前スレ(since2012/01/16)
女神「正月過ぎると暇じゃのう」宮司「だからってコタツで昼寝ですか?」 - SSまとめ速報
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前スレ>>969から
宮司「そんなに暇だっていうんなら……ちょっと頼みたいことがあるんですけど」
女神「いやじゃ」
宮司「まだ何も言ってないでしょうが」
女神「どうせろくでもないことじゃろ? 今のわしに何を頼んでも無駄じゃぞ。わしゃこたつから出る気は微塵もないからのう」
宮司「駄目だこりゃ……」
女神「お主はそう言うがな、わしゃ神としての役目はちゃんと果たしとるんじゃぞ? 参拝しに来る奴らには片っ端から御利益を振り撒いとるしさ。お主もそれはわかってくれとんのじゃろ」
宮司「ええ分かってますよ」
女神「なら話は早い。さぼっとるんならともかく、やることやって休憩しとるんじゃから問題ないじゃろ?」
宮司「それはそうなんですが……こんなぐうたらな方のもとで仕えてるだなんて、なんだか情けなくなってきましたよ」
女神「ぐうたらなくらいがちょうどいいんじゃよ。きっちりしっかりやるのも重要じゃが、いつもそれじゃ気疲れしちまうしな」
宮司「いつもしっかりしてて、たまにぐうたらするんならわかりますよ? でも女神様はいつもぐうたら、たまにしっかりじゃないですか……」
女神「たまにしっかりするだけましじゃろ」
宮司「そうですけど……ああ、もう女神様相手に説教してたらきりがない。そろそろ時間ですので私は行きますよ」
女神「時間? なんの?」
宮司「祈祷ですよ! 氏子さん達のお祓いです。くれぐれも邪魔しにはこないでくださいよ? 手伝ってくれるんならいいんですけど」
女神「犬や猫じゃあるまいし……言われんでも邪魔なんかせんわい」
宮司「こっちとしては犬や猫をしつけるのと同じような感覚で言ってるんですけどね……」
女神「そりゃどういうことじゃ。わしの頭が畜生並みって言いたいんか? おい」
宮司「んー……自由奔放ってことですよ。じゃあ私はこれで」
女神「なんでちょっと考えてから言ったんじゃ? ほんとはそう思ってないじゃろ、お主。おい待て、待てったら……ちっ、逃げ足の速い奴じゃ」
女神「はー……うるさいのがいなくなったら急に静かになったのう」
女神「……」
女神「……いかん、眠くなってきおった」
女神「空気が生ぬるいから眠くなるんじゃよな。窓あけよ……うっ、寒っ! やっぱいい! 窓開けんのは無し!」
女神「想像以上に寒かった……こたつに入ってたせいでもあるんじゃろうが、今日は寒いな! 外に出る気が起きなくなってきおった。まあもとから外に出る気なぞなかったが……おや?」
猫「にゃ」
女神「……え? 猫? ……どっから入った?」
猫「……」
女神「もしかしていま窓を開けた時にか? ほんの数秒しか開けてはおらんかったが……」
猫「……」
女神「まあどうやって入ってきたのかはどうでもよい。ここはお主の家ではないぞ。出てかんか」
猫「……」
女神「いや、固まってないで出てかんか……ほら、窓開けてやるから」
猫「……ミャ」
女神「おい、なぜそっぽを向く……そっちじゃない、そっちじゃないって。おい! どこへ行く!」
猫「!!」
女神「うお、今度は急にこっちを向きおったな」
猫「ウゥー」
女神「うなるなよ……猫なら猫らしくニャーンとかミャオーとか鳴かんか」
猫「ウゥ……フギャッ!」
女神「うわっ! なぜ急に走り出す! というかどこへ行く気じゃ貴様! 待て!」
猫「フギュゥゥゥゥ」
女神「うなりながら走るなって! 何が気に食わんのじゃ!」
女神(何? 何なのじゃ? なんでこんなことになっとんのじゃ? いろいろ急すぎてよくわからんぞ!?)
女神「くそー、あやつ逃げ足が速い……少なくとも宮司よりは速い。あんな暴れん坊はほっといたら何をしでかすかわからんぞ。早いとこ外におっぽり出さなくては……どこ行った?」
猫「フギャ!」
女神「わあ!!」
猫「フギュー!!」
女神「あっ……あいつ! 曲がり角でわしが来るのを待ち構えとったな! 足に一撃いれて走り去っていきおった! くそ、ちょっと痛かった……待てぇ!」
猫「ウゥゥゥゥ!」
女神(猫のうなり声ってあんな変な声じゃったのか……あれだけうなりながらよくもまあこれだけ暴れ回れるもんじゃわ。いや、感心しとる場合じゃない! 風呂場のほうへ行ったぞ!)
猫「フギャ……」
女神「ふふん、気づいたようじゃな! そこは行き止まり! お主の逃げ場はどこにもない……観念して捕まれ!」
猫「……」
女神「急に静かになりおったな……そうやってわしをじっと見つめて隙を伺っとるのじゃろう? 逃げようったって無駄じゃぞ。何故ならお主はこやつに惑わされるからじゃ」
猫「……にゃ」
女神「懐から取り出したるは、この大幣! さっき持ってきたのじゃ。これをこうやって……ほい、ほいっと。猫じゃらしの要領で……」
猫「にゃ! フッ!」
女神「おほほ、面白いくらいに釣れるのう! 大幣をこんなことに使ってよいのかはわからんが……まあ神はわしじゃし平気じゃろ。宮司にばれたらぶん殴られそうじゃけど」
猫「フニャ! フッ!」
女神「ふふふ、すっかり夢中じゃのう? そこを……てえい!!」
猫「ギャッ!? ウニャー!!」
女神「捕まえたぁ!! ちょろいもんじゃわ!!」
女神「所詮は獣じゃな! こんな手にまんまとひっかかるとは!」
猫「フギャ! フギャー!」
女神「あっ、ちょっ、こら! 暴れるなって! 大人しくせんか!」
猫「フゥゥゥ!!」
女神「いっ! 痛い痛い痛い痛い!! 頭に登ろうとするなって! いだっ、あだだだだだだだだ!! 腕引っ掻くな!!」
猫「フギャァー!!」
女神「あっ、放しちまった!」
猫「フガッ!」
女神「いでぇぁーっ!! 脚を噛むなぁー!!」
猫「ウギャァッ!!」
女神「くそがっ! 逃げおった! は、派手にやりおって……ちくしょう、ちくしょうが! くそ……髪の毛何本か引っこ抜かれた……」
巫女「め、女神様!? なにやらすごい叫び声がしたので来たのですが……わあ!? 何ですかその腕の傷! 髪も服もぐちゃぐちゃだし、何があったんですか!?」
女神「た、たま子か……なに、大したことではないわ」
巫女「泣きそうな顔して何言ってんですか! ああ、傷から血が……いま救急箱持ってくるんでここでじっとしててくださいね!」
女神「悪いがじっとしとる場合ではないのじゃ……」
巫女「は?」
女神「わしは決着をつけねばならん……もうこれは人の家に土足で上がり込んだというだけの問題ではない。神に歯向かうとどうなるか……それをあやつに教え込んでやらねばならんのじゃよ、フフフ……」
巫女「め、女神様? 何を仰っているのか私には……というか顔が怖いです……」
女神「手加減は無しじゃ。あんちくしょうにキツいお灸を据えてやる……行くぞたま子、天誅の時間じゃ……」
巫女(えっ、えっ……私、何がなんだかわからない……)
猫「にゃー……」
女神「……出てきおったな」
猫「……」
女神「もうわしの出方をうかがっても無駄じゃ。貴様にはどうすることもできんよ。ほれ」
猫「ウニャ!?」
女神「最初からこうすればよかったのう……体が浮いとるのが不思議か? テレキネシス、いわゆる念力ってやつじゃよ。わしの場合は神力とか神通力と言ったほうがよいのか? まあ猫に言ってもわからんか」
猫「ニャッ……ニャッ」
女神「神力を使えば、貴様一匹捕まえることなど造作もないことじゃったな。宙ぶらりんになっちまって……あっけないもんじゃ」
猫「……」
女神「さて……どうしてくれようか? 皮を剥いで三味線でも作って、肉は鍋にでも入れて食っちまおうか? ん?」
猫「……ニャーン」
女神「今更かわいげのある声を出して媚び売ったところで遅いわ、あほう」
巫女「あ、あのう……」
女神「んあ? おお、たま子か。終わったぞ」
巫女「いえ、終わったぞというか……何をやっていらっしゃったのですか?」
女神「いや、勝手に入ってきた野良猫を追い出そうと格闘しとった」
巫女「は、はあ……それであんな傷を……それで、その野良猫っていうのがそこにいる子と」
女神「そういうこと。な?」
猫「ニャッ!」
女神「うおっ、こんな状態でも手を出せば引っ掻きにくるのな……なかなか攻撃的な奴じゃわ」
巫女「その猫、どうなさるおつもりですか?」
女神「お仕置きしてやろうと思ったんじゃがな。こやつからしたら迷い込んだ先で急に追い掛け回されたって感じじゃろうし、悪いことをしたとも思っとらんじゃろ。意味ないからやめる。外に放り出すわ」
巫女「そうですか」
猫「ニャァオー」
女神「少しは静かにせんか……」
巫女「あの、傷は大丈夫なんですか?」
女神「傷? 大したことないわ。所詮は猫のやることじゃし……こやつ小さいしな。この体のどこにあれだけの力があったんじゃ」
巫女「へえー、随分とやんちゃな猫なんですね」
女神「あ、気をつけろ。あまり近づくと引っ掻いてくるぞ」
巫女「平気みたいですよ? ほら……」
女神「手ぇ出すなってば」
巫女「でも触れますよ? ほら、撫でられますし」
女神「え……あれ、ほんとじゃ」
猫「ニャー」
巫女「あら、お前よく見るとなかなか可愛いじゃないの」
女神「あっれー? 引っ掻かんのう……」
巫女「私が抱きますからもう下ろしてあげても大丈夫ですよ。いつまでも宙吊りじゃかわいそうですから」
女神「え、ああ、そうじゃな……下ろしたぞ。あれー? うーん、おかしいのう……さっきまであれだけ暴れ回ってたというのに……」
巫女「まるで借りてきた猫ですねー」
女神「まあその通りなんじゃがな」
女神「それにしてもほんとにおとなしいな。わしが触っても平気なんじゃろうか」
猫「フニャ……」
女神「う……ちょっと手を出しただけで睨んできおったぞ。これ駄目じゃろ」
巫女「あら、ほんとですね……」
猫「ニャ!」
女神「ほら、はたかれた。こやつわしには強気じゃぞ」
巫女「猫は見えないものが見えたりするなんて言いますし、女神様が只者じゃないことを感じ取っているのかもしれませんね。それでちょっと警戒してるとか」
女神「そんな高尚な理由かー? ただ気に食わんだけなんじゃないのか? どうなんじゃお主よ」
巫女「ニャー」
女神「おー、頭撫でられた……あだだだ、噛むな噛むな。やっぱわしには強気じゃわ。なんでかなあ」
巫女「本来なら女神様は見えるだけで触れませんからね。いつもと勝手が違うので驚いてるのではないでしょうか」
女神「ふうん、猫の考えとることはようわからん……」
巫女「あら、猫の心は読めないんですか?」
女神「猫の心? もちろん覗けるが」
巫女「ならわかるんじゃないんですか? 猫の考えてること」
女神「覗いても意味がないんじゃよなあ……というのも、わしが人の神だからでな。猫の神がいるなら……というかいるんじゃけど、そやつらでないと理解はできん」
巫女「そういうものなんでしょうか」
女神「そういうものなの。英語わからんのに英語で書かれた本読んでもわけわからんじゃろ?」
巫女「なるほど、管轄外なんですね」
女神「とはいえ、もしもわしが猫の神だったとしても、こやつの心を読むことはできんがな」
巫女「あら? それは一体どういうことなんですか?」
女神「このことは前にも宮司に言ったことがあるな。わしに近い関係を持っているほど、記憶を読んだり未来を見たりということはできんようになるんじゃよ」
巫女「へえー」
女神「わしがわし自身の願いを叶えたり未来をみることははできんのじゃけど、それはわしと近い関係になった奴らも例外ではないということじゃ」
巫女「なんでそうなるんでしょうか?」
女神「知らんよ。そうなっとるからとしか言えん。わしに近い関係の奴らの未来や記憶ってのは、間接的にわしのことにもなりえるからなのかのう。ま、理由なんぞどうでもええわ」
猫「にゃあ」
巫女「ふうん……あれ、でもこの前あの子の記憶を読んでませんでしたっけ?」
女神「ひかるのことか? あやつはわしに会ったことも無いじゃろ。わしが直々に祈祷でもしたってんなら話は別じゃが、そんなことしとらんし。基本的に直接話を交わしたりしない限りは記憶は読めるんじゃ」
巫女「へー、なんだか理屈はわかりませんけど……すごいですね」
女神「ま、とにかく記憶や未来が読めなくなる理由の一つは、神と近しい関係になるってことじゃな。わかったか?」
猫「ニャァー」
女神「いい返事じゃ。じゃがお主に聞いたわけではない」
宮司「何やってるんですか?」
女神「おっ、宮司か。お祓いは終わりか?」
宮司「終わりましたけど、一体何やってたんですか? すごい悲鳴みたいなのが聞こえてきましたよ。みんな何があったんだろうって不安がってたんですけど」
女神「こやつと死闘を繰り広げてたんじゃよ。この憎たらしい猫とな」
猫「ニャン!」
巫女「あっ、降りちゃった」
宮司「おや、お前ですか」
女神「あれ? 知っとるのか、この猫のこと」
宮司「まあ一応は。最近よく境内をうろついているんでね」
女神「なんだ、そうじゃったのか。でも今日は境内どころか家の中で走り回っとったぞ……」
宮司「また忍び込んだのか、お前ってやつは……」
猫「ニャ」
宮司「にゃ、じゃないだろう。まったく」
巫女「またって……前科があるんですか、この子」
宮司「ちょっと窓を開けたりするとその瞬間に音もなく入ってくるんです。もちろんすぐに外へ出しますけど」
猫「ニャァオー」
宮司「よくこうやって脚にまとわりついてくるんですよ。可愛いんですけどねえ」
女神「ほう、可愛いか」
宮司「ええ。大人しいですし、触っても平気ですしね……ほら、こんなふうに撫でても逃げない」
巫女「あら、よく懐いてますね!」
宮司「あ、横になった。これって撫でてくれーっていうことなんですかね? 猫の考えてることはよく分かりませんけど」
巫女「わー! 可愛い! それにしても随分と宮司様に懐いてますね」
宮司「私に懐いてるというか、人に慣れてるんだと思いますよ。ノミはほとんどいないし、餌をあさりに来てるふうでもないですから、どこかで飼われてるんだと思います」
巫女「それ抜きにしても懐いてると思いますよ」
宮司「そうでしょうか?」
猫「ニャン」
宮司「わかったわかった、撫でてやるから」
猫「グルルル……」
巫女「こんなに喉ゴロゴロ鳴らしちゃって……可愛いですねえ」
宮司「そうですねー」
女神(……ふーむ、猫かわいがりとはこのことか)
巫女「女神様も可愛いと思いませんか?」
女神「……なんとなく猫かぶっとるように見えなくもないのう。わしはそやつにそこまで好かれておらん」
宮司「猫なんですから猫かぶってるのは当然でしょうよ」
猫「……フニャー」
宮司「あっ、おいおい。急に走り出すんじゃないよ……あーあー、そっちに行かれると困るんだって……」
巫女「あらら、やんちゃな子ですね」
女神「やっぱ猫かぶりじゃないのか?」
宮司「やっぱり内へ入れてると駄目ですね。あっちこっち走り回っちゃって……ちょっと捕まえてきますね」
巫女「行ってらっしゃいませー」
女神「手間のかかる猫じゃのう」
巫女「でも可愛かったと思いませんか? しゅっとした顔立ちで美形って感じでしたよ」
女神「まあ確かになー……」
巫女「……? 何か腑に落ちないことでもおありですか?」
女神「いや……別にないが」
巫女(それにしては何かすっきりしない顔をしておられるような……)
女神「……なあたま子」
巫女「はい? なんでしょうか?」
女神「猫とわしの違いってなんじゃろうか」
巫女「……へ?」
巫女「えーと……どう答えればよいのか私には分からないのですが……」
女神「猫に対するあやつの態度は、わしに対するそれとはまるで違う。わしが何かやらかすと怒るくせに猫が何かしらやらかしても怒る素振りすら見せんのはどういうことじゃ」
巫女「言葉が通じないのに猫にお説教してもどうしようもないからでは……?」
女神「……なるほど。それもそうじゃな」
巫女「そうでしょう?」
女神「じゃああれは? 猫は可愛がるくせに、わしに対してはそうでもないのはどうしてなんじゃ」
巫女「ええー? それは猫ですからとしか……もしかして女神様、あの猫に嫉妬してます?」
女神「ちがっ……おほん。いや、違うぞ? 別にそういうわけではのうてな。扱いに差がある理由を知りたいだけじゃ」
巫女(ひかるちゃんだけでなく、猫にまで嫉妬してるのね……それだけ宮司様を慕っているってことなんだろうけど……)
巫女「……妬いちゃいますね」
女神「妬いとらんってば!」
巫女「こっちの話です」
女神「は?」
巫女「まあいいじゃないですか私のことはどうでも。話を戻しますけど、女神様は猫と扱いに差があるのが不満なんですか?」
女神「そりゃあ不満じゃろうが。遠回しにお前は猫以下だと言われとるようなもんじゃぞ」
巫女「なるほど」
女神「なんで感心しとんの……? とにかくじゃ! 猫がああまで可愛がられるのには理由があるはずじゃ。わしはな、猫にあってわしにないその理由とやらを知りたいの!」
巫女「はあ……それは分かりましたが、知ってどうするおつもりなのですか?」
女神「え? それは……まあ、わしもあやかってみようかと……」
巫女「あやかる?」
女神「いや、猫の可愛がられる秘訣を真似れば宮司のわしに対する扱いも良いものになるかなーと……」
巫女「猫かぶるつもりだこの神様!」
女神「人聞きの悪いことを言うなぁ! 猫真似と言え!」
女神「だいたいさあ! ずるいじゃろ、猫って! 媚びないでいても迷惑かけるようなことをしても可愛がられるってさあ……おかしくない? おかしいじゃろ?」
巫女「おかしい……ですかね?」
女神「おかしい! 絶対おかしい! 無条件で可愛がられるってどういうことじゃ! しかも怒られない! なんじゃそりゃ!」
巫女「ま、まあ相手は猫ですから……」
女神「猫だったら何やっても許されるっちゅうんか? あーあ、だったらわしも猫になりたいわ。一日中寝てたって怒られやせんのじゃろ?」
巫女(猫になりたいって言い始める神様って一体なんなんだろう……)
女神「猫になるというと、ニャーとか言ってりゃええんかな?」
巫女「鳴き真似だけじゃ猫にはなれないかと……」
女神「こたつで丸くなってみるか」
巫女「また怠けてるって怒られちゃいます」
女神「じゃあ手を舐めて、それで顔を洗ってみるというのはどうじゃろう」
巫女「人の姿でそれをやったらマズイです……」
女神「うがぁー!! じゃあどうすりゃええんじゃ!? ダメ出しするなら改善点も教えんか!」
巫女「か、改善点?」
女神「そう、改善点! 猫になるためにはどうしたらいいんじゃ! なにが間違っとるんじゃ!」
巫女「ええと……しいて言えば間違ってるのは……いえ、なんでもないです」
女神「なんじゃ!! 言いかけたんなら最後まで言わんか!!」
巫女「ひい、ごめんなさい! あっ、あの、怒らずに聞いていただけますか?」
女神「……善処する」
巫女「猫になるという考えそのものが間違っているのでは……と」
女神「……」
巫女「あのっ! 怒らないでくださいね!」
女神「はあー……怒らんよ。分かっとったよ、わしだってな。猫になりたいって……なんじゃそりゃ? 無理があるじゃろう。今までのはただの愚痴みたいなもんじゃ……忘れてくれ。すまんかったな」
巫女「は、はあ。そうですか……」
女神「ぶっちゃけると嫉妬しとるかもしれん」
巫女「え?」
女神「さっきは違うと言ったが、あの猫に嫉妬しとるかもしれん」
巫女(分かりますよ、見ていれば……とは言わないほうが良さそうね)
女神「羨ましすぎて恨めしい。わしもかわいいって言われたい」
巫女「女神様はかわいいですよ!」
女神「いや、お主じゃなくて……でもありがとう」
巫女「どういたしまして。わかってますよ、宮司様に言われたいんですよね。でももう充分すぎるくらい言われてると思うんだけどなあ」
女神「そんなことはない! まだまだ全然足りない!」
巫女「もー、贅沢言わないの。この前だってこたつに隠れて宮司様が可愛いって言うの聞いたばかりじゃないですか」
女神「聞いたけどあれは面と向かって言われたわけではない! 言うならわしに直接言わんかい! 男らしくないんじゃよ、あんなのは!」
巫女「確かに直接言ったわけじゃありませんけど、別にそれで言葉の意味が変わるわけじゃ……」
女神「確かにそうじゃ! そうじゃけど! 直接言われたほうがさあ……なんかこう、心にくるじゃろ? 分かる?」
巫女「なんとなく分かります」
女神「じゃろ? 直接言われるのとそうでないのでは、言葉の意味は変わらんかもしれん。じゃがな! 価値は変わるんじゃよ……まるで別物なんじゃ」
巫女「なんだか乙女ですね、女神様」
女神「おと、乙女? そうか……? この考えは男でも女でも変わらんと思うが」
巫女「いやー、乙女ですよぉ。好きな人にかわいいって言われたいなんてなかなか乙女チックな願望ですもん」
女神「はあ!? わしゃそんなこと言っとらんぞ!」
女神「勝手に発言を捏造するのはやめんか! わしはそんなあほなことは言わん!」
巫女「でも女神様の言うことをまとめるとこうなりますよ? 間違ってますか?」
女神「いやそれは……待て、でも確かに要約するとそうなるかも……わしはそんなことを言っとったのか?」
巫女「そうですよー」
女神「なんてこった……わしそんなこと言っとったのか。そんなこと言っとったのかぁー!! ああー!!」
巫女「あらら、真っ赤になっちゃって」
女神「恥ずかしいぃ!! 好きな人にかわいいって言われたいって!! なにそれ!? なにそれぇー!! あああぁぁぁー!!」
巫女(恥ずかしすぎて両手で顔を隠しながら転げ回ってる……この悶えかた、漫画みたいでかわいいなあ)
女神「たま子ぉ!!」
巫女「はい?」
女神「……宮司には言うな」
巫女「えー? どうしよっかなぁ」
女神「おい言うなってば!! 言ったらひどいぞ!!」
巫女「人に物を頼むのなら、それ相応の態度ってものがあるでしょう?」
女神「す、すまない。言わんでくれんか……このとおり、頭下げるから……」
巫女「んー、そうですねえ……」
女神「うう、こんなん当人に知られたら顔から火が出るくらいじゃすまんのじゃよぉ……頼む、いじめないでくりゃれ……」
巫女「……ふふ、言いませんよー! ちょっとからかっただけです!」
女神「ああ、よかった……そういうたちの悪いのはやめとくれ……」
巫女「うふふ、ごめんなさい! でもかわいいからついいじめたくなっちゃうんですよ、女神様はね!」
女神「ぜんぜん嬉しくない……」
女神「あー……今日も今日とて暇じゃ。毎日こんなんじゃな」
女神(にしても昨日は散々じゃった……猫にひっかかれるわ、たま子におちょくられるわ……最近ついてないのう。神なのになあ)
女神「ところで宮司もたま子も姿が見えんな。どこにおるのやら……ちょいと探して回ってみるか」
女神「おーい、宮司やーい。たま子やーい。たーまこー。たーまやー」
女神「返事がないのう。出かけとるんかな? 誰か来たらどうするんじゃろうか……おや」
短髪「あのー、すいませーん。誰かいませんかー?」
女神(言ったそばから誰か来とるな。誰じゃろ? あの短髪の女は……ははあ。着とるものを見るに、ありゃ女子高生ってやつじゃな。JKじゃわJK……お、もう一人髪の長いのがおるな)
長髪「多分誰もいないんじゃないかなあ……ねー、帰ろうよ」
短髪「なーに言ってんのよ。それじゃ何のために来たのか分からないじゃない」
長髪「でも誰もいないんじゃどうしようもないよ」
短髪「だからこーして誰かいないか探してるんでしょ? ごめんくださーい!!」
長髪「近所迷惑だって! やめようよー!」
女神(短髪と長髪の二人組か。何しに来たんじゃろ? 話しかけたいが……その前にお主らの記憶を読ませてもらうぞ)
短髪「いないのかな……? えー? でも神社に誰もいないなんてことあるの? 私よく知らないんだけど」
長髪「うちの近くの神社にはいつ行っても誰もいないよ……ここもそうなんじゃない? だからもう帰ろうってば……」
短髪「いやー! でもここは人がいるね! じゃなきゃこんなに小綺麗になってるはずがないじゃん!」
長髪「掃除だけしに来る人がいるのかもよ……?」
女神(ほー……なるほど。だいたいわかった)
短髪「でもお守りとか売るとこあったじゃん。人がいなきゃ売らないっしょ、フツー」
長髪「でもそこ閉まってたじゃん! たぶん昔はいたけど今はいないんだよ。最近お金なくて運営できなくなる神社って多いみたいだし」
短髪「うっそ、神社って儲かるんじゃないの? じーちゃんが坊主丸儲けとか言ってたんだけど」
長髪「サキちゃん、お坊さんがいるのはお寺だし……それにお寺って言うほど儲からないらしいよ」
女神「あー……おほん! 何か用かな?」
短髪「あ! 誰かいた! いたけど……あれ、子供だ」
女神(子供とな……くそう。ええわ、もう慣れた!)
短髪「ねえねえ、誰か大人の人いないの?」
女神「用があるならわしが聞くぞ」
長髪「わし?」
女神(あ……またやっちまった。容姿に見合った言動をせんと変人だと思われるからのう……)
短髪「わしだって! カワイー」
女神「か、可愛いじゃと!?」
短髪「あはは! じゃと、だってよ! やだー可愛い! おしゃまさんじゃん!」
女神(かわいいならこのままでも……ん? おしゃま?)
長髪「おしゃまさんというかロリババア……?」
女神(ばっ、ババアとな!?)
短髪「ロリババアってなに?」
長髪「いや、なんかそういうのがあるらしくて……」
女神「おしゃまさんだのババアだの……失礼じゃぞ」
短髪「あ、聞いてた?」
女神「聞いてた? ではないじゃろ、短髪。わしをなんだと思っとるんじゃ」
短髪「短髪って私? 私はそんな名前じゃありませんよーだ」
女神「腹立つなこいつ……」
短髪「こいつって名前でもありませーん」
女神「腹立つ! ほんと腹立つ奴じゃな!」
長髪「子供相手に大人げないことするのやめなよ……」
女神「子供ではない!!」
女神「失礼な奴らじゃ……用があるならさっさと済ませて帰れ。しっしっ」
短髪「なにその態度ぉー。お守り買いにきたんだけどどこにあるの? ていうか売ってるの? 人いないし……」
女神「わしがおるじゃろ。うちは縁結びは得意ではないが、それでもいいなら売ってやる」
短髪「得意不得意とかあるんだ」
長髪「ん? 私……あれっ? 縁結びのお守りが欲しいなんて言ったかな? 合ってるけど……」
短髪「言ってなくない? あれ? なんで知ってんの?」
女神「くっくっくっ……言わずとも分かるんじゃよ、わしにはな……のう? 相澤サキに岡田クミよ?」
短髪「えっ!? なんで名前知ってんの!? やだ、えっ!? 私ら名前言った!?」
長髪「いや、私がサキちゃんって言ったけどそれ以外は……」
女神「ここに来た目的は縁結びのお守りを買うため……長髪には想い人がおるんじゃよな? 短髪はそれの付き添いでやってきた。間違っとらんよな?」
短髪「えー、ウッソー!? 何この子!?」
長髪「……エスパー?」
女神「ふふん、凄いか? まあお主らのことで分からんことはないぞ」
短髪「じゃあ! じゃあさ! この子の今着てる下着の色当ててよ!!」
長髪「ちょっ、何言ってんの!?」
女神「透視ならいつでもできるが……言ってもええのか?」
短髪「ズバッと当ててみてよ!!」
長髪「当ててみてよじゃない!!」
女神「白地に淡い青色の……」
長髪「うっそでしょ!? わぁぁぁー!! やめてぇぇぇー!!」
短髪「……えー!? ヤバくないこの子? なんで分かるの!?」
女神「ふふふ、分かっちゃうんじゃよ。すごいじゃろ?」
短髪「すっごい! すっごいけどなんか不気味! どうなってんの? 超能力?」
女神(ああ……反応が新鮮じゃ……この反応、ええもんじゃなあ)
長髪「こんなところで下着の色を暴露される私って一体……」
短髪「ごめんってー。私のパンツの色教えるから許して?」
長髪「知りたくないよ……それにしてもこの子、一体何者なの?」
女神「ただの子供ではないということがわかったか?」
短髪「うん、ただの子供じゃないよね。ヤバい子供だよね」
女神「そこじゃなくて!! 子供でもない!!」
短髪「じゃあ何なの?」
女神「女神じゃ」
長髪「……女神?」
短髪「え……いや、それはないっしょ。ないない」
女神「テンション下がりすぎじゃろ」
短髪「だって女神って……ありえないじゃん。ねえ、クミ?」
長髪「神様なら私の願いを叶えることもできますか?」
短髪「えっ、信じちゃうの!? どう考えても子供のついたしょうもない嘘じゃん!」
長髪「サキちゃん、今の私は必死なの! 嘘でもいいから神様にすがりたいくらいには!」
短髪「落ち着け! それ完全に変な宗教とかに引っかかるやつだから!」
女神「変な宗教とか言うな!」
長髪「でもこの子は私達の名前とか、ここに来た理由とかわかっちゃうしさ。ただの嘘とは思えないよ」
短髪「そりゃそうかもしれないけどさあ……ここに来た理由はありきたりだし、名前なんか事前に調べるとかいくらでも知る方法はあるじゃん?」
女神(短髪……振る舞いを見てる限りお主はバカだと思っとったんじゃが、意外と冷静なんじゃな。興奮すると周りが見えなくなるのは長髪のほうじゃったか)
短髪「とはいえ下着の色は普通わかんないよねー……だから神様っていうか、どっちかっていうと重度のストーカーなんじゃない?」
女神(でも失礼なやつじゃ……後でしばく)
長髪「ううむ……だったら神様にしかできないことをやってもらえばいいんじゃない? 神風を吹かせたりとか、雷を落としたりとかさ」
短髪「いや、だから神様ってのはさすがにありえないでしょ……」
女神「うーん、雷はちょっと面倒じゃなあ」
短髪「まるで風なら吹かせられるみたいな言い方……うわっ!! 嘘!? 風!? うわわわわ!」
長髪「サキちゃん、パンツ丸見え……オードリー・ヘップバーンみたい」
女神「ローマの休日じゃな」
短髪「なんであんたらは平気なの!? なっ、なんで私の周りだけこんな風が吹いてるのよーっ!! まさかほんとに!?」
女神「ほんとにわしが吹かせとるんじゃよ。ほれ、止めてやるわい」
短髪「あっ……ほんとに止まった」
長髪「ほんとに神様なの……あ、いや、神様なんですか?」
女神「だからそうじゃと言っとるじゃろ」
短髪「マジ……? え、こういう時どうすればいいの? え、えっと! とりあえずサインください!」
長髪「なんでサイン!? 落ち着きなよ! まずは握手じゃない!?」
女神「二人とも落ち着かんか」
短髪「マジで神様とかいるんだ……」
長髪「ちょっと信じられないよね」
短髪「ぶっちゃけ神様っぽくは見えないけどね。かわいい女神様よねー」
長髪「し、失礼だよ! 申し訳ございません!」
女神「今回は許す。それに神に見えんなんてよく言われるから慣れたわ」
短髪「よく言われるってことは私達以外にも女神様を知ってる人がいるってこと?」
女神「まあここにいる宮司と巫女の二人じゃな」
短髪「宮司?」
長髪「神主さんのことだと思うよ」
短髪「ふーん、神社にいる人なんだ。え? 他には女神様のことを知ってる人はいないわけ?」
女神「おらん」
短髪「じゃあなんで私達には教えてくれんの?」
女神「……なんでじゃろ。なんか流れで教えてもうた」
短髪「あはは、何それ? うける」
長髪「ちょっと……ちょっと、サキちゃん。神様に対する態度じゃないよ……」
短髪「そう? 私はいつもこんなんだけど」
長髪「いつもどおりだからマズいって言ってるの! 相手は神様だよ? 学校の先生とかバイト先の店長なんかより遥かに偉いんだよ!?」
短髪「ヤバいかな?」
長髪「ヤバいなんてもんじゃないよ! 失礼なことしたら天罰が下るよ! 死ぬよ私ら!?」
短髪「死ぬ!? うっそ、ヤバっ……め、女神様! どうかお怒りをお鎮めください!」
長髪「土下座しなきゃ駄目じゃない!? 私も頭下げるから! どうかお許しください……!!」
女神(なんだか楽しい奴らじゃのう)
ちょっと重要な報告
訳あってGW明けから入院してるんだが、安定した通信環境が準備できないので書き込みが絶対にできる保証がない(公開プロキシ利用規制に引っかかり書き込みが無効になる)
一応何度かチャレンジすれば書き込めることもあるのだが、俺には条件がわからない
書き込みが失敗し続ければ最悪の場合二ヶ月ルールと一ヶ月ルールに触れてしまう可能性があるわけですわ
二ヶ月ルールは適用前に俺がなんとかするので、もし一ヶ月ルールに触れそうになったら誰でもなんでもいいので書き込んでくれ
一応俺も入院中は週一以上のペースで書き込みに挑戦するのでもしかしたらまったく問題ないかもしれないが保険はかけておきたい
もしも万が一スレが落ちたら同じスレタイで立て直すけど、退院のめどが全く決まっていなく、立て直し時期がいつになるかわからないためこれは最終手段にしたい
俺のことはどうでもいいのでスレが落ちないように今だけ手を貸してくれ
私情を挟んで本当に申し訳ないんだか、非常事態なので許してください……
ちなみにWi-Fi通信を利用する以外に、au回線で公開プロキシ利用制限(BBQ規制)とやらを確実に回避する方法を誰か知っていましたら教えて下さい
役に立つかはわかりませんが書き込み環境は2chMate 0.8.6/HTC/HTX21/4.1.1/DRです
以上報告終わりこの話はおしまい
>[D] AUのスマホ(/\.au-net\.ne\.jp$/ )
>[E] Softbankのスマホ (/\.panda\-world\.ne\.jp$/ その他)
>[F] Docomo(mopera)のスマホ(/\mopera\.ne\.jp$/) 多分MVMOも含む
>[G] Docomo(sp-mode)のスマホ(/\.spmode\.ne\.jp$/)
>
>[1] 暫定で書き込み可能に、2chのBBQその他DNSBL規制もパス
荒巻が仕様を変更したと聞いて来ました
やったぜ
女神「まあそうかしこまりなさんな。わしとて仰々しい態度でいられるよりもそっちのほうがええ。友達みたいな感覚で、な?」
長髪「そう仰られましても神様は神様なわけですし……」
女神「別に命をどうこうすることはわしにはできんから安心しろ」
短髪「ホント? いやーそれ聞いて安心した! ああいう態度って息が詰まるもんねー」
長髪「こらぁ!! サキちゃん!!」
短髪「だって本人が友達感覚でいいって言うから」
長髪「そういうのを真に受けちゃダメなんだってば! 言葉の裏の意味を汲み取ってよ!」
女神「怒るな怒るな。お主の気持ちは嬉しいが、わしゃ一向に構わんのじゃよ。対等に接してくれるほうがわしも気が楽なんじゃ」
長髪「でも……」
女神「お主はやさしいなぁ。ええ子じゃ、ほんとに」
長髪「女神様……ありがとうございます」
短髪「ちょっとちょっとー? うちの子をたぶらかさないでいただけますかー?」
女神「まあ……短髪はちょいと無礼じゃな」
長髪「だってよ! 女神様に無礼なことを言ったら許さないわよ!」
短髪「あんたもうすっかり信者じゃない……ほんと占いとかパワースポットとかのスピリチュアルなものに弱いわよねー。だから神社に連れてきたんだけどさ」
女神「ええのうええのう、たぎるのう! そういう奴は歓迎じゃ。まあわりと誰でも歓迎しとるが」
長髪「ここ来て良かったぁ……」
短髪「まだ目的を果たしてないでしょうが。ねー、女神様? この子の恋愛を成就させるためにちょーっとお手をお貸しいただけますか?」
女神「構わんよ、それがわしの役目じゃし。それにしても恋愛か。にしし、若いのう」
長髪「からかわないでくださいよう」
女神「からかっとらんよ! 精一杯応援させてもらうぞ」
短髪「でも得意分野じゃないんでしょー? 得意じゃないってことは……あ、女神様も自分の恋が実ったことがないとか?」
女神「なっ……何を言うんじゃ!」
短髪「ありゃー? 図星?」
女神「違うわ!! わしの専門が病気平癒ってだけで、わし自身のことはなんら関係ない!!」
短髪「いやいや、こりゃー図星ですねえ? そこにいる子とおんなじ、振りむいてもらいたい人に振りむいてもらえてなさそうな匂いがプンプンしますからねえ?」
長髪「それ私のこと!?」
女神「やめろやめろぉ! わしのことはどうでもええじゃろうが! それ以上わしのプライバシーに踏み込むと、あれじゃ! 祟るぞ!」
短髪「え? 相手は? 相手だれ? やっぱ神様なの? 天の上に住まうお方に恋しちゃってるの? それとも地上人!? やっだー! 文字通り住む世界の違う禁断の恋じゃん!」
女神「やかましゃあぁぁぁー!! 少しは怯まんか!!」
短髪「いーじゃん教えてよー女神様ぁー?」
女神「やだ! ちくしょう……会ったばかりの小娘になぜここまで馬鹿にされないかんのじゃ」
短髪「だって可愛いんだもーん」
女神「くっ……わしのことをおもちゃかなにかと勘違いしとるようじゃな……まあええ! あとでわしの助けが必要になっても、わしゃお主のことは知らんぷりするからな! 後悔するなよ!」
短髪「私はいいのよ、私はね! 神にもすがりたいのはこの子だし」
女神「くっそー、こやつにゃ脅しも効果がない……それにしても神頼みしてでもくっつきたいのか。そんなに魅力的な奴が相手なのかえ?」
長髪「え? まあ、そうなんですよね……えへへ。かっこいいし、優しいし、面白いし……」
短髪「クミのことは見てないし?」
長髪「そういうのやめて!! ホント傷つくから!!」
短髪「そんなに魅力的な奴かなあ、アイツ」
長髪「私にとっては王子様なの!」
短髪「盲目的よねえ……恋に恋して破滅するタイプだわこりゃ。諦めさせたほうがいいかも」
女神「それはちょっと無理かのう……本人の希望に反する形の願いって基本的に叶わんから」
長髪「嫌よ! 私は諦めない! 諦められるもんですか! せめて一矢報いるその時まで、私は歩みを緩めないわ!」
女神「討ち死にでもしそうな勢いじゃな」
短髪「なんでこの溢れ出る好意を本人に直接ぶつけられないのかねえ?」
女神「こんな重いのぶつけられたら相手も戸惑うじゃろ……」
短髪「言えてる。私ならドン引きだわ」
長髪「ひどい言われよう!」
とりあえず生きて帰ってきたので1レスだけ報告に使う
退院自体は一ヶ月前にしてたけど今は寛解とかいう状態になってるだけなので再発予防のため食生活変えたりいろいろやってたらこうなったすまんの
入院してた病院で前例がないレベルに重症化して死にかけてたけどお伊勢参りに行ったおかげか回復しました やっぱ神様捨てたもんじゃない
今はぴんぴんしてるけど再発率が高い病気らしいんで唐突に投下止まるかもしれないという連絡
俺のことはどうでもいいのでさっさと続きいきます
長髪「うう……救いを求めに来たのになんでか心を砕かれている……」
女神「別に心折りたいわけじゃなかったんじゃがな」
短髪「勝手に舞い上がって勝手に落っこちただけというか……」
長髪「心を折りたいわけでないのなら!! 女神様、この迷える子羊に救済の手を差し伸べてください!!」
女神「それは別の宗教のほうが得意そうじゃな。イエスさんとか……いや、わしもそういうことがまったくできないわけではないが……まあそういうことならとりあえずお守り持っとけ、お守り。ほらこっちじゃ」
長髪「ありがとうございます!! 女神様から進むべき道を教えられるなんて、これはもう勝ったも同然ですよね!!」
女神「これはただの道案内じゃから……授与所行くんじゃよ、授与所」
短髪「授与所?」
女神「お守りとか置いとるとこじゃよ。ほら、すぐそこに見えとる」
短髪「ふーん、そんな名前なんだ」
女神「お守りはひとつ五百円。御札は大きさによるが千円からで、おみくじは三百円。他にもいろいろとあるぞ。お祓いがしたいなら玉串料を包んでくるんじゃな」
短髪「女神様と私達の仲なのにお金取るの?」
女神「なんじゃわしとお主らの仲って。ついさっき会ったばっかじゃろうが」
短髪「ですよねー。じゃあせめてまけて?」
女神「お主らにそれをする必要は無さそうじゃし、びた一文足りともまけんぞ。だいたいこれが必要なのはお主じゃないんじゃろ?」
短髪「ぶー、けち!」
女神「けちじゃない。こういうのは心付けの意味合いもあるんじゃからな? 下手にケチるとご利益消し飛ばすぞ。かと言って金だしゃなんとでもなるというわけでもないがな」
長髪「うーん……あの御札にしようかなあ」
短髪「げっ、御札ってあそこの板に巻いてあるやつ!? お守りじゃないの!? つーか二千円って高っ!!」
長髪「抜群に効き目がある奴が欲しくて……」
女神「別に神札はお守りの上位互換というわけではないぞ? 神棚に飾ったり柱に貼るっちゅうんなら札のほうがええがな」
短髪「そうなの? デカイと強いイメージあるけど」
女神「そうでもない。常に持ち歩いていたいのならお守りを選べばええし、自宅に祀るなら札にすりゃええ。扱いやすいのでええんじゃよ」
長髪「へええ」
女神「もっとも……札を袂に入れて歩こうが、破魔矢をかんざし代わりに使おうがわしは止めんがな。さあどうする? 神札にするか?」
長髪「い、いやあ……御札を持ち歩くのはなんか危ない人みたいで……お守りにします」
女神「まあそうじゃろうな」
女神「ほい。大事にするんじゃぞ」
長髪「ありがとうございます! ああ、これが女神様から直接賜ったお守り……効かないわけがない、効かないわけがない」
女神「こうまで頼られるとわしには荷が重いなあ……気楽に行け、気楽に! そんなに気を張り詰めとったところで疲れるだけじゃぞ」
長髪「でも不安で……」
女神「結局のところ、最後にものをいうのは本人の努力と熱意なんじゃぞ? わしがやるのは背中を押してやることだけで、歩くのは本人じゃ。これはどんなことにも言えるがな。わしは自力で頑張る奴の手助けしかできん」
長髪「そ、そんなあ」
女神「自分のことは自分でどうにかせんことにはどうしようもないじゃろ。その代わり、どうにもならない部分をわしがどうにかしてやるんじゃ」
短髪「どうにかって具体的にどーすんの?」
女神「わしが何をするかってことかえ? 別に何か特別なことをするわけでもなくてな……わしに願いが届くとそれだけでいいというか……説明しづらいな。神特有の感覚じゃからなあ」
短髪「ふーん。神のみぞ知るってやつ?」
女神「まあそういうことじゃ」
長髪「救われるのならその途中がどうであろうと気にしないよ……過程や方法なんてどうでもいいの……」
短髪「なんか手段を選ばない人みたいなこと言い始めたけど大丈夫かなこの子」
女神「わりと情緒不安定なやつじゃな……さて、どうする? お賽銭でも入れてくか? まあ入れんでもお主の願いはもうわしに伝わっとるが……」
短髪「どうする? せっかく神社来たんだし入れてく?」
長髪「そうだね」
短髪「決まりっ。私も入れよーっと」
女神「ん、なんか願いでもあるんか?」
短髪「ないと賽銭入れちゃだめだったりすんの?」
女神「いや? ただこのご時世には珍しいな」
短髪「ふっふーん。いい心がけでしょ?」
女神「自分で言ってちゃ世話ないわ、あほう」
短髪「アホはないでしょアホは。あ、その前に手洗わないと」
女神「手を洗うって手水舎でか? おいおい今更かいな……まあええわ」
短髪「え? ちょう……何?」
女神「ん? 知らんか? ちょうず」
短髪「ちゃ、ちゃおず? ここ餃子作ってんの?」
女神「……わかった、知らんのじゃな」
長髪「神社の餃子、じんじゃぎょうざ……あ、なんか売れそうな響きじゃない? 微妙に音が似てる感じが親父ギャグっぽくてご当地お土産みたいな雰囲気が出てると思うんだけど」
女神「素晴らしくどうでもいい」
短髪「私はどちらかというとご当地物になりそこねて大失敗した響きを感じるんだけど」
長髪「いや、絶対売れるよ。キャッチコピーとかつけてさ……神社餃子一個八十円! 明日へと飛び立つ羽付き餃子! ……ってな感じに縁起物として売り出すってのはどう?」
短髪「一個ずつバラ売りする前提の価格設定なのに羽つけんの? 一個だけとか頼まれたら焼くのめんどくない、それ」
女神「この話引っ張るんか?」
長髪「言われてみればそうかも……セット売りだけにしようか。何個がいいかな?」
短髪「売れる気はしないけどねー……やるんなら六個と十個でどうよ。十個は実質九個分の値段にすれば回転も早くなりそうだし」
女神「なんで架空の餃子の話でこんな盛り上がれるんじゃお主ら? こんなガールズトークありなんかいな」
短髪「ふふふ、これが次世代のガールズトークよ女神様。今時の女子高生は暇さえあればビジネスチャンスを探してんの」
女神「流石に騙されんぞ」
短髪「ちっ、神社にこもりっきりで世間知らずかと思ったらそうでもないのか」
女神「お前ほんと無礼だなぶん殴るぞ」
短髪「やだーこっわーい」
長髪「ちなみに女神さまはどう思いますか?」
女神「どうって何が」
短髪「神社餃子でしょ。売れると思うかどうかってこと」
女神「いや、売れんじゃろ……祭りの屋台ならまあ分からんでもないが、恒久的に売り出すようなもんではないと思うぞ。というかそもそも神社と餃子に関連性が無い」
短髪「だよねー」
長髪「いやいや、売れますよ! 売れますって!」
長髪「絶対に売れます、神社餃子! 神社と餃子でちょっと韻も踏んでますし、なによりすごいインパクトありますし! 神社で餃子!? みたいな!」
短髪「インパクトでしか勝負できないならダメっしょ。そんな張りぼて流行ったとしても一瞬で消えるよ」
長髪「わりと冷静に論破するのやめてよ! なんで急に現実的な目線になるの!?」
女神「というか韻を踏むならギョウザよりショウガのほうがいいんじゃなかろうか。神社生姜、体の芯からぽっかぽか、あなたにパワーを送ります。これがホントのジンジャーエール……ってな感じで洒落も効かせられる」
長髪「私のより数段出来がいいものを出されちゃってもう私どうしたらいいのかわかんない」
短髪「女神様それ良くない? いいじゃんやろうよ。神社エール売ろうよ。ラムネ瓶にでも詰めて一本三百円くらいでさ」
女神「一本三百円って……なかなか暴利じゃな」
短髪「いやいや女神様、こういうご当地物は暴利なくらいがちょうどいいんだって!」
女神「ご当地というがな、別にこの辺が生姜の名産地ってわけでもないしのう……それにやろうと思えばどこの神社でもできちまうからご当地物にはなれんと思うんじゃわ」
短髪「だよねー。それ私も思ってた」
長髪「うーん。なら何を売り出せばいいのかしら……」
短髪「そもそも地元の名産品が何かなんて知らないのよねー」
女神「待て。お主らこの話をいつまで続けるんじゃ? 町おこしでもする気か?」
短髪「女神様も洒落を効かせた案とか出して参加してたくせにー」
女神「流れに乗っちまったんじゃ。もともと餃子とか名産品の話なんかしてなかったじゃろ」
長髪「なんか適当にだらだら会話してうちに脱線に脱線を重ねていつの間にか最初に話してた内容とは180度違う話をしてたりすることってありますよね」
女神「いつものわしじゃな……会話が派生しすぎて元がわからなくなるのはよくある。まあこの会話は元はというと手水舎から始まったはず、というのはかろうじて覚えとるがな」
短髪「あ、そうそう! チャオズ屋! それの話をしてたんだったっけ」
女神「ちょ! う! ず! や! ……だっつっとるじゃろ!」
短髪「あはは、ごめーん」
女神「ここまで謝罪の気持ちが篭ってないごめんは初めて聞いたかもしれん」
短髪「で? そのちょうず? ってのはなんなの?」
女神「知らんか。神社にちょくちょく来る人間じゃないとわからんのかのう……そう書いてあるちっさい看板がそこにあるじゃろ?」
短髪「これ? ……てみずしゃ、としか読めないけど。ひしゃくで手を洗うこの……施設? というか設備? これの名前なの?」
女神「てみずしゃでも合っとるから問題ない。てみずや、ちょうずしゃとも……好きに呼べばええ」
短髪「これちょうずって読むの? いや読めるわけ無いじゃん。手に水だよ? てみずじゃん。ねえサキ?」
長髪「私は知ってたけどね」
短髪「嘘でしょ。そういうの良くないと思う」
女神「まあ知らなきゃ読めんと思うが」
短髪「こんなの知ってても読めなさそうなんだけど」
長髪「それはサキちゃんが……」
短髪「何よ」
長髪「……いや、なんだろ。ぴったりの言葉が思いつかないや! なんでもない!」
女神(たぶん馬鹿って言おうとしてはぐらかしおったな、こやつ……)
短髪「なにそれ? また適当言ってない? なんて言おうとしたわけ? あ、そうだ。女神様なら心を読めば分かるんじゃない?」
女神「それは無理じゃな。今はもう主らの心と未来は読めん。お主らはわしと会話を交わしたことでわしと近しい関係になってしもうた。わしの力はわしとその周辺の者には及ばんのじゃ」
短髪「なにそれー……不便」
長髪「ちょっ、ちょっと待ってください! それじゃあこのお守りも効果がないんじゃ……!?」
女神「それは問題ないから安心せい。わしと四六時中一緒に過ごしでもせん限り、いわゆる御利益の恩恵が受けられなくなるということはないのじゃ。心を読むのと違って強力じゃからな、御利益の力は」
短髪「あれ? でもさっき私達と会話しながら下着の透視してなかった? 物理的なものだから特に制限ないとかそういう都合のいい感じ?」
女神「都合がいいのか悪いのかは知らんがまさにそうじゃよ。心を読むのと透視するのは違うんじゃ。わしの力が特別強く篭った物を身につけるとか、わしの祈祷を直接受けるとかすると心を読むことは出来なくなるな。まあ前者ならそれを外せばまた読めるようになるんじゃが」
短髪「つまり女神様に会ったことない人に、女神様のその着物引っぺがして着せたら心を読めなくなるわけ?」
女神「もっとマシな例えはなかったんかいな……まあ考え方はあっとるよ。もっともわしが長いこと身につけとるものなんてこの着物くらいじゃし、そもそもこいつは一張羅だから今のところ心が読めなくなる理由は会話くらい……待てよ、もう一つあるな……」
長髪「一つでも二つでもなんでもいいから、透視もできなくなればよかったのに……」
短髪「女同士なんだから気にしない気にしない!」
女神「まだ引きずっとるんかいな……女々しいのう」
長髪「女ですから……というか文字通り身も心も丸裸にされてなんとも思わないほうがおかしくないですか?」
短髪「私は平気だけど?」
女神「こやつはどこかおかしいからこの意見は参考にならんな」
長髪「女神様と同意見です」
短髪「ねー、そんなことどうでもいいからお賽銭入れに行かない?」
長髪「そんなことで片付けないでよ! しかもどうでもいいってそんなひどい……」
短髪「だって終わったことをいつまでもうじうじ言ってたってしょうがないじゃん。あんたが見なきゃいけないのは過去じゃなくて未来でしょ」
女神「うむ、もっともなこと言いよるわ」
短髪「でしょ?」
長髪「そうかもしれないけど……」
短髪「あんた今着てる下着とあの男どっちが重要なわけ?」
長髪「彼に決まってるじゃない!」
短髪「ならいいじゃん。お賽銭入れに行こ」
長髪「あれ? うん、そうね……んー? なんだか釈然としない……というかうまく丸め込まれたような」
短髪「気のせいでしょ? ほらほら、あんまり長いこといると女神様にご迷惑かけちゃうんじゃないのー?」
長髪「それは大変! こうしちゃいられない!」
女神「別にそこまで急ぐことないんじゃが……足が速いなあやつ。それにしても短髪。お主あやつの手綱を操るのがうまいな」
短髪「いっつもこんな感じよ。あの子真面目なんだけど周りが見えないタイプだから私が引っ張ってってるのよねー」
女神「ブレーキ役が必要なのはお主の方かと思っとったんじゃが、逆だったんじゃな」
短髪「何よー。そんなに暴走してるように見えるわけ?」
女神「暴走しとるというよりは、常にアクセル全開で飛ばしとるってほうがしっくりくるような……操縦はできとるんじゃがいかんせん速度が速すぎる」
短髪「よくわかんないけどクミよりはマシってことでいいの?」
女神「まあそういうことにしとけ。長髪はスイッチ入ると制御不能になる感じがするからなあ……」
短髪「それその通りだよ。ほんとスイッチ入ると止まんないのあの子」
女神「見てりゃ分かるわい」
長髪「サキちゃーん? 来ないのー?」
短髪「今いくー! じゃ、女神様。私ら手水で手ぇ洗ったらお賽銭入れて帰るんで!」
女神「ん、そうか。またいつでも来い」
短髪「言われなくても来るつもりだったけどねー。じゃあまたねー」
女神「うむ」
短髪「お待たせー……これってなんか順番あるんでしょ? どうやんの?」
長髪「まずこうやってひしゃくを持って……あ、逆だよ」
短髪「え? どっちの手で持つか決まってんの? めんどくさいなー」
長髪「そういうことは思っても言わないでよ!! 女神様が笑いながらこっち見てるよ!! あの笑顔の裏に何が隠されてるのか想像しただけでも怖気が走るよ!!」
女神(ふふふ、賑やかでええのう)
乙乙乙!!!
>>89
>短髪「これちょうずって読むの? いや読めるわけ無いじゃん。手に水だよ? てみずじゃん。ねえサキ?」
この子、自分に向かって話しちゃってるよん。
>>95
マジだサンクス各自脳内訂正よろしく
それにしてもよく気づくな……俺の校正がザルすぎるだけか
女神「……と、まあ今日はそんなことがあってな。ずいぶんと楽しいやつらじゃったわい」
宮司「餃子のくだり必要でしたか?」
女神「必要じゃろ! あんなにくだらないことを真剣に話し合ったのは久しぶりじゃ! 面白かったぞ」
宮司「いつもくだらない話をしてる気がしますけど……まあ女神様が満足したなら別にいいんです。それにしてもよく女神だって信じてくれましたね、その子たち」
女神「まあ神力を目の当たりにすれば信じざるをえんじゃろ」
宮司「いや、このご時世だとそうでもないと思いますけどね……今回は問題ありませんでしたけど、次からは頭のおかしい子供と思われかねませんから不用意な接触は控えてくださいよ」
女神「なんでじゃ! ええじゃろ、わしだって人と接したいんじゃ! もうお主らと毎日おんなじような話をするのにも飽きた!」
宮司「そういうわけには……とはいえ、やっぱり飽きますよね」
女神「分かるじゃろ?」
宮司「分かりますよ。でも辺り構わず話しかけてたらそのうち問題になりますから」
女神「問題じゃと? いったいどんな?」
宮司「今はいいんですよ。でも数年、数十年と経っていけばこの神社にはなぜか歳を全くとらない子供がいるらしいって噂ができちゃいますよ」
女神「話題になって参拝客が増えるんならそれもええんじゃなかろうか」
宮司「世の中の人間がみんな今日の子たちみたいな純粋な心の持ち主なら、それでもいいかもしれませんけどね。気味悪がられたり見せ物扱いされたりと、いい結果にはなりそうにないと思いますよ」
女神「それもそうか……じゃがわしは人の心が読める。話しかける相手は慎重に選ぶつもりじゃ。まあ当分はあの娘らだけで充分じゃがな」
宮司「それなら大丈夫かな……しかし退屈ですか、ここでの生活は」
女神「そりゃ退屈じゃよ。ここに何年いると思っとんのじゃ。自由に外出もできんし……なあ、どうにかならんのか? 別にわしだけで外に出たところでなんら問題など起こさんしさー」
宮司「女神様が何かやらかすから止めてるんじゃなくて、女神様が何かに巻き込まれたら困るから止めてるんです」
女神「巻き込まれるって何に」
宮司「何かしらの事件とか……」
女神「あのさあ、わしゃ神じゃぞ……? 神がどんな事件に巻き込まれるっちゅうんじゃ? 大抵のことは神力でどうにかなるんじゃぞ」
宮司「……ですよねえ。正直なところ、私も止める必要があるのか疑問には思ってます」
女神「じゃろ! そう思うじゃろ!」
女神「だいたいお主は心配性にもほどがあるんじゃ。過保護じゃよ、過保護」
宮司(う……やっぱり過保護なのか。本人に直接言われると刺さるな……)
女神「ここまで行動を制限してきたのはお主が初めて……いや違うな。六百年くらい前にわしを簀巻にしたうえ、土蔵にぶち込んで監禁しようとした不届きなやつがおったな……」
宮司「なんですかその犯罪者は……」
女神「この神社に仕えとった奴らの中では歴代で一番イカれておったぞ」
宮司「え、神職だったんですかその人!?」
女神「そうじゃよ。とはいえ別にお主のご先祖様ではないがな。言動の端々から欲望がまる出しでちょっと怖かった」
宮司「変なことされなかったでしょうね……」
女神「されるわけがない。返り討ちにして木に吊るしてやったわ。神を暴力でどうこうしようっていう発想をした時点で、もうそやつの負けなんじゃよ! バカめ!」
宮司「その人どうなったんですか、その後」
女神「祭神に手を出すとは何たる罰当たり、ってな具合に村八分を食らってな。そのうちどこかへ行った。風の噂では坊さんになったとか……」
宮司「なるほどねえ……そんな重度のロリコンがいたとは……」
女神「え? わしに欲情してたんならロリコンではないじゃろ」
宮司「いや立派にロリコンじゃないですか」
女神「え?」
宮司「え?」
女神「わしゃそこまで子供じゃない」
宮司「そうですかね? 少なくとも成人男性の恋愛対象にはおおよそなりえない姿ですよ。そのうえひとくせもふたくせもある性格してますし」
女神「やっかましい!! 中には物好きだっておるじゃろ!」
宮司「物好きじゃないと食いつかないという自覚はあるんですね」
女神「…………」
宮司「というかそんな嗜好の偏った物好きに好かれて嬉しいんですか」
女神「……ヤダ」
宮司「ですよね」
宮司「……ちょくちょく話が脱線して困りますね。とにかくです。少なくとも私は女神様を簀巻にしようと思ったことはないですよ」
女神「でもその次にひどい。監禁こそしとらんが軟禁みたいなもんじゃろ、この状況。他の宮司らはわりと自由にさせてくれとったぞ」
宮司「でもそれは肉体を持って行動していたわけではなくて、御霊でふわふわしていたからでしょう? 普通の人には見ることすらできない状態と、会話したり触れられる状態では事情が違いますよ」
女神「そうかもしれんが……」
宮司「それとも体のあるなしに関わらず、自由にさせてもらっていたんですか?」
女神「肉体を持って行動するのはほんとたまにではあったが……思い返せばその時は外に出るどころか人目につかんように社に押し込められとったような」
宮司「でしょうね。女神様は放っておくと危なっかしくてしょうがないから目につくところ、もっと言えば手の届く範囲に置いておきたいんですよ」
女神「なんじゃそりゃ!! わしゃ赤ん坊か!!」
宮司「あるいはそれ以上に手がかかるかも……」
女神「なにい!?」
宮司「とはいえです。先ほど言ったように人と違ってあなたは神様なわけですから、トラブルに巻き込まれても自力で解決できるだけの力があるでしょう?」
女神「当たり前じゃ。そもそも人の世で起こる事象でわしら神に危害を加えることなぞできんよ。基本的にわしらは死なんし……例外もあるっちゃあるけどそれは天の上の世界の話じゃから関係ない」
宮司「つまりこの世にいる限り女神様は何があろうと無事なわけですよね」
女神「うむ。たとえ隕石とともに自爆しようが、サムズアップしながら溶鉱炉に沈もうが……なにやったってわしゃ死なんぞ。もちろん肉体は消滅するが」
宮司「どこかで聞いたようなシチュエーションですね」
女神「日曜洋画劇場で見た」
宮司「ああそういう……」
女神「たまに見たくなるのよなあ」
宮司「……なんの話でしたっけ」
女神「日曜洋画劇場」
宮司「じゃなくて。その前の」
女神「なにやってもわしは死なんって話?」
宮司「そうそれです……あー、そうだったそうだった。思い出しました」
宮司「再確認です。とにかく女神様は私がどうこうしなくても自分の身は自分で守れるだけの力があるんですよね?」
女神「そういうことになる」
宮司「わかりました。それなら出かける前にしっかりと私に行き先を教えてくれるという条件はありますけど、それさえ守ってくれれば外出したって構いませんよ」
女神「おほっ! そりゃまことか!」
宮司「自分の身を自分の身で守れるんならいいんですよ。まさか危険なところに自分から突っ込んでいくほど女神様も馬鹿じゃないでしょうし、町内を散歩するくらいなら問題もないでしょう」
女神「わかった! しかしこうもすんなりことが運ぶとはなあ。お主のことだから絶対許してくれんと思っとった。それとも心配すらしとらんとか?」
宮司「心配してるに決まってるでしょうが。でもそうやって心配した挙句に束縛するのが女神様の為にならないっていうんならやめますよ」
女神「お主らしくもない。またワガママ言いやがってくらいのことを言いながらねちねちと攻撃してくると思っとった」
宮司「私を鬼か何かとでも思ってるんですか……別に私はあなたをいじめたいわけではありません」
女神「えー? いやあ、嘘は良くないのう」
宮司「嘘じゃありませんから。だいたい本気で束縛する気ならさるぐつわ噛ませたあとにぬか床に押し込むくらいはやりますよ」
女神「それは束縛っていうんじゃろうか」
宮司「物理的な束縛です」
女神「もっとスマートにできんのかいな……金縛りとかさあ」
宮司「人間の私にそんな呪術じみたことができるわけないでしょう」
女神「陰陽道を学べばできんこともないかもしれんぞ」
宮司「神道すらまだ道半ばなのに、これ以上人生の課題を増やさないでくださいよ……」
女神「さるぐつわ噛ませてぬか床に押し込むなんて犯罪じみたことしとったら、神道以前に地獄道に落ちそうな気もするがな」
宮司「六道輪廻は仏教の話でしょうに」
女神「いいのいいの。これも一種の神仏習合じゃ」
宮司「話戻しますけど……少し前まで御霊のままふらふらするのが定番だったじゃないですか。あれならいくら外に出たって構わないんですけど、やらないんですか?」
女神「あれはつまらん」
宮司「つまらん?」
女神「あの状態のわしが見える奴はほとんどおらん。もちろん会話もできんわけじゃ。となるとお主のような特殊なやつでない限りわしの存在に気づく人間はおらんじゃろ?」
宮司「ええ」
女神「そんなんつまらんにきまっとるじゃろうが。人間の知り合いもできてしもうたし、今まで通りに戻せと言われても嫌じゃわ」
宮司「……やっぱりそうですよねえ」
女神「物にも触れられんしな。飲み食いもできんうえに、こたつに入ったって暖かくない……まあ寒さも感じぬわけじゃがこれは気分の問題じゃ」
宮司「となると、しばらく戻る気はないんですか」
女神「そうじゃな」
宮司「そもそも元に戻れるんですか? いつだったか肉体を捨てると記憶が無くなるって言ってたような」
女神「そりゃ無理に肉体を捨てた時の話じゃわい。ちゃんとした手順を踏めばそんなことにはならんよ」
宮司「正規の手段でシャットダウンしないとエラー吐くんですね」
女神「うん。それで合っとるんじゃけど、わしを機械か何かみたいに言うのはやめんか」
宮司「しかし改めて思うんですけど……ここまで人の近くにいたがる神様ってのも面白いですよね」
女神「厳かに天から下界を見下ろすだけが神じゃないちゅうことじゃよ」
宮司「神様と人が直接触れあうって考えてみればすごいことですよね」
女神「かもなあ。わしはちょいと変わっとるかもしれんけど」
宮司「ちょいと、なんてもんじゃないでしょう? なかなかの変わり者ですよ。女神様はね」
女神「わし以外の神を知らんくせによく言うわ。まあでも……あれじゃな」
宮司「なんですか?」
女神「こういう人と接したがる性格でなければお主らと会うこともなかったろうし、そういう意味では変わり者で良かったと思っとるぞ」
宮司「……なるほど。私も良かったと思いますよ、女神様に会えて」
女神「ふひひ、そうかそうか」
女神「もしもわしに会ってなかったら、神職なんて関わりもせんかったんじゃないかえ?」
宮司「女神様に会ってなかったら……うーん、会ってなくても目指してたとは思いますよ。それとこれとは関係ない気がします」
女神「うん? そうなの?」
宮司「そもそも親を継いでこうなってるわけですから、私が神職やってるきっかけは女神様ではないんですよね」
女神「そういやそうじゃったな。わしがおらんでも同じだったわけか? そう考えるとなんかちょっと寂しいのう……」
宮司「そういうわけでもないと思いますがね。あくまで世襲はきっかけなので、女神様がいたから神職を目指したというのは間違いではないです」
女神「ほう」
宮司「なんといっても、いつでも女神様の近くにいられますからね」
女神「おっ……そんな恥ずかしい台詞よく言えるのう。けど、ぬふふ、嫌いじゃない。へへ……わしもお主の近くにいられるのは嬉しいぞ」
宮司「……? あ、なるほどそういう意味もあるか……」
女神「え? なに?」
宮司「いや……私が女神様の近くにいたい理由は、ひとりにすると必ずろくでもないことをやらかすからですよ」
女神「はあ!? なにそれ!! ひどい! ひどいぞお主!」
宮司「そう怒らないでくださいよ」
女神「けっ! 紛らわしいんじゃよ、物言いが! 曖昧な言い方しおるからいかんのじゃ! もっとわかりやすい表現を考えたらどうなんじゃ!?」
宮司「わかりやすい表現……なるほど」
女神「そうじゃよ! 無い頭ひねって考えてみたらよいわ! そこまで頭がまわるならな!」
宮司「好きですよ」
女神「ぴゃ」
宮司(なんか変な声出た)
女神「なっ……なんか変な声出てもうた……いや、確かにわかりやすいが……ふ、ふん! 騙されんぞ! そんなこと言って機嫌をとろうったって遅いわ。あっかんべー、じゃ。んべー」
宮司(ちょろい、そしてかわいい……勝ったな。いや、私も恥ずかしいから痛み分けか……もしくは道連れ)
女神「あー……なんか毒気を抜かれてしもうたな……この話はやめじゃ。寝よ寝よ。明日に備えてわしゃ寝るぞ」
宮司「おやすみなさいませ」
近いうちに投下する
HP(ひかるポイント)もMP(女神ポイント)も、TP(たまこポイント)もそろそろ限界だ
エリクサー(投下)はまだか!
女神「そういうわけで今日も朝がやってきたわけじゃが」
巫女「おはようございます!」
女神「朝から元気じゃなあ……」
巫女「夜に元気になってもどうしようもないじゃないですか! 元気になるなら朝ですよ!」
女神「夜勤とかそういう人はそうも言えんと思うが……なあ、ところで宮司がおらんのじゃが」
巫女「宮司様ならお出かけになられましたよ」
女神「どこへ?」
巫女「神社へです」
女神「……たま子、お主大丈夫か? もともとなんか抜けてる奴だとは思っとったが……子供じゃないんじゃしそろそろしっかりしてくれんと困るぞ」
巫女「しっ、失礼な!? 急に何を言うんです!!」
女神「いや、だって神社はここじゃろうが」
巫女「あっ、違いますそうじゃないです。ここじゃない神社のことです」
女神「ここじゃない?」
巫女「ええ。ここから車で30分ちょっとのところにある神社に」
女神「山のほうにあるやつ? わりと小さめの……」
巫女「ええ、それですそれです」
女神「……なんで?」
巫女「あら? ご存知かと思ったんですけど」
女神「知らん。なんで? あやつはここに仕える神主じゃろ」
巫女「今は違いますけどねー」
女神「え? それどういう……え? どういう意味?」
巫女「そのまんまですよ? 今はむこうの神社の神主です」
女神「え、な、なんで!? なんで!?」
巫女「えっ、そんなに驚くことですか?」
女神「逆に聞くがたま子は驚かんのか!?」
巫女「驚くようなことじゃありませんよー? 常に人がいるこの神社と違って、あちらは常勤の神職がいませんから。なのでうちの宮司様が定期的にお仕えしに行かれているわけです」
女神「あ……そういうことかいな」
巫女「すっごく驚いてましたねー。一体なんだと思っちゃったんですか?」
女神「いや、捨てられたかと思った」
巫女「ふふっ、宮司様がそんなことするわけないでしょうに」
女神「だからこそ驚いとったんじゃよ!」
巫女「なるほど!」
女神「なるほど、じゃない。精神衛生上よくないからこういうミスリードを誘うような言い回しは以後控えるように。わかったか」
巫女「すいません……あっ、でも私騙そうとしたわけじゃないです!」
女神「お主がそんな嫌なやつじゃないのはわかっとる。ただ紛らわしい物言いはよせっちゅうことじゃ」
巫女「ごめんなさい……そんなに嫌でしたか?」
女神「嫌というかじゃな……心臓に悪いからやめとくれっちゅうだけのこと」
巫女「以後気をつけます」
女神「ならいいんじゃけど……はて、となると今日はここにわしとお前の二人しかおらんのか」
巫女「一柱と一人です」
女神「細かいなあ。こりゃ言葉のあやじゃ、あや。とにかくわしらしかおらんのじゃな?」
巫女「そうですねー。今のところは誰も来ていませんし」
女神「猫すらもか」
巫女「ええ」
女神「暇じゃな」
巫女「私は一応やるべきことがあるんですけれども……」
女神「お主が急がしゅうても、わしゃ暇じゃ」
女神「暇じゃ、暇。祭神の世話をするのもお主らの役目のひとつじゃろー。なんか暇を潰せることはないんか」
巫女「ええぇ……そう言われましても……」
女神「ないんか」
巫女「急には思いつきませんよー……あ、散歩とかいかがですか? もう宮司様に許可をもらわなくてもよろしいんでしょう?」
女神「そういやそうじゃった」
巫女「ならふらっと町中を歩いてくるっていうのはどうです?」
女神「寒いからのう……あんまり外出たくない」
巫女「子供は風の子!」
女神「子供じゃないっつっとるじゃろ!」
巫女「あっ、申し訳ございません……」
女神「ったく……ええわ、外行ってくる」
巫女「ああっ、待ってください女神様!! 愛想をつかして出て行かないで!!」
女神「やかましいな! そういうんじゃのうてただ行きたいところがあったのを思い出しただけじゃから!」
巫女「ああ、よかった……」
女神「その程度のことでこの世の終わりみたいな顔をせんでもええじゃろ……」
巫女「女神様に愛想つかされたらこの世界は終わったも同然ですよ」
女神「なんか世界滅ぼそうとする奴とかが言いそうな台詞じゃな……よっこいせ」
巫女「あら? 玄関はそちらじゃありませんよ?」
女神「わかっとるわい。上着を取りに行くだけじゃ」
女神「あったあった。これじゃ」
巫女「あら綺麗なえんじ色……なかなかおしゃれな道行をお持ちになられていたんですね」
女神「持ってたっちゅうかもらったんじゃ」
巫女「もらったといいますと、宮司様に?」
女神「他に誰がおるというんじゃ。真っ白な着物でそこらを歩き回られると幽霊か何かと思われるからって言ってよこしてきおった」
巫女「あらまあ」
女神「そんなこと言っても下駄は黒いし鼻緒は赤じゃ。真っ白では断じてない」
巫女「ふふ、でもしっかり貰ってるんですね」
女神「くれるというから貰っただけじゃ」
巫女「照れちゃって~。嬉しいくせに」
女神「おいからかうなよ! 別にわしは……」
巫女「じゃあそれ私にください」
女神「いやじゃ!」
巫女「……ふふっ」
女神「……お主に付き合っとると疲れてかなわん。ちょっくら出かけてくるわ」
巫女「いってらっしゃいませー。それにしても……女神様、どこに行かれるのですか?」
女神「どこへ行かれるのですかとな……少なくともローマではないのう」
巫女「は?」
女神「なんでもない。とにかく目的地はあるっちゅうことじゃ」
女神「と、まあ出てきたのはいいものの……」
女神「寒っ……やっぱり寒い。これ一枚羽織ったくらいじゃまだまだ寒いのう。宮司のやつ、どうせならトレンチコートでもくれりゃよかったんじゃ」
女神「でも着物にゃ合わんしなあ……かと言ってわしが洋服着るのも変な感じじゃし……結局これが落としどころか。うー、寒っ。部屋に篭ってりゃよかったかのう」
女神(しかしなんの考えもなく飛び出してきたわけではない……たま子にも言うたが行きたいところがあるのでな)
女神(それにしても……だーれも和服を着とらんのな。いや分かったとったし今更って話じゃけどさ)
女神(こうやって実際に人と同じように歩いてると浮いとるっちゅうか……下駄じゃから歩くと音が出るし目立つわ)
女神(というか明らかに目線を感じる! 着物だから珍しいんじゃろうがちらちら見られとる。こうして信号待ちしとる間にもあちらこちらから視線を感じるぞ)
少年「すげー、着物だー」
女神「……」
少年「な、なんだよ! 見てただけじゃん。にらむなよ」
女神「……」
少年「なんか言えよ……気味悪いな!」
女神「……」
少年「わ、わかったよ! もう行くよ!」
女神「……」
少年(何あれ!? 怖っ! 妖怪!?)
女神「……ふん、小童が。わしは見せ物ではないぞ」
短髪「子供相手に何やってんの」
女神「え? 誰じゃ?」
短髪「おいっす」
女神「うげ、久しぶりじゃな……」
短髪「うげとは何よ。うげとは。しかも久しぶりって前会ってから一週間も経ってないし」
女神「久しぶりに会うくらいでいいんじゃよお主みたいな濃い奴は……」
短髪「で、何してんの? あ、まさか子供いじめてうっぷんを晴らしてるとか。やだこの神様サイテー」
女神「そんな大人気ないことはせんわ! ちょっと行きたいところがあってな」
短髪「今のも充分大人気なかったと思うけど?」
女神「お主は何やっとんのじゃ。学校はどうした学校は」
短髪「今日は日曜でーす。カレンダーとか見ないの?」
女神「ああそういやそうか。クミはどうした? お主と違って髪の長いやつ」
短髪「さあ? 何も聞いてないけど。たぶんアレよ、アレ。例の男にアタックでもかけてるんじゃない? あれからずいぶん張り切ってるし」
女神「頑張るなあ……」
短髪「女神様が頑張るように仕向けたんじゃん?」
女神「そうなんじゃけどな。なんつうか暗示にかかりやすいというか、流されやすいというか……」
短髪「バカ正直だよねあの子。そこがいいんだけどさ。応援してあげてよね」
女神「お主に馬鹿って言われちゃおしまいじゃな……」
短髪「どういうことよ! ひどくない!?」
女神「ひどくないですー。ありのままを言っただけでーす」
短髪「なにその話し方腹立つ!」
女神「お主を真似ただけじゃ」
短髪「残念でしたー! 私そんな馬鹿っぽい喋り方じゃありませんからー! もしかして女神様が馬鹿だからそんな喋り方になったんじゃないですかぁー?」
女神「馬鹿っていうほうが馬鹿なんですー!」
短髪「だったら女神様も……いや、私は大人だから言い返さない! これが大人の余裕!」
女神「あっずるい逃げおったなこやつ」
短髪「ふふん、戦略的撤退ってやつよ」
短髪「こんな茶番はどうでもいいの。でさ、女神様はどこ行くわけ? なんなら案内しようか?」
女神「え? お主は予定とかないんか?」
短髪「予定は未定ー。そのへんぶらつくつもりだったし、女神様についてったほうが面白そうだしさ」
女神「それなら病院まで連れてってくれんかな」
短髪「病院? いいけどさ……え、何。女神様どっか悪いの? 神様も病院とか行くんだ」
女神「違う違う。会いたい奴がおるんじゃ」
短髪「なんだ、そういうこと? 友達とか入院しちゃった感じ?」
女神「うーん、それも違うんじゃが……まず向こうはわしのこと知らんし」
短髪「なにそれ。そんなお見舞いってある?」
女神「お見舞いといっていいのかもわからんのう……」
短髪「ますます意味わかんないんだけど。じゃあ何しにいくわけ?」
女神「わからんでもええ。とにかく病院につれてってくれんか」
短髪「まあ私と女神様の仲だし構わないけどさー」
女神「だからわしとお主の仲ってなんなんじゃ。お主に会うのまだ二回目じゃぞ?」
短髪「会った回数じゃないでしょ。大切なのは心が通じ合うかどうかよ」
女神「……まあそうかもな」
短髪「どうしたのー? 私の言ったことがあまりにも真面目で感心した?」
女神「そういうことを自分で言うからお主は駄目なんじゃ」
短髪「へへへ、反省してます」
女神「わしとお主の仲に免じて許してやる」
短髪「やったー! 女神様大好き!」
女神「ひっつくな! 歩きづらい!」
すまん無事に生きてるけど文が浮かんで来なくて投下できねえ
スレ忘れてるわけではないということは伝えておきたい
待ってれば女神様の続きが読める、
これ程嬉しい事はそうそう無い
ちなみに、>>1のスレってここ以外だと何がある?
狙撃手と観測手の奴もすげぇ面白かったし、他にもあるなら教えて欲しい。
>>210
他だとサンタとトナカイが言い合うやつがあるけど未完
たしかVIPでやったからログなさそうだけどNIPでもう一度焼き直そうとした記憶があるようなないような
確か他にも1、2個あるはずだけど全部未完だし完結してるのはその挙げた狙撃手の一個だけなのであしからず
書き忘れたけど現行スレはここ以外ないです
女神「なあ、病院までどのくらいかかるんじゃ?」
短髪「もうすぐそこだけど? 踏切渡ってすぐだから」
女神「そんなに近かったかのう……?」
短髪「行ったことあんの?」
女神「ない。病院の場所を知ってる奴らの記憶から病院までの距離を考えてみるともうちょっとかかりそうな気がしとったんじゃ。気のせいだったようじゃが」
短髪「えっ、それ誰の記憶? もしかして今までに見た人の記憶って全部覚えてたりすんの?」
女神「あれ、お主に言わんかったっけ。わしゃ一度見聞きしたものは二度と忘れんよ」
短髪「うわーすっご! 神じゃん」
女神「……」
短髪「あ、そっかホントに神様だったっけ。アハハ、うける」
女神(突っ込む気にもならん)
短髪「でもちょっと待ってよ。それじゃ私が道案内する必要って実は無かったりする?」
女神「いや、記憶を掘り起こす手間が省けるからそんなこともない。わりと手間なんじゃよ……文字通り数え切れんほどの人の記憶を見てきたからのう」
短髪「ふーん、やっぱ長生きなんだ。女神様っていくつなの?」
女神「わしにもよくわからん。六桁超えてからは数えるのも面倒じゃ」
短髪「え!? 六桁って歳が?!」
女神「なんじゃ、すっとんきょうな声出しおって……歳を聞いたのはお主じゃろ」
短髪「いやいや驚くでしょ! 六桁超えてるってことは、えーっと……少なくとも百万歳ってことじゃん!」
女神「もしかしたらまだ六桁かもしれんけどな。大昔は適当に過ごしとったし記憶も適当じゃわ」
短髪「どっちにせよ本当の歳は見た目とは全然違うわけでしょ。ばーちゃんとかいうレベルじゃないよね。なんていうか、化石? 生きる化石じゃん?」
女神「しばかれたいのか」
短髪「あーほら、見えてきた見えてきた」
女神「病院のことか? えーと……どこ?」
短髪「あれよあれ」
女神「えっ、あれか?」
短髪「なによー。信用できないっての?」
女神「そういうわけでは……急に出てくるもんだからのう」
短髪「あと一分後に出てきますよ~とか予告してほしかったとかそういう感じ?」
女神「それもそれでなんかなあ……」
短髪「結局あそこに何しに行くの? お見舞い?」
女神「お見舞いってわけではないが様子を見たい奴がおる」
短髪「誰よ」
女神「うちの神社にちょいちょい来る奴」
短髪「へえー」
女神「お主よりずっと小さい女の子じゃ。ここに入院しとる」
短髪「えっ、そんな子があんな神社来るんだ」
女神「あんなとはなんじゃ! あんなとは!」
短髪「いや普通に意味わかんないじゃん。なんで神社来んの? 頻繁に通うようなとこじゃないでしょ」
女神「……まあわしにも理由がわからんからこうして会いに来とるんじゃが」
短髪「はーい到着しましたよっと」
女神「ご苦労様」
短髪「どういたしまして。会いに来たって言っても名前とか分かってんの? ていうか記憶読めるのにわかんない事なんてあんの?」
女神「記憶を全部読むには時間が足らんかったんじゃ。わしとて一瞬しか時間が無かったらほんの一握りの情報しか分からん」
短髪「ちょっとちょっと、そんなんで直接会いに来て大丈夫なの~?」
女神「直接顔を合わせるわけではないからよいのじゃ」
短髪「は? じゃあ何しに来たわけ?」
女神「遠巻きに眺めて記憶を読む。その為だけに来た」
短髪「うわあ……ストーカーじゃん……」
女神「あのさあ!! そういう言い方はやめてくれんかな!!」
短髪「あーはいはいわかりましたわかりました」
女神「久しぶりにぶち切れそうになった」
短髪「でも直接会わないっていっても入院してるんじゃ会いに行かないことにはどうしようもなくない? 近づかなきゃ記憶も読めないんでしょ」
女神「そこは考えてある。そうでもなけりゃここまで来やせんわ……いいから入るぞ」
短髪「まあ外であれこれ言っててもどうにもならないしね。はぐれないでよ?」
女神「またそうやって子供扱い……ほー、最近の病院はずいぶん小奇麗じゃな。おしゃれとでもいうのか……昔はなんとなく不気味な雰囲気を醸し出していたもんじゃが」
短髪「そう? そんなの思ったことないけど」
女神「昔っつってもお主が生まれる前の話じゃからな。ここだって一昔前にはな……」
青年「あれ? 巫女さん?」
女神「は?」
青年「やっぱり巫女さんだ!」
女神「あっお主……前にうちの神社に来た……」
青年「いやあ、まさかこんなところで会うなんてねー。思ってなかったよ」
女神「わしだって思っとらんかったわ」
短髪「知り合い?」
女神「いや知り合いっちゅうか……あ! そうだ! お主わしがあげるっつったのにお守りのぶんの代金を賽銭箱に放り込んでいきおったよな! あんなん受け取れるか!」
青年「いやあれはお代じゃなくてお賽銭だからね。お賽銭を受け取れないなんてことあるの?」
女神「屁理屈をこきおって……」
短髪「ちょっとちょっとー! この人にはタダでお守りあげたの!? なにそれー! 私の時はきっちり請求してきたじゃん!」
女神「やかましいわ! お主とは事情が違うんじゃ!」
青年「この方は?」
女神「知り合い……か? まあ腐れ縁じゃ」
短髪「腐れ縁とか言わないでよ! 私と女神様の仲でしょ!」
青年「女神?」
女神「あ」
短髪「ん?」
女神「あー……こやつわしのことをそう呼ぶんじゃ。あだ名あだ名。話し方が年寄りみたいで神社にいるからって! まったく本当の神様に失礼なあだ名じゃよな!」
短髪「……?」
青年「あはは、面白いじゃない」
短髪(……ははーん。なるほど? この人は女神様のことをただの巫女さんか何かだと思ってるのね)
短髪「……でしょう? 私はこの子にピッタリのあだ名だと思うんだけどな~。あなたもそう思うでしょ?」
青年「うんうん。わかるよ」
女神(さすが察しが良い助かった愛してる)
女神「お主はここには何しに来たんじゃ」
青年「ちょっとお見舞いにね」
短髪「そうなの? 私達と一緒だ」
女神(そういやこやつ、彼女が病気なんじゃったか……)
女神「あのお守りは渡したか?」
青年「今さっき渡してきたところだよ」
女神「随分渡すのに時間がかかっとるな」
青年「なかなか渡せなくてね」
女神「ふむ、まあお主らにも事情があるってことじゃな。もう一個はちゃんと持っとるんじゃろうな?」
青年「これでしょ? 君のお手製なんだよね」
女神「よしよし、ちゃんと持っとるな」
短髪「女神様ぁー。私にはお手製のお守りくれないのー?」
女神「やらん」
短髪「ケチ!」
女神「ケチじゃない。お主にゃ必要ないじゃろ」
短髪「必要! 女神様の愛が足りなくて具合悪くなりそう!」
女神「わけのわからんことを口走るでない!」
青年「あんまり病院で大きな声出さないほうがいいよ」
短髪「すいませんホントに……ほら女神様も謝る」
女神「そっちが先に言い始めたのに……」
青年「僕はもう帰るけど君たちは今からお見舞いに行くんだよね?」
短髪「そうそう、お見舞いに来たのよねあたしたち。忘れるとこだった」
女神「わしは覚えとったがな」
青年「誰に会うのかは知らないけど……お大事にね」
短髪「どうもー。伝えておきますね」
青年「ありがとう。またね」
女神「またな」
短髪「……ねえ女神様。あの人誰だったの?」
女神「その前にひとついいか。お主よくぞわしの気持ちを汲み取ってくれた。ほんとにありがとう」
短髪「は? あー、あれは察しろって感じの顔をしてたからさあ。女神様はあの人に自分は女神だーって言ってないわけ?」
女神「普通はそんなん言わんよ……」
短髪「私達が普通じゃないみたいじゃん」
女神「普通は私は神ですなんてうさんくさい言葉、すんなり信じやせんぞ。騙されて変な壺とか買うなよ」
短髪「で、あの人誰?」
女神「ちょっと前にうちの神社に来た。女の為にお守りを探しにな」
短髪「女の為って彼女? 病気でもして……あ、病気しててここに入院してるからお見舞いに来てたってことか!」
女神「たぶんそうじゃろ。お主変にするどいな」
短髪「へへん! 名探偵とお呼び!」
女神「なーにが名探偵じゃ。行くぞ」
短髪「この病院広くない? 私達が行くのってどこ?」
女神「記憶を読んだから部屋番号はわかる」
短髪「なら早く行こ」
女神「面会受付行ってからな……すいませーん。友人のお見舞いに来たんですけど」
受付「はい。入院されている患者様との面会ということですね?」
短髪「うんうん。その通りです」
受付「それではこちらに代表者の方のお名前と、こちらに入院している方の名前をご記入ください」
女神「わかりましたー」
短髪「私が書こうか?」
女神「これくらいはできる。それにお主はあやつの名前分からんじゃろ」
女神(……しかしここであの男に会うとはなあ。この辺りじゃ一番でかい病院っつったらここじゃし、うちに来るようなのはみんなここにおるんかもなあ)
女神「……よし、これで大丈夫」
短髪「できましたあ。これでいいですか?」
受付「ありがとうごさいます。それではこちら面会札となりますので目立つ場所にお付けください。次の方どうぞー……」
短髪「……思ったより簡単だったね」
女神「何が?」
短髪「受付。ドラマなんかであるじゃん? 入院してる人に会いに来たのはいいけど、部屋番号がわからないから受付で揉めて中には入れないなんてやつ」
女神「普通はそんなこと起こらんからな……面会用の受付なんて無い病院だってあるんじゃぞ。それに正面から入って外来に来ましたって顔で受付なんぞ通り過ぎちまうとか、いくらでもやりようはあるじゃろ」
短髪「うわ、悪い人だ」
女神「わしはやらんけど。第一この服じゃ目立っちまって無理じゃ」
短髪「それは言えてる」
短髪「ところで何階だっけ」
女神「六階じゃが」
短髪「エレベーターってどこ?」
女神「あの目の前に見えとるやつがそれじゃないのか?」
短髪「あ、ちょうど来てるし」
女神「ありゃ地下に行くやつじゃろ。下向きのランプが点いとるぞ」
短髪「女神様そういうことちゃんと知ってるんだー。てっきり最近のことには疎いのかと思ってた。伊達に歳取ってないね」
女神「バカにしとるな? 神社に来る奴らの記憶読んどるから一般常識くらいはありますよーだ。だいたいそうじゃなきゃ言葉もまともに通じんじゃろ」
短髪「そっかー。それにしてもこっからよく見えるじゃん」
女神「お主は見えんのか。視力いくつじゃ?」
短髪「へっへー、いくつに見える?」
女神「……」
短髪「ちょっとー! 無視しないでよ!」
女神「反応するのもめんどくさいぞ……」
短髪「ひどーい。人がせっかく場を和ませようとしてるのに」
女神「ほらエレベーター来たぞ」
短髪「………」
女神「どうした? 乗らんのか」
短髪「ふんだ。女神様が無視するんなら私も無視しまーす」
女神「あっそ。六階、閉、と……」
短髪「ウソウソ、嘘だって! 乗ります乗ります!」
女神「ここじゃな」
短髪「あっさり着いちゃった」
女神「迷うほど複雑なつくりじゃなかったからのう」
短髪「この部屋、一人分しか名前書いてないけど」
女神「個室じゃな」
短髪「記憶を読むには直接姿を見ないとダメなんでしょ?」
女神「…………」
短髪「どうやんの? ドアもしっかり閉まってるしこれ入ったら絶対バレるじゃん。ていうか中にいるとも限んないしさ」
女神「…………」
短髪「ちょっと聞いてんの? もしもーし?」
女神「……うむ、そこは大丈夫じゃな。運がいいことに今は寝とるようじゃからこっそり入って顔だけ見ればおしまいよ」
短髪「なんで寝てるってわかんの? 見えるわけ……あっ、透視?」
女神「そうじゃよ。ほんと察しがいいなお主」
短髪「それで集中してたから黙ってたっての? そういうのやるなら先に言ってよ~。無視されてんのかと思っちゃったじゃん」
女神「すまんすまん」
短髪「それにしてもめっちゃ便利だねそれ」
女神「透視できる物の厚さにも限界があるがな。厚けりゃ厚いほど長く精神統一しなきゃならんし、わりと体力使うし……使わんで済むなら使わんほうが楽じゃわ」
短髪「でも今は使ったんだ。そんなにその子の記憶が見たいわけ?」
女神「わしの神社に足繁く通うやつじゃぞ。興味がわかないわけがないじゃろ」
短髪「確かにどんな子なのかちょっと知りたいよね」
女神「じゃろ? わしはあやつのことを知りたいのよ」
短髪「こんなめんどくさいことしないで直接聞けばいいのに」
女神「こっちのほうが聞くより色んなことがわかるんじゃよ。手っ取り早いしな」
短髪「女神様にかかったらプライバシーもなにもあったもんじゃないってわけね。さ、入ろ入ろ」
女神「なんかすごい悪いことしてる気になってくるからやめとくれんかな……」
少女「…………」
短髪「……ほんとに寝てる。記憶読むのってどのくらいかかるの?」
女神「三十秒とかからんよ。ちょっと待ってろ」
短髪「ふーん、そんなすぐ終わっちゃうんだ」
女神「……」
短髪「あー、はいはい。また精神統一してんのね」
女神「……」
短髪「それにしてもこの子……なんか点滴も刺さってるし、外歩き回れるほど元気には見えないけど。ほんとに神社来てたの?」
女神「……ん?」
短髪「え? 何?」
女神「あ、別に何でもないぞ」
短髪「なんでもないってことないでしょー。何かしら見えたんでしょ?」
女神(まさかこやつ……)
短髪「ねえねえ、なにか面白いことわかった? 教えてよ」
女神「……それは駄目じゃ、教えられん」
短髪「なんでよ」
女神「まあ、なんというかあれじゃ……プライバシーってのがあるからのう。お主だって勝手に個人的なこと言いふらされたら嫌じゃろ」
短髪「まあそうだよねー。じゃあ帰ろっか」
女神「そうじゃな……目的は達したしな」
少女「……ぅ」
短髪「あ」
少女「……?」
女神(いかん、起きてしもうた)
女神「……お、おはようございます」
少女「……だれ? あなた巫女さん?」
女神「まあ、そんなところ……かのう」
少女「あなたは?」
短髪「なんて言えばいいのかな……保護者? そう、この子の付き添いみたいな」
少女「……部屋まちがえてませんか?」
短髪「あー、いや、その……この子がここだって言うから?」
短髪(無理! 女神様パス! ごめん!)
女神(ちくしょーわしに振るな! ええい、なるようになれ!)
女神「お主こっから一番近い神社は知っとるな? わしゃそこの……巫女じゃ。たま子みたいなもんじゃ」
少女「あ! そうだったの!?」
短髪(あ、すごい。目の色が変わった)
女神「うちの宮司どもが最近姿を見せんと言って心配しておってな。必死こいてお主の居場所を探しに探したらここに来たというわけじゃ」
少女「入院してるなんて言わなかったのによく分かったね」
女神「そこはあれじゃよ……ここに来るまでに多大な労力がかかっとるからな。なんども間違いを重ねてようやく正解にたどり着いたというわけじゃ」
少女「探偵みたい! 巫女さんってすごいんだね」
女神「ふふん、じゃろ? 巫女には不思議な力があるんじゃよ」
少女「その喋りかたにも何か秘密があるの?」
女神「喋り方?」
少女「なんとかじゃ、なんとかじゃって言ってる」
女神「あー……これは、方言」
少女「方言知ってる! じゃあ遠いとこから来たんだ!」
女神「まあそんな感じ……? 今はずっとあの神社におるがな」
少女「ずっといるのに今まで会ったことなかったね」
女神「話には聞いておったぞ。今日はいつも来てもらってるから逆にこっちが来たってわけじゃ」
少女「わぁー、ありがとう」
女神「どういたしまして」
短髪(まるで幼馴染みたいねー……私の入る隙が無いんだけど)
少女「みんな元気にしてる?」
女神「元気も何も、うちの神社のやつらはみんなうるさいくらいじゃよ」
少女「うふふ、だよね」
女神「毎日お祭り騒ぎのようなもんじゃよ。そこに突っ立ってるやつも加わってな」
少女「あなたも巫女さんなの?」
短髪「え!? いやいやいや、私は違うから!」
女神「お主と同じでうちに来る奴じゃ。あの神社をやかましくするのに一役買っとるのよ」
少女「へえー。私が知ってるよりもっとにぎやかなんだね」
女神「賑やかなんてもんじゃないぞ。工事現場よりうるさい」
少女「あはは、それは言いすぎだよ」
女神「いや、そこに重機よりもうるさい女がおるからあながち間違いでもない」
短髪「なによその紹介の仕方! もうちょっとなんかあるでしょ! 酷すぎ!」
女神「ほらな! うるさいじゃろ!?」
少女「なるほどー」
スランプとかではなく夏休みの宿題を8月31日にやるタイプだからスレが落ちる寸前まで無駄に引き伸ばしてしまうだけだ……投下準備できてます
こんな感じで好き勝手にだらだらやらせてもらってるからお前らも好きにレスしちゃっていいよ
少女「あの神社、すっごい賑やかなんだね! 私も混ざりたいなあ」
女神「いつでも歓迎するぞ。うちに来たらええ」
少女「うーん、今は無理そう」
女神「ふむ。神社に来ないからそうだとは思っとったが、やはり外には出られんのじゃな。歩き回らんようにとでも言われとるんか?」
少女「ええと……それもあるんだけどね。ナイショで行ってたのがばれちゃってしばらく行けそうにないかも」
女神「外出許可もらわずに抜け出しとったのか!」
少女「だって許してくれないんだもん」
女神(そうだとは思っとったがな。病院にいなきゃいかんから入院しとるわけで……そう簡単に何度も敷地外に出られやせんもんな)
女神「そんなんじゃ治るもんも治らんようになるぞ。ちょっとは我慢せい」
少女「でもちょっと前はまだ建物の外に出ても平気だったんだよ。病院の外に出るのはほんとはダメだったけど……今はあんまり歩き回ったりしないほうがいいって先生が言ってたの。もうタイクツ」
短髪「あら、そうなんだー……」
女神「まあ神社は逃げんしいつだって来られる。ゆっくり治してからくればええ」
少女「そのつもり」
女神「……しかしなんで神社なんじゃ?」
少女「え?」
女神「どうして神社なんか来たんじゃ。いや、来るなってわけではないぞ? ただ何故来ようとしたのかが気になってな」
少女「楽しいもん」
女神「ふふ、そうじゃな。でも最初は楽しいかどうかも分からなかったんじゃないのか? 一番初めにあの神社に来たのはどうしてなんじゃ?」
少女「うーん、あの時はねー……病気はよくならないし気分は悪いしで何もかも嫌になっちゃってね」
女神「ほう」
少女「あ、私の病気って昔からなの」
女神「なるほどなるほど。続きは?」
少女「それでね、その時も入院してたんだ。そしたらなんかもう全部嫌になっちゃってどこでもいいから行きたくなったの」
女神「ほう……」
少女「目的もなくあっちこっちふらふらしてて、静かそうなところがあったからただなんとなく入っちゃったの。そしたら神社だったの」
女神「駆け込むなら神社じゃのうて寺だろうに」
少女「お寺?」
女神「駆け込み寺よ駆け込み寺……分からんか」
少女「あの神社に初めて行ったとき、おじさんと話したけど……」
女神「うんうん、お主と同じ名前のおじさんな」
短髪「神主さん? 私まだ見たことない。どんな人なの?」
少女「おじさんって感じの人」
短髪(……わからない)
女神「まあおじさんよな。本人はまだお兄さんでも通じると思っとるようじゃがおじさん以外の何者でもない」
短髪「そんなに老けてんの」
女神「いや老けとるっちゅうか歳がおじさんじゃし……見た目だけなら年齢よりは若く見えるかもな」
短髪「なるほど……で、かっこいい? 若く見えるってことはシブいおじさんではないよね~。残念」
女神「お主の好みは知らんわ……自分で確かめたらええじゃろ」
少女「なんの話だったっけ?」
短髪「神主さんがいけてるおじさんかどうかっていう」
女神「あの阿呆は放っておこうな。初めてうちの神社に来た時のことじゃろ?」
少女「そうそうその話! その時わたし神様なんていないって言ったの」
短髪「んふっ」
少女「え?」
短髪「いやいや、なんでもない……!」
少女「……? へんなの」
女神(神に向かって神はいないって言っとるんじゃから、短髪からしたら面白い光景ではあるかもな……)
女神「ほうほう。でもなんでそう言ったんじゃ? 何もかも嫌になっとったからか?」
少女「うん。神様がいるならなんで助けてくれないの、って思ってたの。いても助けてくれないならそんな神様いないほうがいいもん」
女神「……わしもそう思う。何もしようとせず何もできないんじゃ、もしもいたとしたってそんなもんいないのと一緒じゃからな」
短髪(自分に言い聞かせてるのかな……)
女神「それでも神社には二度目、三度目と来たわけじゃよな。どうしてなんじゃ? 神頼みではないよな」
少女「わかんない……でも逃げたかったのかも」
女神「逃げたかった?」
少女「うん。病院とは全然違う場所で、全然違う雰囲気に包まれて、全然違う人に会って……」
短髪「憂さ晴らしがしたかったってことよね」
少女「……うさぎばなし? なにそれ?」
短髪「いやウサギじゃなくて……ストレス? そう、ストレス発散でしょ!」
少女「うんうん、そう! あそこにいるとね……なんとなく落ち着いた気がしたの。だからその次もあそこに行っちゃったの、なんとなく」
女神「なんとなく、ね」
少女「でもそうやって何度かなんとなく行ってたらいつの間にか楽しくなってたの。神主さんと巫女さんに会うのが楽しみになったの」
女神「そんなに何度も行ったのか?」
少女「覚えてないけど十回なんてもんじゃないよ」
女神(話に聞いた以上にずいぶんと何度もうちに来とったんじゃな、こやつ……今まで会わなかったのが不思議じゃ)
少女「あそこに行くとなんだかだんだん元気になる気がする! 最初行った時は元気なんてなかったけど今はそんなことないもん」
女神「うちで雪合戦してたらしいしな……元気は出てそうじゃな」
少女「雪合戦! あれ楽しかった!」
女神「そりゃ良かった。次はわしも混ぜてもらってもええかな?」
少女「いいよ! そこのおねーさんも!」
短髪「私も? いいけど……」
少女「?」
短髪「私強いからなー。みんな勝てなくなっちゃうから申し訳ないなー」
女神「なーに寝ぼけたこと言っとるんじゃ? ひかる! チーム組むぞ! 一緒にこやつを叩きのめそう!」
短髪「なにそれ卑怯!」
少女「わかった! 神主さんも叩きのめそう!」
女神「ほう! お主わかっとるな! いいコンビになれそうな予感がするぞ……!」
少女「うふふ、楽しみ。あーあ、また行きたいなー」
女神「いつでも来ればええ」
少女「元気になったら行くね!」
女神「うむうむ、じゃあわしらは帰るとするかのう」
少女「帰っちゃうの? もうちょっといようよー」
女神「えー?」
短髪「いいじゃんどうせ暇でしょ? もうちょっといてあげよ?」
少女「いてあげよ?」
女神「なんなんじゃお主らは……わかったわかったもう少しだけな……」
少女「やった!!」
短髪「結局みっちり話し込んじゃったね。どのくらいいたんだろ? ていうか何時に来たんだったっけ?」
女神「二時間くらいはおったな……意外と話題が尽きぬものよ」
短髪「外にも行けないし暇なんだろーね」
女神「そうなんじゃろうなあ……」
短髪「まあ元気が出たみたいでよかったじゃん?」
女神「んー、まあな」
短髪「どんな病気か知らないけど良くなってほしいよねー。あの子なかなか良い子だったし」
女神「わしもそう思うよ」
短髪「ねえねえ、あの子の未来とか見たりしてないの? いつ頃退院できるかとかさ」
女神「……いや、見とらんのう。記憶を読むのに気を取られてて忘れてしもうたわ」
短髪「はあ? ちょっとなにそれー。もともとそれを知るために来たんじゃないの?」
女神「あやつのことを知りたかっただけじゃから記憶さえ読めりゃそれで充分じゃわ」
短髪「やるからにはベストを尽くさなきゃダメでしょ。プロ意識なさすぎ。0点」
女神「神にプロもアマもあるかいな」
短髪「あるかもしんないじゃん?」
女神「プロの人間なんてのがあるか? それと同じじゃ」
短髪「いや人間にプロとかはないけど神様はあるでしょ」
女神「そのわけのわからん謎の自信はどこから湧いてくるんかのう……」
短髪「自分を信じずに何を信じるっていうのよ?」
女神「なんでちょっと名言みたいにしとるんじゃ」
短髪「名言っしょ? 女神様ももっと自分を信じたほうがいいよ~」
女神「え、何? わしそんなに自信ないように見えるんか?」
短髪「いや別に?」
女神「じゃあなんでそういうことを言うんじゃ!」
短髪「流れで言っただけー。アハハ」
女神「……疲れる。お主の相手するの疲れる」
短髪「ねーねー、女神様ー」
女神「なんじゃ……」
短髪「返事してくれたー」
女神「なんじゃ! 何の用じゃ!」
短髪「え? 呼んだだけ」
女神「お主なあ……!」
短髪「でもさ、疲れるとか言ってるけど無視しないでこうやってちゃんと返事してくれるから女神様って優しいよねー」
女神「……」
女神(怒りづらくなってしもうた……)
短髪「そもそも女神っていうと優しそうなイメージあるもんね。慈愛の女神! ……とかそんな感じ?」
女神「いや……まあ、うん……わしは知らんけどお主がそう思うんならそうなんじゃないのか」
短髪「女神って言ったら金髪で羽根生えてて真っ白なローブ着てるやつしか想像できなかったんだよねー、私。女神様に会うまで神様って光ってると思ってたし」
女神「言いたいことは何となくわかるが……」
短髪「神様くらいにもなるとやっぱり光っちゃったりするもんでしょ?」
女神「お主の感性なかなかぶっ飛んどるな……感性というか説明がイカれとるのかな」
短髪「あれ、神社どっちだっけ?」
女神「この交差点は左じゃ。すぐそこじゃぞ」
短髪「あー、あそこにみえるやつ? この道あんまり通ったことないから分かんない」
女神「お主この辺に住んどるんじゃないんか?」
短髪「遠くはないけど近くもないのよね。それに迷ったら地図見りゃいいしね」
女神「地図なんか持ち歩いとるのか……」
短髪「地図アプリの話だよ」
女神「アプ……そうか、最近は携帯電話で地図が見れるんじゃな」
短髪「今のすっごい年寄りって感じの発言じゃない? 大丈夫? 時代についていけてる? スマホわかる?」
女神「やかましい! わかるわ!」
短髪「でも安心してね! うちから神社への道は地図なんかなくてもバッチリわかるから!」
女神「これからも来る気まんまんじゃな……」
女神「ふう、ようやく帰ってこられたわ」
短髪「おつかれー。イェーイ、ハイタッチー」
女神「はいはい……お主疲れとらんのか?」
短髪「あんなんで疲れるとかないでしょ」
女神「いやあるじゃろ」
短髪「ないってばー。女神様ちょっとひ弱すぎるんじゃない?もっと運動したほうがいいよ」
女神「む……」
短髪「でもやめたほうがいいかな~。ちっちゃい頃から運動しすぎると身長伸びなくなるっていうし」
女神「わしは子供ではないっつっとんじゃろ!!」
短髪「冗談だってば、ジョーダン!」
女神「はぁー、わかっとるよ……もう帰れ! 暗いし!」
短髪「はいはーい。じゃ、帰りまーっす」
女神「次に来る時までにはその喋りすぎる口の数を少し減らしておくんじゃな!」
短髪「やだ何言ってんの女神様~。口はひとつしかないじゃん」
女神「そーいうのが減らず口だっていっとるんじゃよ!! もうなんか逆にすごいな!!」
短髪「褒められちゃった~」
女神「褒めとらぁん!!」
女神(くっ、やはりこやつは苦手なタイプじゃ……何も考えてないようで的確にこちらの攻撃をいなしおる。一対一では決着が……)
宮司「……なに大声出してるんですか?」
女神「宮司! よいところに!」
女神「わしの危機に駆けつけるとはよく出来た奴じゃ! 褒美を取らせてやろう! 何が欲しい!」
宮司「何をわけのわからないことを言ってるんですか……? 大声出すから何かと思って見に来たんですよ」
女神「なんじゃそうだったんかい……」
短髪「神主さんですか? こんばんはー」
宮司「はいこんばんは。もしかして女神様が言っていた子……ですか?」
女神「そうじゃよ短髪じゃよ……こやつがもうとんだ悪者でな……」
短髪「私の名前は短髪じゃありませんからー。あ、突然押しかけてすいません。私、相澤と申します」
宮司「これは丁寧にどうも、お話は伺っております……良い子じゃないですか」
女神「騙されるなよ!! いかに言葉を取り繕おうとその身から出る品のなさは誤魔化せんぞ!!」
短髪「ひっどーい!! なによその言い方!!」
女神「真実じゃろ。悔しけりゃもっと上品に振る舞うことを覚えたらどうじゃ?」
短髪「そんなこと言ったら女神様なんかぜんぜん上品じゃないじゃん!」
女神「はあ!?」
短髪「神様って感じのオーラがない! 庶民! ぜんぜん品がない証拠でしょ!」
女神「きぃぃぃぃ!!! 気にしとることをぉぉぉぉ!!!」
宮司(……女神様が二人いるみたいだ)
女神「宮司わかったな! こういうやつだからな! やかましいことこの上ない!」
短髪「女神様のほうがうるさい!」
女神「そう言うお主のその声のほうがやかましい!!」
短髪「女神様の声のほうが大きいですよーだ!!」
女神「そんなことありませーん!! あなたよりは静かでーす!!」
宮司(どっちもうるさい……)
女神「口うるさいしひねくれてるし……こやつの相手は疲れる! 代わりに相手してやれ!」
宮司「そう言われましても……悪い子には見えませんよ」
短髪「ですよねえ? いやはや、分かってらっしゃいますね!」
女神「調子に乗るなよ!」
宮司「私とならまだしも、子供と言い合うのは大人気ないからやめてくださいよ……」
女神「もう十分に分別のつく年齢じゃろ! 女子高生じゃぞ!? わしはこやつを子供とは思わんぞ! 子供というのはな、ひかるのような子のことをいうんじゃ」
宮司「そのひかるちゃんは会ってきてどうだったんですか? 元気にしてましたか?」
女神「え? ああ……元気そうにしとったぞ。なあ?」
短髪「すっごい元気でしたよ。神主さんとまた雪合戦したいって言ってました」
宮司「げっ、雪合戦か……女神様がめちゃくちゃやるからなあ……」
短髪「また来られるようになるといいですねー!」
宮司「そうだねえ」
女神「……」
短髪「私もまた来ていいですか?」
宮司「もちろん構いませんよ」
女神「うげー。また来るんかいな」
宮司「女神様のいうことはあまり気にしないで……」
短髪「やったー! それじゃ神主さんのお墨付きももらえたところで帰ります!」
女神「宮司よ。あやつはわしのここでの平穏な生活をぶち壊しかねん奴なんじゃぞ。そんな祭神に危害を及ぼしそうなものを招き入れてええんか? もはやあれは歩く災厄じゃぞ」
宮司「何わがまま言ってるんですか。来るもの拒まずじゃなきゃいけませんよ」
女神「ぐ……それはたしかにそうじゃが……」
宮司(それになんだかんだ女神様も楽しそうだし)
短髪「じゃあね女神様ー! またねー!」
女神「……暗いから気をつけて帰るんじゃぞ」
短髪「心配してくれんのー!? ありがとー!!」
女神「さっさと帰れぇ!!」
女神「やーっと嵐が過ぎ去ったか……」
宮司「なんだかんだ楽しんでるでしょう? 女神様」
女神「楽しいように見えたのか!? あれが!?」
宮司「本気で嫌がってるなら女神様はあれこれ喋る前に黙りますからね。そうでしょう?」
女神「まあそうじゃが」
宮司「私やたま子さん以外の数少ない話し相手なんですから、優しくしてあげないと二度と来なくなっちゃうかもしれませんよ」
女神「ふん、あやつがこの程度で来なくなるわけがない……ありゃ槍が降っても来るような奴じゃ」
宮司「いつ来なくなるかなんてわからないですよ? ひかるちゃんだって急に来られなくなったわけですからね」
女神「……そうじゃな」
宮司「そうですよ」
女神「また来るかな?」
宮司「女神様がたったいま何があろうとまた来るような子だと言ったじゃないですか」
女神「そうか……うん、そうじゃよな」
宮司「どうしたんです? 心配になりましたか?」
女神「ふん、あやつのことではない」
宮司「え?」
女神「なんでもない。わしゃ寝る」
宮司「ちょっと待ってくださいよ。あの子じゃないなら誰のことを心配してたんですか?」
女神「わしは寝るの! おやすみ!」
宮司「あーちょっと……なにをムキになってるのやら」
宮司(また来るかどうかと心配になる子……普通に考えたらひかるちゃんのことかとは思うけど。なんで話したがらないんだろうか)
宮司「会いにいってなにかあったのかな? それは考えすぎか」
女神「ぅ……ん」
女神「……あれ? 朝か……?」
女神(なんだかいつの間に寝入ったのか記憶にないのう……)
女神「よっこいしょ……おい宮司。おるか」
女神「おーい」
女神(……おらんのかな。まああやつとていつもこの神社におるわけではないしな。神主としての仕事というものが)
猫「にゃあ」
女神「うわっ!」
猫「ンニャー」
女神「なんじゃ、この前の猫か……驚かせおって。またどこからか入り込みおったんじゃな?」
猫「……」
女神「関係ないねって顔をするでない。こっち見ろ」
猫「ウゥ」
女神「唸るなよ……何が気に食わんのじゃ」
猫「ンニャー」
女神「あ、逃げた。何しに来たんじゃ一体? 猫は気ままでええな。わしなんかとちがってやらなきゃいかんことなどないしのう」
女神「……よく考えると今は特にやることないのう。わしの日常は猫並みか」
女神「いやいや、そりゃない。猫はそのへんふらついて飯食って寝とるだけじゃろ? わしゃそんな生活は」
猫「ニャオ」
女神「……しとるなあ。いよいよもって猫並みのような気がしてきおった」
猫「フニャ」
女神「猫の女神ねえ……なんだかエジプトだかどこだかにはそういうのもおるらしいが……わしは違うしな。わしは……」
猫「……」
女神「……わしゃなんじゃ。わしはなんの女神なんじゃろ? 改めて考えると思いつかん。何かを司るとかそんな大それたもんではないしのう……得意分野はあるがそれはなんか違うよなあ」
猫「ニャ」
女神「……なあ猫よ。お主から見てわしは何に見える?」
猫「ウニャ!」
女神「いてっ!」
猫「フニャー!」
女神「あの畜生! わしを踏みつけて飛びおったな! わしが踏み台に見えるとでも言いたいんか……バカにしてくれるのう……」
女神「ええい、あの憎たらしい猫め。どこ行きおった?」
女神「宮司はおらんしたま子もいない。おまけに猫にも逃げられるし、わしの近くには人が寄り付かんとでも言うんかいな……いや猫はなんか違うか……」
猫「ニャ」
女神「お、そこにおったか」
猫「……」
女神「歩き回るのはよいが、それは外だけにしてくれんかな? 足とか汚いままで家の中歩き回られると困るんじゃよ……いや、それは別に構わんな。どちらかというとわしらの知らんところで粗相をやらかされるのが困る」
猫「……」
女神「無視して頭を掻くんじゃない……おい、お主まさかノミとかおらんよな? それならなおさらここから出てってもらわねばならんのじゃが」
猫「……」
女神「せめてこっち見てくれんか」
猫「ファ……」
女神「あくびかいな。人をなめきった態度じゃの……ふん。人相手ならそれでも良かったのかもしれんがな。忘れとらんか? わしゃいつでもお主を手も触れず捕まえられるんじゃぞ」
猫「……」
女神「とはいえ別に猫が嫌いなわけでもないし、見つけ次第追い出すとまではいかんが」
猫「ニャ」
女神「……よく見りゃかわいい顔しとるな。お主」
猫「……」
女神「毛並みも悪くはないのう。お主もしや首輪しとらんだけで野良ではないのか? そうなると飼い猫にしちゃやけに人に慣れとらん猫のような」
猫「……」
女神「人に慣れとらんわけではないか。わしに慣れとらんだけじゃな……」
猫「……」
女神「縁側に座ってて寒くないのか? いくら毛が生えとるといっても足の裏はまる出しじゃろ」
猫「ニャー」
女神「こたつ入るか? ここ入るか?」
猫「ニャー」
女神「おお、入るか。こたつが好きな奴に悪い奴はおらんでな……少し分かりあえた気がする」
猫「ウゥー」
女神「ごめんやっぱり今の無しで」
女神「はあ……ぬくいのう。やはりこたつは良い」
猫「……」
女神「お主もそうは思わんか?」
猫「……」
女神「もう寝とるのか? 話し相手にくらいなってくれてもええじゃろうに」
女神「はー……もうちょっと顔見知りを増やすべきじゃなあ。暇でかなわん」
女神「とはいえわしが神だと知った上で話し相手になるようなやつなんかおるんかいな。普通は信じんよなあ……」
女神「……ん」
女神「誰か来おったな。顔でも見に行くか」
女神「……やめよ。何を念じたのかはここにいながらでも伝わってくるしのう。人には会いたいが外は寒い」
女神(これだから話し相手が増えんのじゃなかろうか……でも話の通じんやつにでも話しかけるわけにもいかんし、世の中短髪らのような奴らばかりではないのはわしが一番わかっとるしな)
女神「お、何か念じたのか……今年も健康に過ごせますように、じゃと。遅い初詣じゃな……まあええけど」
女神「おや、もう一人おるのか……うわっ。お前この願い……なかなかすごいな……まあ、頼まれたからには善処するが……」
女神(ネガティブな内容でもないし本人が願うんならええか……まあ本人に叶える気があるなら叶うじゃろう)
女神「それにしても本当に誰もおらんのかいな……こんなことあってええんか。ここ神社じゃぞ……まあ無人の社もあるけども」
女神「はあ。でかい社の祭神になりたかったわ」
巫女「あら、いいじゃないですかこのお社も」
女神「うわびっくりした。いつからおったんじゃ」
巫女「たった今ですよー。買い出しから帰ってきたところです」
女神「なら外に参拝者がおったのを見たじゃろ。二人ほど」
巫女「えっ、すごい! 当たってますよ! どうしてわかるんですか?」
女神「……この話何回目じゃ? わしゃ神じゃぞ……」
巫女「それにしてもさっきのはどういう意味ですか?」
女神「今言わんかったか!? わしゃ神じゃから外に人が来たかどうかくらいはちょいと念じりゃわかるんじゃ!」
巫女「あ、それじゃないです。大きいお社が良かったって……」
女神「ああそっちか……」
女神「当たり前の話じゃろ? なんにおいても小さいより大きい方がいい。わしの身長もな……」
巫女「大きくはないかもしれませんが、立派なお社だと思いますよ。大きさは関係ないんじゃないでしょうか」
女神「わしも大きくないが立派か」
巫女「……大きさは関係ないんじゃないでしょうか」
女神「せめて目を見て言わんか」
巫女「まあまあ、女神様の身長のお話ではなくてお社の話でしょう? 立派なものですよ」
女神「立派……まあ寂れてるとはいわんが、このなりは流行ってるともいえんじゃろ」
巫女「神様も流行り廃りとか気にするんですね……」
女神「そりゃあな。わしゃ賑やかなほうが好きなんじゃ」
巫女「女神様のお仕事が今よりも増えますよ?」
女神「どんとこいじゃ。神に不可能はない」
巫女「なるほど……」
女神「大は小を兼ねると言うじゃろ。だから小さいよりでかいほうがええんじゃよ」
巫女「あ、でもお社が大きかったら神職も増えるかも」
女神「そりゃそうじゃろうな。じゃがわしゃさっきも言ったが賑やかなほうが好みでな」
巫女「そうなると宮司様が女神様につきっきりというわけにもいかなくなりそうですね」
女神「……そうか?」
巫女「そうだと思いますよ? 今よりも祭祀が増えますし時間に追われる……とまで行くかは分かりませんが今よりも忙しくなるのは確実かと」
女神「それもそうか」
巫女「女神様のお世話役を雇って宮司様は神事に専念するかも……」
女神「え、それは嫌じゃ」
巫女「例え話ですよ~」
女神「……例え話でもイヤ」
巫女「賑やかでも嫌なんですか?」
女神「それは……難しい話じゃが……」
巫女「はい」
女神「宮司のやつがおらんのなら賑やかでも楽しくないと思う……」
巫女「……なるほどぉ。宮司様といるほうが良いんですね」
女神「そうは言っとらんぞ!」
巫女「嫌じゃないんでしょう?」
女神「そっ、そりゃあ……嫌なわけあるか」
巫女「でしょうねぇ。宮司様のこと好きですもんねぇ」
女神「だから! なんでそう極論に……あっ、悪い顔しとる! おい! 宮司には言うなよ!」
巫女「え~? どうしよっかなぁ~ばらしちゃおっかな~」
女神「やめろぉ!」
巫女「何かの拍子に言っちゃうかもしれませんね~?」
女神「こ、こいつ……! いや待て……良かろう! 言いたいなら言うがよい」
巫女「あら。急に意見が変わりましたね」
女神「そうやってわしをからかって楽しんどるのはお見通しなんじゃよ! 何度もお主の思い通りになるか! バカめ!」
巫女「ほう……そこに気がつくとはやりますね。しかし私が本当に言ってしまったらどうなさるのですか?」
女神「なんのことはない。わしがそう言ったという証拠はどこにもないからのう?」
巫女「確かに……証拠がないなら言う意味はないですね……」
女神「ふふん。バカにする相手を間違えたようじゃな!」
巫女「おや、なにか間違えているのは女神さまの方では?」
女神「なに?」
巫女「私は『証拠がないなら』と言ったんですよ?」
女神「……なっ! まさか!」
巫女「そう! 先ほどの会話は録音させてもらったんですよ!」
女神「そんな都合よくボイスレコーダーを持っとるわけがないじゃろ! ハッタリじゃ!」
巫女「甘いですよ女神様! そこの戸棚の一番上に隠している栗羊羹よりも甘いですよ!」
女神「おい! なんでそれを知っとるんじゃ! わしのとっておきじゃぞ! 喰ったのか!」
巫女「……それはこの際おいておきましょう! 録音したのはこれです! スマートフォン!」
女神「ちくしょうまたそれか! 地図だけじゃなく録音までできるんか! 文明の利器めぇぇ! そしてわしの羊羹をぉぉ! 許さん!」
巫女「フフフ、女神様に捕まる私ではないですよ! 力も歩幅もこちらが上! 宮司様が帰ってくるまで逃げ続けるのは容易です!」
女神「舐めるなよ! わしには強力な助っ人がおる!」
巫女「助っ人?」
女神「いでよ! 猫!」
猫「ニャー」
巫女「あっ、こたつの中にいたんですか……でも女神様には懐いていなかったはず……」
女神「こたつによりこやつとわしは分かりあったんじゃ」
巫女「そ、そんな……なんてこったつ……」
女神「…………」
巫女「…………」
女神「……いくぞ猫! あの寒い駄洒落巫女をとっちめる!」
猫「ンニャー」
巫女「せっかく乗ってあげたのに!」
女神「どこへ逃げようと無駄じゃぞ!」
巫女「無駄かどうかはやってみないとわからないでしょう!」
女神「外へ逃げても追いかけ続けるからな!」
巫女「なら私は逃げ続けます!」
女神「でもできれば寒いから外には行かないでほしい!」
巫女「私もそう思ってたところです!」
女神「交渉成立ってやつじゃな!」
巫女「そうなりますね!」
女神「そうなるとこの狭い家の中で逃げ場はないぞ!」
巫女「仮に私を捕まえたとしても押さえつけられるんですか!? 猫を抱きかかえて移動するだけで精一杯にみえますよ!」
女神「やかましい! やってみないとわからんじゃろーが!」
巫女「というかなんで猫抱えてるんですか!? なんの意味が!?」
女神「意味はない! こやつ動かんのじゃ! けしかけられると考えたが、思ったほど分かりあえとらんかった!」
猫「ニャー」
女神「ニャーじゃない!」
巫女(下ろせばいいのに……)
女神「くそ、こんなものを抱えていては一生追いつけん……かわいそうじゃがわしの神通力でこの前のように宙ぶらりんにさせて連れ歩くか……」
巫女「そこまでするなら下ろしてあげてくださいよ!」
女神「……ん?」
巫女「え?」
女神「あ、そうか。神力使えばええんか」
巫女「うっ!? 脚が、重くっ……あ、歩けない」
女神「神力って便利じゃなあ。さて、捕まえたぞ」
巫女「くっ! これだけは……」
女神「そうやって高く持ち上げたって無駄じゃぞ? たしかにその高さなら普段のわしでは飛び跳ねたって届きゃせんが……神力を使えば離れた物を動かすのなんてお茶の子さいさいじゃ。ほれ」
巫女「あっ……すごくあっけない……」
女神「で」
巫女「はい……」
女神「捕まったからには覚悟はできとるんじゃろうな」
巫女「申し訳ございません……ついはしゃいでしまって」
女神「わしの栗羊羹を……」
巫女「あ、栗羊羹なら食べてませんよ」
女神「え! そうなの!」
巫女「食べたふうにしたほうが面白いかと思ってその場は乗ったんですけど……よろしければご確認ください」
女神「どれ……ホントじゃ、ある」
巫女「でしょ?」
女神「そこまでして盛り上げようとする意図がわからん……お主エンターティナーじゃな……まあええ、それなら録音データを消してくれるだけでよいんじゃ」
巫女「本当に消しちゃうんですか?」
女神「当たり前じゃろ! さっさとやらんか!」
巫女「……消す前にちょっと聞いていいですか?」
女神「だめ! 絶対にいやだ!」
巫女「せっかく録ったんですから!」
女神「いーやーだー! せっかくもくそもない!」
巫女「一回だけ! 一回だけ! 自分の声聞いてみましょう!」
女神「わしはいやじゃからな……というかわしも聞くのかいな」
巫女「自身を客観的に捉えるチャンスですから!」
女神「客観的にどうしろってんじゃ……」
巫女「それは聞いてから考えましょう。再生しますよ!」
女神「あーっ! やめろ! わかった! 待て!」
巫女「わかったってことはいいってことですね!」
女神「わかったから音は小さくしろ! あんなものを他の奴に聞かれてはたまらん……」
巫女「分かってますよお。じゃ、ほら。近づいて近づいて」
女神「うぅ~、嫌じゃなぁ……」
巫女「いきますよー」
女神「……こんなとこから録ってたんか」
巫女「ここから誘導尋問は始まってたんですよ」
女神「誘導尋問ってお主な……」
巫女「まあまあ、お静かに……」
女神「……」
巫女「……」
女神「あー嫌だ……」
巫女「……」
女神「……」
巫女「……ふへっ」
女神「ぅぅうおおお……」
巫女「しっ! まだ終わってませんから!」
女神「もう終わりでいい……」
巫女「そう言わずに……」
女神「あぁぅぅ……」
巫女「……」
女神「もう終わりじゃろ……なあ、もう終わりじゃろ……」
巫女「録ってたのはここまでですねー」
女神「あああああああ!! なんじゃこりゃ!! 気色悪いな!! わし気色悪いな!!」
巫女「いい内容でしたね!!」
女神「どこが!? 消してくれ! ありえん! ない!」
巫女「もう一回聞きませんか!? もう一回!!」
女神「たま子お主遊んどるじゃろ!! 絶対にいやだ!!」
巫女「……宮司の奴がおらんのなら」
女神「朗読するな!! やめろ!!」
巫女「女神様、真っ赤ですねえ」
女神「くそう、やめてくれ……本当にやめて……顔から火が出そうじゃ……」
巫女「じゃあ消しますね」
女神「仕方ないじゃろ……」
巫女「はい?」
女神「好きなんじゃから仕方ないじゃろ……!」
巫女「……ほう」
女神「……」
巫女「……」
女神「……あっ! いまの録ってたんじゃなかろうな!」
巫女「なんの事でしょうか! はてさてなんの事なのでしょうか!」
女神「ならばなぜ逃げる! おい! 待てえ!!」
巫女「……寒い。今日は一段と寒いですねえ」
女神「……」
巫女「あれ女神様? 聞いてます? もしもーし」
女神「聞いとるよ……」
巫女「もしかして昨日のこと怒ってらっしゃいます? 勝手に録音なんかしちゃって」
女神「それとは関係ない」
巫女「許してくださいよ~」
女神「関係ないと言っとるじゃろ」
巫女「ならどうして不機嫌なのですか」
女神「不機嫌に見えるのか」
巫女「そんな顔をしてらっしゃいます」
女神「これは寝起きが悪いだけじゃ。眠い」
巫女「朝に弱いんですね、女神様って」
女神「うむ……」
巫女「私も朝弱いんですよねー。何もない日は昼まで起きたくないくらいですもん」
女神「わしなら一日16時間は寝て過ごせる」
巫女「すごい……」
女神「惰眠を貪るのが趣味と言っても過言ではないかもな……」
巫女「どうしてそんなに寝るんですか?」
女神「どうしてと言われてもなあ……起きててもやることないし」
巫女「貴重な時間を無駄にしてますよ」
女神「ついさっき昼まで起きたくないと言っていたお主にその言葉そのまま返す」
巫女「そうでした……」
女神「それに時間が貴重なのはお主ら人間の感覚じゃろ? わしら神にとっては無限にあるものじゃし、貴重ではないんじゃよな」
巫女「ず、ずるい。時は金なりとまで言われてるのに」
女神「そのことわざ通りに考えると時間が無限にあるわしは金を無尽蔵に持っとる大富豪ってことにならんかな」
巫女「逆転の発想……」
女神「でも無限に持っててもそれはそれでむなしいもんじゃ」
巫女「あら、女神様はそうお思いなのですか?」
女神「そういうわけでもないが……だって有限だからこそ価値に気づけるのであって、限りが無いのなら本当の価値などわからんのじゃなかろうか」
巫女「な、なんだか哲学的ですね……」
女神「わりと的を射てるとは思うぞ。持っていない物の価値が分からないように、持ちすぎている物の価値も分かることはないんじゃないかとな」
巫女「わからない……」
女神「わしだってよく分からん」
巫女「私も分かりませんけど……時間の価値なんて誰にも分からないものなんじゃないでしょうか?」
女神「そんなことないじゃろ。楽しかった時間は悲しかった時間より価値があるとか思わんのか? それだけでもある程度価値は分かっとるじゃろ」
巫女「でもそれって何が起こったかによって価値変わっちゃいますよね」
女神「そりゃそうじゃ」
巫女「だったら未来で何が起こるかなんて誰にも分からないんですから、時間の価値もやっぱり分からないってことなんじゃ?」
女神「……なるほどな。予測不能だから価値を測りようがないということか」
巫女「あれ? これって未来がわかる女神様のほうが私たち人間より時間の価値が分かるってことなんじゃないですか?」
女神「わしだって未来に何が起きるかが何もかも分かるわけではない。それにわしはさっきも言ったように持ちすぎている者じゃからな」
巫女「うーん。持ちすぎてるからって価値が分からなくなるなんてことあるかな?」
女神「あるじゃろ! お札に火をつけて足元を照らす成金の逸話を知らんのか!」
巫女「あれが実話かは知りませんよ?」
女神「金持ちだけではない! 石油王だって石油が貴重な資源だとは微塵も思っとらんはずじゃ! あやつらなんか石油のプールの横で石油ジュース飲みながら石油オイル塗って肌焼いとるはずじゃ」
巫女「女神様の中の石油王のイメージおかしくないですか!?」
女神「石油王はわしらの想像もつかんような暮らしをしとるに違いないからな……」
巫女「私だって想像もできませんけど、石油ジュースだけは絶対にないと言いきれます……」
女神「流れで石油ジュースとか言ったけど、わしも無いと思う」
女神「まあ価値があるかないかなんて話はあまり意味ないかもな。価値観は変わるものじゃし」
巫女「石油王に対する価値観も早いところ変えておいたほうがいいですよ」
女神「でも時間に価値なんか無いからいらんって言う人間なんかおるんかな……」
巫女「いるかもしれません」
女神「おるか? そんな奴」
巫女「生きているのが苦痛だと思う人とか……そう考えるかもしれませんね。今後ずっと苦しい時間しかやってこないなら……そう思うかも」
女神「……ある、かもしれんな」
巫女「かもしれません」
女神「……長いこと神社にいるとそういう願いを伝えてくる者もおる。無論叶えるわけにはいかぬが……」
巫女「過去にそういう方がいらっしゃったのですか?」
女神「うむ。しかしそれも稀なようじゃ。本当に追い詰められておる者は救いがあると思わんから、神に願いなどせんようでな……わしが本当に手助けせねばならんのはそういう者達なのじゃがな……」
巫女「女神様のせいじゃありませんよ。神様だって万能ではないんでしょう」
女神「万能でなくとも何かできることがあったんじゃないかと思うとな……」
巫女「……」
女神「変な話になってしもうた。すまんのう」
巫女「いえ」
女神「話題を変えるか」
巫女「そういえば女神様、つい最近ひかるちゃんに会ってきたらしいですね? あの子どうでした?」
女神「……どうって?」
巫女「最近見なかったので元気かなー、と思いまして」
女神「元気じゃったぞ」
巫女「ホントですか?」
女神「嘘ついてどうする?」
巫女「でも入院してたんでしょう?」
女神「それはそうじゃが入院してるにしては元気だったということじゃ」
巫女「何の病気なんでしょうね」
女神「それは分からんな。わざわざ聞くのもなんだかはばかられるしのう」
巫女「どんなこと話してきたんですか?」
女神「たわいもない話じゃよ。最近こんなことがあったとかそういう類の……世間話のようなもんじゃ。そういえばまた雪合戦やろうとも言っとったな」
巫女「おお、いいですよ~! またひかるちゃんとチームで宮司様を打ち倒してやります! 女神様もやるんでしょう?」
女神「もちろんやるぞ。ただしわしもお主らと同じチームじゃ」
巫女「そうなると宮司様一人になっちゃいますね。まあいいか!」
女神「そっちのほうが盛り上がりそうじゃしな」
巫女「でも雪が溶けるまでに退院できるのかな? さすがにもうこっそり抜け出してくることはできませんよね」
女神「退院がいつになるかは……」
巫女「さすがに分からないですよねえ。いずれにせよ、また元気な顔が見たいですよねー。ねっ、女神様!」
女神「そうじゃなあ……」
巫女「……なんか返事が適当ですね」
女神「え、そう?」
巫女「そうです! 私の態度が面倒くさいからって邪険にしないでくださいよー!」
女神「ちょっと他の事に考えがいってて……やめろひっつくな! そういうところは面倒くさい! 離れろ!」
巫女「ああっ、いけずな人」
女神「なにがいけずじゃ……ちょっと外行ってこようかのう」
巫女「逃げるんですか女神様!」
女神「逃げるってなんじゃ! 気分転換じゃよ!」
巫女「逃しはしません!」
女神「うぐぅ、抱きつくな! なんか変なスイッチ入ったなお主……たまに暴走するけどそのタイミングが読めん! なおさら逃げたくなったぞ!」
巫女「やはり逃げる気ですね! このたま子、一度掴んだ獲物は離しませんよ!」
女神「力では勝てん……が、相手が悪かったな!」
巫女「あっ、体が動かない」
女神「へへん。いわゆる金縛りというやつじゃ」
巫女「うぐぐ、追いかけたいけど職務を放り出すわけにはいかない……というかそれ以前に体が動かない」
女神「しっかり神に仕えるんじゃぞ。それではな」
巫女「ああっ、女神様! 待ってください! 仕えるったってその神様がいないじゃないですか! あと体が動かないんですけど!」
女神「だんだん動けるようになるから安心せい。五分もすれば元通りになる……そうなる前にさらばじゃ!」
巫女「だれか助けて~……」
女神「ふう、ちょっと強引じゃったが抜け出せたな。金縛りはすぐ解けるからのう。さっさと逃げるに限る」
女神「たま子は基本的にはいい奴なんじゃがなあ。変なスイッチが入ると面倒くさい奴になるからのう……べたべたされたらかなわん。二、三時間くらいほっとけば普段通りになっとるじゃろ」
女神「とはいえその間どう時間を潰すか考えとらんな。とくに考えもなく出て来たわけじゃしのう」
女神「……そういや宮司のやつ、神社におらんかったけど何しとるんかな?」
女神「探しに行こうにも場所がわからん……ということはこの女神に限っては無いんじゃよなあ。ふっふっふ」
女神(さて、そのへんに丁度いい長さの枝とか落ちとらんかな? お、これでええか)
女神「これを真っ直ぐ立てて、押さえる……そして念じる」
女神(宮司のやつがおるのはどこじゃ?)
女神「……前に倒れた。こっちに進もう!」
女神「ふふふ、こうすることで行き先を把握することができるという寸法じゃ。距離はわからんが、方角は絶対に当たるんじゃよな~」
女神「……疲れた」
女神「あっれー……結構歩いたんじゃけどな。絶対にこっちのはずなんじゃが……」
女神「外れるなんてことはない……はずじゃ。今まで外れたことないし……ないよな? 急に不安になってきた。もう一回やろう」
女神(宮司のやつがおるのはどーこじゃ。えい)
女神「……あれ!? 左に倒れおった! 宮司のやつ移動したな! そういうことか、くそ!」
女神「ちくしょー、無駄に歩かされてしもうた……」
女神「……少し歩いたし、この辺でもう一度宮司のやつの場所を調べ直すか」
女神「どれ……なに、真後ろじゃと? すれ違ったのか? くそ~、この占い役に立つようで使いづらいのう」
女神「……ただ自然に倒れてるわけじゃあるまいな。もう一度やるか」
女神「いや、また同じ方向に倒れた。えい……また同じじゃ。目をつむって……やっても同じ。問題なさそうじゃ」
女神「距離がわかればええんじゃがなあ。とりあえず道が分かれてたらそのつど倒せばそのうちたどり着くはず……」
女神「あれ……なんかさっきと倒れる方角が微妙に違う気がする。もう一度……」
女神「やっぱりなんかずれとる。もう一回……あ? 現在進行形でずれとる。宮司のやつ移動中じゃな……」
女神「くっそー! これじゃいたちごっこじゃ! こんな原始的な方法じゃなくてもっとリアルタイムで居場所を特定できる方法はないんか! カーナビとか探知機みたいに……」
女神「探知機……そうか! そのへんのいい感じの枝を拾って……これじゃ! 『へ』の字型! 完璧じゃ」
女神「よし、準備万端! 行けい、我が枝よ! 宮司の居場所を示せ!」
女神「おほぉー! 勝手に動きよる! 見たか! 名付けてダウジング・女神エディション!」
女神「神力の新しい使い方開発しちゃった。えへへ……後で宮司に自慢しよ」
女神「そうと決まればいざ行かん! まだ見ぬ大地へ!」
通行人(なんか変なスイッチ入ってる子がいるなあ……)
女神「という感じに、宮司を追いかけてきたんじゃが」
巫女「はい」
女神「……ここ神社じゃよな」
巫女「お帰りなさいませ!」
女神「そうじゃなくて! おかしくない!?」
巫女「宮司様は先ほどお戻りになられましたから何もおかしいことはございませんよ~」
女神「そうじゃなくて! そうじゃなくってさ! なんかこう……せっかく習得した必殺技が不発に終わった感じ! わかるか!? こんな流れはおかしくないか!?」
巫女「流れと言われましても……」
宮司「なにを騒いでいるんです」
巫女「宮司様」
女神「お主のせいじゃぞ!」
宮司「何がです?」
女神「わしはお主を追いかけていたんじゃ! あちこち移動するお主を追いかけてさんざん歩かせられたというに、最後は結局ここにたどり着くって……歩いた意味がなかった感覚! まさに骨折り損のくたびれ儲け! わかるか!?」
宮司「はあ。それは残念でしたね……私も忙しかったもので」
女神「う、忙しいのは分かるが……まあええわ。別にそこまでどうこう言うような問題ではない」
宮司「ところで私の居場所ってどうやって調べてたんですか? 女神様に今日の予定を伝えた記憶はないんですけど」
女神「え。それは枝を拾って倒して、その方向に向かっていくっていう……」
巫女「そんな運任せな方法で歩き回ってたんですか!?」
女神「運任せではない! わしにかかればこれだって立派な占いじゃ!」
宮司「へえ……女神様ってそんなことも出来たんですね。凄い」
女神「……ふふん、凄いか。まあ神じゃからな! それにダウジングの要領でリアルタイムに居場所を指し示すこともできるぞ」
宮司「ダウジングって埋蔵金探すあれですか?」
女神「別に埋蔵金しか見つからんわけではないと思うが……」
巫女「女神様は埋蔵金も探せるってことですか!?」
女神「ものすごく曲解したな」
宮司「埋蔵金はともかく、人の居場所がわかるとはさすがは神様ですね」
女神「そうじゃろ? もっと褒めろ」
宮司「で、実際のところどうなんです?」
女神「は?」
宮司「埋蔵金は探せるんですか?」
女神「……それしか興味ないのか、お主ら」
巫女「探せるんですか!?」
女神「わしはよく知る人の気を感じる方角を調べているのであって、知らん奴や物の場所はわからんよ」
巫女「……つまり探せないってことですか」
宮司「あらら。一攫千金の夢が潰えてしまいましたね」
女神「露骨に残念がるなよ! さっきまですごいすごいと言っとったくせに!」
巫女「はあー……」
宮司「はあー……」
女神「ため息をつくな! 不満そうな目で見るな! わしが悪いのか?!」
巫女(こう、焦る女神様もかわいいなあ)
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