える「古典部の日常」(1000)

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奉太郎「古典部の日常」 - SSまとめ速報
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本スレは

奉太郎「古典部の日常」

の続編となります。

前作から読む事をおすすめします。

今の所、話数は未定となっております。
前作にあまり無かっただらだらとした日常を書ければ良いと思っているので、宜しくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1349003727

それでは、第1話、投下致します。

部室の扉に、向こうから手を掛けられているのはこちら側からでも分かった。

そして、ゆっくりと扉は開かれ……

俺は多分、いや……俺だけではない。

里志や伊原も、千反田が現れる事を望んでいたのかもしれない。

……そうであって欲しかった。

何しろ、古典部を訪れる変わり者など……今ここに居る三人を除けば千反田以外あり得ないからだ。

これが新入生が入ってくる時期、4月頃なら俺達はここまで期待はしなかったと思う。

だが今は1月、冬休みが明けてすぐの事だ。

それなら……もしかすると。

俺は唾を飲み込み、扉が開かれるのを待つ。

早く、早く開けないか、何をもったいぶっているんだ。

驚くほど、扉が開くのは遅かった。

……いや、俺が時間を長く感じているだけか。

だって俺がここまでの考えをするのに、多分まだ3秒程しか経っていないからだ。

里志や伊原の動きも、扉同様遅かったのでそういう事なのだろう。

しかし、時間は確実に刻まれている。

ようやく、そいつの体が隙間から見える。

制服は……女子の物だった。

つまり、それは……!

入須「……どうした、揃いも揃ってそう見られては、私も恥ずかしいのだが」

なんという事だ、ここまで必死に考えていたのに……この野郎。

奉太郎「……なんだ入須か」

入須「おい、今何て言った」

……つい言葉が漏れてしまったのだ、それを聞いていたとは嫌な奴だ。

里志「入須先輩、こんにちは」

里志「にしても……ホータロー、今のは流石にどうかと思うよ」

摩耶花「今の折木の顔、少し面白かった」

摩耶花「しかも、先輩の事呼び捨てにするなんて考えられないわ」

こいつらも多分、俺と同じ事を思っていたのに……薄情な奴らだな。

……いや、俺一人を犠牲にすればそれでこの二人は助かるんだ。

なるほど、これが生存本能と言う奴だろうか。

……少し違うか。

奉太郎「いや、あの」

奉太郎「……すいませんでした」

俺が取ったのは最善の選択だった。

とりあえず謝っておけば、入須もそこまで気にしないと思う。

入須「全く、君は普段からそんな風に思っていたのか」

奉太郎「……そんな訳、無いじゃないですか」

俺はこれでもかと言うほどの爽やかな笑顔を入須に向ける。

入須「……なんだその顔は、私を馬鹿にしているのか」

当の入須はそれを爽やかな笑顔だな、とは思わなかったが。

入須「……まあいい」

入須「君達、全員が残念そうな顔をしたのには見当が付く」

里志や伊原も顔に出していたらしい、それなのに俺だけに物を言うとは……やはり、嫌な奴だな。

入須「……千反田が来たと、思ったんだろう」

その入須の予想は、素晴らしくも当たっていた。

里志「……はい、入須先輩の言う通りです」

里志「間違いなく、僕達はそれに期待していました」

摩耶花「……」

里志は大体いつもの調子で、伊原は黙って首を縦に振り、それぞれ入須の質問に答えた。

奉太郎「……それで、用事はなんだったんですか」

奉太郎「あなたが古典部に来るとは、珍しい」

里志や伊原に反し、俺は悪態を付き入須に返答を促す。

入須「君は変わらないな」

入須「古典部へ来た理由か……」

入須「……そうだな、折木君が」

入須『入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です』

入須「とでも言ったら教えようかな」

……絶対に言ってやるもんか。

奉太郎「俺がそれを言うと思いますか」

入須「いや、思わんよ」

奉太郎「……」

こいつは、何を考えているんだ。

俺には見当が全く付かない。

入須「でもな、私がある一言を言えば」

入須「君は間違いなく、さっきの台詞を言うだろうな」

ある一言……?

奉太郎「言わせてみてくださいよ、俺に」

そう入須を挑発すると、入須は若干もったいぶりながら口を開く。

入須「……千反田の事だ」

奉太郎「……」

俺は少し考える。

確かにその入須の言葉が本当なら、俺は間違い無くさっきの台詞を言うだろう。

しかし……しかしだ。

入須は本当に、千反田の話で来たのだろうか?

……俺には分からないが、多分。

入須はそんな冗談を言う奴では無いと言う事くらいは、俺にも分かった。

奉太郎「……分かりました」

奉太郎「入須先輩、わざわざ足を運んでくれるなんて光栄です」

入須「……くっ」

今こいつ、笑ったよな。

俺はバツが悪そうに、視線を入須から逸らす。

里志「……」

摩耶花「……」

里志と伊原は、何か笑いを必死に堪えている様な表情をしていた。

……揃いも揃って、こいつら。

入須「……まさか本当に言うとは思わなかったよ」

入須「言わなくても、話はする予定だったんだがな」

……やはり苦手だ。

奉太郎「それで、その千反田の話、してもらいますよ」

入須「ああ、そうだな」

入須「……私から聞くよりも」

入須「本人から聞いた方が手短に済むだろう」

何を言っているんだ、こいつは。

しかし俺の思考は止まっても、入須の動きは止まらない。

入り口の扉から少し離れ、何やら顔だけを廊下に出して合図をしている様に見えた。

そして、次にその扉から現れたのは……

える「……あの、こんにちは」

俺が、俺が一番会いたかった人だった。

……あの日、千反田は確かに言った。

さようなら、と。

そして俺は結局、最後まで言葉を掛けられなかった。

足があんだけ動かなかったのは初めての経験だった。

しかし今も、足が勝手にこんだけ動くと言うのも、初めての経験だった。

奉太郎「……千反田!」

俺はそのまま、千反田の近くまで行き、千反田を抱きしめる。

奉太郎「本当に、千反田なんだな」

奉太郎「いつもの、お前なんだな」

える「え、あ、は、はい」

その返答は、確かにいつもの千反田だった。

える「あ、あの!」

そして千反田は声を強くして、俺に申したい事がある様子だった。

える「……えっと、少し、恥ずかしいんですが……」

俺はその言葉で我に帰る。

入須は眉をひそめ、首を横に振っている。

これに台詞を加えるなら、やれやれとか、全く君はとか、そんな所だろう。

里志はいつもより更に笑っていて、若干その笑顔が引き攣っている様にも見えた。

伊原はと言うと、顔を手で覆ってしまっている。

俺はそんな周りの奴らの反応を見て、初めて自分が千反田を抱きしめている事を恥ずかしく思った。

奉太郎「……す、すまん」

える「ふふ、いいですよ」

千反田は本当に、千反田だった。

いつもの笑顔が、それを俺に教えてくれる。

そしてゆっくりと千反田は部室の中に入っていく。

える「……ありがとうございます」

俺の横を通り過ぎるときに、確かに千反田はそう言っていた。

そのまま自分の席、いつもの席に千反田は座る。

入須「……それじゃ、私はこれで失礼するよ」

える「ええ、ありがとうございました」

……結局、入須は何をしに来たのだろうか?

いや、そんな事はどうでもいい、今は……!

奉太郎「聞いても、いいか」

える「……ええ」

奉太郎「何故、学校に居る?」

える「……ふふ、私でも予想できました」

える「折木さんの言う事を予想できたのは、少し嬉しいです」

奉太郎「……そりゃ、どうも」

える「……お話しましょうか」

里志「……うん、僕も気になるな」

里志「なんで千反田さんが今日、学校に来たのか」

摩耶花「私も、今思っている事が当たって欲しい」

摩耶花「……会いたかったよ、ちーちゃん」

こういう時、里志は結構凄いと思う。

全くもって、動揺している様子には見えなかったからだ。

伊原はそれとは逆で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

伊原が言いたかった事は恐らく、千反田が本当に戻ってきたのか、という事だろう。

……俺は、どんな顔をしていたのかは分からない。

自分の事は難しいからな、仕方ない。

える「あ、それよりも先に」

える「入須さんと一緒に来た理由から、お話した方がいいかもしれません」

意味があったのか、入須が同行していたのには。

える「実はですね……少し、一人で来るのが気まずくて」

奉太郎「……」

える「え、ええっと」

奉太郎「なんだ、気まずくて……の後は?」

える「い、いえ。 それだけです」

奉太郎「……はあ」

こいつは本当に変わらないな。

奉太郎「お前が入須と来た理由は分かった」

奉太郎「……それよりも、なんで今日来たんだ」

える「……やはり、言い辛いですね」

そう言い、千反田は顔を伏せる。

千反田を除く三人は、黙って千反田の言葉を待っていた。

やがて、顔を上げると……千反田は再び口を開く。

える「実は……」

える「その、父の容態が戻りまして」

里志「ええっと……」

摩耶花「……つまり、どういう事?」

える「あの、私も驚いたんですよ」

える「……結論から言いますと」

える「えっと……高校を辞める必要が、無くなりました」

里志「……と、言う事は」

摩耶花「……えっと」

える「あの、ですから」

える「皆さんとまた一緒に、居られます」

摩耶花「つまり……」

里志「ううん……」

える「あ、あの!」

駄目だ、こいつらに任せていては多分……日が暮れてしまう。

かくいう俺も、状況をうまく飲み込めては居なかったが……まとめるくらいの事はできるだろう。

奉太郎「つまり」

奉太郎「千反田の父親は無事に千反田家を収める役目に戻り」

奉太郎「そしてそのおかげで、千反田も学校を辞める必要が無くなった」

奉太郎「また一緒に、古典部で活動できる」

奉太郎「……って事か?」

なんだ、俺も結局最後は本人に答えを促しているではないか。

……それより俺がまとめた事、合っているのだろうか。

える「ええ、そうです!」

える「……折木さんが居て、助かりました」

える「私本当に、父親の体調が直ったときですが」

える「あまりこう思ってはいけないのは分かりますが」

える「どうしようかと、思っちゃいまして」

える「折木さんにあれだけ言っておきながら、どうしようかと……」

……なんだ、俺がこの冬休みに散々悩まされた事は無駄だったという事か。

奉太郎「そう、か」

くそ、千反田に俺の冬休みを無駄にされてしまったではないか。

里志「……僕は、なんとなくこうなるかと思っていたよ」

それに加え、新年の気分も最悪だったではないか。

摩耶花「本当に! 本当に良かったよ、ちーちゃん」

そしてついさっきまでも、最悪の気分だったではないか。

だが。

今は、とても良い、心地良い気持ちだった。

奉太郎「本当なんだな、千反田」

える「ええ、私一人では、とてもここまで来れなかったですよ」

える「……皆さんに、どんな顔をしていいか分からず……」

奉太郎「そんな事、どうだっていいさ」

える「そう、ですよね」

なんだか俺が随分悩まされていた時間が全て無駄になってしまったが、まあいいか。

とにかく、これでまた……古典部四人が揃った。

時期は冬、新年だ。

今年は絶対に、いい年になるだろう。

春は出会いと別れがあり、夏にはまた多分……どこかに出かけるだろう。

秋は文化祭、去年楽しめなかった分、今年は楽しみたい。

そして冬には……今年の冬は、暖かく過ごせるかもしれない。

俺はこの一年に、今までに無い期待を寄せながら、ゆっくりと千反田に向け言った。

奉太郎「……さようならでは、無かったな」

える「……ええ、私の間違いでした」

える「また、お会いできましたね」

える「折木さん」


第1話
おわり

以上で第1話、終わりとなります。

次回投下日は未定です、前よりは投下ペースは落ちると思います。

本当ですよ

乙です。
なんつーか、良かったんだろうけど。
倒れて半年意識不明で急変から……というのは、ちょっと。前作の意味が。。(・・; ま、書いた人が良いのなら、いーのかな。
ほうたる、省エネから少しは成長してほしいな。でも、ダラダラとした日常では成長しないか。
どちらにしても、楽しみにしています。キャラ崩壊しない程度に頑張ってください。

>>44-45
その辺りは、多分何か突っ込まれるんだろうなとは思っていました
かと言って何か考えていると言う訳でも無いです

せめて、少しでも楽しんで見ていただけれはなと考えているので、どうかお付きあいください

そうですね、そうとらえて頂くのが一番いいかも知れないです。
千反田父がもし、病気から立ち直ったら?
奉太郎にもう一度だけチャンスが巡ってきたら?
と言った感じですかね

それと、書き忘れていましたが本日の夜に第二話、投下致します。

こんばんは。

第2話、投下致します。

うう……寒い。

1月のとある日、俺は早朝から家を出ていた。

それも昨日、千反田から電話があり……内容は朝早くに会えないか、と言ったものだった。

俺は別にそれ自体が嫌では無かったし、二人きりで話す事もあったので気が進まないなんて事は全然なかった。

なかった……のだが。

まだ起きて1時間も経っておらず、完全に目が覚めている訳では無い。

それに加え外のこの寒さ……足が鈍るのは仕方ない事だ。

夜に少し雨が降っていた様で、道端にある水溜りには氷が張っていた。

それらをバリバリと割りながら、俺はあの公園へと向かっている。

厚着をしてきたのは正解だった……していなかったら俺は数時間後、冷たくなって見つかっていたかもしれない。

そんな馬鹿みたいな事を考えながら、途中にある自販機でコーヒーを買う。

奉太郎「……ふう」

冷え切った体に染み渡る、自販機に感謝しておこう。

しかし最後まで飲みきる前に、具体的には半分程飲んだ所でどんどんと冷めていってしまう。

この理不尽な現実に、俺は特になんとも思わず最後の一口を体に取り入れた。

そのまま自販機の横に設置されていたゴミ箱に空き缶を放り込み、再び俺は歩き出した。

奉太郎「……うう」

体がぶるぶると震える。

……確かこの現象には名前があったはずだ、ええっと。

なんとかリングとか、そんな感じだったと思う。

体温調整をする為らしいが……これで暖かくなるとは到底思えない。

……まだ走ったほうがマシだと思う。

だが俺は走る気もせず、再び体をぶるぶると震わせながら公園へと向かった。

~公園~

俺が公園に着くと、千反田は既にベンチに座っていた。

奉太郎「おはよう」

そう声を掛けると、千反田はすぐに振り返り俺に挨拶をしてきた。

える「おはようございます、今日も冷えますね」

える「これ、どうぞ」

そう言いながら千反田が渡してきたのは缶コーヒーだった。

俺はそれを受け取り、違和感に気付く。

確かに今日は寒いが……冷めすぎではないだろうか?

俺はほんの少しだけ考えると、一つの質問を千反田に向けた。

奉太郎「これ、冷たい奴か」

える「ええっと……間違えてしまいまして」

この馬鹿みたいな寒さの中、冷たい缶コーヒーを飲むことになるとは。

える「大丈夫ですよ、私のも冷たいので」

千反田はそう言うと、俺の手に自分の持っていた紅茶を当てる。

……確かに冷たいが、大丈夫という意味が分からない。

奉太郎「……ありがたく受け取っておく」

える「はい、どうぞ」

える「いつも奢ってもらってばかりな気がしたので……私の奢りです」

缶コーヒー1本でそこまで胸を張られても……反応に困ってしまう。

奉太郎「今度飯か何か奢ってもらわないと、割りに合わないな」

俺がそう言うと、千反田はムッとした顔をして、俺に向け口を開いた。

える「酷いですよ」

える「折角、折木さんが寒い思いをしていると思って……」

える「買って待っていたんですよ」

奉太郎「……」

奉太郎「……このコーヒー、冷たいけどな」

える「……そうでした」

どうにも千反田は本気で言っているのか、冗談で言っているのか判断に困る時がある。

これは冗談だろうと思って、反応を返すと本気で言っていたり……

かと思えば……本気で言っていると思って返すと、冗談で言っていたり、といった事が多々ある。

そして今回は本気で言っていた方か。

奉太郎「それで、朝から漫才をやる為に呼んだのか」

える「それもいいかも知れませんが……違います」

える「えっと……」

える「色々と、ご迷惑をお掛けしてしまってすいませんでした」

……やっぱりか。

奉太郎「そんな事か」

える「……そんな事って、私はそうは思いません」

奉太郎「……もう終わった事だろ」

奉太郎「俺は別に気にしてないさ」

その俺の言葉は、今の俺の本心でもあった。

しかしそれは今だから言えるのだろう、冬休みは本当に最悪の気分だったし、前に千反田とこの公園で話した後の数日間はろくに飯も食えなかった。

……だけどそれも、終わった事だ。

える「で、ですが!」

多分、俺がいくら言ってもこいつは心のどこかでそれを思い続けるのかもしれない。

なら、口で言っても駄目なら。

奉太郎「……」

パチン、と小気味いい音が乾いた空気に響いた。

える「……い、痛いですよ」

える「……折木さんのデコピンは、ちょっと痛すぎると思うんです」

奉太郎「なら丁度いい」

奉太郎「それで全部チャラだ、それでいいだろ」

俺がそう言うと、千反田は自分の頬を両手で叩く。

える「……分かりました」

える「もう、気にしない事にします」

奉太郎「ああ」

える「……そういえば」

ふと、千反田が指を口に当てながら、思い出したかの様に言った。

える「新年のご挨拶がまだでしたね」

える「あけましておめでとうございます」

少し遅い新年の挨拶を、丁寧にお辞儀をしながら千反田は告げた。

そういえば……確かに、まだしていなかった気がする。

もしかしたらしたのかもしれないが、千反田がまだと言うからにはやっぱりしていないのだろう。

奉太郎「すっかり忘れてたな」

奉太郎「あけましておめでとう」

~古典部~

今日は朝が早かったせいもあり、若干眠い。

その眠気から来る機嫌の悪さを俺は里志に向けていた。

奉太郎「それで、用事は何だ」

里志「まあまあ、皆集まってからにしよう」

里志の呼び出しで集められる時はあまり良い予感がしない。

それは俺がここ2年近く、古典部で活動する事で学んだ事の一つだ。

える「すいません、遅れてしまいまして」

里志「お、来たね」

摩耶花「これで揃ったけど……どうして急に皆を集めたの?」

里志「そうだね……」

里志「もうすぐで2月になるよね」

そんな事、カレンダーを見れば誰にだって分かるだろう。

待てよ……どこか辺境の地に住む人らは、日付の概念が無い可能性もある。

なら俺の言葉は訂正しなければならないな。

正しくは、カレンダーを見れば……日付の概念が無い人以外は誰にだって分かるだろう、か。

なんだか長くなってしまったので、やはり訂正しなくてもいいか。

える「あの、折木さん?」

奉太郎「……ん」

摩耶花「またくだらない事でも考えていたんでしょ、そんな顔してた」

どんな顔だろうか。

……私、気になります。 と言おうかと思ったが、部室に変な空気は流したく無いのでやめておいた。

里志「じゃあ、話を聞いてなかったホータローの為にもう1回説明するね」

里志「もうすぐで2月になるよね」

いや、そんな事……カレンダーを見れば誰にだって分かるだろう。

摩耶花「……ちょっと、聞いてるの?」

奉太郎「あ、ああ」

奉太郎「勿論」

釘を刺されてしまっては仕方ない、里志の話に耳を傾けよう。

里志「2月と言えばなんだと思う?」

奉太郎「……2月か」

奉太郎「寒いな」

里志「いや、そういう感想的な物じゃなくてもっとイベント的な奴だよ」

奉太郎「……バレンタインか」

里志「……ホータローも少し意地悪になったね」

里志「確かにそれもそうだけど、その少し前の事さ」

少し前……何か、あっただろうか。

……ああ、あれか。

奉太郎「節分か?」

里志「そう! それだよ!」

里志がいきなり大声を出したせいで、俺と千反田が一瞬怯む。

伊原は……慣れているのかもしれない、いつも通りだった。

奉太郎「それで、節分がどうかしたのか」

里志「節分と言ったら、何を想像する?」

える「ええっと、2月の節分ですよね?」

奉太郎「2月の? 他に節分など無いだろ」

里志「いいや、節分は元々季節の分け目の事を言うんだよ」

える「ええ」

える「立春、立夏、立秋、立冬の前日を節分と指すんです」

奉太郎「……ほお」

える「ですが、一般的には立春の前日の事を言うので、福部さんが仰っているのも2月のですよね?」

里志「うん、そうだよ」

える「なら……」

摩耶花「豆まき、って事?」

里志「そう、それだよ摩耶花」

何がどう、それなのか分からないが……

やはり、良い予感はしない。

里志「……古典部で豆まきをしないかい?」

える「良い考えです!」

その里志の提案に、即座に反応したのは千反田だった。

摩耶花「楽しそうね、私もやりたい」

そしてやはり、伊原もそれに続く。

奉太郎「ここでするのか?」

俺も別に、絶対にやりたくないと言う訳でも無かったし、このくらいならいいだろう。

嫌な予感と言うのも、外れてくれると有難い物だ。

里志「うーん、僕はここでもいいけど」

奉太郎「……いつも通り、本を読んでいたら駄目か」

今の言葉は試しに言ってみたのだが、里志はそれを冗談だとは思わなかったらしい。

里志「別にいいけど、豆を当てられながら本を読むのは……僕だったら嫌かな」

奉太郎「……ならやめておく」

部室で静かに本を読む俺、そこに現れる里志、千反田、伊原。

そして本を読みながら豆を顔にぺちぺちと当てられる。

……何か、おかしいだろ。

里志「ちょっと提案なんだけどさ、豆まき自体は皆賛成なんだよね?」

える「ええ、そうです」

俺は別に賛成とは一言も言った気はしないが……反対と言う訳でもなかったので、特に何も言わず続きを聞く。

里志「なら、ホータローの家で豆まきをしない?」

奉太郎「……何故、俺の家なんだ」

里志「僕の家でもいいんだけどさ、妹がちょっとね」

そういえば、里志には妹が居るんだった。

……随分と、変わり者の。

奉太郎「……ああ、そうだった」

奉太郎「なら、伊原の家は駄目なのか」

摩耶花「私の家も、ちょっと」

摩耶花「その……都合が悪いかな」

何か隠しているような顔をしていたが、そこには突っ込まない。

……俺だって、部屋はしっかりと片付けてからで無いと人を上げるのは少し気が引けてしまう。

俺でさえそう思うのだから、他の奴は更にそう思っている事だろう。

奉太郎「……千反田の家は」

える「私の家ですか……大丈夫ですよ」

里志「本当かい? 実はそっちが本命だったんだよ」

里志「千反田さんの家は広いからね、豆まきのやりがいがあるよ」

……悪かったな、俺の家は狭くて。

それにそっちが本命とは、俺は随分と失礼な奴を友達に持ってしまった。

結果的には俺の家でやる事は無くなり、良かったのかもしれないが……なんか納得がいかない。

しかし、それよりさっきから気になる事がある。

千反田ではないから、気になりますとまでは行かないが……少しだけ引っ掛かる事だ。

奉太郎「一つ、聞いていいか」

里志「ん? なんだい」

奉太郎「お前がやろうとしているのは、普通の豆まきか」

摩耶花「折木何言ってるの? 普通じゃない豆まきってどんなよ」

える「今の言葉、何か意味があるんですよね」

える「……私、気になります!」

ここで来たか、いや……少しだけ予想は付いていたが。

里志「……まあ、普通ではないかな」

……嫌な予感が当たってしまっただろう。

なんという事だ、今年初めの失敗はこれになりそうだな。

里志「ホータローは、どんな豆まきを予想しているんだい?」

奉太郎「……予想と言う程の事でもないが」

奉太郎「まず最初、古典部で豆まきをするのか、と俺が聞いたときだ」

奉太郎「その後、俺は本を読んでいて良いかと聞いたな」

里志「うん、それに僕は」

里志「顔に豆を当てられながら読むのは嫌だな、みたいに答えたね」

奉太郎「……普通、豆は人にぶつけないだろ」

摩耶花「ええっと、つまり?」

奉太郎「それに里志は広い場所を探していた」

奉太郎「千反田の家が本命だったと、言った様にな」

える「……と言う事は」

奉太郎「お前がやろうとしているのは」

奉太郎「……豆の、ぶつけ合いか」

里志「さっすが、ホータローだ」

……反対しておけばよかった。

節分で豆をぶつけ合う馬鹿が、どこにいるのだろうか。

摩耶花「わ、私は別にいいけど……」

摩耶花「そんな野蛮な事、ちーちゃんは」

える「私、やりたいです!」

里志「……決定だね、ホータロー」

奉太郎「……はあ」

ここに居た。

日本の、神山市の、神山高校に四人ほど。

俺は是非ともその馬鹿達の顔を見てみたい。

……帰ったら、一度鏡でも見てみる事にしよう。

そんな成り行きで、古典部4人は何故か節分の日に豆をぶつけ合う事になったのだ。

里志が言うにはチーム分けをするらしく、なんだかこういう遊びがあった気がする。

ええっと、サバイバルゲームか。

決戦は確か、2月3日。

節分の日と覚えておけばいいだろう。

曜日は日曜日か、昼に集合と言うのも問題は無い。

ただ一つ、問題があるとするならそれは。

摩耶花「また、一緒になったわね」

伊原と同じチームになってしまった事だった。


第2話
おわり

以上で第2話、終わりとなります。

乙ありがとうございます。

やっと追い付いた
量多すぎわろちん

そんなことより白ワンピえるたその参考画像ください

こんばんは、第3話投下致します。

>>86
参考画像ですか、今度絵でも書いてみましょう。
私、結構絵には自信があるんだす

里志「と言う訳で、そろそろ始めようか」

……とても面倒くさかったが、始まってしまった物は仕方ないか。

まあ、それはそうと里志のルール説明を理解しなければ。

里志「じゃあチーム毎に分かれて、10分後に始めよう」

奉太郎「ああ」

摩耶花「そうね、分かった」

える「ええ……! 負けませんよ!」

千反田はやけに張り切っている様だったが、今は敵だ……倒さねばなるまい。

というか、こいつは前に食べ物を粗末にするなという様な事を言っていた気がする。

奉太郎「そういえば、千反田」

える「へ? は、はい」

気合を入れていた所に、唐突に俺が話しかけたせいで変な声が出ていた。

奉太郎「この豆まきは、食べ物を粗末の内に入らないのか」

える「まさか、捨てる筈ありません」

奉太郎「……食べるのか」

える「いえ、それはちょっと、衛生上あれなので」

える「私の家には鳩がよく来るので、あげようかと思っています」

奉太郎「なるほど、それなら問題無いか」

える「心置きなく、投げてくださいね」

……それはどうかと思うが、問題は無いらしい。

そして俺達は二つに分かれる。

俺は伊原と共に、台所へと向かった。

千反田と里志は恐らく、あの氷菓の時に使った部屋に行っただろう。

奉太郎「お前と一緒のチームになったのは不服だが」

奉太郎「やるからには負けたくないな」

摩耶花「ちょっと、もうちょっとやる気が出そうな台詞とか無いの?」

やる気が出そうな台詞……

奉太郎「……頑張ろう」

摩耶花「……はぁ」

どうにも上手く行きそうに無いが、勝算はあった。

それよりルールを確認しよう。

確か、里志の説明によると……

里志『一人に割り与えられる体力は5』

里志『そして、一人の弾の数……ここだと豆の数だね』

里志『それはこの皿に乗っているのを半分にしよう』

里志『一度使った豆を拾って再利用は認めない』

里志『場所は千反田邸、全て』

里志『体力が無くなったら自己申告で頼むよ』

里志『それと、自分を倒した相手に手持ちの豆は全て渡す事』

里志『そうしないと、全部使い切ってしまう場合もあるからね』

里志『どちらか片方のチームが全滅したら残った片方のチームが勝ち』

里志『景品とかは無いけど……楽しんでやろうか』

との事らしい。

なるほど、確かにこれはやりがいがある豆まき……もとい豆の投げ合いである。

そして俺達に割り当てられた豆の数は20。

一人当たり10個と言った所だ。

奉太郎「伊原、準備はいいか」

摩耶花「抜かり無いわ」

摩耶花「……それにしても、ありなのかなぁ」

奉太郎「ルール違反ではないさ、そうだろ?」

摩耶花「まあ……そうだけど」

奉太郎「なら問題無い」

奉太郎「里志は俺達を甘く見過ぎていただけって事だ」

~える/里志~

里志「と、ホータロー達は考えている頃だろうね」

える「ええと……つまり、どういう事ですか?」

里志「このルールにはね、穴があるんだよ」

える「……折木さん達は、それに気付いていると言う事ですか」

里志「その通り、摩耶花だけならまだしも……ホータローが居るとなるとね」

里志「まず、間違いなく気付いていると思う」

福部さんが発表したルールの抜け穴……なんでしょうか?

える「す、すいません」

える「その抜け道を、教えて欲しいです」

える「私、さっきから気になってしまって」

里志「気になりますって奴かな」

える「ええ、その通りです」

私がそう伝えると、福部さんは特に焦らす事も無く、教えてくれました。

里志「……体力が0になった人の扱いさ」

える「え? それはつまり……どういう事でしょうか」

里志「このルールだとね」

里志「体力が0になった人はどうなるか……と言うのを決めていないんだよ」

里志「つまり……体力が無くなっても、離脱はしなくてもいいんだ」

里志「体力は無くなっても、攻撃が出来る」

里志「勿論それは、相方から豆を分けて貰ってからだけどね」

える「え、そんなの反則ですよ!」

里志「はは、そう思うのも仕方ない」

里志「でもね」

里志「ルールで縛られていない以上、可能なのさ」

……納得、できませんが。

それでも確かに、ルールを決めた福部さんが言うのなら……そうなのかもしれません。

でも。

える「……ずるいですよ、福部さん」

える「そんなルールでやるなんて、ずるいです」

里志「うーん……千反田さんにそう言われちゃうと、参っちゃうな」

里志「でもさ、ホータロー達もこれには気付いているんだよ?」

里志「なら別に、フェアじゃないって事は無いと思うけどな」

……それもまた、言えているかもしれません。

える「……分かりました、ですが」

える「折木さん達も気づいているのなら、私達が有利という事も無いですよね」

里志「果たしてそうかな」

何やら、考えがあるのでしょうか。

里志「例え体力が0になっても動けると言っても……二人同時に倒されてしまっては意味がないんだよ」

あ、それには気付きませんでした。

える「なるほど……」

そう言い、私が腕を組んでいると……福部さんが再び口を開きました。

里志「……なんだか、千反田さんを見ているとホータローを見ている気分になるよ」

える「え? どういう意味でしょうか」

里志「その腕を組んだりする癖、そっくりだ」

わ、私はそんなつもりは無かったのですが……

少し、恥ずかしくなり腕を組むのをやめました。

える「そ、そんな事は無いですよ」

える「それより、作戦を考えましょう!」

里志「はは、分かった」

里志「あまり時間も無いし、簡単に伝えるよ」

里志「実はもう、大体考えてあるんだ」

福部さんはそう言うと、少し声を小さくして作戦を私に教えてくれました。

なるほど、確かに理に適っています。


~奉太郎/摩耶花~

奉太郎「さて、どう出るか」

摩耶花「ふくちゃんの性格だと……様子見、かな」

奉太郎「……俺もそう思う」

開始までは後5分も無い、俺達が取るべき行動は……

奉太郎「なるべく二人で一緒に行動は避けたいが……そうもいかないな」

摩耶花「どうして?」

奉太郎「俺達はこの家の構造を把握していないからだ」

奉太郎「向こうには千反田が居るんだぞ」

摩耶花「あ、そっか」

摩耶花「ばらばらに行動したら、ちーちゃんの攻撃を避けられないって事ね」

奉太郎「そう言う事だ」

二人で動けば一見……攻撃される確率が高まる様に見える。

しかし、全ての構造が分かっていない場所では話が少し変わる。

更には敵側には一人、構造を完璧に把握している人物がいるのだ。

なら行動を共にして、視野を広く持った方が安全だろう。

奉太郎「まずは様子を見よう、あいつらは多分……ばらばらで来るからな」

摩耶花「分かったわ」

奉太郎「危険なのは里志だ、あいつの考えている事は時々わからん」

摩耶花「でも、ちーちゃんも結構危険よね」

奉太郎「……ああ」

摩耶花「……勝てる見込みが、無いんだけど」

奉太郎「やれるだけはやるさ」

摩耶花「あんた、珍しくやる気ね」

……確かに、言われてみればこの豆合戦を楽しんでいる俺がいた。

まあ、やらなくても良かった事なのは事実だが……やるからには、やはり負けたくは無い。

奉太郎「かもな、だが」

奉太郎「勝算は、あるだろ」

摩耶花「……そうね」

作戦は大体さっき話してある。

うまく行けば、負ける事は無いだろう。

さてと、そろそろスタートか。

まずは、廊下の様子を見る事にしよう。

~える/里志~

える「先手必勝、ですか」

福部さんが考えた作戦は、意外な物でした。

里志「そう、別に始まるまでここに居なきゃいけない理由は無いからね」

里志「ホータロー達が行ったのは台所だから、そのすぐ傍で待ち構える」

里志「僕が最初に突っ込むから、千反田さんは裏に回ってくれないかな?」

える「分かりました、挟み撃ちですね」

里志「うん、その通りだ」

里志「と言っても、中々相手も手強いからね」

里志「いきなり倒されたら豆が一気に10個も減ってしまう」

里志「それだけは気をつけてね」

そうでした、倒されたら豆を全て渡さなければいけないのでした。

単純に考えれば、私達の手持ちの豆が半分になってしまうと言う事です。

それに加えて、折木さん達の豆が増えるという事にも繋がります。

……気をつけましょう。

える「分かりました、任せてください」

える「この家は、私の家なので」

里志「頼もしい言葉だね」

里志「さて、そろそろ始まるから移動しようか」

里志「先手必勝、ホータロー達には悪いけど」

える「勝たせてもらう、という奴ですね」

里志「はは、本当に頼もしい」

福部さんはそう言いながら、廊下へと出ます。

私は反対側に行き、台所の裏手へと回りこみました。

こちら側の廊下からは、少し中が覗ける様になっています。

折木さんと摩耶花さんは何やら話している様子でしたが……しっかりとは聞こえませんでした。

そして時計に目を移すと、間もなく始まる時間を指す所です。

時計が……12を指し、豆まきがスタートしました。

……折木さん達はどうやら、最初は慎重に行く様ですね。

あ、折木さんが廊下に繋がる扉に手を掛けました。

駄目です!

そちらには、福部さんが!

……い、いえ。

今は敵なのでした、折木さんは倒さなければいけないんです。

私は、私のすべき事をするのです!

~奉太郎/摩耶花~

廊下に顔だけを出した俺に、最初に目に映ったのは里志の姿だった。

直後、飛んでくる豆。

その豆は見事に俺の額へと命中した。

奉太郎「いてっ!」

あいつ、全力で投げやがった。

豆もここまで本気で投げられると随分と痛い。

しかし、それに怯んでいては第二、第三の攻撃が来るのは想像に難くないだろう。

奉太郎「伊原! 逃げろ!」

台所の中に居た伊原に向け、声を発する。

その直後に、再び飛んでくる豆をなんとか避ける。

それと同時に俺も台所の中に避難し、伊原と一緒に裏手の扉から廊下に飛び出た。

……だが。

える「待ってましたよ、お二人とも」

それすらも読まれていた。

前には千反田、後ろは行き止まり。

そして俺達が来た方向からは里志が追っかけてきているだろう。

千反田はそのまま投げる格好をし、豆を投げてきた……と言うよりは、放ってきた。

俺はそれをなんなく避ける、避けたはいいが……

放られた豆は、一つではなかった。

千反田は豆を3つ、投げていたのだ。

1個は床に落ち、2個は伊原へと命中する。

える「あ、ご、ごめんなさい」

そう謝っているこいつは、とても申し訳無さそうな顔をしていた。

隙だらけではあるが……片方だけ倒してしまっても仕方ない。

いや、むしろ片方だけ倒してしまったらそれこそ不利になってしまう。

……そのルールの穴に、里志と千反田も気付いていての別行動だろう。

だが削っておく分には問題無いだろう……とりあえず一つ、千反田の頭へ向かって投げた。

俺が投げた豆は、千反田の頭に当たり跳ね返る。

える「い、痛いです……」

奉太郎「わ、悪い」

しまった、俺もつい謝ってしまった。

なんだこれは、謝りながら相手に豆をぶつけるゲームだったか。

摩耶花「何謝ってるのよ! 行くわよ!」

伊原はそう言うと、頭を抑えている千反田の横を通り抜ける。

俺は少しの後ろめたさを感じながら、それに付いて行った。

~える/里志~

や、やられてしまいました。

つい謝ってしまったせいで、お二人とも逃がしてしまいました。

福部さんに何と言えばいいのか……分かりません。

で、ですが! まだ勝負は始まったばかりです!

里志「はは、やっぱり逃がしちゃったか」

福部さんはそう言いながら、台所から出てきました。

える「……ごめんなさい、摩耶花さんに二つ当てたのですが、つい謝ってしまいまして」

里志「いいさ、千反田さんらしいじゃないか」

里志「それに、計算外って訳でもないしね」

える「そ、そうですか」

える「では、次の作戦があるんですね?」

里志「勿論」

里志「千反田さん、ホータロー達が逃げて行った先には何があるんだい?」

える「ええっと」

える「まず最初にあるのがお風呂ですね」

える「次にそのまま真っ直ぐ進めば客室が左右にあります」

える「突き当たりには物置部屋もありますね」

里志「ず、随分と部屋が多いんだね」

そうでしょうか? 確かに少し多いのかもしれませんが……そこまで驚く事でも無いと思います。

里志「ま、なんにせよ」

里志「好都合だよ」

える「……どういう意味ですか?」

里志「つまりホータロー達はその部屋の内のどれかに居るって事でしょ?」

里志「なら、ここより前の部屋に行くにはここを通るしかない」

里志「……分かるかな」

える「なるほど、と言う事は」

える「袋の鼠、と言う訳ですね」

里志「そう、ホータロー達はもう逃げ場が無い」

里志「片方はここで待機して、もう片方はしらみ潰しに部屋を探す」

里志「それで僕達の勝ちさ」

える「分かりました!」

里志「部屋を探すのは僕がやるよ」

里志「千反田さんは今度こそ、宜しくね」

える「はい、任せてください」

今度は絶対に、逃がしません!

里志「はは、張り切ってるね」

里志「じゃあそんな千反田さんに取って置きの技を教えておくよ」

取って置きの技……なんでしょうか?

福部さんは少し声のトーンを落とし、私にその技を教えてくれました。

……やっぱり福部さんは少し、ずるいです。

でも、これを使えば確かになんとかなるかもです。

……私、頑張ります!

残り体力/所持豆数

奉太郎:残り体力4/豆の数9

摩耶花:残り体力3/豆の数10

里志:残り体力5/豆の数8

える:残り体力4/豆の数7


第3話
おわり

以上で第3話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

そして秋の夜長に一つ短編でも投下致します。

書きながらになるので少し、投下遅いですが……良ければお付き合いください。

*古典部の日常とは無関係となります。

タイトル
える「お久しぶりです」

奉太郎「そうだな」

える「一年ぶりですからね」

奉太郎「大人になったしな、仕事がどうにも忙しい」

える「ふふ、高校の時からは考えられない台詞ですね」

奉太郎「……だな」

える「この縁側でお話をしていると、丁度10年前を思い出します」

奉太郎「……10年前となると、高校三年の時か」

える「ええ、あの日も確か……今日の様な月が綺麗な日だったのを覚えています」

奉太郎「秋で縁側……あれか」

える「思い出しましたか?」

奉太郎「……いい思い出では無い、かな」

える「……そうですか」

える「あの日は確か、私に用があると言って家まで来てくれたんでしたよね」

奉太郎「そうだったかな」

える「そうですよ」

奉太郎「……お前がそう言うなら、そうなんだろうな」

える「ふふ」

える「用事は確か、告白でしたね」

奉太郎「……そうだな」

える「この縁側で、私は好きだと言われました」

奉太郎「……ああ」

える「あの時は、とても驚きましたよ」

奉太郎「なあ、もうやめないか」

える「いいえ、思い出に浸りたい気分なんですよ」

奉太郎「……」

奉太郎「お前の返事は……」

奉太郎「許婚が居る、って返事だったな」

える「……覚えているじゃないですか」

奉太郎「……そうだな」

右後ろから、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

奉太郎「呼ばれているぞ」

える「……その様ですね」

える「では少し、席を外しますね」

奉太郎「……ああ」

える「戻りました」

奉太郎「早いな……って」

奉太郎「連れてきたのか、その子」

える「ええ、月を少しみせたくて」

奉太郎「……そうか」

える「……私には」

える「旦那さんが居ないこの家は、少し広すぎます」

奉太郎「……そうだろうな」

える「……一人で子育ては、中々大変ですよ」

奉太郎「……そう、だろうな」

える「辛い時も、ありますよ」

奉太郎「……そうか」

える「ふふ、そればっかりですね。 さっきから」

奉太郎「……悪かったな」

える「今日の月は、今までの中で一番綺麗かもですね」

奉太郎「ああ」

奉太郎「っと、もうこんな時間か」

える「また、お仕事ですか」

奉太郎「まあ、忙しいからな」

える「次に神山市に戻ってくるのは、いつですか?」

奉太郎「多分また、一年後だろう」

える「そうですか、ではまた一年後に会いましょうか」

奉太郎「……俺は」

奉太郎「俺は、いいのかな」

える「何がですか?」

奉太郎「お前に顔を合わせる権利が、俺にあるのか」

える「……ありますよ」

奉太郎「悪い事をしているようで、気が気じゃないんだよ」

える「そんな事……無いです」

奉太郎「……そうか」

奉太郎「……すまんな、そろそろ行くよ」

える「ええ、お仕事頑張ってくださいね」

奉太郎「ぼちぼちな」

俺はそう言い、その家から出て行く。

次に会うのは一年後か。

そういえば今年は、里志と伊原……今は二人とも福部か。

あいつらに挨拶をできなかったな。

……まあ、来年でいいか。

この俺の適当さが、今の状態になっているのかもしれない。

まあそれも、全て俺への罰なのかもしれないが。

怠惰が過ぎると、随分と痛い目を見る事になると今更ながら理解する。

とにかく、これで神山市にはしばらく帰って来れない。

また昔みたいに、四人で遊びたいが……そうもいかないな。

……仕事、頑張らないとな。

俺は少々の名残惜しさを残し、神山市を後にする。

今まで怠けていた分、体を動かさないとどうにかなってしまいそうだ。

車で何日か掛けて、遠い地へと向かう。

今日は本当に、月が綺麗だ。

あいつと、その子供の為にも……頑張るか。

大好きな嫁と、俺の子供の為にも。


おわり

以上で終わりです。
ありがとうございます。

乙です。
短編が気になります!! 振られた後の話かと思ったら、逆ですか?? しかし、一年に一回しか会えないとは。。
豆まき??も意外と少ない弾数で、無駄には出来ないんですね。今回は里志が以外に策士ですね。次回が楽しみです。

>>141
結婚した後のお話になります。
ほうたるも頑張っているので、いつか仕事がひと段落し、毎日幸せに暮らせるでしょう。
そして、えるたそとその子供の気になる事を解決する日常がきっと……

ここまで私の様に妄想できたら仲間です。

>>86
描いて見ました
http://vippic.mine.nu/up/img/vp94885.jpg


これでも必死に書いたんですよ……

一応明日か明後日に、次のお話投下できると思います。

腕から血が飛び散っているのは何でですか…?

ホラーゲーとかに出てきそう

こんばんは。

>>161
血じゃなくてシュシュですよ。

>>162
いいヒロインになれると思います。


それでは第4話、投下致します。

~奉太郎/摩耶花~

俺達が逃げ込んだのは、一番奥の物置小屋だった。

薄暗く、あまり広いとは言えない。

しかし幸いにも、引き戸であった。

少しだけ扉を開き、外の様子を伺う。

奉太郎「……何か、話し合っているな」

摩耶花「多分、二手に分かれようとかそんな感じでしょうね」

奉太郎「だろうな」

さて、どうするか。

このままではいずれ、俺と伊原は見つかってそのまま負けてしまう。

……今のこの状況を、どうにか打破しなければいけないのだ。

奉太郎「俺達も、二手に分かれよう」

摩耶花「でもそれは、最初に駄目って言ってなかった?」

奉太郎「状況が変わった、そうしなければ負けるぞ」

摩耶花「……分かった」

摩耶花「って言っても、どうやって分かれるの?」

伊原の疑問はもっともだった。

確かにこの物置部屋の中だけで、分かれるとはいかないだろうから。

奉太郎「恐らく片方……里志が部屋の捜索に刈り出るだろう」

奉太郎「この物置から一番近い部屋に入った瞬間、俺が外に出る」

摩耶花「……なるほど」

摩耶花「それで、ふくちゃんを挟み撃ちって事ね」

奉太郎「それは俺が千反田を倒せた時、だな」

奉太郎「しかし俺が考えているのは少し違う」

摩耶花「……つまり?」

奉太郎「なんとか千反田の所を突破する」

奉太郎「そうした方が、勝算はあるだろ」

奉太郎「豆のぶつけ合いになってしまっては、俺達の体力は少し心許ない」

摩耶花「確かにそれはそうだけど……うまくいくの?」

奉太郎「さあな、やってみなければ分からん」

成功率は五分と言った所か。

奉太郎「ああ、それと」

俺は伊原に少しばかりの作戦を提案した。

摩耶花「……おっけー」

それに伊原は乗る、奥の手もあるが……まだ使う時では無いか。

外の様子を見ると、里志は丁度一番近い部屋に入る所だった。

……よし、行くか。

勢い良く扉を開け、そのまま走る。

千反田は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに俺に向かって豆を1つ投げてきた。

それを避けつつ、千反田に迫る。

近づく前に、千反田に向かって豆を5個同時に投げる。

える「きゃ!」

千反田の短い悲鳴は、俺の豆のいくつかが命中した事を告げていた。

1……2……2個か。

さっきの対峙で、俺は1つぶつけている……つまり。

千反田の体力は、残り2か。

俺はすぐに千反田を倒すべく、投げる構えをした。

ここで千反田を倒せれば、里志を挟み撃ちにできる……それは多分、最善の成功例だろう。

しかし、その直後……俺の動きを止める出来事が起きてしまった。

える「ご、ごめんなさい」

千反田が……しゃがみ込んでしまったのだ。

える「わ、私……折木さんと敵は、嫌なんです」

える「もう、やめてください……」

奉太郎「……わ、悪い」

える「……いえ、大丈夫ですよ」

奉太郎「……すまなかったな」

える「あ、あの」

える「ちょっと、いいですか」

そう言い、千反田は俺の顔を見てくる。

……少しだけ違和感を感じたが、特に気にする事も無くそのまま千反田へと近づいて行った。

奉太郎「どうした」

える「ごめんなさい!」

千反田はそう言い、俺に豆を3つ放ってきた。

……くそ、やられた。

まさか千反田がこんな行動をするとは、全く予想していなかった。

近づきすぎていた俺に、その豆を避ける暇は無く、全てが命中する。

奉太郎「……」

える「こ、これは福部さんに教えてもらった事なので……」

若干の冷や汗を流しながら、千反田は必死に言い訳をしていた。

そんな千反田に向かって、俺は片手に持っていた約10個の豆を全て千反田に投げつける。

投げつけると言っても、さすがに本気でぶつけたりはしないが。

無音で豆達が千反田にぶつかり、床へと落ちて行った。

える「……ぶつけすぎです」

奉太郎「……そうでもないな」

なんにせよ、これで千反田の体力は0となった筈。

奉太郎「さて、手持ちの豆を渡してもらおうか」

える「えっと、それなんですが」

その時、俺の後ろから声が掛かる。

里志「どうやら、同じ事を考えていたみたいだね」

奉太郎「……そういう事か」

里志「千反田さんはもう、豆を持っていないよ」

里志「4つを残して、僕に全て渡していたからね」

里志「丁度ホータローを倒せる数、渡していたんだけどね」

里志「そこまでうまくはいかなかったみたいだ」

奉太郎「……なるほど」

奉太郎「それに同じ事、と言うと」

その俺の言葉を聞いていたのか、伊原が里志の後ろから顔を出した。

摩耶花「……ごめん、やられちゃった」

奉太郎「気にするな、こうなるかもしれないとは思っていた」

里志「……さすがだね」

里志「でもまさか、摩耶花の手持ちを全部ホータローが持っていたのは予想できなかったなぁ」

そう、俺は伊原の豆全てを渡してもらっていたのだ。

奉太郎「このまま一騎打ちと行きたい所だが……」

奉太郎「一旦退かせて貰おう」

俺はそう告げると、その場を走り去る。

……少し、面倒な事になってしまったな。


残り体力/所持豆数

奉太郎:残り体力1/豆の数4

摩耶花:残り体力0/豆の数0

里志:残り体力5/豆の数8

える:残り体力0/豆の数0

~える/里志~

折木さんにまたしても、やられてしまいました。

それに結局、逃げられてしまいます。

える「ふ、福部さん! 早く追いかけないと!」

私がそう言うと、福部さんはいつもの笑顔からもう少しだけ笑い、答えました。

里志「まあまあ、慌てないで」

里志「……落ちてる豆を、数えよう」

える「そんな事してどうするんですか?」

里志「ホータローの手持ちの豆の数が分かる」

里志「場合によっちゃ、わざわざ見つけ出さなくても僕達の勝ちさ」

そう言うと、福部さんは廊下に散らばった豆を数え始めました。

5分ほど豆を数え、私の方に向き直り、口を開きます。

里志「やっぱりね」

里志「僕達の勝ちだ」

える「……どういう意味ですか?」

里志「千反田さんの周りに落ちている豆は15個」

里志「今まで投げられた豆を計算すると……」

里志「ホータローの手持ちは4個なんだよ」

える「ええっと……あ!」

える「福部さんの体力は5、ですよね」

里志「そういう事さ」

里志「全ての豆をぶつけられても、負けはありえない」

なるほど……確かに、豆の数を数えたのは正解でした。

やはり、福部さんも中々に手強い方です。

味方となれたのは、良かったかもしれません。

里志「それと、一つお願いがあるんだけど……いいかな」

える「はい? なんでしょうか」

里志「最後は一対一で、話がしたいんだ」

里志「だから、千反田さんはそのまま豆を持たなくてもいいかな」

える「……ええ、勿論いいですよ」

える「ここまで追い詰められたのも、福部さんのおかげですから」

里志「はは、千反田さんも中々の名演技だったよ」

える「え、ええと」

える「……実は少し、本心でした」

里志「……やっぱり、千反田さんは千反田さんだ」

里志「さて、と」

里志「そろそろ決着を、付けにいこうか」

える「ええ、そうですね」

そういえば、先ほどから摩耶花さんの姿が見えません。

……ですが、合流されても問題は無いでしょう。

折木さん達が持っている豆を全て、福部さんに当てたとしても……福部さんが全て外さない限り、私達の勝ちです。

……折木さんに勝負事で勝てると言うのは、少し気分がいいかもしれません。

~奉太郎/摩耶花~

さて、向こうも気付いた頃か。

だが全ての豆を避けるのは中々難しい、それに加えうまくやったとしても引き分けがいい所だろう。

……まあそれも、俺は分かっていた事なのだが。

奉太郎「どうするか」

摩耶花「どうするかじゃないでしょ、あんたがあんなに豆を使わなければこんな事にはならなかったのに」

奉太郎「ま、そうだな」

摩耶花「それで、どうするのよ」

奉太郎「……伊原」

奉太郎「お前はこの勝負、どうなると思う?」

摩耶花「どうって言われても」

摩耶花「負けか、あるいは引き分け」

摩耶花「……それと」


そこで伊原は一旦言葉を区切り、いかにも悪そうな笑顔をする。

摩耶花「私達の勝ち、かな」

奉太郎「そうだな、それしかない」

奉太郎「……準備は、出来てるか」

摩耶花「勿論、その為にわざわざここまで来たのよ」

奉太郎「なら、そろそろ行くか」

摩耶花「……そうね」

タイミング良く、居間の外から里志の声が聞こえてきた。

それはどうやら、俺に諦めろと説くような内容であった。

……あいつらしいと言えば、そうかもしれない。

里志「ホータロー、そろそろ諦めたらどうだいー?」

声が近くなる。

恐らくもう、目と鼻の先に里志と千反田は居るだろう。

俺はゆっくりと立ち上がり、廊下へと続く扉を開く。

そのまま廊下に出て、声の方を見据える。

奉太郎「どういう意味だ、里志」

里志「自分で気付いていなかったのかい?」

里志「……少し気になるけど、まあいっか」

里志「僕はまだ、体力が5あるんだよ」

里志「豆の数は8個、言ってる意味は分かるよね」

奉太郎「……はあ」

奉太郎「それに気付かない事を祈っていたんだがな」

奉太郎「……くそ」

俺は右の拳を握り締める。

里志「何年友達をやっていると思っているんだい」

里志「そのくらい、すぐに気付くよ」

奉太郎「そうか、どうやらこの勝負」

奉太郎「俺達の負けみたいだな」

里志「……うん、そうみたいだ」

里志にはそのまま俺に、豆をぶつけると言う手段も取れただろう。

しかし、里志は手に持っていた豆を一つ……廊下に落とす。

里志「僕はね」

里志「無理にホータローに豆をぶつける趣味は無いんだ」

奉太郎「……なるほど」

奉太郎「つまりお互い豆を落として、終わりにしようと言う事か」

里志「察しが良くて助かるよ、その通りだ」

……悪い案では無い、俺も別に豆をぶつけられたい訳じゃないしな。

俺は言葉を返す変わりに、一つ豆を捨てる。

それを見た里志は、いつもより更に口角を引き上げて、もう一つ豆を落とす。

一回、二回、三回。

里志「それでホータローは手持ちの豆が無くなった訳だ」

里志「僕も、全部落とすよ」

そう言い、里志は全ての豆を廊下に落とす動作を取った。

……これで、終わりだな。

~える/里志~

私は後ろから、その光景を眺めていました。

お二人が一つずつ、豆を廊下に落として行きます。

……少し勿体無い気もしますが、捨てる訳では無いので我慢です。

そして折木さんが豆を4つ落とした後、続いて福部さんも豆を落とし……

ちょっと待ってください。

私が知っている折木さんは、こう言っては何ですが、たかが遊びであそこまで悔しがるでしょうか?

……拳を握り締める程、悔しそうにしている折木さんはなんだが不自然なんです。

何故かは分かりませんが、嫌な予感がします。

える「ふ、福部さん!」

私は福部さんに声を掛けますが、時既に遅し……全ての豆は廊下へと落ちました。

次に折木さんの顔を見た私は、後悔する羽目になります。

折木さんは……小さく、笑っていたのです。

……もっと考えるべきでした。

える「何故、笑っているんですか」

奉太郎「分かるだろ、俺達の勝ちだからだ」

える「もう豆は無い筈です、それはしっかりと確認しているんですよ」

奉太郎「なら確認が甘かったって所だな」

そう言い、折木さんは握ったままの拳を私達の方に差し出します。

そのまま手の平を上に向けて、開きました。

……そこには、大量の豆が……あったのです。

里志「……どういう事だい」

何故あんなに豆を……もしかして、拾ったのでしょうか?

える「豆を拾ったのですか?」

私はそのままの疑問をぶつけます。

しかし。

奉太郎「それはルール違反だろ」

奉太郎「拾ってはいない」

える「……なら、何故豆を持っているんですか」

奉太郎「分けたんだよ、皿に乗っていた豆を」

分けた……とは、どういう意味でしょうか。

それを聞く前に、折木さんは再び口を開きます。

奉太郎「俺達はな、豆を持ち込んでいたんだ」

奉太郎「そして始まってからその豆を皿に乗せ、半分にした」

奉太郎「しっかりお前らの分もまだ皿に乗っているぞ」

……卑怯じゃないですか!

奉太郎「……なんだか言いたそうな顔だな」

奉太郎「だがルール違反ではない」

奉太郎「皿に乗せた後で分けたなら、そうだろ?」

里志「……確かに、ルール違反では無いね」

なら、なら今の内にお皿の所まで行き、私たちも豆を補充すれば……!

そう思い、振り返ると……

摩耶花「ごめんね、ちーちゃん」

摩耶花さんが、立ち塞がっていました。

奉太郎「だから言っただろ、俺達の勝ちだって」

里志「はは」

里志「参ったよ、僕達の負けみたいだ」

里志「でも一つだけ、教えて欲しい事がある」

奉太郎「なんだ」

里志「どうして僕が、自らの豆を捨てると思ったんだい?」

確かに、福部さんがこの案を出さなければ……折木さん達にはいくら豆があっても確実に勝てはしなかったでしょう。

奉太郎「おいおい里志」

奉太郎「俺はお前がどの様に行動するかくらい、分かるさ」

奉太郎「さっき自分で言ってただろ」

奉太郎「何年友達をやっていると思っているんだ、とな」

里志「……そうだった、すっかり忘れてたよ」

福部さんはそう言い、両手を挙げます。

私もそれに習い、両手を挙げ、降参の意を示しました。

里志「一思いにやってくれると、助かるね」

奉太郎「……ああ、そのつもりだ」

この豆まきで、私が最後に見た光景は……私達に降りかかる、大量の豆でした。

~縁側~

える「それにしても、なんで私も巻き込まれなくてはいけなかったんですか」

奉太郎「仕方ないだろ、位置が悪かったと思え」

える「それでも納得できません」

まあ確かに、投げすぎた感はあったが。

里志「いやあ、見事にやられちゃったね」

里志「やっぱりホータロー相手だと、分が悪すぎる」

摩耶花「ちょっと、私は居ても居なくても変わらないって言いたいの?」

里志「そ、そういう訳じゃないよ」

あれだけ動き回ったのに、こいつらは良くこんな元気がある物だ。

……ああ、そういえば。

奉太郎「豆がまだ残っているんだが、食べるか」

俺はそう言い、三人に向け豆が入った袋を出す。

どうやら意見は同じだった様で、全員の手が袋に伸びる。

俺も豆を数粒取り出し、口の中に放る。

ポリポリとそれを咀嚼し、飲み込む。

……うまいな。

奉太郎「今日はちょっと、動きすぎた」

摩耶花「いつも動かない分、動いたって考えればいいんじゃない?」

える「たまにはいい物ですよ、体を動かすのも」

里志「そうだね」

……俺はそこまで動かない奴だっただろうか。

奉太郎「帰ってゆっくり風呂にでも入りたい気分だ」

里志「お、それには同意するよ」

摩耶花「……私も」

奉太郎「一致したな、帰るか」

その俺の言葉を聞き、千反田を除く三人は立ち上がる。

帰って風呂に入り、コーヒーでも飲んで残りの時間はゴロゴロしてよう。

本来休みとは、そういう物だから。

……しかしそれは、叶わぬ望みとなってしまう。

今日、色々と作戦を練ったが……これだけは予想外だった。

と言うのも……

える「駄目ですよ、まだ帰っては駄目です」

奉太郎「なんだ、また豆まきでもするのか」

える「いえ、そういう訳では無いです」

奉太郎「なら」

える「私の家を、汚したままにするつもりですか」

ええっと……何個投げたっけか。

最初に配られたのは全員合わせて40個か。

それは全員使った筈。

だがその後に俺と伊原は豆を補充している。

あれは何個だったっけか。

確か……

いや、考えるのはやめよう。

俺が考えるのをやめたのにはしっかりとした理由がある。

俺と伊原が持ち込んだ袋には豆が100個入っている。

それを半分に分けて俺達が使ったのは50個。

25個ずつ伊原と分け、俺はその25個全てを千反田と里志に投げつけた。

そして、何故か終わった後に伊原が喜びのあまり豆を上に向かって投げたのだ。

つまり拾わなければいけない豆の数は……90個。

あ、しまった……結局考えてしまったではないか。

……もういい、無駄な事は考えずに豆を拾おう。

える「皆さん、全部しっかりと拾ってくださいね」

そうしなければ、俺達はいつまで経っても家に帰れないからである。

~折木家~

結局家に着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

そんな俺を待っていたのは、鳴り響く電話だったが……

誰も居ない様で、仕方なくそのまま俺は電話を取る。

奉太郎「折木です」

える「あ、折木さんですか?」

奉太郎「今、そう言った筈だが」

える「あ、いえ……私が言いたかったのはですね」

える「私が知っている折木さんか、そうではない折木さんか、という事でですね」

える「それはつまり、折木さんのご家族の方の可能性もあったので……」

奉太郎「やめてくれ、用件はなんだ」

放っておいたらいつまでも続きそうで、俺は手短に用件だけを聞くことにした。

える「は、はい」

える「実はですね、少し……やってみたい事があるんです」

奉太郎「やってみたい事? 気になる事では無くてか」

える「今回は少し、違います」

える「私がやってみたい事と言うのは……」

その内容を聞いた俺は、とても驚いたのを覚えている。

千反田からそんな提案があるとは、露ほども思わなかったからである。

それが面白くて、俺は珍しくその提案に乗ることにした。

奉太郎「……分かった、乗ろう」

える「ほんとですか、ありがとうございます」

……明らかに俺向きでは無いが、それもまた意外性があってこの提案にはいいかも知れない。

ゆっくり、進めていけばいいだろう。

とりあえず今日は風呂に入ろう。

奉太郎「じゃあ、またな」

える「ええ、また明日」

……さて、今日は豆の夢を見そうになりそうだ。

来年は普通の豆まきがしたい、切実に。

そんな事を思いながら、俺は風呂場へと向かった。

第4話
おわり

以上で第4話、終わりとなります。

乙ありがとうございます。

えるほー って音楽の授業一緒なんだよな?どうかそれに関するものをいずれ書いてくれる人はいないだろうか?チラッ

最近、寒くなってきましたね。

>>199
古典部の日常が終わったら、書いてみましょうか。
アイデア頂く感じで申し訳ないですが。

どの道、このお話が終わっても何かしら氷菓のSSは書くつもりでしたので。


次回投下ですが、本日の夜に投下致します。

こんばんは。

第5話、投下致します。

摩耶花「うーん……」

える「難しいですね」

える「こっちのは、どうでしょう?」

摩耶花「それもちょっと、私には出来なさそうかな」

える「そうですか……」

似たような光景は去年も見ていた。

場所も同じ、古典部で。

奉太郎「今年もやるのか」

摩耶花「当たり前でしょ」

奉太郎「……ご苦労様」

そう、バレンタインデーが近づいているのである。

去年は結局、里志はちゃんとチョコを受け取らなかった。

しかし今年なら……しっかり受け取るであろう。

それなのに何故、こんなにも悩んでいるのだろうか。

……俺には到底理解できない事だな。

える「折木さんはどう思いますか?」

不意に声を掛けられ、千反田の方に顔を向ける。

千反田の顔の距離には……未だに慣れない。

奉太郎「お、俺に聞いてもどうしようもないだろ」

わずかに身じろぎしながら俺は答えた。

摩耶花「ううん……」

摩耶花「……そうだ」

伊原は何やら思いついた様で、それに対して興味も無い俺は読んでいた小説に視線を戻す。

摩耶花「折木」

奉太郎「なんだ」

視線はそのままで、声だけを返す。

摩耶花「あんた、チョコ食べたくない?」

奉太郎「俺にくれるのか」

摩耶花「そんな訳無いでしょ」

摩耶花「毒見してみる気は無いかって聞いてるのよ」

つまり、里志に喜んで貰える様なチョコを俺が食べて、それを評価しろという事か。

……しかし自ら毒見と言うとは、ちと怖い。

える「それはいい案ですね!」

いや、全く良くは無いだろう。

える「折木さん! 是非お願いします!」

奉太郎「いや……俺は」

える「折木さん!」

こうなってしまっては、もう俺に逃げ場は無い。

まだ日曜日にやった豆まきの疲れが残っていると言うのに、更に働けと言うのか。

でもまあ……他にする事も無いし、いいか。

奉太郎「……分かったよ、やろう」

摩耶花「じゃー日曜日に集まろうか」

える「ええ、私の家でやりましょう」

こうして俺は里志にあげるのに相応しいチョコを選ぶ為、日曜日の予定を埋められた。

摩耶花「……ありがとね」

しかし、まあ……悪い気は、しないか。

~千反田家~

甘い。

まだチョコを食べている訳では無いが……匂いが甘すぎる。

俺は甘い物が好きと言う訳でも無い、どちらかと言うと逆だろう。

しかし当の千反田と伊原はとても楽しそうにチョコを作っている。

俺はそれからしばらく、その匂いと戦いながらチョコを待つ。

える「出来ました!」

そう言いながら、一つ目のチョコが運ばれてきた。

える「これは、ガナッシュです」

奉太郎「ほう」

とは言ったが、正直何の種類なのか見当も付かなかった。

える「本来は、トリュフ等に付けられるのですが」

える「これのみでも十分においしいので、どうぞ」

そうなのか。

まあ、食べない事には分からない。

そう思い、俺はチョコを一つ口に放る。

奉太郎「……甘いな」

える「ええっと……」

俺の反応があまり良く無かったと思ったのか、千反田はそのまま台所へと戻って行った。

いや、旨いと言えば旨かった。

だがちょっと、くどい様な感じの……そんな甘さだった。

台所で未だに作業をしている千反田と伊原に、風を浴びてくるとの事を伝え、廊下に出る。

……しかし、本当に俺がこの役目で良かったのだろうか。

里志とは食べ物の好き嫌いも違うだろうし、それに対して感じる事も違うと思う。

なら、そうか。

あくまでも一般的な意見を出せばいいのかもしれない。

主観的な意見では無く、客観的な意見か。

……ううむ、難しいな。

やはり俺には、この役目は少し向いていないだろう。

そんな俺の考えを遮る様に、後ろから声が掛かった。

える「次のチョコ、出来ましたよ」

奉太郎「ああ、そうか」

その言葉を聞き、俺は再び部屋に戻る。

える「どうぞ、これはおいしいですよ」

そう言い、差し出されたのは……

奉太郎「これ、チョコなのか?」

える「マカロンです」

俺はチョコなのかどうなのか聞いたのだが、千反田の答えは俺の疑問を解決してくれなかった。

もしかすると、単純にマカロンという言葉を俺が知らないだけで、何かの種類なのかもしれない。

しかし……見た目的にはどうみてもチョコでは無い。

だとすると、やはり。

奉太郎「マカロンか」

える「ええ、そうです」

奉太郎「……そういう種類のチョコなのか」

俺がそう言うと、千反田は首を傾げながら答える。

える「ええと、マカロンをご存知無いんですか?」

奉太郎「と言う事は、これはチョコでは無いのか」

える「チョコレートマカロンなので、チョコは入っていますよ」

なんとなく分かった。

つまり、マカロンにはいくつか種類があり、今俺の目の前にあるのはチョコが入っているマカロン……と言う事だろう。

奉太郎「そうか」

考え込むより、食べた方が早いだろう。

そう思い、俺はマカロンを口に入れる。

奉太郎「……甘いな」

える「あ、えっと……」

さっきと同じ感想だったのがあれだったのかもしれない。

千反田は言葉に詰まってしまっていた。

奉太郎「まあ……さっきのよりは、好きかな」

える「そうですか、では次のチョコを準備しますね」

まだやるのか。

俺は去る千反田の後ろ姿に心の中で呟き、天井を眺めた。

……

何か、おかしくないだろうか。

チョコをあげるのは里志であって、俺では無い。

つまり……俺が好きなチョコを作っても、里志は喜ばないかもしれない。

今、千反田と伊原がやっているのは、俺の感想を参考にチョコを作る……という作業である。

と言う事は、だ。

完成したチョコは多分、俺好みのチョコであって決して里志好みのチョコでは無いだろう。

似たような事をさっきも考えたな……結論は何だったか。

ああ、客観的な意見か。

さっきはすっかりと忘れていた、次は気をつけよう。

俺が再び結論を出した所で、丁度よく千反田がやってくる。

える「次の、持ってきましたよ」

える「チョコレートタルトです」

何だかさっきから、千反田がウェイトレスに見えて仕方ない。

口には出さないが。

奉太郎「そういえば伊原は何をしているんだ」

える「摩耶花さんですか、先ほどからずっと頑張っていますよ」

奉太郎「……そうか」

奉太郎「って事は、これも伊原が作ったのか」

える「ええ、勿論です」

える「今までのも全部、摩耶花さんが作ったんですよ」

それは驚いた、ほとんど千反田が作ってそれをあいつが手伝っていた物だと思ったが。

……あいつは見た目や性格に反して料理が出来るのか。

奉太郎「主に千反田が作ってる物だと思っていたよ」

える「ふふ、私は横で少しお手伝いしていただけですよ」

どうやら俺が考えていた事とは逆だったらしい。

そのお手伝いがどの程度なのかは分からないが、伊原も伊原なりに努力していると言う事だろう。

そう考えると、さっきまで適当な感想しか出さなかった自分に後悔してしまう。

奉太郎「ま、頂くか」

える「はい、どうぞ」

千反田の言葉を聞き、口に入れる。

さっきまでと同じ味だとしても、違う事を言おうとは思っていたが……今回のは素直に美味しかった。

奉太郎「……丁度いいかもな」

える「本当ですか!」

奉太郎「あ、いや……あくもでも、俺からしたらだぞ」

奉太郎「俺は里志じゃないから、あいつの好みは分からん」

摩耶花「やっぱり、そうよね」

俺の言葉を聞いていたのか、台所から伊原がやって来た。

摩耶花「折木には折木の好みがあるし、それはふくちゃんも一緒だよね」

奉太郎「まあ、そうだろうな」

ううむ、やはりもう少しちゃんとした感想を言えば良かったか。

奉太郎「でも、その……おいしかったぞ」

摩耶花「……そっか、ありがとね」

奉太郎「それに」

える「気持ちが大事、ですからね」

俺が言おうとしていた事を、千反田に見事予測されてしまった。

える「折木さんが前に仰っていたので」

摩耶花「折木が? へえ、折木がねぇ……」

そんな事、俺は以前言っただろうか?

える「前に、部室でお弁当を一緒に食べた時、言っていましたよ」

そんな疑問にすぐに千反田が答える、今の疑問は口に出していなかった筈だが……顔に出ていたのかもしれない。

奉太郎「あったっけか、そんな事」

える「ええ」

こいつがここまで言うからには、あったのだろう。

奉太郎「ま、そういう事だ」

摩耶花「分かった」

摩耶花「やっぱり私が作れる様な奴じゃないと、難しいしね」

奉太郎「なんだ、結局千反田が作っていたのか」

摩耶花「違うわよ、今日のはちゃんと私が作ったのよ」

摩耶花「本当よ?」

奉太郎「……分かったよ」

摩耶花「簡単に、って意味だからね」

摩耶花「ちゃんと分かってる?」

奉太郎「ああ、よく分かりました」

摩耶花「ならいいけど」


奉太郎「それで、もう今日はお開きでいいか」

摩耶花「うーん、そうね」

摩耶花「色々聞けて、いい物が作れそうだし……今日はお開きにしようか」

える「分かりました」

える「では私達は片付けがあるので、折木さんは先に帰りますか?」

奉太郎「あー、いや」

奉太郎「俺も手伝う」

える「そうですか、ではお願いします」

食べるだけ食べて、先に帰るのは流石にちょっと気が引ける。

二週連続で日曜日が使われてしまったのはいただけないが、仕方ないか。

食器の場所は千反田が把握しているだろうし、俺は皿洗いへと興じる事になった。

全ての片付けが終わり、外の景色を見ると既に日は沈みかけていた。

奉太郎「今年は多分、里志もちゃんと受け取ってくれるだろうな」

摩耶花「そうだといいんだけどねぇ」

える「大丈夫ですよ!」

縁側に腰を掛ける、ふと後ろを見ると俺たちの影が部屋の奥へと伸びていた。

摩耶花「あ、そういえばさ」

奉太郎「ん?」

摩耶花「ちょっとチョコ余っちゃったから、折木も持って帰ってよ」

奉太郎「別にいいが、そんなに作ったのか?」

摩耶花「うん、まあね」

そう言い、伊原から渡されたチョコはしっかりとラッピングがしてあった。

奉太郎「なんだ、余った物にこんなのはしなくて良かったのに」

摩耶花「まあまあ、そう言わずに」

何故か千反田がもじもじしているのが気になったが……

ま、いいか。

奉太郎「分かったよ、ありがとうな」

摩耶花「折木って、最近ちょっと素直になったよね」

奉太郎「最近は余計だ」

摩耶花「それと、ちーちゃんにもしっかりお礼言っておきなさいよ」

奉太郎「千反田に?」

摩耶花「いいから早く」

さっきまで普通の伊原だったが、凄むと怖い。

奉太郎「わ、分かった」

奉太郎「ありがとうな、千反田」

える「あ、い、いえ」

える「あの、それは余っただけですので、贈り物の内には入らないですよね」

奉太郎「ん? 何を言っているんだ」

える「な、なんでもないです!」

……よく分からんが。

気付けば影は消え、辺りは暗くなっていた。

奉太郎「……さて、帰るか」

摩耶花「そだね」

える「はい、お疲れ様でした」

~帰り道~

俺と伊原は千反田の家を後にする。

さすがに2月と言った所か、日が短い。

夏ならば多分、まだ薄暗い程度だろうが……既に周囲は真っ暗となっていた。

帰ってる途中、伊原と少し話をした。

摩耶花「それで、付き合ってるの?」

奉太郎「何が」

摩耶花「あんたとちーちゃん」

奉太郎「……そんな訳無いだろ」

摩耶花「いやいや、逆にびっくりなんだけど」

奉太郎「なんで」

摩耶花「だって、ちーちゃんが戻って来た時、その」

摩耶花「……抱きついてたし」

奉太郎「……ああ、まあ」

摩耶花「もうてっきり、折木が告白したのかと思ったよ」

奉太郎「……したさ」

摩耶花「え? ならもしかして」

摩耶花「振られたとか?」

奉太郎「どうだろうな」

摩耶花「何よそれ」

奉太郎「……いや、そうだな」

奉太郎「振られたというのが、一番近いかもな」

摩耶花「ふうん」

本当の所は、色々あって有耶無耶になっているだけであったが……

あれから千反田も特にその事については言わなかったし、俺も別段言う気は無かった。

摩耶花「有耶無耶になったとか?」

奉太郎「……千反田に聞いたのか」

摩耶花「違うわよ」

奉太郎「じゃあ、なんで」

摩耶花「勘」

さいで。

奉太郎「とにかく、そんな所だ」

摩耶花「なるほどねぇ」

奉太郎「……何か言いたそうだな」

摩耶花「そりゃね」

摩耶花「でもまあ、ゆっくり考えればいいと思うよ」

摩耶花「まだ1年あるんだし、ね」

奉太郎「ああ、そうだな」

確かに伊原の考えている通り、このままでは駄目だろう。

千反田との今の距離感は好きだったが……

このままで卒業したら、どうなるのだろうか。

俺には少し、難しい話か。

~折木家~

そういえば、先週の日曜日も千反田の家から帰った時は暗くなっていたな。

あそこに行くと、どうやら暗くなるまで帰れないのかもしれない……気を付けねば。

そんな事を考えながら、俺はベッドに横たわる。

去年は確か、姉貴に貰った一つを同じように部屋で食べたな。

今年はちょっと早く、一つだけチョコを貰えた。

貰えたと言っても、余り物だが。

ま、それでも貰えたには違いないだろう。

ラッピングを解くと、何の変哲も無い、普通のチョコがそこにあった。

俺はそのチョコをひとかじりする。

何故かそれは、とても俺好みの味だった。


第5話
おわり

以上で第5話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

おつおつ!

ほうたるが貰ったのは、えるたそからのって事か

乙です。
想像していたより早いですね。それにしても、やはり告白はそのままでしたか。ほうたるの気持ちも分かるけど、うかうかしてると。。
それにしてもL嬢は可愛いですね。気付かれていないのが可愛そうですが。w

そういえば……すっかり忘れていたのですが、こっちのシリーズになってから話毎にタイトル付けようと思っていたんでした。

>>233
そうです。
私も、えるたその手作りチョコを食べたいです。

>>234
ですね。
1年なんてあっと言う間、それは去年の事でほうたるも気付いている筈なんですがね。
それでも答えを出さないのは、やはり心のどこかで今の関係でありたいと思っているからなんでしょう。

おつー

前作の最後も感じたけど
高校生って、もっと変われる可能性を持ってると思うよ俺は

まあ原作も、ほうたるが変わるときが古典部シリーズの終わる時なんだろうけど

こんばんは。

>>236
ほうたるにも、勿論変われる可能性はあったでしょう。
ですが、その可能性をうまく生かしきれるか、否か。
去年のほうたるは可能性を生かせませんでした……
でも、もう一度だけ、彼には可能性を生かす機会がやってきたのです。
それを本当に生かせるか、去年の二の舞になるのか、それはこの物語が終わった時に分かるでしょう。

なんだか長くなってしまってすいません、簡単に言うと。
その様に、一人一人が感じた事を伝えて貰えるだけで私は幸せです。



それでは第6話、投下致します。

える「あの、折木さん」

奉太郎「ん、どうした」

える「……綺麗ですね」

奉太郎「そうだな」

俺はあの公園で、千反田と一緒に花火を見ていた。

遠くであがる花火を見る場所としては、この公園は意外と侮れない。

える「もう、夏ですね」

奉太郎「ああ」

える「早い物です」

奉太郎「それは毎日、楽しいからじゃないか」

える「ふふ、そうでしょうね」

える「……ここに来ると」

える「どうしても、去年の冬を思い出してしまいます」

奉太郎「……俺もだ」

える「私、初めてでした」

そう言い、千反田は俺の手をゆっくりと握った。

奉太郎「……何が」

える「それを聞くのは、少し意地悪ですよ」


奉太郎「……すまんな」

千反田が言っているのは、恐らく。

える「初めての、キスでした」

奉太郎「……俺もだよ」

える「……そうでしたか」

える「それはとても、嬉しいです」

奉太郎「……そうか」

夜になり、セミは昼間よりも大人しい。

辺りには、遠くであがる花火の音だけが響いている。

奉太郎「……なあ」

える「はい、なんでしょうか」

奉太郎「このままで、いいと思うか」

える「……」

奉太郎「俺は」

一際大きな花火があがった。

そして丁度、音が届く頃に……俺は次の言葉を心から紡ぎだす。

次に俺の耳に聞こえてきたのは、耳障りな電話の音だった。

奉太郎「……夢か」

伊原と前に……確かバレンタイのチョコ作りの帰り道だったか。

あの時、千反田の事を話してからと言うもの、俺は今回の様な夢を何回か見ていた。

オチは必ず同じ。

俺が最後の言葉を言う前に、目が覚めてしまう。

全てが同じオチとは、大分つまらない夢である。

ああ、それよりもこんな朝っぱらからなんの電話だろうか。

そんな事を思いながら、時計に目を移した。

奉太郎「……なんだ、もう12時か」

春休みに入ってからと言う物、なんだか起きるのが遅くなって仕方ない。

今日はたまたま電話によって目が覚めたが……もし電話が来ていなかったらもう少し寝ていただろう。

まあそれも、この前の卒業式で大分疲れたからかもしれない。

卒業式と言っても、俺たちが卒業するのはまだ先だ。 およそ一年後か。

……これは今考える事では無いか、それよりもまずは電話に出よう。

俺はようやく部屋から出ると、リビングにある電話機へと向かった。

姉貴はどうやらまたしても居ない様で、他に電話に出てくれる人は居ない。

まだ完全に目が覚めていない中、受話器を取った。

奉太郎「……はい、折木です」

える「あ、千反田です」

奉太郎「……なんだ、千反田か」

える「あの、もしかして寝ていました?」

奉太郎「ああ……まあ」

える「駄目ですよ、休みだからと言って」

奉太郎「……気をつける」

奉太郎「それで、用事はなんだ」

える「あのですね」

える「去年と同じ頼みなんです」

奉太郎「去年……何かあったっけか」

俺はそう言い、カレンダーに目を移す。

今は四月……去年のこの時期は。

奉太郎「もしかして、雛祭りか」

える「はい、正解です」

……朝からクイズか。

奉太郎「……ああ、行くよ」

奉太郎「今年は見ているだけでもいいんだろ?」

える「あ、それは不正解です」

さいで。

奉太郎「なんだ、また人が足りないのか」

える「いえ、そういう訳では無いんです」

つまり、どういう事だ。

える「私が、お願いしちゃったんです」

奉太郎「何を」

える「傘を持ってくれる人を、です」

奉太郎「……ええっと」

奉太郎「また俺に傘を持てって事か」

える「はい!」

奉太郎「……いいのか、毎年持っている人が居るんだろ」

える「それなんですが、その子はどうやら雛祭りを一度、外から見てみたいそうなんです」

える「それで私も、折木さんに傘を持って欲しかったので……」

える「少し、無理を頼んじゃったんです」

そういう事か……

それで、俺が断ったら千反田はどうしたのだろうか。

奉太郎「俺が嫌だって言ったら、どうするんだ」

える「え? 駄目ですか?」

奉太郎「……いや、駄目ではないが」

える「ふふ、なら良かったです」

なるほど、俺が傘を持つのを断らないと踏んで……そうしたのか。

まあ、確かにそこまでやられてしまっては断れない。

俺も外から一度、見ては見たかったが……貴重な体験としては雛に傘を差す方が当てはまるだろう。

奉太郎「時間と場所は、去年と同じでいいのか?」

える「はい、宜しくお願いしますね」

奉太郎「ああ」

千反田はそれ以上言う事は無かった様で、簡単な挨拶をすると電話を切る。

……前の雛祭りの後、確か風邪を引いたな。

今年も同じ様にならなければいいが、大丈夫だろう。

例年よりも暖かい地球に感謝し、俺はカレンダーに予定を入れた。


四月×日
生き雛祭り

~水梨神社~

去年と似たような慌しさの中、準備が行われている。

俺はやはり、一人ストーブで温まりながらその時を待っていた。

今年は橋の工事も無く、行列は例年と同じルートを通るだろう。

……その事は少しだけ、俺を安心させた。

狂い咲きの下を通る千反田は、多分とても美しいだろうから。

それを見れないのは、ちょっと辛い物がある。

なので今年は、少しだけ安心していた。

突如、気合の入った声が室内に響く。

どうやら時間が来た様だ、段取りは一緒の筈なので、俺はそのまま外に出る。

俺も傘を持ち、行列の中へと加わった。

やがて、人々が集まり、行列の形が彩られる。

そして……

ゆっくりと、去年と同じ様に。

最初に入須が出てくる、そしてその後に千反田。

俺が感じた事は、去年とほぼ同じだったと思う。

十二単を着た千反田はとても綺麗で、いつもの雰囲気は微塵も感じさせなかった。

それに若干目を奪われる。

なんだか、何時間も見ていたい気がしたが……そんな俺の思いを無視し、行列は歩き出す。

いかんいかん、しっかりと役目をこなさねば。

ルートこそ去年とは違うが、要領は同じだろう。

沢山の見物人が居て、その間をゆっくりと進む。

やはり今年は去年よりも暖かく、風邪を引くことは無さそうだ。

いや、俺も別にある程度の気温まで下がったら風邪を引く……なんて分かりやすい体をしている訳では無いが。

とにかく、その後の心配はしないで済むだろう。

そこまで考え、ふと気付く。

……あれ、去年よりも大分落ち着いているな。

確か前の雛祭りの時は、本当に情けなく、ぼーっとしていたと思う。

里志や伊原にも声を掛けられるまで気付かなかった。

しかし今年は、俺の方が多分、先に気付いたくらいの感じがした。

終わった後も、しばらく俺はぼーっとしていたし、色々と思う事もあった。

だが、まあ。

それに比べれば、今年は幾分かしっかりと歩けている。

そして、少しだけ……少しだけだが。

千反田と同じ場所を、歩けている気がした。

~千反田家~

える「お疲れ様でした」

奉太郎「そこまでの事じゃないさ」

俺と千反田は去年同様、縁側に座っていた。

今年は特に、千反田の気になる事が起きなかったので、こいつも大分楽に取り組めたのかもしれない。

える「どうでしたか、今年は」

奉太郎「どう、と言われてもな」

奉太郎「去年よりはしっかり出来たと思うが……」

俺がそう言うと、千反田は口に手を当てながら答えた。

える「ふふ、私も同じ事を思っていました」

奉太郎「なんだ、去年はそこまで駄目だったのか」

える「あ、いえ。 そういう事では無いですよ」

える「えっとですね、今年は少し」

える「折木さんと一緒に、歩けている気がしたので」

春を感じさせる陽光が、千反田の顔を照らしていた。

奉太郎「……そうか」

奉太郎「俺も、少しだけそう思ったな」

える「そうでしたか……一緒ですね」

何がそんなに嬉しいのか、千反田はやたらとにこにこしている。

奉太郎「……それよりも」

今日初めて見せた千反田の笑顔に、なんだか照れて、俺は話題を逸らす事にした。

奉太郎「この後も、用事はあるのか?」

える「あ、大丈夫ですよ」

える「今年は父が、ほとんど引き受けてくれています」

奉太郎「……病み上がりだろ、大丈夫なのか」

える「私もそう思ったんですが」

える「迷惑を掛けてしまったから、その分やらせてくれ、と」

奉太郎「なるほど、お前の父親らしいな」

える「立派ですよ、私なんか全然です」

奉太郎「と言うか、俺はお前の父親に会った事が無いな」

える「そうでしたっけ? それなら是非、今度会いませんか?」

千反田の父親か……いきなり男を紹介されて、例えそれが友達なだけでも大丈夫なのだろうか。

俺にはよく分からないが、あまりいい予感は出来ない。

奉太郎「千反田の父親って、どんな人なんだ?」

える「ええっと」

える「良く言われるのが、似ていると」

奉太郎「似ているのか」

える「らしいです」

える「私はそうは思わないんですけどね」

つまり、千反田の父親も好奇心の権化と言う事だろうか。

……想像するだけでも、恐ろしい。

奉太郎「さっきの話だが、遠慮させてもらう」

える「そうですか、ではまた次の機会と言う事で」

奉太郎「ああ、そうだな」

そこで千反田が首を傾げながら口を開いた。

える「ええと、それで折木さんは用事があるんですか?」

奉太郎「特には無いな」

える「そうですか、なら」

奉太郎「少し、散歩するか」

える「……はい!」

~公園~

奉太郎「結局ここか」

える「私の家から、結構近いですからね」

そう言うと、千反田はいつものベンチに腰を掛けた。

奉太郎「何か飲むか」

える「……いつもいつも、悪いですよ」

奉太郎「今度何か奢ってもらえればいいさ」

える「なら、そうですね」

える「コーヒーを貰いましょうか」

奉太郎「お前、駄目じゃなかったか」

える「そうなんですが、そういう気分なんです」

奉太郎「どうなっても知らんぞ……」

える「大丈夫ですよ」

俺は渋々、コーヒーを二つ買う。

そして一つを千反田に差し伸べると、声を掛けた。

奉太郎「渡す前に一つ聞きたいんだが」

奉太郎「……酔った時と一緒には、ならないよな?」

える「ええ、ただちょっと寝れなくなってしまうだけなので」

奉太郎「それもあれだがな……」

まあ、酔った時みたいにならないのなら……いいか。

あれは本当に、なんというか、面倒だから。

える「ありがとうございます」

そう言い、千反田はコーヒーを受け取った。

俺はそのまま千反田の横に腰を下ろす。

奉太郎「傘持ちも、慣れてきたのかもな」

える「ええっと、何故そう思ったんですか?」

奉太郎「去年より疲れてないから」

える「ふふ、それは良い事ですね」

える「なので来年も、お願いするかもしれません」

奉太郎「……いや」

奉太郎「1回くらい、外から見てみたい」

える「外から、ですか?」

奉太郎「行列を……」

奉太郎「雛を、外から見てみたい」

える「……そ、そうですか」

奉太郎「ま、どうしても傘を持ってくれって言うのなら、別にいいけどな」

える「……考えておきます」

そう言うや否や、千反田は早速考え込んでいた。

何やら難しい問題だとか、どっちにすればいいのかだとか言っていた様だが、俺の耳にはあまり聞こえてこない。

奉太郎「ああ、そう言えば」

奉太郎「入須は、何か言っていたか?」

える「入須さんですか」

える「ありがとう、と言っていましたよ」

奉太郎「それは俺になのか」

える「ええ、そうです」

奉太郎「俺が思うに」

奉太郎「お前自身に言ったのが、一番大きいと思うけどな」

える「え? 何故ですか?」

奉太郎「決まってる、卒業式の事だ」

える「……ふふ、あれですか」

える「正解でしたね、あれは」

奉太郎「そうだな、千反田の案に乗って良かった」

える「そんな事、ないですよ」

奉太郎「いや、正直驚いたぞ」

奉太郎「去年の秋以来、距離感みたいなのがあったからな」

える「え? 私と入須さんにですか?」

奉太郎「ああ」

える「でも、私が戻って来た時……入須さんは一緒に来てくれましたし」

奉太郎「……それは、千反田から見たらって事だろ」

奉太郎「俺には少し、入須から距離を取っている様に感じた」

える「そうだったんですか、全然分かりませんでした……」

奉太郎「それを気付いていて提案したんだと思っていたが……まあ、いいか」

える「……えっと、今はどうなんですか?」

奉太郎「今は、そうだな」

あれは確か……卒業式の少し前。

提案されたのは豆まきが終わった後だったか。

内容は確か、その時はとても単純な物だった。

ええっと……ああ、あれだ。

千反田は

える「入須さんを驚かせませんか?」

と言ったのだ。

しかし卒業式の日、俺たちも多少驚かされる事があったな……

あの日はとても寒かったのを覚えている。

三月の卒業式。

入須がこの神山高校を、去る日の出来事だ。


第6話
おわり

以上で第6話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

ああ、ごめんなさい。

書き方が物凄く悪かったです。

ほうたるが安心していたのは、桜の下を通る千反田を見なくて済むからです。



~水梨神社~

去年と似たような慌しさの中、準備が行われている。

俺はやはり、一人ストーブで温まりながらその時を待っていた。

今年は橋の工事も無く、行列は例年と同じルートを通るだろう。

……その事は少しだけ、俺を安心させた。

狂い咲きの下を通る千反田は、多分とても美しいだろうから。

それを見れないのは、ちょっと辛い物がある。

だがそれを見てしまえば、俺はまた……

なので今年は、少しだけ安心していた。



これで脳内補完お願いします。

本当に申し訳ない

こんにちは。

次回投下、明日の夜辺りを予定しています。

話数が大体決まったのてすが、前作より増えそうな予感が……

ええんよ
二期来るまで続けても

>>283
多分、一人も見る方が居なくなるまでは何かしら書くかと思います。

今現在も、次回作のアイデアが2~3個程出ているので、見てくれる人が居る限り投下します。


それでは第7話、投下致します。

今日は卒業式、二年である俺達には関係無い事と思われるが……

俺はつい一週間程前に知ったのだが、どうやら二年生も参加しなければいけないらしい。

なんでも、次期最高学年として、とか。 三年生を一番知っているであろう君達に見送られ、とか。

そんな大層ご立派な理由があったからである。

勿論、それは今年から始まった事では無かった。

もっと言えば、つい一週間程前に決まった事でも無い。

ただ、俺が知らなかっただけだ。

そういう理由で、俺達二年生は学校へと来ている。

里志「いやあ、いよいよ僕達も三年生か」

奉太郎「三年になったからと言って、何かある訳でも無いだろ」

里志「……もっとこうさ、何か思う事とかないのかい?」

奉太郎「無いな」

里志「はは、随分ときっぱり言う物だね」

……里志にはそう言ったが、俺にも少しくらい思う所はある。

しかしそれは三年生になるからでは無い。

……今日の事だ。

千反田と少し前から計画していたある事の実行日だからである。

準備は全部終わっている、後はどう入須と話す機会を得るか、だ。

そこら辺を千反田は全く考えていなかった様で、仕方なく俺が入須に話しかける作戦を考える事になった。

える「おはようございます、今日はお二人とも早いですね」

噂をすればなんとやら、か。

奉太郎「俺はいつも早いつもりだが」

里志「そんな、僕だってそのつもりだよ」

俺と里志が千反田の言葉に待ったを掛けた所で、伊原が顔を見せた。

摩耶花「よく言えたわね、二人共」

摩耶花「それにふくちゃん、昨日も時間ギリギリだったよね」

里志「あ、あれは不可抗力だよ」

摩耶花「ふうん……」

朝っぱらから、いつも通りだな……こいつらは。

える「あ、あの!」

そんな里志と伊原の口論を千反田が止めた。

える「お話、してもいいでしょうか?」

摩耶花「あ、ごめんね」

里志「そう言えば、今日一度集まろうって言ったのは千反田さんだったね」

える「ええ、少し大事なお話があるんです」

俺は内容を知っていたが、もう一度整理する意味も含めて耳を傾ける事にした。

える「実はですね」

える「入須さんに、プレゼントを用意しているんです」


里志「卒業祝いって奴かな?」

える「勿論、その意味もあります」

える「他にも、入須さんには色々とお世話になったので……」

摩耶花「いいんじゃない? 入須先輩も喜ぶと思うよ」

える「……はい」

える「それでですね、なんとか入須さんとお話する機会を得たいのですが……」

奉太郎「ああ、大体は考えている」

俺がそう言うと、里志と伊原はこちらに顔を向けた。

摩耶花「あれ、折木は知ってたの?」

奉太郎「……まあな」

里志「知っていて黙っているなんて、何か言ってくれれば良かったのに」

奉太郎「ただ言いそびれただけだ」

える「ふふ」

える「あのですね、プレゼントはこれです」

千反田はそう言うと、持ってきていた小さな袋から手袋とマフラーを取り出した。

摩耶花「うわっ! すごい」

摩耶花「これ、手作りでしょ?」

える「ええ、まあ……」

里志「へえ、さすが千反田さんって言った所だね」

里志「見事な出来栄えだよ」

える「……季節外れかもしれませんが」

摩耶花「そんな事ないでしょ、また寒くなったら使えるんだし」

ううむ、居心地が悪いな、これは。

える「……実は、折木さんと一緒に作ったんですよ」

言うとは思ったが、やっぱり言って欲しくなかった。

摩耶花「え、折木も作ったって事?」

える「今、そう言いましたが……」

里志「横で文句言ってただけとかじゃなくて?」

える「しっかり作っていましたよ……」

こうなるからだ。

摩耶花「……意外と、やれば出来るんだね」

里志「……そうだね、なんでもやってみる物だ」

奉太郎「俺をやれば出来る子みたいに言うな」

奉太郎「それよりも、入須と話す機会の話だったろ」

える「あ、そうでした」

当の本人が忘れているとは、全く。

奉太郎「卒業式が始まる前は、流石に駄目だろうな」

里志「まあ、そうだろうね」

奉太郎「なら、終わった後だ」

摩耶花「でもさ、終わった後もクラスの人と話したり、どこかに遊びに行ったりあるんじゃない?」

奉太郎「……入須がわいわい皆とやると思うか?」

里志「……それは少し、想像し辛いね」

奉太郎「ならどうせ、終わったらさっさと帰るだろ、その時に声を掛ければいい」

える「入須さんはそこまで寂しい人じゃないと思いますが……」

確かに、入須も恐らく声を掛けられたらそれに付き合うくらいの事はするかもしれない。

だが、あくまでその前に声を掛ければ済む話だ。

それに俺達の用事と言う物はさほど時間を取らないだろうし、入須には少し悪いがクラスの用件を後回しにしてもらえばいい。

奉太郎「ま、とにかく終わった後に声を掛けよう」

奉太郎「誰も行かないなら俺が行くが、どうする?」

える「あ、私が呼びに行ってもいいでしょうか?」

恐らく千反田もどこか、入須と話す機会が欲しかったのかもしれない。

なら俺に、それを却下する理由は無かった。

奉太郎「じゃあそれは任せる、俺は部室で待っているよ」

里志「そりゃそうだ、ホータローが自ら動くのは似合わないよ」

奉太郎「……そりゃどうも」

里志「僕と摩耶花は、居てもいいのかな?」

える「ええ、お二人にも是非来て頂きたいです」

摩耶花「うん、分かった」

摩耶花「一緒にお祝いしよう、入須先輩を」

里志「あ、僕は委員会の関係でちょっと遅れちゃうから、もしかしたら居合わせられないかもしれない」

える「そうですか……」

里志「もし間に合いそうなら、すぐに行くよ」

える「はい! お待ちしていますね」

とりあえず、今日の予定は決まったか。

俺は卒業式が終わったら真っ直ぐ部室に行き、千反田が入須を連れて来るのを待っていればいい。

簡単な仕事である。

伊原もすぐに部室には来るだろうし、退屈はしないかもしれないな。

奉太郎「……そろそろ時間か」

里志「そうみたいだね、まずは卒業式」

里志「しっかりと、見送ろうか」

~卒業式~

体育館にはかなりの人数が集まっていた。

二年生全員、三年生全員、三年の保護者達、それに教師、来賓の人ら。

数えたら切りが無いだろう。

一番前は三年、次に二年、そして保護者達、と言った並び方になっていた。

右から順番に、クラス毎に用意された椅子に着く。

こんなにも人が居なかったら本でも読みたい気分だが……さすがにここまで人が居るとそんな気にもなれない。

俺は仕方なく、行儀良く式が始まるのを待っていた。

……眠いな。

思わずあくびが出てしまう、ばれないだろうし……いいか。

あくびが数回出た所で、校長と思われる人物が入ってきた。

辺りが静まり返る、ようやく始まるのか。

なんとも長ったらしい挨拶が終わると、中学生でもやっていた様な一連の流れが始まる。

まずは卒業生達が入場してきた。

うむ、ほとんど面識が無い。

入須は見当たらなかったが、多分群れの中にいるのだろう。

三年全員が席に着くと、早速卒業証書の授与が始まった。

……こう言ってはあれだが、とても退屈な時間だった。

その後は何やら、色々な代表達の挨拶が始まり、俺は特に誰かも分からなかったので聞き流す。

そして、在校生代表の挨拶がやってきた。

俺はこの時、多分誰とも知らない奴が挨拶するのかと思っていたが……代表として立ったのは、俺が見知った人物だった。

あいつ、在校生代表だったとは……全く知らなかったな。

まあでも、総務委員会に勤めているだけあって適任なのかもしれない。

そう、福部里志である。

少し遠かったが、いつもより幾分か緊張している様子だった。

里志『まずは、卒業生の皆様、おめでとうございます』

流石にいつもの調子は出ない様で、堅い挨拶をしている。

それが少しだけ面白く、俺は今日始めてその挨拶に耳を傾けていた。

里志はそのまま思い出等を語っていて、喋りだしてからは大分落ち着いている様に見えた。

あれは俺には出来ない、里志の持っている物だろう。

そして5分ほどで、里志の挨拶は終わった。

次いで、卒業生の挨拶が始まる。

呼ばれた名前は、入須。

……確かに入須なら、似合っているかもしれないな。

周りが一段と静まり返り、挨拶が始まった。

入須『本日は、私達の為に集まって頂きまして、本当にありがとうございます』

入須『そして、この様な盛大な卒業式を開いて頂き、ありがとうございます』

……さすがは女帝と言った所か。

緊張している様子も無く、しっかりと言葉を発していた。

まあ、いつもの口調とは違い、大分堅い感じがしていたが。

入須『思えば、私達が神山高校で過ごした三年間は、色々な方に支えられていました』

入須『文化祭、星ヶ谷杯、体育祭、球技大会』

入須『私達がこれらの行事に励めたのも、ここに居る皆様のお陰です』

入須『そして私達をここまで教えてくださった先生方、本当にありがとうございました』

入須『私達は今日、この学校で学んだことを胸に、それぞれの進路へと旅立ちます』

入須『卒業生を代表し、答辞とさせて頂きます』

入須『本当にありがとうございました』

中学の時なんかは、卒業生代表は最後まで言葉を言うのも辛そうな程、泣きそうだったが。

入須は違った、しっかりと最後まで、言葉を述べていた。

……しかし、何やら様子がおかしい。

答辞は終わった筈なのに、入須がそこを動こうとしなかったのだ。

それに先生や生徒も気付き始め、僅かに場がざわつく。

入須「……」

少しだけ、口が動いているのが見えた。

多分だが、私は。 と言ったのかもしれない。

入須『私には、謝らなければならない人が居る』

さっきまでの堅い感じは消えており、いつもの入須の口調へとなっていた。

それより、なんて事だ。

あの入須が、こんな形で俺と千反田に言葉を向けるとは。

入須『この場を借りる形になってすまない』

入須『ここで名前を呼ぶ訳にもいかない、だから』

入須『私の独り言だと思って、聞いてくれ』

先生らは、止めるか止めないか迷っている感じであった。

しかし、ここに居る人全員が入須の意思を汲んだのか、やがて場が静かになった。

入須『私は間違いを犯した』

入須『あの時は、それしか無いと思っていたんだ』

入須『だがそれは違うと教えてくれたのは、二年生の子であった』

言わずもがな、俺の事か。

入須『……そして私のした事は、一人の人間を酷く傷付けた』

入須『本当に、申し訳ない事をした』

そう言うと、入須は深々と頭を下げた。

こんな大勢の中で、まさか謝られるとは……全く予想外であった。

俺はつい、そのまま入須は壇上から降りて、式は予定通り進む物かと思ったが……

「それは違います!!」

どっからともなく、聞きなれた声が聞こえてきた。

あの馬鹿、そんなの後で言えばいいだろう!

「入須さんも、あなたも傷付いたではないですか!」

「顔を……顔を上げてください」

最後の言葉は消え入りそうな物だったが、辺りは静まり返っていた為か、入須までしっかりと届いていた。

入須『君も、彼と同じ事を言うのだな』

入須『……ありがとう』

そして、周囲の視線にやっと気付いたのか、千反田が慌てて席に着いているのがこちらからでも見えた。

入須『以上で私の挨拶は終わりだ』

入須『二年生諸君、時間を取らせてすまなかった』

入須『先生方、予定外の行動を取り、申し訳ありませんでした』

そう言い、二度頭を下げると、入須は壇上から降りた。

次に巻き起こったのは、盛大な拍手であった。

事情を知っているのは恐らく、俺と千反田に里志と伊原だけだろう。

しかしそれでも、入須の挨拶には人を惹きつける物があったのかもしれない。

……あいつは、最後の最後まで女帝だった。

~公園(現在)~

奉太郎「あれには驚いたな」

える「入須さんの挨拶ですか?」

奉太郎「なんとなく、いつかしっかりと話してくるだろうとは思っていたが」

奉太郎「まさかあの場面でするとはな」

える「私も驚きましたよ」

える「つい、返してしまいました」

奉太郎「俺はそれにも驚いたぞ」

奉太郎「確かあの時、後で言えば良いだろって思った」

える「気付いたときには、言葉が出ていて」

える「そして、次に気付いたときには、周りの方が私の方を見ていて……」

奉太郎「……いいんじゃないか」

える「……どういう意味ですか?」

奉太郎「千反田らしくて、いいんじゃないか」

える「あ、え、えっと。 ありがとうございます」

奉太郎「いや、別に褒めてはいないが」

える「……そうでしたか」

奉太郎「悪い事とも言ってないがな」

える「もう、はっきり言って欲しいです」

奉太郎「……まあ」

奉太郎「どっちかと言えば、良い方なんじゃないか」

奉太郎「俺からの視点だがな」

える「それだけ聞ければ、十分です」

それにしても、日が大分落ちてきている。

温度が少しだけ下がっているように感じた。

念のため何枚もシャツを重ねて、厚手の上着を着て来たのは正解か。

しかし千反田は簡単な物しか着ておらず、幾分か寒そうに見えた。

……別に自己犠牲、と言う訳でもない。

俺は本当にまだ寒いとは思っていない訳だし、上着を貸してやるのが普通だ。

奉太郎「……ほら」

える「え、悪いですよ」

奉太郎「去年は俺が風邪を引いて、今年はお前とかになったら笑い話にもならんだろ」

奉太郎「俺は大分暖かい格好をして来ているから、大丈夫だよ」

える「そうですか、ではお言葉に甘えて」

千反田が俺の上着を着た所で、再び思い出を掘り返す。

卒業式が終わった後の事。

終わり良ければ全て良しとは、いい言葉だと思う。

過程が悪くても、最後に笑っていられればいいのだから。

しかしそれも、今だから言える事か。

あの後、確か千反田はそのまま入須の教室へと向かったんだったな。

俺は古典部で、入須と千反田を待っていたんだ。

……少しだけ、悪い事をしてしまった。


第7話
おわり

以上で第7話、終わりです。

乙ありがとうございました。

乙です。
氷菓関係のものが残念ながら少なくなってきましたね。そんな中でも、定期的に更新できている主は凄いですよ。
僕もssやってみようかなあ。。いやあ、無理かなあ。
日が落ちた4月はじめの公園は結構寒そうですね。お隣とくっついて座って、くっついている部分だけ温め合ってる妄想が止まりません。w

>>316
その気持ちはとても大事だと思います。
自分も氷菓のSSを書き始めた理由が、SSが少なければ自分で書けばいいって思ったからなので……

また、動くえるたそが見たいですね……

俺も映像として氷菓を見たいな

もう一回地元にある加茂花菖蒲園に行くか…

乙!
誰かが見てる限り続けるなら、俺がいるから10年は軽いな

最近pixivの小説も減ってきちゃったからさびしくて・・・
定期的に更新してくれるここが心のよりどころだよ。わたし、気に入りました!


>>317
なるほど。小説なんて書いたことないけど、挑戦してみようかな。ま、自己満足ということで。
動く古典部僕も見たいです。
それにしても、二期は…米澤先生が最低もう一つ長編書いてくれないと、1クール出来ないだろうし、短編もどんどん書いてくれないと難しいでしょうね。遅筆になってきているし、小市民シリーズもあるから、難しいのですかね。そもそも最近は学園ミステリからは距離をとっているような。。
アニメ化によって、米澤先生の古典部シリーズへの創作意欲が上がれば良いのですが。

>>318
皆で行きましょう……!

>>319
pixivの小説、私もよく読んでいました。
結構勉強になります。

>>320
是非書きましょう!
書く人が増えればきっと、氷菓のSSも増える筈……

概算がどうにか映画にならない物か……


それでは第8話、投下致します。

それにしても、入須さんの突然の挨拶にはびっくりしました……

思わず大声をあげてしまい、恥ずかしい限りです。

でも……とても、嬉しかったです。

入須さんも最後は笑っていましたし、これにて一件落着……

ではありません!

私にはまだ、役目があるのでした。

危うくそのまま帰ってしまう所でした……

える「入須さんは教室でしょうか」

卒業式が終わって、三年生の方達が退場した後に、私達は教室へと戻ったのですが。

時間的にはそこまで経っていない筈です。

それならばまだ、入須さんは教室に居るでしょう。

私はそう思い、三年生の教室へと少しだけ急ぎながら向かいました。

~教室~

ええっと、入須さんは……

その時、後ろから声を掛けられます。

沢木口「あれ、君は確か……古典部の子だっけ?」

える「あ、ご無沙汰しています」

沢木口「それで、何か用事でもあったの?」

える「ええ、実は……」

私の用事をお話すると、沢木口さんは早速入須さんを呼び出してくれました。

……一年生の終わりに、迷惑を掛けてしまったというのに。

沢木口さんはそんな事は無かったかの様に、私に笑顔を向けています。

える「あの、ありがとうございます」

沢木口「いいって、気にしないで」

そう言うと、沢木口さんは友達の所へと向かっていきました。

その後、数分待った後、入須さんがやって来ます。

入須「千反田か、さっきはすまなかったな」

える「びっくりしましたよ」

入須「……そうだな」

入須「あの場面で、あの様に呼び掛けるのが一番効果的だと思ったから」

入須「と言うのはどうだろうか」

える「え、そうだったんですか」

入須「ふふ、嘘だよ」

入須「あれは私の言葉だ」

える「……そうですか、良かったです」

入須「にしても、千反田はもう少し人を疑った方がいいと思うぞ」

える「入須さんの言っている意味は、分かります」

える「でも、それでも」

える「私は、人を信じる方が好きですから」

入須「……そうだったな」

そこで一度会話が途切れ、示し合わせた訳でも無く、私と入須さんは教室内の喧騒を眺めていました。

入須「それで、用事とは何だ?」

顔をそのまま動かさないで、入須さんは言いました。

える「あ、そうでした」

える「お時間は取らせませんので、付いて来て欲しい場所があるんです」

私がそう言うと入須さんは少しだけ困った顔をします。

入須「……実は、クラスの奴等と予定があってな」

える「……わ、分かりました」

だ、駄目です。

このままでは古典部の皆さんに合わせる顔がありません……

入須「申し訳ないが、別の日でもいいか」

える「え、えっと……」

私が戸惑っていると、教室の中から声が聞こえてきます。

それは、入須さんに向かって発せられていた声でした。

内容は、こっちを後回しにすればいい、との物で……

私はやはり、人に助けられていてばかりの様な気がします。

入須「……との事だ」

入須「なら断る理由が無くなったな、行こうか」

える「は、はい! ありがとうございます」

私は入須さんに頭を下げ、教室内に居る方達にも頭を下げました。

……良かったです、これで入須さんを驚かせる事が出来ます!

私の足取りは軽く、入須さんとお話をしながら古典部へと向かいました。

~古典部~

える「着きました、入須さん」

入須「ここは、古典部か」

える「はい、とりあえず中に入りましょうか」

入須「ふむ、そうだな」

古典部の前でそう話をし、私は扉を開けます。

中には既に、折木さんと摩耶花さんが居ました。

福部さんはまだ、来ていない様です。

……でも、何か変です。

これから入須さんを驚かせると言うのに、二人ともどこか浮かない顔をしていたのです。

……福部さんが来ていないからでしょうか?

いいえ、それは違う筈です。

摩耶花さんは分かりませんが、折木さんは例え福部さんが居ないとしても、ここまで分かりやすく暗い顔はしない筈です。

あくまでも、私の経験上……ですが。

える「あ、あの」

奉太郎「千反田か」

私が声を掛けた事でようやく、折木さんはこちらに顔を向けました。

……やはり、いつもと少し違う様な。

える「あの、何かあったんですか?」

入須さんも異変には気付いた様で、扉の近くで待っていてくれました。

奉太郎「……ちょっとな」

摩耶花「ち、ちーちゃん」

摩耶花「そ、その……ごめん」

何故、摩耶花さんは私に謝るのでしょうか?

える「ええっと……」

私がそう言い、考えていると、折木さんが口を開きます。

摩耶花さんはまだ何か言いたい様な顔をしていましたが、それを遮るように折木さんは言ったのです。

奉太郎「簡単に言うぞ」

奉太郎「手袋に穴が開いた」

える「……どういう意味ですか?」

奉太郎「聞くより、見たほうが早いだろ」

そう言い、折木さんは私に手袋を差し出します。

……それは確かに、少しだけですが、穴が開いています。

摩耶花「……それ、その」

奉太郎「部室の鍵が開いていたんだ」

奉太郎「それで、俺と伊原が来た時には既にこうなっていた」

奉太郎「そうだろ?」

折木さんはそう言い、摩耶花さんの方に顔を向けます。

摩耶花「……」

摩耶花さんはその言葉に答えませんでしたが、折木さんが言うからにはそうなんでしょう。

なるほど、摩耶花さんが先程、私に謝ったのは恐らく……しっかりと見張っていられなかったからでしょう。

でも、一体誰が……

える「……酷いです、こんなのって」

える「あんまりです」

そこで、後ろで待っていた入須さんが声を掛けてきます。

入須「大体の事情は分かった」

入須「千反田はその手袋を、私にプレゼントしようとしてくれたんだな」

える「……はい」

入須「だが、何者かによって手袋には穴が開けられた」

入須「そうだな?」

奉太郎「……ええ」

入須「それが何だ、縫えばすぐに治るだろ」

える「で、ですが!」

入須「もしかして」

入須「私に裁縫は無理だと言いたいのか?」

える「そ、そういうつもりではないです」

入須「ならいいじゃないか、是非渡してくれ」

その言葉を聞き、私は一度、折木さんの方へと顔を向けます。

奉太郎「貰う人がああ言ってるんだ、渡してやれ」

える「……分かりました」

こんな形になってしまいましたが……入須さんは、喜んでくれるのでしょうか。

それだけが少し、心配です。

私はそんな事を思いながら、手袋とマフラーを入須さんに渡しました。

入須さんはそれを受け取ると、とても優しそうな笑顔で、こう言いました。

入須「最高のプレゼントだよ、ありがとう」

える「は、はい!」

える「あの、それは折木さんも作ったので……」

入須「そうなのか、ありがとうな」

入須さんはそう言うと、折木さんに頭を下げました。

奉太郎「……余計な事を」

口ではそう言っていましたが、照れているのはすぐに分かります。

そしてその後、入須さんはクラスの方達との用事もあり、教室へと戻っていきました。

なんだか、今日別れても、また入須さんとは会えるような……私にはその様に感じられました。

……それより!

える「折木さん」

える「私、気になります!」

奉太郎「……何がだ」

折木さんも、私が何に対して気になるのかは分かっていた様で、暗い顔をしながら答えました。

える「……今回の事です」

奉太郎「駄目だ」

える「何故ですか、私……どうしても」

そこまで言った時、古典部にまた一人、やってくる人物が居ました。

このタイミングで来るのは恐らく、福部さんでしょう。

里志「ごめんね、遅れちゃった」

える「お疲れ様です、福部さん」

里志「うん、疲れたよ……って」

里志「何かあったのかい? 皆」

やはり福部さんも、部室の空気に気付いたのでしょう。

折木さんも摩耶花さんも説明する気が無い様だったので、私がゆっくりと説明をします。

……説明するのには、あまり慣れていないせいもあって、随分と回りくどい説明になっていまいましたが。

里志「なるほど、そういう事か」

里志「それで、ホータローは何か分かったのかい?」

奉太郎「……何も」

里志「本当かい? 僕が見た限り、何か分かっている顔だけど」

える「そうなんですか? 折木さん!」

やはり、折木さんは分かっていたのでしょう。

それならば、聞かない以外の選択はありません。

ですが……

奉太郎「分からないと言ってるだろ」

奉太郎「……帰る」

そう言い、折木さんは鞄を手に取ると、部室を後にしようとします。

える「ま、待ってください」

私はそれを見て、付いて行きます。

一度、福部さんと摩耶花さんの方に振り返り、顔を見ました。

福部さんは困ったような顔をしていて、摩耶花さんは未だに暗い顔をしています。

福部さんと摩耶花さんを残して帰るのは気が引けますが……

折木さんがここまで答えない理由が、少し気になってしまうのです。

そして私は、折木さんの後に続きました。

~帰り道~

学校から出て、前を歩いている折木さんを見つけます。

私は駆け足で近寄り、横に並んで歩き始めました。

奉太郎「悪いな、さっきは」

える「……いえ、気にしないでください」

奉太郎「いつも自分は気になると言うのに、気にしないでと来たか」

える「……あの」

奉太郎「気になるか、さっきの事」

える「気にならないと言えば、嘘になってしまいます」

える「……やはり、気になります」

える「折木さんには、嘘を付きたく無いんです」

奉太郎「そんなの、小さい事だろ」

える「どんなに小さくても嫌なんです」

奉太郎「……」

その後、私と折木さんの間を少しの沈黙が包みます。

奉太郎「……はあ」

奉太郎「……お前には、話しておくべきか」

える「えっと……」

奉太郎「さっきの事だよ、他言無用で頼むぞ」

える「それを決めるのは、聞いた後がいいです」

奉太郎「……ああ、分かった」

そう言うと、折木さんはゆっくりと話し始めました。

奉太郎「まず、俺と伊原が部室に行った時、鍵は開いていた」

える「でも、さっきは閉まっていたと……」

奉太郎「あれは嘘だ、すまんな」

える「では、一体何故?」

奉太郎「部室で俺と伊原はお前が来るのを待っていたんだ」

奉太郎「いつもみたいに席に着いて、な」

奉太郎「その時、入須へのプレゼントは部室に置いていただろう?」

える「ええ、あれを持ち歩くのは少し、大変そうだったので」

奉太郎「それで、伊原が俺にもう一度プレゼントを見ていいか聞いてきたんだ」

奉太郎「それを断る理由なんて無い、俺は見ていいぞと言った」

える「……はい」

なんとなく、私にも分かってきました。

奉太郎「机は木で出来ているからな」

奉太郎「しかも結構古い、ささくれている部分がいくつかあった」

奉太郎「それにあいつは、伊原は手袋を引っ掛けてしまった」

える「……」

奉太郎「気付いた時には、あの状態になっていた」

奉太郎「……そういう事だ」

える「……そうでしたか」

奉太郎「俺には皆に話すという選択もあったがな」

奉太郎「結果的にお前には話してしまったが、まあ」

奉太郎「一番悪いのは、俺だろうな」

える「何故、そう思うんですか」

奉太郎「さっきも言っただろ、話すという選択もあったんだ」

える「違います、そんな選択はありませんでした」

奉太郎「……どういう意味だ」

える「私は、少なからず、折木さんについては知っているつもりです」

える「他の人なら分かりません、ですが」

える「折木さんにとっては、摩耶花さんを庇う以外に選択は無かった筈です」

私がそう言うと、折木さんは顔を私とは反対側に向け、小さく呟きました。

奉太郎「……どうだかな」

える「ですが、今……この場なら、選択は他にもあります」

奉太郎「何が言いたい」

える「戻って、福部さんにも話すんです」

奉太郎「……それをしたら意味が無いだろ、元々千反田にも言うつもりは無かったんだ」

奉太郎「結果的に話してしまったが、お前が黙っていればそれで終わる」

える「……折木さんは、摩耶花さんの顔を見ましたか?」

奉太郎「……顔?」

える「摩耶花さんは言おうとしていたんですよ、自分がした事を」

える「何故、あんな顔をしていたのか……さっきまで分かりませんでした」

える「ですが、折木さんの話を聞いて、全て分かりました」

える「……皆で、話し合うべきです」

奉太郎「……そうだったのか」

奉太郎「余計な事をしてしまったのかもな、俺は」

える「だから、今ならまだ間に合うんです」

奉太郎「……まだ学校に居るとも限らないだろ」

える「いいから、行きますよ!」


私はそう言い、折木さんの手を掴みます。

そのまま後ろに向き直り、走りました。

奉太郎「お、おい!」

後ろで折木さんの声が聞こえましたが、気にしないで私は走ります。

……なんだかちょっとだけ、折木さんの前を行っている自分が嬉しかったのを覚えています。

似たような事が前に、あの時は逆でしたが。

いえ、状況も違いました……ですが。

それでも嬉しかったんです、折木さんの手を引いて走れたのが。

~古典部~

廊下を駆けて、古典部の前へとやってきました。

そのままの勢いで扉を開けます。

摩耶花「ちーちゃん?」

摩耶花「それに、折木も」

良かった……摩耶花さん達はまだ部室に居てくれました。

える「あ、あの!」

える「摩耶花さんは悪くないです!」

摩耶花「え、えっと?」

奉太郎「千反田、落ち着け」

奉太郎「俺が説明する」

……人に説明をするのには、やはり私では厳しい物があるようです。

しかし、摩耶花さんは先程の私の言葉をゆっくりと理解し、折木さんの言葉を遮りました。

摩耶花「……今日の事ね」

摩耶花「実は、それなんだけど」

里志「全部聞いたよ、摩耶花から」

摩耶花「……ごめんね、ちーちゃん」

摩耶花「折木も、ごめん」

奉太郎「なんだ……千反田の言う通りだったって訳か」

える「ふふ、だから言ったでは無いですか」

える「摩耶花さんは悪く無いですよ」

える「入須さんにも今度、お話しましょう」

摩耶花「……うん」

そこで折木さんが、扉の傍に立ったままで言いました。

奉太郎「あー、それなんだが」

奉太郎「多分、入須は全部分かっていたんだろうな」

里志「入須先輩が? どうしてさ」

奉太郎「……あいつは場を収めようとしていた」

奉太郎「自分がそのままプレゼントを貰う事によって、これ以上話を掘り下げられない様にしたんだ」

奉太郎「だからあいつには、言う必要は無いだろう」

える「そうだったんですか、私は全然気付きませんでした……」

つまり入須さんは、全て気付いていて……

最後の最後まで、ご迷惑を掛けてしまった様ですね。

奉太郎「……すまなかったな、伊原」

奉太郎「お前の考えている事が、俺には分からなかった」

摩耶花「別に、折木が謝る事は無いでしょ」

奉太郎「……少し、外の空気を浴びてくる」

折木さんはそう言うと、部屋の外に出て、どこか風に当たれる場所へと行ってしまいます。

える「……そう言えば」

える「私、まだ少しだけ気になる事があるんです」

里志「はは、ホータローが居ないとどうにもならないかもね」

摩耶花「私達で良ければ聞くけど……」

える「あのですね」

える「摩耶花さんは何故、そのお話を福部さんにしたのでしょうか?」

摩耶花「それはさっきも言ったよ、元から私は……話すつもりだった」

える「ええ、それは分かります」

える「ですが、皆さんが揃っていた場面でも言えた筈なんです」

摩耶花「……やっぱり、ちーちゃんには分かっちゃうのかな」

える「すいません、失礼な事を言っているのは分かっています……」

摩耶花「いいよ、話そう」

摩耶花「思い出したんだ」

摩耶花「ちーちゃんと入須先輩が来る少し前に、折木が言った事を」

える「……折木さんは何と言ったんですか?」

摩耶花「折木はね」

摩耶花さんはそう言うと、私の耳に口を近づけ、福部さんに聞こえないように教えてくれました。

その言葉を聞いた私は、やはり折木さんは折木さんだと感じる事になります。

折木さんの言葉を借りるなら、あくまでも私からの視線、ですが。

でもやはり、折木さんという方は……そういう方なのでしょう。

里志「千反田さんの気持ちが良く分かるよ、とても気になる」

摩耶花「……だめ、私とちーちゃんの秘密だから」

える「ふふ、そうですね。 秘密です」

摩耶花「それにしても、似合わないと思わない?」

そうでしょうか?

私にはとても似合っている台詞の様に思えますが……

える「私は、折木さんらしいと思いますよ」

摩耶花「ふうん、なるほどねぇ」

摩耶花さんは何故かニヤニヤとしていましたが……それよりも私には、行きたい場所がありました。

える「私……折木さんの所に行ってきますね」

私はそう告げ、部室を後にします。

~屋上~

える「見つけました」

奉太郎「千反田か、何でここに居ると思った?」

える「なんとなくです」

奉太郎「……そうか」

折木さんは屋上から景色を眺めていて、私も横に並び、一緒に景色を眺めました。

える「もう、日が暮れてきていますね」

奉太郎「結局、卒業生達より長く居残ってしまったな」

える「そうみたいです」

奉太郎「それで、どうして急に来た」

える「……折木さんの顔を、見たかったので」

奉太郎「そ、そうか」

える「あの、折木さん」

奉太郎「ん?」

える「……いえ、何でも無いです」

奉太郎「変な奴だな」

える「ふふ、帰りましょうか」

奉太郎「……ああ、そうだな」

私は先程、摩耶花さんから聞いた折木さんの言葉について、何か言おうと思っていましたが……

この事は、私の胸の内に、閉まっておく事にしました。

その言葉はとても優しい物で、きっと折木さんは……あまり人に知られたく無いと思っているでしょう。

~公園(現在)~

奉太郎「あの時は……お前に助けられたな」

える「そうでしょうか?」

奉太郎「ああ」

える「お礼をまだ聞いていない様な気がするんですが……」

千反田はそう言い、自分の口元に指を当てた。

奉太郎「お前はそんな奴だったか」

える「いつも通りですよ?」

奉太郎「……ありがとうな」

える「ふふ」

える「しっかり、目を見て言って欲しいです」

なんだ、様子がおかしいぞ。

……まさか、コーヒーのせいなのだろうか。

千反田はただ、眠れなくなるだけと言っていたが……とんでもない。

恐らく自分では分かっていないのだろう、今度教えねば。

える「どうしたんですか? 折木さん」

とりあえず、今は千反田の言う通りにしておくのが無難か。

奉太郎「ありがとう、千反田」

える「そんな、見つめないでください」

……面倒だ。

しかし幸いな事に、辺りは既に、公園の電灯が付くほどに暗くなっていた。

奉太郎「そろそろ帰るか」

える「もっと一緒に居たいです」

奉太郎「い、いいから……帰るぞ」

える「……そうですか、残念です」

今後一切、コーヒーは飲ませない様にしようと強く誓った。

誰に誓った訳でもないが。

える「ふふ」

横を歩いている千反田が急に笑い出すのが少し怖い。

奉太郎「何がそんなに楽しいんだ」

える「折木さんの横を歩ける事です」

奉太郎「それはありがたいお言葉で」

える「では、お礼を言ってください」

奉太郎「……」

その言葉は無視したが、千反田本人も大して気にしていなかったのか、それ以上お礼を求める事は無かった。

える「私たちも、もう三年生ですね」

える「皆さんと一緒に居られるのも、後一年ですか」

える「……寂しいです」

なんだ、さっきまでニコニコしていたと思ったら……今度は泣きそうになっている。

だがまあ……その千反田の気持ちも、分からなくは無かった。

奉太郎「なあ、千反田」

える「はい? どうしました?」

俺はそんな千反田を見ていると、こいつがどこかに行ってしまいそうな気持ちになって、それを振り払うために、言った。

奉太郎「手、繋ぐか」

える「……はい!」

多分いつも通りの千反田なら、俺はこんな事は言えなかったかもしれない。

それはまあ……コーヒーに少しだけ感謝と言う事で。

千反田の家までの時間、短い時間ではあったが……千反田と手を繋ぎ、歩いて行った。


第8話
おわり

以上で第8話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

やはり、えるたそ視点だと文が難しい……

乙です。
とうとう三年生ですね。どきがむねむねです。
日常だと思い出の積み重ねが絆を強くしてくれるのでしょうか。
でも、それも一緒にいられなくなると薄れてしまいます。ほうたるとLはどういう選択を獲るのでしょうか。
Lは千反田家も背負う分、あまり自由はないでしょう。気になります。

>>321
ss少し書いてみましたが、面白くなかった。(涙) でもまあ、いいか。。

>>360
おお!
間違えていたらごめんなさい、東大のでしょうか?

前作のテーマが成長だとしたら、今回のテーマは距離感となっています。
そして6話~8話はそのテーマを表しているお話となります。

その距離感と言う物を前提にして見て頂ければ幸いです。

乙でした
ほうたるは優しいな

私は来る日も来る日も壁を殴り続けた。

もう既に、何回壁を殴りつけた事だろう。

目の前にある四角い箱、その中で何も知らない奴等は気楽に言っている。

家の壁が無くなったとか、殴る壁が無いとか。

しかし私には、壁が無くなる事はありえない。

362「フンッ! フンッ!」

今日もまた、壁を殴りつける。

私は信じているのだ、この壁をぶち破れると。

それはいつになるかは分からない。

ひょっとすると、何十年……何百年も先の事かもしれない。

だが、それでも私は壁を殴るのをやめない。

362「フンッ! フンッ!」

思えば壁を殴り始めたのはいつの事だっただろうか。

それは遠い記憶……私は過去を振り返るのはあまり好きでは無い。

大事なのはそう……今。

現在、だ。

この壁を破ったとき、私は救われるに違いない。

362「フンッ! フンッ!」

私は私を信じ、また……私が殴りつけているこの壁も信じているのだ。

今まで殴った回数は恐らく1万を軽く超える。

しかしその中で、私自身を……私の拳を……そしてこの壁を疑ったこと等、一度たりとも無かった。

いつかこの壁……

二次元との壁を、壊せると信じて……

>>1乙!
もっといちゃいちゃしてもいいのだぜ?

ところで、皆さんのイチオシの氷菓のSSが、私気になります。
よかったら、紹介してくれ(奉えるものが美味しいもので)

壁殴りワロタ

氷菓ssは全部好きだなあ
好みもあるだろうし、片っ端から読むといい

ていうか、ほうたるから手を繋ごうって言ったの初めてか…?

乙です
マラソン希望!

コーヒーのくだり見てツンデレえるを見たくなったのは俺だけじゃないはず

>>363
すみません。残念ながら。東大のが気になります。(笑)
距離感ですか。改めて読んでみると、面白さが違いますね。最近、その都度毎読んでいただけで、話を続けて読む事をしていなかったから目からうろこでした。
やはり何度も楽しむ事ができるのは、良いですね。

乙!

ここ以外でオススメするなら、pixivで奉える小説の「二人の場所」は絶対見たほうがいい
超オススメ。R18要素もあるが、そこらで見るR18とレベルが違うし、嫌にならない
R18を見ていて壁を殴りたくなるんだから不思議なもんだ

>>1は見た??


後は、次話で完結する「農家な奉える」も熱いものがあるな

>>366
全部面白いですよ!

>>367
おお、気付いてくれたのは嬉しいです。
前作含めて、初めての事なんですよね。
えるたその調子がいつも通りでは無かったにしろ、ほうたるも少しずつですが成長しているのでしょう。

>>368
見たくなったら書く作業に入るんだ……!
そしてツンデレえるを見てニヤニヤしたいんです。


>>369
SS速報内で書かれているSSです、面白いですよー
そして369さんのSSが私、気になります。

>>370
R18は何となく、避けていたのですが。
そう言われてしまうと気になってしまう……

二作品、今度目を通して見ます。

いやいや、あれはみた方が良い。
ちなみに、5話構成で、R18は3話だからまあそこだけ避けるのもアリかもだけど、見たほうがいいかと

ところで>>341の閉まってたってどこのこと?

>>373
あやべえ……

ちょっとすいません
>>341
を修正します。

そう言うと、折木さんはゆっくりと話し始めました。

奉太郎「まず、俺と伊原が部室に行った時、鍵は閉まっていた」

える「でも、さっきは開いていたと……」

奉太郎「あれは嘘だ、すまんな」

える「では、一体何故?」

奉太郎「つまり……」

奉太郎「今日、古典部の部室を訪れたのは……卒業式が終わった後は俺と伊原だけになる」

える「……そうなりますね」

奉太郎「そして、俺と伊原は部室でお前が来るのを待っていたんだ」

奉太郎「いつもみたいに席に着いて、な」

奉太郎「その時、入須へのプレゼントは部室に置いていただろう?」

える「ええ、あれを持ち歩くのは少し、大変そうだったので」

正しくは>>375となります。

暑さにやられたのかもしれないですね、怖い怖い。

……夏、終わってましたね。

私のお気に入りは
・える「折木さん、夜も省エネのようでして……」
・折木「部室は人が少ない」
です
前者は謎解きがあり、オチも上手い
後者は入須先輩のキャラが崩壊気味ですが、可愛いので

さて、いい加減書かないと……

>>377淑女協定は、ファーストキスが奉太郎とえるでないのが許せないので切り捨てたわ。

雑談になってきてしまったのでここらで失礼するわ

>>370

漢字じゃなくて平仮名ね「ふたりの場所」が正解

pixivの小説は奉里ってタグがあって驚愕した
あいつら全員滅びればいいたそ~

皆さん、いろいろ教えてくれてありがとうございます。

>>370
「二人の場所」を探しても見つからん???

>>379
あの人の作品は描写はきれいだが、主人公がNTR系のものでドロドロ展開、オリキャラが大好きらしいので要注意!

>>378
えるちゃんがこんなこというはずがないだろ!!ってかまだ高校生だよ!!

>>382
R-18で里奉が多すぎwwww腐女子は盛んですねwwww

私のイチオシは
・える「いつもご苦労様です、折木さん」 折木「毎度どうも」(奉える)
・える「折木さんも…ご経験がおありなんですか?」奉太郎「」(推理物)
・える「ほう、ほう、ほうたるこい」(奉える)

PIXIV小説
・neither near nor far(奉える)
・言い間違えて告白事件(奉える)
・無自覚将来設計(奉える)
・魔女と少女(推理物)

話の腰を折るようですまない

ほうたるは摩耶花になんて言ったんだ?

>>383

pixivは、ケータイからならプレミアじゃなくても人気順に並びかえられるぞ

「奉える」で人気順で検索すれば割とすぐに出てくる

繰り返すようだが「ふたりの場所」な

ちなみに3/5を読むにはR18設定を解除する必要があるが

こんばんは。

>>384
その件については今の所、黙秘と言うことで。
大した伏線でもないですけどね。


それでは第9話、投下致します。

学校が始まってから既に何週間か経過していた。

だからと言って、どうなると言う訳でもないが。

そして、俺たち古典部は相変わらず何の目的も無しに部室へと集まっている。

える「今日は何をしましょうか」

奉太郎「いつも何かしている訳では無いだろ」

摩耶花「でも、折角集まってもする事が無いんじゃねぇ……」

里志「と言うか、全員のクラスが一緒になったせいで、集まる意味も……」

える「駄目です! 何か活動をしなければいけないんです!」

千反田の言う事も、もっとではあるのだが……如何せん、する事が無い。

里志「あ、良い事を思い付いた」

奉太郎「……何だ」

里志の良い事と言うのは、基本的に俺にとっては悪い事である。

それはもう、嫌と言うほど経験していた。

里志「ちょっと待っててね、すぐに戻ってくる」

里志はそう言うと、駆け足で部室から出て行く。

それを見送った後、席を立つ。

奉太郎「さて、帰るか」

える「え、何故ですか」

奉太郎「決まっているだろ、ろくな事にならないからだ」

摩耶花「……へえ、逃げるんだ」

逃げるとはまた……随分と人聞きが悪い。

奉太郎「面倒な事を避けているだけだ」

摩耶花「……ふうん」

いかんいかん、伊原の挑発に乗ってしまっては思う壺だ。

える「駄目ですよ!」

しかしこっちの奴は、実力行使で俺を押さえに来る。

簡単に言うと、俺の腕を掴んで離さない。

奉太郎「何が、駄目、なんだ!」

える「福部さんは待っていてと言ったのです! 帰ったら駄目です!」

奉太郎「そん、なの! 俺の勝手だろ!」

俺はグイグイと引っ張るが、千反田の方も負けじとグイグイ引っ張る。

える「諦めてください!」

今こいつ、諦めてと言ったか。

それはあれか、これから俺にとって良くない事が起きるだろうと言う事を、千反田も予想しているのだろうか。

奉太郎「い、や、だ!」

少しずつ、少しずつだが出口に近づく。

摩耶花「何してるの、二人とも」

そんな必死の戦いを繰り広げている俺と千反田を見て、伊原が冷静な一言を放つ。

しかしここで退いては駄目だ、千反田が持ってくる面倒事ならまだしも……里志が持ってくる物にまで巻き込まれる道理なんて無い。

もう少しで辿り着ける!

俺がそう思ったとき、静かに閉まっていた扉が開く。

里志「おっまたせー!」

里志「って、何してるの?」

ああくそ、タイムアップになってしまったではないか。

俺はようやく千反田を引っ張るのを辞め、若干上がった息を整えながら答える。

奉太郎「いや、まあ」

奉太郎「体を温めていた」

里志「それはちょっと、無理があると思うけど……」

える「あ、福部さん! お帰りなさい」

後ろから声が聞こえた、是非ともその勢いで俺に「行ってらっしゃい」と言って欲しい物である。

そうすればすぐに帰れるのに。


里志「ただいま、千反田さん」

里志は俺の後ろに居る千反田に向け、顔をずらしながら言った。

摩耶花「それで、どうして急に飛び出して行ったの?」

里志「よくぞ聞いてくれた!」

里志「実はね、ちょっと手芸部に行っていたんだ」

奉太郎「手芸部? 何でまた」

里志と千反田は席に着く。

俺もそれに習い、席に着いた。

待てよ……結局、流されてしまっているではないか。

くそ、今から扉まで走っていけば……逃げられなくも無いが。

なんだかそれすら面倒になってきてしまった。

里志「これさ!」

そう言い、制服とワイシャツの間から何やら随分とでかい物を取り出す。

える「何故、そこから出てきたのか……気になります」

その疑問を解決できるのだろうか、俺にはとても解決できそうにない。

奉太郎「それで、それは何だ?」

摩耶花「ええっと……何々」

摩耶花「人生ゲーム、再現度70%! リアルな人生ゲームをあなたに!」

摩耶花「って書いてあるわね」

何だそれは……70%とは、また微妙な。

奉太郎「何でそんな物が手芸部にあるんだ?」

里志「さあ、前に見かけたのを思い出しただけだよ」

まあ、前に天文学部を訪れた時は何やらボードゲームらしき物をやっていたし、そういう部活は多いのかもしれない。

里志「それで、皆でやらないかい?」

える「是非!!」

摩耶花「いいね、やろうやろう」

奉太郎「……ちょっと気になるんだが、いいか」

俺がそう言うと、三人ともが俺の方を見る。

奉太郎「これって、古典部と関係あるのか?」


里志「じゃあまずは駒である車とお金を分けるね」

摩耶花「うん、よろしく」

える「福部さんが銀行役ですね、宜しくお願いします」

……今、無視されたか?

奉太郎「おい、聞いてるか」

里志「摩耶花は水色でいいかな?」

摩耶花「おっけー、ありがとう」

里志「千反田さんは……白って感じかな」

える「ふふ、ありがとうございます」

里志「僕は黄色を貰うとして……ホータローはどれがいい?」

奉太郎「いや、俺はだな」

里志「仕方ないなぁ、じゃあホータローはこれで」

そう言い、渡されたのはグレー色の車だった。

……まあ、俺らしいと言えばそうかもしれない。

いや、違うだろ。

そんな車なんてどうでもいいだろうが。

奉太郎「おい、これって古典部と」

里志「じゃあお金を配るね」

駄目だ、明らかに俺が出す話題は無視されている。

奉太郎「……分かった、やればいいんだろ」

里志「はは、やりたいならそう言えばいいのに」

……やはりあそこで千反田を振り切れなかったのは手痛いミスだ。

だがまあ、俺のミスか。

摩耶花「負けないわよ!」

える「私も、頑張ります!」

何やら女子達は盛り上がっている、ただのゲームだと言うのに、元気なこった。

そんなこんなで最初の持ち金、1500万円が配られる。

こうなってしまっては仕方ない……やるか。

里志「ホータローには前の豆まきでの借りがあるからね、しっかりと返させて貰うよ」

える「そう言えばそうでした! 負けませんよ」

随分と根に持つ奴等だな……

摩耶花「私も、今回はちょっと負けたくないかな」

そう言い、俺の方を伊原は睨んでいた。

……何故、俺なのだろうか。

里志「それじゃあ始めよう、最初は僕の左隣……摩耶花から時計回りで行こうか」

順番を整理すると。

1番、伊原

2番、千反田

3番、俺

4番、里志

と言う事か。

まあ、たかがゲームだ、気楽にやろう。

摩耶花「じゃあ、回すね」

そう言い、伊原は数が10まであるルーレットを回す。

表示された数字は。

【5】

摩耶花「えっと、5かぁ」

里志「最初は職業決めだろうね、定番だ」

【あなたは漫画を描くのが大好き! そんなあなたには漫画家の職業を差し上げます!】

摩耶花「漫画家かぁ、ちょっと嬉しいかも」

里志「はい、職業カードを渡すね」

摩耶花「給料は……600万ね」

里志「職業が決まったら最初の給料日マスまで移動みたいだね」

摩耶花「うん、りょーかい」

それにしても伊原が漫画家とは、確かにリアルな人生ゲームである。

える「次は私ですね!」

そう言うと、千反田はルーレットを回した。

【7】

里志「お、ラッキーセブンって奴かな」

える「ふふ、何の職業になるのでしょうか……気になります」

【あなたはどこにでも居る一般人! そんなあなたにはサラリーマンの職業を差し上げます!】

える「サラリーマンですか、いいですね」

何が良いのか俺には分からないが……本人がそう言っているなら良いのだろう。

里志「給料は300万だね」

える「そうですか……摩耶花さんよりは少ないんですね」

摩耶花「私の漫画もそこそこ売れてるみたいね」

奉太郎「次は俺か」

よし、最初の職業が重要だと言う事は分かった。

なら良い職業を引く事が出来れば、それはかなり楽な人生となるだろう。

そんな事を思いながら、ルーレットを回した。

【10】

里志「10か、最初から飛ばすねぇ」

奉太郎「飛ばそうと思って飛ばしている訳では無いがな」

ええっと、それより職業だ。

【あなたは何事にもやる気無し! そんなあなたはフリーター! 頑張ってください】

……

える「……ふふ」

奉太郎「千反田、今笑ったか」

える「え、いえ……」

摩耶花「ちーちゃんが笑うのも無理ないって、だって似合いすぎてるもん」

里志「ぴったしだよ、ホータロー」

里志「見事だ!」

そう言われても、いい気は全くしないのだが。

える「あ、あの!」

える「私、良いと思いますよ!」

える「自由に生きる人生! 素敵です!」

千反田の必死のフォローが俺の心をきつく締め付ける。

奉太郎「……まあいい」

里志「給料は100万だね」

里志「フリーターにしては、頑張ってる方じゃないかな」

さいで。

里志「次は僕の番だね」

里志「よっ」

【6】

里志「6は……お」

奉太郎「劇団員、となっているな」

里志「いいんじゃないかな、気に入ったよ」

里志「給料は……1500万! ホータローの15倍だね」

摩耶花「いいなぁ、私なんて6倍よ?」

える「私は3倍です……」

何故、俺を基準にするんだ、こいつらは。

里志「それじゃあ皆の職業も決まったし、ここからが本番だね」

里志「あ、それと保険はどうする?」

奉太郎「保険?」

里志「生命保険と車両保険があるね」

里志「他にもあるんだけど、最初に入るか入らないか決めるのは、どうやらこの二つみたいだ」

……念の為、入っておいた方がいいだろう。

里志「どちらも500万、両方入るなら1000万だね」

奉太郎「随分と高い保険だな」

里志「まあ、ゲームだしね」

ふむ、ならば仕方ない。

どうやらそんな俺の考えと全員一緒の様で、それぞれが1000万を里志に手渡す。

摩耶花「後は大丈夫かな?」

里志「うん、この後はルーレットを順番に回して進むだけさ」

摩耶花「じゃあ」

摩耶花「負けないわよ!」

伊原はそう意気込み、ルーレットを回した。

【1】

摩耶花「うう……」

里志「はは、力みすぎだよ、摩耶花は」

里志「えーっと」

【宝くじにチャレンジ! 偶数なら500万、奇数なら-500万】

摩耶花「ギャンブルは苦手なんだけど……」

里志「そう言わずにさ、50%の確率で当たるんだし」

摩耶花「……よし!」

今度はあまり力を入れず、伊原はゆっくりとルーレットを回していた。

【4】

摩耶花「やった!」

える「おめでとうございます!」

里志「さすが摩耶花だ、500万だね」

それにしても、やたらと色々とイベントがある様だな……

ええっと、次は確か千反田か。

える「私の番ですね、よいしょ」

【1】

える「あ、摩耶花さんと一緒ですね」

摩耶花「ほんとだ、ってことはちーちゃんも宝くじにチャレンジかぁ……」

える「では、回しますね」

【5】

える「外れてしまいました……」

摩耶花「……ごめんね、私が当たっちゃったから」

える「いいえ、気にしないでください」

える「一緒にゴールを目指しましょう!」

仲がいいのは結構だが……何やら里志が言いたそうな顔をしているぞ。

里志「えっと、話中で悪いんだけど……」

里志「同じマスに止まるとね、追突扱いになるんだよ」

える「追突、ですか?」

里志「うん、追突したら相手に1000万の罰金……となっているね」

える「い、1000万ですか?」

おお、千反田が動揺している。

里志「でも、千反田さんはさっき保険に入っているから、そのお金は銀行から出ることになる」

里志「車両保険の方は、回収されてしまうけどね」

える「は、はい……」

渋々、千反田は車両保険のカードを里志に手渡す。

える「……酷いです、摩耶花さん」

摩耶花「わ、私はそんなつもりじゃ!」

里志「はは、気を付けないと、千反田さんに追突した時が怖そうだ」

まあ、千反田も本気で酷いと言っている訳では無いのが俺なら分かるが。

里志も恐らく分かっているだろう、しかし伊原は全く気付いていない様子だった。

える「負けません!」

こいつもこいつなりに、楽しんでいると言う事か。

摩耶花「次、折木の番でしょ。 早く回して」

そのとばっちりが回り回って俺の方に向いてくるのは納得できんが。

奉太郎「言われなくても、回すさ」

【9】

里志「好調じゃないか、先行するのはホータローになりそうだね」

奉太郎「フリーターだがな」

える「それでもゴールまで辿り着けば億万長者ですよ!」

奉太郎「……そうか」

奉太郎「じゃあ、それなりに頑張るかな」

ええっと、それでマスは何だろうか。

【リストラ、仕事にやる気の無いあなたは、上司にクビを宣告されました。 職を失い、フリーターとなります】

摩耶花「フリーターからフリーターになったわね」

里志「職業に付いてないのにリストラされるなんて、どんだけやる気が無いんだい……ホータローは」

……俺に言わないで欲しい。

える「……将来が大変そうですね」

さっきゴールまで辿り着けば億万長者だと言ったのはどこの誰だったか。

ああ、そうそう。

この俺の将来を心配してくれている方では無いか。 ありがとうございます。

里志「さ、気を取り直して僕の番だ」

【6】

里志「6だね、良いとは言えないけど9よりはマシかな」

【仕事中に腰を痛めてしまいました、一回休み】

里志「開始早々これかぁ……」

奉太郎「腰を痛めるとは、もうお前も年だな」

俺がそう言うと、里志はいつもの笑顔のままこう返した。

里志「はは、クビにならないだけマシだよ」

……どう足掻いても、里志にだけは負けたくないな。

摩耶花「ま、まあまあ二人とも」

摩耶花「これから何が起こるか分からないし、仲良くやろう?」

える「そうですよ、私だって追突しても頑張っているんですから」

摩耶花「ち、ちーちゃん」

える「頑張りましょうね、摩耶花さん」

千反田はいつもの感じではあったが、何やら今日のこいつは随分と怖い気がする。

まあ……結局俺もこうして人生ゲームへと参加する事となったのだが。

なんだか出鼻を挫かれた感が否めない。


    所持金  保険    

摩耶花 2600万 生/車

奉太郎 600万   生/車
える  300万   生
里志  2000万  生/車


第9話
おわり

        所持金     保険

摩耶花    2600万    生/車
奉太郎     600万    生/車
える       300万    生
里志     2000万    生/車

第9話
おわり



AA技術をください。

以上で第9話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

ちょっとだけ綺麗になったかもです。



       所持金   保険

摩耶花   2600万  生/車

奉太郎     600万   生/車
える        300万   生
里志      2000万  生/車

第9話
おわり

乙!

にしてもさすが奉太郎!相変わらずからかい甲斐ありすぎだろw

俺がやるときとか、めんどくさいから$札なのに勝手に円単位で呼んでるから、カジノで当たっても10万「円」だから寂しいものがw

その点、保険で500万は規模スゲーわ

夜中にこっそりと……

第10話、投下致します。

里志「それで、次は摩耶花かな?」

摩耶花「うん、回すね」

カラカラと音を立てながらルーレットは回る。

【3】

摩耶花「中々進まないなぁ」

摩耶花「えっと」

【特急券購入のチャンス! 100万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】

摩耶花「お、買う買う」

里志「100万くらいなら、摩耶花にとっては安い物だからね」

……俺にとって、給料一回分とは悲しい物だ。

摩耶花「よいしょ」

【10】

摩耶花「やった! 買った甲斐があった!」

里志「10は……ここだね」

里志「あ、それと給料日を通過したから給料を渡すよ」

ふむ、どうやら10マス毎に給料日は設置されている様だ。

摩耶花「ありがと、ええっと……このマスは」

【ジェット機購入のチャンス! 500万を払えばルーレットをもう一度回す事が出来ます】

摩耶花「どうしよう……まあ、払おうかな」

奉太郎「随分と優雅な人生だな」

摩耶花「お金はあるしね」

える「……」

無言の千反田が怖い。

伊原は気付いていない様だが、現在所持金がもっとも少ないのは千反田なのだ。

摩耶花「じゃ、回すよ」

【4】

摩耶花「今回だけで17マスも進めたのは良かったなぁ」

摩耶花「何々」

【母親の危篤! 10マス戻る】

摩耶花「……」

奉太郎「7マス進めたの間違いじゃないのか?」

摩耶花「……っ!」

あまり無用心な発言は避けた方がいいかもしれない。

明日は我が身と言う言葉があるからな。

里志「イベントで移動した時はマスに書いてある事を無視するみたいだね」

里志「と言う訳で、次は千反田さんの番だよ」

える「はい!」

える「では、行きますね」

【5】

える「ええっと、5ですね」

奉太郎「あ」

える「……?」

思わず声が出てしまった。

まあ、でもすぐに分かる事だし、いいか。

里志「ええっと……僕と一緒のマスだね」

える「え、と言う事はですよ」

える「追突、ですか?」

里志「……そうなるね」

奉太郎「それに加えて一回休みだな」

える「……そうですか」

える「で、でも……私もう、お金ありませんよ」

里志「その点は大丈夫かな、借金が出来るから」

える「借金ですか……」

なんとも、現実とは非情な物だ。

……ゲームだが。

里志「千反田さんの手持ちは300万だから、足りないのは700万だね」

里志「約束手形が一枚1000万、これを一枚と現金300万を渡すよ」

える「はい、ありがとうございます」

……ううむ、千反田がとても物悲しそうな表情をしている。

それを見ていると、なんだが少し……こう、胸に込み上げてくるものがあるな。

……いかんいかん、さっきも思ったが、明日は我が身、忘れる所だった。

奉太郎「それで、次は俺か」

なんだか空気が若干重くなった中、俺はルーレットを回す。

【7】

奉太郎「7か」

奉太郎「ええっと」

【おめでとうございます、あなたはめでたく結婚しました。 他のプレイヤーから祝儀として300万ずつ貰えます。 結婚相手としてピンを一つ車に乗せましょう】

奉太郎「おお、結婚か」

里志「……おめでとう、頑張って稼がないとね」

摩耶花「フリーターで結婚なんて、いい身分ね」

そう言われながら、300万ずつ受け取る。

える「ど、どうぞ」

千反田からなけなしの300万を渡された時は、なんだかとても悪い事をしている気がした。

える「結婚しちゃったんですね、折木さん」

奉太郎「ん? そうだが」

える「い、いえ。 おめでとうございます」

奉太郎「ああ」

変な奴だな、まあいいか。

とりあえずこれで、一回100万の給料も貰い、ある程度手持ちは増えてきた。

次は里志の番だが、一回休みなので伊原か。


       所持金   保険    マス

摩耶花   2300万   生/車   8マス目

奉太郎     1600万   生/車  16マス目
える        -1000万  生      6マス目
里志      2700万   生/車   6マス目

摩耶花「よし、私の番ね!」

里志「ううん……中々進めないなぁ」

奉太郎「腰を痛めているからな、安静にしとけ」

里志「……そうだね、それがいい」

摩耶花「それで、回すけど……いいかな?」

える「どうぞ」

摩耶花「……よっ」

【7】

摩耶花「あぶな、折木に追突する所だった……」

奉太郎「人が二人乗っているから、罰金も二倍だぞ」

摩耶花「え? そうなの?」

奉太郎「……さあ」

摩耶花「ちょっと、くだらない事言わないでよ」

里志「安心して、何人乗っていても罰金は1000万だよ」

摩耶花「まあ、当り屋みたいな事しないと、生活厳しいもんね」

奉太郎「……むう」

何も言い返せない、確かに給料が100万ではその内底を尽きてしまうのは火を見るより明らかだろう。

奉太郎「それで、マスにはなんて書いてあるんだ」

摩耶花「はいはい、今見るわよ」

【一発逆転のチャンス! ルーレットに一つピンを指し、当たれば10倍! 3000万まで賭ける事が出来ます。 そしてこの賭けに勝てば、もう一度ルーレットを回せます】

摩耶花「またギャンブルかぁ……」

里志「まあ、3000万 まで って事は賭けなくてもいいんじゃないかな?」

奉太郎「なんだ、負けるのが怖いのか」

摩耶花「……折木に言われたら、賭けない訳にはいかないわね……」

ここまで単純に引っ掛かってくれるなら、挑発し甲斐がある。

摩耶花「いいわ、1000万賭ける」

里志「いいのかい、本当に」

摩耶花「言ったからにはやるわ」

摩耶花「私が選ぶのは……3!」

里志「……仕方ないなぁ、それじゃあ1000万、受け取るよ」

そう言い、摩耶花は1000万を里志に手渡した、千反田の目の前で。

摩耶花「じゃあ、回すわね」

千反田が先程から、何かを願っている様な眼差しでルーレットを見ていた。

……何を願っているかは、聞かないでおこう。

しかし現実はやはり、非情な物。

主に、俺や千反田にとってと言うのが皮肉な物であるが。

【3】

摩耶花「うそ、やった……当たった!」

摩耶花「1000万の十倍だから……1億!?」

里志「はは、おめでとう」

……まさか当たるとは、とんだ強運だ。

千反田の顔は見ないでおこう、とても悲しそうな顔をしているだろうから。

摩耶花「もう一回、回せるんだよね」

【2】

摩耶花「2だと、ここかぁ」

摩耶花「あれ? 何も書いてない」

里志「そういうマスもあるみたいだね、じゃあ次は」

奉太郎「俺か」

里志「千反田さんは一回休みだから、そうなるよ」

奉太郎「んじゃ、回す」

【10】

奉太郎「また10か」

摩耶花「またってなんか、感じわる」

奉太郎「ゆっくり進むのも良い人生だと思うぞ」

摩耶花「……ふん」

里志「ホータローは随分と急いでいる様だけどね」

奉太郎「ま、早く終わるに越した事は無いからな」

奉太郎「それよりマスだ、えっと」

【おめでとうございます。 結婚している場合、子供が一人生まれました。 そうで無い場合は、結婚する事ができます】

【お祝いとして、他のプレイヤーから100万を受け取ります。 結婚の場合、祝儀はありません】

奉太郎「悪いな、何回も貰って」

里志「まあまあ、祝い事だからね」

摩耶花「100万と言わず、500万くらいならあげてもいいんだけどなぁ」

是非欲しいが、俺のプライドが許さない。

……いや、貰っておこうかな。

駄目だ駄目だ、弱気になってしまっては勝ち目が無いではないか。

える「子供ですか……おめでとうございます」

える「あ、すいません。 細かいのが無いです」

そう言い、千反田は里志から約束手形を更に一枚と、現金900万を受け取る。

いつもの元気は既に、どこか遠くへと行ってしまった様子だ。

える「はい、どうぞ」

奉太郎「あ、ああ……悪いな」

える「……いえ、いいんですよ」

頼むから、次のマスでは千反田から金を受け取る事が無いよう、お願いしたい。

里志「それと、また給料日を通過したから給料だ」

奉太郎「ああ、すまんな」

100万ずつだが、貰える物は貰っておこう。

里志「やっと僕の番だね!」

里志「ホータローとは随分と離れちゃったからなぁ、頑張らないと」

【4】

里志「4かぁ」

里志「どれどれ」

【落し物を届けたあなた。なんとビックリ! その持ち主は大金持ち! 1000万を受け取ります】

里志「落し物を届けただけで1000万とは、随分と凄い落とし主だね」

奉太郎「俺が届けられたとしても、せいぜい飲み物一杯が良い所だな」

里志「そりゃ、僕だって一緒だよ」

そんな会話をしながら、里志は自分の給料と合わせて、2500万を自分の手元へと置く。

さて、次はまた伊原か。


       所持金   保険    マス

摩耶花   1億600万  生/車    17マス目
奉太郎     1900万   生/車    26マス目
える      -1100万   生       6マス目
里志       6100万   生/車   10マス目

摩耶花「この調子で、折木を抜かしたいなぁ」

奉太郎「9が出れば追いつけるぞ」

摩耶花「……追突するじゃない」

摩耶花「9だけは出ません様に……」

【10】

摩耶花「あっぶない」

摩耶花「さっきから、ひやひやしっぱなしなんだけど……」

奉太郎「惜しいな」

摩耶花「何がよ、えっと」

【突然の災害! そのせいで車はボロボロに……修理費として、500万を支払います】

奉太郎「は、とんだ災難だ」

摩耶花「車の修理に500万って……どんな車なんだろ」

奉太郎「いいんじゃないか? 金持ちなんだし」

摩耶花「そうね……別にいいけど」

摩耶花「それより、他人事みたいな言い方ね」

……おかしな事を言う奴だ、実質、他人事なのだし。

里志「ホータロー、ちゃんとこのマス、読んだ方がいいよ」

そう里志に言われ、目を通す。

先程の文の下に、小さくこう書かれていた。

【前後5マスの方も被害に遭います、同額の修理費を支払います】

奉太郎「何故俺まで……」

しかしまあ、そう書かれているなら仕方ない。

巻き込まれる前に逃げろと言いたいが、それはもう手遅れか。

俺は手持ちから500万を里志へと渡す。

摩耶花「フリーターの癖に、随分と良い車に乗ってるのね」

摩耶花「生活をもっと見直した方がいいと私は思うかなぁ」

奉太郎「……さいで」

里志「まあまあ、二人とも仲良く仲良く」

里志「ホータロー、確かに受け取ったよ」

奉太郎「……他には何も書いてないな、次だ」

える「私の番ですね!」

びっくりした、今までずっと静かだったせいもあるが。

奉太郎「……大丈夫か」

える「え? 私は大丈夫ですよ」

奉太郎「ならいいが」

える「では、回します」

【9】

える「ええっと、9ですか」

9……確か、あのマスか。

える「ギャンブルですね、先程、摩耶花さんがやっていた」

奉太郎「まあ、手持ちが無いなら関係は無さそうだな」

里志「……いや、ちょっと待って」

そう言うと、里志はルールブックへと目を通す。

里志「ギャンブル系は、どうやら手持ちが無くても賭けられるみたいだよ」

里志「せめてもの救済なのかもしれないけど……これは随分と酷いルールだ」

奉太郎「借金まみれでギャンブルとはな」

やけにここだけ、現実じみている……恐ろしい。

える「ええっと、では何番にしましょうか」

奉太郎「おい、ギャンブルはしなくてもいいんだぞ」

える「ええ、分かっていますよ」

奉太郎「ならやめた方がいいと思うが」

える「……もう、今更いくら増えても一緒だとは思いませんか?」

何という事だ、千反田がギャンブラーとなってしまった。

……止めはしないでおく、外れて借金が増えれば、正気に戻るかもしれない。

える「どうしましょうか……」

里志「確かに難しい選択だ、何しろ1/10だからね」

里志「ならさ、まずは賭ける金額を決めたらどうかな?」

里志「千反田さんは1100万の借金があるから……200万なら負けてもそこまで大した損はしないよ」

える「そうですね、では3000万で」

駄目だ、もう手遅れかもしれない。

摩耶花「ちーちゃんが壊れた……」

里志「は、はは」

里志「まあ、僕はただの銀行員だからね……千反田さんの決定を止める事はしないよ」

そして千反田に渡される3枚の約束手形。

える「後は数字ですね、どうしましょうか……」

ふと、千反田と目が合った。

える「あ!」

……本日二度目の、嫌な予感がする。

える「折木さんに決めてもらいましょう!」

奉太郎「な、なんで俺なんだ!」

える「折木さんは結婚もして、子供も産まれて、幸せそうなので……」

える「そんな折木さんが選べば、当たる様な気がするんです」

か、簡便してくれ……

しかし、ここに俺の味方など居る訳が無い。

里志「いいじゃん、ホータロー」

摩耶花「そうよ、選んであげなさいよ」

奉太郎「……外れても俺は知らんぞ」

える「大丈夫ですって、お願いします!」

参ったな……外れた時、俺はどうすればいいんだ。

さっきまでは外れて、千反田がギャンブルをしなくなる事を願ったが……今は逆。

ううむ……

単純に、行くか。

奉太郎「……そうだな」

奉太郎「じゃあ、6で」

える「6ですね、分かりました!」

里志「7を選ぶと思ったんだけど、何で6を?」

奉太郎「単純な理由だ、気にするな」

摩耶花「気になるけど……今はルーレットの結果の方が気になるわね」

奉太郎「外れても恨まないでくれよ、千反田」

える「ええ、分かっています」

える「それでは……回しますね」

そう言うと、勢いよく千反田はルーレットを回した。

クルクルと回り、その時間は少しだけ長くも感じた。

やがて、針が止まる。

【6】

える「……」

良かった……本当に良かった。

千反田は6を指して止まるルーレットをしばし、見つめていた。

そして数秒それを続けた後、隣に座る俺の方を見る。

える「す、すごいです! 当たりました!」

奉太郎「あ、ああ。 そうだな」

なんだか恥ずかしくなり、視線を千反田から逸らした。

える「ありがとうございます! 折木さん!」

横からそんな声が聞こえたが、俺は頬杖を付きながら反応を返す事はしなかった。

しかし、何かが近づいてくる。

気付いた時には遅く、近づいてきていた物は千反田本人であった。

える「嬉しいです! なんとお礼を言ったらいいか……」

奉太郎「わ、分かったから離れろ! 抱きつくな!」

奉太郎「里志も伊原も、見てるだけじゃなくて千反田をどうにかしてくれ!」

里志「いいんじゃない? 別に」

摩耶花「そうそう、折木が選んだ数字なんだしねぇ」

こいつら、他人事だと思いやがって。

それから数分、千反田を引き剥がすのに必死になり、随分と体力を使ってしまった。

ようやく千反田が落ち着きを取り戻したところで、千反田はマスの通り、もう一度ルーレットを回す。

【3】

える「3ですね」

える「少しだけ、私にもツキが回ってきたかもしれません」

千反田のその発言を受け、マスに目をやる。

【ランプの魔人が現れ、あなたにもう一度ルーレットを回すチャンスをくれました。 ルーレットを回せます】

ほう、まあ今まで散々な人生だったし、いいのではないだろうか。

える「では、もう一度回しますね」

【8】

える「……あ」

ああ、そこは俺が居るマスではないか。

しかし1000万くらい、今の千反田なら安い物か。

里志「ああ、言い忘れてたけど」

里志「この色のマスでは、追突は発生しないみたいだね」

摩耶花「え? じゃあさっきまで私がひやひやしてたのって……」

奉太郎「無意味って事だな」

摩耶花「ちょっとふくちゃん、次からもっと早く言ってよね」

里志「ご、ごめんごめん」

える「良かったです……追突してばかりでしたので」

それで確かマスは……結婚か。

える「結婚ですね、お祝いは貰えないみたいですが」

里志「とは言っても祝い事さ、おめでとう」

摩耶花「そうそう、おめでとう、ちーちゃん」

える「あ、ありがとうございます」

……なんだか、あまり良い気分がしない。

何故か、と言われると分からないが……何故かそんな気分だったのだ。

ようやく、次は俺の番か。

千反田もいつもの調子に戻ったようだし、良かった。

……にしても、もう半分は通過している。

どうやら全部で50マス、そんな所だろう。

奉太郎「さてと」

【2】

奉太郎「極端だな……」

【あなたの出した漫画作品が認められました。 漫画家の職業に就くことができます】

【現在、漫画家の職業に就いている方が居る場合、その方はフリーターとなります】

ほう、良いマスだ。

奉太郎「だそうだ、伊原」

摩耶花「……絶対に許さない」

……最悪のマスだったのかもしれない。

とにかく、これでようやく俺も職業に就けた。

伊原から奪った形にはなってしまったがな。

まあ、散々俺を馬鹿にしていた罰が当たったのかもしれない……でも少し、悪い事をしてしまったか。

里志「次は僕だね」

【10】

里志「お、良い数字だ」

【20マス目記念! ルーレットを三回回し、合計の数進む事が出来ます】

里志「いいね、これで一気に進める」

そう言い、里志はテンポ良くルーレットを回す。

【7】 【4】 【10】

里志「21だ、一気にゴールまで近づけたよ」

里志「このマスには何も書いてないけど……次でゴールの可能性も出てきた」

里志「うん、満足だね」

奉太郎「そういえば、最初にゴールすれば何かあるのか?」

里志「ええっと、このルールブックによると……」

里志「現金1億円、生命保険に入っていれば更に1億円」

里志「これは1位だけが貰えるみたいだね」

里志「他の順位については特に書いてないから、1位だけの特典って訳だ」

なるほど……そういう事か。

ならば俺でも最初にゴールに到達できれば、まだトップになれる可能性がある。

……いよいよ勝負も終盤だ。

なんだかんだで俺が最下位だが……最後まで何が起きるか分からない。

ま、なるようになるだろう。

       所持金     保険     マス

摩耶花   1億700万  生/車    8マス目

奉太郎     1400万   生/車    28マス目
える     2億8900万   生      27マス目
里志      1億600万  生/車    41マス目


第10話
おわり

以上で第10話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

気付けばもう10話……

えるが抱きついてる画像はよ

こんばんは。

今日は投下なしですが、摩耶花の8マス目が気になったので修正しに来ました。

       所持金     保険     マス

摩耶花   1億700万  生/車    27マス目

奉太郎     1400万   生/車    28マス目
える     2億8900万   生      27マス目
里志      1億600万  生/車    41マス目


ですね。

>>467
画像ですか、今度ちょっと絵を書いて見ますね。

こう見えても、絵には自信があるんです。

こんばんは。

第11話、投下致します。

摩耶花「1位はふくちゃんになりそうね……」

里志「どうかな、何が起こるか分からないからね」

える「諦めませんよ!」

借金まみれから登り詰めた千反田は力強くそう言った。

奉太郎「そうだな……俺もギャンブルでもするか」

える「駄目ですよ、堅実に行くのが大事です」

……お前が言うのか、それを。

摩耶花「そろそろ回してもいいかな」

える「あ、どうぞ」

伊原はそれを聞き、ルーレットを回す。

【1】

摩耶花「1かぁ……って」

摩耶花「これ、さっき折木が止まったマスね」

……ああ、そういう事か。

摩耶花「はい」

そう言い、伊原はこれでもかと言うほどの笑顔を俺に向け、手を差し伸べる。

漫画家の職業カードを渡せ、と。

奉太郎「短い職だった」

摩耶花「似合わないから、仕方ないわよ」

摩耶花「自分に合った職業も大事よ」

……それがフリーターと言う事なのか。

奉太郎「まあ、忘れては居ないと思うが追突だぞ」

摩耶花「分かってるわよ、でも私、保険があるしね」

摩耶花「ここまで終盤になってきたら保険も意味無くなる可能性もあるし……丁度良かった」

里志「いやいや、待ってよ」

里志「このマスは追突無効だよ? さっきも言ったじゃないか」

……あまり、記憶に無いな。

摩耶花「えー……じゃあ保険に入らなくても良かったなぁ」

里志「そうでもないさ、最後まで持っていれば資産として計算されるみたいだしね」

里志「まあ、払った額と同額だけど」

ならやはり、1回以上の追突は避けた方がいいだろう。

される分には構わないが。

ともあれ、これで俺はまたしてもフリーターへと逆戻り。

次は……千反田か。

先程のギャンブルで大分勢いが付いている、一番危険なのはこっちかもしれんな。

える「では、回しますね」

【10】

える「10ですね」

える「ええっと」

【不思議な妖精が現れました。 願いを一つ叶えてくれます】

【全プレイヤーの中から一人を選び、その人の資産を10倍へとします】

える「10倍……ですか」

なんと言う事だ、こんなマスを考えた奴は碌な奴では無いな……

ええっと、今の千反田の手持ちは確か、3億くらいあった筈。

それが10倍になると……30億!?

里志「そこが本当のゴールだったのかもね……」

摩耶花「2位争い、頑張ろうかな」

勿論、里志や伊原もその事実に気付く。

える「えっと、では折木さんの資産を10倍にしましょう」

奉太郎「え?」

思わず間抜けな声が出る、そしてその後に気付く。

これがもし、千反田の性質の悪い冗談だったとしたら……とんだ赤っ恥だ。

でも、俺は知っていたのかもしれない。

千反田はそんな冗談を言わない、と。

える「折木さんの資産を10倍に、と言ったんです」

える「先程のお礼です」

奉太郎「……天使か」

いや、女神か。

女神、チタンダエル……いい響きである。

摩耶花「ちょっと、優しすぎない?」

える「いいえ、折木さんが数字を当ててくれなければ、私は今も借金があった筈です」

える「それに、折木さんはそこまで資産を持っていないので……勝負が決まるという事も無くて、面白いと思いませんか?」

……最後の言葉は余計だ。

里志「あはは、ホータローのヒモ生活の始まりって所かな」

奉太郎「俺だって一応働いているぞ」

里志「ま、これで千反田さんには逆らえないね」

奉太郎「……」

確かに、里志の言う通り。

これで何かしらのマスを俺が踏み、千反田を蹴落としたらそれは酷い事になるだろう。

多分、人生ゲーム所では無くなるかもしれない。

里志「それじゃ、受け取りなよ、ホータロー」

そう言い、里志から金を受け取る。

今までの手持ちと合わせ、1億4千万。

最下位から一気に2位へと登り詰めた、なんとも大逆転の人生である。

そして回ってくる俺の順番。

奉太郎「よし、回すぞ」

【10】

里志「さっきから、10出すぎじゃない?」

奉太郎「1回、2が出たろ」

里志「それでもすごい確率だね……ホータローの早く終わらせたいって思いが届いてるのかもしれない」

奉太郎「それは嬉しい知らせだな」

奉太郎「えっと、マスは……」

【世界一周旅行のチャンス! 好きな数字を選び、外れたら世界一周へとご招待!】

奉太郎「外れたら旅行なのか? 意味が分からんな……」

里志「これ、ちゃんと最後まで読んだ方がいいよ」

【世界一周へと旅立ったあなたは、5回休み】

奉太郎「……くだらん」

里志「当てるしかないね」

里志「大丈夫さ、さっきも当てたじゃないか」

とは言っても……他人のだったから気軽に選べた、と言うのもあった。

それとは違い、今回は自分のである。

……それなら、そうか。

奉太郎「千反田、数字を選んでくれ」

える「え、わ、私ですか」

奉太郎「さっきは俺が選んで当たったんだ、次は千反田が選べば当たる気がする」

える「大丈夫でしょうか……」

まあ、別に外れても千反田を責める事なんてしない。

える「では……7でお願いします」

里志「いいね、ラッキーセブンだ」

奉太郎「分かった、じゃあ回すぞ」

そして、俺はルーレットを回す。

出た数字は……

【1】

ううむ、やはり10%の確率と言うのは中々に手強い物だ。

える「ご、ごめんなさい!」

奉太郎「いいさ、気にするな」

奉太郎「後は結果を見守るだけと言うのも、悪くないしな」

える「で、ですが……」

奉太郎「千反田、ルーレットを回したのは俺だ」

奉太郎「それに、お前に数字を選んでもらったのも俺だ」

奉太郎「お前は悪くない」

える「は、はい……」

俺がそう言うと、千反田は渋々と言った感じで頷いた。

これで俺のゴールは無くなったが……まあ、疲れていたし丁度良かったのかもしれない。

色々と頭を使うのは、もう終わりにしたかった。

里志「じゃあ、次は僕の番だね」

里志「ホータローも動けない事だし、一発ゴールを狙いたいなぁ」

里志「……よし!」

【7】

里志「……ここで7とは、さっき出るべきだったのかもね」

奉太郎「いいじゃないか、マスには何て書いてあるんだ?」

里志「ちょっと待ってね、ええっと」

【本日は2倍デー! プレイヤー全員の資産はなんと、2倍となります!】

里志「うへ……厳しいなぁ」

里志「ちょっと千反田さんに追いつくのは無理かもね、これは」

摩耶花「で、でもまだ2位は残ってるわよ」

摩耶花「ちーちゃんは無理にしても、ふくちゃんには負けないからね」

奉太郎「俺はここに居るだけで2位になれる可能性が上がっただけで満足だな」

俺がそう言うと、またしても伊原に睨まれる。

何もしていないのに、本当にただこのマスに留まっているだけなのに。


       所持金     保険     マス

摩耶花   2億1400万   生      28マス目

奉太郎   2億8000万    生/車     38マス目
える      5億8400万    生      37マス目
里志     3億1200万   生/車     48マス目

摩耶花「私の番ね!」

【2】

摩耶花「……全然良いのがでないなぁ」

摩耶花「マス頼みね、これは」

【台風に巻き込まれる、しかし幸いな事に追い風となった! 1マス進みます】

摩耶花「たった1マスって……それに次のマスには何も無いし……」

里志「まあまあ、そんな事もあるさ」

摩耶花「ふくちゃんはいいかもね、次でほぼゴールできるから」

里志「あ、あはは」

怖い怖い、人生ゲームで仲違いとは……恐ろしいゲームだ。

える「次は私ですね」

える「えい!」

【8】

える「ふふ、私にもゴールが見えてきました」

える「このマスも、何も無い様ですね」

える「ええっと、次は折木さんですが……お休みなので、福部さんですね」

里志「よし、流石にここでゴールしたい所だよ」

里志「後ろから千反田さんも追い上げてるしね」

里志「行くよ……!」

【1】

里志「……ちょっと酷いね、これは」

里志「自分の運の無さに驚きかな」

奉太郎「一つ一つ踏んで、人生を楽しんでいるって所が……里志らしいな」

里志「……それはどうも」

里志「ええっと、マスによると」

【一発逆転の大チャンス! ルーレットから数字を3つ選ぶ事ができます、当たれば資産が2倍になります!】

【しかし外れた場合、残念……資産は全て、消えて無くなります】

里志「ギャンブルマスかぁ……」

奉太郎「でも、今までのより確率的には良さそうだな」

里志「ううん、そうなんだけどねぇ」

奉太郎「なんだ、当たれば1位だぞ」

里志「……いいや、パス」

里志「僕にはギャンブルは向いてないからね、外れる気しかしないよ」

里志らしいと言えば、里志らしい選択だろう。

里志「ま、そういう事で次は摩耶花の番だよ」

摩耶花「私はもうゴールできる気がしないんだけど……まあいっか」

摩耶花「よいしょ」

【9】

摩耶花「9だね、もっと早く出てくれればいいのに!」

【あなたは決闘をする事になりました! 一人を選び、ルーレットで勝負をします】

【数字が大きい方の勝利、勝てば相手から1億円を受け取ります】

【負けた場合、あなたは相手に1億円を支払います】

摩耶花「嫌なマスだなぁ……」

伊原は確か……今の資産は2億程だろうか?

なんだか途中から計算が面倒になってきて、数えるのをやめてしまったが……恐らくその程度だろう。

2位を狙うなら相手は里志、可能性は限りなく薄いが1位を狙うなら千反田、と言った所か。

俺も選ばれる可能性はあったが……勝ったとしても始めにゴールするだろう里志には勝てなくなってしまう。

だとすると、選ばれるのは先程挙げた2名の内どちらかだ。

摩耶花「……じゃあ、ちーちゃんで!」

ふむ……伊原も中々に勝負師だな。

える「受けて立ちます!」

千反田はそう言い、ルーレットに手を伸ばす。

える「最初は私でいいでしょうか?」

摩耶花「うん、いいよ」

える「では、回します」

そう言うと、ルーレットをゆっくりと回した。

【2】

なんと、ここで2を出すのか……

さっきのギャンブルやイベントマスで、運を使い果たしたのかもしれない。

える「2ですか……」

摩耶花「……悪いけど、私の勝ちみたいね」

摩耶花「ごめんね」

そう言うと、伊原も続いてルーレットを回す。

【1】

摩耶花「……」

前言撤回、こいつの方が運は無いようだ。

える「……勝っちゃいました」

摩耶花「うう……ちーちゃん強すぎる」

奉太郎「千反田が強いと言うよりは、お前が弱いと言う方が正しいと思う」

摩耶花「なによ、じゃあ私と勝負する?」

奉太郎「お前がまたそのマスを踏めたなら、受けて立つさ」

摩耶花「……ふん」

俺がここまで挑戦的なのにも、理由がある。

里志は次でゴールするからである。

それならばもう、伊原に何を言っても俺に災いは降りかからない。

える「私の番ですね」

える「では」

【2】

える「やはり、ゴールは厳しかった様です……」

里志「はは、それだけは譲れないよ」

奉太郎「どの道、千反田の勝ちだろうけどな」

奉太郎「それより、マスには何て?」

える「ええっとですね」

【流れ星が降り注ぐ中、あなたはお願いをしました】

【そんな願いを星達は叶えてくれます、プレイヤーを一人選び、選ばれた方の資産を0にします】

える「……私、こんなお願いはしていませんよ」

いや、それは分かるが。

千反田がそんな願いをしない事くらい、ここに居る全員が分かっているだろう。

奉太郎「里志を選べば俺が2位」

里志「摩耶花かホータローを選べば僕が2位って事だね」

える「選べませんよ……そんなの」

難しい選択かもしれないが、選ばないとこのゲームは終わらない。

奉太郎「俺を選んで終わらせよう、別に俺は順位等気にしない」

える「それは……それは分かりますが」

……分かるのか。

える「でも、それでも出来ません」

俺はこの時、千反田が誰を選ぶのかが分かった。

それはもう、ほとんど確信と言っていいかもしれない。

える「……あ」

そう言うと、千反田は何かを思いついた様に目を見開く。

える「プレイヤーと言う事は、人生ゲームをやっている人達ですよね」

える「それではですね、私は」

える「私を選びます」

……やはり、そうなるか。

奉太郎「お前ならそう言うと思った」

える「え、どうしてですか」

奉太郎「そういう奴だから……って思っただけさ」

える「ふふ、そうですか」

里志「やっぱり、千反田さんには適わないなぁ」

摩耶花「そうね、順位なんてどうでもよかったのかも」

える「駄目ですよ、ちゃんとゴールしてください」

里志「了解、じゃあ最後に……回すね」

【10】

里志「最後にようやく10とはね、僕も運が悪い」

える「そうでもないですよ、福部さんが1位です」

奉太郎「ま、あって無い様な物だろう」

里志「ホータローの言う通りさ、今回のは引き分けって所かな」

摩耶花「そうね、また今度……やろっか」

奉太郎「却下で」

摩耶花「何よ、もう」

とにかく、物凄く長い人生ゲームはこれにて終わり。

後は片付けて……帰るだけだ。

奉太郎「じゃあ、片付けるか」

奉太郎「手短に終わらせて、真っ直ぐ帰ろう」

える「そうですね、とても楽しかったです」

里志「まー、結果よりは過程が楽しかったかな、僕は」

摩耶花「あ、それちょっと分かるかも」

える「ふふ、私もですよ」

奉太郎「俺は……ちょっと違うな」

摩耶花「違うって、楽しくなかったの?」

奉太郎「……そう言う訳では無いが」

奉太郎「どちらかと言うと……」

里志「ホータローは、結果も過程もどっちでも良い、ってタイプだから」

奉太郎「……そういう事だろうな」

奉太郎「付け加えると、とっとと片付けて真っ直ぐ家に帰りたいタイプだ」

える「折木さんらしいですね」

摩耶花「じゃ、そんな折木の意見を尊重して片付けようよ」

摩耶花「私もなんだか疲れちゃった」

これにて一件落着……とは行かない。

里志「ちょっと待って」

里志「人生ゲームと言ったらさ、あれがあるじゃないか」

……あれ、とは何だろうか。

いやむしろ、まだやる事があるのか?

俺のした考えは、千反田や伊原もしていた様で、顔に困惑が浮かんでいる。

里志「これだよ、これ」

そう言いながら、里志が指を指すのは自分の手元にある紙。

正確に言うと、銀行の役目を担った里志が持っている金。

……まさか。

奉太郎「おい! やめろ馬鹿!」

どうやら千反田と伊原はまだ気付いていない。

それが手遅れとなってしまった。

里志は……そこにあった大量のお金を、宙へとばら撒いた。

~帰り道~

奉太郎「とんだ災難だった……」

える「私も最初はびっくりしましたよ」

奉太郎「最初だけだろ、最後はお前も笑ってばら撒いてたぞ」

える「は、恥ずかしいのであまり言わないでください」

さいで。

奉太郎「にしても、本当に余計な時間を食ってしまった……」

える「たまにはいいじゃないですか」

奉太郎「ほとんど毎日の様な気がするんだが」

える「それでもいいじゃないですか」

奉太郎「……はあ」

そんな事を話しながら、千反田の家へと向かっていた。

何故かは分からないが、今年に入ってからと言う物、千反田を家まで送っていくのが習慣となっていたのだ。

真っ直ぐ帰る事が出来るのは……いつになるのだろうか。

える「あ、そういえばですね」

突然、何かを思い出したかの様に千反田が口を開く。

える「少し、気になる事があるんです」

奉太郎「今からか? 明日にしてくれ」

える「いいえ、折木さんはもう答えを知っている事ですよ」

何だろうか……まあそれなら、いいか。

奉太郎「……何だ?」

える「私が、ギャンブルに勝った時……」

える「折木さんは何故、6を選んだんですか?」

える「何か、理由があった様ですが」

奉太郎「ああ、あれか」

奉太郎「……言わなきゃ駄目か」

える「はい、気になります」

……本当に単純に、浮かんできた数字なんだが。

理由はある、だが少し恥ずかしい。

まあでも、千反田に嘘を付く理由も……無いか。

奉太郎「千反田える」

える「え?」

奉太郎「それで、6文字だ」

奉太郎「だから6を選んだ」

える「ふ、ふふ」

える「そうでしたか……なるほどです」

奉太郎「単純な理由さ、特に意味も無い」

える「でも私は、他にも良い数字はあると思いますよ」

奉太郎「他にも良い数字?」

ううむ、何だろうか。

俺はしばし、腕を組みながら考える。

しかし答えは出ず、千反田に答えを求めた。

奉太郎「教えてくれるか」

える「ええ、勿論」

える「えっとですね……」

える「9や、5も良かったと思います」

9に……5?

千反田が言った数字の意味が俺には分からなかったが、わざわざ聞くのもあれだな。

家も見えてきた事だし、時間がある時にでも考えればいいか。

奉太郎「9か5か……」

える「ふふ、折木さんには分かると思いますよ」

奉太郎「……そうだな、考えておく」

える「ええ、宜しくお願いします」

それから千反田と別れ、俺は家に帰る。

その数字の事を思い出したのは、風呂に入り……布団の中で目を瞑っていた時だ。

奉太郎「……9と5」

……まさか。

……いや、それしか無い。

俺はその数字の意味に気付き、顔に熱が篭るのを感じながら、目を閉じた。


第11話
おわり

第1章
おわり

以上で第11話、第一章終わりです。

乙ありがとうございました。

こんばんは。

絵はまだ描いている途中です、もうちょっとだけ我慢してくださいね!

それでは第12話、投下致します。

午後9時。

俺は今、神山市から少し離れた所に来ていた。

話せば長くなるが……

面倒だな、話すのは今度にでもしよう。

入須「どうだ、中々に良い場所だろう」

奉太郎「そうですね」

俺と入須が居たのは、高台であった。

町並みを一望でき、キラキラと光る町の奥には海が見える。

奉太郎「入須先輩がこんな場所を知っているなんて、少し驚きです」

俺がそう言うと、入須はムッとした顔を俺に向けながら言った。

入須「ここまで連れて来たのは誰だと思っているんだ」

奉太郎「……先輩でしたね」

入須「そうとも」

入須「なら穴場の一つや二つ、押さえてあるさ」

奉太郎「それはそれは、失礼な事を言ってすいません」

入須「分かればいいんだが……」

入須はそう言い、手すりから町並みを眺める。

その時だった。

空がまばゆく光る。

遅れて……ドン、と言う音が耳に届いた。

奉太郎「始まったみたいですね」

入須「ああ、そうみたいだな」

ここに来ていたのには理由があった。

年に一度の花火大会、それを見るためにわざわざ神山市を離れ、こんな所まで来ているのだ。

最初は間隔をゆっくりと、花火達が上がっていく。

それを見ながら、入須は口を開いた。

入須「私ももう、大学生か」

入須「思えば随分と年を取ったものだ」

奉太郎「まだ、18か19でしょう」

奉太郎「年寄りみたいな台詞は、似合いませんよ」

入須「あっと言う間さ」

入須「青春なんてすぐに終わる」

奉太郎「青春、ですか」

入須「ああ」

思えば、俺も既に三年生か。

後一年も経たない内に、神山高校を去ることになるのか。

その後は……俺は一応、大学へと行く予定になっている。

里志や伊原もそうだろう。

だが、千反田は前に聞いた時、少しだけ悩んでいる様子だったのを覚えている。

また父親に何かあった時、何も知らなくていいのかと……千反田は言っていた。

もしかすると、千反田は大学には行かず、家の仕事に就くのかもしれない。

そして、それを俺に決める権利は無い。

恐らくそうなれば、段々と疎遠になって行くのだろう。

中学の時も一応、俺にも友達くらいは居た。

そいつらとは高校へ行っても遊ぼうな、等と言っていた物だが……

いざ高校生になってからは、ほとんど連絡なんて取っていなかった。

……そんな、物だろう。

奉太郎「俺ももう、18ですよ」

入須「そうか、君の誕生日は確か……」

奉太郎「四月です」

入須「なるほど、君が一番早く年を取っているのか」

奉太郎「そう言う言い方は、出来ればやめて欲しいですね」

入須「ふふ、すまんすまん」

そこで俺は一度、空を見上げた。

花火が一つ……散っていく。

そんな光景を見ながら、一つの事を思い出す。

あれは確か……俺の誕生日の日だったか。

過去

~折木家~

休みなだけあって、俺は随分と遅く、目を覚ました。

供恵「あんた、やっと起きたの?」

奉太郎「いいだろう、別に」

供恵「だらしないわねぇ」

奉太郎「休みくらいゆっくりさせてくれ」

供恵「あんたがそれを言うか」

朝から……いや、昼から姉貴との言い合いは、どうにも気が進まない。

最後の姉貴の言葉を無視すると、俺はとてもゆったりとした動作でコーヒーを淹れた。

供恵「私の分もよろしくねー」

奉太郎「……ああ」

全く、なんで起きてすぐに人の為に動かなければならないのか。

それは少し違うか、おまけで作るのだし。

まあ……どの道、気が進まない事には代わり無いのだが。

供恵「あーそういえば」

供恵「誕生日お・め・で・と・う!」

奉太郎「……どうも」

姉貴の精一杯の笑顔に俺は精一杯無愛想に返す。

供恵「確か、去年はお友達が来てたけど」

供恵「今年はどうなんだろうねぇ」

奉太郎「さあな、分からん」

去年は確かに、俺の家で誕生日を祝われた。

しかし、あれは大日向が居たからだ。

あいつが居なければ、俺の誕生日を祝おうなんて、他に誰も思わないかもしれない。

別に俺も、祝って欲しいなんて事は無いし、構わないが。

やがてコーヒーを淹れ終わり、ソファーに座る姉貴に片方を手渡す。

供恵「ありがと」

姉貴のその言葉を流し、俺もソファーに座る。

腰を下ろし、背もたれに背中を預けようとした時だった。

俺に反抗するように、家の電話が鳴り響いた。

俺はなんとも中途半端な姿勢で止まる事となり、そこで止まったが最後……電話に出る役目は俺に回ってくる。

供恵「ほらほら、友達かもしれないでしょ」

奉太郎「……くそ」

コーヒーをテーブルに置くと、俺は電話機の前に移動し、受話器を取った。

奉太郎「もしもし、折木です」

える「折木さんですか? 千反田です!」

奉太郎「千反田か、どうした」

える「えっとですね、今日は何の日かご存知ですか!?」

なんだ、やけにテンションが高いな……

奉太郎「一週間に二度ある休みの内の、一日だな」

える「そうではないです!」

える「い、いえ……確かにそうかもしれませんが」

える「違います!」

千反田が言っている事は大体分かる、俺の誕生日の事だろう。

だが自分から言うのも、少しあれなので敢えてそうは言わない。

奉太郎「じゃあ、なんの日なんだ」

える「もしかして、忘れてしまったんですか?」

える「今日は、折木さんのお誕生日ですよ!」

奉太郎「……覚えているさ」

奉太郎「それで、それがどうかしたのか」

える「お祝いをしようと思って、お電話しました」

奉太郎「ああ、そうか」

える「はい! お誕生日おめでとうございます」

奉太郎「ありがとう」

奉太郎「それで、用事は終わりか?」

える「ち、違いますよ……それだけではないです」

まだ何かあるのだろうか?

える「実はですね、誕生日会を開こうと計画していまして」

奉太郎「また、急だな」

える「そうでもないですよ、予め決めていましたので」

奉太郎「……俺は知らなかったが」

える「当たり前じゃないですか、福部さんと摩耶花さんと、秘密に計画していたんです」

奉太郎「……まあいい」

奉太郎「また俺の家でやるのか?」

える「いいえ、何度もお邪魔しては迷惑だと思いますので……」

える「今年は、私の家で開くことにしているんです」

待て待て、俺の家で開くのなんて全然迷惑じゃない。

わざわざ主役の俺を、遠い千反田の家まで足を運ばせると言うのか!

奉太郎「お前の家まで行けって事か」

える「はい!」

奉太郎「俺の誕生日を、お前の家で開く為に」

える「はい!」

奉太郎「わざわざお前の家まで、休みを堪能している俺が」

える「勿論です!」

……駄目だ、こうなってしまってはどうしようもない。

奉太郎「……分かった、行けばいいんだろ」

える「ふふ、お待ちしてますね」

える「福部さんも伊原さんも今から来るそうなので、楽しみにしておきます」

奉太郎「そうか、じゃあ準備が終わったらそのまま行く」

える「ええ、宜しくお願いします」

そして話が終わり、俺は受話器を置く。

供恵「行ってらっしゃーい」

奉太郎「……はあ」

姉貴の満面の笑みを見て、溜息を吐くと俺は準備に取り掛かった。

と言っても、大した準備等は無いが。

ともかく、俺はこうして千反田の家での誕生日会をする為、わざわざ休日に出かける事となったのだ。

~千反田家~

インターホンを鳴らすと、扉の前で待っていたのか、すぐに千反田は出てきた。

える「わざわざありがとうございます」

える「上がってください」

そう言われ、千反田の家へと上がっていく。

いつもの居間に通され、変わらぬ千反田の家でゆっくりとくつろいでいた。

奉太郎「そう言えば、里志と伊原はまだなのか?」

える「もう少しで来ると思うのですが……」

その時、インターホンが鳴り響く。

える「来た様ですね、私行ってきますね」

奉太郎「ああ」

それはそうと、千反田の家に来るのは何度目だろうか?

何回来ても、まずその広さに驚かされる。

俺の家の何個分に当たるのだろうか……

とても比べ物には、ならないか。

多分、この家の広さが……千反田という名家を表しているのかもしれない。

そんな事を考えながら、里志達がやってくるのを待っていた。

出されたお茶を飲みながら、俺は考える。

……去年、俺はあいつの事を追い掛けていたのかもしれない。

社会的にも、俺の前を行く千反田の事を。

最終的に、それは不釣合いだったのだろう。

片や、神山市には知らぬ者等居ないほどの名家のお嬢様。

片や、ただの一般人。

それは多分、いくら追いかけても追いつけないのかもしれない。

つまり、あの日……千反田がさようならと言った日。

あの日に起きた事は、起こるべくして起きたのかもしれない。

だが、だがもう少しだけ。

俺が高校を卒業するまで、追いかけてみよう。

それでも駄目なら、そこまでだったと言う事だ。

里志「お、ホータローはもう来ていたんだね」

奉太郎「……里志か」

里志「なんだい、随分と暗い顔をして」

奉太郎「いや、何でも無い」

奉太郎「それより、伊原と千反田は?」

里志「料理を持って来てくれるってさ、手作りだよ手作り!」

奉太郎「手伝いに行かなくていいのか」

里志「何言ってるんだい、僕達が行っても足手まといになるだけさ」

奉太郎「まあ、間違ってはいないが」

里志「それより、何か考え事でも?」

奉太郎「……ちょっとな」

里志「僕には何を考えている何て事は、分からないけど」

里志「あまり、思い詰めないで今を楽しもうよ」

今を楽しむ、か。

それも……悪くないかもしれない。

奉太郎「そうだな……そうする」

里志「それに今日はホータローが主役だよ」

里志「さあさあ、笑って笑って」

いや、いきなり笑えと言われてもだな……

奉太郎「……それは難しい」

里志「釣れないなぁ」

奉太郎「いつも笑顔のお前が羨ましいな」

里志「何事も、楽しまなくちゃね」

里志「じゃないと時間が勿体無い」

奉太郎「ああ……それもそうだ」

そこまで話し、俺と里志は互いに外を眺める。

そのまま数分経ち、やがて伊原と千反田が部屋へと来た。

える「お待たせしました、お料理持って来ましたよ」

摩耶花「私も作ろうと思ったんだけど……ほとんどもう作ってあった」

里志「はは、さすが千反田さん、準備がいいね」

える「い、いえ……それほどでもないです」

そして並べられる料理、それらは実に美味しそうであった。

結構な量の料理を、全員で食べ、気付けばあっと言う間に無くなってしまっている。

奉太郎「悪いな、わざわざ」

える「いいえ、いいんですよ」

える「一年に一回なのですから、このくらいはいつでもしますよ」

里志「うーん、千反田さんは間違いなく良いお嫁さんになれるよ」

える「そ、そうでしょうか」

里志「僕が言うんだ、間違い無い!」

千反田を褒めるのは結構だが……

摩耶花「私はどうなの?」

里志「ま、摩耶花は……もうちょっと、優しくなった方が」

摩耶花「それ、どういう意味よ」

里志「いやいや、今でも十分に優しいけどね」

里志「もうちょっと、なんて言うのかな」

える「つまりは、今の摩耶花さんは優しく無いと言う事でしょうか……」

里志「ち、千反田さん?」

千反田も始めの頃から比べると、随分とこう言う流れが分かってきている。

それを見るのも、また楽しい。

奉太郎「そうだな、里志の言葉からすると……千反田が言っている事で間違いは無さそうだ」

里志「ホ、ホータローまで」

摩耶花「ふくちゃん、ちょっとお話しようか」

そう言い、引き摺られながら里志は部屋の外へと出て行った。

哀れ里志、また会おう。

える「あ、そういえば」

千反田はそう俺に言い、部屋から駆け足で出て行った。

何かを思い出した様だが……何だろうか。

5分ほど待っていると、千反田は部屋へと戻ってくる。

その後ろから里志と伊原も入ってきた、どうやら話し合いは終わったらしい。

里志「……口は災いの元だ、ホータロー」

俺の隣に腰を掛けながら、里志はそう言った。

里志「ホータローも気をつけたほうがいいよ」

奉太郎「俺は災いになるような事は言わんからな」

里志「……羨ましいよ、それ」

奉太郎「お前が思った事を喋りすぎなだけだろ」

里志「ううん……今後気をつける」

ま、絶対に直らないだろうけどな。

奉太郎「それより、千反田は何か思い出した様子だったが」

奉太郎「どうしたんだ」

える「ふふ、これです!」

そう言いながら、千反田が出したのは、ぬいぐるみだった。

摩耶花「ちーちゃん、そのぬいぐるみがどうかしたの?」

える「私の宝物なんです!」

里志「へえ、随分と可愛いぬいぐるみだね」

える「そうですよね、私もそう思います」

……ここまで、千反田が考え無しに動くのは想定外だった。

つまり、千反田が持ってきたぬいぐるみと言うのは、以前俺がプレゼントした物。

それを里志や伊原には、絶対に知られたく無かったのだ。

奉太郎「ほ、ほう。 千反田らしいな」

冷や汗を掻きながら、俺は続ける。

奉太郎「それにしても、そんなぬいぐるみをまだ持っているとはな」

摩耶花「ええ、いいと思うけどなぁ」

える「で、でもですよ」

える「このぬいぐるみをくれたのは……」

俺は多分、今日一番素早い動きをしたと思う。

千反田の首に腕を回し、そのまま引っ張る。

里志や伊原は不審がっていたが、このままではどうせばれてしまう。

ならこれしかないだろう。

える「あ、あの、どうしたんですか」

奉太郎「言うなって言ったのを覚えて無いのか」

える「お、覚えていますが」

奉太郎「なら何で言おうとした……!」

える「それは、その」

える「……自慢したくて」

奉太郎「そんなの、いくらでも俺に自慢すればいいから、とにかく今は絶対に言うな」

える「は、はい……」

そこまで話、千反田を解放する。

摩耶花「ちょっと、二人で何話してたの?」

里志「気になるねぇ」

奉太郎「……何でも無い」

俺はそう言い、二人の視線を正面から受け止める。

俺から聞き出すのは無理と悟ったのか、里志達は千反田の方に視線を向けていた。

える「あ、えっと……」

える「その……」

える「言わなくては、駄目ですか」

摩耶花「駄目って訳じゃないけど、気になるかな」

える「わ、分かりました」

……いくら何でも、何か別の言い訳をするだろう。

つい、30秒ほど前に言うなと言ったばかりなのだから、流石に言わない筈だ。

える「あのですね」

える「……折木さんが、ぬいぐるみを貸して欲しいと」

……帰りたい。

千反田は確かに、本当の所は言わなかった。

言わなかったのだが……もっと他に言い訳はあるだろうが!

摩耶花「お、折木が?」

里志「あ、あははは、本当かい、ホータロー」

くそ、こうなってしまっては千反田の言い訳に乗るしかないではないか。

全く持って納得行かないが、仕方あるまい。


奉太郎「別に、いいだろ」

里志「まさか、あはは」

里志「ホータローにそんな趣味があったなんてね」

摩耶花「……気持ちわる」

伊原の言葉がいつにも増して、辛い。

だが、それでもやはり……本当の事を言う気にはなれなかった。

俺があの日……わざわざ帰るのを放棄し、千反田のプレゼントを買いに行ったのを知られたく無かったのは勿論の事。

……千反田が宝物と言っていたそれを、俺がプレゼントした物だと言う事は、何故か人に知られたくは無かったのだ。

える「も、もうこの話は終わりにしましょう!」

里志「そ、そうだね」

里志「どんな趣味を持とうと、僕はホータローの友達だよ」

里志の何とも言えない表情が、やはり辛い。

奉太郎「それよりだ」

千反田が一度、話題を切ってくれたお陰で、話の方向を変える事が出来た。

奉太郎「今日は俺の誕生日だろ、何か言う事とか無いのか」

里志「お、ホータローにしては随分と急かすね」

奉太郎「……まだしっかりと言われていないからな」

摩耶花「うーん、まあいっか」

える「そうですね、では」

里志「僕はもうちょっと、タイミングを見たかったんだけどなぁ」

三人はそう言うと、徐にカバンに手を伸ばす。

そして。

里志・える・摩耶花「誕生日おめでとう!」

その言葉と共に、クラッカーの音が鳴り響いた。

ああ……また片付けが面倒な事になりそうだ。

まあ、それでも……今日くらい、別にいいか。

何と言っても一年に一度の、日なのだから。


第12話
おわり

以上で第12話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

頑張って仕上げましたよ。

えるたそに抱きつかれるほうたるです。

http://vippic.mine.nu/up/img/vp96324.jpg

こんばんは。

第13話、投下致します。

花火は未だに上がり続けている。

一際大きな花火が上がり、その音で俺は意識を過去から引き戻した。

入須「そういえば」

入須はまだ、手すりから夜景を眺めていた。

俺は視線をそちらに移しながら、入須の次の言葉を待つ。

入須「答えは、出たか」

奉太郎「答え……ですか?」

入須「まさか、もう忘れたのか」

入須「先程、私が提示した問いに対する……答えだ」

……ああ、あれの事か。

奉太郎「……まだ、出そうに無いですね」

入須「……そうか」

入須「だが、あまり時間は無いぞ」

奉太郎「そうなんですか」

入須「今、決めた」

入須「この花火大会が終わる前に、答えを出してもらう」

……また急な。

そんなすぐに答えが出る問題でも無いだろうに。

奉太郎「随分と急かしますね」

入須「まあな」

入須「どの道、いつかは答えなければいけないんだ」

入須「それなら今でも、構わないだろう」

奉太郎「……分からない、というのは答えになりますか」

入須「それは、無理だな」

入須「もし……千反田に聞かれたら、君はどうするんだ」

入須「その時もまた、分からないと言うのか?」

奉太郎「それは……」

口篭る俺を見ながら、入須は少しだけ声を大きくし、俺に告げた。

入須「答えを出すのは、この花火大会が終わるまで」

入須「それでいいな」

奉太郎「……分かりました」

俺はそれを、断れなかった。

……まあ、時間はまだある。

時刻は21時30分、か。

ゆっくりと、思い出して行けば十分に間に合うだろう。

何しろ花火大会は、まだ始まったばかりだ。

過去

~古典部~

俺は、部室で勉強をしていた。

と言っても、一人で静かに……とは行かない。

える「折木さん、分からない所があれば言ってくださいね」

奉太郎「……ああ」

一人の方が集中出来るのだが、別に千反田が居る事に特別不快感などは無かった。

それにしても、何故放課後の部室で勉強をしなければならないかと言うと……

五月の中間テスト、それの対策の為である。

俺はまあ……熱心にと言う程でも無いが、ある程度は勉強をしなければならない程の成績だ。

対する千反田は、成績優秀者。

そいつに教えて貰うと言うのは、一般的に考えればそれはそれは良い事なのだろう。

しかし、どうにも……教え方が下手すぎた。

例えば、俺が式の組み立て方……答えが出る経緯を忘れ、悩んでいた時。

俺の目の前に座るこいつは、答えをざっくりと言い、途中の経過は全く教えてくれない。

多分、千反田にも悪気がある訳では無いだろう。

だが、答えを言った後も悩んでいる俺を見る目は、何故答えが出たのに悩んでいるんですか? とでも言いだけで、なんだか虚しくなってくる。

そして今も、俺は目の前の問題に悩まされていた。

何度かペンをくるくると回し、考える。

……駄目だ、全く持って分からない。

奉太郎「……」

える「……」

奉太郎「……」

ふと、千反田の方にちらりと視線を移す。

自分の問題を解いていて、静かなのだと思ったが……

奉太郎「……あまりじろじろ見ないでくれないか」

千反田は、俺の方をジッと見つめていた。

える「あ、ごめんなさい」

奉太郎「……まあいい」

そう言い、再度問題に目を移す。

それから5分程経ったが、結局何度考えても分からない。

またしても千反田に視線を移すと、やはりと言うか……千反田はまた、俺の方を見ていた。

奉太郎「……ふう」

俺は回していたペンを置き、千反田に向け口を開く。

奉太郎「何か、言いたい事でもあるのか」

える「……いえ、別に、大丈夫です」

何が大丈夫なのか分からないが。

奉太郎「なら、俺の方を見るのをやめてくれないか」

奉太郎「……集中できん」

える「そ、そうですよね」

少しくらい言っておかないと、こいつは多分また俺の方を見るだろう。

人に文句を付けるのは好きでは無いが……

それもまた、仕方の無い事だろう。

俺は一度置いたペンを取り、再び問題に取り組む。

正確に言えば、取り組もうとした時だった。

える「だ、駄目です!」

奉太郎「な、なにが」

急に大きな声をあげる物だから、回している途中だったペンを落としてしまう。

える「折木さんが熱心に勉強していたので……我慢していたのですが」

える「やはり、我慢できません!」

える「折木さん!」

矢継ぎ早にそう言いながら、俺の方にぐいっと顔を寄せる。

……この感じ、あれか。

える「私、気になります!」

全く、満足に勉強も出来たものでは無い。

しかしまあ……その気になる事を解決出来たなら、千反田も幾分か落ち着くだろう。

なら、俺がやるべき事は一つ。

奉太郎「……何が気になってるんだ」

える「ええ、私」

える「そのペンが、気になるんです」

……ペンが?

まさか、俺が知らないだけで、千反田はシャーペンが大好きな奴だったのかもしれない。

ありとあらゆるシャーペンを集めていて、それで今日俺が持っていたシャーペンが千反田の持っていなかったペンだったのだ。

奉太郎「そうか、なら今度買った場所を教えよう」

える「……ええっと」

あれ、違うのか。

奉太郎「なんだ、シャーペンマニアでは無かったのか」

える「どちらかと言うと、筆の方が好みです」

える「いえ、そうでは無くてですね」

える「折木さんが持った時の、シャーペンが気になるんです」

奉太郎「……すまん、もっと分かりやすく説明できないか」

える「は、はい」

える「ええっと、折木さんはいつもこんな感じでペンを持ちますよね」

奉太郎「ああ、そうだな」

正直、自分がどんな感じでペンを持っているかなんて分からなかったが、ここで話の腰を折るような事はしない。

える「それでですね、時々こういう風に」

そこまで言うと、千反田は指をピクピクとさせている。

奉太郎「……何をしているんだ」

える「う、うまくできません」

ああ……そういう事か。

奉太郎「貸してみろ、そのペン」

える「あ、はい……どうぞ」

奉太郎「千反田が気になっているというのは、これだろ」

俺はそう言い、手の上でペンをくるりと回す。

そしてそのペンを、うまく掴むと、千反田は声を大きくしながら言った。

える「な、何が起きたんですか!」

奉太郎「ペンを回しただけだが……」

える「何故、その様な事が出来るのか……気になります」

何でだろうか、逆に聞きたい。

奉太郎「……俺も気付けば出来ていたからな」

える「でも、私には全然出来そうに無いですよ」

奉太郎「うーん……」

奉太郎「授業中に、練習してみたらどうだ」

える「折木さんは授業中にやっているんですか?」

奉太郎「まあ、暇だしな」

える「いけません! しっかりと聞かないと駄目ですよ」

なるほど、確かに正論である。

だが俺にも言い分はあった。

奉太郎「それで、それを補う為にわざわざ放課後、部室に残って勉強しているのだが」

奉太郎「俺が集中出来ないのは何故か、分かるか千反田」

俺がそう言うと、千反田は若干焦りながら答える。

える「あ、そ、それとこれとは別です」

える「そんな事より、私にも教えてください」

俺の言い分は……そんな事と言う一言で片付けられてしまった。

奉太郎「しかし、教えると言ってもだな」

える「そこを何とか、お願いします」

奉太郎「ううむ……」

奉太郎「……まず、ペンを持ってみろ」

える「はい! こんな感じですかね?」

奉太郎「ああ、まあそれでいいんじゃないか」

奉太郎「で、その後はだな」

奉太郎「こうやって、こうだ」

そう言い、俺は自分が持っていたペンをくるりと回す。

える「あの、失礼な事を聞いてもいいですか」

何だろう、わざわざ失礼な事と前置きしてまで聞くと言う事は、大分失礼な事なのだろうか。

える「折木さんって、教え方が上手い方では無いのでしょうか」

奉太郎「……お前がそれを言うか」

える「す、すいません」

える「でも、全然分からなかったので……」

と言われても、俺も困ってしまう。

奉太郎「とりあえず、練習しておけばいいさ」

奉太郎「その内出来る様になるだろ」

俺は千反田にそう告げ、勉強を再開する。

奉太郎「……」

える「……よいしょ」

奉太郎「……」

える「……あ!」

奉太郎「……」

える「……うまく行きませんね」

先程から、ペンの落ちる音が鳴り響いている。

その音が聞こえた後、千反田の独り言が聞こえてくる。

こんなんじゃ、勉強所では無いな……全く。

奉太郎「ああ、もう」

未だにペンを回そうと奮闘している千反田を見て、俺は席を立つ。

そのまま千反田の後ろに回り、ペンを持つ手を上から掴む。

奉太郎「だから、こうやって……」

奉太郎「こうだ」

俺はそう言い、いつもの要領で千反田の手を動かした。

うまく行くとは思わなかったが……ペンはうまい具合に一回転し、千反田の手に収まった。

える「すごいです、折木さん!」

奉太郎「別に凄くは無いだろ……」

奉太郎「もう一回、やってみろ」

俺は千反田後ろに立ったまま、手を離す。

える「はい、やってみますね」

える「……よいしょ」

……ああ、違う。

後ろから見ているとなんとなく分かる……こいつはペンを、指で追いかけ過ぎだ。

奉太郎「だから、こう持って」

そう言い、俺は再び千反田の手を掴む。

その時、ふと千反田が俺の方に顔を向けた。

俺はこの時、まずいと感じた。

予想以上に、千反田の顔が近かったのだ。

そのまま数秒間、千反田と見つめ合う。

そんな沈黙に耐え切れず、俺は顔を逸らした。

千反田も顔を逸らし、口を開く。

える「あ、あの……」

える「少し……は、恥ずかしいです」

あえて言わなくてもいいだろうに、そんなの俺だって感じている。

奉太郎「す……すまんな」

そして千反田の手を離し、俺は自分の席へと腰を掛けた。

空気を変えるため、咳払いを一つすると、俺は千反田に話しかける。

奉太郎「……えっとだな、千反田はペンを追いかけ過ぎだ」

える「追いかけ過ぎ……ですか」

奉太郎「ああ」

奉太郎「ペンを押し出したら、そのまま戻ってくるのを待つんだ」

奉太郎「それで、タイミング良く掴む、それだけだ」

える「分かりました……もう一度、やってみますね」

える「ええっと、こんな感じで持って」

える「……えい!」

しかし、ペンは先程同様、床へと落ちて行った。

まあでも、さっきよりかは大分マシになっていた様に見える。

える「やはり、難しいですね」

奉太郎「その内出来るようになるさ、さっきも言ったけどな」

える「はい……頑張ってみます」

える「でも、折木さんは簡単そうに回して、凄いです」

奉太郎「そ、そうか」

える「折木さんの特技はペン回しだったんですね」

……なんか、とても情けない特技では無いだろうか。

奉太郎「そこまで大袈裟に言う程の物でもないだろ」

俺はそう言うと、千反田はやはりと言うべきか、顔を近づけ、言ってきた。

える「いいえ、それは違いますよ」

える「どんな些細な事でも、皆さんそれぞれ、得意な物や苦手な物があるんです」

奉太郎「……まあ、そうだな」

奉太郎「それは分かる」

える「ふふ、そうですか」

える「例えば折木さんは物事を組み立てるのが、得意ですよね」

そうなのだろうか、自分では良く分からないが……

える「でも、私は物事を組み立てるのが苦手です」

奉太郎「ああ、それは何となく分かる」

千反田に向けそう言うと、少しむくれながら続けた。

える「……それでですね、先程のペン回しもそれに当てはまるんです」

える「どんな些細な事でも、それらはその人と言う物を表していると、私は思います」

える「誰しも、これだけは負けられない、と言うのがあると思うんです」

奉太郎「俺にそれがあると思うか」

える「折木さんは……そうですね」

える「面倒くさがりな所は、誰にも負けませんよ」

さっきの仕返しと言わんばかりに、千反田はにこにこしながら俺に言ってくる。

奉太郎「……お前も随分言う様になったな」

える「でも、それもまた……折木さんという方を表しているんです」

える「写真を撮るのが得意な方、絵を描くのが得意な方、物を作るのが得意な方、ゲームが得意な方」

える「どれだけ小さい事でも、それらは立派な物だと……私は思うんです」

なるほど……確かに、そう言われればそうかもしれない。

奉太郎「つまり、お前の好奇心も……千反田と言う人間を表しているのか」

える「ええ、そうなりますね」

える「それで、私も折木さんの様にペンを回せるのか……と感じまして」

奉太郎「ああ、それでペンが気になる、と言ったのか」

える「はい、そうです」

える「でも、私には少し難しいみたいです」

そう言いながら、笑う千反田の顔は……

どこか、寂しげだったのを俺はしっかりと記憶していた。


第13話
おわり

以上で第13話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

こんばんは。

連日ですが、第14話を投下致します。

入須「さっきはああ言ったが」

入須「千反田も、聞くだろうな」

入須はこちらに振り向きながら、続けた。

入須「必ず、聞くと私は思う」

奉太郎「……そうですか」

奉太郎「奇遇ですね、俺も丁度、同じ事を思っていました」

奉太郎「俺は……間違いなく、聞かれるでしょう」

入須「ふふ、君は千反田の事を一番理解しているからな」

奉太郎「……それは、過大評価って奴ですよ」

入須「……果たしてそうかな」

入須「それより、答えはまだなのか」

奉太郎「……今、考えている最中です」

入須「そうか、なら私は少し黙るよ」

奉太郎「ええ」

入須はそう言うと、花火では無く、頭上の星を眺める。

まあ、黙ってくれるなら有難い、今は考える事に集中したかったのだ。

俺は入須の横まで歩き、高台から下を見下ろす。

海の匂いが、少しだけした。

ふと、時計に目を移す。

時刻は丁度、22時を指している所だ。

そして視線を、高台から見える町並みより更に下に落とした。

……ああ、くそ。

まずいな、これは非常にまずい事になった。

俺がまずいと思ったのは、時刻のせいでは無い。

この高台に向かって、走ってくる人影が下に見えたのだ。

走り方や、外見の特徴。

そしてここからでも感じる、そいつの纏っている雰囲気。

間違いない、あれは千反田だ。

過去

~折木家~

7月に入り、気温も大分上がってきた。

俺は勿論、この土日を満喫するつもりだ。

……満喫と言っても、外に出るつもりなんて一切無い。

家の中でぐだぐだと、ただ時を過ごすだけ。

まあ、そんな理想を抱いていたのもつい10分程前の事なのだが。

奉太郎「……わざわざ暑い中ご苦労様」

里志「うわ、嫌そうな顔だね」

摩耶花「暑いって言っても、今日は涼しい方よ」

える「そうですよ、折木さんも外に出てみたらどうですか?」

何の連絡も無しに、突然こいつらが家へ押し掛けてきたのだ。

奉太郎「絶対に出ない」

奉太郎「それで、今日の用件は何だ」

里志「うーん、そう言われると困っちゃうな」

困る? つまりこいつらは用も無く俺の休日を妨害しに来たと言うのか。

俺がそれを言おうとした所で、千反田が割って入る。

える「ええっとですね」

える「今日は、折木さんのお姉さんに呼ばれて来たんです」

……俺の姉貴に?

姉貴がどうやってこいつらと連絡を取ったのも気になるが……それより今は。

俺はその言葉を聞くと同時に、玄関からリビングへと向かう。

奉太郎「一体何の真似だ」

供恵「あ、友達来たんだ」

供恵「暇そうなあんたの為に呼んだってのじゃ、駄目かな」

奉太郎「……」

供恵「嘘嘘、冗談よ」

供恵「じゃあ一回、リビングに集まって貰おうかな」

奉太郎「理由が分からんぞ」

供恵「いいからいいから、早く早く」

何だと言うのだ……

しかしそんな会話が聞こえたのか、玄関から里志の声が聞こえてきた。

里志「お姉さんもそう言ってる事だし、お邪魔しますー」

こうしてまたしても、俺の休日は浪費されていく。

……もう、慣れた。

そして姉貴を含め、5人がリビングへと集まった。

奉太郎「それで、何故……里志達を呼び出したりしたんだ」

供恵「んー、もうそろそろ来ると思うんだけど」

丁度その時、チャイムが鳴り響く。

供恵「来たみたいね、ちょっと行って来るわね」

そう言い、姉貴は玄関へと向かう。

俺はそれを見送り、里志達の方へと顔を向けた。

奉太郎「大体、俺に一言くらい言ってくれれば良かったのに」

里志「いいじゃないか、驚かせたかったし」

奉太郎「……良くないんだが」

まあ、なってしまった物は仕方ないか。

過去を悔いるより、次に起こるべく問題の片付け方を考えた方が、効率的と呼べるだろう。

供恵「お待たせー」

そう言いながら、姉貴はリビングへと戻ってきた。

……その後ろには、見覚えがある人物。

入須「お邪魔させて貰うよ」

入須冬実が居た。

それを見て、一番早く口を開いたのは千反田であった。

える「入須さん! お久しぶりです」

入須「ああ、久しぶり」

里志「驚いた、逆に驚かされる事になるとはね」

そんな里志の言葉に、入須は顔をしかめている。

無理も無い、さすがの入須でも里志が俺を驚かせようとしてた事なんて分かる訳が無い。

奉太郎「何故、入須先輩が?」

摩耶花「私もちょっと気になる、だって私達は折木のお姉さんから呼ばれたのに」

……そうか、こいつらは俺の姉貴と入須が知り合いだと言う事を知らないのか。

入須「私が来たのは用事があったからだ」

入須「君達、全員にね」

入須「この人が呼び出したのにも理由がある、私とこの人は知り合いなんだよ」

供恵「何よ、いつもみたいに先輩って呼んでよね」

入須「そ、それは」

珍しい、入須が口篭ってしまった。

やはり、姉貴の方が一枚上手と見える。

我ながら……末恐ろしい姉貴を持ってしまった物だ。

里志「へえ、お二人は先輩と後輩って関係だったんですね」

里志は何が満足なのか、とても嬉しそうな顔をしている。

える「それよりです!」

える「用事とは、何でしょうか?」

奉太郎「まあ、そうだな」

奉太郎「わざわざ集めてまでの用事は、俺も少し気になる」

入須「ま、隠す事も無いか」

入須「君達を、私の別荘に招待しようと思ってな」

える「別荘、ですか?」

入須「ああ、そうだ」

入須「神山市から電車で30分程の場所さ」

入須「私も小さい頃は良く行っていた」

やはり侮れない、別荘を持っている人は始めて見た。

里志「行きます!」

一番早く賛同を示したのは、俺の予想通り、里志であった。

摩耶花「私も行きたい!」

伊原は珍しく、自分の意見に素直になっている様子。

こいつも多分、別荘と言う響きにやられたのかもしれない。

える「入須さんのご招待を、断る理由はありませんね」

……こうなってしまっては、俺もやはり断れないか。

奉太郎「じゃあ俺も、行きます」

全員の意見が纏まると、入須は笑い、ゆっくりと口を開く。

入須「実はね、その別荘の近くでは、一年に一回の花火大会があるんだよ」

える「わあ……素敵ですね」

入須「私とその花火師とは知り合いでね」

入須「今年が、最後の仕事だそうだ」

入須「それで、是非……彼が最後にあげる花火を見て欲しいんだ」

奉太郎「なるほど」

奉太郎「そう言われてしまったら、尚更行くしか無さそうですね」

える「最後の花火ですか、楽しみですね」

そう言いながら、千反田は俺の方に笑顔を向ける。

入須「その仕事も代々受け継がれていてね」

入須「次は彼の子供が受け継ぐそうだ」

ん、その入須が言う彼とは……一体何歳なのだろうか。

里志「その花火師の人は、おいくつなんですか?」

そんな俺の心の中の疑問を、里志が口に出す。

入須「今は確か……四十、だったかな」

入須「次の仕事は、ちゃんと決まっているみたいだよ」

奉太郎「随分、若く引退するんですね」

入須「まあ、そうだな」

入須「彼が仕事を始めたのは20歳と聞いている」

入須「仕事一筋な人でね、今まで失敗した事が無いそうだ」

ほう、それはいい花火が期待できそうだ。

入須「そうそう、彼の奥さんはこの神山市で働いているぞ」

……ま、それにはあまり興味が無かったので俺は受け流す。

奉太郎「それで、行くのはいつですか?」

入須「8月に入ってすぐだ」

える「……あ」

入須がそう言った後、千反田は何かを思い出したかの様に口に手を当てた。

える「実は、その日は家の用事がありまして……」

大変だな、こいつも。

える「でも、夕方には終わると思うので、それからでもいいですか?」

入須「そうだな……じゃあ先に私達で行って、千反田は後ほど合流という感じで、いいかな」

入須「地図は後で渡しておく」

える「ええ、分かりました」

8月の頭か……俺にも何か用事は。

……ある訳が無いな。

奉太郎「んじゃ、8月の頭に、入須先輩の別荘へ……と言う事で」

奉太郎「それで、花火大会は何時からですか?」

入須「午後の8時だ、これは毎年変わらない」

奉太郎「えっと、花火大会はどのくらいやっているんですか?」

入須「1時間半程だな」

奉太郎「……帰るのは大分遅くなりそうですね」

入須「何を言っている? 泊まりだぞ」

……予想はしていたが、いざ言われると、簡単に行くと言った事を後悔する。

奉太郎「……分かりました」

里志「はは、嫌そうな顔だ」

える「折木さんも行けばきっと、楽しくなりますよ!」

……どうだかな。

奉太郎「まあ、まだ先の話だ」

入須「それもそうだな」

入須「また、連絡するよ」

里志「予定は決まったね」

里志「宜しくお願いします、先輩」

入須「堅苦しいのは無しにしよう、折角の休みだろう」

摩耶花「楽しみだなぁ……花火大会」

入須「彼があげる花火は綺麗だよ、私も好きだ」

それより、いつまで話しているんだ、こいつらは。

奉太郎「じゃあ計画は決まった事だし、解散するか」

入須「そうだな……あまり長居してしまっても迷惑か」

入須はそう言うと、席を立つ。

よし、これで残りの時間はぐだぐだとできる。

里志「何言ってるんですか、入須先輩」

里志「大学の話とか、参考までに聞かせてください」

なんの参考にするのかは分からない。

いや、待て待て、そうでは無いだろ。

入須「だが、迷惑では……」

ほら、入須はそう言ってるぞ。

える「いえ、大丈夫ですよ、お話しましょう」

千反田が大丈夫と言うと、俺も何だかそんな気が……する訳が無い。

奉太郎「……ここは俺の家なんだが」

摩耶花「それで、大学はどうなんですか?」

入須「まあ、特にこれと言って感想は無いが……」

入須「高校よりは、自由と言った感じかな」

里志「いいなぁ……憧れますね」

える「そうですね、楽しみです」

駄目だ……聞いちゃ居ない。

くそ、またしても俺の休日は消費されていく。

ああ、さようなら。

~現在~

そうだった、こうして俺達はここへ来ているのだった。

思えばあの時、千反田は既に大学へ行く事を決めていたのだ。

真意は分からないが……あいつの決めた事だ、間違いは無いだろう。

それにしても、あれから何分経った?

時計に目を移すと、22時5分。

千反田がここへ来るまでは、もう少し時間がありそうだ。

ならそうだ、何故こうなってしまったのかを思い出そう。

全部繋がる筈だ、答えを出せば……まだ間に合う。

俺はそう思い、意識をまた、記憶を掘り起こす作業に向けた。

過去

~別荘~

里志「うへぇ、これはまた随分と、立派だね」

摩耶花「すごい……」

今、俺達の目の前にあるのは……千反田の家までとは言わないが、立派な別荘であった。

入須「見ていても何も起こらんぞ、中に荷物を置こう」

呆気に取られる俺達に、苦笑いしながら入須が声を掛けた。

奉太郎「そうですね、電車が遅れていたせいで……いつにも増して疲れました」

里志「はは、ホータローらしい」

無理も無い、電車は何かしらの大きな工事があるらしく、一時間も遅れていたのだ。

本数も減っていたせいで、ホームでかなりの時間待たされた。

明日には通常に戻るらしいが……いや、今日いっぱいの工事が明日に延期されてしまっては、俺にはとても神山市まで帰れる気がしない。

そんな事を思いながら、別荘の中へと入る。

中は洋風な感じで、しっかりと掃除されているそれは、なんだか居心地が良かった。

奉太郎「いい所ですね」

入須「そう言ってくれると嬉しいな」

奉太郎「ミステリー映画の撮影に、良さそうです」

俺はふと思いついた冗談を口にすると、入須は困った様な顔をしながら言う。

入須「……君は本当に、執念深いな」

奉太郎「冗談ですよ」

入須「ならいいが……」

そんな会話をしながら、部屋を案内される。

どうやら一人一部屋あるらしく、入須家の恐ろしさを身を持って知る事となった。

その後、全員が荷物を置き、リビングへと集まる。

入須「さて、どうしようか」

里志「海に行きたいですね」

入須「……それは明日にしないか?」

摩耶花「何か、理由があるんですか?」

入須「理由と言うほどの事でも無いが……どうせなら」

入須「全員で、行こう」

そうか、千反田がこの場には居ないのか。

それをちゃんと考える辺り、入須はただの冷血な奴では無いのだろう。

まあそれは、去年の事でも分かっていたが。

奉太郎「じゃあ、どうするんですか」

入須「そうだな……」

入須「この辺りの町を、紹介するよ」

入須「一緒に行こうか」

つまりは、歩くと言う事か。

だが……今は簡便してほしい。

奉太郎「あー、俺はちょっと」

摩耶花「何よ、また面倒とか言う気?」

奉太郎「いや……面倒なのは面倒なんだが」

摩耶花「……?」

里志「はは、ホータローはここで寝ていた方が良さそうだ」

入須「なんだ、来ないのか?」

里志「いやいや、ホータローも来たい気持ちはあるみたいですよ」

摩耶花「なら、なんで?」

里志「今の顔、酔ってる顔だから」

その通り、電車の酔いが、俺にはまだ残っていたのだ。

立ち止まったり、座っている分には平気だが……歩くとなると、ちと辛い。

入須「ふふ、そうか」

入須「なら折木君はここで休んでいると良い」

入須「夜には花火大会が始まるしな」

入須「それまでには、体調を治してくれよ」

奉太郎「……すいませんね」

俺は入須にそう言い、先程荷物を置いた部屋へと向かった。

……やはり俺は、前に伊原が言っていた様に、イベントを楽しめないのかもしれない。

そんな事を考え、扉を開ける。

部屋の窓からは、綺麗な海が見えていた。

明日は、海か。

里志に事前に言われ、一応は水着は持ってきて居たのだが……まあ見ているだけでもいいか。

そして俺は、ベッドへと横たわる。

……ああ、待てよ。

と言う事は……千反田も、水着を着るのか。

見ているだけでは駄目だ、いやむしろ……見るのすら駄目だ。

違う違う、今はそんな事を考える時では無いだろう。

……体調が悪くなるのは、明日の方が良かったかもしれない。

そう俺は結論を付けると、ゆっくりと目を閉じた。


第14話
おわり

以上で第14話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

節分の話、私も読みました!
巫女姿のえるたそ……気になります

次回で長らく続いていた回想も終わりです。
投下予定は明日の夜頃に!

こんばんは。

第15話、投下致します。

俺は再び、意識を引き戻す。

そろそろ……千反田がここに来る。

入須「……まだかな?」

奉太郎「黙っていてくれるんじゃ、無かったんですか」

入須「すまんな、私もあまり……気が長い方では無いんだ」

奉太郎「そうですか」

入須「それに、そろそろ千反田が来るぞ?」

そう言い、入須が指を指す。

そっちに俺は視線を移すと、小さく……小さく人影が見えた。

ああ、くそ。

もう一度、後一回だけ意識を過去に向けよう。

そうすれば、きっと答えが出る筈だ。

花火大会もいよいよ、終盤へと向かっている。

一際派手にあがる花火を一度見て、視線を地面へと向ける。

あの後だ……俺が目を覚ましたら、確か。

過去

~別荘~

入須「折木君、まだ寝ているのか」

奉太郎「……ん」

その言葉で、俺はゆっくりと目を開けた。

奉太郎「……勝手に、部屋に入らないでくださいよ」

入須「ここは私の別荘だぞ、つまりこの部屋も私のだ」

奉太郎「……さいですか」

寝起きは最悪だった、そんな気分を表す様に、部屋が随分と暗い。

奉太郎「あれ、もう夜ですか」

入須「ああ、私はついさっき戻ってきた所だよ」

入須「今は19時くらい、かな」

奉太郎「そうですか……あ」

奉太郎「花火大会って、何時からでしたっけ」

入須「20時からだ、だからなるべく急いでくれるとありがたいな」

それは最初に言うべき事では無いのだろうか。

まあいい、準備をするか。

俺は適当に返事をした後、身支度を整える。

そして入須と一緒に別荘を出た時、ある事に気付いた。

奉太郎「そういえば」

奉太郎「里志と、伊原は?」

入須「ああ、彼らなら二人で花火を見ると言っていた」

入須「まあ、恋人同士なら、そうしたいのが本音だったんだろうな」

奉太郎「……そうですか」

奉太郎「それで、千反田は?」

入須「まだ来ていないよ」

入須「電話はあったが、電車が遅れているせいで……もしかしたら間に合わないかもな」

奉太郎「なるほど」

奉太郎「つまりは入須先輩と二人っきりって事ですか」

入須「何だ、やはり私と二人は嫌か」

奉太郎「……別に、そういう訳では無いです」

入須「また、千反田に勘違いされたらと考えているのか」

入須「私と折木君が、特別な関係の様に」

奉太郎「入須先輩」

奉太郎「……いくら俺でも、それ以上言うなら怒りますよ」

入須「……すまんな、冗談だ」

入須「千反田がそんな勘違いをもう起こさない事等、私は分かっているさ」

入須「あいつは、賢いからな」

奉太郎「……すみません」

奉太郎「それじゃ、行きますか」

~高台への道~

入須「まだ時間はありそうだな」

入須「何か、話でもしながら歩くか」

奉太郎「話、ですか」

奉太郎「……俺が気になるのは、花火師の人の事ですね」

入須「花火師の?」

奉太郎「はい」

奉太郎「その人は、どんな人ですか?」

入須「そうだな……」

入須「一言で言うなら……やはり、仕事一筋、と言った所だ」

入須「奥さんにも、子供にも、あまり優しい姿を見せてはいなかった」

入須「自分の仕事に誇りを持っていて、何より信念を持っていた」

入須「そんな人だよ」

奉太郎「なるほど、やはり」

奉太郎「素晴らしい花火が、期待できそうですね」

入須「そうとも、私が一番好きな花火だ」

入須がここまで言い切ると言う事は、多分誰から見ても……素晴らしい物なのだろう。

入須「私が思ったのは……」

奉太郎「何ですか」

入須「君と、その花火師はどこか似ている、と言った所だな」

はあ、俺とその花火師が似ている……か。

奉太郎「あり得ませんよ」

奉太郎「第一、俺はそんな面倒な事はしません」

奉太郎「仕事で選ぶとしたら、絶対に無いですね」

奉太郎「それにその仕事に、信念やプライドを持つ事も、無いと思いますよ」

入須「きっぱりと言い切るのだな」

入須「観点を、変えてみたらどうだろうか」

奉太郎「観点を?」

入須「ああ」

入須「私が聞くに、君は省エネをモットーとしている」

また姉貴か、余計な事を。

入須「それを花火師の仕事と置き換えるんだ」

入須「君はそのモットーに感じているのは、信念だろう」

奉太郎「……どうでしょうかね」

入須「私から見たら、似ているよ」

やはり……俺にはとても、そうは思えない。

~高台~

入須は時計に目をやっていた。

入須「そろそろ20時か」

俺は設置されていたベンチに腰を掛け、その時を待っている。

入須「君は、花火は好きか?」

奉太郎「どちらでも無い、と言ったほうが本当でしょうね」

入須「そうか」

入須は手すりに背中を預けながら、腕を組んでいた。

奉太郎「不満ですか?」

入須「不満……とはどう言う事かな」

奉太郎「折角の花火大会、それに招待したのにそんな感想で」

入須「ふふ」

入須「……君の事は少しは分かっているつもりだ」

入須「だから別に、不満と言う事も無いかな」

入須「ある程度は予想できていたと言う事だ」

奉太郎「それなら……いいですが」

入須「君は、おかしな奴だな」

真顔で言われると、なんだか嫌だな。

奉太郎「そう言う事を、単刀直入に言うのはやめた方がいいと思います」

入須「だってそうだろう」

入須「それなら良い、と言うくらいなら……最初から、どちらでも無いなんて言わなければいいじゃないか」

奉太郎「……俺は」

奉太郎「嘘はあまり、好きでは無いので」

入須「……ふふ、そうか」

入須「そう言えば」

入須「千反田も、嘘はあまり好きでは無かったな」

その時の入須の顔は、本当に嫌な笑い方をしていた。

奉太郎「……それは、初耳です」

俺がそう言うと、入須は眉を吊り上げながら、口を開いた。

入須「何だ、嘘は嫌いなんじゃなかったのか」

奉太郎「……全く」

奉太郎「嘘よりも、あなたの事が嫌いになりそうですよ」

入須「……それもまた、嘘だと良いのだがな」

奉太郎「さあ、どうでしょうね」

その時、夜風が一際強く吹く。

夏はまだ始まったばかりなのに、その風はとても冷たく、俺は少しだけ身震いをした。

入須「……おかしいな」

奉太郎「おかしいとは、俺の事ですか?」

入須「いいや、違う」

何だ、さっきまでの空気とは変わって……入須は少し、いや、いつも通り真面目な顔をしていた。

奉太郎「では、何がおかしいと言うんですか」

入須「あれだよ」

そう言いながら、入須が指を指したのは時計。

俺は促されるまま時計に目を移す。

奉太郎「20時10分ですね」

奉太郎「別に、おかしい所はありませんが」

入須「はあ……」

入須「君は何の為にここまで来たのか、忘れたと言うのか」

何の為だったか……

ああ、そうだ、花火だ。

奉太郎「遅れているんじゃないですか?」

入須「いいや、それはあり得ない」

入須「私は今日、一度彼に会っているんだ」

彼……とは、花火師の事だろう。

入須「準備は完璧だった」

奉太郎「なら、その後に何か予想外の事が起きて」

入須「それも無いな」

入須「彼はこの仕事に……大袈裟に言えば、命を賭けていた」

入須「そのくらい、誇りに思っていたんだ」

入須「それはさっきも言っただろう」

入須「私は小さい時から、彼の花火を見ている」

入須「1分くらいの前後なら、時計のずれとも言えるがな」

入須「ここまで遅れた事は……今まで無かった」

ふむ……つまり、よく分からん。

奉太郎「まあ、その内始まるでしょう」

入須「だと良いんだが」

入須「……少し、心配だな」

そう言う入須の顔は、どこか寂しげで……

気付いたら俺は、顔を入須から背けていた。

多分、いつもの入須らしくない入須を、見たくなかったのだろう。

奉太郎「まあ、気楽に考えましょう」

入須「……ああ」

それから5分、10分と経つが、花火大会は始まらない。

入須はどこか、そわそわしている様子だった。

奉太郎「先輩らしく無いですね」

入須「ふふ、君が私の何を知っているんだ」

奉太郎「……何も」

入須「本当に、おかしな奴だな……君は」

入須はそう言い、俺の隣に腰を掛けた。

入須「一つ、問題を出そうか」

奉太郎「結構です」

入須「聞くだけでも聞け」

入須「君なら多分、分かるしな。 私も解決して欲しい問題だ」

……ううむ、どうしようか。

まあ、何もしないで待っているよりは、いくらかマシか。

それに……俺が今日ここに居るのも、入須の招待あってこそだしな。

考えても、罰は当たらないか。

奉太郎「分かりましたよ、何ですか?」

入須「君ならそう言ってくれると思ってた」

入須「私が提示する問題は一つ」

入須「何故、今日……花火大会が未だに始まっていないのか、だ」

……また無茶な。

奉太郎「それが俺に分かる訳が無いでしょう」

入須「どうだろうな」

入須は何がおかしいのか、笑っていた。

奉太郎「まあ、頭の隅には、一応置いておきます」

入須「ああ」

~現在~

ああ、そうだった。

そうして俺は入須の問題へと取り組む事になったのだ。

そう思い、顔を上に戻した。

える「私、気になります!」

奉太郎「うわっ!」

勢い余って、ベンチから落ちそうになる。

奉太郎「ち、千反田か」

奉太郎「いきなり声を出すな、びっくりするだろ」

える「いえ、何度か声を掛けましたよ」

える「でも、考えている様子だったので……」

俺はそれほどまでに、しっかりと考えていたのか。

奉太郎「それで、お前が気になると言うのは」

える「入須さんと同じ事です!」

それを聞き、視線を入須に移す。

入須「暇だったからな、全て説明しておいた」

くそ、最初からこれが狙いだったのでは無いだろうか。

まあでも、千反田が見えた時点でこの展開は予想できていた。

える「それで、何か分かりましたか?」

奉太郎「花火大会が遅れた理由、か」

える「勿論です!」

える「仕事一筋の方が、何故最後の花火大会と言う一大行事で失敗をしたのか」

える「何故、失敗をする事になったのか」

える「万全の準備が出来ていたにも関わらず、何故それが起きてしまったのか」

える「私、気になります」

俺は千反田の言葉をしっかりと聞き、返す。

奉太郎「……失敗とは、少し違うかもしれない」

える「それは……どういう事ですか?」

過去を遡ったおかげで、大体の答えは出ていた。

確認するべき事は、あと一つ。

奉太郎「入須先輩」

入須「ん、どうした?」

奉太郎「今日も、花火師の奥さんは仕事に?」

入須「ええっと、どうだったかな」

入須「昼間、挨拶した時は見えなかったから、恐らくそうだろう」

奉太郎「そうですか、ありがとうございます」

やはり、そうか。

ならもう、答えは出た。

なんとか間に合ったと言う所だが……間に合った物は間に合ったのだ。

奉太郎「じゃあ、何故……花火大会が遅れたのか、説明するか」

える「はい!」

奉太郎「まず第一に、今日の花火大会は20時に予定されていた」

奉太郎「それにも関わらず、始まったのは21時だ」

える「ええ、そう聞いています」

奉太郎「一時間のずれ……千反田は何を予想する?」

える「ええっと、そうですね」

える「準備不足、花火の設置ミスが考えられます」

える「後は……あまり言いたくないですが、急病なども」

奉太郎「大体、そうだろうな」

奉太郎「入須先輩、急病は考えられますか?」

入須「……無いと思うな」

入須「風邪にも滅多に掛からない人だ、考えられない」

入須「勿論、断言はできないが」

奉太郎「それだけ聞ければ十分です」

える「でも、そうなると……準備不足などでしょうか?」

入須「いいや、それもあり得ない」

奉太郎「そう、入須先輩が昼間に確認した時は、完璧に準備は出来ていたんだ」

奉太郎「つまり、先程、千反田があげた理由は全てが違う」

える「それなら、何故?」

奉太郎「……」

らしくないな、俺がこれを言うのはらしくない。

だが、それしか……そう答えを出すしか無かった。

……

いや、違う。

俺は、期待していたのか。

そうあって欲しいと。

奉太郎「今日、千反田は花火を見る事が出来たか?」

俺がそう言うと、未だにあがり続ける花火に一度目を移し、千反田は口を開く。

える「ええっと? 今現在、見れていますよ」

奉太郎「そうだ」

奉太郎「だが、通常通りの時間……20時に始まっていたらどうだ?」

える「……恐らく、見れなかったでしょうね」

入須「……そう言う事か」

どうやら、入須は分かった様だ。

さすがと言うべきか、だが少し……気付くのが早すぎでは無いだろうか?

ま、そんな事今はどうでもいいか。

俺はそう結論付け、話を再開する。

奉太郎「そう、そうなんだ」

奉太郎「今は22時を過ぎた所、通常通り行われていたら」

奉太郎「もう、終わっている時間なんだよ」

える「でも、それとどう関係が?」

える「まさか、私の為に大会が遅れた等は、言いませんよね」

奉太郎「……俺が、花火師だったとしたら」

奉太郎「その可能性もあったな」

そう俺が言った言葉は、花火の音に掻き消され、千反田には届いていなかった。

える「あの、今何て言いました?」

奉太郎「花火師は……奥さんの為に、大会を遅らせたんだろうな」

える「奥さんの、為ですか」

奉太郎「ああ、そうだ」

奉太郎「千反田がここに来るのに遅れた理由は、何だ」

える「ええっと、電車が遅れていたせい、ですね」

奉太郎「その通り」

奉太郎「それに巻き込まれたのは、花火師の奥さんも同じだったんだよ」

える「……と言う事は」

奉太郎「……自分があげる最後の花火」

奉太郎「それを、自分が一番好きな人に」

奉太郎「見て欲しかったんだと思う」

える「……」

入須が提示した問題、千反田が俺の目の前に出した問題。

その問題の答えを千反田に教えると、しばらく千反田は黙って花火を見ていた。

何度かまた、花火があがる。

それを見ながら、千反田はようやく口を開いた。

える「素敵、ですね」

奉太郎「……意外だな」

える「私が、大会が遅れた理由を素敵と言った事がですか?」

奉太郎「ああ」

える「……誰でも、そう思うのでは無いでしょうか」

奉太郎「……そうかもしれないな」

える「折木さんは、どう思いました?」

俺か、俺は。

奉太郎「……自分の信念を曲げ、最後は愛する人の為になる事をした」

奉太郎「それを悪い事とは、言えないさ」

える「ふふ、そうですよね」

そうして、俺と千反田、入須は最後の花火があがり、夜空に消えるまで、口を開く事は無かった。

~帰り道~

入須「やはり、折木君に答えを求めたのは正解だったな」

奉太郎「……それが合ってるかも分からないのにですか?」

入須「間違ってはいないだろう」

入須「この中で一番、花火師と付き合いが長い私が言うんだ」

入須「君の答えは、正解だよ」

奉太郎「……そりゃどうも」

そう言い、自然と入須は俺と千反田の前を歩く。

千反田と横に並び、帰るまでの道を歩く事となった。

奉太郎「さっき、俺が言った事だが」

える「えっと」

える「折木さんが意外と言った事ですか?」

奉太郎「ああ」

奉太郎「千反田は、今回の事……見覚えが無いか?」

える「見覚え……」

える「すいません、無いですね」

奉太郎「俺は、似たような事が前に合ったのを覚えている」

える「それは、私も知っている事でしょうか」

奉太郎「勿論」

奉太郎「そうじゃなきゃ、聞かないさ」

千反田は腕を組みながら、しばらく考えた後に、口を開く。

える「ごめんなさい、私にはやはり……」

そうだろうな。

千反田には、分からない事だろうから。

奉太郎「……前に、雛祭りがあっただろ」

える「今年の、ですか?」

奉太郎「いや……去年のだ」

える「去年の……」

奉太郎「その時、通常とは違うルートを通った筈だ」

える「あ、そんな事もありましたね」

奉太郎「ええっと、誰だったか」

奉太郎「あの、茶髪のせいで」

える「ふふ、小成さんの息子さんですね」

奉太郎「そうそう」

える「もう少し、人の名前を覚えた方が良いですよ」

奉太郎「……努力はするさ」

ええっと、それで何の話だったっけか。

奉太郎「ああ、それで」

奉太郎「あの時、俺は言ったよな」

奉太郎「茶髪が違うルートにしたかった理由を」

える「ええ、覚えています」

える「その……行列が、桜の下を通る姿を」

その行列のメインは勿論、雛である千反田だ。

それを分かっていてか、少しだけ恥ずかしそうに千反田は言った。

奉太郎「それで、それに千反田は何て答えたか覚えているか?」

える「……確か、そんな事のために、と」

奉太郎「そうだ、そう言った」

える「えっと、それと今回の事に、何の関係が?」

奉太郎「……俺は、あの時、千反田がそう言った時」

奉太郎「そんな事とは、全然思えなかった」

える「……それは、どういう意味でしょうか」

奉太郎「あの茶髪は、自分が良い写真を撮りたい為に、ルートを外させた」

奉太郎「花火師は、奥さんの為に、花火大会を遅らせた」

奉太郎「そのどちらも、極端に言えば自分の為だろう」

える「……そうなりますね」

奉太郎「でも、それでも」

奉太郎「他にも、救われた人が居るんだ」

奉太郎「花火大会が遅れた事で、千反田は間に合った」

奉太郎「そして、行列が桜の下を通ることで」

奉太郎「……俺は、今までで一番綺麗な景色を見れた」

える「あ、あの……それって、折木さん」

奉太郎「後ろから見ていても、綺麗だった」

奉太郎「どんな景色よりも……いい物だったよ」

える「……は、恥ずかしいです」

奉太郎「……すまん」

奉太郎「俺らしく、無かったな」

える「い、いえ……良いんです」

俺はその後、前からお前の顔を見たかったと言おうとした。

しかし、口をモゴモゴさせながら、ありがとうございますと言う千反田を見たら、どうしても言葉には出来なかった。

……多分、恥ずかしかったんだと思う。

どうにも自分の事は、分かり辛い。

入須「そろそろ着くぞ」

ふいに入須が、声を掛けてきた。

気付けばもう、別荘が見えている。

……なんだか今日一日で、物凄いエネルギーを使った気がするな。

しかしどうにも、まだ引っ掛かる事が俺の中にはあった。

あいつは、最初から全て分かっていたのでは無いだろうか。

花火大会が遅れた理由を。

奉太郎「……やはり、苦手だ」

そんな俺の呟きが聞こえたのか、入須は振り向きながら、口を開く。

入須「結論が出た所で、もう一度言うが」

入須「似ているよ、君は」

ああくそ、まんまと嵌められたって訳だ。

……今度誘われたとしても、断る方向にしよう。

次に花火を見る時は、そうだな。

千反田と二人でと言うのも、悪くないな。


第15話
おわり

以上で第15話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

そしてもう700レス……

今回はさすがに、1スレ内で終わりそうにないですね。

>>711
乙です!
次は水着回···!
誰か絵のうまい人、3人娘の水着絵を···!

>>713
お呼びでしょうか?

と言っても、私の絵を見て亡くなられた方が出たら笑えないのでやめておきます……

実は絵が下手なのは自覚しています、ここだけの話。

乙です。良い話ですね。
選択は関係なかった>過去の僕。(笑)
拙作を読んでくださった方、ありがとうございました。上手くなりたい。
レス書きすぎですかね。すみません。

やっと追いついた・・・
閑話として里志とまやかのデート風景も書いてもらえたら発狂する。

>>721
いえいえ、どんな事でもレスを見る度にニヤニヤしているので大丈夫です。
それと遅れましたが、紹介で名前を出して頂けて光栄です。
ありがとうございます。

>>722
本編が終わりましたら、合い間合い間の短編をいくつか書くつもりです。
その本編はまだ完結までは掛かりそうですが……


次回投下は一応、明日の夜を予定しております。

こんばんは。

第16話、投下致します。

奉太郎「……ふわぁあ」

大きなあくびをしながら起きる。

昨日はここに戻ってきたから、随分とぐっすりと眠れた。

昼間散々寝ていたせいで、少々心配だったが……

恐らく、頭をいつもより働かせたせいだろう。

部屋の時計によると、まだ朝の6時、俺にしては随分早起き出来た物だ……と自分を褒めたい。

奉太郎「とりあえず、寝癖直すか」

毎度毎度、この寝癖は俺を悩ませる。

里志や伊原に相談すれば、短く切ればいい等と言うだろうが、それもまた面倒なのだ。

しかし、結果的に見れば……そうするのが効率良くなるのかもしれない。

そう思う物の、髪を切ろうと思わない辺り、俺はやはりこの髪型が気に入ってるのだろう。

奉太郎「……どうでもいいな」

そんな独り言をしながら、洗面所で寝癖を直していた。

摩耶花「……おはよ」

後ろから声が掛かる。

奉太郎「ああ……おはよう」

伊原の元気の無さから、こいつも多分朝は苦手な方だと予測できる。

丁度寝癖は直し終わったし、伊原にその場所は譲る事にした。

……本当の所は、既に機嫌が悪そうな伊原の機嫌を更に損ねたく無かったからだが。

俺はそのままの足で、一度ベランダへと出た。

外に出ると、朝が早いだけあり、風が涼しい。

える「おはようございます、折木さん」

そしてそこにはどうやら、先客が居た様だ。

奉太郎「……早起きだな」

える「折木さんこそ」

奉太郎「俺は昨日、昼間少し寝ていたしな」

える「そうだったんですか」

奉太郎「ああ」

そこで一度、会話が途切れる。

心なしか、千反田が何か聞きたそうにこちらを見ていた。

奉太郎「……気になる事でもあったか」

える「良く分かりましたね」

……いや、そこまでそわそわしていたら誰でも分かるだろうに。

える「折木さんは何故、お昼に寝ていたのですか?」

これは……朝から、失言だったか。

それに答えるのは、面倒と言うよりは……言いたく無い。

奉太郎「……里志にでも、聞いておけ」

える「福部さんですか……今はまだ、寝ているので」

奉太郎「なら、伊原でもいい」

える「摩耶花さんは、一人の方が楽そうだったので」

奉太郎「じゃあ、入須でもいいだろ」

える「そうですね、そうします」

とりあえずこれで、今の所は回避出来た。

後は入須が俺の気持ちを考えてくれるかどうかだが、どうだろう。

える「何故ですか?」

今、入須に聞くと言ったばかりなのに、何を言っているんだこいつは。

俺が千反田のその質問に口を開こうとした時、後ろから声がした。

入須「うーん、言ってもいいか?」

いつから居たのか、入須の声が後ろからする。

奉太郎「……おはようございます」

入須「ああ、おはよう」

奉太郎「居るなら居ると、言ってくださいよ」

入須「すまんな、千反田は気づいていた様だったが」

える「ええ、すぐに気付きました」

える「入須さんの足音がしたので」

さいで。

える「それより、です」

える「入須さん、何故ですか?」

千反田がそう聞くと、入須は一度俺の方に視線を移す。

奉太郎「そこまで言ったなら、話してもいいんじゃないですか」

入須「君がそう言うなら、いいか」

奉太郎「俺は一足先に中に戻っています」

そう言い残し、俺は部屋の中へと戻る。

……今の最善手は、何だっただろうか。

むしろ、俺が昼間寝ていた原因を隠す必要が……無いな。

客観的に見れば、そんな所か。

そうして俺は一度、自分の部屋へと戻る。

ベッドの上で一時間ほど本を読み、やがて入須に呼び出され、朝飯を食べる事となる。

俺と千反田と伊原と入須。

里志はまあ……まだ寝ているのだろう。

朝はどうやら、千反田達で飯を作った様で、かなり美味しかった。

唯一不満があるとすれば、俺が昼間寝ていた理由を聞いたであろう千反田が、にこにことしながら俺を見ている事だったが。

朝飯を食べ終わり、ゆっくりとした時間が流れる。

奉太郎「そう言えば、伊原は昨日どうだったんだ」

摩耶花「えっと、花火大会?」

奉太郎「それ以外に何かあったか」

摩耶花「一応の確認でしょ、別にいいじゃない」

奉太郎「大会は遅れただろ、花火は見れたか?」

摩耶花「まあ、うん」

摩耶花「見れたよ」

える「どうでした、花火は」

摩耶花「すごく、良かった」

そう言う事に大して感情を抱かない俺が、綺麗な花火だと思ったのだ。

伊原が感じた事は……とても俺には想像できないな。

入須「今年で彼の花火は終わりだが、来年もきっと素晴らしい物が見れるさ」

入須はそう言いながら、人数分のコーヒーを持ってくる。

奉太郎「ありがとうございます」

俺はそれを受け取り、一口飲んだ。

……実に良い、甘すぎないし、丁度良い。

あれ、待てよ。

奉太郎「千反田、それコーヒーだぞ」

える「あ、そうですね」

入須「なんだ、嫌いだったか」

える「嫌い、と言う訳では無いのですが……」

奉太郎「飲ませない方が良いと、言っておきます」

摩耶花「なになに、折木は何か知ってるの?」

える「あの、そのですね」

奉太郎「……性格が変わる」

摩耶花「ちーちゃんの?」

千反田がコーヒーを飲む、そして俺の性格が変わったらどうするんだ、こいつは。

奉太郎「ああ、そうだ」

摩耶花「それ……ちょっと気になるかも」

える「や、やめてください」

入須「ふふ、まあそうならやめておこう」

入須「お茶を淹れて来るよ」

える「すいません、ありがとうございます」

千反田が頭を下げると、入須は軽く手をあげ返事をし、台所へと戻って行った。

摩耶花「それで、どんな風になるの?」

奉太郎「聞きたいか?」

摩耶花「……うん」

える「ふ、二人とも駄目ですよ!」

奉太郎「との事だが」

摩耶花「残念……気になるなぁ」

える「もうこの話は終わりです、違うお話をしましょう」

あからさまに慌てている千反田を眺めるのも、中々面白い物だ。

奉太郎「ま、いつか機会があったらと言う事で」

摩耶花「りょーかい、楽しみにしておくわね」

える「そんな機会、来ませんよ!」

摩耶花「それで、どんな風になるの?」

奉太郎「聞きたいか?」

摩耶花「……うん」

える「ふ、二人とも駄目ですよ!」

奉太郎「との事だが」

摩耶花「残念……気になるなぁ」

える「もうこの話は終わりです、違うお話をしましょう」

あからさまに慌てている千反田を眺めるのも、中々面白い物だ。

奉太郎「ま、いつか機会があったらと言う事で」

摩耶花「りょーかい、楽しみにしておくわね」

える「そんな機会、来ませんよ!」

それから他愛も無い話をし、時を過ごす。

珍しく俺も、その輪の中に入れていた。

そして、里志も起きて来て何十分か過ごした後、俺がこの旅行でもっとも回避したかった出来事が訪れる。

里志「じゃあ、そろそろ海に行こうか」

入須「そうだな、今日は天気も良い」

える「楽しみです!」

摩耶花「折木も来るのよ? もう具合も良くなってるでしょ」

……来てしまった物は仕方ない。

潔く、諦めよう。

~海~

里志「うわ、すごく綺麗な所だね」

摩耶花「そうね……でも人が全然居ないのは何で?」

入須「ああ、プライベートビーチみたいな物だからな」

……何て人だ。

える「海は久しぶりですね、去年の夏は入れなかったので」

千反田はいつかのプールの時と同じ水着を着ていた。

やはり、目のやり場に困ってしまう。

里志「それじゃ、入ろうか」

里志の言葉を受け、俺と入須を除く三人は海へと入って行った。

俺は、まあ……海でわいわい遊ぶと言う性格でも無いので、砂浜に腰を掛ける。

入須「何だ、入らないのか?」

そう言い、入須は俺の横へと腰を掛けた。

奉太郎「入須先輩こそ、入らないんですか」

入須「私は、まあ」

奉太郎「そうですか」

にしても、本当に綺麗な所だな。

空には雲一つ無く、日本の海とは思えない程に透き通った色をしている。

奉太郎「入須先輩は、昨日の事……最初から分かっていたんですか?」

入須「……さあ、どうだろうな」

奉太郎「ま、別にいいですけど」

そんな会話をしながら、海で遊ぶ里志達を眺めていた。

どこから持ってきたのか、ビーチボールで遊んでいる。

奉太郎「……大学は、どうですか」

入須「大学か」

入須「楽しい所だよ」

入須「だがやはり、高校の方が楽しかったかもな」

奉太郎「これから、大学へ行くであろう本人に言う台詞がそれですか」

入須「なんだ、嘘でも高校より楽しいと言えばいいのか?」

奉太郎「……」

奉太郎「先輩は」

奉太郎「後悔していますか、去年の事」

俺が言っているのは、去年俺と入須が……千反田を、傷付けた事だ。

入須「そうだな……どうだろう」

入須「でも結局は、君と千反田の距離は縮まったのでは無いか」

奉太郎「まあ……そうかもしれませんが」

入須「千反田を傷付けてしまった事は、後悔しているよ」

奉太郎「……でしょうね」

入須「ここだけの話だがな」

入須「先輩は、珍しく落ち込んでいたよ」

入須が指す人物とは、俺の姉貴の事だろう。

奉太郎「そうですか」

入須「君が言った通りだった……先輩も、後悔していたんだ」

奉太郎「なら結局、あの計画では……誰が、救われたんでしょうね」

入須「決まっている、誰も救われていない」

……だろうな。

入須「でも、それはあの当時での事だ」

奉太郎「当時の? どういう意味ですか」

入須「……もしかすると、次に繋がっていたのかもしれない」

奉太郎「すいません、少し意味が分かりかねます」

入須「……はっきり言うか」

そう言うと、入須は俺の方に顔を向ける。

入須「あそこで、君と千反田が近づいていなかったらどうなっていたと思う?」

入須「私が計画を拒否し、何も起こらなかったとしたら」

奉太郎「……それは」

恐らく、何も変わらない日々が過ぎていた。

俺と千反田は以前の距離を維持して、その距離を縮める事は……無かったのでは無いだろうか。

あれだけの事が無ければ、俺から千反田に歩み寄る事も無かったし、千反田もそうだろう。

そして多分、千反田の父親の話を聞いた日。

俺が千反田の気持ちを理解しようとしなければ、あの日に公園に行くことも無かったのかもしれない。

それは本当に、何も無い、今まで通りの折木奉太郎だろう。

良く言えば、自分のモットーを貫き通していると言える。

しかし悪く言えば、変わろうとしていないと言う事か。

ああ、なるほど。

……やはり入須は、昨日の事は分かっていたのだ。

奉太郎「苦手です、入須先輩は」

入須「君の言葉を借りると、本人の前で言う事では無い、と言った所だな」

奉太郎「それはすいませんでした、失言ですね」

入須「ふふ、そうだな」

まあ、苦手ではあるが……嫌いでは、無いか。

そんな事を考えながら、顔を再び里志達の方に向けた。

目の前に、誰かが居る。

入須と話し込んでいて全く気付かなかった。

空気で分かる、それは千反田だ。

俺はそいつに目を移す。

……手には、ビーチボール?

瞬間、俺がその状況を理解する前に、千反田によって放たれたボールが顔に命中する。

える「ご、ごめんなさい!」

そう言いながら、逃げていく千反田が見えた。

プールの時も確か、同じ様な事をされた気がする。

あの時は何も考えていなかったせいで受け流してしまったが……今は違う。

奉太郎「……千反田」

俺は逃げる千反田に向かって、聞こえるくらいの声を出した。

える「え、はい!」

千反田は振り返り、俺の話に耳を傾ける。

奉太郎「俺が今、やるべき事は何か分かるか」

える「えっと、それは……どういう事でしょうか」

奉太郎「手短に、終わらせよう」

冷や汗を掻きながら後ずさりする千反田に向かって、ボールを放った。

見事に命中し、倒れる千反田。

摩耶花「うわ、折木ひどーい!」

伊原がそれを見て、声を荒げる。

奉太郎「やり返しただけだ、別に酷くもなんとも無い」

我ながら、その通りである。

里志「まあまあ、手をあげるのは良くないよ、ホータロー」

……そう言いつつも、何故俺を羽交い絞めにする?

摩耶花「ちーちゃん、チャンスチャンス!」

待て待て! 卑怯では無いだろうか。

える「お返しです、折木さん!」

そう言い、俺に向かってボールを投げてきた。

しかしそれは俺の顔の横を通り過ぎ、後ろに居た里志へと当たる。

奉太郎「どうやら良い腕をしている様だ、千反田は」

倒れた里志に向かって、俺はそう言った。

里志「千反田さん」

える「え、ええっと……」

里志「自分がした事は、自分の下へと帰ってくるんだよ」

矛先はどうやら、俺から千反田へと向かった様だ。

これでようやく、俺もゆっくりできると言う物である。

しかし、それを考えられたのも一瞬であった。

里志が投げたボールは、手から滑り、入須へと当たる。

入須「福部くん」

入須「……自分が言った言葉は、忘れていないだろうな」

おお、入須の顔が恐ろしい。

もしかすると、伊原のそれよりも怖いかもしれない。

俺は無関係を装い、その場から少し距離を取った。

省エネ省エネ、眺めている方が安全だ。

そして何より、楽だ。

それからボールを投げ合う四人を眺めつつ、俺は夏の日差しを浴びていた。

実に……俺らしい選択である。

第16話
おわり

以上で第16話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

本日は投下無しですが、代わりに明日、二話投下致します。

ほうたるが目のやり場に困ったのは、えるたそだからです。
入須も水着は着ていましたが、特に興味は無かったようです

こんばんは。

第17話、投下致します。

奉太郎「いつまで遊んでいるんだ、もう夕方だぞ」

俺は溜息を吐きながら、未だに元気良く遊びまわる奴等に声を掛ける。

と言うか、だ。

……入須までもが一緒にはしゃぐとは、思いも寄らなかった。

える「あ、本当ですね」

そんな俺の声に最初に気付いたのは、やはり千反田であった。

そして千反田の発言を聞き、残った者達も駆け寄ってくる。

里志「ごめんごめん、ついつい」

摩耶花「久しぶりに思いっきり遊べたかも」

里志と伊原はそんな事を呟いていた。

入須「……そうだな、良い時間になっている」

はて、良い時間とはどういう意味だろうか。

奉太郎「良い時間ですか?」

入須「ああ、一つ計画してある事があるんだよ」

計画していたにしては、随分と夢中で遊んでいた様だが……別にいいか。

える「なんでしょう……私、気になります」

入須「夏と言えば、だ」

里志「最初に思い浮かぶのは、やっぱり海ですね」

里志の言葉に、入須は頷く。

入須「次に何を想像する?」

摩耶花「えっと、花火かな?」

入須「そうだ」

奉太郎「ですが、花火は昨日見ていますよ」

俺の言葉を聞き、入須はまたしても頷く。

入須「他にもあるだろう?」

他に……?

里志「ああ、そうか!」

里志は気付いたのか、一人満足そうな顔をした。

入須「勿体振る必要も無いな」

入須「バーベキューだ」

確かに、夏と言えばそうか。

奉太郎「でも、材料とかは?」

入須「最初に計画していたと言っただろう、用意してあるよ」

える「さすがです、入須さん」

顔を思いっきり寄せる千反田に、入須は若干身じろぎしていた。

そんな入須の反応が新鮮で、俺はついつい口を開く。

~砂浜~

先ほど遊んでいた場所から少し離れた所で、バーベキューはする事となった。

今はようやく準備が終わり、休憩している所だ。

入須「すまんな、全部任せるつもりでは無かったのだが」

奉太郎「別に良いですよ、自分で言った事ですし」

入須「そうか」

入須はそれだけ言うと、設置されたグリルの方へと歩いて行った。

その姿を見送ると、俺は空を見上げる。

日は既に大分傾いており、かすかに星が光っているのが見えていた。

そんな空に気を取られて居た所で、ふいに俺に声が掛かった。

里志「お疲れ様、ホータロー」

奉太郎「里志か」

里志「なんだい、僕じゃ不満かい?」

奉太郎「いいや、そういう訳じゃない」

この時……俺には少しだけ、気になる事があった。

それを里志にぶつける。

奉太郎「昨日は、どうだった?」

里志「昨日と言うと……花火大会かな?」

奉太郎「ああ、伊原と二人で見たんだろう?」

幸い、砂浜から少し離れた場所で話している俺と里志の声は、料理を作っている千反田、伊原、入須には聞こえないだろう。

里志「僕は皆で見たかったんだけどね」

里志はそう前置きをすると、話し始める。

里志「摩耶花がどうしても二人で見たいって言うからさ」

里志「ホータローには悪いと思っているよ、入須先輩の事は苦手だろう?」

気付いていたのか、まあそれもそうか。

奉太郎「確かに苦手ではあるが……」

奉太郎「それは嫌いという事に繋がる物でもないさ」

里志「それならいいんだけど」

里志「僕は、花火が遅れた事に少しだけ感謝しているんだよ」

奉太郎「感謝? 何でまた」

里志「色々、摩耶花と話せたからね」

里志「花火が始まってたら、そっちに気を取られてそれ所じゃないよ」

奉太郎「なるほど……そうか」

里志と伊原にも、色々とあるのだろう。

その話の内容まで聞くのは、俺の趣味では無い。

里志「それより、驚いたよ」

奉太郎「驚いた?」

何か驚く様な事でもあっただろうか……?

大会が遅れた理由をしれば、恐らく……驚いた、と言うだろうが。

生憎、里志はその理由を知らない。

そんな俺の考えに答えを出すより、先に里志が口を開く。

里志「ホータローが、そんな事を聞いた事にさ」

……何か、おかしな事でも聞いたのか。

奉太郎「別に、変な事は聞いていないと思うんだが」

里志「うん、その通りだよ」

何だ、からかっているのか。

奉太郎「からかうのはやめてくれ、疲れているんだ」

里志「そういうつもりでは、無いよ」

奉太郎「……なら、どういうつもりで?」

里志「それを聞いてきたのが、ホータローだったからだよ」

里志「普通の、例えば千反田さんとかが聞いてくるのなら、分かるよ」

里志「でも、それを聞いてきたのがホータローだったってのが、僕にとって意外だったのさ」

……言われてみれば、そうかもしれない。

奉太郎「少し、気になっただけだ」

奉太郎「深い意味なんて無い」

里志「それだよ、何で深い意味は無いのに聞いたんだい?」

何だ、そんなおかしな事だろうか?

奉太郎「お前は意味の無い質問に、そこまで言うのか」

俺がそう言うと、里志は首を横に振る。

里志「ごめん、言い方が悪かったかもしれない」

里志「手短に言うよ、その方が好みだろう?」

里志「何で君は、しなくてもいい質問をしたんだい?」

……ああ、そうか。

確かにそうだ、俺がした質問は、完全に意味の無い質問である。

昨日、里志と伊原がどうして居ただなんて、知っても何も起きないじゃないか。

なら、どうして俺はそんな質問を?

奉太郎「……そういう事か」

里志の言っている意味が分かり、口からそう漏れた。

豆鉄砲でも食らったかの様に目を開いている俺に向かって、里志は言う。

里志「ま、ホータローも随分と変わったよ」

里志「それじゃあそろそろ、焼けてきたみたいだし、行くね」

最後にそう言うと、里志は入須達の下へと小走りで向かって行った。

奉太郎「変わったのか、俺が」

去年も確か、里志とは似たような事を何度か話している。

今改めて聞いて、俺は思った。

変わった、と。

……元を辿れば、最初からだ。

入須の誘いを断固拒否する事だって出来た。

俺は最初、千反田が絡んでくると省エネが出来ないと思っていた。

しかしそれは、多分違う。

別荘に行こうと入須が言った時、あの時は千反田が居た。

だが、花火大会へ行こうと、入須が別荘で寝る俺に言った時、断る事は出来た筈だ。

何故、断らなかったのだろうか。

それがもしかすると、俺が変わったと言う事なのかもしれない。

……なら、そのきっかけは?

やはり、千反田だろう。

あいつに振り回され、俺は変わったのか。

だがそれでも、そこまで急激な変化がある物だろうか?

……ああ、あれか。

俺の頭に思い出されたのは、去年の暮れの事である。

……あの時程、自分のモットーを呪った事等無かった。

そんな体験が恐らく、俺の中の省エネと言う物を、消そうとしているのかもしれない。

しかしまだ、それに答えは出せそうに無かった。

える「折木さん、食べないんですか?」

急に声が聞こえ、我に帰る。

奉太郎「千反田か」

える「横、座ってもいいですか?」

奉太郎「ああ」

そう俺が答えると、千反田は嬉しそうに笑い、俺の横に腰を掛けた。

える「はい、どうぞ」

そう言いながら千反田が差し出したのは、肉や野菜が乗っている皿だった。

奉太郎「……ありがとう」

俺はそう言い、その皿を受け取る。

える「どうでした、今回の旅行は」

奉太郎「……」

奉太郎「まあ、楽しかった」

える「ふふ」

える「私も楽しかったです」

える「花火を最初から見れなかったのは、残念ですが……」

奉太郎「別に、また違う場所で花火はあるだろ」

える「そうですよね、今度もし見る時は、最初から見たいです」

奉太郎「ああ」

える「それで、ですね」

千反田は少し恥ずかしそうに、口を開く。

える「あの、今度見る時は、一緒に見てくれませんか?」

奉太郎「……驚いた」

える「え、驚いたとは?」

奉太郎「俺も、同じ事を考えていた」

える「そ、そうでしたか! それなら今度、見ましょうね」

奉太郎「……二人でか?」

える「え、ええ。 そのつもり……ですが」

奉太郎「なら、それも俺と同じ考えだ」

える「ふふ、今日の折木さんは、何だか素直ですね」

それではまるで、いつもの俺が素直では無いみたいじゃないか。

奉太郎「冗談だと、言ったらどうする」

える「え、そうだったんですか……?」

本当に心配そうな顔をする千反田を見ていると、これは悪い事をしてしまったと思う。

露ほどにも、冗談だとか等、思っていないのだ。

俺はそんな千反田の視線を避ける為、顔を前に向け、口を開く。

奉太郎「すまん」

奉太郎「今度、見に行こう」

える「……ふふ、喜んで」

横にちらりと視線を移すと、千反田の笑顔があった。

俺はこの瞬間……千反田の顔を見た瞬間、はっとなる。

気付いたのだ、何故さっき、俺の省エネ主義に答えを出せなかったのかを。

もっと早く、そんな事より優先的に答えを出さなければいけない問題があるからだ。

それはつまり……

える「どこかいい場所とか、ありますか?」

こいつとの、関係である。

奉太郎「あの公園……あそこなら、確か見れる筈だな」

はっきりさせなければ、駄目だろう。

俺は呑気に、今年中にと考えていたが……これは俺だけの問題では無いのだ。

千反田も多分、考えている問題だろう。

ならばそんなゆっくりと、考えている暇は無さそうだ。

俺はもしかすると、気付かなければ駄目な……一番気付かなければ駄目な事に、気付けたのかもしれない。

それはこの旅行で、一番大きな収穫だった。

奉太郎「……夏か」

える「今日の折木さんは、なんだかおかしいですね」

える「今は夏ですよ」

奉太郎「何でも無い……そうだな、今は夏だ」

夏が終わる前に、答えを出そう。

それが今考えられる、最短の時間であった。

える「あ、入須さん達が呼んでいますよ」

える「行きましょう、折木さん」

そう言いながら、千反田は立ち上がり、俺に手を差し出す。

奉太郎「……いや、俺は」

もう少し物思いに耽りたかったが、それを許してくれる千反田ではなかった。

える「行きますよ! 折木さん!」

奉太郎「……ああ」

俺はそう言い、差し出される千反田の手を掴んだ。


第17話
おわり

以上で第17話、終わりとなります。

続いて第18話、投下致します。

8月の半ば、俺は今千反田の家へと来ていた。

理由はそう、まだ分からない。

分からないと言うのも変な話だが、千反田から家に来て欲しいと言われ、特にする事も無かったので来ただけの俺に分かる訳も無い。

奉太郎「それで、この暑い中わざわざ来たんだが」

奉太郎「何の用事だったんだ」

える「……ええっと、何でしたっけ」

おいおい、まさか忘れたとでも言うのか。

奉太郎「来て早速だが、帰っていいか」

える「だ、だめです!」

える「あの、ちょっと待っていてください」

そう言うと、千反田はどこかへと小走りで行ってしまった。

……何だ、しっかりと覚えているじゃないか。

それから数分待たされ、千反田は戻ってくる。

両手には何やら大きなケースの様な物を抱えていた。

える「お待たせしました!」

奉太郎「随分大きな物だな」

える「ええ、中身が気になりますか?」

奉太郎「……いや、別に」

える「気になりますか?」

奉太郎「いや、だから」

そこまで言うと、千反田は俺の肩を掴み、顔をぐいっと近づける。

える「気になりますよね!」

奉太郎「……そ、そうだな」

える「ふふ、分かりました」

ほぼ強制的に気になる事にされ、千反田はとても満足そうだった。

そしてそんな顔をしたまま、ケースを開く。

える「これです!」

そう言い、千反田が取り出したのは……浴衣?

奉太郎「それは、浴衣か?」

える「はい、そうです」

奉太郎「……えーっと」

俺が呼び出された理由と、今千反田が持っている浴衣、何か繋がりがあるのだろうか?

もしかしたら、突然呼ばれ、浴衣を出されると言う事に、俺が知らない理由があるのかもしれない。

奉太郎「……」

とりあえず、良く分からないが頭を下げてみた。

える「あの、どうしたんですか?」

あれ、違うか。

奉太郎「……俺が馬鹿なのか分からないが、それと俺が呼び出された理由、どういう意味があるんだ」

える「お祭りに行きましょう!」

……つまりは、この浴衣は特に出した目的は無かったと言う事だろうか。

奉太郎「電話で言えば良かったんじゃないか」

える「まあ、そうなんですが……」

える「……折木さんに、浴衣を見て欲しかったんです」

奉太郎「その……それは祭りの時に見るんだから、今見せる物でも無いだろ」

俺は千反田の事をまともに見る事が出来ず、視線を逸らしながら答えた。

える「本当ですか!」

奉太郎「え、何が」

える「お祭りに行くと言う事がです」

あれ、俺は祭りに行くなんて言ったっけ。

……ああ、祭りの時に見ると言ったのが、そう解釈されたか。

奉太郎「まあ……構わんが」

しかし、俺には特に断る理由は思い当たらなかった。

える「ふふ、良かったです」

里志や伊原、千反田に何か言われなければ、特にやる事の無い夏休みだ。

別に祭りくらい、行っても大して変わらないだろう。

奉太郎「それで、祭りはいつ?」

える「明日です」

奉太郎「急だな」

える「私も、知ったのが今日だったので」

奉太郎「千反田が? 珍しいな」

奉太郎「てっきり神山市の行事は、全部知っている物だと思っていた」

える「ええ、知っていますよ」

奉太郎「……えっと」

前にも確か、こんな感じの事があったな。

話が噛み合っていない……俺の言葉から、何か分かる筈だ。

奉太郎「ああ、そうか」

奉太郎「神山市の祭りでは、無いのか」

える「そうです」

つまりはまた、ここから離れて遠出すると言う事になる。

ま、別にいいか。

奉太郎「遠いのか?」

える「歩いて行ける距離ですよ、安心してください」

……千反田の歩いて行ける距離と言うのが、少し怖いが……いいだろう。

奉太郎「じゃあ、明日は夕方くらいに来ればいいか?」

える「ええ、案内しますので、私の家に一度来てください」

奉太郎「了解、それじゃ今日はこれで」

そう言い、立ち上がる俺の腕を千反田が掴む。

奉太郎「……まだ何かあるのか」

える「折角来たんです、お話でもしましょう」

奉太郎「いや、今日は用事がだな……」

える「あるんですか?」

奉太郎「……無い」

える「なら、大丈夫ですね」

やはり無理矢理にでも電話で済ませるべきだっただろうか。

える「お昼は私が作るので、心配しなくても良いですよ」

……そうでも無いか。

奉太郎「ああ、分かったよ……」

俺はそう言いながら、再び座る。

奉太郎「それで、話と言ってもする話はあるのか?」

える「ええ、少し」

何だろうか、千反田としなければいけない話は……

あるにはある、だが多分、その話では無いか。

える「私が、家の仕事を後回しにした理由です」

奉太郎「……そうか」

なるほど……それは俺も気になっており、何度も聞こうとした。

聞こうとしただけで、実際には一度も聞いていなかったのだ。

える「私は、大学に進む事を選びました」

える「何故か、分かりますか?」

奉太郎「……すまんな、分からん」

える「謝らないでください」

える「私がその道を選んだのは……停滞したかったからです」

停滞……?

える「停滞と言うよりは、回り道と言った方が正しいかもしれません」

える「すぐにでも、家の仕事に就くことは出来ました」

える「父の事も考えると、それが一般的には良い選択なのかもしれません」

える「ですがそれでも、もう少しだけ……外を見たいと思ったんです」

奉太郎「外……か」

える「ええ」

える「今は一度、足を止めたかったんです」

える「そして、思ったんです」

奉太郎「……」

俺は静かに、千反田の話に耳を傾けていた。

える「足を止めて世界を見れば、折木さんの生き方を学べるかもしれないと」

奉太郎「……俺から学ぶ物なんて、無いだろうに」

える「そんな事ありませんよ」

える「折木さんは、私に無い物を……沢山持っていますから」

そんなのは、俺にとっても同じだ。

千反田は……俺に無い物を、沢山持っている。

奉太郎「それで選んだのが、停滞か」

える「はい、そうです」

える「足を止めたら、折木さんとは少し……距離が開いてしまうかもしれません」

える「ですがそれでも、一度見直したかったんです」

……そう言う事だったか。

しかし何か、引っ掛かる事がある。

だがそれを考えるのはあれだ、今じゃない。

今するべき事は、千反田の話に耳を傾ける事だろう。

える「間違いだと、思いますか」

奉太郎「……俺からは、何とも言えないって言うのが正直な感想だ」

奉太郎「それが正解だったか、間違いだったか、なんて物は後にならなきゃ分からないからな」

える「……そうですよね」

奉太郎「だがな」

奉太郎「俺は、お前の選択を信じたい」

奉太郎「正解であると、信じたいんだ」

奉太郎「そのくらいなら、別に良いとは思わないか」

える「……ありがとうございます」

える「やはり、折木さんには何でも話してみるべきですね」

そこまで過大評価されてしまっては、困る。

える「それで、折木さんはどの様な選択をするんですか?」

える「あ、答えたく無ければ、大丈夫です」

奉太郎「……俺か」

俺は、どうしたいのだろうか。

千反田はやはり、俺とは住む世界が全然違う。

まずそもそも、俺にそんな選択をする機会などあるのだろうか。

奉太郎「まだちょっと、分からないな」

奉太郎「……自分の事は難しい」

える「ええ、そうですよね」

千反田はそう言いながら笑っていたが、ならばお前はどうなんだ。

自分の事を理解して、自分の信じる選択をしたお前は。

……こいつは、凄い奴だな。

それが、俺の感じた正直な感想であった。

奉太郎「……そろそろ昼だな」

える「お腹が減りましたね」

える「ご飯、作ってきますね」

千反田は笑顔で俺にそう言うと、台所へと向かって行った。

さっきの言葉……勿論、千反田の。

奉太郎「俺がどんな選択をするか、か」

俺には別に、先ほども考えた様に、千反田の様な選択が訪れる事は無いだろう。

それは千反田も良く分かっている筈だ。

なら、さっきの言葉は恐らく……

俺と千反田の、関係の事だろうか。

……それしか、思い付かない。

奉太郎「……悪いな」

聞こえている筈も無く、一人俺は呟いた。

奉太郎「もう少しなんだ」

奉太郎「……待たせてばかりだな、俺は」

ああ、まずいまずい。

気分が暗くなってきてしまっている。

……家に帰ったら、もう一度ゆっくり考えよう。

千反田の前で、あまり暗い顔はしていたくない。

あいつは多分、それに気付くだろうからな。

里志風に言うと、今を楽しむべき。

……よし、もう大丈夫だ。

俺はそう思い、立ち上がる。

そして、そのまま台所へと向かった。

~台所~

奉太郎「悪いな、飯まで作ってもらって」

俺は料理を作る千反田の背中に声を掛けた。

える「いえ、いいんですよ」

える「私が最初にお呼びしたので、このくらいやらなければ罰が当たってしまいます」

千反田は俺の方には顔を向けず、料理を作りながら話していた。

奉太郎「……何か手伝う事はあるか」

える「お料理に興味があるんですか?」

奉太郎「……そういう訳では無いが」

える「そうですか、折木さんが作るご飯に、私は少し興味があります」

奉太郎「……機会があればだな」

とは言って見た物の、料理なんてまともに作った事すらない。

ま、そんな機会は来ないだろう。

える「ええ、楽しみにしておきます」

俺は千反田の言葉に軽く返事を返すと、適当な席に着いた。

……明日は祭りか。

俺は別に……適当な服でも着ていけばいいか。

あれ、そういえば。

奉太郎「なあ」

える「はい、なんでしょう?」

奉太郎「明日、祭りが終わった後に用事とかあるか?」

える「いえ、特に無いですが」

奉太郎「それなら、公園に行かないか」

俺がそう言うと、今までずっと俺に背中を向けたままだった千反田が振り返った。

急に千反田の顔が見えた事で、俺はつい視線を外す。

える「折木さんからお誘いがあるのは、随分久しぶりな気がします」

奉太郎「……そうだったかな」

える「いいですよ、行きましょう」

える「ですが、何故急に?」

奉太郎「ああ……」

奉太郎「明日、あそこから花火が見れるのを思い出したんだ」

奉太郎「行きたいと言ってただろ、二人で」

俺は結局、千反田に顔を向けられないまま、そう言う。

える「……」

しかし千反田から返事が無かったので、数秒の後そちらに視線を移した。

える「……そ、そうでしたか」

俺の視線を受けた千反田は、再び俺に背を向けると、料理を始めた様だ。

いくらか恥ずかしそうにしている千反田を見て、俺もなんだか恥ずかしくなる。

……調子が狂うな、全く。

それよりも、明日。

俺も少し、頑張らないとな。

……果てして、少しで済むかどうかは分からないが。


第18話
おわり

以上で第18話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

こんばんは。

第19話、投下致します。

俺は家の窓から、外を眺めていた。

今日は夕方の6時に千反田の家に行かなければならない。

それもそう、千反田と祭りに行く予定となっているからだ。

先ほど見た時計によると、今は5時。

約束の時間までは、もう少しありそうだ。

昨日、寝る前にこれまでの事を振り返り、俺の中で結論は出ていた。

後はそれを千反田に言うだけなのだが……それが随分と、難しそうである。

まあ、なるようになるか。

時間まではまだ少しあるが、行くか。

早く着いて困る事等……無いだろう。

~千反田家~

インターホンを鳴らすと、応答する前に玄関から千反田が出てきた。

える「お早いですね」

千反田は俺に昨日見せた浴衣を、しっかりと着こなしている。

前にも何回か、この様な装いは見ているが……

それらよりも幾分か軽い感じの印象を受けた。

そんな姿に、俺は少し見惚れてしまう。

える「あの、折木さん?」

奉太郎「あ、ああ」

奉太郎「……似合ってるな、浴衣」

恐らく……相当、無愛想な感じになってしまっただろう。

える「ありがとうございます」

しかし当の本人はそんな事、全く気にしていない様子だった。

える「では、行きましょうか」

奉太郎「そうだな」

そう言い、千反田の少し後ろを歩く。

後ろと言っても、ほとんど横に並んでいる様な感じではあるが。

奉太郎「そこは遠いのか?」

える「いいえ、そうでも無いですよ」

える「ええっと、確か歩いて20分程です」

20分か、確かにそうでも無いかも知れない。

今日、俺が危惧していた事の一つ……

歩いて1時間だとか、2時間だとか、そんな距離では無い様だ。

まあこれで、一つ心配事が消えた訳か。


奉太郎「その祭りは人とか結構来るのか?」

える「……どうでしょう、私も始めて行く場所ですので」

そうだったのか。

つまり千反田は、そこまでの道のりを調べていると言う事か。

なんだか悪い事をしてしまった気分になる。

言ってくれれば、少しは手伝えただろうに……多分。

える「神社で開かれているお祭りらしいので、人はそこそこには居ると思います」

奉太郎「なるほど」

まあそうだろう。

神社で折角開かれて閑古鳥が鳴いている様だったら、悲しい物である。

える「そう言えば」

ふいに、千反田が前を向きながら呟いた。

える「折木さんと二人でお出かけするのも、随分久しぶりですね」

……そうだな、確かに言われてみればそうだ。

奉太郎「今年は、始めてかもしれないな」

える「ええ、確かその筈です」

奉太郎「最後に二人で遊んだのはいつだっけか」

える「ええっと……」

千反田は少しの間、考える素振りをすると、口を開いた。

える「映画を見た時では無いでしょうか?」

そうだっただろうか……?

二人で遊んだ、と言える事は他にもあったと思うが……

奉太郎「水族館に行った時じゃないか?」

奉太郎「ほら、お前が学校ズル休みした時の」

える「……あの時は、具合が悪かったと言う事にしておいてくださいよ」

奉太郎「そんな奴が、水族館に行きたいとか言うのか」

える「……折木さんは意地悪です」

奉太郎「すまんすまん、まあ……今となれば良い思い出かもな」

える「あそこの水族館も、また行きたいですね」

奉太郎「そうだな……皆で行った動物園でも、俺はいいがな」

える「あ、それもいいですね」

なんだか、話が脱線しているが……今思い出した。

最後に千反田と二人で遊んだのは、映画を見に行った時だ。

……なんだか負けた気分がするので、言わないが。

そんな事を考え歩いていると、前に沢山の提灯が見えて来る。

奉太郎「あそこか?」

える「ええ、ここですね」

ほお、意外とでかい祭りなのか。

人も結構な量だ。

える「わ、わ、すごいですね!」

千反田もそれに驚いたのか、はしゃいでいる。

正直な所、人混みはあまり好きでは無いのだが……

しかし、そんな事を言っていては祭りなんて楽しめないだろう。

奉太郎「迷子になるなよ」

俺がそう言うと、千反田は頬を膨らませながら答える。

える「折木さんの方こそ、迷子にならないでくださいね」

奉太郎「……へいへい」

える「納得出来ない返事ですが、行きましょうか」

奉太郎「ん、そうだな」

何か言い返そうかと思ったが、いつまでもここで漫才をしている訳にもいかないだろう。

千反田もそれが分かったのか、二人で一緒に神社の中へと入って行った。

~神社~

える「色々な出店がある様ですね」

奉太郎「みたいだな」

奉太郎「あれか、例の気になりますか?」

える「そうなんですが……色々とありすぎて、どこから気になればいいのか……」

大丈夫か、目が泳いでいるぞ。

奉太郎「時間が無いって訳でも無いだろ、ゆっくり回ればいいさ」

える「は、はい。 そうですね」

える「あ、でも花火は見ますよね?」

奉太郎「ああ、今はまだ18時30分くらいだろう」

奉太郎「21時からの筈だから、時間はあるさ」

える「分かりました、今回は花火が遅れる事も無さそうですしね」

奉太郎「そうだな」

そう話し終わると、早速千反田は出店を回り始める。

俺は特に千反田みたいに気になる物等は無かったので、それに黙って付いて行った。

える「折木さん、これをやってみませんか?」

ええっと、何々。

奉太郎「射的か」

える「ええ、どうですか?」

奉太郎「お先にどうぞ」

える「私ですか、分かりました」

そう言い、千反田は店の人に金を渡すと、銃を構えた。

える「……」

狙いはなんだろうか?

奉太郎「何を狙っているんだ?」

える「あのぬいぐるみです……折木さん、お静かに」

……うるさいと言われてしまう、すんません。

える「……よいしょ」

となんとも頼り無い掛け声と共に、パコンと言う音がした。

弾はぬいぐるみには当たった物の、落ちはしない。

奉太郎「惜しかったな」

える「残念です……次は折木さん、どうぞ」

ううむ、なら俺もあのぬいぐるみでも狙うか。

そう思い、店の人に俺も金を渡す。

銃を構え、狙いを定める。

奉太郎「……」

える「折木さんはどれを狙うんですか?」

奉太郎「お前と同じ奴だ」

える「あ、ほんとですか」

える「頑張ってくださいね」

奉太郎「……ああ」

俺に静かにしろと言った割には、随分と話し掛けてくる奴だな……

奉太郎「……よっ」

結局、俺も随分と頼り無い掛け声であったのだが。

える「あ」

千反田が思わず声を出したのも無理は無い。

弾は的外れの所へと飛んで行ってしまったのだから。

奉太郎「……お前の方が向いているな」

える「そうかもしれません」

何かフォローして欲しかったが、仕方ないか。

奉太郎「……次、行くか」

える「は、はい」

千反田はとても名残惜しそうに、ぬいぐるみを見つめていた。

そんな千反田の視線に気付いたのか、店の人が声を掛けてくる。

「なんだ、お嬢ちゃんこのぬいぐるみが欲しいのか?」

「いいよ、二人してやってくれたから」

そう言うと、店の人は俺にぬいぐるみを手渡す。

千反田と俺は最初の方こそ断った物の、結局はそれを受け取った。

なんともいい人である……最後の言葉。

「情けない彼氏の面子を守る為にも」

と言う言葉は蛇足だったが。

奉太郎「……それで、次は何か見たい物あるか?」

える「ええっと、そうですね」

える「……お腹が、減りました」

何もそんな恥ずかしそうに言わなくてもいいのに。

俺だって、腹は減っている。

奉太郎「そうか、じゃあ何か食べるか」

える「はい、そうしましょう!」

それから俺と千反田は手頃な焼きそば等を買い、備え付けてあるベンチに座る。

える「お祭りで食べる物って、普段買う物よりおいしく感じませんか?」

奉太郎「あ、それはあるな」

える「何故でしょうね」

奉太郎「……さあ」

える「難しい問題です、これは」

える「でも今はそれより、食べましょうか」

助かった。

流石に、俺とて人間がその時々で違う感じ方をする理由など、分かる訳も無い。

気になりますが出たら、どうしようかと思っていた所だった。

奉太郎「他にもまだ回りたい所があるのか?」

える「ええ、いくつか」

奉太郎「楽しそうで何よりだ」

える「折木さんは、楽しくないんですか?」

奉太郎「いや、楽しんでいると思うが……何で?」

える「いえ、前の折木さんなら楽しいと思わなかったかもしれないので」

奉太郎「……そうか」

奉太郎「なあ、千反田」

える「はい、何でしょうか」

奉太郎「お前から見て、俺は変わったと思うか?」

える「私の中では、折木さんは折木さんですが……」

突然そんな質問をされ、きょとんとした顔をしながら千反田は答えた。

える「前よりも行動的になったと言うか、活発になったと言うか、それを変わったと言うならば、変わったと思います」

奉太郎「だろうな」

える「折木さん自身も、気付いているんですか?」

奉太郎「里志に良く言われるからな、嫌でも気付くさ」

える「ふふ、そうですか」

奉太郎「……それで」

奉太郎「それは、悪い事なのだろうか」

える「何故、そう思うんです?」

奉太郎「……なんとなく」

える「折木さんにしては、随分と説得力が無い理由ですね」

える「私は……良い事だと思います」

奉太郎「何故? 千反田の気になる事を解決できるからか?」

俺がそう言うと、千反田はまたしても頬を膨らませながら答えた。

える「そうではありませんよ、今日の折木さんはやはり、意地悪です」

奉太郎「……さいで」

える「私が良い事だと思うのはですね」

える「それは、折木さん自身だからです」

……どういう事だろうか。

そんな考えが顔に出ていたのか、千反田は補足を始める。

える「つまりですね、例えばですが」

える「折木さんが、急に非行の道に走ったとしても、それは折木さん自身が選んだ事ですよね」

また随分と、飛んだな。

える「その行為自体は、良い事とは言えないですが」

える「でも、自分で決めた事ならば、それは良い事だと思うんです」

奉太郎「ふむ……つまり」

奉太郎「俺が今から酒や煙草をやっても、良い事なんだな」

える「……止めますよ?」

奉太郎「止めるのか」

える「ええ、止めます」

奉太郎「良い事なのに?」

える「……もしかして、ふざけていますか?」

奉太郎「……ばれたか」

える「もう、やはり意地悪です」

奉太郎「すまんすまん」

奉太郎「まあ、でも言いたい事は分かったよ」

える「……そうですか、それならば良かったです」

奉太郎「ああ、なんだ……その」

奉太郎「ありがとうな、千反田」

える「ふふ、どういたしまして」

それから、いくつか店を一緒に回る。

金魚すくい、輪投げ等々。

食べ物をやっている店もいくつか回り、時を過ごした。

そして。

奉太郎「そろそろ、時間だな」

える「あ、もうそんな時間ですか」

奉太郎「ああ、行くか?」

える「ええ、そうですね」

える「少し、食べ過ぎてしまった気がします……」

そうは言っていた物の、千反田の様な、生活が真面目な奴ならば大して気にする事でも無いだろうに。

奉太郎「なら、走るか」

える「この格好では、無理ですよ」

える「それに折木さんは、絶対に走らないじゃないですか」

奉太郎「……良く分かったな」

える「誰にでも分かる事ですよ、折木さん」

そう言い、笑顔で千反田は俺の顔を覗き込んできた。

なんだ、俺の事を散々意地悪と言っておきながら、こいつも随分意地悪だな。

える「では、行きましょうか」

奉太郎「ああ、そうしよう」

俺はこの時、強く確信する。

……決着を付けるべきは、今日。

しかし、それを回避する事も俺には出来た。

俺から何も話さなければ、千反田から何か言ってくる事も無いだろう。

それこそが省エネか。

なんて事を考え、一人苦笑いをする。

それだけは絶対にあり得ない。

俺は学んだのだ、あの日、あの公園で。

それならば同じ過ちを踏む必要なんて、無いだろう。

去年出来なかった事をする為に。

千反田との距離は既に正確に測れている筈だ。

なら……後は、俺の口から話すだけ。

なんだ、難しい難しいと思っていたが、簡単な事では無いか。

しかし何故か、俺は今日一番緊張しており、鼓動が早くなっているのを感じていた。


第19話
おわり

以上で第19話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

こんばんは。

第20話、投下致します。

~公園~

公園に着くとすぐ、千反田はいつもの様にベンチに腰を掛けた。

える「そろそろですかね?」

奉太郎「ああ、もうすぐ始まる筈だ」

俺はそう言い、千反田の横に腰を掛ける。

える「それにしても、ここから花火が見えるなんて」

える「随分といい場所を知っているんですね。 折木さんは」

奉太郎「教えてもらったからな」

える「……あ、福部さんですか」

奉太郎「そうだ」

それもその筈。

里志に教えて貰わなければ、俺がここから花火を見れる事等……知っている訳が無い。

奉太郎「今日は楽しかったか」

える「勿論です、楽しくない訳がありませんよ」

奉太郎「なら良かったが」

える「折木さんも楽しめたんですよね」

える「お誘いして、良かったと思っていますよ」

そう言い、千反田は俺の方に笑顔を向けてきた。

いつもなら、多分俺は視線を逸らしていたかもしれない。

だが、今日は……そんな千反田の顔を、正面から見た。

える「……?」

顔をずっと見ている俺が不思議だったのか、千反田の顔には困惑の色が浮かんでいる。

奉太郎「……なあ、千反田」

そう声を出した時だった。

空が、光る。

える「あ、始まりましたよ!」

奉太郎「……らしいな」

まあ……いいか。

今は花火を見る事にしよう。

それから何度か上がる花火を、俺は千反田と共にしばらく見ていた。

える「あの、折木さん」

奉太郎「ん、どうした」

える「……綺麗ですね」

……何だか、聞き覚えがある台詞だな。

奉太郎「……そうだな」

これはそうか、何回か見た夢……あれと、一緒だ。

だとすると、これもまた夢なのだろうか?

奉太郎「……」

俺は千反田に気付かれない様に、腕を抓って見た。

……痛い。

つまり、夢ではない。

える「去年の事は、覚えていますか?」

奉太郎「……この公園での事か」

える「ええ、そうです」

奉太郎「色々あったな……本当に色々」

える「ふふ、私もそう思っていました」

える「……ここで、大泣きしたのも覚えていますよ」

奉太郎「伊原の事を、言った時か」

える「はい、そうです」

あれは、俺が心の底から怒った事でもあった。

……懐かしい。

奉太郎「あの時は……そうだ」

奉太郎「お前は随分と泣いていたな」

える「ふふ、迷惑でしたよね」

迷惑、か。

奉太郎「……俺は、お前の事を本当に迷惑だと思った事なんて」

奉太郎「一度も無い」

える「そう言って頂けると、嬉しいです」

千反田は花火を見ながら、そう言った。

える「後は、そうですね」

える「……最初にプレゼントを貰ったのも、あそこでしたね」

奉太郎「……あれか」

える「今でも大事にしていますよ、あのぬいぐるみは」

奉太郎「知っているさ」

奉太郎「……里志や伊原の前では、絶対に出して欲しくないがな」

える「す、すいません。 よく覚えておきます」

奉太郎「……ああ、そう言えば」

える「はい?」

奉太郎「お前、俺がぬいぐるみを貸して欲しいと言ったとかなんとか、言っていたっけか」

える「あ、あの……それは、あれです」

える「そう言うしか、無かったというか……」

奉太郎「……あれはかなり、恥ずかしかったぞ」

える「す、すいません。 今度はぬいぐるみを欲しいと言っていた、と言う事にしておきます」

奉太郎「……本気か?」

える「ふふ、冗談ですよ」

奉太郎「……千反田も、変わったな」

える「私がですか?」

奉太郎「前はそこまで、冗談を言う奴では無かった気がする」

える「……そうでしょうか、私は昔からこの様な感じですが」

奉太郎「そうなのか」

える「ええ、恐らくですが……」

える「折木さん相手だと、気軽に冗談が言えるので、そのせいかもしれません」

える「仲良くなったのも、あるでしょうね」

える「最初の時より、今は仲が良いと思っていますので」

奉太郎「……そうか」

える「あれ、もしかしてそう思っていたのは、私だけですか?」

奉太郎「……いや」

奉太郎「俺も、そう思っている」

える「その言葉を聞けて、良かったです」

花火は未だに上がり続けている。

俺と千反田は一度も視線を交えないまま、会話を続けた。

奉太郎「後、そうだな」

奉太郎「やはり……去年の暮れか」

える「……そうですね、あの時が一番、心に残っています」

奉太郎「全く同意見だな」

える「……」

える「私、初めてでした」

奉太郎「……何が」

そこまで言って気付く、これもまた、夢と一緒だ。

次に千反田が言う言葉……恐らく。

える「それを聞くのは、少し意地悪ですよ」

奉太郎「はは、そうか」

える「何がおかしいんですか、もう」

千反田はそう言うと、俺の方に顔を向けた。

奉太郎「すまんすまん」

俺もまた、千反田に顔を向け、答える。

える「初めての、キスでした」

奉太郎「ああ、俺もだな」

える「……そうでしたか」

奉太郎「嬉しい事が聞けた」

える「え? は、はい……」

千反田が言おうとした事を、俺が先に言ったのだろう。

少しだけ、驚いた顔をしている千反田が面白い。

そして……次に俺は。

奉太郎「なあ」

える「はい、なんでしょうか」

奉太郎「このままで、いいと思うか」

える「……」

千反田は押し黙る。

奉太郎「俺は」

次に、一際大きな花火があがる。

しかしそれもまた、学んでいた事であった。

俺はいつもより声を大きく、言う。

奉太郎「このままでは絶対に、駄目だと思うんだ」

その言葉はしっかりと、千反田の耳に届いた様だ。

える「……ふふ、私も一緒ですよ」

える「折木さんと、同じ考えです」

奉太郎「そうか」

奉太郎「……ある意味では、そうだろうな」

える「ある意味、ですか?」

奉太郎「……ああ、そうだ」

奉太郎「俺の話を、聞いてくれるか」

える「はい、勿論です」

える「折木さんの言葉の意味、気になります」

千反田はそう言うと、静かに笑いながら、俺の顔を覗き込む。

奉太郎「千反田は……俺の事を、どう思っている?」

える「え、そ、それは……」

奉太郎「ああ、いや。 すまん」

奉太郎「言い方が悪かったな」

奉太郎「俺と言う人間を、どう思う?」

える「……それはまた、難しい質問ですね」

奉太郎「分からないなら、分からないでもいいさ」

える「……いえ、答えます」

える「私は、折木さんと言う人を」

える「とても身近な存在ですが、同時にとても遠い存在でもあると思っています」

える「私では思い付かない色々な事を、解決してくれたのも」

える「そして、何度も何度も私の事を助けてくれたのも」

える「それらが全部、私では出来ない事なんですよ」

奉太郎「……そうか」

……やはり、俺が思っていた通りだった。

奉太郎「詰まる所、自分で言うのもあれだが」

奉太郎「追いかけていたんだな、千反田は……俺の事を」

える「ええ、その通りです」

奉太郎「だから昨日、立ち止まれば俺の生き方を学べると言ったのか」

える「よく、覚えていますね」

奉太郎「……それだけじゃない」

える「と、言いますと?」

奉太郎「いや、それは後で話そう」

奉太郎「とにかく、千反田は俺の事を追いかけていたって事だ」

える「ふふ、さっきもそう言いましたよ」

奉太郎「……それはな、千反田」

奉太郎「俺も、思っていた事なんだよ」

える「折木さんも、ですか?」

える「つまり、折木さんは後ろに私が居るのを、分かっていたんですか?」

奉太郎「違う」

奉太郎「俺は……千反田の事を追いかけていたんだ」

える「……私の事を?」

奉太郎「ああ、そうだ」

奉太郎「俺とは住んでいる世界が違う、お前の事を」

奉太郎「千反田の言葉を借りると、俺に持っていない物を、千反田は沢山持っていたんだ」

奉太郎「だから……ずっと追いかけていた」

える「そう、だったんですね」

奉太郎「可笑しな話だろ。 二人して追いかけていたら、追いつける筈が無いからな」

える「ふふ、それもそうですね」

える「ですが、折木さんは気付いてくれました」

える「私が、追いかけて居た事を」

える「普通でしたら、絶対に気付かない事に……気付いてくれたんです」

奉太郎「……いくつかヒントもあったからな、偶然だ」

える「あ、それは少し気になりますね」

える「折木さんが気付くきっかけとなったヒント、教えてください」

奉太郎「ま、最初から教えるつもりだったがな」

俺はそう言い、一度ベンチから立ち上がる。

奉太郎「何か飲むか?」

える「では、そうですね」

える「コーヒーはどうでしょうか?」

その言葉を無視すると、俺は自分のコーヒーと千反田の紅茶を買った。

そのまま紅茶を千反田に差し出し、俺は言う。

奉太郎「冗談はもう簡便してくれ」

える「ふふ、ありがとうございます」

千反田は嬉しそうに、紅茶を受け取った。

俺は再びベンチに腰を掛け、買ったばかりのコーヒーを一口、飲み込む。

奉太郎「……ふう」

奉太郎「それで、何だったか」

える「折木さんが気付いた理由、ですよ」

奉太郎「ああ……」

奉太郎「まずはそうだな、今年の生き雛祭りの時だった」

える「生き雛祭りですか」

奉太郎「まあ、あの時は気付かなかったけどな」

奉太郎「昨日の言葉が、全部を繋げてくれたんだ」

える「それで、その時のヒントとは?」

奉太郎「千反田の言葉、歩き終わった後のだったな」

奉太郎「俺と一緒に、歩けている気がした。 と言っただろ」

奉太郎「覚えているか?」

える「……覚えています。 確かに私はそう言いました」

奉太郎「最初は、俺が千反田に追いつけているのかもと思った」

奉太郎「だが、あの言葉の本当の意味は、違う」

える「そうです、その逆……ですね」

える「私が、折木さんと少しの間でしたが、追いつけたと感じたので……そう言いました」

奉太郎「……そうだ」

奉太郎「昨日の夜に考えて、思い出して……気付いたんだ」

える「そうでしたか……他には、何かあるんですか?」

奉太郎「そうだな……」

奉太郎「何だったっけか、古典部で勉強をしていた時の話だ」

える「ええっと、ペン回しですか?」

奉太郎「ああ、そうそう」

奉太郎「結局、お前はあの時ペンを回せなかったな」

える「それもしっかりと、覚えていますよ」

奉太郎「あの時も多分、思っていたんだろ?」

える「……さすがにそれは、気付かれないと思っていたのですが」

奉太郎「普段と、違う顔だったからな」

奉太郎「……すぐに分かるさ、そのくらい」

える「あの時、私が思っていた事は」

える「どんなに些細な事でも、折木さんと同じ目線に居たかった、と言えば正しいですね」

奉太郎「それで、あんな悲しい顔をしていたのか」

える「……そんなに普段と違いました?」

奉太郎「まあ、結構」

える「折木さんを騙すのには、苦労しそうですね……」

奉太郎「……逆を言えば、千反田に騙されるのは苦労しそうだ」

える「えっと、馬鹿にしてます?」

奉太郎「いいや、褒めてる」

える「……本当にそうなら、いいのですが」

参ったな、本当にそうなのだが。

奉太郎「まあそれで、分かっただろう」

奉太郎「俺が気付けた理由を」

える「ええ、そうですね」

える「でもやはり、凄いと思いますよ」

奉太郎「それは俺も、千反田に感じている事だ」

その時、また一段と派手に花火があがった。

俺と千反田はしばし、そんな花火に目を奪われる。

える「今日は本当にありがとうございました、折木さん」

奉太郎「別に、俺の方こそありがとうな」

そんな会話を聞いていたかの様に、花火は静かに終わりを迎える。

辺りに響いていたのは、虫達の鳴き声だけだった。

俺と千反田はまだ、ベンチに座っている。

奉太郎「ちょっといいか、千反田」

える「はい、どうぞ」

奉太郎「追いかけあっていた二人が、気付くにはどうすればいいと思う?」

える「気付くには、ですか?」

奉太郎「……分からないか」

える「もう少しだけ、ヒントを頂ければ、分かると思います」

奉太郎「そうか、なら……」

俺はそう言い、一度息を整える。

奉太郎「今回、千反田は足を止めた」

奉太郎「大学に行くという、選択を選ぶ事によって……」

奉太郎「だが」

奉太郎「……俺は、足を止めなかった」

える「そうですね、それは……」

える「横を見れば、良いのでは無いでしょうか」

奉太郎「……一緒だ、それも俺と同じ考えだ」

える「それは、嬉しいです」

千反田の顔が月明かりで薄っすらと見える。

そんな光景が、俺にはとても美しい物に見えていた。

奉太郎「じゃあ最後にもう一つ」

奉太郎「これは質問と言うより、俺の想いだな」

奉太郎「なんだか長くなってしまったが、俺が言いたいのは一つだ」

奉太郎「俺は、お前の事が」

える「ちょ、ちょっと待ってください、折木さん」

奉太郎「な、なんだ」

ああくそ、変に止められたせいで恥ずかしくなってきてしまったでは無いか。

える「ええっとですね、折木さんが今から言おうとしているのは」

える「あの、去年の暮れにここで、私に言ってくれた事と同じ事ですよね」

奉太郎「ま、まあ……そうなる」

える「そ、それで……私が、断った事ですよね」

奉太郎「ああ……そうだな」

恐らく、確認の為に千反田はそう質問したのだろう。

そんな事をせずとも、分かるだろうに。

……もしかすると、千反田も意外と用心深いのかもしれない。

える「では……ですね、今回は私から言わせて貰えませんか」

奉太郎「ち、千反田からか」

える「え、ええ」

奉太郎「まあ……別に、構わんが」

そう言いながらも、千反田の方を向けなかった。

……かなり、恥ずかしい。

える「では」

そう言い、千反田は短く咳払いをする。

その瞬間、空気が変わるのを俺は感じた。

そんな空気に圧倒され、千反田の方に顔を向ける。

俺は不思議と、その時……落ち着いた気分となっていた。

える「私は、千反田えるは」

える「折木さんの事が、好きです」

える「もし、良ければ私と……お付き合いしてください」

千反田の告白は、とても単純な物であった。

しかしそれは、どんな告白よりも……嬉しかった。

俺はそのまま、千反田の肩を掴む。

そして顔を近づけ。

千反田に、返事代わりのキスをした。

千反田は一瞬だけ体を強張らせていたが、それもすぐに無くなる。

キス自体は多分、そんな長くは無かったと思う。

それから何分か、もしかすると何時間か。

一緒に、ベンチで夜景を眺めていた。

夏のある日。

少しだけ夜風が涼しい、祭りの終わり。

俺は、薔薇色への道を選んだ。

そういえば、一つ気になる事があったな……

千反田は、どこの大学に行くのだろうか?

……いや、そんな事、今はどうでもいいな。

今は千反田と、ゆっくり話して居たい。



第20話
おわり

第2章
おわり

以上で第20話、第2章、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

次回から3章となりますが、少しだけ間が空いてしまうかもしれません……恐らく。

次 回 予 告 ! !

夏が終わり、季節は秋に移り変わる。

奉太郎「そうか、それがお前の選択か」

高校生活もいよいよ終わりを迎えようとしている。

里志「大丈夫だよ、心配いらない」

それが終わった時、残るものとは。

摩耶花「……あんた、また!」

奉太郎が選ぶ選択とは。

える「それでは、ここが私達のお別れの場所ですね」

何を学び、何を選ぶか。

古典部の最後の物語が、今始まる。

それが全部終わる前に私が天国へ旅立っている可能性が……
いや、もしかすると地獄かもしれませんが。

と言う訳で、本日夜に最終章、投下致します。

こんばんは。

第21話、投下致します。

夏休みも終わり、またしてもだらだらとした日常を俺は浪費していた。

夏休み前と違うのは朝……家を出ると、千反田が待っている事だ。

それともう一つ、昼は古典部で一緒に弁当を開ける事か。

える「折木さんも、お料理をしてみてはどうでしょうか?」

千反田は突然そう言うと、前に座る俺に視線を向ける。

奉太郎「人にはな、向き不向きがあるんだよ」

える「何事にも取り組んで見るのは、良い事ですよ」

まあ確かに、毎度毎度……姉貴に作って貰うのはあれだが。

奉太郎「ううむ」

奉太郎「……姉貴が外国へ行っている時は、弁当無しだな」

える「ふふ、その時は私が作ります」

奉太郎「本当か?」

える「ええ、勿論です!」

奉太郎「ならそうだな、余計に自分で作る必要は無くなった」

える「……」

俺がそう言うと、千反田は頬を膨らませてこっちを見る。

える「やはりやめました、作りません」

奉太郎「……千反田の料理は美味いんだがなぁ」

える「……そう言われると、作ってあげたくなります」

える「でも、それをすると折木さんは自分で作りませんよね……」

そんな事を言いながら、一人考え込んでいる。

奉太郎「……ああ、こういうのはどうだ」

える「何でしょう?」

奉太郎「俺は一人じゃとても作れないから、千反田が教えてくれ」

奉太郎「そうすれば、少しは上達するだろう」

える「……それは良い案ですね!」

千反田はそう言うと、身を乗り出して俺の手を掴む。

……駄目だな、やはりこれはどうにも慣れない。

この千反田の近さに慣れる日は、俺にやって来るのだろうか。

奉太郎「ま、まあ……機会があったらだがな」

える「……意外と早く、来るかもしれませんよ」

なんだか意味がありそうな台詞だが……

ここで俺が、その台詞が気になると言ったら何だか負けた気がするので口には出さなかった。

奉太郎「ん、そろそろ昼休みも終わりだな」

時計を見ながら、俺は千反田にそう伝える。

える「あ、ほんとですね」

える「ではまた放課後に、ここで」

奉太郎「ああ、また後でな」

俺はもう少しだけ残っているのか、千反田に軽く手を挙げると古典部を後にした。

そして、放課後。

俺は昼休みに言っていた千反田の言葉の意味を、理解する事となる。

~古典部~

摩耶花「それで、私もちーちゃんみたいに上手くなれたらなぁ……って思うのよ」

奉太郎「つまり、何が言いたいんだ」

摩耶花「だから、皆でお弁当を自分で作ってきて、食べ比べてみない?」

奉太郎「……何故そうなる?」

里志「僕には分かるよ、自分を知りたければ他人を知れって事だね」

何だろう、ある様な気がするがそんな言葉は無かった気がする。

奉太郎「作ったか」

里志「さあ、先に言っている人が居てもおかしくはないけど、ありそうな言葉だと思うよ」

さいで。

える「ふふ、そうですね。 摩耶花さんの案は良いと思いますよ」

摩耶花「そうそう、そう思うでしょ?」

摩耶花「ちーちゃんには前から相談してたんだけど、言う機会が無くってさぁ」

なるほど、そういう事だったか。

……千反田め。

える「どうでしょう、やってみませんか?」

里志「僕も面白いと思う」

里志「福部流のお弁当を、見せてあげるよ!」

里志は勿論、即答で賛成する。

える「折木さんはどうでしょう?」

……こいつも随分と意地が悪いな。

俺が何て言うかなんて、分かっているくせに。

奉太郎「ああ、まあ……やってみるか」

摩耶花「よし! じゃあ一週間後でいいかな?」

里志「今日は水曜日だから、次の水曜日って事だね」

摩耶花「私は明日でも良いんだけど、折木がねぇ……」

そう言いながら、伊原は俺に嫌な笑いを向ける。

里志「ホータロー、一週間で何とか頑張ってね」

奉太郎「……それなりにはな」

摩耶花「折角一週間も猶予をあげるんだから、もうちょっとやる気出してよね」

奉太郎「それはどうも、優しい事で」

俺も勿論、やると言ったからには中途半端にはやりたくなかった。

明らかに手を抜く事も出来たが、そんな気分にはなれない。

える「では、一週間後に!」

随分と張り切っているな、千反田は。

まあ千反田なら、誰も文句を付けない弁当を持ってくるだろう。

俺も、しっかりやらないとな。

俺の想定外は、この日既に一つあった。

それは勿論、千反田の言葉の意味である。

あくまでもそれは、家に帰るまでの話。

学校が終わり、千反田を家まで送って行き、玄関の前に着いたときに本日二つ目の想定外の事が起きたのだ。

~千反田家前~

奉太郎「それじゃ、また明日」

俺は千反田にそう言うと、体の向きを変え、家路に着こうとする。

える「え、何を言っているんですか。 折木さん」

そう言いながら、俺の腕をしっかりと掴まれる。

奉太郎「何って、帰ろうとしている」

える「駄目ですよ、お料理の練習です」

……ええっと、既に夕焼けが綺麗な程に日が傾いているのだが。

奉太郎「……今からか?」

える「そうですよ、一週間しか無いので……今日から練習しましょう」

いやいや、別に一日遅れた所で大して変わらない……と思う。

そんな思いが顔に出ていたのか、千反田が再び口を開いた。

える「時間は限られているんですよ」

える「なので、今日からでは無いと駄目です」

える「この後に用事等は、無いですよね」

一言発する度に、顔を近づけ千反田は言って来る。

俺はそんな千反田を手で制しながら答えた。

奉太郎「わ、分かった」

奉太郎「今日からだな、分かった」

える「ふふ、ではさっそく練習しましょう!」

千反田はさっきまでの真剣な表情とは打って変わり、今度は笑顔になっている。

そんな表情を見れただけで、俺は今日、料理の練習をする事になったのを良かったと思った。

~千反田家~

色々と教えられながら、料理を作っていく。

千反田はそのままでは邪魔なのか、髪を後ろで縛っていた。

奉太郎「前から何回か思っていたんだが」

える「はい? どうしましたか」

……ああ、俺は今何を言おうとしているんだ。

つい、だったのだが……その後の言葉に詰まってしまう。

奉太郎「い、いや」

奉太郎「何でも無い、料理の続きをしよう」

~千反田家~

色々と教えられながら、料理を作っていく。

千反田はそのままでは邪魔なのか、髪を後ろで縛っていた。

奉太郎「前から何回か思っていたんだが」

える「はい? どうしましたか」

……ああ、俺は今何を言おうとしているんだ。

つい、だったのだが……その後の言葉に詰まってしまう。

奉太郎「い、いや」

奉太郎「何でも無い、料理の続きをしよう」

える「……」

一度外した視線を千反田に戻した所で、俺は気付いた。

やってしまった、と。

える「何でしょう、折木さんは何を仰ろうとしたんでしょうか?」

える「教えてくれますよね、折木さん」

奉太郎「そ、そんな大した事じゃない」

える「では、どうぞ」

奉太郎「……実は、かなり大した事がある」

える「そうなんですか?」

える「それでは、聞かない方がいいですね」

そう言い、千反田は調理をする為、体の向きを変える。

それを見ていた俺は、結局の所……喋る事になる。

奉太郎「その、あれだ」

奉太郎「……似合うと、思っただけだ」

俺の言葉を聞き、千反田は振り返った。

える「え? 似合うとは……どういう意味ですか?」

奉太郎「だから、それ」

言いながら俺は千反田の頭を指差す。

える「えっと……」

千反田は自分の頭を指されている事に気付いたのか、自分の頭を触っていた。

そしてそれを何度か繰り返し、ようやく気付く。

える「あ、そう言う事でしたか」

奉太郎「……まあ、それだけだ」

える「ありがとうございます、折木さん」

そう言い、千反田は俺の手を取った。

奉太郎「……お礼を言う程の事でも無いだろ」

奉太郎「ただ、俺が思った事を言っただけだ」

奉太郎「料理の続き、やるぞ」

俺は千反田にそう言うと、一人食材達と向き合った。

こうでもして話題を切らなければ、どうにも落ち着かない。

える「ふふ、そうですね」

える「続きを教えますね」

それからしばらく、二人で料理を仕上げていく。

正確に言えば、千反田監修の下……だが。

辺りがすっかり暗くなった頃、多分19時とか20時とか、そのくらいだろう。

料理はようやく仕上がった。

~縁側~

奉太郎「ここで食べるのか?」

える「ええ、折木さんに見せたい物があるんです」

見せたい物……また浴衣か?

奉太郎「秋祭りにでも行くのか」

える「……良いですね、今度調べておきます」

はて、祭りでは無いのか。

奉太郎「ううむ」

俺は一つ唸り声をあげ、少し考えてみた。

える「そんな考えなくても、すぐに分かりますよ」

奉太郎「……そうか」

なんだ、ちょっと真剣に考えようとしていたのだが。

える「とりあえずはご飯を食べましょう」

そう言えば、成り行きで千反田の家でご飯を食べて行く事になったが……

まさかとは思うが、来週の水曜日までこれが続くのだろうか?

悪くは無い、別に嫌でも無いのだが……少し迷惑では。

しかしそんな事を今考えても、答えなんて出ないか。

今はまあ、飯を食べよう。

える「ご馳走様です」

行儀良く両手を合わせ、千反田はそう言った。

奉太郎「ご馳走様です」

俺もそれに習い、手を合わせる。

える「ふふ」

千反田が突然、こっちを見ながら笑っていた。

奉太郎「何か悪い物でも食べたか」

える「酷いです、材料は全部私の家の物なんですよ」

奉太郎「なら、何で急に笑い出した」

える「……それはですね、思い出していたんです」

奉太郎「何を?」

える「前に、福部さんに言われた事です」

奉太郎「……里志に?」

奉太郎「くだらない事でも言われたか」

奉太郎「そうでなければ、何かしらの俺の思い出話か」

える「どちらも違いますが、後者のはちょっと気になりますね」

奉太郎「……今度、機会があればな」

奉太郎「それより、何て言われたんだ?」

俺がそう聞くと、千反田は口に手を当て、小さく笑うと答えた。

える「似ていると、言われたんです」

奉太郎「……似ている?」

える「ええ、私と折木さんが」

奉太郎「あいつもついに、おかしくなったか」

える「性格等の話では、無いと思いますよ」

奉太郎「……だったら、何が似ているんだ」

える「福部さんの言葉を借りますと」

える「なんだか、千反田さんを見ているとホータローを見ている気分になるよ」

える「その腕を組んだりする癖、そっくりだ」

える「と、仰っていました」

なるほど、そう言う事か。

しかし、どうにも里志の言葉だからと言えど……千反田に名前を呼ばれ、ちょっと恥ずかしい。

奉太郎「まあ、結構長い間一緒に居たからな」

奉太郎「そう言う事も、あるのかもな」

俺は恥ずかしさを消す為に素っ気無く言い、お茶を飲み込む。

える「あ!」

突然、千反田が何かを指しながら俺の肩を叩いてくる。

える「見てください、折木さんに見せたかった物です」

ああ、そう言えばそんな話だったっけか。

それを聞き、俺は千反田の指す空へと視線を向ける。

奉太郎「これは、すごいな」

空に走っていたのは、無数の流れ星だった。

える「天気が良いと、見れるとテレビで言っていたので……良かったです」

俺はしばし、その流れ星に目を奪われていた。

える「そう言えば、流れ星は願いを叶えてくれるんですよね」

奉太郎「そんな話もあるな」

奉太郎「千反田は……何か、願いでもあるのか」

える「ありますよ、私にも」

奉太郎「なら、願っておけばいいさ」

える「もう願いました、五回ほど」

五回も願ったのか、欲張りな奴だ。

える「折木さんは何か願い事、しないんですか?」

奉太郎「俺は、こういうのは信じていない性質なんで」

える「ふふ、そうですよね」

奉太郎「何がおかしいんだ」

える「いえ、折木さんが星にお願い事をしている姿が、想像できなかったので……ふふ」

奉太郎「……さいで」

流れ星は、ほんの5分ほどで消えて行った。

もう、流れ星が降る事も無い空を未だに見ながら、千反田は口を開く。

える「そう言えば、先程の事ですが」

える「私、この髪型をそんなにしていましたっけ?」

奉太郎「……ああ」

奉太郎「多分、だが」

奉太郎「……千反田の事は、良く見ていたのかもしれない」

える「そ、それは……あの、その」

える「う、嬉しい言葉です」

あたふたしている千反田を見て、俺は素直に可愛いと感じていた。

その感覚がなんだか自然で、思わず笑いが漏れる。

勿論、千反田に見られないように隠れてだが。

える「でも、逆にもなるんですよ」

奉太郎「逆? どういう事だ」

える「先程、福部さんが私に言った言葉を教えましたよね」

奉太郎「ああ、千反田を見ていると俺を見ている気分になる……だったか」

える「そうです、それでですね」

える「それは多分、私が折木さんの癖を、自然と真似しているんだと思います」

奉太郎「俺の癖を?」

える「腕を組んだりするのが、似ているらしいですよ」

奉太郎「と言われても、意識してやっていないから分からないな」

える「私も、福部さんに言われるまで全然気付きませんでした」

える「でもやはり、自然にそうなると言う事は、折木さんの事を自然に見ていたのかもしれません」

俺はその言葉にまた、気恥ずかしい気分になり、頭を掻きながら答える。

奉太郎「すまんな、変な癖を移してしまった様で」

える「いいえ、構いませんよ」

える「だって私は、幸せですから」

そう言い、俺の肩に千反田は頭を預けて来た。

奉太郎「そうか、なら俺も同じ気持ちだな」

える「……それは、良かったです」

それから数分だろうか、俺と千反田はそうしていた。

奉太郎「……じゃ、そろそろ帰るかな」

いつまでも居たら迷惑だろうし、俺もあまり遅くなってしまっては姉貴に何て言われるか分かった物では無い。

奉太郎「おい、千反田?」

える「……んん」

……当の千反田は、気持ち良さそうに寝ていたのだが。

奉太郎「……参ったな」

とりあえず、このままにしておいて風邪でも引かれたら後味が悪すぎる、場所を移そう。

そうして千反田を部屋の中へと移し、畳んで置いてあったタオルを一枚、千反田に掛けて置いた。

奉太郎「さて、どうした物か」

このまま帰ってもいいのだが、この家には誰も戸締りをする者が居ない。

千反田の両親が帰ってくれば良いのだが……いや、状況的にはあまり良くないか。

しかしそんな心配も杞憂だろう。

今まで何度も家に来ているが、千反田以外の人物は見た事すら無いのだから。

恐らく千反田は、家事やら何やら一人でしているのだろうな。

それで今日、俺に料理を教え、疲れて寝たと言った所か。

なら、そうだな……

食器洗いくらい、やっても良いだろう。

いや、むしろそのくらいしなければ罰が当たるかもしれない。

……違うな、俺はそんな神罰的な事等、信じていない。

それなら、理由としては。

千反田が起きるまでの暇潰し、としておこう。

これなら確かに合理的である。

俺は自分自身にそう、言い訳をすると食器の山へと立ち向かっていく。

奉太郎「ふわぁ……」

何だか俺も眠くなってきたが、こんな所で寝る訳にはいかない。

奉太郎「あいつも、大変なんだな」

やはりさっき、俺が自分に言い聞かせたのは建前で、本心は多分。

千反田の手伝いをする為、と言った所か。

まあ、そんな理由なんてどうでもいい。

俺が今一番考えなければいけない事は……姉貴への言い訳と、何時に帰れるか、の二つである。

奉太郎「……眠い」

そして眠気と戦いながら、俺は食器とも戦う事となった。


第21話
おわり

以上で第21話、終わりとなります。

乙ありがとうございました。

乙!

ところで、里志と摩耶花はもう二人の関係は知ってるのかい??

報告を聞いたときの反応とか、祝福だとか色々と気に…なるんだ

乙です。
料理は何を作ったのか書いてないところが想像が膨らんでいいですね。
けど原作にはラブコメ要素がぜんぜんないという・・・

>>939
現時点ではまだ伏せておきます。
後の話でそこにも触れるので、今の所はあえて触れていません。
私、気になりません。

>>941
やはり、原作ではあり得ない方向でお話を作れるのが良いですよね。
中にはかなりぶっ飛んでいる内容のssとかもありますが、それでも想像できるんですよね……
なので、私は読むのも書くのも大好きです。


一応、現時点で完結まで書ききれているので、後は投下のみとなっております。

間隔的には2~3日に一話程度で、恐らく年内には完結の見通しです。

話数的には後、20話程でしょうか……
投下して読み直している最中に、加筆や修正等があるので増えたり減ったりの可能性もあります。

もうちょっとですが、お付き合い宜しくお願いします。

すごく今更だけど、アニメの最後でえるは理系、ほうたろうは文系だったのに同じクラスになったの?
ごめん、気になったもんで

>>954
この話だと同じクラスって設定だったっけ?
3年から??

>>351
見直してて気付いたんだけど、ここの伏線もそのうち回収するよね??

>>1が忘れてはいないと思うけど一応確認で

>>954
てへぺろ☆

>>957
ちゃんと回収されます。
終盤になりますが……



投下遅れてすいません。
22話は今日の夜、もしかすると明日になるかもしれません。

最近忙しくて……ごめんなさい。

こんばんは。

第22話、投下致します。

1000行く前に終わるかな……

える「段々と、良い感じになってきましたね」

奉太郎「そうか? 自分では全然分からんな」

える「正直、最初はどうしようかと思いました……」

奉太郎「悪かったな、そんなレベルで」

える「ふふ、冗談ですよ」

……こいつの冗談は、どうにも区別が付きにくい。

奉太郎「まあ、それもこれも全部、千反田さんのおかげです」

える「感謝の気持ちが、全く感じられないのですが……」

そうだろうか、こんなにも精一杯の言葉で現していると言うのに。

奉太郎「ま、本当に感謝はしているさ」

奉太郎「ありがとうな」

える「いいえ、このくらいならいつでも」

える「それに、私も楽しめましたので」

奉太郎「そうか」

俺と千反田が取り組んでいるのは、料理。

伊原の提案で、古典部全員で何かしら作る事になっていたのだ。

その事に対し、俺は別に……物凄くやる気があった訳では無い。

しかしまあ、やりたく無かった訳でも無かった。

える「あ、そういえばですけど」

千反田は何かを思い出したのか、人差し指を口に当てながら続ける。

える「作っていくお料理は、皆で揃える事になりました」

奉太郎「同じ物を作れって事か?」

える「ええ、比べるのにその方が良いと思いまして」

なるほど、確かに矛盾は無いな。

奉太郎「それで、作っていく物は何になったんだ?」

える「ええっとですね」

える「卵焼きです!」

卵焼き……卵焼き。

奉太郎「一ついいか、千反田」

える「あの、折木さんが言いたい事が少し分かる気がします」

奉太郎「ほう、何だと思う?」

える「……今までの練習が、あまり意味の無い物に、と言う事でしょうか」

奉太郎「さすが千反田、その通りだ」

つまり、俺がここ最近千反田の家で練習していたのは、如何にも千反田らしい料理……

噛み砕いて言えば、ちょっと上級者向けの物だろうか。

俺は詳しい訳でも無いので、声を大きくしては言えないが……

卵焼きは恐らく、かなり初心者向けなのでは無いだろうか。

える「で、でもですね!」

える「いつか役に立つ時が、来る筈です!」

奉太郎「やけに自信たっぷりだな」

える「ええ」

える「努力は必ず、報われますから」

ふむ、今まで大した努力もして来なかったので、俺にはちょっと分からない。

奉太郎「そうだと良いな」

える「絶対にです!」

える「私、努力をしている人は好きなので」

奉太郎「……そうか、それに俺も当てはまると良いんだが」

える「何を言っているんですか、折木さんが努力をしてきたのは、私が一番良く知っています」

奉太郎「……ああ、まあ」

千反田が言う事は、分かる。

俺も手を抜いて練習していた訳でも無いし、周りから見たらそれは努力をしていると呼べるのかもしれない。

だが何だか、自分で僕は努力をしていますと言うのも違うので言葉を濁してその話は終わらせる事にした。

える「まだ少し時間があるので、練習しましょうか」

奉太郎「そうだな、そうしよう」

……あれ、ちょっと待て。

奉太郎「ちょっといいか、千反田」

える「はい? 何でしょうか」

奉太郎「千反田は、知っていたんだよな」

奉太郎「皆で同じ料理……卵焼きを作ると言う事を」

える「勿論です、知っていましたよ」

奉太郎「なら何で、練習をすぐにそれに変えなかった?」

俺がそれを問いただした時、千反田はちょっとだけ焦っていた。

言葉にすれば、多分……しまった。 とかそんな感じの顔をしていた。

える「ええっと……」

える「あの、一緒にお料理をするのが……楽しかったので」

さいですか。

~折木家~

そして、その日がやって来た。

俺はいつもより少しだけ早く起き、それに取り組む。

とは言っても、大して練習する時間も無かったのは事実であり、結果にもそれは出ていた。

奉太郎「……なんと言うか」

卵焼きと言うよりかは、炒り卵と言った感じか。

手を抜いた訳では無いが……まあ、時間も無いし別に大丈夫だろう。

卵を焼いたのは事実なのだし。

俺はそれを小さい容器に入れ、鞄の奥へと仕舞う。

そのまま鞄を背負い、家を出て行った。

える「おはようございます、折木さん」

奉太郎「おはよう」

家を出るとすぐに、千反田が目に入ってくる。

これにも最近では随分と慣れてきた。

最初来た時は、事前に何も言われていなかったので相当驚いたが。

える「どうでした? 上手く作れましたか?」

学校までの道で、横に並んで歩く千反田が声を掛けてくる。

いつもはまあ、本当に他愛も無い会話をしているのだが、今日は勿論あれの事だろう。

奉太郎「ううむ、上手く……とはとても言えないな」

える「と言いますと、失敗したんですか?」

奉太郎「結論から言うと、そうだな」

奉太郎「卵焼きと言うよりは、炒り卵と言った方が近いかもしれない」

える「そうでしたか……でも、焼いた事には変わりは無いので、大丈夫ですよ」

なんだ、俺は随分と投げやりにその結論を出したのだが……

千反田に同じ事を言われると、本当にそれが正しい気がしてくる。

奉太郎「そっちはどうなんだ?」

える「私ですか、私もあまり成功とは言えないかもしれません……」

奉太郎「珍しいな、失敗したのか?」

える「いえ、そう言う訳では無いのですが」

える「あ、それでしたら」

える「お昼に一つ、食べますか?」

奉太郎「いいのか? 放課後に食べる分もあるんじゃないか」

える「いいえ、実はですね」

える「最初から、そのつもりだったので」

奉太郎「そうか……なら、貰おうかな」

える「ええ、福部さんや摩耶花さんには内緒ですよ」

奉太郎「分かっているさ」

奉太郎「それより、千反田が成功とは呼べない物には少し興味があるな」

える「気になりますか?」

奉太郎「いや、そこまでじゃない」

える「気にならないんですか?」

奉太郎「……それも違うが」

える「どちらですか、それが私、気になってしまいます」

奉太郎「どっちかと言うと……少し、気になるかもしれない」

える「そうですか! それなら折木さんが気になる物、お昼まで楽しみにしておいてくださいね」

千反田はそう言うと、ようやく見えてきた校舎の中へと走って行ってしまう。

奉太郎「……何が満足なんだか」

俺は、聞こえてはいないだろう千反田の背中に向かってそう言うと続いて校舎に入って行った。

~古典部~

午前の授業も終わり、俺は古典部へと足を運んだ。

扉を開けると、すぐに窓際に座っている千反田が目に入ってくる。

一緒に古典部まで行けばいい、とは思うのだが……なんだかそれは、俺も千反田も自然と避けていた。

奉太郎「早いな」

える「そうでもないですよ、折木さんが遅いだけです」

……否定はしないが。

その言葉は軽く流し、千反田の向かいの席へと俺も腰を掛ける。

奉太郎「それで、成功しなかった卵焼きとやらを見せて貰おうか」

える「あの、あまりそればかり言わないでくださいよ」

千反田はそう言いながら、鞄から小さな容器を取り出した。

える「そう言えば、折木さんには一度、卵焼きを作ってましたっけ」

あったっけか、そんな事が……

ああ、映画を一緒に見た時か。

奉太郎「とは言っても、かなり昔だな」

える「ふふ、そうですね」

える「時が経つのは早い物です」

千反田はそう言い、窓の外に視線を移した。

やめてくれ、まだ若いままで居たいから、そんな年老いた雰囲気は出さないで欲しい。

奉太郎「それで、食べていいか」

える「あ、そうでしたね」

える「どうぞ」

千反田は容器に手を掛け、開いた。

……なんだ、見た目は全然普通だな。

むしろ、俺のと並べたらそれは多分悲惨な事になるだろう。

奉太郎「じゃあ、いただきます」

俺はそう言うと、一つ卵焼きを口に入れる。

奉太郎「……うまいな」

何故、千反田が成功したと言わなかったのかが分からないくらいに、美味しかった。

える「本当ですか?」

奉太郎「ああ、こんな事で嘘は付かない」

える「少々、味付けを失敗したんですが……ちょっと濃くないですか?」

奉太郎「……いや、別に?」

える「そうですか、それなら良いのですが」

ここまで美味しいのに、成功じゃないと言われてしまったら俺はどうすればいいのだろうか……

奉太郎「俺が作った奴も、食べてみるか」

える「良いんですか? 是非!」

そこまで期待されても困るが。

奉太郎「じゃあ、ほら」

鞄から容器を取り出し、千反田の前で開ける。

える「これは、確かに卵焼きと言うよりは炒り卵と言った方が正しいですね」

奉太郎「だろうな」

える「でも、食べてみなければ分かりませんよ」

そう言うと、千反田は少しだけその卵を取り、口に入れた。

える「おいしいですよ、折木さん」

……何だか、照れるな。

正面から言われると、どうにも目を合わせられない。

奉太郎「……そうか、それなら良かった」

それからは、それぞれの容器を仕舞うと弁当を広げ食べ始める。

まあ、千反田が美味いと言ってくれたから……これで少しは安心できると言う物だ。

味も最悪だったら、伊原に何と言われるか分かった物じゃないからな……

~放課後~

里志「と言う訳で、皆作ってきたかな?」

摩耶花「勿論、作ってきたわよ」

摩耶花「皆に聞くより、一人に聞いた方が良いと思うけど」

伊原はそう言いながら、俺の方に顔を向けてくる。

奉太郎「失礼な、俺もしっかり作ってきたぞ」

摩耶花「へえ、楽しみにしておくわね」

里志「じゃあ、ホータローのは最後のお楽しみにしておくとして、最初は僕でいいかな?」

える「そうですね、ではお願いします」

里志「了解! とは言っても普通のだけどね」

里志が取り出したのは、一見すると言葉通り、普通の卵焼きであった。

摩耶花「それじゃ、貰うわね」

伊原の言葉を合図に、里志を除く三人が箸を伸ばす。

奉太郎「……うまいな」

何だろうか、少し辛い? そんな感じの味だ。

える「これは、明太子ですか?」

里志「そう、流石は千反田さん! 食べてからすぐに分かって貰うのは作る側として嬉しいよ」

摩耶花「……確かに、悔しいけど美味しいかも」

里志「ただの卵焼きじゃ、何だかつまらないと思ってね。 一工夫してみたんだ」

……なるほど、里志らしい考え方と言えばそうかもしれない。

摩耶花「次は私かな?」

える「あ、私でも構いませんよ」

里志「いやいや、次は摩耶花に頼みたいかな」

える「どうしてですか?」

里志「それは勿論、落差を楽しみたいから」

……覚えとけよ、里志め。

千反田は何か言いたそうな顔をしていたが、里志の勢いに流されてしまう。

摩耶花「それじゃあ、私のはこれ」

伊原のも、一見して普通の卵焼きか。

……見た目で違いなど、分かる訳無いか。

奉太郎「どれどれ」

卵焼きを一つ箸で掴み、口に入れる。

奉太郎「む……甘いな」

える「みりんとお砂糖ですね、私はこの卵焼きも好きです!」

……さっきから思うが、千反田が料理の先生に見えて仕方ない。

里志「うん、美味しいね」

里志「……これだけ出来るなら、食べ比べる必要も無かったんじゃないかなぁ」

摩耶花「それ、ちーちゃんのを食べてから言って欲しいな」

える「そんな、私のも皆さんと同じくらいですよ」

千反田はそう言いながら、鞄から容器を取り出す。

摩耶花「なんか見た目から、とっても美味しそう」

里志「そうだね……って」

里志「気のせいかな、器に比べて中身が少なくない?」

本当に、小さい事を気にする奴だな。

える「あ、あのですね、器がこれしか無かったので……」

摩耶花「ふうん、まあ一つ貰うわね」

何とか誤魔化せたみたいだが、千反田の慌てっぷりから少々冷や汗を掻いてしまった。

もう少し、上手く誤魔化せない物か……

摩耶花「わ、これ美味しい」

里志「ほんとだ、味付けは普通に醤油かな?」

える「ええ、何か工夫をしようと思ったのですが……色々思いついてしまって」


摩耶花「それで、結局最初に戻ったって訳ね」

える「ふふ、そうです」

里志「まあ、それでも僕達のとはやっぱり比べ物にならないなぁ」

える「そんな事無いですよ、福部さんのも摩耶花さんのも、とても美味しかったですよ」

摩耶花「そうね、ふくちゃんのも美味しかったなぁ」

摩耶花「今度、作り方教えてもらおっと」

里志「うん、何か新しいのにもチャレンジしてみたいし、いいかもね」

里志「それより、一ついいかい?」

える「はい、何でしょうか」

里志「あ、いや。 千反田さんじゃなくて、ホータローに」

俺に? また急に……何だと言うのか。

里志「ホータローは、千反田さんのを食べないのかい?」

……さっきは千反田に、心の中でダメ出しをしたが、どうやら俺もやらかしたらしい。

奉太郎「ああ、いや……食べる」

くそ、余計な事を考えすぎていたか。

える「は、はい。 どうぞ」

千反田も慌てながら渡してくる物だから、余計に怪しくなってしまう。

奉太郎「ありがとう、じゃあ貰うか」

俺も千反田の卵焼きを一つ貰い、口に入れる。

奉太郎「……美味いな」

ううむ、里志や伊原のとは違い……いや、二人のも十分に美味かったが。

比べるとやはり、千反田のは美味かった。

里志「それじゃ、次はホータローの番だよ」

奉太郎「……ほら」

そう言い、俺は鞄からそれを取り出し、机の上に置く。

摩耶花「よっ」

勢い良く、伊原がふたを開いた。

里志「ホータロー、今日作ってくる物は何だっけ」

奉太郎「……卵焼きだな」

摩耶花「それで、折木が作ってきたのは何?」

奉太郎「……卵を焼いた物だ」

里志「違うね、これは卵を炒った物だよ」

さいで。

える「み、見た目はともかく、味も大事ですよ!」

千反田のフォローが、少し辛い。

里志「うーん、まあいいか」

里志「それじゃ、頂きます」

里志と伊原と千反田は、それぞれ箸を伸ばす。

里志「……ちょっとしょっぱいかな?」

奉太郎「……醤油を入れすぎたかもな」

摩耶花「ちょっと、あんた真面目に作ったの?」

失礼な、かなり真面目に取り組んだつもりだと言うのに。

里志「やっぱり、練習した方が良かったかもね」

千反田との毎日の練習を、こいつらに見せてやりたい。

える「あ、あの……折木さんも、真面目にやられていたと思いますよ」

摩耶花「無いって! 絶対適当にやってたでしょ」

里志「そうそう、ホータローが真面目にやるのは、面倒事を避ける時だけだよ」

随分と酷い言われ様である、まあ……今に始まった事では無いので別にいいが。

奉太郎「それじゃ、今日のは終わりでいいか」

摩耶花「なんか納得行かないけど……ふくちゃんとちーちゃんのは、勉強になったしいいかな」

里志「了解、日が落ちると寒くなるから、そろそろ帰ろうか」

そう言い合うと、それぞれ自分の荷物へと手を伸ばした。

える「……待ってください」

何だ、この後に及んでまだ何かあると言うのか……

奉太郎「どうしたんだ」

える「折木さんは、真面目に作っていました」

える「絶対に、適当にやっていた何て事は無いです」

える「……納得、出来ないんです」

別に、俺自身は大して気にしていないのだが……

える「一週間、一緒にお料理の練習をしていたんです」

える「毎日、学校が終わった後に」

える「そんな折木さんが今日、適当に作ってくる事は無いんです」

こうなってしまっては、千反田は結構頑固だ。

里志「そ、そうだったのかい。 ごめんね、千反田さん……ホータローも」

珍しく怒っている千反田に、里志は少し慌てていた様子だった。

それが見れただけでも、今日は散々言われた甲斐があったと言う物だ。

摩耶花「ご、ごめん。 知らなくてつい」

える「……すいません、少し言い過ぎました」

える「お二人がそれを知らなかったのも、当たり前の事です」

奉太郎「……まあ、俺は全く構わないんだがな」

奉太郎「今度何か奢って貰う事で、許してやろう」

里志「はは、それは冗談かい?」

奉太郎「それをどっちと取るかは、里志と伊原に任せるさ」

摩耶花「……急に偉そうになったわね」

……冗談のつもりだったが、普段冗談を言わないだけでこうも言われるのか。


える「では! 帰りましょうか」

える「もう少しで日が落ちてしまいますし」

里志「そうだね、また今度……次は何がいいかな?」

摩耶花「そうね、今度はちーちゃんに教えて貰って作りたいかな」

える「私で良ければ、いつでも大丈夫ですよ」

奉太郎「……俺はもう勘弁して貰いたいが」

摩耶花「折角教えて貰ってたのに、そんな事言うんだ」

里志「ホータローは、千反田さんの料理じゃ参考にならないって言いたいのかなぁ」

える「え、そうなんですか……折木さん」

……これは、またしても厄介な事になりそうである。

える「決めました、今日は寒いので……」

える「折木さんが、帰りに暖かい飲み物をご馳走してくれるみたいです」

ほら、なった。

奉太郎「却下だ」

里志「ああ、寒くて寒くて僕は倒れそうだ」

奉太郎「……却下だ」

摩耶花「私も……さっきから体の震えが止まらない」

奉太郎「……却下だ」

える「折木さんは、友達を見捨てるんですか!」

千反田、一つ教えてやろう。

その台詞は、笑顔で言う物では無いと。

うう……気温も低ければ、財布も寒くなる物なのだろうか。

……いかんいかん、これは年老いてからの駄洒落だろう。

そんな事を思い、かぶりを振りながらどう切り抜けようかと考える。

しかし良い考えが思い浮かばず、それならば別に、飲み物の一本や二本くらい……別に良いか。

……いや、良くはないだろうが。

外を歩き、肌には秋らしい冷たさが感じられる。

だが、不思議と暖かかった。


第22話
おわり

以上で第22話、終わりとなります。

セーフ!セーフ!

11月中は、投下間隔がちょっと遅れそうです。
12月に入ればまた二日間隔で投下出来ると思うので……


次は第23話、投下する際にスレ立てで大丈夫ですかね?

何か質問等あった時用に、立てて置いた方がいいのでしょうか。

次スレ立てました。


になります。

↓次でボケて

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