一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」 (431)


第一期REWRITE 第二期REWRITE

初期ランクS:一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」
Supreme :一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845588/) → Succession:学園祭まで執筆済。
ジャンル:武侠伝説

初期ランクA:落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」
Abnormal:落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380328911/) →  Argument:修学旅行まで執筆済(この時点で従来の4倍の文量)。
ジャンル:世界戦略&貴種流離譚  ワールドパージ編の公開まで待つ

初期ランクB:原作。シナリオ展開の基準。描写はアニメ準拠
Basic
ジャンル:ハイスピード学園バトルラブコメ

初期ランクC:ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」
Chicken :ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377262583/) → Challenger:織斑一夏誕生日まで執筆済。
ジャンル:タクティクスアドベンチャー

特別編:一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」←本作
Re-Born:
ジャンル:国際スポーツドラマ



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394149554


注意
IS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作です。
オリジナルキャラ・原作キャラの性格矯正・独自設定による第1期の内容の再構成でございます。
かなりの長編なので(過去作の2倍以上)、気長にお願いします。


ざっくりとした話の概要
基本的なキャラ設定はいじっていない。ただ状況が大きく変わった。

今作のテーマは「優しさを信じられる世界」であり、
物語としては「大人がきっちりと大人をしていたら」どんなふうに織斑一夏の物語が変わるのかを描いてみようと思った。

端的に言えば、
・最初に居たのがセカンド幼馴染だったら
・『打鉄弐式』が問題なく完成していたら
というIFを題材にした物語としている。


いつもどおり場所を借りての投稿となるので、まとめて投稿しますので、

即時返信はできませんが、コメントはしっかりと見返しております。

過去作とは違って、今までとは二次創作の趣向が違う作品となっていることを明言しておきます。

また、過去作の2倍の長さとなってので、投稿も4回にわけてとなると思います。


プロローグ -こうして出会いが変わった-
Men of Destiny

――――――2月


――――――本当にIS学園に入る気はないんだね、箒ちゃん?


箒「何度も言いましたけど、私は姉さんとは違いますから…………」プイッ

箒「それに適性はCでしたし、私なんか必要とされないでしょう」

担当官「そうか」

担当官「けど、きみの身体能力の高さはISでも活かせると思うし、生涯剣道を続けようと思うのなら悪くないはずだ」サッ

担当官「気が変わったのなら、3月までには答えを出して欲しい」

箒「…………わかりました」

担当官「それではな。気をつけて帰るんだぞ」ガチャ

箒「…………はい」


バタン


担当官「いつも通りの無愛想な態度だ」コツコツコツ・・・

担当官「だが、仕方あるまい」


担当官「実の姉が、史上最強の兵器:IS〈インフィニット・ストラトス〉の生みの親なのだからな」


担当官「女性にしか扱えないなど、いろいろとわけのわからない空戦用パワードスーツだが、」

担当官「その動力源となるコアの製造法は失踪した開発者にしかわからないということで、」

担当官「少しでも情報を引き出そうと様々な組織からの魔の手が家族に伸び始めた…………」


担当官「…………“不束者”めぇ!」ドン!


担当官「この姉妹の父親、――――――篠ノ之 柳韻という神社の神主は大し御人だった」

担当官「昔気質といえば女尊男卑の今の世の中じゃ聞こえは悪いが、古き良き父性の持ち主で厳格ながらも清々しい人物であった」

担当官「苦渋の決断の末に、重要人物保護プログラムを受け容れてくれたが…………」

担当官「結果として、何度も戸籍や住居を変えられて、最終的には一家離散となってしまった…………」

担当官「今どこにいるのだ、柳韻さん…………私に篠ノ之流剣術の奥義を伝えてそれっきりだ」

担当官「あの子はどうしようもなく不器用で、そしてこの理不尽に耐えるだけの心の強さは持っていない…………荒んでしまったよ」

担当官「――――――不幸中の幸いと言っていいのだろうか、」

担当官「篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官として、」

担当官「この私がずっと付き添ってあげられたから幾分かは気持ちを汲み取ってやれたが…………」ハア

担当官「柳韻さん。あなたから預けられた子はこのままだと――――――」


政府高官「やあ、きみ! あの娘はIS学園に入ってくれる気になってくれたかい?」ニコニコ


担当官「…………ダメですね(――――――この俗物がっ!)」ハア

担当官「ISのせいで一家離散の憂き目に遭って今までの全てを捨てさせられたのに、触れたくないと思うのが普通だとは思いませんか?」

政府高官「しかし、あの“篠ノ之博士の妹”なのだぞ? 妹のために篠ノ之博士が何かをしてくれると期待してもバチは当たらんだろう?」

担当官「そういう目で見るのは対象の心証を害しますよ」

担当官「今の彼女に残ったものは、」


――――――“篠ノ之博士の妹”というレッテルだけ。


担当官「多感な思春期を迎える少女にはあまりにも残酷な話ですよ」

政府高官「だが、姉との繋がりはまだ残っているだろう? 今でも連絡は取り合っている――――――」

担当官「だから何です? 私の仕事は重要人物保護プログラムの監視員であり担当官です」

担当官「私は普通の生活を送る権利を奪われた保護対象の便宜を図り、対象が健やかなる一生を送れるように最善を尽くすものです」


担当官「今年の中学女子剣道全国大会で本名をリークしてしまった責任の追及はまだですよ?」


政府高官「そ、それはだな…………」

担当官「最初から“篠ノ之 箒”でいていいのなら、最初からその名を奪われなければよかったものを……!」ギロッ

担当官「おかげで、大会優勝の余韻に浸る間もなくまた引っ越しですよ……!」

担当官「新しい受け入れ先を探して――――――! 対象にまた引っ越しさせる準備をさせるだけで――――――!」

担当官「いったいどれだけの損失が出たのかわかってるんですか! それを何度も! 税金の無駄、徒労ですよ!」

担当官「それに、荒れた剣筋ではあったが純粋な強さに惹かれた可愛い後輩だってできたのに――――――!」

担当官「ようやく、少しずつ居心地がよくなってきたと思えてきたのに――――――!」

担当官「積み上げてきた思い出も努力も何もかも、――――――強制移動で全てが台無しだ! ますます彼女の世界を閉じることになったんです!」

担当官「――――――『友達を作ること』を完全に諦めてしまった!」

政府高官「むむむ」


担当官「とにかく、対象:篠ノ之 箒のIS学園の入学は見送らせてもらいます。そして、近場の高校に通うことになるでしょう」

政府高官「だが、現在もIS開発の第一人者である篠ノ之博士からの技術提供は国益に繋がることなのだ」

政府高官「ISの登場によって、日本の安全保障はアメリカの傘を必要としないほどのレベルにまで達した」
     ・・・・・・・・・・・・・・
政府高官「小善のために大善を見誤るなよ」

担当官「政治屋らしい御見識、ごもっともです」

政府高官「もし、あの娘の気が変わったのならすぐに報告してくれ」

担当官「わかりました。多分あなたに報告することはありませんけどね」

政府高官「おっと。それじゃな」ピピピ

政府高官「私だ」ピッ

政府高官「――――――何!? それは本当か!」

担当官「シー」

政府高官「っとすまん」

政府高官「……わかった。すぐに向かう」ピッ

担当官「どうしたんです?」ジトー

政府高官「実はもう一人、IS学園への入学を検討しなければならない人材が現れたのだ!」ニカッ

担当官「…………まあ、私には関係ないことです。ごゆっくり検討してきてください」

政府高官「ああ! だが、これはきみも腰を抜かすぞ!」

政府高官「わーははははは!」

担当官「…………俗物が」ボソッ






――――――3月、IS学園


使丁「これはどういうことですか、轡木校長?」


使丁「まあ、給金も高いし、仕事も学校用務員ってことで楽そうでいいですけど」


使丁「あ、千冬じゃないか。中学以来だな。“IS世界一”になるぐらい昔から凄かったけど、すっかり丸くなったな」


使丁「え? …………まあ、ヘマしちまった俺にとってはありがたい求人ですよ」


使丁「なるほど。そういえば、千冬ってそういうやつだったな」


使丁「わかったよ。アスリートとしての選手生命は絶たれたが、お前と同じように後進の教育に力を貸すよ」


使丁「え? 何だって!?」






使丁「さてと、この階の下見は終わりか?(警備員の真似事もしないといけないのか…………責任重大だな)」」

使丁「(轡木校長の旦那さんがここの用務員で“良心”とまで言われているんだ。俺もそれぐらいのビッグネームを戴きたいね)」

「わっと!」ドン

使丁「だ、大丈夫ですか!?(もう入寮してた子が居たのか!?)」

「ちょっと、気をつけなさいよ! まったくもう……」

使丁「すみません。ここの用務員として赴任してきたばかりでして……」

「そうなんだ。まあ、そういうことなら、大目に見てやらないでもないわ」

使丁「あっ、あなたは確か、1年2組の――――――」

「そうよ! 私は中国代表候補生:凰 鈴音よ」

「そういえば、あなたは用務員だったっけ?」

「ねえねえ、だったらお詫びとして教えてもらいたいことがあるんだけどさ?」

使丁「何です?」


「“世界で唯一ISを扱える男性”の部屋がどこか教えてくれない?」モジモジ


*使丁=小使い=学校用務員


――――――4月、倉持技研


政府高官「何故だ! 何故後回しにできん!」

副所長「ふざけたこと言うんじゃないよ、政治屋が」ジトー

政府高官「むぅ……」

副所長「当然の義務です」

副所長「今年度の我が国の代表候補生:更識 簪の専用機の納入が優先事項であり、我々は第3世代型『打鉄弐式』の完成を急がせます」

副所長「これは信頼で成り立つ業界人として当然の処置です」

副所長「それに、この機体は国際IS委員会の査定に出す実験機でありますから、この機体のデータ収集が滞る方が国益に反しますよ?」

政府高官「…………そこを何とかできんか?」

副所長「確かに、我が倉持技研で引き取ったすぐに使えるISはありますよ。まあ、ある程度の調整に時間がかかりますけど」

副所長「しかし、かの“ブリュンヒルデの弟”と言えども、――――――聞けばISに関する知識も全くないということを聞きましたが?」

副所長「そんな初心者以下のただの“世界で唯一ISを扱える男性”と熟練した代表候補生――――――どちらの機体を先に納入すべきか、理解できますね?」

政府高官「それでは私の面子が…………!」

副所長「焦ることはありませんよ。しっかりと基礎訓練をしてもらってから専用機に乗ってもらったほうが格好がつくでしょう?」

副所長「まさか専用機に乗れたからって代表候補生に比肩する実力をすぐに発揮できるとお思いですか?」


副所長「“専用機持ちなのに弱い日本男子”となれば、国のイメージダウンにも繋がりかねませんよ?」


政府高官「…………わかった」

政府高官「だが、機体は用意してもらうぞ。どれくらいで準備してくれる?」

副所長「そうですね。IS学園の名物である来月の『学年別個人トーナメント』までには余裕で納入できますよ」

政府高官「……まあ、1ヶ月程度の遅れなど大した問題ではないか。それに訓練機でも運用データは取れるからな」

政府高官「では、正式な契約は後ほど」

副所長「毎度あり~」

ガチャ、バタン

副所長「ふぅん」


――――――“世界で唯一ISを扱える男性”ねぇ。



副所長「俺の中学時代の同級生から世界的な有名人がごろごろ出るとは驚きだよ」

副所長「そして、“その弟”まで正しい意味でのセレブになっちゃうとはねえ……」

副所長「織斑千冬も数奇な運命をたどってきてるもんだ。“ブリュンヒルデ”、大会2連覇直前の試合放棄、IS学園の教師、か」

副所長「“スケバン”だったあの姐御がねぇ…………」

副所長「そういえば、第2研究所所長:篝火ヒカルノはその有名人二人の高校時代の同級生だったな。まあ、ただの同級生でしかなかったらしいが」

副所長「いやあ、世の中ってわかんねえもんだなー。女尊男卑の世の中になったりよ」

副所長「元々某バイクメーカーの設計技師だった俺が、こうやって女性にしか扱えないISの設計なんか担当しているんだからさ」

副所長「(ま、昔からいろんなものに手を出していたから、いずれISに辿り着くのは必然だったのかもしれないな…………)」

副所長「(それに、束と俺は――――――)」

副所長「しかし、――――――『白式』かぁ」

副所長「あれ、どうしようかねぇ…………何故か後付装備ができない欠陥品なんだよな」

副所長「ま、それ以外は恐ろしく高性能なんだが(ま、だから初期化するのを先送りにしてきたんだよな。戦術的に使えない機体なのによ……)」

副所長「それはとにかく、『打鉄弐式』の完成を急がねえとな」

副所長「――――――俺が設計して、あの子の才覚を見込んで限界を突き詰めた性能になったんだ」

副所長「きっちり活躍してもらわねえとな」ニヤリ

副所長「『白式』はその後で考えよう」

副所長「んじゃ、やるかー!」








こうして、数々の運命は変わった。

果たして、どのような世界へと進むのであろうか?

そして、これから起こる出会いはどんなものを少年に与えていくのだろう。





第1話 クラス代表決定戦
Class reunion of the junior high school era


山田「それでは、自己紹介をお願いします」ニコニコ

女子「」ジー

女子「」ジー

女子「」ジー

一夏「(…………これは、想像以上にきつい)」アセタラー

一夏「(誰か見知った顔はいないか? 何だよこの、場違い感は……!?)」ビクビク

一夏「(うわあ……。俺、やっていけるのかな…………)」

山田「織斑くん」

一夏「ウーム」

山田「織斑一夏くん?」

一夏「は、はい!?」ビクッ

周囲「クスクス」

山田「あの大声出しちゃって、ごめんなさい」

山田「でも、“あ”から始まって、今“お”なんだよね」

山田「自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

一夏「いや、あの、そんなに謝らなくても…………」

一夏「ええっと……、織斑一夏です」バッ

一夏「よろしくお願いします」

周囲「…………」

一夏「いっ!? あっ!?」キョロキョロ

周囲「」ワクワクドキドキ

一夏「(いかん。これで黙っていたら、“暗いやつ”のレッテルを貼られてしまう!)」ハアースウーー!

山田「!」

周囲「!」


一夏「 以 上 で す ! 」キリッ


周囲「アラララ・・・」ズコー

セシリア「…………」ジー

一夏「え、あれ、ダメでした!?」


使丁「ははははは!」


一夏「え?(だ、誰……!? あ、若い男の人!?)」

周囲「ワア、カッコイイ!」


使丁「いやはや、“千冬の弟”だと聞いていたからどんなやつかと思っていたら、――――――驚いたよ」

千冬「まったく……」ガン!

一夏「あう!?」

一夏「つぅ、いったぁ……」

一夏「げ、千冬姉――――――!?」ガンッ!

千冬「学校では“織斑先生”だ」

使丁「あははははは」
              ・・・
千冬「くっ、馬鹿な弟のせいで同窓生に笑われた……」

山田「織斑先生、会議はもう終わったんですか?」

千冬「ああ、山田先生」

千冬「クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

一夏「(なんで千冬姉がここにいるんだ? 職業不詳で月1,2回ほどしか家に帰ってこない実の姉が)」

一夏「(それに、千冬姉と一緒に現れた男、――――――“同窓生”だって? 何がどういうことなんだ?)」


千冬「さて、諸君」

千冬「私が担任の織斑千冬だ!」

千冬「きみたち新人を1年で使い物にするのが仕事だ」フッ

周囲「キャー!」

一夏「!?」

周囲「チフユサマダー!」
周囲「ホンモノダー!」
周囲「チフユサマ、ノノシッテー!」

使丁「はははは、噂以上に大人気だな、千冬?」

千冬「毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。――――――それと、ここでは“織斑先生”だ」

使丁「おっと失礼、織斑先生」


キャーキャーワーワー!


一夏「千冬姉が俺の担任…………(そして、この圧倒的なまでの人気…………)」

千冬「で、挨拶もまともにできんのか、お前は?」ポキポキ

一夏「いや千冬姉、俺は――――――あぐっ」ガンッ!

千冬「“織斑先生”と呼べ」

一夏「……はい、織斑先生」

使丁「なるほどね。――――――“姉弟”だ。そっくりだな」
             ・・・・
使丁「それに、――――――可愛い弟ときたもんだ。必死になるのもよくわかるよ」

千冬「何か言ったか、“金メダリスト”“ゴールドマン”?」ジロッ

使丁「何でもありません」


女子「え、“ゴールドマン”!?」
女子「誰それー!?」
女子「知らないの?! 昔、千冬様と同じ頃に活躍した柔道のオリンピック代表選手で――――――」


使丁「おっと、私の紹介は後にしてとりあえず、みんなの自己紹介をすませよう」

山田「わかりました」

山田「では、次は――――――」

一夏「いったい何だって言うんだ……(俺、やっていけるのかな…………)」



俺の姉:織斑千冬は第1世代の元日本代表であり、ISの世界大会である第1回『モンド・グロッソ』を圧倒的な強さで総合優勝を飾った“ブリュンヒルデ”だ。

その圧倒的な強さと美貌によって世界的な人気を博していることは知っていたが、まさかIS学園で教師をしていたのかよ。心配していた俺が馬鹿だった。

けど、これで少しは男一人でも頑張れるような気はしてきた。

そして、千冬姉と一緒に現れた“金メダリスト”“ゴールドマン”と言うのは――――――、


山田「みなさんも知っている通り、ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発されたマルチフォームスーツです」

山田「10年前に開発された当初は、宇宙空間での活動が想定されていたのですが、現在は停滞中です」

山田「アラスカ条約によって軍事利用も禁止されているので、今は専ら競技用――――――スポーツとして活用されていますね」

山田「そしてこのIS学園は、世界で唯一のIS操縦者育成を目的とした教育機関です」

山田「世界中から大勢の生徒が集まって操縦者になるために勉強しています」

山田「様々な国の若者たちが、自分たちの技能を向上させようと、日々努力をしているんです」

山田「では、今日から3年間しっかり勉強しましょうね」

周囲「ハーイ!」

使丁「では最後に、――――――私は本年度からこのIS学園で用務員として働かせていただくことになった者です」

使丁「かつて、オリンピックで「トライアスロン」と「柔道」の2種目で金メダルを獲得したことがあります」

使丁「今はもう昔ほどの実力はありませんが、トップアスリートとしての指導協力をするようにお願いされました」

使丁「普段はみなさんが勉学に励んでいる裏で雑務をこなし、なるべく放課後にはみなさんの特訓にお付き合いできるようにしたいと思います」

周囲「オオ!」

使丁「特に、――――――織斑一夏くん!」ビシッ

一夏「は、はい!?」ビクッ

使丁「きみには特に力を入れて指導するよう、きみのお姉さんに頼まれていてね」チラッ

千冬「!」ギラッ

使丁「そういうわけだから、いろいろと頼ってくれ」フフッ

使丁「大丈夫。『男でISを動かす』だなんて誰も経験したことがないことだし、私も正しい指導の仕方なんかわからないんだ」

使丁「でも、スポーツなんだろう? IS学園は体育大学と工業大学が1つになったようなところなんだし、いけるでしょう」

一夏「は、はあ……」

千冬「『はい』と言わんか、馬鹿者が」

一夏「は、はい!」

使丁「それじゃ、1年1組のHRとISの授業以外は轡木さんと一緒に用務員として働いています」

使丁「そうそう。夜回りも私の仕事なので、くれぐれも夜遊びはしないように…………」

周囲「ハーイ!」


千冬姉が俺のために招いてくれた特別コーチであった。

ちなみに“ゴールドマン”という異称は、『アイアンマン』というハワイで開催されるトライアスロンの最高峰の世界大会(和訳すると「鉄人レース」か)で、
17時間の制限時間内に完走した者に与えられる称号“アイアンマン”、オリンピック覇者である“金メダリスト”であることを掛け合わせた通称である。

実際に“アイアンマン”としては世界記録保持者であり、なんとスイム3.8km・バイク180km・ラン42.195kmを6時間を切る韋駄天振りで走破したという化け物なのだ。

それ以前の世界記録が8時間弱であることを考えると、千冬姉並みにダントツの強さを誇ることから“ゴールドマン”という称号に相応しい世界覇者と言える。

俺はこの人の指導を受けることになるのか。これは忙しい毎日なりそうだ…………



――――――休み時間


女子「ねえ、あの子よ! ――――――“世界で唯一ISを扱える男性”って!」ジー
女子「入試の時に、ISを動かしちゃったんだってね」ジー
女子「世界的な大ニュースだったわよねー!」ジー
女子「やっぱり入ってきたんだ」ジー

ワイワイ、ガヤガヤ、ジロジロ・・・

一夏「(なんで俺にISを動かす力があるのかはわからない)」

一夏「(けど、こんなふうに見世物にされるなんて思ってもみなかった……)」

一夏「(誰かこの状態を助けてくれ…………)」


――――――いぃちかぁ!


一夏「?」

周囲「!?」

「ちょっとどいて!」

女子「あ、抜け駆けする気!?」

女子「ずるい~!」

「ちょっと何するのよー!」

「一夏ぁ! 私の声が聞こえてるぅ!?」

一夏「あ…………」


一夏「鈴? お前、鈴なのか!?」


鈴「そうよ! ほら、どいて!」

周囲「エ、ナニアノコ-!」ザワ・・・


一夏「1年振りだな。どうしてここに?」

鈴「それはこっちのセリフよ。どうしてこんなことに?」

一夏「それは俺のほうが聞きたいぐらいだ」

一夏「ああ、でもよかった。――――――鈴に会えて」ホッ

周囲「エ、エエエエエエエエエエエ!?」

鈴「ちょ、ちょっと!(いきなり恥ずかしいじゃない!?)」ドキッ

女子「何々!? あの二人ってどういう関係なの!?」
女子「確かあの子って、2組の専用機持ち」
女子「中国代表候補生:凰 鈴音――――――!」

千冬「」スッ

鈴「そ、そんなに私に会えて――――――きゃっ!?」ゴンッ

鈴「ちょっと何すんの!?」

鈴「あ…………」

千冬「もう授業が始まるぞ、馬鹿共が」

鈴「ち、千冬さん……」

周囲「ハーイ!」スタスタ・・・

千冬「“織斑先生”と呼べ」

千冬「さっさと戻れ、邪魔だ」

鈴「す、すいません……」

使丁「続きはまた今度ってことで――――――、鈴ちゃん?(さて、俺もある程度ISについて勉強しておかないとな)」

鈴「あ、はい。“ゴールドマン”」

鈴「一夏! 昼休みは付き合いなさいよ!」

一夏「ああ……」

一夏「あいつが代表候補生…………(って何だ?)」


――――――授業風景


山田「では、ここまでで質問のある人――――――」

一夏「(この『アクティブなんちゃら』とか『広域うんたら』とか、どういう意味なんだ……?)」アセダラダラ

一夏「(まさか全部覚えないといけないのか……!?)」

山田「織斑くん、何かありますか?」

一夏「うわあ! えっと……」アセアセ

山田「質問があったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」ニコッ

一夏「先生…………」スッ

山田「はい、織斑くん!」ニッコリ

一夏「ほとんど全然わかりません!」

山田「え、……全部ですか!?」オロオロ

山田「今の段階でわからないっていう人はどのくらいいますか?」

周囲「」ジー

周囲「」ジー

周囲「」ジー

使丁「…………はい」スッ

山田「あ」

周囲「アハハハハ」

一夏「あ、あははは…………」

千冬「…………」ハア


千冬「織斑、入学前に渡した参考書は読んだか?」

一夏「ええ……、あの分厚いやつですか?」

千冬「そうだ。今、用務員のお兄さんが必死になって目を通しているあれだ」

使丁「私の腕よりも分厚い…………わけないか」

千冬「『必読』と書いてあっただろう」

一夏「いやあ、間違えて捨てまし――――――うあっ!?」バシィ!

千冬「後で再発行してやるから、1週間以内に覚えろ。いいな?」

一夏「いや、1週間であの厚さはちょっと――――――」アセアセ

千冬「『やれ』と言っている」ギラッ

一夏「!」ゾクッ

千冬「お、そうだ。できなければ、」

千冬「――――――こっちのお兄さんに頼んでトライアスロンでもしてもらおうか? お前は基礎体力もダメそうだからな」ニヤリ

一夏「え!?」

使丁「それはいいですね。基礎体力作りには最適の種目ですから」ニコッ

使丁「そうだな。軽く『オリンピック・ディスタンス』スイム1.5km・バイク40km・ラン10km――――――合計51.5km行こうか?」ニッコリ

一夏「うぅ……はい、やります」ガクッ

使丁「安心しなって。私もよくわかってないから」

使丁「これから一緒に学んでいこう。な?」

一夏「はい。ありがとうございます……(ありがたすぎて、嬉し涙が出てきそうだよ……!)」

山田「では、授業を続けます」

セシリア「…………」ジー



――――――昼休み


一夏「びっくりしたぜ。お前が2組の専用機持ちだっただなんて」

一夏「それに、帰ってきたっていうんなら、連絡くれりゃよかったのに」

鈴「そんなことしたら、劇的な再会が台無しになっちゃうでしょう?」

一夏「――――――『劇的』って…………そういや、お前ってまだ千冬姉のことが苦手なのか?」

鈴「そ、そんなことないわよ……」

鈴「ちょっとその……、得意じゃないだけよ」

一夏「ちょうどまる一年ぶりになるのか」

使丁「二人は仲良いんだね」ニコッ

一夏「用務員さんは知っていたんですか?」

鈴「あ、ちょっと――――――」

使丁「そりゃあもう。今日という日が来るのを『まだかまだか』って楽しみにしていたんだからね、鈴ちゃんは」ニッコリ

一夏「そうだったのか……?」

鈴「なんでもないわよ、……馬鹿ぁ」カア





一夏「それで、いつ代表候補生になったんだ?」

鈴「あんたこそ、ニュースで見た時、びっくりしたじゃない」

一夏「俺だってまさかこんなところに入るとは思わなかったからな」

使丁「人生っていうのは不思議なものだね」

一夏「そうですね」

鈴「うん」

使丁「私も一夏くんと同じで、知り合いも誰もいない場所で長い時間を過ごすのだろうと思ってIS学園に来たのだけれど、」

使丁「まさか、中学時代のクラスメイトと顔を合わせることになるとはね……」

一夏「俺も、そう思います」

一夏「知り合いが誰もいないし、同性の友人なんて望めそうもなくて、凄く緊張していたけれど、」

一夏「千冬姉がいて、用務員さんとも親しくなれて、そして鈴もいてくれて――――――」

鈴「い、一夏……」テレテレ

使丁「ははは、人懐っこいな、きみぃ」

使丁「鈴ちゃん」

鈴「はい」

使丁「この通り、私たち二人はISについては全くのド素人で、しかも周りが女性しかいない環境なので大いに戸惑っている」

使丁「幼馴染であるきみが一夏くんを支えてやってくれ」

使丁「それに、代表候補生ならば私よりも実践的な指導をしてあげられるはずだ」

使丁「よろしく頼むよ」

鈴「ま、まかせなさいよぉ!」ドキドキ

鈴「一夏ぁ! ビシバシ指導してあげるから覚悟しなさいよ!」ニコッ

一夏「お、お手柔らかに、頼む……」ニコー

使丁「そうだ。一夏くんはこの参考書の内容を覚えないといけないんだったな」ドスン

一夏「げ…………!」

一同「ははははははは!」


セシリア「…………」ジー



――――――放課後


一夏「ようやく授業が終わった…………」フゥ

一夏「ああそうだ、トライアスロンなんてごめんだ!(早く暗記しないとな……!)」ガサゴソ

セシリア「ちょっとよろしくて?」

一夏「へ?」

セシリア「まあ何ですの、そのお返事!」

セシリア「私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないのかしら?」

一夏「悪いな。俺、きみが誰だか知らないし」

セシリア「なっ!?」

セシリア「私を知らない!? セシリア・オルコットを!?」

セシリア「イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を――――――」

一夏「えっと代表候補生ってことは、鈴と同じように国家代表操縦者を目指しているやつのこと……でいいのか?」

セシリア「中国代表候補生がどの程度のものかは存じませんが、少し認識を改めていただきたいところですわね」

一夏「?」

セシリア「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出される“エリート”のことですわ」

一夏「…………“エリート”?」

セシリア「そう、“エリート”ですわ!」

セシリア「本来なら私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡――――――幸運なのよ!」

セシリア「その現実をもう少し理解していただける?」

一夏「…………そうか。それはラッキーだ」

一夏「千冬姉(=“ブリュンヒルデ”)や用務員さん(=“ゴールドマン”)、それに鈴(=中国代表候補生)とも会えたのに、」

一夏「その上、イギリス代表候補生とも知り合いになれただなんて」

セシリア「…………何だか私が軽く見られた気がしてなりませんわね、その物言い」

一夏「お前が『幸運だ』って言ったんじゃないか」


セシリア「……だいたい、何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね」

セシリア「“唯一男でISを操縦できる”と聞いていましたけれど、期待外れですわね」

一夏「俺に何かを期待されても困るんだが……」

一夏「何ていうか、――――――IS学園にこうして居ること自体、まだ実感がないっていうか、まだ混乱しているんだよ」

セシリア「ふん。まあでも、私は優秀ですから、あなたのような人間でも優しくしてあげますわよ」

セシリア「わからないことがあれば、――――――まあ、泣いて頼まれたら教えてさしあげても良くってよ?」

セシリア「なにせ私、入試で唯一教官を倒した“エリート中のエリート”ですからっ!」

一夏「あれ? 俺も倒したぞ、教官。それに、鈴だって倒したって聞いたけど」

セシリア「はあ!?」

セシリア「わ、私だけだと聞きましたが……」ワナワナ

一夏「『女子では』ってオチじゃないのか?」

セシリア「そ、それでは、その鈴さんとやらは――――――?」ワナワナ

一夏「鈴は隣国ってだけあって、去年のAO入試でさっさと受かったって話だ」

一夏「本土を離れて入学するのは乗り気じゃなかったっぽいけど、『来て正解だった』って言ってたな」

セシリア「」

一夏「えと、もういいか? 俺、頑張ってこの参考書の内容を覚えないといけないし」ササッ

一夏「それじゃ、また明日な、セシリア」ニコッ

セシリア「あ」

セシリア「話の続きはまた明日! よろしいですわね!」カア

一夏「ああ!」



――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



――――――1年生寮


一夏「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」ガチャ

一夏「おお!(何これ、高級ホテルみたい!)」キョロキョロ

使丁「おや、一夏くん」ガチャ

一夏「あ、用務員さん」

使丁「どうだい、IS学園の寮は?」

一夏「凄いです! こんな部屋で毎日寝泊まりできるだなんて!」ドキドキ

使丁「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」

使丁「だが、悪いな」

一夏「?」


使丁「俺が自宅出勤できるまでは俺と相部屋なんだ」


一夏「そうなんですか!(良かった! 嬉しい! マジで!)」

使丁「まあ、この女子しかいない学園生活に少しずつ慣らしていく必要があると思ってな」

使丁「一人暮らしは慣れっこだろうが、慣れない場所で一人寂しく眠るよりは話し相手がいたほうが心強いだろう?」

一夏「はい!」

使丁「寝る前に、その参考書から問題を出してやるからしっかり覚えようぜ、ヒーロー?」

一夏「ひ、ヒーローって……」

一夏「用務員さんのほうがよっぽどヒーローじゃないですか」

一夏「“ゴールドマン”ですよ? トライアスロンだけじゃなくて柔道の“金メダリスト”でもあるんですから」

一夏「それに、千冬姉の同窓生ってこともあって…………」

使丁「そうだな。篠ノ之 束といい、千冬といい、なんか俺の同級生はみんな世界的な有名人になっているからな」

使丁「俺を含めて10人はあのクラスにはいたからな……」

一夏「ち、千冬姉と束さん並みに凄い人が他にも…………!?(す、すっげー!)」

使丁「いやあ、――――――でも、あの二人が特に凄かった。別格だったよ。千冬はその頃から強い上に面倒見がいいから人気者でね」

一夏「へえ…………」

一夏「それじゃ、――――――その頃の千冬姉のこと、教えてくれませんか?」

使丁「ああ、いいけど……、口止めされていることがあるから、そこは勘弁してくれ、“千冬の弟”」

一夏「はい!」ワクワク



――――――翌日


使丁「アスリートの朝は早い!」

一夏「はあはあ…………お、終わったぁ」ゼエゼエ

使丁「ありがとな、一夏くん。校内清掃や荷物の納入なんてのは私の仕事だが、一夏くんにはこれからもISドライバーになってもらうために扱き使うからな」

一夏「こ、これを毎日ですか…………?」ゼエゼエ

使丁「ああ」

使丁「そして、筋肉を動かしたらアミノ酸を取る! ほら、常温のスポーツ飲料だ」

一夏「あ、ありがとうございます……」

使丁「IS学園は女子校だから男子用のトイレがないことだし、こうやって早めに外に出れば誰にも注目されることなく用を足しに行くこともできる」

一夏「あ、なるほど……」ゴクゴク

使丁「で、その後はシャワーで汗を流して綺麗さっぱり・おめめパッチリでこれで朝食を毎朝美味しくいただくことができるってわけだ」

使丁「 良 い 汗 掻 い た な 」ニコニコ

一夏「そう、ですね……(え、笑顔が眩しい! これが“ゴールドマン”の輝き!)」プルプル

使丁「うん? あれ、きみって剣道しているよね? 千冬がそうだったんだから(思ったよりも筋肉はついてはいるが、これは…………)」モミモミ

一夏「あ、それは小学校までで、中学校はバイトのために帰宅部でした…………」プルプル

使丁「バイトか……(そういえば、一夏くんは私立藍越学園という就職メインのところの入ろうとしていたんだっけな…………)」

使丁「(1音違うだけで普通間違えるか? この辺のうっかりも千冬そっくりだな……)」

使丁「そこまで体力が落ちるものとは思えないが、訓練内容も4月の段階では緩めにしておくよ」

使丁「とにかく学園生活に慣れることが先決だからな」

使丁「よし、早くシャワーを浴びてきな。今日はここまででいい」

一夏「はい……! ありがとうございました……!(凄い、脚が軽くなった!)」

タッタッタッタッタ・・・・・・

使丁「うん。千冬には敵わないが、素養はあるな。これから楽しみだ」


――――――朝食


一夏「おお! こいつは美味い!(いつもの一人で作った朝食とは別次元の美味さだ!)」パクパク

鈴「おはよう、一夏!」

一夏「おう、鈴か。おはよう!」ハツラツ

鈴「あんた、早速扱かれていたようね」

一夏「まあな。けど、良い汗掻いたから、いつもの朝飯がずっと美味しく感じる!」パクパク

鈴「そう、なんだ……」

一夏「?」

鈴「あ、あのさ、一夏?」モジモジ

一夏「あ、そうだ!」

鈴「!」

一夏「親父さん、元気してるか? あの中華料理、絶品だったもんな! また食べたいぜ」ニッコリ
         ・・・・・・
鈴「あ……、うん。元気だと思う」

一夏「え?」

鈴「ごめん……。先に行ってる」

一夏「……そうか」

一夏「…………何だ、鈴のやつ?」モグモグ


女子「織斑くん、隣いいかな?」

一夏「え、ああ、別にいいけど(あれ、何だあの着包みは…………?)」

女子「よし!」パン!

女子「カンちゃんもほらほら」(着包み)

簪「えと……本音?」オドオド

女子「ほらほら、日本代表候補生なんだからもっと堂々と」

一夏「――――――日本代表候補生?」ピタッ

簪「あ、あの……、私、更識 簪って言います。1年4組の」

一夏「織斑一夏だ。よろしく」

簪「う、うん……」

一夏「………………?」ジー

簪「な、何、かな……?」ドキドキ

一夏「女子って朝それだけしか食べないで平気なのか?」

女子「えっとね?」

女子「私たちは、平気かな……?」

女子「お菓子よく食べるしぃ!」

簪「そ、そうだよ、――――――い、一夏」

一夏「そういうものなのかな……?」

簪「あ…………」

女子「ねえ、織斑くんってあの中国の代表候補生と仲が良いの?」

一夏「ああ、まあ幼馴染だし」

女子「え、幼馴染!?」

簪「へえ…………」


パンパン!


一同「!」

千冬「いつまで食べてる! 食事は迅速に効率よく摂れ!」

千冬「私は1年の寮長だ。遅刻したらグラウンドを10周させるぞ」

周囲「」ガツガツ

一夏「そうなんだ……(道理でめったに帰ってこなかったわけだ)」


――――――LHR


千冬「これより、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

千冬「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など――――まあ、クラス長と考えてもらっていい」

千冬「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

女子「はい。織斑くんを推薦します」サッ

女子「私もそれがいいと思います」

一夏「――――――お、俺!?」ドキッ

千冬「他にはいないのか? いないのなら無投票当選だぞ?」

使丁「ほう。責任重大だな。これもあるのにな」パラパラ

一夏「うわああ!」

一夏「ちょ、ちょっと待った。俺はそんなの――――――(冗談じゃない! 1週間であの内容を覚えないといけないのにそんな余裕ないって!)」アセアセ


セシリア「納得がいきませんわ!」


一同「!」

セシリア「そのような選出は認められません!」

使丁「おや?(せっかく彼が辞退しようとしていたのにな。むしろ、黙っていても指名してくれたろうに……)」

セシリア「男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!」

使丁「まあ、ISは女性限定のスポーツだからね。そう思うのはしかたないか」

一夏「………………」


セシリア「このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか?」

セシリア「だいたい! 文化としても後進的な国に暮らさないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で――――――」

一夏「」イラッ

使丁「ほう(さすがにこれは俺でも怒るぞ? 言ってやれ、一夏くん)」フフッ


一夏「イギリスだって大してお国自慢ないだろう?」


一夏「世界一不味い料理で何年覇者だよ?」

セシリア「――――――っ!?」

セシリア「美味しい料理はたくさんありますわ!」

セシリア「あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」

一夏「…………」ジー

使丁「プッ、ククク・・・・・・・・・・」プルプル

千冬「おい」

使丁「だって、あまりにも低次元の争いで…………ククク」プルプル

一夏「…………」ジー

セシリア「…………」ジー


セシリア「決闘ですわ!」


一夏「おおいいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

セシリア「わざと負けたりしたら、私の小間使い、いえ奴隷にしますわよ?」スタスタ
   ・・・・・・・・・・・・
一夏「ハンデはどれくらい付ける?」

セシリア「は?」

セシリア「あら、さっそくお願いかしら?」
      ・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」

使丁「ぷっ!? ふはははははは!」

一同「アハハハハハハハ!」

女子「織斑くん、それ本気で言っているの!?」
女子「男が女より強かったのはISができる前の話だよ」
女子「むしろ、男と女が戦争したら3日持たないと言われているよー?」

一夏「なっ!?(しまった。そうだった…………)」

千冬「やれやれ……(これ以上見せつけないでくれ、その馬鹿さ加減を、用務員のお兄さんに…………)」


セシリア「むしろ、私がハンデをつけなくていいのか迷うぐらいですわ」クスッ

セシリア「日本の男子はジョークセンスがあるのね?」ニヤニヤ

女子「織斑くん。今からでも遅くないよ。ハンデ付けてもらったら?」

一夏「男が一度言ったことを覆せるか」

使丁「ほう?」


一夏「無くていい」キッパリ


女子「ええ……、それは舐め過ぎだよ……」

千冬「話はまとまったな」

千冬「それでは勝負は次の月曜、第3アリーナで行う」

千冬「織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように」

一夏「…………!」ジー

セシリア「…………!」ジー

使丁「これは早速面白くなってきたじゃないか」




キンコーンカンコーン!


千冬「織斑。お前のISだが、準備まで時間がかかるぞ」

一夏「へ」

千冬「予備の機体がない」

千冬「だから、学園で専用機を用意するそうだ」

使丁「なんだ、てっきり『暮桜』でも使わせるのかと期待してたのに」

千冬「それはない」

千冬「だが、これでお前がどれだけ注目されているかは理解できただろう」

千冬「せいぜい、初心者は初心者らしく足掻いてみせろ」

千冬「ではな」

コツコツコツ・・・

一夏「…………専用機があるってそんなに凄いことなのか?」キョトン

使丁「ありゃ、そういうことも知らないのね。本当に何も――――――」

セシリア「それを聞いて安心しましたわ!」シュッ

一夏「わっ!?(いきなり目の前に出てくるなよな! びっくりした)」ドキッ

セシリア「クラス代表の決定戦――――――、私とあなたとでは勝負は見えていますけれど、」

セシリア「さすがに私が専用機、あなたが訓練機ではフェアではありませんものね」

一夏「お前も専用機っていうのを持っているのか?」

セシリア「ご存じないの?」

セシリア「よろしいですわ。庶民のあなたに教えて差し上げましょう」

セシリア「この私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生――――――つまり、すでに専用機を持っていますの」

セシリア「世界にISはわずか467機――――――、その中でも専用機を持つものは全人類60億の中でも“エリート中のエリート”なのですわ!」


一夏「へえ……(昨日用務員さんとの勉強会で知ったばかりのことだけど、やっぱり圧倒的に少ないよな……)」

使丁「まあ、トライアスロンの世界大会『アイアンマン』を制限時間以内にクリアできる人間も少ない」

使丁「その中で、常連となって“アイアンマンの中のアイアンマン”って呼ばれるのと似たようなものだな」

使丁「だが、“ただのエリート”よりかはずっと“スペシャル”だぞ、一夏くんは」

一夏「……そうなんですか?」

セシリア「ちょっとあなた――――――!?(――――――私が“ただのエリート”ですって!?)」

使丁「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない」

使丁「――――――ところがだ」チラッ

セシリア「!」

使丁「一夏くんの場合は“特異ケース”ということで、是が非でもそのデータが欲しいってことなのさ」

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
使丁「そりゃあだって、女が男より強い時代を終わらせる可能性があるんだからさ?」


セシリア「なっ!?」

一同「!?」ピタッ

使丁「まあ、専用機っていうのは余程の余力がある国じゃない限りは、みんな実験機だけどさ」

使丁「その重要性を少しは理解できたか?」

一夏「なるほど! 用務員さんとの勉強のおかげで、すんなりと」

セシリア「こ、この私を無視しないでくださる!?(な、何ですの、先程からの私へのあてつけみたいな言動の数々は…………)」プルプル

使丁「だが、迂闊だったな。これから来週の月曜日まで死ぬほど忙しくなるぞ?」ニヤリ

一夏「あ、しまったあああああああああ!(テストが出されるんだったああああああああああ!)」

セシリア「ふ、ふん。取ってつけたような訓練でどこまでやれるようになるか楽しみですわね!」フン

使丁「それじゃ、放課後になったら整備室にまで来てくれ」コツコツコツ・・・・・・

一夏「わ、わかりました……(ああ、勢いで言ってしまった…………)」

周囲「・・・・・・・・・・・・」

周囲「エト・・・、ドウナルノカナー」

周囲「タノシミダネー」ワイワイ、ガヤガヤ





――――――放課後、整備室


使丁「さて、ここがIS学園の一般利用可能な整備室だ。まずはここで訓練機の『打鉄』のパラメータを見ておこうか」

一夏「わかるんですか?」

使丁「わからん」

一夏「え、ええ……」

使丁「今日は4組の代表候補生の専用機が届けられていて、今まさに最終調整を行っているはずなんだ」

使丁「同じ日本人同士、便宜を図ってくれるはずさ」

一夏「そうなんですか……(4組の代表候補生――――――確かあの子、名前は更識 簪って言ったっけ?)」


使丁「お、やってるやってる」

簪「あ、織斑くん」

副所長「ん? ――――――ああ!」

一夏「やあ、簪さん。ん――――――?」

使丁「ああ――――――!」

一夏「え」

簪「副所長……?」

副所長「懐かしい顔だな。何だお前、IS学園で何してんだ? ここは――――――ああ、なるほどね」

使丁「相変わらず察しが良くて助かるよ」(作業つなぎ)

簪「えっと……」

一夏「あの……」

使丁「ああ、俺たちは織斑千冬と篠ノ之 束の中学の時の同級生だよ」

使丁「え、何? お前、ISの整備士になってたの?」

副所長「そうだ。倉持技研第一研究所の副所長なんかをやっている」

使丁「バイクの製造メーカーで働いているとは聞いていたけど、これは『おめでとう』と言うべきか?」

副所長「そっちこそ、トップアスリートのお前が織斑千冬と同じく早々と第一線を退くとはな」

副所長「ま、無駄話はこれぐらいでいいだろう? 二人にもこちらの為人はわかったろうし」

使丁「それじゃ、見学させてくれ」

副所長「ああ、いいとも。とはいっても、IS初心者のお前たちにはついていけないだろうがな」


副所長「それじゃ、稼働させてみてくれ」

簪「あ、はい」ピピッピピッピピッ

一夏「すっげえ。何してるんだか、全然わからねえや」

一夏「これが代表候補生ってやつか(みんな、こういうのができて当たり前なのか……!?)」

副所長「まあ安心しろ、“千冬の弟”」

副所長「お前の専用機は俺の倉持技研の提供だ。ド素人のお前にも扱いやすい機体を用意しておいた」

一夏「え」

使丁「それ、本当か」

副所長「ああ。ちょっと待ってろ――――――」ピピッピピッピピッ

副所長「それじゃ、テストを続けてくれ」

簪「はい」ピピッピピッピピッ

副所長「さて、こいつがIS学園の訓練機の『打鉄』だ。防御重視で安定性がある優秀な国産機だ」

使丁「確か、第2世代型では最高の防御力で『シールドが破壊される前に修復する』ことで継戦能力が高く、世界シェア第2位だったな」

一夏「へえ」

副所長「そう! その通りなのだよ――――――って、本当にISについて何も知らないようだな」

一夏「…………その、俺がISについて知ろうとすると千冬姉が全力で阻止してきたから」

簪「え?」ピクッ

使丁「千冬が――――――、か?」

一夏「はい」

副所長「…………そうか。それは悪かったな」

副所長「だが、事情は変わった」

副所長「よって、このIS設計技師の俺が、最先端技術や実戦的な知識を授けてやろうではないか」

副所長「安心しろ。お前のことはよく分かった。だから、この界隈を渡り歩くのに恥ずかしくないように力添えしてやろう」

一夏「あ、ありがとうございます」


副所長「さて、『打鉄』の輝かしい世界記録の数々を語ると本題に入れないからな。それはおいおい語るとして」

副所長「まず、この簪ちゃんの機体の名は『打鉄弐式』だ。俺が設計した」

一夏「それって凄いことですね!(す、スゲー!)」

副所長「まあな。乗り手を選ぶ性能だが、防御重視の『打鉄』とは違って、機動力に特化した第3世代型だ」

副所長「イギリスの『ブルー・ティアーズ』なんか目じゃないぜ」

一夏「…………『ブルー・ティアーズ』?」

副所長「専用機だよ、イギリスの専用機。狙撃特化の機体だ」

使丁「なにっ!?」

副所長「どうした?」


使丁「実はカクカクシカジカで」


副所長「ふぅん。普通なら勝ち目はないな」

一夏「…………『何とかなる』って気はしていたんだがな」ハア

副所長「…………!」ピクッ

使丁「今は勝てなくたっていい。けどせめて、一太刀浴びせられる程度は無理なのか……?」
            
 ・・・・・・・・
副所長「いや、――――――普通じゃないなら勝てるぞ」シレッ


一夏「え」

使丁「それはどういうことだ? 『普通じゃない』っていうのは」

副所長「ここで採用されているもう1つの訓練機の『ラファール・リヴァイヴ』はあんまり詳しくないが、」

副所長「『打鉄』に関してなら俺は何でも知ってる」

使丁「ほう? どうやら何か策があるようだな、“プロフェッサー”」


副所長「ああ、度肝を抜かしてやろうぜ?」ニヤリ


副所長「次いでに『ブルー・ティアーズ』の最初の戦績に華々しい敗北を刻んでやる」

一夏「………………」ワクワク

副所長「まあ、とりあえず俺がここに来た理由は、一番は代表候補生の簪ちゃんに専用機を納入することだが、」

副所長「――――――もう1つの目的はお前なのだからな、“千冬の弟”」

副所長「そろそろ終わったかな?」

簪「はい」ピピッ!

副所長「それじゃアリーナに向かおうか。まずは何よりも操縦感覚に慣れることだ。それとデータだ」

使丁「おお!」

一夏「ありがとうございます!(すっげー! トントン拍子で話がうまい方向に進んでる! 千冬姉さまさまだな!)」



――――――アリーナ


一夏「やっぱり、きっついなこれ……」ピッチリ(ISスーツ)

副所長「オーライオーライ」

簪「準備、できました」(ISスーツ)

使丁「さて、乗ってみるんだ」

一夏「はい」

副所長「さて、ISの物理装着だが、何となくわかるだろう?」

使丁「そういうものなのか?」

副所長「ISのハイパーセンサーは人間の知覚・認識レベルを桁違いに上げさせる。誰でも1を聞いて100を知るぐらいにな」

一夏「おお! そうだ、この感じだ……」スチャ

副所長「ほらな。あっさりと物理装着できた。まあ、ほとんど自動化されてるんだけどさ」ジー

副所長「だが、――――――本当に男がISを動かしたよ(疑ってはいなかったが、やはり実物を見るまではな…………)」スッ

使丁「そのカメラは何だ?」

副所長「これ? もっと精密なデータをとっておきたかったけど、今回は第3者の視点から搭乗者の癖だけでも見ておこうかと思ってね」

使丁「なるほど」

副所長「それじゃ、簪ちゃんも展開してみて」

簪「わかりました」

簪「おいで、『打鉄弐式』」

使丁「お、おお…………!?」ジー

副所長「感動的なデザインだろう?」

使丁「なあ、いったいこれのどこが『打鉄弐式』なのだ? 見較べるとどこも『打鉄』っぽさが残っていないように見えるのだが」

副所長「当たり前だろう! 本来ISで想定されていた高速戦闘に耐えうるように軽量化を図ったんだから」

副所長「コンセプトも正反対だけど、世界で一番造られている『打鉄』の多種多様のパッケージにちゃんと対応しているから『打鉄弐式』なの!」

使丁「…………『打鉄弐式』なのはよくわかった。」

使丁「けど、そうじゃないだろう! ――――――何故本体に装甲が無いのだ?」

副所長「ん? 何故って……、――――――『当たらなければどうということはない』だろう?」

使丁「ええええええええ!?」


一夏「それじゃお願いします、簪さん」

簪「う、うん……」

簪「それじゃ、歩いてみようか」

一夏「お、おわわわわ!(おお! 空を飛んでる!?)」フワッ

一夏「あ、あれ!? どうやって足をつけるんだ、これ……」バタバタ

簪「お、落ち着いて、織斑くん」アセアセ


副所長「まずは、基本的な動作からだな」

使丁「ISについて何も知らなかった子がIS学園に入って2日目でもうIS乗りになるとはな……」

千冬「どんな感じだ?」ヒョコ

副所長「おお、千冬の姐御ではないか。元気でそうで何よりだ」

千冬「そっちこそな」

副所長「今のところ、初心者にありがちな挙動でしかないな」

使丁「ISっていうのは脳波コントロールだもんな」

千冬「そうだ。しっかりと自分の行動をイメージ出来ていないとまともに動かすことすらできない」

副所長「IS適性はBランク。『可もなく不可もなく』ってところだな」

副所長「しかし、向こう見ずなところは、さすがは姉弟といったところだな?」

副所長「――――――“触れれば切れるようなナイフ”のようにな」

千冬「…………昔のことだ。忘れたよ」

使丁「だが、千冬に比べると一夏くんは“箱入り息子”って感じで、ごぼうのささがきみたいにスパスパ切られてしまいそうな印象があるな」

使丁「よくこんな姉を持って穏やかな性格になれたものだ」

副所長「 言 え て る ! 」
          ・・・・・
副所長「ああでも、“愛しの弟君”が作った弁当を大切に口に入れているところが見たことがあるぞ、俺!」ニヤニヤ

千冬「なにっ!?」カア
             ・・・・・・
使丁「なるほど。やっぱり、弟は可愛いか」ニコニコ

千冬「き、貴様ら…………!」ゴゴゴゴゴ
              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
副所長「おっと、俺はパスだ。いくら俺でも姐御の相手なんて無理無理!」
   ・・・・・・・・・・・・・
使丁「決着を着けるか? IS無しで」
       ・・・・・・・・・
千冬「ふふふ。いい訓練相手を得たもの――――――っ!?」ビクッ

使丁「む!」ビクッ


ヒュウウウウウウウウウン! ドスーン!


使丁「な、何が起こった……!?」

副所長「ありゃま……」


一夏「いってー、死ぬかと思った……」

一夏「あ、千冬姉…………」ムクッ

千冬「“織斑先生”だ。この馬鹿者」

一夏「すみません……」

簪「大丈夫、織斑くん!?」

副所長「あ、簪ちゃん」

簪「ごめん、なさい……」

簪「私が初心者の織斑くんをしっかりとサポートしないと、いけなかったのに…………」ウルウル

一夏「ああ、大丈夫だよ、簪さん」ニコッ

一夏「こういうのって、初心者によくある事故なんでしょう?」ニコッ

簪「織斑くん…………」

副所長「その通りだ。気にするな――――――ん?」

使丁「どうした?」

副所長「もしかして、「急降下」したのか?」

一夏「はい。そうですけど……?」

副所長「簪ちゃん? 「急降下」と来たら「完全停止」だろう? そんな高等テクニックをどうしていきなり?」
       ・・・・・・・・・
簪「えと……、やれそうだったから?」

副所長「…………」

千冬「…………」

使丁「???」

副所長「いやあ、こいつはたまげたなー」

副所長「さ、トライアルアンドエラーだ。もう一度飛んでみてくれないか?」

一夏「わかりました……」

ヒュウウウウウウウン!

簪「わ、私も……!」

ヒュウウウウウウウン!


使丁「…………どういうことだったんだ?」

副所長「思っていた以上に筋がいいってことだ。それに呑み込みも早い」

副所長「あの子はね、歴代の我が国の代表候補生の中ではトップクラスの空間認識能力と脳波コントロール精度の持ち主でね」
         ・・・・・・・・・
副所長「その彼女があんなことを言ったんだ。まぎれもなくIS操縦者としての素養はある」

千冬「PICを自在に使いこなせるようなったら、その後はドライバーの身体能力が勝負に大きく影響してくる」

千冬「――――――そこからがお前の仕事だ、“ゴールドマン”」

使丁「なるほどな」

使丁「これ、冗談抜きに本当に、」


――――――時代を変えるかもしれませんよ?


副所長「やっぱり千冬の弟は“千冬の弟”だったのか」

副所長「これは専用機に乗った時が楽しみだ」

使丁「ところで、来週の月曜までにはその専用機を用意してくれるんだろうな?」

副所長「は? 無理だよ、そんなの。来月中には余裕で完成するけどな」

使丁「あらま……(それじゃ、2週間後のクラス対抗戦にも出せないってことか)」

千冬「………………」

使丁「だが、やれるだけはやらせてもらうさ」

使丁「クラス代表になることが最終目標ではないのだからな」

使丁「トライアスロンでも捨てるところというものがある」

使丁「どこからスパートをかけるのか――――――最後に勝てばいいのだ。最初の失敗はしっかりと糧にすればいい」

千冬「……そうだな」フッ

副所長「よし! だいたいの癖や傾向はわかった。短期間で自分の特徴を出せる辺り、――――――有望ですよ、これは」

千冬「逆に、直すのが困難なぐらい悪癖だったりするから困るのだがな」

使丁「まあ、それはおいおい直していくとして、」


――――――今日の成果は上々だな、一夏くん!



――――――ロッカールーム


使丁「さて、一夏くんに差し入れをして――――――」

鈴「あ」

使丁「やあ、鈴ちゃん。今日はどうしたんだ? まあ、気分が優れない日もあるだろうけれど」

鈴「…………訓練はどうなった?」

使丁「4組の更識 簪ちゃんの付き添いで、基本的な動作は頭に入ったようだぞ」

鈴「あ…………」シュン

使丁「…………ほら、これを持って一夏くんのところに行きな」

鈴「あ、でも…………」

使丁「出鼻を挫かれたからってそれで勝負が終わるわけじゃない。最後まで諦めないやつが勝つんだ」


使丁「勝負は終わってみなければわからない」


鈴「!」

鈴「ありがとうございます!」

タッタッタッタッタ・・・

使丁「…………真剣勝負の世界に色恋・ギャンブル・ドラッグは厳禁なんだがな」

使丁「だが、気を許せる相手は段階を分けて幅広く持った方がいい」

使丁「様々な刺激が選手の心に豊かさと強さをもたらし、向上心を高みへと持ち上げるのだから」




使丁「だが、“プロフェッサー”から気になることを言われたな……」

使丁「俺からすれば別におかしいとは思わなかったが、“プロフェッサー”が言うのだから俺も意識しておくべきなんだろうな」

使丁「さて、IS学園というスポーツ校に入ったのだから、一夏くんには一端のスポーツマンになってもらわないとな」


一夏「『何とかなりそう』な気はしてきた……(だけど、不慣れなことをして結構疲れたな…………)」ハア

鈴「お疲れ、一夏」

鈴「初めての訓練――――――、その様子だといい感じのようね?」

鈴「はい。差し入れ」

一夏「何だお前? 今日は朝食の時に顔を合わせたっきりだったけど随分と機嫌が良くなったな」

一夏「ともかく、サンキュな」

鈴「えっへへん、まあね」

鈴「………………ちゃんと気持ちの整理をつけてきたんだから」ボソッ

一夏「え」

鈴「……やっと二人っきりだね」モジモジ

一夏「ああ、そうだな……」ゴクゴク

鈴「一夏さ、やっぱ私がいないと寂しかった?」

一夏「まあ、遊び相手がいなくなるのは大なり小なり寂しいだろう?」

鈴「そうじゃなくてさ……」

鈴「久し振りに会った幼馴染なんだから、いろいろと言うことがあるでしょう?」

一夏「あ、そうだ。大事なことを忘れていた!」

鈴「!」ドキッ

一夏「中学の時の友達に連絡したか? お前が帰ってきたって聞いたらすげー喜ぶぞ」ニッコリ

鈴「うええ……、――――――じゃなくて!」

鈴「例えばさ――――――」

一夏「それと、今日はお前と一緒に訓練できなかったけど、明日からは大丈夫か?」

鈴「へ」

一夏「頼む! 月曜日のクラス代表決定戦まで手を貸して欲しい!」

一夏「――――――この通り!」バッ

鈴「な、ちょっと…………」

鈴「もう、しかたないわね……」ハア

鈴「別に月曜までじゃなくて、――――――ずっと付き合ってあげたって、い、いいわよ?」プイッ

一夏「そうか! ありがとう! すっげー助かる!」ギュッ

鈴「あ……(一夏の手、こんなに大きい…………それに汗の臭いも…………)」ドクンドクン

一夏「それじゃ、身体も冷えてきたし、汗を流すから行くな?」

一夏「明日からよろしく、鈴!」ニッコリ

鈴「あ…………」


鈴「何よ、せっかく心の準備までして臨んだっていうのに、肝腎なこと何一つ言えなかったじゃない…………馬鹿ぁ」



それから、織斑一夏はたくさんの人の協力を受けて月曜日のクラス代表決定戦とテストのために、ISについて座学と実習を懸命に学んだ。

――――――座学


使丁「では、Q.ISの基本システムは?」

一夏「A.『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』」

使丁「次に、Q.そのPICを発展させた第3世代兵器とは何か?」

一夏「えと……、A.『AIC』」

使丁「よし、正解としよう。で、『AIC』は『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』の略」

一夏「ああ、そうだった……」

使丁「まあ、これぐらいでいいだろう。他にも詰め込む知識はいっぱいあるんだから」

一夏「本当にありがとうございます。わざわざ生徒たちから入試の内容の聞き込みまでしてもらって」

使丁「思ったよりも学校用務員としての仕事が無くて暇だったからな。用務を取り仕切っている轡木さんには頭が下がります」

使丁「で、入試問題そのものを手に入れることはできなかったが、――――――聞き込みの結果、これで傾向は掴めたぞ」

使丁「このデータ、赤本にして売ろうかな?」

一夏「ははは……、それじゃ時間ですし――――――」

使丁「ああ。今日はおやすみ。明日も早いぞ?」

一夏「はい。ちゃんと明日の分の軽食も準備出来ています」

使丁「よろしい」


――――――実習


鈴「それじゃ、よろしくね、簪」

簪「はい。よろしくお願いします」

一夏「協力ありがとう、二人共!」ニッコリ

鈴「い、いいってことよ、これぐらい……」

簪「それで、イギリスの『ブルー・ティアーズ』と戦って勝つための訓練をするんですよね?」

副所長「そうそう。で、ここに『ブルー・ティアーズ』のデータがある」

一夏「えっと、欧州で進められている第3世代型開発推進計画の『イグニッション・プラン』に使われたPVですか?」

副所長「お、よく勉強しているね(正確には欧州連合の統合防衛計画――――――まあいいや)」

一夏「ははは、“ゴールドマン”の前だと絶対にやらなきゃっていう気になっちゃいますからね」

副所長「さて、このPVから最新鋭の第3世代型ISの典型的な弱点が浮き彫りになっている」

副所長「Q.それは何か? PVが終わってから30秒以内に答えろ」

一夏「え、えええ!?」

一夏「えっと、第3世代型ISっていうのは、第3世代兵器を持っているやつのことだろう?」

鈴「そうそう」

一夏「ううん!? 誘導兵器を飛ばしてくるなんて聞いてないぞ!」

副所長「後、半分ぐらいで終わりかな?」

一夏「ええ!? えと、第3世代兵器はイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器のことだったっけ……」

簪「うん」

一夏「え? つまり、イメージして動かすってこと、なんだろう?」

副所長「PV終了。後、30秒だ」チチチチチチチ・・・

一夏「ええっと…………!」アセアセ

鈴「一夏! Q.ISの基本システムは?」

一夏「A.PICだろう――――――あれ? となると、そういうことになるのか?」

副所長「ほう」

一夏「…………すみません。もう一度見せてもらえませんか?」

副所長「いいだろう。50点はくれてやるから、リトライだ」

一夏「はい」


一夏「………………」ジー

一夏「あ! やっぱり!」

鈴「ホッ」

一夏「あの誘導兵器を使っている時は『ブルー・ティアーズ』が動いていない!」

一夏「PICとイメージ・インターフェイスが……被って行動ができなくなってるんだ!」

一夏「A.『ブルー・ティアーズ』は毎回命令を送らないと動かない! しかもその時、本体はそれ以外の攻撃ができない! 制御に意識を集中させているからだ!」

副所長「Excellent!」パチパチパチ・・・・・・

副所長「しっかりと基本を理解できているようだな。ISの起動が今日で、ひ、ふ、み……3回目とは思えないな」

副所長「その通り。『こいつ』は第3世代兵器である機体と同名の誘導兵器『ブルー・ティアーズ』を活かすためだけに組まれた、――――――欠陥機だ」

副所長「無防備になることを踏まえた上で遠距離射撃型にしたという妥協しまくりのふざけた機体だ」

副所長「まあ、ハイパーセンサーの改良あるいは誘導兵器に運用データを入れれば、PICが使用不能になる欠陥は克服されるとは思うけどな」

副所長「はっきり言って、『ブルー・ティアーズ』は完成機を造るための捨て石というわけだ」

副所長「この弱点を突くんだ」

副所長「まあ、ISに究極の完成機などまだまだ形になっていないから欠陥機もないのだがな」

簪「でも、弱点はわかっても、間合いを取られたらどうしようもなくなる…………」

副所長「心配するな、簪ちゃん。ISの戦闘スピードは従来兵器の比ではない。ハイパーセンサーで認識力が強化されても肉体がそれに追いつくことはない」

副所長「懐に飛び込んでしまえば格闘機の方が有利なんだよ」

副所長「お前の姉はそうやって並み居る雑魚を蹴散らして“ブリュンヒルデ”となったんだ」

一夏「おお!」

副所長「よって、お前が使う『打鉄』は簪ちゃんの『打鉄弐式』と同じく機動性を重視した調整をさせてもらった」

副所長「お前に渡す専用機も高機動強襲型の格闘機だから、安心して乗り換えてくれ」

副所長「いやむしろ、――――――パワーアップするから今のうちに乗りこなしてみせろ、“千冬の弟”よ!」

一夏「おお!(さっきからこの言葉しか出ない! それぐらい感激だ!)」

副所長「だが、さすがに調整したとはいえ、完全に対応しきれるほどの機動性は確保できなかった。元が元だけにな」

副所長「『打鉄』用の高機動パッケージを使えば何とかなったかもしれないが、『打鉄弐式』の設計が終わった後に譲渡しちまった…………」
          ・・・
副所長「だから、ある奥の手を仕込ませてもらったよ?」ニヤリ
         ・・・
一夏「――――――奥の手?」ゴクリ

簪「あ、副所長――――――!?(あの顔をしている時は絶対に掟破りをする時だよ!)」

鈴「何々? これだけ盛り込んだんだから、最後まで言いなさいよ」

副所長「ふふふ、それはな――――――」






鈴「どうしたの、一夏!?」ガキーン!

一夏「く、くそっ!(なんて重たい攻撃なんだ……!)」

鈴「そんなんじゃ私のISには勝てないわよ!」ブンッ!

一夏「うわあ……!?」


簪「でやあああああああああ!」ガキーン!

一夏「く、くそう……!(『打鉄』から派生した機体とは思えない身のこなしと、簪さんの薙刀捌き――――――!)」

簪「脛!」

一夏「なっ!?(足への攻撃なんて剣道じゃ反則だろう…………!?)」










一夏「はあ…………」ガクリ

副所長「ま、初心者だから当然だね」

副所長「これで代表候補生と自分との間の力量差というものをよっく理解できただろう?」

副所長「よく刃向かう気になったもんだな?」

一夏「うう…………」

副所長「そういうところは本当に千冬に似てはいるけど、――――――口だけだな」クケケケ

一夏「くそっ」イラッ

副所長「うん。“触れれば切れるナイフ”――――――、中学時代の千冬はそんなふうに誰にでも怖い顔をしていたよ?」

一夏「…………っ!」

副所長「織斑一夏」ビシッ

一夏「……は、はい(急に雰囲気が!? これって昔の千冬姉の気と似ている――――――!?)」ビクッ


副所長「いいか。間違っても“織斑千冬”になろうとするな」


一夏「え」


副所長「お前はド素人で身体も訛っている上に戯け者だ」

副所長「お前と同じ歳で、誰にも負けない力、親無しでも生きていける知恵、強靭な意志を持っていた織斑千冬と比べること自体がおこがましいんだ!」

一夏「!!??」

副所長「お前はこれまで、ISのことや織斑千冬の普段の姿ついて何も知らなかっただろう」

副所長「そのお前が、たまたま姉と同じようにISを扱えるようになったからって、」

副所長「――――――“織斑千冬”に成り切れるなんて思うな」

一夏「お、俺は別にそんな――――――!」

副所長「まあ、そんなことは今は重要じゃない」

副所長「……これだけは聴かせろよ?」


副所長「お前は勝ちたいか、あのタレ目女に? どんな手を使ってしても!」ゴゴゴゴゴ


一夏「えと…………(こ、言葉が出ない…………千冬姉以上に俺は怯えているのか?)」

副所長「はっきりしろ! こっちとしてはな、お前の無茶に道楽として付き合うにも限度というものがあるんだっ!」

副所長「このまま行けば無残に負けて、――――――“日本男子の恥晒し”“女が強いご時世で無闇に刃向かった愚か者”になるぞ!」

副所長「お前はそのことを考えたことはあるのか!?」

一夏「くっ…………(俺は、俺は――――――)」ググッ

副所長「(本当に手間のかかる姉弟だ。御しやすいんだか、御しやすくないんだか…………)」フフッ

一夏「……………………勝ちたい」ワナワナ

副所長「何ぃ? 聞こえんなー」


一夏「勝ちたい!! 俺はセシリアに勝ってみんなの鼻を明かしてやるんだっ!!」


副所長「よく言った!」

一夏「あ」

副所長「その意気を忘れるなよ? お前が自らに課したものの重みを力に変えろ」

一夏「あ、ああ…………(何を戸惑っているんだ、俺は…………)」

副所長「返事は全て『はい』だ! 男なら自分の言った言葉に責任を持てぇい!」

一夏「は、はいっ!」ビシッ

副所長「(これぐらい発破をかけておかないと、いいデータは取れないからな。この際、基本技術云々よりもモチベーション重視だ)」

副所長「(この子は何もかもが不足している。ならば、簪ちゃんが感じ取った才能と千冬譲りの勝負強さが上手く働くことを期待する)」

副所長「よし、『ブルー・ティアーズ』打倒のために、明日は実戦で役に立つ技術を浅く広くでいいから学んでもらうぞ」


副所長「まずは、――――――「高速切替」だ」



――――――夕食後


使丁「なるほど。昔の感を取り戻したいと」

一夏「自慢じゃないけど、小学生の時は結構剣道は強かったと思ってます」

使丁「ふうん。なら――――――」ブン!

一夏「――――――っ!?」ピタッ

使丁「この砂と水を詰めた一升瓶を自在に振り回せるようになれば十分だ」

一夏「は、はい…………(ピタッて止まった! やっぱり凄いや、この人!)」アセタラー

使丁「どうやら、“プロフェッサー”に活を入れてもらったようだな」

一夏「あ、わかりますか」

使丁「ああ。眼の色が全然違うよ。それは勝利に喰らいつくハングリー精神の現れだ。いい傾向だぞ」

使丁「それに、俺としてはこの決闘については、勝てずとも一矢報いるぐらいはやってもらいたいと思っているんだ」

一夏「……どうしてです?」

使丁「あのセシリアって子は、スポーツマンシップに悖る問題発言をした」

使丁「いいか? ISはスポーツだ。決して自己顕示のための道具でもなければ、他者を貶めるためのものでもない」

使丁「そして、世界の国々を繋ぐものなんだ」

使丁「勝って誇るのは勝者に与えられた当然の権利だ」

使丁「だが、それだけで相手の全てに優越しているなどと考えてもらっては困る」

使丁「真のスポーツマン精神がもたらすものは、互いの技術力や健闘を素直に褒め称えられるような競争相手への尊敬の念なのだからな」

使丁「第2回『モンド・グロッソ』を不戦勝で優勝したイタリアの……何とか選手が“ブリュンヒルデ”の称号を辞退したのなんて、まさにそれだろ?」

一夏「…………はい、そうですね」

使丁「俺は一夏くんみたいに女尊男卑の風潮についてどうのこうの言うつもりはない」

使丁「ただ、国の代表として国際交流の場に送り込まれたのなら、外交官になったつもりで他国へのリスペクトを忘れてはならない」

使丁「ISというスポーツを通じて、国際協調や相互理解の精神を養い、切磋琢磨して自分たちの技能向上を目指すための場所が“ここ”なのだ」

一夏「はい」

使丁「ともかく、4月が終わるまでは相部屋だから、できるかぎりの協力をさせてもらうよ」

一夏「ありがとうございます」


こうして、強力なコーチたちの指導の下で、あっという間に時は進んでいった。

その様子は“世界で唯一ISが扱える男性”の入学の衝撃の興奮が冷めきらない学内で持ちきりの話題となり、


一夏「よし。アリーナに行くか!」

鈴「行くわよ、一夏ぁ!」

一夏「ああ」

周囲「イッテラッシャーイ! ガンバッテー、オリムラクーン!」

セシリア「…………」


そして、決戦の時が訪れるのであった。




――――――週明けの月曜日、アリーナ


一夏「今までありがとうございました、みなさん!」

使丁「うん。いい目をしている。気合も十分だ。後は自分の心の声に従うのだ」

一夏「はい!」

鈴「ここまで付き合ってあげたんだから、きっちりとお礼はしてよね?」ニィ

一夏「ああ!」

簪「その、……頑張ってね」

一夏「簪さんもありがとな。4組だから顔を合わせづらいし、今の時間は1組以外は普通に授業中なのに、駆けつけてくれて本当にありがとう」

副所長「さて、休日も惜しんでの訓練の日々、ご苦労だった。今日で私とも一旦お別れだ。5月の専用機を待っていてくれ」

一夏「はい。楽しみにしています」

副所長「…………上手くやれよ? それが勝利の鍵だ」コソッ

一夏「」コクリ

――――――
千冬「気分はどうだ?」
――――――

一夏「すこぶるいいです。敗ける気がしない」

――――――
千冬「そうか」フフッ
――――――


一夏「それじゃ、行ってきます!」


鈴「負けんじゃないわよー!」

副所長「さて、俺は管制室で千冬と一緒に見物するか」

副所長「お前たちはどうするんだ?」

使丁「俺には技術的なことはわからないし、静かにこのピットのモニターから見ているよ」

使丁「それに俺は専属コーチだからな。迎える準備をしているよ」

鈴「そ、それなら私も…………」

簪「私は、本音たちと一緒に観客席で見ることにする」

副所長「それじゃ、――――――織斑一夏の初陣だ!」


一夏「基礎訓練は用務員さんから、機体調整は副所長が、ISの操縦指導は代表候補生二人が――――――!」

一夏「ここまでお膳立てしてもらって、敗ける気がしねえ!」

一夏「っと!(これが本物の『ブルー・ティアーズ』! ――――――倒すべき目標!)」

セシリア「…………」

セシリア「最後のチャンスをあげますわ」

一夏「チャンスって?」

セシリア「私が一方的な勝利を得るのは自明の理――――――、今ここで謝るというのなら許してあげないことはなくってよ?」

一夏「そういうのはチャンスとは言わないな」

一夏「そうだ、それがイギリス自慢の自虐ジョークってやつか?」

セシリア「どういう意味かしら?」

一夏「イギリス人の言うことは常に反対のものを指してるんだよな?(つまり、先程のチャンスの内容を裏返すと――――――)」

セシリア「…………!」

セシリア「わかりましたわ。そこまで言うのでしたら、」

一夏「!」 ピィピィピィ


セシリア「お別れですわね」ジャキ、バヒューン!


一夏「ぐわああ!」

――――――

鈴「!」

使丁「ありゃま……」

――――――

山田「あ!」

千冬「…………」

副所長「おっと、間に合ったか――――――って、開幕直後の先制攻撃か」

――――――


一夏「くそっ! 卑怯だぞ!(試合開始のアナウンスなんてまだだろう!)」クルッ

セシリア「む……(――――――体勢を立て直すのが想像以上に速い!? 明らかに初心者離れした動きですわ)」

――――――

本音「おー」

簪「練習の成果が出たね、織斑くん」

――――――

一夏「うわあっと!(副所長が言った通り、本当にギリギリの調整だ! 俺がしっかりしないと確実に敗ける!)」

セシリア「さあ、踊りなさい! 私、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』が奏でるワルツで!」バヒュン、バヒュン!

一夏「くぅ……(4発に1発中てられるんじゃジリ貧だ。とにかく中らないように近づくんだ!)」

セシリア「遠距離射撃型の私に、訓練機が近づけるとお思い?」


セシリア「笑止ですわ!」

            ・・・
一夏「おっと!(まだだ。奥の手を使うタイミングはここじゃない! もっと近づいて、相手の気を逸らすんだ!)」

――――――

鈴「…………よく粘るわね、一夏」

使丁「ああ。操作感覚がわからないからどうとも言えないが、ISドライバー歴1週間の動きじゃないことは俺でもわかる」

――――――

山田「凄いですね。ここまで粘り強く戦えるなんて……」

副所長「そこまで意外でもないよ」

千冬「ふん。お前らしいやり方だな、“プロフェッサー”?」

副所長「どうもどうも」

山田「えと……、何をしたんです、織斑くんに?」

副所長「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

副所長「そして、“口は災いのもと”ってことさ」

山田「な、なるほど…………」

千冬「薄く広く『ブルー・ティアーズ』対策に必要な技能を教えこんだ後は、モチベーションを高めて勢いで実力差をカバーしたといったところか」

副所長「ああ……、さすがは人を育てる人種だわ。昔だったら考えつかなかったろうに、今では俺の考えていることが理解できるか…………」

千冬「甘く見るなよ」

副所長「へいへい。さすがは姐御だ」

千冬「だが、お前のやることだ。普通にやったら勝てないこの勝負をどうひっくり返すつもりでいる?」

副所長「それは、まあ見てからのお楽しみということで」

千冬「…………」

――――――


セシリア「この『ブルー・ティアーズ』を前にして、乗りたての訓練機で初見でここまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

セシリア「褒めて差し上げますわ」

一夏「そりゃどうも(さすがにキツイな。けど、まだいける!)」

セシリア「でも、そろそろフィナーレと参りましょう!(――――――『ブルー・ティアーズ』よ、敵を撃て!)」

一夏「――――――っ!(――――――来た、誘導兵器!)」

一夏「さすがに――――――(――――――避けきるのは難しいか)」

一夏「なら――――――!」

セシリア「――――――左足! もらいましたわ!」ジャキ

                           ・・・
一夏「今だああああああああ!(誘導兵器が戻っていく間隙――――――今こそ、奥の手だああああああ!)」ヒュン


セシリア「なっ!?(…………避けられた!? あり得ない! 機動力を調整していたとしてもあれだけの機動力は!?)」

一夏「でやああああああ!」ブンッ

セシリア「くっ!(こんなにも速いなんて――――――無茶苦茶ですわね!)」アセタラー

一夏「ちっ!」

――――――

鈴「ああ、惜っしい!」グッ
                 ・・・
使丁「ついに使ったか、――――――奥の手を」

使丁「さあ、ここからが正念場だぞ。スパートを掛けたのだからな」

――――――

山田「い、いったいどうすれば『打鉄』でこれほどの機動力を――――――はっ!?」

山田「織斑先生! 大変です! 織斑くんの『打鉄』のエネルギーが原因不明の消耗をしています!」

千冬「…………何か仕込んだのか?」

副所長「さあ、何のことでしょうね? シールドバリアーの設定が反応過剰になっちゃったのかな?」

千冬「…………アリーナを使用できる時間は限られている」

千冬「試合は続行だ」

山田「織斑先生……!」

――――――


セシリア「ここまでやるだなんて――――――」

セシリア「けれど、無駄な足掻きですわ!(――――――『ブルー・ティアーズ』!)」

一夏「――――――いける!(時間制限がきついけど、今のスピードなら対応できる!)」スパッ

セシリア「っ!?(――――――斬られた、ですって!?)」

一夏「よし!(イメージ・インターフェイスで自由に動くとは言っても、4つを同時に動かすとなったら命令が極端なものにしかならない!)」スパッ

一夏「残り2基!(だから、誘導兵器の動きは必ず俺の身体の反応が遠いところを狙ってくる! 数に惑わされるけど、複雑なようでいて実は単純だったんだ!)」

一夏「距離を詰めればこっちが有利だ!」

セシリア「そう簡単に行くとお思い!」ジャキ、バヒューン!

一夏「(よし。ここは一旦間合いを取って『ブルー・ティアーズ』が再発射されるのを待つんだ。――――――ここまでは副所長の言った通りの展開だ!)」ヒュン

セシリア「数は減りましたけれど、逆に精密さは上がりますわ(今度こそ! ――――――『ブルー・ティアーズ』!)」

一夏「――――――っと!(――――――今だ! これで決めてやる!)」

一夏「そっちこそ! 自分が格好の的になっていることを忘れるなよ(――――――「高速切替」!)」ジャキ

セシリア「なっ!?」ビクッ

――――――

山田「え、あれは『ラファール・リヴァイヴ』用のライフル!? 標準装備のアサルトライフルではない!?」

千冬「…………」チラッ

副所長「どうかしましたー、織斑先生?」

千冬「まあ、後付装備ぐらいは目を瞑っておいてやる」

山田「これは「高速切替」――――――!?」

山田「こんな高等技術を短期間でものにするだなんて――――――」

千冬「落ち着け、山田先生。これはブラフだ」

千冬「射撃訓練も満足にできず、しかも中距離以遠の火器管制システムまで載せる余裕もなかったはずだから、撃ってもまずあたらん」

千冬「本当の目的は、飛び道具を持っていることを『ブルー・ティアーズ』を使用して未防備になった隙に見せつけることで、揺さぶりを掛けることにあるのだろう」

千冬「そして、揺さぶられてできた思考の空白を突いて接近戦でケリをつけようという魂胆だ」

千冬「とにかく近づきさえすれば、近接戦闘用装備を全く持たない『ブルー・ティアーズ』の負けは確定するのだから、それを念頭に置いたトリックだ」

山田「な、なるほど……」

千冬「相手の意表をついて無理やり勝利をもぎ取ろうというこんなやり方を考えられるのは、――――――やはりお前しかいないな」

副所長「」ニヤリ

千冬「フッ」

千冬「だが、そう上手く行くものかな?」

――――――


一夏「行けええええ!(あたれ、あたれえええ!)」バン、バン!

セシリア「くっ!(しかし、やはり素人! 射撃がなっていない! この程度は避けずとも中りませんわ!)」アセダラダラ

一夏「けど、距離は稼げた! もらったあああああああ!(――――――「高速切替」準備!)」スッ


セシリア「掛かりましたわね! 4基だけではありませんのよ!」ガコン!


一夏「うおおおおおおおおお!」ピィピィピィ

セシリア「へ――――――(どうして突撃を止めないのですか!? それがカミカゼというもの――――――!?)」


チュドーン!


――――――

鈴「一夏!」ガタッ

使丁「…………」ジー

――――――

千冬「…………」ジー

山田「『打鉄』、エネルギー残量は0――――――」

副所長「ふふふふ……」





――――――ところがどっこい!





――――――


一夏「うおおおおおおおおお!(――――――「高速切替」! 抜刀おおおおお!)」ガキーン!

セシリア「きゃあああ!?」

セシリア「ど、どういうことですの――――――!?(――――――装甲が無くなった!? 絶対防御が働いているISで!?)」

セシリア「あ!(――――――しまった! 『スターライト』が!?)」バチーン!

――――――

観衆「おおおお!」

簪「凄い。『ブルー・ティアーズ』の狙撃銃を叩き落とした……! これでもう打つ手なしだね」

――――――

山田「え、シールドエネルギーは――――――ほとんどギリギリ残った!?」

山田「ですが、叩き落とされた『ブルー・ティアーズ』のライフル以外の何かが落ちてますね……」

千冬「!」ギロッ

副所長「あ、やべ…………」

千冬「学園の装備に勝手に改造を加えただけじゃなく、器物損壊までするとはな…………」

千冬「 こ の ツ ケ は 払 っ て も ら う ぞ 」ゴゴゴゴゴ

山田「ど、どういうことですか!?」

千冬「山田先生にわかりやすく説明しろ」グリグリグリ

副所長「ああああああああ! わかりましたわかりました、わかりましたよ、姐御――――――がふっ!」ガンッ

千冬「“織斑先生”と呼べと言っているだろうが、馬鹿共がああああ!」

山田「えっと、それで――――――?」

副所長「簡単に言うと、今回の調整では機動性に特化するために装甲に使うシールドエネルギーは最小限にした上に、」

副所長「一部の装甲を外せるようにして、至近距離でのミサイル・ビット対策の盾として使わせてもらいました」テヘッ

副所長「シールドバリアーを張っていない盾がミサイルの直撃を防いでくれたので、」

副所長「機体全体のエネルギー消費量と本来受ける総ダメージ量が減ったわけで、首の皮一枚繋がったというわけです」

副所長「やってくれましたよ、彼!」

副所長「ざまあみろ、『ブルー・ティアーズ』め!」ハハハハハ!

山田「す、凄い…………!」

千冬「いや、残念だがここまでのようだ。よく見てみろ」

副所長「あ、まあ……、うん」

――――――


一夏「これで勝負ありだあああああああああ!」ピィピィピィ、プゥゥゥン・・・

セシリア「…………っ!(まさか、こんな――――――!)」アセダラダラ


ピーーーーーーー!


アナウンス「試合終了! 勝者、セシリア・オルコット」


一夏「え――――――あっ!?(――――――時間切れ!?)」

セシリア「え……、え?」キョトーン

一夏「そ、そんな…………(後もう少しだったのに…………)」

――――――

鈴「…………間に合わなかった」

鈴「惜しかったわね、一夏」

使丁「だが、試合に負けても勝負には勝っていた。ただ負けるにしてもいい試合内容だったよ」ニコッ

鈴「本当ね。これからが楽しみだわ」ニコニコ

使丁「ああ、そうだとも(ただ、ドーピングとも言えるやり方だったのが気に入らないがな)」

――――――


周囲「ナンダッタンダローネー?」
周囲「デモ、オリムラクン、オシカッタヨー」
周囲「ソレニ、カッコヨカッター!」

本音「凄かったね、おりむー」

簪「うん」

簪「…………織斑くん」


          ・・・
副所長『だから、ある奥の手を仕込ませてもらったよ?』ニヤリ
         ・・・
一夏『――――――奥の手?』ゴクリ

簪『あ、副所長――――――!?(あの顔をしている時は絶対に掟破りをする時だよ!)』

鈴『何々? これだけ盛り込んだんだから、最後まで言いなさいよ』

副所長『ふふふ、それはな――――――』


――――――リミッター解除だ。


鈴『え……』

一夏『???』

副所長『わかりやすく説明すると、』


――――――機体の限界以上のスペックを引き出して自壊するのを無理やりシールドバリアーで防いで、その間だけパワーアップする!


副所長『ってことだ』

副所長『要は、シールドエネルギーを糧に時間制限付きのパワーアップを施す装置を入れておいた』

副所長『ただし、一度発動させたらエネルギー切れになるまで続く』

副所長『使いどころを見誤らなければ、遠距離射撃型の姿を隠していないスナイパーの懐なんて余裕で飛び込めるさ』

副所長『それに、被弾を抑えればこの『打鉄』の燃費はいいから意外と長持ちするぞ。おすすめだ』

副所長『だが、それだけじゃ『ブルー・ティアーズ』の懐に飛び込むのは自殺行為でしかない』

副所長『ちゃちな迎撃装備が一応付いているからな。それで勢いを削がれては元も子もない』

副所長『本当は「イグニッションブースト」が使えればいいんだけどたぶん習得までの時間が足りないだろうから、これで何とか勝て』

副所長『わかったな、“千冬の弟”?』

一夏『はい!』

鈴『……本当はよくわかってないでしょう』

一夏『あ、……はい』

副所長『大丈夫だ。こういうのは実際に体験してみないとわからないからな』

副所長『早速試すんだ』

一夏『はい!』

簪『………………』


簪「凄いんだね、織斑くんは」


――――――その夜


一夏「負けちゃったな…………(あれだけのお膳立てをしてもらって、十分に勝てたはずなのに――――――!)」ハア

使丁「こんなところにいたのか、一夏くん」

使丁「補導の対象になるから早く寮に帰りなさい」

一夏「…………用務員さん」

使丁「それと、――――――温かいココアはいかが?」スッ

一夏「ありがとうございます」






一夏「…………勝てる相手だったのに負けてしまいました」

一夏「スパートを掛けるタイミングが悪かった――――――いや、やっぱり代表候補生との実力の差が出たってことですよね」

使丁「そうだな。対戦競技の世界は常に自分と相手しかいないものだ」

使丁「一夏くんがあのタイミングでスパートを掛けることを決断したのも、極論相手の出方によるものだった」

使丁「だから、『もう少し粘るべきだった』――――――己の判断ミスに帰することになるな。極論だが」

一夏「…………はい」

使丁「だが、今日の敗北は数ある敗北の中でも一番勝利に近いものだっただろう?」

使丁「これはビギナーズラックなどではない」

使丁「ISに乗って間もないきみが代表候補生をここまで追い詰めることができたのだ」

使丁「むしろ、きみの中の可能性を多くの人が認識する結果になったんだ」

使丁「だから、今はそれでいい。それから織斑先生の指導の下でじっくりと実力を蓄えていけばいいのだから」

一夏「はい」


使丁「それに、良い報せがあるぞ?」

一夏「何ですか?」


使丁「テスト、満点だったよ」


一夏「あ!」

使丁「明日にも返却されるだろうけれど、努力はこうして実を結んでいっているんだ。自信を持て」


使丁「今日の敗北を次の糧として、最後に自分が思うように勝ちなさい」


使丁「いいね?」

一夏「はい!」

使丁「さてと、長話が過ぎたな。それじゃ、俺は夜回りに戻る」ゴクゴク

一夏「明日の準備はしておきますね」

使丁「ありがとう」

使丁「あ、そうだ」

一夏「何ですか?」

使丁「ISの訓練はとりあえず急ぐ必要なくなったから、今度は基礎体力を付けないといけなくなったな」

使丁「どうだ? 今度、トライアスロンに出てみない?」

一夏「え、それは、そうですけれど…………」

使丁「一度はやってみなよ。『俺はこれだけのことはやってみせた』っていう他に代えがたい自信が身につくぞ」

一夏「!」

一夏「…………わかりました。ちょっと考えてみます」

使丁「うん。良い返事だ」

使丁「では、お疲れ様でした。おやすみなさい、一夏くん」

一夏「はい。本当にありがとうございました! おやすみなさい!」




一夏「………………温かい」ゴクゴク




ここまでの状況の整理:第1話
原作との違いに説得力を付けるために、
・織斑千冬の中学時代の同級生たち“奇跡のクラス”の存在
を付け加えている。

キャラの概要
織斑一夏
改変度:B
例のごとく究極の朴念仁で向こう見ずな性格なのだが、良き大人の支えもあってしかも同室してくれる頼れる大人の存在で、かなり余裕を持った落ち着きを見せている。
また、千冬姉の同級生たちとの関わり合いで徐々にアスリートの精神に目覚めていき、効率的な指導のおかげで無理なく地力を上げていき急成長することになる。
ただし、その分だけ独力でどうにかしなければならないという逆境がなくなり、安定感は出たが爆発力は抑えられた。

また、5月になるまでは『白式』には乗っていないので、『零落白夜』に頼った短期決戦を積極的に狙うような戦闘ルーチンは構築されず、
逆に、クラス代表決定戦で見せた粘り強さと丁寧な立ち回りを重視する戦い方を覚え、燃費の悪い第3世代型に対して持久戦の我慢勝負を挑む面も見られるようになった。


凰 鈴音
改変度:A
この設定の変更で一番得をしたキャラ。
なにせ物語開始当初は恋のライバルと言える存在がおらず、唯一の幼馴染としてIS学園に戸惑う一夏の精神安定剤の役割を独占できたのだから。
更に、良き大人の相談相手もいたことで自分の気持ちに素直になっており、短気な性格も大人が見ている手前では自然と抑えられている。
しかし、それだけにこれからが大変となっていく…………


セシリア・オルコット
改変度:B
チョロインの代表格として有名な人物だが、第1話が終わった段階では一夏を見直した程度の好感度である。
つまり、チョロインとしてのセシリア・オルコットは今作では見られないという貴重な流れとなった。
腐れ縁となるはずの鈴とは一夏を巡って対抗心を燃やしていないので、普通にリスペクトしている。


更識 簪
改変度:A
原作だと、2学期になるまで『白式』の開発や後付装備の開発に全ての人員が取られて、
7割(実質的に機体フレームだけ)完成したところで放置されるという憂き目に遭い、
そのことで一夏を恨み、姉へのコンプレックスを悪化させることになった。

しかし、今作では予定通りに専用機『打鉄弐式』が完成し、その後に『白式』の開発されるので、最初から専用機持ちとして登場している。
なので、一夏に対する恨みもなく、また良き理解者も付き添っていることで姉へのコンプレックスも抑えられた状態で、極めて良好な状態となっている。

一夏に対しては、学園のみんなと同じように少しばかり興味関心があり、訓練に付き合うことで少しずつだが距離は縮めている。


篠ノ之 箒
改変度:S
原作でのメインヒロインは入学しませんでした。了――――――ではない!

ちゃんと登場しますので、どんな扱いかはご想像しながらお待ちください。


織斑千冬
改変度:C
彼女自身の立ち位置そのものは変わっていないが、今作では織斑千冬の中学時代を題材にして改変されており、
これまで筆者のREWRITEは織斑一夏とISの世界設定を中心にして脚色してきたが、今作では逆に本編では語られない裏話や補完を目指した趣向となった。

中学時代の同級生たちが登場することで、若干孤高の性格に丸みがついた。本人としてはそれぐらいしか変更は加えられていない。



3人のキーパーソンたち

そして、その物語の分岐点を担った今作でメインとなる“3人の男たち”は、

――――――別名:死亡フラグの塊


・担当官 支援先:篠ノ之 箒
篠ノ之 箒の重要人物保護プログラムの担当官であり、長年箒の成長を見守ってきた人物。
保護対象であった篠ノ之 柳韻の頼みもあって、一家離散後は最終的な保護対象となった篠ノ之 箒の気持ちを第一としており、孤独だった箒に微力ながらも尽くしてきた。

・使丁 支援先:織斑一夏(&凰 鈴音)
織斑千冬が召喚した人物であり、表向きは学園用務員として雑務に従事しているが、
実は織斑一夏を短期間で鍛えあげるために呼ばれたトライアスロンと柔道のオリンピック金メダリストである。
また、護身術にも心得があり、体を鍛えるために軍の特殊訓練にも参加したことがあるほどの根っからのアスリートである。

彼の存在によって、ハイスピード学園バトルラブコメは、健全なスポーツマンシップへの道を綴ったスポーツドラマになってしまった。
その存在の影響力により、逆境には頻繁に置かれることになるが、修羅場は潰してしまうので、色恋沙汰を期待している読者にとっては受け付けない人物かもしれない。


・副所長 支援先:更識 簪
倉持技研の第1研究所副所長の設計技師。元々はバイクや楽器を造る大手製造メーカーで設計技師をやっていた。
この物語では、『打鉄弐式』の設計者・開発責任者として登場しており、更識 簪の良き理解者として励まし続けている。


第2話 クラス対抗戦
Farewell for Growth


一夏「結局、クラス代表はセシリアになっちゃったな…………別になりたかったわけじゃないけど」

鈴「でも、誰が見ても一夏の勝利だって言ってるんだからいいじゃない」

一夏「でも、負けは負けだ。そこはしっかりと受け止めなくちゃな」

鈴「一夏…………」

一夏「クラス対抗戦は来週だな。セシリアと当たることになるだろうけれど、がんばれよ」

鈴「まかせておきなさいよ! あんたの仇は取ってあげるんだから!」

一夏「それと、簪さんも出るのか。楽しみだな」

鈴「そうね。あんたの『打鉄』とどれくらい違ってくるのか楽しみだわ(私でも勝てるかわからないわ。それぐらいの強さだわ、簪は…………)」

一夏「さて、俺としては急いで訓練する必要もなくなったことだし、」

一夏「副所長がくれたこのIS実習ドリルを反復して5月に専用機を受け取った時に恥ずかしくないようにしないと」

鈴「付き合ってあげるわ」

一夏「ありがとな、鈴」ニッコリ

鈴「い、いいってことよ、それぐらい……」ドクンドクン

鈴「………………」モジモジ

鈴「ねえ、一夏さ」


鈴「約束、覚えてる?」


一夏「…………約束?」

一夏「俺、鈴と何か約束したっけ?」

一夏「あ!」

鈴「……!」ドキドキ

一夏「クラス代表決定戦に付き合ってくれたお礼をするの、忘れてた!」

鈴「そ、それもあるんだけど……(そういえばそんなのあったわね…………何してもらおうかしら)」

鈴「――――――じゃなくてさ!」


鈴「ほら、小学校の時に」

一夏「え? そんな昔――――――?」

一夏「あ、あれか? 『鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――――――』」

鈴「そ、そう。それ!」ニッコリ

一夏「『――――――奢ってくれる』ってやつか?」

鈴「はい……!?」

一夏「だから、『俺に毎日飯をごちそうしてくれる』って約束だろう?」

鈴「」イラッ


一夏「その約束を今果たしてくれるって言うのか、鈴!」キラキラ


鈴「!?」ピタッ

一夏「あれ、どうしたんだ、鈴?」

鈴「え、え…………!?(怒るべきか、そうしないべきか判断に困る…………)」

一夏「ああ、そうか。ちゃんと言わないとわからないよな。ごめんな」

一夏「俺もIS乗りっていうアスリートの道に進んだからには、食事の管理は結構重要となってきたからさ」

一夏「寮のメニューも月毎に替わって栄養バランスも悪くはないんだけど、まだまだアスリート養成機関としては不徹底だって用務員さんが言ってた」
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「そりゃそうだもんな。IS学園はIS乗りの教育機関であってアスリートの養成機関じゃないもんな」

一夏「だから、寮のメニューに載せることができるような新しい献立を考えようって話が持ちきりで――――――」

一夏「鈴も参加してくれるのなら、一緒にやろうぜ」

鈴「サイテー」ボソッ

一夏「え」

鈴「………………呆れて言葉も出ないわ」ハア

一夏「何か間違えていたか?」キョトン

鈴「もういい。このことは先日のお礼として償ってもらうから」フン

一夏「あ、ああ…………」

鈴「それじゃ、何をしてもらおっと」ワクワク

一夏「なんかよくわからないけど、機嫌が良くなってよかった(ホント、よくわからねえよな、――――――女って)」

鈴「♪」


一夏「…………う~ん」

使丁「どうした、一夏くん?」

一夏「ああは言ったけど、俺はセシリアと鈴のどっちを応援すればいいんだ? 普通に考えたら1組と2組がすぐに戦うことになるからな…………」

使丁「なるほど。確かにそれは迷うな」

使丁「個人的には幼馴染の鈴ちゃんに肩入れしたいところだが、クラスメイトとしての義理もある――――――」

使丁「基本的にあの『ブルー・ティアーズ』は、距離をとって撃つしか能がない機体だ」

使丁「逆に言えば、単純故にパイロットも完成しているから手伝う必要はないかもな」(素人の意見)

使丁「(“プロフェッサー”からは、機体運用の酷さもあって総合的な強さはISドライバー成りたての一夏くんと大差ない戦力って酷評されてるがな……)」

一夏「う~ん…………」

使丁「悩むぐらいなら、思い切って誘ってみろ。それで断られたらそれでいいじゃないか」

一夏「でも、受け容れた時は?」

使丁「どちらにしろ、得するだけだぞ。Win-Winの選択だ」

使丁「断られたら、心置きなく鈴ちゃんの手伝いをすればいいし、」

使丁「受け容れてもらえたら、オルコット嬢に一夏くんの実力が認められたということの証になる。そこから仲良くしていくことができるぞ」

一夏「なるほど…………」

使丁「難しく考えるな。考えたってしかたないじゃないか」


使丁「案ずるより産むが易し」


使丁「一方で、『言うは易し、行うは難し』というのもあるが、まだ始まってもいないんだ」

使丁「それに、気になるだろう? ちゃんと“日本男児の意地”というものを見せつけられたかをさ」

一夏「そう、ですね。いずれははっきりさせないといけないことなんだし、やってみます!」

使丁「うん。行っておいで(さて、鈴ちゃんのゴキゲンを取っておかないとな)」


一夏「あ、いたいた」

セシリア「…………織斑一夏」

一夏「クラス対抗戦に向けての訓練をするんだろう? だったら、俺も協力できることはないか」

セシリア「それは…………」ウーン

一夏「あれ……?(てっきり頭ごなしに断ってきそうな雰囲気だと思ったんだけど)」
        ・・・・
セシリア「えと、一夏さんは鈴さんと幼馴染なんですよね?」

一夏「…………“一夏さん”?(それに、以前に比べて口調も随分と柔らかい……)」

セシリア「その、いいのですか?」

一夏「えっと……、いいんだ、それは。別のことだから」

一夏「俺は、代表候補生同士の戦いってやつを見てみたいんだ」

一夏「5月には俺も専用機を受け取ることになるし、そうなったら鈴も俺のライバルになるんだ」

一夏「だから、この際 自分のクラスの代表には精一杯頑張ってもらおうと思ってる」

一夏「それに、『代表候補生って凄いんだな』って思ってるから、簡単には負けて欲しくないっていうのが、あるかな……」

セシリア「…………」ジー

一夏「えと…………」


セシリア「…………その、ありがとうございます」


一夏「!」ホッ

セシリア「先日、代表候補生としてあるまじき罵詈雑言をしてしまったことを深く反省していると同時に、」

セシリア「私はあなたに敬意を抱いています」

セシリア「今回の申し出、本当に感謝しておりますわ」

一夏「それじゃ――――――!」

セシリア「ええ。是非とも、私も訓練に混ぜてくださいね」

一夏「お、おお!(あれ、予想していたのと随分違った結末だ――――――でも、気持ちのいいものでよかったー)」

セシリア「ふふふ」ニッコリ

一夏「あ、もしかしてこれが――――――(そうか。これがスポーツマンシップってやつなのか。何だかわかってきたような気がする!)」


――――――その夜


使丁「そうか。うまくいったようだな。“こっち”もうまくいったよ」

一夏「え、――――――“こっち”?」

使丁「ああ……、何でもないぞ」

使丁「それよりも、――――――あっという間に見違えたな、一夏くん」

一夏「そうですか? 自分では何か変わったって感じがしないんですけどね」

使丁「いやいや、きみは立派にIS学園で唯一の男子生徒を演じている。それも、誰からも愛されるぐらいにな」

一夏「えと、むず痒いですね……」

使丁「4月のまだ半ば頃だが、この調子だと5月を迎える頃には身も心も立派なアスリートとして生まれ変わっていることだろう」

使丁「俺としても嬉しいぞ、教え甲斐のある優秀な後輩で」ニッコリ

一夏「ははは…………」

使丁「だが、これだけは忘れないでくれ」

一夏「?」


使丁「出会いが人を変えるというのなら、別れも人を変えるということを」


一夏「な、何を言っているんです……?」

使丁「いや、5月になったら俺はこの部屋から出て行くことになる」

使丁「今の状態はこれからの学園生活においては当たり前じゃなくなるってことを意識してもらいたい」

一夏「あ、……はい」

一夏「――――――別れ、か」

使丁「まあ、全寮制で外に出ることも少ないし、世界で一番安全なスポーツをやってるんだ」

使丁「少なくとも、ここでの日常においては“死”を意識することなんてほとんど無いだろうけれどね」
                    ・・・・・・・・
使丁「ああ……、自宅通勤ヤダなー。まあ、学園から十数分の立地条件のいいマンションをもらえたからいいけどさ」(“ゴールドマン”の健脚で)

一夏「寂しくなりますね」

使丁「けど、これは最初から決まっていたことなんだ。そのことに徐々に慣れていけばいい」

使丁「それじゃ、夜回りに行くから今日はおやすみなさい」

一夏「はい。お気をつけて(そうだよな。俺がISを動かしていなかったらこうして一緒の時を過ごすことなんて普通は有り得なかった――――――)」


――――――だから俺は、今こうしていられる時を後悔がないように生きたい!



――――――日常


一夏「朝は用務員さんと一緒に雑務をこなしながら、ジョギングをする」タッタッタッタッタ・・・

一夏「いい汗を流したらシャワーを浴びてスッキリ!」キリッ

一夏「そして、爽やかに朝食を摂る! これが美味い!」パクパク

一夏「それで、登校! HRの時に用務員さんと顔を合わせてからが学業の始まり!」キンコーンカンコーン

一夏「俺は授業を受けながら、空いた左手は砂と水が詰まった一升瓶を素振りしている」ブンブン

一夏「みんなが学業に勤しんでいる間は用務員さんは用務員らしく働いているっと」セッセセッセ・・・

一夏「そして、放課後は用務員さんや代表候補生のみんなと様々な訓練を行う!」ガキーン!

一夏「最後に、今日1日の行動を振り返って反省点と更新点を記録簿に記入して就寝っと!」カチッ

一夏「おやすみの挨拶を用務員さんに交わして、俺の1日は終わるのである」スヤー




――――――クラス対抗戦 当日


鈴「クラスが違うことをこれだけ恨めしく思ったことはないわ」

一夏「今日限りだよ。俺がセシリアだけの味方なのは」

一夏「明日からは、全員がライバルであり味方だからさ」

鈴「まあいいわ」

鈴「それじゃ、よく見ておきなさいよ、私の実力!」

一夏「ああ、行って来い!」

使丁「さて、どうなることかね?」

一夏「それじゃ、俺はセシリアの方のピットで」

使丁「ああ。しっかりと励ましてこい」

――――――

一夏「それじゃ、活躍を期待しているぜ、セシリア」

セシリア「はい。今日まで訓練のお付き合いしていただき、ありがとうございました」

セシリア「これから一夏さんという新しいライバルが加わるのですから、先輩としてきっちりとその貫禄をお見せしてあげますわ」

一夏「うん」

セシリア「それではセシリア・オルコット、『ブルー・ティアーズ』参ります!」


――――――アリーナ


アナウンス「それでは両者、規定の位置まで移動してください」


セシリア「さて、中国の代表候補生:凰 鈴音と第3世代型IS『甲龍』――――――」

セシリア「(『航続力と安定性を重視した』系統の機体ですから、短期決戦に持ち込まなければ燃費の悪いこちらが不利となる!)」

セシリア「(かと言って、相手も果敢に近づいて来るのだから簡単には撃たせてはくれないはず…………)」

鈴「さすがに、互いの情報は筒抜けだけどさ――――――」

鈴「(一夏との対戦で、ある程度こっちでも対策はできているから、この勝負もらったわよ!)」

鈴「(けど、油断しないようにしないと。一夏が何かしらセシリアに助言しているはずだから)」


アナウンス「それでは、試合開始――――――!」


セシリア「まずは先制の一撃を――――――!」ジャキ
鈴「行くわよおおおおおお!」


――――――――――――

副所長「さて、始まったか」

千冬「お前か」

副所長「ふははは、俺が設計した『打鉄弐式』が優勝するのは不動の事実!」

副所長「そのことを確かめに来たのだ」

副所長「見ているか、来賓席でふんぞり返っている欧州の方々!」

千冬「勝手にしろ。以前のようなことをしなければ、お前などいてもいなくても変わらん」

副所長「はい、そうですか」

山田「しかし、この戦いは非常に高度な駆け引きの応酬となってきましたね」

千冬「そうだな」

千冬「開幕直後にオルコットは弾速の速いライフルで先制攻撃を狙うものの、それを読んでいた凰にあっさり躱された」

千冬「この辺は、先に公式試合で手口を見せていたオルコットの分が悪いな」

副所長「それに、燃費重視の第3世代型が相手となったら、燃費の悪い『ブルー・ティアーズ』が持久戦で競り負けるのは必然だから、」

副所長「何としてでも点を取りたいという欲張りなところ、――――――つまり、焦りが出ている」

副所長「この戦いは、戦術云々よりも戦略的に『ブルー・ティアーズ』が最初から不利だったというお話だ」

副所長「完敗ってことはないだろうが、対戦ダイアグラムとしては4:6ってとこかな」

副所長「ミスをおかせばどちらもそこから一気に敗北することもあり得る、いい対戦カードだ」

副所長「ま、俺と簪ちゃんの『打鉄弐式』だったらどっちに対しても8:2だがな」

千冬「どちらかが先に自分の得意とするレンジを掴んだほうが勝者となる」

千冬「鍵を握るのは、中距離で使われる互いの第3世代兵器の使い方――――――!」

山田「はい」ゴクリ

――――――

――――――

一夏「頑張れ、セシリア!(…………鈴も頑張れ!)」

一夏「ああ、危ない!(そういえば、さっき“プロフェッサー”がもう一度稼働データを取りたいってこの前の調整機体を置いていったな)」

一夏「我が事のように手に汗握るな、これ……!(まあ、問題ないだろう)」

――――――

使丁「ISとはまるでコンピュータゲームのように単純なシステムだな」

使丁「強い性能を求めると持久力や防御力が減る一方で、安定性をとれば突出した性能がなくなる」

使丁「絶対的な強者が生まれづらいというのが、世界平和的には釣り合いがとれているのかもしれない」

使丁「だが、もしそのバランスを超越したボスキャラみたいなのがこの世を跋扈することになったら――――――?」

使丁「スポーツ選手ならそれはそれで“神”として称えられるだろうが、こと兵器にも転用できるISの場合だと――――――」

使丁「ISがスポーツのままであるために、絶対的に必要なことがある…………」

――――――


セシリア「くっ……(話には聞いておりましたが、あの『甲龍』の衝撃砲『龍咆』は本当にどこに弾が飛んでくるのかまったくわかりませんわ!)」

セシリア「(しかも、後ろ向きでも撃てるということは射角は無限! 中距離での攻撃にも躊躇いが…………!)」

鈴「案外しぶといわね……(尻尾を巻いて逃げ出すのはわかってはいたけど、思っていた以上に『ブルー・ティアーズ』に対応しきれてない…………)」

鈴「(こんなのを撃破寸前にまで追い詰めた一夏は本当に凄いわね…………数々の対策や機動力があったおかげとはいえ、素直に尊敬しちゃう)」

鈴「(――――――背後を見せての『龍咆』による奇襲もダメ、――――――『双天牙月』の投擲もダメ)」

鈴「(なかなかやるじゃない……)」

セシリア「(しかし、こちらの機体の燃費はあちらの機体に劣るせいで、このままですと――――――!)」

セシリア「(いえ! ここは危険な賭けに打って出るのではなく、ジッとこらえてあちらと我慢勝負をあえてしますわ)」

セシリア「(こちらが刻一刻と不利となっていくことはわかっているはずですし、そこに慢心が生まれるはず…………!)」

鈴「(…………どうやらこの私と『甲龍』相手に我慢比べしようって気ね! いいわよ、受けて立つわ!)」


――――――

一夏「…………二人が何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない」

一夏「けど、戦いにはペース配分っていうのがあるんだよな」

一夏「つまり、あの膠着状態は必死に相手の隙を窺っているってことはわかる」

一夏「そこから一気にラストスパートをかけようってことなんだろ?」

一夏「選択肢があるっていいよな。俺はよくわからないから突っ込むことしかできないけどさ」

――――――

使丁「さて、互いの動きがだいぶ鈍ってきたな」

使丁「そろそろこの試合の勝者と敗者が決定するというわけだ」

使丁「まだ10分も経っていないのに息切れするのを見ると、対戦競技者のスタミナ不足が否めないように感じられるが、」

使丁「競争競技は常に自分との戦いを強いられるが、対戦競技では自分だけではなく相手や周囲の環境などにも気を配らなければならない以上、」

使丁「使う神経の量も多いというわけで、アスリートとして劣っているというわけではない」

――――――

――――――

副所長「さて、そろそろ決着――――――」

ピィピィピィピィ!

山田「システム破損! 何者かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです」

副所長「なんと!?」

千冬「――――――試合中止!」ガチャ

千冬「オルコット、凰! 直ちに退避しろ!」

山田「直ちに、待機していた鎮圧部隊は出撃を!」

山田「先生たちは生徒の避難を――――――!」

副所長「おっとそれはできねえみたいだぞ?」カタカタカタ・・・

山田「え…………?」

副所長「アリーナ全体が非常事態対応でシャッターが降りて、来賓も生徒も鎮圧部隊も立ち竦んでいる」カタカタカタ・・・

副所長「俺の方でアリーナのコントロールを取り戻してみる」カタカタカタ・・・

副所長「いいな?」カタカタカタ・・・

千冬「わかった、協力してもらう」

山田「お、織斑先生!?」

千冬「――――――非常事態だ」

副所長「よし、それなら話は早い。まずは生徒たちの避難だ」ピッ

副所長「聞こえるか、簪ちゃん!」
副所長「構わねえ。お許しが出た。荷電粒子砲『春雷』で隔壁をぶち抜け!」
副所長「その後は、鎮圧部隊の突入のために回ってもらう」

副所長「よし、避難誘導のアナウンスだ、織斑先生! パニックに陥っている生徒たちを従わせろ」

千冬「うむ」

山田「織斑先生! オルコットさんと凰さんが所属不明のISに襲われています!」

千冬「くっ! 山田先生は二人に退避を指示! そして、所属不明機に呼びかけろ!」

山田「わ、わかりました。――――――オルコットさん、凰さん!」ピッ


副所長「やつめ! ここまで高度なクラッキング機能を搭載しているというのか!?」カタカタカタ・・・

副所長「3年の精鋭たちもシステム回復のために一斉にやっているというのに、何だこのクラッキングの勢いは――――――!?」カタカタカタ・・・

副所長「(いや…………、待て)」

副所長「(突入してきてすぐにアリーナの機能が奪われた上に、そしてこれだけ同時にシステム回復に力を入れているのに、一向に埒が明かないだと!?)」

副所長「(どういうことだ? ISにそこまでの処理能力はないはずだ! 電子戦と白兵戦を両立できないのが常識だ)」

副所長「(そうか、ISからではないな! となると――――――)」

副所長「(まさか、この襲撃の意味は――――――!? そして、黒幕は――――――!?)」


山田「あれ? ――――――反応が1つ増えた? …………すでに突入に成功した機体が?」


――――――――――――


セシリア「なんてこと…………(消耗しきったこの状態で、あれほどの機体を撃破あるいは時間稼ぎをしなければなりませんとは…………!)」ゼエゼエ

鈴「あんた、まだ生きているわよね……!?」ゼエゼエ

セシリア「だ、大丈夫ですわ、鈴さん……」ゼエゼエ

鈴「エネルギーはまだ残っていても、こっちの体力が保たないわよ…………」ゼエゼエ

セシリア「しかし、こちらに標的を定めてきた以上、逃げ出してしまったら被害が増えることは明白ですわ……」

鈴「そうね。救援は絶対に来ることはわかっているから、まだ頑張れる……!」

無人機「――――――!」ジャキ

セシリア「くっ」

鈴「危ない、セシリア!」

セシリア「な、何ですって!?(――――――動きが読まれていた?!)」

セシリア「あ、ああ…………(このエネルギー残量で、直撃――――――!?)」ドクンドクン


「やらせねええええ!」ヒュウウウン! ガシッ


セシリア「あ」

セシリア「え……(お姫様抱っこ……)」

鈴「い、一夏!?」

一夏「大丈夫か、セシリア!」

セシリア「い、一夏さん…………」

一夏「良かった、無事で………」

セシリア「あ、ああ…………」ポロポロ

鈴「その機体、どうしたのよ!?」

一夏「なんか“プロフェッサー”がまたデータを取りたいってことでピットに置いていってくれたんだよ」

鈴「あ、あの人…………でも、これは願ってもない展開よ!」

一夏「ともかく、救援が来るまで逃げ回るぞ!」

一夏「エネルギーがほとんどないセシリアを何とかしてピットに逃がす! 手伝ってくれ!」

鈴「わかったわ!」

セシリア「み、みなさん、私なんかのために――――――」

一夏「――――――『私なんかのため』じゃねえ!」


一夏「お前のこと、尊敬しているんだから! 情けないこと言わないでくれ!」


セシリア「あ…………」

鈴「一夏! 今よ!」

一夏「よし。機体は解除してくれ」

セシリア「は、はい!」

一夏「しっかりと捕まってろよ!」ギュッ

セシリア「くぅ…………(なんて力強さ、頼もしさなんでしょう。それに包まれている感覚がとても心地良い…………)」

――――――

山田「あれは、織斑くんがこの前のクラス代表決定戦で使った機体です! それがどうして?!」

千冬「」ジロッ

副所長「ああ、それな」カタカタカタ・・・
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
副所長「ちょっと黄金色のお菓子をもらって、彼に特別出演してもらおうと用意しておいたんだが、」カタカタカタ・・・

副所長「どうやら、吉と出たようだな」カタカタカタ・・・

千冬「不問にしておくぞ。――――――無事に終わったならな」
               ・・・
副所長「だが、――――――もう奥の手を使ってしまったか」

副所長「簪ちゃんも急いでいるけど、鎮圧部隊が突入しきる頃まで保つのか……?」

千冬「…………くぅ」ギリッ

山田「織斑先生、そしてみんな…………」

山田「へ!? あれって――――――いや、カメラの誤作動じゃ…………」

千冬「どうした!」

山田「これを――――――」

千冬「なにっ!?」

――――――


一夏「早く行くんだ、セシリア!(くそ、やっぱりあれはISに違いない! そうじゃなかったら、何だって言うんだよ!)」

セシリア「は、はい!」

一夏「大丈夫か、鈴!?」

鈴「そっちに行ってるわよ! ――――――この、止まりなさいよ!」

無人機「――――――!」ジャキ

一夏「な……(こっちに照準が向けられている!? このままだとピットが崩落してセシリアまで巻き添えだ!)」アセダラダラ

一夏「緊急離脱だ! 間に合えええええ!(あ、けど、このまま避けるだけじゃダメなんじゃ…………)」アセタラー

鈴「い、一夏あああああああ!」


――――――消え失せろ、フーリガン!


一同「!?」

無人機「!!!!!?」

使丁「うおおおおおおおおおおお!」ガシッ

使丁「だりゃああああああああ!」ブンッ!

無人機「!!!!!???」ドゴーン!

鈴「え、ええええええええ!?」

一夏「用務員さん…………!?」



一夏と鈴は目の前であり得ないようなものを見て、攻撃を受けずに助かったという思いなど簡単に吹き飛んで棒立ちになってしまった。

なんと二人の窮地に現れたのは、――――――いつもの作業つなぎを着た若い学校用務員ただ一人であり、

いつもは爽やかなIS学園の学校用務員である彼は、この時どこからともなく現れて、無人機の背後に急接近したと思った瞬間には、

勢い良く飛び上がって股を右手で掴み、その勢いに乗って今度は左手で思いっきり無人機の頭を鷲掴み、無人機を仰向けにさせるどころか、

着地したと同時にあれだけの重量感溢れる機体を投げ飛ばしたのだから!

巨大な肩部によって重圧感のある巨体に見える無人機ではあったが、ISであることには違いなく、人間大の本体を普通に掴まれて投げ飛ばされたのだ。

そして、ISはPICという反重力システムによって質量軽減をしているために、実は羽のように人間の手で投げ飛ばせるぐらいフワフワしているのである。


――――――これは意外な盲点であった。


だが、羽のようにフワフワしているということは、しっかりとベクトルを加えなければ叩きつけることは普通は無理である。

それをやってのけたのが、IS学園で勤務中のこの元柔道オリンピック金メダリストの学校用務員であった。

果たして、柔道ごときでISに打撃を与えられるのか――――――、できます。
                                                  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柔道は稽古で死亡事故が普通に起こるぐらいに、水泳と同じぐらい安全性に配慮しないといけない競技であり、相手を殺そうと思えばそれが可能でもあるのだ。


ただの学校用務員さんの暴れっぷりはこれだけではない。その形相は悪鬼羅刹のごとくであった…………


使丁「はあああああ!(ISはシールドバリアーによって外圧に対して圧倒的な剛性を得ている。殴る蹴る刺すは何万回打ち込んでも通じない)」

無人機「!!!!!???」ジタバタ

使丁「極める!(――――――だが!)」

無人機「!!!!???!!!??」

使丁「腕の一本はもらったああああ!(身体の内側にもシールドはちゃんと張ってあるのかな~?)」

バキッ!

無人機「!!!!????」

一夏「用務員さん!(――――――守る。守らなくちゃ! そうだ、『守る』んだよ! ISをまとっているのに生身の人間に守ってもらうなんて――――――!)」

使丁「近づくな! 腕の一本はもらったが、武装の火器管制は健在なはずだ!」

使丁「『こいつ』は俺が仕留める!」

一夏「そんな! 用務員さん!(けど、俺は用務員さんが駆けつけてくれなかったら、間違いなく撃たれていた…………)」

使丁「『こいつ』には装甲も背面迎撃に使える武装はない! 密着すればこちらのものだ!」

無人機「――――――!!」ヒュウウウン!
使丁「――――――くぅううううううう!」

一夏「くそ! 振り解くために急加速・急旋回を――――――!」

鈴「一夏!」

一夏「なっ!? 放れてください、“ゴールドマン”!」

無人機「――――――!」ドゴーン!
使丁「ぐわあ!?」

一夏「く、くそう! ど、どうすればいいんだ、これは!?(あれ、『守る』って何をどうすればいいんだ、この状況…………?)」

使丁「やるじゃねえか……(なるほど、絶対防御を活かして壁に激突することで張り付いた蛇を引き離そうってことか…………)」

使丁「だが、この手は放さねえええええええ!」

使丁「俺とお前の耐久レースだ!」

無人機「――――――!」ドゴン!
使丁「うわあ!」

使丁「だが、これでもう一本もらったああああああ!」

バキッ!

無人機「!!!!???!」


鈴「す、凄い…………(あのISを生身で追い詰めているだなんて…………もう別次元の戦いだわ)」

一夏「そうだ! これで両腕が上がらなくなれば、レーザー攻撃の脅威も激減する! 助けるなら、今だ!」

一夏「仕掛けるぞ、鈴!」

鈴「わ、わかったわ!」

鈴「――――――って、一夏、あれ!」

一夏「な、何をする気だ、あのIS――――――え」ゾクッ

無人機「――――――!」グラッ、ヒューーーーン・・・

使丁「あ…………(仰向けに自由落下だと!? ――――――これはもう助からんな)」フフッ

使丁「なら、地獄への手土産として貴様のその首、極める!」

使丁「闖入者には相応の報いをおおおおおおおお!」ムギュゥウウウウウ!

無人機「!!!!!!!!」ギリギリギリ・・・ゴキャ

一夏「くそ、間に合え、間に合え、間に合えええええええええ!(エネルギーが尽きたっていい! 間に合えばそれでいい!)」ピィピィピィ・・・・・・

一夏「ああ……!」

ドッゴーン!

使丁「ガハッ」

一夏「あ、ああ…………(…………守れなかった? 嘘だろう? なあ、夢なら覚めてくれよ、今すぐ――――――!)」ワナワナ・・・

無人機「――――――」ムクッ

一夏「この野郎おおおおおおお!」ゴゴゴゴゴ

無人機「!!」ブラーンブラーン

鈴「え、何あれ。頭が――――――(首が折れているはずなのに、――――――まだ生きている!? 絶対防御のおかげとはいえ、あんなのって…………)」

一夏「でえええええい!」ガキーン!

一夏「ここから離れろおおおおお!」

無人機「!!!!」ブラーンブラーン

ヒュウウウウウン!

一夏「大丈夫ですか、用務員さん!?」スッ

鈴「あ、待て――――――!」


――――――ここまでよく耐え抜きました!


鈴「え」

簪「この距離の荷電粒子砲なら!」ジャキ

バンバン!

無人機「!!!!…………    」ドサー

鈴「終わった、の?」


一夏「しっかりしてください!」

使丁「すまねえな。仕留め切れなかった…………」ゼエゼエ

使丁「あ、そうだった。ISには絶対防御があったんだったな、うっかりしてた…………」ニコッ

一夏「そんなことはいいです……! 『あれ』は――――簪さんが仕留めましたから」ポロポロ

使丁「悪いな。本当はIS学園名物の“世界最強の用務員”を目指してみたけど、やっぱり生身でISの相手をするのには限界があった…………」ゴフゴフ・・・

使丁「4月が終わるまで相部屋だったのに、一緒にいてやれなくてごめんな………………部屋の片付け、頼んだぜ

一夏「弱気なこと言わないで! 今、急いで医務室に連れて行きますから!」

使丁「なあ、――――――織斑一夏!」カッ

一夏「はいっ!」


使丁「ISは兵器ではない! スポーツだ! ――――――スポーツなんだ!」ゼエゼエ


使丁「それも、乗馬と同じ、乗り手と乗り物とのパートナーシップが肝要の、な!」

使丁「忘れるな! 山田先生が言っていたように、パートナーとしてISを受け容れろ」

使丁「心を開くんだ。他者からの声、そして自分の素直な気持ちに耳を傾けろ」

使丁「それが、織斑千冬が見せた“世界最強”でもあり、最高のアスリートになるための心構えだ」

使丁「人間は、一人では生きてはいけないのだからな」ニコッ

使丁「ゴフゴフ・・・」

一夏「しっかり!」

使丁「織斑一夏、お前との2週間、…………最高だったぜ」

使丁「達者でな。お前のことだ。無茶はしても、人の言葉に耳を貸して身体には気をつけるんだぞ?」

使丁「ゴフゴフ、ウ、ア……………………」

使丁「」

一夏「………………泣くものか」

一夏「始まったばかりなんだぞ? しっかりしなくちゃダメじゃないか、俺……!」ポロポロ

一夏「う、うう、うぅ…………」グスン





――――――数時間後


千冬「そうか……」ピッ

副所長「あいつ、――――――死んだのか?」

千冬「いや、さすがは“ゴールドマン”といったところか」

千冬「鍛え上げられた己の肉体の頑丈さに救われたようだ」

千冬「だが、再起できるかどうかまでは…………致命傷こそは間一髪で回避したようだがな」

副所長「そっか」

副所長「でも、IS学園に入ってたった2週間でこのようなことになるとはな…………」

千冬「ああ……」

千冬「…………一夏」



鈴「えと、一夏?」

一夏「何、鈴? それに、簪さんにセシリアもか。どうした?」ブン! ブン!

セシリア「もう日も暮れましたし、汗も冷えてくるでしょうから、そろそろお止めになりませんか?」オドオド

一夏「大丈夫だよ。それに俺、弱いから少しでも強くならなくちゃいけないんだ」

簪「それでも、休憩は必要だよ! 無理なくやるのが体作りの基本なんだよ」

一夏「大丈夫大丈夫。休憩ならちゃんと挟んでいるからさ」

鈴「一夏さ、怖いの?」


――――――部屋に戻るのが。


一夏「――――――っ!?」ピクッ

鈴「そう、やっぱり…………」

一夏「いや、違うんだ! これは、その…………あれ?」ポロポロ

セシリア「ああ…………(そういうことでしたの。同居人が唐突にいなくなった――――――ああ、お母様、お父様!)」ググッ

簪「…………そうなんだ」

鈴「な、ならさ? 一夏が寝付くまで部屋にいてもいいよ?」モジモジ

一同「!?」

一夏「で、でも…………」

鈴「そ、それに……、朝だってちゃんと付き合ってあげるからさ?」

セシリア「そ、そうですわ!」

簪「うん。それに、そういうことなら、織斑先生を頼っても、いいかもしれないよ?」

一夏「あ、ありがとう、みんな……」

鈴「そ、そういうわけだから! 早くシャワーを浴びて夕食にしましょう! ね!」

一夏「あ、ああ…………」

一夏「すまないな、みんな…………」

一夏「男なのに情けないところ、見せちまったな…………」

セシリア「いえ、そんなことありませんわ! だって、あなたは私の…………(――――――命の恩人なのですから)」

鈴「い、いいのよ。あんなことがあった後だし、みんな不安なんだしさ」

簪「そ、それにヒーローだって、ヒーローになるまではいろんな感情を持った人間なのは普通、だよね?」

一夏「そう、か」

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「これから専用機持ちとしていろいろと指導してください」ニコッ

鈴「もちろんよ!」

セシリア「私も喜んで!」

簪「私も頑張るから、お互い様だよ」

一夏「ホントにありがとう、みんな」

鈴「それじゃ、行こう」

一夏「ああ……」


――――――用務員さん。俺、まだやれそうな気がしてきたよ。



副所長「あの無人機は――――――」


山田『やはり、無人機ですね』カタカタカタ・・・

山田『登録されていないコアでした』

千冬『そうか……』

副所長『まさかこんなものに出くわすとは……』

副所長『『ただのIS』が相手だったら、あいつは負けることはなかったんだ……!』

副所長『俺と簪ちゃんの『打鉄弐式』が頑張ってくれなかったらどうなっていたことか…………素直に活躍を喜べないな』

山田『ISのコアは世界に467しかありません』

山田『でも、このISにはそのどれでもないコアが使用されていました』

山田『いったい…………』

千冬『…………』

副所長『データはもらっていくぞ』

副所長『そして、予定通りに5月には姐御の弟の専用機だ』

千冬『ああ。わかった』

副所長『それじゃあな』


――――――記録映像再生中


副所長「…………あの無人機が撃墜される少し前にはクラッキングは停止していた」ジー

副所長「“マス男”がISを内側から破壊したおかげで、ダメコンで無人機の処理能力が落ちたからとも考えられるが、やはりクラッキングは外部から行われていた」

副所長「IS学園のセキュリティは世界最高峰――――――しかもリカバリー人数も夥しい」

副所長「それを、一方的にコントロールを奪ってみせた」

副所長「IS学園を掌握するつもりならいつでもできたはずなんだ」

副所長「それなのに、アリーナだけに限定したのだ」

副所長「目的は明らかに、――――――邪魔の入らない場所で代表候補生二人を抹殺するため?」

副所長「いや、代表候補生を抹殺するだけというのはそれっぽくない」

副所長「それとも、造り上げた無人機の性能テストができればそれでよかったということか?」

副所長「…………ん? おかしいな」(あるシーンを巻き戻しする)

副所長「無人機が“千冬の弟”を狙い撃てる絶好のチャンスにおいて、明らかに大きな間が開いているぞ?」

副所長「まさかな――――――」

副所長「いや、可能性としては一番あり得る!」

副所長「となれば…………」

副所長「これは検証せねばならんな」カタカタカタ・・・



――――――それから、


ジリリリリ・・・

一夏「ふわあ」ペチッ

一夏「朝だな。よし――――――!」


        ・・
千冬「おはよう、一夏」ニコッ
        ・・・
一夏「おはよう、千冬姉」ニコッ

一夏「行ってきます」

千冬「ああ、行ってらっしゃい」フフッ





一夏「随分慣れたもんだな、俺も」(ジョギング中)

一夏「そして、この風景も――――――」

鈴「ちょっと待ってよぉ、一夏!」バタバタ

一夏「おはよう、鈴。今日は遅かったな」

鈴「昨日、簪と一緒に遅くまで映画を見ていてよく起きられたわね……」フワァオ

一夏「用務員さんが命を懸けて守ってくれたんだ」

一夏「その遺産を忘れるつもりはないよ…………」

鈴「……そうね」

鈴「ねえ、一夏? 今日は何食べたい?」

一夏「中華料理って脂っぽいからな。いろんな食材を使っているから栄養バランスはいいんだけど、こればかり食っていると確実に太るからな」

一夏「何かさっぱりとした料理ないかな?」

鈴「そうねぇ。私もいろいろ調べてはいるんだけどさ……」

一夏「まあでも、お前の酢豚は本当に美味しいから、たまに栄養バランスとかそんなの忘れて食べてみたくなるんだけどさ」

鈴「ふふふ、ありがと」

一夏「さてと、ペースを上げるか」

一夏「ついてこい!」

鈴「そっちこそ、置いて行かれないでよね!」フフッ




一夏「ああ腹減った……」グゥウウウ!

一夏「朝食前は一口しか食べちゃいけないからな…………(朝食をしっかりとることが信条だからな。何よりも美味い飯にありつくためだ)」

セシリア「一夏さん!」

一夏「おはよう、セシリア。今日は早いんだな」

一夏「まだ、食堂も開いたばかりで朝食にはありつけないぞ?」ニコッ

一夏「おや、こいつは?」

セシリア「ええっと……、その、これを!」」バサッ

一夏「おお! 『イングランドでおいしいものを食べようと思えば朝食を三回食べよ』で有名なイングリッシュ・ブレックファストじゃないか!」

一夏「日本でも見慣れたメニューがいっぱいある!」

セシリア「あははは、先人が言った自虐を言われてしまいましたわ……」

一夏「そういえばそうだった! フランスやドイツでも取り入れられているんだって?」

一夏「本当にごめん! ちゃんとイギリスにも美味いものはあったのにな。ベーコンエッグとかIS学園に入る前は結構食べてたのに」

セシリア「いえいえ。こちらこそ、あなたの国の豊かな食文化に触れて見直しましたわ」

セシリア「それに、とっても美味しかったですよ」テレテレ

一夏「はは。えっと、それじゃごちそうになります、セシリア」

セシリア「はい! たーんと召し上がってください」ニコニコ

セシリア「その前に1杯の紅茶を」

セシリア「はい」

一夏「ありがとう」



一夏「あ、ここ ここ! たまにはどう、簪さん? それに、みんな」

簪「え、あの…………」

本音「ありがとー、おりむー! それじゃ、カンちゃんも一緒にー!」ニコニコ

簪「あ、うん…………」ニコッ

女子「織斑くんって、朝は豪勢に食べるのに、お昼は意外と控えめなんだね」

一夏「ああそうだよ。食べ過ぎると昼の陽気で眠くなっちゃうからな」

一夏「それよりも、――――――やっぱり少ないじゃん、みんな」

一夏「それで大丈夫なのか、本当に?」

女子「それは、ね?」

女子「う、うん……」

一夏「…………じゃあ、せめて簪さん」

簪「え、何かな、織斑くん……?」

一夏「チキン南蛮食べてみる?」

簪「え」

一夏「できたてほやほやで最高だぞ~?(油物は1週間に一度だけだから尚更美味い……!)」ニコニコ

一夏「(だけど、今日は月曜日なのにもう食べてしまった…………しかたないだろう! 新メニューだったんだし!)」

一夏「(それに思ったよりも結構重たいし、少しばかりお裾分けしても悪くないはず…………!)」アセダラダラ

周囲「エ、エエエエエエエエエ!?」

簪「う…………」

一夏「まあ食べてみろって」

一夏「あーん」

簪「あ、あーん」ドキドキ

パクッ

一夏「な? 美味いよな?」ニッコリ

簪「う、うん」ポッ

周囲「オリムラクン! ワタシモワタシモー!」

一夏「あ、ううん、い、いいぜ!(え? こりゃどういうことだ……?)」

本音「よかったねー、カンちゃん」

簪「ほ、本音…………(あ、『あーん』だけじゃなく、『間接キス』までしちゃった…………)」ドキドキ



一夏「ふぅ……」

一夏「今日の宿題も終わったし、明日の準備も万端だな」

一夏「………………」ジー

一夏「最初の頃はあんなに忙しかったのに、今では悠々とした毎日を送れている」

一夏「なんか最初から一人部屋だったかのように、使っていない新品のベッドが隣にポツンと置いてある」

一夏「でも、“今の俺”があるのは、あなたとの2週間があったからだ」

一夏「………………」フゥ


一夏「ありがとう、“ゴールドマン”!」ニコッ






















使丁「ヘクシュ!」

使丁「ああ、早く退院したいな。身体を伸び伸びとな」

使丁「待っていろよ、IS学園!」


――――――“世界最強の用務員”は再び現る!


使丁「というか、働いて1ヶ月も経っていないのに入院とか給料泥棒にも程があるだろう!」

チャンチャン


それでは、今回の投稿はここまでです。

ご精読ありがとうございました。

1週間を目処に似たような時間に、後3回はまとめて投稿することになるかと思います。



以前に過去作の続編の希望を確認していて、すでに 落とし胤の一夏 の物語の第2弾はある意味完成しているので、それを投稿しても良かったのですが、

今作は、

・第2期OVA『ワールド・パージ編』発売までの繋ぎ
・IS〈インフィニット・ストラトス〉(第1期)に関して、筆者の最後のアイデア

として投稿させていただきました。


冒頭で『これまでと趣向が違う作品』と言ったのは、
筆者が投稿したREWRITEシリーズは『あの日』――――――第2回『モンド・グロッソ』決勝&織斑一夏誘拐事件以後の織斑一夏の変貌をテーマにそって描いたが、
今作は、原作通りの初期設定に「頼れる大人たち」を付け足した場合の状況の変化を描いてみたから。

つまり、
・“織斑一夏”という名の別キャラに置き換えた二次創作ではなく、オリジナルキャラクターを追加して状況だけを大きく変えさせた。
・これまでが“織斑一夏”を中心にした視点で描かれているのに対して、今作では“大人たち”の思考や葛藤、ふれあいが主となってきている。

極論、この物語の真の主役は「大人たち」であり、
「大人が大人をして織斑一夏やみんなの成長を促す」という“大人”の大々的な活躍を描いて、
少年少女の活躍の場を奪い去る――――――本来“大人”がやるべきことを描いている。


付録


・筆者の投稿したREWRITEシリーズの先駆けになった作品(まとめサイトより引用)
一夏「ISなんて俺は認めない」  続編を執筆中のようですので、乞うご期待!
http://hookey.blog106.fc2.com/blog-entry-4182.html


・何でもありで根本的な設定を変えて再構成したもの(まとめサイトより引用 コメント欄も必見)
一夏「ぼ、僕にはむりだよぅ・・・」
http://ssspecial578.blog135.fc2.com/blog-entry-754.html#more




さて、筆者が提案するIS〈インフィニット・ストラトス〉の最後の二次創作・再構成の案なのだが、



どなたか“男の娘の一夏”の物語を描ける豪の者はいらっしゃらないでしょうか?



イメージしては、これ。

ジャンル:女装潜入ロマンティックラブコメディー
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1372
http://www.nicovideo.jp/watch/sm11630
http://www.nicovideo.jp/watch/sm816522


いっそのこと、クロスオーバーでもいいかもしれないけれどね。
シャルロット・デュノアの男装が通るなら、普通にありなんじゃないかって思っていた。

ただ、一夏(変装趣味)はすでにあるのでどうかとも思うんですがね。

一夏「織斑一夏と申します。」クラス女子全員「・・・・・・・・はぃ?」
一夏「織斑一夏と申します。」クラス女子全員「・・・・・・・・はぃ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373101903/)

おまけ ISのSSがほとんどあってたぶん見やすくまとめられているサイト様(未完の作品は貼られている元スレのリンクから直接見たほうがいいかも)
http://ssmatomesokuho.com/category/ss/IS

掲示板の投稿テスト(投稿前にしときゃよかった)

なにやら見返すと、傍点が全角ではなくなっていて意味がわからなくなっているので、ちょっとテストさせてください。
それと、Tabキーもスペース4つとして機能していないような気がするので、そこも

・・・・・
あいうえお 傍点(投稿フォームでは・を5つ)

………… 三点リーダー

    A スペース4つ(借りてるパソコンのTabキーが対応してない!?)


画竜点睛を欠くようなできばえになって申し訳ありません。
もしかしたら、傍点だけじゃなくルビもおかしなことになるかもしれなかったので、ためさせてもらいました

では、予定を変更して第3話を切れのいいところまで投稿させていただきます。


ついでに、ルビのずれとかも確認したいのでテスト。

   ペーパー ワンサマー
   紙    一夏
トライアル アンド エラー
 試行錯誤


第3話 学年別トーナメント・裏
Sportsman VS. Soldier


一夏「さて、用務員さんのお見舞いに行った帰りに、久々に弾のところに顔を出してみたけど、どっちも元気だったな」

一夏「本当によかった…………」

一夏「二人共、俺の肉体改造の成果を見て感激してくれたし、月末には学年別個人トーナメントがあるんだ」

一夏「それまでに、俺の専用機『白式』を使いこなせるようにしないとな」

一夏「やるぞおおおおおお!」


あれから5月を迎えようとしていた。

“世界最強の用務員”である“ゴールドマン”の教えを守り、俺は朝昼晩としっかりとアスリートとしての生活を実践してみせた。

そのおかげで、少しずつだが身体にバネがついたみたいに凄く動けるようになった気がしていた。

また、倉持技研第一研究所の副所長である“プロフェッサー”から課せられたIS実習ドリルもしっかりとこなしていき、
――――――今はもう標準仕様の『打鉄』なのだが、その操縦技術は見違えるほどに洗練されてきたという評価だ。


これで、――――――専用機を受け取る準備はできた。


次いでに、“ゴールドマン”との思い出が詰まった部屋も片付け終わっており、今は俺とみんなの思い出が詰まった部屋に変わろうとしていた。

しかし、まさか5月に入ってからこんな出会いや心を抉られるような出来事が立て続けに起こるとは、この時は思いもしなかった。


――――――5月もまた波乱の日々であった。





――――――5月


山田「今日はなんと転校生を紹介します!」

周囲「エ、テンコウセイ?」ザワザワ

一夏「あ」


シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」


シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ

周囲「オ、オトコ?」

シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――――――」

周囲「キャーーーーーーー!」

シャル「え?!」ビクッ

周囲「ダンシ! フタリメノダンシ!」

千冬「騒ぐな! 静かにしろ」

一同「…………」

千冬「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」

千冬「それから、織斑」

一夏「はい!」ビシッ

千冬「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ」

千冬「では、解散!」


シャル「きみが織斑くん? 初めまして僕は――――――」

一夏「ああ、いいからいいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」パシッ

シャル「うわ」ドキッ

タッタッタッタッタ・・・




――――――アリーナ、ロッカールーム


一夏「大丈夫か? 初めてのことだし、驚いたか?」

シャル「ごめんね、いきなり迷惑かけちゃって(思ったりよりも足が速くて息が切れちゃったよ……)」ハアハア

一夏「いいって」

一夏「それより、嬉しいよ。学園に男一人は辛いからな…………」

シャル「そうなの(あ……、どこか遠くを見ているような哀愁ただよう眼差し…………)」

一夏「これからよろしくな」

一夏「まあ知ってるだろうけれど、俺は織斑一夏だ」

一夏「“一夏”って呼んでくれ」ニコッ

シャル「うん。よろしく一夏」

シャル「僕のことも“シャルル”でいいよ」ニコッ

一夏「それじゃ、着替えようか」

シャル「あ……、う、うん」


――――――同日、昼


一夏「なんか俺だけ特別に、専用機持ちでもないのにグループ実習のリーダーをやらされたな」

一夏「本当はシャルルのグループに入りたかったんだけどな」

シャル「でも、凄く手際よく教えていたよね」

一夏「ああ。入って早々何も知らない状態から1週間で座学も実習もマスターしなくちゃいけない状況に陥ったからな」

シャル「え? 1週間でマスターにしたの?」

一夏「ああ。まあ、薄く広くだったけれども、今では反復してだいたいは完璧に実践できるようにはなったぜ」

一夏「できなかったら“日本男児の誇り”を傷つけると共に、50kmのトライアスロンをやらされる羽目になったから、そりゃあもう…………」

シャル「凄いんだね、一夏は」

一夏「そうか? 俺より努力している奴なんていっぱいいるから、大した自慢にもならないと思ってたんだけど」

シャル「だって、IS乗りになってたった1ヶ月でグループ実習のリーダーを任せられるぐらいの信頼と実力を得たんでしょう?」

一夏「そうか。それもそうだな。やっぱり、親身になって教えてくれた人がいたからここまでやれたのかもしれないな…………」

シャル「あ…………(まただ。また遠くを見ているような眼差しを…………)」

一夏「さて、これから長い付き合いになることだし、この学園の代表候補生たちを紹介しておかないとな」

シャル「あ、うん。よろしくね」ニコッ



一夏「それじゃ、クラス順ってことでいいか?」

セシリア「では、私から」

セシリア「私はイギリス代表候補生:セシリア・オルコットですわ」

鈴「私は中国代表候補生:凰 鈴音! “鈴”って呼んでよね」

簪「えと、私は日本代表候補生の更識 簪です……」

シャル「それじゃ、最後は僕だね」

シャル「僕が今日転校してきたフランス代表候補生のシャルル・デュノアです」

セシリア「デュノアと言うと、あのデュノア社の?」

シャル「はい。僕は社長の息子で」

一夏「へえ。道理で気品があるわけだ」

シャル「自己紹介はこれぐらいでいいかな?」

一夏「いいと思うぞ」

一夏「それじゃ、飯にしようぜ。シャルルにも味わってもらいたいんだ」


一夏「日本の味ってやつを」


シャル「え、これって――――――」

一夏「“おにぎり”だ」

簪「それと、各種漬物と食後のデザートも」

鈴「一夏ってば、本格的にアスリートを目指すことに目覚めちゃって、食事には結構うるさいのよ」

鈴「それで、昼食として最適な料理は、このお米を丸めて作った“おにぎり”ってことに行き着いてね」

セシリア「作るのが簡単ながらも幅広い味付けが可能でして、とっても美味しいですわよ」

シャル「へえ、これが日本のコンビニで必ず売っている黒いものの正体なんだ」

一夏「今日のは、シャケにおかかに、梅干しに、あと何だっけ?」

鈴「チャーハンもあるわよ」

シャル「黒いのが巻かれていないんだね」パクッ

シャル「うん、同じように見えても随分食感が違うね。美味しいよ」

セシリア「ええ。思わず何個でも飽きずに食べ続けてしまいそうですわ」


一夏「いいね。簪さんが作ったピリ辛浅漬け」

簪「う、うん。ありがとう……」

一夏「でも、よく漬物とかこの良質な米を用意できたな」

一夏「簪さんの実家って農業でもやってるの?」

簪「えと、それは……、うん。結構旧い家でね」

一夏「へえ、そうなんだ」

セシリア「私も実家はイギリスの名門ですわ」

セシリア「いつか一夏さんをご招待して差し上げますわ」

一夏「へえ、そいつも楽しみだな」

セシリア「ふふふ……」

鈴「…………へえ」

一夏「…………鈴?」





シャル「ふう、ごちそうさまでした」

シャル「ありがとう、一夏」ニッコリ

一夏「あ…………」カア

鈴「なに、照れてんのよ、あんた」

一夏「べ、別に照れてねえぞ」

一夏「喜んでもらえたようで、嬉しいだけだ!」

シャル「照れちゃってまあ」ニッコリ

一夏「あ、えと…………(こういうタイプは初めてだな。ちょっとまいったな)」


――――――その夜


一夏「それじゃ、これでルームメイトとしての確認事項は明記できたな」

シャル「几帳面なんだね」

一夏「何ていうか、もう癖になってね」

一夏「シャルルが来る前に相部屋だった人の影響で、物事は丁寧にしっかりしておかないといけない気がしてな…………」

シャル「えっと、その写真の人?」

一夏「ああ。この人のおかげで、俺は今の“俺”になれたんだ」

一夏「あの1週間は本当に忙しかったけれども、今では大切な宝物だ」

シャル「…………その人は今どこに?」

一夏「あ……、安心してくれ」

一夏「その人との相部屋は最初の1ヶ月って決まり事だったから。その後、その人は自宅出勤になってね」

シャル「そうなんだ」

一夏「今はちょっとした事情でIS学園に離れてはいるけれども、千冬姉に並ぶ“世界最強の用務員”だから驚くなよ?」

シャル「楽しみだな、その人に会えるのが」

シャル「それじゃ、明日からはよろしくね」

一夏「うん。それじゃ、おやすみなさい」


――――――翌日


副所長「おはよう、“千冬の弟”」

一夏「あ、おはようございます」

副所長「待たせたな。ついにお前の専用機が届いたぞ」

一夏「本当ですか!」

副所長「ああ。授業が終わったら整備室に来い。その後は、お前がどれくらい成長したのかを見てやる」

一夏「ありがとうございます!」

副所長「そうだ。“マス男”の容態はどうだった?」

一夏「え? ――――――“マス男”?」

副所長「用務員に就職した“ゴールドマン”のことだよ。中学時代はこういうふうな二つ名で互いを呼び合ったものだ」

副所長「ちなみに俺は頭脳担当ということで、“プロフェッサー”と呼ばれ、千冬にも頼られたんだぜ」

一夏「おお!」

副所長「で、“マス男”っていうのは“まっすぐでマッスルな男”の略だそうだ」

一夏「え、ええ……、なんか国民的アニメの入婿みたいですね」

副所長「まあ、ネーミングセンスはともかく、俺たちのような天才児9人を束ねた“あの人”は本当に偉大な方だった……」

一夏「…………9人?」
       …………………
副所長「ああ、10人の同級生と言ってしまったか? なら訂正しよう」
    ………………………
副所長「担任も含めた10人のことだ。同じクラスなんだから10人のクラスメイトってことでいいだろう?」

副所長「その当時はよく、問題児集団のクラスが不思議とまとまっているということで、」

副所長「――――――“奇跡のクラス”と言われたもんだ」

一夏「“奇跡”…………」

副所長「今思うと、千冬も“あの人”に影響されて教師をしてるのかね」

副所長「“あの人”も許せないことがあったら、徹底的に俺たちのような曲者でも怯むことなく体罰だの口論を行う人だった……」

副所長「でも、それでもしっかりと向き合ってくれた」

一夏「…………」

副所長「…………すまないな。話が脱線した」

一夏「いえいえ。興味深い話でしたよ」

一夏「それで、用務員さんは元気でしたよ」

副所長「うん。当然か。“まっすぐでマッスルな男”なんだからな。――――――折れるはずがない」

一夏「はい。その通りですね」

副所長「話は以上だ」


副所長「では、行って来い。“千冬の弟”にして“ゴールドマンの一番弟子”よ」


山田「えっと……、今日もうれしいお知らせがあります」

山田「またクラスにお友達が一人増えました」

山田「ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」


ラウラ「…………」


周囲「ドウイウコト?」ザワザワ

周囲「フツカレンゾクデテンコウセイダナンテ?」ヒソヒソ

山田「み、みなさん、お静かに! まだ自己紹介が終わってませんから」

千冬「挨拶をしろ、ラウラ」

ラウラ「はい、教官」

一夏「(――――――『教官』? ってことは、千冬姉がドイツに居た頃の――――――)」


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


周囲「…………」

山田「あ、あの、以上、ですか……?」

ラウラ「以上だ」

ラウラ「貴様が――――――」ジロッ

一夏「?」

ラウラ「…………」スタスタ

一夏「――――――っ!?」


バチィン!


一夏「のわっ!?」

一同「!」

一夏「ああ…………?」ヒリヒリ


ラウラ「私は認めない。貴様が“あの人の弟”であるなどと――――――!」


ラウラ「認めるものか!」



――――――放課後


副所長「待っていたぞ、“千冬の弟”よ」

一夏「…………」

副所長「…………どうした?」

一夏「えと、実は…………」


――――――――――――(中略)――――――――――――


副所長「何だと? ドイツから来た小娘がそんなことを言ったのか」

一夏「あれってやっぱり、俺のせいで千冬姉が『モンド・グロッソ』連覇を逃したこと、なんだよな……?」

副所長「そんなことを気にしていたのか、お前は」


副所長「馬鹿か、お前は!!」


一夏「!?」ビクッ

副所長「お前の中の自己評価が何であろうと、あの時の千冬が大会連覇よりもお前を選んだことの意味を考えろ!」

一夏「あ…………」

副所長「どうせあの小娘は悪質なファンなんだろうよ」ヤレヤレ

副所長「いっぱいいるぜ、世の中にはな…………」

副所長「織斑千冬の中学時代を知ったら卒倒するぞ? まったく」

一夏「ははは、聞いてみたい気がします。“マス男”さんでは口を開けなかったこともありそうですので」


副所長「だが、まいったな」

一夏「え、どういうことです?」

副所長「この時期にドイツから代表候補生が送り込まれたということは、ほら、欧州で進められている――――――」

一夏「あ、――――――『イグニッション・プラン』でドイツは『レーゲン型』を出してた!」

副所長「そうだ。その試作機が学園に送り込まれたということだ」

一夏「…………?」

副所長「はっきり言うぞ」


副所長「お前の専用機ではまず勝てない。天地がひっくり返ってもあり得ない」


一夏「!?」

一夏「嘘、ですよね……?」

副所長「こればかりは相性の問題なんだ」

副所長「これが、『イグニッション・プラン』での『レーゲン型』のPVだ」

副所長「今のお前ならよく理解できるだろう」


一夏「何だ、これは――――――!?」


副所長「Q.ISの基本システムであるPICを改良した第3世代兵器とは何だ?」

一夏「A.――――――『AIC』」

副所長「正解だ。これが『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』だ」

副所長「『慣性停止能力』とも言う」

副所長「発生できる範囲は至近距離でしかないが、イメージ・インターフェイスを利用した結果、イメージしやすい実体攻撃はほぼ無効化される」

副所長「つまり、至近距離での攻撃手段しか持たないお前のISでは勝つことは不可能だ」

副所長「勝ちたいんだったら、相手の致命的なミスを呼び起こす豪運が必要となるな」

一夏「…………」


副所長「その他にも、搭載される武装としてはレールカノンやワイヤーブレード、プラズマブレードなど1対多をこなせる瞬間火力を重視した構成となっている」

副所長「つまり、全距離対応型だ」

副所長「正直に言うと、今の1年の専用機持ちで『こいつ』に圧倒的有利を付けられる機体が無いんだな…………簪ちゃんの『打鉄弐式』でも4:6の不利だ」

一夏「実体攻撃が完全に防御されるのなら、『ブルー・ティアーズ』なんかどうだ?」

副所長「いや、『ブルー・ティアーズ』は慣性移動している最中でないなら攻撃時に必ず足を止める必要があるから、レールカノンで余裕で撃破されてしまうぞ」

副所長「レールカノンは別に第3世代兵器じゃないし、携行火器じゃないから照準を固定したまま移動も可能で、弾速も極めて速い」

副所長「確かに『ブルー・ティアーズ』も主武装が弾速も速く、細かい粒子の集合であるレーザーなら『AIC』は突破できるが、その他の性能で終わってる」

一夏「え、ええ…………」

一夏「じゃあ、『甲龍』は?」

副所長「はっきり言おう。――――――0:10だ」

一夏「え」

副所長「『AIC』は確かにイメージしづらいものに対しては効果は薄くなるが、『甲龍』の第3世代兵器の衝撃砲は実際はただの空気砲だ」

副所長「『AIC』が発生させる強力な力場の前では質量を持たない攻撃など霧散してしまう」

副所長「そして、残された手段は接近戦だけ。それこそ『AIC』の格好の餌食だ」

一夏「………………」

副所長「わかったか? 決して戦うな」

副所長「一番勝ち目がありそうな『打鉄弐式』でも、簪ちゃんにドイツの小娘に敵うほどの力量はまだない」

副所長「つまり、満を持してドイツから派遣された専用機持ちが一日にして1年で最強となるわけだ」

副所長「実際に、コンペでの評価で最強と判定されたぐらいなんだからな」

一夏「いや、ちょっと待ってくれ」

副所長「何だ?」

一夏「フランスの代表候補生のシャルルなんかはどうだ?」

副所長「は? 誰だそれは?」

一夏「…………?」

副所長「聞いたことが無いな」

一夏「シャルル・デュノアだよ。デュノア社の社長の息子の」

副所長「――――――息子!? ――――――デュノアだと!? ――――――ますます胡散臭いな」

一夏「え」

副所長「まあいいだろう。デュノア社ってことだから、機体はどうせ『ラファール・リヴァイヴ』だろう」

一夏「あ、今思えば、合同実習で見たあの機体は確かに『ラファール・リヴァイヴ』だったかも」

副所長「いいか? たとえ、『ラファール・リヴァイヴ』の豊富な攻撃手段でも実弾を使う以上はまず防がれる」


副所長「勝ち目はないんだ。よほどドライバーがマヌケでもない限り1対1じゃ」

一夏「…………1対1じゃ」
       ................
副所長「ああ。普通じゃ勝てない」

副所長「勝ちたいのであれば、――――――そういうことだ」

一夏「そんな…………」

副所長「フェアじゃないとか思っているんじゃないだろうな?」

副所長「いいか? あの機体は最初から戦争をするために造られた機体なんだ。兵器として造られたものだ」

副所長「だから、第3世代兵器の実用化だけに固執して欠陥だらけの実験機とはわけが違う」

副所長「いかに効率よく敵を撃破できるかを念頭に置いているんだ」

副所長「俺の『打鉄弐式』も全距離対応に仕上げてあるけど、瞬間火力と奇襲性、決定力においては完全に負けている」

副所長「勝っているところはもちろんあるけど、それ以前にドライバーの力量差が問題でな…………」

一夏「…………」

副所長「そのことを踏まえた上で、ドイツから来た小娘との付き合いを考えるんだな」

一夏「はい……」


両者「………………」


副所長「せっかく、待ちに待った専用機がもらえるっていうのにこんな話をして悪かった」フゥ

副所長「だが、お前のことだ。諌めておかなければ無闇に戦いを挑んで惨敗を喫すことになるのは目に見えているからな」

一夏「くっ…………」

副所長「いいか。勘違いをするなよ?」
     
副所長「これは戦力の差だ。相性の差だ。――――――実力の差ではない」

副所長「割り切れよ」

一夏「……わかりました」

副所長「それじゃ、お待ちかね!」


副所長「織斑一夏専用IS『白式』のご登場だ!」




――――――アリーナ


副所長「ほう、お前も一端のISドライバーになったもんだな、“千冬の弟”」

副所長「さて、一通り動かしてみて、乗り換えた感想はどうだ?」

一夏「――――――速いです。リミッター解除した『打鉄』よりもずっと……」

副所長「そうだ。機動力は現在のIS学園の専用機の中では最速だ」

副所長「だが見た目通り、『打鉄』のような打たれ強さは期待できない。そのことは理解できるな? まあそれでも結構堅いほうなんだがな」

一夏「…………『白騎士』に似てません?」

副所長「そうだな。機体名も『白式』で“白”繋がりだからな(ほう。ISについて無知だった子がしっかりと勉強と研究を続けているようだな)」

副所長「だが正直に言うとな、――――――その機体は骨董品でね」

副所長「元々はよそのIS企業が設計開発していた代物だが、開発が頓挫して欠陥機として凍結されていたんだ」

一夏「え」

副所長「それで、我々 倉持技研が接収した際に調べたら、書類上のスペックを遥かに超える性能値を叩き出したんだ」

副所長「気味悪がって放置していたのだが、――――――そこにお前が現れた」

副所長「すぐにデータ収集に回せる(=個人所有できる)余った機体を政府が求めた結果、この機体がお披露目となったわけだ」

副所長「設計開発が何を思って『白騎士』に似せたのかは知らん」

副所長「ただ、奇妙な点がいくつも報告されていてな」


副所長「後付装備ができないぞ、その機体は」


一夏「え!?」

副所長「うん。できないんだ」

副所長「武器はその雪片弐型だけだ。なんでも、お前の姉の『暮桜』の雪片の後継作らしいぞ」

副所長「どうもそいつが拡張領域を独占しているらしく、取り外そうとしたんだが『白式』がそれを拒否してな……」

一夏「そんなことって…………」

副所長「知っての通り、ISには独自の意識が形成され、コア毎に個性というものがあるのが確認されている」

副所長「それ故に、ISは競馬に近いスポーツとされている。カネがべらぼうに掛かって思い通りにいかないところなんかそっくりだよな」

一夏「そうなんだ」

副所長「つまり、競馬に例えるならば、」

副所長「俺たちISエンジニアは、ISの趣味嗜好を調教してクライアントの望む装備が搭載できるようして実装するのが仕事になる」

副所長「一方、お前たちISドライバーは、調馬を同時にこなす生涯専属騎手を担うことになるってわけ」

副所長「ところがこの『白式』ってやつは、筋金入りの頑固者でな。まさにじゃじゃ馬だ」

副所長「だから飼いならすんじゃなくて、騎手の方を馬に合わせるしかなくなってくるってわけだ……」

一夏「ちょっと待ってくださいよ!」

一夏「それじゃ、セシリアと戦った時のようなトリックが使えないじゃないですか!」

副所長「そこは、――――――『『打鉄』では到底出せない高性能ぶりで補ってくれ』としか言いようがない。それぐらい謎に満ちた機体なんだ」

副所長「もしこんなじゃじゃ馬を相手にして『打鉄弐式』の開発を後回しにしていたら、確実に完成しなかったろうな」

副所長「ま、『打鉄弐式』の生みの親の俺がそんなの許すわけねえがな」

一夏「…………」


副所長「さて、どうする? そいつを初期化して俺が設計して『打鉄参式』にでもするか?」

副所長「だが、そうなると少なくとも半年はかかるぞ?」

副所長「それに、『レーゲン型』を超える機体を造るだけの技術を擁する企業はおそらく他にはないぞ」
    vvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvv
副所長「そうなったら、スポーツ用の機体じゃなくて、軍用機になるからな」

一夏「!」

副所長「『造れ』と言うのであれば、別に構わないがな。ドイツの第3世代型以上の機体ぐらい余裕で造ってやる」

副所長「一応、査定に出す実験機として試験装備の数々を『打鉄弐式』に搭載してはいるが、あれは俺の本意ではないんだ」

副所長「ISの所有権は国際IS委員会での査定によって国毎に割り振りされるから、どうしても新技術開発のパフォーマンスが必要でね」

副所長「だから、本気装備のパッケージを別に用意させている。設計も最終段階なんだ。冗談抜きで強いぞ、これ」

副所長「ただ、相手を蹂躙し尽くすだけの『勝利することだけ』を重点に置いた装備で、面白みの欠片もないがな」

副所長「どうだ? 楽に勝てる機体にするか?」

一夏「…………わかりました」


一夏「俺は『こいつ』で行きます」ビシッ


副所長「そうか」

一夏「それに、なんだか俺は『こいつ』のことを知っているような気がするんだ…………」

副所長「ふぅん」

副所長「なら、いいんじゃない? ISはドライバーと「最適化」を重ねていくことで、「形態移行」することがわかっている」

副所長「お前が『白式』に運命を感じるのなら、乗りこなしてみせろ――――――いや、『白式』を信じろ」

副所長「幸い、『暮桜』と同じ運用法が想定されているらしいから親しみや愛着も湧きやすいだろうし、千冬の戦い方が直接参考になる」

一夏「それ、いいな」

副所長「あと少なくとも、『モンド・グロッソ』に出場するような連中は自分のISに対して並々ならぬ愛情を注いでいたと聞いている」

一夏「千冬姉もそうだったんだろうな」

副所長「ともかく、これでお前も専用機持ちになったのだから、専用機持ちとしての身の振り方をこれで覚えるんだ」ドサッ

一夏「うえっ!?(またこんな分厚い本を――――――!)」

副所長「む」ピクッ


副所長「誰だ、そこにいるのは」ギロッ


一夏「え……」


ラウラ「織斑一夏……」スッ

一夏「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

副所長「ふうん。なるほど、こいつがね(あの眼帯の下にあるのは…………)」ジトー

ラウラ「貴様も専用機持ちになったようだな」

ラウラ「ならば、話は早い」


ラウラ「 私 と 戦 え 」


一夏「…………理由がねえよ(それに、乗り換えたばかりの機体でまともに戦えるものか! 『打鉄』とは挙動から感覚まで何もかも違うってのに!)」

ラウラ「貴様に無くても、私にはある」

一夏「今でなくてもいいだろう。月末にはトーナメントがあることだし、その時で(こいつ、そこまでして俺に――――――!)」

ラウラ「なら――――――!」

一夏「――――――展開した!?(――――――ロックされた!?)」ピィピィピィ

ラウラ「フッ」ニター

副所長「やれやれ」シュッ

ラウラ「む!?」ピタッ

一夏「あ、“プロフェッサー”!?」


副所長「これで撃てないだろう?」


ラウラ「何のつもりだ、貴様……!(――――――生身の人間がISの盾になるだと!?)」ギロッ

ラウラ「どけ。ISの前ではただ無力な有象無象に構っている暇はない」

副所長「いや、どかない」ジトー

ラウラ「…………!」

一夏「す、すげえ……(あのラウラを前にして、――――――しかもレールカノンを向けられて、全然動じてない。むしろ、押してる、よね?)」

ラウラ「貴様、怖くないのか?」

副所長「ああ。全く怖くありません」

副所長「なにせ、武器を構えているのに内心ビクビクしているような年端もいかないような小娘なんか怖くないよね? 可愛いね」ププッ

ラウラ「貴様…………!」ガコン、バン!

一夏「“プロフェッサー”!(――――――本当に撃ちやがった、こんのぉお!)」

一夏「あ…………(でも、だったらなんで俺はボーっとしてたんだよ!? 普通なら無防備な人をISに乗っている俺が『守るべき』だったのに…………)」

一夏「うわああああああああ!(この前の二の舞いじゃないかあああああああああああああ!)」

チュドーン!

副所長「うん。やっぱり外してくれた」ニヤリ

一夏「あ…………よ、良かった(何が『良かった』っていうんだ! 撃たれたんだぞ、撃ったんだぞ、守れなかったんだぞ!)」

ラウラ「…………何だこいつは?(――――――冷や汗一つ掻かなかった、だと!?)」アセタラー
  

          ●●●●
副所長「ところで、“千冬の弟”と戦わくちゃいけない理由って何だ?」

ラウラ「」ピクッ

一夏「あ――――――!」

ラウラ「認めない! そこの男が“教官の弟”であるなどと、認めるものか!」

ラウラ「だから、私は――――――」

副所長「ごめん。言っている意味がわからない」


副所長「軍人ならはっきり言えよ!! そんな曖昧な受け答えしかできねえのか!!」


ラウラ「――――――!?」ゾクッ

一夏「!?」ビクッ

一夏「(び、ビビった…………前に叱責された時以上にビビった。やっぱり千冬姉の同窓生なだけある!)」ビクビク

副所長「で、どうしたいんだ? 言えよ、早く!!」ギラギラ

ラウラ「くっ!」ウルウル

タッタッタッタッタ・・・・・・

一夏「…………ラウラのやつ、泣きそうになってましたね(いや、俺だってもしかしてたら泣きそうになっているのかもしれない)」ドクンドクン

副所長「ふん。所詮は年相応の小娘だったということだ」

副所長「どれだけISを上手く動かせたとしても精神年齢は相当幼いぞ、あれ」

一夏「凄い気迫でしたね。後ろに居た俺がビビるぐらいに……(いや、それ以上に生身のあなたが俺をかばうなんて――――――!)」アセタラー

副所長「おいおい? この程度でビビっていたら、“奇跡のクラス”の中で“最恐”と言われた男にチビっちまうぞ?」

一夏「え、ええ…………!?(こ、『この程度』――――――!? あ、冷や汗一つ掻いてない! 格が違いすぎるよ…………)」

副所長「聞いたこと無い?」


――――――“極東のプーチン”って仇名されているおっかない外交官のこと。



ピピィ

「む? 珍しいな――――――」ピッ


副所長「よう、久しぶりだな、――――――“プッチン”」

外交官「…………その呼び方はやめろ」

外交官「そろそろ聞かせてくれ。なんでお前は“プロフェッサー”で、俺は“プッチン”なのだ?」ギラッ

副所長「え、覚えてない? お前、甘いモノが好きだし、その割には強面で切れると怖そうだから、“プッチン”なんだよ」アセタラー

外交官「はあ…………」

副所長「(うはっ、やっぱ怖ええ! 画面越しに伝わる相変わらずの威圧感…………!)」

外交官「で、何の用だ?」

副所長「IS学園にさ、フランス代表候補生が入ったんだけど」

外交官「フランスの? 誰だそれは? 国政に関わることなのに軽々しい冗談はよせ」

外交官「お前は今年の我が国の代表候補生の専用機の開発設計を担当したからこうして昔の親交を温めることはできたが、冗談をいうのなら――――――」ジロッ

副所長「ふうん、やっぱりそこまで話題にもなってないんだ」

副所長「データを送るぜ」

外交官「……ああ。受け取った」

外交官「うん?」ピッ

外交官「………………」ジー

外交官「わかった。こっちの方で調べてみる」

副所長「悪いね。やっぱ、持つべきものは友だな」

外交官「ふん」


――――――その夜


鈴「え、“極東のプーチン”って言ったら、私の国じゃ悪い意味で有名人よ」

鈴「鬼よ、鬼!」

鈴「なにせ、この人の影響で私がうっかりIS学園に入ることになったんだから」

一夏「え…………」

鈴「あ、いやその……、一夏がIS学園に入るってことがわかったら、途中からでも転入してきたわよ、絶対に!」

一夏「ああ、そうか」

鈴「それでね? いやあ、あの時は凄かったわ」

鈴「そいつに国の政治家がみんな及び腰になっていることに軍のお偉いさんがね、自棄酒を飲んでいたこともあって、」

鈴「今にも殴りかかってそれ以上のことをしそうだったから、――――――『ああ、これはIS学園に入っておかないとこっちの命まで危ない』ってね」

鈴「でも、それが結果として今に繋がっているんだから、本当に人生っていうのは何が幸と出るかわからないものね」

一夏「そうだな」

鈴「それで、どうして私にそんなことを聞いたの?」

一夏「何でもない――――――いや、あるか」

鈴「どっちよ」

一夏「実はその人も、千冬姉の中学時代の同級生なんだってさ」

鈴「え、えええええええええええ!?」

鈴「道理で凄いわけね…………逆に千冬さんが強いのも納得だわ」

一夏「ああ。“ゴールドマン”もその一人だもんな」

鈴「そうね。早く帰ってきてくれるといいね」

一夏「うん」


――――――翌朝


一夏「ふう、ただいま…………(シャワー、シャワーっと)」

シャル「おはよう、早いんだね」フワアー

シャル「そういえば、昨日はどうしたの?」

一夏「ああ……、貸し切りのアリーナで俺の専用機『白式』を受け取って試運転をしていたんだ」

一夏「悪かった。シャルルにとって訓練初日だったのに、俺がしっかりとやらなくちゃいけなかったのにさ」

シャル「いいんだよ。みんな、親身になって教えてくれたし」

一夏「本当はトライアルが終わってすぐにでも訓練に混ざろうとしたんだけど、ちょっとしたアクシデントがあってな…………」

シャル「…………もしかして、ボーデヴィッヒさんのこと?」

一夏「………………」

シャル「ご、ごめん……」

一夏「いや、いいんだ。これは俺の問題だから、お前との約束を破ったことを謝る」

一夏「今日こそは、みんなに俺の専用機をお披露目するから楽しみに待っていてくれよ」

シャル「うん。楽しみしているね」ニコッ

一夏「お、おお…………(何だろう? これが女の子だったら男女の壁みたいなもので緊張感が走るのに、男でこれだとしたら――――――あ)」


一夏『シャルル・デュノアだよ。デュノア社の社長の息子の』

副所長『――――――息子!? ――――――デュノアだと!? ――――――ますます胡散臭いな』


一夏「…………ああ、期待していてくれ」ニコー

シャル「?」


女子「ねえ、聞いた聞いた? ――――――あの噂」


セシリア「それは本当ですの!?」

鈴「嘘ついてないでしょうね?」

女子「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ」


――――――今月の学年別トーナメントで優勝したら、織斑くんと一緒にハワイ旅行に行けるって!


セシリア「それは一夏さんも承知していますの?」

女子「それがね? どうも本人はわかってないみたい」

鈴「どういうこと?」

女子「…………よくわからない」


本音「ねえねえ、カンちゃん! おりむーと一緒に行くために頑張ろー」

簪「そ、そういうんじゃ、ないから…………」テレテレ

本音「最近のカンちゃんは前よりずっと明るくなって、かわいいよ?」

簪「ほ、本音…………」テレテレ


一夏「おはよう」


一同「!」ビクッ

シャル「何の話、しているの?」

簪「えと、それじゃ私、戻るね…………」

本音「頑張れー、カぁンちゃん!」

鈴「じゃあ私、自分のクラスに戻るから……」

セシリア「そうですわね。私も席につきませんと…………(でも、私なら別に優勝しなくても――――――いえいえ、こういうのは――――――)」


スタスタスタ・・・・・・


シャル「?」

一夏「何なんだ?(…………授業の準備とか昨夜のうちに終わらせているものだから朝はとにかく暇なんだよな)」

シャル「さあ……」

千冬「席につけ、ホームルームを始めるぞ」

一夏「さてと(だから、ギリギリの時間で登校するようにしてるけど、改めるべきかな?)」


千冬「さて、今日はみなに報告することがあるな。入って来い」

一夏「え」

周囲「ナニナニ?」

ガラララ・・・

一夏「あ」ガタッ


使丁「や、みんな。ただいま」ニッコリ


一夏「よ、用務員さん……!」グスン

使丁「泣くなよ。見舞いにだって来ただろう?」

使丁「それに、今の俺は自宅出勤だ」

周囲「キャー! “ゴールドマン"サマー!」

セシリア「ほ、本当に良かったですわ……」

使丁「みんな、ありがとう」

使丁「で――――――、」チラッ

シャル「?」

ラウラ「!」

使丁「――――――シャルル・デュノアと、」

使丁「――――――ラウラ・ボーデヴィッヒか」

使丁「1組のホームルームにはこうやって必ず顔を出すから、これからよろしくね」ニコッ

シャル「はい!(この人が、僕が来る前に一夏と相部屋だった人か…………)」

ラウラ「…………」アセダラダラ
                   ********
千冬「ラウラ。こいつは教員ではないが、私と同程度の戦力だから敬意を持って接するように」ニヤリ

千冬「そして、返事は全て『はい』だ」

ラウラ「は、はい、教官!」ビシッ

一同「!?」

使丁「…………」ニコニコ

一夏「な、なんか、ラウラの様子が一日で変わったような――――――あ」

一夏「何かしたんですか?」

使丁「ノーコメント」ニコニコ

ラウラ「うぅ…………」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


――――――数時間前の深夜、屋外


ラウラ「――――――教官」

ラウラ「あなたの完全無比な強さこそ、私の目標であり、存在理由――――――!」

ラウラ「…………」スッ(眼帯を外す)

ラウラ「――――――織斑一夏」

ラウラ「教官に汚点を与えた張本人――――――排除する!」

ラウラ「どのような手段を使ってでも…………!」

ラウラ「…………」


ピーーーーーーー!


ラウラ「!?」ビクッ

「で、お前は深夜何をやっているのかな、転校生?」ピカーン

ラウラ「くっ!?(ば、馬鹿な! いつの間に――――――!?、気配など感じなかったぞ!)」

ラウラ「な、何者だ!?」


使丁「今日から復帰した“世界最強の用務員”だ。覚えておけ、転校生」



――――――放課後、アリーナ


一夏「来い、『白式』!」


一夏「みんな、待たせたな!」

一夏「こいつが俺の専用機『白式』だ!」

鈴「へえ。こいつが待ちに待ったあんたの専用機…………」

一夏「まだ初期設定のままなんだけどな」

一夏「だけど、この状態でも前まで使っていた調整機体以上の機動力を持っているぞ」

セシリア「それは凄いですわね」

簪「副所長が用意してきた機体なだけあって、他にも何かありそう…………」

シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ?」

シャル「僕と戦って欲しいんだ」

一夏「シャルルの機体は『ラファール・リヴァイヴ』だったっけ(本当ならファーストシフトするまで戦いたくないけど、ラウラの相手をするよりは遥かにマシだ)」

シャル「そうだよ。正式名称は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』」

一夏「――――――『カスタムⅡ』?」

一夏「そういえば俺も学園で採用されている訓練機をちょっとイジった機体に乗っていたからわかるけど、改めて見るといろいろと違うんだな」

シャル「うん。僕の機体は通常機の2倍の拡張領域があるんだよ」

一夏「え…………(な、なんて羨ましい! 『白式』はゼロなんだぞ! 『打鉄』じゃなくて『ラファール・リヴァイヴ』を選んでおけばよかった……!)」

一夏「(いやいやいや! 俺はこいつで戦い抜くって決めたんだ!)」

一夏「(たとえ、相手の大量の飛び道具に蜂の巣にされても、与えられた条件の中で最善を尽くしてみせる!)」


――――――今は敗けたっていい。最後に勝てばいいのだから、とにかくやってみる!



セシリア「さて、“もう一人の男性ISドライバー”の実力はどれほどのものなのでしょうか?」

鈴「一夏も機体を乗り換えたことでどこまでやれるのか、少し楽しみだし不安だ……」

簪「でも、織斑くんの機体は『打鉄』と同じく剣1つなのに対して、あっちは豊富な火器を取り揃えている…………」


一夏「行くぞ、シャルル!」

シャル「うん。行くよ!」


3,2,1――――――!


一夏「でやああああああああ!」
シャル「はああああ!」

ガキーン!

一夏「まだまだあああああああ!(小手、面、小手、面、面ええええええええええええん!)」ガキンガキンガキンガキンガキーン!

シャル「うっ……(なんて重たい一撃! しかもこれだけの攻撃を絶え間なくしてくる!)」

シャル「ええい……(ここは距離をとって――――――)」ヒュウウウン!

一夏「あ――――――(しまった! 距離を取らせたら負ける! 何としてでも食らいつけ! 唯一のチャンスだぞ!)」

一夏「待てえええええ!」ヒュウウウン!

シャル「――――――思ったよりも速い!? いや、追いつかれる!?」クルッ

一夏「でえええええやっ!」ガキーン!

シャル「うわぁあ!(振り向くのがあと少しでも遅かったら、背後から太刀をもろに受けていた――――――)」


鈴「凄い! 剣1つだけなのに、『ラファール』を圧倒してる!」

セシリア「まるで喰らいついたら放さない飢えた獣のごとき猛攻ですわ!」

セシリア「そういえば…………(クラス代表決定戦がもう少し続いていたら私もあんな感じに叩きのめされていたのでしょうか……)」

簪「…………あれ?(一定のリズムを刻んで連続攻撃を叩き込んでいるのだけれど、何か他に狙いがあるような動き――――――)」

簪「織斑くんは決まった場所を執拗に攻撃している…………?」

使丁「なるほどね」

簪「あ、用務員さん」

使丁「気をつけな。同じ目に遭う可能性があるからな」ブンブン(砂と水の入った瓶を素振りしている)

簪「あ…………」ゾクッ

セシリア「どうしました、簪さん」

セシリア「あら、用務員さん」

使丁「やあ、オルコット嬢」

使丁「(『剣しか使えない』という事実だけで止まってはならない)」

使丁「(視点を変えて突破口や利用方法を知恵を振り絞って実践してみせろ、一夏くん!)」


ラウラ「………………くっ」


一夏「はああああああああ!(いいぞ! 格闘機や『AIC』じゃなければ万能機相手でもやれる!)」ガン、ガンガンガン!

シャル「くっ! まだまだぁ!(入っていきなり見せちゃうのはもったいないけど――――――!)」

シャル「この距離なら外さない!(――――――『灰色の鱗殻』!)」バッ

一夏「な、うわああああああああああああ!?(盾の中に衝撃砲でも入っていたのか!?)」ヒューーーーン!


鈴「一夏!? 一夏の『白式』が吹っ飛んだ!?」

セシリア「あれって…………!」

簪「第2世代兵器で屈指の破壊力を誇る『パイルバンカー』!」

使丁「ただの盾ではなかったか。――――――矛と盾とを兼ねていたか」

簪「はい。それに、リボルバー式なのでしっかりと固定できれば連射も可能です」

使丁「いい武器だな。空中では相手を吹き飛ばして距離を取り、壁際などでは連射して大ダメージを与える」

使丁「『ブルー・ティアーズ』に持たせるべき武器なんじゃないのか、あれ」


一夏「ゴホゴホ・・・(シールドエネルギーはまだ十分だが、距離を取られてしまった…………)」

シャル「これで、形勢逆転だね」ジャキ

一夏「まいった…………俺の負けだ」

シャル「初期設定の機体であそこまで戦うことができたんだから、一夏は強いよ」

一夏「ああ。世界最強のコーチ陣が俺を鍛えてくれているからな」フッ

シャル「一夏」スッ

一夏「ありがとう」ガシッ


――――――互いの健闘を称えた握手!


パチパチパチパチ・・・・・・!

両者「!」

周囲「キャー、ドッチモカッコイイ!」

周囲「オツカレサマー!」

周囲「ISガクエンニハイッテヨカッター!」

使丁「見応えのある試合だった」

一夏「ありがとうございます、“ゴールドマン”」

使丁「これからルームメイトとして上手くやっていてくれ」ニコッ

シャル「は、はい!」ビシッ

使丁「それじゃあな」


両者「…………」


シャル「今のが、“ゴールドマン”…………」

一夏「ああ。世界で一番に尊敬している男だ。女だったら、千冬姉だけどな」

鈴「お疲れ、二人共!」

セシリア「御二人とも、いい戦い振りでしたわ」

簪「織斑くんの猛攻もそうだし、デュノアくんの「高速切替」と対応の速さも凄かった」

シャル「ありがとう、みんな」ニコニコ

一夏「よっと。それじゃ、俺はファーストシフトするまでは頑張ってみるよ」

一夏「今度、「高速切替」のコツを教えてくれよな、シャルル」ニコッ

シャル「いいよ、一夏」ニコッ



――――――夕方


一夏「さて、ファーストシフトした後が問題なんだよな」

一夏「『白式』は雪片弐型以外の装備を載せることができないから、飛び道具が使えないんだよな」

一夏「どうしよう? 特に今回のシャルルとラウラのような万能機が相手だと万に一つの勝ち目がなくなってくる」

一夏「そして、二人の機体の武器の特性も大きく異なってくる」

一夏「シャルルの『ラファール・リヴァイヴ』は基本的に後付装備の携行火器で、ラウラの『レーゲン型』は固定武器となっている」

一夏「つまり、携行火器なら叩き落として無力化できる可能性はあるが、固定武器だとISの特性上排除することは不可能」

一夏「今回のシャルルとの模擬戦で武器を叩き落とすのを狙って執拗に右手・右肩を攻撃してはみたけれど、なかなかうまくいかないな」

          ********
一夏「…………普通じゃ勝てない、か」


一夏「どうすればいいんだ?」

一夏「千冬姉なら武器の相性を粉砕して圧倒することができるのだろうか?」

一夏「…………訊いてみるか」



ラウラ「答えてください、教官! なぜこんなところで」

千冬「何度も言わせるな」

千冬「私には私の役目がある。それだけだ」

ラウラ「こんな極東の地で何の役目があるのですか!」

ラウラ「お願いです、教官! 我がドイツで再びご指導を!」

ラウラ「ここではあなたの能力は半分も活かされません!」

千冬「ほう?」

ラウラ「だいたいこの学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません」

ラウラ「危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!」

ラウラ「そのような者たちに、教官が時間を割かれるなど――――――」


千冬「 そ こ ま で に し て お け よ 、 小 娘 」


ラウラ「!」

千冬「少し見ない間に、偉くなったな」

千冬「15歳でもう“選ばれた人間”気取りとは、恐れ入る」

ラウラ「わ、私は――――――!」

千冬「寮に戻れ。私は忙しい」

千冬「くだらんことで頭を悩ませている暇があるぐらいなら、ひたすらに鍛錬でも積んでいろ」

千冬「このままでは、お前は必ず初歩的なミスを犯し、足元を掬われることになるぞ」

ラウラ「――――――っ!」

ラウラ「くっ!」


タッタッタッタッタ



使丁「ん? おお、ボーデヴィッヒ少佐殿ではないか」

一夏「…………どうしたんだ?」

ラウラ「っ!」ギロッ

ラウラ「貴様は絶対にぃ…………!」プルプル

タッタッタッタッタ・・・

一夏「…………」

使丁「千冬に何か言われたのは間違いないな」

使丁「って、ISを部分展開して盗聴していたんだろう?」

一夏「まあ、ファンとスターの擦れ違いなんて、言わなくてもわかるでしょう?」

使丁「まあな。俺もオリンピック代表選手になって、いろんな人間のいろんな声を浴びせられたんだ。理解できる」

使丁「お」

千冬「…………お前たちか」

一夏「初代“ブリュンヒルデ”であるあなたに相談があります」

千冬「ほう?」

一夏「織斑千冬が“ブリュンヒルデ”と呼ばれることに不快感を覚えることは知っていますけど、」

一夏「俺は『白式』を使いこなすためにご教授していただきたいんです」

千冬「そうか」






      ・・・・・・・・
――――――普通じゃ勝てない。


倉持技研 第一研究所副所長の“プロフェッサー”は確かにこう言った。

俺と副所長の繋がりは用務員さんよりは遥かに薄いが、それでも人並み以上の付き合いはあった。

何よりも、俺が尊敬している“世界最強のIS乗り”と“世界最強の用務員”の級友であり、その二人からも信頼を寄せられている人物なのだ。

自然と俺はその人に親しみを覚え、“プロフェッサー”の教えを請い、その教えを信じ、その教えに従った。

その結果、俺は短期間で少なくとも中級者レベルのIS乗りに急成長できたと、そう考えている。

そのことだけでも、俺は感謝しても感謝しきれない。


だが、それだけが“プロフェッサー”の人としての魅力ではないことを俺は知っていた。


厳しくともしっかりと事実と現実を突きつけ、当人の意思を確認することで、どんなに理不尽な無理難題にも一丸となって取り組んでくれる面倒見の良さがあるのだ。

時には丁寧に物事を解説する英明さを見せる一方で、目的のためなら自ら恨みを買うようなことも平気で行えるような果断な人物だった。

常にみんなのことを考えて最善策を一人思案するその姿こそが、“奇跡のクラス”において唯一“プロフェッサー”という格式高い渾名に相応しかった。

そして、自分の意志で立ち向かう決意を固められるように、言葉の端々に攻略のヒントを隠しているのだ。


先程の言葉にも、明確な解決への糸口が込められており、“プロフェッサー”は敢えて、

      ・・・・・・・
――――――普通は勝てない。


とは言わずに、

      ・・・・・・・・
――――――普通じゃ勝てない。


と言う、実にわかりやすい表現を使っているのであった。


副所長『勝ちたいのであれば、――――――そういうことだ』


副所長はありとあらゆる可能性から俺の勝算を導き出そうと考えを巡らせてくれた。

解読の仕方は簡単である。――――――ジョークを理解できるだけの頭の柔らかさがあればいい。

そもそも、やり方の一例はすでに示されているのだ。副所長がそう言ったのなら、俺はそれを信じてありとあらゆる可能性を模索する。


副所長は簡単には答えを教えようとはしてくれない。

――――――当然だ。

ただ与えられた解答に意味など無いからだ。その解答が当人の血肉として人生の糧にならないからだ。

『考えなくなった人間は、機械や家畜と同義である』と信奉している“プロフェッサー”らしい考え方であった。

相手の程度に合わせてさり気なくヒントを伝えようと頑張る“奇跡のクラス”のバランサーは、
俺にドイツの第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』攻略のとある戦術を閃かせたのであった。


そう、IS〈インフィニット・ストラトス〉はロボットや戦車でもなく、量子化兵装を備えた“奇跡”の空戦用パワードスーツなのだ。


俺は“世界最強のIS乗り”から指導を受けた後に、そのことに目を付け、それに特化した訓練を敢行したのであった。


題して、――――――『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・キャンセラー作戦』!


剣1つで、1対1最強の第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』攻略を意図した、軍人に対するアスリートの意地であった。


――――――真夜中


一夏「やっと帰れたぁ……」ガチャ

一夏「さすがは“ブリュンヒルデ”。訓練の内容も今まで以上にハードだった……」ゼエ

一夏「シャルル……はもう寝ちゃったか。当然だよな」

一夏「パソコンに記録を付けてっと――――――」


一夏「…………盗み見された痕跡がある」


一夏「」チラッ

シャル「ZZZ・・・」スヤー

一夏「………………」

一夏「ん? メールだ。しかもついさっき来たばかりのだ」


――――――

織斑一夏へ

今週の土曜17:00、お前の家で待つ。

鍵は姉から預かっている。

――――――


一夏「!」

一夏「…………うん」スゥーハァーー

一夏「(これは『一人で来い』って意味だよな? そして、これが真実なら、千冬姉が信頼している人物――――――“奇跡のクラス”の面々か!?)」

一夏「行かないわけにはいかないよな?(必要最低限な文体からして、緊張感をもたらしている――――――! どんな人なんだろう?)」


――――――土曜日


一夏「さて、自分の家だっていうのに、なんで緊張するんだろう……?」(私服)

一夏「俺の家の中から誰かが俺を見ているようだ…………」アセタラー

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「よし」ガチャリ

一夏「ただいま!」


――――――こっちだ。


一夏「は、はいっ!」ビクッ



一夏「えっと、あ、あなたはい、いったい――――――!?」

外交官「俺は世間で“極東のプーチン”と怖がられているしがない外交官だ」(サングラス)

一夏「あ、あなたが“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”、“プロフェッサー”の中学時代の級友だった方ですか!?」ゾゾゾ・・・

一夏「(で、でかい! 日本人らしからぬ2m近い巨体とサングラスを貫いて届くこの視線の鋭さ!)」

外交官「そうだ。まあ、怖がるな。危害を加えるつもりはない」

一夏「わ、わかっているつもりなんですけど…………(なんで足が震えているんだろう? 鳥肌が立っているよ)」プルプル

外交官「まだまだ未熟というところか…………」

一夏「あの、こんな薄暗い場所じゃなくて、明かりをつけましょう?」

外交官「それは構わない。きみが入ってくるまで待っていたのだからな」

一夏「…………大変なんですね」パチッ

外交官「ああ。俺は嫌われ者でね。いじめられないように常に気を配り続けないといけないんだ」

外交官「特に、これからきみに伝えようとしていることは1国の運命を左右するものだからな」

一夏「!」

一夏「なんで、それを俺なんかに……?」アセタラー

外交官「対象がIS学園の生徒だからだ。内部告発でしか追及することができない」

外交官「これ(=小型のノートパソコン)を見てくれ」スッ

一夏「えと、何々――――――え」

一夏「………………!?」

外交官「……………」

一夏「…………う、嘘だよな?」

外交官「思い当たる節は本当に無かったのか?」ギロッ

一夏「う、…………ありました」

外交官「なるほど、やはり産業スパイか」

外交官「稚拙なものだな。秘密裏に推し進めたようだが、外部の人間に見つかってすぐに身許が割れた」

一夏「……どうするつもりなんですか?」

外交官「無論、アラスカ条約違反で糾弾する」ギラギラ

一夏「そ、それじゃ、シャルルはどうなるんですか……?」アセダラダラ

外交官「――――――IS学園特記事項」


本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「えと……、――――――あれ? さっき『糾弾する』って言ってたけど、これじゃ裁判にかけることなんてできないんじゃ?」

外交官「そうだ。糾弾したくてもできないんだ」

一夏「やっぱり……」


外交官「つまり、内部の人間からの告発が無ければ、このままだとお前はそいつに延々とデータを奪われることになっていくぞ」

外交官「IS学園はあらゆる司法や権力から独立された空間だ。自分の身は自分で守らなくてはいけないのだ」

外交官「そのことを理解できたか?」

一夏「……はい」

外交官「ISに関する技術というものは基本的に公開しなければならない」

外交官「それがIS開発国である日本を標的に制定されたアラスカ条約の基本精神だ」

外交官「仮に企業秘密を押し通すつもりならば、秘密の私有地で秘密主義を貫き通せば問題ないがな」

一夏「…………」

外交官「だが、このままだとせっかく発明した新技術開発の恩恵がすぐになくなる――――――」

外交官「そういう面から、IS学園という完全中立地帯が設置されることになったのだ」

外交官「もちろん、これから拡大していくであろうIS業界の次代を担うISドライバーやエンジニアの教育育成も重要な目的なのだがな」

外交官「それ故に、IS学園では『使用されたIS技術の非公開』が認められている」

外交官「付け加えて、対戦・訓練環境も整っているおかげで、IS学園は次世代技術搭載の実験機のテストに最適なのだ」

外交官「もちろん、『行動全般の黙秘』も認められている。当然だな」

外交官「さて、ここで問題となってくるのは、――――――情報セキュリティの面なのだ」

外交官「実は、このアラスカ条約によって設置されたIS学園は完全中立地帯ではあるのだが、逆に言えば実質的な無法地帯でもある」

一夏「え」

外交官「なにせ何処の国の司法によって裁くことができないのだから、情報流出も容疑で取り調べを行おうにも国際IS委員会での審議を経る必要がある」

外交官「もちろん、情報を盗むなんてことが白日の下に晒されたらアラスカ条約の精神が汚されるということで大問題となるだろう」

外交官「だからこそ、国際IS委員会は専門の司法機関を設置しないはずだ」

一夏「え!? それじゃ、盗まれたほうが泣きを見ることに――――――」


外交官「残念だが、――――――国際社会とは口で言うほど遵法精神旺盛ではないのだよ」


一夏「…………!」

外交官「結局は利害の問題なんだ。自らの利になるかどうかだけで主張などころころ変わる」

外交官「もし糾弾したとしても、某国と互恵関係にある国や対立している国々の思惑によって、公平な審判になるか怪しいところだ」

外交官「そして、むしろその審判の席において国際感情が悪化することで、アラスカ条約体制が崩壊するのを早める結果にもなるということも懸念されている」

外交官「国際連合の問題解決能力を振り返れば、人類平和など程遠いことなどわかるだろう」

一夏「…………そんな」


外交官「お前だってな、その欲望の標的なのだぞ」

一夏「え」

外交官「“世界で唯一ISを扱える男性”の帰属を巡って、各国がお前の身柄を買おうと必死なんだからな」

一夏「何だよ、それ!? 無理やりIS学園に入れておいて…………!」

外交官「まあ、はっきりいって不毛で無益で時間の無駄でしかない馬鹿馬鹿しい争いなんだがな。ちょっと考えればそのことに気づくはずだ」

外交官「しかし、こういうことを普通に言い出すようなところでもあるのだ、世界というのは」

一夏「…………ふざけるなよ(泣きたい気分だよ、もう)」

外交官「安心しろ、“千冬の弟”」ポン

一夏「!」


外交官「俺が目を光らせている限りは、日本国民であるお前の身の安全は保障する」


一夏「お、おお!」

外交官「あの“ピンクラビット”がしでかした不始末は、俺が処理する!」

外交官「お前は気にすることはない」

外交官「お前は“お前”だ。“千冬の弟”だからって、そう気負うなよ」

一夏「ありがとうございます!」

外交官「さて、言うべきことも言い終えた」

外交官「俺は帰るとするよ。貴重な休暇を消費したが、あの“スケバン”が大事にしていたものをじっくりと見ることができて満足だ」フフッ

一夏「こちらこそ、いろいろとありがとうございました!」

外交官「それじゃ、家に残るか? それとも、用事があるのなら送って行こう」

一夏「そうですね。特に、他に用事があるわけじゃないので学園までお願いします」

外交官「そうか」ピッ

外交官「俺だ。クルマを回せ。対象をIS学園に送り届ける」



一夏「意外と中は凄いんですね」

外交官「お忍びで来たとはいえ、俺は特定アジアの人間からは相当狙われているからな。覆面車でも防弾仕様は欠かせない」

外交官「ガスマスクや備え付けの銃火器なんかも入っている」

一夏「あ、あははは…………(さすがは千冬姉の同級生…………けど、これで千冬姉と同い年とはやっぱり思えないな)」

外交官「では、テレビを映してくれ。夕方のニュースを確認しよう」

運転手「はい」ピッ


――――――こちら、倉持技研 第一研究所前です!


両者「!?」

――――――
キャスター「御覧ください! つい1時間ほど前に謎の爆発により、施設は倒壊し、周囲には危険な有毒ガスや火災が発生しているとのことです」

キャスター「報告によると、幸い本日は土曜日ということで出勤していた人は少なく、正午頃には業務を終えて全員が帰宅していたとのこと」

キャスター「よって、怪我人はなかったそうです」
――――――

外交官「…………」ピッ

プルルル・・・プルルル・・・

外交官「何故出ない“プロフェッサー”!?」

一夏「行きましょう!」

外交官「頼む!」

運転手「はい!」


――――――倉持技研 第一研究所廃墟


外交官「さすがに野次馬共は暗くなったから帰ったようだが……」(ガスマスク)

外交官「瓦礫を頼む!」

一夏「はい!」(ガスマスク)

一夏「来い、『白式』!」

外交官「その姿――――――ファーストシフトは完了していたのか」

一夏「はい。木曜日の“ブリュンヒルデ”との特訓で何とか……」

外交官「ふむ。こういう時に便利だな、ISというのは……」

外交官「こうやって瓦礫を取り除いたり、崩れた足場を無視して進めたり、警察のバリケードを掻い潜るのも容易だ」

外交官「それだけに、この“史上最強の兵器”がいつ目の前に現れて襲ってくるか、たまったもんじゃないな」

一夏「…………」

外交官「それで、お前の見立てだと、“プロフェッサー”は休日を惜しんで『白式』の謎の解明に乗り出しているのだな?」

一夏「はい。ファーストシフトの段階で単一仕様能力に目覚めたという、これまた特異的な反応を見せたので」

一夏「元々『白式』は副所長でも理解の及ばない特性を持っているということで、『打鉄弐式』が完成した後はその研究に没頭していました」

外交官「あいつは、一人になって考えるのが好きなやつだからな。そのくせ、よく周りのことは見えている不思議なやつだったよ」

外交官「帰らずに研究なんてしていなければいいのだが…………あいつ、研究所が倒壊したことにも気付いて無かったりして」

一夏「…………ゾッとしますね」


パラパラ、ヒューーーン!!


一夏「危ない!」ガシッ

外交官「っ! すまない!」アセタラー


ガラガラガッシャーン!


一夏「これ以上は…………」アセダラダラ

外交官「そうだな………‥」

外交官「ん?」

外交官「あそこだ!」

一夏「あ、――――――副所長!」


副所長「ゴホゴホ・・・」バッタリ

外交官「急いで運ぶぞ! こっちはガスマスクをしているから気にもしなかったが、有毒ガスが発生していたからな!」

一夏「はい!」

副所長「お、おお! 二人共…………」

外交官「喋るな! 死に急ぐことになるぞ!」

一夏「あ、脚から血が――――――! 急がないと!」

副所長「待った……、試作品がちょうど完成したんだ…………」

一夏「わかりましたから、喋らないで!」

副所長「俺が確保しておくから、こいつを早く安全なところに連れて行ってくれ」

副所長「思ったよりも倒壊しそうにないから、ここで待っているぞ」

一夏「わかりました。では、行きますよ!」

副所長「」パクパク


――――――ありがとう。






一夏「この人を急いで病院に!」

運転手「!?」

運転手「それはわかりました」

運転手「しかし、あの方はどうなさった?」

一夏「重要機密の回収に向かいました。だから、俺が早く迎えに行かないと」

運転手「………私見ですが、あの方はあなた以上に我が国にとってなくてはならない存在です」

運転手「どうか、その史上最強の鎧で以って守り通してください」

運転手「でなければ――――――、」


運転手「我、魂魄何万回生まれ変わろうとも、恨み晴らすからなああああああああああ!」


一夏「!?!?」ゾクッ

一夏「は、はい!」

一夏「それでは、任せましたよおおおお!」

ヒュウウウウウウウン!



――――――翌朝、病院


一夏「あ」

外交官「目が覚めたか」

一夏「すみません。眠ってしまいました(…………汗が酷いな。ああ、気持ち悪いよ。シャワーを浴びたい)」

外交官「密林のスナイパーでもない限りは、オペの長丁場を真剣なままで貫けるほどの集中力は保たないさ」

一夏「えと、“プロフェッサー”は!?」

外交官「ああ。何とか無事に生き残ったよ」

外交官「だが、“プロフェッサー”が残してくれたこのデータディスク――――――」

外交官「今回の襲撃の発端ともなったものだろうな」

外交官「おそらく、ドイツのIS研究所のどこかが同じように爆破されることだろう」

一夏「え…………?」

外交官「ともかく、あいつも目が覚めたんだ。本人から事の真相を聞こうではないか」


副所長「昨日は、本当にありがとな…………」

副所長「だが、――――――さすがは俺!」

副所長「あんな状況になってもちょっと寝たら、ピンピンしているぜええ!」

一夏「あ、ははは…………(自信過剰に振舞っているのも何かの演技なんじゃないかと少し疑ってしまう)」

一夏「いったい昨日は何があったんですか……?」

副所長「あ、少し待って」シー

一夏「?」

外交官「よし、そっちはどうだ?」

運転手「問題ありません。この病室に盗聴器は確認されませんでした」

外交官「よし、妨害電波も流した」

外交官「話していいぞ」

副所長「」コクリ

一夏「…………俺、帰ったらちゃんと用心しないと」




副所長「昨日は、正午まで『白式』第一形態で発現した単一仕様能力の謎について分析していた」

副所長「正午になって定時退社することになったのだが、副所長の権限を以って更に研究を続けていてな」

副所長「だが、一向に埒が明かなくてな」

副所長「そこで、“プッチン”がシャルル・デュノアについて調べている一方で、」

副所長「俺も今度の転校生:ラウラ・ボーデヴィッヒについて調べてみることにしたんだ」

副所長「まあ、普通なら国際IS委員会に提出されているデータで満足するところなんだが、」

副所長「俺はどうもIS以前にドイツ軍人であることのほうが気になっていてな。あの歳で少佐の少年兵って何ぞやってな」
            ・・・・・・・・・・・・・
副所長「それで、ちょこっと探りを入れて見たら、とんでもない秘密を暴いてしまってな」

副所長「それがよ、この世には存在しちゃいけない技術が搭載されているっぽいんだよ」


――――――ヴァルキリー・トレース・システム


副所長「VTシステム――――――これは『モンド・グロッソ』部門優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムだ」

副所長「かつて、アラスカ条約において新たに禁止された技術でね」

副所長「まあ、詳しい説明はこの際抜きだ」


結論:あのラウラってクソ生意気な小娘の機体に、この禁止されたシステムが搭載されている可能性が大!


副所長「そして、その結論に至った直後に研究所が原因不明のクラッキングと直接の破壊工作を受けたんだ」

副所長「たぶん、俺の行動を監視していた何者かが、俺がVTシステムの不正利用者と見なして襲ったんじゃないか?」

副所長「なにせ、普通にログインしてデータを覗いただけだからさ。さすがは俺!」

副所長「本当ならとっとと脱出したかったところだけど、それと並行して“千冬の弟”にプレゼントを用意していたんだよな」

副所長「施設がぶっ壊された以上は、開発に戻るまで時間が空くってわけだから、どうしても完成させたかった。どうせ脱出は無理だったし」

副所長「で、次いでに証拠となるデータと遺書をチョチョイのチョイで書き残して、空気汚染が進む中を這いつくばって逃げ惑っていたってわけさ」

副所長「あとは、二人が助けに来てくれた」

副所長「ありがとな」

副所長「それと、簪ちゃんをよろしく」ニコッ




――――――夕方


一夏「…………」ハア


外交官『お前が告発すれば、二人の転校生を強制送還することができる』

外交官『それはお前の人生にとっても、我が国の国益にも適うことだ』

外交官『今のところ この二人に問題は見られないが、お前には二人の行動を監視する義務ができたということを忘れるな』ギラッ


一夏「俺、何をすればいいんだろう?」

一夏「正しいことをすればいいのだろうけれど、――――――“正しい”って何だ?」

一夏「俺はどうすればいいんだ……」トボトボ・・・


鈴「一夏!」


一夏「ああ、鈴か。ただいま」

鈴「――――――『ただいま』じゃないわよ、まったく!」

鈴「昨日はどこ行っていたのよ!」

一夏「あ……(そうだ、昨日はこっそり実家に帰ってそれから――――――)」

鈴「すごく疲れた表情している…………」

鈴「どうしたのよ?」

鈴「あ、何か事件に巻き込まれて――――――!」

一夏「大丈夫。実家に帰ったらそのまま長居して眠っちゃったってだけだから」

鈴「…………」

鈴「一夏」

一夏「何だ?」

鈴「夕飯はまだなんでしょう?」

一夏「そうだな」

鈴「なら、今日は私が作ってあげるから、待ってなさいよ」タッタッタッタッタ

一夏「あ、ああ…………」


鈴『料理が上手になったら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』


一夏「小学校の時、酢豚の話したのもこんな夕方だったよな……」

一夏「あの約束って、もしかして違う意味なのか……?」


一夏「(だけど今は、グダグダ考えている暇はない!)」

一夏「(――――――シャルルとラウラ、その二人の運命を俺は握ってしまったのだから)」

一夏「(千冬姉はどう思っているんだろ? どうなって欲しいんだろう?)」

一夏「だけど、確実に言えることは――――――!」


一夏「国の陰謀がなんだとか、そういったゴタゴタに付き合わされるつもりはないってことだ!」


一夏「健全なスポーツマンシップに則り、ノーサイドに行かせてもらう!」

一夏「爽やかに勝って、爽やかに負ける! 悔恨の残らない清々しいものを求めて、俺はここに立ったはずだ!」

コツコツコツ・・・・・・

使丁「やあ、一夏くん」

千冬「一夏……」

一夏「ただいま」

一夏「――――――今夜もお願いします」

千冬「ああ」

使丁「…………」


こうして、俺は自分が成すべきことを見据えて、偉大な先輩たちの指導の下、日々成長し続けるのであった。

正真正銘、これで今日の投稿はこれで終了とさせていただきます。

ご精読ありがとうございました。

しかし結局、この掲示板での傍点の振り方がわからず、なんだか時々変な記号が蝿のようについている感じになってしまいました。

もちろんなくても問題ないように推敲してはありますが、これができないとルビ振りもできないわけでして、
いいアイデアだと思っていざ投稿してみてちょっとガーンって感じです。

私目のほうでも傍点の振り方について調べて次からは改めたいと思いますが、ご助言があればぜひともお願いししとうございます。

私の先導者の、一夏(軍事オタク)の人の続編が早く見たいな…………



では、次回の投稿はおよそ1週間前後を目安に、今回のように一気に投稿しますので、興味を持っていただけたなら、幸いです。

それでは、また投稿できることを。

追記:続編要望のあった、落とし胤の一夏の物語はすでに一通り完成していますが、ワールド・パージ編が出るまでは出さない予定です。
その代わり、財力にものをいわせたどでかいスケールの物語となっているので、頭の片隅程度にとどめておいてくれるとうれしいです。

さて、時間を見つけてまとめて投稿開始。

もう傍点やルビ振りはあきらめたので、申し訳ありませんが脳内保管でお願いします。

とことん字詰めする設計に、愕然としていた。


――――――数日後


一夏「ファーストシフトした『白式』の性能はなかなかだけど、根本的な相性を覆すほどのものでもない」

一夏「ただ、単一仕様能力には驚かされた。駆け引き次第でどんなISでも下すことができる」

一夏「これならタイマンでの『シュヴァルツェア・レーゲン』撃破を目的とした『AICC作戦』も絵空事ではなくなってきたぞ!」

一夏「ようし!」

シャル「じゃあ、僕は先に部屋に戻っているからね?」

一夏「へ? ああ……」ジロッ

シャル「な、何かな?」

一夏「お前、いつもそうだよな」

シャル「え!?」

一夏「なんで俺と着替えるのを嫌がるんだよ~」

シャル「べ、別に、そんなことないと思うけど…………」アセアセ

一夏「そんなことあるだろう?」ニコニコ

一夏「たまには一緒に着替えようぜ」ペタペタ

シャル「え、え、い、い、いや――――――」

一夏「そう連れないこと言うなって」

一夏「俺も結構鍛えたから密かに自慢したくてさ」

シャル「う、う、うぅ……」カア

シャル「うわああああああああああああ!」タッタッタッタッタ

一夏「シャルル――――――!?」

一夏「…………ああ、せっかく硬くなった腹を触ってもらおうと思ったのにな」

一夏「まあいいや。シャワー浴びよ」スタスタ・・・


キュッ、ジャージャー・・・





バチィン!


ラウラ『私は認めない。貴様が“あの人の弟”であるなどと――――――!』

ラウラ『認めるものか!』


第2回『モンド・グロッソ』:ISの世界大会――――――。

その決勝の日、俺は何者かに誘拐された。

どういう目的があったのかは未だにわからない。

俺は拘束されて閉じ込められた。

それを助けてくれたのが、決勝戦を放り出して駆けつけてくれた、千冬姉だった。


――――――決勝戦は千冬姉の不戦敗。


誰もが二連覇を確信していただけに、決勝戦棄権は大きな騒ぎを呼んだ。

そして、俺に監禁場所に関する情報を提供してくれたドイツ軍に借りを返すため、1年ちょっとの間 ドイツ軍IS部隊の教官をやってたってわけだ。


全て、俺の不甲斐なさのせい…………


一夏「…………情けない弟だよな」

けど、俺は千冬姉のかつての級友たちの指導を受けて、

――――――少しずつ強くなった。

――――――いろんなことも考えられるようになった。

――――――無理して背伸びする必要や気負う必要はないって言ってもらえた。

――――――こんな俺にみんなは“俺”として接してもらえた。

――――――それが大人の役目なのだと背中で語るかのように。


だから、俺が千冬姉に報いるために必要なことは確かにわかりかけてきていた。
         ・・・・・・・・・
今の俺はちゃんと、強くなってきている。だから、今はそれでいい。

それ以上のことだ。――――――千冬姉にしてあげられることとは!




一夏「ただいま」ガチャ

シャル「おかえり」

シャル「最近、帰りが遅くなったね、一夏」

一夏「まあな。秘密の特訓をしていたんだよ」

シャル「へえ」

一夏「聞いて驚け! ――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』を剣1つで倒す特訓だ!」

シャル「え、えええ!?」

一夏「だから、秘密なんだ。悪いな、シャルル」

シャル「そうなんだ……」

一夏「そうなんだよ(パソコンとシャワールームの監視カメラはちゃんと機能していたかな)」ニコニコ

一夏「トーナメントが楽しみだぜ!」

シャル「そうだね…………」









――――――翌日


一夏「トーナメントがツーマンセルに?」(左手で砂と水の詰まった瓶を素振りしている)

セシリア「そうなのですわ!」

鈴「で、誰と組むのよ! 当然、ここは私よね?」ドキドキ

周囲「ズルイズルイー!」

周囲「オリムラクン! ワタシトー!」

ラウラ「…………」ジー

一夏「俺は、そういうのはな…………」

鈴「どうしたのよ?」

使丁「察してやりな、嬢ちゃんたち」

セシリア「どういうことですの?」

使丁「一夏くんは個人競技のアスリートを前提に修養してきたから、誰かを選ぶっていうことには慣れてないんだよ」

使丁「それに、一夏くんは『シュヴァルツェア・レーゲン』を一人で倒すことを目標に取り組んでいたから、尚更ね」

一同「!?」

ラウラ「!」

セシリア「それは本当ですの!?」

鈴「あの機体を一人で!? 剣だけで『AIC』をどうやって突破するのさ?」

一夏「そこは、対戦してからのお楽しみってわけだ」ニコッ


一夏「ラウラ!」(一升瓶を向けて)


ラウラ「!」

周囲「!」

一夏「いい勝負にしようぜ、IS学園の生徒として、――――――同じ千冬姉の教え子として!」ビシッ

ラウラ「言っていろ。その減らず口を叩けなくしてやる……!」ギロッ

使丁「よしよし」ニコニコ

ラウラ「ちっ」


セシリア「で、どうなさいますの?」

一夏「正直誰と組んでも最善を尽くすことに変わりはないからな」(やっぱり瓶を振っている)

一夏「ラウラは誰と組むんだ?」

ラウラ「必要ない!」

一夏「ふうん」

一夏「なあ、これって一人じゃ参加できないのか?」

ラウラ「む? 貴様、まさか――――――」

女子「抽選で組まされるって聞いているけど…………」

鈴「ちょっと馬鹿ぁ! そんなこと言ったら――――――」

一夏「わかった。なら、対等の条件で戦おう」

セシリア「あ…………(この流れはどこかで――――――)」アセタラー


一夏「俺は誰とも組まない! ラウラと同じく、ランダムで行かせてもらう!」


使丁「ほう?(この啖呵を切る様子は入学当初を思い出すな。だが、あの頃とはまるで違う――――――)」

一同「!?」

ザワザワ・・・――――――阿鼻叫喚!


一同「キャアアアアアアアアア!」

ラウラ「貴様……、私を甘く見るなよ? 私の『シュヴァルツェア・レーゲン』の前に平伏すがいい」

一夏「俺もそこそこやれるようになってきたし、お前という強敵と戦えるのが楽しみでならないぜ!」

ラウラ「どこからそんな自信が湧いてくるのかは知らないが、二度と顔も上げられないぐらいに、――――――叩き潰す!」

鈴「ちょっと、あんた! その言葉、今すぐ取り消しなさいよ~!」

一夏「男が言ったことを覆せるか」


一夏「俺はパートナーは決めない」


周囲「ソ、ソンナー」

セシリア「あ、あははは…………(でも、この物事に真摯な態度が一夏さんの良さですわね)」

セシリア「(最終的にはたった1週間でこの私を追い込んだのですから、やってくれますわ、きっと!)」

使丁「いやはや、大言壮語もまんざら嘘でもなくなってきたな」


シャル「みんな、おはよう」


周囲「!」キラーン

使丁「あ」

シャル「へ」

周囲「ワタシトクンデー、デュノアクーン!」

ドタバタ、ワイワイ、ガヤガヤ・・・

シャル「ええと……」

鈴「ああもう…………!(優勝したら一夏と二人っきりでハワイ旅行だったわよね!?)」

鈴「こうなったらやってやるわ!(でも、一夏は最初からラウラと戦うことしか頭にないみたい…………)」

使丁「これは、いったいどうなることかね…………(やばい、まさかペアを組むことになるなんてな…………今から予約を増やせるかな?)」

使丁「(だが、『より実戦的な模擬戦闘を行うため』だというが、これはやはり先月の――――――)」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・


千冬「静かにしろ! ホームルームが始まるぞ!」

周囲「ハーイ!」

セシリア「ここは万が一の可能性を信じるしかありませんわね」

鈴「一夏! 覚悟してなさいよ!」

一夏「じゃあな」(やっぱり、瓶を小刻みに振っている)

ラウラ「ふん」

シャル「これはどうしようかな……」アセタラー



――――――放課後


一夏「慣れたもんだな、これも」ブンブン

一夏「ん、簪さん?」

簪「あ、お、織斑くん……」

一夏「教室に一人残ってどうしたのさ?」

簪「な、何でもないの……」

一夏「どうしたんだよ、泣いた跡があるじゃないか!」

一夏「……何かあったのか?」

簪「…………」グスン

一夏「よっと(こういう時は急かしちゃダメなんだっけな。ここは待ってみるか)」ニコニコ

簪「あ…………」







簪「ありがとう、織斑くん」

一夏「俺、何かしたっけ?」

簪「けど、――――――ありがとう」ニコッ

一夏「それじゃ、――――――どういたしまして」ニコッ

一夏「それで、どうしたんだよ、簪さん?」

簪「その、実は……、副所長との連絡が全然取れなくて…………」

一夏「え」

簪「いつも、何かあったら励ましてくれたのに、こないだからそれがなくなって…………」グスン

一夏「ああ…………(研究所を爆破されて入院しちゃったせいでケータイとか持ってないから…………)」

一夏「(いや、それだけじゃない。回復するまでは厳重な警護に置かれているから、連絡したくても連絡できない状態になっているんだったっけか…………)」

一夏「(それに、代表候補生の専用機の設計開発をした所が狙われたということを世間に知られるとマズイということで、箝口令も敷かれているんだっけな)」

一夏「あの、俺…………(けど、伝えるべきなのか? この一件に関しては“プッチン”さんから一切口外しないように言われたけど…………)」

簪「え? 織斑くん、何か知ってるの?」

一夏「落ち着いて聞いて欲しいんだ」

簪「う、うん……」


一夏「実は、副所長は、怪我をしたらしく、入院してるんだ」

一夏「だから、簪さんのせいじゃ、ないよ」アセタラー

簪「そ、そうだったの? そんな、なんでそんなことを知らなかったんだろう……」

簪「あれ? でもどうして織斑くんは知っているの?」

一夏「あ、それはだな……(やばい! 口を滑らせてしまった! だけど、こうなったら行けるところまで行ってやる!)」

一夏「えっとさ、千冬姉の中学時代のクラスメイトのこと、知ってるだろう?」

簪「う、うん」

一夏「実は、副所長はその顔馴染みに会いに行った帰りに怪我をしたらしくてさ?(よく考えろ! 何故俺だけが知っているか、つじつまを合わせろ!)」

一夏「詳しいことは知らないけれど……、用務員さんがそんなことを話してくれた。たぶん、話す頃合いを見計らっていたんだと思うよ?」アセダラダラ

一夏「(何言ってるんだろう、俺? 確かに何があったかは少しは話したけど、いろいろ叩けば問題が――――――)」

簪「………………」

一夏「と、とにかく、副所長は入院しちゃった。だから、連絡を取ることができなかったんだよ、きっと。ほら、病院ってケータイ禁止だし」

簪「………………」

一夏「ああ……、ごめん。うまく伝えられなくてさ」

簪「あ、そ、そんなことないよ、織斑くん」

簪「それよりも、――――――本当にありがとう」ポッ

一夏「あ、ああ……」

一夏「たぶん、副所長はきっと5月が終わる頃までにはちゃんと返事をしてくれるだろうからさ?」

一夏「俺なんかで良ければ、こうやって相談や悩み事を聴いてやれるからさ?」

一夏「一人で抱え込むよ?」

一夏「同じ専用機持ちだし、俺だって副所長には良くしてもらったからさ……」

簪「う、うん! 今日は本当にありがとう……」ニッコリ

一夏「あ、そうだ! えと、ちょっと前に副所長からもらってたものがあったんだ」

一夏「見てみない? 俺も中身までは見てないから、今日開けてみようと思うんだ」

簪「あ……、うん!」

一夏「それじゃ、訓練が終わったら食堂でな!」

簪「わかった」ニコッ


スタスタ・・・


簪「………………」ドキドキ

簪「もしかして、副所長はちゃんと造って、くれたんだ…………」ポロポロ

簪「でも、私、どうしちゃったのかな……?(けど、織斑くんには――――――)」ドクンドクン



――――――それから、夕食前


一夏「よし! だいぶ見えてきたぞ、――――――『AICC作戦』!」

一夏「あとは俺がどれだけ、これまで教えこまれた技術を活かせるかだな(そういえば、まだ1ヶ月しか経ってないんだよな…………強くなっているよな、俺?)」

一夏「ただいま」ガチャ

一夏「シャルル、戻っているか?」


ジャージャー


一夏「シャワーの音……(シャワーを浴びているのか。それじゃ、簪さんとの約束もあることだし、副所長からの贈り物を持っていこう)」

一夏「えっと、これだこれだ」

一夏「うん、――――――特に何かされた形跡はないな」

一夏「それじゃ、行くか――――――」

ガチャ

一夏「――――――あ?」
シャル「――――――あっ!」


ボヨーン、ゴッツーン!


一夏「うわっ!?」
シャル「きゃっ!」


ドタッ!


一夏「???」

シャル「あいたたた…………(まさか、出合い頭にぶつかるなんて、――――――僕の馬鹿! 何やっているんだよ)」

一夏「何が起きた…………(シャルルがシャワーから上がったってことは間違いないけど、ぶつかる一瞬 何か柔らかいものがあたったような…………)」

シャル「ごめんね、一夏…………(でも、一夏が部屋に戻ってきていたなんて、まったく気づかなかった――――――)」

シャル「あ!」ゾクッ

一夏「あ……」チラッ

シャル「うわっ!」ビクッ

一夏「え…………(えっと、あれ? いや、知っていたつもりだけれども…………あれー?)」ジー


シャル「…………」(身体や頭を被ったバスタオルが解け、イロンナトコロが丸見えに!)




一夏「す、すまん!(うわあああああああああああ! お、女の子のぜぜぜぜぜんr――――――!?)」カア

一夏「えっと……、コレヲキロ!(隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せええええええええ!)」ガバッ

シャル「あ、ありがとう…………(い、一夏のジャケットだ…………)」

一夏「ああ……それじゃあな…………」ガチャ

シャル「あ、うん……」


バタン


一夏「ふぅ……(廊下の空気で一気に気分が落ち着いて――――――)」

一夏「うおっ!?(って、や、やばいよ! 心臓の鼓動が止まらない! きっと顔も真っ赤だ! こんな状態で人前に出られないよ…………)」ドクンドクン

一夏「って、うわああああ! よく考えたら――――――!(荷物も落としたままだし、上着もやっちゃった!)」

一夏「き、気まずい…………(取りに戻らないと行けない! 今出てったばかりなのに!?)」

一夏「で、でも、約束があ、あるんだ…………(そうだ。ここで怖気づいたら男が廃る……! や、やるぞ…………)」

一夏「し、深呼吸――――――!」スゥーハァーー

一夏「よ、よし! まずはノックからだ……!(きっと出てったばかりだからまだ着替え終わっていないはずだ…………)」ドクンドクン


コンコン! ガチャ


一夏「これで――――――え(開くの早すぎやしないか?)」

シャル「ま、待って、一夏……」ウルウル(一夏のジャケットを羽織っただけ!)

一夏「うわっ!(何考えてんだよ、シャルルはあああああああああ!?)」

シャル「うぅ…………」ギュッ

一夏「わ、わかった!(何がわかったんだよ、俺!?)」

一夏「と、とりあえず、着替えて落ち着いて話を聞こうじゃないか!」ハラハラ

シャル「う、うん……」

一夏「さ、湯冷めするし、早く、な?(落ち着けー、俺ー……!)」ニコー



一夏「そ、それじゃ、汗も掻いただろうし、ここは少し温かいスポーツドリンクを……(――――――嫌な汗を、な)」

シャル「うん。もらおうかな……」(寝間着)

一夏「はい……(気分を落ち着かせるには一気に飲めない温かい飲み物を出すに限る。俺もこれ飲んで心を落ち着かせよう…………)」スッ

一夏「(――――――平常心! 平常心だ、何事も!)」ドクンドクン

シャル「あ、ありがとう……」サッ

バチッ!

シャル「あ」ビクッ

一夏「うわっ!? ――――――お、おい!」バチャー

一夏「おわっち! あちゃ、あちちちち!(――――――火傷したら冷やすんだあああ!)」ダダッ

シャル「ご、ごめん!」

ジャー

一夏「落ち着け、俺…………!(簪さんにしてあげたように、相手が話しやすいようにリラックスさせるんだ)」ドクンドクン

一夏「(そのためには、俺がまず落ち着いてみせなければ…………)」スゥーハァーースゥーハァーー

シャル「大丈夫!? ちょっと見せて」ムニュ

一夏「!?」ドクン!

シャル「うわ、赤くなってる! 本当にごめんね」

一夏「いや、大したことない…………それよりも、その、当たってるんだが」ドクンドクン

シャル「え! はっ…………」カア

シャル「…………」ジー

一夏「?」


シャル「一夏のえっち」


一夏「なんでだよ!?」



一夏「よし。落ち着いて、きたな……」ゴクゴク

シャル「う、うん」

一夏「それじゃ、まず言いたいことはあるか? 無いのなら、こちらから訊かせてもらうぞ?」

一夏「そうだ。言いたくないことや言いづらいことがあるんだったら、言わなくてもいいぞ」

シャル「…………優しいんだね、一夏って」

シャル「それじゃ、僕がどうして男のふりをしていたかを言うよ」

一夏「無理は、するなよ?」

シャル「大丈夫だよ、一夏」

シャル「それでね。僕が男のふりをしているのは、――――――実家から『そうしろ』っていう命令でね」

一夏「お前の実家っていうと、フランス最大のIS企業のデュノア社だよな」

シャル「そう。僕の父がそこの社長――――――その人からの直接の命令でね」

シャル「――――――『日本で出現した“特異ケース”と接触してこい』って」

一夏「……そうか(デュノア社は第3世代型の開発が難航して欧州で進められている『イグニッション・プラン』に名を連ねることもできなかった)」

一夏「(つまり、国家や巨大な組織からの開発補助金や奨励金を得ることができずに、経営難に陥ったというわけだ。量産機の世界シェアでは第3位だけれども)」

シャル「あまり多くは訊かないんだね」

一夏「あ、ああ…………(――――――いや、わかってはいた。事前に何もかも聞かされていたから)」

一夏「(けど、やっぱり俺はせっかく得た友人を追放するかなんていう選択に向き合えなくて…………)」

シャル「そう、『きみのデータを盗んでこい』って言われているんだよ、僕はあの人にね」

一夏「……事情はわかった」

シャル「僕はきみを騙していたんだよ? もっとこう、怒る、とかってないの?」

一夏「いや、経営不振で喘いでいる親のために頑張っているのに、俺はそこまで怒る気はないよ。ISが登場してから失業者っていっぱいだったし」

一夏「(でも、俺はこれから決断しなければならない。――――――シャルル・デュノアを学園から追放するか否かを)」

一夏「(だからと言って、他人の人生を簡単に台無しにするような大それたことはしたくない…………!)」

一夏「(頑張って情報を集めよう! これから一緒にこの学び舎でやっていけるか否かを見定めるんだ!)」

一夏「(――――――せっかくの専用機持ちなんだしさ。仲間は多いほうがいいさ)」

シャル「本当のこと話したら楽になったよ」ハア

シャル「聴いてくれてありがとう」

シャル「それと、今まで嘘を吐いていてごめん」

一夏「いや、嘘を吐いていたのはそこだけだろう。俺は気にしてないよ」

シャル「本当に優しいね、一夏は」

シャル「それと、僕はね、一夏?」

一夏「何だ?」

シャル「父の本妻の子じゃないんだ」

一夏「え……」




――――――――――――(中略)――――――――――――


一夏「いいのかよ、それで?(シンパシーを感じるっていうのかな、こういうの――――――!)」

シャル「え」

一夏「それでいいのか? いいはずないだろう!」ギュッ

シャル「い、一夏……?」

一夏「親がいなけりゃ子は生まれない――――――そりゃそうだろうよ」

一夏「でも、だからって何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことが…………!」プルプル

シャル「一夏…………」

一夏「俺も、俺も千冬姉も両親に捨てられたから――――――」

シャル「…………!」

一夏「俺のことはいい。今更会いたいとも思わない」

一夏「だけど、お前はこの後どうするんだ?」

シャル「どうって…………」

シャル「女だってことがバレたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね」

シャル「後のことはわからない…………良くて牢屋行きかな」

一夏「!」


一夏「 決 め た ! 」


シャル「へ」

一夏「(ごめん、“プッチン”さん。確かにあなたの言うとおりにしておけば、結果的に真っ当に生きているみんなが幸せになれるんだろうけれども、)」

一夏「(俺には目の前で困っている人を見捨てることなんてできない!)」

一夏「(第一、ここまで話を聴いて見捨てたら気分が悪いじゃないか!)」

一夏「(俺だけじゃない! シャルルが突然いなくなったらみんなだって悲しむし、何とも言えない気分に染まっちゃうだろう!)」

一夏「(これでいいんだ!)」


――――――IS学園特記事項

本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「(ここはIS学園だ! シャルルはもちろん、俺自身や世界から隔絶されたIS学園のみんなのためにこの権限を利用させてもらう!)」

一夏「(これでいいんだ、これで。――――――直接的に誰かを傷つけずに、誰かを救えるんだから)」

シャル「…………一夏?(どうしたんだろう? 固まっちゃったけど…………)」

シャル「あ!?(も、もしかして――――――!?)」

シャル「み、見られたよね、――――――全部」アワワワ・・・

シャル「あ、あは、アハハハハハハハ・・・・・・」カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

シャル「ア、アレ・・・? チョットヒエチャッタカナ・・・」フラフラ、ドサッ

一夏「ん? シャルルぅううううううう!?」





――――――そして、


一夏「待たせちゃったな、簪さん」

一夏「シャルルが夏風邪引いちゃったらしくてさ? 大変だったよ」

一夏「ごめんな、食堂で集合って話だったのに……」

簪「それなら、しかたないよね。うん、気にしてない」ドキドキ

一夏「それじゃ、行こうか。箱の中身は何だろうな?」
              ・・
簪「あの、――――――い、“一夏”!」ドキドキ

一夏「うん? 何だ、簪さん?」

簪「か、“簪”で――――――」


セシリア「一夏さん。これから私と一緒に夕食と参りませんか?」


一夏「ああ、セシリアか」

簪「…………」ハア

セシリア「私も“偶然”夕食がまだなんですのよ。ご一緒しませんこと?」

一夏「いいぜ。せっかくだし、この箱の中身も見てもらうよ」

セシリア「まあ、何ですの、それは?」

一夏「俺もわからないんだ。だから、簪さんと一緒に開けてみようと思ったんだ」

セシリア「まあ、それは楽しみですこと」ニコニコ

簪「…………」イジイジ

一夏「ほら、簪さんも一緒に、な」ニッコリ

簪「あ…………うん」ニコッ

一夏「それじゃあ行こう!」ニコニコ

セシリア「はい!」ニッコリ


ラウラ「…………」ジー




「そうか。それがお前の答えか」

「…………いや、お前がそう決めて助けを求めるのなら俺は助力を惜しまない」

「だが、告発を促しておいて難だが、」

「――――――自分が一度決めたことは何が何でも貫き通せ」

「他人の人生を左右する決断を二転三転させるような輩には誰も付いて行くことはできない」

「まあ、変えるべき時に方向性を修正することも必要なことだが、くだらない理由で翻すのはもってのほかだ」

「お前の決断が全てを決めるだろう」

「さあ、このまま来月を迎えることができるのだろうかね?」


「…………すまん」


「俺はどうも言い過ぎる。他人を気負わせてしまう。そういうふうに自分を磨いただけにな…………」

「俺は『お前のことを外から守る』と言った」

「だからお前には、『自分の周りや内側を自分の手で守るように』と言った」

「だがそのせいで、お前の人生や価値観を歪めてしまうのは忍びない」

「だからこそ、今回のお前の決断は小気味よいものだった」

「お前の決断に、俺は賛成する。賞賛に値するよ」

「これからもお前は、お前の道を進んでいけ」

「――――――以上だ」






――――――学年別トーナメントまで残り1週間ほど

――――――アリーナ


一夏「さてと。そろそろ仕上げだな、『AICC作戦』も」(スポーツバイザー&スポーツサングラス)

一夏「ラウラを倒すためのアイデアは陸上競技にあった! これを以って“ゴールドマン”の弟子らしく、アスリートらしく勝つ!」

一夏「(だけど、ラウラのやつはここまで訓練をしているところなんて一切見せなかったな。そこが気掛かりだ)」

一夏「(――――――『実戦に勝る訓練は無い』とはいうがな)」

一夏「(試してみて勝てればそれでいいが、基本的にこういうのは一度見せたら次は対策を講じられるだろうし、負けたらそれはそれでな…………)」
         ・・・・・・・・・・・
一夏「――――――普通に戦ったら勝てない」

一夏「だからこそ、ここまで策を練ったがな……」

一夏「本番前に誰かと思いっきり戦ってみたいな(“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”相手じゃこっちがボロ負けだけどさ)」

一夏「そうだな。月末のトーナメントで戦わない上級生の専用機持ちと一度試合を申し込んでみようかな?」

鈴「一夏!」

一夏「ああ、来たのか」

鈴「珍しいわね。アリーナでの訓練なんて週1ぐらいだったのに」

鈴「てっきり今日も陸上競技場で走り高跳びとか槍投げ、ハンマー投げとかやっているものだと思ったわ」

一夏「そろそろ仕上げだからな。秘密の特訓の成果を確かめてみたくて」

鈴「ふぅん……(副所長からのプレゼントのバイザーとグラサンを付けてるせいで全然違って見える……)」ジー

鈴「すっかり夏の日差しが似合うアスリートになってきたわね……」」

一夏「あ、どうした、鈴?」スチャ

鈴「あんた、そんなに気に入ったの? そのバイザーとグラサン」

一夏「ああ。これが凄いんだぜ! さすがは“プロフェッサー”!」

一夏「どっちもIS用の簡易ディスプレイを兼ねていてさ、この軽さでカメラ機能やレコード記録なんか簡単に取れるんだ」

一夏「だから、よく周りを見るようにもなったし、毎日のジョギングもタイムがわかるようになったからいろいろと試せるようにもなった」

鈴「どんどん一夏がアスリートになっていく…………」ボソッ

一夏「ほら! ちょっとだけだけど“ゴールドマン”や“ブリュンヒルデ”のように腹だって硬くなってる!」

鈴「ああ、ほんとだ…………中学はずっと帰宅部だった一夏が」

一夏「ああ……、そんな頃もあったな…………そうか、まだ2ヶ月しか経ってないんだな」

鈴「そうなんだ。2ヶ月でこんなにも…………」

一夏「そういう鈴だって、たった1年で代表候補生にまでなったじゃないか!」

一夏「むしろ、そっちのほうが凄いと思うぞ、俺!」

鈴「ああ……、そうね。そうだったわね」

鈴「ところで、秘密の特訓の成果を試してみたいんでしょう?」

鈴「久々に私と戦ってみない?」

一夏「そうか。それじゃよろしく頼む(本当は、トーナメントで戦うかもしれない相手とは模擬戦はしたくはなかったんだけどな)」



一夏「よし! それじゃ、準備はいいか?(さて、5月に入って世界最強のコーチ陣に本格的に鍛えてもらってどこまでやれるか…………)」

鈴「いつでも来なさいよ! 返り討ちにしてあげるんだから!(トーナメント優勝で一夏とハワイ旅行なんだから、たとえ一夏が相手になっても――――――!)」


3、2、1、スタート!

一夏「でやあああああああああああ!」
鈴「はああああああああああ!」


ガキーン!


一夏「っ!(やっぱり格闘戦は重量だな。最初の頃と比べれば受け止めることができるようになったけど、やっぱり青龍刀と太刀とでは確実に打ち負ける……!)」

鈴「くっ!(ちょっとぉ! いったい何したら少し見ない間にここまで打ち合えるようになるのよ……! 油断してたら逆にこっちが押されたじゃない!)」

一夏「せいっ!(でも、ISでの戦いにおいて重要なのは、いかに効率よくシールドエネルギーを奪うかだ!)」

一夏「でやっ!(単一仕様能力無しでどれだけ効率よく接近戦を制してダメージを与えられるかが、千冬姉の『暮桜』と同じくする『白式』の戦いの肝だ!)」

鈴「はあっ!(一方的に打ち負かして畳み掛けることができなくなったから、徐々に取り回しに悪い青龍刀が圧されてきている……!)」

鈴「てやっ!(けど、青龍刀の使い方もその弱点もよくわかっているつもりよ。相手が油断したところを一気に力を入れて体勢を崩しさえすれば…………!)」


ガキーン!


ラウラ「中国の『甲龍』に、…………織斑一夏の『白式』か」

ラウラ「どちらも接近戦しか能がない時代遅れの機体だな。これで第3世代型とはな」

ラウラ「さて、どれほどの訓練をしてきたのかを見せてもらおうじゃないか。そして、化けの皮が剥いでやる」

ラウラ「これより排除を開始する!」ガコン


バーン!


両者「!」ビクッ

ラウラ「フッ」ニヤリ

鈴「ドイツ第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』!」

一夏「何のつもりだ、ラウラ! 模擬戦の最中だぞ! 話があるなら、所定の手続きで模擬戦を中断させろ! 競技規定違反だ」

鈴「そうよ、どういうつもり? いきなりぶっ放すだなんていい度胸してるじゃない!」

ラウラ「さあ、織斑一夏! 私と戦え」

ラウラ「お前が専用機持ちになってこの1ヶ月足らずでどの程度のものになったか、私が直々に見てやるとしよう。ありがたく思え」

ラウラ「私を倒すのだろう?」フッ

一夏「…………!(これはまたとないチャンスでもあるけれども…………)」チラッ


鈴「何? やるの? わざわざドイツからやってきてボコられたいなんて、大したマゾっぷりね」
         ・・・・・・・・・・・・
一夏「よせ、鈴! これは俺とラウラの問題だ……(それに、『AIC』対策をしていないだろうお前の機体じゃ絶対に勝てない……!)」アセタラー
    ・・・・・・・・・・・・
ラウラ「中国の『甲龍』に用はない。お前はもう帰っていいぞ」

鈴「っ」ピクッ
      ・・・・・・・・・・
鈴「なによ、私だけ除け者みたいに…………」ボソッ

一夏「え……(今、何て――――――?)」

ラウラ「どうした? 数ぐらいしか能がない国の住人なら、頭数を揃えてから出直して来い。私も弱い者いじめをする趣味はないから一向に構わないぞ?」

鈴「…………っ!」プルプル

一夏「やめろ、ラウラ! それ以上は国際人としてのドイツ人の品格が疑われるぞ!(抑えろ! ここで俺が抑えなかったらきっと俺は――――――)」プルプル

ラウラ「事実を言ったまでだがな」

鈴「この人、スクラップがお望みみたいよ!」

ラウラ「ふん。二人がかりで掛かってきたらどうだ?」

ラウラ「もっとも、力がなかったが故にあの人の顔に泥を塗り、奪った栄光を我が物にしようとする恥知らずに負けるつもりはないがな」

一夏「…………くぅ」

鈴「……一夏!?」

鈴「あんたねぇ! あんたが何のことで一夏に根に持っているのかは知らないけれど、今確かに言っちゃいけないことを言ったわよね!?」ゴゴゴゴゴ

鈴「それって、『どうぞ好きなだけ殴ってください』って言ってるってことでいいのよね!?」

ラウラ「とっとと来い。タイマンだろうがハンデマッチだろうが好きにするがいい」クイクイ

鈴「上等――――――きゃっ!?」ガシッ

一夏「…………」

ラウラ「…………貴様?」


鈴「何すんのよ、一夏! 一緒にあいつをボコボコにして吊るし上げるのよ!」

一夏「ダメだ、鈴。俺はいつだってフェアな勝負しか認められないんだ」

一夏「やるんだったら、模擬戦形式で1対1でレギュレーションに沿ってやってもらいたい……」

鈴「何言ってんのよ! 悔しくないの、あんなこと言われてさ」

ラウラ「ほう? 貴様、また逃げる気か? あの時はISエンジニアを盾にしたな」

一夏「…………何と言われようと、IS学園の生徒として規則には従ってもらうぞ」

                            ・・・・・・
一夏「頼む! これは俺だけじゃなくて、1年を監督している千冬姉のためでもあるんだ……」


両者「!」

鈴「し、しかたがないわね。中国代表候補生としての礼儀はしっかりとしておかないとね……」アセアセ

ラウラ「…………いいだろう。貴様と違って私は織斑教官の面子に泥を塗る面汚しではないからな」

一夏「わかってくれたか(さすがは千冬姉だな。凄い効き目だ)」

鈴「いいわ! 少し痛めつけるレベルを下げてあげる!」

ラウラ「フッ、ドイツ軍最強の私がこんな第3世代型もどきに遅れを取るわけがない」

一夏「模擬戦だからな……!」

鈴「わかってるわよ! あんたはそこで見てなさい!」

ラウラ「すぐに終わらせてやるから貴様は心の準備をしているといい」

一夏「そうか。それじゃ、カウントを始めてくれ」


3、2、1、スタート!


一夏「これでよかったのか…………?(鈴に勝ち目のない戦いを挑ませてしまったのに、これで妥協してよかったのか?)」

一夏「だが、俺には言葉が見つからなかった……(二人共、話を聞いてくれそうもなかった。落とし所が見つかってよかったとしか…………)」

一夏「難しいんだな、交渉ってやつは……(俺、思い上がっていたかもしれない)」

一夏「何も起きるなよ?(…………“プッチン”さんや“プロフェッサー”はいつもこんな感じに悩みながら言葉を紡いでいたのかな)」


――――――

鈴「喰らえええええ!」

ラウラ「無駄だ! この『シュヴァルツェア・レーゲン』の『停止結界』の前ではな!」

鈴「なっ!?」

――――――

一夏「やはりダメか……(しかし、間近で仮想敵の動きを見ることができるとは棚から牡丹餅というか何というか…………)」

一夏「さすがに、観客も集まってきたな……(頼むから穏やかに終わってくれ…………!)」

――――――

鈴「くぅ、ここまで相性が悪いなんて……!」

ラウラ「どうした? 先程までの勢いはどこへいった?」 ワイヤーブレード射出!

鈴「きゃっ!」ヒュルヒュル!

ラウラ「この程度の仕上がりで第3世代兵器とは笑わせる」

ラウラ「ふんっ!」

鈴「きゃああああああああああ!」

ドッゴーン!

鈴「くぅううう…………」

――――――

一夏「…………ここまでだ(本当に完封じゃないか! よく俺、こんなのと戦おうなんて思ったもんだ!)」

一夏「だけど――――――(『やれる』と思っている自分がいることに変わりない……」

一夏「――――――って、おい! 何をする気だ、ラウラ!?」

――――――


鈴「うぅ…………(首がし、絞まる…………)」

ラウラ「ふんっ! 『少し痛めつけるレベルを下げて』このザマか」ボカスカ

鈴「きゃあ……(シールドエネルギーが…………)」ピィピィピィ・・・

一夏「やめろ! これは模擬戦だろう! 勝負はついているぞ!(まずい! 人体への直接攻撃は絶対防御を発動させてシールドエネルギーが急速に減っていく!)」

一夏「(そうなれば、機体表面のシールドバリアーが実質的に無効化されて、ISの剛体化が失われる! このまま殴打を浴びせられたら機体が――――――!)」

ラウラ「フッ」ニヤリ

一夏「こ、このやろう…………(人の善意を何だと思っていやがる…………!)」ゴゴゴゴゴ

一夏「その手を放せええええええ!(こんな卑劣漢に温情を与える必要などもうない!)」

ラウラ「来たか! ようやくその気になったな?」

一夏「ううおおおおおおおおお!(――――――『零落白夜』発動!)」

ラウラ「やはりな。――――――感情的で直線的」

ラウラ「絵に描いたような愚か者だな――――――っ!?」

一夏「ここから出て行けええええええええええ!」

バリーン!

ラウラ「馬鹿な!? 『停止結界』が、破られた、だと…………?!(あの光の剣を水平に構えて突進してきたと思ったら――――――)」


一夏「…………消えろ、フーリガン!」ギラッ


ラウラ「!?」ゾクッ

一夏「予備パーツはいくつある?」

一夏「まあ、お前の都合なんてもう知らないけどな(スポーツを冒涜する者はこの場からいなくなれっ!)」

スパスパ、ズバッ!

ラウラ「馬鹿な…………!?(ワイヤーブレードはおろか、右肩ワイヤーブレード射出器とそれに接続されているレールカノンまでが斬られただと…………!?)」


一夏「どけ!」ドガッ!

ラウラ「な…………」ドサァ

鈴「い、一夏…………」

一夏「よかった。強制解除される前に何とかなったな(機体の損傷はあるだろうけど、まだ1週間ほどあるから修理は間に合うだろう)」

一夏「さ、早く修理に行こう。強制解除するほどの致命傷じゃなかったんだ」

一夏「大丈夫。一矢報いておいたから、今は養生してくれ」

鈴「で、でも…………」
        ・・・・・・
一夏「いいんだ。大切な幼馴染があろうことか世界で一番安全なスポーツで命を落としそうになったんだから」

一夏「ルールなんかよりもお前の命のほうが大切だ」

鈴「う、うん…………(大切な幼馴染、か…………)」フフッ

鈴「あ、――――――い、一夏!」

一夏「…………!(――――――背後に感! 残った武装からして、プラズマブレードか! 間に合うか――――――!?)」ピィピィピィ

ラウラ「よくも私の『シュヴァルツェア・レーゲン』に…………!」

一夏「くぅ(飛ぶか、振り向くか、――――――飛べえええええ!)」

ラウラ「遅い!」ブンッ

鈴「い、一夏ぁ!(って、――――――え!?)」

「――――――!」シュッ!
「――――――!」ブンッ


ガキーン!


千冬「――――――っ!」

ラウラ「――――――はっ、教官!?」

一夏「行っけええええええええ!」ヒュウウウウウウウン!
鈴「ちょっ、なんて加速――――――!」

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

千冬「やれ」

使丁「はいよ」シュタ!

ラウラ「なっ、貴様、いつの間に――――――あっ!?」グラッ

千冬「言ったはずだぞ、ラウラ?」

                      ・・・・・・・・
千冬「――――――『こいつは教員ではないが、私と同程度の戦力だから敬意を持って接するように』とな」


使丁「ほらよっと!」 片手で首根っこを掴んで地面にたたきつける!

ラウラ「ぐわっ!?」ドッゴーン!

使丁「この程度の体罰で済んでよかったと思え」

使丁「模擬戦をするのは構わないが、競技規定違反やスポーツ精神に悖る態度はいただけんな」


千冬「…………まったく何をやっているんだ」

千冬「月末のトーナメントまで残り1週間のこの時期に、こんな乱闘騒ぎを起こすとは…………」

使丁「彼がその気になっていたら首から上が飛んでいたぞ? それぐらいされても文句を言えないぐらいの卑劣な行為に及んだんだ」

使丁「わかっているのか」

ラウラ「…………何故なんです、織斑教官」ウルウル

千冬「………………」

ラウラ「答えてください……」

使丁「しかたない。ガキだと思って諦めるか。“プロフェッサー”の言った通りだったな」

使丁「これは強制送――――――」


一夏「待ってください!」


ラウラ「!?」

千冬「………‥何だ、織斑」

一夏「この乱闘騒ぎは俺のせいでもあるんです。ラウラだけに責任は負わせないでください」

一夏「…………俺、ラウラのISの装備をことごとく破壊してしまったので、このままだと月末の大会に参加できなくなってしまいます」

一夏「俺は、その…………、」
  ・・・・・・
一夏「あ、――――――この乱闘騒ぎにおいてはISの装備を破壊したということで、一番に罪が重いはずです」

使丁「…………一夏くん(ボーデヴィッヒ少佐殿は倫理的にそれ以上の行為に及んで――――――ああ、そういうことか!)」

使丁「」コクコク

一夏「!」パァ

千冬「それがお前のけじめの付け方か」

一夏「……はい。規則は絶対です」

千冬「…………わかった」

使丁「それがきみの選択ならばな」


千冬「織斑一夏、お前は今日から部屋で謹慎していろ」


一夏「はい」

使丁「謹慎期間はそうだな…………」チラッ

千冬「」コクリ

使丁「月末になったら謹慎は解いていいよ」

一夏「わかりました……」

スタスタ・・・・・・

ラウラ「???」

使丁「それじゃ、ボーデヴィッヒ少佐殿は、……そうだな、今回の被害者である凰 鈴音に謝罪とISの使用許可を一時的に凍結する」

使丁「それでいいかな、織斑先生」

千冬「ああ。凍結期間は――――――」





――――――それからの1週間


鈴「仇をとってくれたのは嬉しいけれど、どうしてあんたまで罰を受けなくちゃいけなかったのよ」

簪「しかも、自分の方から進んで受けるだなんて…………」

セシリア「そうですわ! トーナメントの参加は許していただけたようですけれども、これでは身体が鈍ってしまいますわ」

一夏「気にするなよ。規則は規則だからさ」
                     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「俺はラウラと同じようにそれを破った。規則や規律が有名無実化する無法地帯よりはずっといいさ」

シャル「確かに、そうだけどもさ…………」

一夏「それに、実際のラウラと『シュヴァルツェア・レーゲン』を間近で見ることができた上に、『AICC作戦』もほとんど上手くいったから大丈夫さ」

シャル「本当に、正面からボーデヴィッヒさんと戦うこと以外考えていないんだね……」

一夏「ああ。俺は千冬姉のようにはなれないと思っているからさ(――――――そう、何もかもが違い過ぎるからな)」

鈴「そ、そんなこと、……無いと思うわよ、多分(だって、現に一矢報いてくれたし……)」ドキドキ


千冬『1つのことを極めるほうが、お前には向いているのさ』

千冬『なにせ、“私の弟”だ』フフッ


使丁『俺は、一夏くんが“織斑一夏”として自分を見つめ直し、自分で感じ取った最良の鍛錬をしたほうがいいと思っている』

使丁『もちろん、千冬の戦い方を基本にして上達するのはかまわないけど、スポーツの世界も刻一刻と進化していることを忘れないでくれ』


副所長『お前は“織斑千冬”とは違うんだ。そして状況もその時とは全く異なるのだから、真似して勝てるほど甘くはないぞ』

副所長『だが、お前からは千冬とは違った才能を感じている。それを引き出して、千冬以上のIS乗りになってみせろ』


外交官『はっきり言って、俺が“織斑一夏”に求めていることは唯一つだ』

外交官『お前の世界の真実はお前だけのものだ。考えて、考えて、考え抜け!』


一夏「だから、俺は1つのことをひたすら追求していくことに決めたんだ」

簪「1つのことをひたすら…………」

一夏「そう。俺の『白式』は拡張領域がゼロの時代遅れの欠陥機だからさ、近づいて斬りつけることしかできない」

一夏「それに、今になって射撃武器の使い方なんて学んだところで付け焼き刃だろうからさ、」

一夏「そういうのは全部諦めて、剣1つでどうすれば勝てるのかを必死に考えたんだ」

シャル「その究極が『AICC作戦』なんだね」

簪「1対1最強の機体と格付けされている『シュヴァルツェア・レーゲン』を真っ向から打ち倒す…………」

一夏「そういうこと」

一夏「最初から無理と決めつけて逃げるのはどうかと思ってな」

一夏「機体の相性を乗り手の機転と努力と勢いで突破できればどんな困難にも立ち向かえるようになれるって、千冬姉は言っていた」

一夏「俺はそのことを信じて、やってみるだけだ」

一夏「幸い、『白式』の運用法が“ブリュンヒルデ”の『暮桜』と全く同じだから、何とかなるって」ニッコリ

一同「ホッ」


一夏「けど、思ったよりもまいったな……」

一夏「トイレの利用以外は外に出ちゃいけないからさ」

一夏「腹が減ったな…………意外ときつい」グゥウウウ・・・

一同「!」

一夏「食堂も利用できないからな…………ここはおとなしく寝て体力を温存させておくしかないか」

ガヤガヤーーーーーーーーーーーーーーー
鈴「だったら、私が差し入れに来てあげる!」ワクワク
セシリア「一夏さん! 私の料理を召し上がってくださりませんこと」キラキラ
簪「い、一緒に、食べよう……!」モジモジ
シャル「ぼ、僕なんかのでよければ、作ってあげるよ!」ドキドキ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーワーワー


一同「ム!?」


一夏「ごめん。一度に言われたから、全然聞き取れなかった……」

一夏「というか、いつの間に随分仲良くなったんだな、みんな」ニコッ

一夏「何というか、――――――見違えたよ」


鈴「そ、そうかな…………」テレテレ

セシリア「ま、まあまあ…………」キラキラ

簪「そんなに変われた、かな……?」モジモジ

シャル「きっとそうなったのも、一夏のおかげ、なんだからね!」ドキドキ


一夏「あ、ああ…………」

一夏「まあ、とにかく、シャルルにはより一層迷惑を掛けるだろうから、よろしくな?」

シャル「う、うん! ま、まかせてよ、一夏」ニッコリ

セシリア「私がいることもお忘れなく!」

鈴「そうそう! なんてったって幼馴染である私がいるんだからね」

簪「また、おにぎりと漬物、持ってくるね」

一夏「ありがとう、ありがとう…………!」


それから織斑一夏の部屋に差し入れが恐ろしいほど届けられたのは言うまでもない。




――――――織斑一夏の部屋の前に積まれている差し入れの山


ラウラ「…………」ジー

ラウラ「…………」スッ

ラウラ「…………ふ、ふんっ!」スタスタ・・・


使丁「…………」コツコツコツ

使丁「…………」スッ

使丁「…………」スタスタ・・・


千冬「…………」キョロキョロ

千冬「…………」ゴホン

千冬「…………」スッ

千冬「…………」スタスタ・・・

使丁「プククク・・・」プルプル
山田「…………」アセタラー

千冬「!?」カア

使丁「!!」ビクッ
山田「!!」ビクッ


千冬「――――――!」ダッ

使丁「――――――!」ダダッ
山田「――――――!」スッテンコロリン!

ガチャ

一夏「???」



――――――学年別トーナメント当日


一夏「へえ。しかし、凄いなこりゃ」

シャル「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

使丁「そして、1年には2ヶ月でどの程度かを見て、その将来性を占う場となるわけだ」

使丁「まあもちろん、専用機持ちが優勝となることが普通だ。むしろ、そうならないと代表候補生の立場がない」

一夏「ふうん。ご苦労なことだ」

シャル「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

一夏「まあな。宣言した手前、何としてでも勝つぞ」

一夏「――――――『AICC作戦』始動だ!」

使丁「うん。気合十分だな。適度の緊張感と冷静さを保っている。最高の状態だな」

一夏「はい。最強のISに対して、IS乗りに成り立ての俺が下克上してやるぜ!」

使丁「よしよし」

使丁「さて、そろそろお待ちかねの抽選結果の発表だ!」

使丁「まず、――――――『誰と戦う』のかではなく、――――――『誰と組む』のかが見所となっているぞ、今回は!」

シャル「そうですね。みんな、僕や一夏と組もうとしてペアを作ろうとしなかったからね」

パッ

シャル「へ!?」

一夏「うえっ!?」

使丁「これは、予想外すぎるぅ…………!」


1年Aブロック
参加枠:14ペア(シード枠:第1ペア、第14ペア)

――――――第1ブロック

第1ペア(シード枠):織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ


――――――――――――

――――――第2ブロック

第9ペア:凰 鈴音&更識 簪

第13ペア:セシリア・オルコット&シャルル・デュノア



使丁「これ、ちゃんと抽選された結果なんだろうか? 専用機持ちが全てペアを作るとか…………Aブロックが実質的な決勝トーナメントじゃないか」

シャル「えと、これはなかなか…………」

一夏「 そ ん な 馬 鹿 な !? 」ガビーン!

使丁「ああ…………」

一夏「なんでよりによって一番組んじゃいけない相手と組むことになってるんだよ!?」
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「勝ち上がる手間をどれだけ掛けても絶対に戦うことができないじゃないか!」


一夏「最悪の組み合わせだ…………」orz


シャル「一夏……」

使丁「…………」


――――――第1回戦終了後


山田「意外な組み合わせとなってしまいましたね」

千冬「ああ。よりによって、専用機持ち同士でペアを組んだか」

千冬「そして、織斑とラウラの二人が――――――、な」

山田「他の専用機持ちの子も非常に優秀なんですけど、織斑くんとボーデヴィッヒさんのペアが優勝候補の筆頭ではないでしょうか?」

山田「二人共、注目の的ですから」

千冬「…………果たして素直に大会に興じてくれるのだろうか」





――――――第2回戦、第1試合


一夏「…………確認するぞ、ラウラ」

ラウラ「…………何だ?」

一夏「相手は専用機持ち以外は全て『打鉄』だ」

一夏「そして見たところ相手は、小競り合いを制して勝つぐらいがやっとってところだ」

一夏「特に苦戦することもなく勝てるだろうな」

ラウラ「当然だな」

一夏「そこでだ」

ラウラ「?」

一夏「第2回戦が終われば、午前の部は終わり、そこから昼食の時間となる」

一夏「だが、俺たちの場合は最初に試合を行うから、時間が大いに余る」

ラウラ「!」


一夏「…………第6アリーナで待つ」


一夏「そういうことでいいな?」


ラウラ「フッ」

ラウラ「まさか貴様の方から掟破りをするとはな」

ラウラ「そこまで私との決着に拘る――――――その心意気に、少しは見直してやろう」

ラウラ「だが、それで私が貴様を再起不能にしたらどうするつもりだ?」

一夏「どちらかが再起不能になれば、相方が試合放棄のソロのハンデマッチに移行する」

一夏「まあ、お前の実力ならソロでも勝っていけるだろうけどさ」

一夏「俺だってこんなやり方はしたくはなかったが、お前とやりあうために養ってきた英気を無駄にしたくない」

ラウラ「どこまでも感情的なのだな」

一夏「お前こそな。はるばるドイツからやってきて未練がましく“織斑教官”に縋る――――――」

ラウラ「!」イラッ


両者「………………」ゴゴゴゴゴ


一夏「それじゃ、出撃の準備だ。抜かるなよ?」

ラウラ「貴様こそ!」


タッタッタッタッタ・・・


使丁「………………」

使丁「やれやれ、確かにこれは『ガキの相手は疲れるな』」

使丁「ここは少しばかり成就させてから止めさせるか」

使丁「さて、『打鉄』用の予備の太刀でも準備しておくか(まあ、シールドバリアーに守られてないから使ったらぶっ壊れるだろうけど…………)」


「あれ、もしかしてお前は…………」


使丁「ん?」

使丁「ああ! そういうお前は――――――」



――――――1年Aブロック第2回戦 1戦目


一夏「はああああああああああああ!」ブン

対戦相手1「きゃあああああ!」

ラウラ「終わりだ!」バーン!

対戦相手2「うわああああああ!」



アナウンス「試合終了! 勝者――――――」



山田「予想通りの展開でしたね」

千冬「…………そうだな」

山田「織斑先生?」

千冬「いや、あいつらが素直に試合をしてくれていれば、私から言うことはない」

山田「こうなると、第3回戦で当たることになる第2ブロックの専用機ペアのどちらかが勝つかが気になりますね」

千冬「そのどちらか勝ったペアが第4回戦:Aブロック決勝でこの2人と戦うことになるわけだが…………」

山田「織斑先生としては、楯無さんとデュノアくんのペアと、オルコットさん・凰さんのペアのどちらが勝つと思います?」

千冬「随分と性格の違いがはっきりしている組み合わせだな」

千冬「前者は全距離万能のタッグで、後者は得意レンジが正反対の役割がはっきりしているタッグだな」

千冬「そして、搭乗者の性格から見ても、前者が慎重なのに対して、後者は攻撃的な立ち回りだ」

千冬「言うなれば、盾と矛の対決だな」

山田「なるほど……」

千冬「基本的にどのドライバーも実力差はほとんどないと言っていいな」

千冬「誰が味方で敵になるかわからない状況に陥ったせいで、タッグマッチの訓練をまじめにできた生徒は少ないだろう」

千冬「そういう意味で全員が、タッグマッチという対戦環境では初心者だ」

山田「そうなると、勝敗を分けるのは――――――」

千冬「そうだな。勝つとしたら――――――」






――――――しばらくして、第6アリーナ


一夏「よし。“プロフェッサー”がくれたデータ通りだ」

一夏「これで管制室の制御はいただいた。遮断シールド展開っと」ピッ

ラウラ「…………まさかここまでやるとはな、あの男」


副所長『これで撃てないだろう?』

副所長『うん。やっぱり外してくれた』ニヤリ

副所長『軍人ならはっきり言えよ!! そんな曖昧な受け答えしかできねえのか!!』


ラウラ「………………」

一夏「このアリーナは高速戦闘専用で学園のシンボルの中央タワーのすぐ隣だが、」

一夏「邪魔が入らずに戦える空間が十分にあれば何だっていいだろう?」

ラウラ「ふん。なら、あの中央タワーが貴様の墓標だ」

一夏「それじゃ、5分後に開戦だ。いいな?」

ラウラ「ああ。この手で貴様を――――――」

一夏「こっちこそ、邪魔の入らないこの場所でスポーツマンシップに則ってその性根を叩き直してやる!」

両者「フン!」プイッ



一夏「来い、『白式』!」

ラウラ「排除を開始するぞ、『シュヴァルツェア・レーゲン』!」




一夏「さて、状況を確認するぞ?」

一夏「第3回戦開始まで2時間以上は余裕がある」

一夏「時間を気にすることなく、心置きなく戦えるというわけだ」

ラウラ「ふん。10分だけあれば十分だったのだがな」

一夏「同感だ。俺たちの戦いはすぐに決着がつくはずだ」

一夏「お前の機体に1対1最強の『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』があるように、」

一夏「こちらには『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・キャンセラー』がある!」

ラウラ「…………!」

一夏「こいつの斬れ味は身を以って理解しているだろう?」


一夏が見せつけるように剣を振り抜くと、ラウラの表情に緊張が走った。無理もないことである。

なぜなら、『白式』の情報に関しては一切公開されておらず、国際IS委員会に提出されていた開発当初のデータしか資料となるものがなかったのだ。

しかもファーストシフトした結果、セカンドシフトしてから発生するのが普通とされる単一仕様能力に目覚め、
『AIC』を斬り裂くような超絶威力のエネルギーブレードが展開されるようになっていたのだから、警戒せざるを得ない。

また、ドライバーとの「最適化」を重ねてセカンドシフトに成功しても、
ISとドライバーの相性が最高値になった時に発生するとされる単一仕様能力を獲得できた例が少ない昨今の事情を考えても、
『白式』という機体がただの接近格闘機だと思うわけにはいかなくなった。

更には、カタログデータ以上の性能を発揮しているのだ!

ラウラとしては、単一仕様能力以外のISが持つ特殊能力を活かしきる目的で造られた第3世代型ISなのに、
使える武器が剣1つという第1世代レベルの出来損ないと見ていただけに、その異様さは得体の知れない不気味さを醸し出していた。


――――――ISドライバー歴わずか3ヶ月未満でここまで機体を使いこなしている“あの人の弟”が動かしているということもあって。


一夏「さて、おしゃべりが過ぎたな」

一夏「競技規定に則り、正々堂々と戦おう」

ラウラ「さあ来い!」


3、2、1、パーン!


両者「 叩 き の め す ! 」




一夏「うおおおおおおおおおおおお!(――――――単一仕様能力『零落白夜』発動!)」ヒュウウウウウウウン!

ラウラ「ふんっ!(やはり来たか! 『AIC』――――――)」

一夏「対策はできてるんだよ! 喰らえっ!」ブン!

ラウラ「なにっ!?(――――――剣を投げつけた、だと!?)」


試合が始まって早々、いきなりラウラは度肝を抜かされてしまった。

以前の経験から言って、『白式』の唯一の得物である雪片弐型から発している光の剣は間違いなくエネルギー兵器なので、『AIC』で止めるのはほぼ不可能。
       ・・・・・・・・・・          ・・・・・・・・・・・
それ故に、直接剣を『AIC』で止めるのではなく、剣を握る手を『AIC』で固定することによって、攻撃動作を停止させて攻撃を無効化することが考えられた。

しかし、試合開始早々、絶大な威力を誇る謎のエネルギーブレードで先制攻撃を仕掛けてくる――――――それ以外手段がないと決めつけていたラウラは、
『AIC』で直接止めるのが難しいエネルギーブレードを投げつけられて、一夏が狙った先制攻撃を許してしまうのである。

つまり、『AIC』によって『零落白夜』の強みが殺されるのなら、殺されないようにすればいい――――――それが織斑一夏の結論だったのである。





ラウラ「くっ」ガキーン!

一夏「やるじゃないか(瞬時に腕部プラズマブレードを展開して弾き飛ばしたか。あのまま『AIC』を使ってくれていれば一合で勝ってたんだがな……)」

ラウラ「……『いい攻撃だった』と、ここは褒めてやろう」アセタラー

ラウラ「だが、たった一つの得物を手放してどうなるのかは考えてなかったのか? やはり、所詮は浅知恵だったな」


ラウラはしばらく経験することがなかった冷や汗を掻くものの、すぐにいつもの冷酷な眼差しを一夏に向けた。

だが、一夏の表情は一切揺るがなかった。まるで、そうなるのも予定のうちと言わんばかりに――――――!


一夏「へえ」(槍投げのモーション)

ラウラ「…………?(剣も無いのに、さっきのように投げるモーション――――――?)」

一夏「だが、攻撃は止まない」

一夏「(瞬時に量子武装を回収して更に『零落白夜』をも継続させる「超高速切替」の猛追を受けてもらう!)」ブン!

ラウラ「なにっ!?」

一夏「ここからが始まりだあああああああ!」ブン!


ラウラは再び冷や汗を流すことになった。いや、流し続けることになる!

なぜなら、一度投げて失ったはずの雪片弐型の光の剣が再び『白式』の手に展開され、それが物凄い速さの投擲フォームで投げつけられてきたのだ。

それも一度や二度ではない。疲れ知らずのように、あるいはバッティングマシーンのようにひたすら光の剣をペースを崩すことなく延々と投げてくるのだ。

そして、とにかく距離と対象物と投擲物の大きさの関係で、ラウラは一人の手によって放たれる光のシャワーを受けきれずにジリジリと追い詰められていった。

咄嗟に後退しようとすれば、一夏の『白式』はその分だけ距離を詰めてくるし、隙あらば本命の斬撃を叩き込もうとする気配すら見せている。

とにかく、付かず離れずの絶妙な間合いを維持して光のシャワーを浴びせてくるのだ。

ラウラは、未だかつてこれほどの敵に会ったことがなく、どう対処すべきなのかを過酷な流れ作業の中で必死に頭を働かせることになった。



一夏「どうだ! これが『AICC』だああああああ!(「高速切替」を超えた「超高速切替」の威力だああああああああ!)」ブン!

ラウラ「くそっ!」カンッ!

ラウラ「(格闘戦をする気がないのか、こいつは…………!?)」ヒュン!

ラウラ「(いや、こちらが隙を見せたら一気に間合いを詰めて斬りかかってくることは間違いない……!)」サッ

ラウラ「(唯一の得物の太刀をここまで――――――)」ヒュン!

ラウラ「(馬鹿な! この『シュヴァルツェア・レーゲン』が格闘機相手に防戦一方だと…………!?)」カンッ!


アリーナはすでに雪片弐型の単一仕様能力『零落白夜』の光の剣が地面に突き刺さってできた穴ぼこがいくつもできていた。

『白式』は常にラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』よりも高度をとって光の剣を投げつけており、投擲フォームをとりながらPICでスライド移動するのだ。

また、一夏は直接『零落白夜』の光の剣を『シュヴァルツェア・レーゲン』本体に中てるようなことはせずに、敢えて本体の上下左右に狙いを付けて投げていた。

これは機体周囲に発生するシールドバリアーを斬り裂いて十分にダメージを与えられる他に、相手の動きを制限する効果もあった。

そして何よりも、シールドバリアーやその他様々なエネルギーを無効化するこの攻撃を直撃させてしまったら、相手を死に至らしめる可能性があったからであった。

この辺が織斑一夏の甘さでもあるのだが、競技規定に最大限則ったやり方を思いつけただけでも、いかに『AICC』にまじめに取り組んでいたかがわかることだろう。

事実、『AICC』は対『シュヴァルツェア・レーゲン』及びラウラ・ボーデヴィッヒ対策としては覿面の効果を発揮しており、
相手の動きを停止させる『AIC』を持つ『シュヴァルツェア・レーゲン』の動きを逆に停止させているかのように追い詰めたのである。


ちなみに、エネルギー兵器を全て無効化する『零落白夜』をプラズマブレードで防げるわけがない。

実際にはラウラは『零落白夜』の本質を知らないために、とりあえず直撃さえ回避すればいいと妥協し、
手刀で直撃を受けないように払いのけて、なるべく無駄のない動きをしているつもりなのだが、
『シュヴァルツェア・レーゲン』本体の腕部が知らぬ間にどんどん切り刻まれていった。


ISは通常兵器を寄せ付けない強度のシールドバリアーに守られていて、一撃必殺というものは常識的に考えてありえない。


だからこそ、ラウラは『AICC』の本当の恐怖を感じ取れず、対応が遅れたのだ。

これが『零落白夜』の脅威であり、いかに規格外でインチキで、
使う人間次第でIS界において神にも悪魔になれる能力か、おわかりいただけただろう。


一夏「動きが鈍いぞ、ラウラ!(フッ、無理もないぜ!)」ブン!

一夏「(『零落白夜』の光の剣を『AIC』で止めるには、柄の部分を中心に全体の慣性を光の部分に触れずにゼロにしなくてはならない)」

一夏「(あんまり物理とかは得意じゃないけど、――――――“プロフェッサー”曰く、)」

一夏「(『『AIC』は停止させたいものを包み込んで停止できるタオルのようなもので、『零落白夜』はそれをいとも容易く斬り裂く刃物――――――!』)」

一夏「(つまり、『零落白夜』の光の剣さえ振れれば、『AIC』は俺と『白式』の敵じゃなかったというわけだ!)」

一夏「(しかし、相手も馬鹿じゃないから、『零落白夜』に対して正面からタオルを広げて受け止めることは『AIC』では不可能なことにすぐに思い至る)」

一夏「(刃物に触れないように、今度は刃物を振り回す腕や身体のほうを包み込もうとするだろう。むしろ、得物より相手の身体そのものの動きを止めるのが普通)」

一夏「(だから近づいてしまっては、どうしても『AIC』のエネルギー力場に機体が捕まって、せっかくの武器の相性が吹っ飛んでしまう)」


一夏「(そこで編み出されたのが、――――――『零落白夜』の槍投げ戦法だった)」


一夏「(いや、――――――太刀投げ、か)」

――――――――――――

―――――――――

―――――

――


――――――“ブリュンヒルデ”との秘密の特訓その2


使丁「――――――!」

一夏「はあああああああああああ!」
千冬「はあああああああああああ!」


ガキーン!


一夏「…………」

千冬「…………」

一夏「…………」

千冬「…………フッ」

一夏「や、やった…………」

千冬「これでひとまずは十分だろう」

一夏「ありがとうございました!」

使丁「やったな!」

一夏「はい!」

千冬「…………やれやれだな」

使丁「これで接近戦は大丈夫だろう」

一夏「はい」

使丁「だが……、確かに『零落白夜』が通ればどんなISだろうと一撃で倒せるだろう――――――しかし、『AIC』が相手では心許ないな」

一夏「あ…………」

使丁「すまない。せっかく鍛錬を積んだのにこんなことを言って」

一夏「…………事実です」

一夏「接近戦しか能がないんじゃ、簡単に対策されちゃう…………」

一夏「けど、『白式』には拡張領域がないから、武器を増やすことすらできない…………」

使丁「困ったもんだな、それは」

一夏「けど、これで剣の間合いは掴めました! 俺の立ち回りさえ良くすれば、『AIC』ごと斬り裂いて勝利を掴み取れます」

使丁「まあ極論を言えば、懐まで潜り込んで『零落白夜』を叩き込めればそれでいいのだからな」

一夏「後は、それを少しでも容易にするためのとびっきりの『何か』があれば完璧なはず…………」

使丁「幸い、時間もまだあることだし、周囲を見渡してアイデアを探してみることだ」

一夏「はい」

一夏「それでは、稽古ありがとうございました!」

千冬「ああ」フフッ



――――――それから、数日後のある練習風景


一夏「ううん」

一夏「『AICC作戦』を確実なものにする戦法が思いつかないな」

簪「一夏」

一夏「あ、簪さん。簪さんも来たんだ」

簪「さっきはありがとう」

一夏「ああ。俺で良ければ、何だって言ってくれ。力になるからさ」ニコッ

簪「う、うん。ありがとう……」モジモジ

一夏「そういえば、簪さんって接近戦では向かうところ敵なしだよな。側面に展開される荷電粒子砲もあって」

一夏「副所長も言っていたけど、(機体だけの)相性としては『打鉄弐式』は『シュヴァルツェア・レーゲン』を上回るんだってな」

一夏「簪さんなら地力をつけていけば、あのラウラに勝つことだって容易だよな」

簪「…………そんなことはないと思うよ?」

一夏「どうして?」

簪「だって、『シュヴァルツェア・レーゲン』の『AIC』で砲口を向ける前に固定されたらどうしようもなくなるし」

一夏「ああ……、そっか」

一夏「『AIC』は第3世代兵器――――――イメージ・インターフェイスを利用して、イメージした物体の慣性を操作する能力がある」

一夏「その性質上、固体に対しては極めて有効だが、液体や気体あるいは群体に対しては効果は薄い」

一夏「(ただし、『AIC』は慣性を制御する力があるので、空間圧兵器などの純粋な質量を持たない兵器では力場によって無効化される)」

一夏「エネルギー兵器などは細かく見れば微小な粒子の集合体なので、これを『AIC』で止めるのならばその1つ1つをまとめて認識しないといけない」

一夏「だから、武器としての相性では荷電粒子砲を持つ『打鉄弐式』や『BT兵器』主体の『ブルー・ティアーズ』が有利なんだけどな…………」

一夏「う~む」

一夏「――――――って、違う違う! 俺はラウラに勝つことに専心しているんだ」

一夏「考えろ! ――――――剣1つしか許されていない『白式』でどう勝利の方程式に結びつけるのかを」

簪「…………ねえ」

一夏「あ……、ごめん。何だい?」

簪「久々に私と『打鉄弐式』とやってみない?」
                ・・・・・・・・・・・・・・・・・  
一夏「ああ、いいよ。手の内なんて最初からずっと居てくれていた簪さんにはバレバレだし、隠す必要はないよね」

簪「あ…………」

一夏「それで、どこまでやる?」

簪「えっと、格闘戦だけで。荷電粒子砲は使わないよ」

一夏「わかった」





カン! カン! ガキーン!


一夏「やっぱり、簪さんって凄いよな…………代表候補生だ」ハアハア

簪「そういうい、いち……織斑くんだって、凄く強くなっているよ……」ハアハア

一夏「行くぞおおおおおおおお!」ヒュウウウウウウウン!

簪「来てええええええ!」ヒュウウウウウウウン!


ガキーン!


簪「あ…………(――――――『夢現』が弾き飛ばされた)」

一夏「やった……!(初めて力で打ち勝った…………!)」

一夏「俺の勝ちだ――――――」

簪「まだだよ、一夏!」

一夏「え」

簪「えい!」グイッ

一夏「なにっ!?(弾き飛ばした薙刀を見えない何かで手繰り寄せたのか?!)」

一夏「あっ(見惚れてる場合じゃない!)」ガタッ

簪「隙ありいいいいいい!」ブン!

一夏「うわああああああああ!(上から! 両手で太刀を水平に――――――!)」スッ


ガキーン!


一夏「くぅううううううううう!」

簪「はああああああああああああ!」

両者「………………」

一夏「…………フゥ」

簪「ホッ」

一夏「あ」


――――――これだ! 唯一の得物を即座に回収することができれば!


一夏「見えたぞ! ――――――『AICC作戦』の真髄が!」

一夏「ありがとう、簪さん!」ギュッ

簪「へ、へ?!」カア

一夏「やってやるぜ!(どこまで仕上げられるかはわからないけれど、まだまだ時間はある!)」

一夏「(用務員さんにぜひ協力を仰ごう! 槍投げならぬ太刀投げの練習とそれを即座に回収して再展開する「高速切替」の練習もしておかないと!)」


――

―――――

―――――――――

――――――――――――


一夏「(それから俺は、“ゴールドマン”と一緒に今度は陸上競技場で基礎体力作りをする傍ら、いろんなモノの投げ方を学び、独自の太刀投げの型を模索した)」ブン!

一夏「(そして、療養中の“プロフェッサー”にデータを送ってプログラム化して安定して投げ続けられるモーションパターンを実装させた)」ブン!

一夏「(だから、少なくとも近距離の相手には確実に狙った場所に投げられるようになっている!)」ブン!

一夏「(後は、俺がしっかりと「超高速切替」をこなして、パターンを続けられるかだ)」ブン!

一夏「(こっちも『零落白夜』でエネルギーが減り続けているけど、俺の予想ではそれ以上に――――――)」ブン!


ラウラ「くぅううううう!(あのエネルギーブレードの回収と再投擲の間隔が徐々に速くなっているのか…………違う! 距離を詰められている!)」ガキーン!

ラウラ「(…………マズイ。防戦一方で、直撃こそないがあのエネルギーブレードが掠り続けるせいでエネルギーがどんどん削られていく!)」サッ

ラウラ「(そして、こちらも迎撃のためにプラズマブレードを展開しているから、エネルギーの消耗が激しい……!)」

ラウラ「(ワイヤーブレードを同時に使ってもいいだろうが、あの展開の速さなら簡単に対処されてしまうだろう…………!)」

ラウラ「(ひたすらエネルギーブレードを高速で投げ続けるバカの一つ覚えな戦法に、ヨーロッパ最強の『シュヴァルツェア・レーゲン』が負ける!?)」

ラウラ「(――――――打つ手なし、だと!? 認めない、認められるものか!)」


一夏「…………!」ブン!

一夏「(動きが鈍くなっている? 押しても引いてもままならない状況に心の中で徐々に負けを認めつつあるのか、ラウラ?)」ブン!

一夏「(そして、エネルギー消耗も後が無いぐらいまでいったってわけか)」ブン!

一夏「(なら、ここまで来れば最後の一押しで“ラウラ・ボーデヴィッヒ”は崩れる!)」ブン!

一夏「(――――――止めを刺してやる)」ブン!



一夏「…………行くぞ、ラウラ!(――――――投げつけた太刀よりも速く!)」ブン!

一夏「(これが千冬姉から受け継いだ伝家の宝刀!)」

一夏「イグニッションブーストだあああああああああああああ!」

ラウラ「くっ(いつまで続くのだ…………)」

ラウラ「あ……(いつの間に『白式』がこんなにも近く――――――)」

ラウラ「ああああああああああああああああ!?」

ラウラ「――――――って! 愚かな!(わざわざ自分から網にかかりにくるとは…………あっ)」


ラウラは一瞬で失念していた。

――――――『AIC』で抑えることができない光の剣の存在を! それと並行して『白式』が突撃してくるのだ!

『AIC』を使って『白式』の動きを封じれば第3世代兵器の性質上足を止めなくてはならず、投げられたあの光の剣が間違いなく刺さってしまう!

かと言って、『AIC』を使わずに回避に徹しようとすれば、とんでもない加速で視界いっぱいに突っ込んでくる『白式』を止められない!


ラウラ「あ、ああああああああ!(マズイ! あれの直撃を受けては――――――、だが、今目の前には『白式』が――――――)」

一夏「…………遅かったな(ブレーキを踏む気なんてハナっからない!)」ニヤリ

一夏「行っけええええええええええ!」ヒュウウウウウウウン!

ゴツーン!

ラウラ「ぐわあああああああああああああ!」
一夏「くうううううううううううう!」ヒュウウウウウウウン!

ドゴーン!

ラウラ「ぐわはっ……」パラパラ・・・

一夏「…………どうだ、究極の2択を迫られた気分は? どっちにしろ「超高速切替」でこの通りだけどな!」ジャキ

ラウラ「くっ」

一夏「はあ!」ブン!

ラウラ「くっそおおおおおおおおお!」


    ・・・・・・・・
副所長『普通じゃ勝てない』

副所長『――――――がね?』
    ・・・・・・・・・・・・
副所長『普通じゃないなら勝てるよ』



――――――これが“プロフェッサー”が示してくれた研鑽の成果だ!



使丁「凄い展開だな。どういった攻略法なのかは予想できていたけど、ここまでいけるとはな…………」

担当官「これが、“ブリュンヒルデの弟”でもあり、“千冬の弟”でもある“世界で唯一ISを扱える男性”の戦いか……」

担当官「見事だな。それしか言葉が見つからない」

使丁「一応言っておくけど、―――――― 一夏は俺が育てた」エッヘン

担当官「なるほど。だが、それだけじゃないように思えるな」

使丁「ああ。“プロフェッサー”も関わっているからな」

担当官「やっぱり。お前の影響より断然“プロフェッサー”の影響の方が強いな。お前と千冬の二人ではこんなやり方 思いつかん」

使丁「まあな。これまでの健闘ぶりは全て“プロフェッサー”が示してくれた作戦によるものだったし、それは否定しないよ」

使丁「ところで、なんでお前がここに来たんだ?」

使丁「というか、お前の職業って何? 確か国家公務員だったよな? 俺はここにはコネで入った口だけどさ」

担当官「実は、私が面倒を見ている子をこの学園に入れるために来た」

担当官「その次いでに、“世界で唯一ISを動かせる男性”織斑一夏を見にね」

使丁「…………?」

担当官「わからなくたっていい。理解することをお前には求めていない。そういう仕事に就いている」

使丁「そうなんだ。まあその場合は、“世界最強の用務員”である俺がしっかり守ってやるよ」

担当官「心強いな。その時は頼む」


パチパチパチ・・・・・・


両者「!」


政府高官「いやはや素晴らしい!」ニコニコ

使丁「えと、誰だ?」

担当官「…………政府のお偉方だ。またの名を“俗物”だ」ヒソヒソ

使丁「お前、…………相変わらずだな」ヒソヒソ

担当官「どうしたんです? こんなところまで来て」

政府高官「我が国が誇る専用機持ちの第2回戦はもう終わったからな」

担当官「…………『我が国が誇る』ねえ(今年の代表候補生の更識 簪の専用機の完成を後回しにするように指示していたくせに……!)」ボソッ

政府高官「それで、織斑一夏くんに是非とも挨拶をしておこうと思ってな」

使丁「ああ! どっかで見たことある顔だな」ヒソヒソ

担当官「図々しさと自己顕示欲の塊だからな。メディア露出は大物政治家ほどではないが多いはずだ」ヒソヒソ

政府高官「彼も初戦で快勝した後はどうせ暇だろう? この空き時間を利用して会っておくのが賢いと思ってな」

政府高官「その彼を探していたら、きみの姿を見かけてな? それでだ」

担当官「…………気持ち悪いって言ったらありゃしない」ヒソヒソ

使丁「……そうかい。苦労してるんだな」ヒソヒソ

政府高官「それじゃ、見事にドイツの最新鋭の第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』を打ち破った彼の健闘を讃えようではないか」



「うぅわあああああああああああああああああああああ!」



一同「!?」ビクッ

政府高官「な、何だ!? 何の光――――――!?」

使丁「ちぃ! 何事かは知らないが――――――」ダッ(打鉄用の太刀を手に取る)

政府高官「おわっ!? それってIS用の――――――」

担当官「貸してもらうぞ」ガシッ(同じように、打鉄用の太刀を軽々と持って駆けつける)」

政府高官「は…………え?」



ラウラ「うわああああああああああああああああああああ!」


一夏「ラウラ!?」

使丁「何が起きた、織斑一夏!」

一夏「あ、用務員さん! とどめを刺そうとしたら、こんな感じにスパークして――――――って誰です、隣の人?(太刀を軽々と持っているよ、この人も!)」

担当官「あ、私は――――――」

使丁「――――――“奇跡のクラス”の一人だ」

一夏「なるほど!」

使丁「こいつは“グッチ”って呼ばれていたからそう呼んでやれ」

担当官「…………まあいいだろう、“千冬の弟”(――――――いや、あの子にとってそれ以上の存在!)」ジー

一夏「?」

担当官「いったい何が起きているというのだ? たちまち機体がドライバーを呑み込んでメタモルフォーゼしていく…………」

使丁「シールドエネルギーの残量は?」

一夏「『零落白夜』の一撃を叩き込むので精一杯なぐらいしか残ってません」

使丁「まいったな。こんな非常事態になるんだったら、剣だけじゃなくてエネルギーパックを持ってくればよかった」

担当官「二人共! ――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』が!」

使丁「メタモルフォーゼが終わったのか。しかし、この装備はいったい…………」

使丁「なんだ、あれは…………ISのようだが」

一夏「え…………あれって、まさか――――――」


――――――千冬姉なのか!?


使丁「なに!?」

担当官「それじゃこれは……、千冬のISといえば、――――――『暮桜』だ。それに擬態しているというのか」

使丁「確かに、見慣れた顔付きに身体つきだ。見間違えるはずがない」

一夏「くっそ、何だよこれ! ふざけるなよ! そんなに千冬姉に成りたかったっていうのか!」ワナワナ

使丁「…………だとしてもこれはいったい?」



結論:あのラウラってクソ生意気な小娘の機体に、この禁止されたシステムが搭載されている可能性が大!


一夏「あ、これがもしかして、――――――『VTシステム』ってやつなのか?」

使丁「…………VTシステム? 何だそれは? “プロフェッサー”が何か言ったのか?」

一夏「そんなことをラウラを調べていた“プロフェッサー”が言っていましたけど、詳しいことは何も…………(それで追放できるってことしか…………)」

担当官「――――――VTシステムだと!?」

使丁「知っているのか?」

担当官「その名の由来しかわからないが、確かアラスカ条約で禁止されている技術だ」


――――――ヴァルキリー・トレース・システム。


担当官「『モンド・グロッソ』部門優勝者“ヴァルキリー”をトレースするってことらしいのだが…………」

一夏「――――――『トレースする』って、何だよ!?」

担当官「わからない。私はIS技術者じゃないからな」

担当官「だが、『トレースする』ってことの意味を体現したようなものがそこにあるのではないか」

一夏「…………!」


ラウラ?「――――――」


使丁「この場合、千冬は総合部門の優勝者だから“ブリュンヒルデ”をトレースしているわけか」

使丁「まあ、あの子がトレースしたいドライバーと言えば、千冬しかいないだろうからな。当然と言えば当然か」

担当官「あまり目立たないけど、格闘部門も制覇しているから“ヴァルキリー”なのは間違いない」


一夏「それで、何だって言うんです、これが?」


ラウラ?「――――――」


使丁「見たところ、姿形は真似てもサイズは余剰分だけ拡大しているのか。そして、メタモルフォーゼした機体のカラーにも影響を受けているようだな」

担当官「だが、このままの状態にしておくわけにはいかないだろう」

担当官「呼びかけてみろ」

一夏「わかりました」

一夏「ラウラ! 聴こえているか! 返事をしろ!」

ラウラ?「――――――」

一夏「ダメだ」

使丁「それよりも、敵意がないように思えるが……」

担当官「こちらが何もしなければ相手も何もしてこない防衛システムが働いているのか?」

担当官「いや、VTシステムが“ヴァルキリー”を完全にトレースするというのなら、千冬の行動・思考パターンも再現されているということなのか?」

一夏「それが本当なら、千冬姉の戦いは“守るため”のものなのか」

使丁「そうだろうな。少なくとも、お前のことを何が何でも守り通そうとしていたからな」
                       ・・・・・・・・・・
使丁「暴れ回ることが趣味じゃなくてよかったな。少佐殿とは正反対だな――――――あ」

一夏「けど、これじゃ何も進まない。そもそもラウラはどうなっているんだ!?」

一夏「ISの中に取り込まれたようだけど、呼吸とか大丈夫なのか?」

使丁「!」

担当官「確かに! 呼吸できているのか、あれは? どこからどう見ても酸素供給ができているように思えないが…………」

使丁「そうだ! それ以上にマズイことがある!」

一夏「?」

使丁「ISは脳波コントロールするものだ。それを強制的に他者の思考パターンで動かすとなれば――――――」

一夏「!」

担当官「――――――自我が塗り潰される危険性があるのか!」

使丁「そして、“ヴァルキリー”としての思考しか残らないことになるから、人間としては完全に廃人となるのか…………酸欠も考えると」

一夏「なんだって! それじゃ、助けないと!」

使丁「待て! 早まるな!」ガシッ

一夏「…………!」

担当官「あれもISとしての機能があるのなら、シールドエネルギーを空にすれば解除されるはずだが…………」


――――――相手は“ブリュンヒルデ”だ。


一同「…………」アセタラー


一夏「けど、こうなったのも俺の責任だ。俺のせいなんだ…………俺が、やる!」

担当官「いや、ここは私が――――――」

使丁「なあ、一夏くん」

一夏「え……(なんだ、“ゴールドマン”がクールダウンしている?)」

使丁「一夏くんは『AICC』のために、千冬から“ブリュンヒルデ”の戦い方を学んだな」

使丁「そして、その仕上げに織斑千冬の居合術を物にした(まあ、手加減したレベルではあるんだけど)」

一夏「はい! だから、俺が――――――違う! 全然違う!(そうだ。わざわざ俺が出張る必要は全くない。だって、“ゴールドマン”がいるし……)」

一夏「(けど、これは――――――!)」


一夏「 俺 が や り た い か ら や る ん だ ! 」


使丁「気合充分じゃないか」

担当官「……そういうことか、“マス男”」フッ

使丁「わかった。やってみろ」

一夏「!」

使丁「お前が仕損じても、俺たち二人が何とかする」

使丁「だから、お前はお前としてお前の全力を出しきれ! 今がその時だ!」

担当官「見せてもらおうか、“千冬の弟”」


――――――世界への挑戦、その第一歩だ!


一夏「……わかりました(――――――『世界への挑戦、その第一歩』、か)」

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「では、行って参ります」キリッ


スタスタスタ・・・




使丁「…………落ち着いたようだな」

担当官「ああ。『人を救う』とか大層な理由なんて必要ない。気負うことはない」

担当官「ただ子供は大人に守られ、守られながらもその背中を見続けていればいい」

担当官「ただの子供が激情に駆られながらも『誰かを守る』ことを自らに義務付けて自らを縛り上げるのは傲慢なことじゃないか」

担当官「――――――大人の役目を奪うな」

担当官「そうは思わないか」

使丁「………………お前らしいな」

担当官「ところで、剣の心得はあるのか?」

使丁「無い。力任せに振り回すだけだ。槍投げは彼の訓練に付き合ってやってみたが」

使丁「それよりも、男子高校剣道優勝者としての栄光に陰りはないよな?」

担当官「その心配はない。私はずっと剣道を続けてきた。一人の娘の剣の行末を見届ける義務もあってな」

使丁「?」

担当官「さて、――――――あ、勝ったな」

使丁「なに?!」



一夏「はあっ!」ブン!


ズバン!


ラウラ?「!!!!…………    」


ラウラ「アア・・・・・・」

一夏「ラウラ!」ギュッ


担当官「見事な剣の間合いだ。素人なら空振りするか中身ごと切り捨てていたことだろう」

使丁「こうして見ると、確かに小学校の時は剣道は強かったというのは満更嘘でもないようだな」

担当官「――――――“千冬の弟”だぞ?」
   ・・・・・・・・・・・・・・
使丁「その一言だけで人を決めつけるのは良くないことだが、そう言われて納得している俺がいるのも事実だ」

使丁「(けど、もうそろそろ、“千冬の弟”として見るのは止めるべきだよな。――――――反省)」

担当官「さて、いいものが見られたことだし、彼女を急いで医務室に連れて行かないとな」

担当官「後始末は頼んだぞ、用務員さん?」ポン

使丁「あははは……、どうしようか、この始末…………」


一夏「用務員さん、えと“グッチ”さん!」(ラウラをおんぶしている)


一夏「ありがとうございました!」

使丁「よくやったな」キリッ

担当官「ああ。見せてもらったぞ、お前の剣を」

一夏「それじゃ、俺はラウラを医務室まで運んでいきます」

担当官「私も付き添おう(そういえば、あの俗物はどうした? 余計なことをしていなければいいのだが――――――)」

ラウラ「…………?」トローン

使丁「目を開けている必要はない。今はゆっくりおやすみなさい」ナデナデ

ラウラ「ウ、ウン・・・・・・」スヤー

使丁「さあ、行きなさい。ここは私が後片付けする(イヤだー! 人を呼びに行くのが凄く気不味い!)」


ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウン!


一同「!」


担当官「…………『ラファール・リヴァイヴ』」アセタラー

使丁「…………教師部隊か」

一夏「おい、何だって言うんだ!」

担当官「あの俗物っ!」ボソッ


政府高官「ラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴様と貴様の祖国ドイツはアラスカ条約の精神を貶めた!」


政府高官「よって、IS学園を管轄する日本政府の義務として貴様の身柄を拘束する!」

一夏「ちょっと待ってくれ! いきなり出てきて、あなたは何なんだ!」

政府高官「おお、きみが織斑一夏くんか」

政府高官「ご苦労であった。ラウラ・ボーデヴィッヒはこちらで預かるから、さあ早くこちらに」

担当官「この下衆が! したり顔でしゃしゃり出るな!」ボソッ

一夏「どういうことなんだ? ラウラはどうなるんだ!?」

ラウラ「」

担当官「いいか、“千冬の弟”。あいつは『国のために』と言って忠勤者を気取っている政治屋だ。しかもろくな実績を残さずに天下りしたようなやつだ」ヒソヒソ

担当官「あいつは今回のVTシステムをネタに、『シュヴァルツェア・レーゲン』を接収しようって考えているようだ」ヒソヒソ

一夏「!」

担当官「そして、それによる功績でとある大物政治家からの覚えを良くしてもらおうってな。必死なんだよ」ヒソヒソ

一夏「けど、日本政府にはIS学園で起きたことについて報告する義務が課せられているんでしょう?」

担当官「まあな。だが、忘れてはいないか?」

担当官「――――――IS学園特記事項」

・・・・・・・・・・
本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「…………そうだった」
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
担当官「だから、渡さなくていい権利がIS学園の生徒であるきみにはある。私やこいつにはない。――――――お前の意思次第だ」

一夏「!」ゴクリ




政府高官「どうした! さあ、早く!」


一夏「確認させてくれ!」

政府高官「何だね、確認したいこととは?」

一夏「これは学園長からの正式な許可があってのことなのか?」

政府高官「ぬぅ」

一夏「それが確認されないようなら、IS学園特記事項に従い、あなたの言うことには従わない。従う義務はない」ビシッ

政府高官「こ、このぉ…………」プルプル

使丁「そうだぜ。ここは特殊国立高等学校:IS学園だ」

使丁「日本政府の仕事はIS学園で起こったことを調査し、世界に対して報告・説明することだけであって、それ以上のことは他国同様に許されていない」

政府高官「き、貴様ら…………」プルプルプルプル・・・

担当官「そういうことだ。最終的な判断は学園に任せられている。私やあなたが決めることではない」

政府高官「くぅ…………!!」ムカムカムカムカ

担当官「今日の所はお引取りください。そうでないと――――――、」


担当官「 私 の 仕 事 が 滞 り ま す の で 」


政府高官「あ」パッ

政府高官「うむ。そうであったな」キリッ

政府高官「いやはや、何やら離れで怪しいことをしていないか心配になって、先生方をお呼びしたのだが、何事もなかったようで何よりだ」ニコニコ

政府高官「それでは、私はこれにて。昼食を摂ろうかね。わはははははは……」ニコニコ


スタスタスタ・・・


一同「………………」

一夏「ホッ」


一夏「助かりました……」

担当官「正しいことをしたまでだ。誇るほどのことではない」

担当官「それよりも、毅然としていて立派だったよ」ニコッ

一夏「ははは、ありがとうございます」

使丁「おーい! 先生方! ここは閉鎖するぞ! 手伝ってくれ!」

使丁「私は、学校長と織斑先生に事の一部始終を報告するからー!」



一夏「ラウラ」

ラウラ「」

一夏「俺は今回のように、本当にいろんな人に教え導かれ守られながら生きているよ」

一夏「俺もそうすることができるその一人になれるように、強くなろうと思っているんだ」

一夏「お前とのわだかまりを捨てたわけじゃない。きっちり謝らせようとは思っている」

一夏「けど、お前がさっきのような理不尽な目に遭うってわかった瞬間に、――――――『お前のことを守ろう』って思えたから」

一夏「『旅は道連れ』とも言うし、せっかく知り合えた仲なんだ。もっとこう、気持ちのいい関係になりたい」

一夏「なんたって、“千冬姉”っていう偉大な人を通じて知り合えたんだからさ」

一夏「それに、今この学園には千冬姉の偉大な同級生たちも顔を出していることだし、そういう人たちともふれあってみないか?」


一夏「ラウラはこれからどうしたい?」



――――――こんな“奇跡”の一時は他にはないのだから。





――――――その夜


チャプン

一夏「いい湯だな~」

使丁「ああ、いい湯だな」

一夏「そういえば、今日は帰らないんですか?」

使丁「報告書を出すのに時間掛かっちゃったからな。今日は宿直室を使わせてもらうよ」

使丁「それに、今日開いたばかりの大浴場の感動をかつてのルームメイトと分ち合おうと思ってな」

一夏「…………そうですね」ハハハ・・・

使丁「………………」

使丁「大丈夫だ。千冬は自分の教え子を絶対に見捨てたりはしない」

使丁「何かあったって、――――――『学園の1つや2つ守ってやる』なんて豪語しているんだ。何とかなるさ」

一夏「……それもそうですね」

使丁「それよりも、だ」

一夏「?」

使丁「“ラウラ・ボーデヴィッヒ”の問題は千冬が何とかしてくれるだろう」

使丁「けど、――――――“シャルル・デュノア”の今後についてはまだ“答え”は出てないんじゃないか?」

一夏「…………はい」

使丁「結果として、お前は二人を学園から追放する気はないんだろう?」

一夏「はい」

使丁「だが、いつまでも“男のまま”っていうのもどうかと思うぞ?」

使丁「バレるまでが長引けばそれだけ裏切られた感が大きくなるし、今は出ていないようだが誰かが本気で恋い慕う可能性だってある」

一夏「…………うん。シャルルは俺とは違って誰からも愛される性格だからな」

一夏「俺なんて、万年誰かに慕われたことなんてないからさ」ハハハ・・・

使丁「…………本気で言っているのか、それは」ボソッ

一夏「え」

使丁「いや、何でもない。シャルル・デュノアの身の振り方について少し考えてくれればな」

使丁「(教えたところで無意味だよな。なんてったって、…………言いたくはないが、――――――“千冬の弟”だもん)」

使丁「政治だとか経済だとか、そういった大人のゴタゴタは関係ない。そんなのは根回しや言い訳をつけようでどうとでもなる」

使丁「だが、『本人が将来どう生きたいのか』をはっきりさせないと、手助けする側としても気を揉む」

一夏「そうですね。言われてみれば、凄く深刻な問題だったんですね……」

使丁「まあ、今すぐに『道を示せ』とは言わない。まだ時間があるし、本人の意思次第だからな、こればかりは」ニコッ

一夏「はい」



一夏「けど、今日のことは本当に反省しています」


一夏「俺のせいで、1年のトーナメントは中止になっちゃったから」

一夏「もう私闘はやりません…………今後一切」ハア
――――――

一夏「(結果として、俺とラウラは初戦突破だけした後は棄権したので、会場は大いに混乱した)」

一夏「(それはまるで、第2回『モンド・グロッソ』――――――『あの日』の千冬姉の時を彷彿させた)」

一夏「(そして、俺に何事があったのか心配になった会場のみんなが一斉に俺の捜索に動き出してパニックとなり、棄権者・怪我人が続出――――――!)」

一夏「(こうして今年の1年のトーナメントはめちゃくちゃになって終わってしまった…………)」

――――――
一夏「なんてことをしてしまったんだ…………(こうなったのも全部、俺がラウラとの対決に拘った結果なんだ…………)」

使丁「ああ、そうだったな(俺が後片付けしている間にそんなことになっていたとはな…………)」

使丁「すまないな。棄権を許してしまって…………(あ、――――――と言うことは、だ)」

使丁「(ぐわはっ! ハワイ旅行の旅券その他諸々が無駄になるってことじゃあないかあああああああああああああ!)」

使丁「(もったないねえええええええええ!)」

使丁「(こうなったら誰でもいいから来てくれえええええええ!)」

使丁「それじゃ、俺は先に上がるよ。また明日会おう」

一夏「はい。また明日」ニコッ


ガラララ・・・・・・

使丁「さて、これからどうしたものかなー」

使丁「む」


シャル「あ」バサッ・・・(全裸)


シャル「うぅうう…………」プルプルプルプル・・・

使丁「…………やれやれ」

使丁「どうした? 物珍しそうな顔をして」ニコッ

使丁「早く入ってきなよ。一夏くんに話があるんだろう?」

シャル「!」

使丁「大丈夫。ここはIS学園だ。きみの選択を全力で支持するよ」

使丁「それじゃまた明日」


――――――シャルロット・デュノア。


シャル「あ、はい! 用務員さんもまた明日!」

ガラララ・・・・・・

シャル「お、お邪魔します……」

一夏「な、のあ!?」バシャーン!


使丁「ふふふ、――――――これが若さか」ニヤニヤ














ピピピ・・・

「やあ、今日は彼にちゃんと会うことができたよ」

「そうだな、“千冬の弟”って感じがありありと伝わった」

「まあ子供っぽいところはあるが、それは当然だ。そこまで言う必要はないだろう?」フフッ

「けど、いいコーチに巡り会えたおかげで、実力はかなりのものだ。『シュヴァルツェア・レーゲン』を一応、正々堂々と剣1つで倒したからな」

「それじゃ、編入の手続きはできたから、今度こそ“ありのままの自分”として学園生活を楽しんできてくれ」


――――――篠ノ之 箒。



――――――翌日


セシリア「……一夏さん」

鈴「昨日は本当に何をやったのよ?」


鈴「また謹慎だなんて」


一夏「いや、これは俺なりのケジメの付け方なんだ」

一夏「昨日は考えなしに棄権なんてしたから、結果として大会が中止になっただろう?」

簪「そ、それは確かにそうだけど…………」

一夏「今まで俺はスポーツマンを気取ってたけど、実際はラウラを倒すことしか頭になくて、…………何も見えていなかった」

一夏「…………この2ヶ月で自分の立場と軽率さというものがようやく理解できたよ」ハア

一夏「“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”に比べたらちっぽけかもしれないけれど、」

一夏「俺は『~である責任』だとか『~としての責任』ってやつを身を以って知ったんだ」

セシリア「一夏さん……」

一夏「だから、これから“世界で唯一ISを扱える男性”として、一人のアスリートとして、どう振舞っていくべきなのかをよく考えておこうと思って……」

一夏「同じようなことを、シャルルやラウラは考えていると思うよ」

簪「そうなんだ」

鈴「わかったわ(なんかどんどん逞しくなっているわね、一夏…………)」

鈴「けど、ラウラはまだ入院しているけれど、シャルルはどうしたのよ?」

一夏「ああ、シャルルか」


――――――“シャルル・デュノア”はもう帰ってこないと思うよ。


一同「!?」

セシリア「あの……、シャルルさんは国からのお呼び出しで少しの間だけ帰ったって話では…………」

簪「そ、そうだよ。何かあったの…………?」

鈴「そうよ。せっかく感じのいい子が来てくれたのに…………」

一夏「家庭の事情なんだ。これ以上は言えない」

一同「(…………家庭の事情)」

鈴「そう、そうなんだ。それなら、しかたないわよね(あれからもう1年以上になるけれど…………)」

セシリア「はい。そうですわね……(どうして私の両親はあの日の時ばかりは一緒にだったのか……)」

簪「そうだね(私もずっとお姉ちゃんのことが…………)」


一夏「なあ、鈴」

鈴「あ、何?」

一夏「今度、みんなでピクニックとか行ってみないか?」

鈴「どうしたのよ、急に……(そりゃ一夏から誘われたら嬉しいけど…………どうしてそこで私を呼んだのかしら?)」

一夏「『あんなことになるなんて思わなかった』ってことが立て続けに起こってさ…………」


織斑一夏は振り返る。――――――“死”とは無縁だった、世界で一番安全なスポーツの世界で起こりかけた数々のことを。


最初は、クラス対抗戦での無人機襲撃事件であった。

ISごと吹き飛ばすようなレーザーがセシリアを襲い、次にピットに逃げ込むセシリアを見送った後に今度は自分自身が光の奔流に呑み込まれそうになり、

最後には、“ゴールドマン”が超人的な戦闘力で時間を稼いでくれたが、自由落下+メガトンプレスのダブルコンボで押し潰されてしまい、

あの時は本当に、世界で一番に尊敬している男性の死というものを体験させられた。

“死”や“別れ”については、漠然とだが少しばかり“ゴールドマン”との1ヶ月の同居生活の中で意識させられていたが、

『少なくとも今ではない』とばかり思い込んでいただけに、とてつもなく鈍感だった一夏でさえ空前絶後の悲劇的興奮に心が高鳴ってしまっていた。

『昨日までは居てくれた人が急にいなくなる』という恐怖に打ち震え、“ゴールドマン”が死んでしまったという事実から目を逸らしたくてしかたがなかった。

実際は九死に一生を得て今はピンピンしているが、それは超人的な肉体を持つ“ゴールドマン”だったから生存・全快したのであって、

常人ならば圧死、あるいは良くて重度の後遺症を残すぐらい容易に理解させられる絶望の光景を見せられてしまったのだ。――――――ただの15歳の少年が。

あの時ほど心を抉られた体験は無かった。そして、『あの日』の罪悪感とは違ったものを幼気な少年の心に深く刻み込んだのである。


続いて、学年別トーナメントまでの恐怖体験は、だいたいラウラのせいなのだが、

これまで緻密な戦術戦略と適切な叱咤激励で支えてくれた“プロフェッサー”が、威嚇射撃とは言え、ラウラにレールカノンで撃たれたのだ。

その時、この世の正気というものを疑うほどに怒り狂った――――――いや、あまりにも非常識な出来事に怒りよりも驚きでいっぱいいっぱいになっていた。

また、ラウラのことを調べていたところ、研究所を爆破され、救助に駆けつけていなかったら間違いなく死んでいたという事実に、後からまた大粒の汗を流した。

そして、――――――簪さんの涙、遺品になりかけた自分への贈り物。


だが、今回のざわめきはまだまだ収まる気配がなかった。

ルームメイトのシャルル・デュノアが産業スパイ、宿敵のラウラ・ボーデヴィッヒがアラスカ条約違反者として追放すべきというお声を頂いてしまったからだ。

しかも、そうすることが自分や祖国のためになると信頼できる人から太鼓判を押されてしまったのだから、余計に聞き流せなかった。

だが、ただの子供でしかない一夏、誰かに守られて教え導かれて日々成長している一夏、誰かといがみ合うよりは仲良くしていたいと願う一夏、

そんな当たり前のような少年に、この選択は社会の現実というものを痛感させるほどの難問となった。

幸いなことに、シャルルに対しては元々好意的であった上に、データを盗んだこともしかたのないことと捉えていたので、まだ健全な選択をできた。

しかし、ラウラに対しては今でも複雑な感情は拭えなかった。

力を信奉し、傍若無人に振舞い、ただ己の感情のままに他者を攻撃し、生身の人間に対してもレールカノンで威嚇射撃をしたような輩を、どうして許せるのか。

“織斑千冬の教え子”でもなかったら間違いなく情け容赦ない何かをしてしまったに違いない。その点では、同族嫌悪と自己嫌悪に陥っていた。

最終的に『AICC』によって、ラウラの中の最強伝説を打倒し、勝者と敗者の図式を改め、これからのラウラの改心を期待した矢先、

VTシステムの発動――――――そんなものを積んでまで“織斑千冬”になりきろうとしていた彼女の性根に我慢に我慢を重ねてできた堰が切れそうになった。




だが、幸いなことに織斑一夏には、優しく力強く支えてくれる頼れる大人たちが常に側にいてくれていた。


だからあの時も、純粋に自分の実力がどの程度まで通じるのかを試すまたとない機会として、あの勝負を手に汗握るものとして楽しんでしまえた。

そして、全力を出し切り、解放されたラウラのあどけない顔を見たら、なぜだか今まで抱え込んでいた負の感情が全て吹っ飛んでいた。

“ブリュンヒルデ”に勝ったという喜びもはしゃぎ回りたいほどに大きかったのだが、やっぱり頼れる大人たちの応援が全てだったと思っている。

だから、そんな頼れる大人たちに憧れ、自分もそうなることを背中で眠っている少女に囁きながら誓うのであった。

しかし、その雰囲気をぶち壊して現れた存在についても忘れることはできない。


この世は清濁併せ呑んで様々なものが同時に存在し、自分もまた清濁併せ呑み、時として清く、時として濁った存在になることをこの2ヶ月で強く感じたのである。








一夏「ようやく千冬姉が勧めていたことの意味が理解できるようになってきたんだ」


――――――過去に誰と一緒にいたのかを思い出せるようにしろ。


一夏「そんなようなことを言われ続けて、定期的に写真だとか日記だとかするようになったけど、」

一夏「せっかく例年よりも専用機持ちが多いことだしさ、――――――他に思い出を作っておきたいなって思ったんだ」

一夏「学校行事だけじゃなくてさ、プライベートな関係でも思い出を作りたいっていうか…………」

一夏「…………ダメかな?」

鈴「!」
セシリア「!」
簪「!」

一同「………………」

一夏「ああ……、ごめん。考え無しだった。忘れてくれ――――――」

鈴「一夏」

セシリア「YESですわ、一夏さん」

簪「私も、私たちも、同じ気持ちだよ?」

一夏「…………そうか、ありがとう」

一夏「そうだ、そういえば、鈴」

一夏「鈴の酢豚も美味いけど、親父さんの料理も美味いもんな。また食べたいな、今度はみんなと一緒に」

鈴「あ、その……、お店はしないんだ」

一夏「え、なんで?」

鈴「私の両親、――――――離婚しちゃったから」

鈴「国に帰ることになったのもそのせいなんだよね…………」

一夏「あ…………」

セシリア「………………」

簪「………………」

鈴「気にしないで。家庭の事情だし、私は寂しくなんかないから」


鈴「それよりもさ。一夏が言ってくれように、思い出を作ろう」

鈴「ここだけの関係で終わるっていうのも寂しいじゃない。せっかく3年間同じ寮で暮らす仲になったんだしさ」

セシリア「そ、そうですわね。私も本国での務めがありますけれども、みなさんとの思い出を作っていきたいものですわ」

簪「うん! 一夏、こんな私だけどこれからもよろしくね」

一夏「ありがとう」

簪「それと、一夏?」

一夏「?」

簪「わ、私のこと……、――――――“簪”でいい!」ドクンドクン

一夏「呼び捨てで呼んでもらいたいってこと?」

簪「う、うん。そのほうが性に合ってるかなって」

一夏「わかった、“簪”」

簪「あ、いい」テレテレ

鈴「…………むむ」

一夏「それじゃ、腹が減ったな」

一夏「今日はそうだな。――――――鈴にお願いしていいかな?」

鈴「!」

鈴「ま、任せておきなさいよ、一夏!」

セシリア「わ、私も――――――!」

一夏「あ、いや、…………セシリアさんはティータイムとか専門にしてもらえると嬉しいな(やっぱり朝食以外はメシマズ世界王者だったよ!)」アセダラダラ

セシリア「まあ! そういうことでしたら」ニコッ

簪「それじゃ、普通通りに登校できるようになったら、またおにぎり作ってくるからね」

一夏「ああ、本当にありがとう、みんな。楽しみにしているよ」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー


こうして、2人の転校生の登場から端を発する波乱の日々もこれにて収束することになった。

これでしばらくは落ち着いた日々を送れるようになったものだと、誰もが思っていた。

しかし、二度目の謹慎が解けて再び登校できるようになった俺を待っていたのは、俺の選択が招いた新たなドタバタな日々の始まりであった…………




一夏「…………は?」アセダラダラ


シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん、これからよろしくお願いします」(女子制服)

シャル「織斑一夏くんに頼って預けておきたいものがあるんだ」


ラウラ「お、お前に渡したいものあってだな……」モジモジ

ラウラ「さあ、受け取れ――――――」


一夏「えと、何これ…………開けるよ?」パカッ


――――――結婚指輪。


一夏「」

一同「」

シャル「」テレテレ

ラウラ「」ドヤァ

一夏「はあああああああああああああああああ!?」


シャル「これからずっとよろしくね?」

ラウラ「お前は“私の嫁”にする! 決定事項だ、異論は認めん!」


――――――阿鼻叫喚、再び!



一夏「何じゃあこりゃあああああああああああああああああああ!?」

使丁「さすがは“千冬の弟”…………モテるね~」ヤレヤレ

使丁「ま、“プッチン”の外交工作が上手くいったようだし、」

使丁「“プロフェッサー”も職場を失ったけど無事に退院できたことだし、」

使丁「結果として、失うものは無かったんだから、」

使丁「万々歳だね、一夏くん!」ニヤニヤ

一夏「見てないで助けてくださいよ、用務員さあああああああああああん!」

使丁「大丈夫。IS学園は基本的に無法地帯だから、3年間は学園の規則に抵触しないなら自由に結婚生活(自称)も満喫できるぞ」

一夏「他人事だと思ってえええ!」

使丁「さて、これからの関係、卒業してからの関係をどう将来設計していくのかは、お前次第だ」


使丁「別れが人を変えるように、ある1つの出会いが人生を左右することもある」


使丁「これからどうなっていくのか楽しみだな、千冬」

千冬「………………」ピクピク

一夏「あ! 千冬姉、これはそんなんじゃないから――――――」

千冬「学園では“織斑先生”と呼べと言っているだろうが、馬鹿共があああああああ!」

一夏「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!」


一夏「せっかく、いい感じに締められると思ったのに、あんまりだぁ…………」


チャンチャン


ここまでの状況:第3話


織斑一夏
頼れる大人との出会いと別れによって、だいぶ自分や自分を取り巻く環境がいかなるものかを真剣に意識し始めている。
また、いろんな意味でチートな大人の指導もあって、ようやく『シュヴァルツェア・レーゲン』を単独で撃破できる型破りな戦術を編み出すまでに至る。
――――――――――――――――――
以前に描いた一夏たちとはまるで方向性や趣が違う展開になるように心がけた。
『シュヴァルツェア・レーゲン』の撃破方法に関しても、

Sランク 『人間』の一夏は、
正面からラウラの言動を論破し、『人間』としての格の違いを見せつけて畏怖させている。
本戦では、あらかじめラウラの本質を見抜いて無難に2対1の有利な状況に持ち込んで、仲間の武器を使って一矢報いるという粋な戦法で勝った。
VTシステムに対しては、少々不安があったが流れるように反撃の型にはめて落ち着いて返り討ちにした。

Aランク 落とし胤の一夏は、
今作の一夏同様に戦えば『AIC』を斬り裂いて倒せるぐらいに最初から実力差があるのだが、
IS指導している立場であることと決定的な敗北感を与えるために、自分が指導した量産機のタッグで『シュヴァルツェア・レーゲン』を完封した。
VTシステムに対しては、相手が振り抜くよりも速く、逆袈裟斬りで斬り捨てた。

Cランク ザンネンな一夏は、
大会前にわざとラウラを挑発して暴力行為に及ばせ、それを織斑千冬に咎めさせ、それを庇うことによって、戦う前に戦意や敵意をある程度喪失させている。
またそれ以前にラウラに襲撃されていたものの、運を味方につけて相手の装備を破壊し、悠々と逃走し、黒星を与えているので精神面では終始圧倒していた。
本戦では、完全に自分を囮にして攻撃は相方任せという奇天烈な立ち回りかつ『零落白夜』を効率的に活かして相手の装備を破壊し、ゲームを完全に支配した。
VTシステムに対しては、まさしく死闘――――――痛ましくて見るに耐えないものとなった。
――――――――――――――――――

あくまでも自分が“アスリート”あるいは“子供”であることを留意し、素直に経験者や知恵者の言葉に耳を貸しているので成長も順調である。

だが、なんといっても入学して最初の1週目をしっかりとこなせたことが、この織斑一夏にとっての最大の宝であり、その将来性を素直に期待できることだろう。

偉大な大人たちの影響力で、非常に身近に感じられる親しみやすさと頼りがいのある存在に仕上がったというわけである。

残念ながら、夢に向かって邁進する青春を送るタイプの少年なので、恋愛に現抜かすようなことは頭にない朴念仁であることに変わりない。

しかし、そうなると一夏よりも周りの方が…………それでも抑えられてはいるのだが。

今作では恋愛描写も過去作とは大幅に異なっており、他とは違った雰囲気の恋模様が展開されている。

また、スポーツものらしく、仲間との感情を共有しあう描写が多いはず。


『あの日』――――――第2回『モンド・グロッソ』決勝戦の裏で起こった織斑一夏誘拐事件を境に、

過去作では、生き方や価値観そのものが根本から変わり、実質的に織斑一夏とは全く違う別キャラのようなIFの一夏を描いたが、

今作“Re-Born”では、偉大な出会いと偉大な別れを経て、(比較的にだが)少しずつ心境や価値観が変化していくように描いてみた。

しっかりと変化を受け止めて、自分なりに考えを出して、自分が取った行動に対する反省をしている様を念入りに描いたつもりである。

アスリートの一夏の特徴
・「超高速切替」+ 太刀投げ +『零落白夜』=『AICC』
「高速切替」と呼ばれる高等技術とは、
大容量拡張領域(バススロット)を使って、通常1~2秒かかる量子構成をほとんど一瞬で、それも照準を合わせるのと同時に行う

「超高速切替」とは、
投げた武器を素早く量子解除して回収し、再び手許に量子展開させて間断なく投げ続けられるレベルまで正確に量子化コントロールを精密操作する
という「高速切替」とは求められるものがまるで違うものとなっている。

ISの量子化武装の性質を利用した投擲武器の回収は珍しくはないが、それを相手の動きを封じるレベルにまで至らしめているのは、
ひとえに『白式』の単一仕様能力『零落白夜』のバリアー無効化能力の脅威があるから成り立つ戦法であり、他のISでやったところで効果はない。
この戦法によって、中距離でも割りと戦えるようになったので、対『AIC』のみならず、中距離までならどんなISでも太刀投げと体当たりの二択を迫れる。
剣があるのに体当たりも普通に使う辺りが、他とは違うところであり、どちらにしろ近づいて『零落白夜』で一撃必殺することに変わりない。
ただし、『零落白夜』の特性上本体に当てればパイロットを直接殺しかねないので、機体のバリアー発生範囲を掠めるように狙いを付けている。


・アスリート
成長期を迎えていることもあって、一夏の身体能力の向上はアスリートとしてのきっちりとした生活管理によってメキメキと効果を上げている。
1学期が終わる頃には、体力やスポーツ実技はぶっちぎりで学年首位を狙える→女性しかいないこともあるのだが、超人の仲間入りも近い?
また、漠然と“世界最強の姉”である千冬に憧れ続けていたことから、彼女と同等以上の実力者である“ゴールドマン”や“プロフェッサー”に素直に師事し、
世界トップクラスの人間の指導によって、弛んだ運動能力だけでなく、知性や人間性も磨かれていっている。
年季の違い・月日の積み重ねで、彼ら“奇跡のクラス”の境地に達する日は遥か遠いが、彼らとは違った栄光の道を進むことは想像に難くない。


・織斑千冬以外の目標がいる
というか、これまでの過去作もいずれも人との出会いによって、織斑一夏の為人が変わっていたので、そこまで大仰に言うほどのものではないか。
しかし、特に彼自身に明確な目的というものがあるわけではなく、今は流れに従ってアスリートとして学園生活を貫こうとしているに過ぎない。
だが、まだ将来を考えるという時期にいるわけでもない上、どうなるかも誰にもわからないので、それはそれでいいのだ。


第4話 正しいこと、善いこと
Who is Wrong?

――――――6月の半ば頃


一夏「え?」

鈴「だーかーらー!」

鈴「転校生が来るって話じゃない!」

一夏「そうだったのか? 俺は何も聞いてないぞ」

鈴「1組の机が増えていたじゃない」

一夏「…………そうだったんだ」

鈴「…………まあ、いいわ」

一夏「……何がだよ」

鈴「…………自分で考えなさいよ、朴念仁!」フン

一夏「???」



一夏「――――――っていうことがありまして」

使丁「う~む。どうしたものかね……(本当に姉弟揃って鈍感だからな……)」

一夏「最近の鈴の不機嫌さをどうにかしたいんですけど…………」

一夏「ちょっと前までは本当にいい感じに付き合えていたんだけどな……」

使丁「たぶんそれは、環境の変化を目の当たりにして不機嫌になっているんだと思うよ」

一夏「え?」

使丁「たぶん鈴ちゃんは、中学時代と同じふうに幼馴染と接することができるものだと期待していたのに、それが裏切られつつあるからじゃないのか?」

一夏「???」

使丁「つまりだな……(この鈍感さはどうしようもないな…………かと言って、教えるわけにもいかないしな)」

使丁「(教えたところで実感がないとなれば、彼にとってそういうものとして認知されてしまう可能性があるからな)」

使丁「(それに、俺としては校内恋愛は反対だからな。どう考えても風紀上よろしくない)」

使丁「(だが、仲を取り持つことや人生の先輩としての指導なら――――――)」


使丁「鈴ちゃんは、一夏くんに自分のことが忘れられてしまうのが怖くて、あんな態度になっているのだと思うよ」

一夏「ええ!? 俺が鈴を忘れる? そんなこと――――――」

使丁「一夏くん。人間関係っていうのは結構理不尽さに満ち溢れているものなんだよ」

使丁「自分では最善を尽くしているつもりでも、相手に自分の誠意が伝わるとは限らないし、場合によっては自分には理解できない理由で機嫌を損ねる」

使丁「たとえば、シャルロットとラウラのように――――――」

一夏「あ…………」


2度目の謹慎が解けて俺を待っていたのは、シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒからの実質的な求婚であった。

シャルロット・デュノアは俺が謹慎している間にどうやら“プッチン”さんの手引きでデュノアと縁を切ったらしく、

以前に俺と二人きりの大浴場で語った通り、“ありのままの自分”で学園に残ることを決めた。

そのため、形式として一度シャルル・デュノアは退学し、シャルロット・デュノアとして新たに編入してきた形でIS学園に残ったのである。

それで、預けられたのは、――――――母親の形見である結婚指輪!


一方、宿敵同士であったラウラ・ボーデヴィッヒもどうやら俺の目論見通りに、決定的な敗北を経て自分の考えを改めるようになったようだ。

どうやら千冬姉から軍人である自分を捨てて学生らしい生き方をするように言われたらしく、また原隊の副官からの助言もあって、

その結果が、――――――“俺の嫁”である!

あれから誰でもない“ラウラ・ボーデヴィッヒ”の自分探しの旅が始まり、相部屋となったシャルロットに一人の女の子の生き方を教わりつつ、

“ドイツの冷水”と敬遠されていたイメージを一発で払拭するような素っ頓狂な人格を形成しつつある。

だが、これまでの傲慢で他者を寄せ付けない雰囲気はなくなり、今ではクラスのみんなとも話す姿が見られるようになってきた。それは喜ばしいことだ。

けど! 6月になって初めて会った時に押し付けられたものは、――――――ドイツが誇るクリスチャンバウアーの結婚指輪!



一夏「………………」

使丁「たぶん、鈴ちゃんは『寂しい』って心の中で声を上げているんじゃないかな」

使丁「そりゃあ、専用機持ちとして毎日訓練に追われていてゆっくりとおしゃべりしたり、遊んだりできない状況だからさ」

使丁「しかし、最初の頃はそうなるとは互いに思わなかったはずだ」

一夏「そう、ですね……」

使丁「だからだよ。IS学園っていう全寮制の小さな生活圏の中で暮らしているのに、まるで『近くて遠い存在』のように互いの距離感が拡がっていく…………」

使丁「でも、あの子が素直に『助けて』と言えると思えるかい?」

一夏「……想像できないな」

使丁「だろ。俺も想像できない」

使丁「けど、このまま放置していたらきっと二人の関係は冷えきることになる」

一夏「そ、そんなこと――――――!」

使丁「だから、気づいた一夏くんが気づかせてあげるんだ」

一夏「!」

一夏「わかりました、“ゴールドマン”! やってみます」

使丁「ああ。やってこい」




一夏「あ、いたいた」

鈴「あ、一夏…………」

鈴「今日はどうしたのよ。シャルロットやラウラと一緒じゃないの?」プイッ

一夏「いつも一緒にいたいってわけじゃない」

一夏「俺だって、たまには鈴の顔だって見たいし、話をしたいんだ」

鈴「ふーん」

鈴「じゃあ、一夏はあの二人のことをどう思っているわけ?」

一夏「え」

鈴「満更悪くないって思ってるんでしょう?」

一夏「そりゃあ、産業スパイや俺の命を執拗に狙うおっかない軍人だった頃よりずっといいに決まってる」

一夏「それに、専用機持ち同士、仲良くできたら最高じゃないか」

鈴「そうじゃないのよ、そうじゃ…………あ」

鈴「じゃあ、一夏は二人から指輪をもらったけど、結婚したいって思っているの! どうなのよ!」

一夏「!」


両者「………………」


鈴「ごめん。せっかく一夏が私に気を遣ってくれたのに…………」

一夏「いや、俺も軽率だったとは思ってる」

一夏「けど、俺はこの歳で結婚なんて考えてないし、第一まだ結婚できる年齢にもなってないし、結婚を考える時期を迎えたってわけじゃない」

一夏「俺は、ただ単に友人から大切なモノを預かっているだけで、受け取った覚えはないぞ」

鈴「けど、ここは実質的に無法地帯なのよ? 形ばかりの結婚生活だってできるもんよ」

一夏「それは…………そうじゃない、そうじゃないんだ!」ガシッ

鈴「ちょっと痛いわよ……」

一夏「それじゃ、こう言えば機嫌を直してくれるか?」

鈴「?」


一夏「俺が鈴に話しかけるのに所帯持ちであることが障害になるって言うのなら、俺は結婚なんてしない!」


鈴「!!!?」


鈴「いやあの、そこまでは…………」アセアセ

一夏「結婚して友達が離れていくんだったら、俺はそんなものに憧れたりはしない!」

一夏「だって、悲しいじゃないか。これまで上手く続いていた関係が壊れて、友達が友達だと思えなくなるなんて…………」

鈴「…………あ」

一夏「それに、曲がりなりにも俺たちは、このIS学園で出会えた切磋琢磨しあうことを誓い合った仲間じゃないか!」

一夏「まだ入学して1年も経っていないのに、誰かと誰かが啀み合うようなところなんて見たくない!」

一夏「もし前みたいな無人機が襲来した時、誰かがピンチになって心の中で『ざまあみろ』と思うような人間がいると思ったらやっていけない……!」

一夏「嫌なんだよ、そういうの…………」

鈴「…………一夏」

一夏「頼むよ、幼馴染でIS学園の水先案内人のお前にそっぽ向かれたら、俺はダメになるかもしれない…………」

一夏「お前が居てくれたから、IS学園のみんなと仲良くなれたんだ。やっていけるって思えたんだ」

一夏「だから頼む、機嫌直してくれよ…………」


使丁『鈴ちゃん』

使丁『この通り、私たち二人はISについては全くのド素人で、しかも周りが女性しかいない環境なので大いに戸惑っている』

使丁『幼馴染であるきみが一夏くんを支えてやってくれ』


鈴「あ」

鈴「…………ごめん、一夏」

鈴「私、ずっと自分のことしか見えてなかった」

鈴「一夏だって、いろいろ考えていろいろ悩んでいるのに、私は――――――」グスン

鈴「ホントにごめんね、一夏」ポロポロ

一夏「泣かせるつもりはなかったんだけど、――――――こっちこそ、ごめんな」ギュッ

鈴「うん。許す」

鈴「だから、これからも――――――!」グスン

一夏「ああ、よろしくな」




ザーザーザー、ゴロゴロ...


使丁「まいったもんだね、まったく」

使丁「姉弟揃って優しさに境界線がないんだから」

使丁「だが、千冬の時とはまるで違う。――――――修羅場だな」

使丁「調子に乗ってあんなことを言ってしまったのは俺の最大の失態だったな…………お子様の遊びと思って冗談で言ったことなのにな」

使丁「これも女尊男卑の世界だからこそ起きてしまった悲劇というべきなのか…………それが許されてしまう異常な環境の成せる業」

使丁「何にせよ、やはり女子校にただ一人放り込まれた一夏くんの精神の柱になるのは、幼馴染の鈴ちゃんか」

使丁「だが、男の甲斐性がどうのこうの言って、自分の気持ちも伝えようともしないのはどうかと思うがね」

使丁「そこがまた、新たな問題を生む温床にならなければいいのだが…………」

使丁「“プッチン”にこっぴどくお叱りを受けた以上は、何とかこの女難を穏やかに解決に導かないとな」

使丁「本当に申し訳ない、一夏くん」


ピカーン!


学校用務員は降りしきる雨と響き渡る雷の音にまぎれて、これから起こるであろう痴情のもつれを危惧するのであった。

そう、6月はジューン・ブライドよろしく、俺にとって女難最大の厄月であった。

そして、7月7日を過ぎるまで、俺やみんなは非常にやりづらい空気の中に置かれるのであった。

そうなるのは、俺たちIS学園の生徒だけではなかったのである。




外交官「さて、“マス男”からの報告を見る限り、――――――まさしく修羅場だな」

副所長「ああ。修羅場だな」

外交官「“マス男”の見立てだと、織斑一夏に並々ならぬ好意を寄せているのは、3名」

副所長「1,織斑一夏の幼馴染の中国代表候補生:凰 鈴音」

外交官「2,元産業スパイのフランス代表候補生:シャルロット・デュノア」

副所長「3,織斑一夏に敵意を持って近づいてきたドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒ」

外交官「…………身の程知らずだな。というか、代表候補生だろ、お前ら」

副所長「いや、シャルロット・デュノアに関してはもう、実質的にフランス代表候補生ですらないけどな」

外交官「まあその通りだ。私としても延命装置を取り付けられて生き恥をさらしているデュノア社を楽にしてやろうと思って、織斑一夏に協力したわけだしな」

外交官「フランス政府としてもせいせいしていることだろうよ。これまで第3世代型の開発の目処の立たない赤字部門を切り捨てられなかったことだし」

副所長「やっぱ容赦無いな、“プッチン”。さすがは“極東のプーチン”だよ」

外交官「だが、誇り高きドイツ軍人であるラウラ・ボーデヴィッヒが“俺の嫁”宣言をするというスキャンダルを起こしているのはどういうことだ?」

副所長「どういうことかと言われても…………」

外交官「こいつは本当に軍人なのか? そもそも少年兵を堂々と利用しているとはな、ドイツ軍よ?」

副所長「しかも、遺伝子強化素体らしいね。国家機密だけどさ。さすがは俺!」

副所長「でも、少年兵の利用と言い、こんなのが普通に罷り通るんだから、女尊男卑の風潮に世界が陥るのは無理もないか」

外交官「世間的には、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの結婚宣言は、“世界で唯一ISを扱える男性”のファンサービスとしているが、」

外交官「この2人の愛のほうが、その程度のファンサービスなのかもしれないな」

副所長「手厳しいことをおっしゃる」

外交官「あの二人は以前の生き方しか知らなかったから、いざ新しい生き方を模索しても何も思いつかず、安易に結婚だなんて話が飛躍したんだろうよ」

外交官「簡単に言うと、」


――――――己の人生を人質にして、織斑一夏に己の存在価値を貢がせている。


外交官「そんな状態だ」

外交官「特に、シャルロット・デュノアは“マス男”からの報告を見る限りだとそんなやつのように思える」

副所長「あんまり悪く言っていると、“千冬の弟”からの評価が下がるぞ……」

外交官「事実を言ったまでだ」

外交官「それに俺の仕事は、正論を叩きつけて、嫌われ、怖れられることだ」

外交官「俺はそのことを誇りに思っている。――――――こんな顔でも社会の役に立つのだからな」

副所長「そうか。そうだったな。お前はとことんそれを極める道に進んだんだもんな」


外交官「少なくとも、簡単に家族と縁切りを決められた辺り、本国に対して思い入れがあまり無かったと見える」

外交官「薄情なものだな。友達はいなかったのか?」

外交官「まあ、それらは我々の情報網で確定情報として上げられているがな」

副所長「はあー、怖いねー。なんだい、“極東のプーチン”には “極東のKGB”もあったってことかい」

外交官「どう思おうが構わないが、――――――フランスが我が国に対して産業スパイを送り込んだことは断罪させてもらった」

外交官「その後、この子がどうなろうと正直どうでもいい」

副所長「はっきり言うなー」

外交官「だが、我が国が誇る“世界で唯一ISを扱える男性”に対し、改めて害をなすのならば、こちらとしても考えがある」

副所長「もうちょっと軽く考えられないかねぇ」

副所長「それじゃ、ラウラ・ボーデヴィッヒについてはどう思っている?」

外交官「…………はあ」

副所長「え」

外交官「正直扱いに困っている。結婚は認めない。当然だがな…………」

外交官「しかし、この変節について、どこまで本気なのかが読みきれない…………織斑一夏や“マス男”からの評価も一転している」

副所長「あんまり深刻に考えるなって」

外交官「それはわかっているつもりだ。この小娘たちが言う結婚は思春期特有の肥大化した自意識と無知が結びつけた虚構だとな」

副所長「やれやれ、そこは譲れないんだ……」

外交官「乙女の純情だか何だか知らないが、はっきり言って学園にとってはいい迷惑だろうよ」

外交官「学生の本分は学業なのであって、学園は学業をするところであって不純異性交遊する場所ではないのだから」

副所長「まあ、風紀を考えればごもっともな意見だな」


副所長「だがそれを言ったら、織斑一夏を通わせていること自体が問題じゃないか」

外交官「俺もその通りだと思っている」

外交官「だが、政治屋共が言うには『IS学園の檻の中に閉じ込めておけば安心だから』だとさ」

副所長「一理あるというか、完全に扱いに困っているってことだろう、それ」

外交官「そうだな。“世界で唯一ISを扱える男性”を世界の公共財産として扱おうと世界中の国々からの圧力があるからな」

外交官「他にも、責任持って管理・養育できる適当な場所が見つからなかったというのもある」

副所長「一度誘拐されてるんだ。今度誘拐されたら凄まじい国の損失と失態に繋がるからな」

外交官「だから、世界でも最高峰のセキュリティと教育施設があるIS学園に入れざるを得なかったわけだ」

副所長「しかし、やはり“あの女”の前では世界最高峰のセキュリティとやらも簡単に突破される」

外交官「ああ。10年前と同じだな」


副所長「で」


副所長「これから、そんな修羅場に“新たな火種”が送り込まれるわけ?」

外交官「元々政府の意向に、ついに“保護対象”が同意したのだ。こればかりは言ってもしかたがない」

副所長「まあ、俺のところの簪ちゃんやイギリスのオルコットもみんな彼に好意を寄せているし、他の連中もそうなんだけどさ、」

副所長「いよいよもって、修羅場がますます殺伐としてくるわけか」

外交官「だが、そのおかげで我が国としては、新品のコアと最新鋭機を2つも手に入る予定となっている」

副所長「俺、ISの設計技師だけどさ、――――――そこまでコアって大切?」

外交官「負の野心が渦巻く世界でならな」

副所長「そうか。やっぱり、くだらない世界だな」

副所長「やるんだったら、正の野心――――――建設的なことに使って欲しかったよね」

副所長「例えば、――――――宇宙開発とかさ」

外交官「まったくだな」

副所長「さて、“千冬の弟”には頑張ってもらわないとな」

外交官「そうだな。恋に恋しているような連中に毒されないで欲しいものだ」

副所長「それじゃ、俺もIS学園という新しい職場で働かせてもらうよ」

外交官「頼んだぞ。特に――――――」

副所長「わかってるって」

副所長「俺に仕事を押し付けるだなんて、…………いい加減にしろよ!」プルプル







――――――某日


一夏「それじゃ、お疲れ様でした」ニコッ

使丁「ああ。いつもありがとう」ニコッ


タッタッタッタッタ・・・


一夏「あ、そうだ。タオル置いてきちゃった…………取りに戻らないと」クルッ

一夏「……うん?」
――――――
千冬「………………」

使丁「………………」
――――――

一夏「こんな朝から珍しいな。千冬姉と用務員さんが何やら深刻そうな表情で話し合ってる」

――――――
千冬「!」ジロッ

使丁「……」ジー
――――――

一夏「あ」

千冬「盗み聞きとは感心しないな」

一夏「いや、俺はタオルを取りに戻ってきただけで…………」

使丁「ああ、これか。ほら」

一夏「ありがとうございます」


一同「………………」


一夏「あの、俺で良ければ、力になりますよ?」

使丁「――――――『俺でよければ』、か」

千冬「………………」

一夏「えと、千冬姉……?」


使丁「一夏くん」

一夏「はい……」

使丁「実は今日、転校生がくるんだ。他でもない1組にね」

一夏「え…………」

使丁「そうだ。特別な事情を持っている子だったから、千冬が引き取ることになった」

一夏「それって、ラウラやシャルロットの時のような?」

使丁「違う。今度の転校生は専用機持ちというわけではない――――――いや、でもあるのか」

一夏「???」

使丁「そんなことは些細な事だ」

使丁「その子はね、“世界で唯一ISを扱える男性”織斑一夏に匹敵するほどのIS業界でのキーパーソンだ」

一夏「そんな人が来るんですか!?」

千冬「やれやれ…………」ハア

一夏「な、なんだよ、千冬姉。その溜め息…………」

使丁「こう言えば、わかるか?」


使丁「小学4年生の時、誰か転校していなかったか?」


一夏「えっと、――――――小学4年生の時に? えっと…………」

一夏「あ…………ああ!?」

一夏「え? でも、俺に匹敵するほどのキーパーソンって言ったら、――――――え?」

千冬「そうだ。今日転校してくる小娘は、」


――――――“篠ノ之 束の妹”だ。




――――――ホームルーム


一夏「………………」

千冬「………………」

使丁「………………」

山田「それでは、また一人、クラスにお友達が増えることになりました」


――――――篠ノ之 箒さんです。


箒「………………」

ザワザワ・・・

周囲「"シノノノ"ッテモシカシテー」

山田「静かに! えと、質問があるのなら手を挙げてください」

女子「あの先生、篠ノ之さんって“篠ノ之博士の関係者”なんでしょうか?」スッ

千冬「そうだ。篠ノ之は“あいつの妹”だ」

周囲「エエエエエエエエエエ!?」

女子「嘘、お姉さんなの!?」
女子「篠ノ之博士って、今行方不明で、世界中の国や企業が探しているんでしょう?」
女子「どこに居るかわからないの?」

千冬「…………」

使丁「これは…………(誰一人として、“篠ノ之 箒”のことを話題にしていない。我が生徒ながら残酷なものだな……)」

一夏「ほ、箒…………(今の俺だったらよく理解できるし、そもそも束さんとは性格が全然違うのに、こんなのって…………)」


山田「あ、みなさん、お静かに――――――」


箒「 あ の 人 は 関 係 な い ! 」


一同「!」

箒「…………私は“あの人”じゃない」

箒「教えられるようなことは何も無い」プイッ

周囲「………………」

箒「山田先生、私の席はあそこですよね?」

山田「あ、はい。そうですけど…………」

箒「では、自己紹介はこれぐらいにさせてもらいます」スタスタ・・・

一夏「あ」

箒「」ニコッ

一夏「あはは…………」ニコッ

使丁「…………」

千冬「それじゃ、ホームルームはこの辺で終わりとする」

千冬「そうそう、期末試験の準備をそろそろ始めておけよ?」

千冬「とりあえず、言うべきことは全部だな」

千冬「では、解散!」


セシリア「…………」

シャル「…………」

ラウラ「…………」




――――――業間、屋上


一夏「それで、何の用だよ」ニコニコー

箒「う、うん……」モジモジ

一夏「(あの自己紹介は無いだろう、さすがに…………それこそあの時のラウラと同レベルじゃないか)」

一夏「(『根暗なやつ』のレッテルを貼られているぞ――――――って、俺も人に褒められるような自己紹介ができてなかったな)」

箒「…………」チラチラ

一夏「6年振りに会ったんだ。何か話があるんだろう?」

一夏「(けど、俺に見せてくれたあの笑みって何だったんだろう? 今も俺に対しては態度がどことなく柔らかいし)」

箒「あ…………」モジモジ

一夏「そうだ!」

箒「……!」

一夏「久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ」ニッコリ

箒「え……」カア

一夏「ほら、その髪型、昔と変わってないし」

箒「!」

箒「よ、よくも憶えているものだな……」テレテレ

一夏「いや忘れないだろう、幼馴染のことぐらい」

箒「…………」ジー

一夏「?」ニコニコ

――――――
簪「…………“篠ノ之博士の妹”」ジー

セシリア「それはわかっておりますけど…………」ジー

鈴「誰なのよ、……あの子!」ギラッ

ラウラ「私というものがありながら、“私の嫁”としての自覚が足りんぞ、あいつめ!」ゴゴゴゴゴ

シャル「けど、少なくともあの二人は知り合いのようだね」



使丁「何だ? 揃いも揃って」


小娘共「!?」ビクッ

セシリア「あ、用務員さん、あの、これはその…………」アセアセ

鈴「お、驚かせないでよ、バカぁ!」ドックンドックン

使丁「ははーん、なるほどねー」ヒョイ

鈴「ああちょっと……」

ラウラ「?」

シャル「えと、用務員さんは二人の関係をご存知なんですか?」

使丁「ああ。というか、一夏くんと箒ちゃんは私の“同窓生の身内”だからな。会ったことはなかったけど、知ってるぞ」

簪「それって、つまり――――――?」

使丁「あれ? 知らなかったのか?」

使丁「織斑千冬と篠ノ之 束は年来の同級生だぞ? つまりそれは、私としても同じことだ」

小娘共「!!??」

ラウラ「お、織斑教官と篠ノ之博士は同級生だった!?」

シャル「そういえば、織斑先生は篠ノ之博士のことを『あいつ』って言い表していたよね!?」

使丁「そこまで驚くか? 開発当初から二人揃って名を連ねているんだからさ」

使丁「それとも実感が湧かないのか? みんなと同じ歳頃でISの開発者となって、IS操縦の第一人者になっていたってことが」

セシリア「あ、確かにそうでしたわね……」


使丁「そうそう。簪ちゃんに用があったんだ」

簪「私、ですか?」

使丁「ああ」ニコッ
                ・
使丁「今日から副所長――――――元副所長がIS学園に赴任することになったんだ」

簪「ほ、本当ですか!」パア

使丁「ああ。今までよく頑張ってきたな、簪ちゃん」

鈴「そうなんだ! よかったわね、簪!」

セシリア「そうですわね! 無事で何よりでしたわ!」

ラウラ「そうか。あの人がこの学園に赴任してくるのか……」

シャル「ラウラ……?」

ラウラ「実は、“嫁”からこれまで迷惑を掛けた人に謝っておくように言われていて、最後の一人がその人なんだ……」

簪「!?」

使丁「簪ちゃん、違うよ。副所長の怪我はそれとは無関係だ。何があったのかは想像に任せるけどね」

簪「……それなら、よかった」

ラウラ「すまない」

簪「気にしてないよ、私」

ラウラ「…………ありがとう」

使丁「それよりも、みんな?」

使丁「そろそろチャイムが鳴ることだし、あの二人の関係については昼休みで訊くことにしよう」

鈴「そうね。質問攻めするにしても、……時間が、ね?」

セシリア「そうですわね。“篠ノ之博士の妹”がどの程度の人物なのか、じっくりと見極めさせていただきますわ」

使丁「では、解散解散!」

小娘共「ハーイ!」

タッタッタッタッタ・・・・・・

使丁「…………さて、ここからだな」ハア



――――――昼


一夏「えと…………」アセタラー

ラウラ「…………」

シャル「…………」ニコー

鈴「…………」ムカムカ

箒「…………」プイッ

セシリア「み、みなさん? 改めて自己紹介をしませんこと?」ニコニコー

簪「そ、そうだよ。仲良くしよう?」オドオド

箒「一夏」

一夏「は、はい!」

箒「これはいったいどういうことなんだ?」ゴゴゴゴゴ

一夏「どういうことって…………ここにいるのは――――――ああ、そっか」

一夏「じゃあ、食べながらでいいから、俺が紹介していくよ」

セシリア「そ、そうですか。ぜひお願いしますわ」

簪「うん」


一夏「えっと、それじゃまず――――――、」チラッ

小娘共「」ワクワクドキドキ

箒「…………」

一夏「順番に行こうか」

シャル「…………」プクッ

ラウラ「おい!」ムカッ

一夏「ら、ラウラ!?(――――――って、俺のことを“嫁”なんていってくるラウラに喋らせたら、話の収拾がつかなくなる!)」アセアセ

一夏「えと、“とっておき”っていうのは最後にとっておくから“とっておき”って言うんだぜ?」アセタラー

ラウラ「!」

ラウラ「そ、そうか。ふむふむ」テレテレ

一夏「それじゃ、まずは簪さんから(なんか自分でも何言ってんのかよくわかんないことで納得してもらえた…………)」

簪「え、私?」ドキッ

鈴「むむむ」

セシリア「てっきり私からと思っていましたけど、『順番』っていうのはそういうこと…………」



紹介の順番 = 訓練仲間になった順
簪→鈴→セシリア→シャルロット→ラウラ→一夏→箒




一夏「これで、だいたいみんなのことがわかっただろう?」アセダラダラ

箒「まあ、よくわかった」プイッ

一夏「やれやれ…………」フゥ

鈴「…………ファースト幼馴染ねぇ」

シャル「そうか。一夏にとっての一番って…………」

ラウラ「やはり、同じ恩師の許で知り合ったもの同士のほうが…………」

セシリア「…………一夏さん」

簪「大変だね、一夏って」


一同「………………」


一夏「あれ?(なんかさっきよりも…………)」

鈴「どうしたのよ」

一夏「な、何でもない!(気のせいだよな? 何かさっきよりも凄く感じが悪くなってきてないか?)」

一夏「それじゃ、食後のデザートを――――――」

簪「あ、はい。一夏」

一夏「ありがとう、簪」

一夏、「おお、今日はレモンの蜂蜜漬けか。こいつがいいんだよな」カジッ

一夏「あ」

箒「…………」サッ

一夏「あの、箒さん?」

箒「何か用か?」ムスッ

一夏「あの、何か不安なことがあったら、遠慮なく頼ってくれよ、ファースト幼馴染なんだからさ」

箒「…………何も無い」スッ

一夏「そう、それじゃあな」

小娘共「………………」


――――――開発棟


副所長「…………“グッチ”めぇ」

使丁「どうしたんだ、“プロフェッサー”?」

副所長「あいつは本当に馬鹿だよ!」

副所長「これを見ろ!」ペラッ

使丁「えと……、ええ!? これって――――――」

副所長「今日からしばらく一夏と同じ部屋で寝泊まりするんだとさ」

使丁「…………しかたがないところもあるとは思うがな」

副所長「1年の寮長は千冬だ。つまり、この決定には千冬も賛同していることになるな」

使丁「…………“束の妹”に敵意でもあるのか?」

副所長「いや、ない。会ったこともない」

使丁「…………」

副所長「だが、考えてもみろ」

副所長「恋に恋しているような連中が多いこの狭い寮で、周りがそれをどう思うのか」

使丁「……!」

副所長「間違いなく例の3人は敵意を剥き出しにしているだろうな」

副所長「これ、“プッチン”が知ったら間違いなく乱痴気騒ぎどころじゃなくなるんだよ!」

使丁「それは、まずい!」


副所長「しかもだ」

副所長「“グッチ”が束のやつとどう話をつけたのかは知らないが、実質的に2個の新しいコアを獲得するというとてつもない功績を上げた」

副所長「それはいいんだ」
              ・・・・
副所長「だがな、それは全部“愛しの妹”のためでしかなくってな」

副所長「世紀の大天才:篠ノ之 束直々に製作している妹専用ISの完成までの繋ぎとして、この学園に装備1式を送り付けてきやがった」

副所長「そして政府は、学園の『打鉄』1機を、俺が以前に一夏にしてやったように調整しろなんてことを要求してきやがったんだよ」

使丁「おいおい、何だよそれ」

副所長「ちょうどよく、俺は研究所を爆破されて職場を失って新しい配属先の通達を待っているご身分だったからな……」

副所長「政府としてはちょうどいい暇人だって思ったんだろうよ。簪ちゃんの他にも一夏の面倒も見ていたことだしな」

副所長「人使いが荒いぜ、まったく……」

使丁「…………送りつけられた装備を訓練機の標準装備に更新するわけにもいかないから、パッケージ化するんだろう?」

使丁「それは、どれくらいで完成するんだ?」

副所長「――――――『1週間で仕上げろ』なんて言ってきやがった。おそらく整備科の人間の手を借りてでも早急に完成させろという意味なんだろう」

使丁「本当に何を考えているんだ……」

使丁「手伝えることがあったら言ってくれ、“プロフェッサー”」

副所長「猫の手も借りたいところなんだが――――――、」

副所長「お前はそれよりも織斑一夏の近辺の痴話喧嘩を何とか抑えておいてくれ」

使丁「!」

副所長「あの小娘たちが今回の件で一気に機嫌を悪くすることは火を見るより明らかだ。衝突も時間の問題だ」

副所長「それで暴力沙汰にまで発展したら、“プッチン”が動くぞ?」

副所長「“プッチン”が学園に降臨したら間違いなく、――――――情け容赦ない制裁が行われる!」

副所長「そうなれば、お前の一番弟子が最も泣きを見るぞ」

使丁「!」

副所長「だが、今回の元凶は“グッチ”だ。何を考えているんだ、あいつは……!」

使丁「…………」




――――――そして、その夜


一夏「…………え」
箒「…………なっ!?」カア(湯上がり)


箒「い、い、一夏…………」

一夏「(あれ、こんなようなトラブルが前にもあったな…………)」ドクンドクン

一夏「こ、ここ、コレヲキロ!」バサッ

箒「あ、ああ…………(一夏の――――――)」

一夏「なななななんで、箒が俺の部屋にいるんだよ!?」

箒「ハッ」

箒「そ、それはこっちのセリフだ! なぜお前がここにいる!?」

一夏「ここは俺の部屋だ! そっちこそ部屋を間違えたんじゃないのか?」

一夏「えと、部屋の鍵はどこだ?」

箒「そ、そこだ。言っておくが、私は間違えてなんていないぞ!」

一夏「えっと、俺の鍵と見比べて――――――」

一夏「なにぃ!? お前、俺と同じ部屋なのか!?」

箒「!?」カア

箒「!!」サッ

一夏「え」

箒「はああああああああ!」

一夏「え、ええ!? ――――――まずい!(なんて身のこなしだ! 去年、剣道で全国一になったって話に偽りはないってことか!)」

箒「待てええええ!」

一夏「『待て』と言われて、待つやつがあるか!」

バタン!

一夏「はあはあ…………とにかくまずは落ち着こう。あっちだって湯冷めしたらマズイしな(あれ? この流れ、まんまあの時と――――――)」

一夏「あ、上着が――――――まあいい! とにかく、状況を確認しないと!」

一夏「えと、そうだ、千冬姉はここの寮長だった。聞きに行こう」

タッタッタッタッタ・・・

箒「一夏!」ガチャ

箒「あ…………」キョロキョロ

箒「私は…………」

バタン


ラウラ「これはいったいどういうことなんだ、……“嫁”よ?」ゴゴゴゴゴ



――――――翌朝


一夏「…………気不味いです」ハア

使丁「……そうだな、一夏くん」ハア

一夏「まさか、箒とラウラがいきなり俺の部屋で喧嘩しているなんてな…………」

使丁「俺が来ていなかったら、確実に“プッチン”が来るような事案になっていただろうな」

使丁「元々、ラウラとシャルロットは一夏くんに依存しているのに、そこに“ファースト幼馴染”の同居人が来たとなったらな?」

一夏「俺が昨日感じ取っていた不安ってそういうことだったのでしょうかね?」

使丁「(本当はもう1人身近にいるのだがな…………)」

使丁「まあ直感に従って、シャルロットが性別を偽って同居人になっていたことやラウラのかつての傍若無人な振舞いについて触れなかったのは正解だよ」

使丁「(どうやら鈍感な一面は改善されつつあるようだな。その点に関しては、千冬よりも一歩前に進んでいる気がするな)」

一夏「それで、“プロフェッサー”はどうなんですか?」

使丁「箒ちゃん専用の『打鉄』用パッケージの製作に徹夜して取り組んでいるよ。俺もこの仕事が終わったら差し入れとか手伝いをするつもりだ」

一夏「それだったら、俺も手伝わせてください!」

使丁「そうか。だったら、これ持って先に行っていてくれ」

使丁「俺は食堂から朝食をデリバリーしてくるから」

一夏「わかりました。では」

使丁「ああ」


――――――開発棟


副所長「なあ、“千冬の弟”」ムシャムシャ

一夏「何です、“プロフェッサー”?」

副所長「お前は、篠ノ之 束についてどう思ってる?」カタカタカタ・・・

一夏「えと……」

副所長「いや、お前と束の繋がりはそこまで強いものじゃない。答えられなくたっていい。期待はしていなかった」カタカタカタ・・・

一夏「…………少なくとも、家族に対する愛情は本物だと思ってます」

副所長「まあ、そうだろうな」カタカタカタ・・・

副所長「だが、あいつは本当に人間の見分けが付かないらしいぞ」カタカタカタ・・・

副所長「あいつにとって家族以外の存在は、地球上で今最も繁栄している生物:ホモ・サピエンスの1個体として認識されているらしいからな」カタカタカタ・・・

一夏「…………」

副所長「まあ、“俺たち”のように付き合いが長い場合は、覚えてはいないけど見れば誰だかは思い出す程度にはなっているようだが…………」カタッ!

副所長「もっとも、俺だってイギリス人とアイルランド人の違いなんてわからないし、あいつのそういう極端なところを責める気はないがな」ジー

副所長「よし、これでパッケージの基礎はできたかな」フゥ

一夏「一日でこれだけの文量のプログラミングを…………」

副所長「束に比べると俺は凡人に等しいのかもしれないが、これでも世界最新鋭の第3世代型ISの開発設計を行える世界トップクラスの天才のうちだぞ?」

副所長「逆にこれぐらいの処理能力が無ければ、『打鉄弐式』は並みのドライバーには扱えない機体だったんだ」

副所長「実質的に、倉持技研第一研究所は外部から副所長に据えられた俺の手によって改革されたといっても過言ではない。――――――さすがは俺!」

一夏「一息付けたのなら、気分転換に朝日を浴びませんか? 午後は雨になるって話ですし」

副所長「そうさせてもらおうか。技術職っていうのは寝食を忘れて取り組むのが普通で、一日の感覚が狂うものだからな…………」

一夏「お疲れ様です」

副所長「どうも」


――――――朝陽


副所長「眩しいなぁ……」パチパチ

副所長「もうすぐ夏だよな。湿気も多くなってきたし」

一夏「はい」

副所長「お前は千冬とは違って、男だから女にモテるのは辛いよな?」

一夏「あ……、はい」

副所長「俺はずっと女尊男卑の風潮は現代文明が招いたモラルの低下が原因だって思っている」

副所長「だからというわけでもないが、」

副所長「俺はずっと『高度な文明に相応しい精神性が持てるようなものを造ろう』と思って技術職になったんだ」

副所長「日本にはそういう伝統が残っているからな。『侘び寂び』とか『幽玄』とか『武士道』とか各地の銘品の匠の業とか……」

一夏「わかります」

副所長「だから、女尊男卑の風潮を招いたものが束の造ったIS〈インフィニット・ストラトス〉だけではないと思っている」

副所長「元々そういう土壌があって、ISはきっかけになっただけで、いつかはISに因らずともそうなっていたんだ」

副所長「けど、俺はいつの間にか倉持技研第一研究所の副所長になって、こうやってISという女尊男卑を象徴するものを造る側に立つことになった」

副所長「だから時々、虚しくなって思うことがあるんだ」


副所長「――――――『ISなんて無くなればいい』って」


一夏「………………“プロフェッサー”?」


副所長「だから俺は、『打鉄弐式』の設計を始めるのと同時期に、束の造ったインフィニット・ストラトスを抑止するための兵器の実用化も始めていたんだ」

一夏「え……」

副所長「まだ実物は完成していないが、理論や設計はほとんど完成していた」

副所長「――――――だからなのかもしれないな」

副所長「5月に、俺の研究所が爆破されたのは……」

一夏「!!!?」
                                                    ・・
副所長「きっかけはラウラ・ボーデヴィッヒの調査でVTシステムの情報を入手したことだったが、それ以前から俺は何者かにマークされていた」

副所長「そして、VTシステムにも手を出しているのではないかと勘違いされて、爆破に至った」

一夏「………………」

副所長「それから数日経ったドイツのとある研究所も、深夜のうちに跡形もなく爆破されました、と」

副所長「俺が不正アクセスした繋がりでとばっちりを受けたんだろうな」


一夏「どうして、それを俺に話すんです……?」

副所長「何故だろうね?」

副所長「もしかしたら今の俺の心境が今の織斑一夏の状況に似ているからなのかもしれないな」

副所長「――――――どちらもアラスカ条約体制や女尊男卑の風潮に振り回されて疲れてきているってところが」

副所長「まあ要するに、同族意識を感じたからか?」

一夏「だから、――――――『一緒に頑張っていこう』ってことですよね?」

副所長「あるいは、――――――『一緒に世界をぶっ壊してくれる同志を暗に求めていた』のかもしれないな」

一夏「じょ、冗談ですよね……?」ニコー

副所長「俺にもよくわからない」

一夏「え………………」


両者「………………」


一夏「つ、疲れているんですよ、“プロフェッサー”は」アセアセ

一夏「そうですよ。疲れると気が立ったり、気が弱くなったりして人間誰でも不安でいっぱいになるでしょう?」

一夏「だから、それは一時の気の迷いですよ」

一夏「しっかり休んで、しっかり食べて、しっかり眠りましょう」

副所長「ああ……、そうだな」

副所長「パッケージの基礎はできたんだ。一旦は、整備科の先生方に進めてもらうことにしよう」

副所長「幸い、装備はIS用の太刀と専用のエネルギータンクが2つずつだからな。極めてシンプルな追加武装だ」

副所長「それじゃ、俺は宿直室でぐーすか眠るとするよ。たぶん、半日以上寝てるんじゃないかな?」

一夏「…………」

副所長「心配するな。派遣社員のような扱いとはいえ、日本政府としては俺に死なれては困るからな」

副所長「養生するよ」

一夏「そうしてください」


使丁「おお。なんだ、終わっていたのか?」ゴロゴロ・・・(サービスワゴンに朝食2人分と軽食1人分)


副所長「ああ。パッケージの基礎はできたから、後は任せて俺は一旦眠るわ」

使丁「そうか。いつもながらご苦労様、“プロフェッサー”」

副所長「いや、そっちこそ。これから大変になっていくんだから、“千冬の弟”共々気をつけるんだぞ?」

使丁「ああ、わかった」

使丁「それじゃ、朝食にしようか、一夏くん?」

一夏「はい……」

副所長「さあ、みんなで朝ご飯を食べよー」

使丁「おー!」
一夏「お、おー……」



――――――篠ノ之 箒専用パッケージ完成まで


はっきり言って、“篠ノ之 箒”という少女に、際立った長所や才能があるわけではなかった。


だが、“篠ノ之博士の妹”であるという点が、周囲が過度に彼女への期待や先入観からくる嫉妬を招いており、

俺という“特異ケース”の存在によって、更に“篠ノ之博士の妹”への落胆と蔑視は大きくなってしまっていた。

俺と箒――――――比べるといろいろと似通った状況になっているが、俺があまりにも“特異ケース”の成功例でありすぎた。

そして、箒には無い尊いものをこれでもかと俺には与えられており、
それが今の“織斑千冬の弟”と“篠ノ之 束の妹”の差となって現れたのだろう。






――――――IS訓練


使丁「一応、一夏くんとは違って座学はしっかりとやってきているようだが……」

一夏「旧い電話帳か何かと間違えて捨てるようなことはもうしません…………」

セシリア「さて、どんな動きを見せてくれるのでしょうか?」

鈴「専用機を約束されているなんて、いいご身分よね」

鈴「それも、あの篠ノ之博士からの機体だなんて」

シャル「あんまりそういうことは――――――」

ラウラ「――――――いや素人だな。あれは」


箒「くっ」ガクン

簪「あ、大丈夫?」

箒「いや、いい。自分で何とかする」

簪「う、うん……」




副所長「やれやれ」スッ(ビデオカメラで撮影している)

一夏「あ、“プロフェッサー”」

副所長「適性ランク:Cでかつ出遅れで、そんなんで専用機をもらえてしまえる――――――」

副所長「心苦しい立場だな」

一夏「…………箒」

副所長「俺から言わせれば、“あの子自身”には何の価値もない。価値が有るのは“篠ノ之博士の妹”である点のみ」

一夏「…………!」

副所長「あの子は、何も知らずに入れられたお前よりも価値がないんだよ」

副所長「だから、入学する気はなかった」

一夏「え」

一夏「それならどうして、今のこの時期に転入なんか…………」

副所長「…………あまり筋がいいようには見えない、あの娘」

一夏「…………」

副所長「それに、呑み込みもかなり悪そうだ」

副所長「人の話を聞こうとせず、助けを仰ごうともしない頑迷さが適性:Cの所以なんだろうな」

一夏「いや、箒はそこまで頑固じゃ――――――」

副所長「お前だって、――――――俺が活を入れていなかったら、」

副所長「常に『何とかなるだろう』『周りが何とかしてくれるだろう』って甘ったれていた自分から変わることができなかったかもしれないぞ?」

一夏「あ…………」

副所長「要は、あの子の保護者の教育、経験してきた出会いと別れの数々が今の人格を形成してきた――――――」

副所長「だから、…………“グッチ”の大馬鹿野郎がぁ!」ゴゴゴゴゴ

一夏「あ、あの、“プロフェッサー”?」

副所長「いや、すまない。どうも気が立っているようだ。撮影が終わったら、横になりながら気持ちを落ち着けることにしよう」

一夏「“グッチ”さんって確か、学年別トーナメントに来ていた人ですよね」

副所長「ああ、来ていたな」

副所長「あいつはその将来性を一番に危ぶまれていたんだ。それが今、結実してしまった…………」

一夏「え? でも、とても理知的で誠実そうな人でしたよ?」

副所長「そこだよ」

副所長「そこが問題で、今の“篠ノ之 箒”を作り上げてしまったんだ」

一夏「え? えと、“グッチ”さんと箒ってどういう関係なんです?」

副所長「あ…………」

副所長「――――――どっちも篠ノ之パパの教え子で、兄弟子と妹弟子だ」

副所長「そういったほうがわかりやすいだろう」

一夏「…………!」



――――――料理


一夏「………………」モグモグ

箒「ど、どうだ?」ドキドキ

一夏「…………味がない。水気ばかりでチャーハンがチャーハンじゃない。炒めてないよ、これ」

一夏「かと言って、この水気でこの味のなさはリゾットとして認めるわけにもいかない」

一夏「…………塩コショウをくれ」

箒「う、うぅ…………」

一夏「料理はあんまり得意じゃなかったのか…………まさか飯盒で炊いてるってわけじゃないよね、これ?」

一夏「チャーハンに使うんだったら、炊く時の水の量は少し減らして水気を減らしたサラサラなものを使うとか、――――――うん、わかってないよな?」

一夏「この水気は、おかゆを作るつもりだったのか?」

箒「わ、私は――――――!」

一夏「その……、料理が上達したいんだったら、4組の簪を頼ってくれ。訓練の時も甲斐甲斐しく面倒を見てくれたろ」

箒「あ、ああ…………」

一夏「前に紹介したように、俺の昼食のおにぎりの大半を作ってきてくれているのが簪だからさ」

一夏「まずは、おにぎりを作ってみてくれよ。これが結構、料理人の腕や個性っていうのを引き立ててくれるからさ」

一夏「それに、おにぎりを極めれば米料理のほとんどに通用するようになるから、箒はまずおにぎりを美味しく握れるようになってくれ」

一夏「な?」

箒「わ、わかった、一夏…………」

一夏「それじゃ、ごちそうさまでした」

箒「…………それでも平らげてくれるのだな、一夏は」ボソッ

一夏「え」

箒「な、何でもない……」テレテレ

一夏「…………」



――――――部活動


ワイワイガヤガヤザワザワ・・・


箒「…………」ポツーン


一夏「ああまた独りだよ、箒ってば……(いつも不機嫌そうにしているから余計に近寄りがたい雰囲気だ……)」

一夏「どうしたもんかな?(同じ日本人で親しみやすく一番関係が良好そうな簪は4組だし、ラウラとシャルロットが睨んでくるし…………)」

一夏「いろいろと気不味くなっていて踏み出しづらいことはわかってはいるんだけど、自分から変えようとしない限り何も変わらないぞ……」

一夏「あ、そうだ!」




――――――ところ変わって、部活棟:剣道場


オツカレサマデシター!

一夏「終わった終わった……」フゥ

箒「一夏…………」

一夏「懐かしいな。こういうふうに竹刀持って面を打ち合うの」

一夏「箒の見た目も変わってないし、本当に昔に戻ったみたい」

箒「そうか……!」ニコニコ

一夏「やっぱり、全国一の肩書きに嘘がないわけだ。強い強い」

一夏「“グッチ”さんも剣道全国一なだけあって、その人の下で日夜剣道に明け暮れたら、そりゃ強くなるわな」

箒「その……、一夏?」

箒「気のせいかもしれないが、動きが剣道のものじゃなかったような気がする。面しか打ってなかったよな?」

箒「面打ちは凄いのだが、小手打ちは明らかに狙いが狂っていたし、そして胴打ちに至っては狙える場面で一切使わなかった」

箒「もしかして、長らく剣道をしていなかったのか?」

一夏「ああ。そうだぜ」

一夏「だって、ISを動かすことが今の俺の役目だから、『白式』に合わせた剣の振り方が身体に馴染んじゃってさ」

一夏「竹刀なんて、砂と水を詰めた瓶に慣れていると、ちょっと気を抜いただけでスッポ抜けちゃうぐらいに軽くてさ」

一夏「それにISだと、狙いが大雑把でもシールドバリアーさえ削ればいいわけだから、」

一夏「小手打ちを正確に狙うなんてことがなくなって、胴なんて完全に感覚を忘れちゃってた」

一夏「実は剣道やったのも今日で数年ぶりなんだよな…………」

箒「そ、そんな! 弛んでいるぞ、一夏!(小学生の時、私よりも断然強かった一夏はもう――――――)」

一夏「そ、そこまで驚くなよ。剣道辞めてたって面だけでいい勝負できただろう?」

箒「ああ…………(確かに、面打ちのレパートリーやその鋭さは大したものだったが…………)」

一夏「それよりも、これで友達ができるといいな」
      ・・
箒「…………友達?」ピクッ

一夏「そうだぜ。これから3年間はこの狭い空間の中で暮らしていくんだから、俺以外によろしくやれる相手を見つけておかないと」

一夏「いや、そもそもいつまでも同じ部屋で寝食を共にするわけにもいかないから」

箒「…………ああ、そうだな!」プイッ

一夏「箒……?」

箒「…………」スタスタ・・・

一夏「とりあえず、剣道部の面々と仲良くなってくれると嬉しいな……」



――――――就寝


一夏「よし、明日の準備はOK!」テキパキ

一夏「日記も付けたし、飲料に軽食、着替えも用意できている!」

箒「…………おお」

一夏「鍵も掛けたし、トイレにも行った」

一夏「これで明日を迎えられる!」

一夏「それじゃ、おやすみなさい」ガバッ

箒「あの一夏がこんなにも――――――」

箒「………………」ドキドキ

箒「わ、私も早く寝ておこう……!」ガバッ






一夏「ZZZ...」スヤー


箒「…………一夏」ジー

箒「(なんと気持ちの良さそうな寝顔をしているのだ……)」

箒「そうっと……(い、一夏の顔がこんなにも近く――――――)」


ガチャリ・・・


箒「!?」ビクッ

箒「!」バサッ

使丁「うん。ちゃんと寝ているよな? 侵入された様子はないっと」

バタン、ガチャリ・・・

箒「…………」ホッ

箒「!?」カア

箒「!!!!!!」ジタバタ

箒「…………!」

箒「………………」

箒「……………………」スヤー

箒「ZZZ...」グゥー


ガチャリ・・・




一夏「で、目が覚めたら、」

一夏「何がいったいどうなったら――――――、」


一夏「箒とラウラが組み合って床の上で寝転がるようなことになるんだ?」


箒「ZZZ...」スヤー

ラウラ「ZZZ...」グゥー

一夏「揉み合った結果なのか、ラウラと箒の服が乱れて所々が肌けてまあ…………」

一夏「ほらよっと!」

一夏「箒は箒のベッド! ラウラは、もういい。 俺のベッドで寝ていろ」ドサッ

一夏「寝冷えして風邪を引かれたら困るからな」

一夏「それじゃ今日も1日、張り切って行こうか」

ガチャ、バタン・・・

ラウラ「ヨ、ヨメェ・・・」ムニャムニャ

箒「イ、イチカァ・・・ウヘヘヘ・・・・・・」ムニャムニャ


そして、俺が朝のジョギングを終えて部屋に戻った時、何故か俺のベッドに箒とラウラが眠っていた…………




番外編:一夏の部活動


一夏「そういえば、この学園って何かしらの部活動に所属してないといけなかったのか? 初めて聞いた」

使丁「ああ、そうだったね。今まで放課後はISの訓練や自主練で使いきっていたから、部活動する余裕なんて無かったからな」

一夏「でも、今更選ぶなんて…………」

使丁「そうだ! トライアスロン部を作ろう! 顧問は俺だ!」(提案)

一夏「それ、いいですね!」(即答)

使丁「あっ! でも、バイクがな…………それにIS学園はクロスカントリーに向いた場所が近くにないしな」

使丁「バイクに乗るんだったら、ISに乗れって言われそうだし、廃案か」

一夏「……まあ、しかたないですね。俺もバイクなんて無いですし」

使丁「となると、陸上部と水泳部を掛け持ちして、バイクは自費で賄ってトライアスロンとするか?」

使丁「バイクは俺が使ってきたのが1ダースほどあるし、十分だろう」

一夏「けど、それをどこに置きます?」

使丁「そうなんだよな…………部活棟にまさか私物のバイクを置かせてもらうわけにもいかないし、通勤用の二輪置き場を占領するのもどうかと…………」

一夏「…………空回りか」(バイクだけに)

使丁「まいったな」

使丁「とにかく、箒ちゃんが転校してきたことで、これまで大目に見てもらっていた一夏くんの部活動の所属を考えないといけない」

使丁「『生徒は必ず何かしらの部に所属する』っていうのは、学園長の意向でもあるからな」

一夏「それじゃ、陸上部と水泳部の見学でもしてきますよ。その前に――――――」カキカキ

使丁「なんか今更って感じだな。陸上競技場は学年別トーナメント前だったから好き勝手に使えていたんだけどさ」


箒「い、一夏!」ゼエゼエ

一夏「あ、箒じゃないか。どうしたんだ、走ってくるなんて?」

箒「一夏! まだ部活動を決めていないのだろう」

一夏「え、いや――――――」

箒「なら、剣道部に入れ。私が鍛えてやる」

一夏「……まあ、たまにやるぶんにはいいかな」

使丁「おいおい、そういう受け答えは――――――」

箒「そうか。なら今すぐ――――――」

鈴「ちょっと待ちなさいよ!」

一夏「!」

箒「…………セカンド幼馴染」ジロッ

鈴「一夏! ラクロス部よ。一緒にラクロスしましょう」

一夏「…………ラクロス? ラクロスって、何?」

使丁「さあ? 聞いたことはあるけど、どんなのだっけ?」

鈴「ちょっと! 一夏はともかく、なんで用務員さんも知らないわけ!?」

使丁「いや、部活棟は私の管轄外だからな。男の私が更衣室まで管理するようになったら、榊原先生の立つ瀬がないでしょう」

鈴「あ、それもそうね。…………ごめんなさい」

箒「こら、鈴とか言ったか! 一夏はこれから私と剣道を一緒にするのだ!」

鈴「気安く呼ばないでよ! ファースト幼馴染だか何だか知らないけど、後から出てきて何よ!」

箒「なにぃ!」

使丁「…………何をしているのかなー」ニコニコー

鈴「!」
箒「!」

鈴「な、何でもありません!」
箒「と、取るに足らない私事なのでお気になさらず……」

使丁「そうそう」ニコニコ


ラウラ「ここにいたのか、“嫁”よ」

一夏「あ」

箒「は? ――――――“嫁”?」キョトン

鈴「あ、あんた――――――!」

ラウラ「さあ、私と一緒に茶道部に入るのだ。そこで淑女の嗜みというものをだな――――――」

一夏「いや、俺は――――――」

使丁「ラウラちゃん、IS学園の茶道部は女流の流派だから男は門前払いだぞ?」ヤレヤレ

ラウラ「な、なにぃ!?」ガビーン!

ラウラ「そ、そんな…………」orz

一夏「ああ…………」

箒「ホッ」

鈴「何とかなったわね」

鈴「あ」

鈴「(ラクロス部に入れたとして、一夏はマネージャーにするぐらいにしかできないじゃない!)」

鈴「(そうなったら、難癖つけて一夏が連れ出されるのは確定的じゃない…………!)」

シャル「あ、一夏。そこにいたんだね」

一夏「しゃ、シャルロットまで!?」

使丁「…………さ、捌ききれるのか?」アセタラー

シャル「あ、いや僕は別に部活動の勧誘に来たってわけじゃないんだ」

シャル「前に一夏が『アスリート向けの献立を作ろう』って言っていたから、料理部でもそれに取り組むことになったんだ」

一夏「おお!」

使丁「へえ……(あ、なんか展開読めた。さすがはシャルロット・デュノアというべきか)」

シャル「だからその……」モジモジ

シャル「メニューができたら、試食しに来てくれるかな?」

シャル「できれば、今一番アスリートを目指して頑張っている一夏に食べてもらいたいから、最初に試食をお願いしたいの」

シャル「 ダ メ か な ? 」

一夏「ああ、いいぜ! 絶対に行くからな」

シャル「うん。料理部一同、心から一夏が来るのを楽しみに待っているからね」(計画通り)

一同「!?」

シャル「それじゃ、僕はこれで」スタスタ・・・

一夏「ああ!」

一同「…………」


使丁「ははは……(――――――まんまと乗せられたよ、一夏くぅん! そして、華麗に去っていくシャルロット・デュノアぁ!)」

使丁「(やはり、この熾烈な激戦を制するのは知略に長けたシャルロットというところか……)」

ラウラ「そうだ! 私が“嫁”を茶でもてなしてやろう」

ラウラ「だから、茶道部に今すぐ来てくれ!」グイッ

一夏「ちょ、ちょっと……!?」

箒「!?」

箒「は、破廉恥な……!」プルプル

鈴「ちょっと待ちなさいよ、ラウラ! 一夏は――――――」

一夏「あ、あれえええええええええ!?」ズルズル・・・

一夏「あ」パラパラ


ワーワーガヤガヤドタバタ・・・


使丁「とりあえず、この入部届を彼に代わって出してこよう」ヒョイ

使丁「けどこの様子だと、正式に入部しても波乱は続きそうだがな…………」






――――――そして、篠ノ之 箒、本格的なISデビューへ


副所長「何とか5日でパッケージを完成させられた…………」

一夏「は、早い……!」

副所長「パッケージそのものはただ単に送られた量子化武装を量子変換して格納するだけで『はい、終わり』だったんだけど、」

副所長「さすがに『オリムラ・チューン』を機体に施して元に戻すまでやるのがもう嫌だったから、パッケージに最初から入れようと思ってな」

副所長「設定をパッケージのアップデートデータに格納するのに時間がかかった」

一夏「そのアップデートデータをパッケージに一から作り直して入れたってことですよね?」

副所長「ああ。記録していたデータは研究所ごと消滅したからな。記憶を頼りに一から全部だ」

一夏「それは――――――」

千冬「ご苦労だった」ヒョコ

一夏「ちふ……織斑先生」

副所長「やあ、千冬の姐御。派遣社員だけど特別手当くれる?」

千冬「まあいいだろう」

千冬「だがお前には、来月もたっぷり働いてもらうから覚悟しておけよ?」

千冬「ではな」コツコツコツ・・・

副所長「…………ああ」

一夏「“プロフェッサー”?」

副所長「いや、大丈夫だ。やることはそこまで難しいものじゃない」

副所長「7月に臨海学校があるだろう?」

一夏「そういえば」

副所長「あの臨海学校はな、――――――『校外特別実習期間』っていうのが正式名称で、」

副所長「ISの非限定空間における稼働試験をする名目で、各国から代表候補生にパッケージを送り付けてくることになっているんだ」

一夏「ああ……」

副所長「そ。だから、またパッケージの調整を俺がすることになっていてね」

副所長「だが、そんなことでくよくよしているのではない!」

副所長「研究所を爆破されたから、俺が丹精込めて造った『打鉄弐式』用の本気装備のパッケージが…………!」ウルウル

一夏「あ、ああ…………」

副所長「で、もちろん『白式』には拡張領域がないから新装備はなしだ」キリッ

副所長「そして、おそらくなのだが…………」

一夏「?」

副所長「篠ノ之 箒の誕生日はいつだっけ?」

一夏「えと、――――――あ」

一夏「――――――7月7日!」

副所長「そ、重なってるんだよ」

副所長「おそらくその日に、“愛しの妹”専用ISが届けられるんじゃないかっていうのが、“俺たち”の見解だ」

一夏「…………!」



――――――アリーナ


箒「これが私の専用機…………」

担当官「――――――の繋ぎだ」

担当官「“プロフェッサー”が言うには、換装したパッケージは束が用意しているISの主力装備のプロトタイプだそうだ」

担当官「射撃性近接ブレード『空裂』と『雨月』だ」

箒「射撃性――――――?」

担当官「おそらく、エネルギー攻撃を剣から放つことができるのだろう」

担当官「パッケージのインストールが終われば、自然と理解できるようになるはずだ。そろそろだ」

箒「わかりました」

箒「………………」

箒「――――――!」

箒「これが、姉さんが用意してくれた『空裂』と『雨月』!」スチャ

担当官「なるほど。篠ノ之流剣術を意識した二刀流――――――だと思いたい(…………二刀流の基本は小刀と太刀だぞ。両方共、太刀とはな)」

担当官「(たぶん『妹は剣道ができる』という認識しかないんだろうな、きっと。それともISのハイパーセンサーとパワーアームで取り回しを克服するのか?)」

箒「試し撃ちしていいですか?」ウズウズ

担当官「ああ。それじゃあな」

スタスタ・・・・・・

担当官「予定よりも2日早かったが、これできみは晴れて専用機持ち一歩手前まで来たわけだ」

担当官「――――――私の役目はここまでだな」ボソッ

担当官「(長かった…………ようやくこの子に安息の時が訪れるのだな)」

担当官「後は頼んだぞ、“織斑一夏”」


ドゴーン!


箒「ふふ、ふふふふふ…………」

箒「これで一夏を『守る』ことができる……」

箒「そうだとも!」



―――――― 一夏、お前の背中は私が守る!




――――――数日後、訓練機による勝ち抜きバトル


休日に開催される非専用機持ち(=一般生徒)のための訓練機の開放日であり、基本的に訓練機を一日中好きに使える。

4月は始まったばかりで1年の利用者がゼロに等しかったが、学年別トーナメント前には申し込みが殺到し、生徒たちのやる気の具合を見る機会ともなっていた。

さすがに全校生徒に回せるだけの機体などどこにもないわけで、基本的にグループで割り当てされることになっている。

そして誰が提案したのか、グループ対抗の勝ち抜きバトルが行わていた。

その中で、一際存在感を放つ存在が一人――――――。


箒「はあああああああああああああ!」ガキーン!

女子4「きゃあ!」(戦闘続行不能)

箒「さあ、次だ!」

女子5「格闘戦がダメなら、射撃でどう!」ババババ・・・・・・

箒「甘いぞ!」

女子5「ひ、怯まない…………!?」ババババ・・・・・・

箒「面、面、面、面ええええええん!」ガキンガキンガキンガキーン!

女子5「ま、まいった……」(戦闘続行不能)

女子6「やるじゃない、ルーキー! だったら、2年生相手ならどう!」ブン!

箒「!」ガキーン!

女子6「ほらほら! 基本がなっていないよ、基本が!」

箒「くぅぅぅうう!」ジリジリ・・・

女子4「頑張れー、先輩!」

女子5「“開発者の妹”だか知らないけど、やっちゃってくださーい!」

箒「!」ピクッ

箒「――――――『空裂』!」

女子6「……くっ!」バッ

箒「でやああああああああ!」スカッ

女子6「二刀流!? けど、踏み込みが甘い――――――え!?」


今、5人抜きしている箒をじっくりと動きを観察してから戦いを挑んできた2年生の先輩は確かにIS乗りとしての技量は確かなものだった。

鍔迫り合いに持ち込み、機体制御が不十分な相手を一気に押し倒そうとするのだが、すかさず箒が片手を剣から放してその手を腰に宛てたのだ。

それを見た2年の先輩は、反射的に後退した。――――――訓練機の『打鉄』には太刀とアサルトライフルが1つずつしかないことがわかっていても。

だが、その直感は正解であった。

本来装備されていないもう1振りの太刀を取り出してきたのだから。

しかし、箒の繰り出した反撃は「高速切替」していない通常の量子展開からだったので1~2秒も間があって、見てから回避が余裕であった。

客観的に見れば回避できて当然なのだろうが、使い慣れていた機体からあり得ない装備が出てきたの見てすぐに対応できる者はどれくらいいるのだろうか?

そういう意味では、この2年生はかなりの手練であった。

しかし――――――、


ドッゴーン!

女子6「うわ!?」



女子4「え!?」

女子5「どういうこと!?」


ザワザワ・・・


周囲「今の見た?!」

周囲「隠し刀を持っていただけじゃなくて、」

周囲「レーザーが出た!」

周囲「しかも、備え付けのアサルトライフルよりも凄そうだったよ」

周囲「ひ、卑怯だ! そんなのを隠し持っているだなんて!」


ブーブー


間違いなく、2年の先輩の『打鉄』は箒が繰り出した奇襲を躱したのである。

しかし、箒が振り抜いた刀から、それに追い打ちをかけるかのようにエネルギー波が打ち込まれたのである。

しかも、明らかにアサルトライフルの一斉射以上の面制圧力を持っており、

鍔迫り合いからの奇襲を避けただけでも凄かったのだが、さすがにそこから追撃されるとは思いもよらず、直撃を受けたのである。

これが篠ノ之 束が妹のために送りつけた射撃性近接ブレード『空裂』であり、通常は実体剣としても使うのだが、

エネルギーを剣にまとわせることでエネルギーブレードとして威力を向上させ、勢い良く振り抜くことで射撃攻撃にも使えるのだ。

威力も範囲も奇襲性能も申し分なく、これさえあれば一夏が編み出した『AICC』も必要なく『シュヴァルツェア・レーゲン』に勝ててしまえる。

ただし、専用のエネルギーパックを入れないと『打鉄』ではまともに扱えないほどの高出力=燃費の悪さでもあるので、

箒はしぶしぶ『打鉄』の標準装備の太刀で戦っていた。


しかし、一人だけ特別仕様の訓練機に乗っているとなれば、そこに不満を覚えない者などいなかった。

しかも、噂の転校生“篠ノ之博士の妹”となれば、身内からのえこひいきを受けていることは疑いようがない。

かくして、大ブーイングが起こるのだが、


女子6「うるさい! 気が散る! 黙れ!」


周囲「!?」

箒「…………!」

女子6「さあ、続きをやりましょう、ルーキー?」

箒「フッ」

箒「では、参る!」


2年の先輩は、まさしく一夏が目指している気高きアスリートの姿であった。

たとえ理不尽であろうとも自分に言い訳をせず、これを自分を向上させるために課せられた試練だと考えて、前向きに挑戦していく。

そんな姿が、アリーナの管制室から見ていた織斑一夏の心を強く打った。


一夏「あの人、何て人なんです?」

使丁「私も知りたいですね。ぜひとも、お話してみたい」

山田「えと、ちょっと待っていてください」カタカタカタ・・・

千冬「…………誰も篠ノ之のことを褒めようとは思わないんだな」

副所長「――――――褒める?」

副所長「ご冗談を」

副所長「誰がどう見ても、姉から送られたチートアイテムで弱い者いじめをしているようにしか見えないし、」

副所長「どこに感動する要素があるっていうんだ?」








ドゴーン!


千冬「…………訓練機相手にこれで10連勝か」

山田「パッケージを換装したことによる戦力強化が大きいですけれど、接近戦での立ち回りの強さは本物です」

副所長「ただやはり、初心者の動きであることには変わりないがな」

一夏「…………箒」


使丁「このままじゃダメな気がする」


山田「どういうことです? 武器に頼りきっているところは確かにありますけれど、ISに乗って数回の動きじゃないと思いますけど?」

山田「確かに、1週間でオルコットさんと互角以上に戦えた織斑くんと比べたら――――――」

使丁「違うんだ、山田先生」

使丁「この調子で専用機に乗せてしまったら、きっと“篠ノ之 箒”という人間の成長は訪れないじゃないかって思ってる」

山田「え」

千冬「…………」

副所長「顔を拡大してよく見てみなよ。あれが健全なスポーツマンの顔に見えるか?」

副所長「健全なスポーツマン精神がもたらすものは戦った相手への尊敬だと聞く」

副所長「剣道やってたんだよな? 全国一になるぐらいに」

副所長「だったら、こんな立居振舞は厳禁のはずなんだが」

一夏「…………」

副所長「俺が1つ、活を入れてきてやろうか?」

副所長「あの娘、きっと重大な局面で独断専行に走ってチームワークを乱すぞ」

使丁「私もそう思います」

使丁「けど、ダメです」

副所長「?」

使丁「一夏くんに活を入れたのとわけが違う。ジェンダーの問題だ」

使丁「私や“プロフェッサー”が折檻したら、即刻懲戒免職を受けることだってありえます」

使丁「やるのでしたら、同性の方に敗北の味を覚えさせるべきだと思います」

使丁「ご決断を!」

千冬「……………」

一夏「ちふ……織斑先生?」

千冬「なかなかの難問だぞ、これは」

千冬「なにせお前たちの指導が効果を上げたのは“織斑一夏”という根性のある男性だったからであって、」

千冬「それを“篠ノ之 箒”という小娘に同じようしたところで、意味は無い」

千冬「文字通り、何もかもが違い過ぎるのだ」

千冬「だから、私も判断に迷っている」


使丁「嘘だろう、千冬!?」

使丁「やるべきことはわかっているはずだ! 何を手間取っているんだ!」

副所長「よせ、“マス男”。千冬のいうことももっともだった。――――――何もかもが違い過ぎた」

副所長「あの時の“織斑一夏”と今の“篠ノ之 箒”とでは、本人のやる気と真剣度に差がありすぎる」

副所長「むしろ、あれで上手くいったのは、織斑一夏が単純馬鹿で無知で素直ないい子だったってところが大きいからな」

一夏「…………褒めているんだか貶しているんだか」

副所長「どっちもだよ」

一夏「あらら…………」

副所長「匙加減が難しいんだ」

副所長「負かすにしても、専用機持ちをぶつけたとしても初心者だから負けて当然だって思われるからな」

副所長「むしろ、実力の差を弁えずに必死になって絶対的な壁である専用機持ちに何が何でも勝ってやるって喰らいついていったように、」

副所長「強敵に立ち向かう義務感があれば楽なんだが、特に“束の妹”にはそういった強い動機がないから、性格の矯正・人間的な成長ができないんだ」

使丁「…………その将来性の危うさがわかっても適切な指導がわからないわけだ」

使丁「つまり言い訳や逃げ道を作らせずに敗北を認めさせて、今の在り方を変えさせるやり方が現段階では見つからないわけだ」

千冬「そうだ。今負けても、7月には専用機をもらうから所詮は繋ぎだと敗北を直視しない可能性がある」

副所長「だが、束のことだ。渡す専用機は確実に現行機を超えた何かの可能性が大だ。それに勝てるかどうかが問題なんだよな」

副所長「くっそ、“グッチ”の野郎おおおおお!」

副所長「お前がついていながら、何だよこのザマは!」

副所長「何も見えていなかったのか、お前にはあああああああああああ!」

一同「………………」




――――――その夜


ザーザー、ゴロゴロ・・・


一夏「…………」

箒「どうしたんだ、一夏? 考え込んでいるなんて、お前らしくもない」

一夏「俺が何か考え込んでいるのがそんなに変かよ」

箒「ああ。お前はよくくだらないことを言ってみては、周りをしらけさせたりしたではないか」

一夏「いつの話だよ!」

箒「お前はいつだって向こう見ずで無茶ばかりしていたんだ」

箒「私が見ていなかったらどうなっていたことか」
      ・・・・・・・・・・・・・・・
箒「だから、昔みたいに私がお前を守ってやる」

一夏「え……(あれ、何だろう? 箒と話していると――――――)」

箒「なんだ、その目は? 私じゃ力不足だとでも言いたいのか?」

箒「安心しろ。私は今日の勝ち抜きバトルで10連勝もしたぞ」

一夏「いや、必要ないって。そこまでしなくたっていい」

箒「…………?」

箒「何を言っているんだ、一夏? 私は十分に戦える。だから――――――」

一夏「俺だって十分に戦えるよ! そのために猛特訓して専用機持ちにふさわしくなったんだから」

箒「いや、お前は口ではそう言ってもどこか抜けている――――――」

一夏「いつまでも子供扱いするなって!」

箒「!?」


...ピカーン!


一夏「俺は、箒が『昔と変わってなくて良かった』って思ってたけど、大間違いだった」

箒「な、何を言っているんだ、一夏?」

一夏「俺は一人じゃない。仲間がいる。IS学園に入って新しく友達になれた人がいっぱいいる」

一夏「だから、お前がそこまで俺を守ることに熱心にならなくたっていいんだぞ?」

一夏「むしろ他にやるべきことがいっぱいあるだろう、今!」

箒「!」

一夏「もっと仲良くやろうぜ? 剣道部のみんなとか、1組のみんなとかさ」

一夏「それに俺からしたら、いつまでも友達と仲を深めようとしないお前の方がよっぽど子供に見えるぞ」
   ・・・・・・・・・・・
一夏「昔からそうだったもんな」

箒「!!」

一夏「剣道は『礼から始まって礼に終わる』ものだろう?」

一夏「何というか、最初は箒の剣捌きに唸ったのに、箒がISに乗って間もなくして10連勝もしたのにちっとも嬉しいとか思わなかった」


一夏「…………感動しなかった」


一夏がそう言うと、今まで必死になって何かを堪えていた、あるいは否定していた箒の中の何かが切れた。



箒「…………何を言っているんだ、一夏?」

箒「なあ、何を言っているんだか、私にはさっぱりわからないぞ……」


箒は縋るような目で一夏に問いかける。

だが、それが何について問いかけているのかが聞く側として伝わらない。逆に、何を言ってもらいたかったのか、こっちが訊きたいぐらいである。

そして、一夏には箒が抱えている歪な何かを感じ取ることができても、それが具体的には何なのかがまるでわからなかった。

かつて副所長がしてくれたように、冷静に箒が置かれている状況を分析し、何をすべきかを自分なりに考えて相手を思って告げたのだが、

人生経験の何もかもが不足していた一夏の次の一言は、箒の心を鋭く貫くのである!


一夏「俺もだよ」


箒「!!??」

一夏「…………」

箒「お前も――――――」ワナワナ

一夏「?」

箒「お前も、私のことを――――――」ヒッグ

箒「うわああああああああああああああああああああああああああ!」ダッ

一夏「箒!」ガシッ

箒「放せ、触るなあああああ!」

一夏「え」

ドンッ!

一夏「だあああああああああああああ?!」ドタ

バタン

一夏「箒! 箒ぃいいいいい!(あ、脚が――――――!)」ガクッ


ザーザー




他人への配慮――――――デリカシーのなさが成せる無情の一言が、彼に縋ろうとしていた少女の心を木っ端微塵にした。

箒は思わず居た堪れなくなり、物凄い勢いで部屋を抜け出そうとするのだが、扉を開けようとしたところで一夏がその手を掴んだ。

しかし次の瞬間には、自分よりも背が低くなった女の子から物凄い力で突き飛ばされ、一瞬足が地面から離れ、身体が浮かんだのだ。

尻餅をついてしまった一夏はすぐに後を追おうと立ち上がろうとするが、脚にうまく力が入らず、前に進めない。

その間にも、部屋を飛び出していった箒は一夏との距離を離していく。

いや、どこへ行ってしまうのだろうか? どこへ行こうとしているのだろう?

一夏は何がいけなかったのかを考えるよりも、とにかく箒を追って連れ戻すことだけを考えていた。

まともに歩くこともできずとも何とか扉を開けて、外の空気を感じていると――――――、


一夏「うぅ…………」ヨロヨロ

使丁「何があった!」ダダダダダ!

一夏「あ、用務員さん! 箒が出て行った!」

使丁「なにっ!?」

使丁「いや、それよりもどうした!? 脚をやられたのか!?」

一夏「尻餅をついて、脚が…………」

使丁「そうか。なら、部屋に戻って何があったのかを教えてくれないか?」

一夏「いや、それよりも箒を――――――」


使丁「今のお前に、あの子に掛けられる言葉はあるのか?」


一夏「!?」

使丁「それとも、無理やりこの部屋に連れ戻して、鎖で繋いでおくのか?」

一夏「そういうわけじゃ…………」

使丁「安心しろ。IS学園から脱走することなど不可能だ」

使丁「そして、外は雨も降っていることだし、雨宿りのために逃げこむ場所は限定されてくる」

使丁「後のことは、お前と“篠ノ之博士の妹”を一緒に部屋にさせた寮長に任せることにしよう?」ピポパ

一夏「……はい」

使丁「寮長か。実は――――――」





―――――― 一夏が先程までの箒とのやりとりを説明し、


一夏「――――――って感じで……」
               ・・・・・・・・
使丁「そうか。考えられる上で、最善で最悪の方法を選びとってしまったわけか……」

一夏「え」

使丁「こうなったら、俺たちも腫れ物に触るように接することはやめることにする」

一夏「あの…………」

使丁「なあ、一夏くん?」

使丁「どうして小学4年生の時に、篠ノ之御一家が引っ越してしまったか、その理由を知っているかい?」

一夏「え」

使丁「まあこれも国家機密なんだけど、幼馴染を他人と思わないきみを信用して真実を告げよう」

使丁「口外は厳禁だ(織斑一夏そのものが国家機密の塊なんだし、今更1つ国家機密を公開したって――――――)」

一夏「…………わかりました」





――――――重要人物保護プログラムの真相を告げられて、


一夏「そんな……、そんなことが…………」

一夏「去年の新聞で『剣道の全国大会で優勝した』ってあったけど、それから間もなく引っ越しを余儀なくされて…………」

使丁「だから、一夏くんが箒ちゃんに言った内容はことごとく箒ちゃんのトラウマを抉ることになったんだ」

使丁「だけど、全うな人間として生きるために、誰かがそれを言わなくちゃいけなかったんだ」

使丁「むしろ、よく言ってくれたと思う」

使丁「俺はそのことに感謝しているんだ。大人になると冗談でも真剣でも許されなくなることが多くてな」

使丁「一夏くんだって、――――――本当のことを言われて、それを見つめ直して、今の自分になれただろう?」

一夏「はい」

一夏「おかげで、箒が抱えている歪な何かを感じ取れるぐらいには――――――いや、俺もあんな感じだったんですね」

一夏「漠然と千冬姉に自分を無理やり重ねようとしていて…………」

使丁「誰だって、精神的支柱を必要とするものだ。そうなるのは人間として当然だ」

使丁「だが、やがてそれを失う時が必ずくるんだ」

使丁「その時、それを乗り越えられる心の強さが必要となってくる」

使丁「一夏くんだって60歳を迎えた時、千冬や俺が生きているかどうかなんてわからないし、人間誰しも死を免れないことぐらい理解できるだろう?」

一夏「……はい」

使丁「その時、心がいつまでも千冬や俺によって支えられているようではダメなんだ」


使丁「要するに、来るべき時までに自立独立していける強い心と生き抜くための術を磨いていって欲しいんだ」


使丁「だからそういう意味では、――――――“篠ノ之博士の妹”はかなり危ない」


使丁「目に見えてわかりやすい不健全さだったら、注意できる。矯正できる」

使丁「けど、健全そうに見える不健全さだからこそ、それがしづらくて、その将来性を“俺たち”は危ぶんでいるんだ」

使丁「これは箒ちゃんだけじゃない。シャルロットやラウラにも共通して言えることだ」

一夏「!」

使丁「けど、やっぱり一番深刻なのが“束の妹”なんだよな……」ハア

使丁「姉妹揃って面倒ばかり掛けやがって」

一夏「…………」

使丁「二代に渡って世話をすることになるとはな…………人生とはわからないものだ」

使丁「やっぱり、姉妹ってことなのかな?」

使丁「束もいつまでも変わらない子供の精神だけど、結構根に持つやつだったからな」

一夏「え」

使丁「ともかく、これからの箒ちゃんとの付き合いとなるが、」

使丁「専用機持ちでもいいから、1組で彼女を気にかけてくれる友人を用意する必要がある」

使丁「その子に今度のルームメイトを引き受けてもらいたいところなんだが…………」

使丁「確かまだ、空いている部屋が2つぐらい残っていたはずなんだ。そこに引っ越させるんだ」

一夏「……わかりました。俺も、頑張って探してみます」

使丁「すまないな。――――――情けない大人で」


ザーザー


使丁「こんな世の中になったのも、道を示すべき大人が平和と繁栄の豊かさの中でその義務を忘却してしまったから…………」


ゴロゴロ・・・


一夏「…………用務員さん」

使丁「俺も人のことを偉そうに説教できる資格を持つ人間じゃないことは、わかっている」

使丁「俺は、…………救うことができなかったから」

使丁「(そう。だから俺は、人の死をも厭わない覚悟で、ISに生身で立ち向かったんだ…………)」

使丁「(『あれ』が無人機かどうかは関係なく、全身全霊で本気で殺す気で立ち向かい、)」
                ・・・・・・・・
使丁「(そして、結果として俺も、最善で最悪の方法で織斑一夏に教訓を残すようなことをしてしまったんだ)」

使丁「(だが、それでもいい。人間は自分が知っていること以上のことは知らないし、対処できない。経験こそが全てなのだから)」

使丁「(だから、俺で慣れておけ)」


使丁「俺は“世界最強の用務員”として、IS学園の秩序と健やかなる毎日を守ってみせる!」グッ


ピカーン!



――――――6月の終わり頃


一夏「(あれから俺と箒の距離感は、用務員さんや千冬姉の執り成しによって、破局とまではいかなかった)」

一夏「(しかし、目に見えて元気がなくなり、最初の頃の険しさは鳴りを潜めた代わりに、)」

一夏「(――――――物凄く、意気消沈した『根暗なやつ』に成りつつあった)」


一夏「ああ……、どうすればいいんだ!?」

一夏「俺の言葉なんて聞きたくもないらしいし、あのままじゃ本当に人間としてダメになる!」

一夏「昔から『デリカシーがない』って言われ続けていたけど、俺は――――――!」


鷹月「ねえ、織斑くん? どうしたの、そんな深刻そうにして…………」


一夏「え」




――――――IS学園正門


使丁「お帰り願おうか」

担当官「いや、織斑一夏に物申さぬ限りは……!」


両者「…………」ゴゴゴゴゴ


使丁「ふざけるなよ、“グッチ”」

使丁「誰の教育で“束の妹”があんな風になったと思っているんだ?」

使丁「お前は昔から自分の正しさを絶対として、人の話を聞かなかったもんな」

使丁「ある意味そっくりだったよ、束と」

担当官「!!」イラッ

担当官「あの女と一緒にされては困る!」

担当官「私は、あの子の父親から直々に託されてあの子を見守り続けてきたんだ」

担当官「だから、あの子がどれだけ辛い思いをしてきたのか――――――」

担当官「私はその側であの子の叫びを受け止め、涙を拭い、励ましてきたんだぞ!」

担当官「それを、自分が蒔いた種なのに自分だけのうのうと姿をくらまして好き勝手にやっているあんなやつと一緒にされるとは心外だな!」

使丁「場当たり的な慰めや励ましばかりやってきたから、今のような状況に陥ったんだろうが!」

使丁「――――――『小善は大悪に似たり』とはこのことだな」

担当官「!?」

     ・・・・・・・・・・・・・・
政府高官『小善のために大善を見誤るなよ』


担当官「…………他人事だと思ってぇ!」ギリギリ・・・

担当官「私は、人間として得るべき当然の権利や幸福を奪われた“対象”のために、最善を尽くしてきた身だ!」

担当官「誰もそのことにケチは付けさせない! たとえ、“マス男”や“プロフェッサー”であろうともな」

使丁「そうかい!」ギロッ


両者「………………」ゴゴゴゴゴ


鷹月「あ、あの…………」

両者「!?」ビクッ


使丁「あ、ああ……、1組の鷹月静寐さんか」ニコニコ

担当官「や、やあ、こんにちは……」ニコニコ

担当官「その袋を用務員さんに届けに来たんだね」ニコッ

鷹月「はい。轡木さんが渡すようにと」

担当官「…………轡木さん、か(この学園の実質的な運営者の御老体か。相当な切れ者で老獪だと聞く)」

使丁「届けてくれて、ありがとう」ニッコリ

鷹月「はい。それでは」

タッタッタッタッタ・・・

両者「………………」

担当官「…………いい子だな」

使丁「ああ。真面目でとってもいい子だよ。気さくだし、割りとジョークもいける口で、堅物のお前より頭の柔らかい子だ」ガサゴソ

使丁「お前にはああいう大らかな性格の子がお似合いだ。それだけめんどくさい人間なんだよ、お前は」

担当官「…………フン、余計なお世話だ」

担当官「お前だって、未だに“時雨”や千冬の――――――」

使丁「さて、行こうか」

担当官「どこへだ?」

使丁「轡木さんが気を利かせてくれたらしい。――――――柔剣道場の鍵とボロボロの道着が2着だ」

担当官「……ほう」

担当官「白黒つけようじゃないか(そうか。やはり御老体は――――――)」

使丁「ああ。仕切り直しだ」


両者「………………」ゴゴゴゴゴ



――――――同じ頃


鈴「あんたにとって、一夏って何なのさ!」

箒「…………」

鈴「ここのところの二人の様子を見る限りだと、どうやらお互いに思い描いていた通りの相手じゃなかったって感じね」

鈴「ファースト幼馴染だからって、一夏のことを自分のものとでも勘違いしていたんでしょう」

箒「違う!」

鈴「どこがよ!」

鈴「あんたが好きなのは“昔の一夏”であって、“今の一夏”じゃないんでしょ!」

箒「!!」

鈴「(そう。これは私も同じことだった)」

鈴「(だから、箒が何を考えて、何を感じていたのかは私も痛いほどわかっていた)」

箒「貴様!」バッ

鈴「!」ガキーン!


激高した箒はすぐに木刀を手にとって殴りかかろうとするが、実力の差は著しく大きかった。


箒「なっ!(――――――部分展開! しかも速い!)」

鈴「今の、生身の人間だったら本当に危なかったわよ?」

箒「くっ……」


あっさりと対応されて、しかも冷静に正論をつきつけられ、

また、箒自身が『すぐに手を出してしまう』自分の悪癖を自覚していただけに、

鈴との間に天と地ほどの格の違いがあったことを痛感させられてしまった。

つい先日、自分が守ろうと思っていた対象:一夏から逆に『子供』だと指摘されていただけに、

自分が想っていた相手から強く否定され、そして自分で自分を否定する局面にまで追い詰められつつあった。

だが鈴は、相手の心が死にゆくのを傍目で見ながら心の中で嘲笑う気はなかった。

なにせ、気分が悪くなる。そんな様子を見届けるのも、そんなふうに追いやる自分に対しても。

だから――――――、


鈴「でも、いいわ」

鈴「今のは私に対して決闘の手袋を投げてよこしたものだと解釈してあげる」


鈴「勝負よ、“ファースト幼馴染”篠ノ之 箒!」


箒「…………!」

箒「受けて立つ!(専用機持ちを倒せる実力を私が持てば、きっと一夏も私に守られてくれるはず……)」

鈴「…………やっぱりね(そうよね。勘違いとは言え、これまで『好きだ』って思っていたこの気持ちを今更捨てられないもの)」



――――――時間は少し遡り、


一夏「聴いてくれてありがとう、鷹月さん」

一夏「“クラスで一番のしっかり者”が鷹月さんで良かった」

一夏「あ、いやいや――――――、鷹月さんが“クラスで一番のしっかり者”で良かった……」

鷹月「ふふっ、おかしい……」プルプル

一夏「ご、ごめん!」

鷹月「気にしてないから、安心して……」プルプル

鷹月「でも、言う順番が変わるだけで印象が全然違ってくるもんなんだね」

一夏「そうだな。俺が“世界で唯一ISを扱える男性”だからみんなに好かれるのか、」

一夏「それとも、“世界で唯一ISを扱える男性”が俺だからみんなに好かれているのか――――――」

鷹月「う~ん。ちょっと前までは、織斑くんが“世界で唯一ISを扱える男性”だったからみんな興味津々だったけど、」

鷹月「今は違うかな」

鷹月「“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑くんだから、みんな織斑くんに夢中なんだと思うよ」

一夏「(あれ、何気なく言ってみたけど、これって意外と核心を突いているような――――――)」

一夏「あ」

一夏「…………」ハア

一夏「そうだよな。最終的に行き着くのってそこなんだよな」ハハハ・・・

一夏「“先生”だから言うことを聞きたくて聞くってわけじゃない」

一夏「その人が“先生”にふさわしくないと思っているから言うことを聞かないっていうのが本質だよな」

一夏「千冬姉だって、“ブリュンヒルデ”になったから世界最強なんじゃなくて、世界最強だったから“ブリュンヒルデ”になったんだ」

一夏「似ているようで、全然違う」

鷹月「織斑くん」

鷹月「あのさ、篠ノ之さんのことなんだけど、」


鷹月「私がルームメイトになってあげるよ」


一夏「!」

一夏「本当か!」

一夏「あ、いや……、同情でルームメイトを希望されても箒は拗ねるだろうな」

鷹月「大丈夫! 私に任せて」

一夏「……そうだな。“クラス一のしっかり者”の鷹月さんに期待させてもらうとするよ」

一夏「そう言ってくれて、本当に助かったよ……」

鷹月「どういたしまして」

鷹月「それじゃね」

一夏「ああ……」


――――――そして、時は流れて


一夏「そうだよな。俺はもっと広い目で世界を見るべきだったんじゃないか?」

一夏「鷹月さんのように、話せば“篠ノ之 箒”という一人の人間のことを理解してくれる人だっているんだ」(ある程度真相は隠蔽しているが)

一夏「 逆 転 の 発 想 だ ! 」

一夏「『AIC』によって近づいて攻撃できないなら、近づかずに攻撃すればいい『AICC』の時と同じやり方をすればいいんだ!」

一夏「つまり、箒が友達を作るように働きかけるのではなく、赤の他人が箒と友達になるように働きかけるべきだったんだ!」

一夏「今までそれができなかったのは、重要人物保護プログラムのせいだったけど、」

一夏「今はありのままの“篠ノ之 箒”でいられる!」

一夏「 こ れ だ ! 」


女子「ねえ、今アリーナで噂の転校生と2組の代表候補生が戦ってるんだって!」

女子「へえ、そういえば“篠ノ之博士の妹”ってこの前の勝ち抜きバトルで飛び入り参加で10連勝したんだって」

女子「でも、訓練機相手だったんでしょう? さすがに専用機相手に勝てっこないって」

女子「そうそう。織斑くんの時とは勝手が違うって。だって、織斑くんは“千冬様の弟”で、転校生は“開発者の妹”だもん」

女子「はやくはやく!」


一夏「…………鈴と箒が?」

一夏「何か問題が起きなければいいのだが…………(あれ? 俺、セシリアに勝ったことになっているのか? そういうふうに聞こえたが……)」



――――――アリーナ


鈴「少しはやるじゃない!(改めて『打鉄』の防御力と安定性に驚かされるわ。さすがは世界シェアNo.2)」

箒「まだまだぁ……!(こいつに打ち勝てば一夏もきっと見直すに決まってる! 負けられない!)」

鈴「けど!(箒ってたぶん私と同じように積極的に攻めこむタイプだろうから、『打鉄』の機動力の乏しさにイライラさせられているはず)」ヒュウウウン!

鈴「うらあああああ!」ブンブン!

箒「はあああああああ!」ガキンガキーン!


――――――
一夏「あいつら、何をやってるんだ?」

一夏「(二人揃って手加減でもしているのか? それとも、レクリエーションで格闘縛りでもやっているのか?)」

一夏「(なぜ鈴は『龍咆』を撃とうとしない? 勝つだけなら、距離を取って一方的に撃てばそれですむはずだろ?)」

一夏「(そして箒も、必殺の『空裂』『雨月』を使おうとしない。あくまでも、二刀には二刀って感じに振るっているだけ……)」

一夏「正々堂々、自分たちのプライドを賭けて戦っている――――――、というのか?」

一夏「なぜそうなったのかはわからないけど、――――――いい傾向と見るべきなのだろうか?」
――――――


ガキンガキーン!


箒「これで、18合ってところか……」ハアハア・・・

鈴「結構やるじゃない……」ハアハア・・・


――――――
一夏「格闘戦ともなったら機体性能や適性よりも、パイロットの直接の戦闘能力が勝負を左右する」

一夏「そして得物が大きい分、鍔迫り合いになりやすく、互いになかなかダメージを通すことができない」

一夏「一方は、第2世代型ISにおいて最高の防御力を誇る『打鉄』」

一夏「もう一方は、第3世代型ISにおいて燃費と安定性を重視した最新鋭機『甲龍』」

一夏「基本的にこの格闘縛りで戦うのであれば、長期化は必至!」

一夏「となれば、どちらかが先にぶっ倒れるまで勝負は続く…………」

ラウラ「大した根性だ。少しは見直してやる」

一夏「ラウラか」

シャル「僕もいるよ、一夏」

一夏「おお、シャルロットもか」

セシリア「私もおりましてよ」

簪「私も」

一夏「おお」

簪「頑張っているよね、箒」

一夏「ああ。今まで意気消沈していたのに、何があそこまで箒を突き動かしているんだろう…………」

一夏「それに鈴だって、射撃が不慣れな箒に遠慮することなく射撃戦に持ち込めばあっさり勝てるのに…………」

セシリア「一夏さん」ハア

簪「そんな単純な勝負じゃないと思うよ、一夏」

一夏「え」
――――――



鈴「…………」スゥーハァーー

箒「…………来る!」

鈴「でやああああああ!」ブン!

箒「はああああああああ!」ブン!

ガキンガキーン!

鈴「くぅ……」ゼエゼエ

箒「…………く」ゼエゼエ


――――――
一夏「……もういい」

一夏「やめていい! やめていいから! やめてくれ! ――――――やめろよ!」

一夏「休み休みやっているとはいえ、明らかに度を越しているぞ!」

一夏「機体が壊れるよりも先に、お前たちの身体が壊れるぞ!」

一夏「見てられるか!」ダッ

シャル「一夏!」

セシリア「一夏さん!」

ラウラ「…………?」

ラウラ「あれは何だ?」

簪「どうしたの?」

ラウラ「アリーナの天井に何か、……いる?」

シャル「何だろう?」

簪「管制室に確認をとってみる」ピピッ

セシリア「――――――っ!」ダッ

シャル「セシリア!?」
――――――


――――――アリーナの外


使丁「急げええええええええええ!」ダダダダダ・・・(ボロボロの道着)

担当官「言われるまでもなああああああい!」ダダダダダ・・・(同じく、ボロボロの道着)

使丁「束めええええええええええ!」(身体のあちこちが痣だらけ)

担当官「好きにやらせるかああああああああ!」(同じく、身体のあちこちが痣だらけ)

千冬「揃いも揃って馬鹿共が! 手間を掛けさせるな!」ダダダダダ・・・

副所長「急げ! アリーナを乗っ取られてからでは何もかもが遅すぎる!」ダダダダダ・・・

副所長「アリーナには篠ノ之 箒と凰 鈴音が試合中! 試合時間30分以上――――――!?」

副所長「どういう試合展開だ、これは……?」

千冬「だが、戦力と数えることはできそうもないだろう。そこを襲われたらひとたまりもないぞ!」

使丁「鈴ちゃああああん!」ダダダダダ・・・

担当官「箒ちゃああああん!」ダダダダダ・・・


ドドドドドドドドドド!


――――――場面はアリーナに戻り、


一夏「まだ、続いているのか……」ハアハア・・・

一夏「もうやめろ、二人共……!」


箒「ふあああああ!」

箒「(ここで折れたら、私が私で無くなってしまう気がして…………)」

鈴「はぁああああ!」

鈴「(こんなのは代表候補生がする試合じゃないってのはわかってる。けど、これが女の意地ってやつよ!)」


――――――負けたくない!



一夏「え」ピィピィピィ

一夏「――――――IS反応、――――――『未確認』!?」

一夏「あ!」


ヒュウウウウウウン!


一夏「退避だ! 退避しろおおおおおおおおお!」

箒「…………一夏?」ゼエゼエ

鈴「げ、幻聴じゃないわよね?」ゼエゼエ

鈴「けど、退避って――――――」ピィピィピィ

鈴「…………上?」

鈴「あ――――――、危ない!」ガシッ

箒「あ……」

ドッゴーン!

箒「な、何だ、こいつは…………」

鈴「こ、こんなことがまた起こるだなんて…………」


――――――夢なら醒めてよ、まったく。



無人機「――――――!」

一夏「くそっ! いつだったかの無人機の仲間か!(今度のは朱くて鎧武者って感じがするな。見た目通り、接近戦が得意なのだろうか?)」

セシリア「一夏さん!」バヒュン!

一夏「セシリア!?」

セシリア「一夏さんが行ってしまわれた直後に、怪しげな影がアリーナ天井付近で確認されたので、もしやと思い、すぐに追いかけてきましたわ」

一夏「助かったぜ、セシリア! 俺だけじゃ不安だったからな」

一夏「それじゃ、行くぞ!」

セシリア「はい!(以前は助けられる側でしたが、今度はお助けいたしますわ!)」

――――――
ラウラ「なにっ! シャッターが!」

シャル「これじゃ、外に出ることもできないよ!」

簪「また、こんなことが起こるなんて、――――――そうだ! 前と同じように!」ピピッ

簪「副所長――――――」
――――――


無人機「――――――!」ダダダダダ・・・

一夏「なんて弾幕だ……(こいつ、前のが極太レーザーだったのに、今回のはそのレーザーを散弾にして撃ちだす感じになってやがる……!)」

セシリア「こ、これでは近づくこともできませんわ!(圧倒的な面制圧力で回避で精一杯……!)」

一夏「危なっ――――――(――――――『零落白夜』!)」スパッ

一夏「なにっ!?(シールドバリアーが反応した!?)」

一夏「嘘だ! 『零落白夜』だったらどんなレーザーだって――――――」

一夏「いや、まさか…………(――――――レーザーじゃないなら“それ以外”しかあり得ないじゃないか!)」

一夏「こいつ、実弾も紛れ込ませているのか!(これじゃ、一か八か『零落白夜』を構えながら突撃だなんて無理じゃないか!)」

一夏「とにかく、……鈴と箒が離脱するまでの辛抱だ!(くそ、距離が遠すぎるけど――――――『AICC』!)」

一夏「とりゃああああ!」ブン!

セシリア「距離が全然足りてませんわ、一夏さん!」

一夏「…………回避に徹するしかないか(中距離までなら狙いは完璧だけど、それ以上は絶対に届かないし、いろいろと隙だらけだ!)」

一夏「(何とかセシリアが攻撃できる隙を作ることができれば、でかい的だし当てるのも簡単で、一気に崩して俺が『零落白夜』でとどめを刺せるのに……)」

無人機「――――――!」

一夏「くっ」

セシリア「…………くぅ!」

一夏「(二手に分かれているのに、器用に両手でそれぞれ別の標的を狙えるだなんて、隙が無さ過ぎる……!)」



鈴「…………エネルギーは十分でも中身がこんな状態じゃ、まともに戦えないわよね?」ゼエゼエ

箒「…………い、一夏ぁ」ゼエゼエ

箒「お前は、私が守る――――――」

鈴「あんたねぇ! こんな状態でしゃしゃり出たって邪魔になるだけよ!」

鈴「あっちが今求めているのは、――――――速やかなる撤退、それだけよ」

箒「いやだ、私は――――――」

鈴「…………呆れた」

鈴「(けど、このまま撤退できるのかしら? いや、していいのかしら?)」

鈴「(セシリアが開幕の先制攻撃で気を逸らしてくれたおかげで、照準があっちに向いてくれたけど、とんでもない弾幕じゃないのよ!)」

鈴「(こんなのとまともにやりあって勝てるISなんて存在しないはずよ…………いたら正真正銘の化け物よ)」

鈴「(やるとしたら、誰かが囮になって攻撃を引き付けて、その隙を突いて側面を突くっていうのがセオリーだけど…………)」

鈴「(けど、生半可な攻撃じゃ、あのどっしりとした朱い機体を怯ませることができないだろうし、逆にこっちが蜂の巣にされちゃう)」

鈴「あ」

鈴「ねえ、あんた。そんなに一夏の役に立ちたいって言うんなら、『あれ』使いなさいよ!」

箒「なに……!」

鈴「『あれ』だったら倒せないまでもあの二人が反撃に転じる隙を造り出すことができるはずよ!」

鈴「それで、あんたが狙われたらさっきみたいに私があんたを運ぶから!」

箒「わ、わかった!」

鈴「一夏、セシリア、聞こえてる――――――」ピッ

箒「――――――『雨月』、行くぞ!」

箒「…………」スゥーハァーー

鈴「行くわよ、みんな! さあ、やって!」


一同「応!」


箒「…………!」カッ

箒「突きぃいいいいいいいいいいいい!」ブン!

ドッゴーン!

無人機「!!!!」グラッ

一夏「やった!」

セシリア「今ですわ!」ジャキ、バヒュンバヒュン!

一夏「行くぜ、イグニッションブースト!(ここで一気に間合いを詰めなきゃ、いつやれるよ!?)」ヒュウウウン!


中学剣道全国一になった篠ノ之 箒にとって、剣道の突き技はまだ経験が無かったのだが、すでにISでは何度か使っており、

この篠ノ之 束が妹のために送りつけたもう1振りの太刀『雨月』は、『空裂』と同じエネルギーブレードであり、

『空裂』は振り抜くことで、巨大なエネルギー波を放出して広範囲を離れながらに薙ぎ払うことができ、

『雨月』は突きを放つことで、同時に複数のエネルギー波を直線上に放つことができ、衝撃力ならば『空裂』を凌駕していた。

『雨月』の直撃を受けた朱い無人機は大きく体勢を崩し、セシリアの『ブルー・ティアーズ』による追撃を受けて、体勢を立て直す暇を奪われる。

そこにイグニッションブーストによって止まることができない暴走列車のごとき勢いで、一夏の『白式』が迫り来る!


鈴「やった! これで決まりよ!」

箒「あ、ああ……」

一夏「うおおおおおおおおおおおおおお!」ブン!

無人機「――――――!」

ガキーン!

一夏「なんだと!?(腕部に大型ブレードを展開した!? しかも硬い! 短期間で進化していると言うのか!?)」

無人機「――――――!」ブン!

一夏「うわあああああああ!(重量差で『白式』が押し負けた! レーザーブレードだったらそのまま押し切れていたのに…………)」ゴロンゴロン!

セシリア「一夏さん!?」

セシリア「くっ、やらせませんわ!」バヒュンバヒュン!

セシリア「な!?」

無人機「――――――」サッ

セシリア「展開したブレードをシールドのようにして、『スターライト』を防いでいる!?(いえむしろ、逆なのでは? あれは元々はシールド――――――)」

一夏「くそ…………」ムクッ

一夏「え」アセダラダラ

無人機「――――――!」ジャキ

一夏「…………嘘だろう(この距離であんなガトリング砲を撃たれたら、―――――― 一瞬だ。一瞬で蜂の巣にされるじゃないか)」

一夏「(しかも、セシリアの狙撃を見向きもしないで片手で防いで全く動じていない!?)」

一夏「(くそ、俺に向けられたもう片方の手のガトリング砲から今にもレーザーの嵐が…………)」

一夏「(すぐに立ってイグニッションブーストしかない! 方向はどこへ? ――――――どこでもいい!)」


一夏「うわああああああ!(イグニッションブースト!)」スッ

箒「一夏、今助け――――――あ」

鈴「どうしたの! ――――――あ」

無人機「――――――!」ダダダダダ・・・

箒「一夏ああああああああ!」

一夏「間に合ええええええええええええ!」ヒュウウウウウウン!

セシリア「一夏さん!」バヒュンバヒュン!

鈴「やらせない! ――――――『双天牙月』!」グルングルン!

無人機「!!!!」ガシッ

箒「あれを掴んだのか!?」

鈴「これでいいのよ!」

箒「あ」

一夏「両手が塞がってるぜええええええ!」

無人機「!!!!!!!!」

一夏「はあああああああああああああああ!」ブン!

ズバッ

無人機「!!!!」

無人機「!!!!…………    」

バタン

一夏「…………」ハアハア・・・

箒「やった、のか?」ゼエゼエ

鈴「やったわよ!」ゼエゼエ

セシリア「やりましたわ、みなさん!」


――――――逆転はいつでも起こる。



まさかの接近戦対策の実体ブレードによって『零落白夜』の一撃必殺が通らず重量差であっさりと押し返されて、逆に窮地を迎えた一夏ではあったが、

偶然が重なり合い――――――否、それぞれが最善を尽くした結果が一筋の逆転劇を生み出したのだ。

セシリアは必死に遠距離からの正確な射撃をし続けたことで攻撃は防がれ続けたものの、それによって朱い無人機はその場に釘付けとなり、

一夏もまた、最後まで諦めずに撃たれながらも緊急離脱によって被弾を抑え、『零落白夜』に使うエネルギーを温存することができた。

そして、極めつけは土壇場になっての鈴の『甲龍』の2振りの青龍刀『双天牙月』を連結させたブーメランである。

このブーメランは距離による減衰の激しい『龍咆』よりも重量もあって相手の体勢を崩すのにはベストだと思われた。

箒も助けたかったのはやまやまだが、『空裂』や『雨月』を使ったらすぐ近くで転がっている一夏まで巻き込んでしまう。

威力がありすぎるのも考えものだったために攻撃を躊躇う箒を見て、鈴が咄嗟に投げつけたのであった。

結局、『双天牙月』は朱い無人機によってセシリアの狙撃同様に余所見もせずに余裕で掴まれてしまったのだが、

あまりにもAIの頭が良すぎたせいで、逆に正面の一夏への攻撃を中断して両手を両側面からの攻撃の防御に向けてしまい、

せっかくの防御兼用の腕部大型ブレードも真正面からの『零落白夜』の斬撃を防ぐことなく、一瞬で一刀両断にされたわけである。


まさしくこの勝利は、諦めない者が最後に勝つ華麗な勝利であった。


そして、この勝利が一人一人の貢献によってもたらされたものであることを全員が強く認識したのである。


一同「(勝ったあああああああ!!)」

セシリア「やりましたわ、みなさん!」

鈴「なんだい、案外やれるじゃない、私たち」

箒「は、ははは…………」


だが――――――!


一夏「やったな――――――は、警告音?」ピィピィピィ

ドスーン!

無人機’「――――――!」

一夏「は」ポカーン


無人機’「――――――!」ブン!

一夏「うわああああああああああああああああ!」ヒュウウウウウン!

ドゴーン!

一夏「がはっ……」

一夏「」ガクッ

セシリア「なんですって!?」

鈴「もう1機!?」

箒「そ、そんな……!?」

無人機’「――――――!」ジャキ

鈴「や、やばいわよ! 離脱よ、速く!(こ、こっちに照準が――――――!)」アセダラダラ

箒「わ、私は――――――!」アセダラダラ

セシリア「こ、この!(――――――反応が鈍い! まだ終わってませんのよ、私!?)」

無人機’「――――――!」ダダ


――――――これ以上はやらせん!


ラウラ「てええええええ!」バン!

無人機’「!!!!」ボゴーン!

鈴「あ、ラウラ!」

シャル「さあ、二人共! 早く離脱を――――――!」

箒「あ、ああ…………」


――――――貸してくれ、『雨月』と『空裂』を!


箒「!」

使丁「絶対防御で砕けないのなら、使い道は他にあるはずだ!」(ボロボロの道着で痣だらけ)

担当官「エネルギーは十分に残っているな? 遠隔展開まで展開範囲を広げてくれ」(同じく、ボロボロの道着で痣だらけ)

箒「わかりました! えと……(なんでこの御二方はこんなボロボロの道着で痣だらけなんだ……)」

使丁「おや、雪片弐型が落ちているな」(空裂)

担当官「ああ、しかも『零落白夜』が展開されたままだな」(雨月)

使丁「なら、やるべきことは――――――」

担当官「――――――決まったな」

箒「あれ……(私はなんで生身の人間にIS用の太刀を疑うことなく渡してしまったんだろう…………)」

シャル「どうしたの、早く!」

箒「あ、ああ……、すまない」



副所長「『ブルー・ティアーズ』と『打鉄弐式』は攻撃を続行! 撹乱して、決して照準を地上に向けさせるな!」


セシリア「了解ですわ!」

簪「わかりました!」

セシリア「簪さんが来てくれたおかげで、ずいぶんと楽になりましたわ!(足を止める以上、『ブルー・ティアーズ』が使えないのが辛いところですけれど)」

簪「任せて!(さすがに欲張りすぎると危ないけれど、1斉射だけなら!)」ピピッピピッ

簪「ターゲットロック! ――――――『山嵐』!」

ドゴンドゴーン!

無人機’「!!!!」

ラウラ「なんて耐久力だ…………さすがの『シュヴァルツェア・レーゲン』でもあのような機体相手では分が悪すぎるな」

千冬「となれば、とっとと終わらせる手段は一つだけだな」

ラウラ「織斑教官!」

千冬「配置についたか?」


副所長「確認した。いつでもいけるぞ!」


千冬「よし、5秒後に仕掛ける!」

使丁「やれやれ、死ぬなよ?」

担当官「お前こそな」

――――――5,

――――――4,

――――――3,

――――――2,

――――――1,


副所長「攻撃停止! 『シュヴァルツェア・レーゲン』は俺の号令に従って撃ちこめ! 撃て!」


ラウラ「了解」バン!

セシリア「!?」

簪「りょ、了解です……」

セシリア「わ、わかりましたわ……」

ラウラ「ご武運を!」

千冬「でやああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・
使丁「うおおおおおおおおおおおおおおお!」ダダダダダ・・・
担当官「はああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・


シャル「え!?」

鈴「なんで大人3人が生身で突っ込むのよおおおおお!」

箒「千冬さん!? “グッチ”さん!? 用務員さん!?」

一夏「ウ・・・ウウン・・・・・・」

一夏「・・・・・・チフユ、ネエ?」



まさかの2回戦突入によって、戦況は一気に混沌の様相を呈した。

新しく投入された無人機はちょうど一夏の目の前に降下してきたので、基本的な配置は変わっていない。

ただし、1回戦で戦った面々はセシリアを除いて全て戦闘続行不能となって離脱・撃破・放置されており、

空中で高機動型の2機が早速新しい無人機を釘付けにしている間に、決着をつける準備が整えられた。

とどめを刺すのは、なんとISではなく、3人の超人であった(ただし、やっぱりIS用の武器は必要)。

男2人は箒から受け取った射撃性近接ブレードを生身で持ち、まるで重量を感じさせない俊足で一気に無人機にまで接近した。

それはおそらく10秒とかからない時間だった。

無人機は空中からの攻撃が止んでもしばらくは攻撃をし続けており、ピットからのラウラの砲撃が続いたこともあって視線が空を向き続けていたのだが、

それが二人が接近することを察知させるのを大きく遅らせることとなり、

その一瞬がもたらすものとは――――――、


使丁「押し倒すぞ!」

担当官「わかっている! それしか時間を稼ぐ方法はない!」

無人機’「――――――!」クルッ

使丁「遅かったな?」

担当官「右脇!」

使丁「左脇!」

両者「とったあああああああああああああ!」

無人機’「!!!!????」フワッ

使丁「でえええええええええええい!」
担当官「うおおおおおおおおおおおお!」

ブン!

ドゴーン!

無人機’「!!!!?????」

担当官「とどめを刺せ、千冬!」

千冬「はあああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・(雪片弐型『零落白夜』)

千冬「終わりだ!」

ズバズバズバ!

無人機’「!!!!…………    」

千冬「こんなものか」ブン!


副所長「IS反応の消失を確認! 制圧したぞ!」



鈴「」

箒「」

シャル「」

ラウラ「」

簪「」

セシリア「」


一夏「…………やったぜ! ……あ」ガクッ


一同「ワーーーーーーーーーーーーー!」


――――――湧き上がる勝利の歓声!



戦いは終わった。

最初に接近した男2人はあくまでも時間稼ぎに過ぎず、本命は『零落白夜』による一撃必殺であった。

千冬は、一夏が落としてまだエネルギーが残り続けて光を放つ雪片弐型を回収してから駆けつける必要があり、

そのために男2人は、打ち合わせもしていなかったが、直感的に2人いるのだから敵ISの両脇から太刀で押し倒すことを考えついて実行したのである。

副所長はあまり活躍していないように見えるが、オペレーターとして現場で具に戦況を見渡し適切な指揮を執った。

ラウラの砲撃は全て副所長の号令で1発1発撃たれており、絶妙なタイミングで無人機が振り向くように仕向けたのである。

それによって、一気に懐まで潜り込んだ男2人は立ち止まって上半身だけこちらを向いた無人機の脇から太刀を肩に引っ掛けて通り抜け、

そして、勢いのままに無人機を全力投球して大地に倒れこんだ。投げつけた無人機に後ろからぶつからないように回避したのである。

その間に、千冬は雪片弐型を迅速に回収して、男2人が見せつけた俊足以上の速さで倒れた無人機に容赦なく光の剣を浴びせたのである。

無人機は哀れにも、真っ二つにされるよりも酷いバラバラの刑に処され、完全に沈黙した。

それから間もなくして、『白式』のエネルギーが切れ、『零落白夜』の光の剣は千冬の手から光となって消え去った。


――――――まさしく超人の戦いぶりであった。


前衛も後衛も指揮もタイミングも、全てが神憑り的な連携行動であったのである。


――――――これが“奇跡のクラス”の実力であった。


彼らに“偶然”という言葉は似合わない。

あるのは、互いの実力を知り 全てを任せ ただ無心に力を出し切って掴みとる“必然”のみ!

4人の天才が集結すれば、IS単機を圧倒することぐらい容易いことだったのである。

だが、やはり純粋な装備で戦闘続行不能に追い込むのは、この天才たちの力量を持ってしても不可能であった。


――――――ISを倒せるのはISだけ。


これは“奇跡のクラス”の一番の出世頭である、ISの開発者:篠ノ之 束の言である。

事実、一夏が残した『零落白夜』が無ければ、きっとこんな戦法は実行されることはなく、戦いは消耗戦に陥っていたことだろう。

それでも、場にはあらゆる状況に対応できる十分な戦力が揃っているので、副所長の指揮の下に鎮圧されていたことは容易に想像がつく。

やはり、“奇跡のクラス”に隙はなかったというわけである。


――――――夕方、病棟


箒「…………むむむ」(病床)

鈴「…………身体が鉛のように重い」(病床)

一夏「ところで、何だって二人がバトルすることになったんだ?」

一夏「しかも、格闘縛りの耐久レースなんて、身体を壊すだけだろうが」

鈴「えと、それは…………」

箒「何というかだな、女として敗けられなかったというかだな…………」モゴモゴ

一夏「は」

箒「こんなことを言わせるな、馬鹿者!」カア

一夏「いや、言ったのお前だし」

一夏「それに、辛いのなら言わなくたっていいぞ?」

箒「あ…………」

一夏「ともかく、無事で何よりだ」

一夏「箒は誕生日が近いことだし、その前に力尽きたら死んでも死に切れないだろう?」

箒「…………一夏」

一夏「鈴も今日は本当によく頑張ったよ。やっぱりいつもいてくれる相手が急にいなくなっちゃうのは結構キツイもんだからさ」

鈴「…………一夏」


一同「…………」


一夏「なあ、箒?」

箒「な、何だ、一夏……?」

一夏「俺、この学園に入って凄く良かったと思ってるんだ」

箒「何だ藪から棒に……」

一夏「聴いてくれ」

箒「あ、ああ……、わかった」

鈴「…………」


一夏「俺はさ、IS学園に入れられたのなんか、たまたま『ISを動かした』――――――それだけの理由で無理やり入れられて今までの何もかもが奪われた気がした」

一夏「だって、俺には今までの中学の友人だっていたし、入学先に困るほど学力は悪くなかった」

一夏「それを、いきなり世間から隔絶された全寮制の女子しかいない学園に入れられたら、びっくりするだろうよ」

一夏「実際にIS学園には俺の中学から入ってきた顔馴染みなんかいなくて、本当に不安だった」

一夏「世間は女尊男卑だしさ、下手なことをしたらすぐにおまわりさんのお世話になることだってありえたからさ」

一夏「俺には俺なりに思い描いていた将来設計っていうのがあったのに――――――、もう最悪だよ」

一夏「けど、俺はそこで千冬姉や用務員さん、セカンド幼馴染の鈴と出会うことができたんだ」

一夏「特にさ、千冬姉も用務員さんも居てくれて本当に助かったけど、一番に居てくれてありがたいと思ったのは鈴の存在で」

一夏「いろいろと気軽に女子のエチケットってやつを教えてもらえたから、俺はこうして差し障りなく生活を送ることができるようになったんだ」

一夏「だから、俺は鈴には凄く感謝している」

一夏「けどさ? もしこれが、俺の方から女子のエチケットを訊き出すことになったら、きっといい顔なんてされなかったと思う」

一夏「というか、俺だけだったらどう振舞っていいのかわからなくて、きっと俺は“俺”じゃなくなっていたかもしれない」

一夏「要するにだ……」


一夏「俺と一緒に、この学園で新しい人生を始めてみないか?」


一夏「IS学園には俺がいるし、千冬姉やその他の頼れる大人もたくさんいる」

一夏「それに、ここにいれば学園の特記事項によって、箒の生活は3年間守られる」

一夏「そして、その3年間のうちに実力をつけて名を挙げれば、もう誰も箒のことをただの“束さんの妹”だって思わなくなるからさ」

一夏「俺は、IS学園に入れたから今の“俺”になれた」

一夏「そして今度は箒――――――お前とまた会うことができたんだ」

一夏「だから、鈴が俺のことをIS学園で導いてくれたように、今度は俺が箒を新しい世界に導いてやる!」

一夏「えと……」


――――――だから、お前はもうひとりじゃない。



――――――
使丁「なあ」(病床)

担当官「何だ?」(病床)

千冬「どうした、馬鹿共?」

使丁「これって、俺たちの取り越し苦労だったのかな?」

担当官「…………言うな」

使丁「――――――『子供の喧嘩に親が出る』ってやつか、これは?」

担当官「まあ、…………大人気なかったのは認めよう」

千冬「今頃気づいたのか?」

使丁「いや千冬はいつも、分かった風に言ってはいるけど、実際はわかってなかったろ?」

担当官「そうだぞ。だったら、どうして何もしなかった?」

千冬「…………簡単な話だ」

千冬「私の狙いは、くだらないことで悶々としているお前たちを徹底的にぶつかりあわせ、自らの行いの虚しさを自覚させることにあったのだからな」アセタラー

使丁「ふーん」ジトー

担当官「もっともらしいことを言って誤魔化すな!」

千冬「…………貴様ら」

使丁「どうやら、“ブリュンヒルデ”となって天狗となって久しいらしいな、千冬」

担当官「その伸びきった鼻面を圧し折ってやろうか?」

千冬「…………いいだろう。怪我が治ったら柔剣道場に来い」

千冬「 後 悔 さ せ て や る か ら な ! 」フフフ・・・

使丁「いいぜ! また今度のような時のために身体を鍛えておくのは大事だからな」

担当官「別に、今からでもいいんだぜ?」

使丁「……お前、仕事はどうしたんだ?」

担当官「今回の件を報告したところ、――――――『臨海学校まで学園の監視を行え』とのお達しが」

使丁「…………お前ぇ」

千冬「………………」

担当官「どうした? なぜ哀れむような目で私を見る?」

使丁「お前がいなくても通常運転の職場って…………(本当に厄介者扱いされているんだな)」

千冬「――――――『類は友を呼ぶ』、か」


千冬「束、お前を考えている?」



――――――夜、大浴場


ガララ・・・

一夏「あ」

副所長「やあ、“千冬の弟”。お先に入らせてもらっているぜ」

一夏「はい」

副所長「なあ、一夏?」

副所長「今日の戦いはどうだった?」


――――――感動できたか?


一夏「…………はい」

副所長「そいつは良かった。それはきっと、“束の妹”も同じだろうよ」

副所長「お前たちは独力でそれぞれが最善を尽くして無人機1機を撃破したんだ」

副所長「その興奮と喜び――――――つまり、感情を共有しあうことができたんだ」

一夏「はい」

副所長「人と人とがより親密な関係になる条件っていうのが、感情を共有しあうってことなんだ」

副所長「今日の出来事は、孤立無援だと思い込んでいた“束の妹”に一筋の光を差し込む結果になったはずだ」

一夏「はい」

副所長「だが、俺としては不十分に思っている」


副所長「根本的な問題は解決されたとは言えない。ただ単に今日の出来事で解決への糸口が見つかっただけなんだ」


副所長「それに、7月には臨海学校があって、そこで誕生日に専用機をもらうことになるはずだ」

一夏「!」

副所長「あの子は強い。腕っ節は強い」

副所長「けど、心は重要人物保護プログラムで人生の全てを奪われた時から停まっている」

副所長「どこかで徹底的な敗北感を与えて、自分を見つめ直して改める機会があればよかったんだが、それが無かった」

一夏「…………」


副所長「進化論は信じるか?」

副所長「生存競争に勝つために古来より生物は他の種よりも優れるために進化を繰り返してきた」

副所長「だが、食物連鎖の頂点に立つと、どうやら生物というのは安定の中で進化する能力を失っていくものらしくてね」

副所長「つまり、腕っ節が強いやつほど自分を改めるってことをほとんどしないってことだな」

副所長「まあ、変える必要がないから変えないだけなのだが、もし変える必要が迫られた時はどんな状況になっているか、理解できるよな?」

一夏「……はい」

副所長「俺が思うに、将来あの子は絶対にどこかで慢心を起こして重要な局面で致命的なミスを起こしそうなんだ」

副所長「束が強力な専用機を渡せば、確実にそうなるのが目に見えている」

副所長「あの子は自分の剣の腕に絶対の自信を持っている」

副所長「そこから己の強さを過信して、今回みたいな襲撃事件に遭えば率先して勇ましく戦うだろうな」

副所長「ただ、勇ましく戦うのはいいんだが、自分がやれば全てうまくいく――――――」


――――――だから、自分のやることを邪魔するな、あるいは従え!


副所長「なーんてことになるんじゃないかって思う」

一夏「た、確かに、そんな気はするけど…………」

副所長「現代のプロファイリングを舐めるなよ?」

副所長「どんな性格が適材適所だとか、こいつの手癖や人相は育ちが悪いなとか、そういうのは統計的にわかってきているんだから」

副所長「俺が簪ちゃんに『打鉄弐式』を託したのも、簪ちゃんの力量もそうだけど、その性格や人柄を見て選んだからだ」

副所長「『俺はこんなにも難解な装備を使いこなせる凄いやつなんだぞー』みたいな性格のやつが専用機持ちだったら、周りはどう思う?」

一夏「…………少なくとも良い気分はしません」

副所長「そう。だから、専用機持ちは“エリート”であってもいいから、自重あるいは愛嬌が求められる」

副所長「その点でお前は、どっちもあるから安心だ」

副所長「逆に、どっちもないから“束の妹”に専用機を渡すのが不安なんだ」

副所長「…………なかなか難しいね、教育ってやつは」

一夏「はい」


副所長「――――――教育といえば、わかりやすい悪例があったな」

一夏「え」

副所長「あの朱い無人機だよ」

副所長「あれ、どんな攻撃にも瞬時に対応できるようにAIを高性能化していった結果、最後は無防備を晒してお前に斬られただろう」

一夏「ああ……!」

副所長「何事も程々っていうのが大事なのさ」

副所長「伊達政宗の家訓にこんなものがある」


仁に過ぐれば弱くなる
義に過ぐれば固くなる
礼に過ぐれば諂となる
智に過ぐれば嘘をつく
信に過ぐれば損をする


一夏「どこかで聞いたことがありますね」

副所長「人間の素晴らしさっていうのは、この0か1以外の判断ができることにあるんだ」

副所長「あの無人機は確かに素晴らしい人工知能を搭載していたが、まだまだ人間には敵わないレベルだったな」

副所長「何が正しくて、何が善いことなのか」

副所長「それは時代の常識が常に移り変わるように、移ろいゆくのが必定」

副所長「ましてや、時代を構成している今を生きる人々の生態などあっという間に何から何まで変わっていくものだ」

副所長「だから、常識に囚われないでくれ。もちろん、常識にも則ってくれ」

副所長「わかったな?」

一夏「はい」


副所長「長話が過ぎたな」

副所長「最後に言っておくぞ?」


――――――“束の妹”が偉そうなことを言っても聞き流せ。


一夏「え」

副所長「さっき話した内容の通りだ」

副所長「お前の状況判断のほうが遥かに信頼できるし、総合的な実力としては間違いなくお前が1年でNo.1だ」

一夏「…………何かが起こるって言うんですか?」アセタラー

副所長「…………じゃあな」


ガララ・・・


副所長「(俺はあんなことを言って、一夏に何をやらせようとしているのだ?)」

副所長「(ともかく、できる限りのことを始めよう。――――――今日みたいなことが起こった以上は何もしないわけにはいかない)」

ラウラ「む」

副所長「おや」

ラウラ「ぷ、“プロフェッサー”……」(旧型スクール水着)

副所長「……なんだ、ラウラか。今入るのか?」ニコッ

副所長「それならこのクレヨンを持って行くといい。これで今日の記念でも残すといい」

ラウラ「“プロフェッサー”!」パァ

副所長「お前はいい子だ。ちゃんと謝れるんだから」ナデナデ

副所長「それじゃ、仲良く、礼儀正しくな」

ラウラ「はい!」ニッコリ

ガララ・・・

ラウラ「来てやったぞ、“嫁”ええええええええ!」

一夏「ら、ラウラ!?」バシャーン!


副所長「いい笑顔だ……(――――――これが“千冬の弟”が“織斑一夏”としてこの学園に来て築きあげてきたものなんだ)」




第4.5話 ハワイ旅行券争奪戦
First Friends

――――――翌日、学園プール


一夏「本当に悪いな、みんな」(競泳水着)

女子「織斑くんの頼みとあらば、喜んで!」

一夏「(で、鷹月さんからの提案で、水泳部の活動が終わった後にプールを貸し切りにしてもらったけど、)」

一夏「本当に箒は来てくれるのだろうか?」

一夏「鷹月さんの考えって何だろう?」

ドドドドド・・・・・・

一夏「お、来たか」

一夏「プールサイドは滑りやすいから走らないで」

一夏「うえ!?」

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(競泳水着)

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(ビキニ)

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(ワンピース)

一夏「ちょっと何この人数!?」

スッ・・・・・・

使丁「ええ、マイクのテストテスト……」

使丁「驚いてもらっているようだね、一夏くん!」

一夏「用務員さん!? いったいこれは何の騒ぎなんです!?」

使丁「いやあ、5月の学年別トーナメントで、優勝景品として“ハワイ旅行”を進呈しようとしてたんだけど、それがお流れになってね……」

使丁「このまま2人分余らせてキャンセル料金支払うよりは、いっそのこときみを餌に参加者を集めて、改めてタッグトーナメントをやることにした」

一夏「え…………(今何て言った…………!?)」

使丁「競技種目は至って簡単――――――!」ピッ


――――――ウォーターバスケットボールだ。



一夏「え? ウォーターバスケットボール? 何それ? それをこんなたくさんいる中で? 何時間かかると思っているんだ」

担当官「道を開けてくださーい」ゴロゴロ・・・

副所長「台車が通るよー」

周囲「ハーイ!」

一夏「何これ?」

副所長「このカプセルを水面に投下して引っ張ると――――――!」バシャーン

プクゥウウウウウウウウ!

周囲「オオオオ!」

副所長「はい。――――――救命いかだの完成だ」

副所長「こいつは俺のコネで譲り受けた試作品でね。で、カプセルは引き上げるっと」

一夏「なるほど。これをバスケット代わりにするんですね」

副所長「そうそう。もちろんバスケットボールをするんだから、天蓋の部分は取り外してね」スィイイイイ

一夏「あれ? 中というか、底は透明なんですね」スッ

副所長「ああ、それはな!」ニヤリ

一夏「?」

担当官「許せ、これも箒ちゃんのためだ…………」スッ

一夏「あ」

ドーン!

一夏「ぐへっ」

スイッ

一夏「あ、あれええええええええええ!?(身体が、沈む…………)」


救命いかだの中を覗き込んでいた一夏を担当官が背後から押し飛ばすと、一夏の身体は救命いかだの中に飛び込んでいった。

一夏の身体は、予想していたゴムの弾力によって受け止められることはなく、スライムに呑み込まれるように床面に沈んでいくのであった。

床は無色透明のビニールか何かでできており、見回すとさながら水族館の水中トンネルのように水の中を展望できるようになっていた。

場所がただのプールで何もなくて非常に殺風景なのが玉に瑕なのだが、体験したことがない未知の光景に一夏の心は弾んだ。


一夏「おお! 何かすげえ!」

担当官「そうそう。しっかりとチャックを閉めないとな。これで浸水は大丈夫だな」スィイイイイ

ラウラ「おお! まるでくらげのようだな!」(旧型スクール水着)

シャル「すごいね!」(水色ビキニ)

副所長「驚いたかい? そいつは救命いかだを流用して造ったダイビングボートなんだ」

副所長「まあさすがに水深2m程度の浅瀬までしか使えないが、水に浸かることなく水中世界を観察することができるってわけだ」

副所長「――――――今回のは特別製だけどね?」ニヤリ

副所長「どうだい、みんな? 少しは南海のイメージが湧いてきたかな?」

周囲「ハーイ!」

周囲「ワタシモノッテミターイ!」

周囲「ゼッタイニハワイニイクゾー!」

シャル「へえ。浅瀬の海を…………(ああ……、これは絶対に勝ってハワイ旅行に行かなくちゃね!)」ドキドキ

ラウラ「ハワイか。いったいところなんだろうな」ワクワク

鈴「一夏! どんな感じ? そもそも聞こえてる?」(黄色ビキニ)

一夏「ああ、鈴か。ちゃんと声は聞こえてる――――――って!?」ツルッ

一夏「うわ! 何これ?! つるつる滑ってまともに立ち上がれないって!」バタバタ

一夏「しかも、足場が安定しなくて――――――、どうすればいいんだ!?」ドテンバタン


いざ救命いかだを改造したダイビングボートなるものから出ようとするのだが、まるで立ち上がることができずにいた。

今の一夏の置かれた状況を一言で比喩すると、――――――袋の中の鼠である。

袋とは言っても、レジ袋のように底が直線上になっているものではなく、風呂敷かばんのように底が不安定なものを想像して欲しい。

フライパンで喩えるなら、ダイビングボートの底は中華鍋のように油が一点に集中するような造りとなっている。

それだけなら、まだ立つことはできるはずなのだ。

それが、まず取っ手がこの閉鎖空間に一切ないので手で何かを支えにして立つことができない。しかも出入口は外側からチャックで閉められた。

また、中華鍋と比喩したが実際は一夏の重量でそこだけが沈んでいる有り様であり、一夏が外に出ようと2つの足で立とうとするとグラグラ揺らされるのだ。

しかも、何やらゴム以外の臭いがする何かが全体に塗りたくられており、それがますます不安定な足場の悪さを酷くしていた。


鈴「うわあ、中でもみくちゃになってるわね……」

副所長「今回のは水深1m用小児1人保護者同伴用かつ、中に潤滑剤を塗りたくってまともに立てないようにしておきました」

副所長「更に!」ポチッ

一夏「うわ、うわわわ!?」ゴロンゴロン

シャル「一夏?!」

ラウラ「むむ! プールに水流ができたようだな」

一夏「ああああれえええええええええええ!」


――――――嵌められた!

どうやら最初からこうすることが狙いであったと一夏が悟ったら、今度は凄い勢いで一夏を呑み込んだダイビングボートを押し流していった。

水面は大きく荒れ、水面上のいかだがグラグラと傾くことによって、底面の袋の中の一夏も大いに揺らされることになった。

水面上の救命いかだそのものは常に安定していて、転覆するということはないのだが、水面下の一夏の身体はもろにその影響を受けていた。

しかも、ただでさえ足場が不安定で潤滑剤が塗りたくられて滑るのだから、何度も何度も顎や顔面を袋の中の壁にぶつかってはぶつかることに…………

まるで洗濯機の中に入れられたかのようなあらゆる感覚を吹っ飛ばす暴力に、一夏はただただ翻弄されるしかなかった。


箒「つまり、激しく流れている荒波のプールを浮かぶダイビングボートにこのボールを入れればいいのですか?」(赤ビキニ)

使丁「そういうことです」

使丁「ただし! 制限時間はたったの5分! タッグに与えられたボールは1点、2点、3点の書かれた軟式ボール3つのみ!」

使丁「水の上に落ちたボールを回収しにプールに入ってもいいですが、流れが激しいので救命浮輪を付けて入ってくださいね」

使丁「制限時間終了時の計測で最高得点を叩き出したタッグだけが残り、それを延々と繰り返して、最後の1組になったものが勝者となります」

副所長「この激しく流れるプールの水流は、この乱数スイッチで逆回転するから規則性は無いと言っていいぞ」

副所長「確実に入れるのなら泳いで近づいていれるのがベストだが、泳ぎが得意じゃないなら素直にプールサイドから投げ入れることをおすすめする」

担当官「救命浮輪はこちらです!」

担当官「そして、第1回戦は4回にわけて行うので、どの回に参加するかによって、混み具合で投げやすさが変わるのでよく考えてください!」

担当官「ではまず、エントリーシートをお配ります! 記入したらエントリーシートを参加したい回の数字が書かれた箱にいれてくださいね」


担当官「それでは、受付を開始します!」


周囲「ワーーーーーーーー!」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・


大会主催者からの競技ルールの説明が終わり、参加者の受付が始まった。

学年別トーナメントの中止によってうやむやにされた織斑一夏とのハワイ旅行獲得のリベンジを夢見る乙女たちが、

今回の競技の内容を吟味して、改めて己の夢を共有できるパートナーを見つけ出しては共にエントリーしていく。

元から二人仲良く参加することを決めていた者もいれば、確実に勝てるパートナーを求めて人混みの中を流離う者もいる。

だがその中で、組む相手が思いつかず、呆然と立ち尽くす少女が一人いた。


箒「………………」



篠ノ之 箒は孤独であった。

厳格な父によく似て昔気質であるが気難しい性格に加え、人付き合いが下手ときている。

かと言って、積極的にそれを改善しようと努力することもなかった――――――否、努力するだけ無駄だと人知れずに教えこまれた彼女に罪はない。

だが、もし最初からIS学園に入学することを選んでいたら、どれだけ楽に生きられたことだろうか。

6月の中途半端な時期に転校してきたのは、政府が元々薦めていたIS学園に彼女の心の支えになった織斑一夏という少年が入学していたからであった。

それを知ったのは4月であり、すぐにでも転校しようとも思ったのだが、せっかく自分の意思で入ることを決めた学校をすぐに転校するのを躊躇ったのだ。

しかし、心機一転して新しい生活を始めていくのだが、やはり愛想がなく女尊男卑の世相に男っぽい性格が仇となって疎まれ、すぐに嫌気が差すことになった。

それにより、彼女の実質的な保護者である担当官“グッチ”は見兼ねていよいよIS学園への転校を再び提案する。

こうして、保護対象:篠ノ之 箒の担当官である彼は各方面に頭を下げて回り、そうして転校の手続きを済ませていよいよIS学園に転校してくる運びとなった。

ただ、今までと違うのは、偽の自分としてではなく“篠ノ之 箒”としていられることにあった。そのことと一夏とまた会えることが現状での救いとなったのだ。

だが、自分で選んで入った学校ですぐにふてくされた彼女にとって、やはり最初に入学できなかったのは非常に難易度が高かった。

織斑千冬のお情けでかつての幼馴染である一夏と同室となって胸が弾む毎日を送っていたのだが、自分にばかり付きまとう箒に一夏は冷ややかな目で見ていた。

それを知って思わず一夏の前ですら逃げ出してしまった箒にすでに寄る辺などなかった。あの夜は千冬に慰められながら一夜を過ごした。

だが幸いなことに、一夏がまじめになって解決策を求め、それを自ら実践してくれたので、現在は少なくとも前よりはマシな関係にはなっていた。
トモ
しかし、やはり同性の友達がいないことには変わりなく、彼女が「強敵」と呼べる人物は一夏のセカンド幼馴染のみ。他は全て一夏の友人でしかなかった。

この大会は先月の学年別タッグトーナメントの(優勝景品的に)再戦とも言った内容であり、元からタッグを意識していた周りと違って、

学年別トーナメント未参加でそれを意識したことがなかった箒はただ立ち尽くすばかりになっていた。

すると――――――、


鷹月「ねえ、篠ノ之さん」

箒「えと……、鷹月さん?」

鷹月「私と組もう」ニコッ

箒「え……」



副所長「どうだった? バランスの取れない世界っていうのは」スィイイイイ

一夏「…………危うく吐きそうになりましたけど、何とか堪えました」

一夏「それよりも早く引き上げてくれませんか? 中がスベスベでしかも不安定でこうやって手を伸ばしていることですら、相当なバランス感覚が…………」プルプル

副所長「やだよ。というか、それが今回の訓練内容だからな」

一夏「ええ!? 何ですかそれ……!?」

副所長「繊細なバランス感覚を研ぎ澄ます訓練だ」

副所長「しかも、ボールが入ってくるからますます足場が悪くなり、バランス感覚は非常にシビアになってくる」


副所長「だが、これを乗り越えた時に、きっと以前よりも強くなれるはずだ」


一夏「!」

一夏「わかりました。やってみます!」

副所長「ああ」

副所長「それより、鷹月さんと“束の妹”がペアになったみたいだぞ。見えるだろう?」

一夏「あ…………(――――――鷹月さんはこのことを知っていた?)」

副所長「いい子よ、あの子。あの子だったらきっと、“束の妹”の支えになってくれると思うぜ」

一夏「そうですね(そうか、なるほどな……)」フフッ

副所長「はい。それじゃ、集計も終わったことだし、1回戦第1試合始まりね」スィイイイイ

一夏「ちょっと待って! ああ――――――!」グデングデン


――――――1回戦第1試合


担当官「では、参加する回に間違いはありませんね? それ以外の選手はプールサイドから出てください」

周囲「ハーイ!」

使丁「おお?(2,4,6,8――――――)」

副所長「おや、たった8タッグだけ?」

担当官「みんながみんな様子見をしようとしたのか、最初の混み合いを避けようとしたのか――――――、どっちにしてもこれは圧倒的に有利ですね」
――――――
一夏「何でもいいから、早く始めてくれえええええ!」アセアセ
――――――

箒「ボールの感覚はこんなもんか。加減が難しそうだな」

鷹月「そうね。思い切ってプールに入っちゃおうかしら?」

箒「いや、さすがにそれは危ない」

箒「そうだ! 私と鷹月さんでプールを挟んで投げ入れれば、入る可能性は結構あがるんじゃないのか?」

鷹月「そうね。それがいいかも」

鷹月「あ……、けど、誰がどのボールを持ってく?」

箒「そうか。ボールは3つで、それぞれ1点、2点、3点となっているから、ただ入れればいいって話じゃないのか」

鷹月「なかなか悩ましいね」

箒「それじゃ、私が1点と2点のやつを持って、鷹月さんが3点ので、どうだ?」

鷹月「いいんじゃないかな? なるべく手前に来た時に入れるのがいいよね」

箒「そうだな。そうしよう。うん」ニコッ

鷹月「うん」ニコッ


使丁「よし、カウントを始めてくれ」

副所長「試合開始5秒前――――――!」
――――――
一夏「ぬうええええ、このおおおおおお…………」プルプル
――――――
箒「よしよし、こっちにこい、こっちにこい!」

鷹月「頑張って、篠ノ之さん!」フフッ


3、2、1、ピーーーーーーーーー!


使丁「試合開始!」



周囲「エイエイ!」ブンブン!

スカスカ

周囲「アア・・・・・・」ガックリ

箒「結構手前に見えるけれど、なかなか入らないもんなんだな…………どうする?」

箒「(いや、ここで迷ってどうする! 入ると思わないから入らない――――――、ここは無心でいくぞ!)」

箒「えい!」ブン!

ストン!
――――――
一夏「よし、何とか安定してきたぞ。しばらくこのままでいてくれよ」コン

一夏「あ!? 何か入ってきた!?」グラッ

一夏「あ、ああああああああああああ!」ゴロラゴロラ
――――――
鷹月「ナイスシュートだよ、篠ノ之さん!」ニコニコ

箒「あ、ああ! やったぞ! えと、――――――2点だ!」ニコニコ


使丁「おおっと! これは開幕直後の先制点! 入れたのは、篠ノ之さんと鷹月さんのペア:7班のようです!」

使丁「さて、ここで戦法が大きく二分されてきた模様――――――」

副所長「今回は人が少ないから、広々としていることを活かしてゴールを追う側と待ち構える側にわかれたようだな」

担当官「プールサイドは滑りやすいので走らないでくださーい!」


鷹月「もうちょっと近づいて来てくれないかな……」

箒「むむむ……、一夏め! 流されてばかりいるな!」
――――――
一夏「くそっ、たかだかボール1個2個で、こんなに感覚が違ってくるなんて…………」

一夏「えっと、こうか?」プルプル・・・

一夏「こうやって、両手両足を付いてっと……」

一夏「この体勢を維持できるようになれば、バランス感覚が鍛えられるはず…………」プルプル・・・

一夏「おっとっと……」

一夏「体重の掛け方でこうも変わってくるんだな……」アセダラダラ

一夏「バランス感覚を鍛えるスポーツっていうのもなかなか…………」フフッ
――――――
箒「…………何とかならないのか、この波模様は?」

鷹月「さっき3ポイント入れたところもいるし、どこかで勝負を仕掛けないとまずいよね?」

箒「そうだな。最後の30秒は荒波のプールに入ることも考えないといけないか……?」


副所長「さて、残り1分を切ったってところか」

副所長「第1試合としてはもっとバタバタして水面にボールがたくさん浮かんでいるのを想像していたけど、これまた予想外の展開になったな」

副所長「それと、みんな……、もう“千冬の弟”が水面下でどうなっているかなんて忘れちゃっているよね。悲しいかな悲しいかな……」

副所長「けど、随分慣れたものじゃないか、一夏よ?」


箒「あ、絶好のチャンスだ! えい!」ポイッ

ストン!

箒「やった! これで3点だ!」

鷹月「ああ……、躊躇っちゃった」

鷹月「(どうしよう? ここで私が3点入れないと、ここだけで勝敗を決めるわけじゃないから、6点全部入れないと多分勝ち抜けないよ……)」

鷹月「うぅ……」

箒「あ、どうした、鷹月さん?」

鷹月「私には無理そうだよ。篠ノ之さんが投げて」

鷹月「役に立てなくてごめんね」

箒「あ…………」

箒「いや! 私は鷹月さんを責めない! だから、思い切って投げてくれ! そのほうがせいせいする!」

鷹月「ありがとう、篠ノ之さん」ニコッ

箒「あ、いや、私の方こそ、組んでくれて、ありがとう」モジモジ


副所長「残り20秒……」


鷹月「それじゃ、投げるね?」

箒「ああ。思いっきりいけ!」

鷹月「…………ええーい!」ポイッ

周囲「エイ!」ポイポイ


使丁「意を決したかのように、それぞれが最後のチャンスとして一斉に投げたああああああ!」

担当官「さあ、どうなる?(神よ、箒ちゃんに味方し給え…………)」

副所長「今のところ、最高得点が3点。これ以上得点が上がることがあれば、後続に対して大きなプレッシャーとなるな」

副所長「ここが回を分けたことによる戦略の差よ。第1試合を選んだ連中は運がいいな」

副所長「(このことをきっかけにして、よく考えることをより多くの生徒が学ぶことを切に願う)」





ストン


鷹月「…………入った?」

鷹月「今、……入ったよね?」

箒「すまない。球がいくつか入ったのは確かに見えたが、私たちの球だったかまでは…………」

箒「けど! よくやったと思っているぞ、私は!」アセアセ

鷹月「大丈夫。篠ノ之さんのことはさっきのでよくわかったから」ニコッ

箒「!」

箒「そ、そうか……」


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「では、第1試合終了です!」

使丁「さて、ダイビングボートから球の中身を確認するので、しばらくお待ちください」

副所長「現在のところ、1回戦の最高得点は3点のようだが、これ以上となると第2試合以降のみんなが苦しくなるな」

副所長「さて、確認しようか」スィイイイイ

一夏「あ、“プロフェッサー”…………」グッタリ

副所長「さすがに5分間も緊張状態が続けば疲れるものだな」

副所長「だが、少なからず後4回はやってもらう」

一夏「うええ!? 勘弁してください。全身油塗れでヌルヌルだ…………」

副所長「それじゃ、このおたまに球を1個ずつ載せていってくれ」

一夏「げえ!? なんでおたまで――――――!」

一夏「えっと、こうやって球をとって、体重をこう掛けて…………」プルプル・・・

副所長「頑張れ頑張れ」

一夏「…………はい」ポトッ

副所長「えっと、普通の球は1点で、番号は5」

副所長「次――――――」

一夏「うええ…………」

担当官「さて、こっちはこっちで水面の球の回収――――――」


鷹月「入ったのかな、入らなかったのかな?」ドキドキ

箒「頼む。入っていてくれ……」ドクンドクン


一夏「これで、最後ですよ……」プルプル・・・

ポトッ

一夏「あ、ああああ! くそ、疲れる……」バタン

副所長「あ、これは…………」


鷹月「最後の球は――――――」

箒「…………!」


副所長「赤球3点、番号は7!」

副所長「7班の得点:6点!」


鷹月「聞き間違い、じゃないよね……」ドクンドクン

箒「いや、確かに『番号は7』だって……」ドクンドクン


使丁「おめでとうございます! 7班の篠ノ之さんと鷹月さんのペア、見事にパーフェクトです!」

使丁「みなさん! 盛大に拍手をお願いします!」

パチパチパチパチパチ・・・・・・

使丁「いきなり優勝確定か!? 2回戦に入るためには満点を取らなければ即敗北となります!」


箒「や、やったぞ! 鷹月さん!」

鷹月「ありがとう、篠ノ之さん!」


鈴「へえ、やるじゃないの」

シャル「これはいきなりハードルが高くなったね」

ラウラ「任せておけ、シャルロット。投擲には自信がある」

シャル「そうなんだ。それじゃ、頼らせてもらうよ」

鈴「絶対に勝あああああつ!」ゴゴゴゴゴ



――――――そして、1回戦が終了して、


使丁「最初の7班によって上げられたハードルによって、参加したペアのほとんどがふるいにかけられてしまいました」

使丁「残ったペアはたったの6組12人!」

使丁「よって、これより決勝戦を開始したいと思います!」

周囲「イエーーーーイ!」パチパチパチパチパチ・・・・・・

副所長「とは言っても、大体が代表候補生なんだけどさ」

使丁「では、ゴールの準備もできたようなので、」

使丁「――――――選手入場です!」
――――――
一夏「これでやっと終わるんだ…………」アハハ・・・
――――――

7班:篠ノ之 & 鷹月    (第1試合)

22班:鈴 & 相川清香    (第2試合)

34班:のほほんさん & 簪  (第3試合)

50班:ラウラ & シャルロット(第4試合)

EX :織斑先生 & 山田先生 (第4試合)


副所長「やっぱり、千冬の参加は無しにしたほうがよかったんじゃないのか?」

担当官「そんなこと言われても、生徒たちが面白がって、こちらとしては断りづらい雰囲気になって…………」

副所長「お前としてはどの班に勝ってもらいたい――――――いや、愚問だったな」

担当官「ああ、愚問だな。言うまでもなく、――――――7班だ」

担当官「しかし、まさかラクロス部とハンドボール部部員の力があれほどとは…………」

副所長「相川清香か。とっても元気が良くて、これまたいい子だぞ」

担当官「まったくこういうところで、球技部の距離感の強さが著しく発揮されたもんだ」

担当官「ラクロスというものは初めて見たが、あんなにも球が速く飛んで行くんだな」

担当官「しかも、一番人数が集中して混雑した激戦区を突破できた辺り、悔しいけどこれは優勝するだろうな」

副所長「けど、更識家の二人もよくやってるじゃないか」

担当官「そうだな」

担当官「…………底が知れないな、本音ちゃんは(あれも徹底的な教育の賜物なのだろうか)」ボソッ

副所長「簪ちゃん、もうちょっと頑張ってみてくださいや(まあ、参加してくれているだけでも大きな進歩だけどな)」ニコニコ



シャル「学年別トーナメントが全生徒強制参加で、このリベンジマッチが自由参加なのはわかるんだけど…………」

ラウラ「どうした、シャルロット?」

シャル「確実に勝つ手ってないかな………………強敵が多すぎるよ」ハア


鈴「ふん! ふんっ!」ブン!

相川「これは私たちの勝利まちがいなしよ!」


本音「さあ、カンちゃん! 優勝してハワイに行こー」

簪「いや、私は別にそこまで行きたいってわけじゃ…………」

本音「いいのいいの。何でも経験が一番なのだー」

簪「う、うん。確かにそうかもしれないけど…………」


箒「強敵揃いだが、勝ち上がったのは天運のはずだ!」

箒「一緒にハワイ旅行を掴みとるぞ!」

鷹月「おー!」


山田「あの……、飛び入り参加して景品を横取りするようなことって、なんだか大人気ないような…………」

千冬「なに、ちょっとばかりこの余興に緊張感を与えるだけだ。そこまで私はがめつくはない」

山田「…………本当は弟さんがどの子と一緒にハワイに行くことになるのか気になっているくせに」ボソッ

千冬「何か言ったか、山田先生?」ギロッ

山田「い、いえ、何も…………」



使丁「さて、ルールを確認しますが、――――――制限時間は5分! 合計で6点となる3つの球を荒波に揺れるゴールに入れることができれば得点となります」

使丁「ISおよび水に沈むものの使用、ゴールの動きを制限する行為は禁止ですが、それ以外なら何をどう使って入れても構いません」

使丁「そして、最高得点を出したペアが優勝となりますが、同点となった場合はその班だけで延々と延長線を行います」

副所長「誰がどう見ても、1試合だけで優勝が確定するようには思えないがな……」

使丁「(あ、そこまで考えてなーい! まあいいや、5分のうちに考えておこう。もしかしたら、それで優勝となる可能性だってあることだし…………)」

使丁「では、用意を! ――――――カウント!」

副所長「はいよ」ポチッ


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「決勝戦開始!」


――――――
一夏「あ、始まったのか……(でも、4回も水底で揺らされて何か掴めたような気がする――――――だから!)」
――――――


ラウラ「…………」ジー

鈴「…………もうちょっと留まりなさいよ、そこに」

簪「ここはまだ…………」ジー

箒「ダメだな。もうちょっと寄ってくれないと…………」

千冬「どう見る?」

山田「えと、弾丸の扱いなら得意ですけど、こういうのはちょっと…………」

周囲「・・・・・・」


担当官「大丈夫なのか、これは?」

副所長「乱数マップを見る限りだと、そこまで偏ってはいないんだがな……」

副所長「まあ、こういうのもありだろう。――――――集中力の勝負だな、これは」

使丁「ここにきてプールの流れが安定せず、付かず離れずの距離でゴールが揺れていて、まだ誰も球を投げていません」


相川「むむむ……」

鈴「さすがにあんなに揺れてちゃ…………」

鈴「(こういうのって反射神経と粘り強さの勝負よね)」

鈴「(…………大丈夫よ、私なら! セシリアや箒と耐久レースをしたことがあるんだから)」

鈴「(こういうのは、実際に追い込まれた者にこそ勝機がやってくるもんなのよ)」

鈴「(だから、ここぞという時まで待つのよ、私……!)」

ラウラ「(『AIC』で動きを止められるのなら楽なのだが、さすがに簡単にはいかせてはくれないか)」

ラウラ「(私は洋上任務の経験がないから、船乗りたちが持つ長年の経験と勘など持ち合わせていない)」

ラウラ「(だが、数秒は安定する一瞬があるはずだ。そこを狙えば、造作も無いはず――――――!)」

シャル「(今回のことはラウラに全部任せちゃっているけど、僕にできることは本当に無いのかな?)」キョロキョロ

シャル「(けど、この急流を泳ぎ切ってダイビングボートの側まで行くのって難しそうだし…………)」

箒「(――――――わかっている。機が熟すまで待つんだ)」

箒「(だが、――――――どういうことだ、これは?)」

鷹月「……波の向きはちゃんと変わってるよね?」

箒「ああ……、そのはずなんだが…………」

簪「…………?」

本音「どしたのー、カンちゃん?」

簪「そういえば、一夏って今どうしてるのかな?」

本音「ああ…………」

本音「ちょっと遠いし、波もあってよくわかんないねー」

山田「織斑先生……?」

千冬「待て。残り時間が半分を切るまではよく見ていろ」

山田「はい」

周囲「ドウシタンダロー?」


使丁「???」

担当官「どういうことだ? あれだけの荒波や急流の中で一定の範囲から食み出さずに漂っているぞ……」

副所長「へえ、そんなことまでできるようになったんだ」

使丁「…………今どうなってる?」

副所長「みんなは波だとか的だとかそういう表層的に見えることだけに囚われて、水面下の出来事にまで目がいかないようだな」

副所長「そういえばラウラが、今の一夏の状態を“くらげ”のようだと喩えたが、ある意味それは正しい」

副所長「だが、底が浅いな」

担当官「はあ…………」

副所長「知っているか? ――――――くらげの生態・飼育のやり方ってやつを」

使丁「いや、知らないな。教えてくれ、“プロフェッサー”」

セシリア「それはぜひとも私にもお聞かせください、“プロフェッサー”」

担当官「おお、オルコット嬢」

副所長「それじゃ、」


――――――プランクトンって言葉を知っているかい?


プランクトンっていったら最近の理科の教科書だと顕微鏡を覗いて初めて目にできるミドリムシとかアメーバとかのことを指してるんだけど、

実際はプランクトンは遊泳能力が無い・乏しい水生生物のことを指す生態学の用語でね。ミドリムシとかアメーバみたいなのは底生生物:ベントスと呼ぶ。

――――――さて話は戻すが、くらげはプランクトンであり、ただ海流に揺られているだけに見える。

だがな、ああいうのを飼う時には必ず水流を水槽に造ってやらないといけないんだ。

そうしないと自らの重量でどんどん沈降していって、ぷにぷにの身体が地面について、身体に害してしまう。

だから、遊泳能力のないプランクトンだけど、必死になって泳いで大切な身体を触らせないように頑張る。

放っておくと、やがては衰弱死する運命にあるというわけだ。

そう、――――――『漂う』っていうことはただ力を抜いてそこに居続けているというわけではないのだ。

そこには繊細な力加減――――それこそ無駄な力みを排する合理化が図られており、全力を出しきることよりも遥かに難しい奥深い世界があるのだ。

ほら、見てご覧。


――――――荒波の中を漂い、そこに居続ける彼の姿を。



――――――
一夏「………………」

一夏「…………随分と穏やかだな」

一夏「こんなふうに身体を伸ばしていられるなんて、外はどうなったんだ? 固定でもされてるのかな?」

一夏「まあ、楽できているのは結構だけどさ」

一夏「あ、そういえば、ボールってあの穴から入ってくるんだったっけ」

一夏「変な感じだな、水底から空を見上げているっていうのも……」

一夏「………………」

一夏「………………のどかだな」


――――――きれいなそら。


一夏「――――――!?」ガタッ

一夏「と、ととと…………」アセアセ

一夏「……危ない危ない」フゥ

一夏「…………今のは?」

一夏「――――――気のせい、だよな」

一夏「けど――――――、あれ~?」
――――――


一夏「あのー? 外はどうなってます? 何かあったんですか?」


一同「!?」


使丁「とっとと…………」

使丁「一夏くん! 聞こえてるか?」

使丁「今、残り時間1分をもう間もなく切る頃!」

使丁「そろそろみんなが勝負に出る頃だから、心の準備をしておいてくれ」


一夏「はーい」


担当官「驚いたな。喋る余裕なんて最初は無かったのに、ずいぶんと余裕そうだったな」

セシリア「本当にあの一夏さんがゴールをあの場所に漂わせているのでしょうか?」

副所長「詳しいことはわからない。この乱数スイッチで流れる向きが変わっていく中で、水面下の水流がどう形成されているかなんて予想がつかない」

副所長「たまたま水流が衝突しあっている場所が形成されたのかもしれない」

副所長「けれど、あそこに漂っていられるのは、まぎれもなく織斑一夏が掴みとった繊細なバランス感覚が成せる業だ」


――――――彼は決して流されることなく、そこに確たるものとして漂い続けているのだ。


使丁「さあ、面白くなってまいりました」

使丁「よりにもよって、プールのど真ん中を漂い続けるゴールを前に沈黙が続き、刻一刻と過ぎ去っていきます」

使丁「ここからは純粋な運否天賦となります。――――――運も実力の内!」


鈴「…………残り1分」

相川「覚悟を、決めないとね」

鈴「そうね(お願い、神様! 私を勝たせて…………)」


ラウラ「…………くっ」

ラウラ「(――――――何故だ? 何故この手はこんなにも震えている?)」

ラウラ「(私は冷静だ。こんな程度のことに何を怖気づくことがある…………)」ジワリ

シャル「…………ラウラ」

シャル「(やっぱり、僕が泳いで近くから投げ入れた方がいいかも。――――――よし!)」サッ


本音「どうするどうするー」

簪「本音、ここまで来たら、思い切って投げちゃうよ。宝くじだって、買わなかったらずっと確率はゼロだもん!」

簪「ここまで来て、何もしないなんて、何だかもったいない気がする……!」

本音「おおー、カンちゃん、がんばれー」


千冬「…………そうか。なるほどな」

山田「え、何がです?」

千冬「いや、別に。ちょっと小娘共を驚かせてやろう」ポイッ

山田「あ」

周囲「(織斑先生が投げたあああああああ!)」

ストン!

周囲「オオオオオオオオ!」パチパチパチパチパチ・・・・・・

山田「お見事です、織斑先生」

千冬「それじゃ、私はこれで帰るよ。後は、山田先生がやってくれ」スッ

山田「え、ええええええええ!」

山田「あ」ポロ・・・

箒「…………!」

箒「山田先生の手にあるのは、赤球と黄色の球だ……!」

鷹月「それじゃ、織斑先生は1点だけ入れて帰っていったってこと……?」


――――――たかが1点、されど1点。


千冬「超えられるか、この壁を?」フフッ


ラウラ「な、なんという大きな壁だ…………(どうしたのだ、本当に……? これが織斑教官と私との差なのか……)」

シャル「えい!」バシャーン!

ラウラ「シャルロット!?」

シャル「それじゃ、――――――任せたよ、ラウラ!」バシャーン!

シャル「…………くっ!(凄い急流だ!? 救命浮輪に繋げられたロープから手を放したら確実に溺れる…………!)」

ラウラ「…………シャルロット」

ラウラ「………………」

ラウラ「よし」キリッ

ラウラ「はああああああああ!」ポイ

ストン

ラウラ「よし!(――――――まずは2点!)」

シャル「」グッ

ラウラ「」グッ

鈴「えいや!」ブン!

ストン!

鈴「よし!」


使丁「さてさて、どうやら各班が順調に球を1つずつ入れることに成功していったようです」

使丁「織斑先生が与えた壁をなんとか乗り切ることができたようです!」

使丁「だが、もう時間がない! どうなる!?」



ストン!

鷹月「あ、――――――入った! やったー!」

箒「よし、こっちもこの1点の球を入れることができれば――――――!」ポイ

ボトッ

箒「あ!?」

箒「ここまで来て…………(しかも、残り時間10秒じゃまず取りに行っても間に合わない…………)」チラッ

箒「すまない……」

鷹月「いいんだよ」ニコニコ

箒「あ」

箒「」ニコッ


簪「それ!」

ボトッ

本音「…………赤球しか入らなかったねー」

簪「1個入ったよ! やったー!」

本音「うん、そうだね。やったー!」


担当官「…………」ウルウル

副所長「…………」ニヤニヤ

セシリア「あ、あの、御二方…………?」ニコー

担当官「私は泣いてなんかいないぞ……」

副所長「すまん。どうすればこのニヤケを止められるのか、教えてくれ」

セシリア「まあ……(なぜだか私、この御二方を見ていて、父のことを思い出してしまいましたわ…………)」

セシリア「(この御二方と比べたら、なんて父はなんと卑屈なことだったか……)」

セシリア「でも…………」フフッ

セシリア「(そういえば、父はこんな感じで私のことを見守ってくれていたのでしょうか?)」



使丁「残り時間、10秒――――――!」

使丁「(球の色でここからでも得点はわかるが、球に書かれている番号まではさすがにわからないから、どこが勝っているのか見当がつかない…………)」

使丁「(このまま行くと、5点入れることができた7班の勝ちは堅そうだが…………)」



ラウラ「あっ(――――――し、しまった!?)」

ボトッ

シャル「大丈夫!」バチャバチャ

シャル「とったぁ!(後はこれを入れれば――――――!)」

シャル「えっと、…………えーい!」ポイ

相川「決めちゃって!」

鈴「泣いても笑ってもこれが最後よ!」ブン!


使丁「おそらく最後のシュートがいったあああああああ!」

周囲「・・・・・・!」ゴクリ

担当官「(外せ外せ、どっちも外せ…………!)」
           
セシリア「(まあ私は、“たまたま偶然”ハワイに行くことがありまして、参加するまでもないのですが、手に汗握るとはこのことですわね…………)」

副所長「この状況で一番有利なのは転校生組だが、あるいは――――――」

ストン!

ボトッ

一同「!!!」


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「試合終了!」

使丁「さあ、激戦を制したのは果たして――――――?」



一夏「終わったああああああああああ!」




――――――その後


副所長「さて、排気・乾燥できた頃かな……」

使丁「臨海学校での使用が楽しみだな」

使丁「まあ、俺は用務員として学園に残るんだけどな…………トライアスロンをするまたとない機会を逃してしまうとはな」

副所長「そのためのトライアスロン本場へのハワイ旅行だろう? 自重せよ」

使丁「そうだな。代わりに公費で“グッチ”も付いていくことだし、……………まあ多少は不安は残るが、何事も無くすめばいいな」

副所長「確かにな。あいつはお前以上に1つことに集中するから思い入れや情熱は誰にも敗けないんだが、柔軟性に欠くからな……」

副所長「けど、あいつはあいつで誠心誠意やってるから質が悪いというか…………」

使丁「今日の様子を見る限りだと、箒ちゃんは少しずつ変わっていけそうだね」

副所長「ああ……、少しずつだな」

副所長「――――――本質そのものを変えて万全の体制にするには時間が足りなすぎたな」

使丁「…………言っていてもしかたがないじゃないか」

副所長「まあ、その通りだ。7月7日までにこの俺の才知を賭けて事件など未然に防いでみせる」

使丁「おお……!」

副所長「そこでなんだが、――――――“マス男”?」

使丁「はい、来た! 何かな?」

副所長「詳しいことは臨海学校の留守番をしている間に届けられるブツの仕様書に書かれているのだが――――――」


副所長「――――――」ゴニョゴニョ


使丁「!」

使丁「わかった。やってはみるが、俺一人で設置なんてできるのか?」

副所長「大丈夫だ。設定は事前に業者にやらせているし、俺がその設定を使って実際に動かしたんだから、細かいことは気にしなくていい」

使丁「なるほど。“プロフェッサー”のやることだ。間違いはないさ」

副所長「ああ……、そうだな」

使丁「?」

副所長「さて、救命いかだを改造したダイビングボートの片付け方だが、強力ゴム製のやつは畳むのに一苦労さ」

使丁「こういうのまで取り扱えるなんて、やっぱり“プロフェッサー”は凄いぜ」


副所長「けど、俺には文明の担い手に相応しい技量も精神性もない」


使丁「……何を言っているんだ?」


副所長「俺は篠ノ之 束と昔から比べられてきた。“対極的な存在”だと常に言われ続けてきた」

副所長「なら、篠ノ之 束の抑止力となるべきなのは俺なのか? だが、あまりにも差がありすぎる………………」

使丁「馬鹿を言うな」

副所長「……?」

使丁「お前は“お前”だろう? “お前”のやりたいようにすればいいじゃないか。束は関係ない」

使丁「能力の高さだけが評価基準だとすれば、就職試験に面接なんて必要ないし、人事課に人数を割く必要なんてないじゃないか」

副所長「…………」

使丁「じゃあ、見方を変えよう」

使丁「『一緒にいたい』『一緒にいい仕事がしたい』『一緒に労苦を分かち合いたい』って思わせることができるのも、立派な能力だとは思わないか?」ニコッ

副所長「………………!」

副所長「似るもんだな。いや、これもまた運命なのかもしれないな」フッ

使丁「?」

副所長「最初に“千冬の弟”を見た時、誰かと重なって見えると思ったら、お前だったのか」

副所長「そういえばそうだな。お前も一夏と同じ歳の頃は、ただひたすらに精進し続けようとしていたな。精進さえしていれば何でも叶うと思っていたな」

使丁「あ…………」

使丁「脳筋一辺倒だったあの頃のことは…………」

副所長「はは、懐かしいもんだな」

副所長「けどこれで、――――――目が覚めたよ」

副所長「何だかんだ言って、やっぱり“マス男”が“奇跡のクラス”の一番だ。お前の似姿の織斑一夏がそうであるように」

使丁「俺なんかの浅知恵で助けになったのなら、光栄だ」

副所長「これからもよろしく頼むぜ、“ゴールドマン”」

使丁「ああ!」

副所長「それじゃ、やっていきますか!」




副所長「なんとかカプセルに収まったな」

副所長「プールで救命いかだを使って一日で畳み込める設計技師は世界広しと言えども俺ぐらいだろう。さすがは俺!」

使丁「ああ。その調子だ!」

一夏「“ゴールドマン”! “プロフェッサー”!」ゴロゴロ・・・(サービスワゴンに夕食3人前)

使丁「あ、悪いね、一夏くん。もうそんな時間だったっけ」

一夏「はい…………」

副所長「…………?」

副所長「どうした? 何か気になることでもあったか?」

一夏「あの、軽いパニックに陥って見てしまった幻覚だったのかもしれませんけど、聞いて欲しいことがあるんです……」

使丁「?」

副所長「遠慮無く言ってみろ。不見識だろうと俺は責めない。俺も“束”ではないから多くを答えられそうもないからな」

一夏「では……、実は――――――、」


―――――― 一瞬 世界が鮮明に水と空の世界に変わって、そこで白い女の子が俺に笑いかけたんです。


使丁「???」

副所長「――――――相互意識干渉の一種か」

副所長「(そうか。やはりお前と『白式』はそういう運命にあるのか)」

副所長「(コアナンバー001、通称『白騎士』と呼ばれたISの生まれ変わりと、その専属だった――――――)」




――――――同じ頃


箒「ここが私の新しい部屋か……」ガチャリ

鷹月「や、篠ノ之さん」

箒「鷹月さん!?」

鷹月「私も今日からこの部屋なんだ。よろしくね」ニコッ

箒「…………そうか、そういうことだったんだ」

箒「それじゃよろしく、鷹月さん」ニコッ

鷹月「うん。今日からよろしくね、篠ノ之さん」

鷹月「ところで篠ノ之さんって、こういうの興味ない?」

箒「えっと……」

鷹月「ほらほら、今日は突然で準備できなかっただろうけど、今日のことでみんな臨海学校に向けて新しい――――――」

箒「た、確かに――――――」

鷹月「この白いのなんてどう? 今年の流行は『寄せて上げる』ものだよ」

箒「こ、こんなのを着るのか!?」カア

鷹月「でも、篠ノ之さんって胸が大きいし、結構良い感じだと思うなー」

箒「いや、その……、ちょっと発育が良すぎるんじゃないのか、これって……」テレテレ

鷹月「へえ、篠ノ之さんってそういう顔もするんだ」ニコニコ

箒「あ」

鷹月「それじゃ、これは――――――?」

箒「そうだな――――――」






担当官「…………」

千冬「どうした、“グッチ”?」

担当官「千冬か」

担当官「なんでもない」フフッ

千冬「憑き物でもとれたか? 今のお前は険しさよりも清々しさを感じるぞ」フフッ

担当官「そうかもな」フッ

担当官「(そう、これから始まっていくんだ。一人の少女の新たな人生が)」

担当官「(――――――大したやつだよ、“織斑一夏”)」

担当官「(お前の出した答えが、箒ちゃんの新たな人生を築き上げたんだ)」

担当官「(感服したよ。さすがは“千冬の弟”と言ったところだな)」

担当官「(鷹月さん、ルームメイトとしてどうか箒ちゃんをよろしくお願いします)」

担当官「(そして、“織斑一夏”に学園のみんなも、より良き人生へと導いてやってください)」

担当官「(私自身も、己を磨き直し、学園のみなさんのために力を尽くす所存です!)」


ここまでの話の整理:第4話

・織斑一夏
自分に対する興味関心に無頓着で鈍感な朴念仁のせいで、冴えない印象があるが、元々の洞察力はかなり高い。
また、その性格と人生経験の不足からくるデリカシーの無さによる失敗こそあるが、
失敗を次に繋げることに腐心するようになったので、割りとまともな性格に矯正されており、
良き大人からの知識や経験談を授けられることで、いろいろと物事を考えられるようになっている。

才能は“ブリュンヒルデ”譲り、知性は“プロフェッサー”譲り、人間性は“ゴールドマン”譲りとなっている。

失敗や不明を抱えながらも、順調に大人の階段を登りつつある。

1つのことを極めていった結果が、『AICC』や「超高速切替」であり、この調子で他のことについても考察が行き届くようになったので、
結果として、1つのこと以外にも極めていくことができるようになった。


・凰 鈴音
今回の物語の再構成で一番輝いているセカンド幼馴染。
相談相手になってくれる大人がいて、最初からいたことによって、スタートダッシュはど安定!
気性の荒さも抑えられており、一夏も一夏の方で大人からのアドバイスによって正直な気持ちを伝えるようになっているので、
意思疎通の不足によるすれ違いがすぐに解決しており、まさに順風満帆である!
また、同期のセシリアや簪が一夏の魔性に落とされてないことや、鈴が一夏に好意を寄せていることを察して一歩引いた立場になっているので、
このままいけば、少なくとも掛け替えの無い存在として不動の仲にはなるのは時間の問題と思われた(国籍を日本に移さない限り、結婚は無理だが)。

一方で、毎回毎回災難に遭っているのが彼女でもあり、
4月は黒い無人機に襲われ、
5月はラウラにボコられ、
6月は朱い無人機に襲われ、
7月は『銀の福音』に立ち向かってボコられる予定である。

だが、そこから割って入ってきたのがシャルロットとラウラであり、更にはファースト幼馴染である箒まで入ってきたので、彼女の心中は非常に穏やかでない。


副所長「あの中では一番に“織斑一夏”を正しく理解しているな」

外交官「だが、結婚などもっての外だ!」=それ以外なら十分に信頼に値する


・篠ノ之 箒
セカンド幼馴染がこの物語で優遇されている一方で、その煽りを受けて扱いが悪いファースト幼馴染。
というか、原作でも専用機『紅椿』を得るまでは本当にモブと変わらない扱いで、ヒロインとしては専用機を得てから本番なのであんまり扱いが悪い気がしない。
姉が開発したIS〈インフィニット・ストラトス〉の軍事利用を危ぶまれ、その周囲の人間に危害が及ぶとされて、重要人物保護プログラムを受けることになったが、
結局、一番に害していたのが重要人物保護プログラムであるという皮肉な状況に陥り、精神年齢:小学生並みと揶揄されることになる。
その将来性を一番に危ぶまれた担当官“グッチ”しか相談相手がいなくなったのが致命的であり、互いに生真面目な性格だからこそ信頼し合えたのだが、
もし“グッチ”が場当たり的に「次こそは」「次こそは」と言い続けることなく、現在を受け容れさせて新たな人生観を与えることができれば、
ここまで歪むことはなかったはずである。
言うなれば、勝つまで辞められないギャンブル(全うな人生環境を得るまで)にハマってどんどん負債(トラウマ)を増やし続けている状態。
どこかで普通の人生をはっきりと諦めさせていれば――――――。

ただし、IS学園に“篠ノ之 箒”として編入されたことから、彼女の人生は大きく変わり始めることになる。
もちろん、失敗や不明はあるだろうが、――――――間違いなく良い方向に。


副所長「こうなったのって、やっぱり束がISを開発したからだよな」

副所長「してなかったら、重要人物保護プログラムを受けずにあそこまで歪むことはなかったし」

外交官「結論:束が悪い」


・シャルロット・デュノア、
ISで人気ナンバー1ヒロインなのだが、本作では何だか端役みたいに活躍の場がない。
ただし、ラウラと同時期に婚約指輪を贈りつけるなど、このシャルロットは思いっきり一夏に依存している。
もちろん、一緒に混浴もしているし、一夏に甘えさせてもらって“あーん”もしてもらっている。
というか、いろんなところを男2人に見られてしまっているので、彼女の中で何かが弾けたようである。

ラウラと比べて、彼女のほうが将来性が危ういと見られており、
ラウラには帰るべき場所と確固たる地位があるのに対して、彼女はそれを全て捨てて一夏に全てを委ねているので、
卒業した後をどうするつもりなのかで周りの大人たちは頭を悩ませている。
なにせ、簡単に祖国(というよりは家族)との縁を切ってしまった――――――否、一夏という好物件を見つけて乗り換えたように見えるので。
頭もいいので、尚更矯正するのが難しい。この辺は地道な矯正で塗り替えていくしか無い。


副所長「それで、具体的に彼女はどうなるって?」

外交官「優秀なISドライバーであることに変わりないから、フランス政府としても支援は続ける」

副所長「それで大丈夫なのかい?」

外交官「フランス政府にとって要らないのは、第3世代型も開発できない金食い虫となっていたデュノア社であって、」

外交官「IS適性:Aで早熟のパイロットをどうして捨てられる? ましてや国のアイドルのようなものだぞ?」

外交官「むしろ、――――――外堀を埋める作戦に使えるだろう?」

副所長「ああ……、囚われの姫君を救った王子様との関係ってね。――――――姦計だけに」


・ラウラ・ボーデヴィッヒ
原作とあまりやっていることが変わらないが、千冬並みの人間が何人も学園にいたせいで萎縮させられていた。
また、織斑一夏もかなりの切れ者となっていたので、無知なラウラはあっさり撃破されることになる。
しかし、その頼もしさには定評があり、戦闘においては絶対欠かすことができない戦闘員として、要所要所で活躍する。
一夏に負けてはいるが、実際にその強さはIS学園有数の実力であることに変わりないのだから。

シャルロットと同じく、織斑一夏に対して結婚宣言をするスキャンダルを起こしているが、箒やシャルロットに比べたら物凄く安全であり、
基本的に精神構造が初期の織斑一夏と変わらない無知で素直でいい子なので、しっかりと教え込めば限りなく善に近い存在になれる。
箒やシャルロットが恐ろしいのは、健全そうに見えて不健全で表立って矯正できない点であり、その意味でラウラは信頼できる。
加減や程度を知らずやり過ぎるところがあるが、そこは大人がきっちりと矯正すれば問題なし。


副所長「うん。いい子だね。銀髪の天使だな」

外交官「果たして遺伝子強化試験体としての呪縛から解放されるのだろうか?」

副所長「その辺は難しいね」

外交官「少なくとも、アラスカ条約体制崩壊に伴う戦争は回避してみせる!」

副所長「頼んだぜ。せっかくいい子に育っているんだから、平和で豊かな間に血を見ることなく天に召されて欲しいものだ」

外交官「遺伝子操作して生まれた生命を迎え入れる天の門などあるのだろうか?」



・更識 簪
この再構成で、もっとも健全な学園生活を送れるようになった人。
活躍は地味だが、日本代表候補生として初心者の一夏と箒のIS指導を行ったり、荷電粒子砲やミサイルポッドで局面をいくつも変えてきている。

一夏への好感度は『気がある程度』であり、普通の女の子として一夏に少しばかり興味を持って接していた(不器用な性格で『自分には無理だ』と思っているが)。
しかし、最初に幼馴染である鈴の存在に知り、一歩引いた立場を維持し続けており、
専用機持ち同士の付き合いとして一緒にいることは多いが、一夏やその取り巻きの様子を眺めているだけに過ぎない。
自分に自信がないことが一番の原因だが、何だかんだで天然ジゴロの一夏の側にいるだけでも十分楽しめているので特に不満があるわけではない。


副所長「うん。簪ちゃんはいい子よ。いい子すぎて損してるんだけどさ!」

外交官「あれはどういう立ち位置なのだ? 一夏に恋をしているのか?」

副所長「いや。あれは脇から見て楽しんでいるタイプだな。つまり、学園ラブコメをビデオ鑑賞しているって感じの」

外交官「けど、前にお前にプレゼントを造るように言ってきたじゃないか。あれは?」

副所長「ああ。あれは珍しく簪ちゃんが背伸びしてみたんだ。結局、それっきりだけどな」

副所長「けど、奥手な彼女が同年代の異性との付き合いができて、少しずつ友達も増えてきているんだ」

副所長「焦ることなく、その成長を見守ろうではないか」

外交官「そうだな。我が国の宝だからな」


・セシリア・オルコット
チョロインの代名詞である彼女は、今作だと全くデれていない! 非常に貞淑なレディに仕上がっている。
性格が変わったのではなく、状況が変わったことで、彼女の立居振舞が大きく変化している(むしろ、これが本来あるべき立居振舞ではないかと思う)。
具体的には、織斑一夏以外の男性で偉大な大人の存在――――――“ゴールドマン”の存在が一番大きく、
・男が一人だけなら、その一人は女子しかいない環境で否が応でも女子の社会に適応しなくてはいけなくなるのだが、同性の仲間がいることで男としての社会性を維持されている。
→織斑一夏の関心が女子よりも同性に傾いていて、しかも水魚の交わりのように周りに映っているので、特別な関係の二人の間に割り込みづらい。
・女尊男卑の世の中だが、“ブリュンヒルデ”に匹敵する“ゴールドマン”という偉大な存在に敬意を表しているので、見下すことができない。
・クラス代表決定戦に至るセシリアの問題発言に対してさりげなく“ゴールドマン”に釘を差されたので、やや負い目を持っている。
・“ゴールドマン”>織斑一夏という構図なので、一夏にべた惚れするには“ゴールドマン”という天上の存在が常にちらついていて目の上の瘤になっている。
・“ゴールドマン”が立派なアスリートで良識的な大人なので、名門貴族の当主である彼女も自然とそれに相応しい振る舞いをせざるを得ない。
→“ゴールドマン”の存在から、羽目をはずしてハジケルことを自重しているので、非常に理性的なレディに落ち着いている

原作でのハチャメチャっぷりは今作では絶対に見られないのだが、何だかんだで出番はかなり多い。
弱い弱い言われている専用機だが、支援機としては抜群なのでラウラとは違った意味で安定感がある(むしろ、なぜあの武装で1対1で戦おうとするのか…………)。
筆者が思うに、典型的なイギリス料理を作れるのなら、ブリティッシュ・ブレックファストは上手に作れると思うんだ。そう信じたい。

立ち位置としては簪同様に『気がある程度』であり、やはり鈴や大人の存在が最初にある(恋愛にはちゃんと興味はあり、それを羨ましくは思っている)。
もしくは『一夏(アスリート)のパトロン』になりたいと思うぐらいに関係は健全で良好である。
今回の一夏が色気や唯一の肉親への強い愛情を示すことがなく、知的で求道的な人間性になったので、この姿にキュンキュンさせられる人間はあまりいないと思う。
それよりも、人間としての尊敬の念が勝ってしまうのではないだろうか?


副所長「この子もいい子だね。まさしくイギリス淑女って感じで」

外交官「3年前の列車事故で両親を亡くし、遺産相続の内紛を制してオルコット家の当主になったんだ。風格が違う」

副所長「まあ、人はいいんだけど、…………機体がな」

外交官「ああ。――――――使い捨てる気満々だな」

副所長「いかんですよ! こんな欠陥機に乗せておいてその上で勝利しろだなんて! 無茶ぶりにも程がある!」

外交官「そういう意味では、織斑一夏は凄まじい欠陥機でありながら自分から高い目標意識を持って鍛錬しているから、いい傾向だな」

副所長「だろ! だから、“織斑一夏”は凄いんだよ」


女性関係まとめ

一夏に好意を寄せる幼馴染コンビ
・凰 鈴音
・篠ノ之 箒
今作のメインヒロインの2人である。
「一方的な好意を寄せて」「想いを口に出さない」「一夏の幼馴染」という共通点を持っているが、それ以外はほとんど正反対の対極的な関係である。
大人たちが見てる手前、暴力行為に走ることはなくなり、原作より遥かにお淑やかなのだが、何だかんだで問題の中心となってくるのがこの2人である。


一夏との婚約を迫る転校生コンビ
・シャルロット・デュノア
・ラウラ・ボーデヴィッヒ
大人たちから言わせれば、危険分子の2人。相手の気持ちや性愛の理解といった過程をすっ飛ばして、いきなり結婚に結びつけて迫る。
今作では、一夏とシャルロットの距離感が原作より大きく感じられたためか、気が急いてシャルロットもラウラと同レベルのことをしでかしている。
ラウラは平常運転だったのだが、敬愛する織斑教官と同等の戦闘力や気概を持つ大人たちの存在によって、凶暴性は鳴りを潜めることになった。
2人共、機体としては前衛も後衛もこなせる万能機に乗っているが、日英の代表候補生コンビよりも出番がない。
主役になれる戦闘があれば心強いだろうが、今作それがないために戦闘においては支援に長けている日英の二人ばかり起用されている。


一夏との交友関係を快く思っている僚友コンビ
・更識 簪
・セシリア・オルコット
今作では最初から居る2人であり、なんとチョロインではない!
一応、一夏に恩義以上の念を抱いてはいるものの、一夏の幼馴染である鈴の気持ちを知って応援あるいは一緒に混ざって楽しんでいる。
セシリアの場合は、一夏が性格を矯正させられて一人の男としての色気よりも一人のアスリートとしての英気が滲み出ているので、性愛よりも敬愛の念が強い。
簪の場合は、姉に対するコンプレックスが鳴りを潜めるほどに恵まれており、引っ込み思案な性格も相まって一夏との関係をそこまで求めていない。
2人共、僚機としては抜群の性能を誇る機体に乗っており、脇役扱いながらも代表候補生としての(比較的高い)技量の高さを活かしてしっかり脇を固めている。



・アニメ基準という言葉について


実は原作では、はっきりと6月末に学年別トーナメントがあることが明記されているのだが、それは全員強制参加のために1週間かけて行われるものとされている。
それを素直に受け取ると、7月7日とその前日には臨海学校に行っているので、まさか中止になったからといって予定を前倒しにして行ったとは思いがたい。

よって、アニメでは具体的な年月日を告げる描写が乏しいので、今作のように、

4月、クラス代表決定戦、クラス対抗戦(無人機襲撃事件1)
5月、学年別個人トーナメント(VTシステム騒ぎ)
6月、オリジナルストーリー
7月、臨海学校(福音事件)
8月、夏休み(福音強奪未遂事件)
9月、学園祭(オータム襲撃)、キャノンボール・ファスト(M襲撃)
10月、専用機限定タッグマッチ(無人機襲撃事件2)
11月、修学旅行(修学旅行襲撃事件)

時期をずらして、1ヶ月毎に何かしらの事件や出来事があるように描いています。そのほうが時間の経過がイメージしやすかったので。

第2期からは特にイベントの開催時期や詳細などの違いが大きく異なってくるでしょう。

しかし、やはり原作知識もないと物語の再構成なんてできないわけで、アニメでは明確にされなかった設定も引用していますが、
こちらで詳細が確認できなかった設定や背景に関しては、好き勝手にイメージして二次創作させていただいております。

それでは、今日の投稿はこれにて終了となります。

ご精読ありがとうございました。

次回の投稿も1週間をめどにやらせていただきます。

型破りな展開がここからも続くので、お楽しみに。


ちなみに、運命の男たち3人にはモデルがいないのでCVは特に考えておりません。
運命の男たち3人と千冬と束を除いて、残り5人についてはモデルが存在し、
すでにキャラクター性も確定しているのでどんなやつなのかをご想像していただけると、筆者としてはちょっと嬉しい。
二次創作だから掘り下げる余裕もないので、イメージの借用についてはご容赦願います。


筆者が想定している残り5人のCV
ヤナダ、イトウ、ツクイ、ユサ、???

男女比=7:3

それでは、たぶんこのスレでの最後の投稿となるかもしれません。

引き続きお付き合いしていただけると幸いです。


一夏と大人たちの物語はいよいよ一つの佳境へと参ります。



それでは、たぶんこのスレでの最後の投稿となるかもしれません。

引き続きお付き合いしていただけると幸いです。


一夏と大人たちの物語はいよいよ一つの佳境へと参ります。




第5話 福音事件・表
Past,Present and Future...

――――――7月


副所長「誕生日プレゼントは決まったかい?」

一夏「いえ、全然…………とりあえず街に出てみて探してみようかと思います」

一夏「副所長も何かプレゼントを?」

副所長「今のところ、“プッチン”のやつがすでに用意してきたってさ」

一夏「……えと、それって個人的なものですか?」

副所長「いや、『日本政府の良心と誠意を見せるため』と、いつもながら国の代表としての意識が強いな」

副所長「まあ、“極東のプーチン”として日本政府の顔役の一人になってしまったからな……」

一夏「…………そうですね(それは俺も同じことだ)」

副所長「あと、絶対に“グッチ”のやつもね」

一夏「そうですね」

副所長「で、俺と“マス男”は合同で、特大プレゼントを用意しているところさ!」

一夏「そっか。用務員さんは来れないのか」

副所長「ああ。だから、俺と共同でね」

一夏「いったい何です、それ?」

副所長「ふふふ、聞いて驚け!」


――――――“安心”と“信頼”だ。


一夏「???」

副所長「“束の妹”には、これから一番必要になるものだからさ」

副所長「それにその日は7月7日だし、七夕の願掛けしているだろう? だから次いでに、お前たち生徒全員にもお裾分けしてやるよ」

一夏「あ」

副所長「」フフッ

一夏「ありがとうございます!」



一夏「それじゃ、俺はこの駅で」スチャ(スポーツバイザー&スポーツサングラス)

副所長「気に入っているようだな、それ」ニコニコ

一夏「ええ。本当に」ニコッ

副所長「それでは、しばしの別れだ。今度はしっかりとしたダイビングボートを持ってきてやるからな」

一夏「はい。楽しみにしています!」ニッコリ


ジリジリ・・・


一夏「…………夏だな」

一夏「さて、臨海学校だもんな。用務員さんが来れないのは残念だけど、俺は俺で頑張るから」

一夏「だけど、その前にプレゼントを買っておかないとな」

一夏「何がいいかな? 箒が喜びそうなもの――――――」


一夏『久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ』ニッコリ

箒『え……』カア

一夏『ほら、その髪型、昔と変わってないし』

箒『!』

箒『よ、よくも憶えているものだな……』テレテレ


一夏「よし。決まった」

一夏「何というか安っぽいけど、こういうのって形式に込められた気持ちが大切なはずだもんな」

一夏「それじゃ、目的のものがありそうな場所を探してみるか」


ラウラ「こちら、クロウサギ。目標を発見した。追跡を開始する」





一夏「えと、こういう所を利用するのは初めてで……」

店員「あら、カノジョさんのプレゼントですか?(おや、バイザーとサングラスが似合うイケメンさんだこと……)」ニコニコ

一夏「あ、いや……、幼馴染の誕生日のプレゼントに」テレテレ

店員「あらまあ」ニヤニヤ

一夏「それで――――――」


ラウラ「………………」ジー








一夏「たぶん、これでいいはずだ。箒に似合うのはたぶんこんな感じで……」

一夏「そうだな。この際、他の子に贈るプレゼントの候補を探して回るのもいいかもしれないな」

一夏「でもな……、箒にはわかりやすい特徴があったから思いついたけど…………」

一夏「…………使いやすいスポーツ用品でもピックアップしておくか?」

一夏「バスタオルとかいいんじゃないか? 仮に使って貰えなくても使い道はいくらでもあるしな」

一夏「となると、気軽に使えるような柄や肌触りがな――――――」ブツブツ


ラウラ「目標はどうやらスポーツ用品店に向かう模様…………」




一夏「ふむふむ。参考になった。最近の商品って凄かったんだな。面白いなー」

一夏「…………相変わらずパターゲームができないな」

一夏「さて、本気で商品調査をすると、時間があっという間に過ぎるもんだな」

一夏「もう昼時を軽く過ぎてるよ…………」

一夏「まあ、そのほうが空いていてすぐに食事にありつけるというか…………」

一夏「あ」

一夏「こういうところって、ヘルシーフードはちゃんとあるのかな?」

一夏「久々の買い出しで財布の紐が緩いからって、ファストフードで無駄な油分を摂るわけには――――――」

一夏「!」サッ


鷹月「――――――」

箒「――――――」


一夏「…………よかった。ちゃんとルームメイトとして仲良くやれているようだ」

一夏「しかし、箒のやつ…………女の子らしい服装も似合うようになっていたんだな」

一夏「箒一人だけだと全然そうは思えなかったけど、見違えたもんだ」

一夏「さて、昼飯は何にしよう…………」

ラウラ「い、一夏……!」バッ

一夏「あ、ラウラじゃないか……(やばい、今の聴かれてたか……!?)」

ラウラ「話は聴かせてもらった!」

一夏「な、なにっ!?(さっきの独り言、全部聴かれちゃった!? また、機嫌が――――――って、あれ?)」

ラウラ「では、私と一緒に食べに行こうではないか」ギュッ

一夏「あ、えと…………」

ラウラ「さあ!」ニコニコ

一夏「…………何を食べに行くのかを聞かせてはくれないか?」

ラウラ「ああ! 聞いて驚け!」


ラウラ「“ お で ん ”だ!」




――――――臨海学校、1日目


山田「今11時です! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること!」

山田「いいですね?」


一同「ハーイ!」







――――――ダイビングツアー


副所長「さてさて、正式に何だか学園の開発棟の副所長になってしまった俺だ」

副所長「それじゃ、みなさん、おまたせ!」

副所長「本日の大目玉であるダイビングツアーへようこそ! 午前に第1部、午後に第2部・第3部だけ行うスペシャルプログラム!」

担当官「スキンダイビング用の装備は6人まで、ダイビングボートは2人用が2つなので、ごめんなさいねー!」

一同「ワーーーーーーー!」

副所長「クルーザーで牽引はするけど、沖に流されないように沿岸部を回るだけだぞー」

担当官「ライフガードは私が務めますので、私の指示に従って行動してくださいべ」

副所長「それじゃ、カプセル投下っと!」バシャーン

担当官「こっちも投下!」バシャーン

プクゥウウウウウウ

周囲「マエヨリオッキイー!」

副所長「さあ、共に水の世界へ!」




――――――スイカ割り


一夏「…………」(目隠し+雪片弐型+ハイパーセンサー)

鈴「一夏! 私の声がする方にスイカはあるわよ」ニヤリ

ラウラ「違うぞ、一夏! お前の右側にスイカはあるぞ!」

一夏「…………視覚情報を封じられただけでもえらく苦戦するもんなんだな(だって、普通だったら全身に目がついたような感覚なんだぜ?)」

一夏「(だから、目隠しした程度なら楽勝だと思っていたけど、これは思い違いだったな…………)」

一夏「(この訓練を提案した“プロフェッサー”が言うには、人間が取り入れる情報量の8割が視覚、1割が聴覚に頼ったものらしい…………)」

一夏「(そういう意味では、視覚情報を封じられただけでISからの情報処理能力がここまで落ちるのは無理もないのか?)」

一夏「(とにかく、残った感覚を研ぎ澄ますんだ! ISが取り込んでくれる正確な情報を目ではなく頭で直接繋ぎあわせろ!)」

一夏「(そうだ。スイカは“丸いもの”だ。えともちろん人間の頭とか眼球じゃないぞ。“丸いもの”をイメージして探すんだ、『白式』!)」

一夏「(そうそう、だんだんと見えてきたぞ。“丸いもの”が――――――っ!?)」ビクッ

一夏「…………?」

シャル「どうしたの、一夏?」

一夏「おい、スイカは1つだけだよな? ビーチバレーに使う球と同じぐらいの大きさの!」

シャル「……まあ、そうだよ? 一夏も見たよね?」

一夏「お前たちのほうに“小さなスイカ”が4つぐらいあるようなんだが……?」

ラウラ「…………?」

シャル「え、…………“小さなスイカ”?」

鈴「…………まさか」

セシリア「みなさん、何をしていますの?」

一夏「その声、セシリアか? お前、何か“丸いもの”でも持っているのか?」

セシリア「え? “丸いもの”ですか?」

セシリア「いえ、私もみなさんも何も持っておりませんわよ?」

一夏「おかしいな。反応が正しいなら、シャルロットとセシリアが小さいスイカか何かを2個ずつ持っているようなんだがな…………」

シャル「え」

鈴「…………」プルプル

一夏「???」


一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえっち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえっち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえっち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


シャル「こっち向いて、一夏」

一夏「ああ、早速スイカを分けて食べようぜ」クルッ

一夏「――――――ラウラ!?」

ラウラ「あ……」(バスタオルお化け)

シャル「ほら、一夏に見せてあげたら? 大丈夫だよ」ニヤニヤ

ラウラ「だ、大丈夫かどうかは私が決める…………」

一夏「ああ…………(ラウラの誕生日プレゼントにバスタオルは必要なさそうだな…………他のを考えておこう)」

シャル「せっかく新しい水着を買ったんだから、一夏に見てもらわないと」コソッ

ラウラ「ま、待て。私にも心の準備というものがあって…………」アセアセ

セシリア「まあ! 時間は随分とあったはずだと思いましたけど?」

ラウラ「そ、それは…………」

シャル「ふぅん」ニヤリ

シャル「だったら、僕だけ一夏と海で遊んじゃうけど、いいのかな~?(二人だけでおでんを食べに行った罰だよ~っと)」ニヤニヤ

ラウラ「そ、それはダメだ!」

ラウラ「え、ええーい!」バッ

ラウラ「わ、笑いたければ。笑えばいい……」モジモジ

シャル「おかしなところなんてないよね、一夏?」

セシリア「そうですわ。とっても可愛らしいですわ。妖精みたいに可憐ですわよ」

一夏「おお。かわいいと思うぞ」ジー

ラウラ「はぅ!?(“嫁”からの視線が、肌を焼くような太陽光線よりも強く感じる……!)」ドキドキ

一夏「(それにしても、さすがは軍人というだけあって、いい感じに身体が引き締まっているなー)」ジロジロ

シャル「い、一夏!?(あれ!? さっきの反応からするとむ、胸の大きい方に興味があるって思ってたのに…………)」アセアセ

セシリア「い、一夏さん!?(ど、どういうことですの、一夏さんのこのいつになく真剣な眼差しは――――――!?)」アセアセ

一夏「あ、すまない。こういうのってあまりお目にかかれないもんだから、つい…………(いけないいけない。いい筋肉だからって見世物じゃないんだから……)」

シャル「!?」

セシリア「!?」

ラウラ「そ、そうか。わ、私はか、『かわいい』のか……」モジモジ

ラウラ「そのようなことを言われたのは、初めてだ…………」テレテレ

一夏「さあ、このスイカをみんなで食べようぜ」ニコッ

ラウラ「お、おお……!」

シャル「ああ……、うん(やっぱり、よくわからない。男装できちゃう僕でも結構身体には自信あったんだけどな…………)」ハア

セシリア「あははは…………(出会った時から私の予想を斜め上を行くのが“織斑一夏”、その人ですわ。まったく、いつもこの人は…………)」クスッ

一夏「?」ニコニコ




――――――地上絵


一夏「へえ、凄いもんだな。ノートなんかよりもずっと大きいのによくこんなでかい絵を描けるもんだ」

簪「そんなに難しいことじゃないと思うけど。キャラクター弁当とかラテアートとかも簡単だよ?」

簪「大切なのは、自分がどこの軌跡を描いているのかを意識することだよ。大まかな位置を把握すること」

一夏「位置を把握すること…………」

簪「そう。宇宙って比較するものが何も無いからどれくらいの速度と距離なのかを掴むのが凄く難しいんだよ」

簪「だから、こうやって目一杯に収まらないような大きなものを描く時は、自分の中で単位を決めて、一歩二歩確かめながら線を引くの」

一夏「なるほど。それじゃ試しに、何か描いてみよう…………(けど、何を描こうかな? 初心者の俺だけどちょっとぐらい難しそうなのを描いてみたいな)」

一夏「そういえば箒はどこに行ったんだろう?(慣れ合いを嫌って引っ込んだ? いや、鷹月さんと買い物していたし、それはないか?)」

一夏「とりあえず、単純で簡単そうなものを――――――(箒は――――――)」

一夏「あ、これで行ってみるか。やっぱり初心者だし、まずは自分でできると思ったレベルからやってみよう」





一夏「よし! 一応できたぞ。生まれて初めての地上絵!」

一夏「来い、『白式』!」

ヒュウウウウン!

一夏「さてさて、どんな感じ?」

一夏「…………もうちょっと丁寧にできなかったかな」


         ホ ウ キ


一夏「あ、そうだ。――――――こいつを」スチャ(スポーツサングラス)

一夏「こいつで地上絵を撮って、『白式』のハイパーセンサーでどこがいけないかを比較!」ピピッ

一夏「ああ、なるほどなるほど。活字体と比べると随分粗雑なのがまるわかりだ」

一夏「つまり、あの辺をもうちょっと直せば…………!」

ヒュウウウウン!

一夏「で、さっき撮った地上絵に現在の位置データを同期させる!」

一夏「お! できるもんだな! 一枚のキャンパスに収まっているみたい!(へえ、ISってこういう使い方もできるんだなー)」

一夏「なるほど、簪の頭の中ではこんなふうになっていたのか、へー」

鈴「…………一夏」ザッ

一夏「おお、鈴じゃないか。どうした?」

鈴「――――――『甲龍』!」

一夏「え!?」

鈴「こんなの!」バンバン

ドゴーン!

一夏「ああー! 俺の地上絵があああああああああああ!(せっかくの誕生日プレゼントの1つがあああああああああああああ!)」

鈴「ふん!」ザッザッザ・・・

一夏「何をするんだああああああああああ!(――――――ん?)」

一夏「あれ、『龍咆』でいい感じに砂浜に穴が空いたな…………何かに利用できそうだな」

一夏「でも、イメージは掴めたぞ! 今度は何を描こうかな?」

簪「一夏!」

一夏「お、簪! そっちは完成したの? 俺はひと通りできたから、仕切り直しといくんだけどさ」

簪「うん。見てみて」ニコッ

一夏「へえ、何だろうな?」

ザッザッザ・・・・・・

ピカーン! ヒュウウウウン!


鈴「………………一夏ぁ」ジー




――――――ダイビングツアー 第3部


一夏「特に問題も無かったじゃないですか。『白式』で随伴する意味なんて…………」

担当官「念のためだ。日も暮れてきたからな。それにISによる海難救助も経験したほうがいいだろう」

副所長「それに、シャワーに着替えに身だしなみ――――それらを行う時間を逆算して集合時間ぎりぎりになるだろうこのツアーは人が少ない」

副所長「スペシャルゲストを招くにはうってつけだ」

一夏「え」

副所長「ともかく、ISに絶対防御が備わっていようとも、きっちりとボンベにマスクをしていなければ絶対防御もまったく無意味だ」

副所長「ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな」

副所長「PICもそこまで万能ってわけではない。もし完璧なら格闘戦で機体が押し負けるだなんてことがまずありえないからな」

一夏「…………なるほど」

副所長「それじゃ、最後のツアーに参加してくれるのは誰でしょう?」

担当官「さて、来たみたいだぞ。あれは――――――」


千冬「よう、お前たち」

箒「あ……、い、一夏…………!?」ドキッ


一夏「ちふ……織斑先生に、箒か!(へえ、箒はやっぱり“白”か。イメージ通りだったな)」

箒「み、見るな……」カア

一夏「似合ってるじゃん、箒。やっぱり箒は“白”だな」ニコッ

箒「ほ、本当かっ!?」

担当官「良かったね、箒ちゃん(こうでもしないと、せっかくの勝負水着が無駄になっちゃうからな。千冬もご苦労さん!)」ニコニコ



担当官「さて、スキンダイビングに参加してくれる子はいないか? さすがに夕暮れに入ったし、海水浴もみんな飽きた頃だから当然か?」

副所長「なら、始めるぞ」

副所長「ようこそ、最後のダイビングツアーへ」

副所長「どうやら、他に来る子もいないようだし、お好きなダイビングボートにどうぞ」

副所長「そうだな。せっかくだから、――――――これも海難救助の一環だ。“白のナイト”に乗せてもらいましょうか」ニヤニヤ

一夏「え? 俺が……?」

箒「な、なにっ?!」ドキッ

担当官「(――――――ナイスアシスト!)」グッ

千冬「では、やってもらおうか?」

一夏「えっと、それじゃ千冬姉……、どうぞ」

千冬「…………まさか、こういう日が来るとはな」ボソッ

一夏「え」

千冬「何も言っていないぞ。それにここでは――――――いや、早く運べ」

一夏「ああ。まかせてくれよ、千冬姉」

千冬「フッ」ニコッ

一夏「よっと」フワァ・・・

担当官「…………千冬のやつっ!(なんだ今の、――――――甘い表情!)」プルプル

副所長「プククク・・・・・・(――――――“弟”大好きすぎだろう!)」プルプル

箒「あ、ああ…………」ドクンドクン

一夏「それじゃ、千冬姉と同じのがいいか?」

箒「えと、私は…………」アセアセ

担当官「――――――『お前の胸の中がいい』とか言うんだ!」ハラハラ

副所長「…………時々お前って生真面目を通り越して阿呆になる時があるよな」ヤレヤレ

副所長「(まあ元々、学園に殴りこみに来た辺り、モンスターペアレントというか兄バカな気質はあったことだし、責任感の強さからくる奇行だしな……)」

一夏「それじゃ、しっかり捕まってろよ」

箒「え、ああ…………」

箒「(これが伝説の、――――――“お姫様抱っこ”というやつか!)」ドクンドクン

一夏「はい。それじゃ、楽しんできてね」スィイイイイ

箒「あ、ああ!」ニコニコ

担当官「ちっ」

副所長「…………こいつ、まるで懲りてない」

副所長「まあいい」

副所長「それじゃ、最後のダイビングツアー、出航!」

担当官「おー!」ニコニコ

一夏「げ、元気だな、“グッチ”さん……(あれ、この人ってこんな感じだったっけ? 初めて会った時のことが何か思い出せなくなってきた…………)」

箒「い、一夏ぁ……(一夏に抱っこされたぁ…………)」ニヤニヤ




――――――夕食後


チャプン

一夏「はあ、気持ちいい」

一夏「今日はいろいろと修行になったな…………」

一夏「さすがは“プロフェッサー”だ。やることなすことに間違いがない」

一夏「でも、――――――明日、か」

一夏「何も起きなければいいんだけどな…………」

一夏「でも、束さんはきっと来る。その時、千冬姉たちはどうするつもりなんだろう?」

一夏「…………考えていてもしかたないか」

一夏「俺は信じてる」


――――――“奇跡のクラス”を。







「で、お前、――――――いつ結婚するつもりなんだ?」

「はぁ?」’ギロッ

「止めておけ。三十路手前の榊原先生が余計かわいそうになるぞ」”

「女尊男卑の世の中になったって、“男と女の関係”は必要不可欠なんだし、意識してたっていいと思うんだが」

「そういうお前こそ、相手がいないようだな……」’

「……仕事柄仕方のないのことなんだ。わかるだろう?」

「それなら私も“プロフェッサー”も結婚できないな」’

「そうだな。家庭を持つよりも国の将来を担う人材や技術の開発を受け持っているからな」”

「そういう意味では『全員が子持ち』と言える立場になっていて、人間としての充足感は十分に得られていることになる」”

「…………そうだな」’

「……そうかい」

「………………“マス男”のやつ、どうするつもりなんだろう?」ボソッ

「何か言ったか?」’

「何でも…………」




「――――――“結婚”といえば、どうも黒い噂が絶えないぞ」”

「……何だ?」’

「実は一部の過激派フェミニストが、『同性婚の普及』と『そうした場合に、クローニングあるいは人工授精による子孫繁栄の推進』と声高に訴えているらしい」”

「なに!?」

「つまり、“男と女の関係”というかつての男尊女卑の発生の大元の原因を、人間の理性と権利によって取り除こうということらしい」”

「愚かな…………」’

「これもまた、女尊男卑の風潮と行き過ぎた権利意識によるモラルの低下がなせる業だな」”

「大丈夫なのか、世界は……」

「どうにもならないんじゃないか?」”

「あの“二束三文の女”が『女尊男卑の世の中にしてやろう』と思って、ISを開発したわけじゃないのはわかるだろう?」”

「そりゃあ、あいつは駄々っ子だ。“不束者”だからな。そんな大それたことを考えているはずがない」

「そう。開発者の意図とは別に、創りだしたものに意味と存在価値を与えるのが世界であり、開発者は常に欲に塗れた俗物たちの餌食となっていった……」”

「そう考えると、俺のやっていることは――――――俺がこうなって欲しいと祈りを込めて創りだすものは俺のものじゃなくなる…………」”

「正しいことと善いことは一致しなくなり、ただひたすらに世界は正しいことを選び続けて自滅の道を歩んでいく…………」”

「…………すまない」’

「…………難しいな」

「ああ……、難しいよ」”


「それじゃ、続けるか」





「なあ?」

「どうした?」”

「あいつ、何のためにISを造ったんだろうな?」

「どうした、“グッチ”? らしくないことを言う」’

「いや、『自分の発明をひけらかすため』なのは当然だけど、なら『どうしてひけらかしたいのか』って……」

「そうだな。人間の欲求というものは必ず連続性と原因がある」”

「だから、あいつは精神年齢がまんま小学生レベルだから、案外千冬と一緒に居た頃の出来事が大きいんじゃないのか?」”

「………………」’

「どうなんだその辺は? 私やみんなは中学2年の特別学級“奇跡のクラス”になるまでは――――――、な」

「よし、行くぞ! そりゃ!」”カランカラン

「ああ……、――――――ゴケだ」”ガックリ

「ションベンよりは遥かにマシだけど……」”

「よし、私の番だな。行け!」カランカラン

「やった! ――――――シンゴロウ!」

「私の勝ちは堅いな」フフッ

「言っていろ。はっ!」’カランカラン

「クズだ! クズになれ! よし!」

「いや、これは――――――」”

「はあ!?」

「フッ」’






――――――入浴後


一夏「あれ?」スタスタ・・・

一夏「お前ら、何をやって――――――(千冬姉の部屋に聞き耳を立てて何をやってるんだ?)」

ラウラ「あ、――――――よ、“嫁”!?」ビクッ

鈴「な、なんであんたが部屋の外にいるわけえええええ!?」

簪「違うよ、一夏。これは、あのえと、私は止めようって言ったんだけど――――――」アセアセ

シャル「ああずるいよ! 簪だって途中から僕たちと同じことをしだしたんだから」

セシリア「ちょっと、みなさん! ――――――あ」グラッ

箒「あ、あああああああああああああ!」

バタン!

小娘共「あう!」


千冬「…………何をしているんだ、小娘共?」ギロッ


担当官「あ…………」

副所長「よし、これで勝負はお流れ――――――」

千冬「ふざけるなよ? 負け分として大人のつまみはお前らが持ってこい」ギロッ

担当官「…………くそ」

副所長「…………まあ、これ以上続かないんだから安い出費だろう」

副所長「それじゃ、ちょっと席を外すよ」

担当官「…………私もだ」

セシリア「えと、お茶碗だけ……?」

鈴「でも、ずいぶんと酷いことを言っていたような…………」

一夏「どういうことだと思って聞き耳を立てていたんだよ、お前たち?」

箒「いや、それは、その、決して疚しいものではなくってな…………!」アセアセ

ラウラ「そうか。私はてっきり――――――」

シャル「何も言わないで、ラウラ!」

千冬「何でもいいから早くふすまを元に戻せ、馬鹿共が」

小娘共「あ、はい」

一夏「何やってるんだか」

一夏「それじゃ、お供します」

副所長「ああ、助かるよ(次いでに、明日のことについても話しておく必要があるからな)」

担当官「くそ、ここぞと言う時の勝負運は相変わらず強いな、千冬のやつ」

担当官「アラシかよ」

千冬「それじゃ、小娘共。あいつらが帰ってくるまでに聞いておきたいことがあるから、ここに座れ」

小娘共「!!」




――――――臨海学校、2日目


担当官「ただいま参りました」

箒「遅れてしまって、申し訳ありません」

千冬「よし、専用機持ちは全員揃ったな?」

鈴「ちょっと待ってください」

鈴「他の生徒たちはどうしたんですか? 専用機持ちだけで試験を行うなんて聞いてませんですけど?」

千冬「では、説明しよう」

千冬「実はだな――――――」


「やああああああああああああほおおおおおおおおおおおおお!」


一同「!?」

千冬「…………」

箒「う……」サッ

一夏「…………箒」

副所長「…………来たか(相変わらず規格外っぷりだな。“プッチン”とは逆の意味で気分が滅入ってくるよ)」

担当官「できれば二度と会いたくはなかったがな(――――――“不束者”めぇ!)」

束「ちぃいいいいいいいいいいいいいちゃああああああああああああん!」ヒューーーーーーーン!

千冬「ふん!」ガシッ

束「やあやあ会いたかったよ、ちぃちゃん! さあハグハグしよう、愛を確かめ合おう!」ギュゥウウウウウ!

千冬「うるさいぞ、束」

束「相変わらず容赦の無いアイアンクローだね」スッ

副所長「!」

担当官「…………千冬のアイアンクローを軽々引き離した。やっぱり人間じゃねえ」


束「じゃじゃーん!」

束「やあ」

箒「どうも……」

束「いっひひーん」

束「久し振りだねー。こうして会うのは何年振りかなー? 大きくなったねー、箒ちゃーん!」

箒「うぅ……」

担当官「おい、篠ノ之 束!」

束「!」

束「あれー? どっかで見覚えがある顔だぞー? 誰だったかなー?」

束「そうだ、“グッチ”だ! やあ、おひさー」

担当官「自己紹介ぐらいしろ(この女! 誰のせいで箒ちゃんが苦しんできたと思っていやがるっ!)」ゴゴゴゴゴ

担当官「それに、今は私がこの子の保護者なんだからな。以後、しっかりと覚えておけ」

束「あ、どこかで聞いたことのある声だと思ったら、あれも“グッチ”だったんだー。それは知らなかったよ、てへー」

担当官「この女ぁ……!」プルプル

副所長「堪えろ。それに、お前では束には勝てない……」

担当官「くっ」


束「私が天才の束さんだよ、ハロ~」


束「終わり~」

鈴「“束”って――――――」

シャル「“ISの開発者”にして天才科学者の!?」

ラウラ「…………篠ノ之 束」

簪「えと、みんな……?」

副所長「お前ら、代表候補生なのに知らないのかよ…………3年前の世界同時生中継インタビュー直前に最後のコアを残して失踪するようなやつだぞ」

セシリア「あの、篠ノ之博士、私は――――――」

束「さあ、大空をご覧あれ!」

一同「!?」


ヒューーーーーーーン! ドーーーン!



一夏「何だこの、八面体は!?」

副所長「――――――IS反応、これがプレゼントか」

束「じゃじゃーん!」

束「これぞ、箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製だよー」
   ・・・・・・
束「なんたって『紅椿』は、天才:束さんが造った第4世代型ISなんだよー」

一同「!?」

担当官「なんだと!?(この女! そんなものを渡したらどうなるのか、考えたことないのかあああああああああああああ!)」

ラウラ「第4世代…………!?」

セシリア「各国で、やっと第3世代型の試験機ができた段階ですわよ……」

シャル「なのに、もう…………」

束「そこがほれー、――――――『天才:束さん』だから」

束「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングとパーソナライズを始めようか」

千冬「…………さあ、篠ノ之」

箒「…………」

箒「これが、私の専用機“白に並び立つ者”『紅椿』……」ジー

副所長「…………!」

簪「ねえ、一夏? あのデザインってどこかで見たことがない?」

一夏「あれ? 確かに……(ちょっと待ってくれ! あのデザインは――――――!)」

鈴「(6月に私たちを襲ってきた朱い無人機と意匠が似ている…………まさか、ね?)」

一夏「あの、“プロフェッサー”、――――――っ!?」

千冬「…………」ゴゴゴゴゴ
副所長「…………」ゴゴゴゴゴ
担当官「…………」ゴゴゴゴゴ

一夏「…………どうしたんだろう?(――――――まるで“敵”を見ているかのようにきつい目をしている!)」

束「ふふ~ん」




束「箒ちゃんのデータはほとんど先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね」ピピゥtピピッ

副所長「(そのデータを取り続けて提供したのは俺だがな! それが無かったら15秒は掛かるんじゃないのか?)」フンッ

束「はい、フィッティング終了! 超速いね、さすが私!」ピッ

鈴「え、もう終わったの……?(――――――5秒も経ってなかったじゃない!)」

束「それじゃ、試運転を兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよー」

箒「ええ。それでは試してみます」

箒「…………行くぞ、『紅椿』」ヒュウウウ・・・


ヒュウウウウウウウウウン!


鈴「何これ、速い!」

シャル「これが、第4世代の加速――――――、ということ?」

束「どうどう? 箒ちゃんの思った以上に動くでしょー」

箒「ええ、まあ……」

箒「(『打鉄』なんか比じゃない! 確かに、全てにおいてあらゆるISを凌駕している!)」

箒「(しかも前使っていた時よりも、『空裂』『雨月』の威力や性能が遥かに上がっている!)」

箒「やれる! この『紅椿』なら――――――!」フフッ


束「うふふふ、あははは…………」

副所長「で、天才:束さん? 我が学園の生徒に機体を預ける以上、」

副所長「何を以って即時万能対応機である第4世代型としているのか教えていただけないでしょうか?」

束「あ、そう言うのは“プロフェッサー”だなー! 懐かしー!」

束「え、何々? 同窓会でもやるの? 楽しみだなー!」

副所長「教えてください」

副所長「(俺の研究所を爆破したって自覚は無いんだな。まあ、こいつにとっての俺は“プロフェッサー”だから、しかたないか)」


束「ふふーん! 聞いて驚け!」

束「即時万能対応機という机上の空論を可能にした第4世代技術の名は、――――――『展開装甲』!」

副所長「…………『展開装甲』」

束「一言で言っちゃうと、――――――『紅椿』は雪片弐型が進化したものなんだよねー」

一同「!?」

千冬「…………!」

担当官「???」

束「なんと全身のアーマーを『展開装甲』にしてみました。ブイブイー!」ニコニコ

一夏「どういうこと、それ?」

シャル「雪片弐型の特徴って、それだけで『白式』の拡張領域を埋めていることだよね……?」

ラウラ「ファーストシフトの段階で、単一仕様能力を使えるようにしたためにそうなったとされるが…………」

副所長「なるほどな。合点がいったよ」

副所長「やはり『白式』はお前が完成させた機体なんだな」

一夏「!?」

鈴「え」

簪「ま、まさか――――――!?」

束「凄いね、“プロフェッサー”! どうしてそんなこと知ってるの? 昔から物知りだったよねー? どうしてー?」

副所長「昔から言われてきただろう?」


――――――俺とお前は“対極の存在”だとな。


副所長「“底辺の天才”と“天才の中の天才”だからこそ、だ」

束「何言っているのか、よくわかんないよー、“プロフェッサー”?」


副所長「実は俺もなんだ」


一同「!?」

シャル「『俺も』って…………」

ラウラ「まさか、すでに――――――!?」

副所長「『打鉄弐式』を設計してしばらく、第4世代型のアイデアはもう完成していたんだ」

副所長「お前がこの時期に第4世代型を出すっていうのなら、俺も第4世代型でも出そうかな?」

簪「え、ええええええええええええ!?」

ラウラ「う、嘘だと信じたいが、…………確かに“プロフェッサー”ならありえる」

一夏「ラウラ――――――あ」


副所長『『造れ』と言うのであれば、別に構わないがな。ドイツの第3世代型以上の機体ぐらい余裕で造ってやる』


一夏「…………“プロフェッサー”」

鈴「同じ“奇跡のクラス”の一員だもん、ね?(ええ、何このレベルの高さ…………)」
                                               ヒイヅルクニ
セシリア「欧州連合の『イグニッション・プラン』が霞んでしまいますわ…………(お、恐るべし極東の日出国…………!)」

セシリア「(“ブリュンヒルデ”といい、“ゴールドマン”といい、これだけの天才を擁している国を前にしたら、どんな国も後進国に――――――)」



副所長「多くを語るつもりはない。見てからのお楽しみということで」

束「へえ、すっごく楽しみー! 今度見せて見せてー」

副所長「ああ……、また会うことができたらな」

シャル「僕たち、とんでもない人たちの許で学園生活を送っていたんだね…………」

ラウラ「ああ…………」

担当官「私には、さっぱり話が見えてこない…………」


山田「大変です!」タッタッタッタッタ


一同「!?」

山田「これを!」スッ

千冬「…………特命任務レベル:A」
                              トップシークレット
担当官「――――――『特命任務レベル:A』、だと?(それって“最重要機密”って意味じゃないか!)」

千冬「テスト稼働は中止だ」

千冬「お前たちにやってもらいたいことがある」

担当官「おい、千冬!?」

副所長「さてと(――――――ここからが俺とお前との叡智を賭けた勝負だ!)」ゴゴゴゴゴ

束「ふふーん」ニヤリ





――――――対策本部


千冬「2時間前、試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発にあった第3世代のIS『銀の福音』が制御下を離れて暴走――――――」

千冬「監視空域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、――――――無人のISということだ」

担当官「…………無人機だって? どういうことだ、“プロフェッサー”?」ヒソヒソ
                                    ・・・・・・・・・・・・・・
副所長「黙っていろ。今は関係ないことだ(――――――アメリカめ。そんなに誰の手を汚さない人道的な兵器を造り上げたいか)」ヒソヒソ

千冬「その後、衛星による追跡の結果、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後――――――」
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

一夏「は」

一夏「…………えと(どういうことだよ、それ?)」キョロキョロ

小娘共「…………」

一夏「え、ええ……?(みんな、どうして何も思わないんだ?)」オロオロ

千冬「どうした、織斑? ブリーフィングはちゃんと聞いていろ」

一夏「…………はい」

担当官「…………」

担当官「(“千冬の弟”よ。お前の言いたいことは痛いほどわかる! 私も心の中で叫ぼう)」

担当官「( 何 故 な ん だ !? )」

千冬「教員は学園の訓練機を使用して、空域および海域の封鎖を行う」
                    ・・・・・・・・・・・・・
千冬「よって、本作戦の要は、――――――専用機持ちに担当してもらう」

一夏「は、はい!?」

ラウラ「つまり、暴走したISを我々が止めるということだ」

一夏「ま、マジか!?」ガタッ

鈴「いちいち驚かないの。それに、過去に二度は外敵を退けてきたんだから驚くこともないでしょう?」

一夏「え……(こんなの絶対おかしいよ……)」


千冬「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

セシリア「はい! 目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ」                                       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千冬「だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

担当官「え」

一夏「…………は?(おい、ふざけんな!)」イライラ

小娘共「」コクリ

千冬「どうした、織斑? なぜデータを開こうとしない?」

一夏「………………」ムカムカ

簪「一夏?」

箒「どうしたと言うのだ、一夏?」

一夏「………………」ムカムカ

鈴「何よ、はっきりしなさいよ」

千冬「………………一夏」

担当官「(このままじゃいけない! けど、私は何をするべきなんだ――――――あ)」

副所長「すまない、織斑先生。ちょっと織斑一夏を借りて行くぞ」

鈴「え」

副所長「行くぞ、一夏」

一夏「…………はい」

副所長「作戦案は最低でも2つは用意しておいてくれ」

副所長「ではな」スタスタ・・・

一同「………………」

担当官「(さすがは“プロフェッサー”だ)」

担当官「(となると、この場合の私の役割は、――――――見守ること、だけか)」




――――――旅館裏


一夏「ふざけんな!」バンッ

一夏「なんで俺たちがやらなくちゃいけないんだ!」

一夏「なんで軍法会議に掛けられなくちゃいけないんだ!」

一夏「なんでそれを何も疑わずに受け容れてるんだよ!」

       ・・・・・・・・
一夏「まるで、俺だけがおかしいみたいじゃないか!」


副所長「…………わかっただろう?」


――――――これがアラスカ条約体制の欺瞞だ。


副所長「それにな、代表候補生っていうのはこういった有事に対応するために、軍人としての教育も受けているんだ」

副所長「つまり、――――――『そういう事態が起こる』ということを黙認しているわけなんだ」

副所長「ISの軍事利用はアラスカ条約で禁止されているのに、世界に実戦配備されているISの数は322機だ」

副所長「つまり、全てのISが467であるから、およそ3分の2が実戦配備で、残り3分の1が研究用と大別されることになるな」

一夏「“プッチン”さんが言っていた事がよぉくわかったよ」


外交官『残念だが、――――――国際社会とは口で言うほど遵法精神旺盛ではないのだよ』


一夏「ふざけるなふざけるなふざけるな! どこまで他人の人生を弄べばいいんだよ!」



副所長「それと、教員たちが海上封鎖に回る理由の1つとして、教員の扱いが日本の公務員であることが挙げられるな」

副所長「アメリカとしてはアラスカ条約に基づく『IS技術の公開』を現在進行形で破っているわけだから、日本の公務員には知られたくないというわけだ」

副所長「専用機持ちは建前上はあらゆる国家・組織・団体から独立した扱いやすい駒だからこそ、今回の作戦の要となるわけだ」

一夏「…………こんのぉ!!」
                               ・・・・・・・・・
副所長「ふん。IS学園の運営・管理・報告を全て我が国に押し付け、公平な『技術公開』を迫っておいて、自分は手の内を明かそうとしないというわけだな」

一夏「…………何だよ、それ! IS学園はあらゆる圧力から干渉されないんじゃないのかよ!」

副所長「確かに学園の内ではあらゆる組織から独立しているが、IS学園そのものは日本の一高等学校だからな」

一夏「…………!」

一夏「…………やるしかないんですか?」ハア


副所長「安心しろ。すでに手は打ってある」ニヤリ


副所長「それこそが、俺と“マス男”からの特大プレゼントなのだからな」

一夏「!」


――――――“安心”と“信頼”!


副所長「アメ公に意趣返しをしてやろうじゃないか」

副所長「あ、――――――今もう、取り返しのつかないことになってるんじゃないか?」ニヤニヤ

副所長「だから、一夏はそこまで気負う必要はないぞ。もしかしたら、出る幕もないかもな」

一夏「おお……!」

副所長「とはいったものの、やっぱり出番はあるかもしれないな、相手が戦略級ISともなればな」

副所長「しかしだ。お前を拘束しようとする棍棒外交の大義名分を失わせることにはなる」

副所長「やらざるを得ないにしても、嫌味ったらしい連中に頭ごなしに命令されて使われるより、自由意思で身近な人を守るためだけに戦えたら気が楽だろう?」

副所長「だから、ちょっと待ってろ。手は打ってあるから」

副所長「あ、これ、秘密ね。そうしないとお前も牢屋行きだから」

一夏「わかってます、“プロフェッサー”!」パァ


――――――やっぱり“奇跡のクラス”って凄いや!





――――――2時間以上前、IS学園


使丁「さて、“プロフェッサー”の指示通りに中継アンテナの設置は完了した」

使丁「しかし、学園上層部に送られてくる通信を盗聴するだなんて、こんなことが知られたら――――――」

使丁「ともかく、“プロフェッサー”のやることに間違いはないんだ」

使丁「俺は“プロフェッサー”との友誼と為人を信じて、今日が無事に終わることを願うばかりだ」


使丁「束、お前は世界をどうしたいんだ?」


使丁「…………」

使丁「さて、お仕事お仕事っと」

使丁「あ、轡木さん。何です?」

使丁「え? 国連から〈イオス〉の試作機が送られてきた――――――?」







――――――そして、時は流れて、別な場所で


ピピッ

外交官「ほう? これはどこからの秘匿通信だ?」

外交官「…………なるほど、『ハワイ沖で公開されていない戦略級ISの暴走』か」

外交官「まるで成長していない」ハア

外交官「そして、――――――『白騎士事件』の再現でもしようっていうのか、束?」ピッ

外交官「なら、望み通りにしてやる。このままだと歴史の闇に埋もれてしまうからな」プルルルル・・・

外交官「幕僚長、スクランブルだ! 予想よりわずかに早かったが、待機中の部隊を展開して捕捉してくれ」

外交官「これで米国に対する絶好のカードが手に入る」

外交官「学園側が作戦行動に移る前に時間を稼いでくれ。撃破および鹵獲ができるのならばそれで構わないがな」

外交官「捕捉でき次第、日本政府から『所属不明機の撃破』を正式に依頼してくれ。こうすればやりやすいはずだ、あちらとしても」

外交官「俺も現地に向かって、篠ノ之 束の拿捕を行う!」ピッ

外交官「よし、出してくれ」

運転手「了解!」

外交官「(さて、国際秩序を保つために、――――――篠ノ之 束、お前は野放しにはできない)」

外交官「今日こそは――――――!!」ゴゴゴゴゴ




――――――所戻って、対策本部


セシリア「一夏さん、どうしたのでしょうか?」

ラウラ「まさか、事態の重要性を痛感して逃げ出した――――――いや、そうだとは思いたくないな」

シャル「そうだよ。いつだって一夏は命懸けで僕たちを守ってきたんだから!」

担当官「それで、やはり一夏くんの『零落白夜』による一撃必殺で撃破するしかないと……」

鈴「それしかないのよね…………高速戦闘が可能で一撃必殺ができる機体なんて、まんまあいつの機体のことだし」

シャル「けど、『零落白夜』に使うシールドエネルギーは残しておきたいから、誰かが輸送する必要がある……」

セシリア「それでしたら、簪さんの『打鉄弐式』と私の『ストライク・ガンナー』の出番ですわ」

セシリア「特に、『打鉄弐式』の多連装誘導ミサイル48発に加え、荷電粒子砲なら足りないところを補うことができますもの」

簪「うん。まかせて!」

鈴「こうして見ると『打鉄弐式』って、やっぱり“プロフェッサー”が造っただけあって、状況を選ばない超高性能機よね」

箒「………………くっ」

千冬「うん。では、この作戦に出撃してもらうのは、オルコットと更識、それと織斑――――――」


束「その作戦は、ちょっと待ったなんだよー」


束「とーーーー!」

ラウラ「天井裏から、――――――いつの間に!?」

束「ちぃちゃん、ちぃちゃん!」

束「もっと凄い作戦が、私の頭の中にナウプリンティング~」

担当官「部外者は出て行け!(―――――― 一応、今の私は日本政府から正式に送り込まれた査察官だから、部外者ではない)」

束「“グッチ”もそんな冷たいこと言わないで、聞いて聞いて!」

束「ここは断然、『紅椿』の出番なんだよ! “プロフェッサー”だってそう言うに決まってるよ!」

箒「…………!」

担当官「なにっ!?(やっぱり束、貴様――――――!)」

千冬「『紅椿』に搭載されている『展開装甲』とやらが、この作戦を成功に導くと言うのだな?」

束「イエース」ニコッ



――――――作戦準備


担当官「では、クルーザーを出して少しでも距離を稼ぎます」

セシリア「では、お先に!」

簪「頼んだよ、一夏、箒!」

副所長「シャルロットは防御パッケージ『ガーデン・カーテン』でクルーザーを守ってくれ」

副所長「最悪クルーザーが沈没しても、俺たちは救命いかだに避難するから、最終的に五体満足で陸に送り届けてくれればそれでいい」

シャル「了解です!」


ブゥウウウウウウウウウウウウン!


ラウラ「行ったか……」

鈴「私たちは予備戦力として待機、か……」

鈴「大丈夫よね? 4対1なんだから余裕よね……」

ラウラ「だといいのだが…………」



箒「一夏? 本当に相手の機体データ無しで戦うと言うのか?」

一夏「俺はアメリカの機密保持――――――尻拭いに協力したってわけじゃない」

一夏「だから、データなんて要らない(それに、データならすぐに新鮮なものが送り届けられることになってるしね)」

箒「え」

一夏「それよりも、箒にとっては実質的に初めての実戦だ。無理はするなよ?」

箒「大丈夫だ。むしろ、お前を送り届けるだけじゃなく、私がきっちりお前を守ってやる」

一夏「あ、ああ…………(何か不安だな。あれ以来、箒も落ち着いてきたのは確かなんだけど、)」

一夏「(以前に“プロフェッサー”が言って聴かせてきたことが急に現実味を帯びてきたぞ…………)」


副所長『俺が思うに、将来あの子は絶対にどこかで慢心を起こして重要な局面で致命的なミスを起こしそうなんだ』

副所長『束が強力な専用機を渡せば、確実にそうなるのが目に見えている』

副所長『あの子は自分の剣の腕に絶対の自信を持っている』

副所長『そこから己の強さを過信して、今回みたいな襲撃事件に遭えば率先して勇ましく戦うだろうな』

副所長『ただ、勇ましく戦うのはいいんだが、自分がやれば全てうまくいく――――――』


――――――だから、自分のやることを邪魔するな、あるいは従え!


副所長『なーんてことになるんじゃないかって思う』


一夏「(何なんだ、この嫌な感じは…………)」

一夏「(今の箒はなんだか、何かを見落としているような気がするんだ……)」

一夏「(やる気が感じられないっていうか、気持ちがどこか浮ついているというか、――――――真剣勝負の気迫がこもってない)」


一夏「そうだ!(――――――真剣勝負だ!)」


一夏「箒、1回だけ打ち合ってみないか? どれだけの馬力なのかを体感してみたい」

箒「ああ、いいぞ!」

一夏「いくぞ!」ブン!

箒「はあああああああああ!」ブン!


ガキーン!




一夏「!?」ジィイイン

箒「これが、私の専用機『紅椿』だ」

一夏「打ち合って腕が痺れるなんてこと、実際にあるんだな…………」ブルブル

箒「どうだ、一夏。これなら、お前のことを守ることなんて簡単だろう」

一夏「…………まあ、そうだが(――――――失敗した、これは)」

束「何かいい感じじゃん」

箒「!」

箒「そ、そんなことはない……」プイッ

束「そんなぶすーっとした顔しないで。笑って笑って」

箒「この顔は生まれつきなので…………」

束「そーだっけ?」

一夏「………………束さん(やっぱり束さんは――――――)」


山田「大変です! 織斑先生!」


千冬「今度はどうした?」

山田「今度は日本政府からの依頼です!」

山田「我が国の領空を侵犯した『所属不明機の撃破あるいは拿捕を行なえ』とのことです!」

山田「すでにその『所属不明機』と交戦し、映像データも送られています」

千冬「…………なるほど」

千冬「そいつをあいつらに見せてやれ」

山田「はい!」ピピッ

山田「なお、接触はできたものの、取り逃してしまったそうです……」

山田「私たちの作戦行動には一切影響はないと思われますが、どうします?」

千冬「いや、日本政府からの依頼は、今の織斑にとっては願ってもない一報だ」

千冬「(さすがの根回しだ、――――――“プッチン”!)」




――――――11:30 作戦開始!


一夏「来い、『白式』!」

箒「行くぞ、『紅椿』!」


一夏「じゃあ箒、よろしく頼む」

箒「本来なら、女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、」

箒「今回だけは特別だぞ?」ニコッ

一夏「よし、もう一度確認するぞ?」

一夏「いいか、箒? これは訓練じゃない。十分に注意をして取り組――――――」

箒「無論わかっているさ。一夏は心配症だな」

箒「心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる」フッ

箒「大船に乗ったつもりでいればいいさ」

一夏「…………心配してし過ぎることなんてないぞ?」

一夏「俺は怖いよ。実戦なんて何が起こるかなんてわからないんだからさ(それで何度、“死”を体験したことか……)」

箒「え」

一夏「箒はさ、もうちょっとイメージトレーニングをしておくべきなんじゃないのか?」

一夏「いくら束さんが造った最強のISだからといって、エネルギー兵器をあれだけ高出力で使ってるんだから燃費だって相当悪そうだぞ?」

箒「何を言っているんだ、一夏。状況としては4対1なんだし、私は『紅椿』のことをよく理解している」

箒「そして、私はいつも通りだ」

箒「一夏こそ、作戦には冷静に当たることだ。過度の心配で仕損じるなよ?」

一夏「…………わかったよ。ちゃんと運んでくれよ(それ以外は期待しないことにしよう。ダメだ、話が通じない)」


――――――“束の妹”が偉そうなことを言っても聞き流せ。


一夏「(“プロフェッサー”のいうことに間違いはなかった…………)」

一夏「(だけど、彼の名誉にかけて、この指摘は外れて欲しかった…………)」


一夏や周りの大人たちが懸念していたことは、普段とは異なるいつになく冗長な口数の多さによって、的中していたことがすぐに浮き彫りになっていた。

一夏は何とか気合を入れ直そうとこの瞬間まであの手この手 言葉や手段を考えて尽くしてはみたものの、徒労に終わってしまった。

また、この時の一夏にとって、箒の覚悟など本物の死線や逆境を体験してきた彼からすれば不覚悟なものだと決めつけてもいた。

6月での幼馴染との再会と擦れ違いは、7月の今日になって決定的な不信感を一夏に植えつけていたのである。なまじ見識が拡がったばかりに。

そのことにまるで気づかない箒のどこか緩んだ表情に哀れみを感じながら、一夏はこの戦いの先に待つ虚しさを一人堪能していた。

無事に『銀の福音』の撃墜に成功すれば、箒は間違いなく増長するし、

かといって、『銀の福音』の撃墜そのものに失敗し、取り逃がすことになれば、学園の信用が失われることになる。

一番に理想とするのは、ほどほどに苦戦して、箒の中での認識が改まって、『銀の福音』を撃墜することである。

だが、誰もが体験したことがない軍用機との実戦に、彼も言ったように戦いに挑むのは怖かった。無視したかった。胸に秘めた怒りの丈をぶつけたかった。

それでも一夏は、自分の中で戦う理由を見出し、日本政府から提供された映像記録の中の『銀の福音』の行動パターンを思い出しては気合を入れるのであった。




千冬「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」
――――――

一夏「……はい」

箒「よく聞こえます」

――――――
千冬「今回の作戦の要は一撃必殺だ。4対1という有利な状況になるとはいえ、短時間での決着を心がけろ」

千冬「討つべきは、――――――『銀の福音』」
――――――

両者「了解」

箒「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

一夏「(――――――『状況に応じて』って、具体的にはどうするってことだよ?)」

――――――
千冬「……そうだな」

千冬「だが、無理はするな。お前は『紅椿』での実戦経験が皆無だ」

千冬「突然何かしらの問題が出るとも限らない」
――――――

箒「わかりました」

箒「ですが、できる範囲で支援をします」

一夏「…………」

一夏「(これって、入学当初の俺以上に楽観視していないか、この状況を……)」

一夏「(それにセシリアや簪との連携を、ちゃんと意識しているのだろうか? 連携行動っていうのは互いのことを知り尽くしてこそ発揮されるもんだ)」

一夏「(今の箒に、セシリアや簪の姿は見えているのだろうか?)」

――――――


鈴「あの子、何だか声が弾んでない?」

ラウラ「確かにそう聞こえた」

鈴「わからなくはないけど…………」

ラウラ「だが、今回の作戦の要である以上、どうこう言うにはすでに遅すぎる。士気に関わる」

千冬「………………」

千冬「織斑へのプライベートチャネルを」

山田「はい」ピッ

千冬「……一夏、どうも篠ノ之は浮かれているな」

千冬「あんな状態では何かを仕損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ」
――――――

一夏「やっぱり、そう見えますか」

一夏「“プロフェッサー”がオペレーターになって直接指揮を執ることができたらよかったんですけど……」

一夏「ともかく、意識しています」

――――――
千冬「うん」

山田「オープンチャネルに切り替えます」ピッ

山田「スタンバイどうぞ」

千冬「先行しているクルーザーとの同期もとれた」

千冬「では、始め!」
――――――

箒「行くぞ」

一夏「おお!」


ブゥウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウ!




――――――クルーザー


担当官「動きました!」ピピッ

副所長「さて、『紅椿』のスペックがデータ通りならそろそろ行ってもらおうか」

副所長「二人の任務は、『銀の福音』を『白式』の『零落白夜』で一撃必殺させることだ」

副所長「決して『銀の福音』を自分たちの手で撃墜しようと欲を出すな。そうなると視野が狭まり、高速戦闘での連携行動を損なう可能性がある」

副所長「さて、衛星からの情報だと……、ありゃま『銀の福音』は予想されたルートをちょっとばかり転進していたらしい」ピピッ

副所長「少しばかり距離が開いてしまったな(どうやら、うまくいってくれたようだ!)」

副所長「よし、出撃だ!」パンパン

セシリア「了解!」
簪「了解!」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウ!


副所長「『白式』と『紅椿』、『銀の福音』との接触には多分な誤差が生じているはずだ」

副所長「それを上手く調節してくれよ」

副所長「後は、『銀の福音』に肉薄することになる2機の連携が鍵となるが…………」

シャル「…………?」

副所長「どうした、シャルロット?」

シャル「いえ、…………気のせいかな?(――――――海上封鎖はしてあるはずだし)」

担当官「武運を祈るよ、箒ちゃん!(頼む! どうかこの作戦がみんな無事で終わることを…………)」





箒「見えたぞ、一夏!」

一夏「あれが『銀の福音』……(送られてきた映像資料によると、武器はあの大型スラスターから出るオールレンジ攻撃だけ! 無力化するならそこだ!)」

箒「加速するぞ。目標に接触するのは10秒後だ」

一夏「よし、セシリアや簪も追いつく頃だ」

一夏「行ってくれ!」

箒「よし!」

ビュウウウウウウウウン!

一夏「うおおおおおおおお!(――――――『零落白夜』発動!)」

福音「!!!???」クルッ

一夏「(――――――気づかれた!?)」ブン!

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウン!

一夏「箒、このまま押し切る!(巡航速度とほぼ同等のイグニッションブーストを使ってくるのか。『AICC』なんて役に立ちそうもないな)」

箒「ああ!」ビュウウウウウウウウン!

一夏「だけど――――――!(――――――俺の武器は『AICC』だけじゃない!)」


セシリア「いただきましたわ!」バヒュン!


福音「!!!!」ドゴーン!

一夏「ナイスアシスト!(そう、――――――仲間との連携だ!)」

福音「!!!!」

一夏「もらったあああああああああ!」ブン!

福音「――――――!」ヒュウン!

箒「あ」

一夏「ぐぅわあああああああ!(――――――「超高速切替」!)」ブン!

福音「!!!!」ザシュ

箒「え!?(いつの間に投げた――――――いや、さっき斬っていたよな!?)」

一夏「やった…………いや、半分だけか」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウン!
     ・・・
一夏「もうこの手は使えないな……(腕部の自動操縦による斬撃と素手による投擲を合わせた「超高速切替」の奥義――――――)」


ステルスモードで機を狙っていたセシリアの『ブルー・ティアーズ』からの長距離精密射撃による闇討ちによって、『銀の福音』は一瞬だが大きく制御を失い、

その一瞬によって、『銀の福音』の第3世代兵器『銀の鐘』に片方の羽を大きく『零落白夜』の光の剣が突き刺さった。

それにより『銀の福音』はいきなり主力の半分を失うことになり、大きく戦力ダウンを起こすことになった。100点とはいかないが及第点の初撃である。

だが、前方に意識を集中していた箒からでは『銀の福音』と肉薄した瞬間に起きた一瞬の人間離れして神業を理解することはできなかった。


―――――― 一夏はどういうトリックを使って、躱されたのにすぐに追撃できたのだろうか?



実は一夏は――――――、

『白式』の右腕部が『零落白夜』の光の剣を振り下ろした瞬間に、

右肩から順に量子解除をしつつ光の剣を握る右手を脳波コントロールで自動操縦して斬撃を続行させ、

装甲から引き抜いた生身の右腕を素早く天に突き出し、

右肩、右腕、右手、雪片弐型の順にと量子化していくよりも早く、

天にかざした右手に『零落白夜』の光の剣を呼び出して、

無造作に『AICC』を繰り出したのである。ほぼ反射的に投げつけていたのだ。


光の剣を振る→『銀の福音』に左側に躱される→振った右手だけ残して生身の右腕を装甲から引き抜いて太刀投げの構え→
    振り終わった光の剣を「超高速切替」で右手に展開→『AICC』(ただし、勘で投げつけた)→『銀の福音』の片翼を貫く


結論:剣で斬ると同時に同じ剣を投げつけた


『白式』から見て左側に急速旋回して躱そうとする『銀の福音』ではあったが、セシリアからの闇討ちによって一瞬という大きな時間 反応が遅れ、

大ぶりの斬撃こそ躱すことはできたものの、「超高速切替」から繰り出される光のシャワーに喩えられる太刀投げまでは躱しきれなかったのである。

だが、生身の腕を超音速の世界に一瞬だけ突き出してしまったので、装甲によってすぐに守られたが一夏の右腕はソニックブームで血煙を噴いて赤く染まっていた。
                                            ・・・
装甲に隠れてはいるが、一夏の紅く染まった右手は言うことを聞かなくなっていた。だから、もうこの手は使えない。



一夏「くっ、分離して追い込むぞ! 片翼をもいだからには勝利は固いぞ!」ズキズキ

箒「応!」

一夏「(俺の右腕はもう使えないだろうが、『銀の福音』の片翼をもいでやったんだから、後は何とかなるはずだ!)」ニヤリ

簪「私もここにいるよ!」ピピッピピッ

簪「ターゲット・ロック! ――――――『山嵐』!」

セシリア「では、私はまたステルスモードで!」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「来た!(一度に36個も誘導レーザーを放つ圧倒的な弾幕だったけど、半分ともなると捌き切るのは案外容易だ!)」

一夏「そして、第3世代兵器の共通の弱点――――――!(イメージに集中してターゲット・ロックしている時はPICが機能しなくなる!)」

一夏「!!」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「……速い!?(隙らしい隙がほとんど一瞬じゃないか! 学園に送られてきている最新鋭の第3世代機なんかよりも遥かに――――――!)」

一夏「くっ! さすがに簡単には近寄れないか……(イメージせずに使うのなら多連装レーザー砲として普通に使える辺り、凄い完成度だ)」

一夏「これが軍用機ってやつなのか(――――――普通に考えて、戦力としての次元が違い過ぎる!)」

一夏「(ラウラの機体も軍用機で隙のない完成度だったけど、『こいつ』は言うなれば、――――――究極兵器としての位置づけだ)」

一夏「(アメリカはやっぱり横暴だ。IS学園を国費で運営させるように圧力を掛けておいて、その成果は『ただでよこせ』だなんて…………!)」


一夏「………………ふざけやがって!(やっぱり、是が非でも意趣返ししないとな!!)」ゴゴゴゴゴ




ボゴンボゴンボゴーン!


福音「!!!?」

簪「誘い込んだ! 決めて!」

箒「はああああああ!」ガキーン!

福音「!!!!」

箒「掴んだぞ!」

箒「よし、今だ! 一夏、やれ!」

一夏「おおおおおおおおおおお!(これで終わりだあああああああ!)」ヒュウウウウン!

福音「――――――!」シュババ

箒「うわっ」ヨロッ

一夏「なにっ!?(至近距離でも対応できるだなんて! だが、この距離なら――――――!)」

箒「……こいつ! おとなしくしていろ!」カッ

箒「逃がすものか! ――――――『空裂』!」ブン! ブン!

福音「!!!!」ボゴーン!

箒「よし! このまま――――――」ブン!

一夏「おわっ!?(――――――「完全停止」!)」

一夏「横着するな、箒! 無闇やたらに振り回すな! エネルギーが保たなくなるぞ!(1対多を想定した武器なんて相性最悪じゃないか!)」


あと一歩のところまで『紅椿』の高性能ぶりと簪やセシリアの的確な援護で追い込んだのだが、

『銀の福音』を捕まえた箒の『紅椿』に、標的は器用に至近距離の敵に対して誘導レーザーを中てていく。まさにオールレンジ攻撃!

だが、その程度の攻撃では『紅椿』は損傷にはならず、すぐにまた捕まえて、そのまま『零落白夜』による確実なフィニッシュが訪れる――――――はずだった。


ところが箒は、カッとなって一撃を加えてしまったのである。


何が致命的なのかと言えば、粘っていればそのまま一夏の『白式』が垂直降下で一気に『零落白夜』で一刀両断できたのに、

わざわざ相手を押し退けてしまうような大振りのレーザー攻撃を繰り出し、せっかく掴んだチャンスを自分の手で潰してしまったのである。

それだけならまだ良かったのだが、箒はつい僚機と戦っていることを忘れて『銀の福音』への攻撃に集中したために、

いつこちらに1対多の『空裂』の飛んでくる広範囲薙ぎ払い攻撃が飛んでくるかが周囲の不安を煽り、味方の攻撃が一番の脅威となりつつあったのである。

また、一夏が推測していた通り、『紅椿』は第4世代技術『展開装甲』とその高性能ぶりで目を見張る機体だが、それだけに燃費の悪い機体でもあり、

きっちりと下積みを積んで『白式』に乗り換えた一夏にとって、いくら「最適化」されているとはいえ『紅椿』は初心者の箒の手に余る機体だと認識していた。

他にも、いろいろ言いたいことは山ほどあるが、言うなれば、――――――あれである。

箒の勇ましさは、かつての一夏と同じく 無知から来る蛮勇でしかなく、箒と周りの専用機持ちにどれだけの差があるかなど知らないのだ。


結論:箒は『紅椿』のことを機体を通して誰よりも理解しているが、逆にそれ以外のことはまったく理解していなかった。



――――――仮にである。


仮に、ラウラ・ボーデヴィッヒと同じ頃にIS学園に転入していれば、きっとラウラを反面教師にして自省する可能性はあったかもしれない。

あの時のラウラの傍若無人な振る舞いは、どこかしら篠ノ之 箒と通じる所があったからだ。

これが“天の時”というものであった。




出会いは人を変えるが、いつどんな時に出会うかによっても人との繋がりの意味は七色に変わっていってしまうのである。




膠着状態に陥った戦況に、誰も彼もが疲れを溜めていき、鬱憤を内部に溜め込んでいく。

しかし、ジッと堪え続けてきた一夏の心境も、話を聞かない箒の横着を歯痒く思っているうちに、

やがて、――――――ある考えがよぎり始めた。

それは、膠着状態に陥った戦場にある転機が訪れてからであった。


一夏「――――――うん?(…………細い雲筋が複数眼下に見える? いや、俺たちは雲よりも高いところにいるんだから飛行機雲なわけがない!)」
                 ウェーキ
一夏「これは…………(――――――航跡だ! 海上封鎖しているはずなのに、なんでそんなものが……!?)」

一夏「セシリア! 海上に船が複数見えたような気がするんだが、どうなってる!?」

セシリア「え」

セシリア「あ、一夏さん! 海域に船が3つ確認できましたわ!」

セシリア「しかもこれは、――――――国籍不明ですわ! 密漁船のようですわ!」

一夏「なんだと……!?(どうする!? いや、やることは変わらない!)」

一夏「セシリア、シャルロットに船を守らせろ! このままだと、いずれは流れ弾がそっちにいくぞ」

セシリア「わかりましたわ!」

一夏「高度を取れ、箒! 船がいるんだ! 『銀の福音』の攻撃が海上に向かないようにしろ!」

箒「なんだと!? 海上封鎖されているのではなかったのか?」ピピッ

箒「――――――密漁船? この非常事態に!?」

福音「――――――!」シュババババ

箒「くっ」ヒュウン!

一夏「こっちだ、『銀の福音』! でやああああああ!(――――――『AICC』!)」ブン!

福音「――――――!」シュババババ

一夏「そうだ! こっちを狙え! 太陽を背にした俺を!(片翼をもいでもこれだけの戦闘能力か…………4対1であっても関係ないな、これは)」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「さ、捌き切れない……(まずいな。利き腕じゃないから思ったよりも捌けなかった…………『零落白夜』を使う余裕がなくなってきている)」

一夏「これは本気で――――――(それなのに、『銀の福音』のエネルギーは無尽蔵か!? これが軍用機――――――!!)」

一夏「あ」

一夏「…………」フフッ


この時、織斑一夏に現状に対する大いなる不満と抗議の念が生み出した 一種の破滅願望みたいなものがチラついた。




一夏「(そうだ、俺たちIS学園の生徒が戦わなくてはいけないのは、大人たちが駆けつけるまでの時間が足りないからだ)」

一夏「(となれば撃墜はできなくても、時間稼ぎにさえなればそれ以上の文句は言えまい……!)」

一夏「(無力化するのが最優先事項なんだよな? なら、その手段は何であろうと構わないよな……?)」フフッ


一夏は事前にこの戦いの結末を予想していた。

無事に『銀の福音』の撃墜に成功すれば、箒は間違いなく増長するし、

かといって、『銀の福音』の撃墜そのものに失敗し、取り逃がすことになれば、学園の信用が失われることになる。

一番に理想とするのは、ほどほどに苦戦して、箒の中での認識が改まって、『銀の福音』を撃墜することである。

しかし、現状としてはただの消耗戦なだけで、箒はこちらの制止を聞かず、苦しいだけで何の旨味もない戦いになっていた。

だから、一夏は仕返しとばかりに、ある奥の手を使うことも辞さない狂気じみた鬱憤晴らしをしようと暗に狙い始めるのであった。



――――――頭に来た! 意趣返ししてやる! あいつにもこいつにも!




箒「何をしている! お前から的になってどうする!」

箒「お前の『零落白夜』が作戦の要なんだぞ! 忘れたのか!」ブン!

福音「――――――!」ヒュウン!

箒「また、避けた…………」グッ

一夏「箒こそ冷静になれ!(だったら、こっちがしやすいように支援に徹してろよ…………)」

箒「やつらは犯罪者だ! 構うな!」

一夏「見殺しにはできない! というか、無闇に攻撃するのは止めろ! それで巻き込んだらどうするつもりだ!」


――――――人殺しになりたいのか、お前は!


箒「!?」

箒「馬鹿者! 犯罪者などを庇って! そんなやつらは放っておい――――――」

一夏「箒!」

箒「!」ピクッ

箒「………………黙れ」プルプル

一夏「あ、おい!(――――――通信を切りやがった! 何を考えているんだ!?)」

セシリア「何がどうなっておりますの!?」

簪「箒と一夏が戦闘中なのに口論している!」

一夏「二人共、箒が通信を切った! これじゃ連携も何もあったもんじゃない!」

一夏「頼む! こっちはエネルギーがギリギリだ」

一夏「ステルスモードで隙を狙う! だから、箒のバックアップに回ってくれ」

セシリア「わかりましたわ!」

簪「次は無いってこと……(『山嵐』も残り2射しか残ってない。使いきったら、荷電粒子砲『春雷』で牽制するしかない)」

簪「両機の性能はほぼ互角のように見えるけど…………」

セシリア「ええ。実力の差は大きいですわ(アメリカがあれほどの無人機を開発していただなんて…………欧州連合はますます差を付けられてますわね)」




箒「私は、私は――――――!」

箒「私はあああああああああああああああ!」


――――――また逃げた。


自分が何をやっているのかは自分でよく理解していた。

だが、止められなかった。血迷った箒に自分を止める術はない。それを知らない。

やり直しが利かないと思い込み、ズルズルと自分の力だけで状況を打開しようとしてジリ貧になっていっている。敗け分を独力だけで取り戻そうと必死である。

まるで、ギャンブルで勝つまで止められずにやがて一文無しになる 引くことを知らない愚か者である。

だがそれが、この少女にとっての日常であり、安息でもあった。

引くに引けない状況にまで追い込み追い込まれ、どうしようもなくなっても、保護者である担当官“グッチ”さんがまた新しい場所を用意してくれる。

そして、“グッチ”さんはそんな少女の咎を全て許し、全てをリセットしてくれるのだ。

それが幸か不幸か、善か悪かは読者の判断にお任せする。

だが、今この少女が必死なのは本当のことである。

やがて、箒の猛追が『銀の福音』をついに単機だけで追い詰めたのであった。


福音「!!!!」

箒「はあああああああああ!」

箒「――――――はっ!?」

福音「!!!!」グググッ

箒「……こいつ!(――――――馬鹿な!? 剣を掴んで抵抗するだと!? しかも『紅椿』と互角以上の力がある!?)」

セシリア「あれだけ密接していては誤射してしまいますわ!」

簪「箒、武器を捨てて離脱して! このままだと格好の的だよ!」

簪「あ……、そうだ。通信が――――――!」

セシリア「箒さん!」

簪「そんな…………」


しかし、少女の全身全霊の猪突猛進もそこまでであった。

『紅椿』の性能は理解できても、戦場でのペース配分や出力調整は専用機をもらったばかりで実戦経験に乏しい箒にできるはずがなかった。

確かに『紅椿』は箒の意のままに動き、その圧倒的な性能を発揮しているが、機体には備わっていないそれ以上のことは発揮されることは絶対にない。

かくして、やっとの思いで追い詰めたのだが、そこで息切れを起こしてしまうのであった。

そして、自分で通信を切ったことに激しく後悔しながらも、やはりズルズルと独断専行し、最終的には追い詰めて逆にチェックメイトを受けることになったのだ。



箒「くぅうう、敗けられない……!」グググッ

箒「ん」ピィピィピィ

箒「――――――機体のエネルギーが!?」DANGER! DANGER!

福音「――――――!」スッ

箒「あ、ああ…………(さっきの至近距離で射つやつだ! これを受けてしまったら――――――!)」

箒「私は…………」

福音「――――――!」


どこで間違えた? ――――――最初からだ。

少女の“憧れ”であった少年からの再三の忠告に一度でも素直に耳を貸すことさえできていれば…………

言い逃れのできない詰めを受け、初めて少女は自分がどういうところにいるのかをはっきりと理解できた。

エネルギーが尽きれば、ISは強制解除されて、海に真っ逆さまである。着水すれば水がクッションになって助かるとは信じていない。

少女は初めて死ぬほど後悔した。――――――次があれば。

だが、もう次はない。

結局、少女は“篠ノ之博士の妹”としか人々の記憶の中に残らないのだろうか?

そう思うと、少女は涙をこぼさずにはいられなかった。少女にあったのはそのことばかりであった。

思えば、実の姉がISを開発さえしなければ、きっと自分は“憧れ”の少年と一緒に他愛もない会話をして穏やかに成長してこられただろう。

そして、末期の言葉が胸の奥から放たれた。


――――――助けて!


少女がずっと言えなかった言葉が嗚咽と共に青い空に響き渡らない。ただその青さの中にに溶けていく――――――そのはずであった。


――――――まったく頑固でどうしようもないな。昔から変わらないよ、箒は。


箒「!?」


通信は切っていたはずである。

それなのに、――――――声が聞こえたのである。

それは、まぎれもなく――――――、





ビュウウウウウウウウン!

一夏「はあああああああああああああああああああああああああ!(イグニッションブーストおおおおおお!)」

福音「!!!!」ドーン!

箒「――――――『銀の福音』が消えた!?」

箒「いや、一夏!? 一夏あああああああああああああ!」

簪「このままだと、海に転落――――――!」

セシリア「一夏さん!」

箒「動け、『紅椿』! 何をしている!」(戦闘続行不能)


ビュウウウウウウウウン!


一夏「……なあ、『銀の福音』?(ああ……、垂直降下で真っ逆さまに海に落ちていくよ。もう「完全停止」できる距離でもないし、――――――ならば!)」

一夏「一人で死んでいくのは嫌だろう?(――――――『零落白夜』解除。とは言っても、元々ミリぐらいしか残ってなかったんだ)」

一夏「一緒に海の底に沈もうか(――――――装甲以外の量子化装備を全て解除。まあさっきの一撃で残った片翼の上半分削れたしな)」ニコッ

福音「!!??」ジタバタ

一夏「大丈夫だ。もう放さないよ(――――――PICカット。これによりISは、ただ重たいだけの鉄の塊になる)」ヒューーーーーーーン!

一夏「(そして、『銀の福音』の主力装備はレーザーだから、水に浸かれば攻撃手段は何もかも失われる。まあ、相手としてもすでに満身創痍なんだが)」

一夏「(だが、それでも高速戦闘に対応できる機体でなければまず接敵することもできないんだから、確実に『やつ』を仕留めるには――――――!)」


副所長『ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな』


一夏「………………!(――――――これしかない!)」

福音「!!!!」


ザバアーーーーーーーーーーン!


一夏「!!!!」ボボボボ・・・・・・

福音「!!!!!!!!!!」ボボボボ・・・・・・



――――――ごめん、千冬姉、みんな。

――――――俺、頭に来たから、意趣返ししてやる!

――――――今は反省している。

――――――けど、俺ばっかり心配させられてるのはフェアじゃないから。

――――――だから、一世一代の意趣返しをさせてもらった。

――――――もしこれで生きていたとしても、「心配掛けてごめん」だなんて言わないんだからな!

――――――そういうわけで、さようなら、みんな。


箒「一夏あああああああああああああああああああああああ!」



その日、少年に海に消えた。大いなる傷跡を人々の心に残して。







ビュウウウウウウウウン!

一夏「はあああああああああああああああああああああああああ!(イグニッションブーストおおおおおお!)」

福音「!!!!」ドーン!

箒「――――――『銀の福音』が消えた!?」

箒「いや、一夏!? 一夏あああああああああああああ!」

簪「このままだと、海に転落――――――!」

セシリア「一夏さん!」

箒「動け、『紅椿』! 何をしている!」(戦闘続行不能)


ビュウウウウウウウウン!


一夏「……なあ、『銀の福音』?(ああ……、垂直降下で真っ逆さまに海に落ちていくよ。もう「完全停止」できる距離でもないし、――――――ならば!)」

一夏「一人で死んでいくのは嫌だろう?(――――――『零落白夜』解除。とは言っても、元々ミリぐらいしか残ってなかったんだ)」

一夏「一緒に海の底に沈もうか(――――――装甲以外の量子化装備を全て解除。まあさっきの一撃で残った片翼の上半分削れたしな)」ニコッ

福音「!!??」ジタバタ

一夏「大丈夫だ。もう放さないよ(――――――PICカット。これによりISは、ただ重たいだけの鉄の塊になる)」ヒューーーーーーーン!

一夏「(そして、『銀の福音』の主力装備はレーザーだから、水に浸かれば攻撃手段は何もかも失われる。まあ、相手としてもすでに満身創痍なんだが)」

一夏「(だが、それでも高速戦闘に対応できる機体でなければまず接敵することもできないんだから、確実に『やつ』を仕留めるには――――――!)」


副所長『ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな』


一夏「………………!(――――――これしかない!)」

福音「!!!!」


ザバアーーーーーーーーーーン!


一夏「!!!!」ボボボボ・・・・・・

福音「!!!!!!!!!!」ボボボボ・・・・・・



――――――ごめん、千冬姉、みんな。

――――――俺、頭に来たから、意趣返ししてやる!

――――――今は反省している。

――――――けど、俺ばっかり心配させられてるのはフェアじゃないから。

――――――だから、一世一代の意趣返しをさせてもらった。

――――――もしこれで生きていたとしても、「心配掛けてごめん」だなんて言わないんだからな!

――――――そういうわけで、さようなら、みんな。


箒「一夏あああああああああああああああああああああああ!」



その日、少年は海に消えた。大いなる傷痕を人々の心に残して。






最終話 壁を乗り越えて
-SECOND SHIFT-

――――――林間学校、2日目 夕方


箒「…………うぅ、一夏」グスン


鈴「…………」

ラウラ「…………最後の頼みの綱は、“プロフェッサー”からの報告だけか」

シャル「…………い、一夏。一夏がいなくなったら、僕、どうすればいいの?」グスン

セシリア「シャルロットさんも泣かないでください! 私も耐えているのですから……」ウルウル

簪「…………一夏」ウルウル


副所長「…………」


担当官「帰ってきたぞ」

千冬「それで、どうなのだ……?」

シャル「一夏は、一夏は無事ですよね……」


副所長「…………すまない」


一同「………………!」
    ・・・・・・・・・・
副所長「何も見つからなかった」

鈴「え」

シャル「『何も』――――――?」

担当官「それはどういうことなんだ! 説明してくれ、“プロフェッサー”!」グラグラ

副所長「…………落ち着け。話ができん」

千冬「止めろ。大の大人が見苦しい……」

担当官「…………くっ」

千冬「それで、『何も見つからなかった』というのは?」

副所長「言ったとおりだ」

副所長「奇妙なことに、海域をどれだけ探しまわっても、一夏の『白式』はおろか『銀の福音』すら見つからなかった」

セシリア「へ」

シャル「そ、それって――――――!」


副所長「――――――『可能性は残された』ということだ」


一同「…………!」パァ

千冬「ということは――――――」

副所長「そうだ。目標の撃墜が確認できない以上、厳戒態勢は継続だ」

一同「!!」


副所長「明日には、自衛隊の部隊が海域に派遣されることになる。それまでの辛抱だ」

鈴「――――――『それまでの辛抱』?」

鈴「それってどういうことよ!?」

副所長「…………質問の意味がわからないな」

副所長「ああ、そうか」

副所長「おそらくは明日の正午まで厳戒態勢が続くと思うぞ」

副所長「徹夜を強いるわけにはいかないから、夜戦準備をしてから交代制で仮眠をとってくれ」

鈴「違ああああう!」

簪「副所長! 私たちが訊きたいのは、『部隊が派遣された後、私たちがどうなるか』です」

副所長「それはもう――――――、」チラッ


千冬「我々は予定通りIS学園に帰ることになる」


一同「!?」

セシリア「それはいったいどういう――――――」

鈴「『このまま見捨てて帰れ』って言うの!? 一夏は帰ってきないのよ!」

副所長「すでにこれは国際問題となっており、IS学園は日本政府の所属だ。日本政府の決定には従う義務がある」

鈴「な……」

シャル「そんな! IS学園はあらゆる国家や団体から不干渉のはずじゃ…………」

副所長「何か勘違いをしていないか?」

副所長「今回の『銀の福音』撃破作戦は、IS学園内での事件ではなく、外部の組織にIS学園が戦力を提供したものにすぎない」

副所長「要するに、お前たちは傭兵として外部で起きた紛争のために派兵されたにすぎない」

副所長「それに、軍人でもないお前たちにこれ以上の軍事行動に参加させるわけにもいかないからな」


――――――常識的に考えて。


シャル「………………」


副所長「他に訊きたいことはないか?」

副所長「無いのなら、解散して、夜明かしの準備をしてくれ」

副所長「では、織斑先生。後のことはお任せします」

千冬「ああ。ご苦労だった……」

鈴「…………待ちなさいよ!」

副所長「ああ、そうだ。重要なことを言い忘れていた」

副所長「例の海域は日本政府によって侵入禁止となった」

副所長「もし許可無く侵入するものがあれば、侵犯したものと看做される」

副所長「――――――IS学園の専用機持ちとて同じだ」ジロッ

一同「!!」

副所長「それじゃあな」スタスタ・・・

担当官「ま、待ってくれ……」スタスタ・・・

千冬「では、聞いたとおりだ。厳戒態勢を継続する」

一同「………………」

千冬「各人は夜戦準備をし、各々で仮眠の班分けをすること」

千冬「それ以外は、用がないなら待機だ」

一同「…………」

千冬「返事は全て『はい』だ!」

一同「は、はい!」

千冬「では、解散!」


スタスタ・・・・・・


千冬「………………」

千冬「…………馬鹿野郎が」




・・・・・・・・・・・・
――――――この結末は、最善にして最悪の解決手段によるもの。


副所長「………………」

担当官「おい、本当のことを言え!」

副所長「しつこいぞ。事実は事実だ。それを受け容れろ」

副所長「逆に、それ以上やそれ以下の希望的・絶望的観測を勝手にされても困るのだがな」

担当官「…………くそ」

副所長「それよりも、今後について協議する必要がある」

担当官「?」

副所長「明後日からは、査察官としての役目は解任されるんだぞ? わかっているのか?」

担当官「確かにそうだが……、あんな状態の箒ちゃんを放っておけるか!」

副所長「いないものにいつまでも固執したところで前進はない」

副所長「それとも彼は、実体の無い“神様”だったということかな? それを毎日拝んでご利益に与ろうって縋ってきたってわけか」

副所長「いや、“束の妹”にとってはそれが日常だったか」フッ

副所長「なら、何も変わらないな。心配することはない」

副所長「お前がまたリセットしてやればいいだろう?」ニヤリ

担当官「貴様っ!」ブン!

副所長「ぐっ…………相変わらず手が早いな」ボコッ

副所長「だが、お前がやってきたことはそういうことだ!」

副所長「この大馬鹿野郎!」ブン!

担当官「はぅ…………!」ボガッ

副所長「――――――『馬鹿は死ななきゃ治らない』というがまさにその通りだよ」

副所長「やっぱり人間、ドン底に落とされてそこから這い上がってくる経験がないと一人前とは言えないなー!」

副所長「お前の攻撃は素直すぎて、武に劣るはずの俺でも対処できるぞ!」

担当官「黙れ!」



外交官「 や め ろ 」



両者「!!!?」ピタッ


外交官「………………」

副所長「なななな何だよ、居たのかよ…………居るなら居るって言ってくれよ。心臓に悪い」アセタラー

担当官「よう、久し振りだな、…………“プッチン”」アセダラダラ

副所長「そうだ……、――――――束はどうした? 捕まえられたのか?」

外交官「残念ながら。やはり我々の手には負えない存在だった」

外交官「ISを生身で解体された」

担当官「――――――解体!? 戦闘不能とかじゃなくて!?」

外交官「ああ、スパスパと斬られた。ISが紙切れのようにな」

外交官「束はすでに対IS用兵器を完成させていたようだ」

担当官「!!」

外交官「おかげで、貴重な機体を2機失うことになった。コアが損傷したわけじゃないから再利用できるがな」

外交官「まあ、今回の作戦では全滅を覚悟していたことだし、コアそのものが破壊されるよりはマシだ」

外交官「せっかく、窓際席の口ばかり立派なお役人様がコアを4つもらってくるという偉業を成し遂げたのに、…………すまないな」

副所長「へえ、そうだったんだ。あれから4つも手に入ったのか」

担当官「そう、今回の交渉で得たISコアの数は4つ。これによって、我が国の優位は揺ぎないものになった」

担当官「だが、それと同時に、“篠ノ之 束”の周辺人物への危険度も更に増したということなんだ…………」

外交官「その用途は、その束が妹のために造り上げた『紅椿』、次に織斑一夏――――――彼の身柄をISコア1個と引き換えに保証するために用意させた」

外交官「そして、3つ目は我が国がもらい、4つ目はIS学園が実験用に正式に貰い受けるという流れとなっている」

担当官「けど、その彼は………………」


副所長「ま、十中八九生きているだろうな」


担当官「はあ!?」

担当官「お前、なんでそういうことを早く言わない!」

副所長「馬鹿か? 希望的観測で軽々しくものを言うもんじゃない。そう言っただろう」

副所長「もしかしたら、俺の予測は外れているかもしれないし、事実と違ったことを真に受けて騙されたと言われて責任をとりたくはないんでね」

担当官「こ、こいつ…………」


外交官「それで、それが真実だとするのなら、織斑一夏はどこにいると思う?」

副所長「…………どっかに隠れてるんじゃないか?」

担当官「は?」

担当官「何のために?」

副所長「――――――意趣返しをするために」

担当官「『意趣返し』だって? いったい誰に、何の仕返しをしようっていうんだ?」

副所長「…………知らないな」

担当官「ええ…………」

外交官「では、その方法はどうなる?」

外交官「自ら海に沈んだということは、状況から推測して『零落白夜』のエネルギーが足りなくなったのが一番の理由だろう?」

担当官「前提からしておかしい気がするが――――――、確かに勝てる戦いなら無難に勝つのが一番だと思うな」

副所長「俺もそう思う。――――――最後に勝てばいいのだから、命は軽々しく投げ捨てるべきではないからな」

外交官「ならどうやって、あの海域から姿を消すことができる? 無酸素空間で装備なしではいくらISと言えども活動できないはずだ」

担当官「そうだよな。常識的に考えたら、すでに溺死しているはずなんだ」

  ・・・・・・・・
――――――常識的に考えたら。


副所長「――――――『常識的に』か」

副所長「…………その言葉がどれだけ虚しい響きか」ボソッ

担当官「?」

副所長「それで、密漁船はどうした?」

外交官「海保に拿捕させた。アメリカに今回の暴走事件の言い訳がつかぬよう、そして某国への態度を改めてもらうためにな」フフッ

副所長「これで何かが変わるとは思えないがな」

外交官「少なからず、外交カードは手に入った。――――――それだけだな」

副所長「ああ。その通りだ」
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外交官「だがあんなのでも、もし沈んでいたら学園側の責任を問われる事態になっていたな」

外交官「運が味方していたとはいえ――――――いやあんなのが海域にいた時点で運がいいかはわからないが、守り切れただけ最低限の面目は保たれたな」

担当官「…………」

副所長「…………あまりそういうことをネチネチと言うな」

外交官「それが俺の役目だからな。こればかりは止められない」

担当官「…………私にできることは何もないのか?」

外交官「お前は査察官だ。見たことを報告すればいいじゃないか」

担当官「そうじゃなくて…………」

副所長「そうだな、あるとすればだ――――――」







箒「………………」


千冬『『作戦完了』と言いたいところだが、『銀の福音』の撃破が確認されていない以上、作戦は継続だ』

千冬『以後、状況に変化があれば招集する』

千冬『お前たちは機体の整備をして、待機しろ』

箒『え…………』

箒『ま、待ってください…………!』

箒『(どうして、一夏のことを、ここにはいない一夏のことを――――――!)』

千冬『………………』スタスタ・・・

箒『あ…………』


箒「私は………………」


一夏『俺は怖いよ。実戦なんて何が起こるかなんてわからないんだからさ』

一夏『箒はさ、もうちょっとイメージトレーニングをしておくべきなんじゃないのか?』

一夏『いくら束さんが造った最強のISだからといって、エネルギー兵器をあれだけ高出力で使ってるんだから燃費だって相当悪そうだぞ?』


箒「違う、違うんだ…………見えなくなったわけじゃない」


箒『やつらは犯罪者だ! 構うな!』

一夏『見殺しにはできない! というか、無闇に攻撃するのは止めろ! それで巻き込んだらどうするつもりだ!』


箒「やつらが“弱いやつ”とでも言うのか? “守るべき存在”だと……?」

箒「やつらは秩序を乱している――――――」

箒「なのにどうしてお前はやつらを許せる……?」

箒「それが、お前の“強さ”なのか?」

箒「だからお前は、強いのか?」

箒「お前に比べて私は――――――」


――――――人殺しになりたいのか、お前は!



箒「…………力の赴くままに暴力を、振るっていただけだったのだろうか?」

箒「一夏にとって、密漁船も私も、等しく“守るべきもの”だったというのに…………」

箒「私は…………」

トントン・・・

山田「篠ノ之さん」

箒「…………」

山田「あなたも少し休んでください」

山田「根を詰めて、あなたまで倒れてしまっては……、」

山田「みんな心配しますよ」

箒「…………ここに居たいんです」

山田「いけません。休みなさい」

山田「これは、織斑先生からの要請でもあるんです」

箒「…………」

山田「いいですね?」

箒「…………わかりました」






――――――夕陽の海岸


箒「………………くぅ」

タッタッタッタッタ・・・

箒「はあはあ…………」


一夏『久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ』ニッコリ

箒『え……』カア

一夏『ほら、その髪型、昔と変わってないし』

箒『!』

箒『よ、よくも憶えているものだな……』テレテレ

一夏『いや忘れないだろう、幼馴染のことぐらい』


箒「………………」グスン

箒「私にはもう、このリボンを付けている資格は、ない」シュルシュル・・・

バサァ・・・・・・

箒「これで、本当にただの“篠ノ之 束の妹”となったわけだ…………」ハハハ・・・


――――――ドン底である。

篠ノ之 箒は未だかつて経験したことがない逆境に立たされていた。

“憧れの人”からのせっかくの忠告の数々を無視し続けてきた過去の行いへの大きな後悔と罪悪感に苛まれていた。

だが、これは“篠ノ之 箒”にとっては、大きな経験となっていた。


大切な人を失うことで、少女は初めて自分の非を認め、悔いたのである。


だがその一方で、“篠ノ之博士の妹”とでしか見られていなかった少女が、自分を“篠ノ之 箒”とする何よりの証“ファースト幼馴染”を自ら捨てようとする。

彼がいたからこそ、今日まで自分は重要人物保護プログラムの耐え難い苦痛を耐え続けて“篠ノ之 箒”としていられたのに、

その彼を失った以上、もうこれからは“篠ノ之 箒”であり続けることはできなかった。できそうもなかった。

――――――他でもない、自分の過失によって失ったようなものだから、尚更。

今、夕陽の海岸に佇む少女は、“篠ノ之博士の妹”という当人にとって全く無価値なレッテルだけを残された、何者でもない“篠ノ之 箒”であった。



箒「………………」チリン(左手の金銀の鈴が虚しく鳴る)

箒「『紅椿』、もう私には…………」


――――――箒。


箒「…………!」

鈴「あーあ、わっかりやすわねー」

鈴「あのさ!」ジロッ

鈴「一夏がこうなったのもあんたのせいなんでしょ!」

箒「…………」

鈴「で? ――――――『落ち込んでます』ってポーズ?」

鈴「っざっけんじゃないわよ!」グイッ

箒「…………」

鈴「やるべきことがあるでしょうが!」

鈴「なーに、海辺をほっつき歩いて黄昏れてんのよ!」

箒「…………」

鈴「…………」ジー

箒「………………もうISは、使わない」

鈴「!」カッ

パーン!

箒「…………」ドサッ

鈴「甘ったれてんじゃないわよ!」

鈴「専用機持ちっつうのはね! そんなわがままが許されるような立場じゃないの!」

鈴「それともあんたは、戦うべき時に戦えない卑怯者なわけ!?」

箒「………………どうしろと言うんだ」ワナワナ

箒「もう倒すべき仇もいない。許しを請うべき相手もいない…………」

箒「――――――戦えるのなら! ――――――謝れるのなら!」

箒「私だって戦う! それに、」

箒「…………会いたい、一夏に」グスン

鈴「」ニヤリ


鈴「やっと本音を言ってくれたわね」ハア



箒「あ…………」

鈴「あーあ、めんどくさかった。シャルロットの相手もしてきたっていうのに、本当に大変よ」

簪「本当にお疲れ様、鈴」ニコッ

セシリア「こちらもようやく落ち着きましたわ」

箒「な、何……?」

シャル「…………こういう時こそ、結束が大事なんだよね」ニコー

シャル「それに、一夏はずっと箒のことを気にかけていたし、僕としても一人にさせちゃいけないって…………」

箒「けど、一夏は――――――」

シャル「 生 き て る ! 」

箒「!?」

シャル「そう信じて、帰りを待つことにしたんだ」

シャル「だから、一夏が帰ってきてがっかりしないように、今はみんなと協力して笑顔で迎えられるようにしたいんだ」ニコニコー

箒「シャルロット…………」

箒「だが、私のせいで――――――」

ラウラ「自惚れるな、ルーキー!」

箒「!」

ラウラ「新兵のお前に、私はそこまで期待などしていなかった」

箒「…………」
            ・・・・・・・・
ラウラ「だから、…………むしろよくやったとは思っている」

箒「…………ラウラ」

ラウラ「さあ、こっちに来い。一緒に夜を過ごす準備をするんだ」

シャル「ね?」

箒「…………」グスン

箒「ありが、とう…………」ポロポロ

箒「こんな私だが、仲間に入れてくれるのか……?」

鈴「あったりまえじゃない!」ニコニコー

鈴「一夏だったらそういう決まってる! だから一夏は、あんたをあんなにも気にかけていたんじゃない」

鈴「それは私たちだって同じよ。みんな、一夏がいたからこうして知り合えたんだから」

箒「はは……、なんで今まで気づかなかったんだろう?」

箒「そうか。本当は私が――――――」

箒「うわああああああああああああ!」

鈴「ヨシヨシ」


セシリア「何とかなりましたわね」ヒソヒソ

簪「うん。二人共、一夏に指輪を渡すぐらいだったから…………」ヒソヒソ

セシリア「けれど、確かにクルものがありますわね……」ヒソヒソ

簪「そうだよね。私たちが一夏と一番付き合いが長いだけにね……」ヒソヒソ

セシリア「一番辛いはずの鈴さんも辛いのを必死にこらえているのですから、私たちも――――――」ヒソヒソ

簪「うん。――――――仲間として、ね」ヒソヒソ



箒「す、すまなかった……」

箒「それじゃ、行こうか。みんなには迷惑を掛けて本当にすまなかった……」

シャル「いいんだよ、箒。――――――最後に笑えればいいんだから」

ラウラ「うむ。これで、まずは一段落と言ったところだな」

鈴「うん……」


ボゴーン!


小娘共「!?」

セシリア「な、何が起こりましたの!?」

簪「まさか…………?!」

箒「そんな!?」

ラウラ「いや、付近にIS反応はない!」

シャル「でも、今凄い爆音が…………」

鈴「確かめに行くわよ、箒!」

箒「あ、ああ!」



“鬼”「オラァアアアアアアアア!」

担当官「ぐおわああああああああああああ!」ゴロンゴロン

担当官「くはっ…………」ゼエゼエ(ボロボロの道着)

“鬼”「………………その程度か?」ポキポキ(黒尽くめの防弾コート+サングラス)

担当官「さすがは“最恐”なだけはある…………(日本人離れした2m近くある巨体からの威圧感――――――!)」アセダラダラ

担当官「あの“不束者”ですら冷や汗を流すんだから、私なんかじゃ敵うわけないか…………」ブルブル

“鬼”「俺としては『今すぐにあの小娘にしかるべき処置を与えるべきだ』と進言してきたが、」

“鬼”「今日の失態が貴様の教育のせいである以上、その責任を問わねばならんな?」グッ

担当官「…………く、首が絞まる!」ジタバタ

“鬼”「…………」ブン!

担当官「がはっ」ズサアーー

担当官「ゴホゴホ・・・・・・」

“鬼”「どうした? 剣を持たなければただの凡人か」

担当官「私の剣は人を斬るための、ものじゃない……!」

“鬼”「馬鹿な。武器や武術の存在意義は“力”だ」

“鬼”「では、お前がかつての保護対象から奥義皆伝を受けた篠ノ之流剣術というものは、チャンバラ以下の役に立たない見世物だったということか」

担当官「貴様っ!」ブン!

担当官「…………なっ!(手応えがない! まるで巨木のようにピクリともしない!)」

“鬼”「無駄だ。お前の攻撃は直線的で実に受けやすい。そして、この防弾コートの厚みではお前の攻撃など痛くも痒くもない」

“鬼”「ふっ飛べオラァ!」ドン!

担当官「うわあああああああああああああああ!」ヒューーーーーーーン!


ゴロンゴロン・・・


担当官「やっぱり強いぜ…………別次元だ」ゼエゼエ


箒「“グッチ”さん!?」

担当官「な、箒ちゃん!? それに、みんな!?」

担当官「なぜここにいる!? 待機中のはずだろう」ゴホゴホ・・・

箒「そ、それは…………」

鈴「そんなことよりも、――――――どうしてこんなボロボロの道着なんて着て、そしてボコられてるのよ!」

鈴「というか、あの黒尽くめの大男は誰なのよ!」アセダラダラ

シャル「な、何だろう、鳥肌が立ってきたんだけど…………」ブルッ

簪「この感じ…………」アセダラダラ


近くで起きた轟音を聞きつけて専用機持ちたちが駆けつけるが、夕陽に照らされる海岸に浮いて存在する黒尽くめの大男の存在が一同を戦慄させる。

代表候補生は軍人としての一応の教育も受けており、精神的にも頑強とされているのだが、例外なく誰もが大男からの言い知れない何かを感じ取り怯んでいた。

だが、ここで勇ましく前に出るものが一人――――――。


ラウラ「止まれ! 何者だ! 所属と官名を名乗れ!」


それはドイツ軍IS特殊部隊隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒであった。

ラウラは今までに対峙したことがない殺気とも違ったものを前にして溢れてしまいそうな感情を抑えて、毅然とした態度で臨む。

ラウラの見立てでは、相手は特殊部隊の出身の対ISに長けた刺客である。自身がドイツ軍最強を自負していても慎重にならざるを得なかった。


ラウラ「さもなければ――――――」

“鬼”「――――――『さもなければ』、どうだというのだ?」

“鬼”「それよりも、お前から名乗ったらどうだ、“ラウラ・ボーデヴィッヒ”?」

ラウラ「なにぃ……!?」


だが、黒尽くめの大男は意外な切り返しをしてきた。

相手の名前を自分で言っているのに相手に名乗ることを要求してくるという、一見すると意味不明な切り返しなのだが、

“ラウラ・ボーデヴィッヒ”にとってはとてつもない意味を持つことになり、

更に――――――、


“鬼”「そうか、お前には人間としての名など生まれた時には付けられていなかったか」

“鬼”「それは失礼なことを言ったな。反省している」

“鬼”「C-0037」

ラウラ「!?」


ラウラの思考が一瞬止まった。


セシリア「――――――“C-0037”?」

シャル「何かのコールサインかな?」

ラウラ「貴様、なぜそれを知っている!?」アセダラダラ

“鬼”「さて、な? VTシステムを公然と導入しているような恥知らずな国を信用していなかったってだけじゃないのか?」

ラウラ「くっ!」ダダダダダ・・・


思わずラウラは正体不明の刺客に向かって走り出していた。

後に軽率だったとラウラ自身が思うのだが、なぜ身体がそう動いていたのかはまだわかっていなかった。

ただ、これ以上何かを喋らせたらまずいという確たるものに突き動かされていた。


担当官「や、止めろ! お前に勝てる相手ではないぞ! 関わるな!」ヨロヨロ・・・

鈴「そ、そんなこと言われても、放っておけるわけないでしょう!」

箒「そうですよ! 他でもないあなたが何者かに命を狙われていると言うのなら、見捨てるわけにはいきません!」

担当官「…………箒ちゃん」

担当官「くっ(――――――情けない! 保護対象に気遣われるなんてな)」

担当官「あ……、そういえばどうしたの、箒ちゃん? その髪――――――」

箒「あ」(リボンが無くなり、ポニーテールではなくなっていた)



小柄ながらも優れた身体能力を発揮してあっという間に距離を詰めるラウラだが、


ラウラ「はああああああああああ!」ブン!

“鬼”「確かに並外れた身体能力だが――――――!」

ラウラ「なにっ!?(――――――速い!? 馬鹿な、これだけの反応速度が!?)」

“鬼”「軽すぎるな! 全体重を乗せた体当たりで返り討ちだオラァ!」ドーン!

ラウラ「うああああああ!(――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』!)」

シャル「ラウラ!」


相手の力量を読み間違え、待ち構えていた相手に逆に体格差で押し飛ばされるのであった。

明らかに刺客のほうが実力が上手であった。それこそ彼女たちが敬愛する“ブリュンヒルデ”織斑千冬と同等以上の戦闘力があると見ていい。

機体を展開してISのPICによって受け身をとったラウラに追撃が迫る!

さらりとこう書いているが、生身の人間がISに立ち向かうなど無謀でしかない――――――それなのに、ラウラや周囲は圧倒されていた。

生身の人間が何十人いようがIS1体に敵うはずがないのに、ラウラは目の前の存在をISを装備した自分以上の存在だと認識し、緊張していた。

ラウラの漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』よりも遥かに不気味な黒尽くめの何かが数値では表せない圧倒的な何かを放って迫ってくる!


ラウラ「くっ……」

“鬼”「――――――!」ダダダダダ・・・

鈴「何あれ!? あのデカブツ、とんでもない身のこなしじゃないよ!」ブルブル

シャル「あれ、おかしいな…………なんで震えが止まらないんだろう」ブルブル

箒、「け、けど! 生身でISをどうにかできるわけが――――――」

ラウラ「くっ……(来るか! だが、生身の人間相手にプラズマブレードはダメだ。となれば――――――)」

ラウラ「だが、これまでだ!(――――――『停止結界』!)」フッ

“鬼”「愚かな。それが慢心というのだ」

ラウラ「……!」


ラウラが必殺の『AIC』を展開しようとしたその瞬間、黒尽くめの大男は思いっきり海岸の砂を蹴りあげたのである。


ラウラ「…………砂!?」

ラウラ「こ、小癪な……!(――――――しまった! これでは『停止結界』が!?)」

“鬼”「ふん」


『AIC』はイメージ・インターフェイスで認識したものの慣性をゼロにするという普通に使ったら機動兵器が持つ武器では最強クラスなのだが、

人間が正確に認識できるものなどたかが知れており、――――――極端な話、肉眼で瞬時に捉えられる固体しか停止させることができないのだ。

つまり、液体や気体、プラズマ、レーザーなどの粒子レベルで動くものを停止させられないのは人間という種の限界として当然として、

巻き上げられた粉塵や砂利などの非常に細かい固体に対しても1つ1つを正確に瞬時に認識しない限りは絶対に防げない。

この刺客はそのことをよく理解しており、ラウラの見立て通りにIS技術に精通した刺客であった。

しかしそれ以上に、ラウラが史上最強の兵器であるISを展開していることで、生身の人間ならどうとでも抑えられると心の何処かで慢心していた節があり、

そして『AIC』さえ使えば相手がどんな奇計奇策を使おうと対処できると思い込んでいた矢先、

『AIC』では対処できない砂塵をぶつけられてしまい、視界を潰され、呼吸を乱され、思考を狂わされてしまうのであった。

当然そうなれば、『AIC』など効果を発揮するわけがなかった。

かつて織斑一夏に『AICC』という型破りの戦法によって常識を超越した敗北を喫していたのに、まるで成長していない。


ラウラ「あ」

“鬼”「どおりゃあああああああああああ!」ガシッ

ラウラ「な、なんだとおおおおおお!?」


ドスーン!


一同「!!!?」

ラウラ「ぐぅううう」ドサァー

担当官「やっぱり、別次元の強さだよ…………」

“鬼”「ふん」ビシッ


そして、黒尽くめの大男はそのままラウラの懐に入り込んで、『シュヴァルツェア・レーゲン』を軽々と投げ飛ばしてしまうのだ。

いや、ISには反重力システムであるPICによってフワフワと常時浮遊しているので、大男の膂力が特筆すべきものということではない。

それでいて残念なことに、素手でISのシールドバリアーを破壊し尽くすのは無理であり、どちらにしろまともに戦えばISが勝つのは必然であった。

しかし、だからこそ、生身の人間がIS相手に先制攻撃できたことは大きな衝撃を与えるのである。

それは、生身の人間に機体ごと投げられたのは二度目の経験となってしまったラウラにとって、言葉に出来ない敗北感を与えた。


“鬼”「さて、気晴らしはこれでいいだろう」スチャ

シャル「え……」

鈴「あ、あんたって…………」ガクガク

箒「え、ええええええええええええ!?」

担当官「………………」



――――――“極東のプーチン”!?




外交官「その通りだ」

鈴「ど、どうして、日本政府の“鬼”がここにいるわけ…………?!(こ、こここんなにヤバイ人だなんて思わなかった…………)」ガクガク

鈴「(こんなのとまともに相手ができる人間なんてそう多くない! そりゃあ、私の国の政治家たちが及び腰になるわけだわ…………)」ガクガク

セシリア「に、日本って本当に凄い国ですわね…………(外交官になんでISと互角に戦える能力が…………)」アセダラダラ

セシリア「ま、まさかこれが“NINJA”というもの…………!?」

シャル「こ、怖い…………」ブルブル

簪「大丈夫、ラウラ?」

ラウラ「あ、ああ…………」ヨロヨロ

外交官「さて、自己紹介の必要はないだろう」

担当官「実力は見ての通りだもんな、“プッチン”」

箒「え?」

小娘共「(――――――“プッチン”?)」キョトーン

担当官「騙して悪かった」

担当官「実は、日本人離れしたこの御仁だが、私や千冬、束の中学の時の同級生なんだ」

鈴「あ」

小娘共「!?」

鈴「そうだった、そんなことを前に一夏に教えられてたっけ…………(でも、実物を目の前にして、そんな些細なこと頭から吹っ飛んじゃったじゃない!)」

簪「それじゃ、御二方がここで殴り合っていたのって…………」

担当官「ああ。箒ちゃんが海に行ったのを見ていたから、――――――誘い出すために、な?」

セシリア「そ、そうだったんですか……(でも、演技にしては容赦が無さ過ぎるというか、下手をしていたらラウラさんに――――――)」

外交官「ま、全てが演技ってわけでもないんだがな」スチャ(サングラス)

シャル「へ」ゾクッ

外交官「それで、日本政府からの意思を直接伝えに来た」

箒「え」


――――――織斑一夏は我々が責任持って必ず見つけ出す!


小娘共「!」


外交官「そして、――――――篠ノ之 箒」

箒「わ、私……?」ドキッ

外交官「今まですまなかった。日本政府を代表して謝罪する」

箒「えっと……(え? え? え? ええ…………)」

外交官「謝ってすむ話ではないが、どうかこれからの生活を“篠ノ之 箒”として生き抜いてもらいたい」

外交官「口だけの卑怯者と受け取ってもらっても構わないが、」


――――――今日は7月7日だ。


外交官「日本政府からの精一杯の贈り物を進呈する」スッ

箒「…………封筒?(しかもずっしりと重い。いったいこの中に何が詰まっていると言うのだ?)」クルッ

箒「――――――!」


外交官「では、私はこれで一旦帰らせてもらう」

外交官「すまないな。学生であるあなたたちにこのような辛い仕打ちを味わわせてしまって」

外交官「長い夜となるだろうが、明日の正午までよろしく頼む」

外交官「それと、シャルロット・デュノア」

シャル「は、ひゃい?!」ビクッ

外交官「まだ非公式ではあるが、――――――フランス政府からの言付けだ」

シャル「…………!」


――――――今後も我が国の代表候補生として、より一層の活躍を期待する。


外交官「――――――以上だ」

シャル「!」

外交官「では、さらばだ」


外交官「誕生日おめでとう、“束の妹”――――いや、“篠ノ之 箒”」フフッ




箒「あ、ありがとうございました!」

シャル「あ……、ありがとうございました!」

鈴「い、行っちゃったわね……」ホッ

鈴「まったく生きた心地がしなかったわ……」アセダラダラ

担当官「まったくだ。あいつは“最恐”と呼ばれた男だからな。生半可な人間じゃ失神や失禁は免れない」

セシリア「それで、箒さん? その封筒は、何ですの?」

箒「あ、これは――――――」

担当官「おっと、それ以上はいけない」

セシリア「え」

担当官「どうする、箒ちゃん? ここで中を見るか?」

箒「…………お願いします」

担当官「はい、ペーパーナイフ」スッ

箒「みんな、すまない。ちょっと一人にさせてくれないか?」

一同「………………」

セシリア「わかりましたわ、箒さん」

簪「待ってるからね、箒」

鈴「まったくしかたないわね。今更遅くなったところで差なんてないし、好きにしなさい」

ラウラ「ただし、班はこちらで勝手に決めておくから、そのつもりでいろ」ニコッ

シャル「それじゃあね、箒」

箒「ありがとう、みんな!」




ザー、ザー、ザー、ザー


箒「…………」ジー

担当官「…………」フゥ

担当官「さて、上着っと……」ザッザッ

箒「…………父さん、母さん」ポロポロ・・・


“鬼”の外交官こと“プッチン”が日本政府からの粗品と称して渡したものは、


――――――今は行方知れずとなった両親からの誕生日祝いの手紙だった。


篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官であった“グッチ”ですら箒の両親の行方は杳として掴めなかったのだが、

“プッチン”は独自の情報網から両親の行方を探し出しており、密かに接触していたのである。

何枚にも渡る直筆の手紙の厚みと重みが、そこに込められた娘への想いを如実に語っており、始めの数枚を読んだだけで胸がいっぱいになってしまう。

他にも一家の住処であった篠ノ之神社の管理人となった箒の叔母への手紙も同封されており、家族の絆が断ち切れていないことを強く感じさせられた。

夕焼けに照らされた涙が少女の希望の光となる。その横顔が美しい。


――――――その瞬間、彼女の中の世界が拡がった。


そして、思い出す。思い出した。思い出してしまった。

つい昨日の夕方、この海岸で一夏と一緒にダイビングツアーをしたことを。

伝説の“お姫様抱っこ”をしてもらった時に感じた、伝わる彼の力強さとその懐の深さ、寄せられる心地よさを。


少女の中には確かにその感触が残っており、胸の内を締め付けるようなものはいつの間にか消え去っていた。


この日、少女は新しく“篠ノ之 箒”として生まれ変わったのであった。





ザー、ザー、ザー、ザー


箒「…………」ジー

担当官「…………」フゥ

担当官「さて、上着っと……」ザッザッ

箒「…………父さん、母さん」ポロポロ・・・


“鬼”の外交官こと“プッチン”が日本政府からの粗品と称して渡したものは、


――――――今は行方知れずとなった両親からの誕生日祝いの手紙だった。


篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官であった“グッチ”ですら箒の両親の行方は杳として掴めなかったのだが、

“プッチン”は独自の情報網から両親の行方を探し出しており、密かに接触していたのである。

何枚にも渡る直筆の手紙の厚みと重みが、そこに込められた娘への想いを如実に語っており、始めの数枚を読んだだけで胸がいっぱいになってしまう。

他にも一家の住処であった篠ノ之神社の管理人となった箒の叔母への手紙も同封されており、家族の絆が断ち切れていないことを強く感じさせられた。

夕焼けに照らされた涙が少女の希望の光となる。その横顔が美しい。


――――――その瞬間、彼女の中の世界が拡がった。


そして、思い出す。思い出した。思い出してしまった。

つい昨日の夕方、この海岸で一夏と一緒にダイビングツアーをしたことを。

伝説の“お姫様抱っこ”をしてもらった時に感じた、伝わる彼の力強さとその懐の深さ、寄せられる心地よさを。


少女の中には確かにその感触が残っており、胸の内を締め付けるようなものはいつの間にか消え去っていた。


この日、少女は新しく“篠ノ之 箒”として生まれ変わったのであった。




――――――臨海学校、3日目


副所長「うまく夜を過ごせたようだな」

箒「……はい」

副所長「一般生徒はすでに学園に帰っていったことだし、寂しくなったもんだな」

箒「ええ……」

副所長「もうしばらくの辛抱だ」

副所長「それなりに専用機持ちになるための下準備はしてきただろうが、さすがに交代で夜明かしは疲れただろう?」

副所長「千冬も仮眠に入っていることだし、気晴らしに出かけていいぞ。一時的に、千冬から指揮権を移譲されているからな」

箒「ありがとうございます……」

副所長「ではな」ニコッ

箒「……はい」ニコッ

副所長「うん(――――――飾り気のない、いい笑顔だ)」


スタスタ・・・


副所長「憑き物が取れたな……(まあ、あの曖昧な表情――――――大切な人が生死不明となって『すぐに割り切れ』というのが無理な話だ)」

副所長「(だがようやく、“篠ノ之 箒”という一人の人間の両足が地についたという感じだな)」

副所長「(今度こそ“束の妹”は、自分や自分を取り巻く世界に目を向けられるようになった)」

副所長「(まだ1ヶ月も経っていないはずなのに、ここまで来るのが長かった気がする…………)」



――――――最善にして最悪の解決手段。


副所長「(だが俺は、一夏は、結局そんな方法でしか“束の妹”を変えさせることができなかった…………)」

副所長「(どうして一夏は、普段は鈍感なくせにピンポイントで相手の急所を突くやり方ばかりやってしまうのか……)」

副所長「(俺の入れ知恵で最善の方法を知ったとしても、最善の方法の中で最悪な手段を選んでしまうのがあいつの性なのか)」

副所長「(これから俺がすべきことは、そうさせてしまうもっと奥深いところにあるものをどうにかすることではないのだろうか?)」

副所長「(だが、俺にはもう一夏やみんなの様子を見続ける余裕はない)」

副所長「(“篠ノ之 束”が学園にちょっかいを出してくるようになってきたからには、こちらとしてもそれを迎え討つ準備がいる)」

副所長「(それを具体的に形にするのが、…………俺しかいないんだよ!)」


副所長「………………」


副所長「どうすればいいんですか、“お師さん”」

副所長「俺一人では無理だよ、全てを司るだなんて……」

副所長「それに、肝腎の一夏がここにいない現状で、第4世代型とか対IS用兵器とか造ったところで何の抑止力にもならない…………」

副所長「さっさと戻ってきてくれ…………」


――――――なかなかキツイぜ、この意趣返しは。




ピィピィピィ

副所長「……緊急通信?」

副所長「どうしました、山田先生?」ピッ

山田「大変です! 今すぐ避難を!」

山田「たった今、学園上層部からの通達によって、」


山田「スペースデブリや人工衛星が大量にこの地に降ってきているらしいのです!」


副所長「は」

山田「ですから、衛星軌道上にあった人工衛星やスペースデブリがこの辺一帯を目掛けて墜落してくると――――――」

副所長「緊急招集だ! 織斑先生も叩き起こせ!」

副所長「それと、今すぐ使える交通手段をすぐに確認! そして、スペースデブリの落下予測地点と被害予想のデータを今すぐに!」

山田「了解です!」

副所長「すぐに戻る」ピッ

副所長「…………」


副所長「篠ノ之 束ええええええええええええ!!」ダダダダダ・・・



――――――旅館上空


ラウラ「当てにさせてもらうぞ、箒」

箒「ああ」

鈴「けど、何だって言うのよ、これは!」

シャル「空からたくさんのスペースデブリが落ちてくる……」

簪「くっ、反応が多すぎて破壊すべきデブリがわからない……」

セシリア「それに、不意に太陽を直視してしまいそうで狙撃もままなりませんわ!」

――――――
副所長「墜落してくるスペースデブリの数はこちらの粗末なレーダーで確認できているもので数千以上だ」

副所長「スペースデブリはかつて米ソが老朽化した人工衛星の破壊実験によって、微小な破片を数えて数百億以上は発生したとされる」

副所長「それに比べれば遥かに少ないものだが、スペースデブリは圧倒的な勢いで増加の一途を辿っている」

副所長「それらが一斉に降ってきたら、地上への物的被害や健康被害は免れない」

副所長「だが、今回のようにピンポイントの座標のスペースデブリが降ってくることはまずありえない。何かしらの原因があるはずなんだ」

副所長「デブリの種類からいって、低軌道上にあるスペースデブリが降ってきているようだ」

副所長「おそらく、低軌道上に何らかの誘引装置があるのかもしれない」

副所長「しかし、ISの装備では雲の上までで精一杯だ」

副所長「地上への被害は極めて限定的と言えるが、来年から臨海学校が中止になるぐらいに被害は大きい」

副所長「史上最強の兵器がこれだけあっても、やれることはたかが知れてる」

副所長「そこで、付近の住人が避難するまでの時間稼ぎと、墜落してくる大型のデブリ及び人工衛星の破壊だけを目標とする」
――――――

小娘共「了解!」

――――――
副所長「基本的に、安全地帯への誘導と優先撃破対象の参照はこちらで行う」

副所長「だが油断するな。シールドバリアーに反応しない微小なデブリが後々になってお前たちの身体を蝕む可能性がある」

副所長「こちらのレーダーでは表示しきれない微小なデブリに関しては、各々の判断で動いてもらいたい」
――――――

ラウラ「つまり、我々は特に指示がない場合は避難者の護送に従事していればよろしいのですね?」

――――――
副所長「そうだ」

副所長「護送車両として、自衛隊からの人員輸送車がこちらに向かっている。でかい的だ。しっかり守ってくれよ」

副所長「我々対策本部は最後に旅館から撤収することになる。それまでよろしく頼む」

副所長「おそらく、正午までが勝負といっただろう」

副所長「では、作戦開始だ! 最初の人員輸送車が来たようだ」
――――――

小娘共「了解!」





シャル「それじゃ、バスの護送は僕が引き受けるよ」

シャル「昨日の『銀の福音』撃破作戦でも、クルーザーの防衛の任に就いていたことだしね」

シャル「昨日は出番がなかったけど、防御パッケージ『ガーデン・カーテン』の真髄を見せる時だね!」

一同「異議なし!」

鈴「それじゃ、デブリの撃破は私の『甲龍』の機能増幅パッケージ『崩山』の4門に増設された『龍咆』でいくわ」

鈴「デブリなんて焼き払ってみんな消し炭にしてやるわ!」

ラウラ「私の装備ではデブリの殲滅や護送には向かないな」

ラウラ「では、優先撃破対象の撃破に専念させてもらう」

ラウラ「砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』は遠距離からの精密射撃を得意とする」

セシリア「それならば、私の『ブルー・ティアーズ』は微力ながら援護に徹しますわ」

セシリア「強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』では今回の作戦では力不足ですし」

セシリア「それに、誘導兵器も使えませんので、実質的に『スターダスト・シューター』を射つしか能がありませんもの」

鈴「となると――――――」

ラウラ「うむ」

シャル「箒の『紅椿』が墜落してくる人工衛星の撃破の要となるね」

箒「ああ、任せておけ!」

簪「それじゃ、私が箒のバックアップに回るよ。燃費は悪いけど、攻撃力と機動力はあるから」

箒「わかった。頼んだぞ、簪」

箒「うん」

ラウラ「それでは、指示があるまでは対策本部と護送に専念するぞ!」

小娘共「応!」



――――――旅館:対策本部


担当官「旅館のみなさん! 落ち着いて、順番に!」

シャル「僕たちが守り通すので安心してくださーい!」

自衛隊「積み荷は最小限に! 生きてさえいれば、どうとでもなりますから!」

――――――

副所長「どこだ? どこに装置がある? それを見つけ出してミサイルで撃ち落としてもらう!」カタカタカタ・・・

山田「巨大な質量を確認しました!」

千冬「篠ノ之! 来たぞ! 迎撃に迎え!」

山田「データ送ります!」ピッ

バッ

担当官「第一陣の避難が開始されました!」

担当官「対策本部も撤収の準備をお願いします!」

千冬「ああ……」

副所長「くそっ!(せめて簡単な防塵マスクを支給してもらえれば、不安の種は全くなくなったのだが…………)」カタカタカタ・・・

副所長「まずいぞ、これは…………!」

副所長「…………束め!(低軌道上の人工衛星やデブリがどんどん墜落していっている…………!?)」

副所長「(このまま放置していたら、低軌道上のデブリがこの辺一帯を汚染し尽くしてしまうぞ!)」

副所長「(間違いなく、2000発以上のミサイルが我が国に向けて放たれた『白騎士事件』に匹敵する大事件だな!)」

副所長「(きっと世界中で大きな騒ぎになっているだろうよ!)」

副所長「…………最初からこうするつもりだったのか?」

副所長「(つまり、『白騎士事件』で自分の発明品の宣伝をし、今度は『福音事件』で妹の専用機デビューを華々しく飾らせたということ!)」

副所長「(相変わらずだな、――――――“二束三文の女”め! あと三文やるから三途の川の向こう側にとっとと逝け!)」

副所長「(だが、幸いと言っていいのかはわからないが、低軌道上に分布する衛星は通信衛星が主だ)」

副所長「(そして墜落するデブリを見る限り、現在稼働しているISSの高度よりも低い高度のものが墜落している)」

副所長「(それ故に、ISSを彼女たちの手によって搭乗員ごと撃墜するようなことがなくって、少しばかりホッとしている)」

副所長「(だが、恐ろしい兵器を開発していたものだな…………低軌道上の衛星やデブリを墜落させる装置とはな)」

副所長「(しかしタネがわかったとしても、それを即時撃墜する手段がない以上は、デブリの雨が振り続けることになる…………)」



――――――上空


箒「いくぞ、『空裂』!」

箒「はああああああああああああああああああ!」ブン!

ラウラ「てーーーーーーーーー!」バンバン!


ボゴーン!


簪「墜落してくる通信衛星の破壊を確認!」ピィピィピィ

簪「また降ってきた……!」

箒「切りがないな……」

ラウラ「作戦開始からすでに1時間は経過しているが、この調子では…………」

セシリア「津波が起こらないように細かく砕くというのはわかりますけど…………」

鈴「それじゃ、微小なデブリを焼き払う意味があんまりないじゃないのよ!」

箒「だが、やるしかない!」

箒「行くぞ、『紅椿』!」

鈴「……そうね。やらないよりやったほうが数倍マシよ!」

セシリア「何もしないで終わるのを見ているのは性に合いませんものね!」

ラウラ「旅館に残っているのは本部の先生たちと女将さんたちだけだ!」

ラウラ「がんばれ! もう少しの辛抱だ!」

簪「ターゲット・ロック! ――――――『山嵐』!」

ラウラ「てーーーーーーーーー!」バンバン!

鈴「喰らえええええええ!」

セシリア「…………そこっ!」バヒュン!

箒「はああああああああああ!」ブン!





――――――再び、旅館:対策本部


バッ

担当官「撤収だ!」

千冬「総員、退避!」

一同「了解!」

タッタッタッタッタ・・・

副所長「あともう少しで絞り込める…………!」カタカタカタ・・・


ミシミシミシ・・・・・・


千冬「ん」

千冬「――――――“プロフェッサー”!」

副所長「!?」


ボゴーン!


副所長「なにぃいい!?」
――――――

担当官「なんだと!? 人工衛星が直撃したのか!?」

山田「いえ! 旅館に直撃する巨大な質量の軌道は一切に確認されませんでした!」

千冬「違う……! 大量のデブリの破片が旅館の天井をその重みで崩したんだ……!」

担当官「“プロフェッサー”!」

――――――
副所長「無事だ……! だが、それよりも――――――!」


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン!




山田「ひっ!」ビクッ

――――――
副所長「行け! 俺に構うな!」カタカタカタ・・・

副所長「それに、あともう少しで、この事態の原因の特定ができるんだ……!」カタカタカタ・・・
――――――

担当官「馬鹿を言うな! お前を置いていけるか!」

――――――
副所長「馬鹿はお前だ! 崩落した梁に阻まれているのにどうやってこっちに来るっていうんだ!」カタカタカタ・・・
――――――

担当官「くっ、それは…………」

担当官「だったら、専用機持ちの誰かを呼んで――――――

担当官「そうだ、シャルロットを呼べば――――――」


ボゴーン!


担当官「!?」

――――――
副所長「呼んでも間に合わん!」

副所長「ならば、…………できることをするだけだろうが」
――――――

山田「そ、そんな…………」

――――――
副所長「急げ。あと10分もすると、衛星が一気に5つぐらいこの近辺に落ちてくるぞ」カタカタカタ・・・
――――――

千冬「…………!」

担当官「何とかならないのか!」

千冬「くぅ……」

――――――
副所長「千冬! ここではお前が司令官なんだぞ!」

副所長「お前はお前の役目を果たせ、給料泥棒!」
――――――

千冬「くっ、――――――撤収だ!」

担当官「千冬!?」

千冬「やつは死なん! 絶対にだ!」

担当官「………………くそ!」

担当官「生きろよ、――――――生きて戦勝パーティに顔を出せ!」

――――――
副所長「ああ。とびっきりのサプライズを用意してやるよ!」

副所長「では、行け!」



ドドドドド・・・・・・


副所長「………………」

副所長「たとえこっちに来られても、下半身は梁の下なんだよな…………」

副所長「だが、最期の仕事はきっちりこなせそうだ」カタカタカタ・・・

副所長「――――――見つけた」ニヤリ

副所長「位置情報をオープンチャネルで、……送信」カタッ

――――――送信完了

副所長「これで、俺のできることは全て終わった…………(すべきことはまだまだ残ってはいたが…………)」

副所長「結局俺は、束には一生届かないのだな……」ハア

副所長「…………“死”を体験するのは別にこれが初めてじゃない」

副所長「5月に研究所を爆破されたり、昨年に――――――」

副所長「心残りといえば、俺の全知全能を込めて設計・理論化した第4世代型のお披露目が叶わなくなるってことかな…………」


――――――その名は、『白き閃光』。


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン! 








キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!



――――――上空


簪「旅館付近に衛星が、6つほぼ同時に墜落する!」

セシリア「なんですって!?」

ラウラ「くっ! 避難の状況は!?」

                           ・・・・・
シャル「みんな、今バスが出たところだよ! ――――――全員無事で」


箒「なら、護送に影響が出る衛星を破壊するだけだ!」

箒「簪! どれだかわかるか?」

簪「待って、今データを――――――えっ!?」ピピッピピッ

簪「最低でも4つは破壊しないと、まずい」

一同「!!」

ラウラ「放火を集中して血路を開くぞ!」

簪「ここまで来てもう出し惜しみはしない!」ピピッピピッ

セシリア「火力が足りなくても、軌道を少しでも変えるぐらいは!」ジャキ

鈴「諦めないやつが勝つのよ、こういうのは!」

箒「行くぞおおおおおおおお!」


シャル「僕も微力ながら迎撃に参加するよ!」ジャキ



ボゴーン! ボゴーン!

箒「しまった、破片が――――――!」

鈴「そんなもの、私が――――――!」ヒュウウウウウン!

ガン!

鈴「くっ」

ラウラ「無茶をするな!」

鈴「ここで命を懸けないで、どこに命を懸けるっていうのさ!」

セシリア「ISは世界最強の防御力を持った機動兵器ならばこそ、――――――この身を賭して人々を守る盾となりましょう!」

鈴「……セシリア」

セシリア「今回ばかりは他のみなさんに出番をお譲りいたしますわ」

鈴「相変わらず、損な役回りね。機体特性もあって…………」

セシリア「そういう鈴さんこそ」


箒「…………くっ!(――――――さすがにエネルギーがもう保たないか)」ピィピィピィ

箒「あともう少しなんだ! 保ってくれ、『紅椿』!」

簪「………………『山嵐』も残り斉射2連だけ」

簪「けど、『春雷』にエネルギーを使うよりは、『紅椿』にエネルギーを渡した方が…………(けど、稼働中の機体にエネルギーの譲渡はかなり難しい……)」

ラウラ「くっ、残り2つだ!(――――――残弾がもう、ない)」

ラウラ「(落ち着け。作戦目的は人員輸送車の護送だ。となれば――――――!)」

ラウラ「こうなれば、『AIC』で――――――!」ヒュウウウウウン!

鈴「ちょっとラウラ、どうしたのよ!」

ラウラ「弾が無くなった……! 『AIC』で衛星を受け止める!」

鈴「そんなことできるの!? 『AIC』なら確かに止められるかもしれないけれど、範囲に収まんなかったら意味ないわよ!」

ラウラ「わかっている! だが、目的は護送だ! これさえ凌ぎきれば作戦完了なんだ!」

ラウラ「それに、あれには織斑教官や尊敬すべき方々が乗っておられる! 何が何でも死守する!」

鈴「ラウラ……」

鈴「うん!」


シャル「来るよ! 迎撃して!」バンバン!


箒「くそ、いったいいつまで降り注ぐんだ、このデブリの雨は――――――!」ブン!

簪「箒! 一旦、降りて!」

箒「こんな時に何だ!?」

簪「『打鉄弐式』のエネルギーを解放する! だから、それで――――――」ピィピィピィ

箒「くそ! 迎撃が追いつかない! 行くぞ、簪!」ヒュウウウウウン!

簪「そんな 待って、箒!」ヒュウウウウウン!


――――――私は、今度こそ自分の居る場所を守り抜くんだ!

―――――― 一夏とまた出会うことができた一緒に帰れる場所を!

――――――だからもっと力を貸せ、『紅椿』!


簪「!?」

簪「箒、機体から光が――――――!」

箒「へ」

箒「これは、エネルギーが回復している…………?」

箒「まだやれるぞ、私と『紅椿』は!」


――――――単一仕様能力『絢爛舞踏』!


箒「はあああああああああああああああ!(――――――出し惜しみはなし! 全力で行く!)」ブン!


ボゴーン!


簪「やった……!」

箒「やった、やったぞ、私は……!」

簪「うん!」



シャル「あ、危ない!」


箒「!?」

簪「あ、ラウラたちは――――――!?」ヒュウウウウウン!

箒「くぅ!」ヒュウウウウウン!


ラウラ「くぅううううううううう!」

鈴「が、頑張るのよ……、『甲龍』!」

セシリア「バスが通過するまでの辛抱ですわ……」

シャル「み、みんな……!」

シャル「離れるべきか否か…………指示を、指示をお願いします!」

ラウラ「くぅああああああああああ――――――あ(…………『AIC』のエネルギーが無くなった)」ピィピィピィ

鈴「あ」

セシリア「え」


ヒューーーーーーーン!


――――――
千冬「…………!」

山田「あ、あああ…………」

担当官「わかっていても、怖いな、これ……」


――――――けど、“奇跡”っていうのは準備していないものには掴めない。


使丁「偶然も必然も全てが結果なのだから」

副所長「そうだな。その通りだ」(安静)

使丁「さあ、翔べええええええええ!」
――――――

箒「み、みんなああああああああああああああ!」ヒュウウウウウン!

簪「――――――IS反応!? それも2つ!?」ピィピィピィ

箒「自衛隊の救援か?」

簪「違う。この識別コードは――――――!」



シャル「あ、ああ…………(い、一夏ぁああああああ!)」


バスの上を陣取っていたシャルロットの眼前に迫り来る巨大な質量のスペースデブリ――――――。

逃げようと思えば簡単に逃げられる。だが、自分の足元にはかけがえのない人たちがそこにいる。

シャルロットは逃げたい衝動に駆られながらも必死に堪えて、最後の悪足掻きとばかりに最も威力がありそうなものを乱射し続けた。

そうしないと、自分が自分で無くなってしまうような気がして…………!

しかし、痛みを感じないただの塊に対して通常火器などなんと無力なことか…………

IS3機掛かりで押し留めようとしたスペースデブリの勢いは『AIC』によって前のほんの一部分にかかった加速度が失っただけで全体の運動量の1割も奪えていない。

まさに、逃げ出すこともできずに守るべき人々と一蓮托生となろうとした、


――――――その時!


ビュウウウウウウウウウウン!

スパァー

ゥウウウウウ、バーーーーーーーーン!


シャル「!?」

箒「!」

簪「!」

ラウラ「!!!?」

セシリア「!?」

鈴「!!!!」

山田「!!??」

担当官「ホッ」

千冬「…………フッ」

副所長「お前の意趣返しにはまいったよ…………こんな展開 俺でも予想できなかった」

使丁「そ、ヒーローっていうのはこうでなくちゃ!」


―――――― 一夏くん!



一夏「ふぅ、これで後は何とかなるだろう」

一夏「ナイスアシスト、――――――『銀の福音』!」(第2形態)

福音「――――――!」(第2形態)


最後の護送車の上に降り注いだ最後の人工衛星は、突如として現れた2体の見たこともないISによって排除された。

正確には一部の形状が変形したあの2機であった。

突如として現れた『白式』第2形態『雪羅』は左手の高出力エネルギー砲を連続放出して衛星を真っ二つに引き裂き、

分離した衛星の残骸を光の翼を展開した『銀の福音』第2形態が収束させたエネルギー砲で押し退けたのだ。

これによって、最後にして最大の脅威を乗り切ることができたのである。

周囲が危地を脱したことに安堵している中、この2機は更に動いた――――――!



一夏「それじゃ、いくぞ! 背中を貸してくれ!」ガシッ

福音「――――――!」コクリ


ビュウウウウウウウウウウン!


一夏「気をつけろ、『銀の福音』! スペースデブリは今も数限りなく降っているぞ!」

福音「――――――!」ビュンビュン!

一夏「衛星からのデータリンク完了! 目標までの距離は約300キロ! このまま直進してくれ」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウウウン!

一夏「『雪羅』エネルギー充填……!」

一夏「…………冷たくなってきたな。100m上がる毎に気温って下がっていくんだっけな」ハアハア・・・

一夏「エネルギー全部使って届くかな? いや、届けてみせる! 当たりさえすれば――――――!」

一夏「10秒後に発射する! 目標に向けて直進し続けてくれええええええ!」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウウウン!




10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――――――!


一夏「行っけえええええええええええええええええええええええええええ!」

一夏「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

一夏「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」















――――――目標撃破


一夏「………………終わった」ピィピィピィ

一夏「それじゃ後は頼むぜ、『銀の福音』」(強制解除)

一夏「!?」

一夏「ハアハア・・・・・・(わかってはいたけど、呼吸と、体温が、まずい…………)」ゼエゼエ

福音「――――――!」(光の翼で優しく包み込む)

一夏「・・・・・・アタタカイ(そんな器用なこともできるのか、お前は…………)」ニコッ

福音「La」


――――――数時間後、低軌道上にあった人工衛星やスペースデブリが墜落し続けるという異常現象はその元凶が絶たれたことで、やがては収束していった。


篠ノ之博士によるIS〈インフィニット・ストラトス〉の発表の1ヶ月後の『白騎士事件』以来の大事件となったこの一件は、

この事件の功労者であるIS学園の生徒と、――――――ある1機の所属不明機の名に因んで『福音事件』と呼ばれることとなった。

なぜ所属不明機がその場に居合わせたのか、そしてなぜ低軌道上のスペースデブリが墜落し始めたかは、その後の調査で明らかになることはなかった。

事件の関係者たちは答えることはなく、また日本政府も詳しい発表を行うことはなく、事件の真相は謎に包まれたままであった。


ただ、その所属不明機とセカンドシフトを果たした『白式』のツーショットが電脳上に拡散されており、
それによりこの事件が単なる歴史の闇に沈むことはなく、ISを語る上で絶対に外せないミステリーの1つとして、
長らく人々の記憶の中に残されることになったのであった。



――――――全てが終わって、


使丁「うまく決めたな、一夏くん」

一夏「」コクコク(担架)

副所長「やれやれ、また病院行きか…………」(担架)

一夏「」フフッ

副所長「今、笑ったな?」

使丁「“プロフェッサー”も元気なようで」

使丁「それじゃ、後はゆっくりと養生していてくれ」

使丁「後始末をしておくから」

担当官「しかし、どういうことだ、“マス男”?」

担当官「なぜIS学園で勤務中のお前がパワードスーツで駆けつけて、しかも一夏の消息まで――――――?」

使丁「それじゃ、まずは順を追って説明しようか」

千冬「頼む」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――



――――――臨海学校、2日目

――――――IS学園


使丁「轡木さん、いい調子ですよ」

                      イオス
使丁「国連で開発している外骨格攻性機動装甲<EOS>――――――、試験運用としてはまずまずです」


使丁「劣化ISとか思ってましたけど、やっぱりパワードスーツが動くと作業が楽になっていいです――――――」ピピピッ


使丁「ん? ちょっと待ってください」ピッ


使丁「おや、一夏くんじゃないか? ――――――臨海学校で何かあったのかい?」


使丁「…………わかった。明日にも駆けつけよう、サプライズをもって!」







――――――臨海学校、3日目

――――――臨海学校近辺に設けられた自衛隊による道路封鎖


自衛隊「困ります!」

使丁「状況は把握している。この時こそ、災害救助用に開発されたEOSの出番だ」

使丁「帰りは捨ててっていい。避難者をバスに乗せるまでが仕事だからな」

自衛隊「ええ…………」

外交官「連れてってやれ。旅館が積み重なったデブリの重みで崩落する可能性を考えると、保険として持っていくのが最良の選択だ」

自衛隊「…………わかりました」

自衛隊「しかし、遅くなりますよ?」

外交官「別のクルマで運んで、帰る時はきみもバスに乗って帰ればいい」

自衛隊「…………了解です」

使丁「すみませんね。生身の力だけじゃどうしようもない時っていうのがあるので」








――――――そして、


副所長「心残りといえば、俺の全知全能を込めて設計・理論化した第4世代型のお披露目が叶わなくなるってことかな…………」


――――――その名は、『白き閃光』。


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン! 








キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!


副所長「は」

副所長「何だこのローラーの音は? 幻聴じゃあるまいな……」
――――――

使丁「せーのっと!」


ボゴーン!


副所長「おわっ!?」ゴロンゴロン・・・

使丁「よう、無事だったか、“プロフェッサー”?」

使丁「それじゃ、さっさと脱出しようぜ!」

副所長「え、なぜここにお前が――――――って、おい!」

使丁「仕事道具もちゃんと抱えたな?」

使丁「ちゃんと役に立つじゃないか、この<EOS>。いったいどこが欠陥品なんだ?」

副所長「――――――<EOS>だって?」

副所長「まさかそんなものが学園に回されていただなんて――――――、うわああああ!?」


キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!





担当官「“プロフェッサー”!」

副所長「よう。また会ったな…………」

使丁「はいはい! いっちょ上がりだぜ」

使丁「それじゃ、<EOS>はここに放置だ。金属の塊なんだし、少しぐらいデブリを浴びたって大丈夫だろう」プシュー

千冬「…………感謝している」

使丁「千冬、礼は後できっちりと聴くから、今は逃げよう!」

自衛隊「急いでくださーい!」

使丁「ほらほら」

千冬「ああ…………」

千冬「デュノア! 対策本部や女将たち、全員無事に乗車できた!」

千冬「これで最後だ。最後の正念場をやりきってくれ」

シャル「了解!」

                           ・・・・・
シャル「みんな、今バスが出たところだよ! ――――――全員無事で」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――



――――――そして、今に至る。


担当官「まだわからないことがいっぱいあるのだが…………」

使丁「正式の場での調査報告の機会を得るまではこれで満足してください」

使丁「俺としても、国連から回された<EOS>を旅館に置いてきちゃったから、伸び伸びとしていられる立場じゃないんで」

使丁「一夏くんがどうやって水没しておきながら海域から姿を消し、更には暴走無人機を手懐けることができたかは――――――、」

使丁「同じく怪我の功名で病室送りになったIS学園開発棟副所長からの報告を待ちましょう」

千冬「そうだな」

トントン・・・

千冬「ん」

ナターシャ「久し振りね、“ブリュンヒルデ”」

千冬「お前は――――――」

担当官「えと、誰だ? 関係者以外は立入禁止のはずだが……」

ナターシャ「はじめまして、ナターシャ・ファイルスよ。アメリカのISドライバーよ」

担当官「まさか!」ギラッ

ナターシャ「そう、『あの子』のテストパイロットは私」

担当官「『ISの軍事転用を危ぶむ』などとほざいて、真っ先に軍事転用を行った国の人間がのこのこと……!」グイッ

ナターシャ「…………っ!」

千冬「よせ!」
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
担当官「止めるな、千冬! 善良な人間が同じ善良であると思われる人間に意見具申をしているだけだ!」ゴゴゴゴゴ

担当官「貴様らのような人間のせいで、“篠ノ之 箒”という一人の人間が享受すべき尊い人生は失われた!」

担当官「それでいて、『白騎士事件』で国家開闢以来 最大の国防危機を招いてしまったくせに、」

担当官「今度は自分たちで後始末をできない破壊天使なんか生み出しやがって! 自爆装置を付けろよ、まったく!」

担当官「何が超大国だ! 世界の警察だ! お前たちの正義は血を見ることで成り立っているようだな!」

担当官「だが残念だったな! 貴様ら戦争屋の陰謀も白日の下に晒された!」

担当官「今日のことで、少しばかりはせいせいしている!」

担当官「だが忘れるな! 自分たちの権益を守ろうとして造った兵器によって、自らの首を絞めることになっているとな!」

担当官「“織斑一夏”に死ぬほど感謝しておけよ。――――――ハラスメント国家が」プイッ

ガチャ、バタン・・・

千冬「…………すまないな」

ナターシャ「気にしないで。今回の一件には私自身も不甲斐なさを感じているから……」

ナターシャ「それに、彼の言うとおり、今回の一件で軍のメンツが潰れたのは事実」

ナターシャ「…………IS学園に難癖をつけて責任転嫁するのが目に見えるわ」ハア

千冬「その時は、アメリカの管理能力の無さを指弾すればいいだけのことだ」
                            
千冬「それに、日本政府が世間に公表するかはわからないが、“偶然にも”『銀の福音』と接触してしまったことでこちらとしてもやりやすくなった」

ナターシャ「相変わらず、あなたやあなたの周りは化け物揃いね…………」

ナターシャ「けれど、本当によかった…………」

ナターシャ「暴走してしまった以上、危険因子が組み込まれたコアとして封印されることは確定なんだけど、」

ナターシャ「最後にあんなにも元気に飛び回る『あの子』の晴れ姿を見ることができて、私としてはそれで満足よ」



使丁「」ニコニコ

ナターシャ「“ゴールドマン”」

使丁「何だ、ナターシャ?」

ナターシャ「ハワイで待ってるから。その時は“白のナイト”も一緒に」ニコッ

使丁「ああ」ニッコリ

ナターシャ「それと、二人のことを首を長~くして“彼女”が待っているわ」

千冬「あいつか」フッ

使丁「…………あれ以来だな」フフッ

ナターシャ「それじゃ、日米の協議で『あの子』の引き渡しがすむまでしばらくこの地に滞在しているから」

使丁「何か困ったことがあったら頼ってくれ」

ナターシャ「ええ。遠慮無く頼らせてもらうわ」ガチャ

千冬「それでは、さらばだ」


バタン


使丁「千冬」

千冬「何だ?」

使丁「お前も来い」

千冬「考えておこう」

使丁「素直じゃないな、まったく」ニコニコ

千冬「フッ」

千冬「………………本当によかった」ホッ




「そっか」

「――――――『白い女の子』と『白いIS』に夢の中で出会っていたというわけか」

「なるほど、確かにISは「形態移行」する過程でエネルギーが回復することが確認されている。これもISが持つ特殊能力の1つだな」

「そして、まさか『潜水機能』まで得ちゃうとはな…………ま、ボンベは付いても体温調節機能までは完備していないようだが」

「なんだ、これは“あいつ”の影響か? そうとしか考えられないな」

「しかし、ここまで相互意識干渉が起こるとはな。それで『銀の福音』の暴走を止めることができたというわけか」

「『銀の福音』は暴走したことによって周囲の全てが敵だと認識していた――――――」

「だからお前は、それを知って『銀の福音』の恐怖心を取り払ってくれたのだな。一生懸命に慰めたのだな」

「次いでに、仲良しにもなったか。実に興味深いな、無人機との連携とは」

「『敵は“敵”』だと思っていたが、お前は違った」

「お前は筋金入りのスポーツマンだよ」


――――――その心が本当に平和を導いてしまったのだから。


「やっぱり、お前は凄いよ。IS適性だとか学力だとか、そんなんじゃ測れないものを持っている」

「もう俺から教えるようなことは何も無いかもしれないな」

「お前は人どころか、ISまでも救ってしまったのだからな」


――――――見違えるようになったな、この3ヶ月間で。


「あ、――――――調子に乗るなよ?」
        ・・・・・・・・
「そうだ、お前は最善で最悪の方法を平気で実行してしまうような『デリカシーの無さ』という大きな課題が残っていたな」

「待っていろ。退院したらその性根を叩き直す特別メニューを用意してやる」

「フッ、お返しだよ。心配させやがって」

「それと、――――――これからも簪ちゃんのことをよろしく」ニヤリ



――――――それから、


オツカレサマデシター

箒「ふぅ」(剣道着)

箒「(あれから、もう2週間か…………)」

箒「(一夏は何をやっているのだろうな……)」

担当官「箒ちゃん」(剣道着)

箒「あ、はい」

担当官「強くなったな。私から1本取れるようになった」

担当官「それでいて、すっかり見違えるように爽やかな剣筋だったぞ」

箒「あれは、“グッチ”さんがわざと隙を作ったんじゃないんですか?」

担当官「…………!」

担当官「そこまで気づくようになったか(物事の興味関心が拡がったおかげだろうな、これは)」

箒「私も、『変われた』ってことなんでしょうかね……」

担当官「ああ。その通りだ(それは私も同じことだ)」

担当官「そうだ。大切な報せがある。この地図にある学内の“ここ”に19時に来てほしい」

担当官「服装は自由、夕食が出る。2,3時間は掛かると思うから、必要だと思うものは持ってきてくれ」

箒「わかりました」

担当官「よし。それじゃ、お疲れ様でした」

箒「はい、お疲れ様でした」ニコッ



――――――19時前、某所


箒「IS学園にはこんなところがあるんだな…………」

箒「地図が無かったら何が何だか…………」

箒「で、ここか……」

箒「?」

箒「真っ暗だぞ? 部屋を間違えたか?」

箒「!」


ピカァー! パァーン!


担当官「さあ、最後のゲストの登場です!」


副所長「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
使丁「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
千冬「フッ」パァーン!(クラッカー)
山田「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
簪「い、いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
本音「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
セシリア「い、いえええええい! ですわ!」パァーン!(クラッカー)
シャル「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
ラウラ「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
その他「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)


箒「こ、これはいったい…………?」

鈴「なにそこに突っ立ってんのよ。さあ」

鷹月「篠ノ之さん、こっちこっち」

箒「あ、鷹月さん! …………『用事がある』ってこのことだったのか」

箒「あれ、――――――副所長がいる(確か副所長は一夏と一緒に病院に搬送されていた――――――)」

箒「――――――ってことは!?」


一夏「よっ! しばらくぶりだな」


箒「い、一夏……」ウルウル

一夏「さ、みんな揃ったことだし、始めようか!」

一同「おー!」

箒「な、何をだ……?」

副所長「夏季休業直前の慰労会――――――、」

使丁「兼 臨海学校全員生還の祝勝会――――――、」

一夏「兼 箒の誕生日祝い!」ニッコリ

箒「え、ええええ!?」

鈴「あんたの誕生日が災難だったから、“あくまでも祝勝会の次いでに”あんたの誕生日を祝おうって運びになったのよ、ほら!」


シャル「どいてどいて」ゴロゴロ・・・

担当官「ケーキが通ります。道を開けてください」

箒「お、おお!」

周囲「ワーー!」

一夏「ありゃま……、料理部に誕生日ケーキを頼んだけれども、これって――――――」

鈴「ウェディングケーキじゃない!」

シャル「ふふふーん」ニコニコ

ラウラ「おお! 何という圧倒感!」

一夏「それだけじゃないぜ」

一夏「はい。プレゼント」

箒「え……」

一夏「本当は誕生日に渡しておきたかったんだけど、渡しそびれてな」

箒「…………リボン」

一夏「ああ……、リボンは辞めたのか? その髪型を見るに」

箒「あ、それは、そのだな…………」

箒「気持ちの整理をつけてきたんだ。今の私ならお前のリボンが似合うかな?」

一夏「似合ってると思うぜ? 俺のセンスに間違いがないならな」

箒「ありがとう、一夏。それじゃ、早速このリボンを――――――」

鈴「何いい雰囲気になってんのよ」
           ・・・・・・・・
一夏「別にいいだろう。5分で済むんだし」

箒「…………一夏」イラッ

一夏「あ、はい!」

箒「ど、どうだ?」オソルオソル

一夏「うん。似合っていると思うぞ」

副所長「はい、姿見」

箒「…………悪くない。むしろ、いい!」ニッコリ

一夏「喜んでもらえて何よりだ」ニコニコ

担当官「それじゃ、私からもプレゼントを渡そう」

箒「あ、また封筒…………(何か入っている。今度は薄いけど、何か券のようなものが……)」

担当官「おっと! そいつは帰ってからのお楽しみって言うことで。みんなには内緒だ」

副所長「何渡したか教えてくれない?(まあ、大方予想はついてるんだけどさ)」

担当官「ノーコメント」


担当官「それでは、みなさん。グラスにドリンクを注いでください!」

一同「ハーイ!」

担当官「では、“篠ノ之 箒”の誕生日、そして無事にこうして全員が揃って1学期が終わったことを祝して――――――、」


担当官「 乾 杯 ! 」


一同「かんぱーい!」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・





鈴「入院してから今日まで何をして過ごしていたのよ」

一夏「ああ、もちろん健康調査とセカンドシフトした『白式』のチェックをな――――――」

シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ、シャルロット?」

シャル「僕が作ったケーキ、一夏が切り分けて」テレテレ

セシリア「…………シャルロットさん?(何でしょう? 良からぬことを考えているのが見えますわね)」

一夏「ああ、いいぞ」

一夏「でも、せいぜい5ホールで十分だったんじゃないのか? 大人数だからってウェディングケーキっぽいものを作るなんてな」

一夏「あ、そうだ。16本分の蝋燭立てて箒に吹き消してもらわないと…………」

箒「え」

鈴「ちょっと待ちなさいよー!」

担当官「あ、そうだった。誕生日ケーキにはそれが必要だったな。うっかりしてた……」

副所長「しかたがないから、それに敗けないぐらいみんなで熱唱しようではないか」ニヤニヤ

千冬「フッ、喜べ。私も祝ってやろう」ニヤリ

箒「ち、千冬さん!?」カア

箒「いや、いいですって。お気持ちはいっぱい受け取りましたから…………」テレテレ

担当官「………………」フフッ

シャル「そ、そうだよ。だから、ね?」

一夏「わ、わかった」

一夏「でも、こういうのはもうちょっと待とうぜ。目の前にこんなごちそうがあるんだしさ」

ラウラ「そうだぞ、シャルロット。まずは目の前にあるものを平らげるべきだと思う」

シャル「…………わかったよ」

一夏「よし。それでだな――――――」



副所長「千冬の恥ずかしい話を聴きたい人ぉおおおお!」


一同「!?」

千冬「!!」ガタッ

鈴「え、千冬さんの――――――」

シャル「ちょっと聴いてみたい気も――――――」

ラウラ「織斑教官にそんなものはない!」

箒「ち、千冬さん!?」

使丁「わあ! 止めろ、千冬! “プロフェッサー”!」

山田「アワワワ・・・」

副所長「ふははは! 見たか、小娘共! この千冬の取り乱し様!」

簪「副所長! やりすぎです!」

一夏「そうですよ! ああ……、“グッチ”さんも手伝って!」

担当官「あ、ああ!」



「今度こそ私の役目は終わりを迎えるのだろうな」

「そして、新しく生きるための目標を見つけられた…………」

「思えば、6年か………………長かった。もうリセットは必要ない」

「けど、繰り返されたリセットの中でも得たものはあった」
                 ・・・・・・・・・・・
「来年、手紙を書いてくれたあの子がまたあなたの後輩となる日をみんなで迎えることができますように…………」

「そして、同封されている私からのプレゼントは――――――」



使丁「写真は十分に撮ったな。よし!」

セシリア「ばっちりですわ、“ゴールドマン”」

セシリア「けど、どうしても名残惜しいですわね。せっかくの力作…………」

鈴「でも、美味しそうじゃない! 凄いわ、シャルロット!」

シャル「トホホ・・・・・・(せっかく、夫婦初めての共同作業の光景が…………)」

副所長「ふふふ、千冬のケーキにアラザンをぶっかけてやる!」ニヤニヤ

副所長「あ、違った」

副所長「今のうちに、どの段のどのケーキを食べるかをよく考えておけよ」キリッ

簪「……副所長」ヤレヤレ

ラウラ「教官! もっと教官のことを教えてください!」キラキラ

周囲「チフユサマー!」キラキラ

千冬「おいラウラ。しつこいぞ。それにお前たちもだ」

担当官「では、ケーキ入刀です!」

箒「さあ、やれ! 一夏」ニコニコ

周囲「オリムラクーン!」

一夏「応!」

一夏「でやあ!」ブン!










鈴「やるじゃない!」

使丁「見事!」

千冬「フッ」

一夏「いえーい!」ニッコリ



“奇跡”はまだ終わらない。

“運命”は動き始めたばかりである。

“尊い日”はこれからも続いていく…………




―――“奇跡のクラス”から“希望の次代”へと―――





今作のイメージ:ひとりじゃない
http://www.youtube.com/watch?v=7Um2BGjH21Q





これにて、織斑一夏と大人たちの物語(第1期)は完結となります。

ご精読ありがとうございました。

最後は、付録としてアンコールで登場する“奇跡のクラス”の7人目までのキャラのプロフィールとなります。


今回の物語の主役は“大人たち”であり、“大人”が子供のために力と誠意を尽くしているようにしたかった。
“大人”が積極的に行くべき指針を示し、導いて、成長させていくさまを描こうとした。
もちろん、“大人”であろうとも「人間」としては未熟な存在であり、完全無欠ではない。間違っていたり、ぶつかりあったり、後悔したり、いろいろあった。
一緒の時を過ごし、逆に教えられることもあって、大人も成長していくさまこそが、一番の在り方なのではないかと思う。


なお本作のオリジナル設定の根本となる“奇跡のクラス”が10人もいる理由は特にない。

物語としては運命の3人と織斑千冬・篠ノ之 束の5人だけで事足りたのですが、
せっかくなので、某『ロボットよりも生身の人間の方が凄い』傑作アニメを真似て10人としてみました。


“奇跡のクラス”
織斑千冬の中学時代の面々の10人。
忘れられがちだが、担任だった“師”を除いて全員が現在20代半ばぐらいであり、世界トップクラスの人間になっているわけである。
しかし、いずれも必ずしも行ったことが全て正解となることはなく、彼らは彼らで大人として非常に思い悩んでいる姿が見られる。
彼らは決して完璧超人としては描いていない。『できることややれることが常人よりも広くて多いだけ』としている。
その象徴として、生身でISを倒す場面は一切出てこない。


1,使丁“マス男” -まっすぐでマッスルな男-
実質的に織斑一夏が漠然と目指していた1つの男性像を具現化しているのが彼であり、誠実で義侠心あってフランクで誰からも頼りにされる実力者。
千冬曰く、「全てがでかい一夏」であり、気質そのものは非常に織斑一夏と似通っていたとされ、
知的で気が利く印象であるが、素手でISに単身で挑むという無謀極まりない行動にも打って出ることもあるので、
本質的には一夏と同じく、「義を見てせざるは勇なきなり」直情的な性格である。そう見えないのは経験とそれに裏付けされた知恵と知識による分別があるから。
その蛮行と結果を見て一夏は自省・自制することになり、良くも悪くも教師としては体を張って最高の教育を施し、見本を示した。

元々は柔道の覇者であったが、トライアスロンに転向してすぐに結果を出している。

力関係では、千冬には負けるが、千冬に敗けない“ある女性”には決して敗けないという、奇妙な3すくみが成り立っている。
よって、束と“プッチン”が別次元の存在として扱われているので除外すると、“奇跡のクラス”の3強に数えられている。


2,副所長“プロフェッサー”-教え授ける者の至り-
担任であった“師”からの評価が一番の“奇跡のクラス”のバランサーにして知恵袋。
ISの開発者である同じ“奇跡のクラス”の篠ノ之 束に比べると全体的に劣っているが、稀代の発明家の一人であることに違いない世界的な天才の一人。
当時は、よく考え、よく周りを見、よく実行する発明ボーイであり、「周りを盛り上げよう」「今を面白楽しく」「便利に」という思いで発明をしてきており、
この辺りから篠ノ之 束とは技術者としては極めて“対極的存在”といえる。

“師”からの信頼は絶大であり、他が渾名を与えられているの対して、彼だけには号を与え、他の渾名の由来についても教えている。

実際に“師”が見込んだ通り、知恵袋にしてバランサーの役割を果たし、技術者としても世界トップレベルの人材に大成にしている。
技術者としては束に遠く及ばないが、人間としては彼のほうが遥かに優れている。

しかし、“奇跡のクラス”において、束は論外として、彼以外に技術者がいないことから徐々に………………

勤務先である倉持技研第一研究所が爆破されて職場を失ったので、日本政府からの要請でIS学園に赴任させられることになった。
開発棟の副所長になったので、呼称は相変わらず“副所長”のままである。
実質的に、2度目の引き抜きとなり、その職域を拡大しつつある。
ちなみに、彼の最初の職場は二輪や楽器、プールなどの某メーカー。“次いでに”ISにも使える機材も独自設計している……


3,担当官“グッチ” -愚直だがいい仕事(Good Job)をしてくれる-
“師”からその将来性を一番に心配されていた生真面目すぎる青年。
事実、中央省庁の国家公務員ではあるが、閑職にも近い重要人物保護プログラムの監視人兼担当官にいきなり落ちこぼれている。
一応、“奇跡のクラス”として篠ノ之 束とは同窓生であったので、その繋がりから篠ノ之一家の保護を担当することになった。
そういう意味では、わずか20代の新米国家公務員としてはあまりにも重すぎる大役を任されているが、
篠ノ之 束とまともに話せる数少ない人間だったので、彼以外に適任者がいないこともあり、異例の大抜擢を受けている。
本人としても、昇進よりも道理を通すことを一番としていたある意味無頓着な性格だったので、嬉々として受け容れ、現在に至っている。

“師”からその将来性を一番に心配されていた通り、社会人としてはあまりにも取り付く島もなくて可愛げのない生意気な若造として疎まれている。
剣道の実力がずば抜けて高く、その他の能力も平均以上の卓越した万能さを持っているが、柔軟性や配慮に欠ける性格で全てが台無しになっている。
風紀委員タイプの潔癖症であり、「義に過ぐれば固くなる」の典型的な悪例となっている。
それさえ抑えれば、ほとんど欠点のない人間性になれたのだが…………
『悪いものは悪い』とはっきり言ってしまう性格なので、そのせいでかなり口が悪い人に見えてしまう。
この性格は厳格な父の気質を受け継いだ篠ノ之 箒と共通するところがあり、それによって互いに信頼を得ることができていたのだが、
ある意味において「ペットは飼い主に似る」「類は友を呼ぶ」「篠ノ之 箒の将来図」の生きた見本となっている。

実質的に重要人物保護プログラムの保護対象である篠ノ之 箒の秘匿が必要なくなったために、御役御免になるかと思われたが、
束から新しいコアを4つ貰い受けるという偉業を果たしたので、これまでと打って変わって立場は安泰となった。
引き続き 保護対象:篠ノ之 箒の担当官として、そして日本政府の査察官として定期的にIS学園を具に見に来ることになった。
日本政府とIS学園を直接結ぶ存在となった。

一番の常識人(=普通・特長がない)であり、織斑一夏と篠ノ之 箒の不遇を一番に理解して代弁している人物。
礼儀作法として、楽しむ時は楽しむべきとしているので、オンオフで態度がかなり異なってきている。

ちなみに、重要人物保護プログラムの監視人としていくつもの偽名を使って保護対象と接触しており、いずれも“グッチ”の名を想起させるものを使用していた。
例)樋口、牟田口、矢口、野口......etc.



4,織斑千冬
女性ながら男勝りな腕っ節の強さと女手一つで弟を養っているという意志の強さから、当時から凄まじい迫力をみなぎらせていた御仁。
束やもう一人の女性があれな性格だったので、硬派な人間が多くを占める“奇跡のクラス”の実質的な紅一点として存在感が大きかった。
だが、あまりにも男前な性格で、女子力ゼロもあって、男と同列に扱われることが多かった。
彼女の気迫と存在感が“奇跡のクラス”の超人化を促しており、やはり千冬は千冬であった…………

「女性を渾名で呼ぶのは失礼」という“師”の考えから渾名は与えられていないが、
そのために“ナイフ”“姐御”“スケバン”など各人で思った通りの渾名が付けられている。

しかし、千冬いえども完璧超人ではないために、いろいろと失敗も犯していたらしく、“奇跡のクラス”の面々が前だと普段の硬い態度が軟化する。
何だかんだで“奇跡のクラス”の面々を自身と同格とみなし、全幅の信頼を寄せているために前と比べて非常に気が楽になっているようだ。

当時の実力としては“奇跡のクラス”“最強”であったが、現在は現役を引退しているのでどの程度の差があるのかは不明。
たまに、本気の稽古を“奇跡のクラス”の面々にしてもらっているが、本気の勝負はやっていない。やったら確実に死闘になりかねないので。


5,篠ノ之 束
諸悪の根源。全ては彼女から始まった。
結局、“奇跡のクラス”の面々はISという束が開発した史上最強の兵器を中心に再結集していくことになる…………

「女性を渾名で呼ぶのは失礼」なので渾名は特に決まってないが、
“ピンクラビット”“不束者”“二束三文の女”など、当時から毛嫌いされていることがうかがえる。

“奇跡のクラス”“最凶”の存在で、当時から評判はすこぶる悪い。
“師”の教育指導として、「顔を見れば思い出せる」ぐらいには仲良くなっていたので、一応の付き合いをしてはいたが…………

異次元の身体能力の持ち主と感性から人間扱いされておらず、“プッチン”共々、“奇跡のクラス”のランキング外の扱いとなっている。


6,外交官“プッチン”ー怒らせたらマジヤバイ甘党ー
“奇跡のクラス”“最恐”の存在で、黙っていても何をしても多くの人を怯えさせてしまう天性の才能があり、それを活かして外交官の道を“師”に薦められる。
結果として、わずか20代で諸国家にとって「会談に出てくるだけで胃痛が悪化する」要注意人物となっており、“極東のプーチン”と畏怖されることになる。
それは“奇跡のクラス”の面々からも同様であり、千冬ですら冷や汗を流すほどであり、あの束が特に苦手としている人物である。
対“篠ノ之 束”最終兵器であり、過去に十数回もの追跡と抗争が繰り広げられてきた。

彼の影響力を見込んで自然と人が集まるようになっており、その独自の情報網から“極東のKGB”と比喩されており、
実際に『彼を怒らせたらただではすまされない』という認識が多くの人々の意識に植え付けられており、“生きた恐怖政治家”とも形容される。

最近はその影響力を十分に浸透させた後は、若手外交官としての修養を重ねている一方で、
今年のIS学園で起きた数々の出来事について、日本政府の人間を代表して国際IS委員会に監視・報告の任に就いている。

“奇跡のクラス”の面々をIS学園に集結させるように政治工作してきたのも彼であり、行き場を失った3人の男にIS学園との接点を斡旋するようにさせたのも彼。


7,大佐“時雨”
“奇跡のクラス”所属の千冬、束に続く、最後の女子。
アメリカ ハワイ生まれの日系ハーフの留学生であり、一緒にいられた期間は短かったが、“奇跡のクラス”の人間にふさわしい実力と人格の持ち主であった。
千冬が男勝りで女っ気がなく、束が他人に対して無関心を決め込むのに対して、それと比べて彼女は極めて女性らしい感性の持ち主ではあったのだが、
あまりにもハイテンションで落ち着きがない性格であったために、普通の人間では相手をするだけで疲れてしまうのだ。

“時雨”というのは渾名であり、珍しく「女性を渾名で呼ぶのは失礼」とする“師”の教えに基づかないものだが、
“師”が公式に渾名を贈らないだけで全員が渾名で呼び合っていたことから、彼女は“奇跡のクラス”の一員としての証として渾名を求めた。
“時雨”とは『ジウ』と『シグレ』で2つの意味があるが、たまたま降っていた季節雨に因んだネーミングで意味などなかったが、
季語としての『時雨』→冬→大の親友となった織斑千冬
漢語としての『時雨』→本名の音写
というふうに、後に好意的に解釈されるようになったので、今でも自身の通称として愛用している。

“奇跡のクラス”では“最強”とされる千冬に対して何故か必ず勝ってしまう天性の相性があるらしいのだが、
逆に千冬に勝てない“マス男”には絶対に敗けてしまうという、奇妙な3すくみになっている。
純粋な力量では千冬を上回る能力であるはずなのに、千冬に劣る“マス男”には勝てないという不可解な相性となっている。
そのため、“奇跡のクラス”の面々の間での評価としては、とりあえずこの3人が“3強”ということに落ち着いている。
この辺りも、1つで完全無欠の存在ではないことが示されている。

ナターシャ・ファイルスと同じ米国のテストパイロットであり、訓練相手としても立ち会っていたので、今作の『銀の福音』の強さを間接的に底上げしている。


8,???

9,???

10、“師”
稀代の天才児・問題児を寄せ集めた学級閉鎖レベルのゴミ組を“奇跡のクラス”としてまとめあげた当時20代の偉大なる教師。
ただし、教師としては“穀潰し”“ひとでなし”“教師の風上に置けない”と評されている問題教師ではあるが、
問題の本質に真っ向から立ち向かう真摯な姿勢と問題児たちを躾けられるだけの力量を持っていた、――――――“最後の天才・問題児”。

人を見る目は確かであるが、結果として彼が予想した通りの大人にみんななっており、それが彼にとっての大きな悩み・悔いであったという。

現在、消息は不明だが、きっとどこかで問題児たちの心をまっすぐに見つめ、叩きなおしていることだろう。




従来の二次創作の2倍以上の文量になったせいで、
いつも通りに、第1期OVAアンコール分の内容をこのまま続けて投稿するかはちょっと考えております。

更にアンコールの内容は、現在構想を練っている第2期のテーマにおいて重要なイベントとなるので、
まだ内容を確定するわけにいかないので続けて投稿できそうにありません。申し訳ありません。


そんなわけで、――――――2週間以内に投稿がなければ、このスレでの投稿はこれで完結したものと見なしてください。


それでは、アンコールの内容のあらすじとなりますが、

――――――――――――――――――――――――

――――――夏休み、ハワイ3泊4日の合宿・観光旅行


トライアスロンをやることを“ゴールドマン”と約束していた一夏は、約束通り夏休みにトライアスロン本場のハワイ島を訪れることになる。

そこで、“奇跡のクラス”7番目の“時雨”というハワイ生まれの日系ハーフの女性の歓迎され、彼女に雄大なハワイ島の美しい自然を案内され、

実際の『アイアンマンレース』スイム3.8km、バイク180km、締めくくりのランはフルマラソンの42.195km、――――――総距離225.995kmに挑戦するのであった。

そんな一夏の決意とは裏腹に、それぞれの手段でハワイに来て激しく火花を散らす乙女たち…………

そこに、セカンドシフトした『白式』に戦いを申し込む国家代表の姿が――――――。


そして一夏は、夕陽に照らされる中 見つめ合う男女の姿を見るのであった…………


――――――――――――――――――――――――


さて、少なくとも、第1期の二次創作・再構成(私が提示するIS〈インフィニット・ストラトス〉の「もしも」の物語)はこれで最後です。

全部読んでいただいた豪の者も、そうでない御方も、ここまでご精読ありがとうございました。

続編の投稿は第2期終盤の修学旅行に関する情報の詳細が明かされない限り、出し渋りとなってしまうことでしょう…………


投稿予定

今作:一夏と大人たちの物語 第1期アンコール

第2期OVAワールド・パージ編 発売 & 原作9巻発売



ランクA 落とし胤の一夏 第2期



ランクC ザンネンな一夏 第2期



ランクS 『人間』の一夏 第1期【改訂版】

ランクS 『人間』の一夏 第2期


原作9巻マダー?


『黒騎士』や『スコールのIS』、『楯無が使った対IS砲』に関する情報が欲しい…………メカに関する記述が欲しい。それ以外は完成してるから!

そもそもワールド・パージ編の繋ぎとして今作を投稿した意味合いもあるから、情報がないと第2期の修学旅行での対決がさっぱりわからんのだが…………

IS〈インフィニット・ストラトス〉2 イグニッションハーツに合わせて発売してくれるのかと思っていたけど、そんなことはなかった…………


――――――と、思っていたけど!


――――――4月25日に、ようやく原作第9巻発売です!
http://blog.over-lap.co.jp/bunko/?cat=3


それでは、ご精読ありがとうございました。

2週間以内に投稿がなければ、一応はここでの投稿は完結となります。

そして、今作である番外編:一夏と大人たちの物語 第2期をどの作品の前・後に投稿して欲しいかなどご要望があれば幸いです。
ランクS 『人間』の一夏の物語が最後に続けて投稿されるのは確定です。


それでは、あらためてありがとうございました。そして、また投稿できる日を…………


延期するなよ、延期するなよ、延期するなよ…………


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