湯川「巨人?実に面白い」(717)

湯川「重力場の中で生存する生き物は、自身の身体を支えかつ
動かさなくてはならない」

湯川「特に人間の場合、自身の強度は骨に依存し、骨の強度は断面積に依存する」

湯川「仮に人間が2倍の大きさになった場合、体の重さは8倍(縦×横×高さ)
になるのに対し、骨の強度は4倍(縦×横)にしかならない」

湯川「普通の人間も骨が折れることがあるが、まして2倍の身長の人間なら、
走っただけで骨が折れてしまう」

湯川「したがって、このような10m以上の巨人が存在することは極めて
非科学的であり……」

岸谷「湯川先生!そんなこと言ってる場合ですか!食べられちゃいますよ!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370599968

戦闘力皆無www

ドシンドシンドシン


湯川「さらに不可解なのは、先ほど現れた表皮のない超大型巨人だ」

湯川「ほぼすべての動物は皮膚によってその身体を包み、その形を維持している」

湯川「他にも、皮膚には紫外線や細菌等からの保護という重要な役割があるが」

湯川「そもそも皮膚がなければ、内部構造が外に飛び出し、自身の肉体が崩れてしまう」

湯川「したがって、先ほど述べた強度の問題に合わせて、あのように
直立することなど到底不可能なんだよ……わかるか岸谷くん」

岸谷「わかる!わかりましたから早く走ってください!」




ガヤガヤ ガヤガヤ…
ザワザワザワザワ…


住民A「ふざけんじゃねぇよ!!それ以上押し込んでもその荷台は通れねえよ!」

住民B「何考えてんだ!人を通すのが先だろ!」

男「いいから押せ!この積み荷はお前らのチンケな人生じゃ一生かかっても
稼げねぇ代物だ!協力すれば礼はする!!」

湯川「……さっぱりわからない」

男「……!?」

湯川「なぜそのような不合理なことをしているのか……私には理解に苦しみますね」

岸谷「ちょ、ちょっと湯川先生!?」

湯川「物体には弾性というものがあり、ある一定限度までの応力を加えて
変形させても、除荷すれば元の形状に戻ってしまう」

湯川「たとえ一時的に荷台を圧縮し門にねじ込むことができたとしても、
すぐに門の中で応力が除荷されてしまいます」

湯川「そうなれば荷台はつっかえ棒のようになってしまい、二進も三進も
いかなくなる。そうなったらもう、その場で荷台を解体するしかないでしょう」

男「……っ!!」

湯川「つまり、あなた方がすべきことは荷台を無理やり押し込んで結局解体する
ことではなく、今この場で解体して積み荷を手分けして運び込むこと……
……違いますか?」

男「う、うるせぇ!うだうだと屁理屈並べやがって……!」

ズバッ!!

ドゴオオ オオオオオオオオオオオオオオオ



湯川「!」

ミカサ「何を……しているの?」

ミカサ「今仲間が死んでいる……住民の避難が完了しないから……
巨人と戦って死んでいる」

男「それは当然だ!住民を守るために心臓を捧げるのがお前らの務めだろうが!!」

ミカサ「……人が人のために死ぬのが当然だと思っているのなら、きっと
理解してもらえるだろう」

男「や、やってみろ!俺は商会のボスだぞ!?お前の進退なんざ冗談で……」


ジャキン


ミカサ「……死体がどうやって喋るの?」

男「……っ!!」

男「…………荷台を引け」




ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア




ミカサ「……」

湯川「はっはっはっは」

ミカサ「!」

湯川「いや、おかげで皆助かりました。ありがとう」

ミカサ「……いえ、兵士として当然のことをしたまでです」

湯川「兵士……なるほど」

ミカサ「?」

湯川「少し質問してもよろしいでしょうか?」

ミカサ「……手短にお願いします」

湯川「あなたは先ほど、巨人の首の後ろを斬りつけたようですが……なぜですか?」

ミカサ「うなじが巨人の弱点だからです。そこの肉を削ぎ落とせば死にます」

湯川「ではなぜ、うなじが弱点なのですか?」

ミカサ「それは……」

湯川「……」

ミカサ「……わかりません」

湯川「……なるほど、とても参考になりました」

ミカサ「もうよろしいでしょうか?前衛の支援に行かなければなりませんので」

湯川「ああ、任務の邪魔をして申し訳ない。ご武運を」

ミカサ「……ではこれで」ペコリ


シュッ

バシューーーーーーーーッ!










湯川「……実に面白い」

岸谷「……ここ数日間の調査で、この世界のことが大体わかってきました」

岸谷「ここは私たちのいた世界とは根本的に異なり、人間が活動している領域は
壁の中に限られます」

岸谷「というのも、今から112年前に突如として巨人が現れ、大半の人類が食い尽
くされてしまったからです」

岸谷「生き残った人類はこの場所に三重の巨大な壁を築き、およそ100年の平安を
実現させました」

岸谷「しかしそれも5年前までの話……最外壁ウォール・マリア南端のシガンシナ
区に超大型巨人・鎧の巨人が出現。壁を破られた人類は2つ目の壁であるウォー
ル・ローゼまで後退し……」

湯川「別の惑星だ」

岸谷「そして先日再び超大型……はい?」

湯川「地球に似た惑星というのは銀河系だけでも数百億個あり、太陽から30光年
以内だけでも約100個あると言われている」

湯川「つい最近も、温暖な気候を備え水が液体の状態で存在している可能性がある
惑星が1200光年先と2700光年先で3個も発見されている」

岸谷「……えーっとつまりその……私が今いるのは地球じゃなくて、他の惑星
ってこと?」

湯川「そう考えるのが自然だろう」

岸谷「い、いやいや……じゃあどうやって私たちは他の惑星まで来たんですか!?」

湯川「そんなことは重要ではない。大事なのは、10mを超える巨人が当たり前の
ように歩き回るという目の前の事実だけだ」

湯川「そもそも、僕はこの世界の成り立ちや歴史には全く興味がない」

岸谷「は……!?」

湯川「君はそんなどうでもいいことを調べるために、数日間も費やしたのか」

岸谷「……どうでもいいこと?」ピキピキ

湯川「僕が興味を持っているのは、巨人が動くメカニズムとあの時の兵士が
使っていた謎の装置の仕組みだけだ」

岸谷「人が足を棒にして調べたってのに……」ピキピキ

湯川「おそらくガスの力を利用してアンカーを射出しているのだろうが、
それにしたって不自然だ」

湯川「そもそもあの装置はアンカーがしっかりと固定されることが前提に
なっているが、あれほど都合よく刺さるものだろうか?」

湯川「百歩譲って固定できたとしても、どうやってそれを巻き取るのだ。
なぜあんなに簡単に外れる?」

岸谷「本当にこの人は……」ピキピキ

湯川「そもそもワイヤーとガスだけであんな宙を舞う軌道にはならないはずだ。
まあ詳しく解析してみないことには何とも言えないが……」

岸谷「もういいです!帰らせていただきます!」

湯川「どこに?」

岸谷「地球ですよ!私たちのほ・し・に!!」

湯川「どうやって?」

岸谷「えっ……そ、それは……」

湯川「……」

岸谷「……」

岸谷「だーーーーっ!!もうどうするんですか!一週間以上も無断欠勤なんて
クビですよクビ!!」

湯川「僕の知ったことではない」

岸谷「あーもうそうでしょうよ!先生はあの気持ち悪いデカブツのことしか頭に
ないんですからね!」

湯川「子どもか君は。思索の邪魔だからどこか行ってくれ」

岸谷「言われなくても行きますぅー!あんたなんかココで死ぬまで捕獲された巨人
いじくり回してなさいよ!」



湯川「……待て」

岸谷「もう遅いですぅー!どんなに引き止めたって私は」

湯川「今何と言った?」

岸谷「は……?いやだから、どんなに引き止めたって……」

湯川「違う。その前だ」

岸谷「……?あんたなんか、ココで死ぬまで捕獲された巨人いじくり回して……」

ガタッ


湯川「どういうことだ?捕獲された巨人とは」ガシッ

岸谷「えっ……い、いやだから、この間のトロスト区奪還の際に調査兵団が2体の
巨人を生け捕りにしたと……」

湯川「!!」

岸谷「なんでも実験用とかなんとか……はぁ、この世界にもそういう人種いるん
ですねぇ……」

湯川「……岸谷くん」

岸谷「はい?」

湯川「なぜそれを早く言わない?」

岸谷「は……?」

湯川「生きた巨人の科学的実験……実に興味深い」

岸谷「……あ、あの」

湯川「岸谷くん、どうせ暇だろう?今すぐその調査兵団とやらの研究所に案内
したまえ」

岸谷「えっ、あのちょっ……湯川先生!?」

今日はここまで
途中でID変わってますが同一です

ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!




ビーン「ああああああああああああああああ!!」

ハンジ「ああああああああああああああああ!!」

モブリット「分隊長!あなたが叫ぶ必要は!」

ハンジ「これが叫ばずにいられるか!ビーンがこんなに痛がってるんだぞ!?」



ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!



ビーン「ああああああああああああああああ!!」

ハンジ「ビーン!頑張れ耐えるんだ!!」

ビーン「ああああああああああああああああ!!」

ハンジ「ああああああああああああああああ!!」

湯川「はっはっはっは」

ハンジ「!」

湯川「これはまた奇怪な人がいたものだ」

岸谷「……あんたが言うな」

湯川「それはいわゆる、『痛覚の確認』ですね?」

ハンジ「そうだけど……あんた誰?」

湯川「僕もやってみていいかな」ヒョイ

ハンジ「え、あっ、ちょっと……」



ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!



ビーン「ああああああああああああああああ!!」

湯川「はっはっはっは」

ハンジ「え?ちょっと何?何なのこの人?」

調査兵団員A「申し訳ありません分隊長!必死に止めたんですが強引に……」

ハンジ「は?え?一般人なの?」

モブリット「ちょっとあなた困りますよ!部外者は立ち入り禁止ですよ!?」

岸谷「すみません……本っっ当にごめんなさい……」



ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!



ビーン「ああああああああああああああああ!!」

湯川「はっはっはっは」

ハンジ「ちょ、ちょっとあんた!勝手に私のビーンを……」

湯川「実に面白い」

ハンジ「は!?」

湯川「痛みというのは物理的刺激、あるいはセロトニンやブラジキニンといった
化学的刺激を電気的なシグナルに変換したものだ」

湯川「痛みの種類にも様々なものがあり、性質・局在・神経経路・期間などに
よって専門的に分類される」

湯川「しかし、『痛みは何のために存在するのか』という根本的な疑問については、
未だ明確な答えは出されていない」

湯川「最も有力な説として『身体の異変や異常を察知させるため』というものがある」

湯川「ところが実は、身体には何の危険も存在しないのに痛みが発生するという
状況も多々あるのだ」

湯川「このように痛みというのは、現代の科学をもってしても実に神秘的な現象であり……」

ハンジ「……」プルプルプル

湯川「おや、どうしました。そんなに肩を震わせて」

湯川「どこかお体の具合でも?」

ハンジ「……」プルプルプル

岸谷(あんたがあんまり自分勝手だから怒ってんのよ!)

湯川「はっはっは。まあ、連日屋外の実験を続けられては無理もないでしょう」

湯川「そもそもこういった実験は屋内でやるべきです。屋外では天候などによって
条件が変わるため、あまり適切とは言えない」

岸谷(なんでそんな火に油を注ぐようなことを!)

ハンジ「……」プルプルプル

岸谷(……もう知ーらない)

ハンジ「……は?」プルプルプル

ハンジ「セロトニン……?電気的なシグナル……?」プルプルプル

ハンジ「なにそれ……聞いたことないんだけど……」プルプルプル

湯川「『痛覚の確認』を行うにあたっては知っておくべき知識です」

湯川「まさかご存知なかった?」

ハンジ「は……は……」プルプルプル

岸谷(……もう逃げよ)

ガシッ










湯川「!」

ハンジ「師匠!」

岸谷「……は?」

今日はここまで
続きはまた近いうちに

ハンジ「……というわけで、巨人は人間を食べるんだけど、食べなくても別に
餓死することはないんだ」

湯川「つまり、巨人の目的は捕食ではなく殺戮にあると?」

ハンジ「そうなんだ。不思議なことにね」

湯川「確かに歯というのは、人間を含めた動物にとっての重要な武器でもある」

湯川「成人男性が噛む力は平均体重にほぼ匹敵すると言うから、殺傷目的で噛みちぎる
という行為は理にかなっているのかもしれない」

湯川「しかし、捕食する必要がないというのはいかがなものだろう」

湯川「ほぼ全ての生物は口などから飲食物を取り込み、消化・分解・吸収といった
過程を通してエネルギーを生産している」

湯川「これは後に熱エネルギーや運動エネルギーなどに変換され、生物自身の生命活動に役立てられる」

湯川「つまり、捕食することによって得られる元のエネルギーがなければ、動くことはおろか
生きていることさえできなくなるはずだ」

ハンジ「確かにそうだよね。でもその元のエネルギーについてなんだけど、
実は巨人というのは体温が極めて高いんだ」

ハンジ「夜になると極端に活動が鈍ることから、おそらく太陽から得られる熱を溜め込んで……」

リヴァイ「……ハンジ」

ハンジ「それをエネルギーとして利用しているんじゃないかと……」

リヴァイ「おいこらクソメガネ」

ハンジ「……ああもう何!今すっごくいいところなんだけど!?」

リヴァイ「何!じゃねえよ。何当たり前のように部外者連れ込んでんだ」

ハンジ「部外者じゃない!私の師匠!」

リヴァイ「師匠……?その胡散臭そうなヤツがか?」

ハンジ「あんたねえ!もうちょっと礼儀ってもんを……」

湯川「まあまあハンジさん」

ハンジ「師匠!」

湯川「自己紹介が遅れて申し訳ない。僕は帝都大学物理学科准教授の湯川という者です」

ハンジ「そしてこちらが助手の……」

岸谷「『刑事の』岸谷です。どうぞよろしく」

ハンジ「ねっ?全然怪しくなんかないでしょ?」

リヴァイ「……ああ、怪しいのはお前の脳みそだな」

ハンジ「は!?」

リヴァイ「大体何だ、その訳のわからん肩書きは」

リヴァイ「テイトダイガクブツリガッカジュンキョウジュ?ケイジ?何かの呪文か?」

湯川「わかりやすく言えば、帝都大学というのは一種の研究機関で、僕はそこの研究員です」

岸谷「刑事っていうのは……まあその……憲兵団みたいな感じ?……なのかな」

リヴァイ「……」


ジャキン!


湯川「!」

岸谷「!?」

リヴァイ「斬る」

岸谷「ひぃぃぃぃぃぃ!?」

ハンジ「ちょ、ちょっとリヴァイ!?何やってんの!!」

リヴァイ「こいつらは信用できん。排除する」

ハンジ「いい加減にしてよ!悪い人たちじゃないって言ってるでしょ!?」

リヴァイ「お前の偏見的な判断はアテにならねえ」

ハンジ「……!」

リヴァイ「ハンジ……お前だってわかってるよな」

リヴァイ「ここ最近になって、100年間煮え湯を飲まされ続けてきた人類に新たな希望が現れた」

リヴァイ「それがこいつだ」

エレン「……!」

リヴァイ「情けないことに、俺たちの命運はこのクソみてえなガキに懸かってやがる」

リヴァイ「そして俺たちの仕事は、そのクソみてえなガキを監視し命がけで守ることだ」

エレン「えっ……」

リヴァイ「今こいつに何かあっちゃ困るんだよ」

エレン「兵長……」

湯川「ベンジャミン・フランクリン」

岸谷「……!?」

リヴァイ「……あ?」

湯川「僕が最も尊敬する科学者の一人だ」

湯川「アメリカの物理学者だった彼は1752年、雷を伴う嵐の中でとんでもない実験を行った」

湯川「凧糸の先端にワイヤーで取り付けたライデン瓶により、雷雲の帯電を
証明するというものだ」

湯川「この命がけの実験によって雷は電気であることが明らかになったが、
陰ではそんな彼を嘲る人々もいたという」

湯川「死に急ぎ、無謀者、イカレ野郎……などと」

リヴァイ「……何が言いたい」

湯川「単刀直入に言いましょう。今日こちらに伺ったのは、エレンくんに会うためです」

エレン「え!?」

湯川「僕は未だに信じられないが……なんでも君は、自身の肉体を巨人に
変化させることができるとか」

エレン「え、ええ……」

湯川「そこで、彼をぜひとも捕獲した巨人……ソニーとビーンの実験に同行させたい」

湯川「彼がいることで、ここ数日の実験で見落としていた何かがわかるかもしれません」

リヴァイ「さっきも言ったが、信用できない奴にエレンは預けられん」

湯川「ならば信用していただくしかない」

リヴァイ「自分の立場がわかっていないようだな」

リヴァイ「得体のしれない奴がのこのこと根城に上がり込んだんだ。
斬られても文句は言えないだろう」

岸谷「ゆ、湯川先生……!」

湯川「斬りたければ斬ればいい」

リヴァイ「……!?」

湯川「科学に限らず、真実を求める際には大きな危険が付きまとうことがある」

湯川「その危険を恐れて逃げては、求める真実は永遠に手に入らない」

湯川「そのくらいの覚悟は僕にもある」

リヴァイ「……」

湯川「僕はフランクリンを死に急ぎだとは思わない」

湯川「自分の信念を曲げず、求める真実に手を伸ばして死ぬのなら」

湯川「それは僕の本望です」

リヴァイ「……」

リヴァイ「……ふん」

湯川「……」

リヴァイ「そこまでわかっているのなら、俺から言うことはもう何もない」


スッ


湯川「!」

リヴァイ「自己紹介が遅れた。調査兵団兵士長のリヴァイだ」

リヴァイ「エレンのこと……よろしく頼む」



ガシッ



湯川「こちらこそ。人類最強の兵士に出会えて光栄です」

今日はここまでにしておきます
続きはまた明日

ハンジ「ごめんね師匠、リヴァイは愛情表現が苦手でさ」

湯川「あれは当然のことです。僕たちにとってこの世界が驚異的であるように、
彼にとっても僕らは未知数の存在なのですから」

ハンジ「それにしても凄いよ。リヴァイが初対面の人間をあれほど信用するなんて、初めてかもしれない」

湯川「はっはっは、それも全て彼の器の大きさによるものでしょう」

岸谷「……」

湯川「ん?何だ岸谷くん」

岸谷「……いえ、別に」

ハンジ「まぁとにかく、これでリヴァイの許可は貰えたね」

湯川「ええ、これでエレンくんを実験に参加させられます」

エレン「……あ、あの」

ハンジ「ああごめん。エレンにはまだ実験の説明してなかったっけ」

湯川「湯川だ。改めてよろしく」

ハンジ「そしてこちらが助手の……」

岸谷「『け・い・じ・の』岸谷です。よろしく」

エレン「は、はあ……」

エレン「あの、それで……巨人の実験とはどういう?」

ハンジ「あ、うんうん、まずソニーとビーンはね」

湯川「待って下さいハンジさん」

ハンジ「?」

湯川「その前にまず、君自身のことを聞きたい」

エレン「えっ……」

湯川「先ほども言ったとおり、僕は未だに君のことが信じられない」

湯川「それと同時に、僕が今最も関心を寄せているのが君だ」

エレン「……!」

湯川「巨人化能力を持つ人間……実に興味深い」

湯川「君の知っていることを全て話してくれ。実験の話はそれからだ」

エレン「……これが俺の知ってる全てです」








湯川「はっはっはっはっはっは」

ハンジ「え、どうしたの師匠!何かわかったの!?」

湯川「さっぱりわからない」

岸谷「……やっぱり」

湯川「そもそも、きっかけが自傷行為だというのがよくわからない」

湯川「質量保存や強度……あらゆる法則も無視している」

湯川「実に面白い。わからないことだらけだ」

岸谷「いや、何よりもあり得ないのは手足でしょ」

岸谷「切断したのに生えてきたって……トカゲじゃあるまいし」

湯川「あり得ない?」

岸谷「」ビクッ

湯川「アメリカのピッツバーグ研究所に所属するスティーブ・バディラック博士は近年、夢のような物質を開発した」

湯川「体細胞外マトリックス……切断された指を生やす魔法の粉だ」

岸谷「……!?」

湯川「ブタの膀胱から抽出したコラーゲンを主体とする成分で、これを切断面に付けて
足場にすれば、周囲の組織や細胞が動員されるという仕組みだ」

湯川「したがって、失われた体の部位を生やすというのは必ずしもあり得ないことではない」

湯川「もちろん、実際の体細胞外マトリックスによる治療は手間も時間もかかる」

湯川「エレンくんのように短時間で生えるというのはまずないわけだが……」




エレン(……調査兵団に入ってから、驚かされてばかりだ)

エレン(聞いたこともない地名、聞いたこともない知識)

エレン(不思議な人たちだ。まるで外の世界から来たような……)

エレン(……)

エレン(外の……世界)




湯川「つまり僕が考えるのは……」


バンッ


エレン「ユカワさん!いえ、ユカワ先生!」

湯川「!」

エレン「俺でよかったら、何でも協力します!協力させてください!」

ハンジ「エレン……」

エレン「だから、巨人の実験についても詳しく教えてください!」

エレン「少しでも知っていた方が役に立つと思うので!」

湯川「……はっはっはっは」

エレン「!」

湯川「実に感心なことだ。その熱心さは今どきの学生でも珍しい」

エレン「……! はい!」

湯川「確かに無駄話が過ぎてしまったようだ。ハンジさん、実験の話に戻りましょう」

ハンジ「待ってました!じゃあエレンの為に一から説明するね」

エレン「はい!」

ハンジ「まず今回捕獲した巨人だけど、4メートル級をソニー、7メートル級をビーンと名付けて……」






チュンチュン


湯川「このように、飛び出す電子の運動エネルギーの最大値は、当てる光の振動数のみに依存する」

ハンジ「え、でもちょっと待ってよ!光を波だって考えるなら、振幅の大きさだって
関わってくるんじゃ!?」

湯川「その通り、一見すれば矛盾している。そこで例の物理学者たちは、
光が『波動性』と『粒子性』の両方の性質を持つものだと考えたんだ」

ハンジ「やっべ!!何それ!!クッッソ面白え!!!」

湯川「あなたは実に大した人だ。たったの一晩で現代科学をここまで理解してしまうとは」

ハンジ「師匠だって凄いよ!この数日間、実験の合間に教えただけで、
立体機動装置の仕組みどころか使い方までマスターしちゃうなんて!」

湯川「身体の筋肉をどう制御すればいいか理解できれば、実に容易いことだ」

ハンジ「ハハハハ!もう、師匠ったら!」

湯川「はっはっはっは」


岸谷「……」ウトウト

エレン「ぐがー」

湯川「では次に、光と同じ『二重性』を持つものとしてX線の話をしよう」

ハンジ「やっべ!!名前からして超かっけ!!!」

湯川「まずX線とは何かというと……」



ガチャッ!!



モブリット「分隊長!大変です!!」

ハンジ「ハァァァ!!?」

モブリット「ひッ」ビクッ

ハンジ「ちょっと何よモブリットォォ!?今メッチャいいところなんだけど!!」

モブリット「そ、それどころじゃありませんよ!」

モブリット「被験体が!!」

湯川「!」

ハンジ「……!!」ガタッ








モブリット「巨人が2体とも殺されました!!!」

今日はここまで
続きはまた明日に

ハンジ「ソニーーーーーー!!!ビーーーーーーン!!!」

ハンジ「うわあああああああああああああああああ!!!」




ガヤガヤ ガヤガヤ…
ザワザワザワザワ…


調査兵団員A「……見ろ、分隊長がご乱心だ」

調査兵団員B「無理もないさ。貴重な被験体だったんだからな」

調査兵団員C「ったく、どこのバカがやったんだよ」

調査兵団員D「さぁな……夜明け前に兵士が気づいたときには、立体機動ではるか遠くだ」

リヴァイ「行くぞ。あとは憲兵団の仕事だ」

エレン「はい……」




エルヴィン「エレン」

エレン「……! 団長」

エルヴィン「君には何が見える?敵は何だと思う?」

エレン「……はい?」

エルヴィン「……いや、すまない。変なことを聞いたな」

湯川「考えられるのは3つです」

エルヴィン「……!?」

湯川「1つ目は、巨人に恨みを持った者の犯行」

湯川「2つ目は、巨人が実験されるのを痛ましく思った者の犯行」

湯川「そして3つ目は、巨人の秘密が明らかになることで不都合が生じる者の犯行」

湯川「昨日エレンくんの話を聞いていて、疑問に思ったことがある」

湯川「果たして巨人化というものは……エレンくんにだけ起こる現象なのかと」

エレン「えっ……!?」

湯川「現象には必ず理由がある。当然、エレンくんが巨人になれるのにも理由がある」

湯川「仮にそれが自然的なもの……つまり疫病やウイルス感染症のようなものであれば、
エレンくんだけが発症したというのは明らかにおかしい」

湯川「通常そういったものの発症率は高く、100年間同じ壁の中でたった1人しか
症状が現れないというのは考えられないからだ」

湯川「逆にそれが人為的なものであったとしても、また然りだ」

湯川「周囲から完全隔離して処置を施されたのなら話は別だが、エレンくんは普通の家庭で、
普通の生活を送ってきた」

湯川「特に誘拐されて何かをされたというのも一切ない。つまりこれは、普通の生活を
送っていてもちょっとした処置でその能力を得られるということだ」

エレン「……!!」

湯川「つまり何が言いたいのかというと」




湯川「巨人化能力者は他にもいる」

リヴァイ「……!!」

湯川「ただしこれはあくまで、巨人化能力が存在するという前提での仮説だ」

湯川「自分の目で確かめない限りは、僕には到底信じられない」

エレン「……」

湯川「まあ何にせよ、今回の一件で貴重な手がかりを失ってしまった」

湯川「……実に嘆かわしい」

エルヴィン「……これは驚いた」

エルヴィン「リヴァイ、この人が……」

リヴァイ「ああ、例の変人研究員だ」

湯川「どうも。湯川といいます」

岸谷「岸谷です」ペコリ

エルヴィン「……」

リヴァイ「心配しなくていい。信頼に足る人物だ」

エルヴィン「……そうか」

エルヴィン「調査兵団団長のエルヴィン・スミスだ」

エルヴィン「あなたのその洞察力を見込んで頼みがある」

湯川「何でしょう?」

エルヴィン「実は近々……我々調査兵団は壁外への遠征を考えている」

湯川「!」

エルヴィン「表向きはウォール・マリア奪還の拠点の確保だが、その真の目的は
内部にいる諜報員をあぶり出すことだ」

湯川「……」

エルヴィン「そこでぜひ、あなたにもその作戦立案の会議に参加していただきたい……いかがだろうか」

湯川「……」

リヴァイ「俺からも頼む。あんたの知恵を貸してほしい」

湯川「……」

エルヴィン「何か不都合でも?」

湯川「いえ」

湯川「それは別に……全く構わないのですが」

リヴァイ「……?」

湯川「そんなことをしなくても、犯人が
特定できるかもしれません」

岸谷「え!?」

エルヴィン「……!?」

リヴァイ「……!?」

湯川「僕についてきて下さい」

一旦離れます

カタカタカタカタカタカタ…


岸谷「……いつの間にノートパソコンなんか持ち込んでたんですか」

湯川「今どきの社会人は普通持ち歩いているだろう」

岸谷「……」

湯川「まさか君は持っていないのか?」

岸谷「も、持ってます!家に置いてきただけで!」

エレン「」ポカーン

エルヴィン「ユカワさん……それは一体……」

湯川「電子計算機……わかりやすく言えば、様々な演算処理を自動で行ってくれる機械です」

エレン「???」

湯川「実は今回の実験で、このパソコンのウェブカメラを利用してソニーと
ビーンの様子を録画していました」

湯川「襲撃された晩にも記録していたので、ここに犯人が映っている可能性が極めて高い」

エルヴィン「信じられない……そんなものが……」


カタカタカタカタカタカタ…
ッタン


湯川「出ました。これです」

リヴァイ「……どうなってんだこれ」

湯川「これがちょうど0:00頃の映像です。犯人が現れたのが夜明け前だというので、
少し早送りしてみましょう」

>>4倍速


湯川「……」

岸谷「……」

エルヴィン「……」

リヴァイ「……」

エレン「……」


ッタン


湯川「ここだ」

『……』キョロキョロ



リヴァイ「……犯人だ」

湯川「身長はおよそ150cm、動作から見ておそらく女性でしょう」

岸谷「女性?一体誰が……」



『……』スッ…

ズバッ!!



エルヴィン「ビーンのうなじを斬った……なかなかの手練れだ」

湯川「だがこちらに全く警戒心を示していない。少なくとも撮影していることには
全く気づかなかったようです」

岸谷「……まぁそりゃね」

リヴァイ「もう少し見やすくできるか?」

湯川「もちろん」


カタカタカタカタカタカタ…
ッタン


湯川「これが一番鮮明でしょう」

湯川「彼女に見覚えは?」

エレン「……!!!」

リヴァイ「……どうしたエレン」

エレン「あ……あ……」

エレン「アニだ……」

湯川「?」

エルヴィン「……アニ?」










エレン「俺の同期の……アニ・レオンハートです……!!」

今日はここまで
申し訳ないのですが、続きは月曜日になりそうです

バッテリーよりHDDの容量が心配

湯川「電圧の安定に重要なのはコンデンサだ。
    絶縁体を挟んだ金属板に電圧を掛けると……」

ハンジ「面白すぎっ!」

湯川「これを見たまえ、岸谷くん」

湯川「立体機動装置を改造して作った発電機だ」

湯川「本来の立体機動装置というのは、ボンベから送られたガスをファンに直接吹きかけ、推進力を得ている」

湯川「あれほどの機動を可能にする超高速回転だ。今回僕はそこに目を付けた」

湯川「ここで使われているのは48本の交換式ガスボンベと6つのファンを改良したタービンだ」

湯川「まずはボンベから一定圧力のガスを吹かせ、磁石やコイルなどを用いた発電機構の中でタービンを回転させる」

湯川「そこで生み出された電力は、独自に考案した変圧・充電回路を通じてノートパソコンの電源部に送られる」

湯川「もちろん発電用の磁石やコイル、さらに回路の部品にはこの世界に存在しないものが多い」

湯川「しかしそこは流石の技巧部。高い理解力と技術によって、あっと言う間に僕が望むものを作り上げてしまった。
これには僕らの世界のエンジニアたちも顔負けだろう」

湯川「実に素晴らしい」

岸谷「……で?」


カタカタカタカタカタカタ…


岸谷「わざわざ自分の発明品を自慢するために、私を呼んだんですか?」

カタカタカタカタカタカタ…


岸谷「というか、先生は作戦に参加しなくていいんですか?」

岸谷「せっかく巨人殺しの犯人がわかったのに」


カタカタカタカタカタカタ…

岸谷「ちょっとさっきから何やって……」


ッタン


湯川「事件の映像だ」




『……』キョロキョロ


『……』スッ…

ズバッ!!




岸谷「……? これが何か?」

湯川「君はおかしいとは思わなかったか?」

岸谷「……はい?」

湯川「犯人はどうやってこの実験所に入ったんだ」

岸谷「えっ……」

湯川「実験所には鍵がかかっていた。ならば犯人はどうやって中に入った?」

岸谷「そりゃあ……ドアをこじ開けたんじゃ?」

湯川「そんな跡はなかった」

岸谷「じゃあ鍵をかけ忘れたとか」

湯川「それはない。最後に施錠を確認したのは僕だ」

岸谷「じゃあ別の出入り口から……」

湯川「出入り口はそこの扉だけだ。穴を掘ったり壁を壊した形跡もない」

岸谷「じゃあつまり……」

岸谷「……犯人が鍵を持ってたってこと?」

湯川「そうだ」

岸谷「なるほど……実験関係者からこっそり盗んでおいたのね」

湯川「誰も盗まれてはいない」

岸谷「……は?」

湯川「誰も鍵をなくしたという人はいない」

湯川「誰も」

岸谷「……」


岸谷「……えっ、それじゃあ……」

岸谷「つまり……」

湯川「……」








岸谷「誰かが犯人に鍵を渡したってこと?」

湯川「あるいは、僕が施錠を確認した後に鍵を開けておいた」

岸谷「……!!」

湯川「そうとしか考えられない」

岸谷「で、でもなんでそんなこと……」

湯川「さっぱりわからない」

湯川「しかし一つ言えるのは……仮に再び巨人を捕獲し実験を再開できたとしても、
また同じことが繰り返されてしまう可能性があるということだ」

岸谷「そんな……!」

湯川「元々この実験所は僕が提案したものだ」

湯川「僕が初めて実験に参加した日……僕の指摘を受けたハンジさんは、すぐに巨人を屋内に移すことに決めた」

湯川「それが犯人にとっては予想外のことだったんだろう」

湯川「僕が現れなければあの実験はそのまま屋外で行われ、鍵の心配をする必要もなかったからだ」

岸谷「……」

湯川「岸谷くん」

湯川「おそらくこの状況で……一番当てになるのは君だけだ」








湯川「力を貸してくれ」

今日はここまで
続きは未定ですが、また近いうちにやります

カチャカチャカチャカチャ


湯川「……」


カチャカチャカチャカチャ


湯川「……」


カチャカチャカチャカチャ

ガチャン


湯川「……よし」

ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!

ガチャッ!!



オルオ「おい!ユカワとかいう奴はいるか!?」

湯川「湯川は僕ですが」

オルオ「リヴァイ兵長からの伝言だ!」

湯川「!」

オルオ「えー……オッホン」




オルオ「プランA失敗!プランBへの移行のためにユカワを呼んでこい!」




オルオ「……だそうだ」

パカラッパカラッパカラッパカラッ




湯川「プランA失敗ということは、アニ・レオンハートの逮捕に失敗し
巨人化を許したということですね?」

オルオ「は?巨人化?いきなり街に現れた女みてーな巨人のことか?」

湯川「……何も知らされていないのですか?」

ペトラ「ええ、私たちは兵長の命令通り、あなたを迎えに来ただけですので……」

パカラッパカラッパカラッパカラッ
ガチャガチャガチャガチャ




オルオ「ってか何だよこの荷物!ガチャガチャうるさいんだが!?」

湯川「くれぐれも丁寧に運んで下さい。作戦に必要な道具ですので」

オルオ「うるせえ!俺に指図すんな!」

エルド「おいオルオ」

オルオ「っていうかお前アレだぜ?ちょっと顔が良くて兵長に好かれてるからって、
あんまり調子に乗ってっと」ガリッ




オルオ「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

ペトラ「……オルオ、黙って運ぶよ」

パカラッパカラッパカラッパカラッ




ハンジ「師匠!!」

湯川「ハンジさん、状況は?」

ハンジ「プランA失敗の話は聞いてるよね?まずアニの捕獲を試みたんだけど、
あと一歩のところで巨人化させてしまったんだ」

湯川「プランBは?」

ハンジ「そっちは順調!見てよ」

ギ…ギギ…


女型の巨人「……!」


ギ…ギギ…






ハンジ「……ポイントまで誘導して、上手いこと引っかかってくれた」

ハンジ「対 特定目標拘束兵器に捕えられたらもう逃げられないよ」

湯川「素晴らしい」

ハンジ「ただ、肝心のうなじ部分を手で覆われちゃってさ」

ハンジ「硬化能力も相まって、リヴァイとミケがかなり苦戦してる」

バシューーーーーーーーッ!

スタッ


リヴァイ「来たか」

湯川「リヴァイさん」

リヴァイ「あんたの言うとおり、ヤツの喉笛は削いでおいた」

湯川「ありがとうございます。不安要素は一つでも減らした方がいい」

オルオ「へ、兵長!これは一体!?」

リヴァイ「説明は後だ。お前たちはユカワとハンジの指示に従って、
拘束器のワイヤーにその装置を繋げ」

ギ…ギギ…


女型の巨人(不覚だった……!)


ギ…ギギ…


女型の巨人(壁外だったら巨人たちに喰わせて脱出することもできたかもしれないけど)

女型の巨人(喉を切られて声すらも出せない……!)




カチャカチャカチャカチャ

ガチャン


ハンジ「セット完了!」




女型の巨人(……?)

女型の巨人(さっきから一体何を……)

湯川「始めて下さい」




バチバチバチバチバチッ!!!


女型の巨人「!!?」




ビリリリリリリリリッ!!!!




女型の巨人「ガッ……アガッ……」ビクビクッ

湯川「気分はどうかな?」


女型の巨人「……!!」


湯川「以前ビーンに『痛覚の確認』を行ったとき、彼は悲鳴を上げながら反応した」

湯川「すなわちそれは、巨人の身体には神経が通っていることを示唆している」

湯川「そして巨人に神経が通っているということは」


女型の巨人「ァ……グァ……」


湯川「それを操る人間にも必ず繋がっている」

ビリリリリリリリリッ!!!!




女型の巨人「グウッ!?」ビクビクッ


湯川「人間に限らず、あらゆる動物は神経を通じて脳からの指令を伝達させている」

湯川「神経細胞内外の電位差によって微小な電流を生じさせ、それを身体全体に伝えているのだ」

湯川「しかし、こうやって神経細胞に直接電気を流してしまうと……」




ビリリリリリリリリッ!!!!




女型の巨人「アァァッ!!」ビクビクッ


湯川「細胞内外の + と - のバランスが狂い、再び電位の差が生じるまでは電流が発生しなくなる」

湯川「つまり、神経細胞がしばらく機能しなくなるのだ」

ビリリリリリリリリッ!!!!




湯川「今回は立体機動装置を改造した発電機を拘束器のワイヤーに繋ぎ、
体内に刺さった矢じりを通じて電流を送っている」

湯川「普通の人間ならもちろん死ぬが、君なら多少の無茶も平気だろう」




ビリリリリリリリリッ!!!!




女型の巨人「アゥッ……ゥ……ア……」ビクビクッ


ミケ「硬化が解けた!」

リヴァイ「一気に削ぐぞ」

ザクッザクッ!!


くぱぁ…










アニ「」ビクビクビクッ

湯川「はじめまして、アニ・レオンハートくん」

今日はここまで
続きはまた近いうちに

ペトラ「兵長、それでアニの様子は?」

リヴァイ「今のところ手応え無しだ。あらゆる拷問を仕掛けてはいるが、
一向に口を割ろうとしない」

リヴァイ「それどころか、口の布を外した途端に舌を噛み切ろうとするからタチが悪い」

オルオ「クソッ、強情な奴め……」

グンタ「思いのほか長期戦になりそうですね……」

リヴァイ「ただ……」

ペトラ「?」

リヴァイ「自白剤を打って徹底的に攻めたとき、一度だけこんなことを口にしたらしい」








『エ……レン』

『エレンさえ……いれば……』

エレン「……それで俺が呼ばれたんですか」

リヴァイ「そうだ。お前を目にすれば、何か話すかもしれん」

エルド「しかし大丈夫でしょうか。エレンをアニに会わせても……」

リヴァイ「どちらにしろ今はこれしかない」

リヴァイ「それにアニは、別室のユカワとハンジが交代で見張ってる。怪しい動きがあればすぐに飛んでいくさ」

ペトラ「えっ……別室にいるのにどうやって監視を?」

リヴァイ「ユカワが持ってきたパソコンとかいう道具だ。今回アニを特定できたのもそいつのおかげでな……」

カタカタカタカタカタカタ…


岸谷「いつの間に2台も……」

湯川「僕は常にノートパソコンは2台持ち歩くようにしている」

湯川「おかげで1台を監禁部屋に置き、もう1台で別室にいながら監視ができるというわけだ」

ハンジ「いやーもう師匠と2人っきりなんて最っ高!!監視しながら色々お話できるし!」

湯川「はっはっはっは」

岸谷「……」

岸谷「(……それで、例の件ですけど)」

湯川「(どうだった?)」

岸谷「(結論から言うと、怪しい人物は一人もいませんでした)」

湯川「(一人も?)」

岸谷「(実験関係者全員の素姓を調べましたが、特に握られるような弱みは見受けられません)」

岸谷「(全員の家族とも面会しましたが、人質に取られているようにも見えませんでした)」

湯川「(……)」

岸谷「(先生が言ったような、『関係者の誰かが犯人から脅されて鍵を開けた』
という線はなさそうです)」

湯川「(鍵の方は?)」

岸谷「(一応鍵屋に行って確認してきましたが……実験所の鍵の複製を頼んだという客はいなかったようです)」

岸谷「(そもそも鍵屋は、機密保持のために設計図を書きません。複製してくれと言われても、
実物を持ってこない限りは作れないそうです)」

湯川「(……実に不思議だ)」

岸谷「(そうなんですよ!関係者に内通者がいないとすると、犯人は鍵を盗まなければ中に入れない)」

岸谷「(でも鍵を盗まれたという人は誰もいない……ああもう何が何だか!)」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!










湯川「!」

岸谷「!?」

ハンジ「ちょっ、い、いきなり何!?」

グンタ「へ、兵長!今のは!?」

リヴァイ「……監禁室の方からだ」

エルド「!!」

リヴァイ「お前ら、臨戦態勢を」




ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

ガラガラガラガラガラガラガラ…






リヴァイ「うっ……」

リヴァイ(何が起こった……?)




ガラガラガラガラガラガラガラ…




リヴァイ(足……?)

リヴァイ(天井から……?)












女型の巨人「……」ニタァ

リヴァイ(!!)






ガシッ


エレン「ううっ……」

女型の巨人「……」ニヤニヤ




リヴァイ(……! マズイ!)




女型の巨人「……」ドシン


リヴァイ「待て!!」

女型の巨人「……」チラッ




ペトラ「うっ……くっ……」


女型の巨人「……」ニヤァ

リヴァイ「!!」




スッ










リヴァイ「ペトラ!!!」

岸谷「今の音は!?」

湯川「わからない……ハンジさん、監視映像は?」

ハンジ「特に異常なし。アニは鎖に繋がれたままだよ」

岸谷「じゃあ一体……」

湯川「とにかく様子を見に行ってみよう。ハンジさん、そのまま監視を頼みます」

ハンジ「了解!」

今日はここまで
続きはまた近いうちに

欺瞞く(あざむく)とか

7話の偽装う(よそおう)でもいいか

リヴァイ「エレンを奪われた」




エルド「くっ……」

グンタ「……」

オルオ「……っ」

ペトラ「すみません兵長……私が不甲斐ないばかりに……」

リヴァイ「お前らのせいじゃない。あの状況ではどうしようもなかった」

ペトラ「……ッ!」

リヴァイ「むしろ問題なのは……」

ハンジ「……」

リヴァイ「どういうことだ?監視してたんじゃなかったのか」

ハンジ「……ごめんリヴァイ」

ハンジ「でも監視映像には異常がなくて……」

リヴァイ「だが監禁室はメチャクチャに壊されてた」

リヴァイ「ということはつまり、お前らの方に落ち度があったってことだろうが」

ハンジ「……っ」

湯川「全て僕の責任です」


岸谷「……!」

ハンジ「師匠……」

湯川「現象には必ず理由がある」

湯川「すなわち、アニ・レオンハートが我々の目を欺いたのにも何か方法があるはず」

リヴァイ「……」

湯川「必ず原因を見つけ出します」

湯川「このままでは終われません」

カタカタカタカタカタカタ…




岸谷「……? また事件の映像ですか?」

湯川「違う。これは事件の5日前の映像だ」

岸谷「5日前……?」




カタカタカタカタカタカタ…




湯川「実は気になることがある」

ッタン




ソニー『……』

ビーン『……』




ハンジ「ソニー……ビーン……」

岸谷「……特に怪しいものは映ってませんけど」

湯川「問題はそこじゃない」

岸谷「えっ……」

湯川「録画時間が異様に短いんだ」

岸谷「録画時間?」

湯川「通常であれば、実験を終えて翌日再び来るまでの12時間、映像を撮り続けている」

湯川「しかし5日前の映像は、たったの2時間しか撮られていない」

岸谷「……録画をミスしたんじゃ?」

湯川「僕に限ってそれはない」

湯川「その証拠に、事件前日以外の日は全て正常に撮られている」

岸谷「事件前日以外……?」

岸谷「つまり5日前だけじゃなくて、事件の前の日も録画時間が短くなってるってこと?」

湯川「そうだ。前日の映像は3時間分しかない」

岸谷「……?? サッパリ意味が……」

ハンジ「あっ……」


岸谷「?」

湯川「どうしました、ハンジさん」

ハンジ「ねぇ師匠……」

ハンジ「今のところの映像もう一回見せて」

カタカタカタカタカタカタ…

ッタン




ソニー『……』

ビーン『……』




湯川「これが何か?」

ハンジ「……やっぱり」

ハンジ「ビーンの様子がおかしい」

岸谷「えっ、別に普通に見えますけど……」

ハンジ「私にはわかる」

ハンジ「ビーンは明らかに、何かに反応してる」

湯川「……」

湯川「!!!」




バッ !




ハンジ「えっ……ちょ、ちょっと師匠!?」




b

= L / A , A=4πr^2 L = 4πR^2・σT^4 , L / Ls = (R / Rs)^2 (T / Ts)^4 , L / Ls ~ (M / Ms)^3.9 ,
m = m' - 2.5 log (L / L' ・(D / D')^2) , m'= -26.73 , D' = 5 ~ 20 [m] , m = -2.72 - 2.5 log (L / D^2)











ハンジ「ちょっと師匠!壁に落書きはダメだってば!」

岸谷(……まーた始まった)

DL(z) = c(1+z) / H0 √(1-Ωm - ΩA) × sinh(√(1-Ωm - ΩA)∮dz' / √((1+Ωmz')(1+z')^2 - z'(2+z')ΩA) , √(1-Ωm - ΩA) = k, 1 / √((1+Ωmz')(1+z')^2 - z'(2+z')ΩA) = f(z) , ∮f(z')dz' = F(z) , DL(z) = c(1+z)/H0k × sinh(kF(z))≒c(1+z) / H0 (F(z) + k^2 × F(z)^3 / 6) , F(z) = F(0) + F'(0)z + 1/2! F''(0)z^2 + 1/3! F'''(0)z^3 + 1/4! F''''(0) z^4 + 1/5! F'''''(0)z^5 + 1/6! F''''''(0)z^6 + 1/7! F'''''''(0)z^7 + 1/8! F''''''''(0)z^8 + 1/9! F'''''''''(0)z^9 + … , F(0) = 0, F'(0) = f(0), F''(0) = f'(0) , F'''(0) = f''(0) , F''''(0) = f'''(0) F'''''(0) = f''''(0) , F''''''(0) = f'''''(0), F'''''''(0) = f''''''(0), F''''''''(0) = f'''''''(0) , F'''''''''(0) = f''''''''(0)


おかげで1台を監禁部屋に置き、もう1台で別室にいながら監視ができるというわけだ

特に異常なし。アニは鎖に繋がれたままだよ

つまり5日前だけじゃなくて、事件の前の日も録画時間が短くなってるってこと?

ビーンは明らかに、何かに反応してる


#!/bin/bashv4l2-ctl -d /dev/video0 -i 0 -s 2ivtv-tune -d /dev/video0 -t japan-bcast -c $1starttime=`date "+%Y-%m-%d_%H-%M-%S"`title=$3cat /dev/video0 > "/data/TVREC/${starttime}__$1_${title}.mpg" &CAT_PID=$!sleep $2m
kill $CAT_PID#!/bin/shcase $1 A) ch=17 ;;B) ch=18 ;;C) ch=19 ;;D) ch=20 ;;E) ch=21 ;;F) ch=22 ;;G) ch=23 ;;H) ch=24 ;;I) ch=25 ;;J) ch=26 ;;K) ch=27 ;;L) ch=28 ;;M) ch=101 ;;N) ch=102 ;;O) ch=103 ;;P) ch=141 ;;Q) ch=151 ;;R) ch=161 ;;S) ch=171 ;;T) ch=181 ;; U) ch=211 ;;V) ch=222 ;;W) ch=191 ;;esac sec=`expr $2 \* 60

DL(z) = c(1+z) / H0 √(1-Ωm - ΩA) × sinh(√(1-Ωm - ΩA)∮dz' / √((1+Ωmz')(1+z')^2 - z'(2+z')ΩA) , √(1-Ωm - ΩA) = k, 1 / √((1+Ωmz')(1+z')^2 - z'(2+z')ΩA) = f(z) , ∮f(z')dz' = F(z) , DL(z) = c(1+z)/H0k × sinh(kF(z))≒c(1+z) / H0 (F(z) + k^2 × F(z)^3 / 6) , F(z) = F(0) + F'(0)z + 1/2! F''(0)z^2 + 1/3! F'''(0)z^3 + 1/4! F''''(0) z^4 + 1/5! F'''''(0)z^5 + 1/6! F''''''(0)z^6 + 1/7! F'''''''(0)z^7 + 1/8! F''''''''(0)z^8 + 1/9! F'''''''''(0)z^9 + … , F(0) = 0, F'(0) = f(0), F''(0) = f'(0) , F'''(0) = f''(0) , F''''(0) = f'''(0) F'''''(0) = f''''(0) , F''''''(0) = f'''''(0), F'''''''(0) = f''''''(0), F''''''''(0) = f'''''''(0) , F'''''''''(0) = f''''''''(0)


おかげで1台を監禁部屋に置き、もう1台で別室にいながら監視ができるというわけだ

特に異常なし。アニは鎖に繋がれたままだよ

つまり5日前だけじゃなくて、事件の前の日も録画時間が短くなってるってこと?

ビーンは明らかに、何かに反応してる


#!/bin/bashv4l2-ctl -d /dev/video0 -i 0 -s 2ivtv-tune -d /dev/video0 -t japan-bcast -c $1starttime=`date "+%Y-%m-%d_%H-%M-%S"`title=$3cat /dev/video0 > "/data/TVREC/${starttime}__$1_${title}.mpg" &CAT_PID=$!sleep $2m
kill $CAT_PID#!/bin/shcase $1 A) ch=17 ;;B) ch=18 ;;C) ch=19 ;;D) ch=20 ;;E) ch=21 ;;F) ch=22 ;;G) ch=23 ;;H) ch=24 ;;I) ch=25 ;;J) ch=26 ;;K) ch=27 ;;L) ch=28 ;;M) ch=101 ;;N) ch=102 ;;O) ch=103 ;;P) ch=141 ;;Q) ch=151 ;;R) ch=161 ;;S) ch=171 ;;T) ch=181 ;; U) ch=211 ;;V) ch=222 ;;W) ch=191 ;;esac sec=`expr $2 \* 60

湯川「……岸谷くん」

岸谷「はい?」

湯川「もう一度鍵屋に行ってくれ」

岸谷「は……?」

ハンジ「???」








湯川「調べてほしいことがある」

今日はここまで
続きはまた近いうちに

球の表面積しか分からん(小声)

球の表面積しか分からん(小声)

A = xy , E = F・n・m・U・M / A = 500[lm] × 1 × 1 × 0.3 × 0.38 / 7.5 × 10 = 0.76[lx]
λ= xy / (x + y) z = 7.5 × 10 / (7.5 + 10) × (3.0 - 0.85) = 1.99




リヴァイ「ずいぶんと派手にやってくれたな」

岸谷「本っっ当にすみません……後でちゃんと消しますので」

リヴァイ「……まあいい。それで,原因とやらはわかったのか?」

湯川「もちろんです」

リヴァイ「聞かせてもらおうか」

湯川「まずはアニ・レオンハートが実験所に侵入した方法を説明しましょう……岸谷くん」

岸谷「はい。もう一度鍵屋に行って確認をとりましたが,やはり実験所の鍵の複製を頼んだ客はいませんでした」

岸谷「ですが……」

リヴァイ「?」

岸谷「複製を頼んだ客はいませんでしたが,『これと同じ型の鍵を作ってほしい』という客がいたそうです」

リヴァイ「どういうことだ?」

岸谷「自分が持ち込んだ型の複製を頼んだみたいです。それが実験所の鍵であるとは言わずに」

ハンジ「えっ……ちょ,ちょっと待ってよ!言ってることがメチャクチャじゃん!」

ハンジ「そもそも,実験所の鍵を盗まれた人は誰もいなかったんだよね!?だったらどうやって……」

湯川「粘土だ」

ハンジ「ね,粘土?」

湯川「犯人は調査兵団として我々に紛れ込み,粘土を使って関係者の鍵の型を取ったんだ」

湯川「この方法なら鍵を盗む必要はないし,隙を突けば10秒もかからない」

ハンジ「……!」

湯川「粘土の型であれば実物がなくても複製を頼める」

湯川「しかも鍵屋は設計図を書かないので,それが実験所の鍵であるとバレる心配もない」

岸谷「念のため鍵屋に実物の鍵を見せましたが,全く同じ型だったと証言しています」

リヴァイ「……呆れるくらい単純な方法だな」

湯川「全く同感です。物理学を使うまでもない」

ハンジ「でも……それが今回の原因とどう関係するの?」

湯川「まずはこれを見てください」

カタカタカタカタカタカタ…
ッタン




ソニー『……』

ビーン『……』




湯川「殺害される5日前の映像です」

ハンジ「えっ,なんか再生時間増えてない?」

岸谷「確かに……2時間くらいしか撮られてなかったんじゃ?」

湯川「僕が修復した」

岸谷「は?」

湯川「消された部分を修復したんだ」

岸谷「修復……?ってか消されたって……」

アニ『……』




リヴァイ「……!」

ハンジ「えっ!?」




アニ『……』




岸谷「ちょっ……これどういうことですか!?」

湯川「見ればわかるだろう」




湯川「アニ・レオンハートはすでに,この時点で侵入していた」

アニ『?』




ハンジ「こっちを見た!」

リヴァイ「……パソコンに気付いたのか」




アニ『……』ソローリ…

アニ『……』チョンチョン


パッ


アニ『!』

湯川「粘土を使って鍵の複製に成功したアニは,この時点で実験所に侵入していた」

湯川「目的はもちろん,ソニーとビーンの殺害だ」




アニ「……!」オロオロ




湯川「おそるおそるキーを押してスリープ状態を解いた彼女は,さぞ驚いただろう」

湯川「その画面上には,自分のリアルタイムの姿が映し出されていたのだから」

アニ『……!』オロオロ




湯川「ほどなくして彼女は,それがソニーとビーンを記録するものであると察する」

湯川「証拠が残るのを恐れた彼女は,慌てて目の前の装置を弄り始めた」




カチッ…カチカチッ


アニ『……??』オロオロ




湯川「この録画ソフトは初心者にもわかりやすいように,かなり親切に設計されている」

湯川「したがって,映像を消去する作業自体はそれほど難しいことではない」




カチッ…カチカチッ


アニ『……』




湯川「そしておよそ8時間の試行錯誤の末……」




カチッ


アニ『……』グッ




湯川「彼女はついに,自分が撮られた時間からの映像の消去に成功した」





リヴァイ「わからないな。なぜそんな面倒なことをしたんだ」

リヴァイ「パソコンをぶっ壊してそのまま巨人を殺せばよかっただろう」

湯川「確かに。しかし映像を見ればわかるように,彼女はかなりパニックに陥っている」

湯川「おそらくそこまで頭が回らなかったのでしょう。映像を消そうと思ったのも無意識のうちだった」

湯川「しかしこれが結果的に、思わぬ成果を生み出すことになる」

岸谷「えっ……」

湯川「パソコンを破壊すれば確かに証拠は残らないが、それは逆にパソコンの存在を理解したと示すことにもなる」

湯川「しかし映像を消去した今、その心配はなくなった」

湯川「それどころか、実験所に忍び込んだことも誰にも知られることはない」

岸谷「……!」

湯川「彼女はそれを逆手に取った」

カタカタカタカタカタカタ…
ッタン




ハンジ「これは?」

湯川「事件前日の復元映像だ」




カタカタカタカタカタカタ…


アニ『……』




リヴァイ「……!」

湯川「まるで別人だ。手つきにほとんど迷いがない」

岸谷「い,いやいや!なんで前日にまで忍び込んでるんですか!?」

湯川「仕込みだ」

岸谷「仕込み!?」

湯川「彼女はここで全ての手を打った」

切りが悪いですが,今日はここまで
続きは明日にやります

女型の巨人 ((不覚だった……!))


湯川『気分はどうかな?』








湯川「そしてそれから数日後……」

湯川「彼女は我々に捕まった」

ハンジ「……」

湯川「巨人の秘密を引き出したい僕らとしては、彼女をむやみに殺すことはできない」

湯川「厳重な監視体制に置き、あらゆる拷問を仕掛けて情報を引き出そうとした」

リヴァイ「……」

湯川「彼女はそれをひたすら耐えたんだ」

湯川「時が来るまで」

岸谷「時……?」

湯川「そしてその時が来るおよそ1日前……」

湯川「彼女はこう言った」






『エ……レン』

『エレンさえ……いれば……』






リヴァイ「……!」

湯川「頑として口を割らなかった彼女がそう言えば、僕らは自然にこう考える」

湯川「エレンくんを彼女に会わせれば、何か話すかもしれないと」

湯川「そしてその時が来たのを見届けた彼女は、脱骨術によって鎖の拘束を解いた」

岸谷「は……?」

湯川「あえて自分から関節を外すことで拘束を解く技術だ」

湯川「主に関節技からの回避や脱出マジックなどに用いられるが、かなり危険な行為であるため、
使用者もある程度は加減をする」

湯川「しかし神経に直接電流を流されても平気だったアニには、そんな加減は不要だった」

岸谷「ちょ、ちょっと待って……」

湯川「片手の拘束だけでも解ければ十分だ」

湯川「あとはその片手で自身を傷付け、巨人になってエレンを攫えばいい」

ハンジ「ちょっと待ってよ師匠!」

ハンジ「それじゃあ何!?私たちは最初からアニに踊らされてたって言うの!?」

湯川「そうだ」

ハンジ「い、いやいやいや……っていうか、脱骨術とかなんかで拘束解いたって言うけどさ!」

ハンジ「そんなことしたら一発でわかるって!あの部屋はずっと監視してたんだから!」

ハンジ「師匠だって見たよね!?監視映像には何の異常もなかったんだよ!?」

湯川「そう……何の異常もなかった」

湯川「あるはずがなかった」

ハンジ「は……!?」

湯川「なぜなら僕たちが観ていた映像は……」

湯川「その1時間前の映像だったのだから」

ハンジ「……!!?」

湯川「彼女が事件前日に仕込んだこと……」

湯川「それは、『これから録画ソフトを216時間使用したとき、216~217時間分の映像だけを
直前の1時間分のものに置き換える』というものだったんだ」

岸谷「……!!」

湯川「パソコンの画面上にはリアルタイムの映像と共に、今までの録画時間が表示されるようになっている」

湯川「彼女は監禁されながらそれを確認し、自分が設定した『空白の1時間』までひたすら待った」

リヴァイ「何だそれは……できるのかそんなことが?」

湯川「不可能ではありません。ソフトのプログラムを書き換えるため、かなり面倒ではありますが」

岸谷「は……ははは、何よそれ」

岸谷「プログラムを書き換えたって言うんですか!?あの子が!?」

岸谷「パソコンに疎い私だってわかりますよ!先生がいかにメチャクチャなこと言ってるか!」

湯川「……」

岸谷「初心者用ソフトを操作するのとスクリプトを打つのは全然次元が違います!」

岸谷「パソコンを触ったこともないような子が、いくら一晩で映像を消せたからって……そんなの絶対あり得ない!」

湯川「……」

岸谷「……!」




カタカタカタカタカタカタ…
ッタン




湯川「これを見てくれ」

ハンジ「これは……事件の4日前の映像?」

湯川「そして3日前と2日前」

湯川「アニに手を加えられず、フルタイムでの撮影に成功した映像だ」

ハンジ「……? これが何か……」

湯川「これこそがこの事件の肝だ」

ハンジ「えっ……」








湯川「5日前や前日の映像ではなく」

湯川「この3日間の映像こそが、全ての謎を解く鍵だったんだ」

今日はここまで
続きはまた明日に

ハンジ「5日前から前日までの3日間の映像が鍵……?」

湯川「そうだ」

ハンジ「なんで?むしろそれらの映像こそ何の異常も……」

湯川「平均照度が高くなっている」

ハンジ「え?」

湯川「監視映像の明るさ……すなわち実験所内の明るさを数値で表したものだ」

湯川「それが0.76ルクスほど高くなっている」

リヴァイ「……?」

湯川「平均照度というのは,(光源一つあたりの光束)×(設置箇所あたりの光源数)×(設置箇所数)×(照明率)×(保守率)を
床面積で割った値で表される」

湯川「天井,壁,床,光源などの諸条件から照明率を0.3,保守率を0.38と定め,設置箇所と光源数をそれぞれ1とすると,
ちょうど500ルーメン程度の光源が存在したことになる」

ハンジ「500ルーメン程度の光源……?」

湯川「そうだ。それがこの3日間,実験所内に存在していた。ビーンが反応を示したのもおそらくこれだろう」

岸谷「……何かが光ってたってことですか?真夜中の実験所内で」

湯川「その通り」

岸谷「でも一体何が?実験所を出るときはいつも明かりを消してるんですよね?」

湯川「そもそも不自然だろう」

岸谷「?」

湯川「侵入映像を消した日から仕込みを行った日までの3日間……」

湯川「彼女はなぜ,わざわざ3日間も空けたんだ?」

岸谷「えっ……」

湯川「プログラムの書き換えができるのなら,なぜすぐ実行に移さなかった?」

湯川「彼女は3日間も何をしていた?」

ハンジ「……まさか……」

ハンジ「……ランタン?」

リヴァイ「……!?」

湯川「ええ,この世界のランタンであれば,大体500ルーメンほどの明るさでしょう」

岸谷「? でもなんでランタンなんて……」

湯川「まだわからないか」

岸谷「えっ……」

湯川「……」

岸谷「……」

岸谷「……えっ,まさか」

湯川「そうだ」




湯川「アニ・レオンハートはこの3日間にも,実験所に侵入していたんだ」

湯川「今度はランタンを持参して」

岸谷「!!」

湯川「実はあの実験所には,現代物理や現代化学,さらにはプログラミングなどの参考書類が詰まれている」

湯川「関係者に少しでも有意義な実験をしてもらおうと,僕が記して置いておいたものだ」

ハンジ「確かにあったけど……でもあれは」

湯川「そう。現代物理や現代化学はともかく,プログラミングを習得できた者は結局一人もいなかった」




湯川「しかし彼女は理解したんだ」

湯川「3日間の猛勉強によって」

ハンジ「ウソでしょ……?」

ハンジ「アレを……理解したっていうの?」

湯川「正直言って彼女の計画は,かなり確実性に乏しかったと言っていい」

湯川「監視にパソコンを使われるとは限らなかったし,生身の人間が直接監視するかもしれなかった」

湯川「さらにエレンが連れてこられる確証もなかったし,ソフトを都合良く書き換えられるとも限らない」

リヴァイ「……!」

湯川「しかし彼女は信じた」

湯川「必ず上手くいくと信じ,愚直なまでに知識の吸収に励んだ」

湯川「それはもう……狂気的な信念というほかない」

岸谷「……そんな……そんなの……」

岸谷「やっぱり無茶ですよ!そんなの有り得な……」

湯川「ハンジさんはたったの一晩で現代科学を理解した」

岸谷「……!」

湯川「技巧班は短期間で発電機構を理解し,必要な部品を作り上げた」

湯川「初心者用ソフトとはいえ,パソコンを見たこともない人間が8時間で使い方を覚えた」

岸谷「……っ」

湯川「わかるか岸谷くん」

湯川「今回の勝負……少しでも『あり得ない』と思ったこちら側の負けだ」

今日はここまで
続きはまた近いうちに

ヒュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……






湯川「実に美しい」

湯川「夕方になると太陽光の入射角が浅くなり,大気の層を通過する距離が伸びる」

湯川「また,光にはレイリー散乱という現象があり,その固有波長が大きいほど障害物を通過しやすい」

湯川「したがって,波長の短い青色光は地表に到達しにくくなり,このように世界を赤く染め上げるというわけだ」

岸谷「……探しましたよ,湯川先生」

湯川「岸谷くんか」

岸谷「どこにいるのかと思えば,まさか壁の上で黄昏れていたなんて……」

岸谷「危ないですよ。命綱も付けずに」

湯川「いざとなれば立体機動装置がある。危ないのはむしろ君の方だろう」

岸谷「……」

湯川「それで,僕に何の用だ」

岸谷「先生に確認したいことがありまして」

湯川「何だ」

岸谷「実はあの時……」

岸谷「ハンジさんやリヴァイさんの前では,あえて報告しなかったことがあるんです」

岸谷「鍵屋に行って確認をとったところ……」

岸谷「粘土を見せて『これと同じ型の鍵を作ってほしい』という客がいたそうです」

湯川「それはもう聞いたが」

岸谷「ええ,あの時報告したのはここまでですから」

湯川「……」

岸谷「ここからは改めて報告させていただきます」

岸谷「鍵屋に確認をとったところ,粘土を見せて『これと同じ型の鍵を作ってほしい』という客が」

岸谷「2人いたそうです」

湯川「……2人」

岸谷「念のため鍵屋に実物の鍵を見せましたが,全く同じ型だったと証言しています」

岸谷「しかしそれはあくまで片方の人間……」

岸谷「もう一人が見せた粘土は違う型だったそうです」

湯川「……」

岸谷「……そして興味深いのがここから」

岸谷「依頼した客の特徴を尋ねると,実験所の鍵の方は金髪の小柄な女性」

岸谷「もう一人の方は,スタイルのいい学者風の色男……と言ってました」

湯川「……」

岸谷「……それって一体」

岸谷「誰のことなんですかね」

短くてすみませんが,今日はここまで
続きは明日にやります

湯川「君はイデア界というのを知っているか」

岸谷「……は?」

湯川「古代ギリシャの哲学者プラトンは,かつてこんなことを説いたそうだ」

湯川「我々の住む世界の他にイデアという別世界があり」

湯川「今見ているもの,感じているもの全てはイデアが落とした影にすぎないと」

岸谷「……??」

湯川「もう一つ別の話をしよう」

湯川「19世紀初頭,デンマークの物理学者ハンス・クリスティアン・エルステッドは,
電流と磁気の相互作用について研究していた」

湯川「当時の科学ではこの2つの関係について明確な答えが出されておらず,多くの研究者が
その難解さに匙を投げる状況だった」

湯川「しかしそんな中でもエルステッドは諦めず,『電流と磁気には必ず関係性がある』と信じ,
日夜研究を続けたんだ」

湯川「まず,彼は方位磁石を用いた実験を行った」

湯川「設置した方位磁石に対して垂直に導線を張り,そこに電流を流すことで磁石の動きを見るというものだ」

湯川「しかし結果は失敗。磁石はピクリとも動かず,電流と磁気の関係を示すことはできなかった」

岸谷「……」

湯川「後日,彼はまた同じような実験を行っていたが」

湯川「そのときふと,ちょっとした思いつきで『導線と方位磁石を平行に置いてみよう』と考えた」

湯川「その結果実験は見事成功したが,それを見た彼が感じたのは喜びではなく当惑だったという」

湯川「当時は『電流によって生じる磁気作用は電流の流れに生じる』というのが科学者の間での常識であり,
エルステッドもまたそれを当然だと思っていたからだ」

岸谷「……さっきから何言って……」

湯川「僕はこの世界に来て気付いたことがある」

岸谷「は……?」

湯川「この世界の現象を考察するにあたって……」

湯川「僕はあまりに,『僕らの世界の常識』に当てはめてしまっていたんだ」

岸谷「……?」

湯川「ここが仮に他の惑星だとするなら,当然ながら地球とはあらゆる条件が異なる」

湯川「重力加速度,自転軸の傾き,自転・公転周期,惑星の有無や距離,恒星やこの星の磁場,
さらには僕らの知り得ない『何か』……」

湯川「それらは決して独立することなく,ちょっとした変化でも影響を及ぼし合って,
この世界にさまざまな現象を引き起こしているんだ」

岸谷「……」

湯川「その結果,この夕焼けのように僕らの世界と変わらないものもあれば」

湯川「10mを超える巨人が歩き回るという『あり得ない』現象も存在する」

岸谷「……よくわかりませんけど,要するに物理学じゃこの世界に太刀打ちできないってこと?」

湯川「何を言っている。物理学は全宇宙不変の真理だ」

湯川「星が変わったところでそれは変わらない。『物の理の学問』と書くくらいだからな」

岸谷「……」

湯川「僕が言いたいのは,常識にとらわれずに物理学で突き詰めるということだ」

湯川「表皮のない超大型巨人は確かに直立していた」

湯川「そしてそれが事実である以上,僕はその原因を突き止めなければならない。それが科学者としての正しいあり方だ」

岸谷「……」

湯川「僕たちはどんな『あり得ない』現象でも受け入れなければならないんだ」

湯川「真っ暗な実験所で,アニ・レオンハートが未知の技術を受け入れたように」

岸谷「……」

湯川「……岸谷くん」

湯川「僕は未だかつて,こんな気持ちになったことがない」

岸谷「……?」

湯川「どんなに難解な理論を理解しても,どんなに画期的な論文を読んでも」

湯川「君や内海くんがどんなに不可思議な事件を持ち込んでも……ここまでの気持ちにはならなかった」

岸谷「……それってつまり……」

湯川「ああ」










湯川「さっぱりわからない」

湯川「だが……実に面白い」

一旦離れます

ヒュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……






岸谷「……」

湯川「……」

岸谷「……ハッ!」

湯川「?」

岸谷「危ない危ない……あやうく誤摩化されるところでした」

湯川「どうした」

岸谷「どうした,じゃありませんよ!鍵の話です!」

岸谷「『スタイルのいい学者風の色男』って先生のことですよね!?一体どうして……」

スッ


湯川「これだ」

岸谷「えっ……それって……」

湯川「エレンくんの家の地下室の鍵だ」

岸谷「……!!」

湯川「実はあのとき,こっそり型を取っていたんだ」










ハンジ『ハハハハ!もう、師匠ったら!』

湯川『はっはっはっは』


岸谷『……』ウトウト

エレン『ぐがー』

湯川「まさかアニも同じ方法を使っていたとは思わなかったが」

岸谷「あ,あんたって人は……」

湯川「エレンくんの話によれば,その地下室に全ての手がかりが隠されている」

湯川「かなり都合のいい話ではあるが……」

湯川「もしそれが本当であるなら,求める真実に大きく近づくことになる」

岸谷「……でもそれはどうでしょう」

湯川「?」

岸谷「エルヴィン団長の話によれば,その地下室の鍵の情報はすでに公にしてあるそうです」

岸谷「もし団長の言うように,アニ・レオンハートの共謀者が他にもいるとしたら……わかりますよね?」

湯川「……」

岸谷「エレンが攫われてもう3日ですよ」

岸谷「下手したらもう,その手がかりだって抹消されてるかも……」

湯川「……岸谷くん」

岸谷「はい?」

湯川「……まさか君は」

湯川「僕が何も考えていなかったと思っているのか」

岸谷「えっ」

湯川「僕が何の手も打たずに出し抜かれ」

湯川「3日間も黙って指をくわえていたように見えたのか」

岸谷「……!?」

湯川「科学者というのは,常にあらゆる状況を想定しなければならない」

湯川「たとえそれが決して起こってはいけないものだとしても……」

湯川「全て予測して,最善の処置をとらなければならないんだ」

岸谷「えっ……そ,それじゃあ……」

湯川「言っただろう。このままでは終われないと」










湯川「ひとまずアニは賭けに勝った」

湯川「だが,僕が賭けたのはここからだ」

今日はここまで
続きはまた近いうちに




……と言いたいところですが,この話はここで一度終わりにさせてください。
理由は,7月から私生活が劇的に忙しくなるため,更新する時間が全く取れそうにないからです。

もしまた生活が落ち着いたら,改めてスレを立て直します。
勝手であるとは思いますが,何卒ご了承ください。

楽しみにしてくださった方々,本当にすみません。
そして本当にありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年09月14日 (土) 10:42:22   ID: Z9A3s38z

脳内再生余裕でした…wwww

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