雑兵の雑草記(567)

ジャラララララララwwww リ-チ!! ザンネン...

男(ッチ…)

男(二万の負けか…)

男(今月に入って当たりは四、五回…あと一回やろ…)ッス...

男「泣きの千円だな…」

思えば産まれてこのかた、頑張るだの努力だのは一切したことが無かった
と思う、小学校の最初は勉強も簡単すぎてやるだけ無駄と思ってやってこなかった
し、遊び仲間も沢山いた、楽しかった。
しかし、学年が上がるにつれて勉強は難しくなり、遊び仲間は皆んな勉強をし始めた、
いや、勉強は最初からしていたのだろう、何もして無かったのは俺だけだ。

中学は行かなくても学年は上がれたし、まだ少しの遊び仲間はいた、小学生の時に比べ
かなり減ったけど。
そんなこんなで日々を自堕落に過ごし、周りは高校入学、今は高3位だろうか。
こんな過ごし方をしているのに、親は何も言わなかった、父も母も、怒りもせず、笑いもせず
ただ父は黙って家に帰って来て、母の飯を食って、寝ていた。
今思えば、多分信じてくれてたのだろう。

男「...4ぱちじゃ千円なんて紙切れだな」

男「かねがね金がねぇっとくらぁ...」

男「帰ろ...」

ミ-ンミンミンミ- ミ-ンミンミンミ-

男「あっちぃ...」

季節は夏、受験生にとっては追い込みの夏だろうか、俺には関係ないが。

男「ジュース買う金もねぇ...アホみたいに喉乾いたなぁ...」

男(ちょっとこの喉の渇きはヤベェ...唾も出やしねぇ...)フラフラ

男「...ぅ」バタッ
キャ- 人が倒れたぞ!
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『脱水症状ですね、店を出てすぐ倒れたという事は自覚症状が著しく欠如していたでしょうね』
あ...?白衣...?
『はい...ご迷惑をおかけして...』
医者か?って事は病院...?
『いや...息子さんを亡くされたのですから、お母様のお気持ちは心中お察しします...
まだ若いのに』
亡くなった...?なんで?
『最期の最期まで何も考えなかったのね...』
死んだ...?のか?
『俺らの育て方が悪かったんだ、こいつは悪くない...』
何言ってんだよ、おい
『でも...』
『生まれ変わったら頑張るんだぞ』
あっさりしすぎじゃねぇか...?なぁ...
『ご臨終です』
うわぁ...

キュィィイン

「ん...んん?」
サァァァァァ...
「...森?」

(え?俺の仏さん山に捨てられた?墓にも入れられずにか?)

「うわぁ...ガチの森じゃねぇか...」

「アホみてぇに苔むしてんな、青木ヶ原に捨てられたのか?」

ガサッ...ガサガサッ!

「?!」

(自殺者か?いや、っても俺死んでるかもしれねぇから驚いても意味ねえか)

?「おや?」

(うっわ、ガチの人間だ)

?「...あぁ、また流れ着いたか」

「え?流れ着いた?てか...誰っすか?」

?「ワシのことはどうでもええ、ついて来なさい」

(んだよ、ドラクエの神父ミテェなコスプレして...青木ヶ原ヤベェ)

神父?「この森は...よくこの世の者ではないのが流れ着いてくる」

「この世の...者?」

(痴呆入ってんのかな、まぁコスプレして青木ヶ原いるくらいだからマトモじゃねぇか)

「そのこの世の者じゃねぇってのはどういうことだ?」

神父?「別の次元...そうさな、君の世界とは別の世界と言ったら分かりやすいかの?」

「そりゃあ...あんたの格好とか見てたらあんたの世界の人間とは違うと思うが」

神父?「何とでも言えばいい、そろそろ森を出る」

「あ...街...?」

鬱蒼とした森を抜けた先には、広い平原があった、地名とかよく分からないが北海道的な感じ
の平原が広がってた、ちょうど平原の真ん中に、とても栄えているであろう街が見えた、
だが何かが違う。

神父?「ここはビギニング平原、ビギニング王国の領土で、あの街はビギニング国王が直接統治しとる街、ビギニングじゃ」

「ビギニングビギニングうるせぇな、俺をそのニキビ王国につれて来てどうするんだ」

神父?「それは君次第じゃ、ワシは知らん」

「はぁ?」

神父?「街へ行き、手に職をつけるか、また森へ引き返し野垂れ死ぬか、選ぶのは君次第という
ことじゃ、まぁ最も、大体の人間は街へ行くがな」

「手に職って...」

神父?「ワシの知っとる者では...」ッス

「?あのシンデレラ城がどうかしたか?」

神父?「騎士団長や、勇者もおったな」

「勇者...ってことはよ?アレか?魔物的なのも?」

神父?「魔物?あぁ、うじゃうじゃおるよ」

「...」

父さん、母さん、親不孝な息子はただいま異世界へ流れ着きました。

「異世界流れ着いたらよ...アレしかねぇじゃねえか!!!」
エルフ!女騎士!ケモミミ娘!ハーレム!!
「そして...この世界にはない知識...」
新技術!発展!莫大な富!!!
「そして何よりも俺自身が...!!!」
チート!チート!!チート!!!
あぁ父さん母さん!生まれ変わったら頑張る必要なくなりました!!
プロローグ『なんてことは無く』

数ヶ月後...

「...」


町人「あの乞食ずっとあそこにいるな、よく生きながらえてるよ」

町人「まだ若いのになぁ、働く気力もねぇのかな」


(ひそひそウッセェな...噂料取るぞマヌケ...)
この異世界()にきて早数ヶ月、最初の5日くらいは何かすげぇ能力が俺にはあると思い、必死に探ってみた、棒切れを剣みたく振ってみたがいかんせんタダの悪ガキにしか見えなくて、炎を出せそうな魔法も何を言えばいいか全くわからず、有り体に言えば飽きた。

チートなんて能力は勿論備わっておらず、無学な俺に豊富な知識なんてトイレ砂の一粒ほどもなく、俺が思いつく程度のことはこの世界ではもう昔からあった。

(この世界ある程度発展してる感あるしなぁ)

一番の望みと言って良いハーレム展開なぞ、この世界の女はアニメやネット小説よりもちょろくは無く、寧ろ俺らも遥かにしっかりしているわけで。

(そりゃこんな乞食に何が群がるってんだよ、ハエくらいしかこねぇよ)

この世界でも俺は頑張る気力も出ず、どこの誰からしらねぇが、俺に与えられた二度目の人生は前世と同じく自堕落に過ごすしかやらなかった、簡単に言えば詰んだ。

(さぁてゴミでも漁ってくるか...)

初夏、街の路地裏はまだ涼しい。

「...」

孤児「...」ガサゴソ

「...おい」

孤児「ッヒ...」

「そこは俺の狩場だぞ、なに勝手に漁ってんだクソジャリ」

孤児「す、すいません...2日も食べてなくて...」

「親はどうした、きったねぇ身なりでもその歳じゃ親はいんだろ」

孤児「あ、その...戦争で...死にました...」

「...両方もか?」

孤児「は、はい、父は兵隊に行って...母と僕は...住んでた村を襲われて...」

「あっそうなの、運が悪かったな」ガサゴソ...

孤児「...大人は助けてくれないんですね」

「当たり前だろ、むしろなんで助ける義理があると思ったんだ?俺は明日食う飯もママならねぇんだぞ?知らない孤児をなんで気にかけられる?」

孤児「...」

「恨むなら死んだ親を恨め、それが嫌なら誰も恨まずなにも考えず生きろ、身勝手に人恨んで迷惑かけんじゃねぇぞマジで」


?「...腐っているな、貴様は」

「あぁ?んだと?」

女騎士「腐っている、と言ったんだ、聴覚まで腐っているのかこのウジ虫が」

「んなっ、てめぇいきなりしゃしゃり出て...」

女騎士「罪もない小さな子供に、自堕落な自分を差し置いてよくもまぁ高説を垂れれた物だな?」ヒョイ

孤児「あ...」

女騎士「安心しろ、私と一緒に城へ行こう」

孤児「でも...」

女騎士「大丈夫だ、辛かっただろうな、親も殺されて、優しさも受けられず...」

「...ッチ」ガサゴソ...

女騎士「...何も言い返さないのか?」

「どうでもいい、明日にゃ忘れてるから」

女騎士「貴様...」

「てかさぁ、お前よくわからねぇけど、軍人かなんかだろ?その格好、お前らが戦争しといてよく、親も殺されてなんて言えるな」ガサゴソ...

女騎士「どういう意味だ...」

「そのまんまだろ、そのクソジャリの両親を殺した張本人らが、なんでそのジャリに同情出来るんだ?そいつの父を徴兵したのはお前らで、こいつの村を襲わせるほどお前らクソ弱かった訳じゃん?」

女騎士「なっ...」

「いや、まぁこの国がどことどんな戦争したとか興味ねぇけどよ、流石の俺もそんないけしゃあしゃあとは喋れねぇや、この同情買いの虫けらが」

女騎士「きっ、貴様は!」

「そんな無責任な行動しといて、よく俺に高説を垂れれたな?正義のねぇ軍隊なんか
ただの人殺しだろマジで、しかも同情勝手に買い漁って乞食かよおめぇ」

孤児「?」

女騎士「...確かに...私はこの子に同情した、戦争を行うための行動も私たちは取ったし、徴兵もした...」

「ふーんそうなの」ガサゴソ

女騎士「ただ償いなんてことはしない、これは私の自己満足からくる行動だ、私たちが一端を作ったのなら私たちで収集をつけねばいけないんだ」

「...」

女騎士「こんな子はこのビギニングのスラム街にはたくさんいるだろう、この子はほんの氷山の一角に過ぎないのも分かっている、しかし原因を作った私が見たのなら...助けたいと思ったんだ...そこは分かってくれ」

「ん?勝手にすりゃいいじゃん、俺はお前が何しようと興味ねぇし、助けてぇなら助ければいいじゃん」

女騎士「お前...不思議なやつだな」

「もういい?腹減ってんだけど」

女騎士「...お前、軍隊に入らないか?」

「話聞いてねぇのかよ、俺はハラヘッタって言ってんの」

女騎士「軍隊にはいれば衣食住はタダだぞ?飯だってたらふく食える」

「はいはい考えときます」ガサゴソ

女騎士「...考えておけ、今の生活を続けるか...行こうか?」

孤児「うん」


「...この生活、かぁ」
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この話を聞いてから、なぜか俺はこの生活を変えたいという欲が湧いてきた、生きてる時は軍隊なんて俺には程遠い話だったし、寧ろネット小説で得たクソみたいな知識しか無かった。
この世界の軍隊って言うのは何度かみかけたことがある、みんな甲冑的なのを身に付けていて、腰には剣、ホント昔の外国の軍隊みたいだった、みんな凛々しくて下の人間でさえ、えも言えぬ輝きがあった。
そんな一員に俺はなれるのか?
あのクソジャリなんかをも守れる人間になれるのか?
気付けば俺は街で配られてた志願用紙に記入をしていた。
第1章『人生初の試み』完
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第2章『だってやってらんないじゃん』
ビギニング王国 広場

「今日、我がビギニング王国には、勇気ある諸君らは晴れて我がビギニング王国軍の
一員となる!志願をしてくれた忠勇なる君達に、国王は感謝の念を込め、諸君らの武運長久を
願っている!!そもそも...


(うっわ、なげぇよカス...)

この場に何故俺は立てたのか自分でも理解できない、名前の記入欄に名前を書いたら
やっぱりこの国は漢字なんてものはなく、そしてこの国の国語なんてこれっぽっちも知らない
俺はまたも早々に諦めるモードに入っていたが、何故か漢字でも志願用紙は通り、その日のうちに
兵舎に入営、まぁ当たり前たがすぐ風呂に入れられ、数ヶ月分の垢とヒゲが綺麗さっぱり流れ落ちた。

(右端に溜まってる奴ら、なんかタダならねぇオーラがあるなぁ、ぜってぇチート的なのあるだろ)

予感は後で的中した、右端の連中はやはり優れた奴らばかりで魔法も使えたり、剣術も槍術もなんでも
ござれの連中が固まっていた、あいつらは大体騎士団とか呪術を得意とする部隊に編入されるらしい。

(対しておれらは...)

芋芋芋、じゃがいもかおめえらってくらい煮っころがしたくなるような連中ばかりだった
チラホラなんか優秀賞取れそうな奴らがいるが、右端の連中には勝てなさそうだ。

(まぁ周りから見りゃ俺も芋か、あんま悪く言うのやめよ)

「では最後に、ビギニング王国騎士団長直々に訓示を賜ります!」

(え?じゃあお前誰なんだよ、なんで長々と喋ってたの?)

?「はい」


「あ」


女騎士「諸君、大体の者はお初にお目にかかる、ビギニング王国騎士団長の女騎士だ、
諸君らはこれから兵隊になる為の基本的な教育を一月半受け、部隊に配属されて行く。」

(あの女...思った以上に偉い奴だったんだな)

女騎士「私はこの先、諸君らに大切にしてほしいことが1つある、それは同じ教育小隊の
同期を大切にして欲しいと言うことだ、苦楽、寝食をこれから共にする仲だ、同期と共に切磋琢磨し
自分の能力を高めて、どの部隊もこいつは欲しいと言ってくれるような人材を沢山作ってくれ、以上だ」

パチパチパチパチ...

(うわぁガチのやつじゃん、怖)


女騎士「最後に、私は考えさせられる事が最近あった、この場を借りて話したいと思う、
みんなも知ってると思うが、この国にはスラム街が存在する、貧民や戦災孤児が流れ着く
そんな街で、一人逞しい男がいた、長い月日風呂に入っていなかったのだろう身なり、戦災孤児
に対する横暴な態度、私は人生で一番最悪な出会いをした。」

(ヤベェ)

女騎士「最悪な男であったが、私にとても考えさせられる疑問を投げかけてきた、
虐げられていた戦災孤児を保護し、その男は私の放った言葉に反応した、「お前らが戦争しといてよく、
親も殺されてなんて言えるな」...と、一瞬私は自分の言葉に疑問は持たなかったが、後々からその言葉の意味が
分かり、とても恥ずかしい、私は矮小な人間だと自覚した、その戦災孤児は父は兵隊で、先の戦争で戦死
母は村を襲われ、殺害された、その原因を作った張本人でもある私に何故そんな言葉が出てくる、当然の疑問を投げかけられた」

女騎士「それから私は思った、自分の戦争に対する考えの甘さを...人が死んだ後というものに対する認識の甘さを...

(俺全く考えなく言ってたが、そんな事言ってたんだな、恥ずっ!)

女騎士「君達は平和の為に戦って欲しい、私も君達と共に歩もう、この国の為に、自分自身の為に、
この国を国民と共に作っていこう、以上で終わる」

ワ-!!!!!

(うっわ迫力ある歓声、大地が震えてらぁ)

俺はあの騎士団長とやらに会わないか震えていた、会おうものなら多分すぐにバレ取り巻きに
フルボッコにされる事だろう。

(頭低くして生きよ)

「では!これより各人の教育部隊を通知する!!保有認番順に前へ!!」

_
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__
_
雑兵「独立大隊...新兵教育隊...?」

独立大隊、何がなんだかさっぱりだが...

「うわぁ...もう昇任は無しだぁ...」

「父さんになんて説明すれば...」


「可哀想にねえ、新兵の時分から吹き溜まり部隊...独立雑兵大隊って...」

「何人残るのかね、今年は...」

「例年どうりゼロだろ」

吹き溜まり大隊...確かに落ち込んでる連中は見た目からして役に立ちそうにない
ってこたぁ、俺も役立たずってことだ

雑兵「まぁ...楽はできるかな」

「よいしょっよ...ふぅ...あ、すいません...!」

雑兵「ん?俺か?」

「はい...!独立大隊って...」

雑兵「あぁ、ここであってるらしいよ」

この身のこなし...線の細さ...まさか...

雑兵「お前...お

「あ、こんな見た目だけど...男なんだ、僕」

雑兵「でしょうね」

「え...?すごい、初めてだよ...僕の事を最初から男ってわかるなんて」

アブねえ、女って聞くとこだった...

「あ、ごめん、何か聞きたいことが...?」

雑兵「ん?(裏声)なにも?」

兵長「はいはいはい、落ち込んでる暇があんなら家にでも帰りな赤ちゃん!受付はあっちだぜ、マジで」

「くっそ!」ダダダッ!

「雑兵なんかやってられるか!」


兵長「え?マジで?入隊の時点でゼロ?」

上等兵「へーちょー何やッてんです?大尉にどやされます...おっとぉ?」


「この本分厚いね、新兵に配られる本なんだって」

雑兵「おれ字読めないんだよね」

「え?そうなの?」

兵長「君達二人は...」

雑兵「あ、その...」

「新兵です」

兵長「新兵...」

上等兵「残られたら残られたで...どう教育すんでしょうね、隊長」

兵長「うわぁ...」

_
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__
_

上等兵「ココが居室だ、教育期間、たしか一ヶ月と半分だったか?ココで寝泊りしてくれ」

雑兵「結局、俺ともう一人だけなんですか?」

上等兵「あーまぁ...そういう事だ」

「ありがとうございます、事後の指示は...」

上等兵「追って伝えるから、今は身の回りの整頓でもしていてくれ、では」


雑兵「吹き溜まり...ねぇ」

「本格的な訓練は明日からかな...緊張するね...」

雑兵「そうか?なんか楽できそうでいい部隊だと思うが」

「もう、教育期間中は楽なんか出来ないんだよ?軍隊ってそういうもんなの」

雑兵「まぁ気張らずいこうや、なんて呼ぼうかなしかし、入隊前は何してたんだ?」

「お父さんの診療所の手伝い、こう見えても看護士見習いだったんだ」

雑兵「看護士...じゃあなんだ?アレ、軍隊の医者集めた感じの部隊...」

「衛生部隊?」

雑兵「そう、それそれ」

「あー...一応希望は出したけど...適正がなかったのかなぁ」

雑兵「...まぁ、軍隊に入ったんだ、幾らでもチャンスはあると思うぜ」

俺みたく、何の計画もなく入隊した奴もいれば、夢があって入隊した奴もいるみたいだ。
そんな俺がこいつに高説なんか垂れるなんて出来るはずが無い、そう思ってこれ以上
の慰めはやめにした、その後上等兵殿は現れず、明日のことも分からないまま床についた。

チュン... チュンチュン...

点呼~!!
並べ!遅い!!!


雑兵「あららら...」

上等兵「並みの教育隊じゃ点呼やるが...ウチはもう暫くやってねぇから習慣付いてねぇんだよなぁ...」

「アレはどこの...」

上等兵「初っ端から飛ばしまくりのあの部隊は...多分近衛混成連隊の教育隊だろ、なにぶん国王に一番近い部隊だからな、厳しかろうぜ」

雑兵「上等兵さん、自分たちは何をする部隊なんですか?独立大隊じゃよく分からないっすよ」

上等兵「あー...まぁまわりから言われての通り、雑務?」

兵長「ほんと雑務、戦場でも...ココでも、俺らが教えられることなんて...軍隊の基本中の基本以外にねぇ」

上等兵「仕事が多過ぎると言えば聞こえはいいですよ」

雑兵「仕事多いんですか?」

兵長「つっても雑務だからな、たかが知れてる、荷物運びやお掃除...教育期間終わって、お前らここに来るが...なーんにもやることねぇから、マジで」

「...」

兵長「お、楽しくなさそうだな天使ちゃん」

「て、天使ちゃん??」

兵長「ウチの隊長が君を見て一言、天使ちゃんだなってさ、他に呼びかたねぇし」

天使「...そ、そうですか」

雑兵「うわぁ駆け足まだ始めてらぁ」

天使「何か...もっとこうないんですか?」

上等兵「え?ニックネーム?」

天使「いや...なんか訓練とか...」

兵長「あー...なに教える?」

上等兵「あんた兵長でしょ...そうだな...基本教練...剣術...くらいだなぁ」

兵長「えー?どうせ配属されてもやらなくね?」

上等兵「この部隊はどうでもいいんですがね、恥をかくのはこの子らですよ、
それは流石にかわいそうですよ」

兵長「まぁそうねぇ」

上等兵「じゃぁ、今日は剣術の教育といきますが~、自分は何分剣術は得意という訳では
ないから、基本的なことしか教えられません、勘弁してくれや」

雑兵「本物の剣持てるんすか?」

上等兵「当たり前よ」」

天使「...」
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『錬兵場』

いちっ!! にっ!! いちっ!!


上等兵「おーおーやってる、おっちゃん、武器庫開けて」

管理人「独立大隊の坊主じゃねえか、珍しいなこんな所にいるなんてよ...ん?
新兵さんか?」

雑兵「ど、どうも」

天使「よ、よろしくおねがいします!」

管理人「いやぁ、気張らなくてもいいんだよ、俺ぁ非常勤だしな」

上等兵「このひとはウチの元大隊長で、一昨年退官したんだ、再就職で武器庫の管理人
やってる」

管理人「まぁそういうことだ、気落ちせず気楽にやろうや、な?」

天使「え...?僕ですか?」

管理人「おめえ、町はずれにある診療所の倅だろ?父さんとは旧知の仲でな、そうかぁ独立大隊にかぁ、いいところ
だぞ、まぁやる気ある奴にゃちょいと楽すぎるが」

天使「はは...頑張ります」

雑兵「...」

上等兵「では、まずは基本の剣を使ってた斬りつけ方を説明しまーす」
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雑兵「っはぁ...っはぁ...」

上等兵「おいおい大丈夫か?まだ十分も経って無いぞ」

兵長「まぁ最初だからねぇ、慣れない事だから、気長にやろうや」

天使「っふ...っふ...」

兵長「お、いいねぇ...この身のこなし...ちょっと...エロい...」

上等兵「あんたねぇ」


天使「大丈夫?」

雑兵「はぁ...腕あがンねえ...お前よくできるなぁ...いい軍人いなるよ」

天使「まあ...ちょっと鍛えてたからね、筋トレしないと駄目だよ?」

雑兵「はい...」

天使「ふぅ...」

雑兵「...おまえさ、最近あからさまに元気に無いけど、どうかしたのか?」

天使「え...そんな事...」

雑兵「...まぁ喋りたくねえなら良いけど」

天使「...実はさ...憧れてたモノが...」

雑兵「全部吹っ飛んだ?」

天使「...うん」

雑兵「そっかぁ、大変だなぁ」

天使「...?」

雑兵「はぁー疲れた...」

天使「え?」

雑兵「ん?」

天使「...何か...他に無いの?」

雑兵「え?ねえよ?」

天使「...は?」

雑兵「だって他人の理想なんて知らないし、理想が違ったとて
それでもやり遂げるかどうかは結局自分の気持ち次第だろ?俺がどうこう言えるの?」

天使「...いや...それでもなんかあるじゃん」

雑兵「ねえよ」

天使「...っはぁ?!」


「なんだ?」

「お、もう新隊員同士の喧嘩か?」


天使「っあぁ!!!もう!!」

雑兵「んだよお前、女が腐ったみてえなこと言いやがって...俺のアドバイスが欲しかったのか?」天使「君が聞いてきたんじゃん!?それで僕は話したんだよ!?」

雑兵「お、おう、聞いたな、それが何に繋がるんだ?」

天使「なんか...!アドバイスとかさぁ!!」

雑兵「ねえよ」

天使「なんでぇ?!」

雑兵「だって...ねぇ?おれあんまよく分からずに入ったし」

天使「っそ、それでも...うーん!!」

雑兵「うっせぇなぁ、嫌なの?軍隊」

天使「そういう訳じゃ...」

雑兵「お前の理想って何だ?なんなら聞いてみるかお前の理想を、あそこで剣ぶん回している奴らに、
一人一人に聞けばいいじゃねえかよ」

天使「...」

雑兵「あのさぁ、衛生隊に入れなかったからかどうかは興味ねえがよ、その事で
萎えてんのなら辞めたら?マジで、自分に何が出来るかも考えずにグチグチッグチグチ言いやがって!」

天使「っそ、そこまでいってないだろ!」

雑兵「あー!!なんか腹立ってきたぞてめぇ!!」


「おい...とめろって...どこの部隊だ」

「独立大隊だよ、あそこの新隊員だ」


雑兵「ごちゃごちゃ言いやがって!!そのケツ引っ叩いてやる!!」ッペチーン

天使「いったぁ?!やったな?!」

上等兵「ちょいちょい!兵長!?」

兵長「うわぁ...」

雑兵「言いそびれてたけど入隊した時お前のこと女って思ってたからぁ!!」

天使「はぁ?!嘘ついたの?!最っ低!!!この変態!!!」

雑兵「優しさだろうが!!!」

天使「知らないよ!!!」

兵長「はいはいやめんか!!このボンクラども!」ガシッ

上等兵「なに天使ちゃんの方抑えてんすか」ガシッ

雑兵「だってこいつが!!」

天使「離してください!!」

兵長「他の部隊の目もあるだろうが、言いたいこと言い合うのは良いが、場所を弁えろ場所を」

上等兵「今日は戻るぞボンクラども」

管理人「はっは!元気があって良いなぁ今回のは!」

上等兵「すいませんでした、よく指導しときます」

管理人「いや、元気があって素晴らしいぜ、教育期間が始まってすぐこんな腹割って喧嘩できるなんてなぁ、いいコンビになるぜ」


「っへ、独立大隊の連中かよ」

「新隊員にあんなの見せたら悪影響だぜ…」


上等兵「…」

管理人「大丈夫だ、あんま気にするなよ」

上等兵「はい、大丈夫です」

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兵長「さぁてと?先ずはあの公衆の面前で大喧嘩を始めた経緯を教えて貰おうか」

雑兵「いやこいつがね?元気ねぇから何があったのかなぁって思って聞いたんですよ」

天使「聞いただけじゃん!聞くだけ聞いただけじゃん!」

雑兵「はぁ?!」

兵長「うるせぇ!!!今は雑兵に聞いてるんだ!!黙ってねぇとしばくぞ!!」

天使「…っ」

兵長「雑兵、聞くだけ聞いただけってのはどういう事だ?」

雑兵「はぁ、天使のやつが軍隊が理想と違ったって…」

兵長「それで?」

雑兵「はい、それで…そうなのと」

兵長「…え?」

兵長「…それ聞いた後に…アドバイスとかなんか…」

雑兵「え?無いっす」

兵長「…それで天使がその態度にキレた…?」チラッ

天使「…」コクッ

兵長「…これはだなぁ…雑兵が…ちょっと思いやりが…」

雑兵「えぇ?!自分ですか?」

兵長「雑兵なりになんか心配になったんだろ?それで聞いたんだから…なんか言ってやれよ」

雑兵「いや、心配にはなって無いですよ」

兵長「はぁ~…??」

雑兵「元気なさそうだったからどうしたのかなって思っただけで」

兵長「よし、お前は後でもう一度話を聞くと…天使、お前の理想と違ったってなんだ?正直に言えよ?」

天使「あ…その…別の教育隊と…違うじゃ無いですか、やり方が」

兵長「あー…大体わかった、他は…まぁ近衛混成連隊は除くとしても厳しそうだから…って事だな?」

天使「はい…」

兵長「そうきたかぁ…それは…こちらに完全に落ち度があったなぁ…」

天使「教育期間は厳しくて…その厳しい期間を仲間と乗り越えて一人前の兵士になりたくて…その乗り越える憧れもあって…入隊したので…」

兵長「だよなぁ…そういう奴もいるよなあ…」

天使「…」

兵長「…わかった、天使は戻っていい、雑兵はちょっと残れ」

天使「はい…」ガタッ

雑兵「…」

兵長「で、だ…雑兵、お前は本当に心配してなくて、その気持ちだけで天使に聞いたのか?」

雑兵「はい、その後のことは全く考えてません」

兵長「…もしかしてだけど、それが心配してる奴じゃないのか?天使が元気ないの気づいてたんだろ?」

雑兵「はい、どうしたんだろとは思いました」

兵長「……いいか雑兵、それは心配してるってことだわ」

雑兵「えぇ?」

兵長「お前は早いうちに天使の異変に気付いて、聞いたんだんだろ?それは…えーっとなんて言えばいいかなぁ…多分、無意識のうちに心配してたんだと思うんだわ、お前は」

雑兵「そんなまさか」

兵長「まぁ心配の度合いもピンキリあるけどな?お前のそれは、間違いなく心配からでた質問だから…まぁ後のことは考えてなくてもな、お前は人の異変をいち早く気づけて、心配してたんだよ」

雑兵「はぁ…?」

兵長(こいつ…著しく自覚心ってもんが欠如してる…)

兵長「よし、追々養っていこう、お前は著しく自覚心ってもんが…そのちょっとないえら…」

雑兵「そうなんですか…」

兵長「いや、人を心配する気持ちがある分にゃマシだからな!大丈夫!」

雑兵「はい…」

兵長「よし、雑兵は戻っていいぞ、俺もお前らと話ができてよかった」

雑兵「失礼しました…」ガチャ


兵長「はぁ…中々すごいのが来たなぁ…」

ガチャ

隊長「今回の粋のいい新隊員はどうだ?」

兵長「はぁ、磨けば光る奴らですよ…この部隊にいるのがもったいねぇ」

隊長「そうだな、新隊員然り、この部隊にいるのが勿体無い人間なんか沢山いるさ、上等兵の奴もお前も…いつまで昼行灯やってる気か知らないが…」

兵長「昼行灯なんてそんな…」

隊長「厳しくやる必要なんかねぇさ、この部隊はとうにどこからも見捨てられているしな、ただお前らのやり方が…あいつら二人の今後を決めるんだからな」

兵長「はい、わかってます」

隊長「大切にしねぇとな…」ガチャ バタン...

兵長「…仕方ねぇな…まぁやってらんねぇ仕事だけどよ…」

第2章『だってやってらんないじゃん』 完

第3章 『ウィシャル オーバーカム』

雑兵「…まぁ悪いとは思ってるよ、多少はな」

天使「…」

雑兵「いや…俺実質小卒だからさ、中学なんてマトモに行ったことねぇし…」

天使「…」

雑兵「あー中学って分かるか?アレだ…なんか…大人気取ったガキが集まる場所…」

天使「…」

雑兵「それでまぁ…大人気取りもできず…なんかよく分からずにここまで来たってわけでして…」

天使「…中学って何?」

雑兵「そこ?あー…そこの下りは忘れてくれ、大したこたぁねぇから…」

雑兵「まぁ…ぼちぼちやろうやってことだな…」

天使「…っふふ、何それ?」

雑兵「あーアレだ、あんま気ィ張らずにやろうやってことで…」

天使「まぁいいけど?て言うか、まず雑兵さぁ国語の勉強しないとダメだよ?文字読めないのはヤバすぎだもん」

雑兵「うっ…まぁそうだけどよ…」

天使「こう見えても僕国語も得意だから教えてあげるよ、徐々に雑兵を仕上げて行ってあげる」

雑兵「仕上げるってオメェ…手柔らかに頼むぜ」

天使「明日からやる気出す?そしたら許してあげる」

雑兵「あぁ出す出す、吹き出しまくってやるよ」

天使「なーんか適当だなぁ…」
カチャ
上等兵「おらポンコツ野郎共、明日からの予定表だ、天使ちゃんたってのお願いだからな、明日からは倒れねえ程度にビシビシ行くぞ」

雑兵「ありがとうございます…うーん?野営?」

上等兵「他の教育隊と合同で管理野営するのさ、兵隊としての基本的な野営中の行動や、戦闘訓練がある、今のまま野営にぶち込んだらお前ら多分死ぬからな、体力つけるぞ」

上等兵「午前は剣術、格闘訓練で、午後からは体力錬成、夜は…まぁ雑兵の勉強の時間だな…天使、付き合ってやれるか?」

天使「みっちり仕込みます」

上等兵「上等、やるぞ雑兵」

雑兵「あ、はい…」

__
____

___
__
それからというものはほぼ毎日体育の授業みたいなもので、腕立て、腹筋、ランニング…ちょっとした移動時も駆け足になったわけで…

上等兵「連続歩調~!ちょーちょーちょー数え!!」

天使「いち!」雑兵「いぃちぃ」
そーれ!
天使「にぃ!」雑兵「にやぁ…」
そーれ!
天使「さん!」雑兵「あぁん…」
そーれ!
天使「しぃ!」雑兵「死ぬ」
そーれ!
天使「いち!に!さん!し!いちにさんし!いちにさんしぃ!」

雑兵「オロロロロロロ」

上等兵「朝飯吐くなオラァ!剣術と格闘訓練の時間に死ぬぞ!!」

天使「はぁい!」

雑兵「はあオロロロロロ」

上等兵「はぁ…」

剣術も今まで以上に厳しくなったわけで

管理人「しかしあいつら元気になったなオイ…」

上等兵「叩くのではなく、引いて斬りつけろ、叩き斬ると刃が食い込むので俊敏な行動が出来なくなる、なるべく急所を引いて切りつけろ、そこのダミーで各人実施」

天使「はい!」

雑兵「あい」プルプル

上等兵「たったの2.8kgだぞ?片手で持て片手で」

雑兵「お、思いっす…」

上等兵「野営じゃこれよりも重いものをたくさん待つぞ、今のうちに慣れてろ」

「情けねぇなぁ独立大隊のやつ」

「野営で他部隊に迷惑かけなきゃいいがな、まぁ野営前にへばって辞めるだろうぜ」


上等兵「だってよ、さてどうする?辞めるか?」

雑兵「はぁ…はぁ…」

辞める、か…まだ入隊して二週間、紆余曲折あってやる気的なものもあったが、もうそろそろ潮時じゃね?と思い始めてきた、せっかくの転生だし、まだなんか知らないだけで能力あるかも知れないし

雑兵「そ、そうっすね…や、やめm


「気をつけぇ!」

「王国騎士団長だ…」

「騎士団長直々に練兵場へ来てくださるとは…」

「今日はついてるな」

女騎士「ほら、サボってないで続きをやらないか」

「はっ!よし!では素振り開始ぃ!」


上等兵「あいつら休憩してんじゃなかったのか」

兵長「ダリィ…省けちまうか?」

上等兵「なに言ってんですか…」


雑兵(やべぇ…いやでもさすがに俺とはわからねぇか、髭も剃ったし)コソコソ

天使「どうしたの?」

雑兵「ちょ、ちょっとトイレに…」

女騎士「ほう、独立大隊の新隊員も剣術か、うんうん良いことだ」

兵長「はっ…今回の新隊員がなかなかどうして変な奴らで…」

上等兵「あんたが言いますか…まぁ同感ですが」

女騎士「独立大隊は…確か2名が残ったんだったな、他の新隊員が辞めたのは残念だが大切にしているようで安心したよ、2名はどこにいるんだ?」

上等兵「はい、あそこで一名が伸びてますから、休憩しておりました」


雑兵(バカこっちに振るんじゃねぇ!)

天使「わっ…こんな近くで見たの初めて…綺麗だね」

雑兵「そ、そうっすね」


女騎士「…っふ、やっと見つけたぞロクデナシめ…」ボソッ

上等兵「え?」

女騎士「いや、こちらの話だ、今後も精進しろよ、野営訓練、独立大隊の活躍を期待しているぞ?」

兵長「はっ、努力します」

女騎士「今回の野営は前回よりも大規模にいくからな、評価支援大隊も要請したからとんでもないことになるぞ」

兵長「評支って…あの傭兵団を呼んだんですか?」

女騎士「昨年は小規模で新隊員に可哀想だったからな、団長も快く承諾してくれた」

上等兵「うへぇ…自分らも大変ですよそれ…」

女騎士「ははっ、励め励め」


雑兵「よかった…」

天使「?」

上等兵「この後に及んで評価支援大隊まで繰り出してきたかぁ…」

兵長「いつかの野営訓練では、竜騎兵大隊の教育隊が助教陣諸共壊滅まで行ったからなぁ…今年は…もしかしたから我々かも知れんなぁ…」

上等兵「騎士団長直々に声かけられましたからね、あり得ますよ」

兵長「独立大隊壊滅なんていつものことだろ…なんで今回に限って」

上等兵「さぁ、知りませんけど」

雑兵「野営訓練えげつない事になるんですか?」

上等兵「うーん…お前が可哀想で仕方がない…」

天使「評価支援大隊ってなんですか?」

上等兵「あぁ、非公認の部隊でな、いつもは傭兵稼業をやってる連中が集められて野営訓練の仮想敵として支援してくれるんだ」

兵長「それがまた強いのなんの…傭兵団長によっちゃ今季の全部隊の新隊員教育隊は壊滅になるぜ…」

雑兵「マジッすか…」

兵長「ウチは人数が少ねぇから、多分他の部隊と混成になるだろうが…まぁあんま期待しねぇ方が良いかもな」

上等兵「どこ行っても鼻摘まみですからね」

天使「そ、そんな…」

雑兵「…」

評価支援大隊の話は新隊員連中の間でも瞬く間に広まった。

「すげぇ強いらしいぜ…」

「あの魔術使う部隊も1回の戦闘で壊滅まで追いやられたらしいぜ…」

「いや俺が聞いたのは竜騎兵が…」

評価支援大隊は傭兵団の混成部隊で成り立っているらしく、強いと言ってもやはりピンキリまであるらしい、しかも噂によると…
「勇者様が傭兵団のリーダーやってるらしいぜ」
との事だ、前森の中で聞いた転生した件の勇者なのかも知れない。

雑兵「勇者ってどんな奴なのかな」

天使「勇者様?とっても強い人らしいよ?別の大陸であった話なんだけど、突然勇者様が現れたらしくて、その大陸を支配していた悪い魔王をやっつけたんだ」

雑兵「いつの話だ?」

天使「僕が産まれてすぐの事らしいよ?」

雑兵「ふーん…なるほどねぇ…」

天使「はい、勉強再開だよ」

雑兵「クゥ-ン...」

雑兵「…そう言えば」

あの森であった神父、騎士団長と勇者って言ってたな、てことは…あの女騎士も転生したってのか?あいつが転生したってんなら…

雑兵「あいつはどっから来たんだろ…」

天使「もー聞いてる?」

雑兵「へいっへいっ聞いておりやす!」
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__

__
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それから俺はあの騎士団長に興味が湧いた、年は若そうに見えるし、外人みたいな髪色と眼の色してるから恐らく同胞ではないだろう、しかし転生者だとしたら、あの地位までどうやって登ったのか気になる所もあった。勇者ならチート能力が有ればバカでもなれると思うが、騎士団長でしかも女となると、多分並外れた努力をしないと昇り詰めれないだろう。

雑兵「騎士団長ってフッ どんな人なんです?フッ 」

上等兵「腕立てフッ 中に聞くそれ余裕が出来たのか…嬉しいやらフッ 複雑やら…」

兵長「良家のフッ 産まれだぜ、昔から文武両道で頭も良けりゃフッ 運動も出来て、剣術馬術フッ 槍術はお手の物だ」

雑兵「突然出て来たとかフッ じゃないんですか?」

上等兵「突然?フッ ンなわけないだろ?ぽっと出をフッ 騎士団長にする程バカじゃねぇと思うぜウチの国は」

兵長「はい50回終了」

上等兵「雑兵お前もやるようになったなぁ」

雑兵「ありがとうございます…」

兵長「まだ腕プルプルしてっが、最初よりゃ上々だ」

上等兵「しかしなんでいきなり?」

雑兵「いや…気になって…」

兵長「お!恋か?」

雑兵「違いますって…ただ…まぁ上の人間だし」

兵長「そうかぁ?」

あの騎士団長は昔から有名だったらしい、では森で神父が言ってた騎士団長は別のやつなのか?それとも…

雑兵「小さい頃に…とか?」

天使「雑兵?どうしたの?最近なんか元気ないけど…」

雑兵「あ、いや、何でもない」

天使「…騎士団長のこと?」

雑兵「いや…」

天使「うそ、上等兵さんがなんか話してた」

雑兵「あー…まぁ」

天使「なんで騎士団長の事を?」

雑兵「いや…ちょっと気になったことがあってな…話すと複雑になるからどう話せばいいかわからねぇ…」

天使「雑兵が心配だもん、なんかあったら話してよ」

雑兵「天使だな」

天使「変態」

雑兵「うるせぇ…その、さぁ…悩みじゃないんだ、ただ….俺一回死んでるって話したら…笑う?」

天使「し、死んでる??」

雑兵「あー…俺死んだんだ、前住んでた世界って言うの?そこの世界で…」

天使「嘘、生きてるじゃん」

雑兵「いや、そりゃ今を生きてるけどさ、なんか記憶が鮮明でさ、逆にここの国で産まれた記憶なんかないし親いねぇから…確実におれ生まれ変わりなんだと思うんだ…」

天使「…」

雑兵「なんか放り込まれた感じ?知らないトコに、天国か地獄か分からないけどさ…」

天使「それが…騎士団長とどう繋がるの?」

雑兵「その目覚めた時にさ、森で目覚めたんだけど、変なおじさんが居たんだよ、神父みてぇな?そいつが騎士団長や勇者も転生したーみたいなこと…」

天使「そんな訳ないじゃん、騎士団長は昔から有名だし、まぁ勇者様はよく分からないけど…魔法とかも使えるらしいから珍しくないよ」

雑兵「いや、なんか生まれ変わったら魔法とかも使えるらしい、システム的なのはよくしらねぇし俺は使えねぇけど…まぁ…そう言うことだ」

天使「…ごめん、よく分からないや」

雑兵「まぁそうだよな…」

天使「…今の生活いや?」

雑兵「え?まぁ嫌じゃねぇけど」

天使「なら良しだよ、ホントに2回目の人生で、今の生活嫌だったら雑兵可哀想だもん」

雑兵「…」

天使「いきなりここへ来て…何にも分からないのに軍隊に入ったんだから雑兵はすごいよ…前の人生がダメだったのなら、今の人生大切にしなきゃ、ね?僕も雑兵の事をずっと大切にするから…」ナデナデ

雑兵「マ…」

天使「?」

雑兵「ママぁ!」ガシッ!!

天使「へぇ?!」

雑兵「んだてめぇ!母性がエグいんじゃ!」

天使「は、はぁ?!」

雑兵「ナデナデしやがって!!ママかお前は!!甘えさせろオラァ!?」

天使「ちょ!勉強は?!」

雑兵「今日はいい!!お前を抱く!!長年の欲求をお前を抱いて晴らす!!」

天使「バ、バカ!///お母さんにそんなことしないでしょ!!」

雑兵「し、しない…?!なぁ…確かに…」

天使「も、もう!///次の小テストで良い点取らないと許さないからね?!///」

雑兵「す、すいません…気が動転して…」

天使「もう…一緒に頑張ろ?」

雑兵「うん」
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女騎士「今回の訓練は盛大に頼むよ、勇者様」

勇者「その言い方はやめてよ、なんかむず痒いんだ」

女騎士「勇者なのは本当のことだろう?それに今の立場じゃ前みたいにはもう出来ないんだ」

勇者「だとしても...まあいいや、何人くらい連れてこようか?」

女騎士「そうだね...今回の新隊員が...597人だったから...2千人くらいがいいんじゃないか?」

勇者「マジでいってる?お金大丈夫なの?」

女騎士「あぁ、新隊員を育てられるなら痛くも痒くもないさ、国王もその方針だ」

勇者「変な国だね本当に」

女騎士「その国に私たちは救われたんだ、恩返しはしないと」

勇者「そうだね、おkなら盛大にやるよ、ではそろそろかき集めてくる」

女騎士「気を付けていけよ」

勇者「わかってるよ、姉さん」

バタン

女騎士「お姉さん...か、久々に聞いたな」

女騎士「あんなに泣き虫だった妹が...」


『おねえちゃん!死んじゃダメだよ!』

『もう救助隊が来る!君も避難を...ん?』

『土砂崩れだ!!逃げろ!!!!』

『もうダメだ!!山全体が...
ゴゴゴゴゴゴゴ...

『速報です、先ほど○○町一帯が大規模な土砂災害に見舞われました、県は自衛隊に派遣の要請をしました、
消防庁及び警視庁の情報によると、町の消防署並びに警察署への連絡は依然取れず、土砂災害の被害にあっている
可能性が高いと発表しました』

『最初は小規模だったんですよ、家一軒飲まれましたが...その後に山全体が崩れたんですよ』

『あの山は林業が盛んだったんですが、いかんせん植樹をしない企業が多くて...それに付随して頂上に大規模な気象観測所も出来たから耐えられん
かったんだと思いますよ』


女騎士「...っうわ、寝てた...」

女騎士「...小さい頃の...はぁ...」

女騎士「...まだ寝れる」
_
__

__
_
雑兵「野営ってどこでやるんすか?」

上等兵「山ン中とかが定石だが、今回は違うっぽいな」

兵長「平原の演習場だとよ、どうしようもねえよもう」

雑兵「平原って、ここの城の周りマジの平原で隠れるとこまったくないじゃないですか」

上等兵「そうなんだよなぁ...」

兵長「俺らは近衛混成連隊の隣か...嫌味ばっか言われるんだろうなーバンダレイんとこ広くしようぜ」

上等兵「無理でしょ」

天使「自分たちはどんな動きをすれば…」

上等兵「あー…まぁ…焚き火囲んでる時に襲われれば良いんじゃないですか?」

天使「えぇ…」

兵長「いや、マジで野営ってもそれしかやることねぇんだ俺らの部隊って、初っ端の戦闘で撃破されなきゃいけない部隊の一員」

上等兵「悲しいけどな、確かに俺らが切り込みやっても意味ねぇし…」

雑兵「やられなきゃいけない…って事はやられなくても良いんすか?」

兵長「え?」

雑兵「やられなきゃいけないんですよね?って事は逆を言えばやられなくても良いって事でしょ?」

上等兵「え…お前何言ってんの」

雑兵「なんか命令でやられろって言われてんすか?」

兵長「それは無いけど…いてもあんま俺ら意味ねぇし」

上等兵「いいか、雑兵?俺らはな?野営で勲功をあげたら結構萎えられるタイプの部隊なんだわ、アレだ、テンション上がってる時に空気読めない奴が変な事言った感じの空気になる」

兵長「それにお前が優秀賞を取るのは無理だと思うぜ、こんなこと言ったらアレだが

上等兵「確かにお前らは頑張ってきて、慣れてきたけど、他部隊の新隊員達は最初から頑張ってきてな、基本中の基本の動きも出来る、コレらは俺らの教育の問題だが…」

兵長「何が狙いなんだ?まさかとは思うが…」

雑兵「騎士団長とやらに聞きたいことがあるので」

兵長「はぁ~…やっぱり」

上等兵「何聞くんだよ、騎士団長相手によ」

天使「…」

兵長「頼むから面倒な気は起こさないでくれ…やる気出してくれるのはありがたいし、応援したいが…」

上等兵「身分差がヤバイんだよ」

天使「…それはおかしいです!」

上等兵「うおっ…」

天使「先程から黙って聞いていれば…何なんですか?!」

兵長「え?俺ら?」

天使「確かに雑兵はバカだし!空気読めないとこもあります!!」

雑兵「ンヴッ(即死)」

天使「でも!何もわからない所で一から始めて!!初めて挑みたい事が産まれたんです!!頑張りたいって思えた事が生まれたんです!!それをなんで!!」

上等兵「ご、ごめんって…でも俺らは…」

天使「独立雑兵大隊だからなんなんですか!!みんなと同じ兵隊でしょ!?雑用しかしないからなんなんですか?!剣を貰って軍服を貰ったんなら兵隊でしょ!」

兵長「…」

上等兵「た、確かに俺も最初はこの部隊を変えたいって思ったこともあったが…やっぱ一度ついたイメージはな…」

天使「何で応援できないんですか!?一度諦めて、挑戦したい後輩がいるのに何で!!」

上等兵「…」

兵長「…天使、そこまでにしろ」

天使「でもっ…!」

兵長「そこまでにしろって言ってんだ」

天使「っ…」

兵長「すまんな、天使、辛い気持ちにさせて、俺らも卑屈になってたんだ、努力したって所詮は雑用部隊…戦争に出ても後方支援のこの字にもいられなかったからな…だが今回のお前らを見て、俺ら独立大隊もちょっと挑戦してみようと思った、これは本当だから」

雑兵「…」

天使「…」

兵長「雑兵、騎士団長に会いたい理由はもう聞かねぇ、会いたきゃ勝手にしろ、ただ優秀隊員をとらねぇとまず会えねぇってことを分かってんなら…やるこたぁわかるな?」

雑兵「評支大隊をギャフンと言わせることっすか?」

兵長「えらくざっくりしてるが…まぁそんなところだ」

上等兵「お前一人で出来ることとは思ってないが、お前の頑張り次第では協力してくれる隊員もいるかも知れん、まぁ俺からも掛け合ってはみるが」

雑兵「死んでもやります」

兵長「いや死ぬなよ…まぁそんくらいの覚悟がありゃもう何も言わねぇさ、野営中は好きにやりな」

雑兵「はい、大将首勝ち取ってきます」

上等兵「それは…流石に無理だと思うが」

天使「傭兵団長誰だか分かってる?」

雑兵「じゃあ…ぼちぼちやります[

兵長「うーん…」

上等兵「諦めが早いというか…」

兵長「隊長にも言ってくるわ、多分好きにやらせてくれると思うが」

雑兵「ありがとうございます」
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隊長「骨ありすぎじゃね?」

兵長「そうなんです、どこでスイッチが入るか分からんで…中々困った奴ですよ、雑兵のやつ」

隊長「まぁ評支をぶち倒すのは面白そうだからいいけどさぁ…あいつ一人じゃ無理だろ」

兵長「はい…なので隊員にも軽く協力してもらおうかと…」

隊長「ウチの隊員たちになぁ…協力かぁ…うーん…」

兵長「まぁ難しいっすよね…協調のきの字もないっすから…」

隊長「ちょっと…雑兵と天使連れてきてくれねぇか?まだあんま話してなかったからこの機会に話してみてぇんだ、野営で何するかも」

兵長「はい、連れてきます」

そして…

隊長「さぁて、教育期間も来週の野営で終わりだ、改めて挨拶をする、俺が独立大隊の大隊長だ、顔だしてやれんですまんな」

天使「い、いえ!大隊長とお話しできて嬉しいです!」

隊長「この前の救護の学習、いい成績だったな、衛生隊の新隊員よりもいい成績だったぞ」

天使「と、取り柄はそれしか無いもので…」

隊長「いや、素晴らしい隊員だ、ウチには勿体無いくらいにな…して雑兵」

雑兵「はい」

隊長「お前、今度の野営でブチかますらしいな?」

雑兵「その予定です」

隊長「結構、大いにやれ…たがな、途中で投げ出すんじゃねえぞ?どんな手を使って勝ち取ってもいいが…中途半端に投げ出されちゃお前の今後どんな事を言われるか分かったものじゃ無い…勝つか負けるかしか無いからな」

雑兵「分かってます、死ぬ覚悟でいく予定です」

隊長「うん、お前ら野営では俺らに構わず思う存分暴れてこい、これが俺の命令だ」

天使「はい」

雑兵「はい」

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天使「野営ドキドキするね…雑兵本当にやる気なの?」

雑兵「うん、なんか今までに無いくらい昂ぶってるからやろうかなと」

天使「なにそれ…でもこんなにやる気がある雑兵見たの初めて」

雑兵「そう俺も戸惑ってるんだよ、実は」

天使「ップ…何か手伝って欲しかったら幾らでも言ってね?」

雑兵「そうしたいが天使には天使の立場があるからな、なんとか頑張ってみるよ」

天使「ふーん?僕じゃ頼りない?」

雑兵「いやっそういうわけじゃ無いんですが」

天使「ふふっ冗談だよ、でも雑兵が困ってたら助けるから、これだけは譲れない」

雑兵「…あぁ、俺もお前の為に頑張るよ」

天使「じゃあ、おやすみ」

雑兵「あぁ」

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野営は三泊四日で行われる、初日から次の日の半日は各部隊は有事の際の基本的行動を学び、それが終了次第兵士としての基本的行動…まぁ大規模なチャンバラが始まる。独立大隊の有事の際の基本的行動は主に…本当に雑務ばっかりで各部隊に三名の隊員が配置され、それぞれの雑務を行う。トイレ掃除 厩の設置 馬に干し草をあげたりフンの処理…ただ部隊と一緒に死ねというわけでは無いらしく、戦闘が始まれば折を見てげんたいに帰るらしい。意味がわからない。

雑兵(俺と他2名は騎士団の新隊員と行動を共にする…隊長に感謝しないと)
伍長「なぁ坊主…おめぇなんかブチかますって本当か?」ヒソヒソ

雑兵「はい…まだ時期じゃ無いっすけど」

一等兵「いいねぇいいねぇ、おらそう言うの大好き、で、なにやんの?」

雑兵「騎士団の新教のチャンバラが始まったら自分たちは逃げてもいいじゃ無いですか」

一等兵「ん、そうだなや?」

雑兵「多分騎士団を狙うのは評支のお偉方部隊だと思うんですよ」

伍長「かもなぁ」

雑兵「そこで、逃げるふりして状況外になった傭兵の服を剥ぎ取って傭兵に化けるんです」

伍長「マジぃ?大丈夫かそれ?」

雑兵「傭兵の格好はバラバラらしいんで、俺が傭兵に扮装してもバレんと思うんですよ」

一等兵「確かにそうだけんども…見つかったら大目玉だでや」

伍長「最悪営倉入りだな」

雑兵「俺はそれでいいんです、ただ騎士団長に聞きたいことがあるので」

伍長「はぁ~おめぇ肝座ってるなぁ9…よっしゃ気に入った!俺らも手伝ったるわ!」

一等兵「んだすな!独立大隊にきて久々に楽しそうなことがあんだもんな!新隊員がやるなら俺らも立ち上がらにゃ!」

雑兵「ありがとうございます…」

伍長「…しかし傭兵になってどうするんだ?」

雑兵「そこなんです…」

一等兵「あたーそこだなや…」

伍長「おいいたずら小僧、なんかないか?」

一等兵「そうだすなぁ…定石にいきゃあ傭兵の格好して、本陣までいって傭兵団長をブスリと…」

雑兵「それでいきましょう!」

伍長「はや!」


「おい!雑兵大隊!厩を綺麗にしとけ!」

一等兵「へいへいただいま!雑兵話しは後で固めるだ、行くど」

雑兵「はい…!」

雑兵(みんな俺のために…俺も頑張らねぇとな)
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「おい…聞いたか?傭兵団長ってあの勇者様らしいぜ…」

「嘘だろ?なんで勇者様が傭兵団なんかに…」

「んな事はどうだっていい…勇者様が指揮してるんだ…エライ精強な傭兵団だぜ…」


天使「…」

兵長「…雑兵が心配か?」

天使「はい…何をしでかすか判らないので」

上等兵「そっちか…しかし騎士団付きの雑務隊に行くとはなぁ…隊長のお陰だぜあのやろう」

天使「騎士団付きの雑務隊が良いって、どうしてなんですか?」

兵長「直接勲功を見てくれるしな働きようによっちゃあ優秀隊員…」

上等兵「しかし雑務隊は会敵したら帰隊するのが定石ですからね…伍長さんと一等兵が乗ってくれるか…」

兵長「伍長さんと一等兵コンビなら多分のってくれると思うぜ…あのいたずらコンビなら楽しむかもな」

上等兵「一等兵のやつはこといたずらに関しては頭が軍師並みに切れますしねぇ、雑兵の作戦が何かは知らないが…」

兵長「大丈夫だろ…まぁ無理でも今は新隊員だし…」

天使「…」

上等兵「祈るしかないっすね」

「天使さーん、ちょっと救急キットの使い方を教えてあげて欲しいんだけど」

天使「は、はい!」


兵長「まぁ今は自分の心配だな」

上等兵「衛生部隊にはこんでしょう」

兵長「だといいが…?ん?」

上等兵「どうしました?」

兵長「あの丘…木茂ってたっけ」

上等兵「…て、敵襲!!!!」
_
__

__
_
「衛生の新隊員教育隊の展開地が奇襲されたそうだ…」

「衛生って事は…俺ら展開地の近くじゃん」


騎士団長「いいなぁいいなぁあの狼狽っぷり」

副団長「趣味が悪いですよ騎士団長…まぁ楽しいですが…」

騎士団長「我々が新隊員の時を思い出すな、副団長?」

副団長「はい、自分もあの時は、あの子らみたく右も左も分からないまま展開地に入れられましたからね」

騎士団長「覚えてるか?当時の騎士団長が奇襲攻撃のため敵が集結してるのを気付いて無くて、我々も行軍してたら…」

副団長「あぁ、鉢合わせで傭兵団長も騎士団長も腰抜かして…あん時はほんと笑いを堪えましたねぇ」

騎士団長「…ではそろそろ仕掛けてもらうかな…」

副団長「傭兵団長の所に打ち合わせに行くんですか?」

騎士団長「あぁ、盛大にやるぞ」



一等兵「だとよ…付いて行ってみるか?」

雑兵「しかしまだ会敵もしてないのに離れたら…」

伍長「大丈夫、助っ人きたから」

兵長「よっ…ウチんとこはこてんぱんにやられてたよ」

上等兵「まーた悪さしようとしてるな?一等兵」

一等兵「うひぁあ勢揃いだすなぁ、おろ?もう一名の新隊員は…」

兵長「捕虜になっちまったよ、怪我人手当してる最中に」

上等兵「まぁ状況外だな…しかし最後まで怪我人の手当してたなぁあいつ」

雑兵「マジですか?今はどこに…」

上等兵「分からんが…大方傭兵団の展開地の近くだろ」

雑兵「…」

一等兵「ほら、行くど」

雑兵「はい」


兵長「雑兵…ありゃあ助けに行くかもな…」

伍長「どうさねぇ、目の前のことにいっぱいいっぱいって感じだったぜ」

上等兵「どうなる事やら…」

傭兵団の展開地は城下町に近く、襲撃なんのそのと言ったテンションでどんちゃん騒ぎをしていた。

一等兵「剥ぎ取るにぁあ…あの外れで寝っ転がってるやつを剥ぎ取るべや」

雑兵「分かりました…一人しかいないっすね…」

一等兵「お前ならどうする?」

雑兵「もちろん自分が行きます」

一等兵「よし、おらはちょっくらいたずらしてくるべ…上手くやれや」ザッ...ザッ...


雑兵「ふぅー...よし」

雑兵「失礼っと…」 ガザゴソ...

「Zzz...」


雑兵「うっわ…汗でドロッドロ…まぁいいや…」

雑兵「一等兵さん…何するつも…


ズド----ン!!!!


「な!なんだぁ!?」

「オイ!燃料樽に引火してっぞ?!!誰だあそこで火焚いたの!!?」

「おい!みな燃えちまったら俺らの賃金向こう半年は燃料代に消えちまう!!」

「消せ消せ!」


雑兵「や、やるぅ…」

雑兵「よし、傭兵団が混乱してるうちに…」

「おい!そこのお前!」

雑兵「うへぃ!」

「団長に報告してこい!!燃料樽に引火!ダイナマイトで爆破された可能性アリと!!」

雑兵「り、了解!!」ダダダッ


「ん?なんかあったのかぁ…Zzz」

勇者「なんの騒ぎ?」

「まだ情報が…奴ら何してんすかねぇ」

雑兵「ほ、報告します!物資集積所の燃料樽がダイナマイトで爆破された模様!!」

「うっそ?!せっかく国からタダでくすねたってぇのに!!」ダダッ


雑兵「あ、行っちゃった…じゃあ自分も~…」キョロキョロ


天使「…」ジトッ

雑兵『もうちょい辛抱してくれ!必ず助けるから!』(伝わってないハンドサイン)
天使「???」


雑兵「さ、さぁてとぉ火消しまくろっかなぁ…と」ソソクサ

勇者「ねぇ」

雑兵「ひゃい!?」

勇者「明日の合言葉って…何だっけ?」

雑兵(この子…心なしか騎士団長に似てる…てか誰?傭兵団長ってさっき走ってたやつだし…多分)

俺はこの時、傭兵団長の顔を知らない事に気づいてしまった。

雑兵(だが俺よりも小さいからな…多分子どもだろまだ)

雑兵「ここは子どもの来るとこじゃねぇぞ、早く家帰れよ」

勇者「こ、こ、子ども??」

雑兵「ダメだぞ?親が心配するから帰らない…とぉ?」

勇者「君…何者だ?」ゴゴゴゴゴゴ...

雑兵(素人の俺でもわかる…この覇気的なやつはヤバイやつだ…なんでキレてんの?)

雑兵「お、おい…落ち着けって、まだ小さいんだからこんな物騒な…キラキラした…Oトの剣みてぇな…???」

雑兵「…」

勇者「…」ゴゴゴゴゴゴゴ...

雑兵「よ、傭兵団長でございますよねぇ?」

勇者「曲者」

雑兵「っ!!」ダダダッ!!!

勇者「待て!!」


雑兵「やべぇって!!やべぇって!!」

勇者「逃げられると思った?!」

雑兵「う、うわぁ!!はや?!キショ?!」

勇者「ちょ!キショ?!って何?!なんで忍び込んてんの?!新隊員の野営でしょコレ!?」

雑兵「し、忍び込んでねぇし?!俺傭兵団だし?!」

勇者「じゃあ明日の合言葉 渡る世間は?」

雑兵「バネ秤?」

勇者「アホ」

雑兵「あ、アホって…まぁ頭悪いけど…」

勇者「見た所、君は新隊員だね?怒らないから何しにきたか言ってごらん?」

雑兵「ヤダよ、ガキ」

勇者「っうらぁ!」ッバッチィイン!!

雑兵「ア!(即死)汗で引っ付いて更に痛え!?!?背中ビンタはあかん!!」

勇者「怒らないから、ほんとに」

雑兵「ックソ…優秀賞取りに来たんだよ…」

勇者「ゆ、優秀賞?何でそんなものを…」

雑兵「ゆ、優秀賞取ったら騎士団長に会えるからな…少し話す時間あるらしいから…ちょっと聞きたいことが…」

勇者「…忍び込んで団長である僕を?」

雑兵「まぁ…大将やっつけたら終わるかな?って」

勇者「んん~…多分組織的な動きをさせたいから…僕やっつけてもあんまり…意味無いんだよね…?基本君たちの動きに合わせるのが野営だから…」

雑兵「は?じゃあ何で襲撃を…」

勇者「一応は演習という事で僕らもやってるから、ある程度の状況は必要だろ?だから襲撃するの」

雑兵「ってことはよ?俺がお前を倒しても大体は出来レースだから…」

勇者「まぁ僕の指示なしでも予めしめされた動きで動くよね?僕指揮官じゃないし…」

雑兵「」

雑兵「兵長ぉ!言ってること違うじゃないすかぁ!!」

勇者「その服は…ウチの傭兵団員の服だね?どこから拝借したか知らないけ…ど?」

雑兵「こうなりゃ評支の陣にダイナマイトでも投げ込んで…」カリカリカリカリ

勇者(とても物騒なこと考えてる…?!)

勇者「と、とにかく君は捕虜になってもらうよ?色々聞かないといけないからね」

雑兵「捕虜…あぁ、あの鉄格子ん中に入れられてた奴らか?」

勇者「君も入るんだよ、話はそこで聞こうか?」

雑兵(そいやぁ天使の奴もあんなかにいたなぁ…捕虜…逃したら…うーん)

雑兵「…わかったよ、つかまりゃいいんだろ」

勇者「話が早くて助かるよ、じゃあ戻ろうか」

_
__

__
_

雑兵(さぁて…どう天使を助けて逃げ出すか…相手は勇者…)

雑兵(無理ゲじゃね?これ、普通に詰んでる気がする)

勇者「ねぇ」

雑兵「なんすか?」

勇者「なんでお姉…騎士団長と話したいの?」

雑兵「あぁ…まぁ、色々つもる話しがありまして…」

勇者「へー…好きなの?」

雑兵「全っ然?あんま知らねぇし」

__
_
勇者「騎士団長にあってなに聞くの?」

雑兵「別に、お前には関係ない…かな?」

勇者「いや、知らないよ」

雑兵「…お前ってさ、前世的な記憶ある?」

勇者「前世?いや無いけど…」

雑兵「なんかさ、突然目が覚めたような感じでこの世界に来たとかさ」

勇者「うーん?保育園の年少組の記憶がないとかそんな感じのやつ?」

雑兵「言ってることわかるけど違げぇよ…なんか…こう言っちゃアレだけど前世で死んでさ、目が覚めたらここにいた的な」

勇者「し、知らないよ…普通に育ってきたつもりだよ…」

雑兵「じゃ、じゃあ騎士団長…あの女はどっから生まれた?いや知ってんだよ、お前がどうやってこの世界へ来たかってのは、お前も自分のことだ、何か知ってんだろ?」

勇者「え…?え…?分からないって…本当だって…」

雑兵「この世界へ来て魔法とかエライ強くなったんだろ?元からあった力じゃねぇんだろ?教えてくれって!なぁ!俺にもなんか力とかあるんだろ?!」ガシッ

勇者「ひぅ…し、知らないよぉ…」

雑兵「こんなトコに来てまでなんもねぇ俺じゃいられねぇだろ!?ここまで協力してもらってなんもねぇままじゃ申し訳がねぇんだよ!頼むからどうすればお前みたいな力が貰える?騎士団長みたいな強さを得られるんだ?」

勇者「ど、努力すればいいじゃん…!僕だって姉ちゃんだって努力したんだよ…!女の子なのに血反吐吐くまで…!何もかも捨てて努力したんだよ!!!」

雑兵「っ…」

勇者「何なんだよいきなり!!おかしいよお前!!」

雑兵「…クソが…やってらんねぇやマジで」

勇者「何なんだよ…知らないよ…」


騎士団長「…」

副団長「あの新兵…!」ッダ

騎士団長「待て副団長」

副団長「しかしあの新兵にあるまじき態度は…」

騎士団長「私が話をする、このことは内密にしていてくれ」

副団長「…わかりました、隊を引かせます」

騎士団長「後で合流する」


雑兵(うわー恥ずかしっ…年端も行かねぇ女の子に必死こいてた…どうしよ)チラッ

勇者「…」ムッス-

雑兵「そ、そんな怒るなって」

勇者「うるさい」

雑兵「ってぇか、騎士団長とお前姉妹なのな、確かに軽く面影あると思ったが」

勇者「うるさい」

雑兵「クゥ-ン...」

雑兵(果てし無く怒ってんな、どうしましょう…)

勇者「…君の前世の記憶ってさ、なんなの?」

雑兵「え?前世の…あぁ、大した人生じゃ無かったなぁ、小さい頃から勉強もせずブラついて、パチンコ屋出た時に脱水症で死んだ」

勇者「パチンコ屋…?」

雑兵「博打ミテェなもんだよ、結構面白かったが…ハマるほどになったら運の尽きだな」

勇者「ふぅーん…なんか逆にリアリティないね」

雑兵「俺の人生の説明にリアリティなんか求めてたら紙切れ一枚で終わるぜ、本当に何もしなかったからなぁ」

勇者「じゃあ今の方がアグレッシブなの?」

雑兵「まぁそうだなぁ、今ならお前の尻もしばける気がするくらいだからなぁ」

勇者「キッショ、て言うか僕勇者なんだけど何その口の聞き方、この世界を災悪から救ってあげたんだよ?」

雑兵「俺はその災悪とか知らねぇから救われてねぇ、無関係だ」

勇者「変な奴…」

雑兵「

勇者「変な奴…」

雑兵「うるせぇ、そんな歳なのに死ぬ気で努力した人間に言われたかねぇや」

勇者「は?つーか野営どうすんの?もうそろそろ評支の部隊が教育隊にぶつかる頃だよ」

雑兵「そうだった…うーん…紛れ込むのももう遅いよなぁ」

勇者(ていうか優秀隊員貰えるの?めっちゃ単独行動してるけど…まあ言わないとこ)

雑兵「よし、ここは一等兵さんに習って宿営地燃やすか」

勇者「だからなんでそうなるのさ!!」

雑兵「敵どうにかしねぇとダメだろ!?他になんかあんのかよ!!」

勇者「ないけど!?あっても言うわけないじゃん!」

雑兵「しょうがねぇな…よし、ついてこい勇者」

勇者「は?」

雑兵「は?」

勇者「いや…君捕虜じゃん?」

雑兵「いやそんなん知らんし」

勇者「…はぁ~あぁもう!めんどくさ!いいよ!ついてってあげるよ!」

雑兵「よし、評支の部隊んとこまで俺を送り届けてくれ」

勇者「はぁ?…もう勝手にすれば」

騎士団長「あいつら何してんだ…」コソコソ


雑兵「まぁ優秀隊員取るまでの辛抱だからさぁ、そんな怒るなよ」

勇者「そんなこと言って姉ちゃんにあんな変なこと言わないでよホントに」

雑兵「優しく聞くから」

勇者「聞くなっつってんの!」


騎士団長(私の何を聞くんだ…?力を得るとか言ってたが…)

勇者(てか…常識的に考えて…エラい単独行動してる隊員が優秀なんか取れないんだけどね…)

雑兵「あー疲れたぁ…まだ二日目だぜ、あんな大量の敵さんがまともに突入したらヤベェよな、一気に過労死するわ」

勇者「する訳ないじゃん…実戦じゃないんだから、まだヌルい方だよ、天幕建てれる時点で」

雑兵「天幕なんかねぇよ、いろんな部隊に派遣されてっから、邪魔だしたてねぇんだと」

勇者「ふーん」

雑兵「木っ端にゃ興味なしですか、まぁ俺も上の人間にゃ興味なしだからいっか」

雑兵「ってか、評支次どこ攻めんの?」

勇者「言うわけ無いジャン」

雑兵「ってか勇者って何が目的でそんなど偉い力手に入れたの?魔王?」

勇者「いや...特にこだわりとかはなかったけど...」

雑兵「へぇー、いいんちゃう?」

勇者「そんだけ?敬意の念とか無いの?」

雑兵「ねえよ、自分のやりたいことできりゃそれで良いんじゃね」

勇者「ほんっと捻くれたやつ...」



騎士団長(そろそろ評支の部隊にぶつかる...何をするつもりなんだ...)

勇者「で?そろそろ...ぶつかっちゃうよ?ウチの部隊に」

雑兵「お、いいねぇ...じゃあちょっと失礼して...」ガサゴソ

勇者「?」

雑兵「ちょ、ちょっと縛らして...」

勇者「アホ!?」

雑兵「いや、そういうのいいから...」シュルシュル

勇者「よくねえよ!」

雑兵「ええい!頑固者めが!」ガシッ

勇者「ッヒイ?!どっからこんな力...」

雑兵「ウヘヘヘ...徹底的にやるんだよオ...」

ドスッ

雑兵「う...」ドサッ

騎士団長「ったく...会った時から変な事しか...」

勇者「ね、姉ちゃん?」

騎士団長「騎士団の新隊員は壊滅だよ、さすが評支...いや、傭兵団」

勇者「まぁ、いつもどうりだよ、こいつどうするの?」

騎士団長「原隊に返すさ、兵一人にこの演習をむちゃくちゃにされたら示しが付かない」

勇者「確かに」

騎士団長「傭兵団の指揮はいいのか?」

勇者「あらかじめ動きは示しているから良いと思うよ」


雑兵(ん?俺の首取れた?首から下の感覚がねえ)


騎士団長「お灸をすえないといけないな...このトンでも新兵にゃ...」

勇者「一生タダ働きでいいんじゃない?」


雑兵(うっわ、怖っツートップがそろってら)

雑兵(あーあ、優秀賞は無しかぁ…どんな顔して戻ろっかなぁ…)

騎士団長「おい、起きているんだろ?体もそろそろ動くはずだ、起きろ」

雑兵「っへ、お見通しって感じか」ムクッ

騎士団長「まったく…とんでもない新兵だよお前は…所で原隊へ帰すまえに聞きたいんだが…」

雑兵「…分かってんなら俺から言うよ、騎士団長…いや女騎士、勇者…お前らはどこの世界の人間だ?」

勇者「ま、またそんなこと聞いて…!」

女騎士「…お前と同じ世界だと思う、ただ私たちがこの世界に来たのは本当に小さい頃だ」

雑兵「理由っつうか…死因は?」

女騎士「平成入ってすぐ位か…大規模な土砂災害があったのは知っているか?」

雑兵「あー…なんか夏にワイドショーとかでやってた気がする…なんとか町大規模土砂災害とかってやつ…」

女騎士「そう…私とこの子はあの土砂災害で死んだ、と言っても最初に起きた小規模な土砂崩れに巻き込まれて死んだんだけどね」

雑兵「…」

勇者「…知らないよ、そんなこと」

女騎士「一瞬だったからね、でも私の名前ずっと呼びかけてたよ、何が起きたかなんて小さかった君にはまだ分かんないよね…」

勇者「…」

雑兵「そうか…んで、その二人の力ってぇのはこっちに転生した時に?」

女騎士「それは違うね、勇者なんか特に死ぬほど努力して…今の地位があるんだよ」

雑兵「勇者なんか死ぬほど努力すりゃ誰にでもなれる、俺が聞きたいのはお前のことだ女騎士、お前だって並大抵の努力なんかじゃ敵わねぇ地位じゃねぇかよ」

雑兵「なんか不思議な力とかねぇのか?」

女騎士「魔法の類はまったく使えないな、ウチから湧き上がるものはやる気だけだ」

雑兵「…」

女騎士「確かにこの様な世界に来てしまったら…不思議な力が欲しくなるね、特に強い力が…でも何もなかったよ、私たちは死ぬ程努力したんだ、それだけ」

雑兵「…そうかい、やっと諦めがついた気がするよ…」

女騎士「諦め?」

雑兵「俺が今まで見て来たラノベやネット小説みたいな事はねぇってことさ、不思議な力とかエグい魔法とか…」

女騎士「その…ラノベやネット小説っていうのは良くわからないが、その作品の中ではどんな書き方をされているんだ?」

雑兵「主人公は元の世界で死ぬかひょんな事からファンタジーの世界へ飛んで来た、その世界へ行ったら不思議な力とかエグい魔法がで初期設定で備わってましたとさ…的な?」

女騎士「ふーん、欲望を素直に表すのはいいことだと思うぞ」

雑兵「面倒クセェなぁ、兵隊辞めよっかな」

女騎士「何でそうなる、軍隊は頑張れば頑張る程上に上がれるぞ?」

雑兵「えー?無理だって、無理」

女騎士「大隊長だって最初は下っ端だったんだぞ?お前も努力すれば…」

雑兵「どっからそのやる気バロメータだせってんだよ、身寄りもねぇし目標もねぇのに」

勇者「うーん、じゃあ今からここで目標設定すれば?金貯めるとかなんかで賞取るとか」

雑兵「賞?しょうなら…」

女騎士「悪いが優秀賞はもう無理だぞ…分からないと思う新隊員

雑兵「面倒クセェなぁ、兵隊辞めよっかな」

女騎士「何でそうなる、軍隊は頑張れば頑張る程上に上がれるぞ?」

雑兵「えー?無理だって、無理」

女騎士「大隊長だって最初は下っ端だったんだぞ?お前も努力すれば…」

雑兵「どっからそのやる気バロメータだせってんだよ、身寄りもねぇし目標もねぇのに」

勇者「うーん、じゃあ今からここで目標設定すれば?金貯めるとかなんかで賞取るとか」

雑兵「賞?しょうなら…」

女騎士「悪いが優秀賞はもう無理だぞ…分からないと思うがな、新隊員の部隊の全てを指揮する総司令部も一応あるからな?そいつらの指揮系統を無視した動きをしたらな…」

勇者「大隊長も分かってると思うけどね、そこらへんは」

雑兵「やっぱ?」

勇者「やっぱ?ってあんた...」

雑兵「どうやって辞めようかなぁ~、何かいい手無い?」

女騎士「無いよ、観念して原隊へ帰れ...」

雑兵「うへぇ...」
_
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__
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隊長「クックックッ....」

兵長「…」プルプルッ...

上等兵「…ッブッ」

伍長「まぁ…これが独立大隊だな…ンフッ」

雑兵「分かってたんスか?…」

一等兵「わかるに決まっとるがな、新兵訓練でガチる奴なんか初めて見たわいや…」

雑兵「…ッ」

天使「ざ、雑兵…?」

雑兵「んほぉぉおぉぉ!!!恥ずかしいぃぃぃぃい?!」

隊長「んなぁっは!ぶふぅ!?」

上等兵「リアルな話…っぶふっ…優秀賞なんかもう最初から出来レースで決まってたんだよ…あの入隊式では端っこに変なの集まってただろ?あいつらは特殊な力を持っててな、魔法やらなんやらなんでもござれで…まぁ謂わば将来の幹部コースだな」

雑兵「やっぱりっすか…」

隊長「いやぁでも騎士団長の話聞いてて面白かったなぁ…勇者様を縛りあげようとするなんて…」

雑兵「んぬぅっ!(憤死)」

天使「もう…ホントにバカ…」

兵長「なかなか濃い教育期間だったなぁしかし…お前らうちに来れると思うが」

雑兵「え?他にもあるんすか?」

天使「独立大隊にも分派があるんですね…」

上等兵「あぁ、ここから東にあるフィッハー港の分屯地に独立大隊の分遣隊、南東の国境地帯にある街の駐屯地に分遣隊があるんだ、南東は人が充足してるから多分フィッハー分屯地かもな、行くとしたら」

雑兵「へぇ~初めて知りました」

天使「ここにいたいなぁ…」

隊長「まぁそこらは上の人事の気持ちひとつだからな、気持ちの準備はしとけや」

雑兵「じゃあ自分達は営内の後片付けしてきます、いくか」

天使「うん」

バタン...

隊長「…天使は間違いなくうちに来るだろうな」

兵長「はぁ、自分もそう思います、患者に対する対応が衛生隊の現役隊員よりも確実でした、上が移動させる訳が無いですよ…」

隊長「問題は雑兵だな」

上等兵「命令不履行、単独行動…上からの評価は正直…」

兵長「無茶苦茶言われてたよ、素行不良の烙印ときたらもう…」

一等兵「素行不良でしたら自分も異動っすかね」

隊長「大丈夫、まだ上にゃ燃料爆破したのバレてねぇからほっとけ」

隊長「両方手放したかぁねぇが…仕方ねぇな…焚きつけた俺にも責任がある」

兵長「ただの部隊配置としての異動なので文句も言えませんよ」

伍長「しかし最近のフィッハー港近辺の良い噂は聞きませんな、なんでも変な宗教が…」

兵長「あぁ、あの世界終末論がどうこうって言ってたブルジョワの?」

伍長「はい、まだ港には直接的な影響は無いですが、近辺の村や町には洗脳された住民が多数いるそうですよ」

隊長「過激じゃねぇと良いがなぁ」
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修了式当日…

女騎士「諸君、この一月半の新隊員訓練、誠にご苦労であった、実は国王も諸君らの訓練を陰から見ていたが…今年の新隊員は精鋭揃いと太鼓判を貰った、誇りを持って各部隊へ配置されたい!以上!」

「それでは、只今から配置部隊を達する!王国騎士団!…」

「ど、独立大隊…?天使!独立大隊 ビギニング駐屯地へ!」

天使「はい!」

「同じく 雑兵! 独立大隊分遣隊! フィッハー分屯地へ!」

雑兵「は、はい!!」


女騎士「…」

勇者「やっぱあいつ飛ばされるんだね」

女騎士「仕方ないよ、人事発令は上からの評価もある」

勇者「ま、良いけどね、あんな変態」

女騎士「しかしフィッハーか…今の情勢で…」

勇者「あぁ、あの世界終末なんたらの?…どうなんだろう、あの人達って」

女騎士「あぁ…何人か諜報員を送り込んでいるが、皆…」

勇者「結構ヤバ目なトコだね…でも分屯地だから大丈夫だと思うよ?」

女騎士「いや…あのバカなら風俗街に行くだろうなと思って…そこから問題が起こりそうだ」

勇者「あー多分行くね…」


雑兵「ッイックシ!」

隊長「まさか本当に行くとはなぁ…」

兵長「単独で行くことになるが大丈夫か?」

雑兵「馬車で一本なら多分平気だと思うんすけどねぇ」

上等兵「フィッハーの風俗街でハメ外しすぎるなよ?あそこマジでハマるから、な?一等兵」

一等兵「独立大隊でハマらん人はいないっすからねあそこ、ヘルスで我慢しとけよ」

雑兵「風俗街ってでかいんですか?」

伍長「うーん…大きさ的にはこっちとどっこいどっこいかなぁ…」

上等兵「ただ選べる種類が豊富なのはフィッハーだな」

一等兵「出発は明後日か?」

兵長「荷造りが早く済むんなら明日でもいいけどな、早く行ったらそこの部隊のことも早く知れるぞ?」

雑兵「そうっすね、荷物もそんなないんで明日でも良いっすかね?」

隊長「そんな早く出たいのか…なら一応フィッハー行きの馬車切符渡しとくぞ」

雑兵「ありがとうごさいます」


天使「…」

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雑兵「っしゃあこの生活も明日までだなぁ」

天使「…」

雑兵「……んだよ」

天使「あっさり行っちゃうんだね、と思ってさ」

雑兵「そりゃあ移動ならシャーないんじゃないのか?」

天使「でもさ…今までの思い出とか振り返らないのかなって…ずっと二人で頑張ってきたじゃん…」

雑兵「えー…そこ行くか天使…」

天使「だって…」

雑兵「…この異動の理由だって分かってんだよ、いろいろ好き勝手やったからな」

天使「だからってそんなあっさり…」

雑兵「仕方なかろうて、独立大隊だって厄介払いできてよかろうもん、天使だって俺と絡むよりももっと別の人間と絡んでだな…」

天使「うるさい!!バカ!!」

雑兵「うっおっと…ンダてめぇ…?」

天使「雑兵の中で僕は何だったのさ!ただの同期?!僕は違う!家族みたいなものだと思ってた!!」

雑兵「し、知らんがな、どう泣いても足掻いても異動するんだから…俺だって…寂しいけどもさぁ、考えちまったらなんか果てしなくね?」

天使「果てしなくても良いじゃん!もっと思い出とか噛み締めてよ!!僕との思い出とか!」

雑兵「…俺のこと好きなの?」

天使「家族としてだよ!!?」

雑兵「じゃあもっと知らんが、ん10年近くもまともに会話せずに金だけむしり取ってただけの仲だ、元の家族とはな、普通の家族なんか知らん」

天使「…サイッテー…」タタタッ...ガチャ!バタン!

雑兵「…あいつはロマンチストなんだな」
_
__

__
_
チュンチュン...
天使「ん…」

天使「…アレ…雑兵は…」
ガチャ
上等兵「うーっす、独立大隊点…呼?雑兵の奴は?」

兵長「あー雑兵は員数にはもういれなくていい、朝早くに出発したらしい」

天使「え…」

兵長「隊長叩き起こされて報告されたってよ」

上等兵「そんなにここ嫌だったのか?」

天使「…」

雑兵『考えちまったらなんか果てしなくね?』

天使「それはないと思います…」

上等兵「…?」

ガラガラガラガラガラ...

雑兵(おっそ)

馬主「フィッハー行きに兵隊さん乗せるなんて何年振りかねぇ、しかしこの時勢にフィッハー地方に行くなんざぁ運がないよアンちゃん」

雑兵「なんかあるんす?」

馬主「カルトだよ、カルト教団…フィッハー港と港町フィッハーにはまだ来ちゃいねぇが…フィッハー地方の町村は既に洗脳済みと来たもんだ…」

雑兵「カルトって、なんの宗教っすか?」

馬主「さぁてなんだったかなぁ…確か世界終末生存論とかなんとか…終末が近いから世界終末後の秩序の維持…だったかなぁ?」

雑兵「うっへぇ、終末なったら死にたいっすねぇ」

馬主「そうさねぇ、何でも町村民のあいだじゃ…世界終末に向けての間引きやら…訓練という名の弱者排除…所謂殺しでさぁね…」

雑兵「…」

馬主「兵隊さん、あんたが最後の客だね、あっしはこの運航を最後にフィッハー地方から離れるよ…馬車主達はみんなそうしてる…フィッハーの港町は孤立するけど」

そりゃそうだ、自分の命を投げ出してまで客を運ぶ人間なんか人として信用できない、自分を大切しない奴になんで人を大切にできるのか、つまりそういうことだ。カルトの名前は最終章 世界…なんとも厨房が考えそうな名前である、しかしこの最終章は中々に侮れない教団である、私設軍もあるとか。

雑兵「いいんだよ、おっちゃん…それで」

馬主「ん?なんか言ったかい?」

雑兵「どれくらいで着きそうっす?」

馬主「あと半日さね」

雑兵(長いわアホ)
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『フィッハー港 フィッハー分屯地について』

曹長「早かったな若造、独立大隊は俺とお前だけだぜ」

雑兵「え?じゃあずっと曹長一人で…?」

曹長「前任の一等兵が…本隊にいる奴じゃないぞ?そいつがトンズラこきやがってな、独立大隊ってんで補充兵の話も相手にされなかったもんだからよ、新隊員から一人貰ったってわけよ」

雑兵「そうなんすか」

曹長「んじゃあ軽く説明するわ、ここは知っての通りフィッハー分屯地…ビギニング駐屯地の分屯地って訳だ、部隊は警備隊と業務隊、分屯地業務隊と輸送業務隊とを兼任してる、以上」

雑兵「す、少なくないっすか?」

曹長「俺ら入れても15人くらいか?警備隊も一個小隊くらいだし、業務隊なんか片手で数えられるくらいだ」

雑兵「そんで…自分ら独立大隊は…その人らの雑務をと…」

曹長「表向きはそうだな…だが実際の所そいつらと同じ仕事してるな、警備業務に輸送業務…ん?まてよあいつらより仕事あるくね?」

雑兵「あ?気付きました?」

曹長「まぁ本隊よか仕事の幅はあらぁな、俺はここ気に入ってるし」

雑兵「へぇ、そういえば輸送業務の方は何をするんす?」

曹長「フィッハー港に陸軍の施設があるんだわ、クソ小さいとこだけどな、そこに文書届けたり荷物を届けるんだ」

雑兵「なかなか大変そうっすね」

曹長「慣れりゃ楽だぜ、仕事は明日からだ、今日は休みな」

雑兵「はい、ありがとうございます」
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雑兵「港町の地図の受領に参りました~」

事務員「あらぁ?!新しい子?んまぁ~なん年ぶりかしらね!」

雑兵「はぁ…?」

事務員「おばちゃんね、この分屯地ができてからずうっとここで働いてるのよ!駐屯地の時は若い子たくさんいたんだけどねぇ、分屯地になってからは、おじさんしか来なかったのよぉ!」

雑兵「そ、そうなんすね」

事務員「あ!ごめんね!?地図よね!はいどうぞ!」

雑兵「ありがとうございます」

ヤスイヨ-!!

雑兵(やっぱヨーロッパの港町って感じだな、ご丁寧にフォークリフトまでありやがるからファンタジーの世界観ねえけど)

雑兵「ここがメイン通りで…漁港の横が旅客ターミナルって感じか?」

「おう!?アンちゃん兵隊さんかい!?」

雑兵「うおっ…は、はい、昨日に移動して来ました」

「若い兵隊さんなんか久々だねぇ!ほれ!祝いに魚でも持ってけ!」

雑兵「うえっ!?こんなに!?いいんすか?!」

「いいってことよ!出世払いな!」

雑兵「あざっす!」

雑兵(大らかすぎんだろ…先に持って帰ろ…)

雑兵「ってことなんすけど…」

「んまぁ!こんなに沢山?!」

「やるわねぇあんた!」

糧食班長「いやぁありがたいなぁ!晩飯は魚の煮付けだな!」

雑兵「じゃ、じゃあ見回りに戻ります…」


雑兵(アットホームっちゃあアットホームなのか…)

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__

__
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雑兵「で…ここが噂の風俗街ですか」


『手コキのみ!30分一万G!』

雑兵(手コキだけで一万!?)

『異種族の子集まってます!』
雑兵「あっ…///ん?」
『(すごい小さい字)ドワーフ、オーク♀含む』

雑兵「なーるへそ…いつか世話になろっと」

「兵隊さん、見ない顔っすね?どうです?」

雑兵「うーん」チラッ
『ハズレなし!90分5000G!』

雑兵(この安さが逆に怖い…)

雑兵「今回は手持ちないんでいいっす…」

雑兵(しかし生臭せぇところだな、魚の匂いがヤベェわ…ん?)

「離してって!!」
「貴様!命の恩人に楯突く気か?!」
「襲われた村にハイエナしに来ただけじゃない!!」
「ストリッパーならタッチショーの1つや2つはできるだろう!!」
「好きでやってんじゃないわよ!」


雑兵「うへぇ…やっぱあるんだねぇそういうの…くわばらくわばら…」

「ッチィ!使えん女だ!!貴様はもう奴隷商に売りに出してやる!!外のカルトにでも売り払ってやるわ!」
「っ…!!あのカルトだけは…!!」
「両親を殺したカルトにケツでも振っておくんだな!この売女めが!!」

雑兵「…」

『恨むなら死んだ親を恨め、それが嫌なら誰も恨まずなにも考えず生きろ、身勝手に人恨んで迷惑かけんじゃねぇぞマジで』

『腐っているな、貴様は…』

『これだから独立大隊は…』


雑兵「…」

『ただ償いなんてことはしない、これは私の自己満足からくる行動だ、私たちが一端を作ったのなら私たちで収集をつけねばいけないんだ』

雑兵「カルトの蔓延も…俺らが発端なのかな…」

「こい!!オラァ!」

雑兵「うーっす、喧嘩っすか?」

「?!…なーんだ兵隊さんかい…いやねぇ?ちょーっと仕事のことで揉めてただけでして…な!」

「っ…」

雑兵「へぇー大変っすねぇオーナー側も色々あるっすもんねぇ」

「そ、そうなんでさぁ…へへっ…」

雑兵「で?その仕事の話の流れで…カルトに売り飛ばすってなぁどういう了見で言ったんだ?」

「いっ!いや!言葉の綾ってやつで…」

雑兵「話を聞くにゃぁ…カルトってぇのは国様に楯突いてる団体だよなぁ?そのカルトどもにこの娘っ子売り飛ばすってことは…お前国様に楯突いてんのか?」

「っいやぁ!そんな!!兵隊さんたちゃあいい客でさぁ!!」

雑兵「知らんわ初耳じゃ、てめぇがこの街にどれだけ居座ってたか知らんがよ、次その面ァ見せてみろ、守る体面もねぇ人間が何するか…おめーが一番よぉく知ってんだろぉ…」

「…っ!き、貴様!!」

雑兵「い、いや、殺しゃしねぇよ?流石に」

「今更日和っても遅いわ!!!こんの…!!」

雑兵「うひぃ!怖い!」バッ

「คลื่นกระแทก!!!」ッシュパァン!!

「っがぁ!!?!」ズゥン...

雑兵「うへぇ…?や、やるぅ…」

「あんた…この街から逃がしてくれるの…?」

雑兵「いや…逃げるか逃げないかはお前の自由だけど…」

「はぁ?助けてくれた訳じゃないの?」

雑兵「いや…おれ煽っただけだし…カルトがこの国に楯突いてるのもしらねぇ…し?」

「な、なによ…」ピョコ

雑兵「お前…俗にいうエルフってやつ…?」

エルフ「じゅ、純粋なエルフではないけど…人間とのハーフで、寿命は人間より」

雑兵「へぇ受け継いだのは耳と魔法だけか、まぁいいや、治安悪そうだしさっさと家に帰れよ」

エルフ「んあんた…話聞いてなかったの…?」

雑兵「あ、あんま」

エルフ「ほんっっと人間の男ってサイッテー…」

雑兵「いやそんなこと言われてもなぁ」

エルフ「は?なんか文句言える訳?」

雑兵「いや、だってさあ、なんらかの原因で帰る家が無くなったのとここに連れてこられた理由ってあんま関係なくないって思って…」

エルフ「…は?」

雑兵「は?」

エルフ「どう言う意味よ…それ!!」

「な、なんだ…?」

「痴話喧嘩か?」


雑兵「なんでここ来たかしらねぇけど、家が無くなったからここに連れてこられた訳じゃねぇんだろ?自分の意思で来たんなら最終的にゃ自分でなんとかしろよ、俺はお前に逃げるきっかけを与えただけだ。残るも逃げるもお前次第で、お前が今できるのはそれだけで、それ以外は何もないぞ」

雑兵「人のせいにするにゃ今は随分楽な身分だとは思うがよ、今はそれどころじゃないだろ?どうすんだ?」

エルフ「…げるわよ」

雑兵「ん?」

エルフ「逃げるに決まってるじゃないの…」

雑兵「よし、ついてこい」

_
__

__
_
エルフ「…あんた、兵隊なの?」

雑兵「あぁ、今年入隊したばっかだ」9

エルフ「兵隊、ね…人間の兵隊は嫌いだわ…小さい時からいい話を聞かないしね…侵略した村の略奪…女たちをレイプ…そればっかよ…」

雑兵「いや俺知らんし、モンスターの兵隊たちだって略奪もレイプもすっだろ、脳みそがある生き物はみんなそうなんじゃねぇかな、知らんけど」

エルフ「そう…なのかな」

雑兵「さぁ?ついたぞ、分屯地だ」

エルフ「ちょちょちょ…私は入っていいの?」

雑兵「いや、分からんす…」

事務員「あらぁおかえりなさい!街はどうだった?」

雑兵「あの~すいません…」

事務員「ん?…あらま…」

エルフ「…」

事務員「その格好…ううん、言わなくてもいいわ、こっちへ来なさいな、お着替えしましょ、ね?」

エルフ「え、でも…」チラ...

雑兵「その格好でうろつきたくないだろ」

エルフ「あ、あぁ…」

事務員「ささっ、奥の部屋へ…後で分屯地司令に報告しておくわ、明日くらいに呼び出しがあると思うから綺麗な服をね?」

雑兵「はい、ありがとうございます」

事務員「あらぁおかえりなさい!街はどうだった?」

雑兵「あの~すいません…」

事務員「ん?…あらま…」

エルフ「…」

事務員「その格好…ううん、言わなくてもいいわ、こっちへ来なさいな、お着替えしましょ、ね?」

エルフ「え、でも…」チラ...

雑兵「その格好でうろつきたくないだろ」

エルフ「あ、あぁ…」

事務員「ささっ、奥の部屋へ…後で分屯地司令に報告しておくわ、明日くらいに呼び出しがあると思うから綺麗な服をね?」

雑兵「はい、ありがとうございます」

雑兵「いやぁ…カルトってのも考えものだな…」
ガチャ
雑兵「戻りましたー…」

曹長「うーっす、聞いたぞ坊主、ハーフエルフの嬢ちゃんを助けたんだってなぁ」

雑兵「え、あぁ…助けたと言うか…」

曹長「あーあー細かぁことはいいんだ、お陰でストリップ劇場は暫く閉鎖だよ」

雑兵「す、すいません…」

曹長「いやいや、人助けて責めるバカなんかこの分屯地にゃいやしねぇよ、よくやったな」

雑兵「あ、ありがとうございます!」

曹長「お陰でビギニングの隊に話す内容が出来たぜ、新隊員のくせに体はりやがって」

雑兵「ははっ…まぁ…」

曹長「明日は町の軍施設を案内するからな、よく使うから場所は覚えとけ」

雑兵「はい」
_
__

__
_
隊長「はぁ、はぁそんなことが…いや私としても嬉しい話ですよ、はい、はいそれでは…」チン

兵長「どうかしたんですか?」

隊長「雑兵の奴が風俗街で絡まれてたエルフの娘さんを助けたそうだ」

兵長「マジっす?風俗街ってトコが気になりますが…やりますね」

隊長「分屯地司令直々に電話して来たからな、ここのお偉方にも話は行くだろうぜ」

兵長「まぁ…話が行ったところで、ですがね…」

隊長「いいんだよ、あいつが元気ならそれで」


天使「雑兵…すごいなあ…」

一等兵「雑兵が行く前にまーた喧嘩したんだってな?」

天使「は、はぁ…」

一等兵「あいつも不器用だからなぁ

一等兵「雑兵が行く前にまーた喧嘩したんだってな?」

天使「は、はぁ…」

一等兵「あいつ不器用だからなぁ、あっちでも変なことに首突っ込まなきゃいいが…今度こそは助けられんからなぁ…」

天使「はい…」

_
__

__
_
曹長「ここが港湾詰所、デケェ船の出入港時に割り当てられた人員でここの出入を監視するんだ、まぁあまり使わねぇな」

雑兵「この街デカいっすけど…この分屯地の人数で守ってるんすか?」

曹長「いんや、この港のすぐ下に南フィッハー地方との境界線があってな、その境界線の街にある駐屯地が有事の時は来てくれるんだ」

雑兵「へぇ」

曹長「ってもここ何年も来てねぇからな、実質俺らが治安維持してる感じだ」

雑兵「正直いっていいすか…」

曹長「言うな何も、俺も思ってはいるが治安がいいのが救いだ」

雑兵(そんな治安良い訳じゃねぇと思うけどなぁ…)

曹長「あのエルフの娘っ子さんの件で治安なんてどう見たって悪く見えるが…まだマシな方なんだよ」

雑兵「まぁマシってレベルが一番安定してるんすかね…」

曹長「そうさな、あんなエルフの娘っ子さんみたいな境遇の人間はこの町にゃ沢山いらぁ、正直ビギニングの貧民街よりも闇は深いぜ」

雑兵「まぁみんながそれで良いなら自分は特になにも…それよりもあのエルフは?」

曹長「いま面接を受けてるよ、もしかしたら昨今のカルトのパトロンかも知れねぇからな」

雑兵「ふーん…」

曹長「気になるか?」

雑兵「あー、あの若さで両親亡くしてこの先どうするんかなぁと思って…」

曹長「まぁ大体だったらエルフの国の団体さんが身柄を引き取りに来てくれるが…なんせハーフだとなぁ」

雑兵「魔法は使えてましたよ」

曹長「じゃあ…もしかしたらだがビギニング駐屯地にいる部隊に引き取られるかもな、混成騎士団とかに」

雑兵「そんなんあるんすか?」

曹長「まぁ異種族の集まりだわな、エルフは勿論…ドワーフや獣人やらなんやら…」

雑兵「うっへぇ、ごちゃ混ぜっすね」

曹長「知能がある種族が集められた騎士団だわ、王国騎士団と同じくらいの立場だぜ*

雑兵「まぁ安泰ならそれで良しっすね、自分は駐屯地の方には戻りたくないっすけど」

曹長「お?なんかやらかしたのかい?」

雑兵「やらかしたと言うか自爆したと言うか…とにかく自分は分屯地の規模が性に合ってるっすね」

曹長「若い兵隊が珍しいなぁ…まぁお前がそれでいいなら別にいいけど…そいじゃあ明日から早速仕事だ、これを港の事務所に届ける仕事な」

雑兵「

雑兵「さっきから気になってたリヤカーって荷物なんすね」

曹長「あぁ、港湾施設の小さい事務所でも軍人は軍人だってことで武器が入って来たんだ、それを明日届けに行く」

雑兵「港湾施設の人めっちゃ定年間際的な感じでしたけど」

曹長「籍がある以上は軍人だぜ、明日はこの仕事だけだ、ちゃっちゃと終わらせようや?」

雑兵「了解です」
_
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__
_
「はぁ、定年間際なんで持つことはないと思ってたんだがなぁ」

曹長「フィッハーものっぴきならん事態ですからな、ただの弱小宗教で終わってくれりゃ事も無し
なんですが、どうもそうしてくれんみたいで...」

「あぁいいんだよ、この組織に入ったからにゃぁな、それはそうと情報が入ったぜ」

曹長「情報?」

「あぁ、隣の大陸にある諸国連合のお偉方連中が、今月にもここに寄港する...ってのは建前で...
亡命してくるらしい」

曹長「亡命?また何で...」

「隣の大陸で国民が決起したらしい、理由は...まぁ連合をあげての賄賂や...」

曹長「はぁ~...それで関係ないウチまで巻き込まれたんですか?」

「まぁ仕方ねぇさ、確かに荷物は受け取った、ありがとよ」

曹長「うっす、情報提供感謝します、雑兵行くか」

雑兵「はい」

「頑張れよ若いの、分屯地は良いところだぜ」

雑兵「はぁ、ありがとうございます」
_
__

__
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曹長「本日の業務は終了ですっと、じゃあ俺ぁ家戻るわ」

雑兵「あ、家持ってるんすね、分屯地で寝泊まりしてるのかと…」

曹長「お前が配属されてきたからな、官舎暮らしの妻一人子一人…良い物件だ」

雑兵「ん?て事は自分あの部屋で一人なんす?」

曹長「独立大隊の営内者は一人だぜ?やったな」

雑兵「マジすかぁ、荷物妙に少ないと思ってたけど」

曹長「明日は分屯地の草刈り、開始時刻は0900、集合場所は隊舎の下以上解散」


雑兵「…何しよう」

雑兵「…あいつどうなってんだろ」

事務員「あら?今日はお仕事終わり?」

雑兵「はい、荷物届けるだけだったんで…あの、エルフの子は…」

事務員「あぁ、あの子?明日付でビギニングの混成騎士団に入隊するらしいわ…魔法使えるみたいだから苦労しなさそうね」

雑兵「そっすか」

事務員「でも寂しくなるわぁ…生きてたら娘くらいの年だもの、心配で心配で…」

雑兵「ん?事務員さん…ご家族は…」

事務員「…死んじゃったのよ、30年くらい前かしら、夫は行方不明…そのショックのせいか…流産しちゃって…双子だったんだけどね…」

雑兵「あ…そうなんすか…すみません…」

事務員「いや良いのよ、こうして若い子達に触れ合えて楽しいもの!」

事務員「あ、そうだ!会ってあげたら?今なら外来の隊舎にいると思うわ、入ってすぐ右に部屋があるから」

雑兵「は、はい、行ってみます」

_
__

__
_
エルフ「…」

『人のせいにするにゃ今は随分楽な身分だとは思うがよ、今はそれどころじゃないだろ?』

エルフ「人の…せいか」

コンコン

エルフ「…っ!ど、どうぞ」
ガチャ...
雑兵「う、うーっす…」

エルフ「あ…あなただったのね…」

雑兵「混成騎士団に入るんだって?良かったな」

エルフ「混成騎士団って良いところなの?」

雑兵「あ、ごめん知らないっす…」

エルフ「っはぁ~…適当な事ばっか言っちゃって…」

雑兵「まぁ…独りよかマシだと思うぜ?同族もいるみたいだしな」

エルフ「知ってる、私の知り合いも何人かいるわ、あ、でも口利きで入ったわけじゃないからね?」

雑兵「

雑兵「いや…別にお前がいいならどんな入り方でもいいと思うけど」

エルフ「…あなたって…思った事すぐ口に出すのね?」

雑兵「あ、ごめん…それで何回か同期怒らせたんだ」

エルフ「ほんとバカ…まぁいいわ…」

雑兵「…お前の家族ってみんな殺されたのか…?」

エルフ「…そうね、カルトの信者達に…みんな家に閉じ込められて…異端な民族は浄化とかって火を放った…直接は見てないけど生き残ってた子がそんなこと言ってたわ」

雑兵「そ、そうなのか、よく生きてたな…」

エルフ「丁度薪を山に取りに行ってたのよ、山から麓に村が見えるんだけど…そこで村が燃えてるのを見たわ」

エルフ「あいつら意味わかんない、村には普通の人間も暮らしてたのよ、私達異種族と呼ばれてる者たちが殺されるのはまぁ稀にあるけど、あいつら村ごとよ…ほんと意味わかんない…」

雑兵「…あのストリップのオーナーに拾われたのは…」

エルフ「…最初は良い人に見えたの、難民保護がどうこうと言ってたけど…女しか取らないのを早く気付くべきだった」

雑兵「そうか…まぁここいらじゃ嫌な思い出が多いと思うが…ホントに気にせず生きろ、気兼ねなくな…」

エルフ「気にせずに?気兼ねなく?あんた正気?そんな言葉よく出てくるわね…!」

雑兵「いや…辛いのは分かるがよ…その辛さに押し潰されちまったら…アレじゃねぇか、やるせねぇじゃん?」

エルフ「あ、あんた…はぁ、なんだかあんたと話してると落ち込むのもバカバカしくなってきた…」

雑兵「う、上手く言えねえけど…まぁ第二の人生もっと女の子らしく生きろ…いやなんか違うな…」

エルフ「なーに言葉取り繕おうとしてんのよバカ…あなたが心から心配してくれてることは分かったわ…ありがと…ホントに…」

雑兵「あ、あぁ、あっちでも元気でな、独立大隊をよろしく頼むよ」

エルフ「独立大隊?」

雑兵「雑用しかしない部隊だけどさ、いい人たちたくさんいっから、俺の同期もいるぜ?めっちゃ治療とかがうまいらしい」

エルフ「うん…あっち行ったら挨拶するわよ、あんたの事も話す」

雑兵「い、いや俺のことはいいよ…」

エルフ「あら何照れてるの?恩人だもの、上司の株上げたいでしょ?」

雑兵「ほ、ホントにいいから…褒められるのとかあんま慣れてねぇんだ…チャランポランに生きてきたから…」

エルフ「…」

エルフ「!」💡

エルフ「雑兵、こっち座って」

雑兵「?」スポン

エルフ「褒められるときにお母さんによくやって貰った

エルフ「雑兵、こっち座って」

雑兵「?」スポン

エルフ「はーい体の力を抜いて~」
ッス...

雑兵「!ひ、膝枕?」

エルフ「いい事したときに、よくお母さんにやって貰ったの…私の一番好きな褒められ方」ナデナデ

雑兵「…」

エルフ「あなた、多分私と歳近いのになんで兵隊に…?」ナデナデ

雑兵「…お、俺…入隊前は浮浪者でさ…いつの間にかこの国に来ちまって…こんな事言って信じてもらえるか分かんねぇけどよ…俺転生したんだ、別の世界から…」

エルフ「別の世界?」

雑兵「あぁ…暑い中でぶっ倒れてそのまま死んだと思ったら…ビギニングの王国の近くにある森で目覚めて…」

エルフ「…それが本当なら…あなたは何もわからない状態でここまで頑張ったのね…偉いね…」ナデナデ 

雑兵「ちょちょちょ、ナデナデはやめてくれ…なんか変な気分になっちまう…」

エルフ「…んふっ…変態」

雑兵「くっそ…からかうな…」

エルフ「じゃあおしまーい」

雑兵「ったっく…///なんて奴だ…」

エルフ「雑兵、また会おうね…」

雑兵「え?今日出るのか?」

エルフ「早めに出ようかと思って準備してたんだけど…事務員の人に雑兵が来るまでは待ちなさいって…でも待ってて正解だったかも…なんかスッキリした」9

雑兵「そ、そうか…待たせちまってすまねぇ…」

エルフ「いいのよ…付き合い短かったけどホントに楽しかったわ」

雑兵「あぁ、俺も」

エルフ「…次会うときは綺麗な鎧着て来るから、見惚れないでよ?」

雑兵「ワカンねぇ、四方八方に目ぇいくから」

エルフ「この節操なし…じゃ、また…」

雑兵「あぁ」
_
__

__
_

事務員「行っちゃったのね…」

雑兵「はい…」

事務員「仕方ないわね…あの子とても苦労したみたいだから、騎士団にはいれば将来安泰だから良かったのよ」

雑兵「俺もそう思います、独りよかナンぼかいい…ん?」


「おい、例の

__
_

事務員「行っちゃったのね…」

雑兵「はい…」

事務員「仕方ないわね…あの子とても苦労したみたいだから、騎士団にはいれば将来安泰だから良かったのよ」

雑兵「俺もそう思います、独りよかナンぼかいい…ん?」


「おい、例の亡命船、今週末に来るってよ」

「マジ?やべなんの準備もしてねぇや」

「王国からも直々に儀仗隊やらなんやらが来るらしい、天幕貼る部隊や風呂焚きに来る部隊まで…分屯地じゃまかなえんぞ」

雑兵「船が来るってぇことは…自分も出る感じですね」

事務員「あらー船が来るなんて久しぶりねえ、外来足りるかしら…じゃあちょっと情報収集行って来るからまたね」

雑兵「あ、はい」

_
__

__
_
雑兵「ヒッマだな営内ってのはよ…」

雑兵「テレビもねぇしゲームもねぇし…この世界来て初めて後悔してんぞ…」

雑兵「…そいえば俺今幾らぐらい貯金あるんだ…?」

雑兵「ずっと駐屯地の中にいたから分かんなかった…ヤベェ、ATMとかあんのかこの世界…」

雑兵「き、聞いてみりゅぅ?」

厚生館
小さいながら売店や体育館がある場所だ、中には軍が経営してる銀行的なのもあって金利もかなりいいと専らの噂だ

雑兵「自分の給料って…」

「ちょっと待っててねぇ…でもダメだよ君、金銭関係のことはちゃんと自分で掌握しとかないと、教育隊の人言ってくんなかった?」

雑兵「あー…あんま聞いてなかったかも…」

「全く…雑兵…っと…うっわ、手付かず過ぎて教えるの憚られるわぁ」

雑兵「お、教えて下さいよぉ…駐屯地じゃほぼ缶詰だったんすから…」

「仕方ないなぁ…一月半だけど、実質二ヶ月分の給金で…知らないだろうけど入隊俸給もあるから…84万Gだね」

雑兵「84万…?」

「んでぇ…明日は何日だ」

雑兵「えーっと…18日?」

「そう、給料日で手取り16万…」

雑兵「リ、リアルっすか?」

「一般の新隊員にしちゃ持ってる方じゃないの?」

「使いすぎんなよ」

雑兵「あざっす」

_
__

__
_
雑兵「つっても美味い飯屋とかしらんなぁ...お、分屯地掲示板になんかはってある」


『今週遂に来航!プラニス皇国の御召艦『砲艦ニクルス』
来航にあたり我が国とプラニス皇国軍の市中パレードを行います
ぜひご覧下さい!』

雑兵「へえ、大変じゃないの」


「おかしいな、昨年来航したから2年後に来るもんかと思ってたが」

「なんでも皇国内で決起が起きたってよ、殿下と御付はなんとか亡命したらしいが...
皇帝は自決したってよ」

「亡命ねぇ...しかし決起で大変だってのになんて時期に来航すんのかね」

「さあね」


雑兵(ふ~ん...この世界ってなかなか血気盛んなんだな)
_
__

__
_
「しかしいきなりのパレードですからね、課業外も練習をしないと無理ですよ、
新隊員もいますし」

勇者「しかしなーんでこんな早くに来航しちゃったのかなぁ面倒くさい」

女騎士「あっちも大変なんだよ、きっと」

「では明後日フィッハーに出発で調整します、失礼しました」
バタン

女騎士「...たぶんだが...」

勇者「殿下来るね」

女騎士「あちらの国に恩はない、匿う必要もないだろう」

勇者「そうだね、まだ小さい子だけど...」

女騎士「...」

勇者「…割り切れないのは分かるけどさ」

女騎士「いや…雑兵の奴、こんな時はどうするんだろうなとふと思ってな…」

勇者「ぞ、雑兵?なんで今?」

女騎士「分からん…本当にふと思ってな、深くは考えてないんだ」

勇者「雑兵ねぇ…どうするんだろうね、雑兵も見捨てるんじゃない?縁起もへったくれも無さそうだし」

女騎士「そうか、そう思うか…」
コンコン「騎士団長殿、今よろしいですか?」

女騎士「いいぞ」

「失礼します、実は昨日混成騎士団に入隊したエルフの娘が…」

女騎士「ああ、彼女か、どうしたんだ?」

「フィッハー分屯地に異動したいと…」

女騎士「フ、フィッハー??何でだ?」

「何でも恩人がいるとか…」

女騎士「しかしそれは幾ら何でもな…騎士団は都にいなければ…」

「騎士団長殿から説得していただけませんか…?」

勇者「恩人ねぇ~、話聞くだけなら聞いても良いんじゃない?」

女騎士「そうだね…その恩人とやらも気になる、よし、連れてきてくれ」

「ありがとうございます…」

エルフ「失礼します」

女騎士「あぁ、君がフィッハーから来たエルフ君か」

エルフ「はい、初めまして騎士団長」

女騎士「積もる話もない...率直に聞こうか、なぜフィッハーに?」

エルフ「恩人に会いたいし、助けになりたいからです」

女騎士「助け...とは?」

エルフ「はい、彼はこの世界にきてまだ間もない...と言っていました、普通だったら意味が分からない話なんですが、
彼の日常にたいする不安が手に取るようにわかり、助けになれるのは私以外にいないと思いました」

女騎士「...はあ、やっぱり雑兵か」

エルフ「...っ、なぜ騎士団長が...?」

女騎士「そんなことはどうでもいい、君は立場というものを理解すべきだな、栄えある混成騎士団の団員とはいえ、訓練も
受けていない君ははっきり言って新兵以下だ、わかるね?」

エルフ「...」

女騎士「厳しいことを言うが...ここは軍隊だ、君の思い通りにはいかないこともある、特に初めのころはね...今はこらえてくれるか?」

エルフ「...はい、失礼しました」

女騎士「うん、先輩たちに謝っておくようにね、いきなり異動したいって言ってとても心配していたぞ」

エルフ「はい...」
バタン

勇者「こっわ~」

女騎士「言わないで...はあ...雑兵ってホント不思議な奴...」

勇者「エルフの心情把握の結果見てみたけど、ストリッパーだったんだね」

女騎士「そんなこと関係ないさ、彼女も彼女なりに頑張って生きていたんだから」

勇者「いや、そうじゃなくて、雑兵ってそういう街に行ったってことだよね?」

女騎士「...彼のプライベートも尊重するべきだよ」

勇者「はぁい...」

勇者(フィッハーについたら弄り倒そっと♪)

_
__

__
_
雑兵「曹長、プラニスの船が来たら自分は何をするんですか?」

曹長「いつも通りの業務だよ、寄港日は週末なので週末の業務」

雑兵「つまり軍の事務所に荷物届けて、街の見回りっすね...詰所とかには行かなくていいんですか?」

曹長「あぁ、今回のはちょいとイレギュラーだな、ビギニングの大層な連中がくるだろ?そいつらについてくる木っ端部隊らが見てくれるってさ」

雑兵「分屯地は特になんもないんすねぇ」

曹長「そうでもないぜ?騎士団の連中がくるってんで分屯地の偉い奴らはりきってら」

雑兵「でもそうなったら今週末の休みが潰れそうで怖いっすよ」

曹長「我慢しろい、兵隊だろ」

「曹長、分屯地指令がお呼びです、今週末の件で...」

曹長「え?まさか俺らも出んの?」

「いやぁそういうことじゃなさそうっすよ、独立大隊が何人か来るってんで...」

曹長「あぁ、喫食と外出の件か行く行く」

「あざっす、そいやぁ雑兵君はなんかあんの?」

雑兵「自分はいつも通りの業務です、週末が潰れないか心配っすよ」

「はっは、地区警備隊は休み潰れそうだよ、代休付くけど」

雑兵「殿下とかくるんですよね?どんな人なんすかね」

「あぁ、子供だってよ、小さいながらに波乱な人生だよ、国が国民によって滅ぼされるって」

雑兵「へぇ、大事ないといいっすね」

「いや...もう結構な大事だと思うけど...」
_
__

__
_
「殿下、お気をつけて...」

「この港は我々で抑えます、事態の収拾が着くまでどうか息災で...」

殿下「...みんな、危なくなったら迷わずに逃げてくれ、僕との約束だ」

「大丈夫ですよ殿下、皇国騎士団が指揮をとって下さるんですよ、港湾守備隊は安泰でさぁ」

殿下「...」

「船が出ます、危険が及ばない内に...」

殿下「...」

事態が収拾するというは、この兵隊達はみな...
もうこの国の皇帝は、お父様はいない、お母様も...
大切な人たちは、みな民衆に殺された、お父様が愛していた民衆に...

殿下「...ッ」ギリッ

殿下「殺してやる...あの家畜ども...」

_
__

__
_

曹長「おお、来やがったか」

兵長「久しぶりです班長、俺が入隊した時に教育して下さった班長だ」

天使「は、初めまして!」

曹長「...なぁ」

上等兵「男っすよ」

曹長「し、知ってらぁ、伍長と一等兵はどうした?」

兵長「次の馬車できますよ、曹長がいるんすから、あいつらが来ないわけが無いっすよ」

曹長「っへ、問題児共が来るのか、外禁だな」

兵長「そう言えば...雑兵は?」

曹長「あぁ、あいつなら港の事務所にいるぜ、荷物届けに行ってると思うが...多分端末地の人とだべってるんじゃねかな」

上等兵「ぶ、分屯地に染まってますねぇ」

曹長「いいことだぜ、じゃぁ、お待ちかね...これがお前らの外出証な」

伍長「いっただきまーっす!」

一等兵「ごちっす!!」

曹長「うわあ!ビビったぁ!!」

兵長「おいおい...そういえば曹長、自分ら呼ばれたんすけど何すりゃいいんすか?」

曹長「騎士団の雑務だろ、詳しくは団長に聞いてくれ」

兵長「あ、あぁ...あの人っすか...」

曹長「まぁ言いたいこたぁわかるけども」

上等兵「雑兵の件で結構騎士団から目ぇ付けられましたからねぇ」

曹長「っはは、雑兵が帰ってきたら弄り倒してやれ」
_
__

__
_
雑兵「人多いっすよ外」

「そりゃぁねぇ、一国の殿下が来るんだよ?出店や観光客であふれるさ」

雑兵「見回り行きたくないっすよ」

「仕事しなさい仕事を」

雑兵「はーい...」
バタンッ

雑兵「出店出てんなぁ...寄港前日だってのに」

「お!独立の兵隊さんじゃないの!今日も暇そうだね」

雑兵「うっす、魚屋のおっちゃん、儲かってる?」

「ぜーんぜん、出店とウチじゃぜんぜん違うからねぇ、そういえば首都の兵隊さん達みんな来てたよ、騎士団もね」

雑兵「き、騎士団もっすか...」

「綺麗さん揃いだねぇ騎士団って、おっと客だ、じゃあな」

雑兵「はい、お疲れっす」

雑兵(やっぱ騎士団くんのね...)

雑兵「まぁ相手にされないか、大丈夫だな」

雑兵「えーと...街を見回って事務所の火気点検...今回は港の見回りか、今日は遅くなりそうだな」

街の見回り、独立大隊分遣隊の恒常業務の一つで、毎日行っている、しかし週末は特別で港湾施設にある事務所の課業終了後の火気点検も
含まれている、しかし暗黙のルールで荷物を届けに行く際にこっそり印鑑を押している。
しかし独立大隊の火気点検簿を見る人は全くおらず、記入用紙がいっぱいになったら焼却処分している、こればかりは必要性が感じられない。

雑兵「やだなぁ、今日は何もないといいな...」


「てめぇからぶつかってきたんだろうが!!」

「だから謝ってんだろうがよ!!」


雑兵「はぁ、やれやれ」ソソクサ
「あ!独立の兄ちゃんじゃん!助けてよぉウチの店の前でやられちゃ困るんだ!」

雑兵「うへぇマジっすか...しゃあないっすね」

_
__

__
_
雑兵「うっわぁもう12時やんけ...観光客喧嘩起こしすぎやが...」

ガラの悪い街に祭り事があるといつもこうで、似た者同士しか集まらないのがこの町の欠点だ、国の大事な祭事なら何とかしてでも治安を
良くして欲しいものだ、いや待て、その仕事今の俺らに振られそうだから言うのやめよ。

雑兵「戸締りよし...ん?」

「ウィック...」

雑兵「雑貨屋のおじちゃん...どうしたのこんな所で」

「あ~?お、いつものアンちゃんじゃないの...いやぁ...家内に逃げられてねぇ...」

雑兵「なんでです、仲良かったじゃぁないですか」

「いやぁ...近頃さぁ周りの村々に変な宗教出来たっていうじゃん、ずっとねぇ首都に移ろうって家内に言われたんだけど...
金なんかないしさぁ...無理なわけじゃんン?」

雑兵「...」

「それで俺っち喧嘩しちゃって...まあ見限られたわけよ、酒癖も悪かったのもあってかなぁ」

雑兵「あぁ...」

「それで...まぁ死のうかなって...水漬かって」

雑兵「何を言いよるんですか!死んじまったら元も子もないでしょうが!」

「そうだけどさぁ...」

雑兵「死ぬ言うてもおじちゃん、まだ仲直りもしてないのに死んじまったら奥さん悲しむよきっと」

「そんなこと...?なぁアンちゃん、寄港って...明日の予定だよな?」

雑兵「えぇ...明日の予定なんですけど...」


ッボーッッ!!!

雑兵「う、うるせぇ...!じいちゃん、ちょっともう帰ってくんない?」

「あ、あぁ、そうするわ...」
_
__

__
_
「殿下、小型艇の用意が出来ました」

殿下「ありがとう、君は...」

「ボイラーの機関が冷えるまで上陸は控えます...正直この船員はまだ信用なりません...」

殿下「...分かった」

「お気をつけて...」

殿下「...」
ッポンッポンッポン...

「いやぁ殿下もお大変でしたなぁ、ささっエンジンは温まっていますから...」

殿下「ありがとう」

(ッチ、イケすかねえガキだ...本船の奴らも上手くやってくれると良いが...)

「皇帝も皇后も亡くなられちまってどうなるんですかねぇあの国は、まぁ尤も俺ら水夫にゃ国なんて関係ない話ですがね」

殿下「そう...」

「...」

(ッチ、顔だけはいっちょ前に皇后に似てらぁ、売り飛ばしゃいい値段するだろうになぁ勿体ねえ...まぁいい、桟橋に着いたら後ろからグサリだ
、そうすりゃあの皇国は完ぺきに滅亡だぜ)

「着きましたよ、ビギニング王国です...殿下」

殿下「...ありがとう、この純金のブレスレットしかないけど...売れば高くなる、受け取ってください
ここにはいないと思うけど、反乱軍のスパイに見つかればただじゃすみません...あなたも早く逃げてください」

「...あ、ど、どうも...」

(ん、んだよ...まぁいい、さっさと上陸してくれや...)

殿下「ここが...」

「殿下、すみませんが...!?」

雑兵「あ、あんたら何しとるんだ」

殿下「っき、君は何者だ...!」

雑兵「こっちのセリフだクソガキがぁ、おめえがだれか知らんが...寄港届けだしてんだろうな?おい水夫、どういうことだ
つーかそのナイフ仕舞えおい、怖いです」

「...ッ!」

雑兵「明日...ても日付跨いだから今日だな、隣の国さんの船が来る予定なんだよ、殿下かなんかを乗せてな、
で、ここに来る船はなんもこねえはずだ...じゃぁお前らはなんだ?」

殿下「ぼ、僕は...」

「ええい!クソッタレ!」

雑兵「うおっ!ナイフ仕舞えって言ったじゃん!!」シャキンッ

「お、お前何なんだよ!殿下の家臣か?!」

雑兵「あぁ?!殿下だか家電だか知らんがなぁ!こっちゃぁ遅くまで仕事してんだよ!それに付随してお前らの狼藉!許せんぞ!!」

殿下「...」

雑兵「こい坊主...坊主だよね?」

殿下「んな?!っこ、この無礼者!!」

「てめぇ!そのガキを俺に渡せ!」

雑兵「え?な、なんで?」

「い、いや...お、お守り...する義務的な...」

雑兵「...そのナイフただ事じゃなさそうだな、この子は渡せねえ、今すぐその面を...」

ッチュッドーーーン!!!!!!

雑兵「うっわ、沖の船が...」

殿下「っあ...あぁ...!」


『お気をつけて...』

『事態の収拾が着くまでどうかご息災に...』


殿下「み、みんな...そんな...」

「な、なんで爆発が...家臣殺しゃいい話だったんじゃ...?!」

雑兵「...」ッドスッ!!

「ウッ...」

雑兵(やべぇ、この子供殿下説が)

殿下「ッウ...ヒッグ...」

雑兵「...い、いきましゅかなぁ...ッ」ガシッ

殿下「...僕を...匿ってくれ」

雑兵「離してくれ、面倒事は嫌だ...見回りは異状なく終わったって言いたいんだ」

殿下「もう無理だよ...それともさっきまでの発言...」

雑兵「お宿はどちらにしますか?」

殿下「見たところ君は...この国の兵隊だね?」

雑兵「ん、んだよ...」

殿下「この町に駐屯地か何かがあるはず、そこへ連れてって」

雑兵「はぁ...分かったよ、今は騎士団なりなんなりが来てる、話しゃ分かるはずだ」

殿下「ありがとう」

雑兵(どうしよ...子供だしなぁ...うーん放っておいたらあれだしなぁ)

殿下「...」

雑兵「ちょっとこの事務所に入っててくれ、もうじき人が来始める」

殿下「ありがとう...」

雑兵「会えるか分らんが...騎士団長に話してみる、電気はつけないでくれ、温かいもんしかねえがなんか飲みたかったらそこの
薪をくべて...ねぇ、沸かし方...」

殿下「...え、えーと」

雑兵「ちょ、ちょっと沸かしちゃおっかなぁ...俺もコーヒー飲みたいし...はは...」

殿下「...ごめん...」

雑兵「いいんだよ、俺だって最初は分かんなかった、火つけるなんてコンロでしかなかったしな...」

殿下「コンロ...?」

雑兵「いや、こっちの話...いいか、薪はこう井の字に組んでだな...」

殿下「井の字...?」

雑兵「あ、こういう感じに組んだら火が上手く着くんだ、空気の流れができるからな、どこでも使えるテクだよ」

殿下「す、すごい...」

雑兵「で、木屑と多少の薪を置いて、この火打石で...」

ガチャ

「あれ、鍵が...あれ?雑兵君?」

雑兵「あ、どうも...ちょっと...個々の事務所の人だ、大丈夫」

殿下「...ッ」コソッ

「...なるほど、港の件の...雑兵、君はどうしたい?」

雑兵「じ、自分はっすか...?いやどうしたいっても自分ができることなんて無いっす...」

「そうかな...その子が今一番信用できる人間は今の時点じゃ君しかいない、そうですね?ニプラス皇国殿下」

殿下「...」

「わかるだろう、そのお方は殿下...君が動かないとどうしようもないんだ」

雑兵「...分かりましたよ...出来るこたぁやりますよ...でも」

「わかっている、初年兵に多くは求めないよ、これでも俺は中尉だ、何かあれば頼ってくれ」

雑兵「うっす、やってみますよ...殿下、見つかっちまった、もう分屯地に行こう」

殿下「う、うん...」

「い、一応敬語はつかってな?」

雑兵「あ、すいません」
_
__

__
_
曹長「はい、はい...分かりました、ありがとうございます」

兵長「雑兵は...」

曹長「うーん、いねえなぁ、風俗街は粗方電話したんだが...」

上等兵「風俗街にゃいねえでしょ...」

曹長「...沖合で起きた爆発事故と関係は...いやまさか...」

兵長「...」


雑兵「う、うっす~...」

曹長「おうコラ?!連絡もなしに風俗通いたぁ...ってわけでも無さそうだな」

殿下「...」

上等兵「よう、久しぶりだな」

雑兵「うおっ、上等兵さん」

殿下「ぞ、雑兵、この人達は...」

雑兵「大丈夫っすよ殿下、自分の上司っす」

兵長「でででで、殿下ぁ?」

雑兵「あ」

上等兵「ほんっとこいつだきゃあ次から次へと...」

雑兵「さぁて...どうしましょうかね」

曹長「っははは...どうしよ」

雑兵「なんかアイデアある?」

殿下「え...うーん...」

雑兵「...騎士団に売り渡しちまうか」

殿下「う、売り?!」

曹長「アホ...でもまぁ...なんとかしてくれる気がするな」

雑兵「じゃ、じゃぁ騎士団へは願います...」

殿下「え...ぞ、雑兵は...」

兵長「お前が行くんだよ、殿下直々に雑兵雑兵言われてんだぜ?一番信頼されてるお前がついて行ってやれなくてどうすんだ」

雑兵「クーン...」

殿下「だ、大丈夫だよ雑兵...ここはいい国だし...それに...」

雑兵「...わあったよ、行くぞ...乗りかかった船だ、とことんまで行くぞ」

殿下「雑兵...!」

雑兵「騎士団はどこです?」

兵長「あぁ、分屯地の外来で寝てる、騎士団長は外来の貴賓宿だ」

雑兵「あぁあのデカいとこっすか?了解っす、行くか」

殿下「うん」


曹長「あいつ...変なところでリミッター外れるな」

兵長「そういう奴なんすよ」
_
__

__
_
女騎士「先ほどの爆発は?」

「は、はぁ...先ほど使いを出したのですが...」

勇者「もう、今日の昼にはニプラス皇国の船が来るのになぁ」

女騎士「そういえば、殿下と知った仲だったな」

勇者「深くまでは知らないけどね...でも元気にしてっかな~殿下」

「き、騎士団長...ちょっと...」

女騎士「?」

「えー...ちょ、入ってくるな!まだアポは...」

雑兵「うるせえぞ、このお方をどなたと心得るかこの無礼者め、うし、行くぞ、もう大丈夫だ」

殿下「う、うん...」

「お、お前も相当無礼だぞ...」

女騎士「ぞ、雑兵?」

雑兵「おう、わざわざ儀仗にご苦労さん...殿下」

殿下「初めまして、ニプラス皇国の殿下です...久しぶりです、勇者様」

勇者「殿下?!うそ?マジで?!」

女騎士「...雑兵、そこに座れ」

雑兵「ははぁ...(マジメ君)」

女騎士「す わ れ」

雑兵「...」

勇者「皇帝は...」

殿下「父も母も亡くなりました...宮廷になだれ込んだ民衆によって...」

勇者「うっそ...なんで...?」

女騎士「殿下、遠路はるばるお疲れ様です...しかし殿下の国内の情勢は...」

殿下「はい...」

雑兵「...」

雑兵(へぇこの子、結構苦労したんだな)

女騎士「で...雑兵、殿下とどういった関係で?」

雑兵「え?いや~港で...そのー...」

女騎士「今回ばかりは冗談では済まされんぞ...国家間の重大な事態に関与している自覚はあるのか?」

雑兵「勘弁して下さいよ、自分だって関与したくてした訳じゃ...」

殿下「ご、ごめん...」

雑兵「い、いや、いいんだよ、そっちの話はすんだのか?」

殿下「いや...まだ...」

雑兵「自分の考え言えばいいんだからな、大丈夫だ」

女騎士「...」 ッバン!!

雑兵「...ッ」

女騎士「冗談で済まされないといっただろう?それに君の殿下に対する態度...どういうつもりだ?もう一度聞くぞ...
貴様はなぜ殿下と一緒にいる?」

雑兵「...港の見回りをしててな、したら桟橋にこいつと水夫がいてな...水夫については知らねえ、こいつに聞けや」

女騎士「...殿下、本当ですか?」

殿下「はい、恐らく...あの水夫に自分は殺されそうになっていたのを彼に助けられました」

勇者「あんた...やるじゃない」

雑兵「...」

女騎士「...そうか、ご苦労だった。もう戻ってもいいぞ」

雑兵「はぁ、了解です」

殿下「ぞ、雑兵...?」

雑兵「もとから自分とあんたは...まぁ月と鼈の存在っすからね、この先の話をするんなら似た者階級の方ががいいだろう」

殿下「でも...まだお礼も」

雑兵「んなこたあどうでもいい、今は自分の置かれる立場ってのを確立させろ、いつまでも宙ぶらりんな立場だと困るのは
自分だ...俺も半年前まではそうだったからな」

女騎士「...はぁ、雑兵、もう少しここにいてくれ...殿下もその方が安心でしょう?」

雑兵「はぁ?何でです、もういいでヒデブ

女騎士「こ こ に い ろ」

勇者「こう見えて結構お姉ちゃん切れてるからね?」

雑兵「いや手に取るように分かるっす」

殿下「こんなことを言うのも烏滸がましい話ですが...国の事態が収拾するまで僕を匿って欲しいのです」

女騎士「か、匿って欲しい...ですか?」

殿下「はい」

勇者「そういう事は国王にだねぇ...そう思うだろ?」

雑兵「そ、そうっすねぇ」

勇者「なんで分かってて連れてきたの」

雑兵「いや、面倒にならないかなあって思って」

勇者「あんたねぇ...」

女騎士「...殿下、殿下は我々と共に首都に来てもらいます、出発は明後日、それまではどうぞ休息なさって下さい」

殿下「ありがとうございます」

女騎士「君、殿下をご案内してくれ」

「っは、かしこまりました、殿下、こちらへどうぞ」

殿下「...」チラッ

雑兵「後で顔だすから安心しろ」

女騎士「...はぁ、困るな、ホント...」

雑兵「すいません...なんか見捨てておけなくて...」

女騎士「エルフの子の時もそんな感じだったんだろう?」

雑兵「知ってるんすか?」

女騎士「何回か話したことがある、いい子だったよ」

雑兵「へぇ」

勇者「出発明後日って言ってたけどあたしたちはどうすんの?」

女騎士「っふ、休息だ」
_
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__
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「いきなし休みって言われてもなぁ...」

「寄港がいきなり取り消しって何だよなぁ、首都くんだりまで来た意味がないぜ」


雑兵「...」

天使「ひ、久しぶり...」

雑兵「お、おう...来てたんだな」

天使「うん...話聞いたよ、あんま大きな声でいっちゃいけない話だから言わないけど」

雑兵「偶然だから別に...」

天使「...あの、異動前の件...」

雑兵「あ、あぁ、どうしたの」

天使「その...いきなり怒ってごめん...」

雑兵「あぁ、別に...誰も悪いわけじゃねえし...気にしなくて良いんじゃね?」

天使「う、うん」

雑兵「今日どうすんの?風俗?」

天使「い、行かないよ!伍長さんたちは行っちゃったけど...」

雑兵「勿体ねぇ、一度は行ったほうがいいぜ?」

天使「雑兵は行ったの?」

雑兵「実は行ったことはない、看板とかは見るけど、なんか怖いんだよ」

天使「行ってないんじゃん...」

雑兵「でもストリップは良いぜ?綺麗な姉ちゃんが踊ってんだけどなかなかどうして...」

勇者「へ ん た い ♡」

雑兵「うっわぁ!!!耳くすぐった?!」

勇者「なーに話してんのよ公衆の面前で」

雑兵「公衆の面前でいきなし耳元で話しかけんなマジで、ちょ、ちょっとヤバかったぞ」

天使「ゆ、勇者様!お疲れ様です!」

勇者「おっす~、ねぇ雑兵?ストリップって何?」

雑兵「え?知ってて俺に変態って言ったんじゃないのかよ」

勇者「いや、あんたはどうあがいても変態でしょじゃなきゃここに飛ばされないわよ」

雑兵「ンヌウ(即死)」

勇者「ねぇ連れてってよ?ストリップ」

雑兵「お、お前まだ子供だろ...いや、待て...」

勇者「?」

天使「ど、どうしたの?」

雑兵「おれ...そういやぁまだ未成年だった」

勇者「え?」

雑兵「俺まだギリ17歳やった...うわすっごビビったわなんか...」

天使「え...ちょっと待ってよ、僕18なんだけど」

雑兵「あ、お、お疲れ様です」

勇者「あんたって...」
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__

__
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雑兵「俺のプライベート干渉して楽しいのか…」

勇者「あら、いいじゃない?一度こういうトコ行って見たかったんだよねぇ」

雑兵「旅してりゃ嫌でも目につくだろ、パーティーの仲間はそういうトコいかねぇのか?」

勇者「な、仲間がどうこうなんて別にどうでもいいじゃないそんなコト...」

雑兵「...なぁ、もしかしてだけど」

勇者「は?」

雑兵「何でもない」

雑兵(まさかのボッチ旅だったのか...)

雑兵(辛くなかったのかな、いや、でもこの反応から察するに...)

雑兵「まぁDQ1の勇者もボッチ旅だったからな」

勇者「は、はぁ...?な、なんですって...?」プルプル...
 
雑兵「しかしよく考えるとお前凄いな、一人で旅して魔王倒したんだろ?ぼっちとか辛くなかったの?」

勇者「ぼっちぼっちいうなぁ!!僕だって...っ!仲間とか欲しかったんだよ!!」


「ストリップ劇場の前で喧嘩してるぞ!」

「兄妹か?」

雑兵「そ、そんな大声出すなって...ごめんって早く劇場入ろ?ね?ね?」

勇者「うるさい!この変態!!」


「け、警備隊呼ぶか?」

「やめとけやめとけ...この街が使いづらくなるだけだ」


雑兵「へ、変態じゃねぇよこの野郎!俺のプライベートここまで干渉しやがって!!意地でも入れてやるからな!オラッ!」

勇者「は、離してよ!」


伍長「お、お前それは洒落にならん!!」

一等兵「雑兵!流石にその子の手ば離すだ!!犯罪はいかん!」

雑兵「あーもう!演習の時といいおめぇといるとロクなことにならねぇ!!第一お前は自分勝手なんだよ!」

勇者「う、うるさい!つーか兵卒の癖になんだよ!!」

雑兵「うるせぇ!ぶらりぼっち旅!!俺ぁ厄災から解放されたなんて恩恵これっぽっちも受けてねぇんだよ!!お前の活躍なんて知るか!!」

勇者「う...うゥ...グズッ...な、何なんだよぉ...あ、相手してくれてもいいじゃん...なのにそこまで言わなくたって...ズズッ...」

雑兵「えあっ、な、泣くなよぉ!」

勇者「ぼ、僕だって...ズズッ...一人は嫌だったんだ...友だちも欲しかったし...」

勇者「でも...お姉ちゃん頑張ってるから...僕も頑張らないとって...僕だって
普通の女の子として生きたかったんだよ...!でも...退魔の剣抜いちゃったから...」

雑兵(ヤバ、退魔の剣の下りちょっと面白い)

勇者「でも...魔王倒す旅なんて誰が付いて行くんだよ...痛いの治したくても
薬草苦かったし...辛い所でも一人だったし...」

雑兵「...」

勇者「魔王倒したかと思えば英雄扱いで...街に出てもろくに買い物も出来ない...
可愛い小物も欲しいのに...友だちなんてそんな状況でどうやって作るんだよ...」

雑兵「で、でも傭兵団はお前の方慕ってたじゃねぇか...」

勇者「もう慕われるだけじゃ嫌だ...」

雑兵「...」

女の子を泣かしたとかの後悔はなく、俺なんかよりもずっと努力している普通の女の子
がどうしてこんなに辛い思いをしているのか、いやまぁ泣いたのは俺が発端だけど、
少なくとも年頃の女の子に対する世間の扱いに対して疑問を抱いた、退魔の剣を抜いた
からと死ぬ気で努力させ、ロクな仲間も付けずぼっち旅を押し付け魔王討伐に赴かせた
世間は今のこの子を見てどう思うのか、そんな疑念が頭の中をぐるぐる駆け巡った。

雑兵「...」

勇者「もうお前なんか...嫌い...?!」ガシッ

雑兵「...いますぐ分屯地に帰るぞ」

勇者「ちょ、なんだよ...!離してよ...!ほっといて!」

雑兵「黙ってついてこい」

勇者「な、なんだよ...」


伍長「あいつ何がしたかったんだ」

一等兵「一先ずおおごとにならんかったということで」

伍長「いやおおごとだろ」
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「いや、全額下ろすの?!」

雑兵「はい、残す金額指定してないから降ろせるっすよね」

勇者「ちょ、何してるの?」

雑兵「後でわかる、降ろせるんすよね?」

「お、降ろせるけどさぁ...一気に降ろしたら部隊長に報告行くぞ...」

雑兵「構わないっす、お願いします」

「わ、わあったよ...ほんと、お金は大事につかぇ グワシャッ

雑兵「ありがとうございます!行くぞ!」

勇者「ちょ!ちょっと!」

「お、おう...なんで勇者様の手ずっと握ったまま...」

雑兵「ここがフィッハーの街だ、色んな店が揃ってる」

勇者「だ、だから何?」

雑兵「一緒に見て回って、お前の欲しいもの、買いたいものをなんでも言え、
俺が買ってやる」

勇者「え...?え?」

雑兵「そこの雑貨屋は女性向けの雑貨も売ってある、そこは
女性向けの服屋さんだ、見てみるか?」

勇者「ちょ...待ってよ...」

雑兵「いいか、お前は今日から普通の女の子だ、それをお前にも
周りの人間にも分からせてやる、良いな?」

勇者「...」

雑兵「パフェもある...ね、ねぇ反応してくれないとそろそろこのキャラ恥ずかしくなるから...」

勇者「...分かった、さっきの店全部回る」

雑兵「よ、よし」

勇者「欲しいもの全部買ってもらう、何から何まで」

雑兵「そうだ、買えなかったものはなんでも買え...あでもちょっと手加減...」

勇者「僕はね...一度も手加減したこと無いんだ」
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勇者「このワンピース...」

雑兵「いい感じじゃねえか?着てみろよ」

勇者「で、でもノースリーブ...」

雑兵「うるせぇ関係ねぇ、それにとても似合うと思う」

勇者「分かった、雑兵が言うなら買う」

雑兵「か、買うんすね」
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勇者「このネックレス...似合う?」

雑兵「ごめん、すっごい似合う、ボーイッシュ系のアイドルかと思った」

勇者「じゃあコレも...後このブレスレットも...」

雑兵「ぶ、ブレスレットは金額的に似合わないんじゃないかなぁ」

勇者「僕が付けたら可愛くないの?」

雑兵「クッソ可愛い」
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勇者「パフェ初めて食べる...」

雑兵「お、俺も...」


「はい、あーん♡」
「あーん♡」


雑兵「張り倒してや...」チラッ  
勇者「あ、あーん...///」
雑兵「は、恥ずかしかったらやらなくても」
勇者「た、食べて...///」
雑兵「...」パクッ 
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雑兵(金ねンだわ)

勇者「う″~~ん″...っはぁ、楽しかった...」

雑兵「もういいのか?」

勇者「もう雑兵お金ないでしょ」

雑兵「う、うん、もう勘弁して欲しい」

勇者「安月給のウチに無理しすぎるからだよ、まさか軍の共済まで下ろすなんて...」

雑兵「いや、別にいいよ、俺も楽しかったし、この世界来て初めて沢山遊んだわ」

勇者「僕はずっといたつもりだったけど...うん、初めて沢山遊んだ」

雑兵「次は自分の金で目一杯楽しめよ?楽しみ方分かっただろ」

勇者「うん、分かった...雑兵といると楽しい」

雑兵「うん、うん?」

雑兵「いや、俺と遊ぶのはやめとけって」

勇者「エッチな店行けないから?」

雑兵「いや、そ、まぁそれもあるけど、いや他にも理由はあるからな?!」

勇者「ふーん?雑兵は遊んでくれる女の子よりもエッチな店を選ぶんだぁ?」

雑兵(そ、そんなワンピース姿で質問を投げかけないでくれ...)

雑兵「いや、あの、プライベートの節調は大事なんだよ、わかるか?」

勇者「あーあ...残念だなぁ」

雑兵「...わあったよ、呼んてくれりゃ遊ぶから...」

勇者「じゃ、約束ね?」

雑兵「あぁ、どこでも駆けつけてやらぁ」
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雑兵「うーっす...って」

殿下「あ、雑兵...」

雑兵「おう、気分どうだ?」

殿下「ちょっと休んだら楽になった...ありがとう」

雑兵「これからどうなるんだろうな...お前の立場わかんねぇから...」

殿下「うん...皇国に戻れるようにしたいけど...」

雑兵「戻るったって...大丈夫か?戻ってったって民衆の奴らが...」

殿下「...分かってるよ、でも戻らないといけないんだ...」

雑兵「戻ってどうするんだ、正直言って国建て直すのはもう...」

殿下「建て直さなくたっていいよ...でも、僕なんかの為に死んでいった部下達に...」

雑兵「弔合戦的なやつか」

殿下「...」

雑兵「無理だな、現時点のお前にゃ...何もかもが足りねぇよ」

殿下「足りないって...雑兵に何が分かるのさ...!父さんも母さんも...大切な人達を失った僕の気持ちも...」

雑兵「知らん、苦労したのは分かるがそこまで興味ねぇ、恨むなら自分の境遇を恨め、勝手に恨み辛みの延長線上で人に当たるな」

殿下「...ッ」

雑兵「お前に足りないのは今の状況を自分でどうにかするって思考だ、こりゃ俺の考えだが国のトップ殺して、あの民衆らがどうなるかなんて...」

殿下「ど、どうなるの?」

雑兵「互いの足引っ張りあって自滅さ、それか木っ端共を集めた集団なんて飲み込まれるだけさ、飲み込まれたら最期、その国というのは完全に無くなる、つまりニプラス皇国はパーペキに終わりだ」

雑兵「あいつらがどこまで国を愛してたかが見ものだな」

殿下「それじゃあ...僕の居場所なんて...」

雑兵「さぁ、どうなるんだろうなぁ、そこは騎士団長の腕一つだ」

殿下「...」

雑兵「...まぁ、もし本当にどうしようもなくなったら俺んとこに来い、ここにずっといるからさ」

殿下「雑兵...優しいのかそうじゃ無いのか分からないね」

雑兵「や、優しい方じゃないか?」
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勇者「雑兵も殿下と来ればいいのに」

雑兵「俺ぁ分屯地の方が合ってるからな、デケェとこはどうも苦手だ」

勇者「そんなんで本当にすぐ駆けつけられるの?言っとくけど来なかったらサイテーだからね」ツ-ン

雑兵「う、うーん...」

勇者「...嘘だよ、雑兵、雑兵と離れるの嫌だけど、また遊びに来るし、たまには来てね」

雑兵「あぁ、行けたら行くわ」

勇者「それ来ないやつじゃん」

上等兵「うっす、俺らも帰るわ」

雑兵「あんま話せなかったっすね、たまに行くんでお願いしまし」

兵長「来るんじゃねぇ、厄介ごと持って来るつもりだろ」

雑兵「た、たまにゃあ良いじゃないっすかぁ」

伍長「ほんっと恐ろしい男だよお前は、勇者様手篭めにするたぁ...でもまだ手は」

雑兵「出さないっすよ」

天使「ぞ、雑兵...」

雑兵「お、おう、お前も元気でな...」

天使「...他になんか無いの」

雑兵「いや、その...あんまり...」

天使「あっそ...この変態」

雑兵「えぇ~何どういう事ぉ」

天使「僕に抱き付いてきた癖に、色んな人にちょっかいかけて...」

雑兵「え、あぁ、え?!それ今出す!?」

天使「いつ出すのさ」

雑兵「ご、ごめんって、いやその、移動したから何言えばいいのかわかんねぇし...喧嘩別れしちまったし」

天使「...そういうとこだけ鈍いのホントズルイ、でも変わってなかったからいいや」

雑兵「えぇ...」


一等兵「雑兵ってスケコマシでさぁね」

上等兵「いや天使に迄とは思わなかった」
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雑兵「行ったなぁ」

曹長「寂しいか?いっちょまえに」

雑兵「一丁前とか関係ないっすよ...」

曹長「まぁ感慨に耽るのも昼までだ、ごめんちょっと首都と地方の境界線にある分屯地のに荷物届けてくんないすか」

雑兵「え?!嘘でしょ」

曹長「いやホントホント、たまに行くんだよ、荷物の輸送」

雑兵「えぇ...絶対首都帰る連中に会うじゃないっすか...途中でキャンプするでしょあいつら」

曹長「大丈夫だって、ロバだからあんま暴れねぇよ」

雑兵「いやんなこたぁ聞いてないっすよロバなら安心すけど」

曹長「境界線っても北上するから防寒用意しとけよ、あと糧食は食堂で受け取ってくれ」

雑兵「了解です、早めに言って欲しかったっす」

曹長「ごめんって」
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フィッハー地方と首都の境界線には街や村は無いが、少し北上した場所にフィッハー補給処があるらしい、
付近の村々は長閑な村らしく、フィッハー補給処も分屯地と同様地元が近い定年間際の人たちがいる場所だ。

雑兵「フィッハーから外出るの初めてだなぁ、この道通るのも来た時に通っただけだから二ヶ月近くぶりかぁ、なぁロバ吉」

ロバ吉「ンア"ア"...」

雑兵「馬の声と違うんだな」

雑兵「馬車あって良かったけど重くないかロバ吉、重くても我慢してくれよ」

ロバ吉「...」

雑兵「なんとか言って...まぁいいや」

荷物の中身は書類と返納する被服、あとは土産くらいだ、なんと長閑な仕事だろうか。

雑兵「独立大隊っぽい仕事だなぁ、まぁまだ仕事内容よう知らんけど」

首都へ帰還する連中とは顔をあまりあわせたくないが、仕事なので仕方がない、キャンプしてるとこを追い抜かそう。
そろそろ夏も本番となり、季節的には7月中盤だろうか、元いた世界の季節感覚はニート中に狂ってしまったが、やはり季節感は本能なのかだいぶ外の気候にも慣れた。

雑兵「しかし...勇者のワンピ可愛かったな...エルフもああいうの着るのかな」

エルフと離れてもう2ヶ月近く、自分が初めて街の見回りをしていた時に会った、
飛び級的な奴で混成騎士団に入ったが上手くやれているだろうか。

雑兵「みんなとじっくり話ししてぇなぁ...」

天使からは部隊はどうか聞きたいし、女騎士からは前世で何をしていたかも聞きたい、
勇者からはお金返してもらいたいし、エルフは今の状況を聞きたい、この世界へ来て
友人が増えて来たし、物事に対する興味もある程度湧いて来た。

雑兵「俺ずっと分屯地勤務なのかなぁ、それも良いけど別のとこも行ってみたいなぁ」

雑兵「しかしフィッハーの補給処なのになんで郊外に建てるかなぁ、港の外も土地有り余りすぎだろうに...ん?」

?「...」

雑兵「行き倒れってやつか...?おばあちゃん、大丈夫?」

老婆「ううっ...み、水を...」

雑兵「ほら、しかしいつから...」

老婆「はぁ...早朝にフィッハーを出たのですが...急に胸が苦しくなり...」

雑兵「早朝?マジで?先に出た騎士団連中はど真ん中に倒れてたばあちゃんシカトしたの?」

老婆「え、あぁ、騎士団ですか...?」

雑兵「うん、でもまぁ良かったよ、馬車に乗りなよばあちゃん、俺も暫く道なりに行くから楽になるまでは休んでな」

老婆「ありがとうございます...」

雑兵「しかし騎士団連中も薄情だよ、おばあちゃん無視るなんて罰当たりなねぇ」

老婆「そうですねぇ...この国を守ってくださる方々と思ったのですが...老いぼれ一人も...」

雑兵「ロクな連中じゃないからねホント、そいえばおばちゃんどこまで行くの?」

老婆「首都までですよ、息子夫婦が一緒に暮らそうと...お爺さんも亡くなったので孤独でしたが...」

雑兵「そっかぁ、じゃあ境界までは連れてってあげるよ」

老婆「本当ですか?ありがとうございます...」

雑兵「いいんだよ、この辺もへんな宗教がのさばってるって話だしねぇ、最終章世界だがなんだか忘れたけど...」

老婆「えぇ私の村にも教祖様が来ましたよ...それはもう神々しい...」

雑兵「え?なんか言った?」

老婆「い、いえいえ...」

雑兵「先行った連中にガツンと言わなきがすまんですねばあちゃん、なんなら言ってやりましょうか?」

老婆「い、いえいえ...お気持ちだけでも嬉しいですよ」

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__
_
「今日はここで休止します、よろしいでしょうか」

女騎士「うん、だが不寝番はつけるようにして...不寝番につかせる者は直ぐに休息をとらせろ」

「っは」


勇者「~♬」

女騎士「どうした、ご機嫌だな」

勇者「このペンダント雑兵に買って貰ったんだ、綺麗でずっと見てられるよ...」

女騎士「へぇ、あいつにもそんな甲斐性がねぇ」

勇者「姉ちゃんも何か頼めば?弱みに付け込んだら...」

女騎士「っはは、今は金欠だろうから俸給が入った時に頼んでみるよ」

行商「酒につまみはいらんかねぇ、フィッハーの特産だよ~」

「お、行商だ」

「鼻がいいなぁおっちゃん」

行商「っへへ、あっしは金の匂いがする所は直ぐにわかる性質でして、おっ!これは
騎士団長様!それに勇者様もいらっしゃるじゃないですか!どうです?お酒など...」

女騎士「私は遠慮しておく、酒に弱いからね」

勇者「僕は未成年」

行商「つれないですなぁ...あ、そう言えば、この地方にのさばってる宗教についてご存知です?」

女騎士「あぁ」

行商「あいつら...今度は軍人を狙うと言い出してます、フィッハーの港にも信者が何名か紛れ込んでいました...しかしニプラスの船
爆破とは関係はありませんでした」

女騎士「ではニプラス皇国の船舶の爆発は事故か或いは...まぁいい」

勇者「何人か諜報員送り込んだのが仇になったのかな、みんな優秀だったけど...」

女騎士「助けられる奴は助ける、私が送り込んだ手前見捨てる訳にはいかない」

行商「ま、そこら辺は貴方方の管轄なので知った事ではありません、自分もそろそろ遠くへトンズラしますよ、あいつらも鼻がいい」

女騎士「あぁ、ありがとう。報酬は副団長に頼んでくれ、色をつけるよう頼んでおいた」

勇者「早めに戻って準備しなきゃダメだね、傭兵団呼びもどそうかなぁ」

女騎士「あぁ、味方は多い方が良い...再来週まで我々騎士団に休みは無さそうだな」
_
__

__
_
雑兵「おばあちゃん、そろそろ暗くなるから近くの村に泊まろうか、村あったよね」

老婆「そうですねぇ...この近くなら...ラング村があります、村長のラング様なら兵隊さんを温かく迎えてくださるでしょう...」

雑兵「じゃあその村にしようか」

『ラング村』
村長 シュトゥル・ラングの祖先が首都から現村付近を開拓した事により村が誕生した、首都とフィッハー港を結ぶ街道から少し外れた場所にあり、旅人の憩いの村でもある。

雑兵「...」

雑兵(何でだろう、村入った途端道行く人たちに見られてる気がする...ばあちゃん載せてるの珍しいのかな)


「反乱者だ...教祖様を連れ出しに来たんだ...」

「殺すか...?」

「まだだ...」


雑兵「...?」

雑兵「ばあちゃん、この村静かだね」

老婆「そうですねぇ、とても良い村ですよ...誰にも邪魔されない村で...」

雑兵「...」

このばあちゃん...村に入ってから眼つきが鋭くなってきた、村の人達も大きい家に近づくにつれ...なんだろう敵意の様なものを剥き出してきた。

雑兵「よいしょ...ちょ、ちょっと村長さんの所に挨拶に行ってくるからばあちゃんは宿でも取って休んでてよ」

老婆「はぁい...お言葉に甘えてぇ...」ニタァ...

雑兵「...ッ」ゾクッ


雑兵「...こ、こんばんわぁ」

ッダン ッドンドンッ!! ガシャン!!

雑兵「...?!」

ア...アア バタン!!!!

ガチャ
ラング「いやぁすいません、家内がちょっとびっくりして鍋を...」

雑兵「い、いやこちらこそ夜分遅くに申し訳ありません...奥様怪我ありませんか?」

ラング「大丈夫ですよ、今奥で手当てしてますので...腕利きの家政婦がいるのでね」

雑兵「そ、そうですか」

ラング「それはさて置き...兵隊さん如何なさいましたか?」

雑兵「はい、ちょっと仕事でフィッハーの補給処へ行く途中で...夜も遅くなったのでこの村で宿泊させていただこうと思いまして...」

ラング「あぁ、そういう事ですか、お疲れ様です兵隊さん、どうぞ我が家でお休み下さい、ささっ、どうぞ」

雑兵「いやそんな..悪いですよ」

ラング「いえいえ、若い兵隊さんは我が王国の宝ですから...」

雑兵「で、ではお言葉に甘えて...」


雑兵「...うっ?!!?」

雑兵(な、何だこの匂い...?!汗?!いや違う...糞尿の香り...それ以上に、まさか?!)

雑兵「ラ、ラング...てめぇ」

ラング「...っ」ドスッ

雑兵「うっ...ぐ」バタ...

ラング「一人で兵隊を捕まえて来るなんですごいね」

老婆「他愛ないですよ、無法者共なんてこんなもんです」

ラング「十分休んで、また異端者狩りをお願いしますね、教祖様の祝福を...」

老婆「はい...教祖様の仰せのままに...」
_
__

ラング「一人で兵隊を捕まえて来るなんですごいですね」

老婆「他愛ないですよ、無法者共の扱いにはなれておりますから」

ラング「十分休んで、また異端者狩りをお願いしますね、貴方に教祖様の祝福を...」

老婆「はい...全ては教祖様の仰せのままに...」
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__
_
?「兵隊を捕まえたか...でかしたぞラング、我が教団の活動を邪魔される前に人質を取れば常に先手を打てる」

ラング「はっ、その兵隊を捕まえたのは老婆で御座います...お褒めの言葉はアイツに...」

?「ふむ、分かった...して兵隊はいまどこへ?」

ラング「はっ、例の部屋へ...」

?「例の...あぁ『身籠部屋』か、そこへ置いてどうするつもりなのだ」

ラング「はっ、少々ばかり王国へ罠を仕掛けようと思い...」

?「罠...っふ、何を考えているか分かったぞ...恐ろしい奴だ」
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__
_
「特別警務隊!人員50名!編成完結!」

「特別騎馬隊!人員60名編成完結!」

「混成騎士団 総員100名集合完了!」

女騎士「休ませ」

「「「休め!」」」

女騎士「みな、先日のフィッハー港への遠征から帰還して、またすぐに出発させる羽目になって本当に申し訳なく思う、皆も既に聞いたと思うが、フィッハー地方でのさばっている宗教団体が遂に我々に牙を剥いた」

女騎士「既に混成騎士団や警務隊から何名かの諜報員を差し出して来たが...皆連絡が取れなくなっている事態になったのは私の責任だ、本作戦は宗教団体の信者達に捕まった諜報員の救出を主たる任務とする、しかし作戦遂行中に信者から攻撃を受けた場合はいかなる措置をもってしても脅威を排除せよ、必ずみんな生きて帰るぞ、以上」

「作戦本部長に対し敬礼」

「かしらー!なか!」
_
__

__
_
雑兵「っ...うっ...」

雑兵「こ、ここは...?」

頭がガンガン痛む...周りは真っ暗、手足は縛られてないのが幸いだが...ダルすぎて動かすのもままならない。
だんだん頭が回り出し各感覚が正常になりだした...
雑兵「っうぶっ!?んだこの臭い...!?」

何かの腐臭、排泄物のアンモニア臭に

__
_
雑兵「っ...うっ...」

雑兵「こ、ここは...?」

頭がガンガン痛む...周りは真っ暗、手足は縛られてないのが幸いだが...ダルすぎて動かすのもままならない。
だんだん頭が回り出し各感覚が正常になりだした...
雑兵「っうぶっ!?んだこの臭い...!?」

何かの腐臭、アンモニア臭に混じって大便に似た匂い...言葉にするのもはばかられるくらい不快な臭いが充満していた。

雑兵「ん、んだよ...肥溜めに捨てられたのか...?」

「肥溜めの方がマシよ...」

雑兵「...?」

「後ろよ、貴方の後ろ」

雑兵「え...う、うぁっ??!?!」

そこにいたのは手足を切断され、鎖を脇に通し吊るされていた女性だった。
その光景は、猟奇的趣味のイラストとそっくりな光景だった。
女性の尊厳というか、人の尊厳をフル無視した行いだった。

女性「ごめんね、こんなトコいち早く出たいでしょうけど...」

雑兵「んな事言ってる場合じゃ...!」

女性「今は私に構っている暇はないのよ、早く脱出しないと...」

腐臭の原因が分かった、医療行為で行われる適切な切断なんて物ではなく、ただ目的の為に切り落とした手足の切断面が壊死していたのだ。

雑兵「ま、待ってろいま鎖を...っうぷ...」

女性「近づかないで!!!お願いだから...私達のことはほっといて...早く脱出して...」

雑兵「た、達?」

女性「周りを見渡しなさい...」

雑兵「え...」 チラ...


「ウ...ウ...」

「...」

「カヒュ-...カヒュ...」

そこにいたのは喉を切られた女性達だった...皆身籠っているのか腹部が膨らんでおり...やはり手足を切断され自由を奪われていた。

雑兵「な、なんなんだよ...!なんでこんなことされて...」

女性「そんなの私達が聞きたいよ...いきなり勧誘され...しつこいから強い口調で断ったら...」

雑兵「フィッハーにのさばってる宗教団体か...?」

女性「そうねその宗教団体にね、フィッハーの村々がこんな状態になっているにも関わらず貴方達王国軍は何一つ助けてくれることも無く、今に至るわ」

雑兵「...」

女性「そこの小さい女の子...知ってる子なんだけどね...本当に歌が上手だったわ...今じゃ声帯を切られて...もう二度と...そこのエルフの女の子はエルフの王国の一人娘なのよ...?姫さまなのよ?なのに何故...」

雑兵「...し、知らなかったんだ、なんか変な事してるってのは聞いてたが...」

女性「そう、なら貴方の無知を恨みなさい...そして地上にもし出られたらこの事を国王に伝えて頂戴」

雑兵「...ッ」

「ウ...ウ...」

雑兵「...」

女性「鎖が食い込んで痛むのね...可哀想に...緩めてあげて...」

雑兵「...」ジャラ...

「ウ-...ウ-...」

雑兵「...んでなんだよ、グズッ...」

女性「どうしたの?」

雑兵「んでこんな...みんな罪もねぇし年端もいかねぇ子達が...」

女性「あなたがそんなこと言ってもしょうがないでしょ?もうみんなこんな姿にされて...今更兵隊さんにそんな泣かれても困るわよ」

ドンドン!

雑兵「?!」

女性「食事の時間ね...あなたがここは運び込まれた時にラングのやつが餌はこいつにやらせるって言ってたわね...」

雑兵「え、餌って...」

女性「取りに行ってくれないかしら?」

雑兵「あ、あぁ」

ガチャ

老婆「っひひ...これは臭いのう」

雑兵「...んんのクソババァゴラ!!!」 ガッシャァァン!!!

老婆「うあ!?ほ、吠えるでない若造が...さ、さっさと餌を運びな」

雑兵「てんめ"ぇ"!!何してんだオイ!!?あの子らに何したんだオイゴラァ!!!」ッガシャン!!ガッシャン!!!

老婆「う、うるさいのう...は、早く餌を運ぶんじゃぞ...」ガチャ... バタン

雑兵「お"い"!!聞いてんのかゴラァ!!」

女性「ちょっと」

雑兵「んの外道...ぶっ殺す...ぶっ殺す...」

女性「ちょっと、ご飯早くしてくれないかしら?」

雑兵「め、飯...?これ残飯...」

女性「残飯でもね...命を永らえさせられてる以上はご飯なのよ」

雑兵「...っクソ!クソクソ!!クソが!!!」

「ウ...」

女性「ちょっと、怖がってるじゃないの...」

雑兵「...あ」

女の子「ウッ...ウ-...」

雑兵「ご、ごめんな、ほら...残飯の中じゃマシな...!」

女性「その子歯全部抜かれちゃったから噛めないわよ...あなたが噛んで食べさせてあげて」

女の子「...」

雑兵「...ッ」パク

雑兵(クソクソクソクソクソ...あの村の外道共...)

雑兵「くひ あーんしへ」

女の子「...」ア-ン

雑兵「っん...食えるか?」

女の子「...」コクコク

雑兵「...」ジャララ...

女の子「ウ...?」

雑兵「鎖、痛いだろ、みんな下ろしてやっからな...」

女の子「ウ-...ウ-...」

雑兵「君も...」

エルフの姫「...ッ!」ブンブンッ

女性「あの子達に無闇に近寄らないであげて、男がトラウマなのよ...初めてが...最悪なんだから」

雑兵「ご、ごめん...近寄らないから」

雑兵「...」

女性「鎖なんか持ってどうしたのよ」

雑兵「いや、ちょっとな...」

ドンドン!!

「あけな!桶の回収だよ!!」

雑兵「...」

女性「ちょっと...」

老婆「おーおー柵がへしゃげてしもうとるわい...」

雑兵「...」ポイ

老婆「ったく、ちょっと取れないじゃないか...最近の若もんは礼儀ってものが...」ブツブツ...

雑兵「っ!」ジャラッ!

老婆「カヒュッ!? グ、グゲェ!?」

雑兵「...っ」ギリッ...

老婆「ッカ!ア°ァッ!?」

雑兵「っ!!!」 ポキッ

老婆「」ガクッ...

雑兵「鍵...あった」ガチャン...

女性「ちょっと、何して...!」

老婆「」

雑兵「安心してくれ、死んでるから」

女の子「?!?!」

女性「あ、あんたなんて事を...!」

雑兵「そこのダストシュートどれだけ深いんだろうな...まぁいいや」ポイ

ガダン!ダダダタン!!

ド-ン...

女性「なんてことを...」

雑兵「ごめん、気が済まなくてさ...次も上手い具合に処理するよ」

女性「あ、あなた...リミット外れちゃった顔してるわよ...」

雑兵「...ごめんな、怖い思いさせて...すぐ出させてやるから...」

女の子「ウ-...ウ-...」

雑兵「...」

女性「出すなら...その子だけにしてちょうだい...」

雑兵「なんで...」

女性「こんな姿で白日のもとに晒されるなんてごめんよ...みんなそう思ってるわ、出るときはここを焼き払って...お願い...」

雑兵「...」
_
__

__
_
「あれがラング村です、村はもう信者に制圧されています...従わなかった者は信者に...」

女騎士「ふむ...ここには2名送り込んだな...各部隊から20名を選出し村への突入隊を編成する、急いでくれ」

「はっ!」

槍兵隊長「エルフ、あなたは後ろで詠唱に集中しててね?」

エルフ「分かってますよ、あのクソ共を木っ端微塵にすれば...」

重装歩兵隊長「口が過ぎるわよエルフ、まだ相手全員殺したら意味ないから軽めよ軽め」

エルフ「はぁい」

エルフ(雑兵...元気かなぁ、フィッハーの話全く聞かないから何もわからない...)

「魔砲撃隊!攻撃始め!」

エルフ「よし...スゥ...」
_
__

__
_
「異端者共が村へ!!」

「あいつらいきなり攻撃を!!」

ラング「うーん、来るとは思ったが早いなぁ...よし、ある程度信者を残して君たちは逃げなさい、私はやることがある」

「ラング様!」

ラング「大丈夫、上手くやるさ」


チュド-ン... チュド-ン...

「第1救世主分隊は左翼を!第2は右翼を固めろ!異端者どもを足止めし時間を稼げ!!教祖様も期待されているぞ!!」

「教祖様の仰せのままに!!」



勇者「それじゃあ警務隊さんと混成騎士団さん達...信者を何人か残す程度でお願いしまーす」

「了解です」

雑兵「じゃあ...行くか、裸は恥ずかしいからこれ着な?」

女の子「ウ-...」

女性「男ならそうでなくちゃね...」

エルフの姫「...」

雑兵「...本当に良いのか、お天道様見たって別にお前らに辛く当たることは...」

女性「い、良いのよ、もう、みんなの気分が変らないうちに早く...ね?」プルプル...

雑兵「っ...あぁ...」


雑兵「...行こうか」

女の子「ウ-...ウ-...」フルフル

雑兵「...だよなぁ、みんなと行きたいよなぁ」

ラング「そうはいかないんだよねぇ」ッブウン!! バキィ!!

雑兵「っがぁ!??」

雑兵「っがぁぁぁぁ!!?!」

ラング「戻れって」ッドス!!

ッダン!!ダダタン!!
雑兵「っぎぃ!」
ドスン!!

女性「え?!」

ラング「お久しぶりですね、信者達の子は孕んでそうですか?」

女性「ラ、ラング!あんた!!」

ラング「この子も...」ポイッ
ドサッ
女の子「っ...!」

雑兵「て、てんめぇ!」

ラング「君には...ちょっとやってもらいたい事があってね、ちょっとズボン脱いで貰うよ」 プチッ プチッ

雑兵「お、おい!!やめろって!」

女性「...!まさかラング!あなた!」

ラング「そうなんだよ、もう村に軍が入ってきてねぇ...信者達もいい金ヅル達だったんだが...もう僕には必要ないくらい儲けさせてもらったから、そろそろ潮時かなと思ってね...お、なかなか良いモノだね...うーん勃っては無いか...まぁいいや...っと!!」 ッバキィ!

雑兵「え?な、何してんだ!?」

ラング「あ、忘れてた」ッシュ

女性「あなた!早く逃げ...?!」

ラング「喋られちゃ困るからね、みんなと同じで声はもう...悲しいね、あいたた...」

女性「っ?!っ!?」


「地下室だぞ!!!」

「物音だ!突入しろ!!」

ラング「っぐあ!」ガッシャン!

「うわっ!な、なんだ!?」

ラング「た、隊長?!!た、助けて下さい!!この信者が!」

雑兵「は?!は?!」

「お、お前その格好...どこの部隊に...ラング「諜報員です!!あそこで倒れている男に暴力を振るわれ!周りも見て下さい!」

「え?...っうわ!」

「なんて酷いことを...!!その倒れてる男を捕まえろ!」

雑兵「ま、待てって!俺も兵隊で...」

「どこに証拠がある!」

雑兵「そこの女の子にくるんでる服...ラング「この男、私が突入した時にこの女の子に乱暴をしてました!!なので私の使ってない軍服を...」

「そ、そうか、お手柄だな、その男を連れてけ!」

「はっ!来いオラァ!」

雑兵「違うんだっ!!俺もっ!モゴゴ」

「黙ってろ、おい、頭陀袋も被せろ、どうせ処刑だからな」

そして

女騎士「信者は何名捕まえたんだ?」

「はっ、10名です」

女騎士「そうか、この村の惨状を見た...奴らには相応の罰を受けてもらわないとな、連れて行け」

「はっ!」


勇者「諜報員、2名とも死んでたよ、遺体も見つけた」

女騎士「...そう、2名ともダメだったか」

「え、一人諜報員を救出したと報告が...」

勇者「うそ?その人どこに?」

「た、確かまだ捕まってる人がと言いながら何処かへ...」

女騎士「...早急に探し出せ!!」

「は、はい!!!」


「な、なぁ...俺らが頭陀袋被せた奴って...なんか見覚えある奴じゃ...」

「知らねぇよ、それにもう連れてかれちまったから確認しようがねぇし」

「そ、そうだな...しかし可哀想に...もう大丈夫だからな...」

女の子「ウ-!ウ-!」
_
__

__
_
『フィッハー補給処』

曹長「よぉ、やっぱ来てたんだな」

兵長「あ、先日ぶりっすね、フィッハー港の方はどうなんですか?」

曹長「うん、今は南のウルムガルド駐屯地から来た竜騎兵隊が警備してるから安心だ」

上等兵「安心して雑務に励めますね」

曹長「あぁ、あの飛んでとコンビと可愛子ちゃんの新兵は?」

兵長「治療班のとこへ行ってます、あのコンビは作戦中に酒で急造火炎瓶作りやがって...それ投げつけて軽く火傷したんすよ、天使ちゃんは治療班の手伝いっす」

曹長「そうか、アホだなあいつら...それはそうと...雑兵のやつ見なかったか?」

兵長「いや、見てないっすねぇどうかしたんすか?」

曹長「いやなぁ、三日前にここフィッハー補給処に荷物届けさせる仕事任せたんだが...」


女騎士「すみません、あなたが曹長ですか?」

曹長「っと、はい、フィッハー分屯地 独立大隊分遣隊の曹長です」

女騎士「ありがとう、早速だがフィッハーに雑兵と言う兵隊がいるはずだが...」

曹長「はい、いますよ...ただ三日前から姿を眩ませやがって...まさか今回の件でなにか...」

女騎士「はい、ラング村に補給処へ届けるはずの物資があって...馬車の管理番号を見たら、分遣隊の管理になってて」

曹長「ま、まさかロバの馬車ですか!?そしたらそりゃうちの馬車です!」

女騎士「ラング村の怪しい所を全て回ったんですが、雑兵の姿は無くて...遺体も確認したが、認識票が無くてですね」

曹長「に、認識票が無い?兵長、認識票が無いってどういう事だ、着けさせていたんじゃ無かったのか?」

兵長「す、すみません...認識票を着けさせる教育は...行ってませんでした」

曹長「それじゃあ...」

女騎士「遺体は焼け焦げたものから傷みの激しい遺体まであります...性別の確認も出来ないので...」

曹長「ぞ、雑兵...」

ラング村

勇者「...違う、絶対雑兵じゃない...」


エルフ「...ホント残忍な事を...」

重装歩兵隊長「エルフちゃん、そろそろフィッハー補給処に行きましょ」

エルフ「はい、ドワーフさん、なんで人間同士がこんな酷いこと出来るんですかね」

重装歩兵隊長「さぁね...同じ人間でもお互いに譲れないものがあるのよ、きっと」

エルフ「...」

重装歩兵隊長「それにしても勇者様...誰を探してるのかしら」

エルフ「聞いてみたんですが知り合いがいるかも知れないって...」


勇者「...雑兵じゃない...」

勇者「雑兵...僕と遊ぶんだから早く帰って来てよ...」
_
__

__
_
ガラガラガラ...

早く帰って来てよ...

雑兵「...っうお...夢か...?」


「教祖様がきっと助けに来て下さる、怯える事はないさ」

「そうだ、我々は教祖様の為に戦ったんだ、助けに来ないわけが無い」


雑兵「...なぁキチガイ、この馬車ってどこ行ってんの」

「な、なんだ君は...」

「い、異端者か??なぜこんな奴が...」

雑兵「質問に答えろオ"イ"ッ!!」 ッバキィッ!!!

馬主「っうわぁ!騎士さん!信者が暴れてる!」

「貴様、黙らんとここで切り捨てるぞ!」ドスッ!

雑兵「っぐ!...」バタッ...

「あぁ教祖様...お助けください...」  
「ったっく...しかしなんだろう...なんかこいつ見覚えあるな...」

馬主「騎士さん、ビギニング刑場です」

「うん、ご苦労だった、報酬は会計課から受け取ってくれ、さぁ降りろ!!」


「きょ、教祖様ならきっと...」

「必ず来るさ、教祖様なら...」


雑兵「こ、ここは...?」

看守「罪人ども、そこへ並べ、この首輪にある番号が今日から貴様らの名前だ」

雑兵「おい、ここはどこだ」

看守「どこって...ビギニング刑場に決まってるだろ、死刑囚なんだから」

雑兵「は...?」

ビギニング刑場
首都の北西に位置し、終身刑の判決を言い渡された罪人や死刑判決を受けた罪人が集められる刑場、所長の判断によって多い日には4~5人の死刑が執行されることもある。

看守「ラング村での残忍な行為は賭け値なしで死刑確定だからな...まぁお前らは人殺していい思いして来たんだ、次はお前らの番って事だな」


「この異端者め...」

「教祖様が必ず助けに来て下さるからな、それまでの辛抱だ」


雑兵「だから俺は信者でもなんでも...」

看守「信者でないなら何故あの場にいたんだ、でなきゃあの行為はキチガイのやるド外道行為だぞ」

雑兵「俺だってこのキチガイ共に捕まったんだよ、フィッハー分屯地に独立大隊の雑兵っていやぁ分かるはずだ」

看守「あー分かった分かった、いいから檻ん中へ入れ」

ガチャ

雑兵「くっそ...どうすりゃ...」

「あ...?何だえらい若い奴だな...」

雑兵「クソ...年貢の納め時ってなこの事なのか」

「おい若造、何だってこんなトコに...」

雑兵「え?あぁ...ちょっとインチキ宗教団体の信者共とイザコザがあって...」

「インチキ宗教団体...あぁ、新顔共の噂話で聞いた事あるな、フィッハー地方にのさばり出したって...」

雑兵「あぁ...ちょっとした手違いなんだが...策士な奴に嵌められて信者に見られちゃって...信者を討伐して来た部隊に捕まったんだ」

「そうか、まぁこのビギニング刑場に来たからにゃもう何も考える必要はねぇよ、ここから出られる事はまずねぇからな」

雑兵「ビギニング刑場...?」

「なんだ、ここのことも知らないのか...まあいい、知ったところでだからな、先が短い同士仲良くやろうや」

雑兵「...」

「しかし若そうだな、お前今何歳だ?」

雑兵「そろそろ18になる」

「じゅ、18?おいおいそんな若いのに...この国はいよいよ可笑しい国だな」

雑兵「もうどうでもいいよ、また死ぬだけだ」

「何だえらいファンタジーな野郎だな...じゃあ俺も軽く自己紹介してやるよ」

「おれはバウナー軍曹、先の大陸戦争でやらかしてな...終身刑を言い渡されて早6年だ」

雑兵「何したんだ」

軍曹「ちょっとな...敵さんの捕虜を殺しちまって...敵だって俺らの捕虜沢山殺した筈なんだが...いかんせんあちら側が有利な状態で停戦しちまったから...まぁ元敵国の顔色伺いで俺ぁ戦犯になっちまったよ」

雑兵「へぇ...大変じゃないの」

軍曹「いや...お前の置かれてる立場も結構大変だと思うが...見ろ、あの処刑台を」

雑兵「...」

軍曹「この刑場が出来て以来何千もの罪人の慟哭を聞いた処刑台だよ、今日も一人執行される」

雑兵「あいつは何をしたんだ」

軍曹「あぁ、聞いた話じゃ国境沿いの小さな町に手下の蛮族をけしかけて...後は分かるだろ」

雑兵「死んで当然の人間だな...首吊りとか首切るんじゃないんだな」

軍曹「ここからじゃ見えねぇけど執行台の向こう側はエライ崖になっててな、まあまあ見りゃ分かる」

雑兵「...?」

グオオオ...

軍曹「来たぜ...」

雑兵「え?え?」

カタカタと檻が揺れ、地の底からハラワタにズーンとくるような揺れが始まった、揺れは鳴き声とともに次第に大きくなり、その声の主が姿を現した。

?「グウォオォオオオオオオ!!!!!」

雑兵「うっわ...」

軍曹「ふぅ、やっぱ何年も見てるが慣れるもんじゃねぇな、俺らは通称刑場の龍神と呼んでる...昔は由緒正しい龍神だったらしいが、今や人喰いの龍だ」

雑兵「由緒正しかったにしちゃあ随分と汚い身なりだな」

軍曹「龍使いがいねぇのさ、どんな龍にも使いの者が王国から派遣されるんだが...ここの龍だけにゃ使いがいねぇんだ、だから何らかの傷を負っても治してくれる奴がいないから治るまで待つか...酷い時にゃ膿んで悪臭が立ち込めるかだな」

雑兵「この龍が何したってんだ...」


「言い残すことはありますか?」

罪人「ねえな」

「では...彼の魂に永遠の安らぎのあらんことを...」

罪人「さぁ食っちまえ薄汚えトカゲ野郎!!」

人喰いの龍「グゥォオオオオ!!!!」

バクッ ガッツガッツッ!!



雑兵「うわ...マジで人食ってる」

軍曹「綺麗に食ってくれるときゃいいが、たまにこっちにまで肉片飛ばしてくるからそればっかは勘弁して欲しいな...」


「明日はカルト信者の処刑だ、

「所長がカルト信者はいち早く処分した方がいいとのことだからな、無いとは思うが変な宗教をこの刑場で広められたらかなわん」


雑兵「信者の処刑って...」


「誰からやるか?無論明日のうちに全員執行する、頭陀袋を準備しておけ」

軍曹「まぁ、ご愁傷様ってことだな」

雑兵「クソ...ここまで来てこんな死に方かよ...」

_
__

__
_
女騎士「...」

勇者「雑兵...じゃない」


「勇者様どうしたんだ、魂抜けてるって感じだな」

「知り合い探してるらしいが...えらい執着してんな」


女騎士「勇者、そろそろ行こうか」

勇者「...」

女騎士「大丈夫、雑兵はどこかにいるさ、
あいつならどんな逆境も乗り越えられる...というかうまくかわしていくさ」

勇者「うん...」

女騎士(雑兵の運の悪さも桁外れだな...会った時は多分リミッターが外れた状態で憎まれ口叩かれるのかな...的得てる時のあれ結構効くんだよなぁ...)


「ではお先に帰隊します、お疲れ様でした」

女騎士「あぁ、帰ったらゆっくりと休んでくれ」

勇者「...」

女騎士「大丈夫、雑兵なら案外ピンピンしてるだろう、先に帰って休んで...」

勇者「...ッ」プルプルッ... 

女騎士「...先に帰ってて、ね?」

勇者「...」コクッ

女騎士「さあて...人の妹を泣かせた罪は重いからな...雑兵」

_
__

__
_
雑兵「グ-...」

軍曹(こいつ...明日にゃ処刑だってのによく寝られるな...肝が座ってんのかどうなのか...)

軍曹(しかし...こんな若えのにこんなトコに連れて来られる兵隊がいるたぁなぁ...何をしでかしたのか...)

雑兵「んん...ラング...テメェ...グ-...」

軍曹「...ラング...?ちょっと待て...ラングってまさか...」

軍曹「おい、起きろ!」

雑兵「んあ?...んだよこれから死ぬんだから寝かせてくれよ」

軍曹「お前ラングって奴知ってるのか?」

雑兵「ラング?あぁ村長を名乗ってた」

軍曹「クソ...あいつやはり生きてたか...」

雑兵「知り合い?じゃあお前ロクなやつじゃねえな」

軍曹「うっ、いやまぁ...そいつとは入隊が同期でな、中々策士な奴だったよ...都合が良けりゃ俺らにつき、悪けりゃ上官側に付く...まぁ要領がいい奴だったな」

雑兵「なんで元軍人のそいつが今じゃ宗教団体に」

軍曹「多分だが...金目当てだろうな、金には相当がめつい奴だった、入信自体はしてないだろ」

雑兵「そっかぁ、そんな奴だったんだなぁ...まぁ俺にゃもう関係ねぇや、明日死ぬ身なんだ」

軍曹「お前えらく達観してんな...どうやって生きて来たんだ...」

雑兵「テキトーだよテキトー...童貞卒も出来ずに死ぬのは惜しいけど、まぁそれも人生だわなぁ、来世に期待だ...Zzz...」

軍曹「おかしな奴だ...こんな奴雇って王国は大丈夫なのか...?」
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__

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「すみません、この先で馬車同士が事故を起こして...肥料が撒き散らされて結構エグい事に...」

「本当か?どうしますか騎士団長?」

女騎士「うむ...下手に通って疲れている部下たちに肥やしの匂いを嗅がすのは忍びないからな...迂回してビギニング刑場の道を通ろう」

「了解です」

女騎士(勇者はもう帰ったかな...落ち込み過ぎて無いといいけど...)

「ビギニング刑場といやぁ昨日の信者達がもう送られた頃ですね、ラング村のは特段酷かった...」

「あぁ、ありゃぁ人のやれる事じゃねぇや...年端もいかねぇ女の子まで...」

「この先どう生きるんだろうな...被害者の人ら、ホントに生き長らえたかったのかと助けた今でも思うよ」


女騎士「...」

女騎士(助けられた女性達を見たが、皆何かを訴え掛けていた目つきをしていたな...一体何を...)


「しかしあの捕まえた中の一人...やっぱ見覚えあるんだよなぁ...」

「...まさか...いやそんなはずは無い...だって独立大隊だし...」

「え?なんか言った?」

「いや、なんでもないさ」

女騎士(この二人...やけに捕まえた一人の信者を気にしてるな、何があったのだろうか...)


「なぁ、やっぱ見覚えあったってあいつ!訓練所で喧嘩してた奴だ!」

「や、やめろって!縁起でもねえ!」

女騎士「...そいつの事、詳しく聞かせてくれ」

「き、騎士団長...大声出してすみま
女騎士「いいから聞かせろ」

「は、はぁ...あの地下牢から女性達を救出した時に...あの男もいたんです」

「はい...諜報員のオトコが言うにはあの男が女性達に酷い事をと...」

女騎士「諜報員...例の一人生き残ってた奴か、どこへ行ったかまだ情報は無いらしいな」

「はい...」

女騎士「...この隊列の中で一番速い馬を連れてこい!」

「は!自分の馬です!」

女騎士「すまない!少し借りる!」ガシャッ  

女騎士「生きていろ...!必ず!」
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「罪状?人殺しておいてのうのうと生き長らえてる罪だろ」

「ちょっとは真面目に考えてくれ、根拠が必要なんだよ、このロクデナシ共を殺すのにも」

雑兵「早くしろクソ雑魚、トカゲちゃん谷底で待ってんだろうが」

「な、なんだテメェその態度は!」

「肝座り過ぎなんだよ!自分が処刑されるってのを自覚しろ!」

雑兵「あ?うるせぇよなんの調べもしねぇ癖に俺様を取っ捕まえやがって、この国ってホントガバガバなのな」

「クッソ...生意気な奴だな...いいだろう、望み通り最初に執行してやる!」

雑兵「それで良いんだよそれで」

「ちったあ感傷に浸れって...」

雑兵(まぁこの世界じゃ失敗しただけだし...次があらぁな)

雑兵(天使、上等兵、兵長に曹長、エルフや勇者...殿下や女騎士に会えねぇのは寂しいが...仕方ねぇさ、失敗したのは俺だ)

「そこに立て」

雑兵「あいよっと」

「何か言い残すことはありますか?」

雑兵「フィッハー分屯地の独立大隊分遣隊の曹長に、迷惑かけてスマンコって言っておいてくれ」

「で、では魂の安らぎのあらんことを...」

グオオオオオオ...

雑兵「...次はどこかなぁ」


「その処刑をやめろーーっ!!」


「うぇ?!誰だ!?」

女騎士「はぁっ...間に合った...」

「き、騎士団長?な、何故ここに...」

女騎士「良いから早くあの男の処刑を止めろ!」

「は、はい!し、しかし...」

「龍神は出て来たが最期...罪人を喰らわねば凶暴化してしまいます!」

雑兵「ンだよ死ぬ時くらい静かにって...なにしてんの?」

女騎士「お前を待ってる物好きな人達がいるのでな、迎えに来てやったぞ、雑兵」

雑兵「そ、そりゃありがたいけど...もう龍ちゃん来ちゃってっからさぁ...」

女騎士「ンなもの次の処刑人呼べば良い話だ、だろう?」

「ま、まぁ食えりゃ暴れませんからね...お、おい早めに連れて来い!」

「は、はっ!」タタタツ 


雑兵「お、お前ちょっとだけ残酷な奴だな、ちょっと恩人ながら思考にドン引きだわ...」

女騎士「猟奇殺人者に与えられる良心はまだ無くてな...さぁ戻ろう、話したい事や聞きたい事がいっぱいある」
_
__

__
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雑兵「ロバ吉は無事なの?」

女騎士「ロ、ロバ吉?あぁ、曹長殿が引き取ったよ、元気そうだった」

雑兵「そうか...で、ち、地下牢の人達は...?」

女騎士「あぁ...あの惨状で救出と言って良いのか分かないが、救出したよ」

雑兵「そうかぁ...そっかぁ...良かった、しかしビビったなぁアレは...久々に吐いたわあの光景は...」

女騎士「ずっとあそこに閉じ込められてたのか?」

雑兵「あぁ、あそこで俺イかれちゃぁもう助けられんなと思った何とか耐えたが...ッヒッグありゃあヒデェよ...」

女騎士「...今は泣いてても良い、手綱は私が持とう」

雑兵「た、頼む...ウッ...アァッ...」

女騎士(こいつも泣くことがあるんだな...やはり私が思ってたほどに強いメンタルは...)

女騎士「お前に人間味があって安心したよ」

雑兵「あ″...?うるせぇ″っ..,!俺が来る前から貴様ら軍隊にやる気がありゃカルトものさばらなかったんだ!!俺に人間味?泣いて当然だあんなん見せられたら!一等冷酷なのはお前らだクソッタレ!」

女騎士「す、すまない...」

雑兵「何が考えさせられる事があっただ...!スラム街のジャリを救えて、地方のカルト教団の被害を受けてる人らは救えなくて何を考えてた今まで!答えろ!」

女騎士「...地方での有事は領主らの要請がないと動けない法があってな...要請もなくおいそれと動けなかったんだ...」

雑兵「領主様の要請なんぞでもなけりゃ国民を救えられねぇのかこの国は...トンデモな国だな...」

女騎士「...私もこの法は正直変えたい、今回の件で上層部連中も動くだろう...騎士団としても救助に行きたかったんだ、諜報員の連絡が途絶えやっと行けたんだ...」

雑兵「...兵隊なり将校なりなんぞが捕まりゃやっと重いケツあげれるってか?成る程なぁ、アホらしすぎて涙も枯れたわ」

女騎士「すまない...」

雑兵「いや、お前が悪いんじゃねぇ、怒鳴って悪かった、悪いのはぜーーんぶ国だ、国王だ」

女騎士「お、お前...、国王に使える兵士としてその発言は頂けない...」

雑兵「国民の命カルトに頂きますさせた癖して一丁前に俺の事を不敬罪ってか、良い度胸だな」

女騎士「いや良い度胸なのはお前の方だ、絶対みんなの前でそんな話するな、いいな?」

雑兵「だ、だって...」

女騎士「お前が本当に捕まってしまって...悲しむのは誰だと思うんだ?」

雑兵「...え?いるの?」

女騎士「え?」

雑兵「いねえだろそんな物好き」

女騎士「お前...もう少し自分の立場っていうのを理解した方がいいぞ...全てにおいてな...」

雑兵「え?なんで今更?」

女騎士「まぁいい、帰ったら分かる」
_
__

__
_
「しかしですな、あのカルトから五体満足で生還できた兵隊...本当に捕まってしまったのかという事ですよ、送り出した者達は皆...」

「ご子息を亡くされて心中お察ししますよ、シンパの可能性もありますからな」

「それであれば生還できたのも頷けるというものだ」


勇者「...ションベン蟻共がっ!」ガタッ!

女騎士「抑えて、貴様らが言う通り、たしかに我が軍で送り出した者達は皆無念な姿で発見された、この中にもご子息を送り出した者もいる、しかし彼は地下に閉じ込められた彼女達を、これ以上の惨状を避けるために身を呈した」

女騎士「五体満足?そんな訳がないだろう、彼の脳裏には今もあの惨状が思い浮かぶと言ってた。彼は深く彼女達に詫びていた、この国の法の杜撰さを憎んでいた、貴重な戦力と行動力貴様らは無碍に何故できるのだ?」

「し、しかしですね...」

女騎士「まだ何か?」

「あの様な一兵卒が...」

女騎士「あの様な一兵卒だからこそ成し遂げてくれたんだ、私たちも見習わなければならない行動力だぞ」

「...」

勇者「まだ文句あんなら辞表出してよ、事務仕事できる幹部なんか幾らでもいるんだから」

「ゆ、勇者様まで...わ、分かりました、では件の兵に特別な配慮を...」


雑兵「いらねぇよ配慮なんかよ」

勇者「でも...雑兵は頑張ったんだよ?」

雑兵「頑張った俺が今も何故か檻の中に入れられてんだぜ?逃げる訳ねぇってのに...可笑しいぜここの警備隊は、まぁいいけどさ」

勇者「もう取り調べは無いの?」

雑兵「うん、粗方...そいやぁ殿下はどうなった?」

勇者「姉が国王に掛け合って、暫くは主賓外来に泊めさせるって」

雑兵「良かった...」

勇者「会いたがってたよ?雑兵に」

雑兵「俺もみんなにあいてぇよ、てかエルフ元気してんの?」

勇者「うん、最初は落ち着いてなかったけど、今はみんなと仲良くやってる」

雑兵「そっか、なら安心だな...」

勇者「...地下牢にいた人達、みんな長くもたないかもって医師が言ってたら言ってた、切断されたとかの腐敗や...性病とかも患ったらしくて...」

雑兵「...っそ、そうか...やっぱあそこで死なせとくべきだったのかなぁ...」

勇者「...もし仮にだよ?仮に僕があの人達の立場になったら...多分死んだ方がマシだなって思ってくると思う...好きでもない人に...」

雑兵「お前そういうの疎かっただろ」

勇者「ぼ、僕だって勉強してるんだよ?」

雑兵「ごめん」

雑兵「俺もう辞めよっかなぁ兵隊、キツイわなんか」

勇者「や、辞めたいなら...僕の傭兵団に来ない?」

雑兵「人の話聞いてた?兵辞めてえってのに兵隊はいってどうすんだよ」

勇者「じゃあ今後の生活どうすんのさ、雑兵みたいな人雇ってくれるとかないよ」

雑兵「そ、そんなこたぁ」

勇者「みんな優しいから雑兵の破茶滅茶な行動を許してるだけで外の世界じゃそんな事許されないからね、上官に対する態度もそうだし、あと
雑兵「ご、ごめんって!もうやめて下さい、そろそろ泣きそうになる」

勇者「だから...もう辞めるとか言わないで...それにみんなを心配させないでね?」

雑兵「...あぁ、すまん」

_
__

__
_
「あの兵卒ぁ厄介もんだな」

「勇者様と騎士団長のお気に入りだから迂闊に文句も言えん」

「どうするよ、次の″左遷先″は」

「そうだな...もう二度と団長らの手の届かないトコがいいからなぁ」

「...国境守備隊って独立大隊の派遣要請してた?」

「してない、だが職種変換なら俺らでもできる」

「職種変換なぁ...国境守備隊の職種は...主に歩兵科か...」

「やっちまおうぜ、もう面倒はゴメンだ」

「だなぁ...あの兵卒自身も国境守備ならやり甲斐もあらぁ」

「決まりだな、おい学生、独立大隊の隊長に内線」

「はい」
プルルル... プルルル...
_
__

__
_

兵長「それほぼほぼ島流しじゃないっすか...」

隊長「うん、何回か掛け合ったが...やはり人事参謀の連中も...まぁ雑兵の悪評に辟易してるな」

上等兵「悪評って...あいつも巻き込まれてですよ」

隊長「まぁ、そうだろうが...独断をして周りを混乱させてるのもまた事実だ、殿下の件がいい例だ」

上等兵「そんな...それは周りがどうにかしろと言ったのも原因じゃないですか」

隊長「そうだとも、けしかけた奴も悪い...」

上等兵「なら...」

隊長「だが身の程というのを本人も弁えるべきだった...それだけ事なんだ」

兵長「...そうっすね」


天使「...」

上等兵「はぁ...どうしようもないなぁこればかりは...」

天使「雑兵が異動って本当ですか?」

上等兵「あぁ、しかも職種まで変えさせての異動だ...もう二度と独立大隊には帰れない」

天使「二度と...」

上等兵「お前ら二人で切磋琢磨してたのになぁ...あいつにもまぁ...問題はあったが、周りの人間にも問題がなぁ...」

天使「...なんで雑兵ばっかりこんな目に...」

上等兵「...」

_
__

__
_
天使「...知ってたんだね」

雑兵「あぁ、取り調べ受けてる時にな、人事参謀の木っ端将校がズケズケ来やがってよ、今日付けで第2国境警備隊、国境守備中隊に配属だってよ、歩兵に職変」

天使「第2国境警備隊ってどこなの?」

雑兵「分かんない、なんか北のほうって聞いたけど」

天使「北...トルティア地方の国境かな...?」

雑兵「ど、どんなトコなの」

天使「うーん...あまり話し聞かないトコ...辺境にあって、あんま交通の便は...」

雑兵「ガチ島流しやんけ」

天使「でも第2国境警備隊も聞かないなぁ...どこが指揮してるんだろう」

雑兵「なんか国境警備専門の偉いトコとかあるんじゃないか?まぁいいや、今日付けで異動だからな...檻から出た瞬間にゃもうそのトルティア地方に行かにゃならん」

天使「またすぐ行っちゃうんだね」

雑兵「申し訳ねぇがこればっかりはなぁ...」

天使「...もう二度と独立大隊に帰れないって言われてたけど...いつでも顔だしてね?」

雑兵「うん、帰れたらすぐに顔出すよ、元気でな」

「雑兵、トルティアへ移動だ、荷物は後で郵送させるからそのまま来い」

雑兵「はいよ...じゃあな...」

天使「...」
_
__

__
_
トルティア地方
険しい山岳地帯が広がっており、最も低い地点でも首都と比べると海抜千mもある、
北の国境を抜けると亡国オムエン国の跡地が広がっている。

雑兵「そのオムエンにゃ人いないの?」

「あーまだ住んでる人は住んでっけど、俺らの国よりにいるねぇ、首都付近や地方の都市なんかはもう廃墟しかねぇよ、まぁその廃墟ん都市も魔物で溢れてて、もうお手上げって感じさね」

雑兵「ふーん」

オムエン国はかつては栄華を誇った王国であったが50年前、突如魔物の集団に攻め込まれ、あまりの奇襲であったため為すすべも無く国王は討ち死、敗残兵と化した王国軍も撃破され、現在は魔物の溜まりとなっている広いただの土地である。

「しかし兵隊さんも不運だね、あの国境にゃホント何もねぇぞ」

雑兵「何もないってのはいい事だ...人も死ぬことはねえ」

「そうか...そうなのかもな...着いたぜ」

雑兵「着いたって...山道の入り口じゃん」

「こっからは一人で行ってくれ、あの警備隊の空気はあんまり好きじゃねぇんだ」

雑兵「あそうなんすか...」

雑兵「...人も馬車も通ってない事はないんだな」

まだ新しい馬車の轍、オムエンから王国へ続く道へは幾たびも往復している跡があった、多分人通りがゼロなんて事は無いのだろう。

雑兵「行ってみるか」

轍にそって山道を歩く、辺りは薄暗く静かで、虫の音色しか聞こえない。


雑兵「もう夏にはいるんだなぁ」


「おい」

「お前、見かけねえ顔だな、どこの部隊だ」

雑兵「独立大隊、ってもクビになって国境警備隊に職種変換になったよ、あんた国境警備隊?」

「あぁ、まぁそんなトコだ...しかし雑用部隊から国境警備隊ってなぁどういう了見なんだ?」

雑兵「俺が知るかよ...」

「まぁいい、新顔って事だな、俺は警備隊伍長、元は会計隊に居たのをここは島流しって訳よ」

雑兵「横領でもやったのか」

「あぁ横領だけならまだ重営倉で済んだが、ごちゃごちゃ言ってきた課長のツラぶん殴っちまって、ツラも二度と見たくねえってな、ここへ一昨年な」

雑兵「アホな事を」

「あぁ、それもこれも戦死した兄の弔意金をくすねやがった課長のせいだクソッタレ」

雑兵「いつかの大陸戦争かなんかの話か?」

「いつかの?5年しかたってねぇんだぜ?

雑兵「あ、そんな最近だったんだな、まぁいいや、警備隊って何人くらいいんの?」

「ん?警備隊...?ちょっと待てよ何人くらいだったかなぁ...10人...いや20...?」

雑兵「マジで?人のこと言えないけど人に興味無さすぎだろ」

「だってなぁ、みんな我関せず、個人の世界観にどっぷりハマってっからさぁ、気持ち悪いんだよなんか」

雑兵「あーそういうタイプの部隊か」

「最初は仲良くなろうとしたけどさぁ、みんな反応イマイチで」

雑兵「そうか、まぁいいんじゃないの」

「適当だな...ココだよ、第2国境警備隊、オムエン国境分遣隊」

雑兵「...国境警備隊?」

「あぁ、一応な」

オムエン国境警備隊、亡国オムエン全土をを見下ろす位置に配置されており、オムエン国は朝焼けに染まり美しく映った、だが肝心の国境警備隊の建物は無く。

雑兵「これっていわゆるアレじゃねぇの、塹壕じゃねぇの?」

「あぁ、その通りだよ、でも屋根は付いてるだろ?まぁ雨は凌げど流水は凌げねぇ、風通しの良い職場ってなぁまさにここのことだよ」

雑兵「人っ子一人見当たらねぇけど、どこいんの?」

会計伍長「さぁ、大方オムエンに入ってなんかやってんじゃねぇの?」

雑兵「なんかあんのか」

会計伍長「あぁ、麓の廃墟になった村や町から金になりそうなの漁ってるよ、それを持って帰って、勝手に町に降りて売り捌いてる」

雑兵「逞しいことこの上ないな」

会計伍長「俺も金欲しいが、オムエンに入ってまでは嫌だな、運悪けりゃ町に降りた守備隊の奴ら全員帰ってこねぇって事もあったぜ」

雑兵「帰ってこねぇってぇのはもしかして...」

会計伍長「あぁ、廃墟にゃ魔物の群れや、抜きん出て強い魔物がウロついてる事もある、あそこらはもう魔物にとっての獲物がないからそこまで多くはないが...それでも運が悪いとな」

雑兵「そうか、まぁここに魔物を連れて来なきゃ何でもいいさ」

会計伍長「ホントそれだな...お、帰ってきたぜ」


「ッチ、たったこれっぽっちかよ...」

「新顔二人を囮にして死なせてこんだけじゃあなぁ、まぁ補充は幾らでもくらぁ」

「お、会計の、また塹壕に篭ってやがったのか?」

会計伍長「あぁ、命あっての物種だ」

「ビビってんじゃねぇよ玉無し、魔物どもなんか来やしねぇって、そりゃそうと、明日の留守番頼むわ」

会計伍長「街におりんのか、そろそろ街の憲兵も嗅ぎまわってるぜ」

「っへ、上手くやるさ...ところでそこのは見ねえ顔だな?」

雑兵「うーっす、精が出るな」

「んだこいつ、新顔のくせに態度デケェやつだな」

「あんまナメてっとオメェも魔物の餌にしちまうぞ?あ?」

会計伍長「あーあー...血の気が多いやつばっかで」

雑兵「オメェこそ口の利き方に気をつけろ、こっちはこんなトコに連れて来られて、しかもオメェらみてぇなハゲタカが視界に入って気が立ってんだよ」

「て、てんめぇ...!」

雑兵「そいやあさ会計伍長、この二匹しか上がって来なかったけど他は?」

会計伍長「え?多分だが死んだんじゃねえか?前は結構な人数いた気がするけど、金欲しさに街に降りてそれっきりな気がするなぁ、興味なかったから確かな情報じゃないけど」

雑兵「やっぱ雑魚は淘汰されるのかなぁ」

会計伍長「さぁ、知らんけど」

「お、おい!話を書きやがれコラ!!」

雑兵「あ?ウルセェんだよサンピンが、フィッハーでオメェら以上に厄介な奴らに楯突いたからもう怖かねえぞ」

「んのクソ野郎!ぶっ殺してやる!!」

雑兵「うわぁ怒らんでや、仲ようやろ」

会計伍長「おめぇ変なやつだな」

グルルル...

「お、おい...今の声って...」

雑兵「おい、まさかとは思うが魔物とやらを連れてきた訳じゃあるめぇよな」

「ぜ、前々回に下った時に殆どの警備兵を惨殺しやがった奴だ...」

雑兵「お前ら死ねよもう」

会計伍長「...やっぱ来るわなぁ、お前ら縄張り荒らすから...」


オークジェネラル「グゥウウウ....」

雑兵「うっわくっそ強そうやんけ...」

会計伍長「随分前にだがな...国境警備隊の陣地にオークジェネラル率いるオークウォリアーの軍団が攻めてきてな...」

雑兵「よく陣地持ったな」

会計伍長「いや、惨敗だった、陣地も荒らされ警備兵も殺されるだけ殺されて...目も当てられねぇ惨状だったよ」

雑兵「お前よく生きてたな」

会計伍長「死んだフリで対処しただけだ」

雑兵「そ、そっか」

会計伍長「まぁ聞けよ、その時に殺られた奴らがな、縄張りを荒らした奴らだけだったんだよ、あいつらも知能があるって事だな」

雑兵「え?じゃあほっといたら勝手に殺して帰るってことか」

会計伍長「そういう事、まぁコーヒーでも飲もうや」

雑兵「だな」

「お、おい!!ほっといてねぇで助けてくれ!!!頼むよ!!」
「お、俺にゃ家族がいるんだよ!!」

会計伍長「じゃあ一家もろとも死んだ方が良いぜ」

「って、てめぇ!鬼かオイ!!」

オークジェネラル「グゥウウウ...!!」ブゥン!!

「あ」グチャッ...
「ッヒィ!?」


雑兵「本当に狙わねぇな」

会計伍長「だろ?だからオムエンにゃ行かない方がいいんだ」

雑兵「あぁ、だな」


「う、うわぁぁぁあ!!!」タッタッタッタッタ...

会計伍長「あんのバカ野郎、オムエンの方に逃げやがった」

雑兵「南無阿弥陀ってとこだな」

会計伍長「しかしお前はなんか達観してるよな、今まで来た奴らとは一線を画してるぜ」

雑兵「まぁいい事悪い事が交互に続いたらねぇ、リアクション薄くなるよね」

会計伍長「そ、そうなのか」

雑兵「周りはいい事って言っても上の人間らからしたらよろしくない事だった、それをし過ぎたんだな俺も」

会計伍長「そうかい、ここじゃなんの事件も起きねえ、たまにゃゆっくりしようぜ」

雑兵「だな」

_
__

__
_
オムエン国境の1日はとてものどかな物だった、朝は適当に起きて夜は適当に寝る、飯はトルティアに駐屯する糧食兵が運んで来てくれる、実に優雅な部隊だ、しかし彼等に他の兵はどこ言ったのかと聞かれるので口裏合わせに困る。

会計伍長「さぁて、そろそろ飽きてきたな?」

雑兵「死ぬほど飽きたわ」

会計伍長「やっぱりな、俺もそうだったよ...でもいつかその飽きたって感情も吹き飛ぶぜ」

雑兵「そうかぁ...人として死にそうだな」

会計伍長「実はな、面白い噂があってな、詳しい話は知らねえけどよ」

雑兵「え?」

会計伍長「勇者様とデートしてる兵卒がいるって話や...隣国の殿下を拉致った兵卒がいるとか」

雑兵「ら、拉致ってはねぇんじゃねえかな...」

会計伍長「...やっぱお前だったんだな、独立大隊の兵卒ってのは」

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オムエン国境の1日はとてものどかな物だった、朝は適当に起きて夜は適当に寝る、飯はトルティアに駐屯する糧食兵が運んで来てくれる、実に優雅な部隊だ、しかし彼等に他の兵はどこ言ったのかと聞かれるので口裏合わせに困る。

会計伍長「さぁて、そろそろ飽きてきたな?」

雑兵「死ぬほど飽きたわ」

会計伍長「やっぱりな、俺もそうだったよ...でもいつかその飽きたって感情も吹き飛ぶぜ」

雑兵「そうかぁ...人として死にそうだな」

会計伍長「実はな、面白い噂があってな、詳しい話は知らねえけどよ」

雑兵「え?」

会計伍長「勇者様とデートしてる兵卒がいるって話や...隣国の殿下を拉致った兵卒がいるとか」

雑兵「ら、拉致ってはねぇんじゃねえかな...」

会計伍長「...やっぱお前だったんだな、独立大隊の兵卒ってのは」

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オムエン国境の1日はとてものどかな物だった、朝は適当に起きて夜は適当に寝る、飯はトルティアに駐屯する糧食兵が運んで来てくれる、実に優雅な部隊だ、しかし彼等に他の兵はどこ言ったのかと聞かれるので口裏合わせに困る。

会計伍長「さぁて、そろそろ飽きてきたな?」

雑兵「死ぬほど飽きたわ」

会計伍長「やっぱりな、俺もそうだったよ...でもいつかその飽きたって感情も吹き飛ぶぜ」

雑兵「そうかぁ...人として死にそうだな」

会計伍長「実はな、面白い噂があってな、詳しい話は知らねえけどよ」

雑兵「え?」

会計伍長「勇者様とデートしてる兵卒がいるって話や...隣国の殿下を拉致った兵卒がいるとか」

雑兵「ら、拉致ってはねぇんじゃねえかな...」

会計伍長「...やっぱお前だったんだな、独立大隊の兵卒ってのは」

雑兵「いや...まぁそうだけどさ」

会計伍長「はぁ、やっぱ兵卒にゃ特別な人間なんかいらねぇんだなぁ」

雑兵「特別なわけじゃねぇよ、ただ運が良い時と悪い時の差が人より激しいだけだ」

会計伍長「十二分に特別な人間だっつーの...ずっとこんな所にいるつもりか?」

雑兵「さぁ、上の命令によりけり」

会計伍長「お前...死んだ方がいい」

雑兵「お前流石にストレート過ぎて泣きそうだわ」

会計伍長「ごめん、言い直すわ、死んだフリして旅でもしろよ、そしたら自由だせ?」

雑兵「死んだフリ?」

会計伍長「あぁ、こんな国だ、死んだフリしてもバレねぇぜ?国境守備隊の奴らも死んだフリしてバックれた奴らもいるしな」

雑兵「死んだフリってもなぁ...」

もう社会的に死んだようなトコに来た俺だが、人として死ぬ程の絶望感は今の所持ち合わせてない。

雑兵「いや、まだ生きておくわ、金が入り続ける限りはな」

会計伍長「使い所なんかないぜ?」

雑兵「いいんだよ、ねえよりかはな」

会計伍長「お前、やっぱ変な奴だなぁ」

雑兵「二度目の人生だからな、まだ死なないでいいんなら生かしといて欲しい」

会計伍長「そうか...なんでもねぇ、忘れといてくれ」

雑兵「なぁ、気になってたんだがこの国境って人の行き来あるの?」

会計伍長「あー俺が来るちょい前はあったらしいぜ、それこそ奴隷商の馬車とか...」

雑兵「奴隷?そんなもんがまだあったのか」

会計伍長「現在進行形だろ、でもオムエンにまだ働かせられる程の人間がいるのかな」

雑兵「ふぅん...」

会計伍長「ま、仮に馬車が来たとしても俺は放っておくけどな、変な事には巻き込まれたくねぇし」

雑兵「だな、俺も干渉せんようにしよう」
_
__

__
_

勇者「雑兵がどこ異動したのか分からない?」

エルフ「はい、人事部に所属してる同族にも密かに聞いたのですか...人事参謀は公開する必要性なしと」

勇者「あーまぁただの兵卒だからねぇ...」

エルフ「仕方がないとは思います」

勇者「しょうがないか...それと、殿下の事なんだけど」

エルフ「はい、殿下を亡国オムエンが良いと思われます、領土の広さも我が国よりは広く無いので脅威になる事も無いでしょう、オムエンの調査に先立ち腕が立つ者を何名か連れて行きたいのですが」

勇者「うん、僕も行こうか?」

エルフ「え?よろしいのですか?お忙しいかと思い...」

勇者「忙しく無いよ、むしろ暇なんだよねぇ」

エルフ「勇者様も一緒なら百人力ですね、では出発は後日知らせます」

勇者「うん、ありがとう」
_
__

__
_
雑兵「なぁ、あっち側にゃまだ少数だが人が住んでるって聞いたんだが、本当に住んでるのか?」

会計伍長「あー俺もたまに聞くが見た事ねぇ、まぁおおかた国が滅んでからも息災に住めてるってこたぁ、多分魔物も寄り付かないぐらいの田舎なんじゃないかな」

雑兵「そっかぁ、なんか難民とか来そうな気がしてさぁ」

会計伍長「幾らかはきたみてぇだぜ、それこそ魔物に奇襲食らって3日4日くらいは難民でごった返したそうだ...しかしうちの国は冷酷でなぁ...みんな追い返しちまった、無理に入ろうとしたら女子供関係なくスパッとってなもんだ」

雑兵「...どこまでこの国は冷酷になれんのかなぁ」

会計伍長「冷酷は底なしだぜ、うちの国にゃ良い事でも個で見りゃあそりゃぁもう」

雑兵「そんなもんかなぁ...っとお?」
ガラガラガラガラ...
「みんな、もう少しでビギニングだぞ」

「気をしっかり持て!」


雑兵「見たところパンピーだけど...」

会計伍長「馬車...しかも大人数を乗せてる...」

雑兵「話聞いてみっか?」

会計伍長「入国はさせない方向で頼むぜ」

雑兵「聞くだけ聞いてみる、おーい、止まれ」

「あ、兵隊さん...」

「ビギニングは入れてくれないって...」

雑兵「何があったの」

「はぁ...自分達はオムエンの難民キャンプで暮らしている者なのですが...先日いきなり魔物の襲撃を受けてしまいまして...」

「いままでは襲ってくる気配すら無かったんです...しかしどこかの火事場泥棒でしょうか...あの連中が魔物達に攻撃を受けていたので救助をしたのです...」

雑兵「それでその火事場泥棒諸共キャンプを襲われたと...ちょっと待ってろ」トコトコ


雑兵「絶対うちの守備隊のせいだろこれ」ヒソヒソ

会計伍長「俺もそう思う...しかし俺らだけで対処なんか出来ないぜ...?」ヒソヒソ

雑兵「出来ないけどさぁ...」

会計伍長「何とかして帰ってもらえ、面倒ごとは嫌いだ」

雑兵「俺だって嫌いだよ、でもなぁ...原因はうちだぜ?」

会計伍長「そうだけど...」

雑兵「隣の国が滅んのは俺らのせいじゃねえから難民追い返しても正直文句は言わねぇと思うが、難民キャンプが襲われたのはほぼほぼうちのせいだろ」

会計伍長「う~ん」

雑兵「黙って通してさ、しらばっくれようぜ?女子供も載ってるんだし追い返しちまっ死にでもしたらクッソ後味悪いぞ」

会計伍長「くっそ...今回だけだぞ」

雑兵「恩にきる、おい、そこの」

「は、はい...」

雑兵「黙って通れ、何も言わず、振り返らずに黙って通れ」

「は、はい...!」

「ありがとうございます...ありがとうございます...」

雑兵「早く行けこんちくしょうが」


会計伍長「しーらね」

雑兵「あとはあいつらがしらばっくれて何言われても俺らのことを口に出さにゃええがなぁ」

会計伍長「我関せずの方かと思ったが、なかなか情に弱い男だな」

雑兵「いや、お前フィッハーの惨状見てみろよ、そりゃ情けも掛けたくなるわってレベルだぜ」

会計伍長「あぁ、噂でしか聞いたことないがな...って、オイ、オムエンの方見てみろよ」

雑兵「うわ、千客万来だなオイ」

オムエンからは呆れ返る程の馬車がビギニング王国へ向かっており、その車列は蛇のように伸び切っていた。

雑兵「一体亡国のどこからこんなに人間が来るんだよ」

会計伍長「ウッソだろ...」

雑兵「おーい止まれ、何事だ」

「へぇ、自分らは難民キャンプで生活をしていたんですが...今まで相手にしてこなかった魔物達がいきなり襲いかかってきて...周りのキャンプの人たちもかき集めて脱出したとこなんです...」

雑兵「キャンプ?そんなのあるのか?」

会計伍長「いや...聞いたことがないな...」

雑兵(しかし見るからに胡散臭い集団だな...)

雑兵「わかった、ここいらは安全だからちょっと待っててくれ、伍長ちょっと」

雑兵「ここいらとは別に、ビギニングからオムエンに通ずる道ってどのくらいあるんだ」

会計伍長「え?えーっと...一番デカイので、フィッハーからオムエンに行ける切り通しの街道かな...山を崩して作った街道だ、あんま使われてないけどな」

雑兵「なるほどな...伍長、さっき通した馬車はまだ近くに居るはずだ、少し追いかけて...そうだな...教祖様はどちらに?って聞いてくれ」

会計伍長「え?なんでだよ」

雑兵「頼む」

雑兵「あ、あと、相手がそれ言って変な様子だったら...一目散に逃げてくれ」

会計伍長「あたりめぇだ、おまえ上手くやれよ」

雑兵「あぁ...」


雑兵「待たせたな」

「おや、もう一人は...」

雑兵「あぁ、麓の街で受け入れが可能かどうか聞きに行ってる、もう少し待っててくれるか?」

「なんだ、そういう事ですか、分かりました、待ちましょう」

雑兵「しかし魔物に襲われるとは大変だな、前に通した人らも難民キャンプから逃げて来たみたいだが...あと何個くらいキャンプがあるんだ?」

「そうですね...知ってる限りだと4、5個は...」

雑兵「そうか...」

会計伍長「お、おい」

雑兵「戻ったか、どうだった?」ヒソヒホ

会計伍長「なんか教祖様って単語出したらすんげぇキチガイみたいになった...」ヒソヒソ

雑兵「連れて来れそうか?」

会計伍長「あ、あぁ、その場に留めてるから多分...」

雑兵「連れてきてくれ...さてと、教祖様は元気ですか?」

「...はい、しかしラング村が堕ちてしまい、新たな拠点を探している最中です」

雑兵「オムエンは国土はまあまあですが...いかんせん魔物が」

「はい、廃村などを巡ったのですが既に魔物の巣窟で...信者もオムエンで多数失いました」

雑兵「教祖様はまだビギニングにおられるのですか?」

「はい、しかし最高幹部のラング様が姿を消してしまい...非常に心を病んでおります」

雑兵「やはり...ラング様は右腕のようなものでしたからね...」

雑兵(ラングの野郎はこのキャラバンにゃいねえってことか...まぁいい後はこいつらをどう始末するかだな)

会計伍長「連れてきたぞ...」ヒソヒソ

雑兵「ありがとう、先ほどの...」

「同志だったのですね...気付かず申し訳ありません」

雑兵「いえ、こちらこそ...麓の街は警備がとても厳しい場所ですから街に入ったら最後でした」

「それは有難い...しかし我々はどこへ行くべきなのか...」

雑兵「暫くここへいて下さい、すこ調整すれば良い具合に町をとおれますから」

会計伍長「こいつら知ってんのか?」

雑兵「あぁ、フィッハーから逃れたカルトの敗残兵共だ」

会計伍長「どうすんだよここに引き止めて」

雑兵「しかし街にゃ入れられねぇだろ...ここで足止めして、明日くる糧食の奴に上手いこと伝えるんだよ」

会計伍長「それまでどうする」

雑兵「野となれ山となれだ、上手い具合に話つけてやる」

会計伍長「頼むぜ...」

雑兵「先程通した女子供しか乗ってない馬車は一体?」

「あぁ、我々のキャラバンの家族です、先に通して大丈夫かどうかを...」

雑兵「あぁなるほど...」

雑兵(女子供盾にして安全かどうか確かめてたんだな...あの人らが本当に信者かどうか確かめねえとな...)

会計伍長「来たぜ、さっき通した馬車だ」

雑兵「なぁ、少しだけここにいてくれ、何も話さなくていいから」

会計伍長「マジかよ...なんか策あるんだろうな」

雑兵「ねぇよ、あったらとっくに逃げてるよ」

会計伍長「そうかい...言っとくが逃げられそうだったら俺逃げるからな?」

雑兵「あぁ、そうしてくれ」

雑兵「おい、お前...」

「は、はい...」

雑兵「率直に聞くぞ、貴様はあの教団の手先か?」

「冗談じゃない...!俺らはあの教団に家族を...!」

雑兵「お前のキャンプは本当に魔物におそわれたのか?」

「あいつらだよ...!あいつらがいきなり来やがって...変な講釈を垂れて来やがったから追い返したら...夜中に...」

雑兵「このキャラバンに手先はいるか?いいか、正直に答えねぇと殺すぞ」

「いねぇ、ここの人らはみんな家族を殺された人たちだ...」

雑兵「信じるぞ...もし嘘だったら分かってんだろうな...?」

「あたりめぇだ...!」

雑兵「さぁて...ここに残ってるのは世捨て人だけってか...」

会計伍長「...」


「教祖様がきっと見守っててくれるさ、ここの砦にいる者たちが信者なのもお導きだ」

「良かった、ここを拠点にまた活動を再開できる...」


会計伍長(んのキチガイども...教団が壊滅してもまだ足掻くのか...ゴキブリみてぇだな)

雑兵(おう、首尾はどうだ)

会計伍長(首尾もクソもあるかってんだ...やつらここを拠点にする腹でいやがる...あの先のキャラバンは?)

雑兵(被害者だ、問題ねえさ、ありゃあ殺してた)

会計伍長(そ、そうかい...んで、どうすんだよこれから)

雑兵(いいか、あと少しで糧食を運搬しにくる奴らがくる、お前はそいつらにここのことを報告しろ、いいか?)

会計伍長(い、いいけど、お前は?)

雑兵(こいつらを見張っておく、さぁ行け!)

会計伍長(あ、あぁ...) ソロリソロリ...

ただの落ちこぼれが、こんな目にあうとは、人生は分からんもんだ、だが多分、この麓の村の人たちが不幸になって良いはずが無い。
教団に壊滅させられた村も、家族を殺された人をこれ以上増やせば、多分俺がこの世界に送られた意味がなくなる気がする、ただの雑兵だが、ここの拠点で食いとどめくたばるだけの役目は果たせるだろう。

雑兵「どうせ俺はどちらの世界でも死に損ないだ、死後の世界が得ならあいつらもろとも案内してやらねえとな...」

「おお...朝日が...!」

「こんな綺麗な朝日をまたゆっくりと拝めるとは...」


雑兵「なぁ、ちょっとこっちへ来て手伝ってくれないか?」

「いいでしょう、この拠点へ導いてくれた同志の手を煩わせる訳にはいきませんから」

雑兵「おうよ...」



「で、私はなにをすれば...」

雑兵「お前さん、家族はいるか?」

「か、家族ですか...?その様な縛りはとうに断ち切りました、あなたも...」

雑兵「そうかい」ドスッ...

「う″っ...な、なに

雑兵「ッフ」 ザシュッ...

雑兵「一人で運ぶにゃ辛いな...あの守備隊の連中何人か生かしとくべきだったか」ズルズル...


雑兵「よし、次だ」

どれだけ援軍が来るか分からない、俺が死ぬまでに何人処分できるだろうか...そんな考えが浮かんでは消えている、人を殺める事なんて前の世界では考えた事も無かった...だがこの世界では簡単に、作業的に行なっている、この世界に染められたのか、元の世界でも同じ様な事があれば俺も出来たのか...

雑兵「なぁ、ちょっと来てくれよ...」

「どうしました?」


雑兵「お前、家族は?」

「家族?何を言っているんですか、家族なんて...はェ...

雑兵「...」ズルズル...

その頃
「いやーまさか飯運ぶだけの道で、勇者様ご一行に会えるとは」

勇者「結構な量じゃん、そんなに人いるの?」

「はあ、書類の員数では、ですがね...ここだけの話、何人かは任務そっちのけでオムエンに入って、破壊された町で金品漁ってますよ、まだ魔物がいるってのに...」

勇者「そっか~、敵対する魔物殺しちゃえばオムエンもまだ使い道あるかもね」

エルフ「そうですね、手始めに最初の村から...あれ?」

会計伍長「ッハア...ッハア...」

「あ、ありゃあ国境守備隊の伍長です、どうしたんだ?ついに魔物に?」

会計伍長「ま、魔物のほうがまだ知能があらぁ...カルトがオムエンから来やがった...」

「カルトってェと...フィッハーで壊滅したはずじゃ」

勇者「幹部連中と幾らかは逃がしちゃったんだ、まさか残党がフィッハーにいるとは...」

エルフ「生き残ったのは君だけ?」

会計伍長「いや、一人が足止めしてる...一回奴らとやり合った奴らしい...俺は飯を運搬する連中に援軍を...」

「っど、どうしましょう」

勇者「町へ戻って体調に報告して、この馬車使っていいから」

「っは、はい」

会計伍長「はやくアイツのとこに戻らねぇ...と...」バタンッ...

エルフ「ちょっ、大丈夫?!」

勇者「気絶してる、暫く起きないだろうから木陰に寝かせとこ」

エルフ「はい」
_
__

__
_

雑兵「っはぁ...!っはぁ...!」

「逃すな!!アイツだ!アイツがフィッハーにいた奴だ!」

「同志達の仇だ!!」


すこぶるヤバい、六人目を殺す瞬間に悲鳴をあげやがったもんだからバレてしまった...何をトチ狂ったのかオムエンの方へ逃亡してしまった、まったく地理が分からない。

雑兵「あーもう疲れた、無理だ!どこかに隠れよう...!」

守備隊の奴らが漁っていたであろう村に入った頃にはもう体力の限界が来ていた、会計伍長のやつうまく逃げられてたらいいが...

雑兵「クッソ...しちめんどくせぇ...!」

急いで入った建物は二階建ての厩舎だった、ずいぶん前に食い荒らされたであろう家畜の死骸、ボウフラが沸いている水桶、あまり長居したくない環境であった。

雑兵「二階に隠れよう...こんなとこ見て回っても一人か二人だ...」

二階は農機具や酪農に使う器具が所狭しと置いてあった、だが金属部品は全て取り払われており、おそらくうちの守備隊がかすめ取って金に換えたのだろう。

雑兵「はぁ...伍長は大丈夫かなぁ...」

階級は上だったがこういう事はあまり慣れてない様子だった、まぁ俺も最近慣れたくらいだから仕方がない。

雑兵「...勇者とかがいてくれりゃあなぁ」

ガタンッ!

雑兵「うおっ!何もんだ!」

「プギ-...」

雑兵「...豚?いや...ありゃあ...オークってやつか?」

オーク「プギィ-...」

雑兵「まだ子どもっぽいな...どうした?親とはぐれたのか?なんか食いもん...干し肉しかねぇ」

オーク「プギャッ!」

雑兵「お、食えるのか?じゃあ食えよ」

オーク「♪」

雑兵「ちっこいなぁ、何があったんだ...」


「この厩舎を見てこい!!」

雑兵「ヤベッ...!」ッサ

ギィ... ギィ...


「出てこい異端者め...!同志を騙し殺した罪は重いぞ...!」


オーク「プギッ...」
雑兵「静かに...大丈夫だ」

雑兵(一人か...ここで殺すべきか...?いやしかし、ここで殺してしまって、やつら員数が合わなければこの村を重点的に探すか...)

「いないようだな...ここはいないぞ!」


雑兵「...ふぅ、危なかった...静かにしてて偉いぞ、あとで親んとこ送ってやるからな」ナデナデ

オーク「プギッ!」

雑兵「ちっこいなぁお前、どこから来たんだ?っても言葉分かんねえよな」

オーク 「?」

雑兵「出てみっか、もうちょっと静かにしててくれな」

オーク コクッ

_
__

__
_
雑兵「...」コソ-

雑兵「い、嫌に静かだな...っ!?」

「た、助けてっ
オークジェネラル「...」ザシュッ!!

「あ...あぁ...」


雑兵「...父ちゃん?」

オーク 「プギッ♪」

雑兵「...」


オークジェネラル「グゥゥゥウ...」
「教祖様助けて下さい...」
ブシュッ!
「」
オークジェネラル「...」キョロキョロ

雑兵(ぜってぇチビ探してる...そっと置いて帰ろう)ソ-ッ...

オーク 「プギッ♪プギッ♪」

雑兵「うおっ...!」

オークジェネラル「?!」

オーク「プギッ!」トテテ


雑兵「に、逃げ...」

オークジェネラル『待て...』

雑兵「えっ...」

オークジェネラル『貴公を追っていたこの者達は殺しても良かったのだろうか』

雑兵「そ、そんな事後確認されても、死んで当然の奴らだ、自覚なしで人に害しか持ってこねえとんでもねぇ奴らだよ」

オークジェネラル『そうか...なら良い、見たところ貴公からは敵意は感じられない、しかも迷子であった我の息子を見つけ届けてくれた、感謝に耐えない』

雑兵「い、いや偶然だから別にいい、ところであんたは...」

オークジェネラル『失礼、紹介が遅れた、我はオークジェネラル、この国のオーク族を統べる者だ』

雑兵「この国ってえと、オムエンか...じゃあウチの人間が結構迷惑かけたと思うが...」

オークジェネラル『是非もない、皆骨のない奴らばかりだった』

雑兵「そ、そうかい、じゃあ俺はビギニングに戻る」

オークジェネラル『達者で暮らせ、オムエンの地は人間にとっては辛い場所だろう』

雑兵「...聞けるなら聞きたいんだが、なんでお前らはオムエンを襲ったんだ?」

オークジェネラル『襲った、と言えば語弊がある、人間が戦争に負けたのだ』

雑兵「戦争...」

オークジェネラル『オムエンは永らく人間と我々、其方の言葉で言えばいわゆる異種族...両者は共存し互いを助け合って暮らしてきた、しかし前国王が死没し、お付きの大臣が実質的に政権を握ったのだが...我々に差別的な人間で徐々に生活を締め付けて来たのだ』

雑兵「...」

オークジェネラル『そしてある日、ゴブリン族の一家が謂れのない罪を擦りつけられ、一家もろとも...そこから人間と我々は対立するようになった』

雑兵「そして戦争へ...か」

オークジェネラル『そうだ、戦局は我々に圧倒的有利で、敵対する人間を国外へ追いやった、しかし我等と共存を望む人間もいた、我々も同じだったが...次は我らが人間を迫害し始め...最後には皆国外へ出て行った』

雑兵「ふーん...」

オークジェネラル『我の立場ではなにも介入させる事が出来ない、また人間と暮らしたいものだが...』

雑兵「人間と...そう言えば...殿下まだプーだったよな...」

雑兵「なぁ...物は相談なんだが...また人間と暮らしてみねぇか?」

オークジェネラル『人間と共存?いや...そちら側が認めぬだろう』

雑兵「いるんだよ、こっちの大陸で居場所が欲しい奴がよ、話だけでも聞いてみねえか?」

オークジェネラル『うーむ...そうだな、″オーク族としては″賛成しよう』

雑兵「ってぇことは他の族は...」

オークジェネラル『遺恨は根深いのだ、思っているよりもな』

雑兵「そうか...分かった、なんとかしてみるよ」

オークジェネラル『あぁ、次会うときは共に生きる者同士の話をしよう』

_
__

__
_
国境警備隊陣地
勇者「誰もいない...」


エルフ「勇者様!死体です!」

勇者「あ...カルトの奴らじゃん、こんな人数誰がやったんだろ」

エルフ「我が軍の警備兵も見当たりませんね...全滅か或いは逃亡か...?」

勇者「さっきの伍長が言ってた、一人残ってるってのが気になるんだよね、恐らくこのカルトを殺した奴だと思うんだ」

エルフ「物陰に死体...隠れて殺してたってことは、バレて逃亡した可能性もありますね」

勇者「オムエン側に逃げちゃったのかなぁ...ん?」


雑兵「つっかれたぁマジで...つーかよう考えりゃおれ殿下に会える機会もうねぇし、あーもうダメだダメ、二度とよらんあんな国...あ」

エルフ「うっそ、生きてた...」

勇者「ここにいたんだね」

雑兵「あ~...何しに来たの?」

勇者「殿下の次の安住の地をね、もうあっちには戻れないでしょ」

エルフ「それでオムエンへってこと...魔物なんか倒しちゃいいし」

雑兵「あーあいつのね...」

勇者「でも魔物がいるんでしょ?だから先に駆除しておいて...」

雑兵「魔物...あぁ、いや、倒さなくていいんじゃないか?うん」

エルフ「え?」

雑兵「うん、いい奴もいたしなぁ魔物」

勇者「ど、どんな体験したのここで」

雑兵「敵対する魔物もそりゃいるが、全員がそうでは無いからなぁ、後からでもいいんじゃないかな、そういうの」

勇者「いや良いわけないでしょ...てかボロボロじゃん、大丈夫?」

雑兵「ん?あぁ、ちょっとカルトの連中に追われてな、オムエンへ逃げちまってさぁ、カルト連中は話のわかる魔物が倒してくれたんだ」

雑兵「ところで伍長いなかったか?あいつが街へ増援求めたと思うんだが」

勇者「あぁ、伍長なら途中の木陰で休ませてるよ、倒れちゃってさ」

雑兵「そっか...良かった」

エルフ「これからどうするの?確実なのは国境警備隊壊滅状態だよ?まぁ脱走とかでいなくなってるのは知ってるけど」

雑兵「どうするってもなぁ、俺の立場じゃ与えられた場所に行くしかねぇんだよなぁ」

勇者「うーん...そうだなぁ、姉ちゃんに掛け合ってみるかぁ」

雑兵「来たがる奴いんのか?こんなところ」

勇者「連れてくるしかないでしょ」

雑兵「まぁそうだけど」

勇者「しゃーない、一旦帰るね、オムエンについての報告は...」

エルフ「共存を求めてる魔族も居るから前向きな報告でいきましょうよ」

勇者「そうだね、じゃあね雑兵」

雑兵「俺一人かよ」

_
__

__
_
女騎士「しかし国境警備隊にいたのかあいつ」

勇者「うん、まーた面倒ごと背負い込んでたよ」

女騎士「その件については報告書で確認した...まったく天賦の才だな...」

勇者「いつまでもカルトに付き纏われてちゃあ休まらないよねぇ...」

女騎士「国境警備隊については人員がいなくちゃ勤まらない、そうだなぁ...」
_
__

__
_
ビギニング刑場

副団長「団長、こんなとこへ来てどうするんですか?」

女騎士「ちょっとイキの良い人間をね...いた」


軍曹「これはこれは騎士団長殿...いつ以来でしたかな...」

女騎士「やぁ、元気そうで何よりだ、看守を呼んでくれ」

副団長「はい」


軍曹「何しにきた、俺をこの手で殺しに来たのか」

女騎士「キミを檻に入れたのは私だからね、出すのも私だと思っただけだよ」

女騎士「それに...私は間違っていない、君は休戦による顔色伺いの為だと思っているが...」

軍曹「うるせぇ偽善者、今もアマちゃんなんだなおめぇは...そうだなぁ檻に入れられた原因に思い当たる節、あとは...」

女騎士「...やめろ」

軍曹「おいおいそんなもう生娘でもねえだろ、おっと未遂だったからまだ生娘か、体はだけどな」

女騎士「...」
_
__

__
_
数年前

「頼む...!降参するから!」

軍曹「降参?おーい聞いたかみんな、散々俺らのシマで好き勝手やって、降参だとよ」

「殺そうぜ兄貴!」

軍曹「まあ待て、おい、お前の仲間は今どこに居る」

「し、知らねぇ!ホントだ!みんな逃げちまった!」

軍曹「そうかぁ...連れてけ」

「了解!」

「待てっ!俺は何もしちゃいなぁ!ホントだ!!!」

軍曹「さて...今回はどんな公開処刑を」

女騎士「おい、何をしているんだ?」

「ゲッ...騎士団長...」

軍曹「これは騎士団長、村を襲った賊を捕まえました、行った蛮行を鑑みるに処刑が妥当だと思いますので」

女騎士「そんなことお前が決めることじゃないだろう、然るべき裁判を経てやる事じゃないのか?少なくともウチの軍隊じゃそうしてるが」

軍曹「ッチ...おい、捕虜にしとけ」

「りょ、了解です兄貴...」

軍曹「かわんねぇなお前」

女騎士「悪い物は悪い」

軍曹「ったく...なんて同期だ...」

軍曹、部隊は違うが、彼とは入隊時期が被っており、一度だけ行われた新隊員懇親会でウマが合い、よく話す間柄になった、入隊後はかなりの好成績を叩き出しいち早く軍曹へ承認したが今の階級が気に入っているのかこれ以上階級を上げるつもりは無いらしい。

女騎士「ダメだろ好き勝手したら、お前も今後が...」

軍曹「お、嬉しいねぇ、オレとの将来心配してくれてんの?」

女騎士「う、うるさい!」

開戦直前、彼に告白された、彼は遊び人でこなれた感じの告白だったが...私にははじめての告白であった。

女騎士「まったく...大事になる前に誰が処理してると思っているんだか、そう言う事案は、普通騎士団長なんかにお伺いを立てずそのまま上に流すべきなのに...」

軍曹「そのお陰でオレが助かってんのね、苦労かけるな」

女騎士「ま、まぁ知ってくれたのなら次からは...」

昔の私はまだ甘かった、完全に惚れた訳ではない、ただ今の関係が心地良かったのだ。
幼少時代、その時は訳も分からず妹と森林に突っ立ていた、老人の誘いで街まで出たが、金など当然持ち合わせておらず、右も左も分からない状態だった、スラムに妹と暮らし始め、奴隷商に攫われる直前、前騎士団長に私達は拾われた。

不幸中の幸いであった、勉学を受けさせて貰い、自由な道を歩めと言われた私と妹は、助けてくれた騎士団長に報いる為、並々ならぬ努力を続け、私は騎士団へ、妹は英雄の道へと進んでいった。

女騎士「しかし未だに信用できないなぁ、本当に同郷の人間なのか?」

軍曹「あぁ...お前も、妹さんも大規模な土砂災害で死んだんだよ、俺は警察でな、災害の後に被災地に立ち入った時に事故で死んじまったんだ、だから分かるんだ」

女騎士「そうか...まぁ今はお前だけしか信用出来ないから信じてやろうかな?」

軍曹「嬉しい事言ってくれるじゃねぇの」
とても心地が良い関係だった...終戦の間際までは。

「...」

「何もしてぇっつうの...」

「神様...」

軍曹「これで全員か?」

「へい、村を襲った奴らです、間違いありやせん」

軍曹「そうか...」チラッ...

軍曹(いや、誰を待ってんだ俺は...さっさとやっちまおう)

軍曹「さぁてと、村人の証言によると家々の金品を盗み...女子供に手ェかけたそうじゃねえか...」

「お、お前らだってやってんだろ!」

「先に戦争吹っかけたのはそっちじゃねえかよ!」

軍曹「俺の知ったことかタコ、俺様のシマで暴れてんのが気に入らねぇって事だよ」

「閣下、こちらが襲われた村です」

「うむ...敵も酷い事をする...ん?」


軍曹「さぁておめぇで最後の一人だな」

「ヒィィィ...!」

「兄貴、さっさと殺しちまいやしょうや」

「きっ貴様ら!!閣下の前でなにを!!?」

「うえっ?や、ヤベェ!」

軍曹「あぁ、閣下殿...今更どうしたんですか??」

「お...おまえ...!捕虜の虐殺は...!!」

軍曹「いいでしょう、こいつらも村を襲って...」

「て、てめぇなぁ!戦争ってのはルールがあるんだよ!!こっちが勝ってもルール違反したらな!!国民がついていかねぇんだよ!!」

「落ち着きたまえ、うーん...しかしなんて事を...」

軍曹「他の部隊もやってる事でしょう」

「...それは知っている、だがな、今回はタイミングが悪過ぎたな...」

「時間的にももう間に合いません...」

軍曹「え?」


女騎士「こちらが休戦調印会場です」

「うむ」

「しかし今回の戦...敵ながら天晴れな...」

軍曹「お、女騎士...」

「...騎士団長!こちらへ!」

女騎士「え?...うわっ...」

「ん?あ、あの死体は我が軍の兵士...?」

「どういう事だ...」


女騎士「貴様...!なんで今...!」

軍曹「ちょ、ちょっと...」

「騎士団長、こいつ貴様の知り合いだったな?このタイミングでこの行いはどういう事なのか教えてく」

女騎士「閣下...これは私に責任が...」

「...前騎士団長に恩義がある...君もよく頑張ってくれていた、よし責任は全てこいつらにとらせる、参謀長」

「はっ、軍曹については終身刑...部下については...まぁ処刑でいいでしょう」

「うむ、そうしよう...敵方にもそれで話をつけさせよう、兵卒の分際で面倒な事をしやがって...」

女騎士「ちょ、ちょっと」

軍曹「お、おい待てって!こいつは関係ねぇ!」

「しょ、処刑...」

「決まった事だこの腐れが、おいこいつを縛ってくれ、敵に見せつけて殺すからな」

「了解です、こっち来いカス」

「ま、待ってくれ!」

「あ、兄貴助けてくれよ!」

軍曹「お、おい!止めてくれ!」

女騎士「...もう無理だ、お前だけでも...」

軍曹「え...」


「誠に申し訳ありませんでした、これで手打ちに...」

「いやはや驚いた...」
_
__

__
_
軍曹(まぁ考えてみりゃあ逆恨みも甚だしい話だな)

軍曹「ところで騎士団長さんよ、俺ぁどこに連れてかれるんだ」

女騎士「国境だよ、国境警備隊の員数が不足しててね、君が現地で警備隊の長として現場を任せようと思ってるんだ」

軍曹「どういう風の吹き回しだてめぇ...今まで音沙汰無しで...前も刑場に来たと思ったらあの若いのを...」

女騎士「あの若いのもいるぞ、それに音沙汰無しなんてなんの立場で言っているんだ」

__
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軍曹(まぁ考えてみりゃあ逆恨みも甚だしい話だな)

軍曹「ところで騎士団長さんよ、俺ぁどこに連れてかれるんだ」

女騎士「国境だよ、国境警備隊の員数が不足しててね、君が現地で警備隊の長として現場を任せようと思ってるんだ」

軍曹「どういう風の吹き回しだてめぇ...今まで音沙汰無しで...前も刑場に来たと思ったらあの若いのを...」

女騎士「あの若いのもいるぞ、それに音沙汰無しなんてなんの立場で言っているんだ」

軍曹「なぁ昔の誼だ、そんなつっけんどんにならなくても....」

女騎士「それもそうだな...昔の話だものな」

軍曹「...ッチ」

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雑兵「おい、頼むからこのタイミングで面倒事はやめろ」

「頼む!見逃してくれ!三度も食い逃げしちまったら流石に殺されちまうよ!」

雑兵「見逃すもクソも勝手におめえが絡んできたんだろうが!!」

「だっだって勝手に越境したら!」

雑兵「つーかオムエン逃げるよか首都にでもいけよ、その方が逃げられるだろうが」

「...それもそうだった」

雑兵「分かったんならさっさとうせろ」

「わあったよ、しかしいつにも増して静かだな、警備兵の連中どこに行ったんだ」

雑兵「俺が知るかよ、まぁ伍長は暫く休み貰ってる」

「休暇?珍しいねぇ」

雑兵「じゃあ分かったんならさっさと...ん?」

勇者「おーい」

雑兵「あれ?どうしたんだ?首都に帰ったんじゃ...」

勇者「いんや、ずっと麓の村で村長さんと話ししてたんだ、今日帰ろうと思って

雑兵「あ~そうなのか...」

勇者「でね、明日増員来るから出迎えお願いね?」

雑兵「増員...」

この期に及んでの増員、やっぱ上の人間の考えは分からない、しかし軍隊とは
そういう組織なのかもしれない。

雑兵「そうか、また賑やかになるな、いつまで続くんだろな」

勇者「...雑兵は動く気はないの?」

雑兵「動く?...っても居場所はないと思うけど」

勇者「居場所なんて...みんな雑兵が帰ってくるの待っている人も...」

雑兵「あぁ...今の俺には、それだけで十分だ、みんなが俺の事を知っていてくれるだけで」

勇者「なーに達観してんの...死ぬわけじゃ無いんだから」

雑兵「はは...確かに」
確かに死ぬわけでは無いが、ここへ飛ばされたと言う事はそう言うことだ、駐屯地にも分屯地にも居てはいけない、ここの軍隊
の流儀は知らないが、地の果てにあのタイミングで飛ばされたってことは、まぁ俺でも露骨にわかる。

勇者「何だったら...その...首都に来ても...」

雑兵「ありがとう、でもうちょっとここでやってみるよ」

勇者「こんなとこじゃ...」

雑兵「ここもここで楽しかったよ、伍長にも会えて、あいつ帰ってきて俺がいなかったら多分泣くだろうし」

勇者「伍長...あぁ、彼なら退職するって、お金も溜まって、故郷にある恋人と店出すんだって」

雑兵「おい待て初耳だぞ」

勇者「その程度の付き合いだったって事じゃない?」

雑兵「ここの守備隊へ来て過去一泣きそうなんだが...」

勇者(まぁ、雑兵の事心配して、退職伸ばして戻ろうか悩んでたけど...大切な約束があるんならそっちが優先だし)

勇者「だから雑兵も居場所なんか気にせず、ここに拘らなくて良いんだよ?分屯地だって...首都にだって雑兵の帰りを待ってる人がいるんだもん」

雑兵「...そうか、そうだな...伍長の奴をぶん殴らねぇと気が済まねぇが、もう無理そうだな」

雑兵「ありがとう勇者、でも無理に帰すなんて事はやめてくれよ、俺が惨めったらしいから」

勇者「知ってるよ、そんな一朝一夕で帰せる訳ないじゃん、だから...だからもう少しだけここにいてね...?」

雑兵「お、おう...?」

そんないきなり潤った目と、湿った声色で言わないで欲しい、ほぼこの守備隊で禁欲生活を強いられた俺にはとても効く。

雑兵「なぁ帰れたら、もし帰れたらたくさん金あると思うからさ、次は首都で...」

勇者「...うん、約束ね、破ったらサイテーだからね...?」

雑兵「もうサイテーな場所にいるから大丈夫だよ」

勇者「バカ...じゃあ行くね?明日になったらお願い」

雑兵「うん、じゃあな」

雑兵「...あいてぇなぁみんなに」
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軍曹「ふぁぁぁ...なぁ、そろそろ着いても良い頃合だろ、まだか?」

女騎士「もう少しで守備隊の詰所と陣地に着く、お前が今のところ最高責任者になるんだから気を引き締めろ」

女騎士(雑兵のやつ、元気にしてるかな...勇者は陣地へ行ったから話はしただろうな...)

軍曹「なぁ、そこにいるのは俺一人って事は無いよなさすがに」

女騎士「あぁ、雑兵という隊員がいる、当初二人だが後からまた増員が来る」

軍曹「雑兵...なぁまさかそいつって、お前が刑場から...」

女騎士「そうだ、私が助けた」

軍曹「っ...な、何もんだそいつ」

女騎士「そうだな...ゲス...思いやりのかけら無し...体力も無し...」

軍曹「な、なーんだ...大した奴じゃ...」

女騎士「でも、思いやりは無いが、骨の髄まで人の為に動く奴だな、ほんと、脊髄反射で動いてるようなもんだなアレは」

軍曹「...」

女騎士「最初見た時、アイツはお前なんかとは比べ物にならな位くらい人間味に欠けてたと感じたが...私の目が節穴だったのかな」

軍曹「...そうかよ」

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雑兵「...哨所の陣地はこんなもんだな...隠れるようなとこでもねぇし...」

雑兵「結構サマになったなぁ」

一週間、ほぼほぼ一人陣地に取り残された俺は損壊した陣地の修復に当てていた、と言っても哨所の補修、バリケードの有刺鉄線貼り直し、矢盾に木をくくり付け強度を強めたに過ぎないがまぁマシにはなったと思う。
次の連中が大切に扱うとは微塵も思わないが見栄えも大事だ。

ガラガラガラガラ...

雑兵「お、馬車の音...」


女騎士「っよ」

軍曹「ほんっとに一人じゃねぇか...」

雑兵「ん?なんで女騎士が送り迎えなんかしてんだ?」

軍曹「へぇ...随分と馴れ馴れし女騎士「あぁ、人員も不足してるし、騎士団や他部隊の皆になるべく早く休暇を与えたくてな」

雑兵「女騎士は休暇取らないのか?」

女騎士「いや、これが終われば休暇だよ」

雑兵「そっか、確かに最近忙しかったもんな」

女騎士「雑兵ほどじゃないよ...しかし、やはり聞いた通り員数が驚く程合ってないな」

雑兵「つーか、員数自体ナンボいる事になったんだ?」

女騎士「ざっと50人から60人いれば充足率90%ってとこかな?」

雑兵「ははっ、充足率もクソもねぇな」

軍曹「ちょちょちょ、ちょっと良いか?」

雑兵「ん?この人は?」

女騎士「新入りだよ、っても雑兵よりも階級は上だからな?」

軍曹「な、なんか仲が良すぎじゃね?」

雑兵「仲は良かねえよ、まぁ入隊のきっかけではあるが」

女騎士「少なくとも友の間柄ではないな」

軍曹「っそ、そうか...」

何だこいつ、刑場で会っただけだからあんま印象無かったが...結構ヤキモチ焼きなんだな。

雑兵「あっちが詰所だ、荷物は勝手に入れといてくれ」

軍曹「お、おう...」


雑兵「あいつお前の事...」

女騎士「何も言うな...」

雑兵「まぁ、お前に好意寄せてる人間見当たらねえなぁって不思議に思ってたが...っても俺の
周りの人間しか見てねえけど」

女騎士「まぁ最初はたくさんいたよ、それこそ騎士団に入りたての時期は...何にも興味が湧かなかったが...
まぁあいつは、なんかウマがあっただけだな...今思えば」

雑兵「ふーん、ってェ事は最初は女騎士もなぁ...ッププ」

女騎士「な、なにが言いたいんだ...」

雑兵「最初は女の子してたって...いやすみません何でもないです」

女騎士「ふんっ...」

雑兵「...まぁお前もそろそろ身ぃ固めてもいい歳だろ」

女騎士「っはは、さすがにまだ早い気がするなぁ...まだ二十歳だぞ」

雑兵「二十歳で苦労背負い込みすぎだろ」

女騎士「お前が言うな、背負い込んでは無いが巻き込まれすぎだ」


軍曹「...ッチ」

雑兵「いつ帰るんだ?」

女騎士「そうだな、明日の朝には出よう」

雑兵「そっか、寝るとこは詰所ン中だ、外来はねえし...女性用のベッドはねえから...小奇麗なのを...」

女騎士「寝藁があれば十分だよ、ありがとう」


雑兵「...一人は疲れたなぁ」

軍曹「なぁ...ここいいか?」

雑兵「あぁ」

軍曹「いやなトコだなここは...何もありゃしねえ」

雑兵「そう、ナーンにもねぇくせに次から次へ人が来る...あんたの方が先輩だから分かるでしょ」

軍曹「わ、わぁってる、最果てに来ちまったことはな...」

雑兵「...あんた女騎士好きだろ?」

軍曹「...昔は好きだったな、だがもうあいつの気持ちも分かっちまった...」

雑兵「ふーん、ほっといてたらありゃ婚期逃しそうだぞ」

軍曹「じゃあお前が貰えよ」

雑兵「いやそこまで知り合ってはねぇよ」
事実俺は、女騎士の事は騎士団長であり、勇者の姉であること以外は殆ど何も知らない。

雑兵「しかしあいつの気持ちって、なんだよ?」

軍曹「なんつーか...恋だの生涯添い遂げるとか...なんな感じの事情は興味が湧いてねぇだつう感じだな、今のあいつは」

雑兵「そうか、そりゃ難儀だな」

軍曹「それに、俺はあいつに頼り過ぎた...あいつの苦労にあぐらかいて好き勝手やってたからな...」

この軍曹という男、話を聞く限りは昔はかなりのやり手だったらしい...まぁ見る影もないが。

雑兵「ま、新しい恋でも見つければ良いんじゃねぇの?女騎士はもう言うなれば天上人みてぇな存在だ」

軍曹「そうだな...なんかお前と仲良い感じでいるの見て嫉妬した俺がバカみてぇだな」

雑兵「だから仲良くねえって」

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雑兵「なーんて事言ってたけど、付き合ってはなかったんだな、ちょっと意外なんだけど」

女騎士「まぁ...昔は少なからずとも嫌ってはいなかった、それだけのことだな」

雑兵「そっかぁ、勿体ねぇな、再会したなら俺だったら運命感じるけど」

女騎士「再会というかだな...まぁもう夢ばかりも見ていられないんだ」

雑兵「そんなもんかぁ、そ言えば明日からここの人員増えるんだって?軍曹みてぇな札付きっぽい奴とか連れてきたらそれこそ前の隊との二の舞だと思うが」

女騎士「そう思うだろうが、ここに隊を置くのはもう国境警備だけじゃなくなったんだ、オムエンに赴き新たな政府を作る」

雑兵「...まさか殿下か?」

女騎士「あぁ、独り立ちという事だな」

雑兵「いつまでも置いとけないって感じか」

女騎士「あぁ、まかり間違っても一国の王子...プラニス皇国が例え滅んでいたとしても直系の血族が残っていれば、おいそれと無碍に出来ない」

雑兵「ストレートに言やぁ邪魔ってか」

女騎士「あぁ、王国の大臣共としてはって感じだな、私個人では子供1人をどうにも出来ない訳が無いと思うんだが...いかんせん頭が固いやら面倒ごとは押し付けるわで...」

雑兵「そうか...苦労してんだな」

女騎士「あぁ...今までに無い仕事だ、疲れたよ」

雑兵「そりゃ申し訳ない事したな...俺がそもそもの面倒ごと持って来ちまった」

女騎士「あぁ、お前の責任だ、どうあがいても首都に帰らせ、迷惑をかけた人たちに奉公して貰うつもりだ」

雑兵「はは...そ、そんなんで帰りたくはねぇな...」

女騎士「冗談だ...しかしお前はここにいるには勿体ない位みんなから心配されてる、その点についてもお前の処遇を考慮しないとな」

雑兵「なんかするつもりかよ」

女騎士「ま、それは無事お前が帰ってこれた時のお楽しみってことだ」

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雑兵(そんなこんなで四日ほど経ちましたが)


「おーい、後方陣地にバリスタ設置しとけ!」

「ここの石弓隊の壕は浅すぎる、もう少し掘るんだ!」
「了解!」

雑兵「一気に増えたなんてレベルじゃねぇぞ」

軍曹「ここ数日でこの国境警備隊の戦力は一個大隊レベルまで増えたぜ、ったく、何考えてんだか...」

雑兵「そう言うあんたは歩兵小隊の指揮官かよ、刑場からえれぇ栄典もあったもんだな」

軍曹「そりゃあぶち込まれる前は小隊指揮官を命ぜられてたからな、しかし何の因果か...」

ここ数日で国境警備隊はフィッハー分屯地以上に増えた、何より驚いたのが各隊の統制が取れており、勝手に街に降りる者やオムエンに入り空き巣泥棒をする者がにいないと言うことだ、いや、それが軍隊にとって当たり前だし、驚くのはおかしい事はわかるが、相当驚いたのも事実だ。

雑兵(しかし女騎士の言ってた処遇ってのは一体なんだろう)

首都へ帰る事になるのか、はたまた別の駐屯地かどこかへ飛ばされるのか、どちらにせよまた人事参謀の連中がごちゃごちゃ言うに決まってる、檻の中に収監されているときチラッと人事参謀の連中の事を看守が呟いていた。

雑兵「どっか行くならもうそこが最後の土地にして欲しいもんだな...」

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人事参謀「イヤもう勘弁してくださいよ、雑兵って兵卒の名前出す度にですよ、上の連中に嫌な顔されてですねぇ」

女騎士「勘弁も何も、雑兵の異動を企んだのは君達の方だろう、人事発令通知での異動や、騒動が起こった後に何故か独立大隊から警備隊への職種変換...それもこれも君たちが行った事だ、私にとって君達の感情なんて関係ない」

人事参謀「い、いや、だって各部隊長からの評価も新兵の時分からみそっかすでですよ?独立大隊の隊長や...まぁ騎士団長である貴方からの評価は高めでしたけど...それでもですよ」

女騎士「部隊長評価で新兵の異動を決めていたのか?それはそれで問題だぞ」

人事参謀「あ...いやそう言う訳では無くてですね...部隊長の評価もありますけど...各部隊の充足率を鑑みた結果でですね...」

女騎士「そうだな、確かにフィッハーの分遣隊は1人姿を晦ましたから完全な編成では無かったな」

人事参謀「そうなんですよ、全て理由があって...」

女騎士「では何故彼の職種変換を?」

人事参謀「そ、それは...オムエン国境警備隊の数がですね...」

女騎士「首都に国境警備隊の予備隊員は沢山いるじゃないか、それも過剰なまでにだ、何故雑兵だったんだ?」

人事参謀「そ、それは...」

女騎士「別に正直に答えてても咎めはしないさ、お前の立場の苦しみは分かるつもりだ」

人事参謀「...まぁ...厄介払いっすかね...」

女騎士「はぁ...やはりな...厄介と思う気持ちは分かる、だがな、一度変えた職種は元に戻すことは軍法上出来ない、君のその指示は、勝手な私情で兵を1人を最悪無駄死にさせる可能性があった行いだ、あまり言いたくはないが、過去に例がないレベルで最悪の人事だ」

人事参謀「...ッ」

女騎士「まぁ別にいい、その仕事の仕方ではその座は長くは持たないぞ、考えておけ」

人事参謀「...っは、はい」

人事参謀「...っクソが...」

「だ、大丈夫ですか...?」

人事参謀「大丈夫な訳あるかよ...今までで死ぬ程最悪な気分だ...どうすりゃいい...」

「騎士団長の話だと、雑兵って兵卒を首都の警備隊へ異動させて欲しいと...別に戻して丸く収まるなら...」

人事参謀「馬鹿野郎ちったぁ考えてみろ、俺ら人事の手で追い出した奴をだな、俺ら人事の手で戻せって言ってんだあのアマ...」

「...あぁそっか、騒動後の短期間で職種変換から異動...そしてまた異動...」

人事参謀「厄介だから異動させただけだ...普通の部隊長連中になら咎められることは無かったが...騎士団長直々に咎められた」

「...詰んでませんかこれ、異動させなければ騎士団長が上に報告するかもしれませんし...異動させれば上から短期間での異動はどう言う事かと問われますし...」

人事参謀「騎士団長が上に報告か...わっかんねぇ、上の人間共が厄介払いで出した奴だぞ...それを上の人間が戻せって...」

「...戻しましょうや、もう騎士団長の胸借りるしかねぇっすよ」

人事参謀「はぁ...職変はもう出来ねぇ...そんで人を欲しがってる警備隊かぁ...」

「強襲警備団なんかどうです?騎士団直轄の部隊だから騎士団長の下におけるし、最近は定年退職や依願退職で充足率も減ってます」

人事参謀「なるほど、厄介者をすぐそこに置かせりゃあ、嫌でも目につくってか...そりゃ良いかもな」

「はい、それで騎士団長が辛抱たまらずこちらに異動の話を持ちかけてくれば...」

人事参謀「おめぇも存分食えねぇ奴だな、よし、おい学生、この書類を警備隊長に持ってってくれ」
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女騎士「雑兵が強襲警備団にですか?」

警備隊長「はい、先程人事部の方から書類が届きましてな、『本日付で一等兵 雑兵を国境警備隊オムエンから強襲警備団ビギニング へ異動を銘ずる』とありまして、強襲警備団はあなた方のお膝元ですから我々に書類を渡すのは畑違いでね」

女騎士「そうですか、人事の方には後で言っておきます」

警備隊長「いえ、ワシの方から言っておきます、まぁ今までの適当な仕事っぷりが招いたミスですな、然程重大なミスではありませんがね」

女騎士「っふふ、私だけじゃなく、警備隊長からもお灸を据えられる事態になるのは少々可哀想です」

警備隊長「はは、以前から目に余る仕事っぷりですじゃ、一言文句言ってもバチは当たりゃしますまい、では書類は渡しましたのでこれにて」

女騎士「ありがとうございます」

女騎士(まぁ、お膝元に厄介者を配置させて、厄介事を大量に舞い込ませ、辛抱ならんと人事に泣き付かせる魂胆だったんだろうな...)

女騎士「っふ、お膝元に置かせると言う対応は正解だな」
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女騎士「強襲団長、次から隊員をよろしくお願いします」

団長「っへ、ようやく補充が来ると思いきや、フィッハーやオムエンで厄介事ばかり背負い込んでたあいつか、粗方騎士団長のお膝元においておきゃぁ疲れて人事に泣きつくって魂胆だったんだろうぜ」

女騎士「恐らくは、まぁ目に見える範囲に置く対応は正解だと思います」

強襲団長「次くる奴ぁ...名前見る限りだと、こりゃ同胞だな?いつの時代から来たか分かるんかい?」

女騎士「私と妹が死んで...多分少し経った未来からだと思いますが、あまりその手の話は聞いて無いので...」

強襲団長「そうかい、同胞は大事にしねぇとな、軍曹みてぇな輩を産みかねん、元警官の癖に外道に身を落としやがって」

女騎士「...」

強襲団長「ま、外道は俺も言えた事じゃねぇが...捕虜殺害はお前に軍曹が気を許し過ぎて起こった事件だ、今回は大丈夫だろうな」

女騎士「はい、線引きはちゃんとしました...それに雑兵はそんな事をする人間では無いと感じました」

強襲団長「そうか...会ったらゆっくり話をしてみよう」

強襲団長...私がこの世界に来る十数年も前からら強襲警備団団長の職に着かれていた、私と妹は、この方から剣術や体術を教わり、今は姉妹共に団長を師匠と思っている。
私が生まれる何十年も前の戦争で命を落とし、気付いたらこの世界に来ていたそうだ。

強襲団長「ま、お前のお墨付きなら大丈夫だろうな、情報ありがとよ」

女騎士「はい、彼をよろしくお願いします」

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二週間後
雑兵「だからいきなりの異動はですね」

「知らねぇよ俺に文句言うな、お前を連れて来いって命令受けたから連れ去りに来ただけだ、さっさと馬車に乗れ」

雑兵「はぁ...やっと活気溢れてきたって思ったらもうお払い箱か」

オムエンの国境守備隊の増強により、麓の村では日用品や嗜好品の需要が増え、そろそろ新しい店がオープンするって噂を聞いた位に異動命令が下った。

雑兵(さらばオムエンよ、二度とこねぇぞくそったれ)

「早くしてくれよ」

雑兵「少しは感情に浸らせてくれよ」

軍曹「よう、異動するのか、どこの部隊だ?」

雑兵「軍曹、さぁて今回はどこ行くかてんで知らされて無いからなぁ、強襲警備団...ってとこらしいけど」

軍曹「強襲警備団といやぁ...騎士団直轄の部隊だぜ?首都に帰れるじゃねぇか」

雑兵「え??首都なの?」

軍曹「っへ、騎士団長がお前を引き抜いたんだろうよ、よかったな」

雑兵「首都かぁ...俺分屯地に帰りたかったんだけど...」

軍曹「クソ贅沢な野郎だな、さっさといっちまえ」

雑兵「わぁったよ、じゃあな」


軍曹「同じ世界から来たってのにこの違い、か...良心は最後まで捨てるもんじゃねぇんだな...」
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雑兵「しかし強襲警備団ってなんなんすか?」

「あ~、ハナッから説明するとだな、一口に警備隊って言っても、ウチの国にゃ種類があって、警備の心臓、つまりボスの部隊は国家警備隊、んでその直轄部隊には、駐屯地又は分屯地警備隊、まぁ憲兵みたいなもんだ、そしてお前のいた国境警備隊、歩兵の連中で成り立ってるが隊長は憲兵が多いな」

雑兵「隊長いなかったすけど」

「あそこは特殊過ぎたんだ例外だよ例外、んで強襲警備団ってのは、まぁカチコミしてくる憲兵って感じだな、だが普通の憲兵とは違って軍隊の規律を維持するのが仕事で無くて、国や国民に直接害を与える連中相手にカチコミをかますんだ」

雑兵「疑わしきは突っ込めってことすか」

「いやまぁ流石に裏どりや証拠を調べて打っ込むぜ」

雑兵「そっかぁ...なかなかエラいとこですね」

「で、強襲警備団の創設は国家警備隊だけども、部隊の編成替え等で、現在は騎士団直轄の部隊になっていますって感じだな」

雑兵「成る程...」

「隊員はそんな多くねぇけど、一人一人の剣術等々の練度は騎士団員と同等に高いぜ」

雑兵「うわぁ...嫌なとこいっちまうのかも」

「まぁ...がんばれってとこだな」
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1945年 北支那方面

「米谷陣地通信途絶えました!」

「釜谷砲兵陣地通信途絶!」

強襲団長「米谷も釜谷も死んだか...」

「丸石の機関砲陣地からの緊急電です、援軍を求めています」

強襲団長「司令部陣地にも人の余裕がない、引けるものは今すぐ司令部に引かせるよう各陣地に」

「はい!」

本土からの連絡も途絶えた、師団長もその参謀連中も逃げた、今残っているのは何も知らされず、列車も来ない駅と、指揮官など誰もいない司令部を守らされている将兵達だ。

強襲団長「しかし露助の連中もいい塩梅できやがったなぁ」

「やはりロシアですか?」

強襲団長「モンゴルの向こう側から来る連中って言ったらロシアしかあるめぇ、よし、各陣地に伝達、只今から各陣地の指揮を石丸中尉が指揮する、戦局が芳しくないと判断すりゃ直ぐにでも我が陣地にも撤退するように」

「伝達します!」ッタッタッタ...

強襲団長「しかし列車も何も来ない駅に何の価値が...!」

ッポオォオオォ...


「列車...?援軍か?」

「いや...ありゃロシア方面からきてらぁ...」

強襲団長「双眼鏡かせ!」
「はい!」
強襲団長(ロシアの連中か?!それとも...)

強襲団長「ありゃ...ロシアじゃねぇ」

「じゃあ味方ですか?!」

強襲団長「いや...民間人を乗せた列車だ、民間の列車だ」
「民間?この先にまだ民間人が...」

我々より先に陣を構えていた味方が撤退と言い訳し見捨てた民間人、我が陣に迎え入れる余裕もない。

「止めますか?」

強襲団長「いや...進ませろ、俺らが殿部隊だ」

ッポォーー!!! ガッシャン ガッシャン シュ-...

強襲団長「...車長はどちらに」

「俺だよ、兵隊さん、あんた達も乗りな!もうロシア直ぐそこまで来とる!」

強襲団長「気遣い感謝します、しかし我々はこの陣地を放棄する訳にはいきませんので急いで移動してください」

「あんたら...もう戦争は負けてるのに気付かないのか!?無駄死にだ!」

強襲団長「無駄死ですか...私達はそうは思いませんがね」

「死に急いで...狂ってる...」

強襲団長「さぁ狂ってるでしょうな、でもね、あなた達民間人が一寸でも一尺でも日本に近付けられれば、それができれば我々の任務は完遂出来ます、それに見ればこの列車には子ども達も多く乗っている、この子たちが国に帰られれば...この果てに送られてきた甲斐があると言う物です」

「...」

「指揮官もこう仰っています、早く行きなさい」

「分かりました、ご武運を...」

ガッシャン... ガッシャン ガッシャン

「帰りたかったなぁ日本に」

強襲団長「...俺もだよ」
ブォン... ブォン ...
「歩哨より緊急電!!敵の斥候と接敵!!」

「唐川陣地より入電!ロケット砲による攻撃です!」
ッドン!! ドン!! ドンッ!!
強襲団長「あぁ、こっちにも聞こえるよ」

「敵の戦車と歩兵が台頭してこちらに向かってます!!凄い数です!!」

強襲団長「よし...死ぬ気で戦え!!!」
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_
「ア...ア...」

強襲団長「カヒュ-...カヒュッ」

『ここのヤポンスキー共は手強かった』

『まさかこんな陣地で自走砲が5両も破壊されるとは...この将校生きてるぞ』

『殺せ、ヤポンスキーは皆殺しとの命令だ』

強襲団長「...っ」 カチッ

『こ、こいつ!爆薬を...


ドォォォン...
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__
_
「起きろ、首都についたぜ」

雑兵「んがっ...」

「強襲警備団は騎士団の修練場の中にある、強襲団長に挨拶でもしてこい」

雑兵「ああ...ありがとよ」

「いっとくが歴戦の古兵だからな団長は、あの騎士団長や勇者様を育て上げたお方だ、無礼のないようにな」

雑兵「了解ですっ...と」

ガチャ
雑兵「失礼します...」

強襲団長「おう来たか兄弟、まぁ座れや」

雑兵(うっわおっさんなのにゴツい)

強襲団長「女騎士から聞いたぜ、お前も日本からだろ?」

雑兵「はぁ...日本から来ました」

強襲団長「その人となりじゃ、俺よりも未来から来たってぇ感じだな、俺ん名前は石丸、石丸中尉と呼んでくれや」

雑兵「中尉ってのは今の階級なんすか?それとも...」

強襲団長「昔も今もって事だ、いつか教えてやるよ」

強襲団長「ところでお前さん...この強襲警備団ってぇのは何をする所かちゃんと勉強してきたかな?」

雑兵「いえ全然、名前しか知らされずに連れてこられましたから

強襲団長「ところでお前さん...この強襲警備団ってぇのは何をする所かちゃんと勉強してきたかな?」

雑兵「いえ全然、名前しか知らされずに連れてこられましたから、道中聞いた話だとカチコミ部隊としか」

強襲団長「そうかい、まぁ概ね間違ってはねぇさ、ただちゃんと分別をつけてぶっ込んでる、そこで、だ」

雑兵「?」

強襲団長「お前に人は殺せるか?」

雑兵「殺せるか否かって言ったら...まあ殺せはしますけど」

強襲団長「積極的にやりたいものではないって事だな」

雑兵「当たり前でしょう、狂人になった覚えは無いっすよ」

強襲団長「なった覚えはない...ねぇ、お前さんの書類に目を通すに...カルト教団を数人殺してるみてぇだが...ホントは何人殺した?」

雑兵「何人って...その書類に書いてある通り...」

強襲団長「あーすまん聞き方に言葉足らずがあったな、直接的だけじゃなくて...間接的に何人殺した?ってこと」

雑兵「間接的にって...」

雑兵(カルトのババアは直接殺した...間接的に...あ)

雑兵「オムエンの廃村漁ってた...奴らも...」

強襲団長「例えそいつが屑だろうと、そいつを見殺しにして今何も思っていないのは立派な狂人だぜ」

雑兵「あ、あぁ...」

強襲団長「お前さんに足りてないのはそう言う所、味方の見殺しは立派な軍の規律違反だ、そいつ家族居たのに可哀想だなぁ」

雑兵「いや...盗賊紛いの事してたんで...」

強襲団長「あぁ俺なら間違いなくそいつは部隊から追い出す、だが愚連隊でも軍に籍がある以上は兵隊なんだわ、お前の立場で味方を見捨てるその考えが、我が団員に今後危険が及ぶ事になるのであれば...俺はお前を殺す、分かったな」

雑兵「は、はい...」

強襲団長「なぜ見殺しにした?魔物に抗う術ならあった筈だ」

雑兵「いや...強そうだったし...屑みたいな連中だったんで...」

強襲団長「そうか、お前の主観で我が隊員を見殺しにされては敵わんからな、その根性を叩き直すからな」

雑兵「は ッバキィ!!!
ガッシァャ-ン!!
雑兵「っづぁっ!」

強襲団長「痛いか?でも見殺しにされた隊員はもっと痛かった筈だぞ我慢しろ」
ッドゴォッ!!
雑兵「ゔぅっ...!」

死ぬ程痛い、なぜ俺がこんな目に、しかも味方から...味方から。

雑兵(味方に見捨てられるって...これ以上に辛いことなのか...?)

強襲団長「よく聞けよ、お前が生まれる前の戦争でな、俺は味方に見捨てられて、大事な部下を大勢殺してしまった」

雑兵「...知ったこっちゃねぇよハゲ」

強襲団長(お、きたきた)

雑兵「しちめんどくせぇなおめぇ...お前が味方に見捨てられたから何だってんだ...?」

強襲団長「ほう?」

雑兵「黙ってりゃ好き放題...先輩日本人だからって死に損ないが偉そうによ...」

強襲団長「...」

雑兵「見捨てられたからって部下大勢殺しておいて、俺様に狂人だ?戦争でお前が何してきたか知らねぇがな...何も考えずに指示待ちで部下殺しただけで偉そうにしやがって」

強襲団長「...」

雑兵「ロートルがごちゃごちゃ...あぁ腹が立って仕方がねぇ、でもおめぇは俺の隊長だ、金さえ寄越してくれりゃ文句は言わねぇよ、せいぜいてめぇの大好きな部下を教育しとけや」

強襲団長「...っはっはっは!!、いいぞその怒り、その怒りが殺しに繋がるのか」

雑兵「あ?」

強襲団長「お前の殺しの根元を知りたくてな、いや簡単に出たのはちょっと驚いたが、強襲警備団にはいい人材だ」

雑兵「な、なにが...」

強襲団長「いや、任務をこなしていけばわかってくる、今日は帰って良いぞ」

雑兵「っち...意味分かんねぇ」
バタンッ!!

プルルッ
強襲団長「はい強襲警備団...あぁ警備隊長、おう、分かった、直ぐに出る」

_
__

__
_
女騎士「もう出動させるのですか?」

強襲団長「おうよ、あいつの殺意の根源...本当に怒りからくるのかが知りたくてな」

女騎士「あの警備隊員達を見殺しにした、それも怒りから来ている物なのかって話ですね」

強襲団長「今回の相手は殺しあげるのには不足ない相手だ、あいつを試す」

女騎士「お手柔らかにお願いします、彼も存外苦労していますから...」

強襲団長「まぁお前らよかぁ苦労はしてねぇさ、お前らが耐えれたんだからあの男も耐えてもらわにゃならん」
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__

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エヤッ!! トゥッ!!
雑兵(うっわ場違い感がハンパない...早く出よう...)


「なぁ、アイツって...」

「俺らがラング村で捕まえた...」

「新兵の総合野営でやらかした奴だろ、そんな奴がなんでここに居るんだ?」

「噂だと部隊をたらい回しにされてるらしいぜ?独立大隊からもハブられてるってよ」

「マジかよ?あの雑用隊にまで?」


雑兵(ちょっとはこうなるたぁ思ったけどもよ...)

騎士見習い「おい、お前」

雑兵「うおっ何でしょうか」

騎士見習い「っは、入隊同期に敬語とは...まぁお似合いだから良いか、単刀直入に聞くが、何故お前なんかがここに居る」

雑兵「お、俺も知らない、国境警備隊からここへ...」

騎士見習い「警備隊からここへ?バカ言うなお前の原隊は、え~っと...どこだったかな?」

「えっと、雑用大隊じゃなかった、独立大隊だったな」

騎士見習い「あぁそうだった、なんの苦労もせずに、教育期間を終えてたから印象に残ってなかった、いや総合野営の時には目立とうとしていたな...まぁいいか」

雑兵「は、はぁ...満足したなら...」

騎士見習い「いや質問に答えてくれ、何故お前なんかが騎士団の修練場に足を付けている」

雑兵「いや知らねぇって、俺だって来たくは無かったけど」

騎士見習い「来たくは無かったのなら出て行ってくれないか?そして二度とツラを見せるな、入隊同期だけでも恥ずかしいんだよ、騎士団のみならず、どこの部隊に移動した同期でもそう思ってるよ」

雑兵「あ、あぁそうなんすね、じゃ、じゃあチャンバラ稽古頑張ってください...」

騎士見習い「チャ...チャンバラだと...?ここで行っている修練は我が王国を守る為の修練だ!」

雑兵「あっごめん...思った事が口に出ちゃって」

騎士見習い「貴様...立場というものを弁えていないようだな...」

雑兵「立場ったって入隊同期なら同じだろ、騎士団入れても変わるもんなのか?」

「こ、こいつ...」

騎士見習い「わ、分かった...お前が相当な世間知らずなのはわかったからそのツラを二度と見せないでくれるか...」

雑兵「あぁ?さっきから黙って聞いてりゃぁ調子乗りやがって...」

騎士見習い「な、なんだ...」

雑兵「

雑兵「それにんだてめぇそのふざけた胸パッドはオイ、肉襦袢にしてもデケェんだよ盛りすぎだろカスが!」

「???」

騎士見習い「え...?肉...なに?」

雑兵「外せよ、チキッてんのか?オイ!!」ガシッ!!

騎士見習い「ちょっ...!」

「お、おいやめろ!そいつは白薔薇騎士団に...!」

雑兵「白薔薇ぁ?!んなもん知らねぇよチンカスがぁ!!中居君の黒バラしか見てねぇわ!!!外せコラ!タイマンじゃ!!」

ブチィッッッ!!

騎士見習い「ひっ...!///」

雑兵「さっきから舐めた事ばっか言いやがって...なにが苦労してねぇだ...!!ばあちゃん助けたらカルトだったし...目の前でダルマんなっちまった女や子供助けられなかった...国境警備行けばよ!!クソカルト共の相手だ!!!魔物の方が理性あるわハゲ!!!」

騎士見習い「ちょっ...今ノーブラで...」

雑兵「この手で何人も殺したんだよ...!カルトのクソババアも!カルトも!!そしてクソみてぇな味方も見殺しにした!!!殺しは二度とごめんだ!!何の罪もない人が殺されるのも!!!なのになんでお前らクソ共のお膝元で働かにゃならん!!分屯地に帰らせろよ!!なぁあ?!!」

騎士見習い「し、知ったこと...
雑兵「知った事ねぇとは言わせねぇぞクソアマ!?言ってやるぞてめぇら騎士団がなってねぇからなぁ!!罪もねぇ村人もっ!!!罪もねぇエルフの村も!!!!罪もねぇエルフの姫も!!!子どもも!!!酷い目に遭わなかったんだ!!!何も知らねぇのに俺は見ちまったんだよ!!!」

騎士見習い「...っ」

雑兵「お前の苦労は何してきた...?新兵で配属されて教育が終わる迄の苦労で...この国の民になんの奉仕が出来たんだよ、あぁ...?殿下助けりゃ上の奴らは勝手な事するな...子どもなのに助けるなだぜ...可笑しいんだよこの国...」

騎士見習い「...」

「お、おい...手放せよ...」

雑兵「いいかクソアマよく聞けよ...戦場で俺を見捨てるのは別にいいがな...今後騎士団の立場なのに...苦しむ国民を見捨てるようなら...俺がお前をこの手で殺すからな...」

騎士見習い「...は、はぃ...」

雑兵「失せろ...」

騎士見習い「っ...!」ダダッ

雑兵「あ?何見てんだ...いや、お前...」

「あ、ぞ、雑兵だっけ...あの、ごめんな?その、勘違いで捕まえちまって...」

「こいつも俺もあ、あんま顔覚えてなかったからよ!」

雑兵「...もう死ねやサンピン騎士団共が」ッタッタッタ...


「...やべぇな」

「う、うん、白薔薇騎士団の子、王族の親戚の子だし...しかも白薔薇騎士団出身の女騎士様も黙ってねえぞ多分...」
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__

__
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女騎士「...なるほど」

騎士見習い「ヒッグ...グスッ...」

勇者「雑兵...女の子泣かすとか最低」

エルフ「うーん、でもその子も言い過ぎですよ、部隊に優劣なんか無いはずです」

女騎士「そうなんだけど...」

勇者「泣かす事は無いっしょって感じかな」

エルフ「まぁー確かに」

女騎士「で?どうするんだ?」

雑兵「...謝んねぇぞ」

勇者「雑兵が大変な思いをしてるのは僕たちも分かってる、でもそれはこの子の苦労を否定する理由にはならないと思うなぁ」

雑兵「否定してきたのはそっちだ、俺は何も悪くない」

女騎士「全く...なんで戻って早々喧嘩なんかするからなぁ」

騎士見習い「ヒッグ...団長、申し訳ありません...」

女騎士「うん、君も雑兵に対して思う事はあるだろうが...彼は今の君達よりも辛い思いをしてるのも確かだからね...でも君の苦労を否定するのもいけないことだ」

勇者「雑兵には分かんないだろうけど剣の稽古も大変なんだからね、特に女の子はさぁ」

雑兵「わ、分かんねぇことは...」

女騎士「お前配属されて以来まともに剣術の稽古なんかしていないだろう、全部筒抜けだからな」

雑兵「...」

女騎士「剣術の稽古というのは、剣を保有する者にとってはすべき事なのだ、彼女は剣を持って以来ずっと剣術の稽古に励んでいる、今は入隊した隊員の中で1番の剣捌きだ」

勇者「コレばっかりは雑兵にも非があるよ。素直に謝らないの、雑兵の悪いとこだよ」

雑兵「わ、わあったよ...ちとカッとなっちまて...申し訳ねぇ」

騎士見習い「...こちらこそすまない、騎士の見習いなのに騎士らしからぬ態度を取ってしまった...」

女騎士(最初の頃は私も騎士という立場を鼻にかけてたっけなぁ...)

勇者「じゃあ!仲直りという事で!」

雑兵「あ、あぁ...」

女騎士「で、この後はどうするんだ?」

雑兵「挨拶回りに行こうと思ってた所だ...独立大隊の人たちに会いたいからな」

女騎士「挨拶回りか、殊勝な心がけだな」

勇者「んじゃぁ僕もついて行こーっと♪」

雑兵「え?何で?」

勇者「独立大隊ってあんま分かんないんだよねぇ、なんの職種になるんだろ、気になるから教えて貰うの」

雑兵「ま、まぁ別に良いけど」

女騎士「ふむ...では私も行ってみるか」

雑兵「うぇ?何でだよ」

女騎士「隊長に挨拶をと思ってな」

雑兵「そ、そうかい...」
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「団長、先月より調査を行なっていた盗賊団の最終情報が入りました」

強襲団長「どんな具合だ」

「は、やはり強襲団長の仰っていたように、定期的に砦を移しているようです、主として使っている砦から順々と回っています」

強襲団長「へぇ、して、次はどこの砦だ?」

「内通者からだと、次が主に使っている砦との事...盗賊団の妻子や略奪品、奴隷等はここに集められている様子で...本隊が不在の時も駐屯している者もいるようです」

強襲団長「ってぇこたぁ...駐屯部隊も含めたら大規模な盗賊団になるなぁ...まぁ数はどうでもいい、場所だ場所」

「は、ビギニング平原の果てにある...『転生の森』との事です」

強襲団長「...あの森か...」
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隊長「いやぁ、勇者様と騎士団長まで...」

雑兵「すみません、二人が勝手に...」

兵長「バカっそんな言い方...」

女騎士「いや、ホントの事だ、隊長にお話があってね」

兵長「...雑兵、天使に会ってやれよ、今や他部隊からも欲しがられる程の衛生技術だぞ」

雑兵「そうなんですね、俺とは大違いだ」

兵長「いや...そう言うわけじゃ...まあいいから行こうぜ!」
バタンッ!

隊長「...新兵の部隊配属は、俺ではどうしようもありませんでした、あっち行ってから死ぬ程辛い目に遭ってんですねアイツ」

女騎士「はい、ですが異動に関しては、人事参謀と...一部他部隊の隊長が異動を推薦してました、貴方への責任は何もありません」

隊長「そう言って下されば多少は心が救われますよ、でもアイツにハッパかけて変なやる気を出させたのは俺ですからね...そこからある意味狂っちまったのかも...」

女騎士「...コレからは私と勇者で彼を保護します、ある意味では遠縁なので」

隊長「はい、アイツをよろしく頼みます...」

女騎士「では、失礼しました」
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勇者「首都で本腰据えれて良かったね」

雑兵「良くねぇよ強襲警備団だぞ、まだ何するかもあんま分かってねぇ」

勇者「う~ん...強襲警備団かぁ...」

雑兵「そ、そこまでヤバイの?」

兵長「カチコミ部隊ってのは聞いてんだろ、国王に盾突く組織や盗賊...盾突くなら村も丸ごと襲う部隊だぜ」

雑兵「なんでそんな法外な...」

勇者「いや、ちゃんと裏どりしてカチコみしてるよ?そこは大丈夫」

雑兵「う~ん...」

兵長「お、天使ちゃん、ちょうど良いとこに」

天使「あ、兵長さん...あれ...雑兵?」

雑兵「おう、久しぶり」

天使「雑兵...もしかして帰って来れたの?」

雑兵「んー首都に戻れたっちゃ戻れたけど、別の部隊だ」

天使「あ...そうか、国境警備だから歩兵だよね...」

雑兵「本当は分屯地帰りたかったけど...ここも知り合い沢山いるから悪くはないよ、うん」

勇者「まーた分屯地帰りたがって!」

雑兵「し、仕方ないだろ、世話になったし愛着も...」

天使「ふーん、ここに愛着は無いんだ」

雑兵「んな!?やめろってそう言うのは!」

天使「ふふっ...嘘だよ雑兵、お帰り」

雑兵「まったく...ヒヤヒヤさないでくれ」

天使「あ、ちょっと仕事あるからもう行かなきゃ、じゃあね」

雑兵「おう、またな」

勇者「さぁて、次は?」

雑兵「エルフか...殿下のとこに行きてぇな」

勇者「お、丁度よかった、エルフいま殿下のお世話役やってんだ」

雑兵「マジで?出世したなアイツも」

勇者「んじゃ行こうか!」

そして
勇者「いま殿下は貴賓外来で寝泊まりしてるよ、独学で勉強もしてるんだって」

雑兵「流石だなぁ...ここか」トントン

「どうぞ」
ガチャ...

エルフ「あ、勇者様...え!?雑兵!?」

殿下「雑兵?来てるの?!」

雑兵「よう、久方ぶりだな二人とも」

雑兵「結局殿下どうなんの?」

殿下「近いうちにオムエンってとこに行くんだ、ビギニングの統治下で国を作るよ」

雑兵「そっか、オムエンにいる魔物連中もいいヤツもいるからよろしくしてやってくれ、特にオークジェネラルはいい奴だったぜ」

エルフ「魔物とも交流を...」

雑兵「いや流れでだから、俺自身から行ったわけじゃ無いよ」

殿下「ねぇ、今回は雑兵はずっと首都にいるの?」

雑兵「あぁ、ずっといる予定だ、多分」

エルフ「...今回は騎士団長と勇者様の保護下みたいなものだ、もう大丈夫だと思うよ」

雑兵「だといいけど」

エルフ「強襲警備団だって?また凄まじいとこに」

雑兵「なぁみんなそう言うよな?!なんなのあそこマジで!」

勇者「まあ~...辛かったら助けてあげるから」

雑兵「えぇ~...」
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__

__
_
「それではミーティングを始める、今回の標的は山賊だ、最近は山の中だけでせせこましく生きてるだけじゃ飽き足らず、山を下り村を襲うようになって来た」

雑兵(襲う前から消しとけばいいのに)

強襲団長「多分この中でハナッから消したけば良いと思った人間もいると思うが、そんな簡単な話じゃねぇって事くらいはみんなも分かってるよな」

「いるんですかそんな奴?まぁいいです、この山賊は方々の砦を転々とし、所在を一発で分らせないようにしている、今回は本丸に賊の長が補給と休養の為帰ってくると情報を掴んだ、そこを叩く」

強襲団長「場所は平原の向こうにある転生の森って場所だ、出発は明朝、各人準備を怠るな、今回は下手すりゃ誰か死ぬぞ」

「...団長、質問なんですが」

強襲団長「なんだ」

「新入りも連れて行くのですか?」

雑兵「...」

強襲団長「勿論、心配か?」

「いえ、足手まといになるのは確実かと」

強襲団長「あぁなるだろうな、まぁ関係ないだろ、足手まといになるときゃ死ぬ時だ」

雑兵(そりゃ嬉しいことで...)

「分かりました」

「明日の襲撃には騎士団も同行する、支援がてら研修も行うとのことだ、皆依存は無いな?」

「はい」 「無し」「数が多けりゃ死ぬ確率も減ります」

雑兵(良くも悪くも個性的だな...)

強襲団長「んじゃあ今日は解散、各人早く休めよ」

_
__

__
_
雑兵「んで、俺の営内は無いから鍛錬場の仮眠室に居住しろってことか」

雑兵「はぁ...常に身一つなのが救いか...どっしりと構えれる場所が一つもねぇな」

分屯地も長くて1ヶ月半程しかおらず、国境には異動というよりもなんか居たって感じだし、ほんとどの入隊同期よりもあちこち移動しまくってる。
この仮眠所はベッドしかなく、騎士団当直室の名残だそうで。

雑兵「ベッド固てぇなおい...」

まだ時間で言えば15時程で、疲労しか残らない半日ではあった。

雑兵「...そう言えば明朝っても何時に出るんだろうか」
固いベッドでも疲れている体が横たわれば、自然とうつらうつらと眠気が来て、明日のことは多大な不安は残っているがそのまま落ちてしまった。

団長室

女騎士「...強襲団長、何故雑兵を即実戦に...」

強襲団長「お、不安か?」

女騎士「当たり前です、雑兵は剣術のけのじも知らないに等しい...兵士として情けない話ですが、絶対に即戦力になれません」

強襲団長「まぁ~間引きと言われたら否定はしねぇさ、向上心もないし捻くれてるし、その癖苦労だけはしてるからそれを鼻にかけてめんどくせぇ奴だよ」

女騎士「...」

強襲団長「だから死ぬ程苦労してもらう、鼻にかけてごちゃごちゃ言う元気もなくなる位にな、その過程で奴が死ねばそれで終わりだし、生き残ればもっともっと苦労してもらう...一人前の雑兵になる為にゃあ、あいつのレベルじゃそれしか方法がねぇ」

強襲団長「しかし妹以外の人間に興味持つのは珍しいなぁ、あの軍曹以来かな?っても今回は入れ込みが...」

女騎士「い、いえ、雑兵相手にに限ってそういうのは...第一、勇者がかなり気に入ってますから」

強襲団長「そうかい、お前の父ちゃんに言われて厳しく育てた俺が言えた事じゃねえが...そろそろ色恋ってのも悪くねぇと思うぜ?女にしちゃぁ青春は捨てすぎだ、軍曹に関してはもうさっぱり切っちまったんだろ?」

女騎士「あまりからかわないで下さい、そう言うのは自分なりにですね...」

強襲団長「っへ、いらん親心ってやつだな...」

女騎士「兎に角、また何をしでかすか分かりません、任務中は私の近くに置いておきます」

強襲団長「いや、ダメだ」

女騎士「ダメなのは分かります、あいつの為にもなりませんし...」

強襲団長「違げぇよ、アレなんかどうだって良いんだよ、ようは示しがつかねぇんだ、お前のな。既にあいつは騎士団の中でも厄介者だ、白薔薇のお嬢ちゃんと喧嘩しちまったからな、そしてお前が雑兵に沙汰を下すと期待してる連中も大勢いる、その流れでお前が雑兵を近場に置いてたら...あいつらどう思うよ」

女騎士「...」

強襲団長「それによく考えてみろよ、お前の玉の輿みてぇになっちまったらよ、あいつの今までの本当の苦労は全て水の泡になっちまう...それは余りにも酷いと思わねえか?」

女騎士「...分かりました...アイツを頼みます」 ツカツカ
バタンッ

強襲団長(妹がアイツを気に入ってるとしても偉いいれこむなぁ...まぁ良いけど)

強襲団長「強襲警備団に来たからにゃぁ俺のやり方でするしかねぇんだ...可哀想だが」
_
__

__
_
「敬礼!直れ!」

強襲団長「強襲警備団 討伐隊20名編成完結!」

白薔薇騎士団長「白薔薇騎士団 討伐隊50名編成完結!」

騎士団直接支援隊「騎士団直接支援隊 討伐隊45名編成完結!」

女騎士「王国騎士団総本部16名編成完結、以上 討伐隊 総員131名編成完結!」

国王「うむ...みな休ませよ」

女騎士「せいれーつ、休め!」

国王「この国最大の惨事であったカルト教団の討伐から、はや2ヶ月...落ち着いてきた時期であるのにこの国の賊は休ませる暇も与えてはくれないな?」

女騎士「全くです」

国王「本当にわが国の防人は皆頼りになるな、騎士団長...無理は禁物じゃぞ?」

女騎士「はっ、ありがたきお言葉...みな無事に帰って参ります」

国王「うむ、

女騎士「せいれーつ、休め!」

国王「この国最大の惨事であったカルト教団の討伐から、はや2ヶ月...落ち着いてきた時期であるのにこの国の賊は休ませる暇も与えてはくれないな?」

女騎士「全くです」

国王「本当にわが国の防人は皆頼りになるな、騎士団長...無理は禁物じゃぞ?」

女騎士「はっ、ありがたきお言葉...みな無事に帰って参ります」

国王「うむ、気を付けて行って来い」

雑兵「騎士団直接支援隊ってなんなんすか?」

「あ?んでそんな事...まぁ言うなれば、衛生補給整備が集まった混成部隊だな、怪我したら衛生兵が、飯とか消耗品が無くなりそうだったら補給が、剣の刃こぼれや鎧の打ち直しなら整備がって感じ」

雑兵「独立大隊はいないんすね」

「独立大隊が騎士団の雑用に回るのはあんまり無いぜ、確か前の新兵の訓練でも結局呼んでなかったな、やれる事は俺らだけでやるのが騎士団だ」

雑兵「へぇ~見上げた根性っすねぇ」

「て、てめぇ舐めてんのか...」ヒクヒクッ

雑兵「あ、いやそう言うわけでは」

強襲団長「よーしみんな馬車に乗り込めよー、雑兵、お前は荷物車な」

雑兵「えー、まぁあの山と積んである馬車以外ならどこでも良いですよ」

「お前が乗るのはあの山と積んである馬車だっつってんの」

雑兵「ひでぇ事しやがる...ヨイショっと...誰もいねえって事は運転しろってか、無免許だぞ...」

強襲団長「よし、出発!!」


雑兵「うわぁ前の荷台にいる連中、もう寝てやがる...腹立つわぁ」

巡り巡って首都に帰ってきた、しかし思いの外原隊は離れており、しかも復帰は二度と無いとまで来た。

雑兵(結局独立大隊の仕事らしい仕事ってのは分屯地でやった事だけだった「おい」なぁ、まぁあの仕事内容だったらどこ行っても「おーい」同じか)

雑兵「次の異動先はどこになるんだろうなぁ~」

女騎士「お前...もう異動する気か?」

雑兵「...って、うわぁぁ本気でびっくりした、なんのリアクションも出せなかった」

気付いたら毛ツヤの良い馬に跨っている騎士団長殿が隣にいた、まさか後ろつまってる?

雑兵「いや、詰まってる訳じゃねぇな、本部ってみんな自分で移動すんのか?」

女騎士「不測事態にすぐ対応出来るように心掛けているんだ、それに馬車の中は窮屈で敵わない」

雑兵「なるほどねぇ」

女騎士「...実質初めての実戦だな、緊張しているか?」

雑兵「ん?あー、ある程度は緊張してる、てかちょっと気付いたことがあってさ」

女騎士「どうした?」

雑兵「今回ズブのトーシロの俺を出した理由って、間引きだろ?」

女騎士「...何故そう思う」

雑兵「各地に飛ばされて分かったんだ、俺って何処からも必要とされてねぇって」

女騎士「そんなこと...」

雑兵「大切に思ってくれてる人がいるのは知ってるよ、でも組織から見りゃ、誰が思ってくれても意味はねぇんだなぁって」

女騎士「...」

雑兵「この仕事で最期にするよ、死場所を与えれたもんだしな、でも適当にはしないから安心してくれよ」

女騎士「...やはり何も分かっちゃいないんだな」

女騎士は全てを達観したような表情でこちらを見つめる、瞳の奥は吸い込まれるような黒で、彼女の言っている意図を理解するにも出来ない位思考が止まってしまった。

雑兵「な、何がだよ」

女騎士「もういい、好きにしろ...」

雑兵「...」

直感的に、俺は捨てられた、そう判断せざるを得なかった。
一体何を間違ったのだろうか、何を言えば良かったのだろうかと思考が逡巡する。

雑兵「んだよクソッタレが...」

この日から元の世界でもならなかった、本当に孤独な存在になることをまだ雑兵は知る由もなかった。

討伐隊は林道へ差し掛かり、雑兵が当初訪れた森へ入っていった。
強襲警備団長の戦闘隊形に移行の号令の下、討伐隊は個々の配置へつく。

雑兵「俺はどこに行けば良いんですか?」

「あ?知らね、団長にでも聞けよ」

雑兵「は、はぁ...」

皆は素っ気ない態度で俺に当たる、どこの部隊へ行っても多少は関係を築けたと思ったが、今回ばかりは人間関係と言うものは構築できなさそうだ。
それもそうだ、仕事で来ているのに何すれば良いのかと問われれば、何言ってるんだこいつとも思うだろう。

雑兵(何も聞いてねぇんだから仕方ねぇだろ...)

自分から考えて聞きに行けと言うことなのだろうが、労働をした事のない雑兵にとって、そこに至るまでの思考が無く、今の今まで好き勝手にやってきたツケが、ジワジワと雑兵の首を締めにかかってきた。

「アイツマジで何しに来たんだ」

「別にどうでも良いっすよ、間引きで来たってのを恥ずかしいと思ってない奴なんか」

聞こえるように話される自分への侮蔑や嘲笑の声、前は気にならなかったが、今は一つ一つの言葉が胸に深く突き刺さる。
頼むからやめてくれ、そう思いながらも、何処かで女騎士や勇者が何やかんや助けてくれると期待を抱いていた。
しかし勇者はここにはおらず、女騎士は見放したように、まるで最初から赤の他人だったと言うようにこちらに見向きもしなかった。

雑兵「す、すみません、自分の配置場所は...」

口内が緊張で乾き、最初の達観した顔も嘘のように消したんだ、本当は実は達観などしておらず、どこか雰囲気を作っていただけだったのだろう。

「あー、お前確か前衛の方だった気がするけど、何で知らないの?」

雑兵「聞いていなかったので...」

「編成表貼り出してっからミーティングの後は見とけよ、どこの部隊でもそうだろ」

雑兵「す、すみません」

「ったく...」

前衛、聞き慣れない言葉だが何をするのだろうか、疑問が疑問を呼び、更に雑兵を不安に陥れる。

「前衛の連中は揃ったか?」

前衛の単語が聞こえた、あそこで間違い無いだろう。

雑兵「前衛ってここですか?」

「あ?お前は前衛分隊の方だろ」

「ここは前衛の主力だよ、分隊はさっき行ったよ?」

前衛の主力?分隊?何だそれは、何一つ分からない。

雑兵「あ、ありがとうございます!」

遮二無二指を刺された方向へ走るしかなかった、後で知ったがら前衛とは、部隊主力の行進が円滑に行われるよう、前方を行進し敵を殲滅する行動との事だった。
強襲警備団は前衛を任されることが多いらしく、専ら有事の際は前衛の行動を行うそうだ。

雑兵(か、勘弁してくれよマジで...)

走り際に女騎士がこちらの顔を見ているのをフと確認した、出来の悪い隊員を不快な気持ちで見る顔だった、もう助けてくれることは無いのだろう。

雑兵「...」

ひたすら林道を走るが前衛分隊とやらは一つも見えなかった、まさか道を間違えたのか、しかし分かれ道は無かった、森の中に入っているのか、未熟な思考はどの考えにも落着しなかった。

雑兵「クソっ...どうすれば良いんだよ...!ん...?」

目を凝らすと前方に馬車が見えた、森の中に進んでいっている、前衛か、もしくは盗賊か。
何にせよ雑兵にとってはどちらも救いだった。

雑兵(前衛なら合流...盗賊なら皆殺しだ..,!)

前衛主力の出発後、騎士団並びに直接支援隊は出発準備を完了した、団員の多くは新米の騎士であり、皆緊張感を持った面持ちで出発を待っていた。

「前衛主力は前進を開始しました、ただ一名が前衛分隊とはぐれているとの事です」

警備団長「はぐれてるってなぁ...あぁ、アイツか、終始オロオロしてたがそう言う理由だったんだな」

女騎士「警備団長、討伐隊主力出発時刻です」

警備団長「おう、しかしお前も酷な事をするなぁ、いきなり切り捨てるこたぁ」

女騎士「...人に何度も何度も心配を掛けてもなお、自分がどれほど思われているかを理解もせず、勝手に自分は死ねば良いと思っている奴に何を言っても無駄かと思いました、私の妹の心配も無碍にする前に切り捨てなければ、アイツはもうどうしようもありません」

女騎士(人の心配も他所に、勝手に突っ走っては帰ってくる、それで人の心配も他所に次は死ねば済むなどと...勝手にも程がある...妹に迷惑を掛ける前にアイツを正さ無ければ、私自身が持たない)

警備団長「そうかい、お前自身がスパッと切り捨てれればその言葉にも重みが出るだろうよ」

警備団長「ま、お前の選んだ道なら間違いは無いだろうな、だがな一度切り捨てたらとことん切り捨てろよ、とことんまでな」

女騎士「はい、大丈夫です」

王国の騎士団長の人脈を持ってすれば、一兵士の立場などは塵一つ無くなるだろう。
雑兵の長く辛い孤独な生活が始まる。
そうとは知らずに雑兵は遮二無二任務に邁進する。

雑兵(この馬車...知らねぇ馬車だ、ってこたぁ盗賊らの)

荷台は樽や木箱で一杯だった、馬車に追いついた雑兵は音を立てずに馬車に乗り込んだ。

雑兵(監視とか付けてねぇのな...)

荷台は刀剣や盾が雑多に積んでおり、値札がついている事から盗品の可能性が高くなってきた。
するとふと隅に目をやると、子どもが二名座っていた。足枷をされ、皮が剥けたのか足首がずり向けて血が滲んでいた。遠くを見つめておりこちらに気づいた様子は無かった。

雑兵(き、君たち、何かあったの?)

「...」

雑兵「...?もしかして捕まって...っ!!?」

よく見るとハエが集っており、チラチラと蛆虫が見えた、僅かに香る腐臭、少し前に事切れたのだろう、すると馬主が独り言を言い出した。


「クッソ~せっかく捕まえた奴隷を死なせちまったなぁ...カシラぁブチギレるだろうなぁ...」

雑兵「...」

静かに抜いた剣を、何も言わず振り下ろした。

ザシュッ! ブシャァァァァア

動脈を切られ鮮血が散り、馬主は静かに死んでいった、しでかしたことに対して事足りぬ死に様だ。

雑兵「この先が砦って事だな」

馬主を蹴落とし、二人の子どもの遺体に毛布を掛けた。
貧民街で見かけた子どもをふと思い出した、元気にしているのだろうか。
同じくらいの歳だ、息災に成長していればどんな大人になれたのだろうか。
様々な思考が逡巡していくウチに、涙が滂沱として止まなかった。

雑兵「ロクな国じゃねぇなあ...ったくよ」

一本道は森の奥まで続いており、恐らくこの奥が賊の砦になるのだろう。
結果、また一人で乗り込む事になるが、雑兵にとってはもうどうでも良い事だった、頼りの人から突如として見捨てられ、部隊でも上手くいかない、ここまで来れば死んだ方がマシであると思えてきた。
すると、ふと先に丸太で植杭された砦が見えてきた、砦の上からは何名かがこちらに顔を覗かせているのが見えた。

雑兵「...」

震えが止まらない、武者震いだろうか、ただ怖いだけなのだろうか、自分が達観したのさえ信じられない。

「おーい!随分と遅かったじゃねえか!?」

雑兵「あ、あぁ!途中で車輪がイかれちまってな!」

「今開けるから待ってろよ!」

大きな丸太が括り付けられた扉が開いた、中は小さな街と見紛う程栄えており、酒場は勿論武器屋から何から全てが揃っていた、山賊の砦とは思えない。

「お頭が奥で待ってっからな」

山賊の一人が指差す方向には洞窟があり、入り口は馬車が対向出来るほど余裕のある広さだ、ざっと見でも100名はいる、討伐隊の人数で対処出来るのだろうか。

雑兵(しかしやはり山賊の砦と言うべきか...)

「さぁそれでは!ここでコイツを競りたいと思うんですよ。まず、30万から!コイツの出来る技は...

端を見れば奴隷市場であろうか、足に重りを付けさせられている筋骨隆々の若い男がステージの上で競られていた、

雑兵「ラング...てめぇ...」

ラング「ん?...あぁ、君はいつぞやの...生きてたのか」

あの顔、あの喋りかた、片時も忘れた事のない男が目の前に立っていた。

雑兵「あのカルト共はどうした」

ラング「うーん、金を落とさなくなってきたから教祖を殺して抜けたよ、お陰でフィッハーの方でもあまりカルト集団の話を聞かないだろう?」

雑兵「知るか...今度はここで賊のお頭ってか、ご苦労さんだな」

ラング「前のお頭はあまり頭が良くなかったからね、ちょっと細工をして忍び込んでみれば...すぐ幹部になれたよ」

雑兵「前の頭はどうした」

ラング「死んでもらったよ、不幸な事故でね」

雑兵「そうかい、あいも変わらず腐った奴だな」

ラング「金が手に入れば腐っていようが、なんであろうが関係ないよ、ところでそろそろ周りに気を配った方がいいじゃないかな?」

雑兵「...」

周りを見渡すと完璧に囲まれていた、如何にも山賊ですと言う風貌で俺に剣先を向けている。
恐らくこの世界ではもう最期の時だと覚悟した

「頭目!ぶっ殺しましょうや!」

ラング「と言う事だ、皆は短気なんでね、申し訳ないが...遺言だけは聞いてあげるよ」

雑兵「そうかい、ひと足先に地獄で待ってるぜ屑共」

ラング「ひと足先にとはどう言う...」


「頭目!!王国の騎士団連中だ!!!奴ら攻めてきやがった!!」

ラング「...成る程、君はそれでここにいたのか、おい、こいつを牢にぶち込んでおけ」

雑兵「んなっ、殺してくれよ」

ラング「前みたくエサにできれば使ってやる、安心しろ」

雑兵「そうかい、まぁ討伐隊連中に精々と足掻いて薄汚いネズミ共と死ねや、おい寝ぐらに案内しろ」

ラング「ず、随分と余裕だな...」

雑兵「もう俺の周りにゃ誰も居なくなったからな、本当に好き勝手できるさ」


「お頭!逃げ道も塞がれました!!」

「戦いましょうや!」

ラング「ま、マジか...」

雑兵「二度目の人生を送っても、人の性根が変わらなけりゃ何も出来ねぇんだなぁ、チートがあっても能力があってもな、まぁ俺は何にも無かったけども」

ラング「二度目の人生...?貴様何を

雑兵「死に行くおめぇには毛頭関係のねぇ事だよマヌケ、逃げるならさっさと金くすねて逃げとけ、お前の人生にゃお似合いだ」

砦の周りは討伐隊に囲まれており、既に逃げ道なぞ存在せず、前衛分隊は立ち塞がる盗賊を切り捨てながら前進し、遂に門前にまで至った。

警備団長「騎士団長、前衛の仕事は終わった、後はおめぇの采配だぜ」

女騎士「はい...スゥ...盗賊の頭目に告ぐ!!今すぐ武器を捨て投降せよ!!諸官らは先の戦争の終結後行く宛もなく賊の道に身を落とた事は既に聞いている!!私の顔馴染みもいる事も知っている!!今すぐ武器を捨て投降すれば更生出来る!!」

警備団長(うーん甘ちゃんなのは変わらないが...仕方のねぇ事だな)

戦争終結後、各方面に散らばった将兵は戦火に家を焼かれ、家族全員が戦塵に散った者も多く、未来への希望が無くなり賊に身を落とす者が後を立たなかった。

砦の外から女騎士の声が聞こえる、ラングを投降させる?何を言っているんだ、この場で殺すに決まっているだろう。
この男は生かしてはいけない人間であり、情けの一つも描けてはならない男だ。

ラング「クソ...面倒臭い、お前ら砦の外で迎撃しろ」

「は、はい!」

「そ、外出るのか...?」

雑兵「まーた逃げるのかよ頭目様、カルト教団から出てって盗賊から出てってもう何もねぇだろ、次はポン引きでもすんのか?」

「頭目...カ、カルト教団ってあの...?」
「嘘だろ...頭目って俺の村を焼いたカルトの一員だったのかよ...」

ラング「バ、バカな事を言うな戯言だ」


「お、おい、本当なのかよ!」
雑兵「あ?うるせぇ黙ってろ、ラングお前だけは絶対に逃さねぇぞ、必ず殺してやる」

全身全霊をもってラングを殺す、いま雑兵の血はかつて無いほど煮え滾っていた、刺し違えたっていい、こいつを殺せるならば死んでも構わないと思っていた。

雑兵「カルトの件じゃ死ぬ程世話になったな、楽に殺したくはねえが、俺は楽に生きたいから楽に死んでくれや」

「やっぱ頭目ってカルト...」
「聞いたことあるぜ、教祖殺して、幹部が一人金をくすねて消えたって...」

雑兵「前の頭目も殺して、次はお仲間も殺してスタコラたぁ良い身分だな、まぁこいつらのことなんか知ったこっちゃねぇけど」

ラング「や、やめろ...!おい、こいつを殺せ!」

「頭目を殺した...?」
「何かおかしいと思ったんだよ...」

ラング「くっ...」

雑兵「そういうことでお前が死ねば一件の落着ということだ、おい、剣返せ」

「...っくそ!」

随分と単純な連中だ、あっさりと剣を返しやがった、頭目のことを少しは信用してやってもいいものだと思うが。

雑兵「お前のカリスマ性の無さが自分を殺したんだ、じゃあな」

ラング「ま、待て!金ならやる!!なんなら自由にだって...」

雑兵「もう死ぬ程自由に生きてきちまってこの様...だっ!!」

振り下ろされた剣はラングの袈裟を斬りつけた、瞬間避けたラングに浅く刃が通った。

ラング「っ!てめぇら!何してる!」

雑兵「賊共、投降するなら今だぜ、討伐隊相手じゃお前らにゃ勝てっこないだろ、知らねえけど」

「...俺何やってたんだろ...」
「まさかオレの家族を殺した奴の下についていたなんて...」

雑兵「あっさり過ぎだろお前ら...慕われてなかったのかお前」

ラング「うるせぇ!クソっ!」

雑兵「まぁどうでもいいかっ!」

再び剣が振り下ろされ、ラングの動脈を切り付けた。

ラング「っがあっ...」

血飛沫が飛び上がる、そろそろ死ぬだろうが、この男の死に様にしては手ぬるい死に様だ、被害にあった彼女らへの手向けになるなかは知らないが、もうこの男がのさばる事は二度と無いだろう。

雑兵「...奴隷解放しなけりゃな」

賊たちは既に投降していった、砦の檻の中には奴隷として売られる者たちが大勢いた、解錠し自由にしたが、この者たちは今後どうなるのだろうか。

雑兵「ゆっくり歩けよ、外に討伐隊がいるから保護してもらえ」

「ありがとうございます...!」
「恩人だ...」

国の不手際の尻拭いで助けただけだ、何一つ感謝されるいわれなどない、雑兵は心の奥底からそう思え手放しには喜べなかった。

雑兵「...クソみたいな国だなぁやっぱ」

賊が投降のため門を開く、瞬間に討伐隊は雪崩れ込んできた、賊は武装解除の為に一列に並んでいた。

警備団長「あ、ありゃ、みんな意気消沈してんじゃねえか」

「一体何が...」

女騎士「...お前、何をした」

雑兵「別に、お前らの国がしでかした不手際の尻拭いをしただけだマヌケが、ノコノコと入ってきてむしろお前は何したんだよ」

「その死体は...」

雑兵「見りゃわかんだろ、頭目だよ、そしてフィッハーの村を襲った元カルトの幹部だ」

その瞬間何故か今までに湧かなかった怒りが沸沸と湧いてきた、いきなし騎士団に連れてこられたと思いきや、即切り捨てられた。

雑兵「おい、教えてくれ、なんで俺は騎士団なんぞに連れてこられた?」

女騎士「...さぁな、大方問題児をお膝元に置いて監視でもしたかったんじゃないか?」

雑兵「そうか、お前の意思で連れてこられた訳じゃないんだな?」

女騎士「当たり前だ、何故お前なんかを近くに置きたがる」

雑兵「それを聞いて安心したよ、じゃなきゃ怒りでオレの全身全霊をもってお前を殺すところだったぜクソアマ、この男みてぇにな」

女騎士「...っ不愉快だ、消え失せろ」

雑兵「そうかい、今までありがとよ、二度とそのツラを見せるなよ」

強襲団長「おいおい、勝手にどっか行こうとするなよ、お前はまだ辛うじて俺の部隊の団員なんだからな?」

雑兵「そうかよ、じゃあさっさと辞めさせてくれ」

この一件により、女騎士と雑兵の関係は立ち消えた、上官への反抗を行なったが、雑兵が盗賊を鎮めたのもまた事実であるため、この件は内々に納められた。

首都へ帰還したが、騎士団連中からの視線は以前よりも痛く突き刺さった。
それもそうだ、騎士団長への無礼な態度を取れば狂信的な連中は自ずとそのような態度になるだろう。

強襲団長「え~胸が非常に痛むが、雑兵には無期限で非常勤についてもらう」

雑兵「嘘つけよクソジジイが、どこ行くんだ」

強襲団長「隊員浴場で勤務...まぁ下手すりゃ定年まで三助業務だな」

雑兵「そうかい、そりゃありがたい事だ」

三助、正式には浴当で風呂清掃や、ボイラーの監視、非常勤であれば半月で交代の業務だが、俺に関しては死ぬまでだそうだ。

「申し送りはこんくらいだな...まさかお前のツラを生で拝めるとは思わなかったよ」

雑兵「どういう意味だよ」

「お前有名だぜ、雑兵の身分で勇者様といちゃついてるかと思いきや、騎士団長に楯突いて...まぁ兎に角お前はクッソ有名人だって事だ、面白いって意味でも悪い意味でもな」

雑兵「噂料取るぞ間抜け共って伝えとけ、テメェらの風呂の握ったのは俺だからな、言葉一つで冬に水風呂つからせるぞ」

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