ちひろ「プロデューサーさん、起きて下さいよ……」 (46)


意識不明状態のプロデューサーをアイドル達が目覚めさせるSSです。
安価を取ったアイドルがPに呼びかけ、Pはその声を聞いて深層心理でそのアイドルとの思い出を振り返ります。
コンマが大きい数字であればあるほど、目覚めたいと思うような印象深い思い出になり意識が覚醒しやすい効果があります。
状況次第で変更する可能性もありますが、取りあえずコンマ合計が300になったら目覚めます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1398190888


プロデューサーさんが意識不明の重体で病院に運ばれてから一週間。

幸い命だけは助かったけれど、未だ全く意識を取り戻す様子がないらしい。

今日ついにプロデューサーさんは一般病棟へと移され、私達もお見舞いに行くことが出来るようになった。

お医者様からは「とにかく手を握って声を掛けてあげて下さい」とだけ言われている。

「プロデューサーさん、起きて下さいよ……」

そして私は今、プロデューサーさんの手を握って呼びかけていた。

けれど、特に変わった様子はない。

お医者様からも我慢強く続けていくことが大事だと言われてはいたけれど、

こうして自分の呼びかけに無反応なプロデューサーさんを見るのは、酷く寂しい。

それでも、目覚めることを信じて再び呼びかけようとした時、病室のドアがコンコンと叩かれる。

――時計を見る。ちょうどあのアイドルの入っていた仕事が終わった時間帯だ。



↓あのアイドル


和久井留美:23pt
病室シーン:スキップ
思い出シーン:スタート


「Pさんも猫が好きなの?」

仕事が一段落して、ちひろさんが入れてくれたお茶を飲んでいた時のこと。

不意に留美さんがそんなことを訊ねてきた。

「どちらかと言えば確かに好きな方ですが……どうしてですか?」

「いえ、だって……」

少し言葉を濁すようにして、留美さんはちらりと視線を動かす。

それを追っていくと、その先ではみくが猫耳の手入れをしていた。言うなれば猫耳持った前川さん状態。

「他にもニュージェネレーションの三人に猫耳を付けたりしてたわよね。

あと、にゃんにゃんにゃんのような猫アイドルユニットを売り出したり」

「それはそうですが……別に猫が好きだからそういうことをさせている訳ではないですよ」

「あら、そうなの? ……少し残念」

「何故です?」

「いえ、そういうのが好きなのなら、私も付けてみようかと猫耳を準備していたんだけど」

――――あの後、自分はどう答えたのだったか。それが思い出せない。



↓アイドル


十時愛梨:93pt
病室シーンA:スタート
思い出シーン:待機中
病室シーンB:待機中


「ちひろさん、こんにちはっ!」

元気な声で病室に入ってきたのは、愛梨ちゃんだった。

「こんにちは」

そう返事をしながら、私は愛梨ちゃんの様子を見る。

愛梨ちゃんは、気丈に明るい笑顔を浮かべていて……。

きっとこの笑顔なら、今日も普段通り仕事をこなせただろう。

スタッフさんや、共演者さん達に違和感を持たれることなく。

けれど、それでも。“気丈に”とは、つまりそういうことだ。

プロデューサーさん程ではないにしろ、私も愛梨ちゃんのことをずっと見守ってきた。

だからこそ、分かる。この笑顔は本当に心から浮かべられたものではなくて。


「ここでは、無理して笑わなくてもいいですよ」

気が付けば、私はそう言っていた。

けれど愛梨ちゃんは笑顔を浮かべたまま。

「私はシンデレラガールですから……まあ、『元祖』が頭に付いちゃいますけどっ」

そう言っておどける。そんな様子も、やはりどこか私には無理しているように見えた。

「それに……」

愛梨ちゃんがプロデューサーさんの寝顔を見つめた。

「大丈夫ですよ。Pさんが起きたら、いつも通りの笑顔が浮かべられますからっ」

言って、笑みを見せる。その笑顔はやっぱり普段通りではなかったけれど、

それでも、ここ数日の笑顔よりはずっと普段通りに近いものだと私には思えた。

「それでは、私は少し席を外すので……。プロデューサーさんに呼びかけてあげてください」

「はいっ、分かりました」

プロデューサーさんの近くにあるパイプ椅子に腰掛ける愛梨ちゃん。

「Pさん、起きてください……Pさんっ……」

そんな声を背中に聞きながら、私は静かに病室を出た。


病室シーンA:終了
思い出シーン:スタート


出演予定のあるテレビ局に車で愛梨を送っている途中のこと。

カーステレオからは人気のラジオ番組が流れていた。

『ここでリクエスト曲です。曲は、先日シンデレラガールの栄冠に輝いた十時愛梨さんの――』

「……私がシンデレラガールなんて、今でも信じられません」

助手席に座っていた愛梨が、感慨深げに言う。

その気持ちは、分からない訳ではなかった。

うちの事務所からアイドルデビューして、最初は文字通り右も左も分からなかった愛梨。

そんな愛梨があっという間にアイドル界の頂点に登り詰めたのだから。

「でも、これは現実で、愛梨がシンデレラガールなんだ。

 まだまだ取材依頼も来るだろうし、仕事のオファーだって殺到するだろうし」

今日だってスケジュールはいっぱいだ。

当分は忙しい時間を過ごすことになるだろう。


あと十五分も車を走らせれば、テレビ局に到着するだろうか。

少し長めの信号待ちで、ふと前から言おうとしていたことを思い出した。

それは、愛梨のとある癖のこと。

「シンデレラガールの愛梨に一つ質問」

「はい、なんでしょうっ」

返事をする愛梨は『シンデレラガール』という言葉にまだ慣れないのか、少しだけ照れくさそうだった。

「シンデレラが落としていったものは?」

「それは……ガラスの靴、ですよね」

愛梨の不思議そうな声。それはそうだろう。

別にシンデレラガールじゃなくても、これくらいは誰だって知っているはずだから。

当然、それが質問の本題だったのではなく。


「じゃあ、例えばシンデレラが落としていったのがガラスの靴じゃなくて、

 着ていたドレスだったらどうなると思う?」

「それは……王子様がドレスを拾って、『このドレスがぴったり合う女の子を街で探してくれー』みたいな」

愛梨はそこまで言って、はっとしたような声を出す。

「靴と違ってドレスだと、シンデレラ以外にも他にぴったり着られる子が街に居るかもしれませんっ!」

「いや、それを言うならそもそも靴だって、

 現実的にはぴったり合う人は他にもたくさん居ると思う……って、そんな話ではなく」

少し天然気味な愛梨と話していると、どうにも脱線しそうになる。

まあそういうのも含めて愛梨と話すのは楽しい……のだが。

そんなことを以前うっかり言ってしまったら、

『それなら、私は天然なままでも大丈夫ですねっ』なんて言われてしまったのを思い出した。


「少なくとも俺が王子様だったら……いや、そんな柄ではないけども」

「私にとっては、Pさんは王子様ですよ♪ たとえ白馬に乗れなくてもっ」

天真爛漫な100%本心からだと分かる愛梨の言葉を受けて、流石に恥ずかしくなった。

それを悟られたくなくて、少し無理やりに話題を元の路線に戻す。

「というか俺に限らず殆どの男が王子様の場合でも同じだろうけど、多分シンデレラのことは追いかけない」

「えーっ!? なんでですかっ!! そこは追いかけてくださいよーっ!!」

愛梨は心底驚いた声。それに加えて少しだけ怒った感じ。

けれど、どうしても言っておきたかった。

「ドレス脱ぎ捨てて走って逃げていくシンデレラなんて……流石に百年の恋も冷めるレベル」

「うぅ……そんなぁ……」

露骨にしょんぼりした声を聞くと流石に可哀想だったので、さっさと結論を言うことにする。


「いや、だからすぐ脱いじゃったりするのは駄目だぞ、って話」

「……そっか、脱がなければいいんですよねっ」

「そうそう……。ドレスを脱がないシンデレラなら、ちゃんと王子様は追いかけるから」

言って、流石に恥ずかしくなった。

別に自分個人のことを言った訳ではなく、あくまでも自分を含めた男性全般を指してのことだったが。

まるで自分が王子様として追いかける、みたいな。そういう臭い台詞に聞こえはしなかっただろうか。

それが気になって、ちらりと横目で愛梨の様子を窺う。

すると愛梨は少し真面目な表情で何かを呟いた後、決意を込めたような表情を作り、そして……。

「脱がないように頑張るぞーっ、おー!」

元気よく拳を振り上げた。まるで夕日に向かって走り出す前の茜のように。

まあ何はともあれ、これで愛梨の脱ぎ癖が少しでも改善されるのなら…………。

そう思いながら、前を向く。そろそろ信号が青に変わる頃。

「なんか騒いでたら暑くなってきましたっ。Pさん、脱いでもいいですかっ!?」

「愛梨、ちゃんと話を聞いてたか!?」


――――担当したアイドルの中から初めて選ばれたシンデレラガール。

       まだまだプロデュースし足りない。それに……正直色々と心配で……。


思い出シーン:終了
病室シーンB:スタート


「手……動きました。動きましたよ、ちひろさんっ!」

病室から聞こえた愛梨ちゃんの声に、廊下に出ていた私は急いで戻った。

「ほ、本当ですか?」

「はいっ、さっき手がびくって…………したと……思った、んですけど……」

元気の良かった愛梨ちゃんの声がどんどん小さくなっていく。

「もしかしたら、勘違いだったかもしれません……」

確かにプロデューサーさんに何か変わった様子はない。

けれど……。

「勘違いなんて、そんなことありませんよ。

 愛梨ちゃんの声は、絶対にプロデューサーさんに届いてるはずです」

それは慰めなんかではなかった。

愛梨ちゃんの言葉がプロデューサーさんに届かないなんて、そんなことあるはずがない。


「そう、でしょうか……」

「そうです! そうに決まってます!」

自信満々に告げると、愛梨ちゃんはようやく元気を取り戻す。

そして手を握り締めたまま、プロデューサーさんの耳元へと口を寄せた。

少しだけ真面目な顔になる。

『ドレスを脱いで置いていっちゃう駄目なシンデレラでも、絶対に追いかけてくれるって信じてますから』

何を呟いたのかは、私の居る場所からは聞こえなかったけれど。

その瞬間、プロデューサーさんが少し困ったように笑った気がした。

目をこすって、もう一度見る。

けれどそこにあったのは、さっきまでと変わらない普通の寝顔で……。

それでも、きっとさっきのは見間違いではなかったと信じたかった。


病室シーンB:終了


↓アイドル


岡崎泰葉:54pt
病室シーン:スキップ
思い出シーン:スタート


番組スタッフとの打ち合わせを終えて事務所に戻る。

すると、団欒用のソファーに一人の少女が座っているのが見えた。

「……泰葉?」

ちょうど向こうもこちらに気付いたのだろう。

「あっ、お疲れ様です。プロデューサー」

そう言って迎えてくれた泰葉に「お疲れ」と返しながら、ふと疑問が湧く。

スケジュール的に泰葉のレッスン予定時間はまだ先のはずだ。

幾らなんでも事務所に来るのが少し早いような気がするのだが……。

そんなことを思って近付いてみれば、ソファーの真正面にあるテーブルには数体のドール。

泰葉が趣味にしているドールハウス用のものではなく、どちらかと言うと子供が遊びに使う感じのもの。

俺の視線がそちらへ向いているのに気付いたのだろう。


「これですか? これは、年少組の子達と遊ぶのに持ってきたんです。

 以前から約束していたので」

言われて、年少組アイドル達の今日のスケジュールを思い出す。

確かに今頃はみんなで一緒にレッスン中のはずで、普通に終わればもう暫くすれば戻ってくるだろう。

納得して、改めてテーブルに置かれたドールを見る。

自分の親指サイズくらいの、猫やウサギ、リスなどの動物を模した可愛らしい人形達。

どこか見覚えがあった。それは、確か――。

「シルバニアファミリーとかっていう名前の……」

そう言うと、泰葉は目をぱちくりとさせて少し驚いたような表情になる。

「プロデューサー、知ってるんですか?」

「子供の頃、よくテレビのCMで見たような」

「なるほど、CMで……。てっきりプロデューサーもこういうので遊んだのかと」


「流石に女の子向けのドールでは遊ばなかったけど、俺もそういう遊びをしたことはあるよ。

 当時男の子に大人気だったバトル物のアニメの人形で」

言いながら、子供の頃を思い出す。

「両手にそれぞれ人形を持って、戦ってるって設定でぶつけ合わせたりするんだ。自分で効果音も付けて」

「ぶつけるんですか……少し、可哀想かも」

泰葉の反応は少し微妙な感じ。考えてみれば、それもそうかもしれない。

男からすればそういう遊び方は珍しくないが、女の子からすれば乱暴な遊び方に思えるだろうから。

実際問題、そういう遊び方をしたソフビ人形は脆い部分が欠けたり、塗装が剥がれ落ちたりし易かったのも事実。

きっと泰葉に限らず、事務所にいるアイドル達は皆そういう反応になるかもしれない。

「でも、プロデューサーも、そういう遊びをしていた時期があったんですね」

「まあ、最初から大人だった訳じゃないからな」

「それも、そうですね……」


そこで一旦、話が途切れる。

頃合いかと思い、場を離れようとした時。

「あの……」

泰葉に声を掛けられた。

「もしよければ、なんですけど……。二人で遊びませんか?」

言われて、考える。

時間自体はある程度余裕がある。

打ち合わせに出る前にすべき仕事は全て終わらせたし、

遊ぶと言っても年少組のアイドル達が戻って来るまでの間だろう。特に問題はない。

そうなれば結論は一つしかなかった。

肯定の返事をして、幾つか用意されていたドールの中から、猫を選んで指で優しく摘む。

それを見て、嬉しそうに「ありがとうございます」とお礼を言ってから、

泰葉はリスのドールを選んで手に取った。


「こんにちはっ! 一緒に遊ぼうっ」

ドールを少し左右に揺らしながら、普段は余り聞かないような可愛らしい声で言う泰葉。

それが少し意外で、ドールから泰葉の顔へと視線を動かす。

目が合った泰葉は、途端に気恥ずかしくなったのか視線を逸らせた。

「……そんな風に見ないでください。恥ずかしくなってきます」

「いや、ちょっと意外だったから」

そう言って再びドールへと視線を戻す。

流れ的には、今度は俺が台詞を言う番だろう。

「こんにちは! 何して遊ぼうかっ?」

やるからにはちゃんとすべきだろう。

泰葉に合わせるように演技して喋り、相手の次の台詞を待つ。

しかし……。


「ふ、ふふっ……」

新しい台詞が泰葉の口から発せられることはなく、代わりに聞こえてきたのは小さな笑い声。

思わず顔を上げて、テーブルの向かい側を見る。

するとそこには、笑いを堪えるように口に手を当てた泰葉の姿。

「まさか笑われるとは……。俺は流石に笑ったりはしてないぞ」

「ふふっ……ごめんなさい……。

 で、でも、プロデューサーは普段通りの声で相手してくれるのかと思ってたから……」

よっぽどおかしかったのか、泰葉は目に涙を浮かべていた。

そんな泰葉を見て、少し悪戯心が芽生える。

「そんなに笑うなんてひどいっ! 怒るぞっ!」

猫のドールを軽く上下に動かして、プンプン怒って飛び跳ねている演出。

それで、ついに堪え切れなくなったのか。

泰葉の口から、くすくすと抑えたものではない笑い声が漏れた。


――――泰葉はとてもアンバランスな女の子だ。

16歳だけれど、外見は寧ろ実年齢より幼く見える。

しかし、小さい頃から芸能界という厳しい世界に居たからだろう。

精神年齢は外見どころか実年齢より遥かに大人びていると感じさせる時もあった。

それでも……。

改めて泰葉を見る。

もしかして笑いのツボに入ったのだろうか。

未だ楽しそうに笑い続けている泰葉の表情は、

どこにでもいる、年齢通りの普通の女の子のようにとても柔らかいものだった。


思い出シーン:終了


↓アイドル

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