女騎士「くっ殺せさあ殺せ早く殺せ私を殺せ殺せ殺せ殺せ!!」(21)

女騎士「どうした殺さないのか殺すよな殺すべきだ殺しなさい殺せ殺せコロセコロセコロセ」

オーク「」

女騎士「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺呪殺毒殺銃殺爆殺縊殺薬殺轢殺撃殺扼殺焚殺、殺し方は問わない」

女騎士「さあ、私に不可避で不可逆的で絶対的で絶望的な死を!!」

オーク「な、何なんだ」

オーク「何なんだよお前はッ!?」

女騎士「やっと出会えたのだ、私を打倒す者に」

女騎士「それを誇れ、そして勝者の責任を果たせ!」

女騎士「貴様には私に引導を渡す義務がある!!」

オーク「な、なぜお前はそこまで死にたがるんだ!?」

女騎士「それは私が死を愛しているから」

女騎士「死に恋い焦がれているからだよ」

女騎士「タナトフィリア……と言ったかな、私のような者のことを」

オーク「ワケが分からん……」

女騎士「死を愛で死に寄り添い、死を耽溺するのがこの私だ」

女騎士「理解など必要ない、ただ貴様は私を殺せばいい」

オーク「そんなに死にたきゃ勝手に自殺してろ!」

オーク「俺を巻き込むな……気色悪い」

女騎士「自殺など私の美学に反する」

女騎士「手を抜いて、有象無象の手にかかって死ぬことも御免だ」

女騎士「こうして戦場で剣を交え、私を打ちのめした貴様こそ私を殺すに相応しいのだ」

オーク「このキチガイがッ!!」

女騎士「どうした、戦場ではそこらあたりに死が転がっているではないか」

女騎士「私を骸の一つに加えることがそれほど恐ろしいか?」

オーク「そうだよ、気分が悪すぎて殺す気すら失せる」

オーク「逆に意地でも殺さずに、このまま捨て置きたくなってきたぞ」

女騎士「仕方がない、それでは再び貴様のような強者と合いまみえるまで生き続けるとするか」

オーク「まったく、どうすればお前のような歪んだ人間が産まれるんだ……」

女騎士「聞かせてやろうか?」

オーク「聞きたくもない」

女騎士「そういうな、では勝手に語らせて貰おう」

女騎士「私も当初は歪んだ性癖など持ち合わせていないごく一般的な騎士だった」

女騎士「最初に気づいたのは、初陣で敵兵のゴブリンを、初めて生物を斬り殺したときだ」

女騎士「命を賭した戦い故の高揚とはまた違う、後ろ暗い興奮が確かにあったのだ」

女騎士「自分は他者を切り刻むことに悦びを見出す快楽殺人者なのではないか」

女騎士「そう思い悩んだこともあったよ」

女騎士「しかし違った」

女騎士「まだ未熟だった頃に必死の一撃を貰いかけ、危うく仲間の騎士に助けられたときに理解したのだ」

女騎士「私の悦びは他者では無く私自身の死にあるのだと」

女騎士「他者を殺すときに感じていた愉悦は、そこに自身を重ね合わせていたからこそのものだと」

オーク「……本当、なんだな」

女騎士「ああ、私は生の実感ではなく、いつか死ねるという実感によって生きている」

女騎士「自分は必ず死ぬのだという事実がどこまでも心地よい」

オーク「おぞましいまでのマゾヒストだな」

女騎士「被虐趣味、ともまた違うのだがな」

女騎士「痛みも苦痛も私にとっては味付けに過ぎない、本当に欲しいのは死という結果だけなのだから」

女騎士「しかし人間の貧弱な想像力では『死』という概念そのものを直接想起することなど不可能だ」

女騎士「故に多種多様な殺害方法を想い自らをを慰めるのだよ」

オーク「戦場にはおかしくなった奴なんでゴロゴロいるが、お前は特別だよ」

女騎士「自覚はあるさ」

女騎士「だからといってこの衝動を抑えることなどできない」

オーク「悲しい女だ、哀れと言ってもいい」

女騎士「憐れむ必要などないさ」

女騎士「自分自分の異常性を理解した上で、それを矯正しようとは微塵も思わないのだ」

女騎士「今の自分が辛いとも、他者からの奇異の目が苦しいとも思わない」

オーク「自分勝手な奴だ、どこまでも独りで自己完結しているだけじゃないか」

女騎士「……孤独そのものは苦痛ではあるよ」

オーク「なんだ、では先ほどの言葉はただの強がりか?」

女騎士「しかし、私はもうそういう生き方しかできないのだ」

女騎士「いつか殺さることを夢見て、戦場を転々と渡り歩くことしかな」

女騎士「今度こそ死に場所を見つけたと思ったのだが」

オーク「お前はどうしてそうなってしまったんだ」

女騎士「この性癖についての起源など私も知らぬよ」

女騎士「そんなものは医者か哲学者か聖職者にでも任せておけばいい」

オーク「お前はそれで、今の自分に満足なのか?」

女騎士「満たされぬさ、だからこうして命を賭けにきている」

オーク「……」

雑兵オーク1「隊長、こんなところにいたんですか」

雑兵オーク2「へっへっへ、お楽しみ前だったみたいッスね」

オーク「お前ら、きていたのか」

雑兵オーク1「よかったら俺たちに先に味見させてくださいよwwwwww」

雑兵オーク2「隊長のデカブツ挿した後じゃユルユルで満足できないかもッスからねwwww」

女騎士「……汚らわしい」

雑兵オーク2「あん?」

女騎士「勝ち誇る権利があるのはこのオークだけだ」

女騎士「ただ強い物に媚びへつらう貴様らに捧げる貞操など持ち合わせていない」

雑兵オーク2「後は剥かれるだけの癖に何粋がってンだ?」

雑兵オーク1「隊長、さっさと輪姦わしちまいやしょうぜ」

女騎士「私を辱めておいてタダで済むと思うなよ?」

雑兵オーク1「その減らず口もすぐに悲鳴と喘ぎ声に変えてやるよ!」

雑兵オーク2「へへっ、兵士やってて唯一の役得だからな」

オーク「……こいつは俺の獲物だ」

雑兵オーク2「ひっ!!」

オーク「お前らは他を当たってくれ」

雑兵オーク1「わ、わかりましたー!」

雑兵オーク2「なんか隊長怖えぞ、俺隊長を怒らすこといったか?」

雑兵オーク1「知るか、でも逆鱗に触れたのは確かなんじゃねえの」

雑兵オーク1「これ以上怒らせる前にさっさとずらかるぞ」

雑兵オーク2「はぁ、あの女なかなかの上玉だったんだがな」

雑兵オーク1「拳骨ぐらいで済むと思うが、下半身より保身を取った方が身のためだぞ」

雑兵オーク2「へいへい、それじゃ他の所で輪姦わしてるの探しに行くか」

雑兵オーク1「そうだな、今の世の中女騎士なんて腐るほどいるしな」

雑兵オーク1「隊長の神経逆撫でしてまでアレに拘る必要は全くねえよな、うん」

女騎士「……なぜ助けた?」

オーク「別にお前を助けたワケではないがな」

オーク「お前に関わると碌な目に遭いそうではないからあいつらを遠ざけたまでだ」

女騎士「ふっ、まあそれは正解だったかも知れぬな」

オーク「こうして会話している間に体力も気力もだいぶ回復してきたようだし」

女騎士「買い被りだよ、まだまともに動ける状態ではない」

女騎士「まあ、あの程度の雑兵ならば相手取れぬこともないが……」

女騎士「このような会話の中でも一切隙を見せない、貴様のような者を相手にはできぬな」

オーク「舌先だけはいつでも滑らかに動く女だ」

オーク「……本当に死にたいと思っているのか?」

女騎士「まだ信じられぬのか?」

オーク「生きとし生けるものはいずれ死ぬ、ただ今が定命の内にあるだけだ」

オーク「なぜ自ら死に急ぐことがある?」

女騎士「戦場で合い見えた貴様がそれを語るか」

オーク「確かに戦場に自ら赴くなど命を捨てる行為だ」

オーク「だが大概の者はそれで自分が本当に死ぬなどとは思っていない」

オーク「命を賭さねば日々の糧を得られぬ荒くれどもも」

オーク「見知らぬ他人に自分の命を捧げようなどとは微塵も思っていないさ」

女騎士「何が言いたい?」

オーク「お前は死に魅入られ過ぎだ」

オーク「俺はそれが我慢ならない」

女騎士「やはり勘違いをしているようだな」

女騎士「いいか?」

女騎士「目の前に甘い果実がある、どこまでも甘露で蠱惑的な果実だ」

女騎士「それは色々な名前を持つ、権力であり金であり女であり名誉や勝利とも呼ばれる」

女騎士「私はたまたま、それが『死』という名を持ったに過ぎないのだよ」

女騎士「否応なく手をだし、噛り付きたくなる、そういうものだ」

オーク「そんなことはあり得ない」

オーク「死だけを望んでどうしてヒトが生きられようか」

女騎士「では私は既に死んでいるとでもいうのか?」

女騎士「魅力的な話だが……言葉遊びに過ぎん」

オーク「腹立たしいのだよ、その態度が」

オーク「死に傾倒した自分に酔っているお前を見ていると虫唾が走る」

女騎士「では殺すがいい、それがお互いのためだ」

オーク「それは断る」

オーク「代りに目を醒まさせてやろう」

オーク「生きるとはどういうことか教えてくれる」

女騎士「なんだ、結局私を犯すのか」

女騎士「貴様とて所詮はオークに過ぎないと言うことだな」

オーク「好きなように言え」

オーク「……引き締まったよい体をしている」

女騎士「こんな状況で言われても、案外と嬉しいものだな」

オーク「挿入するぞ、いいな?」

女騎士「断ったところで止めぬだろうが」

オーク「まあそうだなが……んっ」

女騎士「くあっ!」

オーク「辛いか?」

女騎士「強姦している癖に妙な気遣いを見せる」

オーク「このまま動かすぞ」

女騎士「好きにしろ……うっ……んんっ」

オーク「わかるか?」

オーク「この熱さが、この疼きが、俺の脈動が」

オーク「これが生きると言うことだ」

女騎士「ひあっ……ああっ……」

オーク「恥辱の苦しみも否応なく感じる快楽も、全てが生の実感だ」

オーク「死などという妄言で得られるものではないのだ」

女騎士「はあ……はあ……」

オーク「おっ」

女騎士「ふはっ……はは、あははっ!!」

オーク「自ら腰を振りだしたか……」

オーク「まあいい、好きにしろ」

オーク「死の影に喰らわれるより、色に堕ちる方が遥かに健全だ」

押し倒されたオークが女騎士に全てを委ねることを決めたとき、大きな隙が生まれた。

女騎士はそれを見逃さず、隠していた刃を引き抜く。

驚愕したオークの眼光を映しながら、刃は左肩に深く呑まれていった。

オーク「なっ!?」

女騎士「あはっ!!」

オーク「き、貴様……どこに短刀など隠していた!?」

女騎士「悪いが右肩もいただくぞ」

オーク「ぐあっ!!」

オーク(筋を的確に切断された……両腕が動かんッ!)

女騎士「残念だったな、この恥辱も破瓜の痛みも、結局私にとっては味付けにしか過ぎなかったよ」

女騎士「一体貴様が何を啓蒙したかったか私には分からなかったが……まあいい」

女騎士「私からも教えてやろう、甘く蕩けるような死の快楽をな」

オーク「ま、待て……」

制止の言葉さえ切り裂いて、オークの喉元へ刃が走る。

体の中に金属が埋まると同時に、射精が始まる。

頸動脈から吹き出す血を浴び、紅く染めた顔で嗤いながら、女騎士は腰を振り続ける。

気管から流れこむ血にむせながら、全てを絞り出すように射精は止まらない。

まるで死を目前に、種を残そうという本能がそうさせているように。

霞む視界の中、炯々と月明かりに輝く女騎士の双眸はどこまでも深い闇を湛えていた。

一体なにが悪かったのか。

自問自答しながら、女騎士の狂ったような嬌声に包まれて、

やはり死の快楽などは存在しないと、オークは最後にそれだけを想っていた。


(完)

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