医務室
アニ「ちょっといいかい?」
エレン「なんだよ、また訓練しに来たのか?」
アニ「……いや……」
エレン「じゃあ、さっさと訓練に戻れよ。お前の顔なんて見たくない」
アニ「ッ…………悪かったよ」
エレン「そんな言葉、いらないんだよッ!」
エレン「お前がいるせいで……!俺は……!」
エレン「俺の足はッ!もう動かねえんだよ!」
アニ「…………」
エレン「ははは、笑えるだろ?巨人を駆逐したいと思ってた俺が兵士をやめて、ビビって壁の中に閉じこもりたいお前がまだ訓練兵だなんてな」
アニ「…………」
エレン「なんだよ、笑わないのか?」
アニ「笑えないよ」
エレン「そうだろうな。皮肉な話だよな」
アニ「そんなこと……」
エレン「ない、って?二度とそんなこと言うなよ」
アニ「ごめん……」
エレン「だから別にいいって……もう俺が巨人と戦うことはなくなっちまったんだ。これからは別の道を歩いてくんだからな」
アニ「私が、なにか手伝えること、あったら」
エレン「そうだな、俺の代わりに巨人を駆逐してくれるか?」
アニ「それは……」
エレン「なあ、もういいだろ?お互い苦しいだけなんだから会うのはやめようぜ」
アニ「…………ああ」
エレン「物分りがよくて助かるよ。お互い、このくそったれな世界で長生きできそうで良かったな」
アニ「…………」
スタスタ……バタン
エレン「はぁ、嫌な奴になっちまった」
エレン「お前もそう思うだろ?」
ガタッ
アルミン「気づいてたんだね」
エレン「暇だからな。音にも敏感になっちまうんだ。で、どう思った?」
アルミン「…………うん。でも、仕方ないよ。アニはそれだけのことをしたんだから」
エレン「そうだな。そういえば、ミカサにはなんて伝えたんだ?」
アルミン「みんなと同じさ。立体機動での事故だよ」
エレン「それで納得したのか?」
アルミン「最初は少し疑ってたみたいだけど、同期と教官がみんなそう言ってるんだから信じたと思うよ。なにより伝えたのが僕だし」
エレン「そっか。こんな役回りを任せてすまない」
アルミン「エレンのせいじゃないよ。それより、訓練が終わるし、そろそろミカサが来るんじゃないかな」
エレン「……なあ、ミカサは俺のことを聞いたとき、どんな顔をしてた?」
アルミン「すごく取り乱してた。でも、すぐに冷静なミカサに戻ってたよ」
エレン「わかった。ありがとうアルミン。また何かあったら頼むことがあるかもしれねえけど……」
アルミン「堅苦しいのはなしだよ。親友が困ってるんだから助けるのは当たり前さ」
エレン「……ありがとう」
アルミン「まあそれはそれとして、僕からも聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
エレン「なんだ?アルミンが知らなくて俺が知ってることなんて……」
アルミン「なんでアニに発破をかけるようなことを言ったの?」
エレン「ッ!」
アルミン「エレンならあんな嫌味は言わないだろうし言えないはずだ」
エレン「それ馬鹿にしてんのか?」
アルミン「ち、違うよ。とにかく、なぜかは知らないけどアニのことを気にかけてる風に感じたから……」
エレン「……誰にも言うなよ?」
アルミン「うん、誰にも言わない」
エレン「俺さ、アニに惚れてたんだ」
アルミン「やっぱり」
エレン「なんだよ、知ってたのか」
アルミン「なんとなく、ね。エレンとは長い付き合いだし、アニを見る表情をみてればだいたいわかるよ」
エレン「はぁ……なんかカッコつかねえな」
アルミン「まあまあ。それで、アニのことが好きだったからあんなこといったの?」
エレン「本当に好きだったら言えなかっただろうな。ちょっといいなってくらいだ。俺とは方向性が違うけど、芯が通ってて、頼れるやつだと思ってたんだ」
アルミン「でも、気が変わった?」
エレン「まあ、な。こんなふうにされてまで好きでいるのは無理だ」
アルミン「じゃあ、あの言葉は本気で……」
エレン「ああ、あの言葉は、半分本気だ。あいつのことが憎くて仕方ない。この足を奪ったアニを許せない」
エレン「でも」
エレン「俺は、弱いから、こんなふうにされてもアニのことを嫌いになれないんだ」
アルミン「エレン……」
エレン「この話はおしまいだ。もうミカサが来てもいい頃だろ?」
タッタッタッタッ
ミカサ「エレン!」
エレン「わっぷ、なんだよ!抱きついてんじゃねえよ!」
ミカサ「エレン、エレン、エレン、エレン!」ギュッ
エレン「ちょっと離せって!」
ミカサ「だめ、もう二度と手放さない」
エレン「おい、本当にやばい……」ミシミシ
アルミン「ミ、ミカサ、エレンが苦しがってるからそろそろ離してあげて」
ミカサ「!? アルミン!いつからいたの?」
アルミン「最初からだよ……」
エレン「ふぅ……お前なあ……!」
ミカサ「でも、よかった。いつものエレンだ」
エレン「……おう」
ミカサ「立体機動での事故は少なくない。これからはもっと注意すべき」
エレン「これから、か」
ミカサ「?」
エレン「アルミン、ミカサに伝えてないのか?」
アルミン「事故の原因を伝えたんだけど……怪我のことは伝わってなかったみたいだね」
ミカサ「エレン?アルミン? 何の話をしているの?」
エレン「いいか、ミカサ。俺はもう訓練兵でいられない。それどころか、自分ひとりの面倒も見れない」
ミカサ「話が見えない。どういうことか、理解できない」
エレン「簡単に言うぞ。俺のこの足は二度と動くことはない」
ミカサ「え……」
アルミン「リハビリすれば見込みはあるよ」
エレン「そうかもな。でも、兵士としては役立たずだ」
ミカサ「それなら私がエレンの面倒をすべて見る。一緒に開拓地に行って、ともに暮らそう」
エレン「ダメだ!」
ミカサ「」ビクッ
エレン「お前が俺と開拓地に行ったら誰が母さんの仇をとるんだ!」
ミカサ「でも、エレンは私がいないと……」
アルミン「ミカサ、エレンの気持ちも考えてあげて」
ミカサ「……そう、わかった。では言い方を変える。私にはエレンが必要。これからはもっと必要になる。エレンがいる場所が私の居場所」
アルミン「ミカサ……」
エレン「お前、本当にいいのか?」
ミカサ「お母さんの仇は取らなくてはならない。でも、お母さんの意思を切り捨ててまで取る必要はない」
エレン「ごめん、ミカサ……ごめん……」
すいません、ミスを見つけたので少し手直ししてきます。
一応鳥つけておきますがすぐ終わりますので
夜――兵舎裏
アニ「…………」
ライナー「おい、アニどうしたんだ?」
ベルトルト「怪しまれるから集まらないように決めてただろ?」
アニ「私は……戦士でいられない」
ライベル「!?」
ライナー「急に何を言い出すんだ!?」
ベルトルト「そうだ!今更気が変わったなんて何が……」
アニ「とにかく、私は戦士をやめるよ。あとは二人で何とかして」
ライナー「ここまで来て引けっていうのか?わざわざ訓練兵団に入団して憲兵団の椅子も間近に迫ってるんだぞ!」
ベルトルト「故郷へ帰るには君の力も必要なんだ!ここへ来て見捨てる気なのか!?」
アニ「……故郷へ帰るには人類を皆殺しにする必要があるんだよね?」
ベルトルト「ああ、そうだ。必要な犠牲だってわかってるだろ?それとも情が湧いたのかい?」
アニ「まさか。ところで、二人共ここがどういう場所だか知ってる?」
ライナー「どう言う意味の質問だ?」
アニ「ここは教官の見回りがなくてこの時間にもなれば窓からの明かりで照らされることもない。それに、声を上げても川の音がそれを消してくれる」
ベルトルト「……そうか、そういうことなんだな。残念だよ」
ライナー「ベルトルト!?お前まで何を考えてるんだ!仲間割れする意味はないだろ!」
ベルトルト「裏切りは見過ごせない、そうだろ?」
ライナー「そ、そうだが……」
アニ「いつまで話してるつもり?その場所はもう射程内にあるのに」
ブンッ!
ライナー「ぐわっ!くそ……本気か、アニ!」
ベルトルト「もはや問答しているときじゃないんだよ。ここで決めなければ故郷へ帰れなくなるんだ。仕方ないことなんだよ」
アニ「人類を滅ぼすことなんてさせない……」
ベルトルト「故郷を捨てても?そんなに人間が大事なのか!?」
アニ「ふん、あんたたちにはわからないよ。私はさ、知ってしまったから、もう傷つけられない」
ベルトルト「くっ……さすがに強いけど二人相手にして戦えるのかい?」
アニ「何?訓練程度の技術が底だと思ってた?それならあんたたちにとっては残念だよ」
アニ「悪いね、ベルトルト、ライナー。人類のために消えて」
アニ「それがせめてもの……」
翌朝―食堂
ミカサ「おはよう」
アルミン「おはよう。昨日はエレンとずっと一緒にいたの?」
ミカサ「ええ。さすがに医務室のベッドで寝ようとしたらエレンに怒られたけど」
アルミン「(そりゃそうだよ……)そ、そういえばアニがいないね。どうしたんだろう」
ミカサ「アニ?そういえば見ていない」
アルミン「まだ寝てるのかもしれないね」
ミカサ「起こしてくる」
サシャ「あー、やめたほうがいいですよ」モグモグ
アルミン「サシャ!急に現れるのはやめてよ……ってごはん多くない? どうしたの?」
サシャ「いえ、アニが食欲ないから食べていいと」
アルミン「ほんとうなんだろうね……」
サシャ「む、失礼な!いくら私でも獲物を横からかすめとるような真似は……あ、しますけど、今回は違いますよ!」
アルミン「まあいいけど。どうしたのかな?」
サシャ「昨日の晩どこかへ出かけてたようですし、夜更しでもしたんでしょう」
アルミン「(エレンのことがあったその日に夜遅くに一体何を?)」
サシャ「いないといえばライナーとベルトルトもいませんね。同郷の三人が一斉に消えるとなると怪しいですね」
アルミン「そういえばライナーとベルトルトは先に食堂に来てるものだと思ったけど……」
サシャ「えっ、ということは寝室にもいないんですか?」
アルミン「う、うん……どうしたんだろう?」
サシャ「ふむ……まあ考えるのは私の性に合いません。どうせどこかで油を売ってるんでしょう」
アルミン「そうかな。なんだか嫌な感じがする……」
アニ「はぁ…………私は何をやってるんだろうね。故郷へ帰る仲間を殺して、殺すべき人類を守って。まったく」
アニ「……………………さて、今日もまた訓練だ」
以上です。ちょっと思いついたのでちょろちょろ書いてきました。
お目汚し失礼しました。
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