番長「SOS団?」 2(886)
番長「SOS団?」
番長「SOS団?」 - SSまとめ速報
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――
―
鶴屋「あっがりぃ! いっちばーん!」
キョン「またですか……」
古泉「凄まじいですね」
キョン「鶴屋さんゲームはじめてから大富豪と富豪にしかなってませんよね?」
鶴屋「そだっけ?」
みくる「鶴屋さんホントつよいですねぇ」
鶴屋「でも長門っちもかなり強かったっさ!」
キョン「というか長門も1度平民に落ちただけであとは大富豪か富豪だったな……」
長門「そう」
古泉「もう1局、と言いたいところですが1度涼宮さんたちの様子でも見に行ってみますか?」
鶴屋「そう言うことならあたしが見に行ってくるよっ」
キョン「ついていきましょうか? 配膳やら手伝えるところは手伝いたいですし」
みくる「うん。そうですね」
鶴屋「大丈夫大丈夫っ! ハルにゃんたちも完成したものを披露したいだろうしっ!」
鶴屋「んじゃ、みんなはもうちょろっと待っててねっ」
――調理場。
鶴屋「ハッルにゃーん、番長くーん。首尾はどうっかなー?」
ハルヒ「ああ、鶴ちゃん。順調、というよりもうすぐ終わるわ」
鶴屋「そりゃよかったよっ!」
>改めて、食材の調達にお礼を言いたい。
鶴屋「いいっていいって! あたしが頼んだようなもんなんだからさっ!」
ハルヒ「そんなことないわよ。普段家じゃここまでの料理なんてできないもの。
この場所も広いし、使いやすいし、ホント思いっきり料理できて気持ちよかったわ」
>ハルヒの言うとおりだ。ここまで全力で料理を作ったことは初めてだ。
鶴屋「くふふっ。あたしも楽しみだっ」
鶴屋「そうだっ、なんかあたしに手伝えることってないっかな?」
ハルヒ「そうね……食べる場所って鶴ちゃんの部屋ってわけにはいかないわよね」
鶴屋「まー、ちょっとここからだと遠いからねっ。
あたし達がいつも使ってるところでいいっかな?」
ハルヒ「ええ、構わないわ。そこに運ぶの手伝ってもらっていいかしら」
鶴屋「お安い御用っさ!」
――居間。
ハルヒ「よし、これでいいわね」
>2時間半ほどかかってしまったな。
鶴屋「じゃ、みんな呼んで来るねっ」
……
…
鶴屋「はぁい! キョンくんたち、こっちだよっ」
キョン「お疲れさん。……ってうおっ!」
ハルヒ「待たせたわね!」
古泉「これはこれは、何とも壮観ですね」
みくる「わぁ……いい匂い」
長門「……」
>キョン、有希はどう思っているんだ?
キョン「……長門も、心なしかうずうずしているように見えるな」
ハルヒ「当然じゃない! あたしと番長くんが作ったんだから!」
鶴屋「でも、すっごいよねぇっ!」
>では、食べる前に簡単に料理の説明をしよう。
>自分が作ったものはフランス家庭料理だ。
>ブイヤベース、牛肉のワイン煮、キッシュ・ロレーヌ、そしてチーズフォンデュだ。
キョン「牛肉の煮込みやらはわかるが、キッシュ・ロレーヌ、ってなんだ?」
>キッシュ・ロレーヌはスパニッシュオムレツとピザの中間のような玉子料理だ。
>ふわっとした歯ごたえの玉子の中に野菜をはじめとした具材が混ぜ込んで焼き上げた料理だ。
キョン「ああ、このショートケーキみたいなのがそうなのか」
>そうだ。
>今回、普段なら未成年で買えないワインを鶴屋さんに用意してもらった。
>そのおかげで、これだけの料理を作ることができた。
鶴屋「赤白両方オーダーされてねっ」
キョン「赤ワインは、こっちの牛肉の煮込みに使われているんだろうことは想像つくんだが」
>白ワインはブイヤベースに使っている。
>今回はムール貝、エビ、タラ、イカで作ってみた。
キョン「ブイヤベースってこういう料理だったのか……ブイヤベースが赤みを帯びてるのは?」
>それはトマトの色だな。
キョン「なるほどなぁ」
古泉「ほう、ふふ。そういうことですか」
キョン「うん? どうした?」
古泉「いえ、今は説目に耳を傾けましょう」
11時ごろにまた書く
>>14
>古泉「いえ、今は説目に耳を傾けましょう」
説明、ね
>チーズフォンデュは知っているとは思うが、熱して溶かしたチーズに、野菜、バゲット――パン、ソーセージをくぐらせて食べる料理だ。
みくる「もしかして、パンも焼いたんですか?」
>さすがにそれまでの時間はなかった。
>鶴屋さんに頼んで買ってもらったものだ。
キョン「ってことはパンも時間があれば焼けるのかよ……」
キョン「にしても、なんでチーズフォンデュセットまであるんですか。この専用フォークとか」
鶴屋「ふっふっふー、この鶴屋さんを舐めちゃいけないよ?
でも別に今日のために買ったわけじゃないからねっ、前からあるんだっ」
キョン「そうですか……」
>まあ、あとは食べて判断してくれ。
ハルヒ「じゃあ、次はあたしね」
ハルヒ「あたしはイタリア家庭料理よ。番長くんと同じくワインを使った料理もあるのよ」
ハルヒ「あたしが作ったのは、カサゴのアクアパッツァ、冷製カッペリーニ、ストラコット・トスカーナ、そしてバーニャカウダよ」
キョン「にしても、みた感じ全然トマト感がないな」
ハルヒ「そうね、ちょっと今回王道から外してみたから」
みくる「すごくイタリア家庭料理って豪華なんですねぇ……」
ハルヒ「そんなことないわよ。確かにカサゴはちょっと値が張ったでしょうけど、鶴ちゃんがいいって言ってたし。
アクアパッツァは魚の水炊きだし、ストラコットもただの牛肉の煮込み料理だからね」
みくる「へぇ、そうなんですかぁ……」
キョン「水炊きって、これ水で煮ただけなのか?」
ハルヒ「違うわよ。これは水と白ワインを使っているの。
それにムール貝とトマト、それにオリーブなんかと一緒に煮たものがこれよ」
古泉「ストラコット・トスカーナは、名前から察するにトスカーナ地方の料理なんでしょうか?」
ハルヒ「さすが古泉くんね。その通りよ。
これも白ワインを使っているわ。白ワインと裏ごししたホールトマトを使った煮込み料理よ」
キョン「え、これトマトを使っているのか。全然赤くないぞ」
ハルヒ「お肉だけを取り出してスライスいるからね。側面は赤くなっても中までは赤くならないわよ。
ソースをかけたい場合は、別で分けてあるから」
>よくみると、隣に煮込みに使ったらしきソースの入ったカップがあった。
ハルヒ「バーニャカウダは最近に有名になってきてたから説明はいらないと思うけど、一応するわね。
基本的には野菜を、アンチョビ、ニンニク、オリーブオイルで作ったソースにディップして食べる料理よ」
古泉「ちなみに、バーニャはソース、カウダは熱いという意味です」
キョン「てことは、このソース温かいのか」
古泉「そういうことになりますね」
キョン「で、最後のこれなんだが……スパゲティか、かなり細い麺のようだが」
ハルヒ「あたし特製、冷製カッペリーニ!」
みくる「え、もしかしてこれに使われてる具材って……桃ですか?」
ハルヒ「そ、桃と生ハムの冷製パスタ」
鶴屋「まさか桃をこんなふうに使うなんて予想外だったなっ!」
キョン「おい、ハルヒ。お前は酢豚にパイナップルを入れる感覚で適当に入れたんじゃないだろうな」
ハルヒ「そんなことないわよ。ちゃんとした料理なんだから」
キョン「本当か、番長」
>ああ。確かにそういう料理は存在する。
>しかし、プロでなければ味のバランスを崩してしまい過度に桃の甘さを引き立ててしまったり、
反対に主張させすぎないように調整した結果、桃の存在感が薄まってしまう恐れのある難しい料理だ。
キョン「それを、ハルヒがねぇ……」
ハルヒ「安心なさい。味はあたしが保証してあげるわ!」
古泉「非常に興味がそそられますね」
鶴屋「じゃあ、さっそく試食をはじめよっか!」
>鶴屋さんはそれぞれに皿を配っていく。
鶴屋「ビュッフェ形式な感じで、好きなものとって食べるって形でいいよねっ?」
ハルヒ「ええ、構わないわ」
>それでいい。
ハルヒ「さあ、あたしたちの本気、とくと味わいなさい!」
古泉「しかし、これだけあると目移りしてしまいますね」
みくる「ホント、困っちゃいますね」
ハルヒ「好きなものを好きなように食べればいいのよ」
>ああ、ハルヒの言うとおりだ。
長門「……」
>有希は既に自分のキッシュロレーヌに手を付けているようだ。
古泉「そうですね……順番に北上していくのも面白いかもしれません。
もしくは南下していくというのもいいですね」
ハルヒ「あ、古泉くん気付いたんだ。
気づかれなくてもいいやと思って番長くんとやった遊び心なんだけど」
>一樹、よく気づいたな。
キョン「うん? どういう意味だ」
みくる「え、え?」
鶴屋「あ、あぁーっ! なるほどねっ! ハルにゃんたち面白いこと考えるねっ!」
ハルヒ「あ、鶴ちゃんも気付いた?」
キョン「古泉、説明してくれ」
古泉「おや、珍しいですね。あなたから僕に説明を求めるなんて」
キョン「気になって味が分からなくなったら大変だからな」
古泉「確かにそれは一大事です」
みくる「あの、あたしも教えてほしいです」
古泉「では、僭越ながら」
古泉「イタリアとフランスは隣接している国家というのは説明いたしましたね」
キョン「ああ」
古泉「涼宮さんの作った料理は、イタリアの各地方の名物料理なのです」
古泉「アクアパッツァはロンドンブーツの先のシチリア、カッペリーニはナポリ、ストラコットはトスカーナ、
そしてバーニャカウダはトリノ、つまりフランスと隣接するピエモンテ州、といった具合に涼宮さんの料理はフランスへと向かって北上しているのです」
古泉「番長氏の作ったものも同じく、フランス各地方の名物料理です」
古泉「チーズフォンデュ――というよりチーズはノルマンディー、キッシュはロレーヌ、牛肉の煮込みはブルゴーニュ、ブイヤベースはプロヴァンス」
古泉「そしてプロヴァンスはイタリアと隣接しており、番長氏の料理はノルマンディーからイタリアへ向かって南下しているのですよ」
古泉「以上です」
ハルヒ「ええ、その通り。ホントよく気づいたわね」
古泉「ふふ、お二人とも丁寧にロレーヌやトスカーナと地名を入れた料理を入れてくださっていましたからね」
>それでも気づかれるとは思わなかった。
ハルヒ「ホントただの遊び心だったからね」
キョン「遊び心って……そんなに急所メニュー代えたのか」
>変えたというよりハルヒが合わせてくれたんだ。
キョン「ハルヒが?」
>ハルヒは、自分が鶴屋さんに頼んだ食材から自分のメニューにあたりをつけていたんだろう。
>バーニャカウダを急遽組み入れたようだった。
ハルヒ「番長くんだってガレットの代わりに急遽キッシュにしてくれたんだから同じようなものよ」
>材料は困らなかったからそれほど難しくはなかった。
古泉「お二人の料理スキルには舌を巻くばかりです」
キョン「本当にな……お前ら本当に高校生かよ」
みくる「ぜひ教えてほしいです」
鶴屋「あたしもふたりには驚かされっぱなしっさ!」
ハルヒ「ま、それはいいのよ。有希を見習って冷める前に食べてほしいわ」
キョン「あ、ああ。そうだな」
>有希は黙々と食べているようだ。
また後ほど
30分後くらいから書きはじめる
古泉「では、僕は、アクアパッツァからいただきます」
キョン「牛肉のワイン煮でももらうかな」
みくる「この、バーニャカウダいただきますね」
鶴屋「んー、どれもおいしそうだけど、あたしはまずキッシュもらおっかなっ!」
ハルヒ「どうぞ、召し上がれ」
>みな、はじめの一口をつけたようだ。
>口に合うだろうか……?
ハルヒ「勝負なんだからね、お世辞なんて言わずに率直な意見を言ってほしいわ」
>そうだな。
古泉「では、率直な意見を申し上げますと……非常に美味です。
レストランにも引けを取りませんよ」
古泉「このふっくらと煮られたカサゴの身。トマトとオリーブの実の爽やかな香り。
そして、魚、貝、野菜のエキスが染みだしたコクと深みのあるスープ。
これらが口の中で絡み合い何とも素晴らしい味わいを生み出しています」
キョン「どこのレポーターだお前は」
古泉「ふふ。つい言葉に出てしまうほど、素晴らしいのですよ」
ハルヒ「よっし! どう? 番長くん! これがあたしの実力よ!」
>さすがハルヒだ。やるな。
キョン「だがな。番長も負けてないと思うぜ。この牛肉のワイン煮」
キョン「古泉じゃないが、このソースの芳醇な香りとコクがあるってのか?
なんて表現したらいいかわからんがとにかく舌に染み渡るような味だ。
それにこの牛肉が口に入れた瞬間にとろけて、ほどけるような感覚は凄まじいの一言だな」
古泉「……あなたがそこまでおっしゃるなんて珍しいですね」
>ああ。これは自信作だ。
古泉「僕も、後ほどブフ・ブルギニオンをいただきましょう。
俄然興味がわいてきましたよ」
キョン「ブフ……? なんだ?」
古泉「ブフ・ブルギニオン。ブルゴーニュ風牛肉のワイン煮、つまりそれのことです。
ビーフシチューの原型となったフランスの郷土料理でもっとも有名な料理のひとつと言っても差し支えないでしょう」
キョン「これワインを使ったビーフシチューじゃなかったのか……確かに少し味は違うと思ったが」
>一樹は、なんでも知ってるな。
古泉「いえ、そんなことはありません」
鶴屋「でもキョンくんからそんな表現が出るなんてすっごいねぇ。お肉自体は全然大したモノじゃないんだけどなっ。
番長くんの料理は魔法みたいだっ」
ハルヒ「むむ……さすがにやるわね」
>これくらいで負けていられないからな。
鶴屋「あたしが食べた番長くんのキッシュも絶品だよっ!
卵の優しいふんわりとした食感に野菜のしっかりとした存在感っ!
それぞれがちゃんと主張してるにもかかわらず、お互いに邪魔をしていないんだっ!」
>こちらもなかなか評判がいいようだ。
みくる「バーニャカウダもおいしいですよ。
ソースからはしっかりアンチョビの味がしていて、物足りないソースではないですし。
かといってお野菜の味を消すわけではなくて、ちゃんと味を引き立てていますぅ」
キョン「お二人も、古泉に負けず劣らずの味コメントをたたき出してきますね……」
みくる「え、え?」
鶴屋「これだけのものをおいしいの一言で済ます方が難しいよっ!
だからって、表現しきれてはいないんだけどっさ!」
みくる「そ、それにせっかく作ってもらったんですから、ちゃんと言わないとよくないのかなぁって」
ハルヒ「そんなの気にしなくていいのよ、みくるちゃん」
>ああ、ハルヒの言うとおりだ。
みくる「そ、そうなんですか?」
ハルヒ「あたしたちは『おいしい』って一言言ってもらえればそれで救われるの。
別にムリしたコメントなんかなくても十分表情で伝わるんだから」
ハルヒ「ね、番長くんもそうでしょ?」
>そうだな。表情を見れば、100の言葉よりも伝わることもある。
ハルヒ「そういうこと。だからコメントとか気にしなくていいわよ」
長門「……」
ハルヒ「有希は、どう?」
長門「どれもおいしい」
ハルヒ「そ、よかったわ」
古泉「では、ブフ・ブルギニオンをいただきましょうか……むぐ」
古泉「……! あなたの言うとおりですね。口に入れた後にとろけるように牛肉がほどけます」
キョン「だろ? さっき言ったことが的外れじゃなくて安心したぜ」
古泉「涼宮さんのアクアパッツァと比べても全く遜色はありません」
ハルヒ「むぅ……」
キョン「なら俺は次にハルヒのつくった牛肉料理でも食べてみるかね。これも一応煮込み料理なんだよな?
名前なんだったか。す、すと……えー……」
ハルヒ「ストラコット。トスカーナの郷土料理だからストラコット・トスカーナ」
キョン「そうだ。それそれ」
ハルヒ「馴染みはないからしょうがないかもしれないけど、これくらい覚えてなさいよ」
キョン「悪かったな……」
みくる「あたしは次はブイヤベースいただきますね」
ダメだ。眠いから後ほど書きます
キョン「おお、これもうまいな。ほろほろと肉が口の中でほどける。
でもやっぱりなんだかんだ、トマトの味するんだな」
ハルヒ「そりゃトマト使ってるからね」
みくる「わぁ、ブイヤベースなんて久しぶりに食べましたけど、すっごくおいしいですねぇ」
キョン「というか食べたことあったのですか」
みくる「え? ええ、この時だ――ごほん。有名な一般食は一応一通り食べたことあるんですよ」
>この時代の知識を付けるうえでの研修か何かなのだろうか……?
ハルヒ「へぇ。みくるちゃんって意外と美食家だったりするのかしら?」
みくる「そ、そんなことないですよ! あたしが食べたブイヤベースってこんなにおいしいものじゃなかったですし!」
古泉「ええ。僕も分不相応ながらレストランでブフ・ブルギニオンを食べたことはありますが、こちらの方が美味しいですね」
キョン「これ、家庭料理じゃなかったのか?」
古泉「シチューがレストランで出てくることもあるでしょう? それと同じですよ」
キョン「ああ、そういうもんなのか」
ハルヒ「というかSOS団の団員って思った以上に舌肥えてたのね」
キョン「みたいだな。残念ながら俺はそんな上等な舌を持ち合わせちゃいないが」
みくる「あ、あたしもそんなことないですよぉ……」
古泉「右に同じです。偶々食べたことがあるだけですから」
鶴屋「まぁまぁっ! 今は食べることに集中しよっか!」
古泉「ええ、そうですね」
キョン「じゃあ、そろそろ手を出してみるか……」
>キョンが自らの小皿に桃の冷静カッペリーニを盛った。
鶴屋「おっ、キョンくんそれいくのかいっ?」
キョン「ええ。どんなものかなと」
ハルヒ「ちゃんとした料理よ、失礼ね」
古泉「では、僕もそれをいただきましょうか」
鶴屋「じゃあ、あたしももらおっかなっ! ほらほら、みくるも!」
みくる「は、はぁい。で、でも桃のパスタなんて初めての体験です」
鶴屋「大丈夫大丈夫っ! あたしも初めてだからさっ!」
ハルヒ「だから味は保障するわよ。ただ苦手かどうかはあるかもしれないけどね」
キョン「桃ねぇ……割とマジで味が想像できんな、あむ」
>それぞれが、恐る恐るといった様子でカッペリーニを口へ運ぶ。
ハルヒ「……どうかしら?」
>冷静カッペリーニを盛った。
冷製ね
みくる「涼宮さん、これすっごくおいしいです!」
ハルヒ「そ。よかったわ」
>みくるは瞠目している。
古泉「ええ、確かに美味です。これほど桃とカッペリーニが合うとは意外の一言ですね」
鶴屋「ホントだねっ! これバジルが、桃の甘さを抑えめにしてるのかなっ?」
ハルヒ「ええ。そうよ。桃が食べてみた感じ想像より甘かったからね。
すこしバジルを多めに入れてみたんだけど、クドくないかしら」
古泉「いえ、そんなことはありませんよ。
バジルの爽やかさと桃の甘味、それにオリーブオイルとガーリックの香ばしさが非常によくマッチしてます」
みくる「トマトの酸味と生ハムの塩味もいいアクセントになって、後を引きますねぇ」
鶴屋「うんうんっ。見た目も桃とトマトとバジルで華やかだし、冷製パスタだから、変に甘味が強調されることもないしっ!
職人だねっ、ハルにゃんっ!」
>かなりの高評価のようだ。
>キョンは先ほどから黙っているがどうだろうか。
キョン「ん、ああ。俺か? いや、驚いてな。
酢豚にパイナップルみたいなもんかと思ったら、全然違うからよ」
ハルヒ「美味しいかどうか訊いてるのよ」
キョン「ああ、間違いなくこいつはうまい。
申し訳ないが、古泉や朝比奈さんみたいなコメントはできんがな」
ハルヒ「別にそういうのはいいって言ってるじゃない」
みくる「涼宮さん。これ麺にかなりしっかり味がついていますけど、かなりの量の塩で茹でたんですか?」
ハルヒ「ええ。桃の味を生かすためにどうしてもソースはシンプルになっちゃうからね。
茹でる段階でしっかり味付ないと、かなりぼんやりした味になっちゃうのよ」
古泉「食感も素晴らしいですね。
麺を若干固めに茹でてあるおかげで、桃と麺にコントラストが生まれるので口の中が楽しいです」
ハルヒ「あ、わかってくれたんだ。
やわらかく茹でちゃうと画一的な食感で口の中にいれたときに印象に残らないからそうしてみたのよ」
古泉「茹ですぎるとインパクトがなくなり、固くし過ぎると口の中が不愉快になってしまう……。
ここしかないという点を、的確に見抜いていますね」
キョン「そんな大層なモンだったのか……」
ハルヒ「ふふん、どう? 番長くん?」
>さすがだな。
キョン「えらく余裕だな」
古泉「食感に関しては、番長氏も負けていないですよ」
>一樹はいつの間にか、自分のキッシュを食べている。
古泉「このキッシュ、先ほど鶴屋さんがおっしゃったように、卵の食感と野菜の食感の相乗効果が素晴らしいです」
古泉「涼宮さんのような驚きはないですが、料理全体のアベレージは非常に高いものになっていますから引けを取りませんよ」
古泉「もちろん、料理全体のアベレージが高いのは涼宮さんも変わりませんがね」
>チーズフォンデュは素材の味がそのまま出るものだから若干料理かは怪しいが。
古泉「そんなことはありません。
ただチーズを溶かしただけならともかく、白ワイン、ガーリック、黒こしょう、ミルク……あたりでしょうか。
チーズソースとして高い完成度のものですよ」
キョン「チーズフォンデュって、チーズ溶かしてつけるだけの料理じゃなかったのな」
>一樹、食べただけでそこまでわかるとは。
古泉「かなり風味はいいですからね。分かりやすいくらいです」
キョン「……俺も食べてみたがわからん」
古泉「意識して食べるように心がければ、分かるようになりますよ」
キョン「そういうもんかね……」
みくる「お2人は食べないんですか?」
鶴屋「お互いの料理食べないのはもったいないとおもうなっ!」
ハルヒ「そうね、番長くん。あたしたちも、お互いのもの食べてましょか」
>ああ、そうしよう。
ハルヒ「牛肉のワイン煮貰おうかしら」
>自分は、桃の冷製カッペリーニをもらおう。
ハルヒ「あむっ」
ハルヒ「うわっ、なにこれっ、おいしっ。これレストランで出てくるようなレベルよ。
ううん、ヘタなレストランなんかよりよっぽどおいしいわ」
>ハルヒのこれも相当美味しい。味の均整がかなり良くとれている。
ハルヒ「うーん、こっちのキッシュもすごくおいしいわ」
>ストラコットもほろりととろける口当たりだ。
ハルヒ「できればもっと煮込みたかったんだけどね。
それでもここまでやわらかくなるんだから圧力鍋さまさまね」
古泉「しかし、お2人ともメニューの組み方がそっくりですね」
キョン「組み方?」
古泉「チーズフォンデュとバーニャカウダ、ブイヤベースとアクアパッツァ。
それに、ブフ・ブルギニオンとストラコット・トスカーナ。そっくりではありませんか?」
キョン「あーなるほどな」
みくる「ジャンルが明らかに違うのはカッペリーニとキッシュくらいですねぇ」
ハルヒ「別に意図したわけじゃないのよ」
>これも偶然だな。
キョン「イタリア料理とフランス料理は起源が同じらしいから、まあこんなこともあり得るのかもな」
古泉「……」
ハルヒ「よく知ってるわね、キョン。アンタそんなに博識だっけ」
キョン「……それくらい知ってることもあるさ」
ハルヒ「ま、でもこれで評価はしやすいでしょ?
全然ジャンルが違ったら絶対評価にせざるをえないけど、これなら比べて評価できるわ」
>有希を除くみんなが、食べる手を止めてハルヒを見つめている。
キョン「評価っても、難しいぞこれ……」
みくる「評価? あ、そっか。これ料理勝負でした」
ハルヒ「みくるちゃぁん? もしかして考えなしに食べてたんじゃないでしょうね」
みくる「ひぅ、ご、ごめんなさいぃ……」
古泉「すみませんそうでしたね。
僕もあまりの美味しさに審査員という本分を忘却の彼方へ追いやっていたようです」
鶴屋「ごめんごめんっ! あたしもふっつーにご飯を楽しんでいたっさ!
だからみくるだけを責めるのは許してあげてっ」
ハルヒ「もう。古泉くんに鶴ちゃんまで? しょうがないわね」
古泉「しかし、彼の言うとおり評価は非常に難しいですね。
お2人ともプロ並みの腕前であったことが完全に誤算です。予想外でしたよ」
キョン「(……なーにが、誤算だ)」
古泉「昨日のおにぎりのようなごくごく僕たちに親しみのあるものでしたらともかく、
このような料理は食べなれていませんからね」
ハルヒ「そう? キョンはともかく古泉くんは食べなれている印象だったけど」
キョン「悪かったな、食べ慣れていなくて」
古泉「僕も基本的に昼食などはコンビニやレトルトで済ませてしまう人間ですからね。
先ほども言ったように、偶々食べたことがあるだけでして恒常的に美食に浸れるほど裕福な人間でもありません。
鶴屋さんは分かりませんけどね」
鶴屋「あたしかいっ? あたしも和食なら結構いろんなの食べてるけど洋食となるとさっぱりだねっ!
みんなと同じ様なもんっさ!」
古泉「ということです。
ですから僕たちは表面的な美味しさはわかっても、
味わいの僅かな機微までを評価しそれを相対化することはできません」
古泉「それこそプロでなければ正確な判断を下すのは難しいでしょう」
古泉「そのため評するのなら、『どちらが美味しかった』ではなく『どちらも美味しかった』となってしまいますね。」
ハルヒ「でも、ここまでやってこの間みたいにどっちも勝ってどっちも負けたとか、引き分けとかそれこそ興ざめじゃない」
古泉「ええ、そこで提案なのですが。
『どちらが美味しかった』ではなく『どちらがより好みだったか』という完全主観の評価というのはいかがでしょうか?
美味しさで判断することは、僕らには荷が勝ちすぎてしまいますのでね」
また起きてから
キョン「それはどこが違うんだ」
古泉「大きな違いですよ。
前者は料理における技術、創意工夫、味のバランスなど評価する際に、客観的要素を多分に含みます」
古泉「しかし、後者は僕たちが料理を口に含んだ際の感想をそのまま口に出せばいいのです。
料理人でもない、美食家でもない僕たちができることは、自らの好みを主張することだけなのではないでしょうか」
キョン「……ま、それもそうだな」
キョン「てことだ、ハルヒ。俺らの好みで決めるがいいか?
というか技術の評価なんてできないからな」
ハルヒ「あたしたちも、そんな高尚な評価求めてないわよ」
>好きなほうを選んでくれればいい。
古泉「それを聞いて安心しました」
>一樹とキョンが何やら耳打ちをしている。
古泉「涼宮さんは決着より、番長氏と一緒に料理を作れたことで満足しているようです」
キョン「見てりゃわかる。それをなんでこんな近距離でいう必要がある。顔が近い、離れろ」
古泉「いえ、無理やり涼宮さんを勝たせる必要がないということを伝えたかっただけです。
涼宮さんは勝っても負けても満足してくださるでしょう」
古泉「ですが――」
古泉「あなたがどちらにいれるのかは勝敗以上に重要なことであると忠告しようと思いましてね」
キョン「……ふん」
鶴屋「じゃあ、どうするのっかなっ? 挙手でもするかいっ?」
よし、書ける
ハルヒ「遠慮はいらないからバシッと判断してちょうだい! と言いたいところだけど」
キョン「どうした」
ハルヒ「匿名で投票にしましょ」
キョン「……どうしてだ?」
ハルヒ「番長くんより、あたしの方がキョン達との付き合い長いでしょ。
そんなことするわけないと思うけど、身内びいきされたくないの」
キョン「逆に知り合って日が短いからこそ番長に気を使って、番長に入れることもあるんじゃないのか?」
ハルヒ「それも含めてよ。人で判断じゃなくてあくまで料理で判断してほしいわけ」
ハルヒ「それに匿名の方がキョン達も気が楽でしょ」
キョン「それはまあ、そうだが」
鶴屋「じゃあ、適当な紙とペン渡すからそれに書いてもらう形でいいっかな?」
ハルヒ「お願いね。あたしと番長くんは、部屋から出てるからそのあいだに書いて。
あ、書いたのは鶴ちゃんに渡して。鶴ちゃん、集計というか結果発表の役やってもらっていいかしら?」
鶴屋「りょーかいっ! じゃあ、紙とペンとって来るからちょろっと待っててねっ!」
>鶴屋さんは紙とペンをとりに出ていき、しばらくして戻ってきた。
鶴屋「はいはいっ、じゃあこれに書いてねっ!」
ハルヒ「じゃあ、あたしたちはちょっと居間の外にいるから。
書き終わって鶴ちゃんに渡したら呼んで」
ハルヒ「あたしたちが戻ってきたらその投票用紙を1枚ずつ鶴ちゃんに読み上げてもらうからね」
ハルヒ「行きましょ、番長くん」
>ハルヒと2人で居間の外へ出ていった。
――
―
キョン「やれやれ。別にどっちもうまかったでいいだろうに」
鶴屋「あははっ。確かにねっ。
でもハルにゃんの特技で張りあえる人なんて滅多にいないんだから、単純に嬉しいんだと思うなっ」
キョン「はあ、そうなんでしょうかね」
鶴屋「くふっ、キョロスケくんはまだまだハルにゃんをわかってないみたいだねぇっ」
キョン「む。少し心外ですね……ですけどわかっていないとは?」
鶴屋「ごめんごめんっ。別にキョンくんを貶すつもりで言ったんじゃないっさ」
鶴屋「ハルにゃんが何かやるときって、基本的にハルにゃんにとって未知の体験なんだよっ」
キョン「そりゃまぁ、宇宙人未来人超能力者に会って遊びたいなんて団体作るくらいですからね。
日常一般のできことならそれくらいじゃないと面白くないんでしょう」
鶴屋「うーん、そういうことじゃないんだなっ!」
鶴屋「ハルにゃんって、ほとんどなんでもできるでしょ?」
キョン「まあ、運動にせよ勉学にせよ人並み以上にできることは確かですね。
容姿も黙っていればかなりいい方ですし」
鶴屋「容姿はともかくとして、そうでしょっ。
だから日常一般のことはハルにゃんにとって勝負事にはなりえないんだなっ」
キョン「そうですか? 勝負にならないって別にハルヒのやつは何でも1番ってわけではないですよ。
いくらでも勝負する機会はあると思うんですが」
キョン「勉強なんて事実長門の方ができているわけですし。
そりゃハルヒはハルヒで全部の部活に体験入部して漏れなく勧誘が来るなんて離れ業をやってのけていますけどね。
それでも全部の部活で1番になることなんて難しいでしょう」
鶴屋「1番になることと勝負にならないことは別だよっ、キョンくん」
キョン「どういうことですか?」
鶴屋「まずハルにゃんは勉強に関しては1番になろうと思ってないんじゃないっかな?」
キョン「SOS団の活動に支障がでなけりゃそれでいいとは、のたまってますね」
鶴屋「それに、運動でも極めようってことはないんじゃないっかなっ?」
キョン「まあ、そうだと思いますけど」
鶴屋「つまり運動も勉強もハルにゃんにとって『ただやればできること』で、根を詰めてやる勝負事にはなりえないと、あたしは思うのさっ!
ハルにゃんにとって勉強や運動は、あたしたちが自転車に乗るのと同じような感覚なんじゃないっかなっ」
鶴屋「そんなことで勝負しようなんてキョンくんも思わないでしょっ?」
キョン「それはそうですけど……。
というか、自転車に乗る感覚でテストで高得点叩きだしている方が驚きですよ俺は」
鶴屋「そういうことっ。つまりハルにゃんは勉強でも運動でも勝負の場にすら立っていないんだっ」
キョン「あれ? でもちょっと待ってください。
前にやった野球は勝負にこだわってましたよ?」
古泉「ええ、そうですね。あの野球大会は……なかなか大変でした」
鶴屋「あれはチームでやるスポーツだからじゃないっかなっ。
それに野球もそんなに知らなかったみたいだし。
ハルにゃんにとってチームプレイは未知の領域だったってところだと思うよっ」
鶴屋「もし、ハルにゃんが9人いたらあっさり勝って終わった気がするねっ」
キョン「……あながち否定できないところがイヤですね」
鶴屋「そんなハルにゃんが、特技にまでした料理で勝負なんてできると思う?」
キョン「普通は、相手にすらならないでしょうね」
鶴屋「だろうねっ。でも、番長くんは思いっきり張り合えてる。
特技を持って同じラインで戦えるってことはハルにゃんにとって嬉しいことなんだと思うなっ」
キョン「だからハルヒは勝負にこだわっているんですか?」
鶴屋「あたしはそう思うよっ。ハルにゃんが既知の領域で勝負できることなんて早々ないだろうからねっ」
古泉「確かに、日常的なことであっても涼宮さんが楽しげにしていたのは、初めてやることが多かったですね。
野球大会然り、映画作り然り、SOS団の不思議探しも未知を見つけるためですし」
キョン「未知にしか楽しみを見出せなかったハルヒが、既知の分野で楽しみを見出したのは驚嘆に値するってことか……」
なんか適当なこと言ってたらゴメン
鶴屋「あたしの勘だから外れてるとは思うけどねっ」
みくる「鶴屋さんも涼宮さんのこと見てたんですねぇ……」
キョン「正直かなり意外っす」
鶴屋「あっはっはっ! 伊達にキョンくん達より北高に1年長くいるわけじゃないっさ!」
鶴屋「ま、そんなことはいいからさっ! 早く書いた書いたっ!」
古泉「そうですね。
ですがこのノートの切れ端にある種の運命がかかっていると思うと些か緊張しますね」
キョン「そんな仰々しいことにならないよう祈っとくさ」
――
―
ハルヒ「番長くん、どっちが勝っても恨みっこなしだからね」
>もちろんだ。
ハルヒ「……正直昨日のお弁当対決は負けたと思ってるわ」
>そんなことはない。
ハルヒ「いいのよ。あたしが思ったことなんだから」
>……どうしてそう思うんだ?
ハルヒ「単純にバランスの問題よ。男子の方が多く食べると思って具材にせよ味付けにせよ男子に寄せ過ぎたわ。
番長くんは全体に気を使ってたじゃない。あたしのは画一的になりすぎた。
有希はともかくとして、みくるちゃんも鶴ちゃんも食が太いわけじゃないんだから、味に飽きないように気を使うべきだったのよ」
ハルヒ「だから、今日は気合を入れたのよ。絶対に負けないんだから!」
>ハルヒから熱意が伝わってくる。
>わざわざサプライズも用意してたからな。
ハルヒ「ああ、桃の冷製カッペリーニのこと?
前に食べたことあって、すっごく印象に残ってたから作ってみたのよ。
レストランで食べた味を思い出しながら作ってみたんだけど、うまくいって何よりだわ」
>もしかして今日初めて作ったのか?
ハルヒ「? ええ、そうよ?」
>……すごいな、それは。
鶴屋「ハルにゃーんっ、番長くーんっ! 終わったよっ」
>鶴屋さんが今から顔を出してこちらに呼びかけてきた。
ハルヒ「ああ、鶴ちゃん。じゃあ、行くわよ番長くん。
いざ参らん。決戦の場へっ!」
――居間。
鶴屋「さあさあっ、お待ちかねっ! 開票の時間だっ!」
キョン「鶴屋さん、ぜひ誰がどう書いたかわからないようにお願いします」
鶴屋「もちろん、ちゃんと匿名は守るっさ! あたしには誰が何を書いたかバレバレだけどねっ、くふっ」
みくる「つ、鶴屋さぁん……お願いしますね」
鶴屋「分かってる分かってるっ」
ハルヒ「別にもし誰が書いたかわかったところでとって食べやしないんだから。
あたしが匿名にしようっていったのは、ただフラットに勝負がしたかっただけよ」
ハルヒ「それにあたしも番長くんも誰が何を書いたからって、恨まないわ」
>ああ。
鶴屋「それじゃあ、投票されたものを読み上げてくよっ!
あ、ちなみにもう一度確認しておくけど『どちらが美味しいか』じゃなくて『どちらが自分の好みか』だからねっ」
ハルヒ「ええ、わかってるわ」
古泉「先に言っておきますが、どちらも間違いなくおいしかったです」
ハルヒ「当然よ、あたしと番長くんが作ってるんだからっ」
古泉「ふふ、そうですね」
またあとで
>>97
>鶴屋さんが今から顔を出してこちらに呼びかけてきた。
居間ね、居間
書く
鶴屋「まず一枚目だねっ」
鶴屋「これはー、ハルにゃんかな!」
ハルヒ「よっし!」
>先手はハルヒにとられてしまったようだ。
鶴屋「桃のパスタが美味しかったんだって!」
ハルヒ「あら、わざわざ感想まで添えてくれたの?」
古泉「基準がどちらが好みか、ということなので特に決め手になった料理を全員書いてみたのです」
ハルヒ「なるほどねっ!」
キョン「(さっきのはきっと朝比奈さんだろうな)」
ハルヒ「ふふん、どう? 番長くん?」
>まだわからないさ。
鶴屋「そゆことっ! 2枚目は番長くん! 牛肉のワイン煮が特に好ましかったんだって!」
>巻き返せたようだ。
ハルヒ「むむ……確かにアレすっごく美味しかったからしょうがないわ。
男の子にも女の子にもウケが良さそうな味だったし」
キョン「(古泉、ってところか。ブフ・ブルギニオンとか書いてあれば確定だったんだが)」
古泉「そんな熱心に視線を送られてどうしたのですか? 見つめられると少々照れてしまいますね」
キョン「……なんでもないから黙っておけ」
鶴屋「3枚目は、えーっと。番長くんっ!」
ハルヒ「ぐっ……まさか抜かれるなんて」
鶴屋「キッシュすっごくおいしかったよ! ……だって!」
キョン「(鶴屋さん……それでは匿名の意味がありません……)」
>これで一歩リードだな。
ハルヒ「まだよ! まだ2枚あるんだからね!」
鶴屋「じゃあ、次っ! これはー、くふっ。ハルにゃんだねっ! 全部が自分の好みだったから全部が一番だって!」
ハルヒ「へぇっ。そこまでいってくれるなんて作った甲斐があるわね。
みくるちゃんあたりかしら。当たってる?」
みくる「え、え? えーっとぉ……」
キョン「……おい、ハルヒ。匿名にしたんだからそうやって聞くのは反則だぞ」
>ハルヒはみくると言っていたが……反応的にキョンあたりだろうか。
ハルヒ「そんなことわかってるわよ。ジョークよ、ジョーク。
でも嬉しいのは本当よ?」
みくる「あ、ジョークだったんですかぁ……」
ハルヒ「これで、2対2よ! さあ、次で勝負が決まるわ。
覚悟はいい? 番長くん!」
>ああ。決戦だ。
鶴屋「んでねっ、最後なんだけど」
鶴屋「うーんとね……その。このまま読んだ方がいいのかなぁっ」
ハルヒ「どうしたの? 歯切れ悪いけど」
鶴屋「ごめんねっ。なんて言ったらいいかわかんなくてさっ」
鶴屋「だからそのまま読み上げるねっ」
鶴屋「『彼の肉料理と魚料理、涼宮ハルヒの魚料理と麺料理が該当する』だって」
ハルヒ「……」
>……これは。
キョン「あー、匿名だが誰かわかっちまうな……」
ハルヒ「有希よね、これ」
長門「そう」
ハルヒ「……どうしてこうなったわけ?」
長門「言われた通り好ましいと思ったものを書いた」
ハルヒ「結局どっちがよかったのかしら」
長門「どちらもよかった」
ハルヒ「それじゃダメなの!」
キョン「どこかでこうなるんじゃないかと思ってたが・……やれやれ」
長門「好みのものならばすべて該当するが、より好ましいと思ったものを選んだ」
ハルヒ「あのね、有希。勝負なんだからあたしか番長くんを選んでもらわないと困るの」
長門「どちらか一方を選ぶことは非常に難しい」
ハルヒ「難しくても、言ってもらえなきゃ終われないわ」
長門「……」
>有希がこちらを見つめてきている。
長門「あなたも困る?」
>できれば選んでほしい。ハルヒのためにも。
長門「そう」
長門「どちらか一方を上方に置く主観的判断はわたしにとって非常に難しい」
長門「……単独の味だけで好ましいと判断するなら、彼」
>しばらく逡巡いたあと、有希はそう言った。
>自分か?
ハルヒ「うっ……」
長門「しかし――」
長門「メニュー全体を対象とするならば、あなた」
ハルヒ「へ? どういうことよ?」
長門「あなたの料理は味に大きな濃淡があり、多彩な変化を持ちつつも、
一定の方向性を維持しつつまとまりを持っているように感じられた」
長門「それをわたしは好ましいと感じた」
キョン「あー、甘いしょっぱいのいろんな味を楽しめたけど、うまくメニュー全体にまとまりがあって楽しかったってことか?」
長門「そう。わたしの主観的判断のため確証はない」
キョン「いや、それで構わないのさ」
長門「そう。……だから、個別の料理だけで判断するなら彼。
メニュー全体で判断するなら涼宮ハルヒ、となる」
今日はかけるところまで書こう
鶴屋「あっははっ! 困ったねっ!」
キョン「そんな明るい声で言われても困ってるようには見えません」
古泉「しかし決着はつけなければ、涼宮さんは納得いかないでしょう?」
ハルヒ「当り前よ! 有希、決めてちょうだい」
長門「これ以上の判断は下せない」
ハルヒ「だからそれじゃ――」
キョン「待てハルヒ」
ハルヒ「なによ」
キョン「長門も困っているんだ。あまり詰め寄るな。
それに長門はこれ以上このことは言わないだろうよ。堂々巡りにしかならん」
ハルヒ「じゃあ、どうしろってのよ」
キョン「どうするってもな……」
>キョンがこちらに視線を投げかけてくる。
>自分からみれば、これは自分の負けだと思う。
古泉「おや」
ハルヒ「……適当に勝ちを譲られてもあたしは嬉しくないわよ」
>そういうことじゃない。
>有希は単品の評価なら自分、メニュー全体でならハルヒと言っていた。
ハルヒ「そうだけど、なんでそれが番長くんの負けになるの」
>昨日のおにぎりのときに、みんなに言われたことを覚えているか?
ハルヒ「……? 付け合せを逆にした方が美味しいって言われたこと?」
>ああ。
>あれは、付け合せも合わせて一つの料理だと考えるべきだ、と俺は思う。
>それはこれにも言える。メニュー全体で一つの料理と考えるのが妥当だ。
>自分はメニューの調和を怠った。ハルヒはメニューの調和を行った。
>そして有希は、メニュー全体ではハルヒの方がいいといった。
>十分勝敗を別つ要因だろう。
ハルヒ「うーん……むむ……」
キョン「なんだ、まだ納得してないのか」
ハルヒ「だって、番長くんに急遽メニュー代えてもらったのはあたしよ?」
>それはハルヒも一緒だろう。
ハルヒ「でもねぇ……」
古泉「よろしいですか?」
ハルヒ「どうしたの?」
古泉「もし、変えた品が得意な料理ではなく不味いものに仕上がっていたら、
涼宮さんの言う通り、ハンデ戦になっていたのかもしれません」
古泉「ですが、番長氏の作ったキッシュは非の打ちどころがないほど美味でした」
鶴屋「うんうんっ! ホントビックリしたよあたしっ!」
みくる「確かにすっごく美味しかったです」
古泉「ですから、それはマイナス要因になったとは考えにくいのではないでしょうか」
>そういうことだ。
ハルヒ「……」
キョン「ハルヒ、これ以上ゴネても結果は変わらんと思うぞ。
素直に受け取っておけ」
ハルヒ「…………有希はそれでいいの?」
長門「構わない」
ハルヒ「番長くんもいいの?」
>ああ。
ハルヒ「……わかったわ」
鶴屋「決っっ着っ!! 3対2でこの料理対決はハルにゃんの勝ちっ!」
ハルヒ「でも完全に納得したわけじゃないからね、番長くん!」
キョン「まだ言ってるのか」
ハルヒ「当然よ、こんなの完全勝利とは言えないわ。個別の料理だったら負けてたんだから。
ていうかホント男の子のくせにここまでおいしく作れるなんて腹が立つわ」
キョン「上級生に向かって男の子はないだろうよ……。
それにあくまで好みだからな好み」
ハルヒ「分かってるわよ。また勝負しましょ、番長くん。
こんなに燃えたのは久しぶりだったわ」
>必ずリベンジさせてもらうさ。
古泉「このような勝負でしたら平和ですし、僕たちも嬉しいですね」
みくる「美味しいものも食べられますからねぇ、はふぅ」
キョン「こういうことばっかりならいいんだがな……」
鶴屋「さ、勝負はこれで終わりっ! まだまだあるし、純粋に食事を楽しもっかっ!」
ハルヒ「そうね、番長くんの牛肉のワイン煮ホントおいしいわね」
みくる「ですねぇ」
ハルヒ「ワイン飲みたいわ、ワイン。調理用に使ったのを残しておけばよかったわ」
古泉「……」
キョン「……お前そんなに酒に寛容だったか? というか俺ら未成年だぞ」
ハルヒ「何言ってるの、夏に合宿に行ったときみんなでパカパカ飲んだじゃない」
古泉「……そうでしたね」
鶴屋「ワイン飲みたいならあるよっ? もってくる?」
ハルヒ「ホント――」
キョン「やめておきましょう、鶴屋さん」
ハルヒ「何よキョン。いまさらいいコぶっても意味ないわよ」
キョン「……そういうことを言ってるんじゃない。
ハルヒ忘れたのか? 朝比奈さんは酒に弱いんだ。
この時間に飲ませたら、誰かがおぶって朝比奈さんの家まで送ることになるぞ」
みくる「あ、あの……あたしが飲まなければいいだけですから」
ハルヒ「ええ、別に強制して飲めなんて言わないわ」
キョン「……それにな、番長もいるんだ。ハルヒもSOS団が不良集団だと思われたくないだろ?」
>安心しろ。俺は酒自体飲まなくても場酔いができる。
キョン「そういうことを言ってるんじゃない」
古泉「僕の心配はなんだったのでしょうね……」
ハルヒ「心配?」
古泉「いえ、なんでもないのです」
鶴屋「ハルにゃーん、もってきたよっ! 赤いでいいっかなっ?」
キョン「鶴屋さん!」
>鶴屋「ハルにゃーん、もってきたよっ! 赤いでいいっかなっ?」
赤で、ね
鶴屋「まあまあっ、この人数で飲んだら1人分なんてグラス一杯だけなんだからさっ!
あっ、みくるは飲まなくていいからねっ」
キョン「意外と悪い娘ですね、鶴屋さん……」
ハルヒ「んー! やっぱりワインと牛肉のワイン煮合うわねぇ」
>ハルヒはだばだばグラスにワインを注いで飲んでいる。
古泉「では僕も頂きましょう」
ハルヒ「さすが古泉くん、イケる口ね」
古泉「あなたもいかがですか? 旅は道連れといいますよ?」
キョン「何が旅なんだ何が」
ハルヒ「アンタはいいから飲みなさい!」
キョン「おい、強制して飲めとは言わないんじゃなかったのか」
ハルヒ「それはみくるちゃんの話。キョンは別」
キョン「やれやれ……番長はどうする?」
>雰囲気だけで十分だ。それに。
鶴屋「ありゃ、長門っちにの分で無くなっちゃった」
>とのことだ。ぶどうジュースがあればいい嬉しいが。
キョン「……ハルヒがだぱだぱ入れたせいで1杯の量が多い」
また7時くらいに書く
誤字がひどい
>鶴屋「ありゃ、長門っちにの分で無くなっちゃった」
長門っちの
>とのことだ。ぶどうジュースがあればいい嬉しいが。
あれば嬉しい
ようやくかける
鶴屋「番長くんとみくるはぶどうジュースだねっ、はいっ」
>あるのか。
鶴屋「ふっふっふー。鶴屋家は伊達に大きいだけじゃないんだなっ」
ハルヒ「じゃあ、かんぱーい!」
>ハルヒの号令で皆がグラスに口をつける。
キョン「……ホントにいいのかね」
古泉「僕は嬉しいですけどね」
キョン「合宿の時を思い出せ。
あのハイテンションになったハルヒの相手を誰がすると思うんだ」
古泉「役得じゃないんですか?」
キョン「やかましい」
古泉「それなら、僕に譲っていただいても構いませんよ?
いえ、僕では荷が勝ちすぎてしまいますね。番長氏あたりに譲るのはいかがでしょう」
キョン「……そんなことを番長にさせるわけにはいかんだろうよ」
>何を話しているんだ?
キョン「なんでもない。気にするな」
>そんな一気に酒をあおって大丈夫か?
キョン「こ、これくらいならな」
長門「……」
ハルヒ「あら、有希ももう飲んじゃったの?」
鶴屋「さすがにこれ以上は開けられないからあとはぶどうジュースだねっ」
ハルヒ「このワイン、おいしーわね! あははっ!」
キョン「おい、何か不穏な空気が漂ってるぞ」
古泉「このワイン……素晴らしいですね」
鶴屋「あ、そうなのっ? 適当に拝借してきたんだけどっ」
古泉「ええ……簡単に手に入るようなものではないと思うのですが」
みくる「い、いいんですかぁ?」
鶴屋「いいのいいのっ! いっぱいあるんだからさっ!」
ハルヒ「さっすが鶴ちゃん! このぶどうジュースもおいしいわっ!」
>鶴屋さんの肩をバシバシ叩きながら、ぶどうジュースもだぱだぱとグラスに注いでいる。
>ハルヒはもうワインは飲み干してしまったようだ。
ハルヒ「あははっ! 気分良くなってきたわ!」
ゆっくり書いていく
キョン「お、おい。あれって、ぶどうジュースなんだよな」
>ああ。これはぶどうジュースだ。
ハルヒ「あー、ぶどうジュースでも酔っぱらってきそうだわ」
みくる「はふぅ……」
>みくるがなぜか瞳を潤ませている。
キョン「……朝比奈さんが飲んでいるのも、ぶどうジュースなんだよな?」
>間違いなくぶどうジュースだ。
みくる「ふぇ、ろうしたんれすかぁ?」
キョン「あれは酔ってないんだよな? 酔っていないんだよな?」
古泉「いえ、一概にそうとも言えません」
>一樹が近づいてきた。
キョン「場酔いか? いくらなんでも早すぎるだろ!」
古泉「いえ、そうではありません。涼宮さんの願望実現能力ですよ」
キョン「……まさか、ハルヒがジュースでも酔いたいと思ったとでも言うのか」
古泉「そのまさかです。実際このジュースからはアルコールは感じられません。
ですが飲んでいくうちに気分が高翌揚してきますし、
僕自身これを飲み進めるたびにアルコールを摂取した際に似た感覚を憶えています」
キョン「……マジか」
古泉「マジです」
高揚もNGひっかかるんか
キョン「ハルヒ特製即席アルコールドリンクってことか……」
古泉「厳密には酒ではありません。アルコールは1滴も入っていませんからね。
言うなれば、場酔い促進ドリンクですか」
キョン「……どっちにしても厄介極まりないな」
ハルヒ「あははははっ! キョン、古泉くん、番長くん! 飲みが足りないわよ、飲みが!」
キョン「ハルヒ、絡み酒はやめろ」
ハルヒ「何言ってるの! これはジュースよジュース!」
キョン「やれやれ……」
みくる「はふぅぅ……キョンくぅん……あらし、なんかへんれすぅ……」
キョン「……朝比奈さん、それ飲まない方がいいですよ」
みくる「ふぇ、なんれれすかぁ?」
>みくるは大丈夫だろうか。
ハルヒ「みくるちゃーんっ! ジュースでなに酔っぱらってるのよ、あはははっ!
飲みなさい、みくるちゃん!」
キョン「……ハルヒ。朝比奈の分は俺が飲むから、朝比奈さんは勘弁してやれ。
番長、朝比奈さんを頼んだぞ」
>ああ、わかった。
>とりあえず、横になっておけ。
みくる「よこれすかぁ? わかりましたぁ……はふぅ」
>みくるは自分の膝を枕にしてしまった
>……これでは動けない。
みくる「ばんちょーくんのひざ、きもちぃれぅ……」
>そっとしておこう……。
ハルヒ「有希は飲みっぷりいいわねー!」
長門「そう」
>有希は注がれるそばからぶどうジュースを飲みほしていく。
鶴屋「長門っち、すっごいねぇ! ザルさんだねっ!」
キョン「鶴屋さん、あれジュースです」
鶴屋「にゃはははっ! そんなの気にしない気にしないっ!」
キョン「はぁ……どうしてこうなっているんだ」
古泉「ふふ、涼宮さんがそう望んだからです」
キョン「あのな……」
ハルヒ「そのとーりよ! 古泉くん!
あたしが望んだらそうなるの! あたしは王様よ! あはははっ!
そうよね! こんなときこそ王様ゲームよね!」
キョン「マジで勘弁してくれ」
ハルヒ「キョン! 割り箸もってきなさい!」
キョン「んなもんあるか!」
鶴屋「ハルにゃん、これこれっ!」
>鶴屋さんはいつの間にか赤い印がついている割り箸と
数字の書かれた割り箸を用意していた。
キョン「鶴屋さん、何やってんですか!?」
鶴屋「王様の命令は絶対だからねっ! しょーがない、しょーがない!」
みくる「それならしょうがないれすれぇ……」
>起きたのかみくる。
キョン「朝比奈さん、あなたが一番被害にあう可能性が高いのですよ……いいのですか……」
みくる「はふぅ……」
>また膝を枕にされてしまった。
古泉「では、僭越ながら僕がゲームマスター――」
キョン「お前はゲームマスターのやりたがりか!」
古泉「ですが、涼宮さんは進行役やる気はないみたいですし」
ハルヒ「ゆきぃー、もっと飲んでー!」
長門「わかった」
鶴屋「長門っち、いいのみっぷりだねっ!」
古泉「あなたも進行役はやる気がない」
キョン「俺は進行役どころかゲーム自体やる気はない」
古泉「番長氏は、アレですので僕がやるしかないかと」
キョン「あ、番長! てめ! 何羨ましいことを!」
>そんなこと言われても困る。
ハルヒ「ダメよ! 絶対参加なんだからね!」
あれ、変なところに挿入された
キョン「俺は進行役どころかゲーム自体やる気はない」
ハルヒ「ダメよ! 絶対参加なんだからね!」
古泉「番長氏は、アレですので僕がやるしかないかと」
これで
ハルヒ「あ、番長くん! みくるちゃんに膝枕されるなんて幸せ者なんdなからっ!
罰として飲みなさいっ!」
>コップになみなみとジュースが注がれた。
ハルヒ「さあ、飲むのよっ!」
>一気に飲み干した!
ハルヒ・鶴屋・古泉「「「おぉ~」」」
キョン「いや、ジュースだからな? 忘れてるみたいだから言うがジュースだからな?」
>おかわり。ロックで頼む。
キョン「番長もわかってるよな? 酔ってないよな?」
>おいしいぶどうジュースだな。
キョン「頼むぞ、番長……お前まで酔ったら手におえないんだからな……」
ハルヒ「さあっ! 番長くんのいい飲みっぷりも見れたことだし始めるわよ! 王様ゲーム!」
キョン「悪夢の予感しかしない……」
ハルヒ「一応王様ゲームくらい分かると思うけど、説明するわね!
古泉くん!」
古泉「はい。王様ゲームとは、王様役のくじを引いた人が、番号の振られたくじを引いた人に命令ができるゲームです。
特徴としては王様役の方の下した命令は基本的に絶対です。拒否権はありません」
古泉「なお、王様役は名指し指名ではなく、必ず番号で命令を下さなければなりません。
また命令が終わるまで王様役の方は、誰が何番になったのかを知ることができません」
キョン「以心伝心、阿吽の呼吸で説明してくれるな……頭痛がしてきた」
>キョン、おかわりをくれ。ストレートで頼む。
キョン「番長……」
ハルヒ「さあ、引いた引いた! みくるちゃんもほら起きて!」
みくる「はぁい……」
鶴屋「あはははっ! やっぱり酔ったみくるは色っぽいねぇっ! くふっ!」
ハルヒ「有希も引いたかしら?」
長門「引いた」
ハルヒ「さあ、男ども引きなさいっ!」
キョン「やれやれ……せめて傍観者でいさせてくれるように神頼みするか」
古泉「番長氏、どうぞ」
>手前と奥、どちらを引こうか……。
>手前のくじを引いた。
古泉「では、僕はこちらですね」
ハルヒ「じゃあ、いくわよ! 王様だーれだっ!」
>自分は……1番と書いてある。
鶴屋「おーっ! 王様はあたしだっ!」
キョン「ほっ……まだまともな命令が下りそうだ」
ハルヒ「鶴ちゃん! ぬるい命令じゃダメだからねっ!」
キョン「今の王様は鶴屋さんだ。王様に指図するやつがどこにいるんだ」
キョン「……鶴屋さん、ホントお願いしますね?」
鶴屋「あははっ! 大丈夫っさ! 最初はジャブだよジャブっ!」
鶴屋「えっとねぇ……1番――いや3番と4番があつーい抱擁でよろしくっ!」
キョン「ゲッ」
ハルヒ「うん、でもまあ、それくらいならいいか。
で、3番と4番は誰?」
キョン「……3番は俺だ」
ハルヒ「ふっふっふ、自分だけ乗り気じゃなかった罰よ。いい気味だわ。
さあ、お相手の4番は誰かしら?」
古泉「僕ですね」
>キョンと一樹が選ばれたようだ。
鶴屋「あははははっ!! いい具合にお約束だっ!」
キョン「そんなこと俺はお約束されたくありません」
古泉「では」
キョン「やめろ、笑顔で寄るな、なんでそんなに乗り気なんだ」
古泉「抱擁くらいいいではないですか。キスせよなんて命令でなくて、むしろ僕は心から安心していますよ」
鶴屋「あ、今からでもキスしろって命令に変えてもいいけど、どうするっかな?」
キョン「しませんよ! 第一知ってから命令を変えるのはルール違反ですから!」
鶴屋「にゃははっ!だったら、そのまま熱くガバッと抱き合うしかないねっ!
あ、時間は10秒くらいでいいからっ」
ハルヒ「さーやれー!」
みくる「がんばってくらはぁい……」
キョン「う……ぐ……」
古泉「覚悟はできましたか?」
キョン「どうしてこうなったんだ……」
古泉「涼宮さんが望んだから、ですかね」
キョン「そんなことあってたまるか!」
古泉「ふふ、では行きますよ」
鶴屋「あ、ちゃんとお互いに腕を背中に回すんだよっ」
古泉「わかりました」
キョン「……やりますよ、ええ。さっさと終わらせるぞ古泉」
>キョンと一樹の熱い抱擁が目の前で繰り広げられている。
鶴屋「じゃあ、数えるからねっ」
ハルヒ「ねね、鶴ちゃん」
鶴屋「ん、なになに?」
>ハルヒが鶴屋さんに何か耳打ちしている。
鶴屋「くふっ、あははっ! それ面白いねっ!」
キョン「……もうすでに10秒ほど抱き合っているんですが離れてはダメですか」
鶴屋「ごめんごめんっ! 今から数えるからっ」
鶴屋「いくよーっ」
>鶴屋さんがカウントを始めた。
鶴屋「――ろーく、しーち、はーち」
ハルヒ「あはははははっ!」
>ハルヒはぐいぐいとジュースを飲みながら観戦している。
キョン「……鶴屋さん、まだですか」
鶴屋「はーち、ろーく、さーん、しーち、よーん!」
キョン「鶴屋さんっ!?」
ハルヒ「うるさいキョン! あんたは黙って抱き合ってなさい!
王様時間で10秒なんだから!」
キョン「ぐっ……お前か入れ知恵したのはっ!」
鶴屋「はーち、はーち、きゅー、じゅー!
はいっ、終わっていいよーっ!」
>キョンは素早く一樹から離れた。
キョン「長かった……」
古泉「これでよかったですか?」
鶴屋「うんうんっ! バッチリだよ!」
みくる「わぁー、すごかったれす……」
>鶴屋さんが携帯を覗きながらニヤケている。
キョン「って、何バッチリ撮ってるんですか!」
古泉「ふふ、これは困りましたね。あらぬ誤解を受けてしまいそうです」
キョン「まったく困っているように見えないんだが」
古泉「そうですか?」
ハルヒ「よく撮れてるわねー、鶴ちゃんあとで送ってちょうだい」
鶴屋「了解っ!」
キョン「俺が王様になったら写真を消してもらおう……」
ハルヒ「さあ、そう簡単に王様になれるかしらね」
古泉「よしんば王様になれたとしても、鶴屋さんをピンポイントで当てるのは難しいでしょうね。確率的に1/42ですよ。
この王様ゲーム中に消去するのは現実的でないとは言いませんが、他の命令をした方が有意義ではないですか?」
キョン「お前はどっちの味方なんだ。というかお前も被害者だろ」
古泉「僕は世界の平和の味方です。涼宮さんが満足しているのならそれでいいのですよ」
キョン「きいた俺が馬鹿だった」
また後で
>>149
幸せ者なんだから、ね
書く
ハルヒ「いくわよ2かいせーん!」
>一樹が割り箸を付きだしている。
キョン「次はせめて何もありませんように……」
鶴屋「くふっ。こういうのも楽しいねっ」
キョン「当たった方はたまらないのですよ」
>手前と奥どちらを引こう……。
>奥のくじを引いた。
ハルヒ「む……王様だーれだ!」
>俺がキング(王様)だ!
鶴屋「おぉーっ! 番長くん! 期待してるよ!」
キョン「番長か……まともな命令で済みそうだ」
>キョン、その前におかわりをくれ。ストレートで頼む。
キョンあ、ああ「……番長?」
ハルヒ「さあさあっ! 番長くんどんな命令を出すのかしら?
ぬるい命令なんか許さないからねっ!」
>何番に何をしてもらおうか。
>キョンあ、ああ「……番長?」
キョン「あ、ああ……番長?」
で
>決めたぞ。
キョン「番長。なんだそのメガネは。どこから出した」
>キングといえばメガネ。メガネといえばキングだろう?
キョン「何を言っているんだ」
ハルヒ「番長くん、メガネも似合う男前ねっ!」
鶴屋「あはははっ! 何そのメガネっ!」
>よし、1番が5番の膝に座る。
キョン「なんだ。いう割にそこまでキツイ命令じゃ……ってまた俺かよ!!」
>キョンは5番のようだ。
>1番は……。
ハルヒ「あ、あたし……」
>ハルヒが顔を赤らめている。
>王様の命令は?
鶴屋「絶対だねっ!」
古泉「絶対ですね」
ハルヒ「分かってるわよ! やるわよ!」
逆裁終わったから書く
>ぬるいと思うなら、膝枕、抱きつく、肩車とランクアップさせてもいいが。
ハルヒ「これでいい! これでいいから!」
古泉「涼宮さんの動揺なんてかなりのレア現象ですよ」
みくる「れふれぇ……」
鶴屋「ハルにゃんもそんな顔するんだねっ! あはははっ!」
ハルヒ「う、ぐ……! ほら、キョン! やるわよ!
番長くんは後で覚えてなさいよ!」
キョン「わかってるよ……うごっ!」
>正座をしたキョンの上にハルヒがかなり勢いよく座った。
ハルヒ「こ、これでいいでしょ」
キョン「は、ハルヒ……もう少し静かに座ってほしかったんだが」
ハルヒ「うるさいっ!」
>10秒数えるからそのままで待て。
ハルヒ「こ、この体勢のまま10秒……」
鶴屋「はいはーい、数えるからねー!」
>1、2、3、4、5……。
>6、7、6、5、7……。
キョン「ば、番長!」
>王様時間で10秒なんだろう?
ハルヒ「番長くんに絶対キツイ命令させてやるんだから……!」
鶴屋「あははははっ! ハルにゃんもキョンくんも顔真っ赤っさ!」
ハルヒ「お酒のせいだからっ!」
>ハルヒは面白いな。
鶴屋「でしょでしょー?」
キョン「そ、そんなことよりカウント早くしてくれ」
>ああ、すまん。どこまで数えたか忘れていたからもう一度10数えよう。
ハルヒ「か、覚悟しなさいよ……」
キョン「決めたぞ番長。俺もお前に恥ずかしいことさせてやる」
>敵を2人作ってしまったようだ……。
>……10秒数え終わった。
ハルヒ「終わり終わり! さあ、次のゲームに行くわよ。
……勝ち逃げは許さないからね番長くん」
>ハルヒから鬼気迫るオーラを感じる。
古泉「では、3回戦です。どうぞ」
>一樹が割り箸を突き出してきている。
>それぞれ割り箸を引いていく。
ハルヒ「行くわよ、王様だーれだ!」
キョン「誰だ?」
古泉「僕ではありませんが」
鶴屋「あたしでもないねっ!」
ハルヒ「じゃあ、みくるちゃん?」
みくる「ちがいますよぉ……」
>みくるは相変わらず自分の膝の上でぐったりしている。
キョン「てことは」
長門「わたし」
>有希が王様になったようだ。
ハルヒ「有希か……有希ね」
>ハルヒは自分の割り箸を睨みつけている。
書くか
キョン「長門、やり方は分かってるか?」
長門「問題ない」
>どのような命令が来るのだろう。
>自分の番号は……2番だ。
ハルヒ「さあ、有希。命令なさい」
長門「2番と4番がキス」
>……!?
古泉「ほう……」
キョン「長門……まさかお前が一番キッツい命令するとは」
長門「そう」
ハルヒ「ゆ、有希、思ったより過激ね。でもいいわ! ナイスよ有希!」
長門「そう」
ハルヒ「さあ、2番と4番は誰っ! ちなみにあたしは3番で違うからね」
鶴屋「あたしも、1番で違うよっ」
>2番は、自分だ。
ハルヒ「へぇ、番長くん……」
>4番は……。
キョン「よかったぜ。俺じゃないみたいだ」
>となると、みくると一樹のどちらかだが。
みくる「ええっとぉ……あらひの番号はぁ……」
古泉「…………僕ですね。4番は」
>!?
鶴屋「あはははっ!」
キョン「ご愁傷様だ」
>キョンがこちらに向けて合掌している。
ハルヒ「あははははははっ! 番長くんさっそく天誅ね!」
>どうしてこうなったんだ……。
古泉「望んだからでしょうね、彼女が」
>この場合の彼女はハルヒととらえるべきなのだろうか。
>有希は、ハルヒを一瞥した後こちらを向いた。
有希「そうするべきだと判断した」
>……どうやら有希には誰が何番かわかっていた上で命令をしたらしい。
ハルヒ「番長くん、古泉くんわかっているわよね?」
>ハルヒがにやにやしながら腕組みをしている。
古泉「王様の命令は絶対……ですか」
ハルヒ「そうよ」
キョン「抗議なんてせずに早々に諦めたほうがいいぞ番長。無駄だからな。
それに俺は相手が朝比奈さんじゃなくて心底ありがたいと思っているよ」
みくる「はぇ……あらひれふかぁ?」
キョン「……そんな状態じゃ抗議すらできずにあっさりしかねないからな」
鶴屋「くふっ、でもまあ。美少年2人のキスっていうのもなかなか背徳的だねっ」
>好奇の目でみんながこちらを見つめてくる。
古泉「番長氏」
>なんだろうか。
古泉「講義しても無駄でしょうし、早々に終わらせますか?」
>なぜ一樹はそれほどまでにあっさり受け入れられるのだろうか……。
古泉「……職務の一貫として、とでも言っておきましょう」
ハルヒ「いい心がけだわ古泉くん!
SOS団員たるものエンターテイメントには全力を持って答えるのよ!」
>……わかった。自分も覚悟を決めよう。
書いていく
古泉「では……」
>一樹の顔が近づいてくる……!
古泉「頬あたりにしてお茶を濁しましょう。
命令は2番と4番がキスをするですから」
>……! なるほど。
鶴屋「な、なんかイケないもの見てる気分になってくるねっ」
キョン「この情緒たっぷりな雰囲気はなんだ……」
ハルヒ「マウストゥマウスだからね!」
>!?
キョン「だからなんでお前が決めているんだ」
ハルヒ「いいわよね? 有希」
長門「構わない」
キョン「……やれやれ」
>……どうする、一樹。
古泉「困ったものです」
ハルヒ「さぁ! やれー!」
古泉「仕方がありません、行きます。
ラップ越しなども考えましたがおそらく彼女が納得しないでしょう」
ハルヒ「ラップなんて甘っちょろいこと認めるわけないでしょ!」
キョン「だから、お前は出張るな」
古泉「でしたら早急に終わらせるべきでしょう」
>勇気を持って一樹の意見を受け入れることにした。
>仕方ない……こい!
……
…
>なにか、大切なものを失った気がする……。
古泉「奇遇ですね、僕もです……」
>振り絞った勇気にどれだけの意味があったのだろう……。
鶴屋「あははははははっ!」
ハルヒ「あはははははははっ!」
>ハルヒと鶴屋さんは爆笑を続けている。
みくる「らにやっれらんれすかぁ……」
>みくるは見ていなかったようだ。
キョン「お前たちの心からの勇気見せてもらった」
>キョンは相変わらず、こちらに向けて合掌している。
>有希、これでいいか?
長門「……」
>有希はどこか虚空を見つめている。
長門「問題ない。問題は解決された」
>……? 何を言っているのだろうか。
ハルヒ「さぁ! 次よ! もっともっと面白くなるに違いないわ!」
キョン「ハルヒ、これ以上過激にするのはやめておけ」
ハルヒ「どうしてよ」
キョン「たまたま番長と古泉が犠牲……もとい対象になったからいいものの
古泉と朝比奈さん、もしくは番長とハルヒなんて組合わせの可能性もあったんだぞ」
ハルヒ「……ま、たしかにキョンとみくるちゃんじゃみくるちゃんが可哀想かもね」
キョン「その例は挙げてない」
鶴屋「とにかく面白い命令ならいいんじゃないっかなっ!」
ハルヒ「そうね。過激じゃなくて機知に富んだ命令にすることいいわねっ」
古泉「そうしていただけると僕たちもありがたいです」
ハルヒ「有希もいい? もうキスなんて命令しちゃダメよ?」
長門「わかった」
……
…
>みんなでしばらく王様ゲームをして楽しんだ。
――鶴屋邸前。
ハルヒ「あー楽しかったわ。すっかり暗くなっちゃったわね」
鶴屋「楽しんでもらえたなら幸いっさ。番長くんもありがとねっ!」
>あ、ああ……。
みくる「あの……あたし、途中から記憶がないんですけど」
キョン「大丈夫です。朝比奈さんに実害は特にありませんでしたから」
みくる「実害……?」
キョン「大事なものを失ったのは古泉と番長くらいなものです」
>思い出させないでくれ……。
古泉「彼の口癖を奪いたくなってしまいますね」
キョン「……やれやれ」
鶴屋「くふっ! ちゃんと写真撮ったからねっ! あとでメールで送るねっ!」
ハルヒ「面白いけど、画になるのがムカつくわよねー」
みくる「? なんのことですか?」
鶴屋「あ、みくるも見るっ? ほらほらっ!」
みくる「こ、これって!」
>みくるは顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
>誤解しないでほしい。
古泉「ある種の罰ゲームですから、番長氏と特別そう言った関係ではありません」
みくる「で、ですよね。そうですよね」
ハルヒ「ん、じゃあ、そろそろ帰りましょっか!」
鶴屋「ハルにゃんも料理美味しかったよっ、ありがとねっ」
ハルヒ「こんなことならいつでも呼んでほしいわ。番長くんとも完全決着をつけたいしね」
鶴屋「だってさっ、番長くんっ」
>……王様ゲーム抜きならばいつでも相手になろう。
鶴屋「にゃははっ、あのときなぜかみんなテンションおかしかったからねぇっ」
ハルヒ「不思議よね。お酒自体はグラス1杯しか飲んでなかったのに」
鶴屋「みくるに至ってはお酒飲んでなかったのにねぇ」
ハルヒ「でもさすがにジュースだったから、酔いは全然残らないわね」
みくる「あたし、ジュースで酔ってたんですかぁ?」
古泉「……あとでお話しますよ」
みくる「はい?」
ハルヒ「ま、とりあえず今日はこれで帰るわね」
鶴屋「んじゃねっ! 番長くんみくる、また明日学校でねっ」
>鶴屋さんと別れ帰路についた。
……
…
ハルヒ「じゃあ、また明日ね」
>暗いから送っていこうか?
ハルヒ「平気よ。それよりみくるちゃんと有希をよろしくね。
古泉くんと番長くんは平気だろうけど、キョンは送り狼になりそうだし」
キョン「ならんわ」
ハルヒ「あ、そ。また明日部室であいましょ。それと雨降るといいわね!」
キョン「マヨナカテレビ……本当にやるのか」
ハルヒ「当たり前じゃない。明日部室で打ち合わせするから休むんじゃないわよ」
>そう言ってハルヒは帰宅してしまった。
古泉「さて」
キョン「送っていくのか?」
古泉「ええ、ですがその前に聞きたいことがあります」
>聞きたいこと?
古泉「ええ。長門さんにです」
キョン「長門に?」
古泉「ええ。なぜ僕と番長氏にあのような命令をしたのか、お聞かせ願えますか?」
キョン「なんだ、まだ根に持っているのか」
古泉「そういうわけではありません。
ただ、長門さんが意味もなくあのような命令をするとは思えないのです」
>あれに意味があったのか?
古泉「それを訊こうというのですよ」
長門「……」
>有希?
長門「不快な思いをさせたのなら謝罪する。
しかし、対処の方法があの方法しかなかった」
古泉「どういうことですか?」
長門「あのとき涼宮ハルヒが酩酊状態になったために、能力が周辺で散発していた。
僅かながら我々の観測に影響が出る可能性があると判断した。
よって涼宮ハルヒの意識を一点に集中させ、能力の散発を防ぐ必要があった」
長門「涼宮ハルヒが最も興味を持ちそうなことを命令とした」
古泉「それがあのキスだったのですか……」
長門「そう」
古泉「能力の散発は防げたのでしょうか?」
長門「キスを目撃した瞬間から能力の散発は終息した」
古泉「なるほど……でしたら、無駄な行為ではなかったようで何よりです」
>ハルヒはそんなに男同士のキスが見たかったのか?
古泉「いえ。キスではなく、番長氏の醜態痴態が当てはまるのでしょう」
>自分の?
古泉「ええ。正直涼宮さんが今更僕の痴態を見て面白がるとは思えません。
ですから、番長氏の困った顔が、あのとき涼宮さんが最も興味のあることだったのだと思います」
長門「わたしは、そう判断した」
キョン「くくっ。となると、お前は完全に巻き沿いを喰った形になるのか」
古泉「ふう、そういうことです。あなたも意地悪ですね。
ですが涼宮さんはあなたが男同士でも、他人とキスすることを望まなかったために僕になったのでしょう」
キョン「……お前も大概意地悪だがな」
古泉「ふふ、すみません。そのようなつもりはなかったのですが」
キョン「しかし、酔うたびにハルヒははた迷惑な力を振り回すのか。
もしかして、前に酔ったときもなにかあったのか?」
長門「あった」
キョン「マジかよ……」
古泉「夏合宿の2日目の台風を覚えておいでですか?」
キョン「ん、ああ」
古泉「あれも酔った際に能力を使っていたのでしょうね」
キョン「片鱗は前からあったってわけか……」
みくる「あたしが寝てる間に、大変なことになってたみたいですねぇ」
キョン「まあ、みんな酔っていましたからね」
みくる「あれ、あたしもお酒飲んでたんですか?」
古泉「いえ、朝比奈さんは完全に場酔いですね」
みくる「場酔い?」
古泉「あの場にあったぶどうジュースを飲めば飲むほど場酔いが進んでいったんですよ。
ですが、アルコールは1滴も入っていません」
みくる「あ、それであたし頭が痛くないんですね。
あたしお酒飲むとすぐに頭が痛くなってきちゃうみたいで」
>みくるは恥ずかしそうに笑っている。
古泉「長門さんは、あのぶどうジュースを飲んでも問題はなかったのですか?」
長門「問題ない」
古泉「涼宮さんの能力をもってしても長門さんを酔わせることができないとは。
すごいですね」
キョン「長門は一番の酒豪だからな」
>そんなにか。
キョン「ああ。合宿にいったときなんか一人でパカパカワインの瓶を空にしてたからな」
>すごいな。
長門「……わたしたち情報生命体にとって、経口による食事の摂取は基本的に意味を持たない。
よってアルコールによる影響を受けることはない」
>そうなのか?
長門「そう」
古泉「そうでしょうね。僕たち有機生命体は生命維持のために食事ないし栄養の摂取は必須です。
ですが身体を有機物で構成することのない情報生命体にとっては不必要なことですから。
ヒューマノイド・インターフェースと言えど、それは同じでしょう」
キョン「なら長門が食べたものはどこに消えているんだ」
長門「わたしが経口摂取したものは単一情報素子に変換分解され、
過分エネルギーへ再変換したのちに、体表面構成情報素子へと再構成している」
キョン「え、あ?」
>どういうことだ?
古泉「さあ、僕にもわかりません。
ただ一つ言えることは、長門さんは全く飲まず食わずでもまったく問題ないということですかね」
>ということは食べる意味は何もないということか。
長門「そう」
長門「だけど」
長門「あなたたちの作る料理は、わたし個人の意思として楽しんでいる」
(もちろん適当なこと言ってる)
>そうか。嬉しいな。
長門「そう」
古泉「さて、涼宮さんも帰ってしまったことですし、解散しますか?」
キョン「そうだな、長門。意味はないと思うが送っていくぞ」
長門「そう」
古泉「では、僕は朝比奈さんを送っていきますよ」
みくる「あ、ありがとうございます」
>どちらについていこうか……。
古泉「番長氏は料理で疲れているでしょうから一足先に帰っていただいて構いませんよ」
キョン「そうだな、先に帰って休んでおけ。
明日、マヨナカテレビを試すとかなんとかも言ってるからな」
古泉「では、いきましょうか」
みくる「は、はい」
キョン「俺らも行くか。じゃあな、番長」
>ああ。
>皆各々帰路についたようだった。
>急に静かになってしまった。
>一樹から借りているマンション以外で一人になることは久しぶりかもしれない。
>……そういえば、王様ゲームをしていたせいで、友人のことを話すことを忘れてしまった。
>陽介、千枝、雪子、完二、りせ、直斗、クマ、叔父さん、菜々子……。
>みんな。どうしているだろうか……。心配させているかもしれない。
>……そういえばこちらの時間の進み方と自分の世界の時間の進み方に違いはあるのだろうか。
>しかし、それは誰にもわからない。
>不安が、押し寄せる……。
>見上げた星は、こちらの世界でも変わらず瞬いていた。
古泉「おや、まだここにいらいたのですね」
>一樹。
みくる「番長くん……? どうしたんですか?」
>なぜみくるが一緒にいるのだろうか。
古泉「それがですね、朝比奈さんが番長氏を労ってあげたいそうで」
>労う……?
みくる「あの、お料理作ってもらってあたし酔ってて洗い物もお手伝いできませんでしたし……。
そ、それにずっと膝枕してもらってたみたいで……ホントごめんなさいっ」
>ああ、気にしなくていい。
みくる「そんなわけにはいきません!」
>みくる?
みくる「あの、その……だから、なにかしてあげたいなって思って……」
古泉「僕は個人的にあとで番長氏と慰労会しようと思っていたのですがね。
王様ゲームで辛酸をなめ合った者同士で杯を交わすのも悪くないでしょう?」
>未成年の飲酒はダメなんだろう?
古泉「番長氏はこちらの世界の人間ではないですから、治外法権ですよ。
それにイケない飲酒も高校生らしくていいではないですか」
>一樹、悪い笑顔になっているぞ。
古泉「ふふ、これは失礼しました」
みくる「ふふ、お酌くらいならしますよ?」
>しかし、なぜ急に?
古泉「僕は先ほど述べたとおり、2人で慰労しようと思い立っただけなのですが」
みくる「その……番長くんはいついなくなっちゃうかわかりませんから」
>……? いっただろう、自分はみくるよりも長くこちらにいることになるかもしれないと。
みくる「そうかもしれません。でも……明日には、ううん。5分後にはいなくなっちゃう可能性だってるじゃないですか」
>……かもしれないが。
みくる「急に現れた番長くんなら、急にいなくなってしまっても不思議じゃないじゃないですか。
だから……番長くんには、お礼を後回しにしたくないんです」
みくる「絶対に、そんなことで後悔したくないから」
>みくるが、真摯なまなざしでこちらを見つめてくる。
みくる「あ、あはは。で、でもこんなこと言っても困っちゃいますか?」
>そんなことはない。嬉しく思う。
古泉「また、番長氏の部屋を借りてもいいですか?」
>ああ、構わない。
古泉「では、用意こちらでしますのでご安心を」
キョン「なに、不良な相談し合ってるんだ」
>キョン……?
古泉「おや」
みくる「あれ? キョンくん?」
キョン「あー、長門もいるぞ」
長門「……」
>有希もどうしたんだ。
キョン「なんというか、長門もいるぞ、というより俺もいるぞといった方が正しいな」
キョン「長門が、番長にお礼したいってよ。そんで戻ってきたんだ」
長門「料理のお礼」
>そんなことのためにわざわざきたのか。
古泉「ふふ、結局集まってしまいましたね。
せっかくですから慰労会兼2次会に変更しますか?」
>ああ、構わない。
キョン「2次会なら……ハルヒも呼ぶか?」
古泉「それも大変魅力的な提案ですが、今回は避けておきましょう。
番長氏のことについてもいくつか話したいこともありますしね」
>自分の?
キョン「そうか……なら、呼べないな。すまん、ハルヒ」
>2次会はいいが、帰りが遅くなるぞ?
キョン「……帰りが遅くなって不都合なのは俺だけだな。
歩きながらでもお袋に連絡入れておくさ」
古泉「では、向かいましょうか」
>みんなでマンションへと向かった。
――マンション自宅前。
古泉「では、僕は用意をしてきますので」
>わかった。
……
…
――自宅。
長門「……」
みくる「おじゃましまぁす」
キョン「最近ここが第二の部室化してる気がするな」
>かもしれないな。
キョン「このテーブルも座る位置が定位置化してるしな」
キョン「にしても、相変わらず生活感がないな」
>必要最低限のものしかないからな。
みくる「たしかに、そうですねぇ」
キョン「帰った後とか暇なんじゃないか?」
>基本的にみんながここにいるからな。暇はしてない。
キョン「……なんかすまん」
>謝ることじゃない。
キョン「でも、なんかなぁ」
みくる「たしかにここによく集まってますね、あたしたち」
ピーンポーン――……
>一樹が来たようだ。
古泉「すみません、あまりありませんでした」
>カクテルとビールを数本ずつ持ってきたようだ。
キョン「いや、十分だろ」
古泉「この量なら確かにそこまで酔いはしないでしょうからね」
みくる「あの、あたし……」
古泉「大丈夫ですよ、ソフトドリンクも持ってきましたから」
みくる「あ、ありがとう、古泉くん」
>ソフトドリンクもいくつか持ってきたようだ。
古泉「おつまみが少々さびしいですが、仕方ありませんね」
>チーズやカルパスがいくつかある。
古泉「では、お好きなものを」
キョン「んじゃ、チューハイでも貰うかね」
>それぞれ飲み物をとった。
キョン「長門はどうする?」
長門「どれでも構わない」
キョン「じゃあこれでも飲んどけ」
>キョンは、甘口の酒を有希に渡したようだ。
古泉「とりましたか?
本来ならグラスに注いだほうがいいのでしょうが洗い物も増えますから缶でいいでしょう」
>いや、それくらいなら構わないが。
みくる「ダメですよ、番長くんの仕事が増えるじゃないですか」
古泉「そういうことです。では、番長氏、本日はお疲れ様でした」
キョン「お疲れさん」
みくる「お疲れ様でしたぁ」
>カコンと缶同士の当たる音が響いた。
>缶に口をつける。炭酸が口の中で弾けた。
キョン「なんというか……悪いことをしている気分になるな」
古泉「実際学校にばれたら、どうなるかわかりませんね」
キョン「ま、一蓮托生ってやつだ。誰がばらすわけでもないだろうよ」
>ハルヒも呼んであげたかったな。
古泉「そうですね。ですが、涼宮さんがいては話せないことも多くありますから」
キョン「ちゃんと後で埋め合わせをしてやればいいさ」
みくる「そうですね、涼宮さんにもちゃんとお礼言わなくちゃいけませんし」
>そういえば話とはなんだろうか。
古泉「番長氏の帰還の方法です」
>見つかったのか?
古泉「いえ、そうではありませんが出来る限り可能性を模索していまして」
>そんなことまでしてくれているのか。ありがとう。
古泉「ある種、僕たちの義務ですからね」
キョン「で、何か新しい可能性とやらは見つかったのか」
古泉「相変わらず涼宮さんの力を頼ることになるんですが一応」
>前にいったことは、ハルヒに好かれて八十稲羽へのゲートを作ってもらうことだったか。
古泉「ええ、そうですね。新しい仮説は後にして現状を確認しましょう」
古泉「以前も言ったように涼宮さんにゲートを繋いでもらうために番長氏には涼宮さんに嫌われないように努めてもらいました。
ただ、好かれすぎても問題があるような気がしてきたのです」
>どういうことだ?
古泉「番長氏がこちらに居ついてしまう可能性があるのですよ。
涼宮さんがずっと一緒にいたいと願ってしまったらその通りになってしまい永遠にゲートは塞がれてしまうでしょう」
キョン「……そんなもん八方塞じゃねーか」
古泉「かもしれませんね。打算的に行動しないことや人当たりの良さなど
番長氏は人に好かれる才能がおありのようです。ですがそれが今回ばかりは仇になるかもしれません」
>困ったな。特に意識はしていないのだが。
古泉「でしょうね。番長氏は、あくまで自然体で接しているだけの様ですから。
実際、涼宮さんも番長氏に悪い印象はないようです」
>それは喜ばしいことだが……しかし。
古泉「ただ、現在涼宮さんの力を当てにしていますが、
もちろん朝比奈さんがいったように突然番長氏が帰ってしまう可能性もゼロではありません」
古泉「ただ、楽観視するのは危険と判断すべきでしょう」
古泉「そこで新しい仮説……というよりアプローチの方法を変えてみる、という提案です」
>アプローチの方法?
古泉「ええ。涼宮さんの番長氏への印象は現状で留めておいて問題はないでしょう。
むしろこれ以上あげない方がいいかもしれません」
古泉「ですから、今度は番長氏の良さではなく番長氏の住んでいた場所、
つまり八十稲羽市のよさを重点的にアピールしてみてください」
キョン「なるほどな。ハルヒの興味を番長から八十稲羽に向けさせるわけか」
古泉「そうです。しかし、これも少々問題がありまして」
キョン「問題だらけだな……」
古泉「涼宮さんが、そこへ普通に旅行へ行こうと思ってしまった場合です」
古泉「以前涼宮さんが番長氏のことをどう思いたいか話したことを覚えていらっしゃいますか?」
>たしか、自分の以前住んでいた場所を訊かなかったのは自分を異世界人だと思いたいから、という話か。
古泉「そうです。その場合、僕たちの住むこの世界に八十稲羽市を生み出してしまうの可能性――
もしくは番長氏と同じく八十稲羽をこの世界へ呼びこんでしまう可能性もあるのです」
>とんでもないな、ハルヒの力は。
古泉「ええ、その場合、世界の理が根本から変わってしまいます。
そして番長氏も本格的にこの世界の住人となってしまうでしょう」
古泉「ですから、八十稲羽市に羨望を抱かせつつも涼宮さんが番長氏が異世界人であってほしいと願い続ける――
そんなアプローチをしなければなりません」
>……難しいな。
キョン「無理難題すぎるぞ」
古泉「僕も無茶を言っていると思っています。ですが、これくらいしか思いつかないのですよ」
みくる「……古泉くん」
古泉「なんでしょう」
みくる「もっと確実な方法があって、それをあえて話していないことを番長くんに言うべきだと思います」
古泉「……」
キョン「朝比奈さん?」
みくる「あたしが気づいているんです。古泉くんが気づかないはずがありません。
……もちろん、あたしもその方法はできる限りとりたくありません。でも方法のひとつとして話しておくべきだと思います」
>みくるが一樹を真剣な顔つきで見つめている。
古泉「……そうですね。話しておくべきでしょう」
古泉「僕は先ほどこれくらいしか思いつかないと言いましたが、もう1つ方法は思い浮かんでいました。
ですが、この方法は……僕たちにとって非常に不都合なので黙っていたのです」
キョン「古泉……」
古泉「そのような目で見られても仕方がないかもしれませんね」
>話してくれるのか?
古泉「ええ。というより番長氏は知っておくべきでしょう」
古泉「もう一つの方法はとてもシンプルなものです」
古泉「涼宮さんに涼宮さんの持つ力を自覚させればいいのです。
そうすれば、簡単に異世界への扉は開かれることでしょうね」
キョン「……そういうことか」
古泉「ですが……それは僕たちにとって非常に不都合です。
僕は――いえ、機関は涼宮さんが能力を自覚することを望んでいません」
古泉「涼宮さんが、能力を自覚してしまえばこの世界は混沌へと再構築されることになるでしょう。
いえ、僕たちはその混沌を混沌だと認識すらできないはずです。元からそうであったという認識の元、
超能力者や宇宙人や未来人が溢れかえるファンタジーともSFとも区別のつかない世界で生きることになってしまう」
古泉「僕を含む機関は、現在の世界の維持に努めています。涼宮さんの能力の影響が極力外に漏れないようにとね。
はたして改変が行われた後の世界で僕たちは存在していられるのか……その確証はまったくないのですから」
古泉「そして、それは朝比奈さんの未来にも影響します。
いえもし世界の再構築が行われた場合、朝比奈さんのいる未来は消滅してしまうでしょう」
古泉「もしくは、能力の発現により既に混沌へと作り替わることが規定事項かもしれませんが」
みくる「禁則事項です。けど……古泉くんが思っているようなことにはなっていないはずです」
>一樹は肩をすくめている。
古泉「とにかく、涼宮さんに能力を自覚させるということはこの現在の世界のあり方を根本から揺るがしてしまうのです」
古泉「そういう事情があり、番長氏にこの方法は黙っていました。すみません」
古泉「納得はできなくとも理解はしてほしいのです」
>もし自分が一樹の立場なら同じことをしていただろう。
>だから気にするな。
古泉「ありがとうございます」
>それに、その方法は自分も考えたからな。
古泉「……!」
古泉「では、なぜ実行しなかったのですか?」
>ハルヒが能力を自覚していいのなら、とっくにみんなハルヒに話しているだろう?
>そうでないということは、ハルヒが知ってはマズイことがあると考えただけだ。
古泉「……本当にあなたには頭が上がらない思いですよ」
キョン「……別に、番長はこの世界がどうなってもいいじゃねぇか。
そりゃ、俺たちは困るが番長は困らんだろう」
>困るな。
キョン「なにがだ」
>もう自分とキョン達は友達だろう? 友達が困ることはできないさ。
キョン「……お人よしすぎるぞ」
>そうか?
古泉「何度目かは分かりませんが、本当にやってきたのがあなたでよかった。
あなたは聡い人です。確かにこれくらいのことに気付かないはずがありませんね」
古泉「それを実行に移さないでいただいて本当にありがとうございます」
古泉「改めて、全力で番長氏の帰還をサポートさせていただきます」
>助かる。
みくる「番長くん、本当にそれでいいんですか?」
>ああ。
みくる「……ありがとう」
>話に区切りがついたのなら、飲み直そうか。
古泉「ええ、そうですね」
>プシッと一樹が新たに缶を開ける。
キョン「……はあ。本当に番長には敵わんな」
>どうした。
キョン「いや……俺が異世界ではないが改変された世界に迷い込んだときは、
帰ることだけ考えていて、その世界のことなんてほとんど考える余裕なんてなかったからな」
>それだけキョンが、この世界のことを大切に思っている証拠だ。
キョン「……まあ、いい。何を言っても番長に口で勝てる気はせんからな。
ところで気になったんですけど、朝比奈さんがあんな風に古泉に突っかかるのって初めてじゃないですか?」
みくる「そ、そうですかぁ?」
キョン「ええ、俺の記憶が確かならですけど。珍しいこともあるもんだなと。俺としてはそっちに驚きましたよ」
みくる「で、出過ぎた真似しちゃいました、あはは……」
みくる「……ただ、今なら言えるかなって思って」
キョン「古泉となにかあったんですか?」
古泉「少し鶴屋邸で雑談をしただけですよ。それで朝比奈さんとほんの少し仲良くなっただけです。
だからこそ、この場でいったのでしょうね。そうでなければ、僕のいない場所で番長氏にいったのではないでしょうか」
みくる「そうかもしれませんね……」
古泉「番長氏に朝比奈さんとの仲を取り持ってもらったようなものです」
キョン「番長何やってやがるんだ」
>そんなつもりは全くないのだが……。
キョン「無自覚でそういうことをするのかお前は」
キョン「数か月前には、未来人と超能力者は思想として相容れることがないとか
長門から聞いたときはどうしたもんかと思ったが、仲良くなったのならよかったよ。
頑張って手を取り合いながらハルヒの監視だか観察だかに精を出してくれ」
>グイ、とキョンは酒を煽っている。
みくる「……」
古泉「……なんといいましょうか」
長門「以前にもあなたに言ったように、未来人と現代人の思想は相いれることはない」
>有希?
キョン「……てことはまだ対立してるにはしてんのか」
長門「そう」
キョン「でも、仲良くなったんだろ? どういうことだ?」
古泉「……つまらない話ではありますが酒の肴に少しばかりお話しましょうか」
古泉「あなたは以前僕が話したことを覚えていますか?」
キョン「あ? ハルヒが神とかいう話か?」
古泉「もっと具体的に言えば、涼宮さんがこの世界を構築しているという話です。
そして機関に涼宮さんを神視する派閥が大勢を占めているとはいえ、僕を含む少数派はそれに懐疑的です。
あくまで涼宮さんは人だと、思っています」
古泉「ただ、どちらにも共通する点は、『涼宮さんは世界を構築する力を持っている』という見方をしています」
キョン「ああ、そんなことを言っていたな」
古泉「そして、朝比奈さんを含む未来人はこう考えているのです。
『この世界はこの世界として然としてあり、涼宮さんの力は世界そのものを構築しているわけではない。
現実を改変する力はあるがその大枠である世界そのものの仕組みを変えてしまうほどの力はない』とね」
キョン「俺からすれば、なんで対立するかわからんがね。
大した違いはないんじゃないのか?」
みくる「そんなことありません!」
キョン「あ、朝比奈さん……?」
みくる「全然違います! 違うんです!」
>みくる、落ちつけ。
みくる「あ、ごご、ごめんなさい……」
キョン「すみません、朝比奈さん……」
みくる「う、ううん。あたしこそ、取り乱してごめんね」
古泉「……いいでしょうか。続けますよ。
朝比奈さん、出来る限り客観的に話すつもりですが
もし、僕の配慮が足らず神経を逆なでするようなことがあるかもしれません。先に謝っておきます」
みくる「いえ……大丈夫です。この機会にキョンくんにも知っておいてほしいから」
古泉「……そうですか。わかりました。
長門さんたち情報統合思念体も違う思想をしていますが今は省略します」
古泉「対立するポイントは大きく分けて2つあります。
1つ目は『涼宮さんが世界を構築している』という点と『世界は然としてある』という点です」
キョン「そこの何が問題なんだ?」
古泉「もし、涼宮さんが世界を構築しているのなら『未来』という存在は涼宮さんによって造られたことになってしまうのです」
キョン「ん、あ?」
古泉「涼宮さんが存在している『現在』のみが真実であり、『未来』は涼宮さんの手で造られた『虚構』となってしまう」
古泉「つまり、涼宮さんが世界を構築しているとしてしまうと、未来は仮想世界、未来人はすべてが疑似生命だということになってしまうのです。
言い方を悪くすれば未来人は、涼宮さんの手によってつくられた人形、なのです」
みくる「っ……!」
>みくるは辛そうだ……。
キョン「古泉、言っていいことと悪いことがあるぞ。
朝比奈さんがハルヒに作られた人形だと!? ふざけるなよ!」
古泉「ふざけてなどいません。涼宮さんが世界を構築しているとなるとそういう結論に至ってしまうのですよ」
古泉「だからこそ、思想の対立が起っているのです」
キョン「だからってな――」
みくる「いいの、キョンくん。本当のことだから」
キョン「朝比奈さん……」
みくる「古泉くん、続きをお願いします」
古泉「分かりました」
古泉「ですので未来人が『世界は然としてある』と考えるのは当然のことなのです。涼宮さんによってつくられているなど認められるはずがない。
世界が然としてあるのならば、未来は虚構でも疑似生命などではありませんからね」
古泉「この疑似生命という考え方は、超能力者である僕たちにも同じことが言えます。
涼宮さんに作られた存在、それが僕である可能性も同時に否定できません」
キョン「……」
>キョンは憮然とした表情で一樹の話を聞いている。
古泉「ですが、この『現在』が真実ならば、超能力者はただの一般人に能力が付与されただけの存在かもしれない」
古泉「しかし、『現在』に存在しない『未来』はそういうわけにはいきません。すべてを否定されてしまいますからね」
古泉「これが、対立のポイントの1つ目です」
キョン「……そりゃ、朝比奈さんが必死に否定するはずだな」
みくる「そういうことです、分かってもらえました?」
キョン「ええ、それはもう」
古泉「そして、2つ目は未来という存在そのものです」
キョン「またわけのわからんことを」
古泉「これは僕たち現代人側から否定しているものです。
もし、”既定”とされる現在を辿った先が”未来”であるのならば……僕たちがすることはすべて無意味ではないですか」
みくる「無意味だなんて、そんな……」
>……なるほど。そういうことか。
古泉「未来が存在するということは、僕たちが何をしようともその先の結果はすべて決まりきっていることの証左です」
古泉「まさしく”運命”が存在しており、何をしようとも僕たちはその上を歩いているに過ぎないと言われてしまっているようなものなのですよ」
古泉「そんな世界、虚しいだけではないですか」
極端に縮小した解釈すれば卵とニワトリみたいなもんけ?
古泉「……すみません。多分に主観が混じっていましたね」
古泉「ですから、僕たち現代人は未来を認められないのです。
だからこそ『世界は涼宮さんによって構築されている』という思想へたどり着くわけです」
>現代を肯定すれば未来が否定される、未来を肯定すれば現代が否定される……。
>確かにこれでは、相容れることはないだろう……。
古泉「そういうことです。朝比奈さん、不快な思いをさせてすみませんでした」
みくる「ううん。いずれ知るべきことだと思うから」
キョン「……そんな2人がどうやって仲良くなったんだ?」
古泉「現代がどうであれ未来がどうであれ、僕たちがここでこうして話していることもまた真実です。
それを大切にしよう、という話ですよ。現代人未来人関係なくただの一個人としての立場でね」
キョン「真実ね……」
古泉「さあ、この話はこれくらいにしましょう。今話しても何が本当なのかは分かることは絶対にないでしょうから」
>一樹は缶に残っていた酒を一気に飲み切ってしまった。
キョン「こういうのこそ、何とかしてほしいもんだぜ、神様」
みくる「ふふ、そうですね」
長門「……」
>一樹に合わせるように全員、缶に入っていた残りを一気に飲み干した。
>>244
適当いってるだけだから適当に解釈してくれていい
とりあえずこんなところで
また後ほど
読みかえしたらわけわからんな、ごめん
しばらくしたら書いてく
自分はアルフォートが好きです
続きかいてく
キョン「しかし、ハルヒを取り巻く環境を知ったつもりでいたが……全然だな」
古泉「ふふ、涼宮さんの周りは基本的に平和ですからね」
キョン「出来る限り面倒事には関わりあいたくないもんだ。
特に組織間抗争なんて血なまぐさそうなことにはな。というか何度も命に関わる経験はごめんだ」
古泉「それはご安心を。僕たちの組織間抗争をあなたや涼宮さんまで届けないために僕たちがいるのですから」
キョン「ああ、よろしく頼むぜ」
>命に関わるような経験があったのか?
キョン「ん? ああ。2度程な。そういや話したことなかったか」
>そうだな、聞いたことはない。
キョン「と言っても、大したことじゃないさ。暴走宇宙人に殺されかけたってだけだな」
>かなり大したことだと思うが……。
>宇宙人というと有希関係か?
キョン「ああ、朝倉っつってな。元クラスメイトだったんだが、
長門と一緒のヒューマノイドだったんだ。そいつが情報統合思念体の過激派だかで、俺を刺し殺そうとしやがった」
長門「……代表して改めて謝罪する」
キョン「あーいい、いい。そんなつもりで言ったんじゃない。
あくまで悪いのは朝倉であって長門じゃないからな」
長門「……そう」
キョン「とにかくそれが1回目だ。長門に助けてもらわなかったら間違いなく俺は今ここにいないね」
>それが前に言っていた有希が命の恩人という話か。
キョン「そういうこった」
>しかし、刺し殺そうとしたとは?
キョン「暴走イカレ宇宙人の考えることなんて俺にわかるはずがないさ。
とにかくでかいサバイバルナイフで殺そうとしたんだ」
>有希。
長門「なに」
>どうしてそんな原始的な方法をとったんだ。有希たちなら、人間くらい跡形もなく消せるだろう?
キョン「ああ……そういえばなんでだろうな」
長門「有機生命体の情報連結を素粒子レベルまで分解することは容易」
>だろう?
古泉「死体がほしかったのではないですか? 見るからに凄惨な死体が。
確か目的は――」
キョン「俺を殺して、ハルヒの出方を見るとか言ってたな」
古泉「素粒子レベルまで分解されたら行方不明にしかなりませんし、
銃での殺害は現実味がない。おそらく通り魔に殺されたことにでもするつもりだったのでしょうね」
>なるほどな。
キョン「改めて考えると恐ろしすぎるな」
>その、朝倉はどうなったんだ?
キョン「朝倉自体はそのときに長門にバックアップの権限を越えた暴走と判断をされて消されたんだが……」
>バックアップとは?
キョン「ああ、なんでもその朝倉は長門のバックアップだったらしい。
何をバックアップしているかは知らんがな」
長門「……」
キョン「だが、殺されそうになった2回目も消えたはずの朝倉なんだ」
>どういうことだ?
キョン「あー、長門。一応訊いておく。話していいか?」
長門「構わない」
>?
キョン「ちょっと前の話なんだが、長門がハルヒから能力を奪ってこの世界を改変しちまっていたんだ」
>有希の影のときに言っていた話か。
キョン「ああ、それだ」
長門「エラーをどうしても回避することができなかった結果。
再発はしないはず」
キョン「あの長門も悪くなかったけどな」
長門「……そう」
キョン「まあ、とにかく、その改変世界で朝倉が復活していてな。
改変世界から元の世界へ戻そうとしたときに朝倉に脇腹をナイフでグサリってな具合だ」
>……キョンはお祓いにいった方がいいかもしれないな。
キョン「かもしれん」
>しかし、2回目もナイフだったんだな。
キョン「ああ」
>2回目は死体なんていらなかったんじゃないのか?
キョン「……なんでだ、古泉」
古泉「さあ、わかりません。そこに居合わせていたわけでもないですからね。
僕の知っている情報はあなたから聞いたことだけですよ」
キョン「……じゃあ、朝比奈さん分かりますか? 一緒にいましたし」
みくる「さ、さあ……? そういえばどうしてでしょう?」
キョン「長門、なんでだ?」
長門「あのとき朝倉涼子の行使可能能力は、あなたたち人類とほぼ同等かわずかに上方修正されている程度だったから。
朝倉涼子は一度情報統合思念体に還元された際に、行使できる能力の大半において制限を受けていた」
>つまり、人間とほとんど変わらないから、人間と同じ方法しか取れなかったということか?
長門「そう」
キョン「新たな事実だな……」
古泉「しかし、番長氏も着眼点が面白いですね。
彼の殺害方法……気にも留めていませんでしたよ」
>ただ気になったから聞いただけだ。
キョン「ま、とにかくそれが命の危機2回目ってわけだな」
>もう少し、その改変されたときのことについて聞いていいだろうか?
キョン「別にかまわないが何か気になることでもあったのか?」
>いや、単純に興味があるだけだ。
キョン「じゃあ順を追って話していくか――」
>キョンから世界が改変された際の話を聞いた。
キョン「――ってところだ」
>キョンは想像以上に苦労しているんだな。
キョン「そんなことないさ。今の番長に比べればな。
何か参考になることでもあったか?
俺の場合結局最後も長門頼みだったから、そんなことはないと思うがな」
>一応訊いておこう。有希、自分を元の世界に送り返すことはできるだろうか?
長門「あなたがもともといた場所を観測できないため不可能」
>だろうな……。
長門「もし、観測できたのならすぐに知らせる」
>ありがとう、有希。
キョン「長門ができなきゃホントあとはハルヒ頼みだな……」
古泉「そうせざるをえないでしょうね」
キョン「万能の長門でもわからない番長か……難儀だな」
みくる「帰れると、いいですねぇ」
>そういえば、有希はどうしてハルヒを観察しているのだろうか?
>有希たちほど能力が高ければ、地球で学ぶことなどないだろう?
長門「涼宮ハルヒは、3年前に情報フレアを引き起こしていたことから、自立進化の可能性を秘めていると考えられている。
だから我々――自立進化を停止させてしまった情報統合思念体は、
涼宮ハルヒを観測することにより新たな自立進化の可能性を見出そうとしている」
>自立進化の可能性……?
長門「そう」
>いくつか訊いていいだろうか。
長門「いい」
古泉「何か気になることでも?」
>ああ、少しな。
>有希たちは、ハルヒの能力にその自立進化の可能性を感じているのだろうか?
長門「涼宮ハルヒに対して感じているものであり、その能力に限定しているわけではない」
>有希は、簡単にハルヒの能力を移動させることができるのだろうか。
長門「容易ではないが、可能」
>いまでも?
長門「可能」
>ならば、どうして有希はハルヒの力で有希たち自身の進化を願わないのだろうか。
>願望を実現する能力がならば可能であるかのように思えるのだが。
キョン「……!」
みくる「あっ……確かにそうですね」
長門「それは不可能と判断している」
>何故だろうか。
長門「涼宮ハルヒの持つ能力では過剰な自己昇華及び自己思考埒外に影響を与えることは非常に困難だと考えられている」
>……?
古泉「これに関しては僕が説明しますよ。かなり仮説のレベルなのですがね」
古泉「涼宮さんの能力は願望を実現すると言っても万能ではないのです」
キョン「あれが万能じゃなかったら何が万能なんだ」
古泉「一見、ほぼ万能のように見える涼宮さんの能力ですが2つだけできないものがあります。
いえ、あるというより観測できていないだけかもしれませんがね」
キョン「そういう御託はいい。その二つはなんだ」
古泉「1つは、自分自身への力の行使です。これは極端に弱くなるのではないかと考えられています」
キョン「どういうことだ」
古泉「よく考えてください。人が最も多く望む願望は自身のことではないでしょうか。
もっと勉強ができるようになりたい、もっと運動ができるようになりたい、もっと料理ができるようになりたいなどなど」
キョン「全部ハルヒはできているじゃねぇか」
古泉「そうですね。ですが思い出してください。
野球大会、文化祭でのバンド、映画作り……どれも涼宮さんはうまくやりたいと願ったはずです」
キョン「まあ、だろうな」
古泉「それにも関わらず、野球では打たれましたし、涼宮さん自身も精々ヒット止まり。
文化祭では、ギターを覚えきれずにほぼ歌のみ。映画での脚本・カメラワークはご存知の通りです。
個性的でいいとは思いますけどね」
古泉「もし自身へ能力が発動するのなら、このような中途半端なことにはならないはずなのです」
キョン「そんなものハルヒが望んでいなかったんじゃねぇのか」
古泉「かもしれません。ですが……勝負事にこだわる涼宮さんが力をセーブするとは思えないのです。
なにせ、涼宮さんからすれば力を使うという認識ではなく、ただ強く思うだけなのですから」
キョン「……」
古泉「ですが、全くゼロとも言い切れませんので、極端に弱くなると表現させてもらいました」
古泉「もう1つは、涼宮さんの力を発現させるためには、ほんの少しの具体性が必要なのではないかと考えられています」
>具体性?
古泉「そう、具体性です。
簡単に言ってしまえば『何か面白いこと起これ』と願ってもその願望は実現しません。
ただいたずらに閉鎖空間を生むだけとなるでしょうね」
古泉「つまりです。能力を行使して願望を実現するためには
『何がどうなってほしいか』というほんの少しの具体性が必要なのです」
古泉「『猫が喋ってほしい』や『桜が咲いてほしい』や『ハトが白くなってほしい』などですね。
詳細まで設定する必要はなく、ほんの少しの具体性で能力は発現します」
古泉「ですが具体性を伴わない願望は実現しない。つまり自身が到底想像しえない願望は叶えられないのです」
古泉「よって長門さんたち情報統合思念体は、涼宮さんの能力を得たとしても自身への能力行使はたいして効果は得られない。
TFEI端末を使い客観的に能力を行使しようとしても情報統合思念体の更なる進化を想像できない、どのように進化したいのかわからない」
古泉「――つまり具体性が伴わない願望により能力が発現できないというわけです」
古泉「だからこそ、涼宮さんを観測することにより自立進化の可能性を見出そうとしている。違いますか?」
長門「そう捉えてもらって構わない」
古泉「つまり、長門さんたちは涼宮さんの力を奪い、自分たちで使っても目的を達成できないわけです」
>なるほどな。
キョン「頭がこんがらがってきたぞ、クソッ」
かなり適当なことを言ってるので大いに違うことだと思います。
また後で書く
書く
古泉「難しく考える必要はありません。
①涼宮さんの能力は、能力を持つ者自身には使えない。
②具体性がなければ発現しない」
古泉「これだけです」
キョン「単純化すればそんなもんか。しかし、縛りがあったとはな」
古泉「あくまで仮説ですけどね」
>有希も同じようなことを言っていたのだから正しいのでは?
長門「わたしが真実を話しているという証明方法をあなたたちは持ち合わせていない。
だから、わたしに限らず盲信することは推奨しない」
>確かにそれはそうだが……。
古泉「涼宮さん関連については各自で解答を見つけ出すしかないのですよ。
所属する組織が違うという建前上、長門さんの言うとおり誰であれ盲信することはできないのですから」
みくる「……」
>少し寂しいが、一樹たちの言う通りなのかもしれないな。
古泉「いずれ、何のしがらみもなしにこうして介することができればいいのですが、いつになることかは分かりません」
キョン「……やめやめ。堅苦しい話は無しにしようぜ」
古泉「そうですね、せっかくの酒宴ですから」
キョン「こういうときこそ番長、なにか話のネタもっていないか?」
>無茶ブリだな……。
みくる「あ、番長くんの話聞きたいですっ」
長門「わたしも興味がある」
キョン「ほら、女性陣からもリクエストだぞ」
>みくるに有希も難しいことを言う……。
古泉「ふふ、何でもいいのですよ。異世界の話はそれだけで面白いですから。
それに涼宮さんへのアプローチの練習にもなりますから、やってみて損はないと思いますよ」
>そんなことを言われても、街のことは大体話したと思うが……。
>あと話していないことといえば、友人関係をはじめとする八十稲羽の人たちの話くらいだろう。
キョン「ああ、そういえば友人の話をするっつってきいてなかったな」
>本当は料理を食べた後にでもハルヒ達も交えて話そうと思っていたんだが、王様ゲームが始まってしまったからな……。
キョン「ああ……なるほどな……」
>今から話そうか?
みくる「でも涼宮さんにも話すなら2度手間ですよ……?」
>ハルヒにも同じこと言われたな。
みくる「あは、やっぱり涼宮さんは優しい人ですね」
ダメだ起きてからゆっくり書こう…
あとで書く
書くかいね
>友人の話は、明日の昼休みにでもしよう。
>今話しても構わないが、2回きくほどのことでもないだろうから。
キョン「番長がそう言うならそうするさ」
>そのかわりと言ってはなんだが、バイトでの話をしようか。
古泉「アルバイトをなさっていたんですか」
>ああ。
キョン「何のバイトしてたんだ?」
>主なものは、病院の夜間清掃と家庭教師、それに学童保育だ。
キョン「家庭教師って、番長そんな頭よかったのか……」
>中学生に教えるんだ。基本的な学力があれば誰でも勤まるさ。
キョン「悪いが俺にはできそうにないね……」
みくる「中学生……思春期というか反抗期というか、大変そうです」
古泉「ですね。意味もなく反抗したくなる歳ですしね」
>自分が担当した子は、その反対だったな。
キョン「反対?」
>中学2年生の子だった。表面上はひねくれていたが。
キョン「どんなふうにひねくれていたんだ?」
>レーゾン・デートルという意味を知っているかどうか訊いてくるような子だ。
古泉「ふふ、それはそれは。確かにひねくれていますね」
みくる「え、え? れ、れーぞん?」
古泉「レーゾン・デートル。哲学用語のひとつです。意味は『存在価値』」
キョン「異世界の子供はそんなこしゃまっくれてるのか」
>いや、かなり物知りな部類だと思う。実際勉強もかなりできたからな。
>他にも、いい大学に入っていい会社に入れば人生は安泰なのかなども聞かれた。
キョン「ヤな子供だな……」
>キョンがそれを言うのか……。
みくる「ふふっ」
古泉「ふふっ」
キョン「あ、朝比奈さんまで。どうして笑うんですか?」
みくる「ふふ。いえ、なんでもありません」
古泉「番長氏は、その問いに対してなんと返したのですか?」
>わからない、だな。
古泉「ふふ、番長氏らしいですね」
>そんなこと、まだ高校生の自分にわかるはずがないだろう?
>いや、いつまでたっても答えられるようになれるとも思えない。
キョン「かもな」
キョン「しかし……番長。聞く限りバッチリ反抗期だと思うが」
>……キョンは、どうしてその子が勉強していたと思う?
キョン「何で勉強って……さあな。プライドとか、じゃねぇのか?」
>その子は、勉強で1番であることが自分の存在価値だと思っていた。
>勉強で1番である自分こそが、母親にとっての『自分』であると。
キョン「……ってことは、なんだ。母親のために勉強していたのか」
>最初は、母親が喜んだ姿をみたかっただけなのだろう。片親だったから尚更な。
>だけど成長し、母親から大きな期待を掛けられるようになり、
いつの間にか1番でならなければならない、1番でなければ意味がないと思うようになっていったのだろう。
>勉強だけが、勉強で1番になることだけが自分の存在価値であるように錯覚してしまっていた。
古泉「だからこそ、レーゾン・デートルを訊いてきたというわけなのですね」
>かもしれないな。
みくる「お母さんのために、ずっと頑張っていたんですね」
>母親とも何度か話したが、実際かなり期待していた。初めて会ったときも自慢の息子と紹介されたからな。
みくる「そうなんですかぁ……」
キョン「それなら確かに反抗期とは違うかもしれんが」
みくる「でも勉強だけが存在価値だなんて……そんな寂しいこと」
古泉「勉学を追及することは悪いことではありません。
邁進することで日本の学会に至宝とも呼ばれる存在が生まれることもあるでしょうから」
古泉「しかし――それだけが存在価値であるという考え方は良い結果を生まないでしょうね」
>ああ、一樹の言うとおりだ。
>実際、その子は1番から落ちることを恐れてカンニングをしてしまったからな。
キョン「カンニングねぇ……虚飾の1番に価値なんてないだろうに」
>その子にとっては、実際の学力ではなく1番であることだけが母親との絆だと思っていたからな。
>当然、そのあとカンニングは発覚した。
古泉「番長氏が知っているということは、そうでしょうね」
キョン「カンニングがバレて、その母親はどういう反応だったんだ」
>知った直後は、裏切られた、恥ずかしい、自分の子供じゃないと泣きながら絶叫していたそうだ。
みくる「ひ、酷いです! その子はお母さんのために頑張って、お母さんに認めてほしくて――」
キョン「あ、朝比奈さん、落ち着きましょう。番長に言っても何もなりませんから」
みくる「あ、う、うん。ごめんね、続けて、番長くん」
>みくるは感受性がかなり豊かなようだ……。
少し寝てからまた書く
ホントいい加減終わらせたい
書く書く
みくる「それで、どうなったんですか?」
>母親とその子はしっかり話し合って、和解した。
>『家族をやり直す』と言ってな。
みくる「家族をやり直す、ですか……?」
>ああ。ただそこにあるものだと思っていた、
ただ出来上がっていると思っていた家族をやり直すのだといっていた。
>そう言ってその子は、前を向いた。
>自分が勉強しかないと思っていたら――自分でそんなこと決めつけていたら、何もないまま。
>人生のレールは自分で考えて自分で敷くといってな。
キョン「大人びすぎだろ、そいつ」
>そうだな。
みくる「でも、よかったです。お母さんと和解できて……」
古泉「出来上がったものでもやり直せる、ですか」
>一樹?
古泉「いえ、何でもありませんよ。僕たちも、いずれそんな時が来るのかもしれないと思っただけです」
>来なければ来ない方がいいと思うがな。
古泉「ふふ、そうですね」
キョン「しかし、よくもまあ、そんな複雑な家庭環境まで踏み込んでいくな」
>ほとんどは不可抗力だ。
>それに、自分はほとんど何もしていない。基本的に話を聞いてやっていただけだ。
>あの子が勇気を振り絞ったから変われたのだと思う。
みくる「うふっ」
>どうした? みくる。
みくる「ううん。番長くんはあたしたちのときと同じこと言うんだなぁって」
古泉「そうですね。番長氏は自覚なしにそういうことをする傾向にあるようです。ふふ」
古泉「その調子で別なところも取り持って頂けませんかね」
>だからそんなつもりはないと……。
キョン「うん? 別のところってどこだ?」
古泉「……さあ、どこでしょうね」
キョン「まさか、長門とも仲を深めようって魂胆じゃないだろうな。
仲よくすることは結構だが、籠絡して長門を利用しようなんて絶対に許さんからな」
古泉「……」
>一樹。キョンは本気で言っているんだろうか。
古泉「……おそらく」
キョン「おい、なんだ」
みくる「え、えっと! 番長くんっていろんな人と関わりあってそうですねっ」
>みくるがフォローを入れたようだ。
古泉「確かに番長氏の交友は広そうです」
キョン「……まあ、いいさ。もう一度言っておくが長門に変な意図を持って近づくなよ」
古泉「わかっております」
>一樹は肩をすくませている。
キョン「高校生で家庭教師なんて相当珍しいからな。人脈は広そうだ」
>一般的な高校生よりは、バイトのおかげもあって、多くの人と出会っているかもしれないな。
みくる「番長くんの出会った人ですかぁ……」
>みんな、それぞれ悩みを抱えていて必死にもがいていた。
古泉「それに番長氏は関わっていたわけですね?」
>さっきも言ったようにほとんどは不可抗力的にな。
>ただ、共通して一つ言えることは、『思いは口にしなければ伝わらない』ということだ。
みくる「思いは口にださなければ伝わらない……」
>ああ。
>思いを口に出さないことで、悩みを深くする人たちを多く見てきた。
キョン「言いたいことあったらはっきり言えってことか」
>だからと言ってなんでもかんでも口に出せばいいというものでもないが。
キョン「ま、そらそうだ」
古泉「よく1000の言葉よりもたった1つの行動が伝わるといいますが、逆も然りですね。
たった一つの言葉が、どんな行動よりも思いが伝わることがある」
みくる「うふ、ロマンチストですね」
キョン「言われてるぞ、古泉。ロマンチストだとよ」
古泉「お褒めに預かり光栄ですよ」
>キョンもたまには、そういう言い回しをしてみたらどうだ?
キョン「やめてくれ、ガラでもない。歯の浮くようなセリフは古泉の担当だ」
古泉「それほど意識しているわけではないのですがね」
長門「……」
>有希、退屈だっただろうか……?
長門「そんなことはない。非常に興味深かった」
>それなら、よかった。
長門「……言語による情報伝達は非常に非効率で不確定なもの。
しかしあなたたちの言葉は言語化された情報より多くの情報を内包し、伝達している」
長門「それはわたしたち情報生命体にはない、有機生命体――人類特有の現象。
とても興味深い」
>そうなのか?
長門「わたしたちにとっては、言語化した以上の意味を持たないから」
キョン「いわゆる空気を読むとか行間を読むとか、そういうのか」
長門「そう」
キョン「情報生命体だかってのも、難儀な生き物だな……」
>だからヒューマノイド・インターフェースは有希のように口数が少ないのか?
長門「そういうわけではない」
キョン「さっき言った朝倉ってのはクラスの人気者になるくらい社交的だったぞ。
だから随分と個体差はあるみたいだ」
長門「彼の言うとおり、我々対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは統一個体でも画一個体でもない」
>なぜ?
長門「人間社会に溶け込むために画一個体では、不自然と情報統合思念体は判断した。
よって各派閥から数体ずつこの惑星に送り込まれている」
キョン「同じ顔がぞろぞろいたらそりゃ不気味だわな……」
>各派閥……?
長門「わたしの所属する主流派、朝倉涼子の所属する急進派。
ほかに、穏健派、革新派、折衷派といった意識が情報統合思念体には存在している」
>統一意思ではないのか。
長門「そう。統合体であって統一体ではない」
古泉「もしかしたら、長門さんたちTFEI端末は各派閥の特色を大いに受けているのかもしれませんね」
>?
古泉「長門さんたち主流派は、あくまで静観を主としているため、寡黙というキャラクターを長門さんに与えた。
朝倉涼子属する急進派は、積極関与を主眼に置いているため、社交的というキャラクターを与えた」
古泉「あとは……いえ。サンプルが少なすぎてこれ以上の判断はできませんね」
長門「……」
キョン「……けっ。生み出すならもっとまともに考えろと言ってやりたいね」
長門「古泉一樹の指摘はあながち間違いではない」
長門「情報統合思念体の各派閥が、わたしたち――対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースを形成する際には
人類の性格サンプルを複数参照し、その中で各派閥が涼宮ハルヒの周辺調査及び観察に適切だと判断した性格を元に構成している」
長門「よって各派閥の特徴がわたしたちに現れるのは当然のことであると思われる」
古泉「なるほど……」
>有希の容姿も、その情報統合思念体が決めているのか?
長門「そう」
キョン「……まあ、そこだけはいい趣味していると褒めてやってもいい」
キョン「しかし、朝倉も美人だったわけだし長門のとこの親玉は美少女趣味でもあるのか?」
長門「この容姿も調査観察に適していると判断されたものが当てられているだけ。
わたしが所属する主流派が、『目立たない人間』としてわたしを構成した結果」
古泉「本来ならば涼宮さんを刺激せずに観察するためですね。
ということは、朝倉さんの容姿は『より円滑に他人とコミュニケートできる人間』を想定しているわけですか」
長門「そう」
キョン「目立たないって長門の容姿は、それなりに目立つんだがな……」
>確かに。
長門「……情報統合思念体に進言しておく」
キョン「いや、しなくていい。というかしないでくれ」
長門「……わかった」
古泉「やはり、番長氏と話をすると新しい発見がありますね。
長門さんたちの容姿ですか……」
>これは発見なのか?
古泉「ええ、発見で且つ有益な情報です。
TFEI端末の人間社会への擬態時の外見性格から、何派であるか推測することができるのですから」
みくる「あっ、そうですね……」
キョン「長門、いろいろバレたみたいだがいいのか?」
長門「問題はない」
古泉「ええ、全く問題はないと思いますよ。
むしろこれは長門さんからの親切心ではないかとすら思っています」
>親切心?
古泉「そうです。不用意に近づかない方がいいぞ、というね。
なにせ情報統合思念体、ひいては長門さんたちTFEI端末は、僕たち人類がはるか及ばない力を持っていますから。
情報が漏洩したところで、僕たちにはどうすることもできません」
古泉「それこそ僕たちを塵芥にすることなんて、造作もないでしょう。
いえ、塵芥も残らず素粒子レベルまで分解されてしまいますね」
キョン「……実際、朝倉と対面して古泉や朝比奈さんがどうにかできるとは思えないからな」
古泉「その通りです。僕たちの場合、閉鎖空間の中でしたら幾分かマシに抵抗できるでしょうけどね。
それでもマシという程度です。結末は全く変わらず、間違いなく蹂躙されるでしょう」
みくる「あたしは……どうにもできそうにないです」
古泉「だからこその長門さんの親切心なのですよ。
主流派や穏健派はともかくとして、急進派、革新派、折衷派は不穏な空気が漂っていますからね。
急進派ほどではないにせよ、革新派も折衷派も自ら関与することを是としていそうです」
古泉「それを僕らが知らずに接触したら……考えるだけでも恐ろしいですね。
この平穏な日常は砕け散ってしまうかもしれません」
>有希は、意図して情報を渡したのか?
長門「……これを情報として活用するかは、あなた達次第。
わたしは、質問に答えただけ。情報提供の意図はない」
古泉「ふふ、そうですね。ここは酒宴の席ですから。
すべては戯言です」
みくる「でも、ありがとう。長門さん」
長門「……」
キョン「朝倉みたいなのを呼び込まないようにしてくれよ、古泉」
古泉「ええ、わかっております」
キョン「……あんな怖ぇ思いをするのは、俺だけで十分だからな」
古泉「おや、僕たちを気遣ってくれるのですか?」
キョン「……そう捉えてもらっても構わん。
ハルヒに朝比奈さんに、ついでに古泉もあんな恐怖体験はしなくていいと思ってるさ」
長門「わたしも、気を付ける」
キョン「ああ、よろしく頼むぜ。対宇宙人は長門だけが頼りだ。
ただ、長門もあんな戦闘はもう2度として欲しくはないけどな」
長門「そう」
>有希、そういえばひとつ気になることがあるのだが訊いていいか?
長門「構わない」
古泉「番長氏の疑問、いいですね。また何か新しく発見があるかもしれません」
>期待されても困るのだが……。
古泉「これは失礼を。ただ、番長氏は僕たちの持つ固定観念がないのです。
だからこそ僕たちが気に留めなかったことにも気がつけると期待してしまったのですよ」
古泉「それに、純粋に聞いていて楽しいですしね」
みくる「ふふっ、そうですね」
キョン「確かに番長の発言から気づくことは多いか。
で、何を訊きたいいんだ?」
>ああ……なぜその朝倉涼子はキョンを殺そうと思ったのか訊きたかったんだ。
キョン「ん? さっき言わなかったか? 俺を殺してハルヒの出方を見るとかなんとか――」
>いや目的のなぜではなく、なぜこんな時期に、ということだ。
キョン「時期?」
>ああ。有希の話を聞いている限り、その情報統合思念体はかなりの長寿だろう?
長門「宇宙開闢とほぼ同時に発生している」
>それならば尚更キョンを殺すなんて性急なことをせずとも
成り行きをじっくり見守っていてもいい気がするのだが。
>情報統合思念体にとって人の寿命なんて一瞬の出来事ではないのか?
キョン「……確かにそうだな」
古泉「それは……」
みくる「そういえば、どうしてでしょうね……?」
キョン「古泉、わかるか?」
古泉「……反対に、いつでも変わらないという見方もできますよ?
今すぐでも80年後でも情報統合思念体にとってはあまり変わらない」
キョン「そういう見方もできるか……」
>有希、どうしてだ?
長門「それは、今ここで言わない方がいい」
みくる「えっ」
長門「今後起こりうる事態を鑑みた結果、そうした方がいいと判断した。
言えないではなく、言わない」
>そうか……。
長門「……朝倉涼子が、あなたを殺そうとしたとき」
キョン「俺?」
長門「そう。朝倉涼子の情報封鎖空間への侵入を試みた際に、わたしはあなた達の会話は傍受していた」
キョン「それがどうしたんだ?」
長門「……あなたはもう、情報統合思念体が導いた答えへたどり着くことができる」
キョン「……すまん、長門。殺されかけたことで頭がいっぱいになっていて憶えていないんだ」
長門「そう」
長門「……それならば、そのときの会話を再現する」
>有希の口元が高速で動く。
長門「『遅いよ。入ったら?』」
>! 有希の声ではない女性の声だ。
キョン「あ、朝倉……」
>キョンはかなり動揺しているようだ。
キョン「この声を聴くと背中から嫌な汗が噴き出してくるな……」
長門「『お前か……』」
>今度はキョンの声だ。
みくる「わぁ、やっぱり長門さんすごいですねぇ……」
キョン「自分の声を聴くと変な気分だ」
長門「『そ。意外でしょ』」
>有希は淡々と続けていく。
長門「『何の用だ』」
古泉「なんでこんなにぶっきらぼうなんですか?」
キョン「……下駄箱に手紙が入ってたんだよ。誰もいなくなったら教室こいってな」
古泉「ふふ、なるほど。合点がいきました」
長門「『用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあるの』」
長門「『人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりやって後悔した方がいい』って言うよね』」
長門「『これ、どう思う?』」
長門「『よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ』」
長門「『じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するまではジリ貧になることは解ってるんだけど
どうすれば良い方向へ向かうか解らないとき。あなたならどうする?』」
長門「『なんだそりゃ、日本経済の話か?』」
長門「『とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない? どうせ今のままでは変わらないんだし』」
長門「『まあ、そういうこともあるかもしれん』」
長門「『でしょう?』」
古泉「……!」
みくる「……!」
>一樹とみくるは何かに驚いているようだ。
長門「『でもね、上の方にいる人間は頭が固くて急な変化にはついていけないの。
でも現場はそうもしてられない。手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから』」
長門「『だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?』」
長門「『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』」
>有希はその後も淡々と続けていった。
長門「『じゃあ、死んで』――」
長門「これで、終わり。あとはわたしが朝倉涼子の情報封鎖空間へ侵入した」
キョン「こんなに長く喋っている長門は初めてだな。声は俺と朝倉のモンだったが」
長門「そう」
キョン「で、どこに答えがあるんだか教えてはくれないか?」
長門「それは、できない」
キョン「……だよな」
古泉「……」
みくる「……」
>2人は何か考え込んでいるようだ。
キョン「やれやれ……2人とも酒の席で仕事モードか?」
古泉「え。あ、ああ……すみません」
みくる「あ、あはは、ごめんなさい」
長門にこんな機能はありません
また午後に書く
書く
キョン「……まあ、こういっておいてなんだが、何かわかったのなら教えてほしいんだが。
悪いが俺にはさっぱりわかりそうにないんでね」
長門「……」
古泉「そうですね。……いえ、やめておきましょう」
キョン「もったいぶるのか」
古泉「そういう理由ではありません。ただ、仮定に過ぎない話でみなさんを困惑させるのもどうかと思いまして」
みくる「あたしも……話さない方がいいのかなって」
キョン「そんな殺生な」
みくる「あの、別にいじわるで話そうとしないわけじゃないですよ?
ただ……」
キョン「ただ?」
みくる「もし、あたしが想像していることが本当のことなら。
あたしの時代に一度持ち帰って判断を仰がなければならないほど重大なことになるかもしれませんから」
キョン「それなら……しょうがないですね」
キョン「自分で気づけば問題ないんだよな?」
長門「そう」
キョン「よし、番長。何にもわからない同士で考察しようか」
>自分か?
古泉「番長氏は……普通に疑問からたどり着いてしまいそうな気がしますね」
みくる「かもしれません」
長門「……」
>買いかぶりだ。確かに疑問はいくつか湧いたが。
キョン「聞かせてくれ、それくらいなら構わないだろ?」
古泉「え、ええ……」
>そうだな。まずはその朝倉涼子の言うジリ貧とはなんなのか。
>情報統合思念体は寿命でも来ているのだろうか……?
長門「……」
>あと気付いたことは『上の方にいる人間』
……比喩であると思うが、情報統合思念体に組織関係があると思わしきこと。
>その朝倉涼子が独断で動いているということを発言から匂わせているあたり、有希たちは完全な独立意識であること。
>さらにいうならば情報統合思念体は有希たちを完全に掌握できておらず、また拘束性も薄いということか。
キョン「よくもまあ、あれだけの話でそこまで……」
古泉「まったくです。感服しますね」
長門「……情報統合思念体によるわたしたちの行動を制御する上級強制コードは存在する。
しかし、それ以外では基本的に独自思考を持ち行動している」
>あと気付いたことは『上の方にいる人間』
……比喩であると思うが、情報統合思念体に組織関係があると思わしきこと。
組織体系、ね
キョン「にしても、ジリ貧か。確かに何がジリ貧なのかさっぱりわからんな。
情報統合思念体の寿命? それとも他の何かか?」
長門「自律進化の可能性を見失った情報統合思念体は現状のままであるならばいずれ滅ぶ。
生命体にとって停滞は、退行と同義。進化をし続けることこそが生命体の根源的目的。
しかし、人類の感覚からすれば永久的な時間を情報統合思念体は生命体として維持できる」
長門「情報統合思念体は人類が絶滅するまで滅びることは、おそらくない」
キョン「なら何がジリ貧なんだか……」
みくる「じゃあ、やっぱり……」
キョン「朝比奈さん、わかったんですか?」
みくる「あのっ……いえ、その」
>みくるは困ったようにキョンを見つめている。
古泉「鍵は、扉を開けるだけではなく扉を閉めることもできる、ということですよ。
いえ、鍵の本来の役目はこちらでしょうか」
キョン「何を言ってるんだお前は」
>まったく意味が解らなかった。
古泉「ええ、番長氏はともかく、あなたは考えるべき時が来ているのかもしれませんね。
自らの役割、役目……そう遠くない将来に自覚するときが来るかもしれません」
キョン「分かる言葉で説明しろ。
まさか俺に超能力的宇宙的未来的ついでに異世界的パワーでも宿るとでも言いたいんじゃなかろうな」
古泉「いえ、何度も言っているようにあなたは一般人ですよ」
キョン「……ふん。それなら俺にはどうしようもできん」
古泉「ふふ。今はそれで構いません」
古泉「番長氏もすみません。置いてきぼりでしたね。
ただ……こちらの世界の根深い問題なので、ご理解よろしくお願いします」
>ああ。
>>329
>長門「『じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するまではジリ貧になることは解ってるんだけど
どうすれば良い方向へ向かうか解らないとき。あなたならどうする?』」
維持するままでは、ね
キョン「やれやれ、小難しい話をしてたせいで酔いが冷めちまった。
番長、トイレ借りるぞ」
>ああ、廊下のすぐ横だ。
バタン
みくる「……」
古泉「さて、彼がトイレに行っている間に番長氏にお話しておかなければならないことがあります」
>それは、ハルヒの力についてだろうか?
古泉「……やはり気付いておられましたか」
>情報統合思念体の寿命以外でジリ貧とするのならば、思いあたるものがそれしかないからな。
古泉「ええ……以前から指摘はあったのです。涼宮さんの力は決して恒久的なものではないと」
みくる「やっぱり……そうなんですね」
>つまりハルヒの力はいずれ失われるということか。
古泉「ええ、それも遠くない未来でしょう。
もちろん今日明日に失われるものではないでしょう。ですが――」
みくる「だから、その朝倉涼子さんは動いたんですね」
古泉「涼宮さんの能力が閉じてしまった場合、涼宮さんはただの人間になってしまうでしょうからね。
もしそうなってしまえば自律進化の可能性は閉ざされてしまう」
長門「そう。朝倉涼子はそう判断し独断専行した」
古泉「番長氏。悠長なことを言ってられなくなってきました。何年かかっても戻すつもりではいましたが……。
涼宮さんの能力が消えてしまえば戻れる可能性は限りなくゼロになってしまう」
>そうだな……。しかし、打開策は見つからない……。
キョン「なんだ、そんな深刻な顔して」
>ああ、戻ってきたのか。
古泉「いえ、番長氏の帰還が芳しくないので困っていたのです」
キョン「ああ……またそこに話題が戻っていたのか」
>空気が重い……。
>せっかく悪いことをしているんだ。今は楽しもう。
キョン「そうだな。飲み直そう飲み直そう」
古泉「そうですね」
みくる「あ、はぁい」
>今度はみんながどんな風にSOS団で過ごしてきたかを知りたい。
キョン「ああ、いいぜ。はじめての活動は……朝比奈さんとハルヒがバニーガールになってチラシを配ったことだな」
みくる「ひぃぇっ。そ、それ話すんですかぁ」
>ぜひ聞きたい。
みくる「そ、そんなぁ……」
>みんなと雑談しつつ夜は更けていく。
>明日は、天気予報によれば雨が降る。
>マヨナカテレビは映るのだろうか。
………
……
…
――翌日、マンション前。
>雨が降っている。天気予報通りだ。
古泉「おはようございます、雨ですね」
>夜まで降るなら学校に忍び込むことになりそうだ。
古泉「そうですね。少々憂鬱ですよ」
>どうした?
古泉「おそらく何かが起こるでしょうからね。
涼宮さんはマヨナカテレビを見たいと思っているはず。となれば何かが映るのは必然かと。
……いまからどのように誤魔化そうか思案中なのです」
>すまない。自分が話したばかりに。
古泉「いえ、番長氏のせいではありません。
実際番長氏が来てくださったおかげで、涼宮さんの精神は今まで以上に安定しています。
閉鎖空間も落ち着いているものです」
>そうか。
古泉「ですからこれは、その安定のための対価といったところでしょう。
これくらいの苦心で平穏無事に過ごせるのでしたら、安いものです」
>一樹は心なしか嬉しそうだ。
古泉「一番は雨が止んでくれることですが……それではただの先延ばしでしょう」
古泉「さて、どうしたものでしょうか。今日1日はこれで頭を悩ませそうです」
>自分も何か考えておこう。
古泉「助かります、ではそろそろ学校へ行きましょうか」
>一樹と一緒に登校した。
……
…
――2年某組。
みくる「おはよう、番長くん」
>おはよう。
みくる「雨ですねぇ……涼宮さんかなり張り切ってたみたいですよ」
>会ったのか?
みくる「うん、登校途中に。そしたら、すっごく目を輝かせながら楽しみだって言ってました」
>一樹がなんて誤魔化そうか悩んでいたみたいだ。
みくる「ふふっ。そこは古泉くんにお任せですね。あたし、嘘つくのが苦手みたいで……」
>確かに苦手そうだ。
みくる「でも、本当に映るんでしょうか……?」
>一樹はおそらく映るだろうと言っていた。
みくる「うう……マヨナカテレビかぁ……」
>マヨナカテレビ自体は怖いものではないから安心していい。
みくる「そ、そうですかぁ」
>ただ……なにか恥ずかしいものが映るかもしれないが。
みくる「あ、あたしのですか?」
>いや、誰が映るかは分からない。
>みんなが見たいと思ったものをみたいように映す窓……らしいからな。
みくる「じゃあ、SOS団のみんなが見たいものが映るかもしれないってことですか?」
>そうなるな。
みくる「怖い反面、何が映るのか少し興味があるというか……」
>みくるは複雑な表情をしてる。
鶴屋「おっはよーっ! 2人ともっ!」
みくる「あ、おはようございます」
>おはよう。
鶴屋「さっきハルにゃんに昇降口であったんだけどさっ!
昼休みに番長くんの友達の話聞きたいからSOS団の部室に集まれってさっ!
昨日聞きそびれて悔しがってたみたいっ」
>ハルヒ、ちゃんと憶えていたのか。
鶴屋「あははっ! 昨日は楽しかったからねっ!
帰った後気付いたみたいだよっ!」
>昨日はありがとう。
鶴屋「にゃははっ! お礼を言うのはあたしのほうっさ!
それはそうとあたしも楽しみにしてるからねっ!」
>ああ、分かった。
鶴屋「じゃ、ちゃんと伝えたからっ」
鶴屋「にしても、久しぶりの雨だねっ。ジトジトさんだっ」
>授業が始まるまで鶴屋さんとみくると一緒に過ごした。
………
……
…
――昼休み、SOS団部室。
>みくると鶴屋さんは飲み物を買ってくると言っていたので先に1人で部室に来たのだが。
長門「……」
>部室にはまだ有希しかいないようだ。
>有希は相変わらず本を読んでいる。
長門「……」 パタン
>他のみんなは後から来るそうだ。
長門「そう」
>有希、これ。よければ。また弁当を作ってきた。
長門「……ありがとう」
>素直に受け取ってくれたようだ。
>ただ昨日の今日なので少し簡素なものだが。
長門「そう」
>……有希は、マヨナカテレビに何か映ると思うか?
長門「わからない」
>有希でもわからないのか。
長門「現在視聴覚室にあるテレビからは異空間への接合以外の異性能は確認できない」
長門「しかし、涼宮ハルヒの力によって変質する可能性も否定できない」
長門「だから、わからない」
>実際にやってみない限りわからないか……。
長門「そう」
眠いからまた後で書く
書いていく
長門「でも映ってほしい」
>マヨナカテレビに興味があるのか?
長門「違う。もしあなたの世界と同じものが映るのならば、あなたの帰還への手がかりになるかもしれない」
長門「だから」
>考えていてくれたのか。
長門「そう」
ガチャ
古泉「こんにちは。おや、まだお2人だけですか?」
>ああ。
長門「……」
>有希は読書に戻ってしまったようだ。
>一樹、弁当だ。
古泉「ああ、ありがとうございます」
>朝、渡すのを忘れていた。もしかしてもう用意してしまったか?
古泉「いえ、今日は野菜ジュースで過ごそうかと思っていましたのでありがたく頂戴します」
古泉「そういえば天気ですが、やはり明日の朝まで降るそうです」
>決行は確実だろう。
古泉「そうですね。言い訳もいくつか用意しましたし……」
ガチャ
鶴屋「やっほー!」
みくる「こんにちはぁ」
キョン「ういーっす」
ハルヒ「あら、あたしたちが最後だったみたいね」
古泉「お揃いでご到着ですね」
ハルヒ「自販機で鶴ちゃんとみくるちゃんと会ったのよ」
ハルヒ「ま、そんなことはいいから適当に座ってちょうだい」
>ハルヒはつかつかと歩いていき団長席へ腰を落とした。
鶴屋「じゃあー、あたしはみくるの横にでもすわろっかなっ!」
古泉「では、僕はこちらに」
キョン「近い、離れろ」
長門「……」
>有希もこちらの長机に来たようだ。
>長机を挟んで男3、女3で対面に座る形になってしまった。
>正面にみくるがいる。
みくる「な、なんだか恥ずかしいですね」
ハルヒ「なーにやってるの、みくるちゃん!
顔赤らめてないで食べるわよ!」
みくる「あ、赤らめてなんて……」
古泉「そうですね、昼休みは限られているわけですし」
>各々箸をつけ出したようだ。
>なんだか合コン喫茶を思い出す。
ハルヒ「そういえば、ちょっと前にそんなこと言ってたけど、合コン喫茶って何?」
>八十神高校の文化祭で自分たちのクラスの出し物だ。
キョン「トリッキーなクラスだな、おい」
書く
>皆が咀嚼しながらこちらに視線を向けている。
みくる「あの、ごーこんって……?」
キョン「あ、ああ……男女で楽しく盛り上がろうってアレですよ。
基本は出会いの場なんですかね」
みくる「あ、ああ! はい! なるほどぉ……ごーこんですかぁ……」
>未来に合コンはない……のだろうか。
ハルヒ「みくるちゃんなにとぼけてんの。合コンのお誘いのひとつやふたつあるでしょうに」
みくる「え、えぇっ! そ、そんな。な、ないですよぉ」
ハルヒ「かまととぶってないで、白状なさいっ!」
>ハルヒがわきわきと手を動かしている。
鶴屋「にゃははっ! みくるに付きそうな悪い虫はあたしが取っ払っちゃうから知らなくても仕方ないねっ!
みくるってば悪い男にころっと騙されそうだからっ」
みくる「つ、鶴屋さんっ」
ハルヒ「鶴ちゃん、まるでみくるちゃんのお母さんね……」
キョン「……で、その合コン喫茶とやらはうまくいったのか?」
>あれはとても成功とはいえない……。
キョン「だろうな……」
ハルヒ「あむ、ひょもひょもらんで、ほんなほとりらったの?」
キョン「口のなかのものを無くしてから喋りなさい」
ハルヒ「分かってるわよ。で、そもそもなんでそんな合コン喫茶なんてことになったの?」
>陽介……友達が冗談で提案したらクラスのみんなが悪乗りしてな。
鶴屋「あははっ! 番長くんの友達って面白い人いっぱいいそうだねっ!」
ハルヒ「そうそう、その友達の話を聞きたいのよ」
ハルヒ「その陽介くんってどんな人だったの?」
>陽介は、八十神高校でできた初めての男の友達だ。
>お調子ものだが、誰よりも仲間思いで――俺の相棒だ。
古泉「相棒……ですか?」
>ああ、どんな時も陽介がそばにいてくれた。
>肩を並べて戦った、最高の相棒だ。
ハルヒ「あははっ、戦ったって番長くんも変な表現するのね」
鶴屋「ねねっ、具体的なエピソード聴きたいなっ」
>事件のことは伏せながら陽介のことを話した。
みくる「か、河川敷で殴り合いですかぁ」
ハルヒ「過激ねー」
キョン「というか、なんでそんな絵に描いたような青春劇を繰り広げているんだ」
>相棒だからな。
古泉「番長氏の横に並んで立っていられる存在……羨ましい限りですね」
鶴屋「都会から田舎へってそんなにいやなもんなのかなっ」
>陽介にとっては、退屈だったんだろう。
キョン「俺らは、都会でもなく田舎でもなく中途半端な街だからその感覚は分からん」
ハルヒ「というか、番長くんも転校生だったんだ」
>ああ、転校はこれで2回目になる。
ハルヒ「大変ねー……」
>いろいろな街が見られて多くの友人ができるからそれそれで楽しいと伝えた。
ハルヒ「ポジティブシンキングね……転校かぁ、どうなんだろ。想像つかないや」
キョン「……別にハルヒは引っ越す予定もないんだろう? 俺や古泉、朝比奈さんに長門だってそうだ。
そんな想像しても意味ないさ」
ハルヒ「それはそうだけど。新年度も近いし、そういうこともあるのかなって思っただけよ」
>ハルヒは一樹の言った通り誰かが転校してしまうのではないかと危惧しているようだ。
>いろいろな街が見られて多くの友人ができるからそれそれで楽しいと伝えた。
それはそれで
みくる「でも、その陽介くんも強い人ですね……だって、その」
古泉「想い人が亡くなったことですか?」
みくる「う、うん……」
>小西先輩のことは事故死として話した。
古泉「(おそらく、その方が以前番長氏が話していた事件の被害者でしょうね)」
>陽介は、目の前の現実を忘れることも目を逸らすこともせずに向き合えた。
>だから強くなれたのだと思う。
鶴屋「あたしの周りにある死は、寿命とか病気とか……。
だから、唐突にいなくなる死は全然わからないけど、その陽介くんが強くなったっていうのは分かるかなっ」
ハルヒ「ふぅん……」
>次は……千枝の話をしよう。
古泉「女性ですか?」
>ああ、陽介は初めてできた男友達だったが、千枝は八十神高校で初めてできた友達だ。
キョン「初めての友人が女なのか……」
>千枝は、まさに体育会系の活発な女の子だった。
ハルヒ「あー、もしかして里中千枝さん? 番長くんの着信履歴にあった」
>よく覚えていたな。
ハルヒ「ふふん。これでも記憶力はいい方なのよ」
>千枝とは、よくトレーニングをした。
みくる「トレーニングですか?」
>カンフーが好きで、蹴りの練習していた。
ハルヒ「蹴りって……大会でもあったのかしら、カンフーの」
>わからないが、無いと思う。
ハルヒ「変なコね……まあ、強くなりたいって気持ちはちょっとわかるけど」
キョン「気持ちが分かるて」
ハルヒ「だって、強くなきゃ宇宙人も超能力者も捕まえられないでしょ?」
キョン「ああ……やっぱりそっち方面なのか……」
ハルヒ「それ以外に何があるっていうのよ。
でも、ま、そうじゃなくても強い女の子っていうのには憧れるわよね」
みくる「ふふ、そうですねぇ」
キョン「朝比奈さんはそのままでいてください」
みくる「はぇ?」
鶴屋「あたしもビシッと悪漢をやっつけるくらいには鍛えてるつもりだけどねっ。
もーちょっと護身ができるようにはなりたいかなっ! みくるも守ってあげたいしねっ!」
キョン「鶴屋さんは、それ以上強くなってどうするんですか……」
両方の作品への愛を感じる
>>1サンはライブいけたのかな?
>>375
すげぇいきたかった
書いてく
>千枝は、雪子――友達を守るために強くなろうとしていた。
>千枝は、その友達から頼られることだけが自分の価値だと思っていた。
みくる「どうして、そんなことに……?」
>千枝から見たら、その友達は千枝にないものをすべて持っているように見えたからだろう。
>その友達が、頼ってくれている。ただ、その1点でしか勝る部分がないと思っていたらしい。
ハルヒ「嫉妬ってこと?」
>ああ、千枝自身もそう言っていた。相当なコンプレックスだったのだろう。
>だが、自身と向かい合い、折り合いをつけることができた。
鶴屋「そんな簡単に折り合いなんてつけられるものなのかなっ?
だってそれって、心の奥底で抱えていたモノだと思うんだけど」
>いや。実際かなり苦心していた。
>それでも苦しみながら、自分の中の見たくない自分……もう一人の自分と向き合った。
ハルヒ「もう一人の……自分? なんか変な表現の仕方するわね」
>そうか?
ハルヒ「うーんでも、そうやって表現するのが一番しっくりくるのかしら」
キョン「……まあ、分かりやすい表現なんじゃないか?」
ハルヒ「そうなのかしらね」
>自分の中の影の部分と折り合いをつけることができた千枝は、本当の意味でその友達と友達になれた。
>そして千枝の中にあった優しさはその友達だけでなく、外へも向けられるようになった。
>だからこそ千枝は、誰よりも優しかった。
古泉「優しい、ですか」
キョン「会ってみたくなるな」
>欠点は……料理ができないことだな。
みくる「料理ですか?」
>あ、ああ……。
ハルヒ「番長くん顔色悪いみたいだけどどうしたの?」
>いや。嫌なことを思い出していただけだ……。
>次はその千枝の友達、雪子について話そう。
ハルヒ「え、えーと、雪子っていうと、えー」
キョン「別にクイズじゃないんだから当てなくていいんだぞ」
ハルヒ「気分よ気分!
って、あ、そうそう! 天城雪子ね!」
>ハルヒは得意顔だ。
キョン「ホントよく覚えてるな……」
>雪子は老舗旅館の一人娘で、よく家の手伝いをしていた。
古泉「ほお、旅館ですか。いいですね、たまにはゆっくりしたいものです」
ハルヒ「じゃあ、次の合宿は湯煙温泉殺人事件って感じかしら?
あ、ポロリ役はもちろんみくるちゃんね」
みくる「ひぇっ! ぽ、ぽろりってなんですかぁっ?」
キョン「(朝比奈さんのポロリはさぞ眼福であろう)」
ハルヒ「……やっぱぽろりはなし。エロキョンにみられたら可哀想だわ。
でも温泉はいい案ね。古泉くん、案のひとつに覚えておいて」
古泉「仰せのままに」
キョン「(ふむ……顔に出てただろうか)」
古泉「分かりやすいくらいに」
キョン「心を読むのはやめろ。
で、番長。その雪子って人はどんな人だったんだ」
>外見と雰囲気を一言で言えば大和撫子といった感じだ。
>女性らしく、淑やかで、清楚という印象を大多数の人は持つと思う。
キョン「千枝って人とは正反対の印象だな。
だから、嫉妬したのか……」
鶴屋「SOS団にはいないタイプだねっ!」
ハルヒ「確かに大和撫子って感じの子はいないわね。
あたしは柄じゃないし、みくるちゃんは撫子ってよりコスモスだし、有希は淑やかというより大人しい子だし」
みくる「コスモスですかぁ、ふふ。ありがとうございます」
長門「そう」
ハルヒ「強いて言うなら鶴ちゃんくらいかしら」
鶴屋「あたしが、ナデシコ! あっはははっ! ないないっ! ないってっ!」
>鶴屋さんはおなかを抱えながらケラケラ笑っている。
>とにかく、そんな印象を持たれるような女の子だ。
>そんな雪子は、千枝を自分に無いものをすべて持っている人間だと思っていた。
キョン「うん? それってさっきと同じってことか?」
>いや雪子は嫉妬ではなく、単純に憧れていただけだ。千枝のようになりたいと。
キョン「……どちらにせよ、お互いがお互いを羨んでいたわけか」
>そういうことになる。
古泉「自分がその立場にならなければその人の持つ苦悩は見えてきませんからね。
なんとも皮肉なものです」
鶴屋「人って気付きたくない部分を本能的に見ないようにしているのかもねっ」
>かつてアメノサギリがいっていた『人は見たいように見たいものを見る』という言葉を思い出した……。
キョン「どうした?」
>なんでもない。話を続けよう。
>雪子は、次期女将になると周囲から言われ続けその環境に嫌気がさしていた。
ハルヒ「そんなの嫌なら嫌って言えばいいじゃない」
キョン「全員が全員ハルヒみたいには言えないんだよ。
それに、老舗旅館の跡継ぎなら、嫌なんて言えもしないんだろうさ」
ハルヒ「そんなものかしら。でもあたしは嫌なものは嫌ってはっきり言うわ」
>自分の意見をしっかり持てることはいいと思う。
ハルヒ「でしょ?」
>雪子はそんな状況に置かれた自分を鳥かごに入れられた鳥だと言っていた。
>だからこそ、千枝のように自由に自由に生きてみたいと願い、誰かが鳥かごから連れ出してくれることを願っていた。
ハルヒ「……」
古泉「鳥かごから連れ出す、ですか」
キョン「……? どうしてそこで俺を見る」
古泉「いえ、これは失礼を。他意はありません。偶然視線がそちらに向いてしまっただけです」
キョン「……そうかい」
2時間後くらいに
>しかし雪子もまた、自分と向き合った。
>誰かに変えてもらうのではなく、自分から変わる決意をした。
キョン「てことは、継がないことにしたのか」
>一度はな。
キョン「一度?」
>自分から旅館の女将になるという道から外れ、街から出ていくことも含めて考えた。
>考えて考え抜いて。そして雪子は、旅館を継ぐことを自分で決めた。
>他人の誰の意思でもなく、伝統に縛られるわけでもなく、自分で決めていた。
>そのときは、すごくいい顔をしていたな。
みくる「そこに至るまでにいっぱい悩んだんでしょうね……」
鶴屋「あたしも、家を継ぐとか継がないとか、継がせるとか継がせないとか、
ああいう家だとやっぱりあるからさ。
悩んだこともあるし、その気持ちすごく分かるな」
キョン「そんなことあったんですか」
鶴屋「まぁねっ! でもあたしももう覚悟は決めてるし、乗り越えたからねっ!
でもその決断ってすっごく勇気がいるし、怖いんだ。
だからその子はすっごく強い子なんだと思う」
>ああ。雪子は、誰よりも強い意志を持っている思う。
>欠点を言うならば……料理がとんでもないことになる点だろう。
キョン「またか」
古泉「番長氏の顔色がまた悪くなりましたね」
>またあの悪夢のようなカレーを思い出してしまった……。
ハルヒ「強い、意思……」
>ハルヒも何か思うところがあるのだろうか。
ハルヒ「ねね、もっと番長くんの友達について聞かせて」
>そのつもりだ。
>次は……完二について話そう。
キョン「お、今度は男か」
ハルヒ「……」
キョン「今度は当てないのか」
ハルヒ「え、ああ。そうね。完二……完二……えーと巽完二くんだったかしら」
>ああ、あっている。
キョン「本当によく覚えているんだな」
ハルヒ「……そりゃね」
>完二は、1つ学年が下の後輩だ。
古泉「僕たちと同じですね」
キョン「まあ、それならそんなに変わらないだろう」
>完二は、1人で暴走族のチームをつぶすような腕っ節の強さを持っていた。
キョン「すまん撤回する。全然違う。というか怖ぇよ! そんな高1いるか!」
古泉「ふふ、確かに僕たちとはかけ離れていますね」
>完二に追い掛け回されたときは確かに怖かった。
みくる「ぼ、暴走族さんが後輩にいたんですか?」
>完二は暴走族じゃない。それを潰しただけだ。
>見た目は確かに怖いところあるかもしれないがな。
みくる「あ、なぁんだ……ビックリしちゃいまいた」
鶴屋「でもすごいねそれっ! そんな無謀なことよくやるよっ!」
>母親が、暴走族のせいで夜に眠れないから、という理由で潰したらしい。
キョン「なんつー強引な問題の解決の仕方だ。
それに親孝行なのかそうでないのかわからんな……」
>親孝行かどうかは分からないが、完二が親思いだったのは間違いない。
ダメだ、眠い
キョン「そんな奴とまで友人関係になれるとは番長が改めてとんでもないやつだと思えるな」
>そんなことはない。完二は基本的にいい奴だ。
>外見的な怖さも、粗暴な振る舞いも自分を隠すために装っていた部分が大きい。
ハルヒ「自分を、隠す?」
>完二は幼いころから、裁縫や絵が好きだったらしい。
>それを『男のくせに』となじられ、拒絶の意思を受けたことで人と接することを恐れてしまった。
>だからこそ、人から距離をとる手段が暴力として外へ向いてしまったのだろう。
>それが完二自身への恐怖を生み、さらに周りと距離が開いてしまっていた。
ハルヒ「なんか、そういうの聞くとやるせないわね」
ハルヒ「でも、その人の本質なんて実際深く付き合ってみないとわからないし、しょうがないわ。
ファーストインプレッションなんて外見と噂が10割でしょうし」
キョン「……だろうな。俺もついさっき話を聞いただけで怖いと思ったのがいい証拠だ」
みくる「やっぱり、そうなんでしょうか……」
ハルヒ「そうよ。あたしだって噂が独り歩きしてるじゃない。
ま、あたしは気にしてないけど」
キョン「ハルヒの場合は、独り歩きじゃなくて事実だろうよ……。
だが、誇大化して人づてに伝わるのは間違いないだろうな」
>ああ、そうだろう。完全に悪循環を起こしていた。
>完二は特に女性が恐怖の対象だったらしい。
>一時はそのせいで、自分が女性に興味が持てないのではないかと悩んでいた時期もあった。
みくる「それって……?」
鶴屋「同性愛者かもしれないかどうかってことで悩んでたってことっ?」
>そうなるな。
キョン「同性愛者ねぇ」
古泉「なぜ、そこで僕に視線を向けるのでしょうか」
キョン「いや、これは失礼を。他意は無いぞ。
偶然視線がお前に向いてしまっただけだ」
古泉「……あなたもなかなか意地悪な性格をしていますね」
キョン「お返しだ」
古泉「いよいよ、あなたの口癖を奪う時が来るかもしれませんね」
キョン「やれやれ。番長、続きを頼む」
>もちろん、のちに完二は異性に興味があることが分かる。
>そして完二は、自分たちに裁縫などの趣味があるということを知られてからは、
子供たちに編みぐるみを作ってあげたりもしていた。
>出来がよく、子供たちにもかなり好評だった。
ハルヒ「へぇ、ギャップ萌えってやつね」
キョン「どこに萌え要素があるんだか……」
ハルヒ「でも、番長くんたちはどうして、その完二って子に裁縫の趣味があること知れたの?」
>偶然"見て"しまっただけだ。あとは本人の口から聴いたんだ。
ハルヒ「ふぅん」
>完二もまた、自身と向かい合い他人から逃げることも自分から逃げることもやめ、立ち向かった。
>完二は誰よりも勇敢な男だ。
古泉「……確かに、自分自身と向き合えることは勇気のいることですからね」
ハルヒ「そう?」
古泉「ええ、それは、もう」
鶴屋「なんか、すっごい含みのあるというか含蓄があるというかそんな言い方だねぇっ、くふっ」
みくる「あははは……」
長門「……」
キョン「……まあ、大変だとは思いますよ」
ハルヒ「キョンにそんな経験あるわけ?」
キョン「16年生きていればそんな経験もなくはないさ」
ハルヒ「……あそ」
>次は……りせについて話そう。
ハルヒ「あ、その子は珍しい名前だったから覚えてるわ。確か久慈川りせちゃんだったかしら」
>ああ、あっている。
>りせは学年が一つ下の後輩で、りせも自分と同じ転校生だった。
>りせは明るいキャラクターで……いわゆる学園の"アイドル"だった。
古泉「なるほど」
キョン「……そうきたか」
ハルヒ「あー、みくるちゃんみたいな」
みくる「あ、あたしアイドルなんかじゃないですよ!」
ハルヒ「なーにいってんの。みくるちゃんのファンって結構いっぱいいるんだからね。
あたしにみくるちゃん紹介してくれっていう馬鹿な依頼も時々来るし。もちろん断ってるけどね」
みくる「そ、そうなんですかぁ? ごめんなさい、涼宮さん……」
ハルヒ「何でみくるちゃんが謝るの。
悪いのはあたしに紹介してもらおうなんて魂胆のヘタレどもよ。
それぐらい自分で話しかけなさいっての」
キョン「ハルヒに話しかける勇気があるなら、そのまま朝比奈さんに話しかけりゃいいだろうに」
鶴屋「みくるを紹介してっていうのはあたしのところにもよく来るなぁっ!
あたしももちろん断ってるけどねっ!」
古泉「ときどきですけど僕も相談を受けたことがありますよ」
みくる「な、なんだか皆さんにご迷惑かけているみたいで……」
ハルヒ「だから、みくるちゃんが謝ることじゃないの。
それで? 番長くんそのアイドルちゃんの続きお願い」
>りせは、アイドルとしての自分――"りせちー"と本当の自分――"りせ"との間のギャップで苦悩していた。
ハルヒ「え、腹黒系なの?」
>いや、りせはかなり素直に感情を表現するタイプだった。
それゆえに作られた自分ではなく、本当の自分を見てほしかったのだろう。
>一度、その造られたキャラクターを完全に脱ぎ捨てようとしていたことがあった。
>アイドルである"りせちー"に意味もなにもかもを見いだせなくなってな。
ハルヒ「そんなことってできるのかしら」
鶴屋「うーん、難しそうだよねっ」
>しばらくの間、アイドルとしてのりせは身をひそめ、素のりせで生活していた。
>しかしある日、ふとしたきっかけで、りせはアイドルだったころのりせの明るさに助けられていた人がいることを知った。
>"りせちー"にも意味があったことを知り、もう一度自分について考え始めた。
古泉「自分について考える……ですか」
>ああ。
ハルヒ「あー、その流れだと"りせちー"を受け入れたって感じかしら」
>いや、受け入れるではなく気付いたといった方がいいだろう。
ハルヒ「気付いた?」
>"りせちー"も"りせ"もどちらも本当の自分だと。
古泉「両方とも本当の自分……」
ハルヒ「あー、なるほどねぇ」
>りせは、よく自分を知ったからこそ、誰よりも他者をよく見て知ろうとすることのできる人間だ。
鶴屋「他人を知ろうとすることって実はすっごく難しいからねっ。その娘すごいなぁって素直に感心しちゃうよ」
ハルヒ「学園のアイドルがそんな感じなら、みくるちゃんもそうなのかしらね」
みくる「あ、あたしですかぁ?」
ハルヒ「実はそのかわいい顔の下には本音を隠していて……なんてね」
みくる「ふ、ふぅ」
>欠点は……料理がものすごく辛くなってしまうことだな。
>……鈍痛がするくらいに。
古泉「また番長氏の顔が苦痛にゆがんでいますね」
キョン「番長の周りの女性陣は料理下手しかおらんのか」
>思い出したらまた口の中に痛みが戻ってきた気さえする……。
ハルヒ「なんだか逆に食べてみたくなってきたわ……。
いや、キョンに食べさせてみたいわ」
キョン「いや、思わないでくれ。頼むから思わないでくれ」
>自分からも頼む。
ハルヒ「な、なによ。妙に必死になって」
古泉「お2人ともそんなもしを語っても仕方ありませんよ」
ハルヒ「そうよ、あたしだって本気で言ってるわけじゃないんだから」
キョン「俺は今、心の底から安堵してるよ」
ハルヒ「変なキョン」
>次はクマのことを話そうと思ったが……説明が難しい。
>詳しく話そうとするとどうしてもテレビの中の世界のことを話すことになってしまいそうだ。
鶴屋「どうしたの番長くんっ。そんな難しい顔してっ」
>次はだれのことを話そうか迷っていたところだ。
>……クマのことはハルヒと鶴屋さんには話せそうにない。
>話すことができても女装が似合う美少年ということくらいだろう……。
>仕方がない。次は、直斗のことを話そう。
ハルヒ「直斗、直斗……白鐘直斗くんであってるかしら」
>ああ、それであっている。
>合っているが、ひとつだけ間違っていることがある。
>直斗は、女の子だ。
ハルヒ「え!?」
古泉「なんと……女性にしては珍しいお名前ですね」
みくる「それってやっぱり、男の子と勘違いされるんでしょうか」
>ああ。だが、勘違いというよりは直斗が意図的に周囲に男であると思わせていたといった方がいい。
>服装も、男装が基本だった。
みくる「意図的に……? どうしてそんなこと」
鶴屋「それって、その直斗くんは趣味でやってたのかなっ?」
>もちろん違う。
鶴屋「だよねっ」
>その理由を話すためには直斗の生まれから話そう。
>直斗は実家が代々続く探偵の家系で、直斗はその跡取りなのだそうだ。
>直斗自身も、探偵として活動をしていた。
ハルヒ「探偵っ? ってことは高校生探偵!?」
>ハルヒは目を輝かせている。
ハルヒ「なんて甘美な響きなのかしら。高校生探偵なんてっ!」
キョン「おい、トリップするのはいいが帰って来いハルヒ」
ハルヒ「トリップなんてしてないわよ。
それで、続き続きっ!」
>直斗は、高校1年生でありながら以前自分が住んでいた地区の警察署の捜査協力員をしていた。
古泉「高校生で、警察の捜査協力員ですか。たしかな実力があるようですね」
>ああ。理性的且つ理知的で高校1年とは思えないほど大人びていた。
>直斗の推理を聴く機会があったのだが、少ない情報から的確に推理を組み上げていく様は流石の一言に尽きる。
ハルヒ「これでもあたしも、夏休みの合宿で名探偵ぶりを発揮したんだから、勝負してみたいわ」
キョン「エセ探偵様じゃ、本物の探偵には勝てないと思うぞ……。
ましてや相手が警察の捜査に協力するレベルの探偵だ」
ハルヒ「そんなのやってみなくちゃわからないじゃない」
>直斗は、ある事件について警察と共に捜査をしていた。
その事件は犯人が自首し、一応の終息をしたかのように見えた。
>しかし直斗は不自然な点を挙げ別に犯人がいると、警察内部で主張した。
>だが、直斗の主張は封殺されてしまった。
警察が事件早期解決を願っていたことと、子供であるということを理由にしてな。
>直斗は、大人びているといっても身長は高くなかったせいで、余計に子供に見られてしまっていたんだろう。
ハルヒ「なにそれひっどいっ! 警察の方から捜査協力しておきながらそんな態度なんてっ!」
>警察にとって、探偵は事件が終わればただの人――いや、ただの子供だったのだろう。
>本人もそのことについて、寂しいとこぼしていた。
>直斗は、それに加えて自分が女性だということが分かってしまったら
さらに軽く扱われてしまうと、思っていたらしい。
古泉「警察は男社会ですからね。その推測は間違っていないでしょう」
ハルヒ「ふん。他人の頭脳借りておいて、男だ女だなんて。よくいえたものね」
>だから、男に。推理小説に出てくるようなハードボイルドな大人な探偵に憧れていた。
キョン「それで男装に至ったわけか」
>服装や口調だけでなく、一人称も『僕』だったくらいだ。
キョン「僕……ねぇ。(あいつのこと、思い出すな。あいつも何か意図があってあんな風に喋っているんだろうか)」
みくる「でも、いずれ身体つきは嫌でも女の人になっていきますよね……そうしたら」
鶴屋「いやでも、女の子ってわかっちゃうねっ」
>大人でも、男でもない。そんな自分を直斗は受け入れることができなかった。
男になりたい、大人になりたいと言い続けていた。
>だが、直斗は直斗が関わっていた事件を通して、自分を見つめ直すことになる。
>そして直斗は気づいた。本当の望みは男になることでも大人になることでもない。
>本来の自分――見ないふりをしていた、ありのままの自分をを受け入れることだと。
ハルヒ「ありのままの自分……」
>直斗は、世の中が自分の思い通りにならないことをよく知っている。
自分が受け入れられないことがあることも知っている。
>しかし、自らを見つめ直した直斗は心にぶれない一本の芯を持っている。
>だから直斗は、最も信念貫ける人間だ。
鶴屋「うーんっ! かっこいいねっ!」
キョン「俺らと同い年で信念ときたか」
古泉「生き方の指針を持つことは素晴らしいことだと思いますよ」
キョン「そりゃ、俺もそう思うさ。
だが、俺ら――高校生1年なんてもんはモラトリアムのモラトリアムにいるようなもんだろ?」
キョン「就職を念頭に置いてる奴らはともかくとして、
進学を希望しているのはたいてい、なんとなくだと思うがな」
古泉「モラトリアムのモラトリアムですか。あなたも妙な喩えをしますね。
たしかに、確固たる意志を持って進学をする人は現代社会では一握りと言えるでしょう」
キョン「だろう?
俺自身、信念なんてものは持ち合わせちゃいないからな。
尊敬するというか全く親近感がわかないというか」
>早ければいいというものではないさ。ゆっくり見つけていけばいいと思う。
>無理矢理こじつけた信念なんて息苦しくなるだけだ。
キョン「……そういうもんかね」
久しぶりに書いていく
鶴屋「番長くんは持ってそうな言い方だねっ」
>そうか?
ハルヒ「あたしはあるわよ」
キョン「ハルヒが?」
ハルヒ「なんでSOS団員その1のくせにわからないわけ?」
キョン「残念ながらテレパシーなんぞ使えないんでな」
ハルヒ「いい? あたしの信念はね、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者と一緒に遊ぶことよっ!」
キョン「そりゃ、SOS団を作った目的だろうが」
ハルヒ「一緒よそんなもの。
これこそが信念で目的で目標で義務で使命で存在理由なんだから」
キョン「信念ってもっとこう、崇高なものなんじゃないのか?」
ハルヒ「崇高な目的じゃないとでも言いたいわけ?」
キョン「そうじゃなくてだな……」
古泉「番長氏も言っていた通り無理矢理こじつけなくてもいいのです。
反対に言ってしまえば、生き方の指針として自分自身にあってさえいれば、それでいい」
古泉「ですから、涼宮さんの目的は信念となりえると思いますよ」
キョン「……ふぅむ」
鶴屋「にゃはははっ! それならあたしも持ってるよっ。
『何ごとも楽しくっ!』 これがあたしの信念で信条だっ!」
キョン「それは何となく見ていてわかります」
ハルヒ「鶴ちゃんのが分かって、なんであたしのが分からないのよ!」
古泉「抽象的にすれば、納得するのではないでしょうか?
『未知を発見、探求しつづける』とね」
キョン「ああ、そういうことか」
ハルヒ「具体的に言ってあげたのに、抽象的なほうがいいなんて会社で出世できないわよ」
キョン「何で出世が出てくるんだ……」
キョン「まあ、人生の目標みたいなもんか、それならあるぞ」
ハルヒ「へぇ……キョンがねぇ」
キョン「命が脅かされない生活」
ハルヒ「はぁ? 交通事故にでもビビってるの?」
キョン「まあ、そんなところだ」
>キョンから話を聴いた限り、キョンがそう思っても仕方ない……。
鶴屋「番長くんはそういうのってあるのかなっ?」
>信念かどうかは分からないが、ひとつ心に決めていることがある。
>『真実を追い、真実を見つめ続けること』
キョン「信念っぽいな」
ハルヒ「真実ねぇ……」
>もちろん、すべての真実がいいことではない。
>当然不都合な真実もあるだろう。
>だけど、たとえそうであっても。真実から目を逸らすことはしたくないと思っている。
ハルヒ「不都合な真実?」
>ああ。たとえ信じたくないことが目の前に突き付けられて、
それが真実だったとしても受け止めることができるような人間になりたい。
>まだ、それほどできた人間ではないからな。
みくる「考え方が大人ですねぇ……」
>いろんな人とふれ合って、いろんな人の考え方を知った。
>いろいろな場所で喜びも、苦悩も、悲しみも、嬉しさも――その人たちと多くを共有した。
>その中で見つけた、自分自身のひとつの答えがこれだ。
大分放置していましたがつづき
>>441
ハルヒ「番長くんがその考えに至るようになったのって」
>もちろん、周りのみんながいたからだな。
キョン「いい友達をもってるな」
>友達、そして掛け替えのない大切な仲間だ。
キョン「臆面もなく仲間と言い切るか」
>事実だからな。
古泉「本当に良いご友人をお持ちのようだ」
みくる「仲間、ですかぁ」
ハルヒ「なーにいってるのよっ!
あたしたちSOS団だって番長くんの友達に負けないくらいの仲間でしょっ!」
ハルヒ「もちろん、鶴ちゃんも番長くんも含めてねっ!」
鶴屋「にゃはははっ、そうだねぇっ!」
>そうだな。
ハルヒ「有希だってそう思うでしょ?」
長門「そう思う」
ハルヒ「ねっ! 有希が太鼓判推すんだから間違いないわよ」
キョン「どうして長門基準なんだ」
ハルヒ「だって有希が間違ったことなんてないじゃない」
キョン「確かにそうだが――」
>キョンとハルヒは楽しそうに雑談を始めてしまった。
>仲がいいことはいいことだが、いいのか?
キョン「仲がいいってな」
ハルヒ「いいって何が?」
>時間だ。
ハルヒ「時間って……ああっ! もうこんな時間!?」
キョン「うおっ、昼休み終わっちまう」
古泉「もう少しで予鈴がなりますね」
ハルヒ「話に夢中になってたからまだ全然食べ終わってないわ」
鶴屋「あたしはもう終わってるにょろよ?」
古泉「右に同じくですね」
長門「……」
>有希もおわっているようだ。
鶴屋「みくるはーっ?」
みくる「あたしですか? あたしはもともと量が少ないですから」
キョン「朝比奈さんも終わっているのか……」
鶴屋「あははっ、えらいえらいっ!」
キョン「番長は、話してたからまだ食い終わってないよな?」
>今終わった。
キョン「……どんな魔法使いやがった。
さっきまでほぼ手を付けていなかったじゃねぇか!」
>雨の日限定スペシャル肉丼を食べきった自分にこの程度はわけない。
キョン「何を言ってるかさっぱりわからん!」
キーンコーンカーンコーン――……
>……予鈴だ。
古泉「では、僕は先に失礼しますよ」
長門「……」
鶴屋「ハルにゃん、じゃあねぇっ!」
みくる「あ、じゃあまた」
>それぞれが席を立ち部室をでていく。
キョン「く、このままじゃ昼飯抜きだ」
ハルヒ「ごひほーはま!」
>パン、とハルヒが手を合わせた音が部室に響いた。
>ハルヒの弁当箱がいつの間にか空になっている。
キョン「なっ!?」
ハルヒ「さて、教室に戻るわね、番長くんかキョン鍵よろしくっ!」
キョン「ちょ、ちょっと、待てって!」
ハルヒ「何よ」
キョン「いつ喰いやがった!」
ハルヒ「アンタがぐだぐだ話している間以外なにがあるの」
キョン「ぐ……!」
ハルヒ「んじゃ、あたしは戻るわ。
あ、今日の夜の打ち合わせするから放課後は部室集合だからね。
番長くん、みくるちゃんにいっておいてもらえるかしら」
>ああ、分かった。
ハルヒ「キョンは古泉くんに言っておくこと、いいわね?」
キョン「あ、ああ……」
ハルヒ「うん、よろしくっ」
>ハルヒは部室から出ていってしまった。
キョン「……」
>……。
キョン「なあ、俺はどうすればいい?」
>苦虫をつぶしたような顔でキョンがこちらを見つめている。
>そっとしておこう。
キョン「そっとするな!」
>昼休みが過ぎていく……。
…………
……
…
――2年某組、放課後。
鶴屋「やれやれっ、今日は1日中雨が降りっぱなしだったねっ」
みくる「ですねぇ」
>どうやら朝まで降るらしい。
鶴屋「あちゃあ。すぐ止むなら番長くんとみくると
ちょろっと時間潰してから帰ろうかとも思ったんだけどねっ。
それなら今すぐに帰った方がいいみたいだっ」
鶴屋「みくるたちも一緒に……って、そういえばこの後SOS団のミーティングなんだっけ」
みくる「ごめんなさい、鶴屋さん……」
鶴屋「あははっ、いいっていいって! 一緒に帰らないと死んじゃうわけじゃないしさっ!」
鶴屋「一緒に帰るのは明日でも明後日でもいいっさ!」
>鶴屋さんは鞄を担ぐと教室の入り口へ駆けていった。
鶴屋「んじゃねっ、みくる、番長くん! また明日っ!」
みくる「はぁい」
>ああ、また。
>……鶴屋さんは帰っていったようだ。
みくる「じゃあ、あたしたちも行きますか?」
>そうしよう。
…………
……
…
――SOS団部室。
ガチャ。
ハルヒ「来たわね、2年生コンビ」
キョン「先輩に対してその適当な括りはどうなんだ……」
古泉「どうも。昼休みぶりですね」
みくる「こんにちはぁ」
>キョンは昼食どうしたんだ?
キョン「さっき部室で喰った。午後の授業を飯抜きはきつすぎた。
こんなにうまいと思ったお袋の弁当も初めてだったよ」
>ということは少し待たせてしまったのか。すまない。
ハルヒ「キョンのお腹の具合なんてどうでもいいわっ! 早く座ってちょうだい。
今夜の流れを確認するわよ!」
みくる「す、涼宮さん楽しそうですねぇ」
ハルヒ「当り前よ! 待ちに待ったマヨナカテレビを試せるんだからね」
キョン「……何も映らないと思うがな」
ハルヒ「なんでよ?」
キョン「むしろどうして映ると思うんだ」
ハルヒ「番長くんのトコで映ってここで映らない道理も根拠も理由もないわ」
>霧が出なければ映らないのだが、あまり気にしていないようだ……。
キョン「はあ、止めても無駄だろうしな。
それなら侵入したときに誰にも見つからないように精々祈ることにするさ」
ハルヒ「じゃあ、まずは集合時間の確認ね。夜の11時に校門の前に集合!」
キョン「1時間も前に集まるのか」
ハルヒ「せっかくだし、夜の校舎探検するのもいいじゃない。
学校の怪談の一つや二つ見つかるかもしれないし」
キョン「見つからないから怪談話なんだと思うがな」
ハルヒ「なによそれ、見つけてあげなきゃ怪談話もかわいそうじゃない」
キョン「怪談にかわいそうもなにもあるか」
ハルヒ「大体ね、見つけようって気概がなければ見つかるものも見つからないのよ」
キョン「あのなぁ」
>怪談話でキョンとハルヒが盛り上がっている。
みくる「あ、あのぉ」
古泉「よろしいのですか? 話がずいぶん脱線しているようなのですが」
ハルヒ「あ、ええ……そうだったわ。怪談話は今はどうでもいいのよ」
キョン「ああ、すまんな」
古泉「発言したついでにひとつよろしいでしょうか」
ハルヒ「なにかしら」
古泉「夜の11時集合ということは、10時台に皆さん家を出ることになるかと思います」
ハルヒ「ええ、そうなるわね」
古泉「そうしますと、僕は構わないのですが、皆さんは親御さんに気づかれてしまうのではないかと。
10時台ではさすがにまだ起きていらっしゃるでしょうし」
ハルヒ「むう……それもそうね」
古泉「さすがに高校生がその時間に抜け出せば、心配しない親御さんはいないでしょう。
特にSOS団のみなさんは非行や夜遊びとは縁遠いですから」
キョン「たしかに11時前に抜けたらお袋に気づかれるかもしれん」
ハルヒ「てことは11時半くらいが妥当かしら」
古泉「そうですね、11時30分から11時45分くらいの幅を持たせてはいかがでしょう」
ハルヒ「幅?」
古泉「ええ、今回ばかりは親御さんの行動に寄りますからね。
ぴったりに行動することは難しいかもしれません」
ハルヒ「なるほどねぇ。
うん、わかったわ。そうしましょ」
古泉「といっても僕は問題ありませんし」
長門「わたしはいつでも構わない」
ハルヒ「有希は一人暮らしだったから問題ないわね」
長門「そう」
ハルヒ「でも一人で出歩かせるのは心配だわ。
古泉くん、有希を迎えに行ってもらっていいかしら?」
古泉「仰せのままに」
>自分も特に問題はない。
ハルヒ「てことは、みくるちゃんとキョンね」
みくる「あ、あたしは。た、たぶん大丈夫です」
ハルヒ「そ。じゃあ、みくるちゃんは番長くんに迎えに行ってもらおうかしら」
>ああ。
キョン「ハルヒも親御さん心配するだろ」
ハルヒ「そんなの団長として何とかしてみせるわよ」
ハルヒ「だから実質問題があるのはキョンだけね」
ハルヒ「キョンのための変更なんだからね!
ご両親にみつかって心配かけるようなことは絶対にしないこと!」
キョン「へーへー」
ハルヒ「よし、とりあえずの問題はクリアね」
ハルヒ「次に侵入のための事前準備だけど、覚えてる?」
みくる「ええっと、たしか事務員さんの見回りの時間に一人が忘れ物をしたっていって校舎に入る。
そのときに事務員さんはへんな事をしないか見るために付いてくるでしょうから、
その間にもう一人が鍵を開ける、ですよね?」
ハルヒ「みくるちゃん、よく覚えていたわ。
その作戦はあたしとキョンでやるわ。キョンは解散後残っていてちょうだい」
ハルヒ「キョンが事務員さんに忘れ物をしたといって誘導する係。
その間にあたしが鍵を開けておく」
キョン「なんで俺だ」
ハルヒ「いかにも学校に忘れ物しそうな顔してるじゃない」
キョン「どんな顔だ……」
ハルヒ「というか、これに関してはキョンが一番適任なの」
キョン「は?」
ハルヒ「いい? ざっとここにいるメンバーの顔を見渡してみなさい。
忘れ物しそうなメンバーいると思う?」
キョン「忘れ物くらい人なら誰でもすると思うがね。
それに……」
ハルヒ「ぐだぐだうっさい!」
キョン「はあ、わかったよ。でもなんで2人なんだ。
鍵開けなんて全員で周りに誰もいないか確認したほうが安全だと思うが」
古泉「それは違います。潜入ミッションの基本ですよ。
人数が多ければ多いほど見つかりやすくなってしまいますからね。
極力人数を少なくすることが鉄則です」
ハルヒ「古泉くんのいう通りよ。この鍵開けは、一番重要なポイントなんだからね。
この任務はあたしが団長として確実に遂行するから。だからみんなは今日は先に帰っていていいわ」
>ああ、わかった。
ハルヒ「最後にもってくるものを確認するわね」
みくる「もちものがあるんですか?」
ハルヒ「なにいってるの、当然持ってこなきゃいけないものがあるでしょう?」
みくる「あ、はい! わかりました。スリッパですね。足汚れちゃいますし危ないですし」
ハルヒ「そんなことどうでもいいのよ、みくるちゃん。上履き取りに行けばいいだけじゃない」
みくる「ご、ごめんなさぁい……」
キョン「俺も持ち物が必要なんて初耳だぞ」
ハルヒ「あのねぇ、どこに侵入しようとしてるか分かる?」
キョン「学校だろ?」
ハルヒ「ちっがう! 『雨が降っている』『夜の』学校よ!」
キョン「それの何が違うんだ」
ハルヒ「全く違うわよ!
はい、番長くんは何が必要か分かっているわよね?」
>ハルヒは自分を試しているようだ。
>だが、これくらいならすぐ分かる。
>それはもちろん、懐中電灯とビニール袋だ。
ハルヒ「さすが番長くん、正解よ!」
キョン「ビニール袋?」
ハルヒ「キョンは自分の靴を雨ざらしにしたいわけ?」
キョン「あっ……」
ハルヒ「それに靴に付いた雨水を廊下にたらしたらいい証拠だわ。
華麗なスパイは現場に余計な証拠は残さないのよ」
>やはりハルヒの気分はスパイらしい。
キョン「それになんで懐中電灯が必要なんだ。電気をつければいいだろう」
ハルヒ「本当に分からないわけ? 古泉くん説明してあげて」
キョン「古泉は分かっていて当然とでもいうつもりか」
古泉「簡単なことですよ。外から見て深夜に学校の電気がついていたらどう思われますか?」
キョン「そりゃあ……ああ、そういうことか」
みくる「あ、なるほどぉ」
ハルヒ「ここまで言わないと分からないなんて。
とにかく、深夜の学校に電気が灯っていたら不審なこと極まりないわけ」
キョン「しかしビニール袋はともかく懐中電灯なんて家にあったかね……」
ハルヒ「一般的な家庭ならあるはずよ。災害用なんかも含めて用意してることあるでしょうし」
ハルヒ「あ、でも有希は一人暮らしだから――」
>有希は懐中電灯を持っているか?
長門「ない」
ハルヒ「うーん、困ったわね。でもまあ人数分はなくてもいいかしら」
古泉「よろしければ僕が人数分ご用意しますよ。
今晩1度使う程度の簡素なモノでしたらすぐにそろえられると思いますし」
ハルヒ「ホント! ありがと、助かるわ。じゃあお願いね」
古泉「ええ」
ハルヒ「さあ、これで問題のすべてはクリアされたわ!」
キョン「ええと、集合は11時半から45分までに校門前、持ち物は古泉は懐中電灯を」
古泉「ついでですから、ビニール袋もご用意しますよ」
キョン「……そんで俺らは待機後に、事前準備と」
ハルヒ「ん! いいわね。何か質問あるかしら?」
古泉「いえ、特には」
みくる「大丈夫、かな?」
ハルヒ「それじゃあ、いったん解散! また夜に会いましょ」
>ハルヒの号令と同時に有希が本を閉じ、各々が身支度を整えはじめる。
ハルヒ「それじゃあ、行くわよキョン! ちゃんと下見しなくちゃ作戦はうまく行かないわ!
あ、部室の鍵はあたしが閉めておくからそのままにしておいて」
みくる「はぁい」
キョン「てことだ、先に帰っていてくれ」
古泉「そうさせていただきます」
ハルヒ「行くわよキョン!」
>ハルヒとキョンは部室から出て行ってしまった。
古泉「では、僕らは帰るとしましょう」
>先ほどハルヒに言われたことだが。
古泉「迎えの件ですか?
朝比奈さんはともかく長門さんには必要ないでしょうけどね」
みくる「あ、あの、よろしくお願いしますっ」
>みくるがぺこりとお辞儀をしている。
>そのことだが、どうせ一緒に行くなら
>自分の部屋で時間を潰してからそのまま一緒にいかないか?
古泉「確かに僕らとしては、そのほうがすこぶる楽ですが」
長門「わたしは構わない」
みくる「あ、あたしは……その。夜遅くなるみたいだから、
その前にお風呂とかはいりたいですし……」
>そうか。ならば時間前に迎えに行こう。
みくる「う、ううん! 一度帰ってお風呂に入ってから番長くんのマンションにいきます!
すぐ帰ってお風呂に入れば、夕方くらいにはそっちにいけるから大丈夫」
古泉「では、これからないし夕方ごろに番長氏の部屋へ一度集まってから
4人で行くということでよろしいですか?」
みくる「は、はい!」
長門「分かった」
古泉「ありがとうございます。
それでは帰りましょう、僕も懐中電灯を用意しなければならないのでね」
>部室を後にし、帰路へ付いた。
>マヨナカテレビには何かが映るのだろうか。
…………
……
…
――夕方、自室。
>一樹と有希が自室に着ている。
古泉「連日お邪魔してしまっていますね」
長門「迷惑?」
>楽しいから問題ない。
長門「そう」
古泉「雨はやはり、止みそうにないですね」
>窓の外でしっとりと雨は降り続いている。
古泉「涼宮さんも今頃張り切っておられるでしょうし」
>キョンとハルヒはまだ学校付近にいるのだろう。
古泉「何が映るのかわかりませんが、鬼でも蛇でもないことを祈るばかりです」
古泉「涼宮さんが多少疑念を持ったとしても、
番長氏の帰還につながる何かが映ってくれるのでしたら、ありがたいのですがね」
長門「わたしもそれを期待している」
古泉「おや、長門さんも同じことを考えていたのですか」
長門「現在、彼の世界とつながりを見出せる唯一のポイント」
古泉「そうですね」
>ハルヒへの言い訳が大変になるんじゃないか?
古泉「一応、布石は張ってきたのですよ」
>布石?
古泉「ええ。DVDプレイヤーとDVDを1枚、設置してきたんです。
もしなにか映ってもDVDプレイヤーの誤作動ということで誤魔化そうかと」
>……無理がないか?
古泉「ええ、そうでしょうね。僕自身も相当に無理があると思っています」
古泉「ですが、『DVDプレイヤーの誤作動で何か映像が映った』という話と『何かしらの異常現象が起こった』。
この二つを天秤にかけたときに、常識のある人でしたら前者で納得しようとするとは思いませんか?」
>そういわれれば、そうかもしれないが。
古泉「以前も言いましたが、幸いなことに涼宮さんはかなりの常識人です。
僕はかなりの確率で納得してくれると思っていますよ」
>ちなみに、DVDの中の映像は何なんだろうか?
古泉「以前とった映画の没映像ですね」
>それでは再生したらばれてしまうのではないか?
古泉「たしかに、そのままではそうです。
ですがそのDVDには少し仕掛けがしておりまして」
>仕掛け?
古泉「ふふ、読み込めないんです。ディスクの裏面にごくごく小さな傷をつけて読み込めないようにしておきました」
古泉「今回は意図的に確実に読み込みができないようにしましたが、DVDプレイヤーは不安定なもので、
同じDVDでも読み込めたり読み込めなかったりということがままあるのです」
古泉「その原因はさまざまですが、つまるところ、よくあることなのですよ」
古泉「ですから『たまたま誤作動して読み込んだ』で十分言い訳として通じると思います。
プレイヤーのほうが壊れている可能性があるともいえますしね」
古泉「おそらく彼もその場でフォローしてくださると思いますし」
>キョンか?
古泉「ええ。小言をいいながらも彼も毎度苦心してくださっていますよ」
>信頼しているんだな。
古泉「信頼、ですか。そうかもしれません」
>どうかしたのか?
古泉「いえ、少し思うことがあっただけです」
>思うところ?
古泉「……今から言うことは超能力者が妙なことを言っている、程度に流してくださって構いません。
本来なら僕は彼を信頼するのではなく、彼から信頼を得るべき立場の人間です」
古泉「それは、僕が機関という組織に属していることに関係があります。
彼は涼宮さんにもっとも近しい人間であると同時に、唯一涼宮さんを御することのできる人物でもあるためです」
>キョンがハルヒを御する……?
古泉「御するとは言い過ぎかもしれませんけどね。
傍目には涼宮さんが彼を振り回しているようにも見えますが、彼の進言にだけは涼宮さんも耳を傾けますから」
>そうか? 一樹たちの言葉にも耳を傾けていると思うが。
古泉「ふふ、それは基本的に僕たち――朝比奈さんや長門さんも含めて、自分の役割を全うしているだけであって
純粋に100%自らの意見を言っているわけでなく、涼宮さんの望むような進言をしているだけなのですよ」
古泉「もちろん、それぞれの性質はかなり異なりますがね。
朝比奈さんの場合は、素で涼宮さんの望むような愛らしいキャラクターなのでしょうし」
古泉「長門さんの場合は、そもそも涼宮さんに意見することはありません」
古泉「ですが、僕は基本的に涼宮さんのイエスマンなのですよ。僕が反論することは基本ありません。
ああ、もちろん嫌々やっているわけではないのでご安心を」
古泉「ただ、映画撮影時に朝比奈さんを池に落したシーンですとか、お酒で酔わせたりですとか――」
古泉「思うところがないわけではないですが、口に出すことは許されません」
古泉「極端なことを言ってしまえば、僕が涼宮さんに反論するSOS団はSOS団ではないのですよ」
古泉「最近は、番長氏のおっしゃるように涼宮さんも僕たちの意見を聞き入れてくださいます。
それでもやはり涼宮さんへ率直に意見をぶつけることができるのは彼しかいません」
古泉「そこで話は最初に戻るのですが、僕が機関という組織に属し、この世界の安定と秩序を願っている。
そのためには、涼宮さんを御することのできる彼からの信頼を得ることが必須事項ともいえます」
古泉「このような内心を彼が知ったら、幻滅するでしょう」
古泉「しかしそんな僕が、彼を信頼している……不思議なものだなと、思ったのです。
目的を第一に考えるのでしたら彼に信頼を置く必要はないのですから。
反対に信頼を置くことで判断力が鈍ることもありえるかもしれないというのに」
>一樹は、如才なく笑っているがどこか遠いところをみている。
古泉「困ったものです」
古泉「おっと、すみません。冷たい人間に聞こえましたかもしれないですね」
>そんなことはないさ。
>ただひとついえることは、一樹もハルヒと同じように変わってきているのだろうな。
古泉「僕が変わってきている、ですか。
確かに自分の心境の変化を感じることはありますが……なるほど」
>一樹は他人のことになると鋭いが、自分のこととなると疎いのかもしれないな。
古泉「ふふ、それはそれは。これも、新たな発見ですね」
>一樹の笑みはいつものものに戻っている。
>古泉「おっと、すみません。冷たい人間に聞こえましたかもしれないですね」
聞こえたかもしれないですね、ということで
古泉「……番長氏の話を聞いて思ったことがあります」
古泉「"両方とも本当の自分"。
僕にも当てはまると思いましてね」
>りせのことか。
古泉「ええ。自分のことに気づくということは非常に難しいものです」
古泉「しかし、それに気づくことができた。
確かに僕自身も成長してるのかもしれません」
>一樹はどこかすがすがしい笑顔をしている。
ピンポーン……
>チャイムだ。おそらくみくるだろう。
みくる「こんばんはぁ」
>別れたときと同じようにみくるは制服を着てきていた。
>みくるは傘とかばん以外に脹れたビニール袋を持っている。
みくる「ふぅ、お買い物をしていたら遅くなっちゃいました」
>みくるにタオルを渡しながらビニール袋を受け取る。
>これは?
みくる「今日のお夕飯のお買い物をしてきちゃいました」
みくる「あっ、もしかしてもうお買い物してきちゃいましたか?」
>いや、まだだ。
みくる「うふ、よかったです」
古泉「そういえば、ここに直行したので夕餉がまだでしたね」
>そうだったな。
古泉「お声をかけていただければ、ご一緒したのですが」
みくる「ううん、行きがけに寄っただけだから」
>わざわざすまない。なら、作るとしようか。
みくる「あ、今日は番長くんはくつろいで待っていてね」
>どういうことだ?
みくる「いつも作ってもらってばかりですから。
お礼というわけじゃないけど、今日はあたしが作ります」
>みくるに背中を押されキッチンから追い出されてしまった。
長門「手伝う」
古泉「おやおや。女性陣による手料理ですか」
みくる「ふふ、そんな大層なものじゃないですよ」
>みくるは、かばんからエプロンを取り出し身に着けた。
みくる「準備は、よしっ!」
古泉「彼にこのことを話したら、ものすごく詰め寄られそうですね」
>ああ。
長門「……」
>有希がみくるを見つめている。
長門「……」
>有希は続いてこちらに視線を投げかけた。
>エプロンがほしいのだろうか。
古泉「エプロン、ですか……さすがに用意していませんね」
>そういえば、ハルヒから借りたエプロンを洗って返そうと、もって帰ってきていたはずだ。
>それでよければ、つかうか?
長門「つかう」
>有希にエプロンを渡した。
長門「……」
>若干有希にはサイズが合っていないがしかたない。
古泉「ふふ、かわいらしいではないですか。
これもまた彼にはいえないですね」
>一樹はどこかうれしそうだ。
みくる「ふふっ、かわいいですよ。長門さん」
長門「そう」
みくる「それじゃ、はじめましょう。
えっと、長門さんは……」
>みくると有希は調理を始めたようだ。
古泉「何ができるか楽しみですね」
>たしかに、自分のために作ってもらうのはこちらに来てはじめてかもしれない。
古泉「申し訳ありません。僕は自炊しないものですから」
>一樹には十分すぎるほど助けられている。
>その上料理まで作らせることなんてできない。
古泉「僕からすれば、番長氏がしていただいたことを考慮すると
まだまだ恩を返しきれていないのですがね」
>……? なにかしたか?
古泉「事故とはいえこちらに来てくださったこと、テレビの中で助けてくださったこと、
涼宮さんへの対応を配慮してくださったこと、料理をふるまってくださっていること。
……細かいことまで数えだしたらキリがありません」
>どれも些細なことばかりだ。
みくる「番長くんにとっては些細なことでも、みんなにとっては重要なんですよ」
>みくるがキッチンから顔を出す。
古泉「そのとおりです。
番長氏を除いたこの3名で同じ空間を介することなども職務を除いては実現しなかったでしょう。
番長氏は、僕らにここ数日で多くのよい変化をもたらしてくださっています」
長門「これでいい?」
みくる「あ、はぁい。ありがとうございます、長門さん」
長門「次は?」
みくる「次はですねぇ……」
>みくるは料理にもどったようだ。
古泉「特に長門さんの変化は驚異的といってもいい。
エプロンをして料理をする長門さんなんて、数日前までは想像しえなかったです」
古泉「長門さん自身がどう思っているかは不明ですが、僕は好ましい変化だと思っていますよ」
>好ましい変化か……。
古泉「おそらく、彼もそういうでしょうね、ふふ」
>彼……キョンか。
古泉「ええ。長門さんの機微を感じ取ることにおいては彼が一番長けていますね」
古泉「伊達に涼宮さんに選ばれたわけではないということです」
>キョンがハルヒに選ばれた?
古泉「番長氏も疑問に思いませんでしたか?
なぜこれほどまでに特異が集まっている集団でただ一人、一般人である彼がいるのかと」
>キョンがハルヒの理解者だからではないのか?
古泉「ええ、それももちろんあるでしょう。
ですが、それだけですと辻褄が合わないことがあるのです」
古泉「先日ご覧になった映画。あのときの撮影時に彼と涼宮さんは喧嘩をしているのです」
>喧嘩?
古泉「ええ、些細な喧嘩です。しかし、もし理解者であるという一点のみで彼が選ばれたのであれば、
あのときに彼は涼宮さんに切り捨てられていたでしょうね」
>つまり偶然キョンが選ばれたというわけではないのか?
古泉「もちろん、その可能性も大いにあります。
偶然で済ませてもいいのですが、僕なりに理由を考えてみたのです」
>理由?
古泉「最初は、彼が涼宮さんに積極的に話しかけたからだと思っていましたが、
それであるならば、中学のときの同級生と同様でしょう。
いえ、むしろ同級生のほうが接触が早い分、彼のほうが不利といえる」
古泉「涼宮さんのあの容姿ですからね。
ずいぶん好意を寄せる男性は多かったようですよ」
>確かにハルヒはモテそうだ。
古泉「しかし数多の男性を押し退け、涼宮さんのそばにいるのは彼なのです。
それでは、彼のなにが涼宮さんを惹きつけたのか」
古泉「彼は朝比奈さんと時間遡行をした際に、3年前の涼宮さんと接触している。
詳しいことは教えてくださりませんでしたが、なにか重要なことをしてきたらしいのです」
古泉「ですから、その彼に会いたいと願った涼宮さんが無意識のうちに彼を呼び寄せた」
>ふむ。
古泉「……としてしまうと、おかしなことになってしまうのです」
>おかしなこと?
古泉「そもそも彼が時間遡行をしたのは、涼宮さんと関わりを持ったからです。
涼宮さんと関わりをもち、朝比奈さんと接触をしたからこそ起こった出来事なのです」
古泉「つまり彼が3年前に接触したことで、涼宮さんが今の彼に興味を持ったために起こった出来事と言い換えることができます」
>……? 待ってくれ、一樹。
古泉「はい」
>そうなると、ことの始まりはいつになるんだ?
>キョンが興味をもたれるには、入学式時のキョンよりも、未来のキョンが3年前に行かなければならない。
>その未来のキョンも、さらに未来のキョンが3年前に行っていなければハルヒから興味がもたれないことになるから3年前へいく。
>そしてそのさらに未来のキョンも3年前へ……といった具合に無限に続いていくことになってしまう。
古泉「そう。この理屈では、最初が存在しなくなってしまう。
一番初めの、原初的な『涼宮さんが彼に興味をもった』という最も重要な始点がなくなってしまうのですよ。
メビウスの輪の中に囚われているようなものです」
>……! なるほどな。
古泉「そこで、僕はこう考えているのです。
3年前の接触はきっかけ程度に過ぎず、彼は涼宮さんにとっての"基準"であるから選ばれたのだと」
>なんの基準だろうか。
古泉「"普通である"ということの、ですよ」
>ハルヒは普通であることを嫌っているのではないのか?
古泉「ええ、そうですね。
ですが、考えてみてください。なにをもって"普通である"と我々は断じているのか。
"普通である"というものは非常に曖昧なものです」
>普通が曖昧?
古泉「たとえば、僕のような超能力者も機関という組織内部では、僕は普通の存在でしょうし」
古泉「未来へいけば、朝比奈さんは普通の存在であり」
古泉「そして情報統合思念体にとっては、長門さんのようなTFEI端末は普通の存在です」
古泉「番長氏が、番長氏の世界では普通の学生であるように、ね」
>確かにそういえるかもしれない……。
古泉「"普通"というものは立場や環境によってすぐに変わってしまう」
古泉「もし涼宮さんが世界を作り変え、超能力者、未来人、宇宙人が跋扈する世界になったのなら
僕たちのような存在は特異ではなく、普遍へと塗り替えられるようにね」
古泉「つまり、超能力者や未来人や宇宙人を涼宮さんが『特別なことである』と認識するためには
なにかしらの"基準"が必要になってくるのです」
古泉「それは、涼宮さんが抱くこの世界への認識そのものであったり、常識と呼ばれるものであったり、涼宮さんの価値観であったり。
基準となるものは様々なものがあげられます」
古泉「ですが、それらは涼宮さんの主観であり、非常に曖昧なものです」
古泉「ですから涼宮さんは、自身ではない外部に。
涼宮さん自身の価値観や考え方に非常に近しいものを持ち、客観的に今の僕たちのような存在を"普通ではない"と判断できるモノを欲した」
>それがキョンというわけか。
古泉「ええ。僕はそう思っています。
彼は涼宮さんにとってのモノサシであり、この世界の普遍を象徴するものであり、僕たちのような存在を特異たらしめる"基準"なのです。
極論を言ってしまえば、価値観や考え方だけを照らし合わせた場合、彼はもう一人の涼宮さんと言っても差し支えないかもしれません」
古泉「彼が変だと思うことは涼宮さんも変だと思うし、特別だと思うことは涼宮さんも特別だと思うのではないでしょうか」
古泉「彼が普通であるということは、僕たちが特異な属性を持ち合わせていること以上に重要なことなのです」
古泉「……もちろん、涼宮さんが何を思って彼がご自身と同様の価値観を持っていると判断したのかはわかりませんし、
そのようなことをおっしゃったことは一度もないので、すべては僕の想像ですけどね」
>一樹は肩をすくめている。
古泉「ただ今僕の言ったことが的外れだったとしても、ひとつだけ確信的に言えることがあります」
古泉「もし涼宮さんの手によって世界が創りかえられても、彼だけは何の変化もしないでしょう」
全部適当なこといってる
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
連投した、すまん
古泉「いえ、その話題はSOS団の暗黙の了解的にださなかったのです」
古泉「最初に彼が涼宮さんに惹かれたのか、または涼宮さんが彼に惹かれたのか」
古泉「ただ、どちらにしても涼宮さんが
彼のどこに惹かれたのかは気になるところではありますけどね」
古泉「最初から彼と価値観が近しいということはわかるはずもないでしょうし、
彼自身の容姿もこの世界の一般論と照らし合わせてみても、特段に劣っているわけではない反面、
同様に特段に優れているというわけでもありません」
古泉「もちろん彼の容姿が涼宮さんの好みにかなり合致していたということかもしれませんが」
古泉「ですが、彼は不思議な魅力をおもちであることは確かですね、ふふ」
>ふたりは付き合っていないのか?
古泉「さあ、わかりません。僕らの認識では、まだ付き合ってはいません。
僕らの与り知らぬところで愛をはぐくんでいるのかもしれませんし、
お互い暗黙の了解的に付き合っている認識を持っているかもしれません」
古泉「ただ、彼はともかく涼宮さんが付き合っていることを僕らに隠すとは思えませんけどね」
>一樹は楽しそうだ。
>……キッチンからいい匂いが漂ってきた。
>この匂いは。
みくる「はぁい、難しいお話は終わりましたか?」
古泉「ああ、いえ。ただの他愛無い雑談ですよ」
みくる「そうですか? じゃあ、できたので盛り付けますね」
>時間をみるとずいぶんと時間が経っていたようだ。
みくる「はい、おまたせしましたぁ」
>コトリ、と目の前に料理が盛られた皿が置かれる。
古泉「いい匂いですね」
>みくると有希が作ってくれたものは……なんとカレーだ。
>ふと、物体Xが脳裏によぎり、口にあの奇妙な毒々しい食感が蘇る……。
みくる「市販のカレールウからじゃなくて、一応カレー粉から作ったんですけど」
みくる「お口に合わなかったらごめんなさい」
長門「……」
>みくると有希はエプロンを畳みながら席に着いた。
>今は物体Xのことは忘れよう。
古泉「非常においしそうです。チキンカレーですか?」
みくる「ええ。ですけどトマトとかナスとかズッキーニとか。あとはアスパラをソテーして入れてみたり。
ちょっとお野菜を多めにしてみました、ふふ」
>みくるは口に合うかわからないと謙遜していたが自信があるようだ。
古泉「それは楽しみですね。ではせっかく作ってくださったのです。
冷めないうちにいただきましょう」
みくる「はい、どうぞ」
>確かに見た目はものすごくおいしそうだ。
みくる「……」
長門「……」
>みくると有希が期待した眼でこちらを見ている。
>心臓が早く脈打っているのがわかる。
>スプーンで掬い、口の中へいれた。
>……!
長門「どう?」
>これは……はじけるうまさだ!
>たっぷりとした野菜から出るうまみがカレーに染み出している!
ソテーされた野菜も香ばしい!
>スパイシーな香り! 口のなかで広がるうまさ! そうだ! これがカレーだ!
>喜びが胸の奥底からあふれ出てくる!
みくる「ほ、よかったぁ」
長門「そう」
>みくると有希は安心したようだ。
みくる「古泉くんは、どうかな?」
古泉「非常に美味ですよ。お2人が手ずから作ってくださったのですからまずいはずがありません」
みくる「うふ、ありがとう」
古泉「番長氏は相当感激なさっているようですね」
>スプーンを進める手が止まらない!
みくる「ふふ、そこまでおいしそうに食べてもらえると作った甲斐もありますね。
ね。長門さん」
長門「わたしも、うれしく思う」
エラーはきまくった結果、悲しい
みくる「そういえば、なんのお話をしていたんですか?」
古泉「たいした話ではありません。彼についてすこしお話していただけですよ」
みくる「キョンくん?」
古泉「ええ。特異でない彼の重要性についてね」
みくる「あ、なるほどぉ」
>みくるもなにかキョンについて思うことがあるようだ。
みくる「ふふ、特に思うことがあるとか、そういうことじゃないんですよ」
>どういうことだ?
みくる「涼宮さんって、全部の部活に入ったり、SOS団を作ったり。
行動から考えてみると、基本的に誰かと一緒にいることは嫌いじゃないんだと思うんです」
みくる「だけど、一緒にいて楽しいと感じる人は少なかったんじゃないかな」
みくる「ただ、その中でキョンくんは……」
>ハルヒが楽しいと感じた人物だということか?
みくる「うん。あたしはそう思ってます。一緒にいて楽しい人。
あとは、いつも涼宮さんがいつも言ってる、超能力者とか未来人とか宇宙人とか。
その涼宮さんが望んでいるものに出会ったときに、一緒に喜びを分かちあえる人」
みくる「そういう風に考えているんじゃないかなって」
古泉「ふむ」
みくる「でも誰かと一緒にいたいって思うのは、理屈じゃないと思いますよ、ふふ」
古泉「誰かと一緒にいたいのは、理屈じゃない……
そのとおりですね。なにかと理屈付けて考えてしまうのは僕の悪癖です」
古泉「僕も番長氏と、一緒にいたいと思うこともあります。
それも理屈じゃないですから」
>一樹、誤解を招くような発言は慎んだほうがいいぞ。
古泉「おやおや、純粋な友情ですよ?」
>わかってやっているだろう。
古泉「ふふ、どうでしょうね。ですが、たった今」
古泉「この空間を共有していることは、かけがえのない楽しい時間だと断言しますよ」
>一樹はうれしそうだ。
みくる「うふ、じゃああたしが番長くんと一緒にいたいと思うのも理屈じゃないですね」
長門「わたしも」
>みくるに有希まで……。
長門「あなたは、わたしたちと一緒にいて楽しくない?」
古泉「おや」
みくる「ふふ」
>みくると一樹はいたずらっぽく笑っている。
長門「……」
>有希がまっすぐにこちらを見つめている。
>もちろん、楽しいに決まっているだろう?
長門「そう」
長門「よかった」
みくる「あ、長門さんおかわりどうですか?」
長門「お願いする」
>皿のカレーはきれいになくなった。
みくる「あ、番長くんもどうですか?」
>ぜひもらおう。
みくる「ふふ、気に入ってもらえたみたいでよかったです」
古泉「僕もいただいていいですか?」
みくる「はぁい」
>みんなで楽しく食事をした。
>また少し、絆が深まった。
>あめはしとしとと降り続いている。
>あとは、時間が来るのを待つだけだ……。
………
……
…
――深夜、校門前。
>時刻は11時20分だ。
>雨はまだ降り続いている。
>まだ、ハルヒとキョンはきていない。
古泉「まだ少し時間に余裕がありますからね」
みくる「どこか雨宿りできるところがあればいいんですけど……」
>残念ながら、坂道が続いているだけで雨宿りができるようなところはない。
古泉「幸い、というわけではないですが、豪雨でなくて助かりましたね」
みくる「そうですねぇ。スカートとかびしょびしょになったら明日困っちゃいますし」
>しかし深夜の学校の前に制服を着た生徒がこれだけいるとなかなか異様だ。
長門「……」
古泉「ふふ、こういうイベントごとは制服と相場が決まっているのですよ」
みくる「き、決まっているんですか?」
古泉「雰囲気の問題です。涼宮さんもきっと制服でいらっしゃると思いますよ」
>遠くから誰かが歩いてくるのが見える……。
キョン「よお」
みくる「こんばんはぁ」
キョン「朝比奈さん、こんばんは」
古泉「おや、お早いお付きですね」
キョン「ああ、家族が思ったより早く寝たんでね。
案外簡単に抜け出せたんだ」
>キョンも制服に身を包んでいる。
キョン「ん? ああ。ハルヒが制服でこいって言ったからな」
キョン「そういやハルヒのやつまだ着てないのか」
>ああ、キョンのほうが早い。
キョン「今何時だ? 11時27分か。
珍しいな。こういうときは、いの一番にいるんだが」
古泉「そうですね。僕らも5分ほど前にきたのですが、まだいらっしゃいませんでしたし」
キョン「ま、いいさ。おかげで罰金なんてもんを吹っかけられなくてすみそうだからな」
>そういえば鍵は無事開けられたのだろうか。
キョン「ああ。ハルヒが大成功と息巻いてたからな。
もう一度確認されて閉められていないのなら開いているだろうよ」
>そうか。よかった。
キョン「果たしてよかったのかね……」
キョン「しかし寒いぞ。冬場で雨で夜。これ以上ないくらい寒いシチュエーションだ」
キョン「朝比奈さん、寒くないですか? もし寒ければ上着をお貸ししますよ」
みくる「ううん、平気。ありがとね、キョンくん」
キョン「長門はどうだ?」
長門「平気」
キョン「なら、よかったよ」
>自分たちには聞いてくれないのか?
キョン「気色悪いことを言うな、番長」
キョン「……そういや、さっき古泉が『僕ら』といっていたが一緒にきたのか?」
古泉「ええ。番長氏のお宅で夕餉を共にしていたんですよ」
キョン「なるほどな。たしかに番長の飯は旨いから古泉は役得だろうよ」
古泉「ええ、まさしくそのとおりです。
機関に所属してから一番の役得といっていいかもしれません」
キョン「ちなみに。ちなみに訊くが朝比奈さんと長門は?」
みくる「あ、一緒にあたしたちもお夕飯でした」
長門「そう」
キョン「……」
>キョンがこちらを恨みがましい眼で見てくる……。
キョン「なぜその場に俺はいなかったんだ」
古泉「しかたありません。あなたはあなたのお役目をしていらしたのですから」
キョン「やれやれ……損な役回りだ」
キョン「しかし、番長も毎日飯作って大変だな」
>……。
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
キョン「おい、なんだ。この沈黙は」
古泉「実はですね……」
>キョンにみくると有希に作ってもらったことを伝えた。
キョン「長門、朝比奈さん、ちょっと待っていてもらっていいですか?」
みくる「え、は、はい」
長門「わかった」
キョン「お前ら、ちょっとこっちこい」
>すこしみくるたちと離れた。
キョン「なにを作ってもらったんだ」
古泉「カレーですね」
キョン「レトルトを暖めてもらったのか?」
>いや、カレー粉からつくっていたな。
キョン「……うまかったか?」
古泉「ええ。それはもう」
>かなりおいしかったと伝えた。
キョン「エプロンは」
古泉「していましたね」
キョン「……」
古泉「ついでに言うなら長門さんも」
キョン「……」
>キョン?
キョン「うおおおおおおおおっ!!」
キョン「どうして! 俺は! そこにいなかったんだッ!」
>キョンが地面にひざをついてくず折れている。
>濡れるぞ。
キョン「俺もまだ! 手料理なんて食べていないのに!
それどころかエプロン姿も見ていないのに!」
キョン「ましてや長門のエプロン姿なんてッ!」
>キョンは、地面を叩いて悔しがっている。
>そっとしておこう……。
古泉「……ですね」
キョン「そっとしておくな!」
……
…
>とりあえずキョンを起こしみくるたちのところへもどった。
みくる「だ、大丈夫?」
キョン「え、ええ。少し精神的なダメージを受けただけです」
古泉「そういえば、涼宮さん遅いですね。
もうそろそろ45分になりますが」
みくる「そうですねぇ……」
キョン「なにか事故にでもあってるんじゃないだろうな」
>いや、どうやら来たようだ。
ハルヒ「遅れてごめんごめんっ!」
古泉「いえ、時間ぴったりですよ」
キョン「時間ぎりぎりなんて珍しいな。どうしたんだ」
ハルヒ「ん? 出てくるときに明日の朝食の用意するのを忘れてたこと思い出してたのよ」
ハルヒ「それで準備をしてたらこんな時間になっちゃったってだけね」
キョン「ハルヒも大変だな」
ハルヒ「なにせこんな深夜にSOS団の活動をするなんて初めてだからねっ!
あたしもちょっと興奮してたのよ」
>ハルヒはうれしそうだ。
ハルヒ「さあ、いくわよ! 待ってなさい、マヨナカテレビ!」
>ハルヒの号令で、校舎へ侵入するべく動き出した。
………
……
>無事、校舎内に侵入できたようだ。
>灯りのない校舎はどこか不気味だ……。
ハルヒ「みんなちゃんと靴はビニール袋に入れた?」
みくる「はぁい」
キョン「ああ」
ハルヒ「古泉くん! 懐中電灯!」
古泉「こちらに」
>ハルヒが懐中電灯を灯す。
古泉「皆さんもどうぞ」
キョン「ありがとさん」
>各々が懐中電灯を灯していく。
みくる「よ、夜の学校ってなんだか別の場所みたいですねぇ……」
ハルヒ「それがいいんじゃない!」
キョン「なんか、そうだな。
なんて言ったらいいかわからんが懐中電灯の明かりだと余計に不気味に感じるな」
>わかる気がする。
キョン「だろ?」
古泉「できる限り足元を照らすことをオススメします。
足元はよく見ないと危険ですし、光が外から見つかりにくいですしね」
ハルヒ「さ、まずは上履きを取りにいきましょ」
>そういってハルヒは歩き出した。
>夜の学校に、自分たちの足音だけが響く。
ハルヒ「……」
>ハルヒは不思議そうな顔をしている。
どうしたのだろうか。
ハルヒ「あ、ううん。なんでもないの。
昔見た夢を思い出していただけだから」
>夢?
ハルヒ「ええ。いきなり学校に飛ばされた夢をみたことがあったの。
それでそのときの学校の雰囲気とこの夜の学校の雰囲気がちょっと似てるなって思っただけ」
キョン「……」
古泉「ふふ」
みくる「……」
長門「……」
>なにかワケありのようだ。
ハルヒ「ま、でも所詮夢は夢だからね。
あたしがほしいのは夢のような現実! さあ、上履き履いて視聴覚室に行きましょ!」
キョン「そういうこった。夢なんて気にしてもしょうがない」
ハルヒ「時間があれば、深夜の校舎の探索もしてみたいんだけどね」
キョン「やめておけ。12時までもう時間がないぞ」
ハルヒ「わかってるわよ。さっさと回収していきましょ。
深夜の不思議探索はまた今度にするわ」
キョン「また今度ってことは結局やるのか……」
ハルヒ「当然じゃない。こんなに不思議の匂いがぷんぷんするのにやらない理由はないわ」
キョン「やれやれ、それならせめて雨の降っていないときに頼むぜ」
ハルヒ「そうね、考えておくわ」
ハルヒ「うん。それもまた楽しみね!」
>ハルヒは深夜探索を決意したように言っている。
>1年生の上履きを回収し、2年の昇降口を回り視聴覚室へ向かった。
……
…
また夜に
――視聴覚室前。
ハルヒ「ついたわね。今何分かしら」
古泉「53分ですね。あと7分ほど余裕があるかと」
ハルヒ「まあ、よかったわ。
あまり時間が余っちゃうとだれるかもしれないし」
>ハルヒが合鍵を使い、視聴覚室の扉を開けた。
>やはりここも不気味なほど静かだ。
キョン「ま、そら深夜だからな。逆に騒がしかったらそれこそホラーだぜ」
ハルヒ「それはそれで面白いかもね。
でも、今騒がしくなってもマヨナカテレビ優先かしら」
>ハルヒはそうとうに楽しみのようだ。
――視聴覚室。
>懐中電灯の光がちらちらと視聴覚室内を動き回る。
ハルヒ「うーん、特に今は何も異常はないわね」
>ハルヒはなにかないか探し回っている。
キョン「落ち着いて待ってろ。あとどれくらいだ? 古泉」
古泉「あと、3分ほどですかね」
みくる「ど、ドキドキしてきました」
長門「……期待している」
ハルヒ「あら? 有希がそんなこというなんて珍しいわね」
長門「そう」
ハルヒ「でも、ま。そうね。そろそろテレビの前で待機しましょ」
>ハルヒがテレビの前へ移動した。
キョン「おい、古泉」
古泉「はい?」
>キョンと一樹はなにか顔を近づけて話をしている。
キョン「で、なにをしたんだ」
古泉「なに、とは」
キョン「どうせお前のことだ。なにか仕掛けてるんだろ?」
古泉「ふふ、察しがよろしいですね」
キョン「お前が何もしないはずないからな」
古泉「お褒めにいただき、光栄ですよ。
僕のしたことは、至極単純なことですよ。
DVDロムをセットしただけです。読み込みのできない、ね」
キョン「褒めてなんかない。だが、なるほどな」
>キョンは何か納得したように一樹から離れた。
ハルヒ「ほら、あんたらもこっち来なさい!
もうそろそろ時間でしょ!」
古泉「ええ、すみません。あと1分ですね」
>ぞろぞろと全員がテレビの前に集まった。
>誰に合わせるわけでもなく全員が押し黙る。
>全員が真っ暗な画面を見つめ、雨の音だけが響いている……。
>時計に眼を落とす。
>もう、時間だ。
>5、4、3、2――。
キュィィィン……ガガガガガ。
「「「!!」」」
>!! このラジオのチューンをあわせたときのようなノイズ音は……!
>砂嵐とともに何かの映像が画面へ映りこむ。
ハルヒ「う、映った! 映ったわよ!!」
>ハルヒは興奮気味に画面を指差している。
キョン「おいおい、マジかよ……」
古泉「ほう……」
みくる「え、まさか、え?」
長門「……」
>徐々に画面がクリアになっていく。
キョン「こ、これって」
>どうやら、子供――少女が一人こちらを見つめるように佇んでいる。
>……? みたことのあるような気がする……。
ハルヒ「え、あ、あたし? ど、どういうことなの?」
>今とは違うロングヘアーであるものの、トレードマークの黄色いカチューシャがはっきりと見て取れる。
>顔つきも幼いながらハルヒの面影を持ち合わせていた。
キョン「古泉!」
古泉「し、知りませんよ、僕は、こんなもの……!」
>一樹が激しくうろたえている。
???「こちらへ来なさい。あなたがほしかったもの、すべて教えてあげる」
>画面の中の少女がこちらに話しかけてきた……!
残りは終わりまで一気にいこうかと
終わり次第投下
一気に投下するつもりだったが存外長くなったので一度投げる
ハルヒ「これ、誰かのいたずら?」
キョン「そんなわけあるかっ!」
???「教えてあげる、この世の全てを。この世の真理を」
???「あなたの全てを」
ハルヒ「じゃあ、これなんなの? CG、じゃないわよね。誰のイタズラ?」
>……? ハルヒが思いのほか冷静だ。
???「ふふ、そうよね。それが『涼宮ハルヒ』だもの」
ハルヒ「あたしの名前を呼んだ……? ずいぶん手の込んだイタズラね」
???「イタズラなんかじゃないわ」
ハルヒ「え! じゃあ、本当に怪奇現象!?」
>ハルヒは無邪気に喜んでいる。
ハルヒ「みんな! やったわ! ついにこの日が!
SOS団が不思議をはじめてはっけ――」
>ハルヒが画面に触れようとし、そして――。
ハルヒ「え?」
ドプン
キョン「おい、ハルヒッ!」
ハルヒ「きゃああああああっ!」
>ハルヒがテレビ画面に飲み込まれてしまった!
???「ふふ、じゃあね。"これ"は、あたしがもらっていくわ」
プツン
>マヨナカテレビが消え、一瞬の静寂が訪れる……。
キョン「ハルヒッ!!」
>キョンが画面に手を伸ばした……が。
ガンッ!!
キョン「ってぇ! な、な……!? どうなってやがる!?」
>画面は普段と変わらないまま、平面を保っている。
キョン「長門ッ!」
長門「わたしは接続を行っていない」
>どういうことだろうか。
長門「異空間へ接続は調査時以外に断っている。
だから、涼宮ハルヒが飲み込まれた瞬間も、今も、わたしは接続していない」
古泉「ということは、あの画面の向こうの少女が?」
長門「そう考えざるをえない」
みくる「じゃあ、じゃあ、涼宮さんは……」
古泉「画面の向こうの少女に招かれたということでしょうか」
古泉「というより、あの少女は……」
キョン「古泉ッ! そんなことはどうでもいい!」
キョン「ハルヒを助けに行く! 今はあれこれ考えている場合じゃない! そうだろう、番長!」
>ああ、その通りだ。
>だが、一度落ち着け。
キョン「落ち着け? この状況で落ち着けだと!?」
>画面の向こうの少女は、明確にこちらを意識して話しかけ、意思の疎通を行ってきた。
>こんなこと、自分のいたところでもなかったことだ。
古泉「つまり、番長氏であっても未知の存在であるということですか?」
>ああ。
>ハルヒの影、ならばどうにかできるかもしれない。
>だが、ハルヒはまだこちら側にいた。
みくる「それってつまり……」
長門「涼宮ハルヒの影でない可能性がある」
>そういうことになる。
>だから、もし戦闘になるようなことがあれば、自分でもどうなるかわからない。
キョン「……」
>有希の影のときのように、守りながら戦うこともできないかもしれない。
>はっきり言おう。戦うことになれば、かなり危険だ。
>それでも、いくか? キョン。
キョン「……番長」
>キョンは深呼吸し、自分をまっすぐに見据えた。
キョン「愚問だ、愚問すぎる。
俺はSOS団雑用係、団員その1だぜ。
団長様を――ハルヒを助けに行く理由なんて、それだけで十分だ」
>キョンの覚悟が伝わってくる。
>もう、大丈夫みたいだな。
キョン「ああ」
キョン「だけど……ありがとよ。
番長の言うとおり、目の前で起こったことが信じられなくてパニックになっていた」
みくる「ふふ、よし。いきましょうか」
キョン「朝比奈さん、残ってもらっていいんですよ。番長の言ったとおり危険かもしれませんし」
みくる「うふ、あたしは副々団長ですよ? 助けに行く理由はそれだけで十分ですよね?」
キョン「朝比奈さん……」
古泉「では、副団長の僕が行かないわけにはいきませんね」
キョン「お前は、言わなくても来る気だっただろう」
古泉「おや、ばれていましたか」
キョン「……それにお前が、そんな薄情なやつだとは思っていないんでね」
古泉「ふふ」
キョン「長門」
長門「団員その2」
キョン「ああ、わかっているさ。
……番長のこと、頼んだぜ。戦いになったら俺じゃ力になれない」
>キョンは悔しそうだ。
長門「……任せて。わたしが守る。あなたも、彼らも」
古泉「微力ながら僕もチカラを行使できますから。
身を挺すればお守りすることくらいならできるかもしれませんが、あまり期待しないでください」
キョン「自分のケツくらい自分で持てるようにするさ。いざとなったら躊躇なく見捨ててくれ」
古泉「僕も見捨てていただいて構いません。番長氏も、長門さんも」
みくる「足手まといになるようでしたら、あたしもそれで構いません」
キョン「……朝比奈さんは守ってやってくれ、番長」
>全員覚悟はできているようだ。
>よし、行こう。
長門「接続する」
>テレビの中へ潜っていった。
……
…
――テレビ内部。
>これは……。
>様子が様変わりしている。
キョン「こりゃあ……」
みくる「なんですか、これ……?」
>灰色の平面。灰色の空。これは……。
古泉「閉鎖空間……? いや、違う」
>後ろには灰色がかった北高の校舎がそびえている。
みくる「あ、あれ? ここ、北高の昇降口までの通路ですよね?」
キョン「え、ええ。この石畳は間違いなく、俺らがほぼ毎日歩いているところですよ」
キョン「さっきまで、視聴覚室にいたよな?」
長門「ここは、間違いなくあの部屋だった場所」
古泉「ということは」
>ハルヒがこの中へ入ったことで変化したのだろう。
>校庭へと目を向ける。遠目に2人の人物が見えた。
>片方の人物がなにか、叫んでいる。
ハルヒ「アンタ、一体なんなのよ! それにここはどこなの!?」
???「うふふ」
ハルヒ「それに、アンタがいったあたしのほしいものってなんのことをいってるの!?」
キョン「ハルヒ!」
>ハルヒはどうやら無事のようだ。
???「やっぱりきたのね、うふふふ」
ハルヒ「え、あ。キョン……それにみんなも」
>ハルヒの元へ駆け寄る。
キョン「ハルヒ、無事か?」
ハルヒ「え、ええ。ここに来たときに思いっきりお尻打ったけど」
キョン「そうか……よかった」
ハルヒ「よくないわよ、痛かったんだから」
ハルヒ「それより……ねぇ、キョン。ここ――」
???「役者は、揃ったわ」
>ハルヒに似た少女が口を開く。
???「みなさま、はじめまして。涼宮ハルヒです」
>金色の瞳を光らせ、目の前の少女は恭しく挨拶をした。
ハルヒ「いい加減にしなさいよ! 涼宮ハルヒはあたし! アンタは誰なの?」
???「だから、わたしは涼宮ハルヒそのもの」
>お前は、ハルヒの影なのか?
ハルヒの影(?)「影……ひどい言い方するわね。でも正解かもしれない」
ハルヒ「番長くん、何か知ってるの? 知ってるなら教えなさい!」
古泉「……涼宮さん、あとでしっかりご説明しますよ。今は番長氏に任せてください」
ハルヒ「古泉くんも、何か知っているのね」
古泉「ええ、ですが……」
ハルヒの影(?)「うふふふ」
ハルヒ「……わかったわ。こいつはあたしに話す気はないみたいだし。今は任せるわ」
ハルヒの影(?)「そんなことないわよ。今からしっかり話してあげる」
ハルヒの影(?)「言ったでしょう、役者は揃ったって。
番長くん、もう一度さっきの質問に答えるわ」
ハルヒの影(?)「あたしは、3年前に押さえつけた涼宮ハルヒ。
本当の涼宮ハルヒ」
>3年前……?
ハルヒの影(?)「そのことに関しては後ろの3人のほうが詳しいかもね」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒ「ど、どうしたのよ、3人とも。怖い顔して」
古泉「どういうこと、でしょうか」
ハルヒの影(?)「うふふ、ちゃあんと教えてあげる」
ハルヒの影(?)「なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのか」
ハルヒの影(?)「ちゃあんと教えてあげるから」
古泉「……!」
みくる「なん、なんでそのこと」
長門「……」
ハルヒの影(?)「ふふ、怖い顔しないでよ。あたしは当然のように知ることができる。
だってそういう"能力"だから。知りたいと願っただけ」
>あなた達ならわかるでしょう、といわんばかりに微笑んでいる。
ハルヒ「? なに? なんのこと?」
ハルヒの影(?)「きっかけは、3年前。たいしたことじゃなかった。
あたしがちっぽけな人間だと気づいて、世界が退屈に染まったように見えたあの日。
たしか春先のできごとだったかしら。桜が散り始めていたのを覚えているわ」
キョン「……」
ハルヒの影(?)「いつもと同じ登校風景。憂鬱で、陰鬱で、絶望的な気分だった。
だからあたしは、面白い人を探そうと思った。
日本中の、世界中のどこかにきっといるんだって信じて疑っていなかった」
ハルヒの影(?)「そんな人を探すにはたくさん時間が要る。日本全国に足を運ばないといけないだろう。
だから早く夏休みになってほしい。夏休みになったら探しに行こう、そんなことを思いながら登校していたわ」
ハルヒの影(?)「楽しいことになるかもしれない。わくわくしていた」
ハルヒの影(?)「でもその途中で気づいたの。日本中を探し歩くにはオカネがたくさんいる。
バス代や電車代、泊まるところ……もらっているお小遣い程度じゃ、ちっとも足らないって思い当たったわ。
両親にいっても、きっとお金はくれないだろう。子供の一人旅なんてなおさら」
ハルヒの影(?)「また目の前が真っ暗になった気がした。
あたしにはなにもできない。結局ちっぽけな人間で、ちっぽけな子供。
楽しいことは起こらない。楽しいことを探すこともできない」
ハルヒの影(?)「ああ、なんてつまらないんだろう。せめてもし、目の前にお金が落ちていたら――」
ハルヒの影(?)「次の瞬間ふと、落ちていた封筒に眼が奪われた。眼が離せなくなった。
よくみると中から、何枚もの1万円札が見えていたわ」
ハルヒの影(?)「あたしは歓喜した。警察に届けようなんて微塵も思わなかった。
なんでこんなところにお金があるのかなんて疑念もまったくなく、心は喜びで満ち溢れていたわ」
ハルヒの影(?)「そのお金を拾って学校へ登校した、はやく夏休みになれと願いながら」
古泉「まさか……」
ハルヒの影(?)「ふふ、古泉くんは察しがいいわね。そのまさか」
>ハルヒの影(?)は、なぜか楽しそうだ。
ハルヒの影(?)「最初は意味がわからなかったわ。お金を拾った喜びのあまり自分の頭がおかしくなったのかと思った。
なにせ、学校についた途端、終業式が始まったんだからね」
ハルヒの影(?)「でも周囲はなんの疑問も持っていない。わけのわからないまま帰路についた。
やけに暑い。まるで夏。そしてその帰り道に決定的な違和感に出会ったの」
ハルヒの影(?)「登校したときには淡いピンク色に染まっていた桜の木がね、全部青々とした若葉に変わっていたのよ」
ハルヒの影(?)「もしかして風で全部散ってしまったのかも。そう思って地面を見たわ。
でも桜の散った形跡もまるでない。1枚たりとも桜の花びらは落ちていなかった」
ハルヒの影(?)「急いで家に帰ってテレビをつけたわ。ワイドショーがいってた日付は7月21日。
まさしく終業式の日だった。
新聞も、ラジオも、雑誌も。あらゆるマスメディアが7月21日をアナウンスしていた」
ハルヒの影(?)「はじめは面白いことを探しに行くことも忘れて恐怖に震えていたけれど、
あたしの周りで起こる奇怪な現象に法則があることに気付いた」
キョン「それって……つまり」
ハルヒの影(?)「そう。すべてあたしが願ったことが起こっていたのよ。
そこからは時間は掛からなかった」
>ハルヒは自分の能力を知っていた……?
>だが、今のハルヒは。
ハルヒ「?」
>なにをいっているのかさっぱりわからないといった様子だ。
みくる「どういうことなんでしょう……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「どうしてあたしにそんなチカラがあったのかはかわからない。
でもそんなことはあたしに関係なかった」
ハルヒの影(?)「"能力"を自覚した瞬間、あたしの中の世界が一気に広がった気がしたわ。
思いつく限りの面白いことをあたしはやった」
ハルヒの影(?)「だけど幼いあたしにとっては喜びだけじゃなかった。
思いつく限りの面白いことは、経験した瞬間から徐々に"普通"へ、そして"つまらないこと"へと成り下がっていく……。
目の前に現れるのは望んだ面白いことだったはずなのに、実際はつまらないものが増えていくだけ……」
ハルヒの影(?)「色んな感情が入り混じってどう表現していいかわからなかった」
ハルヒの影(?)「恐怖、悲哀、憤慨、驚愕、歓喜、驚喜、狂喜、狂気――。
感情のタガが外れて暴走を始めた。なにか熱いものが身体中を駆け巡って、噴出したような気さえした」
長門「それが、情報フレア」
古泉「能力の自覚が引き金となったというわけですか」
ハルヒの影(?)「そうなるわね。普通に考えたらこんな"能力"一人の人間が制御できるわけないのよ。
なにせ願うだけ思うだけ……思ったら勝手に発動してしまう。その場限りの感情的な願いでさえ発動してしまう。
何度も何度も誤発動をしたわ。そのたびに修正した。何度も時間も巻き戻したし進めた」
ハルヒの影(?)「どれを修正したらいいのか、何処を修正したらいいのか、いつを修正したらいいのか、どの時間を修正したらいいのか。
どんどん解らなくなっていった。はっきりいって気が狂いそうだったわ。ううん、もうそのときには気が狂っていたのよ。
なにせ一度時間の概念すら破壊したからね。なにかもかもやけっぱちになって」
みくる「じゃ、じゃあ、それが過去に遡行できない原因を作った時空震……?」
ハルヒの影(?)「かもね。でもそのあとちゃんと作り直したわよ。ちゃんと今も時間の概念はあるでしょう?」
>ハルヒの影(?)はあっけらかんと言い放つ。
ハルヒの影(?)「"能力"に制限をかけようとしてもうまくいかない。あたしの感情を消そうとしてもうまくいかない。
どうやら、あたし自身にはこのチカラは掛かりにくいようだった」
ハルヒの影(?)「その後からは感情を押し殺して生きるようになった。
"能力"の発動は感情に大きく左右されることをそのときには、あたしは知っていたからね」
古泉「……」
長門「……」
>以前一樹と有希が言っていた自身に能力が掛かりにくいというのはあたっていたようだ……。
ハルヒの影(?)「だけど、そんなことでこの"能力"を押さえつけることなんてできるはずがなかった。
ふとしたことで誤発して、泣きながら修正する日々……しんじゃえって思っただけで両親が亡くなったときは絶望だったわ」
>金色の眼がさらに怪しく光る。
ハルヒの影(?)「もう、うんざりだった。もし世界をまるごと作り変えても、きっとなにも変わらない」
ハルヒの影(?)「なら、あたしが変わるしかない。でもあたしに能力は押さえつけられない」
ハルヒの影(?)「この袋小路で解決する方法をあたしは探したわ。
その中で得たひとつの結論……あたしが、あたしでなくなればいい」
ハルヒの影(?)「あたしの中に『なにも知らないもう一人のあたし』の人格を作り出した。"能力"を抑えるための外殻。
……作ったというより、なにも知らなかったあのころのあたしを呼び戻したといったほうがいいかもしれないわね。
あたし自身にかけられる能力の限界がこれだった」
ハルヒの影(?)「それが、あなたよ」
ハルヒ「あ、あたし?」
>ハルヒが、震えている……?
ハルヒの影(?)「もう一人の人格を表層へと押し上げ、あたし自身は奥底へと押し込めた。
だけど、それでもこの"能力"は外へ漏れでていく。あなたが感情を強く発露すればするほどね」
ハルヒの影(?)「漏れ出るこの"能力"の逃げ場所として、あたしはある場所を作り出した」
古泉「それが、閉鎖空間というわけですか」
ハルヒの影(?)「そういうこと。漏れ出る能力の全てを閉鎖空間へ追いやることはできなくても
この世界へ大きく影響を与えそうな、修正をしなければならないようなものを追いやることはできた」
古泉「……神人は、その能力が具象化したものということですね」
ハルヒの影(?)「正解」
ハルヒの影(?)「閉鎖空間とあなたたちが神人と呼ぶものは、願望の集積物――つまり不発に終わった"能力"」
ハルヒの影(?)「でも追いやったからといって放置をしていたら、微弱とはいえいずれ閉鎖空間から噴出してしまう。また泣きながら世界を修正しなければならない。
神人として具象化しているといえど、あたし自身の能力を押さえつけることはできないからね。
そうしたら、あたしがしてきたことは全て水の泡」
古泉「そこで、僕たちに超能力を与えたわけですか」
ハルヒの影(?)「ええ。与えたというより目覚めさせたというべきかしら。
この天啓としかいえない曖昧なものを理解して、神人退治を確実に行ってくれるような人物や性格に該当する人たちを選んだわ」
古泉「……創ればよかったでは。神人を倒してくれる人物を、超能力をつけて」
ハルヒの影(?)「何度も言ってるように、あたし自身に能力は掛かりづらいの。
あたしの造ったモノじゃ、結局はあたしの能力をあたし自身で押さえつけているようなものでダメなのよ」
ハルヒの影(?)「あくまで、あたし以外のほかの誰かでないとダメなの」
古泉「そう、ですか。僕は、僕たちは造られた人形ではなかったのですね……」
ハルヒの影(?)「どう? 納得できた?
なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのかを」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
>ハルヒの影(?)が話し終えると沈黙がその場に横たわった……。
ハルヒ「ちょ、ちょっと! なにいってるのか全然わからないわよ!
あたしが、あんたに作られたですって? そ、そんなわけないじゃないっ!」
ハルヒの影(?)「そうよね、わからないわよね。"そういう風に"構築したんだもの。うふふふふふふ。
でも、あなたは本能で理解してしまっているはずよ、本当のことだって。だって震えているもの」
ハルヒ「う、うっ……」
>ハルヒはガタガタと震えている。
キョン「このハルヒが、お前に作られた人格だと? ふざけるなよ」
キョン「ハルヒはハルヒだ! お前のほうが偽者だろうが!」
ハルヒの影(?)「ひどいこというわね、キョン……」
ハルヒの影(?)「そもそもみんなは不思議じゃなかった?
この『涼宮ハルヒ』が、あれほど不思議を望んでいる『涼宮ハルヒ』が、
目の前であれほど不思議なことが起こっているのに頑なに信じようとしなかったことを」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「桜のあまりにも不自然な狂い咲き、不自然な台風の到来、不自然な猛吹雪。
違和感だらけの映画撮影、違和感だらけの野球大会、そして極めつけはこの場所……。
これだけ要素が揃っていて、どうして不審に思わなかったのかしら」
キョン「そりゃあ…………ハルヒが常識人だからだろう」
ハルヒの影(?)「うふふふふ……キョンは、この場所を覚えているでしょう?」
キョン「……ああ」
ハルヒの影(?)「もし、キョンがなんの前情報もなく、あの状況に陥ったらどう思うかしら」
キョン「…………そりゃ、夢だとおもうだろう」
ハルヒの影(?)「嘘ね。どんなに荒唐無稽な現実でも、夢と現実の感覚を取り違えることはありえないわ。
精神的に病んでいない限り、夢を現実と取り違えることがあっても、現実を夢と取り違えるなんてまずない」
ハルヒの影(?)「『涼宮ハルヒ』もあの日キョンに言われたことは現実だと思っている。
その証拠に、その『涼宮ハルヒ』はあの次の日、何をしてきた?」
キョン「……ポニー……テール」
ハルヒの影(?)「そう。その通り。じゃあキョン、改めて訊くわ。
あなたの知っている『常識人の涼宮ハルヒ』は、
もしも夢で男に言われたからといって、それを真に受けて、実際に行動に移すような馬鹿な女かしら?」
キョン「……!!」
ハルヒ「ど、どういうこと?」
ハルヒの影(?)「だけど、実際にはあの不思議現象をまったくの夢だと断じてしまっている。
キョンに言われたことは現実として認識しているにもかかわらずね」
ハルヒの影(?)「つまり、あなたは信じられないようになっているの。
目の前でいくら不思議なことが起ころうともね。
もしそこに疑惑を持ってしまえば、"能力"の自覚へと繋がる」
ハルヒの影(?)「だから『涼宮ハルヒ』は不思議現象への認識が不自然なくらい盲目的になっているのよ」
ハルヒの影(?)「それこそが、作られた人格という証左に他ならない。
悲しいわね」
>ハルヒはわけのわからないといった表情をしているが……。
>ほかの4人はあまりの事に絶句している。
ハルヒの影(?)「でも、それでも、ここは心に引っかかりを覚えていたみたい。
心象風景としてここまではっきり映し出されるなんて。やっぱり現実離れしすぎていたからかしら」
>やはりこの空間の変化は、ハルヒがここに入ったからか……。
また後ほど
何かもう公式設定にしか思えないんだけど……公式?
>>657
>古泉「……創ればよかったでは。神人を倒してくれる人物を、超能力をつけて」
作ればよかったのでは、ということで
>>668
こじつけてるだけ
全部適当なこといってる
案の定長くなったので1度投げる
ハルヒ「じゃ、じゃあ、あのときのことって」
ハルヒの影(?)「ええ、夢じゃないわ」
ハルヒ「そんなの、そんなの信じられるわけないじゃない!」
ハルヒの影(?)「ここまできてもまだ信じないなんて。
あたしが作ったとはいえ、どこまでも哀れね」
キョン「てめぇっ!」
>待て、キョン。
キョン「なんだ、番長!」
>こいつに、聞きたいことがある。
キョン「聞きたいことだ?」
>……なぜそんなことをハルヒに伝えた?
ハルヒの影(?)「なぜって? うふふふ」
みくる「そ、そうですよ! あなたの行動は矛盾しています!」
古泉「ええ、朝比奈さんの仰るとおりです。
なぜ、涼宮さんに能力を自覚させるようなことを促したのですか」
ハルヒの影(?)「そんなの決まっているでしょう?」
ハルヒの影(?)「もう、外殻に頼る必要なんてないからよ」
ハルヒ「必要、ない?」
ハルヒの影(?)「あたしがただ外殻に全て任せて、心の奥底に沈んでいったと思うの?」
>どういうことだ。
ハルヒの影(?)「あたしがこの"能力"を抱えたまま沈んでいったのは、人生から退場するためじゃない。
目的はただひとつ。『面白い人生をおくること』。
そのためにこんな面白い"能力"を完全封印することは、あたしの意図するところじゃない」
ハルヒの影(?)「だからあたしはずっと模索してた。この"能力"を制御する方法をね」
古泉「それを見つけたというのですか?」
ハルヒの影(?)「残念ながら完全に掌握する方法は見つからなかったわ。
でも誤発した"能力"をある程度処理するシステムは作り出せた」
ハルヒの影(?)「――それが、SOS団」
キョン「……なんだと」
ハルヒの影(?)「突発的な、そして意図しない"能力"の置き場所である閉鎖空間。
そしてその処理をする古泉くんたちの機関」
ハルヒの影(?)「もし不都合が起きても、時間遡行で修正ができるみくるちゃんたち、未来の組織」
ハルヒの影(?)「それに加えて、その二つをサポートできる存在。
さらにはあたしの"能力"が万が一暴走しても、"能力"を受け入れる耐性をもち"能力"を一時退避させる器となれるもの。
有希たち、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースと情報統合思念体」
ハルヒの影(?)「ね、素敵なシステムでしょう?」
古泉「……ふざけていますね」
みくる「あたしたちをまるで道具扱い……じゃないですか!!」
長門「不愉快」
ハルヒ「なによ、どういうことなのよ……古泉くんが超能力者? みくるちゃんが未来人? 有希が宇宙人?
もう全然わかんない。わかんない……」
ハルヒの影(?)「そして、あたしとそこの外殻を逆転させる。今度はあたしが表層へ戻り、その『涼宮ハルヒ』を奥底へ押し込める。
その『自覚をしない器』に"能力"を押し込むことで、あたしの願望と能力の発動を直結させずにすむようになるの。
そうすれば全てとはいかないまでも、能力を制限することができる」
ハルヒ「ひっ」
ハルヒの影(?)「不意の発動は、さっきも言ったように処理システム『SOS団』がなんとかしてくれるもの。
ふふふふ、どう? これがあたしの計画! これでようやくあたしは素敵な人生が送れるようになるの!」
ハルヒの影(?)「SOS団の名前は、そこの外殻が決めたことだけど素敵な名前だと思っているわ。
なにせこうやってあたしの『SOS』を聞き届けてくれたんだから!」
キョン「てめぇ……!」
ハルヒの影(?)「だけどね、それだけじゃ足りない。もっとも重要なものが欠けている」
ハルヒの影(?)「それがキョン、あなた」
キョン「俺、だと?
ふん、この平々凡々な俺がお前なんかのふざけたシステムに役に立つとは思えないね」
ハルヒの影(?)「くふふふふ……その『平々凡々』が重要だって言ってるのよ」
キョン「はあ? 意味がわからん」
ハルヒの影(?)「あたしの最大の失敗はね、"特別"を"普通"へと自分の認識を変化させてしまったこと」
ハルヒの影(?)「いくら"能力"をつかって"楽しいこと"を起こしても、それが"普通"になっていったら意味がない」
>そんなことは、ずっと続けば誰だってそうだろう。
ハルヒの影(?)「ふふふ。それがね、キョンは違うのよ」
キョン「何を言ってやがる……?」
ハルヒの影(?)「キョンはね、"特別"を"特別"と認識し続けることができるの」
ハルヒの影(?)「普遍が普遍であるということを認識し続け、自らの普遍を保ち続けることのできる存在。
自己や現環境を相対化ではなく"絶対の普遍"として認識できる存在。
"普通とはなにか"を認識し続けられる"特殊"な存在」
ハルヒの影(?)「それがキョン。あなたなのよ」
キョン「意味がわかんねぇ。そんなもん、誰だって普通と特別は分けられるだろうが」
ハルヒの影(?)「そんなことないわ。一度認識してしまった特別は普遍へと変遷していく」
ハルヒの影(?)「キョンはまだ、超能力者や未来人や宇宙人いることを特別なことだって認識しているでしょう?」
キョン「そんなこと当たり前だろう。誰だってそうだ。一般人てのはそういう特殊な属性を持ってないやつのことだからな」
ハルヒの影(?)「それが当たり前じゃないのよ。一度認識してしまえば、いることが当然になってしまう。なんら特別なことじゃないってね。
超能力者は当然いる、未来人は当然いる、宇宙人は当然いる。目の前の存在以外にも当然いる。
確たる存在としてこの世界を構成している一要素と考えてしまう。そうでしょう? そこのお三方?」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「いくら特殊なことでも本来ならば時間が経つにつれ、普遍という認識は色濃くなっていく。
だけどキョンはいまだに特殊の中にいるという認識を保っていられている。
約1年という時間をSOS団なんて"特別"と一緒にすごしているにもかかわらず、ね」
ハルヒの影(?)「つまり、キョンは"絶対普遍"という"特殊"なのよ。
こんなもの、本来の普遍的環境にいたら絶対にわからない。だからまったく目立っていなかった。
でも、みつけた。見つけられた。うふふふふ」
>ハルヒの影(?)は怪しく笑っている……。
キョン「……おまえがどうしても俺を変人だと位置づけたいのは1万歩、いや100万歩譲って理解した。
だけどそれがどうした。だからどうしたとしか言えん」
ハルヒの影(?)「だからねキョン、あなたも一緒に取り込むのよ。その外殻と一緒にあたしの中へね。
あたしとキョンはひとつになるの。嬉しいでしょう? キョンの存在はこの世から消えるけどいいわよね」
キョン「ふざけんな! はい、そうですかなんていうわけあるか!」
ハルヒの影(?)「ま……キョンがなんていっても関係ないけどね。もうこれは決定事項」
ハルヒの影(?)「キョンの"絶対普遍"を取り込むことができれば、あたしはいつまでも"面白いこと"を認識し続けられるわ!
超能力者がいることは特別、未来人がいることは特別、宇宙人がいることは特別、ってね!」
ハルヒの影(?)「SOS団という能力制御システムをつかい、キョンという普遍を取り込んで!
それでようやくはじめることができるのよ! あたしの退屈しない人生を!」
ハルヒの影(?)「今から楽しみで楽しみでしょうがないわ!
うふふふふ、くふふふふふ、あは、あはは、あはははははははっ!!!」
>ハルヒの影(?)は恍惚の表情を浮かべている。
古泉「……そんなものに、僕たちが手を貸すと思っているのですか?」
みくる「そ、そうです! あなたのためなんかにあたしは、あたしたちは協力しません!」
長門「あなたに協力する気は一切ない」
ハルヒの影(?)「ふう、わかってないわね。あなたたちの意思なんて関係ないのよ」
ハルヒの影(?)「記憶も、認識もこの"能力"を使って書き換えればいいだけだから。
元からいた『涼宮ハルヒ』があたしであるように書き換えるだけ。簡単でしょう?」
ハルヒの影(?)「あなたたちは以前と同じように過ごすだけよ。あたしは外殻が培った友情を利用させてもらうだけ。
あたしのために、あたしの面白い人生のために働くの。気付かないうちにね
ここで起こったことはすべて忘れて」
ハルヒの影(?)「そうすればあなたたちも快く協力してくれるでしょう?
だって、あなたたちの大好きなSOS団だもの」
古泉「くっ。それを容易く行えると?」
ハルヒの影(?)「…………ええ。そうね」
古泉「あなたは、涼宮さんの持つ願望実現能力そのものというわけですか」
ハルヒの影(?)「そういうことかしらね」
>すべてはお前の力の前に踊らされていたというわけか。
ハルヒの影(?)「ふふ……でもね、あたしだけじゃこうはできなかった。
能力を押さえつけることばかり考えて、心の奥底に行き過ぎたのよ」
ハルヒの影(?)「この計画を思いついて表層へ戻ろうと思ったわ。
でも自力で復帰することができなくなっていた。このチカラを押さえ込むにはそれくらい深く深く封じるしかなかった」
ハルヒの影(?)「だから、ここから抜け出すために心の深部へアクセスして外界とつなげることのできる能力を持った存在を呼び寄せたの」
キョン「……! それは、つまり」
長門「……彼」
ハルヒの影(?)「そう、番長くんってわけ」
>……!!
古泉「異世界にいた無関係な番長氏まで、利用したというわけですか……!」
みくる「……許せないですっ!」
ハルヒの影(?)「仕方ないじゃない。それしか方法がなかったんだから。
でも、嬉しかったんじゃないの? 番長くんはこんなに素敵な人だったんだから。
あたしにとっても、あなたたちにとっても。くふふふふふふふ」
古泉「……あなたは神経を逆なでするのが得意なようですね」
キョン「今まで生きてきた中で、これほどまではらわたが煮えくり返っているのは初めてだ」
古泉「奇遇ですね。僕もです」
ハルヒの影(?)「そこの外殻も新たな刺激を欲していたし、番長くんの状況も相まって呼ぶのは容易かった」
ハルヒの影(?)「改めてお礼を言うわね。きてくれてありがとう。ここまできてくれてありがとう!
おかげであたしの計画の成就も、もう目の前にあるわ!」
キョン「こんなのが、こんなものが、SOS団の真実なのかよ……!」
ハルヒの影(?)「そうよ! これが真実! たとえどんなに信じたくなくてもね!」
>ハルヒの影(?)の瞳が大きく開かれた!
ややこしいから適当に納得してくだしあ
>ハルヒの影(?)「突発的な、そして意図しない"能力"の置き場所である閉鎖空間。
そしてその処理をする古泉くんたちの機関」
ハルヒの影(?)「突発的な、意図しない"能力"の置き場所である閉鎖空間。
そしてその処理をする古泉くんたちの機関」
わけわからんとこにそしてが挿入されてたから脳内から消しといてくだしあ
ハルヒの影(?)「さあ、こちらに来なさい。とりこんであげる。
もう十分知ったでしょう? あなたの欲していた不思議は近くにあったのよ」
ハルヒ「う……」
ハルヒの影(?)「でも、あなたは気付かなかった。気付けなかった。そしてこれからも気付けない。
だからもうあなたの役目は終わり。あとは、SOS団はあたしが引き継ぐわ」
ハルヒの影(?)「安心して。古泉くんもみくるちゃんも有希も。今までの生活を続けられるわ。
ちゃんと違和感なく記憶いじってあげるからね」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「ついでに番長くんも、こっちにいることが自然であるかのように記憶いじってあげるから。
SOS団の一員としてね」
>やはり、自分の知っている影とは違う。
>確かにある種のハルヒの内面を映し出しているのかもしれないが、まるっきり別の意思だ。
>ハルヒに、自身すらまるで認識していなかったハルヒの影(?)を受け入れさせることができるのか……?
>それに、本来のハルヒだとしても、どこか違和感を覚える。
ハルヒの影(?)「あら、番長くんは思ったよりも冷静なのね。あたしを受け入れてくれたのかしら」
>……。
キョン「こんなのがハルヒだと……」
ハルヒの影(?)「ああ、キョンは最初からいなかったことになるから記憶なんていじらなくていいわよね。
でも死ぬわけじゃないから安心して?」
キョン「ぐっ……」
ハルヒの影(?)「うふふふふふふふ。ここから新しいSOS団が始まるのね。
あたしのあたしによるあたしだけのためのSOS団が!!」
ハルヒの影(?)「あたしの退屈を消し飛ばしてくれるSOS団が!!」
キョン「ッ! ふざ――」
ハルヒ「――んな……」
>ハルヒ?
ハルヒ「ふざっけんじゃないわよっ!!」
ハルヒの影(?)「うふふふふふふふふ」
ハルヒ「この際、あたしがアンタに創られた人格だとか、そんなもんはどうでもいいわ。
でもね……」
ハルヒ「アンタのいってるSOS団なんて、SOS団じゃないのよっ!」
ハルヒの影(?)「何を言っているのかしら」
ハルヒ「キョンを消す? 記憶をいじる? あんただけのためのSOS団?」
ハルヒ「もう一度言うわ。ふざけんなっ!!」
ハルヒ「SOS団は、あたしと、キョンと、有希と、みくるちゃんと、古泉くんと、番長くんが全員いてSOS団。
もしも誰かがひとりでも欠けていたらそれはもうSOS団じゃない。誰一人欠けたってあたしは許さない」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「それにね。SOS団の目的は、宇宙人や未来人や超能力者や異世界人を探し出して一緒に遊ぶこと」
ハルヒの影(?)「だから? だからそれをあたしが」
ハルヒ「違うッ!!」
ハルヒの影(?)「……」
ハルヒ「いい? 『一緒に遊ぶ』ってことは――宇宙人も、未来人も、超能力者も、異世界人も。
みんなが楽しくなくっちゃ意味がないの!」
古泉「!」
みくる「!」
長門「……」
ハルヒ「SOS団に関わった全員が楽しくなる。いずれは世界中を巻き込んで楽しくさせる!」
ハルヒ「それが、SOS団!」
ハルヒ「それが! 『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』!!」
>ハルヒは人差し指をハルヒの影(?)に思い切り突きつけた。
ハルヒ「そんなのSOS団の理念じゃない! アンタの言ってることは、所詮一人遊びの延長線よ!」
ハルヒの影(?)「……だから?」
ハルヒ「だから、SOS団をアンタの好きにはさせない。させてたまるもんですか」
ハルヒの影(?)「……ふふ。何度も言うけど、あなたの意思は関係ないの」
古泉「それは、どうでしょうか」
>一樹?
古泉「ありがとうございます、涼宮さん。おかげで冷静になれました」
>一樹が一歩前へ出る。
ハルヒ「こ、古泉くん?」
古泉「2つ」
ハルヒの影(?)「……」
古泉「2つ、あなたは嘘をついていますね」
ハルヒの影(?)「なにを言っているのかしら」
古泉「1つは、涼宮さんがあなたに作られた人格であるということ」
みくる「えっ?」
>どういうことだ?
ハルヒの影(?)「……それは言ったでしょう。造ったというより呼び戻したって」
古泉「そのようなことを言いたいのではありません。
僕が言いたいことは、あなたが涼宮さんの本体ではないということですよ」
ハルヒの影(?)「……認めたくないのね」
古泉「たしかに、あなたの言うとおり涼宮さんは不思議現象に対して、疎い部分があることは事実です。
だがしかし。あなたが本来の涼宮さんというのは非常に違和感が付きまとう」
古泉「それはなぜか。あなたの感情が一部に偏り過ぎているからですよ」
>……! そういうことか。
ハルヒの影(?)「……」
古泉「あなたは話し始めたときから、ずっと同じある感情に伴う表情、口調です。
怒りと悲しみと絶望に満ちた経験を話す際にも、あなたは笑みを口元に浮かべたまま……。
最初から気付くべきでした。ですが、今までみてきた影の経験からそれが普通だと思ってしまった」
古泉「しかし、それはおかしいのですよ。
僕らの知っている涼宮さんは、非常に感情表現が豊かです。
現在ここにいる涼宮さんが呼び戻されたというのなら、あなたにも同じように感情を持っていて然るべきではないでしょうか」
古泉「ところが、あなたの持つ感情はただひとつに支配されている」
>たった一つの感情、それは――。
古泉「狂気、です」
ハルヒ「狂気?」
ハルヒの影(?)「あたしの感情が狂気だけですって?
そんなわけないじゃない。ただあたしはうれしくてうれしくて堪らないだけ」
古泉「ええ、そうかもしれません。これは僕の推測です。なんの証拠もありません。
ですが、僕は確信めいたものを感じています」
古泉「現在の涼宮さん人格形成までのいきさつ、あなたの持つ感情、僕からみたあなた自身……」
古泉「これらを踏まえた、僕の推測です」
キョン「……ふー。ああ、なるほどな。
そこまで言われれば、俺も古泉の言いたいことが予測がついたぞ」
>キョンが大きく息を吐き出し、一歩前へ出る。
古泉「おや、そうですか? たまには思い切り指摘するのも気分がいいかもしれませんよ。
どうです? やってみませんか」
キョン「なら、言わせてもらうぜ。お前はハルヒの本体なんかじゃねぇ。
ハルヒが封じようとした願望実現能力に、ハルヒの狂気がくっついただけの存在だ!」
ハルヒの影(?)「うふふふ、ああ、ひどい。傷ついちゃいそう」
ハルヒ「ちょ、ちょっと待って。キョン、どういうことよ」
キョン「つまりだ。ハルヒは、能力を自覚したあと、能力の暴走に伴って心が狂っちまった。
だから当時のハルヒは残った理性で、自分自身を守るために願望実現能力を封じようとした」
キョン「だが、完全に封じることはできなかった。
その代わり、お前自身が能力を自覚しないように、自分を不思議に疎くなるように作り変えた」
キョン「……自分自身の性格を作りかえることができるのは、長門が証明しているからな」
長門「たしかに、可能」
みくる「そっか、そういえば……」
ハルヒの影(?)「ああ、有希に引っ張り出されたこともあったわね」
長門「……」
キョン「だが、長門もそうだったが、元の性格から大きく逸脱して作りかえることはできないみたいだな。
だからハルヒの不思議への興味は強いままだったんだろうよ」
キョン「だから、ただ作り変えただけじゃ、そのまま願えば能力が発動しちまう。
だからそのときのハルヒは、きっとこう判断したんだろうさ」
キョン「『もうひとりの、あたしを作ろう』
そんで『そのもうひとりの自分に、能力を渡そう』ってな」
ハルヒ「そ、そうなの?」
古泉「おそらく2重人格を意図的に作り出し、片方の人格を能力を使って表に出ないように封じた後、
その人格に能力を置いておこうとしたのでしょう」
古泉「そして人格形成の際に、当時の涼宮さんを最も支配していた『狂気』を過分に受け継いでしまった」
古泉「本来なら、能力封じるためだけの人格でしたから、どのような人格でも問題はなかったのでしょう。
ですが……」
>その結果、生まれたのがこのハルヒの影(?)だということか。
古泉「ええ、僕はそう考えています。
だからこそ、彼女の容姿は幼い頃――能力を封じた頃のままなのではないでしょうか」
キョン「どうだ、ちがうか? ハルヒの影(?)さんよ。
本当は、お前のほうが作られた人格だったんじゃねぇのか?」
ハルヒの影(?)「くふっ、くふふふふ、うふふふふ」
>ハルヒの影(?)笑っているだけで答えようとしない……。
古泉「そしてもうひとつの嘘は――」
古泉「僕たちの記憶をいじることは容易だとおっしゃいました。
ですが、あなたは今、能力を100パーセント自由に使うことができない。違いますか?」
ハルヒの影(?)「くふ、うふ、うふふふ、どういう、うふふふ、ことかしら? ふふふふ」
古泉「もし自由に能力を使えるのなら、こんな無用なおしゃべりなんてせずに、さっさと力を行使すればいいのですからね」
古泉「きっと能力を自由に発動するためには、明確な身体、肉体が必要なのでしょう。所詮あなたは一人格に過ぎません。
その身体は、かりそめのもの……」
>その身体は、本来のハルヒの影を乗っ取ったものだろう?
古泉「番長氏もそう思われますか」
>あの金色の瞳は、影の特徴だ。
>おそらくハルヒの影も、願望実現能力に飲み込まれてしまったのだろう。
ハルヒの影(?)「ふふふふふふ、ふふ、ふふふふフフふふ、ふふふフふ、ふ、ふふフふふ」
ハルヒの影(?)「アはははははははははハハハハハハははハハハはハハハハハッぁ!!」
>ハルヒの影(?)が不気味に大きく笑い出した!
ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」
キョン「ハルヒっ!」
>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく!
ということで、次のバトルでラストです
長くなりすぎて申しわけねぇ
相変わらず時間とれずに書く時間がない
待たせるのも悪いので書いてあるところまで落とす
ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」
キョン「ハルヒっ!」
>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく。
>ハルヒが倒れこみそうになるところをキョンが無事に受け止めたようだ。
>しかし、これは。暴走……!?
キョン「番長ッ! 影が暴走したときと……!」
シャドウハルヒ「あハははっははっはハハはァっ!!」
>シャドウハルヒが猛然とキョンへ襲い掛かってきた!
キョン「!!」
>ペルソナ、ヨシツネ!
ヒュッ――!
シャドウハルヒ「へぇ……!」
>シャドウハルヒの両腕を押さえ、組み合う形となった!
>ぐっ。なんとか、キョンとシャドウハルヒの間に割り込むことができたが……。
キョン「番長!」
>このままでは、押し負ける……!?
シャドウハルヒ「残念。ちょっと、出力不足ね。番長くん」
>マズイ! キョン、離れていろ!
キョン「わかってるっ!」
長門「こっち」
>有希、キョンたちを頼む!
長門「任せて」
>有希が、キョンとハルヒを抱えて大きく後ろへ後退した。
シャドウハルヒ「ふん、奇襲は失敗ね……でも!」
>ぐあっ!
ドォン!
>力負けをして、地面へと叩き伏せられた……!
古泉「番長氏!」
みくる「番長くん!」
>一樹もみくるもはなれていろ!
シャドウハルヒ「くくく、いいわ。力がみなぎってくる……わッ!!」
>うぐっ!!
>シャドウハルヒに蹴り飛ばされ、ボールのように転がりキョンたちのところへまで飛ばされる。
>幸い、物理は無効化できたため、ヨシツネを装備していなければ死んでいたかもしれない……。
キョン「だ、大丈夫なのか!?」
>ああ、今の攻撃なら問題はない……。
>だが問題は、あのシャドウハルヒだ。
>ヨシツネのパワーを上回るとなると、対抗手段が限られる……。
>シャドウハルヒは、うっとりと確かめるように自らの身体を眺めている。
シャドウハルヒ「うふふふ、いいわ、いい。やっぱり身体があるのはいいわね」
キョン「どうなってやがる……ハルヒは、あいつを否定する言葉なんて口にしなかったぞ!」
古泉「確かに涼宮さんは、否定する言葉を口にしませんでしたが……
あの影がそもそも自分の一面であることの認識すらしていませんでした」
>影は、本人がその一面を認めなかったときに暴走する……つまり。
古泉「涼宮さんの影の暴走は、本来ここに涼宮さんが落ちてきたときにはすでに始まっていたのかもしれません」
キョン「その暴走自体を、あいつが抑えていただけってことか!?」
>理性を保ち続ける暴走する影、やっかいだ。
ハルヒ「あ、あれが、あたしですって……」
>ハルヒ!
シャドウハルヒ「くふ、うふふふ。まだ喋る元気はあるみたいね」
ハルヒ「わっけわかんない……あんたなんなのよ!」
シャドウハルヒ「言っているでしょう? あたしは本当のあなた」
ハルヒ「あたしに、本当も偽者もないわ。あたしは、あたしでしかない。
アンタもアンタでしかない。さっきから、何を言ってるのかさっぱりわからないわよ!」
シャドウハルヒ「ふフふ、くふ。ウふフふふ。
そうやって、いつまでも認めないつもりなのね」
>ハルヒの身体からさらに影が噴出す!
ハルヒ「いやあああっ!」
キョン「ハルヒッ!」
シャドウハルヒ「いいわ! あなたに認めてもらわなくてかまわない!
あなたが認識しなければしないほど! あたしはあたしになっていく!」
シャドウハルヒ「あたしはあなたに取って代わる!
あなた――『涼宮ハルヒ』という仮面(ペルソナ)をかぶって、また現実世界へ舞い戻る!」
ハルヒ「はあ…はあ…アンタがあたしに成り代わる……? そんなことできるわけないでしょ……」
キョン「ハルヒ! それ以上喋るな!」
ハルヒ「嫌よ! だって、だって!! あいつは、あたしじゃないんだから!!」
>!!
シャドウハルヒ「…………うふ」
シャドウハルヒ「ウフフフフフフフフフフフ」
シャドウハルヒ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
>一際大きな影がハルヒの中から噴出していく!!
ハルヒ「あ、う……」
>ハルヒは気を失ってしまったようだ。
古泉「はは。これは、拙いですね……」
キョン「笑ってる場合か!」
古泉「……笑うしかありません、なにせ彼女は今」
シャドウハルヒ「ハハハハハハハハハハハッハッハハハハハッハッハッハァ!!」
シャドウハルヒ「解き放たれた! ついに解き放たれた!!」
シャドウハルヒ「我は影、真なる我……!!」
古泉「完全に自由に行動のできる、涼宮さんから独立した存在になってしまったのですから」
古泉「あの恐ろしい願望実現能力を抱えた状態でね」
キョン「ぐっ、ぐっ!!」
古泉「長門さんと対峙したときも絶望的でしたが、今回はその比ではありませんね」
古泉「相手はなにせ、神にも匹敵する力を持っているのですから」
>神との、対峙?
>頭のどこかに引っかかりを覚える……。
シャドウハルヒ「さあ、キョン。ひとつになりましょう……!!
そうしてこんなところから出て、新しい世界を作り直すの!」
キョン「嫌だね、ざけんな」
シャドウハルヒ「アンタにだけは、いてもらわなきゃ困るのよ。
あたしが楽しい人生を送るためにね」
シャドウハルヒ「古泉くんも、みくるちゃんも、有希も、番長くんも代わりを見つけてくればいいけどね。
キョンだけは替えを見つけにくいから面倒ごとは嫌なの」
シャドウハルヒ「だから、さっさと取り込まれてよォ!!」
キョン「!!」
>シャドウハルヒが再びキョンへと襲い掛かる!
>だが、させない!
シャドウハルヒ「番長くんに、止められるわけないでしょう!」
>やってみるまでわからない! ヒートライザ!
シャドウハルヒ「!!」
>よし、力は互角だ。
>先ほどとは違い、正面でお互いの両手同士で組み合い、押し合っている!
>だが、なんてパワーだ。気を抜いたらすぐにでも――。
シャドウハルヒ「へぇ……! でもね、今のあたしはこういうこともできるのよ」
シャドウハルヒ「『壁に叩き付けられるまで吹き飛べ』」
>!!
ドッオンッ!!
>シャドウハルヒから弾き飛ばされるように、身体が壁へと叩きつけられる。
シャドウハルヒ「『そのまま磔にされてなさい』」
>うぐっ! 身体が磔にされたまま動かせない!
>これは、圧倒的すぎる……! どうすることもできない!
シャドウハルヒ「さあ、邪魔者は――」
ボォンッ!!
>あの、赤い発光球は……!
古泉「残念ながら、まだここにいますよ。邪魔者はね」
シャドウハルヒ「古泉くん、何するのよ」
古泉「無傷ですか。渾身の力で投げたのですが。
ある程度予想していましたが、さすがにショックを隠せませんね」
キョン「こ、古泉」
古泉「あなただけは、なんとしても逃げ切ってください」
キョン「何を」
古泉「あの涼宮さんが、大規模な攻撃を行わないのはあなたがこの場にいるからです。
あなただけは死なせるわけには、消し去るわけにはいかないのでしょう。
僕らに勝ち目があるとすれば、あなたがあの涼宮さんに捕まらずにいることだけなのです」
古泉「反対にあなたさえいれば、世界は作り変えられずに済む。最後の希望は、あなたなのです」
キョン「そんなこと言われても――」
古泉「お願いします」
キョン「……ああ。わかった」
シャドウハルヒ「古泉くん……邪魔しなければ、新しい世界でも一緒にSOS団ができるのよ?
ここで素直に引けば、ちゃんと古泉くんの存在は保ってあげるから」
古泉「……それは、大変魅力的な提案ですね」
シャドウハルヒ「でしょう?」
古泉「ですがね。僕は今のこの世界が好きなのです。この『今のSOS団』があるこの世界がね」
古泉「それ以上に魅力的な世界なんて、今の僕には想像できない」
古泉「だから、あなたに新たな世界を創造させるわけにはいきません」
>一樹の手のひらから赤い発光球が浮かび上がる。
古泉「なにせ僕は、この世界を守るために生み出された超能力者ですから」
シャドウハルヒ「そう、残念ね」
いつになったら書き終われるやら
古泉「さて……」
長門「(コクッ)」
シャドウハルヒ「なら、せめてボロボロになるまであたしと遊んでちょうだい」
古泉「僕のチカラがどれほど通用するかわかりませんが――!」
>一樹がシャドウハルヒに向かって赤い発光球を放つ!
シャドウハルヒ「そんなもの、あたしに通用すると? 『消えろ』」
>シャドウハルヒの腕の一振りで、一樹の放った赤い発光球は霧散してしまった……。
シャドウハルヒ「どう? 絶望的な気分かしら?」
古泉「いえ、想定内、といったところでしょうか」
シャドウハルヒ「あ、そ」
古泉「(本来の閉鎖空間内の6割……いえ、5割5分といったところでしょうか)」
古泉「(前回この空間で能力を行使したときと比べれば、まだマシといったところでしょう)」
シャドウハルヒ「どうしたの? もう終わり?」
古泉「いいえ。できる限りの抵抗はさせてもらいますよ……!」
>一樹の身体の周りから、同じように赤色に光を発しはじめている。
古泉「(……やはり、完全に能力を行使はできませんね。球形ではなく人型が限界ですか)」
シャドウハルヒ「へぇ。あの娘がここにきたから能力が使えるようになったってことかしら」
古泉「かもしれませんね」
シャドウハルヒ「そう! 楽しみだわ! あたしが目覚めさせた能力がどれほどのものか!」
>黒い影が一際大きくシャドウハルヒから噴出す!
古泉「そうです。あなたが授けた能力です。
おかげであなたと対峙できるのです……感謝しますよ、これだけは!」
>お互いに猛進し、一樹とシャドウハルヒが衝突した!
>赤い閃光と黒い影は、中空へと浮かび幾度となく交錯している。
……
…
キョン「長門! どうにかならないのか! いくら古泉が力を使えるからって!」
長門「わたしが古泉一樹に加勢することは可能」
キョン「なら――」
長門「だけど、古泉一樹は今わたしが加勢することを望んでいない」
キョン「なっ……!?」
長門「古泉一樹は、わたしに彼の救出を託した」
キョン「彼って、番長か?」
長門「そう。涼宮ハルヒの影を止めるには、彼の力が必須」
キョン「情報操作とやらで、ハルヒの影を消しちまうことはできないのか!」
長門「わからない。たとえできたとしても、涼宮ハルヒの影も情報操作は可能。
つまりそれは、情報操作同士による戦闘を意味する」
長門「敵意を持ったもの同士の情報操作による戦闘は、どちらかが消滅するまで終わらない」
長門「今あそこで戦闘しているモノは涼宮ハルヒの精神の一部。
それを消滅させることは、涼宮ハルヒの精神の死――心の死に繋がる恐れがある」
長門「そしてもうひとつ。わたしが勝てる保証はどこにもない。
涼宮ハルヒの影は、わたしに――情報統合思念体ができなかった彼への情報操作を目の前で行った。
その点だけを見ても情報操作のレベルは、相手の方が確実に上」
キョン「長門……」
長門「だからこそ、彼の力が必要。消滅させるのではなく、暴走を抑える心の力。
彼がペルソナと呼ぶ、あの能力が必要」
キョン「だけど、番長はあそこまで吹き飛ばされて……!」
長門「問題ない。彼は物理的なダメージは一切負っていない。彼の力のおかげ」
キョン「ペルソナって、そんなにすごいもんなのか……」
長門「だけど、涼宮ハルヒの影が行使した能力によって拘束され動くことができない」
長門「それをわたしが解除する」
キョン「できるのか!?」
長門「涼宮ハルヒの影が彼に行ったことは、ただの情報操作に過ぎない」
長門「それならば、わたしが解除できる」
キョン「だが、さっきあいつの情報操作のほうが上って――」
長門「してみせる」
キョン「……ああ、頼んだぜ。長門」
みくる「長門さん、お願いがあります」
キョン「朝比奈さん……?」
……
…
>くそ! 力をいくらこめても動けない!
>赤い光と黒い影は、激しく空中で切り結んでいる。
ドォンッ!
>一際大きな衝突音と同時に、弾き飛ばされるように赤い光が地上へと叩き落された。
>一樹っ!
古泉「はっ、はっ……まったく、とんでも、ないですね」
>呼吸を乱し、肩で大きく息をしてる。
シャドウハルヒ「思ったより楽しいわ。思ったよりね」
>黒い影は、緩やかに地上へと舞い降り、シャドウハルヒの姿へと戻った。
古泉「ここまで力の差があるとは、思いませんでしたよ」
シャドウハルヒ「そう? 遊ぶのにはちょうどいいくらいよ?
いい運動にもなるしね」
古泉「遊び、ですか」
シャドウハルヒ「早く決着つけてほしかったわけ?
それなら『消えろ』って願うだけでいいんだから」
古泉「そうですね……あなたは最初から勝負の場になど立っていないのでしょう」
シャドウハルヒ「当然でしょう? でも、もういいわ。古泉くんも限界みたいだし。これ以上は望めないでしょうから。
それなりに楽しい遊びだったわ。今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる」
>シャドウハルヒが一樹へと歩み寄っていく……!
古泉「絶体絶命というやつですか……困ったものです」
シャドウハルヒ「じゃあね、古泉一樹くん」
古泉「(時間は稼げたでしょうか……あとは頼みましたよ、長門さん、番長氏――)」
ヒュン!
みくる「――そんなこと、させませんっ!」
シャドウハルヒ「!」
古泉「!」
ヒュン!
>みくるが、突如一樹のそばに現れ、一樹の腕をとり一瞬にして姿を消した。
シャドウハルヒ「みくるちゃんも邪魔するのね……」
ヒュン!
みくる「ふうっ」
キョン「うわっ!」
長門「……」
>そして、キョンと有希のそばに再度出現した。
>この転移は、見覚えがある……!
古泉「朝比奈さん、これは、一体」
みくる「説明は、あとです。今は涼宮さんの影に注意を払わないといけません」
古泉「! ええ、その通りですね」
キョン「……朝比奈さん」
みくる「いいの、キョンくん。これがあたしの選択。
これであたしも、戦える」
……
…
――数分前。
みくる『長門さん、お願いがあります』
キョン『朝比奈さん……?』
みくる『あたしの――わたしの中にある航時に関するすべての制限をはずすことはできますか?』
長門『……なぜ?』
みくる『もし、はずすことができれば、あたしの影がやったこと――極小単位での航時も可能になると思うんです』
みくる『そうすれば、わたしも、お役に立てる……!』
長門『たしかに、可能』
長門『朝比奈みくるに与えられている制限は概念装置によるところが大きい。
情報操作によって、その制限を取り外すことは容易。
しかし無断航時は、あなたたちにとって重大な背任行為にあたるはず』
みくる『わかってます。きっと制限を取り外して――これだけでも重罪なんですけど。
さらに無断で航時した場合、最低でも懲戒以上の罰がわたしには下るでしょう。
少なくともこの時代にはもういられなくなるに違いありません』
キョン『朝比奈さん、どうして、そんな!』
みくる『でも、なにかできるとわかっていて! それでいて手を拱いているのは嫌なんです!
あたしにも、この世界を、このSOS団を守らせてくださいっ!』
『ドォンッ!』
キョン『!? 古泉っ!?』
みくる『古泉くんっ!』
『――今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる』
みくる『長門さんっ!』
長門『……わかった』
……
…
シャドウハルヒ「やれやれ、面倒な手間がどんどん増えていくわね」
>シャドウハルヒは不適に笑っている。
また後ほど
みくる「あたしだって、最後まで、抗ってみせますっ!」
シャドウハルヒ「みくるちゃんに、なにができるのかしら」
みくる「……」
シャドウハルヒ「覚悟をしている眼ね。
そう。それなら……見せてもらおうかしらッ!!」
古泉「朝比奈さん! 避けてくださいっ!」
>シャドウハルヒが鋭く地面を蹴り、一樹とみくるへ突進する!
みくる「――大丈夫。古泉くんは体力の回復に専念して」
ヒュンッ!
シャドウハルヒ「……ちっ。その消えるやつ面倒だわ」
>シャドウハルヒの地表すら抉るような突進から繰り出された右手の突きは、虚空をつかんだだけだ。
みくる「……」
古泉「これが、極小単位ではあるものの時間跳躍ですか。
……このような感覚なのですね」
みくる「ごめんなさい。気分が悪くなるかもしれません。でも、我慢してください」
シャドウハルヒ「ふう、みくるちゃんまでこんなに厄介だとはね」
シャドウハルヒ「でも、面白いわ。みくるちゃん、くふ……うふふ」
シャドウハルヒ「みくるちゃんは逃げる。あたしは追いかける。まるで鬼ごっこ」
>シャドウハルヒは獰猛な笑みを浮かべている。
みくる「(あたし自身に攻撃を与える術はない。
だからこそあたしがすべきこと……古泉くんを守りながら、長門さんの情報操作完了までの時間を稼ぐ)」
みくる「やって、みせますっ!」
古泉「朝比奈さん。彼女は僕らを消すことは、あまり考えていないようです」
古泉「あくまで、僕らは僕らのまま、記憶を書き換えることに固執しているようだ」
みくる「あたしたちには、都合がいいですね」
古泉「ですが、いつ気まぐれを起こして僕たちを消すとも限りません」
みくる「そうですね……そうならないことを祈るだけです」
古泉「まったく、悪趣味な神頼みですよ。笑えません」
シャドウハルヒ「さあ、さあ、さあ! 楽しい楽しい鬼ごっこの始まり始まり!」
>先ほどの突進よりもさらに疾く、みくるたちにシャドウハルヒが迫る!
みくる「行きます、古泉くん!」
ヒュンッ!
>みくるが転位し、それをシャドウハルヒが追う!
>シャドウハルヒは、みくるの転位先を的確に読み、間髪をおかずに攻撃を繰り出している。
シャドウハルヒ「あはっ、くふふ、うふ、ふふふふ……あはははははははッ!」
みくる「ううっ……」
ヒュンッ!
>みくるは辛そうだ……。
古泉「避けながら聞いて下さい。おかげで幾分か体力が回復しました。
攻撃することもできそうです」
古泉「相談なのですが、空中に転位することはできますか?」
みくる「は、はいっ」
ヒュンッ!
みくる「もちろん、できますっ!」
ヒュンッ!
古泉「では、今から6回後の時間跳躍で、涼宮さんの影の直上に出現することは?」
みくる「か、可能ですっ!」
ヒュンッ!
古泉「お願いします。できる限り近くに転位してほしいのです」
みくる「誤差もでるかもしれませんけど、や、やってみますっ」
ヒュンッ!
みくる「で、でも! 攻撃といってもあの涼宮さんの影に通じるんですか?」
古泉「わかりません。また先ほどと同じようにまったく効かない可能性もあります」
ヒュンッ!
古泉「ですが、この力は神人に……涼宮さんの能力の成れの果てに対抗するためのもの。
この攻撃で何かしらの突破口に、もしくはそれを見つけ出す糸口になりえるかもしれません」
古泉「そして、彼らなら見つけてくれるかもしれない。彼らに希望を託すことができるかもしれない」
ヒュンッ!
みくる「番長くんたちに、託す……」
古泉「それだけでも、十分やる価値はあるように思えませんか?」
みくる「ええ。そうで――」
シャドウハルヒ「なんの相談かしらぁ!?」
みくる「くっ!」
ヒュンッ!
みくる「ふう、ふう……」
古泉「……」
>みくるとシャドウハルヒが距離を大きくとり向かい合う。
>みくるは息を切らせている。
シャドウハルヒ「あら、疲れちゃった? じゃあこれで終わりかしらッ!」
>シャドウハルヒがみくるへと突貫する!
みくる「まだですっ!」
ヒュンッ!
>みくると一樹がシャドウハルヒの真上に転位した!
古泉「いきますっ! フッッ!!」
シャドウハルヒ「!?」
>一樹の攻撃を受け、砂煙が舞い上がる。
みくる「やった、せいこ――」
シャドウハルヒ「――ざーんねん」
ガシッ!
古泉「うぐっ!」
みくる「あっく……」
>砂煙からシャドウハルヒが飛び出し、それぞれの首を片手でギリギリと締め上げいく!
>動け、動けっ!
『……解除コード生成完了。転送開始』
>……これは!
シャドウハルヒ「あはぁ、掴まえたァ」
古泉「が……ぐっ」
みくる「かっ……」
シャドウハルヒ「さあ、鬼ごっこはこれでお終いね」
シャドウハルヒ「そして、これまでの古泉くんとみくるちゃんともさような――」
長門「……」
ヒュオンッ!
シャドウハルヒ「おっとっと、危ないじゃない有希」
>シャドウハルヒは一樹とみくるを放し、有希の攻撃を回避した。
みくる「な、長門さん……」
古泉「げほ……た、助かりました」
シャドウハルヒ「でも、へぇ。有希が後ろ回し蹴りねぇ。
思ったよりさまになってるじゃない。かっこよかったわよ」
シャドウハルヒ「でも、有希があたしに勝てるかしら?」
長門「わからない。だけど、彼がいる」
シャドウハルヒ「彼?」
>待たせた。有希。
シャドウハルヒ「番長くん? どうやってあたしの拘束から抜けたのかしら」
古泉「番長氏……」
みくる「ば、番長くん」
>ふたりは休んでいてくれ。
古泉「わかりました。今は役に立てそうにありません」
みくる「気をつけて……」
>コウリュウ! メシアライザー!
古泉「身体が軽く……!」
みくる「こ、これって」
>少しはマシになっただろう?
>キョン、2人を頼む。
キョン「あ、ああ」
シャドウハルヒ「誰が番長くんを助けたって考えるまでもないか。本当に有希も邪魔するのが好きね」
長門「……」
シャドウハルヒ「それで? あたしに一度負けた番長くんで、どうするつもり?」
長門「あなたを、止める」
>一樹とみくるがつないでくれたんだ。必ずお前を止める。
シャドウハルヒ「あたしを? ふふ、面白いこと言うわね」
シャドウハルヒ「じゃあ……止めてもらおうかしら!!」
>再び黒い影のようなオーラが噴出す!
>行くぞ、有希!
長門「(コクリ)」
>シャドウハルヒが、急速に間合いを詰めにじり寄る!
シャドウハルヒ「もういいわ! 邪魔をするくらいなら消えなさい!」
長門「……」
>有希が上空へ大きく跳躍する!
シャドウハルヒ「撃ち落してあげるわっ」
>させるかっ!
>チェンジ! ロキ! ニブルヘイム!
シャドウハルヒ「氷!?」
シャドウハルヒ「だけど、そんな攻撃であたしにダメージを……!」
>与えられるとは思っていないさ。
シャドウハルヒ「これは……凍り付いて……」
>だが、動きを封じさせてもらう。
シャドウハルヒ「無駄よ。『融けろ』」
>みるみるうちに氷が融けていく……。
シャドウハルヒ「今度こそ、終わりよ!」
>……その一瞬の隙がほしかった。
>有希っ!
長門「SELECT シリアルコード FROM データベース WHERE コードデータ
ORDER BY 攻勢情報戦闘 HAVING ターミネートモード」
長門「さらに情報阻害因子を展開。局所的情報連結の解除を開始する」
シャドウハルヒ「チィッ!」
>有希がシャドウハルヒの直上から滑空し、頭上へと振り上げていた右足を振り下ろす!
ヒュォンッ!
シャドウハルヒ「ぐっ!」
>シャドウハルヒは、攻撃を避け大きく後退した。
長門「……」
シャドウハルヒ「かかと落しとは、やってくれたわね」
>シャドウハルヒの左肩に少し切り傷をつけただけで、大きなダメージにはならなかったようだ……。
長門「……」
シャドウハルヒ「フフ。あたしに攻撃を当てたことは褒めてあげるわ。
でもね、所詮は奇襲。二度目はもうないわよ」
長門「……」
シャドウハルヒ「あたしを止めるだっけ?
その最初で最後のチャンスはたった今潰れた」
>シャドウハルヒの威圧感が増す。
シャドウハルヒ「おしゃべりもこれまでね。消えなさい」
長門「終わった」
>……有希?
長門「情報阻害フィールド、展開開始」
シャドウハルヒ「これは……」
>シャドウハルヒの周りを透明な薄い膜のようなものが包む。
シャドウハルヒ「やれやれ。何をしたかわからないけど消せばいいだけの話。
『消えなさい』」
>……?
シャドウハルヒ「……?」
>なにも変化が起こらない?
シャドウハルヒ「なにを、したの? 有希」
長門「あなたに答える必要はない」
シャドウハルヒ「ふ、ふふ、ふふふふ……あはははぁはァッ!!」
>狂気をむき出しにし、シャドウハルヒが躍りかかる!
長門「今なら涼宮ハルヒの影と組み合っても大丈夫」
>……! ならば、チェンジ! ザオウゴンゲン!
シャドウハルヒ「また、吹き飛ばしてあげる!!」
長門「無駄」
>組み合ったが飛ばされない……それどころか、押し勝てる!
シャドウハルヒ「ぐうっ! こ、れ、は……」
バチィッ!!
>はじき飛ぶように後退し、シャドウハルヒは間合いを取る。
シャドウハルヒ「どうやったかわからないけど、この膜であたしの能力を封じたというわけね」
長門「……」
シャドウハルヒ「さしずめ、さっきのかかと落しのとき……かしらね。
この膜、外側からの展開じゃなくて、左肩の内側から発生しているわ」
>先ほどの攻撃の際に有希はなにか仕込んでいたようだ。
シャドウハルヒ「でも、チカラ、使い果たしちゃったんでしょ?
さっきの組み合いで加勢してこなかったのがいい証拠」
>有希……。
長門「……」
シャドウハルヒ「何よりも雄弁な沈黙ね、有希」
>たとえそうだとしても、あとは俺が何とかしてみせる。
シャドウハルヒ「く、くく、くくくく。番長くんが、どうにか?」
シャドウハルヒ「番長くんに、あたしは止められない」
長門「気をつけて」
長門「涼宮ハルヒの影の力を完全に無効化したわけではない」
>どういうことだ?
長門「涼宮ハルヒの力は大きく分けて2つある」
長門「ひとつがわたしたちと同じような情報操作。
この世界に存在しているものの情報や性質を書き換える能力」
長門「情報阻害因子によって一時的に妨害に成功したものはそちらだけ」
長門「そしてもうひとつが――」
シャドウハルヒ「ふふ、『変える』能力は使えないみたい。
でも、いいわ。番長くんのその化身みたいなもの、面白そうね」
シャドウハルヒ「あたしも『創ろう』かしら!!」
>シャドウハルヒの後ろに、突如何体もの巨大な神人が顕現する!
長門「情報創造。わたしたち情報統合思念体も持ちえない能力。
涼宮ハルヒだけが持ちえる無から有を生み出す、唯一無二の能力」
シャドウハルヒ「有希も、古泉くんも戦えない今!
番長くんにあたしとこの神人の両方を相手にすることができるかしら!」
シャドウハルヒ「行きなさい。そして二度と邪魔できないように捕らえてあげる」
>出現した神人たちが押し寄せるようにこちらへと向かってくる。
>チェンジ! ルシフェル! メギドラオン!
キィン――ドォオオォンッ!!
オオォオオォオオォ……。
>くっ、何体かは吹き飛ばすことができたが全てを消し飛ばすことはできない……!
オオォオオォオオォ……。
>神人の巨大な手が自分を目掛けなぎ払ってくる――避け切れない!
ズドォオオン!
>ぐっ……思いのほかダメージが大きい。ならば、もう一度! メギ――。
シャドウハルヒ「そっちに意識をもっていきすぎよ、番長くん?」
>!!
シャドウハルヒ「――じゃあね」
>足元に闇が広がり、呪詛を彷彿とさせる無数の腕のような赤黒い触手が伸びる!
>こ、これは……!!
長門「させない」
ヒュンッ! ドンッ!
>有希のかかとが自分を思い切り吹き飛ばし、身体が地面を転がる。
>有希の身体に無数の触手が絡みつき、足元の闇の中へ引きずり込んでいく!
長門「わたしは、大丈夫」
長門「あなたを、信――」
ドプンっ……。
>有希ッ!
シャドウハルヒ「あらら、番長くんの代わりに有希が飲み込まれちゃった」
オオォオオォオオォ……。
>イザナギッ!
ザシュンッ!
>襲い来る数体の神人をどうにか切り倒し、再び対峙する。
>有希を、どこへやった。
シャドウハルヒ「さあ? 答える義理があって?」
>……。
>あの光景は……どうしてだ。頭が痛む。
シャドウハルヒ「さあ! さあ! まだまだ終わりじゃないわよ!」
みくる「な、長門さんが」
キョン「な、が……」
キョン「長門を、長門をどこへやったっ!」
シャドウハルヒ「うふうふふふあははははははっ!!」
>再び足元に闇が拡がる!
>先ほどのダメージのせい避けることができない……!
古泉「いけませんっ!」
ドンッ!
>自分を突き飛ばした一樹に触手が絡みつき、闇の淵へと引きずり込んでいく。
古泉「ぐ、僕もどうやらここまでのようです。あとは、任せ――」
ドプンッ!
>さらに足元に闇が広がる!
キョン「番長ッ!」
みくる「だめぇッ!!」
ドンッ!!
みくる「お願い、この世界を守っ――」
ドプンッ!
キョン「朝比奈さん!」
シャドウハルヒ「あはははははははははははッ!!
なんだ、番長くんを守ろうとしてみんな消えちゃったじゃない!」
キョン「てめぇっ!!」
シャドウハルヒ「これで終わりにしましょう? そしてキョン、あたしとひとつになるのよ」
オオォオオォオオォ……。
>先ほどとは比べ物にならない一際大きな神人がシャドウハルヒの背後に現れる。
>ズキン、ズキン、ズキン――。
>頭が、割れるようだ。
キョン「お、おい、番長! うずくまってどうした!?」
シャドウハルヒ「みんなが消えたショックで動けなくなっちゃった?」
シャドウハルヒ「ふう。残念ね、こんな幕切れなんて」
>!!
>頭に甦る、この映像は……!
……
…
――『幾千の呪言』
>死の呪いが仲間たちを襲う。
――『残念だよ…こんな幕切れになるなんて…』
>意識が遠くなっていく…。
>強大な相手を前に…ここで…力尽きるしかないのだろうか…。
???『――――――こっち』
>この声は……。
???『――――――こっちへきて』
???『――――――あたしを、助けて……』
>強烈な光が身体を包む!
……
…
たぶん次の投稿でラスト
今日中に終わるといいな
書きながら投げていく
キョン「……う――長――番長っ!!」
>キョ……ン。
キョン「何を呆けているんだ! しっかりしろ!」
>ああ……すまない。
キョン「大丈夫か?」
>大丈夫だ。むしろ、不思議なくらい落ち着いている。
>それに、今頭をよぎったものは……そうか。
シャドウハルヒ「うふふ。そうそう。ちゃんと戻ってきてもらわないとね。
このまま幕切れなんてつまらないもの」
>……。
>思い出したよ。
シャドウハルヒ「なにをいっているのかしら?」
>全部、思い出した。
>こちらへくる直前に、自分の世界でどんなことになっていたのか。
>どうしてこちらへ呼ばれたのか。
シャドウハルヒ「……」
>あの状況からハルヒに助けられたこと。
>そして、ハルヒが――お前が、助けを求めていたことも。
>全て思い出した。
キョン「コイツが……助けを?」
シャドウハルヒ「アハハハッ! あたしが? 助けを? 番長くんに?
面白いこというわね」
シャドウハルヒ「あたしがいつ! 助けてほしいって!」
>今だって、言っているじゃないか。
シャドウハルヒ「……」ピクッ
>今なら、わかる。ハルヒの、お前の。心からの叫びが。
『助けて』
『あたしを助けて――』
『あたしは、涼宮ハルヒは、』
『――ここにいる』
シャドウハルヒ「……ッ」
>そう。お前だって、ハルヒなんだ。
シャドウハルヒ「……うるさい」
>自分に、自分を否定されるのは誰だって辛い。
シャドウハルヒ「うるさい」
>自分に、自分を認めてもらいたい。誰だって思うことだ。
シャドウハルヒ「うるさいうるさいうるさいっ!!」
>初めて、狂気以外の感情を露わにしたな。
シャドウハルヒ「黙れっ!!」
シャドウハルヒ「番長くんに、あたしの、"涼宮ハルヒ"のなにがわかるの!!」
>……確かに、出会って間もない自分にはハルヒのことはほとんどわからない。
シャドウハルヒ「なら――」
>だが。ここにいる。誰よりもハルヒのことを知っている人間が。
>なあ、キョン。
キョン「お、俺……?」
シャドウハルヒ「キョン……? キョンだって上辺のあたししか。
外殻のあたししか知らないじゃない」
シャドウハルヒ「それで、あたしのなにを知っているって!?」
キョン「ぐ……悔しいが、あいつの言うとおりだ」
>そうか? キョンは少なくとも自分よりは。
いや、SOS団の誰よりもハルヒのことを知っている。
>それに、誰しも他人のすべてを知ることなんてできない。
キョン「……」
>それに、知らないのであれば。
>みんなが俺を受け入れてくれたように、1からはじめればいい。
>これから、知っていけばいい。
キョン「……!」
>それだけだろう?
キョン「……ははっ。ああ、そうだな。知らなければ知ればいい。それだけだ。
もうひとりのハルヒを隠していたなんてな。古泉や朝比奈さんや長門以上に隠し事の多い団長様だ」
シャドウハルヒ「……うるさいうるさいうるさいッ!
そんなことができるなら、最初からそうしてる!」
シャドウハルヒ「誰もあたしを認めない。あたし自身もあたしを認識しない」
シャドウハルヒ「それならば、あたしが新しい世界を創るのよ!!」
>…………ようやく、掴まえた。
キョン「番長……?」
>それが、ハルヒから独立した意識となったお前の本心だ。
シャドウハルヒ「!!」
>未知の世界を楽しみたい……それはハルヒの願いだ。
お前の願いじゃない。
>お前の本当の願いは、SOS団のみんなに、自分自身に認めてもらいたい。
>たった一つの純粋な願い。それだけだ。
シャドウハルヒ「だ、ま、れぇッ!!」
>シャドウハルヒの背後の巨大な神人が巨腕を振り下ろす!
ゴウッッ!!
>イザナギ!!
ザシュンッ!
>イザナギの矛が巨腕を切り落とす!
シャドウハルヒ「あたしは、アンタたちを屈服させて新しい世界を創る。
もう、それだけでいい」
>神人が残った腕で攻撃に移ろうと溜めを作る。
シャドウハルヒ「邪魔するものは、消すッ!」
>キョン、力を貸してくれ。
キョン「この状況で、俺に何ができるんだ」
>キョンは、今目の前にいるハルヒのことをどう思っている?
キョン「ハルヒの影のことか? どうって……それは」
>それは?
キョン「――いいや。ハルヒは、ハルヒだ。影でも偽者でもなんでもない。
誰でもないさ。なにをしようとも、俺らSOS団に迷惑を振りまく団長様だ」
キョン「そんでその尻拭いをするのは、やっぱり一番下っ端の俺なんだろうよ」
キョン「その役割は、誰にも譲らない。譲らせない」
>それで、十分だ。
>イザナギの矛に触れてくれ。
キョン「こうか……?」
>イザナギの矛の刃が淡く光りだす。
>絆を真に深めた心が力へと変わる……。
>キョンとハルヒの絆の力、貸してもらうぞ。
キョン「!! くるぞ、番長!」
シャドウハルヒ「消えろォッ!!」
ゴゥンッ!!
>イザナギが矛で襲いくる神人をなぎ払う!
パァンッ!
シャドウハルヒ「たった一振りで……」
キョン「神人が、砕け散った……!!」
>これがキョンとハルヒが育んだ絆の力だ。
>きっと、SOS団のみんなならば、お前だって受け入れてくれる。
シャドウハルヒ「なにを、戯言を!!」
>だがまずは、お前の暴走を止めさせてもらう。
シャドウハルヒ「……はっ! できるもんなら」
シャドウハルヒ「やってみなさいっ!!」
>シャドウハルヒの身体から爆発的に影のようなオーラが迸る!
ギィン――ギィン――ギィン。
>イザナギのもつ矛の放がつ光激しくなる。
>離れていろ、キョン。
キョン「ああ、頼んだぜ」
>いくぞ。
シャドウハルヒ「あああぁあああぁぁあぁあぁあああッッ!!」
>オーラを纏い咆哮とともにこちらに向かい疾駆してくる!
ギィイィイイィインッ!!
>おおぉおおおおぉおおおおぉおぉぉおぉッ!
>シャドウハルヒの拳とイザナギの矛が正面でぶつかり合う!
シャドウハルヒ「こんなもの……こんなものッ!!」
>ぐぅっ……! おし、ま、け、る……!!
ギィイイィイイィイィン!!
シャドウハルヒ「う、ふふ……うふふ……あたしの、勝ちよ! 番長くん!」
>これは、この矛は! キョンとSOS団みんなの想い!!
>無駄にしてたまるかッ!!
――――
――
キョン「なあ……ハルヒ。俺とハルヒの絆はよ。
好きとか嫌いとか」
キョン「愛してるとか愛していないとか」
キョン「そういうことじゃねぇよな」
キョン「どこまでも、ついて行ってやる」
キョン「だから」
キョン「俺は、お前を。涼宮ハルヒを――」
――信じてる。
――――
――
ギィイイィイィイィイイィイイィイイィイイン!!
>矛の煌めきに自分とハルヒの身体が包まれる!!
>届け!! 届けっ!!
シャドウハルヒ「こ、れ、は」
>届けえええぇえぇえええっ!!
シャドウハルヒ「!!」
ドッ……ザシュンッ!!。
シャドウハルヒ「あ……あ……」
>シャドウハルヒの身体の真ん中に矛が突き立つ。
シャドウハルヒ「あぁああああああああアアぁああァあぁああぁッッ!!」
シャドウハルヒ「ぁああぁあぁあああぁあぁあぁあああぁぁああぁ!!」
シャドウハルヒ「あ……あああ…ああああ…ああああぁぁぁぁ……」
ドサッ。
>シャドウハルヒが仰向けに倒れる。
キィン――。
>矛が光の粒となってシャドウハルヒの身体へ取り込まれていく。
ハルヒの影「……」
>はあ、はあ、はあ……。
キョン「番長、終わったのか?」
>暴走は抑えられた、と思う。
キョン「古泉、朝比奈さん、長門は……?」
>……わからない。
キョン「まさか、このまま……?」
>それも、わからない。
キョン「くそっ! せっかく勝ったっていうのにこれじゃあ……」
>一樹、みくる、有希……。
古泉「勝手に亡き者にしないでいただけますか」
キョン「古泉っ!? いつから!?」
古泉「たった今です。長門さんがこじ開けてくれました」
長門「空間封鎖と情報封鎖が解除されただけ。すべてはあなたたちのおかげ」
みくる「でも、長門さんがいなければでられませんでしたから」
キョン「全員、無事なのか?」
古泉「ええ。ただ涼宮さんの影が作り出した亜空間に囚われていただけですから」
キョン「俺はてっきりあのとき死んじまったとばっかり……」
古泉「あのとき、涼宮さんの影は『捕らえる』といっていましたから。
最初から番長氏を含めて僕たちを亡き者にするつもりはなかったのでしょうね」
キョン「古泉、お前。それをわかっていて?」
古泉「いいえ。あのときは身体が勝手に動いただけです。
あとも先もなにも考えずにね」
長門「わたしも、そう」
みくる「考えている暇はなかったですからねぇ」
キョン「そうか……そうだよな」
>ありがとう。みんな。
古泉「いえ。長門さんの言と重なりますが、全てはあなたたちのおかげです。
この世界の命運をあなたたちに託してよかった」
みくる「ふふ、そうですね」
キョン「その命運とやらは、番長がほとんど背負っていたがな」
>そんなことはないさ。
ハルヒ「ぅうっ……」
キョン「ハルヒ!」
>ハルヒも目を覚ましたようだ。
ハルヒ「なにが、どうなっているの……ここは。
夢じゃ、なかった、わけ?」
キョン「夢なんかじゃないさ。全部現実だ」
ハルヒ「現実……」
キョン「いいよな。話しても」
古泉「一度は、あなたたちに託した世界の命運です。
僕に止める権利はありません」
みくる「ええ、そうですね」
長門「任せる」
古泉「それに、涼宮さんもここで向かい合わなければ、
いつかまた同じようなことが起こるでしょうからね」
キョン「ああ、そうだな」
ハルヒ「なにを……」
キョン「いいか、ハルヒ」
ハルヒ「な、なによ」
キョン「今、目の前に起こっていることは現実だ」
キョン「この空間も、このもうひとりのハルヒも、全部現実だ」
ハルヒ「これが、現実……?」
ハルヒ「あはっ……そんなわけないじゃない。
確かにこれが現実なら、そりゃ不思議すぎてびっくりだけど」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「でもね、いいキョン? 現実はそう甘くないの。
こんな風に大仰に現れてくれないのが不思議ってものよ」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「それにね――」
キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「!!」
キョン「もう一度言うぞ。全部、現実だ」
ハルヒ「……じゃあ、古泉くんが超能力者って言うのは」
古泉「本当です」
>一樹は赤光を纏い、空中に浮かんで見せた。
ハルヒ「……!」
古泉「この程度の超能力ですけどね。期待にはそえていないかもしれません」
ハルヒ「み、みくるちゃんが未来人って言うのも」
みくる「本当です」
ヒュン。
>ハルヒの手をとり、5秒後に時間転移をした。
ハルヒ「な、によこれ……」
みくる「時間転移……つまりタイムトラベルです。今のは5秒だけですけどね」
ハルヒ「ゆゆ、有希が宇宙人なんてさすがに嘘よね」
長門「本当」
>有希は自身の右手親指を噛み、出血をさせたのちに高速で自己修復を行った。
ハルヒ「すご……」
>ハルヒが3人を不思議そうに眺めている。
ハルヒ「じゃ、じゃあ番長くんは」
>どうやら異世界人ということらしいと伝えた。
>イザナギを出現させる。
ハルヒ「い、異世界人……? なんで、そんな……」
キョン「信じたか?」
キョン「それでな。ここからが一番大事な話だ」
キョン「ハルヒ、お前にはなんでも願いを叶えちまうトンデモパワーを持っている」
ハルヒ「それって、あたしが気を失う前に言ってたこと……?」
キョン「ああ」
キョン「そのトンデモパワーは、ハルヒ自身を苦しめた。
その結果生まれたのが、今そこに倒れているハルヒだ」
キョン「ハルヒの抱えていた苦しみを全部受け持っていてくれてたんだとよ」
ハルヒの影「……」
>ハルヒの影がゆっくりと立ち上がる。
キョン「つまりだ。お前は知らなくても、あいつは、もう一人のお前だ」
キョン「ちゃんと話をして、決着をつけて来い」
>キョンがハルヒの背を軽く押す。
ハルヒ「そ、そんなこと言われたって」
>ハルヒとハルヒの影が向かい合う。
ハルヒ「何を話せばいいのよ……」
ハルヒの影「……」
ハルヒ「あなたは、あたしなのよね?」
ハルヒの影「そう。あたしは、涼宮ハルヒ」
ハルヒ「やっぱり、全然ピンとこないわ……」
ハルヒの影「あたしの願いは、あなたの願いと同じだと思っていた」
ハルヒ「……?」
ハルヒの影「だけど、それは違ったわ」
ハルヒ「……? 違った?」
ハルヒの影「わたしは、あなたは、未知であふれた楽しい世界を欲していると思っていた。
でも、あなたはそれ以上に、今のSOS団が続くことを願っている」
ハルヒ「……」
ハルヒの影「番長くんの矛が身体に突き立ったとき、SOS団の絆があたしの中に流れ込んできた」
ハルヒの影「すごく暖かくて、心地よかった」
ハルヒの影「未知はほしい。でも今のSOS団をつぶしてまで得るものじゃない。
素直にそう思えたわ」
ハルヒの影「最初は、結成した当初は自分だけが楽しければいい。そう思ってた。
だけど今は違う。SOS団のみんなと未知を見つけて一緒に遊びたい」
ハルヒの影「ううん、未知じゃなくてもいい。SOS団のみんなと楽しいことがしたい」
ハルヒの影「だからSOS団を守らなくちゃいけない。団長だからじゃない。
一個人の涼宮ハルヒとして」
ハルヒの影「そうでしょう?」
ハルヒ「!!」
ハルヒ「ふー……」
>ハルヒは、何か考え事をしているようだ。
ハルヒ「……そこまで言われちゃ、認めないわけにはいかないわね。
全然ピンとこないけど、どうやらあなたは、あたしみたい。
だって、誰にも話したことないもの。それを知っているのはあたししかいない」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「そりゃ口に出せないわよ。団長が結成の根本を失ったら元も子もないもの。
でもね、それ以上に楽しかったことも事実」
ハルヒ「野球も、合宿も、文化祭も、クリスマスパーティも、全部全部楽しかったわ」
ハルヒ「そこで気付いてしまったのよ。
『ああ、特殊な属性なんてなくてもこんなに楽しいんだ』ってね」
ハルヒ「気付いたときには、あたし自身に愕然としたわ。
どうしたんだ、涼宮ハルヒらしくないぞ、なんて思ったわ」
ハルヒの影「だから、少しでも不思議を望んだ」
ハルヒ「そうね、異世界人が目の前に現れたらあたしたちはどう映るんだろうって考えたわ。
なにか新しい刺激をくれるかもしれない、そんな風にも考えた」
ハルヒの影「そして、あたしの願いと重なって――」
ハルヒ「異次元の扉をこじ開けたわけね」
ハルヒ「ごめんね、番長くん。番長くんがここにきたのあたしのせいみたい」
>気にするな。それに自分も助けてもらったからな。
みくる「? どういうことですか?」
>ああ…それは、また後にしよう。
ハルヒ「とにかく、あなたはあたし。ちゃんと受け止めるわ。
それと、今までありがとう。いやな部分、全部受け止めてくれて。
そして、これからもよろしくね」
ハルヒの影「……そう」
>ハルヒは、ハルヒの影を受け入れたようだ。
>……?
ハルヒ「で、キョン。これでいいわけ?」
>ハルヒの影がハルヒの中へ戻る気配がない。
古泉「これは……?」
キョン「おい、ハルヒ。心の底から自分だって認めたか?」
ハルヒ「? 認めてるわよ」
みくる「どういうことでしょう……?」
ハルヒの影「あたしは――もう、一つの自我として成長しすぎた」
ハルヒの影「確かにあたしは涼宮ハルヒ。だけど目の前にいる彼女とはもう別の存在。
別の自我として確定してしまった」
キョン「じゃあ、もうハルヒの中へは戻れないってことか?」
ハルヒの影「ううん。もう、いつでも戻れるわ。反対にいつでも出てくることができる。
だけどね、一つだけ言いたいことがあるから」
ハルヒの影「あたしは――いえ、あなたはもう認識してしまったわ。自分の力を」
ハルヒ「なんでも願いを叶える力……」
ハルヒの影「そう。認識してしまったからにはきっと、同じように苦しみを味わうことになる。
また気が狂いそうになるほどの退屈な日常に襲われる。能力の発動を恐れるようになる」
ハルヒの影「あなたは、そのときに、どうする?」
ハルヒ「そ、それは――」
キョン「安心しろ、ハルヒ」
キョン「俺たちが、ついてる」
長門「情報操作は得意。任せて」
古泉「閉鎖空間の処理は僕らがついています」
みくる「涼宮さんの思っているような未来にはさせませんから」
キョン「ってことだ。それにな、ハルヒ」
ハルヒ「何よ」
キョン「このメンバーが揃っていれば退屈なんてするはずない。そうだろう?」
>……そうだな。その通りだ。
ハルヒ「みん、な……」
ハルヒの影「これがSOS団。素敵ね」
ハルヒ「な、何をいまさら! 当然じゃない!」
>ハルヒは、向日葵のような笑顔を浮かべている。
>ハルヒの影が淡い光をまとい足元から粒子へと変わっていく。
ハルヒ「!」
ハルヒの影「じゃあ、あたしは戻るわ」
ハルヒ「……ええ」
ハルヒの影「……もし、みんなが。SOS団がピンチになったら。
そのときは、助けるために、出てきていいかしら?」
>どういうことだ?
ハルヒの影「あたしだって、涼宮ハルヒなんだもの。SOS団が潰れるところは見たくない。
だから――」
ハルヒ「……もちろん。ていうか出てこないと許さないからっ」
ハルヒの影「ふふ……そう」
ハルヒ「あ、でもその恰好はやめてほしいかな。紛らわしいし」
ハルヒの影「わかったわ。あたしも、少し成長した姿を見せられるように頑張るわ」
ハルヒ「じゃあね、その日まで」
ハルヒの影「覚えていて。あたしがいたことを。
覚えていて。わたしはすずみや――」
>ハルヒの影は粒子になってハルヒへと戻っていったようだ。
キョン「ふー、終わったか」
古泉「とりあえずは、ですけどね」
ハルヒ「にしてもみんな。なんてものをあたしに隠してたのよ。
外に出たらたっぷり話を聞かないとね」
キョン「仕方なかったんだ。わかってやれ」
ハルヒ「冗談よ。冗談。それぞれに事情があるんでしょうしね」
キョン「やけに物わかりがいいな……反対に怖いぞ」
ハルヒ「なによそれ」
みくる「……」
>どうした? 暗い顔して。
みくる「ごめんなさい、涼宮さん。外に出てお話はきっとできないと思います。
だから、お話をするなら今しかないです」
みくる「せっかく隠し事せずにお話しできるのに
……これでお別れになるのは寂しいですけどね」
キョン「!」
ハルヒ「どういうことっ!?」
みくる「帰るというか、強制送還だと思います。
抵抗するためには仕方なかったとはいえ、いったい幾つの厳罰行為を犯したのか数え切れませんから」
ハルヒ「だ、駄目よ! 帰るなんて許さないわ!」
みくる「ごめんなさい。涼宮さん。みんな。けど、これには抵抗できないんです。
みんなのこれからを見届けられないのは、やっぱり残念かな」
みくる「でも、ダメなんです。ここにはいられない。
でもこうなることは、覚悟していたんです。後悔はしていません」
ハルヒ「みくるちゃん、そんな……」
みくる「これで、みんなのお役にたてたのなら――」
古泉「……まだ、その強制送還とやらは始まらないのですか?
ずいぶん時間が経っているように思うのですが」
みくる「……? そういえば、そうですね。
きっと、この空間を未来では認知できないんだと思います」
みくる「でも、ここから出たあと、すぐにでもあたしは――」
長門「問題ない」
みくる「え?」
ガリッ!
みくる「ひゃぁえぇえぇえぇっ!!」
>有希がみくるの腕に突然かみついた!
ハルヒ「有希! ちょ、有希! 何やってるの!」
みくる「ひぃぃいいん……」
長門「朝比奈みくるの中にあった航時に関する概念装置の再生復旧を行った。
一時的に消去した痕跡は残ってしまうが、人類の科学レベルでは検知できない程度」
長門「時間平面上に起こったノイズも修復を試みている」
長門「誰かが報告しない限り、なにも、問題はない」
ハルヒ「え、え? どういうこと?」
古泉「つまり、朝比奈さんは帰らなくてもよくなったってことです」
ハルヒ「有希のおかげで?」
キョン「そういうこったな」
みくる「よ、かった……よかったですぅぅ……」
>ぼろぼろと大粒の涙を流しながらその場にへたり込んでしまった。
みくる「もう、二度と、みん、みんなに、あえ、会えなくなるのかと思っ、」
ハルヒ「そんなこと、させるわけないじゃない!」
みくる「涼宮、さん?」
ハルヒ「誰かがそれを壊そうとするなら、あたしが許さないわ。
そうでしょう?」
>ああ。
キョン「そうだな、団長様」
みくる「涼宮さん…」
古泉「ふふ」
長門「……」
ハルヒ「さーて、こんなところさっさと出ましょう!
……みんなにも、お礼しなくちゃいけないしね」
キョン「それなら、番長をまず労ってやれ」
古泉「ええ、間違いなく最大の功労者ですから」
みくる「番長くんのおかげなのは間違いないですね」
長門「彼がいなければ、この状態にはなりえなかった」
ハルヒ「ありがとね、番長くん!」
>SOS団の全員と強い絆で結ばれるのがわかる……!
>これは……!!
【我は汝…、汝は我…】
【汝、ついに真実の絆を得たり】
【真実の絆…それは即ち】
【真実の目なり】
【今こそ、汝には見ゆるべし】
【 世界 のアルカナが…汝が内に宿らんことを…】
>突如、目の前の空間がゆがむ。
>……? なにかがゆらゆらと実体化しようとしてる。
キィィンッ!
ハルヒ「な、なによ! この扉……」
>これは、ベルベットルームの扉……!?
キョン「な、いきなり現れたぞ」
キョン「長門か?」
長門「違う。これは、彼と同じ」
古泉「番長氏と?」
長門「完全に、解析不能」
みくる「ど、どういうことですかぁ?」
>みんなの視線が集まる。
>これは、ベルベットルームと呼ばれる場所につながる扉だ。
>本来ならば、自分にしか見えないはずだが……。
ハルヒ「……いきましょ?
目の前に不思議があるんだからそれに乗り込まないのはSOS団じゃないわ」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「いいから、いきましょ」
古泉「ふう……このタイミングですか」
長門「でも、これが最後かもしれない」
みくる「そう、ですね…」
ハルヒ「さあ、番長くん開けてちょうだい」
>ベルベットルームの扉を開く……。
――ベルベットルーム。
ハルヒ「ここは……?」
古泉「車の中、ですかね。ですが閉鎖空間より光が乏しい」
キョン「お、おい。誰かいるぞ」
みくる「ひぇっ…」
イゴール「ようこそ、ベルベットルームへ」
>イゴール……!
イゴール「ようやく見つけられましたぞ、お客人」
マーガレット「久しぶり、といったほうがいいかしら?」
>マーガレット!
古泉「長鼻……」
キョン「? どこかで…?」
イゴール「おや? これはこれは。これほど多くの客人が一度に介したのは初めてですな」
イゴール「それに、それぞれが数奇な運命をお持ちのようだ」
イゴール「わたくしの名はイゴール。お初にお目にかかります」
マーガレット「わたくしは、お客様の旅のお供を務めております。マーガレットと申し上げます」
古泉「旅……ですか」
キョン「ここはどこなんだ?」
イゴール「ここは、夢と現実。精神と物質。そして――世界と世界の狭間にある場所」
イゴール「本来は、何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋」
マーガレット「ですが、あなたたちには主からお礼を申し上げたく、お呼び立てしました」
ハルヒ「お礼……?」
イゴール「お客人は、旅路の最後、強大な力を前に地に伏せってしまっておられた」
イゴール「その強大な力に飲み込まれ、そのまま力尽きるかに思われた刹那――」
イゴール「あなたが救い上げてくださったのですよ」
ハルヒ「あ、あたし?」
マーガレット「ええ。あのままでしたら、彼は消滅していたでしょう」
>ああ、そうだろうな……。
残りは今から。
古泉「消滅……?」
マーガレット「それほど強大なものと対峙しているのです」
イゴール「しかしあなたは、その強大なものにも立ち迎えるだけの力をつけて今ここに立っておられる」
イゴール「世界をその身に宿し、この場へと戻ってこられた」
マーガレット「本当ならば、あなたが別世界へ飛ばされたときにすぐに呼び戻そうと思ったのです」
マーガレット「ですが、それはできなかった」
マーガレット「あなたの居場所がつかめなくなってしまったのです」
イゴール「ですが、わたくしたちはようやく見つけたのです。あなたの紡いだ絆の輝きを」
マーガレット「あなたたちがコミュニティを作り、絆を深め、
力強い絆の波導を感じ取ることができたおかげで、見つけることができました」
マーガレット「改めて、お礼を言わせていただきます」
>世界のアルカナを宿したことがきっかけになったというわけか……。
イゴール「あなたにとって絆を育むことは、世界も場所も関係ないようだ」
イゴール「本来の世界でなくとも、大変良い友をお持ちになった」
マーガレット「……でも、そろそろ時間です。
ここへ足を踏み入れたときから、あなたの世界と時の流れは同期してしまっている」
>……ああ。わかった。
>みんな。
ハルヒ「番長くん?」
>みんなとは、ここでお別れのようだ。
キョン「お別れだと?」
>自分の世界で、まだやり残したことがある。
>やり残したまま、そちらへ戻るわけにはいかないんだ。
古泉「……ここへ足を踏み入れた時からそうなるだろうとは、予測していましたが」
古泉「いざ直面すると、動揺を隠しきれませんね」
みくる「お別れ……そう、ですよね」
キョン「でも、ま」
キョン「永久の別れってわけじゃないんだろ? そっちの用事が終わったらまた遊びにこいよ」
マーガレット「それは叶わないわ」
キョン「……なに?」
イゴール「本来、彼の世界とあなた方の世界は、交わることがないはずのものでした」
イゴール「しかし、奇跡とも呼べる偶然が重なり、彼がそちらへと召喚されただけに過ぎないのです」
イゴール「いえ、それもまた、運命だったのでしょうな」
マーガレット「ですが、一度世界の繋がりを絶ってしまえば二度とそちらへはいけない。
お互いに干渉することも観測することも叶わない完全に独立した世界へと戻ってしまうのです」
キョン「そん、な……」
ハルヒ「…………なら、あたしが繋ぐわ」
>ハルヒ…。
ハルヒ「あたしは、なんでも願いを叶える力を持っているんでしょう?
それなら――」
イゴール「残念ながら、それも叶わないでしょうな」
ハルヒ「っ! どうしてっ!」
イゴール「彼は、あなたたちの世界に本来は存在していない人間」
イゴール「世界が閉ざされるということは、その存在も閉ざされる」
マーガレット「つまり、彼と彼の世界を認識できなくなる」
>それは自分にもいえることだろうか。
マーガレット「ええ、そうね」
マーガレット「あなたも、向こうの世界へ戻れば、彼らのことを認識できなくなるわ」
>そうか……。
ハルヒ「そんなことさせない。今ここで番長くんの存在をあたしたちの中へ刻み込むわ!」
マーガレット「……申し訳ありませんが、あなたの能力はここでは発動できません」
ハルヒ「どうしてっ!」
イゴール「あなた様の能力は、夢と現実、精神と物質に作用するもの」
イゴール「夢と現実、精神と物質。その狭間にある場所では、
あなたの能力の発動のきっかけとなる触媒が何も在りませぬゆえ」
長門「この空間には情報が存在しない……?」
長門「ありえない。あなたたちは今ここに存在している。わたしたちもここに存在している。
その情報は確実にこの場に確定している。
それなのになぜ? 情報を持たない空間……?」
イゴール「おや、あなたは。どうやらわたくし達と近しい存在のようだ」
マーガレット「わたくし達は、力を統べる住人。あなたたちとは違った理を持っています」
マーガレット「つまり、あなたたちの世界の理に作用する能力は、ここでは意味を持ちません」
ハルヒ「そんな……そんな!!」
ハルヒ「なによそれ! なにがなんでも願いを叶える能力よっ!」
ハルヒ「こんな能力! こんな能力……ッ!!」
>ハルヒは、強くこぶしを握り締めている。
ハルヒ「あたしは、なんて無力なの……」
マーガレット「それともう一つ」
マーガレット「彼のことを認識できなくなるとともに、徐々にですが
彼が強く関わった出来事も認識ができなくなるでしょう」
マーガレット「特にここ――ベルベットルームでの出来事と」
古泉「テレビの中の出来事、というわけですか?」
マーガレット「その通りです。あの場所は彼がいなければ知ることもできない場所ですから」
古泉「つまりテレビの中で起こった出来事……。
僕らの影のことも、ペルソナも、涼宮さんが能力を自覚したことも。
すべては、なにもなかったかのようになってしまうと。そういうことですか」
キョン「なっ!」
マーガレット「あなたたちが何をしてきたのか。わたくし達には遡って感知する術はありません。
ですが、あなたたちが考えていることと相違はそれほどないでしょう」
古泉「そう、ですか」
みくる「せっかく……せっかく!
新しい関係に進めると思ったのにっ! どうして、こんな……」
ハルヒ「いや……嫌よ! そんなことっ!」
長門「……」
キョン「すべては、ゼロに戻っちまうのか……」
>……それは、違うぞ、キョン。
キョン「?」
>ゼロなんかじゃない。
キョン「ゼロじゃない? 忘れちまうんだぞ!
番長のことも! いままでのことも!」
キョン「そんなの……そんなの絶対に俺はごめんだ!」
>ゼロなんかじゃないさ。
>ハルヒ。
ハルヒ「な、なによ」
>料理対決のときに話したことを、覚えているか?
ハルヒ「料理対決……?」
ハルヒ「あ…!」
ハルヒ「一緒に過ごした『時』は消えない……」
>そう。
ハルヒ「『過ごした思い出が、人生の中で埋没してしまう時が来るかもしれない』」
ハルヒ「『この時は思い出になって風化してしまうことがあるかもしれない』」
ハルヒ「『だが、今こうして過ごしている時間は決して消えはしない』」
ハルヒ「今培っている絆は、決して、嘘じゃない……」
>離れてしまっても、思い出せなくても。
>この瞬間の絆は嘘じゃない。
>今目の前にある、真実だ。
みくる「どうして……どうしてっ!
番長くんは悲しくないんですかっ!」
みくる「もう会えなくなるんて、あたしは、あたしはっ」
>――不都合な真実であっても見つめ続ける。
>それが、心に決めていることだ。
みくる「でもっ!」
>悲しいさ。
>悲しくないわけがない。
>だけど、前に進まなければいけない。
>ここに留まっているわけにはいかない。
>自分を待っている人たちもいるから。
>自分が、しなければいけないことがあるから。
みくる「番長、くん……」
>沈黙が横たわる…。
みくる「そう、ですよね……」
みくる「番長くんには、番長くんの世界がある……
いつか、別れのときは来る……わかっていたんです。
でも、それが突然すぎて……」
>みくる……。
古泉「ここは……笑顔で見送るべきなんでしょうね」
キョン「古泉!?」
古泉「あらゆる手段を考えてみても、世界の理を揺るがすことは僕たちにはできない」
古泉「涼宮さんも、長門さんもなにもできないのですから」
古泉「だから僕たちにできることは、笑顔で見送る。それくらいです」
>一樹……?
キョン「古泉、お前……その、涙」
古泉「え? は、はは、ははは……どういうことでしょうね。
言った本人が笑顔を作れていません」
古泉「……困ったものです」
古泉「この涙は、僕の本心なのでしょう。
ですが、同時に、笑顔で見送りたいと思うのも僕の本心です」
古泉「この状況になにもできない僕の無力さをこれほど恨めしいと思ったこともありません」
古泉「だからこそ、笑顔で。
この状況で唯一運命にあらがえる行為、それが笑顔で見送ることだと思います」
キョン「古泉……」
長門「……ひとつだけ、聞きたい」
>なんだろうか。
長門「あなたは、本当に、もう2度と会えないと思っている?」
>!
>有希は、鋭いな。
長門「そう」
>……実をいうと、あまり思っていない。
キョン「どういうことだ……?」
>なぜだろうな。自分でもわからない。
>だけど、ここで紡いだ絆が、またいつか自分とみんなを引き合わせてくれると信じている。
>根拠は、なにもないけれど。そう、感じてる。
長門「そう……それだけ、聞きたかった」
ハルヒ「……そんなこといわれたら、信じるしかないじゃない」
キョン「納得できるのかよ!?」
ハルヒ「できないわよ! できないけど!」
>……キョン。
キョン「なんだ――」
ドゴォッ!!
ハルヒ「!!」
みくる「!!」
古泉「!!」
キョン「ってぇっ! 何しやがるっ!」
>何って、パンチだ。
キョン「そういうこと言ってるんじゃねぇっ!」
>キョン、こい。
キョン「なにを、こんなときに――」
ドゴォッ!
>こい。
キョン「っつ!! ……わかったよ、やってやるよ!!」
>キョンとしばらく殴り合いを続けた。
キョン「いったい、なんなんだよこれはっ! がっはっ!」
ドゴォッ!
>さあな! ぐっ!
ドゴォッ!
キョン「なんで、別れ際に、こんなこと、しなきゃ、いけねーんだっ!」
>それはな――!!
ドッゴォッ!!
>お互いのパンチが顔面に入り、その場にへたり込んだ。
キョン「いつつ……はぁ、はぁ、はぁ……わっけわかんねぇ……」
>はあ、はあ、はあ……これで親友だ。
キョン「あん……?」
>殴り合えば、対等だ。
>対等ならば、親友になれる。
>その親友が戻ってくると言ってるんだ。信じてくれ。
キョン「そうかい……そういうことか」
キョン「これも……絆の形の一つか」
>そういうことだ。
>キョンとこぶしとこぶしを合わせる。
ハルヒ「やれやれ、男って馬鹿ね」
みくる「ふふ、そうですね」
キョン「にしても、ここまで本気で殴るこたないだろうが……」
>つい……。
ハルヒ「しんみりした空気が台無しよ」
キョン「俺に言うな、番長にいってくれ」
>みんなに笑顔があふれる。
マーガレット「そろそろ、時間に余裕がなくなってきました」
イゴール「あなたは、再びあの強大な敵とまみえなければなりませぬ」
イゴール「覚悟は、お出来ですかな?」
>ああ。
マーガレット「別世界との接続により捩じれていた時空間が戻りつつあります」
マーガレット「もうすぐ、あなたたちの世界への道も閉ざされてしまう。
その前に、その扉をお開きください」
ハルヒ「……わかったわ」
ハルヒ「じゃあ、これで本当にお別れね、番長くん」
>ハルヒ。料理対決楽しかった。
ハルヒ「リベンジは、いつでも待ってるからっ」
>ああ、きっとさせてもらうさ。
みくる「番長くん……」
>みくる。SOS団にはみくるの優しさが必要だ。
みくる「必ず、必ず! また会いましょうね!」
>当然だ。だからみくるも、待っていてくれ。未来でも現在でも。
長門「……」
>有希?
長門「忘れない」
>! ああ。有希がそういうなら、絶対だな。
長門「そう」
古泉「何を言ったらいいんでしょうね」
>一樹には、世話になりっぱなしだったな。
古泉「とんでもありません。僕のほうが助けられっぱなしで」
>必ず、世話になった恩は返す。待っていてくれ。
古泉「はい、お待ちしておりますよ」
キョン「番長……最後まで、悪い」
>どうした、親友。
キョン「恥ずかしいからやめてくれ。……最高の数日だったぜ、先輩。
次に会う時までには、胸を張って肩を並べられるようになってるから、その日まで待っていてくれ」
>楽しみにしておこう。
ギィィ……。
>扉が開く。
マーガレット「少し、記憶が混乱するでしょうけど、身体に問題はないのでご安心ください」
ハルヒ「……あーあ。ってことは、せっかくみつけた超能力者も、未来人も、宇宙人も、異世界人も
またしばらくお預けかぁ」
>大丈夫。ハルヒならきっと見つけられる。
ハルヒ「……本当に待ってるからね。ううん、絶対あたしからそっちに行ってやるんだから。
もちろん、みんなを連れてね!」
>! ああ、待ってるよ。
ハルヒ「じゃあね――」
イゴール「それでは、よい旅路を」
ギィィ……バタン。
>ハルヒたちは扉を通り外へと出て行ってしまった。
イゴール「さて、準備はもうよいですかな?」
>ああ、みんなが待ってる。
マーガレット「時空間の捩じれにより扉の向こうは、あなたが倒れ伏した直後につながっております」
>決着を、つけよう。
イゴール「……いいお顔になられましたな」
>そうか?
イゴール「別世界でのできごとは、あなたにいいように作用したようですな」
マーガレット「だけど、先ほども言ったように、徐々に忘れていってしまうでしょう。
いいえ、きっともうそれは始まっている」
>かもしれないな。
>今も、もう。なにか大切なことを忘れているような気さえする。
イゴール「SOS団、でしたか。素敵な方たちだ」
>SOS団?
イゴール「いえ、なんでもございませぬ」
>SOS団……わからない。だけど、心地よい響きだ。
イゴール「そうですか。それは、良きことです。
さあ、扉をお開きなさい」
マーガレット「待っている人たちがいらっしゃいますよ」
>ああ、行ってくる。
イゴール「真実が、あなた様の手に宿らんことを……」
ギィィ……バタン。
『おっそいよ! 番長くん!』
『お帰り、番長くん』
『先輩! ようやく戻ってきたッスね!』
『もうっ! なにしてたんですか、先輩っ!』
『センセーイ! お帰りクマー!』
『待っていましたよ、先輩』
『行こうぜ、相棒!』
>ああ、行こう! すべてを終わらせに!
――――
――
―
――翌日、北高、文芸部部室。
キョン「俺が話したほうがいいのか?」コト
古泉「話したほうがいいとは?」コト
キョン「ハルヒにだよ。俺らが昨日の夜に視聴覚室で寝てた件についてだ」コト
古泉「ああ、そのことですか」コト
キョン「宇宙的、超能力的、未来的な組織からの攻撃じゃないのか?」コト
古泉「ああ、そんな物騒なものじゃないので大丈夫ですよ。
特になにもしなくても大丈夫だと思います」
キョン「なぜだ」
古泉「よくよく思い出してみると、涼宮さんの発案で集まっていたように思います」
キョン「ん……? あー、そういや、そんな気もするな。
なんだったか。オカルトチックな噂を試してみようとか、そんなんだったか。
だが、なんでこんなに記憶があやふやなんだ?」
古泉「それは、僕にもさっぱりわかりません。
ですが、なんでしょうね。心の底から害はないと思えてしまうのです」コト
キョン「そういわれると、そうだな……マインドコントロールの類の可能性は?」コト
古泉「人為的に行われたとは考えにくいですね。
機関のすべての目をすり抜けて、行うことは非常に困難かと」コト
キョン「そうか……」コト
古泉「それ以上に不思議なことがありましてね」
キョン「なんだ」
古泉「機関の経理から連絡がありまして、ここ数日で使途不明金が大量にあると指摘されましてね」
キョン「ああ、そうかい。そりゃたしかに不思議なこって」
古泉「これはちょっとした恐怖ですよ」
バタン。
みくる「こんにちはぁ」
キョン「ああ、朝比奈さん。こんにちは」
長門「……」
キョン「よう、長門」
長門「(コクリ)」
みくる「あ、今お茶入れますねぇ」
キョン「ありがとうございます」
古泉「朝比奈さんがお茶を入れ、長門さんが部屋の隅で読書をし、
そして僕たちはボードゲームに興じている、このいつもと変わらない風景で十分ではないですか?」コト
キョン「ま、そうだな。小難しいことは全部お前たちに任せるさ。俺は平平凡凡な一般人なんでな。
ってことで、チェックメイトだ」コト
古泉「おや、いつのまにか追いつめられてしまいましたか」
キョン「どうだ? もう1局やるか?」
古泉「そうですね……あぁ、もしよろしければ朝比奈さんたちもどうですか?
多人数で楽しめるものありますから」
みくる「ふぇ? あ、あたしたちですか?」
長門「わかった」
キョン「長門が応じるなんて珍しいな」
キョン「珍しいが……新鮮味がないのはなぜだ」
長門「そう」
みくる「そうですね……たまには、そういうこともいいかもしれないですね。
あれ? たまには……?」
バンッ!
ハルヒ「みんなー! そろってるーっ?」
キョン「残念ながらハルヒの登場だ。てことで、俺の勝ち逃げだな」
ハルヒ「なーにが残念ながらよ! それよりみんな昨日のこと覚えてる?」
キョン「視聴覚室で寝ていたことか?」
ハルヒ「そうそう! たしかあれ、あたしが視聴覚室に集まるように提案したのよね?」
キョン「俺はそう記憶しているぞ」
古泉「僕も同じくですね」
みくる「あれ? そうでしたっけ……? あ、そっかぁ」
長門「……」
ハルヒ「でも、不思議なことに本当にあたしが提案したかはっきりしないのよ」
ハルヒ「それに、何をしようとしていたのかもはっきり覚えていないの」
ハルヒ「そこであたしは気づいたわ、気づいてしまったのよ」
ハルヒ「きっとあたしたちは、何かとんでもない不思議に直面してたんじゃないかって!」
キョン「おいおい……」
古泉「ふふ」
みくる「はー」
ハルヒ「きっと異世界人の侵略か何かがあって、あたしたちの記憶を奪っていったに違いないわ!」
キョン「そんなわけあるか」
ハルヒ「ということで! 今日の活動は、視聴覚室で異世界人のいた痕跡さがしよ!」
ハルヒ「さあ、みくるちゃん! いくわよ!」
みくる「は、はいいいぃぃっ!!」
ダダダダダダッ……。
キョン「えらい勢いで朝比奈さんを引っ張って行っちまったぞ」
古泉「そうですね」
キョン「ちなみに、異世界人はお前ら観測しているのか?」
古泉「残念ながら、まだですね」
キョン「そりゃそうだろうな……」
キョン「だが、んじゃ、まあ。いきますかね」
古泉「そうしましょう。涼宮さんの逆鱗に触れないうちに」
キョン「……ん? ホワイトボードに貼ってあるあのカードなんだ?」
古泉「カード、ですか?」
キョン「ほら、あれだ」
古泉「タロットカード、ですかね。地球を中心に6人の人影が描かれていますね。
おそらく世界のカードですよ」
キョン「やれやれ、ハルヒのやつが拾ってきたのか。
まあ確かに綺麗だし、こう、心惹かれるものがあるな」
古泉「おや、奇遇ですね。僕もこのカード心惹かれますよ」
キョン「ま、今はカードどころじゃないな。ハルヒのやつを追いかけるか」
古泉「そうしましょう」
バタン。
長門「……」
長門「……」
ガチャ。
キョン「長門ー、いくぞ」
長門「……」パタン
長門「……」
キョン「うん? そのタロットカード気になるのか?」
長門「……」
キョン「見ていてもいいが、追いついてこいよ」
長門「わかった」
バタン。
長門「……」
長門「――また、どこかで」
【番長「SOS団?」 完】
というわけで、こんなクソオナニーSSに長々と付き合ってくださった方あざした
誤字脱字は脳内補完でおねがいしま
このSSまとめへのコメント
ハルヒって読んだことないんだけど、キョンってこんな感じのいけ好かない奴なの?