一護「五番隊って…平子の隊っすよね?」

浮竹「ああ、本当なら、すぐにでも隊長格に、って声も多かったんだが、今のところ席は全部埋まっていてね」

浮竹「試験によっては、今の隊長を引きずり下ろして、隊長になることは出来なくもないんだが…」

一護「そこまでしなくても…」

浮竹「だろうね。そう言うと思ったよ」

浮竹「だから…まぁ、ここの生活やデスクワークに慣れてもらうという意味も兼ねて、しばらくは五番隊の三席、ということになったんだ」

浮竹「…折角、日番谷隊長の最年少記録を塗り替えられたんだが…」

一護「いえ、そんなこと気にしませんって…」

浮竹「…そうか…っと、そろそろ時間だ。早く隊舎に向かいなさい」

一護「そうですね…それじゃ、また」

五番隊隊舎

平子「久し振りやな、一護」

一護「お、久し振りじゃねぇか、平…」

雛森「……」ｼﾞｰｯ

一護「……」

雛森「……」

一護「…すんませんっした!?」ﾊﾞｯ

平子「…いきなり何やってんねや…?」

雛森「あ、覚えててくれたんですね、私のこと」

雛森「シロちゃん達に刺されたときのことも…」

一護「あ、あの時は…いきなりで、俺もちょっと動転したりしてて…」

一護「本当に…申し訳ありませんでした!」

平子（…ああ、愛染の時のアレか…）

雛森「さぁ…どうしましょうね?」

一護「……」

雛森「そういえば、今日から私の部下なんでしたっけ?」

雛森「…私のためにも、頑張って働いて下さいね、黒崎三席」ﾆｺｯ

恋次「…んなことがあったのか…」

一護「ああ…まぁ、何をさせられるかと思ったら、普通の上司と部下と全く変わんなかったけどな」

恋次「雛森だしな…あいつ、大人しくて真面目だから…そんな無茶苦茶なことは言わねぇよ」

一護「これが乱菊さんとかだったら、無理矢理、遅くまで酒とか飲まされそうだ…」

一護「まだ未成年だってのに…」

恋次「…まさかとは思うが…初日の歓迎会で、頑なにアルコール飲料を拒み続けたのはそれが理由か?」

一護「まぁな…あと二年は待たねぇと…」

恋次「…下らねぇこと気にしてんなよ…もう死人なんだぜ?」

一護「そりゃ…そうかもしんねぇけどさ…」

雛森「買い物、終わりましたよ、黒崎三席」

一護「あ…雛森副隊長…」

雛森「こっちの荷物、持ってもらえますか?」

一護「あ、はい…っと」ｸﾞｯ

一護「隊舎まででいいんすよね?」

雛森「はい。お願いします」

一護「っと…んじゃな、恋次」

恋次「おう、じゃあな」

雛森「またね、阿散井君」

恋次「ああ…あんまり一護に無茶させんなよ」

雛森「分かってるよ」

五番隊隊舎

雛森「…あれ?もう、書類整理終わったんですか?」

一護「終わりましたけど…?」

雛森「じゃあ、ちょっと、私の分まで手伝って貰えます?今日、隊長現世に行ってて…」

一護「…分かりました」

雛森「……」ｼﾞｰｯ

一護「……」ｶﾘｶﾘ

雛森「……」ｼﾞｰｯ

一護「……」ｶﾘｶﾘ

雛森「……」ｼﾞｰｯ

一護「…あの、何か?」

雛森「…いえ、意外と、デスクワークも出来るんだな、って…」

雛森「てっきり、阿散井君みたいなタイプだと思ってましたから…」

一護「偏見ッスよ、それ…」ｶﾘｶﾘ

一護「大体、書類整理っつっても、そんなに難しかったり、面倒なのほとんどありませんし…」

雛森「そうですよね…阿散井君とかは、長時間机の前に座ってるのが苦痛らしいんですけど…」

一護「まぁ、受験生でしたしね、俺…そういうの、慣れてるんすよ」ｶﾘｶﾘ

雛森「…はぁ、そうですか」

雛森（……話、続かないなぁ…）

こんな感じです

最初は、一護隊長、茜雫副隊長でやってみる予定だったんですけど…話が続きそうになかったので、こういう話に…

唐突にシリアスになったりするかもしれません

五番隊隊舎

石田「やぁ、黒崎」

一護「石田!?」

織姫「やっほ、黒崎君」

チャド「ム…俺もいるぞ」

一護「井上…チャドも…どうしたんだよ!?」

石田「どうしたもこうしたも…君の様子を見に来たにきまってるじゃないか…」

石田「君は一応、生者である死神代行を殺しているからね…地獄に落ちてやしないかとヒヤヒヤしたよ」

一護「縁起でもねぇこと言うなよ…」

井上「でも、良かった…元気そうで…」

一護「当たり前だろ…ま、死人が元気ってのもおかしな話だけどな」

チャド「三席らしいな、一護…」

一護「ああ、五番隊第三席、黒崎一護だ」

石田「君の腕なら、間違いなく隊長格だとおもってたんだけどね…」

一護「席が埋まってるんだと」

石田「一番隊の副隊長は二人いるんだろう?」

石田「増やしてもらえばよかったじゃないか、席」

一護「そこまでしなくても…大体、そう簡単にはいかねぇだろ…」

一護「四十六室って、頭の固い連中ばっかりらしいし…」

一護「それに、三席なら現世で力の制限されねぇし」

チャド「そういえば、そんなのもあったな…」

織姫「現世じゃ、20%しか力を発揮出来ないようにされるんだっけ?」

一護「そうそう。三席はギリギリセーフなんだよ…」

一護「そういや、浦原さんは一緒じゃねぇのか?」

チャド「最近、何やら忙しいらしい」

一護「ああ…なるほどな…」

石田「…そんなことより…」

一護「…ん?」

石田「もっと、ずっと重要な話があるんじゃないのか?」

一護「…なんのことだ?」

石田「とぼけるつもりか?」

石田「分かってるだろう、僕が聞きたいことは…」

一護「……」

石田「黒崎…君を殺したのは、誰だい?」

一護「……」

一護「……さぁな…」

一護「後ろからだったからな、顔なんて見てねぇよ」

石田「本気で言っているのか?」

一護「…ああ」

石田「…君の死体は、正面からナイフを生やしていた筈なんだけどね」

一護「……」

石田「さっき、浦原さんが最近忙しいという話をしていただろう?」

石田「どうやら、今回の件の揉み消しに奔走しているみたいなんだが…」

石田「それは、君が依頼したんじゃないのか?」

一護「…何が言いてぇんだよ?」

石田「分かってるだろう?君は、そこまで馬鹿じゃない…」

石田「僕は、君が犯人を庇ってるんじゃないか、と疑っているんだよ」

一護「…はっ!」

一護「おいおい、勘弁してくれよ…ここは、推理小説の中じゃねぇんだぞ」

石田「そうだね、ここは現実だ…」

石田「だから、推理小説なんかと違って、あっという間に看過される」

石田「こんなのが出版されたら、三流という評価さえされないだろうね」

一護「……」

石田「……」

石田「…黒崎、僕達は、君を心配しているんだよ」

石田「もし、犯人が死神というものを知っていたら、もう一度君を殺そうとすることだって十分考えられるんだ」

石田「それだけじゃない…もしも、君に恨みを持つものの犯行なら、僕達自身も危ないんだ…」

石田「ここにいる僕達だけならともかく…有沢さんたちは、身を守る術さえないというのに…」

一護「…心配すんなよ、石田…」

一護「そんなことはねぇよ…絶対に」

石田「そうか…」

石田「黒崎…やっぱり、君は犯人を知っているんだね?」

一護「……ああ」

一護「けど…悪い、これ以上の詮索は…」

石田「…そうだな、これ以上の詮索は必要ないだろう」

石田「君が犯人を知っている上で庇うということは…本当に、それ以上の危険性はその犯人にはないんだろう」

石田「僕は…君を信じよう」

一護「…石田…」

一護「…サンキューな」

チャド「一護…」

チャド「たまには、こっちにも顔を出してくれ」

一護「…そうだな」

一護「たつきや親父達にも会いてぇし…」

織姫「あ、そうだ!」

織姫「これ…黒崎君に渡すよう、たつきちゃんに頼まれてたんだけど…」ｽｯ

一護「これ…合格祈願って…」

織姫「後で渡そうと思ってたらしいんだけど、その前に…」

一護「…にしても、今更すぎるだろ…」

一護「まぁ、貰っとくけどさ」

一護「たつきに、礼、伝えといてもらえるか?」

織姫「勿論、任せて!」

ｶﾞﾗｯ

雛森「…あれ?お客さんですか?」

一護「ああ、はい…って、平子、まだ現世なんすか?」

雛森「ええ、なんでも、あっちで仮面の軍勢の同窓会を企画中だとか…って、あ…」

一護「…?」

雛森「すみません、今のは聞かなかったことに…」

一護「はぁ…」

石田「っと…副隊長さんが来たということは、そろそろ昼休みは終わりなんだろう?」

石田「僕達はそろそろ帰るとしよう」

雛森「そんな…いいんですよ、気をつかわなくても…」

石田「いえ…こっちでも、区切りをつけて帰らないと…いつまでも居座っていそうなので…」

織姫「じゃあね、黒崎君」

チャド「一護…また来る」

一護「ああ、今度は、志望校合格の報告を引っ提げて来いよ」

石田「当然だ…僕を誰だと思っている?」

チャド「というか、石田は既に推薦で…」

一護「んだよ…そういうことは早く言えよ」

石田「いや、僕は井上さんたちと一緒に報告するつもりだったんだけど…」

一護「ああ、そういうことか…」

一護「ま、おめでとう、石田」

石田「ああ…僕からしたら、当然のことだけどね」

一護「はいはい」

織姫「そうだ…朽木さんにもよろしく言っといてね」

一護「自分達で挨拶してけよ…」

石田「君は、受験生に貴重な勉強時間を削れと言うのかい?」

一護「てめえは合格してんだろうが…」

チャド「一護…さっきすれ違った浮竹さんには、朽木は今日いないらしいんだが…」

一護「ああ…そういや、浦原さんのとこ行くって言ってたな…すれ違いだったんじゃねぇか?」

一護（…まさか、犯人探しとかしてねぇよな、ルキア…）

石田「そういうことなら、彼女には帰ってから声をかければいいか…」

石田「それじゃあ黒崎、今度こそ…」

一護「ああ…またな、皆」

技術開発局

ネム「…マユリ様、お客様のようです」

マユリ「言われずとも分かっているヨ…」

マユリ「まぁ、中々珍しい来客のようだがネ…」

マユリ「何のようかネ?滅却師…」

石田「……」

石田「…お前はかつて、監視用の菌を僕につけていると言ったな…」

マユリ「はて…?どうだったかネ?」

石田「その菌を…黒崎にもつけていただろう?」

石田「アイツはイレギュラーの塊だ…お前が興味を示さないわけがない」

石田「機会なら…いくらでもあっただろう?」

マユリ「…それで?」

マユリ「もしそうだと言ったら…どうするのかネ?」

石田「僕としては、不本意極まりない…けれど…」

石田「…頼みたいことがある」

マユリ「…だろうネ」

マユリ「そう言うだろうと、思っていたヨ」

ここまでです

ここからしばらくは、日常ののほほんとした話になると思います

五番隊隊舎

雛森「黒崎三席、遅いですね…」

平子「ああ、あいつが遅刻って、珍しいなぁ」

雛森「何かあったんでしょうか?」

平子「どうやろうなぁ…一護なら、よっぽどのことでもない限り大丈夫やろうけど…」

平子「…と、噂をすればなんとやら…」

雛森「…え?」

平子「この霊圧は一護のやろ?」

雛森「…あ…」

平子「それに…あんな派手な頭、そうそうおらへんやろ?」

雛森「黒崎三席!?」ﾀﾀﾀｯ

雛森「もう、どうしたんですか…こんなに遅れて…って!?」

一護「…ああ、すんません…」ﾌﾗﾌﾗ…

雛森「あ、謝るのはあとでいいですよ!それより、なんでこんなにボロボロなんですか!?」

一護「っと…それは…」ｸﾞﾗｯ

一護「……あ…」ﾊﾞﾀｯ

数時間前

一護「…早く来すぎたか…?誰もいねぇ…」

一護「…って、なんだこれ?鬼道教本上級編…?」

一護（…なんでこんなもんが俺の机に…）ﾊﾟﾗﾊﾟﾗ

一護「…お、これ、愛染の…」

一護「……試して、みるか…?」

一護（…けど、ここじゃな…よく恋次も暴発させてたし、危ねぇよな…）

一護「…仕方ねぇ…時間も余裕あるし、少しくらいなら大丈夫だろ…」

浦原、夜一の遊び場

一護「ここなら大丈夫だろ…っと」ﾊﾟﾗﾊﾟﾗ

一護「このページだな…」

一護「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器」

一護「沸き上がり 否定し 痺れ 瞬き 眠りを妨げる」

一護「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」

一護「結合せよ 反発せよ」

一護「地に満ち己の無力を知れ」

一護「破道の九十 黒棺!」

一護「……」

ｼｰﾝ…

一護「…やっぱダメか…」

一護「素直に白哉にでもコツ聞いといたほうが良かったかな…」

ｽﾞｽﾞｽﾞ…

一護「てか、この詠唱って何か意味あんのかな…何だよ、鉄の王女とか、自壊する泥の人形とか…」

ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ…

一護「そういうのの意味分かってねぇと発動しねぇのか…?」

ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ…

一護「…ん?なんだこれ?」

一護「なんで温泉が真っ黒に…って…」

一護「…まさか…」

ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ…

一護「っ、やべぇ!?」

ｺﾞﾊﾞｯ!

一護「っ!?」

平子「…そんで、そんなボロボロになった、と…」

一護「…ああ…」

平子「…んなアホなことで心配さすな!」ﾊﾞｺｯ

一護「ってぇ!?何すんだよ、怪我人だぞ、俺は!」

平子「ピンピンしとるやないか!」

平子「大体、なんでいきなり黒棺やねん!」

平子「霊圧の制御もヘタクソの癖に、そないな難しい鬼道からはじめて成功するわけないやろ!」

一護「……そりゃ、そうかもしんねぇけど…」

雛森「…つまり、黒崎三席は鬼道の暴発でこんなにボロボロになったってことでいいんですよね?」

一護「…そういうことっすね…」

雛森「黒崎三席、鬼道、習得したいんですか?」

一護「まぁ…何かと便利そうですし…」

一護（大体、これさえあれば死なずに済んだろうしな、俺…）

雛森「…意外です…そういうの、嫌ってると思ってましたよ…」

一護「…へ?なんでっすか…?」

雛森「なんか…十一番隊っぽいじゃないですか、黒崎三席…」

一護「…はい?」

平子「ああ、確かにそんな感じはするわ…」

平子「休憩時間とか、大抵十一番隊に遊びに行っとるしな…」

一護「いや、そんなつもりは…別に嫌っちゃいませんよ…」

雛森「…でも、ちゃんと順序だてて練習しないと危ないですよ…?」

一護「…身をもって思い知りました…」

雛森「そうですね…折角身近に鬼道の得意な死神がいるんですから、その人に師事を仰いでみては?」

一護「そうっすね…浦原さんは忙しいみたいですし、白哉にでも教わろうかと…」

雛森「…隊長業務って、結構大変なんですよ?」

雛森「朽木隊長は、朽木家の当主でもありますし、あんまり時間はないんじゃないですか?」

一護「そうなんすか?なら、ルキアに…」

雛森「…ｺﾎﾝ」

一護「……?」

雛森「私、これでも鬼道の達人って呼ばれるくらい、鬼道に精通してますし、それなりに自信はあります」

一護「……はぁ…?」

雛森「ところで…折角身近に鬼道の得意な死神がいるんですから、その人に師事を仰いでみてはどうですか、黒崎三席?」

一護「……」

一護「…よろしくお願い出来ますか、雛森副隊長?」

雛森「はい…任せて下さい」

六番隊隊舎

阿散井「…で、どうだったよ?」

ルキア「ダメだった…収穫らしい収穫といえば、写真をもらったくらいだな…」

白哉「…写真とは、死体の写真だな?」

ルキア「はい、これです…石田に聞いた通りでしたが…」ﾍﾟﾗｯ

阿散井「…確かに、ナイフが胸に突き刺さってんな…」

阿散井「しっかし…あいつがこんな簡単に死ぬんだな…」

白哉「…話を聞いたときから疑問に思っていたのだが…」

ルキア「何か気付かれましたか、兄様?」

白哉「…これは、本当に黒崎一護の死体なのか?」

ルキア「…どういうことですか?」

白哉「…確かに、黒崎一護は死神代行とはいえもとは人間だ」

白哉「…人間の身体なら、ナイフで刺されて死ぬこともあるだろう…だが…」

白哉「黒崎一護には静血装がある…正面から刺されても、それを防ぐことなど造作もないだろう」

ルキア「待ってください…では、この死体は…」

白哉「…ルキア、石田雨竜は直接死体を見たのか?それとも、このように写真だけを見せられたのか…?」

白哉「…いや、例え直接見て、触る機会があったとしても、だ…」

白哉「初代技術開発局の局長からすれば、誤魔化すことなど容易いのではないか…?」

阿散井「隊長…それじゃあ、こいつはまさか…」

白哉「…それは、恐らく黒崎一護の死体ではない…」

白哉「義骸によって偽装された…偽物だ」

ここまでです

日番谷の出番はもう少しあとになります

あと、勿体ぶってますが、真相はあっさりしている…というか結構ショボいです

空座町

一護「久しぶりだな、お袋…」

一護「…俺さ、本物の死神になっちまったよ…」

一護「…悪ぃ…お袋に貰って、護ってもらった命だったのに…」

一護「……」

一護「…ったく、なにやってんだか…」

一護（分かりきってるのにな…）

一護（ここには…どこにも…）

一護（お袋の魂が無いことなんて…）

一護「…久しぶりだな…空座町…」

一護「…さて、どっから行くかね」

竜貴「お、久しぶりだね、一護」

一護「…何だよ、随分あっさりした反応じゃねぇか…」

竜貴「そりゃ、織姫達から聞いてたからね…感覚的には、久しぶりに友達に会った、ってのと変わらないし」

一護「そうかよ」

竜貴「そうだ、久しぶりにゲーセンとか行かない?」

竜貴「受験も終わったことだしさ」

一護「却下…ゲーセンはまた今度な」

竜貴「えぇ…何でさ?」

一護「時間がねぇんだよ…お前、進学先はこの近くだろ?」

一護「水色みてぇに、遠くまで行くやつは、早目に会っとかないと機会が無くなるかも知れねぇんだよ」

竜貴「…ま、そういうことなら仕方ないか…」

一護「…と、そういや、お守り、ありがとな」

竜貴「ああ、どういたしまして…っても、意味無くなっちゃたけどね」

一護「仕方ねぇよ…普通、いきなり死ぬなんておもわねぇだろ」

一護「死神とか知らなかったら、供え物とかになってたって、あれ」

竜貴「そうかもね…」

一護「……」

竜貴「……」

一護「…んじゃ、俺はそろそろ…」

竜貴「…ねぇ、本当に死んじゃったんだよね、一護」

一護「…ああ」

竜貴「…クラスの連中がさ、わんわん泣いてたよ?」

一護「……」

竜貴「私も、悲しかった…あんたがどっかにいるって知ってる、私でも」

一護「…そうか…」

竜貴「…もう、会えないのかな?」

一護「…そうでもねぇさ…こうしてここにいるだろ?」

竜貴「でも、前と同じってわけにはいかない…」

竜貴「文字通り…住む世界が違うんだよ?」

竜貴「私達は会えても…他の子達は会えないんだ…」

一護「……」

竜貴「だからさ…さよなら、一護…」

一護「っ!?」

竜貴「最後の挨拶くらいはしとかないとね…クラスを代表して、私から…」

竜貴「…そんで、お帰り、一護!」

竜貴「いつでも帰って来なよ…ここは、あんたが護った町なんだから!」

一護「…ああ、ただいま…」

一護「…またな!」

水色「やぁ、一護」

一護「…お前もあっさりしてるよな、水色…」

水色「ま、知ってたからね」

一護「そうかよ…んで、受験はどうだった?」

水色「受かったよ、第一志望に…もう、引っ越しの準備中」

一護「…ってことは、ギリギリだったのか、俺…」

水色「うん、間に合ってくれてよかったよ」

水色「僕だけ何の挨拶もなかったら、寂しいしね」

水色「お帰り、一護」

一護「ああ、ただいま」

水色「また、すぐに行っちゃうんだろうけどね」

一護「…まぁな」

水色「…ねぇ、死後の世界って、どんな感じ?」

一護「どんな感じって言われてもな…生きてるうちから何度も行ってるから、今更特に感想とかねぇよ」

一護「それに、俺がいるの、死後の世界でも結構特殊なとこだしな…」

水色「そうなんだ…それじゃ、僕の死後の参考にはならないね」

一護「縁起でもねぇな…」

水色「ｸｽｯ…冗談だよ」

水色「でも、直接顔を見られて、ちょっと安心した」

一護「…そっか」

水色「ちょっと遠いけどさ、たまには僕のほうにも顔を出してよ」

水色「それとも、僕がこっちに戻ってくる時に、メールでもする?」

一護「ま、浦原さんに頼めば、通信機くらいはどうにかなるかもしんねぇけどさ…」

一護「丁度時間が空くかどうかなんて、わかんねぇぞ?」

水色「そうなんだ…それじゃ、僕のとこまで来てもらったほうがいいかな」

一護「ああ…」

一護「…それじゃ、俺はそろそろ行くな」

水色「うん…啓吾のところにはもう行った?」

一護「いや、今からだけど…?」

水色「…なら、啓吾には、受験の話しないでね」

一護「…ってことは、まさか…」

水色「うん…浪人だってさ、啓吾」

啓吾「いっ!」

啓吾「ちっ!」

啓吾「ごぉぉ!!」ｶﾞﾊﾞｯ

啓吾「…あれ?避けない?」

一護「いや、いつもは鬱陶しいけどさ…こういう時は嬉しいな、これ…」

一護「やっと、らしい反応を見られた気がする…」

啓吾「…?何言ってんだ、一護?」

一護「いや、何でもねぇ…久しぶりだな、啓吾」

啓吾「おう、久しぶり!」

一護「……」

啓吾「……?」

一護「…よく考えたら、特に話すこと無かったわ」

啓吾「お、おい!?何だよ、その反応!?」

啓吾「ほら、何かあるだろ…受験のこととかさ!」

啓吾「って、待って!?それは俺が聞かれたくねぇ!」

啓吾「他には…えっと…」

啓吾「か、彼女とか!」

一護「出来たのか?」

啓吾「……出来てないです」

一護「なんで話題にしちゃったんだよ…」

啓吾「あとは…あとは…」

一護「んじゃ、そろそろ行くわ」

啓吾「待った!俺が聞くから!俺のほうから聞くから!」

一護「…何だよ?」

啓吾「え…っと…そうだ!」

啓吾「か、彼女とか、出来た?」

一護「出来てねぇよ…じゃあな」

啓吾「ちょっ!?待てって…一護ぉお!」

一護「冗談に決まってんだろ…」

啓吾「勘弁してくれよ…マジで焦ったって…」

一護「悪ぃ悪ぃ…ちょっと懐かしくてさ」

一護「楽しかったぜ、啓吾」

啓吾「…変わんないよなぁ…死んでもさ」

一護「そうか?」

啓吾「そうだよ…ま、ちょっと安心したけどさ」

一護「へぇ…」

啓吾「……なぁ、一護」

一護「…ん?」

啓吾「寂しかったぜ…お前が死んだって聞いてさ…」

一護「……」

啓吾「結局、高校生活のほとんどは、一護、暗い顔してたし…一緒の大学に行ったら、チャドも一緒に、パーッと遊んでやろうって思ってたのにさ…」

啓吾「死んじまいやがって…」

一護「チャドにも言われたけどよ…そんなに分かりやすかったか、俺?」

一護「…ってか、お前が自分の成績の遥か上の大学を志望してた理由って、それかよ…」

啓吾「いいだろ?俺には水色みたいに遠くまで行く度胸とか無かったし…チャドも一護も同じ大学なんだもんな…」

一護「そうか…ありがとな」

啓吾「礼を言われることでもないって…」

啓吾「それに、結局、お前も水色よりずっと遠いところに行っちまったし…」

一護「別に…永遠の別れって訳でもねぇだろ?」

啓吾「……一護…」

一護「…何だよ?」

啓吾「…俺は泣かねぇぞ」

一護「……は?」

啓吾「お前の前でだけは、絶対に泣かねぇ…」

啓吾「貴方との別れが悲しくて泣いてます、なんて…そんな恥ずかしいこと、本人の前じゃ、出来ねぇよ…」

啓吾「…だからさ…」

啓吾「またな、一護!」ﾀﾞｯ

一護「お、おい!啓吾!?」

啓吾「っ!?」ﾀﾀﾀﾀ…

一護「…ったく…」

一護「またな、啓吾…」

黒崎家

ｶﾞﾁｬ

夏梨「っ!?一兄…?」

一護「おう、ただいま、夏梨」

夏梨「うん…お帰…っあ…」

一護「…夏梨?」

夏梨「……」ﾌﾟｲｯ

一護「……?」

夏梨「……」ﾀﾀﾀﾀ

一護「っ!?夏梨!?」

夏梨「っ!?」ﾀﾀﾀﾀ

ﾊﾞﾀﾝ

一護「…どうしたんだ、一体?」

一護（見えなくなった…訳じゃねぇよな?）

一心「よう、お帰り、一護」

一護「親父…」

一心「夏梨は…やっぱり出てったか…」

一護「…何か知ってんのか?」

一心「分からねぇのか?」

一護「…何が?」

一心「夏梨が、お前を無視する理由だよ」

一護「っ!?」

一心「なぁ、一護…遊子には、幽霊をみることは出来ねぇよな?」

一護「…ああ」

一心「…だから、お前はその格好で来たんだろ?霊を見たことのない遊子が、義骸に入ったお前を見たら何と思うか…」

一心「お兄ちゃんは生きてたんだ!ってな…」

一心「お前は…変な期待を遊子に持たせたくなくて、死神の姿でここに来たんだろ?」

一護「…ああ、そうだよ」

一心「それが間違いなんだよ…」

一心「自分は見えて、話せて、触れる…でも、遊子はそうじゃない…夏梨のやつは、それを不公平だと思ってんだ」

一心「だから、今のお前とは話さない…」

一護「……」

一心「大体、お前は下らない心配のし過ぎなんだよ。遊子は、お前が思ってるほど弱くねぇよ」

一心「妹だろ?信じてやれよ!」

一護「…そうだな…」

一護「…なぁ、親父」

一心「…ん?」

一護「ごめんな…親父より先に死んじまって…」

一心「何言ってんだよ…まだ、生きてるじゃねぇか」

一護「…は?」

一心「死神として、な…俺だって死神なんだぜ?忘れちまったか?」

一護「…そうだったな」

一心「おう、お前は、今度こそ俺より長生きすりゃあいいんだよ」

一護「ああ…当たり前だ」

一心「よし!んじゃ、重苦しい話はここまでな」

一心「今度は、ちゃんと義骸でこいよ…いつもみたいに抱きついてやる」

一護「止めろよ…気持ち悪ぃ…」

一心「んだよ、反抗期か?」

一護「いつもこんな反応だったろ…」

一心「…まさか、反抗期のまま死んだら、ずっと反抗期のままなんじゃ…」

一護「話聞けよ…」

一心「真咲ぃ!一護が、永遠の反抗期に!」

一護「はいはい…んじゃ、俺はそろそろ行くぜ」

一心「ああ、またな」

一護「おう」

ｶﾞﾁｬ

遊子「……ただいま……」

一護「…お帰り、遊子…」

一護「…またな」

一護「……っ!?」

一護（…この霊圧…）

一護（あいつら…まさか…）

石田「…やぁ、来たね」

ルキア「…石田…」

石田「君達が僕のところに来たってことは、技術開発局に行ったんだろうね…」

石田「あの男も…約束通り、君達を僕のもとに誘導してくれたのか…」

ルキア「ああ…浦原が隠蔽にまわっているなら、こちらも技術開発局を頼らねばどうしようもないからな…」

ルキア「あまり…借りを作りたい相手ではないのだが…」

石田「だろうね…君達が来るのがやたら遅かったのも、情報と引き換えにとんでもないものを要求されたからだろう?」

白哉「そのようなことはいい…それより…」

白哉「黒崎一護の監視映像を持っている、というのは本当か?」

石田「事実だよ…ほら、ここさ」ﾋﾗﾋﾗ

ルキア「それを…見せてもらうわけにはいかぬか?」

石田「構わないよ…ただし、君と阿散井君だけだ…朽木白哉、貴方には見せられない」

恋次「…どういうことだよ?」

石田「条件があるんだよ、この映像を見せるにはね…だから、僕のもとに来ないと見られないようにしてもらったんじゃないか」

石田「彼は、それを満たしていない」

恋次「どうせ、見た後俺達が伝えるんだ…見ても見なくても一緒だぜ?」

石田「実際に見るのと、話を聞くのとでは印象は大きく変わるよ」

石田「大体、一緒だというんなら見なくてもいいじゃないか」

恋次「てめぇ!」

白哉「……よい」

恋次「っ隊長!?」

白哉「要求通り…私はここから去ろう」

石田「…ありがたいね」

白哉「…先に帰っているぞ」

恋次「は、はいっ!」

白哉「……」ｼｭﾝ

恋次「……」

ルキア「……」

石田「…どうやら、本当に帰ったみたいだね」

石田「…それじゃあ、はじめようか」

ここまでで

藍染は完全に勘違いしてました…すみません…

次回で真相を明らかにするつもりです…ただ、かなり強引なので、納得できない人もいると思います、申し訳ありません

一護の命日

一護「…ああ、疲れた…」

コン「…ん?勉強はいいのか、一護?」

一護「一段落ついたから、ちょっと休憩…」

コン「余裕な発言だよなぁ～」

一護「いいだろ、別に…」

ｶﾞﾗｯ

ｷﾗｯ

一護「…ん?なんだあれ?」

ｫｫｫｫｫｫｵｵｵｵ…

一護「…なんか、近づいて来てねぇか…?」

ネル「いちごぉぉぉぉおおおおおお!」

一護「っ!?」

ｺﾞﾝｯ

一護「毎回毎回、頭突きしねぇとやって来れねぇのか、ネル?」

ネル「ぅおう…久しぶりっス…」

一護「…ああ、久しぶり…」

一護「んで?今日はどうしたんだ?」

ネル「それが…最近、霊圧がおかしいんっスよ」

一護「…霊圧がおかしい?」

ネル「いきなりおっきくなったり、ちっさくなったり…」

ネル「そんで、相談しようってことに…」

一護「そういうことか…なら、浦原さんのとこまで連れてくか?」

ネル「おぉ!一護、ありがとっス」

一護「…そういや、他の二人はどうした?」

ネル「何言ってんスか、ほら、そこに…」ﾋﾟｯ

一護「……」

ネル「……」

ネル「い、いねぇっス!何処行ったっスか!?」

一護「…またかよ…」

一護「…とりあえず、まずは浦原さんのとこに行くぜ…」

何処からどう見ても駄菓子屋にしか見えない、浦原商店という看板の取り付けてある店の前まで来た
何度の世話になった人の経営する店…けれど、今日は人の気配がほとんどない…
帽子の男も、エプロンの男も、小生意気な子供も見当たらず…ただ、店の前で一人の少女が延々と箒で地面を掃いている


「よ…雨、だっけ?」

「は、はい…ご無沙汰してます、黒崎さん…」

「浦原さん達は…?」

「昨日から戸魂界です…多分、そろそろ帰ってくるかと…」

「本当は私とジン太君で留守番だったんですけど…ジン太君、どこかに行っちゃって…」

「相変わらずだな、あいつ…」

「…んじゃ、ちょっと待たせてもらっていいか?」

「…どうぞ」

「そうだ…こいつもいるんだけど…」

背後から歩いてくるネルを指して言う

「なんか、霊圧がおかしいらしくってさ。浦原さんに見てもら…」

言い切る寸前…ネルの霊圧が、急激に上昇した

「あ、ぁぁぁあぁぁぁあああ!?」

同時に、ネルの口から奇声があがる…なるほど、確かにこれはおかしいわ

「おい、ネル…」

駆け寄ろうとした、その時…隣を物凄いスピードで何かが横切った

「っ!?」

ｶﾞｷﾝ、という音と共に、少女の細い脚が弾かれる…
危なかった…もし、完現術による加速と、静血装がなかったら、今頃…ネルは…

「…ｹﾝ……ｼﾞｮ…」

ぶとぶつと何かを呟きながら、再び少女が迫る

「くそっ!?」

静血装を全開にして、少女の拳や脚を受け止める…大丈夫、ほとんどダメージはない
問題はここからだ…さすがに、知り合いの…それも年下（に見える）少女を殴りつけるのは気が引ける…
それ以前に、人間の体で霊力を使って戦ったのは、死神の力を取り戻そうとしていた僅かな期間だけだ…力の制御を誤って、殺しちまったりしたら洒落にならない…
ここは、静血装でダメージを抑えつつ、ネルを抱えて逃げるのが正解だろう…いまだに奇声をあげているネルを抱えあげる
とりあえず、逃げる前に少女の位置だけでも確認しといたほうがいいか…そう思い、一瞬、少女のほうを振り返る…それが、多分間違ってたんだ
目前に、白い指が迫っていた…
静血装は、血管に霊力を流して防御力をあげる能力だ…血管がある以上、眼球にだって適応される…だが…
ほとんどダメージがない、ということは、少しのダメージは通る、ということだ…脆い人間の体のなかでも、一段と脆い眼球には…その少しのダメージが、致命的だった

「っ!?」

激痛が、脳を揺らす
痛みで集中力が途切れ、血装が解除された…阻むもののなくなった指が、深々と、俺の右目に突き刺さる…
痛みが限界を越え、意識が断絶される寸前…視界の奥に、見知った帽子がかすかに見えた…
一体、何を叫んでいるんだろう?

ルキア「…何だ、これは…」

石田「人間としての、黒崎の最後だよ…君たちが見たがってたものだ」

石田「僕の設定した条件は、浦原さんとある程度友好的な関係であることだったんだが…」

ルキア「だが…こんな、こんな呆気なく…」

石田「君達死神は感覚が麻痺しているかもしれないけどね…僕達人間は、呆気なく死ぬものなんだよ」

石田「黒崎の死にかたは異常だけどね…偶然が重なった末に、突発的な事故のようなもので死んだ、という一点だけは、人間らしい最後だったんじゃないかな…?」

ｻﾞｯ

一護「よう」

石田「やぁ、黒崎…やっぱり見てたね…霊圧を隠すのが下手すぎるよ」

一護「別に隠れてたわけじゃねぇよ…」

一護「…で、見ちまったんだよな?」

ルキア「あ、…あぁ」

恋次「……」

一護「…今回のことは、なるべく秘密にしてくんねぇか?」

一護「…もう、終わったことなんだよ」

命日、戸魂界

一護「…ああ、死んだのか、俺…」

ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ

一護（…浦原さんにもらった通信機…）

ﾋﾟｯ

浦原「…黒崎サン」

一護「浦原さん…ネルは、どうなった?」

浦原「…実にアナタらしい第一声ッスね…」

浦原「彼女は無事ッス、なんとか間に合いました…」

浦原「あの現象も…元の大きさに戻ろうとした霊圧が、彼女の体から漏れていただけだったみたいッス…石田サンに漏れた霊圧を吸収して貰ったので、暫くは大丈夫でしょう」

一護「そっか……良かった…」

浦原「…黒崎サン…」

浦原「本当に…申し訳ありませんでした…」

一護「あ、ああ…気にすんなよ、浦原さん…」

一護「俺は気にしてねぇしさ…」

浦原「…ですが…」

一護「…俺はさ、本気で生きてなかったんだよ、多分…」

一護「死んだ後の世界を知ってたから…皆が必死こいてるときも、もう一度人生があるんだから、って…」

一護「多分、心の何処かで、そんなことを思ってた…」

一護「良かったんだよ、これで…これで、俺はようやく人並みに生きていけるんだから…」

一護「だから…気にしないでくれ、浦原さん…そっちの子にも、そう伝えといてくれよ…」

浦原「黒崎サン…すみません…」

浦原「ありがとう、ございます…」

一護「…ああ」

一護「…それじゃ、そろそろ行くな」ﾋﾟｯ