憧「キス我慢選手権?」 (70)
晴絵「うん。まあギャラも出るらしいし、体の良いバイトだと思って頑張りな」
憧「いやいや、頑張りなって言われても……」
憧「そもそも何をするのかも分かんないしするとも言ってないんだけど」
憧「っていうかキス我慢選手権ってなに?」
晴絵「そう言うと思って参考映像を用意してるから、早速見て」ピッ
憧(視聴覚質に呼び出された理由はこれか。一体何の映像で……)
晴絵(これを見た憧の反応……まあ第一声は間違いなく……)
―――――――――――――――――――――――――――
憧「絶対無理」
晴絵「そう言うと思った」アハハ
憧「てかどこのどいつが女子高生にこんなことさせようとしてるわけ!? 頭おかしいんじゃないの!?」
晴絵「まあまあ落ち着いて落ち着いて」
憧「落ち着いてられるか! 何十万積まれてもぜっったいにこんなことしないから」
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晴絵「そう言わずにお願い出来ないかなー?」
晴絵「企画元が高麻連で会長から直々にお達しも来てるから、私も無碍に出来ないのよ」
憧「高麻連ってまさか……高校麻雀連盟!?」
晴絵「ほら知らない? 毎年出てるインハイのDVDに特典で付いてる映像」
憧「……出場選手がサッカーしたりクイズ大会したりしてるアレのこと?」
晴絵「そうそれ。実はあれがすっごく好評で、毎年それ目当てでDVD買う人がいるくらい大切なものだったりするんだ」
憧「要するに。今年の特典映像の内容がキス我慢選手権ってわけね」ハァ
晴絵「ご名答。話が早くて助かるわ」
憧「頭痛くなってきたんだけど……」
晴絵「麻雀に青春をかけた少女たちの色々な側面が見たい」
晴絵「そんな全国1億人の麻雀ファンの声、蔑ろにするわけにはいかないだろ?」
憧「だからってなんでその見せる側面がキス我慢なのよ……どう考えてもおかしいでしょ」
晴絵「特典映像の内容は候補の中からファン投票で決められるから、まあ文句を言うなら全国のみなさんに、だね」
憧「はぁ……」
晴絵「ってことでやってくれないかな? やらないとかってなると来年のシードとか援助金とかにも影響出ちゃうからさ」
憧「大人の汚さをまざまざと見せつけないで欲しいんだけど……」
晴絵「本当なら綺麗な部分だけを見ていて欲しかったんだけど」アハハ
憧「……晴絵や麻雀部には悪いけど、それでもやらないから」
憧「どこの誰だかも分からないヤツにキス迫るとか絶対無理だしあり得ない」
憧「もし向こうが我慢出来ずにファーストキス奪われたらと思うと……」ゾワゾワ
晴絵「えっと、勘違いしてるみたいだから言っとくけど憧はキス我慢する側だよ?」
憧「へ?」
晴絵「んで迫ってくる相手は全員女の子。勿論インハイ出場者の」
憧「あ、そうなんだ……って、そ、それでも嫌に決まってるでしょ!!」
晴絵「別に女の子同士なんだから気にすることないって。年も近いんだし」
晴絵「それに相手は絶対に自分からはキス出来ないから、憧が我慢すればなーんにも問題ないよ?」
憧「それは、そうかもしれないけど……」
晴絵「あと我慢出来たらギャラの他にもボーナスが出るし」
憧「ボーナス?」
晴絵「欲しい物ならなんでもだってさ」アハハ
憧「なんでもって……」
晴絵「それこそ物でもお金でも」
晴絵「誰かのあれこれが欲しいとかはしんどいけど、高麻連が用意出来る範囲ならなんでもオッケーだってさ」
憧「……それって大学4年間の学費とかでもアリなわけ?」
晴絵「4年は厳しいかもだけど、2年分くらいなら用意してくれるんじゃない?」
憧「まあそれでも十分過ぎるけど」
晴絵「ふふ、ちょっとはやる気になってきたか?」
憧「……まだ決めたわけじゃないから」
晴絵(憧は頭良いから、嫌でも合理的にどっちが得かを判断する……)
晴絵(落ちるのは早そうだ)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「えー、これから新子さんにはある女性からのキスの誘惑に1時間耐えてもらいまーす」
「もし耐えられれば豪華商品! 今後の学費のためにも頑張ってください!」
憧「……」ツーン
「新子さん、スマイルは多めで」
憧「とっとと始めなさいよ。 言っとくけど絶対にアンタたちの思惑通りになんかならないからね」
「ではお部屋にて待機していてください。スタートの合図で始まりますんで」
憧(結局誰がキスを迫って来るのかは分からなかった……)
憧(今年のインハイ出場者っていうなら候補は100人以上いるけど……ま、誰でもいいわ)
憧(誰が来ても結果は同じよ)ガチャ
憧「!」
憧(こ、この部屋って……)
「ちなみにセットは新子さんの部屋を忠実に再現したものとなっていまーす」
憧「アンタたち訴えるわよ!?」
「ではベッドに腰掛けた時点でスタートですので、スタンバイお願いしまーす」
憧(はぁ、ダメだ……一々突っ込んでたら体力が持たない……)
憧(このツッコミですら向こうの思惑な気がするわ。これくらいスルーしないと……)
憧「……」スッ
「では記念すべき第一回インハイ少女キス我慢選手権、スタートです!」
憧(一体誰が……)
ガチャ
穏乃「憧♪」
憧「」
穏乃「待たせちゃってごめんなー。色々準備してたら遅くなっちゃって」
憧「えっ、ちょ、しし、シズ!?」
憧「なななんでアンタがここに……!?」
穏乃「なんでって、この前話したじゃん。憧の家に遊びに行くって」
憧「いやいやそんな話じゃなくて!」
憧(もしかして私がキス我慢する相手って……)
穏乃「そんな話とか酷い……せっかくいっぱいお洒落して来たのに……」
憧(し、シズ……?)
憧(いや、確かにあり得ないことは無いしむしろ一番予想出来そうな人選だけど!)
穏乃「あーあ、憧に私のこと蔑ろにされてショックだなー」
憧(まさか身内の中から選んで来るなんて……しかも選りに選ってシズって……!)
穏乃「せっかくのお家デートをそんなこととか言われて、ショックだなー」
憧「……あ、アンタ台本とか用意されてるわけ? さっきからセリフの違和感すごいんだけど」
穏乃「……」
穏乃「そんな言葉じゃ許してやらないもん。許して欲しいなら……」
憧(メタ的な発言はスルーか……)
穏乃「き、キス、しろよな……」
憧「っ……!!」
憧(こ、これ……)
穏乃「憧……」
憧(ヤバいかも……)カァァ
穏乃「キス、しよ……?」
憧「しし、しないわよバカ!! するわけないでしょ!?」
穏乃「なんでだよー……今日は私と憧しかいないんだからいいだろ……?」
憧「そういう問題じゃなくて!!」
穏乃「今さら恥ずかしがらなくていいじゃんか……いつもしてるみたいにしようよ……?」
「いつも……?」
「もしかして高鴨さんと新子さんってそういう関係で……」
憧「してないからね!!? 断じて私とシズはそんな関係じゃないから!! そもそも女同士よ!!」
穏乃「憧……」グイ
憧「ちょ、近っ……」
穏乃「キス……」
憧「きゃああああああ!?」ドンッ
穏乃「わっ」
憧「あああ、アンタ自分が何しようとしてるのか分かってるわけっ!!?」
穏乃「分かってるよ。憧とキス……」
憧「そうじゃなくて!」
憧「今もこれバッチリ撮られてるのよ!? この映像が全国にバラまかれるのよ!?」
憧「この意味が本当に分かってるかって訊いてんの!!」
穏乃「……分かってるよ」
憧「な……」
穏乃「だからキスしてよ、憧」
憧「わ、分かっててなんでそうなるのよ……意味分かんないんだけど」
穏乃「頭良いならそれくらい分かれよ、バカ……」
憧「はぁ? 言いたいことあるならハッキリ言いなさいよ」
穏乃「ふん……」
憧(何なのよもう……昔から意地っ張りって言うか変なとこで素直じゃないっていうか……)
穏乃「……」ツーン
憧(……な、何この空気)
憧(てか時間はどれくらい経って……ってまだ10分!?)
憧(これがあと50分続くとか地獄でしかないんだけど……)
穏乃「憧、なんか食べよう」
憧「へ?」
穏乃「ここ頼めばなんでも出してくれるらしいよ」
憧「い、いきなりどういう風の吹き回しよ……怪しいわね……」
穏乃「お腹空いただけだよ。はい、メニュー」
憧(さっきまであんな勢いで迫って来てたクセに……)
憧(作戦変えたとか? だとすれば向こうの言うこと聞くのは危険……)
穏乃「なんか色々考えてそうだから言っとくけど、本当に何もないから」
穏乃「すみませーん、ハヤシライスください」
憧「……」
穏乃「憧も何か頼めば?」
憧「何も要らないわよ、変な薬とか盛られそうだし」
穏乃「そんなことするわけないだろ……なに疑心暗鬼になってんだよ」
憧「アンタこそ呑気にご飯なんて食べてていいわけ? 1時間っていう時間制限があるのに」
穏乃「憧は私の心配するより自分の心配した方がいいと思うよ」
憧「ぐっ……」
憧「何考えてるのか企んでるのか知らないけど! 絶っっ対にシズとキスなんてしないんだからねっ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――
穏乃「ふぅ……ごちそうさまでした」
憧「……」
憧(本当にただご飯食べてるだけだった……その間私は放置ってどういうことよこれ……)
憧(残り時間はこれで40分。貴重な10分を自分の食事に使うとかホント意味不明なんだけど)
穏乃「ふわぁ……」
憧(もしかして諦めたとか……? いや、こんなくだらないことでもシズが諦めるとか絶対にあり得ない……)
憧(そもそもなんでシズはこんなことして……まあ、大方世界の名峰巡りツアー招待券が賞品とかそんなところだろうけど……)
穏乃「憧……」
憧「な、何よ。って怖いから近付いて来な……」
ギュ…
憧「なっ……!?」
憧「ななななな……!?」
穏乃「お腹いっぱいになったら眠たくなっちゃった……」
穏乃「ちょっとだけ寝るから膝貸して……腕でも良いけど」
憧「いい、嫌に決まってるでしょ!!? 断固拒否よ!!」
穏乃「別にいいじゃんか、ちょっとくらい」
穏乃「私たち恋人同士なんだし」
憧「あ、アンタ何言ってっ……」カァァ
穏乃「顔赤くなってる」
憧「なってない!!」
穏乃「なってるよ。憧って意外と初心だよなー」
憧「アンタだけには言われたくない! てか離れなさい! くっついてくんなバカ!」
穏乃「なんで今日はそんなにツンツンしてるんだよ……見られてるから?」
憧「そのいつもはデレデレしてるクセに、みたいな口ぶり今すぐやめなさい……!」
穏乃「あ、分かった。撮られてるから恥ずかしいんだ」
憧「違うわよ!? なんでそうなる!!」
穏乃「だって顔真っ赤だし、いつもと全然様子が違うし」クス
憧「だ、だからっ!!」
穏乃「ま、憧が嫌がろうと私には関係ないけど」ギュ
憧「ちょっ……」
穏乃「このまま寝るから30分くらい経ったら起こして……」
憧「い、いい加減にしなさい! そんなこと認めるわけ……!」
穏乃「嫌なら振りほどいてくれてもいいよ」
憧「っ……」
穏乃「さっきみたいに突き飛ばすとかすればいい……私は絶対に離さないけど」ギュウ…
憧「こ、こんなことして……アンタ自分で墓穴掘ってるって分からないわけ……?」
憧「もう残り時間は30分ちょっとなのよ? 昼寝とか呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ……」
穏乃「別にいいよ、そんなの……30分くらい憧にやるよ」
憧(何この余裕……意味分かんないんだけど……)
穏乃「ん……」
憧(ってマジ寝モードだし!?)
憧(信じらんない……私が起こさなきゃそのままゲーム終了なのに、何考えて……)
穏乃「……」
憧「……ちょ、ちょっと」
穏乃「……」
憧「なに本気で寝ようとしてるのよ。起きなさい」ユサユサ
穏乃「んぅ……なんだよ……せっかく気持ち良く寝ようとしてるのに……」
憧「寝るならそこのベッドで勝手に寝ればいいでしょ。私から離れなさい」
穏乃「離れて欲しいなら力づくで引き剥がせばいいだろ……その気がないなら話しかけて来んな……」
憧「力じゃアンタに勝てないから口で言ってるんでしょ」
穏乃「それでもちょっとくらい抵抗すればいいじゃん」
穏乃「それをしないってことは、そういうことなんだろ……」
憧「っ……!!」
憧「な、なに変な勘違いしてるわけ? 私はただ無駄な体力使いたくないだけなんですけど」
穏乃「あっそ……」
憧(この全部分かってますよー、みたいな態度マジでムカつく……!)
憧「な、なんか勘違いしてるみたいだから一応言っとくけど」
憧「力じゃ勝てないってのは事実だし、このまま無駄に時間使ってくれるのはありがたいからこうしてる、ってだけだから」
穏乃「そんなこと分かってるから。静かにしてろようるさいな……」
憧「っ……!」
憧「あと30分寝てろバカシズ! それでこのくっだらないゲームは終わりで私の勝ちよ!!」
穏乃「別に私たち勝負してるわけじゃ無いと思うけど……」
憧「うるさいわね! 黙って寝てなさい!」
穏乃「憧から話しかけて来たくせに……」
憧(あーもう。シズが何考えてるのか全然分かんない……)
憧(私にキスさせるのがそんなに簡単だって思われてるなら、マジでムカつくんですけど……)
憧(こっちがどんだけアンタのこと好きだろうと、そんな恥ずかしい姿撮られるとかあり得ないなんだから……!)
穏乃「……」
憧(絶対に……)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
穏乃「すぅ……」
憧「……」
穏乃「すぅ……」ギュ…
憧「っ……」カァァ
憧(ほ、本当に何の拷問よこれ……)
憧(シズに抱きしめられながら添い寝してるだけって……)
穏乃「ん……」モゾ…
憧(しかもコイツ寝相あんまり良くないから、顔押し付けて来たり足からませて来たりするし……!!)
憧(それに何より……)チラ
穏乃「……」
憧(し、シズの顔が……目の前に……)
穏乃「ん……」
憧(ま、マジでもう無理……あと15分とか死んじゃう……)
憧(シズの唇が鼻の先くらいの距離にあって……柔らかそうで……)
穏乃「……」
憧(今は私がその気になれば、キスしても良い状況で……)
憧(って何考えてるの私!? ないないないない!!)
憧(そ、それこそ変態高麻連の思う壷で……!)
穏乃「あこ……」
憧「……?」
穏乃「好き……」
憧「!?」
ちょっと飯食って来ます
ここじゃそんな報告いらないのかな、分からんけど
穏乃「ん……」モゾ…
憧「っ~~~!?」
憧(近い近い近い近いっ!? どんだけ接近して来るのよ!?)
憧(こ、こんなのちょっとでも動けば唇同士が当たって……!!)
穏乃「すぅ……」
憧(あ、あり得ない……こんな寝相あり得るわけない……!)
憧(絶対に起きてる……!! シズのヤツ、寝てるフリしてこんなこと……!)
憧「ちょっと! 起きなさいコラ!!」
穏乃「んぅ……?」
憧「こ、こんなことして人の心弄んで! いい加減に……!」
穏乃「ん……」モゾ…
チュ…
憧「!!??」
ドゴォ!!
穏乃「へぶぅ!?」
憧「な、な、なななっ……」カァァァ
穏乃「な、な、なななっ……!?」キョロキョロ
憧「アンタいきなり何してくれてるのよっ!!?」
穏乃「お前こそ寝てる人間ぶん殴るってどういうことだよ!!?」
憧「殴られて当たり前でしょ!? む、無理やりは無しってルールなのに……!」
穏乃「は、はぁ……? 一体何言って……」
憧「ま、まさかとは思うけどこんなのでアウトとか言わないでしょうね……?」
カンペ『新子さんからのキスじゃないのでセーフです』
憧「はぁ……」
穏乃「さっきから何の話してるの憧……? どういうことか全然分かんないんだけど……」
憧「……」ジト
穏乃「な、なんだよ」
憧「アンタのその態度が一番ムカつくっ……!!」
穏乃「だからなんなんだよ!?」
憧「言っとくけどあんなの事故なんだから!!」
憧「ノーカンよノーカン! 犬に唇舐められるのと同じ! 分かった!?」
穏乃「わ、分かった……」
憧「ふんっ……」ツーン
穏乃(私が寝てる間に何があったんだ……)
カンペ『残り時間10分です』
憧(あと10分……?)
穏乃(もうそんな時間か……)
穏乃「……」チラ…
憧「……」
穏乃(なんで顔赤くしてるんだ……?)
憧「私の半径2メートル以内に近付いたらぶっ飛ばすから!!」
穏乃(あ、憧の警戒心凄いんだけど……こんなの想定外だ……)
憧「……」ツーン
穏乃(私がここから動くだけでも怒りだしそうな感じだし……これじゃあキスしてもらうとか絶対に無理だ)
穏乃(このまま何もせずに終わるのを待ってもいいんだけど……)
穏乃(でも最後の10分で何もしない、ってのもおかしいだろうし、やっぱり少しはアタックした方がいいのかな……)
穏乃(憧めっちゃ怒りそうだな……)
憧「ちょ、ちょっと……なにこっち来てんのよ。 さっき私が言ったこと聞こえてなかったわけ……?」
穏乃「ごめん」
憧「あ、謝るくらいならこっち来んなバカシズ!」
穏乃「ねえ憧、なんでそんなにも怒ってるの?」
憧「私が怒ってる理由をアンタが分かってないからよ」
穏乃「……どうしたらそれを教えてくれる?」
憧「絶っ対に教えない。知りたいならこのくだらない映像が入ってる大会DVDでも買いなさいよ」
穏乃「……憧が怒ってる理由教えてくれたら、私がこのゲームに参加した理由を話す」
憧「!」
穏乃「どう? 悪くない条件だと思うけど」
憧「……私にキスさせたら世界の名峰巡りツアーに連れてって貰える、とかそんな理由でしょ。どうせ」
穏乃「うーん……半分正解かな」
憧「……どういう意味よ」
穏乃「それは憧にキスしてもらった時の私の賞品だけど、私がこのゲームに参加した理由では無いよ」
憧「じゃあ何が目的なのよ? 」
穏乃「このゲームに参加すること」
憧「……」
穏乃「ほら、ちゃんと言ったんだから憧も教えてよ。なんで怒ってるの?」
憧「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
憧「このふざけたゲームに参加することが目的って、まっったく意味が分からないんだけど」
穏乃(憧って頭良いのに変なとこで鈍いよなぁ……)ハァ
憧「何よその溜め息」ジト
穏乃「別に……ほら、ちゃんと言ったんだから憧が怒ってる理由教えろよ」
憧「アンタのその意味不明な理由を信じるとかキツいんですけど……」
穏乃「言っとくけど嘘じゃないからな。憧ならちょっと考えれば分かるだろうし」
穏乃「ほら、次憧の番」
憧「むむむ……」
憧(嘘じゃないって言うなら答えないわけにはいかないし……あーもういいや、別にこんなこと話しても何にもないし……)
穏乃「なんで怒ってるんだよ」
憧「……アンタが寝ぼけて私にキスしたからよ」
穏乃「えっ」
憧「あんなにも密着すりゃ当たり前でしょ……バカ」
穏乃「そ、そうだったんだ……ごめん……」
憧「別にいいわよ……事故だから」
穏乃「犬に舐められた云々ってそういう意味で……って私は犬かよ!!」
憧「意思が無いんだから犬以下よ」
穏乃「うっ……」
憧「さっきの映像も絶対に収録されるだろうし……ホント最悪……」
穏乃「そこはお前が文句言える立場じゃないだろ、ちゃんと合意した上で参加してるんだから」
憧「そ、それはそうだけど……!」
穏乃「そもそも憧が大学での学費なんかに釣られるから……はぁ」
憧「シズだって賞品に釣られたくせにどの口が言うのよ……」
穏乃「私は賞品が目当てじゃないってさっき言っただろ」
憧「じゃあ何が目当てなのよ!!」
穏乃「だからこのゲームに参加することだって」
憧「はぁ……」
穏乃「お前ほんっと何も分かってないんだな……!!」
憧「アンタが何考えてるかなんて昔から分からないわよ……」
カンペ『残り時間5分です』
穏乃「あと5分……」
憧「長かった……やっとこの苦行から解放される……」
穏乃「憧の場合は自業自得だろ」
憧「うるさいわね」
穏乃「まあでも良かったじゃん。これで学費の心配せずに済むんだし」
憧「……シズは本当にこのままで良いわけ? こんな恥ずかしい映像全国に晒されて、何の報酬も無いまま終わるとか」
穏乃「別にいいよ」
穏乃「……そりゃキリマンジャロとかアイガーとかモンブランとかマッターホルンとか登ってみたかったけど」ボソ
憧「未練たらたらじゃないの……」
穏乃「うっさいな。それが目的で参加したんじゃないってさっきから言ってるだろ……」
憧「このゲームに参加するのが目的ってどういう意味よ、もう終わりなんだから教えなさい」
穏乃「……」
憧「まさかとは思うけど、テレビに出るためとかふざけた理由じゃないでしょうね」
穏乃「んなわけないだろ……」
憧「じゃあなによ」
穏乃「……嫌だったんだよ」
憧「……は?」
穏乃「憧が誰かにキスされそうになって、キスするの我慢して」
穏乃「そんな映像がDVDになって、それが全国に流通するなんて……絶対に嫌だった」
憧「…………」
穏乃「これだけ言えばもう分かるだろ……」
憧(あ、ヤバい……)
穏乃「あーもう恥ずかしいな!! 撮られてるの気にしてるくせにこんなこと言わせんなよバカ……」
憧(身体、勝手に動いて……)
穏乃「とにかく! こんなことするのはもうこれっきりに―――」
チュ…
穏乃「……」
憧「……」ギュ…
穏乃「……」
憧(あー……やっちゃった……)
憧(でも、まあいいや。しょうがないっていうか、あんな顔であんなこと言われて、我慢するとか無理だし……)
穏乃「……」
憧(シズの唇……柔らかい)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
穏乃「……なんで」
穏乃「なんでキスしたの憧……?」
憧「そりゃ……我慢出来なくなったからでしょ」
穏乃「あと1分もせずに終わってたのに……バカだよお前、ホントに……」
憧「うるさいわね……身体が勝手に動いたんだからしょうがないでしょ……」
穏乃「だ、だからって……ずるいよ、こんなの……」
憧「なに今さら顔赤くして恥ずかしがってんのよ……あんなにもキスしろキスしろうるさかったクセに」
穏乃「顔の赤さなら憧も人のこと言えないからな……!」
憧「分かってるっての……恥ずかし過ぎて死にそうよ……」
穏乃「じゃあするなよ……」
憧「紛いなりにもこんなことに巻き込んじゃったんだし、私からのお詫びも兼ねたつもりなの」
憧「これでシズは世界の名峰巡り行けるでしょ」
穏乃「でもこれじゃあ憧に何の得もないじゃんか……」
憧「どうせ泡銭だし、私はもう良いのよ」
憧(そんなものよりずっと大切なものを貰ったわけだし……)
穏乃「……ねえ憧」
憧「なに」
穏乃「名峰巡りツアー。もし招待枠2つ貰えたら……一緒に付いて来てくれる?」
憧「……」
憧「私、山登りとかって苦手なのよね」
穏乃「」
憧「まあ……シズがいるなら別にいいけど……」
穏乃「!!」
憧「こんな恥ずかしいことさせられたんだから、それくらいのギャラはちゃんとふんだくって来なさいよね」
穏乃「任せてよ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『本大会を大いに賑わせたダークホース、阿智賀女子の1年生コンビ』
『より強くなった絆を胸に、来年のインハイも賑わせてくれることでしょう』
『続きましてはこの人。団体戦ベスト4のうちの1校、白糸台高校から……』
玄「な、なんていうか、すごいねこれ……」アハハ…
灼「こんな惚気全開の映像、好き好んで見る人なんていないと思……」
晴絵「評判はこれが世に出回ってからだね。高麻連とスタッフの人らは大絶賛だったけどどうなるやら」
憧「……」
穏乃「……」
宥「だ、大丈夫2人とも……?」
穏乃「恥ずかしくて死にそうです……」
憧「視聴覚質で試写会とか公開処刑以外の何物でもないんですけど……!!」
晴絵「別にいいだろー。どうせ全国1億人の麻雀ファンの目に入るんだから」
玄「こ、この映像を全国1億人に……」
灼「2人ともご愁傷様……」
憧「ギャラがぜんっぜん釣り合わない!!」
憧「文句言ってもっとせしめて来てよ晴絵! 私とシズの4年間の学費請求してどっこいどっこいよこんなの!!」
晴絵「部に出してもらった補助金とアンタら2人分の名峰ツアー費だけで限界だっての」
晴絵「それに憧はお金なんかより大切なものを手に入れたからいいんだろ?」
憧「な……」カァァ
宥「2人は名峰ツアーはもう行ったの?」
穏乃「まだですよ。春休みを丸々使って行くつもりです!」
玄「恋人同士で海外旅行なんて素敵だねー……」
穏乃(こ、恋人……)ドキ…
灼「……ちょっと気になったんだけどさ」
宥「?」
灼「穏乃と憧って付き合ってるの?」
穏憧「!!」
玄「灼ちゃん、その質問は今さら過ぎると思うよ?」
晴絵「あんだけイチャコラしといてまだ付き合ってないってのは流石に無理が……」ハハ…
憧「……」
穏乃「……」
「「「……えっ」」」
終わり
ちらほらと間の手入れてもらってありがとうございました、お疲れ様でした
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