死神「キミ、生きたい?」(124)

男「……」テクテク

死神「……」テクテク

男「……あの」

死神「……」

男「……それ、本物?」

死神「……」

男「あのー……」

死神「え、もしかして私に話しかけてる!?」

男「他に誰もいないじゃないですか」

死神「あちゃー……」

男「その鎌、すごく本物っぽいんですけど……」

死神「見えちゃったかー……」

男「聞いてます?」

死神「見えちゃったものは仕方ない! キミ、死ぬ前にやりたいこととかある?」

男「死!?」

死神「残念ながらキミの命は今日限りです!!」

男「唐突だなぁ」

死神「不運だったね」

男「そのコスプレ可愛いね」

死神「馴れ馴れしいなー。 敬語を使え!」

男「君が使うなら」

死神「ヤダ」

男「で、その鎌本物?」

死神「この世の本物よりも本物だよ」

男「どういうこと?」

死神「この鎌に切れないものは無い! この世のモノとしてはありえないけど、刃物としてはこれ以上無いくらい本物でしょう」

男「……よくわかんない。 それはこの世のモノじゃないの?」

死神「そうだよー」

男「へぇー……」

死神「信じてないな?」

男「厨ニ設定のレイヤーさんなんだね」

死神「えいっ」

男「は!?」

死神「凄いでしょう」

男「電柱が……」

死神「他にも斬ってほしいものがあったら斬ったげるよ」

男「……電柱のトラブルってどこに連絡すればいいんだろう。これ倒れたら危ないよな」

死神「いいよ。 私が直す」

男「直すって……」

死神「えいっ」

男「……すげー」

死神「信じてもらえた?」

男「……まぁ」

死神「私はレイヤーではなく、本物の死神なのだよ!」

男「……」

男「あ、人が来る! 死神さん、それしまってしまって!」

死神「それってこの鎌? 無理だよこんなに大きいんだもの」

男「そんなの持ってたら通報されちゃうよ!?」

死神「へーき。 キミ以外にはどうせ見えない 」

男「え? そうなの?」

死神「見える人ってごく僅かなんだ。 だから君が見える人なのはちょっと想定外だったんだ」

男「へぇ……」

死神「というか通報されたとしても私は何も困らないし」

男「俺が困る」

男「……ということは何? 俺は本当に今日死んじゃうの?」

死神「うん。 私が殺す」

男「……まーいっか」

死神「あっさりしてるね?」

男「未練という未練も無いし。 疲れたし」

死神「……ふーん」

男「君みたいな美少女が殺してくれるならこれも悪くないしねー。」

死神「……」

男「さ、いいよ! その鎌でスパッとやっちゃって!」

死神「……まぁ待ちなよ」

死神「さっきも聞いたけど、キミ死ぬ前にやりたいこととかある?」

男「やりたいこと? あったら叶えてくれるの?」

死神「出来る範囲なら」

男「死神ってそんなことしてくれるんだ」

死神「他所は違うよ。 それがうちの方針」

男「他所? うち?」

死神「うん。 死神っても勤めてるところによって全然方針が違うのさ」

男「勤める!? 死神って仕事なの?」

死神「もちろん。 あの世だって仕事しないとお金はもらえないんだよー」

男「……」

死神「うちは死神法人『冥土の土産』っていってね」

男「法人……」

死神「死ぬ前に良い思いをさせてあげて、出来るだけ幸せに逝かせてあげよう、っていう方針なのさ」

男「へぇー……良い会社だな」

死神「これがまた人気無くてさ……」

男「? なんで?」

死神「死んであの世に逝くとさ、この世の記憶って全部無くなっちゃうのさ」

男「そうなの?」

死神「うちは手間かける分他より高くてね。 でもどうせ忘れちゃうのに殺し方を拘る必要があるのか、って思う人が大半なわけさ」

男「はぁー」

男「……そっか、この世の記憶って無くなっちゃうんだな」

死神「うん。 そういうふうにしないと不都合があるのさ」

男「不都合?」

死神「うーんとね……。 この世とあの世ってどっちが先に出来たと思う?」

男「そりゃこの世で死んだ人が逝くんだからこの世が先じゃ?」

死神「不正解。 あの世が先だよ」

男「そうなの?」

死神「むかーしむかし、神様と呼ばれる存在がたくさんの魂を生み出しましたとさ」

男「うん」

死神「それらは死ぬこともないし、老いることもない」

男「うんうん」

死神「でも最近になって、『ちょっと多すぎじゃね?』ってなったのさ。 社会をうまくやりくり出来なくなったのさ」

男「ふーん」

死神「それで、『じゃあもう一つ世界を作って、そっちに少し送ろう』ってなって作られたのがこの世」

男「へぇー」

死神「でも神様ほど上手く作れなくてさ。 あの世よりもちょっとしんどい世界が出来上がっちゃったんだ」

男「ふんふん」

死神「ここに永久的に送り込むのは非道いからかわりばんこにしようか、ってお国が定めたとさ」

男「かわりばんこ……」

死神「あの世で抽選で選ばれた人がこの世に行き、終わればあの世に帰ってくる」

死神「自然に死ぬ人だけじゃ上手くローテーション出来ないから死神というものが必要になったのさ。 コントロールするために」

男「面白いなぁ」

死神「国は他にもやることがたくさんかるから、死神業務は民間に委託したんだ」

男「民間……」

死神「抽選で選ばれた人の近しい人が、委託する死神を決める。 誰も名乗り出なかったら国が適当な死神を決める。 てな感じで」

男「なんだかなぁ」

死神「死神サイドもさ、顧客をとろうと必死なんだ。 価格だったり殺し方だったりいろんな方法で差別化を諮ってくる」

男「で、君のところは殺し方差別化したと」

死神「その通り! 人気は無いけどね!」

男「なるほど……」

死神「で、そのこの世の記憶を持つことによる不都合なんだけど」

男「うん」

死神「例えばこの世でキミが誰かと愛し合ったとする」

男「……うん」

死神「で、キミが死んだとき、あの世にも愛する妻がいた!」

男「あぁ」

死神「気まずいよね? 複雑だよね?」

男「そうだね」

死神「そういうこと。 この世で愛した人、恨んだ人、そういう因縁をあの世に持ち込むと不都合があるのさー」

男「よくわかりました」

死神「で、何かある? やりたいこと」

男「うーん……」

死神「今夜の12時までに殺せばいいから、それまでは思いっきり楽しみなよ!」

男「……普段はこうやって直接希望を聞いたりすることはないんだよね?」

死神「うん、普通はコミュニケーションとれないし。 適当に、良い事を身の回りに起こしてあげてる」

男「俺には本当は何をしようとしてたの?」

死神「えーと、カラオケで高得点を出させたり、古本屋でキミが買おうとした本を100円にしたり」

男「……ささやかだなー」

死神「凄いでしょ? カラオケの機械操ったり本を勝手に安くしても普通に買えるようにしたり出来るんだよ?」

男「いや凄いけどさ」

死神「特に本の方、これは単に値札を替えるだけじゃ駄目なことが多くってさ」

男「まぁそうだよな」

死神「結構大変なんだよ?」

男「君はその超能力的な力でどこまで出来るの?」

死神「何でも」

男「何でも!?」

死神「大体何でも。 でも結構厳しいルールがあるから結局その程度のささやかなことしかやっちゃいけないんだよねー」

男「ふーん」

男「でもカラオケのも古本屋のも、結構うれしいかもしれない」

死神「でしょ!? キミについての下調べはしてきてるからね! キミのツボはわかってる」

男「へぇー……仕事熱心だね」

死神「まぁね! で、何度も聞くけどやりたいことは? 見られちゃった以上は直接希望を聞いた方が手っ取り早い!」

男「うーん……それじゃあさ」

死神「うん!」

男「今日一日デートがしたい」

死神「おー! いいよ!!」

男「女の子と一度もデートしないまま死ぬのって寂しいから」

死神「キミ童貞だもんねー」

男「うるさい」

死神「よっしゃ、そしたらキミ好みの女の子を探して連れてきてあげる!」

男「いやそうじゃなくて」

死神「?」

男「君が俺とデートしてくれない?」

死神「え、えぇっ!?」

男「だって君が連れてきた女の子とデート、ってそれはその子を操ってデートさせるんでしょ?」

死神「ま、まぁ……性格もキミ好みの女の子にしてあげるよ?」

男「そんなのつまらない。 俺はそんなことをしたいんじゃない」

死神「え、えっと……」

男「あ、嫌ならいいんだ! 強制するのは嫌だから! 他にもやりたいことはあるし!」

男「……というか普通嫌だよな。 ごめん、やっぱナシで」

死神「い、いいよ」

男「え?」

死神「いいよ! やろう、デート!」

男「仕事だからって無理してない?」

死神「してない! むしろ完全にオフモードで遊んでもいい?」

男「もちろん! むしろそうしてくれ!」

死神「よし、そうと決まれば服を普通のにして、鎌を隠して……」

男「鎌隠せるのかよ!!」

男「すげー……一瞬で服が変わった……」

死神「うん、セーターにしよ!」

男「おーいいねー!」

死神「よし、これで周りの人に見られても大丈夫!」

男「え、死神さん周りの人には見えないんじゃ?」

死神「見えるようにした。 キミが一人でぶつぶつ喋ってたら変でしょ?」

男「まぁ」

あー俺も死にそうだわ|´-`)チラッ
マジやばいわー(/ω・\)チラッ
彼女ほしいわー|ωΦ*)コソーリ・・・
セックス(ry壁|●><●>)ジロッ

男「でもちょっと残念だなー」

死神「?」

男「死神衣装、可愛かったのに」

死神「だよね!! 私もあれが着たくてこの仕事選んだんだー」

男「そうなんだ」

死神「ちなみに死神って結構難関資格なんだよ? こう見えても私はそこそこのエリートなのさ!」

男「へぇー、確かにそうは見えない」

死神「フォローしてよ!」

男「眼鏡かけて七三分けにしたらきっと才女に見えるよ!」

死神「そんなの私の求めてる死神像とは違う」

男「それはそれで良いと思うけどなー」

男「死神さん、この世の歌って何か知ってる?」

死神「知ってるよー! こっちも良いの多いよねー!!」

男「じゃあカラオケ行かない?」

死神「いいねー! 行く行く!」

男「じゃあカラオケに向けてしゅっぱーつ!」

死神「おーっ!!」

死神「何時間にする?」

男「そうだなー……とりあえず二時間くらい? 足りなかったら延長しよう」

死神「そうだねー」

死神「……会員証なんて出さなくてもここ一般で歌えるでしょ?」

男「いや会員の方が安いし」

死神「そんなことしなくても私がタダにしてあげるよ?」

男「いーの! 今日は俺が出したいの! 今日は君は働かなくていいの!」

死神「別にそんな手間じゃないのに……」

男「女の子に奢るのは昔っから俺の夢だったんだ……」

死神「……そう」

男「さーて、何飲もうかなー」

死神「! 男! 男っ!!」

男「何?」

死神「ここソフトクリーム食べ放題だ!!」

男「マジで!?」

死神「チョコソースまで置いてある!!」

男「食べよう食べよう!」





死神「……下手くそ」

男「これ難しいな……」

死神「じゃあ先どうぞ!」

男「よーし……」




男「癒えない痛み悲しみで傷ついた君よ……」




死神「いやーキミ歌上手いね!!」

男「ありがとう! カラオケは趣味なんで」

死神「じゃあ次は私!!」

男「待ってました!!」



死神「もう我慢ばっかしてらんないよ、言いたいことは言わなくちゃ……」

男「すげー綺麗な歌声だった……」

死神「ほんと!? ありがとう!」

男「この調子でがんがん歌おう!」

死神「おーっ!!」





死神「広がる闇の中交わし合った革命の契り……」

店員「失礼しまーす。 フライドポテトお持ちしました」ガチャッ

死神「」

男「どうも」

死神「……」

店員「ごゆっくりどうぞー」バタン

男「……なんで歌うのやめちゃったのさ」

死神「なんか恥ずかしくて……」


━━
━━━

男「いやー歌った歌った!!」

死神「たーのしかったぁ!!」

男「昼ごはん食べよう! 死神さん、何か食べたいものある?」

死神「私は何でも!」

男「そうか……じゃ、俺寿司食べたいんだけど回転寿司でいい?」

死神「もちろん!」

男「あのさ……ちょっと相談があるんだけど」

死神「何?」

男「妹呼んでもいいかな?」

死神「妹さん?」

男「自分からデートしたいって言っといて悪いんだけど……最後だから……」

死神「……うん、いいよ」

男「夜はあいつ捕まらないことが多いから。 最後に飯くらい奢ってやりたいんだ」

死神「じゃあ私はいない方がいいね」

男「いや、一緒に来てくれ」

死神「でも邪魔じゃない?」

男「邪魔じゃない。 一緒に来てほしい」

死神「? ……わかった」

男『もしもし妹ー?』

妹『あ、久しぶりお兄ちゃんー。 どうしたの?』

男『今から寿司食いに出てこねぇ?』

妹『なになにお兄ちゃんの奢り?』

男『おう』

妹『ほんと!? なら行く!』

男『駅前で待ってるから』

妹『うん! バイク飛ばしてすぐ行くよ!!』

死神「……未練は無いんじゃなかったの?」

男「あー……」

死神「仲良さそうだったよね。 妹さんは未練じゃないの?」

男「……うん、未練といえば未練だ」

死神「……」

男「俺が死んだら唯一悲しんでくれる奴があいつだ。 あいつを残していくのは気掛かりではある」

男「けどあいつは俺と違って強い奴だから。 俺がいなくてもやってける」

死神「……」

男「むしろ俺があいつの足を引っ張りかねない」

妹「お兄ちゃーん!」

男「お、来たか」

妹「!! そ、その人は!?」

男「あ、この人は……」

死神「初めまして、妹ちゃん! 私は男とお付き合いさせていただいてる死神といいます!」

男「し、死神さん!?」

妹「か、彼女!!? お兄ちゃんに!?」

死神「今日は妹ちゃんに会いたくて、男に頼んで呼んでもらっちゃった! 」

妹「ほ、本当にお兄ちゃんの彼女なんですか……?」

死神「うん!」

男「そ、そうだ! この人は俺の彼女だ!」

妹「信じられない……」

死神「さ、早くお寿司食べに行こう! お腹空いちゃった!!」

妹「はい! 行きましょう!!」

男「寿司屋はそっちじゃないよ! こっちこっち!」




死神「さ、今日は男が奢ってくれるらしいからじゃんじゃん食べちゃおう!」

妹「はい!!」

男「ほ、ほどほどにな……」

妹「よくお兄ちゃんなんかと付き合ってますねー?」

死神「男、良い奴じゃん! 独特の優しさを持ってるよ! ちょっと不器用な優しさ!」

妹「お、分かってますねーお兄ちゃんのこと!」

死神「もちろん!」

妹「そうなんですよねー……お兄ちゃんはほんと不器用で……あ、その穴子と私のエンガワ、一つ交換しません?」

死神「あ、うん、交換しようか!」

男「君ら仲いいね……」

━━
━━━
━━━━

男「ふぅー……食った食った」

妹「ごちそうさま!」

死神「ごちそうさまでした!」

妹「じゃ、私はお邪魔だろうから帰るね!」

男「もう帰るのか? もうちょっと一緒にいても……」

死神「そうだよ。 遊ぼうよ!」

妹「いや、私もこれから友達と遊ぶ予定があるので!」

男「そうなのか? じゃあまたな」

死神「残念……また今度遊ぼうね!」

妹「お兄ちゃん死神さん大事にしなよ! お兄ちゃんのこと好いてくれる人なんてもう現れないんだからね!! じゃあまた!!」

男「大きなお世話だ。 じゃーな」

死神「またね!」

男「……あいつ、この後予定があるなんて嘘だな」

死神「え?」

男「頭掻いてたからね。 あの仕草は嘘つくときの仕草」

死神「へぇー……」

男「あいつは、俺と死神さんが上手くいくことを本当に望んでるんだろうな 」

死神「……」

男「俺に友達も彼女もいないことをいつも心配してたからな……」

男「今日は妹を安心させたくて、死神さんを友達として紹介しようと思ったんだ」

男「そしたら死神さん彼女だって……」

死神「……駄目だった?」

男「いや俺としては嬉しいんだけど……」

死神「心配しないで。 ちゃんと彼女として、キミの葬式に出て泣きじゃくってくるから」

男「いやそこまでしなくても……」

死神「我が社はアフターケアもきちんとしますので。 キミには良い彼女がいたってことを妹さんに示してくるよ」

男「……ありがとう」

死神「いいよ。 これは好きでやってるんだ」

男「……?」

死神「死神を始めたのは衣装が可愛かったから。 今の会社に入ったのは方針が気に入ったから」

死神「私はキミみたいな人に喜んで欲しくてこの仕事をしてるんだ。 キミが喜んでくれるならこれくらいのこと、いくらでもするよ」

男「……ありがとう!」

死神「だからいいって!」

死神「じゃあデートの続き、やろう!」

男「おー!」

死神「あ! ミスドがセールやってる!! 行こうよ!!」

男「今たらふく寿司食ったばっかだよ!?」

死神「甘いものは別腹!!」

男「マジか……油ものだぞ……」

死神「食べたい!」

男「じゃあまぁ行くか」

死神「やったー!」

男「俺コーヒーで」

死神「私ポン・デ・リングとオールドファッションとフレンチクルーラーと……」

男「マジか」



死神「いただきまーす!」

男「召し上がれ」

死神「おいしーい!!」

男「美味そうに食うなぁ……」

死神「見て見て!! ほら! 天使!!」

男「君本当は馬鹿じゃない?」

死神「失礼な!!」

死神「私天使もやってみたかったんだよねー」

男「天使も職業なの?」

死神「うん。 寿命で殺すのは天使、それ以外は死神」

男「へぇー」

死神「制服は可愛いけど天使はルーチンワークなんだー。 死神の方が面白そうだったから私は死神を選んだんだけど」

男「俺はどっちも好き」

死神「ちなみに天使は専門学校出ればなれるよ」

男「死神は?」

死神「法学部出て初めて受験資格が貰える」

男「法学部……」

男「死神ってどうやって人を殺すの? やっぱ鎌でスパッと?」

死神「そんなことやったら不自然じゃん。 病死、事故死、自殺、いろいろだよ」

男「へぇー」

死神「昔は鎌でスパッとやってたりしてたんだけどねー。 勝手に鎌鼬だとか辻斬だとか勘違いしてくれたから」

男「鎌鼬って死神の仕業だったのか」

死神「今はこれを愛用してる」スッ

男「そ、その黒いノートは! まさか!!」

死神「そのまさかさ……」

男「で、デスノー……」

死神「日記帳だよ」

男「見せて!!」

死神「ヤダ」

死神「はぁー食べた食べた!」

男「じゃ、出ようか!」

死神「うん!」



死神「次はどこへ行こうか!」

男「うーん…… 」

死神「君はいつもどこで遊んでる?」

男「いつもは……カラオケと本屋と銭湯かな」

死神「もう一つあるでしょう!」

男「あ、そうか! バイクでドライブ!」

死神「それしよう!!」

昨日酔っ払っててちょっと会話がちぐはぐなので最後のレス仕切り直しさせてください
つーかバイクでドライブって言わない?


死神「はぁー食べた食べた!」

男「じゃ、出ようか」

死神「うん!」


死神「次はあれしようよ!」

男「あれ?」

死神「キミが休日によくしてること!」

男「何だろう? カラオケは行ったし、本屋行くのは違うだろうし……」

死神「バイクでドライブ!」

男「あぁ!」

男「でもいいの? 目一杯慎重に走るけど絶対に事故らないとは限らないよ?」

死神「私を誰だと思ってんの! むしろ事故ったら私がキミもバイクも直してあげるよ!」

男「そっか。 じゃあうちに向かってしゅっぱーつ!」

死神「おー!」

男「ヘルメットこれ使って」

死神「これARAIじゃん! キミがこれ使いなよ! 私がそのよくわかんないメーカーの使う!」

男「いやでも」

死神「私は死なないけどキミは死ぬの! キミが良いやつ使わなくてどうするの!」

男「どうせ俺今日死ぬんだよね?」

死神「私の手にかかって死ぬの! 勝手に死んじゃ駄目なんだから!」

男「……」

死神「かっこ……いい? バイクだね!」

男「いいよ。 気を遣わなくて」

死神「ダサい!!」

男「そこがいいんだよ!」

死神「これはこれで味がある……のかな?」

男「さ、乗って!」

死神「うん!」

男「しゅっぱーつ!」

死神「おー!」

死神「どこ行くー?」

男「!? なんで普通に声が聴こえるんだ!」

死神「私のちから!」

男「こんなに五月蝿いのに……」

死神「凄いでしょう」





男「ねぇ死神さん」

死神「なにー?」

男「意外とおっぱい大きいね」

死神「今殺したろか」

男「景色の綺麗なところがあってさ、そこ行こうと思うんだけどいい?」

死神「いいねー! 山?」

男「うん。 山」




男「うおっ! 危ねぇ!」

死神「強引だなーこの車」

男「こいつの後ろ走りたくないなー」

死神「赤甲羅投げちゃおうか?」

男「目の前だし緑の方で当たるだろ」

死神「カーブが多くなってきたねー」

男「この辺は事故が多いんだ。 特にそこのカーブは死神がいると言われてる」

死神「あぁ多分いるよ」

男「へ?」

死神「事故率が高いところで事故死させるのは常套手段。 自然だからねー」

男「……マジか」

死神「対象がライダーだとさらに楽だよー。 いつ死んでもおかしくない人達だから」

男「……」

男「着いた!」

死神「うわー! 絶景かな!!」

男「この辺の街を一望できるポイントなんだー」

死神「きっと夜景も綺麗なんだろうなー」

男「うん、夜景見に来る人もかなり多いみたい。 俺は夜にこの辺走るのは怖いからそんなに来ないけど」

死神「良いデートスポット知ってるね! 童貞のくせに!」

男「うるさい」

死神「どこ行くの?」

男「ちょっと向こうで一服してこようと……」

死神「煙草吸うんだ? いいよ、隣で吸ってよ」

男「そんな、悪いよ」

死神「いいよ。 私煙草の匂い結構好き」

男「じゃあ失礼して……」




死神「喫煙者を癌で殺すってのも常套手段だねー」

男「やっぱ喫煙と癌って関係あるんだ?」

死神「知らない。 でも少なくともそう思われてるから、不自然ではない」

男「なるほど……」

死神「……平和だなー」

男「そうだね……とても今日死ぬとは思えない……」

死神「……この辺に温泉ってないの?」

男「? 一応あるけど……」

死神「行かない? 温泉浸かりたい気分!」

男「あー……景色が綺麗な露天風呂があるにはあるけど……」

死神「最高じゃん! 行こうよ!」

男「でもなぁ……」

死神「気分じゃない?」

男「そこ混浴なんだよ」

死神「混浴!!?」

男「一応水着の貸出はしてるけど……」

死神「む、むぅ……」

男「どうする?」

死神「……いいよ、行こう!!」

男「え、いいの!?」

死神「うん! 早く行こう! 私の気が変わらないうちに!!」

男「じゃ、じゃあ温泉に向かってしゅっぱーつ!」

死神「おー!!」

━━
━━━
━━━━

男「じゃあ風呂場で」

死神「うん」




男「……すげー緊張する」

男「……海パンがトランクスタイプで良かった」

男「じゃあ……いざ!」

死神「遅いよー! こっちこっち!!」

男「君が早いよ!」

死神「私の着替えの速さ、知ってるでしょう?」

男「そういやそうだった」



男「……なんか堂々としてるね? さっきはあんなに照れてたのに」

死神「冷静に考えたら水着着て入るんだったら海水浴と変わんないじゃん。 そう思ったら平気になった」

男「まぁそうなんだけど……」

死神「さっきは混浴という言葉に踊らされた」

死神「……そうじゃなくてもキミ相手に緊張するなんて不思議だなー」

男「馬鹿にしてる? 俺が童貞だから?」

死神「いやそういうことじゃなく……」

男「どういうこと?」

死神「……やっぱいいや」

男「何だよー気になるなぁ」

死神「ふぅー……極楽極楽……」

男「極楽ってあの世のことじゃないのか」

死神「あの世は極楽ほど清い場所じゃないよ」





死神「……こうやって遊ぶのなんて久しぶりだなぁ」

男「死神って忙しそうだもんねー。 なんせ70億も人間がいるんだから」

死神「そんなに仕事してたまるかい。 あの世の住人、つまり魂を持った人間なんてその100分の1程だよ」

男「え、そうなの!?」

死神「もうこの世の人口はあの世の人口よりよっぽど多くなってるよ」

男「じゃあ残りの100分の99は何なの!?」

死神「魂を持たなくたって人間は成り立つんだよー」

男「え?」

死神「映画を見れば涙する。 怒られればしょぼくれる。 楽しければ笑う。 そんなのは別に魂が無くても成り立つんだー」

男「……そうなの?」

死神「そういうシステムが組み上がってしまえばね。 後はぜーんぶ外界からの刺激に対するレスポンス。 そこに魂なんて無くてもいいのさー」

男「……なんか寂しいな」

死神「仕方ないよ。 そういうものなんだ」

死神「それに死亡率は国によって違うけど、基本的には死神は自国にしか携わらないしね。 日本はまだ楽な方」

男「あの世にも国があんの?」

死神「言ったでしょう。 あの世の住人はあの世のコピーを作ろうとしたんだ。 まぁ結構違っちゃったけど」

男「へぇー……」

死神「その上うちは人気の無い会社。 そんなに激務じゃない」

男「ふーん……」

死神「それにしてもこの世の住人増え過ぎ」

男「死神はこの世で何でも出来るんだよね? その辺コントロール出来なかったの?」

死神「まぁね。 死神に限らず、あの世の住人なら誰でも。 許可されてる人しかこの世に干渉は出来ないけど」

男「それならなんでコントロールしなかったの?」

死神「……あの世の住人なら、積み木を組み替えるようにこの世を自由に出来るんだけどね」

男「うん 」

死神「実際問題誰が地球サイズの積み木を組み替えるのさ。 そんな感じ」

男「はぁー」

死神「複雑な積み方の全貌を把握してもないし、どうやったって無理だ。 崩すことくらいなら簡単に出来るけどね」

男「……」

男「……ん? じゃあつまり君はそんなに忙しくないんだよね?」

死神「まぁね」

男「でも遊びに行ってないんだ?」

死神「……まぁ」

男「なんで?」

死神「……一人で遊びに行っても楽しくないし」

男「一人遊び楽しめないタイプか」

死神「そうかも」

男「死神さんあの世に彼氏とかいないの?」

死神「……いるよ。 遠距離恋愛中」

男「……彼氏いるのに俺とデートなんてしていいの?」

死神「……しまった。失言だった」

男「失言も何も、これは君の問題でしょ? 君がこれを許すなら俺は何も言わないけど」

死神「……だから失言だったんだ。 キミにそんなふうに見られるならもう本当のこと言うしかないじゃない」

男「?」

死神「私が遠距離恋愛してる彼氏ってのはね、キミのことだよ」

男「!?」

死神「私とキミは、あの世では恋人同士! それもかなりラブラブな!」

男「ラブラブ!?」

死神「安心して。 誓って、向こうでキミ以外の彼氏なんて作ってないから」

男「え、え、マジで?」

死神「いやーこの世に来てもキミはキミだね! 変わらない! っていうのも少し変か」

男「変というと?」

死神「今のキミは私と付き合う前のキミにそっくり! すっっっごく懐かしい!」

男「……君とどれだけ付き合ってるの?」

死神「ちゃんと数えてないけど、1500年くらい?」

男「……マジか」

死神「私と付き合う前のキミは、いつもどこか疲れた眼をしてた。 今のキミもおんなじ眼をしてる」

男「……」

死神「それが私と付き合ってからはぐんぐん眼に生気が宿ったの! いやー私ってばなんて偉大!!」

男「……君と付き合えばそりゃな」

死神「な、何!? キミがそんな言葉を吐くなんて!」

男「何かおかしい?」

死神「……調子狂うなぁ。 さっきだってそうだ」

男「さっき?」

死神「ここが混浴だ、って聞いたときだよ」

男「はぁ」

死神「考えても見てよ。 1500年だよ? よしんば水着着用不可の混浴だったとしても、混浴くらい別に平気なハズなんだ」

男「そりゃそうか」

死神「それがさー、キミってば初心なんだもん。 こっちまで付き合いたての頃の気持ちになっちゃった」

男「……なんか信じられないな」

死神「そりゃーキミの魅力ってのは誰にでも分かるものじゃないからねー。 キミがたった20年そこそこの人生で彼女を見つけられなかったとしても不思議じゃないさー」

男「……」

死神「……何言ってんだ、私」

男「……」

死神「……」

死神「……」

男「……」

死神「……あ、ちなみにねー」

男「なに?」

死神「妹ちゃんは、私と男の共通の友達」

男「マジ?」

死神「あの世で仲の良かった人同士がこの世に送られる場合、近しい人にすることが多いんだ。 幸せに過ごせる可能性が高いからね」

男「……あいつと俺が友達かぁ。 変な気分だ」

死神「あの世に戻ったらそれも忘れてるよ」

死神「……じゃ、そろそろ私上がるね」

男「あ、俺も」




男「……」

男「……超不思議な感覚だな」

男「童貞の俺が実は1500年の大恋愛をしてたなんて……」

男「しかもあんな可愛い娘と……」

死神「やほー」

男「やほー」

死神「……」

男「……」

男「……何か飲む?」

死神「あ、じゃあフルーツ牛乳ちょうだい」

男「邪道だな。 風呂上がりはコーヒー牛乳だろ」

死神「このやりとりも何百回としたんだよー」

男「……へぇー」

死神「……」

死神「……」

男「……」

死神「……すっっっごくいい気分」

男「……俺も」




死神「……」

男「……」

━━━
━━

男「……うわぁ、寝ちゃったなぁ」

男「……外もう暗いや」

男「起きて、死神さん」

死神「……恋人同士だとわかったのにまださん付け?」

男「そ、そりゃまぁ……」

死神「本当、新鮮だなー! じゃ、行こうか!」

男「お、おう」

ブロロロロ……



男「どっかで晩飯食べようか?」

死神「それもいいけど、せっかくだから私が作ろうか?」

男「ほ、本当?」

死神「うん。 何が食べたい?」

男「うーん……そうだなぁ……」

男「あ、あれがいいな」

死神「鶏の唐揚げ?」

男「! な、何故わかった!」

死神「そりゃねー。 材料家にある?」

男「無い」

死神「じゃあスーパー寄って」

男「了解」

死神「お、鶏安い!」

男「なんかこういうのいいなー」

死神「こういうの?」

男「彼女と一緒に買い出しみたいな」

死神「向こうじゃ全然買い物付き合ってくれないくせに……」

男「そうなんだ」

死神「昔は付き合ってくれたのになー」

男「昔ってどれくらい?」

死神「1400年くらい昔」

男「100年は一緒に買い物してたんだな」

男「君と俺って結婚してんの?」

死神「結婚? してないよ」

男「1500年も一緒にいるのに?」

死神「あの世では結婚っていう風習はほとんど残ってないんだ。 制度自体は残ってるんだけど」

男「そうなんだ?」

死神「だって永遠に生きるのに生涯のパートナー決めるってどう思う? わざわざ結婚なんてしなくても一緒に居られるし」

男「うーん……」

死神「子供も出来ないし。 結婚って風習は廃れて虫の息!」

男「なるほどねー」

死神「……でもキミとならいいかもねー」

男「え?」

死神「結婚。 キミがどう思うかは知らないけど」

男「え、何それプロポーズ?」

死神「今のキミにプロポーズしたって仕方ないでしょう」

男「じゃあ俺があの世に行ったらプロポーズしてくれんの?」

死神「キミがしてよ」

男「へ?」

死神「キミがしてよ、 プロポーズ」

男「だって俺死んだらこのやりとり覚えてないんでしょ?」

死神「うん。 いいから言ってよ。 『あの世に帰ったらプロポーズします』って」

男「それ何の意味も無くないか?」

死神「いいから!」

男「う、うん……」

男「あの世に帰ったらプロポーズするよ」

死神「よっしゃあ!! 言質取ったぁ!!」

男「あ、何だそれ!!」

死神「ボイスレコーダー」

男「お、俺は今すごく無責任なことをしたんじゃないか……?」

死神「責任はあの世で取ってもらうよ!」

男「あまりに迂闊すぎた……」

死神「ん、こんなもんかな。 他に何か食べたいものある?」

男「うーん……じゃあもう一品」

死神「お、何?」

男「任せるよ」

死神「えぇいいの? 最後の晩餐だよ?」

男「いいんだよ。 別に最後じゃないこと知っちゃったし」

男「それに死神さんに任せれば間違いは無さそうだし」

死神「……よーし、じゃあ張り切っちゃうよ!」

男「頼んだ!」

━━
━━━
━━━━

男「ボロいアパートでごめんね」

死神「私こういうとこ好き」

男「ん? ドアに何かかかってる……」

死神「……鶏肉だ。 それとメモ」

男「『鶏肉が安かったからこれで死神さんに唐揚げでも作ってもらいな! 妹より』」

死神「……やるなぁ妹ちゃん」

男「間の悪い奴だなぁ……」

死神「今日は唐揚げ祭りだね!」

男「え! 全部食べるの!?」

死神「もちろん! 今日限りの命なんだから冷蔵庫空にしないと!」

男「マジか……」

死神「案の定散らかってるねー」

男「まぁね」

死神「じゃあ座っててー」

男「何か手伝おうか?」

死神「いいよ。 あ、テーブルの上の物だけ片付けといてくれる?」

男「了解!」





死神「ねぇーマヨネーズどこー?」

男「えーと、そこの引き出しの中」

死神「これ開封済みじゃん! こんな所で保存してんの!? 信じらんない!」

死神「はい、先サラダ食べてて」

男「お、アボカド入ってる!!」

死神「好きでしょ?」

男「うん! いただきまーす!」




死神「お次はスープ!」

男「味噌汁じゃん」

死神「味噌スープだよ。 葱たっぷりにしといた!」

男「いいねぇいいねぇ!」

死神「唐揚げ出来た! 本日のメインディッシュ!」

男「待ってました!」

死神「じゃんじゃん揚げるからどんどん食べてね!」

男「おう!」

死神「あ、忘れてた。 ビール買ってきたんだ。 飲むよね?」

男「飲む!」





男「ふぅー……食った食ったぁ」

死神「どうだった?」

男「超美味かった!!」

死神「久しぶりにその言葉を聞いたよ……」

男「なんかごめんね」

死神「はい、じゃあこれデザート」

男「! アイスだ!!」

死神「食べられる?」

男「余裕! 別腹!」

死神「だと思ったよ。 アイス好きだもんねーキミ」

男「これ死神さんが作ったの?」

死神「そうだよー」

男「すっっっげぇ美味い……!」

死神「……照れる」

男「ごちそうさまでした」

死神「お粗末さまでした」

男「好物のオンパレードだった……しかもどれもこれもハイクオリティ……」

死神「1500年の経験値をナメちゃいけない!」

男「最初君はさ、俺好みの女の子を連れてきてデートさせてくれるって言ったけど」

死神「あぁ言ったね」

男「まさに君がそれだよ。 見た目も性格もタイプで、その上料理まで上手いなんて」

死神「……!」

男「最高の女の子だ」

死神「……もー我慢出来ないっ!!」ガバッ

男「ちょ、死神さん何を!?」

死神「だってさ! ただでさえ好きな人がだよ!?」

死神「大昔の、付き合いたての頃に吐いてた甘い科白を恥ずかしげもなくペラペラと……!」

死神「もう懐かしくって愛おしくって!」

男「俺にとっては初めてのことなんだけど!」

死神「そう、今のキミには初めてだからね。 待ってても駄目だろうと」

死神「これはもう押し倒すしか無いと思った!!」

男「……ナメんな!」

死神「!? んー! んーっ!」

男「……」

死神「……ぷはぁっ!」

男「……いいの?」

死神「……いいのって何さ。 私が押し倒したんだよ?」

男「……そうか」

死神「あ、で、でも電気消してくれる!? なんか恥ずかしい……」

男「……うん」

死神「……」

男「じゃあ消すよ」

死神「……う、うん」



パチッ


━━━━
━━━
━━

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━━━
━━━━

男「……」

死神「……」

男「……あの、どうだった?」

死神「初めてにしては及第点!」

男「……そう」

死神「……キミを殺しに来て、まさかこんな幸せが待ってるとは思わなかったよ」

男「……」

死神「キミが死神のリストに載ってたから、立候補して殺しに行った。 そこまでは自分の意思だ」

死神「でもまさかキミに私が見えて、その上私とデートしたいなんて言うなんて……」

男「……」

死神「こんなことってあるんだねー……」

死神「……あのさー、ずっと考えてたんだけど」

男「何?」

死神「キミ、生きたい?」

男「…… なんで?」

死神「昼に妹ちゃんに会ったとき、玄関に鶏が掛かってるのを見たとき、すごく切なそーな顔してたんだよ。 キミ」

男「……」

死神「……それ見たらさ、こっそり死神業務サボって帰ろうかなーなんて」

男「……そんなことして怒られない?」

死神「……まぁバレたら大目玉」

男「そりゃそうだよね」

死神「平気だよ。 バレなきゃいいんだ!」

男「……もしかしてサボり経験有り?」

死神「……初めの頃は」

男「……」

死神「幸せな家庭持ったお父さんとかさ、付き合いたてのカップルとかさ、そういうの見るとそれらを引き剥くのがすごく辛くってサボって帰ったりしてた」

死神「まぁすぐ慣れたんだけど。 『どうせ全部忘れるんだ』と思えばわりと簡単に割り切れた」

男「……」

死神「でも身内は別だ。 キミの切ない顔を私は見ちゃったんだ。 キミは忘れても私はずっと覚えてる」

死神「……なんかすごーくショックだったんだよね。 1500年一緒にいて初めて見る顔だったから」

男「……」

死神「この世に未練を残したままのキミを殺しちゃうと、この先ずーっとあの顔がチラついちゃう気がして……」

死神「エゴもエゴ、公私混同もいいとこだ。 でもバレなきゃいいんだ!」

男「……俺は今むしろ早くこの世から離れたくって仕方ないんだけどさ」

死神「……そうなの?」

男「うん。 早くこの糞みたいな生活を抜け出してキミとあの世でイチャイチャしたい」

死神「イチャイチャって……」

男「でも心残りがあるのもその通りなんだ。 妹のこと」

死神「……」

男「でもそれは妹のことが心配とかそういうのじゃなくてさ。 あいつは逞しいから別に俺がいなくてもやっていけるだろう」

男「ただ俺が死んだ後、泣きじゃくる妹を想像したらやるせないなーってだけで」

死神「……」

男「出来ればあいつを悲しませたくはない。 その点では確かに生きてやりたいんだ」

死神「……じゃあやっぱり」

男「でもキミの切そーな顔も俺には辛いんだよね」

死神「え?」

男「さっきの温泉だよ。 あのとき君は楽しさと切なさが入り混じったなんとも言えない顔をしてた」

死神「……」

男「俺がいなくて寂しいんだよね? 20年は長いよね」

死神「う、自惚れんなっ……!」

男「そんなこと言ったって、今も俺に生きることを勧めながらずーっと切なそーな顔してたよ」

死神「!」

男「彼氏が帰ってくる! ってウキウキしながら出掛けたのに何故か自分で帰ってこないように勧めてるんだからね。 複雑だよねー」

死神「う、うるさいうるさい!!」

男「俺が天寿を全うするとして、あとおよそ60年。 長いよ」

死神「う……」

男「それで提案があるんだけど」

死神「……何?」

男「要は俺に未練が無くなればいいわけだ。 俺が死んでも妹が悲しまないようにすればいいわけだ」

死神「……どうするの?」

男「あの世では俺達と妹は友達なんだよね? じゃあそれを全部妹に話しちゃうってのはどうかな?」

死神「え!?」

男「あの世でまた会える、って分かれば妹も受け入れられるかもしれない。 君の不思議な力を見せればあの世の存在も信じられるだろうし」

死神「で、でもそれは違反で……」

男「俺を殺さずに帰るのも違反でしょう。 ならこういうのもアリじゃない?」

死神「……」

死神「……それでも、妹ちゃんはキミがいない60年を生きなきゃいけないわけで」

男「うん。 だからそれでもしゴネたら、その時は妹が死んだ後に死ぬことにするよ」

死神「……」

男「どう? あ、妹が変に空気読まないように俺と死神さんが恋人同士ってことは伏せてさ」

死神「……多分妹さんはキミが死ぬことを拒否するだろうけど」

男「……」

死神「……まぁモノは試しだ! やってみよう!」

男「……おう!」

男「今日がバイトの日だとしてもそろそろ終わってるだろ。 電話してみよ」

死神「……」

男「……」プルルル

男「あ、出た。 もしもーし」

妹『もしもーし。 何?』

男「今時間大丈夫か?」

妹『うん。 ちょうどバイト終わったとこー』

男「話があるんだけど今からそっち行っていいか?」

妹『? いいけど私まだバイト先だよ』

男「じゃあ迎えに行く。 今日はコンビニ? ファミレス?」

妹『本屋の方。 じゃあ待ってるよ』

男「うん、すぐ行く」

死神「……私は制服の方がいいね」

男「……そうだね」

死神「どうやって行くの?」

男「車。 中古だけど」

死神「車持ってるんだ!」





死神「ジムニーじゃん!」

男「糞安かったんだ。 そのかわりボロだけど」

死神「いいねぇ!」

男「じゃあしゅっぱーつ!」ガクン

死神「!?」

男「だからボロだって言ったじゃん」

死神「そ、それにしてもこれは……」

男「あ、ちなみにATだからね。 俺の名誉の為に言っとくけど」

死神「……」





男「あ、妹。 こっちこっちー」

妹「あ、お兄ちゃん。 死神さんもいるんだねー!」

死神「こんばんはー!」

妹「……死神さん変わった格好してるね」

死神「あははー……まぁ……」

男「じゃあ早速話を始める」

妹「うん。 死神さんがここにいるってことは死神さんも関係する話なんだよね! もしかして……!」

男「この死神さんな。 死神なんだ」

妹「……は?」

男「今日俺は死ぬ」

妹「……え?」

死神「……妹ちゃんあの電柱を見て」



━━━━
━━━
━━

━━
━━━
━━━━

男「……というわけなんだ」

妹「……」

男「……俺達はあの世では友達。 あの世に行ったらまた会えるんだってよ」

死神「そうだよー! 私達すっごく仲良かったんだから!」

妹「……それで? 何で私にそれを言ったの?」

男「そ、それは……」

死神「……」

妹「……そういうことを言った、ってことはきっと私がここで駄々こねたら見逃してるれるのかな? 死神さん」

死神「……!」

妹「そうなんだろうね。 分かるよ。 お兄ちゃんは私のことが心配で、そういう素振りを死神さんに見せちゃったんだろう」

妹「お兄ちゃんの恋人である死神さんはそれを察知して、お兄ちゃんを生かそうとした。 お兄ちゃんの為を思って」

死神「!」

妹「いや、心配ってのは違うか。 私がしっかりしてるってことはお兄ちゃんもわかってるはず。 きっとお兄ちゃんは自分が死んで私が悲しむのが嫌だったんだ」

妹「お兄ちゃんと死神さんがもめて、その折衷案として私に全部話して、その反応を見て決めようと思った。 そんなとこでしょ?」

男・死神「……!」

妹「大体昼の死神さんの仕草を見てれば、これが偽物の恋人だなんて言えるハズがないんだ。 二人が恋人だってことっていう前提と、お兄ちゃんの性格を考えればすぐにこの考えに行き着いた」

妹「違う?」

男「……」

男「……お前ってば本当に賢いのな」

死神「ちょっと普通じゃないよ……」

妹「ふふん!」

男「ドヤ顔やめろ。 ……で、どうする? そこまでわかってるんだったら、後は本当にお前の気持ち一つだ」

妹「……」

男「ちなみに保険は入ってるから学費のことだったら心配しなくていいぞ。 むしろ今のバイト辞めたって学生生活送るには困らなくなる」

妹「……私はお兄ちゃんが、死神さんのことを我慢して私のために生きるなんてヤダ」

妹「でもお兄ちゃんがいない60年を一人で生きるなんて、それもヤダ」

男「……」

妹「だからさ、私も一緒に連れてってよ、死神さん!」

男・死神「!?」

妹「私も一緒にあの世へ逝く!!」

男「はぁ!? だってお前楽しそうに友達とキャンパスライフ送ってたじゃん!」

妹「あーあんなのただの付き合いだよ。 お兄ちゃんがいなくちゃ人生なんてなーんにも楽しくない」

男「こ、この先生きていけば本当の友達や彼氏が見つかるかもしれないし……!」

死神「……この辺をさ、都合よく暴走車が走ってるんだ」

死神「……今からそれを私達にぶつけようと思う」

男「死神さん!?」

妹「おー! 即死でお願いします!!」

死神「任せて!!」

男「ちょ、ちょっと!!」

妹「諦めな、お兄ちゃん。 私は今死ぬことに決めたんだー」

男「そ、早計過ぎやしないか!?」

妹「そんなことないよ。 死神さんも私の言いたいこと分かってくれてる」

死神「あ、あの車だよ。 さーそのまま走ってー!」

妹「一番分かってないのはお兄ちゃんだ。 さっさと腹くくれ!」

男「……今なら脇に車停めるけど?」

妹「いいからそのまま走れ!」

男「……わかったよ!」

死神「そのまままっすぐねー!」

妹「あ、それから死神さんに言っておくことが」

死神「なに?」

妹「私ねー。 多分お兄ちゃんが家族じゃなかったら好きになってたと思うんだー」

男「はぁ!?」

死神「……」

妹「だから多分あの世で私はお兄ちゃんのこと好きだったと思うんだー」

死神「……知ってるよ」

妹「あ、やっぱりそうなんだ!」

男「え!?」

死神「でもあの世に帰ったら私達結婚するから! 無駄だよ!」

妹「絶対邪魔する!」

死神「どうせ覚えてないから無理無理!」

妹「意地でも邪魔する!!」

男「来るぞ!! 掴まれ!!」

死神「あ、むしろ何も掴まないで。 殺しにくい」

妹「きゃあー!!」



ドガンッ

━━
━━━
━━━━

「ただいまー」

死神「おかえり!!」

「どれくらい待った?」

死神「20年くらい」

「意外と短かったな。 それでも結構な時間か」

死神「すっっっ……ごく寂しかったよ!! 今日はたくさん甘えるからね!!」

「……おう。 よく待っててくれたな」

死神「あ、これ聞いて聞いて!」

「ん?」

『あの世に帰ったらプロポーズするよ』


「!? な、なんだこれ俺の声!?」

死神「へへー、キミの死神は私がやったんだ。 そしたら向こうでキミが私に向かってこんなことを」

「い、今どき結婚って……」

死神「他にもいろいろ録音してきたよー!」

「な、なんかすげぇ怖い……」

死神「まぁそれは後々聞かせてあげるよ!」

「……でもまぁ君となら結婚ってのも悪くないな」

死神「!!」

「……うん、俺と結婚してくれないか。 死神」

死神「……よ、喜んで!!」

『ちょーっと待った!!』

死神「!?」

『言ったよね? 意地でも邪魔するって!』

死神「あ、あんた覚えて……!」

『忘れるもんか!!』

「な、なんだなんだ……」

死神「諦めろ!! 勝負は大昔についてるでしょ!!」

『まだ!! まだ私の気持ちを伝えてない!!』

『お兄ちゃん!! 私は1500年前からキミのことを……』

「お兄ちゃん!!?」

死神「わー!! 余計なこと聞かなくていいからね!!」

『聞け!! 私はキミをずっと……』

死神「わぁーっっっ!!!」

「なんなんだ……」



fin

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月17日 (月) 23:59:42   ID: MSjALRx3

愛は死を超える。
イイね(^^)

2 :  SS好きの774さん   2014年07月06日 (日) 22:27:36   ID: 90EaL3n4

いいセンスだ

3 :  SS好きの774さん   2014年11月14日 (金) 20:49:47   ID: oBY9C8k_

最後の大昔のところ詳しく

4 :  SS好きの774さん   2017年11月07日 (火) 10:57:52   ID: IabHZ4m0

3Pはよ

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