妹「お兄ちゃんは私で私はお兄ちゃんだよ」 兄「どうした」 (45)


──夜


妹「ねえねえお兄ちゃん」

兄「どうした?」

妹「夜の公園っていうのも乙だね」

兄「そうだな」

妹「…こう、二人きりでベンチに居ると、カップルに見えるね」

兄「それはお前が俺にくっつきすぎだからだろう」

妹「だって、寒いし…」

兄「そうか」

妹「……」


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兄「……」

兄「静かでいると」

妹「ん?」

兄「こう、静かだと、鈴虫の声がよく聴こえるな」

妹「そうだね、私はこの音が好きだよ」

兄「俺もだ」

妹「ふふっ」


ピッ


兄「ん?」

妹「…ああ、気にしないで?」

兄「分かった」


妹「それにしても……」

兄「どうした」

妹「…お母さん、怒ってるかな」

兄「きっと怒ってる」

妹「やっぱり?」

兄「ああ」

兄「あの皿は高価なんだから、と口癖のように言ってただろ」

妹「…確かに」

妹「それを私達は割っちゃったんだね」

兄「そうだな、反省しよう」

妹「うん」


リンリンリン…


兄「……」


兄「鈴虫も帰れと言っている」

妹「え?」

兄「帰ろうか」

妹「でも……」

兄「大丈夫、お母さんも心配してるだけだ」

妹「……」

妹「…あのね」

兄「どうした」

妹「ヤっちゃったの、皿だけじゃないんだ」

兄「?」

妹「お母さんの香水、勝手に使って無くしちゃった」

兄「…それは参ったな」

兄「帰れない」

妹「…うん」


リンリンリン…


兄「ここは少し煩い」

兄「歩こうか」

妹「えっ でも……」

兄「大丈夫、まだ夜の九時だ」

妹「そっか。じゃあ、捕まらないね」

兄「ああ、行こう」

妹「うん」


月光を背に並んで歩く二つの影。


兄「……」スタスタ

妹「…ねえ、お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「あの少し先に見える人影……」

妹「多分私の知り合いだと思う」

兄「…ああ、妹友ちゃんか」

兄「会ったらまずいか?」

妹「…う、うーん……」

妹「恥ずかしい…かな」

兄「そうか、じゃあ別の道を探そう」クルッ

妹「うん」


妹友「…あの人影は……」


妹友「間違いない、妹ちゃんだ……!」

妹友「こんな時間にどうしたんだろ」

妹友「誰かと一緒だったけど……」

妹友「……」

妹友「つけるか」


妹「お兄ちゃん」

兄「…腹が減ったか?」

妹「凄い!」

妹「どうして分かったの?」

兄「お腹」

妹「え?」

兄「さっきからずっと鳴ってたろ」

妹「…う、うん」

兄「…あそこにコンビニがある」

兄「肉マンでも買おうか」

妹「私ピザマン!」

兄「俺も」


妹友「私もお腹すいたなー」ボソッ


ウィーン…


兄友「いらっしゃいませー…って」

兄「おう」

兄友「…何だよ、また兄妹揃っていちゃラブか?」

妹「…えへっ」

兄「違う違う。ピザマンを買いに来た」

兄友「そうかい」

兄友「何個? 三個?」

兄「…三個目はお前の分か?」

兄友「バレたか」

兄「しょうがないなぁ」

妹「…ッ!」ギロッ

兄友「ヒッ」


休憩挟むわ。
このまま偽シリアスを目指すか予定通りバトル物に一直線か迷ってるんだよね。


あれ、バトル物に行くのはちょっと急だったかな。
じゃあ、このまま偽シリアスを貫いてみるわ。
あ、後入れ替わり物じゃないからね。


兄「ん?」

兄友「い、いや何でもない」

兄友「会計は339円になるけど、大丈夫か」

兄「じゃあ509円で」チャリン

兄友「おう」

妹「……」ジーッ

兄「…どうした?」

妹「そのお釣り、貰ってもいい?」

兄「ああ、良いぞ」

妹「ありがと。先に外行ってるね」

兄「ああ」

兄友「じゃあ俺はピザマン一個貰うぞ」

兄「…貸しだからな」


ウィーン…



妹友「げっ! やば……!」ビクッ

妹「…ふぅ」

妹「やっぱり妹友ちゃんか」

妹友「いやー、あははぁ……」

妹友「ご機嫌よう」

妹「うん」

妹「ちょっと近くの公園まで、来てよ」

妹友「えっ」

妹「…ああ、お兄ちゃんの事ならへーき」

妹「あの店員の人と話してるだろうから」

妹「さ、行こう?」

妹友「……」


妹友「えっ?」


リンリンリン…


妹友「何で急にこんなとこ…」

妹「いや、一つ聞きたくて」

妹友「何?」

妹「いつからつけてた?」

妹友「いつから…って」

妹友「二人が夜道を歩いていたところから、としか」

妹「じゃあ、私が妹友ちゃんを発見した辺りからね」

妹友「多分」

妹「…もう一個良い?」

妹友「?」


妹「おに──ゃ─は、どう『視えた』?」

妹友「…何て?」

妹「───ちゃんは…」

妹「── ─ ── ─」パクパク

妹友「えっ?」

妹友「ごめん、聴こえないよ?」


リンリンリン…

リンリンリン!


妹友「ッ!」ズキッ

妹友「頭が……!」

妹「……」ションボリ


妹「アナタも駄目か」


リンリンリン…


兄「…っと、いけない。話し込んでしまった」

兄友「妹ちゃん待たせてたな、そういや」

兄「ああ」

兄「…またな」

兄友「おう、また明日な!」


ウィーン…


兄友「……」

兄友「行ったか……?」

兄友「…っく! ハァハァ……!」ズキズキ


リンリンリン…


兄友「ったく、いつからだよ」ズキッ

兄友「あいつと話すと『辛い』って感じるようになったのはよぉ……!」


兄「……」

妹「あ、お兄ちゃん」

兄「…どうした、そんなに汗を掻いて」

妹「あー」

妹「…夜でも暑くて!」

兄「寒いんじゃなかったか」

妹「?」

兄「まあ良いか。行くぞ」

妹「どこに?」

兄「家だよ。そろそろ帰ろう」

妹「怒られちゃうよ……?」

兄「一緒に怒られよう」

妹「…うん」

妹「うん、帰ろう!」


ガチャ…


兄「ただいま」

妹「た、ただいま…」

母親「んまあ!!」

母親「こんな夜遅くに帰るなんて、随分と不良になったわね!?」

兄「ごめん。でもこれには事情が」

母親「いいから!」

母親「…さっさとお風呂に入っちゃいなさい」

母親「ご飯はその後」

妹「!」

兄「ありがとう、お母さん」

妹「…ピザマンは後でだね」

兄「ああ」


妹「良かった」



母親「まったく……」

母親「…ん?」


リンリンリン…


母親「……」

母親「今日も鈴虫は元気ね」


リンリンリン…






──同時刻・空港




今日はまた七時半ぐらいに始めるわ。
どうあがいてもここから先がシリアスになれず、バトル物になる……。


男「……」

助手「あー、Mr.man? 日本は初めてですか?」

男「ああ、案内は頼んだ」

助手「はい! お任せを!」

助手「いやそれにしても、Mrが日本に事務所を開くと聞いたときは、心底驚きましたよ!」

男「そうか?」

助手「ええ!」

助手「私、Mrのファンですから!」

男「…何でも屋のファン、か……。くくっ」

助手「?」

男「いや、失礼」

男「それよりも、向こうのタクシーは君が呼んだものかい?」

助手「は、はい! 少々お待ちを!」


男「……」

男「『ニホン』……。能電波の強い国……」

男「その発信源は首都、東京か」

男「…今年は忙しくなりそうだな」

助手「へーい、Mr! 急ぎましょう!」

男「…ふっ」

男「ああ!」


ブルルルォォ…



──朝


兄「……」

妹「お兄ちゃん」

兄「……何だ」

妹「眠い?」

兄「ああ」

妹「じゃあ、このまま」

妹「二人でくっついて寝よっか」

兄「それはいけない」

兄「今日は学校だ」

妹「……」ムスー


チュンチュン…



兄「……」ムシャムシャ

父親「んー、何だかなぁ」

妹「どうしたの?」

父親「いや、ニュースだよ」

妹「うん?」


テレビ『先日取り調べ中に逃走した女の行方を、警察は未だに掴めておりません』

テレビ『逃走の手口、経路は依然不明。専門家もお手上げ状態です』

テレビ『ただ、現場には発火した後が──


ピッ


父親「なんだよ、観てたのにー!」

母親「あなたにそんな時間があるの?」

父親「えっ?」


──AM 6:30

父親「…やべえ!!」ガタッ

母親「まったく」

母親「兄も妹も、さっさと食べなさい」

兄「はーい」

妹「はいはい!」

兄「…と、俺はもう食ったから」

兄「ごちそうさま」ガタッ

妹「なっ! 速っ!?」

母親「あんたが遅いのよ」


妹「うぷっ……。ごちそうさま」

母親「ちゃんと食器片付けなさい」

妹「うぇー」

母親「まったくこの娘は中学生にもなって!」

母親「だらしない!」

妹「まだ中2だもーん」

母親「もう中2です!」

父親「俺は中学50年生ですっ!」ヒョコッ

母親・妹「おどれはさっさと行け!!」


チュンチュン…



兄「……」

自室。ベッドに横たわり、ヘッドフォンから発せられる楽曲に耳を預ける。

兄「……」


ガチャッ


妹「お兄ちゃん」

兄「……」

妹「何聴いてるの?」

兄「……」

妹「ちょっと貸してよ」ヒョイ

兄「ああっ……」

妹「んー」

妹「モーツァルト?」

兄「ショパン」

妹「ほぇー……。私この曲好き!」

兄「そりゃあそうだろ」

妹「まあね」


ガチャッ


妹「行ってきまーす」

兄「行ってくる」

母親「はーい」

兄「……」スタスタ

妹「……」スタスタ

妹「…ねえ、お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「このまま学校に行ったフリをしない?」

兄「おい、それは」

妹「ねえ、駄目……?」

兄「駄目だ。サボりなんてそんな」

妹「…後悔するかもよ?」

兄「それはなんだ」

妹「直感」


兄「お前の直感はアテにならない」

妹「じゃあ」

兄「?」

妹「お兄ちゃんの直感はどうなの……?」

兄「それもアテにならない」

妹「それは私の直感が当たるって言ってる?」

兄「どういうことだ」

妹「どういうことだろう」

妹「…おかしいね」

兄「ああ」

兄「おかしい」

妹「……ふふっ」


キーンコーンカーンコーン…


妹「やばい……。私日直だった」

兄「…まだ間に合うかもしれない」

兄「行ってこい」

妹「うんっ!」ダダッ

妹「また帰り!」

兄「ああ、帰りに」

兄「……」スタスタ

兄「中学校と高校が近いってのも」

兄「これまたおかしい」

 女「…そういって、一人でニヤつく君も」

女「おかしいね」ニコッ

兄「…はぁ」

女「溜め息つくと幸せが逃げますよー」

兄「…お前が消え去れば幾らか幸せになる」

女「逆でしょ」


兄「で」

女「?」

兄「急に話し掛けて、何の用だ」

女「いや、フツーに一緒に歩こうとしたんだけど」

兄「寄るな、鬱陶しい」

女「中1からの仲じゃん」

兄「……」

女「ん?」

兄「…妹に」

兄「他の女と話すな言われてる」

女「はぁ……。まーたその言い訳か」

女「そんな妹、世の中に居るわけ無いでしょ?」

兄「……」


兄「……」スタスタ

女「ああっ! 黙って行くな!」

兄「……」スタスタ

女「ったくもう……」

女「……」

女「…障害は、やはり『妹』だったかな」

女「消すしか……無いね」


キーンコーン…



教室。
兄は着くなり愛読本を鞄から取りだし、さっそく読み耽る事にした。


兄「……」ペラッ

兄「……」

女「……」ジーッ

兄「…この本は『竜馬がゆく』だ」

女「え? どうしたの急に」

兄「読みたいのなら、自分で買いに行ってこい」

兄「そういってる」

女「えー」

女「良いじゃん、二人で一つの本ってのも」

兄「俺は一人が良い、もしくは二人」

女「だったら」

兄「ただし」

兄「二人というのは妹のことだ」

女「…はぁ」

兄「幸せが逃げるぞ」

女「いずれ捕まえる」


ガララッ


担任「はい、挨拶」

女子生徒「きりーつ」

ガタッ


女子生徒「れーい」

ペコッ


女子生徒「ちゃーくせーき」

ガタン


担任「うん、毎度腹のたつ挨拶をありがとう」

担任「…まず連絡したいことが二件あります」

担任「本日付で、外国人の方ですが、清掃員さんが来ました。会ったら挨拶するように!」

担任「それともう一つ」

担任「……昨夜、兄友君が病院へ運ばれました」

ざわっ…

兄「…っ!」ピクッ

担任「ので、今日は欠席です」

担任「はい、以上っ!」


ガララッ

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