを持つ刑務官が肩を揺らしている。
春香「大丈夫ですよ。プロデューサーさんと私がいるならそこが例え留置所でもお仕事です。お仕事なら自由ですよ、自由!」
あまりにも春香らしくため息を吐こうとして思考が固まる。
P「春香!お前アイドルの癖に留置所なんかに来てどうするんだ!早く帰れ!」
俺はどうなってもいいが春香たちが泥水を浴びるのは許せない。叱咤したというのに春香は平然としている。
春香「大丈夫ですよ。私がここに来てるのは社長も知っていますから」
P「社長が知ってるってどういうことだよ」
春香「実は私たちすぐに会いに来ようと思ったんですよ?けど会わせないならボイコットするってみんなで言ったら許可が下りました」
P「お前らって奴らは……」
春香「流石にみんなで来たらダメだって言われたのでじゃんけんで私が代表になりました!」
P「お前らは全員帰ったら説教だからな!」
声を荒らげたと言うのに春香はニコニコとしている。
春香「はいっ。喜んで叱られますから早く帰ってきてください!みんなプロデューサーさんが帰ってくるのを待っています」
P「春香……」
春香「千早ちゃんたちも心配していますし、何より美希が大変なんです……」
P「あぁ……。美希は確かに大変そうだ……」
春香「『ハニーがいないの!こんな気分じゃお仕事もレッスンもできないの!』ってものすごく拗ねてます」
P「春香……。お前、芸人のくせに美希のモノマネ上手くないな……」
のワの「」
P「それでみんなは元気なのか?」
春香「知りません」プイッ
P「春香?」
春香「私を蔑ろにしておいて他の女の子のことを聞く人には教えません」
P「悪かったよ」
そしてそんな瑣末なこともできない自分の不甲斐なさがピリピリと疼く。
刑務官「あと5分で面会終了だからな」
俺は頷いて春香の名前を呼ぶ。
P「春香」
春香「ひゃい……」
嗚咽しながら春香は頷く。
P「必ず無罪になって事務所に帰る。だから俺が元気になるように最後に笑顔を見せてくれ」
春香「…………はい!プロデューサーさんの帰りをみんなで待ってます!」
そう言って春香は涙でクシャクシャな笑顔を見せてくれた。
このとき私はどうすればよかったのかわかりません。そして答えは今でもわからないままです。
すみません>>45の前に一つあったのを飛ばしてしまいました
飛ばしたものを含め二つ連続で投下します
春香「本当はもう少し拗ねていたかったですけど時間もありませんし仕方なく教えてあげます」
P「ありがとな、春香」
春香「みんな元気ですよ。もちろんプロデューサーさんが居なくて寂しいですけど、いつ帰って来てもいいようにがんばってます」
P「ありがとう」
春香「……だから、早く帰ってきてくださいね」
そう言って春香は俯き、肩を振るわせる。
P「大丈夫だ。すぐにここから出してお前たちをSランクにしてやる」
春香は何度も頷き、透明な強化アクリルの壁に手を添える。だけど俺は手を添えることが出来ずにいる。
今すぐ壁を壊して春香の透明な雫を拭ってやりたい。そして頭を撫でてやりたい。
そしてそんな瑣末なこともできない自分の不甲斐なさが疼く。
刑務官「あと5分で面会終了だからな」
俺は頷いて春香の名前を呼ぶ。
P「春香」
春香「ひゃい……」
嗚咽しながら春香は頷く。
P「必ず無罪になって事務所に帰る。だから俺が元気になるように最後に笑顔を見せてくれ」
春香「…………はい!プロデューサーさんの帰りをみんなで待ってます!」
そう言って春香は涙でクシャクシャな笑顔を見せてくれた。
このとき私はどうすればよかったのかわかりません。そして答えは今でもわからないままです。
イージーミスもありましたし今日の分はここまでです
今日の分で半分強、明日の20時から投下して明日で終わりです
昨日言ったとおり20時ごろ投下する予定です
そろそろ行きます
―翌日―
刑務官に面会を告げられた。
恐らく弁護士先生だろう。
俺が抜けたせいで事務所は大変になっている。そんな中社長が時間を割いてくれるとは思わない。
だが予想に反して面会室の椅子に座っているのは伊織だった。
伊織「あんた、髭くらい剃りなさいよ。そのうち眉毛がM字になるわよ。それに少し痩せたわね」
P「使い慣れてない剃刀って怖くないか?ってアイドルに言う台詞じゃないな」
軽いジャブのつもりだったが、伊織は怒りを見せず穏やかな口調だった。
伊織「別にどうでもいいわよ、そんなこと」
芳しくない返事に不安が募る。
P「どうした?事務所で何かあったか?それとも調子でも悪いのか?」
一転。伊織は眉間に皺を寄せ、立ち上がって激昂した。
伊織「あんたはいっつもなんでそうなのよ!今しんどいのはあんたでしょ!辛いのはあんたでしょ!」
伊織「なのになんであんたはわたしやみんなの心配をするのよ!辛いなら辛いって言いなさいよ!」
伊織「大丈夫なわけないのにヘラヘラ笑わないでよ!そんなあんた見せられるとイライラするのよ……っ」
P「伊織……」
どれほど時間が過ぎたのだろうか。伊織は乱暴に涙を拭い、いつものような目付きで俺を睨みつける。
伊織「……あんた、痴漢はやったの?やってないの!?」
P「は?」
伊織「やったのか、やってないのか。イエスかノーかどっちなのかって聞いてるのよ!」
P「警察や被害者や弁護士が俺を痴漢だと言っても、それでも俺はやってない!」
伊織「知ってるわ。どうせあんたにそんな度胸や甲斐性があるとは思えないし」
P「いくらなんでもその言い草はひどいだろ……」
伊織「酷いのはあんたの顔よ」
P「おいおい」
伊織「まぁあんたはもう何も心配しなくていいわ」
P「どういうことだ?」
伊織「簡単なことよ。p…お父様の力を借りるのは癪だけど、水瀬財閥の力を使って冤罪をでっち上げた女子大生と男子生徒2人を締め上げるわ」
P「ちょ、ちょっと待て!」
伊織「何よ?あぁ心配ならしなくてもいいわ。あんt…765プロの従業員に手を出したことを後悔させてやるわ」
P「いやいやいや!そうじゃなくて!
伊織「あんたは何もしなくていいわ。あんたが休暇を過ごしている間に全て片付けてあげる」
P「そんなことさせるわけないだろ!ってそう言えばお前学校はどうした!今日は平日の午前中だろ!まさか……」
伊織「欠席してるわけないじゃない」
P「創立記念日か何かか?」
伊織「今頃は女装した新堂がライティングの授業を受けているでしょ」
P「はぁ!?」
伊織「冗談に決まってるでしょ。にひひっ」
P「だよなぁ……。ただ冗談でも水瀬財閥の力を使うとか言わないでくれよ、心臓に悪いから」
伊織「あら?新堂の女装はただの冗談だけどそれは本気のつもりよ?」
P「伊織、お前そういう冗談は笑えないから止めてくれ」
伊織「あんたこそ何冗談言ってるの。あんた痴漢冤罪の証明の難しさわかってる?」
P「弁護士先生から嫌って言うほど聞かされてるよ」
伊織「わかっててそんな甘いこと言ってるの?」
P「あぁ。けど相手が嘘を言ったからといって俺が不正をすればそれはそいつらと同じことだ」
伊織「あっそ。あんたがそこまで言うなら私は何もしないわ」
P「ありがと」
伊織「その代わり帰ってきて辛気臭い顔したら殴るわよ」
P「わかってる。事務所に行ったときは笑って中に入るよ」
伊織「なんかしてほしいことはある?」
P「……ある。事務所に迷惑が掛からないようにお父さんにお願いできないか?」
伊織「あんたってやつは……。まぁいいわ。それとあんた美希に手紙を書いてあげなさい」
P「は?」
伊織「わたしとしてはまぁどうでもいいんだけど、美希があまりにも『ハニーハニー』うるさいから仕方なく、ね」
P「そう言えば春香も似たようなこと言っていたなぁ」
伊織「そういうわけだから手紙なんて書かずにさっさと戻ってきなさい。それが一番美希の喜ぶことだわ」
そう言って伊織は一方的に面会を終えた。そして1限目をサボった伊織が祖父から謹慎を言い渡されたのは制服を取りに帰って玄関を開けてすぐだったらしい。
―1週間後―
弁護士「それではこれから彼女たちと示談について話し合ってきます。P君?」
もはや声を出す気力も無かった。
誰かもわからぬ声が頭に残響し、頭を垂らした。
彼は部屋から出て行き、刑務官に促されて留置所に鈍足を進める。
部屋の隅に転がり、鉛になった目蓋を閉じる。
日課となった日記を記すなどという気力はもはやなく、睡魔に誘われて眠りに落ちた。
いつの間にか翌日を向かえ、刑務官に呼ばれて部屋を出る。
ベルトやケータイなど没収されていた物を受け取り、差し出された書類を眺める。
連帯保証人の書類のように書き、ゆっくりと歩き始める。
もう、水を求めて苦しむ必要も無い。
もう、落雷のような机を叩く音を聞く必要も無い。
もう、幾千幾万と口にした供述を述べる必要も無い。
もう、身動き一つしただけでキャスターの外れた机が襲ってくる恐怖に脅える必要も無い。
もう、この地獄のような日々を過ごす必要も無い。
もう、疲れた。
階段を降り、ゴワゴワとしたソファーに横たわる。
幾瞬、幾秒を眠りに費やしたのかもわからない。
不意に優しく名前を呼ばれ、優しく身体を揺さぶられた。
目蓋を開けば白んだ視界におじさんの顔が映った。
俺が自殺しないか心配して迎えに来たと思ったがどうやら違うらしい。
身元保証人として署名をして俺を見つけたらしい。
いや、俺が来るより前に居たのだからその表現はおかしいか。
どうやら俺の心配をしているようだ。
彼の手を振り払い、設置された炭酸飲料を買って、それを飲む。
口の中に甘さが広がり、炭酸の刺激が針のように咥内を刺す。
それを飲み干して警察署を出ると十二月の太陽が身を焼く。
日差しは闇のように暗かった。
高木「P君。これからどうする?何か食べるかね?それとも家に帰って休むかね?」
老婆を労わる息子のように社長が聞いてくる。
P「ハンバーガーが食べたいですね。ちょっと高めの店じゃなくて思いっきり安いところの」
怪訝そうに俺の顔を覗き込んでくる。
P「俺、刑務所に居たときから決めてたんですよ。出所したらハンバーガーを食べようって」
P「学生だった頃に食べた、すごくチープでペラッペラのパティを挟んだハンバーガーとバカみたいに塩の掛かった萎びたポテトが食べたいんです。
そう言うと社長は嬉しそうに何度も頷いた。
見慣れた社長の自家用車に乗り込み、シートベルトを締める。
チェーンのハンバーガーショップに向かいながら、外を流れていく街並みを見て出所したことを実感した。
ハンバーガーショップの帰り道、エンジンの駆動に揺さぶられながらタバコをふかして今さっきのことを思い出す。
食事をする前にドラッグストアに寄ってもらい、シェービングクリームと使い捨て剃刀を購入した。
金を払うと言う社長に席取りをしてもらい、一番安いハンバーガーのセットと単品のハンバーガーを三つ、アップルパイとコーヒーを注文する。
萎びて塩の多いポテトを頼むとショップのお姉さんは怪訝そうな顔をしたが頷いた。
最後にスマイルを注文すると純度100%の愛想笑いを貰い、トレイを受け取って二階に上がる。
社長の取った喫煙席に座り、個別に貰った塩をポテトに振り掛ける。
一口食べれば塩辛いを通り越して痛さが口に広がる。
結局ハンバーガーを一つ残して、ドラッグストアで買った紙袋を持ってトイレに向かう。
ケチャップを水で洗い流し、二週間放置しっぱなしだった髭と眉毛を剃った。
気付けば信号は赤だった。
高木「それでこれからどうする?もし寝たいなら今日は家に来なさい」
高木「今年一年忙しくて遊びに来なかっただろう。家内が君の顔を見たいそうなんだ」
信号を待ちながら、ちらりと俺の顔を盗み見る。
P「いえ、今はいいです。ただ当分家事をするつもりにはなれないので、暫く居候していいですか?」
高木「あ、あぁ!是非そうしたまえ。どうせなら年末年始も家で過ごすといい」
社長は嬉しそうに何度も頷き、勢いよくアクセルを踏み込む。
街がやけに赤緑白の三色で彩られていて暫く考えて今日が25日だと言うことに気付いた。
歩道にカップルが多いことに得心が行って、妙な満足感が心を満たした。
高木「歩かせてしまって申し訳ない。社用車があるからいつもの駐車場は使えなくてね」
P「別にいいですよ。運動不足だったのでちょうど良かったです」
事務所に寄りたいと言ったのは分岐点を過ぎてしまってからだった。
高木社長は家で休むことを執拗に勧めてきた。
だが事情を知っているみんなに例え会えなくても事務所に行きたいと言うと納得してウインカーを光らせた。
事務所のある雑居ビルの中を歩いていき、ドアの前で歩を止める。
高木「開けにくいなら私が開けようか?」
社長の言葉を断り、一つため息を吐く。
氷のようなドアノブを回し、ドアをゆっくりと引く。
社長は俺の自殺を心配していたようですがまだ大丈夫ですよ。俺にはやり残したことがありますから。
キリがいいので少し休憩します
書き終わりましたし時間もあまりないので再開したらどんどん投下していきます
あとハッピーエンドかバッドエンドか、はタイトルや文章中の春香の言葉から察してください
―12/25/2020―
私こと、天海春香は都内の高級居酒屋のドアを開けていました。
ウエイターさんに名前を告げると最奥の個室へと通されました。
そこには既に彼が居て、ビールを飲みながら先付けを啄ばむように食べています。
春香「お久しぶりって言うには早すぎますね、高木社長」
高木「悪いが先に飲ませてもらっているよ」
ハイヒールを脱いで揃え、カシスオレンジをお願いして座ります。
春香「昨日引退ライブをしたばかりなので今更っていう感じですね」
高木「そうだね。昨日も打ち上げのときに言わせて貰ったが、改めてご苦労様だったね」
頼んだカシスオレンジと先付けが運ばれて、カクテルグラスを掴みます。
高木「ライブの成功を祝って乾杯といきたいのだがどうかね」
春香「申し訳ないですけど、とてもそんな気分ではないので遠慮させていただきます」
不躾な返事だというのに社長は気分を害した様子もなくジョッキに口をつけて残りを全て飲み込んでしまいました。
そして今日呼ばれたのは昨日の私の身勝手な振る舞いについてなのでしょう。
春香「昨日は軽率な行動を取ってすみませんでした」
高木「それも気にしなくて言い、とは言えんな。まぁ何となくわかっていて止めなかった私も同罪だよ」
彼が居なくなってから8年という月日が経ちました。
高木「正直な話、今ここに彼がひょっこり戻ってくるような気がしてならない」
春香「私もです」
8年前の今日、プロデューサーさん…いえPさんは私たち765プロのアイドルを全員Sランクに導き、そして居なくなったのです。
高木「情けない話だが当時の私は油断しきっていた」
春香「たぶんそれは事務所の皆がそうだったと思います」
高木「うむ。警察署に居たときの彼は怖かった。だが食事をして事務所に行くといったとき私は少し安心した」
春香「そうですね。事務所に帰ってきたときも迷惑かけたと言って笑っていましたから」
高木「空元気かと思い、暫くの間は家に泊めて先走らないよう監視するように家内にも言いつけていた」
高木「事務所や営業先でも絶対に一人にはしなかったし、今となっては言い訳にしかならないが当時は万全を期していた」
春香「はい」
高木「それから我々の予想を裏切り、一月、半年、一年と何でもないかのように振舞ってた」
高木「だが私の認識が甘かった。彼は立ち直ったのではなく目的のために身を削っていたんだ」
春香「………………」
高木「今だからわかるが、彼は君たちをSランクにするためだけに生きていた。文字通り目的のためだけに生きていた」
高木「そして彼は自分の使命を果たし終え、そして自らの…」
春香「やめてください!プロデューサーさんは生きています!勝手な推測で喋らないでください!」
高木「すまない。だが君はもう開放されてもいいんじゃないかね?」
春香「……それってどういう意味ですか?」ギリッ
高木「君はまだ若い。これからの人生を自分のために使うべきだ。ありふれた言葉だが、P君も自分が君たちの足枷になることを望んではいないはずだ」
春香「そんな取ってつけたような言葉で誤魔化さないでください」
高木「8年前私の言った言葉を覚えているかね?」
春香「プロデューサーさんを[ピーーー]ってことですか」
高木「違う。[ピーーー]のではなく、けじめをつけるということだ」
春香「同じことですよね?失踪届けを出して家庭裁判所に行って死亡申請を出して、時間が経てば居るかもしれない人を死んだことにして」
春香「それって人を[ピーーー]のと何が違うんですか?生きているかもしれないのに書類で整理して終わりですか?」
春香「もし帰ってきたらプロデューサーさんになんて言うんですか?帰ってくるのが遅いからあなたはもう書類では故人ですよって言うつもりですか?」
高木「わかってくれとは言わない。存分に私を責めてほしい。だが考え抜いた結果で、変えるつもりは無い」
春香「社長にとって765プロの仲間ってその程度だったんですか?765プロが家族だと思っていたのは私だけですか?」
高木「無論彼が今私の前に現れてくれれば嬉しい。だが正直な話、もう私は疲れてしまった……」
春香「そんなのあまりにもひどいです……」
高木「私も彼の生還を信じたい。だから先のライブで君が彼の情報提供を求めることがわかっていても止めなかった」
高木「それだけじゃない。情報提供が少しでも多く見られるように時間を調整してもらい、終盤40分はCMも入れないようにした」
高木「ローカルチャンネル3社に無償に近い金額で放送権を提供した。これが今の私に出来る最大限の誠意だ」
春香「……わかりました。いえ、わかりたくはないですけど社長なりに考えた結果だと思います。ただ私は諦めるつもりはありません」
高木「すまない天海くん……。それとこれは君に託したほうがいいと思うから渡しておく」
春香「……日記、ですか?」
高木「あの日からの三年間が全てその三冊に記されてある。それと彼の命日は今年の大晦日だ。身内だけで別れの…」
春香「私は出ません。プロデューサーさんは死んでいませんから。これはありがたく貰っておきます」
お金を置いて店を出ます。寒いクリスマスの夜に握っているそれは確かに温もりを発していました。
―罪の日記―
12/10/2009
三日前は突然の出来事に頭が混乱していた。口の中はまだ痛むが頭はクリアだ。
昔観た痴漢冤罪の映画を思い出した。だけど俺は絶対に屈しない。
もし俺が屈すれば彼女たちは痴漢を働いたプロデューサーの元で仕事をしていることになる。
そうなれば彼女たちは好奇の視線に晒されてしまう。そんなことは絶対に許せない。
俺が彼女たちを守らなければ一体誰が彼女たちを守るのだろうか。
12/11/2009
留置所での生活は未知との遭遇ばかりだった。
歯磨き粉と歯磨きを買わないといけないらしい。それと朝は剃刀を使うことが出来るらしいが剃らないことにした。
バカなことかもしれないが、冤罪を証明できるまで剃らないのが俺なりの願掛けだ。
それと午前中に高木さんと面会した。どうやら昨夜は俺のために色々してくれたらしい。目の下に隈があった。
冤罪に遭った俺を思ってあまり言わない冗談もたくさん言ってくれた。俺は必ず無罪でここから出る。
12/12/2009
頭が混乱している。示談しろ、と言われて高木さんも暗にそれを望んでいるのかもしれない。
身寄りの無い俺を引き取ってくれた高木さんの役に立ちたい。だから事務所にも入った。
だが示談を容認すると言うことは在りもしない罪を認め、敗北することに他ならない。
そんなことになれば彼女たちに合わせる顔が無い。
先生に頼んでおいた日記はすぐに届いた。これを書き終えたら眠ろう。今は何も考えたくない
12/15/2009
今日は春香が来た。冗談を言った後に彼女を泣かせてしまい、罪悪感が雪のように積もる。
高木さんは俺との約束を守ってくれたらしい。事務所のみんなには悪いことをしてしまった。
正直な話、俺の身勝手なのではないだろうかと考えたが、今日春香が来てくれてこれでよかったと思う。
慣れない尋問に嫌気が差していたところだ。春香の顔を見て元気が出た。やっぱり春香はアイドルが似合う。
痴漢冤罪や警察の圧力にも屈せず、必ず無罪を勝ち取ってやる。
12/17/2009
今日は驚くことに伊織が来た。どうやら学校をふけて面会に来たらしい。
流石に窘めようと思ったら、泣かれてしまいには逆に怒られてしまった。
俺如きのために自立を目指す伊織の脚を引っ張るわけにはいかない。などと言って結局頼るのだから俺は駄目な人間だ。
彼女たちをSランクにするという約束を守った後に俺は消えるべきなのではないだろうか。
もう疲れた……
12/23/2009
なぜ俺は生き永らえているのだろうか。
警察官に怒られ、叱られ、踏みにじられ、俺と言う存在が否定された。
社長も裁判ではなく、示談を心の奥では望んでいる。
別に約束を違えたことを攻めるつもりはない。人が何を優先するか、それを指図することなど俺に赦されるはずもない。
ただ一つ。彼女たちとの約束を完遂しよう。それが俺の持つ唯一で最期の矜持なのだ。
12/24/2009
もう疲れた……。俺は今日敗北し、心は死んだのだ。
さっき弁護士に示談すると伝えた。これで晴れて俺は稀代の犯罪者だ。
痴漢冤罪などと言う罪を見逃し、犯罪者に金を渡して逃げることを選んだ。
そして敗北したことを悔しがることもなく俺はこの地獄から出られることを喜んでしまった。
こんな俺が彼女たちの隣に居ることがおかしい。彼女たちとの約束を叶えた暁には俺は消えよう。
12/25/2009
今日出所した。厳密に言えば言葉は違うのだろうが同じことだ。犯罪者が野に放たれたのだから。
久しぶりにハンバーガーとポテトを食べた。学生時代を思い出す。だが俺が彼たちに文を送ることはない。
そして彼女たちに会った。彼女たちは冷たい笑顔で俺の帰還を歓迎してくれている風だった。
だが大丈夫だ。彼女たちが演技をしなくても俺は彼女たちとの約束を必ず守る。
だから何も心配しなくていい。
1/7/2010
あの出来事から一月弱が過ぎた。年末年始の仕事が忙しくてここ一週間日記を放置してしまった。俺は駄目な人間だ。
どうやら彼女たちは俺が約束を反故にしないか疑っているらしい。疑われる人間なのだから仕方ない。
彼女たちは表面上では罪を犯す前と同じように振舞っている。だがその瞳には嫌疑の念しかない。
俺を一人にはさせないし、どこに行くにしても必ず三人以上で行動するように言いつけられているようだ。
心配しなくても約束は守るさ。
1/1/2011
彼女たちは竜宮小町を筆頭に有名になってきている。
全員が最低でもCランクだし竜宮小町に居たってはBランクだ。
去年は嫌疑し監視する毎日だったが今年はどうやら懐柔策に重きを置くらしい。
まるで俺が仲間であるかのように接してくる。今年はアイドルだけでなく俳優業にも手を伸ばしてみるつもりだ。
終わりが見えてきた。この調子で行けば最短で3年、長くても5年ほどで終われるのではないだろうか。
1/1/2012
765プロから待望のSランクアイドルが出た。
それは俺ではなく律子がプロデュースする竜宮小町だった。
キャリアは彼女のほうが上なのだから敬語は止めてくれ、というと怪訝そうな顔をされた。今年も懐柔策は継続中らしい。
大丈夫だ。メンバーはBランクとAランクが半々で、千早はSランクでもおかしくなかった。
俺が足を引っ張ったばかりに機を逃して申し訳ない限りだ。今年は必ずSランクになるだろう。
1/1/2013
去年は飛躍の年となった。千早が最初にSランクになり、美希、響、雪歩、真美の順で約束を守ることが出来た。
まだ貴音、真、やよい、春香が残っている。だがみんなAランクで実力もあるから今年中にSランクになるだろう。
今年で毎日この日記に謝罪と自戒の言葉を書かなくていい、と思うと幾分か肩の荷が下りたような気がする。
彼女たちの言葉に何度も生き延びたいなどという愚かな念が沸くことももう数えるほどだろう。
あと少しだ。
12/25/2013
ようやく終わった。今日のライブで全員がSランクになった。最後にこけるというアクシデントはあったが無事春香もSランクアイドルだ。
律子や優秀な後輩プロデューサーも数人居るし、もう大丈夫だろう。
元旦から身辺整理を始めてもうマンションの荷物は全て捨てた。家賃やライフラインの手続きも終わった。
先月のうちに手続きは済ませ、あとは事務所にある私物を全て処分するだけだ。
打ち上げの後、今一人でこの日記を書いている。
社会人としては最低でも2週間、出来れば数ヶ月前から辞表を出すべきなのだろうが最期の我侭として許してほしい。
もう彼女たちに不要な演技を強要しなくていいと思うと心は清々しい。
三冊目ともなると否応にも愛着のようなものも沸く。名前もなく終わるのは寂しい気もするのでタイトルをつけておいた。
律子、千早、美希、雪歩、真、亜美、真美、伊織、やよい、貴音、響、あずささん、小鳥さん、そして春香。
俺のせいで済まなかった。本当にごめん。
ここで筆を折るつもりだったが、最期に一文だけ付け加えさせてほしい。
直の逢ひは 逢ひかつましじ 天の川 雲立ち渡れ 見つつ偲はむ
―12/25/2020―
私は読み終わってからしばらくの間、動くことが出来ませんでした。
私たちはあの日からプロデューサーさんを支えようと誓い合い、支えているつもりでした。
けどそれは私たちの勘違いだったんですね、プロデューサーさん。
貴方は示談を決めた日に心が死んでしまっていたんです。
そして私たちは貴方が元気になったと思いたくて、理解しようとせず最後のチャンスを放棄してしまったんです。
私たちは貴方が傷つけないためと言って、本当は貴方の傷つき苦しむ姿を見たくなかっただけなんです。
たぶん、私たちは裁判になって貴方とお仕事ができないことが怖くて、貴方の最後まで争いたいという願いを無碍にしてしまいました。
私たちは取り繕うのではなく、貴方の本心を聞くべきでした。
たとえそれが貴方に苦痛を与えようとも、私たちは本音で話し合って理解する努力をするべきでした。
そうすれば、たとえ示談と言う結果になったとしてもこんな結末にはならなかったでしょう。
プロデューサーさん、私たちの力になってくれたのに、私たちは力になれなくてすみません。
私は今はまだ、どうするべきなのかはわかりません。
けれど、これは他のみんなも知るべきだと思います。
貴方のために何をするべきなのか、それはまだわかりません。
けれど、これをみんなで見て正直にみんなの気持ちを聞いてそれから考えます。
だから間違っていたら私たちを叱ってくださいね。
―罪の日記―
12/31/2020
それでも俺はやってない
終わり
思ったよりも長くなってしまってすみません
それとハッピーエンドを期待していた方も
思いテーマでシリアスだったのに読んでくれてありがとうございました
批判については受け入れるつもりです
元ネタは三つあります。
そのうちの一つは声があったように映画『それでも僕はやってない』です
次のレスからは残りの元ネタについてですが、読まなくても支障はありません
そしてただ激しく不快に感じる方がいるかもしれないので興味のない方はこのレスで終わってください
次のレスは時間を空けて、明日の20時にageないで投下します
また質問のある場合、明日の17時までにあった質問を18時半までに回答します
上から目線で申し訳ありません
ありがとうございました
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