比企谷八幡「受けられなかった依頼」 (34)
奉仕部……
部長の雪ノ下雪乃いわく、生徒らの自己改革を促し、悩みを解決する部活。
ホームレスには炊き出しを。モテない男子には女子との会話を。恵まれない国にはODAを。
それが活動理念らしい。
その理念を知らず、銀さんのような何でも屋的な部活と勘違いしたのか、
はたまた、知っているが間違った解釈をしてしまったのか。
奉仕部の守備範囲から大きく外れた依頼が時々やってくる。
平塚先生…ちゃんと依頼は選んでください……
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396231891
雪乃「サインをもらってきてほしい?」
生徒「はい。お願いしたいんですけど」
雪乃「詳しく話してくれないかしら」
八幡(聞かんほうがいい感じが…)
生徒「今日は千葉マリンでマリーンズのサイン会が開かれるんですけど」
雪乃「待ってそのちばまりんとは? まりーんず?」
八幡「千葉マリンっていうのはマリンスタジアムの略称だ。野球場って理解でいい」
八幡「マリーンズはそこを本拠地とするプロ野球チーム、だな」
結衣「ゆきのん、いくらなんでもそれは知っておこうよ…」
雪乃 カチン 「し、知っているのだけど…今のは少しどはすれしただけよ…」
八幡「噛んだ…」
雪乃「何か言ったかしら?」ギロッ
八幡「いえ…」
雪乃「は、話を戻すわ」
雪乃「生徒さん」
生徒「はい」
雪乃「どうして私たちに頼むのかしら? 自分で言ったほうがいいのでは?」
生徒「それが、今日は塾なんですよ。友達に頼もうとしたんですけどみんな忙しいみたいですよ」
雪乃「つまり、私たちにかわりに球場に行って選手のサインをもらってきてほしい…と」
生徒「はい。もちろん交通費や入場料は渡します」
八幡(おっ、それなら)
雪乃「却下です」
生徒「え、ええー!」
雪乃「この部活の目的は生徒の自己改革よ。使いパシリをするためにあるわけじゃないの」
生徒「な、なんですか! お金はちゃんと」
雪乃「そういう問題ではないと言っているでしょう。あなたの依頼は自己中心的以外のなにものでもないわ」
生徒「くっ!」
雪乃「話は終わり? じゃあさっさと出て行って」
生徒「…」スタスタ
八幡(何もそこまで…)
結衣「ゆきのん…少し言いすぎたんじゃ…」
雪乃「そんなことはないわ。あの手の人はやんわりと断ればしつこく頼みこんでくるの。完膚無きまで叩きのめさないと」
雪乃「ソースは私」
八幡「実体験ありですか……」
さっきの奴の依頼は明らかにジコチューだから簡単に断れた。
しかし中には、活動理念には反していることが明らかであるが、
簡単にはつっぱねることができない依頼もある。
雪乃「カツアゲに合っている…ですって?」
田中(仮名)「はい。もうどうしたらいいか…」
雪乃「カツアゲということはお金を要求されているのよね? いくら?」
田中「来週までに10万円用意しろと」
結衣「はぁ!? できるわけないじゃんそんなの!無視しなって!」
雪乃「その人とはどんな関係なの? この学校?」
田中「いえ。別の高校です。街でぶつかっちゃって絡まれちゃってですね、それで金を持ってきたら許してやる、と」
田中「連絡先も全部」
結衣「教えちゃったの?」
田中「はい…」
八幡「ばっかお前。そういうときは嘘ついて気に入らない奴の電話番号教えるんだよ」
結衣「ヒッキー屑すぎ!」
雪乃「あなたは他人のアドレスは知らないでしょうからどうせできないでしょうね」
八幡「まあな」
結衣「いばることじゃないと思うけど…」
雪乃「わかったわ。そのカツアゲ犯に合わせて頂戴。二度とそんなことができないくらい叩きのめして…」
田中「ま、待ってください! それはいくらなんでも」
雪乃「何か問題が?」
田中「連絡先も教えられてるんですよ。学校も知られてるから逃げまわるのも限界があります。後で報復されちゃいますよ」
雪乃「事を荒立てないように解決したい、と」
田中「ですです!」
八幡(残念ながらそんなことはできない…)
八幡(人間関係崩壊の原因は金のことが多い。他は恋愛とかだな)
八幡(金の話が出たらそいつと上手くやることはあきらめたほうがいい)
雪乃「申し訳ないけど、その方法は私たちじゃ思いつかないわ」
田中「え…」
雪乃「そのカツアゲ犯がやめろ、と口でいわれてすぐにやめると思う? いったんはやめるかもしれないわ
でも私たちの目を盗んできっと同じことを繰り返す。叩きのめさないかぎりは」
雪乃「だから…」
田中「わかりました…」
結衣「ご、ごめんね本当に…」
田中「いえ。もう一度自分で考えてみます。ぼくはすぐに誰かに頼ろうとするところがありますから。
そこも変えなきゃって思ってたところです。そんじゃ失礼しました」ペコリ
ガララッ ピシャ
田中(仮)がその後どうなったかは、誰も知らない。
しかし、今でも総武高校の誰かが事件に関わっている、という話は聞いていない。
人の名前や顔を覚えるのが得意なはずの俺だが、あれ以来、一度も彼を校内で見かけていない。
最後にもうひとつ…
最後の奴は本当に対処に困った。
範囲内の気もするし、範囲外の気もする。
断るのも気が引ける。難しい依頼だったなあれは
雪乃「ラブレターを書いてほしい?」
鈴木(仮名)「そうです!」
雪乃「残念ながら奉仕部は何でも屋ではないわ。あなた自身が何もしないというのは…」
鈴木「わーかった! じゃあ!明日書いて持ってくる! それを見てくれるってことでいい?」
雪乃「ええ、それなら」
鈴木「わーい! じゃあよろしくねー!」ガララピシャ
結衣「…すごい元気な人だね…」
八幡(あんな人でも悩むことあんのか……)
雪乃「非常に心配なのだけれど…」
鈴木「はい書いてきた!見てください!」パッ
雪乃 フムフム
結衣 フムフム
八幡 フムフム
…
…
…
雪乃「皆読んだわね。皆どうだった?」
結衣「いやーあたしはいいと思うけどなーこれで」
雪乃「そう。では私ね」
雪乃「鈴木さん」
鈴木「はい!」
雪乃「まずラブレターどうこうの前に日本語を勉強するべきよ」
鈴木「えっ!えええっ!」
雪乃「ところどころ漢字が間違えているわよ。恋が変になっているわ」
結衣ジー (あっほんとだ!恋をしたが変をしたになってる)
雪乃「主語やら抜き言葉が多すぎる。ごちゃごちゃと書きすぎて結局何がいいたのかわからないわ。これでは
ただの暗号文よ」
鈴木 ズズーン
八幡(容赦なさすぎだろ…まあ事実だからかばえないが…ご愁傷さまです)
結衣「ねえ、どうしてラブレラーなの? メールとかでもいいと思うけど」
鈴木「連絡先交換してないし…」
結衣「えー、あ、そうなんだ…」
…
…
…
鈴木「うん!決めたっ!」
鈴木「私直接言ってみる!」
八幡「いや、それはやめたほうが…へたすりゃ一生モンのトラウマに」
雪乃「そんなことを経験するのはあなたぐらいだから大丈夫よ」
八幡「……」
雪乃「本当にいいんですか鈴木さん?」
鈴木「うん。やっぱあたしにはこういう器用なやり方って向いてないね。」
鈴木「正々堂々真っ向勝負のほうがわかりやすくて良いよ!」
鈴木「奉仕部来てそれがわかって良かった。ありがと
雪乃「お礼は恋が実ってからにしてください」
鈴木「あ、あははそだね!」
結衣「頑張ってください!」ファイトー
鈴木「うん!頑張るよ!」
鈴木「成功したらこっち報告する。相手も連れてくるから」
結衣「はい。待ってます」
結局、鈴木先輩は部室には来なかった。
雪ノ下や由比ヶ浜に劣らず、可愛い人だったので成功するものだと思っていたが…
それとも奉仕部に報告すること自体を忘れているのだろうか。ありうる。
あの依頼でほっとしたことがある。ラブレターの添削ではなく、代筆依頼を雪ノ下が受理していたら…
俺もラブレラーを書くことになったはずだ。おれはあの手紙にはトラウマを持っているのだ。
長くなるので今ここでは言わない。だが一つだけ教えよう。
俺はもう二度と、あんな手紙は書かないと心に誓った。
お わ り
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