【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXI巻目【都市伝説】 (1000)

                                 ,.ー-‐.、
                               ヽ、   ヽ  __
                               /,..-ニ‐- '"_,..)
       _,.‐-、                      ' ´/  , _ 、´
        ' 、 .ノ                    ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\
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      └! .i! .!┘   _   _             ,.'⌒   `,. l   !  ー"ヽ  ヽ
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                          ̄

・咲-saki-の安価スレです
・原作とは違う性格付け・設定付けをされたキャラが登場する可能性があります
・現実に実在する人物、団体とは一切関係がありません。ここ重要
・色んな意味で広い目で見てください
・何かおかしい事があればそれはフリーメイソンってやつの仕業なんだ


前スレ
【咲安価】京太郎奇怪綺譚:弐拾巻目【都市伝説】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373623690/)

>>1も随分と助けられているWIKI
http://www55.atwiki.jp/kikaikitan/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375367419


本日の投下はここまでです。お疲れ様でしたー

なんだかんだで宮守勢はおふざけとかにノリノリになるタイプだと思います

戒能さん襲来は卒業式の前です。繰り返しになりますが、念のためということで

前スレはお好きなようにしてやって下さい



レス返し等は明日。次の更新は土日になるかと

さくさくっと進めつつ、最終決戦へのカウントダウンを進めていきます

http://www.youtube.com/watch?v=eu5jc8gUXWA
このスレで言うのはアレですがこの子ら麻雀してないなぁ


では、今夜はこれにて。おやすみなさいませー

釣り上げていくスタイル

ナムコんばんわ

今晩21:30からスタートしますー


http://i.imgur.com/d3MVnzM.jpg
ぐうかっこいい
実写期待しちゃうじゃないですかー


>>46
釣られて行くスタイル



【ドラゴンロードボール】



フリーザ「な、何者だ……何をした……!?」

フリーザ「身体が、動かんッ……!!」

悟空「とっくにご存知なんだろ?」

悟空「穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた最強の戦士の力だ!」

悟空「おめぇが虐げ傷付け殺してきた弱者達の言葉にならない反抗!理不尽への反逆!」

悟空「力なき者達の想いが集い生まれた奇跡だ!」




悟空「具体的に言うと今朝の食事におめぇんとこの料理人が盛った毒だ」



みたいな夢を見ました

懐かしいな
そういやパトレイバーでてるスパロボの評判いいんかな

デビルガンダム事件後にザク、ガンダムが開発されてるアレか
強さがガンタンク>>>>ガンキャノン>>ガンダムなんだよなぁ……

ジオン軍のエースから機械獣までビビる(気力ダウン)パトランプを持ち、戦艦すらワイヤーで行動不能にする警察とかいうクッソ優秀な組織

>>61
シャア「見せてもらおうか、連邦のMSの実力とやらを!」
インベーダー「ギシャァァァァアッ!」
機械獣「……」

イングラム「ウーウーウー」(パトランプ)

シャア「ひえっ」(気力-10)
インベーダー「ギシャァァァァアッ!?」(気力-10)
機械獣「……」(気力-10)

こんな感じだよな

>>59
なるほどなるほどなるほど
さんくす

>>58
>>63
良い感じですよー
ゾイドファンに向けるステマ(物理)
http://www.youtube.com/watch?v=DmcCXM8XgcA


今夜もまったりと進めていきます



                /                    /    {
                 |                     /,     ',
                  {                {/       .
              \              |         .
               \             |        }
                      \_______,/        |
                   |           \       |
                   |              ∨    i
                   |  l             }
                   |  |          ,:     ,|
                   |  |          /    / ,
                   |       、      /    / /
                   |  l   \   /  _  / /
                   |  |_    ゝ. { /   У ∨ _
                    「|  {`ヽ`ヽ  /`乂__/   ∨  〉
                  、', \    \∨ ',     . /
                  「 「ヽ`ヽ\   ´ `  }       ∨
                     ',、 }   \ヽ、__ ∧     _}
                        乂\    ̄ \    、  「   |
                     ̄`ー   ___>、_>---'

                         \___/



恋人つなぎ


投下はっじめーるよー

京太郎「手を繋ぐだけで妥協しましょう、後は俺が誤魔化します」

小蒔「お、おおおお願いします」

京太郎「……あの、落ち着かないとバレッバレですよ」

小蒔「お、おおおお落ち着いてますとも」

京太郎「(駄目だこりゃ)」



慌て度に男女で差があるのは男慣れしていない女慣れしているという問題だけではない。

片方が慌てれば片方は落ち着いてくるという法則は、こんな時にも適用されるのだ。

かといって、京太郎が完全に平気というわけでもなく。

普段は表に出さないものの、友人達に何気ない仕草にドキッとすることだってある、平凡な少年なのだ。


ましてや相手は、色んな意味で凶器だらけの女性である。



京太郎「どうどう、深呼吸深呼吸。今日一日誤魔化せばいいんですから」

小蒔「そ、そそそそうですね」

京太郎「(……うーんこの)」



整った童顔。警戒心を抱かせない雰囲気。安心感を与える笑顔。

無垢な性格。純朴さを滲ませる話し方。嫌味の無さと裏表の無さを実感させる物腰。

京太郎に称させるのなら、『この人を嫌いになるのは何よりも困難な事』だと言うだろう。

「色々と凶悪だ」とも言うかもしれないが。

主に一部分。



京太郎「(まあ、俺主導で頑張ればいいか)」

京太郎「(……なんか、変な予感もするし)」



そんな彼女が何も『勘』で感じていないように見えたので、京太郎は胸の中の無形の不安を押し込める。

なんとなく、何か「この流れ」に違和感を感じる。

なんとなくだ。これも京太郎の勘ではなく、理性が感じた違和感。

ただ小蒔が何も感じていないようなので、気のせいかもしれないと一旦脇に置いておく。

何かあれば、神代小蒔とて境界線の向こう側に位置する生命。



気付かないわけがないのだ。

それは京太郎が、理性的に考慮に値すると考えるに足る根拠である。

息の詰まる沈黙。
味も重さもありそうに感じられる空気。
部屋で二人っきりの京太郎と小蒔。
二人っきりにしつつこっそり除いてる残りの皆。
笑う者。心配する者。複雑な顔の者。


十人十色の顔色で、学校の一角にカオスな空間を形成している。



京太郎「……」

小蒔「……」



>>64な手。



恋人繋ぎ。
肩が触れ合う距離で並んで座る二人。
目を合わせられない二人。
甘酸っぱい空間。
なんとなく羞恥を感じる空気。

思わず目を塞ぎたくなるような光景が、そこにはあった。


彼らが本当に恋仲であれば微笑ましい青春の一ページ。

しかしそうではないというのであるから複雑である。



「「あ、あの」」

京太郎「……」

小蒔「……」

「「お先にどうぞ」」

「「……」」




二人を今襲っているのは、中学生がドラマの中で初めてベッドシーンを見てしまった時の気恥ずかしさに近い。


『恋人』という仮想の前提、互いに友人であり仲間であっても家族や親友では無いという距離感。

近すぎず、遠すぎずの距離が二人に与えた羞恥心である。


どこからか聞こえる主導犯達の笑い声は無意識の内に聞こえなかった事にしている二人であった。

この部室で待ち合わせている相手、戒能良子が到着するまで実に一時間の時をこの二人は過ごすことになる。

未確認生命体より強い刑事には出来ないマナーモードにした京太郎の携帯が、ポケットの中で振動する。

『戒能良子襲来』を知らせる初美からのメール合図である。

この後この部室に良子を案内した鹿児島組の皆が到着し、本気の議論が始まるのである。

つまり、そこからが本番だ。



小蒔「……うぅ」

京太郎「……大丈夫ですか?」


握った手から、伝わる震え。

温度と共に、伝わる怯え。



小蒔「……大丈夫です。ちょっと怖いですけど、貴方が傍に居ますから」

京太郎「……そっすか」


手と手を繋げば、心が伝わる。

心が伝わるなら、支え合える。



小蒔「変わるって、決めたんです」

小蒔「『変わるべき』じゃなくて、『変わりたい』って思ったんです」

小蒔「そんな私が決めた『夢』を、霞ちゃんが、はっちゃんが、巴さんが、春ちゃんが」

小蒔「『応援する』って、言ってくれたんです」

京太郎「(……『夢』、か)」



変われる人間は、強いのだと。
変わっていく自分、変わっていく他人、変わっていく世界を受け入れられる人間は、強いのだと。

最近はそう実感させられっぱなしだと、少年は思う。

眩しいものを、直視してしまったかのように。


今まさに、人と出会い、かつての自分でない理想とする自分になろうとする一人の女性に、そんな感情を向けている。


その感情の正体を、彼はまだ知らない。

小蒔「私はまだ、ここに居たい」

小蒔「私はまだ、変われてない」

小蒔「ここでなら、変われるような気がするんです」

小蒔「ここでなら、私がなれる『何か』が、見つかる気がするんです」

小蒔「優しい人も、誠実な人も、賢い人も、強い人も沢山居るこの街でなら」


小蒔「だから……」

京太郎「分かってますよ」



そんなにも、強い気持ちを吐き出されたら。

そんなにも、この街を好きになってくれたのなら。

そんなにも、泣きそうな顔をしてしまうのなら。


奮い立たざるを得ないじゃないかと、彼は奮起する。

戦いでもないのに、四肢に力が漲る感覚。

伝わる恐れの流れはいつの間にか止まり、少年の熱さと闘志が繋がる手を伝い逆流する。



京太郎「頑張りましょう、頑張り屋が正しいことを頑張れば、それに見合う結果がついてきますよ」

小蒔「……はいっ!」



握られた二つの手に籠められた力が強まり、ぎゅっと組み合わされる。

手と手を重ねる。

少年があの人手に入れた絆(ネクサス)の根源は、ここに在る。



「その紙袋、何ですか?」

「気にしない気にしない。モーマンタイというやつかな」

「紙袋の中に、なんだかどこかで見たような形のものが……」

「そんなことより、そろそろ部室につきますよー?」



外から聞こえる、耳にした覚えのある戒能良子の声と霧島の巫女達の声。



震えは、いつの間にか止まっていた。



そして、緊張と戦意を最大限まで高めた二人の視線の先で扉が開き―――

 



春「ドッキリ大成功~」

初美「イエーイッ!」

良子「いえーい」



 

 



主犯二人と、プラカードを取り出し掲げた大人げない大人が、飛び込んできた。



 

京太郎「えっ」

小蒔「えっ」



霞「えっ」

巴「えっ」



豊音「えっ」

シロ「えっ」

エイスリン「エッ」

塞「あー、やっぱり」

胡桃「えっ」

初美「いやー、戒能の姉さんに協力を取り付けて貰ったとはいえここまで上手く行くとはー」

良子「私はあんまり乗り気じゃなかったけど、学生時代の思い出作りって言われると弱くてね」

初美「卒業式前に最高に笑えるイベントがあって満足満足ですー」

春「卒業祝いのパーティみたいなものということで」



巴「二人、そこに正座」



初美「ほらほら、そんなに怒らないで下さいよー?」

春「姫様も最近の悩みの吐き出しとか夢の再確認とか出来たし、プラマイはゼロ」

初美「色々根回しに苦労した、私達の苦労も評して欲しいなー、なんて」



霞「二人、そこに正座」



初美「……あはは」

春「うーん」



京太郎「二人、そこに正座」



初美「お仕置きの流れですかね、これ」

春「これは許されない流れ」



小蒔「二人、そこに正座」



初美「……はい」

春「はーい」

京太郎「厄日だな、今日は……」

春「どんまい」

京太郎「半分はてめぇのせいだ滝見ィ!!」

良子「ご愁傷さま。どんまいだね」

京太郎「(なんか今のドンマイの発音ニュアンスが似てて微妙に血縁感じるな)」



現在部室に残っている人影三つ。

主犯中の主犯は逃走。
追跡に付き合いの長い三年二人と、怒り新党ならぬ怒り心頭の姫様一人。

色々からかわれる流れになった残り五人も同様。

ただし此方は、からかわれて追う者一人にからかって追われる者四人の構成。


かくして12人-9人で残り3人、というわけである。



良子「それに、君に頼みたい事と話したい事があったから」

京太郎「ああ、こっちに来た本題ですか」



ドッキリの為だけに社会人を呼びつけるほどには、流石に初美も常識知らずではない。

そしてその為だけには来ないだろうと確信できるほどには、戒能良子は常識的な社会人だ。

少なくとも、彼女は彼らに『大人』であると見られているし、その自覚もしている。


ならば、何かしらの案件を抱えてこの街に来たはずだ。

例えば、『ムラサキカガミ』に匹敵するような。



京太郎「俺が貴女以上に出来る事なんて、調べ物と探しものくらいだと思いますけどね」

良子「それでおっけーです。そこに期待してます」

京太郎「なら、役に立てるかもしれませんけど」

良子「探して欲しい物は二つ。片方はともかく、もう片方は絶対に見つけて下さい」



鬼気迫る、と言うより切羽詰まった雰囲気。

滝見春と同じで滅多に自分のペースを崩さない彼女のそんな様子に、京太郎はこの案件の脳内重要度を改める。

手が抜けない、そんな案件になりそうだと。



良子「探して欲しいものは、『あるもの』を求めてこの街に逃げ込んだ『蛇』です」

そこで語られたのは、『とある都市伝説』の概要。

成程、聞けば聞くほどこの街に逃げ込んだ理由とその危険性が分かる。

都市伝説としての危険性は最上位。危険性で言えばかの『くねくね』にすら匹敵する悪夢。



京太郎「(巫女というカテゴリーで、かつ蛇というカテゴリー)」

京太郎「(巫女なのに対抗神話じゃない、危険度で言えば最強クラスの都市伝説……!!)」



『巫女』とは、寺生まれに次ぐ対抗神話の一つである。

古今東西ありとあらゆる宗教霊能祭儀ごちゃまぜな霧島神境出身の少女達は、例外なくこの対抗神話の加護を受けている。

しかし、その中にも例外がある。


人に手を差し伸べる『巫女』のカテゴリーの中に在ってさえ、人を呪う悪夢となった都市伝説が存在するのだ。



良子「そこで、『あの娘達』をどう見たか聞かせて欲しいんだ」

京太郎「……ああ、なるほど」



その為に、まず知るべき事がある。

都市伝説を暴走させやすい人間、もしくは都市伝説を暴走させている人間の共通項。

『精神的に不安定である』、ということだ。


前述の都市伝説は、曲がりなりにもカテゴリーが巫女。


……だからこそ、考えられてしまう『最悪の可能性』がある。

身内からの判断基準と、身内でない立場かつ彼女らに親しい者からの判断基準。

その為に今戒能良子から意見を求められているのが、今須賀京太郎と滝見春というわけだ。

「人物評や、なにかおかしな点があったら聞かせて欲しい」、と。


ちなみに滝見春は現在一心不乱に黒糖を食べている。



京太郎「ああ、人間関係とかそこんとこは今日把握しました」

京太郎「出会ったのは数ヶ月前ですけど、神代先輩以外とは私生活で話したりする機会あんまり多くなかったですので」

良子「ほう」

京太郎「――って感じです。まあ外部の人物評ですので、あてにはしないで下さいな」

良子「ハル、どう?」

春「私の言うことがなくなった」

良子「なんと」

春「強いて追加するなら今の所おかしい所はないよ、ってぐらいかな」

良子「こればぐっどですね。人選は間違ってなかったようです」

京太郎「はっはっは、一応こっちが専門ですので」

京太郎「(よっしゃあっ!)」



一通り、京太郎による鹿児島勢人物評が終了する。

そこから彼女は、アタリを付けた様子だ。

何も起こさないためにも、そしてもしも何かが起こってしまった時にも、十分参考になる意見と判断したのだろう。

最近力業の増えた探偵業の少年、面目躍如である。



良子「それとね、もう一つ」

京太郎「?」

良子「前にこの街に来た時、実はこっそり石戸のおばあさまから頼まれていた調べ物があって」

京太郎「(……ん? 調べ物?)」

良子「恥ずかしい話だけど、私は探しものが得意ってわけじゃなかったから、成果出せなかったんだ」



ふと、少年の脳裏にとある会話が想起される。



―――十数年前、私達が生まれる前にこの街で行方不明になった方らしいです

―――石戸のお婆様……霞ちゃんのお祖母さんですね。その人が随分気にしていたようだったので、おそらくは



良子「いえーす。だから、君に頼んでみようかと。十数年前に消えた、とある女性の行方」

京太郎「(ああ、やっぱり)」

良子「まあ、期限は特に設けないよ。分からなくてもどうなるってわけじゃないから」

良子「それに忙しくても無理強いはしないから、安心してほしいな」

京太郎「いえ、受けますよ。ただ、手がかりとか無いですかね?」

良子「ふむ」

京太郎「そういうのがあると無いとじゃ段違いなんですけど」



証拠、手がかり、キーワードは大切だ。

彼は自身の本業故に、その大切さと価値の重みを知っている。

良子「……実を言うと、私も多くは知らないんだ。十数年前じゃ面識がないからね」

良子「知っているのは極めて優秀だったことと、霧島でも仏門に属していた事と」

良子「その人の名前と、その人の『恋人の名前』だけ」

良子「……その恋人の名前を昨日石戸のお婆様から教えてもらったのも、君に依頼する理由かな」



そう、聞かされた時。

なんでもない言葉の羅列でしかなかったはずなのに。

どこにでもある、よくあるような『駆け落ち』の話だと、そう判断したはずなのに。

特別な事なんて、何も含まれていなかったはずなのに。



何故か、少年の胸は異常なまでに高鳴った。



まるで、そこから先に続く言葉を先んじて知ってしまったかのように。

まるで、かけがえの無い大切な相棒の力の残滓が、己に警告してきたかのように。

まるで、そこから続く言葉の衝撃を、慣れることで無意識の内に和らげようとしていたかのように。



魂が、震えていた。




良子「その人の名前は、『熊倉希望』(くまくらのぞみ)」

良子「恋人の男の名前は、『須賀未来』(すがみらい)」



良子「岩手で生まれ、鹿児島で育ち、この街で消息を絶った女性と、その恋人」

本日の投下はこれにて終了。お付き合い頂き、ありがとうございましたー

次回の投下は火曜か水曜ですかね?
短めの投下ばっかりでサクサクとは行かず申し訳ない
明日朝早くなければうぬぬ


次回で前編は終わらせないとですな


レス返し等は明日。コツコツ更新していきますので

では、おやすみなさいませー

京ちゃんの股間の銃(意味深)
姫子が銃を撃つ(意味深)

今夜22:00開始します。今夜で前編を終わらせて後編を綺麗に終わらせて次に行くという都合のいい妄想





アッー

                                          -‐======‐-
                                     ................................................

                                    /.................................................
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                                     /........../................/....................゚。......
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                                     ′........′............/| .....|i...............i:i:
                                    i{.....|......|i.|i...........′|.........|i. |...........i:i:
.                                 i|......|i八、...|ih :从......|i. |.....|... i:i:

                                  八..x岑ミ\|リj___ \|iN.....|. 厶
                           /\             \..|ヒi   ^㌻iト、 \. /}/xく
                       /  /               | ,    ヒリ ) j/  }/
                         /  \                           __,,ノ
                     /  /\/            \ ー      ∠ニ=-
                     \/                    价:.,_____,, -=ニアi|i:i:
                      〈\                   ._/^⌒¨アア斤 /. i|i:i:
                   _..二.._            __,,.  イ〃  〃,: : /  i|i:i:i厂
                  |    _」         ノ.    ″  ″{{/.   i|i:i:7
                    ̄ ̄         xくノ     i{    i{ ij     i|i:i厶イ
                                <⌒\    乂, _]レ  /   i|i/i|//
                              _..二..____}_ _ \ / X^  ,. '゙.     i|i′|/
                      /V/rく\       ,;'  .:゙  /    __,,ノ  ;
              _,,..  -‐   ⌒i; \\\-、   /′ .  .:゙          .:
        __,,  -‐            i:i, ヘ } \({  {.i{    .           ,. /⌒
      /     _____,,..     -‐=¬i「{     `、 八 {  ;         //
    // ,  /               |i圦     } i  \ {  :    //
    (/^ア. /                     \   ``丶、 ≧=‐-  // __,,  -‐
    (/  {/                          \    /⌒ニ=‐-------‐=ニ
                                .,__i| |             /
.                               //i| ¦            /
                                  ∠ニ i| :.         /




投下はっじめーるよー

夕暮れに照らされる道行く人の通り道。

薄墨初美とどさくさに紛れて逃走しようとした滝見春が制裁を食らってから数日後。

ほぼ毎日、ほぼ一年、この道で見られ続けた光景がそこにはあった。


自転車をこぐ少年と、少年の気遣いで荷台に設置された座布団の上に座り少年に抱きつく少女。

近所の主婦や老人から微笑ましく見られている、そんな帰宅&送迎風景である。



怜「『熊倉』、ねぇ」

京太郎「ああ」

怜「うちの学校の教頭先生、『熊倉トシ』先生やったな」

京太郎「ああ」

怜「まさか、偶然の一致と言わへんよな?」

京太郎「言わねーよ、第一熊倉教頭は岩手から転勤してきた人だ」

京太郎「……疑惑なんてレベルじゃない。出張中じゃなきゃ、すぐにでも問い詰めたいくらいだ」



しかし、少年の表情はいささか常のそれより暗い。

それは長年探し求めていた真実の答えを持つ者を見つけ出したものの、その人物に今は会えないという現実に由来する。

気持ちは燻る。
気持ちは逸る。
気持ちは焦る。

気持ちだけが先行して現実が追いついて来ない事が、彼の心をかき乱していた。



怜「焦ってもしゃーないやん? ほな、うちとかと時間つぶして待ってりゃええねん」

京太郎「……お前なぁ」

怜「にしし」

京太郎「……ま、確かにな。焦ってもしょうがないか」



片方が迷った時、焦った時、自分を見失った時。

いつだってそばに居て、必要な言葉をかけてくれるのが相棒だ。

半身が傍に居る限り、彼と彼女は真っ直ぐに在れる。



京太郎「よし、園城寺家到着。明日の昼はちょっと用事あるから先にメシ食っててくれ」

怜「ん? 明日なんか学校で用事おったっけ?」

京太郎「あー……うちの高校はないけどな」



京太郎「明日は、俺らの中央高より早い北高の卒業式なんだ」

この街には、特に有名で生徒数の多い高校が五つ存在する。

中央高校、東高、西高、南高、北高の五つである。

それぞれが運動部や学力、設備や規模、芸術や専門学など様々な方向に特徴を持っていて、各校なりの特色があるのだ。

この街の中学生は進学の際、この五択から選ぶ場合が多い。


ちなみに中央高校は特殊人材特化。

強いて言葉にするのであれば、他校と比べてぶっちぎりに『変わり者』と『天才』が多い。

この校特有の特色化選抜の仕様が関係しているのではとも言われるが、詳細は不明である。



同時期に設立されたこの高校群は、年間のカリキュラムとスケジュールを相互に検討し、噛みあうように配置している。

例えば体育祭や文化祭の日を被らせないようにしたり、冬期演劇を時期のみ合わせて日程をずらしたり。

そのせいかこの街はイベントが頻繁に起きる印象を町の住民に与え、ノリのいい気風を作り出してもいるのだ。



話を戻そう。

卒業式の日程順序は、西→東→北→南→中央の順。

来賓や電報に気を遣った結果、設立から五校の卒業式の日程が被ったことは一度もない。


中央を含む五校には、それぞれ霧島神境の巫女が在籍している。

中央高校に小蒔、その周辺四校に彼女を支える六女仙四人。

広範囲における祭地としての整地、要所要所で使われてきたオカルト的な仕込み。

更に彼女らの得意とする分野で全力を発揮するため、広範囲と全方位を抑えるという意味がある。



京太郎の推測では、『人探し』と『五人それぞれの独り立ち』なんて思惑もありそうな気配だが。



今年卒業を迎えるのは、北高と東高と南高に在籍する三人。


そして今日卒業式を迎えるのは……北高の薄墨初美、その人である。

京太郎「卒業、おめでとうございます」

初美「ん、ありがとっ」



平日で学校があったとしても、昼休みに抜け出せばギリギリ祝辞は可能だ。

かなり忙し目になるが、都市伝説による裏ワザを持つ者達なら不可能ではない。

例えば神代小蒔なら、高鴨穏乃格納中の須賀京太郎にお姫様抱っこで運んでもらう等。

街中でなんだなんだと騒ぐ人達を尻目に、ああまたアイツかと呆れる人達を飛び越え。

気にしない京太郎と気付いてない小蒔は、かくして北高へと辿り着いたのであった。


目的は当然、祝いの言葉を述べるため。

終わったら即座に帰校、そのまま五限の授業と非常に忙しない。

まあ間に合わなければ間に合わないでサボればいいか、程度にしか少年は考えてないのだが。



初美「ま、卒業してもしばらくはこの街に居るんですけどねー。進学ではなく家業継ぐようなものですし」

京太郎「進路とかは意外にも自分の意志で選べるって聞きましたけど」

初美「でも選べるとかえって迷っちゃうものですよ? はるるとか結構考えてるみたいですし」

初美「私は特に何かあるわけでもないので、そうしただけですし」

初美「学生の進路はめんどくさい問題ですよねぇ」

京太郎「ですねぇ……俺も結構そういう相談受ける回数増えましたし」

初美「台風とか船とかはいいですよねー、進路決まってて」

京太郎「そんなのに羨ましがってる人初めて見ましたよ」



一足先に初美を見つけ、小蒔にメール。

合流までの時間を、雑談をしながら潰す。

遠くから手を振ってたたたたたと可愛らしく走り寄ってくる小蒔を見据えつつ、京太郎は初美に一つの質問をする。

それは、一つの賭け。

今の時期、彼が抱えていた懸念事項から彼が考案した一つの手の材料。



京太郎「あの、ちょっと聞きたいんですが」

霞「あら、早いのね」

京太郎「中央一番近いですし。何より車より早い移動手段がありますので」

霞「あらあら」



京太郎と小蒔の次に到着したのは、ふふふと微笑む石戸霞。

彼女が来たという事は、地理的に考えても残りのメンバーはあと数分で集結するだろう。

建物の向こう側で話に花を咲かせている女の子二人の所に、霞を誘導するのがこの場に適した選択だ。

だが、その前に。

京太郎にはやるべきことと、かけるべき言葉がある。



霞「改めて、だけど……小蒔ちゃんの事、ありがとうね」

京太郎「なんかした格別良い事した覚えとかはあんまりないんですけど」

霞「ふふ、そうかしら?」

霞「でもね、小さい頃からあの子の側に居た私がびっくりするくらいあの子は変わったのよ」

京太郎「そんなに、ですか?」

霞「そんなに、よ」



悪意の欠片も見えない微笑みに、少しだけ少年の心が痛む。

例え他人の人生の大一番の為とはいえ、例えそれがこの人の事を思っての事とはいえ。

真っ直ぐな彼の性情は、嘘をついているような現状に心痛めている。



霞「あの子、凄く明るくなったもの。昔から、明るくて頑張り屋ではあったんだけどね」

霞「私達と出会うまではすっと一人ぼっちで寂しい思いをしていたみたいだから、友達が増えるのが嬉しいんじゃないかしら」

霞「一人ぼっちで、寂しくて、周囲からは期待されて。そんな煩わしいものが、この街にはない」

霞「元々、機会があれば変わっていけるような強い子だったわ」

霞「でも、『変わりたい』なんて言える子では、なかったと思う」

霞「そのきっかけがあるとしたら、きっと貴方だと思うの」

京太郎「いや、俺は……」

霞「だから、ありがとう」

京太郎「(……あー、もう)」



それでも、やるべき事と、かけるべき言葉がある。

霞「知ってる? 初美ちゃんもね、昔は服のセンスが普通だったのよ」

京太郎「マジですか!?」

霞「子供の頃は普通だったんだけど、いつからかあんな風になってしまったの」

京太郎「(今でも子供みたいな風体だよ、とかは言わない方がいいのかね)」

京太郎「ってか、子供の頃からの付き合いなんですか」

霞「ええ。少なくとも私は、八歳の時に小蒔ちゃんと。九歳の時に初美ちゃんと出会ってるわ」

霞「それから今日まで、ずっと友人のような、家族のような、仲間のような関係で、一緒にいるの」

京太郎「……良い関係ですね」



出来ればもっと前に、あるいはもっと後に聞きたい話だったと、京太郎は歯を食いしばる。

今まで聞いたことのない、彼女と仲良くなる切っ掛けにもなるであろう、昔話。



京太郎「露出趣味は『本当の自分を見て欲しい』っていう願望も込みの場合があるって聞いたことがあります」

京太郎「神代先輩のそばに居て、本家のあの人と分家の自分を比べて」

京太郎「『自分を見て欲しい』って思ってても、不思議じゃないんじゃないですか?」

霞「……あっ、確かにしっくり来るわね」

霞「ふふふ、長い付き合いの私よりあの子の事を分かってるのかしら?」

京太郎「いや、ただの推測ですよ。間違ってるかもしれませんし」

京太郎「それに当たってたとしても、あの人は自覚してやってる気がするんですよね……」

霞「……やってそうね」



人を見る事は、彼の得意技だ。

完全でも完璧でも完満でもないが、彼が他者に勝れる武器の一つ。

理性と知性から生まれるそれが、推測を徐々に確信へと深めていく。

『目の前』の、少女へと。



霞「分家に姫様、か」

霞「……」

京太郎「どうしました?」

霞「あ、いいえ。なんでもないわ」

 



数日前の、戒能良子・滝見春・須賀京太郎の部室での会話。


時間軸は、そこまで巻き戻る。


戒能良子が、この街で最も『人を見る目がある』探偵に聞いた、霧島五人の人物評の話。



 

「神代先輩は、言うまでもなくこの五人の中心人物です」

「何かあれば、まず間違いなく迷いなく、他の四人は彼女のために命を投げ出しますよ」

「友情、家族愛、使命感、覚悟……それぞれが揺らがないほどにがっちり噛み合ってて、微塵も動く気がしません」

「なんだかんだ芯も強いですし、一番『間違えない素質』って奴を持ってます。ギャンブルとはいえ一番強いし」

「周囲が意見を出して、神代先輩が最後に方針を決める……ってのがこの人達の鉄則かと」



「滝見はムードメーカー。普段喋らない奴が喋るって意味を、よくわかってる」

「一歩引いて俯瞰する奴が一人いるだけでだいぶ違いますしね」

「喋らないけど話をちゃんと聞いてる奴は、話が盛り上がらない時・盛り上がりすぎた時に空気を変えてくれる」

「コイツぼーっとしてるというよりクールなんですよ、たぶん」

「一番年下なのにあの中だとあんまりそう感じさせませんしね」



「狩宿先輩は、これでもかと縁の下」

「あの人目立つ意欲とか活躍する意欲がないというか、まあ一番大人ですよね」

「誰でもやれることを誰よりも率先してやりつつ、誰かがやり残したこともやる」

「あの人一人で、このコミュニティ随分と違ってると思いますよ」

「凄いとかより丁寧、堅実って感じです。大人の人も見てて安心するタイプじゃないですか?」



「薄墨先輩は話題としての中心人物ですね」

「あの人が話を切り出したり、意見を切り出してから話が始まる印象です」

「何も話さない、何もしないといった状況を頭の中で仮定してる感じですかね」

「実際、あの人が人間関係の核っぽいです」

「……まあ、そうなると奇妙な形が見えてくるんですが」



「石戸先輩はまとめ役。言うまでもないですね」

「落ち着きのある感じで、皆の意見を最後にまとめて神代先輩の判断を仰ぐ役」

「しっかりしてる感じで、リーダー横のサポートとか天職でしょうね」

「精神的には一番安定した印象を受けます」

「……ただ、なんというか、んー……」

「……石戸先輩に、薄墨先輩が居場所を用意してるというか、そんな感じがしました」

「そもそもこのメンバーなら、薄墨先輩が引っ掻き回さなければ石戸先輩が纏める必要ないんですよね」

「薄墨先輩だって、空気読めないタイプじゃない。むしろ逆というか、なんというか……」



「薄墨先輩が掻き回して、石戸先輩が纏める。自然になりかけてるけど、そんな作られた流れっぽいような」

「分家とか、技能とか。なんとなく境遇が似通ってる二人なだけに、なんか違和感があるんですよね」



「世話焼きな母親のメンツとか思考とかを満足させるために、ヤンチャを演じられる子供?」

「いやまぁ、それは極論過ぎですね。真面目ちゃんと優しい不良的なとこでしょうか」



「委員長がクラスの人望を得て人を纏めるのに、一番手っ取り早い方法ってなんだと思います?」

「不良が問題起こして、それを委員長が解決するんですよ。有能さと頼りになる所を見せるんです」

「なんもない日常だと便利屋か口うるさいウザいやつ、で固まっちゃいますから」



「昨日今日じゃなく、もっとずっと前に薄墨先輩が作ったんじゃないですかね」

「石戸先輩の居場所。友達の多い奴が、新しく出来たひとりぼっちの友達を仲のいい友達に紹介するみたいに」



「そもそも、戒能さんがここに来る事の連絡受け取ったのは薄墨先輩だけなんでしょう?」

「じゃないとドッキリとか出来ませんし。なら、薄墨先輩の『本家』とやらでの認識も透けてくる」


「仕事して受けた以上、あのカフェでの俺との話も有効になりましたし」

「(……そもそも、あの『全面的な協力関係』とやらのメリット、俺と薄墨先輩のどっちが大きかったんだ……?)」


「今となってはドッキリも利用して、こっそり水面下で色々地盤固めてたようにしか見えないんですよねー」

「……卒業間近に、って事で」

つまるところ、薄墨初美は『要領がいい』のだ。

頭が良い訳でも、飛び抜けた全てをねじ伏せる力も、カリスマもない。

だが、立ち回りが上手い。場の流れの掌握が上手い。要点を押さえるのが上手い。

そして必要な事を自分一人でやろうとはせず、他人にも効率よく回していく。

難しい事を考えているわけでも、やっているわけでもない。

彼女がやっている事は、空気を読み、流れを調整し、場を整えること。



奇しくもそれは、門と運気の流れを統べる彼女の専門、風水の流れをくむ『悪石』とシナジーバッチリである。



対して石戸霞は、『初美と小蒔が居て初めて価値がある』。

いや、『あった』と言うべきか。

無論、今の彼女が抜ければこのコミュニティを今まで通り維持する事は難しいだろう。

彼女がまとめ役であることには、誰も文句を挟む余地がないのだから。

だが、分析した五人の人格と、小蒔から聞いていた話と、今の関係性から類推すると。

この街の探偵の脳裏には、大きな歪みが見えてくる。

この友人関係の始まりには何かがあって、それが明らかにならなければ、根本的な解決にはならないと。



ましてや彼女の専門は、『自分ではどうしようもない悪性を抱え込む』事なのだから。



消えかけている、大きな歪み。

その歪みを認識した時、京太郎の視点で一つ違和感が生まれた。

とある人間に対する、言葉で表現するのも、誰かに説明するのも難しいような、『なんとなく』の違和感。

それがその歪みから生まれたものかは分からない。

だが無関係ではないと、そう推測した。

流れ変わったな

まだ弱い

良子「なんと、まぁ」

良子「予想以上。おーけー、この話は考慮しておくね」

良子「正直、かなり助かったよ」



恐るべきはこれが照魔鏡による超常的な理解ではなく、理屈立てた推測であるという事だ。

『照魔鏡』とは違う、他人の本質に迫る精神的な能力。

他人の心の歪みや痛み、苦しみに過敏に反応する精神の上に、それを理論立てる技術が上乗せされている。

筋道立った話であれば、誰だってその話から耳を塞ぐ事は出来やしない。

それは、正論がイラつかれる理由の最たるもである。



良子「(これが今の貴女の後継者ですか、小鍛治さん)」

良子「(……前のあの宮永ちゃんは、途方もなくて桁違いで、人間かどうかも怪しいれべるでしたが)」

良子「(成程。その隣に並べるだけの人材ではありますね)」



かつて小鍛治健夜は一人の少女を後継者に選び、その補佐として二人の仲間とチームを組ませた。

一人は事務。一人は探偵。

二人はどちらも『小鍛治健夜の基準で』選ばれた人間。

その片方たる少年が、今の小鍛治健夜の後継者こと須賀京太郎。

宮永照の隣に立てると、宮永照自身がただ一人認めた人間。

戦う力ではなく、それ以外の部分を周囲に認められた者。



戦う力は貰い物。

助ける力も借り物で、他力本願と言われりゃばそれまで。

それでも前に進み続けた者が、他人の心の傷と歪みと欠けた穴に向き合ってきた、そんな少年が。



その視線を真っ直ぐに石戸霞へと向け、覚悟を決めたように切り出した。

完全勝利した初美ちゃんUC

もうしわけないが唐突なユニコーンはNG

ここで少しだけ、数日前に彼が出会っていた事件の話をする。


『フライング・スパゲッティ・モンスター』の話だ。


かの邪神はこの時点では、京太郎にとっては全く対抗策のない最悪の敵。

何故なら彼は、未だ羽ばたくための翼を見つけていないのだから。

「お前たちが俺の翼だ」とかではないが、翼がないので飛べない。飛べないので勝てない。

真紅の翼を見つけなければ、尋常な手段では対抗できないという悩ましい状況。



しかしその問題は、鹿児島の巫女さん達によって容易く解決した。



彼女らは曲がりなりにも『神』のエキスパートであり、それは『邪神』と言えど例外ではない。

そもそも彼がクトゥルフの神々から着想を得た対神カテゴリー対策は、まず彼女達の力を借りるという事が根底にある。

神を制御するのも、力を借りるのも、抑えこむのも、彼女達の得意分野である。


特にあの日、大星淡が黒い彼の手によって暴走し、暴れた時。

天地を揺らがすほどの神の力を弱体化させたほどの彼女らの技能に、京太郎は絶対の信頼を置いていた。



『神であれば、彼女達の力を借りる事でどんな奴でも倒せるはずだ』。



そんな期待と確信が半々の、彼の信頼。

事実として神代小蒔を始めとして、彼女の護衛兼側近たる六女仙も一流のメンバーである。

血統も、才能も、精神も、一流であると認められた巫女達。

京太郎がそこに信を置くのも、当然といえば当然である。




ならば、なぜ京太郎はこんなにも『焦っているのか?』

その原因が、前述したFSMの件だ。

FSM単体ならどうにか出来ると先ほど言ったが、それはFSMが単体で来た場合。

それ以外の都市伝説が加勢した場合、外部からの結界の破壊等何が起こるかわからない。

ましてや、戒能良子によって最悪の都市伝説の存在が伝えられている現在の状況なら、これは絶対に無視してはいけない要素。



ならば当然、どちらか片方は先に仕留めなければ不味い。

戦力の波状攻撃と逐次投入の違いだ。各個撃破と言い換えてもいい。

同時に出現すればその脅威は倍どころではなく、相乗。

そしてその『最悪』を体現するのが、都市伝説という悪夢達だ。



つまり、「同時に来られたら」という懸念と恐怖。

彼女が右腕に巻いた、『何かに噛まれた傷』を塞いでいるようにも見える、不自然な包帯。

事前に頼み、快く答えてくれた協力者・夢乃マホからの合図。

戒能良子による仕込みと、いつの間にか既に全員集まっている巫女軍団。



それが彼に、先の見えない一歩を踏み出させた。



それは彼にとって、最悪の回避だった。

最善の一手であったかどうかは、神のみぞ知る事だが。




京太郎「石戸先輩」

霞「なにかしら?」

京太郎「先輩って、この街に来てから」




京太郎「何か一つでも、胸を張って『変われた』と言えるものはありますか?」

胸のサイズ?

「石戸先輩が一番動揺する台詞、出来れば一言だけで完結する何か、無いですかね」



京太郎が問い、初美がきょとんとする。

だがそれは一瞬で、何かを察したような、普段よりも聡明に見える顔で、彼女はこう答える。



「……あー、成程、大体読めました」

「精神的な同様で意図的に、このタイミングでどうこうするってことですかー?」


「はい」



都市伝説は、精神的に安定している人間相手だと暴走しにくい。

それは逆に言えば、何か問題が起きなければ何時まで経っても爆発しない爆弾に、怯え続けなければならないという事。

意図的に爆発させる事が可能なら、それが最善だ。

例え、心が傷んでも。



「ありますよー、そういう言葉」

「本来が私が言うべき事なんでしょうけどね。子供の頃の責任を取って」

「……ごめんなさい」

「嫌いでもない人間の悪口を言う悪役を、分かってて、私は貴方に任せます」


「良いんですよ」

「家族が家族の、幼馴染が幼馴染の悪口を言うよりか、たぶんずっとマシです」



京太郎に、初美から教えてもらったその言葉の意味はわからない。

意味が分からないまま、意味を知らぬまま、彼女の触れられたくない致命的な部分に触れた。

それの罪深さを分かっていない彼ではない。



それでも、せめてその歪みの深奥は知るべきではないと。

彼女の知られたくない部分を知らないままで居る事が、自分に出来る最大の誠意ある行動だと。

そう思い、心の痛みを抑えながら向き合った少年の眼前に。




『蛇』が、現れた。

どこからか這い出た蛇が、石戸霞の下半身へと向かう。


いくつかの人影が、それを皮切りに動き出す。


夢乃マホは、京太郎の側へ。

戒能良子は一手遅れたと判断し、歯噛みしながら四人に指示を出す。

指示を出された四人も、動揺しながらも流石一流といったところか。
良子の指示を受けつつ、初美を中心に結界の構築を始める。



それは捕らえるものでも、身を守るものでもなく。

この『蛇』が撒き散らすであろう、『おぞましきモノ』を外に出さないためのもの。



蛇が巨大化し、石戸霞の下半身を食(は)むように噛み、咥える。

上体を起こした蛇と共に、少女の体が黒い霧に包まれていく。

やがて霧が晴れた時、そこには。



『石戸霞』という少女の姿はどこにもなく、変わり果て終わり果てた、そんな巫女の姿があった。




六本の腕。鋼のような硬質さと花のような美しさ、毒々しい爪が恐ろしさを掻き立てる。

袖の吹き飛んだ巫女服。モデルとなった少女の身体のサイズ故か、少し動けば胸がポロリとしそうになっている。

目には虚無。眼球が抉られていたほうがまだ存在感があると思えるほどの虚(うろ)。

表情に生気はなく、病的なほどに青白い。

口元はかすかに動いてはいるものの、その音は全くと言って良いほどに言語としてカタチを成していない。



そして特筆すべきは、その下半身となった『蛇』。



今となっては、全長30mはあるだろうか。

その巨大さは、人間であれば見上げなければ人間部分に視線が届かないほどである。

ぬらぬらとした粘液と、おそらくチェーンソーでも歯が立たない強度の鱗。

蛇を超え、竜にすら見える恐ろしき脅威だ。



巫女と、蛇による複合都市伝説。




良子「『姦姦蛇螺』……!!」

おう早くポロリしろよ

【姦姦蛇螺】



人を食らう大蛇によって食い殺された、悲劇の巫女の怨念の都市伝説。



昔々、ある所に。
「神の子」と呼ばれ、神から力を借りる事が出来た巫女が居た。
彼女の家系は不思議な力を代々受け継ぐ者が何人も存在した、そういう血統を受け継ぐ家だったらしい。


彼女は見目麗しく、様々な力を持っていて、その力を世の為人の為に使う心優しき巫女だったという。

ある日、彼女に「人喰い大蛇を退治して欲しい」という依頼が舞い降りる。
村人達が影から見守る中、巫女は全身全霊を賭して戦い、神の力を振るった。

しかし、一瞬の隙を突かれて下半身に食いつかれてしまう。
それでも、自分が助からないとしても、せめて村の人だけはと、巫女は抗った。



自分を見る、死の恐怖と失望に満ちた村人達の視線にも気づかずに。



村人達は、恥知らずにも蛇へと交渉を持ちかけた。
村人の為に今も抗う巫女の前で堂々と、蛇に対して、こう言った。

「この巫女を、今ここで生贄として殺します」
「もう、この巫女に勝ち目がないのなら、この巫女の味方をする理由がない」
「ここでこの巫女を殺せば、貴方の命を脅かす者はもう居ない」
「だから、『命だけは』助けてください」
「『俺達の命だけは』、助けてください」


他人の為に命すら賭した巫女と、その命と善意を盛大に踏み躙る行為。その言葉に、蛇は


「いいだろう。この巫女は、目障りだったからな」



村人が、振り下ろす斧。
飛んでいく巫女の両腕。
響き渡る、巫女の絶叫。
ゆっくり咀嚼する大蛇。
女の怨嗟と憎悪の言葉。


耳に残る呪詛が全く聞こえなくなったその時に、巫女はその生涯の終わりを告げる。

彼女は、気付いたのだ。神からの啓示か、優れた直観か。

己の死が、自分の飛び抜けた力を疎んだ身内による陰謀だったという事に。

そして。

そして、化け物として生まれ変わった。

六の腕、蛇の下半身、全てを呪い殺し尽くす怪異として。



巫女が殺したいほど憎んだ家族は『六人』。『六人の巫女』と、その血族全て。

そして最後の最後に、『四の巫女』によって鎮められたとされる。




都市伝説の中でも、まごうこと無く最上位の危険度を誇る都市伝説。

一言で言えば、神話ならぬ親和率。

その脅威が生まれた原因は、その都市伝説と、発現者の相性が『あまりにも高過ぎた』、その一点に尽きる。

それは誰一人として予想すらしていなかった、想定をはるかに超える悪夢。



マホ「(あ、これマズい)」

京太郎「……やべぇ!」



まずはマホ。距離で効果が薄まって、「都市伝説の影響下にあるか」くらいしか分からなかった照魔鏡。

それがこの至近距離で、最大の効果を発揮する。

そして少し遅れて京太郎。肌で感じる都市伝説の脅威を、頭脳で処理し概算する。

タイミングに差はあれど、二人共「ヤバい」という結論だけは共通する。


そして視線は、他のメンバーへ。



マホ「( 『間に合わない』 )」

京太郎「(急げば……いや、間に合わない!)」



二人の近くに居た小蒔は抱き寄せたのでギリギリ間に合う。

しかし、残りが間に合わない。遠すぎる。

京太郎は「なにかヤバイのが来る」と経験から判断し、マホは「視覚を媒介にした見た者を殺すタイプの呪い」と詳細を把握する。



マホ「間に合いません! 構えて!」

京太郎「ッ」



理性と能力による、それぞれの判断。

速度に差が出たのは、例えるのなら難しい計算式に対するスタンスの違いだ。

答案を見るか、瞬時に計算するか。それだけの違いでしか無い。

しかしその違いが、京太郎の『照魔鏡』への信頼が。

京太郎の一瞬の迷いを、振り切った。



京太郎「神代先輩! マホ! 俺に密着して離れるな!」

小蒔「は、はいっ!」

マホ「4、3、2、1……来ますっ!!」


京太郎「破ァッ!!」



姦姦蛇螺の全身から、紫色の『領域』が広がる。

空気でも光でもなく、水の中に色水を垂らすかのように、広がって行く領域。

精神(こころ)を犯す、悪夢の悪意。

京太郎は二人をぎゅっと抱きしめたまま、今己に出来る事を成す。


悪夢がゆるやかに、巫女達の張った結界の中を満たしていった。

 



END.
第二十一話前編:Uns et les Autres/愛と哀しみのボレロ

START.
第二十一話後編:Under the greenwood tree/緑の木陰



 

本日の投下は終了です。お疲れ様でしたー

姦姦蛇螺は狙いすぎだろってくらいに永水なので残当

後編は霞さん回想、そして決戦です。子供達が見た姦姦蛇螺は裸ですがこのスレは全年齢対象なので



では、これにて。レス返しなども明日

終盤はちょっと眠気との戦いだったので申し訳ないです。お付き合い感謝

おやすみなさいませー

乙乙です
風の噂で京ちゃんと霞さんはるるの同人が出ると聞いたのですが、なんとタイムリーな……

堕天の邪眼光んばんわ

アニメはた魔はいい作品に仕上がってたと思います

次回投下は土曜予定



>>181>>182>>184>>185
この流れ

>>189-192
そしてこの連携ですよ

>>200-203
打ち合わせしてるのかと思うレベル

>>218
p-館の人でしたっけ



http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130808-00000119-jij-soci
いやはや、ビビった人結構多いんじゃないでしょうか

しかし30mってガンダムよりでかくてジャイアントロボやガオガイガーと同じくらいの大きさなんだよな…
全長だから単純な高さとはまた違うけどそれでもでかすぎだろ

マスカレイドA「あ、じゃあお前FSM担当な」
マスカレイドB「俺は首領の供回りか」
マスカレイドC「俺の担当あの蛇?めんどくせっ」
マスカレイドD「俺なんて寺生まれの見張りだぜー、退屈な上に見つかったら即殺だよ」
マスカレイドE「俺は一番楽なデスクワークだぜプゲラwwww」


アイツらに限って「案件が多くて手が足りない」って事はない

>>237
ぶっちゃけ怪人アンサーの生贄もコイツ使えば無限なんじゃ......

地震で思ったけどナマズって都市伝説に入るよね?
このスレ的に言うなら動くだけで地震誘発する天変地異型能力に………アレ、怖くね?

つるセコんばんわ

つるセコー! って覚えてる人いらっしゃるんでしょうかねー?

今夜22:00から開始です


>>226
「ジャイアントキリング」発動圏内ですね

>>239
アンサー「体の一部もらっても嬉しくない人と何度もやるのはちょっと」

>>251
それもありでしょうねー



http://i.imgur.com/mjUfF5w.jpg

http://i.imgur.com/GT8rlke.jpg

ヒューッ!

アンサーって・・・
回復系の都市伝説持ちだと意味なさそうだな

>>261
咏ちゃんに義手作ってもらうくらいでしょうかね、できるのは




    _n_  _r、_,:z  ___
    |「米 || 三][三  ̄./    o_                 ト、∧∧/|/|
    ===人=== 壬┼`  ⌒))     o... >´......>.   _ywWWwx_ト、|        レ1
   </  \>.、| 乂 `=彡 /........./............\.....  ≧rュ[ロ] ≦          Z_
.      n               ,、,、...._ _...................ヽ.. ≧ネ儿 第2回 選抜総選挙<
    =||==;┐ =====  ===`’`’ノタ又' 「| 「| .....゜.. ^ キャラクター人気投票  /
    〃 // _||_ ==ォ==......... =ォ=  ゞ j !...........ヽ     > 結果発表///  \
       `   ̄ ̄ ̄ 〃.. /.... 〃j|ヾ...... </ ............i....゛.  ̄Z/ ̄\   ゚ ゚ ゚ \ 本 た キ キ
                j/.イ.........!=/=ミ!|.........ィ.!==-i..|......乂  /      ∨∨\「 ̄ 当  く  ャ ミ
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ニニニニ.| |」.\_人/{゙: i: : i、≦二、ゝ'´,ィfテ尨:_) す (.゙゙/ ̄ ̄\ /  , .|::.  > .. 514票 . .<
ニニニニ !」ニ )ス 素\_: :トΚ弋j゙  ″ゞ'゙ノ: :.) っ (:.:| 順 順 |.:゜ /.: :ハ:::..i .   |:.、 ヽ    \ー=、
ニニニニ   <. テ 敵 (..\: ヽ"´ ,   , ∠_:. ⌒Y^⌒:.:| 位 当 |:: /.;::i-!‐、::!::ヽ:‐::!-::. .:i.  ヽ  \   ゙::
ニニ._∠=..._丿 ッ な (...: : :>ゝ_, ー/\∠ィ: : :ノく´ . | で な >. ::Vォモrミ^ー`ィモヵz::|:    ト、:..:::.ヽ リ
....‰ヽ/ ) キ   (⌒ . ― 、:ノ>/:i:i:i:iⅩ` ̄´  ∨.| す   |: {:::.\トゞ'    ゞ'ノ゙ ソ ,   |:::i:::ヽ::::V
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  レニ.`゙ー-‐'^~ \\-、_∨∪ Ⅵ....l.匕}   ,斗r≦ア‐‐ュ{r'⌒Y人>J斗∧ 「二ヽY //;';';';'\
  {ニニニニニニニニニ..rハ`ヽjJ∨.  Ⅵ..l../`  〔\廴ゞ⌒Y⌒)〈>斗ミ、||ノ).∧とニヽ | /ー=、;';';';';'ハ




投下はっじめーるよー

石戸霞は、代わりとして生まれ、代わりとして育てられ、代わりとして生きてきた。


それは、今も昔も同じである。



彼女の両親は、お見合い結婚だった。
今日この日に至っても、二人の間に愛情はない。
両親が子供の頃に夢見た『愛の結晶の代わり』として、彼女はこの世界に生を受ける。


「愛の結晶としての子供」ではなく「その代わり」でしか無い子に、愛情を注ぐほどに彼らは酔狂ではなかった。

そして当然、冷めるどころか熱を持ったことすら無い夫婦間に愛はなく。

かといって、両親は不倫という不貞を働くほどに非常識ではない、むしろ一点を除けば良心的な人格者であった事も災いする。

いっそ浮気でもして、この夫婦関係が破綻していれば。
両親の片方が作った愛のある新たな夫婦に引き取られていれば、何かが変わったかもしれないのに。


結果として、一つ屋根の下に『三人の他人』が集うという家庭環境で、彼女は幼少期を過ごす事になる。


愛する事も、愛される事も実感できぬまま、哀れみすら感じる無垢さと痛ましさを胸の中に抱えて。



彼女の血統、生まれ持った才覚、そして神に愛される力。
年齢が二桁になる前に、彼女は親元から引き離された。
未練はない。寂しくもない。『同じ家に住む他人』と、引き離されただけ。



ただ――結局、生まれてから一度も家族としての感情を向けさせる事が出来なかった事だけが、悔しかった。



「さようなら」



彼女が発した別れの言葉は、「いってきます」でも「また帰ってくるから」でもなく。

永遠の、生涯の別れを告げる言葉。

そんな言葉が、この両親と一人娘の別れの時に出てくるという異常。

この時初めて、彼女を連れに来た霧島神境の長の一人・霞の祖母は、娘夫婦と孫娘。

その間にあるあまりにも歪過ぎる関係と、それが既にどうしようもなく終わってしまっている事に気が付いた。



「ああ」
「じゃあね」



その確信に、娘夫婦の感情の篭らない別れの言葉が拍車をかける。

終わった事。既に終わってしまった事だ。だから、何も変わることはない。

それでも、「願わくば」と。

霞の祖母は、霞の未来の幸せを願い、その手を優しく握る。

歩き方を知らない者に丁寧に教えるように、ゆっくりとその手を引いていく。

気持ちの込められた手のひらの暖かさを知らないこの子に、その温度を伝えるために。

子供がまず何よりも先に両親に教わる大切な事。


手を、握る。



『手を繋ぐ』事の大切さ。

繋がれた手の『暖かさ』。



この日、祖母から教わった大切な事を。

雪の降る夜に手を引かれながら、「もっとこの手を握っていて欲しい」と思った事を。


石戸霞が忘れる事は、一生無いだろう。

そこからの日々も、彼女は誰かの代わりでしかなかった。


『天倪』。


祖母の手を離れ、両の手で数えきれないほどの巫女の手で教育を受ける事となった、彼女の御役目。

「神代小蒔」という少女の生きた天倪となるのが、彼女に与えられた生きる意味。



天倪とは何か?

例えば、雛祭りの雛人形。
例えば、厄除のヒトガタ。
例えば、寺社仏閣の護符。


「何かの代わりに厄を引き受けるもの」。

厄を引き受けその身に留め、悪しきものから何かを守る形代(かたしろ)。


それが、『天倪』だ。



人形の代わりとなって、生きた天倪として誰かの代わりに厄を引き受ける。

神を降ろす為の形代でなくては天倪としての意味がなく、それが可能な彼女にはこれ以外の生きる道が用意されていない。

人間であるのに、人形の代わり。



そこに、さして思う所はない。

人間扱いですら無い、事実上の影武者以下の扱いに彼女が不満の声を上げない理由は単純だ。

彼女の中には、そこに文句を付けるだけの『自分』がなかったのだ。

人生で何一つ勝ち取って来なかった、勝ち取る方法すら教えてもらえなかった彼女の中には、何もない。

何もない自分は、与えられた何か以外になる未来がない。

幼い頭で、彼女はそう理解している。

ただ、彼女は、一つだけ。




そうまでしても、他人に必要とされようとする。

必要とされる、ただそれだけで嬉しく感じる自分が―――悲しかった。

そこに拍車をかけたのは、神代小蒔が途方もなく、非の打ち所もなく。

「いい子」であったという点だ。

友人であれば幸福であったはずのこの要素は、彼女を更に苦しめる。



神代小蒔は、両親に愛されていた。大人に愛されていた。周囲に愛されていた。

そして、同じだけの親愛と感謝の気持ちを返していた。

他者に尽くされ何不自由なく育っていた。誰の代わりでもない一人の人間として、尊重されていた。

そして、周囲の人間に同じだけ尽くそうとし、一人一人を個人として尊重していた。


霧島神境の姫として恥じないものを持って生まれ、与えられ、それを体現しながら生きていた。



自分にないものを全て持っている。
自分が欲しい物を全て持っている。

自分では真似をしようとした所で、天地がひっくり返っても不可能な事を成している少女。

そして、自分を変わりとして扱う事が許されるオリジナル。


そこには多少の嫉妬も、羨望も、憎しみもあって。

いっそ悪人であれば、彼女の胸の中のドロドロとした感情の向ける先にもなってくれたかもしれないというのに。



神代小蒔は、無垢に無邪気に純粋に、友人としての好意を向けてきた。

それが石戸霞の至上の幸福であり、最悪の不幸であったとも知らずに。



いつからか、石戸霞は神代小蒔を妹や娘のように可愛がっていて、大切に想っていて。

生まれて始めての家族であるとすら、この子の為なら死んでも後悔はしないとすら思っていて。

最初に抱いた悪意、ドロドロとしたものは沈殿したまま消えずに残る。



例え、石戸霞が神代小蒔を好きになったとしても。

嫉妬の、羨望の、憎しみの源泉となった現実は何一つ変わってはいないのだから。



その日から、彼女の中に生まれた矛盾が一つ。

何よりも愛する家族と、何よりも憧れる理想像と、何よりも疎ましく思う悪意の先が。

たった一人の人間に向けられているという、ひどく捻くれた感情の矛盾。

生来の性質。育った環境。鬱屈した日々。

霧島神境に来て時間も経っていなかった頃の石戸霞は、笑わない子であった。

当然のように誰も笑わず、誰も笑わせず、笑顔の原理すら知る事の出来ない生育環境。



それは子供達が無邪気な悪意を向けやすい、あるいは無関心の対象となりやすい、そんな子供を作り上げる。

笑わない、ノリが悪い、人の輪に入ってこない、一緒に居て楽しくない根暗な子供。


石戸霞には、友達が居なかった。

その日、『彼女』が声をかけてくれるまでは。



「人数が足りないんだけど、一緒に遊ばないー?」



子供達のリーダー格。

率先して人を纏め上げる、明るくて楽しげな皆の人気者。

「薄墨初美」という少女は、石戸霞の初めての友達だった。



彼女は、自然と会話を繋げる事が上手かった。

皆が共通する話題を提供したり、誰かが仲間外れになる流れを作ろうとしなかった。

霞が参加できる会話の流れを作り、彼女の立ち位置を友達の中で確立し、彼女を自然と人の輪の中に組み入れた。

暇な時に霞と話し、皆と会話出来るだけのネタを差し込む。
霞と一緒にテレビを見たりして、後日皆とそれをネタに話せる下地を作る。
そしてそれを、霞だけでなく多くの人間と自然にこなすことで、一つのコミュニティを危なげなく維持している。



そして驚くべきなのは、それらの行動が全て「子供の遊び」として自然な範疇にあるという事。

そして本人の意識はかなり適当かついい加減であり、「そうした方が楽しそうだ」程度にしか考えてなかったという事。

彼女はほんの少しの打算と生まれもっての性質のみで、子供達の楽しい時間を巧緻に守っていた。

だからか自然と、大人達にも一目置かれているようで。
いつからか大人に使い始めた敬語が日常生活でもごっちゃになり始めたのは、そのせいであるようにも思える。

それが更に、子供達からの求心力を上げる要因となる。



それが石戸霞にとって、どれほどの救いとなったのか。どれほど嬉しかったのか。

どれだけ感謝しているか。それだけ尊敬しているか。どれだけ羨んでいるか。

その生来の気質と才能に、初美の幸せになれる才能と疎ましい己の才能の比較に、どれだけ嫉妬しているか。

与えられた居場所に、勝ち取らなかった/勝ち取れなかった生きる場所に、歪な喜びと歪んだ拒絶をどんな比率で内包しているか。

歳相応でなく大人達に認められる彼女を見て、霞は何を思ったか。



友人として、好ましく/疎ましく想うその対象。

石戸霞本人ですら、己が心奥の深奥に何が在るか、分かってはいない。

鬱屈する。苦悩する。歪みを抱え込む。

しかし、心は曲がらないというその矛盾。

それは彼女の心の強さと幼少期に育まれた我慢強さに由来するが、それだけではない。



彼女は悪性の神をその身に留め、天倪として姫を守る神の依代。

その魂も、精神も、肉体も、その技能に特化している特別の中の特別だ。

更に言えば狩宿家や滝見家の秘蹟により、その身は常に調整されている。

彼女という存在は、『悪性の存在を抱え込む』事に特化されており、また『抱え込んだものを自分の意志で吐き出せない』。



奇しくも、都市伝説のように。

彼女の人格と能力は、コインの裏表の関係にあった。

人格が能力を形成し、能力が人格を形成し。

いつしか彼女は、「受け入れる」という精神的な方向性を獲得する。



他人の行動に対し寛容的であり、誰に対しても『母』を思わせる度量。

暖かみを感じる微笑みと、抱きしめられた時の安心感。

彼女が友人達の間でふざけ混じりに「お母さん」と呼ばれ始めるのは、自然な流れであった。


……そこで、『それ』に気付けて、変われていれば。

何かが変わったかもしれない。しかし、とうに終わった話だ。現実にはもしもの世界も、リセットボタンもない。



彼女は、ただ一つ。

「今度は母親の代わりか」という想いを新たに抱えこみながらも、日々を生きていた。

他人が抱え込めば潰れてしまうような重荷を背負いながらも、生きていた。



その日、都市伝説と、少年と、その愉快な仲間達が戦い続ける街に降り立つ日まで。

石戸霞は、自分自身に価値を見出していなかった。

誰かの代わり・何かの代わりとして生まれ、生き続けた日々は、彼女に自身の価値を喪失させるには十二分に過ぎる。


だからこそ、彼女は妹のように愛する神代小蒔のためなら死ねる。

だからこそ、彼女は母が子にそうするように、誰かの長所を見出だし肯定できる。

だからこそ、彼女は周囲を常に羨んでいる。



彼女にとっての『石戸霞』は、石ころと等価の価値にしか思う事が出来なかった。



だからその日に、出会った少年は衝撃だった。

能力を持つ者、持たざる者。

頭脳が優れた者、愚か者。

役に立つ者、立たない者。

それらを真の意味で等しく尊重する、そんな人間に。

神代小蒔を除けば、石戸霞は生涯で初めて、そんな人物と出会っていた。



特別、ではない。
彼女が出会った頃の少年はネクサスの力も寺生まれの力もなく、ただの凡人だった。

生まれ持って何かを与えられたわけでもなく、人生の中で勝ち取ったものだけが彼を『特別』に押し上げる。

そんな生き方が、ひどく胸を高鳴らせた。

彼女自身、己の生涯で胸を張って勝ち取ったと言える物がなかったから。



特別でもない彼が、彼女の中で特別の中でも最上位に位置する小蒔と重なって見えた事。

それが今まで彼女の中にあった、『生まれもっての才能への特別視』を崩して行く。

小蒔や初美に感じていた劣等感、自分の中で「私なんかには無理だ」と諦めていた多くの事象。

凡人が頑張り、何かを勝ち取っていく過程は、周囲に勇気を振りまいていく。

石戸霞も、その影響を強く受けた者の一人であったのだ。



特別でない者が、特別な者達と肩を並べて歩いて行く光景。

特別でない者達の力を束ね、その価値を証明し続ける在り方。

それは彼女の中に在る、長年わだかまっていたドロドロとした気持ちを消し去っていく。


そして、何よりも。


石ころ(フィロ)のような存在を、宝石(ジュエル)と同じように扱ってくれる。

そんな人が居ると知れただけでも、彼女はとても、とても―――言葉に出来ないくらいに、嬉しく感じられたのだ。

かといって、そこで何かがあるわけでもない。

小蒔に対する接し方を変えるわけでも、初美に対する接し方を変えるわけでもない。

その少年ともっと親しくしようと関わりに行くでもない。

それでいいと、彼女は思っていた。



彼女は、何かを変えようとはしなかった。

彼女は、何かに変わろうとはしなかった。

ただ、漠然と。

その街に、その少年の周辺の周囲に漂う「人が変われて行けそうな空気」に触れているだけで、満足していた。

特別でない者が特別な者に変わっていく姿に憧れたはずなのに。



今までと何も変わらない日々を過ごし、変わろうとしない自分を甘受し。

それに無自覚なまま、小蒔の『変わっていく自分を肯定する夢』に、喜びと苛立ちの両方を抱いていた事からすら目を逸らし。

己の胸中から何かが消え、何かが顕になっていく日々に、透明な不安を感じていた。



変わらなければならない、ではなく。変わりたいと言う小蒔に形容しがたい感情を抱き。

少年と少し話した時に、少年が「変わらなくていい、そのままの貴女でいい」という言葉を絶対に言わないのだという確信を得て。


自分の中で何が減り、何が顕になっているか気付いた瞬間、ようやく彼女は自覚した。

彼女は、誰かの代わりだった。

彼女が何かを得る時は、勝ち取ったものではない、常に与えられる何かを受け入れていた。

彼女が何かに変わる時は、いつだって誰かの手で、誰かの都合で変わっていた。



あの日、祖母に手を引かれて生きる世界が一変した雪の日から。

根本的な部分で何も変わっていない自分に、彼女は愕然とした。



石戸霞は、こう思う。



私は『変われない』。絶対に。

何故なら、私は変化していく自分を受け入れられるほど……強くは、ないから。

変わっていく世界、変わっていく親しい人達が居るという事すら、受け入れるのが辛い。

変化を受け入れられる事が強さの証なら、きっと私は弱いんだろう。

でも、無理なものは無理。

「変わればいい」なんて、気安く言わないで欲しい。

そんな強さを、私に求めないで欲しい。

誰もが貴方達のように変化を享受し続ける事なんてできない。



誰もが、貴方達のように強くは在れない。

だから、『変わって行ける強さ』を私に求めないで欲しい。



私は憧れた。変われないからこそ強く、変わって行ける人達に憧れた。

価値の無いものを価値のあるものに変えていける、そんな人達に憧れた。

手が届かないからこそ強く、憧れた。



私が貴方に求める言葉は、「一緒に変わっていこう」じゃない。

「そのままの貴女でいい」と、そう言って肯定して欲しい。でもきっと、何があっても貴方はそんな事を言ってくれないだろうから。

貴方は私に、きっと私一人でも幸福を掴めるだけの強さを求めるだろうから。

他人に弱いまま、変わらぬまま傍に居て欲しいと思う私は……きっと、心が弱いんだろう。

それでも、変わっていけないほどに、私は弱い。

変わっていこうとする姫様を、喜ばしく思う。

それは雛が巣立ちをしていく過程を見るようで、掛け値なしの喜びと共にある。

そこに偽りはない。

かつて同年代の友人が一人もおらず、大人には恐れられ、両親ともたまにしか会えず寂しい思いを抱えていた姫様。

私が初めての友達で、懐く姿がとても愛らしく思えた姫様。

家族として、おそらく私が誰よりも大切に思う姫様。

生まれついて持っていたものの大きさでは、どんな人間にも負けないだろう姫様。



その姫様が、私の手の届かない所に行ってしまう。

生まれもっての才覚だけでなく、これから多くのものも勝ち取って行く。

そして変われる強さを持つ者達だけで先に進み、私を置いて行ってしまう。

私はそこに、混ざれない。


寂しさ。悲しさ。嫉妬。焦燥。未練。


変われない私の、醜い感情。

肩を並べたい人が居たとしても、変わり続け進み続ける事が出来ない私は、そこに肩を並べられない。



こうして、気持ちを整理していく内に気付く。

何故、今更? 十年近く抱え込んでいて、何故、今更?

何故今更、『変われない自分』なんて根本的な歪みに、誰に指摘されるわけでもなく気付けたのか?


……答えは、単純。


私の胸の中には、ずっと空虚が在った。

生まれた時からずっと在る、両親が埋めてくれなかった空っぽの穴。

寂しくて寂しくて、寂しさという言葉を知るよりも先に、私の心と共に在った虚(うろ)。



この穴に、時におぞましき神々を。

日常の中では、ドロドロとした鬱屈した感情を。

寂しさの穴を埋める為、私はこのあまりにも大きな感情の泥を流し込んでいた。

穴は過大、泥は膨大。足りないという事は、なかった。



そう、私は。



この世界に落ちたその瞬間から、ずっと埋められなかった『寂しさ』を抱えて生きていた。



……20年近く抱えていた、誤魔化し続けた、埋められるはずもない、そんな寂しさだった。

映画で、復讐者が復讐を成す物語を見た事がある。

復讐者は復讐を為そうとする一心で、目を逸らしたくなる逆境に耐えていた。


映画で、貧乏な夫婦の愛のある生活を見た事がある。

夫婦は愛があるからと、みすぼらしい生活に耐えていた。



誰かを嫌いなままでいる。

誰かを好きなままでいる。

そうする事で、人はそれ以外の事に耐えられる。目を逸らせる。

私だってそうだった。



一人の人間を好きになって、それと同時に嫌いになって。

好きになれる部分を探して、嫌いになれる部分を探して。

人は誰でも好きな部分と嫌いな部分を相手に見る。でも、私のように探したりはしない。

大切だと思える人に、一人の人間に、好きという感情と嫌いという感情を同時に抱え込む。

それは矛盾。だけど、そうでなければ『この寂しさ』に耐えられない。



あの日、別れを告げた、今はどこに居るかも知れない両親。

何年も気付くことすら出来なかった、あの日の後悔。

両親に「もっと私を見て欲しい」と、自分の本音と寂しさにすら気付けなかった子供な自分が恨めしい。



寂しさは、変わっていけば受け入れられる。

現にあの人は、そうやって誰かに変化を促して、大なり小なり在る寂しさの穴を埋めていった。

でも、私はそうは行かない。

寂しさを埋めるために変わっていけるほど、私は強くない。



楽しい日々が、笑い合える日々が、胸を高鳴らせる日々が、私の胸中の穴を埋める泥を減らし続ける。

幸せであると自覚できる日常が、私の寂しさの穴を顕にしていく。

幸せを前にして、その姿を見せ始める寂しさが、いつか終わるこの日々のカウントダウンであるように思えた。

それでも、私は変われないのだと。

いつかこの日々が終わるとしても、その日まで期間をもっと長くしようと考える。

それが先送りでしか無いのだと自覚しながらも、私はそんな情けない自分を変えられない。



「何か一つでも、胸を張って『変われた』と言えるものはありますか?」



だから、その日。

何よりも言われたくない言葉を、誰よりも言われたくない人に、絶対に言われたくない時期に言われ。

心臓が破裂し、心が割れるような……そんな、ショックを受けた。




そして胸の『穴』の中から、『蛇』が這い出るような幻覚と共に、私の意識は沈んでいく。

糸井重里は赤城山に掘った幅100m深度60mの穴をどうしたんだろう

>>364
埋めたんじゃないでしょうか
放置してると危険ってことでポリ公さん達来ちゃいますし




                                           _

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                        ,x=´;:;:;:;:/;:;:;:|、          |||||三三三∥
                   __/;:;:;:;:;:;:;:;:./;:;:;:;:.| ヽ、         `ミミx、 ̄
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    (三三三;:;:;:;:;:;:;:|      .|;:;:;:;:;:;:|;::|_|ヽ_/ヽ/|〉、;:;:;:;:.\\三三ミx、 `>'´;:;:;:;:;:;:;:;:;:,xx
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ー―‐'´~ ̄ ̄ ̄         ヽ_/   ..\三三三三三彡''     `x、三三三彡'.|  ヽ、__
                          ヽ、三三彡'´             |   |    |;:;:;:;:;:;:
                          ヽ    ヽ             .|_/|    |、;:;:;:;:



京ちゃんにとってかつて無いほどに目の毒な都市伝説!

京ちゃんの京ちゃんがやる気十分になる前に決着をつけよう!

投下はっじめーるよー

大蛇に半身を飲まれた巫女が、息をするように呪いを吐き出す。


結界の中に満ちる、明確極まりない『死』。

気体でも液体でも固体でもない、質量を持たない致死性の毒が蔓延していく。

防ぐ手段はない。これは視覚を通して浸透し侵食する、瞼程度では遮断できない悪夢の霧だ。


結界は逃げ道を塞いでしまう。

しかし結界を解除すれば、この死の領域が卒業式が終わったばかりの学校周辺にまで広がってしまうだろう。


絶体絶命。

彼ら彼女らが正しい在り方を守ろうとする限り、死は避けられないという二者択一の状況下。

そして少年少女達は、その在り方に殉じられる程に、真っ直ぐだった。

巻き込んで多くの人を死なせてしまう事を良しとして、大人らしく割り切る事が出来なかった。


だから本来、ここで誰もが死んでもおかしくなかったのだ。

それほどまでに『姦姦蛇螺/石戸霞』は規格外であり、彼らの予想を遥かに超えていた。


だからこそ、ここで未来(さき)へ希望を繋いだのは。



良子「……ふぅ。結構バテたかな」



この場でただ一人、『大人』であった彼女であり。


彼女と共に『結界の外』に居る少年少女の瞳は揺れ、そこにはわずかな困惑と少なからずの敬意が揺蕩っていた。

二つ重なったビニール袋を想像すればいい。

片方のビニール袋には水が詰まっていて、もう片方の袋はそれを覆うように重ねられている。

両方に穴が開いていたとしても、穴の場所が重なっていなければ水は漏れにくい。

二重の結界の穴の場所をずらし、一瞬で脱出。後に数秒間のみ開いていた二つの穴を塞ぐ。

その過程で動ける京太郎に声をかけ、彼に指示しつつ二人で分割して結界内の仲間を救出・担いで運搬している。

更に出る直前に自身の能力による擬似的な封印までぶちかますというオマケ付きである。

この芸当、状況判断・結界への細工・仲間の救出・京太郎への指示・姦姦蛇螺の擬似封印等を並行してこなしたのだ。


友人、あるいは家族の変貌に気を取られたとはいえほぼ何も出来なかった少年少女が無能というわけではない。



ただ単純に、切り替えが早かった。

『自分が何をすべきか』を正しく瞬時に判断できたという、そんな大人の証明。

彼女が大人の世界で頼られる一人の人間であると、言葉ではなく一連の行動がまざまざと証明していた。



良子「結界で括られてなければ、結界ごと『眠らせる』のは難しかったかもね」

良子「この封印もどき、一週間……は持たない。そしてそれまでに私達が全快し切るのは無理だと思う、よ?」



それでも、消耗とダメージは避けられなかったらしい。

戒能良子は表情こそ常のそれだが、顔色が非常によろしくない。

巫女連中は小蒔こそ疲労の色が見える程度だが、残りの三人は今にも倒れそうな状況だ。

姦姦蛇螺は『巫女殺し』の都市伝説である。
モロに能力の効果範囲に入っていれば、どんな巫女であっても命を失うどころか、血族郎党巻き込んで惨死するだろう。

それを考えれば奇跡に等しい被害状況。


だがしかし、これでは中央高校の卒業式までにはどう考えても間に合わない。

その日以降にFSMが来てくれるなら問題はないのだが、もしその日まで来てしまえば京太郎の対神戦略はご破算だ。


彼の中での対立体飛翔作戦のプランは、短期間の間とはいえ全て水泡に帰した事になる。


だが、そんな彼の表情には落胆などは欠片も見えず。



良子「どうするか、なにか考えはあるかな?」



冷めやらぬ僅かな興奮と、納得に似た驚嘆が在った。

只者ではないと思っていた。無能ではないとも思っていた。

しかしここまで『頼りになる大人』だとは実感していなかったのだ。



京太郎「(何この人やべえ)」



珍しく素直に尊敬させてくれる年上女性だと、場違いな事を考えていた京太郎であった。

姦姦蛇螺。

既に戒能良子から情報を得た事で、その名と特性は彼の知る所となっている。

更に一度の直接的な邂逅を経て、事実上の情報ピースは二つ集まっていると言えるだろう。

ならば短時間の探索と考察で、そのステータスと対応策は完全にあらわとなる。

だが、今の彼には。

単体の都市伝説に対して、情報を組み立てる探索よりも遙かに信用に足る存在が側に居た。



京太郎「マホ」

マホ「さー、いえっさーです!」



『照魔鏡』、である。



マホ「無論、バッチリですよ!」



その鏡には、数分前に彼女が至近距離で見た怪物の情報が焼き付いているのだ。

その辺りに落ちていた樹の枝を使って、地面に絵図と数字の羅列を書き連ねていく。

京太郎は満足気だが、それはこの場に京太郎とマホしか存在しないからである。

咲が居れば苦笑しただろうし、怜が居れば眉を顰めただろうし、憧が居れば彼の頭をはたいて正気に戻しただろう。

そして何も知らない人間がいれば、「気持ち悪い」と思っただろう。


この光景は異常であり、異端であり、異質を極めている。


そして何より。



京太郎「(今回は、探索要らねえかもな)」



それに対する彼の鈍りに鈍った感覚が、どこか根底にある小さな歪みを感じさせた。

【夢乃マホの保有技能・照魔鏡が発動】

【未完成のため、行動パターン抜き・ステータスのみが表示されます】



【姦姦蛇螺】


HP:1000

ATK:300
DEF:300


・保有技能
『一悪の砂』
砂のように入り込み、混じり合い、拭えぬ不快感を擦り込む悪。
乾いた砂海に落ちた一本の針は、この手には二度と戻らない。
自身の判定値を+30する。
自身が判定値を用いた判定を行う度に対象を選択。
選択した対象を【即死】させる。

『対抗神話耐性』
何者かによって付加されている、この都市伝説のものではない特性。
後付けの悪夢。希望の天敵の産物。塗りたくられ重ねられた穢れ。
【対抗神話】属性を持つ者に倒された時、一度のみHPを全回復し復活する。

【三尋木萬物店】




咏「いらっしゃい。今日は一人?」

京太郎「ん。お客さん居ないっぽいし、咏ちゃんも一人か?」

咏「まあねぃ。先輩がもっと頻繁に来てくれたりしないと寂しんだよん」

京太郎「つってもそんな頻繁に買い物できるほど金ねえんだよ、貧乏学生だから」

咏「ただ駄弁りに来るだけでも歓迎はするけど?」

京太郎「そんなの、咏ちゃんの好意に甘えて冷やかしに来てるだけの嫌な客じゃねーか」

京太郎「嫌だぜ? そんなの。少なくとも咏ちゃんの好意を踏み躙るってのは、俺は嫌だ」

京太郎「ちゃんと客として来て、友人として接して、隣人として誠意は見せる」

咏「……うーん、どうでもいい相手じゃないと思ってるって伝わってくるのに、素直に喜んでいいのやら……」

京太郎「いや、素直に受け取ってくれよ」

咏「私も乙女。察しろセンパイ」

京太郎「お、おう」

咏「乙女心は複雑なんだよ、簡単にはわっかんねーの」

咏「いいから黙って週4……3日は来いっての!」

京太郎「お、おう」





咏「で、今日は何か買うかい?」

【所持金】
¥18000



【現在保有アイテム】

・秘薬『烈火の姫君』
効果:HPを150回復

・視鏡『爆砕点穴』
効果:現在戦闘中の相手の行動パターンを知る事が出来る
¥30000



【商品】

・秘薬『クレイジーダイヤモンド』
効果:HPを50回復
¥8000

・秘薬『烈火の姫君』
効果:HPを150回復
¥20000

・カプセル『DCS』
効果:使用した戦闘中ATK+10、DEF+10
¥8000

・注射『ただのビタミン剤』
効果:任意のステータスを50上昇させる。
¥22000

・投網『スパイディ』
効果:使用した次のターン、相手の出す手が分かる
¥18000

・視鏡『爆砕点穴』
効果:現在戦闘中の相手の行動パターンを知る事が出来る
¥30000

京太郎「さて、何を買うか、それとも買わないか」


どうしますか?


>>390

貯金

【何も買いませんでした】




「行ってらっしゃい、センパイ」


「おう、行ってくる」



 

短いですが本日はこれにて。次回は木曜か金曜予定

投下予告時間までにギリギリ帰れている日々よ早く終わって下さいお願いします

あ、良子さんがガッサならすこやんはジュエルシャンデラですよ



次回か次々回に今話終われるといいなーと願いながら限界ですおやすみなさいませ

やっと追いついたー

>>1に支援絵が渋に来てましたよと報告

なんでもかんでも受け入れられる主人公が受け入れられない現実に直面すると黒くなるんだろうか

では今夜も投下開始していきます。時間は21:30より


>>418
うぇるかむ

>>421
あざーっす!


http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130815-OYT1T00283.htm

ガンダム00の時代が来ますね・・・!

:!i  :!i  :!i  :!i  |::::::/       .>'寸=====',           ,4=====<_: : :,'   .!.  .!| l  l!:::::::|_|  .i | |  | l i l!   ∩_∩
:!i  :!i  :!i  :!i / ヽ/    |     ̄ 寸====',   |   | ,4=======/_.: ,'   .|!  .!| l  l!:::/ `ヽ l | |  | l i l!  ./ \ /\
. !  |   |   /  .!     |\ ,イ´ ̄ `寸===', | |   |,4=====> ′  `ヽ  |   | l  l!//   ||  | |  | l i   |  (゚)=(゚) |
. !  l       .∨ ∧ !    \{ i!    0   寸= ',_j/ ∧ }i:==Ⅳ    0     }     | l  l!/  N|\jし_   | l    .|  ●_●  |
 l        |/| / .∧        >.、        jニニ! ./   }i:ニⅩ        /     .| l  l!   i | .|.:.:.:.:.:\ |   /        ヽ
 | !     !N:. | ./  ',           >.、___  <ニニ!|    //`ヽ \_  _ ≦ ./    .| l ll .|   .! .:.:.:.:.:.:.:\ / .| 〃 ------ ヾ |
 | !i    j:.:.:.:.::N  :.:.:.:|            >ニニニニニ|   : ',: :寸≧z_     /     |    N  ./.:.:.:.:.:.:.:.:./   \__二__ノ
 | !i   ,/:.:.:.:.:.:∧ :.:.:.:.:|        <ニニニニニニ∧|   :  ',: : :.寸ニニ>' ./     .|   |  |  / .:.:.:.:.:.:.:.: |
 | !i  /:.:.:.:.:.:.:.:.∧  | :.|\                     :  ',: : : : : : : : : :!        |  | jN  N/.:.:.:.:.:|.:.:.:.:. |
 | ! ../:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧ .}N.. |                !i  .:   i!: : : : : : : : :!      |∨|   .|.:.:.:.|.:.:.:.:|.:.:.:.:. |
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 ̄\.:.:.:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::} .|  |!\            /!i  .!i  .|    !i: : : : : : :      /.!    jN | .: | ! ! .:.| : |
.    \jN、.:.:.:.:.:.:.:.:.: | .|\|!             ー..、i_____|, -≦’: :\: :        / ! 「 ̄  N : | l | |:.:.:| : |
       \.:.:.:.:.:.:.:.:|N ∧        /        寸ー==::::>' /  \ \_人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人_/
.          \.:.:.:.:.:|   . ∧      /{         ゚寸_>'  ./     ` ≫                                                   ≪
_j、      .|    `  、   ∧.     |           ___  ー ―― ≪   すごい長距離索敵陣形を感じる。何か熱い索敵を。                     ≫
i:i:i:i:i>.........jV!     \   .∧ .}    |   _>zzzzzzュ _ zzzzzz.、   ≫ 巨人・・・なんだろう集まってきてる確実に、着実に、エレンに。         ≪
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:>........    \ | .}J!    /´       ⌒⌒ __ _ `  ≪   中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。              ≫
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:>... \ } .{              /_____/  ≫ 調査兵団は変人の巣窟のように沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。  ≪
i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:>、'< \jN        z≧=-----=≦    ≪   信じよう。そして調査しよう。                               ≫
i:i:i:i| i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i| i:i:i:i:i:i:i:i:>.    .!                    ≫ 憲兵団の邪魔は入るだろうけど、絶対に止めるなよ。              ≪
i:i:i:i|! . i:i:i:i:i:i:i |  .l | l \i:i:i:i:i:i:>.  \                  ≪                                                     ≫
i:i:i:i|! :i:i:|i:i:...| i l | l i ! \i:i:i:i:i:∨   .\                /⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y\




投下はっじめーるよー

京太郎「しかし、まあ」



店を出た少年の片手には、重ねられた小包が二つ。

三尋木咏の傑作である武器群の内二つを、無理を言ってバージョンアップしてもらったものである。

高鴨穏乃とフクツという前例もあり、下積みも在った。

武器が使い手に応えるという、ある種都市伝説のような現象を『意図的に』発生させた結果生まれた新たな彼の牙。

そして、彼女達が日々に刻んできた想いの顕現である。



京太郎「本当にあの人には、頭が上がらねえな」



・『シュクジュ・ヘキ』【盾】
ATK補正+5
DEF補正+20
【国広一】を格納中、ターン終了時にそのターンに受けたダメージの1/4を回復する。

・『カタキウチ・ツラヌキ』【遠隔武装】
ATK補正+25
【鶴田姫子】を格納中、判定コンマが75以上の時『リザベーション・バースト』を発動する。




傘には鮮やかな紅葉だけでなく、美麗な葉緑の姿が新たに刻まれている。

碧(へき)にして、壁(へき)。

銃には外見の変化が見られずとも、手に取ればその重量と性能が増している事が文字通り手に取るように分かる。

穿き串き貫く弾丸を、かつての比ではない速度と破壊力をもって吐き出してくれるだろう。


より強い力を求める彼の内心に、呼応するように武器が熱を持つ。



京太郎「マスカレイドに、士栗」

京太郎「勝ちの目が見えてない奴だけは腐るほど居るんだよなぁ」



武器は、『戦闘力』というものを劇的に変化させる。

人は始めに石を持ち、刃を持ち、槍を持ち、弓を持ち、銃を持った。

武器の進化は人の進化。命の進化の軌跡/奇跡である。

ならば彼が新たな牙を手にすることで、か細くも新たな勝機を見出すのは道理。



京太郎「ま、今は目の前の事に集中するべきか」

昏い部屋の中に、声が流れる。

人影は二つ。やがて、二つから一つへ。



「ありがたき幸せです、首領閣下……!」



消えた人影から『何か』を受け取った人影が、抑えきれない感動を滲ませた声を発している。

常に冷静沈着を極めた声色を持つその存在にしては、異常極まりない光景。

釣り上がる口元が三日月のように見える仮面が、その表情を隠しているにも関わらず。

仮面の下から漏れる、愉悦ではない歓喜の感情が、世界という意思にすら怖気を走らせている。

『気持ちが悪い』……と。



「これで、計画の詰めとなる最後の一手が仕上がる」

「首領閣下は完全無欠とはいえ、無敵でもなければ神でもない」

「私の独断であっても、不安要素は排除しなければならない」



彼の手に在るのは刃。

刀身が煌めき、見る者全てを魅せるような妖しい輝きが在る。

そうなのだと言われてしまえば、美術館に飾られている名刀と間違えてしまいそうな刀身だ。

……その白刃が、黒ずんだ血に濡れていなければ。



「……ならば、その前に一度はこの身で今のあの男の力量を見定めなければ」



悍ましき刃。

なのにその悍ましさですら今の使い手の気味の悪さを映えさせる、添え物にしかなっていない。

歩く悪性。足音ですら生理的な嫌悪感が付き纏う。

刃の持つ悪性は更に大きな悪性に飲み込まれ、その力を加速度的に成長させていた。

彼の中の未だ馴染んでいなかった力が馴染み、元来の能力が一段回上の力へと進化する。



「そこで殺せるならばよし。殺せずともよし」

「しかし、なんとも」



しかしながら、彼の力を過剰なまでに引き上げた凄まじき武器に対して向けられた仮面の下の視線には。

筆舌に尽くしがたい、どこか複雑な感情が込められていた。




「私に『エクスカリバー』とは。どうにも似合わない」

エクスカリバーって・・・
そういえば都市伝説的には世界が滅びかけたらアーサー王って復活するのかな?

初美「薄々、感づいてはいたんですよね」



いつもの笑顔。いつもの声色。いつもの調子。

だが、どこか泣いているようだと、懺悔しているようだと、京太郎は感じた。

いつもは読み取れない彼女の心の底が見えかけている現状が、彼女の余裕の無さを彼に読み取らせている。

声に痛みが乗せられているようだと、そう感じるほどの痛々しさ。



初美「ただ、流れる時間が解決してくれると」

初美「先送りにして怠惰に時を過ごすんじゃなく、懸命に生きた時間が流れれば、解決してくれると」

初美「いつか幸せな時間が、寂しさの穴を埋めてくれるって、思ってたんですよ」

初美「……見通し、甘かったんでしょうね」

京太郎「薄墨先輩……」



少年が、少しだけ力を込めて歯を食いしばる。

それは違う、と否定してあげたかった。

しかし、それは違うだろうと、そうも思う。

彼女が欲しているのは己に対する罰とそれに付随する痛みであり、生ぬるい慰めではない。

なまじ彼が他人の立場から慰めた所で、彼女は作り笑いと形だけの感謝を返すだけだろう。

それは彼にとっても、彼女にとっても望む所ではない。

だから、慰めない。
彼女は、この変化を受け入れ一人で立ち上がれるほどには『強い』。
その心の強さを信じ、優しい言葉をかけないという選択肢を選ぶ。



そんな彼の心根を逆に読み取ったのか、彼女は口を開く度声を聞く度に、次第に今までの日々のような笑顔を取り戻していった。

そんな会話の途中、彼は至極当然の疑問を投げかける。



京太郎「どうして、俺に話してくれたんですか?」



今日、この場所で。

初美から京太郎に伝えられたのは、霞についての初美の知る限り全ての話。

石戸霞の過去、薄墨初美が時間による解決を望んだ過去だ。



初美「んー?」



それを話すだけの価値が自分にあると思ったのか。

そこから解決の糸口を探せということなのか。

それとも、それを話す事自体が自罰となるのか、自分への戒めとしたいのか。

彼にはイマイチ、判断がつかなかったのだ。


一つそこから思いついた一手があったとしても、である。

彼にとっても、平時の飄々とした彼女の思考は読み取り辛い。


なので。



初美「さー?」

京太郎「えっ」

初美「まー、なんとなくが半分」



彼女が語らない限り、真相は闇の中である。

ただ、この会話から一つの糸口を彼が掴んだこと。

彼女が珍しく、肝心な所で家族でも身内でもなく『他人』を頼りにしていること。


それだけは真実であると、書き記しておこう。



「あとの半分は、『期待』ってとこですかねー」

京太郎「……どうすっかな」

黒「どうするもこうするもねえだろ」

黒「被害が拡散する前に、寝てる内にぶっ殺しちまうのが最上だと追うがね」

京太郎「ハイハイ、リアリストリアリスト」



期限は刻々と迫る。

中央高校卒業式も終わり、そろそろ結界のタイムリミットは近い。

しかしながら霧島ゆかりの女性陣達のダメージは未だ完治せず、勝利のための一手は未だ彼の手の内にない。

リアリスト気取りの黒をからかう余裕がどこにあるのか、はたから見れば不思議な話だ。



黒「『死超』はまだまだ時間が掛かるし、ネクサスのバリエーションもまだ実用段階じゃない」

黒「こう言っちゃ何だが、格上だぜ?」

京太郎「格上なんて、いつもの事じゃねえか」

黒「……ははっ、全くだな」



いつだって、自分より強い相手に、相手より弱い自分と相手より弱い仲間で力を合わせ勝利してきた。

それは誇りにも似た心の芯。折れず支える、彼らの胆力。

鏡越しに見える昏く染まった『他人の眼』も、今や京太郎を支える心の柱の一柱。

右の眼が挑発するように、左の眼がそれに応えるように、鋭い視線を鏡へ向ける。



黒「で、何か案はあるのか?」

京太郎「例えばサッカーの練習で、足を鍛えたとするだろ?」

京太郎「他の競技に転向したとしても、その脚力は無駄にならんわけだ」

黒「ほう」

京太郎「ネクサスのバリエーションも然りだ。目的の為に使うかどうかを別として、その過程の努力は無駄にはならない」



どうやら、黒い彼は何かに感づいた様子。

技術の応用。

少年の胸中に浮かぶのは一つだけ、今も記憶の中で色褪せない『強者』のイメージ。




京太郎「一つ、思いついた事がある」

小蒔「私にとって、初めての友達だったんです」



期限は迫る。

ベンチに彼と並んで座るのは、巫女勢の中で唯一全快している霧島神境の姫。

彼女は立ち位置も、血統も、心の距離も、石戸霞と誰よりも近しい。

神代小蒔は、石戸霞を本当の姉のように慕っている。

その絆は血の繋がりよりもはるかに濃く、決して切れず砕けず離れぬほどに強い。



小蒔「代わりなんて居ないのに」

小蒔「……一度でも、『貴女に代わりなんて居ない』って、言っていれば」

小蒔「何か、変わったのかな? って……そう思っても、仕方がないだけなのに」



彼女は心優しいが、それ故に他人の隠し事に鈍い。

他人の心情に鈍いわけではない。むしろ他人の痛みは敏感な方だ。

ただ……他人の「大丈夫」という強がりを信じて、受け止めてしまう。

彼女は「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫」と答える者ほど大丈夫ではないという事を知らないのだ。

それでも。



京太郎「で、どうするんですか?」

小蒔「助けます。そして他の誰でもない私が、言ってあげないといけないんです」



それでも彼女は、決して折れず声と瞳に強い意志を込めている。

ここで膝を折り謝罪するだけで何もしない事が自己満足でしか無いと、知識ではなく心が知っている。

姉のように慕う親友を想うなら、彼女の為にここで歯を食いしばらなければならないのだと知っている。


家族として、親友として、仲間として、姉妹のように大切に思う者として、かけるべき言葉があるのだと知っている。



小蒔「『貴女は誰の代わりでもなく、貴女に変わりなんて居ない』って」



姫(オリジナル)が天倪(リリーフ)に向けた、代わりなど無いたった一つの気持ち。

「変わる者」が、「代わる者」に手を伸ばす。

どこかの誰かが今日この日まで、ずっと欲しがっていて、それでも欲しがれなかった言葉。



それがとても輝かしく、価値のある物だと。

須賀京太郎という少年には、心からそう思えた。

血統も、精神も、心も。生まれた時に与えられたものとこれまでの人生で勝ち取ってきた全てのものが彼女を構成する。

今は六の巫女を付き従え、その愛らしさと不思議なカリスマでいずれは多くの者達を従えるであろう姫。

未来の霧島神境の頂点。

九面の神の巫女。



神代小蒔は、その絢爛な肩書きに恥じぬだけの人物である。



京太郎「(……この人の力になって、あの人を助ける)」

京太郎「(ここからの主役は、この人達だ)」



だからこそ、少年は確信を強める。

この人と自分が力を合わせれば、きっと途方も無い目的だって成し遂げられる、そんな気がしていた。

九月に初めて出会った時よりもずっと頼もしく、惹かれるような意思の煌めきを感じる。


……今なら、この博打が成功する公算はかなりデカい。


そうして彼は口を開き、その博打を提案した。

彼と彼女にしか出来ない、彼と彼女の初の共同作業という抜け道を。




京太郎「ちょっと、提案なんですけど」

小蒔「?」

「もしもーし」

『何よ、今忙しいんだけど』

「……あー、悪いな。忙しんなら別に」

『聞かないとは言ってないでしょ? 言ってみなさい』



少年が携帯電話を耳に当てている。

その向こうから聞こえてくるのは、彼のよく知る、今は彼の後ろに居ない少女。

ハキハキとした元気そうな声に、思わず彼の頬が緩む。

しかしその頬に冷や汗が流れているのは、これから少しだけ大きな頼み事をするからだ。



「ちょっと色々あってだな。巫女さんが、四人必要なんだわ」

「今んとこ、手の空いてる巫女さんが三人」

「あとは一人が参加できなくて、一人はグロッキー気味な上にイタコなんだ」

「で、だな。頼みづらい事この上ないんだが……」


『私に、巫女やれっての?』


「Exactly(そのとおりでございます)」

『ふーん』



姦姦蛇螺の儀式には、四人の巫女が必要だ。

手順こそ難しくはないが、今問題となるのは人数の方である。

現在、鹿児島からこの街にやってきて在住している巫女は四人。ギリギリである。

しかし戒能良子と打ち合わせた結果組まれた彼と彼女の構想では、この儀式には小蒔が加われない。

なので、三人となってしまう。いちたりない。



そこで彼は、頼りになる一人の少女を思い出す。

姉が現在出張中で、巫女服が結構似合う神社生まれの親友を。

『なんで私? その巫女さん達の知り合いの伝手頼って、誰か呼べばいいんじゃない?』

『それに私、うちでやってる祭事くらいしか出来ないわよ』



そんな事は知っている、と彼は思う。

分かっててからかってるなコイツ、と彼は思う。

電話の向こうでニヤニヤしてるんだろうなー、と彼は思う。



「駄目だ。時期が悪くて来てくれる人は居ないらしい」

「やる事自体は簡単で、簡単な手ほどきはしてくれるってさ。他の誰かならともかく、憧ならきっと大丈夫だ」

『無茶言ってくれるわねー』

「それに、他に誰かが選べるとしても。俺はお前がいい」

『へぇー』



彼女は、信頼すればそれに応えて結果を出すいい女である。

なんだかんだ言って、ダメな奴でも見捨てない、そんないい女である。

面倒見も良く、他人に慕われ交友関係も広く持ついい女である。


良心と打算を両立させてこそのいい女であり、その笑顔が魅力的に映えるというものである。



「頼む、何でも言う事聞いてやるから!」

『……ん?』



電話の向こうで、ピクリと彼女の眉が動いた……そんな、気がした。

『今、なんでもするって言ったわよね?』

「お、おう」



耳に流れる蠱惑的な声はひどく魅力的で、しかしそれ以上に、何か身の危険を感じた。

綺麗な花に目を奪われていたら、いつの間にか縄でぐるぐる巻きにされていたような、そんな……

釈迦の手のひらの上で孫悟空が踊らされていたのは、孫悟空が迂闊でバカだったからだと証明されているような感覚。



『おっけーおっけー。日時は?』

「あ、ああ。まず明日―――」



テノヒラクルー? と幻聴が聞こえてきそうなほどあっさりと得られた協力に拍子抜けする少年。

その後はサクサクと話が進み、個人個人の予定をすり合わせるだけで済んでいた。

RPGでラストダンジョンの前でレベルを上げすぎてしまった、そんな時に似た感覚。


しかし、世の中はそう甘くない。

人生のどこかで楽をするという事は、その分の対価をどこかで支払っているという事であり。



「(なんかよく分からんが大切なものを安売りしちまった気がする)」




支払った事に気づいていないという事が、彼の支払った最大の対価だったのかもしれない。

対価=童貞

そして、当日。

戒能良子の見立てでは、今日が姦姦蛇螺を眠らせ続ける限界の期日であるという。

かの大蛇が起きて暴れだせば、ちゃちな結界でいつまでも抑えられるわけがない。

今日この日が、彼らにとっての桶狭間だ。

学ランを着た少年が、一人で街灯に照らされた誰も通らない街道を横切っていく。



京太郎「出てこいよ」



その最中に突然、彼が声を発する。

そんな声には当然何も答えない……と、思いきや。

連立する街道沿いの並木の一本の影から、仮面を付けた正装の人影が現れる。

……人でないモノを、人影と呼ぶのはいかがなものかとは思うが。



「勘が更に鋭くなった……いや、予想されていたようですね」

京太郎「なんとなくな」

姫子『なんとなくで呼ばれた私、大活躍!』



姫子による、広範囲の俯瞰視点。

怜で奇襲そのものを防ぐか、姫子の力で存在自体を事前に感知するか。

彼がこの仮面の都市伝説に先手を取らせない手段はこの二つしか無い。

そこまで手段を絞らせる、悪夢のような悪性存在。



ナイトメア・マスカレイドが、そこに居た。



京太郎「最近見てなかったのと、俺が『ここで来て欲しくない』って思ったからかな」

京太郎「毎度毎度、お前はそういう時に限って仕掛けてくる」

マスカレイド「ふむ」

姫子
憧チャー
宥姉
マスカレイド

ストーカー四天王

ここで戦って、減らされた体力やアイテムは戻らない。

次の戦いが本番である以上、ここで過剰な消耗は許されないのだ。


しかし手を抜いて勝てる相手ではなく、下手を打てばここで死にかねない。

更に言えば姉帯豊音の存在がある以上、マスカレイドには微塵の勝ち目も存在しないのだ。



京太郎「一対一(タイマン)……?」

姫子『気ばつけて、きっとなんか企んでるたい』

マスカレイド「これは異な事を」



ならば、何故この仮面はここに居る?

時間を一時間稼いだ所で支障はない。今は時間的に切羽詰まってもいないのだから。

ならば勝機があるのか?

姉帯豊音の存在を加味しても、なお存在する勝機が?

だとしたら、迂闊には彼女を呼べない。


そう思考する少年の視線は、マスカレイドの手の中で煌めく刃へと向き。



マスカレイド「ただ、私は」

京太郎「(? ……なんだ、あれ)」



『それ』に該当する、都市伝説を想起した。



京太郎「(まさか、アレ、エクス―――)」



一人きりでは無力なはずの、仮面舞踏会(マスカレイド)が牙を剥く。




「私が生まれた意義を、果たすのみです」

【エクスカリバー】



騎士王が湖の乙女から譲り受けた聖剣……ではない。

 エ ク ス カ リ バー
『鋼すら断つ剣』の銘を受け継ぐ、無数のナイフの都市伝説。

使い手の意志に呼応し、無制限に血塗れた呪いの短刀を発生させる。



原典は、とある名も無き廃れた神社の物語。

とある少年とその親友が、肝試しにその神社の傍に在った誰も知らない洞穴へと向かった日の怪異。

その洞穴は一本道となっており、粘土質の土と不可思議なぬめりによって形を保っていた。


その最奥に、一本のナイフが聖剣か魔剣のように、突き刺さっていた。


二人がどんなに力を込めてもナイフは抜けず、ふざけ混じりに少年はその刃に『エクスカリバー』と名付ける。

そして二人は、その奥に更に道が続いていることに気付く。

しかし、そこから先に進むべきではなかった。

二人は引き返すべきだったのだ。

その奥には、森のように鬱蒼と生い茂る、無数のエクスカリバーが在ったのだから。


森としか表現しようのない数のナイフに、少年達は怯え始め、流石に帰ろうとする。

しかしその目に映ったのは、先程どうやっても抜けなかったエクスカリバー。

更に言えば、その刀身は誰のものとも知れぬ真新しい血で濡れていたのである。


悲鳴を上げ、逃げ惑う少年達。

誰も居なかったはずの洞窟の奥から聞こえてくる、ナイフを引き抜く小気味のいい音。

二人は何が何やら分からぬまま、恐怖に包まれ逃げ帰ったのであった。



エクスカリバーとは、折れず曲がらず刃毀れしない、鋼を立つ剣。



世界で最も有名な聖剣にあやかり名付けられた、恐怖とナイフの都市伝説。

京ちゃんが投影魔術を使えればなんとか…

【ナイトメア・マスカレイド】


HP:1

ATK:1
DEF:1


・保有技能

『マスカレイド・フォルマツヴァイ』
終わらぬ夜、終わらぬ舞踏、終わらぬ悪夢。
尽きず終わらず果てなき夜の舞踏会/武闘会。善き未来だけを、終わらせる。
戦闘に参加している「マスカレイド」の人数×1の補正値補正を得る。
毎ターン終了時、100のダメージを指定した対象に与える。
行動判定に勝利した時、100のダメージを指定した対象に与える。
自身の判定コンマが90以上だった場合、相手に相手HPと同数値のダメージを与える。

『対抗神話耐性』
何者かによって付加されている、この都市伝説のものではない特性。
後付けの悪夢。希望の天敵の産物。塗りたくられ重ねられた穢れ。
【対抗神話】属性を持つ者に倒された時、一度のみHPを全回復し復活する。



現在戦闘宙域圏内、参戦可能マスカレイド数1体。

【ナイトメア・マスカレイド】


HP:1

ATK:1
DEF:1


・保有技能

『マスカレイド・フォルマツヴァイ』
終わらぬ夜、終わらぬ舞踏、終わらぬ悪夢。
尽きず終わらず果てなき夜の舞踏会/武闘会。善き未来だけを、終わらせる。
戦闘に参加している「マスカレイド」の人数×1の補正値補正を得る。
毎ターン終了時、100のダメージを指定した対象に与える。
行動判定に勝利した時、100のダメージを指定した対象に与える。
自身の判定コンマが90以上だった場合、指定した対象に相手HPと同数値のダメージを与える。

『対抗神話耐性』
何者かによって付加されている、この都市伝説のものではない特性。
後付けの悪夢。希望の天敵の産物。塗りたくられ重ねられた穢れ。
【対抗神話】属性を持つ者に倒された時、一度のみHPを全回復し復活する。



現在戦闘宙域圏内、参戦可能マスカレイド数1体。

ど…どうせ不発で終わるやろ…(強がり)

【須賀京太郎】

HP:700

ATK:35
DEF:35

・保有技能

『比翼の鳥』
人一人にして人に非ず。翼片翼にて翼に非ず。
人物を指定し、己の中に格納する能力。
格納した人物に応じた能力と補正を得る。

『TTT(光)』
The Templehero T。
寺生まれのTさん。この世のありとあらゆる理不尽の天敵。
絶望を絶つ者。どこかの誰かの希望の具現。
心を照らし、絆を紡ぎ、希望を繋ぐ者。
ヒーローシフト中、MAXHPを100減少させる事で以下の能力を使用可能。
・戦闘中、指定した技能を【封印】する。
・都市伝説による効果を指定。指定した効果を無効化する。
・自分のMAXHPの数値分、指定した人物のHPを回復する。

〈装備〉
E:『腕輪:Next』【防具】
ATK補正+15
DEF補正+15

E:『真・ルーベライズ』
効果:死亡・ゲームオーバーを無効にし、所有者をHP1で復活させる。

E:『ジャイアントキリング』
効果:巨大な存在に対する戦闘論理。特定の都市伝説との戦闘時に判定値+10。

・『真・オモイヤリ』【聖遺物】
ATK補正+30
DEF補正+30
ヒーローシフト中、行動判定で勝利する事で何かしらの「奇跡」を行使する。

・『フクツ・ゼシキ』【靴】
自身のATK、DEFを+5、判定値を+3する。
【高鴨穏乃】を格納して経過したターン数、この補正は重ねがけされる。

・『シュクジュ・ヘキ』【盾】
ATK補正+5
DEF補正+20
【国広一】を格納中、ターン終了時にそのターンに受けたダメージの1/4を回復する。

・『カタキウチ・ツラヌキ』【遠隔武装】
ATK補正+25
【鶴田姫子】を格納中、判定コンマが75以上の時『リザベーション・バースト』を発動する。

・『ハリコノトラ』【針】
自身のATKを0に減少させ、その減少させた分の数値をDEFに加える。

・『ヒトノワ』【遠隔武装】
効果発動宣言ターン、自身のHPを1まで減少させ減少させた分の数値をATKに加える。

〈アイテム〉
・秘薬『烈火の姫君』
効果:HPを150回復

・視鏡『爆砕点穴』
効果:現在戦闘中の相手の行動パターンを知る事が出来る

【フォームシフト対象者】


【園城寺怜】

ATK補正+30
DEF補正+30

・保有技能

『未来余地』Ver.2
少し先の未来、時々遠い未来を認識する能力。
どんな未来でも、変えられる。
自身の判定値に+10する。
判定コンマで相手を上回った次のターン、相手の選ぶ選択肢を知る事が出来る。
奇襲・罠・不意打ちに類するものを無効化する。

『D&T』
「未来余地」の派生技巧。
命を削り、未来を識るくだんの本懐。
能力の使用を宣言する事で、それぞれの効果が適用される。
ダブル:MAXHPの1/4を消費して発動。戦闘終了・フォームシフト実行まで、自身の判定値を+10する。
トリプル:MAXHPの1/2を消費して発動。戦闘中、相手の選択した行動が常に表示される。

・適正武器
全て



【高鴨穏乃】

HP補正+200
ATK補正+10
DEF補正+10

・保有技能

『B2A(いともたやすく走り去るえげつないババア)』Spec.2<<高速機動>>
凡百の存在には至れない高速の世界。
何よりも速く、誰よりも疾く。
自身の判定値に+10する。
<<高速機動>>に属する技能を持たない者との戦闘時、自身の判定値に+10する。

『不倒不屈』Spec.2
決して諦めない姿勢が奇跡を起こす、彼女の精神性。
HPが0になった時、HP1で耐える事が出来る。
一戦闘につき二回まで。

・適性武器
【長物】【靴】

【国広一】

ATK補正+40
DEF補正+80

・保有技能

『メスメリック・マジシャン』Act.2
魔法も科学も技術も奇術も奇跡も、全て突き詰めれば同一の物となる。
技術の先の笑顔の魔法。奇術の先に紡ぐ魔法。
戦闘ダメージ以外で自身のステータスが変化した時、それを任意で無効化できる。
50以下のダメージを無効化する。
1000以上のダメージを無効化する。
ダメージ計算時、自身のDEFを二倍にする。


・適正武器
【盾】【針】


【鶴田姫子】

ATK補正+60

・保有技能
『発砲美人』Type.2<<遠隔攻撃>>
矢射(やさ)す優しさ、撃つ美しさ。
千発千中、一撃確殺。的確的射的中の業。
自身の判定値を+5する。
<<遠隔攻撃>>を持たない敵の判定値を-15する。
自身の判定値がゾロ目であった場合、自身の攻撃サイドを確定させる。

『リザベーション・バースト』
「発砲美人」の派生技能。
仲間の意思を継ぐ力。先行ダメージの余剰エネルギーを鎖状の拘束具として具現させ、炸裂させる。
能力発動ターン、攻撃サイド確定時のダメージにその戦闘中に与えた全てのダメージを加算する。
一戦闘一回のみ。


・適性武器
【遠隔武装】

【松実宥】


・保有技能

『コッキネウス・カペラ』<<立体飛翔>>
翼となった真紅の外套。勇気と決意、二対の両翼。
たとえ己の血を流すとしても、明日へと進む覚悟の証。
生き方だけは、自分で決めた。
敵判定コンマがゾロ目だった場合、ダメージ計算時に敵DEFを1/2にする。
<<立体飛翔>>に属する技能を持たない者との戦闘時、与えたダメージをもう一度与える事が出来る。

『カーディナル・クリムゾン』
蒼と対になる、鮮やかな真紅。
曇りなど無き柘榴石(ガーネット)、紅玉(ルビー)の如き映える意志。
守るべき、大切な人の為に流す赤。
武器補正を除いた自身のATKを二倍にする。
【松実宥】を格納中、武器を二つ装備できる。

・適性武器
全て

でもこれ姉帯さんいれば雑魚のままじゃ
エクスカリバーに別途効果があるってことか?

【須賀京太郎/Nexus】
HP:1270
ATK:264
DEF:244

・保有技能
『比翼の鳥』
人一人にして人に非ず。翼片翼にて翼に非ず。
人物を指定し、己の中に格納する能力。
格納した人物に応じた能力と補正を得る。

『未来余地』Ver.2
少し先の未来、時々遠い未来を認識する能力。
どんな未来でも、変えられる。
自身の判定値に+10する。
判定コンマで相手を上回った次のターン、相手の選ぶ選択肢を知る事が出来る。
奇襲・罠・不意打ちに類するものを無効化する。
『ダブル&トリプル』
「未来余地」の派生技巧。
命を削り、未来を識るくだんの本懐。
能力の使用を宣言する事で、それぞれの効果が適用される。
ダブル:MAXHPの1/4を消費して発動。戦闘終了・フォームシフト実行まで、自身の判定値を+10する。
トリプル:MAXHPの1/2を消費して発動。戦闘中、相手の選択した行動が常に表示される。

『B2A(いともたやすく走り去るえげつないババア)』Spec.2<<高速機動>>
凡百の存在には至れない高速の世界。
何よりも速く、誰よりも疾く。
自身の判定値に+10する。
<<高速機動>>に属する技能を持たない者との戦闘時、自身の判定値に+10する。
『不倒不屈』Spec.2
決して諦めない姿勢が奇跡を起こす、彼女の精神性。
HPが0になった時、HP1で耐える事が出来る。
一戦闘につき二回まで。

『メスメリック・マジシャン』Act.2
魔法も科学も技術も奇術も奇跡も、全て突き詰めれば同一の物となる。
技術の先の笑顔の魔法。奇術の先に紡ぐ魔法。
戦闘ダメージ以外で自身のステータスが変化した時、それを任意で無効化できる。
50以下のダメージを無効化する。
1000以上のダメージを無効化する。
ダメージ計算時、自身のDEFを二倍にする。

『発砲美人』Type.2<<遠隔攻撃>>
矢射(やさ)す優しさ、撃つ美しさ。
千発千中、一撃確殺。的確的射的中の業。
自身の判定値を+5する。
<<遠隔攻撃>>を持たない敵の判定値を-15する。
自身の判定値がゾロ目であった場合、自身の攻撃サイドを確定させる。
『リザベーション・バースト』
「発砲美人」の派生技能。
仲間の意思を継ぐ力。先行ダメージの余剰エネルギーを鎖状の拘束具として具現させ、炸裂させる。
能力発動ターン、攻撃サイド確定時のダメージにその戦闘中に与えた全てのダメージを加算する。
一戦闘一回のみ。

『コッキネウス・カペラ』<<立体飛翔>>
翼となった真紅の外套。勇気と決意、二対の両翼。
たとえ己の血を流すとしても、明日へと進む覚悟の証。
生き方だけは、自分で決めた。
敵判定コンマがゾロ目だった場合、ダメージ計算時に敵DEFを1/2にする。
<<立体飛翔>>に属する技能を持たない者との戦闘時、与えたダメージをもう一度与える事が出来る。
『カーディナル・クリムゾン』
蒼と対になる、鮮やかな真紅。
曇りなど無き柘榴石(ガーネット)、紅玉(ルビー)の如き映える意志。
守るべき、大切な人の為に流す赤。
武器補正を除いた自身のATKを二倍にする。
【松実宥】を格納中、武器を二つ装備できる。

<装備>
E:『腕輪:Next』【防具】
ATK補正+15 DEF補正+15
E:『真・ルーベライズ』
効果:死亡・ゲームオーバーを無効にし、所有者をHP1で復活させる。
E:『ジャイアントキリング』
効果:巨大な存在に対する戦闘論理。特定の都市伝説との戦闘時に判定値+10。
〈アイテム〉
・秘薬『烈火の姫君』
効果:HPを150回復
・視鏡『爆砕点穴』
効果:現在戦闘中の相手の行動パターンを知る事が出来る

00:00から戦闘開始しますが武器とかなにか質問とかありますか?

なければさっさと始めちゃいますが

試しにコピペしてみたら「あと0回改行できます」って出てきて笑った

シュクジュの回復効果ってマスカレの効果ダメージにも有効?

ここでネクサス使っても霞さん戦で再使用できる?

>>505
ちょっとここから戦闘中に少し書きますよー

>>510
有効でごぜーます

>>511
できますとも
ただし受けたダメージは持ち越しです

メスメリのときにフォルマツヴァイコンマ90のときは無効果になる?

プリズマスカレ・ツヴァイの行動パターンは前回と一緒?

宥さんのコッキネウス・カペラについて質問
敵が立体飛翔持っていない&対抗神話耐性を持っている場合、撃破→復活→追加ダメージ→撃破って感じにはならない?

>>513
なりませんねー
厳密には数値ダメージではないので

>>514
一緒です。『性格変わるような大事件』でも起きない限り、キャラの行動パターンは変わらないものと思って下さい

>>515
・・・その発想はなかったわ。ちょっと>>1が感嘆したのでボーナスとしてありにしましょう

ほんじゃ戦闘行きますかー

単体のマスカレイド。

以前は雑魚でしかなかったはずの存在が、以前とは比べ物にならないほどの火力を得ている。

鉈(マチェット)を小刀(ナイフ)に変えたというのに火力が上がるという矛盾。

加えて言えば、増大したのは一撃一撃の破壊力だけではない。



京太郎「チッ」

姫子『手数が、随分と……!』

マスカレイド「ふふっ、貴方は実にいい顔をなさりますねぇ……」



更に言えば、彼も姉帯豊音への対策とやらの見当が付いて来た。

かすり傷とはいえ、いくらか攻撃を受け止めて探りを入れた命がけの行動の成果である。

マスカレイドの能力。あのナイフの能力。それらは個別に、かつ同一の存在からのダメージとして構成されている。

言葉にするのなら『二人に殴られたけど一人に殴られたのと同じ』といった、意味不明の状況。

ナイフの都市伝説が『飲み込まれかけ』の状態で留められているが故の、曖昧模糊なダメージ。


これを無効化出来るかどうかは、京太郎にはわからない。

しかし、マスカレイドは『無効化出来ると信じている』。

故に、京太郎は姉帯豊音のカードを切れない。

もしも他にあのナイフに能力があれば……といった思考がチラついてしまう。


なまじ強力な武器を手元に置いているが故の、彼の思考の隙。



マスカレイド「しかし、貴方方も酔狂な事ですね」

マスカレイド「一文の得にもならないというのに、命を懸けるメリットとデメリットが明らかに釣り合っていない」

マスカレイド「下手をすれば全てを失うというのに、何故?」


そんな彼を、仮面が嘲る。


京太郎「はっ」

京太郎「女が泣いてるのに放っておく以上の下手なんざ、この世の中にあるもんかよ!」


そんな仮面に、彼が吠える。


姫子『こんな人やけん、ほっとけなかんばいね』


そんな少年を、少女が支える。


戦いが、始まった。



京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・装備変更
・アイテム使用
・フォームシフト
・ネクサスシフト
>>530

マスカレイド判定
>>532


防御
オモイヤリ フクツ

防御 宥 オモイヤリ フクツ

【#攻撃マスカレ】



『仮面武闘会(マスカレイド)』発動!

京太郎&宥に100ダメージ!
残りHP:600


防御VS攻撃


5+5+3=13

1+4+1=6


京太郎&宥の攻撃サイド確定!


170×2-1+(13-6)=346ダメージ!


『対抗神話耐性』発動!

マスカレイド残りHP:1


『コッキネウス・カペラ』発動!

連続攻撃!346ダメージ!


マスカレイド残りHP:0

マスカレイド「何一つとして、肝要なものが変わるものですか」

マスカレイド「大口を叩く者に限って、小さな変化で満足する」

マスカレイド「貴方がたの行動は、毎度毎度実に無駄だらけだ」


「何一つとして、望む方向に変わらないかもしれないというのに」

「人はそれを、愚か者と呼ぶのです」


道化師は善き変化、成長を否定する。

その存在は、全身全霊を以って不変の悪性を証明する。


京太郎「何も変わらないっていうんなら、俺が何しようが俺の勝手だろうが」

京太郎「好きでやってんだ。それに好きでやってる内に、色々変わる事もある」

京太郎「だから必要なのは変われると思ってるかどうかじゃない。『変わりたい』って気持ちだけだ」


「ここじゃないどこかに進もうとする奴の、俺は味方でいたいんだよ」

「それがたとえ、最善の選択と結果じゃなくても。踏み出した勇気だけは、本物だから」


寺生まれは誰かが望んだ結果の変化、成長を肯定する。

その存在は、全身全霊を以って不変の善性を象徴する。



京太郎「だから、お前ら邪魔なんだよ」

京太郎「お前らが居なければ、ちゃんと一人でも前に進んでいけるって……この人は、証明してくれたんだ」

マスカレイド「……その赤さ、今は本当に目障りに映りますよ……」

宥『……私も、貴方は嫌い』



オモイヤリが迫る刃を弾き、赤き翼が両手を縛り。

必殺の破壊力を収束した蹴りの一撃が、マスカレイドの胸元に突き刺さった。

呻く声と共に、マスカレイドの身体が消滅していく。



京太郎「……まったく。面倒な強化を遂げてくれたもんだ」

宥『今日の本番は、まだ終わってないよ?』

京太郎「とと、そうでしたね」



執念とは、この世で最も恐ろしいものだ。

特に、悪意から生まれた執念は格別であるといえる。

人を害し傷付ける、マイナスの感情の代表格であるとすら思われているいるだろう。

例えば。



宥『――! 右に、跳んで!』

京太郎「!?」



両足も、下半身も、左腕も、頭部の左半分も、内臓の大半も消失しかけたその体で。

右腕だけでナイフを投擲するような、こんなおぞましい執念は。

【マスカレイドの最後の意地】

【奇襲判定】


>>554の判定コンマが50以下の場合回避失敗。奇襲ダメージ発生

破ァ!!

京太郎「痛ッ」

宥「っ」


咄嗟に、宥が己の意思で格納解除。

京太郎を押して、自分は反動で左に、京太郎を強く右に押しやる。

飛んで来たナイフは、彼の右腕を浅く切った後に地面に落ち、左右に分かれた二人の間に力無く転がった。



『仮面武闘会(マスカレイド)』発動!

京太郎&宥に100ダメージ!
残りHP:500



宥「大丈夫!?」

京太郎「っつ、なん、とか……ありがとうございます。助かりました」

宥「ああ、血が、血が……」



オロオロしつつも、応急手当としてマントの切れ端を腕に巻いていく。

ポンコツな彼女にしては吃驚仰天の行動だが、最近覚えたらしい。

彼女も彼女なりに、自分に出来る事を探していたようだ。


一仕事を終えた仮面の残滓は、満足気に煙のように消えていく。



宥「本当に、怖い人だね、この人……」

京太郎「……確実に殺しに来たんなら、複数人で来てただろうと思いますよ」

宥「?」

京太郎「今日ここに来たのは、あのナイフが俺に通用するか。あのナイフが万全に稼働するかの確認」

京太郎「それと大事な一戦前に俺の体力を削っておけば、事故やミスで戦闘中に俺がくたばる確率上がりますし」

宥「……あ、そっか」

京太郎「……」

宥「どうしたの?」

京太郎「あ、いえ。なんでもないです」



京太郎「(……本当に、『それだけ』だったのか?)」

京太郎「(いや、流石に考え過ぎか? 深読みしすぎても、あっちの思う壺だよな……)」

「……ふぅ」

「賭けには、勝った」



拳を強く握り、声を震わせ。

その男は、達成感に満ちていた。



「『このナイフで姉帯豊音の能力が無効化出来る』……わけが、ないでしょう」

「プラフとハッタリで、信じて貰えるかどうかの賭けに、私は勝った」

「あと戦闘一回……いや、二回までなら、このハッタリをあの男は信じたままだ」

「後は私が、この幻想を崩さないようにすればいい」



この戦いで、最も危ない綱を渡っていたのは誰か?

目的を果たすため、最も追い詰められていたのは誰だったのか?

最も勝算の低い博打に、己の全てを賭していたのは誰だったのか?



その点を、誰もが勘違いしていた。



「天敵を、封じた」



マスカレイドは、猫ではない。窮鼠である。



「最後の詰め、最後の詰めさえしくじらなければ……」



生か死か。勝利か敗北か。栄光か没落か。

それは定かでなくとも、それを定かにする仕込みを彼は続けてきた。

悪でなければ。非道でなければ。卑劣でなければ、称賛されていたであろう姿勢。



「これで、皆殺しに出来る」



どちらか片方しか生存を許されない、避け得ぬ戦い。

決戦の日は、近い。

本日の投下はこれにて終了。次回、決戦。お疲れ様でしたー

次回投下は土日の予定


最近コンマイが禁止カードを作った理由が理解できて来た>>1なのであった


では、今夜もお付き合い頂き感謝です

色々と明日。おやすみなさいませー

>京太郎「だから、お前ら邪魔なんだよ」
なんとなく草加思い出したよ、そしてなんとなく思ったのが
京太郎「おい知ってるか、夢ってのはな、時々スッゲー熱くなって、時々スッゲー切なくなる。らしいぜ。
俺には夢が無い、けど、夢を守る事はできる!・・・・・ネクサス!!

違和感無かった

そうだったもう後編に来てたのかありがとう

おはよーございます
昨日の帰宅途中から意識がない・・・まさかキャトルミューティレーション!?

楽天のまーくんがメジャーに行ってしまいそうなオーラがプンプンと


今夜21:30からラスト投下しますー


>>437
あれは都市伝説というかマジモンの伝説ですし
あ、でも型月世界レベルの認識なら復活するかもしれませんね

>>600
時期わかりづらくて申し訳ない
現在は卒業式から数日後・始業式や入学式まで二週間ってとこです




うーんこの・・・デルトラクエストとかもいつか消えるんでしょうか
アタゴオルは猫の森とかも

ちな今夜は話の流れの都合上ほぼボツ扱いで消されかけてた九面九神全員分のステータス公開して使っちゃうぞー

何故かもうfateエクストラマテリアルのAAが出来ているという驚愕。BB可愛すぎですよアレ


突然ですがアナブラちゃん可愛い!




          ///////////////////////////////ミ、,...::-‐==‐-:..、
       /////////////彡≡≠=ミ、ヽ∨///>'      _... =‐-`ヽ
.        ハ////////ィチ'"´  .-‐- :.._ ヽヽ>'"´,...::-‐==‐-:..、ヽ、`゙ ヽ \
    ,ィ ¨二ニミヾミ;=、/ ,ィチ'"´,r:、fヽ、__ 、ヽi´'う<//////i    ゞ、   \\
   /  ,ィ彡二ニ= (`_ ゝ  ., γ { ヽ;;;ハ ヽ `ヽ`ヽ////////}   ,ィ彡'     } ヽ
  ; ィ ',.ィ///////7イ.;  / ム. ヽ  \} ヾ:ヾミz、\//,ィ7/l!,ィ彡'       /  ノ  _...._
  .j' ,ィ {/////// ,':f ハ .f i`゙i、  ヾ=- ヾミ、ヾミニ二.三ァ'/タ"´          / / ,ィ'", -‐-、ヽ     _
. ;' ハ{ マ/////i :i :|:i l! i! ハ ',ヘ.  \  ̄7ー==-ヾ ∨//            r' / / / ,... -=マヾ¨” ̄   ̄¨゙ 丶
. i {:::ハ  ヾ///:| :| :i!{ーtハ=-、ヾ\、_ ミィ≦爪}i! .i! } ヾ/            { (`ヾミ≦´__..-‐=='~ ̄  ゚゙̄ ー=ミz、
. ! i、::::ヘ  ゞ:/ハ.i :li、ヾミ,ィ'f亦ヾ\`ー/f:ri::j 》リi }イ  ハヽ       ,ィチ¨>-=:.._...-‐=' ¨  ̄ ¨ヾミ、¨゙ ー=ミz、
  、. マ、:::へ  ヾミハ i、ヽハヾゞ斗  `   ゞ='  イ;イ :i!  ; :i、 ` ー--‐ ' _.<_.,ィ彡'              ヾ:\   `}}ミz、
  ヾ ヾヽ::::::ヽ、 `ヾヘ ハ ヾミz、   .:      j/ノ i}   i、i}、` ー--=='       ,ィチ爪丕二ニ=- ―=ニミz、ム   ji  ヾ、
    ゞミ≧、:::ヾミニ=マ ハ、 爪   _. ,   / // ハ  :} ノ、ヽ         ,..-‐=ァ≦彡' `゙¨ ¨`ヾミz、    ヾv、ハ ノ'
        `ヾミ、::ヾ:::ヽ》、ハ ゞホ>、 ` ´ ./,ィi'// /、i 人 ヾミ=ー -‐=彡'´ ¨ ̄ ̄ ¨二ニ=‐-...、  `ヾミx、  ヾ ハ
         ヾ;:;r(:..:.ゞリ{ マヽ:.:ゞ≡彡'ゞ′ヾ /:..:ノィー==ミニ=― '"´    ,ィ彡'       ¨`≧z、     ヽ  }: ',
             {{:..:ゞ¨´:.{ヽ、 ヘ j、/ ,  _ /ノ `}:..:..:..:..:..:.:.>=-ミz、 ‐=彡''            `ヾミz、\  ヾ i :}
           >ィ:.Y:.ヽ}i:..} マif=、 ¨´      ヽ `ヾ〆ー、:.:../-‐=ミ、`ヾミx、,..-‐====-:...   ヾミ、 ヽ ノ ,′

.          ,ィ彡':..:..|:..:..:!ノ_ゞiリヒ}    、   _}ィチ¨ヽ:..:,}:く:.:..:..:..::)、ミ≧z、._ ‐=≠' ー=ミz、 ヾ、  マハ  }'  ノ、
         {ミzzzィilゝィリー、,:fxjz、     ヽ /:..:i:..:..:._:.\;イ-=≠、:..::>   `゚ヽ、  `ヽ 、 `ヽ   i} ヤ i!ィハ :.、
         ヾミ三彡{:{_/i ./v`ヾミ三ミ、   {\:.:!、:/:::::::::ヽノ::::::::::::::}<"        ハ   ),ハ   ヽ ノ ,ィハ} j} ハ ',
             `ヾ 〈ムjl:〉/ // ,ィヾミ、  i:..:..\{::::::::::::;::-‐:\::::::::`ヽ      _}},.ィ彡' ヾ}ヽ   〉 ./ハノ,ィァ  }:. ',
. , -‐―-=.、       ∨〉i/∧ // ,ィiXムマハ ヾ:.::.;人ニ-、i::::::::::::::::\r'"´      ノ'     ,イ }  / ,ィ彡'/N  i!:i :i
 \      `ヽvヘ   }j::i:l/ ヾムiタr' ,ィハilキ   /ーキ,ィiチ':\:::::::::::::::;:::ヾー、         ,ィ::::ヽi //::::///Ⅵ ノ } i!
   ヽ        ヽ、 \ j//:i、 /Ki!'  .,ィケ':::マi! / ィ':.:{:..:..:..:..:..:i、,:::::-‐:::::¨´`ゝ、     /::::::::::::}/::::////Ⅳ,イ j i|
      、        //j;ィ〉 / :}xi  /N:::::::::ヘl/  {:.:.:ゝ、:.::.:..:..:/ヾ::::::::::::::::::::::::::゙>、_/:::::::::::/:::;ィi"/////Ⅴ / ,' リ
 ̄ ¨`ヾミz、   ,. -―ァ','///ハ lXi! Ki´:::::::::::j!   ハ:..:/ー'ヽ、:./`ヽ >、::::::::::::::::::::::::::\:::::::::::::::::::::////////Ⅴ./ / ./
        ,ィ"´::::::::::/ i:l 〈  〉|Xj! ,ィケ:::::::::::/    ∨    ,-、-=y'´`ヾ>、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::////////Ⅴ./ ./  ,'
\      /::::::::;:::-‐-{ゝ,j:l | ,r'r/X/ Ki´::::::::::::>      _.::-‐/  ∨      vー=<:::::::::::::::::::::::::///////iⅳ=ァ /
.  >   /::::::/::::;ィ彡'iゞ'// ! i7X/ K|::::::::::::::i、   ,.ィ=≠ア ./   i!     〉  :} >、::::::::::::::/\/////彡' ノ
/ 〉ーv'¨ ̄>ィ"´ ∧ ,ィ彡'//{|Q|x、:K|:::::::::;ィi彡v'::;ィ/::::/ /     |:      〈   i   ヽ;:::::/     、`<´
 ̄| ̄Ⅵ /::::/  ; ,:':::::::;ィ彡' |X|ヾミN≦彡':::::::ハァ':::::::::/;チ、   ,ィ!  /´  〉   :|,..‐=彡'ヾ'ム       ヾ\
  |  :||ヽi:::::::/   i i:::::::/ヽ  ._|X!:::::::::::::::::::::,ィ彡'′`ヽ/   `¨"´ {  /r==、ィ'‐=彡'        ハ  ァ..._`ヾー、\`ーュ
`ーl  :|| ノ:::::::ヽ,  | l::::::|、    マム::::::::::::::::/Ⅵ`ヽ il/ ヽ   ヽ  `ヾv'                ,'  i ノ   \\ ヽ..二フ
ー=彡'iマゝ:::::::::{   l ヽ:::| ヽ   マム:::::::::::/N/   ヽ|   ハ    }   :}-‐=ァ          i   ´      \)




投下はっじめーるよー

微睡みの中、心地の良い夢に浸る。

心の中を這いずる蛇は目覚める様子を見せず、私の意識もハッキリとしない。

ゆったりと、思い出すように、私の中に柔らかな光景が浮かび上がる。


ああ、これは夢だと。記憶を思い出すだけの、そんな夢だと。

少しだけ幸せな、短くも果敢無い夢に浸る。



「え? ドラえもん見た事なかったんですか?」

「小さい頃は、ね」



幼少期は一緒に見てくれる家族が居なかったのだと、そう思いながらも口にしない。

最初に見たのは初美ちゃんに誘われてあの子の家でだと、そう思いながらも口にしない。

それを口にすれば、見られたくない何か。

気付かれたくない何かにすら気付かれてしまうかもと思える察しの良さが、彼にはあったから。


……今にして、思えば。



「俺も孤児院出だから小さい頃はあんま見た事なかったんですよね、小鍛治家に引き取られるまで」

「そうなの?」


「ええ。ただ……なんというか、小鍛治家のあの二人は、なんというか『親』という感じがしなくて」

「とてもいい人達で、優しくて、一人娘の両親やってる人として尊敬できる素敵な人達だと思うんですけどね」

「……親として思えない自分が、情けなくなるくらいに」


「……」



なんとなく。

過程も、状況も違う、近しい部分なんて探すほうが難しいくらいだったのに。

理屈のないうっすらとした共感と、ほんの少しのシンパシーを感じた事を理由にして。

自分の感じる寂しさのような何かを、理解してもらえるかもしれない……なんて。


心のどこかで、期待していたのかもしれない。

「だからちょっと、友達の言う『親と一緒にドラえもん見る楽しさ』ってのもさっぱりだったんですよね」

「贅沢言ってるのは、分かるんですけど。どうにも、俺……ガキっぽさが抜けないみたいで」

「親の生死なり、近況なりが知れないと、頭で分かってても切り替えってやつが出来ないみたいなんで」



分かる、と応えたかった。

しかしここでそう言い出せるほどには、私には『勇気』がなかった。

ここで踏み出せる勇気が持てるなら、私はとうの昔に変わっている。

だから「あらあら」と微笑んで、言葉を濁して心を濁す。


……本当は。

本当に私が言いたかったことも、彼が言葉にしなかった本音も分かっていた。

子供の頃に、『お父さんとお母さんと一緒に見たい』と思った事がある、と。

思うだけで痛みが走るからこそ、分かっていた。

互いに、そこには触れられたくないのだろうと、分かっていた。



「ま、ドラえもんは親が子供に見せたくなるのも分かりますよ」

「そうねぇ、教養にはいいのかもしれないわね」

「ずっと昔、ドラえもんがのび太くんに言ってたんですよ。すごくいい言葉だったんで、今でも印象に残ってる」



だからか。

その言葉が、彼の考えた言葉でもないのに、何故か心の深い場所に残っている。



「『人にできて、きみだけにできないことなんてことあるもんか』」


「―――――」




あの人が、それを覚えているかは別として。

その言葉が沁み入るように、耳に残っていた事を覚えている。

誰の可能性も平等に信じている人間が居るとして。


そんな人間はきっと周囲の人間を惹きつけ、どんな時だって一人じゃないんだろう。

私と、違って。

そんな人間は自分の可能性も信じられるから、変わって行く先に進んで行けるんだろう。

……私と、違って。


そんな人達を、私は知っている。



「―――――!」

「―――――」

「―――――!?」



泥の中を浮き上がるような感覚と、意識が覚醒する確信。

醒めていく意識と連動し、徐々におぼろげだった視界がクリアになっていく。

視界には二人。

……私と、違って。

変われて行く事が出来る、そんな憧れる二人が。

此方に向かって、何かを叫んでいる。



「―――――!」

「―――――!!」



けれど、何を言ってるかさっぱりわからない。

何を言ってるのかも聞こえない。そもそも、言葉も声も何一つとして届いていない。

プールに潜っている自分に対して、水の外から語りかけているようにしか見えない。

それは、無駄なことなのに。



……分かってる。他人事のようなフリをしても、心の中では本当は分かってる。

二人は、私を助けようとしてるんだって。それが嬉しく思えるからこそ、その優しさが辛く染み渡る。


私は、ひどく情けない奴だと思う。

そしてそこから変われないと決めつけている自分が何より情けなくて、許せそうにない。

それでも、変われない。

だから、こんな私に手を差し伸べて欲しくない。

見捨てて欲しい。私が嫌いな私を助けようとしてくれるのが、嬉しくて疎ましい。

その手はもっと、差し伸べられるに相応しい人達がいる。



ああ、だから、今、目覚めて、もう私にも御せない、貴方達を殺そうとしてるこの蛇と共に。



葬って欲しい。せめて、いつか変わり続ける貴方達に置いて行かれてしまう前に、今ここで。

神性は、三位一体で構成される。

三ツ柱、三貴神、三姉妹、三連星。

神聖/神性を現存世界の美しさを象徴する数字で組み立てるのは、さして珍しい話でもない。



3×3は9。九面とは、神性としてとても美しいカタチを保っているのだ。

正方形を示し、立方体を構成し、一桁の数字で最も大きい数。

十という数字から一を引くという漢字の成り立ちを持ち、一をどこかから持ってきて初めて完成する要素。

『神代』を冠する血脈は、それら全てを包括する神性な血脈である。


しかし。


その血脈の中で史上最高の適性を持つと謳われた神代小蒔でさえも、九面の神の神性を制御する事は容易い事ではない。

神というものは、あまりに規格が大きすぎるのだ。

と、言うより。人に『そう在れかし』と望まれたというのが大きい。

誰だって、神様には「人の手では到底御せぬもの」であって欲しいのだ。

よって人類史上という規模で指折りの天才であり、また努力家でもある神代小蒔が十年かけても神の制御の目処は立っていなかった。




つい先日、須賀京太郎が一つの提案を彼女に告げるまで。

「行きましょう、神代先輩」

「小蒔、でいいです」

「……!」

「私達、お友達でしょう?」

「……ですね、『小蒔さん』。行きますか」

「ええ、京太郎さん」



京太郎が左に、小蒔が右に。並び立ち、直立する30メートルの大蛇を見据える。

京太郎が右手をまっすぐに伸ばし、その手の上に小蒔の左手が重なる。

目は合わせない。そんな必要はない。

何を見るべきか、何をすべきか。何を成すべきか。


そんな事、口にしなくとも、目を合わせずとも、とうに互いに伝わっている――――




「「……三位―――」」




告げられる言葉と同時に、格納。

言葉は合図。合わせる呼吸。互いの心音をシンクロさせる。

加速する思考。爆ぜる神力。自身の持つ能力のアクセルをベタ踏みにして、暴走する力を抑えこむ。



彼ら彼女らの思考は単純。

制御装置が一つで足りないのなら、二つ付ければいい。

神様を格納するのが一人では力不足なら、二人がかりでやればいい。

小蒔の中に神様を、京太郎の中に小蒔を据える。

力を流麗に振るう少年と、力を緻密に制御する少女の二人で、機械(マキナ)のように神(デウス)を支配する。

その過程で、二人はいつの頃からか、明鏡止水(クリアマインド)の境地へと達していた。



激しい痛みに耐え、炸裂する血管を抑え、力を内部に抑えこむ。

余分な力は外に吐き出し、制御出来るだけのエネルギーを整形する。

これが、彼と彼女の生み出した『ヒトのためのかみさまのカタチ』。




「「――― 一体!!」」




白い機械仕掛けの神様が、宿るように降りてくる。

我を使えと、二人を主として認めたように。

人の理で振るわれ、世界の理すら断ち切る、破邪の無垢なる刃。



最弱無敵のかみさまは、きっと健気な女の子と、諦めの悪い漢が大好きなのだ。

神は死んだ。


神に見放されたと、人は嘆いた。

神に頼らず科学を積み重ねて生きて行こうと、誰かが言った。


もう見守る必要はないなと、かみさまたちは去って行った。


それでも。

無垢に無邪気に純粋に、神を信じて祈りを捧げ、感謝を続ける人間が居た。

そんな少女を愛しく思い、力を貸す物好きなかみさまたちが居た。



かみさまとひとは、まだともにあることができていた。



見守るものと信じるもの、共に歩んでいく事を許されていた。

 


光射す世界に涙を救わめ正美無し/光差す世界に汝ら暗黒住まう場所無し

http://www.youtube.com/watch?v=zd0SvLI7SjQ


 

人が人を格納し、人が神をその身に降ろす。

二重の格納。神を内包した巫女を更に内包する戦士。

神と、少女と、戦士の三者で成り立つ神にして神でない英雄。


  デモンベイン
『無垢なる刃』。



人を核として、顕現する非物質の存在。

見える人には見える。見えない人には見えない。

そんな人と巫女と神様が、30メートルを超える大蛇の化生と対峙する。



この世界で、この偽物の機械仕掛けの神様の名を知るものはいない。

この神の名を、呼ぶ者はいない。讃えるものも、恐れるものも居ない。

だが、それでいいのだと神は言う。

知らぬままでいい。どこかの気まぐれな神が、応えてくれたと思う程度でいい。

人の為の神で在れとそう在れと望まれた。だからこそ人の為にこの身は在ると、神は謳う。

知らぬままでいい。祈るのならば、そんな君達に応えよう。



圧倒的なサイズ差。強大な悪。確実な勝利なんてどこにもない戦場。だが、『いつもの事』だ。

楽勝な戦場も、気楽な戦いも、弱者への確勝も。

無くて当然。だが、それでいい。それで掴めるものもある。



『さぁ―――』

「―――いい加減、その人を返してもらおうか!」

『「姦姦蛇螺!」』



白い閃光と、紫炎の毒が正面から衝突する。

お伽噺の一幕、英雄譚のクライマックスのように。


少年が、巫女に支えられ、神様に助けられ、悪い大蛇を倒して、お姫様を助けだす。



そんなありきたりで、チープで、めでたしめでたしで終わる物語。

【久々にゲスト戦です】

【フォームシフトは使用不能。代わりにデフォルトの格納対象が神代小蒔に固定されます】

【武器使用不可。ネクサスの場合はHP回復と能力付加のみとします】

【もしかしたらどっかの世界線で使えたかもしれない九面の性能をお楽しみ下さい】




【ゲスト参戦】

【個人格納時用特殊ステータス】




【神代小蒔】


・保有技能

『神人重/上一衣』
「九面」と呼ばれる神々の降霊技能。
事実上、神としての側面を持つ霊的存在の一時的な零落と契約能力。
彼と彼女が力を合わせ完成させる、この力の擬似最終到達地点。
戦闘時、選択した九面の神をその身に顕現させる。
ターン毎に、九面の神を再選択可能。
【神代小蒔】格納時、基礎ステータスは各神のステータスに依存する。

【第一面/小説神芥川】


HP:1

ATK:1
DEF:1


・保有技能
『神人重/第一面』
九面の中で最も弱き神。
戦わせてはいけない。小説でも書かせていよう。
小蒔は国語の時間に彼に祈る事がある。
自身の判定値を-30する。

『小説の神』
書く小説が面白くなる。
それだけ。




【第二面/漫画神手塚】


HP:10

ATK:10
DEF:10


・保有技能
『神人重/第二面』
九面の中で最も面倒くさい神。
戦わせてはいけない。漫画でも書かせていよう。
小蒔は美術の時間に彼に祈る事がある。
自身の判定値を-20する。

『漫画の神』
描く漫画が面白くなる。
それだけ。




【第三面/雷霆神道真】


HP:50

ATK:50
DEF:50


・保有技能
『神人重/第三面』
九面の中で最も薄幸な神。
名前と違い学業の神としての一側面。
戦わせてはいけない。受験生でも応援させていよう。
小蒔は高校受験で彼に祈った事がある。
敵全体の判定値を-5する。

『学業の神』
頭が良くなる気がする。
戦闘開始時、コンマ判定。
90以上だった場合、相手のステータスと行動パターンが判明する。

【第四面/始源神常立尊】


HP:200

ATK:300
DEF:0


・保有技能
『神人重/第四面』
九面の中で最も呑気な神。
性格としては最も幼く、小蒔を姉のように見る。
自身の判定値を+10する。
一戦闘に一度、自身のHPを好きなだけ減少させる事が出来る。
減少させた分だけ、自身の判定値を上昇させる。

『常立の神』
常に立ち続け、支え続ける天地開闢よりの神。
混じり気のない男性の象徴であるとされ、名前と合わせてセクハラな意味を構築する。
【女性】に属する対象へのダメージを二倍にする。




【第五面/王柱神大国主尊】


HP:100

ATK:100
DEF:400


・保有技能
『神人重/第五面』
九面の中で最も責任感の強い神。
厳格かつ無口であり、小蒔を娘のように見る。
自身の判定値を+15する。
自身がダメージを受けた時コンマ判定。
30以上で半減。50以上で無効。70以上でそのダメージの半分、90以上でそのダメージ分DEFを上昇させる。
九面の神を切り替えた時、この上昇分はリセットされる。

『国作りの神』
国作りの神にして、縁結びの神。
まるで父親のように神代小蒔の良縁を日々探し、結ぼうとする親馬鹿気味の神。
【男性】に属する対象からのダメージを1/2にする。




【第六面/命祖神伊耶那岐尊】


HP:333

ATK:333
DEF:333


・保有技能
『神人重/第六面』
九面の神の中で最もチャラい神。
何も考えていないようで実は一番考えており、小蒔を妹のように見る。
任意の対象を好きなだけ選択。選択した対象の判定値を-10~+10の範囲で変動させる事が出来る。
毎ターン開始時に対象を好きなだけ選択。
50以内のダメージか、50以内の回復のどちらかを発動させる事が出来る。

『父の神』
冥府より帰りし、生きとし生けるもの全ての命父の神。
天地創世の時代より途切れる事無く永劫に、彼の性的嗜好はロリである。
三度まで、あらゆるコンマ判定をやり直す事が出来る。

【第七面/唯一神・四文字】


HP:1000

ATK:280
DEF:280


・保有技能
『神人重/第七面』
九面の中で最も世界というシステムに近い神。
かつてシナイの地にて一つの民族に加護を与え、唯一絶対の神として押し上げられた創造神。
全能であり、満たすものであり、森羅万象万物の主。彼女に降りて来ているものは、「見守るもの」としての側面。
自身の判定値を+30する。
毎ターン開始時に「擬似奇跡」を発動させる。

『座する神』
決して動かず、離れず、座したまま世界を見下ろし見守る主。
九面の中で最も信仰を集める、人類最大規模の神性。
【日本の都市伝説】以外の都市伝説との戦闘が開始された時、その戦闘を勝利扱いにできる。




【第八面/救済神・円還乃理】


HP:1000

ATK:280
DEF:280


・保有技能
『神人重/第八面』
九面の中で最も少女らしく人間らしい神。
小蒔と唯一友人として接する神であり、小蒔と最も性質の近い神。
自己犠牲、純朴、人らしくも強い意志、少女性、いずれ人でなくなるという運命に引かれ流れ着いた神性。
自身の判定値を+30する。
毎ターン開始時に、MAXHPの30%を回復する。

『円環の神』
円環(まどか)の神。少女を救うというシステム。
とある世界のとある概念の一部が流れ着いた、その成れの果て。
自身に対するステータス変化・判定値-補正・強制勝利能力を任意で無効化する。
自身の死亡時コンマ判定。判定コンマが30以上だった場合、HP1で蘇生。回数無制限。
一戦闘に一度のみ、自身の戦闘不能を無効にしHPMAXで復活できる。




【第九面/鬼械神・無垢成刃】


HP:1000

ATK:280
DEF:280


・保有技能
『神人重/九第面』
九面の中で最も正しき神。
彼女の中の善性の守護者であり、正しき行いの代理執行者。
光差す世界に住まう暗黒に、「住まう場所なし」と断ずる剣。
自身の判定値を+30する。
【対抗神話】以外の都市伝説との戦闘時、一度のみ指定した対象のHPを強制的に0にし倒す事が出来る。

『機械の神』
デウス・マキナ。
憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、自身を取ろうとした使い手に応えたもの。
世界の果ての向こうから、祈りの空と切なる叫びに応えやってきた。
【対抗神話】以外の都市伝説による、能力の干渉を全て無効化する。

【姦姦蛇螺】


HP:1000

ATK:300
DEF:300


・保有技能
『一悪の砂』
砂のように入り込み、混じり合い、拭えぬ不快感を擦り込む悪。
乾いた砂海に落ちた一本の針は、この手には二度と戻らない。
自身の判定値を+30する。
自身が判定値を用いた判定を行う度に対象を選択。
選択した対象を【即死】させる。

『対抗神話耐性』
何者かによって付加されている、この都市伝説のものではない特性。
後付けの悪夢。希望の天敵の産物。塗りたくられ重ねられた穢れ。
【対抗神話】属性を持つ者に倒された時、一度のみHPを全回復し復活する。

一気に情報が出てややこしくなったと思うので23:30まで作戦タイム。そして戦闘でございます

姦姦蛇螺はNOT対抗神話ですねー
今の所対抗神話カテゴリでステータス作ってるの京太郎と小蒔ちゃんだけですが

これHP共通?それともそれぞれの神が一人一人HP持ってるの?

デモンベインで即死させても復活するな
。使ったら今後ゲスト参戦のときに困るかもしれんけど

>>668
共通です。前にしたフォームシフトの時の説明と同じく、受けたダメージ数値のみ共有です
なので一定上ダメージ喰らえば下級九面には回せません

>>670
デモベのこれは一戦闘一回ですね

では、再開ー



無垢なる神/無垢なる刃

http://www.youtube.com/watch?v=lh9HpNGVStM



 

あ、待った質問
『悪の一砂』の【即死】に耐性が無い神に切り替えて、そのターン内で倒した場合『悪の一砂』って発動する?

>>679
ネクサスもフォームシフトも使えないで

>>677
んー、倒したターンならおまけで死なないことにしましょう
ロマン的にあいうちはちょっと
ただルベとか持ってた場合は消費した上で倒す扱いにします

>>680
ネクサス使えますのだ!

【あ、現在デフォルト格納対象は無垢成刃になってますので】




神の力を借りた少年が、少女と共に悪を討ち、罪なき者を救わんとする。

途方も無い速度と長さと破壊力で振るわれる尾が、常識外れの機動と速度でかわされる。

天地が砕ける。大気が裂ける。砂塵が吹き荒れる。

人の世には、決してあってはならない光景。


それは、神話の再現だった。




小蒔『霞ちゃん!』



そんな中、言葉を届けようとする少女が居た。

そんな中、想いを届けようとする少女が居た。



小蒔『皆、貴女を待ってる! 皆、貴女が大好きだから!』

小蒔『貴女の代わりなんていないと思ってる人は、貴女が気付いてないだけで貴女の周りにたくさん居るの!』

小蒔『私だって、そうだよ!』



血と砂埃と悪夢に塗れた、そんな世界の中で。

誰の目も引きとても綺麗に映る、そんな姿勢。

汚れもない、混じり気もない。ただ純粋に、ありったけの気持ちを込めている。



小蒔『だから、戻ってきてっーーーーーーーーー!!!』


「――――――」



少しだけ。

ほんの少しだけ、大蛇の動きが鈍る。

そしてその隙を、少年と神は見逃さない。



神話の再現が、再度始まった。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・アイテム使用
・ゴッドシフト
・ネクサスシフト
・九面能力使用
>>689


姦姦蛇螺判定
>>691

デモベ
能力使用
防御

ぶちかませ!

まどかで必殺かなぁ

【#攻撃姦姦蛇螺】



無垢成刃、『神人重/第九面』発動!

姦姦蛇螺に確殺攻撃!

姦姦蛇螺残りHP:0


『対抗神話耐性』発動!

姦姦蛇螺残りHP:1000


防御VS攻撃


2+3+30+6=41

1+0+30=31


京太郎&小蒔&無垢成刃の攻撃サイド確定!


280×2-300+(41-31)=270ダメージ!


『一悪の砂』発動!

即死判定攻撃!

『機械の神』発動!

無効!



姦姦蛇螺残りHP:730

「――――グ、ガ」

「カワレ――――ルワケガナイ」

「世の中は―――カワレルモノノホウガ―――圧倒的に少ないのだ」



それは都市伝説の言葉だったのか。石戸霞の言葉だったのか。

それは、誰にも分からない。

ただ、その言葉を聞いて。三位一体の戦う者は、闘志を燃やし構え直す。



彼の両手は空いている。素手だ。

腕が二本もあるのなら、武器だって持てるはず。

二刀流(トゥーソード)でも、二丁銃(トゥーガン)でも。

しかしその手は何も持たず、何を振るう事もない。



京太郎「変われる……変われるはずだ!」



何故ならば、彼ら神々に求められたのは戦う事だけではないからだ。



京太郎「人にできて、貴女に出来ない事なんて、何もない!」



その手は武器を持つのではなく、誰かの手を取る手で合って欲しいと。

無手だからこそ果たせる役目と責任を、彼ら神々は求められた。

だからこそ、応える。


世界は残酷で、救われないものが山のように存在する。

そんな人々に、救われぬ者に救いの手を差し伸べる。

それがかつて望まれた、原始の神の理想像。



京太郎「だからッ!!」



先よりも更に鈍く、しかし殺意は揺るがぬ姦姦蛇螺の戦闘姿勢。

嵐のように、彼らは飛び出した。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・アイテム使用
・ゴッドシフト
・ネクサスシフト
・九面能力使用
>>700


姦姦蛇螺判定
>>701

まどか
必殺

まどか
必殺

【#防御だらー】



円環の理、『神人重/第八面』発動!

HP300回復!

京太郎&小蒔&円環乃理
残りHP:1000


必殺VS防御


6+0+30+6=42

9+9+30=48


姦姦蛇螺の攻撃サイド確定!


300×2-280+(48-42)=326ダメージ!


『一悪の砂』発動!

即死判定攻撃!

京太郎&小蒔&円環乃理
残りHP:0

『円環の神』発動!

京太郎&小蒔&円環乃理
残りHP:1000


ダメージ計算適応


京太郎&小蒔&円環乃理
残りHP:674

尾による絶対的破壊力の中距離攻撃。

六本の腕による死角のない近接攻撃。

両者が噛み合わさって、隙のない攻防を構成・実現している。


それはこの世の生物がどうあがいても成し遂げられない、おぞましい領域の強さ。


再度振るわれた尾が、隙を見て回復しようとした彼らを叩き飛ばす。

戦闘向きではない回復の神。神をシフトした際の数コンマの隙。

そこを狙われては、流石にかわすすべはなかったのだ。



小蒔『真面目、過ぎるから』

小蒔『「こんなんじゃ変わったとはいえない」って、自分を追い詰めちゃったんだよね』



……だが。

吹き飛ばされ、巻き上がった砂塵の中から、痛みなど無いかのように気丈な声が聞こえてくる。

強烈な一撃だ。内部の人間もタダでは済まない、そのはずなのに。

彼も彼女も、その心には折れる気配の欠片もない。



京太郎「難しく考えなくていいんですよ」

小蒔『ただ、今まで解けなかった苦手な問題が出来るようになったり、新しい事を教えてもらって覚えたり』

小蒔『頑張って何かに挑もうと思ったり、誰かが頑張っていることを手伝ってあげたり』

小蒔『……それだけで、いいんだよ』



桜色の光が、彼らを包んでいる。

その身を癒やす、絶望の対になる希望の祈り。

女神様の、優しさと愛に満ちた祈りであった。



「――――――!!!!」



その言葉を、祈りを認めぬように。

姦姦蛇螺は、獰猛な気配を滾らせて攻勢に出た。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・アイテム使用
・ゴッドシフト
・ネクサスシフト
・九面能力使用
>>713


姦姦蛇螺判定
>>715

デモンベイン
攻撃

ネクサス・リザベ・コッキネウスカペラ発動の場合
敵判定値補正:30-15=15
味方判定値補正:10+10+10+5=35
判定値コンマ抜きダメージ:{264×2-300+(35-15)}×2+270=726

判定値で4以上の差が出せれば勝てるな
まあデモベで殴ってからの方が確実か


安価ならデモベ攻撃

【#槓槓蛇螺攻撃】



攻撃VS攻撃


9+7+30=46

3+6+30=39


京太郎&小蒔&無垢成刃の攻撃サイド確定!


280×2-300+(46-39)=267ダメージ!


『一悪の砂』発動!

即死判定攻撃!

『機械の神』発動!

無効!



姦姦蛇螺残りHP:463

数百、数千kgはあろうかという強大かつ鈍重な尾。

数十メートルの扇形攻撃範囲、強固な鱗、亜音速の速度の攻撃がその脅威を助長する。

円環乃理では、到底防げぬ凄まじい一撃。



しかし、今の少年少女と共に在るのは、正しき怒りを胸に秘めた無垢なる刃。



無手。

白熱した右手が無限の熱量を内包し、迫る尻尾に叩きつけられる。

防御にも見えた。迎撃にも見えた。腕の方が折れるだろうと、誰もが思うその光景。



―――瞬間、流れこむ絶大な熱量。



固体の尾が液体という過程を無視して、強制的に気体に昇華させられる。

コンマの世界での、反射に近い姦姦蛇螺の逃避はぎりぎり間に合っていた。

尻尾が掴まれ熱量が注ぎ込まれる刹那の間に姦姦蛇螺が尻尾を切り離していなければ、瞬時に本体ごと昇華されていただろう。

トカゲの尻尾切り。

その逃げでしかない判断が、姦姦蛇螺の命を長らえさせた。



京太郎「―――撃ったのが俺じゃなければ、大陸でも蒸発させられるかもな」



爬虫類の特権。

一瞬、一秒とかからぬ時間で、ニュルリと尻尾が生え変わる。

実に気持ちの悪い、女性に生理的嫌悪感しか感じさせない自己再生。


それを図々しくも石戸霞の身体を間借りして行っている事に、ひどく腹が立つ。

この点において息を合わせる必要もなく、二人の思考は完璧に同調する。


自然、彼らの力はまた増大する。

心と心が強く同調すればするほど、彼らの力は引き上げられる。



『「いい加減に、しろっ!!」』



その怒りは。正しき怒りは。

次の一撃に、決着の予感を漲らせて余りあるほどのものだった。




京太郎の行動を選択して下さい
・攻撃、必殺、防御
・アイテム使用
・ゴッドシフト
・ネクサスシフト
・九面能力使用
>>725


姦姦蛇螺判定
>>727

>>712

>>712
必殺

破壊力を、右足に。

収束。収束。収束。

込める威力は、大地だって吹き飛ばせる大威力。


ただの掌底に、大陸を蒸発させる破壊力。
ただの蹴撃に、大陸をひっくり返す衝撃。

この神様が振るう力は、本来そういう規模だ。
その力の一端を借り、引き出し、拳に込め砕く。足に込め破る。
人の為の神は、偽の神であっても、最弱無敵の神様だ。



京太郎「皆、力を貸してくれッ!」


『『『『『『 応っ! 』』』』』』



赤きマントが飛翔するための翼となり、彼を上空に押し上げる。

地面から生えた鎖の群れが大蛇を捉え、赤いマフラーが彼らと姦姦蛇螺を強く結びつける。

やがて、マントの引っ張る力・落下する力・飛翔の力が姦姦蛇螺へとその力を一つのベクトルへとまとめていく。

強化された神速の足の脚力。足に纏われた、鰐の装甲による擬似的なロボットのような装甲。

そこに神の力が上乗せされ、数瞬後の未来に確実に当たるよう統括される。


一人の少年と、一柱の神と、六人の少女の合体攻撃。




北海道でもひっくり返りそうな威力の光り輝く飛び蹴りが、その日の最後の一撃だった。




【#防御カンッ】


トリプル、発動!

姦姦蛇螺の行動パターンは、『かんかんだら』の文字列です
あ行なら攻撃。濁音なら必殺。それ以外は全て防御です
攻撃→防御→攻撃→防御→必殺→攻撃のループとなります


必殺VS防御


7+1+30+35+10=83

4+3+30-15=23


京太郎&小蒔&無垢成刃&怜&穏乃&一&の姫子攻撃サイド確定!


560×2-300+(83-23)=880ダメージ!

コッキネウス・カペラ!880ダメージ!

リザベーション・バースト!537ダメージ!

累計、2297ダメージ! やり過ぎぃ!



姦姦蛇螺残りHP:0



姦姦蛇螺を、元の姿の石戸霞へと『変えました』!

倒れる霞のに寄り添い、その手を握る小蒔。

無言だがその両目には涙が溢れ、この場の誰よりも彼女の救済と無事を喜んでいた。

破けてはだけた霞の服装は目の毒だが、京太郎にはすべき事と言うべき事がある。

石戸霞にたった一つ残されている、彼女の中の呪いを解く方法を。



京太郎「石戸先輩」

霞「……ごめんなさい、迷惑をかけてしまって。今回の件は全て私が悪……」

小蒔「霞ちゃん!」

京太郎「いえ、そうではなくてですね。この件の処理は今は置いておいて……つか、誰も責めないとは思いますが」

霞「何か、別件なの?」

京太郎「これを、見てください」



彼が懐から取り出したのは、何の変哲もないB5の大学ノートの切り離したページ。

つらつらと書き連ねてある文字列は、漢字と数字の混合だ。

見慣れた文字列だと、誰もが思うはずだろう。

何故なら、これは。



京太郎「……ここに、調べてて今日ギリギリ間に合った、住所のメモがあります」

京太郎「貴女が両親と引き離されて、その後両親が引っ越してしまって、もう二度と知る事はできないと」

京太郎「貴女が諦めた、『両親の今の所在』です」

霞「……!」



誰もが書ける、しかし彼女が求めてやまなかった。

薄墨初美が須賀京太郎に期待した、彼だけが掴める石戸霞の救いの一手。

彼女の過去を精算する、最後の希望なのだから。

一般人なら調べ上げられない。

プロの探偵でも、一ヶ月はかかる。

霧島神境のトップ周辺ならば把握していたのかもしれないが、教えてくれる道理もない。

だからこそ。

だからこその、須賀京太郎だったのだ。

須賀京太郎は薄墨初美の期待に十二分に応え、石戸霞の希望は繋がれた。

これは、そういう話である。



京太郎「貴女は、今踏み出せば決着をつける事が出来る」

京太郎「自分の、過去と」


それがどんなカタチであってもだ。

痛みを伴うかもしれない。喜びを伴うかもしれない。涙を伴うかもしれない。

それでも、変わる為にはそれをまず受け入れる勇気だけは出さなくてはならないと。

京太郎は、そう言っている。



京太郎「どんなカタチであっても、貴女はこれで変われる」

京太郎「変わってない、なんて言えないと思いますよ」

京太郎「そんな言葉を発する事は、きっと貴女自身が許せないはずです」



石戸霞にとって、両親という存在はそこまで軽くはないと。

石戸霞の周りには、こんなにも支えてくれる仲間たちが居る筈だと。

ずっと、貴女は一人じゃなかったんだと。

代わりなんていないし、もう貴女は変わっていけるんだと。

京太郎は、そう言っている。



京太郎「ここから、また始めましょう」

京太郎「今の貴女の隣には、友達も、家族も、仲間も。それに小蒔さんが居るじゃないですか」



霞の手を、優しく小蒔が握る。

言葉を終えて振り返る京太郎の視線の先には、走り寄ってくる巫女達の姿が映っている。

耳に残る優しさと、手を握られた暖かさと、手の中のメモという希望を受け入れて。




石戸霞は、何故か滲んで見えなくなっている視界を、何度も何度もゴシゴシと擦るのだった。

やがて泣きつかれたのか、眠りに落ちた霞を京太郎が背負い、道を歩いていく。

最初は小蒔が背負って行こうと奮起していたのだが、本人の筋力と疲労で無理でしたーと誰もが予想したオチでした。

なので一番体力的に余裕のある京太郎が背負い、家まで送っていく運びとなったのである。


憧は一人でさっさと帰ってしまった様子。
「あ、約束忘れないでよねー」という短い別れの言葉が、ひどく恐ろしく聞こえたのは何故だろうか。

初美は何故か京太郎と距離が縮まった様子。
何かしら思う所も、認めた所もあるのかもしれない。

巴は今回裏方で非常に気を揉んで苦労したらしい。
なんだかんだ、精神的な疲労は一番のようだが、それをおくびにも出していない。

春はこっくりこっくりと歩きながら寝かけている小蒔の手を引っ張っている。


全員が、疲れていた。


そんな中、一人だけ常のポーカーフェイスを完全に保っている大人がいた。

京太郎の背の霞の頭を撫でている、戒能良子である。



京太郎「……何してるんですか?」

良子「ん? これはね、夢がいい夢になるようにしてるんだよ」

京太郎「そんなことも出来るんですか」

良子「いい夢か、悪夢か位だけどね。操作できるのは」



その瞳に最初は冷たさを感じていたが、今ではその奥に秘められた人一倍の優しさにも気づけるようになった。

なんとなく、少年はこの大人に色んな意味で近づけてるのかな、と思う。



京太郎「どんな夢、見てるんですかね」

良子「きっと、家族の夢だよ。君が居て、あの娘達が居て、両親が居て」

良子「皆がこの子を一人にしない、そんな夢」

京太郎「……」

良子「起きた時、少しだけ虚しくなるけど」

良子「心に両親と向き合うだけの力をくれる、そんな夢」



たとえ、現実に還元されない儚い夢だとしても。

幸せな夢はそれだけで心の栄養になるのだと、彼らより少しだけ大人な彼女が言う。



京太郎「素敵な夢ですね」

良子「うん。それじゃ、ここから私は駅に向かうから、君たちとはぐっばいだね」



やがて、分岐路に辿り着く。

少年少女は、誰が促したというわけでもなく、自然と皆揃って頭を下げていた。




  グッドスリープ
「『良い夢を』。よいこの少年少女達」

 



第二十一話・完



 

【次回予告】




「決着を付けよう、士栗」


「私か。おにーさんか。どっちも生き残れるなんて、思ってないよね?」




「悪役の王道とは、何でしょうか」

「それは正義の味方が嫌がる事で、されたくない行動の事ではないでしょうか」

「つまり、実に効果的という事で」

「本当に大切なその時まで、大切に温存しておくべき手段だということです」

「例えば……『人質』、等ですね」

「実に効果的です。非常に効率的です」

「そうは思いませんか? 夢乃マホ様」


「……絶対ロクな死に方しませんよ、あなた」




「だったら、どうしろってんだ!」

「『これ』以外の理由で生きる方法を、俺は知らない……!」




「これが俺達の、青春(ジュネッス)の集大成」




第二十二話前編:VENGEANCE/冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

本日の投下はこれで終了。お疲れ様でしたー

あとは幕間&たかみー過去編短めにあっさりやって、四章最終話・士栗決戦編です
22話が終わったら最終章・五章最終決戦編です


色んな人が動き出し、変わり出す回になる予定



ではレス返し等は明日。お付き合い感謝感激雨霰

グッドスリープ
良い夢をー、皆々様ー

乙ー
このタイトルの映画は個人的に好きだな

乙ー
そういえば波旬のデータ出なかったな

乙ー
黒の世界のフリーメイソンの首領って黒が(∴)使ったらどうする気だったんだろう…


アコチャーは京太郎にナニをさせるつもりなんですかね…

矢澤にこんばんわ

でもにっこにっこにーはやっちゃった感あるですよ先輩


美容院に行ったらビギナーっぽい子にタッグフォースのコナミ君から無印の本田君みたいな髪型にされてしまいました
でも可愛かったから許す


>>753
あら、まさかの知っている方が

>>759
正式九面ではなかったのでー
どの道完全制御の段階でリストラされる予定でした

>>763
事実上の仕切りなおしですしはじゅーん
九面降霊も一回限定ですし、能力がバレてリソース削られる前に黒が短期決戦挑んだのもデカいです

>>764
そらナニよ



http://www.cnn.co.jp/fringe/35036050.html

なんでやねん

・・・なんでやねん!

 



【閑話その15・卒業シャイニーデイズ】



 

豊音「偶然だったけど、宥さんと一緒の大学だったんだよー!」

京太郎「おお、そりゃすごい。これが運命力……」

豊音「ゆ、遊戯王じゃないんだから……」



20、21話の更に裏側。

卒業式というイベントを終え、歓談を楽しむ少年少女。

九月にこの街へ来た彼女達五人は、思い出作りに励む期間をこの街でほとんど過ごせず、事実上半年しか過ごせなかった。

しかし、浮いていたり仲間外れにされていたということはない。

三年生達は彼女らを三年間共に過ごした友人と同等に迎え入れていたし、そんな彼らに彼女らも感謝していた。

だからこそ、共に涙を流してこの始まりのための終わりを迎えられたのだ。


今、少年少女が涙を流していないのは、今耐えられるだけの涙を既に流してきたからである。



京太郎「あの人をよろし……」

京太郎「(……この人はこの人に他人の事任せるより、この人の事を誰に任せるか考えるべきな人だよな)」

豊音「? どうしたの?」

京太郎「……いえ、仲良くしてあげてください」

豊音「言われずともー!」



別れに付き物の悲壮感はそこにはない。

ただ、笑顔で。涙ではなく、笑顔で。

この場所では、彼ら彼女らが望む『笑顔の別れ』が実現できていた。

悲しむことはない。この別れと終わりは、数多くの人々の祝福の上に在る。



豊音「……楽しかった。うん、楽しかったよ」

豊音「短い間だったけど、ありがとうね」

京太郎「こちらこそ。短い間でしたけど、そうと感じないくらいに忙しく濃い日々でした」

京太郎「ありがとうございました! 本当に、楽しかったです!」

「だから私も、呼んでくれればすぐ来るからね!」



甘えたくなる笑顔ではなく、守りたくなる笑顔。
支えてくれる事が嬉しいのだと、改めて思う。
彼女の力を今までと違う形で借りる日は、きっと近い。



「私はダルいんで……出来れば危ないことしないで欲しいなぁ」


来ないとは言わない、そんな誠実さ。
無気力ではあっても無関心でも無情でもない。終始そんな人だった。
ダルいダルいと言いながら、一番早く来て一番遅く帰る人を悪くなんて思えない。



「ン」



自分の似顔絵を渡された。
……なんだろう、すごく上手い。美大にも行けそうな、魅力的な絵柄だった。
とても可愛らしく無邪気な人だと、改めて思う。



「ほらほら」



頭を撫でられた。
……台座を使って。おそらくこの人のは一生に一度の体験なんじゃないかと、無性に思う。
いい人ではあっても、それ以上に掴み所のない人だった。



「……うん。まぁ、がんばんな」



肩に手を置かれた。
ただ、先輩として後輩を案じる優しさと慈しみ。
それ以上でもなく、それ以下でもない距離感が、暖かな絆として感じられた。




会おうと思えば会える。今生の別れというわけでもない。

それでも、寂しい物は寂しい。

別れとはそういうものだ。

それでも、笑顔で送り出す。

それが『後輩』に課されている、一年の最後に果たすべき責任である。

桜が舞う。

桜は学生達の始まりの象徴にして、終わりの象徴。

彼らが道を歩き出す今と、道を歩き終えた今を祝福する無言の守り神。


そして、巣立つ彼らを祝福するのは、後輩や桜だけではない。



「……よぉ」



彼女らを誰よりも、心から、泣きたいほどに祝福したいと思っている者達が居る。

後輩よりも、桜よりも、ずっと近くで、ずっと長く、彼女らを見守ってきた者達が居る。



豊音「お、お父さん……?」



気付けば、大人の姿がまばらに見える。

どこの誰かの父親やら、母親やら。

豊音が気付いた時には、その場には豊音と彼女の父しか居なかった。

三年生の各々が各々の両親と触れ合い、語り合っているようだ。



豊音「今日、お仕事じゃなかったの?」

姉帯「……休みだよ」



有給である。嘘は言ってない。

頭をガシガシとかくのは以前のように距離感を測りかねているのではなく、言葉を選んでいるからだ。

それが伝わるようになったからこそ、豊音も次の言葉を待つ。

少しの沈黙。少しの間。少しの期待と、少しの勇気。




姉帯「……卒業、おめでとう」




とても、とても長い間。

心も体も離れ離れになっていた、父親とその一人娘。


二人の距離が、またすこしだけ縮まった。

 



京太郎「あー、やっぱ」


京太郎「……いい父親なんだよな、あの人は」



 

 



【幕間その16・ネバー・ネバー・ネバー・ネバー・フォーゲット】



 

須賀京太郎が渋谷尭深と出会ったのは、約二年前。


国広一、龍門渕透華と須賀京太郎が初めて出会った時期である。


彼女もまた京太郎の穴を埋め、今の彼を支える四人の勝利の女神達の前に彼を支えた一人。


簡略するカタチとなるが、彼女と彼の物語を物語りたいと思う。

渋谷尭深は現在中央高校二年生。

京太郎達の一年先輩であり、茶道部の一員である。

園芸部とも多少の付き合いのある部活であり、松実宥や宮永咲とも多少の親交がある。



また、とある都市伝説の保持者でもある。

その都市伝説のせいで珍しくも大星淡に気に入られ、一部の人間から奇妙な尊敬を受けているのはお気の毒としか言いようがない。



話を戻そう。

茶道部は中央高校では割と新設気味の、零細部活動の一つである。

構成部員は六人。

椿野美幸、依藤澄子、古塚梢、森垣友香、安福莉子、そして渋谷尭深。

「茶を飲んで駄弁るだけの部活」として、来年以降も女子の部員が期待できるなかなかのなかなかな部活だ。



園芸部の菜園で一部茶葉を育てているのは、この部活との提携である。

茶葉が成れば摘み取り、両部で合同のお茶会を開く……というわけだ。

暖かいお茶はそれだけで松実宥大歓喜のイベント。釣り餌をよく分かっていると言えるだろう。



そんな茶道部の彼女が、紆余曲折あって彼と出会い。

買い物に来ていた自分の荷物を持ってもらって、その流れでお茶をご馳走する事になって。

お茶を教えたり、身の上を話したり、悩みを話したり。



茶室の片隅で始まった二人の交流から、この二人の物語は始まった。

茶とは、集大成である。

神が大地を創る。

獣と虫と草が大地を豊ます。

人が大地を耕し、種を蒔く。

太陽が、雨が、風が、大地が、作物を育む。

農家が作物を刈り取り、商人が茶葉として販売し、茶人の手で茶という形に昇華する。



そんな茶が、渋谷尭深は大好きだった。

飲むと落ち着いた気分になれる、渋目の味が好きだった。

間食が苦手で少食気味な自分にぴったりな、熱くともほんのり暖かくともちびちびと飲むお茶が好きだった。

誰か一緒に飲むお茶が、特に好きだった。

誰かとお茶を飲むときに流れる空気が、好きだった。

急がず、だらけず、ただ居心地のいい空気が流れていくだけの時間が好きだった。

それらよいものを運んで来てくれる茶が、渋谷尭深は大好きだった。



誰にも言った事は無いけれど。

彼女は、お茶の中にはこの世の全てが在ると考えている。

特に、お茶を淹れる人の全てが溶け出していると思っている。



適当な人間が淹れると適当な味になるし、真面目すぎる人間が淹れるとひどく苦くなっている。

思い遣りがなければ冷たすぎるし、誠実さが足りないととても濁っている。



そして、その少年の茶の味は。



無難で、無個性で、人を魅了する特別な良さはなく。


……それでも、優しい味だった。



渋谷尭深は、『須賀京太郎の味』を好ましいと、そう思った。

俺茶道部入るわ(迫真)

「……どうすりゃ、もう少しマシな自分になれるんですかね」

「あー! 考えても仕方ないって分かってんのに!」

「すんません、先輩にはいつも感謝してます。俺の生産性のない愚痴ばっか聞いてもらっちゃって」


「……あ、ううん。別に、お茶飲みながらお話するのは、嫌いじゃないし……」



足りないものがあるのだと、けれど何が足りないのかもわからないのだと、少年は嘆く。

高すぎる理想と、足りなすぎる実力のギャップ。

それがこの苦悩の原因であり、彼が生き急ぎすぎる原因であるように彼女は感じた。



「そうだ! お礼に先輩を俺のおごりで連れてきますよ! ディズ……」

「ストップ」

「?」

「ダメ。夢の国の名前を出すのはNG」

「お、おう」

「……でも、お礼はその気持だけでも嬉しい」



『落ち着き』が足りない。

誰がどう見てもそう思う、彼の歳相応の欠点であった。

この頃の彼は今の彼と比べても猪突猛進の気が強く、考えなしの気はもっと強かった。


こう言っては何だが、今より更に輪をかけてバカだった。

渋谷尭深がどこか危うさを感じ、どうにかしてあげようと決意するくらいに。



落ち着きの塊のような渋谷尭深とは対照的であり、この出会いは運命のような必然であったと言えるかもしれない。

「落ち着きのない男はモテない」という格言がある。

非童貞、彼女持ち、妻子持ちがDTよりモテる理由の一つとしてあげられるアレである。

頼り甲斐、と言い変えてもいい。

落ち着きのない子供には、誰一人として頼らない。

しかし落ち着きのある大人には、自然とその人を頼る人が集まってくるのである。

落ち着きとは、子供と大人を分ける境界線の一つなのだ。



「……茶、美味しいですね。先輩」

「……うん……」



かくして、渋谷尭深による須賀京太郎矯正作戦が始まった。

まあ始まったとは言っても、やっている事はただ『茶を飲む』というだけの話なのだが。


彼女はただ京太郎を茶に誘い、茶を飲み、他愛も無い事を話し、まったりとした時間を過ごしただけ。それだけだ。

日々をそうして過ごし、過ごさせた。特別な事は何もしていない。

何事もない時間、焦らない時間、落ち着ける時間。それを日々の中で一定量確保するように、彼を矯正した。

彼女が少ない経験から絞り出した、彼女が考えうる最善。



それは、とんでもない事に……この時期において、彼にとっての最善の一手であった。

それは例えるのなら至上の難問の解答欄に、計算過程を省いて答えだけが書き込まれているかのような暴挙。

世にも恐ろしい偶然であった。



「あ、お茶菓子食べます?」

「うん……あ……」

「……? ……あ。ああ、すみません、せんべいはこっちの味の方が良かったですか」

「うん」



かくして、彼女の尽力により彼は日々の中で徐々に余力を残すようになっていく。

精神的な余裕は、そのまま窮地における余裕になる。

精神的な余裕は、そのまま他人を受け入れる下地になる。

少しづつ、少しづつ、彼には『落ち着き』が生まれていった。



この後の彼に色々と恩恵を残す、落ち着きのある精神の下地はこの時期に育まれていたのである。

……さて。

ここで、少しだけ話を戻したい。

渋谷尭深の都市伝説についてである。


国広一は京太郎と強く共感し、かつ彼に俯瞰する視点、鎧のような強がり、器用な処世術といった彼を構成する要素を継ぎ足した人物だ。

加えて言えば彼の防御の要であり、小細工を無効化するメスメリック・マジシャンである。

しからば尭深にも戦闘用の都市伝説が存在し、『もしもの世界』では今も彼の力になっていたのではと考えるのは当然だろう。



彼が彼女の都市伝説を知ったのは、とある夜。

彼がまだ自衛の手段を持たなかった時代、夜の小道で出会った怪異。



「……えっ」

「怨敵死すべし。慈悲はない」

「えっ」



えっ、としか言えない迫る突然の死。

『カシマレイコ』と呼ばれるそれは、当時こそ自覚はなかったが未熟な覚醒前の寺生まれを仕留めんとしていた。

逃走。追撃。逃走。負傷。逃走。捕縛。

足掻けるだけ足掻いたものの、彼にはもはや打つ手が無い。


もうダメだ、そう思った時。



「イヤーッ!」

「グワーッ!」



裂帛の気合。
先程まで自分を狙っていた都市伝説の断末魔。
交差する声は一瞬。京太郎が思わず目を閉じてしまってから再度開けるまでの間で、既に勝負はついていた。



「……えっ?」



再度のえっ?
それも当然。彼の視線の先には、一般人かと思っていた渋谷尭深の姿。
いや、それはまだいい。

問題なのは彼女の衣装だ。
背中とか胸元とか盛大に開いている、どう見てもギリギリラインより少し短いスカート。
しかし和風の意趣を残している、その服は。

 





「アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」







まさしく忍者。NINJAであった。

彼が落ち着くまでに、実に10分の時を要したという。



「まさか先輩がNINJAだったとは……」

「正確にはKUNOICHIだけどね」



都市伝説をチャメシ・インシデントに屠る渋谷尭深。

彼女はまさしく、クノイチであったのだ。



しめやかに回想終了。

くのいちたかみー…ゴクリ

ありだな(鼻血ブー)

【千利休は服部半蔵と同一人物である】



日本で10年代に入ってから生まれ即効で消滅した、デマを通り越してまさしく都市伝説としか呼びようのない都市伝説。



この都市伝説のベースとしてあるのは、『忍者』というカテゴリーの強さである。

日本人には馴染みがないだろうが、国外、特にアメリカ等では忍者は強く都市伝説としての性質を持つ。


例えばアメリカでは2008年に「忍者が現れた」との目撃情報で学校が一時閉鎖したという事件が発生している。どんだけだ。



ちなみにアメリカの忍者ブームの基礎は1975年、ジェームズ・クラベルによる「SHOGUN」という小説、当時流行っていた「燃えよドラゴン」等の作っていた下地が重要だったとする説がある。

そこをスタート地点にエリック・ヴァン・ラストベーダーの1980年作「ザ・ニンジャ」が火を付けた。

エリックの後に続いたショー・コスギが二人でどんどん作品を書き続け、それに多くの人が追随していった……というわけである。

これによりミステリー小説には中国人の拳法家と日本人のニンジャは出禁になってしまった。なんでやねん。



忍者は特に植物の扱いに長ける。

毒は勿論の事、道具の素材とするためでもある。

蔦、枝、茎、毒、保存食。忍者の歴史は、植物の扱いの歴史である。

今回渋谷尭深にはこの側面が強く発現しており、木遁とも呼ぶべき属性の偏りが発生してしまっている。



ゲームシステム的にはストック消費型戦闘タイプ。

判定勝利、ターン終了時、特定タイミングで「シードストック」が補填される。

このシードストックを「ハーベストタイム」で消費する事で、様々な事が可能となるのである。

直接ダメージ、ステータスアップ、判定値強化、HPの回復、デバフの効果の無効。

一度に消費するシードの量が多ければ多いほど強力であり、逆に少なければ加速度的に役に立たなくなっていく。

つまり、理想は序盤でストックを貯めての後半一撃必殺。テクニカルなキャラである。

反面怜より器用貧乏で、穏乃より低下力で、一より低判定で、姫子より紙装甲という最弱にもなりかねない。

能力が進化するとストックのチャージ速度とハーベストタイムの効果が劇的にアップする。

 



【幕間その17・ジュネッス&アンファンス】



 

須賀京太郎sが毎晩毎晩特訓を続ける脳内修行場。

時間の流れも空間の大きさも滅茶苦茶なこの世界で行われている修練は、何も肉体的なものだけではない。

『死超』習得の為。および歴戦の戦士の経験を若い京太郎にフィードバックする為、当然のように座学も行われている。



黒「勘、ってやつがある」

黒「まあこれも実在の不確かさで言えば都市伝説と変わらんがな」

黒「現実として存在する、って前提で考えよう」



本日の座学の題は『勘』。

追い詰めた時、追い詰められた時、片方の命を左右するシロモノだ。



黒「勘には二種類ある」

黒「知識、思考、経験からくる『理性の勘』」

黒「蒸気を吹いてるヤカンを見て火傷の記憶を思い出して、触れるのをんなんとなくやめるとか」

黒「大人からの忠告や伝聞で、子供が崖や廃墟になんとなく近寄らないってのがそうだ」



京太郎や警察官、大人がデフォルトスキルとして持っているのがこれだ。

考えて反応するのではなく、考える前に脳が知識を元に反射として反応する。

それは格闘技にいざという時のために基礎を身体にまず馴染ませるのと似ている。

咄嗟の時、人間は体に覚え込ませた動きしか出来ないのだ。


それと同じ。勘として作用されるだけの知慧は、にわかに焼き付けたものでは意味が無い。



黒「そしてもう一つが、『本能の勘』」

黒「これはほぼ後天的に努力で獲得できない、生物としての本質的な強さだ」

黒「理屈や条理を完全に超えた所で発動する、人間が徐々に失いつつあるオカルトじみた力」

黒「強力な都市伝説を発現してる奴ほどこの勘が鋭くて、未来予知でもしているのかと錯覚しちまうな」



宮永照、神代小蒔、天江衣、大星淡を代表する何人かが持っているのがこれだ。

理不尽に、不条理に、『不自然』な何かを見逃さない。

ただの人間では感じ取れない世界の揺らぎを感じ取れるのは、ひとえに彼女らがより世界の本質に近い存在であるからだ。

世界に『愛されている』と表現してもいい。


生物として、生命として、隔絶した次元の存在である証だと表現してもいい。

黒「お前が持ってるのは前者」

黒「魔物に分類される奴らが持ってるのは後者だ」



当然、京太郎に生物として隔絶した強さなんて在るはずがない。

魔物のような力を生まれつき持ち得ておきながら大人になったような人間は恐ろしい察しの良さを発揮するが、今はそれは問題ない。

前者である京太郎が後者である人達の力を重ねるという反則技が、この世界では許されているが故である。



京太郎「けど、それがどうしたってんだ?」



なので、この疑問は当然だ。

勘の仕組みと分類を知った所で、どうなるのだというのか。



黒「……どっちの勘にも、平等に存在する弱点がある」



しかし少し黙って聞いてろと、黒い彼は言う。コントのように、すぐに訪れる無音。

すぐに静かになるのは楽でいいなと、彼は苦笑する。



黒「それは、何か別の事に気を取られていると非常に勘の効力が弱まるって事だ」



『これが本題だ』と、彼は少年に視線で語る。



黒「例えば、勘の鋭い少女が居たとする」

黒「しかし、愛する両親が交通事故で死んでしまった」

黒「翌日、少女の親友の様子が変で、実はそれは少女の親友が深い悩みを抱えて助けを求めていたからなのだが……」

黒「……少女は、精神的に『それどころじゃなかった』のでその変化に気づけなかった」

黒「普段なら、気づけていたはずなのに」



人の目は、二つあっても一つの方向しか向けない。

心もそうだし、都市伝説もどうやらそうらしい。

『余所見をする』『気を取られる』というのは、どうやら精神の界隈にもあるようだ。



つまり前述の後者の方の勘はその人間に余裕があれば余裕が有るほど働き、前者は逆であるという事だ。

後者が格上であり更に勝利を収めたいのであれば、まずは精神的に弱らせたり混乱させたりすべきだと、彼は言う。


魔物相手に余裕だけは保たせてはいけない。

それが鉄則なのだと、先駆者が後続の少年に教えこんでいる。

京太郎「成程」



思えば今日まで、時折勘の良い少女達がその勘を少し鈍らせていた時があった気がする。

例えば最近なら、初美のドッキリ事件の時だとか。

いや、それだけじゃない。

こちらが注目する視点の先を常にズラし続ける、一度に多重に手を打ってくるマスカレイド。

長期間に絶え間なく手を打つのではなく、一度に幾重にも作戦を重ねてくるそれに、本当に意味はなかったのか?

裏をかきたい策士にとって、『鋭い勘』は何よりも排除もしくは無力化したい案件のはずだ。

そう考えると、黒い彼の言いたい事が見えてくる。



京太郎「……ああ、それでマホと士栗なのか」

黒「おっ、言わずとも分かるとは。思考の繋げ方がマシになってきたな」

京太郎「それ、褒めてんのか?」



マホ。士栗。
両者共にこの世界を去った黒い京太郎に託された守るべきものの一つであり、フリーメイソンに奪われてはならないもの。

だがしかし、京太郎では手段を選ばないマスカレイドから24時間二人の少女を守り続ける事は不可能だ。

学校もある、実力も少し危うい。


だが、視点を変えれば見えてくるものもある。



京太郎「確かに、『口裂け女』の勘なら、小細工は通用かもな」



守るのが困難だという事は分かった。

なら、『護衛対象が自分で撃退できるようにすればいい』。

マホ単独でも不可能。士栗単独でも不可能。

……だが、二人がそれぞれ互いに違いを支えあったなら、どうだろうか?



ジャンル違いの規格外が二人揃っていたら、どうだろうか?

マホを士栗が守り、マホが士栗を支える関係性ならばどうだろうか?



こうしてみると、何度かマスカレイドにかけられたちょっかいを消し飛ばしていてもおかしくない。

いや、出されていないわけがないので確実にそうなのだろう。

黒「そうだ。だから今日までなら、士栗の心配はいらなかった」

黒「敵の目はこっちに向いてたからちょっかい程度だったろうし、それなら問題なく捌けるだろうと読んでいた」

黒「何より、もしもの事があっても一回ぐらいはどうにか出来る友人がそばに居た」

京太郎「マホ、か」



照魔鏡。

二人の間に共通する、とある人物への強固な信頼を想起させる技能。

今はフリーメイソンが京太郎達に集中しているため、士栗達に本腰を入れてかかられる事はない……というのが、希望的観測。

早かれ遅かれ不確定要素として本格的に排除しに来ると、黒い彼は読んでいた。

『その時』に一度くらいなら押しきれたはずなんだと、彼はマホを評価する。


……しかし。



黒「そうだ、それが問題だ」

黒「照魔鏡の発動をおそらく確実に見られた。だから、あっちは確実にマホの都市伝説に気付いてる」



一手、噛み合わなかった。

姦姦蛇螺線が楽になったのは事実だが、これで夢乃マホの都市伝説の正体に気付いたという。

ならばマスカレイドが動くのは必然で、かつ対応策はなく、時間が決定的に足りなくなってきたらしい。

切られたジョーカーは、あまりに早漏過ぎた。



京太郎「……マホの都市伝説って、なんだ?」

京太郎「それに前から気になってたんだが、どうにも組織としての動きとマスカレイドの動きがチグハグなのは、何なんだ?」

京太郎「組織単位で見ると行動が緩慢すぎるし、マスカレイドはそこから浮いてるくらい積極的だ」

京太郎「一枚岩じゃない、ってだけならいいんだけどさ」

京太郎「教えられる範囲でいいから、頼むよ」



マホの都市伝説。フリーメイソンという組織。

知らない方が上手く回る事もあるのだと、彼は身に沁みて分かっている。

彼を信じて肝心な部分は知らないままで居ようと、そう決めてもいた。

しかし、現状は常に変転し、激動の中に在る。



だから問題ない範囲で教えてくれないか? と少年は打診する。

確かにそうだな、と彼は思案する。




黒「……まあ、マホが普通でないと知られてしまった以上、お前が知ってもデメリットはないな」

かくかくしかじか。

誰も知らないというカタチでの、マホの異能の隠匿。

マホの都市伝説、フリーメイソンの情報。

まるまるうまうま。



京太郎「マジか。そんなものもあるのか、都市伝説」

黒「まあ、珍しくはあるが異端じゃない。『巫女』だとか、前例はいくらでもある」

黒「一纏めにしてそのまま……ってのは確かに俺も二人しか見たことねえけどな」



驚愕。しかし動揺はなかった。

むしろ少年の中にあるのは納得と、新たな責任感と、怒りのような何かであった。



黒「首領の詳細は、教えられん」

黒「お前が知れば、あっちは確実に感づく。そしたらその時点で開戦だ」

黒「まだ早い。勝ち目はない。もう少し時間が欲しい」



先手を譲ってでも、ギリギリまで時間が欲しいと。

須賀京太郎という王将を動かす、黒い須賀京太郎という棋士は呟く。



京太郎「ああ、信じる」

黒「……おう」



少年は耐えてくれという言外の言葉に、たった一言『信じる』と答える。

大人はあえて感謝を言葉にせず、その信頼に応えんと気を引き締める。



京太郎「首領の性格というか、本性を知れただけでも十分だ」

黒「そうか」

京太郎「確かに、それなら組織力で潰しに来ないのも納得する。納得は、するが……」



その日、この物語の主人公は。



京太郎「……理解も共感も無理だな。本当に、そんな風になっちまった人間が居るのか」

京太郎「マスカレイドより性格悪いんじゃねえかソイツ」

黒「まあな」



フリーメイソンの首領、話に聞くその存在に。



黒「和解だけは、絶対に有り得ないと思っておけ」




無意識下でこの物語における『ラスボス』へ、かつてないほどの敵愾心を向けていた。

黒「んじゃ、再開するか。今日は―――」

京太郎「ああ、ちょっと待て。今日やる事は決まってるんだ」

黒「……ふむ。聞かせてみろ」



京太郎「ネクサスのバリエーションが完成した。この前の姦姦蛇螺戦がな、いい経験になった」

京太郎「お前に出来栄えを見て欲しい」



黒「……へぇ、おもしれえ」

黒「今の俺のステータス基準は、お前に能力を封印される直前のTTTを使う俺だ。分かってるよな?」

黒「この空間はお前自身への負荷はそのまま、格納した記憶があればどんな格納でも誰の格納でも再現できる」

黒「お前の脳内だしな。夢みたいなもんだ」



京太郎「ああ、知ってる」



黒「『そいつ』を使って、封印無しで俺に一矢報いてみろ」

黒「出来たら合格やる。現実で使ってもいいぞ」



京太郎「……ハッ、チビんなよ、まっくろくろすけ!」



黒「調子に乗るのは傷一つでもつけてからにしろクソガキ!」




もしも。

もしもだ。

今ここで行われている戦いが、現実で起きてしまったら。

この戦いの余波が、現実に持ち込まれてしまったら。

この戦いで生まれてしまった破壊の渦が、地球という箱庭の中に現れてしまったら。



核兵器に匹敵する破壊の跡を、大地に残していたかもしれない。

 




京太郎「ぜぇー……ぜぇー……オラ、一発食らわせたぞ!!」

黒「はっ、はっ、くっそてめえ、それ、反則技ってレベルじゃねえぞ……!」

京太郎「お前が言うな! ああ、クッソ、疲れた……」

黒「寝てろ寝てろ。どうせ今日はもう続きやれるほど気力も時間も残ってねえよ」

京太郎「ああ、そうかよ……あー、もういいやここで寝る」

京太郎「んじゃ、寝る、おやすみー……くかー……」

黒「……」





黒「……ここまで……」

黒「正直、ここまでやれるとは思ってなかった。それだけ、褒めてやるよ」




黒「さて、本格的にどうなるのか分からなくなってきたな」

黒「叶うなら」




黒「笑って終われる、そんなラストならいいんだけどな」

閑話終了。閑話三本立サザエさん方式

いい加減眠い。寝る。おやすみ

にしおかすみこんばんわ

あの人どこ行ってしまったんでしょうか。とりあえずWIKIのセンスに脱帽

渋のマスカレさんの姦姦蛇螺霞さんもいいセンスでござりまする


とりあえず明日来れないと思うので明後日夜の投下予告だけしておきますー



http://togetter.com/li/551523

お、おう

なんでスケベ椅子に座ってるんですかねぇ

京太郎+デモベ+永水巫女で何故か

京太郎「やっぱ俺、ロリコンだったみたいでさ」
京太郎「初美の綺麗な体知っちまったら、あんたなんか薄汚くて抱く気にもなれねぇんだよ、ババァ!!」

ってのが思い浮かんでしまった

お盆くらいから読み始めて追いついてしまった...

最近追いついたって人多いねぇ
これは次のいいですともどうなるか楽しみだな、あるか知らんけど

ちりめんじゃこんばんわ

では今夜20:00より開始ですー


>>863
>>1子供だから何のことかわかんないな

>>869
シャイニングガチペドロリコンさんはこの次元には居ないから・・・(震え声)

>>870
WELCOME!

>>871
あと一回だけありますよー、順当に行けば



http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130823-00000096-jij-cn

うひぃ


                  ,.-"  ̄  ̄ ゛丶_
                /;;;;;:::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;丶
               /;;;;;;;;;::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
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             ノ;"/;;;;;;;ィ;;,イ};;;;;;;;;;;∧;;;;;;};;;;;;;}
              .//!;;;;;;メ/_ヘソ;;;;;,';;/  };;;;!;;i;;ト}
            '  .!;;;;/i /ゞ`ゝ;;;;/ノ∠フ |;;;y从i
                 {;/レi  !| .}/ ′  ∧!  ゛
               /~∧ 、.    _ , /

              ./;;;;;;;;;;ヽ、. ̄ ̄ /~;;;;‐- ..,_       _
            ,.. ..-` ー-、. >._.く;;:::__;;:::::. ≦.--―‐ー/:::/^ヽ
         /;:;:;:;_,,.マ ̄ ̄~""''' ‐- ...,,__:::::::::::::::::::::::::::::::, '::::::/::::::: ̄` 、

         { , ‐":::::::::`~ ''‐- .. ,,__        ̄~ '' ‐- ._,.亠マ.{:::::::::::::::::::::::>
         }::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄~ '' ‐- ... _  _.. ◯ `¬.、,::;:;:,:::;:;:,::;:;:;:` .
          ,';:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:; ̄;:;ヾ=≡彳!于}::;:;:i::;:;:;i:::;:;:;i::::i.._
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突然だけど開幕安価します

投下はっじめーるよー

【能力使用可能状況】

【今話中、腕輪:Nextの追加固有能力を使用出来ます】

【ネクサスシフトの維持可能時間を一日に延長可能】

【現在スキルストック 3/5 】



【……なんだか、嫌な予感がする……】



【使用しますか?】



>>892

使う

痛みは生きている証拠だ、苦しい時の方が色んなことがよく分かる


――テネシー・ウィリアムズ



成長は痛みを伴う。それは、身体的成長に限らない


――アルバート・ハバード



踏まれた体の痛みよりも、踏んでしまった心の痛みをわかる人間になれたらいい


――ひろはまかずとし



どんなに教養があって立派な人でも、心に傷がない人には魅力がない。他人の痛みというものがわからないから


――フジ子・へミング



痛みを伴わない教訓には、意義がない
人は何かの犠牲なしには、何も得ることはできないのだから。
しかし、その痛みに耐え乗り越えたとき、人は何ものにも負けない強靱な心を手に入れる
鋼のような、心を


――エドワード・エルリック



百のことを行って一つだけが成ったとき

成らなかった九十九に目を向け力を落とすか

成った一つに目を向け希望を抱くか


――松下幸之助

あと約一週間で、入学式及び始業式が始まろうとするその日。

その日の朝は、健夜の謝罪と、暴露と、少年の驚愕で始まった。



京太郎「……は?」

健夜「あはは、ごめんねー」



食卓には純米酢から作った自家用和風ドレッシングをかけられたサラダと、鰹のごま酢和えが並んでいる。

鰹は縁起を担いだ初鰹であり、街の人からもらった貰い物である。隣に並んだ漬物が色褪せるほど爽やかなメニュー群である。

朝に食べても重くないさっぱりとした味付け。

しかし鰹からは戻り鰹でもないというのに、引き締まった身から旨みが飛び出てくるようだ。

非常にご飯が進む。鶏豚牛にも劣らない、何度も何度も噛んでいたくなる肉としての飛び抜けた美味さ。

「初鰹を食べると750日長生きする」と江戸っ子達に語られる初鰹は伊達ではなかったということだ。

しかし、ドレッシングは素直に穀物酢にしておけばよかったと京太郎は思案する。

糠漬けはなんだかんだご飯のおかずになる出来栄えだな、とささやかな自画自賛を重ねながら。


……以上。須賀京太郎少年の現実逃避終了。



京太郎「……え? え?」

京太郎「じゃあなに? 俺だけ知らなかったんですか? 大人の間だけで?」

健夜「だからごめんねってばー」

京太郎「……いや、怒ってるわけじゃないですよ。ええ、怒ってませんとも」



告げられた事実は、「青山士栗の件」について。

閑話で少しだけ語られてはいたが、彼女の現状についての情報は諸々の自事情があり京太郎よりその周辺の大人達の方が格段に詳しい。

なので京太郎は『行方不明』『黒が心配しなくてもいいとしている』『でも気にかかる』といった程度にしか知らなかったのであり。

心配し続ける事三ヶ月、そこで突然もたらされたこの情報は寝耳に水なのだった。

……寝耳にスコールぐらいの衝撃はあったかもしれない。

怒ってるじゃん、と健夜。

怒ってませんよ、と京太郎。



事実、彼は怒ってはいない。

……ただ、無自覚に拗ねているだけだ。


士栗の事を心配していたのも、彼女の無事を確保したかっただけ。

だから彼女が無事である事、彼女の無事を信頼出来る大人達が守ってくれていた事、それらを素直に喜ばしく思っている。

……ただ。ただ、少しだけ。


少しだけ、仲間外れにされた事に疎外感を感じていた。

大人達に「まだ大人じゃないからお前は関わらなくてもいい」と言われたような気がして、寂しさを感じていた。

そんなつもりはないだろうと自分に言い聞かせつつも、そう思わずにはいられなかったのだ。


だから、少しだけ拗ねている。



健夜「(可愛いなぁ)」

京太郎「……なんで頭撫でるんですか」

健夜「んー、なんとなく」



しかしまあ、十年間の付き合いのある健夜にはそんな内心はバレバレで。

彼女は士栗の頼みを聞いて京太郎に黙っているよう関係各所に通達した自分を棚に上げ、義弟の頭を撫で続けるのであった。

京太郎「で、4月からうちの高校に通うと」

健夜「うん。だから仲良くしてあげてね?」

京太郎「へいへい」



実質的な無罪通告。

士栗も直接的な罪を犯したわけではないのと、その出自から情状酌量の余地があると判断されたようだ。

情報の提供と社会奉仕(という名のボランティアを通した社会勉強)をいくらか重ねる事を義務付けられたのだとか。

逆に言えばそれだけこなせば平穏な日々が手に入るという事であり、その裏で大人達がどれだけ尽力したのかという事が伝わってくる。


……一月の事件で思う所があったのは、どうやら子供達だけではなかったらしい。



京太郎「(大人、か)」



宥も士栗も、悪の組織に所属していたというのに何事もなかったかのように平和な日常に復帰している。

それはひとえに、彼女らが明確に犯した罪と傷付けた人間が居ないからだ。

彼女らの罪は、唯一の被害者であるとも言える須賀京太郎本人が許せば全て無かった事になってしまうほどに薄い。

少年は、それを偶然だとは思わない。

彼女らの上司であり、その手綱を握っていたのが誰なのか、誰よりも深く理解しているのだから。



京太郎「(親バカめ)」

黒「(聞こえてるぞクソガキ)」



自然と話は士栗の望んだ学校通いと、そのサポート体制の話になる。

京太郎からしてみても彼女は幸せになって欲しい友人の一人で、黒い彼から託された大切な人の一人だ。

士栗がこの世界で息づき、幸せに生きること。

それがとある世界の『須賀京太郎』が、この世界で努力したという証の一つになる。

少なくとも、この少年はそう思っている。



健夜「だからさ」

京太郎「……えっ、なんですかこれ」



どさりと、テーブルの上に置かれる山のような教科書類。

見覚えがある。というより、何冊か新しいのが混じっているものの、それの大半は自分の所有物だ。

それもつい最近まで、何度も繰り返し読んでいた仕様のシロモノである。

……まさか、と彼の脳裏に電流走る。



健夜「あの子に、キミのお下がりの教科書類届けてくれる?」

京太郎「……まじっすか」



教科書のお下がりとかマジで兄妹みたいだなぁ、という呟きが。

空に溶けていった。

京太郎「……ふぅ」



コーラ片手に京太郎が黄昏れるファミリーレストランの一角。

休日であるという事と、お昼時であるという事から店は少しだけ混み始めている。

以前喫茶店でそうしていたように、彼はここで人を待っていた。


やがて、待ち人来たる。



京太郎「よっ」

士栗「……やっ、おにーさん」

マホ「どもです」



周囲の人ごみなど無いように、スイスイとこちらへ向かってくる二人。

迷いはない。それがまた人らしくないとチリっとした違和感をうずかせるが、それを感じたのは今日この場では京太郎のみ。

やがて三者は近づき、視線が交錯する距離へ。



士栗「久しぶり」

京太郎「久しぶり」



視線で語る二人の胸中は、いかなるものか。

まあ、なにはともあれ。



京太郎「まあまずは飯だな。何食う?」

士栗「パフェ!」

マホ「それは最後ね? メニューメニュー」

京太郎「呼び出しスイッチに速攻で手を伸ばすんじゃない士栗」



今この時は再開を素直に喜びたいと、京太郎と士栗の思考は奇妙なほどに合致していた。

カラン、とスプーンを皿の上に放る音がする。

三者三様に食事を済ませて一段落。

落ち着いた空気に、落ち着いた視線に、落ち着いた声が重なる。



京太郎「心配、してたんだぞ」

士栗「……ごめんなさい」



その声色に責めるような意志は感じられない。

どちらかと言うと、家出をしていた妹を叱っている兄のように見える。

なんとなくむず痒く、それとなく暖かで、どこか微笑ましかった。

二人を見つめるマホの表情が嬉しそうな微笑みであったのは、決して偶然ではない。



京太郎「まあ、無事なら良かったけどさ。今日まで身を隠してた理由ぐらい、聞かせてくれるよな?」



コーラが尽きて氷しか入っていないコップの中身が、彼のストローによって掻き混ぜられる。

微量に残っていたコーラが溶け出した水と混ざり合い、薄茶色の色つき水を生み出しているようだ。

溜まったら飲む予定。


それはさておき、彼の視線は真剣だ。

虚偽は許されないし、見透かされるだろう。

そして何より。青山士栗はこの視線に、この真摯な気持ちに対して、虚偽をする自分を許さない。



士栗「うん」

士栗「ごめんね、おにーさん」

士栗「心配してくれた事はとっても嬉しいんだけど、理由は本当に私事なんだ」

ぽつりぽつりと、士栗は自分の気持ちを言葉にして紡いでいく。

それは決して流暢ではないし、洗練されていなかったし、要領を得ない言葉であった。

たどたどしく、何度も言い直し、言葉と言葉の間に間が空くのもしょっちゅうだ。

……それでも、彼は言葉を途中で遮る事はしなかった。

時に落ち着くよう諭し、次の言葉を促し、その言葉に耳を傾けた。


彼女が生まれて初めて紡ぐ『誰かに自分の気持ちを伝える言葉』に、彼は敬意を払っていた。



士栗「今思うと、本当は怒られたくなかった気持ちもあったのかも」

士栗「悪い事して、お父さんお母さんに叱られたくなかった子供みたいに」



彼女が彼と別れてから、今日この日までに思った事。感じた事。考えた事。

それら全てを組み立てて、出した結論を彼に伝える。



士栗「でも」

士栗「ずっと、決めてたんだ」



それが今日まで行方を眩ませていた理由だと、『胸を張って』伝えるために。



士栗「次におにーさんと会う時には、胸を張って会える自分になりたいって」

士栗「何も知らない自分が、何も知らない自分のまま顔を出すのが恥ずかしかったから」

士栗「あなたに恥ずかしくない自分を見せたかったんだ。私は」

士栗「私が私自身を胸を張って誇れるようになってから、それから会いたかった」



それは人間であるのなら、ほとんどの人間が意識せずとも出来ている当たり前の事。

多くの人は親から、そうでなくとも他の誰かから。

人は幼少期に自身の価値を認められ、誰かに見せても恥ずかしくない自分という自我を構築する。

生まれが特殊な彼女のアンバランスな自我はそこのバランスを欠き、結果今日まで『自分探し』のような事をするハメになる。


彼女の胸を張れる自分とは、自覚こそしてはいなかったがそれが出来るようになってから、という事だ。

そして、それは……『人間になってから』、という意味も内包している。


誕生。自我の形成。自己の確立。



京太郎「なれたのか」



人間が経るには当たり前すぎて、都市伝説が経るには異常すぎる過程。

その真価に誰かが気付くのは、もう少し先の話。



京太郎「胸を張って自分を誇れる、誰に見せても恥ずかしくない、そんな自分に」

士栗「うん」

友達が居る、と。

大切な人達が居る、と。

大好きな人達が居る、と。

そう思える自分が居る、と。

それが嬉しい自分が居る、と。


もしもそんな人達を守れたら、そんな人達の日々を守れたら。

そんな人達が住まうこの街を守れたなら、そんな自分には価値があるんじゃないかと、彼女はそう思ったのだ。



士栗「私は、今幸せだから」



自分が幸せで、誰かの幸せも守れるのなら、きっとそんな自分には価値がある。

シンプルで、当たり前で、誰もが知っているようなありふれた事。

それでも彼女が誰にも教わらず、自分の中から見出した答え。



士栗「これできっと、おにーさんとだって肩並べて色々手伝えるよ? にしし」



何故かそんなありふれた言葉に、胸が熱くなる自分が居た。

どこかで聞いたような決意。

胸を張れる自分。誰かと肩を並べてやっていく理想。夢の様な、何か。

忘却の彼方から這い出てきた、懐かしさを感じる心の滾りと胸の熱さ。

それが何だったか、思い出しかけて――



マホ「先輩?」

京太郎「――ん、ああ。スマン聞いてなかった」

マホ「もー、ちゃんと聞いててください!」



マホに言葉をかけられて、霧散する。

談笑の途中に物思いにふけっていた彼が悪いのだ。

思い出しかけた大切だったような、そうでなかったような何かを再び忘却する。

それは夢の内容を思い出す行程と似て、中々思い出せない上に一度忘れれば二度と上がっては来なかった。

その記憶の価値が分かるのは、彼しか居ないというにも関わらず。



京太郎「これ、教科書類な」

士栗「ん、ありがとー」

マホ「意外に綺麗ですね……」

京太郎「意外ってなんだ意外って……よく他人に貸すから、メモとかは全部ノートに書いてるんだよ」

マホ「あ、歴史の人物の肖像画の額に肉って書いてない」

京太郎「聞けよ!」



ペラリペラリとめくられる教科書群。

一年を経てもあまり汚れていない教科書、今日買い足したのがよく分かるビニールに包まれた大学ノート。

新品のシャーペンと消しゴム、シャー芯ケースに五色ボールペンに修正テープ。

長期休暇課題図書で恒例の『こころ』まで揃っている出来栄えである。

性格が出ていた。無意識下で無自覚に、彼の性格が現れていた。



士栗への贈り物なのに、何故かマホの中の尊敬度と好感度が上がる音がした。

京太郎「服装は普段から適度に着崩してもいいけど、服装検査とかあるからいつでも直せるようにな」

マホ「鉛筆は受験の時だけでしたっけ?」

京太郎「ああ、受験は基本鉛筆だけど授業ならシャーペンがキングだ」

士栗「ふむふむ」



その時間は、楽しかった。

京太郎とマホが身の上を話したり、学校の注意事項を語り合ったりして、それを士栗が忘れないようにメモをとる。

三人で他愛なく喋るだけのこの時間は、楽しかった。


その気持ちは、今この三人に共通する不変の思い。



京太郎「隣の席の奴の落とした消しゴム拾ったり、逆にシャーペンの芯飛ばすイタズラされたりな」

マホ「あー、されましたされました。隣の席の男子に一授業中ずっとされてたり」

京太郎「……それ、そいつマホが好きなんじゃね? 好きな子にイタズラするノリで」

士栗「ふむふむ」

マホ「えええー!? マホそういう経験ないですよ!どうすればいいんですか!」

京太郎「俺だって無いんだから俺に聞くなよ」

マホ「えっ」

士栗「えっ」

京太郎「えっ」



楽しい時間は、弓から放たれた矢のように過ぎ去っていく。

何気ない言葉を一言。何気ない話題を一つ。何気ない返答を一つ。

一つ、一つ、また一つ。その度に時間は過ぎ去って、笑顔の時間はいつか終わりを告げる。



マホ「とりあえず色々と初めての時は年上にリードしてもらいたいなーってのが普通の女の子なんですよ!」

士栗「マホちゃんは少女してるねぇ」

京太郎「お前は少女してんなぁ」

楽しかった。

その時間は、三人が分かり合うための時間だった。

相手の価値を認識して、大切に思えるようになるための過程だった。

相手の新たな一面を見つけて、それを喜び嬉しく思う時間だった。

だから、楽しかった。



士栗「ねえ、おにーさん」

京太郎「ん?」

士栗「黒いおにーさんは……私を産んでくれた人は、私を嫌いになっちゃったのかな」



マホがお手洗いに言った隙を縫うように、彼女の口からこぼれた言葉。

彼女が自身の価値、自身の存在というものに疑問を持つ事になったきっかけ。

壊れてしまいそうなほどの悲しみを湛えた、生みの親との喧嘩別れである。



士栗「私、最後にあの人が何考えてたのか知りもしないでひどいこと言っちゃって」

士栗「私を突き放してたけど、今思い返せばあの時のあの人は……すごく傷付いた顔をしてた気がするんだ」

士栗「そのまま、私は謝れないまま」

士栗「あの人はどこかに行ってしまったから」



『後悔』。

彼女にとっては、これが生まれて初めての後悔だったのだろう。

初めての感情に戸惑い、それでも受け止め、誰かの心中を慮っている。

その対象が生まれて初めて好意を抱いた人物である親だったのなら、尚更だ。



士栗「……嫌われ、ちゃったのかな」

京太郎「さあな。俺が語れる事でもないさ、その時のアイツの気持ちなんて」



それもそっか、と少女は寂しく笑う。

あなたが分からないなら他の誰にも分からないよね、と取り繕った笑みを見せる。

無理をした、感情を押し込んだその笑みが。



京太郎「でもその気持ちを、人に相談するのは悪い事じゃない」



京太郎の、本人すら忘れかけていた古く寂れた琴線に触れた。

京太郎「人と人なんて、合わせ鏡みたいなもんだって言ってた人が居た」

京太郎「正しい答えはいつだって自分の中にあるから、それは他人の口から合わせ鏡のようにポロっと出てくるんだ」

京太郎「人の人生は、そうやって答え合わせの出来る大切な人を探し続ける事なんだってさ」



すらすらと言葉が出てきたことに、彼自身驚いている。

何故かは分からない。けれど士栗と話していると、京太郎は自然と昔の事を思い出す。

自然と口から流れ出た言葉は、昔少年が誰よりも大切に思っていた人の言葉。



京太郎「だから、声を出し続ける事は間違ってない」

京太郎「少なくともこの答え合わせは、俺が適任だった」

士栗「え?」



そういえば、あの人は冗談や優しい嘘が好きだったな……と、余計な事まで思い出す。

その思い出に頼り、ほんの少しの罪悪感を飲み込んで。

彼は砂粒のような嘘を混ぜ込んだ、優しい真実を語り始めた。




京太郎「黒(アイツ)から、伝言を預かってる」

「お前を嫌った事なんて一度もない」

「お前を疎ましく思った事も一度もない」

「ただ、少しだけ。申し訳ないとは思っている」


「俺の存在はきっとお前の教育に悪いだろうからな」

「きっとどこか、お前に見えない所関わらない所からずっと見守ってる」

「大丈夫だ。俺と違って、お前は一人じゃない」


「俺がお前に望む事は、一つだけだ」



「幸せになれ。士栗」



「さよなら、だ。風邪とかひかないようにな」





長くなんて無い、短く無骨で不器用な話。

「またな」とは言わない、別れの言葉。

だけどどこまでも、彼らしいと言える想いの羅列であった。



京太郎「だってさ」

士栗「……そっか」



彼女は目を瞑り、少しだけ何かを想う。



士栗「うん。ありがとう、おにーさん」



再び、その目が開かれた時。

明確に『何か』が変わった、かつての彼女のそれではない瞳が、そこには在った。



京太郎「(これで、よかったのか?)」

黒「(ああ。良いんだよ、これで)」



伝言であるというのは嘘ではない。彼の言葉であるというのも真実だ。

ただ、見守る者の真実にだけ語られぬ嘘がある。



黒「(……幸せに、な)」

楽しい時間が、過ぎていた。


変わり続ける日々の、一幕だった。


いつまでもこんな日々が続いていて欲しいと、彼らは願っていた。


日々が変わってしまうとしても、終わってしまわぬようにと、祈っていた。

なんでもない朝。

昇り始めた太陽が道を照らし、一日の始まりを告げる。



マホ「士栗ちゃんが学校まで送ってくれるなんて、珍しいね」

士栗「こそこそ隠れてる理由も無くなったしね。それに」

マホ「それに?」

士栗「……とてつもなく、嫌な予感がする」

マホ「?」



彼女の勘が冴え渡る。……しかし。

それが平時のそれであったなら、士栗はマホを休ませてでも家からは出さなかっただろう。

強いて言うなら油断。不覚。驕心。慢心。怠慢。自惚。

幸せになってしまった事。学校生活への期待。あれもこれもと楽しもうとした結果。

様々な方向に向いた意識が、その奇襲に対して彼女が生来持つ規格外の直観を鈍らせる。



士栗「―――」



ナイフの雨。彼女の感知範囲ギリギリ外からの攻撃、その人数約400。

ナイフはその倍。マホは一撃、自分ですら全て当たれば死ぬ。

気付いたその瞬間には、一手遅れていた。


迎撃。またたきするまもなくナイフの3/4を叩き落とし、安全圏へとマホを押し出す。

しかし、それがマズかった。マホの足元に突如発現する大きな穴。

ナイフを捌ききっていない士栗に対応策はなく、マホは呑まれるように落ちていく。


……一手、士栗では間に合わない。

それでも、その手を掴まんと手を伸ばす。



マホ「しぐ――」

士栗「マホちゃ――」



開いた穴が生き物の口のように閉じ、何もなかったかのように消失する

まるで魔法のように、夢乃マホはその場から消失した。


伸ばされた手は空を切り、何も掴む事はない。


後には呆然と虚空を見つめる士栗と、おぞましく不快に嗤う仮面だけが残された。

マスカレイドA「……さて、暴れないで頂けますね?」

マスカレイドB「貴女が何かをした拍子に思わず私達の一人の『手が滑ってしまう』かもしれませんからねぇ、ふふふ」

士栗「……チッ」

マスカレイドC「舌打ちとは行儀が悪い」

マスカレイドD「私は貴女様に、互いに得になる取引を持ちかけたいだけですよ」

士栗「……いいよ。聞くだけは、聞いてあげる。ただし」



彼女は素手で何て事も無いように、マンホールの蓋を引っこ抜く。

そして『折り紙を丸めるように』、両手で非常識な過程を経ながら押し潰す。



士栗「マホちゃんに傷一つでも付けてみろ」



やがてビー玉大の大きさにまで圧縮されたマンホールの蓋を、彼女はデコピンの要領で発射する。



士栗「宇宙の果てまで追いかけて、一匹残らず駆逐してやる……!!」



発射された鉄塊は一体のマスカレイドの頭蓋を砕き、その後ろのマスカレイドの頭蓋を砕き、その背後のマスカレイドの心臓を貫通。

空の彼方へと、消えていった。



マスカレイドC「……肝に銘じておきましょう」

所変わってほぼ同時刻の中央高校。

教室には珍しく京太郎を除いた仲良し四人組の三人が先に揃っているが、どうにも雲行きが怪しい様子。



憧「だーかーら! 私は見たんだって!」

穏乃「んなこと今ここで言ってもしょうがないじゃん、どうにか出来るわけでもないし」

憧「アンタは張本人なのに気にしなさ過ぎなのよ!」



穏乃がうへー、憧がむがー、怜がんにーとしている。

三者三様、いつもの光景。そこに京太郎がやってきて、一片の迷いもなく怜の元へと駆け寄っていく。

彼ら二人にとっては当然かつ当たり前の行動である。



京太郎「おー、どうした?」

怜「穏乃、今朝電車のホームから電車来たタイミングで落ちかけたんやて」

京太郎「マジで!?」

怜「で、咄嗟にホームのフチ蹴り飛ばして向こう側のホームまで跳んでったんやと」

京太郎「マジで!?」



都市伝説無くても出来そうだ、とまでは言わない。

咄嗟に何考えず行動した場合、誰よりも正しい選択肢を叩き出すのは穏乃なのだと京太郎は知っている。

それにしたってすげーなアイツと、京太郎は穏乃を賞賛してやろうとして――



憧「落ちたんじゃないわよ!落とされたのよ!」

京太郎「うおっ!? ……って、『落とされた』?」



突如ズンと顔を突き出してきた憧の姿と声にギョッとする。

顔が近い。少しだけ気恥ずかしい。

なのに彼女は激おこプンプン丸で気にしていないという理不尽だ。

だけどそれ以上に、続く彼女の言葉が気になった。



憧「あたしはちゃんとこの目で見たのよ!」

憧「誰か知らないけど、しずの後ろからアイツの背中を誰かが押すのを!」

駅のホームで、電車が来るタイミングで背中を押して突き落とす。

立派な殺人だ。そして、証拠が残りにくい殺人でもある。

殺人であるという証拠が揃わなければ自殺として判定されてしまう、そんな厄介な殺人だ。


フィクションで多用される程に人気かつ知名度があり、残酷で恐れられる殺害方法でもある。



もしも殺人であるなら、穏乃が殺される程に恨みを買っているとは考えにくい。

愉快犯か無差別殺人。そのどちらか……いや、違う。

言葉にしがたい違和感がある。

これはそういった殺人と考えて思考を重ねても、真実から遠ざかる殺人未遂だ。



もっとシンプルでしっくりと来る可能性があるはずだと、彼は思考を回転させる。

歯車のように思考が噛み合い、憧ほどの速度はなくとも彼に出来る全力で思考を回転させる。

あと少し。あと少しで、真実へ至る手がかりが見つかりそうだ、という段階。

……しかし。

彼が答えを出す前に。



怜「電話鳴っとるよ?」

京太郎「ん? おお、スマン。ちょっと電話出るから外行くな」



京太郎「はい、もしも……」



『余興は楽しめましたでしょうか?』



京太郎「……っ、てめえ」



答えの方から、やってきた。



京太郎「なんで俺の番号知ってやがる、マスカレイド」

『貴方様が本当に聞きたい事はそれですか? そうならば、真摯にお答えするのですが』

京太郎「……ああ、クソ、本当に嫌味な野郎だな」

「押したのは、お前か」

『はい。その通りで御座います』

「理由は」

『半分は脅迫、あとの半分は趣味です。この街では貴方に感付かれる可能性を考えてやったことはありませんでしたが』

「……要件は」

『私と取引をしませんか? 双方に損はない取引です』

「聞くと思ってんのか?」

『次は、貴方と関係のない人間を狙います。この街で』

「……!」

『一日三人。無差別に、無慈悲に、無価値に』

『貴方と関係のない、しかし死ねば貴方が苦しむ人間達を』

「テメエッ!」

『おやおや、頭に血が上っているようですね。仕方ない』

『今私の視界には、様々な電車のホームに立っている小学生の男の子が一人、お婆さんが一人、妊婦さんが一人……』

「っ!?」


『あ、手が滑―――』



「待て! 聞く! 話だけなら、聞いてやる!」



『―――貴方の賢明な判断に、感謝します』



「ッ、くそったれっ!!」

二人の強者に、それぞれ一つづつの要求が下される。

それは鏡合わせのように、固有名詞を入れ替えれても違和感がない要求。



「時間と場所は指定します」

『時間と場所は指定します』



その声は最初は平坦なように聞こえても、徐々に隠しきれない愉悦がにじみ出てきている声色。



「今夜、須賀京太郎と正々堂々戦って」

『今夜、青山士栗と正々堂々戦って』



その声に従う事は、二人にとって。

生まれて初めて感じるほどの、死にたくなるような屈辱だった。



「殺していただきたい」

『殺していただきたい』



そして、同時に。

心の壁をほんの少し、ほんの少しだけ揺らがし溶かす、甘美な誘惑だった。



「勿論、貴女にもメリットはあります。見事成し遂げた、その暁には」

『勿論、貴方にもメリットはあります。見事成し遂げた、その暁には』




「貴女の生みの親の所在を、お教えしましょう」

『貴方の生みの親の所在を、お教えしましょう』

士栗「なっ」

マスカレイド「私は存じていますよ。もしも勝利を勝ち取れたのなら、ささやかな祝福としてお伝えしましょう」

士栗「あ、う……そ、そんな見え見えのエサに!」

マスカレイド「伝えたい言葉があったのでは? 伝えたい感謝があったのでは?」

マスカレイド「そして何より、伝えたい謝罪があるのではないですか?」

士栗「……ぐっ」

マスカレイド「ご友人を返して欲しいのならば、会いたい人が居るのならば、勝てば良いのです」

マスカレイド「では、健闘をお祈りしています」



……士栗は、自身の生みの親がどこに行ったのか知らない。京太郎の頭の中の、残滓の存在も知らない。

そしてそれは、彼女に気付かれないよう慎重に片時も目を離さず24時間見張っていたマスカレイドも知っている。

だからこそ、この『ハッタリ』は有効だ。

マスカレイドは「ただし、その別世界に行く方法までは私も知りませんが」というセリフを意図的に発していないだけ。

嘘はついていない。全てが終わった暁に、「別の世界に居ますよ」と笑顔で伝えるつもりなのだろう。



マホという親友と、京太郎という恩人兼友人と、生みの親という大切な人への想い。

そして何より、生みの親に付随する『かつての幸せな思い出』と『自分が壊してしまったという後悔』。

それが青山士栗の中に在ると見たマスカレイドが、天秤にかけさせたのだ。



最後には自分の思う通りに動かす仕込みをしつつ、その過程で自分が楽しむために。

「今は従うしか無い」「隙を見て、自分が」というか細い希望を抱かせて、少年と少女を戦場へと送る。

彼は元来、自身が踊るよりも他人を躍らせる事を愉悦とする害悪にして悪夢。


だからこその、仮面舞踏会(マスカレイド)なのだ。




士栗「……あの時、生みの親と、大切な友達と、どちらかも選べなかったのに」

士栗「だから、あの人を傷つけてしまったのに……」

士栗「……また、なの……?」



士栗「選べって、また……?」

士栗「私の大切な、私の生命より大切な二人の友達を、どちらか、選べって、言うの?」

士栗「……なんで、なんで、やだよ……そんなの……」

京太郎「――」

マスカレイド『熊倉希望様と、須賀未来様。よく覚えております』

京太郎「お前……何か、知ってるのか」

マスカレイド『無論で御座います。御二方とも、貴方に似て人に好かれる正義感の強いお方でしたよ』

京太郎「今! その二人はどこに――」

マスカレイド『おっと、それは貴方様が勝利を勝ち取った暁に、という話でしたでしょう?』

京太郎「……クソッ」

マスカレイド『では、健闘をお祈りしています』



須賀京太郎には、誰にも見せようとしない一面がある。

それは、『家族』というものへの想いと執着だ。

十年に渡り諦めきれていない実の両親への想いは、ほんの少しだけ異常の域へと踏み込んでいる。

だから他人の家族という関係に対し強い思いを抱くし、親子という関係性に憧れを抱くのだ。

この内面を知る者は、家族として側に居た健夜と、かつて最も近くに居た照と、今最も近くに居る怜と、事件を通して感じ取った衣。


現状最大の理解者である咲を加え、そして忌々しい事ではあるがマスカレイドを含めた六人。

薄々感づいているだけの者を除けば、この六人しか与り知らぬ事である。



だからこそ、この取引は甘美に響く。

こんなものでは『寺生まれのTさん』は自分を見失いはしない。

……それでも、布石にはなる。

人間として当然のように在る揺らぎ。未だ黒く染まらず復讐心による鉄心を持たない少年には十分だ。

その揺らぎだけで十分、マスカレイドが次に打つ一手の足がかりに出来る。

上手く行けば、その揺らぎが土壇場で「致命的なミス」を引き起こしてくれるかもしれないのだから。

布石を打ち、天秤の両端に様々な物を乗せ、彼の心を揺らがせる。



最後には自分の思う通りに動かす仕込みをしつつ、その過程で自分が楽しむために。

「今は従うしか無い」「隙を見て、自分が」というか細い希望を抱かせて、少年と少女を戦場へと送る。

彼は元来、自身が踊るよりも他人を躍らせる事を愉悦とする害悪にして悪夢。


だからこその、仮面舞踏会(マスカレイド)なのだ。




京太郎「……どうする」

京太郎「この手(人質)はいつか使われるだろうと思ってはいた。これから先、また使われるだろう」

京太郎「だからその前に本体を見つけちまう腹積もりだったってのに、一手遅れた……!」



京太郎「マズい。かなりマズい」

京太郎「この一件が終わる前に、あのマスカレイドの本体を見つけ出して破壊しねえと」



京太郎「どっちが勝っても、最終的にこの街は終わる」

両者は苦悩する。

相手が親しい人物だからこそ、優しく善良な人物だからこそ、苦悩する。

そして苦悩するのは、彼と彼女が基本的に善人であるからだ。



士栗は一人空を見上げ、夜を待つ。

京太郎は理由を語り、背中を預ける五人に相談し、夜までの時間を全て使って気取られぬように足掻き続ける。

その結果も得られたものも両者共に変わらない。

この過程の違いは、今彼と彼女の側に誰かが居るか、居ないかだけだ。

マスカレイドに抜かりはない。


二人は戦う運命に在る。



二人が戦えば、両者共に生き残る確率は極めて低いだろう。

互いに強弱はあれどまごうことなく強者であり、確実に己の命を奪える者だと互いに認識している。

だからこそ、加減なんて出来やしない。

素手で殴りあうなら殺す前に寸止めできる人間が、銃を持てばその加減が行えなくなるように。

強すぎる相手は強すぎる刃でしか倒せず、強すぎる武器は際限無く加減が効かなくなっていく。



ましてや、戦う二人が二人だ。

士栗は生まれてこの方一度も手加減なんてしたことのない全力少女であり。

京太郎は超過ダメージがほとんど中の人に行かない特性をいい事に、都市伝説には基本的に加減せず滅殺の方針で戦ってきた。

人間を殺さないように加減する。都市伝説を消し飛ばさないように加減する。

生命の一滴も残さず燃やし尽くす死闘が予見される中、この要素はまさしく致命的だった。



それは例えるのなら防具も付けず、真剣を用いて剣道を行うようなもの。

更に言えば躊躇い一手手控えれば、次の瞬間その『加減』を予想できなかった相手に『自分を殺させてしまう』可能性が出てきてしまうのだ。



マスカレイドの予測に抜かりはない。

順当に行けば最も目障りな京太郎が死ぬ。奇跡が起きれば、京太郎が勝ち士栗が死んで二人の結託という最大の状況だけは避けられる。

どう転がっても損はない。

逆に言えば、ここで両者のどちらかが死に絶えなければマスカレイドに未来はない。

ひいてはフリーメイソンの未来が失われるという事であり、それは彼が忠誠を誓う首領の破滅を意味する。

マスカレイドも必死なのだ。この戦いに、己の命運の全てを賭けている。

その過程に、己の楽しみを混ぜ込んでいることが本当におぞましい。




この戦いに、中途半端な気持ちで臨む者などただの一人として居ない。

 



夜が、降りてくる。



 

京太郎「……」

怜「迷っとるなぁ」

京太郎「……まーな」

怜「迷ったまま戦って勝てる相手なん?」

京太郎「いや、それは絶対にねえな」



幾度と無く肩を並べた相棒。

夜道を歩くその二人の間には、言葉がなくとも伝わる想いがあった。



京太郎「……なんだろうな、どうするのが正しいんだろうな」

京太郎「どれが正解なのか、何を選べば正解なのか、俺にはわかんねえ」

京太郎「出来れば、後悔しない選択肢を選びたいもんだけどさ」



それは贅沢だよな、と少年はこぼす。

これは弱音だ。けれど、望む言葉が帰ってくると信じているからこそ、こぼす弱音。

園城寺怜は、須賀京太郎にとって今や唯一無二の『合わせ鏡』なのだから。

相棒として、怜は彼に叱咤を返す。



怜「その選択が正しいかどーかなんて、全部終わってみるまで誰にも分からへんのが普通やろ」

怜「未来が見えてる、うちですらそうなんやで?」



両手を広げて、儚げなカゲロウを思わせる笑顔を振りまく。

そんな彼女の姿に、ささくれだった京太郎の心が少し癒やされる。



怜「正しいかどうか、成功するかどうか、ヤる前からそんなん不安定な場所の上に信を置いたらアカンて」

怜「失敗したら悲惨やでー? そういうんは」



にっしっし、と彼女は笑う。

……思えば、こんな笑顔を彼女がするようになったのはここ半年くらいからだな、と彼は気付く。

だからといって、どうという話でもないが。



怜「自分の選択に責任持つ覚悟と、その結果を受け入れる覚悟だけしとき」

怜「どんな結果でも、うちらは相棒に一人で責任も重荷も背負わせる気はないんやから」

怜「忘れたらアカンよ。きょーくんは一人やない」

京太郎「……ありがとな」



気付けば不可視の重圧は消えていて、肩の荷はすっかり降りていた。

萎えていた気力は充実し、明日への希望が湧いてくる。

そんな彼の姿を視界に収め、彼女の気力も奮い立つ。


そんな二人の視線の先に、闇夜に浮かぶ不気味な仮面。

京太郎「何用だ? ……って言っても、分かりきった事だけどな」

マスカレイド「おや、貴方様はエスパーでしたか」

怜「あんさん性格最悪やからなー、相棒の予測ドンピシャやねん」



マスカレイドとしては、彼らには死んで欲しい。

その為には京太郎達を容易に死なせるために、色々と手を打ってくるのは必然であると言える。

例えば、戦闘前に負傷させるとか。



京太郎「どうせ士栗の方にも行ってるんだろ?」

京太郎「無傷同士で争うより、傷だらけで戦った方が死亡率は段違いに上がるからな」

京太郎「互いに手負いの獣となって、手加減の可能性も減少。相打ち確立も急上昇で万々歳、ってとこか?」

マスカレイド「ええ、その通りです」

マスカレイド「抵抗しても構いませんよ? どうせ何も変わりません」



その声を皮切りに、周囲からゾロゾロと獲物にたかる蟻のように湧き現れる影。

その数、推定300以上。それら全ての手の内にエクスカリバーが存在する。

絶体絶命。そして明らかに、殺せても殺せなくともどうでもいいという策士の視線。



京太郎「お前、何も変わらないっていうフレーズ好きだよな」

マスカレイド「何かを変えた気になっていて、それが全て私の手のひらの上だと知った時の人の絶望した顔が好きなもので」

京太郎「やっぱ俺お前嫌いだわ」

マスカレイド「おお、なんと。今日は貴方と仲良くするための贈り物まで持ってきたというのに」

京太郎「うぜぇ……ん? 贈り物?」



芝居がかった小馬鹿にするような口調に苛立つ心を抑え、マスカレイドが懐から取り出した大きめのビンに注目が集まる。

ビンの中にはうねうねと動く無数の白いミミズのような虫がぎっしりと詰まっている。

贔屓目に見ても気持ちが悪く、女性には絶対に見せたくないものだ。



京太郎「虫? なんだ、やっぱ嫌がらせじゃねえか――」



マスカレイド「『芽殖孤虫』です」



京太郎「――は?」

マスカレイド「これを貴方の大切な街の皆さんにプレゼントしましょう。皆さん喜んでくれるはずですよ」

京太郎「……待て。待て待て待て待てッ!!」

京太郎「ふざけんなテメエッ!!」

怜「え、ちょ、突然どうしたん!?」

京太郎「どうしたもこうしたもねえ!」




京太郎「『致死率100%』の、寄生虫だ……!!」

【芽殖孤虫】



熊本県天草郡の牛深町という街で起きた悲劇で、世に知られる事となった悪夢のような寄生虫。


1915年9月15日の夜、とある若い女性が友人の家から帰宅すると悪寒と強い頭痛を感じた。

その日は眠ったものの翌日は食欲も失い、4日後には赤く痛みのある腫れが左大腿部の内側にできているのを発見する。

痛みは日に日に酷くなり夜も眠れない程になったので、近所の医者へ行って腫れを切開してもらうと、恐るべき事に。


何の変哲もなかったはずの場所から、なんと大量の膿が流れ出てきたのだ!


手術による切開はその後2回行われたが、腫れは引かないままだった。

約二年後には腫れは左下肢・右大腿・下腹部にまで広がっていた。

その腫れを引っ掻くと皮膚が破れ、やがて膿や血に混じって動く白い虫が出てくるようになる。

虫はある時は5、6匹。時には2、30匹にもおよんだ。


症状は悪化するばかりで、ついに1921年の4月4日に九州大学病院へ入院することになった。

入院後は肥大した下腹部と両大腿部の成形手術等を数回受けるが症状は好転せず、逆に身体の数箇所に腫れが広がっていく。

やがて肺炎の兆候が現れ全身状態が悪化していき、1922年の4月23日、24歳という若さで死亡してしまった。

死亡後、女性を解剖すると胸・腹・大腿部の皮膚、脳の表面・肺・小腸・腎臓・膀胱などから無数の白い虫体が検出された。

まさに全身虫だらけ、というにふさわしい恐ろしい状態だったのである。



この寄生虫の恐るべき特性は謎が多すぎる事と、その致死率の高さである。

感染経路不明。発症不明。成虫の姿不明。対処方法不明。治療方法不明。そのくせ、世界のどこよりも多く日本で発症しているのである。

……そして、治療方法不明という事は。



『致死率100%』の寄生虫、であるという事だ。



幼虫を手術で物理的に取り出す以外に対処法はなく、かつその幼虫は無制限に人の肉を食らって増殖していくという悪夢。

全身の皮膚を全てひっぺがした所で根絶は不可能、とまで言われる寄生虫のハイエンド。


そのあまりの恐ろしさとマイナーさから一般人には架空の寄生虫と思われ、『都市伝説の寄生虫』と呼ばれていた人の天敵。




できれば都市伝説のままであって欲しかった、人類史上最凶最悪の寄生虫となりかねない存在である。

マスカレイド「ふふ、少しだけ無茶をすれば……ここでこの贈り物を、貴方が独り占めできるかもしれませんよ?」



手の中でくるりと回るビン。これは明らかに誘いである。

逃げに徹して士栗戦まで消耗を抑えるという手段をとらせないために、京太郎の動きをコントロールするために。

ただのエサとして使用するために、一つの街を恐怖のどん底に陥れるだけの物を持ち出してきた。

その精神の有り様に、人として寒気を覚えざるを得ない。



京太郎「……悪い。ここで、ちょっと早めに無茶を始める」

怜「ええよ」



あのビンを、ここで奪わなければならない。

少し早いが、彼はここで切り札を切る事を決めた。

問題はない。この切り札に、早い遅いのデメリットはない。


覚悟を決めた彼の首に両腕を巻き付けて、抱きつくように少女は少年に密着する。



怜「大丈夫」

怜「何があっても、うちはずっと傍にいるから」



そして、格納。

戦闘開始……かと思いきや、少年は突如学ランとシャツを脱ぎ始めた。

今の少年は、上半身裸である。



マスカレイド「……露出趣味にでも目覚めましたか?」

京太郎「んなわけねーだろ、下準備だ」

京太郎「『これ』、使うと余剰エネルギーだけで上着が吹っ飛んじまうんだよ。勿体無いだろ?」

マスカレイド「ほう」



マスカレイドは、すでに『いいぞ、やってみろ』といった体裁だ。

京太郎とその仲間達が土壇場で発する爆発力を知りつつも、その爆発力も勘定に入れた作戦を立てている。

どれだけ絶大なパワーアップを果たそうと、自分の計算の範囲内。

そう思っているのだろう。



京太郎「行くぜ、怜!」

怜『今日だけは、何があっても相棒の無茶を止めへん。後悔せんよう全力や!』



吠え面かきやがれ、と二人が叫んだ。

必殺、神速のスレ立て!

【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXII巻目【都市伝説】
【咲安価】京太郎奇怪綺譚:XXII巻目【都市伝説】 - SSまとめ速報
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こちらは埋めちゃってどうぞー

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