邪神「魔王城行きの馬車?」 (81)

~ 数百年前、ラストバトル ~

王子「我々の勝ちだ!」

邪神「く、くくく……、確かに我の負けじゃ、だが覚えているがいい。
   人の心に暗黒がある限り、我は何度でも蘇る……!!」

王子「そこんところは大丈夫だ」

神官「はい、コレより邪神である貴方を封印しますが、その際に外部からの魔力供給手段を全て絶ちます」

邪神「え?」

神官「封印後は秘密裏に、誰も来ないような遺跡の深部に安置されます」

邪神「なんと!? ……こ、こほん!
   しかし、忠実なる我が臣下たちが蘇らせて……」

王子「魔族側の重鎮は全部こっち側に寝返ったぞ?」

邪神「……」

王子「最後に言い残す事は?」

邪神「わたしがわるかったですごめんなさい」

神官「封印しまーす」

邪神「やーめーてーっ!!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402437316

~ そして現在、寂れた遺跡 ~

学生1「なあ、何でこんな辺鄙な所に来てるんだろうな、オレたち……」

学生2「単位が足りないからだろ……」

魔族教授「しっかり調査しろよ! 特にトロッコを見つけたらすぐに知らせろ!」

学生1「うぃーす! 頑張りまーす! ……トロッコ?」

学生2「そういや、お前の夜行性の彼女を連れてくれば良かったんじゃないの?
    夜目が利くならこういう場所もお手の物だろうに」

学生1「今の彼女はアルラウネなんだ。日が沈むとすぐに寝ちゃうんだよ」

学生2「さいですか、カンテラの灯りは消さないように気を付けろよ」

学生1「おう、……ん? 何だろアレ?」

学生2「……宝箱みたいだがカラっぽだな。先客が持っていったんだな」

学生1「いや待て、宝箱の下の床、おかしくないか?」

学生2「マジだ! 微妙に床が崩れて、下に空洞が見える! これは隠し通路か!
    ……って、水?」

学生1「あちゃー、この隠し通路、水没してるよ。
    微妙に流れてるみたいだし、近くの水脈と繋がったのかな」

学生2「お前の前々回の彼女がいたら調査出来たのになあ」

ゴロゴロゴロゴロ……

学生1「おや? 何だこの音?」

学生2「まるで大岩が転がって来るような……」

魔族教授「すまん! ビンゴだ!」

学生1&2「教授!?」

ゴロゴロゴロゴロ……

学生1「教授の後ろから大岩が!!」

学生2「逃げろー!!」

魔族教授「2人ともすまない! 罠は見抜けたのだが、憧れの大岩トラップに、つい……」

学生1「何が『つい……』だよ!!
    つーか自分から起動させたんかい!」

学生2「もういや! この人!!」

~ 地下水脈 ~

――ころころ。

 遺跡の隠し通路から地下水脈に転がり落ちた邪神の封印球。
 長きに渡る経年劣化と水の浸食で、とうとう封印球はその役目を終えつつあった。

――ころころ、ゴツッ。

 岩にぶつかり、ぴしぴしと封印球にヒビが走る。
 そして、

邪神「ぶばば! ばっぼぶべばぶべぼ!」
 訳・「ふはは! やっと復活したのじゃ!」

邪神「ばべ? ばびばぼばびびぼばば?」
 訳・「はて? 何か様子がおかしいぞ?」

邪神「…………」

 右見る。左見る。青ざめる。

邪神「ぶびぶべ!? ばばっぼべびぶぶぶべ!!」

 ばたばたと水中で手足をばたつかせる。やがて脱力。

邪神「……ぶぼっ」

 ぷかー。

 白目を剥き、邪神様の意識はそこで途切れたのだった。

~ 森の小川 ~

女生徒「やくそう、ブルーベリー、どくけしそう。
    うん、こんな感じでいいかな?」

 女生徒は背中に背負ったカゴに今しがた採取した品物をポイポイと放り込んでいく。

女生徒「うーん、でもレアなアイテムが欲しいなー。
    奥地に行けば見つかるかもだけど虫が多いし……うーん」

 鬱蒼と生い茂った森の奥に視線を向ける。
 ちょうど風が吹き、瑞々しい濃緑色の密林が風にざわめいた。
 ついでに虫たちの群れが草むらから飛び立つのが見える。
 道のりは険しい。

女生徒「……うん、やっぱやめとこ。
    ああもう、どんぶらこっことレアなアイテムが流れて来ないかな……」

邪神「ぷかー」

女生徒「うん、こんな感じで……って、女の子!?」

邪神「ぷかー」

女生徒「ちょっ!? えっ、本当に!?
    待って! 川の流れさん! その子を運んで行かないで!!」

 川流れの邪神様を追って、女生徒はわたわたと走りだしたのだった。

~ ゆめ ~

信者1「邪神様! スイーツでございます!」

信者2「邪神様! 魔王都の高級カフェから取り寄せたミルクティーでございます!」

信者3「邪神様! お背中をマッサージしましょう!」

邪神「うむうむ、くるしゅうないぞ」

信者4「邪神様の映像魔石も素晴らしい売れ行きです。
    会報誌『つるぺたロリババア』も毎月十万部数を刷っています」

邪神「うむうむ。ところでその会報誌の名前、どういう意味じゃ?」

信者4「邪神様バンザイという意味でございます」

邪神「ほう、我を崇めておるわけじゃな。よいよい、そのまま我を崇め続けよ」

信者4「ははっ!」

邪神「毎日贅沢三昧なのじゃー、やりたい放題、遊びたい放題なのじゃー。
   きっとこんな極楽のような毎日が死ぬまで続くのじゃー」

~ 保健室 ~

邪神「むにゃむにゃ、ぐへへ……むにゃ?」

 まばゆい光に瞼を上げる。
 窓際のベッドの上、白い布団を抱き枕のように抱き締めた状態で邪神は目を覚ました。

邪神「ふあぁ……ここは?」

 ぐきゅるる~。
 お腹が盛大に鳴って空腹の抗議をしてくる。
 邪神様は顔をしかめた。

邪神「いかん、腹が減った。
   誰か! 誰かおらんのか!!
   ……むむ、誰も来んとは不忠者どもが」

 しぶしぶベッドから降りるが、直後にぐらりと体勢を崩す。

邪神「おおっ!?」

 何とかギリギリで踏ん張る邪神様。
 その突発的な刺激のおかげか、寝起きの頭が急速に覚醒してきた。

邪神「そ、そうじゃ……我は封印されて、それから……」

 ハッと我に返り、邪神は壁際に身を寄せた。

邪神「とにかく、まずは状況確認じゃ」

 ぐきゅるる~。

邪神「……ついでに腹ごしらえもするか」

~ 学園廊下 ~

木箱「…………」

人男子「それでさ~」

魔女子「マジで~」

木箱「ぐきゅるる~」

人男子「えっ? 今の音?」

魔女子「違うわよ! そっちのミミックから聞こえたのよ!」

人男子「なんだ、そうか~、オレはてっきり……」

魔女子「やだもう、うふふ……」

木箱「…………」

邪神(木箱)「なんじゃ、別にこそこそ隠れんでもミミックで通るのか」

邪神「しかし、すれ違う相手が人と魔族と混在しておるのは珍しいのう。
   我が出てもバレそうに無し、いっそのこと木箱から出てみるか?
   ……いや、種族は違えど服装は同じか。我の格好では目立つ」

人女子「はー、体育の授業って面倒くさい」

精霊女子「えー、頭を使わないぶん楽だよ?」

ぞろぞろぞろぞろ

邪神「むむ? 目の前の部屋から出てきたあやつらだけ服装が違う? なんじゃ、あの部屋は……」

『女子更衣室』

邪神「……ほう?」

~ 購買 ~

おばちゃん「はいよ、焼きそばパンとミルクティー」

邪神「ありがとーなのじゃー!」

むしゃむしゃ、ごくごく

邪神「ぷはーっ! ウマいのじゃ~! 五臓六腑に染み入るウマさなのじゃ~!!
   おかわりなのじゃ~! 金はまだまだあるのじゃ~!」

 じゃらじゃらと財布の中身を鳴らす邪神様の格好は他の女生徒と変わらない学園制服姿。
 言わずもがな、先ほどの更衣室で服と財布をまとめて全部パクったのである。

おばちゃん「あいよ」

邪神「あはは~! 他人の金で食うメシは最高なのじゃ~!!」

 そうして邪神様がイスの背もたれに倒れ掛かってゴキゲンに足をバタバタと上下させてる時だった。
 隣から一人の女子が顔を覗かせてきた。

弓女子「あ、やっぱり見間違えじゃなかった。キミって同じ学園の生徒だったんだね」

邪神「うにゅ? なんじゃおぬしは? 背中に弓を背負って狩人か?」

弓女子「あっ、そうか。顔は合わせてないもんね。
    ほらほら、川流れしていたキミを私が保健室まで運んであげたんだよ?」

邪神「川流れ……保健室……」

 額に手を置き考える。
 ぽくぽくぽくぽく……ちーん!

邪神「おお! 思い出したぞ! 溺れていた我を助けてくれたのはおぬしか!」

弓女子「えへへ、そーなんだよ? えっへん!」

邪神「褒めてつかわすぞ、褒美にこのコロッケパンをやろう」

弓女子「え? いいの!? ありがとう!
    いやー、朝あまり採取できなかったから昼飯分のお金を稼げなかったんだよ」

邪神「採取? なんらそれふぁ?」

 何個目かの焼きそばパンを頬張りながら邪神様は首をかしげる。
 弓女子は少し恥ずかしそうに答えた。

弓女子「研究に使える素材を学園に買い取ってもらってるんだよ。
    レアな物を見つけて来たら、けっこういいお金になるんだよ?」

邪神「ほう、冒険者みたいで楽しそうじゃな」

弓女子「ずっと続けていくのは案外辛いけどねー」

主人公を女の子にしてしまったせいで、女の子とのいちゃラブが出来なくなってしまったことに今しがた気が付いた。

なるほど、やってみる。

邪神「ところで、学園とはなんぞや?」

弓女子「……えっ?」

邪神「なんじゃ? ほうけた顔をしおってからに。
   まあ、だいたい予想はつくがのう。若い頃より修練を積み、来たるべき最終戦争において正義を嘯く女神勢を一方的に蹂躙する事を目的とした血で血を洗う猛者どもの育成所なんじゃろ?」

弓女子「ぜんぜん違うよッ!? むしろこの学園のどこを見てそう判断したか私がキミに聞きたいよ!」

邪神「なんじゃ、違うのか」

弓女子「違うよう……、というかキミもこの学園の生徒なんでしょ? 知ってて当然なのに、からかってるの?」

邪神「いや、至極真面目じゃ。
   ただ、我は今までずっと閉じ込められておったから外の事を知らん」

弓女子「え? 閉じ込められて……?」

邪神「うむ、メシも食えずに死ぬかと思ったぞ」

弓女子「ご飯も食べさせてもらえない……」

邪神「おや、どうしたのじゃ?」

弓女子「……」

~ もうそう ~

邪神『お腹が減ったのじゃ……お外に出たいのじゃ……』

虐待父『うるさい!』

バチーン!

邪神『あうっ!』

虐待父『この疫病神め! このっ! このっ!』

げしっげしっ

邪神『痛いのじゃ……許して欲しいのじゃ……』

母『もうアナタには着いて行けません! この子と一緒に家を出ます!』

虐待父『へっ! 好きにしな!』

母『さっ、着いて来なさい……』

邪神『どこへ行くのじゃ?』

母『魔族と人族の中立領へ行きましょう。大丈夫よ、お母さんが守ってあげるわ』

邪神『中立領ってなんなのじゃ?』

母『……っ! ごめんね、今まで何も教えてあげられなくて……。
  そうね、中立領に行ったらアナタを学園に入れてあげるわ。そこでいっぱい学びましょう?』

邪神『よく分からないけど、頑張るのじゃ!』

母『いい子ね。大好きよ』

邪神『我もなのじゃ!』

…………………………

……………

~ もうそう・おわり ~

邪神「おーい? 大丈夫かー?」

弓女子「……はっ!?」

邪神「いきなりボーっとして驚いたぞ。それで学園とはなんぞや?」

弓女子「学園ってのはね、学園ってのはね……」

邪神「学園ってのは?」

弓女子「仲間や友人たちと一緒に! 喜びや悲しみを分かち合いながら掛け替えの無い絆を育んでいく場所なんだよ!! そうなんだよ!!」

 突然、ぶわっと涙を撒き散らしながら弓女子は雄叫びを上げた。

邪神「ぬわっ!? いきなり叫ぶでな……」

弓女子「だからっ!! キミも私と友達になろう!
    大丈夫! 分からないことは全部教えて上げるから!」

邪神「お、教えてくれるのは有り難いが、ちょっと落ち着いて欲し……」

弓女子「よし! 友情成立だね! じゃあ早速、学園を案内するよ!
    レッツゴー!!」

 言うが早いか、弓女子は邪神様の腕をむんずと掴むとそのまま廊下へと向けて駆け出した。
 あまりの弓女子の勢いに、きゃしゃな邪神様の身体が風を受けた鯉のぼりのように宙を舞う。

邪神「ぬわーっ!?」

弓女子「まずはどこがいいかな? グラウンド? 中庭? 特別教室も……」

邪神「離せ! もげる! 腕がもげるのじゃ~ッ!!」

 邪神様の叫び声が遠ざかっていく。その後ろ姿はすぐに曲がり角の向こうに消えて見えなくなった。

 台風一過、ポカンと口を開いて一部始終を見ていた生徒たちも二人が見えなくなると時が動き始めたように顔を合わせてひそひそと話し始めた。

魔女子1「ねえ、さっきの子って……」

魔女子2「うん、すっかり校内名物だよねー」

魔女子3「妄想特急、クイーン・オブ・ドリーマー、根はいい子らしいんだけどねー」

 生徒たちは苦笑すると、巻き込まれた小さな犠牲者に「御愁傷様」と手を合わせたのだった。

~ 学園案内便・特急 ~

弓女子「ここが中庭! 生徒や妖樹族たちの憩いの場所!
    授業が始まっても教室に帰らず、根を張ってテコでも動かない気合いの入った子たちがいっぱい!
    困った教師陣が同じ妖樹族の先生に問題解決を一任したところ、先生まで根を張って動かなくなった! 収拾がつかない!」

邪神「う、うでを離し……」

弓女子「それじゃ次!」

ごきっ。

邪神「おごおっ!? 関節が! 関節がーっ!?」

ずだだだだー。

弓女子「そしてグラウンド! でかいひろいすばらしい!
    様々な学校行事の他にも、地域振興のための催しが開かれたりもする!」

邪神「貴様……、ひ、ひとの話を……」

弓女子「さらに次!」

ずだだだだー。

邪神「あがががががーっ!」

弓女子「これが図書館! 試験前の生徒集合場所といったらここ!
    広大なスペースに整然と立ち並ぶ本棚と、ちまちま配置された書記机! おかげで昼寝の時も人目をはばからずに爆睡出来る!
    さらに蔵書数は中立領内一位! 王都の中央図書館にも匹敵するぞ!」

司書「あらあら? どうしたの?」

弓女子「こんにちは司書さん! 友達がよく分からないって言うから、学園の中を案内しているの!」

司書「友達?」

弓女子「うん! 出会ったばかりだけど、友達になったの! 話し方がちょっと古風で個性的な可愛い子なの!」

司書「……えっと、もしかして、その右手に引き摺られてるボロ雑巾みたいな女の子?」

弓女子「えっ?」

邪神「…………」

司書「へんじがない ただのしかばねのようだ」

弓女子「きゃーっ!? な、なんで? 誰がこんなひどいことを……」

邪神「お主じゃバカモノー!!」

司書「なんと しかばねがよみがえった」

邪神「お前もさっきからやかましいわボケーっ!」

司書「きゃー!」

邪神「ぜい、ぜい……、そろってアホウか貴様らはっ!」

弓女子「ご、ごめんなさーい!」

司書「ゴメンネー」

邪神「ふんっ! もういいわい! こんなところウンザリじゃ!
   我はもう帰る!」

弓女子「えっ?」

――帰る。

 その刹那、弓女子の頭の中で映写機がカラカラと乾いた音を立てて回り始めた。
 セピア色の妄想が幕を上げる。

~ この後の展開(妄想) ~

邪神『やっぱり学園は面白く無いのじゃ。お母様と一緒に働くのじゃ』

母『そうかい、無理はしなくていいのよ?』

邪神『分かったのじゃ』

母『でもつらいわよ? 夜の蝶は、日の下ではもう羽ばたけ無いわ』

邪神『覚悟の上じゃ』

弓女子「そんな!? お仕事ってまさか!?」

~ 豪邸 ~

ジリリリリリリリ

金持ち『盗賊だブヒ! 捕まえるブヒ!』

警備員1『ややっ!? あの影は何だ!?』

警備員2『何者かが屋根の上にいるぞ! 打ち落とせ!』

パンパンパンパン!

警備員1『あ、当たらない!?』

邪神『闇夜に浮かぶ銀月は! 清浄なる光で悪を示す!』

金持ち『ブヒ!?』

母『集うシモベは光にあらず! 闇に住まう不浄の獣!
  されど我ら切に願いて光を追わん! 闇の彼方に煙る明日を!』

邪神&母『我ら、夜の蝶《ミッドナイト・パピヨン》!! 正義の光に導かれ、今ここに見参!!』

ドル形警部『出たな~! パピ子~! 逮捕だ~!』

母『待ちなさいドル形警部! パピ子二号!』

邪神『はい、なのじゃ!』

ポチっ、――ドカーン!

ドル形『うおっ!? 地下から爆発! そして巻き上がってくる札束!?』

金持ち『ブヒッ!? ボクチンの偽札工場が!?』

ドル形『偽札工場ですと? その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか?』

金持ち『ぐぎぎ……死人に口無しブヒ! このポリ公もやってしまえブヒ!』

ドル形『な、なんだと~!』

母『今だけ共闘といきましょうかドル形警部?』

ドル形『怪盗なんぞと共闘するものか! ワガハイは襲い来る悪党を退治するだけだ!』

母『うふふ、それじゃ後ろは任せ……』

邪神『お母さまー!!』

母『はっ! パピ子二号!? いつの間に!』

金持ち『ブヒッ! コイツの命が惜しかったら抵抗はしちゃダメなんだなぁ?』

ドル形『うぅ~卑怯者め~!』

母『くっ、このままでは!』

?『……任せろ!』

 スパーン! ザクッ!

金持ち『お、お前は……ぐはぁッ!』

邪神『助かったのじゃ!』

ドル形『何という剣さばきだ~!』

母『パピ子二号!』

邪神『お母さま~!』

ドル形『……ふんっ! ワガハイはこのデブの偽札問題で忙しい。
    お前みたいなチンケな悪党に構ってられるか。さっさと失せろ!』

母『いい男だよアンタ。
  ……でも、いったい誰が助けてくれたんだろうね。礼を言う前に帰っちまうなんて無愛想なヤツだ』

邪神『……酒くさかったのじゃ』

母『うん?』

邪神『お酒の匂い、お父さんの香りだったのじゃ』

母『……まったく、あのダメオヤジめ……』

ナレーター『太陽が昇れば夜の蝶も人知れず消える。だが消えない物も確かにある。
      パピ子二号は微笑まじりに確信したのであった』

~ 時計塔南蛮村キャッスル伝説・完 ~

~ 現実に戻る、飛び付く ~

弓女子「ダメー! パピ子二号!!」

ぎゅー。

邪神「ええい! 手を離せ! というかパピ子二号とは何なのじゃ!?」

弓女子「とにかく、学園をやめるのはダメなの! そりゃ私だって続編が見たいけど、せっかく友達になれたのに」

邪神「続編って何じゃ!?」

弓女子「湯けむり温泉ドッキドキッ悪の資金源は豊富な湯量!!
    キャッチコピーは全裸怪盗爆誕ッ!!」

邪神「全裸怪盗!?」

司書「若いっていいわねぇ……」

邪神「遠い目で空を見上げるな! あと、話がややこしくなるから出てくるな!
   ともかくっ!!」

――どん。

弓女子「きゃっ?」

邪神「我はもう帰ると決めたのじゃ。邪魔をしないでもらおう」

弓女子「そんな……でも……」

邪神「ふんっ」

弓女子「……ごめんなさい」

~ 廊下 ~

邪神「まったく、無駄に体力を使ってしまったのじゃ。
   購買でミルクティーを買って一休みするのじゃ」

 だがしかし、これからどうすればいいのやら。
 ぶらぶらと廊下を歩いていた邪神様だったが、ふと面白そうな物を見つけて足を止めた。

邪神「掲示板? なになに……ふむふむ……」

 学内のイベント、風紀の引き締め喚起、各委員会からのお知らせ、そして学内新聞。
 邪神様は何の気無しに新聞の見出しに目を向けた。

邪神「『学内の問題児二名がまさかの発見! 魔王城に眠っていたラブレター!?』
   む? 魔王城じゃと?」

 ピンと来るものがあった。
 邪神様の記憶によれば、邪神様のねぐらであった邪神総本山は魔王城に結構近い。
 魔王城まで行けば土地勘から辿り着けるだろう。

邪神「素晴らしい進展じゃ! そうと決まれば魔王城行きの馬車でも探して……ん?」

獣少女「くんかくんか……」

邪神「これこれ、いくら我がかぐわしい香りを放っていたとしても、そんな堂々と匂いを嗅ぐものでは無いぞ?」

獣少女「……やっぱり、間違いない!!」

邪神「む? 間違いない?」

獣少女「この制服、わたしのだ!!」

ぞろぞろぞろぞろ

獣人族たち「おう、ワレぇ? 何を勝手に他人の物をパクっとるんじゃい」

邪神「……ほう?」

邪神「確かにこの服は我の物ではない。じゃがお前の物という証拠がどこにある」

獣少女「匂いで分かるもん! 間違えないもん!」

邪神「我はそこまで鼻がよく無いから、それが証拠になるとは思わんなあ?
   お前、周りの連中と結託して、我から金をふんだくろうと思っておるのではないのか?」

獣少女「ひ、ひどいよそんな言い方……絶対に私の服なのに……ぐすっ」

邪神「うっ、そうぐずるでない。我はただ……」

獣少女「ふえぇ……」

獣族たち「あっ! 泣かした! 服泥棒が泣かした!」

邪神「あわわ……、分かった! 我が悪かった!
   我が邪神総本山に帰ったあかつきには、服なんて腐るほど手に入るくらいの褒美を用意してやろう!」

獣女子「それじゃ通らないね」

 獣族の群れの中から一人の女子が、竹刀で自分の肩をぺしぺしと叩きながら現れる。
 長スカートにいかつい鎖の装飾品、これまたスケバンらしいスケバンだった。

獣少女「お姉さまっ!」

邪神「ん? お前は……」

獣女子「アタシはEクラスのリーダーさ。アタシのクラスメイトにちょっかい出して、タダで済むと思ってるのかい?」

邪神「すまぬ、非礼を詫びよう。しかしこちらにも事情があってじゃな……っ!!」

 話の途中であったが、邪神様は咄嗟に後ろへと飛び退いた。
 寸前まで邪神様の頭があった位置を、獣女子の竹刀が鋭い風斬り音を上げて通り過ぎた。

邪神「ずいぶんなご挨拶じゃな?」

獣女子「よく分かってないバカに活を入れてやったんだよ」

邪神「くくく、……我を舐めるか、痴れ者め」

 邪神様の纏う空気が変わった。
 間延び、弛緩したものから……これは何だ?
 獣女子は愕然とする。
 身体が竹刀を構えたまま彫像のように硬直していた。
 動かない、いや動けない。
 断頭台にて構え待つ処刑人が浮かべるようなその酷薄な嘲笑を目に入れた瞬間、肉体が意識の制御を離れた。
 交感神経が狂い、汗が吹き出す。
 動悸が激しくなり、小刻みに繰り返す呼吸は今にも途切れそうだ。
 これは恐怖だ。それも尋常ではない程の恐怖だ。

獣女子「う、うぐ……」

邪神「さて、少しばかり痛い目に遭ってもらおうか?」

 邪神様が腕を上げる。鍵盤を叩くような白く繊細な指先が獣女子に差し向けられる。
 逃げようにも獣女子の脚は腱が切れたように動かない。
 声を出そうにも舌は凍りついている。
 やがて邪神様は哀れむように瞳を細め、

邪神「……あり?」

 すっとんきょうな声を上げた。

邪神「なぜじゃ? なぜ邪神ビームが打てぬ!?
   はっ! まさか魔力切れ!? だとしたらヤバイのじゃ!」

獣族たち「おう、しばいちゃるわい」

ぽかぽかぽかぽか

邪神「いたっ! やめるのじゃ!!」

獣女子「はぁ……はぁ……」

獣少女「どうしたんですかお姉さま? 汗だくですよ?」

獣女子「お前たちは何とも無かったのか?」

獣少女「何とも無かった? 何がでしょう?」

獣女子「いや、何でもない。きっと幻惑の魔法でも使われたのだろうな」

獣少女「まあ、お姉さまに魔法を? このちんちくりんめ!」

ぽかぽかぽかぽか

邪神「やめるのじゃー! やめてくれなのじゃー!」

~ 中庭 ~

弓女子「あーあ、私って何でこんなにダメなんだろ。どう思うアルラウネちゃん?」

アルラ「弓ちゃんはダメなんかじゃない。私が保証してあげる」

 体育座りで落ち込む弓女子。それを巨大なツボミの上から慰めるのは大の親友であるアルラウネちゃん。
 いつも眠たそうに半分ほど閉じた瞳と、間延びした声が特徴的な妖樹族の女の子だった。

アルラ「確かに弓ちゃんには悪い所もあるけど、それは誰だってそうよ。
    私だって暇を見ては授業をサボって日光浴してるくらいだもん。
    要は悪い部分を帳消しにするくらいの、人に自慢出来る良い部分があればいいのよ」

 ツボミの周りの触手をうねらせながらアルラウネちゃんが諭すように答える。
 しかし話を聞いても、弓女子は顔を曇らせたままだった。

弓女子「でも、私ってそんなに良い所も無いし……」

アルラ「もう、そんなにウジウジ考えてるのが一番ダメ。
    弓ちゃんの良いところは、どこまでも真っすぐなその心なんだから」

弓女子「真っすぐな心……?」

 なかば膝に顔を埋めて意気消沈としていた弓女子だったが、アルラウネちゃんのその言葉を聞いておもむろに顔を持ち上げる。
 アルラウネちゃんはそっと手を差し伸べるような優しい声で続けた。

アルラ「弓ちゃんは迷惑を掛けて怒らせた女の子と、せめて仲直りがしたいのよね?
    なら、その気持ちを素直に伝えればいいんじゃないの?」

弓女子「伝えようとしたけど……でも、もっと怒らせちゃった」

アルラ「だから諦めるの?」

弓女子「違うよ! ……でもこれ以上、迷惑を掛けたらあの子も困るかもしれないし」

アルラ「だからこそ弓ちゃんは八方塞がりでモヤモヤしてるのよね?
    でも、それは相手だってそうよ?」

弓女子「相手も?」

アルラ「そう、相手も。
    学園なんてクソくらえだコノヤロー、ってモヤモヤした気持ちで帰る。
    そうしたらこの学園はその子にとって本当に『嫌な記憶しかない最低な場所』になってしまうわ」

弓女子「や、やだよ! そんなの!」

アルラ「ええ、私たちの学園を誤解されたままなんて悲しいわ。
    でもね、このままだと本当にそうなっちゃうの」

弓女子「ど、どうすればいいの?」

アルラ「それは弓ちゃんが自分で考えるしかないわ。
    私が最良だと思うピースでも、弓ちゃんやその女の子の心に必ず収まるとは思えない。
    大事なことは近道しないで、ちゃんと自分で……ね?」

 そう言ってアルラウネちゃんは頬を緩めると、満面の笑みを咲かせる。
 屈託の無い、友を信用しきった笑顔だった。

弓女子「……わかったよアルラウネちゃん! わたし頑張る!
    いっぱい謝って、いっぱい話して、わたしとあの子のモヤモヤを無くして来る!」

アルラ「あらあら、うふふ」

 ゆっくりと立ち上がり、瞳の中にメラメラと燃え立つ炎を宿す弓女子と、満足そうにやんわりと微笑むアルラウネちゃん。
 中庭の隣の渡り廊下を生徒たちの一団が騒がしく通り過ぎたのは、まさにそんな時だった。

男子1「ケンカだ! ケンカだ!」

男子2「なんでも女子更衣室のロッカー荒らしが捕まったらしいぞ!」

男子3「なんだと!? 犯人は男子か!?」

男子4「いや、女子らしいぞ? 語尾が『~のじゃ』みたいにババくさい話し方のロリ娘らしい」

男子5「マジか! とにかく見に行こうぜ!」

ガヤガヤガヤガヤ

弓女子「語尾が『~のじゃ』のロリ娘って、まさか……」

アルラ「どうしたの弓ちゃん?」

弓女子「ごめん! ちょっと見てくる!」

アルラ「あらあら?」

~ おいてけぼり ~

アルラ「うーん、わたしもついて行こうかな?」

 アルラウネちゃんの下半身が収まっているツボミが、もそもそと地面から根っこと触手を突き出す。
 その根と触手が前後に運動し、高さ二メートル、横幅三メートルはある巨大なツボミが地面を舐めるように這って動き始めた。

アルラ「先生ー、わたし行って来ますー」

妖樹先生「おや? アルラちゃん? どこに行くの?」

 中庭の片隅に咲いていた妖樹族のラフレシア先生(性別不詳)に問われ、アルラウネちゃんは自分の唇に指先を当ててしばし考え、

アルラ「ちょっと日が陰って来たので、日の当たる場所へ」

 ぽやんとした声でそう言い残し、もそもそと弓女子の後を追って校舎へと戻って行った。

~ 場所は戻って、廊下 ~

獣女子「なんだ弱っちい、大きいのは口だけかい?」

獣少女「うふふ、この方は食い意地も人一倍大きそうですよ、お姉様?」

邪神「ぐぎぎ……」

獣女子「さて、じゃあ盗んだ物を返して貰おうか?」

がしっ。

邪神「んなっ? 服を掴んで何をする気じゃ!?」

獣女子「服を返してもらうだけだが?」

邪神「そうではない! 我の裸体を衆目にさらすつもりか!!」

獣少女「うふふ? 制服どころか財布とその中身までパクった罪を代わりに許してあげますよ?
    わたしって寛大でしょう? しくしくと哀れにむせび泣いて喜んでくださいね?」

邪神「き、貴様ら……っ!」

獣女子「それじゃ、返して貰おうか!」

獣族たち「ストリップ! 下着姿の貧乳ボディ! いったい誰得ゥ!?」

邪神「や、やめんかーっ!! それと貧乳とか抜かした奴らぶち殺すぞ!!」

 あわれ邪神様が手足を掴まれた『バンザイポーズ』で服を脱がされる。――まさにその寸前、

弓女子「やめなさい!!」

 駆け付けた弓女子の声が廊下に響き渡った。
 そして誰が振り返るよりも早く、弓女子は弓につがえていた矢を解き放った。
 弧弦がしなり、反動が矢を瞬間的に加速させる。
 矢は大気を斬り裂き、一気圧の壁を押し分け、先端に付いた金具から鋭い飛翔音を奏でながら獣族たちに向かって空を駆けた。
 その一矢はまるで天高くに舞う猛禽類を現出させたかの如く。
 居すくみ、動けない一同の鼻先を掠め、矢は廊下の壁に突き立つ。
 誰もが驚き、我を忘れた静寂の中。
 弓女子は弓の端を握り締め、もう片端を薙刀のように獣族たちへと突き付けながら高らかに宣言した。

弓女子「その子は私の友達です!! 文句があるなら私が受けて立ちます!!」

獣女子「……えっと」

弓女子「何ですか?」

獣女子「いや、元はと言えばこのチビ娘が……」

邪神「誰がチビじゃ!」

アルラ「弓ちゃーん! 加勢するわー!」

邪神「ぬわっ!?」

ばちこーん!

突然、アルラウネちゃんの声が廊下に響き渡ったと思いきや、大人の太ももほどはある巨大な触手が稲穂を収穫する鎌のごとく獣族たちを横一閃に薙払った。

獣族たち「ひでぶっ!?」

弓女子「アルラウネちゃん!?」

アルラ「弓ちゃんをイジメたら許さないわよー!」

ばちこーん! ばちこーん!

 そのままアルラウネちゃんの座乗ツボミから伸びた触手が、まるでアジの叩きでも作るように獣族たちをタコ殴りにしていく。
 のんびり間延びした声からは想像もつかない暴力の化身の登場だった。

獣族たち「おたすけ! おたすけをーっ!!」

アルラ「ゆーるーさーなーいー!」

獣族たち「げふっ!」

 容赦ない触手の一撃に獣族たちが次々と昏倒していく。
 難を逃れた獣女子は触手に噛み付き、獣少女は瞳に涙を浮かべておろおろとうろたえる。

獣女子「てめえ! この野郎!」

獣少女「ひ、ひぃっ! 誰か! 誰かー!」

体育教師「こ、この騒ぎは何事だ!?」

 混迷を極める修羅場と化した廊下に現われたのは体育教師のミノタウロス先生。
 近くの生徒がすかさず駆け寄り、事の推移を説明する。

見物生徒「あっ、先生。実はかくかくしかじか……」

体育教師「何だと! ふぅん!!」

 ミノタウロス先生は脳ミソまで筋肉で出来ているともっぱらの評判である。
 そしてそれは事実であった。
 鼻息を勢い良く吹き出して気合いを一つ入れた瞬間、ミノタウロス先生の着ていたジャージの上半分が弾け飛び、その評判に違わぬ隆々たる肉体美を曝け出す。
 日々のトレーニングで研鑽錬磨された筋肉が気合いに鼓舞され盛り上がり、内側からジャージを破り散らしたのだ。

体育教師「お前らーっ!!」

ガシッ!

 ミノタウロス先生は剛毛生え揃ったその左右のぶっとい腕で別々にアルラウネちゃんの触手をわきに抱き挟むと、

体育教師「頭を冷やせー!!」

ぽーい。

 その場でぐりんと一回転。
 見事なハンマースイングで、あさっての方向へとツボミの巨体ごとアルラウネちゃんを放り投げた。

アルラ「みーっ!?」

見物生徒「ぎゃーっ!!」

 そしてアルラウネちゃんは真っ直ぐに見物していたギャラリーたちに突っ込み、ボウリングよろしく生徒たちをばかすか跳ねとばして、壁に盛大に激突し、そこでやっとこさ動きを止めた。

アルラ「ふみ~」

見物生徒「って、被害が拡大しとるがな!」

体育教師「はっはっはっ! 気にするな!」

 脳筋に理屈は通じない。
 ミノタウロス先生は両腕を上に折り曲げてポージングを決めると、自慢の大胸筋を生徒たちに誇示するようにぴくぴくと満足げに動かしたのだった。

体育教師「全員正座!」

弓女子「はい」

獣女子「……ちっ」

体育教師「それで、ケンカの原因は何なんだ?」

獣少女「この子が私の制服を盗ったんです!」

邪神「むっ? その事は謝ったではないか。
   服を返せと言われれば我も返すつもりだったが、貴様らは下卑た報復として公衆の面前で我を裸にひん剥いて辱めようとした。
   弓女子と、そちらのアルラウネとやらの登場は予期せぬ事態であったが、これら両名の行いは我としては正しいものであったと確信している」

獣女子「正しい? アタシのクラスメイトをボコボコにした事が? 舐めんじゃないよ!」

獣少女「そうだそうだ!」

邪神「ふむ、ならば貴様らは、いつ、いかなる時でも、裸にひん剥かれてもいいと?」

獣女子「はあ?」

獣少女「なんでそうなるんですか!」

 邪神様は鼻で笑うと、質問には答えずにゆっくりと正座を解いて立ち上がる。
 そして無い胸を堂々と張ると、偉そうに腕を前に組んだ。

邪神「体育教師とやら、この度の騒動、実に簡単なものじゃ」

体育教師「そ、そうなのか?」

獣少女「こら! こっちの話を聞きなさい!」

邪神「少し黙っていろ。……こほん」

 邪神様は軽く瞼を下ろし、鋭利な刃物のように瞳を細く尖らせる。
 そして『勝つ』ための算段を構築していく。
 思索に思い耽ったのは僅か一秒、ぐるりと遠巻きに眺めて来るギャラリーたちを見た邪神様はニヤリと口元を吊り上げ、

邪神「この度の騒動、要約すれば、こやつら獣族たち『くらすめいと』による我への痴漢行為である!」

 のたまった。

獣女子「はあーっ!?」

獣少女「ち、痴漢!?」

邪神「そう! 一見すれば暴力沙汰を引き起こしたように映るであろう弓女子とアルラウネは、あくまで我を悪漢悪女の魔手から救おうとしただけだ!
   つまり! これは正当防衛! すべての元凶は痴漢を働いたこやつら獣族たち『くらすめいと』たちじゃ!」

 被告人に証拠を突き付ける検事のように、びしっと獣族たちを指差して邪神様は宣言した。
 弓女子とアルラウネちゃんは話に着いていけずに頭の上に「?」を作っていた。
 ギャラリーの間では痴漢という単語にざわめきが広がる。
 動いたのは、獣族たち一同と一緒に正座させられていた獣女子だった。

獣女子「こっちが黙って聞いてりゃ偉そうに! 何が痴漢だ! 何が正当防衛だ!
    そもそも、お前が制服を盗んだのが原因じゃないか!」

 ご立腹な獣女子の姿に邪神様、ここで攻め方を変える。
 邪神様は嘲るような笑みを引っ込めると、眉目を悲しそうに歪め、今にも泣き出しそうな悲愴な表情を顔に浮かべた。

邪神「我は争いたくなんて無かった。誰も見ておらぬ所で服を脱いで返し、金も返してちゃんと謝りたかった。
   じゃが、我には謝罪の機会すら与えられなかった。贖罪として求められた行為は我の人格や権利を平然と蹂躙する無慈悲なものであった。
   のう、おぬしよ? 我はそんなに悪い事をしたのか? 人前で裸に剥かれるほど、ひどい事をしてしまったのか?」

獣女子「うっ、いや、確かに少しやり過ぎたかもしれな……」

邪神「理解を得られてうれしいのじゃ。
   おーい、聞いたか体育教師? こやつ自分の非を認めておるぞー」

体育教師「お、おう!」

獣女子「て、てめぇ!? 嘘泣きかよ!」

邪神「うむ? 崇高なる我の言葉が届かぬ蛮族どもの知能の無さに憐れみを抱いてはいたものの、一ミリリットルの涙も流してはおらぬはずだが?
   くくく、泣いて欲しいのか? うえーん、おバカさーん!」

獣女子「ぶち殺す!」

獣少女「待ってくださいお姉様!? 教師の前ではまずいです!
    それにアナタも! もしアナタの言い分が正しいと百歩譲って認めましょう! でもそうしたとしても、アナタが窃盗した事実は無くならないんですよ!」

邪神「確かにそうじゃ、服も金もすぐに返そう。じゃが痴漢行為を先に謝って貰わねばな。
   深々と頭を垂れて、そう犬コロのように地面の塵芥を舐めるほど深く深い土下座を以て謝罪して貰わねば」

獣女子「ぐぎぎぎぎ……」

獣少女「と、とにかく、お姉様もアナタも落ち着いてください!」

邪神「ふふん」

 この邪神様、ニート……もとい崇められる立場を利用して苦労を他人に背負わせ続けて来たために屁理屈はめっぽう強い。
 それに、今だけこの場を収められればその時点で邪神様の「勝ち確」なのだ。
 邪神様の目的地は邪神総本山であり、学園なんぞ偶然来てしまった場所、通過点に過ぎない。
 となると適当に「後で返すわ、まだ貸しといて」と獣少女に言っておいて「まあ、死ぬまで借りるがな!」とトンズラすればいいだけだ。それが倫理的に可なのかはさておき。
 ともかく、そのために邪神様はギャラリーを煽った。
 痴漢という言葉にギャラリーたちは興味津々な好奇の視線をこちらに向けて来ている。
 邪神様はともかく、学園に通う獣女子たちはさぞ居心地が悪いだろう。
 現に、獣少女はそわそわと辺りを気にして話を打ち切ろうとしている。
 このまま会話を右往左往させ続けたら一時的にお開きになるのは目に見えている。
 適度に煽ってストレス解消すれば邪神様の精神衛生上的にもよろしく一石二鳥。
 分かりやすく言うと、

――ゴネ得!

 であった。

 だが、そんな邪神様の冴え渡ったゴリ押しが通じるのは尋常の範囲内だけである。
 邪神様は失念していた。
 邪神様の後ろで未だ正座を続ける弓女子に、アルラウネちゃん然り。
 この学園には邪神様の考えも及ばない『アレ』な奴らがわんさかといる可能性を……。

コウモリ「きぃきぃ」

邪神「……コウモリ?」

獣女子「げっ……」

 真っ昼間にも関わらず、気が付けば一羽のコウモリが邪神様たちの頭上をばさばさと旋回しながら飛んでいた。
 コウモリは邪神様たちの上から離れず、廊下の天井すれすれを延々と飛び続けている。
 何だか作為的なものを感じて首を傾げる邪神様だったが、ふと顔を下ろして見れば隣で獣女子が苦虫を噛み潰したような渋い顔になっていた。
 弓女子に視線を向けてみると、こちらも困ったような顔で苦笑いを浮かべている。
 良くも悪くも、皆はこのコウモリが何か知っているらしい。
 邪神様は人差し指を垂直に立ててコウモリを指差しながら聞いてみた。

邪神「なんじゃ、あのコウモリは?」

弓女子「え? うーん、何から説明したらいいのかな。
    えっとね、そのコウモリは新聞部の部長さんが学園内に放ってる使い魔なの」

邪神「新聞部? 使い魔?」

弓女子「うん、多分もうそろそろ……あっ! 来た!」

邪神「む?」

 弓女子につられて邪神様が廊下の先に顔を向けてみると、ちょうどタイミングを見計らったかのようにその『一群』が廊下の角から飛び出て来た。
 数十ものコウモリが周囲で渦を巻き、その中心に指揮官のように泰然と陣取るのは赤いリボンの金髪少女。
 その一群は『全員』が飛膜の張った黒翼をはばたかせ、巧みな空中機動で身を翻すとツバメ返しのように鋭く方向転換。邪神様たち目がけて廊下を疾駆し、一気に距離を詰めてきた。
 そして、

吸血女子「呼ばれて飛び出てジャン・バル・ジャーン!!」

 背中を擦るような廊下の天上すれすれから、一同に元気溌剌と挨拶してきたのだった。

獣女子「きやがったよ……」

獣少女「帰れ! 腐れゴシップ記者!!」

吸血女子「あれれ? 歓迎されてない? なんで?」

獣少女「流言飛語のウンコみたいな記事ばかり書き殴ればそうもなります!」

吸血女子「失敬な、私は皆様の灰色の学園生活に彩りを添えれるよう尽力する記者の鑑のような存在だというのに!」

獣少女「勝手に他人様の学園生活を灰色と決め付けないでください!」

アルラ「それに真実を書くとは一言も口に出さないのがミソよねー」

邪神「えっと、この小うるさいのは何じゃ?」

弓女子「この子はヴァンパイアで、さっき話した新聞部の……」

吸血女子「部長でーす! きゃぴっ!」

邪神「…………」
獣女子「………」
獣少女「………」

吸血女子「あれあれ? どうしたの? 何か可哀相な物を見るような目?」

邪神「……うむ、言わずともコイツがどんなヤツか分かった」

弓女子「あはは……」

獣女子「つーか早く帰れ、邪魔だ」

吸血女子「えー? でもでもー、面白そうな事件は記事にしないとー」

獣少女「話は終わりました。解決です! 解決!」

 ぱんぱんと自分の左右の手の平を打ち合わせる獣少女。
 それを見た邪神は「ほう?」と内心でほくそ笑み、また即座に獣少女の話に便乗して逃げようとする。

邪神「では後日あらためて、こちらから謝罪に行こう」

獣少女「そうしてください!」

邪神「では、この話はおしま……」

吸血女子「うーん、本当にそれでいいのかしら?」

 邪神様のシメの言葉を遮ったのは吸血女子だった。
 吸血女子は空中で羽ばたきながら疑問を呈するように首を傾け、辺り全体にその赤々と燃え立つような瞳を向けていく。
 何かを探るように、また同時に挑発するように。

獣女子「あん? いったい何だってんだ?」

 挑発耐性の低い獣女子が真っ先に怪訝な顔で吸血女子に聞き返す。
 吸血女子は待ってましたとばかりに笑みで答えた。

吸血女子「だって、いま終わったらあなたたちの『負け』じゃないの?」

獣女子「アタシらの負け? どういう事だ?」

吸血女子「勘違いだったらゴメンなさいね。でも事件の当事者らしいアナタと向こうのチビッコだけどー、どっちに余裕があるのかと見比べたら事の勝敗は明らかなわけなのよ」

邪神「誰がチビッコじゃ!」

獣女子「……」

吸血女子「よーく、思い返してみて? 何か理不尽な感じがしない?」

獣女子「……確かに、何だこのモヤモヤ感は」

邪神「うっ、早くお開きにしようぞ! 人目が気にならぬのか!?」

吸血女子「あれれー? 獣女子さんが深く考えると何か困る事でもあるのかなー?」

邪神「こ、こやつ!?」

 吸血女子は口の端を三日月のように吊り上げたサディスティックな笑みを邪神様に向けてくる。
 もはや間違えようも無い。
 邪神様が獣女子たちを煙に巻いて話を終えようとしていた流れを、吸血女子は察している。
 それはおそらく優れた知性や記者の勘という類ではなく、単純に火に油を注ぐのが好きというその性格からだ。
 そしてその性質に則って、吸血女子は種火を燎原の火の如く一瞬で燃え広がらせた。

吸血女子「おやー? 獣族って、世間体を気にしておめおめと引き下がるほど腰抜けでしたっけ?」

獣女子「なに!? 獣族は腰抜けじゃねえ!」

獣少女「そ、そうです! お姉様は腰抜けじゃありません!」

吸血女子「うーん、なるほどー、でも流血沙汰はマズいしー(記事的に)、どうしたらいいと思いますミノタウロス先生?」

体育教師「……はっ!? え?」

吸血女子「学生らしくスポーツで勝敗を決めるなんていいと思うんですけど?」

体育教師「スポーツ!? スポーツはいいものだな! うん、賛成!」

邪神「ちょっと待てい! おぬし、話を理解しておらんじゃろ!?」

吸血女子「でも、みんなもう火が付いちゃったみたいだし収まらないわよ?」

邪神「火を付けたのはおぬしじゃろうが!」

弓女子「よーし、スポーツなら負けないぞ!」

アルラ「あらあら、わたしも一肌脱ごうかしら?」

邪神「おまえらも何を張り切っておるんじゃー!?」

吸血女子「じゃあ満場一致で、放課後にクラス対抗バトルということで!」

みんな「賛成!」

邪神「我は賛成しておらーん!」

~ 高等部一年、混成クラス ~

弓女子「……というわけなんだよ!」

人男子「何が『というわけ』なんだよ!?」

精霊女子「えっと、つまり、クラス対抗試合を勝手に了承しちゃったと?」

弓女子「うん! だからみんな協力して!」

人男子「断る!」

弓女子「どうして!?」

機械男子「無駄に体力を使いたくは無い。それに、腑に落ちない」

石霊生徒「当事者たちで……解決すべき……」

弓女子「うっ……、でも……」

人男子「だいたい、その当事者の態度が気に食わないんだよ」

邪神「ふんっ」

弓女子「もう! パピ子ちゃんもしっかり頼まないと!」

邪神「誰がパピ子じゃ!」

アルラ「うーん、でも確かにクラスのみんなに話さず勝手に進めてしまったのはマズかったわねー。
    ……あ、そうだ。担任の狐先生にも教えておかないとー」

狐先生「先生なら、もう知ってるわよー?」

弓女子「あっ、狐先生!」

邪神「酒くさっ!? というかコヤツが教師!? でろんでろんのこの酔っぱらいが教師!?」

狐先生「先生、凄い病気にかかっていて、お酒を飲まないと手足がぶるぶると震えちゃうのー」

邪神「それはただのアル中じゃーっ!?」

人男子「それで先生、どうするんスか?」

狐先生「試合くらい、別にいいんじゃないかなー?」

 狐先生は紅潮した頬をだらしなく緩め、十中八九中身が酒なビンを両手で大事に抱き締めながら身体をくねらせつつ答えた。
 ツンと尖った耳と、ふわふわのシッポをぱたぱたと元気に揺らすその姿は微笑ましくあるが、ブラウスにタイトスカートという女教師スタイルでは色々と危うい。
 すらりと伸びた脚の付け根とか、ふくよかな胸の谷間とか、酔いの回ってとろけた横顔とか、とにかく仕草の一つ一つが無駄に女性の色香を纏っていて淫魔もかくやという艶がある。
 純朴な青少年なら大いに惑わされるだろう。……これでアルコールの臭いが無ければ。

人男子「先生は賛成だとよ」

 男子たちは狐先生をスルーして顔を見合わせる。
 担任の扱いには慣れたものだった。

魔男子「しかし珍しいな、先生が面倒事に首を突っ込むなんて」

精霊女子「反対しないんだ先生……」

機械女子「でも、どうしてだろう?」

アルラ「ところで先生、さっきから両手で後生大事にだき抱えている一升ビンはどうしたのかしら~?」

狐先生「廊下で拾ったの~」

アルラ「そうなんだ~、廊下のどこに落ちてたの~?」

狐先生「廊下でぱたぱた飛んでる吸血女子ちゃんの所に落ちてたの~、私の故郷のお酒はこっちじゃ手に入りにくいからって、吸血女子ちゃんが善意で落として行ったの~」

アルラ「それで~?」

狐先生「代わりに~、クラス対抗試合の許可印をポーンと押してきたの~、ポーンと~」

「「……って、アンタ買収されとるがな!?」」

 クラスメイトたちのツッコミが見事にハモった瞬間だった。

人男子「あのコウモリ野郎! なんでこんなに無駄に手際がいいんだよ!」

機械男子「火の無い所に煙を立たせる手腕、というかその執念は素直に感心するな」

精霊女子「単に私たちの担任がチョロすぎるんじゃないかなぁ……」

アルラ「それで、みんなはどうするつもりかしら~?」

石霊生徒「争い事は……よくない……」

人男子「面倒くせぇ」

精霊女子「うーん、なんだか納得いかないしー?」

魔男子「せめて戦利品があればな」

弓女子「そんなぁ……」

邪神「まあ、もともと期待していた訳ではない。というか、帰っていいか?」

弓女子「当事者が真っ先に帰ったらダメだよ!?」

邪神「ちっ、……ん?」

闇霊女子「じーっ」

邪神「何じゃお主は? さっきからジロジロとこっちを見てからに」

闇霊女子「……アナタ、アナタ様? ……とても、高位の、闇色の光が、すごく、まぶしくて……」

 闇霊女子は一歩、また一歩と、緩慢な足取りで邪神様に近づいて来た。
 やがて邪神様の隣に闇霊女子が並ぶ。
 背は闇霊女子の方が頭一つ分高い。
 闇霊女子の背が高い訳ではなく、邪神様の方がちんまいのだ。

闇霊女子「闇に咲く花、心が惹かれる、綺麗、美しい、歓喜が心を満たして……」

邪神「何じゃ、さっきからぶつぶつと、言いたい事があるならはっきりと言わぬか」

 邪神様は軽く首を上げて闇霊女子の顔を見仰ぎながら眉をひそめた。
 闇霊女子は青白い顔をほんのりと上気させ、ぼうっと邪神様を眺めていたが、その言葉に小さく頷いて見せる。
 そして、闇霊女子は邪神様に向けてその薄桃色の唇を小さく震わせた。

闇霊女子「一緒に、お風呂に入りましょう」

邪神「何でじゃッ!?」

 紡がれた言葉は邪神様のツッコミの中に呆気なく掻き消えた。

精霊女子「……いつもクラスの隅で読書してて自分からは滅多に話し掛けてこない闇霊ちゃんがなんて積極的!?」

羽女子「これは予想外!」

闇霊女子「お慕い申し上げます。どうぞ、末永くお側にいさせてください……」

邪神「ええい、近寄るな!」

ぺちーん。

闇霊女子「ああっ、痛い……もっと、もっと強く……」

精霊女子「変な性癖が目覚めてる!?」

羽女子「これは予想外!!」

闇霊女子「ああ、何と柔らかいそのお身体……」

邪神「ええい! 手を離せ!」

闇霊女子「ああ、何と芳しい艶のある髪……くんかくんか……」

邪神「顔を近付けるな! 匂うな!」

水精女子「何であんなに闇霊ちゃんに懐かれてるんだろ?」

弓女子「闇霊ちゃんも分かってくれたんだよ! クラスで団結する必要があるって!」

精霊女子「それは違う気がするなぁ……」

?「おい、邪魔するぜ!」

機械男子「む、お前は獣族クラスの」

獣女子「クラスの野郎どもを束ねるカシラだ、つまりクラス委員長だ」

人男子「何だと!?」

魔男子「よし、面倒事になりそうだからこっちもクラス委員長に丸投げた! 委員長の暗黒騎士さん!!」

暗黒騎士「フコー、何をしに、フコー、来た?」

獣女子「ああ、それはな……」

獣少女「臆病風を吹かしてあなたたちが逃げないか見に来てやったんですよ!」

人男子「……あぁ?」
機械男子「ほう?」
魔男子「ふむ?」

獣女子「ま、そういう訳だ。特にそいつはトンズラこきそうだったんでな」

邪神「そそ、そんな事はないぞ! うむ!」

アルラ「目を逸らしながら言っても説得力が無いわよ~?」

獣少女「でもでも、どっちみち余裕みたいですね?
    クラス対抗試合に参加するかしないかで揉めてるようじゃ、話になりませんよ」

弓女子「むーっ!」

獣少女「でも、まあ、仕方ありませんよね?
    このクラスって混成クラスとか言ってますけど、結局は他のクラスに馴染めないハンパ者たちの集まりですもの。
    団結力も無ければやる気も無い。落ちこぼれ集団らしい結果ですよ」

弓女子「ひどい! 私たちは落ちこぼれなんかじゃない!」

獣少女「べーっ、だ」

獣女子「つーわけだ。どうせ戦っても勝敗は決まってるし、そのチビが土下座して謝ればクラス対抗試合は無かった事にしてやる」

邪神「誰がチビじゃ! 我は絶対に謝らんぞ!」

ばさばさばさばさー。

吸血女子「そうよ! 今さらこんな面白い賭博……イベントをオジャンにしてしまえば学園のみんなが困るわ!」

邪神「うおっ!? 急に現われるな!」

アルラ「……賭博?」

吸血女子「げほげほ……、ともかく! 試合は絶対にしてもらわないと困るの!」

獣少女「でも、このクラスの連中って試合とかしたがらないみたいですしー」

人男子「あ? いつ試合したくないって言ったよ?」

獣少女「ほら、……って、え? ええっ?」

機械男子「面倒事は避けて通るべきだ。しかし、避けて通れぬ問題もある」

魔男子「ならば降り掛かる火の粉は払わねばな」

獣少女「なんで? さっきまでと様子が……」

精霊女子「私たちは落ちこぼれなんかじゃないもん!」

石霊生徒「ただ守るだけ……誇りを……」

闇霊女子「我が主のために」

羽女子「クラスのために証明してやんよ!」

忍女子「皆で掴む勝利によって!」

精霊女子「あっ! いいとこ取られた!」

羽女子「さすが忍者きたない!」

弓女子「みんな……」

獣女子「へえ?」

獣少女「うぐぐ……」

アルラ「さあさあ、最後は格好よくシメてね委員長?」

暗黒騎士「フコー、という訳だ。フコー、我々は逃げも隠れもしない。
     フコー、潔く戦い、フコー、雌雄を決しようではないか」

獣女子「フコフコうるさくて、あんまり聞き取れねー……」

弓女子「あ、あはは……」

獣女子「だがまあ、面白くなりそうだな。
    おっ、そうだ。勝ったクラスは負けたクラスに何でも一つだけ命令していい、って事にしないか?」

獣少女「お姉様? それは……」

獣女子「大丈夫だ、アタシらが負ける訳がないだろ?
    で、おまえらはどうだ?」

人男子「いいだろう!」
魔男子「受けて立つ!」
機械男子「何でも……だとっ!?」

精霊女子「むっつりってさ、普段は冷静だけど突発的な事態にその本性が垣間見えるよね?」

羽女子「ね?」

暗黒騎士「フコー、フコー」

獣女子「よーし、後で吠え面かくなよ? じゃあな!」

吸血女子「待って待って!」

獣少女「何ですか尻拭き紙にしか使えないクソ記事しか書けない吸血鬼さん? 略して尻血」

吸血女子「言うわねぇ……。
     こほん……、クラス対抗試合だけど、放課後じゃなくて今からやっちゃわないかしら?」

アルラ「今から?」

吸血女子「そうそう、体力のあるうちに終わらせた方がいいでしょ?
     先生たちの許可が思ったより早く下りたし、それに今から対抗試合なら午後の授業は全部潰れるわよ?」

みんな「乗った!!」

吸血女子「うふふ……燃え上がれー、燃え上がれー、火が付いているうちにどんどん闘志を燃やしてねー」

弓女子「あれ? 何か言った?」

吸血女子「いいえ、何も?」

~ 喧騒から離れて ~

邪神「なんか勝手に話が進んでおるわけだが、……逃げるか」

弓女子「ダメだよ! パピ子ちゃんも参加しないと!」

邪神「だからパピ子って誰じゃ! それに我は強制されるのは嫌いじゃ」

 ぷいっ。

弓女子「あっ、ご、ごめん……。でもね、私はどうしてもパピ子ちゃんにも試合に参加して欲しいの」

邪神「だから我はパピ子じゃなくて……ああもうっ! なんで我にそうやって付きまとうのじゃ? いい加減に煩わしいぞ」

弓女子「ご、ごめんなさい……」

邪神「ふんっだ」

弓女子「うぅ……」

邪神「……」

弓女子「あうぅ……」

邪神「…………それで?」

弓女子「へっ?」

邪神「理由くらいは聞いてやると言っておるのだ。早く言わぬか」

弓女子「……っ! ありがとうパピ子ちゃん!」

邪神「だから違うと言うておるのに……まったく」

弓女子「あのね、わたしパピ子ちゃんに色々と迷惑をかけちゃったでしょ?」

邪神「うむ、間違いない」

弓女子「あうぅ……、と、ともかく! それでパピ子ちゃんに学園の事を嫌いにならないで欲しいの!」

邪神「……? なぜにそれで我が学園を嫌いになるのじゃ?」

弓女子「ほへ? 嫌いじゃないの?」

邪神「可もなく不可もなく、特に何とも思っておらん」

弓女子「そこなの! わたしはパピ子ちゃんにもっと学園の事を知って欲しいの、学園の事を知って、学園を好きになって欲しいの」

邪神「なぜじゃ? 我の歓心を得られぬとも、お主に不利益は生じまい」

弓女子「……あのね、この学園はね、スゴい所なんだ。
    今まで喧嘩してた種族や部族が、手を取り合って仲良くしようって、そうやって創り上げた中立領を代表するのがこの学園なんだ。
    いがみ合いや、ぶつかり合いもある。生まれも育ちも種族さえも違うんだもん、当り前だよね。
    だけど、だからこそ、わたしはそんなみんなと友達になりたいんだ。
    妖樹族の力強さ。
    精霊族の司るマナの輝き。
    人間族の多様性。
    獣族の生命力。
    機械族の技術力。
    魔族の魔術知識。
    水棲族の行動力。
    竜族の統べる天空の叡智。
    他にもたくさんの種族たちがいて、それぞれが優れた能力を備えている。
    もし、そんなみんなと友達になれたら、そんなみんなと協力できたら、きっと何だって出来る。この世界を変える事だって出来る」

邪神「……なるほど、お主の言いたい事は納得出来ぬこそあれ、理解は出来た。
   それで万が一、兆が一、もし世界が変わるとしたら、お主はどんな未来をこの世界に望むか?」

弓女子「決まってる。みんなが笑顔で暮らせるように、みんなで一緒に頑張り続ける世界だよ」

 邪神様に向かって、その娘は無理に力も込めずに言葉を紡ぎ、恥ずかしそうに目も逸らさず、その確たる自信はどこから来るのやら、毅然として、さも当然とばかりに、邪神様に微笑みかけたのだった。

邪神「ふっ、本物のバカじゃな」

 でもって当然のように、娘は一笑に付されたのだった。

弓女子「はうっ!?」

邪神「そもそも、今まで戦争を続けていた者たちが仲良く出来るわけあるまい?」

弓女子「いや、でも実際に……」

邪神「まあ確かに、この学園とやらには色々な種族がいるようじゃが、所詮は辺鄙な地で戦略的価値が無いゆえに放置されて独自の風土が培われただけじゃ。
   井の中の蛙、お山の大将が世界を変えようなどと……ちゃんちゃらおかしいわい」

弓女子「あの、ここ中央大陸の中心部……」

邪神「ウソを言うでない。中央大陸の中心部と言えば全種族の欲する最激戦区じゃ。
   あまりにも戦の跡が惨たらしかったから、我の姿を模した超大型石像を鎮魂の碑ならぬ鎮魂の崇拝像として建立したが、あっという間に破壊されたくらいじゃしな」

弓女子「パピ子ちゃんの超大型石像って……」

 話がどうにも食い違う。
 でも、お互いにウソは言っていない。
 娘さんの方は無理かもしれないが、もう片方のチビっこの立場ならちょっと考えれば分かる。というか、気付く。
 封印されている間に何百年という時が流れていた事実。
 でもそこは邪神様。気付くわけがない。
 娘に向かって偉そうにチマチマと指摘した後、これまた偉そうに一息ついた。

邪神「まあ、というわけじゃ。つまりお主はミラクルバカというわけじゃ」

弓女子「うぅ……でも……」

邪神「しかし、こんなバカはそうそうお目に掛かれぬ。少しだけ、興味が湧いたぞ」

弓女子「でもでも、本当に中立領は……って、興味?」

邪神「我は多忙じゃ、その何物にも変えれぬ時間をいくばくか拝領する幸運を魂に……はうっ!?」

弓女子「もう! 協力したいんだよね!?
    みんなで肩を並べて『えいえいおー』ってしたいんでしょ! みんなー!」

邪神「ち、ちが……というか『みんなー』!?」

人男子「どうした?」
精霊女子「どうしたの?」

弓女子「気合いを入れるためにみんなでパピ子ちゃんを胴上げしよう!」

邪神「はあっ!?」

魔男子「戦勝祈願か、いいだろう」

機械男子「出来ればもっと肉付きのいいヤツを、隣のクラスの竜女子とか」

羽女子「むっつりだ」
忍女子「むっつりでござる」

弓女子「よ、よーし! みんなで胴上げだ!」

邪神「ちょっ、やめ……っ!」

みんな「わっしょい! わっしょい!」

邪神「こ、こらっ! やめろ! 止めぬか!」

闇霊女子「はあはあはあはあはあ……」

邪神「尻を的確に触って来るヤツがいるのじゃ! 同時に少しずつ下着をズラしてくるヤツがいるのじゃーっ!」

弓女子「明日はホームランだ!」

みんな「おー!」

邪神「試合は今からじゃろうが! このミラクルバカどもがーっ!!」

~ 校庭・テント ~

吸血女子『あーあー、テステス……』

司書『こちら実況席、こちら実況席……オーケーですね』

観客「早く始めろボケーっ!!」

司書『校庭には続々と授業から抜けてきた不良共が集まって来ています。良い塩梅ですね』

吸血女子『生徒に混じって教師陣が紛れ込んでいる事に教育の腐敗が見て取れますね。この学園の未来はどうなるのでしょうか?
     さてさて、司会進行役はわたくし新聞部部長の吸血女子と』

司書『学園図書館の司書がお送りします。
   ところで《クラス対抗試合とは何ぞや?》という方もいると思いますので、新聞部部長が方言まじりに説明をしますね』

吸血女子『うちの学園は~、ほんま気の短いヤツばかりやけんのぅ。
     ……って、何をやらせるの!?』

司書『ちぇっ、仕方ありませんから私が説明しますね。
   みなさんご存知の通り、この学園にはたくさんの種族の方が通っています。とはいえ、学園も創立から日が浅く、全種族が満足のいく授業やクラス編成を日々手探りで模索中です』

吸血女子『だから基本的には問題が起きにくいようにクラスごとに種族を固定。学校行事や月一度の交流会でクラス単位の触れ合いを用意してあるんですね司書のおねえさーん(棒読み)』

司書『そうですね。種族間摩擦によるストレスを抑えつつ他種族への理解を深めるナイスな教育です。
   理事長の手腕には感心しきりで頭が上がりません』

吸血女子『気持ち悪いくらいに見事なベタ褒めですね、ちなみにその意図は?』

司書『はい。本の精であるわたし的には蔵書をもっと強化して欲しいのです』

吸血女子『正直にありがとうございます。つーかアンタ、世界一の蔵書量でも不満か?』

司書『短編集に、異口同音の論文や学説とかで水増し一位ってのはちょっと……』

観客「話が長えぞオラー!!」

吸血女子『おっと脱線、めんごめんご。では説明を端的に。
     ともかくそんな風にクラスごとに種族を固定したがため、クラスで排他的な気質が育まれ、クラス単位で軋轢が生じる副次効果が発生しちゃったわけです』

司書『無理に潰すと問題が深化する。なら学生らしくスポーツマンシップに乗っ取り交流試合という形で決着を付けよう。
   ……という訳で』

吸血女子・司書『これより学園恒例! 第117回クラス対抗試合を始めます!!』

吸血女子『まずは青コーナー! 獣族クラスの入場です!』

獣女子「……話が長ぇ」

獣少女「まあまあ、お姉様」

司書『獣族は躍動する生命を絵に描いたように身体能力が秀でた種族です。
   リーダーを中心に群れを形成し、鋼の結束から生まれるチームワークもあります』

吸血女子『弱点らしい弱点はありませんが、しいて言うなら魔術面で……』

獣女子「フレイムアロー!」

 ぼひゅっ、ずごごーん。

吸血女子『おおっ! なんと獣族には珍しい文武両道のリーダーです!』

司書『リーダーに術知識が有るか無いかで違いますからね。これは大きいですよ』

吸血女子『そして赤コーナー! 期待の新星軍団、混成クラスです!』

弓女子「みんな! 行くよー!」

全員「おうっ!!」

吸血女子『気合十分ですね、これは健闘を期待して良いのでは無いでしょうか?』

司書『混成クラスは非常に評価の難しいクラスです。
     なんせ各種族の突出した……突出し過ぎた生徒さんたちが集まって出来ていますからね。
     しいて言うならば特徴が有りすぎるのが特徴という感じでしょうか?』

吸血女子『個々の潜在能力は高いはずですが、それゆえ生徒ごとに得手不得手が分かれやすく、状況によって能力が大きく乱高下するという……まあ要するに、クラス全体で拭いきれない好調不調のムラがあるわけです、これが』

司書『適材適所、チームワークで欠点を補ってほしいものですね』

弓女子「我々はスポーツマンシップにのっとり……」

吸血女子『さて、開会の挨拶が進んでる最中ですが、今回の試合のプログラムとオッズを発表します』

司書『試合は体育祭のプログラムを参考にして組みました。中間では草野球、最終プログラムでは変則ルールの騎馬戦が待ち受けています』

吸血女子『これは荒れますね。まあ荒らすように仕向けてるのは私らですが。
     ちなみに現時点でのオッズは(獣族クラス:混成クラス)=(1.9:4.2)です』

司書『堅実な方が多いようですね。やはり分かりやすい欠点があると、こうも差が出るのでしょうか?』

吸血女子『詳しいデータは新聞部から発行の試合予想表をお買い求めください。読み物としてもご満足のいく内容となっております』

司書『さて、そうこうやってるうちに開会の挨拶も終わりました』

吸血女子『第一種目は、えっと……リレーですね』

~ 中距離リレー ~

吸血女子『校庭を半周、次の走者にバトンタッチ。いつものアレです』

司書『なるほど、いつものアレですね』

獣男1「くくく、身体能力なら負けねぇ……」

獣男2「勝ちは貰ったな」

弓女子「羽ちゃん頑張ってー!」

羽女子「任せてー!」

体育教師「では位置に着いて、よーい……」

ドンッ!

獣男「ヒャッハー!!」

吸血女子『おっと、獣男君が飛び出したー! これは速い!』

司書『獣族クラス第一走者の獣男君は《荒野の迅雷》とか自称していたイタい子ですが、その脚力は本物のようですね』

吸血女子『はたして混成クラスの羽女子はどうするー!』

獣男「くくく、追いつけるものかよ!
   しかしまあ、余裕な俺様は走りながら振り返って、唖然とするその間抜け顔を拝んでやるわけだが……」

チラッ

羽女子「ばっさばっさ」

獣男「ええーっ!?」

吸血女子『おおっと!? 混成クラスの羽女子! レーンをガン無視して校庭を直で横断!! ショートカットだ!!』

獣男「ちょっ! 反則じゃないのそれ!!」

司書『空に規定は無いのでオッケーです』

獣男「なんだと!?」

人男子「悔しかったらお前も飛びな! 迅雷お兄さんよお?」

魔男子「わんわんには地面がお似合いだがな! ゲラゲラゲラゲラ!」

獣女子「こ、こいつらっ!?」

吸血女子『混成クラスのギャラリー陣! 素晴らしいゲス顔です!』

獣女子「くっ、負けるな!」

獣男「は、はい!」

吸血女子『気合だ根性だ獣族! しかし混成クラスはもう第二走者にバトンが渡ります!』

羽女子「はい! 委員長!」

暗黒騎士「フコー、任せろ……、フコー」

パッカ、パッカ、パッカ、パッカ

司書『大地を駆ける馬蹄の音が軽快ですね』

吸血女子『ちなみに暗黒騎士さんが跨っているあの漆黒の巨馬は名前をナイトメアと言いまして……』

獣男「ちょっと待って!! やっぱり何かおかしくない!?」

暗黒騎士「フコー、暗黒『騎士』が、フコー、馬に乗るのは普通だ、フコー」

獣男「教室の中じゃ乗ってないよね!? 普段から別に乗ってないよね!?」


人男子「悔しかったらお前も騎士になって馬に乗れよ!」

魔男子「犬コロ風情は地面に這いつくばっていな! ガハハハハ!」

獣少女「こいつらっ!?」

吸血女子『悪役です! こいつら間違いなく悪役です! 情け容赦がありません!』

司書『ルール的にオッケーなら何でも実行に移して来るそのふてぶてしさ……この行動力は見習うべきなのでしょうか?』

吸血女子『そして混成クラスは第三走者に、獣族クラスは第二走者へとバトンが渡る!』

獣男「頼む!」

獣男2「分かった!」

暗黒騎士「フコー、任せた」

石霊生徒「任された……」

 ズシン、ズシン……

吸血女子『遅い!? 混成クラス、ここに来て急激なペースダウン! 舐めてるのか!?』

邪神「……おい、なぜあのゴーレムを走者にした?」

弓女子「試合はみんなで頑張らないとね?」

アルラ「ファイト~!」

狐先生「すぴー、すぴー」

人男子「誰かー、酔いつぶれて寝ている狐先生を保健室まで運べー」

機械男子「うむ、しかしまずは衣服の前をはだけさせて呼吸を楽にさせるべきだと思う」

機械女子「真剣な顔で言える欲望に忠実な君のそういうところ嫌いじゃないよ、でもさあ……」

機械男子「アルコール臭の件なら大丈夫だ。嗅覚を一時的に切れば問題ない」

精霊女子「うん、そうじゃないんだ。そうじゃないの……」

邪神「はぁ、こやつらはまったく……」

獣男3「お先に失礼な! デカブツ!」

司書『そうするうち、第二走者から第三走者へとバトンを繋いだ獣族クラスが混成クラスを抜きました』

吸血女子『だからあれだけ舐めプはやめろと……』

司書『そして第四走者はアンカーです。獣族クラスが先にバトンをアンカーに繋ぎます』

獣族3「ほらよ!」

獣族4「よっしゃ! ラストは決めるぜ!」

ずだだだだー

吸血女子『速い速い! さすが獣族! 野生動物さながらの疾駆です!』

司書『遅れて混成クラスもバトンがアンカーに渡ります』

石霊生徒「すまん……」

忍女子「気にしなくていいでござる」

シュババババー

司書『おー』

吸血女子『速い速い速いー!? 地面を滑るように影が奔る! 混成クラスの一転攻勢だ!』

忍女子「にんにん!」

司書『でもあの娘さん、忍びなのにまったく忍んで無いですよね?』

吸血女子『そこを気にしたら負けです。
     おっと、そうこうするうちにゴールのテープが近づいて来ました!』

弓女子「がんばれー!」

獣たち「負けるなー!」

司書『現在、獣族チームが20メートル近くリードを取っています』

吸血女子『しかし混成クラスも怒涛の追い上げを見せていますよ! はたしてこの勝負! 勝利の女神はどちらにほほえむのか!?』

獣族4「くくく、スピードは向こうの方が少し上のようだが、これだけリードの差があれば……」

忍女子「……かし」

獣族4「ん? 何だ? 後ろから、おどろおどろしい口調の声が」

忍女子「むかしむかし、あるところに中距離走のアンカーを任された獣族がいたでござる」

獣族4「……?」

忍女子「しかし、そのアンカーを任された獣族はゴールと同時にこの世から消えてしまったでござる。ゴールテープが時空の歪曲点に変わっていたからでござる」

獣族4「!?」

忍女子「獣族アンカーの後ろを走る美少女はすべてを知っていたでござる。だから対策を伝えようと必死に獣族アンカーの後を追ったでござる。
    このままでは、獣族アンカーは哀れ時空の果てに飛ばされてしまう……」

獣族4「バ、バカな!? 騙されないぞ!」

忍女子「一度バトンを持ったが最後、獣族アンカーの運命は決まったも同然なのでござる。
    もしこの運命を変えたいのなら……」

獣族4「何だって!? もっと大きな声で言え!」

忍女子「運命を変えるには……歩幅を短くして、いちいち足を高く上げつつ『パルプンテ!! パルプンテ!!』と唱えながら自分の性癖を暴露せよ、と」

獣族4「……」

忍女子「……」

吸血女子『このまま獣族がリードを維持したままゴールインか!?』

司書『おや? 獣族アンカーの様子が……』

獣族4「パルプンテ!! パルプンテ!! 黒ニーソ! 血の繋がっていない義理の妹! スク水!! オレを守ってくれ!!」

吸血女子『…………』

司書『…………』

シュババババー

忍女子「ゴールでござる!」

吸血女子『……え? あっ、急にスローリーになった獣族アンカーを抜いて、混成クラスのアンカーがゴールイン!! 逆転勝利です!』

弓女子「やったー!」

忍女子「やったでござる!」

獣女子「……」
獣少女「……」
獣族たち「……」

獣族4「メイド! 大しゅきホールド! 雨でスケスケになったシャツ! オレを導いてくれ!」

邪神「……さっきから何を言っておるのじゃアイツは?」

精霊女子「さあ?」

機械男子「……あいつ、話せば分かりあえるヤツかも知れないな」

機械女子「うんキミの反応で分かった。きっとロクでもない事をのたまってるんだね」

~ 第二種目、障害物競走 ~

吸血女子『さて、気を取り直して第二種目の障害物競走といきましょうか』

司書『しかし、見慣れないオブジェがグラウンドに複数建立されているのが気になりますね』

吸血女子『よく気付きました! あれぞ術法を日々研究する先生方の作品!
     それにちょっと手を加えて頂いて、妨害装置として走者を阻むように改良したのです!』

術系先生たち「ピースっ!!」

司書『……はあ、なるほど、……ちなみにアレは?』

獣族4「…………」

吸血女子『お仲間たちにフクロにされた挙げ句、逆さま磔にされている獣族アンカーです』

司書『異彩を放ち過ぎてグラウンドのオブジェ以上に目を引きますが、アレは試合に関係ないんですね?』

吸血女子『はい、ただの落伍者です。敗北者の末路はいつも悲しいものですね』

魔男子「ひどいな、おい」

邪神「のう? ちなみに我はいつ試合に出るのじゃ?」

弓女子「この次からだよ、着替えが必要だから終わったらすぐ移動だからね?」

邪神「着替え? なにゆえ?」

弓女子「えへへ、ナイショ」

邪神「むう……」

魔男子「おっ、そろそろ始まるぞ」

羽女子「みんなで応援するぞー!」

弓女子「おー!」

邪神「おー……」

獣男「やるか」
獣女「全力で行くわ」
獣少年「が、がんばります!」
獣男2「1位はオレのものだぜ」
獣少女「頑張ります! お姉さま!」


闇霊女子「ぜったい、負けません」
機械男子「あまり動くのは得意じゃないのだが……」
精霊女子「がんばろー!」
人魚女子「あ、あれ? 何これ? わたし、プールでのんびりしていた所を無理やり呼び出されて……あれれ?」
アルラ「トップを狙います~」

司書『走者は1チーム5名、計10名です』

吸血女子『ちなみに点数は先着が高いのは当然ですが、完走出来れば最下位でもそれなりに点が入ります。完走出来れば』

司書『意味深ですね。やはり底意地の悪さが垣間見えます』

吸血女子『何を失礼な? この種目で重要なのは、時に歩を緩めて仲間を助け、リタイアを出さずに全員ゴールするという点です。
     つまり仲間同士の絆を推奨する私はとても心の清らかな正義の記者なのです!』

司書『罪人に情け容赦なく石つぶてを食らわす聖人様のようなお言葉ありがとうございました。
   さてさて、それではお時間のようです』

人魚女子「あのー、これって……」

体育教師「では走者全員、位置について!」

人魚女子「えっ? あっ、うん」

体育教師「よーい、ドン!!」

どどーん。

みんな「うおおーっ!」

吸血女子『走者一斉にスタート! 艱難辛苦、七難八苦を乗り越える猛者は現われるのかー!?』

司書『ちなみに前回のクラス対抗試合では、障害物競走の走者全員が病院送りに……』

吸血女子『さあさあ! 諸君! 歴史を創りたまえ!』

邪神「なんつー無茶苦茶な……」

~ ギャラリー ~

観衆1「お前、どっちに張ってる?」

観衆2「安定志向の獣族チーム」

観衆1「ふふ、これだからトーシロは」

観衆2「ああ? そういうお前も10ゴールドとかシケた金額しか張ってないんだろーが」

観衆1「全額だ」

観衆2「はあ?」

観衆1「仕送り、バイトの金、私物を売り払っての全額だ」

観衆2「お、お前……」

ざわ・・・ざわ・・・

観衆1「狂気の沙汰ほど何とやらだぜ?」

観衆2「でも混成クラスから早速1名あぶれたぞ?」

観衆1「んだとオラッ!? どこのマヌケだボケナス!」

観衆2「ほら、あの人魚娘だよ。尾で跳ねながら器用に進んでるけど、やっぱ陸上で2足にはかなわねぇな」

観衆1「クソが! もっと急げやメシの種!!」

観衆2「……これだからギャンブル狂は」

人魚女子「ああもう! ギャラリーうるさい!」

弓女子「がんばってー!」

人魚女子「わかってるわよ! もうっ、なんでわたしがこんな……ぶつぶつ……」

吸血女子『明らかな配役ミスで混成クラスが一欠けの状況! 立ち上がりは獣族クラス優位の形か!?』

司書『集団はダマになって進んでいます。全体的に見ると獣族がやや前を進んでいる状況ですね』

吸血女子『しかし! そう易々と事が運ばないのがこの競技! さあ、第一トラップが走者を待ち構えます!!』

邪神「トラップってはっきり言ったぞ、あやつ」

人男子「それはそうと、第一の障害物は……何だありゃ?」

羽女子「お皿いっぱいの……パン?」

吸血女子『まずはジャブでパン食い! 男子は大皿、女子は小皿を一枚完食するがよい!』

人男子「第一障害にパン食いってバカじゃねえの!?」

羽女子「わたしならレース途中で吐く自信があるなぁ……」

邪神「む? そう言っておる間に集団が差し掛かるぞ」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom