やよい「あ! もやっしーだ!」 (44)

もやっしー「もやっしーやっしー!」

子供達「もやっしー! もやっしー!」

もやっしー「もうそろそろお別れの時間やっしー! バイバイやっしー!」

子供達「え~!」

やよい「相変わらずすごい人気だなあ、もやっしー」

やよい「でも知らなかったなー。私のステージイベントの前にもやっしーのトークライブがあったなんて」

やよい「……イベントまでまだ時間あるよね……」

やよい「……控え室の前で待ってたら、もやっしーに会えるかも!」

P「おーいやよい。もうすぐ出番だけど準備できてるか?」

やよい「あ、あのっプロデューサー!」

P「ん?」

やよい「私、ちょっと忘れ物しちゃったんで控え室に戻ります!」

P「え? わ、わかった。でも遅れるなよ?」

やよい「はーい!」ダッ

~控え室前~

やよい「まだかなー。まだかなー」ソワソワ

やよい「…………」

やよい「うー……でももうそろそろ行かないとステージイベントが……あっ」

もやっしー「?」

やよい「もやっしー!」

もやっしー「も、もやっ……もやっしー!」

やよい「もやっしー!」

もやっしー「もやっしーやっしー!」

やよい「もやっしー! もやっしー!」

もやっしー「もやっしー!」

やよい「もやっしー! はい、たーっち! いぇい!」パンッ

もやっしー「いぇいやっしー! …………」グラッ

やよい「え?」

もやっしー「もやっ……し……」ドサッ

やよい「!? も、もやっしー!?」

もやっしー「もやっ……もやっ……」ハァハァ

やよい「もやっしー……すごい熱!」

もやっしー「もやっ……しー……」

やよい「こんな熱なのに、普段と変わらないパフォーマンスをしていたなんて……プロの鑑だね! もやっしー!」

もやっしー「もやっ……もやっ……」フルフル

やよい「そんなことないよ! もやっしーはすごいよ!」

もやっしー「もやっし……」

やよい「ちょっと待っててね。今係の人を……」

もやっしー「もやっ!」ガシッ

やよい「え?」

もやっしー「もやっ…し…」フルフル

やよい「え? 私のイベントの後にもう一回もやっしーのトークライブがある?」

もやっしー「もやっし……」

やよい「……さっきの回に来れなかった子供達も沢山いると思うから、中止にはできない、って……」

もやっしー「もやっし……」

やよい「だ、だめだよそんなの! もやっしー、こんなに熱出てるのに!」

もやっしー「……もやっ……しー……」

やよい「……喜んでくれる子供達の為なら何てことない? ……何言ってるの!」

もやっしー「!」ビクッ

やよい「子供達は元気なもやっしーの姿が見たいんだよ!? 本当に子供達のことを想うなら、今はちゃんとお休みを取って、少しでも早く良くなるようにしなきゃだめ!」

もやっしー「も、もや……」

やよい「めっ! だよ! もやっしー!」

もやっしー「もやっし……」

やよい「……でもトークライブを中止にするわけにはいかない、って? ……大丈夫。私に任せて!」

もやっしー「……もやっし?」

P「おーいやよい! 何やってんだ、もう始まるぞ!」

やよい「はわっ! す、すみません、プロデューサー! 今行きます!」

P「ん? そ、そちらはもやっしーさん!? は、初めまして! 私、765プロでプロデューサーをしている者でして……あ、よかったら名刺を……」スッ

もやっしー「も、もやっし……」

P「ええ、これを機に是非うちのアイドル達とコラボイベントなども……」

もやっしー「もやっしー……」

P「! 前向きに検討して頂けるんですか!? あ、ありがとうございます!」

やよい「あ、あの、プロデューサー……?」

P「やよい! お前は先にステージに行っててくれ。俺はもう少しもやっしーさんと商談を……」

やよい「じゃなくて! もやっしーは今熱が出てて大変なんです! だからお仕事の話は後にしてあげてください!」

P「えっ? 熱? ……あ、ほ、本当だ! こりゃひどいな……ちょっと待っててください、今係員を……」

やよい「ぷ、プロデューサー! そのことなんですけど……」

P「……え?」

~ステージ~

司会『では16時からのステージイベントは~……今をときめくアイドル! 765プロ所属、高槻やよいさんのミニライブです!』

観客「ウオオオオオオオオオ!!!」

やよい『うっうー! 高槻やよいでーっす!』

観客「やよいちゃあああああああん!!」

観客「可愛いよー!!!!」

やよい『えへっ、どうもありがとうございまーっす!』

司会『えーでは高槻さん、早速いつものあれ、やっちゃってもらってもいいでしょうか?』

やよい『はーい! じゃあいきますよー? ……はい、たーっち! いぇい!』

観客「イェイ!!!」

やよい『わーい! ありがとうございますーっ!』

司会『いやあ、このやりとりもすっかり見慣れた光景になりましたねぇ。……えーところで、高槻さんからファンの皆様にお知らせがあるそうですが?』

やよい『はい! あの、今度私達、アリーナでライブをやるんですけど――……』

やよい(待っててね、もやっしー……)

やよい『……初めて会う未来へ~♪』

観客「ウオオオオオオオオオオオオ!!!!」

司会『……はい! というわけで、765プロオールスターズの新曲! 『虹色ミラクル』ショートバージョンでした! えーこの曲のフルバージョンが聴きたい方は、是非765プロアリーナライブへ足を運んでくださいね!』

やよい『はーい! アリーナで皆さんをお待ちしてまーすっ!』

観客「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」

司会『え~ではとっても残念ですが、本日の高槻やよいさんのミニライブはこれにて終了となります!』

観客「え~!!!」

司会『大変申し訳ありませんが、続きはアリーナで、ということで……どうぞ皆様、最後にもう一度、高槻さんに盛大な拍手をお願いします!』

 ウオオオオオオ…… パチパチパチパチ……

やよい『うっうー! ありがとうございまーっす! 皆さん、またアリーナで会いましょーっ!』

観客「やよいちゃーん!!」

観客「バイバーイ!!」

司会『高槻やよいさん、本当にどうもありがとうございました! えーでは、少し休憩を挟みまして……17時からの本日最後のステージイベントは……子供達に大人気! もやっしーのトークライブです!』

 ワァアアアアア……

やよい(……よし!)

~ステージ裏~

P「やよい、お疲れ様! すごく良かったぞ!」

やよい「ありがとうございます! あの、それで……」

P「ああ、もやっしーさんなら今控え室で薬飲んで寝てるよ」

やよい「そ、そうですか……」

P「でもやよい、本当に……大丈夫なのか?」

やよい「はい! 大丈夫です!」

P「……分かった。『予備』のやつはもやっしーさんから預かって、今お前の控え室に置いてある。……早く行って、準備して来い!」

やよい「はいっ! ありがとうございます! プロデューサー!」ダッ

P「……やよいのやつ……いつの間にか、あんなにも頼もしくなってたんだな……」

~ステージ~

司会『はい! それでは~……ちびっこの皆、お待たせ! もやっしーのトークライブのコーナーです!』

 ワァアアアアアア……

司会『よーし! じゃあ皆、大きな声で呼んでみよう! せーのっ!』

子供達「もやっしー!!!」

もやっしー『うっうー! もやっしーやっしー!!!』

子供達「ワァアアアアアア!!!!!」

やよい(あっ……い、いきなり間違えちゃった! で、でも大丈夫だよね? 今のくらいなら……)

P(頑張れ、やよい……!)

もやっしー『もやっしーは今日も元気やっしー!!! ヒャッハァアアアアア!!!!』

子供達「もやっしー!!!」

子供達「もっと高くジャンプしてー!!」

もやっしー『オッケーやっしー! リクエストにお答えして、もっと高く飛ぶやっしー!!』ビョーン

子供達「すごーい!!!!」

やよい(こ、この状態でジャンプするのって……すっごくしんどい……! もやっしーはすごいなあ……!)

P(いいぞやよい……! これまでの練習でつけてきた体力が活きている!)

もやっしー『もやし汁プシャー!! ヒャハー!!』

子供達「あはははははは!!!」

P(……それにしてもあいつ……もやっしーさんの物真似、異様に上手いな……)

やよい(……私もこれまで、もやっしーには沢山助けられてきた……)


~約一年前~


やよい「はぁ……」

長介「どうしたの姉ちゃん。溜息なんかついちゃって」

やよい「うん……今、今度のライブでやる新曲の練習してるんだけど……私だけ皆より遅れちゃってて……」

長介「あー。姉ちゃん運動神経無いもんなぁ」

やよい「うー……」

長介「あっ。ごめん……」

やよい「ううん……ん?」

もやっしー『もやっしーやっしー!!』

やよい「…………?」

やよい「……長介。これは……?」

長介「ん? ああ、知らねーの? 『もやっしー』だよ」

やよい「もやっしー……」

長介「もやしの妖精、もやっしー。今、子供達の間で大人気なんだぜ?」

やよい「へー……」

長介「最初は地元の商店街とかでぼそぼそ活動してたらしいんだけど、口コミとかで噂が広まって、今じゃこうしてテレビにまで出るようになったんだ」

やよい「…………」

長介「まあある意味、姉ちゃんより売れっ子の『アイドル』かもな? なーんちゃって……」

やよい「…………」

長介「……いや、スルーはやめてほしいかなーって……」

やよい(……私はそれから、もやっしーのことを沢山調べた)

やよい(最初は全然売れてなかったのに、それでも自分の芸風を変えたりはせず、地道に活動を続け……)

やよい(ブレイクしてからも、基本となるスタンスはずっと一貫させたままで)

やよい(もやっしーは、常に『子供達のアイドル』としての立場を守り続けた)

やよい(……お仕事が忙しくて、自分を見失いそうになるとき)

やよい(私はいつも、そんなもやっしーのことを思い出す)

やよい(そうすることで、私は忘れないでいられるから)

やよい(自分の初心を……アイドルになったばかりの頃の気持ちを)

やよい(ファーストライブの練習で挫けそうになったときも、もやっしーのことを思うと乗り切れた)

やよい(仲間がいる私と違って、ずっと一人で頑張っていたもやっしーは……きっと私の何倍も、辛かっただろうと思ったから)

やよい(もやっしー……今まで沢山、私を助けてくれて……ありがとう)

やよい(だから今度は……私が……)

やよい(もやっしーを、助ける!)


もやっしー『まだまだいくやっしー!!! ヒャッハァアアアアア!!!!』

 ワァアアアアアアア……

もやっしー『もうそろそろお別れの時間やっしー! バイバイやっしー!』

子供達「え~!!!」

もやっしー『皆、次会うときまで元気でいるやっしー!! ヒャッハァアアアア!!!』

子供達「もやっしー!! バイバーイ!!」

司会『は~い! というわけで、もやっしーのトークライブでした~! では皆様、最後にもう一度、もやっしーに盛大な拍手を!』

 ワァアアアアアアア  パチパチパチ……

司会『……えーでは、本日のステージイベントはこれですべて終了となります。お帰りの際は……』


~ステージ裏~

P「お疲れ様! やよい! ぶっつけでこれだけ出来たら上出来だよ」

やよい「えへへ……でもやっぱり、本物のもやっしーには敵わないかなーって……」

P「ん? そうか?」

やよい「はい。最後の方、やっぱり運動量落ちちゃって……ちょっと退屈そうにしてる子も、ちらほらいたかなって……」

P「はは。まあそれは仕方ないさ。もやっしーさんの仕事を完璧にこなせるのは、もやっしーさんだけってことだ」

やよい「はい……」

P「…………」

P「……でも、俺は良かったと思うぞ」

やよい「え?」

P「もしやよいが代役を買って出なかったら、今日のこの二回目のトークライブは中止になってたんだ。もしそうなってたら、『もやっしーに会える』と思っていた大勢の子供達は、皆きっと残念な思いをしていただろう」

やよい「…………」

P「でもやよいは今日、子供達に夢を与えることができたんだ。『もやっしーに会えた』っていう、夢をな」

やよい「……夢を……」

P「夢を与えるのがアイドルの仕事だ。そういう意味では、今日のやよいは100%アイドルだったぞ。自分のミニライブのときはもちろん、今のステージでもな」

やよい「プロデューサー……」

もやっしー「……もやっしー……」

やよい「! もやっしー!」

P「もやっしーさん!」

P「熱はもう大丈夫なんですか?」

やよい「無理しちゃだめだよ! もやっしー!」

もやっしー「……もやっしー」

P「え? 今は薬が効いてるから引いてる? そうですか、それは良かった……」

もやっしー「…………」

やよい「? 何? もやっしー」

もやっしー「……もやっしー」

やよい「! そ、そんな……お礼を言うのは私の方だよ! もやっしー!」

もやっしー「……もやっし?」

やよい「私、今までずっと……ひたむきに頑張るもやっしーの姿に励まされてきたんだよ」

もやっしー「! ……………」

やよい「だから……私の方こそ、ありがとうやっしー! ……なーんて! えへへ!」

もやっしー「……もやっしー……」

P「……あの、ところでもやっしーさん。うちの事務所とのコラボイベントの件なんですが……」

やよい「もう、プロデューサー! もやっしーはお薬のおかげで一時的に熱下がってるだけなんですから! まだお仕事の話はめっ! です!」

P「あ、ああ、そうだな……すみません、もやっしーさん。この話はまた追ってご連絡を……」

もやっしー「……もやっしー……」フルフル

P「え? 内容はもう決めている……? そ、それって……?」

やよい「……もやっしー……?」

もやっしー「……もやっしー」

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