友「男……帰宅部やめるってよ」 (72)
友女「!?」
鳥「!?」
犬「!?」
猫「!?」
記者「!?」
空「!?」
海「!?」
大地「!?」
地球「!!?」
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友女「本当なの!?」
友「間違いない・・・」
記者「ほ、本人はどこにいらっしゃるのですか!?」
友(どっからきた)
友「・・・彼はもう帰りましたよ」
記者「か、帰った?」
友「そうだ」
記者「で、でも帰宅部はやめたんでしょう?」
ベテラン記者「ああ、そーいやお前、新米だったな」
友(どっからきた)
ベテラン記者「帰宅部ってのは、いかに早く目的地に帰るのかを追求する部活だ」
記者「それくらいわかってますよ」
ベテラン記者「じゃあ、帰宅部をやめたなら、早く帰る必要もないってことだ。どーせ普通に帰ったってとこだろ」
記者「な、なるほど」
ベテラン記者「にしても・・・あの男が辞めるなど・・・」
ベテラン記者「こりゃ、嵐が来るな」
・・・
幼「男ー!」
男「・・・」テクテク
幼「ねぇ、待ってよ!」
男「・・・はぁ」ピタッ
男「何だよ」クルッ
幼「へへっ。一緒に帰るの久しぶりじゃん」
男「ああ・・・幼稚園以来だな」
幼「懐かしいねー」
男「そうだな」
幼「・・・ねぇ、どうして今日は速く帰らないの?」
男「ん・・・もう必要ないからさ」
幼「え? 何言ってんの。男は帰宅部のエースでしょ」
男「・・・俺な」
男「やめたんだ、帰宅部」
幼「!?」
幼「どどどどどーなってんの!?」
男「詰まりすぎ」
幼「そ、そりゃ詰まるよ・・・なんで? 小学校の時からずっとやってたのに」
男「正確にはやらされてた、だけどな」
――――――
〔数年前〕
兄「どーした男ォ!」
兄「ったく、この程度のスピードにもついてこれんとは・・・」ヒュン
男「待ってよ兄ちゃん! 空飛ぶなんて卑怯だよ!」
兄「っは! 頭を使え愚か者!」
――――――
男「っち。思い出したくねぇもん思い出しちまったじゃねーか」
幼「でも、未だに続けてたのは何でかな?」
男「・・・」
男「兄貴を越えたかったからだ」
幼「ならどーしてやめたのよ」
男「・・・お前には関係ないことだっ」タタッ
幼「ちょ・・・」
幼(はっや)
・・・
・・
・
ガチャン!
〔男の家〕
男「何なんだあいつは! ・・・色々訊いてきやがって」
男「心配してたのは分かってるけどよ...」
男「...兄貴」
男「アンタ今、どこにいるんだ・・・」
――――――
〔フランス・パリ〕
司会1「な、なんと・・・優勝が期待されていた選手が・・・」
司会1「圧倒的な差をつけられての敗北・・・」
司会1「・・・今、ここに、新たなチャンピオンが誕生しました」
司会1「兄ィィ!!」
――――――
男「・・・はぁ」
男「晩飯どうすっかな・・・」
男(高校生になって一人暮らししてみたものの・・・」
ピンポーン
男「ん?」
男「珍しいな、俺に客とは」ガチャッ
バッ...ゴンッ
「いてっ」
男「・・・」
女「あ、ど、どーも」
男「どちら様で?」
女「えと、女様です」
男「・・・」
女「その...弟子にしてください!」
男「・・・はい?」
女「あなたの帰りに感動しました! お願いします!」
男「え...何?」
女「弟子にしてください!」
男「・・・何の?」
女「帰宅? の」
男「遠慮します」フッ
女「待って!」ガシッ
男「何ですか」
女「本当っお願いします!」
男「俺、帰宅部とかそーいうのはやめたんですよ」
女「!? 嘘だ・・・」
男「リアルガチ」
女「っう」ウルウル
男「え!」
女「い、や...いやですっ・・・そんなの」
男「あなたに嫌と言われても・・・」
女「病気の父を助けたいんです! どうか、助けると思って!」
男「どーしてあなたを弟子にすることが、あなたの父を助けることに・・・!」
男「まさか・・・」
女「はい...三ヵ月後の日本大会の優勝賞金・・・一億円」
男「ぁ・・・無理だ。やめとけ」
男「あの大会には俺以上に・・・化物じみたやつらがいる」
男「長年帰ってきた俺でも、勝てないんだ」
女「勝てない?」
男「あ・・・」
女「戦ったんですか?」
男「...」
女「それで、負けた」
男「・・・はぁ。あなたにだけ教えてあげるよ」
男「俺が帰宅部を退部したわけ」
用事あるんで、また後で書きます
ちなみに男はもう帰宅部をやめています
――――――
〔数日前〕
男「...」ダッ
ヒュッ
男「・・・」ピタ
男「ふぅ、3km約7分か」
男「まずまずだな」
ドンッ
男「!」クルッ
弟「いてて、着地失敗しちゃった」
男「おま...弟!」タタッ
男「久し振りだな」
弟「うん」
男「大丈夫か?」
弟「平気」ニコッ
男「手貸すよ」
弟「大丈夫」
男「」ゾクッ
弟「もう、立ってるから」ニッ
男(こいつ・・・いつの間に俺の後ろに...)
弟「お兄ちゃん、やっぱ速いね」
男「・・・バカ言うな。兄よりも遅いよ」
弟「兄貴は特別だからね」
弟「細胞レベルからして違うよ」
男「・・・で、」
男「お前は何しに来たんだ?」
弟「僕? えっとね、お兄ちゃんと遊びに来た」
男「へ・・・はは、まだ垢抜けないな」
男「今小学生だっけ?」
弟「うん」
男「大きくなったな」
弟「そんなのいいから早く僕と遊べよ」
男「え・・・」
男「はは・・・どうした?」
弟「僕は兄貴を越える」
弟「お兄ちゃんはそのために越えなければならない最初の壁だ」
弟「僕と戦え」
男「・・・」ギリッ
男「やらない」
弟「ん?」
弟「今何て言ったの?」
男「やらないって言ったんだ。バカ弟」
弟「ふぅん...残念だ」パチン
シュッ
鎧「ただいま参上いたしました」タッ
男(鎧を着ている・・・)
弟「お兄ちゃん。僕と戦わないって言うんなら、幼さんを殺すよ」
男「! 何・・・言ってんだ」
弟「本気さ」ギラッ
男「・・・確かに本気でやりかねないな」
弟「まぁやるのは僕じゃなくて鎧だけどね」
弟「どーすんの?」
男「はぁ...やるしかないね・・・手加減はしねーぞ」
弟「ふは、やった」ニッ
弟「じゃあ:聖命なる弔い:で勝負しよう」
男「ば! お前意味知ってて言ってるのか!」
弟「もちろん。僕は命を掛けよう」
男「命・・・」
男「そこまでして・・・」
弟「お兄ちゃんは、選手生命を掛けてもらう」
男「・・・ああ、良いだろう」
男(聖命なる弔い・・・お互いの命を掛けて行われる本気の勝負・・・)
弟「ふふっ。お兄ちゃんが負けたら僕らにとって第二の命である帰宅細胞が失われるんだよ?」
男「お前の覚悟は本気だろう。なら俺もそれに応えてやる」
――――――
男「ってわけ」
女「そんな・・・」
男「俺は負けたのさ。あいつは俺が想像してた3倍は強かった」
女「ということは・・・」
男「俺は帰宅細胞を失った。つまり、もう速く帰れないの」
女「はぁ・・・」
女「あの、帰宅細胞って?」
男「は? 知らないの?」
女「はい」
男「・・・えっと。帰宅細胞ってのは人間なら皆が持ってるものだ」
男「帰宅トレーニングなどを行えば必ず目覚めるもので、それが目覚めると、飛躍的に速く帰れるってもの」
女「ってことは、私も持ってるんですか!」
男「ああ。ちなみに帰宅細胞は帰るときにしか働かない」
女「なるほど・・・ってことは、あなたはもう速く帰れないってことじゃないですか!」
男「だからそう言ってるだろ・・・」
女「ぅうう」
女「何とかしてください!」
男「無理だ。勝負に負けた時点で俺の帰宅細胞は消滅した」
男「それより帰らんでいいの? もう日が暮れてきたよ」
女「っぐ・・・」
男「・・・そんなに力を欲するのなら、うちの学校の部活にでも入ればいいじゃん」
女「駄目です!!」
女「それでは・・・駄目なんです」
男「...なんで? うちの帰宅部結構強いんだよ」
女「それはあなたが居たからでしょう!」
男「・・・関係ねぇよ」
男「俺は兄貴を越えるためにちょっと人より多く努力してきただけだ。部の奴らだって・・・」
女「あなたでなければ駄目なんです!」
男「どうして俺にこだわる・・・」
女「す・・・」
男「す?」
女「・・・どうしても弟子にしないっていうんだったら。大変なことになりますよ」
男「どうなるの?」
女「大変なことになります」
男「・・・」
男「...女・・・だっけ。飯は作れる?」
女「ご飯ですか? まぁ、人並みには」
男「そっか。じゃあ・・・飯がうまかったら弟子にしてやるよ」
女「ほんんとおおっすか!?」
男「あ、ああ。約束する」
女「私、頑張ります!」
男「応援してる」
・・・
・・
・
男「・・・うま...」
男(しかもちゃんと栄養バランスが考えられている)
女「ほんとですか!」
男「うん、うまうま」パクパク
女「弟子にしてください!」
男「うん」ゴクッ
男「良いよ」
女「・・・何か、さっきと比べてあっさりし過ぎてませんか?」
男「まぁね。メッチャ必死そうだったし」
女「...ありがとうございます」ペコッ
男「うん、代わりに条件がある」
男「1、何があっても逃げ出さない。2、毎日飯を作る」
女「・・・それだけ、ですか?」
男「これ以外は特に望まないよ」
女「...あの」
男「ん?」
女「師匠と先生なら、どっちで呼ばれるのが好きですか?」
男「どっちでも良いわ」
・・・
―翌日―
男「んじゃ、今日から鍛えていきまーす」
女「あれ、今日は学校のはずじゃあ・・・」
男「休みいれといた」
女「そんな!」
男「・・・女さぁ」
女「はい」
男「帰宅細胞を目覚めさせるのに、どれくらいの期間が必要か知ってる?」
女「・・・一週間くらいですか?」
男「5年」
女「えっ」
男「5年かかる」
女「じゃ、じゃあ間に合わないじゃないですか!」
男「それを間に合わせるんだ」
男「普通に帰宅トレーニングを積んで5年なんだよ」
女「はい」
男「俺なら一ヶ月でお前を目覚めさせられる」
女「凄い!」
男「・・・おう」
女「どうするんですか」ワクワク
男「まずは・・・」
男「お前の才能をこじ開ける」
女「はっはい」
男「うん。じゃあイメージだ」
女「はい?」
男「自分の周りを風が包んでるイメージをしろ」
男「それが出来たら、紙ヒコーキを風に乗せるんだ」
男「そして、今度は自分が風に乗るイメージをする」
男「そしたら浮くような感覚になって、力が目覚める」
女「ほぇー」ポカーン
男「・・・お前、信じてないだろ」
女「いっいえ。実際に先生が強いのはわかってますし、私が弟子入りしたのですから・・・先生の言うことを聞くのは当然かと」
男「・・・やってみて」
女「はい」
男「あ、俺は寄る場所があるから頑張ってね」
女「ええっ。一緒にやらないんですか」
男「見てても暇というか・・・ってか俺、帰宅細胞死んでるからそれやっても意味ねーし」
女「そんな・・・」
男「まぁ俺の親父が教えてくれたんだが・・・俺は目覚めるまでに3日かかったな」
女「一人で・・・こんな場所で・・・」
男「こんな場所言うな」
男「頑張って・・・」テクテク
女「ぅうう」
男「あ、昼飯は今日いらないんで」
男(ま、あの様子じゃ目覚めるのに一週間ってとこかな)
・・・
・・
・
パシャッ パシャッ
記者「えぇー男さん。なぜ貴方はあれほどの実績、力を持っているのに帰宅部をやめるのですか?」
男「疲れたからです」
ベテラン記者「男さん。一部の者から、聖命なる弔いを行ったのではないか、との声が上がっているのですが」
男「...はは、まさか。それは法律で禁止されてるでしょ。危険だからって」
ベテラン記者「・・・ですよね。生死がかかわるってのに、そんなことしませんよね」
男「当たり前です」
・・・
・・
・
男「ふぅ・・・記者会見疲れた」
男(もう夕方じゃないか。女、うまくやれてんのかな)
幼「やっ」トッ
男「ん。この前は悪かったな」
幼「良いよ。それより、今日は記者会見だったんだってね」
男「ああ。疲れたよ」
幼「世間はみーんな残念がってる。まー当然ね」
幼「大きな力を持った人間を失うんだから」
男「・・・世界で帰宅細胞覚醒者が何人いるか知ってるか?」
男「約一億人だぜ。一億人もいるんだ」
幼「それだけしかいない」
男「・・・」
幼「あなたの代わりなんていないのよ」
男「...悪い。ちょっと急いで帰る」タタッ
幼「・・・都合が悪いとすぐ逃げる」
・・・
―男の家―
男「馬鹿な・・・」
女「先生! やりましたよ、目覚めました!」
男「いつ...目覚めた?」
女「30分ほど前です」
男(8時間ほどで・・・)
男「はは・・・(これは世界最短記録かもな)」
男「なぁ、ちょっと体触ってもいいか?」
女「はい・・・っは? 駄目ですよ! ちょっ」
男「・・・」サワサワ
女「っひ」
男(程よい筋肉・・・バランス)
男「何かスポーツでもやってたのか?」
女「ん、乗馬とか・・・」
男「なるほど...(そしてあのバランスの取れた飯か・・・)」
男「女」ピタッ
女「っはぃ」
男「良いよ。凄く」
女(・・・体?)
男「向いてる。お前なら狙えるかもしれない」
女「何をですか?」
男「優勝、日本大会の優勝」
女「! 本当ですか!」
男「ああ。俺が連れて行ってやる」
男(もっとも・・・兄が出てこなければ、の話だがな)
女「やった!」
男「・・・よしっ。飯にしよう」
女「はい!」
今日はここまで
・・・
女の細胞が目覚めて一週間が経った。
女「ところで、ここはどこなんですか?」
男「DASH山だ。ここでお前をさらに鍛える」
女「へぇー」
男「この一週間で基礎体力は作られただろう」
女「・・・地獄の帰宅ランのお陰で...」
女「でも本当に帰宅タイムは短くなりましたよ」
男「ああ・・・ん。見えてきた」スッ
女「家、ですか?」
・・・
・・
・
ガラララ
男「ジッちゃんいるー?」
爺「おう。よう来たの」
爺「後ろの子は・・・ガールフレンド?」
男「前に話したろ。この子が女」
爺「おお! 君が・・・」
女「えっと、お世話になります」
爺「いえいえ」
男「この人な、伝説の帰り仙人なんだよ」
女「帰り仙人?」
男「ああ。激戦の戦地からなんなく帰還。脱獄は不可能という監獄からなんなく帰宅・・・」
女「それって・・・」
爺「ほっほっほ。そんなに褒めないでくれ」
爺「まぁ、アガりんちゃい」
女「お、おじゃまします」
・・・
爺「っほ。日本大会に出るのか?」
男「うん。あそこの優勝賞金目当て」
爺「一億円か。優勝したら分けておくれ」
男「駄目だよ、彼女の親父さんのための金なんだから」
爺「・・・兄は出るのか」
男「わかんねぇよ。第一あの人、生きてるのかどうか・・・」
爺「あいつは死なないじゃろ」
男「・・・まぁね」
女「あの、お料理できました」
爺「おお! 悪いの」
女「いえ、先生との約束なので」
爺「ひひっ。にしても男が先生って・・・ひひ」
男「悪いか」
・・・
・・
・
爺「うまかったー」
女「お粗末さまです」
男「じゃ。今日はもう寝るだけだ」
女「もう暗いですもんね」
男「いや? 暗くてもやろうと思えば出来るぞ」
女「え?」
男「今日は体を休めておくんだ。んじゃ、おやすみー」テクテク
女「おやすみなさい...」
爺「君は何歳なんじゃ?」
女「えと、先生と同い年です」
爺「そうか・・・若いな」
女「お爺さんは先生が帰宅部をやめたこと、知ってるんですか?」
爺「もちろん。こんな山奥でも新聞は入ってくるからの・・・」
爺「聖命なる弔いを行ったのじゃろ」
女「なんですか? それ」
・・・
〔翌日〕
男「行くよ」
女「はい」
爺「気をつけてのー」
・・・
女「先生、進むの速いですね」
男「力を失ったとはいえ、鍛えているからな」
女「なるほど」
男「・・・そろそろいいか」ピタッ
女「なにがです?」
男「ん」スッ
女「地図?」
男「そこに印をつけている場所は、俺が昨日の夜中に旗を置いておいたとこだ」
男「それを今からとりに行ってもらう」
女「えっ・・・これ結構離れてるんじゃないですか」
男「いや、20kmくらいだよ」
女「20km!?」
男「行けるよ」
女「無理ですよ・・・旗をとって帰るときならともかく・・・行きは...」
男「そこを自分の家だと思えば良い」
女「え?」
男「イメージするんだ」
男「細胞に語りかけろ。そこは自分の家だ、帰る場所なんだ、と」
女「そんな・・・」
男「帰宅細胞は人に違って数は異なるが、場所を記憶することができる」
男「イメージで補うんだ。行ったことがない場所・・・しかし、行ったことがある」
女「無理です・・・」
男「お前、一週間前もそんなこと言ってたけど、結局できたじゃん」
男「それに早くしないと明るいうちに帰って来れないよ」
女「・・・見たことのない場所をイメージで・・・」
男「これが出来ないようじゃ。優勝なんて夢のまた夢だ」
女「・・・」
男「焦らず、人並みに、妄想を」
女「・・・」ボッ
男「! 良いぞ、その調子だ」
女「・・・」
女「っ」シュッ
男「ぁ・・・」
女「出来...た」シュインシュイン
男「はは。やっぱ、女には類稀なる才能がある」
男「よし、行って来い!」
女「はい!」ダッ
爺「凄い子じゃな」
男「ん、見てたんですか」
爺「ああ。しかし・・・」
男「彼女の才能はこんなものじゃありませんよ」
男「たぶん、兄よりも上だ」
爺「ああ・・・あの子はお前を信頼しきっておる」
男「ん?」
爺「だからお前の言うことを聞き、あれほど速く力を引き出せるのだ」
男「・・・仙人の血が騒ぎますか?」
爺「...っほっほ。どうかな」
・・・
・・
・
・・・
男「やるな。明るいうちに帰ってこれた」
女「や、りました」ハアハア
男「お疲れ」
男「今日はジッちゃんが飯作ってくれるって」
女「は、い」ハアハア
男「ちょっと休もうか」
・・・
・・
・
〔爺ハウス〕
爺「お疲れー。往復40kmをよくやったの」
女「先生のお陰です」
男「女の実力だよ」
男「ま、今日はゆっくり休みな」
――――――
モブ「っぐ。もうやめてくれ」
鎧「・・・口ほどにもない」
弟「ねぇ、鎧」
鎧「どうされました?」
弟「何か感じない?」
鎧「? すみません、私には・・・」
弟「そっか、何だろね。この感じ」
鎧「はぁ」
弟「・・・まさか...兄貴が来ているのか・・・日本に」
――――――
チュンチュン
女「ふぅあー・・・朝か」
・・・
女「おはようございます・・・ってどうしたんですか!?」
ぬっ
兄「貴様が女か」
女「はっはい・・・あの、近いです」
ぶんっ
兄「弱いパンチだ」ガシッ
男「なんでアンタがいるんだ・・・」グッ
兄「ああ・・・それより」ブンッ
男「っぐぁ!?」ドンッ
兄「どうして・・・帰宅部やめてんだ?」
男「ぅ...どうしようが俺の勝手だろ」
兄「ふむ」スンスン...ニヤ
兄「そうか。帰宅細胞を失ったか」
男「な!?」
爺「そこまでじゃ」
兄「・・・爺」
爺「なぜここにいる?」
兄「愛する弟達が心配できたんだ」
爺「そうか。お前、今度の日本大会には出るのか?」
女「!」
兄「っふ・・・」
兄「あんなカス大会に出るわけがない」
男「カス...大会だと・・・」
兄「ああ、そうだ」
男「っへ。あの大会は日本中の強者が集まるんだぜ」
兄「そうだな。日本中の強者が集まる...日本中のな」
男「・・・何が言いたい?」
兄「俺は世界大会に出る」
男「・・・何言ってんだ? だったら日本大会で優勝しねーと出られないだろ」
兄「アメリカからだ」
男「は...」
兄「俺はアメリカから出る」
兄「・・・俺は帰る。貴様達の様子を見に来ただけなんでな」ダッ
男「おい、待...」
ビュオオオオ
女「うっ・・・(何て強い風...)」
爺「あやつめ・・・また帰宅速度が上がっておる」
爺「血が...疼くのぉ」
・・・
男「...大丈夫か?」
女「うん・・・あんなに凄い人がいたんだね」
男「ああ・・・奴は地上最速の人間だ」
女「地上...最速」
男「っぐ」ガクッ
女「大丈夫ですか!?」
男「うん・・・安心したら膝が緩んで」
男(はは...心臓がバクバクなってら・・・)ドクンドクン
爺「今日は休みにしたらどうじゃ?」
男「いや、そういう訳にもいかない」スタッ
男「女、これはチャンスだ。兄が出ない今、お前が優勝するチャンスは十分にある」
女「! 本当ですか」
男「ああ、お前は俺が思ったよりも数倍、成長が早いからな」
女「っへへ...先生が期待しなさすぎてたんじゃないですか?」
男「さぁね」テクテク
男「行くよ、DASH山修行プログラム・第二ステップだ」
女「はいっ」
・・・
・・
・
男「ここは昨日来た場所だ」
女「旗とりのスタート地点ですね」
男「そう。・・・帰宅細胞に場所を記憶させるのが第一ステップ。第二ステップは...言ってみれば、強化って感じだ」
女「強化?」
男「細胞、筋力、把握能力の強化・・・まぁ一番の目的は、帰宅細胞のコントロールだ」
女「コントロールなら出来ますよ?」
男「確かにな。でも、女は3割ほどしか使いこなせていない」
女「き・・・昨日のあれでも3割ですか?」
男「うん、て言っても・・・まだ数日しか経ってないのに三割使えてるなんて凄いよ」
女「・・・つまり、私はもっと伸びるってこと・・・」
男「ああ、かなりしんどいけどな」
男「お前にはここにある旗をとってきてもらう」スッ
女「昨日の半分ほどですね・・・これならすぐに終わっちゃいますよ」
男「普通に行ったらな」
女「え?」
男「周りを見てくれ。丈夫そうな樹がたくさん良い間隔で並んでるだろ?」
女「はい、でもそれが・・・!」
女「あの、それは流石に・・・」
男「勘付いた? そう、木から木へと渡っていくんだ」
女「む、無理ですよ!」
男「その言葉はできる、と受け取るぜ」
男「今までムリムリ言ってても結局は出来てるんだ」
女「木から木へと飛び移っていくなんて・・・」
男「人間だって猿? の頃は飛び移ってたそうだぞ」
男「それに俺だってこの修行はやったことがある」
女「落ちますよ、絶対。枝がポキッってなって!」
男「この山の木は丈夫なんだって」
女「ぅう・・・落ちたら死んじゃいますよ」
男「そうならないためにコントロールだ。本来の力を引き出すんだよ」
女「・・・わかり...ました」
女「...私、木登りとか出来ません。そういえば」
男「ああ、それは大丈夫。まずは目的地設定して」
女「地図上のこの場所ですね」
女「・・・」ジッ
・・・
タタタッ
女「うわー! 先生、上れちゃいました!」
男「帰宅細胞はより速く帰るために身体能力も大幅に上げてくれるからな」
女「よ、よし!」
女「っふ!」タッ
ガシッ
女「あ、危ない・・・」プラーン
男「体から飛び込んじゃ駄目だ。足から木へと踏み出せ!」
女「そんなこと言われても・・・怖くて・・・」タッ
ガシッ
男「次の木に乗ったら、すぐに次の木に飛び移るんだ! 一々手で掴んでると明るいうちに帰って来れないぞ!」
女「は、はい」タッ
・・・
爺「昔のお前さんそっくりじゃないか」
男「・・・また来たんですか」
爺「一人は暇なんじゃい」
男「...あの恐怖は俺自身がよく分かってますよ」
男「次の木へと移るときに落ちちゃったら無傷じゃすまないし」
爺「っほっほ。お前さんはズルとかせんかったのぅ」
男「ズル?」
爺「あんなもん、奥まで行ってしまえば地面に降りても誰にも気付かれないじゃろうに」
男「何言ってんの・・・俺がこの修行をやったとき、ジッちゃんは最後まで見張りについて来たじゃん」
爺「言われてみればそうじゃった」
爺「あの子はズルするかの?」
男「・・・ありえませんね。彼女に限って」
爺「言い切るか?」
男「あいつは多分、そんなことをしても意味がないって思いますよ」
*
*
*
女「はっはっはっはぁ・・・」
女「駄目・・・キツい」
女(これじゃあ帰りは夜になってしまう)
女「急がないと・・・」
***
男「いや、むしろそんなことは考えないんじゃないかな」
爺「ほう」
・・・
・・
・
ガシッ
女(もう駄目・・・腕が限界)
女「日も暮れてきたし・・・」
女「あとどれくらいあるんだろう」
バキッ
女「きゃ!?」
ダンッ!
女「え?」
女(今、掴んだ枝が折れて落ちたと思ったのに・・・)
女「どうして・・・浮いているの?」
女(これも帰宅細胞の力・・・?)
女「...有り得ない、人が宙を浮くなんて」フワフワ
女「でも・・・」スタッ
女「落ちないのなら、もう怖くない」
女「アイ アム ア バード!」ヒュッ
スタ!
女「なんだ...こんなにも楽だったんだ・・・木へと飛ぶのって」
・・・
・・
・
男「...暗いな」
男「月明かりしか見えない・・・」
女「先生~!」クルリ
女「旗とってきました!」スタッ
男「へぇ・・・マジかよ」
女「途中で気付いたんです! 落ちても浮くことに! これのお陰で足から踏み出すことが出来るようになりました!」
男「おぉ、やったな!」
男「・・・待て。浮くって何?」
女「えっと、怖くて手で掴まって移動してたときに・・・枝が折れたんですよ」
女「あっコレ落ちたな。って思ったんですけど何か浮いてました」
男「なっ・・・空を飛べるってことか!?」
女「わかりません...これも帰宅細胞の力ですか?」
男「・・・わからねぇけど、昔、兄は空を飛んでた」
女「ええ!?」
男「ちょっと浮いて見せてくれよ」
女「・・・それが、帰りにまた枝が折れてしまったんですけど・・・そのときは浮かずに落ちていきました」
女「あ、でも心配しないで下さい。無傷ですし、恐怖心はなくなったので」
男「...宙に浮いたのって気のせいなんじゃね?」
女「っな! 本当ですよ!」
男「じゃあ・・・まぐれか」
女「だとしても、浮いたんですよ!」
男「わかったよ。とりあえず、お疲れ」
女「・・・はい」
男「...帰るか」
今日ここまで
〔一週間後〕
女「朝ご飯出来ましたー」
爺「待ってました!」
男(木移りの修行を始めて一週間・・・もういい頃だな)
男「いただきます」
爺「いただきまーす」
・・・
・・
・
―DASHプール―
男「山中に作られたプールだ」
女「もうあの修行はしないんですか?」
男「ああ、もう十分だ」
男「今日からはコントロールのまとめだ」
女「もうコントロールは完璧に出来ますよ! 少なくとも木から落ちることはありません」
男「確かに良い調子だけど、まだまだだ」
男「このプールはジッちゃんが作ってくれたんだ」
爺「YES」
男「んで、中に入っている水は海水だ」
爺「DASH海岸からとってきました」
男「お前は今から、この25mプールの水の上を走れ」
女「・・・いや、無理で...って言ってもやるんでしょうね」
男「当然だ。優勝するために必要なんだから」
女「で、どうやったら水面を走れるんです?」
男「・・・わからん」
女「へ?」
男「こればっかりは俺も理論はしらね」
男「だからジッちゃんを連れてきた」
爺「まったく、こんなこともわからんとは」
女「せ、先生はできるんですか?」
男「水面を行くことか? 感覚でできてたぞ。昔な」
爺「なぁに推進力をつくればいいだけのことじゃよ」
爺「やり方は交互に足を踏み出すだけじゃ」
女「・・・?」
爺「片足が沈む前に、反対の足で水面を蹴る的な」
女「はいー?」
爺「お手本を見せてやろう」タッ
チャプ
女「!」
男「ほー・・・相変わらず凄いな」
爺「どうじゃ」
女「す...ごいけど、普通に水の上に立ってるようにしか・・・」
男「ちげーぞ、良く見て見ろ」
女「えっ」ジッ
女「あっ・・・高速で足を入れ替えている!」
男「あそこまで波音少なく出来るのは、あの人だけだろうな」
女「これが伝説の帰り仙人の・・・」
男「技だ」
爺「・・・」ハアハア
女「メッチャ疲れてるように見えますが」
ダッ
爺「ど...じゃ」スタッ
爺「参考に・・・なったかの」
女「はい・・・」
女「やってみます」スッ
ポチャン...ザブッ
女「・・・」
男「何やってんだ...目的地設定しないと帰宅細胞は使えねーだろ」
女「・・・てへっ」
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