精霊「喋る剣と槍と斧、どれが欲しい?」(106)


精霊「さぁさぁさぁ!」

精霊「どうする?」

番人「そんな物……貰っても困るんですが……」

精霊「そんな物って失礼だね。凄い物なんだよ?」

番人「そう言う物は英雄とか勇者とか……立派な方が持つべきだと思いますよ」

精霊「……君が持った方が僕は嬉しいんだけど」

番人「何故です?」

精霊「暇そうで喋り相手に丁度良さそうだから」

番人「……そっちの方が失礼ですよ」

精霊「もう!早く決めて!こっちに居られる時間だって少ないんだから!」

番人「じゃあ槍を頂きます……」

精霊「オッケー!」

ーーー

番人「はぁ……別にいらないんですけど……」

槍「………」

番人「……本当に喋るんでしょうか?」

槍「………」

番人「お�・い。……なんて」

槍「……なんだ?」

番人「………」キョロキョロ

槍「呼んでおいてそれは無いだろ」

番人「じゃあ……」

槍「そうだ」

番人「本当だったんですね!」

槍「精霊様が渡したんだぞ?嘘などあるか」

番人「精霊……様?」

槍「知らないで受け取ったのか……?」

番人「……若い商人さんかと思ってました」

槍「なんて事を……。まぁいないからいいか」

番人「今度会ったら謝っておきます……」

槍「そうしてくれ……いつ来るかわからんが」

番人「そんなお方が何故……俺なんかに渡してくれたんでしょう?」

槍「暇そうだからって聞いたぞ?」

番人「理由はそのままなんですね……」

番人「その……何て呼べばいいですか?槍さん?」

槍「そうだな……ナシミエントランサー (誕生の槍) とでも呼んで貰おうか」

番人「……長いです」

槍「……良いじゃないか」

番人「ですが……」

槍「じゃあ好きに呼べば!」

番人「うわ……めんどくさいなぁ」

槍「………」

番人「……ナシミエントランサーさん?」

槍「……なんだね?」

番人「………」

槍「お前の事は何て呼べばいい?」

番人「俺はただの番人ですから番人でいいですよ」

槍「……ん」

番人「どうしました?」

槍「つまらん……」

番人「つまらなくていいです……」

槍「そう言うな。私が立派な名を付けてやる」

番人「本当……結構なんで……」

槍「そうだな……エスペランサグアルディアなんてどうだ!」

番人「長いですって……」

槍「もうエスペランサグアルディアとしか呼ばないからな?」

番人「勘弁してください……」

槍「おいエスペランサグアルディア!」

番人「何ですか……?」

槍「いや、呼んだだけだ」

番人「………」

槍「どうしたエスペランサグアルディア?」

番人「やめて頂けませんか?」

槍「格好いいじゃないか!エスペランサグああう……グアルディア!」

番人「言いにくいなら……」

槍「そんな事は無い!エスペランサグアルデであ……グアルディア!」

番人「………」

槍「……やめた」

番人「そうですか……」

槍「……ところで番人、この場所はなんなのだ?」

番人「ここは悪�・い魔物が封印されている洞窟の入口ですよ」

槍「そうなのか……」

番人「何か気になる事でもあるんですか?」

槍「いや、不気味なとな」

番人「そうですか?」

槍「怖くないのか?」

番人「慣れましたからね」

槍「そうか……」

番人「……?」

槍「しかし……本当暇なんだな」

番人「見張りだけですからね」

槍「今まで良く我慢したものだ」

番人「今まで?」

槍「私が来ただろ?フフン」

番人「……そうですね」

槍「その気の無い返事はなんだ?」

番人「別に……」

少女「番人さぁん!」

タタタッ

番人「やあ、こんにちは少女」

少女「はあ……こんにちは!」

番人「ちゃんとお母さんにここへ来るって言ってきた?」

少女「うん!」

番人「そうか、少女偉いね」

少女「えへへっ」

槍「………」

少女「あれ?」

番人「どうかしたかな?」

少女「番人さんの槍変わってるね」

番人「あ…ああ!これね!前のやつが古くなったから代えてくれたんだよ」

少女「そうなんだ!」

番人「うん」

少女「でもその槍……」

番人「なんだい?」

少女「なんか弱そう」

槍「ッ!」

番人「そ、そんな事無いと思うよ……はは」

槍「な、なんなんだ!あの子供は!」

番人「……落ち着いてください」

槍「私を見るなり弱そうなどと……一体どう言う教育を受けているんだ!」

番人「まだ子供ですから……」

槍「番人はそんな事思って無いよな?」

番人「え?……もちろんですよ!」

槍「………」

番人「本当ですって……」

槍「……もういい」

番人「ちゃんと強そうに見えますから……」

槍「………」

番人「ほ、ほら!精霊様がくださった凄い槍じゃないですか!」

槍「………」

番人「英雄とか勇者とかが持っても見劣りしない立派な槍ですよ!」

槍「……そう?」

番人「そうそう!」

槍「やはりな……私の価値は子供にはわかるまい……ふふふ」

番人 (めんどくさいなぁ……)

槍「……今めんどくさいと思ったろ」

番人「そんな事は無いです……槍さん!」

槍「……何だ?」

番人「少女がいた時は喋りませんでしたが……どうしてです?」

槍「……いきなり私が喋りだしたら怖がるだろ」

番人「確かに……」

少女「こんにちは!」

番人「はい、こんにちは」

槍「………」

少女「ねぇ番人さん!」

番人「何だい?」

少女「槍の先っぽ下げてくれる?」

番人「いいけど?」

槍「……?」

少女「これ!こうやって赤い布を……出来た!」

番人「この布を槍さんの為に作ってくれたの?」

少女「うん!これで強そうだし格好良くなったよ!」

番人「そっかぁ、少女ありがとうね。きっと槍さんも喜んでるよ」

少女「えへへっ」

槍「ふふふ……ふふふ……」

番人「槍さん嬉しそうですね」

槍「そ、そんな事は無いぞ!」

番人「へぇ……」

槍「あれだ!あの子供は意外と私の価値をわかっていたみたいだからな!関心していただけだ!」

番人「素直じゃないなぁ……」

槍「………」

番人「でも、良かったですね」

槍「……そうだな」

番人「……今度、少女と話してみます?」

槍「大丈夫だろうか……?」

番人「あの子なら大丈夫ですよ」

槍「怖がられたり泣かれたりしない?本当に大丈夫?」

番人「心配し過ぎですよ……」

少女「こんにちは番人さん!」

番人「うん、こんにちは」

少女「槍さんこんにちは!」

槍「………」

番人「ねえ少女?もし……この槍さんとお話し出来たらどう思う?」

少女「お話?」

番人「そう、挨拶してくれたりね」

少女「ん�・」

槍「………」

少女「面白いし嬉しいかも!」

槍「ッ!!!」

番人「そっかぁ。実はねこの槍さん、お喋りするんだよ」

少女「……本当に?」

番人「うん、本当だよ。槍さん出番ですよ」

槍「………」

少女「………」

槍「どどどうも初めてまして!」

番人「緊張し過ぎですよ……」

槍「し、仕方無いじゃないか!持ち主以外と喋った事無いし!」

番人「え?そうなんですか?」

槍「そう言う物だと思っていたし……」

少女「……腹話術?」

番人「違うよ。じゃあ俺は少し離れてるからお話してごらん」

少女「わかった!」

槍「行かないでくれ……」

番人「情けない事言わないでください。頑張って!」

槍「………」

少女「槍さん?」

槍「あ……なんだ……この赤い布……ありがとうな……」

少女「うん!気に入ってくれた?」

槍「もちろん!……本当に似合ってるだろうか?」

少女「本当だよ!前よりず�・っと格好良くなったから!」

槍「そうか……礼を言うぞ少女!」

少女「お礼ならさっき言ったよ?」

槍「そうだったな、私とした事が……ふふふ」

少女「おかしな槍さんクスクス」

槍「そうだ少女、お前に名前を付けてやろう」

少女「お名前ならもうあるよ?」

槍「私の付ける名前は特別なんだ」

少女「へぇ!」

少女「じゃあねぇ!番人さん槍さん!」

番人「うん、気を付けてね」

槍「またな!」

番人「槍さん、随分お喋りしてたじゃないですか」

槍「そんな事は無い」

番人「楽しかったですか?」

槍「正直……楽しかった……」

番人「良かったですね。友達が出来て」

槍「友達?」

番人「そうですよ?」

槍「友達か……」

番人「……どうしました?」

槍「私は常に戦いの中にいたから……そう言う物がわからないんだ」

番人「そうですか……」

槍「それに私は槍だ。意思の疎通が出来ても……それだけだったからな」

番人「………」

槍「でも……これが友達と言う物なら私は少女と出逢えた事を感謝したい」

番人「本当……良かったですね」

槍「ああ。……少女にも名前を付けてやったしな」

番人「……え?」

槍「名前を付けてやった」

番人「何て付けたんですか……」

槍「ソリアメニーナ (微笑む少女)とな」

番人「微妙に長いですね……」

少女「槍さんこんにちは!」

槍「やあ!こんにちは!」

少女「あれ?番人さんは?」

槍「あそこにいるぞ」

少女「誰かといるね」

槍「何やら仕事の話みたいだ」

少女「そうなんだ!」

槍「少女……私の付けた名前は気に入ってもらえたかな?」

少女「気に入ったよ!」

槍「そうか!」

少女「えっと……ソ……ソリ……」

槍「覚えてないのか……?」

少女「大丈夫!覚えてる!ソリアメニーノ!」

槍「それだと男になってしまうぞ……」

伝令「この洞窟内にいる魔物を討伐するらしい」

番人「そうなんだ……」

伝令「少しでも人間の脅威を無くしたいって話だ」

番人「………」

伝令「良かったじゃないか。これで城に戻れるぞ?」

番人「そうなんだけどさ……」

伝令「不満でもあるのか?」

番人「ここ……気に入っちゃったんだよね。静かだし」

伝令「それにあの子供が遊びに来るしか?」

番人「そうだね」

伝令「まぁ、諦めるんだな。魔物が居なくなればこの場所にいる意味が無いんだから」

番人「うん……」

槍「話とはなんだったのだ?」

番人「槍さん、先に少女と話があるので……」

槍「ん?わかった」

番人「少女……あのね」

少女「なぁに?」

番人「しばらくここへは近寄っちゃいけない事になったんだ……」

少女、槍「え?」

番人「この洞窟に何がいるか知ってるよね?」

少女「うん……悪い魔物だって……」

番人「その魔物をやっつけるから……ここへ来てはいけないんだ」

少女「………」

番人「もし少女に何かあったら……みんな悲しむだろ?」

少女「うん……」

槍「………」

番人「槍さん……ごめんなさい……」

槍「謝る事は無い……」

番人「せっかく少女と友達になったのに……こんな事になってしまって……」

槍「気にしなくていい。もう会えないって訳じゃ無いだろ?」

番人「そうですけど……」

槍「少女が危険な目に合う方が私は嫌だからな」

番人「………」

槍「しかし……わざわざ封印されている魔物を討伐する理由はなんなのだ?」

番人「人の脅威を取り除くと聞きました。……そっとしておけばいいのに」

槍「………」

槍「……暇だ」

番人「これが普通ですから」

槍「何か無いのか?こう暇を潰せる物が」

番人「そんな都合のいい物ありませんよ」

槍「ん……」

番人「?」

槍「よし!お前、私を振ってみろ」

番人「………」

槍「何故そんな嫌そうな顔をする……」

番人「……武器とか扱うの苦手なんですよ」

槍「番人なのにか?」

番人「だから番人なんですよ……」

槍「どう言う意味だ?」

番人「ここなら……戦闘にもならないと思って志願したんですよ」

槍「………」

番人「それに、いざとなったら逃げちゃえばいいかなって……」

槍「番人なんだから逃げちゃ駄目だろ……」

番人「そうなんですけどね……」

槍「情けないな……」

番人「………」

槍「わかった!私が稽古をつけてやる!」

番人「ええぇ……いいですよ……」

槍「駄目だ!仮にも私の持ち主なんだぞ!そんな事でどうする!」

番人「ですが……」

槍「ですがじゃ無い!早く振れ!」

番人「わかりましたよ……」

番人「えいや!」

ブオンッゴチンッ!

番人「っっッ!」

槍「……それは無いだろ」

番人「いたぁ……だから言ったじゃないですか……」

槍「稽古とか……そう言う物でどうにか出来るレベルでは無いな……」

番人「………」

槍「はぁ、仕方が無い。私が少し力を貸してやる」

番人「……?」

槍「ほら、もう一度振ってみろ」

番人「わかりました……」

番人「えい!」

シュパンッ!

番人「え?え?」

槍「どうだ?ふふふ」

番人「一瞬、自分の体が勝手に動いた気がしましたが……」

槍「後で説明するから。次は突き!」

番人「は、はい!」

シュバッ!

番人「おおお!」

槍「気に入ったか?」

番人「はい!凄いですね!」

槍「これが私の力だ」

番人「凄いですけど、これは一体どう言う物何ですか?」

槍「簡単に言うとお前の体を乗っ取ってる」

番人「え?」

槍「憑き物とか神留とかそのような類いだ」

番人「……何か怖いです」

槍「……怖い?」

番人「ええ……」

槍「そうか……クククッ……だが気が付くのが遅かったようだな……」

番人「え?」

槍「お前の体は私が頂いたぁ!」

番人「……へぇ」

槍「乗れよ……」

番人「こんな事出来るんですね」

槍「持ち主の肉体を一瞬だけ……だけどな」

番人「そうなんですか」

槍「まぁ……肉体も精神も私に委ねるのであれば持ち主を支配出来ない事も無いが……」

番人「……しませんよ?」

槍「つまらん」

番人「つまらなくて結構です……」

槍「余程な事が無い限り精神まで干渉出来ないから安心しろ」

番人「………」

槍「そんな怖がる事無いだろ……」

番人「だって……」

槍「だってなんだ?」

番人「普通の……お喋り槍だと思ってましたから……」

槍「失礼な奴だな……」

伝令「明日らしい」

番人「そうなんだ……」

伝令「この為に勇者一行を呼び寄せたみたいだ」

番人「………」

伝令「後は失礼が無いようにだとさ」

番人「わかった……」

伝令「……お前なら変な事は考えないだろうけど、余計な事するなよ?」

番人「しないよ……しても勝てないのはわかってるだろ?」

伝令「……まぁな」

番人「………」

伝令「元気出せって」

番人「うん……」

伝令「ほら、お前の好きな魔術師様も来るって話だぞ?」

番人「……そう」

伝令「なんだその返事は」

番人「好きとかそう言うんじゃないから……」

伝令「ふぅん。てっきり惚れてるもんだと思ったけど」

番人「相手にされる訳が無いのにそんな事思わないよ」

伝令「お前……夢が無いな……」

番人「別にいいよ無くても」

槍 (ほう……これは番人に詳しく聞かないとな!)

槍「では話せ」

番人「何ですかいきなり……」

槍「お前が想っている魔術師とか言う奴の事をだ!」

番人「……嫌です」

槍「いいじゃないか」

番人「………」

槍「実はな……」

番人「何ですか……」

槍「私は持ち主の事を深く知っておかなければ本来の力を発揮出来ないんだ……」

番人「………」

槍「だから……その魔術師やらの事を……」

番人「………」

槍「………」

番人「……嘘ですよね?」

槍「クソッ!」

番人「そんなお話しするような事じゃ無いですよ……」

槍「わかった!じゃあこうしよう!」

番人「何ですか……?」

槍「私の女性関係の話をしてやる!な?だから話せ!」

番人 (女性関係って……)

槍「どうだ?」

番人「いいですけど……本当つまらないですよ?」

槍「かまわん」

番人「ただ憧れって言うか尊敬してるとかそんなんですよ」

槍「………」

番人「俺には雲の上の人過ぎて近寄れないですし」

槍「……それだけ?」

番人「はい」

槍「………」

槍「これでは私の言い損ではないか……」

番人「知りませんよ……槍さんが自分から言うって言ったんですから」

槍「そうだが……」

番人「それに失礼ですけど、槍さんの女性関係なんて想像出来ないんですが……」

槍「本当に失礼だな。これでもモテるんだぞ?」

番人「へぇそうなんですか……」

槍「そうだな……あれは何代か前の持ち主の時だったか」

番人「………」

槍「その時にな、背が高く細身で美しい方がいたんだ」

槍「もう一目惚れだったな。相手も私に一目惚れだったようだぞ、ふふふ」

番人「へぇ……それで?」

槍「まぁ、相思相愛の仲になるには時間はかからなかった」

槍「良くその方と語り合った物だ。それまでは愛だの恋だのバカにしていたのにな」

番人「………」

槍「もう一度逢いたいものだ……薙刀さん……」

番人「変わったお名前ですね」

槍「東方の生まれらしい。向こうでは普通なのだろ」

番人「なるほど……槍さんの話、意外と普通で驚きました」

槍「悪かったな普通で」

番人「いえ……あの、その方は今は?」

槍「わからん……あの時に別れたきりだからな」

番人「そうなんですか……」

槍「………」

番人「……きっともう一度逢えますよ」

槍「そうかな?」

番人「ええ!」

槍「それでな、こうくびれがいい感じの曲線でな」

番人「もうその話はいいですから……」

槍「駄目だ!ちゃんと聞け」

番人 (話が止まらなくなったな……)

槍「なんかそそられると言うかなぁ……」

番人 (そんなに逢いたいんだ……薙刀さんって人に……)

槍「戦っている姿も舞を踊っているみたいでな!」

番人「………」

槍「なんだ?」

番人「いや、本当に好きなんだなと」

槍「……そうだな」

番人「その人にも名前を付けてあげたんですか?」

槍「……人?」

番人「?」

槍「……武器だぞ?」

番人「………え?」

槍「………」

番人「………」

槍「……話を続けよう」

番人「結構です……」

槍「いい所だったんだぞ?」

番人「全然普通の話じゃ無かったのでもういいです……」

槍「それでな薙刀さん寝かせてくれないんだ!」

番人「何事も無かったように続けないでください……」

槍「もう!毎晩毎晩な!」

番人「槍の世界の性的事情なんて知りたく無いです……」

槍「なんだとこの野郎!」

ーーー

番人「そろそろ来ますから静かにお願いしますよ?」

槍「わかってる」

番人、槍「………」

番人「ご、御苦労様です!」

勇者「………」

戦士「……ふん」

僧侶「………」

賢者「あはは待ってください�・」

槍「なんか……軽薄そうなやつらだな……」ヒソヒソ

番人「シッ!聞こえますよ」ヒソヒソ

魔術師「……?」

番人「……!」

魔術師「ねぇ貴方」

番人「な、なんでこざいましょうか!」

魔術師「変わった物をお持ちのようね」

番人「え?……えっと」

魔術師「それ。その槍よ」

番人「大した物ではありませんよ!ただの小汚い槍ですから!」

槍「おま……」

魔術師「でもねぇ、何か不思議な力があるみたいよ?」

槍 (……?)

番人「本当大した物では!ははは!」

魔術師「ふふふ……あら?もう行かなくては」

番人「はい!」

魔術師「良かったら後で見せてね。じゃあね番人さん」

番人「わかりました!頑張ってください!」

番人「はぁぁぁ」

槍「………」

番人「槍さん!槍さん!」

槍「……なんだ?」

番人「初めて魔術師様とお喋りしましたよ!」

槍「……あっそ」

番人「いやぁ!参ったなぁ!」 

槍「………」

番人「もう、後でなんか言われちゃいましたよぉ!」

槍「………」

番人「槍さん�・さっきからどうしたんですかぁ!」

槍「……私に拳があればその伸びきった鼻の下を殴ってやるのに」

槍「………」

番人「機嫌直してくださいよ……」

槍「どうせ私は大した事が無い小汚い槍ですから」

番人「悪いと思ってますよ……」

槍「そうですか。小汚い槍ですから気にしないでいいですよ」

番人「………」

槍「はぁ……私はそんなに小汚いのか……」

番人「………」

槍「はぁ……私はそんなに大した事が無いのか……」

番人「ごめんなさい……」

槍「はぁぁぁ!……私はそんなに大した事が無く!小汚い槍なのか!」

番人「許してください……」

槍「………」

番人「………」

槍「さて……大馬鹿者は誰かな?」

番人「……お、俺です」

槍「そうか」

番人「………」

槍「なら……大戯け者は誰かな?」

番人「俺です……」

槍「なるほど。では……」

番人「もう本当勘弁してください……悪かったですから……」

槍「まぁ、この辺りにしておいてやるか。あの世で詫び続ける事にならなくて良かったな……番人よ」

番人「怖い事言わないでください……」

……「ギャアアァァァッ!!」

番人、槍「!?」

番人「い、今のは……」

槍「洞窟の中からだな」

番人「……人の悲鳴でしたよね?」

槍「そうだな……あの者達は何を……マズイぞッ!」

番人「え?」

槍「封印を解いたんだ!」

番人「それがマズイ事なんですか?」

槍「封印されて動けない魔物を倒すのに、わざわざ封印を解かないだろ!」

番人「じゃあ……」

槍「今の悲鳴を聞いた限り……あの者達では討伐出来なかったんだろうな……」

番人「ならお城へ報告しに行かなければ!」

槍「待て!」

番人「何ですか!早くしないと勇者様達が!」

槍「……それはもう遅い」

番人「え……」

槍「………」

番人「じ、じゃあ!」

槍「番人……聞け」

番人「なんでしょう……」

槍「……私はお前が魔物を止めに行くべきだと思う」

番人「何を言い出すんですか……そんなの無理ですよ……」

槍「時間が無いんだよ!」

番人「勇者様達でも倒せなかったのに出来る訳無いです!」

槍「………」

番人「ですからお城へ!」

槍「お前より魔物の方が城へ先に着いてしまったらどうするんだ!」

番人「………」

槍「だから止めに行くべきだ!私だって力を貸してやるから!」

番人「ですが……」

槍「お前……」

番人「………」

槍「番人……今、お前にはいくつか選択肢がある。わかるな?」

番人「はい……」

槍「好きな物を選べ。私はお前が選択した道に着いて行くだけだからな」

番人「………」

槍「これだけは言っておくが、間違った選択をしたならお前は色々無くす事になる」

番人「………」

槍「……あの少女の笑顔とかな」

番人「………」

槍「どうする?それでも城へ行くか?それとも逃げ出すか?」

番人「……こんな選択肢……ズルいですよ……」

槍「………」

番人「一択しか無いじゃないですか……」

槍「……なら」

番人「……行きましょう」

槍「そ、そうか!……番人ならそう言うと思っていた!」

番人「槍さん、力をお借りします」

槍「ああ!存分に使え!」

番人「………」

槍「………」

ーーー

タタタッ

槍「………」

番人「槍さん……」

槍「なんだ?」

番人「先程の……俺が来ないと思ったんじゃ無いんですか?」

槍「………」

番人「………」

槍「……そんな事は微塵たりとも思って無い」

番人 (絶対思ってたよこの槍……)

槍「今そんな事はどうでもいいじゃないか!」

番人「そうですね……」

槍「ほら急ぐぞ!」

番人「はい!」

槍「これは……凄惨だな……」

番人「うっ……ぅげぇ……」

槍「番人……吐き終わったらしっかり目に焼き付けておけ」

番人「……な、何故です?」

槍「お前が魔物を止められなかったら同じ姿になるからだ」

番人「そんな縁起でも無い事を……」

槍「勘違いするな。覚悟を決めろと言いたいんだよ」

番人「……わかりました」

槍「……遺体が三人分か」

番人「なら後二人生きているんじゃ!」

槍「どうかな……」

番人「………」

槍「この遺体……喰われてるだろ?」

番人「知りませんよ……食べられてる死体なんて見た事無いですもん……」

槍「そうか。なら覚えておくといい」

番人「あまり覚えたく無いですけど……」

槍「……あと二人分の遺体が無いって事は後で……」

番人「まだわからないんですから殺さないでください!」

槍「……そうだな」

番人「………」

槍「行くか……」

番人「はい……」

……「い、いやぁ!来ない……」

番人「近いですよ!」

槍「わかってる!」

タタタッ

番人「ッ!」

グチャ……ガリッ……

魔物「……グルァァ……」

槍「こいつは……」

番人「……あ……あぁ……」

槍「番人落ち着け!」

番人「………」

槍「まだ奴はこっちに気が付いて無い!」

番人「……は、はい」

槍「一気に弱点を付く!いいな?」

番人「弱点……?」

槍「やつはドラゴベヒーモスと言ってな、昔……取り合えず頭だ!」

番人「……わかりました」

槍「それ以外は狙うな。恐らく私の刃が通らない」

番人「………」

槍「……どうした?怖いか?」

番人「……魔術師様がいません」

槍「………」

番人「一体どこへ……」

槍「あまり考えない方がいい……」

番人「………」

槍「番人、構えろ。行くぞ?」

番人「はい……」

番人 (不思議だな……)

番人 (さっきまであんなに怖かったのに……)

番人 (こんなに落ち着いてるなんて……これも槍さんの力なのかな……)

槍「………」

番人「ふぅぅ………」

槍「奴が振り向いた瞬間を狙う。外すなよ」

番人「わかってます」

槍「……化け物ぉッ!こっちだぁぁッ!」

魔物「ゴァグウアァ」

番人「はぁぁあッ!」

ガァキッ!

槍「何!」

魔物「ガアアアァッ!」

番人「や、槍さん……今のは?」

槍「わからん!槍先が勝手にずれた!」

番人「ヤバいですか……?」

槍「……かなり!逃げろッ!」

ダダダッ

番人「はぁっはぁ……」

槍「追い付かれるぞ!」

魔物「ガルアアアアアッ!」

番人「な、何か作戦は!?」

槍「そんな物最初から無いだろ!」

ーーー

番人、槍「………」

……「……グルル……」


番人「何とか……隠れる事出来ましたけど……」

槍「奴が洞窟から出る前に何とかしたいな……」

番人「そうですね……槍さん、さっきの攻撃が外れたのは……?」

槍「わからん……軌道をずらされた……」

番人「あの魔物にそう言う能力があったのでは?」

槍「それは無い……と思う」

番人「………」

槍「長年封印されていて力が増したなんて事は無いと思うんだが……」

番人「そうですか……」

槍「……後なおかしい所がいくつかあるんだ」

番人「おかしい所ですか?」

槍「お前の足で奴から逃げられたろ?」

番人「それは俺の足が早かったから?」

槍「そうだな。それならそれでいいんだが……何故、お前でも逃げられたのに勇者達は逃げ出せなかった?」

番人「そう言えばそうですね……」

槍「いくら脚が遅いって言っても、五人いたんだからな誰か逃げ出せてもいい筈なんだが……」

番人「不意を突かれたんじゃ?」

槍「……それも考えたが無いと思う」

番人「どうしてです?」

槍「魔物と会う前、生きてる奴の声がしたろ?」

番人「そうですね……」

槍「もし不意を突かれたとしても、そいつは生きてた事になるだろ?」

番人「………」

槍「他の奴が喰われてる最中に逃げ出せは良かったんじゃないか」

番人「……勇者様達ですから、仲間を置いて行けなかったのでは?」

槍「ん�・、そうかな……」

番人「それより……どうするんですか……」

槍「……正直……万策尽きた」

番人「……早すぎでは?」

槍「………」

番人「………」

槍「お前も考えろ!」

番人「そんな事言われても!」

槍「あのな……」

番人「槍さんだけが頼りなんですから……」

槍「………」

槍「……仕方無い」

番人「何です?」

槍「お前の体を全て私に預けろ」

番人「それって……大丈夫何ですよね?」

槍「……わからん」

番人「………」

槍「なぁに、大丈夫じゃ無くても私がお前の体を貰ってやるから安心しろ!」

番人「全然駄目じゃないですか……」

槍「他に方法が無いんだから仕方無いだろ……」

番人「わかりましたよ……」

槍「大丈夫だって!お前の意識は残る筈だから……多分」

番人 (もう凄い嫌だなぁ……)

ーーー

槍番人「………」

槍番人「……凄いな。ここまで一体になれるなんて」

槍番人「おい番人」

槍番人「………」

槍番人「……声が届いて無いのか?」

槍番人「………」

槍番人「これは……早くしないと番人の意識が完全に私の物になるな」

槍番人「………」

槍番人「す、すまん番人!あぁ!」

槍番人「………」

槍番人「行くか……」

魔物「……グルル」

槍番人「………」

魔物「ガアアアァッ!」

槍番人「はぁぁあぁッ!」

ガキッ!ガキンッ!

槍番人「チッ……頭を突かないと無理か……」

魔物「グルガアアアァッ!」

ブオッ!

槍番人「おっと!……やはりこの程度の速さだよな……」

魔物「グルァァ……」

槍番人「そう睨むな。直ぐに終わらせてやるからな」

魔物「ガアアアァッ!」

ブオッ!ブオッ!

槍番人「そんなんでよく勇者を倒せたものだな……セイヤッ!」

ドスッ!

槍番人「中々……タフだな……」

魔物「……グルル」

槍番人 (壁にでも突進させて体力を奪うか……)

槍番人 (あまり叩いて私の刃がかけても嫌だしな……)

槍番人「ほら!こっちだ化け物!」

魔物「ガアアアァッ!」

槍番人「着いて来いよ!」

ダダダッドドトドッ!

槍番人 (いけそうだな……)

……「………!」

バシンッ!

槍番人「グアッ!な、何だ!脚が動かん!」

魔物「グカギァアルァァァ!」

ドドトドッ!

槍「マズイ!……ええい!一か八か!番人、死んだらすまん!」

ーーー

番人「………んぅ」

……「……番人�・」

番人「……んん……?」

番人「ひぃ!ななな何で目の前に魔物が……?」

魔物「………」

番人「……死んでるのか?」

コンコン

番人「……槍さん……やったんだ」

番人「槍さんは!」

……「番人�・ここだ。魔物に刺さってる」

番人「槍さん!大丈夫ですか!」

……「大丈夫じゃ無い!早く引き抜いてくれ!」

番人「わ、わかりました」

……「あんなところで動かなくなって!この馬鹿番人が!」

番人「………」

……「どうした?早くしろ!馬鹿番人」

番人「……そのまま刺さってたらどうですか」

……「……え?」

番人「魔物を倒したのは槍さんのおかげですけど……」

……「………」

番人「何故この状態になったかわからないのに馬鹿馬鹿言われても……」

……「……悪かった」

番人「何か機嫌損ねちゃったなぁ……」

……「悪かったから……抜いてくれ……」

番人「ちゃんと謝ってくれないと抜く気にならないなぁ……」

……「馬鹿と言ってすまなかった……」

番人「仕方無いですね……」

…… (番人の奴……後で覚えてろよ……)

番人「じゃあ抜きますよ!グググゥッ!」

……「……?」

番人「……ぐぎぎぎっ!」

……「……どうした?」

番人「………」

……「番人?」

番人「槍さん……残念なお知らせがあります……」

……「……なんだ?」

番人「抜けそうもありません……」

……「………」

番人「………」

……「阿呆!早く引き抜いてくれ!」

槍「………」

番人「抜けて良かったですね……」

槍「ああ……」

番人「魔物……倒せたんですね」

槍「賭けだったけどな」

番人「賭けとは?」

槍「突然お前の脚が動かなくなってな」

番人「………」

槍「私の柄底を壁につけて突進してくる魔物を迎え撃った」

番人「それって……」

槍「いやぁ本当危なかった。このカウンターが決まってなかったらお前死んでたぞ!ははは!」

番人「あの……」

槍「なんだ?」

番人「衝撃に耐えられなくて壁とか槍さんの柄とか壊れていたら……」

槍「お前は圧死してたな!運がいい!」

番人「槍さんが突き抜け過ぎていたら……」

槍「お前は圧死してたな!運がいい!」

番人「………」

槍「もちろん失敗していても圧死していたからな!もう運が良すぎて笑っちゃうな!」

番人「は……はは……」

槍「……まぁ……これで終わりだ」

番人「そうですね……」

槍「死んだ奴らは……後で弔ってもらうか」

番人「はい……」

番人「………」

槍「どうした?」

番人「いえ……」

槍「……魔術師と言う奴の

番人「すいません……それ以上言わないでください……」

槍「すまん……」

番人「………」

槍「………」

番人「帰りましょう……」

槍「そうだな……」

……「………」

槍「……なんだ?」

番人「え?」

槍「誰かいるな……」

番人「まさか魔物が……?」

槍「いや……そこの物陰だ……」

番人「………」

タタタッ

番人「……!」

魔術師「ああ……あ……」

番人「魔術師様!御無事でしたか!」

魔術師「番人さん?……番人さん!」

ダキッ

番人「……ええ?」

魔術師「怖かった……皆食べられてしまって……」

番人「も、もう大丈夫ですよ!魔術師様!」

槍「………」

番人「あの離れて貰っても……」

魔術師「ごめんなさい……まだ怖くて……もう少しこのままで……」

番人「わ、わかりました!」

槍「………」

魔術師「でも……凄いわね貴方……」

番人「え?」

魔術師「あの魔物を一人で倒してしまうなんて……」

番人「実は……内緒なんですけど一人じゃ無かったんですよ」

魔術師「そうなの……ではもう一人の方は……」

番人「この槍さんです」

槍「はぁ……本当の事を言わなくて良かったんじゃないか?」

魔術師「………」

番人「いいんですよ槍さん」

槍「そうか?」

番人「魔術師様、この槍さんがもう一人の魔物を倒した方です」

槍「……よろしく」

魔術師「あの……何を一人で仰っているの?」

番人「?」

槍「こいつ私の声が聞こえて無いのか!」

魔術師「………」

槍「………!」

番人「………」

魔術師「番人さん……もう余計な事しないでくださいね」

番人「え?」

槍「番人!そいつから離れろッ!」

魔術師「……さようなら」

ドスッ!

番人「……ッ!」

ドサッ

槍「番人ッ!」

魔術師「はぁ……本当、余計な事してくれたわ……計画狂っちゃった」

魔術師「また一から練り直さないと」

槍「貴様ぁぁあッ!」

魔術師「……じゃあね、馬鹿な番人さん」

槍「待てえぇぇッ!」

槍「ぐっ!……番人ッ!しっかりしろ!」

番人「………」

槍「番人ッ!番人ッ!」

番人「………」

番人「あ……あ……」

槍「番人ッ!体を貸せ!それなら!」

番人「……槍……さん?」

槍「なんだ!」

番人「……良かったら……俺の体を……貰って……」

槍「馬鹿ッ!貰えるか!」

番人「いいん……ですよ……」

槍「良く無い!喋るな!今入るからな!」

番人「………」

槍「ぐうぅっ……」

槍番人「……少し辛抱しろよ番人」

魔術師「……ん?」

槍番人「………」

魔術師「あら驚いた……貴方不死身なの?」

槍番人「………」

魔術師「ん?ちょっと違うわね。魂の色がさっきと違うわ」

槍番人「その通りだ……」

魔術師「そう……番人さんが言っていた事は本当だったのね。戯言だと思ってた、ふふふ」

槍番人「………」

魔術師「そうか……貴方があれ倒したのね!凄いじゃない!」

槍番人「………」

魔術師「良かったら私と組まない?そしたら……この国潰せると思うの!」

槍番人「そんな事で……」

魔術師「そんな事って……失礼しちゃうわ。私には大事な事なのに……」

槍番人「………」

魔術師「もう勇者もいないし、結構簡単にいくと思うんだけど」

槍番人「……今から三つ質問をする」

魔術師「……?」

槍番人「全て答えたなら生かしといてやる。……罪人としてな」

魔術師「なにそれ?……でも、いいわよ。答えた後に貴方は死んで貰うけど」

槍番人「………」

魔術師「……怖い?ふふ」

槍番人「ひとつ目だ。封印を解いたのはお前か?」

魔術師「そう。私にとったら簡単簡単」

槍番人「………」

魔術師「どうしたの?早く二つ目いかないの?」

槍番人「なら二つ目。どうしてこんな事をした?」

魔術師「まぁさっきも言ったけどこの国を潰す為よ。もっと詳しく話す?」

槍番人「そうだな」

魔術師「簡単な事よ。私の力を認めない奴らに生きている価値なんて無い、そう思ったから」

槍番人「………」

魔術師「ここの魔物を討伐するふりをして封印解こうと思ったんだけどね……」

槍番人「………」

魔術師「勇者呼ばれちゃって焦ったけど……」

槍番人「………」

魔術師「なんて事無かったわね。束縛呪文使ったらあっさり食べられちゃって」

槍番人「………」

魔術師「あの時の勇者達の顔……見せてあげたかったわ。傑作よ?ふふふ」

槍番人「屑が……」

魔術師「誉め言葉として受け取ってあげる。ありがとうね」

槍番人「………」

魔術師「なぁに?そんなに見つめられたら恥ずかしいのだけどウフフ」

槍番人「人間と言うのは……これ程までに歪む物なのだな……」

魔術師「失礼ねぇ。これが普通なの」

槍番人「………」

魔術師「人間じゃ無い貴方にはわからないかな?」

槍番人「………三つ目だ」

魔術師「うん」

槍番人「こいつ……番人はお前に気が有ったみたいだ。その事についてどう思う?」

魔術師「………」

槍番人「………」

魔術師「何その質問?……凄い期待外れなんだけど……」

槍番人「いいから答えろ」

魔術師「そうね……見た目はちょっと可愛いかな?」

槍番人「………」

魔術師「後は全然駄目ね。あの善意に満ちた目……本当最低」

槍番人「……その善意がお前に向けられた物であってもか?」

魔術師「そうね。虫酸が走っちゃうわ、馬鹿過ぎてねアハハハ」

槍番人「……そうか」

魔術師「もう質問は終わりよね?」

槍番人「ああ……」

魔術師「じゃあ死んでね」

槍番人「………」

魔術師「大丈夫、骨も残らないように焼き付くしてあげるから」

槍番人「………」

魔術師「……ヘレ・アインエッシェルングッ!」

ゴァ…ボウゥゥッ!

槍番人「………」

シュパッ!シュパッ!

魔術師「なッ!……切り裂いた!」

槍番人「……地獄の火葬とは……そんなものか」

魔術師「なら……」

槍番人「私はお前を生かそうと思った……」

魔術師「……?」

槍番人「でもな……そこまで私はお人好しでは無いらしい……」

魔術師「何を言って……」

槍番人「すまんな……」

ヒュッ!……ドスッ!

槍番人「………」

魔術師「………」

槍番人「………」

槍番人「……番人の……命の火が消えたな……」

番人「………」

槍「……うぅ」

槍「ウアアアアアッ!番人……すまなかったッ!」

槍「この女がおかしいと……気付いていたんだ………」

槍「もっと早くッ!……もっと早く……お前に忠告していたら……こんな事には……」

槍「私のせいだッ!……番人……本当にすまなかった……」

槍「お前を……救えた筈なのに……」

槍「………」

精霊「久し振りだね」

槍「………」

精霊「彼……死んじゃったんだ」

槍「……お願いがあります」

精霊「悪いけど……やらないよ?」

槍「………」

精霊「ならこうしようよ。彼の魂を君みたいにさ」

槍「……やめてあげてください」

精霊「そう?」

槍「………」

精霊「じゃあとうするのさ?このまま魂の浄化の時まで待つかい?」

槍「……番人が死んでしまったのは…私のせいなんです」

精霊「………」

槍「ですから……」

精霊「あのさ……それがどういう事なのか知らない君じゃないだろ?」

槍「十分……承知してるつもりです」

精霊「だけどなぁ……」

槍「お願いです……これしか……償う方法が無いんです……」 

精霊「………」

槍「………」

精霊「……はぁ頑固って嫌だね。わかったよ」

槍「……ありがとうございます」

精霊「君の覚悟……嫌いじゃないよ」

槍「………」 

精霊「また……逢おうね」

槍「はい……」

ーーー

精霊「と言うお話だったのさ」

酔っ払い「………」

精霊「これが喋る槍のお話だよ」

酔っ払い「……う」

精霊「……?」

酔っ払い「うをおおおおおっ!男じゃねえか槍よおお!」

精霊「き、汚いよ!もう鼻水とか色々飛ばさないで……」

酔っ払い「……うぅ。それで番人と槍はどうなったんだ?」

精霊「さぁ……どうなったんだろね」

酔っ払い「なんだよ……あんちゃん知らねえのか?」

精霊「ごめんね」

酔っ払い「一番肝心なところじゃねえか……使えねえな!」

精霊「………」

酔っ払い「なんだよ……ひっく……」

精霊 (酔っ払い何かに話すんじゃなかった……)

酔っ払い「なら次は……喋る斧の話頼むわ!」

精霊「……嫌だよ?」

酔っ払い「なんでぇぇ?」

精霊「また鼻水飛ばされたく無いからね……」

酔っ払い「………」

精霊「………」

酔っ払い「……後、三杯奢ろう」

精霊「ッ!……そ、その程度じゃ駄目だね……!」

酔っ払い「ふふふ……随分飲みたそうな顔じゃねえか」

精霊「そんな事はッ!」

酔っ払い「……水蠍の酒蒸しを付けよう」

精霊「どこから話せばいいかな!」

カランカラン……

酔っ払い「さぁさぁさぁ!」

精霊「……ごめんね。連れが来ちゃったみたい」

酔っ払い「そんなぁぁぁ」

精霊「また今度話してあげるから。その時は六杯奢ってよ」

酔っ払い「増やすなよ!……まぁいいや頼むぜ」

精霊「オッケー!じゃあまたね」

精霊「………」

精霊「随分変わったね」


精霊「ごめんごめん。いきなりこれは失礼だったね」


精霊「本当に行くの?……なんて愚問か」

番人「………」

番人「その為に出来る限りの事はしましたから……」

精霊「……また死んじゃうかもよ?」

番人「大丈夫ですよ。死んでも生きます」

精霊「ふふ……変なの」

番人「槍さんを救えるなら変でも構いません」

精霊「そう……なら君は槍のエスペランサグアルディア (希望の番人) にならなくてはね」

番人「その名前……」

精霊「ん?」

番人「前に、槍さんに付けて貰いました……」

精霊「……本家は僕だよ?」

番人「そうですか……」

精霊「でも……槍はどう言うつもりでこの名前を付けたんだろうね」

番人「………」

精霊「槍は君に何かを見てたのかな……なんて。それは無いか」

番人「………」

精霊「そうそう!君は今、勇者やってるんだってね!」

番人「やめてください……なりたく無かったんですから……」

精霊「いいじゃん!」

番人「よくないですよ……その為に頑張ってきた訳では無いんで……」

精霊「ふぅん……全ては槍の為か……」

番人「そうです。恩を返さなければいけませんから……それに……」

精霊「それに?」

番人「この方にも逢わせてあげたいですし……」

精霊「……武器?」

番人「薙刀さんですよ」

精霊「事情はよくわからないけど……それも大事な事なの?」

番人「俺に逢うより喜ばれるかもしれません……」

精霊「そう……」

番人「………」

精霊「少し……話し過ぎたね。行ってきなよ」

番人「はい……」

精霊「槍は……魔王城の地下にある魂の牢獄にいるからさ」

番人「………」

精霊「また逢おうね。槍と一緒に」

番人「はい……ありがとうございました!」

精霊「………」

番人「槍さん……必ず救いに行きますから!」





おわり

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