闇条「お前…ムカつくな」の続編になります。
前スレ 闇条「お前…ムカつくな」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1393774271/)
暗部組織に身を置く上条さんが物語を再構成する内容です。
オリジナル設定にご注意ください。
更新は不定期です。
カップリングは不明。
原作やアニメの設定を混同しています。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396962963
第一回目の更新は〇時三〇分です。
うわおたくさんレスありがとうございます。
身に余る言葉です。
では、そそくさと書いた少なめの投下をしますね。
―――学園都市。
二三〇万人という膨大な人口の八割を学生が占めるこの街は、科学にあふれている。
見渡せば、地面をアイススケートのように滑走する掃除ロボがごみを回収し、電柱の代わりに建てられた真っ白な風力発電のプロペラが風の煽りを受け回っている。
空を見上げれば宙に浮く気球が天気予報ならぬ天気予言を伝えているし、側面のスクリーンでニュース番組を映していたりもする。
なんでも、この街は外より数十年分科学が発達しているらしい。
そして、この街は超能力という、物理法則をねじ曲げて超常現象を引き起こす力の研究を進めている。
たとえばそれは、ある場所からある場所へ瞬間移動する力であったり、電気を操る力であったり、火をおこす力であったり…。
そんな不思議な力を、当然のように学生達が行使する、ここはそんな街。
「逃げろ逃げろォ。その分だけ長生きできンだからよォ」
ここは、学園都市の死角。路地裏。
ジメジメとした空気の漂うその細い道で、今まさに二人組の男女が鬼ごっこに興じていた。
監視カメラの及ばないこの薄暗く細い道には、めったに人が寄り付かない。
故に、街の日陰者であるスキルアウトや不良達にとってはホームグラウンドのようなものだ。
だが、路地裏に集まる人間は、なにもスキルアウトばかりではない。
人が寄り付かない、カメラにも映らない。そんな特性を利用して、ある非人道的な実験が進められていた。
薄暗い路地をひたすら走り続ける少女の、その遥か後ろからその声は聞こえてきた。
おそらく自分への呼びかけだと少女は認識しているが、答えない。足を止めればどうなるのか彼女はわかっている。
どこか狂気さえ感じさせる嬉々とした叫びを発したのは、少女を追う個性的な黒いTシャツに身を包んだ細身の少年。
対して、彼から逃げるように路地を駆け巡る少女は、名門常盤台中学の制服に身を包んでいた。
黒い暗視ゴーグル越しにも伝わってくる端正な顔立ち、肩までの茶色のショートヘア。
袋から出したばかりのようにきれいな真っ白のブラウスは、何故か赤黒い血で染まっている。
「ほらほらどォした?ペース落ちてンぞ」
楽しくてしかたがないというように上ずった声は、少女の真後ろから響いてくる。おそらく、もう距離は一メートルもない。
彼女が必死に走って開いた距離の貯金は、まばたきの間に〇になっていた。
少年の白く細い手のひらが肩に触れただけで、少女の背筋がビクッと強張る。心拍数が馬鹿みたいに跳ね上がる。
少年の方はそれすらも楽しんでいた。
「今俺がその気になったらオマエの身体なンてどォとだってできンだぜェ?」
真後ろからかかる少年の吐息に、少女の横髪がふわっとなびく。彼女は沈黙に徹したまま、あくまで距離を取ろうと足を動かし続けた。
単調なパターンに飽き飽きしたのか、少年の顔から表情といったものがサッと消え失せる。
彼は左手を少女の耳を抑えるように添えると、能力を使って彼女の身体を横合いに突き飛ばした。
ゴスッと鈍い音がして、少女の体がコンクリートの壁にたたきつけられる。脆い人体は、それだけで動きを停止した。
ぐったりとした少女の身体がズルズルと地面に落ちていき、血液がその後をなぞる。
少年はその光景を他人事のように眺めながら、ぼんやりした頭でトマトみてェだなァと考えた。
静かすぎる路地裏では、僅かな音でさえ目立ってしまう。少年は、だるそうに踵を返した後少女の呼吸の音を聞いた。
ひぃひぃと。必死に死に抗おうとするその音は、彼にとっては目障りな雑音でしかない。
「チッ。まァだ生きてンのか…鬱陶しい」
少年は面倒くさそうに少女の元へ歩み寄ると、彼女の顔の前にしゃがみこんだ。
湿気を含んだ彼女の吐息が、彼女の口元に散らばっていたガラス片を曇らせる。
彼女の顔は右半分がグチャグチャに潰されており、既に原型をとどめていない。
覗いているあの白いモノは頭蓋骨だろうか。少年はこんな状況でも、路上で虫を観察する小学生のような思考をする。
一〇秒ほどじっくり彼女を眺めた彼は、再びその顔から表情を消し、
「そンじゃ、もうイイか?そろそろ死ンじまえよ。出来損ない乱造品」
少年の細腕が、まるで傷をいたわるように彼女の顔に触れる。
もしかしたら手当をしているように映ったかもしれない。
「…ぃ…ぃ…ぁ」
声にならない少女の叫びは、そこで途切れる。
直後、まるで体の内側に爆弾が仕込まれていたかのように、彼女の体が文字通り爆発した。
上条「逃げろ逃げろ。それだけ長生きできるからな」
左手に握った軍用拳銃が、立て続けに火を噴いていく。
パン、パンと。銃口の先に付けられた細長いサイレンサーから、ごく少量の僅かな音が洩れる。
音こそ大したことはないが、鉛弾の威力は絶大で、既にその小さな軍用拳銃は五人の命を奪い取っていた。
上条は高笑いし、前を行く三人の男達を恐怖によって追い詰める。
拳銃を備え付けのホルスターに収めると、その背中を見失わないように駆け出した。
今日の依頼は、『学園都市外部の組織にブツを横流ししようとした内部組織の粛清』。
乗り気ではなかったが、特に断る理由もなかったために嫌々引き受けた依頼だ。
ザーッと、上条の耳に機械的な雑音が響く。イヤホンにつながっているのは、胸ポケットにしまわれた小型無線機だ。
これで下部組織と、フレンダ、依頼主(の仲介役)と話すことができる。
黒く小さな正方形のソレは、パッと見た限りでは板ガムの箱のようにも見える。
上条「ポイントA 座標G-78453に誘導中」
イヤホンに、若い男の了解という短い声が聞こえた。下部組織の男だ。
それにしてもこんな小組織の粛清なんて別に自分たちでなくてもいいんじゃ、と上条は考えるが、それは仕方のない事だった。
上条は『切り札』とまで称される組織のリーダーだが、その実体を掴んでいる人間は実際ごく少数であるため、『どっかの便利屋』として仕事を依頼してくる連中も多い。
彼らも噂として有名な『切り札』の存在は知っているのだが、それがこの少年のことを指していると知る人間が少ないのだ。
上条のあらゆる偽名は、あらゆる架空の組織のリーダーとして広く裏に蔓延していて、今日は、山川の名前で仕事をしていたりする。
ババーンという轟音とともに、予め仕掛けられていた爆弾が派手に爆発した。
スーツの男達の身体が、抱えていたいかにもなアタッシュケースが木っ端微塵にはじけ飛ぶ。
今回の依頼はブツの処分まで含まれているので、爆破処理してもなんの問題もない。
上条は全員の死亡を確認すると、残りの作業を下部組織に任せ、胸にしまった無線を粉々に握りつぶした。
ザーッブチッという機械音を最後に、イヤホンからはなんの音も聞こえなくなる。
上条「だれが山川だ。殺すぞクソが」
毒づいた上条を煽るように、後ろから頭の悪そうな明るい声が、
「山川さん」
カチャ、と音がしたが直後。やってきた少女の眉間に、黒く細長いサイレンサーが押し付けられた。
上条「まさかここでお別れになるとはな。遺言はあるか?」
上条は表情のない表情で少女を睨みつけ、低い声で言い放つ。
銃口越しに少女の震えが伝わってくるが、上条は特に気にしない。
フレンダ「じ、冗談じゃすまないから…」
上条「変わった遺言だ」
フレンダ「違う!」
直後、上条の左手から軍用拳銃が姿を消し、今度はフレンダの右手にそれが現れた。
上条「相変わらずすげえ能力だな」
上条は興味なさげに言って、踵を返し歩いて行く。
五歩ほど進んだところで、フレンダが彼の隣に並んできた。ご丁寧に、拳銃は彼女のホルスターに収められている。
フレンダ「結局さ、今日のご飯はどこで食べるわけ?」
上条「あー、そうだな。まぁいつものファミレスでいいんじゃねぇか?長居できるし」
フレンダ「また宿題やるわけ…?」
フレンダがひどくげんなりした様子で訪ねてくる。
上条がファミレスで宿題をするときは、いつもフレンダは完全放置。彼女がどんなに暇していようと、上条は一切構わない。
最近では、何でも頼んでいいという甘い言葉でさえ彼女には通用しなくなっていた。目下、それが上条の悩みである。
二人は、いつのまにか第七学区の大通りに出ていた。日の落ちかけた空は、青とオレンジが混ざった、紫がかった色になっている。
フレンダ「リーダー!あれ!あそこ!」
並んで隣を歩いていたはずのフレンダが、いつのまにか少し離れた場所に立っていた。
見れば、彼女は幅三〇メートルはあろうかという車も通る大きな吊り橋の上で、ひたすら橋の下を指さしていた。
溢れんばかりに押し寄せた野次馬が、携帯のカメラで写真を撮っているのがみえる。
上条「なんだよ。何だこの人混みは」
興味津々の様子で橋の手すりに両手をかけるフレンダに並び、同じように川を見下ろす。
橋の下の道にもたくさんの人だかりができていて、全員が川を覗きこんでいた。
いや、正確には川に浮かぶヘリコプターを眺めていた。
見た感じ機体はまだ新しく、ほんの少し前まで稼働していたようにみえる。
焼き切れたように焦げ跡の残るプロペラがその原因を物語っていた。
ふと、視線を泳がせる。川の両脇に何本も建てられた、風に煽られて回る風力発電の、その一本の支柱の上に、二人の少女がいた。
彼女らに気づいている人間は不思議なことにひとりとしていない。
上条「…へぇ」
上条は、あの二人の人物をよく知っていた。
驚きはない。なんとなく、この光景を見た瞬感にその情景が浮かんでいたのだ。
フレンダ「どうしたのリーダー、なんか嬉しそうだけど?」
上条「まったく、退屈しませんねぇ。この街は」
一回目ということでちょっと無理やり合わせてしまいましたが、今日はここまでです。
乙
前スレはもう使わない感じかな?
>>30
はい。依頼出してきました。
ではまた今日になるのかな?夜に更新します
22:00~0:00の間には投下します。
では更新します
トリップミスった
第七学区。
私立常盤台中学は、学園都市でも五本の指に入ると言われる名門校で、その校舎を学舎の園に構える。
学舎の園とは、常盤台を含む五つのお嬢様学校が共同で運営する地帯で、並の学校の十五倍以上の面積を誇っている、いわゆるお嬢様の街。
洋風な外観で統一された街は、学舎の園の外とは別世界のような空間で、信号機のデザインでさえ外とは異なっている。
無論、男子禁制であり、たとえそれが警備員であっても性別が男なら入ることが出来ないという徹底ぶりだ。
それゆえ、学舎の園で暮らすお嬢様の中には、男性と会話したことすらない箱入りのお嬢様が存在していたりする。
もっとも、それが少数派であることは間違いないのだが。
昼前の学舎の園では、この街の恒例行事である身体検査(システムスキャン)が行われていた。
『記録、七八メートル二十三センチ。指定距離との誤差五十四センチ。総合評価レベル4』
記録を見たツインテールの少女は、首をブンブンと振りげんなりとした溜息を漏らす。
ノースリーブのランニングシャツのような体操服から伸びる白い腕に、粒状の汗が光っていた。
白井「はぁ…。絶賛大不調ですの。大きくて重たいものを遠くに飛ばすのは苦手なんですのよー。五〇メートル前後とかならミリ単位で修正できますのに」
光ファイバーが埋められた風変わりなグラウンドの上に引かれた砲丸投げのような外線の、その扇の根本のサークルに白井黒子は立っていた。
ただし、グラウンドに線を引いているのは外の学校が使うような白線ではなく、光の線だ。さらに、砲丸投げに比べると随分と引かれた扇の範囲が狭い。
白井をはじめとした『飛び道具系の能力者』が、同じように線の引かれたグラウンドの上で、各々能力測定を行っていた。
汗を拭う白井に、不意に横合いから高笑いが飛んでくる。パッとしない表情が、さらにジトーっとしたものに変わる。
この笑い声には随分縁があるなと考えながら、白井はうんざりした顔で笑い声の聞こえてくる方を見た。
「うっふっふ。あら白井さん、機械が導き出した数字に一喜一憂しているようでは、己の器が知れてしまってよ?もっと確固たる基準を自分の中に見いだせないようでは…ぷぷっ」
白井「………婚后光子」
婚后と呼ばれた少女は、体操服とは不釣り合いな豪奢な扇子で口元を覆い隠している。
少数とはいえど、こういういかにもなお嬢様が常盤台にはちらほらいる。彼女は白井の苦手とする少女だった。
婚后の能力は『空力使い(エアロハンド)』で、白井と同じ大能力者(レベル4)。
その能力は、あらゆる物体に風の『噴射点』を作り、ミサイルのように飛ばすことができるというもの。
大型トラックを軽く飛ばしたり、噴射点をいくつも作るなど応用も可能な、いわゆる『トンデモ発射場ガール』だ。
婚后「人の顔を見るなりその反応って…」
白井「人の落ち込み具合を見て爆笑している時点であなたの器の小ささが暴露されてますのよ」
婚后「まぁ、さすが誤差五四センチは言うことが小さくって。この分では、超能力者へと至るのはわたくしの方が先かしら」
婚后は扇子を開いたり閉じたりしながら、口元に手の甲を添え上品に高笑いする。
この程度の挑発に乗る白井ではないが、彼女は婚后の言葉に思わずぼんやりと考えこむ。
――超能力者。
確かに、高位能力者なら誰もが目指しているものだか、白井にはいまいち煮え切らない部分があった。
学園都市の生徒は、おそらくそのほとんどが、能力を極めていく先に超能力者という段階があると信じている。
だが、白井にはそうは思えない部分があった。
それは、七人しかいない超能力者の第三位、そのひとりのいつも傍にいるからこそ実感できることであるため、婚后には考えられないことなのかもしれないが、超能力者とはやはり次元
が違う。
白井自身、大能力者ということでエリート扱いされる事が多いが、それでも美琴との差は歴然だった。
どうしても白井には、いくら能力開発に勤しもうともその先が見えないのだ。
まるで、自分の登っていく階段は大能力者がてっぺんであるような。白井には、そう思わずにはいられない時があった。
婚后「って、聞いてますの白井さん」
不意に声をかけられ、白井はああ、と婚后に向き直る。
白井「…大体、三次元と一一次元では空間把握法が根本的に―――
婚后「そもそもわたくし、一年の分際で大きい顔をするあなたが気に入りませんの」
婚后は白井の言葉を待たずに一方的に告げる。
人に話を聞けと言うクセに、婚后は白井の話を聞かない。彼女は既にどっぷりと自分の世界に入り込んでしまっていた。
婚后「よろしくて?このわたくしが常盤台のエースとなった暁には―――
したり顔で自分語りを始めた婚后の口が、急にピタリと止まる。
彼女の口は、一体自分が何を話していたのか忘れてしまったように、ただあんぐりと広げられていた。
ゴドン!!と、地鳴りのような轟音が、辺り一帯に響いたのだ。まるで隕石でも落ちてきたのかというような衝動に、校舎がビリビリと震え、グラウンドが揺れる。
中には、腰を抜かして地面に尻餅をつく女子生徒までいた。
婚后「………な」
言葉を失いただ呆然とする婚后の頬に、どこからか雨粒のような水滴が落ちた。
ピチャリと頬を濡らすただそれだけのことに、婚后の肩がブルリと震える。
何がなんだか分からないという婚后に、白井はああ、とつまらなそうに呟いた。
白井「あなたは二学期からの転入組ですからご存じないかもしれませんが、いまあそこで能力の測定をしているのが常盤台のエースですのよ?」
白井が指さした先は、常盤台の校舎だった。校舎の裏側となるこのグラウンドからは見えないが、たしかあそこにはプールがあったはずだ。
婚后が考えるより先に、校舎の背丈を超す高さの水柱が上がる。直後、一拍遅れて轟音が鳴り響いた。
近くで、怯えていた女子生徒たちがその正体に気づき、色めき立ちはじめた。口々に、「御坂様ですわ」と賞賛の声を洩らす。
白井「馬鹿げた力ですわよね」
白井は言葉とは裏腹に、どこか誇らしげに語り始めた。
白井「プールに溜めた水を緩衝材に使って威力を削らなければまともに測定もできないほどの破壊力…」
スラスラと出てくる物騒な言葉に、婚后がたじろぐ。
冷や汗をかく婚后の後ろから、今度は明るい声が聞こえてきた。
やってきたのは二人の友人、湾内絹保と泡浮万彬だ。
湾内「御坂さん、本当に素晴らしい力ですわ」
泡浮「ええ。憧れますわ」
二人は水流操作系の能力者であるため、計測はプールで行われているはずだが…。
婚后がその旨を尋ねると、二人は楽しげな声で、
「避難ですって」
口元に手を添え、痛快そうに笑った。
白井「婚后さん。貴女、本気であの馬鹿げた一撃を真正面から受ける覚悟がおありですの?」
白井は呆れたような声色で、試すように尋ねる。
そして白井自身も地鳴りとともに湧き上がる水の柱を眺めながら、一人の少年の顔を思い浮かべていた。
彼ならば、或いは…と。
あの学生寮での激戦から、はや一週間が経とうとしていた。
上条当麻は、夕暮れ前のまだ昼間のように明るい街を窓越しに眺めながら、はぁ、と短い溜息を付く。現在、すべての授業が終わった帰りのHRの最中である。
教卓から首だけをのぞかせるホラーな教師月詠小萌が、なにやら明るい声色で何かをくっちゃべっているが、上条はまったく聞いていない。
ただなんとなく窓の外に目をやり、学生寮の方角をぼんやりと眺めていた。
直接の攻撃はなかったものの、余波による寮へのダメージは半端なものではなく、柱が歪み、窓が割れ、鉄製の柵がゴムみたいに歪んでいた。
今日は、どういう技術を使ったのか寮が元通りになったらしく、やっと我が家へ帰れる記念すべき日だ。
フレンダは早速我が家でダラダラと怠惰に過ごしているらしい。その旨のメールが授業中に何通か届いていた。
小萌「はーい、じゃあ帰りの挨拶をするのですよー。みさなさんさようならー!」
小萌の挨拶を皮切りに、生徒が一人、また一人と帰還していく。
上条はぼんやりとした頭を切り替え、座ったままでのっそりとカバンに教科書類を詰め始めた。
引き出しから取り出したすべての教科書を詰め終えたところで、机がゆらゆらと揺れる。上条は机上に紺色のスカートを確認し、だるそうに顔を上げた。
机の上に、吹寄制理が座っていた。
上条「もしもーし。あなた様の席は上条さんの机の上ではありませんのことよ」
吹寄はジトーっとした目つきで上条を見下ろすと、
吹寄「上条。貴様忘れてないわよね?」
うわ、無視かよ、といいかけた上条は、クラスの連中の心ないつぶやきに顔をしかめる。
『うわっ…鉄壁の委員長まで攻略する気かよカミジョウのやつ』
『忘れてないって何?デートの約束っ?』
『くっそー羨ましいぞカミジョウ!!俺も机に座って欲し~!!』
『え?なにお前吹寄のこと狙ってんの?』
『バッ!声がでけーよ!』
上条「聞こえてんぞ阿呆共」
上条が牽制するようにいうと、引きつった笑みを浮かべたクラスメイト達が次々に教室の外へ散っていく。
まったく、と上条は再び吹寄を仰ぎ見た。
上条「忘れてないってなにかあったか?上条さんは別にお前と何か約束した覚えは…」
上条「…あ」
やっと思い出したかバ上条、と吹寄は溜息を洩らし、手に持った超健康補助飲料ガラナ青汁をストローで吸い始めた。
半透明な白いチューブの中に、不健康そうな青緑の液体がみえる。
上条「それ美味いのか…?」
上条が恐る恐る尋ねると、吹寄はストローを離し、その先を上条に向けてきた。飲んでみろ、ということらしい。
吹寄「ちゃんと美味しいわよ!試してみなさい」
上条「いや…とっても嫌な予感がするので遠慮しておく」
吹寄は美味しいのに…とつぶやき、ふたたび青汁を飲み始めた。
上条は思考を切り替え、
上条「なぁ、それどうしてもやんなきゃだめなのか?上条さんは新しい部屋の片付けとかいろいろあるんですが…」
吹寄「ああ、そういえば貴様と土御門の学生寮は火事だったんだってね」
上条(火事、ね…)
吹寄の言葉につられるように、今度は三バカ二名が寄ってきた。金髪と青髪だ。
土御門「それなら問題ないにゃー。俺んところは舞夏がやってくれてるし、カミやんの方は同居人の女の子がやってくれてるからにゃ―」
土御門は上条の前の席の椅子を引いてくると、逆さ向きのままでまたがるようにして座る。
青髪も習い、上条の隣の席から椅子を引っ張ってきた。
青髪「なんやカミやん!女の子と同棲してるゆうんはやっぱホンマなん?」
青髪の言葉に、吹寄がキッと眉を吊り上げ、
吹寄「同棲!?上条当麻ッッ!貴様の住居は男子寮でしょーが。どこまで校則をないがしろにする気なの!?」
上条「バカいえ!!吹寄さん?いつものコイツらの虚言ですよ?何を本気で怒ってらっしゃるんでせう?いやだなー」
上条はそそくさとカバンから下敷きを取り出し、
上条「それより熱いなー。吹寄扇いでやるよ」
パタパタと吹寄を仰ぐ。
そんなこんなで、なんとか話題をそらすことに成功した。
吹寄「ま、本題はそこじゃないからいいわ。よし、これで四人全員集まったわね」
上条「待て待て。俺を数にいれんのやめろよ」
ところで、フレンダはバカで怠惰である、というのが上条の評価だ。あの怠け者が気を利かせて部屋の荷物整理や掃除をしているとは考えられない。
こいつらに付き合っていては、とうとう今夜眠りにつけなくなってしまうのだ。
青髪「なにゆうてんねん。僕ら三人に吹寄入れてはじめて全員なんやで?カミやんの代わりなんて誰にも務まらんのや!」
なんかいい顔で熱弁する青髪に、土御門がうんうんと頷く。
土御門「つーか、罰則なんだから甘んじて受けろカミやん」
上条「テメェらに巻き込まれたわたくしめの立場は…?」
青髪「えー、僕ら三位一体、いや四位一体やで?」
吹寄「それはちがうけど」
吹寄「大体あたしの目が黒いうちに貴様をサボらせるわけないでしょーが!」
上条「何で俺がグラウンドの草むしりなんてせにゃならんのだ」
吹寄「仕方ないじゃない!親船先生に言われたんだから。てゆうか、あたしも巻き込まれた側なんだから!」
土御門「さ、さぁ!早速草むしりに行こうぜい!」
青髪「せやせや!なんでもやれば楽しいっちゅうねん!」
上条「…不幸だ」
吹寄「大体貴様も騒いでたじゃない上条!」
そんなこんなで、明るい夕日の射す放課後のグラウンド。
軍手を装備し、体操服に着替えた高校生四人が、せこせこと草むしりに興じていた。
暑いだろうに、吹寄は上から黒いジャージを羽織っている。
それぞれがむしりとった草が、それぞれの近くに山を作っており、そこそこの量になっていた。
運搬用に運んできた一輪車がとりあえずいっぱいになるくらいの量だ。
上条「…飽きた」
開始五分、とうとう上条が沈黙を破った。ため息をつく吹寄に対し、バカ三人はさっさと刃の短い草刈り鎌を地面に放る。
土御門「同感だにゃ―。正直やってらんねーぜい」
青髪「なんかこう単調な作業って性に合わへんわ」
どうどうとグラウンドにあぐらをかき雑談を始める。
吹寄「まったく、もう音を上げるの?」
上条「とかいいつつ、吹寄さんも手が止まってますぞ?」
土御門「結局同じ穴のムジナですたい」
吹寄は意地になって草をむしり始めたが、結局サボることに落ち着いた。
上条は彼女の葛藤に心のなかで手を合わせつつ、
上条「つーか、科学の街でこんなことやらせて。発火能力者呼べよ畜生」
軍手を丸めながらつぶやく上条に、吹寄が、
吹寄「それなら罰則の意味がないでしょーが」
ぐったりと地面に腰を落ち着けるモヤシっ子たちの耳に、体育館から楽しげな声が聞こえてくる。
バレー部やバスケットボール部だ。
青髪「カミやん、いくら目凝らしてもバレー部のスパッツはこっからじゃ見えへんで?」
まるで試してみましたと言わんばかりの青髪のセリフに、吹寄がうがーっと噛みつく。
吹寄「上条!貴様はまたそんなことを――
上条「いやいや、いまは青髪を攻める場面だと上条さんは思ったりするのですが!?」
うるさい、と吹寄。横暴である。
土御門「にしても体育館(むこう)は楽しそうだにゃー」
青髪「せや!混ざりに行かへん?黄泉川センセーなら混ぜてくれるんちゃう?」
吹寄「草むしりがあるでしょ!」
なんとなく上条を含めた三バカは体育館のほうが面白そうなので、えーと声を揃える。
と、そこへ、なんの偶然か通気用に開けられた鉄の扉から、バスケットボールがバウンドしながら転がってきた。
ボールを追うように、中から体育教師らしい若い女性がポニーテールを揺らしながら出てくる。遠目に見てもなかなかの美人だ。
よく見れば、上条らの担任教師、月詠小萌の飲み友達にして体育教師、黄泉川愛穂だった。
黄泉川「おー、月詠センセのとこの悪ガキどもじゃん?」
随分なご挨拶である。
黄泉川は転がるボールを片手でひょいっと拾い上げながら、
黄泉川「四人揃ってなにしてるじゃんよ?」
どうも、黄泉川は真面目ちゃん吹寄制理を含めたいつも一緒にいる四人を『悪ガキども』と認識しているらしい。
当然、吹寄は納得がいかないらしく、
吹寄「ちょっ!あたしを三バカ(こいつら)と一緒にしないでください!」
黄泉川「ほっほー。元気がいいじゃん。やっぱ子供はこうでなくっちゃねー」
と、吹寄の抗議は耳に入っていないらしい。
勝手に納得している黄泉川に再度抗議をしかけた吹寄だが、青髪のバスケさせてくださいとの言葉にあっさり飲み込まれてしまう。
黄泉川は四人とむしってある草を交互に見比べると、
黄泉川「でも、あれじゃんよ。なんかの罰則やってるんでしょ?」
青髪「そんなちゃいますよ!僕ら自発的に校舎を綺麗にしようと思いまして!」
嘘丸出しの青髪に黄泉川は小さく笑うと、
黄泉川「ようし、そんじゃあクラス対抗戦にするじゃんよ!」
ノリノリで四人を体育館へ招いた。
御坂美琴は、学舎の園を外にある女子寮を目指して歩いていた。
学校指定の黒いかばんを、お嬢様とは思えないボーイッシュな持ち方で担いでいる。
そもそも美琴は普段の素行からしてお嬢様らしくないのだが、有する能力のおかげで随分と慕われていた。
今も、歩いている途中で、さようなら御坂様と声をかけられる。そのたびに作り笑いで挨拶を返すのだが、心中では、
(様ってなによ様って…!わたしは中学生だっつーの!)
そういう意味では、美琴は上条当麻に心の何処かで感謝していた。彼だけは、美琴を唯一対等な人間としてみてくれる。
どこか見下している部分もあるのだが…。
上条のことで頭がいっぱいになっていた美琴は、行き先を変更し、上条とよく会う公園に寄ることにした。
運良く会えれば、また勝負を持ちかけるためだ。
今日は身体測定で能力の調子も抜群だったので、勝負するのが楽しみになってくる。美琴の足取りは、いつの間にか軽やかになっていた。
「御坂さぁーん」
ふいに、横合いから声がかけられた。いつの間にか足が止まり、声だけで相手を察した美琴はあからさま不機嫌になる。
声の主は、美琴の最も苦手とする常盤台生、食蜂操祈だった。
どういうわけか、今日は派閥の少女たちを引き連れていない。群れてばかりいる食蜂にしては珍しい光景だった。
食蜂「無視しないでぇ?御坂さんってばぁー」
食蜂は上品な歩みで美琴への距離を詰めてくる。
仲が悪いことと、相手が自分と同じ超能力者であることを考えれば、警戒して当然の相手だった。
御坂「なに?別にわたしはアンタに用事はないんだけど」
食蜂「ひっどーい。そんな邪険にしないで?」
食蜂は、なにかたくらむような不敵な笑みを浮かべ、金色の長い髪を指で巻きながら、
食蜂「ちょっと派閥の娘から面白いことを聞いちゃって、それを確かめに来たんだゾ」
御坂「…なに?」
美琴はちらっと食蜂を一瞥し、短く尋ねた。
正直、美琴はこれ以上食蜂と関わりたくない。言外に、さっさといえと語る。
食蜂「そんなに睨まないでよぉー」
食蜂は肩にかけたバックのチェーンを握り直しながら、御坂の前に立つ。
バックの口から、黒っぽいリモコンが見え隠れしている。
食蜂「上条当麻。…知ってる?」
食蜂の口から出た、さっきまで美琴が考えていた少年の名前に、彼女がえっと短く反応する。
なぜ、この女の口からその名前が出るのか。美琴は頭が困惑するのを感じ、
御坂「なんで…なんでアンタがあいつのこと知ってんのよ!」
言い方がかなりきつくなっていたが、美琴はそれに構うだけの余裕を失っていた。
なぜ自分がここまで動揺するのかさえ美琴はわかっていない。
食蜂「やっぱり。最近無駄にお友達増やしてるみたいだから忠告しようと思ってたんだけどぉ」
食蜂「わたしのテリトリーにまで手を出さないようにってね?」
食蜂はひじまで伸びた白いグローブで顎に手を当て、
食蜂「でもぉ…やっぱり間違いじゃなかったんだぁ」
御坂「は?」
食蜂「上条さんはわたしのお友達だからぁ、手を出されると困っちゃうんだけどなぁ?」
食蜂は、今度こそリモコンに手をかける。
美琴は危機を感じ取りサッと距離を取ると、
御坂「なに?やる気?」
食蜂はにこにこと浮かべた笑みを一瞬だけやめ、美琴を睨んだ。ように見えた。
直後、再び人当たりの良さそうな(美琴に言わせればなにかたくらんでそうな)笑顔を浮かべ、リモコンをしまう。
食蜂「一対一じゃ難しいもの」
御坂は、それでも警戒をやめない。第三位である美琴に警戒を抱かせるほど、食蜂は凶悪な能力を持っている。
食蜂は忠告したゾ、とだけ告げると、踵を返し歩き始めた。
御坂「私も一つだけ忠告しといてあげる」
食蜂は、首だけで振り返り、
食蜂「なぁに?」
御坂「アンタの方こそ、アイツになにかしたら私が許さないから」
なんだかんだ言いながら、いがみ合いながらも、美琴は今の生活が気に入っていた。
後輩の白井や初春、佐天らと遊んだりしながら、上条当麻と戦ったりたまに話したり。
口では悪態こそつくが、美琴が上条を大切にしていることに変わりはない。
食蜂は、美琴の脅しに一度だけ目を細め、
食蜂「お互いに、ね?」
再び笑みを浮かべて歩き始めた。
今日はここまで
このあと神裂さんが再登場して自動書記とラストバトルするルートと
すっとばして妹達編入るのとどっちがいいですかね。後者の場合は省略するだけで先に影響はないです。
一応両方のプロットを用意してたのですが
自動書記は結構レス食いそうなので。科学側を推してる方が多いのでどうしたもんかなーと。
了解です。ちゃんと書くことにしました!
自動書記編で書き進めてます。申し訳ない><
重大発表を楽しみにしながら続きを書くとします。
ちょっと投下します
上条「あー…つっかれたー」
上条当麻は、もう随分暗くなった夜道を一人、学生寮へ向かって歩き出していた。
完全下校時刻をとうにぶっちぎっているが気にしない。夜道に慣れた上条のような人間は、巡回している警備員を煙に巻くスキルを持っているからだ。
いくら夏といえど、さすがに太陽の恵みを奪われた夜道は肌寒い。
上条は両手で二の腕をさすりながら帰路を急いだ。
そもそもこんな時間になったのは、バスケのクラス対抗戦の勝利の祝杯をあげていたからだ。
最初は断った上条だが、なんだかんだ押し切られる形でファミレスに連れ込まれてしまった。
馬鹿騒ぎできてそれはそれで楽しかったわけだが、いざ終わってしまうと部屋の整理のことばかりが頭にちらつく。
同居人のフレンダはおそらく何も手を付けていないだろう。きっとひとりで怠惰に自由に優雅に過ごしているのだ。
あー、今日は寝る時間ねーな、とそんなことを考えながら夜道をスタスタ歩く上条は、ふと足を止める。
さっきから、街が妙に静かだ。もちろん、なんの音もしないというわけではない。どこからか機械音や、信号機の音はする。だが、声や足音がない。
たしかにもともと夜道は人通りが少ないものだが、それにしても人がいない。まるで夜の森に迷い込んでしまったかのごとく、なんの気配もない。
車道を滑走する車もなければ、ライトアップされたデパートに出入りする人もいない。街から人が消えてしまったかのようだ。
上条は壁壁したように小さな息をつき、手に持ったカバンを道の脇に放った。ポケットに突っ込んでいた左手を出す。
上条「出てこいよ鬱陶しい…クソ手品師が」
静かな歩道橋の下に、上条の声がよく響く。人影は、上条の遥か前方から音もなく近づいてきた。鋭利な殺気がゾワゾワと上条に襲いかかる。
女は、堂々と、それが当然であるかのように車道の真ん中を歩いてきた。
もう見慣れたシルエットに、上条が怪訝そうに眉を下ろす。
神裂「相変わらず優れた洞察力です」
神裂火織は、一週間前の戦闘の影響など微塵も感じさせない機敏な動きでやって来た。もうほとんど怪我は完治しているのかもしれない。
信じがたい話ではあるが、この女なら不思議はない。改めて上条は目の前の女の脅威を思い出す。
戦況は圧倒的に分が悪い。
神裂の方は待ち伏せをしていたが、上条に備えはない。つまり、相手がどんな罠を張り巡らせているかもわからない状態だ。
神裂は上条の考えなどどこ吹く風で、勝手に語り始めた。
神裂「まったく、余計なことをしてくれたものです」
おそらく神裂は、上条がインデックスを病院に運んだことを指して言っているのだろう。この街の人間ではない彼らは、病院施設に入ることができない。
彼らは正規の手順でこの街に入っていないため、病院に行けば門前払いを食らうはずだ。
もっとも、もし彼らがIDをもっていたとしてもあの病院に入ることは出来なかっただろう。あの病院にいるカエル顔の医師は、患者にとって必要な物を揃えるが、必要のないものを、ま
してや害になるものの侵入は許さない。
その辺の事情は、上条の方から彼に説明を行っていた。
つまり神裂は、八方塞がりでどうにもできないため再び上条の元を訪れたわけだ。さすがに魔術師たちもこの街の警備を敵に回すようなバカではなかったらしい。
つまり、こいつらさえ叩き潰しておけばインデックスの安全は保証されるわけだ。こんなに簡単なことはない。
上条「余計なこと、だと?」
上条「おいテメェ…ナメた口聞いてんじゃねえぞ」
神裂がスッと眼を細める。それだけで身を裂かれそうな眼光にも上条は臆しない。
神裂「貴方に付き合っている時間さえ惜しいのです。こちらにはもう時間がない」
神裂「率直に言います。貴方の手でこちらに禁書目録を引き渡してください」
話にならない、と上条は敵を睨みつける。
上条「バカかテメェ」
神裂は目を伏せ、残念そうに嘆息する。
神裂「仕方がありません」
神裂が刀の柄に手をかける。それもただの刀ではなく、約二メートルもの刀身を誇る長刀だ。
そして、彼女にはあれを振り回せるだけのチカラがある。
上条「ハッ。保護だと?」
上条は腰を落とし、ダンッ!!と音の立つ勢いで大地をけった。彼女までの距離は約二〇メートル。
上条「もうちょっと日本語を勉強しなッッ!!」
上条は人の域を逸脱した超速で神裂への距離を詰める―――はずだった。
神裂が刀の柄を掴んだ瞬間、ほとんど飛ぶようにして走る上条の進路に斬撃が襲いかかってきたのだ。
身をかがめて走っていた上条の頭上の空気が、スパンと切り裂かれる。上体を起こしていれば、首が吹っ飛ばされていたかもしれない。
だが、実際上条の首はつながっている。
神裂火織は『わざと』攻撃を外したのだ。
上条「やる気あんのか?」
上条の斜め後ろに立っていた風力発電のプロペラが、ゴトン、と音を立て地面に落ちてくる。それが斬撃によるものだということは考えるまでもない。
まるで、一瞬の居合から斬撃が飛んできたようにみえる――が、
上条「三流手品師。それで隠してるつもりかよ」
上条の目には、細く鋭いワイヤーがくっきりと見えていた。神裂は刀をフェイクとし、ワイヤーを操っている。
神裂はそれでも表情を変えずに、
神裂「やはり気づきましたか。七閃、と名づけています。あなたに魔術が通用しないことはステイルから報告を受けていますから」
神裂「ですが、そうですね。確かにあなたを相手に手加減は少々手ぬるすぎました」
次はあてに来る、と上条は確信した。ワイヤーは七本。おそらく、手で操るにはそれが限界の数なのだろう。
あれが一斉に襲ってくるのはさすがに厳しいかもしれない。拳銃があれば、弾を避ける隙を作れるのだが。
(ないものねだりなんかしても仕方ねえか…)
七閃
サッと小さな風切り音の後、ワイヤーが次々に襲いかかってくる。合わせて上条は感覚を鋭敏に研ぎ澄ませる。
ザザザザザー、と大地を削るような音が静かな街を飲み込んでいく。
一瞬、まさに一瞬の後。アスファルトの路面に、七つの切り傷が作られた。
まるで工事用の水圧カッターで切りつけたような傷跡を見れば、いやでもその威力が伝わってくる。
しかし、上条は無傷だった。その服に汚れ一つすら見当たらない。
彼は路面の傷と傷の上の狭いスペースの上に直立し、意地の悪そうな笑みを浮かべ、
上条「スピードは大したことねぇな。軌道も目で追える。まだ拳銃のほうが厄介なくらいだ」
上条の挑発に、神裂は答えない。淡々とした態度を崩さない。
あながち時間がないというのは嘘ではないのかもしれない。
(とにかく、距離を詰める)
上条は地面を蹴り、魔術師との距離を埋めるべく跳び出す。距離はあと七メートルと少し。おそらく、七閃は近距離では効果がない。
長すぎる鋼糸は、手の触れる距離ではコントロールが効かなくなるはずだ。かわりに、今度は本物の日本等が襲ってくるだろうが、どちらかと言えば七閃のほうが厄介だった。
七閃
抑揚のない声の後、蜘蛛の巣のように張り巡らされた、にわかには視認できない糸が上条を襲う。
一本、二本、三本。上手い攻撃だ、と上条は思う。足を狙うように見せて、頭部を狙ってくる糸までがある。変幻自在で出鱈目な軌道だ。
どちらかに気を取られては間違いなくお陀仏だ。今更だが、本当にコイツをフレンダにぶつけなくてよかった、と上条は思う。
上条はタンと勢い良く地面を蹴り、しかし上にではなく滑るように前へ飛んだ。今にも転びそうな姿勢だ。こするように蹴られたアスファルトがザスーッと音を立てる。
上条は体の真下でワイヤーをやり過ごし、同時に胴体を狙った一本、頭を狙った一本を真上にやり過ごす。
空を切る音、地面を切り裂く音。さまざまな音が聴覚を刺激する。一瞬のうちに七回殺す『必殺』の追撃は、まだ終わらない。
今度は左右から、上条の身体を真っ二つにすべくワイヤーが襲ってくる。
上条はそのまま両手を地につき、身体を丸めた飛び込み前転で右からの一撃を交わす。ザザーーッという轟音の後、アスファルトがバラバラに砕け散った。
風を切る鋭利な音が遅れてくるため、ワイヤーとの区別をかき乱される。上条は聴覚に一切頼れない。
信じられるのは、磨きぬいた感知能力だけだ。上条は立て直した体勢から真上に飛び上がり、左からの横薙ぎの一閃をベリーロールのような動きで交わす。
次は二本同時に、どんな軌道を進んだのか斜め下と真上から飛んできた。
ベリーロールの体勢をとった上条の身体は、地面と並行で格好の的となる。
このままなんのアクションも起こさなければ、同時に切り進んできたワイヤー同士が上条の胸のあたりで切り結ぶのだろう。
そうなれば、晴れて上条は歪な断面で区切られた真っ二つの死体だ。検死官の仕事が捗るに違いない。
しかし、それはなにもしなければの話だ。もちろん、上条はこんなところで死ぬわけにはいかない。
上条「……部屋の整理が終わってないんでね」
選ぶしかない。選ばなければ肉塊は免れない。
右手ならば、斜め下から唸るように飛んでくるワイヤーを。
左手ならば、真上からギロチンのごとく襲ってくるワイヤーを。
特に意味は無いが、上条は左を選んだ。上条は手を伸ばし、真上から重力を追い抜いて落ちてくるワイヤーを左手で掴みとる。
直後、身を裂くような鋭い痛みが走った。ような、ではなく実際身を裂かれている。血しぶきこそ上がらなかったものの、重症というレベルには達していた。
が、上条は構わない。痛みに構っている暇さえなかった。すぐに、唸るような一撃が斜め下から飛んでくる。
上条は左手に全体重を乗せ、振り子のような動きで重心を外に飛ばし、ブランコの要領で大きく左に飛んだ。
慣性に従い後ろになびいたカッターシャツがワイヤーの餌食となる。
上条は左腕に深い切り傷を追いながらも、命をつなぎきった。もう考えて動いてからでは遅い。上条は無心で神裂がワイヤーを再度操作するより速く、彼女の懐に転がり込む。
距離は二メートル。蜘蛛の巣のように交差するワイヤーはおそらく使えない。この距離では上条のほうが圧倒的に速い。
この先はただのぶつかり合いだ。
何かを考えてからでは遅れてしまうレベルの二人が揃えば、もう直感的な、潜在的な意識での駆け引きになる。
ここまで
何か理由もなく上条さん強化しすぎじゃない?
少なくても並の身体能力じゃいくら戦闘経験積んでようと、聖人に敵うはずないし
頭狙ってるってことは神裂も手加減してるわけじゃないんでしょ?
前にあった悪条さんと比べても、意味が分からな過ぎるんだけど
>>116
そこはちゃんと考えてありますが、確かに納得がいかないかもしれませんね。
至らないところだらけで申し訳ない。
次の投下は恐らくしばらく先になるので、軽く説明しておきます。
神裂さんが本気をだすのは二回目からです。
初回は手加減をしていましたし、七天七刀奪われて七閃もなく二対一でしたので。これからの戦闘展開は初回とは違っていきます。
銃弾で傷がつかないって描写ありましたか?ショックランサーなので傷くらいはついていいかなと勝手に。
攻撃は全て交わしていたので受け止めていたわけじゃないです。
確かに鋼糸で手がぶっちぎれなかったのはやり過ぎかなと少し反省しました。
質問あれば受け付けます。もう少しだけ。
神裂戦までは頑張って書ききってから姿をくらますことにします。
その次はバイトの関係で5月になります。最後の投下は今日明日中に一度。
す、素手で受け止めてはいない(震え声)
あ、ワイヤーのことか。すまそ
距離は二メートル。手を伸ばしても届かないが、神裂の日本刀ならば十分に反りの位置で上条を捉えられる距離だ。
七閃と呼ばれたワイヤー攻撃は、とりあえず至近距離ではその効力を失うため、特に警戒の必要はない。
上条はもう何も考えず、ただ目の前の敵を倒すために動く。
先に動いたのは神裂だった。大地を蹴り、二人の距離がセンチ単位まで縮まる。が、彼女は何故か刀を抜かない。
抜けば必殺の距離であるのにもかかわらず、神裂は刀を抜かずに敢えて肉弾戦で挑んできた。
轟!!という空気を揺さぶる一撃が至近距離から飛んでくる。上条は危機を察知し避けようとするが、先手を打とうと肉薄していたため、どうしても避けるより拳が速い。
咄嗟に出した右手が神裂の拳を受け止めるも、その一撃は、まさに銃火器に匹敵する絶大な威力だった。
上条「……ッ!」
上条は、自分の平手が音波を当てられたようにグニャグニャと振動するのを感じた。パン!!、という音が響いた時には、上条の身体はノーバウンドで五メートルも先の地面へ吹っ飛ばされていた。
地面にたたきつけられた上条の身体が激しくバウンドし、さらに転がりながらズルズルと遠くへ跳んでいく。
右の手のひらは真ん中から骨を砕かれており、握り締めることはおろか少しも動かすことが出来ない。
それでも、上条は地面に寝てはいられなかった。上条は、自分が最後の砦であることを理解している。フレンダでは神裂には敵わない。
ここで自分寝ている間に、彼らの仲間が学生寮を襲っているかもしれない。
上条は歯を食いしばり、切れた左手で地面を突き上げ受け身をとって跳び上がる。距離は一〇メートル弱。この距離では、無効化したはずのワイヤーが牙を向く。
七閃
無情にも、神裂火織は抑揚のない声で『必殺』の名を口にした。
右手の感覚はない。左の傷は深い。戦況の優劣は尋ねるまでもない。増援も期待できない。
キキキキキンという金切り音が、アスファルトを蹴散らしながら迫ってくる。もはやすべてを避けきることは出来ない。
上条は走る。
ダン、と地面を蹴り、砂煙を風で吹き飛ばしながら距離を詰めるべくまっすぐに走った。地面と垂直になり、アスファルトを蹴って一本目の鋼糸を跳んで回避する。
二本目はコンマ数秒のインターバルすら与えず、真横から飛んできた。上条は身をひねった背面跳びでこれを回避するが、すぐに次の一撃が真上から落ちてくるのを見た。
月明かりを乱反射するその糸は、まばたきの時間すらも与えてくれない。空中には、掴めるものは何もない。
もしここに化学兵器の一つでもあれば打開する策があったかもしれない。
それでも、ここで死ぬわけにはいかない。絶対に勝ちは譲らない。
上条は意を決し、未だ感覚すらない右手を、最後の力を振り絞って握り、ワイヤーを掴みとった。痛みよりは苦しみに近い。
上条は、サッと腕から血が抜けるのを感じる。
怪我の功名というべきか、極限を超えた先に痛みはなかった。なんとか上条は、右手を犠牲にしてワイヤーの軌道をずらすことに成功する。
ボトッという水分を含んだ懐かしい音がアスファルトの上に響いた。小さな水たまりのように赤い血が広がっていく。
見るまでもなく、上条の右手だ。せめてもの防衛本能か、意識が暗転しそうになる。上条は必死に頭を振って、眠気にも似た衝動を吹き飛ばす。
なぜか、次のワイヤーが襲ってこない。
神裂「………なぜです」
神裂火織は、毅然として立ったままだったが、表情に悲哀が満ちていた。
上条はのろのろと起き上がり、拳の握れなくなった両腕をそれでも前に構える。
完敗だった。百回やっても、おそらく一回すら勝てない。彼女はまだ刀を抜かず、魔術とやらも見せていない。
最強を気取ってきた上条当麻は、自分より遥か高みにいる敵の顔を見る。アレイスターは一体どうやって科学の力で彼らを倒そうとしているのか。
すくなくとも目の前の敵は、上条の知る科学の最高戦力、超能力者では敵わない次元にいる。
上条はせめて、最後に彼女の言葉を聞く。右手の住人が、既に蠢きだしていた。上条当麻は負けたとしても、右手の住人が勝てばそれでいい。
神裂「なぜそこまでして、あの娘を守ろうとするのですか」
凛とした魔術師の面影は、いつの間にか消え失せていた。上条が腕を失ったことで戦意をそがれたというのだろうか。
だとしたら甘すぎる。
上条「俺がテメェらを止めなかったら、…一体誰がインデックスを助けんだよ」
絞りだすように言う。
上条「テメェらみてーなのに追い回されて、背中ぶった切られて」
上条は、自分の頭に血が上るのを感じた。
誰かを守るなんて、とマイナスな思考が頭のなかを駆け巡る。今更善人ぶったところで、かつての悪行が消えるわけではない。
インデックスだって、上条なんかに助けられても迷惑なのかもしれない。
それでも、上条以外に彼女を助けられる人間はいない。ただそれだけの話。
上条「俺達みてーな人種が、あの娘の人生を奪っていいはずがねえだろ」
神裂火織は、今まさに泣き出しそうな表情を作っている。
上条は、わからない。情け容赦のない彼女ら魔術師は、なぜ上条にとどめを刺すことをためらうのか。
神裂「―――死ぬんですよ」
神裂火織は、吐き捨てるように、認めたくないとでも言うようにその言葉を口にした。
上条は、その言葉の意味を鑑みる。頭のなかがクリアになっていくのを感じる。もう、全身の痛みすら忘れて
神裂「私だって、好きでこんなことをしているわけではありません」
神裂「あの子は――私の親友、なんですから」
上条「意味、わかんねえよ」
上条は戦闘において、非情になりきる事ができる人間だ。でも、彼には埋められない心の隙がある。
上条は、表の住人の命を奪うことが出来ない。クズとは線を引くべき人種だと考えているからだ。
かつてそのことで、仲間に手をかけたことすらある。そういう経歴が相まって個人組織に落ち着いたという経緯がある。
上条(親友だと…?)
上条は、己の中に築き上げた魔術師の人物像が粉々に砕け散っていくのを感じた。
違和感はあった。気づかないふりをしてきた違和感が。そもそも、目の前の敵がこんなことを話す理由がないのだ。油断させようとする場面でもない。
なんせ、戦況は上条の圧倒的不利なのだから。
神裂はしばし押し黙り、やがてポツリポツリと語りだした。
神裂「完全記憶能力、という言葉に聞き覚えはありますか?」
上条「…科学の街の人間なら、大体知ってる」
神裂の声はひどく弱々しい。とても先ほどまで上条を圧倒していた人間だとは思えなかった。
神裂「あの子の頭はね、忘れるということが出来ないんですよ」
神裂は上条の返事を待たずに、
神裂「人間の脳の容量は意外に小さい。それでも私たちが百年近く脳を動かし続けられるのは、いらない記憶を忘れて常に脳を整理しているからです」
神裂「あなただって、一週間前の晩御飯は覚えていないでしょう?誰だって、知らないうちに脳を整理させる。そうしなければ、生きていけないからです」
上条の頭のなかで、ひとつの問題が氷解した。妄言としか思えない、あの言葉の真意が――
言いかけた上条の言わんとする所を察したのか、神裂は短くええと答え、言葉を続けた。
神裂「彼女の頭のなかは、既に一〇万三〇〇〇冊の記憶で八五%が埋まっているんですよ」
神裂「前にもいいましたが、彼女は忘れるということが出来ない。人混みの中すれ違った人の服装や顔、目に入る文字から交わした言葉。それこそ、彼女の頭には一年前から口にした食事のメニューまで覚えているんです」
上条は、そこで違和感を覚え魔術師に口を挟んだ。胸に、ゾワゾワと渦巻く悪い予感を抱きながら。
上条「一年前って…何の話だよ」
神裂は顔を曇らせ、俯いたままで、
神裂「私たちは、一年おきに彼女の記憶を消しているんです」
神裂「私たちは、もうあの子の苦しむところを見たくない!思い出を奪うことが…できない」
神裂「だから――――
それで、インデックスは友達の顔を覚えていない、と。上条は、すべての経緯を理解し、顔を上げる。
こらえきれない激情に呼応するように、切られた右手がドクンと脈を打つ。
半分が欠けた手のひらを圧迫するような衝撃に、おもわず手が肥大化したような錯覚を覚える。このチカラを抑えきるのも、もう限界が近い。
この瞬間から、もう上条当麻は上条当麻でなくなった。こんな言葉をかける資格は、上条にはないから。
上条「敵のふりをして最初から思い出を与えなければいいって?」
神裂が何かを言う前に、上条が口を開ける。
上条「バカじゃねえのか、テメェらは」
吐き捨てるように言って、目の前のバカを睨みつける。
上条「そんな上っ面の友情で、勝手にインデックスの人生を諦めてんじゃねえぞ」
神裂「―――なッ」
ハッとして上げられた神裂の顔が、憎しみのこもったものに変わる。チリチリと肌を刺す殺気が蘇る。
上条「あの子の思い出を一年おきにけして命をつないでましたぁ?なんでテメェらはそんなつまんねえことしかできねえんだよ」
上条「毎日毎日女の子一人追いかけまわして、被害者面してんじゃねえぞ」
上条「一体誰が一番辛かったと思ってる。この世界にたった一人で来る日来る日も逃げ延びて」
上条の言葉に、神裂はただ目尻に涙を浮かべていた。
上条「あの子のあんな顔は見ていられない?それはテメェの勝手な都合だろうが。んなもんをインデックスに押し付けてんじゃねえぞ」
神裂「ではほかにッッ!!他にどんな道があったと言うんですかッ!!」
神裂は涙を飛ばしながら、今にも抜刀しそうな勢いで吼える。
上条「簡単なことだろ。お前のその手で、あの子の手をとってやればよかっただろ」
上条「一緒にいてやればよかった、ただそれだけのことだろーが」
上条の声に呼応するように、ちぎれた右手が地鳴りのような脈を打つ。
この女は、何も悪くなかったのだ。全て仕組まれていた。彼女は踊らされていたに過ぎない。
せめて上条は、このかわいそうな女を救ってやりたくなった。
上条「勝手に世界に絶望してんじゃねえ」
なにもかも偶然じゃない。神裂火織と赤髪の魔術師は、このために街に呼び寄せられたのだ。
禁書目録の少女の事情を知れば、上条がその問題を解決する。それがアレイスターにとって想定外なはずはない。
おそらく魔術側にも同じような組織があり、この街に入れるように手引したのだ。でなければ、偶然にもこの街に入ってくるはずがない。
手の上で踊らされ、皮肉にもそのおかげで難を逃れる。唾棄すべきシステムだ、と上条は思う。
それでも、つまるところ上条の役目はこれだ。
右腕から飛び出そうとするチカラに、待てと命じる。
考えてみれば結局、上条は今回ずっと間抜けだった。バカな指示で部下を死なせ、助けるつもりで少女の友人らを殺しかけ、それを止めるために自身の友人まで呼び寄せて。
仇すら取れなくなってしまう。そして、そんな自分を嫌悪する。
上条は、どっちつかずだ。学園都市側につきながら学園都市の邪魔をして、心に確固たるものを持っていない。
それでも、上条は、悪あがきをするために力をつけたのだから。せめて、守りたいものだけは守りぬいてみせよう。
上条「完全記憶能力で人が死ぬだって?」
久しぶりです。微妙に荒れてますな笑。
自動書記篇書き終えましたが、なんとも原作寄り過ぎてて晒す気になれません。
なので、機会があればいつか投下するかも。結末も原作とほとんど変わんなくなったので一旦見送ります。
妹達編が長くなりそうなので
ちょっと頭だけ一回投下します。
夏休みも中盤、日差しの強い八月一〇日。ここは、とある学生寮の一室、上条当麻の部屋。
外は気温三〇度を超えるほどの猛暑日だが、この部屋は二一度と快適な温度に保たれている。
というのも、常盤台中学が誇る電撃兵器・ミサカミコトの落雷テロによって破壊された電化製品がすべて買い直されていたからだ。
新しくこの部屋に降臨なすった学園都市最新鋭のエアコンは、まったく動作音のしない高性能な物で、この部屋の住人達はひどく気に入っている。
じゃんけんによる場所取り争奪戦を制した少女、フレンダ=セイヴェルンは、ちょうど風の当たる場所にクッションを敷き悦に入っていた。
上条当麻としては全く面白くない。
嫉妬に狂った彼は対抗意識を燃やし、紙のようなプロペラが回転する扇風機を引っ張りだしてきてはその前に陣取っていた。
シュルシュルと特徴的な効果音から送り出されてくる風がなんとも心地いい。
フレンダ「リーダー暇だよどっか行こうよ」
フレンダは背もたれ付きの柔らかそうなクッションからだらしなく四肢を投げ出し、だらけきった声でつぶやいた。
エアコンから吹いているさわやかな風が、彼女の艶のある髪を後ろになびかせている。
上条は扇風機の向きを片手で直すと寝転がり、彼女の方を見ないまま、
上条「イヤだ。だいたいお前は外の気温を知ってるかね?」
台の上に置かれていた小型タブレットを二、三操作し、気象情報の画面を彼女の方に向けた。
表示された画面には、太陽のマークと三四度の文字。
上条としては、わざわざ快適な空間から猛暑の中へ切り込んでいく理由がなかった。
乗り気でない上条の態度にフレンダはぶーぶーとぶーたれる。
フレンダ「結局さ、今日はリーダーの補習がない訳じゃん?わたしは毎日この部屋に一人」
フレンダ「たまには二人で遊んだりしたい訳!」
上条「却下。外暑いし」
おー来たか。
でもって記憶はやっぱり失ってなさそう?
フレンダ「そんなのすぐじゃん!どっか入れば涼しいから!」
上条「そんなことより今何時だっけ?」
上条は電源を切ったタブレットに目をやり、携帯に手を伸ばすよりはフレンダに聞いたほうが早いと判断した。
彼女の視界には壁掛けの時計があるのだ。
フレンダ「一一時半だけど?」
フレンダ「そういえば朝からなんにも食べてないじゃん。お腹すいた」
上条「あー。そーいやそうだったな。面倒臭えけど作りよりは食べに行ったほうが楽か」
フレンダ「宿題禁止!絶対禁止だから!」
上条「はいはい」
そんなこんなで上条は重い腰を上げ、テキトーに吊るしてあったシャツに着替え、携帯をポケットにねじ込み部屋を出る。
夏仕様なのか、つばの広い帽子をかぶったフレンダはウキウキとした足取りで先に表に出ていた。
そそくさと電子錠を閉じた上条が、鼻歌を歌い歩くフレンダの隣に並ぶ。金髪碧眼の彼女とはどうみても兄妹には見えないだろう。
知り合いに会ったらなんて言い訳すっかな―っと考えながら、上条はなんとなくフレンダの帽子を奪って被った。
フレンダ「おっ案外似合うかも!?リーダーリーダーっ今度ワンピースとか――
上条「着ねえよ」
ここまでしかないです笑。
>>219
失くす方も考えたんですが、なくならないほうが都合いいので
そこだけ脳内補完お願いします。
ではまた次回。結構長くなるので気をつけてください。
いつものように窓際の禁煙席に腰掛けた二人は、注文を終えドリンクをすすりながらくつろいでいた。
ちなみに上条はアイスコーヒー、フレンダは氷を浮かべたオレンジジュースをそれぞれ飲んでいる。
つば広の帽子を隣においたフレンダはテーブルに頬杖をつき、途中コンビニで買ったらしい学園都市ブランドのファッション誌をめくっていた。
表紙には可愛らしいワンピースを着た女の子が、真夏の海をバックにピースサインで写っている。
真夏の海で撮ったわけではないのに随分リアルだな―と上条は平凡な感想を抱く。合成写真の技術も学園都市はピカイチだった。
フレンダ「あっ!このリボンの付いたブラウス可愛いかも…」
パラパラとページをめくっていたフレンダの手が止まる。なんとなく覗き込むと、白い丸襟ブラウスが大きく載せられたページだった。
襟首に淡いブルーの細いリボンが通してあり、シンプルだがところどころに意匠を凝らしたつくりで全体的に見て可愛らしいブラウスだ。
学園都市限定のブランドで、お値段もそこそこである。
フレンダは紙面に鼻がつくほど顔を近づけると、やがて指を指し、
フレンダ「ねぇねぇどう思う?リーダー」
似合うかな?とでも言いたげな視線で上条に意見を求めてきた。
上条は解けだした氷がコーヒーと馴染むようにストローでかき回すと、再び紙面を覗き込み、
上条「あー可愛い可愛い」
抑揚のない声でブラウスを評価した。
確かに見た目派手なフレンダにはこれくらい落ち着いた服のほうが似合うかも、と上条は思うが、褒めたらきっと調子に乗るので絶対に褒めない。
あくまで興味なさそうに告げるのがポイントだ。
しかし当のフレンダは上条のテキトーな返答にもご満悦の様子で、大いに喜んではページに折り目をつけていた。
『切り札』に充てられた国家予算級の運営費が、こんな可愛らしいお洋服に使われているのかと思うと上条も苦笑してしまう。
実際フレンダ用に作った口座に振り込んだ金はそこから抽出していた。
彼女の持つカードなら、雑誌に載っている服をすべて値段も気にせずに買えることだろう。
フレンダ「じゃあ次~」
上条「つか、あんまし服ばっか買うなよな。俺のクローゼットすでに半分侵食されてんだけど」
上条は飲み終えたグラスをテーブルの端にずらすと、丸めた注文伝票でフレンダの頭を叩きながら忌々しげに告げた。
そういえばハンガー足りてねえな、とどうでもいいことを思い出す。
正論すぎる家主の意見に反論できないフレンダは、気まずそうに笑った後、
フレンダ「てへっ☆」
舌を出した腹立たしいウィンクでごまかそうとする。
だが、上条には通用しない。
上条「んじゃま、一着増えるたびにランダムでどれかが雑巾に変わるから」
フレンダ「ひどっ!?」
上条「冗談だって」
フレンダ「…リーダーなら普通にやりそう」
フレンダは不服そうな顔でストローにブクブクと息を吹き込む。
上条「つーか、いっちょまえに服なんか気にしやがって。好きな奴でもいんの?」
直後、ぶふーっという下品な音に続いて、フレンダの口からオレンジが勢い良く噴射された。
霧吹きのように飛ばされたオレンジは上条の顔に一点集中放火される。テーブルを一切汚さないプロの犯行だった。
ポタポタと上条の顎を伝ったオレンジジュースのしずくが彼のズボンを濡らしていく。
フレンダ「り、リーダー…?…ご…ごめんごめん」
あわあわと手を動かすフレンダがやがて観念したように手を合わせて上条を拝む。
自分の落ち度も認識している上条は笑顔でフレンダを許し、紙ナプキンで顔を拭った。彼女のパンプスをグリグリと踏みつけながら。
フレンダ「痛~ッ足が許してない訳よ…ッ!!」
一度席を離れ手を洗って戻ってきた上条がフレンダに何か言う前に、仕事用の携帯端末に着信が来た。
番号通知は、下部組織の男からだ。
普通は上条の方から指示を飛ばすだけなので、向こうからの連絡というのは珍しい。
上条は息を呑むフレンダを手で制すと、店の外に出て通話に応じた。
ここまで
次スレの注意書きに加えますが、やはり上条ageなので他キャラsageがあるかと思います。
それでもいいという方だけ進んでください。
投下します。
午後の学舎の園は、制服を着た女子学生で溢れていた。
大勢の人間の中に一人として男性が混じっていないこの光景は、学舎の園の外に住む学生たちには異様なものに映るかもしれない。
しかし、ここではこれが普通の光景、日常だった。もしもこのエリアに男性が入ってこようものなら、一瞬でボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
ここは男子禁制の街にして、高位能力者たちの巣窟なのだ。野蛮な男に入る隙はない。
白井黒子は、一人学舎の園を歩いていた。いつものように長い髪は二つに縛ってある。外出の際はいつもこのヘアスタイルだった。
校則をきちんと守り、夏休みの午後である今日も中学の制服に身を包んでいる。
もっとも、今日は学校に用事があったため制服を着る必要があったのだが。
白井は学舎の園の内部にある繁華街の、ちょうど日陰に当たる場所で持っていたカバンを下ろした。
今日は日差しが強い。見渡せば、あちこちで同じように休憩を取る学生の姿があった。
白井(そういえば夏休みでしたわね…)
能力開発の研究や課題、風紀委員の職務に明け暮れていた白井は、中学生らしからぬ溜息を付く。
今日は非番の日であるが、明日からまた風紀委員の職務に戻ることになる。
楽しそうに街を練り歩く彼女たちのように夏休みを満喫することは、白井には出来ない。
別に不満はないのだが、白井もお姉さまと慕う美琴と遊びたい歳相応の気持ちがあった。
次に休暇が入ったら誘ってみようと密かな決心をしたところで、不意に後ろから声がかけられた。
声の主に当たりをつけた白井の頬がひくひくと引きつる。聞こえなかったことにしようか、と白井がカバンを持ち直したところで、今度は肩に手が置かれた。
「ちょっと白井さん?無視はよくないですわよ」
白井「……せっかくの休暇だというのに、今日はとんだ厄日ですわ」
観念したように白井が振り返ると、そこには白井と同じ制服を着た少女、婚后光子が立っていた。
豪奢な扇子を構え仁王立ちする、少しズレたお嬢様だ。
婚后「白井さん、あなたは目上の人間に対する作法を学んだほうがよろしいんじゃなくって?」
白井「あなたにはこれくらいで十分ですの」
加えて、二人は仲が良くない。同族嫌悪なのか、二人は出会い頭からうまく行かなかった。
そのまま関係は修復されることなく、(むしろ悪化を続けながら)今日に至る。
二人はしばし睨み合ったあと、同時に顔をそらす。さっさと立ち去ろうと踵を返そうとした白井に、婚后が声をかけた。
婚后「ところで白井さん。あなたが学舎の園に一人でいるなんて珍しいですわね。今日はどうして?」
何か企みがあるんじゃないかと眉を釣り上げた白井だったが、婚后の根の良さは彼女も知るところなのでひとまず世間話に落ち着く。
白井「今日はちょっと学校の方に所要がありまして。これから帰るところですの」
婚后「風紀委員のお仕事はお休みですの?」
婚后の質問に、白井は短くええと答える。
何が嬉しいのか、婚后は手を打ち、
婚后「では、これからお暇でして?」
やっぱり企みがあったのかと一歩退く白井に、婚后は目を輝かせながら迫ってきた。
白井「いえ、これからわたくしちょっと用事がありますの」
婚后「用事?」
白井「ええ。ちょっと買い物がありますので」
婚后「買い物って?」
白井「ちょっとお世話になった方にお礼を…」
お世話になった方というのは、上条当麻のことだ。
少し前に解決した幻想御手事件について、白井は彼に何度か助言をもらっていた。
次々に彼の言ったことが的中していき、あっという間に事件が解決してしまったことは白井の記憶にも新しい。
白井はその礼を言いに行く事を口実とし、今度こそ彼が何者なのか聞き出してやろうと企んでいた。
婚后「それは学舎の園の外で?」
白井「ええ、まぁ」
別に学舎の園で買ってもいいのだが、白井や美琴に学生寮は外にあるので、買い物も外でする機会が多い。
婚后や湾内、泡浮は学舎の園で暮らしているので少し感覚が違うのだろう。学舎の園のもつ閉鎖的な文化は、中で暮らすことの不自由さをなくしている。
婚后「ご、ご一緒してあげてもよろしてくてよ?」
突如として婚后がフンッと顔をそらしながら告げる。赤らんだ頬を隠すように扇子が広がる。
白井はキョトンとした表情を浮かべ、
白井「い、いえ…別に頼んでませんけど」
広い第七学区のアスファルトの道を、一台のステーションワゴンが走っている。
黒いボディのその車は、法定速度を軽く無視して暴走していた。
第十八学区沿いに伸びる道路を暴走するワゴンに通行人たちの目が釘付けになっているが、ドライバーは気にしない。というより、気にしている余裕がなかった。
ドライバーである浜面仕上は現在進行形で逃走中だからだ。
「おい浜面!また務所戻りなんてゴメンだぞ!」
助手席から怒鳴るような声が飛んでくる。浜面は声の主をちらっと一瞥すると、ルームミラー越しに追ってくる車を再度確認した。
太陽をキラキラと反射する青いボディ。警備員(アンチスキル)が乗るスポーツカーをベースとした高速車両だ。
赤いサイレンを輝かせながら追ってくるその車との距離は約五〇メートルほど。車同士であることを考えれば、お世辞にも距離が開いているとはいえない。
浜面「るせーなッもとはといえば半蔵!テメェのせいだろうが!」
半蔵と呼ばれた少年はバツの悪そうな顔でそっかそっかとケタケタ笑い、浜面に習ってミラーを覗きこむ。
相変わらず追跡車両は車間距離をそのままに追ってきていた。おそらく逃走車両の追跡訓練を受けているのだろう。
こちらが急に進路を変えても順応できれば、ブレーキを踏んでも対応出来る万能な距離だ。
サイレンを鳴らしておけば一般車両に割って入られることもない。
浜面「捕まっちまったら割に合わねぇよ…」
浜面は持ち前のドライブテクニックで、法定速度60kmの道を倍の130km前後で運転しながら呟いた。
こんなことならマネーカードに手を伸ばすんじゃなかったと呻く。
事の発端は、第七学区のいたるところにばら撒かれているというマネーカードの噂を聞いたことだった。
常に資金の問題に悩まされているスキルアウトの身としては願ってもない話だった。
噂の真偽を確かめるためにチームを動かし、ようやく本物のネタである確証を得、いかに多く稼ぐかを考える。
そんなとき、組織でカードを集めるスキルアウトの噂を聞きつけたのだ。チームの名は『ビッグスパイダー』。
すぐさま手を回した浜面らは、数時間前に組織を鎮圧し、姑息な手段で集めてあったカードを根こそぎ奪った。
問題はその後だ。どこから通報を受けてやってきたのか、浜面たちは警備員に見つかってしまった。
逮捕歴のある二人の顔はすぐに割れる。焦った浜面はシレーっと逃走することを試みるも、血迷った半蔵が警備員の目の前で車を盗難したため事態は一変。
なんか変な盗難ブザーは鳴るしバッチリ見られるしで、しょうがなくその車を拝借、現在に至るというわけだ。
追ってきているのは今のところ一台だけだが、既に通報が行っているはずだ。そのうち応援が駆けつけることだろう。
そもそも、後ろの一台でさえ振り切るのは至難の業だった。
浜面「でも応援が来る前に振り切るしかねぇな!GPSがつけられてるわけじゃねぇんだ、さっさと振りきって乗り換えよう」
半蔵「頼もしいな浜面!大金持ち帰って今夜は焼き肉にしようぜ!」
――加えて、彼らは自分たちの乗るワゴンが一体誰のものであるのかを知らない。
――少し時間が経った後追ってくるのは、警備員の何倍も恐ろしい人間だということを、彼らはまだ知らない。
御坂美琴は、第七学区の大通りをまっすぐセブンスミストへ向かって歩いていた。
夏休みも中盤に差し掛かっているが、こっそり素行不良の美琴もきちんと制服を着ている。
美琴(余計に注目を集めちゃうから好きじゃないんだけど…)
お嬢様に憧れる友人の初春が聞けば食いかかってきそうだが、常盤台の制服は憧れの対象でもあり、同時に嫉妬の対象にもなるのだ。
慣れっこであるため気にしないようにはしているのだが、学舎の園から出るとたまに居心地の悪い時がやってくる。
そんなときアイツはわたしを―――っと思いかけて美琴は首を大きく振った。妙な思考を振り払うように両肩を思い切り回して木陰に入る。
公園に面したこのエリアは植木が立っているため日陰も多く、体感温度は随分と涼しい。
美琴は覚悟していたよりも幾分か楽な気候に安堵しながら道を行く。
セブンスミストへ向かうのは、広域社会科見学の準備に買物をするためだ。
こういう時は後輩の白井がいると買うものに一々難癖を付けられるため、一人だと気が楽だった。
もちろん白井と二人で買い物に行けばそれはそれで楽しいのだが、今日は一人でよかったと思う。
美琴「アイツと会ったら気兼ねなく勝負できるしね~」
美琴は肌を射す木漏れ日を手で遮りながら軽い足取りで歩いていく。
信号が赤だったため歩道橋を選び、やっとの思いで車線を渡りきった。そして、
不意に隣からやってきた人物にぶつかった。
黄泉川愛穂は黒で統一された警備員の防護服に着替え、スポーツカーをベースとした警備員の高速車両に乗り込んだ。
これから事件に首を突っ込むというのに、その表情は晴れやかだった。
楽しそうにも見える。不謹慎かもしれないが、根っからの熱血教師である黄泉川は問題児を更生させることに生きがいを感じる女だ。
警備員の前で堂々と車を盗むなんて珍しい大バカもんじゃん、と通報を受けた黄泉川は快活に笑った。
黄泉川(今日の夜は酒が美味しくなるな。月詠センセに面白いみやげ話が出来そうじゃんよ)
黄泉川は備え付けの黒い無線機で同僚と連絡を取り、キーを回す。
電気を動力とする環境配慮された車が小さな駆動音を響かせた。同時に、逃走中の盗難車の写真データが送られてくる。
窓越しに、わずかに写り込んだ二人の少年の顔を黄泉川は見逃さない。
黄泉川「浜面!アイツ…もう悪さしないって約束したばかりじゃんよ!!」
黄泉川は見るものすべてが恐怖しそうな般若の笑みを浮かべ、力いっぱいアクセルを踏み込んだ。
―――バカ、警備員、そしてもう一組。
三つ巴のカーチェイスが始まろうとしていた。
ここまで。また近いうちに
みんな感想ありがとう。弱体化に関しては許してとしか言えない。ごめん
今日は21時~23時の間に投下します。
そろそろ許してくれよ。
投下ー
上条当麻は、広いマンションの一室にいた。時刻はお昼すぎ。天高く登った太陽が、西の空に傾き始めている。
第七学区の、ちょうど第五学区と第一八学区の境界に当たる位置に建つそのマンションには、上条が偽名義で購入している部屋がある。
一二階に位置するその部屋は、上条たちが暮らす学生寮の部屋の三倍以上の面積があった。
フレンダ「広~い!なにこれ!」
少し遅れて玄関から入ってきたフレンダが、高い天井を仰ぎ見ながら感嘆の声を上げる。
彼女の目線の先には、シャンデリアとまではいかないものの、部屋に相応な豪奢な電球がぶら下がっていた。
成金が好きそうな部屋だよな、と上条も苦笑する。上条にとってこの部屋は、学園都市中に点在する便利な拠点の一つに過ぎなかった。
特に思い入れがあるわけでも、気に入っているわけでもない。
フレンダは小走りで部屋の中を駆けまわり、あちこちの部屋を覗いたあと、
フレンダ「ここっ!ここに越そう!」
まるで不動産屋に紹介されたかのごとく入居を決定した。
上条「ばーか。んなとこで生活できるわけねーだろ」
フレンダ「えー…。まぁわかってたけどさぁ」
名残惜しそうに部屋を眺めるフレンダがソファに座ったのを見て、上条はテーブルの下からタブレットを取り出し、台の上に置いた。
直後、黒い光沢を放つ薄型のタブレットにグリーンのスタートメニューが映し出される。
上条は部屋の鍵と一緒にリングを通していたケースから黒いカードを取り出し、タブレットの側面に差し込んだ。
パチッという音のあとすぐにデバイスが認識され、ウィンドウが表示される。
フレンダ「…なにそれ?」
上条「んー、セキュリティランクAのネットワークに介入できる魔法のカード」
上条が熟れた調子で画面を幾度か操作すると、部屋に置かれた二台の大型モニタに電源が入り、それぞれ第七学区の鳥瞰図、大通りの様子が映し出された。
鳥瞰図には複数の記号やマークがあり、夏休みの大通りには学生たちがあふれている。街中に設置された監視カメラの映像だ。
上条は満足気にモニタを覗きこんだあと、今度は持ち込んだノートPCの操作を始めた。上から支給された上条の愛用PCだ。
フレンダは左右のモニタを交互に眺め、やがて神妙な面持ちになる。どうやらこれからやらんとするところ察したらしい。
だが、彼女にはそれより先にやるべきことがあった。
上条「フレンダー、お茶」
白井黒子と婚后光子は、小洒落たレストランの窓側の席にいた。
喫茶店も兼ねている店内には、女子中学生や高校生の姿が多い。かなりの人気店のようだ。
白井と婚后は紅茶を持ってきたウェイトレスに軽く頭を下げ、運ばれてきたカップに口をつけた。
ちなみに白井はアッサムのミルティ、婚后はダージリンというオーダーだ。
婚后はうっすらと湯気の立つティーカップをソーサーに戻し、満足気な表情を浮かべた。
婚后「ええ、なかなかよろしくってよ。白井さんに案内を頼んで正解でしたわ」
どこか偉そうな婚后のセリフに、白井はひきひくと頬をひきつらせながら、
白井「……それは良かったですわ」
さっきまでキョロキョロと落ち着かなかったくせにいきなり偉そうになったなーと白井は思うが、そこは突っ込まないことにする。
プライドの高いお嬢様気質の人間はどこにでもいるものだ。
ソーサーに添えられたスプーンでアッサムティーをかき混ぜる白井に、婚后が声をかけた。
婚后「それより白井さん、わたくし達少々人目につきすぎてません?」
心なしか頬の赤い婚后に、先程までの落ち着かない様子が戻っていた。
婚后の言葉を受け、店内をぐるっと見回した白井が、ああと退屈げに呟く。
少しだけざわつく様子には覚えがあった、というより、慣れていた。
白井「確かに学舎の園で暮らしている貴女にとっては少々珍しいかもしれませんが…常盤台なんて外じゃこんなもんですのよ」
多くの常盤台生が一端覧祭や大覇星祭で外と触れ合うときに経験することだが、婚后は今年度からの転入組であるため無理もない。
普段から大能力者ということで注目される婚后と白井だが、おそらく婚后は男性に慣れていないのだろう。
白井「ここでしたらナンパなんかもしょっちゅうですわよ」
面白がって言う白井に婚后は頬を赤らめるも、直後バッと扇子を開き持ち前の高飛車な性格を発揮した。
婚后「このわたくしを常盤台の婚后光子と知って尚、そのような不埒な行いをする殿方がいるのなら、このわたくしが直々に制裁を加えて差し上げましてよ」
風力発電機の立ち並ぶ第七学区の道路を暴走するステーションワゴンが、急に速度を落とす。
目の前の信号が黄色から赤に変わったわけではない。その目的は、直線から逸れて進路を変更することにある。
辺りに歩行者や自転車がいないことを確認した浜面仕上は力強くブレーキを踏み、ハンドルをさばく。
直後、急停止したタイヤが甲高い音を立て、地面との摩擦による黒い帯をアスファルトに刻みつけた。
後ろから追ってくる警備員の車両との車間距離が一気に縮まってくるが、浜面は気にしない。
二人の悪童が乗るワゴン車は、滑りながら左に90度回転した。フロント部分を車両の後部が追い抜いていく。
半蔵「ちょッ!なんだよ、猫でもいたのかッ!?」
助手席に座っていた半蔵が背もたれから離れ、浜面に寄りかかってくる。
浜面「ちょっと後ろを振り切るからつかまってろ!」
あと二〇メートルにまで迫ってきた警備員の車両も速度をゆるめ、左折の構えを見せワゴンに続こうとする。
浜面はドアミラー越しに対向車線の車を確認すると、未だ滑り続ける車のハンドルを左に大きく回した。ブレーキを緩めながら、うまく角度を調節していく。
車は一八〇度回転し、ちょうど警備員の車両と向かい合う形になった。予想外の動きに対応が遅れたブルーのスポーツカーが急ブレーキを踏む。
衝突を恐れたベストな選択だが、それが命取りになる。
浜面は想定通りの展開にほくそ笑み、ついに車が二七〇度回転したところでブレーキを離し、力いっぱいアクセルを踏み込んだ。
スマートとはいえないが、追跡車両を振り切るための大回転右折だ。
計算通り、対向車線を走ってきた車よりワゴンのほうが速い。盛大にクラクションを鳴らした大型トラックがその場に急停止した。
止まれば大目玉を食らいそうなものだが、浜面の運転するワゴンは既に五〇メートル先を走っている。
対向車線を走る車に加え、立ち往生したトラックが道を塞ぐ。警備員の車両はひとまず脱落だ。
半蔵「相変わらずすげーテクだな。やっぱお前スカウトして正解だったなあ」
体勢を立て直した半蔵が間延びした声で浜面を賞賛する。浜面はルームミラーで追跡の有無を確認した後
浜面「ははん。どんなもんよ、って言いたいトコなんだけどな…」
半蔵「まだ心配事あんのか?別にGPSで追われてるわけでもないし、さっさとどこかで乗り捨てれば問題なくね?」
浜面「いーや。俺ら顔割れてるし…写真取られてたらアイツが…」
浜面のつぶやきに、半蔵が生唾を飲み込む。浜面の言わんとする所を察したのだろう。
浜面にはブタ箱にブチ込まれたという因縁が、半蔵にはピンクな因縁がある相手―――
彼女が出てくるならば、覚悟を決めなければならないだろう。なにせ、こういう状況を心底楽しむとにかく手強い相手なのだから。
ワゴンは右折左折を繰り返しながら、人目につきにくい場所を目指した。
黄泉川愛穂が運転する車に、標的のワゴンを逃したという連絡が入った。
しかし、追いながら写真を取ることに成功したらしく、今度はハッキリと逃走中の車両強奪犯二名の顔写真、それから車の車種、ナンバープレート等の情報が揃った。
黄泉川は道の脇に車を停車し、情報に目を通す。
黄泉川「浜面仕上に服部半蔵…懲りないねえ」
彼らの盗んだ車の車種は黒のステーションワゴン。形状、ナンバー共に記憶済みだ。
盗まれた場所は第十八学区沿いのマンションの駐車場。被害届はまだ出ていない。
黄泉川は素早く資料に目を通していき、車を見逃した位置から逃走ルートを予測していく。経験上、確実とまでは行かないものの彼らの思考回路を読むことには自信があった。
黄泉川が特殊なカーナビを二、三操作すると、表示されていた第七学区の市街図に赤い線が伸びていく。
黄泉川は薄ら笑いを浮かべて気合を入れなおし、サイドブレーキを降ろした。
盗まれた黒いワゴン車はこのマンションの駐車場に置いておいたもので、架空の人物の持ち物ということになっている。
当然ナンバープレートも偽物であり、車検に出す必要もない。それくらい簡単に法の目は掻い潜れるものだ。
盗まれ、放置され、最終的に警備員の手にわたっても、その不審さを隠すことは十分に可能だった。
故に放っておいても特に問題はない。しかし、暇を持て余していた少年にはイレギュラーこそもってこいの娯楽だった。
上条当麻はコースターに汗を垂らす冷たい麦茶を一口飲んで、ふたたびタブレットの操作に戻る。
アイスココアをストローで吸うフレンダはソファに腰掛け、モニターを眺める手伝いをしていた。
全然使われないこの部屋にも、非常食に各種飲料などの備えがあったらしい。
鳥瞰図を映し出すモニターで、青いアイコンが動いている。アイコンは逃走中のステーションワゴンに積まれた発信機の位置を示していた。
道路に点在する複数の赤い点は設置された監視カメラ。
ビルや店舗の中にも隠しカメラは存在するが管轄が異なるため、この作業で覗けるのは道に設置されたものだけだ。
上条の操作するタブレットに合わせて、モニタに映る監視カメラの映像が切り替わる。
フレンダ「んーだめ」
フレンダはモニタを見つめたまま目を離さず、映しだされた映像にワゴンの姿がないことを伝えた。
上条がタブレットを操作するたびに、次々映像が切り替わっていく。ワゴンはカメラの少ない道を爆走しているため、追うのにも手間がかかる。
が、ルートを予測し先回りした上条が表示させた映像に、直後ワゴンが通りかかった。
目測でも100km/hは超えている。警備員にでも追われているのだろうか。
上条はすぐさまスクリーンショットを二・三枚撮影し、専用のソフトで解像度を上げる。
モニターには、運転する金髪の少年の顔がバッチリと写っていた。
フレンダ「やっぱり…案の定スキルアウトっぽいね、こいつ」
上条「ああ、どうみても真面目ちゃんってガラじゃねえわな」
上条「まぁこれで、もし弾みで殺しちまっても大丈夫ってことがわかった。殺しやしねーけど」
上条は立ち上げておいたPCに情報を転送し、書庫にアクセスして件の人物を特定した。
上条「浜面…しあげか?」
御坂美琴は考えに没頭していたため、避けられた衝突を回避できなかった。
不幸中の幸いか、相手が走ってきたわけではなかったためにお互い無傷で済んだ。
美琴は足元に転がったカバンを拾い上げ、ゲコ太ストラップの無事を確認すると、咄嗟に謝罪した相手の方を見た。
長い黒髪に、人懐っこそうな顔には見覚えが―――
御坂「さ、佐天さんっ!?」
佐天「あっ。御坂さん!もう、ダメじゃないですか余所見して歩いちゃ!」
御坂「ああ、ごめんなさい――って、佐天さんもでしょ…」
ジトーっとした美琴の目線を浴びた佐天がヘラヘラと笑う。それより美琴が気になったのは彼女の体勢の方だ。
この暑い中、路地裏の方から出てきた彼女は四つん這いで地面を歩いてきた。とても正気の沙汰とは思えない。
御坂「それより、なにやってるの…?」
佐天はえ?という顔をしたあと自らを省みて納得したような声を上げ、立ち上がって美琴の側に寄って来た。
そして口に手を添え美琴の耳元で、
佐天「ああ、これですか。実はですね――」
周りに聞かれては困る、というような様子で語り始めた。
御坂「ふーん、マネーカードねえ」
美琴と佐天は、すぐ傍のベンチに並んで腰掛けていた。美琴の手にはヤシの実サイダーが握られている。
佐天は取り出した封筒から金色のカードを取り出し、美琴に見せてきた。
佐天「じゃーん、軽く二〇枚はありますよ?」
佐天がトランプの手札のように広げたカードは、確かに二〇枚ほどの枚数があった。
美琴は感心したようにカードを眺め、直後ハッとしたように一枚のカードを指した。
御坂「ご、五万円!?」
金銭感覚のズレている美琴にも、落ちていたカードが五万円もの額ということには驚いた。
誰かがいたずらで落としたにしては少々額が大きすぎる。
佐天も金額は一々確認していなかったらしく、美琴に続いて大いに驚いていた。
佐天「ど…どど…どうしよーーーっ!御坂さん、あたしお金持ちです!!」
御坂「どうしようって、届けるしかないでしょ」
佐天「あ、あははは…やっぱそうですよね」
佐天は手にいっぱいのカードを名残惜しそうに眺めたあと、確かに額が額なので怖いですし、と付け加えた。
美琴は佐天と同じようにキョロキョロしながら路地から出てくる人々たちに目を向け、
御坂「結構噂が出回っちゃってるみたいね」
佐天「そりゃあそうですよ。なにせ旬な噂ですからね」
佐天は顎に手を添え、楽しげに呟く。美琴は神妙な顔つきで少し考えたあと、
御坂「ねぇ、佐天さん。その噂、カードをばらまいてる側の噂ってない?」
上条当麻とフレンダは、マンションの玄関から表へ出た。下部組織には既に指示を飛ばしてあり、指定したポイントごとに張らせている。車の回収のためだ。
標的が車であることを考えると必然的に上条らも車で追うことになるが、此処から先は盗難車のほうが都合がいい。
警備員やスキルアウトの追いかけっこなら流れ弾を食らうおそれがあるからだ。車はすぐに捨てられる方が都合が良かった。
しかし、逃走中のスキルアウトと違って上条に技術的な泥棒のスキルはない。
上条にあるのは、せいぜい物理的な泥棒のスキルだった。使うものは簡単、力と一枚の小切手だけだ。
上条は抱えていたシルバーのスーツケースをフレンダに持たせ、ちょうど近くのコンビニに停車したスポーツカーに歩み寄った。
日差しを防ぐために幌が閉められた、黒いオープンカーだ。
車から出てきたのは、三〇代前半と思しき細身の男だった。黒縁のメガネをかけ、シワの出来たワイシャツに身を包んでいる。
おそらく、どこかの研究員だろうと上条は当たりをつける。
生活感の感じられない人間は研究職に付いている場合が多いのだ。でなくても、学園都市に暮らす大人は研究者が多い。
上条は車の扉を閉めようとした男を足で強引に席へ戻し、男が声を出す前に銃口を彼の口に突っ込んだ。
上条が握っているのは、細長いサイレンサーが装着してある自動式拳銃だ。
流れるような手際に、フレンダがすご、と賞賛の声を洩らす。
上条はコンビニから死角になるように男の体を蹴ってずらし、銃口で彼の喉をグリグリ押した。
声にならない呻き声が上がるが、当然誰にも聞こえない。男の目尻に涙が浮かんでいた。
波打つ心臓の鼓動が、拳銃越しに上条に伝わってくる。
上条「お前が声を出すより、俺が撃つ方が速い。わかるな?」
為す術もなく組み伏せられたことが、男にプレッシャーを与えたのだろう。男は怯えた顔で銃を気にしながら頷き、小さく両手を上げた。
上条「高そうな車乗ってんじゃん。相当いい研究して甘い汁吸ってるみてえだな」
上条「いいか、騒ぐなよ。このまま黙って家に帰って、このことは他言するな。通報してもいいが、警備員の無力さはテメェらがよく知ってんだろ?」
話を聞いているのかいないのか、青い顔をした男は鼻息を荒げながら小刻みにうなずいた。
上条は気の弱そうなやつでよかったと安堵し、サイレンサーを取り外した本体を左足のホルスターに戻す。
その後ポケットから出した三〇〇〇万分の小切手を、腰の抜けた男の胸ポケットにねじ込んだ。
上条「慰謝料だ。また新しいのでも買ってくれ」
少し時間が経った。故に、気が抜けていたのかもしれない。
浜面仕上はそろそろ車を変えようと思いながら、第七学区の道路を第二二学区沿いに走っていた。
前にも横にも後ろにも、警備員が乗るスポーツカーをベースとした高速車両の姿はない。
この辺りの地理に詳しい浜面は、人気のない場所がどこにあるのか心得ている。とにかく車を変えるために浜面は道を右折した。
その先に、バリケードが展開されていた。
それが何であるのか気づくまでに、浜面と半蔵は約三秒の時間を要した。
ふたりとも、心の何処かで安堵していたのだ。さすがの黄泉川にも、まさか自分たちの逃走ルートが予測できるなんて思わない。
浜面「けどっ!甘いぜ!」
バリケードとワゴンとの間には、まだ四〇メートルほどの間隔が開いている。浜面ならば余裕でUターンできた。
へへっと下卑た笑みを浮かべた浜面がブレーキを踏み込もうとして―――、
突如、真後ろから甲高いサイレン音が響いてきた。振り返らなくてもわかる、背後に光るのは赤色灯。
警備員の高速車両が三台、感覚を三〇メートルほど開けた後方から走ってきていた。ブレーキを踏めばニ・三秒で追いつかれてしまう。
それはつまり、ブタ箱に逆戻りすることを意味している。
うろたえる二人の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。見れば、バリケードの隣に建っていた女性警備員がメガホンを掲げて仁王立ちしている。
『浜面仕上!服部半蔵!大人しく捕まるじゃんよ!こってり絞ってやるからなーーーッ!』
半蔵「黄泉川!?前も後ろも大ピンチ!?おい浜面どうすんだよこれ!!」
浜面「どうするたってお前」
浜面はちょっと考え、
浜面「突っ込みますか」
浜面はハンドルを握り直し、覚悟を決めた顔でアクセルを力いっぱい踏み込んだ。
スピードメーターの針が一〇〇を超え、一一〇を超え、一二〇を超える。
突然のワゴンの奇行を予想していなかった警備員達が、慌ててバリケードから飛び退いていく。
命の心配はいらねえな、と浜面が笑った。
前方の白い衝撃緩衝マットのようなバリケードの奥に、急ごしらえで停車した高速車両が三・四台。
バリケードを突破しても横向けに停車されたスポーツカーが道を塞ぐという仕組みだ。
まともな神経をしている者ならば追突を恐れて突っ込んだりしないだろう。だが、車の盗難なんてセコい事をする人間にまともな神経を期待してはいけない。
浜面はやけになるというよりは勝機があるといった表情で、一切スピードを緩めることをしなかった。
ステーションワゴンの速度が140km/hに到達した直後―――バリケートが脇のロボットごと薙ぎ払われ、カラーコーンや標識がまとめて吹き飛んだ。
そもそも、犯罪の殆どを少年犯罪が占めるこの学園都市に、犯人を即死させるようなバリケードはない。
犯人を安全に確保するためのバリケードなのだ。高速で突っ込んでくるワゴン車とぶつかれば、結果は火を見るより明らかだった。
浜面が気にしていたのは、むしろその奥に止められた車のほうだ。運悪くエンジンに引火すれば大爆発という事態もありうる。
浜面は自分のハンドルさばきを信じ、バリケードの奥を突き進んだ。
視線の先に、あった。少々狭いが、ワゴンが通れるほどの隙間がある。位置を調節している暇がなかったのだろう。車と車の間がすっぽり開いていた。
黒いステーションワゴンは緩衝マットを踏み越え、停められた高速車両の鼻先にぶつかり、尻にぶつかり、バンパーの部品を散らしながらも一気にバリケードを突破した。
半蔵「すげーすげー!すげーよ浜面!」
衝撃で頭を打った半蔵が赤いデコをさすりながら興奮した声を上げた!浜面はようやく安堵した笑みで笑い、窓を開け
浜面「じゃあなーっ黄泉川!!」
親指を立てて突き出し、再びアクセルを踏み込んだ。
今回は少し長め。ここまでです。
おはよう。今日も夜更新するのでよろしく
さあ投下しますよい
白井黒子と婚后光子は運ばれてきたランチを食べ終え、第七学区の通りを歩いていた。
婚后は街の様子をお上りさんみたいにキョロキョロと眺め、結構楽しそうにしていた。
白井は高飛車な婚后の意外な一面に苦笑しながら、
白井「せっかくだから今日は一日付き合ってあげますわ。どこか行きたい場所はないんですの?」
不意に声をかけられた婚后はハッとしたように振り返り、
婚后「じ、じゃあ…ペットショップなんか」
外面を忘れて素直に答えた。直後、一瞬で顔を染め扇子をブワッと開くと、
婚后「あ、案内させてあげましてよ!」
無理やり取り繕っては体裁を保とうとしていた。
白井はいちいち突っ込むのも野暮だと考え、近くにペットショップがないか吟味を始める。
生憎白井も同居人である美琴もペットは飼わないのでそういった店には縁がない。
美琴は猫(やカエル?)が好きらしいのだが、能力の関係上嫌われているらしく飼うことはできないのだとか。
職業柄地理に詳しい白井だが、脳内検索の結果ペットショップは記憶になかった。
白井「そうですわね、生憎ペットショップは行く機会がないんですが…」
白井「付き合うと言い出したのはわたくしですから探してみますの、まだお昼すぎですし」
通りかかった道のそばにある時計台は、一四時を指し示していた。門限までにはまだ十分な時間がある。
私情を職務に挟むのはいただけないが、今回は調べ物がはやい友人に頼み事をするだけだ。
白井は素直に礼を言う婚后をからかうように制すと、同僚の初春飾利へ電話をかけた。
初春飾利は、同僚であり先輩である固法美偉、そして佐天と美琴を加えた四人でお茶を飲んでいた。
場所は第七学区の某雑居ビルの中に位置する、風紀委員第一七七支部。
美琴と佐天はつい一〇分ほど前に支部を訪ねてきたばかりだ。四人はお茶を囲いながら、美琴と佐天が持ってきたカードについて話していた。
美琴「じゃあやっぱり噂は――」
初春「ええ、もう五・六〇件近く報告が入っていまして…。まぁ実際には報告がきていない件数のほうが多いと思います」
台の脇に置かれた小型のノートPCに目をやりながら答える初春に、固法が付け加えて、
固法「しかも場所はこの第七学区だけ。カードの金額はまちまちで下は千円くらいから上は五万円まで、決まって人通りの少ないところに置かれているの」
初春「さらに届けられたマネーカードは全て本物なんです」
美琴は情報を吟味し、
美琴「…いたずらにしてはちょっと手が込みすぎてるわね」
佐天「たしかに、そんな話を聞いたら御坂さんの言うとおりバラ撒いてる側のことが気になりますね」
固法「ええ」
四人がそれぞれ頭のなかの情報を整理し、部屋に少しの沈黙が訪れる。
と、そこへ携帯の着信音が割り込んだ。パソコンのキーボードの隣に置かれたその携帯は、初春飾利の持ち物だ。
初春は携帯を手に取り、白井さんですと呟いた後通話に応じた。
初春「はい、白井さんどうかしたんですか?」
白井「え、マネーカード?なんですの、それ」
白井は、通話に応じた初春から唐突にマネーカードでも拾ったんですかと尋ねられやや面食らう。
なんのことだかわからない白井は違いますの、とだけ答え、早々に本題を切り出した。
白井「ええ、ですからそれを調べて欲しいんですの」
白井「あーそうですわね、大きい店のほうがいいですわ」
その後二・三言い合い電話を切った白井の携帯端末に、初春飾利から情報が転送されてくる。
目を通すと、ここから四〇〇メートル程先の地点に印が入っていた。
…
ペットショップ『ONE POINT』は、八階建ての円柱ビルの一階に店を構えていた。
巨大なバームクーヘンを切り分けたような店内はゆるやかに湾曲していて、ガラス張りの壁から中を覗ける造りになっている。
広々とした店内には小動物から昆虫まで、あらゆる生き物の飼育がなされていた。
婚后は予想よりも広々とした店内にはしゃぎっぱなしで、白井の元を離れては自由に店内を飛び回っていた。
白井は婚后を放置し、一人で店内をぐるりと回っている。
通りかかった先の籠の中で、茶色のハムスターが回し車を走っていた。白井はいつの間にか傍に戻ってきた婚后とハムスターを交互に見比べ、
白井「貴女が飼っているのはハムスターなんですの?」
婚后はカラカラと音を立てて走る小さなハムスターに目をやり、可愛いですわねと微笑むと、やがて首を横に振った。
婚后「いいえ、わたくしが飼っているのはエカテリーナちゃん。ニシキ蛇ですわ」
そうして、手に捧げ持っていた袋を白井に見せてきた。
真空パックに詰められた、白い塊は…
白井「ひっ!?…ハムスター」
顔を青くして怯える白井を気にせず、婚后は続ける。
婚后「丸々っとしていいボリュームでしょう?エカテリーナちゃんったらわたくしに似て味の好みが繊細で。いつものお店ばっかりだとマンネリ化してしまいそうですから」
突き抜けるように青い空の下を、改造を終えた一台の黒いロードスターが駆け抜けていく。
パッと見ただけでも高級車であることが窺えるようなスポーツカーだ。
人一人寝そべれそうなほど広いボンネットは空気抵抗を削るように穏やかな丸みを帯びていて、ツヤのある光沢が太陽の光をキラキラと反射していた。
第二二学区沿いの道は人通りも多くない。車は道の上を、第一〇学区に向けた方向に爆走中。速度は180km/hにも登っていた。
左ハンドルの運転席に乗るのは上条当麻で、現在は青みがかったスポーティなサングラスで目を覆っている。
幌(ホロ)の閉じられた車内は意外に静かで、会話も十分に可能だった。高そうなカーナビに表示された青いアイコンまで、およそ30km。
いうまでもなく青いアイコンは逃走中の青いワゴンだ。もっとも、彼らに逃げているつもりはないだろう。なにせ発信機が付けられていることに気がつくはずもないのだから。
上条は楽しそうにキョロキョロと窓の外を眺めるフレンダに意地の悪そうな笑みで笑いかけ、
上条「左ハンドルって運転したことなかったけど、意外とどうにでもなるもんだな」
フレンダ「ちょっとちょっとッッ!!いきなり不安になった!!」
青ざめた顔でシートベルトを締めるフレンダ。実際にこの速度で事故が起きれば、そんなちゃちなシロモノでは身を守れまい。
無駄無駄、と上条が笑うと、フレンダも冗談っぽく下ろしてーと笑う。
彼女は上条を信用しているらしいが、実際彼は本当に左ハンドルの経験がない。
今のところ特に目立ったトラブルはないが、そもそも左側通行の日本には向いていない車だという事実は変わらない。
上条はせめて注意を払って運転しようと、カスタムされた細い木製ハンドルを握り直した。漆でも塗って有りそうなハンドルはツヤツヤしており、いかにも高そうな感じだ。
上条は、一々金をかけた内装にいかにも成金趣味だなと苦笑する。
と、直後。二人がけの狭い車内に、無線機から下部組織の声が響いた。
なんでも、逃走中のステーションワゴンが警備員と激しいバトルを繰り広げているらしい。
フレンダ「なんか映画みたいだね」
上条「だな。でもちょっと面倒くせぞ…、よっぽど下手な手でも打ったんだろうな。対応が早過ぎる」
上条は車のポケットから缶コーヒーを引きぬき、片手で一口。車を盗んだついでにコンビニで買ったものだ。
右利きなら戸惑う場面だが、上条は能力の都合上両利きなので不便はない。
とにかく、警備員に追われるハメになるのはなんとしても避けたい。
警備員は学校教員で組織される治安維持部隊だが、まさか運悪く上条の知り合いが派遣されていることはないだろう。
とは思うが、念の為に細心の注意は払っておかなければなるまい。サングラスは変装の一環だ。
上条は持ってきたスーツケースに入ったサングラスをフレンダにも着用するよう促す。
少しして、ルームミラー越しに助手席を覗きこんだ上条が―――、
直後、黒いロードスターが左右に激しく揺れた。
次は婚后が白井の買い物に付き合うと言い出したため、二人は第七学区の大通りにいた。
夏休みも中盤、八月一〇日。
大通りは活気に溢れ、中高生をメインとしながら沢山の人で溢れていた。
学舎の園も賑わってはいたが、やはり外には比較にならないほど大勢の人間がいる。
婚后は未だ落ち着きもなく、あそこにはなにがありますの?だの、あそこはどうして?だの完全なお上りさん状態だ。
常盤台中学ということも相まって、一人にしては心配だと白井は思う。
仲こそ良くないものの、別に互いが互いを嫌っているわけではないのだ。友人とは呼ばないが、互いの心配くらいはする。
白井はとにかくセブンスミストへ入ることにした。ここから約二〇〇メートル足らずの場所にあるためとりあえず落ち着ける。
外はまだかなり暑かったし、一度休んでおきたかった。
白井が促し、二人は道を逸れちょっとした裏路地に入る。風紀委員の仕事を長くやっていれば、自ずと近道の知識も入るという寸法だ。
ジメジメとした空気が、逆に二人には心地よかった。うだるような熱気に比べればずいぶん涼しく快適だ。
二人は何度も枝分かれする道を進む。
婚后「こういった道はわたくし初めてですわ」
婚后はビルの屋上と屋上から差し込む細い光を仰ぎ見ながら呟いた。
白井「それがいいですわ。こんな道に一人で入ってトラブルに巻き込まれる、なんて事件が風紀委員にはよく舞い込んできますから」
婚后「風紀委員も大変ですのね…」
路地裏は人通りも少なく、場所によっては人がいない。ゆえに、そういった場所を好む連中が集まりやすいのだ。
ふとしたきっかけでそこに迷い込めば、必ず連中の標的にされてしまう。
白井が学園都市の治安を嘆いたところで、突如、二人の耳に危険を訴える叫びが聞こえてきた。
バンパーが外れ、ヒビの入ったヘッドライトが突出しているとう奇妙なワゴン車は、チラホラと通行人たちの視線を集めながら走っている。
誰もが見て連想するのは事故の後だろう。浜面仕上は辟易としながら奇異の目を避ける。
警備員(ヨミカワアイホ)はまだ追ってこない。
半蔵「なあ浜面、早いとこ車変えてアジトにとんずらしようぜ」
黒いバンダナを締め直しながら、半蔵が言う。浜面も同意見だったためにうなずき、
浜面「ああ。別にアジトが割れてるわけじゃねえし、さっさと逃げてしばらくほとぼり冷ましてればまたお日様の下歩けるしな」
この際人に見られるのはいい。
車泥棒で通報されようが、このままの目立つ車よりはずっとマシだ。車はいくらでも転がっているし、何度だって乗り換えられる。
最終的に見つからずにアジトに辿り着けばいいのだ。
浜面はハンドルを切って、路地の陰になるパーキングに乱暴に車を停めた。キュィィィーと間の抜けた音がなる。
無理な走りを続けてきたせいか、まだ新しかった車にガタが来始めていた。今にも煙を噴きそうな勢いだ。
浜面と半蔵はそそくさと車から降り、マネーカードや荷物を下ろす。
半蔵はドアポケットから取り出したレディースガンを懐に忍ばせる。
浜面「なんだー?それ、思いっきりレディース用じゃん」
半蔵が取り出したシルバーボディの拳銃は、グリップが拳の半分ほどまでしかない。
とても使いやすいようには見えない。
半蔵は浜面の顔とレディースガンを交互に見比べたあと、
半蔵「良いだろ、別に。武器なんて使いづらいくらいぐらいがちょうど良いんだ。手に馴染みすぎると、余計な血を流しちまう」
ふーん、と浜面。この間まで強そうという理由でマグナムに三点バーストをつけていた男のセリフがこれだ。
人って変わるもんだなーとしんみり思っていた浜面だが、そろそろ行動を起こさないとヤバイ。
幸い、鉄柵に囲まれたパーキングエリアには車こそたくさんあったが人は一人もいなかった。裏路地に面している場所だから車を停めた人間も長居はしないのだろう。
浜面と半蔵は荷物を手分けし、一番近くにあったブルーのミニバンに目をつける。が、今後のことを考えると小回りの利く車のほうが都合がいい。
と、そこへ…。
半蔵「お、おい浜面…あれ、あれにしようぜ」
恐る恐る、といった声で半蔵が五列ほど奥にある黒い車を指さして言った。
浜面は荷物の中のツールケースから針金を取り出しながらテキトーに車を眺め、
浜面「バーカ。小回りが利くほうがいいんだよ。あれはデカすぎ―――――ッッ!?」
突然浜面は口を開けたまま動かなくなる。半蔵は浜面をちらりと一瞥し、な?な?と彼を促す。
浜面「…ま、マイバッハ」
黒く光沢する高級車の名前を口にし、半蔵の言わんとする所を察する浜面。
超のつく高級車がこんな辺鄙な場所に停めてある理由などどうでもいい。これを盗んで、更に上手く事が運び逃げおおせることができたなら、晴れて浜面達スキルアウトは大金持ちだ。
当面は資金の問題に困ることもないだろう。途端に浜面たちはマネーカードのことなどどうでも良くなった。
浜面は道具ケースを持ち出し、
浜面「よ…ようし、や、やってやる!」
震える声で妙な決意を胸に宿した。流れで半蔵は見張り役として辺りを見回す。その間に、浜面が持ち前のテクニックでドアをこじ開けるというわけだ。
別にマスターキーを持っているわけではないので、少し時間がかかるというのが難点だ。
その隙に警備員がこないとも限らない。浜面はツールケースから取り出した細さの異なる数本の針金を巧みに扱い、マイバッハの鍵穴と格闘を始めた。
その時だ。
半蔵が何かを叫んだと思ったら、浜面が振り返った約五〇メートルほど先に、一人の少年が立っていた。
彼は言う。
「おい兄ちゃんたち、オレにはお前らがコソコソ根性の足りてねぇことをやってるようにみえるんだが…」
バォォォ!!と、耳をふさぎたくなるようなブレーキ音が辺りに鳴り響く。
軽く100km/hを超えた速度で走る車は、道を曲がるだけでも一苦労だ。揺れる車内で舌を噛まないように、二人は細心の注意を払う。
カーナビゲーションに表示されていたブルーのアイコンが止まったまま、うごかない。
乗り捨てられたと考えるのが自然だろう。もちろんそれで見失うことはないだろうが、面倒くさくなることは事実だ。
早くその場に赴くしかない。
上条はもう安全な道は選ばず、裏道だろうが大通りだろうがとにかく最短距離を最速で走る。
アイコンとの距離、残り五〇〇メートル。
最初こそ道を曲がる度にワイパーを動かし、クラクションを鳴らされ、右折に手間取っていた上条だが、もう左ハンドルにも随分慣れ始めていた。
第二二学区から垂直に第一五学区に向けて伸びるこの道は上条の学生寮に近い。地理は地球上のどこよりも詳しい。
フレンダは揺れが落ち着いてきた車内でスーツケースを開けた。かなり大きめのケースの中には調達した武器類が敷きつめられている。
上条はこれからを想定し、幌の開閉スイッチに手を伸ばした。
小さな駆動音の後屋根が取り払われ、轟!!という風が吹く。外の音がより大きく聞こえ、日差しが当たるものの体感温度は幾分か涼しかった。
この道を右折すれば、ポイントはもうすぐそこだ。
上条はハンドルを切り、キュォォという轟音にも耳を貸さず車を爆進させた。
二人が駆けつけた先には、一人の女子学生が数人の男達に囲まれているという危険な光景が広がっていた。
突如虚空から現れた二人の女子中学生に、男達が目を丸くする。普段外で能力を行使することは禁止されているが、緊急時は仕方がない。
男達は二人の少女をまじまじと見つめ、やがて一人の男が
不良A「チッ…風紀委員。しかもテレポーターか」
白井が袖口につけた腕章を見ながら、忌々しげに言った。
男達は五人。手に鉄パイプやナイフの類を持っているところからすると、おそらく無能力者か低能力者だろう。
白井は腕章を見せつけるように構え、
白井「風紀委員ですの。暴行未遂の現行犯で拘束しますの!!」
大勢の敵に怯むことなく言い放った。
婚后も覚悟を決めたのか怯えた様子はなく、普段の高圧的な態度で余裕を崩さない。
むしろ怯えているのは二人の制服を見た不良たちの方だった。だが、彼らは決してそれを認めないだろう。
男達はそれぞれ武器を握り直し、吼えるようにして二人に食いかかった。
不良B「たった二人に何ができる!こちとら路地裏で喧嘩の毎日、中学生ごときが――ふがっ!!」
ほとんど飛びかかるようにして襲ってきた男の足を、白井はいともたやすく蹴り払う。
それだけで男はバランスを失い、派手に地面を頭にぶつけた。力の抜けた男の手からサバイバルナイフが抜け落ちる。
不良C「ごばっ!?」
次は鉄パイプを勢い良く振り上げた男の鳩尾に、飛んできたレンガが刺ささる。レンガは地面のいたるところに落ちていたものだ。
風の噴射点を与えられたレンガはものすごい速さで飛んでいく。婚后の能力『空力使い』だ。
不良A「くっそ!ふざけてんじゃ――!」
婚后は気配を察知し素早く振り返ると、背後からにじり寄ってきた大柄な男の下っ腹に触れた。きれいな白い彼女の手が触れた部分に、風の噴射点ができる。
不良A「なんだよこれ――なんだよこれぇぇええええ」
次の瞬間男の巨体はまるでロケットのように飛ばされ、二メートル先のビルの壁に激突した。
白井「貴女、少々やり過ぎではありませんの?」
白井は言葉とは裏腹にほんの少しだけ笑みを浮かべて告げる。
婚后は広げていた扇子を閉じ、それで地面に縫い付けられている他の男達を指した。同じく、笑みを浮かべながら、
婚后「あーら白井さん。それはご自分におっしゃったほうがよろしいんじゃなくって?身体測定の鬱憤が溜まっていたのかしら」
二人は不敵に笑いあい、やがて同時に目をそらす。決して仲が良いわけではないのだから。
ほぼ無意識に、浜面仕上は立ち上がる。目の前に現れた少年に、どこか恐怖のようなものを感じ取ったからだ。
野生の勘のようなものだろうか。
とにかく、目の前に立ちはだかった少年はヤバイと浜面の本能が言う。
半蔵は最初の一撃で確実に倒せる相手以外とは戦わない男で、危機を察知することに関して浜面よりずっと上だ。彼が拳銃を抜かないということは、恐らく勝ち目がないということ。
路地裏のルールというものがある。生き死ににこだわりたければ、勝ち負けは捨てろ。
浜面も半蔵もこんなつまらないことで死ぬわけにはいかない。
二人はほぼ同時に、捨てたはずのワゴン車へ向かうべく大地を蹴った。ツールケースも荷物も全て放置したままだ。
幸いマネーカードだけは懐に収まっていたが、二人の頭には逃げることしかない。二人はほとんど飛び込むようにして車に乗り込む。
浜面はドアの開閉も気にしないままエンジンを入れ、アクセルを底まで踏み込んだ。
ズザザザァァとタイヤが空回る音がして、直後車が急発進した。何かを踏んでいたのかもしれない。
突如発進したワゴンを前にして、目の前の少年がややたじろぐ。
ハンドルを切らなければ三秒もしないうちに目の前の少年が吹き飛ぶだろうが、当然浜面はハンドルを切らない。
情けをかければやられるのは自分たちの方だ。
浜面はただアクセルを踏みしめたまま、来るべき衝撃に備えぐっとハンドルに身を寄せた。
「な…なに!?おい、オレを轢き殺す気かーーーッ!!」
と死の淵でも元気な少年。
風の煽りを受けた彼の白い学ランがふわっと開き、中に着ていた旭日旗のTシャツが露わになる。
この暑い中暑苦しそうな少年は、白いハチマキをしていた。髪は無造作にハネていて、パッと見昭和の番長のようだ。
見覚えがない少年を不審に思いながらも、浜面は心のなかで彼に合掌する。
直後、70km/hに到達したワゴンが少年と派手な邂逅を果たした。ゴバンと鈍い音がして、少年の身体は竹とんぼのように回転しながら飛んで行く。
即死か、かろうじて息がある程度だろう。浜面は自分なら死んだだろうなと思った。
が、ドアミラーに映った彼は、ズルズルと滑りながらも立っている。両の拳を握り、身体を軽く丸めながらも二本足で立っていた。
浜面「野郎ッッ!?やっぱ能力者か――!!」
「やったなァァぁぁあああああああッッ!!」
直後、少年の周囲で正体不明の派手な爆発が起き、周りに停められていた車がズルズル動かされ、彼を中心とした妙なサークルが出来上がる。
ちなみにマイバッハの窓なんかはモロに割れた。
彼の背後から赤青黄色の煙がモクモクと上がる。ハッキリ言ってかなり元気そうだった。
少年はいつの間にか速度をゆるめていたワゴンにビシッと指を指し、
「おい兄ちゃん達、いきなり人をひき殺そうなんて根性なしな真似するじゃねぇか」
「これからこのナンバーセブン削板軍覇がお前らに本物の根性を見せてやる!!」
言うやいなや、削板軍覇はほとんどテレポーターのような動きでワゴン車の後ろに出現した。
慣性に従ってなびく彼の学ランが、それがものすごい速さの移動だということを伝える。
削板とワゴンまでの距離は三〇メートル弱。彼の速度なら一秒もかからないんじゃないかと浜面は思う。
が、削板がワゴン車に追い付くことはなかった。
浜面達の後ろ、さらに削板の後ろから猛スピードで走ってきたフロントの長いスポーツカーが、再び彼の身体をボールのようにブッ飛ばしたからだ。
まともな人間ならブレーキを踏むタイミングでそうしなかったということは、運転手にそうしようという意志があったことになる。
削板はワゴンとは比較にならないほどのスピードの追突を受け、立ったまま耐えぬくことはできなかったものの、転がった体勢からすぐに立ち上がった。
少なくとも彼は身体が丈夫とかいう次元にはない。不死身といっていいかもしれない。
削板はまるでこけた時のように腰を払うと、新参のスポーツカーに目を向け、
削板「上条ォォぉぉおおおお!!」
咆哮し、また再び彼の周りで派手な爆発が巻き起こった。ドドーーンという轟音に辺りが震え、モクモクとカラフルな煙が上がる。
スポーツカーの運転手は左側の運転席を開けて身を乗り出すと、
「久しぶりだな軍覇」
今まさにひき殺そうとした相手に親しげに語りかけた。
突然の事態の好転にやや面食らっていた浜面だが、やがてハッとしたように前に向き直り、アクセルを踏んだ。
この混乱に乗じて逃げる他にない。
浜面と半蔵はしばし呼吸を忘れて、無我夢中でその場を去っていく。
上条は指示を仰ぐようなフレンダの視線を手で制し、そこに座ったままでいいと告げた。
ただし、車がやられそうになったらすぐに飛び退くようにと付け加える。
上条はとにかく目の前の強敵に全神経を注ぐ。
上条「なんでテメェがここにいんだよ」
削板は力のこもった目で上条を見据え、
削板「相変わらずだな上条。いきなり人を後ろから吹き飛ばしておいてそれか。すげぇな、すげぇ根性なしだ」
上条と削板は、中学に上がったばかりの頃出会った。
まだ個人組織を持っていなかった上条は今のように裕福ではなく、スキルアウトを襲っては金を盗み、車を盗んでは足にしていた。
いつ、何をしている時に出会ったのか、上条はもう覚えていない。
ただとんでもなく悪いタイミングで出会い、正義感の強い削板の反感を買い、激戦の末ねじ伏せられた覚えがあった。
いまだに上条は彼が何者なのか知らない。調べれば済むことだが、彼は調べようとしなかった。
なんでもわかってしまえば面白くない。上条はただ自由に、この街での波瀾万丈な日常を楽しめればそれでよかった。
彼の名前は削板軍覇。知っていることはそれだけでいい。
上条「根性根性古くせぇんだよ、久々に勝負したいところだけど今日の俺には時間がねえ」
上条はホルスターからサイレンサー付きの拳銃を取り出し、サッと構えた。
そのまま車に乗り込み、銃を握った左手だけをドアから出す。オープンカーはこういう時都合がいいなと上条は思う。
削板は拳銃で撃っても対して効かないし、本気になれば軽々と銃弾を避ける。
上条は片手のハンドリングで車を急発進させ、パンパンパンパン!!と数発連続射撃した。
削板「よっこいせーっと」
次の瞬間、削板を中心とした謎の爆発が銃弾を吹き飛ばす。
そういやそんな能力があったな、と上条も舌を巻く。
フレンダが隣で騒いでいるが、上条に構う余裕はない。上条はスーツケースから乱暴に手榴弾を取り出すと口でピンを外し、削板に向かって放った。
削板「効かーーーんっ!」
削板は並外れた動体視力で手榴弾を掴み取ると、目にも留まらぬ早さで自分の後ろへ投げ捨てた。
後ろが駐車場であることも忘れて。
次の瞬間、青いミニバンの下に転がり込んだ手榴弾が爆発し、周囲の車を次々に巻き込んだ超大規模爆発が発生した。
ドドドドドーーンという轟音が轟く頃には噴火したような火の手が上がり、モクモクと黒い煙が上がる。鉄柵は溶けたようにひしゃげ、ガラスの弾ける音が響く。
爆発は金属片を散らしながら、未だに収まる気配がない。
削板は風の煽りを受けて五、六メートル近く吹き飛ばされた。
同じく上条達の乗るスポーツカーにも爆風が襲いかかるが、重量がある分削板よりはマシだった。
上条はすぐに立ち上がろうとする削板に容赦なくスタングレネードを放る。
削板「くそ!根性なしめ!小細工ばっかり使いやがって―――
爆発を予期した削板がより強い爆発で身を守ろうとするが、缶から飛び出したのは眩しい閃光と轟音だ。
削板は目を焼かれ、しばし行動不能になる。
余裕はない。削板の最高速度は上条の乗るロードスターをはるかに上回る。上条は動けない削板をドアミラー越しに遠慮無く射撃しながら、底までぐいぐいアクセルを踏み込んだ。
フレンダ「~ッ!?アイツなんで生きてる訳!?」
上条「アイツは不死身なんだよ。核兵器が降ってきてもケロリとしてるぜ、きっと」
だから遠慮なしに喧嘩できる、と上条は笑い、拳銃を戻して車を再加速させた。
黄泉川愛穂は同僚からの連絡を受け、表情を歪めた。
自分が待ちぶせていたよりも少し前の地点で、爆発による火災が発生したとのこと。
浜面たちの仕業だろうか、と黄泉川は思うが、にしてもわざわざ注意をひくようなことをするとも思えない。
結論として、黄泉川の意見は関係ないだろう、だった。
だが一応見に行ったほうがいいかもしれない。なにせ、場所は駐車場。足がかりくらいは掴めるかもしれない。
黄泉川は車にエンジンを入れ、フラフープのように大きなハンドルを回す。
直後、彼女の車の後方をボロボロのワゴンが通り抜けた。
婚后光子は路地裏で、白井の仕事ぶりを感心したような表情で眺めていた。
普段からキチンとしている白井だが、腕章をつけて働くさまはいつものそれとは少し違って、少々大人びて見える。
能力に頼らない格闘術を用いた戦闘は素人目にも鮮やかに映った。
携帯を持った白井は、どうやらスキルアウト達を引き渡すため応援を呼んでいるらしい。
なんとなくボーッとしていた婚后は、路地の向こうが何やら騒がしいことに気づいた。
路地の向こう――正確には表通りの方だ。
婚后は白井に声をかけようかと思ったが、彼女が通話中であったためひとりでその場に向かうことにした。
明るい場所に近づいていくに連れ、野次馬の声も大きくなる。
婚后は何事かと思ってスピードを速め、ようやく路地を抜けきった。暗がりから急に表へ出たせいか、日差しを随分眩しく感じる。
道にはかなりの人だかりができていて、彼らの視線の先には黒いオープンカーが一台。一〇〇メートルほど先に見えていた。
結構な速度でこちらへ向かってきている。
それだけなら別に注目をあびることはないだろう。異様なのは、オープンカーの助手席で後ろを向いて立っている男性の姿だ。
左側の運転席にはサングラスで顔を隠した金髪の少女の姿がある。
更におどろくべきことに、その車の背後から車と同じ速度で走ってくる人間がいた。
上条「おーいいぞフレンダ、やりゃあ人間なんでもできるもんだな」
上条は助手席に立ち、運転席のフレンダをチラッと一瞥して褒め称えた。
右下から年の割には子供っぽい声が無理無理言っているができている。
上条はしばらく直線は任せていいだろうと適当に判断し、今度こそ後ろを駆けてくる削板に全神経を集中させた。
周りの人間が何やら見てくるが、サングラスの変装はバッチリだろう。犯罪の目撃だのそういうことに頭を悩ますのは上と下っ端の人間だ。上条じゃない。
上条はせめて銃を隠し、素手で構えた。時速100km/hの車は背後からものすごい煽りを上条に与えるが、彼は脚力で持ちこたえる。
削板はなにか大きな声で叫ぶと、拳を後ろに大きく引いた。届くはずもないパンチの構え。
しかし、この攻撃を幾度となく受けてきた上条にはわかる。
削板「すごいパーンチ!!」
バカみたい名前のパンチは、バカみたいな威力を持って上条を襲ってきた。
超能力のくせに理屈もクソもないところは、上条とかなり似通っている。
上条はなんの迷いもなく自身の前に右手を開く。すると、パキィィィンというガラスの弾ける音とともに何らかの異能の力がはじけ飛んだ。
すべての余波を消しきらなかったため、スポーツカーがぐらりと揺れる。
フレンダはビビってブレーキを踏むこともしなければ、ハンドルを滅茶苦茶に切ったりもしなかった。
グラグラ揺れた車も平常運行を続ける。
大した初心者だ、と上条が笑う。削板は久しぶりの喧嘩を楽しんでいるらしく、強引に距離を詰めてくることなく次の技の構えを見せた。
と、そこへ。
不意に横合いの風景から、一人の常盤台生が躍り出た。なにやら扇子を広げて言っているが、風の音で聞こえない。
なんとなく二人が視線を奪われた先にいる少女は、身近にあった運行中の清掃ロボットに手を伸ばし、
直後、その細腕でそれをこちらへ投げ飛ばしてきた。
削板「根性のある姉ちゃんだな」
上条「根性?能力だろありゃあ」
どうやら往来でのスピード違反、能力使用の喧嘩に憤っているらしい。大した正義感だと上条は思う。
ものすごい速さで迫ってくる清掃ロボットは、まっすぐ上条に向かって進んできた。
例えば第三位の電撃、第四位の原子崩しなら右手で触れてそれまでだが、これは少しわけが違う。
右手で触れたところで骨を折るだけだ。
上条はすぐさま左足のつま先をシートの頭部へ突っ込む。座席の頭の部分にはドーナツのような穴が開いており、つま先が食い込めるスペースが有った。
上条は不安定ながらも突っ込んだ左足を軸にして立ち上がり、右後ろに身体をひねる。
そして、猛スピードで迫ってきた清掃ロボをサッカーぼるのように蹴飛ばした。
バコンッと音がして、まっすぐに飛んでいた清掃ロボに回転が加わる。上条はつけすぎた勢いから軸足が抜け空中で一回転し、やがて助手席に尻から沈んだ。
逆向きに吹っ飛ばされた清掃ロボは煙を吹きながら、今度は削板に向かって飛んで行く。
フレンダ「もうリーダーすごすぎ!命いくつあっても足りないから!!あ、でも運転代わって!?」
フレンダは支離滅裂な言葉で賞賛とも取れる言葉を並べ、早くと促す。だが、削板があれくらいでくたばるはずもない。
上条はヤバくなったら停めてもいいからとフレンダの頭に手を置き、やがて立ち上がる。
どうやったのか、丸焦げになった清掃ロボットは走る削板の遥か後方に転がっていた。
削板はまだ一〇メートル後ろを楽しそうに走っている。
上条は今度こそどうやって削板を引き離そうか考え―――、
直後、道の脇から走ってきた巨漢が削板と上条の間に割って入ってきた。
「俺は内蔵潰しの横須賀。勝負だナンバーセ―――べふぉっ!?」
割って入ってきて、都市型モンスター横須賀と削板は派手に衝突し、もみくちゃになりながらアスファルトの上を転がった。
上条「あー、フレンダ。運転代われそう」
今日はここまでだ!
ごめん。書き溜めの時間取れなかった。本当は今日八月一〇日終わらせたかったんだけど
実は昨日一日書き溜めた貯金があるから、今日はカーチェイス終了までを投下します
誤字を直しながら投下するので、間隔遅いかも。投下ー
婚后「…う、うそ」
婚后光子は呆然とその場に立ち尽くしていた。これは、いままでに経験のない手応えだった。
常盤台にも四七人しかいない大能力者の一人である婚后の一撃が、あっさりと、それもただの蹴りでいなされた。
確かに婚后の能力には幅がある。
飛ばすものが小石なら石を強くぶつける程度の威力しかないし、大型トラックならとんでもない威力になる。
だが、いままで攻撃を止められたためしがなかったためにショックは大きい。
婚后は背後から呼びかけてくる白井の声に気づくまで少しの時間を要した。
婚后「あ…白井さん」
白井はようやく振り返った婚后の顔を訝しめに見つめ、直後ハッとしたように彼女の隣に並んだ。
白井「一体何が…」
少し先の道の真中で派手に清掃ロボが爆破し、小さな炎をあげていた。
野次馬たちが集まり、ザワザワと話し込んでいる。
白井はサッと再び腕章をはめ直すと、人だかりのできた道路に駆け出していった。
「ったく俺を遊びにこき使うとは、『幻想殺し』の奴…」
「俺はいつから『切り札』の便利屋になっちまったんだ」
男は己の背丈に届きそうなほどの長いゴルフバックを肩にかけ、溢れる群衆の中を歩いて行く。
集団に身を隠すことを得意とする彼は特に注目されることなく、とあるビルの前に辿り着いた。
地上から約一七〇メートルほどの高さの超高層ビルだ。最上階は四二階。
まわりに弊害になる建物がないため、彼にはうってつけの場所だった。
ゴルフバックは格好に似合わない不審な荷物に見えるかもしれないがなんとかなるだろう。
おそらく職務質問される恐れもない。
なぜなら、いま警備員は街中で起きている複数の事件で手一杯だからだ。
・マネーカード騒ぎ(また、それに伴う路地裏での抗争)
・スキルアウトによる自動車の盗難
・駐車場の火災騒動
くわえて、路上で爆発した清掃ロボット。
相変わらず滅茶苦茶な街だ、と彼は笑う。笑いながら、非常階段を上に登っていった。
カツカツと響く音はビルの中へは入らない。故に邪魔される心配もない。
男は少し重いゴルフバックを担ぎ直し、腕が落ちてなければいいがな、と呟いた。
男はサングラスの奥の目を細め周囲に人影がないか見渡すと、三階から荷運び用のエレベーターに乗り込んだ。
給料の出ない仕事はまだ始まったばかりだ。
上条はドアミラーに映った都市型モンスターに礼を言い、フレンダと席を交代するとアクセルを踏んだ。
どうも様子を見た限り、横須賀と名乗った男は削板に因縁があるらしい。
久しぶりのラッキーに、上条は上辺だけ神に感謝する。
げんなりしたフレンダは助手席にぐたーっと座りこみ、二度と運転はしたくないとぼやいた。
上条「いやーさすがだな。まさかここまでデキる奴だとは思わなかったぜ」
上条は左片手でハンドリングをしながら、右手をポンポンと彼女の頭に置く。
フレンダにはドライバーの才能があるのかもしれない。
フレンダは嬉しそうに「にししししー」と笑った後、でももう運転だけはゴメンだからと念を押した。
上条は右手をハンドルに戻し、後ろの爆発のせいで前方に車がいない快適な道を進む。前に車がいなければ左ハンドルの不便は随分取っ払われるものだ。
上条はカーナビに表示されたブルーのアイコンをのぞき込むと、タッチパネルを操作し、最短ルートを表示させた。
距離にして4km、道のりにして4.3kmといったところだ。
浜面仕上の運転技術は大したものだが、発信機というハンデがあるし、さらには車のスペックが桁違いだ。
二人の乗るロードスターは直線なら軽く300km/hを超える。
さぁそろそろ本腰入れて追いかけますか、と気合を入れなおした上条の視線の先に、赤色灯が輝いた。
けたたましいサイレン音、ルームミラーに映ったのは二台の高速車両。
フレンダ「なに!?」
上条「おっと、やっこさんのお出ましだ」
おそらくすぐ近くで起きた駐車場の火災現場に向かっていた班だろう。
上条は素早く前に意識を切り替え、アクセルをぐいっと踏み込んだ。スィィィンという鋭い加速は留まるところを知らない。
あまりのスピードにハンドルがとられそうになりながらもスピードは250km/hに到達し、何かを突破したのかホワァァンという間の抜けた音が聞こえはじめる。
前方に障害物はない。真っ直ぐな直線が1kmほど続く。誰かが飛び込んできたとして、この速度で避けられるだろうか。
上条は警備員の車両との差が五〇メートルほど開いたところで、片手で取り出したスタングレネードを後ろに放り捨てた。
強風の煽りを受けた金属缶が、カコンという音を立て背後を走るスポーツカーのフロントガラスにぶつかる。
直後、キュォォオというブレーキ音が立て続けに響き、二台の高速車両は滑り互いにぶつかり合いながら道路の上をスケートのように滑走した。
ハンドルを上手く使ったな、と上条は警備員の万能な能力に呆れる。
彼らのような人間が昼間は煩わしい授業をしていると思うと不思議な気分だ。
ともあれ顔は見られなかったし、足が付くことはないだろう。このスポーツカーは後で処分するし、ナンバーも偽のものに張替え済みだ。
いざとなれば昼間の研究員を盾にできる。
上条はドアミラー越しに追跡の有無を確認するとスピードを緩め、少々狂ってしまった追跡ルートの修正を始めた。
御坂美琴は風紀委員第一七七支部から立ち去ると、ブラブラと街の探索を始めた。
相変わらず人が多い。
当初は広域社会科見学のための買い物が目的のはずだったのだが、マネーカード騒ぎが気になってしまった美琴はそのことを忘れてしまっている。
それに、こんな妙な事件にはあの少年が関わっているかもしれないと美琴は思っていた。
たまに街で会う時、彼はいつも面白いくらいにトラブルに巻き込まれていたり、逆に首を突っ込んでいたりするのだから。
美琴はすぐさま身近な路地の入り口から中へ足を踏み入れた。ジメジメした空気がひんやりとして心地いい。
明るい場所から急に暗がりへ入ったせいか、目が慣れるまでに少し時間がかかった。
そうして、ビルの裏口の小さな階段の窪みから封筒を見つけた。隠すように置かれている。
拾い上げてみた茶色い封筒には、宛名も、差出人の名前もない。固法の話では、封筒にもカードにも指紋がつけられていないとの事だった。
こんな奇妙な事件が自然に発生するはずもない。
だとすると、何者かが何かの目的でカードをバラ撒いたことになる。
では、それはなぜなのか。
美琴は無意識のうちに歩くペースを落とし、やがて真新しいビルの壁に寄りかかって考えた。街の喧騒から少し離れたこの場所は、以外にも集中して考え事をするのに向いていた。
カードをバラ撒いたということは、誰かの手に渡ることを想定していたことになる。
そうではないかもしれないが、可能性は限りなく低いから切り捨てる。
事を起こした犯人は、大金を渡してもそれに見合うメリットがあると考えたわけだ。
でも、ただ不特定多数の人間に渡すだけなら路地裏より表の道端に撒いた方がいいし、路地裏にバラ撒くのなら隠す必要はない。
それでも、路地裏に、それも隠すようにバラ撒いたのはなぜか。そして、第七学区のこの辺りに撒いたのはなぜか。
美琴は持っていたカバンを下ろし、一応時刻を確認しておくことにした。
カエルを模した携帯電話を開くと、晴れマークの隣に一五時四〇分の表示。
まだ八月一〇日は十分に残っている。美琴はなんとなく上を見上げ、考えを続けた。
路地裏にバラ撒いたことに理由をつけるとするならどんな可能性が考えられるだろうか。
路地裏といえば、危険、暗い、人気がない、などマイナスなイメージが強い。普通は人が寄り付かない場所にカードをバラ撒いた理由は…
美琴は顎に手を当て、直後あ、と声を上げた。
そんな理由はひとつしかない。路地裏に人を誘い込むためだ。
人が寄り付かない路地だって、別に完全な無人というわけではない。必ず誰かが発見する。噂が広まるのは時間の問題だ。
隠すようにした理由は、長く路地裏に注意を向けさせるためだとすれば説明がつく。
では、こんなことをした犯人の狙いは…?
路地裏に人を集めて、一体何をしようとしているのか。
「本当だって!」
そこまで考えたところで、静かだった空間に、不意に美琴の集中を妨げる声が聞こえてきた。
美琴は物陰に身を潜め、スキルアウトと思しき男達の会話に耳を傾ける。
これが、闇への入り口だということも知らずに…。
時計の針は一六時を指し、日は西に大きく傾き始めていた。御坂美琴の長い夜、そして、長い闇が始まる。
上条「見ぃーっけ!」
悪魔のささやきは、当然目の前を横切っていったワゴン車の中に聞こえるはずもない。
場所は第七学区。随分走り回った黒のロードスターは、地図で言えば学舎の園の上、第一八学区と一五学区に挟まれたほぼ中央を走っていた。
小道を抜けた先には、車が一般車両が少し。ここで派手な騒ぎは起こしにくい。
そろそろか、とつぶやき、上条は無線機の奥につながる一〇台の車に指示を出す。直後聞こえてくる了解の返事。
上条「これで上手く誘導できればいいんだが」
上条は車間距離を六〇メートルほど開けた先を走る黒いワゴンを首を傾けて確認した。
間に三台の普通車が走っている。
フレンダ「だーいじょうぶだって。結局、いざとなったらわたしが居る訳よ!」
上条「へーへー。頼りになるぅー」
上条は適当にこたえると、ノートPCと接続されたカーナビの画面をチラッと見た。
赤いアイコンは上条達の現在位置、青いアイコンは六〇メートル先のワゴン、追加された黒いアイコンが一〇台のファンネル達をそれぞれ示している。
上条は予測ルート(三〇〇〇メートル先)に黒いアイコンがあることを確認すると、無線機の切り替えをし、新しい指示を飛ばした。
浜面「しっかしなんだったんだーアイツ」
浜面仕上は第七学区の道の上を、窓のないビルのある方向に向けて車を走らせていた。
やはりどこまでいってもボロボロのワゴンに対する奇異の目はやまない。
半蔵はあちこちを見回し、ドアミラーを気にしながら、どっち?と聞き返した。
二人はとてつもなくやばそうな二人に出会ったからだ。
浜面はそろそろ小道に入るか、アジトへの方向修正しないとと考えながら、
浜面「どっちもだけど、不死身の方だな。アイツナンバーセブンって言ってなかったか?」
半蔵は浜面の言葉を吟味するように少し黙り、
半蔵「ナニ?それって第七位ってこと?」
浜面「さぁ、でもアレはどんな能力なんだろうな。普通じゃねえよ。目つけられてなきゃいいけど」
半蔵「目ぇつけられてるっていったら黄泉川の方がこえーよ。バリバリ執念燃やしてるぜ、きっと」
浜面「とか言って本当はもう一回会いたいんじゃねえの?」
と、浜面が言った直後だった。
バォォ!!という発進音、それに続いて巨大なタンクローリーが道の左側から強引に突っ込んできた。
真っ黒なその車は見た目こそタンクローリーに近いものの、なんだかやけに車体が角ばってるし装甲みたいなのが取り付けてあるしでとにかくゴツイ車だ。
そんな巨体が信号さえ無視して強引に突っ込んでくる。浜面達の少し後ろを走っていた普通自動車が急ブレーキを踏む音が聞こえた。
居眠り運転かよ!と叫びかけた浜面だが、コックピットのような運転席に乗る女性を見た瞬間言葉に詰まる。
浜面「黄泉川!?」
半蔵「なにぃぃ!?」
激突を恐れた浜面が力いっぱいアクセルを踏んで体当たりを回避するも、対向車がいないのをいいことに、黄泉川はその大型特殊車両でワゴンの後ろについてきた。
後ろのちょっとした惨事に気づいた黄泉川が、思い出したように特殊車両のサイレンを鳴らす。
犯人逮捕のためだから許せ、ということらしい。無茶苦茶な女である。
そして大型車両から拡声器を通したな様な声が、
『あっ、あー。こちらは警備員第七三支部の黄泉川愛穂。テメェら盗難と器物損壊と殺人未遂と公務執行妨害とその他もろもろで地獄送りだくそったれじゃんよー!!』
浜面「殺人未遂だぁ!?冤罪だろコラー!!」
浜面は追いつかれたらスクラップにされてしまいそうなほどデカい車両をルームミラー越しに睨みつけ、
浜面「撃て!半蔵!撃っちまえ!!」
さぁやれ!と指示を飛ばすが、
半蔵「ふざけんな!!」
と半蔵。
二人で逃げているはずなのに、浜面は妙な疎外感を抱く。
路地裏のルールはどうなったんだよ、と浜面はぼやくが、さっさと逃げるに越したことはない。
他に車がいるかもしれない状況ではさすがの黄泉川でも思い切ったことはできないだろうと考え、とにかく脇道にそれようとして、
ゴォォォというエンジン音を聞いた。
黄泉川愛穂の運転する大型特殊車輌が、その巨体でワゴンを追い抜くべく横に並んできたのだ。
確かに対向車線目算三〇〇メートル先までに車の影はない。
『ちなみにここを特定した時点でこの先の道にバリケード張り直してるから対向車ももう来ないじゃんよー!後ろもすぐに塞いでやるから逃げ場はねぇぞ悪ガキ共』
浜面「んだとっ!?」
半蔵「やるな黄泉川」
浜面「褒めんな!降りろテメェ!」
黄泉川はフラフープのようにバカでかいハンドルを握りながら特殊車両を飛ばしてくる。巨体のくせに無駄に速い。
そうして、うまく小道への入り口を塞がれてしまった。
浜面はとにかく前を塞がれるわけにはいかないとスピードをあげようとするが、黄泉川は前に出るのではなく、横から体当たりを繰りだそうとしてきた。
ブーンと、大型特殊車輌の尻が振り子でも振ったかのような動作でワゴンに迫ってくる。
浜面「殺す気かコノヤローー!!」
が、いつまでたってもワゴンは潰されない。
向かってくる大型特殊車両の勢いを止めるように、ヤバイ奴の一人が乗る黒のスポーツカーが両車の間に割り込んできたからだ。
幌が開け放たれたオープンカー。
中に乗るのは運転席のツンツングラサンと、ほとんど運転席の彼に身をあずけるように寄りかかった金髪の少女。
彼は言う。
「とりあえず馬面仕上!車を奪い返しに来てやったぜ!」
広い屋上は、地上より少しだけ空に近い。
もう夕日に変わりつつある太陽の光はそこまで熱くはなかった。屋上は地上よりも風が吹くためむしろ涼しいほどだ。
男はコンクリートのうえにうつ伏せで寝転がり、ゴルフバックから取り出したクラブ、ではなく、スナイパーライフルを構えた。
光学照準器から覗く風景はズームアップされており、まるですぐ近くから覗いているような感覚だ。
銃身は約一二〇センチ。細く長い筒が狙っているのは今まさにビルの向こうを走っている警備員の高速車両だった。
標的までの距離は三四〇ヤード。
男は光学照準器を覗く右目を細め、引き金に指をかけた。
(風向きが変わった…照準を左に一クリック修正)
車両には、三〇代と思しき男性警備員が乗っていた。リストにはないが、進行方向から見て、彼はここで足止めしておくべき人間だった。
(別に恨みはないが、借りはキッチリ返したいからにゃー)
男は口元をニヤリと歪め、引き金を引いた。消音性の強いライフルから発された小さな発射音は横風とともに消える。
摩天楼の屋上から放たれた鉛弾は、初速1350m/sという驚異的な速さでまっすぐに飛んでいく。
直後、サイレンを鳴らしながら80km/hほどのスピードで走っていた警備員の高速車両がタイヤをパンクさせ、慌てた運転手がサッとブレーキを踏んだ。
前輪をやられた自動車は、ズルズル速度を緩めながら道の脇へ逸れていく。
「腕は落ちてないようだぜい」
男は満足気につぶやき、警備員が車から離れて同僚に通報する様を光学照準器越しに覗きこむと、辺りに人がいないことを確認し、見える残り二つのタイヤを破壊した。
そうして胸ポケットに入った板ガムのような無線機から、依頼人へ声をかける。
「準備バッチリだぜい、カミやん。そっちに向かってるっぽい応援の車を一台潰しておいた」
が、向こうから聞こえてきたのは激しいブレーキ音、風を切る音に叫び声。
「あちゃー、もう始めちゃってるみたいだにゃー」
男はゴルフバックから顔を覗かせる三枚の写真を眺め、
「黄泉川愛保はどうやらそっちにいるらしいな。悪いがこっからじゃどうにもできんぜよ」
悪いな、と再びスナイパーライフルを構え直した。
近くを走っていたのか、今しがた潰した高速車両に駆け寄ってくる応援二台目の車両。
土御門はリストをちらっと一瞥し、応援に来た警備員が依頼人の顔見知りであることを確認すると、次はその車に狙いをつけた。
「さぁ仕事だ。全然給料にはならないけどにゃ―。早いとこ済ませないとここがバレちまうのも時間の問題だ」
上条「チッ。まさかうちの部下よりも先に黄泉川が来るとは予想外だ。作戦丸つぶれだ畜生め」
上条は黒いワゴンの回収を防ぐため、特殊車両の横に車をつけ体当たりを防ぐことに成功した。
右ハンドルとは違いこうした場合衝撃をもらうのはフレンダの方なので、上条が片手でフレンダを抱きとめているという訳だ。
上条は右手でフレンダの腰を抱えたまま片手でハンドルを操作し、二車間からズルズル後退していく。
バリケードが張られたということは下部組織からの応援にも少し時間がかかるだろう。どのみち、黄泉川が上条の想定を超えた行動をした時点で作戦変更だ。
いや、もっといえば削板の登場で派手な騒ぎを起こしてからだ。
とにかくこうなってしまえばもう人気のない場所に誘導する手法は使う必要がない。ここで黄泉川の車を潰した後、上条直々にワゴンを木っ端微塵に破壊すればいい。
警備員がバリケードを張ってくれたのも後ろを通行止めにしてくれることも、上条にとっては嬉しい誤算だった。
警備員が応援を引き連れてくるにしても、こちらへ向かう車両は土御門が潰してくれることだろう。違う詰め所から応援が来る頃には騒動は終わった後。
『誰じゃんよーこんな危ねえことする奴は!』
絶対お前にだけは言われたくねえとのツッコミ待ちなのか、黄泉川は拡声器を使って上条を怒鳴りつけてきた。
テメェの学校の生徒だよ!と上条は心のなかで毒づく。
どうやらまだ面は割れていないらしい。
次は上条に抑えられたフレンダが、両手に握ったリボルバーで大型車両の左後ろのタイヤを撃ちぬいた。バァン!と派手な音が響くが運良く通行人はいない。
そこそこ反動の来る拳銃ではあるが、フレンダは車の中から正確にタイヤのゴムを狙って狙撃した。
上条「お前バカなくせに妙にハイスペックだな」
フレンダはチラッと上条を睨みつけるが、再び左後ろのタイヤに狙いを定めた。
一撃貰った黄泉川がスピードを落とし、上条のオープンカーに並ぼうとしてくる。
大型特殊車輌のタイヤはどの部位も二輪ずつついていて、計八輪。一撃では大した深手は与えられない。
が、それを見越していた上条は先に速度をゆるめていたため、距離は縮まるどころか離れていく。その隙にワゴンが遠くへ行くが、先に潰すべきは黄泉川の方だ。
フレンダのリボルバーがバァン!と火を噴き、左後ろのタイヤをすべて潰しきった。
ザァァーーという音の後、タイヤのホイールが火花を散らし始める。
『子供が物騒なもん持ってんじゃん!』
次の瞬間、左後ろのタイヤを潰された大型特殊車輌が向きを変え、道を塞ぐべくブレーキを踏みながら回転した。
彼女も上条らのほうが凶悪だと判断したのだろう。距離は三〇メートルほど。
黄泉川の乗る超大型特殊車両は、道を横殴りの停車でバリケードのように塞いだ。
上条はこの一瞬を待っていた。
ザッザッザッと熟れた手際で組み立てられたのは、四〇ミリの小型グレネード砲だ。缶コーヒーのような銃身が大型車両を狙う。
上条の狙いに気がついたのか、黄泉川愛穂は熟練された動きで運転席から飛び退いた。そのまま距離を稼ぐように転がっていく。
上条はニッと笑い、小型グレネード砲を乱雑にしまいながらアクセルを踏み込む。
上条「伏せてろ!」
上条の指示を受け、フレンダがバッと座席に潜り込む。
上条もきたる衝撃に備え身体をぐっとハンドルに寄せながら、大型特殊車輌のケツに車をぶつけ、ガタガタと車の左半分を損傷しながらもなんとかバリケードを抜けきった。
身をかがめ目を丸くした黄泉川の横を、スピードに乗ったロードスターが駆け抜ける。彼女の直ぐ側に、割れたドアミラーが転がる。
黄泉川愛穂は無傷だ。上条は彼女の無事をひと目で確認すると、もう手段は選ばず、ド派手に事件を片付けに向かった。
「はぁ、まったく。つまらん話だったけど」
少女は、とあるビルの中を歩きながら、隣に立つ礼服の老人に向かってボヤいた。
老人はそう言うな、と苦笑し、こういうのも大人の仕事だとだけ言う。
老人は学園都市の上層部に君臨する十二人の統括理事会の一角で、名を、貝積継敏という。
隣を歩く少女は、彼がブレインとして雇っている少女、雲川芹亜だ。
長めの黒髪にカチューシャをしており、デコがだされたヘアスタイル。着ているのはとある高校の制服だ。
雲川は対談のつまらなさに悪態をついた後、ガラス張りの窓から夕日の指す学園都市を眺めた。高いこの位置からは街がよく見える。
これ完全にニート、良くてフリーターだよな
あまり親を心配させるんじゃねえよ
夕方も休まず、街中に建つ白い風力発電機が駆動を続けている。
こんなビルが個人の持ち物だというから雲川は鼻で笑う。
雲川「成金趣味は気に入らんな。こんなビルを所有してなんになる」
雲川「何を笑っている、お前もだぞ」
彼女の生意気さには慣れっこの貝積、一々反応しない。
街を見下ろす雲川は、あちこちで警備員の高速車両が走り回っていることに気がついた。
貝積「そういえば今日は街の様子が騒がしいな」
雲川「おおかた、どっかのバカが暴れているんだろう。この街はそんなことばかりだ」
貝積「ふむ」
そして雲川は窓の外に、派手なオープンカーを見つける。
その車は四台の高速車両に追いかけられながら、それでもどんどんスピードを上げ距離を離していく。
追いかけっこをする車の少し後ろでは、爆発し燃え上がる車と思しき残骸。それから逆方向に走って逃亡する二人の人間。
貝積「事件か?まずいな、あの車には逃げられそうじゃないか」
雲川は貝積をチラッと一瞥し、短く溜息を付いた。
雲川「歳はとりたくないな、ご老体。お前にはあれが見えんのか、『幻想殺し』だけど」
雲川は貝積の言葉を待たずに続ける。途端に機嫌を良くしながら。
雲川「ふふっ。相変わらず面白いことになっているなあ」
雲川「成金趣味は気に入らんけど、私はああいう馬鹿なお金の使い方は好きだけど」
貝積「君の場合、色眼鏡で見ているのではないか?」
貝積の言葉に、雲川は珍しく微笑む。
雲川「さぁな」
ここまでだい。
>>467残念だが俺は筆が速いんだな
今日は来ない。ついでに言うと明日明後日も無理そう。
いつとはハッキリ言えないけどまぁ気長に待っててくれ
3,4,5,6は連休なのでおそらく一回は確実に来ます。
書き溜めてるのでまた連休中に。レスありがとう
いや、ごめんなさい。投下予告を軽く破ってしまいました。
一応書き溜めてはいるんですが量が少ないのでもうちょっと待って下さい。
>>1はやめないのでご心配なく
別に本人の勝手なんだろうけどさ
書く気ない他のssは依頼出すくらい常識じゃないの?
まだ全部のレスは見てないけど、>>533の言うとおりですね。依頼出すのを忘れてました。
ちょっとこれから出してくるので。ごめんよ。
あと投下はちょっと忘れててください。
妹達編は全部書き終えてから一気に投下しようと思ってますので。とりあえずみんな落ち着いてくれ
いやいや、みんな俺が悪いんだ。
ここ終えるまでスレ立てたりしないのでどうか許してくれ。依頼出してきました。
あんまり待たせても悪いから、ほんのすこしだけ投下しますね。完成はまだ遠いので
あと、前もって言っておきますが、途中変な名前のやつが出てきます。
ですがオリキャラじゃありません。偽名を使って正体を隠してます。
もう何分も、一体なぜこんなにも走っているのだろうか。
御坂美琴は、もう何度目になるかもわからない自問自答を繰り返しながら、それでも速度を緩めることなく真っ直ぐに道を走った。
(火事になったビルに警備員が来たから。…そうじゃない)
美琴の頭のなかは、数分前に出会った少女の言葉でいっぱいだった。
『あなた…オリジナルね』
美琴はすぐに言い返した。だって、御坂美琴はこの世に一人しかいないのだから。
ふざけるな、馬鹿馬鹿しい。話にならない。今でも美琴は、ちゃんとそう思ってる。
これまでにも、美琴は何度もその噂を聞いていた。
『なんかね、超能力者のクローン人間を作っちゃおうって計画が進んでるらしいよ』
『えーなにそれ、知らなーい。でもでも、本当だったらすごい話だよね』
『あれだろー?軍用兵器として量産するとかっていう』
『もうすぐ実用化されるらしいぜ』
『マジで!?』
『でもさー超能力者って学園都市に七人しかいないじゃーん?』
『だれのクローンなんだろう』
『ねー』
『あ、それ!あたし聞いちゃったんだけど、その超能力者ってあの超電磁砲なんだってー!!』
くだらない、今でも美琴はそう思う。
なのに、思いとは裏腹に、身体は止まろうとしなかった。まるで、身に降りかかった不安を振り払おうとでもするように。
美琴は路地を抜け、歩道橋をわたって向かい側の歩道に降り立った。
もう完全下校時刻を過ぎていたが、やはり夜遊びをする連中は跡を絶たないものだ。街のライトに照らされて、夜の街を徘徊する学生がまだこんなにもいた。
美琴はその間を無言で走りぬけていく。常盤台の学生が夜遊びかよ―というヤジが聞こえてきたような気がしたが、美琴は気にも留めない。
長点上機学園の少女は、その噂が本当であるとハッキリ断言した。
どこにでも物好きはいるものだと、美琴は思った。こういう噂のたぐいを信じこんで楽しむ人間は多くいる。
たとえば幽霊やオカルトの類も、いると信じて楽しんだりする。美琴にもそんな覚えはあった。
それでも、確かにその一言は美琴の心を少し揺らした。
面と向かって、私は貴女のクローンを作る実験に関わっていましたと言われたのだから無理もない。
更に少女はその顔色一つ変えず、自らの言動に理由をつけて、美琴の中に渦巻いていた矛盾を一つ一つ潰していった。
『そこで行われるはずだった実験を、阻止できるかもしれない』
肝心の実験内容を聞くことはできなかったが、おおよその検討はつく。
超能力者のクローンを作る目的なんて、軍事目的に決まっている。
学園都市のシステムが完成してから何年が経つのかは知らないが、それでも街に七人しか超能力者がいないことは美琴も知っている。
一人で対等に軍隊と向き合える能力者が、それも簡単には生み出せない貴重な能力者が量産できるとしたら…。
その先にあるものはだれでも想像がつく。
しかし、これらはすべて想像の範疇だ。
美琴は全然信じていない。
それでも懸命に走るのは、一度でも抱いてしまった疑惑を晴らすため。モヤモヤした感情を綺麗さっぱり忘れるため。
NOという結果を得る、ただそれだけのためだった。
………
少女はタブレット端末をしまい、空を仰ぎ見た。もう随分暗くなっている。
彼女はそのまま深く深呼吸し、脳にたくさんの酸素を送った。
彼女の目的は、シンプルだ。でも、それが難しい。どれだけたくさんの情報を集めても、これといった妙案がまだ浮かばない。
そのはずだ、と少女は力なく笑った。
そんなに簡単に行くような問題なら、彼女はここまで悩んだりしなかっただろう。
もっと楽しく、気楽に生きてこれたはずだ。今頃は学生寮なんかでのんびり横になっていたかもしれない。
それでも彼女が悩むのは、抱えている問題があまりに大きなことだからだ。
敵に回す人間が、あまりに強大だからだ。
それでも、少女は諦めない。諦めることはできない。
路地を抜けきった彼女の姿は、いつの間にか背の高い男のものに変わっていた。
彼はポケットから携帯端末を取り出し、電話帳から選んだ番号に通話を発信する。
ニ、三度のコール音の後に電話口に出たのは、聞き慣れた男の声だった。
「指定していた研究所をこれから潰してみる。用意はいいな?」
『了解です、飛越さん』
仕事の連絡とは簡素なものだ。たったこれだけで通話の糸は途切れてしまう。
男は携帯端末を元のポケットに仕舞い、これからぶっ潰す研究施設へ向かうために歩を進めた。
ふわっとした向かい風に、青い髪をなびかせながら。
息を切らしながらも、美琴はようやく電話ボックスへ辿り着いた。
路上にぽつんと立った、どこにでもある普通のガラス張りのものだ。
無線電波は町中に飛び交っているものだが、これから行うことを考えれば電話ボックスのほうが都合がいい。
美琴は灰色のプリーツスカートからスライド式のタブレットを取り出し、素早く公衆電話と接続した。
スライドを開いた白いタブレットにスタート画面が映る。
学園都市にはS~Dまでのセキュリティランクが存在していて、公衆電話は携帯電話と同じくランクDに設定されている。
だが、これは通常ならの話。
美琴は学園都市で一番の電気系能力者。インターネットセキュリティの突破はさほど難しいことではなかった。
美琴は能力を使い、すぐさま教師陣しか覗くことのできないランクBの情報を探し当てた。
ハッカーは見つからないうちが華。長い間ここにいるわけにはいかない。
美琴は検索対象を絞込み、すさまじい速さで画面をスクロールして件の人物の特定に成功した。
美琴「布束…砥信…ッ―――こいつだ!!」
ついさっきまで会っていた少女なのだから、健忘症でもない限り忘れはしない顔。
美琴は布束のプロフィールの詳細にアクセスし、彼女の経歴について調べ始めた。
美琴「やま…下大学―――って、あそこは…」
データに目を通しながら、美琴は瞳が激しく揺れるのを感じた。まるで、本能的に身体が見るのを拒んでいるような錯覚にとらわれる。
山下大学付属病院は、かつて幼かった美琴がDNAマップを提供した研究機関の名前だった。
そこで活躍した経歴を持つ布束が、はっきり美琴のクローンについて言及したのだ。
考えるまでもなく、嫌な予感が美琴を取り巻いていく。考えたくもないことが、具体性をもって美琴に襲いかかってくる。
それでも美琴は、心の奥でこの街を信じていた。
自分たちが幼くから過ごしてきたこの街には、いい思い出も悪い思い出もたくさん詰まっている。
美琴はこの街が好きだった。波瀾万丈で退屈しない日常も、そこで暮らす人々も。友達も。きっとみんながそう思っているはずなのだ。
だから、そんな話が信じられるはずもなかった。
筋ジストロフィーの研究のために渡したものが、悪用されるなんて考えられるわけがない。
街を照らすLED電灯も、アスファルトを滑る清掃ロボットも、空に浮いた気球も。目の前に立つ、白い風力発電機も。みんな見慣れた、美琴の日常の一部。
寮に帰ればきっと白井が出迎えてくれるし、心配した寮監に怒られるかもしれない。明日になれば、友達にだって会える。
こんな当たり前が、いつか変わってしまうのが怖かった。この街を信じたい。そして、この街で暮らす人々を。
こんな心配は杞憂だと―――嘘だと言って欲しくて、美琴は再び走りだす。
美琴「樋口製薬っ――第七薬学研究所」
上条「第二二学区にでも行くか」
一連の騒ぎを終えて、夜の街を学生寮に向かって歩いていたところで、上条が唐突に言い出した。
隣を歩くフレンダが、上条とずいぶん遊びたがっていたことを思い出したからだ。
明日からも上条の補習は続く。彼は別にフレンダが可哀想とか思ったわけじゃなく、単に遊ぼうと思い立っただけだ。
フレンダは足を止め、直後ダッと上条の右腕に飛びつく。
フレンダ「リーダーっ!ちゃんと覚えててくれたんだっ」
絡みつくように腕にしがみついてくるフレンダを押し戻しながら、上条は本人も気づかない笑みを浮かべていた。
上条「まぁ、たまにはな。今日はお前がよく働いたってことで」
上条「寛大な上条さんに感謝しろよ」
フレンダ「にししししー!やっぱ私みたいな相棒を持ててリーダーは幸せ者って訳ね」
上条「へいへい仰るとおりでー」
フレンダ「あ、でも感謝はしてるよ?いつもいつも!」
上条「…どーだか」
結局フレンダを振りほどくことに成功し、二人は道を左に曲がった。
ライトアップされた大通りには、まだ結構な数の人間がいた。完全下校時刻なんて名前ばっかだな―と思いながら、二人は歩道を並んで歩く。
これから向かう第二二学区は二キロメートル四方と、全学区の中で最も狭いところだが、実は一番地下開発が進んでいる土地でもある。
下は第何階層という風に数えられ、地下都市としてかなり発達しており、同時に深夜の警備員の徘徊が緩い。
もっとも、今日は昼から夕方にかけての事件でてんやわんや。のんきにパトロールをしている警備員は極度に少ないのだが。
フレンダ「ねえねえリーダー。私あんまり行ったことないんだけど、第二二学区で何する訳?」
上条「んー温泉とかゲーセンとか映画とか植物園とか、思いつく限りのことはなんだってできると思うぞ。レジャー施設がメインだからな」
上条「ま、ともあれ飯だ。フレンダ、お前何食べたい?」
フレンダ「んー…結局いつもファミレスばっかだからねー」
上条「なんでもいいぞ。学生の街に高級料理はあんまりないと思うけど」
フレンダ「じゃー、イタリアン」
上条「イタ飯喜んで―」
他愛もないやりとりに花を咲かせながら、二人は大通りを真っ直ぐに歩いて行く。
第二二学区は第七学区と隣接しており、簡単に歩いていける距離にある。目的地まであと五分足らずといったところだった。
………
第二二学区に入ると、そこは他の学区とは一線を画していることがわかる。
地上には一般家庭やビルなどの見慣れた景色は広がっておらず、特に風力発電のプロペラが多い。
他の学区のように電柱の代わりに立っているのではなく、風力発電が密集しているのだ。
なぜなら、地下には風も太陽もない。さらに地下街の電気使用量は半端ではないため、地上の発電に頼っているからである。
二人は近未来的な発電施設を横目に眺めながら、地下街へ足を踏み入れていく。
第二二学区の地下は第一〇階層までの開発が進んでいて、全部の面積を足せば相当な広さになる。
二人はしばらく下降を続け、やがて第三階層のゲートへ降り立った。
四角いゲートをくぐり抜けると、一気に開けた場所に出る。
フレンダ「うわぁ!すごいすごーいっ」
フレンダが目一杯上を仰ぎ見ながら、二歩三歩と小走りで駆けていく。
二キロ四方、高さ二〇メートルほどの空間は、全体的に青っぽい色の照明で照らされており、天井には満天の星空が広がっていた。
地上にあるカメラの映像を天井の巨大スクリーンに映しだした、リアルタイムの夜空の映像だ。
地震が起きた場合の衝撃緩和のためにドーム状に作られた屋根によって、エリア全体が大きなプラネタリウムのような空間になっている。
上条「ほら、あれ見てみ」
フレンダ「んー、どれどれ?」
上条が指した先には、森林のエリアがあった。星空へ投げ出されたような空間の中にはビルも立っていて、その更に奥に緑いっぱいの場所がある。
水力発電のための川も流れており、こちらも青い鉄製の橋がかけられていた。
上条「な、ここ結構いいとこだろ」
フレンダ「うんうんっ、私前に来た時は何年も前だったからかなり新鮮!」
二人はしばらく外を歩いて回った後、ドーナツ型に伸びた円柱のビルへ入って食事をすることにした。
屋根をぶちぬく形になって何本も立っているビルは柱の役割も担っており、側面がガラス張りになっているものも多く、常に外の景色を眺めることができる。
もちろん、逆に外からライトアップされたビルディングの中を除くことも可能だ。
近くのビルの外側にはさまざまな洋服店が並んでおり、巨大なポスターや並べられたマネキンが見えている。
また、ビルの内外にはまだたくさんの学生や大人の姿があった。
フレンダ「まだ結構人いっぱいいるね」
上条「まぁ夏休みだし。終盤になればめっきり減りそうなもんだけど」
フレンダ「それはそれでファミレスとかカラオケとか埋まっちゃうし。まぁそれが学生の醍醐味なのかもしんないけどさ」
上条「上条さんは例年家に引きこもって宿題やってるけどな」
フレンダ「そういえばさ、リーダー宿題進んでる訳?うちではやってないよね、あんまり」
上条「まぁ俺って基本忙しいし?」
フレンダ「はいダウト!!毎日ゴロゴロしてるだけじゃん!!まぁ結局構ってくれるから私的にはいいんだけどさあ」
上条「お前の見てないところで上条さんは毎日忙しいんだよ」
フレンダ「えー嘘くさあ」
エレベーターを降りてみると、今度はドーナツ状に丸くくり抜かれた中心部を眺められるようになっていた。
輪切りにしたバームクーヘンを上に何個も重ねたような円柱のビルは、中庭がかなりの広さになっており、一階の中央からいくつもの噴水が上がっていた。
上条とフレンダは、二二階の高さから何気なく噴水を見下ろす。
フレンダ「へぇ、外側から入って見えなかったけど中はこんな感じになってるんだ」
上条「この時間はやってねえけど、昼間なんかは真ん中(あそこ)でイベントがあったりしてな。この間は一一一(ひとついはじめ)がここでライブやってたらしいぜ」
フレンダ「ああ、最近超出てるアイドルね。大通りのスクリーンにもめっちゃ映ってたし」
今はといえば、噴水の他には何もなく、八の字にグルグルと割る水の近くのパラソル付きのベンチで数人のグループが食事をしているくらいだった。
一階はゲームセンターやら軽食が取れる店やらがあって、有名なところでは中高生に大人気のクレープ店があるらしい。
上条「飯だけどイタリアンで検索したらこの学区に五〇店舗以上あるらしいぜ」
フレンダ「そこはほら、私のシックスセンスで選ぶから」
上条「ははっ。おっけー、とりあえずこの階層に二〇はあるだろうから一番近いトコで―――あそこだな」
フレンダ「結局どこでもいい訳だけどね」
上条当麻に礼をするつもりで外出したはずの白井だったが、結局は昼間の事件に巻き込まれたお陰で途中からは仕事になっていた。
白井はやっとのことで、暗くなった街を歩き某雑居ビル、風紀委員第一七七支部へ戻ってきた。
外とは打って変わって明るい部屋の中には、同僚の固法美偉と初春飾利がいて、それぞれPC上で作業をしている。
白井「ただ今戻りましたの」
白井の声に二人が同時に顔を上げ、初春がまず口を開く。
初春「あ、お疲れ様です白井さん。今日は災難でしたね」
えへへへへーと、言葉とは裏腹に楽しそうに笑う初春。なかなか腹黒い少女である。
非番だった彼女を電話で仕事に戻したのも初春だった。
固法「ごめんなさいね、白井さん。どうしても手が足りなくって」
白井「いえ別に。構いませんわ。どうせあんな事件に関わった後じゃわたくしも気がかりで結局戻ってきていたでしょうし」
白井「素敵な友情ありがとうですの、う・い・は・る」
初春「あ、あははは…あ、ああっ!わたしお茶淹れますねぇ」
白井「まったく」
白井はいそいそとお茶を淹れる初春を一瞥し、席について腕章を外した。
(仕方がないのでお礼にはまたにしますの)
マネーカード騒ぎもしばらく続くだろうし、その間彼と確実に会える保証もないので、白井は紙袋の中身をここで開けることにした。
白井「急に必要がなくなったものですから、よろしければみなさんで食べませんこと?」
初春「~~~っっ!!」
と、甘いものに目がない初春。
初春「それ安心堂の水饅頭ですよね!いやあ白井さんは気が利くなぁ」
白井「…ありがとうですの」
固法「うわあ、でも本当に頂いちゃっていいの?」
白井「ええ、構いませんわ。じゃあわたくしもひとつ」
固法「それにしてもマネーカードといい交通事故といい火事といい、今日はどうしちゃったのかしらこの街は」
初春「今日はとくに忙しかったですもんねー。わたしまだ報告書がどっさり残ってますよー。あ、はいお茶です白井さん」
初春がコースターに載せたお茶は、ゆっくりの湯気のたつアールグレイ。
甘さもちゃんと白井の好みに合っていた。
初春「ほら、わたし上達してるでしょ?いやあ、これでお嬢様への階段も一段上がれましたかね~」
白井「紅茶の淹れ方一つで…それはどうなんでしょう」
初春「あ、固法先輩もどうぞ」
固法が礼を言ってお茶を受け取ったところで、さっきの会話に初春が続いた。
初春「あ、しかも警備員の黄泉川先生から聞いた話ですけど、警備員の車両が何者かに狙撃される事件まで起きてたらしいですよ。この学区で」
白井「それ本当ですの?」
固法「能力者同士の抗争なら珍しくはないけれど、狙撃ってなんでまた?」
初春「さあ、そこまでは。特に痕跡らしい痕跡もないらしくて、まだどこから狙撃されたのかも掴んでないみたいです」
白井「警備員をターゲットにすること自体珍しいですからね」
固法「ええ。スキルアウトでもめったに攻撃しないわ。それで、怪我人は出てないの?」
初春「みたいですね。車への攻撃だけらしくて」
白井「あー、これはしばらく忙しくなりそうですわね。マネーカード騒ぎでさえ大変なんですのに」
固法「今日みたいな残業は続くかもね。やれやれ」
白井「はぁー…せっかくの夏休みなんですのにー…」
初春「まぁまぁ、ほらこれでも食べて元気だしてください」
白井「それはわたくしが買ってきたものですの!」
ここまでです。長らくおまたせして申し訳ない。
偽名については結構意味があったりします。ではまたー
御坂が出歩いてる時間が完全下校時刻(常盤台の門限とは別)で、白井はその時間に風紀委員の支部にいるってことでしょ?
風紀委員はそもそも残業が存在しない
白井みたいに管轄外で活動してるならまだしも、支部として活動してるのはおかしい
>>646
原作13巻を読んでくれ
ごめんあげてしまった。13巻で残業シーンがあるから大丈夫かなって。
きのこ「俺がいる限りテメェは一生最強には届かねぇんだよ!」
たけのこ「うっせェこの三下がァ!」
もうss速報では書きません。ここも依頼出してきます。
続きを読みたい方はpixivでどうぞ。近々更新
このSSまとめへのコメント
期待
つかみからスゲーおもしろい
最高です!
期待
やっとおいついた。続き楽しみ
書いたやつ天才だろ。こんな面白いのはなかなかない。
マヂ期待!がんばって書いてください!
マジで面白いわ。前スレのタイトルで渋ったが読んでよかった。
面白い面白い
作者さん頑張って!!
面白いです、続きが楽しみです
更新来てた!妹達編わくわく
よっしゃあああああああああ!!!!!上条さん暴れたれ!!!フレンダが爆弾で一方通行の視界奪ってそこに上条さん特攻でそげぶきたーーーーーー!!!!
徹夜で読破。ようやくここまで追いついた!!
絶賛されてるだけあるな、おもしろい
期待
明日も更新してほしい
なんか、他のスレじゃ原作との差とかで批判もありますけど、めっちゃ面白い!更新楽しみ
wktk(´^ω^`)
雲川先輩キターーーッ
土御門に削板まで参戦させるとは。
アクション書くのが上手い!
楽しみだなぁ
この作者は早くプロデビューすべき。じゃないと才能が勿体ない
本スレで嫉妬してる糞ジャップどもは津波で氏ね
続きお願いします!
このレベルをこの速度で書けるってやばいな
期待
pixivか…いいね!
ここだと文句言う人多いし
ジャップには勿体無い
リンク貼ってくれないとわからない(ノ_<)
頼むからURL貼って下さい
読んで受ける印象は「無難」ではなく、「非凡」につきます。すべてがハイレベルなエンターテイメントに仕上がっています。
惜しむらくは原作がつまらないせいで、作者の力量が発揮できていない事でしょうか。
作者は作家デビューをすべきであり、「非凡」な才能を無駄遣いすべきでありません
続きはじまったぞ
久々にこんな面白いの見たわw
上条さんはこんくらい無双してたほうがssとしては面白い
おもしろかったけど続きはないの?
自演臭いコメント多いから作者疑われそうで可哀想だな
pixiv版のタイトルは?
この程度の作家なら世の中に腐るほどいるんだけど...プロとか本気で言ってるとしたらプロを舐めすぎ。あと、原作がクソと言ってるけどこのssも原作あってこそだからな。原作売り上げ上位に入ってるのに、クソとか言ってんじゃねえよ(笑)
面白いのに外野の意見に右往左往し過ぎてて勿体無い
あらゆる所でそれに起因するブレが見える