安価で超能力バトル (141)
①あらすじ。
荒廃した世界で、『男』は目を覚ました。
ここはどこだろう。そして、僕は誰だろう。
そして気が付いた。僕は、不思議な力が使えるらしい。
②エロ・グロに走りすぎた安価は、申し訳ありませんが「安価下」扱いとさせていただきます。
③あまりに極端で、進行を難しくさせる安価は、私の判断でマイルドに調整させていただきます。
まず、主人公『男』の持っている超能力を決めます。
・読心能力、発火能力など、具体的なもの。
・時間、空間など、抽象的なもの。
どちらも大歓迎ですが、強すぎる能力は調整が入ります。
>>2
>>3
>>4
の中から、最も話が膨らみそうなものを選びます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401013008
足の裏から好きな臭いを出せる
自分の筋力の二倍まで、離れた場所に力を加える
紙を自在に操る
主人公の能力なので、無難に>>3採用で行きます。
男
能力名≪サードハンド≫
【スペック】
射程―――――――10m
精密動作性――――S
持続力――――――自身の意識が続く限り
成長性――――――完成
影響力――――――両腕の筋力×2
【能力】
・「透明な手」を最大で1つ発生させる。
・「透明な手」は自身の心臓部から展開され、自身はそれの現在地を知る。
・「透明な手」は、平均的な成人男性の手の大きさで、自身の両腕分の筋力×2のパワーとスピードを持っている。
(つまり両腕で100kgの物体を持てるなら、透明な手で200kgの物体を持てる)
#1#
男「……頭が痛い……」
朦朧とする意識を叩き起こすように、男は言葉を反芻する。
「ここは何処だろうか」「そもそも、僕は誰だろうか」
ここは何処だという問いに、答えを出そうと周囲を見渡す。
男は羽毛の飛び出たベッドの上で目を覚ましたようだ。
そしてここはガレキだらけの室内。どうやらコンクリート建築の廃ビルの中にいるようだ。
窓が割れ、あちこちにガラス片が散乱している。
窓の外には、同じような廃墟が連なっているのが見える。
男「靴を履いているといっても、このガラスじゃ足を切る……ん?」
枕元に1通の手紙がある。
僕はそれを読まなきゃいけない気がした。
#2#
「僕から僕へ。
僕は記憶を全て失うことに決めた。
……こうするしかなかったんだ。『RF製薬』の暗部に触れてしまったから、全て忘れなければならなかった。
僕は2つの薬を飲むつもりだ。
①忘却の薬。これにより自伝的記憶、つまり自分自身に関することを全て忘れた。
②ザナドゥの薬。これにより僕は超能力を得る。どんな力かは分からないが、きっとあの組織から逃げるのに役立つだろう。
ちなみに、ザナドゥとは、彼らの開発している超能力のプロジェクト名で、『桃源郷』の意味をもっている。
とんだ皮肉だ。彼らはこれによって、この荒廃した世界の覇権を握ろうとしている。
超能力のことをザナドゥ。超能力使いのことを『ザナドゥ使い』と呼ぶ。
もし僕がザナドゥの適合者なら、目が覚めた頃に能力に目覚めているはずだ。
RF製薬の謎を追ってもいいし、誰か協力者を見つけて安らかに過ごすのもいい。
全て、記憶を失った僕に判断をゆだねる」
男「クソッ!! 勝手にべらべら書いて丸投げかよ! 記憶を失う前の僕ってヤツは何ていい加減なんだ!!」
トリップ間違えてましたね。多分、こっちが正しいです。
合ってたらこっちのトリップで投稿します。
#3#
男は憤り、叫んだ。
それと同時だ。
ボゴン!
最も近い、腐食しかけたコンクリートの柱に、何かで殴りつけたような傷が残った。
男「まさか『RF製薬』とかいうのの追手が……?」
男「いや……僕の『ザナドゥ能力』だ……」
男「全て『理解』した……シンプルに『サードハンド』と名付けよう」
コンクリートの柱に傷を付けたのは、僕だ。
僕の胸から透明な手が飛び出してきて、勢いよく殴りつけたんだ。
……思ったより早く能力に順応した僕に、僕自身、驚きを隠せない。
男「まずは『サードハンド』で床のガラスを払おう。足をガラスで怪我するのも危険だし」
当初、『サードハンド』に棒切れを持たせて、もたもたと床のガラスを撤去していたが、気づいたことがある。
①射程はぴったり10m。かなり精密な動きができる。
②透明な手は傷つかないらしく、自由に対象を選択して一方的にエネルギーを伝えられる。
よって、透明な手を直に床につけてガラスを一斉に払うのが効率的だ。
この『手』は、何らかのエネルギーが放出された結果で、つまりこれは俗に言う『サイコキネシス』だ。
#4#
ビルの入口には、電気の通っていない自動ドアがあった。
サードハンドで自動ドアのガラスを破って廃ビルを出る。
廃墟、廃墟、廃墟。
けれど、豊かな自然に囲まれている。
誰もメンテナンスしないから、草木が生え放題となっているのだ。
誰も駆除しないから、野良猫やカラス、その他、野性生物の楽園と化しているのだ。
足元一面のガレキとガラス。横転したスクールバスに、壊れた信号機。
移動手段が必要だが、そこらへんに転がっている車は全て錆びているし、エンジンとガソリンが外されていた。
ここは、もう使われていないかつての大都市なんだろうと推測できる。
――――足音が2つ。
近くの建物から、2人の黒スーツが歩いてやってきた。
明らかに常人の佇まいではなく、剣呑な雰囲気を醸し出している。
彼らは男から5mほど離れた所から問い掛ける。
黒スーツA「やぁ。ダニエル博士」
男「君たちは誰だ? ダニエルって誰だ?」
黒スーツB「とぼけたって無駄ですよ。盗んだ『ザナドゥ薬』を返してもらいましょうか」
男「嫌だと言ったら?」
黒スーツB「そうですね……」
男たちは懐の拳銃を抜いて、こちらに構えて見せる。
M1911系のハンドガンだ。
丁寧なカスタムであることは、彼らから5m離れていても良く分かった。
それなりに、良い後ろ盾をもった男達らしい。
男「待て、僕を殺したら、ザナドゥ薬は一生手に入らないぞ。それどころか、薬は君たちの敵の手に渡ることになる」
黒スーツA「そうならないように手伝っていただけますか?」
男「ああ、ああ、そうしよう」
男は両手を挙げて、降伏のポーズをとる。
当然スーツどもは銃を降ろさない。
――それがいいのだ。
#5#
ドンッ!! ドバッ!! ドンッ!!
3発の銃声が鳴り響く。
黒スーツAの持つ銃が硝煙を立ち上らせ、その銃口は――。
――黒スーツBの頭を捉えていた。
黒スーツBの頭と目と口に命中し、頭蓋が割れ――。
――血やら脳漿やら眼球やらを噴き出している。完全に即死だ。
僕の能力……《サードハンド》……。
スーツ野郎が銃を持つ手を「透明な手」で握って、銃口の向きを変える。
そして、引き金の人差し指を押し込んでやった。
黒スーツA「そ、そんなバカなッ!! 仲間を撃って、お、俺は一体……ッ!? うぐ……くっ、心臓が苦しい……!!」
男「おいおいおいおい。仲間割れか?」
黒スーツA「クソ!! お前、もう薬を飲んで、ザナドゥ能力に目覚めたんだな……!? 副作用で死ぬかもしれないのに……!」
男「……心臓だけを潰しても死ぬのに数分の時間がかかるか……」
黒スーツA「お前の能力は一体――アバッ!」
……《サードハンド》……。
「脳」に直接触って、掻き混ぜて殺した。
効率的に殺すなら、これしか思いつかなかった。
男「……僕は……何者なんだ? 殺しに一切の抵抗がない僕はいったい……」
#6#
男「相手もザナドゥ使いだったらと思って殺したけど、逆に全ての手がかりを失うことになってしまった……」
今更僕は悔いていた。
記憶喪失、見渡す限りの廃墟。
車からガソリンとエンジンが抜かれていた略奪の現状を見るに、どこに食糧があるかすら不明だ。
正直、手がかりどころじゃないし、着の身着のままだ。
男「いや……彼らの銃がある。これは持っていこう」
スーツどもを裸に?き、何を持っているのか漁ってみることにした。
漁った結果、僕の所持品は以下の通りだ。
【装備&所持品】
・着ていた白衣とシャツとスラックスと下着と靴下と靴。
・スーツどもから奪ったもの。
・M1911カスタム×2
・弾薬は残り31発。3つの予備マガジンのせいで、白衣のポケットが大きく膨れ上がっている。
・コンバットナイフ×1
・スラックスの左のポケットに収めた。
・医療用アルコール×1
・包帯×1
・携帯食料×2食
……リュックサックか何かが必要だ。
死体はその辺に、サードハンドで穴を掘って埋葬してやった。
埋葬とも言うし、隠ぺい工作とも言う。
男「……さて。とりあえず、この辺で一番大きいあのビルを目指してみるかな」
太陽の位置からして、東だ。
僕は東に向かって歩き出した。
#7#
道中、倒壊した居酒屋のガレキに足を挟まれ、呻いている少女を見かけた。
少女「ああああ……痛い痛い痛い……」
男「やあ、このバーでは、ガレキに挟まって酒を飲むのがマナーかな?」
少女「ふざけんな! ……ねえ、ちょ、ちょっと。アンタ、見てないで助けなさいよ」
男「2つ条件がある」
少女「何? 何でも言うこと聞くから……ねえ……!! 死んじゃうってぇ……!」
苛立ちを、この危機的状況の少女に対する皮肉で発散するのは間違っている。
《サードハンド》を自分の手にピッタリ重ねて、少女を圧殺せんとするガレキを持ち上げる。
《サードハンド》は、自身の両腕の筋力×2倍の影響力をもつ。
つまり、元々の両腕と合わせて、常人の3倍の力が出せることになる。
200kg前後あるであろうコンクリートの板なら、多少力は使うが持ち上げられる。
―――――――――。
少女「ふぃー……助かったぁ……で、条件って何?」
男「もう助けたけど……助けるために提示する予定だった条件は2つ」
条件①――記憶喪失の僕に、いろいろこの世界について教えてくれ。
条件②――身寄りのない僕のために、あれこれ働いてくれ。
少女「何それ……漠然としてるね」
男「仕方ないだろ。何でここが廃墟なのか、それすら僕は知らない」
少女「ふーん……記憶喪失ねぇ……」
「ザナドゥ――」
少女は、ふと呟いた。
男「おい待て、今ザナドゥって言ったか?」
少女「アハハッ! 食いついた。貴方みたいなヒョロガリが、あの重さのガレキを持ち上げるなんて無理だもの」
男「命の恩人に向ってヒョロガリとな?」
少女「ゴメンゴメン……で、貴方ザナドゥ使いなの?」
男「……ああ」
少女「打ち明けてくれてありがとう。実は私もザナドゥ使いなの」
幸先がいい、手がかりがひとつ。
少女「私の能力は……」
第1話 END
おっと、再安価。
次回から「下3つ」等の形式で行きます。
では、少女の能力について、下3つでお願いします。
治癒能力……怪我の治し方を知っていれば、それだけ効率がよくなる。
幻視…生物の視界をジャックする
>>20さんの安価を採用します。ただし、より使い勝手が良いように調整させていただきました。
調整に不備がありましたらレスしてください。
少女
能力名《センスジャック》
【スペック】
射程―――――――半径100m
精密動作性――――確実に実行する。
持続力――――――自身の意識が続く限り。ただし能力②は使用に小程度のストレス。適度な休憩を推奨。
成長性――――――A
影響力――――――射程内の人間1人
【能力】
・①→②の順番に行う。
①チャンネルチューニング
最も近い人間から順番に、能力②の対象を選んでいく。
1回の対象変更ごとに、約0.1秒のラグが生じる。
・いつでも、対象の決定順を「最も近い人間」にリセットできる。
・対象の頭上に赤いマーカーが表示される。対象が自身の視界にない場合「対象は半径100m以内にいるが位置不明」という状況になる。
②対象の五感を傍受する。
・傍受している間、自身の五感は全て封じられる。
今日の投稿はここまでです。
スレタイにもある「能力バトル」はもうちょっと先になりそうです。
質問等がありましたら、遠慮なくレスしてください。
それでは、お疲れ様でした。
乙 少女の能力は、レーダーみたいに使えるのかな?あと、傍受は視覚や聴覚に絞る事は出来ない?
>>24
成長性Aなので……。
けれどしばらくは、使用時に五感断絶というペナルティを負うことになると思います。
唐突ですが、登場人物を2、3人増やしたいと思います。
安価の結果は、それぞれの人物の能力判明と同時に公開されます。
>>1に記載したのと同じルールで
超能力の安価
下6つ
自身と手で触れた物のテレポートとか
パイロキネシス
影に潜って移動できる
歌うことで風の刃を発生
読心術
そこに無いモノを見せる能力
……下6つ以外も、かなりいい感じですね。
>>34~>>36も出してみたいです。
でも安価は絶対なので、「下6つ」の条件から出そうと思います。
安価から漏れた方も、次の安価にぜひ書き込んでください。
なお、次回から、試験的に「1時間」の条件も試すことになると思います。
#2-1#
少女「私の能力は……ヒ・ミ・ツ♪」
男「おいおい。僕の方はヒントを出したろ?」
少女「あー……じゃあ、そうね……私の能力は、戦闘には使えない、支援系能力だよ」
少女はそう言って、東へと歩みを進めた。
男もそれに従って歩いていく。
男「まあ……それだけ分かれば十分かな。代わりに能力を隠したがる理由を聞いてもいい?」
少女「ザナドゥ能力っていうのはね、最後の手段であるべきなんだよ」
男「最後の手段……」
少女「もし普通の女の子が裸にされて、武装した集団に見張られて、暗い牢屋の中に居ます。で、助かる?」
男「ムリだろ」
少女「そう。普通の人は助からない。けど、ザナドゥがあれば話は別」
男「なるほどねぇ」
少女「でも、そのザナドゥだって、能力を周囲に見せびらかしていたら、簡単に対策を練られてオシマイよ」
男「だからこそ、最後の手段であるべき……」
少女「それがこの世界で生き残るためのコツよ。記憶喪失クン!」
男「……ダニエルだ」
少女「ああ、名前は忘れてないんだ」
男「いや、僕を追ってきたヤツが、僕をダニエル博士と呼んでいた」
少女「博士? じゃあその追ってきたのは、助手か何かだったんじゃ……。今どこに居るの?」
男「死んだ」
少女「……殺したの? せっかくの手がかりを? オツムがお猿さん並なの?」
男「先に銃を突き付けて来たのは向こうだぞ」
少女「なら仕方ないね、殺し合いだもの」
#2-2#
道路の途中で4mほど隆起していて通り抜けできない場所があった。
なので脇の住宅のベランダを伝って進む。
男が記憶喪失でなければ、少年期の冒険心を思い出してワクワクしたかもしれない。
男「で、この世界について聞きたいんだけど。なんで廃墟なんだ? 何があったらここまで荒廃できる?」
少女「……それも知らないのねぇ。記憶喪失っていうのは、どうやらマジみたいね」
「『文明崩壊』って知ってる?
西暦1999年7月、地球上の全てのプレートがグチャグチャに動きまくって、沢山死んで、人類の文明は終わったの。
約50年の時を経てもなお、未だに復興は成り立っていない。今は西暦2056年よ」
「50年? さすがにそれだけあれば復興できそうだけど」
「そのプレート移動の直後からずっと……地球全てを覆う形で、強力な妨害電波と、電子機器を無力化する電磁パルスが発生してる。
コンピュータ、無線機、製薬、冶金、気象観測などなど――――中途半端には出来るけど、それ以上の発展は望めない。
分かるでしょ? 復興には電波と電子機器が必要なのに、複雑な機械は、全て、確実に壊れる。
もう人類は、文明を発達させちゃいけない場所まで追い込まれてんの」
少女「……死因の1位が『伝染病』で、その次が『人間同士の殺し合い』、3位が『肉食動物に襲われる』って感じ」
男「なるほどね……そんな終末的な世界じゃ、僕たちみたいな超能力者も幅を利かすことができそうだ」
少女「ええ。今、私の住んでる集落を目指してるんだけど……そこじゃ私は『プリンセス』って呼ばれてる」
男「姫……? お転婆小娘にしか見えんぞ」
少女「でもね、能力と口調と態度だけで、こんな危険な世界を処女のまま生きていける。身寄りがなくても慰み者にならない」
男「その集落じゃ、弱いヤツは労働力でも性的分野でも搾取を受けるってことか?」
少女「そうよ。……タビーっていう友達がいたんだけど、彼女は日常的にレイプされてて、10歳で妊娠、それを苦に自殺した」
男「…………大変な世界なんだな」
少女「川を渡るわよ。日が暮れる前に集落に戻りたい」
#2-3#
そして、遠くに大きな聖堂が見えてきた。
少女はそれを指さすと、道路脇で打ち棄てられていたロッカーを開け、中のドレスを取り出した。
フリルは少なく上質の生地、スカートはくるぶしまである、肌の露出が少ないワインレッドのドレスだ。
少女「何? 私の着替えが見たいの? 胸はまな板だし、背中に大きい火傷痕があるのよ。貧相で悲惨な体ね」
男「着替えを見る気はないが、そう自分を卑下するな。胸は育つだろ……多分」
少女「多分ね」
「ところでアンタ、私の『叔父』ってことで、集落ではそれで通しなさい。
……同じザナドゥ使いだもの、養ってあげるから、お互いこの狂った世界を生き抜きましょ」
少女「……!! ね、ねぇ。着替えは後回しになりそう。……背後に1人、『ヘンなの』がいる」
男「『ヘンなの』?」
少女「気配が出たり消えたりしてんのよ……ザナドゥ使いか何かに尾行されてる」
男「集落まで急ぎ、助けを求めるか?」
少女「ムリよ。集落に危険が及ぶ。……『プリンセス』フィオナ・フラットとして、ここは死守する!」
少女はバックパックを探り、その体格に見合わないであろう、世界最大威力の自動拳銃――デザートイーグルを取り出して構えた。
男は、少女を見ていて、何やら危うげな儚さがあると感じた。
この勇ましい少女には、庇護欲を掻き立てる何かが存在するのだろう。
カリスマとは、何も絶対的な威圧だとか、高貴な血筋とかだけではない。
『守りたい』と思わせるのも、立派なカリスマだ。
「当然、1人で勝てるとか思ってないよな」
男はプリンセスのために、自然と一歩前へ踏み出していた。
「ところで、そんな大きい拳銃じゃなくて、僕のM1911を使え」
「大丈夫、この子(デザートイーグル)とはブラジャーよりも付き合いが長いの」
#2-4#
ライフルの銃声が数発、30mほどの遠方から聞こえる。
2人は分厚いコンクリートのガレキ、遮蔽物に身を隠していた。
男「さっき『気配』とか言ってたな、こんな事態だ、能力を秘密にしても死んだら意味がない」
少女「《センスジャック》よ……100m以内の敵の知覚を傍受する」
※再調整、変更点あり。
少女
能力名《センスジャック》
【スペック】
射程―――――――半径100m
精密動作性――――確実に実行する。
持続力――――――自身の意識が続く限り。ただし能力②は使用に小程度のストレス。適度な休憩を推奨。
成長性――――――A
影響力――――――射程内の人間1人
【能力】
・①→②の順番に行う。
①チャンネルチューニング
最も近い人間から順番に、能力②の対象を選んでいく。
1回の対象変更ごとに、約0.1秒のラグが生じる。
・いつでも、対象を「最も近い人間」にリセットできる。
・対象の頭上に赤いマーカーが表示される。対象が自身の視界にない場合、対象のシルエットが浮かび上がって見える。
②対象の五感を傍受する。
・傍受している間、自身の五感は全て封じられる。
少女「つまり、対象を選ぶ能力で、100m以内の敵の正確な位置とポーズを知ることができるの」
男「強いな。戦いは情報量が左右する」
少女「その通り。私の指示に従いなさい。プリンセス命令(オーダー)よ」
男「あいあいさー」
少女「まずは10秒間だけ相手の知覚を傍受する。その間私の五感は断絶、無防備だから護衛して」
――――――――。
少女「護衛ありがとう。傍受完了よ」
男「何か分かったか?」
少女「相手はこちらの位置に気付いていない。その上、こちらに油断している」
男「背後に回りこむ」
少女「待って。アンタの能力を聞いてない」
>>5参照
男「両腕筋力の2倍相当のエネルギーだ。殴られた相手は死ぬし、相手の脳ミソだけに触れて掻き混ぜることもできる」
少女「うっわ。ゲスい応用ね……」
男「つまり10mだ。そこまで距離を詰めれば、相手は鼻から脳漿を垂らすことになる」
#2-5#
路地裏を伝って『裏取り(背後に回り込むこと)』を行う作戦だ。
少女はこの辺の全ての道を知っているようで、先導されて、あっという間にライフル持ちの背面につけることができた。
2人はガレキの影に隠れ、建物の日陰になった場所にいる敵を観察する。
ライフル持ちは、軍服とベレー帽を着用したフル装備。
明らかに軍服を着慣れた感のある、顎髭が目立つ屈強な白人中年だ。
少女「やはり相手はバカね。まだ気づいていない」
ガレキの影に隠れて安心しきっていた矢先。その顎髭がじっとこちらを見て、にぃっ、と、企みが成功したような笑みを浮かべた。
「まずい! 気づかれてるぞ!!」
男が言い、少女は一切の躊躇いなくデザートイーグルで軍服を撃った。
命中せず。
軍服、まるで床の中に落下するように姿を消し、弾丸を躱した。
「バカなッ!」
軍服の姿がどこにも無い。
建物の影だけがある。
少女「姿を消す能力!? 気配が出たり消えたりしてたのは、これが原因!?」
男「慌てるな。敵の限界を探るんだ。ライフルと拳銃じゃ分が悪いぞ」
少女「敵6時1m!」
男「オラァ!!」
背後を《サードハンド》で思い切り殴りつける。
だが背後で狙いが不正確だったので、相手のベレー帽を落とすだけだった。
軍服は驚いたような顔をして、言った。
軍曹「お前たち……ザナドゥ使いなのか?」
男「だったらどうした?」
軍曹「……俺の階級は軍曹……だから軍曹と呼べ!」
男「こりゃご丁寧にどうも。階級で呼ばせるんなら、僕のことは『男』とでも呼んでくれ」
軍曹「くっくっく……戦いの場で冗談を言える胆力……お前のような強敵を待ちわびていたぞ!!」
男「……で、どうする? 数は2対1で……こっちのレディはデザートイーグルなんて物騒なもんを構えてる」
軍曹「ああ……お前、戦力不足を悔いているな? ならばハンデを与えよう」
「俺はナイフしか使わん!!」
安価
1.男の先制攻撃
2.少女の先制攻撃
3.軍曹の先制攻撃
4.別のキャラクターが介入
1つ下で決定
#2-6#
少女「ナイフなんて必要ありません」
男「はぁ!?」
軍曹「……おなごよ、私の頭じゃ理解できんセリフだ。なぜナイフすら不要だとぬかすか」
「なぜなら貴方は、私の仲間になるからです」
男「え――?」
少女「貴方の経歴は、ある程度察しがつきます」
少女は、さりげなく軍曹に近づき、そっと手を握って、まるで祈りを捧げるように語り掛ける。
軍曹は驚嘆する。なぜ俺は彼女を受け容れた、と。
だが彼女の体温の温かさは久しい感覚で、教会で神父に懺悔をするような気持ちにさせられた。
少女「その軍服は、10年前に滅んだアメリカ合衆国の軍服ですね。一目で海兵隊のものだと分かりましたよ」
少女「Semper Fi! ――常に忠誠を!! 海兵隊のモットーを、国家の消滅という形で失ってしまったのは悲しいことです」
少女「そして貴方は今、略奪行為で生計を立てているのに深い罪悪感を覚えつつも、自分を誤魔化している。そうですよね?」
軍曹「……その通りだ。俺は……略奪を決闘だと思い込むことで、自身の背負う業を誤魔化してきた……」
少女「家族はいますか?」
軍曹「……家族……両親と、妻と、子供が2人、ペットの犬が1匹……だが……暴動に巻き込まれて、全員……ッ!!」
少女「もう大丈夫……大丈夫ですよ……」
軍曹は、先程までの威圧感が嘘のように、わんわんと子供のように泣いてしまった。
それはキャラクター性の崩壊というより、抑圧されていた部分が解放されたといった感じだろうか。
全て少女の神聖な雰囲気、器の大きさ、高貴な立ち振る舞い、何より愛の深さによって導かれたもので――。
――彼女は聖母を演じることができる。
男は驚嘆した。少女は、自分が軍曹に向けて銃を撃ち放ったことを完全に帳消しにしたのだ。
つい10分前までは、『怪しいから殺す』くらいの勇ましさがあったのに。
「ナイフなんて必要ありません」と、相手の意表を突くことから彼女の先制攻撃はスタートした。
相手の境遇に理解を示し、『家族』という不可侵であろう場所に容赦なく踏み込み相手を泣かせ、それを受け容れる。
完全なマッチポンプだが、この非効率な交渉を成功させるだけのカリスマがあったのだ。
少女は、たった30秒で、この戦いに燃える軍人の心を完全に鎮火した。
#2-7(軍曹:和解ルート)#
正午。
男と少女と軍曹は、廃墟と化したバーの椅子に座り、バーテンの居ないマティーニランチと洒落込んでいた。
少女が持ってきたビーフサンドイッチはかなり美味しく、手が込んでいた。
それにしても、撃ち合った敵とこんなに簡単に打ち解けていいのだろうか。
軍曹「ずっとお前たち2人で旅していたんだと思ったが……」
少女「アハハ。彼とも今日知り合ったんですよ」
男「……なあ、こんなことしてて良いのか?」
少女「何がですか?」
男「だって……あの聖堂に戻る予定なんだろ?」
少女「ああ。午後4時までに到着すれば問題ありませんよ」
口調が丁寧すぎる。
少女の口調の変化が、あからさまに胡散臭く感じる。
だが軍曹の方は、酒か少女かに浮かされて、ぼーっと頬を染めている。
……それは、恋にうつつを抜かす者の顔なのだろうか。それとも、熱心な信者の顔なのだろうか。
少女「……さて。軍曹さん」
軍曹「! は、はい……」
少女「本来であれば、貴方が私たちに向って発砲した以上、戦いは避けられませんでした」
少女は、自分も撃ったことを棚に上げて、一瞬にして神妙なオーラを醸し出す。
男は、もうこの演技臭さに慣れてしまった。
少女「ですが私たちは戦わず、和解する道を選んだのです……これは聖書にもある通り、まさに…………」
省略するが、演説が30分は続いた。
軍曹がまた泣いていた。
そして男の瞼が閉じ――――。
男が目を覚ました頃、バーから軍曹が居なくなっていた。
少女「……聞いてる? お猿さん、ほらっ! 起きなさいよ!」
男「ん? あぁ悪い、寝てた。で、何だって?」
少女「だから、軍曹とアンタで、実践試合(スパーリング)するの」
男「ああ……外の道路で、軍曹が待機してるな。クソッ。軍人相手に戦える気がしないぞ……」
「互いに能力の使用を認めるわ……そして、このスパーを通じて、軍曹の能力を探りなさい。
そしてアンタも強くなるべきよ。アンタは私の大事な『しもべ』なんだから」
少女は、この日で一番ゲスい顔をした。
#2-8#
実践試合(スパーリング)のルール
①相手を負傷させてはならず、それぞれ身に着けた『リストバンド』を奪ったほうが勝ち。
②ザナドゥ能力に使用の制限はなし。
③ボクシングのスパーとは異なり、先程昼食を取っていたバー(3階建て)建物全体を使用する。
④コイントスで勝った方が先にバーの中に入り、3分経過で敗けた方がバーに入る。
少女「ちなみに……勝った方は特別に、跪いて私の手にキスする権利が与えられます!!」
軍曹「ウオオオオオオオッ!!」
男「ああ……はい……」
コイントスの勝者→男
男は足早にバーへと入っていく。
まず地形を把握することが肝要だ。
1階、2階、3階。ここまでで2分経過。
結果的に、2階に隠れて様子を見ることに決めた。
1階では簡単に発見され、3階では逃げ場が1つしかないからだ。
この勝負では『リストバンド』を奪いさえすれば勝ちだ。
特に男はひったくりのスペシャリストと呼べる能力《サードハンド》を持っている。
「この勝負、勝ったな」
男「……あれ? 戦利品(キスする権利)なんて要らないんだけどな、なんでこうも勝ちたがってるんだ、僕は……」
――――――――。
ギシッ、ギシッ、ギシッ……。
打ち棄てられた木造の床が軋み、軍曹が2階に到達する。
彼の背中が見える、どうやら反対方向から探していくらしい。
……そろそろ『仕掛け時』だな……。
《サードハンド》で銃を構え――――。
――――撃った。
#2-9#
突然の銃声。窓ガラスが割れる。銃声が増える。2回、3回――。
軍曹は咄嗟の判断で能力を使用した。
軍曹は、その能力により全てのダメージを無効化できた。
――《ストーカーインザダーク》
影に潜って移動できる能力だった。
まるで自由落下するようなスピードで自分を影の中に入れ、影の中で自由に移動できる。
影は形を変える。だが影を傷つけることは誰にもできない。
――軍曹は、もう発砲してこないことを確認すると口だけ影から出して叫んだ。
軍曹「おい貴様!! これはスパーだぞ! なぜ発砲した!!」
男「対戦相手を傷つけなければ良いんだろ? 俺は拳銃のバレルと、そこの窓ガラスを傷つけただけ。何か問題でも?」
軍曹「ぐぅっ……! このヒョロガリ! 屁理屈は認めんぞぉ!!」
男「それよりも……いいのかい? そんなに簡単に能力教えちゃって……」
男は、#6#(>>13)で手に入れた医療用アルコールをぶち撒け、そこに銃撃する。
曳光弾がきらめき、アルコールに引火する。
男「ハハハハハッ!! どうだ? 明るくなったろう!? 影も消えるほど!!」
軍曹「いいや違う――――」
「光が強いほど闇は深く、影はどこまでも伸びる!!」
軍曹が隠れていた影は、炎の光の揺らめきとは対照的に、より長く伸びていた。
そう、男の隠れていた遮蔽物を越して、もっともっと長く――。
軍曹は影から出て、憐れみの目を込めて言い放った。
軍曹「お前もプリンセスの前で跪き、その手にキスしたいんだな……? だがキスするのは俺だ!」
男「……は?」
軍曹「いや、本題はそれじゃねえ……」
「火事起こしてんじゃねーよバカ!!」
拳が振り下ろされ、男の意識は完全に吹っ飛んだ――――。
#2-10#
「そこで二人とも正座してください。質問したいことがあります」
男はようやく悟った。
サードハンドは常人を越えたスピードとパワーがある。
だが……あくまで自分の意識で操作しているのだ。
自分の反射神経を越えた速度の攻撃にはまるで対応できない。
そして、男は戦闘訓練を一切受けていない。
軍曹と男のスパーは、実質、最初から決着がついていたということだ。
少女「軍曹さん。なぜ男さんを殴ったんですか?」
軍曹「い、いや……スンマセン……」
少女「ルール違反で、キスはお預けですね。そして男さん……私がバーを消火しました。近くに川があって良かったですね」
男「はい……」
少女は、この日で一番優しい微笑みを浮かべた。
少女「私のために争わせてすみません。悪いのは私です」
軍曹「い、いえっ……そんな、自ら罪を背負おうなんて思わないでください! 全てこのヒョロガリに責任があります!」
男「確かに勝利を急ぎ過ぎだな、俺……」
少女「ダニエル君。気に病まないでください。さあ! 聖堂を目指して出発しますよ! 軍曹さん、前方が安全か偵察してきてください!」
軍曹「はい!!」
軍曹が偵察に向うと、少女は小悪魔じみた笑みを浮かべる。
同じ笑顔でも、先程とは大違いだ。
少女「必死になっちゃって……私とそんなにキスがしたかったの?」
男「は、はぁ……?」
少女「……ガレキに潰されて死にそうだった私を助けてくれて、ありがとう……感謝してるんだから……」
男「はいはい。どういたしまして。で、今度はどんな手段で人心を惑わすんだい?」
少女「本気で感謝してるんだよ……じゃあ、これで信じて……」
少女は、男の頬に軽く口づけをした。
男「!? お、おまっ……」
少女「アハハッ。その反応はドーテー臭いを通り越して、いっそ新鮮だわ」
男「く、くそっ。バカにして……」
少女「クスクス……じゃあ行くわよ。歩きながら、軍曹の能力について説明しなさい」
男は思う。この少女だけは分からない、と。
どれが彼女の本心なのか、まるで分からない。
心臓の鼓動が止まらない。
いや、さっき不意を突かれたから、一時的に心拍数が高くなっているだけだ。
だからこれは吊り橋効果みたいなもので……。
僕が、あの胡散臭いのを好きになるわけがないじゃないか。
第2話 END
軍曹
能力名《ストーカーインザダーク》
【スペック】
射程―――――――自身と、自身が入り込んだ影。
精密動作性――――確実に実行する。
持続力――――――B
成長性――――――完成
影響力――――――自身と、自身が身に着けている装備100kgまで。
【能力】
・自身と、自身が身に着けている衣類100kgまでを選択し、影の中に入り込むか、影から出る。
・影の中の自分と装備は、「物理的に存在しない」扱いとなる。
・影の中では自身の五感は全て封じられる。
・影が存在しなくなった場合、強制的に能力を解除する。
・応用し、体の一部だけを影の中に入れたり出したりできる。
この応用により分離した体の一部は、自身の意識により操作できる。
また、分離した断面は、それぞれ通常通り分子連結しているのと同じように生理的活動を行う。
次回投稿までに、作中の表現についてアンケートを取りたいと思います。
①これまでの描写で、「どのような場所で」「何が起こっているか」簡単に想像できましたか?
②冗長な表現は見当たりましたか?
③目立った誤字脱字、慣用句の誤用などはありましたか?
アンケート結果に沿って、文章能力の改善に努めさせていただきたいと思います。
名前表記(ダニエル)と男、軍曹という表現が混ざっているから、そこはどちらかに統一した方が良いかと。
名前あるならそっちで統一していいと思います。
それ以外は特にありません、面白いです。
>>54
ありがとうございます。
以後、表記の変更を行います。
男→ダニエル
「男」というと一致するキャラクターがあまりにも多いので、地の文で誤解が生じやすいためです。
他のキャラクターについては、名前を出す頻度が少ないので、その都度注釈を入れる形とします。
第3話
話をスタートさせる視点について安価
①ダニエル&少女の視点
②軍曹の視点
③新キャラの視点
安価「下1つ」
#3-1#
あと1時間ほどで「聖堂」に到着する距離だ。
空が僅かに赤みを帯びてきた頃合い、ダニエルと少女は、先行して偵察する軍曹を追う形で廃墟の町を歩いていた。
あちこちにコケが生えた廃墟町を、鳥の清らかなさえずりが往来する。
ダニエル「軍曹を先行させて良かったのか?」
少女「というと?」
ダニエル「会ったばっかりだろ。信頼できるのか?」
少女「アンタは私のこと信頼できるの? 胡散臭いところ、沢山見せちゃったけど」
ダニエル「……あぁ、そういえば全員、今日知り合ったんだったな……」
少女「そういうこと……。えっ。ちょ、ちょっと……すごいスピードで人が近づいてる!!」
ダニエル「敵か!?」
奥から数度に渡って衝撃音が響き、いくつかの建物が倒壊する音に続いた。
彼らは、まるで工事現場のような騒がしさの中に置かれた。
少女「軍曹がやられた!」
そう言うが早いか、5mほどの高さをもつ屋根から人が飛び降りてきた。
緑色のチャイナ服を着た、妖艶なアジア系の女性だ。
胸下まで伸びる髪は濡羽色。
切れ長の目の中に、こちらをじっと捉える黒い瞳。
艶やかな唇は、妖しく微笑んでいる。
ダニエルは彼女に瞳を奪われてしまった。
だがそれよりも気になることがあり、その違和感が彼を現実へと引き戻したのだ。
彼女は、不思議なことに、一切の着地姿勢をとらずに高さ5mの屋根から降りたのだ。
しかも、一切の音を立てずに……。
少女「ダニエル君……私の隣で一目ぼれとはいい度胸ね」
ダニエル「いや、違うんだ……おい、お前、只者じゃないな!」
シェンメイ「『お前』じゃない。――シェンメイだ。僕を呼ぶなら、そう呼んでくれ」
空間が澄み渡るような声。
隙が一切ない、洗練された動作。
シェンメイは一切の威圧感を発していない。
だが――――ダニエルは、彼女に勝利するヴィジョンを一切思い浮かべることができなかった。
少女「して……ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」
#3-2#
シェンメイ「用件……? ほう。あの軍服は、そんなもの聞かずに襲って来たんだが……」
少女「軍服……軍曹のことで間違いないわね……」
シェンメイ「いいか? 僕は被害者だ。……あの軍服なら、今頃ガレキの上で伸びてる」
少女「ええ。どこで倒れているのかお聞きしたいのですが」
少女の《センスジャック》(>>41)は、相手の感覚を傍受することを前提とした能力。
ゆえに、気絶した者、死亡した者を対象に選択することはできない。
シェンメイ「なぜ聞く」
少女「仲間だからです。治療の必要が……」
シェンメイ「仲間だと!?」
少女が言い終わる前に、シェンメイは動き始めていた。
光芒一閃。
一瞬で距離を詰め、既に少女の2mほど手前まで距離を詰めていた。
シェンメイ、右腕をきゅっと引き、すでに殴打の姿勢に入る。
だがダニエルはそれに反応して、シェンメイと少女の間に向って飛ぶ。
《サードハンド》(>>5)を使うことすら忘れ、自らを盾として少女を庇おうとする。
安価
①シェンメイの拳はダニエルに命中した。
②シェンメイの拳は少女に命中した。
下1つ。
#3-3#
*炎氷(アベレージゼロ)*
少女はシェンメイの攻撃に対応することができなかった。
何か重いものが体にぶつかり、その衝撃で意識が暗転する。
――――――――。
気絶時間、数秒。
少女は目を覚まし、体の上にのしかかるものを押しのけて立ち上がる。
自分の体にのしかかっていたのは、ダニエルだった。
白目を剥いている。
拳により脳を揺らされたらしい。
少女「えっ……嘘……」
シェンメイ「現実だ。先に軍服を仕向けたの、君だろ?」
少女「ダニエル……!! 死んじゃったの!? ねえ……ッ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――。
貴方の肩をゆする。無反応。
――貴方になら心を許せると直感したから、聖堂までの同行を許した。
その直感故に、貴方にだけ、ありのままの自分を見せてきた。
庇ってもらうことなんて望んでなかった。
それで貴方が怪我をすることなんて望んでなかった。
許せない!
あの女が許せない!!
――――――――――――――――――――――――――――――。
少女「シェンメイ。アンタ、彼を殺したの?」
語気が荒くなる。
人生で初めて怒りというものを、ここまであからさまな形で周囲に漏らした。
シェンメイ「その細腕で復讐に燃えるの? 滑稽、滑稽……フフフ……」
シェンメイ。武人らしい振る舞いが不要とみたのか、暇を持て余す貴族のように緊張を解いた。
柔らかい口調だが、相手への侮蔑が込められた響きである。
そして楽しい戦いをするために、シェンメイは更に煽り続ける。
シェンメイ「で、彼だけ埋める? 一緒にオフロ? それとも……」
少女「貴様だけ埋まってろ!!!」
少女、デザートイーグルを発砲。
だが――シェンメイは横に半歩移動して、回避。
シェンメイ「そうこなくっちゃ! お姉さんが遊んであげよう」
やはり口調の変化は侮蔑の証左。
少女にとってこれは「本気の殺し合い」――。
シェンメイにとってこれは「ごっこ遊び」――。
火と氷。
温度差の激しい戦いが始まった。
今回はここまでです。
乙
にしても上手いよねー
次の展開が楽しみだ
>>63
ありがとうございます。
ゆっくりと投稿再開します。
なお、名前欄の注釈は、そろそろ鬱陶しいと思われそうなので削ります。
#3-4#
*思炎(ロジカルヒート)*
体が熱い。
ザナドゥ能力を手に入れた時のように熱い。
シェンメイがこちらを嘲るように、数発の弱いパンチを放ってくる。
少女は、それなりの戦闘経験を積んでいたので、その程度であれば容易に回避ができる。
だが、シェンメイがほんの少しでも本気を出せば、少女は顔面を陥没させて死亡することになるだろう。
少女のもつデザートイーグルは.50AE弾を使用し、装弾数7発。
先の軍曹との戦闘で1発、ついさっきで1発。つまり弾倉内にあと5発ある。
予備マガジンは10個。だが、尋常な重さではない上、格闘戦ともなればリロードする隙など存在しない。
少女(あの避けられ方からすると、あと何発撃っても全部回避されるわね……)
少女は「勝てる時以外は撃たない」と心に誓った。
激怒しつつも戦いについては冷静ということだ。
まず、敵はザナドゥ使いで間違いない。これまでの彼女の行動から分析しよう。
・異常なスピードで接近し、軍曹を一撃で昏倒させた。
・5m下に、着地姿勢もとらず落下し、無傷で無音だった。
・弾丸を回避した。
……「異様な身体能力と、機械のような精密動作性」……シンプルだが、それが一番納得できる回答だ。
体のバネを生かして衝撃を逃がせば、5mの落下も無音で行えるかもしれない。
しかし1つの疑問が浮上する。
……超音速で飛翔する弾丸を回避する化け物と対峙し、どうやって勝てばいい?
シェンメイ「くっくっく……」
少女「……何?」
シェンメイ「1つ勘違いしているようだから、教えてあげる」
「私はザナドゥ使いではない!!」
化け物。
少女は呟いた。
#3-5#
#傲岸(プライド)#
シェンメイは、ここ最近ずっと頭痛に悩まされていた。
頭痛の時は必ず発熱を伴った。
熱病を疑ったが、大抵、戦いに影響の出ない程度の頭痛なので気にも留めなかったが――。
――全力での殴打が不可能ほど深刻な頭痛。
意識が遠のきそうだが、これを必死にこらえる。
――――――――――。
その女は――山水画のような景色に囲まれ、仙人によって育てられた。
「その拳を解き、筆のために用いよ」
女は師の教えを軽んじて、血の流れる大地を求め――。
――2044年、中印戦争にインド勢力のチベット民族部隊として参戦。
李 神美(リー・シェンメイ)10歳のころのことである。
彼女の武勲により中国が解体されたといっても過言ではない。
2056年2月。22回目の誕生日を迎えるまでに奪った命の数は計り知れない。
殺人拳法と「気功」を極めた彼女に敵は存在しない。
体の全細胞を流れる「気(チャクラ)」が、彼女に戦闘兵器として生きる権利と義務を授けた。
すなわち、老いを知らない瑞々しい肌。
すなわち、対物ライフルの直撃をすら受け止める無謬の耐久性。
すなわち、至近距離で発砲された拳銃弾を、見てから回避する反射神経。
すなわち、自身にかかるエネルギーを減衰させ、ゆるやかに落下する力。
しかし彼女は、弱者との戦いに飽きてしまった。
強すぎる力が一方的な蹂躙を招くのは、世の常である。
彼女は強敵との戦いに飢えながら、この荒廃した大地を彷徨い続けていた。
――――――――――。
軽くジャブを繰り出しながら、シェンメイは、柄にもなく焦っていた。
なぜこの少女は、怒りを露わにしながらも冷静に攻撃を回避する?
私が何者かを分析しているのか?
セオリー通りに行けば、一撃のもと命脈を断つべき。
だが同時に、シェンメイ自身のプライドと「約束を守らずにはいられない性質」が邪魔をする。
「遊んであげよう」と言った以上、いきなり殺しに行くのは大人げない。
楽勝だ。
これまでどんなザナドゥ使いでも、能力を見てから対応できたじゃないか。
少女「っつ……」
少女が大きく飛び退き、頭を押さえてうずくまる。
シェンメイ「あらあら、大丈夫?」
少女「くそっ……こんなときに……体が熱い、頭が痛い……」
シェンメイは、自分も頭が痛く、体が熱いというのに、わざとらしく少女を気遣って見せた。
この少女の無防備に対し、こちらも無防備で応える。
どうせ雑魚なのだ。死の間際に何らかの策があるというのなら――――。
――――それをすら超えて、最大限の礼儀をもって葬ろう。
#3-6#
*細腕(ゴリアテキラー)*
上空を一機の複葉機(飛行機)が飛び去っていく。
後ろを向いてうずくまる少女に、4mほどの距離からシェンメイが語り掛ける。
シェンメイ「フフフ……何か策があるな……!?」
少女「……さあ……」
シェンメイ「……より絶望を確固たるものにするため、私のもつ『体質』の力を説明する時間を頂けるかな?」
少女「教えてくれるんなら……どうぞご自由に……」
李 神美(リー・シェンメイ)
体質《チャクラ全開放》
【スペック】
・常人ならざる身体能力、耐久性をもつ。「気功」と名の付いた技能は3秒の特殊な呼吸により1分間起動し、同時に1つまでしか使用できない。
・《硬気功》重戦車と同等の耐久度と体重を得る代わり、機動力が著しく低下する。
・《軽気功》己の存在を無にすることによって物理攻撃を無効化。
・つまり《軽気功》では、体重が限りなく0に近くなり、打撃を受けても吹き飛ぶだけになる。また、緩やかに落下できる。
・また、掌底で打って相手の「気」を操作することで、①②のうち1つを選択して相手に影響を与える。
①《気を乱す》自身で「気」をコントロールできない者は死ぬ。
②《気を整える》物理的ダメージを急激に回復し、気絶状態から復帰させる。
少女「ご丁寧にどうも……でも、私の勝ちみたいね」
シェンメイ「何だと?」
少女「……べらべらと自分の力を説明するヤツに限って、相手をバカにして、注意が疎かなのよ」
少女「それなら、私の細腕の方が強い」
うずくまっていた少女は、ちょうどシェンメイから死角となっていた場所で張りつめていたロープを、ナイフで切断する。
仕掛けが作動。
シェンメイの背後の建物から、3本の矢が射かけられる。
――――左肩部と腰部に命中。1本は少女横の建物の闇に消えていく。
シェンメイ混乱。
シェンメイ、意識外からの攻撃により、矢による攻撃を受け容れてしまった。
シェンメイ、動けない。
矢には毒が塗られていた。
#3-7#
全身の筋肉が弛緩し、立って居られなくなる
膀胱排尿筋が緩み、意識せずとも小便を垂れ流してしまう。
心臓の活動すら、少しずつゆるやかになっていくのを感じる。
シェンメイは、師と仰ぐ仙人を殺して以来、初めて屈辱を味わった。
これまで、この程度の奇襲なら全て避けてきたのに、何故命中した……。
シェンメイ「くっ……クククッ……何かザナドゥ能力を使ってくると思ったけど……」
少女「これは『本気の殺し合い』なんだ……決して『ごっこ遊び』なんかじゃない……だから……」
「『能力バトル』なんて、しなくていい」
叩ける時に叩き、殺せる時に殺す。
罠を張って殺す。
数の暴力で殺す。
言葉の力で殺す。
確かに、相手に致命的な弱点があれば、そこを突いて倒すのがセオリー。
だけど、相手の土俵で戦う必要はない。自分も、能力に拘りすぎる必要はない。
賭け事の基本は、賭け過ぎないこと。
駆け引きの基本も同じで――。
「自分の能力を過信しないこと」
引き際を見失った者から敗北する。
……貴方は、「遊んであげる」っていう言葉に引きずられすぎたのよ。
分かったかしら? お猿さん。
シェンメイ「小娘がッ!! 語ってんじゃねえぞおおおおおッ!!」
シェンメイ、痙攣する足を無理に立ち上がらせ、全力で少女を殴らんと突進する。
だが姿勢を崩し、少女の奥の5階建ての建物の柱に拳が命中する。
本来なら拳が裂けるところだが。轟音、破裂音。柱が割れた。
柱の一本を失った建物が揺れる。
この老朽化した建物は、あっけなくぐらつき、倒壊する。
粉塵が立ち上り、視認性が極端に悪くなる。
シェンメイの姿も、少女の姿も見えなくなる。
シェンメイ「ふーッ。ふーッ……ころ粉塵が晴れら時ふぁ、お前お死ぬ瞬間ら……」
弛緩の毒が全身に回る。呂律の回らない舌を憎む。
括約筋すらゆるみ、尿に混じって糞を垂れ流す。
女性としての尊厳を破壊され尽くしたシェンメイの額から、凄まじい勢いで脂汗が噴き出る。
弛緩に抵抗し、辛うじて立っている状態だ。
すました顔の妖艶な美女など存在しない。戦いの最中、死に瀕した顔ほど醜悪なものもない。
――ここまで私に屈辱を与えた存在を、何としてでも殺さなくては気が済まない。
それに、霧が晴れた瞬間に叩かなければ、《硬気功》に入るための呼吸法すらできなくなるだろう。
――――――――粉塵が晴れる。
#3-8#
*逃亡(エスケープ)*
粉塵が晴れるも、敵影なし。
想定外の事態に、シェンメイは全て悟った。
あの一瞬で逃げられたのだ。
少女のザナドゥ能力は、何か、逃亡のためのものだったに違いない。
シェンメイは、ダニエルの倒れていた方を向く。
ダニエルも居なくなっている。
間違いない。少女は、隠れながら複数の人物を同時に運べる能力者だと確信した。
ただし、シェンメイのこの推察は誤りであり(>>41参照)実際はレーダー能力と形容した方が正しいはずである。
シェンメイは声をあげることすらできなくなり、その場に倒れこんだ――。
――――――――――――――――――――。
影の支配する地下水路。
三つの輪郭が、影の中から這い出てくる。
水路が懐中電灯で照らされる。
輪郭の正体は――少女、ダニエル、軍曹の3人だった。
ダニエルと軍曹は未だに気絶している。
少女「やっぱり、あの手合いは油断させるに限る……」
少女はシェンメイを「単純な戦闘バカ」だと仮定して行動し、それが的中した。
妖艶なるチャイナ服の、冷静な佇まい、隙の無い所作。
表面を着飾るのは簡単だ。
だがよほどの熟達者以外は、相手が圧倒的に格下だと悟ると、無意識下で油断する。
――「シェンメイ。アンタ、彼を殺したの?」
あの怒りが演技だったわけではない。
だが、あの発言の直後から、自分が格下に映るように演出し続けた。
「感情に任せて発砲したり」「相手を化け物と評してみたり」……そういう雑な振る舞いは弱く映る。
……少女が回想を終えてから5分。
ダニエルと軍曹が目を覚ます。
ダニエル「……あの女は?」
軍曹「ぷ、プリンセス……偵察の役を果たせず申し訳が……」
少女「順を追って説明します。いいですね」
#3-9#
●軍曹について。
少女「まず、貴方はチャイナ服の女性を攻撃しましたか?」
軍曹「ええ……いきなり、馬のような速さで、30cmほどの距離まで近づかれたので、つい……」
少女「いいえ、咎めているわけではありません。そんなことがあれば攻撃したくもなりますよね」
●シェンメイ攻略法、罠の矢。
少女「……つまり、その位置に誘い込んで、罠を起動、シェンメイに『筋弛緩薬の矢』を命中させたのです」
ダニエル「……ん? なんで罠の位置を知ってるんだ? 自分が仕掛けたのか?」
少女「ええ……聖堂の回りは、自分の庭のようなものですから」
●どうやって地下水路まで、3人を抱えて逃げることができたのか。
少女「私の能力が、成長したのです」
少女
能力名《センスジャック》
【スペック】
★第2形態
射程―――――――半径300m
精密動作性――――確実に実行する。
持続力――――――自身の意識が続く限り。ただし能力②は使用に小程度のストレス。適度な休憩を推奨。
成長性――――――B
影響力――――――射程内の人間任意数
【能力】
・①→②の順番に行う。
①チャンネルチューニング
最も近い人間から順番に、能力②の対象を選んでいく。
1回の対象変更ごとに、約0.1秒のラグが生じる。
・いつでも、対象を「最も近い人間」にリセットできる。
・対象の頭上に赤いマーカーが表示され、対象のシルエットが浮かび上がって見える。
②「(傍受)対象の五感から任意数選択し傍受」or「(コピー)対象のザナドゥ能力をコピー」する。
・(コピー)能力は、同時に1つのザナドゥ能力しかコピーできない。
・意識のあるザナドゥ能力者は(コピー)能力を無効化できる。
……能力使用時に五感から任意数選べるようになったほか、自身の五感断絶が無くなった。
また……「コピー能力」が追加され、対象を選択する①能力に「意識のない人間」が追加されたので、気絶した軍曹の位置を知ることができた。
少女「つまり……意識を失った軍曹さんのザナドゥ能力をコピーして使用したのです」
《ストーカーインザダーク》(>>51)の荷物100kg制限を満たすために、1人ずつ運ぶ必要があった。
複数ある地下水路の入り口を利用し1人ずつ運び、2往復で地下水路に移動させたのだ。
軍曹「ご迷惑をおかけしました」
少女「気にしないでください……貴方の能力は、事前にダニエル君から伺っています。素晴らしい能力ですね」
軍曹「ありがとうございます!」
少女「……通路の奥から人が来ます。けれど味方なので、撃たないでください」
少女が、地下水路の丁字路を、懐中電灯で照らす。
一人の少年が、通路の奥からやってくる。
#3-10#
*望郷(リターン)*
少年「姉さん!! 探したんだよ!」
少女「あら、ジーン。まだディナーの時間には早いですよ」
少年「もう。姉さんったら……それで、そちらの白衣の男性と、軍服の男性は?」
少女「白衣の彼がダニエルさん。軍服の彼は……軍曹さんです。お2人さん。こちらはジーン。私の弟です」
ダニエル「どうも」
軍曹「プリンセスの弟君ですか! お会いできて光栄です」
少年は、2人の男たちを訝しんで見る。
少年「姉さん……この2人、信頼できるの?」
少女「軍曹さんは私の命を救ってくれました。私を信頼するように、彼を信じてください」
少年「ふぅん……で、ダニエルさんは?」
少女「ダニエルさんは、遠方から私を訪ねてきた、私たちの叔父様です」
少年「叔父……?」
少女「両親を失い、身寄りがないと思っていました……ですが、危険を顧みずヨーロッパから海を渡って私に会いに来てくれたのです」
「貴方が生後半年のころ、私が3歳のころ、私たちはイギリスに住んでいましたよね……。
『濃霧事件』が起こるまで……あの事件がきっかけで、私たちが渡米したのは知ってますよね。
貴方は覚えていないかもしれませんが、その渡米を助けてくれたのがダニエル叔父様です」
そういう設定で行くことにしたから。――とばかりに、少女はダニエルに向けて目配せする。
ダニエルはいい加減慣れたのか、違和感なく少年に微笑みかける。
ダニエル「あの小さくて可愛かった赤ん坊がねぇ……父さんに似て勇ましい顔つきになって誇らしい限りだ」
少年「と、父さんのことを知ってるんですか!?」
ダニエル「もちろんだとも。思い出話を語ってやりたいが、今日はもう疲れちゃったよ……色々あったんだ……」
少年「ええ。でも疲れが癒えたら、父さんのこと、母さんのこと、教えてください! きっとですよ!!」
ダニエル「約束しよう」
少女は「嘘が上手になったわね」とばかりに、ダニエルに向って微笑んだ。
そして少年のほうに向きなおり、一際真剣な顔をして報告した。
少女「……『例の書類』を回収しました」
少年「ええ……聖堂の文明レベルは、これで大きく向上しそうです」
ダニエル「何の話だい?」
少年「さっ、さぁ? ……我々の集落である『聖堂』までご案内します! さあ、付いてきてください!!」
少年は、少女と違って嘘が下手だった。
#3-11#
シェンメイと少女が交戦してから1ヶ月――。
――シェンメイは、ベッドの上で目を覚ました。
この清潔な空間が、病院だと察するのは簡単だった。
「目が覚めたようですね」
上等なスーツを着た男が、気さくに声をかけてくる。
シェンメイ「ここは……貴方は?」
社長「ここはRF製薬の附属病院。私は、RF製薬の社長です」
シェンメイ「殺せ……私は、拳法家として驕ったがゆえに、人間として生きるのに必要な尊厳を破壊された……殺せ……頼む……」
社長「……あの少女に負けたのですか。……上空の複葉機から見守っていましたよ」
シェンメイは、あの戦いの最中。#3-6#(>>67)複葉機を見ていたことを思い出す。
社長「1つだけ……貴方が死を選ばなくて済む手段があります……尤も、今のままの貴方には不可能ですが……」
シェンメイ「続けろ」
社長「あの少女たちを殺害し、汚名を晴らすのです」
シェンメイ「……ああ」
社長「ですが、今の貴方は弱い……」
シェンメイ「ああ……その言葉に言い返す術をもたないほど、私は弱い……」
社長「貴方が強くなれるように、2つのものを与えましょう」
「『カネ』と『敵』です」
社長「今すぐ答えを出す必要はありません……では、失礼します」
―――――――――――――――――――。
シェンメイと社長の交渉から数日――。
『魔女の森』深部。
妖しい霧が立ち込める、魔女の森――。
その洋館は、大木の幹と一体化していた。
アリス「ダニエル兄さんの行方は分かった?」
社長「……2ヶ月後に『聖堂』を攻略します。それには貴方の力が必要だ」
アリス「兄さんの情報がなきゃ参加しないわよ」
社長「順序が逆ですよ……参加して『聖堂』を落としていただければ、ダニエルさんの情報を提供します」
ダニエル・ザナドゥ博士は、ザナドゥ薬の開発者にして――『最初のザナドゥ使い兄妹』のうち、片割れでもある。
だが片割れの『魔女』ことアリス・ザナドゥは、我々に対し若干非協力的だ。
一方で、ダニエル博士は我々のために良く働いてきた、強い忠誠心の持ち主だ。
ダニエル博士が失踪した原因、現在の所在地は未だに不明だが……。
とにかく、RF製薬には、今後も彼の助力が絶対に必要だ。
人類の発展と、桃源郷(ザナドゥ)実現のために――。
第3話 END
安価から2、3人出すと言っておいて、未だに1人(>>32→>>51)しか出ていない展開の遅さをお詫びします。
>>28~>>33の間から、計3人の能力を出す予定なのですが……。少し先になりそうです。
ですが、>>28~>>33で出す予定の能力が、シナリオに深く絡んできそうなので、新たにアイデアが必要です。
18時ごろに、また新しい超能力者を決める安価を出そうと思います。
質問、ご感想などなど、お気軽にどうぞ。
では。
次回以降の超能力者を決めるので安価を出します。
安価
下10個までで、2つ選びます。
大気を操る能力
沢山の安価獲得、ありがとうございます。
でもさすがに「下10個」は欲張り過ぎた感がありますね……。
20時までにあと2個のアイデアが出なかった場合、そのまま書き始めます。
#4-1#
膝下まで濡れている。
懐中電灯の明かりのみを頼りにして、光なき地下水路を進む。
ダニエルは、そういえば。と、少女の語る「世界中に拡散した電磁パルス」のことを思い出していた。
確か、その電磁パルスのおかげで電子機器が破壊され(>>39)、2056年現在に至るまで文明は完全には復興されていない。
懐中電灯も電力を使っているのには違いはない。
では、なぜ懐中電灯は大丈夫なのだろうか。
世界の常識を違和感なく聞くためには……。
ダニエル「いやあ、フィオナ(少女)ちゃん。1つ聞きたいんだが」
少女「なあに、叔父様」
ダニエル「僕が5年前に書いたレポート、つまり『電磁パルスと電子回路破損の関係』は読んでくれたかな?」
少女「ええ。発表する場所が場所なら雑誌掲載もあり得るかもしれませんね。けど、ここアメリカでは更に研究が進んでいます」
ダニエル「まだ渡米したばかりで、この国の発達度をあまり知らないんだ。例えば――この懐中電灯は、なぜ電磁パルスの影響下でも正常に動くのかな?」
少女「あら、基本ですよ」
少女曰く、懐中電灯はシンプルだから動く、と。
――――――――――――――――――――――――――――――――。
電磁パルスの悪影響が色濃いのは、あくまで複雑な『集積回路に代表される精密機器』の類です。
一方、懐中電灯は大雑把で、数本の配線と電池、電球だけで成り立つことができます。
それ以外にも、主に以下の電子機器が正常に動きます
・モーター
・スピーカーやレコード
・モールス信号等、シンプルな有線通信
・電力を使用する単純な工業機械
などは問題なく動作します。
そして人類は、1999年の『文明崩壊』から2056年までずっと「精密な電子機器に頼らない発展」を続けてきました。
もちろん限界はありますけどね……。
――――――――――――――――――――――――――――――――。
ダニエル「強力な妨害電波もある。だからユーラシアと北米大陸の交流が薄くなったんだな」
少女「ええ。とにかく、叔父様。こちらでも研究したいですよね? 『聖堂』にそれなりの設備があります」
少年「叔父上は高名な研究者なんですか?」
ダニエル「いやいや、無名だよ。ドイツでの待遇が悪いから抜け出して来たんだ」
少年「えっ……ドイツは解体され、フランス政府の管理下に置かれているはずですよ……?」
!?
ダニエル「あ、ああ……旧ドイツのうちベルリン付近を、研究者たちのごく狭いコミュニティ内で、慣用的に『ドイツ』と呼んでるんだよ」
少年「なるほど……本に書いてない雑学も、後で沢山教えてくださいね」
僕よ、ナイス言い訳だ。
だが『忘却の薬』を飲む前の僕に言っておく。
――こういう事があるからそんな薬は飲むんじゃない。
――――――ん? 『忘却の薬』(>>8)で失うのは自伝的記憶のみだったはず……。
なぜ僕は、こうも世界的な常識を忘れているんだ? 薬の誤飲だろうか。
……だが……今は、そんなことよりも周囲との信頼構築に努めるべきだろう。
#4-2#
軍曹「ところどころ、水路の外壁が補修されてますね。誰か管理者がいらっしゃるんで?」
少女「我々がこの水路を管理しています。優秀な『警備部隊』によって……ですが……」
軍曹「ですが……?」
少女が皆を制止して、言う。
「98m前方、K-9ブロックにて異常発生! 第3警備分隊4人のうち2人が負傷、正体不明の人物1名が危害を加えたと見られます」
少女は、《センスジャック》(>>70)による味方の五感を傍受を開始した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――。
オーロラ1「く、苦しい……一体……」
オーロラ2「うぐぐっ……い、息が……」
オーロラ3「くそっ! オーロラ1、2、大丈夫か!?」
4~5mほど離れていた場所を警備していたオーロラ3と4が、倒れた2人の同僚を見るなり急ぎ接近する。
ちなみに「オーロラ」とは、オーロラ分隊の隊員たちのコールサインである。
そして僅かな香木の香り。
失われつつある信仰の香りを感じ、顔を上げる――。
そこに、1人のカソック(神父の真っ黒な司祭平服)を着た男が、水路内の陰に寄りかかっていた。
オーロラ4「貴様何者だーッ!!」
神父「……人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい(『マタイによる福音書』7章12節)」
オーロラ4「……?」
神父「――――貴方がたは、何の目的で此処に? ……救いが必要ならば……」
オーロラ3「申し訳ないが、怪しい者は捕らえよとの命令だ。おい、オーロラ4! 拘束しろ」
神父「フフフ……フハハハハハッ……言うに事欠いて怪しいとは……神罰が下りますよ」
オーロラ4「エセ神父が。全ての罰は因果応報よ……そして『神』というのはな、決して天罰を下さない。天罰と神罰の違いは分からんが……」
「オーロラ3、足を撃て!! 拘束するぞ!!」
「フフフ……矢よ、討つべき者を討て」
発射されたライフル弾の軌道が全てズレ、奥の壁を抉る。そして神父は手を前方にかざし、軽く呟いた。
「これが神罰です」
オーロラ3と4、つまり分隊の残りの2人も、呼吸ができずもがき苦しみ――。
数秒後、4つの気絶した体と、1人の神父のみがあった、
――――――――――――――――――――――――――――――――――。
少女「――――『ヘンなの』がいる」
ダニエル「まぁた『ヘンなの』か?」
少女「前回の比じゃなくヘンなのよ。――35秒も『傍受』して――それでも相手の能力が分からないのよ……」
少年「…………彼ら警備分隊に、助けは必要ですか?」
少女「――急ぎましょう。大切な仲間よ」
#4-3#
*圏外(アウトレンジ)*
一行は少女の走る速度に合わせて駆けていた。
少女が先導兵(ポイントマン)を務めるべき理由は3つある。
この中では少女が最も足の遅い人物で、足並みをそろえるために遅いものが先導すべきなのが、1つ。
この中で、異常の発生した正確なポイントを知るのが少女だけというのが、もう1つ。
最後に、この水路を張り巡らされた自軍のトラップ全てを暗記しているのは、彼女くらいなものだからだ。
5度目の丁字路に差し掛かる。
少年「次の角は――」
少女「左です。右は爆弾のトラップが仕掛けられていますから、間違えないで……」
軍曹「爆弾トラップって、あのこれ見よがしな荒縄がスイッチですか?」
少女「……?」
軍曹が指摘した荒縄は奥の通路までずっと伸びていた。
縄のこちら側はまるで首吊りの縄のように輪が結ばれ、輪の先端が僅かに浮いていた。
少女が「伏せろッ!!」と叫んだ瞬間――。
縄が引かれ、極細のワイヤーに触れ、爆発のトラップが起動した。
鈍い轟音。
天井が揺れ、破壊される。
――――――――――――――――――――――――――――。
気絶時間、約10秒。
ダニエルは目を覚ました。
咄嗟に伏せることができ、外傷は少ない。延焼した白衣は捨てねばならなかったが。
ダニエル「ク、クソッ……大丈夫か?」
ダニエル、声をかけて辺りを見回す。
丁字路の中心は天井が崩落し、通行が出来ない状態となっている。
隣に軍曹がおり、それ以外には誰もいない。
落ちた天井で作られたガレキの向こう側から、少年の声が届く。
少年「分断作戦ですか」
軍曹「どうやら2人ずつで左右に分断されたようだな」
少年「爆弾は歩兵にのみ影響を与える位置に設置していましたが……天井に場所を変更されましたか」
軍曹「敵は周到にここで待ち伏せていたと?」
少年「その通り。こちらのトラップを逆に利用されましたね……それでお二人さん、大丈夫みたいですね」
軍曹「ええ。そちらは?」
少年「フィオナ……いえ、プリンセスが気絶したままです」
ダニエル「なんてこった。彼女のレーダーとコピー能力が生命線だと思ってたが……」
少年「こちらはこちらで何とかします……敵の作戦がセオリー通りであれば、分断後すぐに挟撃されるでしょう」
「御武運を」
#4-4#
通路の角から僅かに顔とボルトアクション式ライフルを出した数名の兵士たちが、遮蔽物に隠れたダニエル達に向けて引き金を絞る。
数発のライフル弾による、鋭い銃声。
――文明崩壊後の世界では、弾薬や燃料の類は高級品だ。
大幅な文明後退に技術的な制約により――今や、連発式ライフル(アサルトライフル)ともなると貴族の道具となっていた。
(ちなみに説明が遅れたが、軍曹の持つライフルもボルトアクション式である)
故に、1発1発の精度を重視した戦法が流行しているのだ。
ダニエル「クソッ。襲ってきたぞ! 軍曹さんよ、こういう時はどうするべきだ?」
軍曹「このガレキの遮蔽物も過信できん。グレネード投げられてオシマイだぞ!」
ダニエル「……そうだ! お前の《ストーカーインザダーク》で相手の背後に回り込んでくれ!!」
軍曹「ハッキリと言っておく……無理だ! ……ここには一切の影がない!」
ダニエル「はぁ!? だって地下水路だろ、そこらじゅう影だらけじゃないのか!?」
軍曹「『影』って何なのか、考えたことはあるか? 俺はなぜお前たちを昼間に襲った? 夜の方が暗いはずだろ? なぜだと思う?」
ダニエル「……『影』って、相対的なものなのか?」
軍曹「そうだ」
《ストーカーインザダーク》(>>51)について解説する前に――。
まず『影』について定義しよう。
影とは、「物体や人などが、光の進行を遮る結果、壁や地面にできる暗い領域」である。(Wikipedia)
即ち、影が存在するためには光が必要であり続ける。
光がなければ、それは闇である。
――この地下水路も、太陽の光が遮られた結果の暗所だ。
しかし、《ストーカーインザダーク》は、本人が「これは影だ」と認識しなければならない。
ただただ暗い地下水路は、軍曹にとっては「闇」としか認識しえないものであった。
ダニエル「この懐中電灯で影を作るのは?」
軍曹「その明かりで作戦が透けて見える上に、お前が懐中電灯を落とした途端に俺の能力が解除され、集中砲火を受けて死ぬ」
ダニエル「難儀なもんだな」
軍曹「仕方あるまい……お前の方こそ、敵は10m以内だが、暗くて狙いが付けられないのだろう?」
ダニエル「ああ……身を乗り出して懐中電灯で照らす必要があるが……そんなことすれば撃たれる」
そして数分間、どちらにも命中しない不毛な銃撃戦が繰り広げられ、最終的には双方無言の膠着戦となった。
まるで第二次世界大戦における塹壕戦だ。
ダニエル「なあ! お互い撃ち合ってから言うべきことでもないと思うが、仲良くできないのか?」
ダニエルが、いまだ顔すら見せぬ相手に向って叫んだ。
返事がない。
彼らは敵だ。
>>93
>通路の角から僅かに顔とボルトアクション式ライフルを出した数名の兵士たちが、
>ダニエルが、いまだ顔すら見せぬ相手に向って叫んだ。
……あからさまな推敲不足でした。
「互いに位置判明を恐れて照明器具を使うに使えなかったので、暗さゆえに顔が見えなかった」
……と脳内補完しておいていただければ幸いです。
#4-5#
*一石(ブレイクスルー)*
軍曹「にしても……どうする? この場で今日二度目のランチタイムと洒落込むか? ドリンクはドブ水フリーだ」
ダニエル「それは避けたい。……だが、ここで忍耐せずに飛び出せば負ける。そうだろう?」
軍曹「ああ」
ダニエル「……おい待て。何か妙だ、敵陣が妙にざわついている」
数発の銃声が、こちらと全く無関係の方向に向けて響いた。
いくつかの怒号と、新兵が恐怖に喘ぐ声。
雷雲の轟きのような音と、緑色の閃光が走る。
その閃光により敵の陣取っていた水路角が、一瞬だけ見えた。
――水路の壁が、歪んでいる。
歪んで、槍のごとく鋭く隆起していた。
その鋭利な槍の先端に兵士の首が突き刺さっていて、その目や首からは血が噴き出していた。
軍曹「……ザナドゥ使いが敵を始末しているのか? 第三勢力ってことか?」
ダニエル「だろうな……交渉できそうなら、敵意がないことを示すぞ」
今一度、轟雷と緑の閃光。
そして。フシュルルルル……。
獣のような呼吸とともに、どしっ、どしっ、と、獣のような足音が響いている。
奇妙だ。
ここは一面が水路のはず。ばしゃ、ばしゃ、という足音なら理解できる。
ダニエルは、居ても立っても居られなくなり、懐中電灯で水路の奥を照らした。
――奇妙だ。
水面上に、水路の壁を隆起させて作ったかのような足場が出現している。
足場の上の存在を考えれば、それなりの強度を持つようで――。
足場の上で――。
顔に古い刃傷を持った屈強な男が、こちらに向かってゆっくりと歩みよって来た。
刑事のように、カーキ色の膝下ロングコートをはためかせて――。
右手には大振りのナタ(マチェット)を握りしめ、左手には中身の満たされた酒瓶。
その刃傷の男は、尋常な覇気ではなかった。
ダニエル「な……!?」
狂戦士「……奥の2人……抵抗して死ぬか、抵抗せずに死ぬか選ぶがいい」
軍曹「やれやれ……ダニエルさんよ……交渉はムリのようだぜ」
――――――――――――――――――――――――――――――――。
出身地や一切の経歴が不明。
――彼はラテン系人種を自称しているというが。
左の目じりから口にかけて、大きな刃傷痕があり。それが彼の印象を決定付けていた。
男は――自らを『狂戦士(バーサーカー)』と呼ばせている。
金次第でどんな汚れ仕事でもすることに定評がある一方で……あるジンクスがついて回った。
彼に仕事をさせた土地は、必ず凄惨な荒れ野となる、と。
「都市を占拠しろ」と命令すれば、その都市が無くなる。
「要人を暗殺しろ」と命令すれば、その要人の所属する国家を解体する。
そして、彼のその行動に起因する、各勢力からの疎まれようは尋常ではなく……。
2044年、つまり2056年の12年前――。
イギリスの小都市を犠牲に、彼の討伐が計画された。
後に『濃霧事件』と呼ばれる、英国特殊部隊がイギリス郊外で毒ガスを散布した事件である。
だが彼は今も生きている。
#4-6#
*業姫(ゴウキ)*
多少時間が前後する。
少女&少年と、ダニエル&軍曹が分断される原因となった、爆発トラップの作動直後のこと――。
少女は少年の耳に口を寄せ、囁くように言った。
少女「隣の2人には、『プリンセスは気絶した』と言っておきなさい」
少年「えっ……けれど、そちらには味方分隊が張られているんですよね。誤解が生じれば殺し合いですよ」
少女「彼らが信頼に足る人物かどうか……この際、正直に告白するわ」
少女「――ダニエルと軍曹。この2人はいまいち信用ならない」
恐らく、ダニエル博士は……RF製薬のダニエル・ザナドゥ博士で間違いないわね。
本人は、自身を記憶喪失だと言っていますが、我々のスパイに来た可能性も否めない。
そして、本名を名乗らない『軍曹』……。
旧米軍のやり口について行けずに抜け出した、脱走兵なんでしょうね。
同情できる身の上だけど、出会ってすぐ私に極端な忠誠心を向けるのが――若干「あざとすぎる」……。
よって、彼らの人格を見極めるために、1つ――「種」を撒いたの。
少年「――種?」
少女「そう――」
ダニエルと私の関係についての発言について、矛盾を混ぜたの。
(>>47)
>少女「アハハ。彼とも今日知り合ったんですよ」
(>>71)
>少女「ダニエルさんは、遠方から私を訪ねてきた、私たちの叔父様です」
少年「つまり、それがどうしたっていうんです?」
少女「この矛盾に対して、軍曹がどう動くかを見極めるの」
①この矛盾に気づき、私に聞くのであれば――彼は勘が良い上、独断行動をしない、部下として有能なタイプ」
②この矛盾に気づき、ダニエルを怪しんで攻撃したのなら――彼は妄信的なプリンセス信者で、信者内でも危険因子」
③この矛盾に気づかないのであれば、それはそれで愚昧な信者として利用できる。
少女「そして軍曹が②を選んだ場合、それに対するダニエルの行動を見て、ダニエル・ザナドゥ博士がスパイかどうかを見極められる」
1☆軍曹を殺害――おそらくスパイで間違いない。
2☆軍曹をなだめる――スパイだとしたら、有能。
3☆軍曹に殺害される――もうスパイかどうか分からないが、それはそれで問題ない。
少女「……そこの変電室で、ダニエルたちの五感を傍受する。アンタは1人でこちら側の敵を叩きなさい」
「仰せのままに、フィオナお姉様」
今回はここまで。
明日も書けたら書きます。
……長編の様相を呈してきました。
連載ペースが落ち気味ですが、まったり続けていきたいと思います。
応援感謝します。
それでは。
まっとる
>>100
ありがとうございます。
……遅れましたが、書き溜めなしで投稿していきます。
#4-7#
少年は少女に指定されたポイントまで到達した。
そこで見たのは、気絶して寝かせられた友軍の4名と、そして……。
通路脇に佇む影。僅かな照明に反射する十字架。不敵な笑み。カソックを着た男だ。
少年「……3年ぶりですね。神父様」
神父「大きくなりましたね……今年で……ええと……」
少年「12歳です……。神父様、RF製薬に移ったというのは本当ですか?」
神父「……なら、プリンセスは今年で15歳になるのかな……懐かしい……」
少年「質問に答えて下さいッ!!」
神父「これが答えだよ。少年ッ」
神父が少年に向けて右手をかざす。
その右腕は異形であった。金属のごつごつとした表面、モーターによって駆動する関節。
サイボーグという表現がぴったりだった。
それは文明崩壊後の技術ではあり得ないほど精緻な工業製品だった。
義肢に刃物や銃器が搭載されているような雰囲気はまるで感じないが、良くないものを感じた少年は飛びのいた。
その瞬間、少年がさっきまでいた空間が裂けたかのような爆音が響き、殺人的な強風が生じる。
少年の体は、その音のする方向へと引き寄せられ、バランスを崩して倒れた。
少年「この風は一体……!? その腕は……」
神父「……私は、RF製薬に命を救われ、その上ザナドゥ能力まで頂きました。けれどザナドゥ使いとしては落ちこぼれの部類です」
神父「『ザナドゥ・エンハンサー』……この機械仕掛けの腕により、私のザナドゥ能力は神の域へと達した。ですが困ることに……」
「貴方たちを殺さなければ、もう二度と腕のメンテナンスはしないと言われてしまったんです」
――――――――――――――――――――――――――――――――――。
狂戦士が壁に右手を叩き付ける。
緑色の閃光が水路内を包むと、狂戦士の右手付近の壁が隆起して槍になり、ダニエルの心臓を狙う。
「オラァッ!!」ダニエルが叫び、《サードハンド》が槍を折る。
攻撃のタイミングが明確であり、かつ狙いが不精確なのが救いだった。
大雑把に《サードハンド》を振るだけで槍が折れてくれる。
それよりも問題なのは……。
ダニエル「おいッ! ライフルは拾えそうかッ!?」
軍曹「無理だ!! 拾おうとすれば殺されるぜ!」
――最初の一撃で二人の銃が弾き落とされたことだ。……ここは地下水路。暗く、濁った水の中の銃を探すのは至難。
狂戦士「ザナドゥ戦でのセオリー①……『銃を使わせるな、格闘戦に持ち込め』……」
ダニエル「あぁ……?」
狂戦士「先輩から後輩にアドバイスだ。どうせザナドゥよりも銃のほうが万能なんだ。格闘戦でこそ差が出る」
軍曹「……何を固まってる、攻撃しろ!!」
ダニエルが《サードハンド》を振り抜く。第三の手は、第三者には不可視であるはず。
だが狂戦士は、壁を即座に隆起させ防御した。
ダニエル「防御した!? 見えているのか……?」
狂戦士「ああ、見えるぞ!! 手の内が透けて見えるぞ!! 手の内を晒し過ぎたな、念力使いめ!」
#4-8#
狂戦士「ククク……申し遅れたが……俺のことは『狂戦士(バーサーカー)』と呼んでくれ」
軍曹「その名にそぐわぬ冷静さ……だが眼光狂気、確かにお前は危険だ……」
ダニエル「僕はそうは思わん。僕一人でも倒せる」
ダニエルは一歩前に出ると、そう虚勢を張って見せた。
ダニエルの手は、背後で、狂戦士の死角になる角度でせわしなく動き、何らかのサインを形作っている。
軍曹「……! ……ああ。そうとも。お前なら倒せる」
狂戦士「……では始めようか」
軍曹は考えた。
恐らく、狂戦士の能力は「物質の分解と再構築」……かつ、生物は分解できない。
生物を分解できるなら、「壁に触れて槍を作る」などという遠回りなことをする理由がない。
直接触れただけで相手を破壊できるのだから。
軍曹は考えを進める。――そして、ダニエルのサイン。
ダニエルはおそらく、軍曹よりも頭がいい。軍曹の想定していない部分すら想定してサインを送っていると見るのが妥当……。
従うべきなのだろう。
――彼を取り巻く周囲の言動には不自然な点があるが、今はあれこれ選り好みできる状態ではない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
少年「貴方がRF製薬についたと聞いて安心しました……」
神父「ほう。どういう意味ですかな?」
少年「これでお前を躊躇なく殺せる!!」
少年、肩にかけていたショットガンを腰だめで構え、発射。
直立から構え、発射までの時間は0.5秒を切っている。
だが、神父が少年に向けて手をかざす方が早い。
12ゲージの弾丸が全て逸れ、奥の壁に着弾。
神父「Saiga12……AKシリーズの流れを汲んだ、セミオートショットガンですね」
少年「……逸れている? 先程の爆発的な強風から考えて、風の能力……?」
神父「その通り」
少年「なら距離を取って、確実に始末させてもらう」
少年は一目散に距離を取った。神父が追いかけてくるのは当然。
神父が言っていた通り、神父は少年と少女を殺そうとしているからだ
少年はドアを開け、部屋の中に入る。
狭い室内。いくつかのロッカー、乱雑に置かれたケーブル、工具。乾いた床。
……倉庫だ。
少年「ここなら水に足を取られず回避できる……それに、風を操る能力なら、閉所に誘い込んで空気の量を減らせばいい」
そう。「風」とは、空気の移動がもたらす「対流」でしかない。
空気の量が減るということは、能力が与える影響の範囲が減る。
相手の能力を「風を発生させる」ということに限定すればだが。
少年が入って数秒。倉庫のドアが開け放たれ、神父が入る。
神父「甘いですね……嘘をつくのも、嘘を見破るのも苦手のようだ」
少年は、少女と違って嘘が下手だった。
時系列の判定安価
・先に決着が着いたのは?
①ダニエル・軍曹VS狂戦士
②少年VS神父
安価「下1つ」
#4-9#
*鈍鉈(ヘビーマチェット)*
狂戦士「ほらッ! どうした? 動きが鈍っているぞ!」
ダニエル「一発でも当ててから言ってろ」
マチェットによるスローな攻撃。ダニエルはこれを回避。
狂戦士の戦法は明確だった。
素手となった左手で壁を殴り、壁を再構成して作った槍を飛ばして牽制。
本命は右手のマチェットだ。
……左手に持っていた酒瓶は何処に行ったのかは不明だが……。
とにかく、右手のマチェットでトドメを刺しに来る。
そのマチェットによる攻撃が鈍いのだ。
ダニエル「見つけた……」
ザパァ!!
水没していた拳銃m1911A1が浮上する! 《サードハンド》に支えられて宙に浮く拳銃が、二度火を噴いた。
狂戦士「くっ……だが銃口を見せて撃つものではないぞ……二発とも回避だ」
ダニエル「俺が狙ったのはお前じゃない……その背後の壁だ」
火の軌跡を描く曳光弾が――。
壁に貼り付けてあった包帯(>>13)に着弾。一度に燃え広がる。
包帯は、酒瓶から伸びていた。アルコールランプの要領で持続的に火をもたらす。
狂戦士「俺の落としていた酒瓶から火か……それがどうしたというのだッ!?」
ダニエル「《サードハンド》ッ! 狂戦士を中心に半円を描き、酒瓶を回収しろッ!!」
掛け声と同じように、狂戦士から生じた影が移動する……そう、『影』が――。
軍曹がどこにもいない!!
狂戦士「なるほど、念力使いの隣のヤツ。お前の能力は……」
軍曹「遅いぞッ!! うおおおおおおおおおおッ!!」
影から飛び出した軍曹は、ライフルを握りしめていた。
そのままライフルの柄(ストック)で殴った方が速い距離。勿論そうする。
軍曹は、背を向ける狂戦士の左肩から斜め右下へと、つまり袈裟に振りかぶり――。
音もなく、狂戦士が真っ二つになった。
――――ボロッ、ボロッ……サラサラサラ……。
――狂戦士の体がライフルを避けるように、自分から崩れている。
断面はブロックのようになっていて、血も臓器も見えない。
肺すら真っ二つになっているはずなのに、崩れ落ちた胸から上がダニエルたちを見上げながら言う。
狂戦士「にゃははははははッ……『自分自身も分解できる』……奥の手がバレてしまいましたにゃ」
ダニエル「なにが『にゃははは』だよ、厳ついオッサンが」
狂戦士「ああ。人間は姿が1つしか無いんだっけ? 私、『神』だから」
裂けた狂戦士の体が戻っていく過程で……狂戦士の顔が歪み、体格すら歪み……服すら歪んでいく。
積木を組み立て直すように、自身を維持する情報の全てを造り直しているのだ。
最終的に狂戦士は、白いネコミミフードを被った、やけに露出度の高く、ウェーブがかった奇怪なピンクの髪色の美少女になった。
ダニエルは、自身の常識を覆された思いで、鈍い吐き気を覚える。
#4-10#
*神姫(シンキ)*
先程まで厳つい中年男性、荒くれと言った風体の男が――バラバラと自己解体し――。
――華奢な若い女の姿になった。
女の髪色は先述したとおり、ふざけているようにしか思えないピンクだ。
女の着る白いパーカーはフード部分にネコミミのような突起がある。
そのパーカーの奇異なのは、丈の短さである。胸を隠せれば十分とばかりに、胸より下がバッサリと切り落とされている。
それだけでなく、ファスナーで服の左右を繋ぐ形で、そのファスナーが外されているので、胸の谷間がはっきりと確認できる。
かと思えば袖は指を隠せるほど長い。
そしてそれ以外に身に着けているのは、髪色と同じ淡いピンクのホットパンツに、白いスニーカーだけだ。
軍曹「……狂戦士は何処に行った?」
アリシア「『狂戦士』改め……私のことはアリシア・コレットと呼んで欲しいにゃ」
ダニエル「お前が狂戦士? 姿を変えたのか……?」
アリシア「私のザナドゥは《アーキテクト》――分子同士の結合を『分解』して『再構築』できる。ただし生物は分解できない。例外は『自分の体』だけ……」
軍曹「――お前の講座を引き継ごう。ザナドゥ戦でのセオリー②……『自身の能力を誇示するな』……」
「認識を越える速度で殺す!!」
軍曹、至近距離でライフルによる射撃。構えから発射に移るまで0.1秒、職人の域に達する早業だった。
そして超音速の悪意がアリシアに向けて飛来する。
アリシアの首に風穴が空いた。だが――流血は一切なく、その穴はブロック状で……。
声帯を完全に破壊されたはずのアリシアが、満面の笑みで軍曹に向き直って言う。
アリシア「認識を越える……? まず『殺気』を隠して、ほら、あんよが上手……にゃははっ」
ダニエル「おい……逃げるぞ……手に負えん……」
アリシア「あっあっ~~♪ あっあっあっあっ~~♪ 待って待って。貴方たち、助けが欲しいんでしょ?」
アリシア「軍曹さん。いや……フランク・フラット軍曹……。それにダニエル・ザナドゥ博士……」
ダニエル「なぜその名を……」
アリシア「私は顔が広いのにゃ。で、『旧米軍』が軍曹さんを、『RF製薬』がダニエル博士を追っているのにゃよ」
アリシア「私なら追っ手を始末したり攪乱したりできるんだけどにゃぁ……どーしよっかにゃー♪」
ダニエル「……何が欲しいんだ?」
アリシア「君の童貞が欲しいにゃ」
ダニエル「!?」
軍曹「ダニエルよ。君に妻子がいるなら不倫だな。だが選択の余地はないぞ。戦いに負けたのは俺たちだ。それとも彼女に対抗できる手段でも?」
ダニエル「そうだな……『分解する能力』か……アリシアさんや、2つほど聞きたいことがある。答えなくてもいいけど」
①能力を使用する際に生じていた緑色の閃光だが、アリシア自身の体を分解する際には生じていない理由。
→「能力の起動には緑色の閃光が必須」と思い込ませるためのフェイク。手に仕込んだ化学物質を反応させて閃光手榴弾の要領で。
――浅い部分で自分の能力を誤解した相手は、唐突な「閃光なしの攻撃」で負けることになる。
②足元の『水』を分解して『水素』と『酸素』にしたりはできるのか?
→やって見せようか? アルコールランプの消えていないこの空間で――。
水素は燃焼、爆発しやすい性質を持つ。
高濃度の水素で満たされた空間は、火気厳禁である。地下水路を戦場に選んだアリシアの策略が光る。
「……分かった。だがこの水路でか?」
「いや、最高の場所でね。じゃあ、交渉成立。半年後に会うにゃ。それまで童貞守っておいてね」
……そう言い残して、アリシアは霧になった。全身を衣類ごと分子レベルで分解し、そのまま風向きに逆らって鷹のようなスピードで移動できるのだ。
アリシアは自身を『神』と呼んでいた――――勝ち目なんか、最初から無かった。
アリシア・コレット(狂戦士)
能力名《アーキテクト》
【スペック】
射程―――――――自身と、自身が触れた「個体」「液体」「気体」から連続した半径1m
精密動作性――――S。念じれば、自身の認識外のことも精密/安全に実行できる
持続力――――――無限
成長性――――――完成
影響力――――――自身と、自身が触れた物体。
【能力】
①:触れた物体を、原子/分子レベルで分解する。
・自分以外の生物は分解できない。
・安定した核分裂/核融合すら実行可能。
②:自身の半径10km以内に存在する①能力で分解した物体を、分解前の形状で再結合する。
③:自身を分解した場合、生命と意識は保たれ、自身を構成する全ての分子を自在に浮遊させて移動できる。
・浮遊移動時のスピード限界は、「250km/h」である。
アリシア・コレット(狂戦士)
能力名《アーキテクト》
【スペック】
射程―――――――①10m ②10km
精密動作性――――S。念じれば、自身の認識外のことも精密/安全に実行できる
持続力――――――無限
成長性――――――完成
影響力――――――自身と、自身の手で触れた物体
【能力】
①:触れた物体を自身の望む任意の形状で、原子/分子レベルで分解/結合する。
・自分以外の生物は分解できない。
②:自身の半径10km以内に存在する①能力で分解した物体を、任意の形状で再結合する。
③:自身を分解した場合、生命と意識は保たれ、自身を構成する全ての分子を自在に浮遊させて移動できる。
・浮遊移動時のスピード限界は、「250km/h」である。
訂正です。正しくはこちらです。
#4-11#
勝者の去った戦場で、隆起した壁で作られた床――ややこしいが、とにかくそういう場所なのだ――に男2人が座り込む。
アルコールランプを囲んでの作戦会議だ。
軍曹「お前の顔は……まぁ女が好みそうな顔だが……なぜアリシアがお前の操を狙っているのかが理解できん」
ダニエル「あぁ。だが僕はあんな女知らないぞ。単に一目ぼれじゃないか? それより……」
軍曹「プリンセスたちと合流すべき、か?」
ダニエル「そうだ。場所が分からないとはいえ、あの少年少女との合流が先決だ」
軍曹「……ここで待つのが安全だと思うが。この地下水路の構造を良く知っているのはプリンセスとあの少年、つまりプリンセスの弟だけだ」
ダニエル「確かに……だが、探してみる価値というのは……」
軍曹「ないな。敵が何人かも分からないんだ。だったら、この『分断トラップ』で天井が崩落した地点に留まるべき。じゃなきゃ迷子だ」
ダニエル「ああ。そうだな……」
軍曹「で、童貞なのか? そんな感じはしていたが」
ダニエル「……」
――そんなに僕はそう見えるのか。
ダニエルは少女に「童貞臭い」と言われたことを思い出す。
沈黙が、淀んだ水路を流れる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
倉庫内は、蛍光灯がついていて明るかった。
神父「『もし汝の兄弟、罪を犯さば、これを戒めよ。もし悔改めなば之をゆるせ』(新約聖書―ルカ伝17章3節)」
少年「……『悪いことしたけど謝るから許して下さい?』 先程の殺害予告。僕が許すとでも?」
神父は穏やかに笑みを浮かべた。
神父「『罪人』とは、貴方のことです」
少年、これに激昂し神父に飛びかかろうと足を進める――。
――足が、動かない。
少年、足元に強烈な『摩擦』を感じ、転ぶ寸前で踏みとどまる。
このまま走っていたら、この『摩擦』にやられて転んでいただろう。
少年、直感する。
少年「『特定空間内の大気圧を操る能力』……遊び過ぎたな、神父」
気圧とは、空間中にかかる気体による圧力のことである。
海面上の気圧を1気圧。真空状態で0気圧となる。
低地で暮らす場合、約1気圧で生活していることになるが、1気圧下でかかる圧力は「水の場合10m分の圧力」に相当する。
我々地球上の生物は重力に屈し、このように理不尽な圧力に適応して進化してきたのだ。
さて、少年の推察通り、神父の能力が『特定空間内の気圧を操る能力』だったと仮定して――。
次項より解説させて頂こう。
#4-12#
まずは、真空状態である0気圧から。
『真空状態の世界』――そう聞いて、真っ先に何が不便だと想像するだろうか。
……多くの人が、「窒息死する」と答えるだろう。
だが、ゼロ気圧状態では、それ以外に多くの制約がある。
上記の問題も含めて、羅列していこう。
・酸素がないので窒息する。
当然である。
・液体が沸騰する。これを減圧沸騰と呼ぶ。
基本的に低気圧下では液体の沸点が下がる。0気圧下では、水なら常温で沸騰するだろう。
熱いから沸騰するのではない。沸点を突破するから沸騰するのだ。
・様々なクッションが排除され、摩擦力が異様に高められる。
その両足で歩行する。重い箱を引きずる。窓を拭き掃除する――。
これらは全て、摩擦を伴う行為である。
そして、我々は日常生活の中で、大抵『クッション』を通して摩擦を体験している。
クッションとは、気体であったり、物質間の付着物や酸化物であったりする。
このクッションが無ければ、強烈な摩擦により我々の生活は激変するだろう。
例えば、足と床の間に何のクッションもなければ、どうなるのか。
話を現実に戻そう。
ゴンッ!!
頭が床に叩き付けられる音。
強い摩擦により感覚が狂う。
朦朧としながら少年は立ち上がった。
神父「お察しの通り、私は『特定空間内の大気圧を操る能力』を持ち合わせている。この部屋の『床上10cm』だけ0気圧、つまり真空状態にあります」
少年「くそっ……慎重に歩いても、ガムでも張り付いたように足が動かん……神父、やはり遊び過ぎだぞ。お前なら僕を殺せる……」
神父「『遊び過ぎ』? ……未熟な貴方は、その言葉を発する資格にない」
少年「違う。なぜお前は、例えば『僕の半径1mを真空に』とかやらないんだ? ……窒息死で簡単に殺せるぞ」
神父「……『解除』……」
上から下へと叩き付けるような強風。
少年は、たまらず床に伏せる。
神父の呟いた『解除』という言葉。
これは、固定されていた気圧が元に戻ったのだろうか。
空気は、気圧の高いほうから低い方へと流れていく。
風は気圧でのみ生じているわけではないが、それでも風と気圧は密接に関わっている。
例えば。
高気圧であれば下降気流を生じる。低気圧であれば上昇気流を生じる。
この上昇気流に乗って水蒸気が昇っていき、雨雲を形成するのだ。
例えば。
膨らんだ風船に小さな穴を開ければ、風船から勢いよく風が噴き出る。
これは、風船によって高められた気圧が外の気圧を上回り、気圧を一定に保とうと、風船の中の空気を押し出す形となったからだ。
圧力の差が高ければ高いほど、低い方へと流れ込む力は強くなる。
そして気圧とは相対的なもので――。
話が多少脱線したが、つまり「急に真空状態が解除されれば、周囲の空気が『真空だった空間』に殺到し、強風を生じさせる」ということである。
#4-13#
少年が再び銃を構える。
神父、機械の右手をかざす。
当然、朦朧としている動きを捉えられない神父ではない。
銃声。
少年のセミオートショットガンが同時に9つの球体をばら撒く。
空間の屈折が強まる。
少年と神父を隔てる空間に、まるで擦りガラスでも差し込まれたように色彩が不鮮明となり――。
――気圧の壁だ。
濃密な空気の壁の中に、銃弾が侵入する。
銃弾、空気抵抗に耐えきれない。
銃弾、逸れて神父の奥に着弾。
そう、高い気圧による単純な防御だが、銃弾を逸らすほどの力がある。
少年「お前の底が知れたよ……。何万気圧だろうと『同時に1件』だ……」
神父「なにッ!?」
少年、発射と共に銃を捨て、走り寄っていた。既に神父の懐まで迫っている。
少年「そして『反射神経の限界』……気圧が高いんだろ。なら存分に浴びるがいいさ……」
「濃密な酸素と、刺激的な発火を……」
少年は懐に隠し持っていたオイルライターを取り出し、火打ち石(フリント)を擦った。
そして閃光。爆発と共に全てが赤い光に包まれる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
神父「『同時に1件』ですか……その通り、私は同時に2つの空間を制御できない。そして『反射神経の限界』も認めます」
少年「まさか僕ごときの読みが当たるとは」
先程の爆発で壊れてしまった、右手の義肢『ザナドゥ・エンハンサー』の残骸をいじりながら、神父が言う。
神父「いえいえ。貴方たちは違う、まるで政治家になるために生まれたような二枚舌と観察眼だ」
少年「……勝負を続けますか?」
神父「遠慮しておきます……『この義手(ザナドゥ・エンハンサー)』が壊れてしまえば、私などこれでは……能力者廃業の日ですな」
少年「エンハンサーが無ければ、どのような能力に?」
神父「自身の半径10cm全体の気圧を変動させるだけです。つまり、自分自身が窒息するか酸素中毒になる能力です」
少年「それでは、力を求めるのも、まあ理解できますね……」
神父「そう。貴方は力を奪った……」
神父のいじっていた義手が分解され、中から長方形の小さな箱が出て来た。
神父はその箱を少年に向け、底面のスイッチを押す。
銃声。
その箱から小口径の弾丸が発射されたのだ。
少年の胸に着弾。
少年「お前……? くっ、カハッ……」
#4-14#
動揺。
血が止まらない。
少年は右手で胸を抑え、よろよろと、何かを求めるように動き出した。
そして倒れ、膝をついて神父を見上げる形となった。
神父「無能力のクソガキがァ……私の右腕を奪ったのはお前たち『聖堂』なんだよ! あげく私の能力まで奪ってくれて……」
少年「くっ、うっ…………貴方、2つ誤解しています。1つ目、貴方の右腕は『旧米軍』のミスにより失われたのです。2つ目は……」
少年の眼光は、普段と変わらない。希望と明るさに満ちた瞳だった。
だが神父は興奮した様子で、少年の弁明もお構いなしに、死にゆくであろう相手を罵り続ける。
神父「うるせぇッ……これから死ぬってのに、そんなウゼェ目で見てくるんじゃねェーぞォ!!」
神父「俺はなぁ! お前が悔しがる顔を最初に見たくて、それが今まさに成就されようとしてンだよ!! 絶望の眼差しで俺を見ろよ!!」
少年「あぁ……僕の好きだった『神父先生』はもう居ないんですね……」
少年の呟きに呼応するかのように、突如として、右手で触れていた少年の胸の銃創が発火する。
そう――発火だ。それとしか形容できない。
火が異常な速さで少年を包み込もうとする。
顔が火で包まれる直前、少年は叫ぶように言った。
少年「2つ目の誤解はッ! 僕を『無能力者』と油断していることだ!」
《ファイアスターター》……僕自身を焼き尽くせッ!!
少年は嘘が苦手だった。
だから少年は、勝利の見込みが出るまでザナドゥ能力を見せない。
神父「フンッ! 私のザナドゥ能力を忘れたのか? 『半径10cmを真空』にッ! そして『即時解除』!!」
轟音、強風。
神父を中心として局地的な爆風が生じる。
少年が前方に吸い込まれ、神父が右方向に吹き飛ぶ。
神父は右の義手を失っていた。つまり、表面積は左手側の方が多く――『自身の半径10cm』という定義をいびつにしていた。
当然、表面積の多い左手側の方がより多くの風を生む。
神父は吹き飛んだ右方向で、隠し持っていたナイフを、少年の頭めがけて振り切った。
だがナイフは、少年をすり抜けた。
少年は作戦変更とばかりに逆方向を走り、唯一の出入り口であるドアを溶接して退路を塞いだ。
そして神父の方を向き直り、炎を帯びる状態を解除して言った。
少年「燃えている間は炎と同じ性質を得て、物理的なダメージが無効です。まだ続けますか?」
これまでの「翻弄される少年」とは別人だった。
荒々しい獣性と騎士のごとく高潔さが同居したような、奇妙な雰囲気を纏っていた。
神父は圧倒され、何もできなくなってしまった。
#4-15(先に狂戦士解決ルート)#
「戦いを続けてもいいですが……」
少年「貴方を殺したくはない。貴方は裏切り者です……けれど再び互いの信頼を構築していくこともできるはず」
神父「許してくださるのですか……? 私は貴方を、あんなに口汚く罵ってしまった。ただ得た力に溺れて、力を失うのが怖くて……」
少年「『もし汝の兄弟、罪を犯さば、これを戒めよ。もし悔改めなば之をゆるせ』(新約聖書―ルカ伝17章3節)」
神父の目に光るものがあり、神父は、その流れを止めることができなかった。
彼の懐の大きさに心を揺さぶられ、嗚咽を漏らすことしかできなかった。
少年は、姉の真似をしただけだ。
裏切り者に改心の余地があれば、寛大に受け入れる。
懐の大きい組織だけが成長できる。
だがこの神父は、二度と本当の意味では信頼されることがないだろう……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
軍曹「お前、旧米軍所属だな? つまり……お前が背後で出してたハンドサインが米軍のものだと分かったんだ」
(>>103)でダニエルが出していたサインだ。
サインは全てで3種類。意味を辿っていけば……。
①捜索
②足元
③強襲
すなわち「銃を探し、相手をそれで襲え」と――。
現に奇襲作戦は大成功だった。
狂戦士(アリシア)の異様な強さがなければ、それで事は収まっていただろう。
軍曹「そしてアリシアの発言から、お前はダニエル・ザナドゥ博士……『RF製薬』の研究部門主任……ということが分かる」
軍曹は、ダニエルへの質問を続ける――。
――『RF製薬』と『旧米軍』は本来敵対しているはず。なぜお前はRF製薬に居ながら旧米軍のサインを知っている?
また、プリンセスが当初お前を「初対面」だと言っていた。(>>47)
次にプリンセスが地下水路で弟と会った時、お前を『叔父』だと言っている。(>>71)
……お前はドイツ信託統治領出身を自称していたが、それは信用できる。(>>89)
そこまで強烈ではないが、お前の英語はドイツ訛りだからな。
だが……同時にお前は、文明崩壊以前の知識がまるで抜け落ちているようにも感じる。
何故2015年には発見されている化石じみた「パソコンと懐中電灯の法則(>>89)」を相手の知識レベルを計るのに使った?
本格的な研究者なら、既に電磁パルスを限定的に避ける技術が20年前には実用化されて、上流階級の連中が恩恵に預かっているのは常識だろ。
軍曹「『世界の基本すら知らない研究者』と『ヒョロガリな軍人』を兼任する、童貞の叔父様か? なあ、キャラが掴めねぇんだよ……何者なんだ……?」
軍曹はボルトアクションライフルの銃口を突きつけて、ダニエルに言った。
「お前。自分の人生を……証明できるのか?」
僅かに風が吹く。
水路の水を受けたスラックスが鋭く冷え、ダニエルの肌を刺激する。
場合によってはどちらかが死ぬ。いや、さもなくば両方……。
ダニエルは、目を閉じて深く思考を巡らせると共に――。
不用意な発言によってこの修羅場を用意した少女を、ただただ恨むばかりだった。
第4話 END
投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。
いつも読んでくれてありがとうございます。
質問、感想などあればどうぞご遠慮なく。
では、次回の投稿をお楽しみに。
少年
能力名《ファイアスターター》
【スペック】
★第3形態
射程―――――――①自身and接触 ②1m
精密動作性――――E ただし確実に実行する。
持続力――――――1度使用した場合、1秒の休憩が必要。
成長性――――――C
影響力――――――自身と、自身の体で触れた物体。
【能力】
①自身の体温が常に37℃で固定される。
・自身の体をガソリン相当の燃料とすることができる。そうした場合、呼吸せずとも呼吸した扱いとなる。
・自身が発火している間、自身は炎と同じ性質を持って物理ダメージを無効化する。
※1.炎と同じ性質を持つので、少々の隙間があれば体格を無視して浮遊移動できる。
※2.無制限に浮遊できるわけではなく、浮遊の限界は「速度/自身の全身の筋力×2」「時間/自身の肺活量×2」となる。
②自身の体で触れた物質を『相転移』する温度まで過熱/冷却する。
・あるいは、「自身の肌の上1mまで」の温度を0℃にして鎮火する。
神父
能力名《ストームルーラー》
★『ザナドゥ・エンハンサー』にて強化済み
【スペック】
射程―――――――10m
精密動作性――――確実に実行
持続力――――――A
成長性――――――完成
影響力――――――有視界範囲中かつ①で定義した「空間A」内の空気。
【能力】
①:射程内から自身が角柱の形式で座標決定した「空間A」を、空気のみに関連付けて閉鎖し、気圧を操る。
・特定空間内でのみ空気量を増減させることによって気圧操作。空気は異次元を介して増減する。
・「空間A」は「1人分の人体の50%以上」が侵入した瞬間に定義を終了し、元々の気圧に戻す。
※1.よって、厳密には『空間中の空気量を増減する能力』である。
※2.なお、空気とは『地球の大気圏の最下層を構成している気体』であり、その割合を概ね守って混合する気体のみを「空気」として定義する。
②:「空間A」を、①能力の影響を受ける前の気圧に戻す。
・あるいは、①能力の影響を残したまま解除する。
少年のものは(>>29)より。
神父のものは(>>81)より。
設定の投下を忘れていましたので投下しました。
これで本当に今回の投稿は終了です。
次回をお待ちください。
では。
申し訳ありませんが……。
レポートを消化する必要があるので、1ヶ月ほど投稿を中断させてください。
多忙な時期を乗り越えたので、そろそろ書き溜めて投稿します。
#5-1#
アリシア「……目、覚めたかにゃ……?」
ダニエル「ッ!?」
白い天井、白いベッド、窓から覗く白い空。
先程までダニエルは、暗い地下水路に居たはずである。
ダニエル「何だ……お前……何が起きてる……?」
アリシア「アウトだよ。君、何を選んでも死ぬ運命にあった」
ダニエル「運命……」
アリシア「そう。運命。君たちは、私のような『神』に監視され、誘導されているにゃ」
ダニエル「おい……急に現れて語ってんじゃないぞ……ここはどこだ?」
アリシア「病院だよ。死亡の予定を、私が運命を捻じ曲げて『負傷』にしておいたから」
ダニエル「……」
アリシア「話を聞く気になったみたいだね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
軍曹「……何も語れず、か……残念だよ」
ダニエル「待てッ! おい……!!」
ライフルが火と弾丸を吐き出した。
ダニエルの腹部、肝臓に近い部分を血で染める。
ダニエル「くッ……カハッ……お前ッ!! 話くらい……!!」
軍曹「こんなご時世だ……『李下にて冠を正さず』……お前、怪しすぎたんだ」
ダニエル「ぐっ。おおおおっ……待て、待て……」
ゴスッ。
ダニエルがその音を聞くことはない。
ライフルの柄はダニエルの顔面を捉え、何度か振り下ろされる。
屈強な男によるそれは、5回目で頭蓋を破壊するものだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
常軌を逸した痛みは、隣り合わせの死を実感させる。
神経が震え、逃避行動を推奨する。
ダニエルは吐いていた。
ダニエル「はぁ……はぁ……」
アリシア「痛みをなるべくリアルに再現してみましたにゃ……」
ダニエル「マジかよ……マジで俺は……」
死んだ。
なら、ここは死後の世界か。
#5-2#
アリシア「まず順序立てて説明しにゃにゃにゃにゃん」
ダニエル「なんだって?」
アリシア「……1回しか言わにゃいから、ちゃんと聞いててね」
①まず、君が見ていたのは、リアルなゲームの世界。
ダニエル「……えっ?」
アリシア「君があの廃屋で目を覚まし、殺されるまでの出来事は……全て、ゲームの世界の出来事だったんだよ」
ダニエル「……ゲームの……中にいた……?」
アリシア「そう。ゲームの名前は『理想郷(ザナドゥ)オンライン』……略してXO」
ダニエル「調味料みたいな名前だな」
アリシア「そのポイントもそうだよ。続けるね」
②現在は2014年8月21日だ。ゲームの世界とは切り離して考えてくれ。
アリシア「リアル世界には『XO醤』っていう調味料があってさ……それを君が知っているということは、君もリアル世界出身ってこと」
ダニエル「リアル世界……僕がさっきまで居たのは、ゲーム世界……」
アリシア「辛い現実? 頑張って下さいにゃ」
ダニエル「文明の崩壊は……?」
アリシア「ないよ。ゲームの世界と違って、ここは平和そのものだ」
ダニエル「文明はどれほど成長しているんだ?」
アリシア「ほら、これを見なさいにゃ」
アリシアが胸ポケットから取り出したのは、四角い機械の板だった。
アリシア「スマートフォン。この中に、電話とコンピューターとネット環境とゲームと……」
ダニエル「分かった分かった。にしても、すごいな。……いや、僕がリアル世界出身なら、なぜこの機械を知らないんだ……?」
アリシア「君は……ゲームの中で特殊なウイルスに罹って、記憶を失ったんだ」
③記憶破壊ウイルス
アリシア「……っていう名前のウイルスにね」
ダニエル「えらくシンプルだな」
アリシア「にゃん♪ 学問的で良いじゃん♪」
ダニエル「それもそうか」
アリシア「……君がこのウイルスに罹ったから、君を『ダイブ』から帰還させようとした……でも、記憶が80%失われた状態で、復元が無理だったにゃのよ……」
ダニエル「……そういえば。なんとなくで受け入れてしまっていたけど……」
どうやってゲームの世界に入り込んでいたんだ?
それに、『ダイブ』って何だ?
#5-3#
ダニエルがその疑問を口にした一瞬だけ、アリシアが驚きに硬直した。
アリシア「にゃっ。にゃははは……そこから話す必要があったかにゃ……」
ダニエル「ん。どうしたんだ?」
アリシア「……研究室に、ゲームの世界に入るための機械があるから。ついてきて」
……アリシアが席を立つ。
少女は軍曹は、あの世界は……。
……何が現実なのかも分からないまま、いくつもの世界を旅する彼は――。
ダニエル「待ってくれ……アリシア、お前は、本物なのか?」
アリシア「えっ」
ダニエル「……もう意味が分からない、頭が痛い……何が真実なんだ? 僕の現実はどこにある……?」
頭で処理できる限界を超えた、急展開。
白衣にぽつぽつと。
知らないうちに涙が零れ落ちていたらしい。
「大丈夫」
アリシアはダニエルを抱き締めると、耳元で、優しくそう言った。
緊張の糸がようやく切れたのだろうか。
ダニエルは、その場に崩れ落ちて、嗚咽を漏らすことしかできなかった。
彼が落ち着くまで背中をさすって慰めの言葉をかけ続けるアリシアの瞳は、どこか悲しげだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
ダニエル「あー……その……スマンかった」
アリシア「この体、貴方の所有物ですにゃ。貴方様に忠誠を誓いますにゃ」
ダニエル「またまた御冗談を。にしても、意外に優しいんだな」
アリシア「…………」
「『意外に』は余計にゃ」
「やにゃにゃにゃにゃ、まあ、とにかく、タクシーを待たせてるから早くするにゃよ」
放置しないでー
>>125
すみません。
急用が入りレスする余裕がありませんでした。
水曜日の晩あたりに投稿を再開できそうです。
果たして今日彼は来るのだろうか、
期待
>>128
すみません。
必死で書いてたら寝落ちを……。
いい加減な作者でごめんなさい。
昨晩の書き溜め分を今から投稿します。
#5-4#
車内から覗く景色は、文明が崩壊していなかった繁栄を誇示していた。
この大都市では、何もかもが平和に感じた。
ダニエル「『死亡の予定を負傷にしておいた』……」
アリシア「君、ゲームの機械に脳を繋いでいたんだ。鮮明な死のショックに耐えきれず、廃人になるところだった」
ダニエル「……ありがとう」
アリシア「にゃはははは! 礼も言わずコキ使ってくださいにゃ」
思い出す。
ダニエル「なぜあの時、軍曹と僕を攻撃した?」
アリシア「……にゃ?」
ダニエル「だからさ、僕が死ぬ前に、軍曹と僕に向って、君がムサいオッサンに変装して攻撃してきたろ」
アリシア「……みゃーの記憶にない、それに、ログにも残ってないと思う」
ダニエル「どういうことだよ」
アリシア「分からない。でも、君は幻覚を見せられていたんだ。心当たりならある」
「『魔女』アリス・ザナドゥ。君の妹にして、ハッキングの天才」
ダニエル「僕の妹が、最終的に僕が死ぬように仕向けた……? 妹の顔すら覚えていないが……」
アリシア「失礼だけど、君の妹は普通じゃない。君を独占するために国を潰せるタイプの人間だ」
ダニエル「君が『普通』を語るか」
アリシア「……にゃははっ。それもそうにゃね」
ダニエル「……すまん」
アリシア「本当のことにゃ。カミサマは普通じゃダメなのにゃ」
1時間後、車内に涼しい風が流れる。だいぶ田舎まで来た。
雑談が続く。アリシアとも打ち解けてきた気がする。
ダニエル「ところで、なぜ君は僕を、そんなに好いてくれるんだ?」
アリシア「……研究所に付いたらバレるし、隠しても無駄かにゃ。私は、貴方様の奴隷ですにゃ」
ダニエル「おいおい、冗談は……」
アリシア「マジですにゃ。どうせご主人様、記憶喪失でしょうから説明は省きますが……」
――私は、ある問題を2つ抱えていました。貴方は、うち1つをたった2ヶ月で解決したのです。
それだけでなく、もう1つの問題も、解決を約束してくださいました。
ご主人様は、命の恩人です。
身も心も……私は、ご主人様に忠誠を誓ったのです。
すなわち……この『奴隷の証』は、私にとって誇りです。
アリシア「普段は袖で隠してますけど……」
アリシアが袖をめくると、手首に「I'm Daniel's slave」と刺青が入っていた。
にゃははと笑うアリシアは、まるで初恋の熱に浮かされた乙女のような瞳だった。
女は、恍惚とした眼差しで刺青を撫でている。
あまりに官能的な光景なので、ダニエルは思わず、自分がアリシアを抱いている姿を想像してしまった。
頭の中で彼女が嬌声を上げ、淫靡なダンスを踊る。
彼女は可愛らしいが、まだティーンじゃないか。自己嫌悪感に頭を抱える。
ダニエル「……僕は、こんないたいけな乙女を洗脳してしまったらしい」
アリシア「洗脳じゃありませんにゃ! 私の、ご主人様への愛を疑うのですか!?」
ダニエル「……何も言えないな……僕がスクールガールほどの女の子に手を出すなんて……」
アリシア「手は出されていませんにゃ。それとも、これから……」
ダニエル「断る。僕の記憶喪失、治る見込みは?」
アリシア「……それが……」
ダニエル「なら誰か良い男見つけて普通の恋をするんだ。見た目からして僕は20代前半だから、君は若すぎる」
アリシア「……断りますにゃ。勝手に記憶喪失になって、勝手な倫理観でみゃーを捨てるんですかにゃ? 酷い男ですにゃ」
ダニエル「そうだな。勝手だ。……クソッ。なら勝手にするがいいさ」
アリシア「勝手にさせて頂きます」
「どちらにせよ今のご主人様は、私が居なければ困るのでは?」
「……」
「お役に立てて嬉しいですよ。私は最高の道具です。ご主人様……さあ、次の御命令を」
「僕が君に死ねと言ったら、死ぬのか」
「もちろん」
「……重症だな。死なないでくれ。それが次の命令だ」
「はい。命に代えても」
「なんかそれ、矛盾してないか?」
「にゃはは」
アリシアは、『神』を自称し、僕のような人間を監視しているらしい。
だが今見せるアリシアの表情は、媚びた『奴隷』のものだ。
……かつてゲームの世界で知り合った少女を思い出す。
小悪魔のような、女王のような、『聖堂』のリーダー。フィオナ・フラット。
僕があの世界で初めて手を取り合った、最初の仲間……。
あの少女と同じようにアリシアもまた、危うい二面性を持っている。
『神』か『奴隷』か。
全ては宙に浮いたまま、僕は翻弄されるしかなかった。
#
1棟のトレーラーハウスの隣に大きな廃工場がある以外は、周囲に大自然が広がるだけの場所だった。
……いや、その表現は誇張が過ぎる。
ここはハイウェイ沿いで、ぽつぽつとモーテルや住宅街、酒場などが見える。
先程の大都市と比べた落差で、何もないとすら思ってしまったのだ。
アリシアと雑談すること4時間。かなり遠くまでやってきたらしい。
アリシア「到着ですにゃ」
ダニエル「ここが例の『研究所』なのか?」
アリシア「そうですにゃ。さあ、ご主人様。私めがエスコートいたしますにゃ」
ダニエル「あ、あぁ」
タクシーの運転手はチップを受け取ると、気だるそうに元の大都市へ向かっていった。
アリシア「……あのタクシー、うちの組織の者だから。情報漏洩についてはあり得ないから安心して」
ダニエル「ああ」
#5-5#
通路を歩けば、顔を合わせる白衣たちは、皆決まったように驚いた。
ダニエルの帰還を歓迎しているのだ。
「お早うございます! ダニエル博士!!」
「普段と変わらない顔色で安心しました」
「貴方が居ないプロジェクトは停滞し通しでしたよ」
「御無事で何よりです!」
「ダニエル博士!」
廃工場の地下に、とんでもなくハイテクな研究所が広がっていた。
清潔で涼しい空間は、迷宮の様に入り組んでいくつもの部屋で構成されていた。
オフィスのようにPCと書類が並ぶ部屋もあれば、機械的な配線が満ちた部屋もある。
ダニエル「人気者じゃないか」
アリシア「記憶喪失の件は、皆、知っています」
ダニエル「……研究所の彼らに気を使わせているな……」
アリシア「君のもつ不安に比べれば、大したことじゃありませんにゃ」
ダニエル「ありがとう。……D1号研究室、これが僕の研究室?」
アリシア「そうですにゃ」
広い研究室。
巨大な自動ドアの向こうに、巨大な球体が見える。
研究室に入ってみれば、球体はより凄まじい威圧感をもって鎮座している。
球体には無数のケーブルが繋がれていて、それが20台ほどのPCと、壁とに繋がっている。
壁の線はサーバールームと電源室に通じている。
研究員1「おい、機体温度の上昇が止まらないぞ!」
研究員2「こういう時は……ええと……」
ダニエル「貸してみろ」
制御プログラムを開き、コマンド入力。
使用メモリ領域を半分以下まで制限する。
アリシア「よく覚えてたね」
ダニエル「体に染みついていたらしい」
研究員1「博士……お久しぶりです!」
ダニエル「待たせたね。それより君、注意深く作業したまえ」
研究員1「はいッ!」
研究員3「博士、お戻りで」
ダニエル「ああ」
アリシア「さっそく始めましょう」
研究員3「ええ。準備は整っていますよ」
ダニエル「……アリシア、何を始めるんだ?」
アリシア「今度は、2人でゲームの世界に潜るの。貴方の記憶を取り戻すために、本来の目的を果たすために」
ダニエル「ゲームの世界って言うが……こりゃ、ゲームって規模じゃないな」
アリシア「そうですにゃ。これは米国が水面下で進めている、仮想現実(VR)プロジェクト――」
「名前のない『X Ops』……私たちは理想郷オンラインと読んでいるけど」
――この球体状のスーパーコンピューターは、どういうわけか全宇宙の情報を、回線でもなく、無線でもなく自動で吸収して成長するんだ。
「最初はこぶし大程度の大きさだったけど、今や、ほら、25mプールに入らないほど大きい」
アリシア語る。
その不思議なスーパーコンピューターは、中国の農村、ニンニク畑で発見されたのだという。
それの特性を偶然知ったダニエルは、研究を進め、ついに米国から莫大な秘密予算を勝ち取るに至った。
予算の条件として、この球体のビジネス転用方法を確立すること。
ダニエルがまず最初に想定したのは、世界をシミュレーションすることだった。
気象観測や天体運行を占う。スパコンとしてはオーソドックスなことだった。
これに成功、ダニエルは歓喜した。次の計画は――。
スーパーコンピューターで現実世界と同じ世界を構築する計画。
様々な分野での利用が見込まれ、巨額を投資された。
その計画も成功。半年間、平常に運行されたが――。
「アリスが妨害。3分間だけ、我々は球体にアクセスできなくなっていた」
「そしてハッキングを受けた球体は、仮想地球の文明を崩壊させたついでに、人々に超能力を与えた」
ダニエル「復元方法は?」
アリシア「それを知ることが元々の目標。復元方法を知るために、貴方が直々に球体に潜り込んだのよ。『他の人には任せられない』ってね」
ダニエル「……もう一度トライだ。君と一緒なら、行ける気がする」
アリシア「そう言うと思ってましたにゃ」
研究員3「……博士、大丈夫ですか」
ダニエル「ああ。僕たちを球体と接続してくれ」
球体の近く、機械のベッドに寝転んで、ナノマシンの注射を受ける。
すぐにナノマシンと自分の体と、この機械のベッドがそれぞれシンクロし、あの世界に連れて行ってくれることだろう。
文明が崩壊し、超能力が支配する荒廃とした世界に……。
―――――――――――――――――――――――――――――――。
崩れかけの廃墟。
ボロボロのベッドの上で、彼は目を覚ました。
ダニエルは、一度この場所に来たことがある。
ダニエル「手元の手紙には、例の文言(>>8)が。僕がこの世界に来て、最初に読んだ文章だ」
手紙の傍に3つの薬瓶。
2つは『ザナドゥ薬』で――もう1つは『忘却の薬』だ。
ダニエル「さて……どうするかな……」
アリシアの声「にゃーッ!! 止めるにゃ、汚い手を離すにゃ!!」
外からだ!!
アリシアが危ない。彼は手近な角材を握りしめると、ビルの階段を駆け下りて外に出た。
黒スーツA「おいッ、向こうで少し事情を聴きたいだけだ、落ち着けっ」
アリシア「にゃっ、にゃっ……絶対路地裏に押し込まれてエロ同人みたいなことになるにゃぁっ!!」
黒スーツB「なんだこの怪力!? くそッ。ますます怪しいぞこの女!!」
アリシア「にゃっ!! ダニエル!! 見てないで助けるにゃ!」
黒スーツA「ダニエルだと……その顔はッ! ダニエル博士!!」
ダニエル「アリシア……余計なことを言いやがって……」
アリシア「にゃッ!? あ、あー……言っちゃったにゃ。まあ、こいつら倒せばいいにゃ」
黒スーツA「舐めるなッ!」
黒スーツが2人とも拳銃を抜き、威嚇する。
それと同時に、アリシアが鋭い回し蹴りを放ち、彼らを転倒させる。
アリシア「さあ! ザナドゥ薬を飲むにゃ!!」
手元の薬瓶が、まるで悪魔のように手招きをしている。
この状況を切り抜けるには、ザナドゥ能力を身に着けるよりほかにない。
アリシアの格闘能力も、拳銃には敵わないからだ。
敵が転倒している今しかない。
ラベルを開き、ダニエルは一息に薬を飲んだ。
【安価】
ダニエルのザナドゥ能力
アリシアのザナドゥ能力
安価「本日22時まで」
それでは、バイトに行ってきます。
今回の投稿はここまで。
ちなみに、22時までで出たアイデアから、ダニエルで1件、アリシアで1件となります。
今晩は投稿できなさそうなので、この一晩で追加の募集をかけます。
翌朝まで、>>135の条件で追加で安価をかけます。
投稿は翌朝にします。
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