勇者「正義の為に戦おう」(1000)

オリジナルssです。

多くの厨二要素、厨二設定が出てきます。

ヒロインは人外です。

お金の単位などはドラクエの単位を使います(ゴールドなど)

分からない事などがありましたら聞いて下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342874951

        城


王「よく来たな」

勇者「はい」

王「お主を呼んだ理由が分かるか?」

勇者「はい。だいたいは予想はついています」

王「そうか」

勇者「……魔王討伐ですよね?」

王「うむ、その通り。お主には魔王討伐に向かってもらいたい」

勇者「分かりました」

王「……そんなに簡単に引き受けてしまってよいのか?」

勇者「はい。私は正義のために戦うと決めておりますので」

王「良い心構えだな」

勇者「ありがとうございます」

王「……一つ聞くが、お主の正義とは何だ?」

勇者「全ての悪を消し去る事です。世の中の悪と言う悪を」

王「……それがお主の正義か?」

勇者「……言いたい事は分かります」

王「まあ、そうだな。お主の正義は少し行き過ぎておる」

勇者「私はそうは思いません。悪人は死を持ってそれを償う。それは当然のことです」

王「命を持って罪を償えという所か?」

勇者「はい」

王「……一週間ほど前に山賊達を全滅させたのもお主か?」

勇者「はい。私です」

王「……」

勇者「何か?」

王「山賊の中には命乞いをしたものもいたと聞いたのだが?」

勇者「生き延びたい為の出まかせです」

王「……少しやり方を考えてはどうかと思ってだな」

勇者「私は間違った事をしているつもりはありません」

王「確かにそうだが……」

勇者「間違っていないのですからやり方を変える気はありません」

王「分かった」

勇者「……」

王「……それにお主は町の人から恐怖されてもそれを変える気はないのだろう?」

勇者「……はい」

王「それでいいのか?」

勇者「私は勇者ですから」

王「そうか……」

王「……では、もう一度聞くが魔王討伐を頼めるか?」

勇者「はい。お任せ下さい」

王「頼んだぞ」

勇者「はい」

王「倒せるか?」

勇者「はい。世界のために命を掛けて戦うつもりです」

王「……ありがとう」

勇者「こちらこそ。私を選んでくださり、ありがとうございます」

王「魔王討伐を引きうけるのなら……お主に渡したいものがある」

勇者「何でしょうか?」

王「剣だ。選ばれたものしか持てぬ、な」

勇者「それが私……?」

王「勇者だからと言って持てる訳ではない。剣に認められなければいけないのだ」

勇者「ど、どういう意味ですか?」

王「さあな、私も詳しくは分からん。ただそう伝えられておるのだ」

勇者「……」

王「こっちだ」ガチャ

勇者「……」スタスタ

王「これだ」

勇者「……これは、和の剣ですか?」

王「そうだ」

勇者「……」

王「刀とも呼ばれておる」

勇者「名前はあるんですか?」

王「ああ、お前にピッタリの名前がついておる」

勇者「?」

王「正義だ」

勇者「正義?」

王「そうだ。お主にピッタリの剣だろう?」

勇者「いいのですか?」

王「魔王を倒しに行くのに丸腰では困るだろう」

勇者「……ありがとうございます」


勇者は王から刀を受け取る


王「後は、認められるかだな……」

勇者「……」

王「抜けるか?」

勇者「はい」


勇者は刀を鞘から抜く。


王「……合格だな」

勇者「どういう意味ですか?」

王「この剣は強い正義の信念を持った者でないと抜けないのだよ」

勇者「私の正義の心と言う事ですか?」

王「そうだな。そういう心を持った者がこの剣に認められるらしい」

勇者「では、私が抜けたと言う事は……」

王「お主が認められたと言う事だ」

勇者「ほ、本当ですか……」

王「ああ、本当だ」

王「残りの必要な物は城の兵士に持っていかせる」

勇者「ありがとうございます」

王「出発は何時でも良いぞ」

勇者「明日には出発します」

王「急だな」

勇者「ええ、身内も居ませんから大丈夫です」

王「だが、そんなに急でいいのか?」

勇者「はい。出来る限り早く世界を平和にした方がいいと思いますので」

王「……そうか。では頼んだぞ」

勇者「はい」

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城下町


勇者「……」

男の子「こんにちは」

勇者「……ああ、こんにちは」

男の子「お兄さん、元気無さそうだね?」

勇者「そ、そうか? 俺はいつもと一緒なんだけどな……」

男の子「なんか、疲れてるみたいだよ」

母親「こらっ!! 何やってるの!!」

男の子「え、お兄さんと話してるだけだよ」

勇者「いえ、気にしないで――――」

母親「すいません。ほらっ早く行くよ」

男の子「え……なんで!?」

母親「早くしなさい!!」

勇者「……」

町人「あれだろ、勇者って」ヒソヒソ

薬屋「ええ、何でも悪人は皆殺しにするらしいわよ。噂じゃ山にいた山賊を惨殺したって噂だし」ヒソヒソ

町人「いくらなんでもやり過ぎだろ」ヒソヒソ

薬屋「本人に何言っても聞かないのよ。これが私のやり方ですとしか言わないし……」ヒソヒソ

町人「どっちが悪人だかわかったもんじゃないな」ヒソヒソ

薬屋「ええ。だから町の人もあの人との接触は必要最低限にしてるの」ヒソヒソ

町人「追い出したらいいじゃないか」ヒソヒソ

薬屋「一応助けてもらってるんだから簡単に追い出せないじゃない」ヒソヒソ

町人「……困ったもんだ」ヒソヒソ

薬屋「まったくよ」ヒソヒソ

勇者「すまない、薬がほしいんだが」

薬屋「え、あ、はい。何がほしいんですか?」

勇者「傷薬と薬草が欲しいんだ」

薬屋「はい。ちょっと待って下さいね」

町人「じゃ、じゃあ俺はこれで」スタスタ

薬屋「え、ええ」

勇者「……」

薬屋「……」

勇者(……これでいい。別に嫌われたって構わない)スタスタ

盗賊「おら、お前等動くんじゃねえ!!」

男の子「う……た、助けて!!」

盗賊「騒ぐんじゃねえ!!」


盗賊は男の子の首にナイフを突き付ける


勇者「……あの子はさっきの……」

盗賊「金だ。金を用意しろ!!」

母親「分かったから。その子は助けて!!」

盗賊「うるせえ!!」

勇者「……」スタスタ

母親「な、なんですか!?」ビクッ

勇者「悪の根絶が俺の目標。あなたの息子さんも助けますよ」

母親「お、お願いします」

勇者「……」スタスタ

盗賊「近づくんじゃねえ!!」

勇者「お前馬鹿だな」

盗賊「な、何だと!?」

勇者「白昼堂々そんな事をしても兵士に捕まるだけだぞ」

盗賊「黙れ!!」

勇者「はあ……」

盗賊「なんだよ!!」

勇者「……」


勇者は一瞬のうちに盗賊の右手を斬りおとす。


盗賊「あ、あがっ!?」

勇者「早く逃げろ」

男の子「あ、ありがとう……」タタタッ

盗賊「お前……」

勇者「なんだ?」

盗賊「お前、勇者だな!!」

勇者「そうだが、何か?」

盗賊「悪は全て殺すって言う理由で何十人も人間を斬り殺してきた……!!」

勇者「……」

盗賊「……俺も殺すのか?」

勇者「当然だ。お前はあんな子供を人質にとった悪人だ」

盗賊「……待て。わかった。改心する」

勇者「嘘だ」

盗賊「嘘じゃない!! 本当だ!!」

勇者「……」

盗賊「わかって――――」


勇者は盗賊を斬り捨てる。


盗賊「な、んで……」

勇者「その場限りの出まかせを聞く気は無い」

盗賊「うぐ……」

勇者「……すぐに死ねるだけありがたいと思え」

盗賊「……」ドサッ

勇者「大丈夫か?」

男の子「う……」

勇者「どうした?」

男の子「……」ガクガク

勇者「ど、どうしたんだ!?」

母親「あなた、分かってないんですか!?」

勇者「……」

母親「あなたの方がよっぽど悪じゃない。この殺人狂!!」

母親「早く行くわよ!!」


母親は男の子の手を握り、足早に去っていく。


勇者「……」

町人「あの人、命乞いしてたのにな」

薬屋「あれが勇者って事よ」

町人「世も末だな。あんな殺人狂が世界を救うかもしれない男だなんて」

薬屋「あんな人よりもっといい人が絶対居ると思うんだけどね……」

勇者「……」

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勇者の家


勇者「ただいま……」ガチャ

勇者「……」

勇者「俺は何がしたいんだろうな……」

勇者「町を平和にするために人を殺して……」

勇者「俺は本当にただの殺人鬼なのか……」

勇者「俺の考えている正義は間違っているのか?」

勇者「……でも、俺は――――」

???「なら新しい正義を探してみたら?」

勇者「!?」


そこに立っていたのは透き通る様な白い長髪の少女だった。
肌もその髪と同じくらい白い。
大きめの目にスッと通った鼻筋、愛らしい口元。
服装は何処にでもいそうな町の人の格好をしている。
何処からどう見ても美少女だが、纏っているオーラは何処か抜き身の刀の様に鋭い。

???「違ってると思うなら新しい正義でも探してみたらどう?」ニコッ

勇者「お前は……誰だ」

???「あれ、分からないの?」

勇者「……人間じゃないな」

???「さて、どうかしらね」

勇者「……」


勇者は刀を抜き、その美少女に斬りかかる。


???「……」

勇者「な!?」


だが、彼女に刃先が当たる瞬間、刀がピタリと静止する。


???「斬れる訳ないじゃない。だってそれは私なんだから」

勇者「……どういう意味だ」

正義「私の名前は正義。その刀よ」

勇者「お前が、正義?」

正義「そう、この剣には人格があるのよ。それが私」

勇者「なんで人の姿を?」

正義「これが私の昔の姿だから」

勇者「……」

正義「人格があるって言うのは正確には人格が封印されてるの。私もその一人よ」

勇者「何のために」

正義「魔力を蓄えるため。私魔力を体の中に蓄えられるの特殊な人間がるの」

勇者「それがお前だと?」

正義「そう言う事」

勇者「……」

正義「あなたが剣――――」

勇者「刀だ」

正義「ああ、刀ね。刀を握った時に私があなたを認めたから刀が抜けたのよ」

勇者「じゃあ刀が抜けなかった者達はお前に認められなかったからなのか?」

正義「そう、ちなみにあなたの事はだいたい理解してるわよ。刀を介してあなたの事を知る事も出来たし」

勇者「そんな事も出来るのか」

正義「当たり前じゃない」

勇者「……お前以外にも人格の封印された剣はあるのか?」

正義「ええ。私を含めて五本。その一本は魔王の持っている剣よ」

勇者「……魔王が」

正義「まあ、他の剣がどんなのかはあんまり知らないんだけどね」

勇者「……」

正義「で、あなたはどうするの? 魔王を倒す旅にでるの? 自分の正義を探す旅にでるのか」

勇者「今まで信じて来たものを今更変える気は無い。俺は魔王を倒す為、そして世界の悪を倒すための旅に出る」

正義「そうでなくちゃ面白くないわ」

勇者「……」

正義「やっぱりあなたを選んでおいてよかったわ」

勇者「……」

正義「弱くて脆い人間を見るのはやっぱり面白いわね」

勇者「なんとでも言え」

正義「ふふっ」

勇者「……行くか」

正義「そうね」


こうして、勇者は魔王を倒す旅に出発した。

今日はここまでです。

超王道の主人公って書いてて楽しいですね。

正義(せいぎ)です。

一応女の子なんで。

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町外れの森


正義「で、まずは何処に行く訳?」

勇者「まずは一番近い町だな。森の町と言う所らしい」

正義「ふーん。具体的には何をするの?」

勇者「そうだな……」

正義「もしかして何にも無いの? あなたって意外と計画性無い?」

勇者「ちゃんと計画はある」

正義「へー、何?」

勇者「まずは魔王の情報を探す。あと旅の仲間探しだな」

正義「仲間ね……あなたみたいな性格の人間ってすぐ裏切られそうよね」

勇者「……どういう意味だ?」

正義「仲間になったけど実は敵でした、みたいな事になるって事よ」

勇者「ならその仲間ごと敵を斬る」

正義「出来るの?」ニヤニヤ

勇者「出来る。いや、やるんだ」

正義「本当かな?」ニヤニヤ

勇者「ああ、それが仲間でも兄弟でも妻でも悪なのであれば斬る」

正義「強がっちゃって」

勇者「強がってない!!」

正義「ふふっ。やっぱり面白いわね」

勇者「俺は面白くない」

正義「……」

勇者「……」

正義「まあいいわ。なにと戦う事になっても私は協力してあげるから」

勇者「……本当にか?」

正義「私はあなたを認めてるんだから裏切ったりしないわよ」

勇者「……ありがとう」

正義「……もしかしてあんたクソ真面目?」

勇者「俺はいつも真面目だ。後、俺には勇者と言う名前がある」

正義「……勇者は魔王を倒すのが目標なの?」

勇者「ああ、だが悪人を見つけたならそいつ等も殺す」

正義「……」

勇者「なんだ?」

正義「別に」

勇者「……殺人鬼だと思ったか?」

正義「まさか。信念を曲げないでいるって事は凄くいい事だと思うわよ。それが正しいかどうかは別にしても」

勇者「……」

正義「別にあなたの考え方が間違ってるなんて言ってないでしょ」

勇者「そうか?」

正義「人の考え方なんていっぱいあるんだし、細かい事気にしてたら大変よ」

勇者「……そうだな」

正義「ほら、そろそろ出発しないと日が暮れちゃうわよ」

勇者「見れば分かる」

正義「……可愛げが無いわね。だいたい女の子と二人旅なんだからもっと楽しんだら?」

勇者「余計なお世話だ」スタスタ

正義「……あなた彼女いる?」

勇者「突然なんだ」

正義「いや、ちょっと気になって。いるの?」

勇者「いない」

正義「いたことは?」

勇者「ない」

正義「……即答」

勇者「別に俺にそんなもの必要無いからな」

正義「……言い訳にしか聞こえないわよ」

勇者「そう聞こえるならそれでいい」

正義「好きな人とか居ない訳?」

勇者「いない」

正義「寂しい人間ね」

勇者「うるさい、それにお前に言われたくない」

正義「あなたにだけは言われたくない。あと私にも正義って名前があるんだけど」

勇者「……」スタスタ

正義「名前呼びなさいよ」スタスタ

勇者「さっさと行くぞ。正義」スタスタ

正義「こっち見なさいよ」スタスタ

勇者「嫌だ」スタスタ

正義「わかった。こんなかわいい女の子と一緒に旅した事無いから緊張してるのね」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「なんか言ってよ。寂しいじゃない」スタスタ

勇者「行くぞ」スタスタ

正義「……つまんない」スタスタ

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森の町


ガヤガヤ


正義「うわ……人混み嫌いなんだけど……」

勇者「そんな事知らん」スタスタ

正義「……なんかもうちょっと言い方ないの?」スタスタ

勇者「じゃあなんて言えばいいんだ」スタスタ

正義「なら人混みは避けていくか。くらい言ってよ」スタスタ

勇者「大通りはここだ。ここで情報収集をしなくちゃ意味が無い」スタスタ

正義「……分かったわよ」スタスタ

勇者「そんなに嫌なら別にこの辺りで待っててもいいぞ」

正義「別にいいわよ」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「で、まずは何をする訳?」スタスタ

勇者「まずは魔王の情報収集と仲間探しだ」スタスタ

正義「そう簡単に見つかるとは思えないけどね」スタスタ

勇者「ここで情報が集まらなければ別の町に行くまでだ」スタスタ

正義「あ、そう」スタスタ

勇者「まずは酒場だな」スタスタ

正義「酒臭い場所でしょ?」スタスタ

勇者「そりゃ酒を飲む場所だからな」スタスタ

正義「勇者は酒は飲むの?」スタスタ

勇者「俺は飲めない。あの苦いのが苦手なんだ」スタスタ

正義「……意外と子供ね」スタスタ

勇者「うるさい」スタスタ

正義「ふふっ」スタスタ

勇者「こんにちは」ガチャ

マスター「いらっしゃい」

正義「う……酒臭っ……」

勇者「嫌なら外で待って――――」

正義「おっさん。ビール一杯」

マスター「はい、どうぞ」

勇者「……」


正義は一気にビールを飲み干す。


マスター「言い飲みっぷりですね」

正義「もう一杯!!」

勇者「おい」

正義「いいじゃない。お金もあるでしょ」

勇者「そう言う意味じゃ無くてな……」

正義「……」ゴクゴク

勇者「まだ昼だぞ……」

正義「いいのいいの」

勇者「……」

???「こんにちは」ガチャ

マスター「いらっしゃい」


入ってきたのは茶色のローブを着た女性だった。
はっきりした顔立ちで目は切れ長。
髪は腰くらいまである長い黒髪だ。
胸もそこそこ大きく、いいスタイルと言える。
右手には彼女の身長と同じくらいの長さのある大きな木の杖を持っていた。


正義「ぷはー」

勇者「飲み過ぎだ」

正義「ごめんごめん……」

勇者「もう酔ってるだろ」

正義「酔ってない酔ってない。私はまだまだ大丈夫よ。もう一杯お願い」

マスター「どうぞ」

勇者「……」

???「すいません。いつものお願いできますか」

マスター「いいよ」スッ

???「ありがとうございます」

勇者(珍しいな、旅人でも無さそうなのに一人で酒場なんて)

勇者「おい、どれだけ――――」

正義「……」スヤスヤ

勇者「いつの間に……」

勇者「お金はここに置いておくぞ」

マスター「はい、ありがとうございます」

勇者「この辺りに宿屋はあるか?」

マスター「宿屋なら武器屋の横にありますよ」

勇者「ありがとう」


勇者は正義を抱き上げ、店を後にする。


マスター「ありがとうございました」

今日はここまでです。

基本的に毎日更新で行こうと思いますが、急用などで休む日もちょくちょくあると思います。
長くなる場合はちゃんと連絡します。

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宿屋


正義「う、うーん……」

正義「あれ、私なんでこんな場所に?」

勇者「……」

正義「勇者?」

勇者「……起きたか」

正義「あれ、寝てた?」

勇者「まあ、少しだけな」

正義「……ありがとね」

勇者「次は自分で考えて飲むようにするんだな」

正義「ごめんね。はしゃいじゃって……」

勇者「……」

正義「こんな風に出てこれたのは何十年ぶりだから」

勇者「……」

正義「あ、頭痛いかも……」

勇者「もう少し寝てろ」

正義「あなたはどうするの?」

勇者「少し出掛けてくる」

正義「……そう、行ってらっしゃい」

勇者「ああ」

正義「何かあったら刀を抜いて念じてくれればいいから」

勇者「念じる?」

正義「そう、心の中で私を呼んでくれればいいわ」

勇者「それするとどうなるんだ?」

正義「私が刀に中に戻る」

勇者「?」

正義「まあやってみれば分かるわ」

勇者「心の中でお前を呼ぶだけでいいのか?」

正義「ええ。私達はお互いに内側が繋がってるから」

勇者「わ、わかった」

正義「じゃあね」

勇者「ああ、それじゃあ」ガチャ

勇者(内側で繋がってるって事は俺の考えてる事もバレてるのか?)スタスタ

勇者「いや、だったら俺も正義に気持ちが分からないとおかしいか……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

勇者「そろそろ日が暮れるな」スタスタ

戦士「相変わらず幸薄そうな顔してんな」

???「……」

勇者「ん?」

戦士「何とか言ったらどうだ。魔法使いさんよ」

魔法使い「わ、私は別に……」

戦士「は、聞こえねえよ!!」

魔法使い「す、すいません」

勇者「弱い者いじめか?」

戦士「は?」

勇者「弱いものいじめかと聞いてるんだ」

戦士「別にそんな事してねえよ。なあ?」

魔法使い「う、そ、それは……」

戦士「どうなんだ!?」

魔法使い「は、はい。別に何かされている訳ではないです」

勇者「……俺の名前は勇者だ。お前等は?」

戦士「勇者……どっかで聞いたことあるな。まあいいか」

魔法使い「わ、私は魔法使いです」

戦士「……」

勇者「お前の名前は」

戦士「……俺は戦士だ」

勇者「戦士か……もう一回聞くがお前は何もしようとしてないんだな?」

戦士「だからそうだって言ってんだろ」

勇者「じゃあその子に用事があるのか?」

戦士「別に。ただ会ったから話してただけだよ」

勇者「じゃあその子を借りて行ってもいいか?」

戦士「は?」

勇者「聞きたい事があるんだ」

戦士「……」

勇者「ダメならお前達の話がが終わるまで待っているつもりだが」

戦士「……チッ、勝手にしろ」スタスタ

勇者「……」

魔法使い「助けて下さりありがとうございます」

勇者「聞きたい事があるんだが、いいか?」

魔法使い「はい。別に構いませんが、長くなるんでしたら酒場辺りで話を聞かせてもらえますか?」

勇者「……わかった。じゃあ行くか」スタスタ

魔法使い「ありがとうございます」スタスタ

魔法使い「……聞きたい事というのは何ですか?」

勇者「お前はなんで抵抗しなかったんだ?」

魔法使い「……」

勇者「それが気になったんだ。それに昼も一人だっただろ」

魔法使い「……」

勇者「どうなんだ?」ガチャ

マスター「いらっしゃい。あれ……」

魔法使い「さっき助けてもらったんです」

マスター「またあいつか……今度は君を狙って……困ったもんだね」

勇者「そこでいいか?」

魔法使い「私は構いませんよ」


勇者と魔法使いはカウンター席の一番端に座る。


魔法使い「私の話を少ししてもいいですか?」

勇者「ああ」

魔法使い「……私は魔法を学んでいます」

勇者「……魔法使い見習いと言ったところか?」

魔法使い「そうです」

勇者「学校に行ってるのか?」

魔法使い「いえ、学校は……」

勇者「なんだ?」

魔法使い「一応は卒業、と言う事になってます」

勇者「一応?」

魔法使い「ほとんど厄介払いの様なものですが……」

勇者「?」

魔法使い「魔法が使えないんですよ……私」

勇者「でも学校に言ったんだろう?」

魔法使い「行きました。でも魔法を教える事は出来ても魔法を使う事は出来ないんです……」

魔法使い「……知識や技術があっても、どうやっても魔法が使えないんです」

勇者「……」

魔法使い「落ちこぼれなんです」

勇者「じゃあさっきの男は」

魔法使い「私が魔法を使えない事も知ってますから。ああやって嫌がらせをしてくるんです。魔法が使えない私も悪いんです」

勇者「お前はどうにかしようとは思わないのか?」

魔法使い「無理です。友達もいませんし。私独りぼっちなんで……家族にも見放されてるし……」

勇者「……」

魔法使い「勇者さんでしたか?」

勇者「ああ」

魔法使い「多分勇者さんには分からないと思います。勇者さんは多分落ちこぼれじゃないと思うから」

勇者「……」

魔法使い「私は本当にダメなんです。学校に居た時も魔法が使えないからせめていい子ちゃんではあろうとしたんです」

魔法使い「結局そのせいで友達は一人も出来ませんでしたけど」

勇者「出来ないと事は……別に悪い事じゃ無いだろ」

魔法使い「それは勇者さんが出来るからですよ。出来ない私の気持ちなんてわからない」

勇者「……」

魔法使い「長話しちゃってすいません。お金、ここに置いておきますね」スタスタ

勇者「……」

マスター「……追いかけなくていいの?」

勇者「追いかけてどうすればいいんだ?」

マスター「まあ、確かにそうだね」

勇者「嫌がらせはどんな事をされてるんだ?」

マスター「……さあ、あの子あんまり話してくれないから」

勇者「……」

マスター「表に出さないんだ。多分迷惑をかけちゃいけないと思ってるんだろうね」

勇者「そうか」

勇者「……お金ここに置いとくから」

マスター「ありがとうございます」

勇者「じゃあ」

マスター「また来てくださいね」

今日はここまでです。

※補足

この世界では魔法は学校で習います。一応強制ではないですが、ほとんどの人が学んでいると言っていいです。
(今で言うと自動車学校みたいな感じです)
ちなみに魔法にも魔力を使うのですが、基本的に使う量が少ないためどんな人間でも使う事が出来ます。
正義は魔力を以上に貯められるので魔法が使えれば普通の人の約三百倍くらい魔法が使えます。

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宿屋


勇者「……」ガチャ

正義「ん、あれ。戦わなかったの?」

勇者「必要ない戦いはしない」

正義「慎重なのね」

勇者「命を奪うんだ。慎重にならないとダメだ」

正義「あ、そう」

勇者「……」

正義「で、何処行ってたの?」

勇者「別に。ただ気になった奴がいたんだ」

正義「気になった奴?」

勇者「ああ」

正義「女?」

勇者「女だ」

正義「……ふーん」

勇者「何?」

正義「別に」

勇者「……明日町に行くぞ」

正義「別にいいけど。なんで?」

勇者「情報収集だ」

正義「ふーん……」

勇者「何だ?」

正義「いや、戦うの?」

勇者「……さあな」

正義「まあ、どっちでもいいんだけどね」

勇者「……聞きたいんだが、お前は何処まで分かるんだ」

正義「え、何の事?」

勇者「俺の何処までを読み取れるんだ?」

正義「あの……言いたい事がよくわかんないんだけど」

勇者「内側で繋がっているんだろ。俺の考えてる事を何処まで読み取れるんだ?」

正義「……全然」

勇者「え?」

正義「最初にあなたの記憶を借りてこの世界の状態を知っただけ。あとは全くよ」

勇者「そ、そうなのか」

正義「ええ。だから安心して」

勇者「……わ、わかった」

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次の日


勇者「よし。じゃあ行くか」スタスタ

正義「ええ、そうね」スタスタ

勇者「さすがに朝早いと人が少ないな」スタスタ

正義「もう少し時間が経てば人も増えてくるでしょ」スタスタ

勇者「少し早過ぎたか?」スタスタ

正義「まあいいじゃない」スタスタ

魔法使い「あ……」スタスタ

勇者「……おはよう」

魔法使い「お、おはようございます」

正義「ん、知り合い?」

勇者「まあ、そんな所だ」

魔法使い「昨日はすいませんでした」

勇者「別に気にしてない」

魔法使い「そ、そうですか」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

正義「誰?」スタスタ

勇者「魔法使いらしい」スタスタ

正義「ふーん。魔法が使えるなら仲間にしなくていいの?」スタスタ

勇者「考えてる最中だ。後あいつは今の所魔法は使えない」スタスタ

正義「使えないんだ……」

勇者「だが仲間にはいいと思うんだ」

正義「まあ、魔法が使えればいいって訳でもないしね」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

魔法使い「や、やめて下さい!!」

勇者「……」

正義「さっきの子みたいね」

勇者「ああ、そうみたいだな」

正義「行く?」

勇者「ああ、悪を放っておくわけにはいかんからな」スタスタ

正義「……無駄な事に頭を突っ込むのが好きな訳ね」スタスタ

勇者「うるさい」スタスタ

戦士「朝っぱらから目障りなんだよ!!」

魔法使い「す、すいませんでした……」

戦士「何持ってんだよ」パラパラ

魔法使い「……ま、魔道書です」

戦士「はっ。魔法も出来ない屑が魔道書なんて持っててどうすんだよ」

魔法使い「ちゃんと勉強するために持ってるんです」

戦士「ははははは!! 何だそりゃ!!」

勇者「またお前か」

戦士「……それはこっちの台詞だよ」

勇者「嫌がってるんだ。やめてあげたらどうだ?」

戦士「そんなにこいつが大事かよ」

魔法使い「……」

勇者「俺はただお前のみたいな人間が嫌いなだけだ」

戦士「なに偽善者ぶってんだよ。お前も俺と同じだぜ」

勇者「何が言いたい」

戦士「お前の目は人殺しの目だ。俺にはわかるぜ。一緒だからな」

勇者「……」

正義「まあ、間違ってはないわね」

戦士「お前がなんで偽善者ぶってるかは知らねえけどよ。俺は俺の好きなようにやらせてもらうぜ!!」


戦士は魔法使いの腕をおもっきり捻る。

魔法使い「あ、うう……」

戦士「はははっ!! やっぱ人が苦しむ所は見てて飽きねえな」

勇者「……」


勇者は刀を抜こうと――――。


魔法使い「やめて下さい!!」

勇者「……」

魔法使い「勇者さんに迷惑かけたくないんです。私は大丈夫ですから」

勇者「……」

魔法使い「……すいません」

勇者「……なんでだ」

魔法使い「すいません」

勇者「謝ってるだけじゃわからんだろ!!」

魔法使い「……」

勇者「……」

勇者「ちょっと来い!!」


勇者は魔法使いの手を掴み、歩き出す。


魔法使い「え?」スタスタ

正義「意外と熱い所もあるのね」スタスタ

戦士「おい!!」

正義「悪いわね」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「は、離して下さい」

勇者「お前はなんでそう自分で抱え込むんだ」

魔法使い「た、他人に迷惑かけちゃ悪いです。私みたいな落ちこぼれの為に……」

勇者「本当にそう思ってるのか?」

魔法使い「……」

勇者「そのうち戦士に殺されるぞ」

魔法使い「……でも、だったらどうすればいいんですか」

正義「誰かに助けてもらえばいいじゃない」

魔法使い「そんなの……」

勇者「なんでそこまで頑なに断るんだ」

魔法使い「私は何にも出来ないんです!! だからせめていい子じゃないと……」

勇者「違う」

魔法使い「え?」

勇者「お前の言ってる事は間違ってる」

魔法使い「……」

勇者「助けてもらう事と迷惑をかける事は別だ」

正義「あなたがどんな風かは知らないけど、助けてもらわないのはいい子ちゃんであるって事じゃないわよ」

魔法使い「う……」

勇者「で、どうするんだ?」

魔法使い「……本当に、いいんですか?」

勇者「ああ」

戦士「見つけたぞ。クソが!!」

勇者「……正義。大丈夫か?」

正義「ええ。あなたがやる気ならいつでも」

勇者「じゃあやらせてもらう」

正義「……」

戦士「いい加減偽善者ぶってんじゃねえ!! お前は俺と同じなんだよ!!」

勇者「お前と一緒にされたく無い」

正義「でも、周りから見ればあなたもあいつも一緒よ」

勇者「……」

勇者「まあ、確かにそうだな」

正義「あなたがどんなに悪い人間を殺してもそれは殺人だからね」

勇者「でもやめる気は無い」


勇者は刀を抜く。

その瞬間、正義は塵になったかのように消えてしまった。


正義『勇者。私の声が聞こえるわよね?』

勇者「ああ。よく聞こえる」

正義『大丈夫……よね?』

勇者「ああ、問題無い」

戦士「俺とやろうってのか? いいぜ、相手になってやるよ!!」

勇者「手加減は出来ないからな」

戦士「はっ。勝手にしろよ!!」

今日はここまでです。

明日は初戦闘シーンです。

勇者と戦士はほぼ同時に地面を蹴った。
どちらもその速度は異様に速く、一秒も経たず、お互いが間合いに入る。

勇者は刀を地面と水平に構え、大きく横に振った。
それはただの一太刀。
だがそれは恐ろしく速く、そして恐ろしく重い一撃。

ゴウっ、と言う音と共にその一撃が襲いかかる。

戦士の剣と勇者の刀が激突し、金属同士の激突音が響く。
まるで踊る様に火の粉が飛び散った。


「お前……勇者ってもしかして……」


鍔迫り合いの状態で戦士が呟く。
だが勇者はそれに一切反応せず、相手を睨み続ける。

金属音が何度も響き、そのたびに戦士が一歩ずつ後退させられていく。

戦士の表情が一瞬だけ曇る。

その時、勇者の頭に声が響く。


『私はあくまであなたに魔力を供給するだけ。使い方はあなたが決めるんだからね』


頭の中の正義の声に一言返事をし、戦士を弾き飛ばす。
さっきまで鼻先がぶつかり合うほどの間合いだったのが、一気に二メートルほどに開く。

戦士は肩で息をしながら、こちらを睨みつけていた。
怒りと恐怖の入り混じった様な血走った目は獣染みており、普通ならそれだけで相手の動きを封じられそうだ。。

しかし勇者はそんな事は気にも止めず、さっきの言葉の事を考えていた。
あくまで使い方は俺次第。
つまり、魔力は使い方次第で無限の可能性を秘めていると言う訳か。


「魔力量はどの程度だ?」

『まあ、かなり多い方よ。少なくなったら私がちゃんと伝えるから』


その言葉に勇者は頷き、そして一歩大きく前進する。
さっきよりも姿勢を低く、速度を速く。
まるで風の様に疾走する。

刀を構え直し、標的を絞る。
その目はすでに獲物を一撃で仕留めようとする獣の様だ。

相手の体が強張るのが手に取る様に分かる。
確かに戦士は強い。
だがそれは勇者にはまだ遠く及ばないのだ。

だがそれは遅すぎた。
もっと速く。
もっと無駄の無い動きをしなけらば間に合わない。

その一撃は大きなミスであり、そのミスは大きな隙を生む。

すでに勇者は戦士の背後に回り込んでいた。

戦士の顔に驚愕の色が表れる。
だがすでに勇者が後ろにいる事を気付いていたとしても体は止まらない。

そんな戦士を見ながら勇者は大きく息を吸い込んだ。

自分の体の中に魔力が流れ込んでくるのをイメージする。
魔力によって自分の体が強化されるのを強くイメージしていく。

体が熱くなるのを勇者は実感していた。
魔力が体の中をめぐっていく。

勇者が息を吐くのと同時に刀が鈍く光った。

銀の閃光。
しかもそれは一度ではなく、何十何百という数の光。

音よりも速く、斬撃がまるで嵐の様に襲いかかる。

血が飛び散り、それとほぼ同時に呻き声が聞こえる。
その一瞬にして戦士の体に無数の切り傷が出来上がっていた。
そこからは赤い液体がとめどなく溢れ、地面を染めあげる。

勇者は刀を構えながら呼吸を調える。

まるで緊張の糸が切れたように体が冷えていく。
魔力が体から消えていくのが実感として分かった。


「終わりだ」


勇者はそう呟き、刀を握り直した。

戦士にその姿は死を運ぶ死刑執行人にも痛みから解放してくれる善人にも見えただろう。


過呼吸の様に荒い呼吸をしながら戦士は勇者を見ていた。
プライドを捨て、無様に叫ぶ。


「ま、待て……待ってくれ。謝る。謝るから許してくれ!!」

その姿を見る勇者の目はまるでゴミ溜めを見るかのような蔑んだ目だった。
その顔には嫌悪の感情しか無い。
同情や慈悲の無い氷の様な表情を浮かべる。


「今更遅い。それに謝ったら死んだ人が蘇るのか?」


まるで感情の籠っていない、周りにいる人間すら悪寒を感じるほどの冷めた声。

その言葉と同時に勇者は戦士の足を払う。
血塗れでまともに動けない戦士はそれだけでもバランスを崩し、地面に倒れんでしまった。

その衝撃で傷口からはまだ赤い液体が溢れだし、地面はいつの間にか血の海と化している。

戦士の命はもってもあと数分。下手すれば一分ももたないだろう。


『まあ、最初にしちゃ十分ね』


正義の声に、そうか、とだけ返事をし勇者は戦士の方を見る。

ボロ雑巾のようなその姿はあまりにもかわいそうで、手を差し伸べたくすらなる。
だが勇者は決してそんな事はしない。
なぜなら彼は今までもこんな風に人を殺してきたから。
もしここで手を差しのばしてしまえば、今まで殺してきた人達に示しが付かないからだ。

戦士が痛みに呻いた。
その顔には苦痛と死への絶望感しか無い。

勇者は彼を見ながら刀を構える。


「楽になれ」


戦士の首と胴体が離れる。
まるで蹴鞠の様に首が宙を飛んでいき、そのまま血の海に落下する。


胴体からは更に血が溢れだし、血の海は更に広がり、勇者の足元も血の海に変わる。

だが勇者はそこから動く事も無く、刀を一度大きく振り、血を飛ばすと、刀を鞘へしまった。

勇者「……」

魔法使い「……」

正義「まあまあだったわね。そのうちもっとうまくなると思うわ」


正義はいつの間にか横に立っていた。


勇者「大丈夫か?」

魔法使い「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」

勇者「……」

魔法使い「……顔に血が付いてますよ」


魔法使いはローブの中から布を出し、勇者の顔を拭く。


勇者「……怖くないのか?」

魔法使い「な、何がですか?」

勇者「こんな簡単に人を殺してるんだぞ」

魔法使い「怖くないです。助けてもらったんですから」

勇者「……」

魔法使い「なんですか?」

勇者「いや、ただ出来ただろ。助けてもらう事が」

正義「いいんじゃない?」

勇者「そうだな」

魔法使い「本当にありがとうございました」

魔法使い「……ただ、道の真ん中に死体を置いておくのはどうかと思うのですが」

勇者「確かに……捨ててくるか」


勇者は戦士の死体を担ぎあげる。


魔法使い「あっちの方に木にあげる肥料を入れておく大きな穴があるのでそこに入れとけばいいと思いますよ」

勇者「悪いが、案内してくれるか?」

魔法使い「はい。わかりました」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「どうでもいいけどあなた血まみれよ」スタスタ

勇者「仕方ない事だ」スタスタ

正義「あ、そう」スタスタ

勇者「それに後から洗えば別に大丈夫だ」スタスタ

正義「まあ、そうかもね」スタスタ

魔法使い「ここです」


勇者は戦士の胴体と首を茶色の水の溜まった大きな穴に投げ込む。


正義「あ、沈んでいく……」

魔法使い「筋肉質ですから浮かないんだと思います」

勇者「悪かったな。こんな事まで付き合わせて」

魔法使い「いえ、こちらこそ助けてもらっちゃって」

正義「別にいいのよ。私達が好きでやった事だし」

勇者「ああ、結果的にお前を助けただけだ。俺も正義も迷惑なんてかかってない」

正義「そうね」

魔法使い「……ありがとうございます」

正義「ねえ、あなたがもしいいなら仲間にならない?」

魔法使い「え?」

正義「どう、いや?」

魔法使い「いえ、私は全然……むしろ嬉しいんですけど……」

正義「あなた、勇者のあれ見ても怖がらなかったでしょ」

魔法使い「そ、そうですけど……」

勇者「俺からも頼む。仲間になってくれないか?」

魔法使い「わ、私なんて……魔法も使えないですし、剣術なんて全然分からないですし……」

正義「別に大丈夫。私も勇者もそんな事全然気にしてないから」

魔法使い「……私みたいな落ちこぼれでいいんですか?」

勇者「ああ」

正義「いいわよ」

魔法使い「う……」

正義「もちろん、どっちでもいいのよ」

勇者「ああ、魔王討伐だからな。どうなるかは分からん」

勇者「ただ、長い旅になるから仲間は欲しいと思っただけだ」

魔法使い「……ほ、本当にいいんですか?」

勇者「ああ、よろしくな」

正義「よろしくね。正義って呼んで」

魔法使い「よろしくお願いします。正義さん。勇者さん」

正義「一人目の仲間ね」

勇者「いや、二人目だ」

正義「え?」

勇者「お前が一人目だろ」

正義「……」

勇者「自分を数え忘れるな」

正義「ご、ごめんね」

正義「……じゃあ行こっか」

魔法使い「はい」

勇者「まず、服を洗ってからな」


こうして、魔法の出来ない魔法使いが仲間になったのである。

短いですが今日はここまで。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


森 夕方


正義「長いわね……」

魔法使い「この辺りは一面森ですから。仕方ありませんよ」

勇者「次は海辺の国だな」

正義「海辺の国?」

勇者「ああ。知らないのか?」

正義「あなたの記憶を借りたって言っても全部分かる訳じゃないわよ」

勇者「……ここには大きく四つの国によって統治されてたんだ。それが海辺の国、砂漠の国、山の国、谷の国だ」

正義「されてたってどういう意味?」

魔法使い「ちょっと前に海辺の国と谷の国が戦争をしたんですよ。それで谷の国は負けて今は三つの国しかないんです」

正義「ふーん、じゃあ谷の国が統治してた場所は海辺の国のものになったの?」

勇者「まあ、そうだな」

魔法使い「ちなみに私達は山の国の者達ですからね」

正義「勉強になるわ」

魔法使い「ありがとうございます」

勇者「まあ、今は比較的安定している時期だから他の国に言っても何の問題もないがな」

魔法使い「そうですね」

正義「……で、今日中につけるの?」

勇者「……無理だな」

魔法使い「ですね」

正義「……じゃあ野宿?」

勇者「そうだな」

魔法使い「この近くに湖がありますからそこで体は洗えばいいですよ」

正義「湖か……」

勇者「ここで野宿にするか」

魔法使い「はい。じゃあ準備手伝いますね」

正義「ねえ、勇者」

勇者「なんだ」

正義「あなたと魔法使い。いい感じじゃない」

勇者「……」

正義「……な、何よ、その目は」

勇者「いや、別に」

魔法使い「薪になりそうな木がいっぱいあって助かりました」スタスタ

勇者「火は俺が起こすから」

魔法使い「いえ、私がやりますから」


魔法使いは薪を地面に置くと魔法を詠唱する。


魔法使い「……」

勇者「……」

正義「……」

魔法使い「すいません。やっぱりダメでした……」

勇者「気にするな。俺が火をおこしておくからお前達は湖で体を洗って来い」

魔法使い「す、すいません」スタスタ

正義「すぐ火が起きたからって覗きに来ないでよ」

勇者「心配しなくても行かない」

正義「あ、そう」スタスタ

勇者「……」

勇者「俺は、何をやってるんだろうな」

勇者「……」


勇者は火打石で火をおこす。


勇者「はあ……」

勇者(確かに俺は勇者には向いてないんだろうな。勇者って言うのはもっと慈悲深いくて人生経験豊富や人間の方がいいんだ)

勇者「……童貞だしな」ボソッ

魔法使い「や、やめて下さい!!」

勇者「……」

勇者「あの馬鹿は何をやってるんだ……」

勇者「……」ゴロン

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魔法使い「……」

正義「まだ怒ってるの?」ニコニコ

魔法使い「何が背中を流してあげるですか……普通に胸揉んだじゃないですか……」

正義「大きかったからつい……」ニコニコ

魔法使い「ついじゃないですよ」

正義「ごめんね」

魔法使い「別にいいですけど、減るものじゃないですし」

正義「ありがとね」

魔法使い「正義さんは勇者さんの彼女さんなんですか?」

正義「違うわよ。だいたい私人間じゃない訳だし、勇者は私の事なんて何とも思ってないと思うわよ」

魔法使い「そうなんですか……」

正義「私は勇者の持ってる刀なのよ」

魔法使い「……ああ、聞いた事あります。人格のある剣が何とかって」

正義「私はそれなの」

魔法使い「そ、そうなんですか……」

正義「だからこうやって旅するのも、女の子の知り合いが出来るのも何十年ぶりなのよね」

魔法使い「……大変なんですね」

正義「別に大変では無いわよ。ただつまんなかっただけ。だからあなたとか勇者なんかは面白くて好きよ」

魔法使い「勇者さんは……初めて会うタイプの人でした」

正義「そりゃそうでしょうね。あんな正義バカそんなにいてもらっても困るし」

魔法使い「正義さんはどのくらい勇者さんを知ってるんですか?」

正義「全然よ。この世界を知るための記憶は見たけど、勇者個人の記憶は覗いてないし、勇者と会ってそう日も経ってないからね」

魔法使い「そうなんですか」

正義「長い間旅をすれば教えてくれるかもしれないわね」

魔法使い「そうですかね」

正義「別に話してくれなくてもいいんだけどね。でも一応勇者の相棒としてやっていくんだから教えてほしいかな」

魔法使い「正義さんはなんで勇者さんと旅しようと思ったんですか?」

正義「正しいかどうかは別としてもしっかりした信念を持ってるからかしらね。あとは……」

魔法使い「あとは?」

正義「あとは……勇者って意外と脆いの」

魔法使い「脆い?」

正義「ええ。迷ってばっかりで、多分ちょっとの事で壊れちゃうと思う」

魔法使い「……」

正義「そんな所が放っておけなかったのかもしれないわね」

魔法使い「そうなんですか……」

正義「所で、あなた家族は?」

魔法使い「他の町に住んでます。今はあんまり連絡もとってないですけど」

正義「私が言うのもなんだけど、家族は大切にした方がいいわよ」

魔法使い「そう……ですよね。ありがとうございます」

正義「あと、別に敬語じゃなくていいわよ」

魔法使い「いえ、こっちの方が使い慣れてますから」

正義「そう」

魔法使い「じゃあ、私そろそろ出ますね」チャプ

正義「そう」

魔法使い「じゃあ――――」

正義「隙あり!!」


正義は魔法使いの胸を鷲掴みにする。


魔法使い「き、きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

今日はここまでです。

そろそろキャラをたくさん出していこうと思います。

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勇者「……もう少し静かに出来なかったのか?」

魔法使い「す、すいません……」

正義「ちょっとはしゃいじゃって」ニコニコ

勇者「別にはしゃぐのは構わないんだ。ただもう少し静かにしてくれ」

魔法使い「すいません」

正義「なんでそんなに騒いじゃダメなの? 何か考え事でもしてたの?」

勇者「いや、そう言う訳じゃない」

正義「……」

正義「……勇者もさっさと行ってきたら?」

勇者「言われなくてもそうする」スタスタ

魔法使い「夕飯作っておきますね」

勇者「ああ、頼む」スタスタ

勇者「……」スタスタ

勇者「思ったより綺麗だな」ヌギヌギ

勇者「……」チャプン

勇者「冷たい……」

勇者(海辺の国か……どんな所なんだろうな……)

勇者「はあ……」

正義「元気無いわね」スタスタ

勇者「……何普通に来てるんだ!!」

正義「そういう反応は普通の女の子にしてあげて、私なんかには勿体ないから」

勇者「……」

勇者「……で、何の用だ」

正義「ずいぶん思い詰めた様な顔してたから見に来てあげたのよ」

勇者「……大丈夫だ」

正義「そうは見えないのよね」

勇者「……お前に分かるのか?」

正義「ええ、なんとなくならね」

勇者「……」

正義「何その目。言っとくけど私だっていろいろ大変なのよ」

勇者「そうか」

正義「元気だしなさいよ」

勇者「ああ、分かってるさ」

正義「……大丈夫ね?」

勇者「しつこいぞ」

正義「ごめんごめん。じゃあまた後でね」スタスタ

勇者「……」

正義「魔法使い、料理は案外上手いわよ」

勇者「案外は失礼だぞ」

正義「ふふっ。ごめんごめん」スタスタ


勇者は湖からあがり、体を拭いて服を着る。


勇者「……」スタスタ

魔法使い「あ、お帰りなさい」

勇者「確かに意外と上手いな……」

正義「失礼よ」

勇者「ああ、すまん」

魔法使い「いいんですよ。それより早く食べて下さい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日 海辺の国 海辺の町


勇者「やっと着いたな」スタスタ

魔法使い「大きな町ですね」スタスタ

正義「凄いわね」スタスタ

魔法使い「海の国で一番大きな町ですから」

町人「あんた等旅人かい?」

勇者「そうだが?」

町人「いいねえ。俺ももう少し若かったらなあ……」

魔法使い「まだ大丈夫ですよ」

町人「嬉しいけど……もうこんな衰えた体じゃ無理だよ」

正義「家族の為に頑張ったら?」

町人「ああ、そうするよ」

勇者「……魔王の情報が欲しいんだが。何処に行けばいいんだ?」

町人「そうだね……一回城に行ってみたらいいんじゃないか?」

勇者「行ってみる……ありがとう」

魔法使い「ありがとうございました」

町人「いいんだよ。じゃあ縁があったらまた何処かで」スタスタ

勇者「……城か」

正義「行ってみる?」

勇者「そうするか」

魔法使い「城はあっちみたいですね」

勇者「そうか」スタスタ

正義「あんまり大きな変化は無いわね」スタスタ

魔法使い「まあ、国は違いますけどかなり近いですから」スタスタ

勇者「そうだな。多分よほど辺境の所に行かない限りは大きな変化は無いだろう」スタスタ

正義「ふーん」スタスタ

魔法使い「でも、国によって生活様式なんかが違ったりしますから気をつけて下さいね」スタスタ

正義「分かった」スタスタ

兵士「誰だ?」

勇者「山の国の王より魔王討伐を頼まれた者です」

兵士「……それを証明する物は」

勇者「ありません」

兵士「なら帰れ」

正義「ちょっと、王様にちょっと合わせてくれるだけでいいから」

兵士「悪いが、素性のわからない者は城の中に入れられない決まりなんだ」

勇者「……」

兵士「帰ってくれるか」

勇者「仕方ないな」スタスタ

???「誰かと思えば勇者様じゃないですか」

それは綺麗なマントを着た少し年上の女性だった。
胸くらいまでの金髪に眼鏡。
中性的なその顔は大人びていて美人だった。
背は高いが、胸はなかった。


勇者「誰、ですか?」

???「申し遅れました。私山の国の王の側近をしています。女秘書と申します」

正義「いたんだ」

魔法使い「王様の側近って、凄い人じゃないですか」

女秘書「あなたは……魔法使いさんでしたよね?」

魔法使い「な、なんで知ってるんですか!?」

女秘書「勇者様の仲間の名前ですから、覚えていて当然です」

魔法使い「凄いですね……」

女秘書「はい、エリートですから」

正義「自分で言っちゃうんだ……」

女秘書「事実ですから」

勇者「……」

女秘書「所でこんな場所でどうかしたのですか?」

魔法使い「城の中に入ろうと思ったんですが入れなくて……」

女秘書「……勇者様、王様から書状を受け取っていないんですか?」

勇者「はい、刀以外は何も受け取っていません」

女秘書「……ダメですよ。書状はちゃんと受け取っておかないと」

勇者「すいません」

正義「書状ってそんなに大事な訳?」

女秘書「はい、書状があれば他の国の王様の元へも行けますし、その国で協力を要請する事も出来るようになります」

正義「便利じゃない」

女秘書「便利なんです。なのに貰っていないなんて……」

魔法使い「勇者さん、書状の存在知らなかったんですか?」

勇者「ああ、魔王を討伐に来たと言えば入れるものだと思っていた」

正義「あなた、真面目バカね」

勇者「お前だって知らなかっただろ」

正義「あなたはこの時代を生きてきたんだからそんな言い訳通用する訳ないでしょ」

勇者「……」

女秘書「仕方ありませんね。私と一緒に行けば入れますから」

魔法使い「一緒に行ってくれるんですか?」

女秘書「はい、今回来た理由はそのためですから」

魔法使い「そ、そうなんですか!?」

女秘書「だいたいこれくらいにここに着くと予想して来たんです」

正義「す、凄いわね」

女秘書「エリートですから」

女秘書「では、行きましょうか」スタスタ

正義「どうでもいいんだけど、マント破れてるわよ?」

女秘書「ほ、本当に?」

正義「ええ、端の方が少し」

女秘書「もしかして来る途中に木に引っかけちゃったかな……」

女秘書「も~、嫌になっちゃう……」

正義「エリートの化けの皮が剥がれたわよ」

魔法使い「せ、正義さん……」

女秘書「……」

勇者「言ってやるな」

女秘書「……では、行きましょうか」スタスタ

今日はここまでです。

明日からキャラ紹介をしていきたいと思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


城の中


勇者「山の国の城と大して変わらんな」

女秘書「同じくらいの規模の国の城ですから、当然です」

正義「さすがエリート」ニヤニヤ

女秘書「……」

魔法使い「正義さん、可哀想ですよ」

女秘書「無用な心配です。私はエリートですからそんな事全然気にしてません」ウルウル

勇者「分かったから涙を拭け。半泣きで王様に会えないだろ」スッ

女秘書「あ、ありがとね。優しいんだね」ゴシゴシ

正義「……だからエリートでいきたいなら最後までつき通しなさいよ」

魔法使い「出来ないから半泣きなんじゃないですか。そういう言葉って傷つけるんですよ」

女秘書「……」ウルウル

魔法使い「ほら、出来ないって分かってるから泣いちゃうんですよ」

勇者「傷をそれ以上えぐるな。魔法使いの方が傷口を広げてるんだからな」

正義「ほら、私はそんなに悪くないじゃない」

勇者「お前だって同罪だ」

正義「……」

魔法使い「私はそんな意味で言ったんじゃ――――」

勇者「そうかもしれないがそうとしか思えないんだ」

魔法使い「……」

勇者「自覚は無いんだな」

魔法使い「はい」

勇者「……」

女秘書「……もうそろそろ王が来ますよ」

正義「立ち直ったんだ」

女秘書「はい。エリートですから当然です」

正義「まだ頑張るんだ」

魔法使い「出来ないなりに頑張ってるんだから応援してあげましょうよ」

勇者「正義、魔法使い。もうやめろ」

正義「ごめんごめん」

魔法使い「すいません」

女秘書「……来ますよ」

海辺の王「……」スタスタ

女秘書「お久しぶりです」

海辺の王「山の国の王の秘書か。お前が来るなんて珍しいな」

女秘書「はい。今日は私達の国の勇者の紹介の為に来ました」

海辺の王「勇者か。どんな奴だ?」

勇者「初めまして。勇者と申します」

正義「正義よ。よろしく」

魔法使い「正義さん。もう少し礼儀正しく……私は魔法使いです」

海辺の王「勇者とその仲間たちと言った所かな?」

勇者「そんな所です」

海辺の王「……で、勇者の紹介だけが目的では無いんだろ?」

女秘書「はい。今回は勇者様の紹介と谷の国の件を聞きに来ました」

海辺の王「谷の国がどうかしたのか?」

女秘書「何故戦争をしたのかを聞きに来たのです」

海辺の王「……理由を話さなくてはダメか?」

女秘書「当たり前です。確かに戦争後は安定していますが、国が三つになりあなた達の国が一番大きくなったのはかなり危険です」

海辺の王「何が危険なんだ。私達は別に世界を征服したい訳じゃないんだ」

女秘書「……」

勇者「しかしあなたがやっている事は間違っています」

海辺の王「何がだ?」

勇者「あなたが戦争を起こしたせいで多くの人間が死んだのですよ」

海辺の王「……戦争では仕方の無い事ではないか」

勇者「何の罪の無い人間が何人不幸になったと思ってるんだ!!」

魔法使い「お、落ち着いて下さい」

勇者「うるさい!! お前のやってる事はそこら辺の盗賊共と一緒だ!!」

海辺の王「そう怒るな」

勇者「……あなたは間違ってる」

海辺の王「……はあ、噂には聞いていたが、本当に愚かだな」

勇者「なんだと!!」

海辺の王「確かに向こうの国ではそうかもしれない。だがこちらの国では多くの人間がそれによって救われたんだ」

勇者「……」

海辺の王「谷の国で数百人の人間が不幸になった代わりに私達の国の数百人が幸せになったんだ」

勇者「……」

海辺の王「この戦争が無ければ彼等はこれからも死と隣り合わせの苦しい生活だったんだ。それでも悪だと言うのか?」

勇者「だが……」

海辺の王「だが、なんだ?」

勇者「自国の人間を救うために他の国の人間を不幸にするのは許される事じゃない!!」

海辺の王「お前も一緒だぞ?」

勇者「……」

海辺の王「お前も同じだ。お前も人を救うために他人を不幸にしているじゃないか」

勇者「俺は悪人を……」

海辺の王「じゃあ聞くが、私は悪人か?」

勇者「……あなたは……」

海辺の王「人殺しは悪人なんだろう。なら私はどうだ?」

勇者「……悪人だ!! お前も俺も悪人だ!!」

海辺の王「矛盾だな。お前も悪人なら死ななければいけないんじゃないのか?」

勇者「……」

海辺の王「ははっ。矛盾だらけの馬鹿だな。だがお前の様な馬鹿は嫌いじゃないぞ」

勇者「……」

海辺の王「どうする? 私を殺してお前も死ぬのか?」

正義「勇者。少し頭を冷やせ」

女秘書「正義さんの言う通りです。冷静になって下さい」

勇者「……」

海辺の王「どうする?」

勇者「……何が」

海辺の王「お前はこれからずっとその考え方で生きていくのか?」

勇者「……」

海辺の王「お前、そのうち潰れるぞ」

勇者「お前に何が分かる」

海辺の王「さあな。言っている意味が分からないなら仕方ない」

勇者「……」

海辺の王「お前がどうなるか楽しみだ」

勇者「……」

海辺の王「話はもう無いか?」

女秘書「はい。もう特にはありません」

海辺の王「そうか。ならいいんだ」

女秘書「あなたが何を企んでいるかは知りません。しかし何かをしようと考えているなら私達もそれなりの考えがありますので」

海辺の王「ああ、分かってる」

女秘書「では、また今度お会いしましょう」スタスタ

勇者「……」スタスタ

海辺の王「待て、勇者」

勇者「なんだ」ギロッ

海辺の王「そう怖い顔をするな。俺はお前の事を心配してやってるんだぞ」

正義「一人称は私じゃ無くていいの?」

海辺の王「まあな、今は王としてじゃなく一人の人間として警告してやってるんだ」

勇者「余計な……お世話だ」スタスタ

※キャラ紹介


勇者   男   19歳


正義の為に戦う男。
悪は問答無用で叩き斬ると言う独自の考え方を持つ。
ただ、それが本当に正しいのかは本人にも分からない。
冷静であまり笑わないのが特徴。
また冗談が通じない。
童貞。



正義(せいぎ)   女   年齢不明


勇者の持っている刀。
名前は刀と同じ。
よく軽口を叩くし冗談も言う。
おちゃめ。
スタイルは普通だが可愛い系の美少女。
保有する魔力はケタ違いの正真正銘の化物。
間違っても孫正義ではない。




魔法使い    女    19歳


魔法の出来ない魔法使い。
弱音な発言も多く、また少し天然。
胸は大きい。
普段はフードもかぶっているが、人と話す時はかぶっていない。
実は料理や洗濯など家庭的なスキルが異常に高い。
また世界情勢や風土などもそこそこ詳しい。
ちなみにモチーフは居るがキャラ設定を考えていくうちに原形が無くなった。

今日はここまでです。

他のキャラの紹介もゆっくりやっていきます。

今日は忙しかったので更新するほど書き溜められませんでした。

すいません

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「……」

勇者「なんだ」

正義「別に何も言ってないでしょ」

勇者「言いたい事があるんだろ?」

正義「……聞きたい訳?」

勇者「言いたい事があるなら言ってくれた方がいい」

正義「じゃあ魔法使いから言ってくれる?」

魔法使い「わ、私ですか!?」

正義「ええ、あなたから」

魔法使い「え、えーと……」

魔法使い「私は別に勇者さんの考え方に何か言うつもりは無いです」

勇者「……」

魔法使い「ただ、はっきり正しいとは言えませんけど……」

勇者「……」

魔法使い「べ、別に――――」

勇者「……別にいい。そんな事理解している」

正義「ふーん。かっこいい事言うじゃない」

勇者「……」スタスタ

正義「別に私は何にも言わないし、ずっとあなたに協力する気よ」スタスタ

勇者「そうか……」スタスタ

正義「素直じゃないわね」スタスタ

魔法使い「……正直、勇者さんが羨ましいです」スタスタ

勇者「何がだ」スタスタ

魔法使い「何かを信じてるっていいじゃないですか」スタスタ

勇者「……俺にはよく分からん」スタスタ

魔法使い「……」

正義「恥ずかしいのよ、きっと」スタスタ

魔法使い「あ、そういう事ですか……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

???「お前が、勇者か?」


そこに立っていたのは白銀の鎧を着た女だった。
茶髪の少し長めの髪を後ろで束ね、ポニーテールにしている。
はっきりとした端整な顔立ちに茶色の目が印象的だ。
そして腰にさしてある銀色の剣がひと際目を引いた。


英雄「私は英雄。まあ、お前と同じような境遇の者だ」

勇者「……意味が分からないが?」

魔法使い「……勇者さん、気をつけて下さい。あの剣――――」

英雄「ひどい言われ様だな、まだ会って一分も経って無いぞ」

魔法使い「……」

勇者「話を戻せ」

英雄「そうだったな、すまん」

英雄「……私も魔王討伐を命令された者だと言う事だ」

勇者「……そうか」

正義「あなたもなんだ」

英雄「まあな」

勇者「……」

英雄「……そちらは正義か」

勇者「知ってるのか?」

英雄「ああ、私の剣が教えてくれた」

勇者「お前の剣が?」

魔法使い「やっぱり……」

英雄「人格のある剣は正義だけじゃない。知らないのか?」

勇者「……そういう事か」

英雄「ああ、この剣の名前は勝利。正義と同じで人格のある剣だ」

勇者「実体化してないのか?」

英雄「させた方がいいか?」

勇者「……ああ。どんな姿かも見てみたいしな」


すると、突然目の前に男が出現する。
短めの金髪の髪に美形の顔。
服装は正義と同じく何処にでもいそうな普通の服装だ。


勝利「あんたが勇者で、そっちは正義……だよね?」

正義「私あなたと会った事あったかしら?」

勝利「ああ、覚えてない訳ね」

正義「悪いけど無駄な事は覚えておかないの」

勇者「……で、何の用だ。急いでるんだが」

英雄「一応同じ目標を目指す仲間だろう。なら顔合わせしておいても悪くないだろ」

勇者「……そうかもしれんな」

英雄「なんだその目は」

勇者「別に。それだけかと思っただけだ」スタスタ

勝利「まだ、話は終わって無いぞ」

勇者「……なんだ」

勝利「俺じゃないよ。話があるのはこっち」

英雄「いやな、お前の考え方が面白かったんでな」

勝利「物好きだろ、この人」

勇者「?」

英雄「悪は全て殺す。だったかな?」

勇者「……ああ、悪は全部斬る。それが俺の考え方だ」

勝利「ずいぶん馬鹿馬鹿しい考え方だと俺は思うんだけどね」

勇者「勝手に言ってろ」

英雄「そう怒るな。気を悪くしたなら私が謝る」

勇者「別にいい。そういう反応は慣れてる」

勝利「なんだ、案外慣れてるんだ」

勇者「……そういうお前達はどうなんだ」

英雄「私は自分と自分の周りの仲間を守るために戦う。邪魔をする者は全て斬る」

勇者「もし仲間が悪人ならどうするんだ」

英雄「もしそれで他の連中に手を出すなら斬るが、他人に手を出す分は勝手にすればいいさ」

勇者「お前……」

英雄「何か間違った事を言ったか?」

勇者「他人がどうなってもいいのか?」

英雄「私も昔はお前と同じ考え方だった。だが今は違う」

勇者「……なんで」

英雄「出来ないって分かったからだ。世界中の人間を幸せに、平和にする事は出来ないって」

勇者「それは……」

英雄「だが私の周りの人。そして仲間なら全員幸せにできるだろ。だからそうして――――」

勇者「その為なら他人はどうなってもいいのか!!」

英雄「今の私にとって他人はどうでもいい。重要なのは仲間や私も周りの人が幸せで平和に暮らしているかどうかだ」

勇者「……」

英雄「……」

英雄「剣を抜かないのか?」

勇者「剣じゃない。刀だ」

英雄「……斬らなくていいのか?」

勇者「斬りたいが、今の俺じゃあお前には勝てないだろ……」

正義「ええ、絶対勝てない」

勝利「ふーん。よく分かってるなあ」

英雄「思ったより冷静だな」

勇者「当たり前だ」

英雄「ついでだ。お前に言い事を教えておいてやる」


英雄は剣を抜き、切っ先を勇者に向ける。


勇者「……」

英雄「魔力の使い方にも個性がある。お前はまだ自分が一番得意な使い方を見つけてないんだろ?」

勇者「……ああ、まだだ」

英雄「……」


英雄の剣が発火し、彼女の周りには直径一メートルほどの火の玉が数個出現する。


勇者「ほ、炎!?」

英雄「これが私の一番得意な使い方。お前はなんだ?」

勇者「俺は……」

英雄「まあ、正義を手に入れて日が浅いんだろ、ゆっくり見つけて行けばいいさ」

勝利「じゃあね、また会うのを楽しみにしてるよ」スタスタ

英雄「また会おうか」スタスタ

※キャラ紹介


女秘書   女   25歳


自称エリートの王の側近。
仕事はよく出来るが、アクシデントに弱い。
基本は冷静だが、パニックや予想外な事がおこると女の子になってしまう。
肉体的な強さはほとんど無いが政治的、社会的な強さはものすごく、本気を出せば人を社会的、政治的に抹殺できる。
ベースは前々作の女大臣と女勇者(胸)




英雄   女    20歳


海辺の国の英雄。
勇者と同じく魔王討伐を目指しているらしいが、勇者と違いそこまで本気じゃない。
自分の周りの人間を幸せにするために戦っている。
そのために他人がどうなると興味はない。
他人には絶対に言っていないが好きな食べ物はケーキ。

今日はここまでです。

勇者「……」

正義「勇者?」

魔法使い「勇者さん……」

勇者「まだまだだと言う事だな」

正義「そうね。あいつ等に比べればあなたはまだまだよ」

勇者「……俺達も行くぞ」

魔法使い「ど、何処にですか?」

勇者「次の町だ」

正義「……いいんじゃない。次は何処に行くの?」

魔法使い「ここから一番近いのは鍛冶の町ですね」

勇者「……じゃあ鍛冶の町に行く」

正義「じゃあ早速出発しましょうか」

魔法使い「ええ、そうですね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


海辺の城


海辺の王「どうだった?」

英雄「特には、ただ馬鹿な奴だと思っただけです」

海辺の王「ははは。お前もそう思ったか」

勝利「あそこまで正義に執着している奴も珍しいんじゃないですか?」

海辺の王「そうだな。面白い奴だった」

英雄「少しだけですが興味は湧きました」

海辺の王「俺も同じだ。あいつは何故か興味がわく。面白いな」

勝利「まあ、つまらない奴ではなさそうだね」

海辺の王「不思議な奴だな」

英雄「まったくです」

海辺の王「結局戦わなかったんだろ?」

英雄「まだ戦っても面白くないと思っただけですよ」

海辺の王「剣を持ってまだ日が浅い様だからな」

勝利「今後に期待って感じかな」

海辺の王「そうだ。勇者はもう次の町に出発したらしいぞ」

英雄「もうですか?」

勝利「忙しい奴だね」

英雄「で、何処に行ったんですか?」

海辺の王「鍛冶の町に向かったそうだ」

英雄「……そうですか」

海辺の王「お前はどうする? まず何処に向かう?」

英雄「そうですね……」

英雄「とりあえず、竜の村にでも行きたいと思います」

海辺の王「そうか、頑張ってくれ」

英雄「では、準備して来ます」

海辺の王「もし勇者と会ったらどうする?」

英雄「……もし強くなっているようなら、戦いたいですね」

勝利「ふーん、あんたにしては珍しいね」

英雄「そうか?」

海辺の王「ああ、お前が戦いたいと言うのは久しぶりに聞いた」

英雄「そうでしたか」

海辺の王「お前がそう言っていたのは……あの逃亡者くらいじゃないか?」

英雄「今はあいつに興味なんかありませんよ」

海辺の王「そうか」

英雄「では、行ってきますね」スタスタ

勝利「じゃあ、また今度ね」スタスタ

海辺の王「ああ、いい旅をな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


海辺


勇者「……」スタスタ

魔法使い「勇者さん、大丈夫ですかね」スタスタ

正義「さあね」スタスタ

魔法使い「さ、さあねって……」スタスタ

正義「別に大丈夫よ。その程度で心が折れる様なやわな人間じゃないから」スタスタ

魔法使い「でも……」スタスタ

勇者「俺は大丈夫だ」スタスタ

正義「ね、勇者はその程度で心が折れないのよ」スタスタ

正義「あれくらいじゃ、信念は変えられないでしょ?」スタスタ

勇者「ああ、誰に何と言われようと変える気はさらさら無い」スタスタ

正義「……そうでなくちゃ」スタスタ

正義「魔法使い、次の町まではどのくらい?」

魔法使い「もうすぐですよ」

正義「そう、今日は野宿しなくてよさそうね」スタスタ

魔法使い「そうですね」スタスタ

勇者「英雄か……」スタスタ

魔法使い「まだ、あの人の言ってた事気にしてるんですか?」スタスタ

勇者「ああ、俺の得意分野はなんなんだろうな」スタスタ

魔法使い「……ゆっくり探して行けばいいんじゃないですか?」スタスタ

勇者「ゆっくりか……」スタスタ

正義「どうせすぐには分かんないんだし別にいいでしょ」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「あ、別に悪い意味じゃないわよ」スタスタ

勇者「分かってる」スタスタ

魔法使い「見えてきましたね」スタスタ

勇者「あれか……」スタスタ

正義「人少ないわね……」

魔法使い「そういう町ですから」スタスタ

今日はここまでです。

明日からは鍛冶の町編です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶の町


正義「昼間だって言うのに人があんまりいないわね」

魔法使い「鍛冶の町は夜に人が多いんです。昼は必要最低限の人間しか外出しません」

正義「なんで?」

魔法使い「昼は剣を打ってるんですよ」

勇者「鍛冶の町だから鍛冶屋が多いのか?」

魔法使い「はい。世界最大ですしね」

正義「じゃあ、今の内に買い物しとかないと夜は凄い人なんじゃない?」

魔法使い「そうですね。あと夜は酔っ払いも多いですし」

勇者「じゃあ、さっさと買い物を済ませるか」

正義「そうね」

魔法使い「あの……」

勇者「なんだ?」

魔法使い「今回は別行動にしませんか?」

勇者「………なんでだ?」

魔法使い「あと数時間もすれば夕方ですし、分担すれば早く終わるじゃないですか」

勇者「……だが、別れるとなんか会った時に困るだろ」

魔法使い「いえ、その……」

勇者「その、なんだ?」

正義「女の子の物も買いたいって事よ」

勇者「……」

魔法使い「ゆ、勇者さん?」

勇者「悪い……気付かなかった……」

魔法使い「い、いいんですよ。私だってはっきり言わなかった訳ですし……」

勇者「悪かった……じゃあまた後でここに集合でいいか?」

正義「構わないわよ」

魔法使い「はい、構いません」

勇者「じゃあ後で」

正義「ええ」スタスタ

魔法使い「すいませんでした」スタスタ

勇者「……」

勇者「気付けないなんて……俺はダメだ」

勇者「本当に……ダメだ……」

勇者「……」スタスタ

勇者(武器もあるし、必要な物は魔法使いが買ってきてくれるだろうしな……)

勇者「買う物も無いからな……どうしたものか……」

勇者「……」

勇者「町の散策でもするか」スタスタ

勇者(人がいないと散策が楽だな)スタスタ


ガチャン!!


勇者「ん?」


開いた扉から一人の少年が転がり出てくる。


???「痛……何すんだよ!!」


髪は短く焦げ茶で幼さが残る顔立ち。
服は所々黒く焦げているが、それはよく似合っていた。
そして腰には一本の剣がさしてある。


父親「何するんだ? 少しは真面目に仕事したらどうだ!!」

勇者「……」

勇者(面倒臭い場面に出くわしたな……)

???「あんたの教え方が悪いんだろ!! 俺は真面目にやってんだよ!!」

父親「自己流で剣が打てるか!!」

勇者「……」スタスタ

???「俺は俺の好きなように剣を打つ!!」

父親「……勝手にしろ!!」

???「そうさせてもらうよ!!」スタスタ

父親「……」ガチャン!!

???「……なんだよ」

勇者「……いや、別に?」

???「俺の事見て笑ってたんだろ!!」

勇者「別に笑ってないし、お前が怒られてる所なんて見てない」

???「なんで怒られてるって知ってんだよ!!」

勇者「……しまった」

???「お前!!」

殴りかかろうとする相手を勇者はいとも簡単にかわし、カウンター気味に膝蹴りを喰らわせる。


???「う、あ……」

勇者「わ、悪い。癖で反撃して――――」

???「まだ終わってねえよ!!」

勇者「もうやめた方がいいんじゃないか? いや、やめてくれないか」

???「うるさい!!」


だが次の攻撃も同じようにかわされ、勇者の回し蹴りが脇腹に直撃する。


???「……」

勇者「だ、大丈夫か?」

???「て、敵の同情なんているか!!」

勇者「いつから俺はお前の敵になったんだ」

???「戦ってんだから敵だ!!」

勇者「俺は戦っているつもりは無いんだがな……」

???「くそ……」

勇者「……悪い事は言わない。もうやめろ」

???「……ば、場所を変える!!」

勇者「ん?」

???「ここは俺のホームじゃない。お前には悪いが場所を変えたいんだが、いいか?」

勇者「別に構わないが……俺だってここはホームじゃないんだが……」

???「こっちだ!!」スタスタ

勇者「仮にも敵なんだがら背中は見せない方がいいと思うんだが……」スタスタ

???「ここだ」

勇者「そんなに移動してないがいいのか?」

???「ああ、ここは俺が小さい時から遊んでる場所だからな」

勇者「大きい神社だな」

???「鍛冶の神様が祀られてるんだ」

勇者「なんの豆知識だ」

鍛冶屋「俺の名前は鍛冶屋。さっきの家で剣を打ってる。お前は」

勇者「俺は勇者。魔王討伐の為に旅をしている」

鍛冶屋「……もし俺がここでお前を斬っちまったら魔王はどうなるんだ?」

勇者「知らん」

鍛冶屋「まあいいや。とりあえず勝負だ!!」


鍛冶屋は腰にさした剣を抜く。


勇者「……俺も刀を抜いたほうがいいか?」

鍛冶屋「当たり前だ。正真正銘の真剣勝負だ!!」

勇者「……」

勇者(正義は……呼ばなくてもいいか)


勇者も腰の刀を抜く。


鍛冶屋「やっぱり和の国の剣か」

勇者「よく知ってるな」

鍛冶屋「当たり前だ。それくらい鍛冶の仕事をしてるなら当然だよ」

勇者「……もう一回聞くが、本当に戦うのか?」

鍛冶屋「ああ、んでお前を倒す!!」

今日はここまでです。

鍛冶屋は大きく剣を振りかぶると、勇者目掛けて走り出した。
地面を蹴る時に土が飛び散り、砂埃が舞う。

だが勇者の予想通り、それは遅い。
あまりにも遅い。
更に全体的に隙だらけで、もし今斬りかかったら確実に全ての急所を斬れるだろう。
それほどまでに剣を知らない者の構えだった。

勇者は一歩も動く事無く、ただ刀を構えて停止していた。
単純にお互いの距離を推し測っている様にも見える。

お互いの距離が近くなり、鍛冶屋が剣を振り下ろそうとしているのが分かった。
完璧にそれが分かると言う事はよほど遅いと言う事だ。

勇者は一度だけ溜め息を吐くと、鍛冶屋のゆっくりとした一撃をかわした。
勇者の体の横すれすれを剣が通過していくが、あまり恐怖は感じない。
次の瞬間、体が反射的に反撃しようとするが、それを必死で押し止め大きく後ろに後退する。

距離が開き、お互いに動きを停止する。
膠着状態のまま時間がゆっくりと流れていく。

一応刀は構えているのだが、さすがに鍛冶屋を斬る気は湧いてこない。
むしろ何故か斬ってはいけない様な気がしてならない。


「この野郎……絶対勝ってやる!!」

「なあ、もう一回聞くが、本当にやるのか? 今からならやめられるぞ」

「やる!! ここでやめられる訳無いだろ!!」


もう一度、大きく剣を振り上げ突進してくる。
だが相変わらずその速度は遅く、目を瞑っていても避けられそうな気がした。

鍛冶屋の大振りの一撃を刀で受け流す。
そして鍛冶屋の無防備な腹に前蹴りを入れる。

足が肉に食い込む感覚。
それと同時に呻き声が勇者の耳に届く。

そんな状態の鍛冶屋を更に左手で殴る。

重く鈍い音が響いた。
口が切れたのか、地面に少しだけ血が飛び散る。

鍛冶屋の体が前屈みになり、呼吸が荒くなっていた。
明らかにもう戦える状態では無いのが目に見えている。
だが、何故かはわからないが鍛冶屋は立ち上がり、剣を肩に担ぐように構え直す。
僅かに赤く染まった口端を乱暴にぬぐい、勇者を睨んでいた。


「来いよ……」

多分強がりだろう。
そして負けを認めないのは負けず嫌いだからだろうか。
とにかく鍛冶屋はその戦闘向きでは無い体で戦おうとしていた。

勇者はその姿を無表情で眺めていた。

その姿は一見無様にも見えるが、それは普通なら出来ない様な事だ。
だからこそ、勇者はそんな姿の相手に同情しない。
むしろ手加減する事が彼に悪いとすら思った。

確かに戦う理由も滅茶苦茶。
しかも言っている事も訳が分からない。
そして剣の腕前は三流以下。
だが、その闘志だけは尊敬に値するものが確かにあった。


「じゃあ俺もある程度本気で行かせてもらうぞ」


相手に悪い。
そう感じた勇者の優しさだ。
もちろんそれが正しいか間違っているのかは分からないが。

勇者は刀を構え直すと、大きく深呼吸した。
精神を統一し、相手を見据える。
その顔はさっきまでとは打って変わって険しく、しかし何処となく楽しそうな顔になっていた。

一瞬。

勇者の刀が振り上げられるのと同時に勇者の体が消える……いや、見えないほどの速度で前に跳ぶ。

勇者の刀が振り下ろされる。
まるで落雷の様に銀色の閃光が落ちた。
しかしそれは雷鳴とは違い一直線にに鍛冶屋に襲いかかる。

鍛冶屋の剣は防御をしようとしていたがそれは間に合わない。
体のばねと回転を最大限に利用した一撃はそれほど速い。
それはまっすぐに落ちる落雷以外の表現方法が無いほどに。

それを今更防御するのは不可能だった。
いや、分かっていたとしても鍛冶屋の剣の腕前では防御は不可能だ。

銀の閃光が鍛冶屋に直撃する。

鍛冶屋の体が膝から崩れ、地面に倒れ込む。
額は僅かに赤くなっているが、血は出ていなかった。

勇者は刀を鞘にしまう。
そして鍛冶屋を神社の端に運ぶと、その場に寝かせた


「もう少し加減が出来ればよかったが……やっぱりダメだな」


一人溜め息をつきながらその場に座り込む。
その顔はその言葉に反して何処か嬉しそうに見えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


魔法使い「あとは何を買わないといけないですか?」

正義「そうね……あとは食料とあなたの欲しい女の子の物ね」

魔法使い「せ、正義さん……もうちょっと声の大きさとか考えて下さいよ」

正義「ごめんごめん」

魔法使い「もう……」

正義「……あ」

魔法使い「どうしました?」

正義「戦ってるわね」

魔法使い「え?」

正義「勇者が戦ってるわ」

魔法使い「え、だ、大丈夫なんですか!?」

正義「分かんないけど、私も呼ばないしそこまで大変な相手じゃないんじゃない」

魔法使い「……」

正義「多分何かあったら呼ぶと思うし」

魔法使い「そ、そうなんですか」

正義「ええ、だからよほどの雑魚なんじゃないかな」

魔法使い「よほどの雑魚……ですか」

正義「ええ。よほど雑魚くて、勇者が本気も出せない様な相手だと思う」

魔法使い「……」

魔法使い「聞きたいんですけど、なんでそんな事分かるんですか?」

正義「単純に刀と私が繋がってるから」スタスタ

魔法使い「そ、そうですよね」スタスタ

正義「刀を抜いたとか、そういう事はだいたい分かるのよ」スタスタ

魔法使い「そ、そうなんですか」スタスタ

正義「あ、あったわよ。女の子の店」スタスタ

魔法使い「だからもうちょっと小声でそういう事は言って下さいよ」

正義「ああ、ごめんごめん」

今日はここまでです。

鍛冶屋は剣士ではないので弱いのは当然です。

正義「で、何を買う訳?」

魔法使い「下着とかですよ」

正義「ああ、そういうものね」

魔法使い「そういうもの以外に何を買うんですか……」

正義「じゃあ行くわよ」スタスタ

魔法使い「あ、待って下さいよ」スタスタ

正義「ふーん、案外いろいろな種類が売ってるのね」

魔法使い「初めてなんですか?」

正義「別に服とか下着なんて毎日一緒でいいじゃない」

魔法使い「確かに毎日洗えば問題は無いんだと思いますけど……」

魔法使い「でも、少しくらい種類があった方がいいじゃないですか」

正義「そう?」

魔法使い「綺麗な服着て勇者さんを驚かせましょうよ」

正義「……別にいいわよ」

魔法使い「なんでですか?」

正義「魔法使いの方が似合うじゃない」

魔法使い「正義さんだって……」

正義「それに私は人間じゃないし……」

魔法使い「……いいじゃないですか。別に」

正義「……」

魔法使い「勇者さんだってそんな事全然気にしてないじゃないですか」

正義「でも……」

魔法使い「いいから行きますよ」グイッ

正義「な、なんで今日はこんなに元気なの?」

魔法使い「いつものお返しです」

正義「ちょ、ちょっと……」

魔法使い「早くしないと勇者さんが帰ってきちゃいますから」

正義「わ、分かったわよ」

魔法使い「ちゃんと正義さんに似合う服も探してあげますからね」

正義「べ、別に……」

魔法使い「いいからいいから」ニコニコ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……ん、うん?」

勇者「目が覚めたか」

鍛冶屋「お、お前!! ……あれ、なんで生きてるんだ?」

勇者「俺が手加減したからに決まってるだろ」

鍛冶屋「で、でも手加減したからって刀じゃ……あ……」

勇者「峰打ちだ」

鍛冶屋「……」

勇者「どうした?」

鍛冶屋「……なんで俺を殺さなかったんだ」

勇者「どういう意味だ?」

鍛冶屋「突然喧嘩売って斬りかかった俺をなんで殺さなかったんだって事だよ」

勇者「なんとなくだ」

鍛冶屋「……」

勇者「あとお前は殺すほどの相手じゃないと思っただけだ」

鍛冶屋「弱かったって事かよ」

勇者「それもあるな」

鍛冶屋「お前!!」

勇者「真実だ」

鍛冶屋「……ごめん」

勇者「ん?」

鍛冶屋「謝って済む様な事じゃないけど……ごめん」

鍛冶屋「あの時は本当にイライラしてて……」

勇者(根は真面目ないい人間のようだな)

勇者「俺だって怒ったりイライラする事はある」

鍛冶屋「俺、昔からイライラしたり怒ったりすると見境なくて……」

鍛冶屋「いつも気がつくと傷だらけで地面に倒れてる事とかあったんだ」

勇者「負けていたのか」

鍛冶屋「戦闘向きじゃないんだよ。俺って」

勇者「ああ、戦ってみてよく分かった」

鍛冶屋「家でも剣の道場とかに入れてもらえなくて……」

勇者「鍛冶屋だからか?」

鍛冶屋「言い訳っぽくなっちまうけど、まあ、剣だけ打って生きてきたようなもんなんだよ」

勇者「別に言い訳っぽくは無い」

鍛冶屋「本当に悪かった。ごめん」

勇者「頭を上げろ。別に怒ってなどいない」

鍛冶屋「……」

勇者「それよりそろそろ家に戻った方がいいんじゃないか? 喧嘩してただろ」

鍛冶屋「いや、いいんだよ。あれで」

勇者「?」

鍛冶屋「俺の父親ってこの辺りじゃ有名な刀鍛冶なんだよ」

勇者「刀鍛冶?」

鍛冶屋「普通の剣も打つんだけど、刀も打つんだ。で、この辺りじゃ俺の父親って凄い有名なんだよ」

勇者「……」

鍛冶屋「俺はずっと父親に刀や剣の打ち方を教わってきたんだ。でもそれじゃダメだって気付いたんだ」

勇者「と言うと?」

鍛冶屋「それじゃ父親を超えられないだろ。このままじゃあくまで劣化した父親にしかなれない。だから自己流で剣を打とうと思ったんだ」

勇者「打てるのか?」

鍛冶屋「なんとかな。まだまだ未熟だと自分で思うけど」

勇者「……」

鍛冶屋「じゃあ、俺そろそろ行くよ。本当にすまなかった」

勇者「これからどうするんだ?」

鍛冶屋「これから考えるよ」スタスタ

勇者「……大丈夫か?」

鍛冶屋「ああ、大丈夫。話聞いてくれてありがとな」スタスタ

勇者「いや、別にいい」

鍛冶屋「じゃあ、また会えるといいな」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

魔法使い「すいません。遅くなりました」

正義「ごめんね」

勇者「いや、俺も今さっき来た所だ」

正義「ね、だから急がなくてよかったって言ったじゃない」

魔法使い「せ、正義さん……」

勇者「別にいい」

魔法使い「もう宿屋に行きますか?」

勇者「……そうだな、もうそろそろ行けばいいか」

魔法使い「ならあっちにありましたよ」

正義「少しボロい安そうな宿だったけどね」

勇者「別にいいさ。逆に高そうな所には泊まらん」

正義「お金はあるのに?」

勇者「あっても使っていいとは言ってない」

正義「……それって意味無いんじゃない?」

魔法使い「でも、お金なんてすぐ無くなっちゃいますから」

勇者「そういう事だ」

正義「……納得いかないけど……わかったわ」

魔法使い「じゃあ行きましょうか」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

正義「ねえ、さっき誰と戦ってたの?」

勇者「……知ってたのか」

正義「当たり前でしょ。私はその刀なんだから」

勇者「確かに、そうだったな」

正義「そうだったなって……」

勇者「別に何でも無い。ただのお遊びみたいなものだ」

正義「相手は雑魚だったみたいだしね」

勇者「まあ、確かに弱かったな」

正義「そんなにも?」

勇者「恐ろしく弱かった」

正義「……」

今日はここまでです

そのうち前作、前々作を読んだ人向けのおまけ(強さランク付け)を発表するかもしれません。
あくまでかも、ですが。

勇者「パーティーにまともな奴がいない……」
勇者「パーティーにまともな奴がいない……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1323607229/)

勇者「パーティーにまともな奴がいない……」 ドラゴン「その2だ」

男「お前は?」ドラゴン「ドラゴンよ」
男「お前は?」ドラゴン「ドラゴンよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1334579027/)

勇者「お前を呼んでもいいと思ったんだがさすがにあの相手に呼ぶのもどうかと思ってな」

正義「うん、そんなに弱いなら呼ばなくてよかったと思う」

勇者「だな」

魔法使い「ここです」

勇者「こんにちは」ガチャ

少年「わーい!!」ドンッ

勇者「す、すまない」

少年「こっちこそごめんなさい……」

少女「ごめんなさい」

勇者「兄弟か?」

少年「うん。双子」

勇者「そうか」

少年「本当にごめんなさい」

勇者「いや、別にいいんだ」

正義「子供には優しいのね」

勇者「まあな」

正義「ふふっ」

勇者「何がおかしい」

正義「何でも無いわよ」

魔法使い「あなた達も泊まりに来てるんですか?」

少女「そうよ」

勇者「あ、今日泊まれるか?」

宿主「ああ、二部屋でいいか」

勇者「構わん」

少女「お姉さん……魔法使い?」

魔法使い「え、はい。そうですけど」

少女「ふーん……魔法は使えるの?」

魔法使い「あ、魔法はちょっと……」

少女「……やっぱり」

魔法使い「え?」

少女「ううん。何でも無い」

魔法使い「……」

少女「でも大丈夫。きっと答えが見つかる……ううん。気付くから」

魔法使い「え、あ、ありがとうございます」

少女「少年。行こう」

少年「うん」スタスタ

魔法使い「……」

勇者「どういう意味だ?」

魔法使い「よく分かりませんけど……頑張れって事ですかね?」

正義「多分そうだと思うわよ」

勇者「お前等の部屋はあっちだ」

正義「あなたは?」

勇者「俺はこっちだ」スタスタ

魔法使い「別に一緒で良かったと思うんですけど」

勇者「よくない。全くよくない」スタスタ

魔法使い「そ、そうですか……」

正義「じゃあ私達も行きましょうか」スタスタ

魔法使い「は、はい」スタスタ

勇者「……」ガチャ

勇者「……鍛冶屋はどうしてるんだろうな」

正義「そんなにさっきの相手が気になるの?」

勇者「だから来る時は一言言えと言っているだろ!!」

正義「な、なんでそう怒ってるのよ!?」

勇者「怒ってはいない。ただ驚いただけだ」

正義「……よかった」

勇者「……」

正義「そんなに気になる相手だったの?」

勇者「まあ、少しだけだがな」

正義「なら見に行けばいいのに」

勇者「……」

正義「嫌なの?」

勇者「そういう訳じゃないが、見に行くほどじゃない」

正義「……どうせ見に行く癖に」

勇者「……」

正義「あなた気付いてないの。自分がお節介でお人好しだって」

勇者「そ、そうか?」

正義「ええ。完全にそうよ」

勇者「お前もそうじゃないか?」

正義「私は違うわよ」

勇者「……」

正義「私はそういうものじゃないし……そういうものにもなれないから」

勇者「正義。時々お前の口調が暗くなるのはなんでだ?」

正義「別に気にするほどの事でもないわよ」

勇者「……本当にか?」

正義「本当によ。別に気にしなくても大丈夫だから」

勇者「……ならいいんだ」

正義「で、結局行くの?」

勇者「行ってくる」

正義「頑張ってね」

勇者「ああ。何かあったら呼ぶから」

正義「ええ。準備しておくわ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


町中


勇者「……」スタスタ

勇者「すまないが、聞きたい事があるんだが」

青年「ん?」

勇者「この辺りに有名な刀鍛冶がいると聞いたんだが」

青年「ああ。あっちに住んでるよ」

勇者「どんな人だ?」

青年「どんな人って……まあ頑固な人かな」

勇者「……息子がいたと思ったが、違うか?」

青年「いるよ。あんな頑固な人の元で何十年も修行してるんだから凄いと思うよ」

勇者「そうか」

勇者「……その息子が何処にいるかはわかるか?」

青年「悪い。それは分からんな……」

勇者「そうか。悪かったな」

青年「じゃあ、俺はそろそろ行くね」スタスタ

勇者「ああ」

勇者「……困ったな」


ドンッ


勇者「あ、すまない……」

旅人「いや、いいんだ。こっちこそ悪かった」

勇者「……」

旅人「じゃあ」スタスタ

勇者「……」

勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「何してるんだ?」

勇者「お前を探していたんだ」

鍛冶屋「何のために」

勇者「何のためって……お前が心配だったからだ」

鍛冶屋「?」

勇者「お前は本当にこのままでいいと思ってるのか?」

鍛冶屋「いや、だから何が」

勇者「自己流で独立すると言っても、どうする気だ?」

鍛冶屋「……」

勇者「夢だけではどうしようも無い事はあるぞ」

鍛冶屋「……」

勇者「だから……」

鍛冶屋「ははっ。それじゃあ俺だけが夢を見てる馬鹿みたいじゃねえかよ」

勇者「……それはどういう意味だ」

鍛冶屋「お前は違うと言い切れるのかよ。お前だって大差ないだろ」

勇者「……」

鍛冶屋「お前の噂は聞いたよ。平和のために悪人を排除するんだって?」

勇者「……ああ。そうだ」

鍛冶屋「それの方がよっぽど夢なんじゃないのか?」

勇者「……」

鍛冶屋「お前にだけはそんな事言われたくねえよ。お前にだけはな」

勇者「すまん」

鍛冶屋「お前にだけは説教されたくねえよ」

今日はここまでです。

>>185  ありがとうございます。

何か疑問になった点、分からない点がありましたら質問してください。

勇者「すまない……」

鍛冶屋「別に謝ってほしい訳じゃねえんだ。ただお前にそんな事言われたくないだけだよ」

勇者「……返す言葉も無い」

鍛冶屋「じゃあな」スタスタ

勇者「……」

勇者「……」

正義「残念だったわね」

勇者「……魔法使いはどうした」

正義「部屋で寝てるわよ。疲れてたみたいだし」

勇者「……」

正義「別に落ち込む必要は無いわよ」

勇者「いや、俺の方が間違っていたんだ。反省はしなくちゃいけないだろ」

正義「じゃああなたは悪人を殺しきれないって思ってる訳か」

勇者「……そうだな。ただ俺の目が届く範囲の悪人は全て殺すがな」

正義「あなた、自分で矛盾がいっぱいあるって気付いてる?」

勇者「……」

正義「私からは何も言う気は無いけど、今のままじゃいつか壊れるわよ」

勇者「分かっている」

勇者「帰るぞ」スタスタ

正義「はいはい」スタスタ

正義「……ん?」

勇者「どうした?」

正義「何処かは分からないけど、結構位の高い魔物の気配がするんだけど」

勇者「……そんな事も分かるのか」

正義「ええ。まあそこまで詳しくは分からないけどね」

勇者「まだ言ってない能力があるんじゃないか?」

正義「残念だけど、私だって何十年のブランクがあるんだからそう簡単に思い出せないわよ」

勇者「……」

正義「思い出せたり分かったらちゃんと報告するから安心して」

勇者「分かった」

正義「じゃあ帰りましょう。そろそろ暗くなるわよ」スタスタ

勇者「そうだな」スタスタ

正義「ねえ。もうちょっと言葉数増やしてくれない? 会話してる感じがあんまりしないんだけど」

勇者「ちゃんと話してるだろ」

正義「だいたいが返事か疑問か私の問いに対する答えじゃない」

勇者「他に何の話をすればいいんだ」

正義「……」

勇者「なんだ」

正義「口の軽い男もそんなに好きじゃないけど無口って言うのもどうかと思うのよね」

勇者「……悪かったな」

正義「別に責めてる訳じゃないけど……どうなのって意味」

勇者「棘のある言い方だな」

正義「気に障ったのなら謝るわ」

勇者「別に気には障ってない。ただ思った事を言ったまでだ」

正義「……あなたって人間がよく分からないわ」

勇者「自分だってよく分かってないからな」

勇者「それにお前だってよく分からない」

正義「あら、あなたよりは多少分かりやすいと思うんだけど」

勇者「俺もお前も大差ない」

正義「……そうかしらね」スタスタ

勇者「そうだ」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





勇者「……」

勇者「眠れん……」

勇者(外の見周りにでも行くかな)ガチャ

勇者「……」スタスタ


ガヤガヤ


勇者「昼より人通りが多いな……」

勇者「……」スタスタ

勇者(これからどうするかな)

父親「……」スタスタ

勇者「あ……」

父親「……」スタスタ

勇者「すまない。あなた、この辺りで有名な刀鍛冶の人じゃないか?」

父親「有名かどうかは知らんが、刀鍛冶だ」

勇者(確かに頑固そうだ)

勇者「突然ですまないが、あなたの息子は帰ってきたか?」

父親「帰ってくる訳無いだろ。あんな馬鹿」

勇者「ずいぶんひどい言い方じゃないか」

父親「あんた、あの馬鹿の知り合いか?」

勇者「まあ、そんな感じだな」

父親「もしあいつのいる場所を知ってるならあいつに言っておいてくれ。もう帰ってこなくていいって」

勇者「……いいのか?」

父親「ああ。どうせ帰ってくる気はもう無いんだろ?」

勇者「俺には分からない」

父親「とにかく言っておいれくれ」

勇者「ああ、わかった」

父親「頼んだぞ」

勇者「分かってる」

父親「……」スタスタ

勇者(頑固で素直じゃないんだな……)

勇者「……正義の言うとおり、お人好しなのかもな……」スタスタ

勇者(あの神社にでも行ってみるか)スタスタ

勇者「……」スタスタ

旅人「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

勇者「誰もいないか……」


ガサガサ


勇者「ん?」

チンピラ「だから俺があいつの気を引くから、お前はあいつを後ろから殴れ」

勇者「……」

チンピラ「じゃあ後で――――」

勇者「少し話を聞かせてもらっていいか?」

チンピラ「……お、おま――――」

勇者「話を聞かせてもらえるか?」

勇者はチンピラに一歩近づき胸ぐらを掴む。


勇者「誰を殴るって?」

チンピラ「な、なんだよ……」

勇者「悪い事は言わない。やめとけ」

チンピラ「……」

勇者「誰を狙ってた」

チンピラ「か、刀鍛冶か鍛冶屋だよ。あの二人を探してる奴がいるんだ」

勇者「……」

チンピラ「お前には関係ないだろ。離せよ!!」

勇者「もう一度言う。やめろ」

チンピラ「おま――――」


言い終わる前に勇者の右拳がチンピラの脇腹に襲いかかる


勇者「……」

勇者「鍛冶屋と刀鍛冶が危ないな」タタタッ

今日はここまでです。

正義の能力はだいたい決まっているんですが、そういう場面じゃないと使えないので小出しになっちゃいますね。

勇者『正義。聞こえるか?』タタタッ

勇者「……」タタタッ

勇者『正義!!』タタタッ

正義『な、何!?』

勇者『よし、聞こえてるな』タタタッ

正義『あんたが呼んだから刀に戻っただけよ』

勇者『戦闘になりそうな気がする。準備しておけ』タタタッ

正義『いきなりね』

勇者『ああ、悪いな』タタタッ

勇者「いた……」

鍛冶屋「え、ん?」

勇者「鍛冶屋。今すぐ帰れ」

鍛冶屋「……は?」

勇者「早く」

鍛冶屋「いや、意味がわからないんだけど……」

勇者「よく分からんがお前が狙われているらしい」

鍛冶屋「……いやいや。理由は」

勇者「……チンピラが言ってた」

鍛冶屋「なんだよ、その雑な理由」

勇者「……」

正義『勇者? さすがにそれは無理があるんじゃない?』

勇者『ああ、少しあったかもしれん』

正義『絶対少しくらいじゃないと思うけど』

勇者『しまったな……』

正義『あなたね……』

鍛冶屋「とにかく俺は家には帰らない」

勇者「……お前も父親に似て頑固なんだな」

鍛冶屋「父さんに会ったのか」

勇者「まあ、少しだけだがな」

鍛冶屋「なんか言ってたか?」

勇者「家には帰ってこなくていいと伝えておいてくれと頼まれた」

鍛冶屋「……やっぱりね」

勇者「……」

鍛冶屋「そう言うだろうと思ってたよ」

鍛冶屋「それにもし本当にそう言われてるんなら俺は家に帰れねえじゃん」

勇者「……確かに、お前の言う通りだ」

鍛冶屋「帰らない方がお互いの為にもなる」

勇者「……」

鍛冶屋「じゃあ、そろそろ行くから」

勇者「待て」

鍛冶屋「なんだよ」

勇者「家に帰らなくていいのか?」

鍛冶屋「……しつこいな。帰るなって言われてるんだから帰らねえよ」スタスタ

勇者「……」

正義『で、どうするの?』

勇者『とりあえず刀鍛冶の所に行ってみる』

正義『無事かどうか確認のためって訳?』

勇者『ああ、あと警告の為にな』スタスタ

勇者『気配はどうだ?』スタスタ

正義『え?』

勇者『敵の気配が分かるんだろう?』

正義『今の所は……特に感じないわね』

勇者『……そうか』

正義『さっきより気配は弱くなってるからね……』

勇者『遠くに行ったのか?』スタスタ

正義『多分ね』

勇者「……」スタスタ


コンコン


勇者「……いない?」

勇者「……」

勇者「さっさと出て来い」

鍛冶屋「……」

勇者「見つかって無いとでも思っていたのか?」

鍛冶屋「……」

勇者「なんだかんだ言っても父親が心配なんだな」

鍛冶屋「ああ、悪いかよ」

勇者「悪い事じゃないさ」

勇者「あと、そこに隠れている奴にも出て来てもらいたいな」

槍使い「……」


草むらから表れたのは赤い甲冑を着た中年の槍使いだった。


勇者「お前か?」

槍使い「魔王軍としても刀鍛冶と鍛冶屋を監禁しておくのは有益だと持っただけの事」

勇者「魔王軍?」

槍使い「人間に軍隊がある様に魔物にも軍隊がある」

勇者「……」

勇者『正義、あいつじゃ――――』

正義『違う。あんなレベルじゃなくて、もっと邪悪で物凄く強いものがあったはず』

勇者『あいつは弱いのか?』

正義『ええ、ついさっきまで居た奴よりはだいぶ弱いわね』

鍛冶屋「と、父さんは何処だ!!」

槍使い「見つけてたらお前を捕まえてとっくにこんな町から出て行っている」

勇者「そう言われればそうか」

鍛冶屋「納得してんじゃねえよ」

勇者「すまん」

鍛冶屋「いや、すまんじゃなくてさ……」

勇者「だが、納得できる内容だっただろ?」

鍛冶屋「まあ、そうだけどさ」

槍使い「どうする?」

勇者「え、何がだ?」

槍使い「戦うのか?」

勇者「ああ」

槍使い「……」

鍛冶屋「勝て――――」

勇者「……」

鍛冶屋(目が違う?)

勇者「鍛冶屋、逃げろ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

勇者『正義、行けるか?』

正義『ええ、全然大丈夫よ』

勇者『本気で行く』

正義『分かってるわよ』

槍使い「かかって来い」

勇者「ああ、そうさせてもらう」

今日はここまでです。

勇者の刀と槍使いの槍、その二つが同時にぶつかり合い、金属音を響かせた。
それと同時に火花もチリチリと飛び散り、地面に落ちていく。

勇者は力で押し切ろうとする槍を受け流すと、少しだけ後ろに跳ぶ。
そして苦々しく笑った。

出来る限り相手の間合いに入らないように距離を置く。
そのために相手が動くのと同時に同じように間合いを調整しながら動く。

槍使いの槍の間合いは多く見積もって三メートル。
それに対して勇者の間合いは一メートル半程度だろう。

下手に距離を詰めようとすれば斬られる。
そう考え、一気に間合いを詰められるタイミングを推し測りながら、間合いを調整する。

距離がゼロになれば小回りがある程度効く刀の方が絶対有利なはず。
だからこそ槍使いも間合いを気にしながら踏み込まれないように立ち回っているのだ。

時折刀と槍がぶつかり合うが、それはお互いに牽制、お互いに策を練りながらも相手の動きに注意していた。

槍使いが大きく一歩前に出る。
それに対応するかのように勇者も一歩下がる。


「どうした、偉そうな事言ってたのに攻めて来ないのか?」

あからさまな挑発に乗る気は無かった。
そしてそれに何かしらの返答をする気も無い。

呼吸を調え、頭の中を真っ白にする。
精神を統一し、頭の中で自分の体を強化するのをイメージ。

勇者は体に魔力が巡るのを確認し刀を構え直すと、一気に走り出す。
頭を下げ、腰を落とす。
まるで地を這うほどに姿勢を低くし、突進する。

だが勇者が相手を斬るよりも槍の方が速かった。

ガキン、と言う音と共に勇者の刀と槍が激突。
もちろん勇者の突進も止まってしまう。

あと一歩、あと一歩前に出れば刀が当たるのに、そこで止まってしまう。

槍使いの槍を受け流す、だがだからと言って前には進めない。


『正義、もう少し体の強化を出来ないか?』

『無理よ。そんな事したらあなたの体が先に壊れるわ』


苦々しい顔のままわかった、とだけ返答した。

勇者は後ろに跳びながら相手の槍を受け流す。
このままの間合いで戦うのは無駄、と判断したのだ。


「どうする、まだお前の刀は当たってすらないぞ?」

何も言わず、刀を構える。
さっきと同じように相手との間合いを計りながら後ろに下がる。

このままの状態が続いても勝ち目は無い。だと言っても前に出ても間合いを詰め切れない。
完全な八方塞だ。
この状態で消耗戦になるのは出来るだけ避けたい。


『魔力の残りは?』

『十分あるわよ。でも、ここからどうするつもり?』

『……今の所作戦は無い』


いや、無いわけでない。
ただ作戦と言うにはあまりにもそれは無謀過ぎた。
作戦と言うよりは賭けに近い様な気がする。


『正義、少し危険な策だが、やってみていいか?』

『勝手にどうぞ。あなたが好きなようにしてくれていいから』


ああ、と返事をし、刀を鞘にしまう。

チャンスは一度。
同じ手は二度と使えない。
そう言い聞かせ、呼吸を調える・

勇者は出来る限り体を前傾にし、走り出した。
風の様に、風より速く疾走する。

残り四メートル。

更に加速。
鞘にしまわれた刀の柄を右手で掴み何時でも抜ける状態にしておく。


残り三メートル。
更に加速。
とにかく速く。
速く走り抜ける事だけを考える。

残り二メートル。

槍使いの間合いに入る。

相手の間合いに入った瞬間、すでに槍は勇者目掛け突かれていた。
心臓目掛け、寸分の狂いなく襲いかかる。

だが、勇者は減速する事も刀を抜く事も無かった。
ひたすらに速く駆ける。

勇者は地面を今まで以上に強く蹴り、跳ぶ。
加速によって生まれたエネルギーによって、高く、そして速く跳んでいく。

空中で身動きをとれない事を考えれば、これはかなり無謀な策だ。
だが普通の戦闘でなら絶対に行われないからこそ、相手の隙をつく事が出来るのだ。

槍が空を突くのを確認してから、勇者は抜刀の態勢に入った。

刀を抜いたまま跳べば、確実に刀が邪魔になる。
更にそのまま跳べば刀がブレてしまう。

それに引き換え刀を鞘にしまっておけば邪魔になる事は無いし、ブレて反撃や防御が遅れる事は無い。

刀を抜き、攻撃か防御をするのにかかる時間は一秒の半分程度。
もし槍がもう一度心臓目掛けて突かれたとしても十分に防御は間に合うはずだ。

最良の策、とは言わないが良い策ではあるだろう。

勇者の刀の間合いに槍使いが入る。
刀の鞘を持つ右手に力を入れ、刀を抜く準備に入った。


「まさか、それで攻撃が当たるとでも?」


その声には失笑が混じり、他人を馬鹿にする様な響きをしっかりと含んでいた。
だが今はそんな事はどうでもいい。

槍使いの口が何かを呟く。

勇者はその瞬間、それが何かを理解し、体を捻り逃げようとした。
しかし、空中で大きな回避は不可能だった。


『正義――――!!』

『魔力の使い道なんてほとんど無限にあるんだから自分で何とかして!! とにかく頭の中でイメージ!!』

『くっ……』


頭の中で逃げる方法を思考する。
魔力量や効率は一切無視し、逃げる速さだけを考える。

その瞬間、彼の目の前は赤く染まっていた。
頬がチリチリと焼ける感覚。
前に進むたびに体が焼かれていくのが分かる。


『勇者、早く!!』

『分かってる!!』


刀に風を纏うのをイメージ。
炎を弱める風を。
いや、炎自体をかき消すほど強い風を。

刀が風を纏うのを実感。
鞘から抜刀し、そのまま炎目掛け剣を大きく横に薙ぎ払う。

ゴウッ、と言う音と強烈な風を勇者自身も実感した。
彼の体を焼こうとしていた炎が目の前から消滅する。

『あなた……』

『なんだ』

「……その剣、人格を持つ剣だな」

「ああ」


正義との会話を邪魔されたが、相手の質問にはきちんと答える。
さすがに魔王の手先の物なら知っていて当然だろう。

勇者は後ろに一歩下がると、呼吸を整えた。

今の一撃でかなりの魔力を消費したはず。
残りがどのくらいかは分からないがこのまま長期戦をしてもいい事は一つも無いはずだ。

今日はここまでです。

出来る限り戦闘シーンには力を入れて行こうと思いますのでよろしくお願いします。

勇者は間合いを確認しながら頭をフル回転させ作戦を思考した。
同じ手は二度通じないだろう。
だが、だからと言って正面から近づいても無駄。
背後は確実にとる事は出来ないだろう。


『魔力は残り――――』

『さっきの一撃、ほとんど魔力を消費してないわよ』

『……あの一撃でか?』

『ええ、だから驚いてるの。多分、あなたは刀の強化が向いてるんだと思う』

『……』

『あなたが風を選んだのは本能的に風とあなたの相性がいいと分かっていたから』

『じゃあ俺は武器の強化と風が向いていると言う事か?』

『そう言う事』

勇者はその言葉を頭の中で咀嚼する。
風。
武器の強化。

頭の中に一つの答えが生まれる。
あとはそれが本当に出来るのか。
そしてそれをどうやって当てるかだ。


『正義。刀の強化は斬れ味もあげられるのか? 炎を斬り裂けるくらいに』

『可能か不可能かで言ったら可能よ。十分に』


正義のその声は楽しそうで、もし実態があったら満面に笑顔をしていただろう。
勇者もその声に苦笑する。

作戦はほとんど決まっている。
あとはタイミングだけだ。
相手の隙をつく、そのタイミング。

彼は刀を構えたまま頭の中でイメージを開始する。

槍使いが大きく一歩踏み出し、槍で突いてくる。
その顔には明らかに動揺と不安の色があり、勇者から何かを感じ取っているのが分かった。
だからこそ、こんな無茶を冒してまで勝負を急いでいるのだ。

口には出さないが、さっきの炎も予想外だったのだろう。
多分あれは隠し玉だったはず。
それを放って相手を仕留められていないのだから、当然と言えば当然だろう。


勇者はわざと一歩踏み出し、槍使いの間合いに入る。
牽制的な意味合いだが、それを悟られないよう、あえて大きく踏み出す。

その瞬間、槍が勇者目掛けて突きだされる。

だが勇者はそれを受け流すと、また後ろに跳び、間合いをあける。


「く……」


苦虫を噛み潰したような顔のままこちらを睨む槍使いは動揺しているようだった。

無理も無い。
あの場面であそこまで踏み出すなら策が無くては不可能。
むしろ策も無しにあそこまで踏み込むのはかなり無謀だ。


『魔力は十分ある。かなりド派手な事やったって多分大丈夫よ』

『わかった』

体の力を抜き、一歩退く。
だが、すぐに前に踏み出せるよう、足に力を残しておく。

それで十分のはず。
さっきといい今といい、槍使いの心にはかなりの動揺を与えたはずだ。
なら、そろそろ無茶な攻めをしてくるはず。


「この……小賢しい!!」


勇者を追うように大きく一歩踏み出し、槍を突き出す。
だが、態勢も不安定、槍にも力が籠っていない。
明らかにその一撃は攻めすぎだ。

勇者はその隙を見逃さなかった。
力の籠っていない一撃を素早く弾くと、二メートル近くあった間合いを一気に詰め切る。

刀が鞘に収まっていない分、更に速く攻撃が出来る。

槍使いが魔法を詠唱してるのが見えた。
その次の瞬間には勇者の目の前は何かに引火したかのような火の海に変わる。

だが、同じ手が通じないのは槍使いも同じ事。
すでに勇者の刀は風を纏っていた。
そしてすでに勇者の刀は強化されていた。

鋭く。
全ての物を切断できるほど鋭く。
そのイメージはすでに勇者の中で固まっている。

勇者の刀が地面と平行に振られる。
その一振りで炎の海は二つに分断され、更に風によって消滅させられる。


「く……」

「残るは、お前だけだ」


槍使いは持った槍を盾に様に構える。
しかし刃物では無い部分の槍などただの金属の棒に過ぎない。

ただでさえ勇者の一撃は重い。
更に今それに強力な斬れ味が追加されている。
それはつまり、その一撃は何にも防御できない事を意味していた。

刀はまるで紙の様に肉を断つ。

鮮血。
心地良いほど清々しい斬撃の音。

槍使いの脇腹は深く斬られていた。
まるで壊れた水道の様に傷口から血を撒き散らせ、ゆっくりと倒れていく。

地面はあっという間に真っ赤に染まり、槍使いの顔が青白くなっていく。

勇者はそれを眺めながら刀を鞘へとしまった。
その顔は喜びと悲しみが入り混じった様な不思議な表情だった。

今日はここまでです。

厨二っぽくなってきました。

鍛冶屋「す、凄い……」

勇者「……」

勇者「お前の負けだ」

槍使い「……まさか人格を持つ剣を持っていたとは……予想外だな」

勇者「残念だったな」

槍使い「まあいいさ、俺が死んでも問題は無い」

勇者「……お前の仲間は山ほどいると言う事か」

槍使い「それもある」

鍛冶屋「他にも理由が?」

槍使い「ある。けど言う気は無い」

勇者「……別に言わなくていい」

槍使い「……」

勇者「……」

槍使い「楽しみに待っていろ……すぐに分かるさ」

勇者「そうさせてもらう」

槍使い「どこまで戦えるか、見ものだな」

勇者「見てくれると嬉しいが、お前の命はもう短くないぞ」

鍛冶屋「いや、真面目に返答しなくていいんじゃないか? 嫌味的な意味なんだし」

勇者「そうか、すまん」

鍛冶屋「べ、別に謝る事じゃないんだけど……」

槍使い「……」

鍛冶屋「もう無理っぽいな」

槍使い「……ふん、魔王に勝てるといいな。楽しみだ」ニヤリ

勇者「ああ、そうだな。お前が見れれば良かったんだがな」

鍛冶屋「い、いや、だから……」


槍使いは灰になり、消える。


鍛冶屋「……死んだ、のか?」

勇者「多分な」

鍛冶屋「灰に、なったよな?」

勇者「ああ、人間とは違うと言うことだろうな」

鍛冶屋「……」

勇者「父親が無事で良かったな」

鍛冶屋「ああ」

勇者「会わなくていいのか?」

鍛冶屋「会わない。次会う時は一人前になってから会う」

勇者「……」

鍛冶屋「もう決めたから」

勇者「そうか」

正義「まったく。また訳分かんない事に首突っ込んで」

鍛冶屋「え、い、いつの間に!?」

勇者「正義だ」

正義「勇者の刀の正義です」

鍛冶屋「え、もしかして人格を持つ剣って……」

正義「私の事よ」

鍛冶屋「……」

勇者「驚いたか?」

鍛冶屋「そりゃあ……まあ」

正義「当たり前よね」

鍛冶屋「……なあ、頼みがあるんだけど」

勇者「なんだ?」

鍛冶屋「さっきの戦い見て思ったんだけどさ。仲間にしてくれないか?」

勇者「……なんでだ?」

鍛冶屋「いや、だからさ。お前の戦い方見て本気で凄いって思ったんだ。だから、一緒に旅させてくれないか?」

勇者「俺でいいのか?」

鍛冶屋「え?」

勇者「俺みたいな人間の仲間でいいか?」

鍛冶屋「……前は悪かった。お前の事あんまり知らなかったのに」

勇者「いや、それは別にいいんだ」

鍛冶屋「お前と一緒に旅して、いろんな事学ばせてくれないか?」

正義「どうする、勇者?」

勇者「俺は構わない」

鍛冶屋「い、いいのか?」

勇者「ああ、ただそこまでお前の面倒は見れないからな」

鍛冶屋「あ、ありがとう!!」

正義「あ、あと、仲間もう一人いるからね」

鍛冶屋「わかった」

勇者「いい奴だから大丈夫だ」

正義「ええ、いい奴ね」

鍛冶屋「なら大丈夫だ。絶対」

勇者「じゃあ行くか」

鍛冶屋「ああ」


こうして、名工の父親を持つ鍛冶屋が仲間になったのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


町の入り口


正義「……という訳で新しい仲間の鍛冶屋よ」

鍛冶屋「よ、よろしく」

魔法使い「よ、よろしくお願いします」

鍛冶屋「あ、あははははは……」

勇者「どうした」

鍛冶屋「いや、ちょっと……女に免疫あんまり無くて」

正義「私は女だと思われてないわけ?」

勇者「落ち付け」

正義「……」

魔法使い「え、えーと、鍛冶屋さん……で、いいですよね?」

鍛冶屋「ああ。あと別に敬語じゃなくていいよ」

魔法使い「いいんですよ。この方が慣れてますから」

鍛冶屋「そ、そうか? ならいいんだけど」

正義「……で、次は何処の町に行くわけ?」

勇者「次は川の町だ」

鍛冶屋「川の町ってどんな所だ?」

勇者「さあな」

魔法使い「大きな川が町の中を流れているので川の町って言います」

勇者「そうか、いつも悪いな」

魔法使い「いえ……」

鍛冶屋「?」

勇者「じゃあ行くぞ」スタスタ

正義「ええ」スタスタ

魔法使い「そうですね」スタスタ

鍛冶屋「ああ」スタスタ

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


川の町


正義「予想以上にすぐ着いたわね」

魔法使い「魔物にも会いませんでしたし、当然と言えば当然ですね」

鍛冶屋「魔物か……会ってみたかったな」

魔法使い「魔物なんて会ってもどうしようもありませんよ」

鍛冶屋「そうか?」

魔法使い「はい、何も面白いものなんてありませんし」

鍛冶屋「……そうなのか」

魔法使い「それに鍛冶屋さんって戦えるんですか?」

鍛冶屋「……」

勇者「……魔法使い」

魔法使い「す、すいません!! 鍛冶屋さんがよ、弱いなんて知らなくて……」

勇者「魔法使い、言葉を選べ」

鍛冶屋「い、いいんだよ。俺が弱いのなんて事実だし……」

魔法使い「べ、別に弱いとは……ただ少し頼りないかなって」

鍛冶屋「……」

正義「もはや才能ね」

勇者「自覚も無いからな」

魔法使い「す、すいません」

鍛冶屋「いいっていいって……あはははは……」

正義「さっさと今日泊まる宿探すわよ」

魔法使い「は、はい」

鍛冶屋「別に何処でもいいんじゃないのか?」

勇者「そうはいかん。ちゃんとした宿を探しておくべきだろ」

鍛冶屋「ふーん」

勇者「行くぞ」スタスタ

鍛冶屋「はい」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


宿屋


勇者「俺はこっちで寝る。お前はそっちで寝ろ」

鍛冶屋「荷物はここに置いといていいか?」

勇者「構わん」

鍛冶屋「……真面目だな。あんた」

勇者「ああ、真面目だ」

鍛冶屋「やっぱ、お前凄いよ」

勇者「何が」

鍛冶屋「正義のためとはいえよくその性格で人が殺せるよな」

勇者「……」

鍛冶屋「言っとくけど嫌味とかじゃねえぞ。ただ単純に凄いと思っただけだ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「……照れてる?」

勇者「違う」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

鍛冶屋「なあ、なんか話そうぜ」

勇者「今話しただろう」

鍛冶屋「いや、だからもうちょっとお互いを知ろうとするもんじゃないのか?」

勇者「ああ、今思ってる」

鍛冶屋「じゃあ、聞きたい事無いのか?」

勇者「そうだな……本当に刀を打てるのか?」

鍛冶屋「お前……」

勇者「……」

鍛冶屋「打てるに決まってんだろ!!」

勇者「なんだ?」

鍛冶屋「……まあいいや。他には?」

勇者「そうだな……」

鍛冶屋「……」

勇者「風呂、行かないか?」

鍛冶屋「唐突だな」

勇者「裸の付き合いというやつだ」

鍛冶屋「別にいいけどさ」

勇者「じゃあ、行くぞ」スタスタ

鍛冶屋(どこか抜けてると言うか……真面目過ぎると言うか……)スタスタ

勇者「……」ヌギヌギ

鍛冶屋「……」ヌギヌギ

勇者「行くぞ」スタスタ

鍛冶屋「ああ」スタスタ

勇者「……」チャプ

鍛冶屋「熱っ……」チャプッ

勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「正義達も入っているだろうな」

鍛冶屋「あの二人も風呂が好きなのか?」

勇者「魔法使いは知らんが、正義は綺麗好きだ」

鍛冶屋「意外だな」

勇者「ああ……意外だった」

鍛冶屋「魔法使いだったっけ。あの人、巨乳だよな」

勇者「……ああ、確かにでかいな」

鍛冶屋「いいよな……」

勇者「……」

鍛冶屋「巨乳っていいよな」

勇者「ああ、凄くいい」

鍛冶屋「巨乳ってなんであんなに魅力的に見えるんだろうな」

勇者「……もし、お前の前に物凄く料理が出来る人間がいたらどう思う?」

鍛冶屋「え、す、凄いと思うけど」

勇者「その力が欲しいと思うだろ。魅力的だと感じるだろ」

鍛冶屋「ああ、魅力的だし、貰えるもんなら欲しいよ」

勇者「人は常に自分が持っていないものを欲しがる。俺もお前も巨乳は持っていないだろ」

鍛冶屋「そりゃあ、男だからな」

勇者「そう言う事だ」

鍛冶屋「……理解は出来るんだけどさ、納得はできない……」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「あくまで俺個人の考え方だ」

鍛冶屋「じゃあ聞くけど、女は男の股間が欲しいと思うか?」

勇者「ああ。だからこそあんな事やこんな事が出来るんだ」

鍛冶屋「……」

鍛冶屋「じゃあ男も股間が大きいとモテるのか」

勇者「そうでもない」

鍛冶屋「……それは、どういう理屈?」

勇者「胸だって小さいよりは大きい方がいい。大は小を兼ねると言うやつだ。まあ、大き過ぎるのも困るがな」

鍛冶屋「扱いきれないもんな」

勇者「ああ自分には勿体ない様な気がしてならない」

鍛冶屋「それは凄く分かる」

勇者「手に余ると言うやつだ」

鍛冶屋「実際手に余るしな。大きさ的に」

勇者「じゃあ聞くが、顔、正確、その他もろもろが全てほぼ同じの双子がいたとする」

鍛冶屋「まあ、双子だからな」

勇者「そこで姉が巨乳、妹が貧乳だったとしよう」

鍛冶屋「姉がいいよな」

勇者「ああ、俺も姉がいい」

勇者「だがそれは俺達の考え方。世の中には貧乳を好む者もいる」

鍛冶屋「割合は?」

勇者「だいたい……半々……姉の方が少し多いくらいか?」

鍛冶屋「でも妹の方がいいって人もいるって事か」

勇者「ああ。むしろ姉は巨乳だからダメだと言う者もいる」

鍛冶屋「……つまり女だって小さいのを好きな奴はいるって事?」

勇者「まあ、そんな感じだ。多分……」

鍛冶屋「おい」

勇者「これも俺の自論だ。真実など知らん」

鍛冶屋「……」

勇者「ただ、巨乳がいいと言う事は真実だ」

鍛冶屋「それは理解できる」

今日はここまでです。

???「それもあくまで自論。世の中には貧乳が好きで巨乳が嫌いな人間だっている」


そこには肩くらいまでの白髪で黒っぽい服を着た男が立っていた。
顔は整っていて笑顔はとても優しそうだ。


勇者「誰だ」

逃亡者「俺かい? 俺は逃亡者。何処にでもいる普通の殺人犯だ」

鍛冶屋「何処にでも殺人犯がいたら困るんだけど」

勇者「……つまりお前は人殺しという意味だな」

逃亡者「あんたの噂は聞いてるよ。なんでも正義の為に何十人って人を殺してきたんだろ?」

勇者「……」

逃亡者「どうした? 間違ってた? それとも合ってたから何にも言わないのか?」

勇者「別に、ただお前は貧乳が好きなのか?」

逃亡者「まあね。あんなのでかくても邪魔なだけだろ。どっかの町にいるチンピラみたいに」

勇者「チンピラは誰にも必要とされない。だが巨乳は必要としている人がいる」

逃亡者「残念だったな。チンピラだって必要と知る人間はいるかもしれない」

勇者「……」

逃亡者「それに巨乳が好きじゃない人間にとってあんなものは邪魔にしかならない。だがしかし!!」

逃亡者「貧乳が好きじゃない人がいたとしても。貧乳は決して邪魔にはならないんだ!!」

勇者「た、確かに……」

鍛冶屋「納得しちゃっていいのか!? その話!!」

勇者「だが、無いと言うのも問題なんじゃないか!!」

鍛冶屋「そんな事で熱くなってもいいのか!?」

逃亡者「考えてみろ。お前は胸だけで満足できるのか?」ニヤリ

勇者「……」

逃亡者「所詮胸などは最終段階に行くまでの過程のひとつでしか無い」

逃亡者「そして巨乳というのは必然的に最後の行為のハードルを上げてしまう。しかし貧乳はハードルを逆に下げる。意味が分かるか?」

勇者「……そう言う事か」

逃亡者「そう、貧乳は最後をより良いものにしてくれるんだ!!」

勇者「……そ、そんな考え方があったなんて……」

鍛冶屋「納得しちゃったんだ……」

逃亡者「あくまでゴールはそこ。所詮胸なんてその程度だよ」

勇者「だが、巨乳だと言う事により、その前のモチベーションが上がる。貧乳では下がるぞ」

逃亡者「あはははは!! これだから童貞ちゃんは困るなー」

逃亡者「それはお前の自論。俺は貧乳の方がモチベーションが上がる」

勇者「……」

鍛冶屋「なんでそこまで絶望に満ちた顔してんの!?」

逃亡者「その点、貧乳はそんな心配は無い。綺麗な貧乳ほど素晴らしいものは無い。わかったかな? 童貞ちゃん」

勇者「く……」

鍛冶屋「なあ、これってどんだけ話しても平行線じゃないか?」

勇者「……」

鍛冶屋「正直、どの意見も正しいとは言えないぞ」

逃亡者「まあなー。所詮自論をぶつけ合ってるだけって事だね」

鍛冶屋「お前は童貞じゃないのか?」

逃亡者「違う。ちなみにお前は?」

鍛冶屋「童貞だよ」

勇者「……」

鍛冶屋「お、俺も一緒なんだ。落ち込むな!!」

逃亡者「やっぱあんた等面白いわ」

勇者「……刀があれば……」

逃亡者「信義。出てきなよ」


すると突然女性が現れた。
褐色の肌に金色の長い髪。
目は緑で目は切れ長だった。
服装は普通の布の服だが何故かへそを出しズボンも短く足が露出していた。
スタイルはその服装に似合うほど美しく、まるで何処かの踊り子の様だった。

信義「……何?」

逃亡者「そうイライラするなよ。牛乳飲んでいないだろ?」

信義「心配されなくてもちゃんと飲んでるわよ」

逃亡者「じゃあその牛乳はヨーグルトになりかけの奴かバター風味だったのか?」

信義「その牛乳を私に毎日提供してるのは何処のどいつかしら?」

逃亡者「さあ。でも噂によると殺人犯だったような気がするよ」

信義「あら奇遇ね。私もたった今何処かの殺人犯が犯人なんじゃないかって思った所なの」

逃亡者「はははは!! あとは犯人の名前と居場所だ。俺も探すのを手伝おうか?」

信義「その必要は無いわ。だって目の前にいるんですもの」

逃亡者「あはははは!! 事件解決って訳か」

勇者「そ、そいつは?」

逃亡者「こいつが突然男湯に侵入してきた変質者に見えるかい?」

勇者「……」

鍛冶屋「お前はそう見えるぞ」

逃亡者「俺は男だから大丈夫。なんなら今から服脱いで一緒に話の続き話そうか?」

鍛冶屋「いや、いい」

逃亡者「ははは!! そう恥ずかしがらなくてもいいって」

鍛冶屋「別に恥ずかしがってない」

逃亡者「別にお前の処女を奪おうって訳じゃない」

鍛冶屋「うるせえ!!」

信義「相変わらず下品で低俗ね」

逃亡者「そうか? 多分どっかの剣の性格に似てきたのかもなー」

勇者「用はなんだ」

逃亡者「たまたま通りかかったら巨乳が最高だって聞こえたから童貞ちゃんに貧乳の良さを伝えようと思ってね」

鍛冶屋「童貞ちゃんって言うな!!」

信義「その年で童貞って……どうなの」

鍛冶屋「うるせえよ。尻軽!!」

信義「誰が尻軽よ!!」

逃亡者「褐色の肌で胸まである長い金髪に緑の目の露出狂だと思うんだけど……何処かで見た事ある様な気がするんだよなー」

信義「……あら、私は白髪でいっつも笑顔のクソ野郎だったような気がするんだけど?」

逃亡者「多分それは男だから少なくとも尻軽では無いんじゃないかな?」

信義「そうね。その通りよ。白髪で笑顔のクソ野郎」ニッコリ

逃亡者「分かってくれたかな? 褐色の肌の金髪で緑の目の露出狂さん」ニッコリ

勇者「お前が殺人犯である以上。俺はお前に用がある」

逃亡者「……俺を殺すって事かな?」

勇者「ああ」

逃亡者「……残念だなー。どうせ殺されるなら同じ貧乳好きに殺されたかったー」

鍛冶屋「なんで棒読みなんだよ」

勇者「……」

逃亡者「でも、刀が無くちゃどうしようもない」

勇者「く……」

逃亡者「ま、今回は顔合わせだけ。次回をお楽しみに。って感じかな?」

信義「別に今殺しちゃってもいいんじゃない?」

逃亡者「露出狂に尻軽で今度は弱い者いじめが趣味の殺人狂になるつもりなのかなー?」

信義「偉そうに私に説教できる人間だったかしら?」

逃亡者「ははっ。確かにそうかもしれない」

逃亡者「ではお二方。今宵は楽しませてくれてありがとうございます。次回会う時もお互い楽しめる事を心から望んでおります。では」タタタッ

勇者「……」

鍛冶屋「なんだったんだ? あれ?」

勇者「分からんが、とにかく俺達の敵だ」

鍛冶屋「でしょうね」

勇者「少ししたら出るか」

鍛冶屋「そうだな」

勇者「……」

鍛冶屋(どれを気にしてるんだ?)

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者達の部屋


勇者「逃亡者……か」

鍛冶屋「詳しい事が分かんないんじゃどうしようもないな……」

勇者「まず第一に何処で誰を何人殺したのか分からない……」

鍛冶屋「どちらにしろ殺すんだろ」

勇者「ただ一人殺した者と数十人殺した者では明らかに危険度が違うだろ」

鍛冶屋「まあ、そうだけどさ」

勇者「もしもあの男が大量殺人をしていたならすぐに殺さなくてはいけない」

鍛冶屋「優しそうな顔してたんだけどな」

勇者「ああ、だが血の臭いがした」

鍛冶屋「血の臭い?」

勇者「人殺しの臭いだ」

鍛冶屋「そうか。俺にはわかんねえ」

勇者「同族の臭い、と言ってもいい」

鍛冶屋「……」

勇者「同じ人殺しだからこそ分かる臭いだ」

鍛冶屋「お前は自分が人殺しだと思ってるのか?」

勇者「ああ、俺は人殺しだ」

鍛冶屋「……」

勇者「正義の為なんて言っても、所詮俺のやっている事は人殺しで間違いない」

鍛冶屋「……」

勇者「だから俺自身幸せになるなどと考えてはいない。もしも出来るなら俺に罰を与えてほしいんだ」

鍛冶屋「自分のやってる事を正当化しないのか?」

勇者「相手が誰であっても殺しは殺し。正当化などしない」

鍛冶屋「……じゃあお前は人殺しをする人間をどう思ってるんだ」

勇者「人間の屑。恥を知るべきだ」

鍛冶屋「……」

勇者「もちろん、俺もな」

鍛冶屋「そう言うと思ってたよ」

勇者「だからこそ俺は幸せになろうなどとは思っていない」

鍛冶屋「……」

勇者「その程度で許されるとは思ってないがな」


コンコン


勇者「……誰だ?」

正義「私よ。魔法使いもいる」

勇者「正義か……入ってきてもいいぞ」

正義「明日から何をするのか決めとこうと思って」スタスタ

勇者「人格の剣を持った者がいた」

正義「え、本当?」

勇者「ああ、確実だ」

鍛冶屋「俺も見た」

魔法使い「どんな人だったんですか?」

鍛冶屋「ええとひん……じゃなくて優しそうな顔してた」

魔法使い「じゃあいい人――――」

勇者「いや、人殺しだ」

鍛冶屋「ああ、自分からそうだって言ってた」

魔法使い「そ、そうですか……」

勇者「明日は俺と正義でその男を探す。鍛冶屋と魔法使いは魔王の情報を集めてくれないか?」

魔法使い「わかりました」

鍛冶屋「殺すのか?」

勇者「そのつもりだ」

逃亡者「出来るのかな?」

勇者「な!?」

鍛冶屋「え?」

魔法使い「この人が?」

逃亡者「ん……そっちのお姉さん」

魔法使い「わ、私ですか!?」

逃亡者「お姉さんは魔法使い? 魔法剣士?」

魔法使い「ま、魔法使いです」

逃亡者「あー……向いてないね」

魔法使い「な、なんでですか!?」

逃亡者「お姉さんは普通の人とは違う珍しいタイプっぽいから向いてないよ」

勇者「……正義」

逃亡者「待って待って。こんな場所で戦うなんて脳味噌が筋肉でできてるわけ?」

勇者「何がだ」

逃亡者「こんな場所で戦ったら迷惑だろ。それに今戦ってもどうしようもないだろ」

勇者「俺にはお前と戦う理由がある」

逃亡者「そんなの一方的な理由だろ」

勇者「……」

逃亡者「悪いけど俺は戦う気なんて無いからさ」スタスタ

勇者「待て!!」

逃亡者「……」

勇者「見逃すと思うか」


勇者は刀を抜き、切っ先を逃亡者に向けて刀を構える。


逃亡者「……面倒臭い奴だな。それにここは宿屋だぜ?」

勇者「それがどうした」

逃亡者「今この建物にいる人間は言わば人質だ」

勇者「……」

逃亡者「いいのかい? 俺がどんな力に長けているのかも分かんないのに」

勇者「貴様……」

逃亡者「いいっていいって。俺そんなに高貴な人間じゃないし」

勇者「……」

逃亡者「まあ、次会った時は戦ってあげっからそれまで待っててよ」スタスタ

鍛冶屋「勇者、落ち着いた方がいいんじゃないか?」

勇者「……わかった」

逃亡者「物分かりのいい人で助かった」

逃亡者「じゃあ、またの機会に」スタスタ

勇者「……」

鍛冶屋「明日の作戦は?」

勇者「変更は無し。変える気は無い」

鍛冶屋「了解」

今日はここまでです

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日   町中


魔法使い「勇者さん。少し苛立ってましたね」

鍛冶屋「仕方ない気もするけどな」

魔法使い「そう、ですよね」

鍛冶屋「……なんで勇者と旅する事になったんだ?」

魔法使い「勇者さんに助けてもらったからです」

鍛冶屋「……」

魔法使い「鍛冶屋さん?」

鍛冶屋「俺と同じ理由だったからさ」

魔法使い「勇者さんって世間じゃあんな風に言われてますけど、中身はいい人じゃないですか」

鍛冶屋「……それはちょっと褒めすぎじゃないか?」

魔法使い「そ、そうですかね?」

鍛冶屋「ああ、あいつは悪い奴ではないけどいい奴ではないだろうな」

魔法使い「でも……」

鍛冶屋「それに嫌がるだろ、いい奴なんて言われても」

魔法使い「あ、確かに」

鍛冶屋「あいつの前では絶対言うなよ」

魔法使い「は、はい」

鍛冶屋「俺はもうあいつはいい奴だと思わないようにしてるから」

魔法使い「……そうですよね」

鍛冶屋「あ、べ、別に魔法使いを悪く言ったつもりは無いんだけど」

魔法使い「あ、き、気にしてませんから」

鍛冶屋「……」

魔法使い「そ、そういえば、昨日の事覚えてます?」

鍛冶屋「えーと……いろいろあり過ぎてどれの事を言ってるのかさっぱりなんだけど……」

魔法使い「私が魔法使いに向いてないって話です」

鍛冶屋「……ああ、そう言えばそんな事言ってたな」

魔法使い「……」

鍛冶屋「魔法苦手なのか?」

魔法使い「苦手ならまだよかったんですけど、魔法使えないんですよ」

鍛冶屋「……そうなのか。聞かない方がよかったか?」

魔法使い「いえ、私が言いだした話ですし。それに前の事があるじゃないですか」

鍛冶屋「前の事?」

魔法使い「鍛冶屋さんの事、弱いって……」

鍛冶屋「そんな事もう気にしてねえよ。全然」

魔法使い「……」

鍛冶屋「で、それがどうかしたか?」

魔法使い「わ、私の方が役立たずなんですよ。魔法も出来ない。戦闘も出来ない……」

鍛冶屋「……なんでそう悲観的なのかな」

魔法使い「……でも」

鍛冶屋「今の話聞いてても凄く悲観的じゃない?」

魔法使い「だって、何にも出来ないですし……」

鍛冶屋「じゃあ出来る事を探した方があいいぜ」

魔法使い「……」

鍛冶屋「それに勇者がいいって言ったんだから何かしら役には立ってんだよ」

魔法使い「そ、そうでしょうか」

鍛冶屋「相手をフォローするために自虐するのは良くないと思うし」

魔法使い「……す、すいません」

鍛冶屋「だいたい、そんな話しなくったっていいんだぞ」

魔法使い「でも、後から知らなかったって怒られたくなくて……」

鍛冶屋「んな事で怒んねえから」

魔法使い「あ、ありがとうございます」

鍛冶屋「じゃあ、さっさと魔王の情報集めようぜ。勇者が怒るぞ」スタスタ

魔法使い「そうですね」スタスタ


ドンッ


旅人「……」フラフラ

魔法使い「す、すいません」

旅人「いえいえ、こちらの不注意ですからお気になさらず」スタスタ

鍛冶屋「気をつけろよ」

魔法使い「すいません」スタスタ

鍛冶屋「さっさと行くぞ」

魔法使い「あ、はい」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

魔法使い「まず何処を回りましょうか」

鍛冶屋「そうだな……」

???「あれ、帰ってきてたの?」


そこに立っていたのは茶髪で少し癖っ毛の二十代前半の女性だった。
服装は茶色のローブ。
切れ長の目に整った顔をしていた。


魔法使い「……お、お久しぶりです」

鍛冶屋「え、誰?」

姉「私は姉。こいつのお姉さんよ」

鍛冶屋「……魔法使いのお姉さん」

姉「あんたは……こいつの彼氏?」

鍛冶屋「ち、違う!!」

姉「あはははは!! そりゃそうか。こんな出来そこないなんかと一緒にいても仕方ないもんね」

鍛冶屋「はあ?」

姉「この町に帰って来たって事は魔法が使える様になったんだよね?」

魔法使い「いえ……それは……」

姉「ったく。相変わらずガラクタだね。あんたは」

鍛冶屋「おい」

姉「何?」

鍛冶屋「さすがに言い過ぎじゃねえか?」

姉「何が?」

鍛冶屋「ガラクタは言い過ぎじゃないのかって意味だよ」

姉「ははは!! ガラクタはガラクタでしょ」

鍛冶屋「お前は!!」


鍛冶屋は姉に殴りかかる。


魔法使い「鍛冶屋さん!! あなたじゃ無理です!!」

鍛冶屋「え?」


姉の右手が鍛冶屋の脇腹に刺さった


鍛冶屋「うが……!!」

魔法使い「あの人、強いんです」

鍛冶屋「さ……先に言え……」

今日はここまでです

魔法使い「す、すいません」

鍛冶屋「いや、大丈夫……大丈夫なんだけどさ……」

姉「ははっ。所詮はガラクタの仲間って訳ね」

鍛冶屋「うっせえぞ」

姉「……罵倒したければすればいいわ」

鍛冶屋「腐った根性、天パ、ババア、負け組、負け犬、ビッチ、尻軽、痴女」

姉「……」

鍛冶屋「まだ結婚してねえのかよ。お高くとまってんじゃねえぞ。理想高過ぎなんだよ」

姉「……」

鍛冶屋「そんな性格だから結婚できないんだよ。若作りしたって化けの皮剥がれてるぞ。ババア!!」

姉「黙れ!! 誰がババアじゃ!!」

鍛冶屋「お前が好きなだけ罵倒しろって言ったんだろうが」

姉「限度ってものがあるだろ!! 限度ってもんが!!」

魔法使い「か、鍛冶屋さん」

鍛冶屋「お前は魔法使いにそんだけの事を言ってんだ」

姉「……」

鍛冶屋「お前がどうでもこいつは仲間だ!!」

姉「臭っ」

鍛冶屋「うっせえ!!」

魔法使い「……」

姉「ま、所詮ゴミの仲間ね」

魔法使い「う……」

姉「ゴミの仲間はゴミって訳ね」

魔法使い「違います……」

姉「え?」

魔法使い「違います!!」

姉「?」

魔法使い「私はゴミかもしれませんけど、鍛冶屋さんは違います!!」

鍛冶屋「魔法使い……」

魔法使い「鍛冶屋さんは、弱くて、周りが見えてないし、すぐに喧嘩を売るバカだけど……」

魔法使い「鍛冶師としての腕前は凄いんです!!」

鍛冶屋「…………うん、凄くうれしいんだけど……何なんだろうな、この不思議な感情は」

姉「はは……あはははははは!!」

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

姉「何語っちゃってんの? バカみたい」

鍛冶屋「……」

姉「帰ってきたんなら母さんと父さんにも伝えなさいよ。ガラクタが帰って来たってね」スタスタ

鍛冶屋「……」

魔法使い「鍛冶屋、さん」

鍛冶屋「……さっきは取り乱して悪かった」

魔法使い「いえ、そんな事は別に……」

鍛冶屋「行こうぜ」スタスタ

魔法使い「あ、はい」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……逃亡者たちの居場所は、分かるか?」スタスタ

正義「無茶言わないでよ。私にそんな能力ある訳ないじゃない」

勇者「さすがに人間は無理か」

正義「当たり前でしょ」

勇者「……」

正義「そんなにあいつを斬りたい訳?」

勇者「ああ、当たり前だ」

正義「……」

勇者「殺人鬼を生かしておいてもいい事など何もない。他の犠牲者を出さないためにも俺はあいつを斬る」

正義「そう。いいんじゃない?」

勇者「……正義」

正義「何?」

勇者「俺は自分のやっている事が正しい事だとは思わない。ただ例えそうだったとしても、俺はそれを変える気は無い」

正義「ええ、その話は何回も聞いてるわ」

勇者「俺は、不安だ」

正義「……」

勇者「このままやって行って。このまま悪人を俺が斬って行っていいのか……」

正義「具体的にはどのように?」

勇者「俺が人を殺せば、俺は人殺しだ。あいつらと変わらん」

勇者「俺が裁くべきでは無いんだろうか……」

正義「さあね」

勇者「……」

正義「私が口を出した所で気休めにもならないでしょ」

勇者「……」

正義「他人に答えを求めたって、それに納得なんて出来ない」

正義「仮に私がいいんじゃないって言ったって、あなたはそれをそうですかって受け入れられる?」

勇者「無理だ」

正義「でしょ」

勇者「……」

正義「そんなものよ。相談なんて意味無いの。結局答えは自分で出さなくちゃいけないんだから」

勇者「そうだな……」

正義「そこ答えはあなたが探すのよ」

勇者「ああ、分かった」

正義「……」

勇者「ありがとう」

正義「すっきりした?」

勇者「いや」

正義「まあ、そんなものよ」

勇者「逃亡者を探すぞ」

正義「了解。見つけたらどうするの?」

勇者「すぐに戦闘だ」

正義「ええ、分かったわ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夜   勇者達の部屋


魔法使い「すいません。魔王の情報は特には得られなせんでした」

鍛冶屋「いろんな場所を回ってみたんだけど、みんなそんなに知らないってさ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「悪いな。もう少し情報があれば良かったんだけど」

勇者「無いんなら仕方ない。それにそんなにすぐに情報が見つかるとも思っていないしな」

正義「そうね。仮にも魔王。そう簡単に情報は得られないでしょう」

鍛冶屋「で、そっちは?」

勇者「逃亡者は見つけられなかった。他の情報も一切無しだ」

鍛冶屋「……まあ、仕方ないって言えば仕方ないか」

魔法使い「逃亡者を探して情報を探すのなんて大変なんですし、仕方ないですよ」

正義「じゃあ、明日も同じように?」

勇者「そうだな。明日は今日行けなかった場所も行ってみるか」

鍛冶屋「そうだな」

魔法使い「そうですね」

正義「じゃあ、私達は行くわね」ガチャ

魔法使い「じゃあ、また後で」

勇者「ああ、また後で」

鍛冶屋「ああ」


バタン


鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「話したい事があるんだけど」

勇者「大事な話か?」

鍛冶屋「ああ、大事な話だ」

勇者「……」

鍛冶屋「今、話していいか?」

勇者「ああ、話してくれ」

今日はここまでです。

鍛冶屋「誰にも言わないでくれよ」

勇者「誰にも言わない」

鍛冶屋「……今日、魔法使いの姉に会ったんだ」

勇者「魔法使いの姉?」

鍛冶屋「ああ」

勇者「それが、どうした?」

鍛冶屋「その姉。凄え性格が悪いんだ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「ああ、会ってみれば分かると思うけど、物凄く」

勇者「……そうか」

鍛冶屋「……」

勇者「……で、何が言いたい」

鍛冶屋「勇者。俺に剣術を教えてくれ」

勇者「……剣術を?」

鍛冶屋「ああ、その姉に負けたんだ」

勇者「……」

鍛冶屋「悔しいんだよ。魔法使いにあんな風事言った奴放っとくなんてさ」

鍛冶屋「だから、頼む!!」

勇者「まったく……滅茶苦茶な理由だな」

鍛冶屋「わ、分かってるよ」

勇者「でも、まあ……」

鍛冶屋「……」

勇者「少しなら考えてやってもいい」

鍛冶屋「ほ、本当か!?」

勇者「ただそう簡単に強くはなれないぞ」

鍛冶屋「別にいい。そんな事分かってる」

勇者「じゃあ、始めるぞ」

鍛冶屋「こ、これから?」

勇者「当たり前だ」


勇者は立ち上がり、素手のまま構える


鍛冶屋「え……何?」

勇者「まずは体術だ。剣術はその後」

鍛冶屋「つまり最初の数日は素手で稽古って事?」

勇者「そうなるな。投げ、打撃。なんでも使っていい」

鍛冶屋「わかった。何やってもいいんだな?」

勇者「ああ、武器を使わなければ何をしても構わん」

鍛冶屋「……」

勇者「なんだ」

鍛冶屋「いや、そんな適当でいいのか?」

勇者「安心しろ。何をしても今のお前じゃ俺に勝てない」

鍛冶屋「い、言ってくれるじゃん」

勇者「さっさとしろ」

鍛冶屋「おう!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「じゃあ、この町はあなたの生まれ故郷なのね」

魔法使い「はい」

正義「ならいいんじゃない? 両親に会いに行ったって」

魔法使い「……」

正義「どうしたの?」

魔法使い「私嫌われてるんです」

正義「誰に?」

魔法使い「家族みんなにです」

正義「……」

魔法使い「魔法の家系なんです。私の家」

魔法使い「だから、魔法の出来ない私は家族に嫌われてるですよ。落ちこぼれですし」

正義「……」

魔法使い「魔法が使える様になるまでは帰ってくるなって言われてたのに、帰ってきちゃいましたし」

正義「……」

魔法使い「ダメですよね。私」

正義「別にダメじゃないわよ」

魔法使い「ダメなんです。だから姉さんにもバカにされて……」

正義「お姉さん?」

魔法使い「今日会ったんです」

正義「お姉さんに?」

魔法使い「はい。思った通り滅茶苦茶に言われました……」

正義「……」

魔法使い「仕方ないんです。私が悪いんですから」

正義「でも鍛冶屋がなんか言ったんでしょ」

魔法使い「え? なんで分かるんですか?」

正義「そう言う性格してるのは知ってるもの」

魔法使い「でも、思いっきりカウンター喰らって……」

正義「……うん、それは予想外だった」

魔法使い「一撃でやられちゃって」

正義「想像を絶するくらい弱いのね」

魔法使い「いえ、私の姉が強いんです」

正義「でも、一撃で負けるって……」

魔法使い「私のせいで鍛冶屋さんも怪我しちゃって……」

正義「それはあいつが悪いんだから自業自得よ」

魔法使い「そうですかね」

正義「当たり前じゃない」

正義「でも、一回行ってみた方がいいんじゃない?」

魔法使い「……そう、ですよね」

正義「勇者に後で聞いとけばいいわね」

魔法使い「ありがとうございます」

正義「別にお礼なんて言わなくていいのよ」

魔法使い「……」


ドシャッ!!


正義「何の音かしら」

魔法使い「勇者さん達の部屋からみたいですけど……」

正義「行ってみる?」

魔法使い「い、いいです」

今日はここまでです。


魔法使いは初期ではドジなロリキャラの設定だったのですが、
何故かガンスリを読んでいるときに今の設定を突如思いつき、変更しました。

初期型の魔法使いも気に入っていたので、もしかしたらそのうち出てくるかもしれません。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「う……はあはあ……」

勇者「まあ、こんなもんだろうな」

鍛冶屋「こんなもん……って、どういう意味だよ」

勇者「お前の能力はだいたい把握できた」

鍛冶屋「能……力?」

勇者「ああ、長所と短所とも言えるがな」

鍛冶屋「お、教えてくれよ」

勇者「そのつもりだ」

鍛冶屋「……」

勇者「まず、お前の長所から」

鍛冶屋「ああ、頼……む」

勇者「鍛冶師と言うだけあって、スタミナと攻撃力はなかなかのものだ。特にスタミナは俺よりあるかもしれない」

鍛冶屋「そ……そうか」

勇者「だが、そのかわりスピードと防御力が全く無い。だからこそ、一発二発でそこまで呼吸が乱れるし、ただでさえ遅い動きが鈍る」

鍛冶屋「う、うるせえよ」

勇者「とにかくもう少し回避能力が欲しい所だな」

鍛冶屋「回避能力ったって……どうやって身につけるんだよ」

勇者「稽古は俺がつける。異論は」

鍛冶屋「……無し」

勇者「ならいい」

鍛冶屋「……」

勇者「風呂に行くか」

鍛冶屋「……汗かいたからか?」

勇者「ああ」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「とにかく、お前に必要なのは回避能力だ」ヌギヌギ

鍛冶屋「防御力は?」ヌギヌギ

勇者「それは戦いを積んでいけば勝手に身についていく」スタスタ

鍛冶屋「回避能力は無理か?」

勇者「ああ、独学でもそこそこまで行けると思うが、やはり限界がある」チャプ

鍛冶屋「まあ、そうだよな」チャプッ

勇者「お前は持久戦向きだな」

鍛冶屋「俺そう言うの一番苦手なんだけど」

勇者「それが向いてるんだ、仕方ないだろう」

鍛冶屋「いや、仕方ないって言ってもさ……」

勇者「言っておくがお前は速攻が一番向いていないぞ」

鍛冶屋「……」

勇者「お前は自分がそのタイプだと思っていたと思うが、実際は耐え忍ぶ戦い方が合っている」

鍛冶屋「じゃあ、防御力がいるじゃん」

勇者「そのための回避能力だ」

鍛冶屋「ああ、それで相手を消耗させる訳か」

勇者「そうだ。相手を消耗させ、そこから攻め始める」

鍛冶屋「俺が一番苦手なタイプの戦い方なんだけど」

勇者「我慢しろ」

鍛冶屋「……分かったよ」

勇者「……」

正義『勇者、聞こえる?』

勇者『敵襲か!?』

正義『違うわ』

勇者『……じゃあなんだ』

正義『付け焼刃で構わないから、鍛冶屋に戦闘を教えて』

勇者『は?』

正義『お願い』

勇者『理由は?』

正義『明日魔法使いの実家に行くの。けどどうせこのまま行けばど一悶着あるから』

勇者『一応の護身術を教えておけと』

正義『そう言う事』

勇者「……魔法使いの姉はどんな攻撃をしてきたんだ?」

鍛冶屋「どんなって……どういう意味で?」

勇者「打撃か、魔法か、斬撃か」

鍛冶屋「俺は腹を殴られて一撃で倒れた」

勇者「……無様だな」

鍛冶屋「うるせえ!!」

勇者「他に、何か分かる事は会ったか?」

鍛冶屋「うーん……」

勇者「憶測で構わない」

鍛冶屋「ローブ着てたし、魔術師系統の能力は持ってると思う」

勇者「魔法か……」

鍛冶屋「多分」

勇者「とりあえず初歩的な回避方法だけ教えておく。出ろ」スタスタ

鍛冶屋「あ、ああ……?」スタスタ

勇者「とにかく魔法は詠唱に気付いたら近づくな」

鍛冶屋「で、でもそれが遠距離だったら」

勇者「そんな速い技はそうそう無い。あったとしても避けろ」

鍛冶屋「無茶言うなよ……」

勇者「あと簡単な技を教えておく」

鍛冶屋「技って?」

勇者「回避の技だ」

鍛冶屋「ど、どういうのだ?」

勇者「鍛冶屋、俺に殴りかかって来い」


鍛冶屋は勇者目掛けて殴りかかる。

しかし殴りかかって腕を掴まれ、そのまま地面に投げ飛ばされてしまった。


鍛冶屋「痛っ……」

勇者「甘い攻撃はこの方法でだいたい何とかなる」

鍛冶屋「なあ、俺が投げられる意味はあったのか?」

勇者「無い」

鍛冶屋「ああ、やっぱり」

勇者「文句があるか?」

鍛冶屋「いや、ねえよ」

勇者「ならいい」

鍛冶屋「でもさ、回避力が低いんだったら出来ないだろ」

勇者「いや、大丈夫だ」

鍛冶屋「なんで」

勇者「お前の場合、瞬発力や動体視力はそこそこいい。ただそれに体が追いついていないだけの事だ」

鍛冶屋「……」

勇者「だが、体全部動かす訳じゃないこの回避法ならお前でも……多少は役に立つだろう」

鍛冶屋「多少って具体的にどれくらい?」

勇者「気休め程度だ」

鍛冶屋「ダメじゃねえか!!」

勇者「無いよりはあった方がいい」

鍛冶屋「俺がやったら成功率はどれくらいなんだ?」

勇者「そんなものは考えなくていい。ただその場で生き残るために成功させようと必死になれ。」

鍛冶屋「……了解」

勇者「じゃあ、俺は体を温める」チャプッ

鍛冶屋「裸で何やってんだよ。俺等……」

勇者「言うな」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日   町中


正義「ほら、早く」

勇者「分かってる」

魔法使い「……」スタスタ

鍛冶屋「安心しろ。大丈夫だって」スタスタ

魔法使い「あ、ありがとうございます……」スタスタ

鍛冶屋(笑顔が引き攣ってるぞ)スタスタ

正義「何キョロキョロしてるの?」スタスタ

勇者「逃亡者を……」スタスタ

正義「探してるわけ?」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

正義「もしいたとしても、戦闘は出来ないわよ」スタスタ

勇者「……魔法使いの家に向かっているからか?」スタスタ

正義「大正解」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「あの二人に行かせて何かあったら誰が止めるの?」スタスタ

勇者「魔法使い」スタスタ

正義「止められるようなタイプに見える?」スタスタ

勇者「じゃあ鍛冶屋でいいだろ」スタスタ

正義「あいつが一番問題なの」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「あなたが止めるのよ」スタスタ

勇者「……はあ」スタスタ

正義「溜め息付いてもどうしようもないわよ」スタスタ

鍛冶屋「どの辺りなんだ?」スタスタ

魔法使い「こっちです」スタスタ

勇者「鍛冶屋。分かってるな?」スタスタ

鍛冶屋「暴れるなだろ」スタスタ

勇者「そっちじゃない」スタスタ

鍛冶屋「?」スタスタ

勇者「戦闘になった場合、分かっているな?」

鍛冶屋「ああ、そう言う意味ね」

勇者「回避だけを考えろ。攻撃は絶対に当たる確信があった時だけにしろ。間違っても自分からは攻めるな」スタスタ

鍛冶屋「……わかった」スタスタ

魔法使い「こ、ここです」スタスタ

勇者「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

正義「……誰が開けるの?」

鍛冶屋「勇者?」

勇者「なんで俺なんだ」

鍛冶屋「……」

魔法使い「私が開けます」ガチャ

魔法使い「……ただいま」スタスタ

勇者「邪魔する」スタスタ

鍛冶屋「お邪魔します」スタスタ

正義「こんにちは」スタスタ

父「……お帰り」

母「……」

姉「あ、本当に来たんだ」

鍛冶屋「……」

勇者「なんですでに戦う気満々なんだ」ガシッ

魔法使い「こ、こちらは私の仲間で勇者さんと鍛冶屋さんと正義さん」

父「娘がお世話になっております」

勇者「いえ、こちらこそ」

鍛冶屋「……」

正義「魔法使いはとってもいい子ですよ」

姉「相変わらずのガラクタだけどね」

父「……」

鍛冶屋「て――――」

勇者「落ち付け。ここで喧嘩しても何も得るものが無いぞ」

鍛冶屋「……」

母「あなた、帰って来たって事は魔法を習得できたのね?」

魔法使い「……すいません」

母「私が言った事、覚えてなかったの?」

魔法使い「覚えてます。魔法が出来るようになるまでは帰ってくるな」

母「そう、その通りよね。じゃあなんで帰ってきたのかしら?」

勇者「すいません」

母「……私は魔法使いと話しているのよ?」

勇者「私が彼女を仲間に引き入れなければ彼女がここに帰ってくる事はありませんでした。ですから私の責任です」

母「じゃああなたは魔法使いが魔法を使えない事を知っていて仲間に引き入れたと?」

勇者「はい」

母「何故、未熟なままで仲間になろうと思ったの?」

魔法使い「え、そ、それは……」

母「魔法が使えないなら、あなたの存在価値は無に等しいんじゃないの?」

鍛冶屋「待てよババア!!」

勇者「鍛冶屋……」

正義「あーあ……言っちゃった」

母「ば、ばばばばババア!?」

鍛冶屋「もしくは老害!!」

母「ろ、ろろろろろ老害!?」

鍛冶屋「あんたよく自分の娘の存在価値が無いなんて言えたな!! こいつにはこいつなりにいい部分もあるって思わねえのかよ!!」

勇者「そうだな」

正義「鍛冶屋って説教体質なのね」

勇者「意外と熱血漢だからな」

正義「ええ、時々無駄に熱いしね」

母「我が家は代々魔法を学び、魔法と共に生きてきた家系。魔法の使えないこの子にどんな価値があると言うの?」

鍛冶屋「料理も上手い。知識も豊富。家事全般が得意。それで上等だろ!!」

母「……そ、その程度なら普通の女性なら持ってるわ」

鍛冶屋「それだけじゃねえ。魔法使いにはな、おっぱいがあるんだよ!!」

勇者「ああ、その通りだ」

母「……」

正義「……は?」

姉「ん?」

鍛冶屋「魔法使いは巨乳だろ!! それだけでも凄い価値だぞ!!」

勇者「その通りです。魔法使いには凄い逸材なんです」

正義「ゆ、勇者?」

魔法使い「……」///

母「な……にを言ってるの」

勇者「おっぱいです」

鍛冶屋「ああ、おっぱいだ!!」

姉「ば、バカバカしい」

勇者「負け惜しみはみっともないですよ」

姉「違う!!」

勇者「では何がバカバカしいですか?」

姉「おっぱいしかとりえが無いって事はあいつは売春婦って事ね」

勇者「それだと巨乳の人は皆売春をしている様に聞こえますが」

姉「……」

勇者「それに私達はおっぱいも価値の一つであると言ったまでです。別に魔法使いの価値がおっぱいだけだとは言っていません」

姉「く……」

正義「何このバカバカしい流れ」

今日はここまでです。

母「もういい」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

母「あなた方二人の言いたい事は良く分かりました」

鍛冶屋「ならいいんだよ」

勇者「分かってもらえたなら幸いです」

母「あなた方が魔法使いにふさわしい愚かな人間なのだと」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

姉「ガラクタの仲間はガラクタって訳ね。あはは」

母「そうね」

鍛冶屋「ババア……」

勇者「……」

母「お帰り下さい」

勇者「分かりました」

鍛冶屋「だな」

正義「……」

勇者「また近くに来る事があれば立ち寄らせてもらいます。それでは」ガチャ

鍛冶屋「老害。ビッチ……」スタスタ

正義「行くわよ」スタスタ

魔法使い「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

魔法使い「皆さん……ありがとうございました」

勇者「俺は何もしてない。お礼なら鍛冶屋に言え」

鍛冶屋「俺だって結局意味無かったよ」

魔法使い「……でも、そんな風に言ってもらえて嬉しかったです」

勇者「おっぱいか?」

正義「絶対違うと思う」

鍛冶屋「他になんか言ったっけ……」

正義「魔法使いにはちゃんと存在価値があるって所でしょ」

鍛冶屋「……ああ、そこか」

正義「本当に覚えてた?」

鍛冶屋「ば、バカ言え!! お、覚えてたに決まってんだろ……多分」

正義「覚えて無かったわね」

魔法使い「あと聞きたいんですけど。勇者さんと鍛冶屋さんは本当にそんな風に思ってたんですか?」

勇者「ああ、俺も鍛冶屋もお前が頑張っている事は知ってる。かけがえのない仲間だ」

魔法使い「いえ、その胸の事です」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「魔法使い。お前はかけがえのない仲間。それに嘘偽りなはねえ」

勇者「ああ。その通りだ」

魔法使い「いえ、そっちではなくて……」

鍛冶屋「お前の家族が何と言おうと俺達は仲間だ!!」


鍛冶屋は魔法使いの肩を掴む。


魔法使い「あ、はい……」

勇者「だから安心しろ」

魔法使い「……わかりました」

正義(強引にうやむやにしたって感じね)

逃亡者「ゆーしゃ君。あーそびーましょー」

勇者「……何の用だ」

逃亡者「おいおい。わざわざ戦いに来てあげたってのに、つれないねー」

正義「何処から見てたの?」

逃亡者「お前達があの家に入って行く所からかな」

勇者「……」

逃亡者「魔法使いって言ったっけ?」

魔法使い「え、あ、はい?」

逃亡者「人には向き不向きってのがある。覚えておくといい」

魔法使い「それって魔法の事ですか?」

逃亡者「そうかもね。でもそれを覚えておけばいい事があると思うよ」

鍛冶屋「どういう意味だよ」

逃亡者「あ、そう言えば巨乳好きなんだろ。揉ませてもらったか?」

鍛冶屋「うるせえ!!」

逃亡者「その反応は揉ませてもらってないね。これだから童貞ちゃんは」

鍛冶屋「だから童貞ちゃんって言うんじゃねえ!!」

勇者「無駄話はこの辺りにしておこう。正義」

正義「ええ」

逃亡者「あっちに広い空き地がある。人もほとんど来ないしあっちでやろう」

勇者「わかった。鍛冶屋、魔法使い。お前達は先に帰ってろ」

鍛冶屋「ああ」

魔法使い「頑張って下さいね」

逃亡者「決戦の舞台に行こうじゃないか」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「巨乳好きなんですか?」

鍛冶屋「まあ、好きと言えば好きだな」

魔法使い「そ、そうですか」

鍛冶屋「別に巨乳だけ見てるって訳じゃねえからな」

魔法使い「……」///

鍛冶屋「ん?」

魔法使い「何でも無いです」///

鍛冶屋「ならいいんだけど」スタスタ

魔法使い「行きますよ」

鍛冶屋「ああ」

魔法使い「も……」

鍛冶屋「ん?」

魔法使い「揉みたいんですか?」///

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

鍛冶屋「童貞にそう言う事聞くのは酷だと思わないのか?」

魔法使い「あ、すいません。童貞だって知らなくて」

鍛冶屋「別にいいんだよ。あはははは……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

逃亡者「……」

勇者「お前はなんで殺したんだ?」

逃亡者「理由なんて無いよ。目の前にいたから斬った。それだけだ」

勇者「……」

逃亡者「英雄は二人は居ない」

勇者「どういう意味だ」

逃亡者「そのままの意味だよ。英雄は一人しかいない。二人は必要ない。いや存在できない」

勇者「……」

逃亡者「知らなくても意味無いよ。これは俺の国の言葉なんだから。ま、今は存在しないんだけどね」

勇者「お前は谷の国の?」

逃亡者「勝てば英雄。負ければ人殺しの大犯罪者。皮肉だね」

勇者「……じゃあお前は」

逃亡者「何を言ったって人殺しだ。俺もお前も」

勇者「……その通りだ」

逃亡者「じゃあ始めようか」


逃亡者は剣を抜く。

今日はここまでです。

明日は事情があって更新できません。
すいません

普段誰もいないはずの空き地には不思議な金属音が響き渡っていた。
子供が鉄パイプで遊具を殴っている様な生易しいものではなく、鋭利な金属同士がぶつかり合う殺し合いの音が。


「遅い遅い。もっと速く動かないと」

「く……」


逃亡者の一撃を勇者は紙一重で受け流す。
一秒。
いや一秒の半分遅れていれば勇者の首は宙を舞っていたはずだ。

勇者は大きく息を吸い込み、そのまま息を止める。
肉体に魔力を廻らせるのをイメージ。
肉体の基礎能力を強化する。

これで肉体面は五分五分のはず。
今の勇者なら十分逃亡者の肉体に追いつける。

お互いの距離は五メートル。
今の勇者なら一瞬で刀の間合いまで運ぶ事が出来る。

息を吐き出しながら跳躍。
今までとは明らかに違う速度で、相手に迫って行く。

逃亡者もそれに対応するかのように跳んだ。
その姿はまるで勇者が来るまで待ちきれないと言った様だった。

勇者は刀を上段に構え、刀を振り下ろす態勢に入る。
対して逃亡者は剣を中段に構え、突きの態勢に入った。

お互いに間合いはほぼ同じ、後は技量と読み合いだ。

一瞬にも満たないうちにお互いがお互いの間合いに入る。

逃亡者の剣は勇者の刀が振り下ろされるよりも先に勇者目掛けて突かれた。
その切っ先は寸分狂わず、勇者の心臓を狙っている。

しかし、勇者は刀を振り下ろしながらその一撃を弾く。
更にそのままの反動を利用し、斬り上げる。

すでに近づき過ぎているため本来の斬れ味や威力は期待できない。
だがそれは逃亡者も同じ事。
この間合いでは突きは出来ない。
しかも剣を弾かれているため、防御も間に合うかどうか怪しい所のはずだ。

血の代わりに火花が、肉を斬る音の代わりに金属音が響く。

勇者の斬り上げは逃亡者の剣によってギリギリで受け止められていた。
逃亡者の剣があと一センチでも押し戻されれば、逃亡者自身の剣が己の身を斬る事になるだろう。
それほどスレスレでその攻撃は防がれていた。

逃亡者の剣が勇者の刀の力を上手く逃がし、流しきる。

勇者は地面に着地すると、くるりと百八十度反転し、背中を向けている逃亡者目掛け、走り出した。
一秒もかかる事無く、勇者の刀の間合いに逃亡者が入る。

彼は刀を振り上げる。
まだ逃亡者は防御の体勢に入るどころか、振りかえってさえいない。

呼吸を止める。

刀に意識を集中し、斬れ味と硬度を高めるイメージをする。
同時に刀自身に風を纏わせ、更に斬れ味を上昇させた。

勇者の刀は振り下ろした。
高められた刀の前に置いて、鉄も肉も骨も紙切れに等しい。

しかし彼の耳に届いた音は肉を斬る音と血が飛び散る音では無く、刀自身が空を斬るビュン、という音だけだった。

「……何処に――――」

『勇者!! 上!!』


頭の中に響いた怒鳴り声を聞いた瞬間。
彼の体はほぼ反射的に動いていた。

地面を蹴り、大きく後ろに後退するとともに、相手の一太刀に備え刀を構え直す。

金属音。
宙に浮く体。

気が付いた時には勇者の体は地面に倒れていた。
両腕は痺れ、背中は焼けるように痛い。
更に脇腹にも強烈な痛みが走る。


「剣を防御するまでは良かったんだけど。その後の蹴りまでは防御しきれなかったか」


勇者は今の一撃をぼんやりながら思い出した。

さっき、彼は逃亡者の振り下ろした剣を確かに防御した。
しかし普通の威力に落下の力まで加わったその一撃によって防御は崩れていた。
そしてその無防備の体に逃亡者の追撃の蹴りが直撃したのだ。


「思い出せた?」


逃亡者は剣を持ったまま問いかける。


「そういう……事か」

「そう。正直剣も防御できるとは思ってなかったから、少し驚いた」

「同じ手は二回通じないぞ」

「十分理解してるつもり。信義。久々に行くよ」


口元を大きく歪めて笑うその姿はさながら悪魔の様だった。

逃亡者の足が地面を蹴る。

軽く。
素早く。

その瞬間、勇者は自分の体が粟立つのを感じた。
全身が死という恐怖に捕らわれる。

刀に今まで感じた事の無い様な衝撃が襲い、両腕が痺れていた。
両腕の感覚はほぼ消えかかっている。

だが今はそんな事はどうでもいい。
勇者にとってはそんな事は二の次だった。
恐怖の正体は決してその威力ではない。

見えない。
いや、正確には速過ぎて捉えきれなかった。

地面を蹴った瞬間、逃亡者の体はほぼ消滅していた。
文字通り一発の弾丸と化し、勇者目掛けて突進してきたのだ。

次に彼を目で確認できたのはすでに剣を振り下ろそうとしている瞬間だけだった。

その瞬間、勇者は反射神経をフル稼働し、何とか避けきった。
だがもう一度同じ攻撃をされた場合、回避できる可能性は半分程度がいい所なはずだ。


『勇者!! 次の一撃が来る!!』

「分かってる!!」


くるりと向きを変えて逃亡者を迎え撃つ。
だが相変わらず姿は捉えきれず、ほぼ消失している。

勇者は刀を中段で構え、相手を待つ。

刹那。

勇者と逃亡者の獲物が激突し、火花を散らし合う。
鍔迫り合いの状態のまま静止する。


「あ、あああああああああ!!」


逃亡者は咆哮と共に、勇者を刀ごと、押し始める。
その威力は強化した勇者の肉体でさえも耐えきれないほどの力だった。


『勇者、不味い!!』


素早く刀の向きを変え、力を流す。
そして逃亡者の剣を受け流しきると、一歩下がった。

今日はここまでです。

地の文は安定させたいんですが、相変わらず不安定です。
すいません。

『正義。あいつの能力は分かるか?』

『……肉体強化? にしてはおかしい……』

『どうおかしいんだ』

『あんな動き、普通ならとっくに体が壊れてる』


勇者はもう一度目の前にいる男の様子を確認した。
その表情は確かに楽しそうに笑っている。
しかし、その表情には別の感情も混じっている様な気がした。

呼吸を調え、一歩大きく前に進む。

このまま防戦一方ではいつか相手の一撃をくらう。
ならば多少強引でもこちらから先に攻め、相手に一撃でもくらわせる。

とにかく一撃、浅くても一撃あてる事が出来れば勝機は僅かでも生まれる。

彼の刀が大きく横に薙ぎ払われる。
ゴウッ、という音と共に刀自身が纏っていた風と強化された斬れ味が合わさり、地面を斬り裂く。

もちろん斬り裂いたものの中に逃亡者は無い。
今の一撃を後ろに跳ぶ事で難なくかわしていた。

ここまでは想定通り。
後は空中で身動きのとれない逃亡者に一太刀加えればいいだけ。


『正義。魔力を限界まで俺の体と刀に送れ。壊れる限界までだ』

『りょ、了解』


全身に魔力がまわるのを確認し、勇者は攻撃態勢に入る。

地面を蹴り追撃。
全身の骨が軋む様な痛みと、地面を蹴った反動の痛みが彼の体を襲った。

刀を中段に構えたまま、空中の逃亡者の真正面目掛け進む。

精神を調え、呼吸を止めた。

一閃。
しかもそれは一撃ではなく、何十撃という文字通り、閃光の如き攻撃。

今現在空中にいる逃亡者にかわすと言う選択肢は無い。
そしてこの剣を構える事さえままならない状態でこの超人的に攻撃を回避する事は不可能だ。

逃亡者の体が赤く染まる。
血が雨の様に飛び散り、肉が裂ける。

だがその刹那、彼の右手は勇者の腹を貫いていた。

内臓自体が焼ける様な痛みが走る。
肺の中の酸素が一瞬で体外に排出されてしまった様な錯覚に陥った。

気がつけば勇者の体はまるで毛糸玉の様に地面を跳ねながら転がって行た。
約五メートル近く吹き飛んだ体は木に激突し、やっと停止する。


「あ、う……」


呼吸が出来ない。
強烈な吐き気が込み上げる。

勇者は木にもたれながらかろうじて立ち上がると、逃亡者を見た。
前進血塗れで特に右腕はもはや原形を留めていないほどグチャグチャだ。

……待て。
なんで右腕が原形を留めていないほどグチャグチャなんだ。


『正義。どういう事だ』

『分からない……でも確かにあなたは右手で殴られたはず……』


視界が霞む。
意識がとびかける。

今の状態では思考すらままならなかった。


「今回は引き分けって所か」


逃亡者は剣を鞘にしまい、笑った。

勇者「……」

逃亡者「……」

正義「変わった使い方をするのね」

逃亡者「……気付いたのか」

正義「さすがにあれだけ派手にやればね。それにもう勇者の攻撃の傷はほとんど治ってるでしょ」

逃亡者「あくまで表面上だけ。内側は全然ダメ」

勇者「……どういう事だ」

正義「こいつは体を壊しながら動いてるのよ。でも魔力を回復に回してるから、体が壊れてもすぐに修復してる」

勇者「体が壊れてもその瞬間に回復して動いてるのか?」

逃亡者「正解。もちろん痛みもあるし、回復って言っても完全じゃないから辛いんだ」

勇者「……その右手は?」

逃亡者「限界を超えた力で殴ったんだ。俺の右手だって無事じゃ済まない」

信義「さすがにそれはすぐには修復できないからね」

逃亡者「分かってるよ。そんなにお前の力は過信してないし、お前を信頼してない」

信義「信頼できないなら魔力供給をやめてあげてもいいのよ」

逃亡者「信頼できないのはお前だけであって、お前から供給される魔力には絶対的な信頼を置いてるから安心して供給してくれていい」

勇者「……」

正義「勇者。体を回復した方がいいわ」

勇者「分かってる」

逃亡者「所詮お前の正義は殺人を正当化するためのものか、免罪符でしか無い。そんな中途半端な力で戦っても勝てる訳ない」

勇者「お前に何が分かる」

逃亡者「少なくても正義の味方を目指してダメになった人間は知ってる」

勇者「……」

逃亡者「まあ、次はいつ会えるか楽しみだ」スタスタ

信義「じゃあね」スタスタ

勇者「……」

正義「歩ける?」

勇者「大丈夫だ」スタスタ

正義「……」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者の部屋


勇者「……これからどうするのか決めようと思う」

鍛冶屋「どういう意味?」

勇者「まだこの町に留まるか、先に進むのかだ」

鍛冶屋「俺はどっちでもいいぜ。お前等に任せるよ」

勇者「魔法使いはどうだ?」

魔法使い「私もどっちでも構いませんよ。母と姉の事も自分の中ではある程度整理できていますし」

勇者「……じゃあ次の町に行こうと思う」

鍛冶屋「構わねえぞ」

魔法使い「構いません」

正義「じゃあ決定ね」

鍛冶屋「次は何処に行くんだ?」

勇者「谷の城に行こうと思う」

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

勇者「いいか?」

魔法使い「はい、構いません」

鍛冶屋「俺は何処でもかまわねえぞ」

勇者「じゃあ次は谷の城だ」

鍛冶屋「了解」

魔法使い「分かりました」

正義「出発はいつにする?」

勇者「明日だ。いるものがあったら今日中に買い集めておいてくれ」

正義「了解」

魔法使い「わかりました」

鍛冶屋「勇者。お前なんかあった?」

勇者「いや、別に何もない」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





信義「治った?」

逃亡者「うーん……まあ魔力供給もあるし大丈夫だと思う」

信義「普通なら魔力供給があっても数日は完治しないんだけど……やっぱりあんたは異質なんだね」

逃亡者「異質な露出狂に異質って言われると少し傷つくな……」

信義「相変わらず口が悪いわね」

逃亡者「生まれつきなんでね」

英雄「まさか本当にいたとはな」

逃亡者「なんでここが?」

英雄「ここは私達の国だ。仲間がいて当然だろ」

逃亡者「へえ、この国の兵士の頭には生ごみが詰まってると思ってたんだけどカニ味噌が詰まってたんだ。意外だよ」

英雄「……バカにしているのか?」

逃亡者「してないよ。ただカニ味噌が詰まってるほど優秀だって褒めてあげてるだけ」

勝利「英雄。明らかにバカにされてるよ」

英雄「そんな事分かっている!!」

逃亡者「カルシウムが足りてないな、牛乳飲んでないでしょ。胸も小さいし」

英雄「貴様……」

逃亡者「怒らないで、別に今のはバカにしてないんだから」

英雄「……」

逃亡者「そうだ。お前は勇者に会った?」

英雄「知っている」

逃亡者「あいつは面白いね。ああいうバカは見てて面白いし飽きない」

英雄「あとは一人だな」

逃亡者「人格を持つ剣の使い手なら俺はもう知ってるよ」

英雄「何? 誰だ」

逃亡者「魔王」

英雄「……貴様の話を聞いた私がバカだった」

逃亡者「理解が早くて助かる」

英雄「……」

逃亡者「で、今回の用件は?」

英雄「お前を捕らえる事だ」

逃亡者「三食昼寝付き、デザートはカステラって言うんなら考えてもいいけど、どうせそんな待遇は期待できないでしょ?」

英雄「前と同じだ」

逃亡者「呪いをかけて拷問か……なら遠慮させてもらうよ」

英雄「逃げられるとでも?」

逃亡者「もちろん」

信義「……」


逃亡者は崖を飛び降りる。


英雄「な!?」

勝利「下は海。それにあいつの身体能力と回復力ならどうとでもなるね」

英雄「勝利!!」

勝利「俺達じゃどうやっても無理だよ。大怪我して溺れるのがオチだ」

英雄「くそ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


谷の町


勇者「……」

正義「人いないわね」

鍛冶屋「ああ、昼間だって言うのに全然外出してねえ」

魔法使い「と言うより人口が少ないでしょうね」

鍛冶屋「町が弱ってるんだな」

魔法使い「ですね。理不尽な税金に発展しない町ですから、好んで住む様な人間はいないでしょうね」

鍛冶屋「歩いてる人もみんな大変そうだしな」

勇者「……ああ。罪の無い人間がこんな目にあうなんてバカけてる」

魔法使い「そうですね」

正義「まずは城に行くの?」

勇者「そうだな」

旅人「……」スタスタ

鍛冶屋「……ん?」

勇者「どうしたんだ?」

鍛冶屋「いや、さっきの人、川の町でも見た様な気がしたんだけど……」

魔法使い「ええ、確か鍛冶屋さんとぶつかったんでしたよね?」

鍛冶屋「そうそう」

正義「奇遇ね」

鍛冶屋「まあ、川の町からそう遠い訳でもないし、そう珍しくも無いよな」

勇者「……」

正義「どうしたの?」

勇者「いや、別に」

勇者「早く城に行こう」スタスタ

魔法使い「町全体に活気が無いですよね」スタスタ

鍛冶屋「ああ、本当にな」

門番「お前達は?」

勇者「山の国から来た勇者というものだ」

魔法使い「そういえば女秘書さんから紹介状みたいなのってもらいましたっけ」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだそれ?」

正義「城に入る通行許可書みたいなものでしょ?」

勇者「持って無い」

正義「あ、やっぱり」

門番「安心しろ。すでに女秘書様から紹介状はもらっている。入っていいぞ」

勇者「すまない」

正義「相変わらず変な所でぬけてるわね」

勇者「ああ、悪いな」

鍛冶屋「もう少し上手い返しは出来ないもんかな……」

魔法使い「勇者さんは頭の固い人ですし、無理なんじゃないですかね」

勇者「……」

鍛冶屋「ひどいな、お前」

魔法使い「あ、す、すいません!!」

勇者「いや、気にしてはいない」

正義(ちょっと傷ついたくせに)

勇者「早く王に会おう」スタスタ

鍛冶屋「なんでそんなに早足なんだよ」

勇者「……」スタスタ

正義「ちょっと落ち込んでるのよ」

鍛冶屋「だろうと思ってたけどさ」

今日はここまでです。

そろそろだいたいの主要キャラをほぼ出しきれるかと思います。

勇者「失礼します」ガチャ

谷の王「あなたが勇者さんですか?」ニッコリ

勇者「はい。こちらは旅の仲間の正義、魔法使い、鍛冶屋です」

谷の王「そう、頭を下げなくても構いませんよ」

勇者「はい、ありがとうございます」

谷の王「女秘書から詳しい話は聞かせてもらっています」

勇者「そうですか」

谷の王「何かもてなしが出来ればいいんですが……残念ですがそんなものは無いので……」

勇者「いえ、かまいません」

谷の王「申し訳ないですな」

鍛冶屋「思ったより綺麗だな。この城」

谷の王「ええ。正直取り壊してしまってもいいんですが、一応この町の象徴ですし」

魔法使い「確かにいいと思いますよ」

谷の王「ありがとうございます」

勇者「魔王について何か知っている事はありませんか?」

谷の王「知っている事ですか……」

勇者「些細な事で構いません」

谷の王「そうですね……最近は魔物をずいぶんと動かしているみたいですが」

勇者「そうなのですか?」

谷の王「この辺りではなく辺境の村や町の事です。この辺りは今の所変わりありません」

鍛冶屋「まだこの辺りは発展してるって事か?」

谷の王「多く人が通る道や大きな町にはそう表れません。でなければかなりの予算をつぎ込んで作った道の意味がありませんし」

鍛冶屋「確かにそうですね……」

勇者「知らなかった……」

谷の王「私達も最近知った事ですから。大きな町から離れた村では今まで以上に魔物がいるみたいですね」

勇者「……」

谷の王「私が知っているのはここまでです」

勇者「ありがとうございます」

谷の王「お役に立てず申し訳ない」

勇者「いえ、ありがとうございました」

姫「お客さん?」ガチャ

姫「ああ、王様に会いに来たのですね。と言う事はお父様に御用なんですね?」

姫「あれ、お父様は?」

谷の王「部屋に戻っていろ」

姫「……はい、お父様」ガチャン

谷の王「すいませんでした」

勇者「いえ、では私はこれで失礼します」

谷の王「あなた方は自由に城に入れるように門番には言っておきますから、自由に来てください」

勇者「ありがとうございます」

勇者「行くぞ」ガチャ

正義「案外いい人そうじゃない」スタスタ

勇者「そうだな……」スタスタ

魔法使い「戦争に負けたのに、あんなに元気なんですね」スタスタ

勇者「ああ、不思議だ」スタスタ

鍛冶屋「勇者、悪いんだけど先行っててくれ」

勇者「忘れ物か?」

鍛冶屋「いや、ちょっとトイレに」

勇者「……城の前で待ってるから行って来い」

鍛冶屋「悪いな」スタスタ

勇者「気にするな」

鍛冶屋「……トイレ何処だよ」スタスタ

姫「……」キョロキョロ

鍛冶屋「あれって、お姫様だよな?」

姫「あら? どうなさったの?」

鍛冶屋「いや、トイレを――――」

姫「うふふ、かわいい小鳥さん。巣から落ちてしまったの?」

鍛冶屋「いや、その……」

姫「カラスが来る前にお逃げなさいな。食べられてしまいますよ」

鍛冶屋「……なんで子鳥?」

姫「知らない人……誰?」

鍛冶屋「え、何?」

姫「嫌、来ないで……」

鍛冶屋「……」

逃亡者「トイレならそこの道を真っすぐ行った所にある」

鍛冶屋「あ、ありが……」

逃亡者「ん?」

鍛冶屋「おま――――」

逃亡者「大声上げない。一応追われてる身なんだから」

鍛冶屋「……なんでお前がここに」

逃亡者「お久しぶりです。姫様」

鍛冶屋「え?」

姫「……」

逃亡者「……」

鍛冶屋「知り合い、なのか?」

逃亡者「昔の話。今はきっと覚えて無いさ」

鍛冶屋「それよりどうやってここに?」

逃亡者「昔にこの城には来た事があるから簡単に入れるよ」

姫「……」

逃亡者「もう覚えておられませんか」

姫「……まだ元気なのね、シロ」

逃亡者「……」

鍛冶屋「シロって髪の色の事?」

逃亡者「昔の呼び名だよ」

姫「シロ、お父様は元気? 次は何処に行く予定なの?」

逃亡者「いえ……」

姫「きっとシロなら大丈夫。私も応援してる」

逃亡者「……あ、ありがとうございます」

兵士「王!! ここです!!」

鍛冶屋「え、何!? 俺まだ全然把握できてないんだけど!!」

谷の王「逃亡者……生きていたのか」

逃亡者「お久しぶりですね、王。あなたと最後に会ったのは、戦争前の作戦会議か何かだったでしょうか?」

谷の王「……何の用だ」

逃亡者「私も追われる身。逃げ回っていたらこんな所に着いてしまったんです」

逃亡者「で、この男がトイレを探していたので教えていました」

谷の王「……構わん。殺せ」

逃亡者「では、またお会いしましょう」


逃亡者は素手で壁を突き破ると何処かに走り去って行った。


鍛冶屋「え、は?」

谷の王「……あの男から何を聞きましたか?」

鍛冶屋「いえ、トイレの場所だけです……」

谷の王「……そうですか」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「遅かったな」

鍛冶屋「わ、悪い」スタスタ

鍛冶屋(やっぱり言わない方がいいよな)

正義「早く泊まる所を見つけましょう」

勇者「そうだな」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さん? どうかしましたか?」スタスタ

鍛冶屋「いや、何でも無い」スタスタ

鍛冶屋(逃亡者とあのお姫様の関係って何なんだろう)スタスタ

鍛冶屋(それに逃亡者もあのままとは考えられねえし……)スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「あれ宿屋じゃないですか?」

勇者「そうだな」

正義「もう休みたい……」

勇者「町に着いてからも休んでないからな」

勇者「……」ガチャ

宿屋「一晩50ゴールド」

正義「人数? 部屋数?」

宿屋「一部屋」

勇者「じゃあ二部屋だ」

宿屋「これ鍵ね」

魔法使い「ありがとうございます」

鍛冶屋「じゃあ俺達は行ってるからな」

正義「はいはい」

魔法使い「部屋はこっちですよ」スタスタ

正義「はいはい」スタスタ

魔法使い「……」ガチャ

正義「荷物はここに置いとくわよ」

魔法使い「はい」

正義「……」

魔法使い「あのお姫様、可哀想でしたね」

正義「可哀想?」

魔法使い「え? だって父親も死んでしまって、自分もあんな風に」

正義「ええ、でも彼女は可哀想では無いわよ。むしろ幸福かも」

魔法使い「な、なんでですか?」

正義「あの子は幸せな世界で生きてるから」

魔法使い「自分の中の世界って事ですか?」

正義「ええ、そうよ」

魔法使い「……」

正義「狂えるって事は幸せなのよ。自分の世界にだけ引きこもっていればいいんだから」

魔法使い「……そうですね」

正義「私は出来なかったからここにいるの」

魔法使い「……」

正義「ごめんね。少しつまんない話になったわね」

魔法使い「いえ、そんな」

正義「……?」

魔法使い「どうかしましたか?」

正義「いや、魔物の魔力を一瞬だけ感じたんだけど……」

魔法使い「今はどうですか?」

正義「……今はもう感じないわね」

魔法使い「気のせいとかじゃないんですか?」

正義「分からないわね。明日勇者にでも話してみる」

魔法使い「今日はもう勇者さん達の部屋には行かないんですか?」

正義「うん。もう眠いし、少し寝るわ」

魔法使い「じゃあ、私も」

正義「別にいいのよ。あなたはあっちに行っても」

魔法使い「いえ、正義さんだけおいて行くのも悪いですし、別にいいですよ」

正義「そう……あなたがいいんなら別にいいけど」

魔法使い「じゃあ私先にシャワー浴びてきますね」

正義「ええ、そうして」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ドゴッ


鍛冶屋「痛ってえ!!」

勇者「まだまだ回避も甘いし、防御も下手だな」

鍛冶屋「お前もう少し手加減してくれよ」

勇者「別に言いが、それだと修業にならんぞ」

鍛冶屋「……なら別にいいよ」

勇者「その意気だ」

鍛冶屋「これからどうする?」

勇者「飯でも食いに行くか」

鍛冶屋「正義達はどうする?」

勇者「来ない所を見るともう寝てるんだろ」

鍛冶屋「そうか?」

勇者「ああ、多分そうだ」ガチャ

鍛冶屋「多分って」スタスタ

勇者「確か表に酒場があったはずだ」スタスタ

鍛冶屋「ああ、あの景気の悪そうな酒場ね」スタスタ

勇者「この町で商売が出来ているんだ。そこそこ繁盛しているんだろう」スタスタ

鍛冶屋「そうかなあ……」スタスタ

勇者「……」ガチャ

鍛冶屋「あ、案外人がいるな」

勇者「だから言っただろう」

マスター「何をご注文で?」

勇者「パンと干し肉で」

鍛冶屋「俺も同じの」

マスター「分かりました」

???「あんた等、旅人かい?」


それは身長百九十センチほどの大男だった。
短い髪に無精髭。
服装は他の者達同様ボロボロで汚れた服だった。


鍛冶屋「ん?」

勇者「……誰だ?」

格闘家「ああ、悪いな。俺は格闘家だ」

勇者「……勇者だ」

鍛冶屋「鍛冶屋。えーとあんたはこの町の人間なのか?」

格闘家「ああ」

鍛冶屋「あのさ、やっぱり暮らし辛いか?」

格闘家「当たり前だろ。高い税だし仕事だって少ない。この町に残ってる連中はみんな生活が苦しいさ」

勇者「なら住処を変えればいいだろ」

格闘家「ははははは!! 確かに」

勇者「……」

格闘家「でも一応はこの町に何十年と先祖代々生きて来てるんだ。そう簡単に住処は変えられないだろ」

格闘家「それに町を変えたって結局仕事にありつける訳じゃないんだ。現に失敗した連中だってたくさんいる」

勇者「だがあの王は良さそうな人だったが?」

格闘家「ああ、あいつはそういう奴だから」

勇者「違うのか?」

格闘家「ああ、あいつは自分の保身しか考えて無い王だよ」

鍛冶屋「それってどういう意味?」

格闘家「今の王は国を売ったんだ」

勇者「国を?」

格闘家「そうさ。あいつは戦争が不利になって数カ月が経過した頃に、海辺の王の所に行ったんだ」

勇者「……」

格闘家「そこでどんな話し合いをしたのかは分からん。ただその後すぐに前の王の部隊が次々にやられて、前の王も戦死した」

勇者「戦死?」

格闘家「暗殺だよ。しかも娘の目の前で殺されたらしい」

鍛冶屋「娘って、あのお姫様か?」

格闘家「そうだ。だからあのお姫様がおかしくなったんだ」

鍛冶屋「って事はあの王がそんな事をしたって言うのか?」

格闘家「あいつは王の部隊がそう攻めるかも知っていた。情報を漏らすのは簡単だ」

鍛冶屋「で、でも海辺の王に会いに行ったんだったら警戒されるんじゃないか?」

格闘家「あの当時は停戦協定の為に行ったんだ。今思えばあの時におかしいと考えておくべきだっただろうな」

勇者「だが前の王の部下たちはどうした。そんな事をしたら黙っていないだろ」

格闘家「ほとんどが戦死したよ。生き残った連中も海辺の王の所に連れていかれて強制労働か牢獄送りだ」

勇者「じゃああの城には今の王の手下しかいないのか?」

格闘家「そうだな。後は壊れちまったお姫様とその使用人がいるくらいだな」

※キャラ紹介



鍛冶屋    男      18歳


若い鍛冶師。
腕は父親と同じくらいだが、それが気に食わないため自己流に剣を打っている。
勇者と同じく巨乳好き。
戦闘能力は一般人に毛が生えた程度だが、勇者曰く、なかなか見込みがある。



逃亡者    男     22歳


数百人の人間を殺した罪で追われている。
谷の国の部隊の隊長だった経歴を持っている。
人格を持つ剣、信義(しんぎ)を持っている。
性格は掴みどころのない性格だが、弱い者には優しい。
非童貞で貧乳好き。
肉体を極限まで強化し、壊れた部分を瞬時に修復するというめちゃくちゃな能力を使う(戦っている最中は常に体に激痛が走っている)。

今日はここまでです。

キャラがまた増えてきたのでまたキャラ紹介をしていきます。

勇者「……許せん」

格闘家「無駄だ」

勇者「……」

格闘家「こんな状況だ。多くの奴等が反乱を起こしたよ。でも皆殺された」

勇者「どの反乱もか」

格闘家「ああ、腐っても軍隊って事だろうな。レベルが違う」

勇者「見た所そこそこの強さを持っていると思うが」

格闘家「俺一人で何が出来る。一人で千、二千軍隊に勝てると思うか?」

鍛冶屋「勇者だってそんなのには勝てないよな?」

勇者「……数に押し切られるだろうな」

格闘家「勝ち目なんて無いんだ」

勇者「……」

格闘家「それにもしあの王がああしていなければもっとひどい事になっていたかもしれないと言う連中もいる」

勇者「ただの想像だ」

格闘家「その通りだよ。でも実際この町に略奪は無かったし、他の町でも略奪はない」

勇者「もし戦争が長引いていたら略奪が起こっていたかもしれない」

格闘家「あの王は自分の身を守るためだったかもしれないが、結果的にこの国は救われたと考えるものだって少なくないんだよ」

勇者「……」

鍛冶屋「逃亡者ってこの国の奴なんだろ?」

格闘家「あいつは前の王の部隊の隊長だった男だ」

勇者「今は指名手配犯なんじゃないのか?」

格闘家「彼が人を殺したのは戦争の時だけ。他にはやっていない」

勇者「じゃああいつは戦犯という事か?」

格闘家「ああ。しかもかなり理不尽な戦犯だ」

鍛冶屋「他の兵士たちはどうしたんだ?」

格闘家「逃亡者以外は死んだか牢屋の中か強制労働だろうな。もし逃げ出した奴がいても、もう表には出て来ずに田舎で骨をうずめるだろう」

勇者「……」

鍛冶屋「いろいろありがとな」

格闘家「いや、こちらこそ聞いてくれてありがとう」スタスタ

マスター「待たせたね」

勇者「ああ、本当に遅い」

マスター「話している最中に口を挟んじゃ悪いと思って」

勇者「……もし今度があったらそんな心配はいらない」

マスター「そうですか」

鍛冶屋「もう帰って寝るか?」モグモグ

勇者「いや、少し町の構造を把握しておく」モグモグ

鍛冶屋「じゃあ俺は先帰ってるから」モグモグ

勇者「そうしてくれ」モグモグ

鍛冶屋「逃亡者の事どう思った?」モグモグ

勇者「……分からん」

鍛冶屋「殺すべきか殺さなくてもいいかって意味で?」

勇者「もはや自分自身が分からなくなってきたんだ」

鍛冶屋「……」

勇者「答えが見つかると、思ってたんだけどな……」

鍛冶屋「……やるよ。干し肉」

勇者「あ、ありがとう」

鍛冶屋「さっさと食ってやる事やれよ」

勇者「……わかった」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」スタスタ

勇者「寝たんじゃなかったのか?」

正義「少し気になった事があってね。眠れなかったのよ」

勇者「そうか」

正義「そういうあなたは?」

勇者「お前と同じだ。少し気になる事があってな」

正義「一緒に行く?」

勇者「……ああ、その方がいいだろうな」スタスタ

正義「珍しいわね」スタスタ

勇者「今回は戦闘の可能性がある」

正義「今回も、じゃないの?」

勇者「……」

正義「なんで黙る訳?」スタスタ

勇者「何でも無い」スタスタ

旅人「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

勇者「お前、何者だ」

旅人「へぇ? あっしの事を言ってるんですか?」

勇者「ああ、お前だ」

旅人「あっしはただの旅人でさぁ。何処にでもいる普通の人間ですよ」

勇者「じゃあその傘はなんだ?」

旅人「雨風をしのげる便利な道具ですよ。いや本当に」

勇者「……」

旅人「まさかあっしが嘘をついてるとでも思ってるんですか?」

勇者「もう一度聞く。お前は何者だ」

旅人「何度だって答えて差し上げますよ。あっしは何処にでもいる普通の旅人でさぁ」


勇者は刀を抜き旅人に斬りかかる。
だがその一撃は旅人の忍び刀で受け止められる。

勇者「やはり忍び刀か」

正義「……よく分かったわね」

勇者「八割方そうだろうと思っていた」

正義「百パーセントじゃないんだ……」

旅人「寸止めとは人が悪いなぁ。分かってても体が勝手に刀を抜いちまったじゃないですか」

勇者「……やはり相当の剣士だな」

旅人「いえいえ。ただの護身術ですよ。所詮は盗賊対策でさぁ」

勇者「お前の目的はなんだ」

旅人「目的、ですか」

勇者「ああ、目的だ」

旅人「旅をするのが目的じゃあダメですかねぇ。へっへっへっへ」

勇者「……」

旅人「旅人なんてみんな旅するのが目的ってもんでしょう」

勇者「お前は違う」

旅人「旦那は何を知ってるんで?」

勇者「お前からは嫌な臭いがする」

旅人「へっへっへ。いわゆる第六感ってやつですかね? それとも勇者さんと同族の臭いがしますか?」

勇者「お前……」

旅人「なんで知ってるんだってのは的外れじゃあありませんか? だって旦那は有名じゃないですか」

正義「あなた。やっぱり普通じゃないわね」

旅人「お嬢さんもそんな事を言うんですか。何か証拠でもあるんですか?」

正義「勇者じゃないけど、嫌な臭いがする」

旅人「へへへっ。さぁて、それはどうでしょうかね」

正義「……」

旅人「おっと、もうこんな時間だ。あっしはもう行かせてもらっていいですかね?」

勇者「ああ」

旅人「もしかしたらまた縁があって会う事があるかもしれません。その時は一つよろしくお願いします」

勇者「……」

旅人「じゃあ怪我や病気にお気をつけて」スタスタ

正義「どう思う?」

勇者「確かに普通じゃないが、今の所は分からん」

正義「ええ。私も同じよ」

キャラ紹介


姫     女      18歳


谷の王の兄の娘。
とある事情で廃人に近い状態になっている。
逃亡者とは知り合いで、シロと呼んでいる。
美人。
振り返ってみるとおしとやかで控えめなお嬢様っぽい女キャラが過去のSS見渡しても居なかったのでなんとなく考えていたら姫が思いついた。
おっぱいもおしとやかで控えめ。

過去作を含めてお姫様と呼べるのは赤いドラゴンと白いドラゴンと姫の三キャラ。

今日はここまでです。

あと紹介してないキャラって居ましたっけ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「なんで城に来ちゃったのかな……」

門番「用が無いなら帰ってくれ」

鍛冶屋「用はあるんだけどさ……」

門番「あるけど、なんなんだ」

鍛冶屋「あのお姫様ってまだ起きてるかな」

門番「知らん」

鍛冶屋「って言うか今日一晩そこにいるの?」

門番「……そうだ」

鍛冶屋「大変だな」

門番「まあな。けどその分やりがいもある」

鍛冶屋「かっこいいな」

門番「で、結局どうするんだ?」

鍛冶屋「褒めたのはスルーかよ」

門番「答えろ」

鍛冶屋「じゃあとりあえず中に入るけど、いいよな?」

門番「入るなら早くしろ」

鍛冶屋「……でもどうしよっかな」

門番「面倒臭いな、お前」

鍛冶屋「んだと?」

門番「入るならさっさとしろ」

鍛冶屋「はいはい。分かったよ」スタスタ

門番「ったく……」

鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「これでいいのか?」

逃亡者「完璧。さすが俺が見込んだだけあるよ」

鍛冶屋「真面目な顔して大嘘吐いてんじゃねえよ」

逃亡者「ひどいな……そこまで言わなくていいじゃん」

鍛冶屋「だいたいさっきみたいにどっかから勝手に入ればいいじゃねえか」

逃亡者「兵士の巡回が厳しいんだよ。今だっていつ兵士が来るかドキドキだ」

鍛冶屋「……」

逃亡者「でも予想外だったな。まさかお前が協力してくれるなんて」

鍛冶屋「別に深い理由はないよ。ただあんたがあのお姫様に会いたがってるんだろうなって思っただけ」

逃亡者「……」

逃亡者「いい童貞ちゃんだよ。お前は」

鍛冶屋「全然うれしくねえよ」

逃亡者「よし、じゃあさっさと行こうか」スタスタ

鍛冶屋「お姫様の部屋はわかるのか?」スタスタ

逃亡者「当然」スタスタ

鍛冶屋「お前の事は誰にも言ってない」スタスタ

逃亡者「勇者にも?」スタスタ

鍛冶屋「ああ、言うつもりも無い」スタスタ

逃亡者「酷い奴。仲間にくらい言っといてやれよ」スタスタ

鍛冶屋「勇者には……絶対言わない方が言い」スタスタ

逃亡者「うん、そうだな。その通りだ」スタスタ

鍛冶屋「で、何処?」

逃亡者「こっち」スタスタ

逃亡者「……」ガチャ

鍛冶屋「……」

姫「シロ、と、どなた?」

鍛冶屋「え、と……」

姫「ああ、この前の子鳥さんね。カラスは大丈夫だった?」

鍛冶屋「大丈夫」

姫「そう、なら良かったわ」

逃亡者「姫様……」

姫「元気そうで良かった。私も嬉しいわ」

逃亡者「ありがとうございます」

鍛冶屋「……」ガチャ

逃亡者「どうしたんだ?」

鍛冶屋「邪魔だろ?」

逃亡者「やっぱりいい童貞ちゃんだ」

鍛冶屋「やっぱりうれしくねえ」スタスタ

逃亡者「姫様のお元気な様で。嬉しい限りです」

信義「なんか、ずいぶんと大人しいのね」

逃亡者「俺は何時だって大人しいだろ。鼠みたいに」

信義「ふんっ、あんたが鼠なら英雄や勇者だってただの栗鼠じゃない」

逃亡者「あそこまでひどくは無いと思ってたんだけど、気のせい?」

信義「気のせいよ」

姫「……誰?」

逃亡者「私の部下です。気にしないで下さい」

姫「そ、そう……」

信義「……」

姫「い、いや……見ないで」

逃亡者「信義」

信義「どうなってるの?」

逃亡者「彼女は病んでるんだ。あんまり刺激しないであげてくれ」

信義「そう」

逃亡者「大丈夫です。彼女は姫様の仲間ですから」

姫「仲……間?」

逃亡者「はい。仲間です」

姫「仲間……仲間、仲間? 仲間」

逃亡者「決して信義が姫様を攻撃する事はありません」

姫「仲間。嫌」

逃亡者「……」

姫「仲間、痛い……嫌、見ないで……寄らないで。触らないで!!」

逃亡者「姫、様……」

信義「……」

姫「痛い、痛い!!」

逃亡者「落ち付いて下さい。姫様」


逃亡者は姫の肩を掴む。


姫「あ、シロ……」

逃亡者「大丈夫ですか?」

姫「私はいつも元気よ」

逃亡者「……」

鍛冶屋「逃亡者。そろそまずい」

逃亡者「姫様。また来ますね」

姫「今度は紅茶でも準備するわ」

逃亡者「はい、ありがとうございます」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

逃亡者「……」スタスタ

鍛冶屋「お姫様を助け出すのか?」スタスタ

逃亡者「……なんで?」スタスタ

鍛冶屋「お前ならそうするかもって思ったんだ。ていうかするんだろ?」スタスタ

逃亡者「これは俺の問題。お前には関係ない」スタスタ

鍛冶屋「一人で出来るのか?」スタスタ

逃亡者「……」スタスタ

鍛冶屋「手伝うよ」スタスタ

逃亡者「いや、これはいいんだ。俺一人の問題だから」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

逃亡者「それにお前じゃ足手まといだ」スタスタ

鍛冶屋「そうだよな、悪い」スタスタ

逃亡者「いや、いいんだ」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者達の部屋


勇者「……」

鍛冶屋「ただいま」ガチャ

勇者「遅かったな」

鍛冶屋「ああ、ちょっといろいろあってな」

勇者「お姫様の所か?」

鍛冶屋「……そうだけど、それがどうしたんだよ」

勇者「逃亡者と何を企んでる」

鍛冶屋「……何の話だ?」

勇者「もう分かってる」

鍛冶屋「だから何が?」

勇者「お前と逃亡者は何をする気だ」

鍛冶屋「い、意味がわかんねえ」

勇者「じゃあ聞くが、なんでお前は逃亡者がこの国の者だと知っていたんだ?」

鍛冶屋「そ、それは……」

勇者「結びつくものが一つも無いはずだろ」

鍛冶屋「き、聞いたんだよ。本人から」

勇者「いつにだ?」

鍛冶屋「え、ええと……」

勇者「正直に教えてくれ」

鍛冶屋「……あのお姫様に合わせたんだ」

勇者「?」

鍛冶屋「あいつとお姫様は仲間だ。最初に知ったのはトイレに行った時だった」

鍛冶屋「で、一回目は見つかったんだ。で、さっきは警備が硬くなってたから俺が協力して中に入れたんだ」

勇者「……そうか。だいたい把握できた」

鍛冶屋「あのお姫様は明らかに何かされてるみたいだった」

勇者「何かとはなんだ」

鍛冶屋「何かは何かだよ」

勇者「まあいい。さっさと寝ろ」

鍛冶屋「……怒らないのか?」

勇者「別に誰と会おうとお前の自由だ」

鍛冶屋「……勇者。頼みがある」

勇者「なんだ?」

鍛冶屋「逃亡者はあのお姫様を助け出そうとしてる。手伝ってやってくれないか?」

勇者「断る」

鍛冶屋「悪人の手から善良な市民を助け出すのが正義の味方だろ」

勇者「だからと言って悪人に手を貸す気は無い」

鍛冶屋「逃亡者は悪人か?」

勇者「ああ」

鍛冶屋「……」

勇者「もちろん俺も――――」

鍛冶屋「それは分かってる!!」

勇者「……」

鍛冶屋「でも逃亡者は悪い事をする訳じゃねえんだぞ!!」

今日はここまでです。

勇者「だからと言って悪人に手を貸していいとなった訳じゃない」

鍛冶屋「じゃあお前はあのお姫様がどうなってもいいって言うのかよ」

勇者「そうではない」

鍛冶屋「……やっぱりだ」

勇者「……」

鍛冶屋「お前は逃亡者が嫌いなだけだ」

勇者「何が」

鍛冶屋「今のお前は善悪抜きに逃亡者を助けたくないんだろ」

勇者「それもあるかもしれん」

鍛冶屋「最低だ」

勇者「……」

鍛冶屋「本当に助けないのかよ」

勇者「……」

鍛冶屋「もういい!!」ゴロン

勇者「寝るのか」

鍛冶屋「そうだよ!!」

勇者「……」

正義「ま、鍛冶屋の言う事は正論ね」ガチャ

勇者「いつの間に」

正義「壁が薄いのよ」

勇者「……」スタスタ

正義「ちょ、何処行くの?」

勇者「用事だ」スタスタ

正義「ははーん、そういう事」スタスタ

勇者「何がだ」スタスタ

正義「素直じゃないんだから」スタスタ

勇者「何がだ」スタスタ

正義「城に行くんでしょ?」スタスタ

勇者「言っておくが逃亡者を助ける気は無い」スタスタ

正義「いつその作戦を決行するかも分からないしね」スタスタ

勇者「ああ、その通りだ」スタスタ

正義「じゃあ何するの?」スタスタ

勇者「俺の勝手だ」スタスタ

正義「私にくらい教えてくれてもいいんじゃない?」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「それとも私に聞かれるとまずいの?」スタスタ

勇者「いや……」スタスタ

正義「じゃあ教えてよ」スタスタ

勇者「逃亡者を手伝う気は無い。ただお姫様は助ける」スタスタ

正義「……?」スタスタ

門番「こんな夜中に何の用だ」

勇者「一身上の都合、ではダメか?」

門番「夜中だからな……」

勇者「少し前に鍛冶師の男が来ただろう」

門番「ああ、来たな。あんたの仲間だろ」

勇者「あいつが忘れ物をしたらしいんだ。入ってもいいか?」

門番「まあ、王も起きてるし、問題は無いよな……」

勇者「いいか?」

門番「分かった。入れ」

勇者「悪いな」スタスタ

正義「こういう時はやけに喋るじゃない」スタスタ

勇者「言っておくが俺は話すのが苦手なんじゃない。ただ単に話さないだけだ」スタスタ

正義「どうだか」スタスタ

勇者「失礼します」ガチャ

姫「……どなた?」

勇者「勇者と申します。こちらは正義です」

正義「よろしくね。お姫様」

姫「ふふっ。かわいい」

正義「……なんでここに?」

勇者「お姫様。この部屋に何処か隠れる場所はありませんか?」

姫「隠れる場所? かくれんぼでもするの?」

勇者「……まあ、そんな所ですかね」

姫「ならそこの戸棚の裏かしら」

勇者「少し隠れてもよろしいですか?」

姫「かくれんぼの最中なの?」

勇者「はい」

姫「じゃあ早く隠れて」

勇者「ありがとうございます」スタスタ

正義「……」

勇者「正義。お前も来い」

正義「はあ?」

勇者「お前の隠れろ」

正義「入る隙間なんてある?」スタスタ

勇者「ある」

正義「狭っ!!」

勇者「いいから早く」

正義「ったく……」

勇者「……足踏んでる」

正義「無茶言わないでよ。狭いんだから」

勇者「……」

正義「て言うか胸当たってる? 当たってない?」

勇者「お前にあたるほどの胸があるか?」

正義「あなたね……」

勇者「魔法使いを連れてきた方がよかったかもしれんな」

正義「怒るわよ」

勇者「すまん。少し調子に乗った」

正義「いまだにあなたが何をしたいのかが分かんないんだけど」

勇者「少し待ってろ」

正義「あと少しなの?」

勇者「分からん」

正義「ねえ、少しアバウト過ぎない?」

勇者「多少アバウトな方がいいぞ」

正義「……」

勇者「静かにしてろ」

正義「分かったわよ……」

姫「……」

勇者「……」


ガチャ


兵士「……」

姫「あなたは?」

兵士「今日は俺の番なんですよ。お姫様」

姫「嫌……」

兵士「我慢して下さいよ。どうせ一回だけなんですから」

姫「……嫌」

兵士「それともまた殴られたいんですか?」

姫「……」

兵士「楽しませてもらいますよ」

勇者「……」

正義「……」

兵士「……」カチャカチャ

勇者「その前に少し話を聞かせてもらえるか?」スタスタ

兵士「んな!?」

勇者「確かにお姫様は可愛い。だがだからと言っても襲っていいのか?」

兵士「あ、あなたには関係ない事です」

勇者「とにかくズボンをはけ。なんなら俺が手伝おうか?」

兵士「余計なお世話だ!!」

正義「最低」

勇者「……俺も同じだ。腕の一本斬り落としてやりたい」

兵士「私以外の人間だってやっているんです。何故私だけが!!」

勇者「皆がやっているからと言ってもやっていい訳ではないだろう」

兵士「……」

姫「あ、ありがとう……」ギュッ

勇者「いえ、いいんですよ」

勇者「同意のもとなどと言う気は無いな。お姫様は拒まなかったんじゃない。拒めなかったんだ。分かるな?」

兵士「……」

正義「どうするの?」

勇者「そうだな。王を呼んで来てくれ。呼んで来るだけだ。他は何も言うな」

正義「分かったわ」スタスタ

兵士「……」

勇者「お前はその仲間の兵士を全員呼んで来い。逃げたら足を斬り落とす」

兵士「……」スタスタ

勇者「……」

谷の王「なんですか?」スタスタ

勇者「単刀直入に聞きます。知っていましたか?」

谷の王「私は何も知りませんよ」

勇者「……本当ですね?」

谷の王「本当です」

勇者「私が何の事を言っているのか知っていますか?」

谷の王「……どういう意味ですか?」

勇者「知らないと言いましたが、普通は何の事かを聞くんじゃありませんか?」

谷の王「……」

勇者「何故、あなたはこの部屋で起こっていた事を何も聞かずに知らないと言い切れるんでしょうか」

正義「私は何とも言ってないわよ」

勇者「ああ、余計な事を言うなと言ったからな」

正義「私はお姫様の部屋に来てほしいと言っただけよ」

谷の王「……くっ」

勇者「あなたはお姫様の部屋でこの時間に何が起こってるか知っていた。違いますか?」

谷の王「……」

勇者「沈黙は肯定と判断しますが、よろしいですね」

谷の王「……あなたには関係の無い事ではありませんか?」

勇者「ええ、その通りです。ただ少女が辱められておくのを放っておく男は最低だと思いませんか?」

正義「その通りね」

谷の王「それで、その事が何か」

勇者「あなたに要求があります」

谷の王「なんですか?」

勇者「お姫様に今後一切何もしない」

谷の王「……だけですか?」

勇者「ご不満があるのならもう少し要求を増やしましょうか?」

谷の王「……」

正義(勇者って普段あんまりしゃべらならいけど、意外と弁が立つのね)

勇者「ご了承いただけますか?」

谷の王「わかりました」

勇者「では約束ですよ」

谷の王「わかった」

勇者「もしもう一度こういう事が起こった場合はこちらにもやり方がありますので」

谷の王「どういうものですか?」

勇者「私の国の秘書にその事を報告させていただきます」

谷の王「……そうですか」

勇者「先に言っておきますが、私の国の秘書に賄賂は無駄ですよ。それにその秘書は女性です」

谷の王「……」

勇者「言いたい事は理解できますよね?」

谷の王「ええ、嫌というほどに理解できます」

勇者「……」

兵士達「……」スタスタ

勇者「来たか」

兵士達「……」

谷の王「これは……」

勇者「彼等の事はご存知で?」

谷の王「……」

勇者「沈黙は肯定と理解します」

谷の王「……」

勇者「お前達に言う事は一つ。これからはお姫様に指一本触れるな。それでももし何かしたなら……こちらにも考えがある」

兵士達「……」

勇者「すでにその事は伝えておいてある。今この瞬間から彼女には必要以上に触れるな。もし何かあればすぐに俺の国の秘書に連絡が行く」

谷の王「す、すでに伝えてあると言うのは……」

勇者「あなたはこの治安の悪い世の中、スパイや工作員がこの城の一人もいないとお思いですか?」

谷の王「……」

勇者「理解していただけましたか?」

谷の王「……」

勇者「正義、行くぞ」スタスタ

正義「あ、うん」スタスタ

勇者「嫌に静かだったな」スタスタ

正義「いや、その……」

正義(勇者と口喧嘩は絶対しない方がいいわね)

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


城の外


正義「なんで殺さなかったの?」

勇者「腐っても国の兵士だ。下手に殺せば事件になる。それに殺すのがあんなにたくさんいたら殺しきれん」

勇者「あとあいつ等は他人を殺したり殺そうとした訳じゃない。さすがに死は重すぎると思っただけだ」

正義「ふーん」

勇者「女秘書に頼んで何かしらの罰は受けてもらうと思うがな」

正義「意外ね」

勇者「何がだ」

正義「いつものあなたなら速攻斬り捨てると思ってたから」

勇者「斬り殺してやりたいさ。ただ殺すだけでは意味がないと思っただけだ……」

正義「成長してるのかしらね」

勇者「……わからん。ただ俺は女秘書にこんな事を頼むんだ」

正義「まあ、他人任せって言うのはね」

勇者「分かってる。仕方ないとは言えこういう事を頼むのは……」

正義「……」

勇者「正義の為だ」

正義「どうしたの?」

勇者「俺は正義のために戦うんだ」

正義「?」

勇者「再確認だ」

正義「……そういう事ね」

勇者「もうこの町でやる事は無いな」

正義「……お姫様も助けたし?」

勇者「まあ、そんな所だな」

正義「じゃあもう明日には行く?」

勇者「いや、もう少し待とうと思う」

正義「なんで?」

勇者「一応お姫様の事が気になるからな」

正義「そういう事」

正義「で、鍛冶屋には言わないの?」

勇者「言った所で意味は無いだろ」

正義「誤解したままよ?」

勇者「それならそれで構わん」

正義「……知らないわよ」

勇者「別にいい」

正義「……なんでそこまで意地になるんだか」

勇者「……」

正義「じゃあ私も言わない」

勇者「別にお前の好きにすればいい」

正義「ええ、そうするわ」

勇者「……」

正義「言ったでしょ。私はあなたの武器になるって」

勇者「ありがとう」

正義「いえいえ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


数日後


『谷の国の姫が行方不明に。城付近で白髪の男の目撃情報あり』


勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「逃亡者がやった様だな」

鍛冶屋「ああ、そうだな」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「おはようございます」

正義「おはよう」

鍛冶屋「おはよう」

勇者「おはよう」

正義「新聞読んだ?」

鍛冶屋「ああ、読んだ」

勇者「みんな。そろそろ次の町に行こうと思うのだが、どうだろう?」

鍛冶屋「……勝手にしろよ」

魔法使い「私も構いません。買うものもある程度買い終わりましたし」

勇者「そうか。なら移動するか」

魔法使い「そうですね」

正義「じゃあ行きましょうか」

魔法使い「もうですか?」

正義「早く行った方が楽じゃない」

勇者「そうだな」

鍛冶屋「……」

魔法使い「じゃあ次は何処ですか?」

勇者「次は……辺境の村にでも行ってみるか」

鍛冶屋「辺境の村?」

勇者「この町から北にずっと進んだ所にある村だ。近くに竜の山がある」

正義「初めて聞いたわね」

勇者「そんなに有名な村でもないからな。町で少し調べて来たんだ」

正義「そうだったんですか」

魔法使い「じゃあ行きましょうか」

勇者「そうだな」

鍛冶屋「……」

正義「鍛冶屋」

鍛冶屋「なんだよ」

正義「……ううん、何でもない。気にしないで」

鍛冶屋「?」

正義「早く準備して」

鍛冶屋「分かってる」スタスタ

正義「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

魔法使い「な、なかなか着かないですね」スタスタ

勇者「そこそこ遠いみたいだからな。仕方ない」スタスタ

魔法使い「そ、そうですか」スタスタ

正義「あとどれくらいなの?」スタスタ

勇者「わからん。ただそんなに近くもないし離れてもないだろう」スタスタ

正義「それってどっちなの?」スタスタ

勇者「分からん」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「ど、どうしたんですかね……」ヒソヒソ

正義「喧嘩したのよ。お互いに頑固だからどうしようもないのよ」ヒソヒソ

鍛冶屋「魔法使い」スタスタ

魔法使い「は、はい!?」スタスタ

鍛冶屋「……水って余ってるか?」スタスタ

魔法使い「え、あ、余ってますけど」スタスタ

鍛冶屋「じゃあ分けてくれないか? 俺全部飲んじゃって」スタスタ

魔法使い「あ、はい。どうぞ」スタスタ

鍛冶屋「ありがと」スタスタ

正義「勇者には聞かないのね」ヒソヒソ

魔法使い「相当ですね」ヒソヒソ

勇者「見えてきたぞ」スタスタ

正義「どれ?」スタスタ

勇者「あの奥の山が竜の山。あの山のふもとに村がある」スタスタ

正義「大きい山ね」スタスタ

勇者「竜が住んでる山だからな」スタスタ

※歴代キャラの強さ


この順位はあくまで目安であり、戦術や心の状況などで勝敗は簡単に覆ります。
今回のSSのメンバーは剣の力を使っていない状態で考えます。
あくまで純粋な強さ(お互いに最高の状況下で最高の心理状況。そしてお互いの戦術を全て理解している状態での戦闘)です。
おまけ程度に見ておいて下さい。
純粋な人間キャラのみです。またレベルの違う人達(女大臣、師匠、おじさん、弓兵)は抜いてあります。



強い人達


一位 赤い竜の婿の勇者

速い動きと独自の戦い方が武器。
分かっていてもこの勇者の独自の戦術はかなり対応しずらい。
魔法も刀で斬ったりしてたし、純粋な強さはトップクラス。



二位 正義の勇者

正義の力を借りれば勇者にも勝てるが、正義の力がないとスピード勝負で負ける。
一撃の威力は正義の勇者の方が上。


三位 逃亡者

ほぼ正義の勇者と互角か少し下。
目がよく、攻撃を見てから回避する事も出来る。
ただ一撃の威力が他と比べると若干低い。


四位 イケメン

パワーは段違いに凄いが動きも遅く回避力も低い。
衝撃波もあり、一発当てればほぼ勝ちだが、当たらなければジリ貧で負ける。
そのため戦況によってかなり変化する。


五位 英雄

いわゆるバランスタイプで弱点が無いが、逆に武器となるものも無い。
ただ弱点がないので攻め方やその地形によっては物凄く強くなったりする。


六位 隊長

唯一銃が使えるものの間合いに入られると勝ち目はほぼ無い(肉弾戦も強いのだが、歴戦の戦士相手には勝てない)。
イケメンとは相性がいいので勝てる。


七位 殺し屋  八位 女勇者  九位 メイド

今日はここまでです。

完全なおまけですが見たい方は見てみてください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


辺境の村


正義「まずはどうするの?」

勇者「村長に会う。そうしないと問題がいろいろあるからな」

正義「なんで?」

勇者「そういうルールなんだ。小さな村ではまず最初に村長に会う」

魔法使い「それをしておかないと後で村長さんに怒られるんです」

正義「面倒臭いのね」

勇者「大きい声で言うな」

正義「はいはい」

鍛冶屋「で、村長の家は何処だ?」

勇者「一番大きな家だと思う」

正義「アバウトね」

勇者「俺だってそこまで詳しくは知らん」

魔法使い「すいません。村長さんのお宅はどこですか?」

村人「ああ、それならあの一番大きい家だよ」

魔法使い「ありがとうございます」

村人「旅の人かい?」

勇者「ああ」

村人「今日は旅人がたくさん来るねぇ」

勇者「他の旅人がいるのか?」

村人「ああ、朝一にも旅人がこの町に来たらしい」

勇者「……そうか」

村人「んじゃ、早く行った方がいいからね」スタスタ

魔法使い「ありがとうございました」

鍛冶屋「分かったらさっさと行こうぜ」

勇者「ああ」スタスタ

正義「そう言えば村長と何の話するの?」スタスタ

勇者「この町に来た旅人だと伝えるだけだ」スタスタ

正義「それだけ?」スタスタ

勇者「それだけだ」スタスタ

勇者「失礼します」ガチャ

村長「どうぞ」

村長「……えーと、君達は?」

勇者「魔王を倒すために旅をしているものです」

村長「ほう……」

勇者「そして正義の為、悪を滅ぼして回っているのです」

村長「あなたの噂は聞いてるよ」

勇者「……」

村長「そちらの方々は、仲間のお方ですか?」

正義「はい」

魔法使い「あの、他の旅人もいらっしゃると聞いたのですが」

村長「ええ、来てるよ」

勇者「その方々は何のために?」

村長「さて、詳しくは聞いてないね」

勇者「そうか」

村長「と言っても泊まる所がないからな」

勇者「宿屋もですか?」

村長「こんな村にある宿屋だよ。君達が泊まる場所はもう無いと思う」

勇者「じゃあどうしたらいいですか?」

村長「どうしたものか……」

鍛冶屋「野宿でいいだろ」

勇者「……俺とお前はいいが、正義と魔法使いはどうする」

正義「私は構わないわよ」

魔法使い「私も構いません」

勇者「……なら野宿でいいか」

村長「悪いな」

勇者「いえ、他の旅人がいるんですから、仕方の無い事です」

村長「……」

勇者「では、また」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「で、どこで寝るの?」

鍛冶屋「表の大きい広場でどうだ?」

正義「……あんなに目立つ所で?」

魔法使い「町のシンボルの前で寝るんですか?」

勇者「まあ、だろうな」

正義「本気?」

勇者「当たり前だ」

魔法使い「でも、さすがに目立ちませんか?」

鍛冶屋「……確かに目立つな」

勇者「そうだな」

正義「じゃあ何処で寝るの?」

勇者「見張り台の下じゃダメか?」

正義「……まあ、あそこなら人も見張り以外は来ないし……いいんじゃない?」

勇者「じゃあ決定だな。とりあえず夜までは自由でいいだろ」

魔法使い「そうですね」

勇者「正義、行くぞ」スタスタ

正義「え、私?」

勇者「ああ、お前だ」スタスタ

勇者「……」スタスタ

魔法使い「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「あ、私ここで待ってますから」

鍛冶屋「そうか」

鍛冶屋「じゃあ行ってくるわ」スタスタ

魔法使い「はい、行ってらっしゃい」

魔法使い「……暇になっちゃいましたね」

魔法使い「まずは荷物の整理をしないと……」

魔法使い「……魔道書」

魔法使い「どう、しましょうか……」

魔法使い「……」

老人「魔道書ですか?」


そこに立っていたのは白髪で、真っ黒のローブを着た老人だった。


魔法使い「あ、はい……」

※歴代キャラの強さ


この順位はあくまで目安であり、戦術や心の状況などで勝敗は簡単に覆ります。
今回のSSのメンバーは剣の力を使っていない状態で、考えます。
あくまで純粋な強さ(お互いに最高の状況下で最高の心理状況。そしてお互いの戦術を全て理解している状態での戦闘)です。
おまけ程度に見ておいて下さい。



弱い人達

一位  姫

お姫様なため、戦闘は一切出来ない。
非力。
華奢な普通の女の子レベルの強さ。


二位 男(竜殺し)

ごく普通の一般人。
ただし竜相手なら勝てたりする。


三位 女委員長

肉体派では無いのでそんなに強くない。


四位 剣士

剣術もそこまで型が出来てる訳ではないし、戦いの経験も浅いため。
一応一通りに剣術は学んでいるので男(竜殺し)と女委員長とは結構差がある。


五位 男友

斬られたり、撃たれたり、よほどの威力で殴られなければ大丈夫な奴。
素手勝負の女キャラ相手なら多分ほぼ無敵。
ただし女には手を出さない主義なので勝つ事は出来ない。

今日はここまでです。

ついでなので弱い方も作ってみました。
おまけと思ってみてください。

老人「それはあなたのもので?」

魔法使い「はい。私が使ってるものですが……」

老人「いや、失礼。私は老人と言う者です」

魔法使い「老人さんですか?」

老人「ええ」

魔法使い「ええと……あなたは魔法使いですか?」

老人「いえ、私は魔法は使えない身で」

魔法使い「え?」

老人「私は魔法が使えない体みたいでね」

魔法使い「ま、全くですか?」

老人「ええ、魔法は一切使えません」

魔法使い「……」

老人「世の中にはいろいろなものがありますからね」

魔法使い「?」

老人「魔法だけが全てでは無いと言う事ですよ」

魔法使い「それは……」

老人「竜の山に行ってみて下さい」

魔法使い「……竜の山?」

老人「竜の山にはあなたの探している答えがあるかもしれません」

魔法使い「……」

老人「もちろん、あなたが決めればいい事です」

魔法使い「あ、はい。ありがとうございます」

老人「じゃあ」スタスタ

魔法使い「あ、あなたは魔法は使えないんですよね?

老人「ええ」

魔法使い「じゃああなたは何を使ってるんですか? 戦士には見えませんし……」

老人「世界には二種類の魔法があるんですよ」スタスタ

魔法使い「二種類の魔法?」

老人「ええ、じゃあまた機会があったら会いましょうか」スタスタ

魔法使い「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

鍛冶屋「ああ、イライラする」

鍛冶屋「それもこれも全部勇者のせいだ。ああムカつく!!」

???「失礼。あなたは旅のお方ではありませんか?」

鍛冶屋「ん?」


そこに立っていたのは身長百九十センチほどの大男だった。
真っ黒の修道服を身に纏い、首には銀の十字架をぶら下げている。
濃い顔に野太い声が特徴的だ。


神父「失礼、私の名前は神父。私もあなた達と同じく旅の者です」

鍛冶屋「あ、もしかして村長が言っていた?」

神父「んー、私は違いますねぇ。私は村長にはあっていない」

鍛冶屋「会ってない?」

神父「ええ、会う必要がありません。私は神に仕える身ですので」

鍛冶屋「それはどういう意味?」

神父「社会の形式に興味は無いと言う事です。アーメン」

鍛冶屋「?」

神父「少し難しいですかね?」

鍛冶屋「まあ、少し……」

神父「……」

神父「見た所ずいぶんと苛立っている様子ですねぇ」

鍛冶屋「いや、別に……」

神父「何に着いて苛立っているんですか?」

鍛冶屋「勇者……仲間にちょっと」

神父「それはいけません。怒りは罪。怒りによって社会は乱れてしまう」

鍛冶屋「……え、はあ」

神父「他人への怒りという中途半端な感情はよろしくない。やるなら徹底的な怒り、殺意に変えるか、それとも怒り自体を捨てるかです」

鍛冶屋「いや、それはちょっと……」

神父「神よ、彼の怒りを鎮めたまえ。ア―メン」

鍛冶屋「あの、その……」

神父「さあ、神に祈りなさい。社会の再編を。新たな世界の秩序を」

鍛冶屋「あの……」

神父「ん、なんでしょうか?」

鍛冶屋「あんた、何者?」

神父「私はただの神父。世界に平和と平穏をもたらすために各地をまわっている者です」

鍛冶屋「……」

神父「あなたも思いませんか? 世界は腐っていると。腐敗していると」

鍛冶屋「は?」

神父「世界は悪意に満ちていると」

鍛冶屋「そりゃあ、まあ……」

神父「この世界には悪魔に溢れている」

神父「私達の仕事はその悪魔を狩り、殺す事」

鍛冶屋「悪魔?」

神父「その通り、悪魔を狩るのです」

鍛冶屋「悪魔って……魔物の事か?」

神父「……違う」

鍛冶屋「じゃあ魔族の事?」

神父「違う!!」

鍛冶屋「じゃあ何?」

神父「愚かな!! 悪魔は人間自身です!!」

鍛冶屋「……」

神父「私は神に従い悪魔を討つ。そして新たな社会を再建したいんです。心清い人々の住む土地。本当のヴァルハラを」

鍛冶屋「お前……なんでそんな話を俺にするんだ」

神父「あなたはどうでもいい。ただあなたの仲間に伝えてほしい事があるのです」

鍛冶屋「仲間って……勇者か?」

神父「その通り」

鍛冶屋「お前勇者を殺すために来たのか!!」

神父「いやいや、私は単純に旅をしていただけだ。そして偶然にもお前達に出会った。神のお導きという奴だと思わないかね?」

鍛冶屋「知るかよ」

神父「おお、神よ。この出会いに感謝します。アーメン」

神父「彼にお伝えなさい。私はお前を殺す気だと」

鍛冶屋「頭おかしいんじゃねえか?」

神父「……やはりお前の様な凡人ではこの理想を理解できないのか。おお嘆かわしい。アーメン」

鍛冶屋「テメェ……」

神父「やはりあそこまで高貴な生き物で無いと私の思想を理解は出来ないのか……」

鍛冶屋「どこの貴族だよ。その狂った理想を理解できんのは」

神父「魔王だ!! あの男は我が理想を理解してくれた!!」

鍛冶屋「魔王!?」

神父「その通り!! あの男は私の思想を、理想を理解しその力を貸してくれると言った!!」

鍛冶屋「じゃあお前は魔王の仲間か」

神父「まァァァさか!! ただ単に利害が一致しただけだ。だがあいつは数少ない理解者であると言う事も事ィィィ実!!」

鍛冶屋「お前は魔王に理解されたって事か」

神父「そォォォォの通り!! 魔王こそ我ァァァが最大の理解者!!」

神父「かァァァみに感謝を!! アァァァメェェン!!」

鍛冶屋「……」

神父「勇者に伝えろォォう!! 神に代わって、魔王に代わって貴ィィィ様を殺してやると!!」

鍛冶屋「……ああ」

神父「かァァァァならず!! 必ず伝えろォォォう!!」

鍛冶屋「……分かってる」

神父「おお、神よ。この廻りあわせに感謝します!! アーメン!!」スタスタ

今日はここまでです。

アーメン=キリスト教で、祈り・賛美歌などの最後に唱える言葉。まことに、確かに、そうなりますように、の意。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「……何なんだろう。凄く嫌な予感がする」

勇者「予言か?」

正義「ううん。単純にそう思ったの。悪寒がしたって言うか」

勇者「あたるのか?」

正義「意外と当たるのよ。私の予感」

勇者「そうか?」

正義「ええ」

勇者「……それはどういう根拠で?」

正義「あれよ。野生の勘」

勇者「……そうか」

正義「今完全にバカにしたでしょ」

勇者「してない。ただ胡散臭いと思っただけだ」

正義「何よそれ!!」

勇者「そこら辺の占い師ほど胡散臭い」

正義「……」

勇者「思った事を純粋に口にしただけだ」

正義「あなた私をなめてない?」

勇者「……?」

正義「私は人間じゃないのよ。それくらい出来て当然でしょ」

勇者「元は人間だろう。というか今だって俺はお前の事を人間だと思っているが?」

正義「……」

勇者「どうした」

正義「……」

勇者「正義?」

正義「何でもないわ」

勇者「ならいいんだが」

正義「あなた、それ本気?」

勇者「どれのことだ」

正義「私を人間だと思ってるって」

勇者「ああ、そうだ」

正義「……わかった」

勇者「何だが」

正義「何でもないわよ」

勇者「……他に買う者は無いか?」

正義「ええ。それにこんな小さな村じゃあ買えるものなんてたかが知れてるし」

勇者「だな」

勇者「そろそろ戻るか」スタスタ

正義「そうね」スタスタ

勇者「……」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「ただいま」

魔法使い「あ、お帰りなさい」

鍛冶屋「……」

魔法使い「ど、どうかしたんですか?」

鍛冶屋「敵に会った」

魔法使い「て、敵?」

鍛冶屋「ああ、神父って頭のおかしい奴だ」

魔法使い「神父……強そうでしたか?」

鍛冶屋「わかんねえ。けど多分強いと思う」

勇者「ただいま」

鍛冶屋「勇者、敵だ」

勇者「敵?」

鍛冶屋「ああ、敵だ」

勇者「相手は」

鍛冶屋「ええと、神父って言って、魔王に仲間だ」

勇者「……魔王の」

神父「汝、自らの罪を認め罰を受けなさい」

鍛冶屋「……」

神父「お会いできて光栄です。勇者殿」

勇者「お前が神父か」

神父「その通り。お前の命をもらいに来た」

勇者「そのためにわざわざ来てくれた訳か」

神父「小さな村だ。探そうと思えばすぐに見つけられる」

勇者「……」

神父「……場所を変えようか」

勇者「ああ」

神父「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

神父「この辺りなら人は来ない。無駄な犠牲も出ない」

勇者「森か」

神父「嫌なら他の場所に変えてやろうか?」

勇者「別にいい」

神父「じゃあ、殺し合おう」

勇者「その前に一つ聞きたい」

神父「なんだ?」

勇者「お前はなんで戦う」

神父「私の戦う理由は一つ。この腐った社会を一度破壊し、創り直す」

勇者「それだけか」

神父「当たり前だ。素直な者が損をする時代は終わる。新しい時代を創る!!」

勇者「……」

神父「貴様は知っているか。一人の子供がお前のせいで不幸になった事を」

勇者「な……!?」

神父「旅の途中で出会った子供だ。可哀想な可哀想な一人のな」

神父「貴様がその原因だ!!」

勇者「……」

神父「私の創る世界に貴様は不要だ」

勇者「……」

神父「魔王は人間を絶滅させるつもりは無い」

勇者「戯言だ」

神父「違う。あの男は人の数を減らし、社会を崩壊させるのが目的だ」

勇者「……」

神父「私があの男に協力しているのは、悪人を断ち社会を再編するためだ」

勇者「お前の言う悪い人間とはなんだ」

神父「それは私がこの目で見て決める。分けはしない」

勇者「そ、それは不公平だ!! おかしい!!」

神父「なァァァにがおかしい!! 私達は神では無い。我々は人を裁いてはいけない!!」

神父「私は私が愚かだと思った人間を殺す!! 分かるか。裁くのではなく殺すのだ!!」 

勇者「……」

神父「これがお前と私の差だ。お前は他人を裁いている。私は殺している」

勇者「俺も同じだ!! 人を殺してる」

神父「ならどうして正義を口にする」

勇者「……お前も神を」

神父「私は神の為に世界を変えるのではない。神の力を借りて世界を変えるのだ」

勇者「……でもお前も弱い者達の為に」

神父「それもある。だが理由の一つ、私は私の為に世界を変える」

勇者「……」

神父「お前はただの偽善者だ。おォォォろかで、無様な!!」

勇者「お前に俺の何が分かる!!」

神父「いい目だ!! 偽善者の、偽善に満ちたいい目だ!!」

神父「でェェェは始めよう!! 殺し合いを!!」

神父「さァァァあ、神に祈りなさい!! アァァァァメェェェン」

今日はここまでです。

あと神父はインデックスに出てくる十字架を使ってた神父がモチーフです。

すいませんが今日は休みます。

ちょっといろいろ大事なものが無くなってSS書く暇が無くて。

本当にすいません。明日に投下します。

神父は首にかかった十字架をむしり取ると、何かを詠唱した。
短い単語の詠唱は一瞬で終わり、変化はすぐに起こり始める。

十字架はそれに反応するかのように巨大化し、全長二メートル五十センチはあろうかと言う巨大な大剣に変化した。


『ただの魔法よ。あのバカでかい剣を小さくしておいただけ。で、その魔法を解いたから元の大きさに戻ったの』

『そうか』


勇者はその剣の名前を知っていた。

炎の名を冠するかのように、揺らめく炎を模した波打つ独特の形状の刃。
肉をえぐり、貪る凶悪な剣。
フランベルジェ。

刃の部分だけも約二メートル。
それに対しこちらの刃の部分は一メートルと少し。

だが速度はこちらの方が速い。

勇者は刀を中段に構えると、前に走り出した。

この森で大剣を振りまわる事は出来ない。
なら剣は振り下ろすか振り上げるの二択しか存在しないはずだ。

疾風の如く疾走する。

速く。
とにかく速く。

しかし神父はまるでその動きを予期していたかのように剣を振り上げると、そのまま剣を振り下ろした。

ゴウッ!! と風を喰い破る音が響き、強烈な一撃が勇者目掛け襲いかかる。

勇者はそれが来るよりも先に横に跳び、剣を回避する。
そして神父の心臓目掛け刀を突き刺した。

銀色の閃光は真っ直ぐに進む。
しかし、その閃光は突如現れたもう一つの閃光に激突する

鋭い金属音。
甲高い悲鳴の様な音を上げ、刀は弾かれていた。

そこには神父の大剣があった。
ついさっきまで地面をえぐっていたその剣は、ほんの数秒のうちに元の構えに戻り、刀を弾いたのだ。
普通の剣ですらできない様な早業を、この両手剣はいともたやすくこなしていたのだった。

馬鹿げている素早さに勇者の顔が驚愕の色をしめす。
口からは驚きの言葉が漏れそうになる。


「遅い!! 遅すぎるぞゥ!!」

勇者の刀を弾いた反動を使い、大剣を薙ぎ払う。

まるで嵐の様な一撃。
その一撃は数本の大木を易々と叩き斬り。吹き飛ばす。

だがそこに勇者は居なかった。
すでに横に大きく跳び、その攻撃を回避している。


『勇者!!』

『問題無い。ただのかすり傷だ』


勇者の脇腹は僅かに赤く滲んでいた。
正義の魔力で肉体を強化していても、今の一撃は回避しきれてはいなかったのだ。

神父の大剣がまるで獣の牙の様に凶悪に輝いている。

勇者は刀に魔力を注ぎ、刀の強化を図った。

刀を魔力が包むのをイメージ。
風が刀を走り抜けていくのをイメージ。

勇者は自分自身の体が恐怖に食われているのを感じた。
大きく口を開き勇者を喰らおうとするそれの口の中は漆黒だ。

言葉に出来ない恐れが具現化した化の様に鎖となって足に絡みつく。

だが勇者はそれを無理矢理に引きちぎり、前に進んだ。

地面を蹴り、まるで弾丸の様に疾走する。

銀色の二つの閃光が衝突。
綺麗な火花を散らす。

神父の振り下ろした一撃を勇者が防御した形でお互いの動きが停止する。

重い。
それが勇者の感想だった。
それ以外の感想は無い。

だがそれお互いの力が均衡になっただけ。
ただそれだけの事。

もちろん神父がほんの少しでも力を加えればその均衡は簡単に崩れるのだ。


『勇者』


正義の声に反応し勇者は刀に魔力を込める。

強烈な風の渦をイメージ。
刀の纏った風の渦が出来上がる。
それにより神父の大剣は岩にぶつけたかのように弾き返される。

弾かれ、両腕の上がった神父の脇腹目掛け刀を薙いだ。
鋭い一撃は風の様に襲いかかる。

だがその瞬間には勇者は自分のミスに気付いていた。
所詮大剣をはじいた程度なのだ。
それを避けられないはずはないのだと。

神父はその大柄な体格には似つかわしくない俊敏で鮮やかな動きでそれを回避する。

勇者の刀が何も無い空を斬り、神父の大剣が勇者目掛けて振り下ろされた。


「今の貴様には分かるだろう、圧倒的な恐怖がァ!!」


勇者の刀は神父の一撃を受け止める。
衝撃は勇者の体を貫き、全身を痺れさせる。


「あ、が……」

奥歯がギリギリと嫌な音を立てて鳴り、膝が折れそうになる。
気を抜けばあっという間に力負けし綺麗に真っ二つにされる。

彼の全身をナメクジが這いまわる様な悪寒が吹き抜けていくのが分かった。

『勇者。もう一回魔法を』

『分かってる。ただもうすでに一度それは見せているんだ。何かしらの対応をされているかもしれだろ』

『そんな事言ってる場合!? さっさとしないとあなた自身が潰れるわよ』

『……わかった』


風の渦をイメージ。
それを刀にもイメージ。

だがさっきの比ではない強烈な魔力を込める。


「な……めるな!!」


ガギン、と言う金属独特の音を打ち鳴らし、神父の大剣を弾く。

そこまではさっきと同じ。
だが今回は予想以上の反動に神父の態勢が僅かに崩れた。

こここそが勝機。

勇者はそれを直感的に理解した。

今日はここまでです。

勇者は大きく前に一歩踏み出し、刀を地面と水平に構えた。


『正義!! 魔力を限界まで刀に注ぐ!!』

『了解!!』


魔力が体に入ってくるのが分かる。
勇者はそれをただひたすらに刀に注ぎ込んだ。

切っ先に風が宿り、斬れ味を増す。
刀身は固く。そしてしなやかに。
刃は鋭く。それでいて柔らかく。
何ものにも負けない、最強の刀に。

イメージを完了し、刀を振り始める。

そこまで約一秒と四分の一。
勇者が出来る最速の一撃だ。

速く。
そして鋭く。

勇者の鬼神の如き一撃。
それが今の勇者の放てる最速で最強の一撃だった。

轟音。
突風。

すでに正義の魔力は無い。
今の一撃で全て消し飛ばしたのだ、当たり前だろう。

更に肉体強化分の魔力供給だって危ういのだ。
戦えてあと数十分。
いや数分持てばいい方だろう。

今の勇者にとって勝機などほぼ無いに等しかった。
この状況を覆せる切り札が無い限りはどうしようもない。

だが。
それでも、勝たなければならない、と勇者は思う。

それが正義。
それが正義の味方だから。

刀を構え直し、一歩前に――――。


『お前のせいだ!!』


……誰だ。

声は外側でなく、内側から湧き上がってくるように聞こえた。
聞いた事の無い声。
かけられた事無い様な言葉。
のはず。

横に跳ぼうとした瞬間、肩に燃える様な痛みがはしった。
痛いのではなく、熱い。
とにかく燃えているのかと錯覚しそうなほど熱い。

気付けば辺りは血が流れ、勇者の体はほぼ赤で染まりきっていた。
それを彼が自分の血なのだと理解したのは数秒後の事だ。

全身の力が抜けて行き、視界がぼやける。
すでに正義の声は耳には届いていなかった。
正確には聞こえているのだが、なんと言っているのか聞きとれないのだ。

だが勇者は歯を食い縛り、倒れない様に必死に耐えた。
ここで倒れてはいけないと、何かが叫んでいるのが分かる。
そうすれば待っているのは死だけだと直感的な何かが警告する。

勇者は倒れる事も動く事も無く、その場で立ちつくしていた。

神父に大剣は大きく振りかぶられ、今まさに勇者目掛け振り下ろされようとしていた。


「神の裁きだ!!エィィィィンンメェェェン!!」


その一撃が落ちる瞬間、勇者は自分の体が浮くのが分かった。

勇者の目の前で大剣が振り下ろされ、地面を砕く。


「何!?」


神父の声。
それは間違いなく驚愕の声だった。


「勇者!! 大丈夫か!?」

「勇者さん。分かりますか!?」


朦朧とする意識の中でも分かる。
それは彼の仲間の声だった。

気がつけば勇者は鍛冶屋に担がれていた。
まわりは煙幕が張られ、魔法使いは鍛冶屋と並走する様な形で勇者を見ている。

正義の声は聞こえないが、大丈夫なはずだろう。

「大……丈夫……だ。問題……ない」


もはや言葉がはっきり発音できているかどうかも怪しい。


「煙幕かァァァ!! 小賢しいィィィ!!」


叫び声。
足音。
荒い息使い。

それらを聞きながら、勇者は意識を失った。

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

鍛冶屋「あ、起きたか? 体調はどうだ?」

勇者「大丈夫だ……だがまだ少し痛いな」

魔法使い「どうなったか、覚えてますか?」

勇者「だいたい大まかにはな。俺は負けたんだろう」

鍛冶屋「ああ、負けたな」

勇者「……」

正義「勇者。ごめんなさい」

勇者「俺の実力不足だ。お前は何も悪くない。全部俺の責任だ」

正義「でも……」

勇者「あの場面では魔力があってもどうしようもなかった。それにあそこで魔力を使うのはごく自然な事だろう」

勇者「それに魔力を限界まで使うと言ったのは俺の方だ」

正義「でも……」

老人「気分はどうですか?」スタスタ

勇者「あなたは?」

魔法使い「この家の家主さんです」

勇者「今回はお世話になり――――」

老人「堅苦しい挨拶は辞めにしましょう。私も面白くないです」

勇者「……私はどれくらい眠っていましたか?」

老人「一日です」

勇者「……神父は!!」

鍛冶屋「わかんねえけどまだここには辿り着いて無いよ」

勇者「……そうか」

老人「安心しましたかな?」

勇者「いえ、そう言う訳では……」

少年「おじいちゃん。その人起きたの?」

老人「ええ」

少年「おはようございます」

勇者「確か……何処かで」

少女「鍛冶の町の宿屋じゃない?」

勇者「ああ、そうだった」

魔法使い「この二人が私達をここまで連れて来てくれたんです」

勇者「ありがとう」

少年「いえいえ」

少女「もう大丈夫?」

勇者「あと少ししたら動けるようになると思う」

老人「とりあえず怪我が治るまではここにいた方がいい」

勇者「……ありがとうございます」

老人「ゆっくりしていくといいよ」スタスタ

鍛冶屋「……そんなに強かったのか?」

勇者「ああ、強かった。ほとんど歯が立たなかった」

正義「……」

勇者「……俺のせいだ。すまん」

正義「……もうこの話はやめにしない」

勇者「……わかった」

勇者「ありがとう。鍛冶屋」

鍛冶屋「どういたしまして」

勇者「お前と魔法使いが居なかったら俺はとっくに――――」

鍛冶屋「勇者。すまん」

勇者「……ん?」

鍛冶屋「俺も魔法使いも少し勇者に頼り過ぎてた気がするんだ」

勇者「……」

鍛冶屋「今までだって戦いは全部勇者がこなしてきたわけだろ」

勇者「まあ、そうだな」

鍛冶屋「俺も魔法使いも勇者に甘えてたんだ。だから俺達も強くなろうと思うんだ」

勇者「とは言ってもそう簡単には」

鍛冶屋「ああ、でも絶対に役に立つようになる。お前の代わりに戦う」

勇者「……わかった。ありがとう」

鍛冶屋「……」

少年「あのお姉ちゃんは強くなれるよ」

勇者「なんでだ?」

少年「あのお姉ちゃんは特異体質だからね」

鍛冶屋「とくい……なんだって?」

少年「特異体質。あのお姉ちゃんは体の構造上魔法が使えないんだよ」

勇者「……だから、あんなに勉強してもダメだったのか?」

少年「知識があっても魔法が使える体じゃないからね」

鍛冶屋「普通の人間と何が違うんだ?」

少年「僕もよくは分かんないけど……魔翌力の種類が全然違うんだって」

鍛冶屋「魔翌力の種類?」

正義「私とか普通に魔法を使う人が使ってるのが陽の魔翌力って言われてるものらしいわ」

勇者「なら魔法使いは陰の魔翌力と言う訳か?」

少年「多分……」

勇者「……聞いた事無いな」

正義「私だって一回聞いたくらいで曖昧にしか覚えてないわよ」

少年「一般的には知られていないみたいだから」

鍛冶屋「でもなんでお前はそれが分かったんだ? なんか特別な事もしてなかっただろ?」

少年「僕も少女もそう言うのには敏感なんだ。あと陰の魔翌力を使った魔法を受けた人だと分かる人もいるみたい」

勇者「やはりお前達は人間では無いんだな」

少年「僕と少女は竜の子だからね」

勇者「ではあの老人も?」

少年「あの人は物好きのおじいさんだよ。僕達は時々ここに遊びに来てるんだ」

鍛冶屋「……」

少年「驚いた?」

鍛冶屋「……いろいろ新しい情報があり過ぎて頭がおかしくなりそうだよ」

少年「はははっ。ごめんなさい」

勇者「……また少し寝てもいいか?」

少年「眠いの?」

勇者「ああ、少しな」

鍛冶屋「ゆっくり寝てくれ」

勇者「……悪い」

正義「お休みなさい」

勇者「……お休み」

今日はここまでです。

魔翌力じゃなくて魔力ですね。sagaが入ってませんでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


老人「あの人も目が覚めて良かったですね」

魔法使い「はい」

老人「ですが傷の方は深いですからこれからも注意して下さい」

魔法使い「わかりました」

魔法使い「あの……ありがとうございました」

老人「いえいえ。当然の事をしたまでですよ」

魔法使い「……」

老人「どうしました?」

魔法使い「あの時、私を強くしてくれるって言いましたよね?」

老人「……ええ、言いましたね」

魔法使い「私を、強くしてほしいんです」

老人「……本気ですか?」

魔法使い「本気です!!」

老人「そうですか」

魔法使い「教えてくれるんですか?」

老人「そのつもりです。あなたにその覚悟があるのなら」

魔法使い「……」

老人「魔法を学んだのなら呪い師、と言う言葉に聞き覚えはあるはずです」

魔法使い「……はい。知ってます」

老人「どう教わりましたか?」

魔法使い「魔術の中で最も嫌われており、最もおぞましい魔法」

老人「……私もそう教わりました」

魔法使い「……じゃああなたは」

老人「私は呪い師です。だからこうやって身を潜めて生きているんです」

魔法使い「……」

老人「あなたは特異体質で通常の魔法は使えない。そのかわりに呪いが使えるんです」

魔法使い「呪い……」

老人「その覚悟がありますか?」

魔法使い「……」

老人「……」

魔法使い「はい」

老人「わかりました」

魔法使い「……」

老人「あなたに呪いをお教えします」

魔法使い「あの、でも私……」

老人「大丈夫。ただ少し使い方を変えればいいんですよ」

魔法使い「使い方?」

老人「魔法を使おうとすると無意識的に持っていない魔力を使おうとしてしまう訳です」

魔法使い「?」

老人「陰の魔力と陽の魔力についてはご存知ですか?」

魔法使い「あ、はい。確か魔道書に書いてあったと思います」

老人「普通の人は魔法を使おうとする時無意識的に陽の魔力を使おうとしてしまいます」

魔法使い「じゃあ、わたしはどうすれば……」

老人「ただ陰の魔力を使うと意識的に思うだけでいいです」

魔法使い「はい」

老人「ただ、陰の魔力は陽の魔力と違い何でも出来る訳ではありません。その辺りに注意して下さい」

魔法使い「あの、具体的には」

老人「呪いですから回復や治癒。あと支援の様な事は出来ません。後、火や水を生み出す事も出来ません」

魔法使い「他人を呪う事しかできないって事ですか?」

老人「まあ、呪いも用途はかなり広いですから、戦闘中に困る事は無いと思いますが」

魔法使い「あ、はい」

老人「あと呪いは相手の体に触れている時に使う接触型と地面や壁に設置する設置型しかありませんから注意して下さいね」

魔法使い「はい」

老人「では、一回やってみて下さい」

魔法使い「わ、わかりました」


魔法使いは地面に手を触れ、念じながら呪いを詠唱する。


老人「……」

魔法使い「ど、どうですか?」

老人「な、何の力を加えたのですか?」

魔法使い「重力強化です。動きを制限する呪いのつもりなんですが……」

老人「……」

魔法使い「ど、どうですか」

老人「凄い……完璧です」

魔法使い「本当ですか!?」

老人「はい、魔力もそこまで使っていませんよね?」

魔法使い「え、まあ……はい」

老人(初めてでこの大きさ。しかもほぼ完成形。それにこれだけのものを作っても魔力の消費は少し……)

老人「……」

魔法使い「な、なんですか?」

老人「いえ、何でもありません」

老人(これは、とんでもない化け物かもしれませんね……)

老人「では始めていきましょうか」

魔法使い「よ、よろしくお願いします!!」

老人「あ、まず一つ」

魔法使い「……」

老人「何があっても耐えて下さい。いや、耐えなくてもいいですから逃げて下さい。立ち向かおうとしないで下さい」

魔法使い「は、はい」

老人「特にあなたは危険な気がしますから」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


数日後


勇者「……まあ、こんな所か」

鍛冶屋「どうだ?」

勇者「痛みも無いし、普通に動ける。あとは少し体を動かせば何とかなるか」

鍛冶屋「……」

正義「また戦うんでしょ?」

勇者「……ああ、当たり前だ」

勇者「鍛冶屋」

鍛冶屋「なんだ?」

勇者「相手になってくれないか?」

鍛冶屋「……ああ、いいぞ」

正義「私は、居ない方がいいわね」

勇者「ああ、そこまで本気でやるつもりは無い」

鍛冶屋「俺は本気でやるけどな」

勇者「行くぞ」スタスタ

鍛冶屋「ああ」スタスタ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「あがっ!!」

勇者「そこそこ体は動くな」

鍛冶屋「ダメだ……見えない……」ハァハァ

勇者「全体的に反応が遅い。あと一秒避けられる」

鍛冶屋「その一秒が難しいんだろが」

勇者「その通りだ。だから慣れるしかない」

鍛冶屋「……慣れるって」

勇者「安心しろ。毎日やれば自然慣れる」

鍛冶屋「そうか?」

勇者「そうだ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「勇者、あの時は」

勇者「お前は当然の事を言ったまでだ。悪いのは俺だ」

鍛冶屋「……」

勇者「魔法使いはどうだ?」

鍛冶屋「呪いってのを学んでるらしいんだけど、俺にはさっぱりだ」

勇者「そうか」

鍛冶屋「わかるか?」

勇者「わからん」

鍛冶屋「……だと思った」

勇者「今のままでは実力不足だ。どうしようもない」

鍛冶屋「いや、そうでも無かったぞ」

勇者「?」

鍛冶屋「だってあいつがもし無傷だったらお前を助けられてなかったと思うし」

勇者「神父もギリギリだったと言いたいのか?」

鍛冶屋「だってボロボロだったし、今も襲撃に来なかったって事はすぐに動けなかったって事じゃないのか?」

勇者「……あと一歩、か」

鍛冶屋「だな。策はあるのか?」

勇者「……上手く行くかはわからん」

鍛冶屋「あるのか」

勇者「ああ、せこい手が一つだけ」

鍛冶屋「今更何言ってんだよ。汚くても勝てばいいんだよ。勝てば」

勇者「ああ、分かってる。分かってるさ」

勇者「鍛冶屋。もう一戦どうだ?」

鍛冶屋「……ああ、相手になってやるよ!!」

勇者「来い!!」

魔法使い「あの……」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだ?」

魔法使い「少し試したい事があるんで協力してほしいんですけど」

勇者「……呪いか?」

魔法使い「まあ、はい」

鍛冶屋「痛いのは嫌なんだけど」

魔法使い「だ、大丈夫です。痛い事はしませんから」

鍛冶屋「でも呪いなんだろ?」

魔法使い「呪いって言ってもいろんな呪いがありますから」

勇者「俺や鍛冶屋の胸を大きくする呪いも可能なのか?」

魔法使い「え、ま……まあ、はい。多分……」

鍛冶屋「あ、それ面白そうだな。しかも揉みほうだいじゃん」

魔法使い「で、でも、それは……あの、ダメな気が……」

勇者「我ながら中々いい発想だと思う」

鍛冶屋「天才だな」

魔法使い「いえ、それは、あの……いえ、もういいです」

老人「呪いを勘違いしてはいけませんよ」

勇者「どういう意味だ?」

老人「呪いは味方の回復や補助は出来ないと言う意味です」

鍛冶屋「じゃあ死なない呪いとか傷がすぐ治る呪いとかは出来ないのか?」

老人「いえ、可能です。でもそれは死ねない呪い。傷がすぐに治ってしまう呪いです」

鍛冶屋「??」

老人「呪いには三種類あります。設置型の呪い。相手の体に一時的に呪いを与える呪い。そして呪い師が解かない限り永久的に消える事の無い呪いです」

勇者「なら、俺の体に死ねない呪いを発動して、そのうち解けばいいんじゃないのか?」

老人「それは不可能です」

勇者「何故」

老人「呪いは仲間には使えないからです」

鍛冶屋「だからどういう意味だって」

老人「呪いは相手に僅かでも助けたい、や力になりたいと言う感情があれば発動できないんですよ」

鍛冶屋「じゃあ魔法使いが俺や勇者に死ねない呪いなんかは発動できないって事か?」

老人「そうなりますね」

勇者「……では、もし魔法使いがその気持ちを押し殺した場合は?」

老人「表面上消せても無意識的にそう思ってしまっていますから無理でしょうね」

勇者「確かに」

老人「呪いが嫌われる理由は誰も助けられず、不幸にしかしないかららしいですよ」

鍛冶屋「偏見だろ」

老人「ええ、でも世界が私達をそう見ているのは事実です」

鍛冶屋「……」

今日はここまでです。

勇者「……で、何の呪いをかけるんだ?」

魔法使い「あ、とりあえず両足の動きを一時的に鈍くする呪いをかけようと思います」

勇者「じゃあ、かけて見てくれ」

魔法使い「はい」


魔法使いは勇者の背中に手を当て呪文を詠唱する。


勇者「……」

魔法使い「動いて見て下さい」

勇者「ああ……」スタッ

勇者「……ん」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「足が重い。動き辛い」

鍛冶屋「す、凄え!! やったじゃん!! 魔法使い!!」

魔法使い「え、あ……は、はい」

鍛冶屋「確かに魔法では無いけど……でもこれで……」

魔法使い「はい。勇者さん達の役に立てます!!」

鍛冶屋「よし!! 俺ももう少し頑張る!! 勇者、もう一戦!!」

勇者「待て。まだ動けん」

魔法使い「あの、じゃあ私と一戦どうですか?」

鍛冶屋「……わかった」

鍛冶屋は木刀を構え、魔法使いの前に立つ。

呪いがあると言っても魔法使いは魔術師。
基礎身体能力は鍛冶屋と同じかそれ以下だろう。
それにこちらには木刀と言う得物もある。

ならば、と鍛冶屋は前に進む。

先手必勝。
それ以外は考えられない。

呪いを受ければ確実にこちらが不利だ。
一回でも戦闘にかなりの支障が出る呪いをかけられるはず。
なら先に仕掛け、先に仕留めるしかない。

木刀を肩に担ぐように構え、木刀の当たる距離に近づいた。

だが魔法使いは石像の様にピクリとも動かない。
まるで見えない何かを推し測る様に木刀と鍛冶屋をじっと見据えたまま、その場で構えも取らずに立っていた。

鍛冶屋は木刀を振り下ろした。
勇者の様に速くは無い。
むしろ人並み程度のごく普通の速度だ。
ただこの速度なら十分に回避は難しいはず。

しかし、彼のその予想は間違っていた。
いや、正しくは大前提、魔法使いの身体能力を見誤っていたのだ。

そう、魔法使いの姉だってなかなかの身体能力を持っていた。
なら魔法使いが同じほどの身体能力を持っていても何もおかしくは無い。

鍛冶屋が木刀を振り切った時、そこには誰もいなかった。
その代わりに気がつけば魔法使いは目の前まで迫っている。

魔法使いの右手が鍛冶屋の脇腹に当たった。

痛みは無い。
だが鍛冶屋の背筋は凍っていた。
まるで魔物に体を舐め回された様な悪寒が全身にはしる。

逃げようとしても体が間に合わない。
木刀を振りきってしまったせいで体が次の運動に移行出来ない。

魔法使いの口が魔法を詠唱するのが分かった。

しかし、体は間に合わない。

結局彼が後ろに跳んだ時にはすでに詠唱は終わり、呪いは発動していた。
両手が石の様に重く、持ちあがらない。
まるで腕だけが別の生き物の様に全く動かない。

「石化の呪いです。それで鍛冶屋さんの両腕は一切動かせません」


魔法使いのまるで子供に教える様な丁寧な説明を聞きながら、鍛冶屋は静かに息を吐いた。

両腕が動かない。
つまりそれは攻撃が出来ないと言う意味だ。

だが足では無く腕だったのは幸いだったとも思う。
攻撃できないのと回避できないのでは確実に回避できない方が勝機は薄い。

魔法使いの動きで目で追って、それをひたすらに回避する。

魔法使いは確かに速い。
だが、それは魔術師として、一般人として。
勇者と毎日の様に戦っている鍛冶屋なら何とか目で追えた。


「何とか、見える……」


魔法使いの攻撃を見極める事だけに全神経を費やす。
とにかく一瞬でも魔法使いが視界から消えれば、その隙に二度目の呪いをかけられる。
二度目の呪いは足を殺しにくるはず。
そうなれば鍛冶屋に勝ち目は一片たりとも無くなってしまう。

魔法使いの右手が鍛冶屋の顔目掛け、直進して来る。
彼はそれをギリギリで回避し、また間合いを取った。

石化の呪いは一時的なもののはず。
なら時間を稼げれば何とか出来るはずだ。

後ろに一歩だけ下がり、呼吸を調える。

両腕はまだ固まっているが、感覚は戻りつつあった。
あと数分。
いや、数十秒あれば動く様にはなる。

お互いに動きを止め、肉食獣の様にじっとチャンスを待つ。

つかの間の静寂。
一瞬の無音。

先に動き出したのは鍛冶屋だった。
すでに両手は回復し、木刀の切っ先を魔法使いに向けながら真っ直ぐに突き進む。

魔法使いにとってそれは予想外だったらしく、僅かに動きが鈍っていた。
その一瞬の動きの鈍りが魔法使いの回避を間に合わなくさせた。

木刀は魔法使いの肩に直撃し、魔法使いを転ばせる。
魔法使いは地面に手をつき、膝立ちの状態になっていた。

鍛冶屋はそのチャンスを逃すまいと、木刀を振り上げ、大きく一歩踏み出す。
そして木刀を振り下ろすはずだった。

だが体が動かない。
まるで見えない糸が体を押さえつけられいるかのように微動だにしない。


「私の勝ちです」


魔法使いの両手が鍛冶屋の無防備な脇腹に当たる。
あとは魔法使いが呪いを掛ければ、鍛冶屋は死ぬだろう。

鍛冶屋はいつの間にか動く様になった両腕を下ろし、木刀を地面に置いた。

鍛冶屋「どうなってんだ」

勇者「設置型の呪いか」

魔法使い「ええ」

鍛冶屋「え、でもいつの間に……」

魔法使い「鍛冶屋さんに木刀で殴られて倒れた時です。地面に手をついた時に呪いをかけておいたんです」

鍛冶屋「……」

勇者「凄いな」

鍛冶屋「ああ、凄えよ」

魔法使い「あ、ありがとうございます」

鍛冶屋「つーか、今俺が一番弱いのか?」

勇者「そうなるな」

鍛冶屋「……」

魔法使い「が、頑張って下さい!!」

鍛冶屋「ありがとう」

勇者「魔法使いはどれほどの強さなのですか」ヒソヒソ

老人「……化物ですね。才能の桁が一桁は違う」ヒソヒソ

勇者「そうですか」ヒソヒソ

老人「彼女は少し危うい。気をつけて下さいね」

勇者「……鍛冶屋が居るんだ。大丈夫だろう」

老人「……そうですかね」

勇者「何かあったら鍛冶屋がどうとでもしてくれますよ」

老人「……期待しましょうか」

勇者「大丈夫ですよ」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


辺境の村


神父「何処だ……」スタスタ

神父「……何処にいる」スタスタ

旅人「どなたをお探しで?」

神父「……」

旅人「そんな怖い顔しないで下さいよ。へっへっへ」

神父「……相変わらず下品な男だ」

旅人「そりゃあ、ねえ。旦那みたいな聖人からみたらあっしなんてゴミクズ同然なんでしょう?」

神父「当たり前だ」

旅人「で、どなたをおさがしなんですかねぇ?」

神父「お前に話す気は無い。これは私の問題だ」

旅人「もしかしてとは思いますが、勇者をおさがしで?」

神父「……」

旅人「あ、当たっちまいましたか。へっへっへ」

神父「それがどうした」

旅人「いえ、別に。ただあっしもあの男と会った事はありましたから」

神父「戦ったのか?」

旅人「いえ、別に」

神父「なら何をした」

旅人「ただ単純に話しただけですよ。まあ、あっちはあっしの事を嫌ってるみたいでしたけどねぇ」

神父「……」

旅人「あれ、もしかして疑ってるんですか?」

神父「何処にいるかわかるのか?」

旅人「へぇ?」

神父「勇者は何処にいる!!」

旅人「……さぁ? あっしは知りませんよ」

神父「……ふんっ。役に立たん男だ」

旅人「すいませんねぇ。へへへ」

神父「笑うな」

旅人「へいへい」

神父「……」スタスタ

旅人「もう少し待って下さいよ。情報が無いわけではないですから」

神父「くだらん世間話なら、お前を殺す」

旅人「安心してくだせぇ。そんなつまらない話しじゃあありませんから」

神父「ふんっ」

旅人「勇者はまだこの辺りにいますよ」

神父「……」

旅人「……」

神父「それだけか」

旅人「もう少しヒントが欲しいですか?」

神父「殺す……」

旅人「へへっ。そう怖い顔しないで下さいよ。それにあいつはまた旦那と戦いにくるはずですから」

神父「どうだろうな」

旅人「大丈夫ですよ。あっしは嘘だけはつきませんから」スタスタ

神父「根拠は」

旅人「あっしは旅人です。案外情報通なんですよ。それにあの男の性格はよォく知ってますから」スタスタ

神父「……ゴミ屑が」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……」

勇者「……そろそろ行く」

鍛冶屋「行くって、戦いにか?」

勇者「ああ、体も動くし、いい頃合いだろう」

正義「私も大丈夫よ。魔力も回復してるし」

勇者「そうか」

少年「勝てるの?」

勇者「……分からん」

鍛冶屋「分からんって……」

勇者「だが勝てる見込みはある」

鍛冶屋「……」

魔法使い「一人で行くんですよね?」

勇者「ああ、そうする」

鍛冶屋「死ぬなよ」

勇者「分かってる」

老人「場所は分かってるんですか?」

勇者「いえ、ですが村に行けば会えると思いますので」

老人「そうですか」

勇者「では、終わったら戻ってきます」

老人「はい」

勇者「行くぞ。正義」スタスタ

正義「ええ」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「策はあるって言ってたけど、具体的にはどんな作戦なの?」

勇者「策なんて凄いものじゃない。剣士の風上にも置けないせこい技だ」

正義「……」

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勇者「……」

神父「……」

神父「まさか、またここにいるとはな」

勇者「待ってたんだ。お前と戦うために」

神父「そうか」

勇者「……」

神父「神への祈りは、済ませたか?」

勇者「ああ。お前こそどうだ」

神父「済ませたさ」

神父「……」

勇者「……」

神父「おォォォォ!!」

勇者「あァァァァ!!」

※呪いについて

このまま呪いの設定を小出しして言ってもごちゃごちゃになると思うのでここで呪いについて解説したいと思います。

まず魔法もそうなのですが、呪いを使うには詠唱が必要です。
その詠唱は呪いの強さや種類によって変化します。

一番詠唱が短く済むのは設置型で、次は一時的な呪い、一番長いのは術者本人以外は誰も解けない消えない呪いです。
また呪いの強さによっても詠唱時間は変わってきますので、戦闘ではそれを計算して呪いを使う必要があります。
もちろん詠唱中に手が離れて、接触していなくなったら呪いは失敗します。
ですから呪い師は基本的に身体能力もそこそこは必要になってくる訳です。

また仲間には使えないというのは、そこに助けたい、や力になりたいと言う気持ちがあった場合発動しないだけです。
そのため仲間に死ねない呪いや傷が回復してしまう呪いを使えなくても死の呪いや苦痛を与える呪いを使うことは可能です。

ちなみに傷が回復してしまう呪いは拷問に使います。

だいたいこんな感じです。

今日はここまでです。

呪いで分からない事があったら聞いてください



病魔(病原菌)を呪うことで病気を治したりとかはできるの?

>>579

可能ですが、そこに助けたいという気持ちがあった発動できません。
捕虜や奴隷が病気になって死んでしまうと困る場合には発動できますが単純に誰かを救うためには使えないです。

大剣と刀は火花と轟音を鳴り響かせながら、何度も衝突しあっていた。
時には攻め、時には守り、二本の得物はスタイルを変えながらも、変わらぬ音と火花を散らす。

勇者の刀には防御と言うよりも受け流していると言う表現の方が適切かもしれない。
彼は大剣を真正面から受け止める事無く、出来る限り力を上下左右に逃がしながら戦っていた。

それはある意味で、彼の勇者像が変わったと言う意味もある。
勇者である以上正面から敵を受け止め、正面から敵を斬り捨てる。
それが彼の英雄道であり勇者道であった。

だが今は違う。
どんなに泥くさくても勝つ。
美しい敗北よりも醜い勝利にすがりつく。
今の彼は貪欲に勝利に喰らいつく、秩序の無い獣同然だった。

初めての敗北はあまりに苦しく、そして無様だ。
そして彼にとってそれは耐えがたい恥辱だ。

だからこそ彼は敗北を嫌った。
どんな策を使ってでも勝利を掴むと、そう決意した。

振り下ろされる大剣を交わしながら、勇者は刀を横に薙ぐ。

だがその攻撃も神父の超人染みた速度によって防御される。

「遅いなァ。それで勝てると思ってるのか?」


神父は下卑た笑顔を覗かせながら見え透いた挑発をした。

しかし勇者は表情を少しも変える事無く、刀を振り続ける。

金属音。
火花。

二つの影は近づいては離れてを繰り返し、攻守を変えながらぶつかり合う。

勇者は一歩前に踏み込みながら、相手の脳天目掛け刀を振り下ろす。
唸るような凶悪な声を上げながら刀と大剣が激突した。


『正義。魔力は』

『全然余裕。でもこの前と同じじゃ負けるんじゃ……』

『安心しろ。まだその時じゃないだけだ』


呼吸を調え、大きく踏み込む。
そして刀を振り下ろす。

だがやはり、その一撃は神父の大剣で受け止められた。


「ふんっ。馬鹿正直な攻撃を何度繰り返しても結果は同じだぞ」

「そんな事は、分かっている」


鍔迫り合いの得物同士はギチギチと悲鳴の様な音を上げながら擦れ合っていた。

肉体を限界まで強化した勇者でさえも、神父を押しきる事は出来ない。
むしろ気を抜けば、こちらが力で押し切られない状況だった。


「死を受け入れろ!! 小僧ォォォォ!!」


突然、今まで両手にかかっていた異様な力が抜ける。
勇者はそのまま前にふらつきながら数歩進み、バランスを立て直した。

理由はすでに分かっていた。
目の前にいた巨体はすでに彼の視界の中には居ない。

悪寒がした。
まるで体をナメクジが這いまわっているかのように全身が粟立つ。
氷の様に冷たい冷や汗が頬を流れた。

素早く体を反転。
振り向くと同時に相手の大剣を刀で受け止める。

両腕に突き刺さる様な痛みがはしり、両腕が痺れた。

だが、ここで押し負ければ今度こそ真っ二つだ。

感覚が消えかけた両腕が負けぬよう必死に大剣を押し止めた。
奥歯を噛み締め、両手足に力を入れる。
出来る限り両腕にかかる負担を分散させ、最低限の力で大剣を押し留める事に徹する。

神父は笑っていた。
それは聖職者とは到底思えないほど残虐で、殺意に満ちた狂気の笑みだ。

それに応える様に勇者の笑う。
だがこちらは純粋に戦闘を楽しむ、戦闘者の笑みだった。

磁石が反発しあう様に、お互いが同時に後ろに弾き跳ぶ。

二メートルほどの距離を開け、お互いに対峙する。

勇者は精神を研ぎ澄まし、刀に魔力を注いだ。
失敗しても戦闘に支障が出ない程度の。
しかし、当たれば神父を殺しきれるほどの。

風が集束し、刀に集まる。
風は刀を覆い、風と刀を一体化させた。

意識を集中。

それが途切れない様に必死に抑え込む。
そして不安定な風を必死に制御する。


「ふんっ。勝負に出るか?」

「ああ。勝算があるからな」


勇者は跳んだ。
それは風。
それ以外の表現方法は無かった。

風は何者に邪魔される事無く、真っ直ぐに進んだ。
二メートルと言う距離は一瞬で縮まり、勇者の刀の間合いになる。

一瞬。
刹那。

勇者の刀は振り抜かれていた。
それは何よりも速く、そして何よりも鋭い一撃。

もしもその一部始終を見た人間が居たとすれば、それをかまいたちと嵐と表現したかもしなかった。
それほどにまでその一撃は荒々しく、しかし鋭利だった。

木々が斬り飛ばされ、大地は深く抉られる。

だが、そこに血は一滴すら流れていない。
あるのは瓦礫と化した木と土だけだ。

荒れ地と化した場所に神父は居た。
そしてその正面に勇者は立っている。


「失敗だなァ」

「想定済みだ。それにあの程度でやられるとは思ってない。さすがにダメージが無いのは少し驚いたがな」


勇者は薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

今日はここまでです。

すいませんが今日は休みます。

明日には更新できるように頑張ります。

確かに神父は傷一つない。
まるで何事も無かったかのように薄ら笑いを浮かべながらその場に立っていた。

だがそれでもあの一撃を回避するのにかなりの体力を使ったようで息は荒く、肩で息をしたいた。

もちろん勇者の方もかなり負担になっており、膝はがくがくと笑い、腕も震えている。

お互いに消耗が激しいのは目に見えて分かった。

動き出したのはほぼ同時。
どちらも得物を担ぐように構え、上段から斬り下ろす構えだ。

もはやお互いに小細工を使う様子は無い。

正面からぶつかり合い、己の技量と力だけでねじ伏せ合う。


「小僧ォォォォォォォ!!」

「あ、がァァァァァァァ!!」


咆哮は荒れ地に消える。
だが二人の闘志は消えない。

勇者の刀が僅かに競り勝ち、神父をふら付かせる。

その一瞬、勇者は両手を大きく振り上げた。
だが、その両手に刀は無い。
底にあるのは両手だけ、刀は忽然と姿を消している。


「な!?」


態勢を崩しながらも大剣を頭上に構えていた神父の口から、そんな言葉が漏れる。
当然だ。
それほどまで、この現象は不可解で理解できないものなのだ。

剣士の命が無い。
その事実を理解できずにただただその両手を凝視している。

勇者の刀は消えた訳でも、消滅した訳でもなかった。
彼の刀は彼の肩のあたりで地面と平行のまま静止していた。
柄は勇者の方にあり、切っ先は神父の心臓の少し下辺りを向いている。

理屈は簡単だ。
勇者は刀を振り上げる瞬間に刀を離した。
刀は勇者に与えられた振り上げられる力と重力により、そこで一瞬だけ静止している。

彼は停止していた刀を掴み、そのまま神父目掛けて刀を薙ぐ。

人はこの剣技を『霞み剣』と呼んだ。
だがこの剣技は秘剣でも無ければ魔剣でもない。
忌み嫌われる悪剣だった。

もしもここが剣の道場で、彼がそこの生徒だったら、師範に小一時間怒られていただろう。
それほどまでこの技はあらゆる剣士から嫌われていた。
それほどまでにこの技は禁忌とされていた。

剣士とは何があっても得物で戦う者。
剣士は決して得物を離してはならない。
何故なら武器は剣士の命であり、それを失うと言う事は死を意味する。
それが故意に、しかも戦術としてそれをしたのなら、それは許されざる行為だ。

勇者の行為は剣士の誇りを捨てたのと同等だ。
己の誇りを捨て、卑怯な手で敵を討つ。

勇者はそれを嫌っていた。
もしそれをするなら負けてもいいと、死んでもいいとさえ考えていた。

だが今は違う。
今は負けが怖かった。
そしてここで死ぬわけにはいかなかった。

ならば、と彼は思う。
彼は誇りを捨てた。


自らが守ってきたものを自らの手で捨て、そして自らの手で別の何かを守った。

勇者の刀が神父に横一文字の傷をつける。

血が踊る様に飛び散り、神父も踊る様に後ずさりする。
口からも赤い液体が溢れ出ていた。

だが神父は倒れない。
神父は何も言わない。
ただその場に立ったまま何も言わずに立ちつくしている。

勇者も何も言わず立っていた。

勝負は決している。
だがどちらも何もせず、動かない。

無音。

風の音だけが時折聞こえるだけだ。

勇者の心がすうっと冷たくなっていた。
まるで冷水に入れられたように心が冷えていく。

勇者と神父は向かい合い、最後の対話を始める。

神父「それがお前の答えか」

勇者「ああ」

神父「剣士の掟を捨ててまで勝利が欲しいのか」

勇者「俺は正義の為に戦うと決めたんだ。こんな所で死ねない」

神父「ふんっ。笑わせる」

勇者「なんとでも言え」

神父「例え正義のためとはいえ、お前は誇りを捨てた。いや、穢した」

勇者「俺は罪を背負っている。今更穢すも無いさ」

神父「ふふ、ははは……はははははは!!」

勇者「何がおかしい!!」

神父「そうだ!! お前は罪人だ!! なら何故罰を受けない!!」

勇者「お、俺は正義をまっとうするまでは死ねない」

神父「お前もお前が殺した人間も同じく罪人。なら当然お前も死ぬべきじゃないのか?」

勇者「……俺には正義がある」

神父「正義。お前は正義を勘違いしていないか?」

勇者「……」

神父「正義とは己の指針のようなものだ。決して免罪符では無い!!」

勇者「違う!! おれは――――」

神父「違わないだろ。お前は自分に正義があるから死なないと言ってるのと同じだ」

勇者「……」

神父「違うか?」

勇者「……ち、がう」

神父「お前は中途半端だな」

勇者「何?」

神父「英雄になら人殺しと考えない。殺した人間はゴミだと言い捨て、己の信じる善をつき通し、悪を斬る」

神父「殺人鬼になら最初から正義など掲げない。ただ私利私欲のため戦い。相手の善悪に関わらず命を奪い取る」

神父「お前はどちらでもないし、どちらでもある。つまりは半端者だ!!」

勇者「……」

神父「そのくせただの一人の剣士になる気は毛頭無い。お前はなんだ」

勇者「俺は……俺は……」

神父「ふん。お前の様な人間は死ぬべきだ」

勇者「……黙れ」

神父「ならさっさと私を斬れ、小僧」

勇者「……」

勇者の刀が神父を斬る。


神父「……後悔しろ。豚の様に喚け。半端な貴様には……それがお似合いだ」

勇者「……」

神父「……」

勇者「……」

勇者「死んだか」

正義「勇者……」

勇者「……」

正義「大丈――――」

勇者「俺は……死にたい……」

正義「……」

勇者「でも、俺はそんな勇気すらない」

正義「勇者」

勇者「俺はどうすればいいと思う?」

正義「……」

勇者「きっと正しい事をしている人間は、いや、正しいと思って行動している人間は悩まない」

勇者「自分が悪い事をしていると俺は感じる。なら俺は神父の言うとおり、自分を殺さなくちゃいけない」

勇者「だがそんな勇気は俺には無いんだ……」

正義「でも、あなたは魔王を倒して世界を平和にしたいんじゃないの?」

勇者「俺を殺してくれ……俺には出来ない……」

正義「……」

勇者「お前が俺を苦しめて殺してくれ……」

正義「無理よ」

勇者「……」

正義「私はあなたを殺せないわ」

正義「それにあなたはどうなっても生きるために誇りを捨てたのよ。なのに死んでいいの?」

勇者「俺に生きる価値があると思うのか?」

正義「私には、分からない」

勇者「……俺にも分からん」

勇者「……」

正義「……」

今日はここまでです。

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勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「ど、どうだったんだ!?」

勇者「勝った……」

鍛冶屋「そ、そうか……」

魔法使い「良かったです……」

鍛冶屋「まあ、勇者が帰って来たって事は勝ったって意味だしな」

魔法使い「そ、そうですね」

老人「……良かったですね」

勇者「ありがとう……ございます」

老人「いえ」

正義「疲れた……」

魔法使い「だ、大丈夫ですか?」

正義「ええ、でも少し休みたい」

魔法使い「休んでて下さい」

正義「悪いわね……」ゴロン

勇者「……」

老人「私としてはどれだけいても問題ありませんから」

勇者「すいません」

老人「いえいえ」

勇者「……」

老人「どうなさいましたか?」

勇者「いえ、明日の朝には出ていきますので」

老人「そう急がなくてもいいですよ」

勇者「いえ。これ以上お世話になる訳にはいきませんから」

老人「そうですか」

勇者「いろいろありがとうございました」

老人「いえ、ろくなおもてなしも出来ず」

勇者「……」

老人「あなたに私が助言できる事は一つ。自分が納得できる答えを見つけなさい」

勇者「な!?」

老人「では」スタスタ

勇者「……」

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山道


勇者「……」スタスタ

鍛冶屋「勇者どうしたんだ」ヒソヒソ

正義「考え事よ。気にしなくていい」スタスタ

正義「それより何処に行くの?」スタスタ

魔法使い「和の町。刀を作れる職人が多くいる町です」スタスタ

鍛冶屋「楽しみだな」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さんは刀が作れるんですもんね」スタスタ

鍛冶屋「作れるって言っても出来栄えは全然だけどな」スタスタ

魔法使い「それでも凄いですよ」スタスタ

鍛冶屋「……あ、ありがとう」スタスタ

鍛冶屋「そういえば神父から魔王の情報は得られたのか?」スタスタ

正義「……あ、忘れてた」スタスタ

魔法使い「……」スタスタ

鍛冶屋「……」スタスタ

正義「ごめん……」スタスタ

魔法使い「いえ、いいですけど」スタスタ

鍛冶屋「まあ、他に知ってる奴等はいるだろ」スタスタ

魔法使い「そうですよ。気にしないで下さい」スタスタ

正義「……ありがとう」スタスタ

魔法使い「ほら、見えてきましたよ」スタスタ

鍛冶屋「うわっ。凄え!!」スタスタ

正義「元気ね」スタスタ

鍛冶屋「多分あの大きい建物で刀を作ってんだよな」スタスタ

魔法使い「そ、そうですかね?」スタスタ

鍛冶屋「やっぱ本場は凄いな……」スタスタ

勇者「……今回はどうする?」スタスタ

魔法使い「今回はみんなで行動しませんか? 神父みたいな強敵が出てくる可能性だってある訳ですし」スタスタ

勇者「そうだな。わかった」スタスタ

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和の町


鍛冶屋「まずは何処まわる?」

勇者「お前の好きな場所でいい」

鍛冶屋「ならあのでかい建物だな」スタスタ

勇者「わかった」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さん楽しそうですね」スタスタ

正義「あんなんでもちゃんとした刀鍛冶だからね」スタスタ

魔法使い「あんなんはひどくないですか?」スタスタ

正義「……少し言い過ぎたわね」スタスタ


それは民家を四個ほど合体させたほどの大きさで鉄製の四角い建物だった。


鍛冶屋「……入っていいのかな」

勇者「さあな」

鍛冶屋「……」コンコン

町人「ん?」ガチャ

鍛冶屋「入っていいかな?」

町人「え、ああ。構わないけど邪魔はしないでくれよ」

勇者「分かっている」

鍛冶屋「……」スタスタ

勇者「鍛冶氏は皆ここで仕事をしてるのか」

正義「凄いわね」

勇者「ん?」


建物の端には全長三メートルを超える巨大な刀が置いてあった。


勇者「……誰がこんなものを使うんだ?」

???「誰も使えない刀。でもそう言うのってロマンがあるだろ?」

今日はここまでです。

勇者「誰だ?」


それは黒髪の男だった。
髪は少し長めで肩より少し下くらいまで。それを後ろでしばり、ポニーテールの様に纏めていた。
布の服で腰には刀がさしてある。
顔は少し大人びており、きりっとした印象を受けた。


武人「ああ、すまん。俺の名前は武人だ」

勇者「……俺の名前は――――」

武人「知ってる、勇者だろ? 噂はよく聞いてる」

勇者「お前はこの町の?」

武人「うん、まあこの町の住人だな」

鍛冶屋「じゃああんたも鍛冶師か?」

武人「違う違う。俺は剣士。見た目で分かんないか?」

鍛冶屋「まあ、刀さしてるし、そうか」

武人「鍛冶師もいいと思ったんだけど剣士の方がロマンがあるし最強って感じがするだろ?」

勇者「言っている意味がよく分からんな」

武人「あはは。そりゃ残念だ」

勇者「……」

武人「同族なら分かってくれると思ったんだけどな」

鍛冶屋「同族?」

勇者「剣士にもいろいろな種類がいる、俺はお前とは違うタイプだ」

武人「そうか」

正義「……」

武人「そっちの人があんたの刀かい?」

勇者「……」

武人「……」

勇者「お前は」

武人「俺の刀の名前は真理。あんたは?」

勇者「正義だ」

武人「よろしく。正義」

正義「……ええ、よろしく」

真理「よろしく」


それは短い黒髪の少年だった。
遠目からでも美少年だとわかるその姿は眩しい。
西洋風の襟のある服を着ていた。

真理「主に会うのは久々だな」

正義「そう? 私は覚えてないわね」

真理「……無理もない。私だって記憶は曖昧だ」

正義「なら何で言うのよ……」

真理「ただの戯れだと思ってくれ」

正義「……」

武人「ま、と言う訳だ。よろしくな」

勇者「お前は魔王を倒す旅には出ていないのか?」

武人「まあ、そうなる。でもそろそろ出ていこうと思ってた所だよ」

勇者「……」

武人「英雄と逃亡者の噂も聞いてる。あった事は無いんだけどな」

勇者「お前の話など聞いたことが無かったが」

武人「まあ、俺はあんた達と違ってあんまり表立った行動はしてないからな」

勇者「……お前は何のために戦うんだ」

武人「あんたみたいな立派な理想は持ってないよ。俺は仲間を助けるために戦う」

勇者「仲間?」

武人「ああ。真理やこの町の知り合い、あとはこれからの旅で会う奴等。それを助けるために戦う」

勇者「……他の者達は」

武人「そりゃ助けられれば助けるさ。でも仲間が一番だろ?」

勇者「……」

武人「俺もあんたみたいに大きいロマンを持ってればよかったんだろうけどな……」

正義「……」

武人「あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また後で」スタスタ

真理「また会おう」スタスタ

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「なんだったんだ、あいつ」

勇者「わからん」

正義「なんて言うか……自分勝手な人ね」

勇者「……自分が話し終わったから帰って行ったな」

魔法使い「あの……」

鍛冶屋「ん?」

勇者「どうした」

魔法使い「さっきの真理さんなら何か知ってるんじゃないですか?」

勇者「……あ」

正義「確かに」

鍛冶屋「そうだな」

魔法使い「……」

勇者「後から聞くか」

正義「そうね」

魔法使い「大丈夫なんですか?」

勇者「少しはこの町にいるって言ってたんだ。大丈夫だ」

鍛冶屋「そこそこ大きい町だけど、なんだかんだで会えそうだしな」

正義「そうね」

魔法使い「まあ、武人さんもまた会おうって言ってましたし……」

鍛冶屋「それよりそろそろ宿屋探さくていいのか?」

正義「そうね。そろそろいい時間だし」

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宿屋  勇者達の部屋


勇者「……」

鍛冶屋「なあ、いつまで悩んでんだよ」

勇者「……分かってるんだが、どうしてもな」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「少し寝てみたらどうだ?」

勇者「……悪いな」

鍛冶屋「別にいいって」

勇者「……」ゴロン

鍛冶屋「……」

勇者「魔法使いとは何かあったか?」

鍛冶屋「いきなり何だよ」

勇者「別に、ただ少し気になっただけだ」

鍛冶屋「何もねえよ」

勇者「……そうか」

鍛冶屋「逆に何を期待してたんだよ」

勇者「別に……」

鍛冶屋「……」

勇者「お休み」

鍛冶屋「おい」

勇者「なんだ」

鍛冶屋「なに意味深な事言って寝ようとしてんだよ」

勇者「明日にでも魔法使いと手合わせするぞ」

鍛冶屋「え? 俺が?」

勇者「ああ、特訓の成果を試せ」

鍛冶屋「……って言っても、あの時だってボロ負けだったじゃん」

勇者「勝てば何か貰うとか何かしてもらうとかどうだ? やる気も多少出るだろ」

鍛冶屋「……考えとく」

勇者「……じゃあお休み」

鍛冶屋「ああ、お休み」

今日はここまでです。

読み方つけるの忘れてました。

真理(しんり)です。

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勇者「……ここは」

青年「こんにちは」

勇者「……」

青年「ああ、覚えててくれたんだ」

勇者「あ、ああ」

青年「まあ、忘れる訳ないか。テメェが最初に殺した人間だからね」

勇者「……」

勇者「これは、夢だ」

青年「……」

勇者「……」

青年「殺人犯だった俺を殺してからだよね。テメェが正義を夢見始めたのは」

勇者「ああ、あの後で俺は正義を志す様になったんだ」

青年「へー、そうだったんだ」

勇者「なんなんだ、この夢は」

戦士「他人を殺して人を幸せにしてる気分はどうだ?」

勇者「お前は……」

戦士「魔法使いを助けた事に酔ってんだろ。なあ、言ってみろよ」

勇者「これは……夢だ」

戦士「正義を盾に人殺しが出来るんだ。いい御身分だな」

勇者「……だからなんだと言うんだ。俺が人殺しなのは……変わらない」

盗賊「命乞いをする相手を殺して正義か……」

勇者「……」

戦士「お前はただの人殺しだ」

盗賊「お前は勇者なんかじゃない」

勇者「すまない……」

青年「そう思うなら罰を受けろ」

勇者「罰……」

神父「その通り」

勇者「……」

神父「罪を認めるなら罰を受けなくてはいけないじゃないのか?」

勇者「……」

神父「どうだ?」

青年「そうだろ」

戦士「罰を受けろ」

勇者「う……」

戦士「早く」

青年「早くしろ」

神父「罰を受けろ!!」

勇者「あ……ああ……」

青年「お前は正義に逃げた。正義と言う言葉を使えば罰は無いと思ったんだ」

勇者「……違う!! 俺は罰を受ける!!」

青年「どんな罰だ」

勇者「……俺は」

神父「まさか、償って死ぬなんて言うんじゃないぞ」

勇者「……」

神父「楽になろうとなど、考えていないだろうな?」

勇者「……」

戦士「苦しめ」

勇者「え?」

神父「お前は苦しむんだ」

勇者「……」

青年「苦しめ。俺達を殺した事を悔いて苦しめ」

勇者「……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……ん」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「……罰」

鍛冶屋「どうした?」

勇者「嫌な夢を見ただけだ」

鍛冶屋「……そうか」

勇者「……そうだな。俺は死ねない」

鍛冶屋「どうしたんだよ」

勇者「……」

鍛冶屋「?」

短いですが今日はここまでです。

すいませんが今日は休みます。

最近いろいろ忙しくてなかなか更新できなくてすいません。

勇者「鍛冶屋。どうすれば苦しめると思う?」

鍛冶屋「え、あ……んん?」

勇者「苦しみとは何だと思う?」

鍛冶屋「……哲学か何かか?」

勇者「……まあ、そんな感じだな」

鍛冶屋「……なんでまた突然」

勇者「この答えが知りたいんだ」

鍛冶屋「……言っとくけど俺個人の意見だからな」

勇者「ああ、分かってる」

鍛冶屋「苦しいってのは生きてる証拠だって聞いた事ある」

勇者「いや、そい言う意味じゃ無く……」

鍛冶屋「お前が何を求めているかによって回答は違うぞ」

勇者「そうだな……すまん」

鍛冶屋「いや、いいんだけどさ」

勇者「……お休み」

鍛冶屋「寝れるのか?」

勇者「ああ、多分」

鍛冶屋「……」

勇者「俺は明日一人で行動する。お前達は三人で行動してくれ」

鍛冶屋「あ、ああ。わかったよ」

勇者「……」

鍛冶屋「納得できたのか?」

勇者「いや、だが納得できる答えを探すつもりだ」

鍛冶屋「……見つかるといいな」

勇者「ああ」

鍛冶屋「……」

勇者「お休み」

鍛冶屋「ああ、お休み……」

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次の日の朝 町中


勇者「……」

勇者(ダメだ。何も分からない)

勇者「答えが無い。何をどうすればいいのか、一切考えつかん」

勇者「……」

勇者「あれは、あの夢は結局なんだったんだろう……」

勇者「俺の気持ち?」

勇者「ダメだ……」

女秘書「勇者様?」

勇者「……女秘書さん?」

女秘書「この町に来ていたのですか」

勇者「はい。あなたは何故ここに?」

女秘書「武器の調達です。最近魔物の動きが活発になっていて、城にもたびたび現れているので」

勇者「そうですか」

女秘書「勇者様こそ、こんな朝早くにどうかされたのですか?」

勇者「……少し、悩み事を」

女秘書「お聞きしてもよろしいですか?」

勇者「構いません」

勇者「あなたにとって正義とは何なのですか?」

女秘書「正義ですか?」

勇者「……はい」

勇者「もちろん、人それぞれ持っている正義が違う事は知っています」

女秘書「ええ、正義の反対はまた別の正義と言う言葉もありますから」

勇者「私も絶対的正義も絶対的悪も存在しないと言う事は十分理解しています」

女秘書「では何故そんな事を?」

勇者「最近正義が分からないのです。今まで私が信じてきたものが正しかったのか、自信が無いんです」

女秘書「……正義かどうかはわかりませんが、私は山の町の人々が幸せに暮らすために努力しています」

勇者「そうですか」

女秘書「……」

勇者「……」

女秘書「すいません、全然話が無くて」

勇者「いえ、こちらこそ聞いておいてすいません」

女秘書「勇者様の正義を教えてもらえませんか?」

勇者「罪の無い人が幸せに生きられる世界を作る事、それを守る事です」

女秘書「……それではダメなのですか?」

勇者「そのためとは言え、罪人を殺す私自身も罪人です」

女秘書「……そうですね」

勇者「……私は罪人を殺してきました。罪人を罰していたんです」

女秘書「でも、自分は何故罰されないのか、と言う事ですか?」

勇者「はい……」

女秘書「……」

勇者「今はもう、自分の正義すらも見失いそうなんです……」

女秘書「……勇者様」

勇者「……」

女秘書「私は偉そうな事は言えませんが、ですが悩む事は悪い事ではないです」

勇者「……」

今日はここまでです。

勇者のこの話ですが、少し長くなるかもしれません。



若本「絶対的正義とは神の教えに従う事!」
若本「そして絶対悪とは神を疑ったり教えに背く事だ!ィエイメェェェェーーーーン!!!」

女秘書「それに正義は人それぞれ違うもの、ならばその答えも勇者様だけのものです」

女秘書「ならその答えは勇者様しか持っていないのですよ」

勇者「……そうですね。そうかもしれません」

女秘書「私が口出しできるのはこれくらいです。偉そうに申し訳ない」

勇者「いえ、こちらこそ申し訳ないです」

女秘書「では、そろそろ行きますね」スタスタ

勇者「はい、いろいろありがとうございます」

女秘書「勇者様、最近魔物が増えています。お気をつけて」スタスタ

勇者「あ、はい」

正義「……」

勇者「いつから居たんだ?」

正義「少し前よ。ほんの少し前」

勇者「……」

正義「で、何か分かった?」

勇者「……結局答えは自分で出すしかないと思い知った」

正義「結局の所あなたはどうしたいの?」

勇者「……」

正義「まあ、仕方ないのかもね」

勇者「……」

正義「今のあなたが答えを出せるなんて私だって思ってないし」

勇者「俺だって思えない」

武人「あ、昨日の今日でまた会った」スタスタ

勇者「武人……」

武人「……疲れた顔してるね」

勇者「ん、ああ」

武人「昨日も何か悩んでたよな」

勇者「少しな」

真理「悩みは迷いを生む。刀も鈍るぞ」

正義「そんな事勇者だって理解してるわよ」

勇者「あ、ああ」

武人「俺でよかったら聞くよ?」

勇者「……俺は罰を受けるべき人間だ。なら罰を受けるべきか?」

武人「そんなもんあんたの勝手だよ」

勇者「……」

正義「ちょっと、何その無責任な言葉!!」

武人「待って待って。まだ最後まで話し終わってないから」

正義「……」

武人「罪の意識って言うのは人それぞれだろ。だから罰を受けるかどうかもあんた次第って事だよ」

正義「まあ、そうかもしれないけど」

武人「罪も罰の結局は自己満足だ」

勇者「だが……」

武人「ああ、言いたい事は分かるよ。そんな事じゃあ納得できないんだろ」

勇者「……ああ」

武人「なら罪を受け入れて罰を受ければいいんじゃないのか?」

勇者「……」

正義「それがあなたの考え方なのね」

武人「深読みしたくなる言い方だ。でも嫌いじゃない」

勇者「なら、俺は罰を受ければいいのか?」

武人「だからそれはあんた次第。あんたがそうしたいなら受け入れればいい」

勇者「……」

真理「ここまで芯がぶれていると逆に面白い。いや、もはや芯など存在しないのか?」

武人「真理」

真理「すまない。今のは無しだ」

正義「……」

真理「……」

武人「今回は明らかに真理が悪い。頭を下げろ」

真理「……」


真理は正義と勇者に頭を軽く下げる。


武人「俺からも謝る。悪かった」

勇者「いや、いいんだ。俺が悪い」

武人「一回原点に返ってみたらいい。あと決断したらそれ以外は信じるな。全部戯言だと思ったほうがいい」

勇者「ありがとう」

武人「いや、いいんだ。じゃあ俺は一足先に砂漠の町に行ってるから。どうせあんたも後から来るんだろ?」

勇者「……多分そのつもりだ」

武人「なら良かった」

真理「主は信義と勝利に会ったか?」

正義「え、ええ。会ったわ」

真理「使い手はどんな者達だ」

正義「どんなって……みんな個性的って言った方がいいのかしら」

真理「そうか」

正義「どうしたの?」

真理「いや、聞いてみただけだ」

正義「……」

武人「じゃあ、砂漠の町で」スタスタ

勇者「ああ……」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

神父「……」

勇者「またか……」

神父「答えは、出たのか?」

勇者「……」

神父「貴様は罰を受ける必要がある」

勇者「ああ、その通りだ。俺は罰を受ける」

神父「何時だ。どんな罰を受ける」

勇者「……」

神父「所詮貴様は口先だけの愚か者だと言う事か」

勇者「違う」

神父「なァにが違う!!」

勇者「待っていろすぐに俺は罰を受けてやる」

神父「ほう?」

勇者「安心しろ。そう簡単に楽になろうとは思っていない」

神父「……ふん。死ぬ気はないと言う事か」

勇者「ああ」

神父「……」

勇者「……」

神父「お前は死ねない。苦しめ」

勇者「ああ」

神父「死ぬほどの苦痛を味わえ」

勇者「ああ」

神父「自分の罪の重さを知れいィィ!!」

勇者「ああ!!」

勇者「俺は罰を受ける。そして罪を背負い、罰を受け正義を全うする」

神父「どんな罰を受ける気だ」

勇者「……殺した分だけ苦痛を受ける」

神父「……」

勇者「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

鍛冶屋「また夢か?」

勇者「まあ、そんな所だな」

鍛冶屋「大丈夫か?」

勇者「ああ」

鍛冶屋「……どうした?」

勇者「いや、分かったんだ」

鍛冶屋「……何が?」

勇者「苦しいのは生きてる証拠。なら必死に生きれば苦しめる」

鍛冶屋「まあ、そうだな」

勇者「それもいいと思う。だが俺はそれ以上の苦痛を受ける必要があるんだ」

鍛冶屋「?」

勇者「鍛冶屋、行くぞ」スタスタ

鍛冶屋「あ、おう」スタスタ

勇者「魔法使い、いるか?」コンコン

魔法使い「え、はい」

勇者「……」ガチャ

魔法使い「え、なんですか?」

勇者「今から俺が言う事に何も言わず、何も考えず従ってくれないか」

魔法使い「え?」

勇者「頼む」

魔法使い「ど、どういう意味ですか?」

勇者「そのままの意味だ」

魔法使い「……」

勇者「何も聞かないでくれ。何も考えないでくれ」

魔法使い「わ、分かりました」

勇者「じゃあ、頼む」

鍛冶屋「なあ、何言ってんだよ」

勇者「こうすれば俺は迷わなくなれる。きっと」

鍛冶屋「本当にか?」

勇者「ああ。罰を受けながら生きれば俺は自分を正当化できる」

勇者「魔法使い。頼む」

魔法使い「……はい」

鍛冶屋「本当にいいのか?」

勇者「ああ。俺が決めた事だ」

鍛冶屋「……」

勇者「人を殺したら死ぬほどの苦痛が俺を襲う様に呪いをかけてくれ」

魔法使い「……わ、わかりました」


魔法使いは右手を勇者の胸に当て、呪いを詠唱する。


勇者「……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「お、終わりました」

勇者「……ありがとう」

魔法使い「本当によかったんですか?」

勇者「俺が決めた事だ」

鍛冶屋「相談してくれればよかったのに」

勇者「俺で解決しないと意味が無かったんだ。すまない」

魔法使い「どういう事ですか?」

勇者「自分で決めなければ意味が無いんだ。それでは甘えてしまう」

魔法使い「……」

鍛冶屋「だからか?」

勇者「ああ。ヒントは貰っていい。だが決断は自分でする」

鍛冶屋「で、その答えがそれか?」

勇者「ああ。俺の答えだ」

魔法使い「あの……」

勇者「なんだ」

魔法使い「多分今日の夜にもその苦痛があると思います」

鍛冶屋「え、でも殺してないだろ」

魔法使い「今まで殺した人達の罪の分です」

鍛冶屋「……」

勇者「お前の独断か?」

魔法使い「はい。でもそれだと不公平だと思って……」

勇者「……いや、それでいい」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


体が焼ける様な痛み。
針を刺される様な痛み。
剣で切り刻まれる様な痛み。

その痛みが同時に勇者の体を襲っていた。

苦しい時は声を出すと楽になれると言う。
だが勇者の痛みはもはやそれすら通り越し、声を出す事で更なる痛みを生むだけだった。

もちろん外傷的な傷は無い。
だが勇者の体には確かにその痛みが襲っているのだ。

体を一ミリたりとも動かせない。
痛みで視界が霞み、周りの世界と遮断される。

これでいい。
そう勇者は感じる。

これは生きている証だ。
死んでいる者はこれすら感じられない無の世界にいる。

ここで苦しんでいる間は生きている。
生きていられる。

この死よりも苦しい痛みも心地いいと感じる自分が居る事に勇者は気付いた。

もやもやした何かが晴れる様な、何とも言えない感覚が体の中で消化されていく。


「罰は……受ける。受け入れる……」


喉を焼かれる様な激しい痛みが襲う。

だが勇者はそれに耐え、また無言のまま痛みに耐え続けた。

気絶はしない。
もし万が一にそうなったとしても苦痛がそれを呼び起こすからだ。

内臓を掻きまわされる様な痛みも勇者は無言のまま耐え続けた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


鍛冶屋「……」ガチャ

魔法使い「勇者さんは?」

鍛冶屋「苦しんでる」

魔法使い「そうですか……」

鍛冶屋「凄い辛そうだったんだけど」

魔法使い「かなり苦しい呪いをかけましたから」

鍛冶屋「……」

正義「その方が勇者にとってはいいのよ」

鍛冶屋「そうか?」

正義「勇者が望んだ事なんだから。それに中途半端な痛みじゃ勇者自身が納得できないと思うし」

鍛冶屋「まあ、そうだな」

正義「詳しい様子はどうだった?」

鍛冶屋「苦しそうだったけど、何にも言わなかった……言えなかったのかな」

正義「まあ、そんなに喚くタイプじゃないし、我慢できてるって事なんじゃないの?」

鍛冶屋「だといいんだけどな」

魔法使い「余計な事しちゃいましたかね」

正義「いいんじゃない? 勇者もそんなに気にしてるふうでもなかったし」

魔法使い「だ、だといいんですけど」

正義「まあ、大丈夫よ。精神は最高に弱いけど、肉体は強いから」

鍛冶屋「的確な表現だな」

正義「でしょ」


ガチャ


勇者「……」

魔法使い「ゆ、勇者さん!? だ、大丈夫ですか!?」

勇者「大丈夫だ」

鍛冶屋「……思ったより元気?」

勇者「明日、砂漠の町に行く」

魔法使い「はい」

鍛冶屋「分かった」

正義「砂漠の町ってここから一番近いの?」

勇者「ああ。それに武人も今砂漠の町にいる」

正義「ふーん」

鍛冶屋「砂漠の町って何があるんだ」

勇者「砂漠の国の王女が居る。そのお方に会いに行く」

鍛冶屋「王女?」

勇者「王女だ」

正義「明日の朝には出発する」

魔法使い「荷物の準備だけしておきましょうか」

正義「そうね」

鍛冶屋「俺達は荷物少ないもんな」

勇者「そうだな」

正義「邪魔だから部屋に帰ってくれない?」

鍛冶屋「……あ、ああ」

勇者「じゃあまた明日」

魔法使い「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





姫「初めまして。私は姫です」

小鳥「……チチッ」

姫「ごめんなさい……お茶でも出せればいいんだけど、誰も居なくて」

小鳥「チチチッ……」

姫「あ、気にしないで。別にあなたが悪いんじゃなくて……その」

小鳥「……」

姫「機嫌悪くした?」

小鳥「ピチチ……」

姫「あ、ありがとう。うれしい」

逃亡者「姫様。紅茶です」

姫「あ、シロ。ありがとう」

逃亡者「いえ、あとこちらはお客様の分です」カチャ

姫「ありがとう」

逃亡者「……」

姫「どうしたの?」

逃亡者「いえ、何でもありません」

姫「変なシロ」ニッコリ

逃亡者「……申し訳ない。私が不甲斐無かったばっかりに……」

姫「シロ?」

逃亡者「……すいません。姫――――」


姫は逃亡者を抱きしめる。


姫「怖がらなくていいのよ、シロ。私が付いてる」

逃亡者「……はい。ありがとうございます」

姫「……」

逃亡者「……」

姫「大丈夫?」

逃亡者「はい。見苦しい所をお見せしました」

逃亡者「私は辺りを見てきます」

姫「気をつけてね」

逃亡者「はい」スタスタ

信義「……柄にもなく嘆いてたわね」

逃亡者「そうか? 俺はいつもと同じなんだけどな」

信義「まったく、素直じゃないのね」

逃亡者「世界一裏表の激しい女にそんな事言われる様じゃ俺もヤバいのかもな」

信義「ええ。本当に不味いと思うわ。早く精神病院に行く事をオススメするわ」

逃亡者「お前の病気が治せるような名医のいる病院なら行ってもいいかな」

信義「とびっきりの名医を探してあげるわ」

逃亡者「楽しみにしとくよ」

信義「……で、次は何処に?」

逃亡者「砂漠の町」

信義「また遠くね」

逃亡者「砂漠の女王に会っておこうと思ってね」

信義「どんな人なの?」

逃亡者「詳しくは知らないけど、凄い人らしい」

信義「へえ」

逃亡者「少し休んだらすぐ出発する」

信義「了解」

今日はここまでです。

明日は少し出掛ける用事があるので休ませてもらいます。
すいません。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


竜の山


少年「……」

少女「……」

老人「どうかしましたか?」

少女「お姉ちゃんが今どうしてるかなって思って」

老人「……さてね、でも元気なんじゃないですか?」

少年「おじいちゃんはお姉ちゃんが何で出ていったのか知ってるの?」

老人「ん、まあ、はい」

少年「教えて」

老人「……」

少女「私も聞きたい」

老人「……竜と人の間の者だったんですよ。あの子は」

少女「そう、なんだ」

少年「……」

老人「君達は竜でいると決めた身ですが、彼女は結局選べなかった」

少年「それで出ていったの?」

老人「ええ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


砂漠の町


勇者「……大きな町だ」

魔法使い「本当ですね」

鍛冶屋「あのでかい城がそうなのか?」

魔法使い「はい。あそこにいつもいるそうです」

鍛冶屋「外には出ないのか?」

魔法使い「はい。出てないみたいです」

鍛冶屋「ふーん」

町人「……」チラチラ

正義「何なのかしら。あの嫌な見方」

勇者「お前が気にする事じゃない。多分俺だ」

正義「……でも気になる」

勇者「我慢しろ」

正義「……」

勇者「行くぞ」スタスタ

勝利「……」

正義「ん、あれって……」

勇者「……ああ」

鍛冶屋「戦うのか?」

勇者「気が早い」

魔法使い「でも、相手も相手ですし……」

勇者「ああ、だがこちらからは戦闘は仕掛けない」

正義「……」

勇者「なんだ」

正義「別に、ただ変わったなって思っただけ」

勇者「……」

勝利「……あ」

正義「気付いたみたいね」

勝利「あんた達もこの町に?」

勇者「ああ、英雄はどうした」

勝利「……」

勇者「どうした」

勝利「え、えっと、その……」

正義「何か隠してるの?」

勝利「いや、そう言う訳じゃないんだけど……その……」

鍛冶屋「つーか、なんでケーキ屋の前なんかにいるんだ?」

魔法使い「あ、本当ですね」

勝利「いや、べ、別に深い意味は無いんだけど……」

勇者「……まさか英雄が誰かに連れ去られたのか?」

勝利「違う違う!! 英雄はそんなに弱くないよ」

勇者「なら何処にいる」

勝利「なんでそんなに英雄に会いたいの?」

勇者「謝りたい事がある」

勝利「英雄は気にしてないと思うけどな……」

勇者「俺は気にしてる」

勝利「……」

勇者「……」

鍛冶屋「さっさと教えてやれよ」

魔法使い「お願いします」

勝利「う、うん。俺も教えてあげたいんだけど……」

正義「どういう事なの?」

勝利「少し出掛けてて、ここで待ってて欲しいって言われたんだ。だから俺も居場所はわかんない」

勇者「……そうか、だがここで待っていれば来るんだな?」

勝利「あ、え……ま、まあそうだけど……」

勇者「ならここで待たせてもらおう」

勝利「きっと時間かかると思うんだけどな……」

勇者「構わない」

勝利「……こっちが困るんだよな……」ボソッ

魔法使い「ならこの中で待ってればどうですか?」

勇者「そうだな」

勝利「待って!!」

勇者「なんだ」

勝利「ここのケーキ屋高いんだ。だからもっと安い所の方がいいと思うんだ」

正義「詳しいわね」

勝利「あ、う、うん……まあ」

魔法使い「でもたまには奮発してもいいんじゃないですか?」

鍛冶屋「そうだよな。貧乏旅だし」

正義「あなたも一緒に来る?」

勝利「え?」

勇者「お互いに知り合うのも大切だ。一緒に中で話さないか?」

鍛冶屋「いいのか? なんか因縁あるみたいだけど」

勇者「いい。昔の事だ」

勝利「お、俺は待たなくちゃいけないから……」

勇者「遅くなるんだろ、なら少しくらい大丈夫だろう」

勝利「……」

正義「じゃあ行きましょうか」

鍛冶屋「つーか、ケーキって初めて食べるんだけど」

魔法使い「ケーキって売ってる場所少ないですからね」

勇者「どうした」

勝利「何でもない……」

今日はここまでです。

勇者「……」ガチャ

鍛冶屋「人多いな」

魔法使い「みんな好きなんですね」

正義「そんなにおいしいのかしら」

英雄「おいしい」モグモグ

勇者「……」

英雄「やっぱり来てよかった」モグモグ

勇者「……英雄」

英雄「!?」

勇者「久しぶりだな」

英雄「あ、ああ」

勇者「元気そうだな」

英雄「ああ。お前の方も顔つきが変わったな」

勇者「……」

英雄「何か分かったのか?」

勇者「まあ、少しな」

英雄「それなら私と――――」

店員「チョコレートケーキお持ちいたしました」

英雄「頼んでない!!」

店員「何言ってるんですか。ついさっき頼んだじゃないですか」

英雄「何かの間違いだ!!」

店員「……申し訳ございません」

英雄「……」

店員「ですが、このケーキを捨てるのも勿体無いのでよかったら食べますか?」

英雄「あ、ああ。勿体ないからな」

店員「彼氏さんの前だから恥ずかしかったんですね」ボソッ

英雄「!!」///

勇者「……好きなのか」

英雄「な、何がよ!!」

勇者「いや、ケーキが」

英雄「べ、別に好きじゃないわ。ただ勿体ないって言うから」

勇者「今まで食べてただろ」

英雄「あ、あれは知り合いが食べに行けって言ったから、ケーキ屋にきてケーキを食べないのも変でしょ」

勇者「じゃあ好きじゃないのか?」

英雄「あ、当たり前じゃない!! 嫌々食べてたの」

勇者「じゃあそのケーキ貰っていいか?」

英雄「え……」

勇者「嫌々食べるのは勿体ないだろ」

英雄「……」

勇者「……」

英雄「……うう」ウルウル

勇者「……泣くな」

英雄「な、泣いてないわよ。うううっ……」ウルウル

勇者「……」

英雄「ここのケーキ屋。チョコレートケーキが有名なのよ……」

勇者「食べればいいだろ」

英雄「……」

勇者「食べたいんだろ?」

英雄「べ、別に食べたくなんかないもん」

勇者「……」

英雄「……」

勇者「やっぱり俺はいい。お前が食え」

英雄「え、いいの?」

勇者「甘いものは得意じゃないんだ。お前が食え」

英雄「……」

勇者「俺が――――」

英雄「し、仕方ないわね。じゃあ勿体ないから」モグモグ

勝利「英雄」

英雄「……な、なんだ」

勇者(口調が戻ったな)

勝利「ごめんね。止めたんだけど」

英雄「な、何の事を言ってるのかさっぱり分からないけど、まあいいわよ」

勇者「……」

英雄「な、なんだ」

勇者「いや、何でもない」

正義「……あ、ここにいたんだ」

勇者「ああ。英雄、あとで話がある」

英雄「わ、分かった」

勇者「じゃあまた後で」

英雄「そうだな」

勇者「あと顔にチョコついてるぞ」

英雄「……」///

勇者「行くぞ」スタスタ

正義「ええ」スタスタ

勝利「何の話してたの?」

英雄「ただの世間話だ」

勝利「そうなんだ」

英雄「……見られたぞ」

勝利「あ……」

英雄「……」

勝利「うん、ごめんね」

英雄「……まあ、いいんだが」

勝利「チョコついてる」

英雄「もう分かった!!」

短いですが今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


武人「思ったより広いんだな。この町」

真理「……」

武人「静かだな」

真理「少し考え事をしてただけだ」

武人「中断させて悪かったな」

真理「気にはしていない。それにこれは俺の問題だ」

武人「何について考えてたんだ?」

真理「剣士とは何か。騎士道とは何か」

武人「また難しい事を考えてるな」

真理「主には分からんか」

武人「よほどの人間じゃ無けりゃ分かんないと思うぞ」

真理「かもしれんな」

姫「うふふ。今日もいい天気よお母様」

逃亡者「急がなくても大丈夫ですよ。姫様」

姫「ふふ、うふふふふ」スタスタ

信義「ご機嫌ね」スタスタ

逃亡者「嬉しい事だね」スタスタ

武人「……」スタスタ

真理「……」スタスタ

逃亡者「へえ、お前がそうなんだ」

武人「……あんたもか」

逃亡者「ああ、その通り」

武人「……」

逃亡者「もしかして予想外だったりした?」

武人「まさか、見た目で他人を判断する様な人間じゃないよ」

逃亡者「そうか」

武人「そう見えるか?」

逃亡者「うん、見えないね」

真理「お主こそ騎士道が足りていない様に見えるが?」

武人「真理」

逃亡者「ははは。そうかもしれないな」

逃亡者「ああ、自己紹介が遅れたね。俺は――――」

姫「シロ」

武人「?」

姫「シロよ」

逃亡者「……」

信義「本名は逃亡者。私は信義よ」

逃亡者「あ、補足ありがと」

信義「どういたしまして」

武人「俺は武人。そっちは真理だ」

真理「よろしく頼む」

姫「ふふ、鳥さん」

逃亡者「で、あそこにいるのが姫」

信義「一応私達が仕えてる人よ」

逃亡者「補足ありがと」

信義「どういたしまして」

逃亡者「他の奴らには会った?」

武人「勇者には会った」

逃亡者「へえ、あいつに……」

武人「多分この町に来るぞ」

逃亡者「そりゃ楽しみだ」

武人「なんでだ?」

逃亡者「あいつ面白いからな。まあ、少しは成長したと思うけど」

武人「あと一人がどんな人かは知ってるのか?」

逃亡者「ああ、そいつは女だ」

武人「……そう言う情報は別にいらないんだけどな」

逃亡者「ごめんごめん。火を操る剣士って感じかな」

真理「ほう、面白い能力だな」

逃亡者「お前はどんな能力なの?」

武人「悪いけどそんなに簡単に人に能力は話せないな。敵になるかもしれないし」

逃亡者「そりゃそうだ」

武人「……あんたとは仲良く出来そうな気がするよ」

逃亡者「奇遇だな。俺もだよ」

武人「……」

逃亡者「……」


逃亡者と武人は握手をする。


武人「もう王女には会った?」

逃亡者「いや、これから」

武人「なら一緒に行かないか?」

逃亡者「……いいよ」

武人「なら行くか」

逃亡者「いいのか? そんな簡単に信用して」

武人「自分の身くらい自分で守れるさ」

逃亡者「まあ、そうだな」

信義「なんか楽しそうね」

真理「まあ、いいではないか」

姫「みんな仲良し。ふふっ」

信義「そうね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


砂漠の城 客間


勇者「……久しぶりだな」

逃亡者「ああ、久しぶり……」

武人「早かったな」

勇者「お前が遅いんだ」

武人「そうか?」

勇者「そうだ」

鍛冶屋「元気そうで」

姫「五日の小鳥さん。お元気でしたか?」

鍛冶屋「まあ、はい」

姫「そう。なら良かった」

魔法使い「あの時のお姫様……ですよね」

鍛冶屋「ああ。まあいろいろあったんだよ」

逃亡者「いきなり斬りかかってこなくなったね」

勇者「……無駄な殺しはしない」

逃亡者「へえ、成長したんだ」

勇者「ただ殺す相手は俺が選ぶだけだ」

逃亡者「ふーん、どうして?」

勇者「俺は神では無い。なら全ての罪を平等には裁けない。だから俺が自分で見極めて斬る」

逃亡者「それで俺は斬るに値しないと」

勇者「現段階ではな」

逃亡者「……少し成長したね」

勇者「……考え方が変わっただけだ」

武人「顔付きが変わったな」

勇者「そうか」

逃亡者「満足いく答えじゃないけど、近づいてはいるよ」

勇者「……」

今日はここまでです

ガチャ


英雄「失礼しま――――」

逃亡者「ハロー。元気そうで何よりだ」

英雄「なんでお前がここに」

逃亡者「細かい事は気にしない。それに今は俺の国でもお前の国でもない。そして俺もお前も客人だ」

英雄「……」

逃亡者「面倒臭い事にはしないでおこうぜ?」

勝利「……ここはあいつの言うとおりだよ」

信義「あら、珍しく物分かりがいいのね。少し見直したわ」

真理「口が悪いな」

正義「ああいうのは死んでも治らないわよ」

信義「あんた達も十分口が悪いから安心しなさい」

真理「使い手の器が知れるな」

武人「真理。少し口に気をつけろ」

真理「すまんな」

正義「これで全員揃ったわけね」

逃亡者「いや、後は魔王の剣、『邪悪』が残ってる」

鍛冶屋「邪悪?」

英雄「魔王が持っている剣で、人格を持った最初の剣だ」

魔法使い「つ、強いんですか?」

信義「人格を持つ剣に強いも弱いも無いわ。ただその剣に認められれば使える。それだけよ」

正義「形状や強度。重さとか細かい違いはあるけど根本的に大きな違いは無いわ」

真理「強いて言うなら魔力の保有量の若干の違い程度だな」

砂漠の女王「遅くなりました」ガチャ


部屋に入っていたのは紫のドレスを着た美女だった。
髪は赤みがかった黒で長さは腰程度。
頭の上には綺麗な髪飾りがつけてあった。


逃亡者「大丈夫。そんなに待ってないから」

砂漠の女王「……突然の無礼で悪いのですが、四人と話し合いがしたいので少し席を外していただけませんか?」

鍛冶屋「……あ、すいません」

信義「私達も?」

砂漠の女王「お願いします」

信義「……別に構わないけど」

勇者「先に宿屋に帰っててくれ」

魔法使い「あ、はい」

逃亡者「信義、姫様を頼むよ」

信義「ええ」

魔法使い「あの、なんでしたら、私達の宿屋に来ますか?」

信義「え、そ……」

逃亡者「好きにしなよ」

信義「ありがとう」

正義「感謝しなさい」

信義「少なくともあんたには感謝しない」

鍛冶屋「じゃあ勝利と真理はこっちに来るか?」

真理「……よろしく頼む」

勝利「お願いします」

魔法使い「じゃあ、また後で会いましょうか」ガチャ

勇者「ああ」

真理「じゃあまた後で」

武人「分かってる」


ガチャン


武人「あ、俺は武人。よろしく」

英雄「英雄だ。よろしく」

砂漠の女王「……まずは無礼をお詫びします」

逃亡者「いいよ、元々女王に大人数で会おうってのが間違ってるんだ」

勇者「私達に非があります。気にする必要はありません」

砂漠の女王「そうですか。ありがとうございます」

砂漠の女王「ですが、あなた方全員を集めたのは私です。ですから予想は出来たはずなのですが……」

英雄「あなたがですか?」

砂漠の女王「はい」

武人「またどうして」

砂漠の女王「……あなた方全員に話があります」

逃亡者「ふーん」

勇者「話とはどのような」

砂漠の女王「ここ最近魔物の活動が活発なのはご存知ですか?」

逃亡者「知ってるよ。ここに来るまででもかなり襲撃された」

武人「俺の方もだ。特に凶暴な連中だらけだった」

砂漠の女王「ええ。最近は城の周りも魔物が多く、非常に危険です」

勇者「……」

英雄「前置きはそのくらいで結構です。本題へ」

逃亡者「……結論を急ぐなとは言わないけどさ。もう少し相手のペースに合わせてあげなよ」

英雄「私は暇ではない」

勇者「さっきまで――――」

英雄「お前は黙っていろ!!」

勇者「……」

砂漠の女王「分かりました。単刀直入に申し上げますと、連合軍を結成したいのです」

勇者「連合軍?」

砂漠の女王「はい。あなた方にはその話を各国に持って帰っていただきたい。そしてあなた方四人に特別部隊として動いていただきたい」

逃亡者「待てよ。三人はいいとしても、俺は罪人だぞ。国に帰っても何にも出来ない」

砂漠の女王「国の方へは私が直に交渉をします。特別部隊の件についても私が何とかいたします」

武人「俺はどうすればいいんだ?」

砂漠の女王「和の町の長にその話を持っていって下さい」

武人「……あと特別部隊って、何が違うんだよ」

砂漠の女王「あなた方は人格を持つ剣の使い手。ですからあなた方には魔王討伐をしていただきたい」

英雄「……滅茶苦茶だな」

砂漠の女王「おっしゃる通りです」

英雄「利益も得も無い。そんな話に乗ると思うか?」

砂漠の女王「……」

武人「他の二人はどう?」

勇者「どちらでもいい。と言うのが本音だな」

逃亡者「同じくだ」

武人「俺は協力した方がいいと思うけどな」

英雄「得が無いだろ」

武人「各国で資金を出し合えばその分の負担も分担できるだろ」

英雄「失敗したら全部無駄になる」

武人「それはどこの国も同じ事じゃないか」

勇者「だが負担が減るのは利益か?」

武人「……まあ、確かにな」

英雄「四人もいらん魔王など私一人で事足りる」

逃亡者「凄い自信だね。でも知ってる? 自信も過剰過ぎると身を滅ぼすんだよ」

砂漠の女王「その辺りにしていただけますか」

勇者「……いえ、失礼しました」

砂漠の女王「とりあえず、自国にその話を持ち帰っていただけますか」

勇者「分かりました」

英雄「一応王には話す。だが答えは決まっている」

武人「とりあえず話してみるよ」

逃亡者「あいつの事だから断ると思うけど、どうするの?」

砂漠の女王「策はあります」

砂漠の女王「では、私の話は――――」

旅人「ちょっと待ってもらってもいいですかね」

勇者「……」

逃亡者「……」

英雄「……」

武人「……」

砂漠の女王「……あなたは?」

旅人「そちらさん四人にはもう何かしら会ってるんで、あっしの事は知ってると思いますら聞いてみてくだせぇ」

今日はここまでです。

勇者「そうなのか?」


武人、英雄、逃亡者は一斉に頷く。


旅人「そりゃあ、あっしの仕事はあなたさんがた四人の見張りですから」

勇者「お前一人でか?」

旅人「まさか。さすがのあっしも一人じゃそんな事は出来ませんよ。少し仲間に手伝ってもらいました」

武人「仲間?」

旅人「一応全員には会ってますから分からないなんて事はありませんよね?」

英雄「ああ、思い出したくも無い」

旅人「へへへっ。ひどい言われ様で」

砂漠の女王「どうやって中へ?」

旅人「心配しないでくだせぇ。誰も殺しちゃいませんし、怪我もさせちゃいませんよ」

逃亡者「で、わざわざこんな所に姿を現したのはなんか用事があったんだろ?」

旅人「ええ。あなた方四人と、そちらの嬢様に」

砂漠の女王「なんでしょうか」

旅人「なんでも連合軍を作ろうと尽力してるとか」

砂漠の女王「え、ええ。その通りです」

旅人「もし作るのなら早くしろ。との事です」

砂漠の女王「?」

旅人「あなた方四人には、近いうちに会いに行く。と」

英雄「誰の伝言だ」

旅人「そう焦っちゃいけねぇ。それに今言ったでしょう。近いうちに会いに行くって」

逃亡者「さっぱり分かんないね」

旅人「へへっ。すぐに分かりますよ」

勇者「用事はそれだけか」

旅人「ええ、今回はこれだけです」

武人「……わざわざご苦労だな」

旅人「ええ、それじゃあまたお会いしましょう」スタスタ

砂漠の女王「……」

勇者「何か心当たりは」

砂漠の女王「ありません」

逃亡者「気長に待とうよ。会いにくるって言ってるんだし」

英雄「そんな悠長な事言っていられない!! 何かあってからでは遅いんだ!!」

武人「落ち付いて」

英雄「……」

勇者「我々も一度戻ります」

砂漠の女王「はい。わざわざありがとうございました」

勇者「いえ」

砂漠の女王「ではお願いします」

勇者「はい」

英雄「一応王には話すが、期待はするなよ」

砂漠の女王「分かっています」

逃亡者「じゃあ、また会いましょうか」

砂漠の女王「はい」

武人「ではまた」

砂漠の女王「よい返事を期待しております」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


城の入り口


英雄「……」スタスタ

勇者「どこに行く」

英雄「お前達と一緒にいる義務は無い。私は帰る」

勇者「とりあえず宿屋に来い。勝利がいる」

英雄「……」

逃亡者「もしかしてお礼も言わないつもり? まさか海の国の英雄ともあろう方がそんな事する訳ないよな?」

英雄「……」

武人「案内してくれ」

勇者「ああ、分かった」スタスタ

英雄「……」スタスタ

逃亡者「どう思う?」スタスタ

勇者「?」スタスタ

武人「何が?」スタスタ

逃亡者「連合軍の件。お前等はどうなると思う?」スタスタ

勇者「俺の国は微妙だな」スタスタ

武人「俺もだ。わざわざ武器を供給するとは思えない」スタスタ

英雄「こんなくだらん計画に乗る訳無いだろう」スタスタ

???「乗らざるをえなくなる。嫌でもな」

勇者「……」


そこに立っていたのは十五歳ほどの少女だった。
背中の中ほどまであるストレートロングの黒髪に綺麗に真横に切りそろえられた前髪。
そして上流階級顔負けの綺麗なドレス。
だが決して成金なのでは無く、白を基調とした素朴なものだ。
顔立ちは中性的。
だがその顔は誰もが振り向くほどの美しさ。


英雄「どういう意味だ」

???「そのままの意味に捉えてもらって結構。連合軍は遅かれ早かれ必ず結成される」

武人「それはいい。問題はなんでそんな事を君が知ってる事かな」

???「ふふっ。理由が無くては納得も出来んか。まあ、当然だな」

英雄「貴様……」

???「半端者は黙っていろ」

英雄「な……!?」

今日はここまでです。

最近投下量が少なくてすいません。
時間はあるんですが進められなくて……これからも少しの間少なくなるかもしれません。
すいません。

勇者「誰だ」

???「せっかちだな。女に嫌われるぞ」

逃亡者「悪いね。そいつ童貞だから」

武人「え?」

英雄「……」

勇者「……」

???「性格も何もかもバラバラ。おまけに仲も悪い。最悪だな」

英雄「私はこいつ等と組む気は無い」

???「ほう。一人で戦うのか?」

英雄「当たり前だ」

逃亡者「強がっちゃって」

英雄「勝手に言ってろ」

逃亡者「そうさせてもらうよ」

武人「で、君は誰?」

魔王「オレか? オレは魔王だ」

勇者「……」

英雄「馬鹿にしているのか?」

魔王「そんなふうに見えるか?」

英雄「……」

勇者「見えないな」

逃亡者「そうだな……」

勇者「本当なのか?」

魔王「オレが嘘をついている様に見えるのか?」

武人「魔王さんがなんでこんな所に?」

魔王「単純な理由だ。お前達に会いに来た」

英雄「何を言っている」

逃亡者「そんなに俺達って有名人だったっけ?」

武人「まあ少なくとも俺よりは有名なんじゃない?」

勇者「そんな話はどうでもいい。お前が魔王なら殺すだけだ」

魔王「ほう? お前にこのオレが倒せるのかな?」

勇者「倒す」

逃亡者「俺も同意見だよ」

武人「まあ、普通そうだろうね」

英雄「……私一人で勝てる」

勇者「無理だ」

英雄「……」

魔王「四対一か。その程度でオレに勝てると思うとは。舐められたものだな」

逃亡者「一応俺達人格を持つ剣の使い手だぜ? こっちこそ舐められたくないな」

武人「魔王って言うくらいだし、そこそこは強いんだろうな」

魔王「……いいな。嫌いじゃないぞ」

武人「聞きたいんだけど、連合軍は遅かれ早かれ出来るってどういう意味?」

魔王「魔物達と人間の全面戦争が始まるからだ」

英雄「何?」

魔王「戦争の意味が分からんのか。教えてやろうか?」

逃亡者「お前がリーダーなのか?」

魔王「ああ」

勇者「……理由はなんだ」

魔王「ん?」

勇者「何のためにそんな事をするのかと聞いているんだ!!」

魔王「……くだらん質問だ」

勇者「何がくだらないんだ」

魔王「理由は無い」

逃亡者「理由は無い?」

魔王「鳥は飛ぶもの。魚は泳ぐもの。魔王は人を滅ぼすものだ」

英雄「意味が分からない」

魔王「理解できないか。まあ無理も無いかもしれんな」

英雄「人を滅ぼすのはお前の感情だろう」

魔王「打から言っているだろう。魔王とは人を滅ぼすもの。言わば本能的だ」

勇者「本能……」

魔王「腹が減るのに理由があるか? 眠くなるのに理由があるか?」

武人「……わざわざ俺達に会いに来てまでそんな事を言いに来たわけか」

魔王「食事も上手い方がうれしいし、睡眠もしっかりと眠れた方がうれしい。破壊するのも極限まで楽しみたいものだろう」

勇者「……ますますお前を倒さなくちゃいけなくなった」

魔王「いいだろう。成長してもらわなくては面白くないからな」

英雄「……どういう意味だ」

魔王「まだまだ力不足。オレに一太刀あたえられたら奇跡に等しい」


何も無い空間から一つの剣が出現する。


魔王「さて、遊びの時間だ」

武人「じゃあ、その奇跡を起こせばいいだけだ」

魔王「第一幕の幕引きだ。派手に飾ろう!!」

魔王が腰の剣を抜く。

ただそれだけ。
たったそれだけの動作なのに、辺りの空気が一瞬にして変化した。
柔らかかった空気が刹那にして針の様な鋭い空気へと変わる。

勇者も刀を抜き、構える。

横にいる英雄、逃亡者、武人も得物を抜き、構えていた。

静寂。

全員ピクリとも動かず、静止していた。

その静寂を逃亡者が破る。

彼はいつもの超回復能力を駆使し、化け物染みた速度で飛びまわる。
空中で無茶な方向転換を何度も繰り返し、まるで魔弾のように縦横無尽に空中を駆ける。

その動きはもはや目で追うのが精一杯なほどの速度だ。

だが魔王は一歩も動かず、ただじっと止まっていた。
まるで何かを探る様に意識を集中させている。

ガギン、と言う金属音が響き、飛びまわっていた逃亡者の動きが停止した。
攻撃を仕掛けた逃亡者の一撃を魔王が防御したのだ。

「遅いな。その程度でオレの首を取れると思ったのか?」


魔王の周りの空気が振動し、風の刃が生まれる。
それは無慈悲に、何の躊躇もなく逃亡者の体を深く斬り裂いた。


「踊れ!!」


血が飛び散り、内臓も吹き飛ぶ。
四肢がもがれ、腕や足が宙を舞う。

辛うじて心臓は残り、首も跳んではいない。
いや、意図的にそれを残したのかもしれない。
だがその姿はもはや生きているのが不思議なほどの凄惨な姿だった。



『正義!! 魔力を限界まで体に送り込め!!』

『りょ、了解!!』


勇者が魔王目掛けて跳ぶ。

刀自体に魔力を供給し、研ぎ澄ます。

触れたものを例外なく斬り裂く。
鉄さえ斬り裂く刀へと変化させる。

今日はここまでです。

だがしかし、勇者の刀は魔王の目の前で停止させられた。
剣で受け止められた訳ではない。
何か障害があった訳ではない。
ただまるでそこだけ時間が止まったかのようにぴたりと刀が止まる。


「この程度も突破出来んか」


脇腹に衝撃。
それを感じた時にはすでに勇者の体は大きく仰け反り、地面を転がっていた。

状況判断が追いつかない。
何が起こったのか、何をされたのかが分からない。


「踊り狂え。道化師共」


勇者の体に悪寒がはしる。
今まで感じた事の無いほどの殺意を向けられているのが分かった。

だが、勇者と魔王の間に人影が割り込む。

周りに火の玉を纏った人影。


「なめられたものだな」

「ほう、半端者が相手か」


二メートル近い炎を槍が魔王目掛け突進する。

だがその攻撃も魔王に到着する前に消滅した。


「二度とそう呼ぶな」

「憎悪、嫌悪、嫉妬、そして挫折。いい顔だ。最高の半端者だ!!」

「二度と、そう呼ぶな!!」


英雄と魔王の剣が激突。
舞踏会の様に火花が散り、強烈な熱風が辺りを襲った。
しかし爆心地にいる二人は何事も無かったかのように得物をぶつけ合いながら睨み合っている。

踊り狂う炎が魔王を包み込む。
だが魔王に近づこうとした炎は例外なしに見えない何かに叩き落とされていた。

英雄の剣が魔王目掛けて振り下ろされる。
しかしその一撃もまるで子供をあしらうかのように簡単に弾かれてしまう。

魔王は笑っていた。
純粋無垢な子供の様に歯を見せ笑う。

刹那、魔王の剣から青い閃光を纏っていた。
青い閃光はバチバチと凶悪な音をならし、増幅していく。


「必殺技には名前を付けるといいぞ。その技名を叫ぶと心なしか威力が上がる」


青い閃光。
電撃を纏った剣が英雄目掛け振り下ろされた。

それは英雄の剣にぶつかった瞬間、まるで爆発するかのように辺り一面に電撃を撒き散らす。
砂漠特有の淡い茶色の砂が一瞬にして黒く焦げつかせる。

英雄はその黒く焦げた砂の真ん中に立っていた。
体からは湯気の様な煙が上がり、体中ボロボロだ。
だが剣を離す事無く、その場にその足でしっかりと立っている。

魔王がまたにやりと笑う。
それはさっきとは違い相手を称賛するかのような笑みだ。


「耐えたか。気絶くらいはすると思ったが、思ったより丈夫だな」

「黙れ……」

「言っておくが今のは必殺技では無いぞ。技名を叫んでいなかっただろう」


勇者は刀を構え、一歩前に出る。


『正義。魔力は』

『まだまだ大丈夫』


呼吸を調え、勇者は跳んだ。

速く。
何よりも速く。
それこそ風の如く、滑る様に。

体自体に風を纏わせ、極限まで加速する。

勇者の体が亜音速を迎える頃、魔王はすでに目の前にいた。

時間にして約一秒の十分の一。
もはや人が感知できる速度では無い。

勇者の刀が大きく横に振られる。
それも同じく、風を纏い加速させる。

その一連の行動を目視出来た人間は誰一人もいなかった。
誰もが勇者の姿を見失い、気が付いた時には魔王目掛けて剣を振っている。
それすらも常人であれば見えなかっただろう。
そんな冗談まがいの攻撃は実際に起こっている。

歴戦の戦士ですらも勇者を除きあらゆる人間はそれ目視出来なかったのだ。
そう、その場にいた勇者を除くあらゆる人間は。

魔王の剣が僅かに揺れる。
右にほんの少し。
まるで風にあおられたかのようにほんの少し。

音よりも速く、二つの得物は激突した。

魔王の剣は寸での所で勇者の刀を受け止めている。

勇者の両手は両手から手応えが逃げていくのを感じていた。
まるで両手ですくった水が手の隙間から流れていくかのようにどんどんとそれは減って行く。

勇者の刀の攻撃は受け流されていた。

どんな屈強な戦士でも到底受けとめきれない一撃は魔王でも受け止めるのは少し無理があったのだろう。
魔王は剣をほんの少し斜めに傾け、その膨大な威力を流している。

もちろん簡単な芸当では無い。

その攻撃を受け流しきれなければ得物は押し負け、自分の得物で自分を真っ二つにする事になる。
逆に流し過ぎれば相手の得物自体がそのまま上に流れ、その流れた得物が受け流した側を斬ってしまう。

まるで空から落ちて来た卵を割らずに受け止める様な繊細な技術。
魔王はそれをいとも簡単にやってのけたのだ。

格が違い過ぎる。
抑えめな表現で行っても技量が二桁違う。
これは戦いでは無く、ただ単純に弄ばれているだけだった。

「言っただろう。四対一だって」


勇者の耳に武人の声が聞こえた。

それが聞こえたのとほぼ同時に勇者の目の前にいたはずの魔王が忽然と姿を消した。

魔王は上空二メートルほどの場所で静止していた。
まるで普通に地面に立っている様に空中に立っていた。


「挟み打ちはさすがに無理か」

武人は勇者の目の前でそう呟いた。

魔王を後ろから斬ろうとしたのだろうが、あんな風に避けられてはどうしようもない。

だがそんな事より勇者は目の前の武人に目を疑った。

その手には刀が握られている。
それはごく普通の事。

だが彼は片手に一本ずつ、二本の刀を持っていた。
寸分違わぬ、全く同じ刀。
人格を持つ刀を二本。

今日はここまでです。

大人数のバトルは書きにくい……。

「逃亡者。英雄。まだ行けるか?」

「当たり前だ」

「悪いね。少し調子に乗り過ぎた」


武人の問いかけに二人は答えた。

気付けば英雄と逃亡者も勇者の横に立っている。

逃亡者は数分前と全く同じ、五体満足の状態へ回復している。

四人は横一列に綺麗に並び、空中に立つ魔王を見ていた。

魔王は笑う。
称える様に。
嘲笑する様に。

誰が合図した訳ではない。
しかし四人は同時に攻撃を開始した。

英雄が正面に立ち、剣を構える。
英雄の剣が炎を纏い、全長三メートルはあろうかと言う巨大な炎の剣と化す。

英雄はそれを構えながら跳躍し魔王の目の前まで跳ぶと、それを大きく振り下ろした。

下手な小細工は無い。
ただただ威力と炎に頼った、正真正銘渾身の一撃だ。

魔王は剣を頭上に構えると、その一撃を防御する。

だがその強大なな炎は防御してもなお消えない。
紅蓮の炎は魔王を覆う様に飲み込み蹂躙する。

だが一瞬魔王は炎に飲み込まれたが次の瞬間にはその炎をかき消し、また何事もなかったかのようにその場に立っていた。

英雄は魔王を見ながら下唇を噛む。

しかし英雄の一撃で攻撃は終わった訳ではない。

魔王を挟むように逃亡者と武人が襲いかかった。

逃亡者は急停止、急旋回を行いながら縦横無尽に空を駆ける。
武人は天使の様な白い翼を羽ばたかせながら空を飛ぶ。
進み方は全く違えど二人は魔王を右と左から挟撃した。

英雄の一撃は言わば目隠し。
強大な炎は二人を隠すための囮でもあった。

逃亡者と武人が同時に魔王に得物を振る。

だが武人の体が魔王の手前でぴたりと停止。
逃亡者の攻撃は魔王の剣によって防がれる。

鍔迫り合いのはずなのに魔王は涼しげな顔のままだ。

彼女はにこやかに笑いながらその二人を交互に見る。
その顔は残念だったな、とでも言いたげだった。


「俺を忘れてもらっては困る」


勇者の声が響く。

彼は丁度魔王の真上。
上空三メートルほどの位置にいた。
彼は刀を鞘にしまい、鞘の部分に手を置いている。

彼の体は重力に従い落下する。
更に自身の力を使い加速した。

速く。
何よりも、誰よりも速く。

重力と風力。
その二つは彼の体をあっという間に加速させ、彼の体音速まで加速させた。

肉体が軋む。
骨が悲鳴を上げる。

だが、それでも更に加速する。

柄を持つ手に力が入る。
刀が数センチだけ抜かれ、銀の刀身が覗く。

それは抜刀術。
居合の構え。

魔王目掛け彼は降下する。
いや、落下する。

魔王と彼の影が重なる瞬間。
彼の刀は抜かれ、振り抜かれる。

音は無かった。

その攻撃を一言で表すなら神風だった。

音速を超える速度。
鉄さえ斬り裂く鋭利な刀。

その前にはあらゆる装甲、あらゆる名刀であっても紙切れとほぼ同等だ。

勇者の体が地上に落下する。

それはまるで隕石が落下したかのように地面を砕いた。

「いい技だ。最高の一撃だ」


唄う様に、称える様に、魔王は高らかとそう言った。


魔王はついさっきと変わらず、その場所に立っていた。


その体に傷は一つとして存在しない。
その美しい体はそのままそこにあった。

今の勇者の一撃でさえも。
勇者、英雄、逃亡者、武人が持てる力を全て使った攻撃でさえも魔王には傷すら付けられなかった。


「少しだけひやりとさせられたぞ。一撃くらいそうになった」


あれほどやっても手は届かない。
しかもあれほどの余裕があると言う事は本気ではないのだ。


「幕引きだな。予想以上の出来だ。まさかここまでの幕引きが出来るとは思っていなかったな」


魔王の言葉に誰一人として答える者はいない。
四人が四人ともすでにそんな余力すら残していなかった。


「次章の幕が開くのを楽しみにしていろ。最高の。誰もが戦慄する第二幕にしてやる」


言い終わるや否や、魔王はその場から忽然と姿を消した。

今日はここまでです。

魔王の強さと四人の全力さが伝われば幸いです。

すまん見落としてた( ゚Д゚)

勇者「……」

武人「大丈夫か?」

勇者「ああ、大丈夫だ」

逃亡者「……」ドサッ

勇者「逃亡者!!」

逃亡者「大丈夫……大丈夫……少し無茶しただけだから」

英雄「あれだけの攻撃を受けたんだ。超がつくほどの回復能力があっても無理がある」

逃亡者「少し……休む」

武人「それがいい」

勇者「……」

英雄「……」

武人「結局一撃も加えられなかったな」

英雄「まさかあそこまでとはな」

勇者「……魔物の襲撃か」

英雄「……」

逃亡者「具体的にどうするんだ?」

英雄「別にどうという事は無い」

勇者「……」

逃亡者「……」

勇者「武人。お前の能力はなんだ」

武人「うーん、まあ言っても問題ないか。今更敵対してもいい事無いし」

逃亡者「あの羽なんだった訳?」

武人「俺の能力はまあ、分かり易く言えば実体化、みたいな感じかな」

英雄「実体化?」

武人「頭の中で思い描いたものを実際に作りだせる。もちろん生物なんかは無理だし、でかいものは維持だけでも馬鹿みたいに魔力がいるから出来ないけど」

逃亡者「便利だな」

武人「ただ俺の体に接触していないと魔力供給が出来ないから消えちゃうんだけどね」


武人はそう言って左手に持った刀から手を離す。

刀は地面に落ちる前に消滅した。


逃亡者「面白い能力だな」

武人「よく言われるよ」

逃亡者「で、これからどうする?」

英雄「宿屋に酔ったら海辺の国に帰る」

勇者「……連合軍の件はどうする気だ」

英雄「さあな。決めるのは王だ」

勇者「……」

武人「とにかく全員一旦帰った方がいいだろう」

勇者「そうだな」

逃亡者「宿屋に行ってお礼を言ったらすぐに帰るかな」

英雄「お前はどうするんだ」

逃亡者「さあ、いろんな所をふらふらしてるつもり」

英雄「……」

逃亡者「殺すか?」

英雄「……ここで殺せばあの女王が何かしら言ってくる」

勇者「まあ、面倒な問題になる事は目に見えているな」

英雄「先に言っておくがお前達に協力する気は無い」

勇者「十分承知だ」

武人「だといいけどな」

英雄「……」

武人「……そのうち協力しなくちゃいけなくなるさ」

逃亡者「その時はその時だ。俺は好きにやらせてもらうつもりだ」

勇者「……」

英雄「さっさと行くぞ」

勇者「……ああ、わかった」

逃亡者「……」スタスタ

武人「勇者は山の国出身だよな?」スタスタ

勇者「あ、ああ」スタスタ

武人「わかった」スタスタ

勇者「?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


魔王の城


魔王「中々いい幕引きだったな」

邪悪「まったく、あなたと言うお方は……」


それは赤みがかった髪に童顔の美少女だった。
前髪は目にかかる程度で後ろ髪は肩くらいまで。
服装はメイド服。
年齢は十七歳前後と言ったところだろう。


魔王「さて、第一幕も終わった。ここからが本章だぞ」

邪悪「はい。その通りで」

魔王「神父が死んだのは少し手痛いが、まあ何とかなる」

邪悪「はい」

魔王「まずは何処を落とす?」

邪悪「魔王様は何処を狙うおつもりで?」

魔王「和の町だな。あそこまで進行したい」

邪悪「私も同じ考えです」

魔王「まずはあそこを落とし、武器を奪う」

邪悪「はっ」

旅人「ずいぶんと派手に暴れた様で」スタスタ

魔王「おお、戻ったか」

旅人「ええ。少し遅くなりました」

魔王「いいさ。十分に早い」

旅人「落とすんですか?」

魔王「ああ。あそこを落とせばあいつ等も本気になるだろう」

旅人「いい考えだと思いますよ。本当に」

魔王「巨人に進撃しろと伝えろ」

邪悪「はい」スタスタ

旅人「最初からずいぶんとやりますねぇ」

魔王「向こうが本気になった時にはもう戦えないんじゃつまらないからな。本気さを伝えておかないと」

今日はここまでです。

明日はすいませんが休みます。


無理しないでな('-ω-)

旅人「あっしはどうすれば?」

魔王「そうだな……今の所は待機だな」

旅人「分かりました」

魔王「安心しろ。すぐに出番は来る」

旅人「分かってますよ。へへっ」

魔王「相変わらず汚い笑い方だな」フフッ

旅人「いや、これだけはどうしても治らなくてね。へへへへ」

魔王「ふんっ」

旅人「へへっ」

魔王「さて、第二幕開演だ」

旅人「舞台役者は揃ってるんですか?」

魔王「さあな。飛び入り参加が多少居ても面白いだろう」

旅人「そうですね」

魔王「お互い楽しもうじゃないか」

旅人「ええ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


山の城


勇者「どうしますか」

王「前向きに検討はしておこう」

女秘書「予算がどうとか言っていられるような場面ではありませんからね」

王「その通りだ」

勇者「我々はどうすればよろしいでしょうか?」

王「今の所は待機だな」

勇者「……はっ」

王「とは言ってもお主が必要であると思えば自由に動いてくれ」

勇者「は、はい……」

王「私が命令した時以外はお主で考えて行動していればいい」

勇者「……ですが」

王「少しの間は私も命令は出さない」

勇者「……どういう意味ですか?」

王「国同士の話し合いだ。それが決着しない事には連合軍も動けない」

勇者「海辺の国ですか」

王「いや、海辺の国は中立だ。反対はしていない」

勇者「では……」

王「谷の国だ」

女秘書「あそこの今の王は利益以外見えてい無いみたいで」

王「まったく、死んでしまった王が悔やまれる」

勇者「……手はあるのですか?」

女秘書「はい。勇者様のおかげで」

勇者「俺の?」

女秘書「はい。お姫様の一件を使わせてもらおうかと思います」

勇者「……」

女秘書「あの一件はかなりの問題になります」

勇者「脅すのか?」

女秘書「ほんのりその話をするだけですよ。露骨には言いません」

王「まあ、そうすれば協力までは行かなくても中立程度にする事は出来るだろうな」

勇者「しかし連合軍に協力するのが私達と砂漠の国だけでは厳しいのでは?」

王「だからこそ少しの間は何もしないんだ」

勇者「どういう意味ですか?」

女秘書「少しの間は自国と砂漠の国しか守りません」

勇者「もし助けを要求された場合は協力させる、と言う意味か?」

女秘書「その通りです」

女秘書「資金的な協力多少はしてくれるでしょうがそれでは足りませんから」

勇者「全面的な協力を要請するのか?」

王「その通り。目先の利益不利益は捨て、魔物に勝利する事だけを考ええさせなくては私達は滅びる」

勇者「その通りです」

王「少しの間は好きにしてくれていい」

勇者「はい」

王「別に何処に行っても構わん。ただ何かあった場合はすぐに戻ってこられるようにはしておいてくれ」

勇者「はい。わかりました」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


山の町


正義「綺麗ね」スタスタ

魔法使い「はい。そうですね」スタスタ

鍛冶屋「やっぱり栄えてるよな」スタスタ

魔法使い「いろいろ売ってそうですよね」スタスタ

鍛冶屋「足りないものの補充なんだから余計な買い物すんなよ」スタスタ

魔法使い「わかってます」スタスタ

正義「……いいじゃない」スタスタ

鍛冶屋「何が?」スタスタ

正義「魔法使いとうまくやってるみたいで」

鍛冶屋「ああ、まあな」

正義「おっぱいは揉んだの?」

鍛冶屋「揉んでねえよ!!」

今日はここまでです。

幕引きの件ですが、読み返したら確かに変でした。
ごめんなさい。                       すまぬ……すまぬ……

今後もあるかもしれませんが、指摘していただけると嬉しいです。

正義「あら、そう」

鍛冶屋「……」

正義「予定は?」

鍛冶屋「ある訳ねえだろ!!」

正義「……」

鍛冶屋「……」

正義「残念ね」

鍛冶屋「全然残念じゃねえけどな」

正義「あ、そういえば今でも勇者と戦ってるの?」

鍛冶屋「ああ、まだまだ全然勝てねえけどな」

正義「魔法使いには?」

鍛冶屋「勝てない……と思う」

正義「弱いわね」

鍛冶屋「そんな事自分でも分かってるよ」

魔法使い「……鍛冶屋さん!! 正義さん!! 早く!!」

正義「元気ね」スタスタ

鍛冶屋「ああ、魔法は習得出来なかったけど結果として良かったんじゃねえか?」スタスタ

正義「私もそう思うわ。魔法使い、凄く強くなったし」スタスタ

鍛冶屋「そうだな」スタスタ

正義「……あ、いい事思いついた」スタスタ

鍛冶屋「?」スタスタ

正義「あなた魔法使いに勝ったらおっぱい揉ませてもらえば?」スタスタ

鍛冶屋「お前何言ってんの!?」

正義「何って、何?」

鍛冶屋「いや、何言ってんだよ」

正義「意味分かんない?」

鍛冶屋「分かんねえ」

正義「ご褒美よ。そうすれば頑張れるでしょ?」

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」///

鍛冶屋「おい」

正義「……ごめんなさい。気付かなかった」

鍛冶屋「いや、その……」

魔法使い「い、いいですよ」

鍛冶屋「え?」

魔法使い「もし本当に鍛冶屋さんが勝てたら触っていいですよ」

鍛冶屋「ほ、本気?」

魔法使い「当たり前です」

鍛冶屋「……」

魔法使い「どうしますか?」

鍛冶屋「じゃ、じゃあ頼む」

魔法使い「分かりました」

正義「……じょ、冗談のつもりだったんだけど……」

魔法使い「いいんです。いつかのお礼ですから」

正義「あ、あなたがいいんなら何も言わない」

魔法使い「はい……」

鍛冶屋「……」///

正義(ごめんね、勇者。多分今日の鍛冶屋はしつこく戦ってくれって言うと思う……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


海辺の町


魔物「た、助け……」


英雄の剣が魔物を真っ二つに叩き斬る。


英雄「……その程度か」

勝利「ずいぶん荒れてるね」

英雄「別に荒れているつもりは無い」

勝利「十分荒れてるよ。ここら一帯の魔物を皆殺ししといて心が穏やかなんて言える?」

英雄「……ここらの魔物が邪魔だと思っただけだ」

勝利「何が原因?」

英雄「だから違う!!」

勝利「……英雄は自分の事を冷静沈着で喜怒哀楽を表に出さない様にしてるんだと思うんだけど、見てて物凄く分かるよ」

英雄「……」

勝利「それで、理由は?」

英雄「私はあんな奴等と組む気は無い」

勝利「あんな奴等って、勇者達の事?」

英雄「当たり前だ。あんな奴等と組むくらいなら一人で戦う」

勝利「でも王様はなんて言うんだろうね」

英雄「王は……私を救ってくれた。だから私は王の命令には逆らわない」

勝利「なら――――」

英雄「だが嫌なんだ。あんな連中と組むなど……」

勝利「何がそんなに嫌な訳?」

英雄「……」

勝利「英雄。いい加減前に進んだ方がいいんじゃない?」

英雄「余計なお世話だ。だいたいお前は知らんだろう」

勝利「うん、知らない。でも海辺の王から聞いてる」

英雄「……余計な事を」

今日はここまでです。

勝利「こっちから頼んだんだ。王は悪くない」

英雄「……」

勝利「英雄の言いたい事も分かる。けどそれじゃあ前に進めないだろ」

英雄「私の世界は自分の周りだけだ。これ以上広げないし、広げたいとも思わない」

勝利「そうやって――――」

英雄「道具は道具らしく使われていろ。口答えはするな」

勝利「……逃げるなよ」

英雄「私が何時逃げた」

勝利「現在進行形で逃げてるだろ。そうやって逃げてるからダメなんだよ」

英雄「お前に言われたくない。何も知らないだろう」

勝利「……」

英雄「聞いただけで知った気になるなよ」

勝利「……わかった。この話はやめるよ」

英雄「もう二度とするな」

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夜 勇者の家


鍛冶屋「もう一回!!」

勇者「いや、もう一回はいいんだが」

鍛冶屋「うおォォォォォォ!!」


勇者は鍛冶屋の一撃を難なくかわすとそのまま回し蹴りを顔面に叩き込む。


鍛冶屋「……」

勇者「大丈夫か?」

鍛冶屋「ああ。もう一回頼む」

勇者「どうしたんだ?」

鍛冶屋「何がだ」

勇者「いつもだったらとっくにやめているだろう」

鍛冶屋「今日はやりたいんだ!!」

勇者「いつになく凄いやる気だな……」

鍛冶屋「ああ、いろいろあったんだ」

勇者「そ、そうか」

鍛冶屋「ほら、もう一試合頼む」

勇者「ああ。分かった」

鍛冶屋「おっしゃあ!!」

勇者「……」

勇者(何があったんだ……)


勇者は鍛冶屋の攻撃をかわし、足払いをかける。


鍛冶屋「だ、ダメだ……」

勇者「……いや、目は追いついて来ている。あとは体だな」

鍛冶屋「それが一番大変なんじゃないのか?」

勇者「ああ、そうだ。だが出来れば今度こそお前は強くなる」

鍛冶屋「ほ、本当だよな?」

勇者「ああ」

鍛冶屋「……」

勇者「あと悪いが、明日から少しの間は相手が出来ない」

鍛冶屋「なんで?」

勇者「少し出掛けて来る」

鍛冶屋「え、いいのか?」

勇者「ああ、ちゃんと了承を貰った」

鍛冶屋「そうか」

勇者「ああ」

鍛冶屋「で、何処行くの?」

勇者「修業の滝だ」

鍛冶屋「そんな所あるのか?」

勇者「海辺の国と山の国の丁度境にある滝だ」

鍛冶屋「何しに行く訳?」

勇者「戦闘に向けて心を落ちつける」

鍛冶屋「出来るのか?」

勇者「分からん」

鍛冶屋「おい」

勇者「だが、じっとしているよりかはいいと思うんだ」

鍛冶屋「……まあ……」

勇者「そうしておかないと考え過ぎておかしくなりそうでな」

鍛冶屋「……行ってみればいいよ。とにかく何か得られるといいな」

勇者「ああ、頑張ってみるよ」

鍛冶屋「じゃあもう一試合!!」

勇者「……まだやるのか」

鍛冶屋「当たり前だろ!!」

勇者「仕方ないな……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


和の町


武人「……」

男性「武人さん」


それは短めの黒髪に白い服を着た好青年だった。


武人「ああ、どうした?」

男性「いえ、別に用事は無いんですが」

武人「……」

男性「何を見てるんですか?」

武人「いや、少しだけ考え事」

男性「また新しい技を考えてるんですか?」

武人「それもあるかな。でも今はそれよりもっと大事な事だ」

男性「そうですか」

今日はここまでです。

少しの間は四人の視点をメインで進めて行きます。

武人「お前こそこんな所で油売ってていいのか? 怒られるぞ」

男性「大丈夫です。今はお昼休みですから」

武人「……」

男性「大事な事って何なんですか?」

武人「……これから戦いが始まる」

男性「魔王との戦争、でしたっけ」

武人「そうだ」

男性「それが、どうしたんですか?」

武人「勝てると思うか?」

男性「え?」

武人「魔王と戦って少しわかったんだ。俺だって所詮は一人の人間なんだって」

男性「ど、どういう意味ですか?」

武人「いや、何でも無い。忘れてくれ」

男性「……」

武人「一応は町の代表として戦うんだ。弱音は吐けない」

男性「ほ、本当に大丈夫ですか?」

武人「大丈夫だ」

男性「……」

武人「……」

武人「そろそろ昼休みが終わるぞ」

男性「あ、そうですね。はい」

武人「じゃ後で」

男性「はい。また後で」

武人「……」

真理「どうしたのだ?」

武人「別に」

真理「ずいぶん疲れているではないか」

武人「疲れてるのとはちょっと違うよ。少しあれなだけ」

真理「弱音が吐けない、か」

武人「仕方ないだろ。町の代表、町で一番の剣士なんだ」

真理「……」

武人「尊敬はされても友達はいない」

武人「弱音を吐ける相手はいないんだ」

真理「武人……」

武人「俺が悪いんだけどな。ひたすらに強さだけを追い求めて他のものを疎かにしたのは俺なんだし」

真理「いいのか?」

武人「真実を受け入れない訳にはいかないだろ」

真理「お前はそれでいいのか?」

武人「……知ってるか? 正義のヒーローは孤独なんだ」

真理「……」

武人「ヒーローが弱音を吐くか? 泣きごとを言うか?」

真理「……」

武人「俺みたいな人間じゃそんなんには成れないと思うけどさ。でも成ろうとは思いたいんだ」

真理「……いい考えだ」

武人「……」

真理「それでこそのお主だ」

武人「ありがとう」

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場所不明


姫「……」スヤスヤ

逃亡者「敵は?」

信義「今の所はいないわ」

逃亡者「そう、ならいい」

信義「大丈夫?」

逃亡者「少なくともお前よりは大丈夫」

信義「……私はあなたを心配してあげてるのよ」

逃亡者「ありがとう。剣に戻って休んでろよ。実体化してない方が楽だろ?」

信義「……そう言う訳にはいかないでしょ。お姫様もいるんだから」

逃亡者「……」

信義「いつまでこんな事続けるつもり?」

逃亡者「とりあえずは俺か姫様が死ぬまで」

信義「……」

逃亡者「別にお前には強制してない。お前が俺に呆れて俺を捨てても文句は言わないよ」

信義「別にそんな気は最初っから無いわよ」

逃亡者「あ、そう」

信義「ただ、あなたが心配なのよ」

逃亡者「え?」

信義「ずっと休んでないし、ていうかまともに寝てないでしょ」

逃亡者「まあ、そうだね」

信義「なら――――」

逃亡者「砂漠の女王に聞いてみたんだ」

信義「え、な、何を?」

逃亡者「もし連合軍が出来て、それで俺が協力するなら何をしてくれるかって」

信義「……」

逃亡者「俺と姫様、あとお前の生活は保障してくれるそうだ」

信義「……じゃあ、連合軍に?」

逃亡者「ああ、入るよ」

信義「……」

逃亡者「それに姫様だって目に見えないだけで疲労は十分溜まってる。このまま逃げ続けるのは少しきついよ」

信義「そうね。それにあなたの体の方も限界が近いでしょ?」

逃亡者「……何の事?」

信義「いくら回復が早いって言っても無茶し過ぎよ。毎回尋常じゃない位のダメージを負ってるんだから」

逃亡者「別に大丈夫だよ」

信義「嘘言わないの。あなたの体の事ならある程度は分かるんだから」

逃亡者「……そうか、残念だ」

信義「……辛いなら辛いって言った方が楽よ」

逃亡者「悪いけどそんな事言える立場じゃないんだ」

信義「……」

逃亡者「お前も休んどけ」

信義「あなた、もね」

逃亡者「ああ」

今日はここまでです。

このスレでは終わりそうにないので続きのスレを立てるつもりです。

中途半端にこのスレが余ったらおまけをやろうと思うので何か要望があれば言ってください。

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修業の滝


勇者『……』

正義『……何か分かった?』

勇者『いや』

正義『滝に打たれてるのに?』

勇者『人が無心になっている時に話しかけるのはどうかと思うが?』

正義『滝の音がうるさいんだもの。直接頭に語りかけるしか無いじゃない』

勇者『……』

正義『だいたい何のためにこんな所に来たわけ?』

勇者『さあな。俺も分からん』

正義『何それ?』

勇者『何をするかを考えるために来たんだ』

正義『……』

勇者『なんだ』

正義『あなたっていつも考えてるのね』

勇者『まあ、そうかもしれんな』

正義『と言うより悩んでいる?』

勇者『そうだな。俺はいつも悩んでいる』

正義『バカなの?』

勇者『バカ、なのかもしれん』

正義『そう言う所がバカなのね』

勇者『……』

正義『……ごめんなさい』

勇者『いや、別にいいさ』


勇者は立ち上がり、滝から離れる


正義『もういいの?』

勇者『ああ、考えても考えてももやもやしててな』スタスタ

勇者「はぁ……」ドサッ

正義「大丈夫?」スタスタ

勇者「ああ、結局ダメだった……」

正義「何をそんなに悩んでる訳?」

勇者「……悩みは尽きないんだ。魔王の事。他の人格を持つ剣の使い手の事。正義の事。いろいろあり過ぎて困る」

正義「あなたも大変ね」

勇者「もはや何をしたいのかも分からなくなってきそうだ」

正義「それは大変」

勇者「ああ、大変だ」

正義「……」

勇者「……」

正義「なんで他人事なのよ」

勇者「そうした方が何か見えると思ったんだが……」

正義「見えた?」

勇者「何も」

正義「……」

勇者「すまん」

正義「いや、別にいいんだけどね」

勇者「……」

英雄「どうしてお前がここにいる」スタスタ

勇者「……英雄か」

英雄「ここは海辺の国の領土だ」

勇者「山の国の領土でもある」

英雄「ふざけた事を――――」

勇者「くだらん話はやめよう」

英雄「くだらん? くだらんだと」

勇者「くだらんだろ。こんなどうでもいい話は今度でもいいだろう」

英雄「じゃあいま重要は話とはなんだ」

勇者「連合軍。魔王。正義……くらいだな」

英雄「お前の言っている事の方がくだらん」

勇者「……」

英雄「……」

勇者「本気で思ってるのか?」

英雄「本気だ」

勇者「……」

英雄「……」

勇者「まあ、それもいいさ」

英雄「何?」

勇者「俺の考え方を押し付ける気は無い」

英雄「……」

勇者「なんだ」

英雄「……」


英雄は無言で剣を抜く。


英雄「戦え」

勇者「……ああ、そうだったな」

英雄「……」

勇者「お前とは戦うはずだったんだな」

英雄「ああ。そうだ」

短いですが今日はここまでです。

おまけは人生ゲームでもやろうと思います。

ただ武人と真理だけ男同士なのでどうしようか……

英雄と勇者は静かに得物を抜き、お互いに向かい合った。

英雄の周りには炎が踊り、勇者の刀の周りは風が渦を巻いている。
どちらも目は殺意が籠った狂気の目をしていた。

静かな時間が流れる。
何も起こらない膠着状態が続く。

その静寂を破るかのように勇者は一歩踏み出し、刀を肩に担ぐように構えた。

それに反応し、英雄は切っ先を勇者に向け、剣を構える。

勇者の刀は真っ直ぐに英雄の脳天目掛けて振り下ろされた。

決して速い訳ではない。
しかし想像以上の重さを持ったその一撃は英雄を殺すのには十分すぎる。

だが英雄はその一撃を受け止めない。
素早く体を翻すと、そのまま一撃を回避した。
そしてそのまま攻めに転ずる。

彼女の戦い方は非常にスタンダードな戦い方だ。
攻めと受けの型も基本形。弱点の無い標準的な戦闘スタイル。
だがそれは特化した部分の無い単調な戦闘スタイルとも言える。

しかし、そこに勝利の魔力。
すなわち炎が加わってくれば話は変わる。

金属音が鳴り響き、得物同士がぶつかり合う。
ギチギチと音を立てながら、火花を散らす。

鍔迫り合いの状態の二人の顔はどちらも凶悪だった。

勇者は牙を剥き、英雄は残忍な笑みを浮かべる。
どちらも国の英雄や勇者と言うより、気の狂った犯罪者の様だ。

英雄の周りにあった炎が勇者目掛けて襲いかかった。

だが勇者は彼女の剣を素早く振り払うと、その炎を刀で叩き斬る。
炎の球だった物体は勇者の刀によって真っ二つにされ、一瞬のうちに消滅した。

そのままの勢いを殺す事無く、彼の刀は英雄目掛けて横に薙ぎ払われる。

ガキン、とまた音が鳴り、得物が停止する。

英雄と勇者。
どちらの時間が止まったかのように体が停止した。

「やはり、強いな」

「お前程度に私が殺せるか? 正義の勇者」


磁石が反発しあう様に二人が反対方向に弾け飛ぶ。

勇者は呼吸を調え、刀をもう一度強く握り直した。
相手との距離を推し測り、最適な攻め時を探る。

英雄はすでに迎え撃つために剣を構え直していた。
隙の無い構えで彼の攻撃を待つ。


『次で決めるぞ』

『え?』


正義の驚いた声。

だが勇者はあくまで冷静に返答する。


『ここで英雄の戦意を喪失させる』

正義の答えは無い。

無理もない。
ここで攻めるのはあまり得策とは言えない。
むしろここで攻めるのは無謀とすら言える。


『勝負を急ぎ過ぎてる。もう少し様子を見てもいいんじゃない?』

『いや、ここで決める。下手に消耗し合えば、今後の戦争に響きかねん』

『でも英雄は殺す気よ』


勇者はその言葉に特に返事はしなかった。
それはまるで、そんな事どうでもいいと言い切っている様にもとれる。

勇者はそのまま刀を構え直し、走り始める。
風が体に絡みつき、加速させる。
速度は人を超え、獣を超え、遂には音に並ぶ。


「剣を落とすか弾く」


勇者は誰に言う訳でもなくそう呟くと、刀を大きく振り上げた。

もはや走ると言うより滑ると言う表現に近い。
氷の上を滑る様に勇者は地面を音と同じ速度で滑っていく。

切っ先が風を纏い、獣の様に凶悪な唸り声を上げた。

英雄と勇者の間合いは刹那よりも速く縮まる。

間合いは気がつけば零になっていた。


「勝ちに来たか。だがその程度の単調な攻撃が当たると思うなよ」


冷めた様な、冷たい氷の声。
それは勇者の背筋を凍らせる。

英雄は音速に近い勇者を見失ってはいなかった。
その目は確実に勇者を捉えている。

勇者が刀を振り下ろす。
が、それよりも先に英雄の剣が動いていた。


「秘剣『炎上燕返し』」


それは音も無い、無音の一撃。
いや、正確には音より先に彼の体が音を聞けない状態になっただけの事だった。

振り下ろされる相手の得物に対し自分の得物を斬り上げ、相手の得物を止め、相手の肉を断つ。
その名は秘剣『燕返し』。

言葉で説明するのは簡単だ。
だが相手の太刀筋を見極め、相手よりも先に得物を振っていなければいけない。
つまり相手の一手を完全に読み切っていなければ発せられない剣技。
勇者が以前に使った『霞み剣』などとは全く違う、正真正銘の秘剣の一つ。

英雄の放った一撃はそれに炎の威力を足した自己流の一撃だった。

今日はここまでです。

『勇――――!!』


声が聞こえるが何を言っているのか聞きとれない。
とにかく全身が熱い。
それが斬られた痛みなのか、燃えている痛みなのかも見当がつかない。

ただ一つ、分かる事は自分に死が近づいている事だけだ。

彼は反射的にに大きく後ろに跳んだ。
ボタボタと血が零れるのが分かる。

視界が霞み、息が荒い。
全身が熱いはずなのに体の芯は冷たく凍えている。


『勇者、もう無理よ!!』

『傷を塞げ……そうすれば少しは動ける』

『その程度で治せるような浅い傷じゃない!!』

『塞ぐだけだ……治さなくて……いい』

傷口を塞ぐのをイメージする。
完全でなくていい、あくまで応急処置として傷口を塞ぐ。

刀を構え直す。
切っ先を英雄に向け、そのまま睨みつける。

何も言わず、ただただ相手だけを見続ける。

魔力はまだある。
あと一撃。
それを当てればいい

英雄も同じく、剣を構え直した。

お互いの距離は三メートルと少し。
一歩進んで得物を振れば当たる距離だ。

策も勝機も無い。
だが逃げ道も無い。
ならば戦う以外の道は無い。

勇者は今までと同じく、体を加速させ、走り出す。

だが距離が短く、さっきほどの加速は不可能だ。


「何度やっても同じだ。いくら速く動いても不可能だ」


英雄が剣を構える。
さっきと同じ、『燕返し』の構えを。

だが英雄の予想に反し、勇者は英雄の目の前で大きく跳んだ。

まるで英雄を飛び越えるかのように、放物線を描きながら勇者は英雄の上ギリギリを跳んでいく。

英雄は素早く剣の軌道を変え、勇者目掛けて斬り上げようとする。

だが勇者の刀はピクリとも動かなかった。

その代わりに、勇者の右足が動く。
魔力により、威力を限界まで高める。

それ銃弾にも等しい威力。
その蹴りが英雄の脇腹を捉える。

メキリ、と骨が折れる様な音が響いた。
勇者の右足に柔らかいものを蹴った生々しい感覚がはしる。

英雄の体は大きく宙に舞い、そのまま地面を転がって行った。
彼女が右手に持っていた剣が地面に突き刺さる。

勇者はそのまま地面にあおむけに倒れる。


「く……」

「逃亡者の技の応用だ」


勇者は苦しそうに息をしながらもそう呟いた。

~~~~~~~~~~~~~~~


山の町  町中


鍛冶屋「……勇者達いつ帰ってくるんだろうな」スタスタ

魔法使い「さあ、連絡もありませんからね」スタスタ

鍛冶屋「修行してもらおうと思ってたんだけどな……」ボソッ

魔法使い「何か言いましたか?」スタスタ

鍛冶屋「いや、別に」スタスタ

魔法使い「夕飯は何がいいですか?」

鍛冶屋「別に魔法使いが好きなものでいいよ」

魔法使い「私の好きなものですか……」

鍛冶屋「やっぱお菓子とかか?」

魔法使い「……そうですね。母のつくってくれたお菓子とか好きでしたね……」

鍛冶屋「……」

魔法使い「……」

鍛冶屋「ああ、なんかすまん」

魔法使い「いえ、それにもう帰ってもいいですし」

鍛冶屋「え?」

魔法使い「呪いと言う形ですが、魔術は使える様になったんですから」

鍛冶屋「そうだったな。そういえば」

魔法使い「はい」

鍛冶屋「……」

魔法使い「今日はカレーにしましょうか」

鍛冶屋「……突然だな」

魔法使い「おいしいじゃないですか。カレー」

鍛冶屋「……そうだな」

魔法使い「すいません」

食材屋「はい……」

魔法使い「カレーの材料もらえますか?」

食材屋「え、あ、は、はい……」

鍛冶屋「……」

食材屋「ど、どうぞ」アタフタ

魔法使い「あ、ありがとうございます……?」

今日はここまでです。

すいませんが今日は休みます。

明日熱が下がっていたら更新します。

食材屋「あ、あんた、呪い師なんだって?」

魔法使い「え、あ、はい。そうですけど」

食材屋「……」

魔法使い「それが何か?」

食材屋「いや、何でも無い」

魔法使い「……」

鍛冶屋「はい、お金」

食材屋「あ、はい……」

鍛冶屋「んじゃ、ありがとう」スタスタ

食材屋「は、はい」

魔法使い「……」スタスタ

鍛冶屋「気にすんな」スタスタ

魔法使い「あ、はい……」


ザワザワ


鍛冶屋「……」

魔法使い「あの老人が言っていた通りですね」

鍛冶屋「何が?」

魔法使い「呪い師は忌み嫌われるものだって……」

鍛冶屋「……周りの目なんて気にすんな。お前には俺も勇者も正義もいるだろ」

魔法使い「そ、そうですね」

鍛冶屋「……頑張れよ」

魔法使い「……はい。ありがとうございます」

魔法使い「……」

鍛冶屋(やっぱり落ち込んでるよな……)

魔法使い「あ、少し行ってきますね」

鍛冶屋「え?」

魔法使い「魔術系の道具を買うんです」

鍛冶屋「あ、ああ。わかった」

魔法使い「……」スタスタ

魔法使い「だ、ダメですね……私」

魔法使い「……はぁ」

魔王「ふふっ。ずいぶんと思い詰めているな」

魔法使い「あ、あなたは?」

魔王「強いて言うなら、お前達の敵かな」

魔法使い「……」

魔王「なんだ、お前はいきなり襲いかかってきたりしないのか」

魔法使い「そうした方がいいんですか?」

魔王「ははっ。面白いな。気にいったぞ」

魔法使い「……用事はなんですか」

魔王「勇者に会いに来たんだが、まあいい」

魔法使い「……」

魔王「お前の方が面白そうだ」

魔法使い「私がですか?」

魔王「ああ。深い心の闇。負の感情。そう言う奴は好きだ」

魔法使い「……」

魔王「褒めてやってるんだ。そう怖い顔するな」

魔法使い「どこが褒めてるんですか」

魔王「人間とは強欲で私利私欲に純粋生きる醜い生き物だ。多くの人間はその人間らしさを殺して生きている」

魔法使い「そんなふうになったら社会は壊れてしまいます」

魔王「そうだな。だからこそそう言う人間が好きなんだ」

魔王「今のお前はとてつもなく人間らしいぞ」

魔法使い「わ、私は強欲でも私利私欲に生きている訳でもありません!!」

魔王「だがお前の中にある負の感情は実に人間らしい欲にまみれたものだ」

魔王「理性と言う名の枷が外れれば……お前は最高になる」

魔法使い「……意味がわかりません」

魔王「まあ、そうだろうな」

魔法使い「……」

魔王「少しの間はここにいるつもりだ。オレはここにいるから暇なら会いに来い」

魔法使い「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


修行の滝近く


正義「はぁ……無茶し過ぎよ」

勇者「すまん」

正義「一応傷は塞がったけど血はかなり減ってる訳だしダメージも残ってる訳だから安静にね」

勇者「分かっている」

正義「分かってないから言ってるのよ」

勇者「分かってるつもりなんだがな……」

正義「戦闘になると忘れちゃうでしょ」

勇者「……」

正義「分かったわね?」

勇者「ああ」スタッ

正義「言ってる傍から何処行くの?」

勇者「この近くに温泉があるんだ。そこに行ってくる」

正義「……まあ、体に悪いものじゃないし、行ってきたら?」

勇者「ああ」

正義「……私は誘ってくれないの?」

勇者「……言っておくが男女は別れていないぞ」

正義「混浴?」

勇者「ああ。混浴だ」

正義「じゃあ、やめとく」

勇者「俺が出た後で入ればいい」ガチャ

正義「ええ、そうするわ」

勇者「……」スタスタ

勇者「服が破れてたな……」

勇者(放っておくわけにもいかないし、縫うか)

勇者「……」

勇者「正義も待っているし、のんびりは出来ないな」

勇者「……誰も来ないだろうし中で縫うか」ヌギヌギ

勇者「……」ガラガラ

今日はここまでです。

勇者は無言のままお湯につかり、敗れた服を縫い始める。


勇者(……濡れなければ普通に縫えるからな)

勇者「……」

勇者「……」

勇者「……」

勇者「終わった」


勇者は服を畳み、温泉の近くにある椅子の上に置く。


勇者「単調では無い戦い方か……」

勇者(少し、正義の力を過信し過ぎているのかもしれないな……)

勇者「自分自身の力で戦った方がいいのかもしれん」


ガラガラ


勇者「……正義。まだ俺が入って――――」

英雄「……」

勇者「……」

英雄「な、なんだ」

勇者「何でも無い」

英雄「……」

勇者「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


正義「なんか疲れたわね」

勝利「……あれ、なんでここに?」

正義「あなたこそなんでここに?」

勝利「英雄が温泉に入るって言ったからそれを待ってるんだけど」

正義「私は勇者が温泉に入るって言うから待ってるんだけど」

勝利「……」

正義「……」

正義「この辺りに、温泉って二か所あったっけ?」

勝利「え、無かったと思うけど……」

正義「こんな辺境の土地に温泉が二つもあるなんて考えられないわよね……」

勝利「ああ、そうだね」

正義「……」

勝利「……」

勝利「勇者が温泉に行ったのはいつ?」

正義「五分、十分くらい前かしら」

勝利「英雄が言ったのは五分くらい前だ」

正義「……気付かずに入ってるって可能性は……」

勝利「無いと思うよ」

正義「私もそう思うわ」

勝利「じゃあ、会ってるよね」

正義「ええ、そうなるわね」

勝利「……」

正義「……」

正義「え? もしかして気付かないうちに常識が変わったの?」

勝利「ああ、確かに長い間眠ってた訳だしそうかもしれない」

正義「……」

勝利「……」

正義「そんな訳ないでしょ」

勝利「分かってるよ。そんな事」

勝利「正義?」

正義「ま、まあとにかく戦ってないならそれでいいのよ」

勝利「いいのかな、それで」

正義「戦ってないなら何してようが別にいいじゃない」

勝利「……じゃあ温泉でする事って何だと思う?」

正義「二人は男女でしかも裸……」

勝利「……」

正義「……」

勝利「英雄が処女じゃ無くなってる?」

正義「じゃあ勇者は童貞じゃ無くなってるの?」

勝利「……」

正義「……」

勝利「え?」

正義「え?」

勝利「……」

正義「……」

勝利「え?」

正義「え?」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


温泉


英雄「……」

勇者「……」

勇者「タオルくらい巻いてくれないか?」

英雄「私はすでに女を捨てた身だ。タオルなど巻く気は無い」

勇者「……」

英雄「それにお湯は白く濁っているから別に見えんだろう」

勇者「いや、それはそれで逆にあれと言うかだな……」

英雄「……」

勇者「いや、何でも無い」

英雄「ならいいんだ」

勇者「……」

英雄「……」

勇者「やっぱりタオルをだな……」

英雄「私をバカにしているのか」

勇者「いい加減俺の理性も限界が近いんだ」

英雄「……ならお前を斬り殺すまでだ」

勇者「……お前がタオルを巻けば問題は無いんだが……」

英雄「断る」

勇者「……」

英雄「何度も言わせるな」

勇者「何のプライドなんだ」

英雄「何度も言わせるな。私はすでに女など捨てた」

勇者「戦士になったからか?」

英雄「ああ。私は女では無く戦士だ」

勇者「……」

英雄「なんだその顔は」

勇者「女の戦士を俺は見たことがある。だが皆女を捨てている者はいなかった」

英雄「それが何だ。私は私だ」

勇者「それはそうだが……」

英雄「言いたい事があるならはっきり言え」

勇者「そうなんだが、何故そこまで頑なに――――」

英雄「私はどのにいても邪魔者扱いだ。だが兵士なら私は邪魔者では無くなれる」

勇者「……」

英雄「……」

勇者「何があったんだ」

英雄「お前には到底理解できんさ」

勇者「……」

英雄「純粋な人間であるお前にはな」

勇者「どういう意味だ」

英雄「お前に話していても意味は無い」ザバッ

勇者「……待て」

英雄「じゃあな」スタスタ

勇者「……鱗?」

英雄「!?」

勇者「今、背中に鱗みたいなのが……」

英雄「黙れ!!」

勇者「お前は……」

英雄「黙れ!!」スタスタ

勇者「まだ話は終わっていない」

英雄「私の話は終わった」

勇者「……じゃあ最後に聞かせろ。その背中のは一体何だ」

英雄「……お前に話す気は無い」スタスタ

勇者「……」

英雄「……」ガチャ

勇者「……何だったんだ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


魔王「……ふんっ。また来たのか」

魔法使い「いえ、今回はあなたを殺しに来たんです」

魔王「ほう? オレを殺すのか?」

魔法使い「はい」

魔王「面白い話だ。だがお前程度がオレを殺せるのか?」

魔法使い「殺します」

魔王「何のために」

魔法使い「あなたのせいで多くの人が死ぬならあなたをころしてその人達を救うんです」

魔王「その多くの人は救うに値するのか?」

魔法使い「え?」

魔王「お前の言う多くの人間はお前が命懸けで戦って守るだけの価値があるのか?」

魔法使い「そ、それは……」

魔王「その多くの人間はお前を理解してくれるのか? お前を認めてくれるのか?」

魔法使い「……」

魔王「認められないだろうな。呪い師だと陰口を言われ世間から見放される」

今日はここまでです。

魔王「そんな連中の為に命を懸ける必要が本当にあるのか?」

魔法使い「わ、分かりません」

魔王「やはりお前はいい。偽善者なんかよりよっぽどいい」

魔法使い「……」

魔王「答えは出せないか」

魔法使い「……」

魔王「で、どうするんだ?」

魔法使い「な、何がですか」

魔王「ははっ。もう目的を忘れたのか?」

魔法使い「そ、それは……」

魔王「オレと戦うのか?」

魔法使い「……」

魔王「半端な気持ちで戦えば勝てる戦いも負けるぞ。まあオレは負ける気は無いがな」

魔法使い「……わ、私は」

魔王「帰れ」

魔法使い「……」

魔王「今の状況ではどうやっても全力で戦えないことなど十分に分かっているだろう」

魔法使い「は、はい……」

魔王「帰れ。オレは逃げやしない」

魔法使い「……」スタスタ

魔王「……」

旅人「また変わった相手と遊んでいますねぇ」

魔王「まあな。あいつはいいぞ。内に秘めた闇がいい具合に大きい」

旅人「へぇ」

魔王「巨人はどうした」

旅人「部隊を連れて進撃中だそうです」

魔王「和の町にはいつ着く」

旅人「そうですね……明日、明後日ほどかと」

魔王「……上出来だ」

旅人「へへっ。ありがとうございます」

魔王「また何かあったら報告してくれ」

旅人「へい」スタスタ

魔王「……さて、どう踊る。人間共」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

正義「お帰り」

女秘書「お帰りなさいませ」

勇者「なんでここにいるんだ」

女秘書「少し用事がありまして」

勇者「用事?」

女秘書「はい。少々厄介な事が起こりましてね」

勇者「厄介な事と言うのは」

女秘書「今すぐ和の町に向かって下さい」

勇者「まずは理由を聞かせてもらわない事にはどうしようもないのですが」

女秘書「魔王の軍勢が和の町へと向かっています。今すぐ救援に向かって下さい」

女秘書「部隊もすでに救援に向かわせてあります」

勇者「……分かった」

女秘書「突然で申し訳ありません。探しまわっていたらこんな遅くなってしまって」

正義「手がかりなしで探せただけ凄いわよ」

女秘書「この程度の事なら普通にこなせて当然です」

正義「普通なら不可能だけどね」

勇者「で、時間は」

女秘書「あまりありません。出来るだけ急いでいただきたい」

勇者「分かった」

女秘書「海辺の国と谷の国も渋々ながら増援を送るとの事です」

勇者「ああ」

正義「じゃあさっさと行きましょう」スタスタ

勇者「ああ」スタスタ

女秘書「お願いします」

正義「……」スタスタ

勇者「……」スタスタ

正義「英雄とどうだった?」

勇者「……なんで知ってるんだ」スタスタ

正義「勝利と会ったのよ」

勇者「……」

正義「で? どうだったの?」

勇者「別に何も」

正義「少しの間一緒に入ってたみたいだけど」

勇者「……別に一緒に入ってただけだ。他には何もしていない」

正義「知ってるわよ。そんな事」

勇者「ならいいんだ」

正義「そんな度胸無いんでしょ?」

勇者「……」

正義「どうなの?」

勇者「そうだ」

正義「やっぱり」

勇者「……」

正義「何よ」

勇者「何でも無い」

正義「もしかして、度胸が無いって言ったの気にしてる?」

勇者「少しだけ、な」

正義「……」

勇者「べ、別にそこまで気にしてない」

正義「嘘が下手ね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


和の町


武人「……」

男性「防衛隊がやられました」

武人「分かった」

男性「……」

武人「どうする……」

男性「このままだともってあと一日です」

武人「……くっ」

男性「どうしますか」

武人「戦力は?」

男性「援軍が来るのは早くても二日後です」

武人「……」

男性「……」

武人「俺が前線に出ても敵を全部は食い止められない……」

男性「どうしましょう」

武人「策が、無いな」

男性「じゃあ――――」

逃亡者「二人いればどうかな?」

武人「逃亡者。どうしてここに」

逃亡者「うーん。女王命令ってやつ?」

武人「女王様の命令でか」

逃亡者「まあ、分かり易く言えばそう」

武人「……」

逃亡者「一人でダメでも、二人いれば何とかなるんじゃない?」

武人「ああ、そうだな」

逃亡者「敵の軍勢の数は?」

男性「え、あ……」

逃亡者「約何人?」

男性「や、約千と言った所です」

逃亡者「じゃあ俺が五百で武人も五百だな」

武人「ああ、そうなる」

男性「む、無茶です」

逃亡者「そんな事誰だって分かってる」

男性「……」

逃亡者「でも誰かがその無茶をしないとどうしようもないもの事実だろ?」

男性「……」

逃亡者「なら俺と武人が適任だと思わないか?」

武人「逃亡者の言うとおりだ。無茶しなければこの町は落ちる」

男性「……」

武人「お前達は避難しておけ」

男性「いえ」

武人「何?」

男性「……非難する気はありません」

武人「……」

男性「お二人が戦うなら全力でサポートします」

武人「……」

男性「我々もこの町の一員です。非戦闘員でも、出来る事はあるはずです」

武人「……死ぬなよ」

男性「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~


武人は静かに刀を抜き、そのまま構えた。
息を大きく吐き出し、呼吸を調える。

頭の中でもう一本の刀を想像する。

数秒後、彼の左手には右手に持っている刀とまったく同じ刀が複製されていた。

彼が今いるのは最前線。
千を超える軍勢は彼目掛けて進軍している。


『勝てるのか?』

「さあ。でも勝たないと和の町はやられる」

『ああ、そうだな』

「俺と敵の軍勢がぶつかったら逃亡者が裏から攻め、挟み撃ちにする」


出来る限り敵の部隊を削り、出来る限り和の町に入る敵兵を減らす。
それが彼の仕事だ。

敵はすでに武器を構え、彼から数百メートル先で停止していた。


「行くぞ」

『ああ』


武人は刀を構え、そのまま敵目掛けて突進する。

普通より少し速いくらいの速度の突進。
だがそこには揺るがない意思があった。

彼の刀が一人目の敵を血で染めた。

周りはあっという間に囲まれ四面楚歌となる。

しかしそれは彼の作戦のうちだ。


『丁度いい位置だ。使えるぞ』

「ああ。真理、頼む」

『了解』

昨日は書き忘れててすいません。

今日はここまでです

近づいて来た敵兵を切り裂くと、武人は左手に持った刀を地面に投げ捨てた。

それは地面にたどり着く前に塵の様に消滅する。

武人は静かに刀を構え、敵をけん制した。

それが効いたのか、敵兵達は一歩下がり、武人との距離を離した。

体の中にある魔力を全て注ぎ込み、イメージを固める。

口に出すのもはばかられる姿。
あらゆるものを喰らう神の姿。
見た者を発狂させるその姿。


「這い寄る混沌」


武人が呟いた瞬間、彼の体は肉塊によって包まれていた。
いや、正確には彼から生み出される肉塊に埋もれていた。

肉塊と言うにはそれはあまりにも醜悪だった。
だがそれは不快感を与える醜悪であるのに何処か神々しい高貴さすら感じられる。

まるで内臓をぶちまけたかのような肉塊は雪だるま式に肥大化していく。
肉塊には手のような触手が伸び、大きさも様々な無数の目が開かれる。

グチュグチュと言う湿っぽい音が響く。

その音は体をざらざらした舌で舐めとられる様な不快感を兵士達に与えた。

敵兵達の顔は青白く。
一番近くにいた者はすでに発狂していた。


「二度とふたたび千なる異形の俺と出会わないことを宇宙に祈れ」


肉塊の無数の手が敵兵を貫く。
肉塊は死体を喰らい、更に肥大化していった。

手たり次第に敵を襲う。

グチャリ。

敵兵の頭がとぶ。

グチャリ

敵兵の胸を触手が貫く。

グチャリ。

敵兵が頭から真っ二つに引き裂かれる。

目につくもの。
立っているもの。
生きているものが殺されていく。

そんな現実離れしたその光景は戦闘と言うより殲滅。
いや虐殺にしか見えなかった。

叫び声が聞こえる。
呻き声が聞こえる。
命乞いが聞こえる。

しかし、虐殺は止まる事無い。
それが義務であるかの様に殺し続ける。


「戦争で命乞いしようなんて、救えねえな」


彼のその声はただも独り言だ。

数分後。

そこに残っていたのは数えきれないほどの死体と武人だけだった。

彼は刀を鞘にしまうと、死体の山に背を向け走り出した。

短いですが今日はここまでです。

すいませんが今日は休みます。

武人「逃亡者」タタタッ

逃亡者「ああ、終わった?」

武人「敵は」

逃亡者「二、三人来ただけ、他には誰もいないよ」

逃亡者「もちろん殺しといたよ」

武人「ほ、本当か?」

逃亡者「これは本隊じゃない」

武人「何?」

逃亡者「お前があの気持ち悪い変身をしたらほとんどの敵兵は逃げていった。多分偵察の一環だったんじゃないか?」

武人「あ、あの人数でか?」

逃亡者「本隊の一部を送りこんでここの兵力を調べたかったとか?」

武人「……」

逃亡者「これで三人目だ」

武人「?」

勇者「敵は!?」タタタッ

逃亡者「勇者」

逃亡者「撃退した、って言っていいのか?」

勇者「遅くなった。すまない」

武人「いや、大丈夫だ。まだ敵の本隊との戦いが残っている」

勇者「そうか」

逃亡者「お前は援軍って扱いでいいのか?」

勇者「ああ。そのために来たんだ。谷の国と海辺の町の少しだが援軍を出すらしい」

逃亡者「谷の国は期待しない方がいいと思うけどな」

勇者「海辺の町もそこまで期待はしていない」

逃亡者「……とりあえず全員集まるまで待つか」

勇者「そうだな」

武人「……一旦戻るぞ」

逃亡者「そうだな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


和の町


逃亡者「さーて、誰が来るかな?」

勇者「さあな」

武人「即戦力になってくれるといいんだがな」

逃亡者「さすがにそこまで弱い奴は来ないと思うけどな」

勇者「国が国だからな。どうなるか分からん」

武人「いい奴が来るといいが」

格闘家「ここか?」スタスタ

逃亡者「……格闘家」

格闘家「逃亡者か。懐かしいな」

武人「知り合いか?」

逃亡者「ああ、谷の町のな」

格闘家「まさかお前まで居るとは」

逃亡者「いろいろあったんだよ」

格闘家「そりゃあ、そうだろうな」

逃亡者「お前一人か?」

格闘家「ああ」

勇者「あの王にしては頑張ったんじゃないか?

格闘家「そこまで戦力になるかどうかは分からんぞ」

逃亡者「とりあえず即戦力にはなる」

武人「ありがたい」

逃亡者「ああ、その通りだ」

英雄「……」スタスタ

勇者「……」

逃亡者「やっぱりね。お前が来るだろうとは思ってたよ」

英雄「私は部隊所属では無いからな。戦力的に問題にもならん」

武人「人格を持つ剣の持ち主でもか?」

英雄「優秀な兵士はゴロゴロいる」

逃亡者「そりゃそうだ」

勇者「お前だけか?」

英雄「……」

逃亡者「え、なんかあった訳?」

英雄「別に……」

勇者「何も無い」

逃亡者「いや、なんかよそよそしくない?」

英雄「気のせいだ」

勇者「そうだ」

武人「……作成会議していいか?」

勇者「ああ、悪いな。始めてくれ」

武人「……じゃあ始めるぞ」

格闘家「敵兵の量は分かっているのか?」

武人「少なくても千以上だ」

勇者「また凄い量だな」

武人「ああ、凄い量だ」

勇者「……」

逃亡者「五人いれば何とかなるだろう」

英雄「無茶を言うな」

格闘家「無理だと思ってるのか?」

英雄「まさか」

逃亡者「ヒュー。さすが」

英雄「……」

逃亡者「要は武人だ。お前がどれだけ敵を倒せるかにかかってくると言ってもいい」

武人「分かってる」

格闘家「で、役割なんかはどうするんだ?」

武人「俺が正面で敵を蹴散らす。あとは……その時に合わせて臨機応変に頼む」

逃亡者「アバウトだね」

勇者「下手に面倒な策よりいいんじゃないのか?」

逃亡者「ははっ。そうかもね」

英雄「全滅させるだけだ」

逃亡者「出来ればいいけどね」

英雄「……」

勇者「一言多いぞ」

逃亡者「すまんね」

武人「じゃあ各自休んでてくれ」

逃亡者「了解」

勇者「わかった」

格闘家「ああ」

英雄「……」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


山の町   勇者の家


魔法使い「……」


カンカン


魔法使い「ん……」ムクッ

魔法使い「?」

魔法使い「鍛冶屋さんですかね」スタスタ

魔法使い「鍛冶屋さん?」

鍛冶屋「あ、悪い。起こしちまったか?」

魔法使い「いえ、別に」

鍛冶屋「そうか」

魔法使い「何してるんですか?」

鍛冶屋「いや、勇者の家の包丁がボロボロだったから作り直してたんだ」

魔法使い「そ、そんな事出来るんですね」

鍛冶屋「一応刀鍛冶だしね」

魔法使い「そ、そうですね」

鍛冶屋「……ああ」

魔法使い「あとどれくらいで出来るんですか?」

鍛冶屋「うーん。あともう少しくらいだと――――」


ガチャ


鍛冶屋「……勇者か?」

姉「勘違いしないでくれる?」

鍛冶屋「……何の用だよ」

母「久しぶりね。魔法使い」

魔法使い「……母さん」

母「私達に言う事があるんじゃないの?」

魔法使い「え?」

母「何か変わったんでしょ?」

魔法使い「……え、その……私、呪い師に――――」

母「魔術を使える様になったのね」

魔法使い「え、あ……」

鍛冶屋「魔法使い」

魔法使い「は、はい。そうです」

母「そう」ニッコリ

魔法使い「……」

姉「おめでとう魔法使い」

鍛冶屋「よかったな」

魔法使い「は、はい」

母「これであなたも我が一族最大の端になったわね」

魔法使い「え?」

姉「魔法使いに成れないからって呪い師になるなんてね」

母「本当に我が家の恥晒しね」

魔法使い「……」

鍛冶屋「お前等知らねえかもしれねえけどな――――」

魔法使い「いいんです」

鍛冶屋「でも――――」

魔法使い「話したって意味ないですから!!」

鍛冶屋「……」

魔法使い「何言っても私が呪い師だって事に変わりはありませんから……」

鍛冶屋「……」

母「もう家には来なくていいから」スタスタ

姉「ええ。二度と来ないで」スタスタ

鍛冶屋「……」


ガチャ


魔法使い「い、いいんです。私が全部悪いんですから」

鍛冶屋「お前のそう言う所、イライラする」

魔法使い「すいません」

鍛冶屋「そう言う所だよ」

魔法使い「……」

魔法使い「す、すいま――――」

鍛冶屋「謝らなくていい」

魔法使い「……」

鍛冶屋「ちょっと出掛けて来るわ」

魔法使い「は、はい」

鍛冶屋「夕方くらいには帰ってくる予定だから」

魔法使い「はい」

鍛冶屋「……」スタスタ

今日はここまでです。

魔法使い「……」

魔法使い「出掛けましょうか」スタスタ


ガチャ


魔法使い「……」

旅人「何をそんなに思い詰めてるんですかい?」

魔法使い「!?」

旅人「いやね、さっき鍛冶屋でしたっけ? が出ていくのが見えたんで」

魔法使い「あなたには関係ありません」

旅人「そう言う訳にはいきませんよ」

魔法使い「……」

旅人「あんた、魔王にあったんでしょう?」

魔法使い「……はい」

旅人「魔王の話はどうでしたか?」

魔法使い「別に、どうという事もありません」

旅人「へぇ」

魔法使い「それが何か」

旅人「じゃあお嬢さんはこの世界の人間は命を賭けてまで助ける価値のある人間だと言う事ですね」

魔法使い「……」

旅人「どうなんですかい?」

魔法使い「そ、それは――――」

旅人「お嬢さんの家族や周りの人間はそれに値する人間ですかい?」

魔法使い「私には勇者さんや正義さんや鍛冶屋さんがいますから」

旅人「へっへっへ。そりゃ立派な事で」

魔法使い「……」

旅人「でも今のお嬢さんの周りには誰もいませんね」

魔法使い「……ど、どういう意味ですか?」

旅人「いえね、確かにお嬢さんにとってその三人は大事かもしれない。でも向こうからしたらあなたは大事なんですかね」

魔法使い「……」

旅人「どうですかい?」

魔法使い「……」

旅人「あっしには分かりますよ。お嬢さんの気持ちが」

魔法使い「……何が、分かるんですか」

旅人「怖いんでしょう?」

魔法使い「な、何がですか」

旅人「全てがですよ」

魔法使い「……」

旅人「魔王から聞いた話を教えてあげましょうか?」

魔法使い「……」

旅人「0から1と1から2。どちらも1増えているだけですが、二つには大きな違いがありますが、わかりますか?」

魔法使い「わ、分かりません」

旅人「……じゃあヒントです。2から3も1から2と変わりません。もちろん3から4も」

魔法使い「……」

旅人「1から2も2から3も、結局は増えているだけなんですよ」

旅人「でも0から1は無から何かを生み出している」

魔法使い「な、何が言いたいんですか」

旅人「0から1以外は所詮増えているだけだと言う事ですよ」

魔法使い「言いたい事が分かりません」

旅人「0より上はみんな一緒なんですよ。1も100も、1,000もね。所詮数が増えているだけですから」

魔法使い「……」

旅人「それじゃあまた会いましょうか」スタスタ

魔法使い「……」

旅人「……」スタスタ

魔法使い「待って下さい」

旅人「へぇ?」ニヤリ

魔法使い「魔王さんは、まだいるんですか?」

旅人「……ええ。まだいますよ。あの人は逃げたりなんかしませんからねぇ」

魔法使い「……」

旅人「へっへっへ。また会いたくなったんですか?」

魔法使い「いえ……」

旅人「いいんですよ。その方がいい」

魔法使い「……」

短いですが今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者「……」

正義「どうしたの?」

勇者「いや、そろそろだろうなと思ってな」

正義「そうね」

勇者「まず先陣は武人と英雄か」

正義「私達と逃亡者で入口を守る訳ね」

勇者「ああ、そこそこいい陣だと思うぞ」

正義「武人の技は知らないけど英雄の炎はかなり有効だと思うわよ」

勇者「ああ。あれは大勢焼き払えそうだな」

正義「戦争ね」

勇者「そうだな」

正義「……」

勇者「俺は他の3人と比べると弱い」

正義「……そうね。確かに英雄にも逃亡者にも勝てた事無いし、武人には勝てないでしょうしね」

勇者「今のままでは、ダメなんだろうな」

正義「そうね」

勇者「……」

正義「修行すればいいのよ。今のあなたは素質はあるけど私を使った戦い方が分かって無いだけだから」

勇者「ああ」

信義「何辛気臭い話ししてる訳?」

正義「し、信義!? いつの間に……」

逃亡者「今々来た所」

勇者「どうしたんだ」

逃亡者「いや、まだ敵も来なさそうだしさ」

勇者「……」

逃亡者「少し話しておこうと思って」

勇者「何をだ」

逃亡者「いろいろだよ。いろいろ」

正義「……」

逃亡者「一応今は仲間だろ?」

勇者「ああ、そうだな」

逃亡者「ならお互いを知って言おたほうがいいだろ」

勇者「……そうかもな」

逃亡者「俺の事は格闘家からそこそこ聞いてるらしいな」

勇者「ああ。少しだけな」

逃亡者「まあ、改めて言っとくか。俺は逃亡者。元は谷の国の部隊の隊長だ」

勇者「……俺は勇者。山の国の王により魔王討伐の為に戦っている」

逃亡者「……よろしく」

勇者「ああ」


逃亡者と勇者は握手をする。


信義「なんだかんだで似てるのかもね」

正義「そう?」

信義「思わない?」

正義「……ちょっとね」

勇者「あのお姫様とは隊長の頃にあったのか?」

逃亡者「まあ、そうだな。いや、正確にはちょっと違う」

勇者「?」

逃亡者「俺が下っ端の頃は姫様の護衛の仕事が多かったんだ。それで仲良くなったんだ」

勇者「そうなのか」

逃亡者「多分姫様と年が近かったってのもあるんだろうな」

勇者「姫様は今何処に?」

逃亡者「砂漠の城で待機中だ」

勇者「そうか」

逃亡者「俺が今回の話に乗ったのも姫様を安全な場所に置いておきたかったから」

勇者「大切なんだな」

逃亡者「ああ。そりゃあな」

逃亡者「さて、じゃあ次はそっちの番だ」

勇者「……俺の事は話してあるだろう」

逃亡者「お前がなんでそこまで正義に執着してるのかは知らないよ」

勇者「……」

逃亡者「別に嫌ならいい。でも教えてくれるなら教えてくれ」

勇者「いいさ。話す」

勇者「俺は――――」

正義「勇者!! 敵よ!!」

勇者「……話は後だ」

逃亡者「ああ、分かった」

信義「行くわよ」

逃亡者「ああ!!」


信義と逃亡者は見張り台から飛び降りる。


正義「まったく、十メートルもあるのよ」

勇者「正義。敵は」

正義「あそこ、だいたい二千弱って所ね」

勇者「俺達も行くぞ」

正義「了解」

今日はここまでです。

すいませんが今日も休みます。

最近ものすごく忙しくて、すいません。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『見えるか。武人』

「ああ、よく見える」


武人は一人町の入り口に立っていた。
その手にはすでに二本の刀が握られており、背中には天使の様な純白の翼が生えている。

眼下にはすでに敵の軍勢が見えている。
それはまるで一つの巨大な何かの様にぞろぞろとこちら目掛けて進んでいた。


「じゃあ、始めようか」

『ああ、そうだな』


武人の一言に真理は答える。

約二千の敵兵にいくら空中からの攻撃が出来るとは言え勝てるとは思えない。
いや、正確には勝つ方法はあるが今回は防衛線であり、敵をいかに足止めし、敵を減らすかが最大の問題となるのだ。

――――さて、どうしようか。

彼の失敗は前回に切り札の一つを相手に見せてしまった事だった。

さすがに何かしらの策を考えてきているはず。
ならば武人の方もあれは使う事が出来ない。

だが、彼自身にその程度は何の問題でもない。

頭の中で形をイメージ。
それを徐々に固め、細部までしっかりとイメージし尽くす。


「沼に棲む者」


彼の体を毛が覆う。
刀を持っていた両手が鋭い爪の生えた巨大な前足と化す。
足は強靭な後ろ足に、顔は鋭利な牙がずらりと並んだ狼の顔へ。
全長四メートルはくだらない巨大な獣へと姿を変える。

聞く人の心を喰らう様な低い声で唸り声を上げるその姿は誰がどう見ても化け物以外の何ものでもなかった。
だがやはり、そこには何とも言えない神々しさが漂っている。

体を傾け、疾走の準備を始める。

敵との距離は数百メートル。
今の彼なら敵が武器を抜くより早く距離を縮めきれる自信があった。

弾丸の如く、彼の体が疾走する。
風を切って進むその姿はさながらかまいたちの様だ。

時間にして約一秒。

彼の右前足の爪が一人目の敵を紙切れの様引き裂く。
彼の牙が、二人の目の兵士の頭を食い千切る。

鈍く光る両目が敵兵達を捉える。
もちろんその膨大な量のほんの一部を捉えた過ぎない。

だが、敵兵達の間に体に張り付く様な気持ちの悪い緊張感が漂うのが分かった。
ピンと張りつめた様な異様な雰囲気が兵士たちを包む。

だが例え彼等が攻撃態勢になったとしてもただの兵士では勝ち目はなかった。
例え二千人であってもだ。

理由は単純で明快。
災厄は例え何人いても防ぐ事は出来ない。
災厄を防げるのはそれと同等の力を持った災厄でなければ意味が無いのだ。

巨大な怪狼は地鳴りの如き唸り声を上げる。
それは獲物を捕らえられる歓喜にも似た響きを纏っている。

その声は蛇蝎が体を這いまわる様なおぞましさを敵に与えた。

狼の咆哮が響いたのと敵兵がまるで玩具の様に引き千切られ、切り刻まれたのはほとんど同時だった。
まるで狂人の宴の様な狂乱が始まる。

剣を持った兵士の首がもげ、槍を持った兵士の両腕が吹き飛ぶ。

災厄は髪の毛ほどの躊躇も無く、あっという間にその場を凄惨に染め上げる。

薔薇に似た赤がほとばしり、肌色の塊が宙を舞う。

だが、そんな災厄は突如として終わりを迎えた。

全長三メートルを超える一本の剣が怪狼に振り下ろされた。
鈍い風を斬る音が響く。

もちろん、彼はそれをいとも簡単にかわすと、そのまま目の前の巨人目掛け襲いかかった。

しかし、巨人は怪狼をいとも簡単に弾き飛ばすと、剣を怪狼に向ける。

だが怪狼は動じなければ怯える事も無い。
今の彼は一つの武器も同然。
体はおろか、脳でさえもどうすれば敵を狩れるのか以外の思考は排除されていた。

怪狼と巨人。
まるで冗談の様な化物はお互いに睨み合う。

彼は敵を睨みながら攻撃のタイミングを図っていた。
相手の呼吸、仕草、感情を読み取り、最も相手が気付き辛いタイミングで攻めに転ずる。

しかし巨人はその七メートル近い巨体をピクリとも動かさず、銅像の様に静止していた。
呼吸は全く読めない。
感情も読みとれない。
ただしかしその赤黒い目は明らかにこちらに対する殺意をもっている事だけは分かった。

言葉はない。

ただお互いに剥き出しの殺意だけがマグマの様にドロドロと垂れ流されている。

真夏の焼ける日差しの様なピリピリとした感覚が怪狼を襲う。
それが何なのかを彼は知っていた。

それは命を賭けた戦いの高揚感。
殺し、殺されを純粋に楽しむ感覚。

常人には理解できないだろう。
だが今の彼は武器。
戦いの中にこそ、いや、戦いの中でしか楽しみを見出せない武器なのだ。

怪狼が地を蹴り、大きく前に跳ぶ。
一本一本が短剣にも見える鋭利な牙を剥き出しに巨人目掛け襲いかかる。

巨人の無骨な剣がまるで地を抉り取りように大きく横に振り抜かれた。

怪狼はそれを紙一重でかわし、巨人の喉元へと喰らいつく。

だが彼の牙はガチンと音を鳴らしただけでその岩の様に硬い肉を噛み砕く事は無かった。

そこに巨人の姿は無かった。
いや、正確には前後左右、何処にも巨人の姿は無かった。

何が起きたのか理解できない。
ただし、自分が敵を仕損じた事だけは痛いほどに理解できてしまった。

彼はどこにぶつける事も出来ない苛立ちを心の奥底にしまい込むと兵士の生き残り達を狩り始めた。

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


逃亡者の戦闘はどんな敵であっても必要以上の苦痛と疲労を伴う。
それは彼の戦い方が肉体にギリギリまでの負荷をかけ、動きまわるためだ。
彼はどんな相手であっても手を抜かない。
それは相手に対して失礼だと思うのと同時に彼のポリシーでもあった。

まるで一発の弾丸の様に跳んだ。
そしてそのまま彼は剣を横に振り、敵を切り裂く。

まるで閃光の如きその一撃は敵兵が気付くよりも先にその兵士の命を奪っていた。

地面に着地すると同時に膝に痺れるような痛みがはしる。
素足でおろし金の上を滑っているかのような痛みが足の裏を襲った。

痛みに顔が苦悶の表情に歪む。
喉の奥から漏れだしそうになる悲痛な叫びを無理矢理に飲み込む。

彼のこの代償は当然の事ながら全て彼自身が負担している。
地獄の拷問にも似たその苦痛と苦しみだけの戦闘も彼は全てを受け入れていた。
それが彼が彼女を守るために選んだ答えなのだから。

『逃亡者。大丈夫?』

「まだまだだよ」


目の前に銀色の物体がきらりと光る。

彼はそれをその人外染みた速度で回避するとその物体の持ち主を魚の様に三枚に下ろした。

武人が何をしているのかは知らないが敵の数はそれほど多くのは無かった。
今まで彼が狩った敵と今目の前にいる敵の数を合わせても二桁と少々くらいだろう。

一見すれば順調な出だし。

しかし彼の心中では暗雲に似た不安が膨れてきていた。

確かに敵の数は十人と少し。
だがその敵はどれも今さっき進軍してきたものばかりだ。

そして声から察するにまた少数ではあるが敵が来ているのが分かる。

「信義、敵が増えてないか?」

『ええ。何があったかは分からないけれど、そうみたいね』


だが、信義の声にはそこまで緊張した様子は無い。
それは多分、武人がまだ生きているからだろう。
もし彼が死んでいればそれこそ彼ではどうしようもないほどの量の敵が進軍して来る。

何かしらはあったんだろうが、そこまで気にする必要は無いだろう。
そう彼女の言葉を解釈した。

体を鉛色の風が撫でる。
ブルリと体が震えた。

彼はこの風の名を知っている。
野生の感が強敵の存在を告げる。
すぐ近くにある大きな力の塊の存在を知る。
彼の体が武者震いする。


「ほう、今度はちゃんとした人間か」

低い。
それは地を這う蛇の如き声。

姿を現したのは身長七メートル近い巨人だった。

布の粗末な服を纏い、腰には無骨な剣がささっていた。
いや、剣自体の長さは三メートル近く、逃亡者たちからすれば特大剣とも言えるかもしれない。

その肉体は鍛え抜かれ、恐ろしいまでに屈強だった。


「でかいな」

「そりゃそうだ。巨人だからな」


逃亡者の目はすでに捕食者のそれになっていた。
宝石の様にギラギラと光り、戦闘狂の如く口を大きく歪ませ笑みをかべる。


『行くよ。信義』

『ええ。分かってるわ』

逃亡者の体が前に突進する。


体が軋み悲鳴を上げる。
四肢を引き裂かれる様な激痛が体を襲った。

白銀の閃光が二つ。
火花を散らし激突する。
それは花火の様に美しく。
そしてそれ以上に儚かった。

逃亡者は更に二度三度と常人では繰り出せない様な速度で無茶な攻撃を繰り返す。
もちろん、その攻撃は逃亡者自身の体を内側から破壊するもろ刃の剣だ。

そのたびに儚くも美しい花が咲き、瞬時に消滅する。

四度目の花が咲いた時、逃亡者の左手は大きく引かれていた。
それはまるで限界まで引き絞られた弓の様に震え、飛ぶ瞬間を待ち望んでいる。

その時は次の瞬間に訪れた。

ゴウッ、と言う風を無理矢理に貫くかのような音をたて、彼の左手が進む。
その先にあるのは巨人の顔。

今日はここまでです。

お詫びがあります。

このままいくと番外編を収録するのが非常にきついです。

正直この戦いの後に本編と絡める感じで番外編をやろうと思っていたのですが、思ったより長引いてしまってこのままだとこのスレでは番外編は無理かもしれないです。

一応この戦闘が終わったらやる予定ですが、かなりの高確率で持ち越しになると思っておいてください。

真っ赤な液体が四散するした。

電撃に似た痛みが全身を貫く。
それは綺麗に脳天から足先までを素早く駆けていった。


「がっ……」


逃亡者の捻り出した様な弱々しい声が僅かに聞こえる。

彼の左手は巨人の頬を見事に射抜き、巨人を吹き飛ばしていた。

だがその衝撃は彼の左手にも同様に襲っていた。
すでに原形は留めておらず、はじけたスイカの様に赤い液体がとめどなく溢れている。
文字通り、彼の拳は砕けていた。

視界が霞む。
今自分が何をしているのか分からなくなる。

意識が溶けていった。


『逃亡者!!』

頭に響いた声に正気に戻る。
どうやら僅かな意識がとんでしまっていたようだった。

気にする事では無い。
それは彼の戦闘中ならよくある事。

彼は痛みを振り払うかのように頭をふると、巨人の方に向き直った。
その目は相変わらず狩人の、獲物を狙う捕食者の目だ。


「無茶な戦い方だな。精神的にも肉体的にも負担が大きすぎる」

「何言ってんだ。そんな事俺が一番よく分かってるに決まってんだろ」


逃亡者は修復していく左手を眺めながらそう答えた。

彼は自らそれを選んでいる。
誰かに言われた訳でもない。
強要された訳でも、頼まれた訳でもない。
自分の意思でいくつかある選択肢の中からこの戦い方を選んだのだ。

「愚かだな」

「その愚か者の命で姫様が救えるなら喜んで差し出すさ」


剣を構え直し、逃亡者は残酷に笑いながらそう言い放った。
その顔に曇りは無い。
秋晴れの様に晴々した顔だ。

彼が守りたいのは他の何者でも無く彼女だから。
彼が救いたいのは他の何者でも無く彼女だから。
彼が幸せにしたいのは他の何者でもなく彼女なのだから。

たった一人を救うために彼は自分自身の力を最も引き出せ、自分自身を最も傷つける戦術を選んだのだ。

逃亡者は素早く跳び、巨人目掛け弾丸の如く猛進する。

迷いなき剣。
それが何よりも強い事を勇者が知るにはもう少し時間がいるだろう。

銀の閃光がはしる。
それは巨人の胸に一本の切り傷を付けた。

僅かだが、巨人の胸を赤く染めさせる。

「ちっ、浅いか」


更に追撃の為に空中で剣を構え直す。
……だがその剣が振られる事は無かった。

体が予想外の方向へ振られ、そのまま吹き飛ばされる。
投げられたのだと理解するのはすでに飛ばされた後だった。
逃亡者の小さな体はまるで毛糸の様に地面を駆ける様に転がり、家の壁を砕いてやっと停止した。


「がはっ!!」


口から鮮血が零れる。
骨も少なくとも一、二本は折れているはずだ。

足首の痛みに呻きながらも彼の目はいまだに闘志を失ってはいない。
その目は獲物を狙う蛇の様に鋭かった。


『信義。修復を急いでくれ』

『ええ。そのつもりよ』

肉をすり潰す様な痛みに耐えながら逃亡者は立ち上がった。

すでに体の修復は七割方終わっている。

彼は剣を拾い上げると、構え――――。

だが、その行為が終わるよりも先に巨人の左手が逃亡者の脇腹に突き刺さっていた。
丸太ほどあろうかと言う巨大な腕はメシメシと言う異様な音を立てながら逃亡者を貫く。

訳が分からない。
何が起こったのか分からない。

今さっきまで数メートルと言う距離が開いていた。
そのはずなのにそれこそ瞬きする様な時間で距離を縮め、更に攻撃を仕掛けてくる。

そんな事は理論上不可能なはず。
それなのに目の前の巨人はそれを平然とやっている。

考えれば考えるほど分からなくなる。


「魔力が使えるのは何も人間だけじゃない。覚えておくんだな」


その言葉を最後に、逃亡者は暗闇の世界へと落ちていった。

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


勇者が来たときにはすでに逃亡者は地面に仰向けに倒れていた。

辺りの建物は瓦礫と化し、所々煙が上がっている場所もある。


「逃亡者!!」


声を出すが返事は無い。
ただ呼吸と心臓は動いており、気を失っているだけの様だった。


「……正義。敵は?」

『そんなに離れてないわ』

「分かった」


勇者は走り出す。
そしてすぐに敵の居場所を突き止めた。

彼の目の前の壁には巨大な穴が開いていた。
そこは鍛冶場だ。
そして敵がそこに侵入したと言う事は……。

考えるよりも先に体が動く。

彼は転がり込むように鍛冶場に入ると刀を右手に持ったまま獣の如く疾駆する。


「お前で最後か。だが一足遅かったな」


低い声が響いた。

その声の目の前に逃げも隠れもせず、さながら門番の様に道の真ん中に立っていた。


「逃亡者をやったのはお前か」

「そうだ。あいつは逃げ切れそうになかったんでな。残りの二人は振りきって後は兵士達に任せてある」


身長約七メートル近い巨人が笑いながら答える。
それはまるで酒の席の様に楽しそうな笑みだ。

「やはり目的はここか」

「俺達の目的はここを使えなく事だからな」

「……」

「何か不満か?」


勇者達の予想だと魔王達はこの町を占領するものだと思っていた。
だが彼等はそれをしない。
つまり建物だけ破壊すると言う意味でとれる。


「占領して人々を奴隷とする気も無いのか?」

「そんな事をしても意味は無いだろう」

「さっきもそうだ。逃亡者を殺せたはずだろう」

「一応お前達四人は殺すなと魔王様に言われていてな」


勇者はその言葉に首をかしげる。
もはや魔王の意図が分からなくなってきていた。

「お前の……お前達の目的は一体何だ」

「魔王様は戦いを望んでいるんだ。人間との死力を尽くした戦争をな」


分かりそうだった魔王の心が霧の様に消えていくのが分かった。

彼女は人間を滅ぼすのが自分の使命だと言っていた。
なのに何故わざわざ戦争を長引かせる様な事をしたいのか。


「分かっているだろう。お前達はまだ本気では無い。なら本気にさせるしかないだろう」

「そのためにこんな事を」

「ああ」

「お、お前達は――――」


狂っている。
そう口が動くが声は発せられなかった。

そんな事の為にお互いの兵士が死んだ。
お互いに苦しみが、憎しみが生まれた。
そんなものは狂っている。
そのはずなのに口から声が出なかった。


「そうだな。狂ってるのかもしれん」


巨人はそこで言葉を切り、軽く息を吸った。


「だがお前達が狂っていない保証は何処にある」

「そ、それは……」

「お前のその正義への執念は狂っていないか? 逃亡者の姫への異常な愛は狂っていないか?」


勇者は気付けば汗をかいていた。
べたべたとした冷たい汗は彼の体全体をぐっしょりと濡らす。

今日はここまでです。

「英雄の人間への拒絶は狂っていないか? 武人の剣士たる心構えのための孤独は狂っていないか?」

「狂って……」

「答えられんだろう」


巨人は静かにそう言った。
まるで全てを知っている全知全能の神の様なそのもの言いは勇者の体を更に硬くさせる。

勇者の中のもう一人の彼が顔を出す。
それは正義の彼。
彼が見た理想の彼だ。

――――お前は狂っていない。狂っているのはお前ではなく世界だ。奴等だ。お前以外の全てだ。

もう一人の彼の声はまるで槍の様に彼の体を貫く。
頭から股まで。全身を綺麗に貫いている。

『――者――――』


頭の中にまるで砂嵐の様なノイズが響く。

何かを言っている。
だが勇者はそれを聞きとる事は出来なかった。


――――奴は狂っている。ならどうする?

どうする?
決まっている。
殺すだけだ。

―――――そうだ。奴は多くを殺した悪だ。狂った悪はどうする?

殺す。

勇者は刀を構え、息を吐く。

「お前は悪だ。お前は今ここで殺す」

「俺は悪か。そりゃそうだ」

「ああ、だから殺す!!」


魔力が全身に廻るのをイメージ。
体を生温かい霧の様なものが包むのが分かった。

刀を構え、前に跳ぶ。
だが速度は世の中に存在するどの生物よりも圧倒的に速い。

だが勇者が刀を振り下ろすよりも先に巨人の剣が勇者の刀を封じる。
巨人の剣は勇者の刀に剣をあえてぶつけ、動きを止めていた。

勇者の奥歯がギリギリとなる。
別に力を入れている訳ではない。
ただ怒りが。
地獄の業火よりも熱い怒りが込み上げてくる。

殺意。
それが勇者を荒れ狂う海の荒波の様に飲み込んでいく。

そしてその根本は勇者の自壊の原因だった。

憎い。
憎い。

何が?

全てが。

全てが憎い。
全ての悪が。
悪を生かしている全ての存在が。

巨人の剣が勇者を弾き飛ばす。

勇者の体はいとも簡単に宙に舞い、そのまま地面に叩きつけられていた。
骨が折れる様な音が聞こえた。

だが勇者の目の殺意は消えない。
ただひたすらに殺人鬼の様に血走った眼をさせながら巨人を睨みつけ、般若の様な面持ちで呻っている。

彼は刀を口に咥え、そのまま跳んだ。

右手はだらりと下がり、もはや付いているだけに成り下がっていた。

すいません>>984はミスです。

憎い。
悪を殺せない自分が。
悪なのに生きている相手が。
悪を生かしている世界が。


「おォォォォォ!!」


勇者は乱暴に刀を振り回す。
それはもはや剣士の剣技でもなく、戦士の戦いでもなく、ただのダダをこねる子供と同じだった。

勇者は壊れていた。
壊されてしまった。
いや、壊されてしまったと言う言い方は少しおかしいかもしれない。

元より勇者は壊れかけていた。
巨人がやった事はただその引き金を引いただけ。
言わば壊れかけの城の風化してボロボロになった一本の柱をおっただけの事だった。

遅かれ早かれ柱はおれ城は崩れていた。
巨人はそれをほんの少し早めただけに過ぎないのだ。

勇者は結局一歩も前には進んでいなかった。
もちろん考え方は変わった。
物事に対する姿勢も僅かながら変化した。
だが結局根本は何も変化していなかったのだ。

そしてその根本は勇者の自壊の原因だった。

憎い。
憎い。

何が?

全てが。

全てが憎い。
全ての悪が。
悪を生かしている全ての存在が。

巨人の剣が勇者を弾き飛ばす。

勇者の体はいとも簡単に宙に舞い、そのまま地面に叩きつけられていた。
骨が折れる様な音が聞こえた。

だが勇者の目の殺意は消えない。
ただひたすらに殺人鬼の様に血走った眼をさせながら巨人を睨みつけ、般若の様な面持ちで呻っている。

彼は刀を口に咥え、そのまま跳んだ。

右手はだらりと下がり、もはや付いているだけに成り下がっていた。

「お前は所詮魔力に頼って戦っているだけに過ぎん。それじゃあ雑魚には勝てても俺達には勝てん」


声と共に勇者の脇腹に激痛が走る。
喘ぐような声を上げながら彼は地面に前のめりに伏せっていた。
ただただ短距離の後の様な荒い呼吸音だけが響き渡る。


「さて、じゃあそろそろ終わらせようか」


そう言うと巨人は近くにあった棒の様な物を掴んだ。
そしてそれを抜く。

それは獣の目の様にきらりと銀に光る。
刀身の長さは約三メートル弱だろうか。


「それは……」

「凄い技術だ。この長さの剣なのに切れ味は一級品か」


巨人の慈しむ様な視線が刀を舐める。

それは決して人間には扱えない超大剣。
だが巨人なら話は別だ。


「安心しろ。命はとらん。魔王様との約束だからな」


ゴウッと風が鳴る。

はたしてそれが勇者のものなのか巨人のものなのかは分からなかった。
音速と化した二つの影がぶつかる。

轟音。
その衝撃波は建物の壁をまるで板きれの様に吹き飛ばす。


「弱いな。お前は弱い。心も技もな」


消えゆく意識の中で勇者はその声を聞いた。
そして自分の名を必死で呼ぶ少女の声も。

ちょうど切れ目なのでこのスレはここで終わろうと思います。

次スレのスレタイは『勇者「正義のために戦おう」正義「その2よ」』になります。


次スレは早ければ3日後、遅くても1週間以内に立てます。
次スレを始めてもここが残っていたら依頼をだすつもりです。

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