伊織「オークっ!?」 (72)

伊織「……ったく。なんでこの伊織ちゃんが自分で衣装を取りに来なくちゃならないのよっ!?」ツカツカ

亜美「仕方無いじゃん。律っちゃんは居なくなったあずさお姉ちゃん探しに行ったんだもん」トテトテ

伊織「だいたいこういうのはスタイリストの仕事でしょ! 増税の影響で経費削減って言ってたけど、ケチり過ぎだと思わない?」プンプン

亜美「まあまあ、そう言わずに。衣装が無いとお仕事出来無いじゃんか……あっ! あずさお姉ちゃん居たっ!」

伊織「えっ? どこ?」キョロキョロ

亜美「あっちの倉庫の中に入って行ったよ! 見失う前に捕まえなくっちゃ!」タッタッ

伊織「ちょっと、亜美っ……! もうっ。しょうがないんだから」スタスタ

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シーン……


伊織「……って、暗っ。本当にこんな所にあずさが入って行ったのかしら……?」

伊織「なんか、埃臭いし……。あと、なんか生臭い……」
  (薄暗いから足下に気をつけないと……)チラッ

伊織「大道具倉庫みたいだけど……まったく、あずさにも困ったものね……」


ガサッ


伊織「っ!?」ビクッ



伊織「あ……、亜美? そこに、居るの? あずさは見つけ……」

オーク「…………!?」

伊織「っ!? きゃぁあああああ!?」

亜美「いおりん、どうし……っ!?  ば……化け物……」ヘタン

伊織「あっ、亜美は私のっ、私の後ろに隠れてなさいっ……」ブルブル

亜美「い、いおりぃん……これってオークってやつじゃ……」

伊織「オークっ!?」

オーク「グ、グフッ……」ジリッ

亜美「っ!?」ビクッ

伊織「くっ、くるなら来なさいよ……! 私はともかく亜美には指一本触れさせないんだから……っ!」ジワァ

亜美「きっと亜美達……このあと、滅茶苦茶にされちゃうんだ。うぅ……」

伊織「ちょっ、そそそ、それ、どういうことなの……?」

亜美「亜美、知ってるんだっ……。兄ちゃんが机に隠してたマンガにアレ、出てきててさ……女の子に乱暴してたんだよ……」

伊織「───っ!? ら、乱暴って……というか、そのマンガっていかがわしい感じなの?」

亜美「きっと亜美達、壊されちゃうよぅ……うぁうぁあっ……」ウルッ

伊織「私の話を聞きなさいよ! いかがわしい本なの!? あと壊されちゃうって何よ!?」

オーク「グ、グ、ヒ………」ジリッ

伊織「!?」ビクッ

亜美「ひいっ!?」

伊織「ら、乱暴するなら私だけにしなさい! 私を好きにして良いから……だから亜美だけは!!」

亜美「いおりぃん……うぁうぁあぁ……」

オーク「ア……ア……」

伊織「私はアンタみたいな化け物に絶対屈っしたりしないんだからぁあああああああ!」

オーク「ア……アクシュ……」

伊織「あああああああっ……えっ……?」

オーク「ア、アク、シュ……?」

伊織「あ、あくしゅ?」

亜美「シャベッタァアアアアア!?」

オーク「オ、オレ……ファ、ン。イオ、リン……ア、アクシュ……」

伊織「…………えっ!? あ、えっ!?」

亜美「いっ、いおりん! 握手って言ってるっぽいよ?」

伊織「えっ」

オーク「アクシュ……?」

伊織「えっ」

オーク「フ、ファン、ア、クシュ……」

亜美「いおりん! この人、いおりんのファンらしいよっ?」

伊織「人、って……?」チラッ

オーク「イ、イオ、リン……?」

伊織「…………アンタ、その……私のファンなわけ?」

オーク「ファ、ン………」コクッ

亜美「握手してあげなよ、いおりぃん」

伊織「簡単に言うんじゃないわよ!? 肌の色とか、この世のモノとは思えないような薄汚い緑色なのよ!?」

オーク「ア……」シュン

伊織「あっ、ちがっ……」

亜美「メガネ無しの、りっちゃんだと思えばいいんじゃない?」

伊織「思えるわけないし、アンタそれ、律子の前で言ったら、はっ倒されるわよ!?」

亜美「ファンは大事にしないとって、いつも兄ちゃんが言ってるし?」

伊織「ファン、って言われても……」チラッ

オーク「グ、グフ、グフッ……」ニタァッ

伊織「……やっぱ、無理ぃいいいっ! だらしなく開いた口元からヨダレとか垂れてるしぃいい!?」

亜美「確かにグロいよね……」

伊織「なんなのよ、この物体は!?」

亜美「うーん。ちょっと待ってて?」ゴソゴソ

伊織「携帯電話なんか出してどうするつもり?」


亜美「えーっと……【おーく】」

スマホ(ぽんっ


【オーク】人間の姿に近く、醜く汚らわしい存在として創造され、ファンタジーの世界観の中では人間の亜種として描かれている。
知能はあるが鈍く惨めな生物で、極端に繁殖力が強く、多種族とも繁殖出来る。
人を殺す道具、つるはしなど、美しくないもの以外は作れるものの、他の創造はできず、破壊するだけの存在として描写されている。


亜美「……だってさ?」

伊織「いやいや、明らかに人間に害を及ぼす存在じゃない」

オーク「チ、チガ……」オロオロ

伊織「血!? わっ、私の血を求めてる……!?」

亜美「いや、多分、反論したいだけじゃない?」

オーク「オ、オ、レ……」オドオド

亜美「ほ、ほら……」

オーク「ウ……グヘヘ……」ニタァッ

伊織「」

亜美「」

伊織「いやぁああああっ!? 豚っ鼻に犯されるぅうううう!!」

亜美「いやいや、たまーに、ファンの兄ちゃん姉ちゃんの中にもこんな人いるっしょ」

伊織「挙動不審ってレベルをはるかに越えてるんだけど!?」

亜美「いや、はるるんは今かんけーなくない?」

伊織「はあ?」

オーク「ア、ア……イオリン……」ハァハァ

亜美「ちょっとコーフンしてるだけだよぉ。ほーらっ、握手してあげれば?」

伊織「えぇっ!?」

オーク「……ァ」

伊織「……大人しくしててね? その……。ちょっと怖いから……」
  (近寄ったらなんか、臭い……かもしれないけど……っ!)ギュッ

オーク「ッ!!?」

伊織「あ、アンタそんなナリだけど……この伊織ちゃんを美しいと思う審美眼は、合格点をあげても良いかもね?」

亜美(いおりん、ネコっかぶりがハゲてるし、地が出てるというかツンデレが出てるっぽいよ?)

伊織「ファンとして、これからも、この伊織ちゃんの活躍を見てなさいよねっ!」

亜美(あっ、デレ出た)

オーク「オ……オ、オ……」ダラダラ

亜美(あっ、ヨダレ出た)

オーク「ク……ク、ウ……」

伊織「……なに? 感動して言葉も出ないってやつかしら?」

亜美「さ、さぁ……?」

オーク「クギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウっ!!」

伊織「うるさっ……!?」

亜美「吠えたっ!?」

オーク「ゥウウウウアアアアっ……クギュウウウウウウウウウウウ!!!」

伊織「ちょ、ちょっと!?」

亜美「あのさ、いおりん?」

オーク「クギュウウウウウウウウウウウアアアアっ!!!」

伊織「なによ!?」

亜美「早く止めないと、誰かに見られたら、絶対に勘違いされると思うんだよね?」

伊織「……それ、早く言いなさいよっ!?」

オーク「クギュウウウウウウウウウウウ!!!」

伊織「 う る さ ~ い っ ! 」

オーク「ウアアア……ア……?」

伊織「誰か来たらどうすんのよ!? 通報されたらアンタ射殺モンよ!?」

亜美「あ、アウトっぽいよ、いおりん?」

伊織「えっ?」

??「亜美っ!? 伊織!? こんな所で何してんのよ……?」

伊織「律子っ!? 来ちゃダメっ……」

律子「きゃあぁああああっ!? ばっ、化け物っ!!?」

オーク「オ……ア……」

あずさ「あらあら~どうしたんですか律子さ……」フッ

律子「あずささんっ!?」ガシッ

亜美「あちゃ~、あずさお姉ちゃんには、この律っちゃんグリーンのボデーはワイルド過ぎたかな?」

伊織「いや、むしろ肌でデンジャラスな香りを察知したんじゃないの?」

亜美「というか、あずさお姉ちゃん、出入り口ひとつしかないのに、外から入って来なかった? ワープしたのかな?」

伊織「ワープってなによ」

亜美「あら(あら)まあ(まあ)ドア~、とか」

律子「あんた達、何を呑気に話してるのよ!? 早くソイツから離れて、こっちに……っ!」

オーク「ア、ウ……?」

伊織「あっ、そうじゃなくて……」

律子「ああ、もうっ! 私の可愛いアイドルには指一本触れさせないんだからぁああああっ!!」ダッ

伊織「律子っ!?」

律子「こんのぉおおおお……っ!」ドンッ

亜美「りっちゃんの すてみタックル▽」

オーク「オ……?」グラッ

亜美「こうかは ばつぐんだ!▽ りっちゃんに 大ダメージ……▽」

伊織「りっ、律子っ!? 大丈夫っ!?」

律子「うぅ……」グルグル

亜美「りっちゃんは めのまえが まっくらになった……▽」

伊織「言ってる場合じゃないでしょ!?」

律子「……きゅぅ」バタン

伊織「律子ぉおおおおっ!?」ガシッ

亜美「あずさお姉ちゃんに続いて律っちゃんまで気を失っちゃったYo」

伊織「どうすればいいのよ、この状況……」

亜美「誰か人が来る前に、どっか別の場所に行かないと、だよね」

伊織「別の場所って言われても……。だいたい律子とあずさはどうすんのよ……」

亜美「んー。おっくんに運んで貰えば?」

伊織「おっくんって誰よ……」

亜美「オークの、おっくんに決まってんじゃん」

オーク「……オ?」

伊織「……それしかなさそうね。アンタ、二人を抱えられる?」

オーク「……ウア?」

亜美「伝わってないっぽいね」

伊織「ああ、難しい言葉は理解出来ないのかしら……?」

亜美「かもね?」

伊織「えーっと……ダッコ&オンブ!」

オーク「……?」キョトン

亜美「…………ブふぉッ!?」

伊織「っ!?」

亜美「抱っこ&おんぶって……くはははダメ、しかもなんで英語っぽく言ったの!? あはははは!」ケラケラ

伊織「~~~っ////」カーッ

亜美「しかもっ……ひ~っ、伝わって……ひぃ、はっ、はふ……ふふ、伝わってないじゃんかっ、あははははは!」ケラケラ

伊織「しっ……、仕方ないでしょっ!? カタコトの方が伝わるかと思ったのよ!////」

オーク「……ハコ、ブ? ア、アズサ、サン……、リッチャン」

亜美「伝わってんのっ!?」

伊織「ほ、ほらっ、みなさい! この海外旅行経験豊富な伊織ちゃんにかかれば、未開の地の部族だって意志の疎通はバッチリなんだからねっ!?」

亜美「……というか、律っちゃんの名前もちゃんと知ってるなんて、おっくん、なかなかやりますな~?」

オーク「リ、リ、リッチャン……カワイ、イデ……ス、ヨ?」ボソッ

伊織「じゃあ、悪いけど運んであげてちょうだい」

オーク「ド、ドコ……?」

亜美「あぁ、どうしよっか? 取りあえず楽屋?」

伊織「そうね。そこまで行くのに人に会わないようにしなきゃダメだけど……」

亜美「それが一番大変だね……。あっ! 亜美が先に行って電話で、いおりんに安全かどーかを伝えれば良いんじゃない?」

伊織「あら、なかなか名案じゃない♪」

亜美「よし! んじゃ、レッツゴー! 頼んだよ、おっくん!」

オーク「ワ、ワカタ……」ガシッ

律子「うーん……」グッタリ

あずさ「う~ん……」ドタプーン

亜美「おお! 軽々と二人を両脇に抱えた……! おっくん、パワフルだねぇぃ」ペシペシ

オーク「オ、オゥフ……」テレッ

伊織「じゃあ、行きましょ」

亜美「……いおりん、あのさ?」

伊織「……なによ?」

亜美「これどう見ても、森で見つけたエルフの姉妹をさらって仲間の元に運んでるようにしか見え(ry」

伊織「私もそういうイメージでしか見えないけど、そこには目をつぶりましょう……? それより……」

亜美「絶対に他の人には見つからないように、だね?」

伊織「ええ。こんな状況を見られたら、説明する間も無く大きな騒ぎになるもの」

亜美「これは亜美のセキニンジューダイだね」

伊織「任せたわよ。私は誘導するから電話は繋げっぱなしで良いわね」

亜美「んじゃ、ミッションスタート☆」タタッ

オーク「ウ、ガ……」

伊織「アンタも、ちゃんと私の言うこと聞きなさいよ?」

オーク「ワ、ワカ、タ……」

伊織「にひひ♪ アンタ、なかなか使用人の才能あるんじゃない? なんて、ね♪」

オーク「……ウア?」


──────

────
──

亜美「なんとか、無事に楽屋まで帰ってこれたね!」

伊織「無駄に疲れたし、喉もカラカラ……。生放送でだって、こんなに緊張したこと無かったんじゃない?」

亜美「亜美、イッショーブンの緊張したかも。それよりさ、おっくん連れてきちゃったけど、どーする?」

伊織「…………」

オーク「……アガ?」

伊織「……そもそも、コイツは何処から……」

律子「……うっ。うーん……あれ、ここは……?」ムクリ

亜美「あ、律っちゃん、気が付いたんだ?」

律子「えーっと、私、なんで……」ボーッ

オーク「リ、リッ、チャン……」

律子「…………っ!?」

伊織「ちぃっ! 亜美っ、今すぐに律子の口を塞いでっ!」

亜美「おうともさ!」ガバッ

律子「ムグッ、ちょっ……んんんんん!?」ジタバタ

伊織「律子、落ち着いて聞いて?」

律子「んんんっ!? ムぐぐ、ムフぐむっむむんぐっ!?」ジタバタ

伊織「良いから、落ち着いて! この化け物は、化け物だけど害は無いの! 私のファンなの、だから騒がないで。……分かった?」

律子「…………ムぐ」コクコク

伊織「亜美、離してあげて」

亜美「あいあい」パッ

律子「ぷはっ……。えっと……マジなのね?」

伊織「ええ……どうしようもなく、マジよ。ドッキリの作り物に見える?」チラッ

オーク「……?」キョトン

律子「……よくあるドッキリの特殊メイクが子供騙しに思えるくらい、生きてるって感じのディテールね。それと、言っちゃなんだけど生臭い……」

亜美「亜美、最初おっくん見たとき、ちょっとちびったもん」

伊織(実は私も……)モジッ

律子「おっくん?」

亜美「うん。オークのおっくん」

オーク「オ、オ……」オドッ

律子「ああ、言われてみれば、ファンタジーに出てくるやつと特徴が似てるわね。あ、替えの下着あるわよ……?」

亜美「もう乾いたから、へーきだよ」

伊織(私、まだ湿ってるけど恥ずかしくて言えない……。このまま、乗り切れるかしら……?)モジモジ

律子「それより、このおっくん……どこから来たのかしら?」

亜美「どこからって?」

律子「いや、だってどう考えてもこの世界の……コホン。地球上で生まれた知的生物じゃないでしょ?」

伊織(意識したらパンツの冷たさが……)キュッ

亜美「新種のUMA的なあれかもよ~?」

律子「この、おバカ。だったら、どうやってここまで来たのよ?」

亜美「どゆこと?」

律子「こんな見た目、どうやっても人目につくし、まずTV局は入れる場所が決まってるのよ? 騒ぎになるに決まってるじゃないの」

亜美「あ、そかそか。じゃあ、あら(あら)まあ(まあ)ドアで来たんじゃない?」

律子「何よ、あらまあドアって……。伊織はおっくんから何か聞いてないの?」

伊織(うう……なんとか、みんなに内緒でパンツを履き替えないと……)

亜美「いおりん……?」

伊織「なっ、何よその顔っ、別に漏らしてなんかないんだからねっ!?」

亜美「…………」

律子「…………」

伊織「あっ……ちがっ」

オーク「クギュウウウウウウウウウウウウっ!」

律子「わっ……吠えた……!?」

亜美「い、いおりん、止めないと!」

伊織「あ、そうだったわね! うるさい! だいたいなんなのよ、そのくぎゅうって!?」

オーク「エ、エッ、アノ……」

伊織「…………」

亜美「…………」

律子「…………」

あずさ「…………」

オーク「…………」

伊織「レスポンスが遅いっ!!」ゲシッ

オーク「…………オ?」

亜美「いおりん、おっくんは喋るのがちょっと苦手なんだから、そんなに怒っちゃダメだよ」

律子「そもそも、知能指数が低いのかしらね? 反応も、やや鈍いみたいだし」

あずさ「なんだか親近感が湧いてきますね~」

伊織「確かにあずさに似て……って、あずさ!?」

亜美「あずさ姉ちゃん起きてたんだ?」

律子「というか、あずささん、平気なんですか? 最初、おっくんのことを見ただけで気絶してたじゃないですか?」

あずさ「あれはほら、突然だったんで~……。薄暗かったですし……」

伊織「明るいところで見る方が色々キツくない……?」

亜美「いおりん、ファンの人にそんな言い方はマズくない?」チラッ

オーク「…………」

伊織「あっ……。その、ごめんなさ……」

オーク「レ、レス、ポ、ンス……?」

伊織「やっぱりレスポンス遅いっ! あ~っ、もうっ! イライラするっ!」

律子「あら、伊織が私達以外に素を出すなんて、珍しいわね?」

伊織「うぐっ……」

亜美「フラグ? それってフラグ?」ニヤニヤ

伊織「なんのフラグよ!?」

あずさ「あらあら、うふふ~♪」

伊織「あずさも、意味も分かってないくせに流れだけ読むの、止めなさいよっ!」

律子「それにしても、このままだとマズいわね……」

伊織「そうね。いつまでも隠し通せるものじゃないし……」

律子「最悪、射殺……それじゃなくても、どこかの研究所の実験サンプルとかに使われるかも……」

亜美「ええ~っ!? そんなの可哀想だよ!?」

伊織「そんなこと言っても、どうしようもないじゃない……」

亜美「そだ、いおりんの家で飼ってあげれば?」

律子「いや、そんな犬じゃないんだから……」


ガチャッ


みんな「!?」

スタッフ「竜宮小町さん、そろそろ出番なんで準備の……ひぃいいいいい、ばっ、化け物ぉおおおっ!?」ドタドタ

あずさ「あ、あらあら~……?」

伊織「しまった……っ!」

律子「伊織っ! 逃げて!」

伊織「逃げるったって、何処によ……?」

亜美「ドコだって良いよ! このままじゃ、おっくんが……!」

あずさ「伊織ちゃん!」

伊織「……っ!!」スチャ

亜美「いおりん……? 電話なんて、どこにかけるの?」

伊織「新堂!? 今から五分でTV局に来なさい! いいわね!?」

律子「伊織っ、騒がしくなってきたわ! 早く行きなさい!」

伊織「分かってるわよ!」

オーク「ウア……?」

伊織「逃げるの! ここから!」ギュッ

オーク「……ニゲ?」

伊織「良いから! 早くっ!」ダッ

律子「亜美! 一緒に行って、伊織を助けて上げて!」

亜美「……うんっ!」ダッ

あずさ「えっと……、どうやって誤魔化しましょう……?」

律子「…………」


──────

────
──



ザワザワ……


\ナ、ナンダ!? キャァアアアア…… ウワァアアアア!?/


伊織「まったくっ! 何でTV局って、こうも人が多いのかしらっ!」タッタッタッ

オーク「イ、イオ……」ドタドタドタ

伊織「アンタは黙って私に付いてくれば良いのっ!」タッタッタッタッ

オーク「ウウ……」ドタドタドタドタ

伊織「よしっ! もうすぐ駐車場よっ!」

警備員「ひぃいいいいいいいっ!?」


伊織「そこを退きなさぁああああああああいっ!」


警備員「はっ、はいいいいっ!!?」彡サッ



\ウワァアアアア!? ヒィイイッ!?/


亜美「怪我してない? 警備員のおっちゃん?」ヒョコッ

警備員「あ……は、はい」

亜美「そかそか、そりゃ良かった♪ んじゃね~?」ダッ


\アッ オツトメゴクローサマー/


警備員「…………な、なんだったんだ?」ポカン


伊織「くっ……せっかく駐車場まで来たのに……。新堂は何やってんのよ!」

レポーター「あっ、居ましたっ! ここ、ブシテレビに突如現れたモンスターは少女を人質に取って逃げている模様です!」

伊織「カメラ……っ!?」

レポーター「皆様、ご覧戴けているでしょうか、あのおぞましい姿をっ!」

オーク「……?」

伊織「違うのっ! コイツは……」

レポーター「な、なんと! 人質の少女はアイドルの水瀬伊織さんのようです!」

伊織「だから違うって言ってるでしょ!?」

??「はいはい、ちょっとごめんよー、どーんっ☆」ドンッ

レポーター「ぐはっ!?」ドターン

??「どーんっ☆どーんっ♪」ドンッ

カメラマン「うわっ……」グラッ


\ガシャーン/

伊織「亜美……!?」

亜美「いおりん! 今のうちに早く逃げて!」

伊織「で、でも、新堂が……新堂が来ないのっ!」ウルッ

亜美「なら、走って逃げれば良いじゃんか! 何のために今まで鍛えて来たのさ!」

伊織「走って、って……」

亜美「何キロでも、何十キロでも、人が居ないとこまで逃げれば良いじゃんっ!」

伊織「……そんな軽く言うんじゃないわよ。……ここは東京なのよ?」

亜美「…………」

伊織「何十キロで足りるワケないでしょ……ったく。……何百キロでも走ってやるわよ!」

亜美「そうこなくっちゃ! さっすが竜宮のリーダー♪」

伊織「ふふっ。行きましょう、おっくん!」ギュッ

オーク「ウ、ガ……」

伊織「この伊織ちゃんと逃避行出来るなんて、アンタ、一生の自慢になるんだから、ちゃんと子孫に語り継ぎなさいよね! にひひっ♪」


──────

────
──

律子「……だから、違うんですってばっ!」

レポーター「あのモンスターが何処から来たかご存知なんですか!?」

律子「彼は……、おっくんはモンスターじゃありません!」

レポーター「モンスターと一緒に居たのは、あの水瀬財閥のご令嬢ですが、水瀬財閥との因果関係は!?」

律子「っ…………」ギリッ

レポーター「水瀬伊織さんがモンスターを連れて逃げてるという情報もありますが、その点に付いて何か知ってることは?」

律子「~~~っ……」ギリリッ

あずさ「うふふ。律子さん、ダメですよ?」

律子「っ!? あずささん……?」

あずさ「ここで私達が騒いだら余計に騒ぎ立てられちゃいますから」

律子「だけどっ……」

??「……それは、私の方からご説明しましょう」

\ザワッ/

あずさ「あの~、どちら様でしょうか?」

律子「あっ、アナタは伊織の……。伊織の、お父様っ!」


──────

────
──

伊織「ハァ……ハァ……」ゼーゼー

オーク「イ、イオ……リン……?」

伊織「大丈夫……ハァ……。まだ30キロしか走ってないもの。行きましょ……うっ!?」ズキッ

オーク「ア、アッ……イオ……」オロオロ

伊織「ぐっ……足がっ!」

オーク「オ、オン……」

伊織「……?」


オーク「オン、オンブ&ダッコ……ス、スル?」オドッ

伊織「…………ふふっ。そうね。おんぶが良いわ」

オーク「ウ、ウン……」スッ

伊織「よいしょ、っと。想像通りだけど……アンタの背中、ゴツゴツで、堅い……」

オーク「ゴ、ゴメ……」

伊織「今日だけは仕方ないから、特別に我慢してあげる。感謝しなさいよね。ふふっ」

オーク「カ、ンシャ……?」ノッシ

伊織「ありがとう、って気持ちよ。分かる?」

オーク「キ、モ、チ……」ノッシノッシ

伊織「そう。凄く温かい気持ち。私も、応援してくれるファンのみんなに、いつもありがとうって思ってる」

オーク「カンシャ……ワカラ、ナイ」ノッシ

伊織「そう。じゃあ、ここから先は私の独り言」

オーク「ウ……?」

伊織「何処からか分からないけど、わざわざ会いに来てくれたんでしょ? だから、ありがとう」

オーク「ア、リガ……?」

伊織「ありがとう。ほら、止まらないで、ちゃんと歩きなさいよ」

オーク「ア……」ノッソ

伊織「ありがとう……」

オーク「アリ、ガ……」ノッソ

伊織「……すぅ……すぅ」スヤァ

オーク「…………」


オーク「カ、カン、シャ……」


──────

────
──

亜美「いおりん、ちゃんと逃げれてるのかなぁ……」トボトボ

電光掲示板《───ブシテレビに突如現れたモンスターについて……大企業の数々を纏める水瀬財閥の代表、水瀬氏が……》

亜美「あれ? あの映ってるのって……。水瀬ってことは、もしかして、いおりんのパパリン?」

??「あ~っ、亜美ちゃん居ましたよ、律子さん!」

亜美「あっ、あずさお姉ちゃん……?」

あずさ「良かったわ~……。連絡付かなくて困ってたのよ、も~?」

亜美「あっ、いおりん助ける時にバタバタしてたら携帯、落としちゃってたみたい」

律子「亜美! なんでこんな、街のど真ん中に居るのよ?」

亜美「ああ、それはね? TV局に居たらヤバそうだったから逃げてきたんだよ」

あずさ「どうして繁華街に?」

亜美「んっふっふ~。木を隠すならウォーリーを探せってやつ?」

律子「木を隠すなら森の中、ね? それにしても呆れた……。アンタ、自分が有名人って自覚無いの?」


ザワザワ……


\オイッ アレ ウワッ リュウグウコマチダ!/


亜美「あっ、忘れてた!」

あずさ「まあっ……うふふ」ニコニコ

亜美「……にしても、まさか、あずさお姉ちゃんに見つけられるとはねぇ~? なんで亜美の居る場所分かったの?」

あずさ「そうねぇ……。勘、かしら?」

律子「まあ、今回はあずささんの勘に助けられました。こうして亜美を捕まえれたので」

あずさ「いえいえ♪」

亜美「そもそも、なんで亜美を探しに?」

律子「あっ、そうだ! テレビ観た? 伊織のお父様が記者会見を開いたんだけど……」

亜美「ああ、なんかやってたね? 観てないや」

律子「観てないって……」


\キャァアアアアアア!?/


ザワッ……

律子「っ!?」

あずさ「!?」

亜美「なんで……? なんでココに居んのさ、おっくん!?」

オーク「イ、イオリン……オ……」

あずさ「あら? 伊織ちゃん、どうかしたんですか……?」

律子「まさか、何処かを怪我したとか!?」

オーク「チ、チガ……」オロッ

律子「血がっ……!?」

亜美「いや、律ちゃん、多分否定してるだけだと思うよ?」

律子「……へ?」

あずさ「あの~……。伊織ちゃん、眠っているだけのようです」

律子「眠って……?」

亜美「そんなことより、なんでおっくんはこんな所に居んのさ!? 逃げたんじゃなかったの?」

オーク「オ、オレ……イ、オリン……ハコ、ブ」

亜美「いおりん、運ぶ……?」

律子「運んで来たってことかしら? でも、どうして?」

あずさ「もしかして、伊織ちゃんを私達に預けに?」

オーク「…………」コクッ


律子「おっくん、アナタ……なんとなく、自分のことが分かっているのね?」

亜美「……自分のこと?」

あずさ「…………」

律子「おっくんは、ある遺伝子操作を主に研究していた施設の実験過程で生まれた生物よ……」

亜美「そんな……!?」

あずさ「最初は、言葉も喋れなかったらしいの。だけど、ある日、研究者の一人が伊織ちゃんのライブ映像を見てたら初めて喋ったらしいわ」

亜美「もしかして、くぎゅうって言ったのかな?」

律子「どうかしらね? そのあとも伊織のライブ映像を見せ続けてみたいだけど、研究施設は資金繰りが立ち行かなくなって、施設ごと水瀬に身売りしようとしたのが二日前」

あずさ「その研究施設は医療の発展のために遺伝子の仕組みを研究していたんだけど、どうも施設の環境に不明瞭な所があったから、水瀬財閥が調べたみたい」

律子「そしたら、地下の隠し部屋から遺伝子操作をされた生物がたくさん見つかったそうよ。まあ、そのほとんどが、生まれてすぐに死んでたみたいだけど」

あずさ「おっくんさんはその中の一人」

律子「そして、彼にはひとつの特殊能力があった。それは、瞬間移動……」

亜美「瞬間移動……? あっ、だから倉庫にも入れたし、今もここに一瞬で!?」

律子「そういうこと。研究施設はおっくんのコピーを大量に作ろうとしたらしいの。だけど、何度作ってもコピーはすぐに死んでしまったそうよ」

あずさ「おっくんさんは、この世界に居るべきじゃない。……いえ、彼が居ては行けない。亜美ちゃんも分かるでしょ? 容易に軍事利用が可能なのだから」

亜美「それって……」

あずさ「…………」


律子「……殺処分よ」

亜美「そんなっ!? ヒドいよ! おっくんは生きてるんだよ!?」

律子「もう、決まったことなのよ……。私達、一般人にはどうすることも出来やしないの……」

あずさ「おっくんさんも、きっと自分の運命を分かってたから、ここに来たのよ」

亜美「うあうあ……そんなのって……そんなのってないよ……! おっくんは生きてたくないの!? 亜美は生きてて欲しいよ!」

オーク「…………」

亜美「亜美だけじゃないよ! きっといおりんだって……!!」

オーク「…………っ!」ピクッ

伊織「……んっ」

亜美「いおりん!」

伊織「あら、亜美……。それに、あずさも律子も……?」ポケーッ

オーク「……イオリ、ン」ドサッ

伊織「きゃっ!? いたた……何よ、まった……おっくん……?」

亜美「いおりん、大丈夫?」ガシッ

伊織「え、ええ……あれっ? ちょっと……なんで、こんな、街中に居るのよっ!?」

??「ターゲットがお嬢様から離れたぞ! ターゲットを一斉に包囲せよ!」


\ザッ ザザッ ザッ/

伊織「何……これ……? みんな銃を向けて……なんで……何よ、この状況……?」

律子「…………」

伊織「どうして銃なんか向けてるのよ!? コイツは人間に危害を加えたりなんかしないわっ!」

あずさ「…………」

伊織「コイツは臆病で、ノロマだけど、ちゃんと人を気遣うことができる……ただの、私のファンよ!」

オーク「……イ、イオリ、ン」

伊織「何で誰も言うことを聞いてくれないの……? 私が女だから? 私が子供だからっ!?」ジワァ

伊織「銃を向けてるアンタ達なんかより、おっくんの方がよっぽど人間よ!」

伊織「だって、おっくんは私の言うことを、ちゃんと聞いてくれたんだものっ!」

??「伊織お嬢様……」スッ

伊織「新、堂……? 良いところに来たわ! こんなの止めさせて! コイツ等から銃を奪って!」

新堂「なりませぬ。これは、お父様からの指示で御座いますので……」チャキッ

伊織「新堂……アンタまで……アンタまで、おっくんに銃を向けるのっ!?」

新堂「お嬢様、そちらのお方からお離れになってください。万が一……いや億が一の可能性がありますので」ギラッ

伊織「っ……!?」ゾクッ

あずさ「伊織ちゃん、危ないから早くこっちに……ね?」

伊織「ふふっ……うふふ……」ヨロッ

律子「伊織……?」

伊織「おっくんを撃つんなら、私ごと撃ちなさい! 絶対に、おっくんを殺させやしないんだから!」バッ

オーク「……オ、オ、オ……オ」

亜美「お、おっくん……?」

オーク「クギュウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」グワァッ



\ギャアアア サケンダゾ! アバレルゾ! ウテェエエエ!!/



新堂「っ!? イカンっ……」



タンッ・・・・・・タンッ……



亜美「いおりいぃいいいいいいいん……っ!!」



キンッ……



ポタッ……ポタッ……





伊織「……………………何で、アンタが私の目の前に居んのよ……?」





オーク「…………」



ポタッ……ポタッ……



伊織「なんでアンタが私を庇ってるのよぉおおおおおっ!?」




オーク「カ、カン、シャ……」




伊織「えっ……?」







オーク「アリガトウ」





ポタッ……





ドサッ……


伊織「……い、い、いやぁあああああああああああ!?」

亜美「おっくんっ!? 血が……血がぁあああああああっ!?」

あずさ「おっくんさん……!」ダッ

律子「おっくん……」ジワァ

あずさ「ダメ、このままじゃ……」ギュッ

亜美「何、この光……おっくん光って……?」

おっくん「」パァアアアアッ

伊織「っ!?」



シュパッ……



伊織「消えた……? おっくんが消えた……なんで? 何なのよコレ……どうなってんのよ!?」

律子「きっと、おっくんは最後の力を振り絞って……私達に死ぬ所を見せないように……」

亜美「律っちゃん! 違うよ……っ! きっと、おっくんは自分の住んでた世界に帰ったんだよぅっ!」ウルッ

律子「自分の住んでた世界……? 何言って……」

亜美「おっくんの住んでた世界はファンタジーな世界なんだよ!? 銃で撃たれたって魔法でパっと治っちょうかんね……グスっ……」

律子「亜美……」

あずさ「そうですよ、律子さん! おっくんさんは、きっと自分の世界に帰ったんです……!」

律子「そう、ね……きっとそうだわ。元気になって、また会いに来てくれるわよ……ね、伊織?」

伊織「……ふんっ。このスーパーアイドル伊織ちゃんのファンなら当然よ! 異世界だろうが異次元だろうが、そんなの関係無いんだから……ぐすっ」ゴシッ


伊織(必ず、また会えるわよね……? 仕方が無いからアンタが会いに来るまで、ずっとアイドルのまま、待っててあげる。だから、早く……)


──────

────
──

??「真に有り難う御座いました……感謝の言葉は尽きません。これで、なんとか体面を保つことができそうです……」

???「もうっ。撃たれた時は本当にびっくりしたんですよ~? 打ち合わせは麻酔銃で撃ったところで私が《飛ばす》予定だったのに……」

??「それは申し訳が立ちませぬ……。敵を欺くにはまず味方からと言いますので、実戦用の装備で現場に駆けつけたのが徒となりました……」

???「おっくんさんが自分で《ジャンプ》しなかったのが不幸中の幸いでしたね。それで、おっくんさんの怪我の具合はどうなんですか?」

??「経過は順調で、間もなく傷も塞がることでしょう。それにしても、にわかには信じがたい力で御座いますが……。旦那様の目の前でも一瞬で消えて、すぐ現れたそうで?」

???「まあ、実際に見せないと信じて貰えないと思ったので……。遺伝子操作なんかしなくても、ジャンプなんて簡単に出来るんですよ? うふふ♪」

??「そのお力のお陰で、伊織お嬢様の大切なファンの命を救うことが出来ました。本当に感謝致します」

???「いえいえ~。実は私も伊織ちゃんのファンなんです♪ あ、でもこれ……本人には内緒にしといて下さいね?」

??「おやおや、隠し事の多いお人でおられますな。今回の件もお嬢様には何も仰られてないとか……」

???「えぇ、だって……伊織ちゃんは恥ずかしがり屋さんですから♪」


──────

────
──

伊織「……ったく。なんでこの伊織ちゃんが自分で衣装を取りに来なくちゃならないのよっ!?」ツカツカ

亜美「仕方無いじゃん。律っちゃんは、居なくなったあずさお姉ちゃんを探しに行ったんだもん」トテトテ

伊織「どうして、あずさは、すぐ居なくなるのよ!? 本当、ワープでもしてるんじゃないの?」プンプン

亜美「まあまあ、そう言わ……あっ! あずさお姉ちゃん居たっ!」

伊織「えっ? どこ?」キョロキョロ

亜美「あっちの倉庫の中に入って行ったよ! 見失う前に捕まえなくっちゃ!」タッタッ


伊織「ちょっと、亜美っ……! もうっ。しょうがないんだから……」スタスタ


伊織「この倉庫って……。なんか、懐かしいわね……」

シーン……

伊織「相変わらず、埃臭いし……。あと、生臭い。まったく……手の込んだことしてくれちゃって」

伊織「私ね、アンタに会ったら真っ先に言おうと思ってた言葉があるのよ」


『ありがとう、ってね?』


                おしまい───。

酉付けるの忘れてた。ここまで読んでくれた人が居たらありがとうございました。
またどこかで。

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