繝「繝娠縲係inner take all縲 (183)

モバマスです

地の文は最初だけ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394888280

スレタイはどういうことなんでしょう?

モバP「Winner take all」
という、スレタイのつもりでした

私の自己満は人より汚いということなんでしょう。
開き直ってここでやります。

自分が社会人となって三年目。
プロデューサーとして、担当を一人で持つことを初めて許された。
担当を決めるには、幾つかの選択肢があるが、自分はスカウトの道を選んだ。
数多いる候補生から選ぶ方が楽ではあったし、それまで見習いとして先輩達の補助をしていたのだから、当然現役達との繋がりもあった。
その中には、自分に担当してほしいというような気配を感じることもあったし、楽ではあったはずだ。担当するにあたって、必須である信頼を基礎から築く必要がないのだから。

それでも、自分がスカウトを選んだのは、アテがあったからだった。

アテといっても、親戚であるとか乗り気であったわけではない。

それどころか、自分は彼女といかなるコミュニケーションもとったことがなかった。

それでも、彼女を一目見た時から、自分には彼女を煌めかせてみたい、否、煌めかせねばならないという使命感めいた感情が湧き上がってきていたのだ。

自分が、通勤に使う駅のホーム。

毎朝、その隅に群衆に紛れていても、必ず見つかるその特異な存在。

俺は彼女を見つけてから二年目のある朝、ついに話かけることとなった。

自分に許された時間は今日を含めて一週間。

それ以降もスカウトが成功しないようならば、候補生か現役の中から担当を決められることになっている。

自分に選択権があるのではない。
社のバランスを第一に考えた安定性はあるが、なんらの面白味のない決定である。

ーーー雑多な人々が行き来するホーム。その隅に、いた。

人の充満したそこにいながらも、周囲にいる人間が無意識に離れた位置に避けてしまう程の存在感。

高校生であるらしい制服姿の彼女は、他と隔絶してそこにあった。

砂漠の薔薇。深海の珠。天空の光。陳腐な言葉は、しかし凡百の者には決して届かない存在だけが許されたモノ。

この世界での存在の仕方で彼女は、それらを超える。

数だけは十分な人間というモノの中にあって、唯一無二の輝きを魅せるそれはまさに別次元。

そう、自分が二年間恋い焦がれた存在はそれ程のモノであった。

それが、ホームのエスカレータ近くで立ち尽くしていた自分を見る。

そして、蠱惑的な唇がーーー

な・あ・に?

少女「んー…それで、おにーさんはどなた?」

駅のホームで彼女に見惚れ、つまらぬことを考えていた自分は彼女に気付かれ、現在は駅の近くにある喫茶店で向かい合っていた。

視線を引き寄せられた唇の動きを見た時は、冷や汗が出た。

駅や電車という空間の中での、男女の立場の差は歴然なのだから。

それでも不審者扱いされていることに変わりはないのだが。

少女は全く動ぜず二人きりで静かな場所へやってきた。あまつさえ、気分良さげな微笑みを湛えながら。

やはりその自身を確立した人間の持つ余裕は凄まじい。

これが、そこらの一般人であれは、叫ばれるか最悪痴漢扱いでもされていたかもしれない。

少女「ねー…おにーさん…?私の話聞いてる?私も暇ってわけじゃ、ないのだけれど…?」

またしても、見惚れていた。

東洋人らしからぬ、一種病的な耀きを放つ白肌。

常に濡れているかのような、深い瞳。

通り過ぎる程に通った鼻筋は、まるで彼女の為人を示しているかのようで。

しかし、最も主張しているのは唇であった。

肌の白さとのコントラストが、魔的に浮き上がらせる、緋。

妖しい、とさえ表現できるそれはまさに魅惑そのものかのようだった。

ーーーしかし、自分にも目的がある。

この時点で殆どが私事のようなものではあったが、為さねばならぬものがあるのに変わりはない。

P「はい。私はこういうものです」

そういって名刺を差し出す。

それは、プロデューサーとなって、初めて持つことの許されたものであった。

自分という人間の新たな始まりを、象徴するものであるといってもいい。

しかしーーー






少女「ふーん…それで?貴方はだれ?」



彼女は渡された名刺に一瞥も与えずに、こちらを真っ直ぐに見つめる。

ーーー呑まれる。

その、錯覚を振り払いながら、話を続ける。

当初は話を聞くまでもなく、逃げられることも想定していたのだ。

ならば、相手から催促されている今は、むしろ僥倖ではないか。

P「私、CGプロダクションに所属致します、__と申します。
この度は、貴女に私共と頂までお越し頂こうと思い、お声を……掛けようと思っていたのです」

結果は不審者扱いされて、相手から話しかけられるという、情けないものであったが。

少女「頂…?それはまた、どうして? 」

余りにも彼女の纏う雰囲気に中てられて、頭に靄がかかったような意味のわからないことを口走ってしまった。

しかし、なぜか彼女には不思議とその空気すらフィットしてしまっていた。

平時なら一笑に付してしまうような戯言に対して、笑わずに聞き返してきた彼女にもその理由はあるかもしれない。

P「私は今までの人生で、貴女程特異な方を見たことがありませんでした。そして、こうしてコンタクトを取れた今。貴女がどんな輝きをみせるのかが見たいのです」

少女「ふぅん、私を…うーん、どうしようかなぁ。そうねぇ…じゃあ…今、キスしてくれたらなってもいいよ。どう?」

答えになっていない、自分の応えにさらに輪をかけて斜め上の応え。

それでも、ここが正念場であると自分は確信した。

第六感を短くはない人生で初めて感じたのだ。

決めるならばここにおいて無い、と。

P「もしも、貴女が頂まで到達できたならば、その時に」

この応えが果たして彼女にとって満足のいく答えなのか。

凡人は彼女に届くのか。

少女「んー…自分を安く売らない人、好きよ。いいわ、…私は今日から貴方について行きます。…よろしくね?プロデューサーさん?」

いつの間にか名刺を見ていた少女が、自分をプロデューサーと呼んだ。

ここから、始まるのだ。

吹けば飛んでいってしまうような凡人の自分。

ただ、そこに在るだけで異空の風を呼び込む特異点。

雑踏での邂逅と、仄暗い喫茶店での素晴らしい会話。

それが、彼女とのファーストコンタクト。

ーーー俺と彼女の始まりの時。

書き溜め消化。
短いですけれど、ここまでです。

明日からも少しずつ進めていくので、
お願いします。

見てくれた人がいて、
嬉しい限り

今日も少しだけ

ーCGプロダクションー


都内のオフィス街にそれはある。

芸能事務所としては、中堅と大手の中間に位置するプロダクション。

ここ数年の躍進により一躍芸能界の一角を占めることとなった。

それまでの、主流であった一つの事務所、あるいは一つのグループ内での選挙による集客スタイルを抜け出したことで、世間を驚かせたことで知られる。

やったことといえば、事務所間の柵を無視してあらゆるアイドルの頂点を決めるイベントを行ったこと。

それ自体は恐らく誰もが思い付く程度のことであるし、とりわけ驚くべきことではない。

しかし、芸能界を流れる潮流の強固さと、その汚さを知る者ならばその限りではない。

なぜならば、CGプロは数十の新興事務所や、巨大な渦に巻き込まれながらも、必死に抗い燻っていた人々を結集して、芸能界そのものに立ち向かったのである。

ゼロ年代以前のテレビ時代創成期。

数あるテレビ局や種々のメディアは将来巨大な力そのものとなる、現在の事務所に多大な借りをつくった。

否、つくってしまった。

それは人々の興味が千差万別に枝分かれし、傲慢な売り手だったメディアが必死に買い手である大衆に尻尾を振らねばならなくなってから大きく影響を及ぼした。

メディア内部にまで浸食してきた大権が、意志を持ったかのように暴虐の限りを尽くし始めたのである。

視聴率が取れなくとも、事務所の意向を重視せねばならなくなった結果、液晶に映るあらゆる登場人物は代わり映えのしないものとなってしまったのだ。

これが、メディアや芸能の世界に如何なる悪影響を及ぼしたか。

多岐に渡るそれを語るには余りにも時間が足りないし、その意味もない。

肝要なのはあくまで、CGプロの躍進である。

しかしこれらは、潮流に流されたメディアと結託した巨大な壁にCGプロが先陣を切って風穴を空けた、ということを理解する上で必須の前提要項なのだ。

かつて選挙方式による競争を確立した巨大なアイドルグループは、それだけで芸能界を席巻した。

しかし、そのグループと中枢にいた豪腕のプロデューサーでさえ芸能界の不文律を突き崩すことは叶わなかったことを思えば、これは革命であった。



自分はそんな革命の中心たるプロダクションに在籍するプロデューサーである。

P「おはようございます」

「はい、おはようございます。
__さん。今日は気合入ってますね。担当される子が初めてくるんでしたっけ」

P「ええ」

出社して自分のデスクに荷物を起き、珈琲を淹れる。

これは、見習い時代からのルーティンである。

このあとの予定は初めて出社してくる彼女次第なので、近くの同僚と話して時間を潰すことにした。

それはやや緊張気味の自分を彼女に解してもらう意味ももっている。

あの邂逅が月曜の朝。

遅刻確定の彼女にきいてみるところによると、名門女子校の生徒であることがわかった。

自主休校の後にプロダクションに直行しようとした彼女には困ったが、なんとか押しとどめて活動を本日の土曜に。

保護者から許可をもらうための面談を、前日の金曜日の放課後に設定した後に、彼女を高校まで送った。

折角得たアイドルを失うような不用意な真似は極力避けたかったのだ。

金曜の夜に彼女と両親の四人での面談を行った時には、その選択の正しさを実感した。

彼女とは違いどこまでも普通な両親は、その判断に謝意すら示してくれた。

なんでも彼女は一つのことにやや執着する性を持つらしい。

何度か登校中に行方をくらませたこともあるとか。

兎も角、彼女の芸能活動に表面上障害はなくなった。

あとは、プロデューサーとしての自分の力量と、彼女の能力が試される。

「どんな子なんです?
凛ちゃん達を差し置いてまで、
__さんが欲しがる子っていうのは」

悪戯気に俺をからかう同僚は千川ちひろ。

自分が所属する第五フロアの事務を仕切る事務員である。

社会人三年目の自分より、いくらか年上らしいが詳しくは不明。

金銭が絡まなければ、
という条件付きで第五フロアを癒すオアシスでもある。

個人的にはライトグリーンのスーツを着こなすことができる彼女は、芸能人に向いていると思う。

纏える容姿もさることながら、あんなものを手に取る度胸はただものではない。

初対面の時には正気の沙汰ではないと思ったし、ほぼ毎日あれを着用してくる彼女をみるうちにクローゼット一杯に並ぶライトグリーンを想像した時は久々に大笑いした程である。

P「別に私は渋谷さん達を、低く見ているわけではありませんよ。
単に自分の力を試してみたと思っただけです」

P「第一彼女達は、
先輩が担当されているでしょう?
高々、二年ばかり近くにいただけの見習いよりも明らかに適任です」

ちひろ「ええ、そうでしょうとも。
しかしですね、一種の博打を打つようなことをするならーーー」


「 __さん?…私に賭けたならもう少しはっきりしないと。
私が最善手だって、ね。
私の価値を貶める…なんてことはイヤよ?」

突然の背後からの、声。

P「…私は賭けたつもりなどありませんよ。貴女は必ず期待を超える信じています」

いつの間にか、いる。

そこに在るだけで、空気を変える存在はまるでステルスを使ったかのように近付いてきていたのだ。

特異点はただ派手であるだけが、
能ではないらしい。

「 んー…。__さん堅いなー。
云ったでしょう?…砕けなさい…って」

確かにそれは月曜の喫茶店でも、
金曜の別れ際にも云われたことである。

P「済みません。貴女が正式にこちらの一員になるまでは、あくまで他人だと思うようにしていまして…。これからも、こんな感じではありませんよ」

我儘で申し訳ありません、と付け加える。

ちひろ「こちらが、__さんの…。
ははぁ…確かに、ね」

なにやら一人で納得したようである千川さんも、やや圧倒され気味である。

それ程の何かが彼女には、ある。

ちひろ「…はじめまして。私、事務を担当している千川です。
これから、説明があると思いますが、このフロアの統括を任されていますので、これから接していく機会も多いと思います。よろしくお願いしますね」

「千川さん、…ね。私はーーー」

「おう、__。
あいつが呼んでたぞ。
これから撮影だから、早く終わらせておいてくれよな」

彼女が自己紹介を始めようとした瞬間に、自分を呼ぶ声。

どうやら、私の始業までのひとときは無情にも減らされたらしい。

半分程残った珈琲を飲み干して席を立つ。

P「ありがとうございます、先輩。
…千川さん、彼女の相手をお願いできますか?少し用ができたようで」

ちひろ「ええ、構いませんよ。
始業時間は越えないようにしてくださいね」

礼を云って、呼びにきてくれた先輩プロデューサーのelder-P(以降、eP)に従う。

彼が自分を呼びにきたということは、呼び主は彼女に間違いない。

彼が俺に対して“ あいつ ”と表現する者の中に他の選択肢がないではなかったが、
まずこの予想は外れまい。

いつかはこうなると思っていたが、まさかこんなにも早いとは思わなかった。

さすがに想定外の早さである。



フロアを出る際に横目で眺めた彼女は、千川さんとの話に集中しているようで、こちらを見てはいなかった。

それでも、意識は俺に向いている気がした。

eP「407会議室だ。
早目に終わらせろよ? 」

頷き、指定された場所へ向かう。

CGプロはビルの三階から七階を占有しているが、主に会議室などの大きめな部屋があるのがこの第四フロアである。

三階が小学生や中学生主体の比較的年少のアイドルやタレント達の担当者の拠点。

四階に大人数向けのプロジェクト発表などが行われるエリア。

五階が自分たちの、高校生から大学生程度の社会人前の担当の住処。

六階の第六フロアにそれ以上の人達の担当者達のエリアと、重役達の執務室がある。

七階は倉庫と、アイドルや従業員用に幾つかに個室分けされた、休憩所兼談話室のあるエリアである。

休憩の為になぜ最上階まで向かわなければならないのかと、特に年少組達からは評判が悪いが、個人的には第五フロアよりも旨い珈琲が飲めるので気に入っている。

目当ての部屋を見つけ、ノック。

すぐに涼やかな声で返事がある。

「いいよ。入って」

思った通りの声に、やや緊張しつつ入室。

すぐに扉を閉め、施錠。

予想した内容の話ならば、あまり他人には聞かれたくない。

例えこの時間に第四フロアが滅多に使われないとしても、用心するにこしたことはない。

「ふーん。鍵まで閉めちゃうんだ。
アイドルと二人きりの部屋で、ね」

言葉だけは悪戯気に、しかし表情から仕草まであらゆるものはそれがどうでもいいことであるかのよう。

俺を試すようなそれは、まだ幼いと形容する人もいるような少女のものだった。

P「…ああ、癖でね。
あまり、他人を信用できないんですよ。
…それで?仕事があるんでしょう?
私も新しい仕事が始まりますし、用件をお願いします」

「 …敬語なんだ。先週まではタメだったのに。…ねぇ、私の名前、呼んでみて」

それは有無を云わさぬ命令。

俺の様子から彼女の脳裏が描いた連鎖が絶やすくトレースできた。

P「なんでしょうか、渋谷さん?用件をお願いします。まさか、名前を呼ばれるだけが目的ではないでしょう? 」

「…ッ。そうだね、じゃあ訊くけど私達の担当を外れたのはどうして?」

一瞬の動揺を見せる少女。

思考の結果が現実に顕われたことに衝撃を受けたのだろう。

しかし、すぐさま持ち前のポーカーフェイスで武装して反応する様は流石の一言。

P「渋谷さんたちの担当を外れたわけではありませんよ。元々私は見習いでしたからね」

P「あくまで私は、ePさんたちについたプロデューサー見習いに過ぎません」

「殆どの業務やアイディアが__さんのものでも?」

P「それは渋谷さんからの主観に頼り過ぎた意見です。私の意見がたまたま通ったこともありましたが、数人の担当を持っていたePさんが大局的な動きをしていて、マネージャに近かった私が渋谷さんからみて大きく見えただけです」

P「小高い丘でも近くで見れば、大きく見えるでしょう?」

「そうだとしても、新しく私達の担当になれたよね?ちひろさんが云ってたんだから確かな筈だよ」

思わず舌打ちが出かかる。

確かに自分が少女たちのーー

この場合は渋谷凛、島村卯月、本田未央の結成一年目のユニットであるニュージェネレーションの

ーー担当になることはできた。

それどころか千川さんなどにはそれを勧められていた。

それでも、自分には二年間焦がれた彼女しか目に入らなかったのだ。

勿論そんなことはおくびにも出せない。

P「いいえ?私には渋谷さんたちを担当することはできませんよ。プロデューサーになって数日の若輩者に、急成長中のグループは任せてもらえません」

P「千川さんは私を買い被っているようですね」

凛「そんな“ 若輩者 ”がスカウトから始めてたった一人の新人を担当することができるのはおかしくないの?不思議なこともあるんだね」

痛いところを的確に突いてくる。

確かに普通なら新人と新人未満の候補生をペアにすることなどありえない。

凛の云う通りにニュージェネレーションの担当になる方が、余程自然であろう。

加えて、この話題では私情が多いに絡んでる私には分が悪い。

とぼけるにも限界がある。

P「ええ。そうかもしれませんね。
私にもわかりませんが、上の判断なんでしょう。評価していただいたのなら、嬉しいことです」

凛「そんな、誤魔化しをッ…!
私は__さんにーーー」


ーーーノック。

静まり返る会議室。

一瞬で燃え上がった少女も、
冷静さを取り戻した。

どうやら時間に助けられたようだった。

eP「おーい。凛、__時間だ。そろそろやばい。まだ、掛かるのか?」

交錯する瞳。

例の彼女のどこまでも飲み込まれてしまいそうな深い瞳とは違い、逆に何もかもを跳ね返すかのような強い意志を示す瞳。

それは、明らかに自分を責めていた。

凛「待って、今行くから」

冷静さを取り戻した彼女は早い。

この状況を引き伸ばしても意味はないことを理解し、自分を理性で制する。

長い髪を揺らして少女は行く。

糾弾はまだ終わらないと叩きつけるような、しかし実際には静かな跫音を刻みつけて。

eP「どうしたんだ、なんか大事な用でも?」

凛「プロデューサーになって、ようやく一人前になれたみたいだから、祝ってあげようと思って。
人がいるところだと、恥ずかしかったから」

eP「そうか。
よかったな__。俺も期待してるぜ」

P「…ありがとうございます」

皮肉とも取れる言葉を残して、渋谷凛は去っていった。

祝ってくれているのは確かだと思いたい。

「へぇ…。じゃあ、__のプロデューサー業の初仕事が私ってわけ。ふぅん…」

ちひろ「でもね、見習いだった時代から彼の企画力は抜きん出ていたんですよ。時々採算を無視するのが社会人として、玉に瑕ですが」

本当にそれさえなければ、といった調子でちひろはやれやれと第五フロアに戻ってきた自分を眺めた。

自分がいない十数分の間に、彼女たちは打ち解けあっていたようである。

いくらなんでも、早すぎるような気もしたが。

これが、コミュニケーション能力というものなのか、はたまた女性というものなのか。

P「千川さん…。彼女に余計なことを吹き込まないでください。
これからが大変でしょう?」


苦笑交じりに話しかける。

女性の噂話で歪められた自分はあまり想像したくなかった。

ちひろ「ようやく帰ってきましたね。
もう、始業時間過ぎてますよ。それの対価としてこれくらいは許していただかないと」

P「はぁ、仕方ありませんね。
それでは、彼女に説明などしてきますので。…こっちにきてください。今から社などの説明をしなければなりません」

自分のデスクに座している彼女を促して、ファイルを幾つか持つ。

種々の契約は先日終わらせているので、午前中一杯を使ってレッスンスタジオや寮の説明を行う予定である。

「ちひろさんって面白い人ね」

相変わらずの微笑みを湛えた彼女が、囁くように話かけてくる。

P「そうですね…。まぁ、貴女が思った面白いというのがどういったものかはあまり聞きたくありませんが」

「別に__さんの悪口なんてなかったわよ?…ただ少し不器用なんだな…って」

その、不器用とはどういう意味なのか。

聞いてみたい気もしたが、堂々巡りになる気がしたので断念。

P「これから当社の施設を紹介します。質問があればその都度お願いしますね」

彼女のペースに引き摺られないように、やや強引に話を戻した。



施設を紹介している間中、
微笑むだけの彼女に翻弄されたのは仕方ないことだと思いたい。

P「女子寮への入居ということでよろしいんですか?都内在住ですし、自宅を拠点にした方が、色々と楽だと思いますが」

社から徒歩で数分のレッスンスタジオ併設寮の見学と、社の概略説明を終わらせた自分達は第七フロアの小さめの休憩室にいた。

軽い食事がてら入寮手続きのための書類に記入してもらっているところである。

「ねぇ…。__さん。もう、私もここの一員となったのだし…。
そろそろ、砕けた話し方でもいいんじゃないかしら。そのままじゃあ…、つまらないわ。」

P「ええ。そうですね。
あー…少々お待ちください…」

自分を切り替える。

ある意味で作り変えるといってもいい。

P「ーーー………済まなかったな。切り替えが下手だから、トランス気味というか芝居がかった感じになってしまった。
話し方、変だっただろう?」

「ふふっ…。私から云ってはなんだけれど…違いすぎない?」

それは、自分でも思う。

P「不器用で済まんな」

「面白くていいじゃない…。私は嫌いじゃない」

「ええ…いいの。
親から離れてみたいというのもあるし…、登校も楽だから。
それに、レッスンスタジオとかここへの移動が面倒じゃない。
はい…、どうぞ」

P「ん、そうか。
気を遣わせるな。
……おう、オーケー。
これは後で千川さんに渡しとくよ」

入寮届けを瞥見してファイルに収め、珈琲を啜る。

やはり、第七フロアの珈琲は旨い。

P「しかし、君もそうじゃないか?
恥ずかしい表現だが…、
普段の君はもっとこう、近寄り難いというか…オーラを感じるが、今とかは普通のというと違うが、近寄り難い雰囲気を感じないんだが」






「そう…?私は特に違うとは思わないのだけれど…。きっと、__さんだからよ」





思わせぶりな言葉、視線、仕草。

細く長い指が俺の頬に触れる。

接近する、ソレ。

一瞬にして彼女は、“ あの ”彼女に一変していた。

まさに、世界は千変万化。

個人を超越した彼女はすなわち世界そのもの。

P「…。アイドルの卵が、こんなことするなよ」

上擦った声で抗議の声を。

卵「卵…?もう、私は…アイドルよ。
今でもなく、契約をした昨日でもなく…さらに、貴方との喫茶店でもなく…。二年前に貴方が私を見つけてから…。貴方にとってはその時から私は、アイドルだったのじゃない?」

P「…そうだな。それでも、これは…」

蛇に睨まれた蛙のように。

あるいは、深淵を覗いた咎人のように。
俺はまたしても彼女に、呑まれた。

優れた偶像になると思われた逸材は、その程度を軽く超える。

偶像なんて空虚なモノに収まりはしない。

狭い部屋に、二人。

危険だ。

世界を支配するどころか、そのものとなった彼女に凡夫の俺では太刀打ちできない。

スッ…スッ…スッ…

手指が首筋に降り、撫でるように蠢く。

背筋が凍るように、しかし身体は熱く。

それでも彼女の隣に立とうとするならばーーー

P「…やめろ。俺を惑わすな…。
ここで終わるのはどちらにとっても本意じゃないだろう」

そう、堕ちてはならない。

少なくとも、目指す頂まで到達するまでは俺は彼女から離れず、かつ俯瞰していなければならないのだ。

「…ん。そうね。必ずや頂きへ、…ね。…でも、その時は…わかるでしょう?」

それは契約の確認。

同時に、世界が退いていく。

しかし、潮の満ち引きのように必ず戻ってくることを約して。

P「まぁ、いい。これから長い付き合いになることを願っている。二人が契った涯へ及んだ時には、逃げも隠れもしない」

「ええ…。待っていて。
私と貴方はこれより一心同体でありながら最も遠い他人。
…その時を私も待っている」

この時より、書面の枠を越えた契約は再度なされた。

導く者としては、成りたての俺。

人を魅了することにかけては卓越した彼女。

狭い一室にてーーー

稀代の偶像速水奏はただ一人の観客の前で夜明けを迎えた。

今日はここまで
全く話が進まないどころか、
プロローグの二段重ねのようになる始末

“ 彼女 ”ははやみーでした

はやみーやしぶりんなどの口調が変だったら、指摘お願いします

明日もおそらく来ますので、
よろしくお願いします

みてくれた人に感謝

今日も少しずつ進みます

みてくれた人に感謝

今日も少しずつ進みます

17歳。身長162cm。体重43kg。

スリーサイズは上から86、55、84。

基礎能力はヴォーカルレベルなどの音楽的素養がやや高く、ダンスレベルなどのバイタルが低め。

自分を魅せる為の表現力には特筆すべきものがある。

前日の午後から行った体力テストなどの結果を纏めたものである。

グラフや数値の他にもトレーナーから見た現在の奏が詰まっている。

自分も付き添っていたが、その印象と凡そ合致している。

しかし、やはりというべきか初見の人間から見ても、彼女の表現力は抜きん出ているらしい。

トレーナーの驚きの顔が徐々に楽しげなものに変わって行く様は、いっそ小気味いい程であった。

まるで自分が認められたかのように。

ダンスなどの激しい動きに耐えうる身体ではないのは、初めから予定していた。

予想ではない予定である。

バイタルデータを見ればわかる通り細すぎるのだ。

あれで、激しい動きに耐えられたならば脳のストッパーの障害かなにかを疑うところである。

それが彼女の稀有な武器であるのも理解しているつもりである。

もとより、ダンス面では並レベルまで引き上げた後はヴォーカル一点突破で、表現力を武器にする考えであるので問題はない。

頂きにいる者がなにも万能である必要はないのだ。

月並みな一般論でいえば美は画一ではないということ。

主観によって感慨は千差万別なのだから。

つまり、俺と奏の想する到達点が、旋律によってなされるものだっただけなのだ。

ちひろ「凄いですねー。
基礎値で表現力がAランクなんて初めて見ましたよ。
私も見にいけばよかったかな」

P「千川さんは仕事があったでしょうに…。
まぁ、確かに。
そうじゃなければ私も奏に執着しませんよ」

ちひろ「あれ?昨日の様子じゃあ、そんなに執着してないみたいな感じだったじゃないですか」

P「そうですね。昨日奏と話した後に考えてみたら、確かに異常な執着だったことに気付いたんですよ」

奏の様子では明らかに、二年間に渡って魅入られていたことが暴露ている。

ならばいっそ開き直ってしまった方が、傷は少ない。

ちひろ「へぇ…。変なことしないでくださいよ?__さんと関わっている私まで変な目で見られるんですからね」

P「しませんよ、そんなこと…」

むしろ、された。
無論云わないし、云えないが。

ちひろ「どうですかねー。
__さんも奏ちゃんとはまた違った感じで何考えてるかわかりませんからね」

心P「外ですね。
私程の正直者は少ないですよ。
裏表なんて殆どありませんし」

ちひろ「それはどこのどなたの話なんです?少なくとも私の前にいる人の話とは思えませんねぇ」

ちひろの表情がさらに挑発を進める。

しかし、挑発に乗るわけにはいかない。

彼女には凛に余計なことを喋った前科があるのだ。

P「全く勘弁してくださいよ…」

P「私は出てくるので、
お願いしますね。それ」

しかし、勝てない相手には喧嘩は仕掛けない。

逃げるが勝ちである。

ちひろ「はいはい。
任されましたー。
今度からは気を付けてくださいねー」

気怠げに手を降るちひろをおいて、オフィスを後にする。

奏に書かせた入寮届けを彼女に渡したので、これから彼女はそれに関する書類に追われるのだろう。

今まで、昼食後の休憩時間に至福の珈琲タイムを削ってまで彼女に付き合ったのは、今朝に渡せばいいものを昼食直前に彼女のデスクに紛れ込ませようとしたのを見つかったからであった。

“ 金は時なり ”を地で行く彼女をその二つでは特に怒らせてはいけない。

P「はぁ…。ん、気合いれていこうかーっ、と」

肩を回しながら声に出して、気合を入れ直す。

今日は久し振りの力仕事なのである。




P「やっぱ、女の子だから服が多めだったなー。
俺なんてあれの半分もいかないで済むんじゃないかな」

午後五時前。

場所は寮の一回ラウンジ。

寮の奏の部屋に荷物を運び入れた後である。

引っ越し要員として特別に寮内に入ることを許されたのは、あくまで引っ越しのためだけ。

終わった後の俺が入れる限界である。

奏「そう…?
色々な自分を見るのは楽しいもの。
__さんも、今からでも始めてみない?
スーツが似合うんだから、
カジュアルも似合うと思うの」

P「まぁ、肩幅は広めだし身長はある方だからな、でもスーツだけだよ」

奏「確かに私も見上げるってのはあまりないものね。どれくらいあるの?」

P「ん、今年の始めにあった健康診断では187cmだったかな。
小さい頃からもやしって云われてたよ」

奏「ふふっ…、もやし…?
肩幅もスーツが似合うくらいには広いし、筋肉もあるじゃない?」

奏の荷物を運び込んだ際に、
俺も見られていたらしい。

流石にジャケットを脱がなければ、荷運びはできない。

P「そうか?
中学校はサッカー部だったし、高校もフットサルしかやってなかったからな。
上半身には自信がないんだが」

おそらく、大学生から始めたトレーニングの成果だろう。

趣味が読書という趣味かどうかわからないものしかない自分の生活に、メリハリをつけるために始めたそれは今では日課となっている。

P「奏はどうなんだ?部活とか。
…ん、やはり不味いな。
ここの珈琲は」

中途半端な酸味と苦味が混在するカップを下ろす。

それがソーサーと触れて、小さな音を立てる。

味の弱さは精神状態に直結する。

これは中々の不味さである。

奏「何もやったこと、ないわ。
興味が湧かなかったから」

奏「でも、なにがやっていればよかったかもしれない。
昨日は見苦しいものを見せちゃったし」

奏は昨日の基礎テストのことを云っているのだろう。

確かにダンステスト終盤は息も絶え絶えといった様子で、次のヴォーカルテストまで休憩を入れた程である。

そP「うでもないさ。
筋肉ばかりつけては奏の良さが失われるからな。
…まぁ、これからインナーマッスルは鍛えてもらうことになるが」

奏「そう…。考えてみれば私のこと、__さんに全部知られちゃったのね」

鼓動が不規則な動きをする。

あれから、あの部屋での出来事のようなことにはならないが、今日に入ってからも何度かドキリとさせられている。

いい加減慣れねばならないだろう。

P「いや、奏の一番大事なものは知らないさ。わかるものでもない」

奏「…知りたい?…私の一番大事なところ」

口にしてから気付いたが、
自分も随分と際どい物言いをしていた。

案の定、奏もそれに乗る。

P「…そういう意味じゃない。
数字や言葉ではわからない雰囲気とかを知らないと、奏を知ったことにはならないってことだよ」

奏「もう…、__さんはそれも知っているのじゃない?」

奏は暗に喫茶店でのことや、昨日のことを云っているのだ。

P「ん…?
奏の底はあの程度なのか?」

完全に呑まれていたことを棚に上げて、あえて挑発する。

これから自分があれに耐えられるように。

そして、彼女も俺以上に成長してもらわなければならない。

奏「そう…。ええ…。そうね。
私もまだまだ、ね…」

彼女もなにが思うところがあるらしい。

P「あー…、奏がよければこれからのことを説明したいんだが」

人心地ついたところで、
仕事の話である。

引っ越しだけで貴重な時間を空費するわけにはいかない。

奏「ええ…。勿論構わない。
お願いします」

P「あぁ。
まず基本方針として長所を伸ばす、スタンダードにいくつもりだ」

奏「歌、…ね?」

P「そうだ。
昨日聴いていたが、綺麗な声だ。これを生かさない手はない」

声質がいいからなのか、それがいかんなく発揮されている。

P「表現力はさらに驚嘆すべきものだが…。これは、液晶越しの場合や、ステージ規模での効果的なやり方を覚えるだけでいい」

P「今奏が持つものが至高だと判断した」

奏「そう…、ありがと。
でも、その“ だけ ”っていうのが簡単だとは思えないんだけど…?」

P「そこらへんは、俺とトレーナーがサポートする。奏のおかげで毎日その機会があるからな。そこは安心してほしい」

自宅ではなく寮を拠点にしてくれることは、やはり大きい。

奏「わかった。…お願いね…?」

P「あぁ、任されよう。
…それとデビューの時期だが、なにごともなければ、来年の四月ごろにしたい。
なにか、あるか?」

奏「んー…。まずは理由をお願い。
それをきかないことには」

P「うん。今が八月だな?
今からデビューまでレッスン漬けになってもらうが、それと同時に奏には勉強にも力を入れてもらいたいんだ」

奏「それは、いいけれど…。
どうして…?」

P「順を追って説明しよう。
奏には歌という大きな武器があるな?今でも十分に並以上の知識はあるが、できればそれよりもさらに上を目指してほしいんだ」

P「そのための理由なんだが…三つある。
まず第一にだが、これは奏自身のことを考えた結果だ。
純粋に大学という世界を経験してみてほしい。これは必ずアイドル活動の役に立つ筈だ」

P「第二に奏のイメージのため。
個人的には悪いとはいわないが、ただでさえこんな世界だ。アイドルなんて所詮は、高卒程度の見掛けしか能のない集まりなんだろう?という見方をされる」

P「ある程度は仕方のないことだが、俺は奏がそんな見方をされるのは許せない」

奏「それって、__さんの希望…?
それとも純粋に戦略的な話?」

またも、何度目かの試すような、俺の底を推し量るような目。

この奏は強く惹かれると同時に、少し苦手だ。

時に恐怖すら覚える。

P「…両方同じくらい…。と、云いたいが殆どは俺の希望だ。理想を押し付けるようで済まない」

勿論イメージ戦略の一環ではあるが、アイドルの学歴は大した価値を持たない。

それは、過去の学歴を引っさげて消えていった者たちを鑑みればよくわかる

奏「いいえ…。ついていくと決めたのだから、構わない。…続けて」

P「あぁ、これが最大の理由だが…。
英語…得意だろう?」

名門女子校に通っているのだから、当然平均以上の学力ではあるのだろうが彼女の英語は目を見張る部分があった。

奏「まぁ…。そうね、発音には少しだけ自信があるわね…」

P「そうだろう?昨日は驚いたよ」

昨日の午後に行われた基礎テスト。

これは本来どこが短所であるかを見極める場なのだが、彼女の場合はそうはならなかった。

勿論、ダンスなどの課題は見つかったが、それらの印象を相殺し霞ませてしまう程の出来事があったのである。

それは、なんでも好きな歌を歌ってみてください、と云われたテスト終盤のこと。

彼女が選んだ曲はなんと、

Amazing Grace。

日本では本田美奈子がカヴァーしたことで知られる、元が賛美歌の名曲である。

歌い始めから歌い終わりまで、終始有り余る程の情感を込めて歌われたそれは、まさに天上の調べといっても過言ではなかった。

トレーナーですら絶句させたのだから、さもありなんである。

P「あれのこと自体にについては昨日云いすぎたから、まぁいいんだが…。発音がかなりネイティブらしくてな。これは、かなり武器になると思ったんだ」

日本国内の楽曲には全篇英語であるようなものはかなり少ない。

リリースしたとしても、残念ながら意味を解する人間自体が少ないのもそれに拍車を掛けている。

しかし、奏程の歌唱力とネイティブに近い発音を持てばどうなるか。

その価値をわかる者は、正しく評価してくれるだろう。

加えて言葉は悪いが、
流されやすい日本人ならば奏のつくる雰囲気に乗ってくれる可能性が高い。

P「なんか、特別なこととか?」

あれ程の言語レベルならば果たして、英会話教室などでも醸成されるかどうか。

奏「んー…。私、映画鑑賞が趣味なのだけど、ちいさい頃から親の影響で観ていたのが理由なの。
私はそうでもないんだけど、二人とも洋画至上主義で、ね」

奏「しかも、吹き替えも気に入らないみたいだから…。
そのせいでちいさな頃から耳にしていたのが、よかったみたい。
言葉遊びとかも好きだから、文法も自然と身に付いたのかも」

P「凄いな…。英語が一番苦手な自分には羨ましいことだ」

生まれ直して、彼女と同じ境遇にあったとして自分も同じレベルに到る自信はない。

奏「__さんは何が得意?」

P「俺は、歴史だな。
西洋史から東洋史までちょっとした自信がある」

奏「ん。…それで、勉強となんの関係が?」

P「あ、あぁ…。話がずれたな。
大学までの英語力は修めてほしいのと、ネイティブと接する機会を増やしてさらにそれを磨いてほしいんだ」

P「やはり、勉学は大学が一番楽にできる場だからな」

奏「…わかった。でも、それだけ…?
いくらなんでも、レッスンと勉強に忙殺されるためだけじゃあ…つまらないもの」

P「勿論だ。
…実は来年は社の創業15年の節目でな。アニバーサリィ企画が幾つかあるんだが、四月にプロダクションの所属アイドルほぼ全ての楽曲を収録したアルバムを出すんだ」

P「それに合わせてシングルを出して、アニバーサリィのステージでお披露目をする。奏のスタートは華々しくいきたい」

奏「ふぅん…。それってなんだかおかしくない?デビューと同時に曲を出して、アルバムにも載せてもらえるなんて」

P「いや、そんなに珍しいことじゃない…筈だ。それに、斬新さがCGプロの真骨頂だからな」

奏「…それでもーーー」



「私が説明しようか?」

突然、割り込む声。

声のした方に目を向けると、立つのはスーツを着た女性。

また、面倒な相手が来た。

顔には出さないようにしながら、急いで立ち上がる。

P「社長ですか。なにかこちらに御用事でも?」

奏も立ち上がる気配。

社長「いやね?私も年だから身体が硬くなっちゃって。時々こっちにきて若い空気を吸いに来てるのよ」

P「はぁ…。まだまだ社長はお若いですよ」

社長「ありがとう。
ま、そんなことはどうでもいいの。
…貴女が優遇されすぎる理由はねーーー」

P「社長…!」

彼女は何も云わずに、溜息を吐きこちらを一瞥する。

それは有無を云わさぬものだった。

自分にはとても抗えるものではない。

社長「それは、彼がそのアニバーサリィ企画の発案者だからよ」

奏「…は?」

奏が唖然とする。

それもそうだろう。

プロデューサーになって日も浅い俺が、社の一大イベントの中枢にいると、きかされたのだから。

P「…偶々なんだ。
今年の社内コンペで認められてね。それのご褒美として、ある程度の融通を利かせてもらえるんだよ」

社長「そ。でも、それだけじゃないのよ?これにはもっと大きなご褒美があってね。シンデレラガールとかの一部以外は、社内のどのアイドルやタレント問わず担当になれる権利をあげたのよ」

奏「……」

社長「それなのにPったら、スカウトから始めさせてほしいのと、担当を一人だけにする権利が欲しいって直談判しにくるんだもの」

社長「結果として、ウチは優秀な社員を殆ど遊ばせるような形になったわけ」

これは暗に、お前の所為だからな、と云っているようなものである。

嫌味どころか彼女の威圧感と共に放たれたそれは、もはや毒に等しい。

奏「……」

P「……」

社長「はい、話はこれでお仕舞い。
どう?自分の担当が優秀で驚いた?
貴女にも期待してるんだから、精々しっかりやりなさいよ」

何が楽しいのか、社長は好き勝手喋り倒した挙句底意地の悪いような笑いを貼り付けながら去って行く。

その様はまさしく魔女と形容されるに相応しい。

とーーー

奏「わかりました。必ず社長を認めさせます」

それまで、黙っていた奏が突然声をあげた。

社長も予想していなかったようで、振り向いた顔は少しだけ驚きをのぞかせている。

奏「そして…__さんの選択が正しかったことを証明します」

絡み合う、眼差し。

一瞬にも満たないような時間、女二人は何事かを戦わせた。

社長「…そう。やはり…期待しているわ」

そして、女の一方はなにかを得たようで。

それだけを残して豪腕の女傑はその場を去っていった。




P「…あぁ…。とりあえず座ろうか」

嵐のような女が去って俺と奏はしばらく動けなかった。

心臓がやっと仕事を思い出し、頭も少しずつ回転を思い出す。

奏「ええ…。
…凄い人、ね…。
流石に…驚いてしまったわ」

腰をおろした奏が感想を漏らす。

終始主導権を握られていた自分からみれば、その年で真っ向から立ち向かった奏も驚嘆に値するのだが。

P「そうだな…。
…なんの話をしていたんだったか」

できれば、短時間で消耗した心身を休めたかったが、そうもいかない。

時間は待ってくれない。

奏「いえ…、終わりでいいのじゃないかしら。
私は__さんの方針に賛同します」

奏「…あんなことを聞かされれば、ね」

最後に小声で呟いた部分は、
聞こえなかったことにしよう。

余計なことをしてさらにややこしくなっては困る。

P「そうか。これで、俺は事務所に戻る。何か質問とか、ないか?」

奏「いいえ、私もこれからしなければならないことがあるから…。
もし、あればメールかLINEでも…」

P「ああ、それじゃあな」

云って、立ち上がる。

…いや、用事を一つ忘れていた。

P「なぁ…、俺のことはこれからプロデューサーと呼んでくれないか?」

奏「…どうして?」

P「さっきの社長の話でもわかる通り、夢だったんだ。プロデューサーになるのが。その為の努力がコンペでさ。唯一の担当にも呼ばれてみたいじゃないか」

奏「ふふっ…。わかった。
これからは…そうするわ。
案外子供っぽいところ…あるのね」

P「……」

別に怒りを覚えたわけではないが、いいように云われるのも少し癪だ。

少しだけ悪戯していこう。

周りを見回して周囲に誰もいないことを確認する。

P「…奏だけだ」

奏「えっ…?」

耳に口を寄せて囁く。






「俺をプロデューサーと呼ぶのは奏だけだよ」




すぐさま、顔を話す。

云った本人が顔の熱さを相当感じる。

そして、逃げるように去る。

奏は虚を突かれたような表情で固まっている。

このまま去ってしまわなければ。

エントランスの自動ドアが、
閉まる間際ーーー

白い肌に薄く朱を差した少女が、未だにフリーズしたままでいることを確認する。

どうやら何か吹っ切った代償に得た諸刃の剣で、一矢報いることができたようだった。

彼女にプロデューサーと呼ばれるのは、どうやら明日までおあずけらしい。

今日はここまで

いつになったらはやみーは、
アイドルになるのか

そして、地の文は最初だけと書いたのを念頭に、極力減らしたつもりでも、あまりそんな感じはしないという…

明日はおそらく来れません
明後日お願いします

期待に応えられるように努力します

今日も少しずつ




eP「頼む。
親戚に不幸があってな。
明日、明後日は有給をとっちまったんだ。
あいつらを任せられるのは、お前しかいないんだよ」

P「いや、別にそれは私じゃなくてもいいでしょう、先輩。
凛たちは聡い子たちです。
この機会に見習いたちの誰かを同行させて、経験を積ませては?」

eP「それも考えないではないんだがな。
あのライヴは俺とお前が詰めたやつだし、お前が一番わかるはずなんだ。
お前がプロデューサーに昇格してからついた見習いもいるが、あいつにはまだ任せらんないよ」

eP「ましてや適任がいるんだからな」

P「しかし…」

eP「もう、いいからやってくれよ。
お前が突然昇格しちまったから、
あいつらともしっかり話してないだろう?」

eP「曲がりなりにも一年近く一緒にいたんだから、さ。
最後に一回ぐらいいいじゃないか」

P「…わかりました。
明日のライヴ、引き受けましょう。
その代わり、高くつきますよ…?

eP「さんきゅ。
ま、考えとくよ。
じゃあ、俺飛行機だから」

P「……」

通話の終了したスマホを乱暴にスーツのポケットに入れ、自分はベッドに寝転ぶ。

クリーニングから引き取ったばかりのスーツが歪んだ。

固く瞑った瞼の裏に様々なことが浮かんでは消える。

共に歩み出した少女のこと。

静かに自分を睨みつけた別の少女のこと。

そして、明日のライヴのこと。

些細なことに動揺する自分に腹が立つ。

鏡を見たわけではないが、十中八九間違いなく情けない顔をしているはずだ。

P「くそッ…」

しかし…、とこれからのことをシミュレートする。

なにか致命的な問題が発生したわけではない。

明日を滞りなく、過ごせばなにも問題はない。

仕事なのだから、嫌だ、などと私情で選り好みをするわけにはいかないのだ。

強引に迷いを振り払い、思考を切り替える。

今日は平常業務も目処がついている。

明日のライヴ案も立案から、会場の下見なども自分が務めたため、障害はない。

奏のレッスンにも途中から参加する時間は十分にある。

ならばやるべきことは決まっている。

些細な不安要素など気にせずに、当初の予定通り動くべきなのだ。

精々ePが帰ってきた時に文句くらいは云ってやろうと思い立ち上がる。

早朝から電話で動揺させられたことも、今だけは強制的に脳内で消化。

楽しいことを考えて、
それらに上書きを試みるを

奏のこと。

将来的にはカヴァーアルバムを出すのもいいし、作詞もさせてみたい。

確か実家から従兄妹が上京してくるという話もある。

なかなか面倒なやつだが、
どんな成長をしているだろうか。

自分が上京してから会っていないので、自分の持つ記憶の彼女は少し幼い。

明後日の日曜は久々のオフでもある。
しかも、平日以外での。

お気に入りの本を読み直そうか、などと考える。

十角館がいいか、
それともロング・グッドバイか。

P「…よし」

少しだけ気分が上向く

家を出て鍵を締め見上げた空は、
広々としてあおい。

その色は、
ある少女の存在を思い出させた。




時間は午後六時を回ったところ。

場所は第五フロアの隅にある、磨りガラスで区切られた応接スペース。

新進気鋭のユニット、ニュージェネレーションとの打ち合わせの場である。

P「っと。こんな感じですね。
この会場では一度経験があるので、設備などにも不安はないでしょう。
二年目の加速にはもってこいのステージです。
私も期待していますよ」

難しい演出などのない、
スタンダードなライヴなのでミーティングも一通りの流れを説明して終わりだ。

タイムテーブルにも十分な余裕を持たせてある。

「なんか、アドバイスとかないの__さん?それとも、私たちならかるーくやれちゃうって?」

P「そうですね…。
強いてあげるならば、
皆さんの前に出る新人さんたちに、気をつかってください」

P「パフォーマンスに関しては、
特にありません。
本田さんが油断しなければ、
大丈夫でしょう」

「はーい。
明日も__さんがくるんだよね?」

P「ええ。
ePさんの代打ですがね」

先程から俺の説明にツッコミをいれたりと、静まる気配を微塵も見せない少女の名は本田未央。

向かって左隣に座る島村卯月や、反対側の凛が感じたことをよく読み取り代弁する実質的な、ユニットのリーダー的存在である。

平時のリーダーが彼女で、パフォーマンスを主導するのが凛。

本来のリーダーである卯月は二歳年上ゆえの落ち着きからか、しめるところはしめるが普段は少し離れたところから二人を見守っているような節がある。

現に今も相槌を打つ以外は、
喋るのを未央に任せてニコニコと聞き役に徹している。

卯月「身内の不幸ときいたんですけど、
いつまでかかるものなんでしょう?」

卯月がほぼ初めて口を開く。

凡その段取りが決まり、
空気がリラックスしたものに変わったのを感じ取ったのだろう。

それを区切りに他二人の雰囲気も心なしか柔らかいものとなっている。

P「明後日の午後には帰ってくるそうです。あまり、離れていると不安なやつがいるんだ、とおっしゃっていました」

未央「えー?それって誰だろうね?
ね、しまむー」

卯月「え、うん、そうだね…」

凛「…未央のことでしょ」

とぼける未央、困惑する卯月を横目に凛が呟く。

未央「なにをー?
しぶりんのことかもしれないじゃーん。
ね、__さん?」

P「いえ、私も本田さんのこととしか考えられませんね」

未央「えー。そっかなー。
しぶりんも時々意味わかんないこと云ったりするじゃんかー」

それから三人は、お互いに誰がePの不安要素なのかを話し合い始めた。

三人が集まれば大抵は見ることのできる定番の図であった。

未央が中心となり的確に、時々黒い指摘をする卯月。

二人のどちらにも組みせず、ニュートラルな凛。

ユニットの仲が良好なのは、
一概には云えないが概ねよいことであろう。

三人寄れば文殊の知恵、
とは違うようでこんな感じもする。

心地よいハーモニーを弾き出すことが、
よい結果となるのならばあながち間違いではないだろう。

ちひろ「__さんも、みんなもお疲れ様です。
__さん、このドリンクどうです?」

弛緩した雰囲気を察したのか、
ちひろがスペースに入ってくる。

ドリンクとは珈琲を淹れようとした時に渡された、彼女の自作ドリンクのことである。

P「あまり、美味しいものとは云えませんね。
貰えるならば嬉しいですが、
好んで飲みたくなるものではありません」

正直な感想を漏らす。

ちひろが怖くないわけではないが、
あまり飲みたくない類のものではなかった。

味が悪いのにもかかわらず、
なにか異常な中毒性を持つような雰囲気を纏っているのも恐ろしい。

たとえば、
サルミアッキ中毒になった人がいれば誰もが同情するだろう。

不味い上に、
あまり安くない。

ちひろ「うーん…。そうですか。
でも、飲めるなら…。
これで、効果が実証されれば無問題なんですが…」

なにやら真剣な顔で呟き始めるちひろ。

訊きたいことはあるが、触れずにおくことにした。

この状態の千川ちひろに不用意に話し掛けてはならない。

そして、絶対に無問題ではない。


P「まぁ、程々にお願いしますね。
…私はこれから別件があるので、これで失礼します。
皆さんも今日は早めに休んで明日に備えてください」

軽く頭を下げて場を後にする。

その際なるべく凛の方は、
見ないようにした。

今日は人の多いスペースだったためか、未央たちがいたからなのか、なんらかのアクションを起こす気はないようだったが、あまり油断するのもよくない。

時折鋭い視線を感じたのも、自分の勘違いではないはずだ。

自意識過剰であれば、それに越したことはないのだが。

兎も角、第一段階はクリア。

後は、明日のライヴを乗り切ってしまえば、終わる。

タイムテーブルに余裕があるといっても、ライヴというものはリハから終了まで大した時間的余裕がない。

余った時間は休憩や、
演者の確認作業などに当てられる。

今回は前座にCGプロの後輩が出ることもあるし、応援という名目で逃げることもできるはずだ。

つまり、撤収後の送迎までは警戒を下げても大丈夫ということだ。




ネックは送迎が俺の運転だということだけである。




P「どうだ?まだレッスンが始まって六日目だが、怪我とかはないか?」

十九時前のレッスンルーム。

柔軟やダンスといった、ハードなレッスンを重点的に行った後のことである。

丁度この日の、
レッスンが一段落し、
束の間の休憩が入ったところだ。

担当が奏のみなので、比較的余裕があり今週の月曜から始まったレッスンは途中からではあるものの、毎日様子を見ることにしていた。

この後に始まるヴォーカルレッスンが、
密かな楽しみのつもりである。

顔に出ているらしく、
奏には毎日聴いても変わらないのに、
と笑われたが。

P「ええ…。なか、なか…ハードだけど…怪我は、ない、わ」

今のところはね、と奏。

奏は相変わらずの様子だった。

つまり、体力が追いついていないのだ。

ストレッチも終盤の今も、
息も絶え絶えで声を発するのにも、苦労している。

しかし、苦しそうな奏も悪くないと思う。無論秘密ではあるが。

P「柔軟はしっかりしておけよ?怪我にメリットはないからな」

奏「ええ…。私も怪我はしたくないし。
だから…プロデューサーさん、
背中を押して…?」

P「いや…できれば、だな…。
トレーナーさーん。
手を貸していただけませんか?」

近くにいたトレーナーに声をかける。

ダンス用の音源をヴォーカル用のものに変えているらしい。

ラジオの調子がよくないようで、コンセントの刺さりを確認したり電源を入れ直したりしている。

トレ「__さんお願いしまーす。
ちょっと手が離せないですー」

トレーナーはこちらを見もせずに答えてくる。

まったく無責任な話だった。

奏の服装はかなり薄い。

先程まで激しい動きをしていたのだから、当然なのだが。

白のショートパンツに、黒地に白のワンポイントが入ったTシャツ。

ワンポイントはおそらく、
世界で一番有名なネズミである。

タオルで拭いはしたものの、
効率的なメニューであることと、水分補給後であるため汗も相当量滲んでいる。

身体に張り付いたTシャツというのは、
自分には、否男性には抗い難いなにかがあるのだ。

できうるならば、
このような場合にはあまり近付きたくない。

奏「プロデューサーさん…?」

奏がこちらをまっすぐ見つめる。

額に張り付いた髪をはらう姿は、また奏の新たな面を見せられたようで、俺をざわつかせた。

P「…ああ、わかったよ。
ほら、なにをすればいいんだ?」

ため息をついて、奏の後ろに回る。

この場合は素直に従う方がいい。

逆らえばどのように返ってくるかわかったものではないのだから。

奏「ん…。カウントは私がするから、抑えてくれればいいわ。お願いね…。」

云われた通りに彼女の背後に回り、極力指に感覚をいかせないようにして背中に触れる。

ぐっしょりと濡れたTシャツは、予想通り自分の中に波を立てた。

その波紋を力尽くで抑え込む。

理性とそれの鬩ぎ合いは、
辛くも理性の勝利に終わったようだ。

P「なぁ…女の子なら汗をかいた時とかは触れられたりしたくないもんじゃないのか?」

少しでも他に意識を向けようと、奏に話しかける。

しかし、あまり話題は離れていかない。

奏「まぁ…そうね。
あくまで、仕事の延長線上のことと考えているのもあるし…。
この場合は…、プロデューサーさんだからってこと」

奏「それとも、
プロデューサーさんが嫌だった…?」

P「いや、そういうわけじゃあないが…」

奏「なら、いいじゃない…?
私だって誰にでも許すわけじゃないのよ…。
それに、私は自分を知っているつもりだもの」

そう云った奏は身振りで次の動きに移行することを示す。

次は開脚した状態から左右と前方に身体を傾けるらしい。

俺も奏が前に移動してしまった分少しだけ前に移動して、距離を詰める。

P「自覚のない美しさはない、と?」

奏「ええ…。
嫌味のつもりじゃなく、
厳然たる事実として、ね」

奏「…嫌な話になるけれど、
プロデューサーさんの位置に変わりたいという人はいくらでもいるはずよ…」

その言葉のせいで、自分のしていることを思い出す。

P「…そうだな…」

奏の動きに合わせて身体を前傾姿勢から、右側へ。

彼女の云うことは、正しい。

女の子ならばなおのことだが、
一日の内に鏡を見ぬ者は少ない。

加えて、日常生活を営む上で他者との交流は欠かせないものである。

そうすれば、
必然的に自らを基本とした美意識を持つため、奏のような美少女が自分の美しさに自覚を持たないということはありえない。

つまり彼女が云いたいのはーーー

奏「わかるでしょう…?
私は…、プロデューサーさんをこの短期間で珍しい程に信頼している。
それは、私自身が驚く程に。
でなければ…こんなこと頼みはしないわ…」

自分を理解しろ、と。

そして、自分がどう見られているかも。

左側への傾きが終わる。

奏「これで…終わり。
ありがとう、プロデューサーさん」

云って、彼女が立ち上がる。

奏「それじゃあ、着替えてくるけれど…。時間は大丈夫…?」

トレ「ええ、大丈夫ですよ」

トレーナーもいつの間にか悪戦苦闘の末に勝利し、ファイルから取り出した資料に何事か書き込んでいる。

奏「それと…」

P「ん?」

立ち膝状態の俺に奏が腰を屈めて近付く。

汗の他に奏から発せられる、匂いが鼻腔を擽る。






奏「理屈だけじゃなく…。
ドキドキ…しなかった?」




P「……」

答えられない俺を残して、
奏が更衣室に向かう。

去り際の彼女のクスクス笑いは実に蠱惑的であった。

まったくもって油断がならない。

P「自分を知れ、か」

おそらく、彼女に他意はないだろう。

しかし俺にはまったく別のことが、頭について離れない。

それは、瞼の裏に焼き付いた蒼の少女のこと。

彼女が見る俺をしっかり考えたことがあるだろうか。

客観視を心掛けずに、一方的な決めつけを行ってはいまいか。

他の人間を巻き込んでまで、わざわざ事務的な話し方に変えた理由。

極力鉢合わせないように、奏のレッスン時間や場所を彼女とは近くにしないようにしている理由。

そして、そもそも彼女を担当しなかった理由の大きな一つ。

全てが一つに集約される。

それらを振り払うように、頭を強く振る。

考えたはずだ。

むしろ、考えすぎる程に考えた。

俺の判断はーーー

P「間違って、いない」

今日はここまで

もはや意味のないことでしたが、
地の文は最初だけ、というのは嘘です
ごめんなさい

明日も期待に応えられるようにしたいと思います
ありがとうございました

> あまり飲みたくない類のものではなかった。

ちひろ「つまり、飲みたいんですね!」

話がくどいな

>>135
いや、飲みたくないんです
こっちを飲んでくるようなドリンクはちょっと…
正しくは、
あまり飲みたくなる類の~
でした
すみません

>>136
なるべく地の文がなくてもわかるように努力していきます

今日も少しずつ

P「はい。ありがとうございました。
今後ともCGプロ、ニュージェネレーションをよろしくお願いします」

頭を下げて場をあとにする。

土曜日の夜。
ニュージェネレーションのライヴ終了後のことである。

統括を務めたePの代わりに、下見や会場側との折衝は自分が行っていたので代理は恙無く遂行することができた。

ニュージェネレーションの評判はここや、他の幾つかの会場でも上々。

それを保つ為の挨拶が終わったところだった。

管轄外の仕事に従事させられた迷惑料というわけではないが、奏デビュー後の為にそれとなく存在を匂わせることもできたので、自分の個人的目的も果たした。

元々この会場のスタッフとの繋がりがあるのは、ePよりもむしろ自分であるのでスムーズではあったが。

流れの早い業界のこと。パイプは多く、さらに太いに越したことはない。

ましてや奏はある種の神秘性を前面に押し出す形になる。

ゆえに普通の新人よりは華々しいデビューを目指す戦略である。

その後に場末の会場を回り続けるようでは締まるまい。

この中規模会場は一つの候補にしておきたいのだ。

ー、ー、ー、


目的地に着き、ノックをする。

ニュージェネレーション三人の控え室である。

前座のアイドルたちは別の部屋であったし、既に担当プロデューサーが連れ帰っているため関係者は自分を含め四人だけである。

卯月「大丈夫ですよー」

卯月の声が応えを返す。

未央「__さーん。おっそいよー。
新人さんたちも大分前に帰っちゃったし。まっちくったびーれたー」

P「ああ、済みません。先方と話が弾んでしまいましてね」

思い思いに寛ぐ三人を眺める。

ファッション雑誌を眺めていた未央。

スマホを操作しつつ、未央の隣にいる卯月。

おそらくファッション雑誌に時々コメントをつけたりしていたのだろう。

二人が座るソファの向かいにあるソファに座る凛。

三人とも未央が云う程待ち疲れたようには見えない。

彼女の発言もポーズか。

P「それでは、出ましょうか。
忘れ物に注意してくださいね」

これから、彼女らの送迎である。

できうることならば、新人たちの担当に任せたかったが生憎このあとはちょっとした打ち上げがあるらしい。

今日がデビューだったんだとか。

自分も凛たちのデビュー時は、ePたちと祝ったものである。

未央「ありがとうございましたー。
しぶりん、まったねー」

凛「うん。またね」

卯月「ばいばい、凛ちゃん。
__さんもお疲れ様でした」

P「お疲れ様でした。ゆっくりお休みください」

最寄駅の前で卯月と未央を降ろす。明日が日曜なので未央が卯月の家に泊まるらしい。

P「渋谷さんは泊まらないんですか?」

相手のペースに持ち込まれないように、アクセルを踏むと同時に先手を打つ。

沈黙するよりは自分の様子を相手に知られないはずである。

凛「うん。前回は私が泊まったから。
あの二人だけの日があった方がいいと思って」

P「そうですか。女の子…というか若者のことはよくわかりません。
自分が渋谷さんくらいのときは、集まるときには集まって大勢で騒いだものでしたが」

凛「__さんもまだ若いでしょ。
十歳差じゃん」

P「しかし、二十五歳です。その差は厳然たるものですよ。
貴女の年で思うよりも差は大きいものです」

凛「…__さんはセンスも近いじゃん。
話もそんなにずれたりしないし。
プロデューサーとかは結構わかんない話とかしてるよ」

P「ePさんは三十代ですからね。
私もわからないときはありますが…」

P「私は統括を務めるわけではありませんからね。若者の関心事に疎くては、業務ができません」

凛「…それはプロデューサーもじゃん」

小さく呟いたそれは聞かなかったことにする。

運転に集中していたと云えば、後部座席にいる者にも不自然には思われまい。

正直に云えば思うことがないではなかったが、あまり突っ込んだ話をしてやぶ蛇にはなりたくない。

P「ん…。渋谷さんは自宅でいいですか?」

先手をさらに読み、話題を変えていく。

同じ話を続けると相手に思考と振り返りの隙を与えてしまうことは種々の営業などで学んだことである。

凛「ごめん、事務所と寮に寄って。
忘れ物しちゃったから」

P「…事務所はわかりましたが…。
寮になにか?」

凛「かな子がケーキつくりたいんだけど、事務所に料理本忘れちゃったんだって。
さっきLINEきたんだ。
私も丁度事務所行きたかったから、ついで」

P「…まさか今夜つくって食べるわけではありませんよね?」

凛「さぁ…?かな子だから」

P「……」

あの少女は、またトレーニングで血反吐を吐きたいのか。

彼女の担当には頭が下がる。

一時期は本当に危ないラインだった。

凛「まぁ、大丈夫なんじゃない?
かな子も最近は抑えてるみたいだし」

しかし、俺はとある出来事を思い出さずにはいられなかった。

かな子『__さん、それ食べないんなら食べてもいいですか?』

過去にあった、
事務所主催の立食パーティでのことである。

数カ所のテーブルにケーキが配られた後に、珈琲で口内を調節しつつ確保していたケーキを食べようとしたときのこと。

テーブルごとに違うものが配置されたらしく、俺がいたテーブルのものを食せばコンプリートだったらしい。

あの熱意には圧されたものであった。

今でもケーキを見れば彼女を思い出す程に、それは俺にとって衝撃的な出来事である。

人間、戦慄を覚えたときのことは、鮮明に記憶していることが多い。

しかも、この話には後日談があるのだ。

どうやら俺が譲ったケーキが大層気に入ったらしい。

もう一度食べたいと思った彼女は、何度も試行錯誤を繰り返して、ついに納得のいくものを作り出した。

それを、事務所の俺にもってきたのである。

かな子『あのときはありがとうございました!__さんのおかげで新しい分野の開拓ができたんで、これはそのお礼です!』

なんと渡されたのはワンホール。

呆れる千川ちひろと二人で二切れずつ食べたが、残りを全て食べ彼女の担当に引きずられていった光景に再度呆れたものである。

P「…あぁ、切に願いますね。
彼女自身の為にも。
…着きました。早目に戻ってきてくださいね。私はここにいますので」

駐車場ではなく、ビル正面の路肩に駐める。

交通量の少ないこの時間なら短時間は問題ないだろう。




走って事務所内に消える凛の背中を眺める。

仕掛けてくるならば、この後だろうか。

何事もないことを祈らずにはいられなかった。

凛「お待たせ。あ、こっち座るね」

数分でA4サイズ程の本を抱えた凛が戻ってくる。


ーこれであなたも大満足?
~甘いもの好きの聖地より~


思わず顔が引き攣った。
できればこの時間にそんなものは見たくない。

色取り取りのスウィーツがプリントされた表紙を見るだけで胃がもたれそうだった。

P「…渋谷さん後ろに戻ってください。アイドルを助手席に座らせるわけにはいきません」

車内において最も危険なのが助手席であることは半ば常識である。

一番安全なのが運転席で、次がその後ろ。

これは一般に危険に気付く可能性が高いからとされている。

凛「こっから寮なんてすぐじゃん。
それより、こんなとこに駐まったままの方が危ないよ」

P「…仕方ありませんね。
寮からは戻ってくださいよ?」

凛「……」

それには答えず、凛はこちらをまっすぐに見つめて発車を促す。

俺はその強い瞳に耐えられずに、たまらず目を逸らした。

P「…しかし…。本当に三村さん大丈夫ですよね?」

凛「…私も自信なくなってきた。
さすがにこれは、ね。
一応、これ渡すときに云っておくよ」

P「ええ、頼みますよ」

寮はすぐそこである。

ならば、なるべく安全に最速で到着させるしかない。



寮に着くまでの数分は、かな子のエピソードで盛り上がった。

またしても彼女が恐ろしくなる。

一体彼女は何者なのか。

珈琲を大体はブラックで飲む自分には到底理解できそうになかった。





凛「かな子に云ってきたよ。
ケーキつくるなら明日にしなよ、って」

寮の一階ラウンジで待つ俺のもとに凛が帰ってくる。

この時間に寮生以外が寮に入る場合には、理由を説明する者がいた方がスムーズなため車から出てきたのだ。

P「……」

明日にするのは重畳だが、当初は今夜につくるつもりだったと聞こえた。

その場合でも食べるのは明日になっていたと信じたい。

「あら…?プロデューサーさん…?」

凛を伴って寮を出ようとしたところ、後ろから声がかかる。

と、同時に辛うじて舌打ちを押しとどめる。

P「…ああ…。速水さんこんばんは。
こんな時間にどこへ?」

奏「ちょっと、コンビニへ…ね。
そちらは…?渋谷凛さん…?」

凛が隣にいるので、敬語で話す。

目と口の動きでなんとか奏に合わせるよう頼む。

いくら自分の選択の結果とはいえ、この邂逅はあんまりといえばあんまりである。

それとは別に奏は凛のことを知っているらしい。

深夜の短い時間とはいえ地上波に出ている歴としたアイドルなのだから、当然といえば当然か。

P「…そうです。
…渋谷さん、こちらは速水奏。現在私が担当している方です」

凛「ふーん。速水さんって年上だよね?私敬語とか苦手なんだけど、大丈夫?」

奏「ええ…。私もあまり得意ではないから。奏でいいわよ」

凛「わかった。…じゃあ、私も凛で」

P「…では、速水さん彼女を送らなければなりませんので」

奏は察してくれたようだが、あまり長居はしない方がいいだろう。

俺が急に敬語となった時期は、彼女を担当し始めてからだというのは誰でも気付く。

凛はいい子だが、軋轢の材料を好んで放置する人間はいない。

奏「そう…。でもプロデューサーさん?一つだけ、質問があるんだけど」

嫌な予感がする。

それも、あの早朝、会議室での出来事と同じ空気の予兆である。

P「…どうしても、今必要ですか?」

奏「ええ…気になって眠れないかも」

P「……」

凛を見やる。

聞いてあげれば?といったご様子であった。

一縷の望みを託したが、どうやら数分なんて気にしないというスタンスらしい。

彼女はそれくらいを許容できないような、狭い人間ではないのだが当たり前である。

今だけは彼女の良さが恨めしい。

凛「……」

P「……」







奏「いつもはタメ口なのに、どうして今は敬語なの…?私と貴方の仲じゃない」





P「……」

凛「……」

奏「……?」

奏がわざとらしく首を傾げた。

あざとさが可愛く見えるというのも才能だな、などと場違いなことを考えて現実逃避を試みる。

無言の懇願に理解を示した彼女はどこにいったのか。

あれは絶対に面白がっている表情だ。

『私と貴方の仲』


『私と貴方の仲』


『私と貴方の仲』

同じフレーズが頭を駆け巡る。

いっそ、ここから消えてなくなってしまいたい。

初めに口を開いたのは凛だった。

凛「…どういうこと?」

質量を伴うかのような言葉が背中を打つ。

そして、思わず振り向いた後にさらに後悔。

視線の重さは言葉の比ではなかった。

P「…ええと…」

助けを求めて奏を見る。

奏「……?」

首を傾げる彼女はの口元は綻んでいるが、瞳は助けてくれそうではない。

どうやら助ける気はないらしい。

再度、凛の方を向く。

すぐさま奏の方へ視線が逃げる。

もう一度、凛の方へ。

凛「……」

重みは減るどころかむしろ増えた。

奏「……」

藁にもすがる気分で、凛の方へ。

当然ながら変化はない。

仕方が無い、諦めるより道はないようだった。

P「…わかったよ。
もう、凛には敬語使わないから。
睨まないでくれ…」

とーーー

奏「よかったわね、凛」

凛「うんん。奏のおかげだよ

P「……?」

今度は自分が首を傾げる番である。状況が読み込めない。

奏「うふふっ…プロデューサーさん…。
私たちの演技どうだった…?」

凛の方を向くと、笑いを堪えている。

先程までの重圧が嘘のようだ。

朧げにわかりかけた状況が、ようやく正確な姿を見せる。

つまり彼女らに一杯食わされたのだ。

凛「__さん。かな子と奏の部屋って隣なんだよ」

奏「まぁ…、凛とは水曜日にレッスン場で知り合ったんだけど…」

ようはこういうことだろう。

奏と凛はそもそも面識があった。

話しているうちに奏は、俺が彼女だけに敬語を使わないことに気付く。

考えてみれば、先日のレッスン場での出来事は不自然ではあった。

いくら衒学的な雰囲気を持つ奏でも、いきなり自分を理解しろ、などと哲学的なことは云わない。

あの時は、自分でも迷いがあり流されたが、やはりあれは凛のことを念頭に云われたことだったのだ。

後は適当に理由をつくりこの三人が集まる状態をつくりだす。

凛はかな子の部屋で用事を済ませた後に、隣の部屋にいる奏にこの計画を話す。

あの様子では奏も快く承諾したに違いない。

かな子のことは渡りに船だったのだろう。

もしかすると凛が助手席に座ってきたのも、俺にミスディレクションを起こさせるためだったのかもしれない。

二人きりでの場合を想定していた自分は、確かにこのパターンを予想できなかったし、奏と口裏を合わせるのを怠った。

P「まったく…。
二人ともアイドルじゃなくて、女優目指せよ…。凛…。帰るぞ」

凛「待ってってば。謝るから」

意図せず、対応がぶっきらぼうなものになる。

追いかけてくる凛の笑顔がそれと対象的だった。

奏は舌を出して片目を瞑りつつ、
手を胸の前で振っている。

凛「…でも、気持ちは九割くらい本当なんだからね?」

それでも大した女優である。

あの視線は蚊程度なら一睨みで殺せそうな程であったのだから。





ニコニコしっぱなしで上機嫌の凛を自宅前で降ろした時のこと。

凛「__さん?」

P「…なんだ」

凛「女優になった時は、プロデュース。お願いね…?」





なぜ自分の周りの人間は、一癖も二癖もある者ばかりなのか。

今日はここまで

>>1には決してかな子さんを貶めるつもりはありません
むしろできることならケーキを食べさせたい

明日も来ると思うので、
よろしくお願いします

ありがとうございます

今日も少しずつ

ビルや煤けた街路樹の灰色の連なりが目の前を通り過ぎていく。

時々コンビニやラーメン屋などがカラフルに混ざってくる。

ちひろ「__さん、そこですそこ。
そこ曲がったところにあるやつ」

P「ああ、あれですね」

左折してすぐのところにある駐車スペースにナビを務めるちひろの指示で、車を滑り込ませる。

P「はい、ご到着ーっと。
まったく、どうしてこんなことに…」

ちひろ「まぁまぁ…。
たまにはこういうのもいいじゃないですか」

助手席から降りたちひろが云う。

凛「__さんもたまには息抜きが必要でしょ?」

元々休日だったのだから息抜きはできていたはずなのだが。

奏「ふふっ…いいじゃない」

俺が久方ぶりの日曜の休日にもかかわらず、読書もせずさもなくばドライブにも行かずに会社の同僚と遊びにきているのには理由があったーーー






日産GT-RのR35。

日本の技術者、職人と呼ばれる人たちが粋を凝らし心血を注いだ純国産車である。

同社のそれまでのスポーツモデルを象徴する存在であったスカイラインGT-Rの事実上の後継。

今では大分型も古いがまだま根強い人気を誇るマシンだ。

中古だが学生時代と社会人二年目までの貯金を総合して購入した時はしばらく感慨にふけったものである。

最近は仕事続きで欲求不満を彼女にも感じさせてしまっていたのだが。

P「よしっ。調子はまずまず。
俺も上げてくるから少しだけ待っててくれよ」

声を掛けてエレベーターを目指す。

社の地下駐車場なので周囲に人がいれば不審者扱いされたであろうが、俺にとってはそれだけ大切なものである。

ちひろ「あ、__さんじゃないですか。
今日はオフじゃなかったでしたっけ?」

七階の珈琲サーバを目指しているとちひろに出会った。

それは彼女もだと思っていたのだが。

ちひろ「まさか、珈琲中毒が悪化して休日でも出社するなんて…」

ちひろが失礼なことを云う。

俺はケーキやドーナツを偏執的に愛する者たちのように、珈琲に対して餓狼の目は向けない。

これは、ドライブまでの繋ぎであるし、致し方のないことなのだ。

P「違いますよ…。沢山飲めばいいってもんじゃないですからね。
今日は自宅のサーバが壊れたんで、こっちにきたんですよ」

ちひろ「…やっぱり珈琲じゃないですか…」

ちひろは七階から去ろうとしているようだったが、どうやら暇を持て余しているようでサーバがあるスペースまで着いてきた。

ちひろ「それを中毒っていうんじゃないですか…。なるならドリンクとか…」

聞きたくないことは聞こえないようにシャットアウトしてくれる耳は落ちていないものだろうか。

P「…まぁ、いいでしょう…。珈琲好きなのは自覚していますからね。千川さんはどうして?」

ちひろ「ああ…私はですね…。例のドリンクを改良しようかと思いまして…。かな子ちゃんに意見をもらいにきたんですよ」

P「はぁ…。アイドルにあんまりなことはしないでくださいよ?」

ちひろ「当たり前じゃないですか!
むしろ私は皆さんに有用なですね…」

P「…あ、珈琲ができたんで失礼しますね」

ちひろ「もうっ…」



それからは暫くアイドルなどについて情報交換をした。

彼女の視点からみたアイドルたちにも興味があったし、
女性から見た女性アイドルというのも、これからは特に意識していこうと思うのだ。

ちひろ「うわぁ…すっごいですね。
__さんって車好きな人だったんですだ…」

P「まぁ、親が好きだったので。
自分はあんまりわからないんですけどね」

珈琲を飲み終わったので、社を出ることにした。

その際ちひろが帰宅するというので、駅まで送ることを提案したので二人である。

P「千川さんは興味あるんですか?」

ちひろ「いいえ?そんなには」

P「でも、GT-Rってわかったんじゃあ…。じゃないと、あんなこと云えないでしょう」

ましてや女性なら尚更である。

ちひろ「…なんというかお金の匂いがしたもので」

P「……」

P「…まぁ、いいか。どうぞ」

突然真面目な顔になったちひろには突っ込まないようにしてキーをアンロック。

P「…じゃあ、出ますか」

滑らかに滑り出す車体。

速度を出した時のエンジン音や、重低音特有のうねりもいいが、個人的にこういった心地よさもGT-Rの良さだと思う。

地下駐車場のスロープを昇り外に出る。

とーーー

P「うっそだろ…。雨か…」

外は先程までの晴天が嘘であるかのような雨模様。

ちひろ「確か早めの台風が来るって云ってましたけど。
天気予報とか見ないんです?」

P「あぁ…最近忙しかったですからね。
今日もハイになりすぎて集中していなかったのかも」

P「まぁ、雨のドライブもたまにはいいかな。違ったよさがあるし…」

ちひろ「ま、出ましょうか」

頷いてアクセルを踏み込もうとした時。

ー、ー、ー、

ウィンドウを叩く音に気付く。

P「ん?」

その時に傘を差す奏と凛に出会ったのが運の尽きであった。

以上。俺のドライブがいつかに持ち越しとなった顛末である

ちひろも暇らしく着いてきた。

未央「おーい。こっこだよー」

目的のカラオケ前には未央と卯月がいる。

前日に卯月の家に泊まった未央と、奏と凛はカラオケに行く予定だったらしい。

場所が卯月の家の近くなので、寮の奏とそちらに近い凛が合流して駅まで行くところを俺と会ったというわけだ。

奏「いいじゃない…?
アイドルと候補生と…美人なお姉さんと一緒に遊ぶなんて」

P「まぁ、そうかもしれないが…。
…千川さん悶えないでください」

美人に反応したちひろが何やら、面妖な動きをしている。

このままでは不審者と間違われてしまう。

変装はしているもののアイドルが男と遊びにきているだけでも、アウトなのだ。

万が一不審な人物が同行していたとなれば、考えたくもないことになるだろう。

未央「__さんとカラオケって始めてだよねー。どんなもんなの?」

P「そんなに上手くないんじゃねーかな
最近のやつは知ってるだけで歌えないし」

どうしても仕事柄優先的にチェックするのは女性アイドル、ないしは女性アーティストのものになってしまう。

歌わないわけではないが、女性のものばかり歌っても仕方がないだろう。

そうなれば必然的に歌うのは学生時代までのレパートリーに頼らざるをえない。

未央「はやみーもよっろしくー。
今日はちゃんみおはりきってますぞー!」

P「まったく…入るぞ」

とりあえず、入ってしまわねばならない。

時刻は昼が終わり午後の活気が出始める時間帯だ。




開き直って楽しんでしまおう。

明日からはまた仕事に追われる日々なのだから。

今日はここまで

それにしても短い
時間がとれなかったので流れを考えられなかった云々
しかも、地の文をなくそうとすると場面がわからなくなるし、今度は地の文も薄くなるジレンマ

明日はおそらく来れません
明後日お願いします

済みません>>1です
これを進めようとしてるんですけど、
なかなか思うようになりません

自分らしく地の文ばかりになるのか、セリフを増やすよう意識するのか

そこらへん折り合いがついたらまた来ます

もし、見てくださっている人がいたならば本当に申し訳ありません

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom