「うーん……」
「チエ、どうかいたしましたですか?」
「あっ、ライラさん。学校の宿題で読書感想文書くことになったんです」
「読書感想文、でございますか」
「なにかいたらいいかわからないー」
「薫ちゃんも同じ宿題してるんです」
「おー……それでは、ライラさんがむかーしむかしに読んだ本のお話をしてあげますです」
「ライラさんのおはなし?」
「はいです。つまらないものですがよかったらどうぞでございます」
「どういうお話なんですか?」
「あー……たくさん冒険しますです」
「冒険譚ですか! 私も聞かせてください!」
「ムツミも聞きますですか? どうぞどうぞです」
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「むかーしむかしのお話でございます
とある大きなおうちに青い眼差しを持つ娘が住んでいましたです
娘はですね、パパとママからとてもとてもたくさんの食べものとおもちゃを与えられて育ちましたですよ。でも、物心着いた頃からずっとあったそれらにあまり興味を持たないで空ばかりを見つめていましたでございます
お子さんには魅力的なはずのおもちゃに娘はそれらに飛びつかない。大人もよだれを垂らすような料理を娘は少ししか食べない。パパとママはとても不思議がりましたですねー
パパとママは何度も娘に欲しいものはないか聞きましたです。でも娘は欲しいものはなにもないと答えたでございます」
「なんでー?」
「なんでもあるからなにもほしいものがなかったのでございますよ」
「続けますですよ
なにも欲しがらず、空を眺めていた娘は本当になにも欲しがらなかったわけではなくて、手を伸ばせばなんでもあるその暮らしで満足できていたのでございます
娘は満足に生きる反面、パパとママはそう見えなかったらしかったですので、いろーんなことを娘にしてあげましたです
もっと新しい食べ物、もっともっと魅力的なおもちゃ、遠くから劇をする人や芸をする人を呼んだりしてくれましたですよ
でも、娘はどれにも対した反応を見せませんでした。手を伸ばせばなんでもある環境を楽しんでいたのに向こうからやってくるのは好ましくなかったでございます」
「なんじゃその娘は贅沢もんじゃのぅ」
「おや、トモエも聞いてましたですか。そうですねー、とても贅沢でございます」
「ますます娘のことがわからなくなり混乱したパパはある日、とんでもないものを娘に送りましたです
それはまだ年端もいかない娘の……お婿さんでございましたですよ」
「お婿さん!?」「オムコさんてなにー?」「しー!」
「……はい、静かになりましたですね
娘は、自分が手を伸ばそうともしてないものがやってきただけでなく靴を履いたまま自分の中に入られるかもしれないことにとても怯えましたです
そんな娘の心に気づかないパパは、神経衰弱ができるくらいたくさんのお婿さんの写真を娘に毎日見せましたでございます
写真だけなら我慢できた娘でしたが、ある日突然お婿さん候補の一人がおうちにやってきましてですね。強引に話す機会を作られてしまいましたですよ
娘より一回り大きな身体を持ったお婿さんはたくさんのことをパパ越しに娘へ語りかけましたが、娘はろくに会話もせずなにもいないと言った風にずぅっと空を見ていましたです
うんともすんとも言わない娘に、お婿さん候補は苦い顔をしながらおとなしく帰りましたです
パパもあまりに無愛想な娘に呆れましたが明日も別のお婿さん候補が来ると言って部屋に帰りましたでございます
娘は、その言葉に深く嫌悪感を抱いてその日の夜を過ごしましたですよ」
「なんで娘さんのパパさんはお婿さん呼んだんだろう?」
「きっと、娘も女の子なので恋をしたら変わるだろうと思ったのかもしれませんです」
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