天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~ (872)

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」

第二話 「セックスしないと死ぬ!」

第三話 「褒められないと死ぬ!」

第四話 「約束破ると死ぬ!」

第五話 「優しくしないと死ぬ!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

勇者「天国に一番近い勇者」
勇者「天国に一番近い勇者」 - SSまとめ速報
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前スレ(1~6話)

勇者「天国に一番近い勇者」
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ーー私の名前は天童世死見。ダメ人間の勇者を救うべくやって来た、イケメンでナイスガ~イの天使であるっ!


女僧侶「あっ、ほらっ! 勇者さん! 今、あそこで魚が跳ねましたよ!?」

勇者「……魚っすか」


ーー彼は天界から与えられた10個の命題をクリアしないと死んでしまうのであるっ!


女僧侶「あの……勇者さん……? 大丈夫ですか……?」

勇者「ヤバイかも……船って……揺れるねぇ……? 気持ち悪いねぇ……?」


ーーまぁ正直、すぐ死んじまうと思ったけどよぉ? こいつは底力見せてよぉ? ここまで6つの命題をクリアしたってワケだ!


女僧侶「あの……勇者さん……」アセアセ

勇者「ダメ……吐いちゃう……」

女僧侶「!」

ーー最初にクリアした命題は「引き篭もりをやめなければ即・死亡!」


勇者「……オエェェェェッ」

女僧侶「き、きゃあっ……!」


ーーそして次にクリアした命題は……


勇者「……ゲボオォォォォッ」

女僧侶「勇者さんっ……! 吐くなら、海に吐いて下さいっ……! 海にっ……!」アセアセ

勇者「あっ……う、うん……オエエェェェェッ……」


天童「おめぇはよぉ!? 人が話してる間、ゲボゲボうるせぇんだよっ!?」

勇者「あっ……ごめん……俺の事は気にしないで……ウップ……」

天童「うおっ……! こっち向くんじゃねぇよっ! 吐くなら海に吐けっ! 海によぉっ!」

ーーーーー


天童「よしっ! ついに魔王城のある大陸に到着したなっ!」

女僧侶「魔王城がある危険な大陸だっていうのに、私達と同じように、船で大陸渡ってくる冒険者さん達が、結構いるもんなんですねぇ?」キョロキョロ

天童「まっ、それだけ危険な大陸なんだかよぉ? 一山当てるつもりの連中が多いんだろうね?」

女僧侶「ふふ、私達も負けてられませんね……」クスクス

天童「まぁ、俺達もよぉ、先越されねぇように、とっととこんな船からおさらばして、街に行って酒でも飲みましょうっ!」

女僧侶「あっ……お酒はダメですよ……? 私達、お金もう少ないんですから……」

天童「まぁまぁ! 勇者君が活躍してくれるからさぁ? なっ、勇者……んっ……?」


勇者「……」グッタリ

天童「……おい、勇者?」

勇者「……」

天童「おいっ! 聞いてんのかおいっ!」

勇者「……俺、もう今日駄目だ」

天童「おめぇ、何言ってんだよっ! 他の冒険者は皆、街に向かってるぞ? こんな所で出遅れてどうすんだよ!」

勇者「あっ、天童……大声出さないで……まだ、船酔いで気持ち悪いからさ……?」

天童「何、言ってやがるこのダメ人間がっ! ほれっ、とっとと起きろっ!」グイグイ

勇者「バカっ……! 動かす……ウエエェェェェッ……」

天童「うおっ……! 汚ぇなぁっ……! 何やってんだ、おめぇっ!」

勇者「ごめ……ウエエェェェェッ……」


女僧侶「まぁまぁ、天童さん……勇者さんの酔いが醒めるまで、しばらく待ちましょう」

一時間後ーー


「よ~しっ、ストップっ! じゃあ、積荷降ろすぞ~? 準備いいか~?

「う~っす!」「う~っす!」


天童「……おい、勇者? 他の冒険者は皆、行っちまったぞ?」

勇者「ごめん……でも、だいぶマシになってきたから……」


「ちょっと~! 気をつけて扱ってよ~! その物資、高価なヤツなんだから!」

「う~っす!」「う~っす!」


女僧侶「……あれは、こっちの大陸への支援物資か何かでしょうかね?」

天童「う~ん……そうじゃないかな? やっぱり、こっちの大陸は物資が不足してるからねぇ?」


男武道家「全く……何で皆、僕ばかりに支援要請するんだ……東の街の次は大陸の街ってか……こっちは慈善事業じゃないんだよ……」ブツブツ

天童「あれ……? あの人って……?」

勇者「……ん?」

女僧侶「……お二人はあの方とお知り合いなのですか?」

天童「あぁ、東の街復興の時に、ちょっとね……おぉ~いっ! 男武道家さぁ~んっ!」


男武道家「んっ……? あっ! 天童さんに、勇者君じゃないかぁ!」

勇者「あの、以前は……お世話になりました……」

男武道家「あぁ、気にしないでよ! それよりさ……? あの時の支援物資の食糧良かったでしょ?」

勇者「はい、街の皆さん、凄く喜んでましたよ!」

男武道家「なぁ~んたって、僕のこだわりは凄いからねぇ? 実はね、あれから凄くいい食糧手に入れたんだ? ねぇねぇ、その話聞きたい聞きたい?」ウキウキ

勇者「あっ……! いやっ、それは……またの機会に……」

男武道家「え~っ!? つれないなぁ、君~! そんな事、言わずに聞いてよ~?」ウキウキ

勇者(やべぇ……おいっ、天童っ! 話題変えろっ!)

天童「あの~? 男武道家さんは、どうしてこちらの大陸へ……?」

男武道家「……あぁ、それね? なぁ~んか、こっちの大陸にさぁ? 物資が足りてないから、支援して来いって」

天童「じゃあ、今、船から降ろしてる積荷……アレ、全部男武道家さんの物で……?」

男武道家「信じられる? アレ、個人の物だよ? 何で、僕がさぁ? 個人でこんなに荷物運ばないといけないんだよ!?」

天童「まぁ、でも、ほら? 男武道家さんお金持ちだから……」

男武道家「だったら、社長がやればいいでしょ! 社長がっ! 僕は課長なんだよ!? なんで、課長の僕がさぁ!?」

天童「……武闘家さん、転職考えた方がいいんじゃないですかね?」

男武道家「うん……これ、終わったらさ? 武道家協会抜けて、遊び人にでもなるよ」

男武道家「まぁ、でもちょうど良かったや! ねぇねぇ、君達あの荷物運ぶの手伝ってよ?」

勇者「……えっ?」

天童「……えっ?」

男武道家「あっ! 勿論、ただとは言わないよ!? ちゃんと時給も出すからさ?」

勇者「あっ、お金出してくれるんですか?」

天童「それなら、手伝いますばいっ!」

男武道家「そうだなぁ~? 一時間、一人2Gでどうかな?」

勇者「……えっ?」

天童「……安いぞ」

男武道家「あれっ? どうしたの、その顔? ほらほら、給料出てるんだから、とっとと働いてよ! 時給引いちゃうよ?」

勇者(2Gって……薬草も買えやしねぇぞ……)

天童(武道家協会が腐ってんのは、こいつが原因じゃないだろうなぁ……?)

女僧侶「まぁまぁ、お二人共……お金の問題じゃないじゃないですか」

勇者「……ん?」

女僧侶「男武道家さんは、こっちの大陸に支援物資を運ぼうとしているんですから、私達も協力しましょうよ」

男武道家「おっ? 君、いい事言うねぇ?」

女僧侶「この物資で、困ってる人達が救われるんだから、私達も是非協力するべきですよ」

勇者「まぁ……そうだね……」

女僧侶「じゃあ、私達も手伝いますね? 男武道家さん?」

男武道家「いやぁ~、君、女の子なのに、頑張るねぇ? でもさぁ……?」

女僧侶「?」

男武道家「今……『お金の問題じゃない』って、言ったよね……?」

女僧侶「えっ……? はい……」

男武道家「そうだよね……そうだよね……こういうのはお金の問題じゃないよねぇ……」

女僧侶「は、はぁ……」

男武道家「よしっ! じゃあ、君は無給だっ!」

女僧侶「……えっ!?」

男武道家「何、驚いてるのさ? だって君、さっき『お金の問題じゃない』って言ったよね? 言っただろ? 言ったはずだよ?」

女僧侶「あっ……いやっ……」アセアセ

男武道家「だから、無給で頑張ってね? じゃあ、よろしくね?」

女僧侶「……」


天童「……」

勇者「……カァ~、俺より金に意地汚ぇ奴が現れやがったっ! たまらぁ~ん、もう、たまらぁ~んっ!」

天童「……そんな事、思ってねぇよっ! それに、俺は別に金に意地汚くねぇよっ!」アセアセ

本日はここまで

ーーーーー


天童「しかし……荷物の量、多いなぁ……」

勇者「これ全部、支援物資なんでしょ? あの人、いい人なのか悪い人なのか、よくわかんないよね……」ポロッ

天童「……おい、勇者? 何か落ちたぞ、そこ」

勇者「あれ、なんだろう……封筒みたいだけど……あっ……!」

天童「おっ! 封筒って事は来やがったな!」

勇者「……なんで、命題がさ? こんな支援物資の中に紛れてんだよ?」

天童「……そういうのは神様に聞いてくれよ。まっ、早速見てみようぜ?」

勇者「も~う……え~っと……今回の命題は……っと……」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後1時までに

他人の決断に任せないと即・死亡!





天童「ふ~む……『他人の決断に任せないと即・死亡!』か……」

勇者「えっ……?」

天童「今、午前11時だから明日の1時まで、後26時間……だな……?」

勇者「いやいやっ! 長いよっ! 今回、長いよっ!」

天童「まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇなっ!」

勇者「も~う……」

天童「とにかくよぉ? 後26時間……他人の決断に任せるんだな!」

勇者「なぁ、天童……ちょっと、それよくわかんないんだけど、どういう事?」

天童「……ん?」

天童「……おめぇはよぉ? こんな簡単な事もわかんねぇのかよ?」

勇者「いやいや、違うよ、違う違う! だから、今回の命題は後26時間、決断を女僧侶ちゃんやお前に任せればいいって事だよね?」

天童「そうだよ、わかってんじゃねぇか」

勇者「……でもさぁ? それっておかしくない?」

天童「……あぁ? 何がおかしいんだよ?」

勇者「……だって、命題っていうのは、ダメ人間の俺を成長させる為に来てるんでしょ?」

天童「そうだよ。おめぇは命題をクリアしながら、真人間に近づいていくんだよ」

勇者「でもさぁ? 他人に決断を任せる……ってのは、ちょっと違うんじゃないの? 自分で決断しろってのなら、ともかくさぁ?」

天童「……ん? そういや、そうだな」

勇者「なっ? 何か、今回は命題、おかしくねぇか?」

天童「う~ん……いや、でも『他人の決断に任せないと即・死亡』って、ちゃ~んと書いてあるしなぁ……?」マジマジ

勇者「これ、今回は一回休み……って、事でいいのかな?」

天童「いや……そういう事じゃねぇだろ……? なぁ~んか、意味があると思うんだよ……」

勇者「う~ん……そういう事なのかなぁ……」

天童「まぁよぉ? 安易に決断するなって事じゃねぇのか? とにかくよぉ、後26時間……気をつけろよ!」

勇者「う~ん……わかった……」

天童「じゃあ、とりあえず、荷物運んじまうか!」

勇者「そうだね。あんまり考えてもしょうがないしね……」

天童「じゃあ、僕はこっちの軽い荷物運ぶから、勇者君はそっちの思い荷物、よろしくね!」

勇者「……はぁ? 何、言ってんだお前!?」

天童「勇者君こそ、何言ってるんだよ! これは僕の決断だよ!? ホラ、僕に任せないとさぁ?」

勇者「おめぇはよぉ? そうやって、すぐ楽しようとしやがるなぁ? いいから、おめぇもこっちの重い荷物運べっ!」

天童「あっ……! おめぇ、俺の決断に任せねぇと死ぬぞ!? 死んじまうんだぞ!?」

勇者「うるせっ! そう何度も騙せれてたまるかよっ! いいから、そっちの荷物よこせっ!」グイグイ

天童「ダメだって、こっちの荷物運んだら、おめぇ死ぬぞ!? 死んじまうぞ!?」グイグイ


男武道家「ちょ、ちょっとっ……! 君達、何してるのっ!?」アセアセ

勇者「……ん?」

天童「……ん?」

男武道家「そんな危険物で遊んじゃ、危ないでしょ!? 何、考えてるの!?」アセアセ

勇者「……えっ? これ、何入ってるんですか?」

男武道家「それには、爆薬が入ってるんだよ!? 下手に落っことしたら、爆発するよっ!?」

天童「えっ……? これ、爆弾……?

男武道家「もうっ! 慎重に扱ってもらわないと困るよっ! 時給減らすからね、もうっ!」

勇者「な、なんで……こんな危険な物……持ち運んでいるんですかね……?」アセアセ

男武道家「魔物のいる洞窟を破壊するのに、使うんだってさ! とにかく、天童さんはそれを慎重に運んで……勇者君は、残り全部の荷物、運んじゃってっ!」


勇者「!」

天童「!」

天童「勇者君、変わって……? 僕、そっちの重い荷物、全部持つからさぁ……?」アセアセ

勇者「ダメ……男武道家さんの決断だから……俺、こっちの重い荷物運ばなきゃ……」アセアセ

天童「……」

勇者「……」

天童「なぁ、勇者……頼むよ……変わってくれよ……俺、こんな危険な物、運びたくねぇよ……」

勇者「ダメだって……俺が運んだら……それこそ、死んじまうんだからさぁ……?」

天童「……」

勇者「……」

天童「お、おい……勇者……? この命題……思った以上にやべぇぞ……?」

勇者「う、うん……もう、自分で決断とかしない……」

ーーーーー


女僧侶「あの……勇者さん……? 天童さん、どうしてあんなに離れて歩いてるんですかね……?」テクテク

勇者「あぁ……聞かない方がいいよ……?」テクテク

女僧侶「?」

勇者「まぁ、街までもう少しだからさ……? 頑張って、支援物資運ぼうよ?」

女僧侶「……勇者さんの荷物、重そうですね? 私も手伝いましょうか?」

勇者「あっ、本当? だったらさぁ……手伝ってもらえ……」


男武道家「あ~、こらこら! 女僧侶ちゃん、余計な事を言わないの!」

女僧侶「……えっ?」

勇者「……んっ?」

男武道家「勇者君はさぁ? 女僧侶ちゃんと違って、給料出てるんだから、その分働いてもらわないと困るよっ!」

勇者「給料って……さっき、時給減らされて、たった1Gでしょうが……」

男武道家「1Gでも立派なお金です。 ほら、お金出てるんだから、文句言わないのっ!」

勇者「なんで、そんなにお金にシビアなんですか……ちょっとぐらい、手伝ってもらってもいいじゃないですか……」

男武道家「ダ~メっ! お金を貰ってる人はその分、働かないといけないの! これが僕の決断ですっ!」

勇者「!」

女僧侶「勇者さん……男武道家さんは、ああ言ってますが……やっぱり、私手伝いますよ?」

勇者「えっ……!?」

女僧侶「荷物貸して下さい。 私も半分持ちます」ニコッ

勇者「あっ……! いやっ……! あのっ……! そのっ……!」

女僧侶「どうしたんですか?」

勇者「あっ……いやっ……! 大丈夫だよ、大丈夫っ! ここは男武道家さんの決断に任せよう!」

女僧侶「そんなに重そうなのに……どうしてですか……?」

勇者「いやぁ……やっぱり、お金貰ってるんだから、ちゃんと働かないとさ! ねっ?」アセアセ

女僧侶「……たった1Gなのに?」


「あ~っ! ちくしょうっ! こんな街に来たのは、失敗だったぜ!」


女僧侶「……ん?」

勇者「……ん?」

「ふざけんじゃねぇよっ! あの糞野郎っ! 足元見やがってっ!」

「こんな所で一山当てようとした俺達が失敗だったぜ!」

「とっとと船で、あっちの大陸へ戻ろうぜっ!」


ゾロゾロ……


勇者「どうしたんだろ……? 冒険者達が、船の方に戻ってるけど……?」

女僧侶「街で何かあったんですかねぇ?」


男武道家「君達、何してるの~? そんなにもたもたしてたら、また時給引いちゃうよぉ~!」

勇者「別に、減らされてもいいけどね……1Gだし……」

女僧侶「すいませ~んっ! 今、行きますっ!」

街ーーー


男武道家「12時半……って、ところだね……ようやく、街ついたか」

女僧侶「もうお昼ですね……昼食でもとりませんか?」

勇者「あっ、いいねぇ? 俺、船酔いで全部出しちゃったからさぁ……? お腹ペコペコなんだよ……」

男武道家「う~ん……じゃあ、お昼ご飯は商談が終わってからにしようか?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「いやっ……皆、お腹空いてますから、先にご飯にしません?」アセアセ

男武道家「あっ……君、バイトの分際で、僕の決断に逆らうの? 時給引いちゃうよ?」

勇者「!」

男武道家「あれっ……? 君、急に黙りこんで、どうしたの?」

勇者「あっ……いやっ……先に商談でいいです……はい……」

男武道家「あれ? 急にしおらしくなったねぇ、君?」

勇者「いや、やっぱり……支援物資をこの街の方達に届けませんとね……」

男武道家「じゃあ……どうしようかな……? 商談の方に天童さん、貸してくれるかな? あの人も、腕いいからさぁ?」

勇者「……僕達はどうしたらいいですか?」

男武道家「君達は道具屋とか武器屋を回ってさぁ? レアな物がないかチェックしておいてくれない?」

勇者「男武道家さんって、アイテムコレクターですもんね」

男武道家「それが終わったらさぁ? 皆でご飯食べに行こうよ?」

勇者「……一時間ぐらいかかるんですかねぇ?」

男武道家「まぁ、商談で纏まったお金も入ると思うしさぁ? 奢ってあげるから、一時間ぐらい我慢してよ?」

勇者「えっ!?」

男武道家「……何だよ、そんなに驚いた顔をして?」

勇者「武道家さんが奢ってくれるんですか?」

男武道家「君は人を守銭奴みたいに言うんだね? 君は失礼な人だ」

ーーーーー


女僧侶「天童さんと男武道家さん、商談の方に行きましたね。上手くいくといいですね」

勇者「……あいつ、爆弾持ったままだけど、大丈夫かねぇ?」

女僧侶「……爆弾?」

勇者「いやっ……まぁ、あんまり気にしない方がいいよ……」

女僧侶「?」

勇者「まっ、俺達も道具屋とか回って、商談が終わるのを待とうか!」

女僧侶「そうですね。薬草や回復薬の補充もしませんとね」

道具屋ーー


道具屋の主人「……いらっしゃい」

勇者「あら、品揃えが豊富ですね」

女僧侶「そうですね。薬草に、回復薬……魔力回復薬なんかまであります」

主人「薬草は……500G……」

勇者「……えっ?」

主人「回復薬は……1000G……」

女僧侶「……えっ?」

主人「魔力回復薬は……1500G……」

勇者「!」

女僧侶「!」

とりあえず今日はここまで

主人「……どうした?」

勇者「い、いやっ……あのっ……」アセアセ

女僧侶「これ……ちょっと、高くありませんか……? 薬草って、5Gぐらいじゃないんですかね……?」

主人「お前ら、向こうの大陸から来た冒険者だろ? なぁ?」

勇者「あっ……はい……」

女僧侶「その通りです……」

主人「あのなぁ? 向こうの大陸と、こっちの大陸じゃ相場が違うのは当たり前じゃねぇかっ!? なんで、あっちの大陸の人間は文句ばかり言うんだよ!?」

勇者「いやぁ……でも、ですねぇ……? 100倍って……やりすぎじゃないですかねぇ……?」

主人「それはお前らがよぉ、平和な大陸で、平々凡々と暮らしてるから、そう思うだけだろが!」

女僧侶「……えっ?」

主人「こっちの大陸見てみろよ! 魔王城が近くにあるせいでよぉ? 魔物が溢れて、薬草一つ採るのにどんだけ苦労してると思ってるんだよっ!?」

女僧侶「そんなに……こちらの大陸は荒れているんですね……」

主人「さっきも、おめぇと同じ事言って、他の冒険者は帰っちまったよ! どうすんだよ!? 俺、家族養えねぇよっ!」

女僧侶「……」

主人「まぁよぉ……? おめぇらは人が良さそうだから、まけてやってもいいかね……?」

女僧侶「えっ、 本当ですか!?」

主人「そうだな……2割引き……って、ところでどうだ?」

女僧侶「えっ、2割引きって事は……100Gもまけていただけるんですかっ!?」

勇者「……いやいや」

主人「そうだよ、得だろ!? すっげぇ、お得だろ!? だからよぉ、俺と家族の為にも、何か買って行ってくれねぇかな?」

女僧侶「そういう事なら……買いましょうかねぇ……?」

勇者「いやいや……女僧侶ちゃん……よく考えなよ……?」

主人「……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「……これさぁ? 2割引きした所で400Gだよ? 元値の何倍の値段だと思ってるの?」

主人「うるせぇなっ! おめぇは人の好意に余計な事言うんじゃねぇよっ!」

勇者「いや……でも、ですねぇ……?」アセアセ

主人「買おうとしてるのはこの姉ちゃんだろうがっ! おめぇは余計な茶々入れるんじゃねぇよっ!」

勇者「そうは言ってもですねぇ……」

主人「俺はおめぇと商談なんてしてねぇよっ! 俺はこの姉ちゃんと商談してんだよ!」

勇者「いやっ……でも、僕仲間ですから……」アセアセ

主人「うるせぇよっ! おめぇみたいな相場のわからねぇ奴は黙ってろよっ! おめぇは黙ってこの姉ちゃんの決断に乗っておけってのっ!」

勇者「!」

主人「ったく、これだから相場のわからねぇガキの相手は嫌なんだよ……で、どうする? 姉ちゃん、買ってくれるかな……?」


女僧侶「う~ん……そうですねぇ……」

主人「なぁ~、 頼むよ~? 頼むよ、姉ちゃん~?」

女僧侶「?」

主人「姉ちゃんにさぁ? 何か買ってもらわねぇとさぁ? 俺の家族、皆首くくる事になっちまうんだよぉ~」シクシク

女僧侶「そ、そんなっ……!」アセアセ

主人「他の冒険者達が、何も買わずに帰ったせいでよぉ……? 今日は大赤字なんだよ……なぁ、頼むよぉ~?」

女僧侶「で、でも……私達、そんなにお金持ってませんし……」

主人「あるだけでいいかよぉ~? 何でもいいからよぉ~? とにかく、何か買ってくれよぉ~?」

女僧侶「勇者さん……? この方、困ってるみたいですが、どうしましょう……?」アセアセ


勇者「……」

女僧侶「……勇者さん?」

勇者「……女僧侶ちゃんの決断に任せるよ」

女僧侶「……えっ?」

勇者「値段は確かに高いけどさぁ……? この人も困ってるみたいだし……女僧侶ちゃんの決断に任せる……」

女僧侶「え~? じゃあ、どうしましょうか……?」

勇者(……買うなよっ! 絶対にっ! 買うなよっ!)


主人「なぁ? 頼むよ、姉ちゃん~?」シクシク

女僧侶「そ、それじゃあ……」

勇者「……」

主人「……」

女僧侶「薬草を一つ、いただきます」ニコッ

勇者(何で、買うんだよっ! 俺『買うなよっ! 絶対に買うなよっ!』って言ったじゃんっ!)

主人「へいっ! 薬草一つで400Gだっ!」

女僧侶「ふふ、家族の皆さんよろしくお願いしますね?」

勇者(この薬草一つで、何個薬草が買えるんだよっ! 返品しなさいっ! 絶対に返品しなさいっ!)

主人「あぁっ! また買い物してくれよっ!」

女僧侶「そうですね。 また、纏まったお金が入ったら、こちらに来たいと思います」ニコッ

勇者(あ~っ! 言いたいっ! 凄くいいたいっ! その決断は間違ってるって、凄く言いたいっ!)

女僧侶「それじゃあ、勇者さん? そろそろ、男武道家さん達と合流しましょうか?」

勇者「……」

女僧侶「お腹も減りましたし、ね……?」

勇者「……そうだね」

女僧侶「あ、あれっ……? もしかして……勇者さん、怒ってます……?」アセアセ

勇者「……えっ?」

女僧侶「あの……私が高い薬草買ってしまった事……怒ってます?」

勇者「……」

女僧侶「だって……あの人、家族を養っていらっしゃるのに……困っていたみたいでしたから……つい……」

勇者「……『つい』って」

女僧侶「確かに……薬草は高かったですが……」

勇者「……」

女僧侶「それで、あの方と家族が救われる事を考えてら、安い買い物だと思うんですよね……?」アセアセ

勇者「……えっ?」

女僧侶「……私達だけが、お金を沢山蓄えて幸せになってもしょうがないじゃないですか?」

勇者「……」

女僧侶「私は……幸せは全ての方に平等に与えられる物だと思うんですよね……」

勇者「一応、高い事はわかってたんだね……? それで、そういう理由で買ったって、ワケか……」

女僧侶「でもっ……! 勇者さんが納得できないのであれば、返品してきますが、どうしましょうか……?」

勇者「……」

女僧侶「勇者さん……怒ってますよねぇ……?」アセアセ

勇者「……いや、怒ってないよ」

女僧侶「……えっ?」

勇者「俺はさぁ? 目先の損得しか考えてなかったけど、女僧侶ちゃんはそういう事も考えてたんだね?」

女僧侶「……」

勇者「そういう考えで出した決断だったら、いいんじゃない? 俺にはそういう考え方はできなかったからさ?」

女僧侶「勇者さん……ありがとうございます……」

勇者「……今回の命題の意味って、こういう事なのかな?」

女僧侶「……命題?」

勇者「あっ……! いやっ……! なんでもないナンデモナイ……! それよりさ、早く男武道家さんと合流して、ご飯食べに行こうか!」アセアセ

ーーーーー


男武道家「……勇者君、遅かったねぇ? 待ちくたびれたよ」イライラ

勇者「あっ、ごめんなさい……って、何でまだ荷物がここにあるんですか? 商談はどうしたんですか……?」

天童「商談……決裂……って、ヤツだ……」

勇者「うおっ! おめぇも何で、まだ爆弾持ってるんだよ!? そんな、危ねえ物、早く売っちまえよっ!」

男武道家「……2Gだって。その爆弾の買取価格」

勇者「……えっ?」

男武道家「こっちの武器は各3G……こっちの食糧は各1Gだって……買取価格……」

勇者「はぁ!?」

男武道家「全部売っても、1000Gにもならないよ……こいつら、弱者って事を利用して、舐めてるよね?」

勇者「これだけの支援物資あるのにですか!?」

天童「おいっ、勇者っ! 俺の商才が通じねぇんだよっ! 何を言っても『物価が違う』の一点張りだっ!」

男武道家「……こんな街に支援物資を渡す価値なんてないよ。僕も船に乗って、あっちの大陸に帰る」

勇者「いやいやっ……! 男武道家さん、ちょっと待って下さいよっ!」アセアセ

男武道家「何だよ、勇者君? 止めても無駄だよ? 僕はボランティアでやってるわけじゃないんだから……」

勇者「いやいや、そうじゃなくてですね……」

男武道家「……何? どうしたの?」

勇者「あの……飯、奢ってもらうって約束……どうなりました……?」

男武道家「あれは、商談で纏まったお金が入ったらって、言ったでしょ!?」

勇者「いや~、あの……実は僕達、お金がないんですよ……」アセアセ

天童「おい、勇者? まだ、500Gぐらいは残ってただろ?」

勇者「ごめん天童……使っちゃった……」

天童「はぁ!? おめぇ、500Gも何に使ったんだよ!?」

勇者「……薬草」

天童「おめぇ、何個薬草買ったんだ!? そんなに、薬草買ってどうすんだよ! おめぇは虫か! 主食は草かっ!」

勇者「あはは……数は聞かない方がいいと思うよ……? お前、多分暴れる事になるから……」

天童「……お前、何か騙されたりしてねぇだろな!?」

勇者「う~ん……でも、命題だったからさぁ……?」

天童「……何か、決断を任せる場面があったのか?」

勇者「……うん」

天童「……」

勇者「と、いうワケで男武道家さん……ご飯だけでもご馳走してくれませんかねぇ……?」

男武道家「……」

勇者「僕達、お金なくて困ってるんですよ……ねっ……?」

男武道家「……」

勇者「ねっ、お願いしますよ? ここまで支援物資を運ぶの手伝ったじゃないですか?」

男武道家「もう……しょうがないなぁ……」

勇者「ありがとうございますっ……!」

男武道家「その変わり……この物資、持って帰るから、船まで運んで積み込むの手伝ってね?」

勇者「……えっ?」

男武道家「何だよ、君? ただで奢ってもらえるとでも思ってるの? ダメだよ、これが条件!」

勇者「うぅ……わかりました……」

男武道家「じゃあ、皆で酒場にでも行って、食事にしようか? あまり、高い物は頼んじゃダメだよ? 一人、一品のみね!」

勇者「……」

今日はここまで

酒場ーーー


酒場の主人「……いらっしゃい」

天童「生、頼みたいけどなぁ……まぁ、我慢すっかっ! おい、皆は何注文するんだ?」

勇者「え~っと……じゃあ、俺はA定食で……」

女僧侶「私も、同じものにします」

男武道家「じゃあ、僕はB定食にしようかな? 天童さんはどうします?」

天童「酢豚か……堅焼きそばだなぁ……」

勇者「……おめぇは、昼から酢豚を食うのか? 堅焼きそばを食うのか?」

天童「もう、昼って時間でもねぇだろが? 決めたっ! 俺は堅焼きそばねっ!」


主人「A定食二人前と、B定食と、堅焼きそばだな? すぐ、作るよ」

主人「ちなみに……うちは前金制だ……」

勇者「あっ、そうなんですか? じゃあ、男武道家さん……お願いします……」

男武道家「もう……後で、しっかり働いてもらうからね? それで……いくらなの?」

主人「……27'000Gだ」

勇者「……えっ?」

男武道家「はぁ!?」

主人「……何、驚いてんだよ? 早く、27'000G払いやがれ」

勇者「ちょっと……! 高くないですかねぇ!?」

男武道家「おい、お前? 舐めてんだろ? なぁ、僕達を舐めてるんだろ!?」

主人「A定食は、6'000G……B定食は、5'000G……堅焼きそばは……10'000Gだ……」

勇者「おいっ、 天童っ! おめぇ、何高いもん、頼んでんだコラっ!」

天童「いやっ、待てっ! 勇者、待てっ!」

勇者「おめぇもB定食にしろっ! おめぇの頼んだ、堅焼きそばは倍の値段してんじゃねぇかよっ!」

天童「待てっ! 勇者っ! とりあえず、落ち着けっ!」

勇者「……あぁ?」

天童「堅焼きそばの値段はよぉ? 確かに高ぇけど、他のメニューの値段、よく見てみろよ、おいっ!」

勇者「……ん?」

天童「A定食が6'000G……B定食が5'000Gだぞ? 俺だけじゃなくて、おめぇらも、おかしいもん注文してんだよっ!」

勇者「そ、そうだっ……問題点は堅焼きそばの値段じゃないよな……」アセアセ

男武道家「なぁ……? お前、舐めてんだろ?」

主人「……何がだよ?」

男武道家「この料金でさぁ、四人家族が何ヶ月食べていけると思ってるんだよ?」

主人「……それは、お前らがいた平和な大陸での話だろ?」

男武道家「……はぁ?」

主人「こっちの大陸はなぁ? お前らのいた大陸とは違って、物資が不足してんだよ。物価が上がるのは当然じゃねぇか?」

男武道家「需要と供給のバランスってわかるかな? あっ、わからないから、こんな方外な値段ふっかけてるんだよね? 君、頭悪そうだし」

主人「……文句ばっかり言うんだったら、とっとと帰りやがれっ!」

男武道家「ああっ! そのつもりだよっ! こんな店にいられるかっ! この野郎っ!」ガタッ

男武道家「勇者君っ! 帰るよっ!」

勇者「えっ……? いや、ご飯は……?」アセアセ

男武道家「こんなバカみたいな料金のお店で食べれるワケないでしょ! ほらっ、荷物持って、とっとと出るよ!」

勇者「いやっ……でも、ですねぇ……?」

男武道家「……君ねぇ? 人のお金だからと言って、無茶苦茶言うんじゃないよ! 誰がお金払うと思ってるんだよ! 誰が!」

勇者「でも、物価が違うんだったら……しょうがないんじゃないんですかね……?」アセアセ

男武道家「勇者君っ! 君は毒されているっ! この街に毒されているぞっ!?」

勇者「……えっ?」

男武道家「天童さんと、女僧侶ちゃんはどう思うの? まさか、勇者君みたいにバカな事、言い出したりしないよねぇ?」

女僧侶「私は……」

男武道家「……」

女僧侶「やはり、代金を支払うのは男武道家さんですし……男武道家さん一人に、負担させるのは気が重いです……」


男武道家「ほら、よかったっ! 女僧侶ちゃんはまともだった! じゃあ、天童さんは?」

天童「俺はよぉ?」

男武道家「……」

天童「まぁ、確かに腹は減ってるけどよぉ? 27'000Gも使うんだったら、やっぱり腹いっぱい食いたいね」

男武道家「ほらっ!? 皆、ここでは食べないって決断じゃない!? 勇者君だけだよ? そんな事言ってるの!」


勇者「……」

天童「……なぁ、勇者?」

勇者「?」

天童「ここは……『皆の決断』に従おうぜ?」

勇者「……えっ?」

天童「こっちの大陸はよぉ……? 何か事情があるのかもしれねぇけどさぁ?」

勇者「……うん」

天童「……やっぱり、高ぇよ」

勇者「……」

天童「多数決で決まった事じゃねぇか? おめぇ一人でゴネて、男武道家さんに迷惑かけちゃいけねぇよ?」

勇者「俺は……ゴネてたわけじゃないよ……」アセアセ

天童「まぁ、話はゆっくり、後でするとして……とりあえず、店から出ようぜ? なっ?」

勇者「うん……」

ーーーーー


勇者「……」テクテク

天童「……おい」テクテク

勇者「……」

天童「おいっ! 勇者ァっ! 聞いてんのかっ!?」

勇者「!」ビクッ

天童「何、チンタラ歩いてんだよ!? 船着場まで、もう少しだぞ!?」

勇者「あっ……ごめん……」

天童「……」

勇者「……おめぇ、爆弾持ってんだから、もうちょっと離れて歩けよ? 危ねぇよ」

天童「……」

勇者「……はぁ」

天童「……なぁ、勇者?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、何でさぁ? さっきの酒場でゴネてたんだよ?」

勇者「えっ……? いや、ゴネてたつもりはないけどさぁ……」アセアセ

天童「おめぇよぉ? 今回の命題は『他人の決断に任せないと即・死亡』だろ?」

勇者「うん……」

天童「男武道家さんは、あの店では食わないって決断したじゃねぇか? だったら、それに従えばいいじゃねぇか?」

勇者「……」

天童「俺は慌ててフォローしたけどよぉ? おめぇ、余計な事言うと、死ぬんだぞ? わかってんのか!?」

勇者「わかってるよ……わかってるけど、さぁ……?」

天童「……」

勇者「なぁ、天童……今回の命題って……どういう事なんだろ……?」

天童「……あぁ?」

勇者「これ……楽な命題だと思ってたけど……難しいよ……」

天童「……」

勇者「俺の考えがさぁ? ことごとく、死んでいくんだよっ!? 命題のせいでさぁ!?」

天童「……」

勇者「本当に薬草は買ってよかったのかな……? 酒場の人だってさぁ? 何か理由があったのかもしれないじゃん!?」

天童「……」

勇者「だけど、そういう事を考える前に、決断が出ちゃうんだよ!」

天童「……」

勇者「自分で決断するんだったらともかくさぁ……? こうやって、流されてるだけって……なんか、やりにくいよ、俺……」

天童「……まぁ、ちっとは成長してるみたいだね?」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇ、命題に真剣に取り組むようになったじゃねぇか? なぁ?」

勇者「……うん」

天童「でもよぉ? 今までの命題やってきたらわかるだろ?」

勇者「……えっ?」

天童「意味のねぇ事なんて、ねぇんだよ……無意味だと思う事にも……ちゃんと意味があったりするんだよ」

勇者「……う、うん」

天童「俺も、神様が何を考えてるのかは、わかんねぇけどよぉ? やっぱり、今回の命題にもちゃんと意味があると思うんだよ」

勇者「……」

天童「おめぇはよぉ!? 一人で背負い込みすぎなんだよ! 女僧侶ちゃんも、男武道家さんも、そんな簡単に間違った決断をする人間か!?」

勇者「いや、女僧侶ちゃんは……そうじゃない……男武道家さんは……まだ、ちょっとよくわかんないけど……」

天童「不安なのはわかるけどよ? もうちょっと、周りの事を信用してみようぜ?」

勇者「う、うん……」

男武道家「おいおいっ! ふざけんなよっ! どういう事だよっ!?」

勇者「……ん?」

天童「あれっ……? 男武道家さん、どうしたのかね?」


男武道家「船が出港しただって!? ふざけんじゃないよっ! 僕達、どうすればいいんだよっ!?」

「次に定期便来るのは……三日後です……それまではこちらの大陸でお待ちになって下さい……」

男武道家「ふざけんじゃないよっ! あんな、街になんか、一秒たりともいたくないよっ!」

「そ、そうは言われましても……」

男武道家「ちくしょうっ! なんで、こんな街に俺は来ちまったんだっ! くそぉっ! 俺はとばされたのかっ!」

勇者「あの~? 男武道家さん……?」

男武道家「終わった……船が……行ってしまった……」ガックリ

勇者「いやいや……そんなに落胆しないでもいいでしょう……?」

男武道家「ふざけるなぁっ! 落胆もするよっ! 落胆もっ!」

勇者「!」ビクッ

男武道家「こんな、魔物が溢れる大陸に一人だぞ!? どうしろって言うんだよっ!」

勇者「いやいや……まぁまぁ……」

男武道家「それに、敵は魔物だけではないんだぞっ! 街には銭ゲバの亡者が溢れかえってるときたもんだっ!」

勇者「銭ゲバって……まぁ、男武道家さんも似たようなもんじゃないですか……」アセアセ

男武道家「この大陸に人間はいないのかっ! まともな人間はっ! 僕は次の出港までの三日間、どうすればいいんだっ!」

勇者「まぁ、でも……あの街で、大人しく三日間、待てばいいんじゃないですかね?」

男武道家「勇者君、勇者君……その考えは正しい……非常に正しい……」

勇者「……でしょ?」

男武道家「ただし、それは『普通の街』の話だ……」

勇者「……えっ?」

男武道家「あそこの連中、見ただろ? 銭ゲバの集まりだよ? きっと、宿屋だって法外な料金、ふんだくられるに決まってるよっ!」

勇者「いやぁ~、流石に、それはないでしょ……」アセアセ

男武道家「いやっ……僕の予想では、一泊8'000Gぐらいだね? だって、あいつら金の亡者だもんっ!」

勇者「いやいや……流石にそれは……」


天童「おい、勇者……おい、勇者……」ヒソヒソ

勇者「……ん?」

天童「俺も……男武道家さんと同じ考えな気がするぜ……」

勇者「……えっ? 何で?」

天童「そりゃ、天使の勘ってヤツだよ」

勇者「……天使の勘は、人間の勘と比べてどうなの? 当たるもんなの?」

天童「そりゃ、あんまり変わんねぇよ……」

勇者「だったら、わざわざ天使の勘とか言うなってのっ! このダメ天使っ!」

天童「だから、ダメ天使って言うなよ、おめぇ!……でもよぉ? あの街、なぁ~んかきな臭いと思わねぇか?」

勇者「えっ……? 何が……?」

天童「だってよぉ? あれだけ、物価が高いんだぜ?」

勇者「それは……この大陸が危険で、物資が取れないからでしょ?」

天童「物資が足りなくて……物価が上がる、と……」

勇者「うん」

天童「じゃあ、その結果、どうなるよ?」

勇者「……えっ?」

天童「物価が上がったら……どうなるよ……? 今日、起きた事を言ってみろよ?」

勇者「今日起きた事って……何だよ……?」

天童「……」

勇者「……」

天童「……冒険者が大陸捨てて、帰るんだよ」

勇者「!」

天童「冒険者が帰ったら、どうなるよ?」

勇者「え~っと……魔物が……増えるっ……!」

天童「そうだっ! 一度、整理するぞ?」

勇者「う、うん……」

天童「物資がなくて……物価が上がる……物価が上がって……冒険者は帰る……」

勇者「冒険者が帰って……魔物が増える……魔物が増えて……物価がとれなくなる……」

天童「……なっ?」

勇者「な、なんか……見事な負のスパイラルだねぇ……?」アセアセ

天童「……なぁ、勇者? いくら、なんでもこりゃ、出来過ぎじゃねぇか?」

勇者「えっ……?」

天童「ただの負のスパイラルだったらよぉ……まだ、いいかもしれねぇけどよぉ?」

勇者「……」

天童「誰か、黒幕みたいなヤツがいるとしたら……こいつは、厄介な問題だぜ?」

勇者「……」

天童「それと、勇者……もう一つ、問題がある……」

勇者「……問題?」

天童「今、午後4時だろ……?」

勇者「うん。タイムリミットまで、後21時間だね?」

天童「それもあるけどよぉ? 今晩の話だよ、今晩の話」

勇者「……えっ?」

天童「今夜、宿はどうすんだ? まさか、こんな危険な大陸で野宿ってワケじゃねぇだろな?」

勇者「あっ……! ど、どうしようっ……! もし、宿屋が高かったら……!」アセアセ

天童「男武道家さんは、支援物資売っぱらってなんとかなるかもしんねぇけどよ? 俺達はそうもいかねぇぞ?」

勇者「ど、どうしよう……とりあえず、皆で……」

天童「バカっ! おめぇは決断するんじゃねぇよっ! 死にてぇのかバカっ!」

勇者「!」

今日はここまで

勇者「あの……男武道家さん……?」

男武道家「……ん?」

勇者「これから、どうします? 船が来るまでの三日間……」

男武道家「う~ん……どうしようかな? 困ったなぁ?」

勇者「宿屋とか……それに……食糧とか……」

男武道家「……」

勇者「で、でも……やっぱり、街に行くしかないのかなぁ~?」アセアセ

男武道家「……」

勇者「あっ、コレ、『決断』じゃなくて『提案』ですからね!? でも、街に行くしかないんじゃないですかねぇ……」アセアセ

男武道家「……気は進まないけど、そうしかないね?」

勇者「それでですねぇ……? 男武道家さん? 一つご相談があるんですが……」

男武道家「……相談?」

勇者「いやっ……あのですねぇ……僕達、お金がですねぇ……ないんですよ……」アセアセ

男武道家「うん、聞いた。 ソレ、さっき聞いたよ」

勇者「もし……よろしければ……今夜の宿の方の面倒を見ていただけると……ありがたいんですが……」アセアセ

男武道家「ふふふ、君……面白い事、言うねぇ?」

勇者「あっ……これも『提案』ですから『決断』するのは男武道家さんが……」

男武道家「ふざけんじゃないよっ!」

勇者「!」ビクッ

男武道家「あの街の物価の高さをみただろ!? 君達の面倒を見てる余裕なんてないよっ!」

勇者「いやっ……そこをなんとか……」

男武道家「あのね? 君は現状を理解していないようだから言っておくけどねぇ?」

勇者「……は、はい」

男武道家「いくら、僕が君達よりお金持ってるからって、あの街の物価の高さじゃ、僕だって手も足も出ないんだよ」

勇者「……支援物資売ったりするのはなしですかね?」アセアセ

男武道家「たった、1000Gで何が出来る! あの街では堅焼きそばも食えやしないんだぞっ!?」

勇者「そ、そうですよねぇ……? どうしよう……今晩、どうしようかな……」

勇者「あっ! そういや、俺魔法使えたんだ!」

女僧侶「……魔法?」

勇者「いや、ワープして街に戻る魔法があるんだよ! それ使えば、あっちの大陸に戻れるんじゃね?」


男武道家「……」ピクッ


女僧侶「でも……私達はこっちの大陸に救う為に来たんですよ? わざわざ、今更戻るなんて……」

勇者「……あっ、決断されちゃった。まぁ、女僧侶ちゃんの言ってる通りだけどさぁ?」


男武道家(何……彼らは、街に戻る魔法が使えるだと……?)


天童「まぁ、女僧侶ちゃんの言う通りだな。わざわざ、船に乗って来たってのに、戻る事はねぇよ」

勇者「そうだよね……戻ったとしても、やっぱりいつかはこっちの大陸にこなくちゃいけないもんね……」


男武道家(これはっ……! 街に帰る、大チャンスっ……!)

男武道家「コホン……あ~、勇者君……勇者……」

勇者「……ん? どうしたんですか?」

男武道家「君、そんな魔法使えるんだ!? うわぁ、凄いなぁ!」

勇者「いや、でも使わないって決断になりましたよ? 僕達はこっちの大陸に用があるんだし……死にたくないし……」

男武道家「う~ん……でも、今晩の宿屋はどうするつもりなんだい?」

勇者「えっ……? それは……」

男武道家「うんうん……」

勇者「いや……結論は出てませんけど……」

男武道家「あっ、じゃあさ? その魔法で帰るしか方法はないんじゃないの?」ニコニコ

勇者「何で、そんなに嬉しそうなんですよ……僕達は帰りませんって……」

男武道家(……チッ)

勇者「?」

男武道家「じゃあさっ! こうしようっ! 僕が君達の宿の面倒みてあげるっ!」

勇者「えっ!?」

天童「えぇっ!?」

男武道家「何だよ、君達……何を驚く事があるのよ……?」

勇者「ドケチの男武道家さんが!?


天童「銭ゲバの男武道家さんが!?」

男武道家「……君達は本当に失礼。本当にっ!」

勇者「あ、あはは……」

天童「すんましぇ~ん」

男武道家「でもさぁ? 法外な値段ふっかけられたら、宿屋には泊まらないよ?」

勇者「えっ?」

男武道家「もし、法外な値段をふっかけられて、三日間滞在できなさそうなら、その勇者君の魔法使おうよ?」

勇者「……えっ?」

男武道家「それで……皆で大陸に帰る……これでいいじゃない?」

勇者「う~ん……」

男武道家「まぁさ? 宿屋が安かったら、問題はないんだからさ? いい条件じゃない?」

勇者「う~ん……現状では、この決断がベストなのかな……?」

男武道家「そうだよっ! この決断がベストだよっ! ねっ、だから、早く宿屋で料金聞いて、とっととこんな大陸からおさらばしようっ!」

勇者「……えっ?」

男武道家「あっ、違う違うっ! 宿屋が安いといいよねっ! さっ、ほら、勇者君荷物運ぶの手伝ってよ」

勇者「あっ……はい……」

宿屋ーーー


宿屋の主人「一人、一泊16'000Gだ。オラ、とっとと金払え」

男武道家「あらっ! こりゃ、高いっ! 困ったなぁ~、僕には手も足も出ないや」ニコニコ

勇者「……なんで、そんなに嬉しそうなんですよ? あの、もうちょっと、安くなりませんかねぇ?」

主人「文句があるなら、とっとと帰りな」

男武道家「はいっ! 帰りますっ! 僕達、帰りますっ! さぁさぁ、勇者君? とっとと、こんな街から帰ろうよ」

勇者「あの……ちょっと、いいですか……?」

主人「……あぁ?」

男武道家「……あれ? 勇者君、どうしたの?」

勇者「こんなに、料金が高いと……冒険者はいなくなってしまうと思うんですよ……」

主人「……」

勇者「冒険者いなくなったら……魔物も増えて……」

主人「……」

勇者「魔物が増えると……物資も、とれなくなって……」

主人「……」

勇者「物資が取れなくなるから……こうやって、物資も上がって……負のスパイラルだと思うんですよねぇ?」

主人「……」

勇者「一つ、変えるだけで……凄く物事がスムーズになって……いい流れが来ると思うんですけど……」

主人「うるせぇっ! 何だ、てめぇはっ! 一々うるせぇよっ!」

勇者「!」ビクッ

調子が悪いので今日はここまで

体調じゃなくて回線だから気にしないでwww
なんか戻ってきた気もするけど……まぁいいか

主人「金が払えねぇなら、とっとと帰れよっ!」

勇者「……何か、事情があったりするんですかね?」

主人「あぁ? 事情? なんだそりゃっ!?」

勇者「……病気の家族の方がいるとか」

主人「いねぇよ、そんなもんっ! 何、言ってるんだてめぇ!」

勇者「……じゃあ、どうしてこんなに高い料金なんですかね?」

主人「こっちの大陸は、こういう相場なんだよ! おめぇらは何も知らねぇんだな!」

勇者「……でも」

主人「うるせぇっ! 文句があるなら、とっとと帰りやがれっ! てめぇらみたいな客、こっちから願い下げだバカ野郎っ!」


男武道家「あっ、そうですね。じゃあ、僕達帰ります。 ほらっ、勇者君、帰ろ帰ろ」ニコニコ

勇者「……」

ーーーーー


天童「……なぁ、勇者?」

勇者「……」

天童「だから、何でおめぇは俺の言う事聞かずに、ゴネるんだよぉ?」

勇者「……」

天童「おめぇ、死んじまうんだぞ? 今回はおめぇに決定権はねぇんだよ?」

勇者「そう……俺に、決定権はない……」

天童「わかってんならよぉ……」

勇者「……だから、天童?」

天童「……ん?」

勇者「お前に判断してもらいたいんだ……それと、女僧侶ちゃんにも……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「宿屋の人と、俺の会話を見て……どう、思った……?」

天童「……あぁ?」

女僧侶「どういう……事ですか……?」

勇者「二人の素直な感想が聞きたいんだ……」

天童「……何、言ってんだお前?」

女僧侶「あの……私は……」アセアセ

勇者「うん、女僧侶ちゃんも……聞かせて……?」

女僧侶「あの……上手くはいえないんですけど……」

勇者「うん……」

女僧侶「……この街に、何かが起こってるような気がします」

勇者「……」

女僧侶「やっぱり、勇者さんの言う通り、物価の高さで、冒険者が減って、また物価が上がって……」

勇者「うん……」

女僧侶「上手くは言えませんが……二人が話しているのを見ていると、何かおかしな物を感じました」

勇者「……うん」

女僧侶「私は今、この街から去るのは反対です。この街には何かが起こってるような気がします」

勇者「……天童は?」

天童「まぁ、俺もよぉ?」

勇者「……」

天童「この街には、きな臭い何かがあるような気がするね!」

勇者「うん」

天童「病気の家族もいねぇなら、どうしてあんなに金が必要なんだよ?」

勇者「……うん」

天童「宿屋なんて、せいぜい布団貸すぐらいだろ? あんなに料金取る意味がわかんねぇよ!」

勇者「……そうだね」

天童「いくらなんでも、この街の連中はおかしいっ! 物価が上がるったって、限度ってもんがあるぜ」

勇者「……うん」

天童「俺も……この街から去るのには反対だね。 何かが起きてるような気がするよ」

勇者「……やっぱり、二人もそう思う?」

天童「……あぁ?」

女僧侶「……勇者さんも、そう思うんですか?」

勇者「やっぱり……俺、一人だけだったら、思いすごしかもしれないからさぁ? 二人の意見も聞いてみたかったんだ」

天童「なるほどねぇ……命題を上手い事利用したじゃねぇか……」

女僧侶「だから……あんな風に主人さんに色々言ってたんですね……」

勇者「俺も……この街から去るべきじゃないと思う」

天童「……これは、おめぇの決断じゃなくて、皆の決断だから、決定だなっ!」

女僧侶「はいっ! そうですねっ!」


男武道家「いやいや……ちょっと待ってよ、勇者君~?」アセアセ

勇者「……ん?」

男武道家「僕、言ったよねぇ? 宿屋の料金が高かったら、勇者君の魔法で帰るって!」

勇者「いや、でも……この街は……」

男武道家「『でも』じゃないよっ! 僕の意思は!? 君達がこの街に残るんだったら、僕どうやって帰ればいいんだよ!?」

勇者「う~ん……それは……」アセアセ


天童「……男武道家さん」

女僧侶「男武道家さん……」ニコニコ

男武道家「……ん?」

天童「こりゃ、あんたも腹くくらんといかんばいね?」

男武道家「えっ……?」

女僧侶「私達に、協力していたただけますか?」ニコニコ

男武道家「えっ……なぁ~んで、僕が……君達に協力する義理なんてないよ……」アセアセ

天童「カァ~! なぁ~に、言っとばいっ! 人をあんなはした金でこき使っておいて! 今度はあんたに、働いてもらわなきゃいかんばいっ!」

男武道家「いやいやいやいや……! お金、払ったんだからいいでしょ! 払ったんだからっ!」

女僧侶「私は無給でしたので……では、その分という事で……」ニコニコ

男武道家「あれはさぁ……? 違うでしょ? 女僧侶ちゃん、自分から『無給で働きたいっ!』なんて言い出したじゃん?」

天童「……あれっ? 女僧侶ちゃんそうだったっけ?」

男武道家「ねっ、ねっ? そうだよね? 女僧侶ちゃん、そう言ったよね?」

女僧侶「ふふ、存じ上げませんわ」

男武道家「!」


勇者(うわぁ……天童はともかく、女僧侶ちゃんって、あんなのだったっけ? やっぱり、無給の事怒ってたのかな?)

ーーーーー


天童「ハイ~、いいですかァ~? 皆さん、よく聞いて下さいィ~?」

勇者「おっ……久しぶりの金八ネタだな……」

天童「今からァ~? 我々四人でぇ~、このおかしな街を調査しまぁ~すぅ」

女僧侶「はい」

天童「文句のあるバカちんはいませんかァ~? そんな子はァ~、先生のハンガーヌンチャクでぇ~、お仕置きしますから注意して下さいィ~」

男武道家「くそっ……僕はまだ納得してないぞ……僕はまだ……」ブツブツ

天童「はい、そこォ~! 文句を言わない、バカちんがァ~!」

勇者「でもよ、天童? 調査って、何すんだ?」

天童「まぁ、情報収集が基本だね」

勇者「情報収集って……何、すんの……?」

天童「例えばよぉ? 物価が上がるにしても、いきなりドーンって値上るわけじゃねぇだろ?」

勇者「あぁ……確かに……いきなり100倍ぐらいに値上ったりしたら、大変だもんね?」

天童「だから、そこをよぉ? どういったタイミングで値上っていったか……冒険者達の反応はどうだったか……」

勇者「うん」

天童「そういう事を調べてみようぜ?」

勇者「……こんな物価の高い街に人はいるのかなぁ? あの人達だけじゃないの?」

天童「まぁ、やってみねぇとわかんねぇだろ! 今、午後5時だから……まぁ、日が堕ちる前になんとかしようぜ!」

勇者「そうだね。 今夜の宿の事も考えないといけないしね」






PM7:00

ーータイムリミットまで後、18時間





勇者「なぁ、天童? 街人誰もいねぇじゃねぇか?」

天童「う~ん……一人ぐらいいてもいいんじゃねぇかなぁ……?」

勇者「でもよぉ? ここ、一食5'000Gもするんだぜ? こんな街に住めるかねぇ?」

天童「やっぱり、皆大陸渡っちまったのかねぇ?」

勇者「俺はそんな気がするよ……? だって、こんな街じゃ住めねぇじゃん……」

天童「って事は……この街にいるのは、街長さんと……道具屋の主人と……酒場の主人と……宿屋の主人だけか……」


ポツ……ポツ……


勇者「……ん?」

天童「あっ、雨かっ! くそっ、宿も決まってねぇのに、ついてねぇなっ!」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「ん、どうした? 何か閃いたのか?」

勇者「いやいや、そうじゃないけど……」

天童「じゃあ、どうしたんだよ?」

勇者「いや、お前の持ってる爆弾さぁ……?」

天童「……ん? これがどうした?」

勇者「それ、濡らして大丈夫なの? 使い物にならなくなるんじゃねぇの?」

天童「……」

勇者「……」

天童「……あっ!」

勇者「『あっ!』じゃねぇよ、バカっ! 男武道家さん、うるせぇぞっ!?」

ザー……ザー……


勇者「おいおいっ……! 本降りになって来たぞっ……!」

天童「こりゃ、何処かで雨宿りできる場所探さねぇといけねぇなオイっ!」

勇者「どうする? 宿屋にでも行く?」

天童「バカっ! あそこ、いくらすると思ってるんだ! そんな金ねぇよっ!」

勇者「じゃあ……ど、どうしよう……」アセアセ

天童「とにかく一度、女僧侶ちゃんと男武道家さんと合流しようっ! 勇者っ! 戻るぞっ!」

勇者「う、うん……」

ーーーーー


女僧侶「あっ! 勇者さんっ、天童さんっ!」

勇者「あっ、女僧侶ちゃん……酷い雨だねぇ?」

天童「水も滴るいい男……なんて、言ってる場合じゃねぇな、コレ」

女僧侶「あの……? 街の方って、誰かいました……?」

勇者「いやっ……こっちは誰も……」

天童「女僧侶ちゃんの方は……?」

女僧侶「あの……私の方も見つからなくて……」

勇者「あ~、やっぱり……」

天童「やっぱり、あんな物価の高い街じゃ暮らせねぇからねぇ……」

女僧侶「あの……それで、私……道具屋の方へ、行ってみたんですよ?」

勇者「……道具屋?」

天童「……なんでまた?」

女僧侶「ほらっ! 家族の方がいるって言ってたじゃないですか!」

勇者「あ~、そういや、言ってたねぇ?」

女僧侶「それで、家族の方にお話を聞こうと思ったんですが……」

勇者「どうだった? 何か、情報はあった?」

女僧侶「いえ……それが、いなかったんですよ……」

勇者「……えっ?」

女僧侶「家族の方が何処にも……いなかったんです……」

勇者「……」

女僧侶「あの人、家族の為って言ってたのに……どうしてでしょう……?」

勇者「これは、ますます怪しくなってきたね……?」

女僧侶「……えぇ」


天童「おいっ! 推理もいいけどよぉ? 雨、どうするよ! 雨をよぉ!?」

「あ~! や~っぱり、爆弾濡れちゃってるや! どうするの!? もう使い物にならないよソレっ!」

天童「……おっ、男武道家さんも戻ってきたか」

男武道家「もうっ! 君達は本当に使い物にならないなっ!」

勇者「あっ……すいません……」アセアセ

男武道家「それで? 何か情報は掴んだの? どうせ、何も仕入れてないんでしょ?」

勇者「あっ……うっ……」

男武道家「ほらっ! あんな物価の高い街に人がいるわけないじゃんっ! 本当にバカだな、君達は!」

勇者「男武道家さんは……何か情報仕入れてきたんですか……?」

男武道家「あぁ、僕は君達と違って、頭がいいからね! 情報ぐらい仕入れてきたよ!」

勇者「えっ……? 何処でですか?」

男武道家「船着場だよ、船着場! こういうのは、ああいった街より、少し離れた場所の方がいいの」

勇者「あ~、なるほど……じゃあ、聞かせてもらっていいですかね……?」

男武道家「それよりさぁ!? 爆弾どうすんのよ! 爆弾っ! それ、使い物にならないじゃないかっ!」

勇者「あっ……すいませんっ……」アセアセ

男武道家「それに、この雨っ! 何処か、雨宿りできる場所見つけてよ! 君、リーダーなんでしょ?」

勇者「え、えぇっ……?」

男武道家「ほらほらっ! 早く雨宿りできる場所言ってよ、勇者君っ!」

勇者「え~っと……じゃあ、宿屋とかどうですかね……?」

男武道家「あんな、高い料金の場所!? 君がお金払うの!? それだったらいいよ!」

勇者「うぅ……どうしよう……困ったな……」

男武道家「爆弾ダメにしたんだから、それぐらいは考えなよっ! ほらっ、何処でこの雨凌ぐのっ!?」

勇者「え~っと……う~んっと……ど、どうしよう……?」

男武道家「……思いつくまで、耳元で嫌味言い続けてやる」

勇者「……ん?」

男武道家「爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ

勇者「や、やめて下さいよっ……! 耳元で爆弾爆弾って……色んな意味でおっかないですよ……」アセアセ

男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ

勇者「も~う……」


女僧侶「あっ!」

勇者「ん……? どうしたの、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「勇者さん? その爆弾を使うはずだった洞窟とかどうですか?」

勇者「あっ……!」

女僧侶「ほら、洞窟ならこの雨も凌げそうですし……」

勇者「いいね、うん。よしっ! 女僧侶ちゃん、その決断採用!」


男武道家「でもさぁ? 洞窟って、魔物とかいるんじゃないの?」

勇者「でも……ここで、ずぶ濡れのままよりかはいいでしょ? 風邪ひきますよ?」

男武道家「……そうだね。勇者君達はバカだから、ひかないけど、僕はひいちゃうしね」

勇者「も~う……そんなに嫌味言わなくてもいいでしょ……」

男武道家「うるさい……爆弾返せ爆弾返せ爆弾爆弾爆弾爆弾……」ブツブツ

勇者「2Gぐらい、後で払いますから……ほら、洞窟行きましょう……」

今日はここまで






PM8:00

ーータイムリミットまで後、17時間





天童「よしっ、洞窟到着だなっ! まぁ、これで雨風は凌そうじゃねぇか!」

勇者「そうだね。今日は、ここに泊まる? ここだったら、雨も凌そうだし」

天童「でもよぉ? この洞窟には魔物がいるんだろ? それをなんとかしねぇとよぉ……?」

勇者「あっ、そっか……魔物もいるのか……」


「きゃぁっ!」


天童「……ん?」

勇者「……人の声!?」

娘「あのっ……! 冒険者の方ですかっ……! 助けて下さいっ!」

天童「おうおう、姉ちゃん! こんな洞窟でどうしたんだ?」

勇者「何かあったんですか?」

娘「あのっ……魔物に襲われてっ……!」アセアセ

天童「何ィ!? やっぱり、魔物がいるのか!?」

勇者「それで……魔物は何処に……?」

娘「私の……私の後ろにっ……きゃあっ……!」


ザクッ


天童「……えっ?」

勇者「……えっ?」

娘「……ググッ」バタッ

天童「お、おいっ……! 勇者ァ! おめぇが、もたもたしてるせいでやられちまったぞ、あの姉ちゃん!?」アセアセ

勇者「えっ……? 俺のせい……? いや、でも今のはさぁ……?」アセアセ

娘「あれっ……? 冒険者の方ですか? こんな場所に、珍しいですね?」

天童「……ん?」

勇者「あ、あれっ……?」

娘「どうしたんですか? そんなに驚いた顔をして?」

天童「あ、あんたっ……! さっき、斬られてやられたんじゃ……」

勇者「な、なんで、そんなにピンピンしてるんですか!?」

娘「……あぁ、それはですね。 その倒れてる奴、よく見て下さいよ?」

天童「……ん?」

勇者「……ん?」


魔物「ガ、ガガッ……!」ピクピク

勇者「あれっ……? やられてたのはこの女の人だったのに、いつの間にか魔物になってるっ!?」

天童「手品か!? あんたに、手品師か!?」

娘「いやいや……手品師じゃありません……」

勇者「じゃあ、何で……」

天童「鳩を出せっ! 口からトランプを出せっ! バニーちゃんに変身してみて下さい、お願いしますっ!」

娘「……」

勇者「……おまぇは、ちっと黙ってろよ」

天童「あっ、すんましぇ~ん……」

娘「え~っと……いいですか? この魔物は人間に変身する能力を持っているんですよ」

娘「ある日、この魔物が四匹、私達の街にやってきました」

勇者「……四匹?」

娘「この魔物は人に変身する能力を使い、街人になりすまして、我々の街を乗っ取ろうとしています」

勇者「!」

娘「……私の父も、この魔物に殺されてしまいました」

勇者「……えっ? じゃあ、君?」

娘「……私の父は道具屋を経営していました」

勇者「!」

娘「私と母は街を追い出され……この洞窟へと追いやられてしまいました」

勇者「……」

娘「まぁ、彼らにとっての誤算は、私達の力が予想以上に強かった事ですね」

勇者「……えっ?」

娘「おそらく、彼らはこの洞窟で、私達があっさりと、力尽きると思ったのでしょう」

勇者「……」

娘「こうやって、私達が魔物を倒して、街へこれ以上侵略される事を防いでいます」

勇者「……なるほど」

娘「……しかし」

勇者「……ん?」

娘「それそろ、後発部隊の届かない彼らも苛立ってくる頃でしょう……何か、仕掛けてくるような気がします……」

勇者「……あっ!」

娘「あなた達は街から来たのですか? 今、街はどうなっているんですか!?」

勇者「あ~、いやぁ~、それは……」アセアセ

男武道家「はっきり言おうか? 状況は最悪だよ?」

娘「……えっ?」

勇者「ちょ、ちょっと……! 男武道家さんっ……!」アセアセ

男武道家「いいじゃないか、勇者君? どうせ、言わなくちゃいけないし」

娘「……」

勇者「いや、でも……」

男武道家「まずね、君達……君達は爆弾で殺されようとしてたよ? 魔物が何か仕掛けてくるって予想……正解」

娘「!」

勇者「ちょっと……! 男武道家さんっ……!」

男武道家「まっ、間一髪だったね? でも、こんな所で戦ってないで、街の魔物を始末した方がよかったんじゃない?」

娘「街の魔物は……この洞窟の魔物と違い……強い力を持っているので……私達では手の出しようがないのです……」

男武道家「……ふ~ん」

娘「でもっ……! 冒険者の方が倒してくれればっ……!」

男武道家「……どうなるの?」

娘「街に平和が戻って……この洞窟へも援軍が来て……また、いつものような生活に……」

男武道家「まっ、お父さんはもういないけどね?」


娘「!」

勇者「ちょ、ちょっとっ……! 男武道家さんっ……!」

男武道家「いいじゃない? 彼女には現実を教えてあげないとさ? ねぇ、この洞窟へいつまで立っても援軍が来ないって、おかしいと思わない?」

娘「……えっ?」

男武道家「街へ行った四匹の魔物は、街長……酒場の主人……宿屋の主人……そして、君のお父さん、道具屋の主人に、なりすましてるんだね?」

娘「……はい」

男武道家「それだけ、重要な役職を全て乗っ取られたのなら、もう壊滅だよ、君の街は」

娘「!」

男武道家「僕が船着場で聞いた情報によると、ある日突然、全ての物価が100倍に上がったらしい。 魔物に成り代わった時だろうね」

娘「そ、そんなっ……」

男武道家「店の主人だけならともかく、街長まで抑えられてるんじゃ、しょうがないよね? 街人や、冒険者は泣く泣く大陸を渡ったらしいよ」

娘「……」

男武道家「援軍が来ない時点でおかしいと思わなかった? こんな場所にいるより、お父さんの敵討ちに行った方がいいんじゃないの?」

娘「しかし……ここの魔物は繁殖能力が高く……この洞窟を放置したとすれば……」

天童「まぁ、状況は確かに不味いけどよぉ? 全ての謎がこうやって解けたのは一つの光明じゃねぇか! なぁ?」

勇者「……ん?」

天童「今からよぉ? 街に戻って魔物をぶっ倒せば、あの街に救えるんだろ?」

勇者「そうだね」

天童「まぁ、今回はこの決断で決定だなっ!」


女僧侶「天童さん……? 先にこの洞窟の安全を確保した方がいいんじゃないですか?」

勇者「……ん?」

女僧侶「この洞窟の魔物が力をつけたら、また大きな問題になりまあえんかね? 私は今のうちに、この洞窟を制圧するべきだと思います」

勇者「……えっ? えぇっ?」

女僧侶「この洞窟を制圧するなら、戦力もあり、万全の体制の今ですよ」

男武道家「……僕はもう、勇者君の魔法で帰りたいんだけど?」

勇者「えっ……? えっ……?」

男武道家「わざわざ、僕達首突っ込む話じゃないでしょ? お金ももらえないんだし」

勇者「い、いやぁ……」

男武道家「勇者君、もう帰ろうよ~? それで爆弾の事はチャラにしてあげるからさぁ~?」

勇者「う、うわぁ……皆、バラバラの決断だよ……? ど、どうしよう……?」アセアセ


女僧侶「私は……勇者さんの決断に任せます……」

男武道家「僕も! 魔法を使えるのは、勇者君なんだし、勇者の『帰る』の一言待ちだよ?」

勇者「え~っと……え~っと……ど、どうしよ……」アセアセ

勇者「え~っと……」

女僧侶「……」

男武道家「……」

勇者「えっ……これ、俺の決断待ち……?」アセアセ

女僧侶「……はい」

勇者「え~、でも……」

男武道家「……」

勇者「でも、俺……決断したら、死んじゃうし……な、なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ

天童「……なぁ? 勇者?」

勇者「……ん?」

天童「皆……お前に任せるって言ってんだ」

勇者「……えっ?」

天童「それぞれが、意見を出し合って、お前に希望を言ってるんだ」

勇者「う、うん……」

天童「お前は、皆の意見を尊重する決断を出すんだ……皆もその決断を待ってるんだ……」

勇者「……えっ?」


女僧侶「……」

男武道家「……」


天童「……これは、お前一人の意見じゃねぇ。皆の決断だ」

勇者「う、うん……」

天童「おめぇはよぉ、何もねぇ所からよぉ? 意見を出すんじゃねぇだろ? 皆で力を合わせて、一つの意見を出すんだよ!」

勇者「……」

天童「さぁ、勇者っ……! 命題になんてビビってねぇで、決断してみろやっ!」

勇者「じゃ、じゃあ……」

女僧侶「……」

男武道家「……」

勇者「まずは、この洞窟を制圧しようっ!」

女僧侶「はいっ!」

男武道家「街の魔物はその後……って事かな……?」

勇者「そうです。この洞窟の制圧後の皆の状態を見て、そのまま街に行くか……ここで一旦休むか、決めましょう」

女僧侶「わかりました」

男武道家「ここなら、雨風凌そうだし……ね……?」

勇者「それで……全てが終わったら、男武道家さんを僕の魔法で向こうの大陸へと送り届けます」

女僧侶「ですって? よろしいですか、男武道家さん?」

男武道家「あれ? 冗談で言ったつもりだったのに、本気で考えてくれてたんだ?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「……えっ?」

男武道家「いいよいいよ、どうせなら、僕も最後までやるよっ! 僕だけ仲間外れなんて、さみしいじゃないか! 君達っ!」

天童「よしっ! じゃあ、洞窟制圧大作戦! 始めましょうかっ!」

勇者「よしっ! じゃあ、皆離れちゃいけないよ!」

娘「待って下さいっ……!」アセアセ

天童「……ん?」

勇者「どうしたの……?」

娘「この洞窟では、固まって行動していけませんっ! 個人行動して下さいっ!」

天童「……なんで、また?」

勇者「……何か、理由でもあるの?」

娘「魔物は変身能力を持っているんです! 同士討ちの危険性がありますっ!」

天童「あ~、なるほどね……」

勇者「個人行動かぁ……これはキツそうだなぁ……」


天童「まぁ、愚痴っても、しょうがねぇだろ! それに、これも他人決断だっ!」

勇者「……そうだね。じゃあ、行こうか?」






AM2:00

ーータイムリミットまで後、11時間




変タイミングだけど今日はここまで

女僧侶「はぁ……はぁ……やっぱり、個人行動となると……疲れますね……?」

男武道家「あ~! 僕、もう動けないっ! ねぇねぇ、女僧侶ちゃんは何匹倒したの?」

女僧侶「私は8匹です」

男武道家「なんだよ!? 僕の半分じゃないか! 僕、16匹も倒したんだよ?」

女僧侶「えっ……! 男武道家さん、そんなに倒したんですか!?」

男武道家「まぁ、女僧侶ちゃんは戦闘向きじゃないからね。 8匹でも十分だよ。十分」

女僧侶「ありがとうございます」

男武道家「それで……? 勇者君は何匹倒したの? 女僧侶ちゃんより少なかったら、承知しないよ、僕?」


勇者「えっ……? 俺……? 俺は……ちょっと……わかりません……」

男武道家「なんだよ、勇者君っ! 君がそんなのでどうすんのよ!? このパーティー、纏めてるんでしょ?」

勇者「あっ……いや、そうじゃなくて……」アセアセ

男武道家「……ん?」

勇者「いや……25ぐらいまでは数えてたんですけどね……? そこから先はもう覚えてなくて……」

男武道家「……あら? 君、そんなに倒したの?」

勇者「いやぁ……ありがとうございます……」

男武道家「くそっ……ちょっと、面白くないな。僕が一番だと思ったのに……じゃあ、天童さんは?」

天童「俺はよぉ? 世・死・見の、43匹だよ。まっ、俺が一番活躍したな」

男武道家「世死見だったら、443匹じゃない……足りないよ? 後、400匹倒してきなさい」

勇者「……おめぇ、本当にそんなに倒したのか?」

天童「いやぁ~、個人行動だったからよぉ~? 俺の活躍を皆に見せれないのが残念だったぜ!」

男武道家「本当はそんなに倒してないでしょ? 本当の事、言いなさい。 怒らないから、絶対に怒らないから」

勇者「おめぇ……もしかして、女僧侶ちゃん以下って事はねぇだろなぁ?」

天童「バ、バカ~ンっ! ちゃんと、43匹倒したよぉ? 何でそんなに疑うんだよ!? 君達は失礼だなぁ~」アセアセ

男武道家「……なぁ~んか、天童さん怪しいね?」

勇者「……ねっ?」


天童(く、くそっ……言えないっ……! 俺が7匹で最下位だなんて、言えないっ……!)アセアセ

天童「まぁ、でもよぉ? これで、この洞窟は制圧したな!」

勇者「そうだね」

天童「後は、街にいる四匹の親玉だけだな……」

勇者「う、うん……」

天童「……で、勇者? どうするんだ?」

勇者「……えっ?」

天童「今から、ぶっ倒しに行くのか……? それとも、一度、休むのか……」

勇者「……」

天童「おめぇの決断待ちだよ? どうすんだ? 確認しておくけど、一人で決めるんじゃねぇぞ?」

勇者「う、うん……」

勇者「……女僧侶ちゃんはどう?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「今から、強い魔物と戦えるだけの力はまだ残ってる?」

女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さん……!」アセアセ

勇者「どうしたの?」

女僧侶「あの……私、個人行動は始めてで……その……魔力も使い果たしてしまって……」

勇者「……うん」

女僧侶「今、街に向かっても……皆さんに迷惑をかけるだけのような気がするんですよ……」アセアセ

勇者「……うん」

女僧侶「出来る事なら……少し、魔力回復の為の時間を頂きたいです……」

勇者「わかった。……男武道家さんは?」

男武道家「まぁ、僕は今から行ってもいいんだけどね……勇者君と、天童さんは強いみたいだし」

勇者「いやぁ……天童の事は信用しちゃいけませんよ……?」

男武道家「まっ、僕としては一度休みたいかな? わざわざ、こんな雨の中行きたくないし」

勇者「……そういう理由なんですか?」

男武道家「あっ! 君、何か勘違いしてるな!? あのねぇ、武道家ってのは、己の肉体が武器なの? 君達みたいに、武器に頼ってないの?」

勇者「はぁ……」

男武道家「僕はねぇ? 君達より、ずっと頑張ってるし、ずっと疲れてるんだよ? そこの所の気持ちを汲み取って欲しいなぁ、僕は!」

勇者「じゃあ、武道家さんも一度、休憩を挟みたいと……」

男武道家「まっ、そういう事だね」

勇者「それじゃあ……皆の体力の事も考えて……今日は、この洞窟で休んで行きましょうか?」

女僧侶「ありがとうございます」

男武道家「まっ、それが賢明な判断だね?」

勇者「皆が休んでる間、誰かが見張り番をしないといけないんですが……その順番は……」


天童「ねぇねぇ、勇者君? 勇者君?」

勇者「……ん? どうしたの、天童?」

天童「ねぇ、僕の意見は? どうして僕の意見は聞いてくれないの? 勇者君、死んじゃうよ?」

勇者「いやいや、皆、休みたいって言ってるじゃん? どうせ、おめぇも同じ意見だろ?」

天童「わかっててもよぉ!? 聞いてくれてもいいじゃねぇか!? 俺、疎外感、感じてるぜ? 寂しいよ、勇者君っ!」ギャーギャー

勇者「わかったよ、わかったよ、うるせぇなぁ……じゃあ、天童はどう思うの?」

天童「勇者君……僕の意見はこうだ……」キリッ

勇者「……あぁ?」

天童「先ず、この洞窟での戦闘で皆、疲れている……だから、今日は一度休もう……」

勇者「……言ったよ。それ、言ったって」

天童「この洞窟なら、雨風も凌げるからね。 そして、それなら皆が休んでいる間の見張り番を決めるべきだと思う」

勇者「……決めようとしてたよ。それも、今から決めようとしてた」

天童「順番は……そうだな……勇者君、男武道家さん、女僧侶ちゃん……そして、最後に私……この順でどうかな?」

勇者「おめぇが最後なのは、ちょっと気に食わねぇけどな? でもまぁ、それでいいんじゃね?」

天童「そして、皆の体力が回復したら、街へ向かうのだが……その前に、一つやる事があると思わないかね?」

勇者「……はぁ? なんだよ?」

天童「食糧の確保だよ? 食糧の確保だよ、勇者君?」

勇者「……あっ?」

天童「皆、今日は何も食ってねぇぜ? こんな状態で魔物と戦って、勝てるのか?」

勇者「う、うん……じゃあ、今から探しに行く……?」

天童「こんな、体力も使って、雨も降ってて、暗闇の中か?」

勇者「あっ……そうか……」

天童「とにかく、今は大人しく、この洞窟で我慢した方がいいと思うんだよ? 食糧は明日の朝でもいいんじゃねぇか?」

勇者「……そうだね」

天童「……とまぁ! これが私の意見だ! どうだい? 参考になったかね? 勇者君?」

勇者「……なんかさぁ? 上手い事、美味しい所だけ取られたような気がするのは気のせいかな?」

天童「バカ~ンっ! おめぇはよぉ? 他人の決断に任せねぇといけねぇから、俺がこうやって、ベストな意見を出してやってんじゃねぇか!」

勇者「……本当かねぇ?」

勇者「じゃあ……まぁ、天童の意見を参考にして……」

女僧侶「はい」

勇者「今日はこの洞窟で、皆で休む事にしよう」

男武道家「勇者君、テント貸してね?」

勇者「見張り番は……俺、男武道家さん、女僧侶ちゃん、天童の順で……一人、一時間ずつ」

天童「よっしゃっ!」

勇者「二巡ぐらいしたら、皆の体力も回復するかな? そしたら、次は食糧の確保に行こう」

女僧侶「……この大陸に食糧はあるんですかね?」

勇者「それは……やってみないとわからない……とにかく、今は体力の回復をしよう!」

男武道家「街の魔物と戦うのは昼ぐらいになりそうだね?」

勇者「そうですね……皆さん、明日はどうぞ、よろしくお願いしますっ!」ペコッ

天童「おめぇはよぉ? 何、他人行儀になってやがるんだ? それに、日付跨いでんだから、明日じゃなくて、今日の話だバ~カっ!」

勇者「あはは……やっぱり、慣れない事はするもんじゃないね……? まぁ、最初の見張りは俺だから、皆は休んでよ?」






AM6:00

ーータイムリミットまで後、7時間




勇者「……Zzz」

天童「……おい、勇者? 交代だ」

勇者「……ん、あれ? もう、三時間経って、二巡目回ってきたんだ?」

天童「……体調はどうだ? 回復したか?」

勇者「う~ん……やっぱり、中途半端に起こされるのと……ここ、寝心地悪いからさぁ……?」

天童「……」

勇者「やっぱり、全快……って、ワケにはいかないね? もう少し、休みたい……」

天童「女僧侶ちゃんも、交代の時同じ事、言ってたよ……まだ、魔力が回復してねぇみたいだ……」

勇者「……そうなんだ」

天童「……あぁ」

勇者「……あれ、天童? 今、何時だ?」

天童「今は、6時だな……それがどうした?」

勇者「うわっ! もう、6時か! 朝じゃんっ!」

天童「……」

勇者「うわぁ……洞窟の中は暗くてよくわかんないけど、もう日が昇ってるんだよね?」

天童「……まっ、そうだね?」

勇者「なぁ、天童? これ、休憩はもうやめた方がいいかな? もう、行動した方がいいんじゃねぇか?」

天童「……あぁ?」

勇者「だってさぁ? もう、朝だよ? 二巡目待ってたらさぁ……? 10時になっちゃうじゃん?」アセアセ

天童「……」

勇者「なぁ? 天童、どうしよう……?」アセアセ

天童「……まっ、おめぇの決断次第だね?」

勇者「……えっ?」

天童「このまま、二巡目待つか……今から、行動するかは……おめぇの決断に、皆乗っかってくれるだろうね」

勇者「でもさぁ……? 俺、決断したら、死んじゃうんだよ……?」

天童「おめぇは、命題来てから、何度も決断したじゃねぇか?」

勇者「!」

天童「でもよぉ? まだ、おめぇ死んでねぇよな? 何でか、わかるか?」

勇者「えっ……それは……わかんない……」アセアセ

天童「それはよぉ? おめぇが、皆の期待に答えてるからだよ!?」

勇者「……期待?」

天童「おめぇはよぉ? 一人で決断してるように見えて、そうじゃねぇんだよ! 皆の意思を汲み取ってるんだよ!」

勇者「……」

天童「皆はおめぇなら、きっとうまく纏めてくれると思ってるから、おめぇに色々な意見をぶつけるんだよ!」

勇者「う、うん……」

天童「他人の決断に乗っかるってのは、流されるって事じゃねぇんだよ! こういう事なんだよ!」

勇者「う、うんっ……!」

天童「勇者ァ! ここが大きなポイントだぞっ!」

勇者「……えっ?」

天童「もう、6時で朝だけどよぉ? 皆は二巡目を待ちたいか……それとも、今から行動したいか……どっちだと思うんだ!?」

勇者「……えっ?」

天童「言葉は届かないけどよぉ……? 皆はどっちを望んでいると思うんだ!?」

勇者「……」

天童「今からおめぇは、その『見えない他人の決断』に乗っからねぇといけねぇんだっ!」

勇者「!」

天童「ここを、間違えたら……おめぇ、死んじまうぞっ! さぁ、どっちだ!? おめぇが選ぶんだっ! 勇者ァ!」

勇者「う、うぅ……」

天童「自分の感情を捨てろっ! 冷静になって、周りの意思を尊重するんだっ! 他人の決断に任せるってのは、そういう事だっ……!」

勇者「……」

今日はここまでにしておこう
最近スローペースごめんね






AM10:00

ーータイムリミットまで後、3時間





天童「朝だ、朝だよ~っとっ! ほれっ、皆、起きた起きたっ!」

女僧侶「うぅ、天童さん……おはようございます……」

天童「はいっ! おはようっ! 今日も一日、元気に頑張りましょうっ!」

男武道家「……」ボーッ

天童「はいっ、男武道家さんもおはようございますっ! どうしました? 朝は元気良く、挨拶をせねばいかんばいっ!」

男武道家「……僕は、低血圧なんだよ。ちょっと、天童さんうるさいよ?」

天童「はいっ! 勇者君もおはようっ! 勇者君、よく眠れたかい?」

勇者「う~ん……微妙……」

天童「さて、皆さん? 体調の方はどうですか? 体力は回復しましたか?」

女僧侶「う~ん……やっぱり……昨日疲れが抜けてないんですかねぇ……?」

男武道家「……あっ、女僧侶ちゃんも? 僕も、筋肉痛でさ……? もう、歳なのかな? 嫌だな……」

勇者「えっ……? 二人共、まだ回復しきってないんですか……?」アセアセ

女僧侶「全快とは、言えませんけど……八割型は回復しましたね」

男武道家「……まっ、僕もそんな感じだね。勇者君は?」

勇者「そうですね……俺も全快とは言い辛いですが……でも、大丈夫ですっ!」

男武道家「……今、何時?」

勇者「え~っと……今は、10時ですね……?」

男武道家「うわぁ……殆ど、丸一日、何も食べてないのか……」

勇者「そ、そうですね……」

男武道家「じゃあ、とりあえず、皆で食糧調達でも始めようか?」

勇者「……ん?」

男武道家「あれっ……? 勇者君、どうしたの?」

勇者「あの……男武道家さんって、そんな建設的な意見、出してくれる人でしたっけ……?」

男武道家「あのね? 君は失礼っ! 本当に、失礼っ!」

男武道家「今日は街の魔物を倒しに行くんだろ? 昨日、君言ってたんじゃないの!?」

勇者「は、はい……」アセアセ

男武道家「それなのに、こ~んなお腹ペコペコの状態じゃ勝てるもんも勝てないよっ!」

勇者「そ、そうですね……」

男武道家「こういうのを、諺で何て言うか知ってる? ハイッ、天童さんっ!」

天童「腹が減っては戦は出来ぬっ!」

男武道家「そうっ! その通りっ! 僕は勝てる為を少しでも、上げる為に提案してるんだよ!」

天童「まっ、『武士は食わねど高楊枝』……なぁ~んて、諺もあるけどね?」

男武道家「天童さんは余計な事を言わないっ!」

男武道家「それで、どうする? 勇者君? やっぱり、食糧調達は必要でしょ?」

勇者「そうですね」

男武道家「でも、あまり時間を掛けすぎるのもよくないだろ? 皆で、手分けして、ちゃちゃっと探そうよ?」

勇者「そうですね……じゃあ、一時間ぐらいにしましょうか……?」

男武道家「……一時間後に、またここで合流だね?」

勇者「はい」

女僧侶「あまり、無理のある行動は控えましょう。私達はこの後、街の魔物と戦わなくてはいけませんから」

勇者「そうだね。じゃあ、皆! 無理しないように、一時間、食糧調達をしようっ!」






AM11:00

ーータイムリミットまで後、2時間





天童「よっしゃっ! どうだっ! 木の実採って来たぜおいっ!」

女僧侶「私は、山菜を採ってきました」

男武道家「君達、頑張るねぇ? 肉体派だねぇ? 僕はそんなに無理はしないよ」

天童「あんた、武道家だから、肉体派でしょう?」

女僧侶「男武道家さんは……何をとってきたんですか?」

男武道家「僕はねぇ、一時間釣りをしてたよ。 いやぁ、休憩も出来るし、楽な仕事だったよ」

天童「……しまったっ! その手があったかっ!」

女僧侶「……何か、釣れましたか?」

男武道家「人数分はちゃんと釣ってきたよ? ほら、魚四匹?」

天童「あらっ? こりゃ、結構でかいね!?」

女僧侶「勇者さんは、何を採ってきたんですか?」

勇者「……あ、あのっ」アセアセ

女僧侶「?」

勇者「ご、ごめんっ……! 俺、何もとってこれなかった……」

女僧侶「……そうですか」

勇者「あのっ……! 皆、頑張ったのに……俺だけ……」

女僧侶「……」

勇者「……本当にごめんっ!」


男武道家「まぁ……物資が少ない大陸だから、君みたいな、頭の悪い子にはしょうがないよね?」

勇者「す、すいません……」

男武道家「まぁ、料理当番したら、許してあげるよっ! ほらっ、さっさと、皆がとってきた食材、料理しなさいっ!」

勇者「は、はい……」


女僧侶「……」

男武道家「……ねぇねぇ、女僧侶ちゃん、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「……どうしたんですか?」

男武道家「勇者君ってさぁ……? 不器用だよね?」

女僧侶「……どういう事ですか?」

男武道家「あれ? 気づいてないの?」

女僧侶「……えっ?」

男武道家「勇者君さぁ? 個人行動してる、僕達の様子、ちょくちょく見にきてたでしょ?」

女僧侶「……えっ?」

男武道家「僕達がさぁ? 食糧調達してる間に、魔物に襲われたら危ないじゃない?」

女僧侶「は、はい……」

男武道家「だから、皆の所を見回ってたんだと、思うんだけど……女僧侶ちゃんは気づかなかった?」

女僧侶「あ、あの……私、山菜採るのに夢中で……男武道家さんは、知ってたんですか?」

男武道家「まぁ、僕はずっと、休憩しながら、釣りしてたからね? そんなに、必死にやってないもん。そりゃ、気づくよ」

女僧侶「……」

男武道家「そういや、途中で魔物に襲われた時の事なんて、すっかり忘れてたよ。 いやぁ、なかなか、やる子だね、彼?」

女僧侶「はい! 勇者さんは変わりましたからっ!」


勇者「お~いっ! 魚、焼けたよ~っ!」

天童「これ、食ったら、街へ向かうんだな?」モグモグ

勇者「そうだね……なんか……長い一日だったよ……」

娘「……」

天童「おい、まだ終わってねぇんだぞ? 気ィ、抜いてんじゃねぇよ」

勇者「あっ……ごめんごめん……」

娘「……」グゥー

天童「……ん?」

勇者「……あれ?」

娘「あっ……! いや、なんでもありませんっ……! ごめんなさいっ……!」

天童「……」

勇者「……」

娘「……」グゥー

男武道家「うるせぇっ! 女っ! さっきから、グーグー腹鳴らしやがってよぉっ!」

娘「あっ……ご、ごめんなさいっ……」アセアセ

男武道家「ほらっ! 僕の半分あげるからさぁ! その、うるさい腹をなんとかしなよっ!」

娘「……えっ?」

男武道家「いいか? その代わり、君達は僕の事を英雄として讃えるんだ? 食糧を奢って、街を救った英雄としてね?」


女僧侶「男武道家さん? それ、順番逆じゃありませんかね? ……あっ、私のも半分どうぞ? 家族の方に差し上げて下さい」ニコニコ

娘「!」

天童「だったら、俺もよぉ! 半分やるよ! 半分っ!」

勇者「あっ……じゃあ、俺も……半分……」

天童「バ~カっ! この流れだったら、おめぇは全部やる流れだろ! おめぇは空気読めねぇなぁっ!」

勇者「そ、それは……勘弁してくれよ……俺だって、腹減ってるんだから……」


娘「……」ボロボロ

勇者「……ん?」

娘「ありがとう……ございますっ……ありがとうございますっ……!」ボロボロ

勇者「……困った時はお互い様だよ」

娘「どうか……どうか……父の敵を討って……そして、街に平和を取り戻して下さいっ……!」ボロボロ

勇者「……」

娘「お願い……しますっ……!」

勇者「……うん。約束するよ」






PM0:00

ーータイムリミットまで後、1時間





街長「……どうした?」

勇者「……」

街長「金に困ったのか? その支援物資、買い取ってもらいたいんじゃな?」

女僧侶「……」

街長「まぁ、相場は日々変わるからな……それ、全部で500Gって所でどうだ?」

男武道家「……」

街長「なんじゃ、その顔は? 気に食わんなら、とっとと帰るがいい」

天童「……臭ぇ芝居は、もうやめにしようぜ? なぁっ! もうバレてんだよ! おっさんっ!」


勇者「おめぇが決めんのかよっ! 俺に言わせろよっ!」

街長「……な、なんの事だっ!」

勇者「もう、わかってるんですよ……この街を、乗っ取ろうとしてる事をね……」

街長「な、何を言っておるのか……」アセアセ

勇者「洞窟にいる、道具屋の娘さんから、全てを聞きましたよ……」

街長「クッ……あのガキ……まだ、生きてやがったのかっ……!」

勇者「あなたを倒して……この街に平和を取り戻します……!」

街長「ええいっ! バレたのでは仕方ないっ! こんな醜い姿をしている必要も、あるまいなっ!」ボワンッ

勇者「!」

魔物「お前達っ! 集まれっ! こいつらを始末するぞっ!」

魔物「よぉ、姉ちゃん? 買い物ありがとな?」

女僧侶「……くっ!」

魔物「なぁ~んで、宿屋泊まってくれなかったんだよぉ? 寂しいじゃねぇか?」

男武道家「……バカにしてんじゃないよ?」

魔物「おめぇ、堅焼きそば頼んだ奴だよな? 昼から、堅焼きそばって……おめぇ、センスねぇんじゃねぇか?」

天童「なんでだよっ! 堅焼きそば、美味いじゃねぇかよっ!」

魔物「これで……四対四だな……」

勇者「……くっ!」

魔物「いくぞっ! お前達っ! こいつらさえ始末すれば、以前変わりなく、この街は我々のものだっ!」

ーーーーー


魔物「オラオラっ! どうしたっ! そんもんか? おいっ!」ガスガス

女僧侶「……ぐっ! うっ!」

魔物「おめぇ、あまり戦闘向きじゃねぇみてぇだな? オラオラっ! どうしたっ!」ガスガス

女僧侶「……くっ! 勇者さんっ!」

魔物「……あぁ?」

勇者「おらぁっ!」ガスッ

魔物「ぐっ……! てめぇ……! 割り込んでくるんじゃねぇよっ!」

勇者「……よそ見はあまり、よくないですよ?」

魔物「……あぁ?」

男武道家「せいっ!」ガスッ

魔物「……ぐっ! くそっ! こっちにもいやがったかっ!」

天童「後ろにもいるばいっ!」

魔物「……何ィ!?」

天童「そ~れっ! どっこいしょ~っ!」ガスッ

魔物「……ガッ!」

女僧侶「皆さんっ……! ありがとうございますっ……!」

魔物「くっそぉ……こいつらちょこまか、ちょこまかしやがって……」


魔物長「なぁ~にをやっとるっ! 元、道具屋っ! お前はちょっと下がれっ!」

魔物「長……申し訳ありません……こいつら、予想以上のコンビネーションで……」

魔物長「……だったら、そのコンビネーションを防げばいい話ではないか」

勇者「……んっ?」

魔物「……なるほど」

魔物長「奴らの連携攻撃を使えないように撹乱させてやればいい……」

勇者「……お前ら、何する気だ?」

魔物「ふふ……こうするんだよっ……!」

魔物長「はぁっ! 変化の術っ!」ボワンッ

勇者「!」

偽勇者「よしっ、皆っ! この姿で戦うよっ!」

勇者「……なっ!」

偽僧侶「はいっ! これで、あの方達は、先程の連係攻撃は使えませんねっ!」

女僧侶「私達の……姿にっ……!」

偽天童「よっしゃっ! この姿で、あいつらを始末するばいっ!」

天童「おいおい……口調もそっくりで、見分けがつかねぇぞ、こりゃ……」

偽武道家「乱戦に持ち込んだら、奴らに見分ける術はないからねっ! 突っ込むよっ!」

男武道家「う、うわっ……! 来たよっ……! どうするのっ! どうするの勇者君!?」

偽僧侶「……たぁっ!」バキッ

勇者「ぐっ……! くそっ……こいつは偽者かっ……?」

偽僧侶「あ、あれっ……? もしかして、本物の勇者さんですか……?」アセアセ

勇者「あ、あれっ……? もしかして、本物の女僧侶ちゃん……?」

偽僧侶「ご、ごめんなさい勇者さんっ……! 私、偽者と間違えてっ……!」アセアセ

勇者「あぁ、次からは気をつけてね……? 偽者の勇者はあっちだから……」

女僧侶「はいっ! わかりましたっ! 偽者は貴方ですね? えいっ! えいっ!」ガスッ

勇者「ぐあっ……! お、おめぇ……偽者だろ!? 騙しやがったな!」

偽僧侶「ふふ」

天童「おいっ! 勇者っ! おめぇ、何やってんだよぉっ!」

勇者「違うよ……どれが本物で、どれが偽者かわかんないんだよ……」アセアセ

天童「言い訳してんじゃねぇよっ! このダメ人間っ!」バキッ

勇者「あっ!? おめぇも偽者だな! この野郎っ!」

天童「待てっ! 俺は本物だよっ……! 俺は本物っ!」

勇者「くそぉ……このやろっ……!」バキッ

天童「いてぇな、この野郎っ! おめぇ、天使にそんな事したら、罰当たるからなっ!」

勇者「あれっ……? 反撃してこないな……? こいつは、本物かな……?」アセアセ

ぶつ切りですが今日はここまで

女僧侶「勇者さんっ! 私はこの自分の偽者の相手をしますっ!」

偽僧侶「……失礼なっ! 偽者は貴方でしょうっ!」

勇者「……ん?」


男武道家「だったら、僕はこいつと戦うよっ! 僕になりすますなんて、ムカつく奴だねっ!」

偽武道家「ムカついてるのはこっちの方だよっ! 君が偽者の癖に、よくそんな事が言えるねぇ!?」

勇者「……そうかっ!」


天童「勇者ァっ! 下手に味方に手を出しちまったらよぉ! 大変な事になるから、こいつは俺に任せて、おめぇは自分の偽者と戦いやがれっ!」

偽天童「 偽者の癖に、恰好いい事言うじゃねぇかっ! やっぱり俺だねっ! カァ~! 恰好よかぁ~!」

勇者「わかったっ……! 皆の決断に従うよ! 皆、頑張ってねっ!」


女僧侶「はいっ!」

男武道家「おうっ!」

天童「任せときんしゃいっ!」

偽勇者「各自が、自分の偽者と戦うってワケだね……なかなかいい作戦じゃない……」

勇者「これでお前達の錯乱戦法は通じないぞっ……!」

偽勇者「だけど、連携攻撃も使えないよね……?」

勇者「……」

偽勇者「ほら? 戦ってる皆を見てみなよ? どっちが優勢なんだろうね? 君の仲間はピンチなんじゃないのかな?」ニヤニヤ

勇者「皆、そんな簡単に負けるような仲間じゃないさっ! 俺は仲間を信じるっ!」

偽勇者「……ふ~ん」ニヤニヤ






PM0:40

ーータイムリミットまで後、20分





偽僧侶「たぁっ! はぁっ!」ガシッ

女僧侶「……くっ!」

偽僧侶「はぁっ! たぁっ!」

女僧侶「くっ……! 回復魔法っ……!」ピカーッ

偽僧侶「どうしました? 先程から、回復魔法ばかりじゃないですか?」

女僧侶「くっ……! もう……魔力が……」

偽僧侶「あなたは戦闘向きではないようですね……そうやって、回復するので精一杯じゃないですか……」

女僧侶「はぁ……はぁ……」

偽僧侶「魔力の尽きたあなたなど……もう、恐れる事などありません……」

女僧侶「くっ……! やはり、完全には回復出来てはなかったようですね……」

偽僧侶「さぁっ! これで、とどめですっ! いきますよっ!」

女僧侶「!」

偽僧侶「はぁっ!」ガシッ

女僧侶「!」

偽僧侶「……まず、一人!」

女僧侶「……」

偽僧侶「さて……長は押されているようですので……私は、長のサポートをしましょうか……」

女僧侶「……勇者さんは、優勢なんですね? よかったです」

偽僧侶「……貴方、何故、生きているのです? 魔力は尽きたはずでしょう?」

女僧侶「……高い、買い物でした」

偽僧侶「?」

女僧侶「あなたから、売って頂いた薬草のおかげですよ……なんとか、回復が間に合いました……」

偽僧侶「売るんじゃありませんでしたね……あんな物……」

女僧侶「はぁっ……はぁっ……」

偽僧侶「しかし、もう魔力の残っていないその身体で何が出来るんですっ! 寿命が少し伸びただけにすぎませんっ!」

女僧侶「……くっ!」

偽僧侶「さぁっ! これでとどめですっ! いきますよっ!」

女僧侶「!」

男武道家「……ぐっ!」

偽武道家「いいねぇ、いいねぇっ! この身体っ! 武道家っていいじゃないかっ!」

男武道家「……くそっ!」

偽武道家「ほらほら! 回し蹴りだよっ!」バキッ

男武道家「……ぐっ!」

男武道家「次は、ローキックっ! ほらほらっ!」バキッ

男武道家「ぐっ……! くそっ……!」

偽武道家「いやぁ~! 武道家って面白いねぇ! ほら、次はハイキックだよ~!」

男武道家「……くっ! やばいっ! 防がないとっ!」

偽武道家「なぁ~んちゃって……ハイキック……か~ら~の?」

男武道家「……んっ?」

偽武道家「……フェイントでミドルキック! ほらほら、ボディががら空きだよ?」バキッ

男武道家「ガッ……!」

偽武道家「いや~、いいねぇ! 武道家って色んな技があって、面白いねぇ! とどめはどの技がいい? リクエストぐらいは聞いてあげるよ?」

男武道家「く、くそっ……こいつ……やるじゃないか……!」

偽天童「おめぇの身体はよぉ? なぁ~んにも特技がねぇんだな! なんだ、この身体っ!」

天童「……君に、天使である私の身体は使いこなせないよ」

偽天童「……あぁ?」

天童「天使である私の身体は……君みたいな愚かな魔物には使えない……と、言っているんだ」

偽天童「……」

天童「……」

偽天童「……うるせぇよ! おめぇはよぉ!」バキッ

天童「痛っ……! 殴る事はねぇでしょ、あんた……!」アセアセ

偽天童「うるせっ! この身体、何も使えねぇんだから、こうするしかねぇじゃねぇかっ!」ガスガス

天童「痛い痛いっ……! ちょっとタイムっ……! ねぇねぇ! タイムタイムっ!」

偽天童「うるせぇよっ! 昔の二枚目っ! これでとどめばいっ! オラッ!」

天童「昔ってなんだよ! 昔って! ……って、やべぇっ!」

勇者「はっ! やぁっ! たぁっ!」

偽勇者「……くっ! このままじゃ、全滅しちゃうよっ!」

勇者「たぁっ! てやっ!」

偽勇者「あっ! それとも、全滅するのは君達の方かな?」

勇者「……何?」

偽勇者「ほら、見てみなよ? 今、勝ってるのは……僕の仲間か……君の仲間か……どっちだと思う?」

勇者「……」

偽勇者「もし……君の仲間がやられたら……ふふ、四対一だね?」

勇者「皆……勝ってるはずだ……俺は皆の決断を信じるっ……!」

偽勇者「……本当にそうかな? 皆、君に助けを求めてるんじゃないかな?」

勇者「くっ……ど、どっちなんだっ……!」

偽勇者「……隙ありっ!」バキッ

勇者「……ぐあっ!」

女僧侶「勇者さんっ……!」

男武道家「勇者君っ……!」

天童「くそっ……! 勇者ァっ!」


偽勇者「……今、助けを求めてるのは、君の仲間か、僕の仲間か、どっちなんだろうね?」ニヤニヤ

勇者「……」

偽勇者「助けに行く? でも、ひょっとしたら、自分の手で……仲間を殺しちゃうかもしれないね……?」

勇者「くっ……! どうしたらいいんだっ……!」

偽勇者「決断するのは君だ……仲間を助けに行くのか……ここで僕と戦うのか……リスクのある決断だね?」

勇者(多分……命題があるから……俺が助けると決断したら、皆を殺してしまう事になるだろう……)

偽勇者「さぁ、どうするんだい? 本物の勇者君?」

勇者(だから……きっと、皆は勝っているハズだっ……! きっとそうだっ!)

偽勇者「戦闘中に……あまり考えるのはよくないんじゃない……?」

勇者(だけど……! 本当にそうなのか? 皆は本当は助けを求めてるんじゃないのか!?)

偽勇者「バカがっ! 隙だらけだぞっ! 今のお前はっ! おらぁっ!」

勇者(個人で戦うという決断を尊称しつつ……! 皆を助ける方法っ……! 何か……何かあるはずだ、きっとっ!)

偽僧侶「これで……! とどめですっ……!」

女僧侶「!」

勇者「えっと……ええっと……ヤクルト? ……スクーター……ああっ! 違う違うっ……」


偽武道家「これでとどめだっ!」

男武道家「!」

勇者「クルトン……? スク水幼女……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ……!」


偽天童「これでとどめばいっ!」

天童「やべぇっ! 勇者ァっ!」


偽勇者「隙だらけだぞっ! これでお前も終わりだぁっ!」


勇者「『スクルト』?」ピカーッ

偽僧侶「はぁっ!」

偽武道家「たあっ!」

偽天童「どっこいしょっ!」

偽勇者「おらぁっ!」


スカッ


偽僧侶「……何?」

男武道家「避けた……だと……?」

偽天童「あいつらには、体力は残ってなかったってのによぉ!? なんで、避けれるんだよぉ!?」

偽勇者「……小僧、貴様何をした?」

女僧侶「こ、これは……?」

男武道家「何だ……? 身体から、力が溢れてくる感じだ……」

天童「おい、勇者ァ! おめぇ、何かしたのか!?」


勇者「皆、俺にはどれが本物でどれが偽者か区別がつかないっ!」

女僧侶「……」

勇者「だけど、この魔法で皆の力が上がったはずだっ!」

男武道家「……」

勇者「最初の決断通りに、皆は自分の姿の魔物と戦ってくれっ!」

天童「……」

勇者「苦しいけど、後少しなんだっ! 頑張ろうっ!」


女僧侶「はいっ!」

男武道家「よしっ! これならいけそうだっ!」

天童「勇者ァ! 今、12時55分だから、後5分だっ! おめぇも踏ん張れよっ!」

女僧侶「これならっ……! いけそうですっ……! たぁっ!」

偽僧侶「な、何ですか……!? さっきより、速いっ……! ぐっ……!」

女僧侶「はぁっ! やあっ!」

偽僧侶「ぐっ……! くっ……!」


男武道家「よしっ! 本物の回し蹴りってのが何かをわからしてやるよっ! たあっ!」

偽武道家「……ぐっ!」


天童「これが天使の底力ばいっ! 覚悟するがいいよっ! おらぁっ!」

偽天童「痛ぇっ! おめぇの力じゃなくてよぉ? それはあのガキの力だろうがっ! 偉そうにしてんじゃねぇよっ!」

勇者「これで……形勢逆転だな……?」

偽勇者「……ふふふ」

勇者「……何がおかしい?」

偽勇者「参ったよ……参った……降参だ……」

勇者「……」

偽勇者「いくら欲しい? 5000Gか? 10000Gか?」

勇者「……何?」

偽勇者「共に我々と、この街を支配しようではないかっ! その力と我々の変身能力があれば、容易い事ではないかっ!」

勇者「……」

偽勇者「私の決断に乗るんだ、勇者よっ! 力とは支配する為にある物だっ!」

勇者「……その決断には乗れません」

偽勇者「何故だ? 今さら、こんな壊滅した街を救って何になるというのだっ!」

勇者「……道具屋の娘さんの、心を救う事出来ます」

偽勇者「……何?」

勇者「僕が乗る決断は……彼女の言った……父の敵を討ち……この街を救という決断ですっ……!」

偽勇者「愚かなっ……! そんなちんけな物の為にっ……!」

勇者「僕の仲間もきっと、同じ事を思っていてくれているはずですっ! たああぁっ!」

偽勇者「!」


ザクッ

ーーーーー


天童「よっしゃっ! 1時ジャストだなっ!」

女僧侶「皆さん、偽者じゃありませんよね?」

男武道家「魔物の死体が、ひー、ふー、みー、よー……うんっ! 大丈夫みたいだね?」

勇者「皆、大丈夫だった?」

天童「おうっ! 俺はピンピンしてるよ! まっ、俺の実力は凄ぇからね!」

女僧侶「私も、勇者さんの魔法に助けられました。ありがとうございます」

男武道家「勇者君、あんな魔法使えるんだね? でも、できればもっと早く使ってほしかったなぁ……まぁ、おかげで助かったけど」

天童「……勇者?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、皆が心の底で『助けてほしい』って思ってたの……感じたんだな?」

勇者「下手に動いて……皆に攻撃しちゃうのは、皆望んでなかったと思うからさぁ……?」

天童「だから、ああいった形で、個人で戦う決断と、助けてほしいって決断を両立させたってわけか……」

勇者「う、うん……」

天童「おめぇ、今回はよぉ! やるじゃねぇか! おめぇも成長してきてるねぇ!」

勇者「そ、そうかな……」

天童「まっ、そもそも、おめぇみてぇなダメ人間がこのパーティーを纏めてるのが、そもそもの問題だったわけだけどね!」

勇者「おめぇは、褒めるか貶すか、どっちかにしろよっ!」

天童「『リーダーシップ』……クリア、だな……」メモメモ

翌日ーーー


娘「皆さん、本当にありがとうございましたっ……!」ペコッ

勇者「お母さんと二人で、この街の復興をするんだよね? 大丈夫?」

娘「不安もありますが……やはり、私の生まれ育った街ですし……」

勇者「……うん」

娘「ここには、父との思いでもありますから……必ず、復興させてみせますっ!」

勇者「うん……頑張ってね?」


男武道家「勇者君、大丈夫だよっ! 僕手伝うから、僕もっ!」

勇者「……えっ? 男武道家さんが? うわ、何か心配だ」

男武道家「あのね、君は失礼っ! 本当に失礼っ!」

勇者「だって、男武道家さん、ドケチじゃないですか……」

男武道家「いいかい、勇者君? 僕の計画を教えてあげる」

勇者「……ん?」

男武道家「明日から、この街は全ての品を95%OFFで販売するんだっ!」

勇者「えっ……! ドケチの男武道家さんが!? そんなにまけて大丈夫なんですか?」

男武道家「ふふふ……勇者君、そこがね……この話のキモなんだよ……」

勇者「?」

男武道家「いいかい? この街は、全ての品が100倍の価格売られてただろ? それを95%OFFにしたら、どうなると思う?」

勇者「え~っと……どうなるんですか……?」

男武道家「元値より、ちょっとだけ高い価格で販売できるワケだよ! 良心的な価格の範疇でね!」

勇者「……うわ」

男武道家「こんな美味しい話が転がってる街なんてないよっ! いや~、支援物資沢山持って来てよかったなぁ~!」

勇者「……あんた、やっぱり銭ゲバだな」

男武道家「まぁ、それで冒険者はこっちの大陸にも渡ってくるようになると思うからさぁ?」

勇者「そうですね」

男武道家「やっぱり、この街を抑えられてたのは痛いよ。 なんとか復興させて、冒険者をこっちの大陸に連れてこなきゃ」

勇者「そうですね。男武道家さん、頑張って下さいっ!」

男武道家「君達も頑張りなよ? これから……魔王城の方に旅立つんだろ?」

勇者「はいっ!」

男武道家「あっ……そうだそうだ……勇者君に餞別あげるよ、餞別……」ガサゴソ

勇者「……餞別?」

男武道家「ほら? この剣あげる! 勇者の剣、もうボロボロじゃん?」

勇者「えっ……? こんな物、頂けるんですか!?」

男武道家「物はいいけどねぇ……安値の剣だからねぇ……まぁ、『けるべろ』の事もあるし、持っていってよ?」

勇者「な~んか、怪しいなぁ……これ、呪われたり、してないですよね?」

男武道家「あのね、 勇者君? これは先行投資だよ、先行投資!」

勇者「?」

男武道家「君がその剣を使って、魔王を倒すとするじゃん?」

勇者「……はぁ」

男武道家「すると、どうなる!? その剣の価値は、魔王討伐モデルとして、何十倍にもなるではないかっ!」

勇者「……うわぁ」

男武道家「なんで、そんなに嫌な顔するんだよ……それ、物はいいんだからね!? 価値が低いだけで!」

勇者「……あんた、そんな事言って、この剣ばら撒きまくってんだろ?」

男武道家「あはは、まぁまぁ……とにかく、美味しい話があったら、すぐ連絡してよ? 僕もすぐかけつけるからさ?」

勇者「はいはい……」

男武道家「そうだな……魔王を後、一撃で倒せるっ……! そんな状況になったら、絶対連絡してね? 約束だよ、約束?」

勇者「……あんたは最後まで、銭ゲバなんだな」

男武道家「うるさい、これが僕の生き方だ! 文句あっか!?」

ーーーーー


天童「おっ? いい剣、持ってんじゃねぇか? どうしたんだ?」

勇者「あぁ、男武道家さんに貰ったんだ」

天童「へぇ~、あのドケチな男武道家さんがねぇ……こりゃ、明日は雪だな!」

勇者「いや、雪は降らないよ……しっかり、下心があったから……」

天童「……で、これから、どうすんだ?」

勇者「まぁ、魔王城に向かうしかないでしょ? ここまで来たんだしさ」

天童「そうだな、早い所、平和な世界にしないとなっ!」

勇者「……ちょっと、信じられないなぁ」

天童「……ん? 何がだよ?」

勇者「いや、自分がさ……? こうやって、世界を変えてるなんて……」

天童「……」

勇者「お前が来る前……ずっと引き篭もってた時の俺だったら、考えられなかったよ、こんな事……」

天童「……まっ、それだけ、おめぇが成長したって事じゃねぇか?」

勇者「はは、俺ももう一人前かな?」

天童「バ、バカ~ンっ! バッバッバカ~ン! 後、命題は3つもあるんだよ!? それクリアしねぇと、おめぇは一人前じゃねぇよ!」

勇者「ははは、じゃあ後3つ……頑張らないとね?」

天童「……ん?」

勇者「よしっ! じゃあ、そろそろ出発しようか! 天童、女僧侶ちゃんっ! 行くよっ!」

天童「お、おうっ……!」


天童「あいつ、文句も言わなくなったなぁ……うん、明日は雪だ。絶対に雪だ」

第七話 「決断したら死ぬ!」

ーー完

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」

第三話 「褒められないと死ぬ!」

第四話 「約束破ると死ぬ!」

第五話 「優しくしないと死ぬ!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

第七話 「決断したら死ぬ!」 >>3-212


前スレ(1~6話) >>2

ーー俺の名は勇者。俺は今、魔王を倒して世界に平和を取り戻す為、魔王城のある危険な大陸を旅している


勇者「あ~、野宿ってゆっくり休めないもんだね?」

天童「どうしても、見張り役が一人はいるからな? 2時間起きに起こされるってのも、辛いもんだな」


ーーこいつの名は天童。自称天使の……ただの怪しいおっさんである


勇者「この前さ……? 俺が寝て、5分ぐらいしたら、魔物に襲われたでしょ? なんで、あんなタイミングで襲ってくるかねぇ?」

天童「バカ野郎……いいタイミングじゃねぇか? 俺が寝てる時に襲ってこなかったんだからよぉ?」


ーーだが……こいつの言う通り、俺は神様から与えられた十個の命題をクリアしないと死んでしまうらしい


勇者「……おめぇはよぉ?」

天童「まっ、そろそろ次の街に着くからよぉ? 今日ぐらいはゆっくり安眠しようぜ?」


ーーなんとか七個の命題をクリアして、残る命題は後三個……


勇者「そうだね。今日ぐらいはゆっくり休みたいね」

天童「おっ、勇者! 街が見えたぞ!?」


ーー果たして、俺は無事にクリアする事ができるのだろうか……

勇者「危険な大陸だってのに、結構、人の多い街だね?」

天童「こっちの大陸にも、皆で協力して毎日を全力で生き抜いている人達がいるんだな。おめぇも見習わねぇとなぁ!?」

勇者「……うるせぇな」


ザワザワ……ザワザワ……


勇者「……ん?」

天童「……ん?」

「おい、聞いたか? どうやら、あの伝説の勇者様の子供がこの街に向かって来てくれてるらしいぞ?」

「……本当か? でも、子供なんだろ? いくら、伝説の勇者様の子供だからって、この街を救えるのかな?」


勇者「……なんか、この街も困ってるのかな?」


「それがよぉ? 勇者様の子供は、10メートル近い化物を一人で倒したり、不思議な能力を持った魔物を一人で倒した人らしいぜ!?」

「マジかよ!? そんなに強いのかよ!? それだったら、きっとこの街も救ってくれるはずだよなっ!?」


天童「……おめぇも随分よぉ? 名前が売れてきたみてぇだな?」


「それだけ強いんだから、きっと、この街を救ってくれるはずだぜっ!」

「あぁっ! 勇者様の到着が待ち遠しいなっ!」


勇者「……」

天童「……なんかよぉ? この街も問題抱えてるみたいだな?」

勇者「そうだね……今日もゆっくりできそうにないね……?」

天童「……ん?」

勇者「この街に問題があるんだったらさぁ……俺達が解決してあげなきゃ?」

天童「……おぉ」

勇者「……なんか、期待されちゃってるみたいだしさぁ?」

天童「いいねぇ! おめぇ、成長してるじゃねぇか! でもよぉ? 一つだけ訂正しておくぞ?」

勇者「……天童、わかってるって」

天童「……ん?」

勇者「おめぇ一人でよぉ? 全部解決したわけじゃねぇだろうがよぉ!?」

天童「!」

勇者「周りに支えてくれる人がいたからよぉ? おめぇも魔物を倒す事が出来たんだろうがよぉ!?」

天童「!」

勇者「そこの所、勘違いしてんじゃねぇよ! おめぇみてぇなダメ人間、一人じゃなぁ~んも解決できねぇよ! ……だろ?」

天童「……お、おぉ」

勇者「まっ、あの人達……何か勘違いしてるみたいだけどさ……? やっぱり、俺にはお前や女僧侶ちゃんの助けが必要だからさ……?」

天童「……おめぇ、わかってんじゃねぇかよぉ」ニヤニヤ

勇者「今日も、一日よろしくね?」

天童「なぁ~に、他人行儀になってんだっ! わかってんならいいよっ! まっ、おめぇのフォローは俺に任せときんしゃいっ!」

勇者「じゃあ、とりあえず、あの人達に話を聞いてくるね?」

勇者「あの~? すみません……」

街人「……ん?」

勇者「あの……この街、何か問題抱えてるんですかね?」

街人「お前、冒険者か? 誰だ、お前?」

勇者「あっ……僕、勇者です……」

街人「……はぁ?」

勇者「いや、だから……さっき、貴方達が話していた……伝説の勇者の子供の……勇者ですよ?」

街人「……」

勇者「んっ、どうしたんですか?」

街人「嘘ついてんじゃねぇよっ! このガキっ! おめぇは狼少年かっ!」

勇者「……えっ?」

街人「出たよ出たよ! こうやって、勇者様の名前借りてさ? 大金毟り取っていく、泥棒みてぇな冒険者がよっ!」

勇者「いやいやっ……! 僕は勇者ですよっ……! 本当ですっ、本当ですって……!」アセアセ

街人「勉強不足だな、坊主!? そんな事じゃ、金取れねぇぞ!?」

勇者「いやっ……勉強不足って……どういう事ですか……?」

街人「あのね……? 伝説の勇者様の子供は女性なの? おめぇ、男じゃねぇか!」

勇者「……えっ?」

街人「勇者様の子供は女の子一人だけって、知らねぇのか? そんな事も知らねぇなんてよ……おめぇ、ただの引き篭もりじゃねぇの?」

勇者「!」

街人「おらっ、邪魔だよっ! こっちは勇者様を迎え入れる準備があるんだからよぉ! おめぇみたいな奴はとっとと消えろやっ!」

天童「お、おいっ……! 勇者……どういう事だ……?」アセアセ

勇者「……」

天童「また、おめぇの偽者が現れたって事か? この大陸に、勇者の名を語る偽者がいるって事か?」

勇者「……いや、違う」

天童「……あぁ?」

勇者「姉ちゃんだ……姉ちゃんが、この付近にいるんだ……」

天童「あぁ……そういや、おめぇ姉ちゃんいたな?」

勇者「……うん」

天童「……でもよぉ? 勇者の子供が一人ってのはどういう事だ? おめぇだって、子供だろ?」

勇者「……」

天童「……あっ! もしかして、おめぇ、母親の不倫相手の隠し子とかか!?」

勇者「……」

天童「その事に気づいたおめぇの父さんはよぉ? 不倫相手と決闘しに行って、命を堕としたってワケか!?」

勇者「……」

天童「ん、待てよ……? そうなると、おめぇは魔王との子供って事になるなぁ……」

勇者「……」

天童「いやぁ~んっ! バカ~んっ! まるで昼ドラみたい~! おじさん、そんな話、あまり好きじゃないなぁ~!」

勇者「姉ちゃんさぁ……? 俺の事、隠したがってたから……」

天童「……ん?」

勇者「……ほら? 俺、ずっと引き篭もってたじゃん?」

天童「……」

勇者「伝説の勇者様の息子が引き篭もりなんて、周りに知られたらさ……? 俺だけじゃなくて、姉ちゃんや母さん……それに、父さんまでバカにされるじゃん?」

天童「……」

勇者「……だからさぁ? 姉ちゃん、俺の事はなかった事してるんだよ」

天童「……ん?」

勇者「金は仕送ってやるから……父さんや私の名前を汚す事はしないでくれって……」

天童「……」

勇者「俺の住んでた街の近くの人には、バレてたんだけど……姉ちゃんは俺の事をなかった事にして、ずっと旅を続けてたんだろうね……」

天童「……でもよぉ? おめぇは、あの時と違って、もう成長してんだろ?」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇはよぉ! ここまで旅してきて、色々学んできただろがっ!」

勇者「……うん」

天童「言ってやればいいじゃねぇか! 僕も勇者の子供なんです、この街を救いますよ! ってよぉ!?」

勇者「いや……でも……」

天童「なぁ~に、ウジウジしてんだよ! おめぇ、そういう所がよぉ! おめぇのダメ人間な所なんだよっ!」

勇者「……」

天童「なんだよ、なんだよ……5分前のテンションどうしたんだよぉ! 勇者君よぉ!?」

勇者「……」

天童「……ったく、面倒臭ぇ奴だな。ところでよぉ? ホレ、来たぞ?」

勇者「……ん?」

天童「命題だよ、命題」

勇者「!」

勇者「えっ……? これ、いつ来たの……?」アセアセ

天童「さっき、おめぇが街の人話してる間によ? 神様がコソッと来てな?」

勇者「……コソッと?」

天童「おめぇにバレエねぇように、俺にスッってな?」

勇者「……スッ?」

天童「それで、サッっと帰って行ったよ」

勇者「……コソ泥か? 神様、コソ泥みてぇな真似してんのか!?」

天童「おめぇは、いつか絶対、神様に罰当てられるぞ!? もう、いいから早く何が書いてあるか見てみろよっ!」

勇者「わかったよ……え~っと……」ガサゴソ

今日はここまで
次回に命題届けます






勇者
X月X日 午後9時までに

姉に勝てなかったら即・死亡!





天童「ふ~む……『姉に勝てなかったら即・死亡』か……」

勇者「……えぇ?」

天童「今、午前8時だから後13時間……だな……?」

勇者「ダメだよ……それだけは無理だよ……」

天童「おめぇが姉貴に対してウジウジしてっから、そこん所神様がズドーンって命題を討ってきたんだよぉ」

勇者「だってさぁ……? 姉ちゃんは俺と違って、ずっと世界平和の為に旅してたんだしさぁ……?」

天童「いいか? これはチャンスだぞ!」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇがここで姉貴に対するコンプレックス吹っ切れば、未来が見えてくる……ここが正念場だぞっ!」

勇者「……簡単にいうけどさぁ? だって、小さい頃からずっと、俺、姉ちゃんに勝った事ないんだぞ?」

天童「まぁ、出来る姉の存在ってのは、おめぇにとって相当なトラウマみてぇになってんだろな?」

勇者「……」

天童「おめぇが引き篭もってる間もよぉ? ずっと、姉貴と比べられてたんだろ? 世界平和の為に戦う姉と……その弟の引き篭もりってよ?」

勇者「……うん」

天童「でもよぉ!?」

勇者「?」

天童「これを乗り越えなきゃ、何を乗り越えたって崩れちまうんだっ!」

勇者「……」

天童「おめぇも、ここまで命題クリアしたり、旅してきたりして、成長してんだろが!」

勇者「……うん」

天童「そんなモジモジモジモジよぉ、ビビってねぇで勝負挑んでみろやっ!」

勇者「……勝てるわけねぇよ」

天童「おめぇ、勝負なんてよぉ? 色んな方法あるだろが! おめぇが得意な分野で勝負挑めばいいんじゃねぇか!」

勇者「……例えば?」

天童「例えばよぉ? にらめっこ対決……とか、どうだ?」

勇者「……はぁ?」

天童「おめぇの、そのしみったれた間抜け面だったら、楽勝だろ!? 今日はよぉ、鼻毛も一本飛び出してるし、なにもしなくても勝てるぜおいっ!」

勇者「えっ……? 俺、鼻毛出てる……? うわっ、何で教えてくれなかったんだよっ! 恥ずかしいじゃねぇか!」プチッ

天童「あっ! おめぇ、何で抜くんだよ!? せっかくのいい武器だったのによぉ!?」

勇者「うるせぇっ! これじゃあ、試合に勝って、勝負に負けたみてぇなもんだろがっ!」

天童「……それだよ。その目だよ!」

勇者「……ん?」

天童「おめぇのその、俺に対する強気を姉貴に向けりゃいいんだよっ!」

勇者「……でも」

天童「……『でも』じゃねぇよ」

勇者「……」

天童「……」

勇者「……だって」

天童「……『だって』じゃねぇよ! この間抜けっ!」

勇者「……」

天童「……」

勇者「どうせ、俺はさぁ……?」

天童「ヨッ! 治ったと、思ったけど、久々に出たな!」

勇者「……」

天童「よっ! どうせ国国王っ! どうせホームラン王っ!」

勇者「……うるせぇよ」

天童「おめぇはよぉ? ちょっと、姉貴の名前が出てきたら、ま~たネガティブ人間に戻るんだな!?」

勇者「……」

天童「おめぇだって、ここまでやってきたんだろが! おめぇも成長してんだろがよぉ!?」

勇者「でも、俺が成長してる間にさぁ……? 姉ちゃんだって、色々やって成長してるだろうしさぁ……」アセアセ

天童「じゃあ、死ぬのか? ここで、もう諦めて死ぬのか!?」

勇者「いや……それはさぁ……? 違うけど……」

天童「だったら、戦えよっ! もっと、前向きになれよっ! 最後の最後まで諦めんなよっ!」

勇者「……う、うん」

ーーーーー


女僧侶「……勇者さん、街の方と何を話してたんですか?」

勇者「あっ……いやぁ、まぁ、ちょっとね……?」

女僧侶「?」

勇者「あっ……あのさぁ……? 女僧侶ちゃん、相談があるんだけど……?」モジモジ

女僧侶「相談……? 何か、問題でも起きたんですか? 私に出来る事なら、なんでもしますよ?」

勇者「あっ……! するのは俺だからさぁ……? そんなに、真剣に聞いてくれなくても、いいんだけどね……?」アセアセ

女僧侶「?」

勇者「あっ、そうだっ! なぞなぞしよう! 今からさぁ、なぞなぞ出すから、答えてみてよ?」

女僧侶「なぞなぞ……ですか……? 私、結構得意ですよ」

勇者「じゃあ、問題っ!」

女僧侶「はい」

勇者「え~っと……男君には、何をやっても勝つ事の出来ない兄弟がいました!」

女僧侶「……ふむふむ」

勇者「しかし……男君は、なんとかして、その兄弟に勝たなくてはいけませんっ!」

女僧侶「……ふむ」

勇者「では、ここで問題ですっ! 男君はいったい、何で勝負を挑んだでしょうか!?」

女僧侶「なるほど……勇者さん、わかりましたよ?」ニコッ

勇者「えっ、マジで!? そんなに簡単にわかるものなの? 答え何よ? 俺、何で勝負挑めばいいの!?」ワクワク

女僧侶「……答えは」

勇者「うんっ! うんうん!」

女僧侶「『負けの数』……ですね……?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「あれっ……? 答え、違います……?」

勇者「あっ、いや……ま、まぁ……正解だね……」

女僧侶「ほら、ねっ? 私、なぞなぞ得意でしょ?」ニコニコ

勇者「う~ん……『負けの数』で姉ちゃんに勝負挑めばいいのかぁ……? いや、違うだろなぁ……」

女僧侶「じゃあ、次は私が勇者さんに問題出していいですか?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「ふふ、なんだかこういう遊びするのって、小さい時以来ですね? じゃあ、いきますよ? 問題ですっ!」

勇者「あっ、はい……」アセアセ

「おいっ、来たぞっ! ついに勇者様が来たぞっ!」

「街長の家に案内しろっ! 食事の用意もするんだっ!」


勇者「……えっ?」

女僧侶「……ん?」


「オラオラ、勇者様の到着だっ! お前ら、道を開けろっ!」

「勇者様は旅で疲れてるんだからよぉ! 失礼な事してんじゃねぇぞ!」


勇者「……」

女僧侶「勇者さんはここにいるのに……どうしたんですかね……?」


「さぁ、勇者様っ! 私が街長の家まで、案内します。 さぁさぁ、こちらへ!」

女勇者「……どうも」


勇者「!」

女僧侶「あっ! あれ、勇者さんのお姉さんじゃないですか?」

女勇者「……ここは、汚い街ですね?」キョロキョロ

街長「あっ……! 申し訳ございませんっ……! やはり、魔物の襲撃で……」

女勇者「……だから、私に依頼したというわけですか」

街長「お願いしますっ……! この街の復興には勇者様の力が必要なのですっ……! どうか、お願いしますっ……!」

女勇者「……私は、報酬さえ頂ければそれで構いません」

街人「……はっ!」

女勇者「このような街に……20000Gも支払う能力はあるんですか?」

街人「その事に関しては、街長と話して下さい……」

女勇者「わかりました……では、案内して下さい……」

街人「はいっ……! 勇者様、こちらですっ……!」


街長になってる所は街人に脳内修正しておいてくれ

女勇者「……しかし、本当に汚い街ですね?」

街人「申し訳ありませんっ……!」

女勇者「私……こんな場所で、今晩過ごすんですか……?」

街人「いえっ……! 勇者様には、宿屋の最高級の部屋を用意しておりますっ……!」

女勇者「こんな街の宿屋なんて……たかがしれている物でしょう……」

街人「も、申し訳ありませんっ……!」

女勇者「汚い宿屋に……汚い酒場……汚い道具屋……」キョロキョロ


勇者「……」


女勇者「!」

街人「あれっ……? どうしました? 勇者様?」

女勇者「……街が薄汚いと、薄汚い冒険者まで集まるようですね」

街人「……はぁ?」

女勇者「早く、案内して下さい。 見たくない物を見てしまったような気がします」

街人「……はぁ?」

女勇者(なんで、あんたみたいなクズがここにいるのよっ……! 父さんの名前を汚すだけの金食い虫のあんたがっ……!)ワナワナ

街人「それでは、街長の家に案内いたしますね? こちらです」

女勇者「はい、よろしくお願いします」


勇者「……」

女僧侶「へぇ~、勇者さんのお姉さんもこっちの大陸へ来てたんですね?」

勇者「……うん」

女僧侶「……私の事、覚えてらっしゃいますかね?」

天童「……おい、勇者?」

勇者「……ん?」

天童「なぁ~んで、勝負挑まなかったんだよぉ? 今、チャンスだったじゃねぇか?」

勇者「い、いやっ……まだ、何で勝負するか決めてないし、さ……?」アセアセ

天童「……ビビってるだけじゃねぇのか、おめぇ?」

勇者「そ、そんな事ないよ……」

天童「ふ~ん……まっ、いいや! ところで、勇者君よぉ?」

勇者「……ん、どうしたの?」

天童「今日一日、どうすんだよ? 計画を話し合おうぜ?」

勇者「だから、今日はさぁ……? 命題をクリアしなきゃいけないから……」

天童「バ~カっ! おめぇの計画じゃねぇよっ! 俺達の計画だよぉ? 俺達の!」

勇者「……えっ?」

天童「やっと、街に着いたんだからよぉ? 俺達の計画も話し合おうぜ?」

勇者「計画って……? 何……?」

天童「女僧侶ちゃん? 今、道具はどれくらい残ってるの?」

女僧侶「う~ん……薬草が不足してますかねぇ……? 少し、道具屋で補充しておきたいです……」

天童「俺はよぉ? 酒場で一杯、飲みてぇなっ!」

勇者「あっ……天童、酒場はダメだぞ?」

天童「うん、そうだよな? なんか、この街、困ってるみたいだし、酒場なんかで飲んでる場合じゃないよなっ!」

女僧侶「天童さん、困ってる事って……何ですか……?」

天童「いや、それがよぉ? 俺も街人の話を盗み聞いただけだから、詳しい事はわかんねぇんだよなぁ」

女僧侶「あら、そうですか……」

天童「でも、街の人にさ? 話を聞いてみたら、わかるんじゃね?」

女僧侶「そうですね、困ってる事があったら、私達も手助けしましょう」

天童「じゃあ、とりあえず街長さんにでも、話を聞いてみっか! 街の長って書くぐらいだから、何か情報は持ってるだろっ!」

女僧侶「じゃあ、そうしましょうか?」

天童「よしっ! 勇者っ! じゃあ、俺達も、街長さん家に行くかっ!」


勇者「!」

天童「おいおい、何固まってんだよ、おめぇ?」

勇者「いやっ……あのさっ……? もうちょっと後にしない……? もうちょっと、後!」アセアセ

天童「……何でだよ? 問題は早いうちに解決しねぇといけねぇだろが」

勇者「わかってるよ……わかってるけど、さぁ……?」

天童「……」

勇者「なっ、なっ……? 頼むよ、天童……」

天童「……なぁ、勇者?」

天童「……おめぇ、そんなに会いたくないのか?」

勇者「……」

天童「……いつものお前ならよぉ?」

勇者「?」

天童「間違いなく、ここで街長の家に行ってるだろうが! この街、救う為によぉ? 行動するんじゃねぇのか?」

勇者「……うん」

天童「おめぇよぉ? ここまで、自分に出来る事を一生懸命やってきて、ここまで成長したんじゃねぇか? なぁ、そうだろ?」

勇者「……う、うん」

天童「そこによぉ? 『姉』って存在が入ってきただけで、何でそんな風になっちまうんだよ!? おめぇ、またダメ人間に戻ってんぞ!?」

勇者「……」

天童「あのな、勇者……?」

勇者「……んっ?」

天童「おめぇが引き篭もってる間によ? 周りの人間や、あの姉ちゃんに何言われたかは、わかんねぇよ?」

勇者「……うん」

天童「でもよぉ? おめぇはちゃんと成長してるじゃねぇか! 言えねぇか? 今なら、今なら言えるんじゃねぇか?」

勇者「……えっ?」

天童「自分は伝説の勇者の息子で……今、世界を救う為に毎日毎日、精一杯旅してますって、言えねぇか!?」

勇者「……」

天童「昔のお前とはもう、違うだろ!? 今なら、姉貴とだって戦えるよっ!」

勇者「……ありがとう」

天童「だからよぉ? そんなに、モジモジしてねぇで、行動してみろやっ!」

女僧侶「……勇者さん」

勇者「あっ、ごめんね? 女僧侶ちゃん……そんなに心配しないでいいよ?」

女僧侶「……」

勇者「いや……あのさぁ……? 俺、ずっと引き篭もってたじゃん……?」

女僧侶「……はい」

勇者「だからさ……? ちょっと、姉ちゃんに、こういった形で会うのが気まずくてさぁ……? 二の足踏んでたや……」

女僧侶「……」

勇者「でも……そうだよ、大丈夫だよ。俺……天童や女僧侶ちゃんのおかげで変わったからさぁ……?」

女僧侶「……えぇ」ニコッ

勇者「この街……何か、困ってる事、あるみたいだし……俺達も街長さんの家に話を聞きに行こうかっ!」

女僧侶「安心しました。いつもの勇者さんで」

勇者「……えっ?」

女僧侶「私……勇者さんは変わったんじゃなくて、戻ったんだと思いますよ?」

勇者「うん、そうだね……ちょっと、姉ちゃんにビビりすぎてたや……うん、これが本当の俺っ!」

女僧侶「いえいえ……そういう事ではなくて……」

勇者「?」

女僧侶「まぁ、私達も街長さんの家に向かいましょうか」ニコッ

今日はここまで

街長家ーーー


女勇者「……どういう事ですか? 話が違うではありませんか?」

街長「この……10000Gで許してくれ……」

女勇者「報酬は20000Gのはずでしたが? 後、10000Gはどうしたんですか?」

街長「ワシらの街にも……生活じゃあるんじゃ……この10000Gだって……街人達に無理を言って、集めた金じゃよ……」

女勇者「あなた方の生活なんて知りませんよ。 私にだって、生活があるんですよ? 約束が違うのなら、この話はお受けできません」

街長「そんなに金を集めてどうするんじゃ? この10000Gで十分じゃろ?」

女勇者「今は戦いにも、お金がかかる時代なんですよ」

街長「……」

女勇者「私の父は魔王に破れ、命を堕としました……誰にも、負けない力を持っていたはずなのに」

街長「……あぁ」

女勇者「……何故だかわかりますか?」

街長「……」

女勇者「それは……良い武器や、防具がなかったからです」

街長「……」

女勇者「力だけで、世界を変える事ができるなんて……もう、過去の話なんですよ?」

街長「……」

女勇者「良い武器を使い、良い防具を使い……そして、腕のいい傭兵を雇う……」

街長「……そうじゃな」

女勇者「今の時代、世を変えるには、どうしてもお金の力が必要なんですよ。 力や正義感だけではどうにもなりません」

街長「……」

女勇者「高い報酬金が頂けると聞いて、私はこの街を救う為にやって来たのに……これじゃあ、話が違いますよ?」

街長「しかし……」

女勇者「……どうしました?」

街長「この10000Gでも……いい装備を買ったり、腕のいい傭兵を雇ったりは出来るじゃろう?」

女勇者「論点をすり替えないで下さい。 お話は20000Gのはずでしたよ?」

街長「傭兵なんて、4000Gもあれば、雇えるじゃろうに?」

女勇者「それだけじゃ、足りませんよ。 戦いは数です」

街長「装備品だって……残りの金額なら、この街の最高級の品が買えるぞ?」

女勇者「この街の武器や防具で、魔王と戦えるんですか? それは、あなた方が世界を知らないだけじゃないんですか?」

街長「……」

女勇者「世界には、もっと高価で、性能のいい武器や防具がありますよ?」

街長「……」

天童「うぉ~いっ! 街長さん、いるかい? 邪魔するよっ!」ガラッ

街長「……なんじゃ、あんたらは?」

天童「へへぇ~ん……聞いて驚くなよ? 俺達は伝説の勇者の息子と、その仲間御一行だぜっ!」

街長「勇者の……息子……?」

天童「いやぁ、なんか街人がこの街、問題抱えてるって言ってからよぉ? 俺達も話を聞きに来たんだよな?」

街長「女勇者さん……? 勇者様の子供は……あんただけじゃなかったのか……?」


女勇者「……」ギロリ

勇者「や、やぁ……姉ちゃん、久しぶりだね……?」

天童「よぉよぉ、街長よぉ! 俺達にも、話を聞かせてくれよ! あんた、ついてるなぁ? 勇者が二人も揃うなんて、滅多にねぇぞ、おいっ!」

街長「女勇者さん……これは、どういう事じゃ……?」

女勇者「……実は」

街長「あ、あぁ……」

女勇者「この子は、私の最大の隠し玉なのです……」

街長「……隠し玉?」

女勇者「えぇ……勇者とは、その名声だけで、多くの魔物に狙われる存在です。 魔王軍も、こちらの動向を注意深く観察してるでしょう」

街長「……そうじゃな」

女勇者「だから、私は……この子の存在を隠しているのです」

街長「魔王軍に気づかれないようにか……」

女勇者「はい……この子の存在が知られたら、彼等もそれなりの対策をしてくるでしょう」

街長「……なるほどな」

女勇者「ですから、街長……この事は、どうか内密にお願いしますっ……!」


天童「おいっ! おめぇ、隠し玉だってよ? なんか、格好いいじゃねぇか、おいっ!」

勇者「……」

女勇者「ちなみに、お金が必要なのも、そういった理由からです」

街長「……ほぅ」

女勇者「私の装備だけではなく……この子や、仲間達の装備も必要でしょう?」

街長「……なるほどな」

女勇者「とても、10000Gなんかじゃ、足りませんよ?」

街長「確かに……四人分の最高級な装備を整えるのは……20000Gでも、少ないかもしれんな……」

女勇者「えぇ……報酬金が20000Gでも、破格の条件なんですよ? この街を救うなら、それくらいは出していただかないと……」

街長「……う~む」

天童「……おい、勇者?」ヒソヒソ

勇者「んっ……? どうした、天童?」ヒソヒソ

天童「おめぇの姉ちゃんも、銭ゲバなんだな?」

勇者「お、おいっ……! やめろよっ! 怒られんぞ、お前っ!?」

天童「……おめぇよぉ? 男武道家さんに貰った剣があるから、別に武器なんて、いらねぇよな?」

勇者「あぁ……この剣さぁ……? 凄ぇ、使いやすいんだよ……」

天童「だったらよぉ? 街長さん、困ってるみてぇだし、姉貴と戦ってこいよ?」

勇者「……えっ? どういう事?」

天童「だからよぉ? 『お金なんて、いりませんよっ! 僕達、無償で街を救いますっ!』とか、言ってこいやっ!」

勇者「えっ……? で、でも、姉ちゃん交渉中だよ……?」

天童「いいから、ほれっ! 行ってこいっ! 姉貴に勝たねぇと、死んじまうんだぞ、おめぇ!」

街長「う~む……そういう事なら……」

女勇者「その報酬金は必ず、私達の力になります……私達を信じて頂けませんか?」

街長「……」


勇者「あ、あのさぁ……?」

女勇者「……」

勇者「あの……姉ちゃん、姉ちゃん……?」

女勇者「……どうしたの? 勇者君?」ニコッ

勇者「ちょっと……街長さん、困ってるんじゃないかなぁ……?」アセアセ

女勇者「勇者君? 交渉はお姉ちゃんに任せておきなさい」

勇者「いや、でもさぁ……?」

女勇者「……勇者君っ!」

勇者「!」ビクッ

女勇者「交渉はお姉ちゃんがするからさぁ……邪魔しないでくれるかな?」ギロリ

勇者「あっ……! は、はいっ……!」


天童(バカっ! おめぇ、何やってんだよっ! リングにすら、立ててねぇじゃねぇか!)

街長「……わかった、苦しい条件じゃが、あんたらにも事情があるんだから、仕方ないな」

女勇者「……20000Gで納得して頂けたんですね?」

街長「あぁ、全ての問題を解決してくれたら……20000Gを渡すと約束しよう……」

女勇者「わかりました、では、この街の抱えている問題を聞かせて下さい」

街長「……南の洞窟に、魔物が拠点を作り始めておる」

女勇者「……それの、討伐ですね?」

街長「あぁ……奴らが本格的に、この大陸を支配するつもりなら、真っ先に狙われるのは、この街じゃからな」

女勇者「……なるほど」

街長「魔王軍の精鋭部隊じゃから、厳しい戦いになるかもしらんが……どうか、よろしく頼むよ」

女勇者「ちなみに……傭兵部隊の方達が見当たらないのですが……何処にいるんですかね……?」

街長「……傭兵部隊?」

女勇者「えぇ、私が……その部隊の指揮をとればいいんでしょ?」

街長「ちょっと待ってくれ……! この街の傭兵部隊は……皆、やられてしまったよっ……!」

女勇者「……はぁ?」

街長「だから、ワシらはあんたらに、大金を支払って、依頼したんじゃないか!」

女勇者「では、私、一人で魔王軍の精鋭部隊と戦えと……?」

街長「だから、あんたもその隠し玉連れてきてくれたんだろ? なっ?」

女勇者「……」

天童「まっ、人数が四人ってのは、厳しいけどよぉ? 俺達に任せておきなよ、おっさんっ!」

女僧侶「えぇ、私達がこの街を必ず救ってみせますよ?」ニコッ

街長「おぉっ! ありがとうっ……! 頼むっ……! この街を救ってくれっ……!」


女勇者「……勝手に話、進めるんじゃないわよ」

勇者「……」


天童「まぁよぉ? 見事、討伐成功したら、酒でも奢ってくれよな! おっさんっ!」

女僧侶「も~う……天童さんはお酒ばっかりですねぇ……」クスクス

街長「わかったよ、報酬に酒も追加しようじゃないか。 だから、頑張ってくれよっ!」


女勇者「……あんたの仲間、何考えてるの? ねぇ?」ギロリ

勇者「うっ……ご、ごめん……」アセアセ

ーーーーー


天童「よっしゃっ! じゃあ、改めて自己紹介でもしますかっ! 俺は、天使(商人)の天童ねっ!」

女勇者「……」

天童「あの、格好書きで天使忘れないでね? 格好書きで、て・ん・し!」


女僧侶「私は、女僧侶と申します。よろしくお願いします」ペコッ

女勇者「……」

女僧侶「あ、あの~? お姉さん、私の事、覚えてらっしゃいますかね……?」


女勇者「……あ~っ! 最悪っ! やっぱり、あんたみたいなクズといると、調子狂うわっ!」イライラ

勇者「!」ビクッ

女勇者「ねぇ、あんた? あんた、私の交渉の邪魔したでしょ? どうして、そういう事するの?」

勇者「あっ……あれは……」

女勇者「ねぇ? あんた、どうしていつも邪魔ばかりするの? どうして、父さんの名前、汚すような事するの?」

勇者「いや……でも……」

女勇者「母さんへの仕送りと、あんたが生活できるように仕送りしてるの誰だと思ってるの?」

勇者「ご、ごめん……」

女勇者「あんたが、働かないから、私一人で家計支えてるのよ? 余計な事、言わないで頂戴よ」

勇者「あっ……! 俺の分の仕送りはもう、いいからさ……?」アセアセ

女勇者「それに、あんたの仲間っ! やっぱり、クズの周りにはクズが集まるのね!」

勇者「……いや、二人はクズなんかじゃないよ」モゴモゴ

女勇者「言いたい事があるなら、はっきり言うっ!」

勇者「あっ……! ご、ごめんっ……!」

女勇者「傭兵の交渉、勝手に中断して、話進めるなんておかしいでしょ?」

勇者「いや……でも、それは……この四人でなんとかなると思ったからさぁ……?」アセアセ

女勇者「商人と……僧侶と……引き篭もりのクズ……! 前衛は、何処にいるのよ、前衛はっ!」

勇者「あっ……そ、それはっ……」

女勇者「傭兵がいないんだったら、街人にでも、前衛やらせればいいでしょ? どうせ、使い捨ての駒なんだから!」

勇者「ご、ごめん……」

女勇者「あんたの仲間が死ぬのは勝手だけれど、私にまで迷惑かけないでよっ!」

勇者「うぅ……ご、ごめんっ……」

天童「お姉さん、お姉さん……」

女勇者「……何よ?」

天童「どうですかね? 腕相撲でもしませんかね?」

女勇者「……はぁ? 何、言ってんの、あんた?」

天童「いや、あなたの弟の勇者君も、ここまでの旅で成長したんですよ? だからね……? ちょっと、腕っ節見てあげて下さいよ?」

女勇者「……こんな奴が、あたしに勝てるワケないじゃない?」

天童「いやいやっ……! 勇者君の成長見たら、驚きますよ? さぁさぁっ! 勝負しましょうよっ! 勝負っ!」

女勇者「……」


天童「よっしゃっ! 勇者ァっ! ここで、おめぇの成長を見せて……同時に命題クリアだっ!」ニヤニヤ

勇者「お、おうっ……」

ーーーーー


女勇者「……」ググッ

勇者「……」ググッ

天童「はいはい、構えましたか……? 見合って、見合って……」

女勇者「……」

勇者「……」


天童(……おい、勇者?)ヒソヒソ

勇者(……ん?)

天童(いくら、威張っててもよ……? 相手は女だから、ガツーンとやっちまえっ!)

勇者(う、うんっ……!)

天童(ここで、勝ってよぉ? 命題クリアと同時に、主導権取り戻しちまえよっ! おめぇ、今日はらしくねぇよっ!)

勇者(う、うんっ……わかったっ……!)


天童「よっしゃっ! それじゃあ! レディ……ゴーっ!」

女勇者「……ふんっ」グッ

勇者「……ガッ! うおっ! 痛っ!」

天童「おいおい、勇者ァ! おめぇ、瞬殺すぎるぞっ! 何、やってんだよっ!」

女勇者「ほら……引き篭もりのあんたみたいなクズが勝てるわけないじゃない……」

勇者「痛っ……痛ぇよぉ……そんなに叩きつけないでいいじゃん……」

天童「カァ~! 情けなかぁ~! たまらぁ~ん! もう、たまらぁ~んっ!」

女勇者「そんな調子で魔物討伐なんて出来るの!? あんたみたいな奴でも、死んだら私と父さんの名前、汚れるんだからね!?」

勇者「うぅ……ご、ごめん……」

女勇者「あんたのバカな仲間が勝手に決めちゃったから……もう、このパーティー行くしかないけど……」

勇者「……うぅ」

女勇者「ほらっ! 4000G渡すから、これで装備買ってきなさいよっ!」

勇者「……えっ?」

女勇者「あんたみたいな奴でも、死んだら困るの! 街長さんに変な噂流されたらどうするの? 評判落ちるのは私なのよ?」

勇者「ご、ごめん……」

女勇者「本当、お金のかかる子ねっ! 嫌になるわっ!」

勇者「うぅ……ごめん……」

女勇者「私、先に宿屋に行ってるから……準備が整ったら、合流しなさいっ! もう、本当最悪っ!」

勇者「わ、わかった……」

天童「……なぁ? 勇者?」

勇者「……ん?」

天童「言っちゃぁ、悪ィけどよ……? 俺、おめぇの姉ちゃん、嫌いだわ」

勇者「……」

天童「高飛車で威張り腐ってよぉ? それに、おめぇは確かにクズだけど、俺の事までバカしなくてもいいじゃねぇか!」

勇者「ご、ごめん……」

天童「それに……せっかくダメ人間から、成長してるおめぇを、そうやってダメ人間に戻そうとしてる所も嫌いだな!」

勇者「……ご、ごめん」

天童「おめぇよぉ? いつもの調子、取り戻せよ? これから、魔王軍の精鋭部隊戦うんだぜ?」

勇者「ごめん……あのっ……女僧侶ちゃんも……俺のせいでごめんね……?」アセアセ

女僧侶「……しょうがないですよ」

勇者「……」

女僧侶「お姉さん時間の時間は……多分、勇者さんが足踏みしてた時で止まってるんだと思います」

勇者「……うん」

女僧侶「でも、私……勇者の事、ずっと見てきたからわかるんですが……」

勇者「……ん?」

女僧侶「勇者さん、天童さんの言う通り……成長してると思いますよ?」

勇者「……う~ん」

女僧侶「私だって……負けてられないなって、思う時いっぱいありますもん」

勇者「……本当?」

女僧侶「本当ですよ! 自身持って下さいっ! 勇者さんっ!」

勇者「……うん」

女僧侶「四人で、討伐に向かう件は……確かに軽々に決めてしまった、私達にも責任はありますよ」

勇者「……」

女僧侶「でも、やっぱり……傭兵の人達がいないなら、この四人で……」

勇者「……四人で?」

女僧侶「……」

勇者「……ん?」

女僧侶「?」

勇者「……えっ? 何?」アセアセ

女僧侶「……」

勇者「え~っと……この四人で……やるしかないよね……」

女僧侶「はいっ! そうですっ! ほら、やっぱり勇者さん、成長してるじゃないですか!」ニコニコ

勇者「う、うんっ……」

女僧侶「ねっ? だから、今から装備を買いに行って……魔物討伐でお姉さんにいい所を見せましょうよ?」

勇者「う、うん……」

女僧侶「そしたら、きっとお姉さんも勇者さんの事、認めてくれますよ!」

勇者「そうかな……?」

女僧侶「自身持って下さいよ? 今日の勇者さん、いつもの勇者さんらしくありませんよ?」

勇者「……ご、ごめん」

女僧侶「も~う……そんなに謝ってばかりだったら、嫌いになっちゃいますよ?」

勇者「いやいやいやっ……! そりゃ、困るっ……! そいつは困りますっ……!」アセアセ

女僧侶「じゃあ、早く……装備、買いに行きましょうよ? ねっ? 私は前向きな勇者さんの方が好きですよ?」クスクス

勇者「わ、わかったっ……!」

今日はここまで

道具屋ーー


天童「おい、勇者?」

勇者「……ん、どうしたの?」

天童「装備買うのもいいけどよぉ? 薬草もきれてるんだから、ちゃ~んと補充しておけよ?」

勇者「あぁ、大丈夫大丈夫……わかってるよ」

天童「……ほぅ」

勇者「俺にはさぁ? 男武道家さんに貰った武器があるし、姉ちゃんから貰った4000Gは、女僧侶ちゃんの装備と、アイテムに使おうよ」

天童「……おめぇさぁ?」

勇者「……ん?」

天童「姉貴の姿が見えなくなったら、元気になるんだな?」

勇者「……えっ?」

天童「おめぇ、姉貴の前では完全にダメ人間に戻ってるじゃねぇか!? こんな所だけで仕切ってても真人間にはなれねぇぞ!?」

勇者「わ、わかってるよ……でもさぁ……?」

天童「おめぇはよぉ!? 姉貴の方が間違った事を言っててもゴメンゴメンって、謝るんだな!?」

勇者「姉ちゃんは……間違ってなんかないよ……俺より長い事旅してるんだし……経験も豊富だしさ……?」

天童「何だ何だ? おめぇにとって、姉貴は神様なのか!? えぇ!?」

勇者「……そうだよ。神様みてぇなもんだよ」

天童「……あぁ?」

勇者「父さんや姉貴みたいな、凄い人達は他にはいないんだから……」

天童「……」

勇者「……」

天童「……じゃあ、何? 今回は本当に無理って事なの?」

勇者「……えっ?」

天童「勇者君、命題どうするの? あの姉貴に勝たないと死んじゃうんだよ?」

勇者「でも……さっきから、勝負挑んだけどさぁ……? 全部……俺、負けてるしさぁ……」アセアセ

天童「バカ~んっ! 何、言ってやがるっ! 本当、バカ~んっ!」

勇者「……ん?」

天童「おめぇはよぉ? 今の所、全部不戦敗じゃねぇか!? リングにすら、上がってねぇじゃねぇか!」

勇者「……」

天童「ちょっと、言い返されそうになったらよぉ? ビビって、すぐゴメンゴメンって、謝ってよぉ?」

勇者「う、うん……」

天童「何で戦ったっていうんだよ? おめぇ、なぁ~んにもしてねぇじゃねぇか!?」

勇者「ご、ごめん……」

天童「腕相撲の時だってよぉ!?」

勇者「……」

天童「どうせ『勝てないんだろうなぁ~」とか……『負けちゃうんだろなぁ~』とか、思ってたんだろ?」

勇者「……」

天童「おめぇ、普段、戦ってる時、あんな腑抜けた顔してたのか!? えぇっ!?」

勇者「ご、ごめん……」

天童「だから、そうやってすぐ謝ってんじゃねぇよっ! おめぇ、俺に対する強気すら、なくなっちまったのか!」

勇者「……」

天童「……いいか、勇者?」

勇者「?」

天童「おめぇはよぉ? 先ず、ビビらず、ちゃんとリングに立つ事から、始めてみようぜ?」

勇者「……えっ?」

天童「ここまで、おめぇが学んできた事をぶつけてみれば、何か一つおめぇの中で変化が起きるかもしれねぇじゃねぇか?」

勇者「……う、うん」

天童「命題には『負けたら即・死亡』とは書いてねぇんだから……なっ? ビビってねぇで、自分の成長を見せてやれよ!」

勇者「わ、わかったっ……!」

天童「装備買ったら……魔物討伐の計画話し合う事になるんだろ? そん時はよぉ、なんとしてもおめぇが主導権握れよ!?」

勇者「……う、うん」

天童「俺や女僧侶ちゃんは、誰を信じて行動してると思ってんだ? おめぇの姉ちゃんなんじゃなくて、おめぇなんだからよ!」

宿屋ーーー


女勇者「……装備買うのに、どれだけ時間かかってるのよ。 もう12時じゃない? やっぱり、あんたはクズねぇ」

天童「……勇者? 謝るんじゃねぇぞ?」

勇者「……う、うん」

女勇者「それで……? あんた、何買ったの? 装備、何も変わってないじゃない?」

天童「……言ってやれ、言ってやれ」

勇者「あぁ、俺に装備は必要なさそうだったからさぁ……? あの、お金は女僧侶ちゃんの装備に使ったんだ」

女勇者「……なんで、私が赤の他人にお金出さないといけないのよ?」

天童「……おいっ、 勇者! 言ってやれっ!」

勇者「いやぁ……女僧侶ちゃんはさぁ……? やっぱり回復魔法も使えるしさぁ……?」アセアセ

女勇者「そうね……なぁ~んにも、できないあんたよりかはマシか……じゃあ、今回の計画を話すわよ?」

天童「ちょっと待って下さい、お姉さんっ!」

女勇者「……何なのよ?」

天童「今回の指揮は……勇者君に任せるってのは、いかがでしょうか!?」

女勇者「……はぁ? こいつ、頭も悪いのよ? こんな奴に指揮がとれるワケないじゃない」

天童「いえいえっ……! お姉さんはわからないかもしれませんが……勇者君は、ここまでの旅で成長してるんですよ?」

女勇者「クズが成長しても……人並み以下なの?」

天童「いやいやっ……! そんな事ありませんよっ! 勇者君は成長してますからっ! なっ!?」


勇者「う、うんっ……!」

天童「よし、勇者っ! じゃあ、おめぇの頭のいい所を見せてやれやれっ! 成長した所を見せてやるんだっ!」

勇者「えっ……でも……? 頭のいい所って……どうやって、見せればいいんだよ……?」アセアセ


女僧侶「……あ、あの?」オドオド

勇者「……ん?」

女僧侶「私……なぞなぞ、出しましょうか……?」

勇者「あっ! それいいねっ! そうしようっ!」

女勇者「……何言ってんの? 子供の遊びじゃないんだから?」

女僧侶「あっ……! 大丈夫ですっ! あの……知識の豊富さとかじゃなくて、頭の回転が必要な問題ですからっ!」


天童「頭の回転はよぉ!? 部隊を指揮するにあたって、重要な事だよなぁ!? いいんじゃねぇか、ソレ! なっ?」

勇者「う、うんっ……! いいと思うっ……!」

女勇者「本当……バカの周りには……バカが集まるのね……」

天童「まぁまぁ、そう言わずっ! お姉さん、勝負してみましょうよっ! それで……この問題に答えれた方が指揮をとるという事で!」

天童「よしっ、じゃあ、女僧侶ちゃんっ! 早速問題を出してくれっ!」

女僧侶「はいっ……! あの、勇者さん……? 頑張って下さいね……?」

勇者「う、うんっ……!」

女僧侶「では、問題です!」

女勇者「……」

女僧侶「男君と……友君と……妹ちゃんと……姉さんと……犬のポチで、隠れんぼをしました!」

勇者「……うんうん」

女僧侶「妹ちゃんは、木の影で……友君は……すべり台の下で見つかりました……」

女勇者「……」

女僧侶「では、問題ですっ! 今、隠れているのは何人でしょうっ!」

天童「よっしゃっ! 勇者ァ! 先に答えちまえっ!」

勇者「え~っと……二人、見つかったから……残りは三人だっ!」


女僧侶「……えっ?」

女勇者「……あんた、バカね? 鬼を忘れてるじゃない。 答えは二人でしょ?」

女僧侶「あっ……その答えも違います……」アセアセ

女勇者「うん、知ってる……これ、卑怯な問題よね? だって、犬のポチは『一人』じゃなくて、『一匹』なんだから?」

女僧侶「……あっ」

女勇者「……あたしが、『二人』って答えたら、この問題の正解は『一人と一匹』が正解で」

女僧侶「……」

女勇者「あたしが『一人と一匹』って答えたら、ポチは鬼役になって『二人』が正解になるんでしょ?」

女僧侶「……せ、正解です」

女勇者「……あんた、人のお金で自分だけの装備買うだけあって、卑怯な子ね?」

女僧侶「……す、すいません」

女勇者「残念だったわね? このバカ勝たせる為に、色々工夫したみたいだけど?」

女僧侶「……」

女勇者「でも、わかったでしょ? こいつは、一番最初のひっかけもわからないような、頭の悪い子なの?」

女僧侶「……」

女勇者「こんなバカと仲間だなんて……やっぱり、バカの周りにはバカが集まるのね?」

女僧侶「……そ、そんな事」

女勇者「頭の回転を試す為になぞなぞ……何よ、その発想? 三歳児じゃないんだから」

女僧侶「いや……あのっ……」

女勇者「まぁ……4000Gもネコババしていく、意地汚い三歳児はいないか? 三歳児の方が、まだマシよ」

女僧侶「……す、すいません」アセアセ

勇者「……」

天童「……何で黙ってんだよぉ?」

勇者「……えっ?」

天童「……いくら姉貴だからって、あんな言い方はないだろ、女僧侶ちゃんに?」

勇者「……仕方ないよ。 俺、答えられなかったんだし」

天童「何で、ビビんのかな? こんな、人でなしによぉ!?」


女勇者「……あんた、聞こえてるわよ?」

天童「何が、いけねぇんだよぉ!? こんなの、卑怯でもなんでもねぇじゃねぇか!?」

女勇者「……はぁ?」

天童「意地悪な問題出したのだって、こいつの事を勝たせてやりたいって想いからじゃねぇかっ!」

女勇者「……それが、卑怯っていうのよ」

天童「女僧侶ちゃんだけが装備品買ったのだって、勇者が女僧侶ちゃんを大切にしてやりたいって、想いからじゃねぇか!」

女勇者「……まぁ、人のお金だって事を忘れてるけどね?」

天童「この二人の関係見てよぉ? あんたは何にも思わねぇのかよっ!? 二人の信頼関係わかんねぇのかよ!?」

女勇者「クズとクズが仲良くして……どうなるっていうのよ? お互い、足を引っ張り合うだけでしょ?」

天童「なんで、そういう風な事を言うかねぇっ! お互いがよぉ! 足りない所を助けあって……人間ってにはよぉ……!」

女勇者「勇者……あんたの仲間のバカを止めなさい……付き合ってられないわ……」

勇者「天童、天童……もう、いいからっ……」アセアセ

天童「おいっ、ふざけんなっ! なんで止めるんだよ! おめぇは奴隷かっ! こいつの奴隷かっ!」

女勇者「……こんなメンバーで、魔物討伐なんて、出来るワケないじゃない。 もう、あんた達はいらないわ」

勇者「……えっ?」

天童「うるせぇっ! おめぇなんかよぉ! こっちから、願い下げだ馬鹿野郎っ!」

女勇者「……他の街から傭兵を援軍を願います。 無駄な出費だけど、あんた達よりかは、遥かに役に立つわ」

勇者「いやいや……でも……」アセアセ

天童「あんたは、こいつの成長を何も見てねぇ癖に、よくそんな事ばっかり言えるなぁ! おいっ!」

女勇者「……あんた達は勝手に行動しないでよっ!? あんたみたいなクズでも、死んだら街長さんにどんな噂流されるか、わからないんだからねっ!」バタンッ

今日はここまで

女僧侶「あ、あのっ……! 勇者さん、ごめんなさいっ……!」アセアセ

勇者「……えっ?」

女僧侶「私のせいで……私が、変な問題出したせいで、お姉さん怒って、行ってしまいました……」

勇者「……いや」

女僧侶「勇者さん……ごめんなさいっ……! 私、お姉さんに謝ってきますっ……!」

勇者「……」


天童「おいおい! なんで、女僧侶ちゃんが謝らねぇといけねぇんだよっ! もう、あんな奴放っておこうぜ?」

女僧侶「……えっ?」

天童「俺もよぉ? 色んなダメ人間担当してきたけど、あそこまで人の話を聞かねぇ奴は、なかなかいねぇぞ?」

勇者「……」

天童「あいつはよぉ? 別に更生しねぇでも死なねぇんだから、もうどうでもいいじゃねぇか! なっ、勇者?」

勇者「……えっ?」

天童「もう、おめぇがよぉ? あの姉貴に怯えてネガティブ人間に戻ってんの見るの飽きたよ!」

勇者「……ごめん」

天童「もう、この三人だけで魔物討伐に行けばいいじゃねぇか? なっ?」

勇者「……でも」

天童「俺はよぉ? おめぇはもう、姉貴に勝ってると、思うぜ? だって、俺はあの姉貴は嫌いだもんっ!」

勇者「……」

女僧侶「でも、天童さん……? 相手は精鋭部隊なんですよ……?」

天童「そんなもんよぉ!? こいつ、一人に任せておけばいいじゃねぇか!? こいつだって成長してるんだからよぉ!?」

勇者「……」

女僧侶「そうですが……」

天童「なっ、勇者? おめぇ、一人で出来るよな? なっ、なっ?」

勇者「……」

女僧侶「勇者さん……? 私達も一生懸命、サポートしますから……?」

天童「おめぇがよぉ? 魔物の精鋭部隊を倒したら、あの糞姉貴もおめぇの力を認めざるを得ないだろ? なっ?」

勇者「……うぅ」

女僧侶「勇者さんは……変わりました……ねっ……?」

天童「魔物討伐して、いい所見せて、姉貴に認められたら命題にもクリアになってるだろ!? そうだろ、おいっ!」

勇者「……くそっ!」ダッ

女僧侶「勇者さん……!?」

天童「おいっ、勇者ァ! おめぇ、何処に行くんだよっ!?」


バタンッ


女僧侶「あっ……勇者さん……」アセアセ

天童「くそっ……! あの野郎っ……! 何してやがるっ! これじゃあ、一番最初の魔物討伐から逃げた時と同じじゃねぇか!」

女僧侶「そ、そんな事ありませんよっ…… ! だって、だって……勇者さんは……」

天童「わかってるよ、そんな事! 俺だってよぉ! あいつは、あの時とはもう違うよ……立派に成長してるんだからよぉ!」

女僧侶「と、とにかく……! 天童さん! 勇者さんを追いかけましょうっ!」

天童「あぁっ! わかってるよ、女僧侶ちゃんっ!」






PM2:00

タイムリミットまで後、7時間





勇者「うぅ……」

勇者「……くそっ! くそっ!」

勇者「……」

勇者「なんでだよっ……! なんで出来ないんだ、俺はっ……!」

勇者「ここまでやってきたんじゃねぇかっ……! いつもみたいにやれば、いいだけじゃねぇかっ……!」

勇者「……」

勇者「うぅ……くそっ……! くそぉっ!」


「……勇者さん、こんな所にいたんですね?」


勇者「……えっ?」

女僧侶「はぁっ……はぁっ……探しましたよ、勇者さん……?」ニコッ

勇者「……」

女僧侶「勇者さん……? ちょっと、遅いけど、お昼ご飯にしませんか……?」

勇者「……」

女僧侶「私……走り回って、ちょっと疲れちゃいました……だから、ねっ?」ニコッ

勇者「……」

女僧侶「天童さんも、待ってますよ? 天童さん、お腹空くと機嫌悪くなりますかね?」

勇者「……」

女僧侶「……ねっ? 皆で、ご飯食べに行きましょうよ?」

勇者「……」

女僧侶「皆……勇者さんの事、待ってますから……?」

勇者「……うぅ」

女僧侶「……ねっ、戻りましょうよ? 皆、待ってますから」

勇者「……くそっ」

女僧侶「戻って……魔物討伐に行きましょう? 勇者さんと一緒なら、きっと大丈夫ですから」

勇者「……やめて」

女僧侶「だって、勇者さんは……あの時と違って……もう……」

勇者「……やめてくれよっ!」

女僧侶「!」ビクッ

勇者「女僧侶ちゃん……?」

女僧侶「……」

勇者「お願いだから……やめてくれ……お願い……」ボロボロ

女僧侶「……えっ?」

勇者「俺さぁ……? ずっと、引き篭もってたじゃん……?」ボロボロ

女僧侶「……はい」

勇者「姉ちゃんや……周りの人達に……色々言われたよ……」

女僧侶「……」

勇者「クズ……出来損ない……恥さらし……社会不適応者……」

女僧侶「……」

勇者「確かに、その通りだよ……その通りだったよ……」

女僧侶「……」

勇者「あの時はさぁ……? 俺、何も考えてなかったけど……やっぱり、今思い出すと、自分がダメだった事を改めて思い知らされるよ……」

女僧侶「……」

勇者「……でもさぁ!? 俺は、変わったんだよっ! 変わったはずなんだよっ!」

女僧侶「……はい」

勇者「ここまで、旅をしてきて……色々な事を学んで……俺は、変わってるはずなんだっ……!」

女僧侶「……はい」

勇者「だけどさぁ……? やっぱり、姉ちゃんを目の前にするとさぁ……? 自分がダメだった時の事、思い出してさぁ……」

女僧侶「……」

勇者「自分はまだ、ダメ人間なんじゃないかって思って……身体が震えて……いつも見たいに行動できなくなってさ……?」ブルブル

女僧侶「……」

勇者「あの時と同じように、何も行動出来ない自分になってるのがわかってさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「俺、変わってるんじゃなくて……自分の無駄にしてきた時間のツケを、支払ってるだけだと思うんだよっ!」

女僧侶「……そんな事ないですよ。勇者さんは、もう立派に成長してますよ」

勇者「女僧侶や、天童は……そうやって、俺の背中押してくれるじゃん……?」

女僧侶「……はい」

勇者「だけどさぁ……!? 俺、その気持ちに何も応えられてないじゃん!?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「皆が後押ししてくれるのに……俺、何もできなくて……皆の期待を裏切っちゃって……」ブルブル

女僧侶「勇者……さん……?」

勇者「そんな自分が、凄く嫌になるんだよっ! あの時の自分を思い出してしまうからさぁ!」

女僧侶「……」

勇者「くそっ……! くそっ……! なんで出来ないんだよっ! 俺は変わってるはずなのによぉ!」ブルブル

女僧侶「勇者さんっ……! 落ち着いて下さいっ……!」アセアセ

勇者「くそっ! くそぉっ!」

女僧侶「勇者さんっ!」


ギュッ


勇者「……えっ?」

女僧侶「お願いです…… ! お願いですから、そんなに自分を責めないで下さいっ……!」ボロボロ

勇者「……あっ、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「ごめんなさいっ……私達の行動で、そんなに勇者さんが追い詰められているなんて……」

勇者「……く、苦しいよ。女僧侶ちゃん?」アセアセ

女僧侶「もう、いいですからっ……! お姉さんの事は忘れましょう! だから、いつもの勇者さんに、戻って下さいっ!」

勇者「……えっ?」

女僧侶「無理に人と比べなくていいじゃないですか……! 勇者さんは……勇者さんのままでいいじゃないですっ……!」

勇者「女僧侶ちゃん……」

女僧侶「私は、いつもの勇者さんが好きですっ……! だから……だから、もうお姉さんと戦わなくていいじゃないですかっ……!」

勇者「……ありがとう」


天童「……やぁ~っと、見つけたと思ったら、あの二人抱き合ってらぁ? こりゃ、俺の出番はねぇなぁ」

ーーーーー


勇者「……ごめんね? 女僧侶ちゃんのおかげで、落ち着いたよ」

女僧侶「いえ、私の方こそ……申し訳ありません……」

勇者「いや、いいんだよ……あ~、でも結局、姉ちゃんには勝てなかったなぁ……」

女僧侶「勇者さん? それは、もういいじゃないですか?」

勇者「う~ん……でもなぁ……命題、どうすっかねぇ……」

女僧侶「勇者さんは、お姉さんに、もう勝ってるじゃないですか?」

勇者「俺、今日……負けっぱなしだったんだよ……?」

女僧侶「う~ん……じゃあ、問題出しますね?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「第一問! メロンとみかん……高級な果物はどちらでしょう!?」

勇者「何、その問題……? また、なぞなぞ……?」

女僧侶「はい、なぞなぞです」クスクス

勇者「メロンとみかんなら……メロンでしょ? 値段も倍以上違うじゃん?」

女僧侶「はい、正解です! じゃあ、第二問出しますね?」

勇者「うわっ……ひっかけもねぇのかよ、この問題……」

女僧侶「第二問! メロンとみかん……大きさが大きいのはどちらでしょう!?」

勇者「だから……それも、メロンでしょ? メロンみたいな、高級な物にみかんなんかが勝てるわけないよ?」

女僧侶「じゃあ、第三問! ビタミンCが豊富なのはどちらでしょう!?」

勇者「ん……? ビタミンC……?」

女僧侶「はい、ビタミンCです」

勇者「ビタミンCだったら……みかんじゃないの?」

女僧侶「じゃあ、冬にこたつで食べたら、美味しいのはどちらですか?」

勇者「おっ……? なんだなんだ……みかんが逆転してきたぞ……?」

女僧侶「……ねっ?」

勇者「……んっ?」

女僧侶「形の違うものを比べる方法なんて、いくらでもありますよ?」

勇者「……」

女僧侶「勇者さんがお姉さんに勝っている所なんて……数えきれない程ありますよ」

勇者「……あるのかねぇ?」

女僧侶「勇者さんだったら……一生懸命な所とか……優しい所とか……」

勇者「……」

女僧侶「自分が苦しい時でも……周りの人を気遣ってあげれる所とか……」

勇者「何か……面と向かって言われると、恥ずかしいもんだね? 女僧侶ちゃん、俺の事、よく見てるんだね?」

女僧侶「はい! 見てますよ!」クスクス

勇者「……まっ、それだったら、もう姉ちゃんと張り合うのはいいかな?」

女僧侶「そうですよ」

勇者「え~っと……うわっ! もう三時か!? 天童、怒ってんだろなぁ……」

女僧侶「そうですね? 天童さん、お腹が空くと機嫌悪くなりますから」

勇者「よしっ! んっ……んっ……!」

女僧侶「勇者さん、何してるんですか……?」

勇者「いや……もう姉ちゃんと戦う必要もなさそうだし……ネガティブモードから、切り替えておこうかなって、思ってね?」

女僧侶「そうですね」

勇者「それに、魔物討伐にも行くんだし……こんな腑抜けた顔してたら、またあいつにうるさく言われそうだしさ?」

女僧侶「ふふ」

勇者「カァ~! おめぇ、そんな腑抜けた顔で魔物倒せんのかよ! おめぇのケツ拭くのは、誰だと思ってるんだよぉ!」

女僧侶「あっ、凄い。そっくりです」クスクス

勇者「じゃあ……そろそろ戻ろうか? 迷惑かけてごめんね?」

女僧侶「迷惑なんて、かかってませんよ」

ーーーーー


天童「……おめぇはよぉ!? 遅ぇんだよっ! このバカっ!」グゥー

勇者「……はは、悪ぃ悪ぃ」

天童「ランチタイムはとっくに終了してるぜ? どうすんだ? パフェ食うのか? 昼飯はパフェか?」

勇者「……パフェじゃ、腹は膨れんだろ」

天童「じゃあ、どうすんだ!? ティラミスか? それとも、モンブランか?」

勇者「……な、なぁ? 天童?」

天童「……あぁ、どうした? こっちは腹減ってイライラしてんだよ?」

勇者「姉ちゃんと……戦うのは……もう、やめにしねぇ……?」

天童「……命題はどうすんだよ?」

勇者「俺にだってさ……? もう、姉ちゃんに勝ってる部分は何処かであると思うんだよ……」

天童「……」

勇者「それを証明する為に、今から戦い挑むよりかはさ……? 今、自分に出来る事をするべきだと思うんだよ」

天童「……」

勇者「おめぇの命題でさ……? 俺、成長してるはずだからさ……? 姉ちゃんにも、もう負けてないはずだからさ……?」

天童「……」

勇者「……今は、この街救う為に、魔物討伐に行くべきでしょ?」

天童「……まっ、それだけわかってるんだったら、いいだろ」

勇者「……うん」

天童「もう、ネガティブ人間のおめぇ見るの嫌だからよぉ……? おめぇの信じた道を突き進めや」

勇者「天童……ありがとう……」

天童「でもよ……? 勇者……忘れんなよ……?」

勇者「……えっ?」

天童「例え、おめぇにもう勝ってる部分があるとしても……こうやって、命題が来たって事は、何か意味があるんだよ?」

勇者「……うん」

天童「姉貴との直接対決はもういいよ。違った事で、姉貴を認めさせればいいんだからな?」

勇者「……うん」

天童「だからよぉ? この魔物討伐……おめぇ、気合入れろよ!? 相手は精鋭部隊らしいからよ!?」

勇者「大丈夫……! 俺が今まで学んできた事を……精一杯やってみるよ!」

天童「その顔だったら大丈夫だっ! よしっ、じゃあ飯だっ! とりあえず、飯食いに行くぞっ!」

今日はここまで






PM4:00

タイムリミットまで後、5時間





天童「ふ~う……食った食った……満腹だぁ……」

勇者「……なぁ? なんで、おめぇさぁ? 鍋焼きうどんとか食うの?」

天童「ランチタイムは終わってたんだから、仕方ねぇじゃねぇか!」

勇者「これから、魔物討伐に行くのにさ? チョイス、おかしくね? なんで、鍋焼きうどんなの?」

天童「そりゃ、俺だってよぉ! バシっと味噌カツ定食で決めたかったよっ! でも、胃もたれが怖かったからよぉ? 鍋焼きうどんにしたんだよっ!」

勇者「まだ、昼じゃねぇかっ! なんで、おめぇはいつもそうやってガッツリ食うんだよっ!」ギャーギャー

天童「食いたいもん食って何が悪ぃんだよ! それに、もう昼じゃねぇよっ!」ギャーギャー


女僧侶「ふふ、いつもの勇者さんに戻ったみたいですね」クスクス

天童「まっ……じゃあ、そろそろ行きましょうかっ!」

女僧侶「はいっ!」

勇者「……よしっ!」

天童「南の洞窟の入り口は、ここから一時間か、二時間ぐらい歩いた所にあるらしいです。 少し、距離がありますが、頑張りましょうっ!」

女僧侶「一時間か……二時間……?」

勇者「おめぇ、ちょっとよぉ? 曖昧すぎねぇか? 距離感が全く、わかんねぇんだけど……?」

天童「ノンノンノ~ン、勇者君……この天童様の情報網を甘く見てはいけませぇ~ん……」

女僧侶「?」

勇者「……どういう事?」

天童「洞窟までは一時間ぐらいで着くよ? だけどよぉ? 相手は精鋭部隊だろ?」

勇者「うん」

天童「そんな所によぉ? 正面から飛び込むなんて、危ねぇだろ? だから、なんかいい作戦はねぇかって、考えてみたんだよ」

勇者「ほぅほぅ……」

天童「それでよぉ? 街の人達に情報を聞いて回ったら、そこからさらに一時間ぐらい歩いた所によぉ?」

勇者「うんうん……」

天童「一部の地元民ぐらいしかわからねぇような、洞窟に繋がってる抜け穴みたいなのがあるんだってよ?」

勇者「……抜け穴?」

天童「あぁ……裏口みてぇなもんだな? そこから、行けばよぉ? 奇襲ぐらいは出来るんじゃねぇか?」

勇者「なるほど……奇襲か……」

天童「まっ、俺もおめぇらのわからねぇ所で、色々動いてたんだよ! ちょっとぐらい褒めてくれよな? なっ?」

勇者「お、おう……いい情報を聞いたよ……」

天童「まっ、どうするかは、近くまで行ってから考えてみようぜ?」

勇者「そうだね、洞窟の様子見てから決めようか?」

天童「……よしっ! じゃあ、勇者君、出発の号令を!」

勇者「……はぁ?」

天童「何、マヌケ面してんだよ? おめぇが指揮をとるんだろがっ! ビシッと決めやがれっ! バカっ!」


勇者「え~っと……じゃあ、今から魔物討伐に向かいますっ! 皆さん、準備はいいですか!? ……って、感じ?」

女僧侶「はいっ! 準備オッケーですっ!」

天童「……まっ、ギリギリ合格点って所だなっ! 俺も準備オッケーだっ!」

勇者「よしっ! じゃあ、出発するよ!」






PM5:00

タイムリミットまで、後4時間





勇者「洞窟の前までついたけどさぁ……これ……」コソコソ

女僧侶「……沢山いますね。精鋭部隊」コソコソ

天童「27……28……おい、何人いるんだよ、アレ! ウォーリーを探せしてるんじゃねぇんだぞ! こっちはよぉ!」


魔物「……ん? 何か、声がしたような?」


勇者「……バカっ! 大声出すなよ! おめぇっ!」

天童「す、すまんっ……!」

女僧侶「にゃ~ごぉ……にゃぁ~ごぉ……」


魔物「……猫かな?」

天童「おい、勇者……? これ、正面突破はいくらなんでも無茶だぜ? 時間はかかっちまうけど、抜け穴使おうぜ?」ヒソヒソ

勇者「いや……天童、でもさぁ……?」ヒソヒソ

天童「……なんだよ、おめぇ? ま~た、ネガティブ発言か?」

勇者「いやいや、違う違う……! 抜け穴使ってもさぁ? 結局、あいつらが戻ってきたら、袋の鼠じゃん?」

天童「まぁ、そうだけどよぉ……? 奇襲ぐらいはできるんじゃねぇか……?」

勇者「だからさ……? おめぇと女僧侶ちゃんで、抜け穴使って、奇襲かけてくれよ?」

天童「……おめぇはどうすんだよ?」

勇者「……俺は正面突破してみるよ」

天童「……」

勇者「俺が正面突破して、あいつらが慌ててる時に、天童達が奇襲をかけたら、あいつらは更に混乱するだろ?」

天童「……そんな危ねぇ事、おめぇに出来るのかよ」

勇者「俺は、偉大な父さんの息子の勇者なんだから……一番危険な事をしなきゃダメだよ?」

天童「……おめぇは、知らねぇ間に無茶するようになったんだな?」

勇者「……俺も成長したかな?」

天童「成長はしてるけどよぉ……? おめぇ、まだ姉貴と張り合ってんのか?」

勇者「はは……姉ちゃんとは、もう張り合ってなんかないよ? まぁ、一応作戦もあるしね?」

天童「……作戦?」

勇者「今日一日でわかったんだよ……ダメ人間にはダメ人間なりのやり方があるってね……?」

天童「……はぁ?」

勇者「まっ、見ててよ? 一人でなんとかやってみるからさ?」

天童「……お、おいっ!」

魔物「……ん? 何だあいつ?」

魔物「……どうした?」

勇者「う、うわっ……! 魔物だっ!」アセアセ

魔物「……ガキじゃねぇか?」

魔物「……どうする? 殺すか?」

勇者「逃げなきゃ……殺される……う、うわああぁぁっ!」

魔物「ハハっ! なんだ、あいつ?」

魔物「あっ、こけやがったぞ?」

勇者「うわああぁぁぁ……! くるなくるなっ……!」

魔物「惨めなガキだねぇ? 何だアイツ?」ゲラゲラ

魔物「おいっ! 俺にやらせてくれよ? 俺、あんなガキ追い回すの好きなんだよ!?」

勇者「うわああぁぁぁっ!」

魔物「おいおい、どうした? 俺、な~んにもしてないぞ? 何、ビビってんだよぉ!?」ゲラゲラ

勇者「近づくなっ! 近づいたら、斬るぞっ!? 嘘じゃないからなっ! 本当に斬るぞっ!?」

魔物「やってみろよおい。 おめぇみてぇな奴なんて……」

勇者「うわああぁぁぁっ!」

魔物「えっ……? 早……」


ズバッ


魔物「……ググッ」バタッ

勇者「はぁっ……はぁっ……」

魔物「お、おい……どうなってんだこりゃ……」

勇者「だ、だから言っただろっ! 近づいたら、斬るって!」ビクビク

魔物「このガキ……」

勇者「動くなっ! 動いた奴は斬るぞ!? こいつにみたいに死にたいのかっ!?」

魔物「……おめぇ、あまり舐めてるとよぉ?」ジリッ

勇者「あっ! お前、動いたなっ!? 今、動いただろっ!? 確か動いたよなっ!?」

魔物「……えっ?」

勇者「くそっ! 俺を殺す気なんだなっ! お前、俺を殺す気なんだろっ!?」

魔物「お、おい……坊主っ……? 落ち着けって……」アセアセ

勇者「くそぉ! やられる前にやってやるよっ! くそぉっ! くそぉっ! うわあぁっ!」

魔物「ちょっと待て……! 早っ……!」


バタッ


魔物「……ググッ」バタッ

「な、なんだコイツ……!?」

「このガキ……強ぇぞっ……!?」

「動くなって、言ってんだろがぁっ! 何で、皆俺の言うこと聞いてくれないんだよぉっ!」

「わ、わかったよ……」

「いいから、坊主……落ち着け……なっ? 落ち着け……?」

「あっ! お前、今動いたなっ!? お前も俺を殺そうとしてるんだろっ!?」

「おい、バカっ! 刺激するなって!」

「ちょっと、待て……? 俺、動いてねぇぞ……動いてねぇってばっ……!」

「問答無用っ! うわぁぁぁっ!」

「早っ……! うわああぁぁぁっ!」


天童「……」

女僧侶「天童さん……? あれ、なんですかねぇ……?」

天童「……ありゃ、『引き篭もりの振りして相手を油断させよう大作戦』だな」

女僧侶「あっ……だから、勇者さん、あんな感じで戦ってるんですね……?」

天童「しかし、いくらなんでもよぉ? あ~んな、エキセントリックなガキはいねぇんじゃねぇかな?」

女僧侶「……ちょっと、やりすぎだと思いますよね?」

天童「あんなのが存在するならよぉ? 大阪は街中で『かめはめ波』とか『たこ焼きボンバー』なんて、怒号が飛び交う街って事になるぜ?」

女僧侶「……あっ、そうだ! じっくり見ている場合なんかじゃありませんよ!」

天童「そうだね、あいつも頑張ってるみたいだし、俺達も期待に応えないとね……しかし、もうちょっと格好いい作戦はなかったのかね? あいつは……」テクテク

女僧侶「まぁまぁ、お姉さんの事、吹っ切ったみたいですし……いいじゃないですか」テクテク


「お前っ! この野郎っ! 俺の事『童貞』ってバカにしやがったなぁ!?」

「おい、待て! 言ってねぇよっ! そんな事、言ってねぇってばっ!」

「問答無用っ! うわああぁっ!」






PM6:00

タイムリミットまで後、3時間





天童「抜け穴……抜け穴……何処だ、何処だっ……!」

女僧侶「天童さんっ……! 早く奇襲かけないと、勇者さんも持ちませんよ……」

天童「あぁ……いくらなんでも、ガキ一人にバタバタと倒されてたら、あいつらだって、あいつの本当の姿に気づくだろ……」

女僧侶「え~っと……抜け穴、抜け穴……」

天童「あれっ? でも、それっていい事なんじゃねぇの? だって、あいつは真人間になる為に頑張ってるんだからなぁ……?」

女僧侶「え~っと……え~っと……」

天童「やっぱり、いくら魔物だからって……相手の事、誤解したままってのは、よくない事かもしれねぇしなぁ……?」

女僧侶「ちょっとっ……! 天童さんっ! 何、してるんですか!?」

天童「あっ、すんましぇ~ん……抜け穴探しま~す……」

女僧侶「あっ! 天童さんっ!?」

天童「どうした、女僧侶ちゃんっ!?」

女僧侶「……この穴じゃないですか?」

天童「おぉっ! これだよ、これっ! よしっ! 俺達も突入するぞっ!」

女僧侶「はいっ!」

天童「よっしゃっ! 勇者、待ってろよっ! 俺達も、奇襲成功させて、おめぇの指揮能力、証明してやるからよぉ!」モゾモゾ

女僧侶「天童さんっ……! 早く、早くっ……!」モゾモゾ

魔物「おいっ! 何、こんなガキに手こずってるんだよっ!?」

魔物「いやっ……! でも、こいつ……!」アセアセ

勇者「あっ! お前……動いたな!?」

魔物「おいっ……!? 来るぞっ……!?」

魔物「いやっ……! 動いてないっ! 動いてないってばっ……!」アセアセ

勇者「問答無用っ! うわああぁぁぁっ!」

魔物「いや……だから、俺……動いて……」


ズバッ


魔物「……ググッ」バタッ

勇者「来るなぁ……来るなよ、お前達……」

魔物「……ったく、ガキ一人に何人やられてるんだよ? 信じられねぇ」

勇者「……」

魔物「もういいっ! 一斉にかかるぞっ! 奥から、援軍も要請しろっ!」

勇者「……くっ!」

魔物「ガキだからって、甘くみるんじゃねぇぞ!? こいつに何人やられたと思ってるんだ!?」

勇者「来るなっ……! 来るなっ……!」

魔物「おい、坊主……? ちょっと、大人を舐めすぎたみてぇだな? 今から、大人の怖さを教えてやるからよ……?」

勇者(くそっ……! そろそろ限界かな……?)

魔物「よしっ、皆っ! 一斉にいくぞっ! うおおおおっ!」

勇者「!」

スカッ


魔物「……何で、外れるんだよ? 俺は本気いったハズだぞ?」

勇者「……」

魔物「……お前っ!」ギリッ

勇者「……」

魔物「お前……ただのガキじゃねぇなっ!? 何者だっ!?」

勇者「……勇者」

魔物「……何?」

勇者「俺は……偉大なる父、勇者の息子……勇者だっ!」

魔物「勇者に息子がいただと……? どういう事だっ……? 我々の情報では、娘だったはずなのにっ……!?」

勇者「遊びは終わりだっ! 本気でいくぞっ!」

魔物「くそっ! だから、こんなに強ぇのか! おいっ! 精鋭部隊はどうしたっ!?」

勇者「うおおぉぉっ!」

魔物「それから、魔王様に報告だっ! 勇者に息子がいたと伝えるんだっ! わかったなっ!」

ーーーーー


魔物「なんかよぉ? 入り口で、えらく強い引き篭もりが暴れてるんだってよ? 援軍要請出てるぞ?」

魔物「……引き篭もり? なんだ、そりゃ?」

魔物「いや、わかんねぇけどよぉ……? とにかく行って……ん……?」

魔物「……どうした?」


女僧侶「たあぁっ!」ガシッ

天童「ほ~れっ! どっこいしょ~っ!」ガスッ


魔物「……ググッ」

魔物「……ガガッ」


女僧侶「よしっ! 潜入成功ですねっ!」

天童「後は、勇者を信じて暴れまわるだけだっ! 女僧侶ちゃん、気合い入れんしゃいよっ!」


「敵襲~! 敵襲~! 侵入者だぁ~っ!」

勇者「入り口の見張りは……お前で最後だ……」グサッ

魔物「……ガッ」

勇者「よしっ……後は、二人と合流して……」

魔物「ガガッ……流石……勇者の息子だ……その力……本物だな……」

勇者「……」

魔物「一つ……聞きたい……」

勇者「……?」

魔物「それほどの……力があるのに……何故、あのような情けない真似が出来た……?」

勇者「……」

魔物「それ程……澄んだ瞳をしているのに……何故、あのような死んだ魚のような瞳をして……みっともない真似ができた……?」

勇者「……」

魔物「お前の真の姿は……澄んだ瞳をしている……その姿だろう……?」

勇者「……そんな事ないよ。 あれはどっちも俺だよ」

魔物「……どういう事だ?」

勇者「俺は……変わったんだよ……」

魔物「……」

勇者「自分に、足りない所を補ってくれる仲間がいて……変われたんだ……」

魔物「……」

勇者「最初は……死んだ魚の目だっよ? でも、皆が背中を押してくれて、ちょっとずつ変わっていったんだ」

魔物「……」

勇者「だから……あれはどっちも、俺。……あんたもさぁ?」

魔物「?」

勇者「人間襲って、悪い事をした事を、今からでも反省すれば……神様は来世に、変われるチャンスくれると思うよ?」

魔物「ふはは……我が忠誠を誓うのは……神ではなく……魔王だ……今更遅いわ……」

勇者「大丈夫だって……神様は優しいからさ……?」

魔物「……」

勇者「魔物にもあんたみたいな人がいるんだね? じゃあ、俺……行くわ……」ダッ


魔物(あれが……勇者か……自分を殺そうとしていた相手に……優しさを見せれるとは……)

魔物(ふふふ……ははは……だから人間はバカなのだっ……! だからこそ、支配されるだけの生き物なのだっ……!)

魔物(……だが、次は私をバカにしてみてくれ。 あんたがまだ滅んでいないのならな)

今日はここまで

ーーーーー


「おいっ! 敵襲だっ! 侵入がいるらしいぞっ!」

「あぁ、俺達も早く向かおうっ! 行くぞっ!」

「あっ、待てっ! そっちじゃねぇよっ! 入り口の方からも来てんだよっ!」

「おいおい、どうなってんだ!? そっちは何人来てるんだ!?」

「……一人だ」

「あぁ? 一人だったら、見張りの連中に任せておけばいいじゃねぇかっ! 先にやるのは中にいる二人だよ! バカっ!」

「待て待て待てっ……! 入り口から来てんのはよぉ? 勇者の息子らしんだよっ! あっちだって、手ぇつけられねぇみてぇだぞ!?」

「勇者の息子……? な、なんでそんな奴が来てんだよ……!? おい、どうなってんだっ!」


勇者「……」ダッ


「おいっ! ここまで、入り込まれちまってるぞっ!? あいつだ! あのガキが勇者だっ!」

「おいおい、ちょっと待てっ……! 中の二人はどうすんだ!? やべぇぞ、おいっ!」

勇者「……邪魔っ!」ズサッ

魔物「……ガッ!」

勇者「お前も、どけっ!」ザシュッ

魔物「……グッ!」

勇者「よしっ……! 後は二人と合流して……」


魔物「おいおいっ! どうなってんだっ! こいつはよぉ!?」

勇者「……」キョロキョロ

魔物「おいっ! このガキ強いぞっ! 援軍を回せっ! こっちに援軍を回すんだっ!」

勇者「3……4……5人か……?」

魔物「おいっ! 聞こえてんのかっ!? 早く援軍をよこせって言ってるんだよっ!」

勇者「……行くぞっ!」ダッ

魔物「来たぞっ! 構えろっ! お前ら、ここで食い止めるんだっ!」

勇者「うおおぉぉっ……! 一つ……!」ザシュ

魔物「な、何っ……!?」

勇者「おおぉぉっ……! 二つ……!」ズサッ

魔物「な、なんだアイツ……ダメだ! たった5人じゃ勝てるわけねぇっ……!」

勇者「うおおぉぉっ! 三つ……! 四つ……!」ズシャッ

魔物「お、おいっ……! 援軍はどうなってる!? おいっ! 誰か聞いてんのかよぉっ!?」

勇者「……お前で」

魔物「!」

勇者「……最後だっ!」

魔物「ガ、ガガッ……」バタッ


勇者「よしっ……! 上手い具合に敵は混乱しているみたいだな……後は、二人と合流するだけだ……!」

ーーーーー


女僧侶「たぁっ!」ガスッ

魔物「……ガッ!」

天童「ほれ、どっこいしょっ!」バキッ


魔物「くそっ……! なんだ、あいつら……何処から侵入しやがったんだ……」


女僧侶「たぁっ! はぁっ! せいっ!」

天童「おらおらっ! ほれほれぃ! ほ~らっ、どっこいしょ~っとっ!」


魔物「おいっ、お前ら落ち着けっ! 相手はたったの二人だろがっ!」

「隙ありだっ! くらえっ!」

女僧侶「!」

天童「女の子苛めてんじゃねぇよぉ! この助平野郎がよぉっ!」バキッ

「……ガガッ」

女僧侶「……天童さんっ! 助かりましたっ!」

天童「なぁ~に、気にする事ねぇばいっ! 女僧侶ちゃんに何かあったら、アイツに怒られんのは……」


「おっさん、背中がガラ空きだっ! くらえぇぇっ!」

天童「なっ……! しまっ……」

「……ガッ」バタッ

女僧侶「……甘いです」

天童「お、おぉっ……! 悪ィな、女僧侶ちゃん……ちょっと、油断しちまったぜ……」アセアセ

女僧侶「ふふ、これでおあいこですね?」


魔物「おいおい、相手はたった二人だぞ? それに、援軍はどうなってんだよぉっ! いつまでたっても、こねぇじゃねぇか!」

魔物「くそっ……こうなりゃ、アレを使うぞっ! まだ、不完全だが仕方ねぇっ!」ダッ


女僧侶「天童さんっ……! 一人逃げますよっ……!」

天童「放っておけっ! 女僧侶ちゃんっ!」

女僧侶「……えっ?」

天童「こいつらが、混乱を立て直したらよぉ……? 不利になるのは、数で劣ってるこっちなんだからよぉ……?」

女僧侶「……は、はいっ!」

天童「今はっ……! 一つでも多く、敵の数を減らす事に集中しましょうっ! ほれ、どっこいしょ~!」

女僧侶「はいっ……! わかりましたっ……!」






PM7:00

タイムリミットまで後、2時間




女僧侶「はぁっ……はぁっ……」

天童「くそっ……ゴキブリみてぇにぞろぞろ湧いてきやがってよぉ……」


「囲めっ! こいつらを包囲しろっ!」

「相手は二人だが、油断するなよっ! 連携さえとれれば、数で優っている我々の方が有利だっ!」


女僧侶「……くっ!」

天童「くそっ……! こういった、冷静な奴が一番やっかいなんだよ……」


「相手は、僧侶とただのおっさんだっ! 落ち着いてかかれば、我々の敵ではないっ! いくぞっ!」

「うおおぉっ! 人間よ、死ねえぇっ!」


ザシュッ

「……ガッ」

「……グッ」

「……グガガ」


勇者「遅くなってごめんっ!」

女僧侶「勇者さんっ!」

天童「遅ぇよ、おめぇはよぉ!? 間一髪だったじゃねぇか、バカっ!」

勇者「ま、まぁ……間に合ったから、いいじゃん……?」アセアセ

女僧侶「勇者さんの作戦、上手くいきましたねっ!」

天童「半分ぐらいは倒せたんじゃねぇか? でもよぉ? そろそろ敵も落ちついて来てるぜ?」

勇者「もう、騙し打ちは通用しないけど……大丈夫っ! 皆がいるんだからっ!」

女僧侶「そうですね」ニコッ

天童「よっしゃ! じゃあ、勇者御一行様の力を見せるとしましょうかっ!」

勇者「よしっ……! じゃあ、みんなっ! 力を合わせて、後半分……頑張ろうっ!」

女僧侶「はいっ!」

天童「任せときんしゃいっ!」

勇者「はぁっ!」ザシュッ

魔物「……くそっ! どうなってんだっ! 相手はたった、三人だぞっ!?」

女僧侶「はぁっ!」ガシッ

魔物「あの女も、動きがよくなってやがる……さっきは、もうバテてたじゃねぇか……」

天童「ほれっ! どっこいしょ~!」バキッ

魔物「く、くそっ……こ、これが……これが勇者の力なのかっ……!」

勇者「……」ギリッ

魔物「なっ……! こいつ……いつの間に……!?」

勇者「うらああぁぁっ!」


ザシュッ


魔物「……ガガッ」

ーーーーー


魔物「……まだかっ! 準備はまだ出来んのかっ!」イライラ

「後、二時間っ……! 後、二時間お待ち下さいっ……!」

魔物「……貴様、一時間前にも同じ事を言っておったぞ?」

「も、申し訳ございませんっ……! 八割型は完成しておりますのでっ……!」

魔物「それだけ出来ていれば十分だっ! 起動させろっ!」

「お待ち下さいっ……! まだ、防御性能が不完全なのですっ……! このままでは……」

魔物「黙れっ! あの三人に何人やられたと思っているんだっ! これ以上、被害を拡大させるなっ! 起動させろっ!」

「わ、わかりましたっ……!」

ーーーーー


魔物「……ガッ」

魔物「……ググッ」

魔物「……グガガ」


勇者「よ、よしっ……!」

女僧侶「これで……全部、倒しましたかね……?」

天童「……油断するんじゃねぇぞ? まだ、隠れてる奴がいるかもしれねぇからよぉ?」

勇者「よし……じゃあ、後は残党を探し出して……」

女僧侶「そういえば……さっき、逃げ出した魔物が……あちらの方に行きましたよ?」

天童「あっ、そういや、いたねぇ……そんな奴……」

勇者「じゃあ……あっちの方にいるのかな……? ん……?」

女僧侶「……どうしました、勇者さん?」

勇者「……何か、音が聞こえる」

天童「……音?」


シュゴォォォォッ


女僧侶「な、なんの音でしょう、コレ……?」

勇者「……何か、嫌な予感がする」

天童「おめぇはよぉ? こんな時にも、ネガティブ人間なのか? おい?」


ミサイル「……」シュゴォォォォッ


女僧侶「あっ……! 勇者さんっ! あれっ!?」

勇者「!」

天童「お、おいっ! なんだ、ありゃ!? やべぇぞ、逃げろっ!」

ドゴォォォッ


天童「う、うおおっ……!」

女僧侶「……くっ!」

勇者「……ぐっ! 皆、大丈夫かっ!?」


「……チッ、外したか」


天童「……おいおい、なんだありゃ?」

女僧侶「大きな……ロボット……?」

勇者「お前ら……ここで、そんな物を作っていたのか……?」


機械兵「これが……我が魔王軍の精鋭部隊による……人間界支配への秘密兵器……」

勇者「……」

機械兵「起動戦士『ガムダム』であるっ!」

天童「……なんかよぉ? そんなアニメなかったか? 俺、聞いた事あるような気がするなぁ!」

機械兵「……フン、バカにしてられるのも、今のうちだけだ」ギュイーン

天童「おいおい……不細工なロボットで、こっち見るんじゃねぇよ? 降りて戦え! 降りてよぉ!」

機械兵「……死ね」

天童「……んっ?」

勇者「……天童っ! 危ねぇっ!」


ズガガガガガッ


勇者「……ぐっ!」

天童「う、うおっ! なんだ、あいつ!? 顔から、マシンガン撃ってきやがったっ!」

機械兵「ほ~う……攻撃性能は……申し分なさそうだな……?」

勇者「……天童、大丈夫だったかっ!?」

天童「お、おぉっ……おめぇのおかげで助かったけどよぉ……?」アセアセ

機械兵「……ロックオン」

勇者「お、おいっ……! 天童、やべぇぞっ……! 狙われてるぞっ!」

天童「やべぇっ! 勇者っ! 走れっ!」

機械兵「……死ね」ズガガガガガガッ

勇者「うおおぉっ! 走れっ! 走るんだ、天童っ!」

天童「わ~ってるよ! あいつ、絶対出る物語、間違ってるってっ! ロボットは反則だよ、ロボットはっ!」

機械兵「はははっ! 手間隙かけて、金や支援物資を奪い取ったかいがあるな! いいできじゃないかぁ、この機械兵はっ!」

機械兵「はははっ! 逃げろ逃げろっ! 虫けらどもっ!」ズガガガガガガッ

勇者「う、うおおっ! おいっ……! 天童、やべぇぞコレ……!」

天童「……とにかくよぉ? 逃げ回りながら、あのロボットをぶち壊すしかねぇだろ?」

機械兵「ほらほら、どうした!? 査っきまでの威勢は何処にいったんだっ!」

勇者「あんな、でけぇロボット……どうやって、倒すんだよぉ!?」

天童「とにかくよぉ? 懐に潜り込むだ、懐によぉ!? あれだけ、でかいんだから、懐に潜り込んだら、なんとかなるだろ!?」

機械兵「……ほ~う」

勇者「わ、わかったっ……! よし、行くぞっ……!」

今日はここまで

機械兵「ほ~う……臆せず、向かってるとはな……? 流石、勇者といったところじゃないか……」

勇者「うおおぉぉっ! くらえぇぇっ!」ブンッ

機械兵「だが、しかしっ……!」キンッ

勇者「何っ……!? 弾かれた……!?」

機械兵「この機械兵の装甲を甘く見すぎたようだな!? そしてっ……!」ブンッ

勇者「何っ……!? こいつ……早いっ……!」

機械兵「バカめっ! この機械兵の動きを甘く見たなっ!? おらああぁぁ!」

勇者「……ぐがっ」

機械兵「……ロックオン」ギュイーン

勇者「……ぐぐっ」

天童「おいおいっ! やべぇぞ勇者! 狙われてるぞっ!」

機械兵「……死ね」

勇者「!」


ズガガガガガガッ


女僧侶「危ないっ! 勇者さんっ!」ダッ

勇者「うっ……おおっ……!」

女僧侶「きゃあああっ!」

勇者「……女僧侶ちゃんっ!?」

女僧侶「あっ……あああっ……」

勇者「女僧侶ちゃんっ……! 大丈夫っ……!?」

女僧侶「足を……撃たれました……」


機械兵「……チッ、鼠のような奴らだな。だが、これで終わりだっ!」キュイーン

天童「おい、勇者ァっ! 女僧侶ちゃんを抱えて逃げろっ! 狙われてんぞっ!」

機械兵「……死ね」


ズガガガガガガッ


勇者「う、うおっ……! おおっ……!」

女僧侶「……勇者さんっ!」

天童「くそっ……! なんなんだよ、こいつはよぉ! とにかく、動きをとめねぇと……」

機械兵「……ん?」

天童「おらっ! おらおらっ! 天童100連打だおらっ!」ガシガシ

機械兵「なんだ……防御性能は完全ではないか……全く効いていないぞ」

天童「14……! 15っ……! あ~、疲れた……16っと……!」ガシガシ

機械兵「邪魔だぞっ! 虫ケラがぁっ!」

天童「おいっ、待てよっ! まだ、100発打って……」

機械兵「……ふんっ!」ガスッ

天童「!」

勇者「天童っ! しっかりしろっ!」

天童「……うっ、くそっ!」

機械兵「ははは! どうした虫ケラ共っ! さっきまでの威勢は何処にいったんだ! ふははははっ!」


勇者「くそっ……あんな装甲のヤツ……どうやって、戦えばいいんだよ……」アセアセ

女僧侶「……ううぅ」

勇者「攻撃しても、弾かれるし……何か違う方法を考えないと……」

女僧侶「うっ……私……だって……」プルプル


機械兵「よし、 とどめだっ! くらえっ! 動けないお前達を蜂の巣にしてやるっ!」

勇者「や、やばいっ……!」

天童「くそっ……!」


機械兵「……」


勇者「……あ、あれっ?」

天童「……どうしたんだ? あいつ、動かねぇぞ?」


機械兵「……どうした? プログラムミスでも、起きたのか?」


女僧侶「……はぁっ、はぁっ」プルプル

機械兵「違うっ……! これは術だっ! この機械兵に何者かが、動きを封じる術をかけているのだな!?」

女僧侶「ぐっ……! 私だって……勇者さんに負けないように、成長しているんですっ……! 回復魔法だけじゃありませんよ……」

機械兵「……そうかっ! 防御性能が不十分とは、この事だったのかっ!」

女僧侶「はぁっ……はぁっ……!」プルプル

機械兵「魔法攻撃に対する耐性が不十分だったのかっ……! くそっ……! 動けっ……! 動くんだっ……!」


天童「女僧侶ちゃんっ……! 凄ぇじゃねぇかっ!」

勇者「あいつの動きが止まっている今がチャンスだっ!」

天童「よし、勇者っ! あのロボット、魔法には弱ぇみてぇだからよぉ? 魔法でぶっ壊すぞっ!」

勇者「……あれ?」

天童「おい、勇者! 何、ぼけっとしてんだよっ! とっとと魔法攻撃でぶち壊しちまえっ!」

勇者「……な、なぁ? 天童?」

天童「なんだよ!? 早くやれよ、早くっ! 蜂の巣になりてぇのか、おめぇはよぉ!」

勇者「俺さぁ……? この、旅で色々学んでさぁ……? 成長したし……いっぱい、魔法も覚えたけどさぁ……?」

天童「だから、その覚えた魔法でなんとかしろって言ってんだよっ!」

勇者「……攻撃魔法、覚えてねぇんだよ! ど、どうしよう?」アセアセ

天童「……あぁ?」

勇者「いや……一応、使えるのはあるんだけどね……ほら『メラ』……」

天童「……改造ライターの方が火力あるんじゃねぇの? それ」

勇者「後はさぁ……? 補助魔法ばかりでさ……? ど、どうしよう……」アセアセ

天童「……なんかよぉ? 機転効かせて、やってみろよ!? 何かあるだろ、何かがよぉ!?」

勇者「え~っと……え~っと……それじゃあ……」


女僧侶「……勇者さん」

勇者「……ん?」

女僧侶「お姉さんに……助けを求めませんか……?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「お姉さんは……攻撃魔法……使えますよね……?」

勇者「う、うん……姉ちゃんは……俺と違って、優秀だからさ……? 攻撃魔法、使えると思う……」

女僧侶「だったら……私が動きを止めているんで……お姉さんを呼んできていただけませんか……?」

勇者「えっ……? で、でも……」

女僧侶「私も……いつまでこのロボットの動きを封じていられるかわかりません……」プルプル

勇者「……」

女僧侶「ですから……お願いしますっ……! 勇者さん、たった一人の姉弟なんですよね? 手を取り合って下さいよっ!」

勇者「……」

勇者「……女僧侶ちゃん、ごめんね?」

女僧侶「はぁっ……はぁっ……」

勇者「俺が姉ちゃんから、逃げてさぁ……? ちゃんと向き合わなかったせいで……こんなに、辛い思いをさせて……」

女僧侶「……いえ」

勇者「姉ちゃんと協力してれば……こんな事にならなかったのに……」

女僧侶「……気にしないで下さい」

勇者「今から……姉ちゃんと向き合って……成長した俺の姿見せて……」

女僧侶「……」

勇者「……戦ってくるよ」

女僧侶「……はい」

勇者「必ず……姉ちゃんを連れてくるから……それまで、頑張ってね……!」

女僧侶「はい……勇者さんの事……信じてます……」

勇者「よし、天童っ! 一度戻るぞっ! 『リレミト』」ヒュンッ


機械兵「くそっ……! 逃げられたかっ! 勇者のくせに……仲間を見捨てて逃げるとはなっ!」

女僧侶(勇者さん……負けないで下さいっ……!)






PM8:00

タイムリミットまで後、1時間





勇者「姉ちゃん……姉ちゃんっ……!」

女勇者「ちょっとっ……! あんた、どうしてそんなにボロボロなのよ? 血まで出てるじゃないっ!」

勇者「それどころじゃねぇんだよっ! 大変なんだよっ!」

女勇者「あんたは、怪我ぐらいで騒ぎすぎなの……本当、手のかかる子……手当てするから座りなさいよ」

勇者「俺の手当てなんかいいよっ! それより、女僧侶ちゃん手当てしに行ってくれよっ! 足、撃たれてんだよっ!」

女勇者「……はぁ?」

勇者「魔物討伐に行った洞窟にさぁ? とんでもないロボットがいて……俺達じゃ手も足も出ないんだよっ!」

女勇者「あんた達……勝手に洞窟行ったの……!?」

勇者「なぁ、姉ちゃんっ! 頼むよ! 助けてくれよっ!」

女勇者「バカっ! なんで、あんたはそうやって、いつもいつも勝手な事ばかりするのっ!」

勇者「!」ビクッ

女勇者「あぁ……もう、最悪……精鋭部隊を短時間の無傷で討伐したら……名声も得られるのに……」

勇者「……」

女勇者「そしたら、これからの討伐報酬だって釣り上げられるのに……」

勇者「……」

女勇者「ねぇ? あんた、どうして私の邪魔ばかりするの?」

勇者「……」

女勇者「あんたはね? 引き篭もりのクズでわからないと思うけど、私は一つ一つ、成功の為の階段登ってさ?」

勇者「……」

女勇者「そうやって、父さんの名を汚さないように頑張ってるの! なんで、あんたは邪魔ばかりするの!? ねぇ!?」

勇者「俺だってよぉっ!」

女勇者「!」ビクッ

勇者「一歩ずつ、ダメ人間から成長する為の階段登ってきてるんだよぉっ! なんで、わかってくれねぇんだよぉ!」

女勇者「……生意気言ってんじゃないわよ」

勇者「……あぁ?」

女勇者「あのね……? あんたは、マイナスなの。そんな人間がいくら、頑張ったって普通にしている人間に勝てるわけないじゃない」

勇者「そんな事……ねぇよ……」

女勇者「あんたの成長って……何よ? 父さんや私に誇れる事、何かしたの?」

勇者「俺だって……今までの旅で強い魔物倒したり……」

女勇者「……そんなの当たり前じゃない」

勇者「……えっ?」

女勇者「魔物倒すなんて、そこらの傭兵や街人でもしてる事よ。 それ以上の事が成長なんじゃないの?」

勇者「……」

女勇者「……お金は?」

勇者「……えっ?」

女勇者「世の中を生き抜くには、お金が必要よね? あんた、母さんに仕送りはしてる?」

勇者「……それは」アセアセ

女勇者「毎日、ただただ生きるなんて……犬や猫、それに虫けらだってるしてる事よ? 引き篭もりをやめるだけ事は成長って言えるの?」

勇者「……」

女勇者「……それに、あんたについてきてくれる仲間はいるの?」

勇者「それはっ……! 女僧侶ちゃんや、天童がいるよっ!」


天童「……勇者」

女勇者「……友達ごっこはもう、やめなさい」

勇者「……えっ?」

女勇者「そういうのは仲間なんかじゃない……」

勇者「ふざけんなっ! 女僧侶ちゃんや天童は俺の大切な仲間だっ!」

女勇者「この人達は、落ちこぼれのあんたの傷を舐めてくれてるだけじゃない」

勇者「……えっ?」

女勇者「仲間っていうのは……世界の平和を救う為……魔物を討伐する為の、腕の立つ傭兵の事よ」

勇者「……」

女勇者「あんたの周りに、そんな傭兵は集まってくれるの? あんたは友達ごっこを冒険の仲間と勘違いしてるだけでしょ?」

勇者「……違う、違うっ!」

女勇者「あんたみたいな、何も名声を持ってない子の周りに集まる奴なんて……そんな、友達ごっこのクズだけよ」

勇者「二人は違うっ……! 二人はそうじゃないっ……!」

女勇者「……あんな、女の子放っておけばいいじゃない?」

勇者「!?」

女勇者「勇者……? よく考えなさい?」

勇者「……どういう事だよ?」

女勇者「ここで……その女の子を助けた所で、何が残るって言うの?」

勇者「女僧侶ちゃんの命が残るじゃねぇかっ!」

女勇者「そう……それだけね……?」

勇者「……はぁ?」

女勇者「その子の命は助かるけど……あんたが魔物討伐した事なんて、そのうち忘れさられ……なかった事になってしまうわ……」

勇者「……何、言ってんだよ姉ちゃん」

女勇者「だから、こういう時は傭兵を使うの。 勇者一行のおこぼれにあやかろうとしたバカな傭兵が……魔物討伐の事を勝手に広めてくれるわ」

勇者「……」

女勇者「そうする事で……噂は広まって……名声を手に入れる事が出来るの。 だから、勇者……傭兵の到着を待つのよ?」

勇者「じゃあ、女僧侶ちゃん、見捨てろって事なのかよ!?」

女勇者「毎日毎日、世界の何処かで誰かが魔物にやられてるじゃない? 僧侶一人の命を守った所で、何になるのよ」

勇者「なんで、そんな考え方なんだよ……それは、間違ってるよ……」ワナワナ

女勇者「……勇者? これは、あんたにとっても成功のチャンスなのよ?」

天童「おめぇ、いい加減にしろよっ!」

勇者「いや……いいから、やめてくれよ! いいから……」アセアセ

天童「だってよぉ!?」

勇者「今回は……家族の問題なんだ……俺がなんとかするから……なっ……?」

天童「……勇者」


女勇者「あんた、何なのよ……うちの子にバカな事ばかり、吹き込んでさぁ……?」

勇者「……」

女勇者「この子、こんなに口ごたえする子じゃなかったのよ? うちの子に変な事しないで!」

勇者「……」

女勇者「あんたみたいなバカがそばにいると……この子がもっとダメになっちゃうじゃないっ! もう、この子に近づかないでっ!」

勇者「……今、何て言った?」ワナワナ

女勇者「?」

勇者「ふざけんなよぉ!」

女勇者「!」ビクッ

勇者「……俺の事はいいよ。俺の事は」

女勇者「……」

勇者「でもなぁ……? こいつの悪口言う事だけは絶対許さねぇぞっ!」プルプル

女勇者「……」

勇者「あんたが何を俺に教えてくれるっていうのよ……? ねぇ……?」

女勇者「……」

勇者「ずっと、そうだったよね……? 昔から……父さんの名を汚さないように……みっともない真似だけはするなって……」

女勇者「……」

勇者「次に教えてくれるのは……お金の稼ぎ方……? 名声を得る方法……? なんだよ、それ……」

女勇者「……」

勇者「こいつは……ずっとずっと姉ちゃんが教えてくれなかった、生きる為に必要な事……いっぱい教えてくれたっ!」


天童「……勇者」

勇者「どうして……ねぇ、昔の姉ちゃんこんなのじゃなかったじゃん……? いつから、こんなに汚れちゃったのよ?」

女勇者「……」

勇者「成功掴んでさ……楽しい……? 幸せ……? 俺はそんなの嫌だな……」

女勇者「……」

勇者「お金や、名声の為に……目の前で起こってる出来事、無視してさぁ……これが正しい勇者の行動なの?」

女勇者「!」

勇者「情けない……俺、これが成功なんだったら、こんなのいらねぇよぉ!」

女勇者「……」

勇者「あんたなんか、俺の仲間じゃねぇよ……俺の仲間はこいつと……今、必死に洞窟で頑張ってる女僧侶ちゃんだけだよっ!」ダッ

女勇者「勇者っ……!」

天童「……お姉さん」

女勇者「……何よ?」

天童「少し、お話をしませんか?」

女勇者「さっきの、ひょうきんな態度はどうしたのよ? 真面目な振りなんかして……バカみたい……」

天童「あなたには、こちらの態度の方が効果的かと、思いましてね?」

女勇者「……はぁ?」

天童「女勇者……19XX年X月X日に産まれた貴方は、12歳の時に父を亡くし、貴方もまた、勇者君と同じように周囲からの期待に押しつぶされてしまう!」

女勇者「……何、言ってんの?」

天童「母親から繰り返される言葉! 『勇者はダメだから、貴方に全てを任せる』お前はその期待に答えるべく、修行に励み力を得た。だが、しかし……」

女勇者「……あんた」

天童「転機はそう! お前が15歳の時!」

女勇者「!」

天童「魔物討伐に行った洞窟で……お前の仲間達は皆、お前をかばって死んでしまう」

女勇者「あ、あんた……」

天童「その中には……あなたの幼馴染もいましたね……確か、男僧侶さん……でしたかな……?」

女勇者「!」

天童「彼が最後に言い残した言葉を……覚えていますか……?」

女勇者「そ、そんな昔の話……もう、忘れたわよ……」

天童「僕達が弱いせいでごめんね? 君は強い勇者なんだから、君は生きて世界を救って……でしたかね?」

女勇者「……ぐっ!」

天童「そこから、貴方の人生は変わり始めた! 周りの人間が傷つく事を恐れ……しかし、それでも父の名に恥じぬ勇者にならねばならいという重圧っ!」

女勇者「……あんた、なんなのよ」

天童「ちょっぴり同情はしますが……今の貴方も……自らの為に、知らずに周りを少しずつ傷つけていっている存在なのではないでしょうか?」

女勇者「仕方ないじゃない……街の人が苦しくなっても……戦うのは私達なんだからっ……!」

天童「……お前の人生それでいいのか?」

女勇者「あんた……なんで、男僧侶さんの事知ってるのよっ! あんた、何者よ!?」

天童「私は天使です」

天童「幸い、貴方に命題は届いていません」

女勇者「……命題?」

天童「……ですから、これは一つの警告としてお聞き下さい」

女勇者「……警告?」

天童「勇者君は等身大の自分を見つめて、貴方と向き合いました」

女勇者「……」

天童「……次は、貴方が等身大の自分を見つめ、勇者君と向き合わう番ではないですかね?」

女勇者「私の……等身大……?」

天童「さもなければ……また、同じように……犠牲者が出る事になりかねませんよ……?」

女勇者「……」






PM8:50

タイムリミットまで後、10分





女僧侶「はぁっ……はぁっ……」

機械兵「ふん……魔力も、もう限界のようだな……?」

女僧侶「……くっ、勇者さんっ」

機械兵「よしっ……! 動く……動くぞっ……!」ググッ

女僧侶「ダメっ……もう……」

機械兵「よしっ……死ねっ……!」

女僧侶「!」


「おらぁっ!」


女僧侶「……勇者さんっ!」

機械兵「……なんだ、小僧? 戻ってきたのか?」

勇者「……」

女僧侶「勇者さんっ……! お姉さんはっ……?」アセアセ

勇者「……ごめん、女僧侶ちゃん。あんな奴に頼んだ、俺がバカだった」

女僧侶「……えっ?」

勇者「あんな奴……俺の姉貴じゃねぇっ……! 俺の仲間なんかじゃねぇよっ!」


機械兵「ふん……魔法も使えないのに戻ってくるとは……無駄死にだな、小僧……」

勇者「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇだろっ! うおおぉぉっ!」

機械兵「はははっ! 効かんっ! 効かんぞぉっ!」

勇者「くそっ! おおっ! だあぁっ!」

機械兵「無駄だ無駄だっ! 効かぬわっ!」

勇者「今までだって……なんとか、やってきたんだっ……! きっと……きっと今回だって、うまくいくさっ! うおおぉぉっ!」

女僧侶「勇者さんっ……! ダメですっ……! 私、もう……!」


機械兵「……よしっ! 動くぞっ! 術がとけたようだな!」

勇者「!」

機械兵「くらえっ! うおおおぉぉっ!」ガスッ

勇者「ぐはっ……!」

機械兵「よしっ……! クリーンヒットっ……! 今のは完全に決まったぞ!」

勇者「……ぐ、ぐぐっ」

機械兵「とどめだ……ロックオン……」キュイーン

勇者「くそっ……魔法だっ……何か魔法さえ使えればっ……!」

機械兵「……死ね」


ズガガガガガガッ


女僧侶「勇者さんっ!」

女勇者「何してるの!? どきなさいっ!」ドンッ

勇者「……えっ?」


ズガガガガガガッ


女勇者「あっ……! ああっ……! あああああっ!」


女僧侶「お姉さんっ!?」

勇者「姉ちゃんっ!?」


女勇者「うっ……ううっ……」ヨロヨロ

機械兵「……あれは勇者の娘じゃないか? どうしてこんな所に? だが、これは幸運な展開だな」

女勇者「……」バタッ

勇者「姉ちゃんっ……姉ちゃんっ……! どうしてここに……!」

女勇者「うっ……勇者……」

勇者「……もういいっ! 喋るなっ、姉ちゃん!」

女勇者「……あんた、凄いね?」

勇者「……えっ?」

女勇者「洞窟の入口から……ここまでの魔物……全部あんたが倒したんでしょ……?」

勇者「……」

女勇者「天童さんから聞いたわ……あんた、凄いね……?」

勇者「……天童? 姉ちゃん、連れて来てくれたのか?」


天童「……」

女勇者「お姉ちゃんさぁ……? 間違ってた……」

勇者「……えっ?」

女勇者「お姉ちゃん……父さんが死んで……あんたが引き篭もってたからさぁ……?」

勇者「……うん」

女勇者「父さんの分も……あんたの分も頑張らなくちゃいけない……なんて思って……どんどん、重圧でダメになってたみたい……」

勇者「そんな事ないよっ……! 姉ちゃんは……」

女勇者「あんたは……その間に成長してたんだね……?」

勇者「……」

女勇者「あんたも、お姉ちゃん追い抜くまでもう少しよ……」

勇者「……」

女勇者「あんたに足りない……バカな所……教えてあげる……」

勇者「……えっ?」

女勇者「相手は機械兵なんでしょ……? あんなの……弱点なんて一目でわかるじゃない……」

勇者「……弱点?」

女勇者「機械なんて……ショートさせてしまえば……ただの鉄クズよ……」

勇者「ショート……?」

女勇者「雷よ……雷の魔法を使うのよ……」

勇者「で、でも……俺っ……! 雷の魔法どころか、攻撃魔法使えねぇんだよっ……!」

女勇者「あるじゃない……? 勇者一族に伝わる……あの魔法が……」

勇者「……えっ?」

女勇者「正しき心を持った者だけが使える……父さんの必殺技……今のあんたなら、使えるでしょ……!」

勇者「で、でもっ……! あんな凄い魔法……どうせ、俺になんて……」

女勇者「まだ『どうせ』なんて言ってるの!? あんた、成長してるんでしょ!? お姉ちゃんを越えた所、見せてよっ!」

勇者「!」


機械兵「……フン。お涙頂戴の所悪いが、二人仲良く、父の元へ連れて行ってやろう」

女勇者「勇者……成長したあんたなら……きっと……」

勇者「えっと……ええっと……家電製品? ……ガキの使い……ああっ! 違う違うっ……」


機械兵「……ロックオン」

女勇者「父さんも……見てるわよっ……! しっかりしなさいっ……!」

勇者「ガギグゲゴ……? ギガワロスwwwww ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ……!」


機械兵「死ねっ!」

女勇者「あんたの成長を見せなさいっ!」


勇者「『ギガデイン』?」ピカーッ

ドーンッ


女僧侶「きゃあっ!」

天童「なんだなんだ!? 洞窟の中に雷か!?」


機械兵「ガッ……ガガガガガッ……!」バチバチ


勇者「や、やったっ……! 出来たぞっ……! 父さんの必殺技が……俺にも出来たんだっ……!」

天童「おおっ! 勇者っ! やったじゃねぇか! 後30秒だっ!」

女僧侶「勇者さん、凄いですっ!」


女勇者「まだよっ! まだ、完成じゃないわっ!」

勇者「……えっ!」

女勇者「勇者っ! 後は、あの雷を切り裂くのっ! それで完成よっ! やってみなさいっ!」

勇者「わかったっ! いくぞっ! うおおおっ!」ダッ

機械兵「くそっ……! くそっ……! この魔王軍の白い悪魔……ガムダムが……ガムダムがっ……!」バチバチ

勇者「うおおおぉぉぉっ!」

機械兵「防御性能が完全なら……防御性能さえ完全であればっ……!」

勇者「くらえっ! これが……父さんから伝えられ……姉ちゃんから学んだっ……」

機械兵「調整の時間さえあればっ……! こいつらが……後、二時間来るのが遅ければっ……!」

勇者「勇者一族の必殺技だああぁっ!」

機械兵「!」

勇者「くらえっ! 『ギガスラッシュ』!」


ズバーンッ

翌日ーーー


女勇者「あんたは、本当、バカね! どうして、そんな事も出来ないの!?」

勇者「ご、ごめん……姉ちゃん……」アセアセ

女勇者「ちょっと、リンゴの皮向いてって頼んだだけなのに……なんで、そんな骨みたいになるのよソレ!」

勇者「じゃあ……こっちの皮の方食べる? 身はいっぱいついてるよ?」

女勇者「あたしは、皮を剥いて頂戴って言ったのに、どうしてそうなるのよ、バカっ!」

勇者「ご、ごめん……」


天童「……あの姉ちゃん、相変わらずだな? 病人なんだから、大人しくしとけっての」

女僧侶「まぁまぁ、久しぶりの姉弟水入らずの時間なんだから、いいじゃないですか?」クスクス


女勇者「もういいっ! 自分でやるから、ナイフ貸しなさいっ!」

勇者「いいって、いいって……俺、やるからさぁ……?」

天童「しかしよぉ? あの姉ちゃん、あれだけ撃たれたのに、ゾンビみてぇな奴だな?」

女勇者「……聞こえてるわよ。天使の天童さん?」

天童「あっ……すんましぇ~ん……」アセアセ


勇者「……あれ? 天童、おめぇ天使って信じて貰えるの始めてじゃね?」

天童「……えっ?」

勇者「姉ちゃん、どうしたの? 頭でも打った?」


女勇者「あんたは失礼ね……あんたを成長させてくれた仲間の人達だから、ちょっとおべっか使っただけよ」

勇者「……ふ~ん」

女勇者「あたた……あの……天童さん? 女僧侶ちゃん……?」モゾモゾ

女僧侶「あっ……お姉さん、動かないで下さいっ……! 傷が開きますよ?」

女勇者「あの……今回の事は申し訳ありませんっ!」ペコッ

女僧侶「……えっ?」

女勇者「私……父を失ってから、自分が勇者の後を次ぐ者という事と……この子の親代わりにならなくちゃいけないって思いから……」

女僧侶「……」

女勇者「自分が間違ってる事も気づかずに……周りを否定ばかりする、嫌な人間になってた事に気づけませんでした」

女僧侶「いや……そんな事……」

女勇者「あなた方がこの子を成長させてくれてるのを見て……自分も、この子に負けないように、もう一度、名誉とか捨てて……一からやり直したいと思います」

勇者「……姉ちゃん」

女勇者「傷治したら、必ず合流するからね? それまでに、あたしだってあの必殺技使えるようにしておいてやるんだから!」

勇者「うん、待ってるよ」

ーーーーー


勇者「……女僧侶ちゃん、足は大丈夫?」

女僧侶「はい、私はもう大丈夫です」ニコッ

勇者「あのさぁ……?」

女僧侶「?」

勇者「姉ちゃんと会ってさ……? 俺、嫌な思い出も思い出してさ……? 落ち込んだりもしたけどさ……?」

女僧侶「……はい」

勇者「その嫌な思い出の中でも……ずっと、俺に優しくしてくれてる人がいてね……?」

女僧侶「……はい」

勇者「その子は……俺が旅を始めた時も……俺が旅の途中でダメになってる時も、ずっとずっと変わらない態度で接してくれているんだ……」

女僧侶「……はい」

勇者「自分を見てくれている人がいる事……凄く、俺にとって大切な存在なんだ」

女僧侶「……」

勇者「女僧侶ちゃん……? 俺、女僧侶ちゃんに言わなきゃいけない事があるんだ?」

女僧侶「……聞かせて下さい」ニコッ

勇者「あのっ……!」

女僧侶「……」

勇者「俺……女僧侶の事……!」

女僧侶「……はい」

勇者「その……す、す……好……」


「おぉ~いっ! 勇者ァ~! なんで、おいて行くんだよォ~! 待ってくれよォ~!」


勇者「も~う……天童……おめぇは、何でこんなタイミングで来るんだよぉ……?」

天童「……あぁ? 何、言ってんだおめぇ?」

天童「おめぇの最大の難関『コンプレックス』をよぉ? クリアしたんだから、もっとシャキッとしやがってんだっ!」

勇者「……うるせぇっ! 空気読め、おめぇはよぉ!」

天童「その言い方、ちょっと酷くない? まるで、俺が空気読めない奴みてぇじゃん?」

勇者「……読めてねぇじゃねぇかよ」

天童「何言ってるかよくわかんねぇけどよぉ? 残りの命題は後2つだ! 頑張ろうぜっ!」

勇者「うん、そうだな!」

天童「魔王城はもうすぐだっ! おめぇも気合入れろよっ!」

勇者「……わかってるよ」

天童「よ~しっ! それじゃあ、魔王城に向かって、出発~!」

勇者「……なんで、テンション高いんだよ。アイツはよぉ?」

女僧侶「……あの~? 勇者さん?」

勇者「……ん?」

女僧侶「さっきのお話は……?」

勇者「あ~、アレ……何か変な邪魔が入ったからさぁ……?」

女僧侶「……」

勇者「それに……魔王城にも行かなくちゃいけないしね……?」

女僧侶「そうですね」

勇者「だから、この旅が終わったら……ちゃんと話すよ? それまで、待ってて?」

女僧侶「わかりました、じゃあ私待ってます」ニコッ

勇者「うん、じゃあ、天童も張り切ってるみたいだし、俺達も行こうか?」

女僧侶「そうですね。私も、旅が終わるのが楽しみです」クスクス

勇者「よし! じゃあ、魔王城まで後少し! 頑張ろうっ!」

女僧侶「はいっ!」

第八話 「姉に勝たないと死ぬ!」

ーー完

本当に余談
>>430の最後に

天童「はい、カァ~ット! 9時ジャストに……僕にも宇宙が見えたぜ!」

とか入れておくべきだったな

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」

第三話 「褒められないと死ぬ!」

第四話 「約束破ると死ぬ!」

第五話 「優しくしないと死ぬ!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

第七話 「決断したら死ぬ!」 >>3-212

第八話 「姉に勝たないと死ぬ!」 >>215-445


前スレ(1~6話) >>2

勇者「ふわぁ~あ……天童、おはよう……」

天童「おっ、ようやく起きたかっ! 今日も一日、頑張ろうぜっ!」


ーー俺の名は勇者。そして、隣にいるコイツの名は天童


勇者「なぁ、天童……? ようやく、魔王城が見えてきたな……?」

天童「あぁ、まだ豆粒みてぇにしか見えねぇけどな……あそこが、魔王城だ……」


ーーダメ人間だった俺は、神様から与えられた命題をクリアしながら、ここまでやってきた


勇者「……」

天童「おい……? 何、ボケっとしてんだ? まだ、寝ぼけてんのか?」


ーー命題はクリア出来ないと命を失ってしまう、厳しい物だけれども、周りの仲間に助けられ……俺は真人間に近づいている


勇者「……あそこで、終わりなんだね?」

天童「……あぁ、あそこがこの旅の終点だ」


ーー残る命題は二つ……後少しなんだ……俺が真人間になるのも……そして、この旅も

天童「ところでよぉ? 勇者?」

勇者「……ん? どうしたの?」

天童「おめぇ、まだ寝ぼけてんのか?」

勇者「えっ……? なんで、そんな事言うの?」

天童「いや、額に張り付いてる、ソレ見てみろよ? 何でそんな所に張り付いてるんだよ、ソレ?」

勇者「……そういや、なんか視界が悪いと思ってたんだよ。 俺の顔に、何ついてんだろ?」ピラッ

天童「……」

勇者「ん……? 封筒……? って、コレ命題じゃねぇかっ!?」

天童「来てんだよ、来てんだよぉ! もう、とっくに命題は来てんだよぉっ!」ニヤニヤ

勇者「ねぇ、俺ずっとコレつけて喋ってたの!? 最初のやりとりさぁ……!? 改めて見るとすげぇ、格好悪くない!?」

天童「細けぇ事は気にすんじゃねぇよっ! よしっ! 早速見てみようぜっ!」

勇者「も~う……もう少しだってのに……俺、いつも決まんねぇんだよなぁ……」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後10時までに

他人を改心させないと即・死亡!




天童「ふ~む……『他人を改心させないと即・死亡』か……」

勇者「他人を……改心させる……?」

天童「今、午前7時だから後15時間……だな……?」

勇者「たった、15時間でよぉ……? 他人を改心させるなんて、ちょっと無理があるんじゃね?」

天童「……確かに、この命題はおめぇは難易度が高ぇかもしれねぇな?」

勇者「……えっ?」

天童「だけど……残りの命題は後二つなんだし……この命題も、しょうがねぇなぁ……」

勇者「おいおいっ! ちょっと待てよちょっと待てよっ!」

天童「……あぁ? どうした?」

勇者「なんで、おめぇがそんなにネガティブなんだよ! いつもみたいなに背中押してくれよっ!」

天童「……あのな、勇者?」

勇者「?」

天童「……改心って何かわかるか?」

勇者「そんなの、俺にだってわかるよ!」

天童「文字通り……心を……改めるって事だ」

勇者「だから、知ってるっての! おめぇは国語の先生かっ!」

天童「今まで、お前はよぉ……?」

勇者「……ん?」

天童「今までの命題で……誰かに助けられて……ここまで成長して……心を改めて変わってきたんだ。なっ?」

勇者「……うん」

天童「……つまり、おめぇは改心させられる立場だったってワケだ?」

勇者「……」

天童「そんな、おめぇがよぉ? 今度は誰かの心を改めさせないといけない……つまり、改心させる立場に回るって事だ?」

勇者「……なるほど」

天童「おい、勇者? この命題……甘く見てると、痛い目に合うぞ?」

勇者「……」

勇者「……まぁ、でもさ?」

天童「……ん?」

勇者「こうやって、命題が来たって事は……これにも、何か意味があるって事なんだろ?」

天童「……そうだ」

勇者「俺は確かに……今まで、皆がいたからこそ、変われた……改心させられる立場だった……」

天童「……」

勇者「だけどさ? この命題にも、意味があるんだったら……やってみるしかないよ? 今度が俺が改心させる立場に回ってみせる」

天童「……」

勇者「皆が俺の力になってくれたみたいに……俺だって、誰かの力になってみせるよ!」

天童「……なんだよ、わかってんじゃねぇか、おめぇ?」ニヤニヤ

勇者「今、自分に出来る事をやるしかない……だろ?」

天童「そうだっ! その意気なら大丈夫だっ! なんだ、成長してるじゃねぇか、おめぇっ!」

勇者「じゃあ、天童……? 早速、命題をやろうか?」

天童「……ん?」

勇者「……天童?」キリッ

天童「あぁ? 何だよ、急に真面目な顔しやがって……気持ち悪ぃよ……」

勇者「……ちゃんとしよう? なっ? しっかり生きよう?」

天童「……はぁ!?」

勇者「おめぇはよぉ……? いつもいつも、魔物と戦う時とかさぁ? 一番後ろで見てるだけじゃん?」

天童「な、何言ってるんだよ!? そんな事ねぇよっ!?」

勇者「それじゃあ、ダメだよ? なっ? 男なんだからさぁ? ちゃんと戦おうよ?」

天童「俺はよぉ!? 天使だから、ノーカンだよ、ノーカンっ! 勇者のおめぇが戦えばいいだけの話じゃねぇか!?」

勇者「あっ……! それと、昼飯っ……! これも言いたかったんだよ!」

天童「……あぁ?」

勇者「お前、いつもいつもさぁ……? 変な物頼むじゃん? 昼飯ぐらい普通のランチ定食とか頼もうよ? 俺、仲間として恥ずかしいんだからさ?」

天童「食いたいもん食って何が悪いんだよっ! 昼からガッツリ食ったっていいじゃねぇかよぉ!」

勇者「それと、さ……?」

天童「なんだよ! まだ、あんのかよっ!」

勇者「おめぇは、命題が来てんのにさ……? な~んで、ネガティブな事、言っちゃうのかな? 今日に限って!」

天童「……あぁ?」

勇者「おめぇはさぁ? 俺のサポートが仕事なんだろ? だったら、俺の上げるような事、言えよ? なんで、ネガティブな事言って、俺のやる気を下げるような事、言うのかねぇ……」

天童「う、うるせぇなっ……! たまにはそういう事だって言うよっ……!」

勇者「おめぇは、そんなんだから、ダメ天使なんだよ……なっ、改心しようぜ? 天童?」

天童「俺を改心させてどうすんだよっ! 俺は、天使だからノーカンだよっ! ノーカンっ!」

勇者「……はは、冗談だって冗談。 でも、こっちの立場って気持ちいいもんがあるね?」クスクス

天童「……俺の立場とるんじゃねぇよ」

勇者「でもさぁ? おめぇ、どうしたんだ? 今日はネガティブな事を言ってよぉ……? いつもウザいくらいにポジティブなのによぉ?」

天童「カァ~! 『親の心子知らず』とはこの事だなっ! カァ~! 悲しかぁ~! 悲しかぁ~! もう、たまらんっ! たまらんっ!」

勇者「……おめぇは俺の親じゃねぇよ?」

天童「あのなぁ……勇者……? 残りの命題は後、二つだけどよぉ? 命題が終わっても、おめぇには人生が残ってるだろ?」

勇者「うん、そうだね……俺は命題クリアして、生きる価値のある人間になるんだから……」

天童「その時にはよぉ……? 俺は、もういねぇんだぜ……?」

勇者「……えっ?」

天童「だからよぉ? その時にもおめぇがちゃ~んとひとり立ち出来るようになれるか……ちょっと、意地悪な事言っただけなのによぉ……?」

勇者「……ちょっと待ってよ。ど、どういう事だよ?」

天童「それをさぁ……? どうして、そういう風に受け取っちゃうかねぇ? カァ~! おじさん悲しかぁ~!」


「あっ! 勇者さん、天童さんっ! おはようございますっ!」


天童「おっ! 女僧侶ちゃん、おっはようっ! いやぁ~! 今日もいい朝だねっ!」

女僧侶「そうですね! 魔王城も、うっすらと見えて来ましたね!」


勇者(そういや……アイツが全部の命題終わったらどうするかなんて……俺、考えてなかった……)

天童「お~い! 勇者ァ! おい、勇者ァ!」

勇者「……」

天童「おい、コラっ! バカ息子っ! 聞いてんのかっ!」

勇者「あっ、天童……? どうした……?」

天童「女僧侶ちゃん、起きたみたいだらよぉ? 女僧侶ちゃんで命題クリアしちまおうぜ?」

勇者「……ん?」

天童「だからよぉ……? 女僧侶ちゃんを改心させて……もう、とっとと命題クリアしちまおう!」

勇者「おめぇ……何言ってんだ……? 女僧侶ちゃんなんか、改心させる所ないだろ……?」

天童「なんか、あるだろ? 女僧侶ちゃんだって、人間なんだから、悪い所の一つぐらいよぉ?」

勇者「女僧侶ちゃんにはねぇよ……そんな所なんて……」

天童「いや~、一つぐらいあるんじゃねぇか? テント畳むの遅い所とか……?」

勇者「……もう、テキパキ出来るようになってるよ?」


女僧侶「よいしょ……よいしょ……」テキパキ


天童「……おっ、本当だ?」

勇者「……なっ?」

天童「……あっ! じゃあ、酒癖悪い所は? 酒癖悪い所とか、注意してあげればいいんじゃない?」

勇者「あのなぁ……? 天童……?」

天童「……ん?」

勇者「そりゃ、女僧侶ちゃんにだって、悪い所の一つや二つぐらいはあるよ? だけど、女僧侶ちゃんのいい所はそれ以上に……数えきれない程、あるじゃねぇかっ!」

天童「お、おぅ……」

勇者「俺はなぁ? そういう酒癖も悪い所も……全て含めて、女僧侶ちゃんが好きなんだよっ! 命題の意味はそういう事じゃねぇだろがっ!」

天童「なぁ~んだ……おめぇ、わかってるじゃん……でもよぉ? それは俺に言うんじゃなくて、女僧侶ちゃんに直接言ってやれよ?」

勇者「……ん?」

天童「いやぁ……いつまでたってもよぉ? おめぇが女僧侶ちゃんに気持ち伝えないから……俺も心配だったんだよ……」

勇者「……前回、やろうとしたんだけどね?」イライラ

天童「でもよぉ? それだけ、言えるんだったら、大丈夫だな! いや~、これで俺の心残りも一つ消えたな! よかったよかった!」

勇者「な、なぁ……? お前さぁ……?」

天童「……ん?」

勇者「お前……俺の命題が全て終わったら……その後……」


女僧侶「勇者さ~ん! 天童さ~んっ! テント畳み終わって、出発準備できましたよ~!」


天童「おっ、勇者? 準備出来たみてぇだぞ? そろそろ出発しようぜ?」

勇者「えっ……? あっ、うん……」

ーーーーー


天童「8時か……街についたのはいいけどよぉ……?」

勇者「な、なんだか……随分寂れた街だねぇ……?」

女僧侶「魔王城の……こんなに近くにあるんですもの……心が痛いです……」

天童「まぁ、よぉ? 俺達が魔王討伐したらよぉ? この街だって、救われるだろ! なっ、勇者?」

勇者「そうだね……」


「きゃあっ~! 泥棒っ! 泥棒よっ! 誰か捕まえて~!」


天童「……ん?」

勇者「……泥棒?」

男盗賊「……」ダッ

女僧侶「勇者さんっ! 泥棒がこっちに走ってきますよっ!」


勇者「よしっ! 俺達で捕まえようっ! いくぞっ!」

男盗賊「……くっ!」

勇者「うおおっ! たああっ!」

男盗賊「くそっ! 邪魔だっ! どけっ!」バキッ

勇者「くっ……こいつ……早いっ……! だけど、俺だってっ……!」バキッ

男盗賊「……ぐっ! てめぇ、この野郎っ!」

勇者「もう、観念しろっ! お前はもう……えっ……?」

男盗賊「お前……? 勇者……?」

勇者「お前……もしかして、男盗賊か……?」

「このこそ泥がっ! お待ちなさいっ!」


男盗賊「や、やべぇ……! 来やがったっ……!」

勇者「お、おいっ……! 待てよっ! 何で、お前……こんな事……!」アセアセ

男盗賊「くそっ……! 邪魔だっ! どけっ!」バキッ

勇者「……ぐっ!」


「この泥棒がっ! お待ちなさいっ!」


男盗賊「うるせぇっ! 待てと言われて待つ盗賊がいるかよっ! じゃあな、ババァっ!」ダッ


天童「おい、勇者ァ! 何してやがんだよ! 命題クリアするチャンスだったってのに、みすみす逃がしやがってよぉ?」

勇者「なんで……なんで、あいつがこんな事してるんだ……?」

天童「……ん?」

天童「……アイツ、おめぇの知り合いか?」

勇者「う、うん……小さい頃……よく遊んだ、幼馴染……俺が引き篭もりになってから、疎遠になっちゃったけど……」

天童「おめぇよぉ? 友達は選ぼうぜ? なんで、泥棒なんかと友達なんだよ、おめぇ?」

勇者「ち、違うっ……! あいつ、いい奴なんだよっ……!」アセアセ

天童「……あぁ?」

勇者「おめぇらは、わかんねぇかも知らねぇけどさぁ!? 俺、あいつと仲良かったから、わかるんだっ! あいつはいい奴なんだよっ!」

天童「……」

勇者「本当だってっ! 信じてくれよっ!」

天童「……じゃあ、なんでそんな奴が、こそ泥みてぇな真似してんだ?」

勇者「そ、それは……わかんないけど……」

天童「……」

勇者「何か……理由があるんだと……思う……」

天童「……」

勇者「本当だって! あいつ、本当はいい奴なんだよ! 信じてくれよ! 俺の友達だった奴なんだよ!」

天童「まぁ、よぉ……?」

勇者「?」

天童「おめぇがそこまで言うんだったら、それでいいんじゃねぇの?」

勇者「……えっ?」

天童「あの泥棒、とっ捕まえてよぉ? 改心させたら、命題クリアじゃねぇか?」

勇者「……うん」

天童「俺も手伝ってやるからよぉ……今からあのこそ泥を……」

勇者「な、なぁ……? 天童……?」

天童「……ん?」

勇者「今回はさぁ……? 一人でやらせてみてくれねぇかな……?」

天童「……あぁ?」

勇者「俺もさぁ……? 改心させられる立場の時……お前らだけじゃなくて……他の人にも色々言われた……」

天童「……」

勇者「……でも、その言葉って、実は凄く辛かったんだ」

天童「……」

勇者「引き篭もりをやめろ……社会に出ろ……言ってくれてる事は間違いなく、正しい事だったんだけどさ?」

天童「……」

勇者「俺が引き篭もった理由まで……踏み込んできてくれる人は誰もいなかった……何処か、上っ面の綺麗事を言われてるような気がしてた……」

天童「……」

勇者「でも、言ってる事は正しいから、やらなきゃいけないと思った……だけど、どういう風に動いていいのかまではわからなかった……」

天童「……」

勇者「それで……俺、どんどん塞ぎ込んで……どんどん動けなくなってさ……?」

天童「……」

勇者「……でも、そこに天使のおっさんが現れたんだ」

天童「……勇者」

勇者「そいつはさぁ……? ズガズガと俺の心の中まで強引に入ってくる、図々しい奴だったよ」

天童「……」

勇者「でも、そいつはっ……! ダメな俺が頑張れば、まるで自分のようの事に褒めてくれたっ……!」

天童「……」

勇者「俺と真っ正面から向き合って……塞ぎ込んでた俺を、まるで自分の事のように考えてくれたっ……!」

天童「……」

勇者「他の人がかけてくれない、俺が本当に欲しかった言葉を……いっぱいいっぱい言ってくれたんだっ!」

天童「……勇者」

勇者「俺が変われた理由は、お前や女僧侶ちゃんが、言葉だけじゃなくて……心まで、踏み込んできてくれたからなんだ!」

勇者「神様がこういう命題を送ってきたって事はさぁ……?」

天童「……」

勇者「……きっと、あいつの心の中に入り込めるのは、俺だけなんだと思う」

天童「……そうかもな」

勇者「人間、辛い時……どう、向き合って欲しいか……誰に向き合って欲しいか……そして、そこからどう行動すればいいか……」

天童「あぁ」

勇者「……俺は、お前に教えてもらった」

天童「そうだっ……!」

勇者「だから……あいつの天使には、俺がならなきゃいけない……今度はお前が教える番なんだって……神様は言ってるんだと思うんだ」

勇者「天童、女僧侶ちゃん……ごめん……! 今日は俺、一人で行動させてくれっ!」

天童「……大丈夫か?」

勇者「やらなくちゃいけないっ……! 俺が二人にいっぱい、教えてもらったんだからっ!」

女僧侶「私は神の教えで……説得する事しかできないと思います……」

勇者「……」

女僧侶「あの方が、勇者さんの幼馴染なのなら、彼に一番届くのは……きっと、勇者さんの言葉でしょう……」

勇者「……うんっ!」

女僧侶「だから……勇者さんが救ってあげて下さい……」

勇者「我儘聞いてくれてありがとう……」

天童「まっ、おめぇも散々改心させられた立場だからな! どういう風に言えば改心させられるかなんて、おめぇが一番よくわかってるだろっ!」

勇者「あぁ……今度は俺が……自分が学んできた事を、伝える番だっ……!」

天童「よっしゃっ! 勇者ァ! じゃあ、早くあのコソ泥追っかけてこいやっ! 見失っちまうぞ!」

勇者「わかったっ! 追いかけてくるよっ!」ダッ

今日はここまで

天童「……行ったか」

女僧侶「そうですね。上手くいくと……いいですね……」

天童「……アレ? そういえばさぁ?」

女僧侶「天童さん、どうしたんですか?」

天童「あのコソ泥、勇者の幼馴染って事は、女僧侶ちゃんの幼馴染でもあるんじゃねぇの? 女僧侶ちゃん、あいつの事、知らねぇの?」

女僧侶「う、う~ん……そういえば……見た事もあるような気もしますが……」

天童「……しますが?」

女僧侶「やっぱり、勇者さんにも男同士の付き合い……みたいなのがあるんじゃないんですかね……? 私はあの方と接した事はありません」

天童「男同士の付き合いって言ってもよぉ? 成長する前のあいつは女々しい奴だったぜ? そんなのあるのか?」

女僧侶「う~ん……わかりません……」

女僧侶「……それよりも、天童さん?」

天童「?」

女僧侶「あの方の事は勇者さんに任せて、私達も今自分に出来る事をしましょうよ?」

天童「……ん?」

女僧侶「ほら? 道具屋の方が、困ってるようですし……」


「あたた……転んじまったよ……くそぉ、逃げられちまったか……」


天童「……なるほどね」

女僧侶「それに……商品だって、あんなに散らばってます。私達はこっちをなんとかしましょうよ? ねっ?」

天童「あぁ、そうだなっ! おい、ばばぁ! おめぇ、大丈夫か!?」


「ん……? あんたらは……?」


天童「俺達はよぉ? 冒険者の勇者御一行だっ! あのコソ泥はよぉ? 俺達が絶対、改心させてやるから、まぁ大船に乗ったつもりでいときんしゃんっ!」

女僧侶「さぁさぁ、先ずは傷の手当てをしましょう……」

ーーーーー


勇者「はぁ……はぁ……」

勇者「くそっ……! あいつ……何処に行ったんだ……」キョロキョロ

勇者「まだ、そんなに遠くまで逃げてないはずだっ……きっと、まだ近くにいるはずだからっ……」

勇者「……ん?」


男盗賊「はぁっ……はぁっ……」ゼエゼエ


勇者「……いたっ! あそこだっ!」

勇者「よし、後はあいつを説得して……ん、待てよ……?」

勇者「……」

勇者「説得……どういう風にすればいいんだ……それって……」

勇者「……」

勇者「俺は……あの時、どういう風に説得されたかったんだろう……? 引き篭もってた時、心の底でどんな言葉を求めてたんだろう……?」

勇者「多分、その言葉俺をが……あいつに言ってやらないと……あの時と同じように、届かないんだろうな……」

男盗賊「よし……これだけ盗めば……しばらくは食っていけるな……」

勇者「おいおいっ! 男盗賊? 久しぶりなのに、素っ気ない態度じゃねぇか?」

男盗賊「!」

勇者「お前、やっぱり、足早いんだな? いや~、俺もここまで追いかけてくるの疲れたよ……」

男盗賊「……勇者!」

勇者「なぁなぁ? 今日は何、盗んだんだ? 見せてくれよ?」

男盗賊「……」

勇者「おいおい……隠す事はねぇじゃん……いつもみたいにさぁ……? 盗んだ物、見せてくれよ?」

男盗賊「……やめろっ! これに触るなっ!」

勇者「なんでだよ……お前、いつもかっぱらったエロ本、見せてくれたじゃねぇかよぉ? 今回はなんだ? 洋モノなのか?」

男盗賊「……」


勇者(俺は……変わらない態度で接してほしかった……!)

勇者「でも、おめぇさぁ? かっぱらってきたのはいいけど……金置いてきたのか?」

男盗賊「……あぁ?」

勇者「おめぇはさぁ……? 未成年で販売して貰えないから、いつもいつも、エロ本かっぱらってたじゃん?」

男盗賊「……」

勇者「でもよぉ? おめぇ、ちゃんと盗んだ分の代金は、いつも店に置いていてたじゃねぇかよ? おめぇ、今回はソレ、忘れてねぇか?」

男盗賊「……お前、いつの話してんだよ」

勇者「おめぇがそうやって、ポリシー持って盗みしてたからさぁ? 俺は安心して性教育の勉強が出来たってワケだ! なっ?」

男盗賊「……お前には、こんな姿見られたくなかったな」

勇者「金置いていかなかったら、本物の泥棒じゃねぇか!? なっ? 今から、バレねぇように金払いに行こうぜ?」

男盗賊「……」

勇者「俺も盗んだ物でなんか、性教育の勉強したくねぇからよぉ? で……盗んだエロ本、早く見せてくれよ? なっ?」

男盗賊「……懐かしいな。いつも、お前と二人で悪さばかりしてたな」

勇者「おめぇと付き合うのは、姉ちゃんと母ちゃんにこっ酷く叱られたたけどな!」

男盗賊「あの頃から……俺は悪党だったのかな……」

勇者「いやいや、そんな事はねぇよ? 父ちゃんは理解してくれててたよ?」

男盗賊「……お父さんが?」

勇者「あぁ、父ちゃんだってよぉ? そういうのに、興味を持つのは健全な男の証拠だって、言ってた言ってた」

男盗賊「……そうか」

勇者「お前達がゲイじゃなくてよかったって、笑ってたよ! 金を置いてきてるなら、いいじゃねぇかって言ってくれてた!」

男盗賊「勇者さん……あなたが魔王を倒したはずなのに……こんな世界になってしまうなんて……」

勇者「だからよぉ? 今から、金払いに行こうぜ? 俺だって、天国の父ちゃんに怒られたくないからさ?」

男盗賊「……勇者?」

勇者「ん、どうした? 金払いに行くの?」

男盗賊「俺だって……あの頃に戻りたい……でも、もう無理なんだ……」

勇者「……はぁ?」

男盗賊「俺はもう……本当の悪党になってしまったんだ……」

勇者「何、言ってんだ? おめぇ、変なもんでも食ったか?」

男盗賊「もう、俺の事は放っておいてくれっ!」ダッ

勇者「お、おいっ! 待てよっ! 逃げんじゃねぇよっ!」ダッ


男盗賊「……お、追ってくるんじゃねぇよっ!」

勇者「うるせっ! おめぇは放っておけるかってのっ!」

男盗賊「く、くそっ……! こうなりゃ……振り切ってやるっ……!」ダダッ

勇者「あっ! くそっ、スピード上げやがった! ……でも、こっちだって、命がかかってるんだから、逃がしてたまるかよっ!」ダダッ

ーーーーー


街長「そうか……君達は魔王城に向かうのか……」

女僧侶「はいっ!」

天童「まぁ俺達、勇者御一行様が魔王討伐して、この街も救ってやるから、もう少しの辛抱だぜおっさんっ!」

街長「期待しておくよ。しかし、この辺りの魔物は気性が荒い……気をつけてくれよ?」

女僧侶「大丈夫ですっ!」

天童「皆で力を合わせりゃ、なんとかなるって! あんたらだって、そうやって毎日必死に生きてるんだろ? なっ?」

街長「そうだ……君達に魔物以外でも、気をつけてもらいたい事がある」

女僧侶「……何ですか?」

天童「勿体ぶらずに言えよ、おっさん!」

街長「最近……各地の街を荒らしては移動を続けている盗賊団がいるのだが……どうやら、その盗賊団がこの付近にいるらしい」

女僧侶「……盗賊団?」

天童「……あいつ、一人で盗みやってるワケじゃねぇのか」

街長「盗賊団の名は『暴走天使(ミッドナイトエンジェル)』……10名程の大部隊な盗賊団だ……」

女僧侶「ミッドナイト……エンジェル……?」

天童「うわっ、 厨二臭っ! 何、そのネーミング!? 暴走族じゃねぇんだからよぉ?」

街長「名前は厨二臭いが……実力は本物らしい……先程、この街も襲われたよ……」

女僧侶「……」

天童「……あの野郎。少ない物資を皆分け合って協力している街なのによぉ」

街長「まぁ、君達も彼らに身ぐるみを剥がされないように、気をつけてくれ」

天童「……ったく、10名程の盗賊団だってよ?」

女僧侶「……勇者さん、大丈夫でしょうか?」

天童「改心させねぇといけねぇ人数増えちまったじゃねぇか……大丈夫かねぇ……?」

女僧侶「……私達も手伝います?」

天童「状況が悪化してきたからなぁ……? 俺達も手助けしねぇといけねぇのかねぇ?」

女僧侶「あっ……でも、勇者さん……何処に行ったんでしょうか……?」

天童「個人行動許すべきじゃなかったかもなぁ~? まぁ、とりあえずは、ここで待とうか?」

女僧侶「……えっ?」

天童「もう、そろそろあいつも腹が減って戻ってくるだろ?」グゥー

女僧侶「……天童さん、それ自分の事、言ってません?」

天童「バ、バカ~ンっ! 昼になったらよぉ? 誰だって、腹は減るぜ?」

ーーーーー


勇者「……くそっ! 見失なったかっ!」

勇者「あいつ、足早ぇな……そんないいもん、盗みなんかに使わねぇで、別の事に使えよ……」

勇者「くそぉ……やっぱり、俺一人じゃ無理なのかなぁ……」

勇者「……」

勇者「……でも、天童や女僧侶ちゃん一人で俺に向かい合ってくれて、俺を変えてくれたしなぁ」

勇者「……」

勇者「出来ない事なんてないよ……簡単に諦めちゃダメだよなぁ……」

勇者「う~ん……」グゥー

勇者「くそぉ……腹減ってきたなぁ……とりあえず、一度街に戻って……二人に相談してみるか……」

短いけど今日はここまで






PM1:00

タイムリミットまで後、9時間





勇者「……」トボトボ

天童「お~! 勇者、戻ってきたか! 大丈夫だったか?」

勇者「う~ん……途中で逃げられて……見失っちゃったよ……」

天童「おめぇは、何やってんだよぉ……って、言いてぇ所だけどよ……?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇが想像してるより、ややこしい事になってると思うぜ? あのコソ泥はよぉ? 見失って正解かもな?」

勇者「えっ……? それって、どういう事……?」

天童「まぁ、詳しい事はよぉ? 飯を食いながらでも話そうぜ? おじさん、お腹減ってもう動けな~い」

勇者「そ、そうだね……もう1時だし、話は酒場でご飯食べながらでもしようか?」

酒場の主人「へい、らっしゃい。注文は何にするんだい?」

勇者「じゃあ、俺はA定食で……女僧侶ちゃんはどうする?」

女僧侶「私はB定食にします。天童さんは?」

天童「俺はよぉ? この海鮮鍋ってのにするよっ!」

勇者「……何で鍋なの? 何で、昼から鍋食うの?」

天童「メニューにあるからじゃねぇかよぉ!?」

勇者「昼だよ? まだ、お昼だよ? おめぇ、今日は一段とおかしいもん、頼んでるぞ?」

天童「うるせぇなっ! 食いたいもん食って何が悪いんだよぉ!?」ギャーギャー

勇者「おめぇのそういう所が恥ずかしいんだよぉ! なっ? 天童君、改心しよう? 改心しましょうよ!?」ギャーギャー


主人「A定食と、B定食と、海鮮鍋だな……今から作るから、少し待ってくれ」

勇者「……で、天童?」

天童「……ん、どうした?」

勇者「あいつが、ややこしい事になってる……って、どういう事?」

天童「あぁ……あの、コソ泥……盗賊団に入ってるらしいんだよ……」

勇者「盗賊団……?」

天童「10名程の大部隊の盗賊団らしいよ……街を荒らして……転々としてるらしいぞ?」

勇者「なんで……なんで、あいつ盗賊団なんかに入ったんだろ……?」

天童「盗賊団の名前は……『暴走天使(ミッドナイトエンジェル)』だってよ? どう思うよ?」

勇者「うわっ! 何で、そんな厨二臭い暴走族みてぇな所に入るんだよ!? センス悪ぃな、アイツ!」

天童「なっ、なっ? おめぇもやっぱり、そう思うよな!? ネーミングセンスねぇよな!?」

女僧侶「天童さん……問題点はそこじゃありませんよ……」

天童「あぁ、そうだったそうだった! なぁ、勇者? おめぇ一人で大丈夫か?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「いくら……あの方が勇者さんの幼馴染だからと言っても……」

天童「……相手は10人もいるんだぜ?」

勇者「そ、それは……」

女僧侶「……私達も協力しましょうか?」

天童「10人も改心させるなんてよぉ……? いくら、おめぇが成長してるからって、ちょっと無謀じゃねぇか?」

勇者「う~ん……そもそも、何であいつ、盗賊団になんか入ったんだろ……? なんか、理由がありそうなんだけどなぁ……?」


主人「へいっ! A定食と、B定食と、海鮮鍋、おまちっ!」

勇者「あっ、ありがとうございますっ!」

女僧侶「美味しそうですね」

天童「でもさ? ちょっと量が少なくね? 俺はも~っとガッツリ食いてぇなっ!」

勇者「……昼からガッツリ食うな。昼からよぉ?」


主人「……悪ぃな、兄ちゃん達」

勇者「……ん?」

主人「これだけ、魔王城が近いとよ……? やっぱり、食材だって簡単には仕入れる事が出来ねぇんだよ」

女僧侶「そうですよね……」

主人「世界が平和だった時は、もっといい物出してたんだぜ!? うちの店は『美味しいB級グルメ店』なんて、雑誌にも乗った事があるんだぜ?」

天童「……B級じゃダメじゃねぇかよ」

主人「兄ちゃん達がよぉ? 魔王倒して、世界が平和になったらよぉ? 最高のB級グルメを食わせてやるから、頑張ってくれよな!」

勇者「あはは、期待してますよ」

主人「……ったく、しかし魔王だけじゃなくて、バカな盗賊団も現れたときたもんだ」

勇者「……えっ?」

主人「この街はよぉ? 少ない物資を皆分け合って、頑張ってるってのに……どうして、それを奪っていくかねぇ!?」

勇者「……」

主人「同じ人間のはずなのによぉ? どうして、平気で他人を傷つける事が出来るんだよ! 本当、ゴミクズみてぇな奴だよっ!」

勇者(……ゴミクズ)

主人「兄ちゃんも盗賊団に襲われないように気をつけてくれよ? 世界を救う為に頑張ってる人間がよぉ? バカなゴミクズに邪魔されるなんて、俺そういうの嫌だからよぉ!?」

勇者「は、はい……」

勇者「……」

天童「……どうした、勇者?」

勇者「……」

天童「おい、勇者! 聞いてんのか!? どうしたんだよ、ボケっとしてよぉ?」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……ん?」

勇者「おめぇもさぁ……? アイツの事、ゴミクズだと思う……?」

天童「……」

勇者「やっぱり……こうやって、他人を傷つけてるって……ゴミクズがする事だと思う……?」

天童「う~ん……おめぇの幼馴染だからなぁ……あまり、キツい事は言いたくねぇんだけどなぁ……」

勇者「……えっ?」

天童「ゴミクズがどうかはわかんねぇけどよぉ……? やっぱり、ダメ人間だとは思うぜぇ?」

勇者「ダメ人間かぁ……」

天童「……だから、こうやって命題が来たんじゃねぇか? そうだろ?」

勇者「……ねぇ、女僧侶ちゃんはどう思う?」

女僧侶「私も……あの方の事を全て理解してるわけではありませんが……」

勇者「……うん」

女僧侶「やっぱり、間違った道を歩んでいると思います……」

勇者「……」

女僧侶「それが、勇者さんの知り合いだったら……救ってあげるべきなんじゃないですかね……?」

勇者「……そうだよね」

女僧侶「午後からは、私達も協力しますから……頑張りましょうよ、勇者さん!」

勇者「……」

天童「相手は10人いるらしいからな! まぁ、俺も協力してやるよ!」

勇者「う~ん……気持ちは嬉しいんだけどさぁ……?」

女僧侶「?」

勇者「やっぱり……俺、一人でやってみる……」

天童「おいおい! 相手は10人いるんだぞ!? おめぇ、一人で出来るのかよ!?」

勇者「いや、違う……天童、そこじゃないんだ……」

天童「……あぁ?」

勇者「いや、なんて言ったらいいのかな……俺が、引き篭もってる時にさ? 俺を外に出そうと頑張ってくれた人達がいるんだよ……」

天童「……ほぅ」

勇者「母ちゃんの知り合いとか……姉ちゃんの知り合いとか……色んな人が俺を外に出そうとしてくれてたんだ」

天童「……」

勇者「でも……俺、その人達の言葉で、立ち上がる事が出来なかった……」

勇者「やっぱり、姉ちゃんの弟だから……何とかしてあげよう……とかさ?」

女僧侶「……」

勇者「世間的に恥ずかしい事だから……何とかしてあげよう……みたいな気持ちを感じてたのかもしれない……」

天童「……」

勇者「なんか……二人の協力はそれと同じような事なんじゃないかって……俺、自分がそうだったから、思うんだよ」

女僧侶「……勇者さん」

勇者「俺があの時、本当に欲しかったのは、居場所のないダメな自分の存在全てを受け入れて人だったのかもしれない……」

天童「……そうか」

勇者「やっぱり、二人じゃ無理だよ……あいつに一番近いのは俺だもん……仲の良さだけじゃなくて、環境もさ?」

女僧侶「勇者さん、あの方と、どういった関係だったんですか?」

勇者「あぁ、アイツ? アイツは俺のエロの師匠だよ?」

天童「……エロの師匠? なんだ、そりゃ?」

勇者「いや、アイツ、いつもエロ本盗んでさぁ? 俺にも見せてくれた、いい奴なんだよ」

女僧侶「いつの話ですか……? そんな、若い時から盗みをしてたんですか?」

勇者「いやいや、盗んでない盗んでない! 販売して貰えなかったから、そういう手段で、手に入れてただけでさ? その分の代金はいつも店に置いてきてたよ?」

天童「だったら、問題はねぇな。 いい奴じゃねぇか! 思春期にエロ本恵んでくれる奴に悪い奴なんているワケねぇよ!」

勇者「なっ、そうだろ? だから、そういう、手癖の悪さみたいなのにさ……目をつけられて、盗賊団なんかに誘われたんじゃねぇかな? あいつは」

女僧侶「そういう問題ではありませんっ! 勇者さん、ダメですよ! そんな本、盗んじゃ!」

勇者「だから、盗んでないって……あいつ、いつも金は置いてきてたんだから。 あれは正しい性教育の勉強だって!」

女僧侶「も~う……男の人そういう所って、私理解できませんっ!」プイッ

勇者「なんで、女の人ってこういう態度なんだろ……? 天童はわかるよな?」

天童「あぁ、俺はわかるよ! 思春期のエロ本なんて、男のロマンだろ! 昔は河原によく、ビニ本探しに行ったもんだぜ!」

女僧侶「……天童さんまで」

勇者「だからさぁ? あいつの悪い所を探すのは簡単だけど、いい所を探せるは、付き合いの長い、俺ぐらいしかわからないと思うんだよね?」

天童「そんな事ねぇぞ! 俺は、そこそこ理解したぜ!」

女僧侶「も~う……本当、男の人って……」

勇者「だからさ? やっぱり、俺一人にやらせてよ? これは俺が一人でやらなくちゃいけない事だと思うからさ?」

天童「まぁ、あいつの心を動かせるのは、お前が適任だと思うけどよぉ? 盗賊団には気をつけろよ? 10人いるらしいからよ?」

天童「ところでよぉ、勇者?」

勇者「……ん、どうしたの?」

天童「長話してたら、もう3時だ。後、7時間しか残ってねぇぞ?」

勇者「えっ? もう3時っ!? 大変じゃん!」アセアセ

天童「う~ん……デザートは何にしようかぁ……プリンにしようかな……あっ、御手洗団子なんてのもあるのか!」

勇者「おいおいっ! メニューなんて呑気に眺めてる場合じゃねぇだろっ! 出るぞっ! 店から出るぞっ!」

天童「あれ? デザート食う為に、3時まで時間潰してたんじゃないの、勇者君?」

勇者「おめぇはよぉ!? 時間ねぇのはおめぇが一番よく知ってんだろがっ! 俺を殺す気か! このダメ天使っ!」

天童「冗談だよ、冗談っ! そんなに怒らなくてもいいじゃねぇか!」

勇者「あっ……すいませんっ! それじゃあ、お会計ここに置いておきます……」

主人「……お、おう」

女僧侶「美味しかったです。必ず、また来ますね?」

天童「次に来るのは、魔王倒した後だからよぉ? 超A級のB級グルメ食わしてくれよなっ!」

勇者「Aだか、Bだか……もう、わけわかんねぇよ……あっ、それじゃあ、ご馳走様でした~」

主人「……」


天童「でもよぉ? それ言うなら、最高級のB級グルメってのも、ワケわかんねぇぜ?」

勇者「絶対に八割型成功する自信がある……とかもね?」

天童「おめぇがいかにも、使いそうな言葉じゃねぇかソレ! って事は、おめぇはB級勇者って事か?」ヤイヤイ

勇者「俺はB級じゃねぇってのっ! おめぇこそB級天使だろがっ!」ヤイヤイ


主人「……」

ID変わっちまったか
今日はここまで

ーーーーー


勇者「じゃあ、俺……今から、あいつを改心させてくるよ!」

天童「それはいいけどよぉ……? おめぇ、逃げられたんだよな? 何処に逃げられたかはわかってんのか?」

勇者「……えっ?」

天童「あぁ? 何だ? おめぇ、闇雲に探そうとしてたのか? 後、7時間しかねぇんだぞ?」

勇者「う、う~ん……あいつ、何処ににげたんだろう……」

天童「カァ~! 情けなかぁ~! もう、たまらぁ~ん! たまらぁ~んっ!」

勇者「でも……やっぱり、ここで立ち止まってるよりかは……わからなくても探すしかないよ……」

天童「まぁ、そうだけどよぉ……?」


女僧侶「……あの~、勇者さん?」

勇者「……ん? どうしたの、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「残りの9人の盗賊団は、何処にいるんでしょうね?」

勇者「……えっ?」

女僧侶「ほら、私達が見かけたのは勇者さんの幼馴染の方だけですし……盗賊団の仲間は今、何をしているんでしょう?」

天童「そういえば、そうだな……だから、多分……仲間と合流しに行ったんじゃねぇか?」

女僧侶「だから……その仲間を見つければ、きっとあの方もそこに……」

勇者「なるほど……盗賊団のアジトを探せば……きっとアイツはそこにいるんだな……」

天童「こんな、魔王城の近くでよぉ? 危険な魔物がいる場所での隠れ家なんて、ある程度は絞られてくるんじゃねぇか?」

勇者「うん、そうだね!」

天童「なぁ、勇者? でもよぉ?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇの友達のコソ泥、なんで個人行動で盗みなんかしてたんだろ?」

勇者「……えっ?」

天童「仲間がいるんだったらよぉ? 皆で協力して、盗みをすればいいじゃねぇか。まぁ、ダメな事なんだけどね!」

勇者「そういやそうだな……こんな危険な大陸で、わざわざ個人行動する事ないよな……10人も人数がいるんだったら……」

天童「……なんかさぁ? おめぇの友達、いいように利用されてるんじゃねぇか?」

勇者「う~ん……そうかもしれない……」

天童「まっ、捕まえたら全部わかる事だなっ! それじゃあ、皆で行動始めましょうかっ!」

勇者「いやっ……天童、今回は俺一人で……」アセアセ

天童「……そんな事はわかってんだよ、バーカっ!」

勇者「……えっ?」

天童「そいつの説得はよぉ? おめぇ、一人にやってもらうよ。おめぇ一人によぉ」

勇者「……」

天童「おめぇが、自分が受けた優しさを……今度は誰かに伝えたいんだろ? この命題はそういう意味だと思うんだろ?」

勇者「う、うん……」

天童「でもよぉ? 居場所がわからねぇんだったら、伝えようがねぇじゃねぇかっ!? だから、アジトは皆で探すんだよ!」

勇者「……そうだね」

天童「アジトに乗り込むのはおめぇ一人でやればいいよ。 俺も、女僧侶ちゃんも……おめぇの事、信じてるからよぉ?」

勇者「ありがとう……」

天童「まっ、とにかく今は情報収集だ! この辺で、盗賊団が隠れれそうな場所、手分けして探してみようぜ!」

勇者「うん、わかったっ!」






PM5:00

タイムリミットまで後、5時間




天童「おい勇者、どうだったよ? あのコソ泥は見つかったか?」

勇者「う~ん、ダメだった……街の外でキャンプができそうな場所、色々と探してみたんだけどね……」

天童「街の外にはいなかったか……街の中にもいなかったぜ……」

勇者「……そうなんだ」

天童「あぁ、路地裏とかよぉ……? 土管の中とか探してみたけど、全く手がかりなしだぜ……」

勇者「……おめぇさぁ? 猫探してるんじゃねぇんだぞ?」

天童「やっぱり、マタタビ持って探した方がよかったかな? あっ、それとも魚かな!? じゃあ、今から酒場に行って、お魚譲ってもらおうか?」

勇者「おめぇは、ちゃんとやれよっ! これ、街の中だろ!? 盗賊団、絶対街の中にいるだろ!?」

天童「勇者君、冗談だよ冗談っ! 街の中もちゃんと探したって!」

勇者「……おめぇはもう、信じない。女僧侶ちゃんが情報なしだったら、街の中を探す」

天童「だから、冗談だって! ちゃんと探したってば! おめぇの命もかかってるんだからよぉ!?」

女僧侶「あっ、勇者さ~んっ!」

勇者「あっ、女僧侶ちゃん、何か情報はあった?」

女僧侶「いえ、私も天童さんと街の中を探したんですけど……そもそも、この街……10人も隠れれるような場所ありませんでした……」

勇者「女僧侶ちゃんがそういうなら、間違いはなさそうだな……じゃあ、やっぱり街の外なのかな……?」


天童「あっ、勇者君酷いっ! おじさんだって、ちゃんと探したのにっ!」

勇者「……おめぇの事はもう信じないって言ったもん」


女僧侶「あの~、勇者さん……ですからね……?」

勇者「……ん?」

女僧侶「私は、10人隠れれそうな場所がこの近辺にないか……街の人達に話を聞いてたんですよ」

勇者「ほう……それで、何か手がかりはあった……?」

女僧侶「そしたら、ですね? この街から北に行った所に、森があるらしいんですけど……」

勇者「あ~、そこは俺、探しに行ったけど、いなかったよ?」

女僧侶「その森の中に、洞窟があるんですって?」

勇者「えっ……? 洞窟……? そんなの、あったかな……?」

女僧侶「街の人達、その洞窟は魔物が寄り付かない神聖な洞窟だって言ってました」

勇者「魔物が寄り付かないんだったら……アジトにはぴったりじゃないか、それ!」

女僧侶「だから……盗賊団はそこいるんじゃありませんかね?」

勇者「きっと、そこだっ……! あいつはそこにいるんだっ……!」


天童「ねぇねぇ、勇者君……見逃してるじゃん……君、洞窟見逃してるじゃん……なのに、何でおじさんに偉そうに言うのかね?」

勇者「よしっ! じゃあ、今から俺、そこに行ってくるよ!」

女僧侶「……はい」

勇者「二人は……街で、魔王城に乗り込む為の準備をすすめておいてくれ」

天童「おいおい、勇者……待てよ、ちょっと待てよ……」

勇者「……ん?」

天童「……おめぇよぉ? 俺と二人で薬草取りに行った時の事、忘れてねぇか?」

勇者「……えっ?」

天童「あの時はよぉ? 本当は女僧侶ちゃんがいたら、楽勝だったんだ! それを、おめぇが一人で背負い混んで、死にかけちまったんだよなぁ?」

勇者「そ、そうだった……」

天童「今回もよぉ? 似たような事になってんじゃねぇのか? おめぇ、一人で行って大丈夫なのか?」

勇者「……」

天童「俺と女僧侶ちゃんは……おめぇの一言で……いつでも動くんだぜ?」

勇者「天童……女僧侶ちゃん……」

女僧侶「……」

天童「……」

勇者「正直、不安はあるよ……何か、予想外のトラブルが起きるかもしれない……盗賊団の強さだってわからない……」

女僧侶「……」

天童「……」

勇者「それに……俺の言葉だけで、あいつの心を動かせるかどうかもわからない……二人がいた方がいいかもしれない……」

女僧侶「……」

天童「……」

勇者「でもさぁ? 二人はそういう事を考えずに、俺に向き合ってくれたじゃん!?」

女僧侶「……はい」

天童「……おう」

勇者「俺があの時、欲しかったのはそれだったんだよ! 真っ正面から俺と向き合ってくれて! ダメな人間でも、仲間と認めてくれる人達が!」

勇者「……俺、やっぱりまだダメ人間だからさぁ?」

女僧侶「……」

勇者「二人が一緒にいてくれたら……言葉に詰まった時……何を言っていいかわからない時……二人に頼っちゃうと思う……」

天童「……」

勇者「でも……そんな言葉じゃ、あいつにはきっと届かない……自分がそうだったから……わかる……」

女僧侶「……」

勇者「……きっとあいつも、俺にその言葉を言ってもらえるのを待っているんだ思う」

天童「……なんでそう思うんだ?」

勇者「昔の話をした時……あいつ、ちょっと寂しそうな目をしたんだ……」

勇者「きっとあいつだって……昔みたいに戻りたいんだよ……でも、戻れない理由が何かあるんだよ……」

天童「おめぇは随分、あのコソ泥を信用してるみてぇだな?」

勇者「だって、友達だったもん……俺が信じてあげなきゃさ……」

天童「……まっ、人の心を動かすのは、言葉よりも、そういった感情の方が大切なのかもしれねぇな!」

勇者「……うん」

天童「まぁ、おめぇに一つアドバイスしておいてやるよ?」

勇者「……えっ?」

天童「言葉に詰まったら……自分の事を思い出せ」

勇者「……」

天童「自分がどうして変われたか……誰の、どんな言葉で心が動いたか……それと、同じ事をしたらいいんだよ」

勇者「……あぁっ! やってみる!」

天童「おめぇはよぉ? いつもいつも、死んだ目してたのに、本当変わったな! よしっ、今のお前だったら大丈夫だっ! 一人で行ってこいやっ!」

勇者「うんっ……! それじゃあ、行ってくるよっ……!」ダッ

短いですが今日はここまで

天童「救われる立場の人間だった奴がよぉ……? 他人を救おうなんて、人間変われるもんなんだな……」

女僧侶「ええ……でも、そうやって人と人は繋がって生きていくんだと思います……」

天童「……おっ? 女僧侶ちゃん、いい事言うじゃねぇか!? こりゃ、メモしておかないといかんばいっ!」

女僧侶「……えっ?」

天童「え~っと、何々……人と人は繋がって生きていくっと……」メモメモ

女僧侶「ちょ、ちょっとっ……! やめて下さいよっ……! 恥ずかしいです……」アセアセ

天童「その言葉を天童から聞いた勇者君はっと……幼馴染を改心させる為、洞窟へ向かうのであった、と……よし! これで、完成だなっ!」

女僧侶「……天童さん?」

天童「よ~し! じゃあ、俺の名言もメモした事だし、俺達は魔王城に殴り込みに行く準備をすすめておくかっ!」

女僧侶「……天童さんが言った言葉でしたっけ? ソレ?」

天童「細けぇ事は気にしちゃいかんばいっ! よしっ、じゃあ武器屋にでも行くか!」

武器屋ーー


道具屋の娘「いらっしゃいませっ! 装備をお求めですか?」

女僧侶「えぇ、我々はこれから魔王城へと向かうので……何か良い物があったら、譲って頂きたいのですが……」

娘「えっ……? 魔王城に向かう? だったら、最高級の装備を出さなきゃ……」ガサゴソ

天童「おいおい……あんたらにもよぉ? この大陸で生きていく為の護衛手段みてぇなのが必要だろ?」

娘「……えっ?」

女僧侶「我々は……余り物で十分です……何か、ありませんかね……?」

娘「でも……貴方達は魔王城に行くんですよね……? だったら、最高級の装備をお売りしないと……」

天童「いい装備はよぉ? あんたらが使って、食材取りに行くのにでも使えばいいじゃねぇか! この街には最高級B級グルメ店があるんだしよぉ?」

娘「なんか……気を使っていただいたみたいで申し訳ありませんね……貴方達に渡せる物が少なくて……」

天童「いえ、そんな事はありません……それに、貴方にはもう沢山の物を頂きました……」

娘「えっ? いや、まだ何もお売りしてませんけど……何ですか、それ?」

天童「それは……その、豊満なおっぱい……です……」


娘「……えっ?」ボインッ

女僧侶「……天童さん?」


天童「いや~、あんた、胸でかいねぇ!? それ何カップ? Dカップか? Dカップだろ?」

娘「……Fカップです」

天童「あらっ! Fカップだとさ!? こりゃ、いい目の保養になったばいっ!」

娘「……」

天童「俺のやる気もグングンと立ち上がってくるじゃありませんかっ! あっ、変な意味じゃなくてね?」

女僧侶「……天童さんっ!」

天童「ん? どうしたの、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「あなたは何の話をしてるんですか!?」

天童「あぁ、おっぱいの話だよ。 女僧侶ちゃんも、大きくするコツとかこの人に聞いてみれば?」

女僧侶「だから、そういう事じゃなくて……!」

天童「やっぱり、アレか? 牛乳とか沢山飲んだのかな? 牛乳は健康にいいからね!」

女僧侶「……天童さんっ!」イライラ

天童「やっぱりね……胸が大きいのは浪漫だよね……おじさん、そう思う」

女僧侶「も~う……男の人って、どうしてこんなにエッチなんでしょう……」

天童「そんな事ねぇよ? これが普通だよ、普通」

女僧侶「勇者さんだって……エッチですし……」

天童「まぁ、あいつはちっとムッツリ君だな」

女僧侶「幼馴染の男盗賊さんと、小さい頃にエッチな本、盗んでたんでしょう……?」

天童「まぁ、でも……男としちゃ、気持ちはわかるもんだぜ?」

女僧侶「男同士の友情って、そういう物なんですかねぇ?」

天童「そういうもんだと思うよ? ポコチンのデカさ比べ合いしたりさぁ? 男ってのはバカな事して、友情作っていくんだよ」

女僧侶「……もう、この話やめません? 天童さん、武器買いましょうよ?」

天童「おっ、それもそうだな! それじゃあ、ボインの姉ちゃん! なんか、余り物の武器見せてくれやっ!」


娘「えっ……? あっ……はい……」






PM7:00

タイムリミットまで後、3時間




勇者「はぁっ……はぁっ……」

勇者「……」

勇者「やっと、見つけた……こんな所に入口があったのか……わかりにくいよ、本当に……」

勇者「でも、この付近には魔物はいないし……アジトにするならここしかないよな……」

勇者「きっと、あいつはここにいる……それで、きっと俺の助けを待ってるはずなんだっ……!」

勇者「……」

勇者「よしっ! 乗り込むぞっ!」

勇者「……よしっ!」ジリッ

「侵入者だっ! 侵入者が来たぞっ!」

勇者「……何!?」

「弓だっ! 弓を撃つんだっ! 殺せっ!」

勇者「やばいっ……! もう、バレたのかっ!」


ヒュンッ


勇者「うおおっ! 危ねっ! 撃ってきやがったっ!」

「撃てっ! 撃つんだっ!」


勇者「相手は何人だ……? 1……2……3人か……?」


ヒュンッ


勇者「……おっと!」

「くそっ! 外れたか!」

勇者(……何処から撃ってきてるんだ? 発射してくるポイントを探さないと)キョロキョロ


ヒュンッ


勇者「……見つけたっ! そこの岩陰に隠れているなっ!」

勇者「そこに隠れているなっ! くらえっ!」

「!」

勇者「うおおおぉ!」ダッ

「う、うわあぁ……!」

勇者「くらえっ! って、えっ……?」ピタッ

子供「うぅ……うぅ……」ガタガタ

勇者「……子供? どうして子供がこんな所に?」

子供「来るな……来るなぁ……」

勇者「あいつ、子供を利用して……何か、企んでいるのか……?」

「逃げろっ! ジローっ!」


ヒュンッ


勇者「……うおっと!」

子供「ここは俺が何とかするっ! だからお前も逃げるんだっ!」

勇者「……あそこにも、子供?」

子供「おいっ! 何やってる、サブローっ! お前もあいつを撃つんだっ!」


ヒュンッ


勇者「う、うおっと……!」

子供「あぁ! 俺達、暴走天使(ミッドナイトエンジェル)の力を見せてやろうぜ! イチローっ!」

勇者「……どうなってるんだ? 子供ばかりじゃないか、この盗賊団は」

ヒュンッ


勇者「お、おいっ! 待てよっ!」

「撃てっ! 撃つんだっ!」

勇者「やめろっ! 俺は君達を捕まえにきたんじゃないっ!」


ヒュンッ


勇者「う、うおっ……! やめろっ! 俺の話を聞けっ!」

「くそっ! あいつ素早いぞ!」

「でも、俺達が何とかしないと……」

勇者「俺は、男盗賊って奴と話をしに来ただけだっ!」


ヒュンッ


勇者「うおっ……! くそっ! お前ら、俺の話を聞けよ!」

勇者「くそっ……! こうなりゃ、力づくで……」ギリッ

子供「くっ……! あいつ、剣を構えるやがったぞっ! 構えろっ! 来るぞっ!」

勇者「峰打ちだっ……! 少し痛むが、許してくれっ……!」ダッ

子供「来たっ……! 俺の所に来たっ! 皆、助けてくれっ……!」

勇者「うおおおぉぉっ!」

子供「う、うわあぁっ!」ビクッ


ピタッ


勇者「……くそっ!」

子供「と、止まった……?」

勇者「……なんで、こうなるんだよ」

子供「……えっ?」

勇者「こんな力づくでさ……? 相手を押し付けるような事してさ……?」

子供「……」

勇者「これじゃあ、俺の事……無理矢理外に出そうとした大人と同じじゃねぇかよ……」

子供「……」

勇者「言葉が出ないからって……諦めちゃダメだ……天童や女僧侶ちゃんは、それでも俺と向き合ってくれたんだから……」

子供「……何、ブツブツ言ってんだ、コイツ?」

勇者「俺が望んでいた物……俺が望んでいた事……それは……」


コロン


子供「……えっ?」

勇者「子供達、聞いてくれ! 俺は君達に危害を加えるつもりはないっ!」

「……」

勇者「その証拠に……今、俺は剣を捨てた! そこから、見えるだろ!?」

「……アイツ、何やってんだ?」

勇者「俺は君達の仲間の、男盗賊という奴に話があるだけだ!」

「で、でも……剣を捨てたって事は……」

勇者「この奥にアイツはいるんだろ? 悪いが通してもらいたいっ!」

「……あぁ、大チャンスだよなぁ?」

勇者「……ん?」

今日はここまで

「撃てっ! 撃つんだっ! 相手は丸腰だぞっ!」

「おうっ!」

勇者「やめろっ! 俺は君達に危害を加えるつもりなんてないんだっ!」


ヒュン、ヒュン


勇者「う、うおっ……!」

「くそっ……! あいつ、なんて素早い奴だっ……」

「くそっ……! でも、男盗賊さんは怪我してるんだ……俺達がここでなんとかしないと……」

勇者「……えっ? アイツ、怪我してるのか? どういう事だ!?」

勇者「おい、 子供達! それはどういう事なんだっ!?」


ヒュン、ヒュン


勇者「やめろっ! 撃つなっ! 俺の話を聞けっ!」


ヒュン、ヒュン


勇者「だから、やめろって言ってんだろがっ! 俺はアイツが悪い事をしているから、説得しに来ただけなんだっ!」

子供「……男盗賊さんは、悪い人なんかじゃねぇよ」

勇者「……何?」

子供「居場所のない……俺達の面倒を見てくれる、天使みてぇな人なんだ、あの人は……」

勇者「……どういう意味だ?」

子供「おめぇらみてぇな奴らばかりだから、俺達の居場所がなくなって、あの人が苦労するんだよっ! くそっ! くらいやがれっ!」


ヒュン


勇者「やめろっ! 頼むから、俺の話を聞いてくれっ!」






PM8:00

タイムリミットまで後、2時間





天童「勇者のヤツ、大丈夫かねぇ……?」

女僧侶「……信じましょうよ。勇者さんって、いつも前向きで一生懸命ですもん。きっと大丈夫です」

天童「まぁ、女僧侶ちゃんがそういうなら……俺も信じてやってもいいかな……?」

女僧侶「えぇ、信じましょう」ニコッ

天童「じゃあ、帰ってきたあいつがすぐにでも休めるように、俺達は宿屋の受付でもいくか?」

女僧侶「えぇ、そうしましょうか」


「おい、お前達……動くな、そこで止まれ……」

天童「……ん?」

女僧侶「……ん?」

街長「……動くな。動くじゃないぞ、お前達」

天童「何だよ、街長のおっさんじゃねぇか? 怖い顔してどうしたんだ?」

街長「……」

女僧侶「あの……街長さん……?」

街長「お前達には騙されたよ……完全にな……」

天童「騙す……? 何、言ってんだよ、街長さんよぉ……?」

街長「おいっ! お前達っ!」

女僧侶「……ん?」


ゾロゾロ……ゾロゾロ……


街人「……」

街人「……」

街人「……」

女僧侶「皆さんどうしたんですか……?」アセアセ

天童「おいおいっ! お前ら、そんな武器持って、包囲してどういうつもりなんだよオイっ!」


街長「演技はもうよい……お前達……暴走天使(ミッドナイトエンジェル)の者だな……?」

女僧侶「……えっ?」

天童「おいおいっ! 俺達はそんな厨二臭ぇ暴走族になんか入らねぇよ! 何、言ってんだよ! 街長さんよぉ!?」

街長「……酒場の主人と、道具屋の娘がお前達が盗賊団の頭と仲間という情報を聞いたそうだが?」

女僧侶「……えっ?」

天童「……んっ?」

街長「……そうだな? 酒場の主人よ?」

主人「はい、街長……こいつらはあの盗賊団の仲間です。私の店で話しているのを聞きました」

天童「ちょっと待て、ちょっと待てっ! 俺達はあんたの店でちゃんと金払ったじゃねぇか! 盗賊団なんかじゃねぇよ!」

街長「だが、盗賊団とは仲間なんだろう?」

主人「確か、幼馴染……とか、言っていたような気がします……」

天童「おいおいっ! 確かに、幼馴染ってのは合ってるけどよぉ! 仲間じゃねぇよっ! 仲間じゃ!」

街長「……」

主人「……」

天童「なんで、そんな目で見るんだよぉ! 俺達は盗みなんかしてねぇよっ!」


娘「そ、そんな事ないですっ……!」

天童「……ん?」

娘「この人達……私のお店の前で、えっちな本を盗んでいるって話をしたましたっ……!」

街長「……エロ本?」

天童「あぁ、それはよぉ? 若気の至りってヤツじゃねぇのか? ホラ、思春期だったら、皆エロ本ぐらい盗むじゃん?」

娘「……」

街長「……ボロが出たな? 自分で盗みを認めるじゃないか?」

天童「えっ……? あっ、こりゃ違うよっ! 昔の話だって、昔の話っ!」

娘「あの、街長……それに、この人……」モジモジ

街長「……どうした?」

天童「なんだよ、まだあんのかよ……?」

娘「あの、この人……私の事、いやらしい目で見てたんですよ……」

街長「……どういう事だ?」

娘「あの……私の胸をジロジロと舐めるように見てて……」

街長「……」

天童「いや、見るでしょ!? それだけのボインが目の前にあったら、普通見ちゃうでしょ!?」

娘「おっぱい大きいね……揉ませてよ……なんて、いやらしい事も言われました……」

街長「……何?」

天童「待てっ! 言ってねぇぞ! 流石の俺も、そこまでは言わねぇよっ!」

娘「このままじゃ私、この人に犯されちゃいますっ……! この人、目が怖いですもんっ! 悪党の目をしてますもんっ!」

街長「……」

天童「……お嬢様ちゃん、よく見なよ? ほら、僕の目はこんなに澄んでるんだよ? これは天使の目だよ、きっと」キラキラ


娘「……いやらしい」

街長「……汚れている」

女僧侶「無理矢理、善人の目に見せようとしている……って、感じがしますかね……?」


天童「うわっ! 女僧侶ちゃんまで! 皆、酷かぁ~!」

街長「よし、お前らっ! こいつらを捕らえろっ! 我々の街を守るんだっ!」


「はっ!」 「縛れっ! 縄でこいつらを縛るんだっ!」

天童「おいっ! やめろよ、お前らっ! お前ら、勘違いしてるってばっ!」

女僧侶「痛っ……やめ……やめて下さい……話を聞いて下さいっ……!」


主人「……街長?」

街長「……どうした?」

主人「もう一人……仲間がいました。話の内容からするに、どうやらそいつが主犯格だと……」

街長「おそらく、そいつは……この仲間合流する為に、この街戻ってるるだろう……」

主人「そうですね。宿屋の前で張ってれば、捕まえる事ができるでしょう。 流石にこんな場所に野宿が出来る場所なんてありませんからね……」

街長「この二人を人質として……そいつを捕らよう……そして、纏めて始末しよう」

主人「そうですね……あの二人を今、始末するのは簡単ですが……人質として役に立ってもらいましょうか」


天童「おいっ! おめぇら、まるで悪党みてぇな事言ってんぞ! だから、勘違いだって、これはよぉ!」モガモガ

ーーーーー


勇者「……なぁ? もう、いいだろ? やめようよ?」

子供「……うるせっ! 俺が男盗賊さんを守るんだっ!」


ヒュン


勇者「……ほら? 当たらねぇよ、そんな矢なんて。 もう、通してくれよ。 俺に時間がねぇんだよ」

子供「……くそっ」

勇者「男盗賊は間違った事してるんだぞ? 俺はそれを説得しに行くだけだってば……」

子供「お前らはいつもそうだ……綺麗事ばかりだ……」

勇者「……えっ?」

子供「俺だって、そんな事はわかってるんだよ……男盗賊さんだって、わかってるはずなんだ……」

勇者「……」

子供「でも……親のいねぇ、俺達が生きるにはこうするしかねぇんだよっ……!」

勇者「……親がいない?」

子供「男盗賊さんはなぁ……? 俺達の親なんだよ……」

勇者「……」

子供「あの人が、親のいない俺達に、誰も教えてくれない生きる術を教えてくれたんだ……」

勇者「……これが、君達の生きる術なの?」

子供「そうだよ……男盗賊さんが……教えてくれたんだよ……」

勇者「……何でだよ。なんで、こんな事してるんだよ、アイツ」

子供「うるせぇっ! お前達の綺麗事はもういいんだよっ!」

勇者(親のいないこの子達を育てているのが……アイツなら……)

子供「くそっ! 次こそは必ず命中させてやるぞっ! 覚悟しろっ!」

勇者(この子達を改心させるべきなのは、俺じゃないっ……! だから……だからっ……!)

今日はここで切っとくか
最近スローペースでごめんよ

子供「うおおっ! 次こそは必ず命中させてやるっ!」

勇者「えっと……ええっと……レオリオ? ……お眠り……ああっ! 違う違うっ……」

子供「誰も助けてなんかくれないんだ……自分達の居場所は、自分達で奪い取らなくちゃいけないんだっ……!」

勇者「レム睡眠……? ムレムレパンティ……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」

子供「男盗賊さんが、そうやって教えてくれたんだっ……! うおおっ! くらえっ!」


勇者「『レムオル』?」ピカーッ

子供「くそっ! また、よけられたかっ!」

子供「……ん?」キョロキョロ

子供「おいっ! 何処だっ! 何処にいやがるっ!」

子供「くそっ……! 何処かの岩陰にあいつ、隠れやがったなっ……!」

子供「だけど……俺がここで見張ってれば……皆の所にはいけないんだから……」


勇者(……違う。もう、君の後ろにいるよ)

子供「ここは通さないぞ……絶対に通さないぞっ……!」

勇者(どうやら、この呪文は姿を消す事が出来る呪文だったらしいな……これで、この子達を傷つけずにアイツの所に行けるぞ……)

子供「俺が一番大きいんだっ……! 俺だって、男盗賊さんみたいに皆を守るんだっ……!」

勇者(君も、必ず改心させてみせるから……だから、今は少し待っててくれっ!)ダッ

ーーーーー


天童「……ったく、臭ぇ倉庫に閉じ込めやがってよぉ! あいつらは何を考えてるんだよ!」

女僧侶「どうやら……何か誤解しているようですね……」

天童「ねぇ、この場所隠し扉とかないの?」

女僧侶「……隠し扉?」

天童「ほらほら、床のスイッチ踏んだらさぁ? 壁が開いて、何処かの隠し扉が開くとか……普通、そういうのあるじゃん?」

女僧侶「……普通の倉庫には、そういう物はないと思いますよ?」

天童「なんだよ! お約束がわかってねぇよなぁ!」

女僧侶「それに……隠し扉があったとしても……こんな縄で縛られている状況では……」

天童「女僧侶ちゃん、ポケットにさぁ? ハサミとかライターとか入ってないの? ほら、映画とかでよくあるじゃん?」

女僧侶「……残念ながら、持っていません」

天童「ちくしょう……このままじゃ、盗賊団と間違えられて殺されちまうぞ? あ~んな、ダサい暴走族に間違えられたままなんて、おじさん嫌だなぁ!」

女僧侶「……大丈夫ですよ」

天童「……ん?」

女僧侶「きっと……勇者さんが、なんとかしてくれます……」

天童「……あいつも盗賊団の仲間だと思われるけどなぁ?」

女僧侶「大丈夫です……だって、勇者さん、いつもいつもこんなピンチを乗り越えてきたじゃないですか?」

天童「……」

女僧侶「今回だってきっと、大丈夫です。 だって、ただの勘違いなんですし……」

天童「……まぁね?」

女僧侶「盗賊団の方は勇者さんの幼馴染なんですから……きっと、改心させる事だって出来ますよ」

天童「……まぁ、俺もそう思うけどよぉ?」

女僧侶「だから……勇者さんを信じて待ちましょうよ? ねっ?」ニコッ

天童「……アイツだって成長してるんだし、そんな事はわかってんだけどよぉ? おじさん、ちょっとタイムリミットが心配なんだよねぇ?」

女僧侶「……タイムリミット?」

天童「あっ……! なんでもないっ! こっちの話ですわっ!」アセアセ

女僧侶「?」

ーーーーー


勇者「……」


「シローお兄ちゃん……お腹減った……」

「我慢しろ、ゴロー。 お前より、小さいロクローだって、皆の為に我慢してるんだぞ?」

「……うん」

「じゃあ、今日も勉強始めようか! 男盗賊さん、魔道書も貰ってきたみたいだしな!」

「うんっ! 僕も頑張って、男盗賊さんみたいに強くなるっ!」


勇者(……この子達も、親を亡くした子達なのかな)

「あのねあのね! 僕、呪文使えるようになったんだっ!」

「ははっ! そんな弱い呪文じゃ、男盗賊さんにはまだまだだぞ?」

「そんな事ないよっ! 悪い奴がここに来たら、僕がこの呪文でやっつけてやるんだからっ!」


勇者「!」


「そういうのは……イチロー兄ちゃん達に任せておきなさい。お前はまだ、小さいだろ? それに、泣き虫じゃないかお前」

「そんな事ないよっ! 僕だって、皆の為に戦うんだったら、怖くないよっ! 僕だって、もう出来るよっ!」

「ははっ! お前、男盗賊さんに似てきたな? じゃあ、お前が早く一人前になれるように、今日も勉強しようかっ!」


勇者(正しいと思う……正しい事してると思うよ……だけど、違う……)


「僕も魔法覚えたいっ!」

「おっ? ロクローも頑張るじゃないか! じゃあ、皆で勉強しようかっ!」

「うんっ!」


勇者(君達も……必ず正しい道を歩めるようにしてみせるからっ……!)ダッ






PM9:00

タイムリミットまで後、1時間





勇者「……」


「うぇ~ん……シチローお兄ちゃん……」

「どうしたの?」

「あのね……ハチローと鬼ごっこしてたら、こけて擦りむいちゃったの……」

「バカだな、キュウローはっ! 何してるんだよ!」


勇者(腕に……傷を負ってるな……あの子……)


「だから……お薬ちょうだい……」

「このお薬は、男盗賊さんに使わないといけないのはわかってるだろ? そんな擦り傷ぐらい、我慢しろよ!」

「……う、うん」

「男盗賊さんが、魔物に襲われて、怪我して戻って来たの見ただろ!?」


勇者「!」

「お前、その泣き虫な所、直した方がいいぞ?」

「……僕、泣き虫じゃないもん」

「俺達は一番小さいんだけど……いつまでも、男盗賊さんやお兄ちゃん達に甘えてられないんだぞ?」

「……うん」

「悪い奴が来たら……自分達で戦わないといけないんだ……男盗賊さんはいつもそう言ってるだろ?」

「……うん」


勇者(大丈夫……君達も……必ず……)


「お前、そんな泣き虫だったら、戦いなんて出来ないぞ!?」

「大丈夫……僕だって、悪い奴が来たら……戦ってみせる……」

「よしっ! じゃあ、そんな擦り傷ぐらい、我慢しようっ! なっ?」

「うんっ!」


勇者(これで……9人……あいつはこの奥にいるんだな……)

男盗賊「くそっ! らしくねぇな……ヘマしちまった……」

男盗賊「物を奪ってきたのはいいけど……森で魔物に襲われるなんて、ついてねぇなぁ……」

男盗賊「くそっ……痛ぇ……痛ぇよぉ……」

男盗賊「イチロー達に見張ってもらってるけど……やっぱり、あいつらだけじゃ心配だよ……」

男盗賊「あいつらはまだ、小さいんだから……俺が行かないと……」ググッ

男盗賊「う、うおっ……!」

男盗賊「くそっ……! 待ってろよ……俺が……必ずお前らを一人前にしてやるからよぉ……」ヨロヨロ


「……動くなよ、傷が開くぞ」


男盗賊「……誰だ?」

勇者「……大人しく寝とけよ。お前、怪我してんだからよぉ」スーッ

男盗賊「勇者っ……! お前、どうしてここにっ……!」

男盗賊「お前っ……! どうやって、ここに入ってきた……?」

勇者「……」

男盗賊「お前っ……! まさか、皆と戦って、俺をここまで追って来たのか!?」

勇者「……」

男盗賊「お前とは幼馴染だけどよぉ……? あいつらを傷つける奴は……お前でも許さねぇぞっ!」グッ

勇者「……」

男盗賊「……ぐっ! う、うおっ!」

勇者「……動くなって、傷が開くからさ?」

男盗賊「く、くそっ……」

勇者「安心しろよ……子供達には手を出してねぇよ……」

男盗賊「……えっ?」

勇者「魔法で……透明になって侵入してきただけだよ……お前に会いたくてな?」

男盗賊「……」

勇者「……座れよ? あの頃みたいにさ? お話しようぜ?」

男盗賊「……お説教のつもりか?」

勇者「……そうじゃねぇよ。 10年振りぐらいなのに、何でそんな事言うんだよ、お前」

男盗賊「……」

勇者「あの頃みたいに……地べたに座って……バカな話、二人でしようぜ?」ペタッ

男盗賊「……」

勇者「……何やってんだよ? ほら、早く座れよ」

男盗賊「……」

勇者「……おめぇ、そんなにかったりぃ奴だったか? ホレ、早く座れっての!

男盗賊「……」ペタッ

勇者「そうそう、それでいいんだよ」

男盗賊「……」

勇者「……なぁ? この十年間、何した?」

男盗賊「……はぁ?」

勇者「いやぁ……おめぇも、こっちの大陸に来てたんだな? おめぇ、見た時、ビックリしたよ」

男盗賊「……説教しに来たんじゃねぇのか? 何のつもりだ?」

勇者「おめぇ、つれねぇな? なぁ~んで、そんな事言うのかね? 十年振りぐらいなんだぞっ!? もっとテンション上げろよ!?」

男盗賊「……」

勇者「……じゃあ、俺の話からしようか?」

男盗賊「……えっ?」

勇者「いや~、実はね……俺、ついこの間まで引き篭もったままだったんだよ……」

男盗賊「……」

勇者「そんな俺が……こんな魔王城の近くまでやってきてるんだぜ? 興味わかねぇのか、おめぇ?」

男盗賊「……」

勇者「だから、なんでつれねぇんだよ、お前……まぁ、じゃあ、勝手に話すよ……」






PM9:30

タイムリミットまで後、30分





勇者「……まぁ、なりゆきで始まったような旅だけどさぁ? 人間、やれば出来るんだね? 俺も、ここまでやれるとは思わなかったよ!」

男盗賊「そうか……引き篭もってたお前が……凄いな、お前……」

勇者「そんな事ねぇよ! お前だって、凄ぇじゃねぇか!」

男盗賊「……えっ?」

勇者「お前……あの子供達、育ててるんだろ?」

男盗賊「……」

勇者「あの子達……両親、いないんだろ……?」

男盗賊「あぁ、あいつらの親は……皆、魔物に殺され……あいつらは孤児なんだ……」

勇者「そんな奴らの親代わりになってやるなんて……お前、凄いよ……」

男盗賊「……」

勇者「お前……やっぱり、俺の親友だよ……」

男盗賊「……えっ?」

勇者「……でもよぉ? 親友だからこそ、一つ言わせてくれねぇか?」

男盗賊「……あぁ?」

勇者「お前……あの子達、育てる為に……盗みしてるんだろ……?」

男盗賊「……」

勇者「それでいいのかよ? お前、本当はこんな事したくねぇんじゃねぇのか?」

男盗賊「……」

勇者「物は盗むけど、代金は払う……それがおめぇのポリシーだったじゃん!? お前今、自分の中のルールを破ってねぇか?」

男盗賊「……なんだよ」

勇者「お前……あの子達を育てるのはいいけどさぁ……? それだったら……」

男盗賊「黙れっ!」

勇者「!」ビクッ

男盗賊「……結局、説教かよ。そんなのわかってるんだよ。わかってる上で……こうやって、生きてるんだよ……」

勇者「待てよ……! 俺は説教なんてするつもりじゃ……」アセアセ

男盗賊「綺麗ぬかしてんじゃねぇよっ! これが現実なんだよっ! こうするしかねぇんだよっ!」

勇者「!」

今日はここまで

男盗賊「最初は皆、そう言うんだよ……最初はな……」

勇者「……」

男盗賊「だけど、現実はそうじゃない。こんな世界じゃ、皆自分が生きていくだけで精一杯なんだ」

勇者「……」

男盗賊「誰があいつらの面倒を見てくれる……? 誰があいつらが生きる為の金を出してくれるっていうんだ……?」

勇者「そ、それは……」

男盗賊「一番上のイチローは10歳……一番下のキュウローは4つだ……」

勇者「……」

男盗賊「あいつらが、一人前になるまで何年かかると思ってるんだ? 5年か……? 10年か……?」

勇者「……」

男盗賊「勇者……? 綺麗事だけじゃなぁ……世の中生きていけねぇんだよ?」

勇者「違う……違うよっ……! きっと、そんな事はないっ……!」

男盗賊「何で、俺達がこんな場所にいると思う? 何で、魔王城の間近で子供引き連れて旅なんかしてると思う……?」

勇者「……えっ?」

男盗賊「俺達は追いやられてんだよ……?」

勇者「……」

男盗賊「俺だって、探したよ……何年も何年も、あいつらの面倒を見てくれる人間を探したよっ……!」

勇者「……」

男盗賊「数えきれない程、頭も下げた……数えきれない程、魔物討伐だってしたっ……!」

勇者「……」

男盗賊「だけどなぁ……? そいつらは、10年育てる事の重みを感じ出すと……どいつもこいつも……掌を返し始めるんだ」

勇者「……」

男盗賊「居場所を探してたら……こんな所まで辿り着いちまったよ……どうするよ、魔王討伐でもするのか? あいつら連れてよぉ!?」

勇者「……そ、それは」

男盗賊「居場所がねぇんだったらよぉ! 自分達で作るしかねぇだろっ! 持ってる人間から少しずつ奪いとってよぉ!?」

勇者「じゃあ、お前は……後10年、続けるつもりなのかよ……?」

男盗賊「……あぁ?」

勇者「あの子供達が一人前になるまでの時間……後10年……こうやって、盗みを続けるのか……?」

男盗賊「……他に方法が何がある?」

勇者「……それは、俺にはよくわからないけど」アセアセ

男盗賊「勇者……もう説教はいいよ……そんな言葉、散々言われたよ……俺はわかった上でやってるんだよ」

勇者「でも……でもっ……!」

男盗賊「綺麗事はもういいって言ってんだよっ! 俺達の居場所なんて、どうせ何処にもねぇんだよっ!」

勇者「……違うっ!」

男盗賊「どうせ、綺麗事ばかり言って現実に直面した時には逃げる連中しかいねぇんだっ! 今までだってそうだった! これからだって、どうせそうだっ!」

勇者「簡単にどうせどうせ言って諦めてんじゃねぇよっ!」

男盗賊「!」

勇者「なぁ、男盗賊……? 俺、お前の事、親友と思ってるから言わせてくれよ……」

男盗賊「……なんだよ」

勇者「お前さぁ……? 立派だよ……凄く立派な事してると思うよ……」

男盗賊「……」

勇者「親のいない子供を育てるって事は……凄く立派な事をしてると思う……それは、世界を変える事より、立派な事かもしれない……」

男盗賊「……」

勇者「お前は……あの子達にとって、天使ような存在だと思うよ……?」

男盗賊「天使……?」

勇者「……でもさぁ? お前、言えねぇだろ? 胸張って言えねぇだろ?」

男盗賊「……えっ?」

勇者「自分は今……親のいない子供達の親代わりになって……毎日毎日、子供達の為に、一生懸命頑張ってますって……胸張って、言えねぇだろ?」

男盗賊「……生きる為には、仕方ねぇじゃねぇか」

勇者「教える立場のお前がそうだったら……あの子達、どうなるよ……? あの子達が一人前になった時、胸張ってお前に育てられたって言えると思うか!?」

男盗賊「うるせぇ! お前に何がわかるんだっ!」

勇者「俺だから、わかるんだよぉ! 親のいない子供の気持ちは、俺が一番よく知ってるんだよっ!」

男盗賊「!?」

勇者「……俺の父ちゃん、魔王討伐で死んじゃったじゃん?」

男盗賊「……」

勇者「母さんは姉ちゃんにつきっきりだったし……姉ちゃんは、そのせいで出来損ないの俺の事、見放してさぁ……?」

男盗賊「そうだった……お前……」

勇者「だから……父親から学ぶべき事って……俺、何にも教わってねぇんだ……」

男盗賊「……」

勇者「父ちゃんが、何を望んでいるのか……俺に、どうなって欲しいのか……何もわからなかった……」

男盗賊「……」

勇者「そのせいで俺、引き篭もっちゃって……どんどん、周りとの繋がりも切れていって……」

男盗賊「……」

勇者「……そのうち、俺の周りには誰もいなくなった」

男盗賊「……勇者」

勇者「……でも! そこにある日、天使のおっさんが現れたんだ!」

男盗賊「……天使?」

勇者「そいつは腐ってた俺に……正しく生きる方法を教えてくれたんだっ……!」

男盗賊「正しく……生きる……?」

勇者「俺の親代わりになって……! 俺の友人代わりになって……! 胸張って生きる為の方法を、いっぱい教えてくれたっ!」

男盗賊「胸を張って……生きる……?」

勇者「あいつが正しい事を教えてくれたから……勇者の息子なんて、とても口する事が出来なかった俺がさ?」

男盗賊「……」

勇者「今、勇者の息子だって胸張って、言えるようになったんだよっ!」

男盗賊「……」

勇者「親代わりの人間がさぁ……? 正しい事教えてくれなきゃ、子供は胸を張って生きれねぇよ?」

男盗賊「……だけど」

勇者「お前が間違った道進んでたら、あの子達どうなるんだよ!? なぁ!?」

男盗賊「わかってる……わかってる……だけど……」

勇者「そりゃ……お前の全てを理解して……受け入れるのは難しい事だと思う……」

男盗賊「……」

勇者「俺だって、そうだった……誰にも理解されなかった……綺麗事言って、引き篭もりをやめさせようとしてるんだな……なんて、ずっと思ってた」

男盗賊「……」

勇者「……でも、何処かに必ず居場所はあるんだよ?」

男盗賊「……えっ?」

勇者「俺に向き合って、手を差し伸べてくれる人間は……実はすぐ近くにいたし……旅している最中にも大勢いたんだ……」

男盗賊「……」

勇者「間違ってたのは……一人で背追い込んで……誰も助けてくれないなんて思って……諦めてた俺の方だったんだよ……」

男盗賊「……勇者」

勇者「お前だって、今辛いんだろ!? 本当は誰かの助けが欲しいんじゃねぇのかよ!?」

男盗賊「!」

勇者「だったらよぉ! 諦めて……腐らずに……周りに甘えようぜっ! きっと、受け入れてくれる人は何処かに必ずいるんだからよぉ!」

男盗賊「そんな奴が、こんな大陸にいるわけ……」

勇者「じゃあ、どうすんだよっ! このまま、盗み続けて……そんな方法で子供達を育てるのかよ!?」

男盗賊「……それは」

勇者「子供も盗賊団の仲間だと思われて……一人前になった時、あの子達はどうすんだよ!? 居場所はあるのかよ!?」

男盗賊「くそっ……! だけど、それしか方法は……」

勇者「お前の人生それでいいのかよ!?」

男盗賊「!」

勇者「正しい事してるのに……間違った事をして……胸、張って言える事なのに……胸、張って言えなくて……」

男盗賊「……」

勇者「居場所なんて、絶対何処かにあるんだよ……見つけようぜ? 一緒によぉ?」

男盗賊「……えっ?」

勇者「お前の為にも……子供の為にも……そして、俺の為にも……」

男盗賊「……勇者?」

勇者「今のお前、見てるの辛ぇよ……街に行こうぜ? それで、お前達を受け入れて貰えるよう頼んでみようぜ?」

男盗賊「だけど、俺はあの街から……」

勇者「そうやって、ネガティブに考えるなよ! 子供の為に盗みしたんだろ!? だったら、わかるよ! 絶対、わかってくれるよ!」

男盗賊「……」

勇者「頭なら俺が下げるっ! 金だって払うっ! 最後の最後まで諦めんなよっ! 少ない希望だからって……最初から何もしねぇのはよくねぇよっ!」

男盗賊「……」

子供「……うぅ」グスッ

男盗賊「イチロー……お前、今の話……聞いてたのか……?」

勇者「ど、どうしてここに……」

子供「そいつが消えて……男盗賊さんの所に行ってたら危ないと思って……戻ってきた……」

男盗賊「……お前」

勇者「……」

子供「俺、気づいてた……この中で……一番年上だから……気づいてた……」

男盗賊「……」

勇者「……」

子供「自分達が……悪い事をしている……男盗賊さんが、俺達を育てる為に……仕方がなく悪い事をしてるって気づいてた……」

男盗賊「……お前」

子供「だけど……言えなかった……言葉にして……男盗賊さんも俺達を捨ててしまう事が怖かった……」

男盗賊「そんな事はねぇ……俺はお前達をっ……!」

子供「俺……もう、一人前だから、大丈夫だよ……?」

男盗賊「……えっ?」

子供「俺は……胸張って、男盗賊さんに育てられたって言うからさぁ……?」

男盗賊「……」

子供「あいつらは……もっと、違う方法で面倒見てやってよ……」

男盗賊「ふざけんじゃねぇっ……! それじゃあ、まるでお前を捨てるみてぇじゃねぇかっ……!」

子供「だって……男盗賊さんの辛い顔を見てるの……俺も辛いもん……」

男盗賊「だからって、お前がそうする事はねぇだろがっ! お前の居場所はあるよっ! 俺が作ってやるからっ!」


勇者(必ず……皆の居場所を作るんだ……)






PM9:55

タイムリミットまで後、5分





酒場の主人「街長、来ましたっ! 盗賊団ですっ! 盗賊団が現れましたっ!」

街長「よし、人質を連れてこい……それから、奴らを包囲して……」

主人「ちょっと待って下さい、街長っ! あの盗賊団……少し、変ですよ……」

街長「……どういう事じゃ?」

主人「いやっ……そのっ……それが……」


ゾロゾロ……ゾロゾロ……


勇者「……おい、歩けるか? 大丈夫か?」

男盗賊「あぁ……大丈夫だ……」ヨロヨロ

子供達「……」


街長「なんだ、あの盗賊団は……子供ばかりじゃないか……」

勇者「あの……街長さん……話だけでも聞いてもらってもいいですか……?」アセアセ

街長「……」

勇者「悪い事をしましたが……事情があるんですよっ……! お願いしますっ! 話だけでも聞いて下さいっ……!」

街長「……」

勇者「盗んだ物の代金は、僕が支払いますっ……! だから……だから、話だけでも聞いて下さいっ……!」

街長「……そんなに子供を引き連れて、どういうつもりじゃ?」

勇者「あのっ……それはっ……!」

街長「……お前が、この盗賊団の頭じゃな?」ギロリ


男盗賊「……」

街長「相当、訳ありみたいだな? 話を聞かせてみろ? 興味があるわ」

男盗賊「……えっ?」

街長「盗賊団とは、もっとゴツい男の集まりだと思っておったわ。 なんで、こんなに子供ばかりなんじゃ?」

男盗賊「そ、それは……」

ーーーーー


男盗賊「……と、いう訳なのです」

勇者「こいつにも、理由があったんですっ! 街長さんっ! 理解してやって下さいっ!」

街長「……ふん、感心せんな」

男盗賊「……なんだと、この野郎?」ワナワナ

勇者「街長さんっ! 違うんですっ!」

街長「こんな世界じゃ……皆、自分事だけで精一杯じゃろう……」

男盗賊「……あんたは、綺麗事は言わねぇみてぇだな?」

勇者「そんな事ねぇよっ! きっと……わかってくれるよ……!」

街長「お前達が……他の街から、迫害されたのも、当然じゃろう……9人の子供の面倒を見れる人間なんて……こんな世界にはおらんは……」

男盗賊「……くそっ!」

勇者「街長さんっ!」

街長「……だが、それは一人で背追い込もうとするから、そうなるのではないか? 今のお前みたいにな?」

男盗賊「……えっ?」

街長「この街は、魔王城が近い……物資もとれん……気性の荒い魔物だに襲われる事だってある……」

勇者「……」

街長「だが、我々はそれを皆で協力して……それぞれがそれぞれを助け合って……こうやって生きているのだ……」

男盗賊「……」

街長「一人で背負い込むより、皆で助け合う……うちの街の連中は、こんな街だからこそ……誰よりもその大切さを理解しておる……」

勇者「……街長さん」

街長「こんな街まで辿り着いたのは、幸か不幸か……ただ、我々は受け入れるぞ?」

男盗賊「……えっ?」

街長「物資も少ない……危険な街だがね……? お前が心を改め……この街で皆で協力し合えるのなら……子供の10人や20人くらい、構わんよ」

勇者「街長さんっ……! お願いしますっ……!」ベタッ

街長「……やめんか、土下座なんて。みっともない」

勇者「おいっ……! 男盗賊っ……! おめぇも、土下座ぐらいしろよっ! お前ら、受け入れてもらえるんだぞっ!」


男盗賊「あっ……あぁっ……! 街長さんっ! お願いしますっ!」ベタッ

街長「だから、やめろって……お前の子供達も見てるんだから……」

男盗賊「俺、自分の周りに……助けてくれる人なんていないと思って……一人で背追い込んで……盗みもして……」

街長「もういいから……子供の前でみっともねぇ事、すんなってのっ! お前、親じゃねぇか!」

男盗賊「これから、心を改め……こいつらが俺に育てられたと胸を張って言えるようになりますから……お願いしますっ!」

街長「いい親になりてぇんだったら、土下座はやめろっての! 自分の親が土下座してるって、もの凄く見たくない光景だよ? ねぇ、ねぇ?」

街長「お前、大丈夫なの……? 親として大丈夫か、おい」

男盗賊「……す、すいません」アセアセ

街長「でも、9人も子供いると大変じゃろ? 寝床とかだけも大変じゃん? 今晩どうするつもりだったの?

男盗賊「あっ……それは、洞窟で過ごそうかと……」

街長「……えっ? 洞窟って、あの毒蛇のいる洞窟?」


男盗賊「……えっ?」

勇者「……えっ?」

街長「この辺の洞窟って……あの洞窟だけだろ? あの、毒蛇のせいで、魔物が寄り付かなくなった、あの洞窟だろ?」

男盗賊「……あそこ、毒蛇いたのかよ」

勇者「あの、街長さん……僕は神聖な洞窟って聞いたような気がするんですけど……」

街長「昼は神聖なんだよ、昼はね?」

勇者「……は、はぁ」

街長「でも、夜行性の蛇だから、夜になると、神聖じゃなくなるんだよ。夜になるとね……」

勇者「それ……ネーミングなんとかならなかったんですかね……? 神聖ってそういう事じゃないでしょ……」

街長「うちの街の連中はそれでわかってるからいいんだよ。丁度今頃、暴れてるんじゃね? お前ら、間一髪だったな!?」

勇者「……」

街長「まったく……親なんだったらさ……? もっと気をつけた方がいいと思うぜ?」


女僧侶「……ほら、天童さん? 和やかに話してますよ? 勘違い、とけたみたいでよかったじゃないですか?」

天童「よしっ! はい、カァ~ット! 10時ジャストだっ! それはそうと、この縄、もう外してくれてもいいんじゃねぇか、オイっ!」モガモガ

翌日ーーー


男盗賊「……世話になったな」

勇者「気にすんなよ? 親友じゃねぇか」

男盗賊「お前……本当に魔王城に行くのか……?」

勇者「あぁ、俺も……お前の力になりたいしさ?」

男盗賊「……えっ?」

勇者「あの子達の居場所がさ……? 一時の物じゃなくて……永遠の物にしなくちゃいけないだろ?」

男盗賊「……あぁ」

勇者「だから、俺が魔王を倒して……平和な世界を必ず作ってみせるからっ!」

男盗賊「……お前は簡単に言うんだな」クスクス

勇者「子供、9人育てるよりは簡単だろっ! 俺、絶対できないもん、そんな事!」

男盗賊「俺も……一人だったら、いつかは出来なくなってたよ……」

男盗賊「俺も……怪我が治ったら、必ず合流するよ」

勇者「いいよいいよ……お前は、あの子達のそばにいておいてやれよ」

男盗賊「いや……俺も胸張って生きたいからさ……?」

勇者「……えっ?」

男盗賊「散々、生きる為に悪事を繰り返してきたんだ……あいつらに教えるのは、そういう事じゃない……」

勇者「……」

男盗賊「正しい事をしている親の背中を見て……子供ってのは、育っていくんだよ……お前が教えてくれたじゃねぇか?」

勇者「……でもよぉ? 大丈夫か? 相手は魔王だぜ?」

男盗賊「お前と一緒なら、大丈夫だよ。 だって俺達、親友だろ?」

勇者「気持ちはありがたいけどなぁ……」

男盗賊「平和な世界を作る事が……今まで俺が奪ってきた人に対する罪滅ぼしさ……」

勇者「俺がやるからっ! それは俺がやるから、お前はあの子達のそばにいてやれっての!」

男盗賊「……いや、必ず合流する」

勇者「も~う……頑固だなぁ……」

ーーーーー


天童「おう、勇者! 幼馴染との別れは済んだか!?」

勇者「う~ん……あいつ、魔王城に来るとか言ってたけど、大丈夫かなぁ……?」

天童「まっ、それだけよぉ? おめぇの言葉が響いたんじゃねぇか? 何、言ったか俺はわかんねぇけどよぉ?」

勇者「……そうかもね」

天童「『正義感』……クリアだな……」メモメモ

勇者「……うん」

天童「ところでよぉ……? 勇者、気づいてるか……?」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、ここまで命題9つクリアしたんだぜ?」

勇者「う、うん……」

天童「という事は……次がラストだっ! そして、おめぇも真人間だよ、おいっ!」

勇者「な、なぁ……天童……?」

天童「……ん、 どうした? 次がラストなんだから、もうちょっと喜んでもいいんじゃねぇの?」

勇者「俺の……命題が全部終わったらさ……?」

天童「……ん?」

勇者「……おめぇ、その後どうするんだ?」

天童「あぁ、天界に帰るよ」

勇者「……えっ!?」

天童「天界帰って……レポート纏めなきゃいけねぇだろ……で、このレポートがまた面倒臭ぇんだよ……神様、細けぇからさぁ……?」

勇者「天界に……帰る……」

天童「まっ、俺もそろそろ天界に帰る準備しとかねぇとなぁ……」

勇者「……準備?」

天童「あぁ、荷物纏めてよぉ? 天界に帰る準備だよ、準備」

勇者「……おめぇ、手ぶらで来たんだから、持って帰るもんなんてねぇだり?」

天童「……あるぜ?」

勇者「……何だよ?」

天童「お前との思い出」キリッ

勇者「……えっ?」

天童「カァ~! かっこいい、俺っ! もう一回言おうっ! お前との……思い出……」

勇者「……」

天童「カァ~、やっぱ、俺ハンサム……これメモしとこ……」

勇者「……」

天童「え~、俺は……ハンサム……ナウでヤングなハンサム……っと……」メモメモ

勇者「……バカじゃねぇのか!?」

天童「なぁ~んで、そんなに怒ってるんだよ、勇者君……あっ、もしかして、おじさんと別れるのが寂しいのかぁ~?」ニヤニヤ

勇者「……」

天童「……ん? どうしたの?」

勇者「そ、そんな訳ねぇだろっ! くだらねぇ事、言ってねぇで、早く魔王城行くぞっ! もう、そこだろがっ!」ズガズガ

天童「お、おう……なんて迫力だ……あいつ、気合入ってやがるなぁ……」


勇者(天童と……お別れ……?)

第九話 「改心させないと死ぬ!」

ーー完

次回最終回

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」

第三話 「褒められないと死ぬ!」

第四話 「約束破ると死ぬ!」

第五話 「優しくしないと死ぬ!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

第七話 「決断したら死ぬ!」 >>3-212

第八話 「姉に勝たないと死ぬ!」 >>215-445

第九話 「改心させないと死ぬ!」 >>447-608


前スレ(1~6話) >>2

お前らは多分、俺の好きにしてくれって言ってくれると思うんだけど、それを踏まえた上でのアンケート

最終話を書き溜めて投下するのか、今まで通りのやり方で投下するのか、ちと迷ってる

今まで通りするなら1日15レス程度の更新で2週間ぐらいかけて
書き溜めるなら2週間ぐらい開けて一気に更新

どっちも、メリット・デメリットはあると思うんだけどね
参考程度にするぐらいだから、どっちがいいか気軽に答えてほしいっす

意見が満場一致でビックリ……と思ったけど、そうでもねぇか

ここまで毎日のように付き合ってくれてるお前らなんだから
わざわざ今さらおあずけ喰らわせたり、こいつエタるんじゃねぇか?なんて不安感を与える事はねぇよな

通常更新でやる事にするよ
変な事聞いて悪かったな

魔王城ーー


女僧侶「ここが……魔王城……」

天童「カァ~、でっけぇ建物だなぁ……やっぱり、親玉ってのはいい所に住んでんだな? なっ?」

勇者「……父さん、俺もここまで来たよ」

女僧侶「ここにいる……魔王を倒せば……」

天童「……あぁ」

勇者「……世界は、変わるんだ」


ーー天国に一番近い勇者 最終話

ヒラヒラ


勇者「……ん?」

天童「どうした、勇者? おめぇ、ひょっとしてビビってんじゃねぇだろな!?」

勇者「いや……違うよ、天童……ほら、上見てみろよ?」

天童「あぁん? 上?」

勇者「何か……空から降ってきた……」

天童「なんだ、ありゃ……? ゴミか……? 鳥か……? それとも、スーパーマンかっ!?」

勇者「いや、違うよ……アレ、封筒みてぇな形してるぞ……?」

天童「封筒……? あっ……! って、事はっ!」

ヒラヒラ


天童「おい、勇者っ! 来たぞ来たぞっ!」

勇者「う、うん……」

天童「あれが……おめぇの最後の命題だっ!」

勇者「うんっ……! よ、よっとっ……!」パシッ

天童「さぁ、これが……おめぇが真人間になる為の最後の試練だっ!」

勇者「最後……か……」

天童「さぁ! 今回はなんて書いてあるんだっ! 勇者っ! 中を見てみろっ!」

勇者「う、うん……」ガサゴソ






勇者
X月X日 午後5時までに

天童にさよならが言えなかったら即・死亡!





勇者「えっ……? 天童に……さよならが言えなかったら……即・死亡……?」

天童「……」

勇者「……」

天童「今……午後2時だ……」

勇者「……後3時間だ」

天童「……」

勇者「……」

天童「よしっ! もう、ここでクリアしよう」

勇者「……えっ?」

天童「今から、魔王城に乗り込むんだ。 そんな中、余計な事考えてる暇なんてねぇだろ?」

勇者「……」

天童「だから……今、ここで命題をクリアして……後は、魔王を倒す事に集中しよう。なっ?」

勇者「……」

天童「だから……勇者……?」

勇者「……ん?」

天童「言えよ……『さよなら』を……」

勇者「!」

天童「これで、おめぇの命題もおしまいだ」

勇者「……」

天童「……どうした?」

勇者「……」

天童「……あっ! ひょっとしてお前、俺と別れるの嫌なの?」ニヤニヤ

勇者「!」

天童「いつもいつも、バカだのダメ天使だの言ってたのによぉ~? やぁ~っぱり、俺と別れるのが寂しいんだ? ねぇねぇ?」

勇者「……」

天童「なぁ~んだよ、勇者君にも可愛い所、あるじゃ……」

勇者「違ぇよっ! バーーーーカっ!」

天童「……ぬ?」

勇者「あのなぁ……? 天童……?」

天童「……何だよ」

勇者「今から、魔王城に乗り込むんだぞ? おめぇ、そこん所わかってんのか?」

天童「わかってるよ……だから、命題をクリアして……」

勇者「あのなぁ……? 天童……?」

天童「……ぬ?」

勇者「おめぇみてぇな、ダメ天使でもなぁ? 戦闘になったら、いつもいつも後方で隠れてるような奴でもなぁ?」

天童「……俺は隠れてなんかねぇよっ! いつも頑張ってるじゃねぇか!」

勇者「一応は……戦力なの?」

天童「一応って何だよぉ!? 勇者君は失礼だなぁ?」

勇者「今から、魔王城に乗り込むんだぞ? その前に、戦力減らす事するなんて……そ~んな事は、出来ませんよ」

天童「……まっ、そうかもな」

勇者「後、3時間もあるんだろ? 3時間? だったら、後3時間……おめぇには徹底的に働いてもらわねぇとなっ!」

天童「勇者君……君の気持ちはよくわかった……だけど、一つだけ言いたい事がある……」

勇者「あぁ? 何だよ……?」

天童「あのね……? おじさん、今日……下痢気味なんだ……?」

勇者「……はぁ?」

天童「あっ! それとね、熱もあるの! 熱も!」

勇者「……なぁ~に、言ってんだよ」

天童「え~っとね……39度ぐらいかなぁ……? いや、こりゃ40度越えてるねっ!」

勇者「……おめぇ、さっきまで、ピンピンしてたじゃねぇか」

天童「だからねぇ~? 今日、おじさん、ちょっと戦えそうに……」

勇者「はいはい、わかったわかった……それじゃあ、魔王城に行きましょうか……」グイグイ

天童「おい、勇者ァ! 病人、引っ張るんじゃねぇよっ! 俺、今日おたふく風邪なんだぞ!? おめぇ、うつっちまうぞ!?」

勇者「おめぇはさぁ……? そういう所を直そう。なっ? おめぇもダメ天使のままじゃよくねぇよ。なっ?」グイグイ

天童「魔王城なんておっかねぇよっ! 俺、怖ぇよ! 勘弁してくれよ~」

勇者「俺だって怖ぇよ……だけど……やるしかねぇじゃねぇか!」

天童「早く命題クリアしろよっ! おめぇがクリアしたら、俺は天界に帰れるんだからよぉ!」

勇者「はいはい、魔王を倒したら……言ってあげますから……それまで、おめぇも頑張って下さい……ほれ、行くぞ?」

天童「ったく……じゃあ俺も最後まで付き合ってやるかっ! でもよぉ、勇者? 命題忘れんじゃねぇぞ? 後3時間だからよぉ?」

勇者「はいはい……わかってます、わかってますって……」


勇者(ふざけんなよ……出来るワケねぇだろ……こんな命題……)ワナワナ

ーーーーー


「敵襲だっ! 敵襲だぞっ!」


女僧侶「……くっ!」

天童「おいおいっ! いきなり囲まれちまったぞっ! いくらなんでも、真正面から、乗り込みすぎなんじゃねぇの?」

勇者「くそっ! 流石、魔王城だ……数が多いな……」


ゾロゾロ……ゾロゾロ……


女僧侶「大丈夫ですっ……! きっと……きっと、上手くいきますよっ!」

天童「一人、ノルマ10匹って所だっ! 勇者ァ! おめぇはその倍の20匹倒しやがれっ! いくぞっ!」

勇者「あぁっ! 20匹でも、30匹でもやってやるよっ! 俺だって、ここまでやってきたんだからっ!」


「来たぞっ! 相手はガキ二人と、おっさん一人だが、容赦はするなっ!」

女僧侶「たあっ!」バキッ

魔物「……ガッ!」


天童「よいしょ~っ! どっこいしょ~っとっ!」ガスッ

魔物「……グッ」


勇者「うらぁっ!」ズバッ

魔物「こ、こいつ……! 早っ……!」

勇者(父さん……父さんが成し遂げれなかった事……俺が代わりに……!)

魔物「くっ……! こいつ……!」

勇者「くらえっ!」


ズシャッ


魔物「……ガ、ガガッ」

魔物「くそっ……! 固まれっ……! 人数ではこっちが優っているんだっ……!」

勇者「……」

魔物「体制を整え、こいつらを迎え討つぞっ!」

勇者「よしっ……! いい具合に固まってくれたな……」

魔物「……えっ?」

勇者「纏めて倒してやるっ……! うおおっ! くらえっ!」

魔物「な、なんだっ! 何かヤバいぞっ! 皆、散るんだっ! 散れっ!」

勇者「もう、遅いっ! くらえっ! ギガデインっ!」

魔物「!?」


ドーンッ


魔物「グガガガガッ……」

天童「カァ~、あいつ調子いいねぇ……俺も頑張ってるのによぉ……? よっと……」バキッ

魔物「……ガッ」

天童「これで……7匹目っと……ほら、俺頑張ってるじゃん……ん……?」


女僧侶「勇者さんっ! 魔物の動きを封じましたっ! だから、お願いしますっ!」

勇者「よしっ! 女僧侶ちゃん、ありがとう! うおおっ!」ダッ

女僧侶「勇者さんっ!」

勇者「うおおっ……! 23……! 24……! 25……!」


天童「……7匹でも凄い事なんだよ? ねぇねぇ? 7匹でも凄いのに、あ~やって、25匹とかやってたら、俺の見せ場ねぇじゃん?」

ーーーーー


魔王「……鼠が暴れているようだが?」

「はっ……! しかし、相手は三名……恐るるに足る事はありません……」

魔王「……そうかな?」

「……?」

魔王「奴は、この私に土をつけた……あの男と同じ技を使っていたようだが……?」

「……あの稲妻の技ですか」

魔王「勇者に息子がいるとの情報も、入っておる……おそらく、奴がそうだろう……」

「……」

魔王「……私が行くしかないな」

「お待ち下さいっ! 魔王様っ!」

魔王「……どうした?」

「魔王様は、まだ不完全ですっ! 今は……世界を支配する為……力を蓄えて下さいっ!」

魔王「私が……人に負ける……と、でも……?」

「魔王様は……二度……負けました……」

魔王「……」

「一度は神に……そして……もう、一度は……人に……です……」

魔王「……」

「神との戦いで、力を使い……そして、人に破れ……」

魔王「……」

「そして……人との戦いで、また力を使い……」

魔王「……」

「あなたも……あの愚かな、神のようになりたいのですか!?」

魔王「神……か……」

「私が行きます……私が行って……奴らを始末しましょう……例え、それがあの勇者の息子だとしても……」

魔王「……」

「魔王様は今は、力を蓄えて下さいっ……! 世界を支配するだけの力をっ……!」

ーーーーー


女僧侶「はぁ……はぁ……」

天童「カァ~、疲れた……おい、勇者? 俺、15匹倒したぞ? 今度は嘘じゃねぇからな!」

勇者「おっ……? おめぇ、今日は役に立ってくれるじゃねぇか? ナイスナイス」

女僧侶「勇者さんは何匹、倒したんですか?」

天童「あっ! 女僧侶ちゃん、聞かなくていいっ! 聞かなくていいからっ!」

勇者「俺は……途中から、数えてないけど……40ぐらいじゃねぇ?」

女僧侶「勇者さん、凄いですっ!」

天童「……聞かなくていいって言ったのによぉ」

勇者「でも、女僧侶ちゃんのサポートがあったからこそだよ! だから、俺と女僧侶ちゃんで20・20ぐらいじゃないの?」

女僧侶「ふふ、ありがとうございます」クスクス

天童「……なぁ~んか、おじさん今日つまんないなぁ~! ねぇ、帰ってオセロとかしない? オセロとかして楽しく遊ぼうよぉ!」

「……流石、勇者だな。やるじゃないか」


天童「……ん?」

勇者「こいつ……今までの奴らをとは気配が違うぞっ……! 皆、気をつけろっ!」

魔人「自己紹介をさせて頂こう……自分を殺す相手の名ぐらいは知っておきたいだろう……? 私は火の魔人……」

天童「ヒノマ・ジンさん……? あんた、変わった名前してるねぇ……どういう字、書くの?」

勇者「『日野間仁』とか、そういう感じじゃね? 俺は『火の魔人』だと、思うけど」

魔人「ふん、とぼけた奴らだ……だが、油断はせんっ……! 私の能力はっ!」


ゴオオォォォ


天童「うおおっ! 熱っ! 熱っ!」

勇者「な、なんだこいつ……辺り一面、炎の海に……!」

魔人「私は炎を自由自在に操る力を持つ! いくぞっ! 貴様らを消し炭にしてくれるわっ!」

今日はここまで

天童「魔人だか、魔王だか知らねぇけどよぉ……? こっちには時間がねぇんだっ! 勇者ァ! とっとと片付けるぞっ!」

勇者「あぁっ! わかってるよ、天童っ! いくぞっ!」

魔人「……フン」


天童「うおおっ! くらぇっ!」

勇者「おらぁっ!」

魔人「甘いぞっ! 小僧共っ!」


ヒュンッ


天童「……何っ!?」

勇者「こいつ……早いっ……!?」

魔人「後ろだっ! くらえっ! うおおぉぉっ!」

魔人「先ずは……おっさん……貴様らだっ! くらえっ! うおおぉぉっ!」

天童「……えっ?」

魔人「うおおぉぉっ! くらええぇぇ!」ドゴォッ

天童「ぐっ……ああっ……!」


勇者「天童っ!?」

魔人「……他人の心配などしてる暇はないぞっ!」ヒュンッ

勇者「えっ……! こいつ……いつの間に……」

魔人「次は……勇者っ! 貴様だっ!」ドゴォッ

勇者「ガッ……! ぐ、ぐはっ……!」

女僧侶「勇者さんっ! 私が魔法で動きを止めますっ……! だから……その隙に……」

勇者「う、うぅ……わかった……」

女僧侶「んっ……いきますよっ……」


魔人「そう安々と呪文詠唱など、させてたまるかぁっ!」

女僧侶「えっ……?」

魔人「うおおっ! 燃え盛る火炎よっ! あの女を焼き尽くすせっ!」ゴオォォォッ

女僧侶「えっ……!? 火が……こっちに……」

魔人「うおおぉぉっ! くらええぇぇ!」

女僧侶「きゃあぁっ!」

勇者「女僧侶ちゃんっ!?」

女僧侶「うっ……ううっ……」

勇者「女僧侶ちゃん、しっかりしろっ!」


魔人「……警告は二度目だぞ? 勇者の小僧?」ヒュンッ

勇者「えっ……?」

魔人「他人の心配をしてる場合ではないと言っただろう……? なぁ?」

勇者「し、しまったっ……!」

魔人「うおおっ! くらえっ!」ドゴオォォッ

勇者「ぐ、ぐはっ……」

魔人「まだ死なぬか……なかなかタフだな……? 小僧……?」

勇者「へへ……頑丈さには自信があるんでね……」プルプル

魔人「その根性だけは褒めてやろう……」

勇者「へへ……どうも……」

魔人「……だがっ!」ヒュンッ

勇者「!」

魔人「根性だけでは、どうにもならんぞっ! くらえっ!」ドゴオォッ

勇者「う、うわああぁぁっ!」

魔人「どうした!? 勇者!? そんな物か、貴様の力はっ!?」


勇者「く、くそっ……」チラッ

天童「こいつ……強ぇ……」

勇者「うおおぉっ!」

魔人「……ぬ?」

勇者「くらえっ! ギガデインっ!」


ドゴーンッ


魔人「甘いわっ! 燃え盛る火炎よ……火の鳥の姿を借りて焼き尽くせっ!」


ゴオォォォッ


勇者「……何っ!?」

魔人「どちらの魔法が強いか……力比べといこうじゃないか……勇者の小僧よ?」ニヤリ

勇者「く、くそっ……!」

勇者「う、うおおぉぉっ……!」

魔人「どうしたどうしたっ!? 勇者の力とは、この程度の物かっ!?」

勇者「や、やばいっ……こいつ……!」

魔人「どうしたっ!? もう、終わりかっ!? ならば、このまま焼き尽くしてくれるっ!」

勇者「!」

魔人「うおおぉぉっ! 消し炭となれっ! 勇者ァっ!」


ゴオォォォッ


勇者「!?」

勇者「うっ……ううっ……」

魔人「……フン」

勇者「……くそっ!」プルプル

魔人「さぁ……心の臓を取り出し……止めとするか……なぁ? 勇者よ?」

勇者「……くっ」

魔人「くたばれっ! これで、貴様もっ……!」

勇者「……天童っ! 今だっ!」

魔人「……何っ!?」


天童「うおおぉっ! 今日は俺、いい所なしだからよぉ! 背後から、てめぇを襲って、大活躍してやるぜぇっ!」ブンッ

魔人「……フン」ヒュンッ

天童「何っ!? 消えたっ……!?」

魔人「……わかってるんだよ? そんな事は」

天童「……えっ?」

魔人「甘いわっ!」ドゴオォッ

天童「ぐ、ぐわぁっ!」


魔人「そして……お前もだっ……!」ヒュンッ

女僧侶「!?」

魔人「くらええぇぇ! うおおぉぉっ!」ドゴオォッ

女僧侶「き、きゃああぁっ!」


勇者「天童っ……! 女僧侶ちゃんっ……!」

魔人「勇者のお前が……強力な魔法で、私の注意を引き……」

勇者「……くっ」

魔人「そして、仲間に背後から攻撃させる……なかなか、いい作戦じゃないか!? なぁ!?」

勇者「くそっ……! こいつ……!」

魔人「だがっ……! そのような安い作戦など、私には通用せんぞっ! なぁ!? なぁ!?」

勇者「くそっ……こ、こいつ……」


女僧侶「勇者さんっ……天童さんっ……ど、どうしましょう……!」

天童「諦めんじゃねぇっ! こっちが人数で優ってる事には変わりねぇんだっ! とにかく……やるしかねぇよっ!」


魔人「……ほう」

魔人「では……こんな呪文はいかがかな……?」

天童「……ん?」

魔人「燃え盛る火炎よ……人の姿を借りて我を守る幻の兵士となりたまえっ……!」ブツブツ

女僧侶「な、何かしようとしてますよ……!」

魔人「はあぁっ!」


ゴオォォォォッ


兵士「……」

兵士「……」

兵士「……」


天童「な、なんだこりゃっ……!」

女僧侶「炎の……兵士……!?」

魔人「行けっ! 炎の兵よっ! お前達は、その雑魚を片付けろっ!」


兵士「オ、オオオォォォっ……!」

天童「うおっ! 熱っ! 熱ィってのっ!」

兵士「オオオオ……オオォォっ……!」

女僧侶「きゃあっ……!」


勇者「天童っ! 女僧侶ちゃんっ!」

魔人「これで、人数もこっちの方が優ったな……?」

勇者「やばいっ……! 二人を助けないと……!」

魔人「学習しないな、貴様は……これで警告は……三度目だ……」ヒュンッ

勇者「し、しまった……!」

魔人「……死ねぇっ! 勇者よっ!」


ドゴオォッ


魔人「……ぬ?」

勇者「お、おっと……」ヨロヨロ

魔人「ほ~う……防御したのか……やるじゃないか……?」

勇者「ようやく……目が慣れてきたみたいだな……学習してないワケじゃねぇよ……」

魔人「流石、勇者……といった所か……」

魔人「……だがしかしっ!」ヒュンッ

勇者「!?」

魔人「はぁっ! だぁっ! たぁっ!」

勇者「ぐっ……! くっ……!」

魔人「どうしたどうしたっ! 防戦一方だぞ、勇者ァ!」

勇者「くっ……くそっ……!」

魔人「……ふんっ!」ヒュンッ

勇者「し、しまったっ……!」

魔人「後ろだっ! 勇者ァ!」ドゴォッ

勇者「ぐ、ぐあぁっ……!」

勇者「う、ううっ……」

魔人「……大人しく寝ていろ。そうすれば楽に殺してやる」

勇者「くそっ……」ムクッ

魔人「……何故、立ち上がる? 馬鹿なのか? 無駄だという事がわからんのか?」

勇者「へへ……世の中に無駄な事なんかねぇんだよ……こうやって、立ち上がってれば……そのうちなんとかなるさ……」ヨロヨロ

魔人「……愚かな」

勇者「へへ……諦めて……たまるかよっ……!」

魔人「……フンっ!」ヒュンッ

勇者「!」

魔人「……うおおぉっ!」ドゴォッ

勇者「ぐ、ぐはぁっ……!」バタッ

勇者「……ううっ」

魔人「……ふん」

勇者「く、くそっ……」ムクッ

魔人「もう、寝てろ……しつこい奴は好かん……」

勇者「諦めて……たまるかよっ……!」ヨロヨロ

魔人「……何が貴様をそこまで動かすんだ?」

勇者「……」

魔人「復讐か……? 父親の復讐が、貴様を動かしているのか?」

勇者「……」

魔人「……」

勇者「へへ……そんなんじゃねぇよ……」

魔人「……じゃあ、何が貴様をそこまで動かす?」

勇者「それは……」チラッ

魔人「……」チラッ

兵士「オオオオォォっ……!」

天童「く、くそぉっ……!」

兵士「オオオオ……オオオオっ……!」

女僧侶「くっ……!」

兵士「オオオオォォっ……!」

天童「ここまで来たんだっ! こんな奴らに負けてたまっかよっ!」

兵士「オオオオ……オオオオっ……!

女僧侶「えぇっ! 後少しなんですっ……! 後少しっ……!」

勇者「皆が……教えてくれたんだ……」

魔人「……」

勇者「今……自分に出来る事を一生懸命するんだって……」

魔人「……」

勇者「前向きな想いが……自分を変えて……それから周りを変えていく事に繋がるんだ……」

魔人「……」

勇者「復讐なんて事は……父さんは望んでないよ……」

魔人「それが……お前達人間の信じる……神の教えか……?」

勇者「神様かどうかはわかんないけど……天使はそう、教えてくれたよ……」

魔人「愚かな神らしい考えだ……邪魔な人間など全て始末して……我らだけの世界を作ればいいものを……」

勇者「だから……俺がここで……諦めるわけにはいかないんだっ……!」

魔人「ふん、面白いっ……! ならば、貴様が二度と立ち上がれぬよう、焼き尽くしてくれるっ!」

今日はここまで

勇者「いくぞっ! 魔人野郎っ!」

魔人「かかってこいっ! 勇者の小僧よっ!」

勇者「うおおぉっ! 父さんっ……! 俺に力を貸してくれっ……!」

魔人「燃え盛る火炎よ……火の鳥の姿を借りて全てを焼き尽くせ……」ブツブツ


勇者「うおおぉぉっ! ギガデインっ!」


ドゴーンッ


魔人「うおおぉぉっ! 死ねっ! 勇者よっ!」


ゴオォォォッ

勇者「……ぐっ!」

魔人「……ふんっ!」

勇者「く、くそっ……! やっぱり……こいつの魔法……桁違いの威力だっ……!」

魔人「フン……このまま押しきってやるっ……うおおぉぉっ!」

勇者「くっ……! くそっ……! 負けて……たまるかよっ……!」

魔人「諦めろ、勇者の小僧よ……貴様達は……ここで終わりだっ!」

勇者「諦めて……たまるもんかっ……! 絶対……絶対に諦めるもんかっ……!」

魔人「うおおぉぉっ! 押しきってやるっ!」

勇者「!」

魔人「行けっ! 火の鳥よっ! 奴を焼き尽くせっ!」


ゴオォォォッ


勇者「ぐっ……! うおおぉぉっ! レムオルっ!」

魔人「はあぁっ!」


ドゴーンッ


魔人「……」

魔人「フン、骨すら残らなかったか……愚かな小僧だ……」

魔人「……後は、あの二人の始末だけだな?」チラッ

魔人「しかし、あの男……もしかして奴は……」


「……今度はお前が隙を見せたなっ!」

魔人「……何っ!?」

勇者「うおおっ! くらえっ!」ザクッ

魔人「……ぐっ!」ヨロッ

勇者「おめぇの相手は俺だよ……他の奴見てる暇なんてあるのかよ……? なぁ、あんた自分で言ってたよなぁ?」

魔人「くっ……! 貴様……焼け死んだはずでは……」

勇者「へへ……直撃はくらっちまったけどよぉ……俺、姿を消す魔法も使えるんだよね……?」

魔人「く、くそっ……!」

勇者「おかげで一発、おめぇに深ぇの入れれたぞっ! 今度はこっちの番だっ! 行くぞっ!」

魔人「ぐっ……! 確かに……貴様の不意打ちで、傷を追ってしまったが……」

勇者「うおおぉっ! ぐっ……! だぁっ!」

魔人「お前もっ……! 満身創痍ではないかっ! 動きが鈍いぞっ!」

勇者「く、くそっ……! うおおぉぉっ! だぁっ!」

魔人「甘いっ……! 甘いわっ……! 動きが見えるっ! 貴様の攻撃が見えるぞっ!」

勇者「後少しっ……! 後少しなんだっ……! 諦めてたまるかよっ……!」

魔人「私に挑むのは10年早かったようだなっ! うおおぉぉっ! とどめだ、勇者っ! くらえっ!」ブンッ

勇者「!」


ガスッ

魔人「う、うおっ……」ヨロッ

天童「勇者……? おめぇ、成長したじゃねぇか……?」

魔人「……貴様っ!?」

天童「おめぇのおかげで……ようやく不意打ちが入れられたよ……やぁ~っと、見せ場がやってきたよ……」

魔人「このっ……! 鼠がちょこまかと……! くそっ! くらえっ!」ブンッ


バキッ


魔人「ぐ、ぐっ……!」ヨロヨロ

女僧侶「後、少しなんです……本当に……後、少し……」

魔人「ぐっ……! 貴様らっ……!」

女僧侶「勇者さんっ! 追い込みましたよっ! 後一息ですっ! お願いしますっ!」

魔人「……ぬ?」

バチバチ……バチバチ……


魔人「こ、これは……? さっきの小僧の魔法がまだ残っているのか……?」

勇者「さっきの魔法は……あんたを攻撃する為に使ったんじゃない……ソレ作る為に使ったんだ……」

魔人「雷が……まるで結界のように私を包んで……まさかっ……!?」

勇者「俺だけじゃ困難な道のりだった……あんたをそこに押し込んで、動きを止める事なんて、出来なかったよ……」

魔人「まずいっ……! この場にいるのはっ……! 非常にまずいぞっ……!?」

勇者「皆で作ったチャンス……だから……だから、これは外してたまるかよっ! うおおぉぉっ! くらえっ!」ダッ

魔人「!」

勇者「だあぁぁっ! ギガスラッシュ!」


ズバーンッ


魔人「ガ、ガアアァァァ!」バタッ

女僧侶「勇者さんっ!」

天童「よしっ! やったかっ!?」

勇者「……あぁ、完全に決まった」


魔人「ガッ……グッ……まだだ……まだ終わらんぞ……」

勇者「もう、いいっ! 勝負はついたはずだっ!」

魔人「燃え盛る炎の兵士達よ……私はもうよい……だから魔王様を守る為動くのだ……」ブルブル

勇者「いい加減にしろっ!」

魔人「戦え……炎の兵士よ……魔王軍に……栄光を……」


兵士「オオオオォォっ!」

兵士「オオオオォォっ!」

兵士「オオオオォォっ!」

天童「くそっ! 勇者っ! 炎の兵士が襲ってきてるぞっ!」

「……オオオオォォっ!」

勇者「くそっ! 数が多いっ! とにかく、こいつらを始末するぞっ!」

「オオオオ……オオオオォォ……」

天童「今度は何だ? 一人ノルマ5匹か? でもよぉ? こいつらも、強ぇから油断するなよっ!」

「オオオオォォっ!」

勇者「ああっ! わかってる! 皆、頑張るんだっ……!」

「オオオオ……オオオオォォ……」


魔人「ぐっ……! まだだ……まだ、私は終わらんぞ……」ブルブル

魔人「全ての始まりの炎よ……私の残りの命も……魂も全て捧げましょう……」

勇者「うおおっ! だぁっ! たぁっ!」

魔人「人間共に……永遠の呪いを……私の最後の願いですっ……!」

天童「ったく……今日はハードな一日だなっ! どっこいしょ~とっ!」

魔人「これが……私の最後の魔法だっ……! くらえっ! 勇者よっ!」

女僧侶「勇者さんっ! 何か……何かしようとしてますよっ……!?」

魔人「燃え盛る火炎よ……愚かな人間共に永遠の呪いを……そして我ら魔王軍に繁栄をっ……! はああっ!」

勇者「!」

パカッ


勇者「……ん?」

天童「何だこりゃ? 床に穴が開いて……?」


女僧侶「勇者さん、危ないっ! 落とし穴ですっ!」


勇者「えっ……? って、うわああぁぁっ!」ヒューッ

天童「うおおぉぉっ! やべぇっ! やべぇぞ勇者っ!」ヒューッ


魔人「くっ、一人逃したか……だが、これで貴様達はもう魔王様の元にはたどり着けん……これが、私の最後の魔法だ……」ガクッ


勇者「うわああっ! 落ちる……! 落ちるぞっ!?」

天童「何で、最後の魔法が落とし穴なんだよぉ! 火を使え! 火をっ! って、うわああっ!」

女僧侶「勇者さんっ! 天童さんっ!」

兵士「……オオオオォォ」

女僧侶「……えっ?」

兵士「オオオオォォっ! オオオオっ!」

女僧侶「きゃぁっ……!」

兵士「……オオオオォォ」

女僧侶「こ、この兵士……主が倒れたのに……まだ、生きてる……」

兵士「オオオオォォっ……!」

女僧侶「くっ……! 数が多いっ…… ! とても、私一人では……!」

兵士「オオオオォォっ!」

女僧侶「と、とにかく勇者さん達を探しましょうっ! こんな場所一人なんて、危険すぎますっ……!」

今日は短いけどここまで






PM3:00

タイムリミットまで後、2時間





勇者「おおっ……おおっ……! いでっ……!」ビターンッ

天童「うおおぉ……うおおっ……!」

勇者「むぎゅっ!」

天童「おおっ、勇者! おめぇは身を挺して俺を守ってくれたのかっ! なかなかやるじゃねぇかっ!」

勇者「何で俺の上に落ちてくんだよ、おめぇはよぉっ! どけよっ! 重てぇよっ!」

天童「おめぇは細けぇ男だな! いいじゃねぇか、ちょっとぐらいよぉ?」

勇者「あ~、痛てて……くそっ……随分と落下しちまったみてぇだけど……ここ、何処だ……?」

天童「う~ん……地下……かねぇ……?」キョロキョロ

勇者「……あれ?」

天童「ん? どうした、勇者?」

勇者「女僧侶ちゃんが……いないぞ……?」

天童「ありゃ、そういえば……落ちてくる最中に、何かに引っかかってんじゃねぇの……?」

勇者「もしかしてよぉ……? あいつの落とし穴に落ちたのは……俺達だけで……」

天童「お、おい……まさかっ……!」

勇者「女僧侶ちゃんは、まだ上にいるんじゃねぇのか!?」

天童「やべぇぞっ! 上にはあの炎の兵士もまだ大量にいやがったぞ!?」

勇者「このままじゃ、女僧侶ちゃんが危険だっ! 早く助けにいかないとっ!」

天童「でもよぉ? どうやって戻るんだよ? おめぇ、道分かるのかよ? ここ、地下だぞ!?」

勇者「落ちて来たんだから、上に登ればいいだけの話じゃねぇかっ! 階段だよ! とにかく、上に登る階段を探すんだよ!」

「いたぞっ! 侵入者だっ!」

「殺せっ! 殺すんだっ!」


勇者「……ん?」

天童「あぁ……?」


ゾロゾロ……ゾロゾロ……


勇者「おいおい……また魔物だよ……どんだけいるんだよここはよぉ……?」

天童「まっ、魔王城なんだから……当然と言っちゃ当然だよね……?」

勇者「くそっ……早く女僧侶ちゃんと合流しないといけないってのに……」

天童「しょうがねぇっ! 邪魔なこいつらをぶっ飛ばして、とっとと女僧侶ちゃん合流するぞっ! 行くぞ、勇者ァ!」

勇者「あぁ! 行くぞっ! 天童っ!」

ーーーーー


女僧侶「はぁっ……! はぁっ……!」

女僧侶「……」

女僧侶「な、なんとか……振り切りましたかね……?」

女僧侶「早く……早く、勇者さんと合流しないと……」


「……こいつが命知らずの侵入者か? まだ、餓鬼ではないか」

女僧侶「だ、誰ですかっ……!」

「……火の魔人を倒したようだな? だが、我々は奴とは違うぞ?」

水の魔人「私は水の魔人っ! 能力は水を自由自在に操る力だっ!」

女僧侶「!」

雷の魔人「そして、私が雷の魔人っ! 能力は雷を自由自在に操る力だっ!」

女僧侶「そ、そんなっ……!」

風の魔人「そして、私が風の魔人っ! 能力は風を自由自在に操る力だっ!」

女僧侶「まだ三人も……いるなんて……」


水の魔人「フン……火の魔人を倒したぐらいでいい気になるなよ……?」

雷の魔人「奴は魔人四天王の中でも最弱……魔人四天王の面汚しよ……」

風の魔人「我ら三人こそが真の魔人……魔人三獣士よっ!」


女僧侶「魔人……三獣士……?」

水の魔人「さぁ……? 小娘よ……覚悟はいいか……?」

女僧侶「くっ……!」

雷の魔人「安心しろ……苦しむ間もなく……殺してやる……」

女僧侶「くっ……勇者さん……」

風の魔人「我ら魔人の力を……思い知らせてやるわっ!」

女僧侶「まずい……これは……まずいですっ……!」アセアセ


水の魔人「いくぞっ!」

雷の魔人「うるあぁぁっ!」

風の魔人「これで貴様も……終わりだぁっ!」


女僧侶「!」

ーーーーー


勇者「……うおおっ!」バキッ

魔物「……ガッ」

勇者「言えっ! 上への階段は何処にあるんだっ! 言えっ!」

魔物「ふふふ……教えてやっても、いいが……もう、無駄な事だ……」

勇者「……どういう意味だ?」

魔物「魔人三獣士様が……直々に動いて下さったのだよ……」

勇者「魔人三獣士……? さっきみたいな奴がまだ、三人もいるのかっ……!?」

魔物「おそらく……お前の仲間はもう……手遅れだろう……」

勇者「そんなワケないだろうっ! 言えっ! そいつらの居場所を言うんだっ!」

魔物「グフフ……」

天童「お~いっ! 勇者っ! こっちだっ! どうやら、上への道はこっちみたいだぞっ!」

勇者「天童っ……!」

天童「早く、女僧侶ちゃんと合流しようぜ? 女僧侶ちゃんいないと、やっぱり仕事量増えちゃうね?」

勇者「あぁっ! 早く行こうっ! このままじゃ……女僧侶ちゃんが……」アセアセ

天童「……ん? どうしたの勇者君? 何でそんなに焦ってるの?」

勇者「なんか……さっきみたいな、奴が……後、三人いるらしいんだよ……?」

天童「はぁ!? 後、三人もいるのかよ!? どういう事だよっ!?」

勇者「だから……早く、女僧侶ちゃん助けに行かないと……」

天童「おいおい、待てよっ! さっきの戦いで、おめぇももうボロボロじゃねぇか! 後三人も戦えるのかよ!?」

勇者「……くっ」

天童「それに……その後には魔王も待ってるんだぜ? おめぇ、今日ちょっと無茶しすぎじゃねぇか!?」

勇者「くそっ……甘くみすぎてた……魔王城なんだから……もっと準備を念入りにするべきだった……」

天童「なんかよぉ? さっきの奴みてぇによぉ? 炎の兵士を生み出す……みてぇな都合のいい魔法覚えてねぇの?」

勇者「そんなもんがあったら、とっくに使ってるよっ! とにかく急ごうっ! 女僧侶ちゃんが危険だっ!」


天童(こりゃ、こいつが今までクリアしてきた命題が……偶然だったのか……本物だったのか……試される時が来たみてぇだな……)


天童(ただの偶然でクリアしたもんなら……この窮地は凌げねぇだろうな……さぁ、どうなるか……?)

ーーーーー


水の魔人「……しぶといな」

女僧侶「くっ……」

雷の魔人「ちっぽけな人間の何処に……このような力があるのだ……」

女僧侶「諦めません……諦めませんよ……絶対に……!」

風の魔人「……もうよい、とどめにしましょう」

女僧侶「くっ……! 勇者さんっ……!」


水の魔人「うおおおっ!」

雷の魔人「死ねっ! 小娘よっ!」

風の魔人「我ら魔人三獣士の力を思いしれっ!」


女僧侶「!」

水の魔人「……ぬ?」

雷の魔人「……何?」

風の魔人「我々の攻撃を……避けただと……?」


女僧侶「えっ……?」


「……三獣士だか、三バカトリオだか、知らねぇけどよぉ~?」


水の魔人「なるほど……他にも仲間がいたようだな……」

雷の魔人「我々の攻撃から、あの小娘を抱え……寸前で避けたというワケか……」

風の魔人「なかなか出来る奴のようだな……」


男戦士「俺の部下に手ぇ出すとはいい根性してるじゃねぇかっ! てめぇら、覚悟は出来てるんだろなっ!?」

女僧侶「男戦士さんっ!」

男戦士「よぉ、 一年生? 久しぶりだな?」

女僧侶「どうしてここに……!?」

男戦士「おめぇらが頑張ってるって、噂聞いてよぉ? ちっと様子見に来ようと思ったら……まさか、魔王城に乗り込んでるとはなぁ?」

女僧侶「助けに来てくださったんですね!?」

男戦士「俺だけじゃねぇみてぇだぞ……? なぁ~んか、おめぇらの知り合いって奴……いっぱい来てるぞ?」

女僧侶「……えっ?」


女商人「女僧侶さんっ! 大丈夫ですかっ! 今、手当をしますっ! 動かないで下さいっ!」

女僧侶「女商人さんっ!?」

女商人「私は女僧侶さんの手当をしますので……皆さんは、奴らの相手をお願いしますっ!」

女僧侶「……皆さん?」

男賢者「やぁ、女僧侶ちゃん? 久しぶりだね?」ニコッ

男魔法使い「それじゃあ、私達は……あの青い奴を相手にしようか……?」


女僧侶「男賢者さんっ! 男魔法使いさんっ!


女勇者「約束通り、怪我治して助けに来たわよ? 間一髪って所だったみたいね?」

男盗賊「じゃあ、怪我人コンビは仲良く黄色い奴という事で……お姉さん、よろしくお願いします……」


女僧侶「勇者さんのお姉さんっ! 男盗賊さんもっ!」


男武道家「……という事は、僕と男戦士君で緑の奴って事だね? いやぁ~、男戦士君、久しぶりだねぇ? よろしくね?」

男戦士「こいつとかよ……俺がババ引いちまったよ……」


女僧侶「男武道家さんまでっ!」

水の魔人「ひー……ふー……みー……8人か……」

雷の魔人「ふん……雑魚が何匹集まろうと、我ら魔人三獣士の敵ではないわっ!」

風の魔人「ちっぽけな人間は……我らに支配されるだけの存在だという事を……その身を持って思い知らせてくれるっ!」


水の魔人「……いくぞっ! お前達っ!」

雷の魔人「人間よっ! 我ら力を思いしれっ!」

風の魔人「うおおぉぉっ!」

今日はここまで

男賢者「くらえっ! 僕の魔力を見せてやるっ!」

水の魔人「……フン」

男賢者「正しい力の使い方……力を見せるのは……今、この瞬間だっ! うおおぉぉっ!」

水の魔人「バカめっ! 貴様ら魔導師の弱点は、その呪文詠唱の時だっ!」

男賢者「うおおぉぉっ! フルチャージだっ……!」ギリギリ

水の魔人「そう安々と撃たせてたまるものかっ! 隙だらけだぞっ! 死ねぇっ!」ドヒューンッ

男賢者「!」


カキンッ


水の魔人「……何っ!? 弾かれただと!? どういう事だ?」

男魔法使い「……あのねぇ、君? 魔導師の弱点が、呪文詠唱のタイムラグにあるなんて、重々承知だよ?」

水の魔人「……貴様っ!?」

男魔法使い「伊達に歳とってるワケじゃないよ、私は? それをカバーする方法なんて、いくらでもあるよ?」

水の魔人「くそっ……! すでに結界魔法を張っていたかっ……!」

男魔法使い「うちの息子は私に似て優秀だからね。 攻撃は彼、一人にやってもらう事にしてるの」

水の魔人「……くっ!」

男魔法使い「そして、その弱点を補うのが……親である、私の仕事……ウチの方針です」

水の魔人「ならばっ……! 直接、奴を叩いてやるっ! うおおぉぉっ!」

男魔法使い「おっと! そうはさせないよっ!」

水の魔人「……ぬ?」

男魔法使い「私だって、一応攻撃魔法は使えるんだよ? はぁっ! たぁっ!」


ヒュンヒュン……ヒュンヒュン……


水の魔人「くっ……! これは……! 魔力の矢が大量に……」

男魔法使い「どう? 威力は弱いけど、出が早い優れた魔法でしょ? 男賢者にはいつもバカにされちゃうんだけどね?」

水の魔人「くっ……! くそぉ! 鬱陶しいぞ、人間風情がぁっ!」

男魔法使い「鬱陶しくて結構です。これが私の仕事ですから」

水の魔人「くっ……! くそっ……!」ギロリ

男魔法使い「おっと……私を睨んでくれるのはありがたい事だねぇ?」

水の魔人「……何?」

男魔法使い「だって、さ……? ほら?」


男賢者「……よしっ! 魔力が溜まったぞっ!」

水の魔人「し、しまったっ……!」

男賢者「うおおぉぉっ! くらええぇぇっ!」


ドヒューンッ


水の魔人「う、うわああぁぁっ!」


男賢者「父さんっ! やりましたよっ! とどめに合体魔法を撃ちましょうっ!」

男魔法使い「…… 力は私に合わせてね? 私、君の力ついていけないからさ?」

雷の魔人「おらっ! うらぁっ! くらえっ!」

男盗賊「おっと……よっ……ほっ……」

雷の魔人「くそっ! すばしっこい奴め……」

男盗賊「こっちはよぉ? ガキの頃から、エロ本盗んで毎日道具屋のおっさんと鬼ごっこしてたんだよ!?」

雷の魔人「うおおっ! くらえっ! おらっ!」

男盗賊「そんな、遅ぇ攻撃なんて擦りもしねぇよっ! ほらほら? 魔法でも撃ってこいよ、バーカっ!」

雷の魔人「ならば望み通り、魔法で貴様を始末してやるとしよう……うおおぉぉっ! くらえっ!」


ズドーンッ


男盗賊「う、うおっ……! あ、危ねぇっ……」アセアセ

雷の魔人「貴様、魔法攻撃には慣れていなみたいだな……次の攻撃……避けれるかな……?」

男盗賊「確かに……道具屋のおっさんは魔法攻撃使わなかったからなぁ……でも、姉さんっ! 雷は出来ましたよっ!」

雷の魔人「……ぬ?」

女勇者「悪ガキ小僧だった癖に……あんた、やるようになったじゃない……?」

男盗賊「へへ……ありがとうございます……じゃあ、後は任せますんで……」

女勇者「ええ……私も、あの子や父さんに負けてられないから……」


雷の魔人「次は女か……?」

女勇者「……ありがとね?」

雷の魔人「……はぁ?」

女勇者「私……まだ、雷の魔法が使えないから……貴方に作ってもらわないと、出来そうにないから……」


バチバチ……バチバチ……


女勇者「この雷を切り裂くのが……勇者一族の必殺技よ?」

雷の魔人「!」

女勇者「はああぁぁぁっ!」

雷の魔人「し、しまったっ……! こいつら……最初から、私の魔法を利用する気で……」

女勇者「父さん……いつかは、私一人できるようになってみせるからっ!」

雷の魔人「……ぐっ!」

女勇者「今はまだ未完成だけど……お願いっ! 私に力を貸してっ!」

雷の魔人「!」

女勇者「はああぁぁっ! ギガスラッシュ!」


ズバーンッ


雷の魔人「……ぐ、ぐぐっ」


女勇者「よしっ! とどめよっ! 悪ガキ小僧、あんたも手伝いなさいっ!」

男盗賊「もう、悪ガキって歳でもねぇんですけどね……俺、もう足洗いましたしさぁ……?」

男武道家「ほっ! たっ! とっ!」

風の魔人「……ぬんっ! 甘いわっ!」

男武道家「……くっ!」

風の魔人「うおおっ! だぁっ! たぁっ!」

男武道家「う、うおっと……君、凄いねぇ……? 強いねぇ……?」

風の魔人「ふん……人間風情に褒められても、嬉しくないわ……」

男武道家「……ねぇねぇ? ちょっと、話があるんだけどさ? 聞いてくれない?」ヒソヒソ

風の魔人「戦いの最中に小声でどうした? まさか、我ら魔王軍に寝返りたいのか、貴様?」

男武道家「……あのねあのね? ちょっとさぁ? 『イナカモン』って言って見てくれないかな? お願いっ!」ヒソヒソ

風の魔人「……イナカモン? なんだ、それは?」


男戦士「……あぁ?」ギロリ


風の魔人「……ぬ?」

男武道家「よしっ!」

男戦士「おい……おめぇ……今、俺の事イナカモンってバカにしただろ?」ワナワナ

風の魔人「えっ……えっ……?」

男戦士「言ったよな? 確かに聞こえたぞ、おいっ! おめぇ、俺の事イナカモンってバカにしただろ?」

風の魔人「ま、待て……! ど、どういう事だ……」

男戦士「俺の事田舎者ってバカにするヤツはよぉ~、例え魔物でも魔王でも許さんよぉ~!」シクシク

風の魔人「待てっ……! 私には何のことやら……」

男戦士「栃木はよぉ~! 田舎なんかじゃねぇよぉ~! うおおおぉぉぉっ!」シクシク

風の魔人「待てっ! 落ち着けっ! 話をしようっ! 話せばわかるっ!」

男戦士「うおぉぉ! うるぁっ! おらぁっ!」ガシガシ

風の魔人「ぐっ……こいつ、早っ……! ぐっ……!」

男戦士「なんで皆、俺の事田舎者ってバカにするんだよぉ~、俺は田舎者なんかじゃねぇよぉ~!」シクシク

風の魔人「ぐっ……! ガッ……! くそっ……!」

男戦士「だいたいよぉ~? この魔王城だって、結構な田舎じゃねぇかよぉ~? なんで、そんな奴が俺の事田舎者ってバカにするんだよぉ~?」シクシク

風の魔人「ぐっ……ぐっ……! こいつ、強いっ……!」

男戦士「てめぇの事、棚にあげて俺の事バカにしてんじゃねぇぞっ! うおおおぉぉっ!」

風の魔人「!」


ズバーンッ


男武道家「いや~、彼と組むと楽出来るからいいねぇっ! あのイナカモン、使えるなぁ~!」ニヤニヤ

男戦士「栃木の事バカにしてんじゃねぇぞゴルァッ! とどめだ、くらえっ!」

女僧侶「皆、凄い……私も何かサポートしないと……」

女商人「女僧侶さんっ! だったら、この魔法薬を使ってみて下さいっ!」

女僧侶「……これは?」

女商人「いい商品が手に入ったんですよ! 一時的にですが……魔力を増強させる事が出来るそうですっ!」

女僧侶「!」

女商人「私は皆さんに助けられたから……こんなに、いい商品を仕入れる事が出来ましたっ! だから、今度は私が皆さんを助ける番ですっ!」

女僧侶「女商人さん……」

女商人「女僧侶さんっ! これを使って下さいっ!」

女僧侶「わかりましたっ……! ありがたく使わせて頂きますっ……!」

女僧侶「……こ、これは」

女商人「あ、あれ……? ひょっとして……また、ダメな商品だったのでしょうか……?」

女僧侶「い、いえ……違います……その逆です……」

女商人「……逆?」

女僧侶「身体中から……魔力が溢れてくる……これなら……これならっ!」

女商人「!」

女僧侶「よしっ! 私だって……はああぁぁっ!」

女僧侶「たああぁっ!」


水の魔人「……ぐっ! 何っ!?」

雷の魔人「くっ……動けんっ……!」

風の魔人「あの女っ……! 我々三人の動きを完全に封じているぞっ……!」


女僧侶「皆さんっ! 奴らの動きは完全に封じましたっ!」

女商人「今ですっ! とどめをお願いしますっ!」


水の魔人「!」

雷の魔人「!」

風の魔人「!」

男賢者「うおおおぉぉっ! 父さん、行きますよっ!」

男魔法使い「あぁ! 私達の力を見せてやろうっ! いくよっ!」


水の魔人「!」


女勇者「悪ガキ小僧っ! あんたも手伝いなさいっ! いくわよっ!」

男盗賊「 俺だって胸張れる人生歩みたいから……やってやりますよっ! いきますっ!」


雷の魔人「!」


男戦士「だから、俺は田舎者じゃねぇって言ってんだろがぁ~! うおおおぉぉっ!」

男武道家「美味しい所は僕も参加しよう……美味しい所は……たああぁぁっ!」


風の魔人「!」


女商人「やったっ! 皆さんの攻撃で……やりましたよっ! 女僧侶さんっ!」

女僧侶「皆さん……本当に……本当に……ありがとうございますっ……!」

今日はここまで

ーーーーー


女僧侶「皆さんのおかげで、魔人三獣士を倒す事が出来ましたっ! 本当にありがとうございますっ!」

男戦士「なぁ~に、お前らが先陣切って乗り込んでくれたおかげで、俺達もここまで来れたんだ。 気にすんなや」

女勇者「……ところで、女僧侶ちゃん?」

女僧侶「?」

男戦士「おめぇら、人数が足りないんじゃねぇか?」

女勇者「そうよ……あの子……勇者はどうしたの? それに、天童さんも」

女僧侶「あっ、そうだっ! 実は勇者さんと天童さん……落とし穴に落ちて……はぐれてしまったんですっ!」

男戦士「なぁ~にをやってるんだ……あいつらは……」

女勇者「落とし穴って……昔からあの子、抜けてる所あるのよね……なんで、こんな時にそんなヘマしちゃうのかしら……」

男戦士「まぁ、あいつらはもう放っておくか……下手に探して……こっちまで、迷子になるってのはゴメンだしね……」

女勇者「そうですね。先程のような強さを持った魔物は、おそらくもういないでしょうし……」

女僧侶「……えっ?」

男戦士「まっ……一応、俺達が進んだ場所がわかるように、道標でも壁に掘っておいてやるか……」ガリガリ

女勇者「うちの弟が本当に……御迷惑をかけます……」

女僧侶「ちょっと……ちょっと、男戦士さん……? 女勇者さん?」

男戦士「え~っと……早く合流しろバカ……皆待ってるぞ……男戦士っと……」ガリガリ

女勇者「お姉ちゃんに……恥をかかせないで……(笑)……っと……」ガリガリ

女僧侶「勇者さんの事、探しに行かないんですかっ!?」

男戦士「心配するなって、あいつはきっと大丈夫だよ。あいつは大丈夫」

女勇者「私の誇りの弟だもの。こんな所で死ぬような子じゃないわ、あの子は」

女僧侶「……えっ?」

男戦士「あいつは根性あるからよぉ? きっと、今頃戻ってくる為に走り回ってんだろ」

女勇者「女僧侶ちゃんも、そう思うんじゃないの?」

女僧侶「……はい。勇者さんは、きっと大丈夫だと思います」

男戦士「それよりも……今から魔王と戦うんだ、俺達は……さっきの騒動を知った雑魚達に、守りを固められる方が厄介だ……」

女勇者「このチャンス……絶対に逃してはいけない……だから、私達は魔王の元に行きましょう?」

女僧侶「……」

男戦士「……大丈夫だよ、必ずアイツは来るって。もう一年生じゃねぇんだ」

女勇者「あの子ならきっとやってくれるわよ……信じましょう? 女僧侶ちゃん?」

女僧侶「……わかりました。 勇者さん、必ず戻って来て下さいっ!」


男戦士「よしっ! 皆、魔王がいるのはおそらく、この先だっ! 雑魚に守りを固められる前に、こっちから乗り込むぞっ!」

ーーーーー


魔王「……魔人四天王がやられたか」

魔王「兵は怖気づき……士気も下がっておる……困ったものだ……」

魔王「……」

魔王「やはり……私自らが動かねばならぬようだな……」

魔王「……」


ギイィィィッ


魔王「……来たか。人間よ」

男戦士「……お前が大将か?」

女勇者「父さんっ……!」

男賢者「とても強い……邪悪な力を感じますっ……! 皆さん、気をつけて下さいっ……!」

男魔法使い「……あぁ、油断大敵だね、こりゃ」

男盗賊「おめぇのせいでよぉ! 家族を失った人間が沢山生まれたんだっ!」

女商人「苦しんでいる人……悲しんでいる人……そんな人をもう、二度と出さない為にもっ……!」

男武道家「これだけ人数がいれば、誰かがやってくれるでしょ。 うん、誰かが。 僕じゃない誰かが」


魔王「さぁ! 人間よっ! かかってこいっ! この魔王……三度土はちけられんぞっ!」


女僧侶「勇者さんっ……! 待ってますっ……! 私、待ってますからっ……!」

ーーーーー


勇者「……ん? なんだこりゃ?」

天童「ん、勇者? どうしたんだ?」

勇者「お、おいっ! 天童見ろよっ!? そこに、魔人の死体三つが転がってるぜ!?」

天童「お、おぉっ! これが噂の魔人三獣士って奴かっ!」

勇者「女僧侶ちゃんが一人で倒したのかな、コレ……?」

天童「う~ん……どうなんだろね……? ん……?」

勇者「……ん、天童? どうしたんだ?」

天童「おい、勇者……この壁に掘られてる文字、読んでみろよ……?」

勇者「『このラクガキを見て後ろを振り返った時、お前は死ぬ』とか書いてるんじゃねぇだろなぁ? 怖ぇよ、おい」

天童「バカっ! おめぇは何のアニメの話をしてるんだっ! この物語には不細工な黒人と生意気な犬は登場してねぇだろがっ!」

勇者「え~っと……ん、何だコレ? 早く合流しろバカ……皆待ってるぞ……?」

天童「……」

勇者「……男戦士!?」

天童「男戦士さんが書いたんだっ! 男戦士さん来てくれたんだよっ! それに、こっちにもあるぞっ!?」

勇者「お姉ちゃんに恥をかかせないで(笑)……これは、姉ちゃんだっ! 姉ちゃんも来てくれたのかっ!」

天童「まだあるぞっ! 勇者っ!」

勇者「男賢者……男魔法使い……男盗賊……女商人……う~ん、最後のは字が汚くて、何て書いてあるかわかんねぇや……」

天童「皆、来てくれたんだよっ! 皆がよぉっ!」

勇者「……という事は!」

天童「あぁっ!」

勇者「この書いてある、道標の先に……皆や女僧侶ちゃんがいるって事かっ!」

天童「そうだっ! 皆、助けに来てくれたんだよっ!」

勇者「皆……皆っ……!」

天童「よしっ! 勇者っ! 早く皆と合流するぞっ! 道標の方に進むんだっ!」

勇者「あぁっ!」

天童「これだけ人数がいるんだっ! もう、魔王なんて怖くねぇだろ!? なぁ!?」

勇者「あぁっ! そうだねっ! 行こうっ! 天童っ!」

ーーーーー


勇者「この大きな扉……」

天童「あぁ、この扉だけ雰囲気が違うな……おそらく、魔王がいるのはこの先だっ……!」

勇者「魔王……」

天童「勇者ァ! ビビってんじゃねぇぞっ! 中ではもう、皆がドンパチやってるんだからよぉっ!」

勇者「ビビってなんかないよ……これで……これで、終わりなんだからっ……!」

天童「よしっ! じゃあ、途中参加だけど、いい所見せる為に俺達も暴れまくろうぜっ! 行くぞ、勇者ァ!」

勇者「あぁっ! 行くぞっ! 天童っ!」


ギイイィィッ

勇者「皆っ!」


男戦士「うっ……くっ……」

女勇者「ううっ……」

男賢者「く、くっ……」

男魔法使い「くそっ……」

男盗賊「や、やべぇ……」

女商人「……こいつ」

男武道家「……強い」

女僧侶「勇者……さんっ……!」


勇者「……えっ?」

魔王「来たか……勇者の息子よ……お前もその仲間と同じようにしてやろう……」






PM4:00

タイムリミットまで後、1時間





変なタイミングだけど今日はここまで

魔王「さぁ……剣を抜け、勇者よ……貴様とは一対一の戦いをしてみるのも悪くないだろう……」

勇者「……えっ?」

魔王「私は一度、貴様の父親に土をつけられた……だが、その父親も私自らの手によって、葬り去ったがね……」

勇者「……ぐっ!」

魔王「これで……勇者と呼ばれる者とは一勝一敗というわけだ……」

勇者「……」

魔王「お前の仲間はもう虫の息だ……父親の復讐の為……一人でかかってくるがよい……勇者よ……」

勇者「……」

魔王「そして、私は貴様を葬り去り、魔王としての威厳を取り戻してくれるわっ!」

天童「おいっ! 勇者ァ! バカ正直に挑発に乗るんじゃねぇぞっ!」

魔王「……ぬ?」

天童「こんだけ人数がいるんだっ! わざわざタイマン勝負なんてする必要はねぇよ! 皆で袋にしちまえばいいんだよっ!」

魔王「……その、死にかけの連中と共にか?」

天童「これが人間のやり方なんだよっ! 魔王さんよぉっ! 一人じゃできない事は……皆で力を合わせてやればいいんだよぉっ!」

魔王「……臆病者め。 父親は勇者に一人でこの魔王に向かって来たというのにな」

天童「なんとでも言えっ! こんにゃろっ! 皆っ! コイツを袋にしちまおうぜっ!」

魔王「では……その死にかけの連中から、始末してみようとするかな……?」


勇者「待てっ!」

勇者「一対一でやってやるよ……だから……皆には手を出すな……」

魔王「……ほう」


天童「おいっ! 勇者ァ! 相手は魔王なんだぞっ! 皆で協力してよぉ……!」

勇者「……なぁ、天童?」

天童「……あぁ?」

勇者「皆はもう……無理だよ……」

天童「……」

勇者「ほら……? 皆、もうボロボロじゃないか? 俺達が来る前に……皆はもう、頑張ったんだよ」

天童「そうだけどよぉ……!」

勇者「ここが……俺の人生の集大成なんじゃないかな……?」

天童「……あぁ?」

勇者「俺が何もしてなかった時……皆は、ずっと頑張ってたんだ……」

天童「……」

勇者「それは、今日だけの事じゃない……今までも……ずっとずっと、そうだったんだ……」

天童「……」

勇者「だけど、俺はその遅れて来た分を取り戻す為に……頑張ってきた……」

天童「……」

勇者「だから今日も……同じように、遅れてきた分を取り戻さなきゃいけない……皆に、もう甘えてられないよ」

天童「……勇者」

勇者「大丈夫だってっ! おめぇがさぁ? そんなしみったれた顔するなって! 調子狂うじゃねぇかっ!」

天童「!」

勇者「今まで……俺はやってこれたんだ……だから、今回だって……! 相手が魔王だろうと、やってみせるよ俺はっ!」

天童「勇者っ……!」

勇者「天童は皆の手当をしてくれ……」

天童「チッ……わかったよ……」


勇者「俺は……奴を倒すっ……!」

天童「おいっ! 勇者ァ! 絶対っ……! 勝てよっ!」

勇者「うおおぉぉっ! 行くぞっ! 魔王っ!」

魔王「来いっ! 勇者よっ!」

勇者「だああぁぁっ!」

魔王「うおおおぉぉっ!」


ガシッ


勇者「うっ……くっ、くっ……!」

魔王「ほ~う……? お前は先程までの雑魚とは違うようだな……?」

勇者「そんな事ねぇよ……俺と皆は……何も変わらねぇよっ……!」

魔王「だがっ……! この魔王に挑むにはまだ、早かったようだなっ!? うおおおぉぉっ!」

勇者「……ぐっ!」

魔王「くらえっ! 勇者よっ!」

勇者「!」


ドゴォォッ

勇者「……ぐ、ぐぐっ!」

天童「勇者っ! 油断してんじゃねぇっ!」

勇者「……えっ?」

天童「上だっ! 上から来てんぞっ!」

勇者「し、しまった……!」


魔王「うおおおぉぉっ! くらええぇぇっ!」ドゴォォッ

勇者「う、うおっ……危ねっ……」ヨロヨロ

魔王「甘いっ……! 逃すかっ!」

勇者「何っ!?」

魔王「くらええぇぇっ!」

勇者「!」


ドゴオオォォ

勇者「ぐっ……! くそっ!」

魔王「はああぁぁっ!」

勇者「こいつ……一撃一撃が重いっ……! それに……早いっ!」

魔王「くらえっ!」

勇者「!」

魔王「吹き飛べっ! 勇者よっ! うおおおぉぉっ!」


ドゴオオォォ


勇者「ぐ、ぐわああぁぁっっ!」

魔王「まだだっ! まだ、眠るには早いぞっ! 勇者っ!」ダッ


天童「やばいっ! このままじゃ、壁に叩きつけられちまうっ! それに、魔王も追って来てるぞっ! 勇者ァ!」

勇者「だけどっ……! お前に吹き飛ばされたおかげで魔法を使うチャンスが出来たぞっ! 魔王っ!」

魔王「ほ~う……吹き飛ばされながらも、呪文詠唱をするというわけか……」

勇者「……うおおおぉぉっ!」

魔王「だが……出来るかな? ほら、もう壁に叩きつけられるぞ? その前に呪文詠唱が出来るかな?」

勇者「やってやるよっ……! うおおおぉぉっ! ギガデイン!」


ドゴーンッ


勇者「……がっ!」ビターンッ

天童「おい、勇者っ! 大丈夫かっ!?」

勇者「へへ……一発、いいの入れれたんだから……これくらいの痛み……なんともねぇよ……」ヨロヨロ

天童「無茶してんじゃねぇよっ……!」

勇者「大丈夫だってこれくらい……ん……?」

天童「あれ、勇者? どうした……?」


魔王「……これが、お前の攻撃か?」

勇者「嘘……だろ……?」

天童「アイツ……効いてねぇっ……!」

魔王「お前の父は……もう少し、まともな術だった気がするが……」

勇者「くっ……! ま、まだだっ……!」

魔王「……ん?」

勇者「あの雷を切り裂けば……!」ダッ

魔王「……」

勇者「うおおおぉぉっ! ギガスラッシュ!」


ズバーンッ


勇者「ど、どうだっ……!? 今度こそは……!」

魔王「……お前は、何がしたいのだ?」

勇者「ま、まただっ……! こいつ……効いてねぇっ……!」

魔王「まさか……それで本気というワケじゃあるまいだろうな……?」

勇者「く、くそっ……! ど、どうなってるんだ!」

魔王「本気でかかってこいと言っておるのだっ! あまり、私を怒らせるなよっ! 勇者ァっ!」

勇者「く、くそっ……! うおおおぉぉっ!」

勇者「うおっ!」

魔王「……」

勇者「だぁっ!」

魔王「……」

勇者「うっ……! く、くそっ……!」

魔王「……どうした?」

勇者「くっ……! 諦めて……たまるかよっ……! うおおぉぉっ!」

魔王「こんな物か……やはり……私が負けたのは……」

勇者「くそっ! くそっ! 負けてたまるかよっ! うおおおぉぉっ!」

魔王「……もういいっ!」バキッ

勇者「……ぐ、ぐああぁっ!」

勇者「く、くそっ……!」

魔王「もういい……」

勇者「……うっ!」

魔王「所詮、人間風情と言った所か……これで、とどめにしてやる……」

勇者「!」

魔王「……死ねっ!」


天童「うおおおぉぉっ!」

勇者「天童っ!?」

天童「背後がお留守ですよ、魔王さ~んっ! くらいやがれっ!」バキッ

天童「俺の事を忘れちゃいけねぇよっ! 俺の事をよぉっ! おらぁっ!」

勇者「て、天童……」

天童「タイマン勝負って決めたのは、おめぇら二人だろ? 俺はそんな事、聞いちゃいねぇなぁ……ほれほれっ!」バキッ

勇者「お、おいっ! 天童……!」

天童「うるせぇっ! 勇者ァ! バカな意地張ってんじゃねぇよっ! おめぇ、情けなくて見てられねぇよっ! おらぁっ!」

勇者「い、いや……天童……そうじゃなくて……」

天童「おらおらっ! 天童100連打だっ! はい、ご~ぉっ! ろ~くっ! ん……?」


魔王「……」


天童「あ、あれ……? ひょっとして……全然効いてないのかしら……?」

勇者「おめぇが助けにきてくれたのは、凄ぇありがたいんだけどさぁ……? おめぇ、ちっとヤバくねぇか?」

魔王「……そんなものか?」

天童「えっ……いやぁ……後、90発ぐらいあるんですけどねぇ……」アセアセ

魔王「私は、それほど暇ではない……ふんっ!」バキッ

天童「!」


勇者「おいっ! 天童っ! 大丈夫かっ!」

天童「ううっ……く、くそっ……!」

勇者「おいっ! 一対一の勝負って言っただろがっ! こいつに手を出してるんじゃねぇよっ!」

魔王「……割り込んできたのはコイツの方じゃないか」

勇者「うるせぇっ! くらえっ!」

勇者「うるああぁぁっ!」

魔王「……ふんっ!」

勇者「くそっ……! 負けて……負けてたまるかよっ……!」

魔王「……うおおおぉぉっ!」ドゴオオォォ

勇者「ぐ、ぐはあっ……! くそっ……! うおおぉぉっ!」

魔王「……しつこいな」

勇者「くそっ……! くそっ……! なんで……なんで効かねぇんだっ……!」

魔王「うおおおぉぉっ!」

勇者「!」


ドゴオオォォ






PM4:30

タイムリミットまで後、30分





今日はここまで

勇者「ぐっ……! うわああぁぁっ!」

男戦士「……勇者ァっ! 危ねぇっ! 壁に叩きつけられちまうぞっ!」ガシッ

勇者「……えっ!?」

男戦士「はぁっ……はぁっ……くそっ、大丈夫か? 勇者?」

勇者「男戦士さんっ! 男戦士さんこそ、大丈夫なんですか!?」

男戦士「あぁ……おめぇのおかげで、休憩出来たからよぉ……ここからは……俺達も手伝うぜ……」

勇者「……えっ?」


男武道家「よしっ! 皆っ! 僕達も行くぞっ!」

男盗賊「わかってますよっ……! 皆の力を合わせて……あいつを倒すんだっ……!」

女勇者「勇者……お姉ちゃんも……頑張るからね……? あんたも……まだ、倒れちゃダメよ……?」


魔王「……ふん」

男賢者「僕達は……後方から……魔法で支援しますっ……! 父さんっ……! 行きますよっ……!」

男魔法使い「あぁっ! わかってるよっ……! 男賢者っ……!」


勇者「皆っ……! 皆、傷ついてるはずなのに……」


女商人「勇者さんと、天童さんは一度、引いて下さいっ!」

女僧侶「私達が、治療しますっ! さぁ、早くっ!」


勇者「女僧侶ちゃん……」

天童「女商人さん……」

男戦士「次は俺達だっ! くらえっ! 魔王っ!」

魔王「……ふん」

男武道家「これだけの人数で攻撃したら……いくら魔王といえども……だあぁっ!」

魔王「ゴミが集まった所で……世界を支配する私になどは効かぬわ……」

男盗賊「そんなもん、やってみなくちゃわかんねぇだろがっ! うおおぉぉっ!」

魔王「……ふん」

女勇者「はああぁぁっ! 喰らいなさいっ!」

魔王「甘いっ! 甘いわっ! うおおおぉぉぉっ!」


男戦士「!」

男武道家「!」

男盗賊「!」

女勇者「!」


魔王「纏めて死ねえぇっ! 虫ケラ共っ!」スギャーンッ

男戦士「……う、うわあぁぁっ!」

男武道家「……ぐっ!」

男盗賊「……くそっ!」

女勇者「まだよ……皆……諦めちゃいけないわ……」


魔王「……ふん」


男賢者「うおおおぉぉっ! 今だっ! 父さん、行きますよ……!」

男魔法使い「あぁっ! 私達の合体魔法で……くらえっ……!」


ゴオオォォッ


魔王「……うおおぉぉっ!」

男賢者「あ、あいつ……」

男魔法使い「我々の合体魔法を……受けとめているよ……」

魔王「……これが、合体魔法だと? 魔王も舐められたものだな」

男賢者「くっ……!」

男魔法使い「こ、こいつ……!」

魔王「うおおおぉぉっ! こんなもの……弾き返してくれるわっ……!」

男賢者「……何っ!」

男魔法使い「やばいっ……! 早く、結界魔法を……」

魔王「させるかっ! 自らの魔法で死ねぇっ! だああぁぁっ!」

男賢者「!」

男魔法使い「!」


ゴオオォォッ


勇者「……く、くそっ!」

男賢者「……ぐっ」

男魔法使い「うっ……ううっ……」

魔王「ふん……愚かな……」


勇者「くそっ! 女僧侶ちゃんっ! 女商人さんっ! 俺達の回復はもういいからっ!」

女僧侶「……えっ?」

天童「皆の回復をしてやってくれっ! 俺達はもう大丈夫だっ!」

女商人「で、でも……お二人はまだ、ダメージが……」


勇者「皆のダメージの方が深刻だよっ! 今は……動ける人間が動かなきゃ……!」

天童「こん中じゃ、俺達がまだ一番軽傷ばいっ! 勇者ァ! 行くぞっ!」

勇者「魔王っ! 選手交代だっ! 次は俺達の番だっ!」

魔王「……勇者よ?」

勇者「何だよ……?」

魔王「お前にプライドはないのか……?」

勇者「……あぁ?」

魔王「私との一対一の勝負は何処に行ったんだ……?」

勇者「……そんなもん、知らねぇよ。 それに、俺にプライドなんて最初からねぇよ」

魔王「……何?」

勇者「皆で協力する事の……何が悪いんだよ? 一人一人の力は弱くても……こうやって協力してればよぉ……?」

魔王「……」

勇者「それは大きな力に変わるだろっ! お前を倒すだけのなぁ! うおおおぉぉっ!」

魔王「……虫ケラが力を合わせた所で、この魔王には勝てんわっ! うおおおぉぉっ!」

勇者「うらああぁぁっ!」

魔王「……ふんっ!」

勇者「くそっ……! くそっ……! うおおぉぉっ!」

魔王「人間ごときに力では……この私には勝てんわっ!」

勇者「父さんに一度負けた癖によぉ……? 偉そうに言ってんじゃねぇぞっ! うおおぉぉっ!」

魔王「……甘いっ! うおおぉぉっ!」ドゴオォォッ

勇者「……ぐわあぁぁ!」

魔王「……勇者よ? 勘違いしているようだから、一つ言っておこう」

勇者「……あぁ?」

魔王「今日の貴様達を見て……確信をした……私は貴様の父に負けたのではない……」

勇者「……何、言ってんだ?」

魔王「貴様の父がこの私に勝てたのは……『禁呪』を使ったからだ……私は人間に負けたのではない……『禁呪』に負けたのだ……」

勇者「……禁呪?」

魔王「まぁ、お前の父は……使いこなす事が出来ず……私を完全に倒す事は出来なかったようだがね……」

勇者「……」

魔王「愚かな人間共には使いこなす事ができん……古の魔法だ……」

勇者「……だったらよぉ?」

魔王「……ん?」

勇者「俺がその魔法使いこなせれば……おめぇ、倒せる可能性があるって事だな?」

魔王「出来るのか……? お前に出来るのか……? 勇者よ……?」

勇者「やってやるよっ……! うおおおぉぉっ!」

天童「勇者っ! 落ち着けっ! 挑発に乗るんじゃねぇっ!」

勇者「天童!? なんで、止めるんだよっ!」

天童「その魔法だけは使っちゃいけねぇんだっ! おめぇには無理だよっ!」

勇者「無理無理って、勝手に決めてるんじゃねぇよっ! やってみなくちゃわかんねぇじゃねぇかっ!」

天童「いいから、落ち着けっ! まだ、15分あるっ!」

勇者「……ん?」

天童「おめぇ、さっき言ってたじゃねぇかよ……小さな力でも……皆で協力すれば大きな力になるって……」

勇者「……」

天童「おめぇ一人で、そんな大きな力を使う事はねぇよ! 皆で協力すればいいじゃねぇかっ!」

勇者「……でも」

天童「『でも』じゃねぇっ! とにかく地道にコツコツやるしかねぇんだっ! わかったなっ!?」

勇者「……なんで、そんなに止めるんだよぉ?」

天童「余計な事言ってるんじゃねぇっ! いいから、今は皆で力を合わせて戦うんだっ! 行くぞっ!」

勇者「……くそっ、わかったよ」

天童「うおおおぉぉっ! 行くぞっ!」

魔王「……ふんっ!」

天童「くそっ! 何やってるんだ、勇者ァ! おめぇも手伝えっ!」


勇者「う、うん……わかった……うおおおぉぉっ!」

魔王「……ふんっ!」

勇者「く、くそっ……!」


魔王「うおおおぉぉっ! くらえっ!」


天童「!」

勇者「!」


ドゴオォォッ

勇者「ぐっ……」

天童「く、くそっ……」


魔王「……ふん」


男戦士「はぁっ……はぁっ……おい、お前らは下がれ……」

男武道家「次は僕達が行くよ……下がって回復してもらいなよ……」


勇者「二人共……もうボロボロじゃないですか……!?」


男戦士「……おめぇらよりかはマシだよ。 行くぞ、男武道家よぉ!」

男武道家「あぁ……必ず……奴を倒してみせるっ……!」

男戦士「うおおおぉぉっ! くらえっ!」

男武道家「だあぁっ!」

魔王「甘いわっ! うおおおぉぉっ!」

男戦士「ぐっ……!

男武道家「うっ……ううっ……」


男盗賊「二人は下がって下さいっ! 姉さんっ! 行きましょうっ!」

女勇者「行くわよっ! たああぁぁっ!」

魔王「……ふん」

魔王「うおおおぉぉっ!」

男盗賊「!」

女勇者「!」


勇者「男盗賊っ……! 姉ちゃんっ……!」


男賢者「父さん……僕達も行きましょう……!」

男魔法使い「あぁ……! やってやるよっ! うおおおぉぉっ!」


魔王「何度やっても同じだぁっ! 弾き返してくれるっ!」


男賢者「!」

男魔法使い「!」


勇者「くそっ……! くそっ……! 皆……皆……!」

男戦士「……くそっ」

男武道家「う、うぅ……」

男盗賊「ちくしょう……」

女勇者「くっ……勝てない……」

男賢者「……こいつ」

男魔法使い「……なんて奴だ」


魔王「……ふん、そろそろ纏めて始末してやるか」


勇者「うおおぉぉっ! させてたまるかああぁっ!」


女商人「……勇者さんっ!?」

女僧侶「ダメですっ……! 勇者さん、まだ回復が不十分ですっ!」

勇者「うおおおぉぉっ!」

魔王「はぁっ!」

勇者「……ぐっ!」

魔王「何度やっても同じ事よっ!」

勇者「くそっ……! 負けて……負けてたまるかよっ……!」

魔王「うおおおぉぉっ!」

勇者「!」

魔王「はああぁぁぁっ!」ドゴオオォォッ

勇者「ぐっ……くそっ……こうなったら……」

魔王「さぁ……とどめだ……」

勇者(まだ……まだ、勝てる可能性はある……)

魔王「……纏めて死ぬがいい」

勇者(今までだって……なんとかやってきたんだ……)

魔王「うおおおぉぉっ!」

勇者(だから……今回だって……きっとっ……!)


ゴオオォォォッ


勇者「うおおおぉぉっ!」

男戦士「……ぐっ」

男武道家「……くそっ!」


勇者「えっと……ええっと……マダムヤン?……ダマテン……ああっ! 違う違うっ……」


男盗賊「……くそっ!」

女勇者「まだよ……まだ諦めないっ……!」


勇者「黙れって……? マダムヤン……? ああっ、違う違うっ! そうじゃないっ!」


男賢者「……父さんっ!」

男魔法使い「あぁっ……! わかってるよっ!」


勇者「……」

魔王「うおおおぉぉっ! 死ねええぇぇっ!」

勇者「……ちくしょうっ! なんで、何にも出てこねぇんだよぉっ!」


ゴオオォォォッ


勇者「いつもは出てくるのによぉっ! 何で、こんな大事な時に出てこねぇんだよぉっ!」






PM4:55

タイムリミットまで後、5分





今日はここまで

女勇者「くっ……! 結界魔法っ!」

男賢者「父さんっ! 皆を守りましょうっ!」

男魔法使い「あぁっ! わかってるよ! 男賢者っ!」


ゴオオォォッ


勇者「くそっ……! くそっ……! いつもは出来るじゃねぇかよっ……! なんで、今日に限って出来ねぇんだ……」

天童「お、おい……」

勇者「諦めちゃダメだっ……いつもは出来るんだから……今回だって……きっと……きっとっ……!」

天童「……勇者」

勇者「これが最後のチャンスだっ……! まだ、魔法はわからないけど……一か八かっ……!」

天童「おいっ! 勇者っ!」

勇者「……もうちょっとだったのにね? ごめんね……天童……」

女僧侶「勇者さんっ!」

勇者「俺……皆から色々教えてもらった……助けてもらった……」ブルブル

男戦士「……勇者」

勇者「だから、今度は俺が皆を助ける番です……」

男盗賊「勇者ァっ! やめろっ! お前一人で無理する事はねぇよっ! 俺も手伝うから……」

勇者「来るなぁっ!」

男武道家「……勇者君」

勇者「奴に勝つには……これしか方法がないんだ……これしか……だから……俺、行くよ……」ブルブル

勇者「……女僧侶ちゃん?」

女僧侶「……勇者さん」

勇者「あの時、言い逃した言葉……今、言うよ……」

女僧侶「……えっ?」

勇者「俺……女僧侶ちゃんの事……」ブルブル

女僧侶「……」

勇者「……」

女僧侶「……」

勇者「大好きだ」

女僧侶「勇者さん……」

勇者「……」

女僧侶「……」

勇者「男賢者さん……女僧侶ちゃんの事……よろしくお願いします」ペコッ


男賢者「勇者君……君は……命をかけて……その禁呪とやらを使うつもりなのか……」

勇者「……はい」

女僧侶「勇者さん、ダメです! 行かないで下さいっ!」

勇者「……」

女僧侶「勇者さんっ! 私も……私も……」グスッ

勇者「……」

女僧侶「大好きなんですっ! だから……行かないで下さいっ……!」ボロボロ

勇者「……ありがとう」

女僧侶「勇者さんっ!」

勇者「父さんだって……命をかけて世界の平和を守ったんだ……だから、俺だって……」

女僧侶「ダメですっ! 勇者さんっ!」

勇者「……さよなら」

天童「勇者、待てっ!」

勇者「何だよ、天童……」

天童「勇者……もうお前は、一人で大丈夫だ……」

勇者「何、言ってんだよ、なぁ?」

天童「お前が今、使おうとしている魔法は……人間なんかには、とても使えねぇシロモノなんだよ……」

勇者「そんなもん、やってみなくちゃ、わかんねぇじゃねぇか!」

天童「無理だよ……その魔法は……神様だって使いこなす事が出来なかったんだ……」

勇者「……えっ?」

天童「昔……お前達が産まれる……ずっと前の話だ……神様はあの魔王との戦いでよぉ……? 世界を守る為……その魔法を使っちまったんだ……」

勇者「……神様が?」

天童「自分の命や……魂さえも、魔力に魔力に変えて……相手にぶつける呪文だ……」

勇者「……」

天童「神様も……そして、あの魔王も……お互い、その呪文を使っちまったんだ……」

勇者「……魔王も?」

天童「あいつは、復活する為の余力を残してたみたいだけどよぉ……? 神様は奴に勝つ為に……ほとんどその力の全てを使っちまったんだ……」

勇者「……」

天童「……だから、神様は力を失くしちまったんだ」

勇者「……」

天童「そして……魔王が復活して……おめぇの父ちゃんも……同じ事繰り返したんだ……」

勇者「……父さん」

天童「おめぇの父ちゃんは、ギリギリ生き残るだけの力を残してたみたいだけどよぉ……?」

勇者「……」

天童「やっぱり……神様と違って魔王に深手を負わせる事は出来なかったみてぇだな……数年で魔王は復活しちまったってわけだ……」

勇者「……」

天童「そして……自分の寿命さえも殆ど使いきったおめぇの父ちゃんは……復活した魔王に……」

勇者「くっ……! 父さん……」

天童「こんな呪文、人間が使っちゃいけねぇんだよっ!」

勇者「で、でも……」

天童「おめぇ、ここまで生き残びてきたのによぉ? その呪文使って、おめぇも同じようになっちゃいけねぇよっ!」

勇者「でもっ…… ! 奴を倒すにはこうするしかっ……!」

天童「……だから、俺がいるんだろ? なぁ、勇者ァ?」

勇者「……えっ?」

天童「俺は……世界の平和を守る為の……最後の切り札ってワケだ……なぁ、勇者?」

勇者「お、おい……まさか……」

天童「来るなぁっ!」

勇者「お前……もしかして……天童……?」

天童「……」

勇者「……」

天童「……勇者」

勇者「……」

天童「早く『さよなら』って言ってくれ」

勇者「!」

天童「……言ってくれっ!」

勇者「……」

天童「……」

勇者「嫌だ……嫌だよ……」

天童「……」

勇者「絶対に嫌だ……嫌だっ……!」ボロボロ

天童「……」

勇者「天童といなきゃヤダっ……!」ボロボロ

天童「……」

勇者「なぁ? 俺とずっと一緒にいてくれよ? なぁ?」

天童「お前がグズグズ言ってどうすんだよ!」

勇者「!」ビクッ

天童「皆の命は……お前の一言にかかってるんだよっ!」

勇者「……でも」

天童「……勇者」

勇者「……俺、一人じゃなにも出来ないもんっ!」ボロボロ

天童「……」

勇者「……」

天童「お前……周り見てみろ……?」

勇者「……えっ?」

男戦士「……くっ」

男武道家「……ううっ」

男盗賊「……ぐっ」

女勇者「うっ……くっ……」

男賢者「ぐぐっ……」

男魔法使い「……う、ううっ」

女商人「……勇者さん」

女僧侶「勇者さん……天童さん……」


勇者「……」

天童「皆、お前の仲間だ」

天童「俺と出会った頃……一人ぼっちだったお前に……今はこんなに仲間がいる」

勇者「皆……」

天童「俺もお前と始めて会った時、なんで俺がこんなダメな奴の面倒見なきゃいけねぇんだと思ったよ」

勇者「……」

天童「絶対、コイツはダメだって! そう、思ったよ!」

勇者「う、うん……」

天童「……だけど、お前やるじゃねぇか? えぇ?」

勇者「天童……」

天童「何度もダメだと思った時、あったけど……なんだかんだ言いながら、結構底力見せてきたじゃねぇか!」

勇者「う、うん……」ボロボロ

天童「皆、お前が命がけで色んな事を学んできたから……俺も皆もお前についてきたんだよっ!」

勇者「ううっ……うんっ……!」

天童「……だから」

勇者「ううっ……うっ……」ボロボロ

天童「最後まで生き残れ!」

勇者「ぐっ……! ううっ……」

天童「……なっ?」

勇者「……うんっ!」ボロボロ

天童「そして、お前が学んだ一つ一つの事を……絶対、忘れるな!」

勇者「ううっ……」ボロボロ

天童「忘れるなよぉ!?」

勇者「ううっ……」

天童「心に刻み込めっ!」

勇者「うんっ……うんっ……!」ボロボロ

天童「……カァ~、格好よかぁ~、俺っ!」

勇者「ううっ……」

天童「さぁ、言えっ! 最後の命題だっ!」

勇者「……」コクリ

勇者「天童……」ボロボロ

天童「……」

勇者「うっ……ううっ……」

天童「……」

勇者「ぐっ……ううっ……」

天童「……」

勇者「……」

天童「……」

勇者「……さよなら」ボロボロ

天童「……」

勇者「……」

天童「……よしっ!」

勇者「……」

天童「……言えたじゃねぇか?」ボロボロ

天童「後一分だ……」

勇者「……天童?」

天童「じゃあな!」ニヤリ

勇者「!」


天童「それじゃあ、皆さんっ! 私が禁呪を使って魔王に突っ込みますっ!」

女僧侶「天童さんっ……!」

天童「おそらく、この城は崩れる事になると思いますっ! 皆さんはそいつを連れて、避難して下さいっ!」

女商人「天童さんっ……!」


天童「皆さんっ! お世話になりましたっ!」ペコッ

男武道家「勇者君……ここは天童さんに任せて、避難するよ……!」

勇者「でも……でもっ……!」

男戦士「天童さんの気持ち無駄にする気かっ! 勇者ァ! 行くぞっ!」グイッ

勇者「天童っ!? 天童~!」


天童「皆さん! 勇者の事はよろしゅう頼んどきますっ!」

勇者「ううっ……天童っ! 天童~!」

天童「勇者ァっ!」

勇者「!」

天童「バイバ~イっ!」

勇者「!」

天童「俺……結構お前の事、好きだったぜ!」ボロボロ

勇者「天童っ! 天童~っ!」ボロボロ

天童「……18秒前か」

魔王「……仲間に被害が及ばぬよう、逃がしたか」

天童「うおおおぉぉっ!」ピカーッ

魔王「あの魔法を使える奴がまだいたとはな……だが、そんな貧弱な魔力では私は倒せんぞっ!」

天童「やってみなくちゃ、わかんねぇだろっ! うおおおぉぉっ!」

魔王「……ふん、愚かな」

天童「神様ああぁっ! あんたの最後の力を貸してくれええぇぇっ!」ピカーッ

魔王「何っ……!? こいつの魔力が……どんどん増幅しているぞ……!?」

天童「来たぞ来たぞっ……! よしっ! これで、てめぇも道連れだっ!」ニヤリ

魔王「!」

天童「いくぞっ!『マダンテ』!」



ドゴオオォォォッ

ーーーーー


勇者「!」

女僧侶「見て下さいっ! 魔王城が崩れていきますよっ!?」

女勇者「天童さん……やったのね……?」

男賢者「えぇ……魔王の邪悪な気が薄れていくのが感じられます……」

男魔法使い「これで……終わったんだね……」

女商人「……えぇ」

男戦士「終わりだな……」

男盗賊「俺達だけじゃ……無理な戦いだった……」

男武道家「あぁ……天童さんのおかげだ……」


勇者「……天童」

勇者「天童……ありがとう……」


勇者「天童……さよなら……」


勇者「ううっ……うっ……」グスッ


勇者「俺……代わりに言うね……?」


勇者「……」


勇者「よし……カット……」グスッ

そしてーー


女僧侶「魔王倒した宴だからって……こんなに豪勢な食事だなんて、やりすぎじゃないですかね?」

男賢者「男武道家さんの奢りらしいよ? まぁ、遠慮せずいただこうよ?」

男盗賊「俺も酒飲みてぇんだけどなぁ……? あっちの、大人の席行けねぇかな?」

女僧侶「あっ! 男盗賊さん! 私達は未成年なんだから、お酒はダメですよ?」

男賢者「……カクテルぐらいだったらいいんじゃないの? ねぇ、男盗賊君?」

男盗賊「いや、俺は日本酒が……って、勇者、どうした? おめぇ、全然食ってねぇじゃねぇかよ?」


勇者「……えっ?」

男盗賊「おめぇが魔王倒したおかげでよぉ? こんな豪勢な飯奢ってもらえてるんだから……」

男賢者「そうだよ。 勇者君がそんなに遠慮してたら、僕達が意地汚い奴だと思われちゃうじゃないか」クスクス

女僧侶「……勇者さん、どうしたんですか?」


勇者「いや、この飯……天童にも食わせたかったなぁ……って、思ってさ……?」


男盗賊「……」

男賢者「……」

女僧侶「……」


勇者「あいつのおかげで……魔王倒せたってのに……あいつに食わせてやれないのがさ……」

男盗賊「……なぁ、勇者?」

男賢者「勇者君……」

女僧侶「勇者さん……」


勇者「……」


男盗賊「……おめぇ、何言ってんだ?」

男賢者「天童……? 誰ですか、その人……?」

女僧侶「勇者さんの知り合いの方ですか?」


勇者「……えっ?」

勇者「ちょ、ちょっと待てよ、皆……! 何、言ってるんだよ……!」アセアセ

男盗賊「何、言ってるかわかんねぇのはおめぇだよ?」

勇者「天童だよ! 天童っ! あの昔の二枚目みたいな顔して……古臭ぁ~いリアクションばっかりしてたおっさんだよっ!」

男賢者「……勇者君、誰の事言ってるですかね? 僕の父さんの事ですか?」

勇者「何、言ってるんだよ、皆っ! 魔王倒したのだって、天童じゃねぇかっ!?」

女僧侶「……何、言ってるんです勇者さん? 勇者さんが、お父さんから受け継いだ必殺技で倒したんじゃないですか?」

勇者「……えっ?」


男盗賊「そうだよ……おめぇが一人でやってくれたんじゃねぇか?」

男賢者「勇者君、一人で魔王に立ち向かってさ……? いやぁ……僕、尊敬しちゃうなぁ」

女僧侶「勇者さん、とても素敵でしたよ」クスクス

勇者「ちょっと待てよっ! 皆、何言ってるんだよっ!?」

男賢者「何、言ってるかわからないのは勇者君ですよ? 天童……? 誰ですか、それ?」

勇者「ダメ人間の俺をここまで成長させてくれた、天童だよっ! 俺が旅始めたのだって、天童が誘って……」

女僧侶「何、言ってるんですか? 勇者さんが、修行中の身の私を、二人で魔物討伐に行かないかって、誘ってくれたんじゃないですか?」

勇者「えっ……? 違うよ……天童と女僧侶ちゃんが二人で俺を……」アセアセ

男盗賊「おめぇ、魔王と戦ってる時に頭でも打ったか……? それとも、また昔の妄想癖が炸裂してるのか?」

勇者「……えっ?」

男賢者「妄想癖……? なんですか、それ……?」

男盗賊「いやぁ~、こいつ、昔から……自分で考えた物語を、人に聞かせるのが好きなんだけどよぉ~?」

女僧侶「二人でよくしましたよね? 勇者さん?」ニコッ

男盗賊「こいつ、たまぁ~に、その空想の世界と現実がごっちゃになっちまう事があるんだよ? なぁ?」

勇者「……えっ?」

男盗賊「ほら、よく言ってたじゃん? 金髪彼女と付き合ってるだとか……Eカップの女とHしただとか……」

男賢者「あらら……そんな妄想癖が……」

男盗賊「おめぇ、たまにごっちゃになって、わけわかんねぇ事になってたよな? 今回もそうなんじゃねぇの?」

勇者「……えっ?」

男盗賊「な~んかさぁ? その、天童……? って人、自分の中で作って、妄想してたんじゃねぇだろなぁ?」

勇者「天童は……俺の妄想……?」

男盗賊「まぁ、でも……こいつの話って、凄ぇ面白えからよぉ? その、天童って人の話を、聞かせてくれよ?」

女僧侶「あっ、私も聞きたいです」

男賢者「もし、その話が素晴らしければ、僕が小説にしましょう。 聞かせて下さいよ、勇者君?」


勇者「……ふざけるな」ワナワナ


男盗賊「……ん?」

女僧侶「……ん?」

男賢者「……ん?」


勇者「天童は妄想なんかじゃねぇっ! お前ら、何言ってるかわかんねぇよっ! もういいっ!」ダッ


男盗賊「お、おいっ! 勇者っ!」

女僧侶「どうしたんですかっ!?」

男賢者「天童……そんな人、知りませんけどねぇ……」

勇者「男戦士さんっ! 男武道家さんっ!」

男戦士「お~うっ! なんだ~、勇者~? おめぇにまだ酒は早いぞ~?」

男武道家「まぁ、一杯ぐらいいいじゃない? ほらほら、勇者君も飲みなよ~?」

勇者「二人は天童の事、覚えてますよねっ!? ねぇっ!?」

男戦士「……あん? 天童?」

男武道家「……誰だそれ?」

勇者「ほらっ! 東の道の支援物資貰いに行く時に……俺と天童で……」

男戦士「おいおい……何、言ってやがる……あれは、お前が一人でやらせてくれって、俺に頼み込んだんじゃねぇか……」

男武道家「いや~、勇者君が必死に頼み込んだから、僕も馬を譲ったんだよ? ねぇねぇ、感謝してくれてる~?」

勇者「俺が……一人で……?」

男戦士「ったく……何、言ってるんだよ、おめぇはよぉ?」

男武道家「それより……おじさん達のお酒に付き合いなさぁ~いっ!」

勇者「……くそっ!」ダッ

勇者「女商人さんっ!」

女商人「あっ、勇者さん、どうしたんですか?」

勇者「女商人さんは天童の事、覚えてますよねぇ!?」

女商人「えっ……? 天童……?」

勇者「ほらっ! 赤い木の実を……俺と天童と女商人さんの三人で取りにいったじゃないですか!?」

女商人「あれは、勇者さんと二人で行きましたよね? 女僧侶さんは二日酔いで、倒れてたようですし……」

勇者「二人じゃなくて、もう一人いたじゃないですかっ!」

女商人「二人で行ったじゃないですか……? 勇者さん、何言ってるんですか……?」

勇者「くそっ……! くそっ……! 皆、どうなってるんだっ……!」

女商人「?」

勇者「あっ! そうだっ!」ダッ

女商人「あれ? 勇者さん、どこに行くんですか?」

部屋ーーー


勇者「確か……確か……女商人さんか貰った鞄の中に……」

勇者「命題の封筒と……あいつの名刺を入れてたはずだっ……!」

勇者「よ、よしっ……!」ガサゴソ

勇者「これじゃない……これでもないっ……!」

勇者「くそっ……! 何処だっ……! 確かにこの中に入れてたハズなのよぉっ!」ガサゴソ

勇者「くそっ……! ないっ……ないっ……!」


勇者「なんで、全部なくなってるんだよっ! なんでだよぉっ!」

勇者「……」

勇者「……俺の妄想?」

勇者「……」

勇者「俺は初めから、まともな人間で……何かやらなくちゃいけないって思った時に……」

勇者「……」

勇者「天童という存在を、作り出して……自分を鼓舞していたのか……?」

勇者「……」

勇者「違うっ……! 違うっ……! 天童は妄想なんかじゃないっ……!」フルフル


勇者「天童はいたんだよぉっ!」

最終話 「決戦!魔王城!」

ーー完

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~


第一話 「お前は今日死ぬ!」

第二話 「セックスしないと死ぬ!?」

第三話 「褒められないと死ぬ!」

第四話 「約束破ると死ぬ!」

第五話 「優しくしないと死ぬ!」

第六話 「大切にしないと死ぬ!」

第七話 「決断したら死ぬ!」 >>3-212

第八話 「姉に勝たないと死ぬ!」 >>215-445

第九話 「改心させないと死ぬ!」 >>447-608

最終話 「決戦! 魔王城!」 >>621-816

エピローグ 「heaven cannot wait」 >>818-1000


前スレ(1~6話) >>2

エピローグきたー!!!!!!
全裸で一日中待ってました!!!!!!

勇者「……zzZ」

勇者「……zzZ」

勇者「!」パチッ

勇者「……7時か」

勇者「……腹、減ったな。そろそろ起きようかな?」

勇者「……」

勇者「……いいや。後、一時間だけ」ゴロゴロ

女僧侶「コラっ! 勇者さんっ! もう7時ですよっ!」

勇者「う、う~ん……お願い……後、1時間だけ……」

女僧侶「今日は、お昼から男盗賊さんと男賢者さんと一緒に、支援物資運びに行くんでしょ!」

勇者「う~ん……昨日、その打ち合わせで遅かったんだよ……」

女僧侶「ほらっ! もう、朝御飯できてますよっ! 起きて下さいっ!」

勇者「後一時間……後一時間だけ……お願い……」

女僧侶「も~う……勇者さん、魔王倒してから、ちょっとぐうたらしすぎじゃないですかねぇ……?」

勇者「だって……世界に平和は戻ったんだよ……? まだ、眠いよ……」

女僧侶「まだ、多くの街には傷跡が残ってるんです! だから、私達がしっかりしないと!」

勇者「わかってるけど……お願いっ! 後、一時間だけ寝かせてっ!」

女僧侶「も~う……勇者さんの人生それでいいんですかっ!?」

勇者「!」

勇者「……」ムクッ

女僧侶「……ん?」

勇者「そうだよな……そうだよ……これじゃあ、ダメだよ……」

女僧侶「あれ? 勇者さん、起きます?」

勇者「まだ、俺にはやる事が山積みなんだ……こんな所で止まってたら、アイツに怒られちゃうよ……」

女僧侶「……あれ? 急にやる気になって、どうしたんですか? 勇者さん?」

勇者「いやぁ……懐かしい言葉を聞いたような気がしてね……?」

女僧侶「……はぁ?」

勇者「よしっ! じゃあ、顔洗ってくるよっ! 朝御飯食べたら、皆と合流しようか!」

女僧侶「?」

ーーーーー


男賢者「勇者君……早いよ……まだ、8時だよ……?」

男盗賊「出発は昼って言ったじゃねぇか? 朝だぞ? まだ、朝だっての」

勇者「何言ってんだ! あっちの大陸には朝飯もまともに食えねぇような人達が沢山いるんだぞ?」

男賢者「……まぁ」

男盗賊「……そうだけどさ」

勇者「だったらよぉ! 俺達が一刻も早く、この支援物資を届けてやろうぜ! 足踏みしてる時間なんてねぇんだよっ!」

男賢者「そうだね。 勇者君の言う通りだね」

男盗賊「まぁ……俺も、子供達にまともな飯食わせてやりてぇしな……」

勇者「そうだっ! その通りだっ! おめぇら、わかってるじゃねぇかっ!」


「わかってねぇなぁっ! おめぇはよぉっ!」


勇者「……ん? 何だあれ?」

男賢者「……男の子が絡まれてるみたいだね?」

男盗賊「なんだよ、あのおっさん……」

女僧侶「ど、どうしましょう……止めに行きましょうか……」アセアセ

男賢者「そうだね! 男盗賊君、行こうっ!」

男盗賊「おいっ! 勇者ァ! おめぇも来やがれっ!」

女僧侶「……勇者さん? 何してるんですか?」


勇者「……」

「だからよぉ? 確かに魔王は倒されたけどよぉ? まだ、世の中にはやらなきゃいけない事が沢山あるじゃねぇか!」

「……俺がやらなくても、誰かがやるもん」

「おめぇが、そういう考え方だからなぁ! こうやって、神様がおめぇを選んだんだよぉ!」

「……何、言ってるのあんた?」

「バ、バカっ……! おめぇ、あのメッセージ見ただろ? カップラーメンや、チラシに書いていた『お前の人生それでいいのか』ってメッセージをよぉっ!」

「……何、それ?」

「カァ~! なんで、どいつもこいつも気づかねぇんだよっ! この導入部分がねぇ、毎回長いんだよっ! 毎回よぉ!」

「?」

「まぁ、でもよぉ……? そんなおめぇでも、『コレ』見たら信じるだろ……」

「?」

「いいか? おめぇに与えられた命題はコレだっ!」


勇者「!」

男賢者「あれ……? あの人……?」

男盗賊「何処かで見た事があるような気がするなぁ……?」

女僧侶「あれ? 二人もそう思います? 私も、あの人……何処かで見た事あるような気がするんですよねぇ……」


勇者「はははっ……! 何だよアイツっ……! はははははっ……!」ゲラゲラ


男賢者「……ん?」

男盗賊「どうした?」

女僧侶「……勇者さん?」


勇者「アイツ、生きてのかよっ……! そうだよなぁ……そうだよ……だって、アイツ……天使だもん。簡単に死ぬワケねぇよ……!」

勇者「……そっか。アイツ、新しい仕事決まったんだ」

女僧侶「あ、あの……勇者さん、知り合いなんですか? あの人と?」

勇者「あぁ、昔……ちょっとね……?」

女僧侶「だったら、勇者さん、止めて下さいよ!? 男の子が絡まれているんですよ?」

勇者「いやいや……大丈夫大丈夫……あの人、悪い人じゃないからさ……?」

女僧侶「……えっ?」

勇者「それに……あいつはきっと……あの男の子にとっても必要な人だからさ……?」

女僧侶「?」

勇者「俺が首突っ込んで、邪魔しちゃいけないよ。基本的に導入部分が長いからね……導入部分が……」

女僧侶「……勇者さん、何言ってるんですか?」

勇者「よしっ! じゃあ、俺達も出発するかっ!」

女僧侶「えっ!?」

勇者「天童も頑張ってるんだし……俺も負けてられないからね……!」

男賢者「……あの男の子は、どうするんですか?」

勇者「大丈夫だって! 俺が首突っ込むと、あの子の為にはならないもん」

男盗賊「……はぁ?」

勇者「じゃあ、皆! 今日も一日頑張ろうっ! じゃあ、出発~!」


女僧侶「えっ……? えっ……? 出発して……いいんですかね……?」

男賢者「まぁ、でも……僕もあの人、悪い人じゃない気がするから……」

男盗賊「大丈夫かな……? って、お~いっ! 勇者、待ってくれよっ!」

天童「……ったく、頑張ってるじゃねぇか、アイツ」


天童「もう……一人前だよ、おめぇはよぉ……」


天童「……勇者」


天童「お前の人生それでいいんだ!」


天童「……ん?」


天童「って、おいっ! おいっ! さっきのガキは何処に行ったんだっ! いねぇぞっ!?」アタフタ


天童「おいっ! おいっ! 逃げてんじゃねぇよっ! おめぇ、本当に死んじまうんだよっ!」

「なんだよ、おめぇ……ついて来んなよ、気持ち悪ぃっ!」

天童「うるせぇっ! こっちはおめぇでパート2やれって神様に言われてんだよっ! 逃げんじゃねぇよっ!」

天国に一番近い勇者~heaven cannot wait~

ーー完

なんで変な擁護が続々湧いてんですかね
人間扱いされなくてもいい「奴」もいれば
それが嫌な「人」だって当然いるでしょうに

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