【ミリマスSS】静香「たった一つだけの」 (33)

アイドルマスターミリオンライブ!
最上静香(14)

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…おめでとう!…


ありがとうございます


…よく頑張った!…


教えてくれた人のおかげです


…君はすごい子だよ!…


……そうですか


…良かったね!…


……何が、ですか?







「ああ、静香か」


「良かったな、おめでとう」






そんな


たった一つだけで、私は



小鳥「静香ちゃん!」

静香「…あっ、はい、小鳥さん、どうかしましたか?」

小鳥「いえ、なんだかぼーっとしていたから…」

静香「そうでしたか?すみません…少し緊張、しちゃって」

小鳥「大丈夫よ、静香ちゃんは凄いことを成し遂げたの。堂々と自信持って、行ってらっしゃい!」

静香「はい、小鳥さんありがとうございます」




舞台袖で、くだらない記憶を思い出していた。

あの日と似たような、でも、本当はまるで似ていない舞台なのに。



「それではこれより、授賞式を始めます。入場、していただきましょう!」


舞台の中心で、マイクを持った司会者の男性が呼ぶ。



これからして違う。

あの日は司会者は女性だったし、会場だってもっともっと…



小鳥「静香ちゃん、行ってらっしゃい!胸を張って、ね!」

静香「はい、行ってきます」




大きかった。今日とは、比べ物にならないほどに。




わあっ

ぱちぱちパチパチ……



「765シアター新人アイドルの、最上静香さんです!」



歓声も、拍手を受けるのも、初めてではない。

それに驚き感動する気持ちは、いつから無くしてしまっただろう。



「最上静香さん、おめでとうございます。今回受賞した賞は、~年より毎年、素晴らしい功績を残した新人アイドルに贈られる…」



微笑み、祝辞を述べ、嬉しそうに。




ありがとうございます。




…………


劇場 事務室



小鳥「プロデューサーさんはそのうち帰ってくる予定だから、待っていてあげてくれる?私は少し、書類の整理で奥にいなくちゃいけないから」

静香「はい、分かりました」



私の人生で何度目かの授賞式は、何事もなく終わった。



小鳥「プロデューサーさん、今日の授賞式に出られなかったことを本当に悔しがってたから。静香ちゃんから報告してあげてね?」



今日の授賞式なんて、もっと上がある。まだ私は満足していない。


それに、私から伝えることに何の意味が



小鳥「そうすればプロデューサーさん、疲れなんか吹っ飛んじゃって喜ぶと思うわ、ふふっ。それじゃあ、よろしくね」



……疲れなんか吹っ飛んで、か…


…………



…今回の、ジュニアピアノコンクール、金賞は…最上、静香ちゃんです!…


わあっ…ほんとうですか!?ほんとうに、あたしが…?やった…やったよ!


…おめでとう。今回の受賞したこと、静香ちゃんはまず最初に誰に伝えたい?…


えっと…さいきん、いそがしいっておうちでつかれた顔してるから…お父さん!お父さんに伝えたい!


…そう!静香ちゃんが受賞したことで、お父さんも元気が出るといいね!…


はい!うふふ、早く帰って、お父さんのおどろく顔がみたいなぁ…






―子供ながらに、自信があった―


―お父さんは喜んでくれる。私は、疲れているお父さんを癒すことができると、信じていた―




おかえりなさいお父さん!聞いて聞いて、あたしね!コンクールで金賞もらったんだよ!


お父さん、さいきんお仕事たいへんだって言ってたから…あたしががんばって、お父さんを元気づけられるかなぁって!あたし、たくさんレッスンしたんだよ!


ねえお父さん、どう?お父さんは、よろこんで





「ああ、静香か」


「良かったな、おめでとう」





よろこんで、くれるよね…………?







―返ってきた言葉は、そのたった一言だけ―


―お父さんの疲れた表情には、一切の変化はなかった―



…………


いつまで、覚えているというんだろう。あんな昔の、たった一日、一瞬の景色を。


一言だけ返してお父さんは、すぐに部屋に入っていった。


お父さんはきっとあの時も仕事が押していて、たまたま私の相手をする時間が無かった。それだけだろう。


そもそも最初から根拠なんて無かった。私がコンクールで金賞を得ることと、お父さんの疲れの癒しになんて、なんの繋がりもない。


それでも、何か。自分に出来ることをして、それがお父さんの力になって。それで私を、褒めて、認めてくれるって



私は、お父さんの力になれるって、認めてもらいたかった。


……喜んで、貰いたかった。






ずっとずっと、忘れられない。


あれからずっと


ずっと、私は……




だから、私はアイドルになった。


どうしたらいいのか、ずっと考えていた。


私に思いつく限りの輝きを目指して、前へ進むと決めた。


気を抜くことも、手を抜くことも、許さずに


早く、その頂へたどり着く。




早くしなければ、すぐに


私の背後には、あの日の気持ちが迫ってくる。




逃げても逃げても、どうしようもなく忘れられない心細さを、消し去る為に。


必ず、この手を、この声を、届かせてみせる。




……そうしたら、きっと……




ガチャ



ふと、ドアが開いて




P「…ふぅ。ただいま戻りました」




プロデューサーが帰ってきた。




最近、仕事が立て込んでいるらしい。


数日ぶりに見た顔は、酷く疲れているような


…なんだか嫌な記憶を思い出す


楽しくない、表情をしていた。




静香「お疲れ様です、プロデューサー。私、授賞式を終えてきましたよ」



淡々と、伝えて


終わりにして、帰ってしまおう。


それだけで…









ドクン。








思い出してしまう。


プロデューサーは、気だるそうな動きで


俯きかけの頭を動かして、声をかけた私の方を見て





P「ああ、静香か」





似ている。


あの日のお父さんの、酷く疲れた顔だ。





ああ、また



こんなところでも、この記憶が





P「良かったな、おめでとう」







……笑っ、た………?





P「そうか…そうだよ、なんでこの瞬間まで暗いことばっか考えてたんだ俺…そうだよ、今日は静香が授賞式を受けてきたんだ…」



声に


目に


表情に


力が、巡ってくる。



P「そうだ…静香!おめでとう!本当に、ちゃんと授賞式受けてきたんだよな!トロフィーとか貰っただろ、見せてくれよ、本物!」



プロデューサーが、明るくなっていく。



P「ああちょっともう、そうだよ忘れてたことあんだろ俺。ちょいメールして呼んで……ほい送信!よし、いいぞ、そうだ、やったんだ!なあ、静香!」



なんだか、その様子が、どうしようもなく心の中で暖かくて



P「ああ、でも本当、成し遂げたんだな…やったな静香、本当…」



P「良かったな、おめでとう」




ああ、なんだか


気持ちが、揺れて




静香「…………」ポロポロ


P「うおっ、静、香…?どうした、いきなり涙を…」


静香「…えっ、私…ですか…?私、泣いてなんて、そんな……そんな……」


P「いや泣いてるって、涙出てるって。待ってろ、ティッシュ持ってくるから!」





ああ、もう、指摘なんてしないでほしかった。


自覚してしまったら、もう、私は


この涙の止め方を知らない。






静香「……っ…っぅ…う……」ボロボロ






まだだ、まだ、私が目指す頂はまだ先で。


一番に届かせたい人にまだ届いていない。それなのに、それなのに





どうして、こんなに嬉しいんだろう。こんな



あなたの、たった一つだけの言葉で



こんなにも心が、救われるだなんて。






静香「ありがとう…ありがとう、ございますっ…」




涙で、喉が震えて、頭は気持ちがいっぱいで、


自分の言葉が、ちゃんと言葉になっているのかよく分からない。


それでも、言葉は溢れてくる。


私は、こんなにも、ありがとうって


こんなにも、こんなにも、沢山、の…





P「あーと、こ、れは…」チョイチョイ


プロデューサーが、私の後ろへ向かって手招きのジェスチャーをする。




がちゃり、ドアが開いて


未来「静香ちゃーーーーーん!!」

星梨花「静香さんっ!おめでとうございますっ!」



未来と星梨花が、私に向かって飛び込んできた。



静香「…え、ええっ!?どうして、ふたりがここに…」

未来「プロデューサーがこの時間私たち空くようにしてくれたんだよ!もちろん私たちも、とにかく早く静香ちゃんにおめでとうって言いたくて!待ってた!」

星梨花「静香さん、本当に、受賞おめでとうございますっ!わたし、すっごくすーっごく、嬉しくって!ずっと未来さんと、静香さんはすごいねって話してて!それで、それでっ」

静香「ちょっと、そんなに早口で沢山話されても…しかもふたりとも、どうして既に泣いてるのよ!?」

未来「えっ、泣いてる?私泣いてる!?う、うわーーーーん!!だって、だってぇ、静香ちゃんが、凄い賞貰って、嬉しくって私…うわーーーーん!!」

星梨花「ぐすっ…ぐすっ…静香さん、本当に…おめでとうございます……ぐすっ…」

静香「星梨花、そんな、服の袖を握り締めないで…未来、分かったから、分かったからもう少し落ち着いて頂戴、未来…」




P「はっはっは。やっぱり呼んで正解だよなぁ。なあ、静香?」


静香「ああ、もう、プロデューサー!見てないで、少しふたりをなだめてください!」


未来「うわーーーーん!!おめでとー、おめでとー静香ちゃーーーん!!」

星梨花「静香さん、パーティ、開きます!わたしのお家に、プロデューサーさんも、小鳥さんも、劇場のみんなも呼んで!みんなで、お祝いしましょうっ!ねっ!」


静香「全くもう、分かったから、ふたりとも……本当に、私も…ぐすっ…」




ふたりに泣かれ、もみくちゃにされる。


少し離れて、プロデューサーが優しい顔で私たちを見ている。






暖かい


暖かい


焦りも


不安も



感じない時間だった。

春日未来(14)
箱崎星梨花(13)



…………



本当に良かったな、静香。


どこか冷めているところのある静香の事だ。

受賞しても、無邪気に喜べないでいる可能性は考えてた。


だから、未来と星梨花に声をかけておいた。

静香、俺にはクールを保ってても、ふたりにはめっぽう弱いからな。

未来と星梨花にはちゃんと、涙を見せてくれて良かった。

ふたりとも自分のこと以上に喜んで、静香より先に泣いててさ。

本当、いい友達、仲間に恵まれたよな、静香。

ふたりと、そして皆がいれば

焦らないで、一緒に歩む道を、楽しんで進んでくれるよな。


ふたりがくる前に泣いた、静香の気持ちは分からないけれど

あれは…俺の言葉のせいか?

はは、自惚れ、なんだろうな。

でも、それくらい、許されるよな?

だってさ


俺だって、皆と一緒に歩いた道だ。


これからもずっと一緒だから、また可愛い顔、見せてくれな。

まだ色々、問題はあるけれど、乗り越えていけるさ。静香と、皆なら。


これから、また、頑張ろうな。



…………

………

……







「プロデューサーさん!なにぼーっとしてるんですか、そろそろですよ!」

「ん、ああ、すまない。少し、昔を思い出してた」

「全く、そんな老人みたいなこと言って…ボケますよ?プロデューサー」

「はは、怒るな怒るな。ちゃんと静香のこと考えてたからさ」

「っな、何を言ってるんですか、恥ずかし気もなく、そんな!」

「いやなに、今度はちゃんと来られて良かったな、ってさ。前に静香が、賞を授賞したときの」

「本当に何年前のことですか…。それよりも今、ですよ」

「ああ。そうだ、静香の親父さんな。今日の授賞式、来てるらしいぞ」

「はい、電話で直接聞きました。良かったな、式には行く。って言って、たった一言だけです」

「うん、そうか。…色々、変わったな」



「無愛想は相変わらずです。長年の夢が叶う娘に向かって、一言だけなんて、昔っからそうで……。でも、確かに少しは変わりました」

「静香も、変わったもんな。前よりも、自然に泣けるようになった」

「…そうですよ、どうせまた泣きますよ、プロデューサーの前で…」

「恥ずかしがること、無いのにな。未来なんか、最近は誰かに会う度再会の涙を流してるぞ」

「未来は未来です。別に今だって、昔と変わらずしょっちゅう連絡もしてるのに、全く…」

「星梨花も、未来さんはちょっと泣きすぎですって言ってたな、そういや」

「ああ、とうとう星梨花にまで言われて…。プロデューサー、未来をどうにかしてください」

「ま、あれが未来らしさだよな。静香だって星梨花と一緒で、昔からそんな未来が楽しいんだろ?」

「…否定はしませんよ。いつまでも落ち着かないというのも、一種の才能だと思います」

「はっはっは。その点、星梨花は大人びたもんだ。昔の好奇心旺盛さも少し残った、いい大人に育ったよな」

「ええ、星梨花は本当に、綺麗になりましたよね…」

「静香だって……お、話してたら出番だな。静香、次だ」

「ああ、そうでしたか。……じゃあ、プロデューサー」



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」



「それではこれより、授賞式を始めます。入場、していただきましょう!」


舞台の中心で、マイクを持った司会者の男性が呼ぶ。




劇場のみんな。

プロデューサー。

お父さんも。



本当に、ありがとう。



私の周りの、全てのおかげで


この日、叶う。





私の



たった一つだけの


かけがえのない夢。






わあっ


ぱちぱちパチパチ…




「トップアイドルの、最上静香さんです!」


終わりです。
ありがとうございました。HTML化依頼してきます。

最上静香(CV.田所あずさ)
Precious Grain
http://www.youtube.com/watch?v=xsAfp5wIk5Q

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