店長「いや、見たら分かるでしょ」
男「そうっすね」
店長「まぁ、楽だからいいんだけどさー。やっぱ人来ないと時間立つの遅いし、程ほどには来てほしいよね」
男「そうっすね」
店長「……」
男「……」
店長「そういえば、この前彼氏に振られちゃってさー」
男「マジッすか!」
店長「いや、嘘なんだけどね」
男「マジすか」
店長「……君さぁ」
男「何すか?」
店長「『マジッすか』と『そうっすね』しか言ってないけど、そんなに私との会話するのがめんどくさいの?」
男「いえ、そんな事無いっすよ」
店長「嘘付きなよ。今までそこそこ君と会話したけど、覚えてるのその言葉だけだもん」
男「でも、一緒に入る女ちゃんとかイケメン君とかにもこんな感じですよ」
店長「そうなの?」
男「はい」
店長「うーん……なら、友達とかにもそんな感じで話すの?」
男「いえ、流石に友達にはちゃんと受け答えしますね」
店長「今日、お客さん少ないねー」
俺「・・・はい。」
店長「いや、見たら分かるでしょ」
俺「あっ・・・はい。」
店長「まぁ、楽だからいいんだけどさー。やっぱ人来ないと時間立つの遅いし、程ほどには来てほしいよね」
俺「えっ・・あっ・・そうっすね。」
店長「……」
俺「……」
店長「そういえば、この前彼氏に振られちゃってさー」
俺「え・・あ・・そうなんですか」
店長「いや、嘘なんだけどね」
俺「・・・」
店長「……何で私達にはちゃんと受け答えしてくれないの?」
男「いやー、会話はいいんすけど、変に仲良くなって飯とか誘われたりするのがだるくて」
店長「やっぱりめんどくさいんじゃん」
男「そうなんすかねぇ」
店長「そんなに皆と仲良くするのが嫌なの?」
男「嫌っていうか……ノリがいまいち合わないというか……」
店長「ノリ?」
男「イケメン君も女ちゃんも結構アクティブな感じじゃないっすか。ああいうの、苦手なんすよ」
男「ライブ行こうぜだとか、飯行こうぜだとか、ただのバイト仲間なのに正直しんどいっす」
男「何で割り切ってくれないんですかねぇ?」
店長「……まぁ、君の言う事にも一理あるけどさ、仲良くなればバイト中も楽しく過ごせるじゃない」
男「話してるだけで給料貰えるのならいいんすけどね」
男「休憩終わっても隙あらばこっち来るし、作業中だってのに……あいつらの残した分、俺に回ってくるんすよ」
男「てめーの私情なんてこれっぽちも興味ないってのに」
店長「……君も相当溜まってたんだね」
男「あいつらは嫌いっすけどね。店長は一生懸命やってくれるから好きですよ」
店長「こらこら、どさくさに紛れて口説こうとするな」
男「してないっすよ。だって店長29でしょ? 付き合ったら完全に結婚コースじゃないっすか」
店長「殴るぞお前」
男「てか、店長マジで彼氏居ないんすか?」
店長「急にどうしたのさ、会話するのめんどくさいんじゃなかったの?」
男「店長だけならいいかなって思ってきまして」
店長「ふーん……別にいいけど」
店長「いないよ。今は」
男「その気になればできるみたいな言い方っすね」
店長「できるんじゃない? 自信はあるよ」
男「なら、何で付き合わないんすか?」
店長「さっきの君が言った通り、そろそろ結婚しないといけない歳でしょ? 遊び相手は求めてないし」
男「そろそろってか、普通はもうしてないとやばいんすけどね。完全に売れ残りっすよ、店長」
店長「よーし。勤務態度に問題ありで減給してやるよ」
男「イケメン君はどうっすか?」
店長「? 何が?」
男「さっきの話の続きっす」
店長「おい、まだ怒られ足りないのか。時給100円にするぞ」
男「いえいえ、自分は店長の将来を真剣に考えてるんです。てか、減給は決定事項っすか」
店長「それは今後の君次第だよ」
男「まじっすか」
店長「それだよそれ」
男「いえ、今のは本音っすけど」
店長「顔は良いかもしんないけどさ。彼、フリーターでしょ?」
男「選り好みしてる場合じゃないっすよ。店長、アラサーじゃないっすか」
店長「時給100円な。まぁ、それだけが理由じゃないよ」
店長「彼、まだ若い分遊び足りてないんでしょ? そんな関係になっても紐にされるのが落ちだよ」
男「へぇー。確かにチャラし、言動からもそんな感じっすよね」
店長「分かってるのなら聞くなよ」
店長「君はどうなの?」
男「? 何がっすか?」
店長「彼女とか居ないの?」
男「あー……自分も今は居ないっす。てか、今は作ってないっす」
店長「おやおや、その気になればできるみたいな言い方だねぇ? ふふふ」
男「多少強がりも入ってますけど、本音っすよ」
店長「ほぉー? その理由をお聞かせ願えるかな?」
男「自分、女運滅茶苦茶悪くて、今まで3人と付き合った事あるんすけど、全部寝とられてるんすよ」
店長「……何かごめん」
男「いいっすよ。自分も店長の事、色々聞きましたし」
店長「そう? なら、本当に減給してもいい?」
男「ならってなんすか。意味分かんないっすよ。てか、まじだったんすか」
店長「マジだよ。君の分の給料を浮かせて私の分に入れようとまで真剣に考えてたからね」
男「最低賃金って知ってます?」
ガラガラ
店長「ふぅ、やっと終わったねー」
男「っすね。全然客は居ませんでしたけど」
店長「この後暇?」
男「暇じゃないっす。家に帰るんで」
店長「それを暇って言うんだよ。暇なら御飯食べに行こうよ。奢るからさ」
男「奢りなら暇じゃないっす。いいっすよ」
店長「分かった。君は打算的なんだな」
男「相手によるっす」
店長「何でもいいよ。行くのならさっさと片付けよう」
男「ういっす」
店長「ほら、何でも……というわけにはいかないけど、そこそこの物なら頼んでいいよ」
男「では、お言葉に甘えて。このハンバーグセットを」
店長「それだけなら許容範囲かな。なら、私も同じので」
男「へぇ、細いのに結構ガッツリした物食えるんすね」
店長「そんな体質だからね。おまけに普段動いてるから太らないよ」
男「でも、30後半になってからが色々やばくなるって俺の親父が言ってましたよ」
店長「君は遠まわしに私の財布を気にしてるの? それとも体調? まさか煽ってるんじゃないよね?」
男「いや、ただの世間話っすよ。意味は無いっす」
店長「それならいいけど……」
男「痩せてる人って実は内臓脂肪が凄いらしいっすよ」
店長「やっぱ煽ってるよね? ん?」
男「にしても珍しいっすね」
女「ふん?」モグモグ
男「店長が御飯誘ってくれるなんて。いつぶり……いや、初めてじゃないっすか?」
女「ん……。そうだねー、初めてだと思うよ?」
女「バイト仲間皆含めて、君が初めてじゃないかな?」
男「まじっすか。店長の初めてを自分が貰ってもいいんすか?」
女「セクハラは程ほどにしておきなよ。店長のパワハラで君を訴えちゃうからね」
男「意味わかんないっすよ、それ」
女「君を誘ったのはあれだ……いや、やっぱり後で言おう」
男「?」
俺「親方!」
親方「なんだ俺」
俺「ものすごい性格のいいブスとものすごい性格の悪い美人がいます」
俺「親方はどっちに寿司食わせます?」
親方「どっちも客なんだろ?」
俺「あっ違います通りすがりって設定で」
親方「俺はどういう状態で寿司握ってんだよ」
男「今日はごちそうさまでした」
女「ん。てか、そういう所はきっちりしてるんだね」
男「流石にまじっすかとは言えないっすよ」
女「あはは。そりゃそうだ」
男「では、もうそろそろいい時間ですし、失礼します」
女「待て待て」
男「はい? まだ何かありましたっけ?」
女「明日は休みでしょ? もう一軒くらい付き合いなよ」
男「はぁ……別にいいっすけど……」
女「よろしい。じゃ、次の店行こうか」
女「はい。とーちゃーっく」
男「……冗談っすよね?」
女「冗談でホテル誘う女なんて居ないよ」
男「正直、全く意味が分からないっす。なんなんすか急に」
女「……さっきの続きの話をしようか」
男「続き?」
女「うん。何で君を誘ったのかって。今まで誰も誘った事なんてなかったのに」
女「それはね? 君と私とが似てたからだよ」
男「自分と店長がっすか?」
女「うん。こんな立場だから仕事を円滑に進めるために色々尽くしてきたけどさ、本当は人と関わるのなんて必要最低限でいいと思ってる」
女「本当に気の知れた人が居れば他との繋がりなんてどーでもいいじゃない。何で飲み会なんてするの? 何で親睦を深めないといけないの?」
女「それなのに皆話しかけてきてさ、うざったいっての。お前の事なんてこれっぽっちも興味無いし」
女「だからね? 男君が今日話してくれてちょっとだけ興味が湧いたんだ。初めて話した同じ人種だったから」
男「……そんな大層なもんじゃないっすよ。皆言わないだけで、一杯います」
女「そんなの知ってる。でも、普通は取り繕う。だって、そうしないと仲間外れになっちゃうからね」
女「でも、そんな人って内心では色々思ってたりするけど、実際はそのめんどくさい事にホッとしてる」
女「皆怖いんだよ。人と違うのがさ」
男「俺も怖いですよ。口ではあんな事言いましたけど、1人になるのは怖い」
女「いいや。目を見れば分かる。君はめんどくさい人とそうでない人に分けてるだけで、本当は自分の事しか興味がないんだ」
男「そんな事は……」
女「だって私もそうだから。でも、何かあった時のために気の知れた誰かが1人は欲しい、保険のために。そうでしょ?」
男「……何で俺を誘ったんすか? 1人の方がいいんでしょ?」
女「そりゃ、人間だもん。性欲溜まって当然でしょ?」
女「でももう、そのために彼氏作るなんて無理。毎日毎日電話して、馬鹿じゃないの?」
男「なら、どっかにセフレでも作ったらどうっすか? 店長なら余裕っすよ」
女「こら、セクハラは訴えるって言っただろー?」
男「……すんません」
女「君だって急にこの人と付き合ってなんて言われても困るでしょ?」
男「……はい」
女「流石にそこまで見境無くなってないよ。飽く迄、同じ考えを持った興味のある君だからこそ、恥を捨てて誘ったんだよ」
女「どう? 君なら私と割り切った関係、できると思うんだけど」
男「俺が断るって考えはないんすね」
女「言ったでしょ? 見た目には自信あるって。中々居ないよ? こんな美人とそんな関係になれる人って」
男「でも、お断りしますよ」
女「……どうして? タイプじゃない? 彼女居ないって言ってたよね?」
男「えぇ。彼女居ませんし、外見だけならお付き合いして下さいって感じっす」
女「なら問題ないじゃない。結婚どころか付き合うすらないのに」
女「煩わしい問題は一切ないと思うけど?」
男「……確かに自分は店長の言った通りの人間かもしれません」
男「唯のバイト仲間と親睦を深めるなんて意味が分からないし」
男「それどころか、親兄妹でさえも自分以外はどうでもいいと思っている節があります」
女「やっぱり。そうだよね」
男「彼女とも分かれてから、時間もお金も充実できて、その面では1人の方がいいと再確認しました」
男「それに、店長が言ってくれた事は男にとっては夢のような話ですし、店長みたいな美人とそんな関係になれるのは好ましい事この上ないです」
女「? さっきから肯定する事しか言ってないけど、それならどうして断ったの?」
男「俺にとって店長がめんどくさい人ではなくなったからです」
女「……どういう意味?」
男「今日話してみて分かりました。俺にとって店長はノリが合う人だって」
男「店長の言ってる同じ人種という意味ではないです。気のおける人という意味です」
男「自分以外は興味ないのかもしれませんが、友達に悪い事できる程、合理的に考える事はできません」
女「矛盾してない? それ」
男「それは……そうっすけど……」
女「ふふっ。いいよ、君の言いたい事は分かるから」
男「……さーせん」
女「本当だよ。女の子に恥かかせるなんて碌な男じゃないね、君は」
男「普通、アラサーは女の子とは呼びませんけどね」
女「やっぱホテル来い。コノヤロー」
――
店長「今日も人来ないねー」
男「そうっすね」
店長「昨日の今日で反省しないね、君は」
男「そうっすね」
店長「殴っていい?」
男「駄目っす」
店長「はぁ……もう少し君が社交的だったらなぁ。私も自分以外に興味持つ事なかったのに」
男「俺も店長に興味持ってますよ」
店長「……よし、決めた」
男「? 何をっすか?」
店長「お前、私と結婚しろ」
男「……いや、マジで遠慮したいんすけど」
店長「うるせー!! パワハラ使って訴えるぞコノヤロー!」
男「だからそれ意味分かんないっすよ」
終わり
男「あの、すいません、お願いが」
店長「なにかな」
男「見抜きさせてもらえないでしょうか・・・?」
店長「たまってる、ってやつなのかな?」
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