ミカサ「このSSは素晴らしい」(81)
それは兵舎の食堂隅に置いてある一冊の共同雑記帳だった。
訓練兵間の雑事についての情報交換のために置かれたそれに、
私は今まで特に興味を持たなかった。そう、今までは。
特に理由もなく、ただたまたま近くに座っただけ。
何気なく手に取り、パラパラとページをめくっていたら、
最初のページから順番に書かれた雑多な記載からかなりの間を置いて
後ろのほうのページに隠されるように書かれた『それ』に、
私は一瞬にして興味を持った。
そこには、こう書かれていたのだ。
『 エレン「俺、ずっとミカサのこと・・・」 』
もしや、エレンがあまりに私を好きすぎて、こんな所で人知れず
胸の内にある想いを吐き出してしまったのかと期待したが、
よく見るとどうやらそうではなさそうだった。
私の名前での台詞が書かれていたことと、
注意書きで『このSSはフィクションです』とあったからだ。
『 ミカサ「? エレン、何か言った?」 』
『 エレン「い、いや何でもねぇよ」 』
創作小説のようなものか、と少し残念に思いながらも続きを読み進めていくうち、
いつしか私はその小説に夢中になっていた。
クリスタ「エレンミカサは?」
エレン「さあ、どっか行っちまった」
クリスタ「じゃ、じゃあエレン///」
エレン「ああ、来いクリスタ」
『 エレン「初めて見たとき、なんて可愛い子なんだと思った」 』
『 エレン「あいつは家族を失ったばかりで、そんな時に俺ばかり浮ついた気分でなんていられない」 』
作中のエレンは、私の事を異性として愛してしまっているが、
唯一の家族でもあるということの板挟みでなかなか言い出せず、
私への愛を押し留めていたが、それももう限界に迫ったことをアルミンに相談しているという内容だ。
あながち間違っていない、というか現実のエレンもほぼ同じだろう。
『 アルミン「そうだったんだ・・・それで、どうするの? 告白するの?」 』
『 エレン「いや、ミカサは俺の事を家族として見ていると公言してるし、断られるかもしれない」 』
『 エレン「もしミカサから拒絶されたら、俺はもう生きていけない」 』
拒絶するわけがない。
確かに私はエレンのことを家族として見ている。
エレンは私にとって弟であり、兄であり、夫であり、子であり、夫でもある。
しかし、もしエレンが私を女性として見ずにはいられないというのであれば、
それは望むところ・・・もとい、やぶさかではないというか望むところだ。
『 アルミン「きっとミカサもエレンのことを好きなんじゃないかなぁ」 』
『 エレン「気軽に言ってくれるな・・・」 』
それにしても作中のアルミンは気が回る、と思う。
実際のアルミンは非常に賢いが、この作中のアルミンのように
もっとエレンを焚き付けてくれても一向に構わないのだが。
などと考えながらも、私は心の中で作中のエレンとアルミンを応援していた。
初春「糞スレが伸びてる理由もわかりませんし」
初春「百番煎じのSSは、タ書いてる奴も読んでる奴も何考えてるんですかねぇ」
初春「独自性出せないなら創作やるんじゃないっつーの」
初春「臭過ぎて鼻が曲がるわ」
初春「結果スとして面白くないのは許せます。許せるだけで面白くはないんですが」
初春「パクリ二匹目のドジョウ百番煎じは許ケせませんね。書いてて恥ずかしくないんですか?」
初春「ドヤ顔してる暇があればとっとと首吊って死ねよ」
初春「まあ、一番の害悪はそういったSSを持テち上げてる人たちなんですが」
佐天「初春?」
初春「そうネットに書いてありました」
佐天「なんだネットか」
そんな時間も、然程長くは続かなかった。
数ページほど読み進めたあたりで、唐突に終わってしまったのだ。
一体何故、と一瞬動揺したが、すぐに思い直した。これはまだ執筆の途中なのだろう。
私は雑記帳を閉じて定位置に戻し、内容を思い返して感嘆の溜め息をついた。
ミカサ「これは、SS・・・というの。SS・・・素晴らしい、小説」
興奮が冷めやらない。本が好きだったアルミンの気持ちを、ようやく理解した気分だった。
もしここまでで終わってしまうのなら、私はとても悲しい気持ちになるだろう。
そこでふと思いついた。この筆者を応援するメッセージを書いておこう。
このSSに期待を寄せる読者の存在は、筆者の意欲を湧かせる一助になるかもしれない。
私はSSの続きが書かれても邪魔にならないよう、ページの脇に一筆を加えた。
『 このSSは素晴らしい。これからも続きを期待している。 』
数日後、あのメッセージに対して筆者からの反応があるかもしれないと思い、
雑記帳の後半ページに目を通すと、私の記載の下に何か書かれていた。
『 このSSは素晴らしい。これからも続きを期待している。
↑
ミカサ乙 』
ミカサ「!?」ビクッ
あれから私は、毎日雑記帳に続きが書かれていないか確認することが日課となった。
SSは数日に一度のペースで少しずつ加筆されており、
更新があった日は顔が綻ぶのを止められなかった。
『 アルミン「じゃあ、とうとうミカサに・・・」 』
『 エレン「ああ、腹を決めたよ。明日ミカサにこの気持ちを伝える」 』
『 アルミン「うん、きっとうまく行くよ」 』
『 エレン「アルミンがそう言ってくれるなら、心強いな」 』
あれから幾度かの更新を経て、作中の私とエレンの距離は徐々に縮まっていき、
次あたりの更新でとうとう告白か、という雰囲気になってからは、逸る気持ちを抑えきれず
一日に何度も更新を確認するほどに待ち遠しい日々が続いた。
そんな、ある日。
思いも寄らない事態が発生した。
私は知っていたはずだった。
100年壁が壊されなかったからといって、
今日壊されない保証などどこにもないように。
今まで私とエレンのSSが書かれたからといって、
今日これからも書かれる保証などどこにもないのだ。
知っていた、はずなのに。この時、私の心を支配したのは、絶望だった。
いつものように続きを期待して雑記帳の後半のページを開いた私の目に飛び込んできたのは、
『 諸事情により、誠に遺憾ながらこのSSを終了します。ご愛読ありがとうございました。 』
という、この素晴らしいSSを終了する知らせと、
『 エレン「俺、アニに告白しようと思う・・・」 』
という、新しいSSだった。
『 ライナー「アニ、か。あいつは惚れたら一途そうだが・・・」 』
『 エレン「正直最初の壁が高すぎるとは思うけど、な」 』
『 ベルトルト「アニのほうは、エレンのことを憎からず思ってると思うよ」 』
『 エレン「そ、そうか? そうだといいんだが」 』
最初はわけがわからなかった。
まず理由がわからない。何故、あのSSを終了するのか。そして何故、アニなのか。
何故、何故、何故。突然すぎる。
『 ベルトルト「だけどエレン。ミカサはいいのかい?」 』
『 エレン「え? 何言ってんだよ。ミカサは家族だよ」 』
『 ライナー「確かにあそこまで距離が近いと、逆にそういう目では見られなくなるかもしれん」 』
『 ライナー「もし本当にミカサを家族としてしか見ていないなら、早めに距離を置くべきかもな」 』
次に怒りが湧いてきた。
アニは時々エレンと対人格闘訓練でペアとなり、格闘術を教示するという名目で
エレンにべたべた触れている許しがたい女だ。
しかもエレンの足に鋭い蹴りを入れて、悶え苦しむエレンを
うっとりした表情で見降ろして悦に入る生粋のサディストだ。
エレンが嫌うことはあれ、間違っても好きになるわけがない。いや、あってはならない。
もしや、この終了宣言と新しいSSは、元の筆者ではない誰かの悪戯ではないか。
そう思い何度も見返したが、私が見る限り、元の筆者と筆跡が同じようだ。
では、どういうことなのか。わからない。
筆者が私とエレンのSSを書くのに飽いてしまったのか。
そうだとすれば、私はこれからエレンとアニのSSが書き綴られて行くのを、
ただただ黙って見せつけられ、泣き寝入りしなければならないのか。
ズキン
頭が、痛い。
ズキン
まだた・・・また、これだ・・・
ズキン
また大切なものを失った。
ズキン
また、この痛みを思い出して・・・また・・・ここから、始めなければいけないのか・・・
この世界は、残酷だ・・・
( 『 エレン「俺、ずっとミカサのこと・・・」 』 )
そして・・・とても美しい。
(戦え!!)
ミカサ「!」
唐突に、エレンの声が頭の中に響いた。
(戦え!!)
ミカサ「エレン・・・!」
戦え? 一体、何と?
(戦わなければ勝てない・・・)
私ははっとした。
そうだ。私とエレンのSSの終了を伝える筆者の記述には、確かにこうあった。
・・・・・・・
『誠に遺憾ながら』
筆者が唐突な行動に至ったのは、筆者の本意ではないのではないのか。
何者かに脅迫され、止むなく方針を転換させられた結果なのではないか。
筆者は私とエレンのSSを書きたいのにも関わらず、
あのおぞましいSSを無理やり書かされているのではないのか。
( 『 エレン「俺、ずっとミカサのこと・・・」 』 )
もしこの考えが正しければ、私がすべきことは泣き寝入りなどではない。
私とエレンのSSの終了を目論んだ罪は重い。然るべき報いを与えねば。
私は、筆者を脅す存在と筆者を特定し、続きを書くよう説得することを決意した。
(『 ライナー「もし本当にミカサを家族としてしか見ていないなら、早めに距離を置くべきかもな」 』)
そして、ひとまず明日の対人格闘訓練はライナーと組もうと心に決めた。
それから私は食事のたび、雑記帳の周りに気を向けた。
基本的に訓練兵が食堂に集まるのは食事の時のみであるためだ。
食堂の清掃時も数人の訓練兵がいるが、その際には教官側の人間もおり、
その状態で清掃を放ってSSを書くのは難しいだろう。
それに、そもそも私も清掃を行っているはずなので、
その時間は常に雑記帳を見張る事はできない。
しかしそんな私の行動も空しく、
雑記帳の後半ページに何かを書き込もうとする人は見つからなかった。
にも関わらず、あの不愉快なSSは着々と更新されていった。
これでは、いけない。
もっと能動的に、こちらから働き掛ける必要がある。
ミカサ「アニ」
アニ「・・・ミカサ? 何さ」
私は夕食後にアニを掴まえて、探りを入れてみることにした。
ミカサ「あなた。最近、何か後ろめたいことはしていない?」
アニ「は?」
ミカサ「例えば、誰かを脅迫するとか」
アニ「何いきなり人聞きの悪い事言ってんだ。そんな事するわけないだろ」
ミカサ「・・・・・・」
さり気無く核心を付いた質問をしたが、アニには動揺した気配はなかった。
ミカサ「じゃあ、実はあなた、エレンのことが気になっている、とか」
もし筆者を脅してエレンとアニのSSを書かせようなどと考える者が居るとすれば、
その容疑者の筆頭は、必然的にアニということになる。間違ってもエレンではない。
そして、もしアニがエレンとアニのSSを書かせたかったとするならば、
アニはエレンに気がある、ということになるのではないか。
アニ「そりゃアンタだろ。訓練のしすぎでついに頭がおかしくなった? ああ、妄想のしすぎか」
アニの浮かべた皮肉げな笑みに、少しいらついた。
しかし、やはり動揺は欠片も見られない。
あの新しいSSはアニとは関係ないのか、と諦めかけた時。
アニ「まったく何言ってんだか。SSの読み過ぎだね」
アニが聞き捨てならないことをぬかした。
ミカサ「SSの、読み過ぎ?」
アニ「ッ!」
普段無表情で無愛想なアニが一瞬だけ、しまった、という顔を見せた。
ミカサ「あなたはSSの存在を知っている」
アニ「・・・し、知らないね。何だそれ」
ミカサ「確かに聞いた」
アニ「・・・・・・」
やはりアニはあのSSと関係があると、私は確信を得た。
ミカサ「あなたが、私とエレンのSSをやめさせるよう仕向けたの?」
アニ「・・・・・・・」
ミカサ「もしそうなら、今すぐ前のSSを更新するべきだと書いている人に説得して」
そう言った途端、アニはハッとして、すぐにニヤリと笑った。
アニ「なんだ。アンタ、書いてるヤツ知らないのか」
ミカサ「! あなたはあれを誰が書いているか、知っているの」
アニ「さあね。そもそも何のことかわからないな」
ミカサ「それは誰。教えて」
アニ「さて、明日も大事な訓練だ。今日は疲れたし、早めに休まなきゃね」
ミカサ「アニ! 待て」
結局あの後、アニからは筆者を特定する情報は得られなかった。
アニの挙動に注意し、脅迫行為をさせないように出来たとしても、
筆者への説得が出来なければ、あのおぞましいSSの更新を止めさせることはできない。
ともかく、一刻も早く今のSSを終了させ、前回のSSを再開させなくてはならない。
私は雑記帳の後半ページ、今のSSの更新を邪魔するようすぐ下に、筆者に対するコメントを記載した。
『 このようなSSは誰も求めてはいないと思う。
ので、早急に、登場人物を変更して書き直すべき。
ちなみに、前回のSSは完結していない、途中でやめるのはよくないと思う。 』
次の日、私の全員の気持ちを代弁した注意書きの下には、こう書かれてあった。
『 ↑ アッカーマン訓練兵、配置に戻れ! 』
ミカサ「!?」ビクッ
あれからエレンとアニのSSは更新の頻度は激減した。
そのこと自体は非常に喜ばしいことだ。
が、しかし、最初にあった私とエレンのSSが再開されることもなかった。
あの後から、雑記帳には見るに堪えないSSが次々と開始されたのだ。
『 エレン「俺は食欲旺盛な女の子って魅力的だと思うぜ」 』
『 エレン「ミーナしか見えない」 』
『 ライナー「結婚しよ」 クリスタ「え、やだ気持ち悪い」 』
『 ミカサ「ジャン・・・私あなたこと」 ジャン「それ以上はいらない、わかってるさ」 』
もはやこれらはSSとは呼べない。何故なら全く素晴らしくない。
それに、エレンはこんなこと言わない。
エレンは非常に一途な性格であり、誰彼構わず惚れては告白するような軽薄な人ではないのだ。
この食欲旺盛な女、というのはおそらくサシャのことだろう。
エレンはサシャを食べ物に関して意地汚い女だと思っている。
それは正鵠を得ている。
とりあえず芋かパンさえ与えておけば、放屁だろうが脱糞だろうが
どんな濡れ衣でも喜んで被るだろう。
そんな卑しい芋女には、エレンは魅力を感じない。
ミーナとエレンは大して接点が無い。
いつも一緒にいる私がそうなのだから、エレンもそうだ。
ので、ミーナなんて別に何とも思っていない。目に入ってすらいない。
あなたのことなど見てはいない。
今のエレンは、巨人を絶滅させることと、外の世界を冒険することと、私以外は目に入らないのだ。
このような駄文が貴重な雑記帳の後半ページの余白を
消費していく今の状態は非常に問題がある。緊急事態だ。
手段を選んでいる余裕はない、何としてでも筆者を見つけ出さなければならない。
雑記帳は基本的に訓練兵のためのものであり、かつ内容が内容であるので
教官側の人間があのSSを書いているとは考えにくい。
そして、訓練兵が食堂に入る時間帯は常に私が雑記帳に近付く人間に注意を向けているが、
それらしい動きを見せた者は居なかった。
つまり筆者が訓練兵の内の誰かだとすれば、SSを書くことが出来るのは就寝時刻しかない。
私は就寝時刻後に抜け出して、雑記帳を見張ることに決めた。
ちなみに最後の、私が登場するSSモドキは、私の名前を全てライナーに修正しておいた。
ミカサ「アルミン、だったの」
アルミン「ミカサ・・・」
数日間の寝不足を覚悟して、深夜の食堂に張り込んでいたが、
幸いにも筆者は初日に姿を現した。
後になって気付いたが、よくよく考えれば、私は訓練兵となってから過去の事についてあまり誰かに話した覚えがない。
あのSSは私とエレンについて詳しい人間にしか書けなかっただろう。
ミカサ「アルミン・・・何故」
あんなSSを書いているの、と続けようとしたが、
アルミンには私がここにいた理由がわかっているようだった。
アルミン「最初は、なんというか、胃痛の原因の軽減のために書き始めたんだ」
アルミン「あんな風に2人の関係が変わっていけば、もう色んな心配をする必要がないなって」
アルミン「それにもしエレンがあのSSを読んで、ミカサのことを意識してくれればって思って」
アルミン「でも、内容的にエレンとミカサのことに詳しすぎたみたいで。それでアニにバレて」
アルミン「アニに私のSSを書けって脅されて、仕方なく・・・」
ミカサ「・・・・・・」
アルミン「何故かアニの脅迫はその後無くなったけど、いつの間にかみんなにもバレてて」
ミカサ「もういい、アルミン」
アルミン「ミカサ?」
ミカサ「そんなやつらの言うことなんて聞くことない。もうそんなSSは書かなくても良い」
私とエレンのSSの続きさえ書いてくれれば、それでいい。
アルミン「・・・ありがとう、ミカサ」
アルミン「胃痛の軽減のために始めたのに、今はそれすら胃痛の原因になっちゃってて正直言って、辛かったんだ」
アルミン「でもミカサがそう言ってくれるなら、もうSSを書き続けなくても良くなるかもしれない」
アルミン「いや、ここではっきりしないとダメだね。もうSSを書くのはやめるよ! 僕の意思で!」
ミカサ「何を言ってるの」
アルミン「・・・え?」
ミカサ「あのSS・・・最初の、は、まだ完結していないでしょ?」
アルミン「あ、あのミカサ、何を言って」
ミカサ「何事も、途中でやめるのは良くない。せめて、最初のSSだけでも完結させるべき」
アルミン「ミ、ミカs」
私はアルミンの横に立ち、心を落ち着かせるようゆっくりと
優しく肩に手を置いて、心を込めて説得の言葉を吐いた。
ミカサ「あのSSを書き始めたのは・・・・・・あなたでしょ?」
アルミン「ヒィッ! ぼっ、僕は・・・!」
ミカサ「アルミン」
アルミン「僕はもう、限界なんだ! もう無理なんだよ!」
ミカサ「アルミン」
アルミン「ミ、ミカs」
ミカサ「アルミン」
アルミン「・・・」
ミカサ「アルミン」
ミカサ「アルミン」
アルミン「わ、わかぃ・・わかりまひた・・・書きます・・・書かせて、くださ・・・ウッ」
ミカサ「ありがとう。わかってくれて私も嬉しい」
アルミンが説得に応じてくれた日の翌日の昼、遂に私とエレンのSSが更新されていた。
何故かアルミンは朝から医務室で休養していた為、更新も容易だったのだろう。
しかし、その内容は余りにも酷いものだった。
『 エレン「やっぱり俺は、巨人を駆逐し尽くすまで云々」 』
『 ミカサ「エレン・・・」 』
『 エレン「だから、ミカサ。人類が巨人に勝利する日が来たら、その時はーー」 』
『 ~ fin ~ 』
なんだこれは。ふざけるな。
確かに、数ある他のたわけたSSと比較すれば、ましな結末かもしれない。
しかし、だ。エレンはもう既に私に告白する寸前まで行っていたのだ。
エレンの心変わりは最早洗脳されたようではないか。あの流れで、この展開はない。
今までの経緯で膨らみきった私の期待は、大きく裏切られた。この怒りは、どこへぶつければよいのか。
それがわからない私には、午後の対人格闘訓練の相手をライナーにすることしかできなかった。
ミカサ「アルミン」
アルミン「ヒイィ!」
医務室にいるアルミンにSSの書き直しをさせようと、声を掛けた時。
アルミンは、ハンネスさんが初めて巨人と対峙した後と同じ表情をしていた。
ダメだ、考えることを放棄してる。考えることが怖いの?
この様子では、アルミンに書き直させたとしても、最早期待はできない。
しかし、他の誰かに書いてもらおうにも、それほどの文才を持った知り合いには心当たりがない。
ましてや、あのレベルのSSを期待するからには、私とエレンについて良く知っている必要がある。
一体どうすれば。私にはアルミンの他に私とエレンに詳しい知り合いなんて・・・
そこまで考えた時、私の頭に思い掛けない名案が浮かんだ。
私とエレンの素晴らしいSSが誰にも書けないのであれば。
私が、書けばいい。
その日の深夜、私は食堂に忍びこみ、雑記帳に自分の想いを綴った。
私はこういった創作文章を書いたことはなかったが、
筆が止まらないとはこのことか、と思える程すんなりと書き上がった。
ミカサ「このSSは素晴らしい」
本当に素晴らしい出来だった。
エレンが私への告白を遂げ、私がその想いに応える。
そして2人が結ばれ、手と手を取り合って歩む輝かしい将来がそこにはあった。
これぞSS、と呼ぶに相応しい。
このSSを読む人がいれば、誰もがこの2人の関係を羨むことだろう。
私は今まで感じたことのない種類の充実感に包まれながら筆を置き、宿舎へと足を向けた。
数日後、久しぶりに雑記帳を開き、あの私が書いた傑作のSSを読み返した。
『 エレン「ミカサ、好きだ」
ミカサ「私も好き」
二人は両想いだった。
ので、二人は幸せな家庭をつくり、とても幸せに暮らした。おわり 』
そして、私の素晴らしいSSの下にはこう書かれてあった。
『 ミカサ乙 』
おわり
くー疲
どうも、おわりです。支援ありがとうございました。
初スレ立て&初投稿なので色々わからず手間取ってすみません。
どのくらいの頻度で更新していいのかわかりませんでした。誰か詳しい人教えて。
あと>>5は許さない。絶対許さない。
お疲れ様
近代希に見る良作
ただわたミカサはこんなに執念深くないと思う
ので、次回からはもっと気楽にしてほしい
このSSまとめへのコメント
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